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特表2024-532387機能が強化された新規キメラ抗原受容体(CAR)
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】機能が強化された新規キメラ抗原受容体(CAR)
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20240829BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240829BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240829BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240829BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240829BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20240829BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240829BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20240829BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240829BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240829BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/62 Z
C07K19/00
C07K16/28
C12N7/01
C12N15/12
C07K14/725
C12N5/10
A61K35/17
A61P35/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513236
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(85)【翻訳文提出日】2024-03-06
(86)【国際出願番号】 KR2022012556
(87)【国際公開番号】W WO2023027471
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】10-2021-0113648
(32)【優先日】2021-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522096950
【氏名又は名称】ティカロス カンパニー, リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】チェ、キョンホ
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ウンヨン
(72)【発明者】
【氏名】ナム、ギリ
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ハンナ
(72)【発明者】
【氏名】イム、ヒョンジ
(72)【発明者】
【氏名】ヨン、ヘラン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ヒョンベ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93Y
4B065AA94Y
4B065AA95X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA11
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA51
4H045DA75
4H045EA22
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、細胞接着および移動において重要な役割を果たすことが知られているCD99L2の一部の領域をキメラ抗原受容体のバックボーン(backbone)として用いる新規キメラ抗原受容体、これを含む免疫細胞およびそれらの用途に関する。CD99L2ベースCAR-T細胞は、既存のCAR-T細胞に比べて向上したT細胞活性と腫瘍治療効率を示すので、癌治療のための兔疫細胞の治療に有用に用いられることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)抗原結合ドメイン(antigen binding domain)と、
(b)細胞外結合ドメインと膜貫通ドメイン(transmembrane domain)とを含むバックボーン(backbone)と、
(c)細胞内シグナル伝達ドメイン(intracellular signaling domain)と、
を含むキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor;CAR)であって、
前記細胞外結合ドメインは、CD99L2由来の細胞外ドメイン(extracellular domain)を含み、前記膜貫通ドメインは、CD99L2由来の膜貫通ドメインを含むことを特徴とするキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor;CAR)。
【請求項2】
前記CD99L2由来の細胞外ドメインは、配列番号10で表されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項3】
前記CD99L2由来の膜貫通ドメインは、配列番号11で示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項4】
前記キメラ抗原受容体は、CD99L2由来の細胞内ドメイン(intracellular domain)をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項5】
前記CD99L2由来の細胞内ドメインは、配列番号12で表されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項4に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項6】
前記細胞内シグナル伝達ドメインは、
CD3ゼータ(ζ)、CD3ガンマ(γ)、デルタ(δ)、CD3イプシロン(ε)、FcRγ、FcRβ、CD5、CD22、CD79a、CD79b、およびCD66dで構成された群から選択される細胞内シグナル伝達ドメインと、および/または
CD2、CD7、CD27、CD28、CD30、CD40、4-1BB(CD137)、OX40(CD134)、ICOS、LFA-1、GITR、MyD88、DAP1、PD-1、LIGHT、NKG2C、B7-H3およびCD83リガンドからなる群から選択される共刺激(co-stimulatory)ドメインと、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項7】
前記CD3ゼータ(ζ)の細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号13または配列番号14で表されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項6に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項8】
前記抗原結合ドメインは、下記の群から選択される抗原に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメント(antigen binding fragment)を含むことを特徴とする請求項1に記載のキメラ抗原受容体:
4-1BB、B cell maturation antigen(BCMA)、B-cell activating factor(BAFF)、B7-H3、B7-H6、carbonic anhydrase 9(CA9;またはCAIXまたはG250として知られている)、cancer/testis antigen 1B(CTAG1B;またはNY ESO-1またはLAGE2Bとして知られている)、carcinoembryonic antigen(CEA)、サイクリン(cyclin)、cyclin A2、cyclin B1、C-C Motif Chemokine Ligand 1(CCL-l)、CCR4、CD3、CD4、CD19、CD20、CD22、CD23、CD24、CD30、CD33、CD38、CD40、CD44、CD44v6、CD44v7/8、CD52、CD58、CD62、CD79A、CD79B、CD80、CD123、CD133、CD138、CD171、chondroitin sulfate proteoglycan 4(CSPG4)、claudin-18(CLDN18)、CLDN6、cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4(CTLA-4)、tyrosine-protein kinase Met(c-Met)、DLL3、epidermal growth factor receptor(EGFR)、truncated epidermal growth factor receptor(tEGFR)、type III epidermal growth factor receptor mutation(EGFRvIII)、epithelial glycoprotein 2(EPG-2)、epithelial