(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】メタクロレインからメチルメタクリレートへの酸化的エステル化用の触媒の長寿命化のための処理
(51)【国際特許分類】
C07C 67/08 20060101AFI20240829BHJP
C07C 69/54 20060101ALI20240829BHJP
B01J 38/64 20060101ALI20240829BHJP
B01J 38/12 20060101ALI20240829BHJP
B01J 38/62 20060101ALI20240829BHJP
B01J 38/00 20060101ALI20240829BHJP
B01J 23/89 20060101ALI20240829BHJP
B01J 23/96 20060101ALI20240829BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240829BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/54 Z
B01J38/64
B01J38/12 B
B01J38/62
B01J38/00 301Z
B01J23/89 Z
B01J23/96 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024512143
(86)(22)【出願日】2022-08-19
(85)【翻訳文提出日】2024-03-13
(86)【国際出願番号】 EP2022073183
(87)【国際公開番号】W WO2023025676
(87)【国際公開日】2023-03-02
(32)【優先日】2021-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319013746
【氏名又は名称】レーム・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Deutsche-Telekom-Allee 9, 64295 Darmstadt, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス リューリング
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン クリル
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン チュンケ
(72)【発明者】
【氏名】ベライド アイト アイサ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス テペリス
(72)【発明者】
【氏名】ムニール スティトゥ
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA09
4G169AA10
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4H039CL25
(57)【要約】
本発明は、不均一系触媒反応によりアルデヒドからカルボン酸エステルへの酸化的エステル化を実施するための新規の方法に関する。このような背景から、本発明による方法により、本方法で使用される貴金属含有不均一系触媒を運転中に特に効果的に活性に保つことが可能となり、それにより、ダウンタイム間の期間が延長され、特に持続可能な触媒管理が実現される。これにより、このような方法を、可能な限り容易に、経済的に、かつ環境に優しく実施することが可能となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルメタクリレートの連続的な製造方法であって、前記アルキルメタクリレートは、酸化性担体と少なくとも1つの貴金属とを有する不均一系触媒の存在下で、メタクロレインを酸素およびアルコールで酸化的エステル化することにより得られる方法において、前記方法が、以下の工程:
a.前記触媒の少なくとも一部の量または前記触媒の全量を、懸濁液の形態で反応器から取り出す工程、
b.工程a.で取り出された前記懸濁液から、前記触媒を分離する工程、
c.任意に、工程b.で得られた前記触媒を1回または複数回洗浄する工程、
d.前記触媒を熱処理し、かつ/または前記触媒を塩基性溶液で処理する工程、
e.新鮮な触媒を前記反応器に添加する工程、および/または
f.工程d.および任意に工程c.で得られた再活性化された前記触媒を前記反応器に添加する工程
を有することを特徴とする、方法。
【請求項2】
以下:
a.工程a.で取り出された前記懸濁液が、少なくとも1つのアルキルメタクリレートおよびメタクロレインを含み、
b.前記触媒の前記分離を、濾過および/または遠心分離の形態で行い、
c.さらなる工程として工程b.で得られた前記触媒の洗浄を、少なくとも1つの有機溶媒で、任意に、次いで水で行い、
d.塩基性溶液として水酸化物水溶液を使用し、かつ/または前記熱処理を250~750℃の温度で行い、
e.前記新鮮な触媒の添加を、好ましくは水、前記アルコールおよび/または前記アルキルメタクリレートを含む懸濁液の形態で行い、
f.工程d.で得られた前記触媒を、前記反応器への添加前に、好ましくは水、任意にアルコールおよび/または前記アルキルメタクリレートを含む液体に懸濁させる
ことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程a.の間または工程a.の直後に、反応器内温度および/または反応器内圧力および/または撹拌速度を、工程a.の前の反応条件と比較して少なくとも1回上げることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
工程c.が、1つ以上の異なる有機溶媒で少なくとも1回、好ましくは複数回洗浄し、続いて水で少なくとも1回洗浄することを含み、工程b.で得られた前記触媒中のメタクロレインの割合を、少なくとも90重量%減少させることを特徴とする、請求項1から3までの少なくとも1項記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの有機溶媒が、少なくとも80重量%のジエチルエーテル、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエンおよび/またはC
1~C
8酸をベースとする飽和アルキルエステルを含む混合物であり、任意に、前記成分のうち少なくとも1つが、アルコール、特に好ましくはメタノール、アセトンおよび/またはMMAを含むことを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記有機溶媒の少なくとも1つが、少なくとも95重量%のアルコール、特に好ましくはメタノール、および/またはアセトンからなる混合物であることを特徴とする、請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
工程d.において、前記反応器中の反応媒体のpH値よりも大きいpHを有し、好ましくは7.5~13のpHを有する水酸化物水溶液を使用し、前記媒体は、溶解したアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の水酸化物および水を含むことを特徴とする、請求項1から6までの少なくとも1項記載の方法。
【請求項8】
工程c.で使用された有機溶媒の少なくとも一部を、前記方法の反応セクションまたはワークアップセクションに返送することを特徴とする、請求項1から7までの少なくとも1項記載の方法。
【請求項9】
前記酸化性担体が、ケイ素の酸化物、アルミニウムの酸化物、1つ以上のアルカリ土類金属の酸化物、ならびにチタンの酸化物、ジルコニウムの酸化物、ハフニウムの酸化物、バナジウムの酸化物、ニオブの酸化物、タンタルの酸化物、イットリウムの酸化物および/またはランタンの酸化物のうちの少なくとも1つまたは複数を有することを特徴とする、請求項1から8までの少なくとも1項記載の方法。
