IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシーの特許一覧

特表2024-532335ポリアミドイミドポリマーを含む低粘度組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】ポリアミドイミドポリマーを含む低粘度組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20240829BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20240829BHJP
   C08K 5/3415 20060101ALI20240829BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20240829BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C08G73/10
C08K5/00
C08K5/3415
C08K5/20
C08L79/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513025
(86)(22)【出願日】2022-08-22
(85)【翻訳文提出日】2024-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2022073318
(87)【国際公開番号】W WO2023025720
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】21306153.4
(32)【優先日】2021-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ティルフォード, アール. ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ペリッシエール, ジャロッド
(72)【発明者】
【氏名】ガリナ デルペ, ソフィ
(72)【発明者】
【氏名】アーミセン, サマンサ
(72)【発明者】
【氏名】ボカユット, アンソニー
【テーマコード(参考)】
4J002
4J043
【Fターム(参考)】
4J002CM041
4J002EC026
4J002ED016
4J002EH026
4J002EH096
4J002EL066
4J002EP016
4J002EU026
4J002FD010
4J002FD090
4J002FD200
4J002GH00
4J002GQ00
4J002HA01
4J043PA04
4J043PA08
4J043PB14
4J043PC015
4J043QB31
4J043QB51
4J043RA05
4J043RA34
4J043SA06
4J043SB01
4J043SB03
4J043TA14
4J043TA27
4J043TA44
4J043TB01
4J043UA121
4J043UA122
4J043UA131
4J043UB121
4J043VA021
4J043VA022
4J043VA061
4J043VA062
4J043XA03
4J043XA16
4J043XB02
4J043XB27
4J043YA23
4J043ZA23
4J043ZA60
4J043ZB03
4J043ZB11
4J043ZB47
(57)【要約】
低毒性溶媒に基づく組成物、特に低粘度のコーティング配合物が開示される。この組成物は、明確に規定された分子量分布を有するポリアミドイミドポリマーを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
50モル%を超える繰り返し単位[繰り返し単位(RPAI)]を含む芳香族ポリアミック酸/ポリアミドイミドポリマー[ポリマー(PAI)]であって、前記繰り返し単位[繰り返し単位(RPAI)]が、
【化1】
からなる群から選択され、式中、
- 記号→は、それぞれの式の中で、前記芳香族ポリアミック酸構造内の任意の繰り返し単位において、矢印が指し示す基が示される通りに又は入れ替わった位置に存在してもよいような異性を意味し;
- Arは、芳香族の四価の基であり、これは1つ以上の芳香環を含んでいてもよく、好ましくは、
【化2】
(Xは、-O-、-C(O)-、-S-、-SO-、-CH-、-C(CF-、-(CF-(n=0、1、2、3、4、又は5である)からなる群から選択される)
からなる群から選択され;
- Rは芳香族の二価の基であり、これは1つ以上の芳香環を含んでいてもよく、好ましくは、
【化3】
(Yは、-O-、-C(O)-、-S-、-SO-、-CH-、-C(CF-、-(CF-(n=0、1、2、3、4、又は5である)からなる群から選択される)
