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特表2024-532327宿主細胞タンパク質不純物を同定するためのプローブ及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】宿主細胞タンパク質不純物を同定するためのプローブ及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240829BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240829BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20240829BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20240829BHJP
   C12Q 1/44 20060101ALI20240829BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALI20240829BHJP
   C12Q 1/533 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N27/62 V
G01N27/62 X
G01N33/531 B
C12Q1/37
C12Q1/44
C12Q1/26
C12Q1/533
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024512996
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(85)【翻訳文提出日】2024-03-19
(86)【国際出願番号】 US2022041666
(87)【国際公開番号】W WO2023028306
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】63/237,614
(32)【優先日】2021-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】ガオユアン・リウ
(72)【発明者】
【氏名】シャオジン・チェン
(72)【発明者】
【氏名】ニン・リー
【テーマコード(参考)】
2G041
4B063
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041FA12
2G041GA03
2G041GA06
2G041GA09
2G041LA06
4B063QA05
4B063QQ22
4B063QQ32
4B063QQ36
4B063QQ39
4B063QR45
4B063QR48
4B063QR55
4B063QS17
4B063QS36
(57)【要約】
本発明は概して、宿主細胞タンパク質を検出する方法に関する。特に、本発明は、医薬製剤中のリパーゼ活性を有する宿主細胞タンパク質を同定するための新規の活性ベースのタンパク質プロファイリングプローブの使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素を捕捉するためのプローブであって、前記プローブが、
(a)タグと、
(b)前記タグに共有結合されたリンカーと、
(c)前記リンカーに共有結合された反応基と、
(d)脂肪アシル鎖を含む尾部であって、前記反応基に共有結合された、尾部と、を含み、前記反応基が前記酵素と化学的に反応することができ、前記タグが前記酵素の捕捉及び/又は検出を可能にする、プローブ。
【請求項2】
前記タグが、ローダミン、ビオチン、ホスフィン、アルキン、アジド、アセチレン、シクロオクチン、フェニルアジド、又はオメガ末端アジドからなる群から選択される、請求項1に記載のプローブ。
【請求項3】
前記リンカーが、ポリエチレングリコールから誘導される、請求項1に記載のプローブ。
【請求項4】
前記反応基が、フルオロホスホネート、エポキシスクシネート、N-アセチル化アミノ酸、キノリミンメチド結合アミノ酸、又はp-アミノマンデル酸結合アミノ酸からなる群から選択される、請求項1に記載のプローブ。
【請求項5】
前記タグが、ビオチンを含み、前記リンカーが、ポリエチレングリコールから誘導され、前記反応基が、フルオロホスホネートを含む、請求項1に記載のプローブ。
【請求項6】
前記脂肪アシル鎖が、炭素数16の脂肪アシル鎖である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記プローブの構造が、図4Bに示されるプローブ構造である、請求項1に記載のプローブ。
【請求項8】
少なくとも1つの宿主細胞タンパク質を特徴解析するための方法であって、前記方法が、
(a)少なくとも1つの宿主細胞タンパク質を含む試料をプローブに接触させて、捕捉された宿主細胞タンパク質を形成することであって、前記プローブが、タグと、前記タグに共有結合されたリンカーと、前記リンカーに共有結合された反応基と、脂肪アシル鎖を含む尾部であって、前記反応基に共有結合された、尾部と、を含み、前記反応基が、前記宿主細胞タンパク質と化学的に反応することができ、前記タグが、前記宿主細胞タンパク質の捕捉及び/又は検出を可能にする、形成することと、
(b)前記捕捉された宿主細胞タンパク質を固体基質と接触させて、基質結合宿主細胞タンパク質を形成することであって、前記固体基質が、前記プローブの前記タグに結合することができる、形成することと、
(c)前記基質結合宿主細胞タンパク質を単離することと、
(d)(c)の前記単離された基質結合宿主細胞タンパク質を少なくとも1つの消化酵素と接触させて、ペプチド混合物を形成することと、
(e)前記ペプチド混合物を質量分析に供して、前記少なくとも1つの宿主細胞タンパク質を特徴解析することと、を含む、方法。
【請求項9】
前記宿主細胞タンパク質が、システインプロテアーゼ活性部位、セリンプロテアーゼ活性部位、セリンヒドロラーゼ活性部位、カテプシン活性部位、メタロプロテアーゼ活性部位、コリンエステラーゼ活性部位、リパーゼ活性部位、プロテアーゼ活性部位、ヒドロラーゼ活性部位、オキシドレダクターゼ活性部位、又はイソメラーゼ活性部位を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記タグが、ビオチン、ホスフィン、アルキン、アジド、アセチレン、シクロオクチン、フェニルアジド、又はオメガ末端アジドからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記リンカーが、ポリエチレングリコールから誘導される、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記反応基が、フルオロホスホネート、エポキシスクシネート、N-アセチル化アミノ酸、キノリミンメチド結合アミノ酸、又はp-アミノマンデル酸結合アミノ酸からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記タグが、ビオチンを含み、前記リンカーが、ポリエチレングリコールから誘導され、前記反応基が、フルオロホスホネートを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記脂肪アシル鎖が、炭素数16の脂肪アシル鎖である、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記プローブの構造が、図4Bに示されるプローブ構造である、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
前記固体基質が、アガロースビーズ又は磁気ビーズを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項17】
前記固体基質が、アビジン、ストレプトアビジン、アルキン、又はアジドからなる群から選択される試薬を使用して前記タグに結合する、請求項8に記載の方法。
【請求項18】
前記単離が、遠心分離を使用して実行される、請求項8に記載の方法。
【請求項19】
前記消化酵素が、トリプシンである、請求項8に記載の方法。
【請求項20】
前記質量分析計が、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、Q-TOF質量分析計、又はトリプル四重極質量分析計である、請求項8に記載の方法。
【請求項21】
前記質量分析計が、液体クロマトグラフィーシステムに連結されている、請求項8に記載の方法。
【請求項22】
前記質量分析計が、LC-MS(液体クロマトグラフィー-質量分析)、ナノ-LC-MS、LC-MS/MS、ナノ-LC-MS/MS、又はLC-MRM-MS(液体クロマトグラフィー-多重反応モニタリング-質量分析)分析を実行することができる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記液体クロマトグラフィーが、逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、又はそれらの組み合わせを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記試料が、目的のタンパク質を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項25】
前記目的のタンパク質が、モノクローナル抗体又は二重特異性抗体である、請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年8月27日に出願された米国仮特許出願第63/237,614号の優先権及び利益を主張するものであり、当該出願は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は概して、酵素活性を有する宿主細胞タンパク質不純物を同定するためのプローブ及び方法に関する。これらのプローブ及び方法は、バイオ医薬品及び製造プロセス中の試料に適用されて、宿主細胞タンパク質不純物を同定及び監視することができる。
【背景技術】
【0003】
医薬品の中でも、タンパク質ベースの生物学的治療剤は、過去数年間にわたるモノクローナル抗体(mAb)を用いた臨床試験の大幅な増加によって証明されるように、高レベルの選択性、効力、及び有効性を提供する重要なクラスの薬物である。タンパク質ベースの生物学的治療剤をクリニックにもたらすことは、発見、プロセス及び製剤開発、分析的特徴解析、並びに前臨床毒性学及び薬理学を含む、様々な研究及び開発分野全体にわたって協調的な取り組みを必要とする複数年にわたる事業であり得る。
【0004】
臨床的及び商業的に実行可能な生物学的治療のための1つの重要な側面は、製造プロセス並びに保存可能期間の観点からの医薬品の安定性である。これには、多くの場合、より優れた固有の安定性を有する分子の同定、タンパク質工学、及び製剤開発を含む、製品の品質への影響を最小限に留めた製造及び保管に必要な様々な溶液条件及び環境全体にわたって、タンパク質ベースの生物学的治療剤の物理的及び化学的安定性を増加させるのに役立つ適切なステップを必要とする。
【0005】
ポリソルベートなどの界面活性剤は、タンパク質ベースの生物学的治療剤製品の物理的安定性を高めるためにしばしば使用される。市販されているモノクローナル抗体治療剤の70%超は、界面活性剤の一種である0.001%~0.1%のポリソルベートを含有し、タンパク質ベースの生物学的治療剤に物理的安定性を付与する。ポリソルベートは、自己酸化及び加水分解の影響を受けやすく、その結果、遊離脂肪酸と、その後脂肪酸粒子の形成をもたらす。ポリソルベートが凝集及び吸着などの界面応力から保護することができるため、ポリソルベートの分解は、医薬品の品質に悪影響を与える可能性がある。一部のリパーゼの存在は、製剤中のポリソルベートの分解の推定原因となる可能性がある。したがって、医薬品中のリパーゼを検出、監視し、及び低減する必要がある。
【0006】
リパーゼの直接的な分析は、アッセイに十分な大量の生成物の単離を必要とする可能性があり、これは望ましくなく、選ばれた事例でのみ可能であった。したがって、試料中のポリソルベート分解の原因となるリパーゼを特徴解析するために必要なワークフロー及び分析試験を決定することは困難な作業である。ポリソルベート分解の原因となるリパーゼを検出することに加えて、医薬品は、そのようなリパーゼを除去又は低減する精製方法によって得られなければならない。
【0007】
製剤化された医薬品からのリパーゼなどの宿主細胞タンパク質を同定、特徴解析、及び枯渇させるためのプローブ及び方法に対するニーズが存在することが理解されよう。
【発明の概要】
【0008】
宿主細胞タンパク質(HCP)不純物の許容可能なレベルを定義することは、生物学的システムを使用して治療剤製品を製造するための重要な問題となっている。バイオ医薬品の安全性及び有効性を確保するために、制御及び監視しなければならない多数のHCP不純物がある。HCP不純物の重要なクラスはリパーゼであり、治療用タンパク質の安定性を確保するために使用される一般的な賦形剤であるポリソルベートを分解する可能性がある。
【0009】
本開示は、セリンヒドロラーゼ酵素活性を有するHCP不純物を同定、プロファイリング、特徴解析、又は定量化するための方法を提供する。これらの方法は、酵素を感度よくかつ特異的に濃縮するための新規の活性ベースのプローブを提供することを含む、製造プロセスの任意の段階におけるバイオ医薬品及び試料中のHCP不純物を同定及び監視するために使用することができる。一部の例示的な実施形態では、当該プローブは、タグと、当該タグに共有結合されたリンカーと、当該リンカーに共有結合された反応基(warhead)と、脂肪アシル鎖を含む尾部であって、当該反応基に共有結合された、尾部と、を含み、当該反応基は、当該酵素と化学的に反応することができ、当該タグは、当該酵素の捕捉及び/又は検出を可能にする。
【0010】
一態様では、当該タグは、ローダミン、ビオチン、ホスフィン、アルキン、アジド、アセチレン、シクロオクチン、フェニルアジド、又はオメガ末端アジドからなる群から選択され得る。別の態様では、当該リンカーは、ポリエチレングリコールから誘導され得る。更に別の態様では、当該反応基は、フルオロホスホネート、エポキシスクシネート、N-アセチル化アミノ酸、キノリミンメチド(quinolimine methide)結合アミノ酸、又はp-アミノマンデル酸結合アミノ酸からなる群から選択され得る。
【0011】