【請求項10】
前記貴金属が、金、白金またはパラジウムであり、前記貴金属が、前記担体に固定された状態で、1~10nmの直径を有する粒子として存在することを特徴とする、請求項1から9までの少なくとも1項記載の方法。
【請求項11】
前記触媒がさらに、酸化鉛、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化亜鉛および/または酸化コバルトを前記担体の表面上に有し、金、白金またはパラジウムに対する鉛、鉄、ニッケル、亜鉛および/またはコバルトのモル比が0.1~20であることを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項12】
工程a.における前記反応器からの前記触媒の取り出しを、連続的または半連続的に行い、工程b.~d.における精製を、バッチ式で行い、工程e.および/またはf.における前記触媒の前記添加または返送を半連続的に行うことを特徴とする、請求項1から11までの少なくとも1項記載の方法。
【請求項13】
前記反応器が、スラリー反応器であり、前記触媒が、10~250μmの幾何学的等価直径を有し、前記反応器からの前記取り出しを、傾斜板式沈殿装置での沈降によって行うことを特徴とする、請求項1から12までの少なくとも1項記載の方法。
【請求項14】
前記反応器が、固定床反応器であり、前記触媒の幾何学的等価直径が、250μm~10mmであり、前記反応器からの前記取り出しを、個々の固定床ユニットからの排出口を通じて行うことを特徴とする、請求項1から12までの少なくとも1項記載の方法。
【請求項15】
取り出された前記触媒を工程b.および/または工程c.において濾過して、直径10μm未満の微粉を分離し、前記分離された微粉を前記反応器に完全には返送しないことを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記アルコールが、メタノールであり、前記アルキルメタクリレートが、MMAであり、前記酸化的エステル化を、20~120℃の温度、5.5~9のpH値、1~20barの圧力で行い、反応を、反応溶液が2~10重量%の水を含むように行うことを特徴とする、請求項1から15までの少なくとも1項記載の方法。
【請求項17】
工程f.および任意に工程e.において、反応溶液が流れる前記反応器の循環流に前記触媒を添加し、前記循環流は、前記反応器よりも低濃度の触媒を含むことを特徴とする、請求項1から16までの少なくとも1項記載の方法。
【請求項18】
工程a.における前記取り出し、工程b.における前記分離、工程c.における前記任意の洗浄、および工程d.における前記処理の後に前記触媒を処理して、前記貴金属を前記触媒の担体材料から取り出し、前記貴金属を元素金属の形態で得て、任意に新鮮な触媒の製造に使用することを特徴とする、請求項1から17までの少なくとも1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不均一系触媒反応によりアルデヒドからカルボン酸エステルへの酸化的エステル化を実施するための新規の方法に関する。
【0002】
このような背景から、本発明による方法により、本方法で使用される貴金属含有不均一系触媒を運転中に特に効果的に活性に保つことが可能となり、それにより、ダウンタイム間の期間が延長され、特に持続可能な触媒管理が実現される。これにより、このような方法を、可能な限り容易に、経済的に、かつ環境に優しく実施することが可能となる。
【0003】
先行技術
アルデヒドの接触酸化的エステル化によるカルボン酸エステルの製造は、多くの特許や文献に記載されている。例えば、メタクロレインおよびメタノールから非常に効率的にメチルメタクリレートを製造することが可能である。
【0004】
容易に重合可能な反応物および/または生成物を使用あるいは製造する場合、経済的な方法に向けて、高活性、高選択率および触媒の長寿命を達成すべく、重合を可能な限り抑制することが特に重要である。特に、例えばAu、Pd、RuまたはRhをベースとする高価な貴金属触媒の場合には、触媒寿命が重要な役割を果たす。メタクロレイン(MAL)からメチルメタクリレート(MMA)への酸化的エステル化の場合には、さらに、比較的高濃度のMALの存在下で反応が実施可能であることが望ましく、その結果、一方ではより高い空時収率が可能になり、他方では蒸留により再循環させるべき反応物の量が減少する。このことはさらに、エネルギー面でも装置技術面でも、プロセスに好影響をもたらす。
【0005】
先行技術ではこれまで、特に反応混合物中のMAL濃度が高い場合に高触媒活性、高選択率および長寿命を失活なく達成する方法や、プロセスを十分に安定的に支障なく連続的に実施する方法について、十分には説明がなされていない。
【0006】
メタクロレインからMMAへの直接酸化的エステル化の方法は、何度も記載されている。例えば、米国特許第5,969,178号明細書には、選択率86.4%、空時収率(STY)5.5mol MMA/kg cat・hでのPd-Pb触媒によるMALからMMAへの転化が記載されている。ここでは、反応器入口でのフィード中のMALおよびメタノールの濃度については詳述されているが、反応器内の組成に関する情報はない。反応器オフガス中の酸素濃度については、以下の背景とともに説明および議論がなされている:例えば、爆発限界のため、オフガス中の酸素濃度は8体積%未満とする。また、反応器内、およびオフガス中の酸素濃度が低いと、反応速度に不利になるとされている。したがって、酸素濃度が過度に低いと、副生成物の生成が増加する。
【0007】
しかし一方で、酸素濃度が高くなるほど、触媒性能を一定かつ良好に維持するために、より多くのPb塩を反応器に連続的に供給しなければならないことも指摘されている。
【0008】
よって、これらすべての理由から好ましいPd-Pb触媒の使用範囲は、オフガス中の酸素分圧0.01~0.8kg/cm2、全圧0.5~20kg/cm2である。例示的実施形態1の米国特許第5,969,178号明細書の最良の実施形態では、反応は、全圧3.0kg/cm2、オフガス中の酸素分圧0.095kg/cm2(オフガス中の酸素3.2体積%に相当)で実施される。
【0009】
米国特許第8,450,235号明細書には、全圧0.5MPa、オフガス中の酸素4体積%でのNiO/Au系触媒の使用が開示されている。MMAの選択率は97.2%であり、空時収率は9.57mol MMA/kg cat・hであった。この場合、フィード中のメタクロレインに対するメタノールのモル比は、4.36(mol/mol)であった。反応器内での対応する比の算出値は、14.7(mol/mol)であった。
【0010】
例えば米国特許第5,969,178号明細書に記載されているように、酸化的エステル化の後にメタノールおよびメタクロレインの蒸留分離を行う場合、反応器中のメタクロレインに対するメタノールのモル比を10(mol/mol)未満に低下させると、エネルギー的により有利である。原理的には、メタノールを、メタノールとメタクロレインとの低沸点共沸混合物として目的生成物であるMMAから分離するのが有利である。反応器内のメタクロレイン(MAL)に対するメタノールの比が低い運転モードが選択された場合、MMAおよびメタノールも同様に低沸点共沸混合物を形成するため、MALとともに再循環されるMMAは少なくなる。米国特許第5,969,178号明細書によるメタノール-MAL共沸混合物は、沸点が58℃で、メタノール:MALの組成が72.2重量%:27.7重量%である。この場合、MALに対するメタノールのモル比は5.7である。一方で、MMAの選択率が、反応器内のメタノール過剰に好影響を受けることを考慮すべきである。原理的には、メタノール過剰率が高く、反応器内の定常的な水濃度が低いほど、達成可能なMMA選択率が高くなり、プロセスの副生成物の1つとしてのメタクリル酸の生成量が少なくなる。