glycoprotein 40(EPG-40)、エフリン(ephrin) B2、ephrin receptor A2(EPHA2)、エストロゲン受容体(estrogen receptor)、Fc受容体(Fc receptor)、Fc receptor like 5(FCRL5;またFe receptor homolog 5またはFCRH5として知られている)、fibroblast growth factor 23(FGF23)、folate binding protein(FBP)、folate receptor alpha(FOLR1)、folate receptor beta(FOLR2)、GD2(ganglioside GD2、O-acetylated GD2(OGD2))、ガングリオシド(ganglioside) GD3、glycoprotein 100(gp100)、glypican-3(GPC3)、G Protein Coupled Receptor 5D(GPCR5D)、granulocyte-macrophage colony-stimulating factor(GM-CSF)、Her2/neu(receptor tyrosine kinase erb-B2)、Her3(erb-B3)、Her4(erb-B4)、erbB dimers、Human high molecular weight melanoma-associated antigen(HMW-MAA)、hepatitis B surface antigen(HBsAg)、Human leukocyte antigen A1(HLA-A1)、Human leukocyte antigen A2(HLA-A2)、IL-22 receptor alpha(IL-22Ra)、IL-13 receptor alpha 2(IL-13Ra2)、inducible T-cell costimulator(ICOS)、insulin-like growth factor 1 receptor(IGF-1受容体(receptor))、インテグリン(integrin) αvβ6、インターフェロン受容体(interferon receptor)、IFNγ receptor(IFNγR)、interleukin-2 receptor(IL-2R)、interleukin-4 receptor(IL-4R)、interleukin-5 receptor(IL-5R)、interleukin-6 receptor(IL-6R)、interleukin-17 receptor A(IL-17RA)、interleukin-31 receptor(IL-31R)、interleukin-36 receptor(IL-36R)、kinase insert domain receptor(KDR)、L1 cell adhesion molecule(L1-CAM)、L1-CAMのCE7エピトープ(CE7 epitope of L1-CAM)、Leucine Rich Repeat Containing 8 Family Member A(LRRC8A)、Lewis Y、lymphocyte-activation gene 3(LAG3)、Melanoma-associated antigen(MAGE)Al、MAGEA3、MAGEA6、MAGEAlO、mesothelin(MSLN)、murine cytomegalovirus(CMV)、mucin 1(MUC1)、natural killer group 2 member D(NKG2D)リガンド(ligands)、melan A(MART-l)、nerve growth factor(NGF)、neural cell adhesion molecule(NCAM)、neuropilin-1(NRP-1)、neuropilin-2(NRP-2)、癌胎児性抗原(oncofetal antigen)、PD-L1、Preferentially expressed antigen of melanoma(PRAME)、プロゲステロン受容体(progesterone receptor)、前立腺特異抗原(prostate specific antigen)、prostate stem cell antigen(PSCA)、prostate specific membrane antigen(PSMA)、receptor activator of nuclear factor kappa-βligand(RANKL)、receptor tyrosine kinase like orphan receptor 1(ROR1)、SLAM family member 7(SLAMF7)、survivin、trophoblast glycoprotein(TPBG;また5T4として知られている)、tumor-associated glycoprotein 72(TAG72)、tyrosine related protein 1(TRP1;またTYRP1またはgp75)、tyrosine related protein 2(TRP2;またdopachrome tautomerase、dopachrome delta-isomeraseまたはDCTとして知られている)およびウィルムス腫瘍(Wilms Tumor 1;WT1)。
【請求項9】
前記抗原結合フラグメントは、抗体の単鎖可変フラグメント(single chain variable fragment;scFv)又はナノボディ(nanobody)であることを特徴とする請求項8に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項10】
抗原結合ドメインのN末端にシグナルペプチド(signal peptide)をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項11】
前記シグナルペプチドは、配列番号7のアミノ酸配列を含むCD8αシグナルペプチドであることを特徴とする請求項10に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項12】
前記キメラ抗原受容体は、配列番号2または配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体をコードする核酸。
【請求項14】
請求項13に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項15】
請求項14に記載の発現ベクターを含むウイルス。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体を表面に発現する免疫細胞。
【請求項17】
前記免疫細胞は、T細胞、NK細胞、NKT細胞またはマクロファージであることを特徴とする請求項16に記載の免疫細胞。
【請求項18】
請求項16に記載の免疫細胞を含む癌治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞接着および移動において重要な役割を果たすことが知られているCD99L2の一部の領域をキメラ抗原受容体のバックボーン(backbone)として用いる新規キメラ抗原受容体、これを含む免疫細胞およびそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
CAR-T細胞は、腫瘍細胞の表面の癌抗原に特異的に結合する組換え抗体(scFvなど)領域をT細胞受容体シグナル伝達領域と連結した融合タンパク質(すなわち、キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor;CAR)を、患者の血液から単離したT細胞に人為的に発現させた遺伝子導入T細胞である(Kershaw MH, et al., Nat Rev Immunol. 2005;5(12):928-40)。CARタンパク質遺伝子をレトロウイルスあるいはレンチウイルスの形態でT細胞に導入すると、高い遺伝子導入効率により、2週間以内に50%以上のT細胞がCARタンパク質を表面に発現することにより、大量の腫瘍特異的T細胞を短時間内に製造することができるようになる。
【0003】
作製されたCAR-T細胞は、CARタンパク質の抗体領域が腫瘍を認識すると活性化信号がT細胞の内部へ伝達され、腫瘍を殺傷する腫瘍殺傷性細胞として働く。そこで、2000年代後半からCAR-T細胞治療薬の臨床試験が急増した(Jena B, et al., Blood. 2010;116(7):1035-44)。特に、Bリンパ球系の血液腫瘍癌抗原であるCD19を標的とするCAR-T細胞治療は、初期の臨床試験から目覚ましい成果を上げた。2010年頃B細胞リンパ腫において若干の効果を示していたCD19 CAR-T細胞治療は、ペンシルバニア大学の研究チームによって既存の治療に対して抵抗性を示した慢性リンパ性白血病患者の完全寛解が報告されることを始めとして、最近は、従来の全ての治療法に抵抗性を示した急性リンパ性白血病患者30名の中で27名で1ヶ月以内に完全寛解を得、6カ月全生存率が78%に達する驚くべき治療効果を示すことによって、多数の多国籍製薬会社の大規模投資で行われるなど、急速な成長を示した(Maude SL, et al., N Engl J Med. 2014;371(16):1507-17)。その結果、2種のCD19標的CAR-T細胞治療剤が2017年末にFDAの承認を受けている。
【0004】