【化4】
からなる群から選択され、
前記芳香族ポリアミック酸/ポリアミドイミドポリマーが、2.00~3.40の分子量分布M/Mを有する、芳香族ポリアミック酸/ポリアミドイミドポリマー[ポリマー(PAI)]。
【請求項2】
前記繰り返し単位(RPAI)が、単位(i)、(ii)、及び(iii):
【化5】
及び/又は対応するイミド基含有繰り返し単位:
【化6】
(式中、(i-a)に示される芳香環への2個のアミド基の結合は、1,3及び1,4ポリアミド-アミック酸配置を表すと理解される);
【化7】
及び/又は対応するイミド基含有繰り返し単位:
【化8】
(式中、(ii-a)に示される芳香環への2個のアミド基の結合は、1,3及び1,4ポリアミド-アミック酸配置を表すと理解される);並びに
【化9】
及び/又は対応するイミド基含有繰り返し単位:
【化10】
(式中、(iii-a)に示される芳香環への2個のアミド基の結合は、1,3及び1,4ポリアミド-アミック酸配置を表すと理解される)
からなる群から選択される、請求項1に記載のポリマー(PAI)。
【請求項3】
繰り返し単位(RPAI)が、繰り返し単位(i)、又は繰り返し単位(ii)と(iii)との混合である、請求項1又は2に記載のポリマー(PAI)。
【請求項4】
90モル%を超える繰り返し単位(RPAI)を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリマー(PAI)。
【請求項5】
ポリマー1グラムあたりのKOHのミリグラムとして測定される50未満の酸価を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマー(PAI)。
【請求項6】
2.50~3.40、好ましくは2.80~3.40の分子量分布M/Mを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリマー(PAI)。
【請求項7】
芳香族ジアミンモノマーに対して過剰の芳香族ポリカルボン酸ハロゲン化物モノマーの存在下で、少なくとも前記芳香族ポリカルボン酸ハロゲン化物モノマーと前記少なくとも芳香族ジアミンとの間の重縮合反応を行うことを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリマー(PAI)の製造のための方法。
【請求項8】
前記芳香族ポリカルボン酸ハロゲン化物モノマーが、前記芳香族ジアミンモノマーの等モル濃度に対して少なくとも5モル%過剰で、好ましくは前記芳香族ジアミンモノマーの等モル濃度に対して10~15モル%過剰で存在する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載のポリマー(PAI)と非毒性溶媒[溶媒(S)]とを含む組成物。
【請求項10】
溶媒(S)が、N-ブチルピロリドン、N-アセチルピロリドン、メチル-5-(ジメチルアミノ)-2-メチル-5-オキソペンタノエート、ジメチルデカンアミド、2-ヒドロキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、イソソルビドジメチルエーテル、2-イソブチル-2-メチル-1,3-ジオキソラン-4-メタノール、γ-バレロラクトン、乳酸エチルと大豆油又はコーン油由来のエチルエステルとを含む混合物、グルタル酸ジメチル、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、グルタル酸ジメチルとコハク酸ジメチルとアジピン酸ジメチルと2-メチルグルタル酸ジメチルとの混合物、のうちの少なくとも1つからなる群から選択される、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
溶媒(S)が、N-ブチルピロリドン及びメチル-5-(ジメチルアミノ)-2-メチル-5-オキソペンタノエートのうちの少なくとも1つからなる群から選択される、請求項9又は10に記載の組成物。
【請求項12】
溶媒(S)とは異なる溶媒を5.0重量%未満、2.0重量%未満、好ましくは1.0重量%未満含む、請求項9~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物の総重量に対して10~45重量%のポリマー(PAI)を含む、請求項9~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
請求項9~13のいずれか一項に記載の組成物を基材上にコーティングすることを含む、物品の製造のための方法。
【請求項15】
120~400℃に含まれる温度で加熱することによって前記組成物を硬化する工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~6のいずれか一項に記載のポリマー(PAI)を含有する物品。
