(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】フルオロスルホニルイミド塩を調製するための反応蒸留プロセス
(51)【国際特許分類】
C01B 21/086 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
C01B21/086
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513028
(86)(22)【出願日】2022-08-23
(85)【翻訳文提出日】2024-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2022073429
(87)【国際公開番号】W WO2023025776
(87)【国際公開日】2023-03-02
(32)【優先日】2021-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523287012
【氏名又は名称】スペシャルティ オペレーションズ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ルヴェラン, ドニ
(57)【要約】
本発明は、フルオロスルホニルイミド塩の調製方法に関する。より詳しくは、本発明は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)の調製方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(I):
【化1】
(式中、M
n+は、金属カチオン又はオニウムカチオンを表し、オニウムカチオンはアンモニウムカチオンではなく、nは金属カチオン又はオニウムカチオンの価数に対応し、1~4の整数である)
によって表されるフルオロスルホニルイミド塩を調製するための方法であって、
ii)アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NH4
4SI)を、少なくとも1種の溶媒S
3中で、金属化合物、オニウム化合物、及び有機アミン化合物からなる群から選択される化合物(C)と反応させる工程;及び
iii)反応溶液中に存在する水の少なくとも一部を前記反応溶液から除去する工程;
を含み、前記工程ii)とiii)が同時に行われる、方法。
【請求項2】
前記NH
4FSIが少なくとも1種の溶媒S
2との溶媒和物の形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶媒和物の形態のNH
4FSI塩が、
- 結晶形態である、並びに/又は
- 50~99重量%のNH
4FSI塩、及び1~50重量%の少なくとも1種の溶媒S
2を含む、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶媒S
2が、環状エーテル及び非環状エーテルからなる群から選択される、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
工程ii)の前に、以下:
i
1)NH
4FSIの粗製塩を準備する工程;
i
2)前記NH
4FSIの粗製塩を少なくとも1種の溶媒S
1の中に溶解する工程;
i
3)少なくとも1種の溶媒S
2により前記NH
4FSIの粗製塩を結晶化する工程;及び
i
4)前記溶媒S
1及びS
2の少なくとも一部から前記NH
4FSI塩を分離する工程
を含むNH
4FSI溶媒和物を調製する工程i)を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程ii)において、前記化合物(C)がリチウム化合物(C*)であり、好ましくは、水酸化リチウムLiOH、水酸化リチウム水和物LiOH.H
2O、炭酸リチウムLi
2CO
3、炭酸水素リチウムLiHCO
3、塩化リチウムLiCl、フッ化リチウムLiF、アルコキシド化合物、アルキルリチウム化合物、酢酸リチウムCH
3COOLi、及びシュウ酸リチウムLi
2C
2O
4からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程iii)において、前記反応溶液中に存在する水の少なくとも一部が蒸留によって前記反応溶液から除去される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程iii)において、前記NH
4FSI溶媒和物中に存在する前記溶媒S
2が蒸留によって前記反応溶液から除去される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程iii)における前記反応温度が約0℃~約100℃である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程iii)において、反応圧力が大気圧から約0.01mbarである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記溶媒S
1が、アセトニトリル、バレロニトリル、アジポニトリル、ベンゾニトリル、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、酢酸n-ブチル、酢酸イソプロピル、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記溶媒S
2が、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル、ジメトキシメタン、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン、1,3-ジオキサン、4-メチル-1,3-ジオキサン、及び1,4-ジオキサン、並びにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記溶媒S