現在CAR-T細胞の開発は、主に血液腫瘍を対象に集中的に行われており、幾つかの固形腫瘍へその対象を拡大している段階である(Yip A, Webster RM, Nat Rev Drug Discov. 2018;17(3):161-2)。主たる血液腫瘍ターゲットとしては、多発性骨髄腫を対象に抗BCMA CAR-T細胞治療剤が最も先に進んでおり、Bリンパ系の血液腫瘍抗原もCD19に加えて、CD20、CD22等に対するCAR-T細胞治療剤も開発されつつある状況である。固形腫瘍に対するCAR-T細胞治療剤は、GD2(脳腫瘍)、メソテリン(胸膜癌)などに対する幾つかの臨床試験が施されているが、未だ劇的な効果は報告されていないのが実情である。その理由は、固形腫瘍の場合、CAR-T細胞の効力を妨げる幾つかの要因が存在するからであると推定される。例えば、固形腫瘍の場合、腫瘍細胞が主に血液中に分布して腫瘍微小環境を十分生成しない白血病に比べ、TGF-β、IL-10のような免疫抑制サイトカインを分泌するか、または制御性T細胞や骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)などの免疫抑制細胞を動員するか、腫瘍の表面にPD-L1のような免疫抑制リガンドを発現するなど、免疫抵抗性腫瘍微小環境を構築しているからであると考えられる(Rabinovich GA, et al., Annu Rev Immunol. 2007;25:267-96)。したがって、今後CAR-T細胞治療剤の汎用化のためには、免疫抑制環境を克服し、効果を奏することができるT細胞の活性が大きく増加されたCAR-T細胞の開発が必須的であると言える。
【0005】
CAR-T細胞の機能を亢進させる一つの戦略は、CARタンパク質それ自体の構造を変化させることにより、T細胞の活性化を増強するものである(Dotti G, et al., Immunol Rev. 2014;257(1):107-26)。CARタンパク質は、癌抗原を認識する抗体の可変領域(単鎖可変フラグメント;scFv)がバックボーン領域(backbone region;細胞外空間+膜貫通ドメイン)を通じて細胞内シグナル伝達領域に結合された形態に設計されている。細胞内シグナル伝達領域は、主にT細胞受容体のシグナル伝達サブユニットであるCD3ゼータ鎖の細胞内領域(intracellular region)を基本としている(第1世代CAR)。今までCARタンパク質の修飾(modification)を通じて、CAR-T細胞の機能を向上させるために努力し続けており、その大部分は共刺激分子(co-stimulatory molecule)のシグナル伝達領域を変更又は追加する形式で進められてきた(Morello A, et al., Cancer Discov. 2016;6(2):133-46)。例えば、現在市販されている2種のCAR-T細胞治療剤は、それぞれ、CD28及び41BBの共刺激分子の細胞内部分を使用しており(第2世代CAR)、その後、CD28と41BB細胞内領域を同時に含むCAR(第3世代CAR))などが試みられている。現在市販されているノバルティス社製のKymriah CAR-T細胞とギリアド・サイエンシズ社製のYescarta CAR-T細胞は、それぞれ41BBとCD28細胞内領域を使用する第2世代CAR-T細胞である。
【0006】
これに対し、CARバックボーン領域は、CD8、CD28、IgG1もしくはIgG4の一部の領域が物理的な結合機能としてのみ用いられており、機能的な要素が付与された例はほとんどない。したがって、CARバックボーン領域の変更によってCAR-T細胞の機能向上を誘導する新たな方式の修飾が可能である。
【0007】
このような技術的背景の下で、本発明者らは、CARバックボーン領域として、CD99L2タンパク質の膜貫通領域を含む領域を使用する新しいCAR設計を導入することにより、CAR-T細胞の腫瘍治療効能の改善可能性を打診した。その結果、CD99L2バックボーンCAR-T細胞は、従来のCD8バックボーンCAR-T細胞よりも大幅に向上した抗腫瘍効果を示すことを確認し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本背景技術の欄に記載された前記情報は、ただ本発明の背景に対する理解を向上させるためのものに過ぎず、そこで、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者にとって既知の先行技術を形成する情報を含まない可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、改善された腫瘍治療効果を示すキメラ抗原受容体及びこれを含む免疫細胞を提供することにである。
【0010】
本発明の他の目的は、前記キメラ抗原受容体をコードする核酸、前記核酸を含む発現ベクター、および前記発現ベクターを含むウイルスを提供することにある。
【0011】
本発明はまた他の目的は、前記免疫細胞を含む癌治療用組成物、前記免疫細胞を用いた癌治療方法、癌治療のための前記免疫細胞の用途、および癌治療用薬剤の製造のための前記免疫細胞の使用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は、CD99L2タンパク質由来の細胞外ドメインと膜貫通ドメインとを含むキメラ抗原受容体を提供する。
【0013】
本発明はまた、前記キメラ抗原受容体をコードする核酸、前記核酸を含む発現ベクター、前記発現ベクターを含むウイルス及び前記キメラ抗原レセプターを発現する免疫細胞を提供する。
【0014】
本発明はまた、前記免疫細胞を含む癌治療用組成物、前記免疫細胞を用いた癌治療方法、癌治療のための前記免疫細胞の用途、および癌治療用薬剤の製造のための前記免疫細胞の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、CD99L2バックボーンCARの設計および試験管内活性検証結果を示した図である。図1Aは、各CARタンパク質の構造設計の模式図であり(hCD8 L:ヒトCD8aリーダー、αCD19 scFv:抗CD19抗体(クローンFMC63)単鎖可変フラグメント、EC:細胞外領域、TM:膜貫通領域、cyt:細胞質領域)、図1Bおよび図1Eは、CAR-T細胞表面のCARタンパク質の発現レベルを示す図である(グラフ内の数字:細胞の割合(%))。図1C及び図1Fは、各CAR-T細胞のRaji-Lucリンパ腫細胞に対する殺傷力を示したグラフであり(相対光単位(relative light unit):CAR-T細胞と共に一夜培養後に生存Raji-Luc細胞におけるルシフェラーゼ活性値;ET比(エフェクター:標的の割合):共培養されたCAR-T細胞内(エフェクタ)とRaji-Luc細胞(標的)の細胞数の割合)、図1D及び図1Gは、CAR-T細胞およびRaji細胞との共培養後上清液として分泌されたIFN-γの量を示すグラフである。
図2図2は、CD99L2バックボーンCAR-T細胞の活性化の動態分析結果であって、CAR-T細胞およびRaji細胞の共培養時、CD4陽性(図2A)およびCD8陽性(図2B)のCAR-T細胞表面活性化マーカーの発現率の経時変化を用いたフローサイトメトリーの結果である(MFI:mean fluorescent intensity)。
図3図3は、CD99L2バックボーンCAR-T細胞のin vivoにおける腫瘍除去促進効果を示した図であり、NSGマウスに、Raji-Luc細胞を静脈注射した後(0日)、7日目にCAR-T細胞を静脈注射したとき、腫瘍細胞の体内増殖度を、生物発光イメージングで測定した各時間別の代表画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
別途定義されない限り、本明細書で使用する全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術分野における当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。一般に、本明細書において使われた命名法は、本技術分野でよく知られており、通用されるものである。
【0017】
キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor;CAR)は、抗体の抗原認識ドメインを細胞膜ドメインおよび細胞内におけるシグナル伝達ドメインと結合した人為的な受容体である。遺伝子導入によりこの受容体を発現するT細胞(CAR-T細胞)は、抗体ドメインによって腫瘍表面抗原を認識して活性化されることによって、腫瘍を特異的に殺傷する能力を持つことになる。したがって、CAR-T細胞は、抗体の腫瘍標的能とT細胞の腫瘍殺傷能とが結合された抗体遺伝子細胞治療剤として開発されてきており、特に、血液腫瘍に対して優れた治療効果を示すことにより、2種以上のCAR-T細胞治療剤が発売された。しかし、CAR-T細胞療薬は、血液中で腫瘍細胞との遭遇確率の高い血液腫瘍では高い治療効率を示しているが、固形腫瘍に対しては低い効率を示している。したがって、CAR-T細胞治療の固形腫瘍への汎用化のためには、CAR-T細胞の機能が改善されなければならない。CAR-T細胞の機能強化戦略の一環として、CARタンパク質の構造の改変によってより効率的なCARタンパク質を作製しようとするように取り組んでいる。
【0018】
CARバックボーン(backbone)領域は、膜貫通ドメインを含み、新たな細胞膜タンパク質の膜貫通ドメインは、CAR機能の向上に用いられることができる。その対象として、本発明ではCD99L2を用いた。CD99L2(CD99 antigen-like 2)は、CD99ファミリーに属する細胞膜タンパク質であって、CD99ファミリータンパク質は、主に白血球と内皮細胞などに発現することが知られている。機能的に、これらのタンパク質は、細胞接着(cell adhesion)、細胞移動(cell migration)などを促進することが報告されている(Pasello M, et al., J Cell Commun Signal. 2018;12(1):55-68)。特に、CD99L2は、炎症条件下で好中球(neutrophil)、単球(monocyte)、T細胞等の血管外遊出(extravasation)に関与することが報告されている。また、血管内皮細胞で発現するCD99L2が白血球(leukocyte)の血管外遊出に関与する可能性が提示された(Seelige R, et al., J Immunol. 2013;190(3):892-6)。CD99L2はCD99とヘテロ二量体を形成し(Nam G, et al., J Immunol. 2013;191(11):5730-42)、CD99タンパク質は、T細胞共刺激に関与することが報告されており、CD99L2がT細胞活性化に寄与する可能性も存在する(Oh KI, et al., Exp Mol Med. 2007;39(2):176-84)。