【請求項17】
ワイヤ、調理器具、電池、フレキシブル電子部品、石油又はガスのパイプである、請求項16に記載の物品。
【請求項18】
調理器具のコーティングのための、石油及びガスのパイプラインのコーティングのための、航空宇宙部品及びフレキシブル電子部品の製造のための、ドライフィルム潤滑剤としての、耐熱性インクとしての、ゼログラフィー及び缶コーティングのための、ワイヤのコーティングのための、特にマグネットワイヤの製造における、電池バインダー配合物、特にLiイオン電池バインダー配合物調製のための、請求項9~13のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年8月26日に出願された欧州特許出願第21306153.4号に基づく優先権を主張するものであり、この出願の全ての内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、ポリアミドイミドポリマーと低毒性の溶媒とを含有する低粘度の配合物、特にコーティング配合物、及びその調製のためのポリアミドイミドポリマーに関する。
【背景技術】
【0003】
ポリアミドイミド及びポリアミック酸ポリマー(以降、総称してPAIと呼ぶ)は、その優れた接着性、耐熱性、及び高い強度のため、多くの高性能コーティング用途に使用されている周知の熱的に安定なポリマーである。PAIは、温度、磨耗、研磨、及び化学物質への曝露などの過酷な環境にさらされる金属基材の保護コーティングとして一般的に利用されている。
【0004】
典型的には、ポリマーを溶解してコーティング組成物を調製するためには、極性非プロトン性溶媒、一般的にはN-メチルアミドタイプの溶媒、特にN-メチルピロリドン(NMP)が使用される。基材上に塗布された後、組成物は、材料の最適な望まれる特性を実現するために、溶媒を除去して分子量を高める熱硬化プロセスを受ける。このアプローチの重大な欠点は、NMPが有毒であることが知られていることである。そのため、適切な他の溶媒を見つける必要がある。テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、γ-ブチロラクトン、又はジメチルスルホキシドなどの代替の溶媒は、ポリマーの溶解性が低いことや保存安定性が不十分であることなどの欠点を有しており、これはポリマーの特性及びポリマーの塗布性能、並びにその他の実用上の考慮事項を変える可能性がある。
【0005】
NMPのような溶媒に代わる生分解性且つ危険性の低いものとしては、EastmanからTamisolv(登録商標)NxGの商品名で市販されているNBP(N-n-ブチル-2-ピロリドン)や、SolvayからRhodiasolv(登録商標)PolarCleanの商品名で市販されているメチル-5-(ジメチルアミノ)-2-メチル-5-オキソペンタノエートなどが入手可能である。これらの代替の溶媒の使用する際の主な課題は、場合によっては均一なポリマー溶液の製造に成功する可能性はあるものの、これらは不十分な溶解力を有する傾向があり、その結果通常コーティング用途には適さない高粘度になることである。
【0006】
国際公開第2015/161107A1号パンフレット及び国際公開第2015/161131A1号パンフレット(富士フイルムホールディングス株式会社)は、この問題に対処することを試みている。これらの文献は、溶媒と共溶媒との混合物を使用する、イソシアネート経路によるPAI樹脂の製造のための方法、及び溶媒と共溶媒との混合物中にPAI樹脂を含むPAI含有コーティング組成物を開示している。溶媒と共溶媒との混合物は、少なくとも1種の非プロトン性ジアルキルアミド溶媒と、酢酸メチル、酢酸n-プロピル、酢酸t-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n-プロピル、乳酸イソプロピル、乳酸n-ブチル、乳酸イソブチル、乳酸t-ブチル、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、酢酸n-ブチル、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-アセチルモルホリン、e-カプロラクトン、及びメチルシクロヘキサンからなる群から選択される少なくとも1種の共溶媒とを含む。国際公開第2015/161107A1号パンフレット及び国際公開第2015/161131A1号パンフレットに開示されているコーティング組成物は適切な粘度によって特徴付けられるが、工業レベルでの取り扱いにおいては、より複雑な溶媒混合物の使用を必要とする。
【0007】