3が炭酸エチルメチル(EMC)又は酢酸n-ブチルである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程ii)の前記化合物(C)が、約0.5時間~約10時間の時間範囲にわたって前記アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NH
4FSI)に添加される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の方法であって、式(I):
【化2】
において、
M
n+がLi+を表し、
前記方法は、次の工程:
i)
i
1)NH
4FSIの粗製塩を準備する工程;
i
2)前記NH
4FSIの粗製塩を少なくとも1種の溶媒S
1の中に溶解する工程;
i
3)少なくとも1種の溶媒S
2により前記NH
4FSIの粗製塩を結晶化する工程;及び
i
4)溶媒S
1及びS
2の少なくとも一部から前記NH
4FSI塩を分離してNH
4FSI溶媒和物を得る工程;
によってNH4FSI溶媒和物を調製する工程:
ii)工程i)からの前記NH
4FSIを、少なくとも1種の溶媒
3中でリチウム化合物(C*)と反応させる工程;並びに
iii)共沸蒸留によって、
- 前記反応溶液中に存在する前記反応溶液からの水の少なくとも一部、好ましくは99.0重量%を超える前記水、及び
- 前記NH
4FSI溶媒和物中に存在する前記溶媒S
2の少なくとも一部、好ましくは99.0重量%を超える前記溶媒S
2、
を除去する工程;
を含み、
前記工程ii)とiii)が同時に行われる、方法。
【請求項16】
- 工程i
4)が99.9重量%を超える前記溶媒S
1と50~99重量%の前記溶媒S
2の両方から前記NH
4FSI塩を分離することを含み;
- 工程i
4)で得られた前記NH
4FSI溶媒和物を乾燥する工程i
5)を含む;
請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願の相互参照
本発明は、欧州において2021年8月27日に出願された欧州特許出願第21315147.5号及び欧州において2021年10月8日に出願された欧州特許出願第21201565.5号に基づく優先権を主張するものであり、これらの出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、フルオロスルホニルイミド塩を調製するための方法に関する。より詳しくは、本発明は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
フルオロスルホニルイミド塩は、幅広い分野で有用な化合物であり、電解質として、燃料電池の電解質に添加される添加剤として、選択的電子吸引材料としてなどに使用されている(例えばPCTの公開された日本語訳である特開平08-511274号公報を参照)。フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩及び様々なフルオロスルホニルイミドのオニウム塩は、アルカリ金属化合物又はオニウム化合物を使用するカチオン交換反応により得ることができる。フルオロスルホニルイミドアンモニウム塩は、アンモニウム塩以外のフルオロスルホニルイミドアルカリ金属塩及びフルオロスルホニルイミドオニウム塩の製造中間体として有用である。
【0004】
フルオロスルホニルイミドアンモニウム塩を合成するために、様々な方法が提案されている。
【0005】
例えば、Zeitschrift fuer Chemie(1987-27(6),pages227-228)には、ジ(フルオロスルホニル)イミドとアンモニアとからジ(フルオロスルホニル)イミドアンモニウム塩を合成する方法が開示されている。
【0006】
特開2010-168308号公報(株式会社日本触媒)には、ジ(クロロスルホニル)イミドとオニウム化合物とを反応させてクロロスルホニルイミドオニウム塩を得た後、このオニウム塩と、第11族~第15族且つ第4~6族周期である元素(ただしヒ素及びアンチモンを除く)からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含むフッ化物とを反応させることによって、ビス[ジ(フルオロスルホニル)イミド]オニウム塩を合成する方法が開示されている。特開2010-168308号公報に記載の製造方法で使用されているフッ化物について開示されている例としては、フッ化亜鉛(ZnF2)、フッ化銅(CuF2)、及びフッ化ビスマス(BiF2)が挙げられる。これらの化合物はいずれも常温では固体物質である。
【0007】
さらに、John K.Ruff and Max Lustig,Inorg.Synth.,11,138-140(1968)及びJean’ne M.Shreeve et al.,Inorg.Chem.,1998,37(24),6295-6303には、フッ素化剤として三フッ化ヒ素(AsF3)又は三フッ化アンチモン(SbF3)を使用してジ(クロロスルホニル)イミドからジ(フルオロスルホニル)イミドを直接合成する方法が開示されている。
【0008】
中国特許第109734061号明細書(HUNAN FUBANG NEW MAT CO.,LTD.)には、以下の作業工程を含むリチウムジフルオロスルホニルイミドの製造方法が開示されている:
ジフルオロスルホニルイミドを入手する工程;
水と共沸混合物を形成可能な非水溶媒中で、ジフルオロスルホニルイミドとアルカリ性リチウム源とを混合して反応させる工程であって、非水溶媒がピリジンとクロロエタノールのうちの1つ以上を含み、ジフルオロスルホニルイミドリチウムの粗生成物溶液が濾過により得られ、アルカリ性リチウム源がLiOH、LiHCO3、及びLi2CO3のうちの1つ以上を含む工程;