一態様では、当該タグは、ビオチンを含み、当該リンカーは、ポリエチレングリコールから誘導され得、当該反応基は、フルオロホスホネートを含む。追加の態様では、当該脂肪アシル鎖は、10~20個の炭素、12~18個の炭素、14~16個の炭素、又は約16個の炭素を含む。更なる態様では、当該脂肪アシル鎖は、炭素数16の脂肪アシル鎖である。別の態様では、当該プローブの構造は、図4Bに示されるプローブ構造である。
【0012】
本開示は更に、試料中の少なくとも1つの宿主細胞タンパク質を特徴解析するための方法を提供する。一部の例示的な実施形態では、当該方法は、(a)少なくとも1つの宿主細胞タンパク質を含む試料をプローブに接触させて、捕捉された宿主細胞タンパク質を形成することであって、当該プローブがタグと、当該タグに共有結合されたリンカーと、当該リンカーに共有結合された反応基と、脂肪アシル鎖を含む尾部であって、当該反応基に共有結合された尾部と、を含み、当該反応基が、当該宿主細胞タンパク質と化学的に反応することができ、当該タグが、当該宿主細胞タンパク質の捕捉及び/又は検出を可能にする、形成することと、(b)当該捕捉された宿主細胞タンパク質を固体基質と接触させて、基質結合宿主細胞タンパク質を形成することであって、当該固体基質が、当該プローブのタグに結合することができる、形成することと、(c)当該基質結合宿主細胞タンパク質を単離することと、(d)(c)の当該単離された基質結合宿主細胞タンパク質を少なくとも1つの消化酵素と接触させて、ペプチド混合物を形成することと、(e)当該ペプチド混合物を質量分析に供して、当該少なくとも1つの宿主細胞タンパク質を特徴解析することと、を含む。
【0013】
一態様では、当該宿主細胞タンパク質は、システインプロテアーゼ活性部位、セリンプロテアーゼ活性部位、セリンヒドロラーゼ活性部位、カテプシン活性部位、メタロプロテアーゼ活性部位、コリンエステラーゼ活性部位、リパーゼ活性部位、プロテアーゼ活性部位、ヒドロラーゼ活性部位、オキシドレダクターゼ活性部位、又はイソメラーゼ活性部位を含む。
【0014】
一態様では、当該タグは、ビオチン、ホスフィン、アルキン、アジド、アセチレン、シクロオクチン、フェニルアジド、又はオメガ末端アジドからなる群から選択される。別の態様では、当該リンカーは、ポリエチレングリコールから誘導される。更に別の態様では、当該反応基は、フルオロホスホネート、エポキシスクシネート、N-アセチル化アミノ酸、キノリミンメチド結合アミノ酸、又はp-アミノマンデル酸結合アミノ酸からなる群から選択される。
【0015】
一態様では、当該タグは、ビオチンを含み、当該リンカーは、ポリエチレングリコールから誘導され、当該反応基は、フルオロホスホネートを含む。追加の態様では、当該脂肪アシル鎖は、10~20個の炭素、12~18個の炭素、14~16個の炭素、又は約16個の炭素を含む。更なる態様では、当該脂肪アシル鎖は、炭素数16の脂肪アシル鎖である。別の態様では、当該プローブの構造は、図4Bに示されるプローブ構造である。
【0016】
一態様では、当該固体基質は、アガロースビーズ又は磁気ビーズを含む。別の態様では、当該固体基質は、アビジン、ストレプトアビジン、アルキン、又はアジドからなる群から選択される試薬を使用して当該タグに結合する。
【0017】
一態様では、当該単離は、遠心分離を使用して実行される。別の態様では、当該消化酵素は、トリプシンである。
【0018】
一態様では、当該質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、Q-TOF質量分析計、又はトリプル四重極質量分析計である。
【0019】
一態様では、当該質量分析計は、液体クロマトグラフィーシステムに連結されている。特定の態様では、当該質量分析計は、LC-MS(液体クロマトグラフィー-質量分析)、ナノ-LC-MS、LC-MS/MS、ナノ-LC-MS/MS、又はLC-MRM-MS(液体クロマトグラフィー-多重反応モニタリング-質量分析)分析を実行することができる。別の態様では、当該液体クロマトグラフィーは、逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、又はそれらの組み合わせを含む。
【0020】
一態様では、当該試料は、目的のタンパク質を含む。特定の態様では、当該目的のタンパク質は、モノクローナル抗体又は二重特異性抗体である。
【0021】
本発明のこれら及びその他の態様は、以下の説明及び添付図面と併せて考慮された時に、より良く認識され及び理解されるであろう。以下の説明は、様々な実施形態及びその多数の具体的な詳細を示すが、例示として与えられるものであり、限定するものではない。本発明の範囲内で、多くの置換、修飾、付加、又は再構成を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】例示的な実施形態による、組換えタンパク質産物における経時的なポリソルベート20(PS20)の分解及び肉眼では見えない粒子(SVP)形成を示す。
図2】例示的な実施形態による、HCPによるポリソルベート80(PS80)の加水分解を図示する。
図3A】例示的な実施形態による、例示的な活性ベースのタンパク質プロファイリング(ABPP)プローブ構造を図示する。
図3B】例示的な実施形態による、ABPPプローブを使用した例示的なHCPリパーゼの濃縮方法を図示する。
図4A】例示的な実施形態による、市販のABPPプローブとポリソルベートの構造の比較を示す。
図4B】例示的な実施形態による、新規のABPPプローブとポリソルベートの構造の比較を示す。
図5A】例示的な実施形態による、様々なABPPプローブを使用したExpiCHO-Sヌル細胞溶解物からのタンパク質の濃縮を示す。
図5B】例示的な実施形態による、様々なABPPプローブを使用したExpiCHO-Sヌル細胞溶解物からのタンパク質の濃縮を示す。
図5C】例示的な実施形態による、様々なABPPプローブを使用したExpiCHO-Sヌル細胞溶解物からのタンパク質の濃縮を示す。
図6A】例示的な実施形態による、様々なABPPプローブを使用した、ExpiCHO-Sヌル細胞溶解物から濃縮されたタンパク質のシグナル強度を示す。
図6B】例示的な実施形態による、様々なABPPプローブを使用した、ExpiCHO-Sヌル細胞溶解物から濃縮されたタンパク質のシグナル強度を示す。
図6B-1】図6Bの続き。
図7A】例示的な実施形態による、ビオチン-PEG-アルコールのUVクロマトグラムを示す。
図7B】例示的な実施形態による、新規のプローブのUVクロマトグラムを示す。
図7C】例示的な実施形態による、ビオチン-PEG-アルコールのMS1質量スペクトルを示す。
図7D】例示的な実施形態による、新規のプローブのMS1質量スペクトルを示す。
図7E】例示的な実施形態による、新規のプローブのMS2質量スペクトルを示す。
図7F】例示的な実施形態による、新規のプローブの断片化パターンを示す。
図8A】例示的な実施形態による、新規のプローブの合成を示す。
図8B】例示的な実施形態による、ポリソルベート80(PS80)の構造を示し、図中、x+y+z+w=20である。
図8C】例示的な実施形態による、市販のABPPプローブFP-ビオチンの構造を示す。
図8D】例示的な実施形態による、市販のABPPプローブFP-デスチオビオチンの構造を示す。
図9】例示的な実施形態による、トリプシン消化試料と比較した新規のプローブにより濃縮された試料中のタンパク質種のボルケーノプロットを示す。
図10】例示的な実施形態による、リソソーム酸性リパーゼ(LAL)によるPS80の経時的な加水分解を示す。
図11A】例示的な実施形態による、新規のプローブによって濃縮された上位100個のタンパク質からのタンパク質を示す。
図11A-1】図11Aの続き。
図11B】例示的な実施形態による、新規のプローブによって濃縮された上位100個のタンパク質からのタンパク質を示す。
図11B-1】図11Bの続き。
図11C】例示的な実施形態による、新規のプローブによって濃縮された上位100個のタンパク質からのタンパク質を示す。
図11C-1】図11Cの続き。
図12A】例示的な実施形態による、FP-ビオチンプローブによって濃縮された上位100個のタンパク質からのタンパク質を示す。
図12A-1】図12Aの続き。
図12B】例示的な実施形態による、FP-ビオチンプローブによって濃縮された上位100個のタンパク質からのタンパク質を示す。
図12C】例示的な実施形態による、FP-ビオチンプローブによって濃縮された上位100個のタンパク質からのタンパク質を示す。
図13】例示的な実施形態による、新規のプローブを使用したABPP濃縮方法の日間の精度を示す。
図14】例示的な実施形態による、組換えリパーゼをスパイクした原薬(DS)を使用したFP-ビオチンプローブ及び新規のプローブの検出限界分析を示す。
図15】例示的な実施形態による、新規のプローブによって修飾されたヒト組換えリポタンパク質リパーゼ(LPL)由来のペプチドのMS2スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
宿主細胞タンパク質(HCP)は、全ての細胞由来タンパク質治療剤に見られる不純物のクラスである。FDAはHCPの最大許容レベルを指定していないが、最終医薬品中のHCP濃度は、バッチごとに制御され、再現可能である必要がある(FDA、1999)。主要な安全性の懸念は、HCPがヒト患者に抗原作用を引き起こす可能性に関するものである(Satish Kumar Singh,Impact of Product-Related Factors on Immunogenicity of Biotherapeutics,and 100 JOURNALS OF PHARMACEUTICAL SCIENCES 354-387(2011))。患者の健康への悪影響に加えて、酵素的に活性なHCPは、加工中又は長期保管中に製品品質に影響を与える可能性がある(Sharon X.Gao et al.,Fragmentation of a highly purified monoclonal antibody attributed to residual CHO cell protease activity,108 BIOTECHNOLOGY AND BIOENGINEERING 977-982(2010)、Flavie Robert et al.,Degradation of an Fc-fusion recombinant protein by host cell proteases:Identification of a CHO cathepsin D protease,104 BIOTECHNOLOGY AND BIOENGINEERING 1132-1141(2009))。HCPは、精製操作を通じて最終医薬品にまで存続する可能性がある。
【0024】
長期保管中、製品分子の重要な品質特性を維持し、最終製品製剤中の賦形剤の分解を最小化する必要がある。市販のいくつかのバイオ医薬品タンパク質製剤は、タンパク質安定性を改善し、凝集及び変性から医薬品を保護することができる、最も一般的に使用される非イオン性界面活性剤のうちの1つとしてポリソルベートを含む(Sylvia Kiese et al.,Shaken,Not Stirred:Mechanical Stress Testing of an IgG1 Antibody,97 JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES 4347-4366(2008)、Ariadna Martos et al.,Trends on Analytical Characterization of Polysorbates and Their Degradation Products in Biopharmaceutical Formulations,106 JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES 1722-1735(2017))。ポリソルベートは、親水性ポリ(エチレングリコール)(PEG)ソルビタンにエステル化された疎水性脂肪酸から誘導される。ポリソルベート20(PS20)及びポリソルベート80(PS80)は、バイオ医薬品タンパク質製剤において最も一般的に使用される非イオン性界面活性剤である。タンパク質安定性を確実にするのに十分な医薬品中の典型的なポリソルベート濃度は、約0.001%~約0.1%(w/v)の範囲であり得る。
【0025】
しかしながら、ポリソルベートは、分解しやすく、原薬において、タンパク質の凝集、及び製剤化された肉眼では見えない粒子の形成を引き起こす可能性がある。ポリソルベートは、2つの主要な経路、すなわち自己酸化及び加水分解によって分解することが知られている。ポリソルベートは、脂肪酸エステル結合の切断によって加水分解を受ける可能性がある。ポリソルベートの分解に由来する粒子は、図1及び図2に示す通り、肉眼で見える粒子又は肉眼で見えない粒子を形成する可能性がある。これには、ポリソルベートを含む薬物製剤の製造、輸送、保管、取り扱い又は投与中に形成される脂肪酸粒子が含まれ得る。粒子の形成は、患者における免疫原性の可能性を高め、医薬品品質に様々な影響を与える可能性がある。更に、ポリソルベートの分解は、製剤中の界面活性剤の総量の低減を引き起こし、その製造、保管、取り扱い、及び投与中の製品の安定性に影響を与える可能性がある。
【0026】
典型的には、ポリソルベート分解は、かなり長い保管期間後の医薬品でのみ観察できる。しかしながら、より短い時間スケールでの分解が観察されており、原薬中の未同定のリパーゼの存在が示唆される。薬物製剤の安定性を維持するために、このようなリパーゼの濃度を検出して低減することが重要である。
【0027】
