(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】成長ホルモンアンタゴニストと抗がん組成物の併用療法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/06 20060101AFI20240829BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240829BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240829BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20240829BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240829BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20240829BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/18 20060101ALN20240829BHJP
【FI】
A61K45/06
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K47/60
A61K38/16
A61K31/7068
A61K31/704
C12N15/18 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024512959
(86)(22)【出願日】2022-08-15
(85)【翻訳文提出日】2024-04-23
(86)【国際出願番号】 US2022074968
(87)【国際公開番号】W WO2023028430
(87)【国際公開日】2023-03-02
(32)【優先日】2021-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521251143
【氏名又は名称】モレキュラー テクノロジーズ ラボラトリーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】ブロディ、リチャード、エス.
(72)【発明者】
【氏名】ズパンシック、トーマス、ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】サンドボー、ウデイ
(72)【発明者】
【氏名】コプチック、ジョン、ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】バース、リートブラタ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA20
4C084BA01
4C084BA42
4C084DB70
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC422
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA10
4C086EA17
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
修飾されたヒト成長ホルモン受容体アンタゴニスト;および抗がん組成物を含む、ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストに応答性の疾患または状態を治療するための組成物。ヒト成長ホルモンアンタゴニストを用いてがんを治療する方法であって、がんの存在およびヒト成長ホルモンアンタゴニストに対する応答性を示す特定の所定の因子の存在を確認するために腫瘍生検を分析することによって患者を予備スクリーニングする工程と;および、修飾されたヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストおよび抗がん組成物を含む組成物の有効量で患者を治療する工程とを含む、方法。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストに応答性の疾患または状態を治療するための組成物であって、
(a)修飾されたヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストと、
(b)抗がん組成物と
を含む、組成物。
【請求項2】
請求項1記載の組成物において、前記ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストに応答性の疾患または状態は、所定のレベルの成長ホルモン受容体(GHR)、所定のレベルのプロラクチン受容体(PRLR)、所定のレベルのGHRおよびPRLRの両方、所定のレベルのATP結合カセット(ABC)輸送体、または、所定のレベルの上皮間葉転換(EMT)メディエーターを発現するがんである、組成物。
【請求項3】
請求項1記載の組成物において、前記ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストに応答性の疾患または状態は、がんであり、および、前記がんは、乳がん、中枢神経系がん、黒色腫、非小細胞肺がん、卵巣がん、前立腺がん、腎臓がん、膵臓がん、子宮内膜がん、髄膜腫、大腸がん、結腸がん、神経芽細胞腫、胃がん、肝臓がん、リンパ腫、それらの組み合わせ、または所定量のGHR、PRLR、ABC輸送体、EMTメディエーター、またはそれらの組み合わせを発現する他の任意のがんである、組成物。
【請求項4】
請求項1記載の組成物において、前記修飾されたヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストは、
(a)ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120Kであって、ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120Kの2つのアミノ酸がシステインに変更され、システインに変更された前記2つのアミノ酸は、T142およびH151である、ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120Kと、
(b)ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120K-H151C-T142Cの各置換システインに共役したポリエチレングリコール分子であって、システインに変更された前記2つのアミノ酸に共役したポリエチレングリコール分子は、それぞれ3つのカルボン酸アニオンを含む2つの4.5kDa分岐ポリエチレングリコールである、ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120K-H151C-T142Cの各置換システインに結合したポリエチレングリコール分子と
を含む、組成物。
【請求項5】
請求項4記載の組成物において、前記ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120Kは、配列ID番号:1のDNA配列、および配列ID番号:2のアミノ酸配列を有する、組成物。
【請求項6】
請求項4記載の組成物において、前記ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120K-H151C-T142Cは、配列ID番号:3のDNA配列、および配列ID番号:4のアミノ酸配列を有する、組成物。
【請求項7】
請求項4記載の組成物において、以下のアミノ酸置換:H18D、H21N、R167N、K168A、D171S、K172R、E174S、およびI179Tが行われ、および、これらの変異は、プロラクチン受容体への結合を妨げるように機能する、組成物。
【請求項8】
請求項7記載の組成物であって、前記組成物は、先端巨大症の治療に適合している、組成物。
【請求項9】
請求項4記載の組成物において、前記ポリエチレングリコール分子は段階的有機化学によって調製され、実質的に純粋な単一化合物であり、および、前記ポリエチレングリコール分子は分岐構造である、組成物。
【請求項10】
請求項4記載の組成物において、前記ポリエチレングリコール分子は遊離スルフヒドリル基と共役するためのマレイミド基を含む、組成物。
【請求項11】
請求項1記載の組成物において、前記抗がん組成物は、アルキル化剤、代謝拮抗物質、植物アルカロイド、抗腫瘍抗生物質、またはそれらの組み合わせである、組成物。
【請求項12】
請求項11記載の組成物において、前記アルキル化剤は、クロラムブシル、シクロホスファミド、チオテパ、ブスルファン、シスプラチン、またはそれらの組み合わせである、組成物。
【請求項13】
請求項11記載の組成物において、前記代謝拮抗物質は、ゲムシタビン、5-フルオロウラシル、6-メルカプトプリン、シタラビン、またはそれらの組み合わせである、組成物。
【請求項14】
請求項11記載の組成物において、前記植物アルカロイドは、ビンクリスチン、パクリタキセル、エトポシド、イリノテカン、またはそれらの組み合わせである、組成物。