リチウムジ(フルオロスルホニル)イミドの粗生成物溶液を、真空度1000~100Pa、温度30~80℃の環境下で減圧乾燥する工程;及び
生成物がペースト状である場合には、真空度を10-2Pa未満に下げて乾燥し、リチウムジフルオロスルホニルイミドの粗生成物を得る工程。
【0009】
LiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)は水に敏感であることが知られており、反応してFSO3Li及び/又はFSO2NH2などの不要な種を形成する可能性があり、これらはLiFSI製品の品質と電気化学的特性を著しく低下させる。
【0010】
欧州特許第3170789号明細書(日本曹達株式会社)には、フルオロスルホニルイミド塩の製造方法が開示されている。しかしながら、フルオロスルホニル塩は、カチオン交換反応中に反応溶液中に存在する水から保護されない。
【0011】
欧州特許第2662332号明細書(日本曹達株式会社)には、金属水酸化物及びオニウム水酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を使用して、減圧下でビス(フルオロスルホニル)イミドのアンモニウム塩に対してカチオン交換反応を行うことを含む、ビス(フルオロスルホニル)イミドの金属塩又はオニウム塩の製造方法が開示されている。この反応では、カチオン交換反応の副生成物としてアンモニアが生成するが、これは減圧下で反応を行うことによって除去される。
【0012】
欧州特許第2977349号明細書(日本曹達株式会社)には、以下の工程を含むジスルホンアミンアルカリ金属塩の製造方法が開示されている:
ジスルホニルアミンオニウム塩に対して有機溶媒中でカチオン交換反応を行うことによってジスルホニルアミンのアルカリ金属塩を製造する工程;及び
ジスルホニルアミンアルカリ金属塩を含む有機溶媒溶液を、0.1~10μmの粒子保持サイズを有するフィルターを通して濾過し、濾液を得る工程。
【0013】
その実施例によれば、最初にアンモニウムジ(フルオロスルホニル)アミンが適切な有機溶媒中で還流下で水酸化リチウム一水和物と反応し、次いで有機相と水相が分離され、有機相が減圧下でさらに処理されて溶液から水分が除去される。その後、濾過が行われ、続いて溶媒が留去される。したがって、そのような記載によれば、水の除去はカチオン交換反応と同時には行われない。
【0014】
国際公開第2021/074142号パンフレット(Solvay SA)には、少なくともハロゲン化アルコールを含む結晶化溶媒中でビス(スルホニルイミド)の原料塩を結晶化する工程を含む、ビス(フルオロスルホニル)イミドの塩を製造する方法が開示されている。この文献は、実施例3において、33gのNH4FSI結晶を300gの炭酸エチルメチルに溶解し、次いで76gの23重量%LiOH・H2O水溶液を添加することを含む方法を開示している。その後、有機相が回収され、減圧(3mbar)下で20℃においてロータリーエバポレーターによって濃縮された。したがって、そのような記載によれば、水の除去はカチオン交換反応の後に進行する。
【発明の概要】
【0015】
本発明の目的は、塩の分解及び電気化学的特性の低下が抑制された、フルオロスルホニルイミド塩の効率的な調製方法を提供することである。具体的には、本発明の目的は、塩の分解及び電気化学的特性の低下が抑制された、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を調製するための効率的な方法を提供することである。
【0016】
今回、これら及び他の目的が、本発明による方法によって解決できることが見出された。
【0017】
本発明は、次式(I):
【化1】
(式中、M
n+は、金属カチオン又はオニウムカチオンを表し、オニウムカチオンはアンモニウムカチオンではなく、nは金属カチオン又はオニウムカチオンの価数に対応し、1~4の整数である)
によって表されるフルオロスルホニルイミド塩を調製するための方法であって、
ii)アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NH4FSI)を、好ましくは少なくとも1種の溶媒S
2との溶媒和物の形態で、少なくとも1種の溶媒S
3中で、金属化合物、オニウム化合物、及び有機アミン化合物からなる群から選択される化合物(C)と反応させる工程;及び
iii)反応溶液中に存在する水の少なくとも一部を反応溶液から除去する工程;
を含み、工程ii)とiii)が同時に行われる、方法に関する。
【0018】
本発明は、反応溶液中に存在する水を反応溶液から除去することによって、フルオロスルホニルイミド塩の湿気によって誘発される分解及びフルオロスルホニルイミド塩の湿気によって誘発される電気化学的特性の低下が効果的に抑制されるという認識に基づいている。さらに、反応溶液中に存在する水を反応溶液から除去することにより、フルオロスルホニルイミド塩の合成プロセスの収率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例で開示されるプロセスのスキームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明によれば、「約」という用語は、指定された数値の±10%、好ましくは±5%、より好ましくは±2%、さらに好ましくは±1%を意味する。
【0021】
本発明は、次式(I):
【化2】
(式中、M
n+は、金属カチオン又はオニウムカチオンを表し、オニウムカチオンはアンモニウムカチオン(NH
4
+)ではなく、nは金属カチオン又はオニウムカチオンの価数に対応し、1~4の整数である)
によって表されるフルオロスルホニルイミド塩を調製するための方法であって、
ii)アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NH4FSI)を、好ましくは少なくとも1種の溶媒S
