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特表2024-532409定常ドメインを有する抗体プロドラッグ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】定常ドメインを有する抗体プロドラッグ
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/00 20060101AFI20240829BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240829BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240829BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240829BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240829BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240829BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240829BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240829BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240829BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240829BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240829BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240829BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240829BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240829BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240829BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240829BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20240829BHJP
【FI】
C07K16/00 ZNA
C07K16/46
C07K19/00
C12N5/10
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N1/19
C12N1/15
C12N1/21
A61P43/00 123
A61P35/00
A61P37/06
A61P31/00
A61K47/68
A61K39/395 T
A61K35/17
C12N5/0783
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513315
(86)(22)【出願日】2022-08-23
(85)【翻訳文提出日】2024-04-19
(86)【国際出願番号】 CN2022114310
(87)【国際公開番号】W WO2023025156
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/114121
(32)【優先日】2021-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524069695
【氏名又は名称】コンセプト トゥー メディシン バイオテック カンパニー, リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】524068414
【氏名又は名称】レプ バイオファーマ カンパニー, リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ファン, レイ
(72)【発明者】
【氏名】シェン, ハオ
(72)【発明者】
【氏名】ゼン, ペン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC03
4C076CC27
4C076CC31
4C076CC42
4C076EE59
4C085AA14
4C085BB01
4C085BB12
4C085BB22
4C085BB50
4C085CC01
4C085CC31
4C085DD62
4C085EE01
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087CA04
4C087NA05
4C087NA13
4C087ZB08
4C087ZB26
4C087ZB31
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
(57)【要約】
必要に応じて切断可能なリンカーを通じて抗体の1つまたは複数の鎖と結合した免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域、例えばCH3またはバリアントを含む抗体プロドラッグが提供される。定常ドメインおよびバリアントが、抗体の活性を阻害する有効かつ安全なマスキング部分としての機能を果たすことが見いだされる。処置標的組織において、例えば対応する酵素によって抗体から除去されると、抗体プロドラッグから活性な抗体が放出される。そのような酵素が存在しない組織では、抗体プロドラッグは不活性なままであり、それにより、そのような組織における有害作用が回避される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(b)免疫グロブリンスーパーファミリー可変領域に共有結合で結合した(a)免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域またはその断片を含む分子であって、前記可変領域が、前記定常領域と結合していないときは標的分子に結合することができるが、前記定常領域の前記可変領域への結合により、そのような結合が阻害される、分子。
【請求項2】
前記定常領域が、(a)前記可変領域のN末端と融合している、または(b)前記可変領域とコンジュゲートしている、請求項1に記載の分子。
【請求項3】
前記免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域のN末端側には追加の免疫グロブリンスーパーファミリー可変領域を含まない、請求項1または2に記載の分子。
【請求項4】
前記定常領域が、IgG CH3、IgG CH2、IgG CH1、IgG CL、およびT細胞受容体(TCR)定常領域からなる群から選択され、CH3であることが好ましい、請求項1から3のいずれか一項に記載の分子。
【請求項5】
前記可変領域が、重鎖可変領域(VH)、軽鎖可変領域(VL)、およびT細胞受容体(TCR)可変領域からなる群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の分子。
【請求項6】
CH3であることが好ましい前記定常領域が、前記可変領域のN末端と融合している、請求項1から5のいずれか一項に記載の分子。
【請求項7】
重鎖可変領域(VH)、前記VHのN末端と融合した第1の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域、軽鎖可変領域(VL)、および前記VLのN末端と融合した第2の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域を含み、前記VHとVLが集合的に前記標的分子に対する結合特異性を有し、前記第1の定常領域と第2の定常領域が互いに対合する、請求項6に記載の分子。
【請求項8】
前記第1の定常領域と第2の定常領域が、2つのCH3、CH1とCL、またはTCRアルファ鎖とTCRベータ鎖である、請求項7に記載の分子。
【請求項9】
前記2つの定常領域が、野生型定常領域と比較して、マスキング部分のヘテロ二量体形成を増加させるように改変されている、請求項8に記載の分子。
【請求項10】
前記2つの定常領域が、野生型定常領域と比較して、ノブインホール置換、または電荷対置換を含むように改変されている、請求項9に記載の分子。
【請求項11】
前記第1の定常領域のN末端側にも前記第2の定常領域のN末端側にも追加の免疫グロブリンスーパーファミリー可変領域を含まない、請求項7から10のいずれか一項に記載の分子。
【請求項12】
前記第1の定常領域のN末端側にも前記第2の定常領域のN末端側にも追加の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域を含まない、請求項7から11のいずれか一項に記載の分子。
【請求項13】
第1のVLと対合した第1のVHを含む第1の抗原結合単位、
第2のVLと対合した第2のVHを含む第2の抗原結合単位、
前記第1のVHのN末端と融合した第1の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域、前記第1のVLのN末端と融合した第2の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域、前記第2のVHのN末端と融合した第3の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域、および前記第2のVLのN末端と融合した第4の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域
を含み、
前記第1の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域が前記第2の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域と対合して前記第1の抗原結合単位の結合を阻害し、前記第3の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域が前記第4の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域と対合して前記第2の抗原結合単位の結合を阻害する、請求項6に記載の分子。
【請求項14】
前記第1の抗原結合単位と前記第2の抗原結合単位が同じであるまたは異なる、請求項13に記載の分子。
【請求項15】
前記第1の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域および前記第2の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域が、野生型定常領域と比較して、ノブインホール置換または電荷対置換を含むように改変され、一方、前記第3の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域および前記第4の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域は、前記ノブインホール置換も前記電荷対置換も有さない、請求項13に記載の分子。
【請求項16】
前記第3の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域と前記第4の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域が、一対の電荷対置換または一対のノブインホール置換を有し、置換が、前記第1の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域と前記第2の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域の間のものとは異なる、請求項15に記載の分子。
【請求項17】
各CH3ドメインの、EU番号付けに従ってT437(Kabat番号付けによるとT468)と、対応する可変領域のN末端との間に、23アミノ酸残基以下、好ましくは22、21または20アミノ酸残基以下、より好ましくは15、14、13、12、11、10、9、または8アミノ酸残基以下が存在する、請求項6から16のいずれか一項に記載の分子。
【請求項18】
各CH3ドメインの、EU番号付けに従ってT437(Kabat番号付けによるとT468)と、対応する可変領域のN末端との間に、少なくとも8アミノ酸残基、好ましくは少なくとも9、10、11または12アミノ酸残基、より好ましくは少なくとも13、14、15、16、17、18、19または20アミノ酸残基が存在する、請求項6から17のいずれか一項に記載の分子。
【請求項19】
各CH3ドメインが、前記可変領域の前記標的分子への結合を阻害するために十分である断片を少なくとも保持するように短縮されており、前記CH3ドメインが、野生型ヒトIgG CH3ドメインと比較してC末端アミノ酸残基が少なくとも1残基、または好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9残基除去されるように短縮されていることが好ましい、請求項6から18のいずれか一項に記載の分子。
【請求項20】
各CH3ドメインが、前記可変領域の前記標的分子への結合を阻害するために十分である断片を少なくとも保持するように短縮されており、前記CH3ドメインが、野生型ヒトIgG CH3ドメインと比較してN末端アミノ酸残基が少なくとも1残基、または好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30残基除去されるように短縮されていることが好ましい、請求項6から19のいずれか一項に記載の分子。
【請求項21】
各CH3ドメインが、各可変領域とペプチドリンカーを通じて融合し、前記ペプチドリンカーが、必要に応じて切断可能であり、好ましくは酵素により切断可能である、請求項6から20のいずれか一項に記載の分子。