いくつかのリパーゼ、例えばリポタンパク質リパーゼ(LPL)、リソソーム酸性リパーゼ(LAL)、シアル酸O-アセチルエステラーゼ、及び肝臓カルボキシルエステラーゼなどが、ポリソルベート分解の根本原因として特定されている。推定上のホスホリパーゼB様2(PLBD2)は、PS20の酵素的加水分解を引き起こすことが提案された最初の宿主細胞タンパク質であった(Nitin Dixit et al.,Residual Host Cell Protein Promotes Polysorbate 20 Degradation in a Sulfatase Drug Product Leading to Free Fatty Acid Particles,105 JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES 1657-1666(2016))。ブタ肝臓エステラーゼは、ポリソルベート80(PS20ではない)を特異的に加水分解でき、mAb医薬品において経時的にPS85の形成を引き起こすことが報告された(Steven R.Labrenz,Ester Hydrolysis of Polysorbate 80 in mAb Drug Product:Evidence in Support of the Hypothesized Risk After the Observation of Visible Particulate in mAb Formulations,103 JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES 2268-2277(2014))。グループXVリソソームホスホリパーゼA2異性体X1(LPLA2)は、PS20及びPS80を1ppm未満で分解する能力を実証した(Troii Hall et al.,Polysorbates 20 and 80 Degradation by Group XV Lysosomal Phospholipase A 2 Isomer X1 in Monoclonal Antibody Formulations,105 JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES 1633-1642(2016)及びYing Cheng et al.,A Rapid High-Sensitivity Reversed-Phase Ultra High Performance Liquid Chromatography Mass Spectrometry Method for Assessing Polysorbate 20 Degradation in Protein Therapeutics,108 JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES 2880-2886(2019))。したがって、宿主細胞タンパク質中の活性リパーゼのプロファイリング、同定、特徴解析、及び/又は定量化は、生物学的治療剤の開発及び製造に重要である。
【0028】
薬物製剤の安定性を確保するために、ポリソルベートに対する医薬品と同時に精製された宿主細胞タンパク質の影響を評価することが有用であり得る。これには、宿主細胞タンパク質とそのポリソルベートを分解する能力の同定が必要になる可能性がある。HCPの存在は概してppm範囲内であり、HCPの単離及び同定を困難にするため、宿主細胞タンパク質の同定は特に困難になる可能性がある。ポリクローナル抗HCP抗体に基づく多検体(multianalyte)酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)は、その感度、選択性、及びハイスループットのために、全HCP分析に最も一般的に使用される方法である。しかしながら、ELISAは、免疫反応性を有しない又は低いHCPが、抗HCP抗体によって効果的に認識できないため、宿主細胞タンパク質の限定的な範囲を有する。更に、多検体ELISAは、個々のタンパク質レベルではなく、全HCPレベルのみを検出することができ、この機能により、特定のHCP種を同定及び定量化する必要がある場合、多検体ELISAはあまり有用ではない。
【0029】
最近、液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS/MS)は、LC-MS/MSが異なる免疫反応性を有するHCP種間で偏りを示さず、個々の問題のあるHCP種の正体及び量を決定することができるため、HCP分析のための直交法として広く使用されている。しかしながら、精製された生物学的治療剤では、治療用タンパク質とHCPとの間の大きなダイナミックレンジが、HCP種の検出限界を制限する。直接トリプシン消化及びデータ依存的分析モードでのLC-MS/MSの場合、個々のHCP種の最良の検出限界は、治療用タンパク質と比較して約10ppmである。10ppm未満の存在量の一部のリパーゼが重大なポリソルベート分解を引き起こす可能性があるため、この感度は十分ではない可能性がある。したがって、LC-MS/MSベースのHCP分析の感度を高めるために、天然消化、pro-A枯渇、超低トリプシン消化、分子量カットオフフィルタリング、ProteoMiner濃縮、及び2D LC-MS/MSを含む、様々な方法が開発されてきた。これらの方法にも制限がある。例えば、天然消化は、変性及び還元なしでは十分に消化できない免疫グロブリンでのみ使用することができ、このためこの方法は、融合タンパク質、ワクチン、及びアデノ随伴ウイルスなどの天然条件下で消化され得る生物学的治療剤には適さない。
【0030】
特定のHCPの検出は、濃縮技術を使用して改善され得る。最近、活性ベースのタンパク質プロファイリング(ABPP)が、ポリソルベート分解を触媒するHCPを分析するのに使用されている(Li et al.,2021,Anal.Chem.,93,8161、当該文献は、参照により本明細書に組み込まれる)。従来のグローバルなプロテオミクス法とは対照的に、ABPPは、化学的プローブを利用して、それらの酵素活性に基づいて、個別のタンパク質のクラスを分析する(Cravatt et al.,2008,Annu.Rev.Biochem.,77,383、Liu et al.,1999,PNAS,96,14694、これらは参照により本明細書に組み込まれる)。図3Aに示すように、タグ及び反応性部分(反応基)を含むプローブ(ABPPプローブ)は、酵素の活性部位と化学的に反応し、標的酵素の単離及び濃縮を可能にする。次いで、図3Bに示すように、濃縮酵素を同定及び定量化のためにLC-MS分析に供してもよい。
【0031】
ABPPは、従来のプロテオミクス法よりもいくつかの利点を有する。この方法の1つの利点は、酵素が製品品質に与える影響を示さない可能性のある単にタンパク質濃度ではなく、酵素を活性レベルに基づいて同定及び優先順位付けできることである。これは更に、様々な経路におけるタンパク質の役割を評価するために、酵素をそれらの特定の酵素機能に基づいてプローブすることができることを意味する。第二に、ABPPを使用して、高度に複雑な生物学的試料中の非常に少量の酵素を検出して濃縮することができる。第三に、ABPPは、活性酵素を不活性酵素前駆体又は変性タンパク質と区別することができる。
【0032】
様々な活性ベースのプローブを使用して、様々な酵素クラスを特徴解析することができる。活性ベースのプローブは、特定の酵素活性部位に共有結合して、特定の触媒機構に基づいて様々なクラスの酵素をプロファイリングすることができる。例えば、フルオロホスホネート基を含むABPPプローブは、セリンヒドロラーゼクラスの酵素の活性部位に共有結合して、セリンヒドロラーゼHCP不純物を濃縮することができる。
【0033】
活性ベースのプローブはまた、特定の酵素標的に基づいて様々なクラスの酵素をプロファイリングするための酵素基質を構造的に模倣することができる。例えば、ポリソルベート分子を構造的に模倣するABPPプローブは、ポリソルベートを標的とするリパーゼと優先的に会合して、リパーゼHCP不純物を濃縮することができる。逆に、酵素基質を模倣しない活性ベースのプローブは、その基質を標的とする酵素を捕捉するのにあまり効果的ではない可能性がある。
【0034】
活性ベースのタンパク質プロファイリングは、タンパク質の存在量を定量化するのではなく、複雑なプロテオームにおける酵素クラスの触媒活性を特徴解析するために使用されている。活性ベースのタンパク質プロファイリングを使用して、タンパク質の酵素機能を機能的に注釈付けすることができる。プロテアーゼ、ヒドロラーゼ、オキシドレダクターゼ、及びイソメラーゼを含む活性タンパク質を区別して標識するために、異なるプローブが使用されている(Blais et al.,Activity-based proteome profiling of hepatoma cells during Hepatitis C virus replication using protease substrate probes,Journal of Proteome Research,2010 Feb 5;9(2):912-23.doi:10.1021/pr900788a、当該文献は、参照により本明細書に組み込まれる)。活性ベースのタンパク質プロファイリングはまた、宿主-ウイルス相互作用のための宿主細胞セリンヒドロラーゼの機能アノテーションを検出及び分析するなど、活性部位特異的プローブを利用することによって酵素の機能状態をモニタリングするために使用されている(Shahiduzzaman et al.,Activity based protein profiling to detect serine hydrolase alterations in virus infected cells,Frontiers in Microbiology,August 22,2012,volume 3,article 308,p1-5、当該文献は、参照により本明細書に組み込まれる)。更に、活性ベースのプローブは、活性プロテアーゼを特異的に認識することができるため、それらを使用して、特に陽電子放出断層撮影と併せて、インサイチュでタンパク質分解活性を検出及び定量化することができる(Ulrich auf dem Keller et al.,Proteomic techniques and activity-based probes for the system-wide study of proteolysis,Biochimie,92(2010),page1705-1714、当該文献は、参照により本明細書に組み込まれる)。活性ベースのプローブは、目的の酵素の活性部位に共有結合するため、試料から標的HCPを機能的に枯渇させるためにも使用することができる。
【0035】
ABPPプローブは、セリンヒドロラーゼを捕捉するために市販されており、例えば、Pierce(商標)ActivX(商標)セリンヒドロラーゼプローブ(Thermo Fisher Scientific)である。市販のFP-ビオチンプローブ及びFP-デスチオビオチンプローブの構造をそれぞれ図8C及び図8Dに示す。しかしながら、これらのプローブは、水性緩衝液への溶解度が低い。更に、分解対象としてポリソルベートを標的とするリパーゼを捕捉する目的では、これらのプローブは、ポリソルベートとの構造的類似性が乏しく、これは、図4Aに示すように、関連するリパーゼに対する低い選択性をもたらす。
【0036】
ABPPプローブ構造の合理的な設計は、ABPPプロテオミクス法の効率及び特異性を確保するために重要である(Saghetalian et al.,2004,PNAS,101,10000、当該文献は、参照により本明細書に組み込まれる)。例えば、Tullyらは、異なる位置特異性を有するホスホリパーゼを選択的に標的とすることができるリン脂質様ABPPプローブを設計及び合成した(Tully et al.,2010,J.Am.Chem.Soc.,132,3264、当該文献は、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0037】
本開示は、生物学的治療剤におけるポリソルベート分解を触媒するリパーゼを包括的にプロファイリングするための新規のABPPプローブの設計及び合成を記載する。本発明のABPPプローブは、セリンヒドロラーゼリパーゼHCPを濃縮することができる。一実施形態では、本発明の合成ABPPプローブは、市販のプローブと比較して、より良好な溶解性及びポリソルベートとのより良好な構造的類似性を特徴とし、これは、図4Bに示すように、ポリソルベート分解を触媒するリパーゼを捕捉する場合に、より良好な選択性及び感度をもたらす。この改善された機能は、組換えタンパク質産物の製造プロセスの任意のステップでのリパーゼの検出を可能にする。一実施形態では、本発明のプローブはまた、セリン活性部位標識のためのフルオロホスホネート基、及び親和性精製のためのビオチンタグを含む。
【0038】
市販のABPPプローブと比較して、本発明の新規のプローブは、リパーゼに対してより高い濃縮効率を示す。重要なことに、新規のプローブは、LAL及び細胞質ホスホリパーゼA2を含む市販のABPPプローブでは濃縮できない一部のリパーゼを標識することができる。更に、一実施形態では、新規のプローブは、0.08ppmくらい低い存在量のいくつかのリパーゼを効率的に検出することができた。最後に、ペプチドマッピングを使用して本発明の新規のプローブによって標識されたリパーゼの特徴解析は、セリン活性部位がプローブによって標識されたことを示し、本発明の新規のプローブによるリパーゼの共有結合的修飾が酵素の触媒活性部位に特異的であることを示している。
【0039】
本発明のABPPプローブは、例えば、製造プロセスの最適化、品質保証の実施、又は望ましくないポリソルベート分解若しくは産物不安定性の原因の同定を目的として、HCPを同定するために使用することができる。
【0040】
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書で記載したものと類似又は同等な任意の方法及び材料も、実践又は試験に使用できるが、特定の方法及び材料をこれから記載する。
【0041】
「a」という用語は、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきであり、「約」及び「およそ」という用語は、当業者によって理解されるであろうように、標準的な変動を許容するものとして理解されるべきであり、範囲が提供される場合、端点が含まれる。本明細書で使用される場合、「含む(include)」、「含む(includes)」、及び「含む(including)」という用語は、非限定的であるように意図され、それぞれ、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含む(comprising)」を意味すると理解される。