【0011】
しかし、これらの方法は、運転期間が長くなるにつれて触媒活性が低下するという点で共通している。触媒失活は、すべての触媒プロセスにおいて知られている現象であり、様々なサブクラスに分類することができる。触媒失活に関する全体的な概要は、Argyleらによる “Heterogeneous Catalyst Deactivation and Regeneration: a Review”, Catalysts 2015, 5, 145-269に記載されている。
【0012】
ここで説明される触媒反応の場合、触媒活性の低下につながる複数の機序が並行して存在する。触媒は機械的負荷を受け、断片化した粒子や微粒子が形成され、これらは濾過システムによって反応器内にもはや保持できなくなる。さらに、混合酸化物担体、ひいては活性ナノ粒子状貴金属の非常にわずかな成分が、触媒マトリックスから物理的に剥離したり、機械的に摩滅したりする。さらに、例えば米国特許第8,450,235号明細書に記載されているように、層状触媒が使用されることが多く、これにより、機械的負荷のために活性成分が触媒表面から除去される可能性があり、その結果、触媒活性がさらに低下する。実際には、担体成分や貴金属が生成物排出流中で検出されるのは、ppbやppmの範囲である。しかし、数千時間の運転時間にわたって、これは測定可能な活性低下につながる。活性を低下させるさらなる要因は、活性貴金属種の焼結による、より大きな凝集体の形成であり、こうした凝集体は、例えば酸素の触媒活性化または分子状酸素から元素状酸素への開裂が阻害またはさらには阻止されるために、活性が低下するか、またはもはや活性を有しない。さらに、非常に微細な触媒粒子が形成されると、選択率のさらなる低下も認められ得ることに留意すべきである。
【0013】
触媒失活のさらなる原因は、反応溶液から表面および触媒細孔内への有機化合物の蓄積である。このプロセスは、当業者にはファウリングとして知られている。失活機序としてのファウリングは、触媒の運転時間や寿命が長い連続法では、吸収あるいは吸着成分の生成や存在が、特に触媒量との関係で運転時間の経過とともに増加するため、より顕著になる。このような吸収あるいは吸着性化合物は、例えば(メタ)アクロレイン、(メタ)アクリル酸およびそれらのナトリウム塩のような不飽和の性質であることが多く、これらは連続運転の過程でオリゴマーまたはポリマー成分に転化される。反応操作によっては、触媒のコーキングも起こり得る(Wolf et. al. “Catalysts Deactivation by Coking”, Catalysis Reviews: Science and Engineering, 1982, 24, 329-371参照)。
【0014】
反応溶液からのこのようなオリゴマー、ポリマーあるいは塩の生成や沈殿は、特開20004-345975号公報にも記載されており、沈殿は、ガスが導入される反応器内の位置でのみ記載されている。触媒への影響については言及されていない。
【0015】
触媒へのオリゴマー、ポリマーあるいはその塩の蓄積により、触媒の活性中心のブロッキングが生じ、その結果、触媒活性が低下する。
【0016】
有機物質の吸着による触媒失活については、ZhangらもApplied Catalysis B. Environmental (2013), 142, 329-336の中で述べており、その際、直接酸化的エステル化に使用された触媒は、Pd-Pb系である。この文献の範囲では、メタノールおよびヒドラジン水溶液によるバッチ式洗浄が再生に使用され、そのために、触媒は予め周囲空気中で濾過される。この文献では、ヒドラジンやメタクロレインを含む廃棄物の取扱いや、それに関連する安全性の要件については触れられていない。さらに、ヒドラジンは、金触媒とともに不飽和化合物を還元するための還元剤として当業者に知られている。したがって、ヒドラジンで処理された金触媒やパラジウム触媒は、上記のMMAを少なくとも部分的に還元して飽和化合物であるイソ酪酸メチルにすることになるが、このイソ酪酸メチルは、蒸留によるMMAからの分離が困難でかつ高コストである。よって、モノマーとして使用するためのMMAの典型的な純度に関して、ヒドラジンの使用は、否定的に評価されるべきであり、かなりの追加コストを伴う。
【0017】
さらに、この点に関して、ヒドラジンは多くのアミンと同様に塩基として挙動し、その結果、触媒あるいはその担体材料も同様に塩基性となり得ることに留意すべきである。当業者であれば、より高いpH値、例えば7.5~10の範囲のpH値により、直接酸化的エステル化の反応速度が高まることを知っているが、しかし、生成物によっては選択率が低下することがある。Zhangらの実験的記述から、ヒドラジン処理によってもたらされるこのpH値の影響は、有機物質の吸着による部分的な不活性化を隠す一時的な転化率の上昇を引き起こすと推測される。しかし、連続運転では、副生成物に対する選択率の増加および触媒表面に吸着した物質の非溶解性という欠点が優勢となる。
【0018】
さらに、洗浄による再生効果が、バッチプロセスについてのみ示されており、その理由は、連続運転ではメタノールの存在によりファウリングが生じないためである。しかし、この文献に示されている連続運転の例は、24時間未満の期間しか網羅しておらず、工業的に重要となる触媒寿命について包括的な評価を行うことはできない。
【0019】
その結果、ファウリングや並行して進行する他の失活プロセスによって消費あるいは失活した触媒を、再生または処理のためにプロセスから除去しなければならない。直接酸化的エステル化では、酸化触媒および発熱反応が該当する。このことは、周囲空気に曝された状態で、プロセスに起因する有機物の存在下で、触媒が発熱反応を触媒する可能性があることを意味し、発熱反応は、人間、環境、およびプロセスの安全性にリスクをもたらす可能性がある。特許第4115719号公報には、触媒を連続運転中に反応から除去し、次いでこの触媒から有機成分を除去する方法については触れられていないが、これと全く同じプロセスリスクが記載されている。この文献では、有機成分が除去されない場合、触媒が、例えば反応器から取り出される間に、材料が燃焼する程度に空気中で昇温するとして、リスクの程度について説明されている。したがって、(自己)発火や爆発のリスクが存在する。
【0020】
とりわけ、メタクロレインやアクロレインのような不飽和アルデヒドに起因する、人間や環境に対する大きなリスクは、確実に解消されなければならない。メタクロレインやメタクリル酸、あるいはそのナトリウム塩のような有機吸着物を触媒表面から除去することは、複数回の洗浄によって依然として容易に達成可能ではあるが、触媒の細孔構造内に存在する前記有機物を除去することは、はるかにより困難である。特に、細孔内に吸着されたメタクロレインは、拡散に基づくプロセスによって細孔から出るのが明らかに遅くなることがある。これは、触媒のワークアップに対して特別なプロセスリスクあるいは安全上の支障となり、なぜならば、触媒容器を開放した際にメタクロレインを含む雰囲気が環境中に放出される可能性があるためである。
【0021】
加えて、例えばメタクロレインが触媒の細孔からゆっくりと放出されるため、短時間の洗浄では、触媒は表面で部分的にしか再生されない。不均一系粉末触媒の一般的な高い気孔率を考慮すると、触媒活性が短期間しか回復しないことは、当業者にとって明らかである。
【0022】