2との溶媒和物の形態で、少なくとも1種の溶媒S
3中で、金属化合物、オニウム化合物、及び有機アミン化合物からなる群から選択される化合物(C)と反応させる工程;及び
iii)反応溶液中に存在する水の少なくとも一部を反応溶液から除去する工程;
を含み、工程ii)とiii)が同時に行われる、方法に関する。
【0022】
金属カチオンには特に限定はないが、アルカリ金属カチオンが好ましい。アルカリ金属カチオンとしては、リチウムカチオン、ナトリウムカチオン、カリウムカチオン、ルビジウムカチオン、及びセシウムカチオンが挙げられる。これらの中でも、リチウムカチオン、ナトリウムカチオン、又はカリウムカチオンが好ましく、リチウムカチオンが最も好ましい。
【0023】
アンモニウムカチオン(NH4
+)ではないオニウムカチオンの例としては、ホスホニウムカチオン、オキソニウムカチオン、スルホニウムカチオン、フルオロニウムカチオン、クロロニウムカチオン、ブロモニウムカチオン、ヨードニウムカチオン、セレノニウムカチオン、テルロニウムカチオン、アルソニウムカチオン、スチボニウムカチオン、ビスムトニウムカチオン;イミニウムカチオン、ジアゼニウムカチオン、ニトロニウムカチオン、ジアゾニウムカチオン、ニトロソニウムカチオン、ヒドラゾニウムカチオン、ジアゼニウムジカチオン、ジアゾニウムジカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、第四級アンモニウムカチオン、第三級アンモニウムカチオン、第二級アンモニウムカチオン、第一級アンモニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、グアニジニウムカチオン、イソウロニウムカチオン、及びイソチウロニウムカチオンが挙げられる。
【0024】
オニウムカチオンは、好ましくは、有機基を有するオニウムカチオン、すなわち有機オニウムカチオンである。有機基の例としては、飽和炭化水素基及び不飽和炭化水素基が挙げられる。飽和又は不飽和の炭化水素基は、直鎖、分岐、又は環状のいずれであってもよい。飽和又は不飽和炭化水素基を構成する炭素原子の数は、好ましくは1~18であり、より好ましくは1~8である。有機基を構成する原子又は原子団としては、好ましくは、水素原子、フッ素原子、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル基、ヒドロキシル基、エステル基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、スルホン基、スルフィド基、窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子が挙げられ、より好ましくは、水素原子、フッ素原子、エーテル基、ヒドロキシル基、シアノ基、又はスルホン基が挙げられる。有機基は、これらの原子又は原子団のうちの1つのみ有していてもよく、或いはこれらの原子又は原子団のうちの2つ以上を有していてもよい。2つ以上の有機基が結合している場合、結合は、有機基の主構造間、有機基の主構造と前述した原子団との間、又は上述した原子団同士で形成されていてもよい。
【0025】
有機基を有するオニウムカチオンの例としては、イミダゾリウムカチオン、例えば1,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ペンチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ヘプチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-テトラデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ヘキサデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-オクタデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-アリル-3-エチルイミダゾリウムカチオン、1-アリル-3-ブチルイミダゾリウムカチオン、1,3-ジアリルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1-ヘキシル-2,3-メチルイミダゾリウムカチオン、及び1-ヘキサデシル-2,3-メチルイミダゾリウムカチオンなど;
ピリジニウムカチオン、例えば1-エチルピリジニウムカチオン、1-ブチルピリジニウムカチオン、1-ヘキシルピリジニウムカチオン、1-オクチルピリジニウムカチオン、1-エチル-3-メチルピリジニウムカチオン、1-エチル-3-ヒドロキシメチルピリジニウムカチオン、1-ブチル-3-メチルピリジニウムカチオン、1-ブチル-4-メチルピリジニウムカチオン、1-オクチル-4-メチルピリジニウムカチオン、1-ブチル-3,4-ジメチルピリジニウムカチオン、及び1-ブチル-3,5-ジメチルピリジニウムカチオンなど;
第四級アンモニウムカチオン、例えばテトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラプロピルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオン、テトラヘプチルアンモニウムカチオン、テトラヘキシルアンモニウムカチオン、テトラオクチルアンモニウムカチオン、トリエチルメチルアンモニウムカチオン、プロピルトリメチルアンモニウムカチオン、ジエチル-2-メトキシエチルメチルアンモニウムカチオン、メチルトリオクチルアンモニウムカチオン、シクロヘキシルトリメチルアンモニウムカチオン、2-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムカチオン、トリメチルフェニルアンモニウムカチオン、ベンジルトリメチルアンモニウムカチオン、ベンジルトリブチルアンモニウムカチオン、ベンジルトリエチルアンモニウムカチオン、ジメチルジステアリルアンモニウムカチオン、ジアリルジメチルアンモニウムカチオン、2-メトキシエトキシメチルトリメチルアンモニウムカチオン、及びテトラキス(ペンタフルオロエチル)アンモニウムカチオンなど;