【0019】
結果的に、本発明によって、CD99L2領域が導入されたCARタンパク質を設計および作製することにより、T細胞の活性化によって機能が向上したCAR-T細胞という新しい概念を提示しようとする。
【0020】
したがって、本発明は一態様において、
(a)抗原結合ドメイン(antigen binding domain)と、
(b)細胞外結合ドメインと膜貫通ドメイン(transmembrane domain)とを含むバックボーン(backbone)と、
(c)細胞内シグナル伝達ドメイン(intracellular signaling domain)と、
を含むキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor;CAR)であって、
前記細胞外結合ドメインは、CD99L2由来の細胞外ドメイン(extracellular domain)を含み、膜貫通ドメインは、CD99L2由来の膜貫通ドメインを含むことを特徴とするキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor;CAR)に関する。
【0021】
本発明において、「バックボーン(backbone)」とは、細胞外結合ドメイン(extracellular spacer domain)と膜貫通ドメイン(transmembrane domain)とを含む領域を意味する。
【0022】
本発明において、「細胞外結合ドメイン(extracellular spacer domain)」とは、抗原結合ドメインと膜貫通ドメインとを連結する領域を意味する。
【0023】
本発明において、前記細胞外結合ドメインは、CD99L2由来の細胞外ドメイン(extracellular domain)、好ましくは、ヒトCD99L2由来の細胞外ドメインの全部又は一部を含むことができる。前記CD99L2由来の細胞外ドメインは、配列番号10で表されるアミノ酸配列の全部または一部を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0024】
本発明において、前記膜貫通ドメイン(transmembrane domain;TM)は、CD99L2由来の膜貫通ドメイン、好ましくは、ヒトCD99L2由来の膜貫通ドメインの全部または一部を含むことができる。前記CD99L2由来の膜貫通ドメインは、配列番号11で表されるアミノ酸配列の全部または一部を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0025】
また、本発明において、前記キメラ抗原受容体は、CD99L2由来の細胞内ドメイン(intracellular domain)をさらに含むことができる。
【0026】
前記CD99L2由来の細胞内ドメインは、CD99L2由来の細胞内ドメインの全部または一部を含むものであってもよく、好ましくは、配列番号12で表されるアミノ酸配列を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0027】
本発明において、前記細胞外結合ドメインは、ヒンジ(hinge)ドメインをさらに含むことができる。
【0028】
前記ヒンジドメインは、任意のオリゴペプチドまたはポリペプチドからなり、1~100個のアミノ酸残基、好ましくは、10~70個のアミノ酸残基を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0029】
本発明において、前記細胞内シグナル伝達ドメイン(intracellular signaling domain)は、免疫細胞の細胞膜内側、すなわち細胞質に位置するようになる部分であって、細胞外ドメインに含まれる抗原結合ドメインが標的抗原に結合したとき、細胞内に信号を伝達して免疫細胞の免疫応答を活性化する部分を意味する。
【0030】
本発明において、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ゼータ(ζ)、CD3ガンマ(γ)、デルタ(δ)、CD3イプシロン(ε)、FcRγ、FcRβ、CD5、CD22、CD79a、CD79bおよびCD66dからなる群から選択される1つまたは複数の細胞内シグナル伝達ドメインであることが好ましいが、これらに限定されるものではなく、より好ましくは、CD3ゼータ(ζ)であってもよい。本発明のCD3ゼータ(ζ)の細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号13または配列番号13の配列の14番目のアミノ酸残基のグルタミン(Q)残基がリジン(K)に置換された配列番号14のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有することができるが、これに限定されるものではない。
【0031】
また、本発明に係る細胞内シグナル伝達ドメインは、追加的に共刺激(co-stimulatory)ドメインを含むことができるが、これに限定されるものではない。本発明による共刺激(co-stimulatory)ドメインは、CD2、CD7、CD27、CD28、CD30、CD40、4-1BB(CD137)、OX40(CD134)、ICOS、LFA-1、GITR、MyD88、DAP1、PD-1、LIGHT、NKG2C、B7-H3およびCD83リガンドからなる群から選択される1つ以上の共刺激ドメインが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0032】
好ましくは、本発明に係る細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号13又は配列番号14で表されるアミノ酸配列を含むCD3ゼータ(ζ)の細胞内シグナル伝達ドメインと、配列番号15で表されるアミノ酸配列を含む4-1BBの共刺激ドメインとを含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0033】
特に、本発明によるキメラ抗原受容体は、1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメインと、1つ以上の共刺激ドメインと、を含むことができる。
【0034】
本発明によるキメラ抗原受容体に1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメインと、1つ以上の共刺激ドメインとが含まれる場合には、1つ以上の共刺激ドメインと、1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメインとは、互いに直列に連結されることができる。この場合、各ドメインは、直接連結するか、または選択的にまたは2つ~10つのアミノ酸残基からなるオリゴペプチドリンカーまたはポリペプチドリンカーを介して連結されていてもよく、好ましくは、かかるリンカー配列として、グリシン-セリン連続配列が挙げられる。
【0035】
本発明において、前記キメラ抗原受容体は、T細胞の免疫機能促進因子をさらに含むことができ、T細胞の免疫機能促進因子としては、IL-7(interleukin 7)、IL-12、IL-15、IL-18、IL-21またはCCL-19を挙げられるが、これらに限定されるものではない。T細胞の免疫機能促進因子に関してWO2016/056228Aを参照することができる。
【0036】
本発明において、前記キメラ抗原受容体は、JAK結合モチーフおよびSTAT3/5結合モチーフを含むインターロイキン受容体鎖(interleukin receptor chain)をさらに含むことができ、IL-2Rβが挙げられるが、これに限定されるものではない。これに関連して、WO2016/127257Aを参照することができる。
【0037】
第1世代CARでは、癌細胞において特異的に発現する抗原認識領域を含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内シグナル伝達ドメインを含み、シグナル伝達ドメインとしてCD3ζのみを用いたが、癌に対する治療効果が微々たるものであったし、持続時間が短いという問題があった。このような第1世代CARは、米国特許第6,319,494号に具体的に記載されており、本発明に参照として組み込まれる。
【0038】
免疫細胞に対する反応性向上のために共刺激ドメイン(CD28またはCD137/4-1BB)とCD3ζとを結合した第2世代CARが製造されたが、第1世代CARと比較して体内に残存するCAR含む免疫細胞の数が著しく増加した。第2世代CARは、1つの共刺激性ドメインを用いたことに対し、第3世代CARでは2つ以上の共刺激性ドメインを用いた。生体内CARを含む免疫細胞の増殖および持続性を達成するために、共刺激ドメインを4-1BB、CD28またはOX40などと結合させることができる。第2世代CARは、米国特許第7,741,465号、第7,446,190号または第9,212,229号に具体的に記載されており、3世代CARは、米国特許第8,822,647号に具体的に記載されており、本発明に参照として組み込まれる。