【請求項15】
請求項11記載の組成物において、前記抗腫瘍抗生物質は、ドキソルビシン、ダクチノマイシン、ミトキサントロン、イダルビシン、またはそれらの組み合わせである、組成物。
【請求項16】
請求項1記載の組成物において、前記抗がん組成物は標的療法である、組成物。
【請求項17】
請求項16記載の組成物において、前記標的療法はベムラフェニブを含む、組成物。
【請求項18】
ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストに応答性の疾患または状態を治療するための方法であって、有効量の請求項1記載の組成物を患者に投与する工程を含む、方法。
【請求項19】
ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストに応答性の疾患または状態を治療するための組成物であって、
(a)修飾されたヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストであって、前記修飾されたヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストは、
(i)ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120Kであって、ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120Kの2つのアミノ酸がシステインに変更され、システインに変更された前記2つのアミノ酸は、T142およびH151である、ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120Kと、
(ii)ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120K-H151C-T142Cの各置換システインに共役したポリエチレングリコール分子であって、システインに変更された前記2つのアミノ酸に共役したポリエチレングリコール分子は、それぞれ3つのカルボン酸アニオンを含む2つの4.5kDa分岐ポリエチレングリコールであり、前記ポリエチレングリコール分子は段階的有機化学によって調製され、実質的に純粋な単一化合物であり、および、前記ポリエチレングリコール分子は分岐構造である、ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120K-H151C-T142Cの各置換システインに結合したポリエチレングリコール分子と
を含む、修飾されたヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストと、
(b)抗がん組成物と
を含む、組成物。
【請求項20】
請求項19記載の組成物において、前記ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストに応答性の疾患または状態は、所定のレベルの成長ホルモン受容体(GHR)、所定のレベルのプロラクチン受容体(PRLR)、所定のレベルのGHRおよびPRLRの両方、所定のレベルのATP結合カセット(ABC)輸送体、または、所定のレベルの上皮間葉転換(EMT)メディエーターを発現するがんである、組成物。
【請求項21】
請求項19記載の組成物において、前記ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストに応答性の疾患または状態は、がんであり、および、前記がんは、乳がん、中枢神経系がん、黒色腫、非小細胞肺がん、卵巣がん、前立腺がん、腎臓がん、膵臓がん、子宮内膜がん、髄膜腫、大腸がん、結腸がん、神経芽細胞腫、胃がん、肝臓がん、リンパ腫、それらの組み合わせ、または所定量のGHR、PRLR、ABC輸送体、EMTメディエーター、またはそれらの組み合わせを発現する他の任意のがんである、組成物。
【請求項22】
請求項19記載の組成物において、前記ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120Kは、配列ID番号:1のDNA配列、および配列ID番号:2のアミノ酸配列を有する、組成物。
【請求項23】
請求項19記載の組成物において、前記ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120K-H151C-T142Cは、配列ID番号:3のDNA配列、および配列ID番号:4のアミノ酸配列を有する、組成物。
【請求項24】
請求項19記載の組成物において、以下のアミノ酸置換:H18D、H21N、R167N、K168A、D171S、K172R、E174S、およびI179Tが行われ、および、これらの変異は、プロラクチン受容体への結合を妨げるように機能する、組成物。
【請求項25】
請求項24記載の組成物であって、前記組成物は、先端巨大症の治療に適合している、組成物。
【請求項26】
請求項19記載の組成物において、前記ポリエチレングリコール分子は遊離スルフヒドリル基と共役するためのマレイミド基を含む、組成物。
【請求項27】
請求項19記載の組成物において、前記抗がん組成物は、アルキル化剤、代謝拮抗物質、植物アルカロイド、抗腫瘍抗生物質、またはそれらの組み合わせである、組成物。
【請求項28】
請求項27記載の組成物において、前記アルキル化剤は、クロラムブシル、シクロホスファミド、チオテパ、ブスルファン、シスプラチン、またはそれらの組み合わせである、組成物。
【請求項29】
請求項27記載の組成物において、前記代謝拮抗物質は、ゲムシタビン、5-フルオロウラシル、6-メルカプトプリン、シタラビン、またはそれらの組み合わせである、組成物。
【請求項30】
請求項27記載の組成物において、前記植物アルカロイドは、ビンクリスチン、パクリタキセル、エトポシド、イリノテカン、またはそれらの組み合わせである、組成物。
【請求項31】
請求項27記載の組成物において、前記抗腫瘍抗生物質は、ドキソルビシン、ダクチノマイシン、ミトキサントロン、イダルビシン、またはそれらの組み合わせである、組成物。
【請求項32】
請求項19記載の組成物において、前記抗がん組成物は標的療法である、組成物。
【請求項33】
請求項32記載の組成物において、前記標的療法はベムラフェニブを含む、組成物。
【請求項34】
ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストに応答性の疾患または状態を治療するための方法であって、有効量の請求項19記載の組成物を患者に投与する工程を含む、方法。
【請求項35】
ヒト成長ホルモンアンタゴニストを用いてがんを治療する方法であって、
(a)がんの存在およびヒト成長ホルモンアンタゴニストに対する応答性を示す特定の所定の因子の存在を確認するために腫瘍生検を分析することによって患者を予備スクリーニングする工程と、
(b)修飾されたヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストおよび抗がん組成物を含む組成物の有効量で前記患者を治療する工程と
を含む、方法。
【請求項36】
請求項35記載の方法において、前記特定の所定の因子は、所定のレベルのGHR、PRLR、ABC輸送体、EMTメディエーター、インスリン様成長因子-1(IGF-1)、IFG結合タンパク質-3(IGFBP3)、サイトカインシグナル伝達抑制因子(SOCS_-1、-2、-3、および、サイトカイン誘導性SH2含有タンパク質(CISH)を含む、方法。
【請求項37】
請求項35記載の方法において、前記がんは、乳がん、中枢神経系がん、黒色腫、非小細胞肺がん、卵巣がん、前立腺がん、腎臓がん、膵臓がん、子宮内膜がん、髄膜腫、大腸がん、結腸がん、神経芽細胞腫、胃がん、肝臓がん、リンパ腫、それらの組み合わせ、または所定量のGHR、PRLR、ABC輸送体、EMTメディエーター、またはそれらの組み合わせを発現する他の任意のがんである、組成物。
【請求項38】
請求項35記載の方法において、前記修飾されたヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストは、
(a)ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120Kであって、ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120Kの2つのアミノ酸がシステインに変更され、システインに変更された前記2つのアミノ酸は、T142およびH151である、ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120Kと、
(b)ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120K-H151C-T142Cの各置換システインに共役したポリエチレングリコール分子であって、システインに変更された前記2つのアミノ酸に共役したポリエチレングリコール分子は、それぞれ3つのカルボン酸アニオンを含む2つの4.5kDa分岐ポリエチレングリコールである、ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120K-H151C-T142Cの各置換システインに結合したポリエチレングリコール分子と