第三級アンモニウムカチオン、例えばトリメチルアンモニウムカチオン、トリエチルアンモニウムカチオン、トリブチルアンモニウムカチオン、ジエチルメチルアンモニウムカチオン、ジメチルエチルアンモニウムカチオン、ジブチルメチルアンモニウムカチオン、及び4-アザ-1-アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンカチオンなど;
第二級アンモニウムカチオン、例えばジメチルアンモニウムカチオン、ジエチルアンモニウムカチオン、及びジブチルアンモニウムカチオンなど;
第一級アンモニウムカチオン、例えばメチルアンモニウムカチオン、エチルアンモニウムカチオン、ブチルアンモニウムカチオン、ヘキシルアンモニウムカチオン、及びオクチルアンモニウムカチオンなど;
有機アンモニウムカチオン、例えばN-メトキシトリメチルアンモニウムカチオン、N-エトキシトリメチルアンモニウムカチオン、及びN-プロポキシトリメチルアンモニウムカチオンなど;
ピペリジニウムカチオン、例えば1-プロピル-1-メチルピペリジニウムカチオン及び1-(2-メトキシエチル)-1-メチルピペリジニウムカチオンなど;
ピロリジニウムカチオン、例えば1-プロピル-1-メチルピロリジニウムカチオン、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムカチオン、1-ヘキシル-1-メチルピロリジニウムカチオン、及び1-オクチル-1-メチルピロリジニウムカチオンなど;
モルホリニウムカチオン、例えば4-プロピル-4-メチルモルホリニウムカチオン及び4-(2-メトキシエチル)-4-メチルモルホリニウムカチオンなど;
ピラゾリウムカチオン、例えば2-エチル-1,3,5-トリメチルピラゾリウムカチオン、2-プロピル-1,3,5-トリメチルピラゾリウムカチオン、2-ブチル-1,3,5-トリメチルピラゾリウムカチオン、及び2-ヘキシル-1,3,5-トリメチルピラゾリウムカチオンなど;
グアニジニウムカチオン、例えばグアニジニウムカチオン及び2-エチル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジニウムカチオンなど;
スルホニウムカチオン、例えばトリメチルスルホニウムカチオンなど;
ホスホニウムカチオン、例えばトリヘキシルテトラデシルホスホニウムカチオンなど;
イソウロニウムカチオン、例えば2-エチル-1,1,3,3-テトラメチルイソウロニウムカチオンなど;及び
イソチオウロニウムカチオン、例えば2-エチル-1,1,3,3-テトラメチルイソチオウロニウムカチオンなど;
が挙げられる。
【0026】
これらの中でも、オニウムカチオンは、好ましくは電解質特性などを低下させる金属元素を含まない。具体的には、イミダゾリウムカチオン、例えば1,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-アリル-3-エチルイミダゾリウムカチオン、1-アリル-3-ブチルイミダゾリウムカチオン、1,3-ジアリルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、及び1-ヘキシル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン;並びに有機アンモニウムカチオン、例えばプロピルトリメチルアンモニウムカチオン、ジエチル-2-メトキシエチルメチルアンモニウムカチオン、メチルトリオクチルアンモニウムカチオン、シクロヘキシルトリメチルアンモニウムカチオン、2-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムカチオン、トリメチルアンモニウムカチオン、トリエチルアンモニウムカチオン、トリブチルアンモニウムカチオン、及び4-アザ-1-アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンカチオンが好ましい。
【0027】
本発明によれば、最も好ましくは、下記式(I)で表されるフルオロスルホニルイミド塩はLiFSIである。
【0028】
本発明によれば、式(I)による化合物を調製する方法は、NH4FSI(アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド)を、溶媒中で、金属化合物、オニウム化合物、及び有機アミン化合物からなる群から選択される化合物(C)と反応させる工程ii)を含む。以降で、この反応をカチオン交換反応ともいう。
【0029】
好ましい実施形態によれば、NH4FSI塩は溶媒和物であり、好ましくは結晶形態である。
【0030】
好ましくは、前記溶媒和物は
・50~99重量%のNH4FSI塩、及び
・1~50重量%の溶媒S2、
を含む。
【0031】
好ましくは、前記溶媒S2は、環状及び非環状のエーテルからなる群から選択される。
【0032】
好ましくは、NH4FSI溶媒和物は、51~98重量%、より好ましくは55~95重量%、又は78~83重量%のNH4FSI塩を含む。
【0033】
好ましくは、NH4FSI溶媒和物は、2~49重量%、より好ましくは5~45重量%又は17~22重量%の上で定義した溶媒S2を含む。
【0034】
NH4FSIが上で定義した溶媒和物の形態である場合、方法は、工程ii)の前に、以下の工程を含むNH4FSI溶媒和物を調製する工程i)を含む:
i1)NH4FSIの粗製塩を準備する工程;
i2)NH4FSIの粗製塩を少なくとも1種の溶媒S1の中に溶解する工程;