【請求項22】
酵素により切断可能なペプチドリンカーそれぞれが、線維芽細胞活性化タンパク質、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子、マトリプターゼ、レグマイン、およびマトリックスメタロプロテアーゼからなる群から選択される酵素によって切断可能である、請求項21に記載の分子。
【請求項23】
酵素により切断可能なペプチドリンカーそれぞれが、配列番号51~64および101~103からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項22に記載の分子。
【請求項24】
ペプチドリンカーそれぞれが切断可能である、請求項6から23のいずれか一項に記載の分子。
【請求項25】
ペプチドそれぞれが互いに同一の配列を有する、請求項6から24のいずれか一項に記載の分子。
【請求項26】
前記定常領域が切断可能なリンカーを通じて前記可変領域にコンジュゲートしている、請求項1から5のいずれか一項に記載の分子。
【請求項27】
前記切断可能なリンカーが、前記可変領域のアミノ酸の側鎖に共有結合により付着している、請求項26に記載の分子。
【請求項28】
前記アミノ酸が、第1のフレームワーク領域内、第2のフレームワーク領域内、第3のフレームワーク領域内、第4のフレームワーク領域内、または第1のCDR内、第2のCDR内、または第3のCDR内に位置する、請求項27に記載の分子。
【請求項29】
前記切断可能なリンカーが、1種または複数種のタンパク質分解酵素、プロテアーゼまたはペプチダーゼによって切断することが可能である、請求項26から28のいずれか一項に記載の分子。
【請求項30】
各CH3ドメインが、サブクラスIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4のものである、請求項4から29のいずれか一項に記載の分子。
【請求項31】
各CH3ドメインが、全長CH3ドメインの、EU番号付けに従ってアミノ酸残基G371からT437までを含む、請求項30に記載の分子。
【請求項32】
各CH3ドメインが、全長CH3ドメインの、EU番号付けに従ってアミノ酸残基K360からT437までを含む、請求項30に記載の分子。
【請求項33】
各CH3ドメインが、全長CH3ドメインの、EU番号付けに従ってアミノ酸残基E345からT437までを含む、請求項30に記載の分子。
【請求項34】
各CH3ドメインが、配列番号10のアミノ酸残基31~97、または配列番号10のアミノ酸残基20~97、10~97、5~97、4~97、3~97、2~97、もしくは5~101を含む、請求項30に記載の分子。
【請求項35】
前記CH3ドメインのうちの一方が、配列番号19のアミノ酸残基1~97を含み、他方のCH3ドメインが、配列番号20のアミノ酸残基1~97を含む、請求項34に記載の分子。
【請求項36】
前記可変領域が、二重特異性または三重特異性抗体または断片である抗体または断片に存在し、各特異性が可変領域を含み、可変領域がそれぞれ免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域と融合またはコンジュゲートしている、請求項1から35のいずれか一項に記載の分子。
【請求項37】
前記可変領域が、完全なサイズのFab抗体、ナノボディ、単鎖断片、または二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)であることが好ましい抗体または断片に存在する、請求項1から36のいずれか一項に記載の分子。
【請求項38】
免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域のC末端と融合した切断可能なペプチドリンカーを含む融合タンパク質であって、前記免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域のN末端側には抗原結合断片を含まない、融合タンパク質。
【請求項39】
前記切断可能なペプチドリンカーのC末端と融合した免疫グロブリンスーパーファミリー可変領域をさらに含む、請求項38に記載の融合タンパク質。
【請求項40】
前記切断可能なペプチドリンカーのN末端には単一の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域が存在する、請求項38または39に記載の融合タンパク質。
【請求項41】
前記免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域が、IgG CH3、IgG CH2、IgG CH1、IgG CL、およびT細胞受容体(TCR)定常領域からなる群から選択され、CH3であることが好ましい、請求項38から40のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項42】
各CH3ドメインの、EU番号付けに従ってT437(Kabat番号付けによるとT468)と前記切断可能なペプチドリンカーのC末端との間に、23アミノ酸残基以下、好ましくは22、21または20アミノ酸残基以下、より好ましくは15、14、13、12、11、10、9、または8アミノ酸残基以下が存在する、請求項38から41のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項43】
前記CH3ドメインが、前記可変領域の前記標的分子への結合を阻害するために十分である断片を少なくとも保持するように短縮され、前記CH3ドメインが、野生型ヒトIgG CH3ドメインと比較してC末端アミノ酸残基が少なくとも1残基、もしくは好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10残基除去されるように短縮される、または、野生型ヒトIgG CH3ドメインと比較してN末端アミノ酸残基が少なくとも1残基、好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29もしくは30残基除去されるように短縮されることが好ましい、請求項38から42のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項44】
前記切断可能なペプチドリンカーが、酵素により切断可能であり、好ましくは線維芽細胞活性化タンパク質、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子、マトリプターゼ、レグマイン、およびマトリックスメタロプロテアーゼからなる群から選択される酵素によって切断可能である、請求項38から43のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項45】
請求項1から44のいずれか一項に記載の分子を含むキメラ抗原受容体(CAR)。
【請求項46】
1つまたは複数の可変(V)領域と、前記V領域のそれぞれのN末端と融合した1つまたは複数の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域とを含むT細胞受容体(TCR)。
【請求項47】
請求項1から25および30から37のいずれか一項に記載の分子、請求項38から44のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項45に記載のCAR、または請求項46に記載のTCRをコードする1つまたは複数のポリヌクレオチド。
【請求項48】
請求項47に記載の1つまたは複数のポリヌクレオチドを含む宿主細胞。
【請求項49】
活性な抗体または抗原結合断片を対象に送達するための方法であって、前記対象に、請求項1から37のいずれか一項に記載の分子または請求項38から44のいずれか一項に記載の融合タンパク質を投与するステップを含み、前記対象において前記切断可能なリンカーが切断され、それにより、前記対象において前記抗体または抗原結合断片が放出される、方法。
【請求項50】
がん、自己免疫疾患、および感染症からなる群から選択される疾患または状態を処置するための、請求項49に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
背景
抗体および抗原結合断片は、治療において、特に、がんを処置するために、一般に使用されている。しかし、これらの治療剤は、特異性が高いにもかかわらず「標的に対するが腫瘍以外のものにも(on-target off-tumor)」毒性を引き起こすおそれがあり、これは、抗原または標的が正常細胞または組織においても同様に発現される場合があり、それにより有意な有害作用が引き起こされ得ることに起因する。これらの場合、通常、効力が高くなると毒性が高くなり、それにより治療域が限定されるおそれがある。したがって、これらの標的に対する治療域を広げるための手法を発見する試みがなされている。
【0002】
抗体プロドラッグは、不活性であるが、標的疾患細胞または組織において活性化されて、活性な抗体を生じさせることができる分子である。CytomX Therapeutics,Incによって開発されたProbody(商標)技術プラットフォームは抗体プロドラッグ技術の一例である。Probody(商標)抗体プロドラッグでは、IgG抗体またはその断片が、抗体の軽鎖のN末端とプロテアーゼにより切断可能なリンカーペプチドを通じて連結したマスキングペプチドを含むように改変されている。抗体プロドラッグは、インタクトな形態では、健康な組織における標的抗原との結合が有効に遮断される。罹患環境において適当なプロテアーゼによって活性化されると、マスキングペプチドが放出され、疾患を処置するための活性な抗体が放出される。
【0003】
しかし、適切なマスキングペプチドおよび対応するリンカーの同定は困難であることが判明している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
概要
抗体の天然の一部分、例えば、CH3ドメインおよびCH1/Cκドメインを抗体(または抗原結合断片)のN末端と融合すると、当該ドメインが有効かつ安全なマスキング部分としての機能を果たし得ることが本明細書で見いだされる。そのようなマスキング部分により、抗体の結合活性が有意に低下する、またはさらには消失する。マスキング部分が除去されると活性な抗体が放出され、その活性が取り戻される。したがって、CH3-抗体融合タンパク質は、抗体プロドラッグとしての機能を果たす。マスキング部分の除去は、例えば、CH3ドメインと抗体の間に含まれるペプチドリンカーの酵素による消化によって実現することができる。他の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域、例えば、IgG CH3、IgG CH2、IgG CH1、IgG CL、およびT細胞受容体(TCR)定常領域をマスキング部分として使用することもでき、また、そのようなマスキング効果は、他の可変領域、例えば、CH1、CH2、CL(カッパまたはラムダ)、およびTCR可変領域にも同様に適用可能であると考えられる。さらに、マスキング部分は、可変領域とコンジュゲートするか、または一緒に融合して融合タンパク質を形成することができる。
【0005】
したがって、本開示の一実施形態は、(b)免疫グロブリンスーパーファミリー可変領域に共有結合で結合した(a)免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域またはその断片を含む分子であって、可変領域が、定常領域と結合していないときは標的分子に結合することができるが、定常領域の可変領域への結合により、そのような結合が阻害される、分子を提供する。
【0006】
一部の実施形態では、定常領域は、(a)可変領域のN末端と融合している、または(b)可変領域とコンジュゲートしている。一部の実施形態では、分子は、免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域のN末端側には免疫グロブリンスーパーファミリー可変領域を含まない。
【0007】
一部の実施形態では、定常領域は、IgG CH3、IgG CH2、IgG CH1、IgG CL、およびT細胞受容体(TCR)定常領域からなる群から選択され、CH3であることが好ましい。一部の実施形態では、可変領域は、重鎖可変領域(VH)、軽鎖可変領域(VL)、およびT細胞受容体(TCR)可変領域からなる群から選択される。
【0008】
一部の実施形態では、CH3であることが好ましい定常領域は、可変領域のN末端と融合している。一部の実施形態では、分子は、重鎖可変領域(VH)、VHのN末端と融合した第1の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域、軽鎖可変領域(VL)、およびVLのN末端と融合した第2の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域を含み、VHとVLが集合的に標的分子に対する結合特異性を有し、第1の定常領域と第2の定常領域が互いに対合する。一部の実施形態では、第1の定常領域および第2の定常領域は、2つのCH3、CH1とCL、またはTCRアルファ鎖とTCRベータ鎖である。
【0009】
一部の実施形態では、2つの定常領域は、野生型定常領域と比較して、マスキング部分のヘテロ二量体形成を増加させるように改変される。一部の実施形態では、2つの定常領域は、野生型定常領域と比較して、ノブインホール(knob-in-hole)置換、または電荷対置換を含むように改変される。
【0010】
一部の実施形態では、分子は、第1の定常領域のN末端側にも第2の定常領域のN末端側にも追加の免疫グロブリンスーパーファミリー可変領域を含まない。一部の実施形態では、分子は、第1の定常領域のN末端側にも第2の定常領域のN末端側にも追加の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域を含まない。
【0011】