特にメタクロレインからMMAへの液相酸化において、次々と起こる触媒活性低下の様々な機序による触媒損失に伴って、連続的なプラントの運転に、あるいはまたプロセスやプラント部品の設計や寸法決めの様式にも、大きな影響が生じる。プラントの寸法決定は原則として、定常状態で決定されるプラント条件、例えば達成される転化率や投入原料の化学量論に基づいて行われ、ここでは特にそれが重要である。メタクロレインの液相酸化では、プラントおよびカラムの分離効果は、1パス反応の場合にはメタクロレインの部分転化率に向けて設定され、特にこの酸化的エステル化では、反応器に供給されるメタクロレインに対して55%~85%の範囲の転化率となるように設定される。この転化率データは、反応器が1つであるか、複数の反応器が連続的に配置されているかに関係なく、総転化率に関するものである。触媒活性が低下したり、それによって空時収率が変化したりすると、すべての生成物混合物の組成が変化し、設計されたプラントが公称能力を達成できなくなるまで、より多くの未転化物を再循環させなければならなくなる。さらに、このことは、共沸混合物の分離や、この目的で設計されていない分離工程での二相混合物の防止といった分離原理が機能しなくなることにつながる可能性がある。したがって、特にメタクロレインの直接酸化的液相酸化においては、触媒活性の低下が可能な限りわずかになるように保証し、触媒活性の自然経時変化および低下を抑制することで、連続式プラントのワークアップおよび空時収率が設計基準を満たすようにすることが、触媒およびプロセスにとって不可欠な要件である。上記の先行技術は、これに関して、触媒系や反応系の十分に安定的な活性や空時収率を保証する満足のいく技術的解決策を提供していない。
【0023】
課題
したがって、先行技術に鑑みて、連続的に実施される酸化的エステル化の方法を改良して、より良好で作業上の信頼性の高い触媒管理を可能にし、メンテナンスのダウンタイム間の期間を延長することができ、運転時間あるいは寿命の終了時に触媒を反応から除去し、プロセスに起因する有機物をそこから確実に除去することに大きな関心が寄せられていた。
【0024】
特に、連続プロセス中に、不均一系貴金属触媒から有機、オリゴマーおよび/またはポリマーの表面汚染物を除去し、処理済みの触媒中のメタクロレインの残留含有量を100ppm未満に低下させることが課題とされていた。
【0025】
さらなる課題は、操作反応段階において触媒活性を可能な限り一定に保ち、触媒活性の低下を適切な手段で効果的に抑制することであった。これに関連する課題は、触媒1kgまたは1リットル当たりのMMAのmol数として表される触媒の比触媒性能をできるだけ一定に保ち、この触媒の比触媒性能および空時収率の低下を適切な手段で抑制することであった。
【0026】
さらに、プロセス自体を中断することなく触媒を精製し、プロセス外で発熱反応を起こすリスクなしに、触媒を反応に再度供給したり、任意にプロセスから除去したりできるようにするという課題が存在していた。
【0027】
さらなる課題は、触媒を再生し、取り出された触媒を精製して、含まれる金属成分を再生し、ワークアップし、また、取り出されたパイロジェン触媒を安全に取り扱うという観点から、その付加価値を回復することであった。
【0028】
さらに、触媒から反応溶液を除去して、触媒処理中にこの反応溶液がいかなるプロセスリスクももたらさないようにし、任意にこの反応溶液を連続プロセスに返送して、プロセス全体の収率を可能な限り高く設計できるようにするという課題が存在していた。
【0029】
さらに、任意にプロセスの連続運転中に、支障となる触媒の微粉フラクションを効率的に除去できるようにするという課題が存在していた。
【0030】
明示的に記載されていないさらなる課題は、本明細書、特許請求の範囲、実施例または本発明の全体的な文脈から明らかとなり得る。
【0031】
解決法
これらの課題は、アルデヒドの酸化的エステル化のための新規の改良された連続方法を提供することによって解決される。ここで、この連続方法は、アルキルメタクリレートの製造のためのものであり、アルキルメタクリレートは特に、不均一系触媒の存在下で、メタクロレインを酸素およびアルコールで酸化的エステル化することにより得られる。これに使用される不均一系触媒は、酸化性担体と少なくとも1つの貴金属とを有する。
【0032】
ここで、本発明による方法は、特に以下の工程を有する:
a.触媒の少なくとも一部の量を、懸濁液の形態で反応器から取り出す工程、
b.工程a.で取り出された懸濁液から、触媒を分離する工程、
c.任意に、工程b.の触媒を1回または複数回洗浄する工程、
d.触媒を熱処理し、かつ/または触媒を塩基性溶液で処理する工程、
e.新鮮な触媒を反応器に添加する工程、および/または
f.工程d.および任意に工程c.で得られた再活性化された触媒を反応器に添加する工程。
【0033】
工程e.および/またはf.における反応器への触媒の添加は、本発明によれば必須であるが、2つのフラクションのうちどちらを添加するか、または双方のフラクションの組み合わせを添加するかは自由である。本発明の特定の態様は、特に工程d.に見ることができ、この工程では、取り出された触媒からメタクロレインが最終的に高効率で除去される。驚くべきことに、この工程d.および任意にc.により、それ自体は有毒で、易揮発性で、易発火性のメタクロレインを、取り出された触媒から特に効率的に除去することが可能であることが判明した。これには、モノマーのメタクロレインだけでなく、メタクロレインから形成された、あるいはメタクロレインと一緒に形成されたオリゴマーやポリマーも含まれる。このようにして取り出された触媒を、その後、任意にさらに精製された状態で、工程e.で反応器に戻すことができるが、取り出され、このようにして処理された触媒を安全に保管し、輸送し、加工して貴金属を回収することもできる。処理された触媒を反応に再循環させるアプローチは、触媒がまだ比較的新鮮な最初の取り出し時には特に好都合であろう。しかし、運転時間が長くなると、工程f.により新鮮な触媒を添加し、工程d.での処理後に取り出された触媒をワークアップして貴金属を回収し、例えば新鮮な触媒バッチの製造に使用する方が好都合である。例えば、取り出された触媒を粒径に応じて分割し、大きい方の触媒粒子を、通常は新鮮な触媒とともに反応器に返送し、小さい方の粒子をワークアップして貴金属、通常は金、白金またはパラジウムを回収するような混合形態も考えられる。このアプローチは、工程e.による純粋なアプローチと工程f.によるアプローチとの間の中間段階として、反応器の寿命にわたって実施することもできる。
【0034】
総括すると、工程f.により再循環されない触媒の場合の方法は、以下のようになる:工程a.における取り出し、工程b.における分離、工程c.における任意の洗浄、および工程d.における処理の後に触媒を処理して、貴金属を触媒の担体材料から取り出して新鮮な触媒の製造に使用できるようにする。任意に、貴金属を触媒から取り出し、元素金属の形態で得て、顧客の貴金属口座に入金され、報酬が支払われる。
【0035】
好ましくは、アルコールはメタノールであり、アルキルメタクリレートはMMAである。
【0036】
特に、酸化的エステル化は、20~120℃の温度、5.5~9のpH値、1~20barの圧力で行うことができる。ここで、反応は、好ましくは反応溶液が2~10重量%の水を含むように行われる。
【0037】
反応器に関しては、特に2つの実施形態が存在する:
第1の実施形態では、反応器はスラリー反応器である。この場合、触媒は、10~250μmの幾何学的等価直径を有し、反応器からの取り出しは、半連続的または連続的に、特に好ましくは傾斜板式沈殿装置での沈降によって行われる。別法として、取り出しは、例えば、浸漬管によりバッチ的に、または逆洗可能なフィルターキャンドルにより循環流中で半連続的に行うこともできる。
【0038】
反応器からの取り出しは、傾斜板式沈殿装置での沈降によって行われるのが特に有利であることが判明しており、触媒を取り出さない通常運転時に存在する傾斜板式沈殿装置の流量および速度のプロファイルを維持したまま、傾斜板式沈殿装置の双方の出口で取り出すことが可能である。その結果、第一に、傾斜板式沈殿装置の濾過効率に支障をきたすことがなく、第二に、傾斜板式沈殿装置や触媒処理部へのガス気泡の侵入が防止される。懸濁触媒の保持システムとしてラメラセパレーターまたは傾斜板式沈殿装置を使用する場合、装置の下部流出口は、原則として、脱気された二相触媒混合物を反応マトリックスに返送するために設けられていることを考慮すべきである。しかし、傾斜板式沈殿装置の外側で反応器からワークアップへと連続的に案内される反応溶液は、少量の触媒成分および粒子を含み、これらは、任意にさらなる固定濾過ユニットにより濾過される。