を含む、方法。
【請求項39】
請求項38記載の方法において、前記ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120Kは、配列ID番号:1のDNA配列、および配列ID番号:2のアミノ酸配列を有する、方法。
【請求項40】
請求項38記載の方法において、前記ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120K-H151C-T142Cは、配列ID番号:3のDNA配列、および配列ID番号:4のアミノ酸配列を有する、方法。
【請求項41】
請求項38記載の方法において、前記ポリエチレングリコール分子は段階的有機化学によって調製され、実質的に純粋な単一化合物であり、および、前記ポリエチレングリコール分子は分岐構造である、方法。
【請求項42】
請求項38記載の方法において、前記ポリエチレングリコール分子は遊離スルフヒドリル基と共役するためのマレイミド基を含む、方法。
【請求項43】
請求項35記載の方法において、前記抗がん組成物は、アルキル化剤、代謝拮抗物質、植物アルカロイド、抗腫瘍抗生物質、またはそれらの組み合わせである、方法。
【請求項44】
請求項43記載の方法において、前記アルキル化剤は、クロラムブシル、シクロホスファミド、チオテパ、ブスルファン、シスプラチン、またはそれらの組み合わせである、方法。
【請求項45】
請求項43記載の方法において、前記代謝拮抗物質は、ゲムシタビン、5-フルオロウラシル、6-メルカプトプリン、シタラビン、またはそれらの組み合わせである、方法。
【請求項46】
請求項43記載の方法において、前記植物アルカロイドは、ビンクリスチン、パクリタキセル、エトポシド、イリノテカン、またはそれらの組み合わせである、方法。
【請求項47】
請求項43記載の方法において、前記抗腫瘍抗生物質は、ドキソルビシン、ダクチノマイシン、ミトキサントロン、イダルビシン、またはそれらの組み合わせである、方法。
【請求項48】
請求項35記載の組成物において、前記抗がん組成物は標的療法である、組成物。
【請求項49】
請求項48記載の組成物において、前記標的療法はベムラフェニブを含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表の参照
コンピュータ可読形式(CRF)の配列表がファイルされている。配列表は、2021年8月20日に作成されたSEQIDNOS_1_4_ST25_CIP1.txtと題するASCIIテキスト(.txt)ファイルにあり、サイズは6KBである。配列表は、本明細書に完全に記載されているかのように参照により組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
背景
開示された本発明の技術は、一般に、がんおよび他の疾患を治療するための組成物および方法に関し、より具体的には、少なくとも1つの抗がん組成物、物質、または薬剤と組み合わせた成長ホルモンアンタゴニストを含むがんを治療するための併用療法に関し、この併用療法は薬剤耐性の発現を防止する。
【0003】
ヒト成長ホルモン(hGHまたはGH)は、ソマトトロピンまたはソマトプロピンとしても知られ、ヒトおよび他の動物の成長、細胞再生、および再生を刺激するペプチドホルモンである。成長ホルモンは、ある種の細胞のみに特異的な分裂促進因子の一種であり、下垂体前葉の側翼にある体性刺激細胞によって合成、貯蔵、分泌される191アミノ酸の一本鎖ポリペプチドである。先端巨大症は、思春期の骨端板閉鎖後に下垂体前葉がGHを過剰に産生した場合に生じる症候群である。骨端板閉鎖前にGHが過剰に産生されると、結果として、巨人症(gigantism)(または巨人症(giantism))となる。下垂体GH産生が増加する疾患は数多くあるが、最も一般的なのは、異なる種類の細胞(体細胞栄養細胞)に由来する下垂体腺腫と呼ばれる腫瘍が関係している。先端巨大症は最も一般的に中年期の成人に発症し、治療しない場合は重度の外観損傷、合併症、および早期死亡を引き起こすことがある。この病気はその病態と緩徐な進行のため、初期段階では診断が困難であり、外見的特徴、特に顔面の変化が顕著になるまで何年も見逃されることが多い。
【0004】
受容体とは、通常、細胞の形質膜表面に埋め込まれているタンパク質分子であり、細胞外からの化学シグナルを受け取る。このような化学的シグナルが受容体に結合すると、これらのシグナルは、例えば細胞の電気的活性の変化など、何らかの細胞/組織応答を引き起こす。この意味で受容体とは、内因性の化学的シグナルを認識し、それに応答するタンパク質分子のことである。ヒト成長ホルモンのようなアゴニストは、受容体に結合し、受容体を活性化して生物学的反応を引き起こす化学組成物である。アゴニストが作用を引き起こすのに対して、アンタゴニストはアゴニストの作用をブロックし、インバースアゴニストはアゴニストの作用とは逆の作用を引き起こす。受容体アンタゴニストとは、受容体に結合して生物学的反応そのものを引き起こすのではなく、アゴニストが介在する反応を遮断または減弱させるタイプの受容体リガンドまたは薬物である。これらの組成物はブロッカーと呼ばれることもあり、αブロッカー、βブロッカー、カルシウムチャネルブロッカーなどがその例である。
【0005】
薬理学では、アンタゴニストはその同族受容体に対して親和性はあるが効力はなく、結合によって相互作用が破壊され、受容体におけるアゴニストまたはインバースアゴニストの機能が阻害される。アンタゴニストは、受容体の活性部位(オルソステリック)または他の部位(アロステリック)に結合することによってその作用を媒介するか、受容体の活性の生物学的調節には通常関与しないユニークな結合部位で相互作用する。アンタゴニスト活性は、アンタゴニスト-受容体複合体の寿命によって可逆的であったり不可逆的であったりするが、それはアンタゴニスト-受容体結合の性質に依存する。ほとんどの薬物アンタゴニストは、受容体上の構造的に定義された結合部位で内因性リガンドまたは基質と競合することにより、その効力を発揮する。定義によれば、アンタゴニストは結合した受容体を活性化する効力を示さず、受容体を活性化する能力を維持しない。しかし、一度結合すると、アンタゴニストはアゴニスト、インバースアゴニスト、部分アゴニストの機能を阻害する。
【0006】
製品ペグビソマント(商標SOMAVERT(登録商標)として販売される)などの成長ホルモン受容体アンタゴニストは、先端巨大症の治療に使用される。このような組成物は、先端巨大症の原因となっている下垂体の腫瘍が手術または放射線で制御できず、ソマトスタチン類似体の使用がうまくいかない場合に使用される。ペグビソマントは通常、水と混合して皮下に注射される粉末として送達される。
【0007】
PEG化は、ポリエチレングリコール(PEG)ポリマー鎖を、薬物、ペプチド、抗体フラグメント、または治療用タンパク質のような分子およびマクロ構造体に共有結合および非共有結合の両方で結合させるプロセスである。PEG化はPEGの反応性誘導体を標的分子とインキュベートすることによって日常的に達成され、分子サイズや分子電荷の変化を含む物理化学的特性の変化をもたらす。これらの物理的および化学的変化は、治療薬の全身滞留を増加させ、細胞受容体への治療薬部分の結合親和性に影響を与え、吸収および分布パターンを変化させる。PEGの薬物または治療用タンパク質への共有結合はまた、宿主の免疫系から薬物を「覆い隠す」(すなわち、免疫原性および抗原性を減少させる)ことができ、薬物の流体力学的サイズ(すなわち、溶液中のサイズ)を増大させ、腎クリアランスを減少させることにより循環時間を延長させる。PEG化はまた、疎水性の薬物およびタンパク質に水溶性を与えることができる。
【0008】
PEG化は、分子の分子量を増加させることにより、未修飾の形態の分子と比較して、以下のようないくつかの重要な薬理学的利点:(i)薬物の溶解性の改善、(ii)有効性を低下させることなく、潜在的に毒性を低下させたまま、投与頻度の低減させる、(iii)循環寿命の延長、(iv)薬物の安定性の向上、および(v)タンパク質分解からの保護の強化、を付与することができる。PEG化された薬剤には、次のような商業的な利点:(i)新しい送達形態や投与レジメンの機会;(ii)既に承認されている薬剤の特許期間の延長、もある。PEGは共役にとって特に魅力的なポリマーであり、医薬用途に関連するPEG部分の特異的な特性は以下:(i)水溶性、(ii)溶液中での高い移動性、(iii)毒性がなく免疫原性が低い、(iv)体内での分布が変化する、を含む。
【0009】
タンパク質に高分子量のポリエチレングリコール(PEG)を添加すると、腎臓からの排泄がサイズに依存して減少することにより、これらのタンパク質の生体内半減期が長くなることが以前に示されている。PEGの添加はまた、タンパク質の免疫原性を低下させ、凝集およびプロテアーゼ切断を減少させる[1]-[2]。ホルモン、サイトカイン、抗体断片、酵素など、複数の既知のPEG化タンパク質がUSFDAによって治療用として承認されている[1]、[3]-[4]。したがって、特にGH受容体アンタゴニストまたは他の受容体アンタゴニストの使用に応答性の疾患の治療に使用するための、PEG化治療薬のさらなる開発に対する継続的な必要性が存在する。