一部の実施形態では、分子は、第1のVLと対合した第1のVHを含む第1の抗原結合単位、第2のVLと対合した第2のVHを含む第2の抗原結合単位、第1のVHのN末端と融合した第1の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域、第1のVLのN末端と融合した第2の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域、第2のVHのN末端と融合した第3の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域、および第2のVLのN末端と融合した第4の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域を含み、第1の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域が第2の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域と対合して第1の抗原結合単位の結合を阻害し、第3の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域が第4の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域と対合して第2の抗原結合単位の結合を阻害する。一部の実施形態では、第1の抗原結合単位と第2の抗原結合単位は、同じ配列を有し得る、同じエピトープもしくは抗原を標的とし得る、または異なるエピトープもしくは抗原を標的とし得る。
【0012】
一部の実施形態では、第1の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域および第2の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域は、野生型定常領域と比較して、ノブインホール置換または電荷対置換を含むように改変され、一方、第3の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域および第4の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域は、ノブインホール置換も電荷対置換も有さない。
【0013】
一部の実施形態では、第3の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域および第4の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域は、一対の電荷対置換または一対のノブインホール置換を有し、置換は、第1の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域と第2の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域の間のものとは異なる。
【0014】
一部の実施形態では、各CH3ドメインの、EU番号付けに従ってT437(Kabat番号付けによるとT468)と、対応する可変領域のN末端との間に、40アミノ酸残基以下、好ましくは35、30、25、24、23、22、21または20アミノ酸残基以下、より好ましくは15、14、13、12、11、10、9、または8アミノ酸残基以下が存在する。
【0015】
一部の実施形態では、各CH3ドメインは、可変領域の標的分子への結合を阻害するために十分である断片を少なくとも保持するように短縮され、CH3ドメインは、野生型ヒトIgG CH3ドメインと比較してC末端アミノ酸残基が少なくとも1残基、または好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29もしくは30残基短縮されることが好ましい。一部の実施形態では、各CH3ドメインの、EU番号付けに従ってT437(Kabat番号付けによるとT468)と、対応する可変領域のN末端との間に少なくとも8アミノ酸残基、好ましくは少なくとも9、10、11または12アミノ酸残基、より好ましくは少なくとも13、14、15、16、17、18、19または20アミノ酸残基が存在する。
【0016】
一部の実施形態では、各CH3ドメインは、可変領域の標的分子への結合を阻害するために十分である断片を少なくとも保持するように短縮され、CH3ドメインは、野生型ヒトIgG CH3ドメインと比較して、N末端アミノ酸残基が少なくとも1残基、または好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30残基除去されるように短縮されることが好ましい。
【0017】
一部の実施形態では、各CH3ドメインは、各可変領域とペプチドリンカーを通じて融合しており、ペプチドリンカーは、必要に応じて切断可能であり、好ましくは酵素により切断可能である。一部の実施形態では、酵素により切断可能なペプチドリンカーそれぞれが、線維芽細胞活性化タンパク質、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子、マトリプターゼ、レグマイン、およびマトリックスメタロプロテアーゼからなる群から選択される酵素によって切断可能である。一部の実施形態では、酵素により切断可能なペプチドリンカーそれぞれが、配列番号51~64および101~103からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0018】
一部の実施形態では、ペプチドリンカーそれぞれが切断可能である。一部の実施形態では、ペプチドそれぞれが互いに同一の配列を有する。
【0019】
一部の実施形態では、定常領域と可変領域が切断可能なリンカーを通じてコンジュゲートしている。一部の実施形態では、切断可能なリンカーは、可変領域のアミノ酸の側鎖に共有結合により付着している。一部の実施形態では、アミノ酸は、第1のフレームワーク領域内、第2のフレームワーク領域内、第3のフレームワーク領域内、第4のフレームワーク領域内、または第1のCDR内、第2のCDR内、または第3のCDR内に位置する。一部の実施形態では、切断可能なリンカーは、1種または複数種のタンパク質分解酵素、プロテアーゼまたはペプチダーゼによって切断することが可能である。
【0020】
一部の実施形態では、各CH3ドメインは、サブクラスIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4のものである。
【0021】
一部の実施形態では、各CH3ドメインは、全長CH3ドメインの、EU番号付けに従ってアミノ酸残基G371からT437までを含む。一部の実施形態では、各CH3ドメインは、全長CH3ドメインの、EU番号付けに従ってアミノ酸残基K360からT437までを含む。一部の実施形態では、各CH3ドメインは、全長CH3ドメインのEU番号付けに従ってアミノ酸残基E345からT437までを含む。一部の実施形態では、各CH3ドメインは、配列番号10のアミノ酸残基31~97、または配列番号10のアミノ酸残基20~97、10~97、5~97、4~97、3~97、2~97、もしくは5~101を含む。一部の実施形態では、CH3ドメインのうちの一方は配列番号19のアミノ酸残基1~97を含み、他方のCH3ドメインは配列番号20のアミノ酸残基1~97を含む。
【0022】
一部の実施形態では、可変領域は、二重特異性または三重特異性抗体または断片である抗体または断片に存在し、各特異性が可変領域を含み、可変領域はそれぞれ免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域と融合またはコンジュゲートしている。
【0023】
一部の実施形態では、可変領域は、完全なサイズのFab抗体、ナノボディ(nanobody)、単鎖断片、または二重特異性T細胞エンゲージャー(Bispecific T cell engager)(BiTE)であることが好ましい抗体または断片に存在する。
【0024】
一実施形態では、免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域のC末端と融合した切断可能なペプチドリンカーを含む融合タンパク質であって、免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域のN末端側には抗原結合断片を含まない、融合タンパク質も提供される。
【0025】
一部の実施形態では、融合タンパク質は、切断可能なペプチドリンカーのC末端と融合した免疫グロブリンスーパーファミリー可変領域をさらに含む。一部の実施形態では、免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域は、IgG CH3、IgG CH2、IgG CH1、IgG CL、およびT細胞受容体(TCR)定常領域からなる群から選択され、CH3であることが好ましい。
【0026】
一部の実施形態では、各CH3ドメインの、EU番号付けに従ってT437(Kabat番号付けによるとT468)と切断可能なペプチドリンカーのC末端との間に、40アミノ酸残基以下、好ましくは35、30、25または20アミノ酸残基以下、より好ましくは15、14、13、12、11、10、9、または8アミノ酸残基以下が存在する。
【0027】
一部の実施形態では、CH3ドメインは、可変領域の標的分子への結合を阻害するために十分である断片を少なくとも保持するように短縮され、CH3ドメインは、野生型ヒトIgG CH3ドメインと比較してC末端アミノ酸残基が少なくとも1残基、もしくは好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29もしくは30残基が除去されるように短縮される、または、野生型ヒトIgG CH3ドメインと比較してC末端アミノ酸残基が少なくとも1残基、好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29もしくは30残基が除去されるように短縮されることが好ましい。
【0028】
一部の実施形態では、切断可能なペプチドリンカーは、酵素により切断可能であり、好ましくは線維芽細胞活性化タンパク質、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子、マトリプターゼ、レグマイン、およびマトリックスメタロプロテアーゼからなる群から選択される酵素によって切断可能である。
【0029】
さらに別の実施形態では、本開示の分子を含むキメラ抗原受容体(CAR)も提供される。1つまたは複数の可変(V)領域と、V領域のそれぞれのN末端と融合した1つまたは複数の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域とを含むT細胞受容体(TCR)がなおさらに提供される。
【0030】
一実施形態では、本開示の分子をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドも提供される。一部の実施形態では、1つまたは複数のポリヌクレオチドを含む宿主細胞が提供される。
【0031】
一実施形態では、活性な抗体または抗原結合断片を対象に送達するための方法であって、対象に、免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域と、重鎖可変領域(VH)を含む抗体または抗原結合断片とを含む分子を投与するステップを含み、定常領域が、VHと切断可能なリンカーを通じて共有結合で結合しており、対象において切断可能なリンカーが切断され、それにより、対象において抗体または抗原結合断片が放出される、方法がさらに提供される。一部の実施形態では、方法は、がん、自己免疫疾患、および感染症からなる群から選択される疾患または状態を処置するためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、フォーマット1~4の構造を例示する。
【0033】
図2図2は、フォーマット1~4についてのヒトEGFR-His ELISA結合アッセイの結果を示す。
【0034】
図3図3は、フォーマット1~4についての細胞に基づくFACS結合アッセイの結果を示す。
【0035】
図4図4は、フォーマット5~11の構造を例示する。
【0036】
図5図5は、フォーマット5について、フォーマット1および2と比較した、細胞に基づくFACS結合アッセイの結果を示す。
【0037】
図6図6は、フォーマット5~11について、フォーマット1と比較した、細胞に基づくFACS結合アッセイの結果を示す。
【0038】
図7図7は、フォーマット12~15の構造を例示する。
【0039】
図8図8は、フォーマット12~14についての細胞に基づくFACS結合アッセイの結果を示す。
【0040】
図9図9は、フォーマット15についての細胞に基づくFACS結合、内部移行および抗マウスIgG MMAE媒介性殺滅の結果を示す。
【0041】
図10図10は、フォーマット18~22およびフォーマット25~27の構造を例示する。
【0042】
図11図11は、フォーマット18~22およびフォーマット25~27についての細胞に基づくFACS結合アッセイの結果を示す。
【0043】
図12図12は、フォーマット18~22およびフォーマット28~32の構造を例示する。
【0044】
図13図13は、フォーマット28~30についての細胞に基づくFACS結合アッセイの結果を示す。
【0045】
図14図14は、フォーマット28および活性化されたフォーマット28についての細胞に基づくFACS結合および抗マウスIgG MMAE媒介性殺滅の結果を示す。
【0046】
図15図15は、細胞に基づくFACS結合およびSDS-PAGEによってフォーマット28とフォーマット30のタンパク質分解の有効性を比較するものである。
【0047】
図16図16は、フォーマット32-MMAEおよび活性化されたフォーマット32-MMAEのADC殺滅の結果を示す。
【0048】
図17図17は、フォーマット18~22およびフォーマット33~34の構造を例示する。
【0049】
