IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アリゾナ ボード オブ リージェンツ オン ビハーフ オブ ザ ユニヴァーシティ オブ アリゾナの特許一覧 ▶ ラエセド、エルエルシーの特許一覧

特表2024-532412肺疾患を処置及び予防するための組成物及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】肺疾患を処置及び予防するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/08 20190101AFI20240829BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20240829BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240829BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240829BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20240829BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240829BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240829BHJP
   A61K 31/46 20060101ALI20240829BHJP
   A61K 31/58 20060101ALI20240829BHJP
   A61K 31/56 20060101ALI20240829BHJP
   A61K 31/137 20060101ALI20240829BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240829BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20240829BHJP
   C07K 7/06 20060101ALN20240829BHJP
【FI】
A61K38/08
A61K38/10
A61P11/00
A61P29/00
A61P11/06
A61P31/14
A61K45/00
A61K31/46
A61K31/58
A61K31/56
A61K31/137
A61P43/00 121
C07K7/08 ZNA
C07K7/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513322
(86)(22)【出願日】2022-08-23
(85)【翻訳文提出日】2024-04-16
(86)【国際出願番号】 US2022075356
(87)【国際公開番号】W WO2023028491
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】17/409,642
(32)【優先日】2021-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】323006932
【氏名又は名称】アリゾナ ボード オブ リージェンツ オン ビハーフ オブ ザ ユニヴァーシティ オブ アリゾナ
(71)【出願人】
【識別番号】524069983
【氏名又は名称】ラエセド、エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レッドフォード、ジュリー
(72)【発明者】
【氏名】クラフト、モニカ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァグネル、ジョセフ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA17
4C084BA18
4C084BA23
4C084DC50
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA59
4C084MA66
4C084NA05
4C084ZA59
4C084ZB11
4C084ZB33
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB15
4C086DA08
4C086DA12
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA59
4C086MA66
4C086NA05
4C086ZA59
4C086ZB11
4C086ZB33
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA14
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA72
4C206MA75
4C206MA79
4C206MA86
4C206NA05
4C206ZA59
4C206ZB11
4C206ZB33
4C206ZC75
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA14
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045CA40
4H045EA20
(57)【要約】
肺疾患を処置及び予防するための組成物及び方法が、本明細書で提供される。特に、肺疾患(例えば、喘息又はCOPD)の処置及び予防における、SP-Aペプチド及びその使用が、本明細書で提供される。組成物は、KEQCVE(配列番号9)のアミノ酸配列を有するペプチドを含み得る。ペプチド組成物はまた、COVID-19を処置するために使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性肺疾患の処置を必要とする対象の炎症性肺疾患を処置する方法であって、治療有効量のKEQCVE(配列番号9)のアミノ酸配列を含む精製ペプチドを対象に投与することを含む、方法。
【請求項2】
ペプチドが、KEQCVEMYTD(配列番号4)又はPAGRGKEQCVEMYTDGQWND(配列番号8)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ペプチドが、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、及び配列番号24からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
炎症性肺疾患が、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、又はCOVID-19を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
喘息が、2型喘息、非2型喘息、早期発症喘息、遅発性喘息、肥満関連喘息、運動誘発性喘息、喘息増悪、タバコ煙に対する汚染物質に関連する喘息、又は感染症に関連する喘息からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
精製ペプチドが、エアロゾル化又は皮下注射のための調製物中にある、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
精製ペプチドが、経鼻吸入、皮下、又は経口投与される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
精製ペプチドを、1種又は複数の追加の治療用薬剤と共に投与することをさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
1種又は複数の治療用薬剤が、精製ペプチドと同時に又は順次投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
1種又は複数の治療用薬剤が、短時間作用型ベータ2-アドレナリン受容体アゴニスト(SABA)、長時間作用型ベータアゴニスト(LABA)、抗コリン作用薬、ロイコトリエン受容体アンタゴニスト、又はそれらの組合せを含む、請求項8又は請求項9に記載の方法。
【請求項11】
抗コリン作用薬が、臭化イプラトロピウム、吸入用エピネフリン及び吸入用コルチコステロイドを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
吸入用コルチコステロイドが、ブデソニド、フルチカゾン、モメタゾン又はシクレソニドを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
医薬担体中にKEQCVE(配列番号9)のアミノ酸配列を含む精製ペプチドを含む、細胞におけるSP-A活性を増強するための医薬組成物。
【請求項14】
精製ペプチドが、KEQCVE(Xaa)(配列番号10)のアミノ酸配列を含み、式中、nが4~16アミノ酸の範囲であり;Xaaが、いずれかの天然又は非天然アミノ酸である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
ペプチドが、KEQCVEMYTD(配列番号4)又はPAGRGKEQCVEMYTDGQWND(配列番号8)を含む、請求項13又は請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
ペプチドが、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、及び配列番号24からなる群から選択される、請求項13に記載の組成物。
【請求項17】
請求項13~16のいずれか一項に記載の組成物であって、エアロゾル化、皮下注射、又は肺送達のための調製物中にある、組成物。
【請求項18】
細胞が肺細胞である、請求項13~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
請求項13~18のいずれか一項に記載の医薬組成物と、該組成物の肺送達のためのデバイスとを含む、システム。
【請求項20】
前記デバイスが、定量吸入器又はネブライザーである、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
炎症性肺疾患の処置を必要とする対象の炎症性肺疾患を処置する方法であって、治療有効量の請求項13~18のいずれか一項に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む、方法。
【請求項22】
炎症性肺疾患が、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、又はCOVID-19を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
喘息が、2型喘息、非2型喘息、早期発症喘息、遅発性喘息、肥満関連喘息、運動誘発性喘息、又は喘息増悪からなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
組成物が、経鼻吸入、皮下、又は経口投与される、請求項21~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
組成物を、1種又は複数の追加の治療用薬剤と共に投与することをさらに含む、請求項21~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
1種又は複数の治療用薬剤が、精製ペプチドと同時に又は順次投与される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
精製ペプチドを含む組成物を対象の細胞に送達することを含む方法であって、該ペプチドがKEQCVE(配列番号9)のアミノ酸配列を含み、該送達することが、細胞におけるSP-A活性を増強すること、対象の炎症性肺疾患を処置すること、又はその両方をもたらす、方法。
【請求項28】
ペプチドが、KEQCVEMYTD(配列番号4)又はPAGRGKEQCVEMYTDGQWND(配列番号8)を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
ペプチドが、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、及び配列番号24からなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
炎症性肺疾患が、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、又はCOVID-19を含む、請求項27~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
喘息が、2型喘息、非2型喘息、早期発症喘息、遅発性喘息、肥満関連喘息、運動誘発性喘息、又は喘息増悪からなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