【0010】
ヒトでの研究[5]、動物での研究[6]、およびがん細胞株の研究[6]から得られた証拠は、発がんにおける成長ホルモン(GH)の役割を裏付けている。以下のヒトのがんにおけるGH受容体(GHR)の発現と機能の関係が検討されている;乳がん、肝臓がん、前立腺がん、結腸がん、黒色腫、膵臓がん、子宮内膜がん、髄膜腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、肺がん、胃がん[6]。がん細胞株を用いたin vitro研究と、ヌードマウスのヒト腫瘍異種移植片を用いたin vivo研究の両方が、GHの作用を減弱させることで抗がん作用が得られることを示している。がんに対するGHの作用は、GH受容体(GHR)の発現を低下させるか、GHRアンタゴニストであるペグビソマントを使用することで阻害されることが示されている[6]。また、乳がんや前立腺がんに対しては、プロラクチン(PRL)の作用を減弱させることで、多くの場合、抗がん作用が得られるというin vivoおよびin vitroの証拠がある[7]。
【0011】
がん治療におけるGHRアンタゴニストの使用は、がん細胞がGHRまたはプロラクチン受容体(PRLR)、あるいはGHRとPRLRの両方を発現していることが条件となる。乳がん、CNSがん、結腸がん、白血病、黒色腫、非小細胞肺がん、卵巣がん、前立腺がん、腎臓がんの9種類のヒトのがんから採取された60のがん細胞株において、GHRの発現レベルとPRLRの発現レベルが測定されている[8]。結腸がんと白血病を除くすべてのがん種で、ほとんどの細胞株で高いGHR発現レベルが得られた。PRLRの発現レベルは、白血病と前立腺がんを除くすべてのがん種について、ほとんどの細胞株で高かった。
【0012】
化学療法はがん治療の最も一般的な形態であるが、多くの場合、がんは時間の経過とともに化学療法に対する耐性を獲得する[9]。この薬剤耐性は、がんによる死亡の主な原因である。化学療法抵抗性の発現に対するGHの影響については、最近見直されている[10]。GH、GHRノックアウトマウス(GHRKO)、およびhGHRアンタゴニストであるペグビソマントを用いて、GH/GHRシグナル伝達が抗がん剤耐性に及ぼす影響を調べた研究がある[10]。In vitroにおけるがん細胞株を用いた研究によると、GHは、細胞をアポトーシスから保護し、上皮間葉転換(EMT)を刺激し、ATP結合カセット(ABC)輸送体(薬剤排出ポンプ)の発現を刺激し、がん幹細胞を促進することによって、抗がん剤耐性を促進することが示されている。また、PRLがABC輸送体をアップレギュレートし[11]、がん幹細胞様特性を促進することにより、がん薬剤耐性を促進するという証拠もある[12]。
【0013】
ペグビソマントは、細胞増殖試験において、ドキソルビシンに対するin vitroでの乳がん細胞のGH刺激耐性を逆転させることが示されている[13]。また、ペグビソマントは、細胞培養アッセイにおいて、ドキソルビシン誘導アポトーシスに対するGH促進耐性を逆転させることが示されている[14]。ペグビソマントよりもGHRに強固に結合する新規のGHRアンタゴニスト(本明細書では「化合物G」と呼ぶ)が調製された(米国特許第10,874,717号を参照。)ペグビソマントとは異なり、化合物GはPRLRにも強固に結合する(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願第16/903,644号を参照)。化合物Gがin vitroおよびin vivoの両方でGH刺激による薬剤耐性を逆転させる能力は本明細書に記載されている。
【発明の概要】
【0014】
以下は、開示された発明的主題の特定の例示的実施態様の要約を提供する。この要約は、広範な概要ではなく、開示された発明的主題の重要なまたは重要な側面または要素を特定すること、またはその範囲を画定することを意図するものではない。しかしながら、開示された発明的主題を記載し請求するために使用される言語における不定冠詞の使用は、記載された発明的主題を限定することを何ら意図していないことを理解されたい。むしろ、「a」または「an」の使用は、「少なくとも1つ」または「1つ以上」を意味すると解釈されるべきである。
【0015】
開示された技術の1つの実施態様は、ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストに応答性の疾患または状態を治療するための組成物および方法を提供する。組成物は、修飾されたヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストと、および抗がん組成物とを含む。ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストに応答性の疾患または状態を治療する方法は、有効量の組成物を患者に投与する工程を含む。ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストに応答性の疾患または状態は、所定レベルの成長ホルモン受容体(GHR);所定レベルのプロラクチン受容体(PRLR);所定レベルのGHRおよびPRLRの両方;所定レベルのATP結合カセット(ABC)輸送体;または所定レベルの上皮間葉転換(EMT)メディエーターを発現するがんであり得る。ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストに応答性の疾患または状態は、乳がん、中枢神経系がん、黒色腫、非小細胞肺がん、卵巣がん、前立腺がん、腎臓がん、膵臓がん、子宮内膜がん、髄膜腫、大腸がん、結腸がん、神経芽細胞腫、胃がん、肝臓がん、リンパ腫、それらの組み合わせ、または所定量のGHR、PRLR、ABC輸送体、EMTメディエーター、またはそれらの組み合わせを発現する他のがんであってもよい。
【0016】
修飾されたヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストは、ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120Kの2つのアミノ酸がシステインに変更されたヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120Kを含み得るものであり、システインに変更された2つのアミノ酸はT142およびH151であり;およびヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120K-T151C-T142Cの各置換システインに共役したポリエチレングリコール分子であって、システインに変化した2つのアミノ酸に共役したポリエチレングリコール分子は、それぞれ3つのカルボン酸アニオンを含む2つの4.5kDa分岐ポリエチレングリコールである。ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120Kは、配列ID番号:1のDNA配列および配列ID番号:2のアミノ酸配列を有し得る。ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120K-H151C-T142Cは、配列ID番号:3のDNA配列および配列ID番号:4のアミノ酸配列を有し得る。以下のアミノ酸置換:H18D、H21N、R167N、K168A、D171S、K172R、E174S、およびI179Tは、プロラクチン受容体への結合を防止するために置換されてもよく、この修飾された組成物は、先端巨大症の治療に適合され、使用され得る。ポリエチレングリコール分子は段階的有機化学によって調製され、実質的に純粋な単一化合物であってもよく、ポリエチレングリコール分子は分岐構造であってもよい。ポリエチレングリコール分子は、遊離スルフヒドリル基と共役するためのマレイミド基を含み得る。
【0017】
抗がん組成物は、アルキル化剤、代謝拮抗物質、植物アルカロイド、抗腫瘍抗生物質、またはそれらの組み合わせであってもよい。アルキル化剤は、クロラムブシル、シクロホスファミド、チオテパ、ブスルファン、シスプラチン、またはそれらの組み合わせであり得る。代謝拮抗物質は、ゲムシタビン、5-フルオロウラシル、6-メルカプトプリン、シタラビン、またはそれらの組み合わせであってもよい。植物アルカロイドは、ビンクリスチン、パクリタキセル、エトポシド、イリノテカン、またはそれらの組み合わせであってもよい。抗腫瘍抗生物質は、ドキソルビシン、ダクチノマイシン、ミトキサントロン、イダルビシン、またはそれらの組み合わせであってもよい。抗がん組成物は、ベムラフェニブまたは類似の薬剤を含む標的療法であってもよい。
【0018】