図18図18は、フォーマット33およびフォーマット34についての細胞に基づくFACS結合の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
詳細な説明
定義
「1つの(a)」または「1つの(an)」実体という用語は、1つまたは複数のその実体を指し、例えば、「1つの(an)抗体」は、1つまたは複数の抗体を表すものと理解されることに留意すべきである。したがって、「1つの(a)」(または「1つの(an)」)、「1つまたは複数の(one or more)」、および「少なくとも1つの(at least one)」という用語は、本明細書では互換的に使用され得る。
【0051】
「相同性」または「同一性」または「類似性」は、2つのペプチド間または2つの核酸分子間の配列類似性を指す。相同性は、比較のためにアラインメントすることができる各配列内の位置を比較することによって決定することができる。比較される配列内のある位置が同じ塩基またはアミノ酸で占められている場合、それらの分子はその位置において相同である。配列間の相同性の程度は、それらの配列が共有するマッチするまたは相同な位置の数の関数である。「無関係の」または「非相同的」配列は、本開示の配列のうちの1つに対して40%未満の同一性を共有するものであるが、25%未満の同一性を共有するものであることが好ましい。
【0052】
ポリヌクレオチドもしくはポリヌクレオチド領域(またはポリペプチドもしくはポリペプチド領域)が別の配列に対してある特定のパーセンテージ(例えば、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%または99%)の「配列同一性」を有するとは、アラインメントしたときに、2つの配列の比較において塩基(またはアミノ酸)のパーセンテージが同じであることを意味する。このアラインメントおよびパーセント相同性または配列同一性は、当技術分野で公知のソフトウェアプログラムを使用して決定することができる。アラインメントのために初期設定のパラメータを使用することが好ましい。アラインメントプログラムの1つは、初期設定のパラメータを使用したBLASTである。特に、プログラムは、以下の初期設定のパラメータを使用したBLASTNおよびBLASTPである:遺伝コード(Genetic code)=標準(standard);フィルター(filter)=なし(none);鎖(strand)=両方(both);カットオフ(cutoff)=60;期待値(expect)=10;マトリックス(Matrix)=BLOSUM62;デスクリプション(Descriptions)=50 配列(sequences);並べ替え(sort by)=HIGH SCORE;データベース(Databases)=非重複(non-redundant),GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS translations+SwissProtein+SPupdate+PIR。生物学的に等価のポリヌクレオチドは、上記で明記されたパーセント相同性を有し、同じまたは同様の生物活性を有するポリペプチドをコードするものである。
【0053】
「等価の核酸またはポリヌクレオチド」という用語は、核酸のヌクレオチド配列またはその相補物に対してある程度の相同性または配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を指す。二本鎖核酸のホモログは、それに対してまたはその相補物に対してある程度の相同性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を包含するものとする。一態様では、核酸のホモログは、核酸またはその相補物とハイブリダイズすることが可能である。同様に、「等価のポリペプチド」は、参照ポリペプチドのアミノ酸配列に対してある程度の相同性または配列同一性を有するポリペプチドを指す。一部の態様では、配列同一性は、少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%である。一部の態様では、等価のポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、参照ポリペプチドまたはポリヌクレオチドと比較して1つ、2つ、3つ、4つまたは5つの付加、欠失、置換およびそれらの組合せを有する。一部の態様では、等価の配列は、参照配列の活性(例えば、エピトープ結合)または構造(例えば、塩橋)を保持する。
【0054】
本明細書で使用される場合、「抗体」または「抗原結合ポリペプチド」は、抗原を特異的に認識し、それに結合するポリペプチドまたはポリペプチド複合体を指す。抗体は、抗体全体およびその任意の抗原結合断片または単鎖であってよい。したがって、「抗体」という用語は、抗原に結合する生物活性を有する免疫グロブリン分子の少なくとも一部分を含む分子を含有する任意のタンパク質またはペプチドを包含する。そのようなタンパク質またはペプチドの例としては、これだけに限定されないが、重鎖もしくは軽鎖の相補性決定領域(CDR)もしくはそのリガンド結合部分、重鎖もしくは軽鎖可変領域、重鎖もしくは軽鎖定常領域、フレームワーク(FR)領域、もしくはこれらの任意の部分、または結合タンパク質の少なくとも1つの部分が挙げられる。
【0055】
「抗体断片」または「抗原結合断片」という用語は、本明細書で使用される場合、抗体の一部、例えば、F(ab’)、F(ab)、Fab’、Fab、Fv、scFvなどである。構造に関係なく、抗体断片は、インタクトな抗体によって認識される同じ抗原に結合する。「抗体断片」という用語は、アプタマー、シュピーゲルマー(spiegelmer)、およびダイアボディ(diabody)を包含する。「抗体断片」という用語は、特定の抗原に結合して複合体を形成することにより、抗体と同様の働きをする任意の合成または遺伝子操作されたタンパク質も包含する。
【0056】
本明細書で使用される場合、「重鎖定常領域」という用語は、免疫グロブリン重鎖に由来するアミノ酸配列を包含する。重鎖定常領域を含むポリペプチドは、CH1ドメイン、ヒンジ(例えば、ヒンジ領域の上部、中央部、および/または下部)ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、またはそのバリアントもしくは断片のうちの少なくとも1つを含む。例えば、本開示における使用のための抗原結合ポリペプチドは、CH1ドメインを含むポリペプチド鎖;CH1ドメイン、ヒンジドメインの少なくとも一部分、およびCH2ドメインを含むポリペプチド鎖;CH1ドメインおよびCH3ドメインを含むポリペプチド鎖;CH1ドメイン、ヒンジドメインの少なくとも一部分、およびCH3ドメインを含むポリペプチド鎖、またはCH1ドメイン、ヒンジドメインの少なくとも一部分、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含むポリペプチド鎖を含み得る。別の実施形態では、本開示のポリペプチドは、CH3ドメインを含むポリペプチド鎖を含む。さらに、本開示における使用のための抗体は、CH2ドメインの少なくとも一部分(例えば、CH2ドメインの全部または一部)を欠き得る。上記の通り、重鎖定常領域を改変することができ、したがって、天然に存在する免疫グロブリン分子とアミノ酸配列が異なり得ることが当業者には理解されよう。
【0057】
本明細書に開示される抗体の重鎖定常領域は、異なる免疫グロブリン分子に由来し得る。例えば、ポリペプチドの重鎖定常領域は、IgG1分子(IgGl molecule)に由来するCH1ドメインおよびIgG3分子に由来するヒンジ領域を含み得る。別の例では、重鎖定常領域は、IgG1分子に一部由来し、IgG3分子に一部由来するヒンジ領域を含み得る。別の例では、重鎖部分は、IgG1分子に一部由来し、IgG4分子に一部由来するキメラヒンジを含み得る。
【0058】
本明細書で使用される場合、「軽鎖定常領域」という用語は、抗体軽鎖に由来するアミノ酸配列を包含する。軽鎖定常領域は定常カッパドメインまたは定常ラムダドメインの少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0059】
「特異的に結合する」または「~に特異性を有する」とは、一般に、抗体がその抗原結合ドメインを介してエピトープに結合すること、および、結合には抗原結合ドメインとエピトープの間にいくらかの相補性を伴うことを意味する。この定義によると、抗体は、エピトープに、その抗原結合ドメインを介して、ランダムな無関係のエピトープに結合する場合よりも容易に結合する場合、そのエピトープに「特異的に結合する」といえる。「特異性」という用語は、本明細書では、ある特定の抗体がある特定のエピトープに結合する相対的な親和性を規定するために使用される。例えば、抗体「A」を、所与のエピトープに対して抗体「B」よりも高い特異性を有するとみなすことができる、または、抗体「A」を、エピトープ「C」に、関連するエピトープ「D」に結合する場合よりも高い特異性で結合するということができる。
抗体プロドラッグ
【0060】
考察されている通り、効率的かつ安全な抗体プロドラッグプラットフォームの開発に関する主要な課題は、適切なマスキングペプチドの同定である。マスキングペプチドは、ヒト対象における免疫原性を回避するために、ヒトタンパク質に由来するものであることが理想的である。より重要なことに、おそらく、マスキングペプチドは、抗体に立体的な障害を有効にもたらすある特定の三次元構造を有するはずである。しかし、どのような種類の三次元構造が必要であるかに関しては明確な理解が得られていない。しかし、当該構造が長い配列を必要とするものである場合、得られるプロドラッグは、大き過ぎ、製造が難しく、不安定なものになり得る。構造が小さ過ぎる場合には、十分に有効でない可能性がある。
【0061】
驚いたことに、抗体CH3ドメインが最適なマスキングペプチドとしての機能を果たし得ることが見いだされる。IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を含めた全てのIgGが高度に相同なCH3ドメインを有する(以下の表Aの配列アラインメントを参照されたい)。
【表A】
【0062】
わずかなバリエーションも存在する。例えば、E356(EU番号付け)はD356であってもよく、M358はL358によって置き換えることができる。バリアントの例は配列番号10に提示され、表Bにおいてその二次構造モチーフがアノテートされている。
【表B-1】
【表B-2】
【0063】
二次モチーフBCループ(G371からA378まで、EU番号付け)、DEターン(L398からF405まで、EU番号付け)、およびFGループ(S426からT437まで、EU番号付け)、ならびにそれらの間の鎖が適切な三次元マスキング構造を形成すると考えられる。実験例において実証されている通り、FGループに対してC末端側のアミノ酸残基を除去することができ、得られる短縮されたCH3ドメインは、いっそう強力なマスキング効果を示した。したがって、CH3ドメインのこの部分を以降「ループ・ターン・ループ(loop-turn-loop)」断片と称する。
【0064】
同様に安定なループ構造を有し、免疫原性がないまたは低い他の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域、例えば、IgG CH2、IgG CH1、IgG CL、およびT細胞受容体(TCR)定常領域が存在する。例えば、CH1では、最初のストレッチ(A114~K121)の後に、A鎖(G122~S136)およびB鎖(G137~K147)が続き、BCループ(D148~T155)が安定なループ構造である(全てEU番号付け(EU number)に従う)。次いで、C鎖(V156~A162)の後に、CD鎖(L163~S165)、およびD鎖(G166~V173)が続き、安定なDEターン(L174~S181)が存在する。その後にE鎖(L182~L193)、E鎖(G194~C200)、次いでFGループの安定構造(N201~V211)が続き、その後に、G鎖(D212~V215)が続く(全てEU番号付けに従う)。BCループ、DEターンおよびFGループのそれぞれ、ならびにこれらの組合せが、強力なマスキング効果をもたらす機能を果たす。最初のストレッチ、A鎖、B鎖およびG鎖内の残基は除去可能であると想定される。
【0065】
同様に、CH2では、二次構造は、最初のストレッチ(A231~G236)、A鎖(G237~L251)、ABターン(M252~I253)、B鎖(S254~V264)、安定構造BCループ(D265~K274)、C鎖(F275~G281)、CD鎖(V282~H285)、D鎖(N286~E293)、安定構造DEターン(E294~R301)、E鎖(V302~W313)、F鎖(L314~C321)、安定構造FGループ(K322~I332)、G鎖(E333~K340、全てEU番号付けに従う)を含む。BCループ、DEターンおよびFGループのそれぞれ、ならびにこれらの組合せが、強力なマスキング効果をもたらす機能を果たす。最初のストレッチ、A鎖、ABターン、B鎖およびG鎖内の残基は除去可能であると想定される。
【0066】
同様に、本技術は、完全な抗体だけでなく、ナノボディおよび抗原結合断片、キメラ抗原受容体(CAR)、ならびにT細胞受容体(TCR)にも適用可能である。一部の実施形態では、IgG CH3、IgG CH2、IgG CH1、IgG CL、およびT細胞受容体(TCR)定常領域は、ヒト定常領域である。
【0067】
したがって、本開示の一実施形態によると、免疫グロブリンスーパーファミリー可変領域と好ましくは共有結合で結合した免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域またはその断片(例えば、CH3に関しては、断片は、ABターン、DEターン、FGループ、またはこれらの組合せであり得る)を含む分子が提供される。可変領域は、全長の従来の抗体および単一ドメイン抗体、ならびに抗原結合断片の両方を包含する抗体または断片の重鎖可変領域(VH)または軽鎖可変領域(VL)であり得る。単一ドメイン抗体(VHH)などの一部の抗体または抗原結合断片では、単一の可変領域(例えば、VH)のみが存在する。そのような抗体に関しては単一の定常領域が必要である。別の実施形態では、免疫グロブリンスーパーファミリー可変領域は、TCR可変領域である。