今回、驚くべきことに、ポリアミドイミドポリマーに対するポリアミック酸前駆体の分子量分布を特定の範囲内に制御することによって、組成物中に存在するポリマーの量とその粘度との最適な組み合わせによって特徴付けられ、且つコーティング用途に非常に適した、低毒性の溶媒を含む組成物を得ることが可能であることが見出された。
【発明の概要】
【0008】
したがって、本発明の第1の目的は、分子量分布M/Mが2.00~3.40であることを特徴とする芳香族ポリアミック/ポリアミドイミドポリマー[ポリマー(PAI)]である。分子量分布M/Mは、3.35以下、さらには3.30以下であってよい。
【0009】
一実施形態では、ポリマー(PAI)は、酸ハロゲン化物プロセスにより得られたものである。
【0010】
本発明の第2の目的は、2.00~3.40の分子量分布M/Mを有するポリマー(PAI)の調製のための方法であって、芳香族ジアミンモノマーに対して過剰の芳香族ポリカルボン酸ハロゲン化物モノマーの存在下、少なくとも1種の芳香族ポリカルボン酸ハロゲン化物モノマーと少なくとも1種の芳香族ジアミンモノマーとを重縮合反応させることを含む方法である。
【0011】
本発明の第3の目的は、低毒性の溶媒と、2.00~3.40の分子量分布M/Mを有するポリマー(PAI)とを含む組成物である。組成物は、好ましくは、組成物の総重量に対して15~40重量%のポリマー(PAI)を含む。
【0012】
一実施形態では、組成物は1000~10000cPoiseの粘度を有する。
【0013】
本発明の第4の目的は、基材上に組成物をコーティングする工程を含む、物品の製造のための方法である。
【0014】
定義
化合物、化学式又は式の一部を特定する記号又は数字の前後の括弧の使用は、それらの記号又は数字を本文の残りの部分からよりよく区別する目的を有するにすぎず、したがって、前記括弧は省略することも可能である。
【0015】
いずれの記載も、特定の実施形態に関連して記載されているとしても、本発明の他の実施形態に適用可能であり、且つそれらと交換可能である。
【0016】
端点による数値範囲の本明細書でのいかなる列挙も、列挙された範囲内に包含される全ての数並びに範囲の端点及び均等物を含む。
【0017】
本発明の第1の目的によれば、以下で定義される少なくとも1つの芳香環と少なくとも1つのアミック酸基及び/又はイミド基とを含む繰り返し単位[繰り返し単位(RPAI)]を50モル%より多く含む芳香族ポリアミック酸/ポリアミドイミドポリマー[ポリマー(PAI)]が提供される。ポリマー(PAI)は、2.00~3.40の分子量分布M/Mを有することを特徴とする。分子量分布M/Mは、3.35以下、さらには3.30以下であってよい。
【0018】
いくつかの実施形態では、分子量分布M/Mは、2.50以上、さらには2.80以上であってよい。分子量分布M/Mは、有利には2.50~3.40であってよい。
【0019】
ポリマー(PAI)の数平均分子量(M)は、有利には少なくとも1000、好ましくは少なくとも1500、より好ましくは少なくとも2000である。
【0020】
ポリマー(PAI)の数平均分子量(M)は、有利には最大20000、好ましくは最大15000である。
【0021】
ポリマー(PAI)の分子量(M及びM)は、以降で詳述するポリスチレン標準を使用するゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用して決定することができる。
【0022】
繰り返し単位(RPAI)は、
【化1】
からなる群から選択され、式中、
- 記号→は、それぞれの式の中で、芳香族ポリアミック酸構造内の任意の繰り返し単位において、矢印が指し示す基が示される通りに又は入れ替わった位置に存在してもよいような異性を意味し;
- Arは、芳香族の四価の基であり、これは1つ以上の芳香環を含んでいてもよく、好ましくは、
【化2】
(Xは、-O-、-C(O)-、-S-、-SO-、-CH-、-C(CF-、-(CF-(n=0、1、2、3、4、又は5である)からなる群から選択される)
からなる群から選択され;
- Rは芳香族の二価の基であり、これは1つ以上の芳香環を含んでいてもよく、好ましくは、
【化3】
(Yは、-O-、-C(O)-、-S-、-SO-、-CH-、-C(CF-、-(CF-(n=0、1、2、3、4、又は5である)からなる群から選択される)
【化4】
からなる群から選択される。
【0023】
繰り返し単位(RPAI)は、好ましくは、以下に詳述する単位(i)、(ii)、及び(iii):
【化5】
及び/又は対応するイミド基含有繰り返し単位:
【化6】
(式中、(i-a)に示される芳香環への2個のアミド基の結合は、1,3及び1,4ポリアミド-アミック酸配置を表すと理解される);
【化7】
及び/又は対応するイミド基含有繰り返し単位:
【化8】
(式中、(ii-a)に示される芳香環への2個のアミド基の結合は、1,3及び1,4ポリアミド-アミック酸配置を表すと理解される);並びに