精製ペプチドが、エアロゾル化又は皮下注射のための調製物中にある、請求項27~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
精製ペプチドが、経鼻吸入、皮下、又は経口投与される、請求項27~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記組成物が、前記細胞におけるムチン産生を低減させ、及び/又は好酸球増多症を低減させる、請求項27~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
組成物を、1種又は複数の追加の治療用薬剤と共に投与することをさらに含む、請求項27~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
1種又は複数の治療用薬剤が、精製ペプチドと同時に又は順次投与される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
対象が肥満である、請求項27~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
炎症性肺疾患を処置する方法で使用するための精製ペプチドであって、KEQCVE(配列番号9)のアミノ酸配列を含む、精製ペプチド。
【請求項39】
KEQCVEMYTD(配列番号4)又はPAGRGKEQCVEMYTDGQWND(配列番号8)を含む、請求項38に記載のペプチド。
【請求項40】
配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、及び配列番号24からなる群から選択される、請求項38に記載のペプチド。
【請求項41】
炎症性肺疾患が、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、又はCOVID-19を含む、請求項38~40のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項42】
喘息が、2型喘息、非2型喘息、早期発症喘息、遅発性喘息、肥満関連喘息、運動誘発性喘息、喘息増悪、タバコ煙に対する汚染物質に関連する喘息、又は感染症に関連する喘息からなる群から選択される、請求項41に記載のペプチド。
【請求項43】
精製ペプチドが、エアロゾル化又は皮下注射のための調製物中にある、請求項38~42のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項44】
精製ペプチドが、経鼻吸入、皮下、又は経口投与される、請求項38~43のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項45】
方法が、精製ペプチドを、1種又は複数の追加の治療用薬剤と共に投与することをさらに含む、請求項38~44のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項46】
1種又は複数の治療用薬剤が、精製ペプチドと同時に又は順次投与される、請求項45に記載のペプチド。
【請求項47】
1種又は複数の治療用薬剤が、短時間作用型ベータ2-アドレナリン受容体アゴニスト(SABA)、長時間作用型ベータアゴニスト(LABA)、抗コリン作用薬、ロイコトリエン受容体アンタゴニスト、又はそれらの組合せを含む、請求項45又は請求項46に記載のペプチド。
【請求項48】
抗コリン作用薬が、臭化イプラトロピウム、吸入用コルチコステロイド又は全身性コルチコステロイドを含む、請求項47に記載のペプチド。
【請求項49】
吸入用コルチコステロイド又は全身性コルチコステロイドが、ブデソニド、フルチカゾン、モメタゾン又はシクレソニドを含む、請求項48に記載のペプチド。
【請求項50】
コロナウイルス疾患2019(COVID-19)の処置を必要とする対象のコロナウイルス疾患2019(COVID-19)を処置する方法であって、治療有効量のKEQCVE(配列番号9)のアミノ酸配列を含む精製ペプチドを対象に投与することを含む、方法。
【請求項51】
ペプチドが、KEQCVEMYTD(配列番号4)又はPAGRGKEQCVEMYTDGQWND(配列番号8)を含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
ペプチドが、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、及び配列番号24からなる群から選択される、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
精製ペプチドが、エアロゾル化、又は皮下注射のための調製物中にある、請求項50~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
精製ペプチドが、経鼻吸入、皮下、又は経口投与される、請求項50~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
精製ペプチドを、1種又は複数の追加の治療用薬剤と共に投与することをさらに含む、請求項50~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
1種又は複数の治療用薬剤が、精製ペプチドと同時に又は順次投与される、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
1種又は複数の治療用薬剤が、短時間作用型ベータ2-アドレナリン受容体アゴニスト(SABA)、長時間作用型ベータアゴニスト(LABA)、抗コリン作用薬、ロイコトリエン受容体アンタゴニスト、又はそれらの組合せを含む、請求項55又は請求項56に記載の方法。
【請求項58】
抗コリン作用薬が、臭化イプラトロピウム、吸入用エピネフリン及び吸入用コルチコステロイドを含む、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
吸入用コルチコステロイドが、ブデソニド、フルチカゾン、モメタゾン又はシクレソニドを含む、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
コロナウイルス疾患2019(COVID-19)を処置する方法で使用するための精製ペプチドであって、KEQCVE(配列番号9)のアミノ酸配列を含む、精製ペプチド。
【請求項61】
KEQCVEMYTD(配列番号4)又はPAGRGKEQCVEMYTDGQWND(配列番号8)を含む、請求項60に記載のペプチド。
【請求項62】
配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、及び配列番号24からなる群から選択される、請求項60に記載のペプチド。
【請求項63】
精製ペプチドが、エアロゾル化又は皮下注射のための調製物中にある、ペプチド。
【請求項64】
精製ペプチドが、経鼻吸入、皮下、又は経口投与される、請求項60~62のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項65】
方法が、精製ペプチドを、1種又は複数の追加の治療用薬剤と共に投与することをさらに含む、請求項60~64のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項66】
1種又は複数の治療用薬剤が、精製ペプチドと同時に又は順次投与される、請求項65に記載のペプチド。
【請求項67】
1種又は複数の治療用薬剤が、短時間作用型ベータ2-アドレナリン受容体アゴニスト(SABA)、長時間作用型ベータアゴニスト(LABA)、抗コリン作用薬、ロイコトリエン受容体アンタゴニスト、又はそれらの組合せを含む、請求項65又は請求項66に記載のペプチド。
【請求項68】
抗コリン作用薬が、臭化イプラトロピウム、吸入用コルチコステロイド又は全身性コルチコステロイドを含む、請求項67に記載のペプチド。
【請求項69】
吸入用コルチコステロイド又は全身性コルチコステロイドが、ブデソニド、フルチカゾン、モメタゾン又はシクレソニドを含む、請求項68に記載のペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年8月23日に出願された米国出願第17/409,642号の利益を主張し、その明細書は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発に関する記載
本発明は、国立衛生研究所により授与された助成金番号R0I HL125602及びU19 AI125357の下で政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
肺疾患を処置及び予防するための組成物及び方法が、本明細書で提供される。特に、肺疾患(例えば、炎症性肺疾患(例えば、喘息))の処置及び予防における、SP-Aペプチド及びその使用が、本明細書で提供される。
【背景技術】
【0004】
喘息は、小児及び成人の両方で最も一般的な呼吸器疾患であり、世界中の人口の10%、米国単独で2500万人が罹患している。喘息は、気道過敏性、炎症、及び間欠型の呼吸器症候を特徴とする慢性症候群である。喘息の医療負担は大きく、直接医療の医療費及び生産性の損失を考慮すると、米国では年間810億ドルの支出になる。かなりの費用及び増加する有病率にもかかわらず、喘息は、疾患の不均一性のために、理解が不十分なままであり、管理が困難である。
【0005】
喘息の罹患率及び死亡率の大きな原因は急性増悪であり、これは気道損傷、リモデリング、肺機能の減退、及び死亡につながる可能性がある。ほとんどの増悪は、呼吸器感染(例えば、ライノウイルス又はマイコプラズマニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae))によって引き起こされ、これらの感染に対する応答は複雑であり、自然免疫系及び適応免疫系の両方が関与する。重症の喘息患者では、増悪は、加速した肺機能の減退に関連する。低減した肺機能は重度の増悪のリスク因子であるので、この悪循環は喘息の増悪傾向の表現型を促進し得る。このように、喘息増悪を駆動する機構の理解は、喘息病理生物学の理解の進歩に対する重大な障壁であった。喘息増悪における宿主応答は複雑であり、自然免疫系及び適応免疫系の両方が関与する。利用可能な処置のうち、喘息の処置のための自然免疫モジュレータは現在存在せず、適応免疫系に向けられたものは疾患をコントロールしていない。このように、喘息及び他の炎症性肺疾患の処置における自然応答に向けた新しい治療法を開発することの大きな必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目標は、独立請求項に明記されているように、肺疾患(例えば、炎症性肺疾患(例えば、喘息))の処置及び予防を可能にする組成物及び方法を提供することである。本発明の実施形態は、従属請求項に記載されている。本発明の実施形態は、相互に排他的でない場合、互いに自由に組み合わされ得る。
【0007】
サーファクタントプロテインA(SP-A)は、分泌されるリポタンパク質複合体である。SP-Aは、いくつかの種類の肺細胞(肺胞II型細胞、気道クラブ細胞、及び粘膜下腺細胞)によって産生及び分泌され、上気道及び下気道全体の吸入傷害(例えば、感染性傷害及び/又は環境性傷害)に対する防御の第一線として作用する自然免疫モジュレータである。それは、肺における病原体食作用及び炎症プロセスの調節因子として作用する。成熟SP-Aは、SP-A1及びSP-A2遺伝子に由来するヘテロオリゴマー産物である。
【0008】
本明細書に記載の実験は、喘息患者において、SP-A野生型配列(配列番号1)内のSP-A2 Gln223Lys(すなわち、Q223K)対立遺伝子が、低下した肺機能、低下した喘息コントロール、ならびに増加したBAL及び血清好酸球増多症に関連することを実証した。このように、SP-Aは、好酸球の脱顆粒及び生存、ならびにムチン分泌及び2型炎症の重要な調節因子であり、それによって喘息の重症度に有意に影響を及ぼす可能性がある。単離された好酸球、SP-A欠損マウス、及び目的の特定のSP-A対立遺伝子オリゴマー(例えば、配列番号9を含む本明細書に記載の精製ペプチド)を含むSP-Aを用いたインビトロ研究により、SP-Aが好酸球のアポトーシスを直接刺激し、この効果が特定のSP-Aペプチドによって再現され得ること、及びSP-A対立遺伝子バリアントが好酸球の応答を差次的にモジュレートすることを見出した。
【化1】
【0009】
本発明を何らかの理論又は機構に限定することを望むものではないが、SP-Aは気管支肺胞区画において好酸球に遭遇し、炎症プロセスの消散期中におけるそれらのアポトーシスの重大な調節因子であると考えられている。本明細書に記載されているように、SP-Aは、好酸球のアポトーシスシグナル伝達経路を直接誘導する役割を果たし、これは、ムチン産生及び好酸球増多症などのアレルギー表現型の減弱をもたらす。SP-Aは、アレルギー性喘息又は2型喘息の喘息対象から得られた気道上皮細胞において、IL-13によって誘導されるムチン及びIL-6を減弱させる。
【0010】