【0068】
一部の実施形態では、分子は、免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域のN末端側にある免疫グロブリンスーパーファミリー可変断片を含まない。言い換えれば、本開示では免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域はただ単に非標的結合マスキングペプチドとして使用される。
【0069】
一部の実施形態では、免疫グロブリンスーパーファミリー可変領域への免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域の共有結合により、可変領域のその結合標的(例えば、抗原)に結合する能力が阻害される。言い換えれば、免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域を分子から除去すると、残った免疫グロブリンスーパーファミリー可変領域はその標的分子に結合することができる。そのような除去前には、分子全体の標的分子に対する結合親和性は低下しているかまたは全くない。したがって、免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域は、マスキング部分としての機能を果たす。
【0070】
より多くの従来の抗体は、2つまたはそれよりも多くの可変領域を有する。各VH/VL対に対して必要な免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域は1つのみであると想定される。これは、VH/VL対が抗原に有効に結合するためには両方の可変領域が必要であるからである。一部の実施形態では、免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域をVHに結合する。一部の実施形態では、免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域をVLに結合する。好ましい実施形態では、VHとVLの両方に免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域を結合する。
【0071】
VHとVLの両方に免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域を結合させる場合、2つの免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域を互いに対合させることができ、それにより、本技術の追加の利点がもたらされる。一方では、対合した免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域は、VH/VL対の結合活性を阻害するより大きくかつより安定な立体構造を形成する。他方では、抗体に定常領域の対が2つまたはそれよりも多く存在する場合(例えば、二重特異性または三重特異性抗体)、それらの対合を変更して、誤対合を低減することができる。したがって、一部の実施形態では、2つの定常領域は、野生型定常領域と比較して、マスキング部分のヘテロ二量体形成を増加させるように改変される。
【0072】
例えば、Fc領域に一対の野生型CH3を含む従来の抗体では、ノブインホールまたは荷電対置換を有する2組のCH3を両方のVH/VL対に対するマスキング部分として使用することができる。別の例では、二重特異性抗体において、誤対合を低減するために、1つのVH/VL対を一対の野生型CH3領域と融合することができ、第2のVH/VL対を、ノブインホールまたは荷電対置換を有する一対のCH3領域と融合することができる。
【0073】
CH3に加えて、CH1とCL(ラムダおよびカッパ)、ならびにTCRアルファ/ベータ鎖も対合することができ、異なる対合が形成されるように変異させることができる。したがって、一例では、二重特異性抗体において、誤対合を低減するために、1つのVH/VL対を一対の野生型CH1/CL領域と融合することができ、第2のVH/VL対を、ノブインホールまたは荷電対置換を有する一対のCH1/CL領域と融合することができる。
【0074】
一部の実施形態では、一対の免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域は、一対のCH1とCL、例えばヒトIgG CH1とCLである。CH1の配列の例は配列番号115のアミノ酸残基1~98として提示され、CLの配列の例は配列番号7として提示される。一部の実施形態では、CH1と対応する可変領域の間に(それらの間の必要に応じたリンカーに加えて)少数の追加の残基を挿入する。言い換えれば、そのような追加の残基をリンカーの一部としてカウントすると、CH1では対応する可変領域との連結のためにCLよりも長いリンカーを使用することを意味する。
【0075】
一部の実施形態では、追加の残基は、1~10残基、または2~9、2~8、3~7、4~6、または5アミノ酸残基である。そのような追加の残基は、一般に使用されるリンカーまたはヒンジ配列の全体または断片であり得る。例はEPKSC(配列番号120)である。
【0076】
一部の実施形態では、CH1をVH/VL対におけるVLと必要に応じたリンカーを通じて融合し、CLをVH/VL対におけるVHと対応する必要に応じたリンカーを通じて融合する。あまり好ましくない実施形態では、CH1をVH/VL対におけるVHと必要に応じたリンカーを通じて融合し、CLをVH/VL対におけるVLと対応する必要に応じたリンカーを通じて融合する。いずれかの実施形態の一部の態様では、CH1をより長いリンカーを通じて対応する可変領域に接続する。
【0077】
一部の実施形態では、ノブインホール置換は、EU番号付けに従って、CH3ドメインのうちの一方におけるS354CおよびT366Wと、他方のCH3ドメインにおけるY349C、T366S、L368A、およびY407Vとを含む。一部の実施形態では、電荷対置換は、K409D/D399R、K409E/D399K、またはK409E/D399Rを含む。
【0078】
一部の実施形態では、それらの断片の、CH3領域間、CH1とCLの間、またはTCRアルファ/ベータ鎖間の対合をさらに増強することができる。例えば、各配列に適切なシステインを導入した場合、対合する定常領域の間にジスルフィド結合を生成することができる。ジスルフィド結合以外の化学的リンカーも限定なしに使用することができる。増強された対合を使用する場合、より強力な対合により、短い定常領域の断片(本明細書において例示されている)でさえも使用して有効なマスキング部分として機能させることが可能になると想定される。
【0079】
一部の実施形態では、そのような定常領域の単一の対のみを分子に含める。実験例に示されている通り、抗体活性を阻害するためには単一の対(CH3/CH3)で十分であり、したがって、第2の対(例えば、CH2-CH3/CH2-CH3)を付加する必要はない。一部の実施形態では、結合単位の可変領域(例えば、VH/VL)のN末端側には、免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域の単一の対以外の他の機能単位は存在しない。「機能単位」とは、本明細書で使用される場合、抗体結合、安定化、または循環に関与するタンパク質ドメインを指す。シグナルペプチドは機能単位の例外である。
【0080】
一部の実施形態では、結合単位の可変領域(例えば、VH/VL)のN末端側のペプチド部分は、200アミノ酸残基以下である(必要に応じたシグナルペプチドを数えない)。一部の実施形態では、このN末端部分は、190、180、170、160、150、140、130、120、110、または105アミノ酸残基以下である(必要に応じたシグナルペプチドをカウントしない)。
【0081】
一実施形態では、免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域のC末端と融合したペプチドリンカーを含む融合タンパク質も提供される。一部の実施形態では、必要に応じて、上記の通り、ペプチドリンカーを免疫グロブリンスーパーファミリー可変領域のN末端とさらに融合することができる。一部の実施形態では、融合タンパク質は、免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域のN末端側にある免疫グロブリンスーパーファミリー可変断片を含まない。言い換えれば、本開示では免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域はただ単に非標的結合マスキングペプチドとして使用される。
【0082】
一部の実施形態では、融合タンパク質は、それぞれペプチドリンカーと融合した一対のCH3、CH1とCL、またはTCRアルファ鎖とTCRベータ鎖などの対として提供される。一部の実施形態では、対を、ノブインホールまたは電荷対対合を含むように改変する。一部の実施形態では、それらの断片の、CH3領域間、CH1とCLの間、またはTCRアルファ/ベータ鎖間の対合をさらに増強することができる。例えば、各配列に適切なシステインを導入した場合、対合する定常領域間にジスルフィド結合を生成することができる。ジスルフィド結合以外の化学的リンカーも限定なしに使用することができる。増強された対合を使用する場合、より強力な対合により、短い定常領域の断片でさえも使用して有効なマスキング部分として機能させることが可能になると想定される。
【0083】
一部の実施形態では、可変領域のEU番号付けに従ってCH3のT437(Kabat番号付けによるとT468)(またはCH1のV211(EU番号付け)、またはCH2のI332(EU番号付け))と切断可能なペプチドリンカーのC末端の間に50、45、40、35、30、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、または15アミノ酸残基以下、または好ましくは14、13、12、11、10、9、または8アミノ酸残基以下が存在する。
【0084】
各CH3ドメインの、EU番号付けに従ってT437(Kabat番号付けによるとT468)と、対応する可変領域のN末端との間に少なくとも8アミノ酸残基、好ましくは少なくとも9、10、11または12アミノ酸残基、より好ましくは少なくとも13、14、15、16、17、18、19または20アミノ酸残基が存在する。
【0085】
一部の実施形態では、各CH3ドメインの、EU番号付けに従ってT437(Kabat番号付けによるとT468)と、対応する可変領域のN末端との間に8~23アミノ酸残基が存在する。
【0086】
一部の実施形態では、各CH3ドメインの、EU番号付けに従ってT437(Kabat番号付けによるとT468)と、対応する可変領域のN末端との間に12~20アミノ酸残基が存在する。
【0087】
一部の実施形態では、定常領域は、可変領域の標的分子への結合を阻害するために十分である断片を少なくとも保持するように短縮される。一部の実施形態では、CH3ドメインは、野生型ヒトIgG CH3ドメインと比較して、C末端アミノ酸残基が少なくとも1残基、または好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30残基除去されるように短縮される。一部の実施形態では、CH3ドメインは、野生型可変領域と比較して、C末端アミノ酸残基が少なくとも1残基、好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30残基除去されるように短縮される。免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域およびペプチドリンカーの例は本開示全体を通してさらに詳細に記載されている。
【0088】
一部の実施形態では、T細胞受容体(TCR)と好ましくは共有結合で結合した免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域を含む分子も提供される。一部の実施形態では、免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域をTCRの可変(V)領域と結合する。一部の実施形態では、免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域をTCRの各可変(V)領域と結合する。
【0089】
実証されている通り、本開示では、免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域は、抗体、断片またはT細胞受容体の活性を有効に遮断するまたは低下させるために十分である。したがって、一部の実施形態では、分子は、マスキング部分にさらなるドメインを含まない。一部の実施形態では、免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域とともに可変領域(VH、VL、またはTCR可変領域など)は存在しない。一部の実施形態では、免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域に対してN末端側には可変領域(VH、VL、またはTCR可変領域など)は配置されない。一部の実施形態では、免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域と抗体、抗原結合断片またはTCRの間には可変領域(VH、VL、またはTCR可変領域など)は配置されない。一部の実施形態では、マスキング部分は、単一の定常領域(例えば、CH1またはCH2を伴わずに単一のCH3)を含む。
【0090】
一部の実施形態では、完全なサイズのFab抗体、ナノボディ、単鎖断片、または二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)などの抗原結合単位のための可変領域(複数可)。一部の実施形態では、抗原結合単位は、VHとVLの対、または一対のナノボディを含む。
【0091】