【0039】
したがって、本発明の適用性は、触媒スラリーの取り出しに関して実質的に制限を受けず、傾斜板式沈殿装置の効率およびその沈降作用に応じて、20重量%までの触媒の粒子濃度を有する触媒懸濁液のみならず、1重量%よりかなり少ない割合の触媒を含む反応生成物マトリックスも、分離および処理または再生に供給することができる。
【0040】
浸漬管を使用する場合、ガス気泡が浸漬管に入らず、かつ同時に触媒のすべての種類の粒子が取り出されるように浸漬管が配置されていることが有利である。
【0041】
最終的に、触媒懸濁液は、加圧下で運転される反応器から直接取り出すことも可能であり、これは、収容装置がより低い圧力で運転されれば、容易に実施できる。この方法では、取り出しは、重力によって、または排出装置と収容装置における異なる圧力比によって、あるいはこれらの双方の原理の組み合わせによって行われる。好ましくは、触媒スラリーの取り出し、および同時に行われる反応湿潤粒子塊状物の濾過は、濾過ユニットで行われる。反応湿潤粒子塊状物とは、実質的に、濾過によって反応媒体から十分に分離されたが、反応媒体の有機成分および無機成分の成分を依然として含む粒子状触媒を表す。本発明の課題によれば、これらの成分、特にメタノールおよびメタクロレインのフラクションは、一方ではその毒性ゆえに、そして特に、このような有機成分を含む粒子塊状物は、空気の存在下で自己発火する傾向を示し得るか、または取り出しや処理の際に断熱的に強く、漸進的な、さらには無秩序な熱発生を示し得るという知見のために、さらなる処理および再生にとって非常にクリティカルであると考えられるべきである。
【0042】
第2の実施形態では、反応器は固定床反応器である。このような固定床反応器を使用する場合、触媒の幾何学的等価直径が250μm~10mmであり、反応器からの取り出しが、個々の固定床ユニットからの1つ以上の排出口を通じて行われると有利であることが判明した。
【0043】
酸化性担体として、触媒は通常、ケイ素の酸化物、アルミニウムの酸化物、1つ以上のアルカリ土類金属の酸化物、ならびにチタンの酸化物、ジルコニウムの酸化物、ハフニウムの酸化物、バナジウムの酸化物、ニオブの酸化物、タンタルの酸化物、イットリウムの酸化物および/またはランタンの酸化物のうちの少なくとも1つまたは複数を有する。
【0044】
ここで、貴金属は通常、金、白金またはパラジウムであるが、他の貴金属、例えばルテニウムまたは銀も十分に触媒活性を示すことができる。貴金属は通常、2~10nmの直径を有する粒子として、通常は多孔性である担体の触媒粒子の表面上または到達可能な細孔構造中に存在する。
【0045】
さらに、触媒は、任意にかつ同時に、しかし好ましくは、追加の金属および/または金属酸化物、特に酸化鉛、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化亜鉛および/または酸化コバルトを担体の表面上に有することができる。この場合、貴金属に対する鉛、鉄、ニッケル、亜鉛および/またはコバルトのモル比は、特に好ましくは0.1~20である。
【0046】
本方法の個々の工程は、原則として、互いに独立して連続的、半連続的および/またはバッチ式で実施することができる。工程a.における反応器からの触媒の取り出しが連続的または半連続的に行われ、工程b.~d.における精製がバッチ式で行われ、工程e.あるいはf.における触媒の返送あるいは新鮮な触媒の添加がバッチ式で、特に半連続的に行われる本発明の実施形態が好ましい。この文脈では、半連続的とは、工程が連続的に行われることもあるが、比較的長いおよび/または定期的な中断を伴うことを意味する。逆に、連続的とは、工程を著しく中断することなく実施することを意味する。
【0047】
以下の段落では、個々の工程の様々な実施形態を詳細に説明する:
ここで、工程a.は、好ましくは特に、連続反応中に反応器から触媒を少なくとも部分的に、好ましくは懸濁形態で取り出すことを特徴とする。この場合、取り出された懸濁液は通常、少なくとも1つのアルキルメタクリレートおよびメタクロレインを含む。
【0048】
しかし本発明によればまた、反応を停止し、反応器に再度供給する前に上述の工程にしたがって触媒全体をワークアップすることも可能である。
【0049】
工程b.において、触媒の分離は、好ましくは濾過および/または遠心分離の形態で行われ、複数の分離工程を連続して実施することも可能である。反応溶液から分離された粒子状触媒は、すすぎおよび洗浄の前に、反応溶液からの有機成分、特にメタノール、水、メタクロレイン、MMAおよびメタクリル酸の塩を含む。
【0050】
好ましく実施される追加の工程c.では、工程b.の触媒は、少なくとも1つの有機溶媒で洗浄され、任意に、次いで水で洗浄される。工程c.は、メタノールやメタクロレインのようなクリティカルな物質を除去する役割を果たすが、これは、後で取り出される失活触媒を取り出して取り扱う際に、これらの物質の放出による接触が生じることができないよう保証するためである。洗浄のさらなる目的は、酸化性成分を除去することであり、そうしないと、取り出して空気と接触したときに湿った物質が発火する恐れがあるためである。
【0051】
例えばメタノールで複数回の洗浄サイクルを実施することは、確かに原理的には可能であり、触媒中のメタクロレインは枯渇するが、非臨界的なMAL濃度を達成するためには複数回のパスが必要である。非臨界的とは、メタクロレイン含有量が明らかに1重量%を下回り、好ましくは0.1重量%未満、特に好ましくは100ppm未満である濃度であるとみなされる。
【0052】
特に好ましくは、精製の際に、連続して、まず第1の工程として、少なくとも1つの有機溶媒による洗浄が行われる。その後、同じまたは別の溶媒または溶媒混合物による少なくとも1回の第2のすすぎを行うことができる。その後、またはその代わりに、第2の精製工程として、水または水溶液による洗浄を実施することができる。
【0053】
好ましくは、洗浄に使用される有機溶媒は、反応混合物の各成分と任意の比率で混和可能であると同時に、特に好ましくは、プロセスに起因する有機塩を1g塩/l溶媒を超える量で溶解させることも可能な溶媒である。
【0054】
少なくとも95重量%のアルコール、特に好ましくはメタノールおよび/またはアセトンからなる混合物である溶媒は、有機溶媒による第1の洗浄に特に好ましいことが判明した。あるいは好ましくは、純粋なアルコール、特にメタノールおよび/またはアセトンを使用することも可能である。
【0055】
非常に特に好ましくは、有機溶媒、特に有機溶媒による第2の洗浄のための有機溶媒は、少なくとも80重量%のジエチルエーテル、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエンおよび/またはC1~C8酸をベースとする飽和アルキルエステルを含む混合物であり、任意に、成分のうち少なくとも1つは、アルコール、特に好ましくはメタノール、アセトンおよび/またはMMAを含む。
【0056】
特に好ましくは、工程c.は、有機溶媒で2回洗浄し、続いて水で少なくとも1回洗浄することであり、工程b.の触媒中のメタクロレインの割合を、工程c.において少なくとも90重量%減少させる。
【0057】
本発明による方法の特定の変形例では、工程c.で使用された有機溶媒の少なくとも一部を、本方法の反応セクションまたはワークアップセクションに返送することが可能である。これは特に、アルコール、特にメタノールが存在するプラントセクションであってよい。これは例えば、反応器、または下流の各ワークアップ塔のうちの1つであってよい。