開示された技術の別の実施態様は、ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストに応答性の疾患または状態を治療するための別の組成物および方法を提供する。この組成物は、修飾されたヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストを含み、ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストは、ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120Kを含み、ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120Kの2つのアミノ酸はシステインに変更されており、システインに変更された2つのアミノ酸はT142およびH151であり、およびヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120K-H151C-T142Cの各置換システインに共役したポリエチレングリコール分子であって、システインに変更された前記2つのアミノ酸に共役したポリエチレングリコール分子は、それぞれ3つのカルボン酸アニオンを含む2つの4.5kDa分岐ポリエチレングリコールであり、ポリエチレングリコール分子は段階的有機化学によって調製され、実質的に純粋な単一化合物であり、ポリエチレングリコール分子は分枝構造である、修飾されたヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストと、抗がん組成物とを含む。ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストに応答性の疾患または状態を治療する方法は、有効量の組成物を患者に投与する工程を含む。
【0019】
ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストに応答性の疾患または状態は、所定レベルの成長ホルモン受容体(GHR);所定レベルのプロラクチン受容体(PRLR);所定レベルのGHRおよびPRLRの両方);所定レベルのATP結合カセット(ABC)輸送体;または所定レベルの上皮間葉転換(EMT)メディエーターを発現するがんであり得る。ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストに応答性の疾患または状態は、乳がん、中枢神経系がん、黒色腫、非小細胞肺がん、卵巣がん、前立腺がん、腎臓がん、膵臓がん、子宮内膜がん、髄膜腫、大腸がん、結腸がん、神経芽細胞腫、胃がん、肝臓がん、リンパ腫、それらの組み合わせ、または所定量のGHR、PRLR、ABC輸送体、EMTメディエーター、またはそれらの組み合わせを発現する他の任意のがんであってもよい。ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120Kは、配列ID番号:1のDNA配列および配列ID番号:2のアミノ酸配列を有していてもよい。ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120K-H151C-T142Cは、配列ID番号:3のDNA配列および配列ID番号:4のアミノ酸配列を有していてもよい。以下のアミノ酸置換:H18D、H21N、R167N、K168A、D171S、K172R、E174S、およびI179Tは、プロラクチン受容体への結合を防止するために置換されてもよく、この修飾された組成物は、先端巨大症の治療に適合され、使用され得る。ポリエチレングリコール分子は、遊離スルフヒドリル基と結合するためのマレイミド基を含んでいてもよい。
【0020】
抗がん組成物は、アルキル化剤、代謝拮抗物質、植物アルカロイド、抗腫瘍抗生物質、またはそれらの組み合わせであってもよい。アルキル化剤は、クロラムブシル、シクロホスファミド、チオテパ、ブスルファン、シスプラチン、またはそれらの組み合わせであり得る。代謝拮抗物質は、ゲムシタビン、5-フルオロウラシル、6-メルカプトプリン、シタラビン、またはそれらの組み合わせであってもよい。植物アルカロイドは、ビンクリスチン、パクリタキセル、エトポシド、イリノテカン、またはそれらの組み合わせであってもよい。抗腫瘍抗生物質は、ドキソルビシン、ダクチノマイシン、ミトキサントロン、イダルビシン、またはそれらの組み合わせであってもよい。抗がん組成物は、ベムラフェニブまたは類似の薬剤を含む標的療法であってもよい。
【0021】
開示された技術のさらに別の実施態様は、ヒト成長ホルモンアンタゴニストを用いてがんを治療する方法であって、がんの存在およびヒト成長ホルモンアンタゴニストに対する応答性を示す特定の所定の因子の存在を確認するために腫瘍生検を分析することによって患者を予備スクリーニングする工程と;および、修飾されたヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストおよび抗がん組成物を含む組成物の有効量で患者を治療する工程とを含む方法を提供する。特定の所定の因子には、所定のレベルのGHR、PRLR、ABC輸送体、EMTメディエーター、インスリン様成長因子-1(IGF-1)、IFG結合タンパク質-3(IGFBP3)、サイトカインシグナル伝達抑制因子(SOCS_-1、-2、-3、および、サイトカイン誘導性SH2含有タンパク質(CISH)が含まれ得る。がんは、乳がん、中枢神経系がん、黒色腫、非小細胞肺がん、卵巣がん、前立腺がん、腎臓がん、膵臓がん、子宮内膜がん、髄膜腫、大腸がん、結腸がん、神経芽細胞腫、胃がん、肝臓がん、リンパ腫、それらの組み合わせ、または所定量の所定因子を発現する他の任意のがんであってもよい。
【0022】
修飾されたヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストは、ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120Kであって、ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120Kの2つのアミノ酸がシステインに変更され、システインに変更された前記2つのアミノ酸は、T142およびH151である、ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120K;およびヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120K-H151C-T142Cの各置換システインに共役したポリエチレングリコール分子であって、システインに変更された前記2つのアミノ酸に共役したポリエチレングリコール分子は、それぞれ3つのカルボン酸アニオンを含む2つの4.5kDa分岐ポリエチレングリコールであり、前記ポリエチレングリコール分子は段階的有機化学によって調製され、実質的に純粋な単一化合物であり、および、前記ポリエチレングリコール分子は分岐構造である、ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120K-H151C-T142Cの各置換システインに結合したポリエチレングリコール分子とを含む。ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120Kは、配列ID番号:1のDNA配列および配列ID番号:2のアミノ酸配列を有してもよく、ヒト成長ホルモン受容体アンタゴニストG120K H151C-T142Cは、配列ID番号:3のDNA配列および配列ID番号:4のアミノ酸配列を有してもよい。ポリエチレングリコール分子は、段階的有機化学によって調製されてもよく、実質的に純粋な単一化合物であってもよく、ポリエチレングリコール分子は分岐構造であってもよい。ポリエチレングリコール分子は、遊離スルフヒドリル基と共役するためのマレイミド基を含んでいてもよい。
【0023】
抗がん組成物は、アルキル化剤、代謝拮抗物質、植物アルカロイド、抗腫瘍抗生物質、またはそれらの組み合わせであってもよい。アルキル化剤は、クロラムブシル、シクロホスファミド、チオテパ、ブスルファン、シスプラチン、またはそれらの組み合わせであり得る。代謝拮抗物質は、ゲムシタビン、5-フルオロウラシル、6-メルカプトプリン、シタラビン、またはそれらの組み合わせであってもよい。植物アルカロイドは、ビンクリスチン、パクリタキセル、エトポシド、イリノテカン、またはそれらの組み合わせであってもよい。抗腫瘍抗生物質は、ドキソルビシン、ダクチノマイシン、ミトキサントロン、イダルビシン、またはそれらの組み合わせであってもよい。抗がん組成物は、ベムラフェニブまたは類似の薬剤を含む標的療法であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
特許または出願ファイルには、カラーで作成された少なくとも1つの図面が含まれている。カラー図面を含むこの特許または特許出願公開公報の写しは、請求及び必要な手数料の支払に応じて、国内官庁から提供される。
【0025】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付の図は、開示された発明的主題の1つまたは複数の例示的な実施態様を概略的に示し、上に与えられた一般的な説明および以下に与えられる詳細な説明とともに、開示された主題の原理を説明するのに役立ち、ここで:
【
図1】
図1は、37種類のがん細胞由来の複数の細胞株におけるGHR mRNAの発現レベルを表した棒グラフであり、グラフのX軸に沿って列挙されている;
【
図2】
図2A~2Cは、2つの乳がんサブタイプ(トリプルネガティブ乳がんおよびHER2濃縮乳がん)についてのプロットであり、成長ホルモン受容体(GHR)発現レベルが低いがんおよび高いがんについての患者の全生存期間(月単位)の差を示す。
図2Aは、サブタイプHER2濃縮(ER-PR-HER+)乳がん(n=96)のデータを含み、
図2Bは、サブタイプトリプルネガティブ乳がん(n=405)のデータを含み、
図2Cは、サブタイプトリプルネガティブ乳がん/化学療法治療(n=227)のデータを含む;
【
図3】
図3A~3Dは、Cancer Genome Atlas(TCGA)乳がんデータベースにおける特定の遺伝子発現と、乳がん(BC)患者(群分けなし/全体)の全生存期間との関係を示すグラフであり、高GHR発現(
図3A)または高PRLR発現(
図3B)の患者のデータは、低GHR発現群または低PRLR発現群と比較して生存率が低く、GHRとPRLRの両方の高発現を有する乳がん患者(
図3C)、またはGH、GHR、PRLRの高発現を有する乳がん患者(
図3D)では、同じ遺伝子セットの対応する低発現コホート(GEPIA2を用いて処理)に比べて生存率が有意に低かった;
【
図4】
図4Aは、The Cancer Genome Atlas(TCGA)データベースのヒト患者からの40の異なるがん種にわたるGHR発現とABC型多剤輸送体発現との間のスピアマン相関係数を示すヒートマップであり、このヒートマップは、GHR発現とABC型多剤輸送体との間の一貫した正の(赤色の)相関を示す。
図4Bは、TCGAデータベースのヒト患者からの40の異なるがん種にわたる、GHR発現と既知のEMTマーカー発現との間のスピアマン相関係数を示すヒートマップであり、このヒートマップは、大多数のがんタイプにわたってGHRとEMTマーカーとの間に一貫した正の(赤色の)相関関係があることを示す。
【
図5】
図5A(1)~5A(6)は、黒色腫細胞株における6つのABC輸送体の発現に対するGHRアンタゴニストの効果を示し、
図5A(1)は、MALME-3M-ABCB1についてのデータを含み、
図5A(2)は、MALME-3M-ABCB8についてのデータを含み、
図5A(3)は、MALME-3M-ABCC-1についてのデータを含み、
図5A(4)は、MALME-3M-ABCC2についてのデータを含み、
図5A(5)は、MALME-3M-ABCG1についてのデータを含み、および、
図5A(6)は、MALME-3M-ABCG2についてのデータを含む;
図5B(1)~
図5B(9)は、黒色腫細胞株における9つのEMTマーカーの発現に対するGHRアンタゴニストの効果を示し、
図5B(1)は、MALME-3M-FGFBP1についてのデータを含み、
図5B(2)は、MALME-3M-CDH1についてのデータを含み、
図5B(3)は、MALME-3M-CLDN1についてのデータを含み、
図5B(4)は、MALME-3M-ZEB1についてのデータを含み、
図5B(5)は、MALME-3M-CDH2についてのデータを含み、
図5B(6)は、MALME-3M-EPAS1についてのデータを含み、
図5B(7)は、MALME-3M-SNAI1についてのデータを含み、
図5B(8)は、MALME-3M-SNAI2についてのデータを含み、
図5B(9)は、MALME-3M-VIMについてのデータを含む;
【
図6】
図6A~6Dは、3つの膵臓がん細胞株を用いた基底膜浸潤アッセイ(in vitro)(
図6A)に対するGHRアンタゴニスト(Peg=ペグビソマント、G=化合物G)の効果を示し(n=3、*はp<0.05を示す)、GHは腫瘍細胞浸潤速度を増加させるが、GHRアンタゴニストは腫瘍細胞浸潤速度を有意に抑制し、
図6Bには浸潤アッセイ-BxPC3のデータ、
図6Cには浸潤アッセイ-PANC1のデータ、
図6Bには浸潤アッセイ-LTPAのデータが含まれる;
【
図7】
図7A、7B、および7C(1)~7C(8)は、薬剤排出速度(
図7A)、薬剤保持率(
図7B)、および蛍光薬剤サロゲート(DiOC2)を膵臓がん細胞に負荷した後の蛍光画像に対するGHRアンタゴニスト[Peg=ペグビソマント、G=化合物G]の効果を示す(n=3、*はp<0.05を示す)(
図7C(1)-7C(8))、GHは腫瘍細胞の薬剤排出速度を増加させる(腫瘍細胞における薬剤保持を減少させる)のに対し、GHRアンタゴニストはそれを有意に抑制した;
【
図8】
図8は、抗がん剤およびPBS、GH、GH+ペグビソマント、またはGH+化合物Gのいずれかの存在下でインキュベートした場合の膵臓がん細胞の生存率を示し、使用した抗がん剤は、ドキソルビシン(doxo)、エルロチニブ(erlo)、またはゲムシタビン(gemc)であり、対照はDMSOであった;
【
図9】
図9Aは、雄性ヌードマウスに移植したヒト膵臓がん(PANC1)異種移植片の増殖(腫瘍体積)に対する様々な治療の効果を示すグラフであり、hGHRアンタゴニストは、ペグビソマント(peg)および化合物-G(G)を10mg/kg/日で治療し、一方、gem20=ゲムシタビンを20mg/kgで3日ごとに治療した。すべての治療は17日目に開始され、腹腔内注射によるものであり、ゲムシタビン、ペグビソマント、または化合物Gを単独で使用した場合、腫瘍増殖速度の減少に有効であった;ただし、gem20+pegまたはgem20+Gの併用は、gem20またはpegまたはG単独よりも有意に有効であった;
図9Bは、雄性ヌードマウスに移植したヒト膵臓がん(PANC1)異種移植片の増殖(腫瘍体積)に対する様々な治療の効果を示すグラフであり、hGHRアンタゴニストは化合物-G(G)で10mg/kg/日治療し、gem20=ゲムシタビンは20mg/kgで3日ごとに治療し、gem80=ゲムシタビンは80mg/kgで3日ごとに治療し、すべての治療は17日目に開始し、腹腔内注射で行った。ゲムシタビンまたは化合物-Gのいずれの投与量も、単剤療法として使用した場合には腫瘍増殖速度の低下に有効であった;ただし、gem20+Gまたはgem80+Gの組み合わせは、gem20またはgem80またはG単独よりも有意に有効であり、Gem20+GはGem20よりも有効であり、Gem80+GはGem80単独よりも有効であり、Gem20+GはGem80単独よりも有効であった;および
【
図10】
図10は、雌性ヌードマウスに移植したヒト膵臓がん(PANC1)異種移植片の増殖(腫瘍体積)に対する様々な治療の効果を示すグラフであり、ここで、hGHRアンタゴニストは、10mg/kg/日で治療した化合物-G(G)であり、一方、gem20=20mg/kgで3日ごとに治療したゲムシタビン、またはgem80=80mg/kgで3日ごとに治療したゲムシタビンである。すべての治療が17日目に開始され、腹腔内注射によるものである。ゲムシタビンまたは化合物Gのいずれの用量も、単剤療法として使用した場合には腫瘍増殖速度の減少に有効であった;ただし、gem20+Gまたはgem80+Gの組み合わせは、gem20またはgem80またはG単独よりも有意に有効であり、gem20+Gはgem20よりも有効であったが、gem80+Gはgem80単独よりも有効であり、gem20+Gはgem80単独と同程度に有効であった。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、実施例について図を参照して説明する。参照数字は、様々な要素および構造を参照するために詳細な説明全体を通して使用される。以下の詳細な説明は、説明の目的のために多くの具体的な内容を含むが、当業者であれば、以下の詳細に対する多くの変形および変更が開示された発明的主題の範囲内であることを理解するであろう。従って、以下の実施態様は、特許請求される主題に対する一般性を損なうことなく、また、特許請求される主題に限定を課すことなく、記載される。
【0027】
本出願全体にわたって使用される以下の略語は、以下の特定の意味を有する。dPEG(登録商標)-Aは、MAL-dPEG(登録商標)12-Tris(-dPEG(登録商標)24-酸)3(Quanta BioDesign #1145)を指す。化合物GまたはGは、T142およびH151がシステインに変更され、両方の付加されたシステインがdPEG(登録商標)-Aと共役したhGHRアンタゴニストhGH-G120Kを指す。化合物DまたはDは、T142がシステインに変更され、付加されたシステインが40kDaの分岐ポリエチレングリコールと共役したhGHRアンタゴニストhGH-G120Kを指す。Pegはペグビソマントを指し、Doxはドキソルビシンを指す。開示される技術には、GHR、PRLR、選択されたABC薬剤排出ポンプ、選択されたEMTモジュレーター、IGF-1、IGFBP3、SOCS-1、またはCISH.の発現によって同定されるがん患者を治療するための組成物および方法が含まれ、治療は、有効量の化合物Gと組み合わせた化学療法薬の有効量を患者に投与する工程を含む。
【0028】