【0042】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」又は「目的のタンパク質」という用語は、共有結合したアミド結合を有する任意のアミノ酸ポリマーを含み得る。タンパク質は、一般に当該技術分野で「ポリペプチド」として知られる1つ以上のアミノ酸ポリマー鎖を含む。「ポリペプチド」は、ペプチド結合を介して連結された、アミノ酸残基、関連する天然由来構造バリアント、及びその合成非天然由来類似体から構成されるポリマーを指す。「合成ペプチド又はポリペプチド」は、非天然由来ペプチド又はポリペプチドを指す。合成ペプチド又はポリペプチドは、例えば、自動ポリペプチド合成装置を使用して合成することができる。様々な固相ペプチド合成法が当業者に公知である。タンパク質は、単一の機能する生体分子を形成するための1つ又は複数のポリペプチドを含むことができる。別の例示的な態様では、タンパク質は、抗体断片、ナノボディ、組換え抗体キメラ、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモンなどを含み得る。目的のタンパク質は、生物学的治療用タンパク質、研究又は療法で使用される組換え型タンパク質、トラップタンパク質及び他のキメラ受容体Fc融合タンパク質、キメラタンパク質、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、並びに二重特異性抗体のいずれかを含めることができる。タンパク質は、組換え細胞ベースの生産系、例えば、昆虫バキュロウイルス系、酵母系(例えば、Pichia sp.)、哺乳類系(例えば、CHO細胞、及びCHO-K1細胞などのCHO派生物)を使用して生産されてもよい。生物学的治療用タンパク質及びその生産について論じている最近の総説については、Ghaderi et al.,“Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence, impact, and challenges of non-human sialylation”(Darius Ghaderi et al.,Production platform for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence, impact,and challenges of non-human sialylation,28 BIOTECHNOLOGY AND GENETIC ENGINEERING REVIEWS 147-176(2012)、それらの教示全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。一部の例示的な実施形態では、タンパク質は、修飾、付加物、及び他の共有結合部分を含む。これらの修飾、付加物、及び部分としては、例えば、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、グリカン(例えば、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、ノイラミン酸、N-アセチルグルコサミン、フコース、マンノース、及び他の単糖類)、PEG、ポリヒスチジン、FLAGタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)、キチン結合タンパク質(CBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)myc-エピトープ、蛍光標識、及び他の色素などが挙げられる。タンパク質は、組成及び溶解度に基づいて分類することができ、したがって、球状タンパク質及び繊維状タンパク質などの単純タンパク質、核タンパク質、糖タンパク質、ムコタンパク質、色素タンパク質、リンタンパク質、金属タンパク質、及びリポタンパク質などの複合タンパク質、並びに一次誘導タンパク質及び二次誘導タンパク質などの誘導タンパク質を含み得る。
【0043】
一部の例示的な実施形態では、目的のタンパク質は、組換えタンパク質、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、融合タンパク質、scFv、及びそれらの組み合わせであり得る。
【0044】
本明細書で使用される場合、「組換えタンパク質」という用語は、好適な宿主細胞に導入された組換え発現ベクター上に担持される遺伝子の転写及び翻訳の結果として産生されるタンパク質を指す。ある特定の例示的な実施形態では、組換えタンパク質は、抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、又は完全ヒト抗体であってもよい。ある特定の例示的な実施形態では、組換えタンパク質は、以下からなる群から選択されるアイソタイプの抗体であってもよい:IgG、IgM、IgA1、IgA2、IgD、又はIgE。ある特定の例示的な実施形態では、抗体分子は、全長抗体(例えば、IgG1)であるか、又はあるいは、抗体は、断片(例えば、Fc断片又はFab断片)であってもよい。
【0045】
本明細書で使用される場合の「抗体」という用語は、4つのポリペプチド鎖、すなわち、ジスルフィド結合によって相互接続された2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む、免疫グロブリン分子、並びにその多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVR又はVHと省略される)、及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、及びCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVR又はVLと省略される)、及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VH領域及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる比較的保存された領域が間に配された、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域へと更に細分することができる。各VH及びVLは、以下の順序でアミノ末端からカルボキシ末端に配置された3つのCDR及び4つのFRから構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4。本発明の異なる実施形態では、抗big-ET-1抗体(又はその抗原結合部分)のFRは、ヒトの生殖系列配列と同一であってもよく、又は天然若しくは人為的に修飾されていてもよい。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義され得る。本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、完全抗体分子の抗原結合断片も含む。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」などの用語は、本明細書で使用される場合、抗原に特異的に結合して複合体を形成するいずれか天然由来の、酵素処理により取得可能な、合成の、又は遺伝子操作されたポリペプチド又は糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、抗体可変ドメイン及び任意選択的に定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を伴う、タンパク質消化又は組換え遺伝子工学技術などの、あらゆる好適な標準的技術を使用する、完全抗体分子に由来してもよい。そのようなDNAは既知であり、かつ/又は例えば、市販の供給源、DNAライブラリ(例えば、ファージ抗体ライブラリを含む)から容易に入手可能であるか、若しくは合成することができる。DNAは、化学的に、あるいは分子生物学的手法を使用することによって、例えば、1つ以上の可変ドメイン及び/若しくは定常ドメインを好適な構成に配置するか、又はコドンを導入する、システイン残基を作り出す、アミノ酸を修飾、付加、若しくは削除することによって、配列決定及び操作することができる。
【0046】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」は、例えば、抗体の抗原結合領域又は可変領域などの無傷な抗体の一部を含む。抗体断片の例としては、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、scFv断片、Fv断片、dsFvダイアボディ、dAb断片、Fd’断片、Fd断片、及び単離相補性決定領域(CDR)領域、並びにトリアボディ、テトラボディ、線形抗体、一本鎖抗体分子、及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。Fv断片は、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の可変領域の組み合わせであり、ScFvタンパク質は、免疫グロブリン軽鎖及び重鎖可変領域がペプチドリンカーによって接続される組換え一本鎖ポリペプチド分子である。一部の例示的な実施形態では、抗体断片は、親抗体と同じ抗原に結合する断片である断片の親抗体の十分なアミノ酸配列を含み、一部の例示的な実施形態では、断片は、親抗体の親和性と同等の親和性で抗原に結合し、及び/又は抗原への結合に関して親抗体と競合する。抗体断片は、任意の手段によって生成することができる。例えば、抗体断片は、無傷な抗体の断片化によって酵素的に又は化学的に生成することができ、及び/又は部分抗体配列をコードする遺伝子から組換え的に生成することができる。あるいは、又は更に、抗体断片は、全体的に又は部分的に合成的に生成することができる。抗体断片は、任意選択的に、一本鎖抗体断片を含み得る。あるいは、又は更に、抗体断片は、例えばジスルフィド結合によって一緒に連結される複数の鎖を含むことができる。抗体断片は、任意選択的に多分子複合体を含み得る。機能性抗体断片は、典型的には、少なくとも約50個のアミノ酸を含み、より典型的には、少なくとも約200個のアミノ酸を含む。
【0047】
「二重特異性抗体」という用語は、2つ以上のエピトープを選択的に結合できる抗体を含む。二重特異性抗体は、一般に、2つの異なる重鎖を備え、各重鎖は2つの異なる分子(例えば抗原)上、又は同じ分子上(例えば同じ抗原上)のいずれかにある異なるエピトープに特異的に結合する。二重特異性抗体が2つの異なるエピトープ(第1のエピトープ及び第2のエピトープ)を選択的に結合することができる場合、第1のエピトープに対する第1の重鎖の親和性は、一般的に、第2のエピトープに対する第1の重鎖の親和性よりも少なくとも1桁~2桁又は3桁又は4桁低く、その逆もまた同様である。二重特異性抗体により認識されるエピトープは、同一の標的の上にも異なる標的の上にも(例えば、同一のタンパク質の上にも異なるタンパク質の上にも)あり得る。二重特異性抗体は、例えば、同一の抗原の異なるエピトープを認識する重鎖を組み合わせることによって作製することができる。例えば、同一の抗原の異なるエピトープを認識する重鎖可変配列をコードする核酸配列は、異なる重鎖定常領域をコードする核酸配列に融合可能であり、こうした配列は、免疫グロブリン軽鎖を発現する細胞内で発現させることができる。
【0048】
典型的な二重特異性抗体は、2つの重鎖であって、各々3つの重鎖CDRを有し、それに続けてCH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン、及びCH3ドメインを有している、2つの重鎖と、免疫グロブリン軽鎖であって、抗原結合特異性を付与しないが、各重鎖と会合可能であるか、又は各重鎖と会合可能でありかつ重鎖抗原結合領域に結合するエピトープのうちの1つ以上を結合させることができるか、又は各重鎖と会合可能でありかつ重鎖の一方若しくは両方を一方若しくは両方のエピトープに結合させることができる、免疫グロブリン軽鎖と、を有する。BsAbは、Fc領域(IgG様)を有するクラスとFc領域を欠くクラスとの2つの主要なクラスに分けることができ、後者は通常、Fcを含むIgG及びIgG様二重特異性分子よりも小さい。IgG様bsAbは、限定されるものではないが、トリオマブ(triomab)、ノブイントゥホール(knobs into holes)IgG(kih IgG)、クロスマブ(crossMab)、オルト(orth)-Fab IgG、二重可変ドメインIg(DVD-Ig)、ツーインワン(two-in-one)又は二重作用Fab(DAF)、IgG単鎖Fv(IgG-scFv)、又はκλボディなどの異なる形態を有し得る。非IgG様の様々なフォーマットには、タンデムscFv、ダイアボディフォーマット、一本鎖ダイアボディ、タンデムダイアボディ(TandAb)、二重親和性再標的化分子(Dual-affinity retargeting molecule)(DART)、DART-Fc、ナノボディ、又はドックアンドロック(DNL)法によって生成される抗体が含まれる(Gaowei Fan,Zujian Wang&Mingju Hao,Bispecific antibodies and their applications,8 JOURNAL OF HEMATOLOGY&ONCOLOGY 130、Dafne Muller&Roland E.Kontermann,Bispecific Antibodies,HANDBOOK OF THERAPEUTIC ANTIBODIES 265-310(2014)、それらの教示全体が本明細書に組み込まれる)。bsAbを生成する方法は、2つの異なるハイブリドーマ細胞株の体細胞融合に基づくクアドローマ技術、化学的架橋剤を含む化学的コンジュゲーション、及び組換えDNA技術を利用する遺伝子アプローチに限定されない。bsAbの例には、以下の特許出願に開示されるものが含まれ、これらは参照により本明細書に組み込まれる。2010年6月25日に出願された米国特許出願第12/823838号、2012年6月5日に出願された米国特許出願第13/488628号、2013年9月19日に出願された米国特許出願第14/031075号、2015年7月24日に出願された米国特許出願第14/808171号、2017年9月22日に出願された米国特許出願第15/713574号、2017年9月22日に出願された米国特許出願第15/713569号、2016年12月21日に出願された米国特許出願第15/386453号、2016年12月21日に出願された米国特許出願第15/386443号、2016年7月29日に出願された米国特許出願第15/22343号、及び2017年11月15日に出願された米国特許出願第15814095号。
【0049】