【化9】
及び/又は対応するイミド基含有繰り返し単位:
【化10】
(式中、(iii-a)に示される芳香環への2個のアミド基の結合は、1,3及び1,4ポリアミド-アミック酸配置を表すと理解される)
からなる群から選択される。
【0024】
繰り返し単位(RPAI)は、好ましくは繰り返し単位(i)、又は繰り返し単位(ii)と(iii)との混合である。
【0025】
好ましくは、ポリマー(PAI)は、90モル%超の繰り返し単位(RPAI)を含む。さらにより好ましくは、それは、繰り返し単位(RPAI)以外の繰り返し単位を全く含有しない。
【0026】
繰り返し単位(i)、又は繰り返し単位(ii)と(iii)との混合からなるポリマー(PAI)で優れた結果が得られた。
【0027】
アミック基を含む繰り返し単位の量は、特には当業者に周知の分光技術又は滴定技術などの任意の適切な技術によって決定することができる。
【0028】
繰り返し単位(RPAI)は、上で詳述した式(RPAI-A)、(RPAI-B)、(RPAI-C)、(RPAI-D)、(RPAI-E)のものから選択され、少なくとも1つのアミック酸基を含む繰り返し単位(RPAI)のモルパーセントは以下の通りに表すことができる:
【数1】
(式中、[(RPAI-A)単位]、[(RPAI-B)単位]、[(RPAI-C)単位]、[(RPAI-D)単位]、及び[(RPAI-E)単位]は、それぞれ上述した異なる繰り返し単位(RPAI)のモル濃度を意味する)。
【0029】
好ましい実施形態では、25モル%未満、さらには20モル%未満、さらには15モル%未満、好ましくは10モル%未満の繰り返し単位(RPAI)が、少なくとも1つのアミック酸基を含む。
【0030】
ポリマー(PAI)の酸価(KOHのミリグラム/グラム)は、有利には50未満、好ましくは25未満である。
【0031】
ポリマー(PAI)の固有粘度は、25℃でNMP中の0.5重量%溶液として測定した場合、少なくとも0.30、好ましくは少なくとも0.50dL/gであり、典型的には0.75dL/gを超えない。
【0032】
ポリマー(PAI)は、特に、芳香族ジアミンモノマーに対して過剰の芳香族ポリカルボン酸ハロゲン化物モノマーの存在下で、少なくとも芳香族ポリカルボン酸ハロゲン化物モノマーと少なくとも芳香族ジアミンとの間の重縮合反応を含む方法によって製造することができる。
【0033】
芳香族ポリカルボン酸ハロゲン化物モノマーは、典型的には、芳香族ジアミンモノマーの等モル濃度に対して少なくとも5モル%過剰に、さらには少なくとも7モル%過剰に存在する。芳香族ポリカルボン酸ハロゲン化物モノマーは、典型的には、芳香族ジアミンモノマーの等モル濃度に対して最大15モル%過剰で存在する。芳香族ジアミンモノマーの等モル濃度に対して10~15モル%過剰でよい結果が得られた。
【0034】
明確にするために明記しておくと、過剰量は、重縮合プロセスで使用される全ての芳香族ジアミンモノマーの合計量に対する全ての芳香族ポリカルボン酸ハロゲン化物モノマーの合計量を考慮して計算される。
【0035】
芳香族ポリカルボン酸ハロゲン化物モノマーは、テレフタロイルクロリド、イソフタロイルクロリド、フタロイルクロリド、及びトリメリット酸無水物の酸ハロゲン化物誘導体からなる群から選択される。好ましくは、トリメリット酸無水物一酸ハロゲン化物から選択される。トリメリット酸無水物一酸ハロゲン化物の中でも、トリメリット酸無水物一酸塩化物が好ましい。
【0036】
いくつかの実施形態では、ジカルボン酸無水物モノマーをポリカルボン酸ハロゲン化物モノマーと組み合わせて使用することができる。適切なジカルボン酸無水物モノマーとしては、ピロメリット酸無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、及びトリメリット酸無水物が挙げられる。ジカルボン酸無水物モノマーが方法において使用される場合、芳香族ジアミンモノマーの等モル濃度に対する酸ハロゲン化物モノマーの過剰量は、酸ハロゲン化物とジカルボン酸無水物モノマーの合計モル数を考慮して計算される。
【0037】