【0039】
第4世代CARでは、IL-12又はIL-15などのサイトカインをコードする追加の遺伝子を含み、サイトカインのCARベースの免疫タンパク質が更に発現可能にし、第5世代CARは、免疫細胞を強化するために、インターロイキン受容体鎖、例えば、IL-2Rβをさらに含む。第4世代CARは、米国特許第10,316,102号、第5世代CARは、米国特許第10,336,810号に具体的に記載されており、本発明に参照として組み込まれる。
【0040】
本発明において、抗原結合ドメインは、下記の群から選択される抗原に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメント(antigen binding fragment)を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0041】
4-1BB、B cell maturation antigen(BCMA)、B-cell activating factor(BAFF)、B7-H3、B7-H6、carbonic anhydrase 9(CA9;またはCAIXまたはG250として知られている)、cancer/testis antigen 1B(CTAG1B;またはNY ESO-1またはLAGE2Bとして知られている)、carcinoembryonic antigen(CEA)、サイクリン(cyclin)、cyclin A2、cyclin B1、C-C Motif Chemokine Ligand 1(CCL-l)、CCR4、CD3、CD4、CD19、CD20、CD22、CD23、CD24、CD30、CD33、CD38、CD40、CD44、CD44v6、CD44v7/8、CD52、CD58、CD62、CD79A、CD79B、CD80、CD123、CD133、CD138、CD171、chondroitin sulfate proteoglycan 4(CSPG4)、claudin-18(CLDN18)、CLDN6、cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4(CTLA-4)、tyrosine-protein kinase Met(c-Met)、DLL3、epidermal growth factor receptor(EGFR)、truncated epidermal growth factor receptor(tEGFR)、type III epidermal growth factor receptor mutation(EGFRvIII)、epithelial glycoprotein 2(EPG-2)、epithelial glycoprotein 40(EPG-40)、エフリン(ephrin) B2、ephrin receptor A2(EPHA2)、エストロゲン受容体(estrogen receptor)、Fc受容体(Fc receptor)、Fc receptor like 5(FCRL5;またはFe receptor homolog 5またはFCRH5として知られている)、fibroblast growth factor 23(FGF23)、folate binding protein(FBP)、folate receptor alpha(FOLR1)、folate receptor beta(FOLR2)、GD2(ganglioside GD2、O-acetylated GD2(OGD2))、ガングリオシド(ganglioside) GD3、glycoprotein 100(gp100)、glypican-3(GPC3)、G Protein Coupled Receptor 5D(GPCR5D)、granulocyte-macrophage colony-stimulating factor(GM-CSF)、Her2/neu(receptor tyrosine kinase erb-B2)、Her3(erb-B3)、Her4(erb-B4)、erbB dimers、Human high molecular weight melanoma-associated antigen(HMW-MAA)、hepatitis B surface antigen(HBsAg)、Human leukocyte antigen A1(HLA-A1)、Human leukocyte antigen A2(HLA-A2)、IL-22 receptor alpha(IL-22Ra)、IL-13 receptor alpha 2(IL-13Ra2)、inducible T-cell costimulator(ICOS)、insulin-like growth factor 1 receptor(IGF-1受容体(receptor))、インテグリン(integrin) αvβ6、インターフェロン受容体(interferon receptor)、IFNγ receptor(IFNγR)、interleukin-2 receptor(IL-2R)、interleukin-4 receptor(IL-4R)、interleukin-5 receptor(IL-5R)、interleukin-6 receptor(IL-6R)、interleukin-17 receptor A(IL-17RA)、interleukin-31 receptor(IL-31R)、interleukin-36 receptor(IL-36R)、kinase insert domain receptor(KDR)、L1 cell adhesion molecule(L1-CAM)、L1-CAMのCE7エピトープ(CE7 epitope of L1-CAM)、Leucine Rich Repeat Containing 8 Family Member A(LRRC8A)、Lewis Y、lymphocyte-activation gene 3(LAG3)、Melanoma-associated antigen(MAGE)Al、MAGEA3、MAGEA6、MAGEAlO、mesothelin(MSLN)、murine cytomegalovirus(CMV)、mucin 1(MUC1)、natural killer group 2 member D(NKG2D)リガンド(ligands)、melan A(MART-l)、nerve growth factor(NGF)、neural cell adhesion molecule(NCAM)、neuropilin-1(NRP-1)、neuropilin-2(NRP-2)、癌胎児性抗原(oncofetal antigen)、PD-L1、Preferentially expressed antigen of melanoma(PRAME)、プロゲステロン受容体(progesterone receptor)、前立腺特異抗原(prostate specific antigen)、prostate stem cell antigen(PSCA)、prostate specific membrane antigen(PSMA)、receptor activator of nuclear factor kappa-βligand(RANKL)、receptor tyrosine kinase like orphan receptor 1(ROR1)、SLAM family member 7(SLAMF7)、survivin、trophoblast glycoprotein(TPBG;また5T4として知られている)、tumor-associated glycoprotein 72(TAG72)、tyrosine related protein 1(TRP1;またTYRP1またはgp75)、tyrosine related protein 2(TRP2;またdopachrome tautomerase、dopachrome delta-isomeraseまたはDCTとして知られている)およびウィルムス腫瘍(Wilms Tumor 1;WT1)。
【0042】
本発明において、抗体の「フラグメント」とは、抗原結合機能を有している断片を意味し、scFv、Fab、F(ab')2、Fv及びナノボディ(nanobody)断片などを含む意味で使用される。
【0043】
「単鎖(一本鎖)Fv」または「scFv(single chain variable fragment)」抗体断片は、抗体のVH及びVLドメインを含み、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖内に存在する。Fvポリペプチドは、scFvが抗原結合のために、目的とする構造を形成できるようにするVHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーをさらに含むことができる。
【0044】
「Fv」フラグメントは、完全な抗原認識および結合領域を含む抗体断片である。このような領域は、1個の重鎖可変ドメインと1個の軽鎖可変ドメインが、例えばscFvでしっかりと事実上共有結合的に会合した二量体からなる。
【0045】
「Fab」フラグメントは、軽鎖の可変および定常ドメインと、重鎖の可変ドメインおよび第1定常ドメイン(CH1)を含む。「F(ab')2」抗体断片は、一般に、それらの間にヒンジシステインによってそれらのカルボキシ末端付近に共有結合される一対のFab断片を含む。
【0046】
「ナノボディ(nanobody)」は、単量体可変抗体ドメイン(monomeric variable antibody domain)を含有する断片である。主に単量体重鎖のみで標的特異性を示すラクダ等の抗体ドメインに由来する低分子量の断片から構成される。
【0047】