本明細書で使用される場合、「多重特異性抗体」は、少なくとも2つの異なる抗原に対する結合特異性を有する抗体を指す。このような分子は通常、2つの抗原(すなわち、二重特異性抗体、bsAb)のみに結合するが、三重特異性抗体及びKIH三重特異性などの更なる特異性を有する抗体も、本明細書に開示されるシステム及び方法によって対処することができる。
【0050】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、ハイブリドーマ技術を介して生成される抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、当該技術分野で利用可能又は公知の任意の手段によって、任意の真核細胞、原核細胞、又はファージクローンを含む単一のクローンに由来することができる。本開示に有用なモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、及びファージディスプレイ技術、又はそれらの組み合わせの使用を含む、当該技術分野で既知の多種多様な技術を使用して調製することができる。
【0051】
一部の例示的な実施形態では、目的のタンパク質は、哺乳類細胞から生成され得る。哺乳類細胞は、ヒト起源又は非ヒト起源のものであってもよく、初代上皮細胞(例えば、ケラチノサイト、子宮頸部上皮細胞、気管支上皮細胞、気管上皮細胞、腎上皮細胞及び網膜上皮細胞)、樹立細胞株及びその系統(例えば、293胎児由来腎臓細胞、BHK細胞、HeLa子宮頸部上皮細胞及びPER-C6網膜細胞、MDBK(NBL-1)細胞、911細胞、CRFK細胞、MDCK細胞、CHO細胞、BeWo細胞、チャン(Chang)細胞、デトロイト(Detroit)562細胞、HeLa229細胞、HeLa S3細胞、Hep-2細胞、KB細胞、LSI80細胞、LS174T細胞、NCI-H-548細胞、RPMI2650細胞、SW-13細胞、T24細胞、WI-28 VA13、2RA細胞、WISH細胞、BS-C-I細胞、LLC-MK2細胞、クローン(Clone)M-3細胞、1-10細胞、RAG細胞、TCMK-1細胞、Y-l細胞、LLC-PKi細胞、PK(15)細胞、GHi細胞、GH3細胞、L2細胞、LLC-RC256細胞、MHiCi細胞、XC細胞、MDOK細胞、VSW細胞、及びTH-I、B1細胞、BSC-1細胞、RAf細胞、RK細胞、PK-15細胞又はその派生物)、任意の組織又は器官の線維芽細胞(これらに限定されないが、心臓、肝臓、腎臓、結腸、腸、食道、胃、神経組織(脳、脊髄)、肺、血管組織(動脈、静脈、毛細管)、リンパ組織(リンパ腺、咽頭扁桃、扁桃腺、骨髄、及び血液)、脾臓など、並びに線維芽細胞及び線維芽細胞様細胞株(例えば、CHO細胞、TRG-2細胞、IMR-33細胞、Don細胞、GHK-21細胞、シトルリン血症細胞、デンプシー(Dempsey)細胞、デトロイト551細胞、デトロイト510細胞、デトロイト525細胞、デトロイト529細胞、デトロイト532細胞、デトロイト539細胞、デトロイト548細胞、デトロイト573細胞、HEL299細胞、IMR-90細胞、MRC-5細胞、WI-38細胞、WI-26細胞、Midi細胞、CHO細胞、CV-1細胞、COS-1細胞、COS-3細胞、COS-7細胞、Vero細胞、DBS-FrhL-2細胞、BALB/3T3細胞、F9細胞、SV-T2細胞、M-MSV-BALB/3T3細胞、K-BALB細胞、BLO-11細胞、NOR-10細胞、C3H/IOTI/2細胞、HSDMiC3細胞、KLN205細胞、McCoy細胞、マウスL細胞、株2071(マウスL)細胞、L-M株(マウスL)細胞、L-MTK’(マウスL)細胞、NCTCクローン2472及び2555、SCC-PSA1細胞、Swiss/3T3細胞、インドホエジカ(Indian muntjac)細胞、SIRC細胞、Cn細胞、及びジェンセン(Jensen)細胞、Sp2/0、NS0、NS1細胞又はその派生物)を含み得る。
【0052】
本明細書で使用される場合、「試料」は、細胞培養液(CCF)、採取細胞培養液(HCCF)、下流処理の任意のステップ、クロマトグラフィー溶出物、原薬(DS)、又は最終製剤化生成物を含む医薬品(DP)などの、バイオプロセスの任意のステップから得ることができる。一部の他の特定の例示的な実施形態では、試料は、清澄化、クロマトグラフィー生成、ウイルス不活性化、又は濾過の下流プロセスの任意のステップから選択され得る。一部の特定の例示的な実施形態では、医薬品は、クリニック、出荷、保管、又は取り扱いにおいて、製造された医薬品から選択され得る。
【0053】
一部の例示的な実施形態では、試料は、LC-MS分析の前に調製することができる。調製ステップには、アルキル化、還元、変性、及び/又は消化が含まれ得る。
【0054】
本明細書で使用される場合、「タンパク質アルキル化剤」という用語は、タンパク質中の特定の遊離アミノ酸残基をアルキル化するために使用される薬剤を指す。タンパク質アルキル化剤の非限定的な例は、ヨードアセトアミド(IOA)、クロロアセトアミド(CAA)、アクリルアミド(AA)、N-エチルマレイミド(NEM)、メタンチオスルホン酸メチル(MMTS)、及び4-ビニルピリジン、又はそれらの組み合わせである。
【0055】
本明細書で使用される場合、「タンパク質変性」とは、分子の三次元形状がその天然状態から変化するプロセスを指すことができる。タンパク質変性は、タンパク質変性剤を使用して実施することができる。タンパク質変性剤の非限定的な例としては、熱、高pH又は低pH、DTT(以下を参照)などの還元剤、又はカオトロピック剤への曝露が挙げられる。いくつかのカオトロピック剤をタンパク質変性剤として使用することができる。カオトロピック溶質は、水素結合、ファンデルワールス力、及び疎水性効果などの非共有結合力によって媒介される分子内相互作用を妨げることによって、系のエントロピーを増加させる。カオトロピック剤の非限定的な例としては、ブタノール、エタノール、塩化グアニジニウム、過塩素酸リチウム、酢酸リチウム、塩化マグネシウム、フェノール、プロパノール、ドデシル硫酸ナトリウム、チオ尿素、N-ラウロイルサルコシン、尿素、及びそれらの塩が挙げられる。
【0056】
本明細書で使用される場合、「タンパク質還元剤」という用語は、タンパク質中のジスルフィド架橋の還元に使用される薬剤を指す。タンパク質を還元するために使用されるタンパク質還元剤の非限定的な例は、ジチオスレイトール(DTT)、β-メルカプトエタノール、エルマン試薬、ヒドロキシルアミン塩酸塩、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP-HCl)、又はそれらの組み合わせである。
【0057】
本明細書で使用される場合、「消化」という用語は、タンパク質の1つ以上のペプチド結合の加水分解を指す。適切な加水分解剤を使用して、試料中のタンパク質の消化を実施するためのいくつかのアプローチがあり、例えば、酵素消化又は非酵素消化である。
【0058】
本明細書で使用される場合、「消化酵素」という用語は、タンパク質の消化を実行することができる多数の異なる薬剤のいずれかを指す。酵素消化を実施することができる加水分解剤の非限定的な例としては、Aspergillus Saitoi由来のプロテアーゼ、エラスターゼ、ズブチリシン、プロテアーゼXIII、ペプシン、トリプシン、Tryp-N、キモトリプシン、アスペルギロペプシンI、LysNプロテアーゼ(Lys-N)、LysCエンドプロテイナーゼ(Lys-C)、エンドプロテイナーゼAsp-N(Asp-N)、エンドプロテイナーゼArg-C(Arg-C)、エンドプロテイナーゼGlu-C(Glu-C)若しくは外膜タンパク質T(OmpT)、Streptococcus pyogenes(IdeS)の免疫グロブリン分解酵素、サーモリシン、パパイン、プロナーゼ、V8プロテアーゼ、又はそれらの生物学的に活性な断片若しくは相同体、又はそれらの組み合わせが挙げられる。タンパク質消化に利用可能な技術について論じている最近の総説については、Switazar et al.,“Protein Digestion:An Overview of the Available Techniques and Recent Developments”(Linda Switzar,Martin Giera&Wilfried M.A.Niessen,Protein Digestion:An Overview of the Available Techniques and Recent Developments,12 JOURNAL OF PROTEOME RESEARCH 1067-1077(2013))を参照されたい。
【0059】
一部の例示的な実施形態では、試料は、プローブ、例えば、活性ベースのタンパク質プロファイリング(ABPP)プローブを使用して、HCPに対して濃縮することができる。プローブは、例えば蛍光タグ又は親和性タグなどのタグ、酵素の活性部位と化学的に反応することができる反応基(「反応性部分」又は「官能化小分子」)、及びタグと反応基とを接続するリンカーを含むことができる。
【0060】
タグは、直接分子画像化又は放射標識などの標識酵素の検出及び同定のためのレポータータグであり得る。例えば、タグは、可視化のために、ローダミンなどの発蛍光団であり得る。タグは、ビオチン又はそのバリアントなどの濃縮又は精製のための親和性タグであり得る。タグは、タンパク質のインビボ又はインサイチュ標識のためのアジド又はアセチレンなどの標識タグであり得る。タグは、例えば、ローダミン、ビオチン、デスチオビオチン、ホスフィン、アルキン、アジド、アセチレン、シクロオクチン、フェニルアジド、又はオメガ末端アジドを含み得る。
【0061】
リンカーは、反応基とタグとを接続するためのコネクタとして機能する。リンカーは、様々な可能な長さ及び疎水性を備えた柔軟な鎖を含む、反応基とタグとの間のスペーサーとして機能することができる。一部の例示的な実施形態では、リンカーはポリエチレングリコール(PEG)から誘導できる。
【0062】
反応基は、例えば、フルオロホスホネート、エポキシスクシネート、N-アセチル化アミノ酸、キノリミンメチド結合アミノ酸、又はp-アミノマンデル酸結合アミノ酸を含むことができる。
【0063】
一部の例示的な実施形態では、プローブは、更に、反応基に接続された尾部を含み得る。一部の例示的な実施形態では、尾部は、脂肪アシル尾部であってもよい。一部の例示的な実施形態では、脂肪アシル尾部は、炭素数16の脂肪酸鎖であってもよく、ポリソルベートの構造を模倣するように機能することができる。
【0064】
一部の例示的な実施形態では、プローブは、ビオチンタグ、PEGから誘導されたリンカー、フルオロホスホネート反応基、及び脂肪アシル尾部を含み得る。一部の例示的な実施形態では、プローブは、図4Bに示される構造を有し得る。
【0065】
同じ酵素ファミリーのタンパク質は類似の機能を有するため、これらのタンパク質の活性部位は、一般的に類似の構造を有するため、活性部位特異的プローブは、所与の酵素ファミリーの多くのメンバーの活性部位に対して反応性であり得る。一部の例示的な実施形態では、セリンヒドロラーゼプローブは、セリンヒドロラーゼ活性を有する酵素的HCP不純物を標識し、アッセイし、精製し、又は検出するのに使用される。セリンヒドロラーゼ酵素は、コリンエステラーゼ、ヒドロラーゼ、リパーゼ、及びプロテアーゼを含む大きなクラスの酵素である。一態様では、セリンヒドロラーゼプローブは、セリンヒドロラーゼの活性部位を共有結合的に修飾するフルオロホスホネート基を有する。セリンヒドロラーゼは、プローブによって特異的にかつ感度よく共有結合的に修飾され得る。
【0066】
本明細書で使用される場合、「宿主細胞タンパク質」(HCP)という用語は、宿主細胞に由来するタンパク質を含み、目的の所望のタンパク質とは無関係であり得る。宿主細胞タンパク質は、製造プロセスに由来し得るプロセス関連不純物である可能性があり、細胞基質由来、細胞培養由来、及び下流由来の3つの主要なカテゴリーを含み得る。細胞基質由来不純物には、宿主生物に由来するタンパク質及び核酸(宿主細胞ゲノム、ベクター、又は全DNA)が含まれるが、これらに限定されない。細胞培養由来不純物には、誘導物質、抗生物質、血清、及び他の培地成分が含まれるが、これらに限定されない。下流由来不純物には、酵素、化学及び生化学的処理試薬(例えば、臭化シアノゲン、グアニジン、酸化剤及び還元剤)、無機塩(例えば、重金属、ヒ素、非金属イオン)、溶媒、担体、リガンド(例えば、モノクローナル抗体)、並びに他の浸出物が含まれるが、これらに限定されない。一部の例示的な実施形態では、HCPは、プロテアーゼ、リパーゼ、ペプチダーゼ、エステラーゼ、及び/又はヒドロラーゼであってもよい。一部の例示的な実施形態では、HCPは、システインプロテアーゼ活性部位、セリンプロテアーゼ活性部位、セリンヒドロラーゼ活性部位、カテプシン活性部位、メタロプロテアーゼ活性部位、コリンエステラーゼ活性部位、リパーゼ活性部位、プロテアーゼ活性部位、ヒドロラーゼ活性部位、オキシドレダクターゼ活性部位、又はイソメラーゼ活性部位を含み得る。一部の例示的な実施形態では、HCPは、ポリソルベート又はポリソルベートに類似した構造を有する分子に優先的に結合することができる。
【0067】
一部の例示的な実施形態では、1つ以上のHCPは、試料をABPPプローブとインキュベートして混合物を形成することによって、タンパク質試料から濃縮できる。ABPPプローブは、標的HCP酵素の活性部位と化学的に反応して、捕捉された宿主細胞タンパク質を形成する。捕捉された宿主細胞タンパク質は、例えば、消化、還元、変性、及び/又はアルキル化に供され得る。捕捉されたHCPは、ABPPプローブタグ、例えばアビジン、ストレプトアビジン、アルキン、又はアジドに結合することができる捕捉試薬を含む、固体基質、例えばアガロースビーズ又は磁気ビーズと接触させて、基質結合HCPを形成することができる。次いで、捕捉されたHCP酵素に結合された固体基質を、例えば遠心分離を使用して、単離又は沈殿させて混合物から分離することができる。捕捉されたHCP酵素に結合された固体基質は、単離された後に、例えば、HCP酵素のペプチド断片を生成する消化酵素にそれを接触させることによって、更に処理することができる。ペプチド断片を濾過に供し、LC-MS分析に供して、HCP酵素を特徴解析することができる。
【0068】