抗体プロドラッグとして、マスキングペプチドは、非標的組織ではプロドラッグ中に留まり、標的組織において除去されるべきである。一部の実施形態では、マスキングペプチドの除去を、マスキングペプチドを抗体、抗原結合断片またはTCRに結合するリンカーの除去、分解、破壊、または消化によって達成することができる。例は、酵素により切断可能なペプチドリンカーである。
【0092】
一部の実施形態では、ペプチドリンカーを切断することができる酵素(プロテアーゼ)は、患部組織または器官において独自に発現される、または健康な組織もしくは器官と比較して過剰発現されるものである。好ましくは、酵素は、患部組織または器官の細胞外の環境に見いだされる。そのようなプロテアーゼの例としては、アスパラギン酸プロテアーゼ(例えば、レニン)、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、アスパラギン酸カテプシン(例えば、カテプシンD、カスパーゼ1、カスパーゼ2など)、システインカテプシン(例えば、カテプシンB)、システインプロテアーゼ(例えば、レグマイン)、ディスインテグリン/メタロプロテイナーゼ(ADAM、例えば、ADAM8、ADAM9)、トロンボスポンジンモチーフを有するディスインテグリン/メタロプロテイナーゼ(ADAMTS、例えば、ADAMTS1)、膜内在性セリンプロテアーゼ(例えば、マトリプターゼ2、MT-SP1/マトリプターゼ、TMPRSS2、TMPRSS3、TMPRSS4)、カリクレイン関連ペプチダーゼ(KLK、例えば、KLK4、KLK5)、マトリックスメタロプロテアーゼ(例えば、MMP-1、MMP-2、MMP-9)、およびセリンプロテアーゼ(例えば、カテプシンA、凝固因子プロテアーゼ、例えばエラスターゼ、プラスミン、トロンビン、PSA、uPA、Vila因子、第Xa因子、およびHCV NS3/4)が挙げられる。好ましくは、プロテアーゼは、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA、ウロキナーゼ)、MT-SP1/マトリプターゼ、レグマイン、またはマトリックスメタロプロテアーゼ(特にMMP-1、MMP-2、およびMMP-9)である。酵素および対応する切断可能なペプチドの選択は、処置される疾患および罹患組織または器官によって発現されるプロテアーゼ(複数可)に依存することが当業者には理解されよう。
【0093】
酵素により切断可能なペプチドリンカーの例を表Cに提示する。
【表C】
【0094】
一部の実施形態では、1つまたは複数のタンパク質鎖のそれぞれにおけるペプチドリンカーそれぞれが、同じ切断酵素によって切断され得、したがって、その酵素が存在すれば、リンカーの全てが同時に切断され、抗体が完全に活性化される。一部の実施形態では、ペプチドリンカーそれぞれが同じ配列を有する。
【0095】
一部の実施形態では、ペプチドリンカーは、配列番号51~63または101~103から選択される配列を含む。一部の実施形態では、ペプチドリンカーは、配列番号103などの酵素による切断部位を2つ含む。一部の実施形態では、ペプチドリンカーは、G(グリシン)およびS(セリン)などのさらなるアミノ酸残基を含む。
【0096】
付随の実験例では、全長CH3ドメインのC末端アミノ酸残基の一部を除去した場合、得られるCH3断片がそれらの全長対応物よりもはるかに強力なマスキング効果を示すことが実証された。これは、CH3ドメインのループ・ターン・ループ断片が、短縮により、可変領域と空間的に近くなることに起因すると想定される。そのように空間的関連性が近くなることにより、より大きな立体障害がもたらされると想定される。
【0097】
「CH3ドメイン」という用語は、本開示において使用される場合、野生型CH3ドメインの配列ホモログ、ならびに、少なくともループ・ターン・ループ部分を含むそれらの断片の両方を包含する。
【0098】
野生型ヒトIgG CH3ドメインの配列は、配列番号47~50(表A)に提示される。それらの配列ホモログには、保存的アミノ酸置換を有するもの(例えば、配列番号10)およびノブインホール改変を有するもの(例えば、配列番号19~20)が含まれる。
【0099】
「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が、同様の側鎖を有するアミノ酸残基によって置き換えられたものである。同様の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野で定義されており、塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、ベータ分岐側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。したがって、免疫グロブリンポリペプチド内の非必須アミノ酸残基が同じ側鎖ファミリーの別のアミノ酸残基によって置き換えられることが好ましい。別の実施形態では、アミノ酸の文字列を、側鎖ファミリーメンバーの順序および/または組成が異なる構造的に類似した文字列によって置き換えることができる。
【0100】
保存的アミノ酸置換の非限定的な例を下記の表に提示する。類似性スコアが0またはそれよりも大きいことにより、2つのアミノ酸間の保存的置換が示される。
【表D】
【表E-1】
【表E-2】
【0101】
全長CH3ドメインの各配列ホモログに関して、その断片も、少なくともループ・ターン・ループ部分を含む限りはCH3ドメインの意味の範囲内に入る。提示されている通り、全長CH3ドメインのループ・ターン・ループ断片は、BCループ(G371からA378まで、EU番号付け)、DEターン(L398からF405まで、EU番号付け)、およびFGループ(S426からT437まで、EU番号付け)、ならびにそれらの間の鎖(例えば、C鎖、CD鎖、D鎖、E鎖、およびF鎖)を含む。A鎖、B鎖およびG鎖はこのループ・ターン・ループ断片内には存在せず、したがって、部分的にまたは完全に除去することができる。
【0102】
一部の実施形態では、CH3ドメインは短縮を有するが、可変領域の標的分子への結合を阻害するために十分である断片を少なくとも保持する。一部の実施形態では、短縮はC末端におけるものである。一部の実施形態では、配列番号10を参照して最後のアミノ酸(K447、EU番号付け)を除去する。一部の実施形態では、配列番号10を参照して最後の2アミノ酸(G446-K447、EU番号付け)を除去する。一部の実施形態では、配列番号10を参照して最後の3アミノ酸(P445-G446-K447、EU番号付け)を除去する。一部の実施形態では、配列番号10を参照して最後の4アミノ酸(S444-P445-G446-K447、EU番号付け)を除去する。一部の実施形態では、配列番号10を参照して最後の5アミノ酸(L443-S444-P445-G446-K447、EU番号付け)を除去する。一部の実施形態では、配列番号10を参照して最後の6アミノ酸(S442-L443-S444-P445-G446-K447、EU番号付け)を除去する。一部の実施形態では、配列番号10を参照して最後の7アミノ酸(L441-S442-L443-S444-P445-G446-K447、EU番号付け)を除去する。一部の実施形態では、配列番号10を参照して最後の8アミノ酸(S440-L441-S442-L443-S444-P445-G446-K447、EU番号付け)を除去する。一部の実施形態では、配列番号10を参照して最後の8アミノ酸(S440-L441-S442-L443-S444-P445-G446-K447、EU番号付け)を除去する。一部の実施形態では、配列番号10を参照して最後の9アミノ酸(K439-S440-L441-S442-L443-S444-P445-G446-K447、EU番号付け)を除去する。一部の実施形態では、配列番号10を参照して最後の10アミノ酸(Q438-K439-S440-L441-S442-L443-S444-P445-G446-K447、EU番号付け)を除去する。
【0103】
一部の実施形態では、CH3ドメインは短縮を有するが、可変領域の標的分子への結合を阻害するために十分である断片を少なくとも保持する。一部の実施形態では、BCループ(G371からA378まで、EU番号付け)がインタクトなまま保たれる限りは、CH3ドメインはN末端で短縮される。一部の実施形態では、CH3ドメインは、野生型ヒトIgG CH3ドメインと比較してN末端アミノ酸残基が少なくとも1残基、または好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30残基除去されるように短縮される。一部の実施形態では、CH3ドメインは、全長CH3ドメインのアミノ酸残基G371からT437までを含む。一部の実施形態では、CH3ドメインは、全長CH3ドメインのアミノ酸残基K360からT437までを含む。一部の実施形態では、CH3ドメインは、全長CH3ドメインのアミノ酸残基E345からT437までを含む。
【0104】
一部の実施形態では、CH3ドメインは、配列番号10、19、20、47、48、49または50のアミノ酸残基31~97、20~97、10~97、5~97、4~97、3~97、2~97、または5~101を含む。一部の実施形態では、CH3ドメインは、配列番号10、19、20、47、48、49または50のアミノ酸残基1~97を含む。一部の実施形態では、CH3ドメインのうちの一方(例えば、VLと融合したもの)は配列番号19のアミノ酸残基1~97を含み、他方のCH3ドメイン(例えば、VHと融合したもの)は配列番号20のアミノ酸残基1~97を含む。
【0105】
同様に、CL、CH1またはCH2を使用する場合、CL、CH1またはCH2も同様にN末端または(of)C末端で短縮することができる。一部の実施形態では、CH1ドメインは、野生型ヒトIgG CH1ドメインと比較してC末端アミノ酸残基が少なくとも1残基、または好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10残基除去されるように短縮される。一部の実施形態では、CH1ドメインは、野生型ヒトIgG CH1ドメインと比較してN末端アミノ酸残基が少なくとも1残基、または好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30残基除去されるように短縮される。
【0106】
一部の実施形態では、CLドメインは、野生型ヒトIgG CLドメインと比較してC末端アミノ酸残基が少なくとも1残基、または好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10残基除去されるように短縮される。一部の実施形態では、CLドメインは、野生型ヒトIgG CLドメインと比較してN末端アミノ酸残基が少なくとも1残基、または好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30残基除去されるように短縮される。
【0107】
一部の実施形態では、CH2ドメインは、野生型ヒトIgG CH2ドメインと比較してC末端アミノ酸残基が少なくとも1残基、または好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10残基除去されるように短縮される。一部の実施形態では、CH2ドメインは、野生型ヒトIgG CH2ドメインと比較してN末端アミノ酸残基が少なくとも1残基、または好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30残基除去されるように短縮される。
【0108】
一部の実施形態では、十分な立体障害を確実にするために、FGループのC末端(すなわち、EU番号付けに従ってCH3のT437またはKabat番号付けに従ってT468)間の距離を制限する。一部の実施形態では、CH3 T437(EU番号付け)と対応する可変領域のN末端との間に50、45、40、35、30、25、20、または15アミノ酸残基以下が存在する。一部の実施形態では、CH3 T437(EU番号付け)と対応する可変領域のN末端との間に14アミノ酸残基以下が存在する。一部の実施形態では、CH3 T437(EU番号付け)と対応する可変領域のN末端との間に13、12、11、10、9、8、7、6または5アミノ酸残基以下が存在する。
【0109】
同様に、一部の実施形態では、CH1のV211(EU番号付け)と対応する可変領域のN末端との間に50、45、40、35、30、25、20、15または14アミノ酸残基以下が存在する。一部の実施形態では、CH1のV211(EU番号付け)と対応する可変領域のN末端との間に13、12、11、10、9、8、7、6または5アミノ酸残基以下が存在する。
【0110】
一部の実施形態では、CH2のI332(EU番号付け)と対応する可変領域のN末端との間に50、45、40、35、30、25、20、15または14アミノ酸残基以下が存在する。一部の実施形態では、CH2のI332(EU番号付け)と対応する可変領域のN末端との間に13、12、11、10、9、8、7、6または5アミノ酸残基以下が存在する。
【0111】
一部の実施形態では、CH3などの免疫グロブリンスーパーファミリー定常領域を抗体、断片、またはTCRと化学的リンカーを通じてコンジュゲートする。一部の実施形態では、化学的リンカーを可変領域のアミノ酸に共有結合により付着させる。一部の実施形態では、当該アミノ酸はフレームワーク領域内に存在する。一部の実施形態では、当該アミノ酸は全てのCDRに対してN末端側のフレームワーク領域である。
【0112】
一部の実施形態では、化学的リンカーは、切断可能なリンカーである。切断可能なリンカーは、タンパク質分解酵素によって切断することができる、または疾患の微小環境において酸性で活性化することができる。一部の実施形態では、リンカーをシステインなどの抗体のアミノ酸に共有結合により連結する。一部の実施形態では、切断可能なリンカーは、1種または複数種のタンパク質分解酵素、プロテアーゼまたはペプチダーゼによって切断することが可能なペプチドであり、ここで、プロテアーゼは、システインプロテアーゼ、アスパラギンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、トレオニンプロテアーゼ、ゼラチナーゼ、メタロプロテイナーゼ、もしくはアスパラギンペプチドリアーゼからなる群から選択される、または、病理的微小環境の酸性条件下で切断可能な結合である。一部の実施形態では、切断可能なリンカーは、アミド、エステル、カルバメート、尿素およびヒドラゾン結合からなる群から選択される。