【0058】
取り出された触媒の洗浄あるいはすすぎは通常、触媒がフィルターケーキを形成するかまたは部分的に増粘し、洗浄液がその中を流れる密閉装置内で行われる。この場合、逆洗可能なフィルターハウジングまたはヌッチェ(Nutsche)フィルターを用いて洗浄を行うことができる。個々の洗浄工程の間に、触媒を各洗浄媒体に再懸濁させるのが特に有利であることが判明した。その結果、洗浄効率が向上し、洗浄液の消費量も少なくなる。さらに、フィルターケーキの圧縮が弱いため濾過抵抗がさほど高くならず、濾過速度が加速される。実際の濾過は、重力濾過または加圧濾過で行うことができ、圧力は、油圧または空気圧でかけることができる。特に好ましくは、爆発性混合物の形成を防止し、液体の分離を促進するために、不活性ガス、例えば窒素を適用して濾過を行う。加圧ヌッチェフィルターまたは回転加圧ヌッチェフィルターが、触媒の洗浄に特に好ましい装置であることが判明した。
【0059】
各洗浄液と触媒との重量比は、1:1~100:1、好ましくは1:1~10:1、特に好ましくは2:1~5:1である。
【0060】
触媒の個々の洗浄工程の時間は、制限を受けないが、典型的には1分~10時間の範囲であり、洗浄時間が短いと、触媒細孔への拡散に基づく効果を伴わない、置換に基づく洗浄となり、洗浄液の必要量も増加する。好ましくは、1回の洗浄工程あたりの時間は2分~1時間であり、非常に好ましくは5分~30分である。これは、工程d.における塩基性水溶液による任意の処理にも適用される。
【0061】
メタクロレインの量を最小限に低減するために、好ましくはメタクロレインを完全に除去するために、好ましくは工程d.において、塩基性水溶液、特に好ましくは水酸化物水溶液によるすすぎ、および任意にそれに続く有機溶媒によるさらなる洗浄か、または触媒の熱処理のいずれかが続く。この熱処理は、好ましくは250~750℃、特に好ましくは300~650℃の温度で行われる。これら2つの選択肢の代わりに、必ずしも必要ではないためさほど好ましくないが、2つの選択肢を併用することも可能である。
【0062】
塩基性水溶液は、例えば有機または無機のアルカリまたはアルカリ土類金属塩、例えば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、またはナトリウム、カリウム、マグネシウムもしくはカルシウムの酸化物の溶液である。非常に特に好ましくは、塩基性水溶液は水酸化物水溶液であり、非常に特に好ましくは水酸化ナトリウム水溶液である。
【0063】
特に好ましくは、工程d.において、反応器中の反応媒体のpH値よりも大きいpHを有し、好ましくは7.5~13のpHを有する水酸化物水溶液が使用され、この媒体は、溶解したアルカリおよび/またはアルカリ土類金属の水酸化物および水を含む。
【0064】
塩基性水溶液は、塩基の溶解度に応じて任意の濃度で存在することができる。塩基と酸化触媒担体との反応、例えばシリカ担体の膨潤、いわゆる「コンクリートキャンサー」を最小限に抑えるために、水酸化物の場合の塩基の濃度は、特に好ましくは0.1~25重量%、殊に好ましくは0.5~10重量%、非常に特に好ましくは1~5重量%の範囲である。
【0065】
メタクロレインまたは全般的な有機成分の残留含有量を測定するために、処理済みの触媒を有機溶媒、好ましくはここではメタノールまたは塩素系溶媒に試料の形で再懸濁させ、その溶液をGCまたはHPLCでメタクロレインまたは他の有機成分について調べることができる。固体のGCヘッドスペース分析によるメタクロレイン含有量の直接測定は技術的に困難であり、なぜならば、重合が迅速に起こり、過小評価が生じるためである。
【0066】
触媒の処理後に吸収物や吸着物のような有機堆積物が触媒表面上や触媒細孔内にまだ存在しているかどうかを確認するために、触媒試料をIRによって参照物質と比較して特徴的な波数を調べることができる。熱重量分析(TGA)による試験は、技術的にはより困難であり、その際、気化した化合物あるいはそのフラグメントが質量分析計に連結して確認される。ここで、参照物質との比較も推奨される。
【0067】
工程c.での触媒の洗浄、および任意の工程d.では、オリゴマー化合物またはポリマー化合物に加えて有価物を依然として含む複数の洗浄濾液が得られる。これらの洗浄濾液は、例えば以下のようなものであり得る:
1)反応混合物
2)第1の洗浄濾液中の有機成分
3)第2の洗浄濾液中の有機成分
4)水性洗浄濾液
5)工程d.で得られた塩基性水性洗浄濾液。
【0068】
任意に、有価物の損失を防ぐために、様々なフラクションの一部を、MMA精製プロセスに、好ましくは本方法の反応器セクションの後に供給し、有価物、すなわち特にメタノール、MMAおよびメタクロレインを回収することができる。この場合、同時にMMA合成での原料でもあるメタノールを単独でまたはMMAとの混合物で使用することは、当然のことながら、特にこのMMA製造方法にとって特に有利である。
【0069】
以下の例示的な実施形態の説明は、本方法を説明するためのものであり、本発明をいかなる形でも限定するのに適するものではない:好ましい実施形態では、反応器は、第1の蒸留塔に接続されており、この蒸留塔では、未反応のメタクロレインがメタクロレイン-メタノール共沸混合物の形で反応混合物から抜き出され、反応器に再度供給される。この第1の蒸留の底部生成物を、次いで硫酸水溶液で酸性化してpH値を3以下とすることで、ナトリウムメタクリレートが遊離メタクリル酸に転化され、例えばメタクロレイン-メタノールアセタールのような支障をきたす副生成物が加水分解される。同時に、有機ナトリウム塩は無機硫酸ナトリウムに転化され、これは、得られる混合物の水およびメタノールの含有量に応じて、溶解した形で存在する。
【0070】
水または水性酸の添加後、均一な物質混合物は2相に分離する。本方法の有利な実施形態では、有機相は抽出塔に供給され、その頂部で、さらなる精製のために粗製MMAが得られる。次いで、水相および抽出の底部物質は第2の蒸留塔に供給され、そこで特にメタノールおよびMMAが頂部生成物として回収される。第2の蒸留で得られた底部生成物は、廃水としてプロセスから排出され、適切に処理される。この処理は、好ましくは中和であり、次いで残留有機物の生分解が行われ、それにより、自治体の廃水の要件を満たす処理廃水が得られる。中和の有無にかかわらず、廃水のその他のワークアップあるいは処分方法としては、揮発性成分、主に水を、例えば噴霧乾燥工程やその他の適切な方法で十分に蒸発させるという方法がある。これにより、硫酸ナトリウムを多少なりとも純粋な形で単離することが可能になり、さらに、蒸発した量の有機物質および水を少なくとも部分的に本方法に返送することができる。組成の点から見て、廃水は非臨界に分類できるため、このために設けられた地層へのいわゆるディープウェル工法と呼ばれる注入方法も考えられる。
【0071】
触媒洗浄において、反応混合物は、好ましくは、含まれるメタクロレインを蒸留後に反応に再度供給できるように、第1の蒸留塔に供給される。第1の有機洗浄濾液も第1の蒸留塔に供給することができ、任意に抽出塔の前の相分離に供給することもできる。NaOH水溶液から出発する濾液は、第2の蒸留塔に供給することができる。ワークアッププロセスで有価物を回収する目的で有機洗浄液を返送するための代替的な位置は、ワークアッププロセスの下流セクションで抽出に続く低沸点物塔である。
【0072】
工程e.では、任意に、しかし同時に好ましくは、新鮮な触媒の添加を、特に好ましくは、例えば水、アルコールおよび/またはアルキルメタクリレートを含む懸濁液の形態で行うことが可能である。
【0073】
その後、工程f.において最終的に、通常は、有機物で湿った精製された触媒は、反応器に返送される。好ましくは、この精製された触媒は、反応器への添加の前に、好ましくは水、アルコールおよび/またはアルキルメタクリレートを含む液体に懸濁される。添加は、任意の工程e.と一緒に、またはそれとは別に行うことができる。