本発明において、前記抗原結合フラグメントは、抗体の単鎖可変フラグメント(single chain variable fragment;scFv)又はナノボディ(nanobody)であることができる。
【0048】
本発明において、抗原結合ドメインは、好ましくは、抗CD-19抗体またはscFvを含むことを特徴とすることができ、前記抗CD-19抗体のscFvは、配列番号8で表されるアミノ酸配列を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0049】
本発明において、前記キメラ抗原レセプターは、抗原結合ドメインのN末端に追加的にシグナルペプチド(signal peptide;SP)を含むことができる。本発明において、前記シグナルペプチドは、CD8α、GM-CSF受容体α、Ig-kappaおよびIgG1重鎖からなる群から選択される分子に由来することができるが、これに限定されるものではなく、好ましくは、CD8αシグナルペプチドであってもよく、CD8αシグナルペプチドは、配列番号7で表されるアミノ酸配列を含むことができる。
【0050】
好ましい例示として、本発明によるキメラ抗原受容体は、
配列番号10で表されることを特徴とするCD99L2由来の細胞外ドメイン、および配列番号11で表されることを特徴とするCD99L2由来の膜貫通ドメインと、
配列番号12で表されることを特徴とするCD99L2由来の細胞内ドメインと、
を含むことができる。
【0051】
また、さらに、
配列番号15で表示されることを特徴とする4-1BB共刺激ドメインと、
配列番号13又は配列番号14で表されることを特徴とするCD3ゼータ(ζ)の細胞内シグナル伝達ドメインと、および/または
配列番号7で表示されることを特徴とするCD8シグナルペプチドを含むことができるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
本発明において、たとえば、CD19に対する抗原結合領域を含むキメラ抗原受容体は、配列番号2または配列番号3で表されるアミノ酸配列又は該アミノ酸配列80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するその変異体を含むものであってもよい。
【0053】
本発明は他の態様において、前記キメラ抗原受容体をコードする核酸に関する。
【0054】
本発明の用語「核酸」は、DNA(gDNAおよびcDNA)およびRNA分子を包括的に含む意味を有し、核酸における基本構成単位のヌクレオチドは、天然のヌクレオチドだけでなく、糖または塩基領域が変形された類似体(analogue)も含む。本発明のキメラ抗原受容体または各ドメインをコードする核酸の配列を改変することができる。前記改変は、ヌクレオチドの付加、欠失、または非保存的置換もしくは保存的置換を含む。
【0055】
本発明によるキメラ抗原受容体をコードする核酸(ポリヌクレオチド)は、コドン最適化により改変されることができ、これはコドンの縮重(degeneracy)に起因しており、ポリペプチド、又はそれらの変異体断片をコードする多くのヌクレオチド配列が存在することは、当業者が十分に理解できるはずである。これらのポリヌクレオチド(核酸)の一部は、任意の天然型遺伝子のヌクレオチド配列に対して最小の相同性を有する。特に、コドン使用法の相違により可変的なポリヌクレオチド、例えばヒト、霊長類及び/又は哺乳動物のコドンの選択に最適化されたポリヌクレオチドが好ましい。
【0056】
本発明において、前記キメラ抗原受容体をコードする核酸は、
配列番号19で表示されることを特徴とするCD99L2由来の細胞外ドメインをコードするヌクレオチド配列と、
配列番号20で表されることを特徴とするCD99L2由来の膜貫通ドメインをコードするヌクレオチド配列と、
を含み、
さらに、配列番号21で表示されることを特徴とするCD99L2由来の細胞内ドメインをコードするヌクレオチド配列と、
配列番号25又は配列番号26で表されることを特徴とする4-1BB共刺激ドメインをコードするヌクレオチド配列と、
配列番号22、配列番号23または配列番号24で表されることを特徴とするCD3ゼータ(ζ)の細胞内シグナル伝達ドメインをコードするヌクレオチド配列と、および/または
配列番号16で表されることを特徴とするCD8シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列と、を含むことができるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
好ましくは、配列番号17で表されることを特徴とする抗CD-19抗体の単鎖可変フラグメント(scFv)をコードするヌクレオチド配列をさらに含むことができる。
【0058】
本発明の一例として、前記キメラ抗原受容体をコードする核酸は、配列番号5又は配列番号6で表されるヌクレオチド配列またはこのヌクレオチド配列と少なくとも80%、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する変異体を含むものであってもよい。
【0059】
本発明はまた他の態様において、このような核酸を含む発現ベクター、および前記発現ベクターを含むウイルスに関する。
【0060】
本発明の用語「ベクター」とは、他の核酸分子を転移または輸送することができる核酸分子を意味するものである。転移された核酸は、一般に、ベクター核酸分子と結合されるが、例えば、ベクター核酸分子内に挿入される。ベクターは、細胞での自律複製を指示する配列を含むことができるか、宿主細胞DNAへの組み込みを可能にするのに十分な配列を含むことができる。ベクターは、DNA、RNA、プラスミド、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、及びレトロウイルスベクターからなる群から選択されることができるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
本発明において、前記核酸または前記ベクターは、ウイルス産生細胞(packaging cell line)に形質感染又はトランスフェクション(transfection)される。「形質感染」または「トランスフェクション」させるために、原核または真核宿主細胞への外因性核酸(DNAまたはRNA)を導入するのに通常使用される種々の多様な技術、例えばエレクトロポレーション(electroporation)、リン酸カルシウム沈殿法、DEAE-デキストラントランスフェクション又はリポフェクション(lipofection)などを用いることができる。
【0062】
本発明において、ウイルス産生細胞から産生されたウイルスは、免疫細胞に形質導入(transduction)される。細胞内に「形質導入」されたウイルスの核酸は、細胞のゲノムに挿入されるか、あるいは挿入されないままキメラ抗原受容体タンパク質を産生するのに使用される。
【0063】
本発明はまた別の態様において、前記キメラ抗原受容体を表面に発現する免疫細胞に関する。
【0064】
本発明において、前記免疫細胞は、T細胞、NK細胞、NKT細胞またはマクロファージであってもよいが、これに限定されるものではなく、好ましくはT細胞であることができる。
【0065】
本発明によるキメラ抗原レセプターを発現する免疫細胞は、CAR-T細胞(Chimeric Antigen Receptor T Cell)、CAR-NK細胞(Chimeric Antigen Receptor Natural Killer Cell)、CAR-NKT細胞(Chimeric Antigen Receptor Natural killer T Cell)又はCAR-マクロファージ(Chimeric Antigen Receptor Macrophage)であることができる。
【0066】
本発明において、前記T細胞は、CD4陽性T細胞、CD8陽性細胞傷害性Tリンパ球(Cytotoxic T lymphocyte;CTL);ガンマ・デルタT細胞;腫瘍浸潤リンパ球(Tumor infiltrating lymphocyte;TIL)、および末梢血単核細胞(Peripheral blood mononuclear cell;PBMC)から単離したT細胞からなる群から選択されることを特徴とする。
【0067】
本発明は、さらに別の態様において、前記キメラ抗原レセプターを発現する免疫細胞(例えば、T細胞)を含む癌治療用組成物に関する。
【0068】
本発明において、「癌」及び「腫瘍」は、同じ意味で使用され、典型的には調節されない細胞成長/増殖を特徴とする哺乳動物における生理学的状態を指す、又は意味する。
【0069】
本発明のCARで治療し得る癌としては、血管新生された腫瘍のみならず、血管新生されないか、またはまだ実質的に血管新生されていない腫瘍を含む。前記癌は、非固形腫瘍(例えば、血液学的腫瘍、例えば白血病およびリンパ腫)を含んでもよく、または固形腫瘍を含むことができる。本発明のCARで治療することができる癌の類型には、癌腫、芽細胞腫、及び肉腫、及び特定の白血病又はリンパ性悪性腫瘍、良性および悪性腫瘍、例えば、肉腫、癌腫、および黒色腫が挙げられるが、これらに限定されない。成人腫瘍・癌及び小児腫瘍・癌も含まれる。
【0070】
血液癌は、血液または骨髄の癌である。血液癌(又は造血器悪性腫瘍)の例としては、急性白血病(例えば、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病及び骨髄芽細胞性、前リンパ球性、骨髄単球性、単球性および赤白血病)、慢性白血病(例えば、慢性リンパ球(顆粒球性)白血病、慢性骨髄性白血病、および慢性リンパ性白血病)、真性赤血球増加症、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(遅延型および高い段階の形態)、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症(Waldenstroem(Waldenstrom's macroglobulinemia)、重鎖疾患、骨髄異形成症候群、ヘアリー細胞白血病及び骨髄異形成症候群を含めた白血病が挙げられる。