【0113】
融合分子に含まれる抗体または断片は、任意の抗原に対する特異性を有し得、任意の抗体または断片構造を有し得る。一部の実施形態では、融合分子に含まれる抗体または断片は、Fc断片を有する従来のFab構造を有する。一部の実施形態では、融合分子に含まれる抗体または断片は、少なくともVH/VL対を含む。一部の実施形態では、融合分子に含まれる抗体または断片は、単一の可変領域を有する。一部の実施形態では、抗体または断片は、腫瘍抗原に対する特異性を有する。
【0114】
「腫瘍抗原」は、腫瘍細胞において産生される抗原性物質である、すなわち、腫瘍抗原は、宿主における免疫応答を誘発する。腫瘍抗原は、腫瘍細胞の同定に有用であり、がん治療における使用の潜在的候補である。体内の正常タンパク質は抗原性ではない。しかし、ある特定のタンパク質は腫瘍形成の間に産生または過剰発現され、したがって、体に対して「外来」とみなされる。これには、免疫系から十分に隔絶している正常タンパク質、通常は非常に少量で産生されるタンパク質、通常はある特定の発達段階でのみ産生されるタンパク質、または変異に起因して構造が改変されるタンパク質も含まれ得る。
【0115】
多数の腫瘍抗原が当技術分野で公知であり、また、新しい腫瘍抗原をスクリーニングによって容易に同定することができる。腫瘍抗原の非限定的な例としては、EGFR、Her2、EpCAM、CD20、CD30、CD33、CD47、CD52、CD133、CD73、CEA、gpA33、ムチン、TAG-72、CIX、PSMA、葉酸結合タンパク質、GD2、GD3、GM2、VEGF、VEGFR、インテグリン、αVβ3、α5β1、ERBB2、ERBB3、MET、IGF1R、EPHA3、TRAILR1、TRAILR2、RANKL、FAPおよびテネイシンが挙げられる。
【0116】
一部の実施形態では、抗体または抗原結合断片は、免疫細胞の表面上に発現する抗原に結合する。一部の実施形態では、抗体または抗原結合断片は、CD1a(CD la)、CD1b、CD1c、CD1d、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD7、CDS、CD9、CD10、CD11A、CD11B、CD11C、CDw12(CDwl 2)、CD13、CD14、CD15、CD15s、CD16、CDw17、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD25、CD26、CD27、CD28、CD29、CD3Q、CD31、CD32、CD33、CD34、CD35、CD36、CD37、CD38、CD39、CD40、CD41、CD42a、CD42b、CD42c、CD42d、CD43、CD44、CD45、CD45RO、CD45RA、CD45RB、CD46、CD47、CD48、CD49a、CD49b、CD49c、CD49d、CD49e、CD49f、CD50、CD51、CD52、CD53、CD54、CD55、CD56、CD57、CD58、CD59、CDw60、CD6I、CD62E、CD62L、CD62P、CD63、CD64、CD65、CD66a、CD66b、CD66c、CD66d、CD66e、CD66E CD68、CD69、CD70、CD71、CD72、CD73、CD74、CD75、CD76、CD79o、0O79b、CD80、CD81、CD82、CD83、CDw84、CD85、CD86、CD87、CD88、CD89、CD90、CD91、CDw92、CD93、CD94、CD95、CD96、CD97、CD98、CD99、CD100、CDIGI、CD102、CD103、CD104、CD105、CD106、CD107a、CD107b、CDw’108、CD109、CD114、CD115、CD116.CD117.CD118、CD119、CD120a、CD120b、CD121a、CDw121b、CD122、CD123、CD124、CD125、CD126、CD127、CDw128、CD129、CD130、CDw131、CD132、CD134、CD135、CDw136、CDw137、CD138、CD139、CD140a、CD140b、CD141、CD142、CD143、CD144、CD145、CD146、CD147、CD148、CD15G、CD151、CD152、CD153、CD154、CD155、CD156、CD157、CD158a、CD158b、CD161、CD162、CD163、CD164、CD165、CD166、およびCD182からなる群から選択される表面抗原分類分子に結合する。
【0117】
一部の実施形態では、抗体または抗原結合断片は、ホルモン、成長因子、サイトカイン、細胞表面受容体、またはこれらの任意のリガンドからなる群から選択される抗原に結合する。一部の実施形態では、抗体または抗原結合断片は、これだけに限定されないが、M-CSF、GM-CSF、TNF、IL-1、1L-2、1L-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、If-15、IL-16、IL-17、IL-18、IFN、TNFa、TNF1、TNF2、G-CSF、Meg-CSF、GM-CSF、トロンボポエチン、幹細胞因子、およびエリスロポエチンを含めたサイトカイン、リンフォカイン、成長因子、または他の造血因子からなる群から選択される抗原に結合する。一部の実施形態では、抗体はセツキシマブであり、これは、配列番号1のVHおよび配列番号6のVLを有する。一部の実施形態では、抗体は、配列番号8の重鎖および配列番号9の軽鎖を有する。
【0118】
一部の実施形態では、抗体プロドラッグは、配列番号11のアミノ配列を有する重鎖および配列番号12のアミノ配列を有する軽鎖を含む。一部の実施形態では、抗体プロドラッグは、配列番号13のアミノ配列を有する重鎖および配列番号14のアミノ配列を有する軽鎖を含む。一部の実施形態では、抗体プロドラッグは、配列番号15のアミノ配列を有する重鎖および配列番号16のアミノ配列を有する軽鎖を含む。
【0119】
一部の実施形態では、抗体プロドラッグは、配列番号21のアミノ配列を有する重鎖および配列番号22のアミノ配列を有する軽鎖を含む。一部の実施形態では、抗体プロドラッグは、配列番号23のアミノ配列を有する重鎖および配列番号24のアミノ配列を有する軽鎖を含む。一部の実施形態では、抗体プロドラッグは、配列番号25のアミノ配列を有する重鎖および配列番号26のアミノ配列を有する軽鎖を含む。一部の実施形態では、抗体プロドラッグは、配列番号27のアミノ配列を有する重鎖および配列番号28のアミノ配列を有する軽鎖を含む。一部の実施形態では、抗体プロドラッグは、配列番号29のアミノ配列を有する重鎖および配列番号30のアミノ配列を有する軽鎖を含む。一部の実施形態では、抗体プロドラッグは、配列番号31のアミノ配列を有する重鎖および配列番号32のアミノ配列を有する軽鎖を含む。一部の実施形態では、抗体プロドラッグは、配列番号33のアミノ配列を有する重鎖および配列番号34のアミノ配列を有する軽鎖を含む。
【0120】
本開示される分子を使用する方法も提供される。一実施形態では、活性な抗体もしくは抗原結合断片、またはTCRをヒト対象などの対象に送達するための方法が提供される。一部の実施形態では、方法は、対象に本開示の分子を投与するステップを伴い、ここで、対象において切断可能なリンカーが切断され、それにより、対象において抗体もしくは抗原結合断片、またはTCRが放出される。
【0121】
方法は、がん、自己免疫疾患、および感染症などの疾患または状態を処置するために有用であり得る。
ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドおよびポリペプチドの調製方法
【0122】
本開示は、本開示の融合分子、そのバリアントまたは誘導体をコードする単離されたポリヌクレオチドまたは核酸分子(例えば、これだけに限定することなく、DNAおよびmRNA)も提供する。ポリヌクレオチドまたは核酸分子を含むベクター、構築物、および細胞も提供される。本開示のポリヌクレオチドは、抗原結合ポリペプチド、そのバリアントまたは誘導体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域全体を同じポリヌクレオチド分子上にまたは別々のポリヌクレオチド分子上にコードし得る。さらに、本開示のポリヌクレオチドは、抗原結合ポリペプチド、そのバリアントまたは誘導体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域の一部を同じポリヌクレオチド分子上にまたは別々のポリヌクレオチド分子上にコードし得る。
【0123】
タンパク質および抗体を作製する方法は当技術分野で周知であり、また、本明細書に記載されている。ある特定の実施形態では、本開示の抗原結合ポリペプチドの可変領域および定常領域の両方が完全にヒトである。完全ヒト抗体は、当技術分野で記載されている技法を使用し、本明細書に記載の通り作製することができる。例えば、特定の抗原に対する完全ヒト抗体を、抗原チャレンジに応答してそのような抗体を産生するように改変されているが、内在性遺伝子座は無力になっているトランスジェニック動物に当該抗原を投与することによって調製することができる。そのような抗体を作製するために使用することができる例示的な技法は、それらの全体が参照により組み込まれる米国特許第6,150,584号;同第6,458,592号;同第6,420,140号に記載されている。
組成物
【0124】
本開示は、医薬組成物も提供する。そのような組成物は、有効量の融合分子、および許容される担体を含む。一部の実施形態では、組成物は、第2の抗がん剤(例えば、免疫チェックポイント阻害剤)をさらに含む。
【0125】
特定の実施形態では、「薬学的に許容される」という用語は、動物、より詳細にはヒトにおける使用に関して、連邦政府もしくは州政府の規制当局によって承認されている、または米国薬局方もしくは他の一般に認められている薬局方に収載されていることを意味する。さらに、「薬学的に許容される担体」は、一般に、任意の型の無毒性の固体、半固体または液体充填剤、希釈剤、封入材料または製剤補助剤である。
【0126】
「担体」という用語は、治療薬がそれと共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。そのような医薬担体は、滅菌された液体、例えば、水、および石油、動物、植物または合成起源のものを含めた油、例えば、ピーナッツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油などであり得る。水は、医薬組成物を静脈内投与する場合に好ましい担体である。食塩溶液および水性デキストロースおよびグリセロール溶液を液体担体、特に注射液用として使用することもできる。適切な医薬賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、コメ、穀粉、白亜、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。所望であれば、組成物は、微量の湿潤剤もしくは乳化剤、または酢酸塩、クエン酸塩もしくはリン酸塩などのpH緩衝剤を含有してもよい。抗菌剤、例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム;キレート剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸;および張度を調整するための作用剤、例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロースも構想される。これらの組成物は、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、粉剤・散剤(powder)、持続放出製剤などの形態を取り得る。組成物を従来の結合剤および担体、例えばトリグリセリドを用いて坐薬として製剤化することができる。経口製剤は、標準的な担体、例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどを含み得る。適切な医薬担体の例は、参照により本明細書に組み込まれる、E.W.MartinによるRemington’s Pharmaceutical Sciencesに記載されている。そのような組成物には、治療有効量の抗原結合ポリペプチドが、好ましくは精製された形態で、患者への妥当な投与のための形態をもたらすために適量の担体と共に含有される。製剤は投与形式に見合ったものであるべきである。親調製物をガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジまたは複数回用量バイアルに封入することができる。
【0127】
ある実施形態では、組成物を、常套的な手順に従って、ヒトへの静脈内投与に適合する医薬組成物として製剤化する。一般には、静脈内投与用の組成物は、滅菌等張水性緩衝液中の溶液である。必要であれば、組成物は、可溶化剤、および注射部位の痛みを和らげるための局所麻酔薬、例えばリグノカインも含み得る。一般に、成分は、別々に、または混合して単位剤形で、例えば、活性薬剤の量が示されたアンプルまたはサシェなどの密封容器中に入った乾燥した状態の凍結乾燥粉末または水を含まない濃縮物として、供給される。組成物が注入によって投与される場合、滅菌医薬品グレードの水または生理食塩水を含有する注入ボトルで投薬することができる。組成物が注射によって投与される場合、投与前に成分を混合することができるように注射滅菌水または生理食塩水のアンプルを用意することができる。
【実施例
【0128】
(実施例1)
CH3ドメインをマスキングした抗体プロドラッグ