がん細胞株におけるGHR発現
がん治療におけるhGHRアンタゴニストの有効性は、それ自体で、あるいは抗がん剤との併用で、特定のがんによるhGHRの発現と密接に関係している。hGHRアンタゴニストがPRLRのアンタゴニストでもある場合、PRLR発現レベルもまた、この治療に対するがんの感受性を決定することになる。以前、9つのがん種から採取された60の細胞株のほとんどが、hGHR、PRLRのいずれか、あるいは両方の受容体を高レベルで発現していることが観察された[5]。37のがん種から得られたGHR mRNAの発現レベルを、各がん種について4から131の細胞株を含めて分析したところ(
図1参照)、ほぼすべてのがん種で、試験した個々のがんの少なくともサブセットで高hGHR発現を有していることが示された。
【0029】
複数のヒト患者データセットにわたるhGHR発現レベルは、HER2濃縮乳がんおよびトリプルネガティブ乳がんの患者生存率の低下と相関している(
図2A~2C参照)。
図3A~3Dは、GHR+PRLR発現またはGH+GHR+PRLR発現の両方が高レベルの乳がん患者は、高レベルのGHまたはGHRまたはPRLR発現のみの乳がん患者よりも生存率が低いことを示す。
【0030】
GHR発現とABC輸送体およびEMTマーカーの発現
図4Aは、TCGAデータベースの全患者におけるGHR発現とABC輸送体の発現との間の40の異なるがん細胞型にわたる相関関係を示している。
図4Bは、GHRの発現とEMTメディエーターの発現との間の同じ相関を示している。ABC輸送体とEMTメディエーターのアップレギュレーションは化学療法抵抗性につながるので、これらの図は化学療法抵抗性がGHR発現と関連していることを示している。
【0031】
黒色腫細胞株における6つのABC輸送体の発現に対するGHRアンタゴニストの効果を
図5A(1)~5A(6)に示す。単剤療法として使用した場合、化合物Gは6つのABC輸送体のうち4つの発現を有意に低下させる。GHまたはドキソルビシンが存在する場合、化合物Gは4つのABC輸送体の発現も低下させる。GHとドキソルビシンの両方が添加されると、化合物Gは6つすべてのABC輸送体の発現を大きく減少させる。この観察は、GHまたはドキソルビシン、あるいはGHとドキソルビシンの両方が存在すると、ABC輸送体の発現が増強されるという事実によるものである。
【0032】
黒色腫細胞株における9つのEMTマーカーの発現に対するhGHRアンタゴニストの効果を
図5B(1)~5B(9)に示す。単剤療法で使用すると、化合物Gは、複数のEMTメディエーターの発現を有意に低下させる。GHまたはドキソルビシン、あるいはその両方が存在する場合、化合物Gは複数のEMTメディエーターの発現も低下させるが、これはおそらくEMTメディエーターの発現がGHまたはドキソルビシン、あるいはGHとドキソルビシンの両方が存在する場合に有意に増強されるためであろう。
【0033】
図6A~6Dは、3つの膵臓がん細胞株を用いた基底膜浸潤アッセイにおけるhGHRアンタゴニスト化合物Gおよびペグビソマントの効果を示している。このアッセイは、上皮細胞から間葉細胞へ移行した細胞の特性である、膜を通過して移動する細胞の能力を定量化する。3つの細胞株すべてにおいて、GHの添加は細胞遊走を増加させた。GHのこの効果は、ペグビソマントまたは化合物Gの添加によって阻害される。
【0034】
薬剤排出に対するhGHRアンタゴニストの効果
DiOC2色素を薬物サロゲートとして用いた、膵臓がん細胞からの薬剤排出速度に対するhGHRアンタゴニストの効果を
図7A~7Cに示す。
図7Aを参照すると、120分後、GHを添加した場合の排出速度は、無添加(PBS)の場合の排出速度の約4倍である。GH+ペグビソマントまたはGH+化合物Gの存在下では、排出速度はGH単独と比較して約2倍と著しく抑制される。
図7Bは、膵臓がん細胞からの薬剤保持率に対するhGHRアンタゴニストの効果を示している。PBS対照では、120分後に薬物の約85%が保持されている。120分後の保持率は、GHの存在下では~54%に減少するが、GH+化合物GまたはGH+ペグビソマントの存在下では~83%に増加する。最後に、
図7C(1)~7C(8)は、膵臓がん細胞に負荷し、PBS(
図7C(1)~
図7C(2))、GH(
図7C(3)~
図7C(4))、GH+ペグビソマント(
図7C(5)~
図7C(6))、またはGH+化合物G(
図7C(7)~
図7C(8))中で0分および120分間インキュベートした後の標識薬剤の蛍光画像を提供する。
図7C(1)~
図7C(8)では、0分における0分後の細胞の蛍光が4つの異なる条件で異なるため、120分後に残存する薬剤(蛍光)を自身の0分の対照と比較した。画像から明らかなように、GH+化合物Gで処理した細胞が最も多くの薬物を保持している。
【0035】
図8は、抗がん剤と緩衝液(PBS)、GH、GH+ペグビソマント、またはGH+化合物Gの存在下でインキュベートした場合の膵臓がん細胞の生存率を示している。抗がん剤はドキソルビシン(doxo)、エルロトニブ(erlotnib)、またはゲムシタビン(gemc)であり、対照は抗がん剤のビヒクルであるDMSOである。すべての場合において、GHの添加は細胞生存率を増加させた。しかし、GHにペグビソマントまたは化合物Gを加えると、すべての場合において、生存率はPBSの生存率よりも低下する。
【0036】
膵腫瘍異種移植片に対するGHRアンタゴニスト+抗がん剤の効果
hGHRアンタゴニスト(10mg/kg/日)、ゲムシタビン(20mg/kg/3日)、およびアンタゴニスト+ゲムシタビンの組み合わせで治療した後、雄ヌードマウスに移植した膵臓腫瘍異種移植片の比容積を
図9Aに示す。治療は17日目に開始した。hGHRアンタゴニスト(ペグビソマントおよび化合物G)はいずれも、30日目(治療開始から13日後)までに、PBS対照と比較して腫瘍体積を有意に減少させた。しかし、これらのアンタゴニストのいずれについても、腫瘍容積は増加の一途をたどった。ゲムシタビン単独投与では、hGHRアンタゴニストに比べて腫瘍体積の減少が大きかったが、腫瘍体積の絶対値は43日目までに増加傾向を再開するようである。ゲムシタビン+ペグビソマントおよびゲムシタビン+化合物Gの併用療法は、腫瘍体積を最も減少させた。43日目(治療の26日目)以降、併用療法で腫瘍容積が増加し始めた徴候はない。化合物G+ゲムシタビンの組み合わせは腫瘍体積を最も減少させた。
【0037】
図9Bは、80mg/kg/3日のゲムシタビンおよび化合物G(10mg/kg/日)+80mg/kg/3日のゲムシタビンによる治療後の、雄性ヌードマウスに移植された膵臓腫瘍異種移植片の体積を示す。
図9Aから引用したPBS、化合物G(10mg/kg/日)単独、ゲムシタビン(20mg/kg/3日)単独、または化合物G(10mg/kg/日)+ゲムシタビン(20mg/kg/3日)のプロットも
図9Bに含まれる。ゲムシタビン単体の80mg/kg/3日投与では、同じ薬剤の20mg/kg/3日の治療で得られた腫瘍容積を有意には減少させず、80mg/kg/3日投与レジメンでは、腫瘍容積は43日目(治療26日目)までにプラトーに達したようである。ゲムシタビン80mg/kg/3日+化合物G 10mg/kg/3日投与は、すべての条件下で最大の腫瘍体積減少を引き起こし、腫瘍体積は試験最終日(投与43日目)においても減少しているようである。
【0038】
図10は、化合物G(10mg/kg/日)単独、またはゲムシタビン(20または80mg/kg/3日)単独、または化合物G(10mg/kg/日)+20mg/kg/3日ゲムシタビン、または化合物G(10mg/kg/日)+80mg/kg/3日ゲムシタビンによる治療後の、雌性ヌードマウスに移植した膵臓腫瘍異種移植片の体積を示す。治療は17日目に開始した。投与25日後(試験開始42日目)、20mg/kg/3日のゲムシタビン単独投与または化合物G(10mg/kg/日)単独投与による腫瘍縮小はほぼ同等であるが、ゲムシタビン投与マウスのみ腫瘍体積が増加傾向にあり、化学療法抵抗性の発現を示している。化合物G(10mg/kg/日)+ゲムシタビン(20mg/kg/3日)の併用は腫瘍体積の増大を劇的に抑制し、試験終了(44日目)まで腫瘍体積は増加傾向にないようである。ゲムシタビン80mg/kg/3日単独投与は、化合物G(10mg/kg/日)+ゲムシタビン20mg/kg/3日投与と同じ腫瘍縮小効果を44日目に示した。化合物G(10mg/kg/日)+80mg/kg/3日ゲムシタビンは腫瘍増殖の最大の阻害を示し、これは44日後(試験終了)でも減少しているようであり、この時点で群において8匹中3匹が無腫瘍であった。
【0039】
個別化医療/精密医療予備診断検査
開示された技術の1つの実施態様には、患者が開示された併用療法による治療の適切な候補者であるかどうかを決定するための腫瘍生検試料の予備的な分子解析が含まれる。この解析は、所定の遺伝子セットの発現レベルを解析する工程を含み、これらの遺伝子の発現レベルの特定の変化は、開示された併用療法によって影響を受ける生物学的活性と相関する。より具体的には、選択された遺伝子の発現レベルの上昇の同定は、GHRアンタゴニストとがん治療薬による治療の適切な候補である患者を同定するために使用される。