本発明は、肺疾患(例えば、炎症性肺疾患)を処置及び予防するための組成物及び方法を特徴とし得る。特に、肺疾患(例えば、喘息)の処置及び予防における、SP-Aペプチド及びその使用が、本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、本発明は、炎症性肺疾患の処置を必要とする対象の炎症性肺疾患を処置する方法を特徴とする。方法は、治療有効量の本明細書に記載されているような組成物(例えば、精製ペプチド)のいずれか1種を対象に投与することを含み得る。本発明は、炎症性肺疾患の処置を必要とする対象の炎症性肺疾患を処置する方法で使用するための、KEQCVE(配列番号9)のアミノ酸配列を含む精製ペプチドをさらに特徴とし得る。
【0011】
いくつかの実施形態では、本発明は、細胞におけるSP-A活性を増強するための方法及び組成物(例えば、医薬組成物)を特徴とする。組成物(例えば、医薬組成物)は、本明細書に記載されているような精製ペプチドのいずれか1種及び医薬担体を含み得る。いくつかの実施形態では、組成物はエアロゾル化のための調製物中にある。方法は、本明細書に記載の組成物のいずれか1種を細胞(例えば、肺細胞)に送達することを含み得る。
【0012】
さらなる実施形態は、a)本明細書に記載の組成物のいずれか1種と、b)組成物の肺送達のためのデバイスとを含む、システムを提供する。いくつかの実施形態では、デバイスは定量吸入器である。
【0013】
本発明の独特かつ発明的な技術的特徴のうちの1つは、KEQCVE(配列番号9)(すなわち、6mer)を含むアミノ酸配列ペプチドの使用である。本発明を何らかの理論又は機構に限定することを望むものではないが、本発明の技術的特徴は、吸入送達を有利に提供することと考えられている。追加的に、6mer(すなわち、KEQCVE(配列番号9))を含めることは、より大きいペプチド模倣物(すなわち、10mer又は20mer)の活性のために必要である。追加的に、より小さい(すなわち、6mer)ペプチドは、より大きいペプチドと比較して、より深く肺に届く(すなわち、ペプチドは、それをより先の肺に入れることができる)。さらに、本明細書に記載のペプチドは、肺内のSP-Aの置換え及び/又は増補を可能にする。現在知られている先行参考文献及び業績のいずれも、本発明の独特で発明的な技術的特徴を有していない。
【0014】
利用可能な処置のうち、喘息の処置のための自然免疫モジュレータは現在存在せず、適応免疫系に向けられたものは疾患をコントロールしていない。このように、喘息及び他の炎症性肺疾患の処置における自然応答に向けた新しい治療法を開発することの大きな必要性が存在する。本発明者らは、サーファクタントプロテインA(SP-A)の効果を模倣する小分子を発見した。SP-Aは肺被覆液の天然コンポーネントであり、防御の第一線として作用する。一部の喘息患者は、SP-Aを有さないか、又は傷んだSP-Aを有する。肺に直接送達される全長SP-Aは、その大きいサイズ及び複雑な構造のために実現不可能である。本発明者らは、最初に、活性の特異的領域を決定するために、SP-A2のレクチンドメインに由来する一連の10~20アミノ酸ペプチドを開発した。本明細書に記載の所見は、10~20アミノ酸のSP-Aペプチドが、喘息の2つの異なる前臨床マウスモデルにおいて、喘息の基本的な特徴である気道狭窄を低減させることを実証している。
【0015】
さらに、本発明の発明的な技術的特徴は、驚くべき結果に寄与した。例えば、6mer(すなわち、KEQCVE(配列番号9))を含むペプチド模倣物は、好酸球の生存率及びSTATシグナル伝達の両方に影響を及ぼし(すなわち、低下させ)、このことは、最終的に喘息の患者にとって有益である可能性がある。追加的に、6mer(すなわち、KEQCVE(配列番号9))を含むペプチド模倣物は、前臨床動物試験において、雄及び雌の両方で活性を有する。さらに、6mer(すなわち、KEQCVE(配列番号9))を含むペプチド模倣物は、以下の2つの段階で働く:(1)気道粘液産生及びメタコリンに対する過剰反応を低減させる急性期、及び(2)炎症性好酸球及び好中球を肺からクリアする後期。最後に、6mer(すなわち、KEQCVE(配列番号9))を含むペプチド模倣物は、より長い期間にわたって働き;例えば、1回の用量は7~10日間有効性が持続し得る。ヒト気道細胞では、ペプチド模倣物はまた、粘膜メディエータ及び炎症誘発性メディエータを低減させる
【0016】
本明細書に記載のいずれかの特徴又は特徴の組合せは、そのような組合せのいずれかに含まれる特徴が、文脈、本明細書、及び当業者の知識から明らかであり得るように、相互に矛盾しない限り、本発明の範囲内に含まれる。本発明の追加の利点及び側面は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲において明らかである。
【0017】
本発明の特徴及び利点は、添付の図面と関係して提示される以下の詳細な説明の考察から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、10mer(すなわち、配列番号4)及び/又は20mer(すなわち、配列番号8)のSP-Aペプチド、ならびに本明細書に記載の他のSP-Aペプチドが、喘息の2つの異なる前臨床マウスモデルにおいて、喘息の基本的な特徴である気道狭窄をどのように低減させるかの非限定的な概要を示す。図1に示すように、本明細書で発見された保護作用の機構は、1)アポトーシスを誘導し、気道からの消散を促進するための、喘息における重大な炎症性細胞である好酸球との直接相互作用、及び2)ムチン産生を阻害するための、肺を裏打ちし、炎症プロセスに参画する上皮細胞との直接相互作用に起因する。
【0019】
図2A図2Aは、SP-A2の遺伝的バリエーションが、肺機能及び喘息コントロールの変化に関連することを示す。SP-A2遺伝子のrs1965708(Gln223Lys)の対立遺伝子によって層別化された53人の喘息対象のコホートにおける予測されるFEV1パーセント及び喘息コントロール質問票スコア。223K/K遺伝子型を有する喘息対象は、223Q/Kのヘテロ接合体及びメジャー対立遺伝子(223Q/Qのホモ接合性)遺伝子型と比較して、有意に悪い喘息コントロール(右パネル)及び有意により低い肺機能(左パネル)を実証している。Q/Qと比較した*p<0.05。
図2B図2Bは、SP-A2の遺伝的バリエーションが、肺機能及び喘息コントロールの変化に関連することを示す。SP-A2遺伝子のrs1965708(Gln223Lys)の対立遺伝子によって層別化された53人の喘息対象のコホートにおける予測されるFEV1パーセント及び喘息コントロール質問票スコア。223K/K遺伝子型を有する喘息対象は、223Q/Kのヘテロ接合体及びメジャー対立遺伝子(223Q/Qのホモ接合性)遺伝子型と比較して、有意に悪い喘息コントロール(右パネル)及び有意により低い肺機能(左パネル)を実証している。Q/Qと比較した*p<0.05。
【0020】
図3A図3Aは、SP-A2の遺伝的バリエーションが、ヒト化SP-AトランスジェニックマウスにおけるIL-13誘導性炎症に対する保護の程度を決定することを示す。IL-13でチャレンジしたマウス由来のBAL細胞を示す。BAL細胞は、マクロファージ、好中球、及び好酸球からなった。
図3B図3Bは、SP-A2の遺伝的バリエーションが、ヒト化SP-AトランスジェニックマウスにおけるIL-13誘導性炎症に対する保護の程度を決定することを示す。マクロファージを示す。
図3C図3Cは、SP-A2の遺伝的バリエーションが、ヒト化SP-AトランスジェニックマウスにおけるIL-13誘導性炎症に対する保護の程度を決定することを示す。好中球を示す。
図3D図3Dは、SP-A2の遺伝的バリエーションが、ヒト化SP-AトランスジェニックマウスにおけるIL-13誘導性炎症に対する保護の程度を決定することを示す。好酸球を示す。
図3E図3Eは、SP-A2の遺伝的バリエーションが、ヒト化SP-AトランスジェニックマウスにおけるIL-13誘導性炎症に対する保護の程度を決定することを示す。IL-13でチャレンジしたマウスのPASスコア化された肺組織学を示す。N=群当たり12WT;15SP-A-/-;8SP-A223Q/Q;12SP-A223K/K(3回の別個の実験の繰返し)。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。多重比較のためのダネット検定を伴う一元配置Anovaによる****p<0.0001。
図3F図3Fは、SP-A2の遺伝的バリエーションが、ヒト化SP-AトランスジェニックマウスにおけるIL-13誘導性炎症に対する保護の程度を決定することを示す。IL-13で処理した各遺伝子型の代表的なPAS画像を示す。
図3G図3Gは、SP-A2の遺伝的バリエーションが、ヒト化SP-AトランスジェニックマウスにおけるIL-13誘導性炎症に対する保護の程度を決定することを示す。代表的な肺試料からのウエスタンブロット及びデンシトメトリーによるStat3のリン酸化を示す。テューキーの多重比較を伴う一元配置Anovaによる*p<0.05。
図3H図3Hは、SP-A2の遺伝的バリエーションが、ヒト化SP-AトランスジェニックマウスにおけるIL-13誘導性炎症に対する保護の程度を決定することを示す。代表的な肺試料からのウエスタンブロット及びデンシトメトリーによるStat3のリン酸化を示す。テューキーの多重比較を伴う一元配置Anovaによる*p<0.05。
【0021】
図4A図4Aは、SP-A2の遺伝的バリエーションが、喘息参加者からの気管支上皮細胞のIL-13誘導性炎症に対する保護の程度を決定することを示す。気液界面(ALI)で成長させ、チャレンジの30分前に添加した全長組換えSP-A2(223K)(20μg/ml)又はSP-A2(223Q)(20μg/ml)の存在又は非存在下で、5日間IL-13で処理した気管支上皮細胞(n=3正常、n=3喘息)のMUC5AC RNAの発現を示す。ハウスキーパー遺伝子に対して標準化した後、データを、それぞれの患者セットについてのIL-13非チャレンジ対照に対する倍数として、標準偏差を示しながら表示されている。平均倍数変化及び標準偏差が表示されている。*p<0.05。
図4B図4Bは、SP-A2の遺伝的バリエーションが、喘息参加者からの気管支上皮細胞のIL-13誘導性炎症に対する保護の程度を決定することを示す。抽出されたヒトオリゴマー対照SP-Aと比較したIL-13に対する相対的な結合について、223位(Q及びK)においてのみ異なるSP-A2の遺伝的バリアントを調べたことを示す。
【0022】
図5A図5Aは、SP-Aペプチドで処理したHDMチャレンジSP-A欠損マウスが、炎症のホールマークを低減させたことを示す。0、7、及び14日目に、HDMで鼻腔内チャレンジしたSP-A欠損マウスを示す。15日目に、マウスを群に分け、25μg/ml濃度(約1mg/kg体重)での中咽頭滴下によって、ビヒクル又はSP-Aペプチド(10mer(すなわち、配列番号4)又は20mer(すなわち、配列番号8))のいずれかを与えた。
図5B図5Bは、SP-Aペプチドで処理したHDMチャレンジSP-A欠損マウスが、炎症のホールマークを低減させたことを示す。19日目に、マウスを屠殺し、BAL中の好酸球を評価した。n=10、10、多重比較のための一元配置Anovaによる**p<0.01、***p<0.001。
図5C図5Cは、SP-Aペプチドで処理したHDMチャレンジSP-A欠損マウスが、炎症のホールマークを低減させたことを示す。19日目に、マウスを屠殺し、ムチン産生を評価した。n=10、10、多重比較のための一元配置Anovaによる**p<0.01、***p<0.001。
図5D図5Dは、SP-Aペプチドで処理したHDMチャレンジSP-A欠損マウスが、炎症のホールマークを低減させたことを示す。19日目に、マウスを屠殺し、肺組織学切片を評価した。n=10、10、多重比較のための一元配置Anovaによる**p<0.01、***p<0.001。
【0023】
図6A図6Aは、短縮10AAペプチドが、マウスHDMモデルにおいて、ムチン産生を低減させることを示す。
図6B図6Bは、短縮10AAペプチドが、マウスHDMモデルにおいて、好酸球増多症を低減させることを示す。
図6C図6Cは、短縮10AAペプチドが、ヒト初代細胞において、ムチン(Muc5AC RNA)を低減させることを示す。
【0024】
図7A図7Aは、SP-Aペプチドで処理したHDMチャレンジWTマウスが、メタコリンチャレンジに対する感受性が低減していることを示す。図7Aは、0、7、及び14日目に、HDMで鼻腔内チャレンジしたWT雄マウスを示す。1、8及び15日目に、マウスを群に分け、中咽頭滴下によってビヒクル又はSP-Aペプチド(10mer(すなわち、配列番号4)、25μg/ml、約1mg/kg体重)のいずれかを与えた。19日目に、マウスを麻酔しながら、メタコリンチャレンジ中の肺機能試験を行った。
図7B図7Bは、SP-Aペプチドで処理したHDMチャレンジWTマウスが、メタコリンチャレンジに対する感受性が低減していることを示し、全気道抵抗(Rrs)を示す。グラフ化されたデータは、平均値+/-SEMである。n=12、12、各指示された用量でのt検定による*p<0.05、**p<0.01