本明細書で使用される場合、「液体クロマトグラフィー」という用語は、液体によって運ばれる生物学的/化学的混合物が、固定液相又は固体相を通って流れる(又は流れ込む)際の構成成分の差次的分布の結果として、構成成分に分離され得るプロセスを指す。液体クロマトグラフィーの非限定的な例としては、逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、又は混合モードクロマトグラフィーが挙げられる。一部の態様では、少なくとも1つのHCPを含有する試料は、前述のクロマトグラフィー方法のうちのいずれか1つ又はそれらの組み合わせに供することができる。
【0069】
目的のタンパク質を含む試料のタンパク質負荷は、約50g/L~約1000g/L、約5g/L~約150g/L、約10g/L~約100g/L、約20g/L~約80g/L、約30g/L~約50g/L、又は約40g/L~約50g/Lのカラムへの総タンパク質負荷に調整することができる。ある特定の実施形態では、負荷タンパク質混合物のタンパク質濃度は、約0.5g/L~約50g/L、又は約1g/L~約20g/Lのカラム上に負荷される材料のタンパク質濃度に調整される。
【0070】
本明細書で使用される場合、「質量分析計」という用語は、特定の分子種を同定し、それらの正確な質量を測定することができる装置を指す。この用語は、ポリペプチド又はペプチドがその中で特徴解析され得る任意の分子検出器を含むことを意味する。質量分析計は、3つの主要な部分:イオン源、質量分析器、及び検出器を含み得る。イオン源の役割は、気相イオンを生成することである。分析物原子、分子、又はクラスターを、気相中に移送し、同時に(エレクトロスプレーイオン化の場合のように)又は別のプロセスを介してイオン化することができる。イオン源の選択は、その用途に依存する。一部の例示的な実施形態では、質量分析計は、タンデム質量分析計であり得る。本明細書で使用される場合、「タンデム質量分析」という用語は、複数段階の質量選択及び質量分離を使用することによって、試料分子の構造情報を取得する技術が含まれる。前提条件は、最初の質量選択ステップ後、断片が予測可能かつ制御可能な様式で形成されるように、試料分子を気相に変換し、イオン化することである。MS/MS、又はMSは、最初に前駆体イオン(MS)を選択及び単離し、それを更に断片化することによって実行することができる。タンデムMSは、多種多様な分析器の組み合わせで成功裏に実行されている。特定の用途に対してどの分析器を組み合わせるかは、感度、選択性、及び速度だけでなく、サイズ、コスト、及び可用性など、多くの様々な要因によって決定することができる。タンデムMS方法の2つの主要なカテゴリーは、空間的タンデム(tandem-in-space)及び時間的タンデム(tandem-in-time)であるが、時間的タンデム分析器が空間内で又は空間的タンデム分析器と連結されるハイブリッドもある。空間的タンデム質量分析計は、イオン源、前駆体イオン活性化装置、及び少なくとも2つの非トラップ型質量分析器を備える。特定のm/z分離機能は、機器の1つのセクションでイオンが選択され、中間領域で解離され、その後、プロダクトイオンがm/z分離及びデータ取得のために別の分析器に伝送されるように設計することができる。時間的タンデム質量分析計では、イオン源で生成された質量分析計イオンを、同じ物理的装置で捕捉し、単離し、断片化し、及びm/z分離され得る。質量分析計によって同定されるペプチドは、無傷のタンパク質及びそれらの翻訳後修飾の代替的な代表として使用することができる。これらは、実験的のMS/MSデータ及び理論上のMS/MSデータを関連付けることによってタンパク質の特徴解析に使用することができ、後者は、タンパク質配列データベース中の可能性のあるペプチドから生成される。特徴解析には、タンパク質断片のアミノ酸の配列決定、タンパク質配列決定、タンパク質デノボ配列決定、翻訳後修飾位置の特定、又は翻訳後修飾の同定、又は相互比較性解析、又はそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0071】
一部の例示的な態様では、質量分析計は、ナノエレクトロスプレー又はナノスプレーで動作することができる。
【0072】
本明細書で使用される場合の「ナノエレクトロスプレー」又は「ナノスプレー」という用語は、多くの場合外部溶媒送達を使用しない、非常に低い溶媒流量、典型的には、毎分数百ナノリットル以下の試料溶液におけるエレクトロスプレーイオン化を指す。ナノエレクトロスプレーを形成するエレクトロスプレー注入セットアップは、スタティックナノエレクトロスプレーエミッタ又はダイナミックナノエレクトロスプレーエミッタを使用することができる。スタティックナノエレクトロスプレーエミッタは、長期間にわたって少量の試料(分析物)溶液体積の連続的分析を実行する。ダイナミックナノエレクトロスプレーエミッタは、キャピラリーカラム及び溶媒送達システムを使用して、質量分析計による分析の前に混合物でのクロマトグラフィー分離を実行する。
【0073】
一部の例示的な実施形態では、質量分析計はクロマトグラフィーシステムに連結されている。
【0074】
本明細書で使用される場合、「データベース」という用語は、例えばFASTA形式のファイルの形態で、試料中に存在し得るタンパク質配列の編集された収集物を指す。関連するタンパク質配列は、研究対象の種のcDNA配列に由来し得る。関連するタンパク質配列を検索するために使用できる公開データベースには、例えば、Uniprot又はSwiss-protによって主催されるデータベースが含まれていた。データベースは、本明細書では「バイオインフォマティクスツール」と呼ばれるものを使用して検索することができる。バイオインフォマティクスツールは、データベース内の全ての可能性のある配列に対して、解釈されていないMS/MSスペクトルを検索し、解釈された(注釈付けされた)MS/MSスペクトルを出力として提供する能力を提供する。このようなツールの非限定的な例は、Mascot(www.matrixscience.com)、Spectrum Mill(www.chem.agilent.com)、PLGS(www.waters.com)、PEAKS(www.bioinformaticssolutions.com)、Proteinpilot(download.appliedbiosystems.com//proteinpilot)、Phenyx(www.phenyx-ms.com)、Sorcerer(www.sagenresearch.com)、OMSSA(www.pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/omssa/)、X!Tandem(www.thegpm.org/TANDEM/)、Protein Prospector(prospector.ucsf.edu/prospector/mshome.htm)、Byonic(www.proteinmetrics.com/products/byonic)、Proteome Discoverer(https://www.thermofisher.com/order/catalog/product/OPTON-30945#/OPTON-30945)、又はSequest(fields.scripps.edu/sequest)である。
【0075】
一実施形態では、本開示は、活性ベースのタンパク質プロファイリングのための新規のプローブを提供する。本発明の新規のプローブは、反応基と、リンカーと、タグと、脂肪アシル鎖とを含み、それは酵素を捕捉するための機構及びポリソルベートの構造に類似した構造を提供する。新規のプローブを使用して、試料をリパーゼ、セリンヒドロラーゼ酵素、又はポリソルベートに結合する任意の分子について濃縮することができる。好適な試料は、セリンヒドロラーゼ活性部位又はポリソルベート結合部位を含む少なくとも1つの分子を含む任意の試料であり得る。新規のプローブによって捕捉される分子は、例えば、宿主細胞タンパク質、組換えセリンヒドロラーゼ酵素、組換えポリソルベート結合タンパク質、又はポリソルベート結合小分子であり得る。
【0076】
濃縮された試料は、捕捉された分子の同定、定量化、及び/又は特徴解析のための分析に供され得る。当該分析は、例えば、液体クロマトグラフィー、質量分析、電気泳動(例えば、ゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動)、イムノアッセイ(例えば、ELISA)、又は当技術分野で公知のタンパク質若しくは生物分子の分析のための任意の技術によって行われ得る。当該分析の結果は、例えば、試料を特徴解析し、製造プロセスを最適化し、品質保証を行い、汚染物質を同定し、生成物の不安定性の原因を同定し、ポリソルベート分解の原因を同定し、かつ/又は酵素活性源を同定するために使用することができる。
【0077】
あるいは、又は更に、一実施形態では、本発明の新規のプローブを使用して試料から捕捉された分子を枯渇させることができ、例えば、プローブのタグに結合することができる固体基質を使用して試料からプローブ捕捉分子複合体を除去することにより、精製された試料を得ることができる。この場合、捕捉された分子は、更なる分析に供することができる。
【0078】
一実施形態では、本開示は、試料中の分子を特徴解析するための方法を提供する。一部の実施形態では、方法は、(a)分子を含む試料をプローブに接触させて、捕捉された分子を形成することであって、当該分子が、リパーゼ、セリンヒドロラーゼ酵素、宿主細胞タンパク質、組換えタンパク質、又はポリソルベート結合分子であり、当該プローブがタグと、当該タグに共有結合されたリンカーと、当該リンカーに共有結合された反応基と、脂肪アシル鎖を含む尾部であって、当該反応基に共有結合された尾部と、を含み、当該反応基が、当該分子と化学的に反応することができ、当該タグが、当該分子の捕捉及び/又は検出を可能にする、形成することと、(b)当該捕捉された分子を固体基質と接触させて、基質結合分子を形成することであって、当該固体基質が、当該プローブのタグに結合することができる、形成することと、(c)当該基質結合分子を単離することと、(d)当該基質結合分子を分析に供して、当該分子を特徴解析することと、を含む。
【0079】
一実施形態では、本開示は、試料から分子を枯渇させるための方法を提供する。一部の実施形態では、方法は、(a)分子を含む試料をプローブに接触させて、捕捉された分子を形成することであって、当該分子が、リパーゼ、セリンヒドロラーゼ酵素、宿主細胞タンパク質、組換えタンパク質、又はポリソルベート結合分子であり、当該プローブがタグと、当該タグに共有結合されたリンカーと、当該リンカーに共有結合された反応基と、脂肪アシル鎖を含む尾部であって、当該反応基に共有結合された尾部と、を含み、当該反応基が、当該分子と化学的に反応することができ、当該タグが、当該分子の捕捉及び/又は検出を可能にする、形成することと、(b)当該捕捉された分子を固体基質と接触させて、基質結合分子を形成することであって、当該固体基質が、当該プローブのタグに結合することができる、形成することと、(c)当該基質結合分子を単離して、当該試料から当該分子を枯渇させることと、を含む。
【0080】
本発明は、前述のタンパク質、抗体、タンパク質アルキル化剤、タンパク質変性剤、タンパク質還元剤、消化酵素、加水分解剤、試料、プローブ、タグ、リンカー、反応基、HCP、クロマトグラフィーシステム、質量分析計、データベース、又はバイオインフォマティクスツールのいずれにも限定されず、タンパク質、抗体、タンパク質アルキル化剤、タンパク質変性剤、タンパク質還元剤、消化酵素、加水分解剤、試料、プローブ、タグ、リンカー、反応基、HCP、クロマトグラフィーシステム、質量分析計、データベース、又はバイオインフォマティクスツールは、任意の好適な手段によって選択することができる。
【0081】
本発明は、以下の実施例を参照することによってより完全に理解されるであろう。しかしながら、それらは、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0082】
材料.アミノ-Peg-アルコールは、BroadPharm(San Diego,CA)から購入した。LC-MSグレードの水、アセトニトリル、及びギ酸は、Fisher Scientificから購入した。FP-ビオチンは、MuseChem(Fairfield,NJ)から購入した。FP-デスチオビオチン、高容量ストレプトアビジンアガロース、ExpiCHO-S細胞、及びExpiCHO培地は、Thermo Fisher Scientific(Waltham,MA)から購入した。シークエンスグレードの修飾トリプシンは、Promega(Madison,WI)から購入した。Nanosep遠心分離装置は、Pall Corporation(Port Washington,NY)から購入した。Waters XBridge Premier BEH C18カラム及びWaters Acquity UPLC BEH C18カラムは、Waters(Milford,MA)から購入した。Nano C18一体型カラム(1.7μm、75μm×25μm)は、CoAnn Technology(Richland,WA)から購入した。組換えヒトPLA2G7及び組換えヒトLPLは、R&D Systems(Minneapolis,MN)から購入した。スパイク実験に使用した組換えCHO LAL及び原薬(DS)は、社内で生成した。他の全ての試薬は、Sigma-Aldrich(St.Louis,MO)から入手した。
【0083】
新規のABPPプローブの合成及び精製。本発明の新規のABPPプローブを合成するために、37mgの0.15mmolビオチン、28mgの0.1mmolのアミノ-PEG-アルコール、38mgの0.2mmolのN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC HCl)、及び0.7mgの0.005mmolの1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(HOBt)を、5mLのアセトニトリル及び5mLの水と混合した。混合物を室温で一晩撹拌した。一晩インキュベーションした後、得られたビオチン-PEG-アルコールを、水/アセトニトリルで溶離するC18カラムクロマトグラフィーによって精製した。溶離液を真空で乾燥させ、白色のゲルとしてビオチン-PEG-アルコール(42mg、収率84%)を得た。ビオチン-PEG-アルコールの正体を、質量分析によって確認した。図7Cに示すように、プロトン付加物の測定されたm/zは、508.572であり、計算されたm/zは508.270である。図7Aに示すように、ビオチン-PEG-アルコールの純度は、LC-UVによって95%超であることが確認された。