【0040】
発現レベルが、開示されたGHRアンタゴニストとがん治療に対する有効な反応性の重要な指標となる遺伝子には、GHR、PRLR、またはGHRとPRLRの両方が含まれる。腫瘍生検における発現レベルは、腫瘍細胞によって発現されるこれらのタンパク質をコードするmRNAのレベルを測定する診断検査を実施することによって測定され、定量される。例えば、腫瘍生検試料を処理してmRNAを単離し、これをcDNAに逆転写する。その後、これら2つの受容体をコードする遺伝子に由来するcDNAの量を、qPCR分析や遺伝子チップ分析を含む様々な標準的アッセイを用いて測定することができる。腫瘍がGHR、PRLR、またはGHRとPRLRの両方を高レベルで発現している患者は、開示された併用療法による治療を受ける潜在的な候補者である。あるいは、腫瘍内に存在するこれらのタンパク質の量を直接測定する技術を用いて、これらの標的タンパク質のレベルを測定することもできる。この方法には、ウェスタンブロットやELISAアッセイなどのアッセイの使用が含まれる。
【0041】
発現レベルが開示されたhGHRアンタゴニスト+がん治療薬の併用療法に対する有効な反応の重要な指標となるその他の遺伝子には、ATP結合カセット(ABC)薬剤排出ポンプの主要なセット;ABCB1、ABCB5、ABCB8、ABCC1、ABCC2、ABCG1およびABCG2が含まれる。上述の標的受容体と同様に、これらのタンパク質の少なくとも一部の発現レベルの上昇は、開示されたhGHRアンタゴニストとがん治療薬の併用療法が有効な患者を特定する。これらの主要遺伝子の発現レベルは、患者の生検から得られた試料について、上述の分析技術を用いて決定される。
【0042】
本明細書で議論される薬剤排出ポンプタンパク質に加えて、上皮間葉転換(EMT)によって駆動されるがんの有害な進行の促進に関与する遺伝子の選択されたセットの発現レベルを測定することができる。患者生検の予備診断分析で分析される主要なEMT調節因子のセットには、CDH1、CDH2、SNAI1、SNAI2、TGFB1、TGFB2、TGFB3、TGFBR2、TWIST1、TWIST2、VIM、ZEB1およびZEB2が含まれる。これらの遺伝子の発現レベルの上昇は、開示されたGHRアンタゴニストとがん治療薬の併用による効果的な治療の候補となる患者をさらに同定する。これらの遺伝子の発現レベルは、上述の分析法によって決定されるであろう。
【0043】
標的受容体GHRおよびPRLRに加えて、インスリン様成長因子1(IGF-1)、インスリン様成長因子結合タンパク質3(IGFBP3)、サイトカインシグナル伝達抑制因子(SOCS)-1、-2、-3、およびサイトカイン誘導性SH2含有タンパク質(CISH)は、腫瘍生検(上記すべて)または血清(IGF1およびIGFBP3)における(RNAまたはタンパク質)発現レベルを用いて、開示されたGHRアンタゴニストによる治療に効果的に反応する患者を同定することができる重要な遺伝子である。標的受容体タンパク質と同様に、これらのGH誘導性下流シグナル伝達因子のレベルは、mRNA遺伝子発現技術または好ましくは血清タンパク質定量技術を用いた遺伝子発現分析によって決定される。IGF-1、IGFBP3、SOCS-1、-2、-3およびCISHは、GHRアンタゴニストとがん化学療法剤による併用療法の終了後、GHRアンタゴニストの継続的な投与によって効果的に治療されるであろう患者を同定するために特に有用である。
【0044】
特許、特許出願、論文、書籍、専門書、ウェブページを含むがこれらに限定されない、本出願で引用されるすべての文献および類似資料は、そのような文献および類似資料の形式を問わず、参照によりその全体が明示的に組み込まれる。これらに限定されないが、定義された用語、用語の用法、記載された技術などを含む、組み込まれた文献および類似資料の1つ以上が、本出願と異なる、または矛盾する場合、本出願が支配する。
【0045】
前述したように、また本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、単数形および複数形の両方を指す。本明細書で使用される用語「含む(comprising)」は、「含む(including)」、「含む(containing)」、または「~によって特徴付けられる(characterized by)」と同義であり、包括的またはオープンエンドであり、追加の、暗黙の要素または方法の工程を除外しない。本明細書に記載されるものと類似または同等の多くの方法および材料を使用することができるが、特定の好適な方法および材料が本明細書に記載される。文脈がそうでないことを示さない限り、端点による数値範囲の記載は、その範囲内に包含される全ての数値を含む。さらに、「1つの実施態様」への言及は、記載された特徴も組み込んだ追加の実施態様の存在を排除すると解釈されることを意図していない。さらに、反対のことが明示的に記載されていない限り、特定の特性を有する要素または複数の要素を「含む(comprising)」または「有する(having)」実施態様は、その特性を有するか否かにかかわらず、追加の要素を含むことができる。
【0046】
本明細書を通して使用される「実質的に」および「約」という用語は、処理の変動などによる小さな変動を説明し、それを考慮するために使用される。例えば、これらの用語は、±5%以下、例えば±2%以下、例えば±1%以下、例えば±0.5%以下、例えば±0.2%以下、例えば±0.1%以下、例えば±0.05%以下、および/または0%を指すことができる。
【0047】
下線および/または斜体の見出しおよび小見出しは、便宜上のみ使用され、開示された主題を限定するものではなく、開示された主題の説明の解釈に関連して参照されるものではない。当業者に公知であるか、または後に公知となる、本開示を通じて説明される様々な実施態様の要素に対する全ての構造的および機能的等価物は、参照により本明細書に明示的に組み込まれ、開示される主題に包含されることが意図される。さらに、本明細書において開示されるものは、そのような開示が上記の説明において明示的に記載されているか否かにかかわらず、一般に専用されることを意図するものではない。
【0048】
開示された発明的主題を実施するための多くの代替方法があり得る。本明細書で説明される様々な機能および要素は、開示される本発明の主題の範囲から逸脱することなく、示されるものとは異なるように分割されてもよい。本明細書で定義される一般的な原理は、他の実施態様にも適用することができる。所与のモジュールまたはユニットの異なる数が採用されてもよく、所与のモジュールまたはユニットの異なるタイプまたは種類が採用されてもよく、所与のモジュールまたはユニットが追加されてもよく、所与のモジュールまたはユニットが省略されてもよい。
【0049】
本開示に関して、「複数の」という用語は、2つまたは2つ以上を指す。他に明確に定義されない限り、「上部」及び「下部」などの用語によって示される向き、または、位置関係は、本発明の説明を容易にし、説明を簡略化するためにのみ、図に示されるような向き、または、位置関係に基づいており、参照される装置または要素が特定の向きでなければならないこと、または特定の向きで構成され、または操作されなければならないことを示すまたは暗示するものではなく、したがって、これらは本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。「接続された」、「取り付けられた」、「固定された」等の用語は、広い意味で理解されるべきである。例えば、「接続された」とは、固定接続、着脱可能な接続、または一体的な接続、直接的な接続、または中間媒体を介した間接的な接続であってもよい。当業者にとって、本発明における上記用語の具体的な意味は、具体的な状況に応じて理解することができる。
【0050】
前述の概念および本明細書でより詳細に議論される追加概念(そのような概念が相互に矛盾しないことを条件とする)のすべての組み合わせは、開示される発明的主題の一部であると企図されることが理解されるべきである。特に、本開示の末尾に現れる特許請求される主題の全ての組み合わせは、本明細書に開示される発明的主題の一部であることが企図される。開示された発明的主題は、例示的な実施態様の説明によって例示され、例示的な実施態様は、ある特定の詳細において説明されたが、添付の特許請求の範囲をそのような詳細に限定する意図またはいかなる方法においても限定する意図はない。追加的な利点および修正は、当業者には容易に現れるであろう。したがって、開示された発明的主題は、その広範な側面において、示され記載された特定の詳細、代表的な装置および方法、ならびに/または例示的な実施例のいずれにも限定されない。したがって、一般的な発明概念の精神または範囲から逸脱することなく、そのような細部から逸脱することができる。
【0051】
以下の参考文献は、本願明細書の一部を構成し、各参考文献は、あらゆる目的のために、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
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【配列表】
【国際調査報告】