図7C図7Cは、SP-Aペプチドで処理したHDMチャレンジWTマウスが、メタコリンチャレンジに対する感受性が低減していることを示し、ニュートン抵抗(Rn)を示す。グラフ化されたデータは、平均値+/-SEMである。n=12、12、各指示された用量でのt検定による*p<0.05、**p<0.01
図7D図7Dは、SP-Aペプチドで処理したHDMチャレンジWTマウスが、メタコリンチャレンジに対する感受性が低減していることを示し、全気道エラスタンス(Ers)を示す。グラフ化されたデータは、平均値+/-SEMである。n=12、12、各指示された用量でのt検定による*p<0.05、**p<0.01
図7E図7Eは、SP-Aペプチドで処理したHDMチャレンジWTマウスが、メタコリンチャレンジに対する感受性が低減していることを示し、図7Eは、フレキシベントによって評価された組織ダンピングを示す。グラフ化されたデータは、平均値+/-SEMである。n=12、12、各指示された用量でのt検定による*p<0.05、**p<0.01
【0025】
図8A図8Aは、SP-Aペプチドが、IL-13モデルにおいて、気道過敏性(AHR)に対して保護することを示す。
図8B図8Bは、SP-Aペプチドが、IL-13モデルにおいて、気道過敏性(AHR)に対して保護することを示す。
【0026】
図9図9は、SP-A 10merペプチド(すなわち、配列番号4)で処理したIL-13チャレンジマウスが、改善された肺機能を有することを示す。WT雄マウスに、ビヒクル(生理食塩水)又はIL-13(3.9μg)を中咽頭送達によって3日間連続してチャレンジした。各IL-13チャレンジの2時間後、マウスは、ビヒクル(生理食塩水)又はSP-A 10merペプチド(25μg/ml;約1mg/kg体重)のいずれかを、中咽頭送達によって受けた。肺機能試験を、陰圧駆動強制呼気(NPFE)拡張を伴うフレキシベント装置(SCIREQ)で4日目に実施した。IL-13チャレンジにより、0.05秒でニュートン抵抗(Rn)が有意に増加し、強制呼気量(FEV)が低下した。SP-A 10merペプチドでの処理は、IL-13が誘導したRnの増加及びFEVの低下に対して保護した。平均値の平均+/-SEMをグラフ化し、n=2回の独立した実験から示される。多重比較のためのANOVAによる*p<0.05、***p<0.001。
【0027】
図10図10は、SP-Aペプチドで処理した初代ヒト肺上皮細胞が、IL-13誘導性MUC5AC遺伝子の発現を低減させたことを示す。正常及び喘息参加者に由来する初代ヒト気管支上皮細胞を、20mer(すなわち、配列番号8)又は10mer(すなわち、配列番号8)のSP-Aペプチドのいずれか(20μg/ml)と共に30分間インキュベートした後、IL-13(10ng/ml)で5日間刺激した。まとめると(喘息及び正常細胞)、MUC5AC遺伝子の発現は、IL-13単独と比較して、SP-A 20mer処理群において有意に低減した(p=0.004)。
【0028】
図11A図11Aは、経時的なBALF好酸球増多症の評価を示し、アレルギー性気道のOVAモデルを示す。
図11B図11Bは、経時的なBALF好酸球増多症の評価を示し、最終チャレンジの24時間後、3日後及び5日後のBALF中の細胞分布を示す。
図11C図11Cは、経時的なBALF好酸球増多症の評価を示し、経時的な好酸球頻度の設定変化を示す。
図11D図11Dは、経時的なBALF好酸球増多症の評価を示し、24時間及び5日での平均値の差異、対応のないスチューデントのt検定を示す。多重比較のためのボンフェロー二の補正を伴う一元配置ANOVA、*p<0.05、**p<0.01 データ(平均値±SEM)は、n=3~5匹のマウス/群を用いた少なくとも2回の独立した実験からのものである。
【0029】
図12A図12Aは、経時的な組織の好酸球増多症の評価を示し、シリウスレッド染色(上部パネル:40倍拡大、下部パネル:100倍拡大)による肺組織中の好酸球(矢印は代表的な好酸球を指し示す)の代表的な明視野画像を示す。
図12B図12Bは、経時的な組織の好酸球増多症の評価を示し、5日目の好酸球カウントの定量化を示す。
図12C図12Cは、経時的な組織の好酸球増多症の評価を示し、経時的な好酸球頻度の純変化を示す。
図12D図12Dは、経時的な組織の好酸球増多症の評価を示し、24時間及び5日での平均値の差異、対応のないスチューデントのt検定、#p<0.05、**p<0.01を示す。
図12E図12Eは、経時的な組織の好酸球増多症の評価を示し、最終チャレンジの5日後の肺組織中の好酸球関連リボヌクレアーゼ(EAR)のmRNAを示す。多重比較のためのボンフェロー二の補正を伴う一元配置ANOVA、*p<0.05。データ(平均値±SEM)は、n=3~5匹のマウス/群を用いた少なくとも2回の独立した実験からのものである。
【0030】
図13A図13Aは、SP-Aがインビトロでマウス及びヒト好酸球において好酸球のアポトーシスを誘導する能力の評価を示し、トリパンブルーによって評価された生存率の時間経過を示す。
図13B図13Bは、SP-Aがインビトロでマウス及びヒト好酸球において好酸球のアポトーシスを誘導する能力の評価を示し、SP-Aによるマウス好酸球のインビトロ刺激のリアルタイム細胞分析器(RTCA)追跡及び用量応答を示し、AUC=曲線下面積である。
図13C図13Cは、SP-Aがインビトロでマウス及びヒト好酸球において好酸球のアポトーシスを誘導する能力の評価を示し、アネキシンV及びPIによるヒト好酸球のアポトーシス及び細胞死、ならびにSP-Aとの16時間のインキュベーション後の定量化の代表的なフロー図である。生存=アネキシンV-、PI-、初期アポトーシス=アネキシンV+、PI-、後期アポトーシス/死=アネキシンV+、PI+
図13D図13Dは、SP-Aがインビトロでマウス及びヒト好酸球において好酸球のアポトーシスを誘導する能力の評価を示し、未処理対照に対して標準化したマウス好酸球のウエスタンブロットによるカスパーゼ-3のデンシトメトリーを示す。多重比較のための補正を伴うANOVA、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。データ(平均値±SEM)は、n=2~3回反復/処理を用いた少なくとも2回の独立した実験からのものである。
【0031】
図14A図14Aは、OVAチャレンジ後のSP-A欠損マウスにおける好酸球に対する外因性SP-A投与の効果の評価を示し、OVAチャレンジ及びSP-Aレスキューの概略図を示す。
図14B図14Bは、OVAチャレンジ後のSP-A欠損マウスにおける好酸球に対する外因性SP-A投与の効果の評価を示し、アネキシンV及びPIによる好酸球のアポトーシス及び細胞死の代表的なフロー図を示す。
図14C図14Cは、OVAチャレンジ後のSP-A欠損マウスにおける好酸球に対する外因性SP-A投与の効果の評価を示し、最終チャレンジの5日後のBALF中の総生存好酸球カウントを示す。*p<0.05。データ(平均値±SEM)は、n=5匹のマウス/群を用いた2回の独立した実験の代表である。
【0032】
図15A図15Aは、OvaモデルにおけるSP-A2ヒト化マウスの炎症の分析を示す。マウスを、Ovaモデルにおいて感作及びチャレンジし、チャレンジの24時間後にBAL細胞性(左パネル)及びチャレンジの7日後にムチン産生(右パネル)を評価した。マウスにおけるヒトSP-A 223Qの存在は、SP-A-/-マウスと比較して、より少ない好酸球増多症及びムチン産生によって判定されるように、より多くの保護をもたらした。SP-A 223Q発現マウスは、Ovaチャレンジ後のWT対照マウス(正常マウスSP-Aを有する)と比較して、類似のBAL好酸球増多症及びムチン産生を有した。
図15B図15Bは、OvaモデルにおけるSP-A2ヒト化マウスの炎症の分析を示す。マウスを、Ovaモデルにおいて感作及びチャレンジし、チャレンジの24時間後にBAL細胞性(左パネル)及びチャレンジの7日後にムチン産生(右パネル)を評価した。マウスにおけるヒトSP-A 223Qの存在は、SP-A-/-マウスと比較して、より少ない好酸球増多症及びムチン産生によって判定されるように、より多くの保護をもたらした。SP-A 223Q発現マウスは、Ovaチャレンジ後のWT対照マウス(正常マウスSP-Aを有する)と比較して、類似のBAL好酸球増多症及びムチン産生を有した。
【0033】
図16A図16Aは、HDMモデルにおいて「治療用」SP-Aペプチドを受けるマウスにおける炎症の分析を示す。マウスを、一般的な方法により、HDMモデルにおいて感作及びチャレンジした。最後のチャレンジの24時間後、マウスは、ビヒクル、223Qを含む活性部位を包含する20mer又は10merのいずれかを受けた。アレルギー性気道消散に対するSP-Aの役割を評価するために、チャレンジの7日後にBAL細胞性(左パネル)及びムチン産生(右パネル)を評価した。SP-A KOマウスは、WTマウスと比較して、BAL好酸球増多症を有意に増強した。223Qマウス及び223Kマウスの両方が、このモデルの急性期において幾分保護される。
図16B図16Bは、HDMモデルにおいて「治療用」SP-Aペプチドを受けるマウスにおける炎症の分析を示す。マウスを、一般的な方法により、HDMモデルにおいて感作及びチャレンジした。最後のチャレンジの24時間後、マウスは、ビヒクル、223Qを含む活性部位を包含する20mer又は10merのいずれかを受けた。アレルギー性気道消散に対するSP-Aの役割を評価するために、チャレンジの7日後にBAL細胞性(左パネル)及びムチン産生(右パネル)を評価した。SP-A KOマウスは、WTマウスと比較して、BAL好酸球増多症を有意に増強した。223Qマウス及び223Kマウスの両方が、このモデルの急性期において幾分保護される。
【0034】
図17図17は、SP-A223Q 10merペプチドが、ヒト気道上皮細胞において、IL-13曝露後のMUCSACの発現を有意に抑制することを示す。2名の喘息参加者からの気液界面で培養した気道上皮細胞を、IL-13単独、又はIL-13+レクチンドメインの223位にGlnを含むSP-A2ペプチド(223Q)に曝露した。223位Q/Qでホモ接合性である全長オリゴマーSP-Aを、陽性対照として使用した。48時間のインキュベーション後、MUCSACの発現をRT-PCRによって測定した。
【0035】
図18図18は、SP-Aが、肥満の喘息患者において、有意に減少することを示す。これは潜在的にSP-Aペプチド療法の標的群である。
【0036】
図19図19は、喘息患者から採取したヒト気道上皮細胞において、本明細書に記載のペプチド及びリードペプチド模倣物(すなわち、配列番号4及び配列番号8(ペプチド);及び配列番号12(ペプチド模倣物))が、喘息で活性化される重要なシグナル伝達経路-STAT3を低減させることを示す。Stat3シグナル伝達の活性化は、喘息を悪化させる気道炎症及び粘液産生をもたらす。この重要なシグナル伝達経路を上位の候補(例えば、配列番号12)で40~50%及び/又はここで80%低減させることにより、喘息の症候を低減させることによる喘息患者の肺の有意な保護につながるだろう。具体的には、下部のグラフは、ペプチド模倣リード(すなわち、配列番号12)が、喘息患者由来の気道上皮細胞において、IL-13で刺激されたStat-3シグナル伝達を低減させることを示している。気管支上皮細胞を気液界面で培養し、14日間分化させた。細胞を、IL-13(50ng/ml)による30分間の側底刺激の前に、1時間、漸増用量のペプチド模倣リード867(すなわち、配列番号12)で側底処理した。全細胞溶解物を、総STAT3及びβ-アクチンと比較して、ウエスタンブロットによってSTAT3のリン酸化について分析した。
【0037】
図20図20は、ペプチド模倣リード(例えば、配列番号25又はC892)が、HEKレポーター細胞において、IL-6で刺激されたSTAT-3シグナル伝達を低減させることを示す。細胞を、IL-6(16ng/ml)で18時間刺激する前に、漸増濃度で30分間C892を用いて前処理した。細胞の蛍光によって測定されたSTAT-3の活性化を、Clariostar装置で基質に1分曝露した後に読み取った。n=条件当たり3回反復。
【0038】
図21図21は、ペプチド模倣リード(例えば、配列番号12又はC867)が、2型喘息の4名の参加者由来の気道上皮細胞のMUC5ACの発現を低減させることを示す。気管支鏡検査によって得られた細胞を、気液界面で14日間培養した。14日目に、細胞は分化し、繊毛を発現し、粘液を産生する。一部の細胞をC867(13.08μM)を用いて1時間前処理した後、粘液及びムチン遺伝子の発現に対する有意な刺激であるIL-13(10ng/ml)で5日間刺激した。MUC5AC遺伝子の発現は、42%有意に低減した(p=0.01)。
【0039】
図22図22は、ペプチド模倣リード(例えば、配列番号25又はC892)が、喘息モデルにおいて、メタコリンチャレンジに対して気管支狭窄を低減させることを示す。WT C57BL/6雌マウスを、各チャレンジの0、7、14日及び24時間後にHDMで処理し、一部のマウスはリード化合物(表1より)を受けた。メタコリンに対するAHRを16日目に行った。ANOVAによる*p<0.05、HDM対生理食塩水;HDM+リード化合物は生理食塩水対照と異ならなかった。