芳香族ジアミンモノマーは、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、p-フェニレンジアミン(PDA)、m-フェニレンジアミン(MPDA)、ジフェニルジメチルメタンジアミン(DMMDA)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(BAPB)、4,4’-ビスフェノールAエーテルジアミン(BAPP)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン(BAPS)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ジフェニルエーテル(BAPE)、ジアミノジフェニル(メチル)ケトン(DABP)、4,4’-ジアミノトリフェニルアミン(DATPA)、4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(3,4’-ODA)、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MDI)、4,4’-ジアミノ-ジフェノキシ-1”,4”-ベンゼン、4,4’-ジアミノ-ジフェノキシ-1”,3”-ベンゼン、3,3’-ジアミノ-ジフェノキシ-1”,3”-ベンゼン、4,4’-ジアミノ-ジフェニル-4”,4-フェニル-イソプロピルプロパンからなる群から選択される。
【0038】
芳香族ジアミンモノマーは、好ましくは、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MDA)、p-フェニレンジアミン(PDA)、及びm-フェニレンジアミン(MPDA)、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0039】
重縮合反応は、有利には、化学量論量過剰の酸ハロゲン化物モノマーを使用して、極性溶媒中、150℃未満の温度で、実質的に無水条件下で行われる。
【0040】
ポリマーの分子量を制御し、安定性を向上させるために、当業者に公知のように、一官能性反応剤をエンドキャッピング剤として使用することができる。
【0041】
ポリマー(PAI)は、有利には、穏やかな条件下で、好ましくは、例えば水や低級アルキルアルコールなどの混和性非溶媒を添加して極性反応溶媒から凝固又は析出させることにより、固体形態で単離される。任意選択的には、その後固体樹脂を回収し、水で十分に洗浄し、遠心分離又はプレスすることで、熱をかけずに固体の含水率がさらに下げられてもよい。水及び低級アルキルアルコール以外の非溶媒は公知であり、例えば、エーテル、芳香族炭化水素、ケトンなどを含む溶液からポリマー(PAI)を析出させるために当該技術分野で使用されている。
【0042】
本発明のさらなる態様では、ポリマー(PAI)と非毒性溶媒[溶媒(S)]とを含む組成物が提供される。「非毒性溶媒」という表現は、本明細書では人の健康に有害であると認識されていない溶媒を指すために使用される。
【0043】
溶媒(S)は、通常、N-ブチルピロリドン、N-アセチルピロリドン、メチル-5-(ジメチルアミノ)-2-メチル-5-オキソペンタノエート、ジメチルデカンアミド、2-ヒドロキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、イソソルビドジメチルエーテル、2-イソブチル-2-メチル-1,3-ジオキソラン-4-メタノール、γ-バレロラクトン、乳酸エチルと大豆油又はコーン油由来のエチルエステルとを含む混合物、グルタル酸ジメチル、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、グルタル酸ジメチルとコハク酸ジメチルとアジピン酸ジメチルと2-メチルグルタル酸ジメチルとの混合物、のうちの少なくとも1つからなる群から選択される。
【0044】
好ましくは、溶媒(S)は、N-ブチルピロリドン、N-アセチルピロリドン、メチル-5-(ジメチルアミノ)-2-メチル-5-オキソペンタノエート、ジメチルデカンアミド、2-ヒドロキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、イソソルビドジメチルエーテル、2-イソブチル-2-メチル-1,3-ジオキソラン-4-メタノール、シクロペンタノン、γ-バレロラクトンのうちの少なくとも1つからなる群から選択される。
【0045】
より好ましくは、溶媒(S)は、N-ブチルピロリドン及びメチル-5-(ジメチルアミノ)-2-メチル-5-オキソペンタノエートのうちの少なくとも1つからなる群から選択される。
【0046】
本発明の組成物は、典型的には、5.0重量%未満、2.0重量%未満、好ましくは1.0重量%未満、さらには0.5重量%未満、さらには0.1重量%未満の、溶媒(S)とは異なる溶媒を含む。
【0047】
本発明の組成物は、有利には、組成物の総重量に対して少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも10重量%のポリマー(PAI)を含有する。
【0048】
本発明の組成物は、有利には、組成物の総重量に対して最大55重量%、好ましくは最大50重量%、より好ましくは最大45重量%のポリマー(PAI)を含有する。
【0049】
組成物の総重量に対して10~45重量%のポリマー(PAI)を含有するポリマー組成物が、非常に満足できる結果を与えた。