i3)少なくとも1種の溶媒S2によりNH4FSIの粗製塩を結晶化する工程;及び
i4)溶媒S1及びS2の少なくとも一部から、好ましくは濾過によってNH4FSI塩を分離する工程。
【0035】
NH4FSIの粗製塩は、好ましくは80~97重量%、好ましくは85~95重量%、より好ましくは90~95重量%のNH4FSIの塩を含む。
【0036】
溶媒S1は、好ましくは、アセトニトリル、バレロニトリル、アジポニトリル、ベンゾニトリル、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2,2,2,-トリフルオロエタノール、酢酸n-ブチル、酢酸イソプロピル、及びそれらの混合物からなる群から選択され;好ましくは2,2,2,-トリフルオロエタノールである。
【0037】
溶媒S2は、好ましくは、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル、ジメトキシメタン、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン、1,3-ジオキサン、4-メチル-1,3-ジオキサン、及び1,4-ジオキサン、並びにそれらの混合物からなる群から選択される。より好ましくは、溶媒S2は、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、及びそれらの混合物からなる群から選択される。さらに好ましくは、溶媒S2は、1,3-ジオキサン又は1,4-ジオキサンである。
【0038】
好ましくは、工程i4)は、NH4FSI塩を、
・99.9重量%超の溶媒S1;及び
・50~99重量%の溶媒S2;
から分離することからなる。
【0039】
本発明によれば、カチオン交換反応は、好ましくは、溶媒の存在下、NH4FSIと、金属化合物、オニウム化合物、及び有機アミン化合物からなる群から選択される化合物とを混合することによって行われ、化合物は好ましくは金属化合物であり、より好ましくはアルカリ金属化合物であり、さらに好ましくはリチウム化合物であり、さらにより好ましくはLiOHxH2O又はLi2CO3であり、最も好ましくはLiOHxH2Oである。
【0040】
カチオン交換反応に使用される金属化合物は、NH4FSIとカチオン交換反応を行う限り特に限定されない。
【0041】
好ましくは、金属化合物はアルカリ金属硫化物である。より好ましくは、金属化合物は、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH、LiOHxH2O、NaOHxH2O、KOHxH2O、RbOHxH2O、CsOHxH2O、Li2CO3、Na2CO3、K2CO3、Rb2CO3、Cs2CO3、LiHCO3、NaHCO3、KHCO3、RbHCO3、及びCsHCO3からなる群から選択されるアルカリ金属化合物であり、さらに好ましくは、金属化合物は、LiOHxH2O、NaOHxH2O、KOHxH2O、RbOHxH2O、CsOHxH2O、Li2CO3、Na2CO3、K2CO3、Rb2CO3、及びCs2CO3からなる群から選択されるアルカリ金属化合物であり、さらにより好ましくは、金属化合物は、LiOHxH2O及びLi2CO3からなる群から選択されるアルカリ金属化合物であり、最も好ましくは、金属化合物はLiOHxH2Oである。
【0042】
アルカリ金属化合物が使用される場合、使用されるアルカリ金属化合物の量は、1モルのNH4FSIあたり、好ましくは約1モル~約10モル、より好ましくは約1モル~約5モル、さらに好ましくは約1モル~約2モル、さらにより好ましくは約1モル~約1.5モル、最も好ましくは約1.1モルである。
【0043】
カチオン交換反応に使用されるオニウム化合物の例としては、窒素系オニウム化合物、例えばイミダゾリウム化合物、ピラゾリウム化合物、ピリジニウム化合物、ピロリジニウム化合物、ピペリジニウム化合物、モルホリニウム化合物、並びに第四級アンモニウム化合物、リン系オニウム化合物、例えば第四級ホスホニウム化合物及び第三級ホスフィン化合物、硫黄系オニウム化合物、例えばスルホニウム化合物、並びにグアニジニウム化合物、イソウロニウム化合物、及びイソチオウロニウム化合物が挙げられる。これらの化合物の中でも、有機オニウム化合物が好ましい。さらに、オニウム化合物は、好ましくは電解質特性などを低下させる金属元素を含まない。
【0044】
好ましくは、オニウム化合物は水酸化物系化合物である。
【0045】
イミダゾリウム化合物の具体例としては、1,3-ジメチルイミダゾリウムヒドロキシド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヒドロキシド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヒドロキシド、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムヒドロキシド、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムヒドロキシド、1-アリル-3-エチルイミダゾリウムヒドロキシド、1-アリル-3-ブチルイミダゾリウムヒドロキシド、1,3-ジアリルイミダゾリウムヒドロキシド、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムヒドロキシド、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムヒドロキシド、及び1-ヘキシル-2,3-ジメチルイミダゾリウムヒドロキシドなどの水酸化物が挙げられる。
【0046】
ピラゾリウム化合物の具体例としては、2-エチル-1,3,5-トリメチルピラゾリウムヒドロキシド、2-プロピル-1,3,5-トリメチルピラゾリウムヒドロキシド、2-ブチル-1,3,5-トリメチルピラゾリウムヒドロキシド、及び2-ヘキシル-1,3,5-トリメチルピラゾリウムヒドロキシドなどの水酸化物が挙げられる。