【0040】
図23図23は、ペプチド模倣リードが、全長SP-Aと比較して、HEKレポーター細胞において、IL-6で刺激されたSTAT-3シグナル伝達を低減させることを示す。細胞を、IL-6(16ng/ml)で18時間刺激する前に、漸増濃度で30分間全長SP-A又はリードペプチドのいずれかを用いて前処理した。細胞の蛍光によって測定されたSTAT-3の活性化を、Clariostar装置で基質に1分曝露した後に読み取った。n=条件当たり3回反復。
【0041】
図24図24は、小さいオリゴエチレングリコールリンカー、Pegoを含む配列番号23の構造を示す。具体的には、配列番号23は、それぞれがユニット当たりMW230のジグリム二酸を介して接続された3つのエチレングリコールを有する、3つのPegoユニット(すなわち、Pego3)を含む。C末端には、ここでは脂質の付着Hdcが存在する。
【0042】
図25図25は、ACE2を過剰発現するHEK293T溶解物へのSP-A結合を示す。SP-Aがコーティングされたプレートを、様々な濃度で、Ca2+の存在(実線)又は非存在(破線)下で、ACE2を過剰発現する293T細胞からの溶解物と共にインキュベートした。結合を、450nmの波長での吸光度によってヒト抗ACE2を用いて検出し、プレートリーダーによって読み取った。トランスフェクトされていない293T細胞溶解物(破線)を陰性対照として試験した。n=3回の実験。
【0043】
図26図26は、SP-A 20merペプチドが、ACE過剰発現細胞への結合について競合することを示す。全長SP-A又はSP-A 20merは、プレートに結合したSP-AへのACE2結合について競合(阻害)した。20merスクランブル(SCR)ペプチドは、ほとんど又は全く効果がなかった。n=3回の実験。
【0044】
図27A図27Aは、全長SP-Aが、ACE2を過剰発現する細胞へのスパイクタンパク質の結合を低減させることを示す。
図27B図27Bは、全長SP-Aが、ACE2を過剰発現する細胞へのスパイクタンパク質の結合を低減させることを示す。
【0045】
図28図28は、SP-Aが、ACE2を過剰発現する細胞へのインビトロでのS1タンパク質シュードタイプ化レンチウイルス粒子の形質導入を低減させたことを示す。
【0046】
図29図29は、SP-Aが、肺胞オルガノイドにおいて、SARS-CoV-2感染を減弱させることを示す。SP-Aを用いた肺胞オルガノイドの前処理は、SARS-CoV-2 N遺伝子の発現を有意に低減させた。データを、CoV2試料に対する倍数変化±SEMとして表す。MOCK試料ではN遺伝子の発現は検出されなかった。テューキーの事後検定を伴う一元配置ANOVAを使用して、データを分析した****p<0.0001。n=3回の技術的反復。
【0047】
図30図30は、SP-A 20merペプチドが、ACE-2/スパイク媒介性シュードウイルスの侵入を阻害することを示す。
【0048】
定義:
「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、天然又は非天然アミノ酸残基を含むアミノ酸残基のポリマーを指すために互換的に使用され、最小の長さに限定されない。このように、ペプチド、オリゴペプチド、ダイマー、マルチマーなどが定義内に含まれる。全長タンパク質及びその断片の両方が、定義に包含される。用語はまた、例えば、グリコシル化、シアリル化、アセチル化、及びリン酸化を含む、ポリペプチドの翻訳後改変を含む。さらに、本明細書における「ポリペプチド」はまた、タンパク質が所望の活性を維持する限り、天然型配列に対する単一又は複数のアミノ酸残基の欠失、付加、及び置換などの改変されたタンパク質を指す。例えば、セリン残基を置換して単一の反応性システインを取り除いてもよく、もしくはジスルフィド結合を除去してもよく、又は保存的アミノ酸置換を行って切断部位を取り除いてもよい。これらの改変は、部位特異的変異誘発などによる意図的なものであってもよく、又はタンパク質を生成する宿主の変異もしくはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅に起因するエラーなどによる偶発的なものであってもよい。
【0049】
本明細書で使用される場合、「ペプチド」という用語は、ペプチド結合によって一緒に連結されたアミノ酸の短いポリマーを指す。他のアミノ酸ポリマー(例えば、タンパク質、ポリペプチドなど)とは対照的に、ペプチドは約50アミノ酸長以下である。ペプチドは、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、アミノ酸類似体、及び/又は改変アミノ酸を含んでもよい。ペプチドは、天然に存在するタンパク質の部分配列又は非天然(合成)配列であってもよい。
【0050】
本明細書で使用される場合、「野生型」という用語は、遺伝子、対立遺伝子、遺伝子型、ポリペプチド、もしくは表現型、又はこれらのいずれかの断片の非変異バージョンを指す。それは、天然に存在してもよく、又は組換えで産生されてもよい。本明細書で使用される場合、「バリアント」という用語は、単一又は複数のアミノ酸の置換、欠失、及び/又は付加によって参照の核酸分子又はポリペプチドとは異なり、かつ参照の核酸分子又はポリペプチドの少なくとも1つの生物学的活性を実質的に保持する核酸分子又はポリペプチドを指す。
【0051】
「ペプチド模倣物(peptide mimetic)」又は「ペプチド模倣物(peptidomimetic)」という用語は、タンパク質又はペプチドに由来する配列をまねるペプチド様分子を指す。ペプチド模倣物(peptide mimetic)又はペプチド模倣物(peptidomimetic)は、アミノ酸及び/又は非アミノ酸コンポーネントを含んでもよい。ペプチド模倣物の例としては、化学的に改変されたペプチド、ペプトイド(側鎖は、α炭素ではなく、ペプチド骨格の窒素原子に付け加えられる)、Pペプチド(α炭素ではなく、β炭素に結合したアミノ基)などが挙げられる。
【0052】
本明細書で使用される場合、「保存的」アミノ酸置換は、ペプチド又はポリペプチドのアミノ酸を、類似の化学的特性(例えば、サイズ又は電荷)を有する別のアミノ酸で置換することを指す。本開示の目的に関しては、以下の8つの群の各々は、互いに保存的置換であるアミノ酸を含む:(1)アラニン(A)及びグリシン(G);(2)アスパラギン酸(D)及びグルタミン酸(E);(3)アスパラギン(N)及びグルタミン(Q);(4)アルギニン(R)及びリジン(K);(5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、及びバリン(V);(6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、及びトリプトファン(W);(7)セリン(S)及びトレオニン(T);ならびに(8)システイン(C)及びメチオニン(M)。
【0053】
天然に存在する残基は、共通の側鎖特性に基づいてクラスに分けられ得る、例えば、極性の正(ヒスチジン(H)、リジン(K)、及びアルギニン(R))、極性の負(アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E));極性の中性(セリン(S)、トレオニン(T)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q));非極性の脂肪族(アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、メチオニン(M));非極性の芳香族(フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W));プロリン及びグリシン;ならびにシステイン。本明細書で使用される場合、「半保存的」アミノ酸置換は、ペプチド又はポリペプチドのアミノ酸を、同じクラス内の別のアミノ酸で置換することを指す。
【0054】
いくつかの実施形態では、別段の指定がない限り、保存的又は半保存的アミノ酸置換は、天然残基と類似の化学的特性を有する天然に存在しないアミノ酸残基も包含し得る。これらの非天然残基は、典型的には、生物系における合成ではなく、化学的ペプチド合成によって組み込まれる。これらとしては、ペプチド模倣物及びアミノ酸モイエティの他のリバース形態又はインバート形態が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書における実施形態は、いくつかの実施形態では、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、及び/又はアミノ酸類似体に限定され得る。非保存的置換は、あるクラスのメンバーを別のクラスのメンバーに交換することを含み得る。
【0055】
本明細書で使用される場合、「配列同一性」という用語は、2つのポリマー配列(例えば、ペプチド、ポリペプチド、核酸など)がモノマーサブユニットの同じ連続組成を有する程度を指す。「配列類似性」という用語は、2つのポリマー配列(例えば、ペプチド、ポリペプチド、核酸など)が保存的及び/又は半保存的アミノ酸置換によってのみ異なる程度を指す。「配列同一性パーセント」(又は「配列類似性パーセント」)は、(1)比較のウィンドウ(例えば、より長い配列の長さ、より短い配列の長さ、指定されたウィンドウなど)にわたって2つの最適に整列された配列を比較すること、(2)同一の(又は類似の)モノマーを含む位置(例えば、同じアミノ酸が両方の配列に存在する、類似のアミノ酸が両方の配列に存在する)の数を決定して、一致した位置の数を得ること、(3)一致した位置の数を比較ウィンドウ(例えば、より長い配列の長さ、より短い配列の長さ、指定されたウィンドウ)内の位置の総数で割ること、及び(4)結果に100を乗算して、配列同一性パーセント又は配列類似性パーセントを得ることによって計算される。例えば、ペプチドA及びBが両方とも20アミノ酸長であり、かつ1つを除くすべての位置で同一のアミノ酸を有する場合、ペプチドA及びペプチドBは95%の配列同一性を有する。非同一な位置でのアミノ酸が同じ生物物理学的特徴(例えば、両方とも酸性であった)を共有した場合、ペプチドA及びペプチドBは100%の配列類似性を有する。別の例として、ペプチドCが20アミノ酸長であり、ペプチドDが15アミノ酸長であり、かつペプチドDの15アミノ酸のうち14個がペプチドCの部分のものと同一である場合、ペプチドC及びDは70%の配列同一性を有するが、ペプチドDはペプチドCの最適な比較ウィンドウに対して93.3%の配列同一性を有する。本明細書における「配列同一性パーセント」(又は「配列類似性パーセント」)を計算する目的に関しては、整列された配列のあらゆるギャップを、その位置でのミスマッチとして処理する。
【0056】
「対象」、「個体」、「宿主」、「動物」、及び「患者(ペイシェント)」は、げっ歯類、類人猿、ヒト、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、哺乳類の実験動物、哺乳類の農場動物、哺乳類のスポーツ動物、及び哺乳類のペットを含むがこれらに限定されない哺乳動物を指すために、本明細書では互換的に使用される。
【0057】
本明細書で使用される場合、「投与」及び「投与する」という用語は、薬物、プロドラッグ、又は他の薬剤、又は治療的処置(例えば、SP-Aペプチド)を、対象又はインビボ、インビトロ、もしくはエクスビボの細胞、組織、及び器官に与える行為を指す。人体への投与の例示的な経路は、脳又は脊髄のくも膜下の空間(くも膜下腔)、目(眼)、口(経口)、皮膚(局所又は経皮)、鼻(経鼻)、肺(吸入)、口腔粘膜(頬)、耳、直腸、膣、注射(例えば、静脈内、皮下、腫瘍内、腹腔内など)などを通り得る。
【0058】
本明細書で使用される場合、「共投与」及び「共投与する」という用語は、対象への少なくとも2種の薬剤(例えば、複数のSP-Aペプチド又はSP-Aペプチド及び別の治療用薬剤)又は療法の投与を指す。いくつかの実施形態では、2種又はそれを超える薬剤又は療法の共投与は同時である。他の実施形態では、第1の薬剤/療法は、第2の薬剤/療法の前に投与される。当業者は、使用される様々な薬剤又は療法の製剤及び/又は投与の経路が変動し得ることを理解する。共投与のための適切な投与量は、当業者によって容易に決定され得る。いくつかの実施形態では、薬剤又は療法が共投与される場合、それぞれの薬剤又は療法は、それらの単独投与のために適切であるよりも低い投与量で投与される。このように、薬剤又は療法の共投与が、潜在的に有害な(例えば、毒性の)薬剤(複数可)の必要な投与量を低下させる実施形態、及び/又は2種もしくはそれを超える薬剤の共投与が、他の薬剤の共投与を介して、薬剤のうちの1つの有益な効果に対する対象の感作をもたらす実施形態では、共投与が特に望ましい。
【0059】
「処置」は、本明細書で使用される場合、ヒトを含む哺乳動物の疾患のための治療薬のあらゆる投与又は適用を網羅し、例えば、退縮を引き起こすことによって、又は失われた、不足した、もしくは欠損した機能を回復もしくは修復することによって;又は非効率的なプロセスを刺激することによって、疾患を阻害すること、その発症を停止させること、又は疾患を軽減させることを含む。