【0050】
ポリマー(PAI)を10~45重量%、典型的には15~40重量%の量で含む組成物は、コーティングの製造における前記組成物の使用に適した粘度を有することが予想外にも見出された。
【0051】
有利には、ポリマー(PAI)を10~45重量%の量で含む組成物は、25℃で測定される粘度が500~10000cPoise、典型的には1000~8000cPoiseであり、そのためこれらはコーティング用途に適している。
【0052】
組成物は、コーティング組成物の通常の成分、特に以下のものをさらに含み得る:(i)分散剤;(ii)カーボンブラック、シリケート、金属酸化物及び硫化物などの顔料;(iii)コーティング助剤又は流動促進剤などの添加剤;(iv)炭素繊維、ガラス繊維、BaSOやCaSOなどの金属硫酸塩、AlやSiOなどの酸化物、ゼオライト、マイカ、タルク、カオリンのような無機充填剤;(v)有機充填剤、好ましくはPTFEのような熱安定性ポリマー;(vi)金属シリケート、例えばケイ酸アルミニウムなどのシリケート化合物、及び二酸化チタンなどの金属酸化物のようなフィルム硬化剤;(vii)コロイダルシリカ、並びにリン酸金属塩、例えばZn、Mn、又はFeのリン酸塩などのリン酸化合物のような接着促進剤。
【0053】
本発明のさらなる態様は、基材上に本発明の組成物をコーティングすることを含む物品の製造のための方法である。コーティングは、スピンコーティング、スリットスピンコーティング、ロールコーティング、ダイコーティング、又はカーテンコーティングなどの任意の適切なコーティングプロセスによって行うことができる。コーティング工程の後には、典型的には、溶媒を揮発させるために、得られたフィルムを120~400℃、好ましくは120~350℃に含まれる温度でプリベークすることによって塗布された組成物を硬化させる工程が続く。
【0054】
コーティングの厚さは、意図される目的に応じて変化させることができる。厚さは、好ましくは、0.1~100ミクロン、好ましくは1~50ミクロン、より好ましくは5~20ミクロンの範囲であり、さらに好ましくは厚さは約10ミクロンである。
【0055】
特に、ポリマー(PAI)を含む組成物は、調理器具のコーティングのために、石油及びガスのパイプラインのコーティングのために、航空宇宙部品及びフレキシブル電子部品の製造のために、ドライフィルム潤滑剤として、耐熱性インクとして、並びにゼログラフィー及び缶コーティングのために、並びにその他の用途において使用することができる。本発明の組成物は、エナメル又はベースコートなどのワイヤコーティング用途に、特にマグネットワイヤ又は一般的な電動モータ用ワイヤの製造に有用な場合がある。
【0056】
特に、ポリマーPAIは、限定するものではないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含むコーティング溶液に使用することができる。
【0057】
本発明の組成物は、NMPを含まない電池バインダー配合物、特にLiイオン電池バインダー配合物の調製にも有利に使用することができる。
【0058】
本発明は、ここで、以下の実施例に関連して説明されるが、その目的は、単に例示的であり、本発明を限定するものではない。
【0059】
原材料
トリメリット酸無水物(TMA)、トリメリット酸塩化物(TMAC)、オキシジアニリン(ODA)、m-フェニレンジアミン(MPDA)、及びN-メチルピロリドン(NMP)は、Sigma Aldrichから入手可能である。メチル-5-(ジメチルアミノ)-2-メチル-5-オキソペンタノエートは、Solvayから商品名Rhodiasolv(登録商標)Polarcleanとして供給されている。N-ブチルピロリドン(NBP)は、Eastmanから商品名Tamisolv(登録商標)NxGとして入手可能である。
【0060】
方法
溶液粘度
ポリマーの粘度は、23重量%のポリマー濃度で、25℃のNMP中でブルックフィールド粘度計を用いて測定した。
【0061】
GPC法を使用する分子量決定
GPC条件:ポンプ:Waters515溶媒供給システム又は同等品
検出器:Waters2487シリーズのUV/VIS検出器又は同等品(270nm)
ソフトウェア:Waters Empower3 Proゲル浸透クロマトグラフィーソフトウェア又は同等品
インジェクター:Waters717 Wispオートサンプラー又は同等品
流量:0.3ml/分
UV検出:270nm
カラム温度:45℃
カラム:2本のPLgel 5μm MiniMix-D、250×4.6mmのカラム、Agilent、部品番号PL1510-5504;1本のPLgel 5μm MiniMix-D Guard、50×4.6mm、Agilent、部品番号PL1510-1504