【0074】
触媒全体を取り出して反応器での連続反応を中断する、本方法のさほど好ましくない代替案では、添加を懸濁液として行うことも、固体として直接行うこともでき、ダスト形成または付着を低減するために、例えばプロセスノズルでの清浄化による水の噴霧が推奨される。
【0075】
工程f.における処理済みの触媒の反応器への返送、あるいは工程e.における新鮮な触媒の添加に関しては、返送される触媒が、反応溶液が流れる反応器の循環流に添加されると特に有利であり、それにより、この再循環流が反応器の流体力学に及ぼす影響が最小限に抑えられる。この目的のために、これを例えば、反応溶液または反応物および/または生成物組成物を使用して、洗浄および濾過装置内で予めスラリー化させ、別個の容器にポンプで送るかあるいは搬送することができ、そこから、再生済みの触媒が、バッチとして連続的にまたは好ましくは半連続的に、時間差で反応器に再度供給される。洗浄および濾過装置は、好ましくはさらに、触媒の付着を最小限にするために、反応溶液または反応物および/もしくは生成物組成物でフラッシュされる。酸化的エステル化反応がMMAの製造方法である場合、反応器への返送前に、触媒を反応溶液、メタノール、メタクロレインおよび/またはこれらの混合物を使用してスラリー化させ、液体とともに返送すると特に有利である。
【0076】
任意に、触媒の再懸濁および返送の際にオリゴマーあるいはポリマーの形成を防止または最小減に抑えるために、安定剤を添加することが推奨され、この安定剤は好ましくは、反応にも使用される同じ安定剤である。
【0077】
別個の容器が、内部循環部または撹拌機を備えていることが特に好ましいことが判明し、それにより、含まれる触媒懸濁液を、固形分分布の点で均質化された形態で反応器に返送することができる。任意に、容器にはさらに、不活性化可能なポートを通じて新鮮な触媒を供給することができ、それにより、触媒再生と並行して触媒のメイクアップを行うことができる。
【0078】
取り出された触媒を精製するためのさらなる工程は、ここで明示的に言及するまでもなく、任意に追加的に実施することができる。しかし通常は、そのようなさらなる工程または以下に説明する工程を実施しないことが好ましい。
【0079】
精製時の追加的な工程では、触媒表面からのオリゴマーまたはポリマーの有機不純物の除去に加えて、支障となる微粉フラクションを除去するための工程を追加的に実施することができる。これは、反応が上記のようにスラリー反応器で実施される場合に特に有利となり得る。この目的のために、取り出された触媒を精製時に濾過して、直径10μm未満の微粉フラクションを分離することができる。その性質に応じて、分離された微粉フラクションは、反応器に返送されないか、あるいは微粉フラクション全体に対して完全には反応器に返送されない。この工程をまずバッチ式で実施するのが最も容易であるが、連続的または半連続的な濾過も考えられる。しかし、このような構成は、濾過された固体が返送されるため、技術的に困難である。このような分離は、例えば遠心分離、予備分級、または逆洗濾過によって行うことができる。
【0080】
本発明による方法により反応器内の触媒濃度あるいは触媒活性が経時的に変動する可能性に対抗するために、本発明の特定の実施態様が存在する。この場合、工程a.の間または工程a.の直後に、反応器内温度および/または反応器内圧力および/または撹拌速度を、工程a.の前の反応条件と比較して少なくとも1回上げる。
【0081】
8000時間の運転期間にわたって、触媒活性の低下が認められることがある。このことは、本発明により触媒の一部が取り出され、精製された後に反応器に返送される場合であっても生じる。さらに、非常に長い運転時間の後に新鮮な触媒を添加した場合にも、その低下が認められることがある。
【0082】
さらにこれに対抗するために、例えば反応温度を開始温度に対して0.5~10℃だけ1回または数回上げることができる。代替的に、またはさらには追加的に、この運転期間中の圧力も、例えば反応の開始圧力に対して0.1~10barだけ上げることができる。実際には、これらの活性向上措置は、例えば8000時間の運転期間内に、温度を初期の80℃から90℃まで上げ、あるいは反応器内の圧力を初期の絶対圧5barから10barまで上げることにより行われる。
【0083】
活性を高めるための第3の可能性は、反応ゾーンでのガス分散を高め、ひいては反応ゾーンでのガス気泡の滞留時間を長くするために、撹拌機の回転数を上げることである。このパラメーターの変更は、個別に、または同期して、個々の措置として、あるいは各措置の組み合わせとして実施することができる。通例、反応器に供給されるメタクロレインの転化率を少なくとも50%、好ましくは60%超、特に好ましくは65%超とすることを目的として、これらの措置のうちの1つまたはこれらの措置のうちの少なくとも2つの組み合わせが実施される。
【実施例】
【0084】
参照担体の製造:
ホーローライニングの反応器に、最初に434kgのシリカゾル(Koestrosol 1530、一次粒子15nm、H2O中30重量%のSiO2)を装入し、激しく撹拌しながら10℃まで冷却した。このシリカゾル分散液を、60%硝酸でpH2に調整した。これを最初に行うことで、例えば酸化ナトリウムによる塩基性安定化を解消する。
【0085】
第2のホーロー容器に、81.2kgの硝酸アルミニウム非水和物と、55.6kgの硝酸マグネシウム六水和物と、108.9kgの脱塩水との混合物を投入した。この混合物は、撹拌しながら溶解する過程で冷却され、pHは2弱となった。完全に溶解した後、3.2kgの60%硝酸を添加した。
【0086】
その後、金属塩溶液を30分かけて制御しながらシリカゾル分散液に添加した。添加の完了後、この混合物を50℃に加熱し、得られた分散液を24時間ゲル化させ、その際、最後にpHは1であった。得られた粘度は、10mPas未満であった。
【0087】
この懸濁液(固形分約30重量%)を、温度50℃、供給速度20kg/hで、直径約1.8mのパイロットスプレータワーにポンプで送り、このパイロットスプレータワー内でアトマイザーディスクを用いて毎分10,000回転で噴霧し、球状の材料を得た。供給される180℃の乾燥ガスを調整して、流出する低温乾燥ガスの温度を120℃とした。得られた白色の球状材料は、10重量%の残留水分を有していた。105℃で恒量まで乾燥させることにより残留水分を測定した。
【0088】
噴霧乾燥された材料を、空気下で、回転管状の連続ユニットで650℃にてか焼し、その際、滞留時間は45分弱であった。傾斜角度を約2°に調整し、滞留時間を達成するために、回転管にバッフルプレートを設置した。形成される窒素酸化物を除去するため、固形分フィードに対して向流で空気を加え、その際、空気を、オフガスによる固形分の損失が0.5%未満になるような量で計量供給した。
【0089】
得られた白色の球状材料を、ふるい分けおよび選別によって分級したところ、完成した担体材料のD10は36μm、D50は70μm、D90は113μmであった。粒度分布の測定は、HORIBA Camsizer X2を用いた動的画像評価によって行った。
【0090】
参照触媒の製造:
プロペラ撹拌機付きのホーロータンクに、最初に167kgの脱塩水を装入し、50kgの参照担体材料を添加した。その後の工程を、反応器の蒸気加熱により等温条件下で行った。その直後に、10kgの脱塩水中の611gの硝酸アルミニウム非水和物の溶液を添加した。この懸濁液を90℃に加熱し、次いで15分間エージングした。2845gの硝酸コバルト六水和物を20kgの脱塩水に溶解させ、エージングの後に10分かけて計量供給し、30分間にわたって担体材料と反応させた。
【0091】
これと並行して、金酸に対する水酸化物イオンの比が4.75になるように、12.4LのNaOH溶液を準備した。このNaOH溶液を10分かけて添加し、その際、懸濁液の色が濃くなった。