【0060】
「薬学的に許容され得る担体」は、対象への投与のための治療用薬剤と共に使用するための当技術分野で慣用的な非毒性の固体、半固体、もしくは液体の充填剤、希釈剤、封入材料、製剤補助剤、又は担体を指す。薬学的に許容され得る担体は、用いられる投与量及び濃度でレシピエントに対して非毒性であり、製剤の他の成分と適合性である。薬学的に許容され得る担体は、用いられる製剤に対して適切である。例えば、治療用薬剤が経口投与される場合、担体はゲルカプセルであり得る。治療用薬剤が皮下投与される場合、担体は理想的には皮膚に対して刺激性でなく、注射部位の反応を引き起こさない。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本化合物、組成物、及び/又は方法が開示及び記載される前に、本発明は特定の合成方法又は特定の組成物に限定されず、したがって当然のことながら変動し得ることを理解されたい。本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明する目的のみのためであり、限定することを意図するものではないことも理解されたい。
【0062】
ここで図1図30を参照すると、本発明は、肺疾患を処置及び予防するための組成物及び方法を特徴とする。特に、肺疾患(例えば、炎症性肺疾患(例えば、喘息))の処置及び予防における、SP-Aペプチド及びその使用が、本明細書で提供される。
【0063】
本発明は、その配列が内因性ヒトSP-Aの活性領域に由来し、かつSP-A2ペプチドの223位にメジャーQ対立遺伝子を含むペプチドを使用して、肺疾患(例えば、炎症性肺疾患)を処置及び予防するための組成物及び方法を特徴とする。例えば、いくつかの実施形態では、例えば、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8から選択されるアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか、もしくはそれからなるペプチド、又は該ペプチドに対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%)の同一性を有するペプチドを含む組成物が提供される。いくつかの実施形態では、ペプチドは、例えば、FC(CD16/32)、サープアルファ、TLR-2、EGFR、又はMYADM(骨髄関連分化マーカー)から選択される受容体に結合する。
【0064】
いくつかの実施形態では、本発明は、炎症性肺疾患(例えば、喘息)の処置を必要とする対象の炎症性肺疾患を処置する方法を特徴とし得る。方法は、治療有効量の本明細書に記載されているような精製ペプチド(例えば、KEQCVE(配列番号9)のアミノ酸配列を含む精製ペプチド)を対象に投与することを含み得る。他の実施形態では、本発明は、炎症性肺疾患の処置を必要とする対象の炎症性肺疾患を処置する方法で使用するための、KEQCVE(配列番号9)のアミノ酸配列を含む精製ペプチドを特徴とする。
【0065】
本発明はまた、細胞におけるSP-A活性を増強するための方法及び組成物(例えば、医薬組成物)を特徴とし得る。組成物は、本明細書に記載されているような精製ペプチドのいずれか及び医薬担体を含み得る。いくつかの実施形態では、組成物(例えば、医薬組成物)は、KEQCVE(配列番号9)のアミノ酸配列を含む精製ペプチド及び医薬担体を含む。他の実施形態では、組成物(例えば、医薬組成物)は、KEQCVE(Xaa)(配列番号10)のアミノ酸配列を含む精製ペプチド及び医薬担体を含み;式中、nは4~16アミノ酸の範囲であり、Xaaはいずれかの天然又は非天然アミノ酸である。さらなる実施形態では、組成物(例えば、医薬組成物)は、(Xaa)KEQCVE(Xaa)(配列番号20)のアミノ酸配列を含む精製ペプチド及び医薬担体を含み;式中、nは1~16アミノ酸の範囲であり、Xaaはいずれかの天然又は非天然アミノ酸である。いくつかの実施形態では、組成物はエアロゾル化のための調製物中にある。細胞におけるSP-A活性を増強するための方法は、本明細書に記載されているような精製ペプチド(例えば、KEQCVE(配列番号9)のアミノ酸配列を含むペプチド)を含む組成物を細胞(例えば、肺細胞)に送達することを含み得る。
【0066】
いくつかの実施形態では、nは0~20アミノ酸の範囲である。いくつかの実施形態では、nは0~15アミノ酸の範囲である。いくつかの実施形態では、nは0~10アミノ酸の範囲である。いくつかの実施形態では、nは0~5アミノ酸の範囲である。いくつかの実施形態では、nは0~1アミノ酸の範囲である。いくつかの実施形態では、nは1~20アミノ酸の範囲である。いくつかの実施形態では、nは1~15アミノ酸の範囲である。いくつかの実施形態では、nは1~10アミノ酸の範囲である。いくつかの実施形態では、nは1~5アミノ酸の範囲である。いくつかの実施形態では、nは4~20アミノ酸の範囲である。いくつかの実施形態では、nは4~15アミノ酸の範囲である。いくつかの実施形態では、nは4~10アミノ酸の範囲である。いくつかの実施形態では、nは4~5アミノ酸の範囲である。いくつかの実施形態では、nは5~20アミノ酸の範囲である。いくつかの実施形態では、nは5~15アミノ酸の範囲である。いくつかの実施形態では、nは5~10アミノ酸の範囲である。いくつかの実施形態では、nは10~20アミノ酸の範囲である。いくつかの実施形態では、nは10~15アミノ酸の範囲である。いくつかの実施形態では、nは15~20アミノ酸の範囲である。
【0067】
表1は、本明細書に記載の組成物及び方法に従って使用され得る精製ペプチドの非限定的な例を示す。
【表1】
【0068】
いくつかの実施形態では、前述のペプチド(すなわち、表1に列挙されるペプチド)は、提供されるペプチドに対して少なくとも80%(例えば、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、又は90%)の同一性のアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなる。いくつかの実施形態では、組成物は医薬組成物である。いくつかの実施形態では、組成物は、薬学的に許容され得る担体を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、肺送達用に製剤化される。他の実施形態では、前述のペプチド(すなわち、表1に列挙されるペプチド)は、提供されるペプチドに対して少なくとも95%、90%、85%、83%、80%、75%、又は70%の同一性のアミノ酸配列を含み得るか、それから本質的になり得るか、又はそれからなり得る。
【0069】
表1を参照すると、Nleは、式CH(CH2)CH(NH2)COH(又は体系名は2-アミノヘキサン酸である)を有するアミノ酸であるノルロイシンを指し、Pego3は、ポリエチレングリコール(PEG)を用いた生物活性分子の生化学的改変プロセスであるPEG化を指し、これは、治療又は細胞の遺伝的改変に使用されると考えられるタンパク質/ペプチド、抗体、及び小胞にいくつかの望ましい特性を付与する。PEG化は、PEGの反応性誘導体と標的分子とのインキュベーションによって日常的に達成される。薬物又は治療用タンパク質へのPEGの共有結合的付着は、宿主の免疫系から薬剤を「マスク」(免疫原性及び抗原性を低減させる)することができ、かつその流体力学的サイズ(溶液中のサイズ)を増加させることができ、腎クリアランスを低減させることによってその循環時間を延長する。PEG化はまた、疎水性薬物及びタンパク質に水溶性を提供することができる。その薬理学的利点及び受容性が証明されているので、PEG化技術は、成長中の数十億ドル産業の基礎である。追加的に、アセチル(Ac)改変を使用して、天然型タンパク質のものと厳密に一致させ、エキソペプチダーゼによる酵素的分解に対してペプチド模倣物を安定化することができる。
【0070】
化合物C892(すなわち、配列番号25)は、C867(すなわち、配列番号12)の安定な等価類似体であり、両方とも、試験したすべてのアッセイにおいてほぼ同一の活性を示す。化合物C939(すなわち、配列番号23)及びC940(すなわち、配列番号24)は、化合物C892(すなわち、配列番号17)を超える追加のステップであり、ここではPEG化及び脂質化(Hdc)を含む。ペプチドの脂質化は、この改変がペプチドのインビボでの安定性を増加させ、腎臓クリアランスを低下させるので、新しいペプチドリードを生成するための最も堅牢な戦略であることが証明されている。
【0071】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のペプチドは、C末端へのアミン基又は酸基の付加、及びN末端のアセチル化又はヒスチジン(H)の付加によって改変される。他の実施形態では、本明細書に記載のペプチドは、N末端への酸の付加によって改変される。本明細書に記載のペプチドのN末端を改変するために使用され得る酸の非限定的な例としては、ヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基/カルボン酸基(COOH)、又はそれらの組合せが挙げられ得るが、これらに限定されない。さらなる実施形態では、本明細書に記載のペプチドは、脂質基ならびにC末端及び/又はN末端で改変される。
【0072】
いくつかの実施形態では、細胞は肺細胞である。いくつかの実施形態では、組成物は肺送達用である。いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書に記載されているような医薬組成物と、該組成物の肺送達のためのデバイスとを含む、システムを特徴とする。いくつかの実施形態では、デバイスは、定量吸入器又はネブライザーである。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物は、喘息、COPD、又はCOVID-19を処置又は予防するためのものである。
【0073】
本発明は、本明細書に記載されているようなペプチドを含む組成物を対象の細胞(例えば、肺細胞)に送達することを含む方法を特徴とする。いくつかの実施形態では、ペプチドは、KEQCVE(配列番号9)のアミノ酸配列を含む。他の実施形態では、ペプチドは、KEQCVE(Xaa)n(配列番号10)のアミノ酸配列を含む。さらなる実施形態では、ペプチドは、(Xaa)nKEQCVE(Xaa)n(配列番号20)のアミノ酸配列を含む。ペプチドを対象の細胞(例えば、肺細胞)に送達することにより、細胞におけるSP-A活性を増強し、及び/又は対象(すなわち、患者)もしくは参加者の喘息、COPD、もしくはCOVID-19を処置もしくは予防することができる。いくつかの実施形態では、組成物は、計量吸入器又はネブライザーを介して細胞(例えば、肺細胞)に送達される。
【0074】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物は、細胞又は肺組織におけるムチン産生を低減させ、及び/又は好酸球増多症を低減させる。いくつかの実施形態では、対象は肥満である。いくつかの実施形態では、ペプチドは、FC(CD16/32)、サープアルファ、TLR-2、又はEGFRなどの受容体に結合する。
【0075】
本発明は、本明細書に記載のSP-Aペプチドのバリアント及び模倣物をさらに提供する。いくつかの実施形態では、SP-Aペプチドは、本明細書に記載のペプチドと比較して、(例えば、SP-Aシグナル伝達に関与する位置又はSP-Aシグナル伝達に関与しない位置での)保存的、半保存的、及び/又は非保存的置換を含む。
【0076】
実施形態は、特定の置換に限定されない。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のペプチドは、さらに改変される(例えば、標準アミノ酸の置換、欠失、又は付加;化学的改変など)。当該分野で理解されている改変としては、N末端改変、C末端改変(ペプチドをタンパク質分解から保護する)、アミド基のアルキル化、炭化水素「ステープリング」(例えば、アルファ-ヘリックス立体配座を安定化させるため)が挙げられる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のペプチドは、例えば、荷電残基の保存的残基置換(KからRへ、RからKへ、DからEへ、及びEからDへ)によって改変され得る。いくつかの実施形態では、そのような保存的置換は、特異性及び/又は生物学的活性を改善する目標で、例えば、受容体結合部位に微妙な変化をもたらす。末端カルボキシ基の改変としては、限定されないが、アミド、低級アルキルアミド、拘束アルキル(例えば、分枝、環状、縮合、アダマンチル)アルキル、ジアルキルアミド、及び低級アルキルエステル改変が挙げられる。低級アルキルは、C1-C4アルキルである。さらに、1つ又は複数の側基又は末端基は、通常の技能のペプチド化学者に公知の保護基によって保護され得る。アミノ酸のα-炭素は、モノ又はジメチル化されていてもよい。
【0077】