【0084】
45mgの0.1mmolのヘキサデシルホスホン酸(306g/mol)を2mLのジクロロメタンに添加した。混合物を氷上で冷却した。26μLの0.2mmol(ジエチルアミノ)硫黄三フッ化物(DAST)(161g/mol、1.22g/mL)を添加した。混合物を氷上で10分間、次いで室温で15分間撹拌した。反応物を1mLの氷冷0.5M HClでクエンチした。有機層をガラスピペットによって収集し、1mLの水で洗浄した。MgSOを添加して、水を吸収した。MgSOを濾過し、得られた溶媒を窒素流により乾燥させた。ヘキサデシルジフルオロホスホネートをワックス状の黄色がかった固体として得た。生成物を500μLのジクロロメタンに溶解した。
【0085】
50mgの0.1mmolビオチン-PEG-アルコール(507g/mol)、及び18μLの0.1mmolのジイソプロピルエチルアミンを1mLのジクロロメタンに溶解した。300mgの4Å分子篩を添加し、室温で1時間撹拌した。前のステップから得られたヘキサデシルジフルオロホスホネート溶媒の全てを添加し、混合物を45℃で一晩インキュベートした。一晩インキュベーションした後、20μLのギ酸を添加した。分子篩を綿栓によって濾別し、濾液を窒素流によって乾燥させた。粗生成物を、1%ギ酸を含有するアセトニトリル中に溶解し、0.1%ギ酸を含む水/アセトニトリルで溶離するC18高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって精製した。溶離液を真空で乾燥させた後、ABPPプローブを白色固体(31mg、2ステップでの収率39%)として得た。プローブの正体を、質量分析によって確認した。図7Dに示すように、プロトン付加物の測定されたm/zは、798.4846であり、計算されたm/zは798.4863である。図7Bに示すように、プローブの純度は、LC-UVによって98%超であることが確認された。
【0086】
Waters XBridge Premier BEH C18カラム(130Å、2.5μm、4.6mm×150mm)を、本発明の新規のプローブのHPLC精製に使用した。溶媒Aは、0.1%ギ酸を含む水であり、溶媒Bは、0.1%ギ酸を含むアセトニトリルであった。溶媒Bのパーセンテージを増加させる直線勾配を使用した。生成物を約95%溶媒Bで溶離させた。生成物を含む画分を収集し、スピードバキュームで乾燥させ、DMSO中に溶解させ、-80℃で保管した。
【0087】
セリンヒドロラーゼの標識及び精製。ExpiCHO-S細胞を、製造業者のガイドラインに従ってExpiCHO発現培地で培養した。細胞を、300gで5分間遠心分離することによって収集した。細胞ペレットをリン酸緩衝生理食塩水中に再懸濁し、Dounce組織粉砕機(乳棒クリアランス0.001~0.003インチ、15ストローク)によって均質化した。得られた混合物を、冷却遠心分離器中で18000gで30分間遠心分離した。上清を収集し、タンパク質濃度をブラッドフォードタンパク質アッセイによって測定した。得られたExpiCHO-Sヌル細胞溶解物を、その後のABPP分析に使用した。
【0088】
ExpiCHO-Sヌル細胞溶解物を、ABPP結合緩衝液(0.1Mリン酸ナトリウム、0.15M NaCl、pH7.3)で10mg/mL又は2.5mg/mLの最終濃度まで希釈した。0.4mLの試料を2mLチューブに移し、合成プローブのDMSO溶液を1μM又は2μMの最終濃度まで添加した。試料を室温で1時間インキュベートした。インキュベーション後、1.6mLの冷メタノール/アセトン1:1を添加した。試料を-20℃で30分間インキュベートし、4℃で、14000gで、10分間遠心分離した。溶媒を除去し、タンパク質ペレットを空気中で2分間乾燥させた。1mLの再懸濁緩衝液(1%SDS、1M尿素、50mMトリスpH8.0)を添加した。次いで、試料を、サーモミキサー上で37℃及び1000rpmでインキュベートした。
【0089】
1時間のインキュベーション後、タンパク質ペレットは完全に溶解した。50μLのストレプトアビジンアガロースを添加し、試料を回転器上で室温で1時間インキュベートした。次いで、アガロースを0.1%SDS、1M尿素、50mMトリスpH8.0で2回洗浄し、1M尿素、50mMトリスpH8.0で4回洗浄し、50mMトリスpH8.0で1回洗浄した。洗浄と洗浄の間に1000gで2分間遠心分離することによって、アガロースを沈殿させた。最終洗浄後、アガロースを200μLの50mM Tris pH8.0中に再懸濁し、0.5μgのシークエンスグレードの修飾トリプシンを添加し、試料を37℃で一晩消化した。一晩消化した後、消化した試料を5mMのトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)で90℃で5分間還元し、次いでNanosep 10Kフィルターにより14000gで10分間濾過した。濾液をSpeedVacによって乾燥させ、50μLの、水中0.5%ギ酸に溶解した。ペプチド濃度をNanodropによって推定し、データ依存的LC-MS/MSを使用して、ナノLC-MS分析のために1μgのペプチドを注入した。
【0090】
ABPPプローブ検出限界の分析。原薬(DS)をバックグラウンドタンパク質として使用した。このDSは、宿主細胞タンパク質について様々な感度の方法によって以前に分析されており、リパーゼは検出されなかった。使用されるHCP分析方法には、pro-A枯渇及び超低トリプシン消化が含まれる。DSをABPP結合緩衝液で10mg/mLに希釈した。組換えヒトPLA2G7、組換えヒトLPL、及び組換えCHO LALを、指示された濃度で希釈したDSにスパイクした。プローブ結合及び以下のステップを、上述のように実行した。
【0091】
新規のプローブによる組換えヒトLPL標識。まず、10μgの組換えヒトLPLを、ABPP結合緩衝液によって200μg/mLに希釈した。本発明のプローブを1μMの濃度に添加した。試料を、サーモミキサー中、25℃、650rpmで1時間インキュベートした。インキュベーション後、8Mの尿素及び5mMのTCEPを添加した。試料を50℃で30分間変性及び還元した。変性及び還元後、試料を10体積量の50mM Tris緩衝液、pH8.0で希釈した。次に、0.5μgのトリプシンを添加し、試料を37℃で一晩消化した。一晩インキュベーションした後、0.2%ギ酸を添加することによって消化をクエンチし、試料はナノLC-MS/MS分析の準備が整った。
【0092】
LC-MS/MS分析。本発明の新規のプローブのLC-MS/MS分析を、Q Exactive Plus質量分析計に連結されたWater Acquity UPLCシステムで実行した。本発明の新規のプローブを、0.1%ギ酸を含有するアセトニトリル中に10μg/mLの濃度で溶解した。1μLの試料をWaters Acquity UPLC BEH C18カラム(130Å、1.7μm、2.1mm×100mm)に注入し、流量0.25mL/分の直線勾配で分離した:0分、5%B;30分、95%B;35分、95%B;35.1分、5%B;及び40分、5%B。MS1スキャンは、70,000の分解能で実行された。エレクトロスプレーイオン化源のスプレー電圧は3.8kVであった。シースガス流量は40(任意単位)であった。キャピラリー温度は350℃であった。タンデム質量分析については、HCD衝突エネルギーは20%であり、MS2スキャンは17,500の分解能で実行された。
【0093】
ABPP濃縮試料のナノLC-MS/MS分析は、Orbitrap Fusion Lumos Tribrid質量分析計に連結されたUltiMate 3000 RSLCnano LCシステムで実行された。CoAnn Technology製のC18積分カラム(1.7μm、75μm×25cm)を使用して、ペプチド消化物を分離した。移動相Aは、0.1%ギ酸を含む水であり、移動相Bは、80%アセトニトリル、20%水であり、0.08%ギ酸を含む。0.25μL/分の流量の直線勾配を使用した:0分、4%B;10分、4%B;80分、38%B;81分、95%B;100分、95%B;101分、4%B;及び125分、4%B。ナノESIスプレー電圧を2.1kVに設定した。質量スキャンをデータ依存的取得(DDA)モードで実行し、サーベイスキャンをOrbitrapで、サイクル時間2秒で実行した。MS1スキャンを、標準AGC標的で120,000のOrbitrap分解能、350~2000のスキャン範囲、及び25ミリ秒の最大注入時間に設定した。データ依存的MS2スキャンは、30%の衝突エネルギー、30,000のOrbitrap分解能、標準AGC標的、及び50ミリ秒の最大注入時間を有するHCD断片化を使用して実行された。ダイナミックエクスクルージョンの持続時間を30秒に設定し、電荷状態2~7を有するペプチドのみを分析した。
【0094】
標識されたヒト組換えLPLのナノLC-MS/MS分析を、ABPP試料の設定と同様の設定を使用して実行した。より強い溶媒B(0.1%ギ酸を含む75:20:5アセトニトリル:イソプロパノール:水)を使用して、プローブ標識ペプチドを溶離した。
【0095】
プロテオミクスデータ処理。HCP分析データは、Proteome Discoverer 2.2を使用してSEQUESTアルゴリズムで処理された。検索は、Uniprotのcricetulus griseus(チャイニーズハムスター)プロテオームデータベース(UP000694386)に対して実行された。トリプシンを消化酵素として選択し、最大の切断部位の見逃し(maximum missed cleavage site)を1に設定した。ペプチドの長さの最小値は4、最大値150であった。前駆体質量許容差(mass tolerance)を20ppmに設定し、断片質量許容差を0.02Daに設定した。メチオニン酸化(+15.995Da)を動的修飾として設定した。データフィルター基準は、ペプチド同定の場合は1%のFDR、タンパク質同定の場合は5%のFDRとして設定され、タンパク質ごとに最低2つの固有のペプチドが検出された。
【0096】
実施例1.新規のABPPプローブの設計
ABPPは、生物学的治療剤中のポリソルベートの分解を潜在的に触媒し得るリパーゼを検出するための効果的なツールであることが証明されている。ABPPプローブ中の反応性結合基は、酵素の求核活性部位を共有結合的に標識することができ、一方でプローブ構造は、ABPP方法の標識効率及び選択性を確実にするために重要である。一例示的な実施形態では、図8Bに示すように、ポリソルベート80の構造に基づいて、疎水性炭素数16の脂肪アシル尾部、フルオロホスホネート反応性結合基、親水性PEGリンカー、及びビオチン親和性タグから構成される新規のABPPプローブを設計及び合成した。
【0097】
本発明の新規のプローブを合成するために、最初にビオチンを、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)及びヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)によって触媒される二官能性PEGリンカーにコンジュゲートし(図8A、反応a)、ビオチン-PEG-アルコール(図8A、化合物1)を得た。次に、市販のヘキサデシルホスホン酸のホスホネート基を、ジエチルアミノ硫黄三フッ化物(DAST)によってフッ素化し(図8A、反応b)、ヘキサデシルフルオロホスホネート(図8A、化合物2)を得た。ビオチン-PEG-アルコールをヘキサデシルフルオロホスホネートに付着させるために、2つの成分をジイソプロイルエチルアミン及び4Å分子篩の存在下で一緒にインキュベートし(図8A、反応c)、最終生成物(図8A、化合物3)を得た。逆相HPLCによる精製及び真空による溶媒蒸発の後、最終生成物を白色粉末として得た。
【0098】
質量分析を実行して、最終製品の正体を実証した。図7Dに示されるように、本発明の新規のプローブのMS1スペクトルは、新規のプローブのプロトン付加物に対応する、798.4846のm/zを有する優勢ピークを示す(計算m/z=798.4863、Δ=2ppm)。815.5104及び820.4658のm/zを有する他の2つのピークは、それぞれ新規のプローブのアンモニウム付加物及びナトリウム付加物である。親イオン798.4846のMS2スペクトル(図7E)では、270.1274、314.1537及び490.2592を含む、質量差44を有する一連の娘イオンが観察された。これらの娘イオンは、PEGリンカーの連続断片化のために形成される。断片化パターンは図7Fにまとめられ、観察された断片が新規のプローブの構造と一致することを示す。
【0099】
一部の例示的な実施形態では、本明細書に開示される新規のABPPプローブは、親和性精製のためのビオチンタグ、HCP酵素のセリンヒドロラーゼ活性部位を捕捉するためのフルオロホスホネート反応性基、及びポリソルベートを構造的に模倣するPEG由来リンカー及び脂肪アシル尾部を含む。市販のセリンヒドロラーゼプローブと比較して、新規のABPPプローブの構造は、図4の一例示的な実施形態に示されるように、ポリソルベートとの優れた類似性のため、ポリソルベートを加水分解するHCPリパーゼを捕捉することにおいて、より高い感度及び選択性を可能にする。
【0100】
実施例2.新規のABPPプローブの有効性
ポリソルベートを加水分解する可能性がある活性酵素に対する特異性及び親和性を高めるために、上述のように、新規のプローブを、親水性PEGリンカー及び疎水性脂肪アシル尾部を含有するポリソルベートの構造を模倣するように設計した。本発明の新規のABPPプローブの有効性を、野生型(「ヌル」)CHO細胞溶解物を使用して検証した。いかなる追加の処理も行われていないCHO細胞溶解物は、数千のHCPを有する複雑な試料から構成され、比較的低い存在量で目的のセリンヒドロラーゼリパーゼを有し、リパーゼ検出に著しい課題を呈する。
【0101】