【0092】
NaOH溶液の添加後、1250gの金酸溶液(金含有量41%)を20kgの脱塩水中で希釈し、10分かけて反応懸濁液に添加し、さらに30分かけて後撹拌した。
【0093】
反応後、反応懸濁液を40℃まで冷却し、濾布を備えた遠心分離機にポンプで送り、その際、十分なフィルターケーキができるまで濾液を返送した。濾液の導電率が100μS/cm未満になるまで脱塩水で洗浄し、その後30分間脱水した。その後、フィルターケーキの残留水分は、30重量%弱になった。濾液を、まずはポンプで選択イオン交換体に送って残留コバルトを除去した後、残留金を活性炭に吸着させた。反応後の2つの金属の回収率は99.5%超であり、これはICP分析によって決定した。
【0094】
脱水終了の直後に、フィルターケーキを、105℃のパドル型乾燥機で残留水分が2%となるまで乾燥させた。このパドル型乾燥機での乾燥プロセスを、乾燥ガス(この場合は窒素)を加えながら8時間以内に不連続的に行った。
【0095】
乾燥終了の直後に、乾燥された材料を、空気下で450℃にて運転される、参照担体材料の際に記載された回転管に連続的に供給した。滞留時間は、30分となるように調整した。
【0096】
最終的な触媒において、担持量は金0.91重量%、コバルト1.10重量%、マグネシウム2.7重量%であり、BETは236m2/gであり、細孔容積は0.38mL/gであり、細孔直径は4.1nmであった。
【0097】
実施例1 - 触媒からの有機物の除去
EKATO Combijet、安定剤添加部を備えたオフガス冷却器、バッフルおよび内部フィルターキャンドル(公称15μmフィルターメッシュ)を装備した撹拌タンク内で、80℃、絶対圧5barで参照触媒1kgを懸濁させた。懸濁液密度は10重量%であり、初期懸濁液は、30重量%のMMA、5重量%の水、1重量%のメタクリル酸、64重量%のメタノールからなっていた。触媒を添加する前に、pH値を7に調整した。
【0098】
メタクロレインおよびメタノールを1:4のモル比で反応器に供給し、触媒1kgあたり毎時10molのメタクロレインを供給した。NaOH水溶液(4.5重量%のNaOH、5.5重量%の水、90重量%のMeOH)の添加により、pH値を7に一定に保った。滞留時間は3.7時間であった。反応排出物を、GCで定期的に分析した。4000時間の運転後、転化率は75%から約72%に低下し、MMAの選択率は94%のままであった。
【0099】
触媒試料を反応器から抜き取り、TGAで調べたところ、300℃までの温度で4.9%の質量減少が判明し、そのうちの2.7%は水であった。残量は、メタクロレインとメタクリル酸とナトリウムメタクリレートとのオリゴマーの混合物であることがIRにより確認された。
【0100】
触媒100gを、試料導管を通じて実験室用撹拌式加圧ヌッチェフィルターにポンプで送った。ヌッチェフィルター内の触媒懸濁液に窒素を加え、液体を吸引濾過した。その後、触媒を300gのMeOHに10分かけて再懸濁させ、吸引濾過した。その後、触媒を300gの1.5%NaOH水溶液に10分かけて再懸濁させ、吸引濾過した。続いて、300gのMeOH、次いで300gの水により、同様の再懸濁-吸引濾過サイクルを行った。最後に、触媒に窒素を10分間流した。
【0101】
GC分析の結果、ヌッチェ濾液中のメタクロレインレベルは以下のとおりであった:
反応混合物:8重量%メタクロレイン
第1のMeOH濾液:250ppm
NaOH水溶液:5ppm
第2のMeOH濾液:<5ppm
水濾液:<5ppm。
【0102】
処理済みの触媒5gをMeOH(固形分10%)に14日間懸濁させ、定期的にMeOHをGCで調べた。メタクロレインは検出されなかった。したがって、消費された触媒が輸送される際にも、細孔からメタクロレインが拡散することはないと考えられる。
【0103】
処理済みの触媒を105℃で一晩乾燥させ、IRおよびTGAで調べたところ、メタクロレイン、メチルメタクリレート、メタクリル酸、ナトリウムメタクリレート、またはそれらのオリゴマーの存在は認められなかった。
【0104】
実施例2 - 処理済み触媒の試験
実施例1で得られた処理済み触媒20gを、前述のセットアップに類似した小型反応器セットアップに装填し、反応を開始した。メタクロレイン転化率は74.6%であり、1000時間の運転後、新鮮な触媒と同じような触媒性能の向上が判明した。1000時間後に運転を中断した。
【0105】
実施例3 - か焼後の処理済み触媒の試験
実施例2と同様に実施したが、ただし、スタートアップ前に触媒を500℃で5時間か焼した。メタクロレイン転化率は74.9%であり、1000時間の運転後、新鮮な触媒と同じような触媒性能の向上が判明した。1000時間後に運転を中断した。
【0106】
実施例4 - 連続反応操作を伴う触媒の連続的または半連続的処理
実施例1で得られた反応系を1kgの新鮮な触媒で開始し、250時間毎に100gの触媒を反応器から取り出し、実施例1にしたがって処理したが、その際、最後の水での洗浄工程を省略した。このようにして処理した触媒を、撹拌機を備えた別個の圧力容器に移した。この圧力容器で、触媒を反応混合物に再懸濁させ(固形分10%)、ポンプで反応器の下方3分の1の箇所に戻した。洗浄過程のたびに、処理後に5gの触媒試料を取り出し、5gの新鮮な触媒を添加した。4000時間の運転期間中、転化率は75%から74.7%に低下し、これは、触媒寿命の向上に相当する。MMAの選択率は変わらなかった。
【0107】
洗浄濾液を相分離し、蒸留により除去して、有価物であるMeOHおよびMMAが失われないようにした。洗浄濾液中の有価物を連続的に回収するために、米国特許第98,901,05号明細書に記載されているように、連続的なMMA精製への供給を行うことができる。
【0108】
取り出され、105℃で一晩乾燥された触媒試料において、IR分析の際に、メタクロレイン、メチルメタクリレート、メタクリル酸、もしくはナトリウムメタクリレート、または対応するオリゴマーの痕跡は認められなかった。
【0109】
実施例5 - 連続反応操作およびプロセスパラメーターの適合を伴う触媒の連続的または半連続的処理
実施例4と同様に実施したが、ただし、触媒取り出しおよび再生において1回おきに反応器の温度を0.5℃上げ、圧力を0.25bar上げた。合計で4000時間以内に、温度を4℃上げて84℃とし、圧力を2bar上げて7barとした。4000時間の運転期間中、転化率は75%から74.9%に低下し、これにより実質的に一定の触媒性能が達成された。MMAの選択率は変わらなかった。
【0110】
比較例1 - MeOHによる置換洗浄および触媒試験
実施例1の使用済み触媒を、MeOHで1回だけ洗浄した。その後、触媒5gをMeOHに14日間懸濁させた(固形分10%)。GC分析の結果、数時間以内にMeOH中に50ppm超のメタクロレインが検出された。このように処理された触媒を輸送した場合、容器を開封すると雰囲気中のメタクロレイン含有量は20ppm(20mg/m3空気)を超え、したがって限界値(TA Luft, Kapitel 5.2.5 Organische Stoffe, Klasse 1)を超えていると想定される。
【0111】
さらに、触媒のIR分析でも、メタクロレイン、メタクリル酸、ナトリウムメタクリレートまたはそれらのオリゴマーの存在が確認された。
【0112】
実施例2と同様に触媒を試験した結果、メタクロレイン転化率は72.1%であったため、処理前の触媒と比較して改善は見られなかった。
【0113】
比較例2 - 洗浄を伴わない濾過
実施例1の使用済み触媒を、反応混合物中の懸濁液としてヒュームフード内のプリーツフィルターに流し、空気中で予備乾燥させた。12時間の待機時間後、触媒を濾紙とともに105℃で乾燥させ、その際、濾紙が発火した。灰で汚染された触媒を廃棄した。したがって、洗浄が不十分であると、製造環境では安全上のリスクが高い。
【国際調査報告】