いくつかの実施形態では、1つ又は複数のペプチド内ジスルフィド結合が(例えば、ペプチド内の2つのシステイン間に導入される。ペプチド内ジスルフィド結合の存在は、ペプチドを安定化し得る。
【0078】
本明細書に記載のいずれかの実施形態は、当該分野で理解されている様々な改変を有する、本明細書に記載のペプチドに対応するペプチド模倣物を含み得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のペプチド配列中の残基は、類似の特徴(例えば、疎水性から疎水性へ、中性から中性へなど)を有するか、又は他の所望の特徴(例えば、より酸性、より疎水性、より嵩高くない、より嵩高いなど)を有するアミノ酸で置換され得る。いくつかの実施形態では、所望の特性を達成するために、非天然アミノ酸(又は標準20アミノ酸以外の天然に存在するアミノ酸)が置換される。
【0079】
いくつかの実施形態では、生理学的条件下で正に帯電した側鎖を有する残基、又は正に帯電した側鎖が望まれる残基は、リジン、ホモリジン、δ-ヒドロキシリジン、ホモアルギニン、2,4-ジアミノ酪酸、3-ホモアルギニン、D-アルギニン、アルギナール(アルギニンの-COOHが-CHOによって置き換えられている)、2-アミノ-3-グアニジノプロピオン酸、ニトロアルギニン(N(G)-ニトロアルギニン)、ニトロソアルギニン(N(G)-ニトロソアルギニン)、メチルアルギニン(N-メチルアルギニン)、ε-N-メチルリジン、アロ-ヒドロキシリジン、2,3-ジアミノプロピオン酸、2,2’-ジアミノピメリン酸、オルニチン、対称性ジメチルアルギニン、非対称性ジメチルアルギニン、2,6-ジアミノヘキシン酸(2,6-diaminohexinic acid)、p-アミノ安息香酸及び3-アミノチロシンならびにヒスチジン、1-メチルヒスチジン及び3-メチルヒスチジンを含むがこれらに限定されない残基で置換される。
【0080】
中性残基は、生理学的条件下で非荷電である側鎖を有する残基である。極性残基は、好ましくは、側鎖に少なくとも1つの極性基を有する。いくつかの実施形態では、極性基は、ヒドロキシル、スルフヒドリル、アミン、アミド及びエステル基、又は水素架橋の形成を可能にする他の基から選択される。いくつかの実施形態では、生理学的条件下で中性/極性である側鎖を有する残基、又は中性側鎖が望まれる残基は、アスパラギン、システイン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、シトルリン、N-メチルセリン、ホモセリン、アロ-トレオニン及び3,5-ジニトロチロシン及び3-ホモセリンを含むがこれらに限定されない残基で置換される。
【0081】
非極性で疎水性の側鎖を有する残基は、生理学的条件下で、好ましくは0を超える、特に3を超えるハイドロパシー指数を有する非荷電残基である。いくつかの実施形態では、非極性で疎水性の側鎖は、1~10個、好ましくは2~6個の炭素原子を有するアルキル、アルキレン、アルコキシ、アルケノキシ、アルキルスルファニル及びアルケニルスルファニル残基、又は5~12個の炭素原子を有するアリール残基から選択される。いくつかの実施形態では、非極性で疎水性の側鎖を有する残基、又は非極性で疎水性の側鎖が望まれる残基は、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、アラニン、フェニルアラニン、N-メチルロイシン、tert-ブチルグリシン、オクチルグリシン、シクロヘキシルアラニン、β-アラニン、1-アミノシクロヘキシルカルボン酸、N-メチルイソロイシン、ノルロイシン、ノルバリン、及びN-メチルバリンを含むがこれらに限定されない残基で置換される。
【0082】
いくつかの実施形態では、ペプチド及びポリペプチドは、単離及び/又は精製される(又は実質的に単離及び/又は実質的に精製される)。したがって、そのような実施形態では、ペプチド及び/又はポリペプチドは、実質的に単離された形態で提供される。いくつかの実施形態では、ペプチド及び/又はポリペプチドは、例えば、固相ペプチド合成の結果として、他のペプチド及び/又はポリペプチドから単離される。あるいは、ペプチド及び/又はポリペプチドは、組換え産生からの細胞溶解後に、他のタンパク質から実質的に単離されてもよい。タンパク質精製の標準的な方法(例えば、HPLC)を用いて、ペプチド及び/又はポリペプチドを実質的に精製することができる。いくつかの実施形態では、本発明は、所望の用途に応じて、いくつかの製剤中のペプチド及び/又はポリペプチドの調製を提供する。例えば、ポリペプチドが実質的に単離されている(又はさらには他のタンパク質からほぼ完全に単離されている)場合、保存(例えば、冷蔵条件下又は凍結条件下)に適した媒体溶液中で製剤化され得る。そのような調製物は、緩衝剤、保存剤、凍結保護剤(例えば、トレハロースなどの糖)などの保護剤を含有し得る。そのような調製物の形態は、溶液、ゲルなどであり得る。いくつかの実施形態では、ペプチド及び/又はポリペプチドは凍結乾燥形態で調製される。その上、そのような調製物は、小分子又は他のペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質などの他の所望の薬剤を含み得る。実際、ここに記載の異なる実施形態のペプチド及び/又はポリペプチドの混合物を含むそのような調製物が提供されてもよい。
【0083】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のペプチド配列又はそのバリアントのペプチド模倣バージョンが、本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、ペプチド模倣物は、そのペプチド等価物の極性(又は非極性、疎水性など)、三次元サイズ、及び機能性(生物活性)を保持するが、ペプチド結合の全部又は一部が(例えば、より安定な連結によって)置き換えられている実体を特徴とする。いくつかの実施形態では、「安定」とは、化学的分解又は加水分解酵素による酵素的分解に対してより耐性であることを指す。いくつかの実施形態では、アミド結合を置き換える結合(例えば、アミド結合サロゲート)は、アミド結合のいくつかの特性(例えば、立体配座、立体的嵩高さ、静電的特徴、水素結合のキャパシティなど)を保存する。「Drug Design and Development」、Krogsgaard、Larsen、Liljefors、及びMadsen(編)1996、Horwood Acad.Publishersの第14章は、ペプチド模倣物の設計及び合成のための技法の一般的な議論を提供し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。適切なアミド結合サロゲートとしては、N-アルキル化(Schmidt,R.ら、Int.J.Peptide Protein Res.、1995、46、47;その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、レトロインバースアミド(Chorev,M.及びGoodman,M.、Acc.Chem.Res、1993、26、266;その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、チオアミド(Sherman D.B.及びSpatola,A.F.J.Am.Chem.Soc.、1990、112、433;その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、チオエステル、ホスホナート、ケトメチレン(Hoffman,R.V.及びKim,H.O.J.Org.Chem.、1995、60、5107;その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、ヒドロキシメチレン、フルオロビニル(Allmendinger,T.ら、Tetrahydron Lett.、1990、31、7297;その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、ビニル、メチレンアミノ(Sasaki,Y及びAbe,J.Chem.Pharm.Bull.1997 45、13;その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、メチレンチオ(Spatola,A.F.、Methods Neurosci、1993、13、19;その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、アルカン(Lavielle,S.ら、Int.J.Peptide Protein Res.、1993、42、270;その全体が参照により本明細書に組み込まれる)及びスルホンアミド(Luisi,G.ら、Tetrahedron Lett.1993、34、2391;その全体が参照により本明細書に組み込まれる)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0084】
アミド結合の置換えと同様に、ペプチド模倣物は、より大きい構造モイエティをジ-又はトリペプチド模倣構造で置き換えることを含み得、この場合、ペプチド結合を含む模倣モイエティ、例えば、アゾール由来模倣物をジペプチド置換え体として使用し得る。適切なペプチド模倣物には、アミド結合が還元剤(例えば、ボラン又は水素化アルミニウムリチウムなどのヒドリド試薬)での処理によってメチレンアミンに還元された還元ペプチドが含まれる。そのような還元は、分子の全体的なカチオン性を増加させるという追加の利点を有する。
【0085】
本明細書に開示される実質的にアルファのらせん状ペプチド領域を包含するペプチド及びポリペプチドは、アミド化、グリコシル化、アシル化、硫酸化、リン酸化、アセチル化、及び環化などの化学的変更によってさらに誘導体化されてもよい。そのような化学的変更は、化学的又は生化学的方法論、ならびにインビボプロセス、又はそれらのいずれかの組合せによってもたらされ得る。
【0086】
他のペプチド模倣物としては、例えば、アミド官能化ポリグリシンの段階的合成によって形成されるペプトイドが挙げられる。一部のペプチド模倣物の骨格は、それらのペプチド前駆体、例えば、完全メチル化されたペプチドから容易に入手可能であろう。適切な方法は、Ostresh,J.M.らによるProc.Natl.Acad.Sci.USA(1994)91,11138~11142(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0087】
本明細書に記載のペプチド及びポリペプチドは、様々な無機及び有機の酸及び塩基との塩として調製され得る。そのような塩としては、有機酸及び無機酸、例えば、HCl、HBr、H2SO4、H3PO4、トリフルオロ酢酸、酢酸、ギ酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、マレイン酸、フマル酸及びカンファースルホン酸を用いて調製される塩が挙げられる。塩基を用いて調製される塩としては、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、例えば、ナトリウム塩及びカリウム塩、アルカリ土類塩、例えば、カルシウム塩及びマグネシウム塩、ならびに亜鉛塩が挙げられる。塩は、従来の手段によって、例えば、塩が不溶性である溶媒もしくは媒体中、又はその後真空中でもしくはフリーズドライによって除去される水などの溶媒中で、生成物の遊離酸又は塩基形態を1又は複数当量の適切な塩基又は酸と反応させることによって、あるいは既存の塩のイオンを適切なイオン交換樹脂上の別のイオンと交換することによって形成され得る。
【0088】
本明細書に記載のペプチド及びポリペプチドは、その薬学的に許容され得る塩及び/又は複合体として製剤化され得る。薬学的に許容され得る塩としては、酸付加塩、例えば、スルファート、ヒドロクロリド、ホスファート、スルファマート、アセタート、シトラート、ラクタート、タルタラート、スクシナート、オキサラート、メタンスルホナート、エタンスルホナート、ベンゼンスルホナート、p-トルエンスルホナート、シクロヘキシルスルファマート及びキナートを含むものが挙げられる。薬学的に許容され得る塩は、塩酸、硫酸、リン酸、スルファミン酸、酢酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、マロン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、シクロヘキシルスルファミン酸、及びキナ酸などの酸から得ることができる。そのような塩は、例えば、塩が不溶性である溶媒もしくは媒体中、又はその後真空中でもしくはフリーズドライによって除去される水などの溶媒中で、生成物の遊離酸又は塩基形態を1又は複数当量の適切な塩基又は酸と反応させることによって、あるいは既存の塩のイオンを適切なイオン交換樹脂上の別のイオンと交換することによって調製され得る。
【0089】