【0071】
固形腫瘍は、一般的に嚢胞または液体部分を含まない異常な組織の塊である。固形腫瘍は、良性または悪性であり得る。異なるタイプの固形腫瘍は、それら(例えば、肉腫、癌腫およびリンパ腫)を形成する細胞のタイプについて命名されている。肉腫および癌腫などの固形腫瘍の例としては、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、および他の肉腫、滑膜腫(synovioma)、中皮腫(mesothelioma)、ユーイング(Ewing)肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、直腸癌、リンパ性悪性腫瘍、大腸癌、胃癌、膵臓癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、喉頭癌、肝細胞性癌腫、扁平細胞癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、髄様甲状腺癌、乳頭状甲状腺癌、褐色細胞腫、脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、髄様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝腫瘍、胆管癌、絨毛癌、ウィルムス腫瘍(Wilms' tumor)、子宮頚癌、精巣腫瘍、セミノーマ(seminoma)、膀胱癌、メラノーマ、および中枢神経(CNS)系癌(例えば、神経膠腫(例えば、脳幹神経膠腫および混合性神経膠腫)、膠芽細胞腫(多形性膠芽細胞腫としても知られる)、星状膠腫、CNSリンパ腫、胚細胞腫、髄芽腫、神経鞘腫(Schwannoma)、頭蓋咽頭腫(craniopharyogioma)、上衣腫(ependymoma)、松果体腫(pinealoma)、血管芽腫、聴神経腫(acoustic neuroma)、乏突起膠腫(oligodendroglioma)、髄膜腫、神経芽細胞腫、網膜芽腫及び脳転移)が挙げられる。
【0072】
本発明の治療組成物は、癌の予防または治療のための組成物であって、本発明の用語「予防」は、本発明の組成物の投与により癌を抑制したり進行を遅延させる全ての行為を意味し、「治療」は、癌進展の抑制、症状の軽減または消失を意味する。
【0073】
本発明によるキメラ抗原レセプターを発現する免疫細胞を含む薬学的組成物には、薬学的に許容される賦形剤をさらに含むことができる。かかる賦形剤は、例えば、界面活性剤、好ましくは、ポリソルベート系非イオン性界面活性剤、中性緩衝食塩水、リン酸緩衝生理食塩水等の緩衝液;グルコース、マンノース、スクロースまたはデキストラン、マンニトール等の糖または糖アルコール類;グリシン、ヒスチジン等のアミノ酸やタンパク質またはポリペプチド;酸化防止剤;EDTAまたはグルタチオンなどのキレート剤、例えば、浸透剤;及び助剤及び保存剤が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0074】
本発明の組成物は、ヒトを除いた哺乳動物に投与された後、活性成分の速放、持続放出または徐放を提供できるように当業界に公知の方法を使用して製剤化することができる。剤形は、粉末、顆粒、錠剤、エマルジョン、シロップ、エアゾール、軟質または硬質ゼラチンカプセル、滅菌注射溶液、滅菌粉末の形態であってもよい。
【0075】
本発明はさらに他の態様において、前記キメラ抗原受容体を発現する免疫細胞を被験体に投与する段階を含む、癌を治療する方法に関する。
【0076】
また、本発明は、癌治療のための前記免疫細胞の使用に関する。
【0077】
また、本発明は、癌治療用薬剤の製造のための前記免疫細胞の使用に関する。
【0078】
前記被験体は、腫瘍を有する哺乳類であってよく、具体的にはヒトであり得るが、これに限定されるものではない。
【0079】
本発明によるキメラ抗原レセプターを発現する免疫細胞またはそれを含む組成物は、経口投与、注入(infusion)、静脈内投与(intravenous injection)、筋肉内投与(intramuscular injection)、皮下投与(subcutaneous injection)、腹腔内投与(intraperitoneal injection)、直腸内投与(Intrarectal administration)、局所投与(topical administration)、鼻腔内投与(intranasal injection)等で投与することができるが、これらに限定されるものではない。
【0080】
活性成分の投与量は、投与経路、患者の年齢、性別、体重及び重症度等の種々の因子により適宜選択されることができ、本発明による治療用組成物は、癌の症状を予防、改善または治療する効果を有する公知の化合物と並行して投与することができる。
【0081】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されるものと解釈されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0082】
実施例1:材料および方法
【0083】
実施例1-1:マウスおよび細胞株
【0084】
免疫不全NSGマウスは、Jackson laboratory社から購入した。Rajiリンパ腫細胞は、ATCC社から購入した。
【0085】
実施例1-2:CAR発現用レンチウイルスベクターの作製
【0086】
CD19標的CD8バックボーンCAR(h19BBz)ORF cDNAは、既存に公開の配列どおりに(米国公開特許公報US2013/0287748A1)DNA合成を依頼して作製した(Integrated DNA Technologies社)。CD19標的CD99L2バックボーンCAR ORF cDNA(FL2LBBz、FL2PBBz)は、NCBIデータベースのヒトCD99L2 ORF配列(NM_031462.4)からCD99L2の幾つかの細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、ならびに細胞内ドメインの配列を抜粋してヒト41BBの細胞内ドメイン、ヒトCD3ゼータ鎖細胞内ドメイン配列と、コドン最適化およびDNA合成(Integrated DNA Technologies社)によって連結した後、再び抗CD19 scFv(clone FMC63)とPCRによって連結して作製した。CAR発現用レンチウイルスベクターは、pCDH-EF1(Addgene # 72266)ベクターを一部変形して使用したし、各CAR ORF cDNAをBamHI/SalI制限酵素領域にクローニングして製作した。各CARタンパク質のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、下記の表1及び表2に記載の通りである。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
前記CARタンパク質を構成する各ドメインのアミノ酸およびヌクレオチド配列は、下記の表3及び表4に記載の通りである。
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
実施例1-3:CAR発現用レンチウイルスの産生
【0093】
各レンチウイルスプラスミド(Lentiviral plasmid)をLipofectamin 3000(Invitrogen社製)を用いてパッケージングDNA3種(pMD.2G、pMDLg/pRRE、pRSV-rev)と共に293T細胞株(ATCC社製)に形質感染(transfection)した後、24~48時間の間分泌したレンチウイルスが含まれた培養上清液を回収して濾過し(0.45μmフィルター)細胞内に残存する粒子を除去し、超高速遠心分離機を用いて100倍濃縮した後CAR-T細胞作製のためのレンチウイルス濃縮液として使用した。
【0094】
実施例1-4:CAR-T細胞の作製
【0095】
健常者から白血球アフェレーシス(leukapheresis)を通じて得られた白血球にTransAct reagent(10μl/ml、Miltenyi社製)を加えた後、ヒトIL-7(12.5ng/ml、Miltenyi社製)とヒトIL-15(12.5ng/ml、Miltenyi社製)とを含む培地(Miltenyi社製)中で24時間培養してT細胞を活性化させた。活性化されたT細胞を2回洗浄後、レンチウイルス濃縮液を加え、ヒトIL-7とヒトIL-15とを含む培地にて2日間培養してレンチウイルス形質導入(transduction)を施した。形質導入されたT細胞を、2回洗浄した後、ヒトIL-7とヒトIL-15とを含む新鮮な培地に移し、9日間2~3日間隔で培地を交換しながら増殖させてCAR-T細胞として使用した。細胞表面のCARタンパク質の発現は、最終的に増殖されたCAR-T細胞を、ビオチン標識された抗FMC63抗体(ACROBiosystems社製)と、PE標識されたストレプトアビジン(BD Biosciences社製)で染色した後、フローサイトメトリー(flow cytometry)(FACS-CantoII、BD Biosciences社製)で測定した。
【0096】
実施例1-5:ルシフェラーゼ発現Raji細胞(Raji-Luc)の作製
【0097】