本実施例では、一対のヒトIgG1 CH3断片をマスキング部分として含む、セツキシマブに基づく一連のプロドラッグを調製した。各プロドラッグは種々の長さのリンカーを含んだ。
【0129】
試験したプロドラッグが表1に列挙され、図1に例示され、配列が表2に提示されている。フォーマット1は親抗体セツキシマブである。フォーマット2では、親抗体のVHおよびVLのN末端に一対の野生型CH3ドメインが付加される。フォーマット3およびフォーマット4では、CH3ドメインと親抗体の間にペプチドリンカー(GGGS(配列番号17)またはGGGSGGGS(配列番号18))を挿入された。
【表1】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【0130】
これらの抗体プロドラッグをヒトEGFRへの結合についてELISAを使用して試験した。結果が図2に提示され、表3に要約されている。
【表3】
【0131】
結果から、フォーマット2のEGFRに対する親和性がフォーマット1と比較して約5分の1であり、それにより、CH3ドメインのマスキング部分としての妥当性が実証されることが示される。
【0132】
これらの分子について、2種のEGFR発現腫瘍細胞に基づくFACS結合アッセイを用いた(A431細胞およびDiFi細胞を用いた)試験も行った。図3および表4~5に示されている通り、同じくフォーマット2で最も大きな抗体親和性の阻害(8~10倍)が示された。
【表4】
【表5】
【0133】
マスキングドメインと可変ドメインの間にリンカーを含むフォーマット3および4では、どちらの実験でも活性のより小さな低下が示された。したがって、これらのデータから、距離が長くなるとCH3ドメインのマスキング効果が低下し得ることが示唆される。
(実施例2)
マスキング部分としてノブ-イントゥ-ホール変異を有するC末端が短縮されたCH3ドメイン
【0134】
実施例1の結果に基づいて、本実施例では、2つの型の改変を伴うCH3ドメインを有する抗体プロドラッグを設計した。一方はCH3ドメインの対にノブインホール変異が組み込まれていることであり(例えば、配列番号19~20に示されるように)、他方は種々の長さのC末端短縮である。
【0135】
これらの新規の抗体プロドラッグは、フォーマット5~11と称され、表6に記載され、図4に例示され、配列が表7に示されている。
【0136】
フォーマット5では、CH3ドメインに両方の型の改変、すなわち、ノブインホールと6アミノ酸の短縮(Δ6)をC末端に含めた。より詳細には、「CH3ホール」を親抗体のVHのN末端に融合し、「CH3ノブ」を親抗体のVLのN末端に融合した。GGGS(配列番号17)リンカーをCH3ドメインと可変領域との間に含めた。
【0137】
フォーマット6~11では、同じノブインホールCH3ドメインを使用した;フォーマット6はCH3ドメインのC末端に短縮を有さなかった;フォーマット7は、CH3ドメインのC末端に1アミノ酸の短縮(Δ1)を有した;フォーマット8は、CH3ドメインのC末端に2アミノ酸の短縮(Δ2)を有した;フォーマット9は、CH3ドメインのC末端に3アミノ酸の短縮(Δ3)を有した;フォーマット10は、CH3ドメインのC末端に4アミノ酸の短縮(Δ4)を有した;フォーマット11は、CH3ドメインのC末端に5アミノ酸(five acids)の短縮(Δ5)を有した。
【表6】
【0138】
フォーマット5を、まず、細胞に基づくFACS結合アッセイにおいてフォーマット1および2と比較した。図5および以下の表8に示されている通り、驚いたことに、フォーマット5の活性はフォーマット1(親抗体)およびフォーマット2(KIH変異を有さない非短縮野生型CH3)と比較して無視できるものであり、KIH変異がCH3マスキング部分の遮断効果に寄与し得ることが示唆される。
【表7-1】
【表7-2】
【表7-3】
【表7-4】
【表7-5】
【表7-6】
【表7-7】
【表8】
【0139】
続いて、フォーマット5~11を細胞に基づくFACS結合アッセイにおいてフォーマット1(親抗体)と比較した。結果を図6に示す。
【0140】
図6に、CH3ドメインと可変領域の間の距離が短いほど、CH3ドメインによるマスキング効果が大きかったことが大まかに示されている。それにもかかわらず、フォーマット5~11の全てで優れた親抗体の結合活性の遮断効果が示された。マスキングCH3のノブ-イントゥ-ホール変異が良好な遮断効果のために必須である。
【0141】
上記の結果に従って、図7に例示され、配列が表9に示されているフォーマット12~15と称される新規の抗体プロドラッグを設計した。
【0142】
フォーマット12~14は、フォーマット7と同じ構造特性を共有する。3つのフォーマット全てが、KIH変異CH3Δ1をマスキング部分として含み、マスクと可変領域を接続するGGGSリンカーを含んだ。Fc部分はhIgG1である。フォーマット12の可変領域は、臨床段階にあるMacroGenicsからの抗B7-H3抗体であるMGA017の配列に基づいた。フォーマット13および14の可変領域は、自社開発したB7-H3抗体、それぞれMabA6およびMabC1の配列に基づいた。
【0143】
フォーマット15は、MGA017の可変領域に基づくものであり、KIH変異CH3Δ6をマスキング部分として有し、かつGGGS(配列番号17)リンカーを有するプロドラッグであった。Fc部分はmIgG1である。
【表9-1】
【表9-2】
【表9-3】
【表9-4】
【0144】
フォーマット12~14の遮断効果を、B7H3を発現するA375細胞株およびA375.S2細胞株における細胞に基づく結合に関してFACSによって評価した。図8に示されている通り、フォーマット12~14プロドラッグは、それらの親ネイキッド抗体と比較して、結合活性の有意な低下を示した。図9Aに示されている通り、mIgG1 Fcを有するフォーマット15でも、A375細胞における結合効力に有意な低下が示された。これらのデータから、CH3 KIHマスキング部分により、異なる抗体の遮断活性を効率的に遮断することができることが示唆された。
【0145】
B7-H3抗体は、標的に結合すると内部移行し得る。CH3マスキング部分を有するprobodyの内部移行も低減するかどうかを決定するために、pHAbチオール色素で標識したα-mIgG二次抗体を、フォーマット15またはその親抗体MGA017それぞれと一緒にインキュベートした。混合物を、A375細胞を予め播種した96ウェルアッセイプレートに添加し、蛍光強度を測定することによって抗体の内部移行を評定した。図9Bに示されている通り、フォーマット15については蛍光シグナルが検出され得ず、CH3マスキング部分を有するプロドラッグでは抗体の内部移行も低減することが示唆される。
【0146】
フォーマット15または親抗体MGA017を、MMAEで標識したα-mIgG二次抗体と一緒にインキュベートし、次いで、A375細胞に添加した。図9Cに示されている通り、フォーマット15についてはMMAEにより媒介される細胞殺滅が排除された。これらの結果から、CH3 KIHマスキング部分を有するprobodyでは、結合活性だけでなく、親抗体の機能活性も低下させることができることが示された。
(実施例3)
種々の長さのリンカーを有する抗体プロドラッグ
【0147】
本実施例では、KIH変異CH3Δ6をマスキング部分として有し、かつ4アミノ酸から20アミノ酸までの範囲の種々の長さのリンカーを有する一連のプロドラッグについて記載する。これらの抗体フォーマットは図10に例示され、配列が表10に示されている。これらの抗体の可変領域はセツキシマブの配列に基づく。
【表10-1】
【表10-2】
【表10-3】
【表10-4】
【表10-5】
【表10-6】
【表10-7】
【0148】
これらの抗体プロドラッグを、ヒトEGFRへの結合についてFACSによって試験した。結果を図11に示す。遮断活性は、リンカーの長さと逆相関した。効率的な遮断のためには長さが20アミノ酸未満(20アミノ酸を含まない)のリンカーが最適であり、そのようなリンカーでは、結合活性において少なくとも20倍の低下がもたらされる。
(実施例4)
切断可能なリンカーを有する抗体プロドラッグ
【0149】
本実施例では、切断可能なリンカーを有するプロドラッグのin vitro活性を試験した。本実施例では、MMP-2により切断可能なペプチドである「PLGLAG」(配列番号55)または「IPVSLRSG」(配列番号64)または両方のペプチドの組合せ(IPVSLRSGPLGLAG;配列番号103)をプロドラッグのリンカーとして選択した。フォーマット28~31の可変領域は、MGA017の配列に基づくものであり、KIH CH3Δ6をマスキング部分として有する。抗体設計が図12に例示され、配列が表11に示されている。
【表11-1】
【表11-2】
【表11-3】
【表11-4】
【表11-5】
【0150】
図13に示されている通り、切断可能なリンカーを有するプロドラッグフォーマット28~30も、それらの親抗体MGA017と比較して、A375細胞およびA375.S2細胞における細胞に基づく結合に関して優れた遮断効果を示した。
【0151】
マスキング部分の酵素による切断後にプロドラッグ抗体の機能が回復し得るかどうかを決定するために、in vitroプロテアーゼ活性化アッセイを実施した。リンカー「IPVSLRSG」(配列番号64)を有するフォーマット28は、MMP-2を添加することで酵素により活性化された。図14Aに示されている通り、活性化されたフォーマット28は、親抗体(MGA017-mIgG1)と同等の結合活性を示した。同様にプロドラッグの機能が回復し得るかどうかを決定するために、毒性ペイロードMMAEによって媒介される腫瘍殺滅を実施した。図14Bに示されている通り、MMAEとコンジュゲートしたプロドラッグフォーマット28はA375に対する殺滅効果を示さなかったが、一方、同じ実験設定で、酵素により活性化されたフォーマット28は、親MGA017と比較して同等の腫瘍殺滅を示した。これらのデータから、マスキング部分を酵素によって適当に除去した場合、CH3-KIH部分および切断可能なリンカーを有するプロドラッグの機能が回復し得ることが示唆された。
【0152】
フォーマット31は、リンカーを、2つのMMP-2切断部位の組合せである「IPVSLRSGPLGLAG」(配列番号103)によって置き換えた以外はフォーマット28と同じ設計を有するプロドラッグであった。図15Aに示されている通り、ネイキッド抗体MGA017と比較して、フォーマット31も細胞に基づく結合アッセイにおいて良好な遮断効果を示した。切断部位が1つの場合と切断部位が2つの場合の同じ実験条件下でのタンパク質分解効率を比較するために、フォーマット28およびフォーマット31を飽和未満の量のMMP-2と混合し、活性化された抗体を細胞に基づくアッセイにおいてB7H3発現A375に対して評価した。図15Bに示されている通り、活性化されたフォーマット31は、MGA017-mIgG1に対して同等の結合を示し、一方、タンパク質分解により活性化されたフォーマット28も結合活性が部分的に回復したが、その程度は活性化されたフォーマット31よりも低かった。これらの結果から、2つのタンデムな切断部位を有するフォーマット31では、1つの切断部位を有するフォーマット28よりも明らかに良好なタンパク質分解有効性が示されることが示唆された。
【0153】
フォーマット32は、Fc部分がヒトIgG1である以外はフォーマット31と同様であった。2つの切断部位を有するprobodyの機能がMMP2によるタンパク質分解後に回復し得るかどうかを決定するために、probodyフォーマット32をMMAEとコンジュゲートし、次いで、in vitroにおけるMMP-2の添加によって切断した。図16に示されている通り、MMAEとコンジュゲートしたフォーマット31では、非結合-MMAE(MMAEで標識した抗HEL hIgG1)と同様に無視できる殺滅が示されたが、一方、活性化されたフォーマット31は、MGA017-MMAEと比較して強力な殺滅効果を示した。これらの結果から、CH3マスキングプロドラッグを切断することができ、ある特定のプロテアーゼによるタンパク質分解後に機能が回復し得ることが裏付けられた。
(実施例5)
他の免疫グロブリンドメインをマスクとして有する抗体プロドラッグ
【0154】
本実施例では、他の免疫グロブリンドメインを潜在的マスキング部分として有するプロドラッグについて記載する。フォーマット33は、一対のヒトIgG1 CH3断片とヒトIgG4断片をマスクとして含み、かつ、GGGS(配列番号17)リンカーを含んだ。フォーマット34は、一対のヒトIgG1 CH1断片(IgG1 CH1はCH1プラスEPKSC(配列番号120)を意味する)とヒトCLκ断片をマスクとして含み、かつGGGS(配列番号17)リンカーを含んだ。これらのプロドラッグは図17に例示され、配列は表12に示された。これらのプロドラッグのB7H3発現A375細胞株に対する結合を試験した。図18に示されている通り、フォーマット33および34では、マスクされていないMGA017と比較して明白な遮断効果が示された。しかし、概して、フォーマット34における定常領域の遮断効果はフォーマット33または12におけるものよりも弱く、CH3/CH3対の遮断有効性がより高いことが実証された。
【表12-1】
【表12-2】
【0155】
本開示は、本開示の個々の態様の単一の例証として意図されている記載された特定の実施形態による範囲に限定されるべきではなく、機能的に等価のあらゆる組成物または方法が本開示の範囲内に入る。本開示の主旨または範囲から逸脱することなく、本開示の方法および組成物に種々の改変および変形を行うことができることが当業者には明らかである。したがって、本開示は、本開示の改変および変形形態を、それらが添付の特許請求の範囲およびそれらの等価物の範囲内に入ることを条件として包含するものとする。
【0156】
本明細書において言及される全ての刊行物および特許出願は、個々の刊行物または特許出願がそれぞれ具体的にかつ個別に参照により組み込まれることが示されたものと同じ程度に参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
2024532409000001.xml
【国際調査報告】