市販のABPPプローブの濃縮効率と比較して新規のプローブの濃縮効率を決定するために、ExpiCHO-S細胞のヌル細胞溶解物を様々なABPPプローブで処理し、ストレプトアビジンアガロースによって精製し、消化し、データ依存的取得モードでナノLC-MS/MSによって分析した。得られた質量分析データを、非標識定量法ワークフローを使用して、SEQUESTアルゴリズムが組み込まれたProteome Discovererによって処理した。Proteome Discovererは、2つの固有のペプチドのフィルター基準を使用する。全ての試料を3つの複製で試験した。Proteome Discovererから得られた複製のタンパク質存在量を平均化し、ABPP濃縮試料対対照トリプシン消化試料の比を計算した。まず、プローブ濃縮群をDMSO対照群と比較して、アガロース非特異的結合及び天然ビオチン化に起因して濃縮されたタンパク質を除外した。次に、任意のプローブ(FP-デスチオビオチン、FP-ビオチン、新規のプローブ)によって5倍を超えて濃縮されたタンパク質を選択した。最後に、リパーゼ及びセリンヒドロラーゼ(ペプチダーゼ、エステラーゼ、プロテアーゼなど)を選択し、図5A図5B、及び図5Cに報告する。各個々の複製におけるタンパク質の存在量を、図6A及び図6Bに報告し、*は、p<0.05を示し、**は、p<0.01を示す。図5に示されるように、ポリソルベート分解の根本原因として以前に報告されているLPL及びLALを含む対照トリプシン消化試料と比較して、新規のプローブによってヌル細胞溶解物から52種類のリパーゼ及びセリンヒドロラーゼが、大幅に濃縮された(>5倍)。報告されているこれらのリパーゼに加えて、多くの他の酵素も新規のプローブによって濃縮される。例えば、細胞質ホスホリパーゼA2a(アクセッションG3GWV5)は、対照トリプシン消化試料と比較して950倍濃縮され、一方、グループXVホスホリパーゼA2は302倍濃縮され、これらの酵素がHCPとして存在する場合、ポリソルベートを加水分解する可能性があることを示唆している。図5の標識「D」は、対応するトリプシン消化試料でタンパク質が検出されなかったことを示し、そのため、分母が0であることから比を計算することはできない。標識「ND」は、検出されなかったことを示す。
【0102】
全ての同定されたタンパク質における濃縮リパーゼ/ヒドロラーゼの分布も、図9のボルケーノプロットとして示されている。明るいドットは、図5に列挙されたリパーゼ/ヒドロラーゼを表す。暗いドットは、他のタンパク質種を表す。これらのタンパク質種はトリプシン消化試料の複数の複製で検出されないため、それらのp値は計算できないため、いくつかの点がX軸と重なる。
【0103】
FP-ビオチン及びFP-デスチオビオチンを含む市販のセリンヒドロラーゼABPPプローブと比較して、新規のプローブは、ほとんどのリパーゼ/セリンヒドロラーゼ濃縮に対してより良好に機能する。注目すべきことに、LALは、いずれの市販のプローブによっても濃縮されなかったが、対照トリプシン消化試料と比較して、新規のプローブによって30倍を超えて濃縮された。LALは、ポリソルベートを加水分解することができるリパーゼとして広く認識されていないため、スパイクされたLALによるポリソルベート80の加水分解を試験した。様々な量のLAL(0ppm、5ppm、及び15ppm)を、pH5.5で0.1%のPS80で試料にスパイクし、LC-MSを使用してオレイン酸の放出を測定することによってPS80の加水分解を監視した。データは、図10に平均値±標準偏差として提示される。0.1%ポリソルベートとの2日間のインキュベーション後に、5ppmのLALが3μg/mlのオレイン酸を放出し、これは新規のプローブがポリソルベートを加水分解することができるリパーゼの同定を一意的に可能にしたことを実証する。
【0104】
LALの親和性を様々なABPPプローブと更に比較するために、新規のプローブ及びFP-ビオチンプローブをLALと室温で1時間共インキュベートした。インキュベーション後、試料を変性させ、トリプシンによって消化し、ペプチド消化をLC-MS/MSによって分析した。新規のプローブによって誘導された修飾(+777.473)及びFP-ビオチンによって誘導された修飾(+572.316)に対して、Byonicソフトウェアによってデータを検索した。結果は、ペプチドY41-R63のみがABPPプローブによって標識されたことを示し、各プローブによって標識されたペプチドのピーク面積を表1に列挙する。データは、平均値±標準偏差として表される。表1に示すように、等濃度の新規のプローブ及びFP-ビオチンをLALとインキュベートした場合、FP-ビオチンによって標識されたペプチドは観察されなかったが、ペプチドY41-R63は新規のプローブによって標識されたと同定され、新規のプローブがLALに対してより高い親和性を有することが実証された。LALに加えて、他の30個のリパーゼ/セリンヒドロラーゼは、市販のABPPプローブによっては濃縮されなかった(2倍未満)が、新規のプローブによって10倍を超えて濃縮された。これらの結果は、新規のプローブがリパーゼ及びセリンヒドロラーゼに対しより高い親和性を有し、ポリソルベート分解を触媒する活性酵素の分析において、より良好な濃縮効率及び検出感度をもたらすことを示す。
【表1】
【0105】
非特異的結合は、活性ベースのタンパク質プロファイリング及び他のプルダウン実験の主要な制限となる。リパーゼ及び他のセリンヒドロラーゼに加えて、図11A図11B、及び図11Cに示すように、並びに図12A図12B、及び図12CのFP-ビオチンプローブによる濃縮と比較して、一部の非加水分解性酵素及びタンパク質も新規のプローブによって濃縮される。リパーゼ及びヒドロラーゼは強調表示されている。これらのタンパク質種は複数の複製で検出されないため、一部のp値はN/Aである。
【0106】
非加水分解性タンパク質の濃縮につながる可能性のある理由がいくつかある。第一に、脂質結合ドメインを含有するタンパク質は、脂肪酸シンターゼ及びリポタンパク質受容体などの新規のプローブの脂肪アシル鎖に結合する。第二に、カルボキシラーゼファミリーなど、一部の天然ビオチン化タンパク質は、ストレプトアビジンアガロースによって濃縮され得る。最後に、親水性アガロースビーズとの親和性を有するタンパク質も濃縮されるであろう。しかしながら、後者の2種類の非特異的結合を有するタンパク質は、上述のように、DMSO対照との比較によって除外された。
【0107】
異なる酵素は、基質に対して異なる好みを有する。異なる基質は、類似の標的官能基、例えばエステル及びアミド、を有する可能性があるが、官能基の隣の分子構造は、酵素活性に大きな影響を及ぼす。新規のプローブは、ポリソルベートを模倣するように設計され、これにより、新規のプローブが、ポリソルベート加水分解を触媒できる酵素に対して高い親和性を有することを可能にした。市販のFP-ビオチンプローブと比較して、新規のプローブの脂肪アシル鎖、例えば炭素数16の脂肪アシル鎖は、脂肪アシル鎖、例えばLALを認識する酵素に対して比較的高い親和性を有する。例えば、以前の研究では、LALが疎水性ドメインを有し、基質の脂肪アシル鎖の疎水性ドメインへの結合がLALの触媒活性に重要であることが実証された。更に、以前の公表された研究はまた、LALが12~18個の炭素を有する脂肪アシル鎖を含有する基質との最適な活性を有する一方で、LALが短鎖又は超長鎖の脂肪アシル鎖のいずれかを有する基質に対してより低い活性を有することを示唆している。この基質選択性は、LALの疎水性ドメインが、特定の長さの脂肪アシル鎖を有する基質にのみ適合することができることを示す。FP-ビオチンはまた疎水性リンカーを有するが、アミド基及び末端ビオチンは、FP-ビオチンをLALの不十分な基質にする。
【0108】
新規のプローブ及びABPP法の日間の精度を評価するために、試料調製全体及びナノLC-MS/MS分析を別の日に実行し、リパーゼ及びセリンヒドロラーゼのシグナル強度を比較した。図13に示すように、1日目に得られたリパーゼ及び他のセリンヒドロラーゼのシグナル強度を、2日目に得られた値に対してプロットした。新規のプローブを用いたABPP法は、良好な日間の再現性を有した(R>0.99)。
【0109】
実施例3.新規のプローブの検出限界の分析
上記の実施例で実証されるように、本発明の新規のプローブは、複雑なヌル細胞溶解物からリパーゼを効果的に濃縮することができ、新規のプローブは、FP-ビオチン及びFP-デスチオビオチンを含む市販のABPPプローブと比較して、より良好な濃縮効率を有する。しかしながら、ABPPプローブ適用の最も一般的なシナリオは、バックグラウンドの治療用タンパク質の存在下での微量の酵素の検出である。したがって、DS及び薬剤開発プロセス全体におけるリパーゼの分析においてABPPプローブの感度を評価することが重要である。
【0110】
本発明の新規のABPPプローブは、組換えタンパク質産生中に例示的な試料中でHCPを濃縮することによって更に検証された。モノクローナル抗体mAb1をCHO細胞中で組換え産生し、プロテインA(ProA)親和性クロマトグラフィーに供した。ProA溶出物は、目的の1つの高存在量のタンパク質であるmAb1、及びヌルCHO細胞上清と比較して異なるプロファイルを有する低存在量のHCPを含む。このタンパク質プロファイルは、リパーゼ濃縮のための様々な課題及び構成要素の一式を提示する。
【0111】
上述の本発明の新規のABPPプローブを使用してセリンヒドロラーゼリパーゼが濃縮されたProA溶出物からのHCPを定量化し、非濃縮試料と比較した。濃縮倍率を表2に示し、ここで「D」はタンパク質が検出されたことを示し、「ND」はタンパク質が検出されなかったことを示す。
【表2】
【0112】
新規のABPPプローブは、ProA溶出物から目的のセリンヒドロラーゼリパーゼを有意に濃縮するのに有効であった。これらの実験は、新規のABPPプローブが、組換えタンパク質産生プロセスの様々な段階で好適であり、異なる組成の複雑な試料から目的のリパーゼの多様なセットを濃縮することができることを立証している。
【0113】
原薬(DS)を試料として使用して、追加の検証実験を実施した。リパーゼスパイク実験は、リパーゼを含まないDSと、組換えヒトLPL、組換えヒトPLA2G7、及び組換えCHO LALを含む3つの組換えリパーゼとを使用して設計及び実行された。リパーゼを含まないDSは、複数のHCP分析方法によって試験された組換えタンパク質の一種であり、リパーゼは検出されなかった。本明細書で使用されるHCP分析方法には、超低トリプシン天然消化及びpro-A枯渇が含まれ、これは、サブppmレベルのHCPを検出できることが証明されている。3つの組換えリパーゼを、0.016~2ppmの範囲の4つの異なる濃度でDSにスパイクした。次いで、試料を、3つの複製で本発明の新規のプローブ又はFP-ビオチンプローブによって濃縮した。ストレプトアビジンアガロースによる精製、消化、ナノLC-MS/MS分析、及びデータ処理の後、PSMの結果及び3つのリパーゼの固有のペプチド値を得た。検出された1以下の固有のペプチドを有するエントリーは、ND(検出されない)として標識された。得られたペプチドスペクトル一致(PSM)及び固有のペプチド値を図14に列挙する。PSM値及び固有のペプチド値の両方について、新規のプローブ処理試料とFP-ビオチン処理試料との間で統計解析を実行した。p値は、新規のプローブ試料の複製1で標識され、*は、p<0.05を示し、**は、p<0.01を示した。
【0114】
図14に示すように、LPL、LAL、及びPLA2G7は、0.08ppmほどの低濃度で、新規のプローブ-ABPP法によって3つの複製全てにおいて効果的かつ一貫して検出された。しかしながら、FP-ビオチンプローブについては、LPL及びPLA2G7の検出可能な最低濃度は0.4ppmであったが、LALは、2ppmであってもFP-ビオチンプローブによって検出されず、これは、様々なプローブによるヌル細胞溶解物からのLAL濃縮の以前の結果と一致する。更に、本発明の新規のプローブによって濃縮された試料は、FP-ビオチンプローブによって処理された試料と比較して、著しく多くのPSM及び固有のペプチド値を有した。更に、組換えリパーゼがスパイクされていないDS試料については、いずれのABPPプローブでもリパーゼは検出されず、使用したDSが活性リパーゼを含まないことが実証された。したがって、新規のプローブは、DSの存在下で3つ全てのリパーゼについて、大幅に高い濃縮効率及びより低い検出限界を有した。FP-ビオチンプローブが最も高いスパイク濃度でもこのリパーゼを濃縮することができなかったことを考慮すると、新規のプローブの性能は、LALの濃縮に特に優れていた。
【0115】
実施例4.新規のプローブによる活性部位での組換えヒトLPLの共有結合標識
ABPPの機構に基づいて、リパーゼは、セリン活性部位でABPPプローブによって共有結合標識されるべきである。組換えヒトLPLをモデル酵素として選択し、新規のプローブがリパーゼのセリン活性部位を共有結合的に標識したことを実証した。ヒト組換えLPLを本発明の新規のプローブとインキュベートし、消化し、上述のようにナノLC-MS/MSにより分析した。得られた質量分析データを、本発明の新規のプローブのこの例示的な実施形態による標識によって誘導されるPTMに対応する、777.473のm/zでの翻訳後修飾についてByonicによって検索した。検索結果は、F138-K174ペプチドが、このPTMを含有する唯一のペプチドであることを示した。図15に示すように、このペプチドのタンデム質量スペクトルは、活性部位S159が新規のプローブによって共有結合的に標識されたことを示す。更に、796.489のm/zを有する断片も観察され、この断片は、本発明の新規のプローブのこの例示的な実施形態の断片に対応する。これらの結果は、新規のプローブが、捕捉されたリパーゼの活性部位で共有結合を特異的に形成することを示す。
【0116】
上記の実施例は、ポリソルベートの構造に基づいて設計された新規のABPPプローブの合成及び適用を記載する。実施例は、新規のプローブが、セリンヒドロラーゼに対する市販のABPPプローブと比較して、リパーゼに対してより高い濃縮効率を有することを実証する。更に、新規のプローブを使用して、清潔なDSにスパイクされたリパーゼを検出し、いくつかの例示的な実施形態では、プローブが、特定のリパーゼに対して0.08ppmという低い検出限界を有することを示す。更に、新規のプローブ標識LPLのペプチドマッピング解析は、リパーゼが触媒活性部位のプローブによって特異的に標識されることを示した。したがって、新規のプローブは、リパーゼ分析に対して高い感度及び濃縮効率を有することが証明されており、これらのプローブを、生物学的治療剤開発のためのリパーゼの同定及び検出のための貴重なツールとしている。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6B-1】
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10
図11A
図11A-1】
図11B
図11B-1】
図11C
図11C-1】
図12A
図12A-1】
図12B
図12C
図13
図14
図15
【国際調査報告】