【0047】
モルホリニウム化合物の具体例としては、4-プロピル-4-メチルモルホリニウムヒドロキシド及び4-(2-メトキシエチル)-4-メチルモルホリニウムヒドロキシドが挙げられる。
【0048】
第四級アンモニウム化合物の具体例としては、プロピルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ジエチル-2-メトキシエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリオクチルアンモニウムヒドロキシド、シクロヘキシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、及び2-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムヒドロキシドなどの水酸化物が挙げられる。
【0049】
グアニジニウム化合物の具体例としては、グアニジニウムヒドロキシド及び2-エチル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジニウムヒドロキシドが挙げられる。
【0050】
イソウロニウム化合物の具体例としては、2-エチル-1,1,3,3-テトラメチルイソウロニウムヒドロキシドが挙げられる。
【0051】
イソチオウロニウム化合物の具体例としては、2-エチル-1,1,3,3-テトラメチルイソチオウロニウムヒドロキシドが挙げられる。
【0052】
オニウム化合物が使用される場合、使用されるオニウム化合物の量は、1モルのNH4FSIあたり、約1モル~約10モル、より好ましくは約1モル~約5モル、さらに好ましくは約1モル~約2モル、さらにより好ましくは約1モル~約1.5モル、最も好ましくは約1.1モルである。
【0053】
カチオン交換反応に使用される有機アミン化合物の例としては、第三級アミン、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、及びトリブチルアミン、環状アミン、例えば1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、第三級アミン塩、例えばトリメチルアミン塩酸塩、トリエチルアミン塩酸塩、トリブチルアミン塩酸塩、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン塩酸塩、トリメチルアミン臭化水素酸塩、トリエチルアミン臭化水素酸塩、及びトリブチルアミン臭化水素酸塩、並びに環状アミン塩、例えば1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン臭化水素酸塩が挙げられる。
【0054】
これらの中でも、第三級アミン及び環状アミンが好ましい。
【0055】
有機アミン化合物が使用される場合、使用される有機アミン化合物の量は、1モルのNH4FSIあたり、約1モル~約10モル、より好ましくは約1モル~約5モル、さらに好ましくは約1モル~約2モル、さらにより好ましくは約1モル~約1.5モル、最も好ましくは約1.1モルである。
【0056】
好ましくは、金属化合物はLiOHxH2O又はLi2CO3であり、使用される金属化合物の量は1モルのNH4FSIあたり約1.1モルであり、より好ましくは金属化合物はLiOHxH2Oであり、使用される金属化合物の量は1モルのNH4FSIあたり約1.1モルである。
【0057】
カチオン交換反応中の温度には特に制限はないが、好ましくは、工程ii)における反応温度は、約0℃~約100℃、より好ましくは約5℃~約70℃、さらに好ましくは約10℃~約50℃、最も好ましくは約15℃である。
【0058】
カチオン交換反応中の反応圧力には特に制限はないが、好ましくは、工程ii)における反応圧力は、大気圧から約0.01mbar、より好ましくは約800mbar~約0.1mbar、さらに好ましくは約600mbar~約1mbar、さらに好ましくは約400mbar~約10mbar、さらにより好ましくは約200mbar~約15mbar、最も好ましくは約30mbarである。
【0059】
カチオン交換反応に使用される有機溶媒S3に特に制限は存在しない。好ましい溶媒の例としては、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、ジメトキシメタン、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、スルホラン、3-メチルスルホラン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルオキサゾリジノン、アセトニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、ニトロメタン、及びニトロベンゼンなどの非プロトン性溶媒が挙げられる。より好ましい溶媒としては、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、テトラヒドロフラン、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、及び酢酸n-ブチルが挙げられ、さらにより好ましい溶媒としては、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、及び酢酸n-ブチルが挙げられ、さらにより好ましい溶媒としては炭酸エチルメチル及び酢酸n-ブチルが挙げられ、最も好ましい溶媒は炭酸エチルメチルである。
【0060】
カチオン交換反応に必要とされる反応時間は、反応スケールに応じて変動するが、好ましくは約1時間~約48時間であり、より好ましくは約1.5時間~約24時間であり、さらに好ましくは約1.5時間~約12時間程度であり、さらにより好ましくは約2時間~約10時間であり、最も好ましくは約3時間~約6時間である。