注入量:10マイクロリットル
実行時間:30分
溶離液:N,N-ジメチルアセトアミド/0.1M臭化リチウム
較正標準:10個のポリスチレンの狭い校正標準(Agilent部品番号PL2010-060)。これら10個の標準のうち8個は、Mp364,000~2790g/モルの範囲で分離することができた。
較正標準の濃度:6mg/mL
較正曲線:タイプ:相対的な、狭い較正標準による較正
フィット:3次回帰。積分及び計算:Waters製のEmpower3 Pro GPC ソフトウェアを使用して、データ、較正、及び分子量計算を取得する。ピーク積算開始点及び終了点は、ベースライン全体上の有意な差からマニュアルで決定する。
試料調製:磁気撹拌子で撹拌しながら100℃まで20分間加熱することによって、24mgのポリマーを4mLの溶離液に溶解した。冷却後、0.22μmのPTFE製シリンジフィルターを使用して溶液を濾過し、得られた溶液を上記GPC条件に従ってGPCカラムに通した。
【0062】
実施例1-M/M<3.40のポリマーPAI-1
ODA(0.201モル)及びMPDA(0.086モル)を、オーバーヘッドメカニカルスターラーを備えたジャケット付き4口丸底フラスコに入れた。NMP(270g)をフラスコに入れ、混合物を窒素雰囲気で穏やかに撹拌しながら10℃まで冷却した。フラスコに加熱された滴下漏斗を取り付け、それにTMAC(0.316モル)を入れ、最低100℃まで加熱した。溶融TMACをNMP中のジアミンの溶液に、激しく撹拌しながら40℃を超えないように十分な速度で添加した。添加が完了した後、外部加熱を適用して35~40℃に2時間維持した。追加のNMP(50g)を添加し、反応混合物を500mLのビーカー中へ排出した。ポリマー溶液を、ステンレス鋼製高せん剪断ミキサー中の水(4000mL)にゆっくりと添加した。析出したポリマーを濾過し、水で複数回洗浄して、残留溶媒及び酸副生成物を除去した。固体ポリマーを260℃で少なくとも2時間乾燥した。残留NMP溶媒は、GC分析により0.1%未満であることが確認された。
【0063】
比較例1-M/M>3.40のポリマーPAI-2
ODA(0.263モル)及びMPDA(0.113モル)、並びにTMA(0.019モル)を、オーバーヘッドメカニカルスターラーを備えたジャケット付き4口丸底フラスコに入れた。NMP(290g)をフラスコに入れ、混合物を窒素雰囲気で穏やかに撹拌しながら10℃まで冷却した。フラスコに加熱された滴下漏斗を取り付け、それにTMAC(0.377モル)を入れ、最低100℃まで加熱した。溶融TMACをNMP中のジアミンの溶液に、激しく撹拌しながら40℃を超えないように十分な速度で添加した。添加が完了した後、外部加熱を適用して35~40℃に2時間維持した。追加のNMP(50g)を添加し、反応混合物を500mLのビーカー中へ排出した。ポリマー溶液を、ステンレス鋼製高せん剪断ミキサー中の水(4000mL)にゆっくりと添加した。析出したポリマーを濾過し、水で複数回洗浄して、残留溶媒及び酸副生成物を除去した。固体ポリマーを260℃で少なくとも2時間乾燥した。残留NMP溶媒は、GC分析により0.1%未満であることが確認された。
【0064】
表1に、ポリマーPAI-1及びPAI-2の分子量特性がまとめられている。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例2-ポリマーPAIを含む組成物
基本手順:ポリマー粉末(4.74g)と選択した溶媒(S)(15.26g)との混合物を90℃で10分間加熱することによって、23重量%のポリマーを含む溶液を調製した。
【0067】
比較として、ポリマー粉末(5g)とNMP(20g)との混合物を90℃で10分間加熱することによって、NMP中25重量%のポリマーPAI-2の溶液も調製した。
【0068】
組成物及びそれらの特性が表2に詳述されている。
【0069】
【表2】
【0070】
表2の結果は、3.28のM/Mを有するポリマーPAI-1を含む組成物が、同じ溶媒中に3.40を超えるM/Mを有するPAIポリマーを同量含む組成物よりも大幅に低い粘度を有することを示している。ポリマーPAI-1の分子量が高いことも考慮すると、これは驚くべきことである。
【0071】
試験5の組成物の粘度と、試験2及び4の組成物の粘度を比較すると、M/Mが3.40より大きいPAIポリマーにより、コーティング用途に適した粘度を有するNMP中の組成物が得られることが示される。しかしながら、これらのポリマーは、メチル-5-(ジメチルアミノ)-2-メチル-5-オキソペンタノエート又はNBPのような溶媒に溶解すると、使用するには粘度が高すぎる溶液を生成する。この問題は、本発明のPAIポリマーを使用することにより、驚くべきことに首尾よく克服することができる。
【国際調査報告】