ルシフェラーゼを細胞内に人工的に発現させるために、ルシフェラーゼとGFPを同時発現することができるレンチウイルスベクターを作製した。EF1αプロモーター下でマルチクローニング領域(multi-cloning site)を有するとともに、CMVプロモーター下で、GFPがクローニングされている2シストロン性レンチウイルスベクター(biscistronic lentiviral vector)(pLECE3)(Lee SH, et al., PLoS One. 2020;15(1):e0223814)のマルチクローニング領域にpGL3-basic plasmid(Promega社製)から切断して抽出したホタルルシフェラーゼORF cDNAをクローニングしてpLECE3-Lucベクターを作製した。pLECE3-luc plasmidを3種のレンチウイルスパッケージングプラスミド(pMDLg/pRRE、pRSVrev、pMD.G)と共にレンチウイルスパッケージング細胞株(293FT cell、Invitrogen社製)にLipofectamin 2000 reagentを用いて形質導入し、24~48時間後、分泌されたレンチウイルスが含まれた培養上清液を回収して遠心濾過装置を用いて10倍濃縮した。レンチウイルス濃縮液をRaji細胞に加え、polybrene(6μg/ml、Sigma-Aldrich社製)存在下、常温で2500rpm、90分間遠心分離して形質導入した。形質導入されたRaji細胞中のGFP陽性細胞をフローサイトメーター(FACS-Aria II、BD Biosciences社製)を使用して分離精製して、Raji-Luc細胞として使用した。
【0098】
実施例1-6:CAR-T細胞の腫瘍殺傷能およびIFN-γ分泌能の測定
【0099】
レンチウイルス形質導入後9日間増殖したCAR-T細胞(1.2×103~7.5×105cells/100100μL/well)を、Raji-Luc細胞(3×104cells/50100μL/well)に様々な割合(0.2~25:1)で加えて96ウェルプレートで一晩共培養(co-culture)した後、D-Luciferin(600μg/ml、Promega社製)50μlを加えた後、37℃で10分間培養し、それまで生存したRaji-Luc細胞におけるルシフェラーゼ酵素作用を誘発した。これらの細胞の発光度をルミノメーター(Tecan社製)を用いて測定し、CAR-T細胞は、未処理Raji-Luc細胞の発光と比較しての腫瘍細胞の生存率を計算することにより、CAR-T細胞の腫瘍殺傷能を計測した。
【0100】
CAR-T細胞の活性化程度を測定するために、CAR-T細胞およびRaji細胞を同数で(3×104cells)混合して96ウェルプレートで24時間共培養した後、培養上清液を回収した。上清液として分泌されたIFN-γの量をELISA法(human IFN-γ ELISA kit、BD Biosciences社製)で測定した。
【0101】
実施例1-7:CAR-T細胞の活性化マーカーの分析
【0102】
各CAR-T細胞の活性化程度を比較するために、レンチウイルスの形質導入後9日間増殖したCAR-T細胞(1×105cells/20040μl/ウェル)を放射線照射(2000rad)によって増殖を抑制させたRaji細胞(2×104cells/200100μL/well)と混合して96ウェルプレートで3日間共培養(co-culture)した。共培養の間、24時間ごとに細胞を収穫し、抗CD69抗体(FN50、BD Horizon社製)、抗CD44抗体(IM7、Invitrogen社製)、抗CD25抗体(M-A251、BioLegend社製)、抗CD4抗体(RPA-T4、BD Pharmigen社製)、抗CD8抗体(RPA-T8、BD Pharmigen社製)、及び前記抗FMC63 scFv抗体(Y45、ACROBiosystems社製)で細胞表面を染色してフローサイトメトリー(flow cytometry)(FACS-LSRII、BD Bioscience社製)で蛍光強度を測定した。
【0103】
実施例1-8:CAR-T細胞のin vivo効果の評価
【0104】
免疫不全NSGマウスに、Raji-Luc細胞(マウス当たり5×105cells)を静脈注射してから7日後、レンチウイルス形質導入後9日間増殖したCAR-T細胞(マウス当たり1×106cells)を静脈内注射した。次に、周期的にD-Luciferin(マウス当たり2mg、Promega社製)を腹腔注射した後に生物発光イメージング装置(IVIS、Perkin Elmer社製)によって生物発光度を測定することにより腫瘍量(tumor burden)の変化を観察した。
【0105】
実施例2:CD99L2バックボーンCAR-T細胞の作製および活性の分析
【0106】
ヒトCD19標的CD8バックボーンCARのCD8細胞外ドメイン及び膜貫通ドメインをCD99L2の一部の領域で置換したCARタンパク質を作製した。CD99L2タンパク質領域としては、CD99L2の幾つかの細胞外ドメインと膜貫通ドメインを用いるか(FL2PBBz)、これに加えて、細胞内ドメインまで追加した領域を使用するコンストラクト(FL2LBBz)を作製した(図1A)。これらのCD19標的CD99L2バックボーンCARのcDNAを搭載したレンチウイルスを作製した後、ヒト末梢血から単離したT細胞に導入してそれぞれのCAR-T細胞を作製した。これらのCAR-T細胞におけるCARタンパク質の発現率を、フローサイトメトリーにより測定した結果、FL2PBBzに比べてFL2LBBz CARタンパク質が顕著に高い発現率を示したが、CD4T細胞およびCD8T細胞(図1B、下パネルのCD4陰性T細胞)の全部で確認された(図1B)。次いで、これらのCAR-T細胞の腫瘍殺傷能を確認するために、ヒトCD19良性リンパ腫細胞である、Raji細胞との共培養の結果、FL2LBBz CAR-T細胞の腫瘍殺傷力が、FL2PBBz CAR-T細胞に比して優れていることを確認した(図1C)。それに合致するように、腫瘍細胞との共培養する際に、CAR-T細胞の活性化によって分泌されるIFN-γの量を測定した結果、FL2PBBz CAR-T細胞に比べてFL2LBBz CAR-T細胞のIFN-γ分泌量が非常に多いことを確認した(図1D)。したがって、FL2LBBz CAR-T細胞をCD99L2バックボーンCARに選定して、今後の研究を進めている。
【0107】
FL2LBBz CAR-T細胞のインビトロでの腫瘍殺傷能とIFN-γ産生能を、既存のCD8バックボーンCAR-T細胞(h19BBz)と比較するために、2つのCAR-T細胞を作製した結果、h19BBz CARに比べてFL2LBBz CAR-T細胞における細胞当たりのCAR発現率(平均蛍光強度(mean florescence intensity))が若干低いことが確認された(図1E)。しかし、腫瘍細胞に対する殺傷能は、両CAR-T細胞が類似した程度を示し、IFN-γ分泌の場合、FL2LBBz CAR-T細胞がh19BBzと比較して一部向上した分泌能を示すことが確認された(図1F及び図1G)。したがって、CD99L2バックボーンCAR-T細胞は、既存CD8バックボーンCAR-T細胞と類似するか、一部向上したin vitro活性を示すことが確認された。
【0108】
実施例3:CD99L2 backbone CAR-T細胞の活性化マーカーの分析
【0109】
CD99L2バックボーンCAR-T細胞の腫瘍による活性化程度をより詳しく観察するために、T細胞活性化時に増加される細胞表面活性化マーカー(CD69、CD44、CD25)の経時的な発現を、フローサイトメトリーにより測定した。
【0110】
その結果、CD99L2バックボーンCAR-T細胞において、CD69、CD44、CD25の経時的な発現増加率が、CD8バックボーンCAR-T細胞と比較して顕著に高いことが、CD4CAR-T細胞(図2A)およびCD8CAR-T細胞(図2B)の両方で確認された。したがって、CD99L2バックボーンCAR-T細胞は、抗原刺激後の経時的な活性化程度がCD8バックボーンCAR-T細胞に比べて非常に優れていることが証明された。
【0111】
実施例4:CD99L2バックボーンCAR-T細胞のin vivo抗腫瘍効果の分析
【0112】
CD99L2バックボーンCAR-T細胞のin vivo効果を試験するために、免疫不全マウス(NSG mice)にルシフェラーゼ発現Rajiリンパ腫細胞を静脈内注射した後7日目に同数のCD8バックボーンCAR-T細胞とCD99L2バックボーンCAR-T細胞を静脈内注射して、両CAR-T細胞の治療の効力を生物発光イメージング(bioluminescence Imaging)で分析した。
【0113】
その結果、CD8バックボーンCAR-T細胞は、低い効力を示す細胞用量で、CD99L2バックボーンCAR-T細胞の場合は、顕著な腫瘍除去効力を示すことが確認された(図3)。
【0114】
つまり、CD99L2バックボーンCAR-T細胞は、既存のCAR-T細胞よりも大幅に向上した活性およびin vivo抗腫瘍効力を示すことが確認されたので、CARバックボーン領域に新たな活性化機能性を付与する新概念のCARコンストラクトの開発を示唆する。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明では、CD99ファミリーに属する細胞膜タンパク質のうち、CD99L2(CD99 antigen-like 2)のT細胞活性化機能を確認し、CD99L2の細胞外ドメインと膜貫通ドメインとをバックボーン(backbone)として含む新しいキメラ抗原受容体を作製した。このようなCD99L2ベースCAR-T細胞は、既存のバックボーンを有するCAR-T細胞に比べて向上したT細胞活性および腫瘍治療効果を示すので、癌治療のための兔疫細胞の治療に有用に用いられることができる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2
図3
【配列表】
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【国際調査報告】