【0061】
好ましくは、工程ii)の化合物は、約0.5時間~約10時間、より好ましくは約1時間~約8時間、さらに好ましくは約1時間~約6時間、さらにより好ましくは約1.5時間~約5時間、最も好ましくは約2時間~約4時間の時間範囲にわたってアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NH4FSI)に添加される。
【0062】
反応容器は、フッ素樹脂又はポリエチレン樹脂などの樹脂製であってよく、好ましくはフッ素樹脂である。
【0063】
本発明による方法は、反応溶液中に存在する水の少なくとも一部を反応溶液から除去する工程iii)を含む。
【0064】
NH4FSI溶媒和物中に存在する溶媒S2の少なくとも一部も、工程iii)中に反応溶液から除去され得る。
【0065】
好ましくは、工程iii)は、蒸留により、好ましくは共沸蒸留により、以下のものを除去することからなる:
- 反応溶液中に存在する反応溶液からの水の少なくとも一部、好ましくは99.0重量%を超える水、及び
- NH4FSI溶媒和物中に存在する溶媒S2の少なくとも一部、好ましくはNH4FSI溶媒和物中に存在する99.0重量%を超える溶媒S2。
【0066】
反応溶液中に存在する水は、反応中に副生成物として形成される場合があり、或いはこれは湿った出発物質によって反応溶液中に導入される場合がある。
【0067】
反応溶液中に存在する水の少なくとも一部を反応溶液から除去することにより、2つの効果を得ることができる。一方では、式(I)による水に敏感なフルオロスルホニルイミド塩の分解が抑制され、その結果これらの塩の電気化学的特性の低下も抑制される。他方で、カチオン交換反応中に以下の反応スキームで示されるように水が副生成物として形成される場合には、水を除去することによって、平衡をカチオン交換反応が促進される状態に調整することができる。したがって、反応溶液中に存在する水の少なくとも一部を反応溶液から除去することによって、本発明による方法の収率を高めることができ、またフルオロスルホニルイミド塩の品質及びその電気化学的特性を向上させることもできる。
【化3】
【0068】
反応溶液中に存在する水の少なくとも一部、及び好ましくは溶媒S2の少なくとも一部は、乾燥剤又は蒸留法などの当該技術分野で公知の任意の方法によって反応溶液から除去することができる。
【0069】
好ましくは、反応溶液中に存在する水の少なくとも一部、及び好ましくは溶媒S2の少なくとも一部は蒸留によって反応溶液から除去され、より好ましくは水の少なくとも一部は共沸蒸留によって除去される。
【0070】
好ましくは、反応溶液中に存在する水の少なくとも一部、及び好ましくは溶媒S2の少なくとも一部は、共沸蒸留によって除去され、工程ii)において、反応温度は約10℃~約50℃であり、反応圧力は約200mbar~約50mbarであり、より好ましくは、反応溶液中に存在する水の少なくとも一部は共沸蒸留によって除去され、工程ii)において、反応温度は約15℃であり、反応圧力は約100mbarである。
【0071】
好ましくは、本発明による方法は、工程iii)の後に、
iv)反応溶液に溶媒S3をさらに添加する工程;
をさらに含み、
その際、工程ii)、iii)、及びiv)は同時に行われる。
【0072】
反応溶液中に存在する水の少なくとも一部の除去により反応溶液から溶媒S3が失われる場合には、例えば溶媒添加ユニットによって、反応溶液にさらに追加の溶媒S3が添加される。
【0073】
好ましくは、工程iv)において、反応溶液中のスルホニルイミド塩のモル濃度が実質的に一定に保たれるように、溶媒は時間をかけて添加される。これに関し、「実質的に一定」とは、反応溶液中のスルホニルイミド塩のモル濃度が約0.2モル/l、好ましくは約0.1モル/lを超えて変化しないことを意味する。
【0074】
概略的に、方法の主要なスキームを
図1に示す。工程ii)は、溶媒としてEMC(炭酸エチルメチル)を使用し、リチウム化化合物としてLiOHxH2Oを使用する、蒸留塔を備えた撹拌されている反応器内で実施することができる。工程iii)は共沸蒸留により行われる。共沸蒸留を行うために真空ポンプが使用されてもよい。湿った溶媒は、コンデンサー内で凝縮させて反応溶液から分離することができる。工程iii)はEMC添加ユニットにより行われ、リチウム化化合物は固体添加ユニットから時間をかけて添加される。
【実施例】
【0075】
以降で実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に添いながらも適宜変更が可能であることは当然であり、そのような変更は全て本発明の技術的範囲に含まれるものとみなされる。
【0076】
蒸留塔と、コンデンサーと、粉末添加ユニットと、溶媒添加ユニットとを備えた500mlの撹拌槽型反応器(
図1を参照)に、3.75モル(390g)のEMC及び0.250モル(49.5g)のビスアンモニウム(フルオロスルホニル)イミド(NH
4FSI)を入れ、15℃で撹拌した。0.275モル(11.5g)の水酸化リチウム一水和物(LiOHxH
2O)を、固体添加ユニットを介して3時間かけて反応溶液に徐々に添加した(
図1を参照)。LiOHxH
2Oを添加する間、反応温度を15℃に保持し、反応圧力を30mbar未満に下げ、共沸蒸留によってEMC及び水を除去した。除去されたEMCと水をカラムの塔頂で凝縮し、除去された湿ったEMCを補い、フルオロスルホニルイミド塩のモル濃度を一定に保持するために新たなEMCを反応器に添加した(
図1を参照)。3時間のLiOHxH
2Oの添加及びさらに1時間の反応時間の後、NH
4FSIの変換が完了し、LiFSIの収率は95%超であった。
【国際調査報告】