本明細書に記載のペプチド及びポリペプチドは、本開示の方法と併せて使用するための医薬組成物として製剤化され得る。本明細書に開示の組成物は、皮下、筋肉内、及び静脈内投与を含む非経口投与、経鼻投与、肺投与、又は経口投与に適した製剤の形態で都合よく提供され得る。そのような各投与の経路に適したペプチド及びポリペプチドの製剤は、標準的な製剤の論文、例えば、E.W.MartinによるRemington’s Pharmaceutical Sciencesに記載されている。Wang,Y.J.及びHanson,M.A.「Parenteral Formulations of Proteins and Peptides:Stability and Stabilizers」、Journal of Parenteral Science and Technology,Technical Report No.10、Supp.42:2S(1988)も参照されたい。
【0090】
医薬組成物は、薬学的に許容され得る担体及び任意の賦形剤、アジュバントなどと共に製剤化された形態で、良好な製薬慣行に従って投与され得る。ペプチドベースの医薬組成物は、固体、半固体又は液体剤形:例えば、粉末、溶液、エリキシル、シロップ、懸濁液、クリーム、ドロップ、ペースト及びスプレーの形態であり得る。当業者が認識し得るように、選択された投与(例えば、丸剤、注射剤など)の経路に応じて、組成物形態が決定される。一般に、活性医薬ペプチド又はポリペプチドの容易かつ正確な投与を達成するために、単位剤形を使用することが好ましい。一般に、治療上有効な医薬化合物は、そのような剤形中に、全組成物の約0.5重量%~約99重量%の範囲の濃度レベルで、例えば、所望の単位用量を提供するのに十分な量で存在する。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、単回又は複数回用量で投与され得る。特定の投与の経路及び投薬レジメンは、処置される個体の症状及び該個体の処置に対する応答に対応する当業者によって決定されるであろう。いくつかの実施形態では、ペプチド又はポリペプチドと、1種又は複数の非毒性の薬学的に許容され得る担体、アジュバント又はビヒクルとを含む、ペプチドベースの医薬組成物が、対象に投与するための単位剤形で提供される。単一剤形を生成するためにそのような材料と組み合わされ得る活性成分の量は、上記のように様々な要因に応じて変動し得る。医薬分野で利用可能な様々な材料を、本発明の組成物中の担体、アジュバント及びビヒクルとして使用することができる。注射用調製物、例えば、油性溶液、懸濁液、又は乳化液は、必要に応じて、適切な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤を使用して、当技術分野で公知のように製剤化され得る。滅菌の注射用調製物は、滅菌の非発熱性水又は1,3-ブタンジオールなどの非毒性の非経口的に許容され得る希釈剤又は溶媒を用い得る。用いられ得る他の許容され得るビヒクル及び溶媒の中には、5%デキストロース注射液、リンゲル注射液及び等張塩化ナトリウム注射液(USP/NFに記載されているような)がある。加えて、滅菌の固定油は、溶媒又は懸濁媒体として従来から用いられ得る。この目的のために、合成モノ-、ジ-又はトリグリセリドを含むあらゆる無刺激性固定油が使用され得る。オレイン酸などの脂肪酸はまた、注射用組成物の調製に使用され得る。
【0091】
本明細書に記載のある特定のペプチド及びポリペプチドは、水に実質的に不溶性であり、ほとんどの薬学的に許容され得るプロトン性溶媒及び植物油に難溶性であり得る。ある特定の実施形態では、シクロデキストリンは、水溶解度増強剤として添加され得る。シクロデキストリンには、アルファ-、ベータ-、及びガンマ-シクロデキストリンのメチル、ジメチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシエチル、グルコシル、マルトシル及びマルトトリオシル誘導体が含まれる。例示的なシクロデキストリン溶解度増強剤は、ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン(HPBCD)であり、これを上記組成物のいずれかに添加して、ペプチド又はポリペプチドの水溶解度の特徴をさらに改善することができる。一実施形態では、組成物は、0.1%~20%のHPBCD、1%~15%のHPBCD、又は2.5%~10%のHPBCDを含む。用いられる溶解度増強剤の量は、組成物中の本開示のペプチド又はポリペプチドの量に依存し得る。ある特定の実施形態では、ペプチドは、DMSO、ジメチルホルムアミド(DMF)又はN-メチルピロリドン(NMP)などの非水性で極性の非プロトン性溶媒中で製剤化され得る。
【0092】
いくつかの場合では、ペプチド又はポリペプチド及び別の活性剤を、一緒に投与するための単一の組成物又は溶液で提供することが好都合であろう。他の場合では、ポリペプチドとは別個に、追加の薬剤を投与することがより有利である可能性がある。使用のために、本明細書に記載のペプチド及びポリペプチドの医薬組成物は、単回投与に有効な量のペプチド又はポリペプチドを含有する単位剤形で提供され得る。皮下投与に有用な単位剤形としては、充填済みシリンジ及び注射器が挙げられる。
【0093】
ある特定の実施形態では、ポリペプチドは、投与頻度にかかわらず、1日当たり50マイクログラム(「mcg」)、1日当たり60mcg、1日当たり70mcg、1日当たり75mcg、1日当たり100mcg、1日当たり150mcg、1日当たり200mcg、又は1日当たり250mcgの1日等量として表される量で投与される。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、1日当たり500mcg、1日当たり750mcg、又は1日当たり1ミリグラム(「mg」)の量で投与される。なおさらなる実施形態では、ポリペプチドは、投与頻度にかかわらず、1日当たり1mg、1日当たり1.5mg、1日当たり1.75mg、1日当たり2mg、1日当たり2.5mg、1日当たり3mg、1日当たり3.5mg、1日当たり4mg、1日当たり4.5mg、1日当たり5mg、1日当たり5.5mg、1日当たり6mg、1日当たり6.5mg、1日当たり7mg、1日当たり7.5mg、1日当たり8mg、1日当たり8.5mg、1日当たり9mg、1日当たり9.5mg、又は1日当たり10mgを含む、1日当たり1~10mgの1日当量として表される量で投与される。様々な実施形態では、ポリペプチドは、毎月の投薬スケジュールで投与される。他の実施形態では、ポリペプチドは隔週で投与される。さらに他の実施形態では、ポリペプチドは毎週投与される。ある特定の実施形態では、ポリペプチドは毎日投与(「QD」)される。選択された実施形態では、ポリペプチドは1日に2回投与(「BID」)される。典型的な実施形態では、ポリペプチドは、少なくとも3ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、又はそれ以上にわたって投与される。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、少なくとも18ヶ月間、2年間、3年間、又はそれ以上にわたって投与される。
【0094】
活性ペプチド又はポリペプチドを(例えば、担体内のペプチド又はポリペプチドを破壊することなく)供給することができるあらゆる担体は適切な担体であり、そのような担体は当技術分野で周知である。いくつかの実施形態では、組成物は、経口(例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤又は散剤の形態など)、舌下、頬側、非経口(例えば、皮下、静脈内、筋肉内、皮内又は胸骨内の注射又は注入(例えば、滅菌の注射用水性又は非水性の溶液又は懸濁液などとして)によって)、経鼻(例えば、吸入スプレーによる鼻膜への投与を含む)、局所(例えば、クリーム又は軟膏の形態)、経皮(例えば、経皮パッチによる)、直腸(例えば、坐剤の形態)などを含むがこれらに限定されない、いずれかの適切な経路による投与用に製剤化される。
【0095】
一実施形態では、本発明の医薬組成物は、吸入投与に適している。吸入投与に適した医薬組成物は、典型的には、エアロゾル又は粉末の形態であり得る。そのような組成物は、一般的に、ネブライザー吸入器、定量吸入器(MDI)、乾燥粉末吸入器(DPI)又は類似の送達デバイスなどの周知の送達デバイスを使用して投与される。
【0096】
本発明の特定の実施形態では、活性剤を含む医薬組成物は、ネブライザー吸入器を使用した吸入によって投与される。そのようなネブライザーデバイスは、典型的には、活性剤を含む医薬組成物を患者の気道(respiratory tract)に運ばれるミストとして噴霧する高速な空気の流れを生成する。したがって、ネブライザー吸入器での使用のために製剤化される場合、活性剤は、典型的には、適切な担体に溶解されて溶液を形成する。あるいは、活性剤は微粒子化され、適切な担体と組み合わされて吸入可能なサイズの微粒子化粒子の懸濁液を形成することができ、微粒子化は、典型的には、約10μm未満の直径を有する粒子が約90%以上であると定義される。適切なネブライザーデバイスは、例えば、PARI GmbH(Starnberg、German)によって市販されている。他のネブライザーデバイスとしては、Respimat(Boehringer Ingelheim)及び例えば、Lloydらによる米国特許第6,123,068号及び国際公開第97/12687号(Eicherら)に開示されているものが挙げられる。ネブライザー吸入器で使用するための代表的な医薬組成物は、SP-Aペプチド又はその薬学的に許容され得る塩もしくは溶媒和物もしくは立体異性体を含む等張水溶液を含む。
【0097】
本発明の別の特定の実施形態では、活性剤を含む医薬組成物は、乾燥粉末吸入器を使用した吸入によって投与される。そのような乾燥粉末吸入器は、典型的には、吸気の間に患者の気流中に分散される自由流動性粉末として活性剤を投与する。自由流動性粉末を達成するために、活性剤は、典型的には、ラクトース又はスターチなどの適切な賦形剤と共に製剤化される。乾燥粉末吸入器で使用するための代表的な医薬組成物は、約1μm~約100μmの間の粒径を有する乾燥ラクトースと、SP-Aペプチド又はその薬学的に許容され得る塩もしくは溶媒和物もしくは立体異性体の微粒子化粒子とを含む。
【0098】
そのような乾燥粉末製剤は、例えば、ラクトースを活性剤と組み合わせ、次いでコンポーネントを乾燥ブレンドすることによって作製され得る。あるいは、所望であれば、活性剤は賦形剤なしで製剤化され得る。次いで、医薬組成物は、典型的には、乾燥粉末ディスペンサ、又は乾燥粉末送達デバイスと共に使用するための吸入カートリッジもしくはカプセルに装填される。乾燥粉末吸入器送達デバイスの例としては、Diskhaler(GlaxoSmithKline、Research Triangle Park、N.C.)(例えば、Newellらによる米国特許第5,035,237号を参照のこと);Diskus(GlaxoSmithKline)(例えば、Daviesらによる米国特許第6,378,519号を参照のこと);Turbuhaler(AstraZeneca、Wilmington,Del.)(例えば、Wetterlinによる米国特許第4,524,769号を参照のこと);Rotahaler(GlaxoSmithKline)(例えば、Hallworthらによる米国特許第4,353,365号を参照のこと)及びHandihaler(Boehringer Ingelheim)が挙げられる。適切なDPIデバイスのさらなる例は、Casperらによる米国特許第5,415,162号、Evansによる米国特許第5,239,993号、及びArmstrongらによる米国特許第5,715,810号、及びそこに引用されている参考文献に記載されている。
【0099】
本発明のなお別の特定の実施形態では、活性剤を含む医薬組成物は、定量吸入器を使用した吸入によって投与される。そのような定量吸入器は、典型的には、圧縮された推進剤ガスを使用して、測定された量の活性剤又はその薬学的に許容され得る塩もしくは溶媒和物もしくは立体異性体を放出する。したがって、定量吸入器を使用して投与される医薬組成物は、典型的には、液化推進剤中の活性剤の溶液又は懸濁液を含む。クロロフルオロカーボン、例えば、CCl.sub.3F、及びヒドロフルオロアルカン(HFA)、例えば、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFA134a)及び1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロ-n-プロパン(HFA227)を含むあらゆる適切な液化推進剤が用いられ得る。オゾン層に影響を及ぼすクロロフルオロカーボンに関する懸念のために、HFAを含有する製剤が一般的に好ましい。HFA製剤の追加の任意のコンポーネントとしては、共溶媒、例えば、エタノール又はペンタン、及びサーファクタント、例えば、ソルビタントリオレアート、オレイン酸、レシチン、及びグリセリンが挙げられる。例えば、Purewalらによる米国特許第5,225,183号、EP0717987A2(Minnesota Mining and Manufacturing Company)、及び国際公開第92/22286号(Minnesota Mining and Manufacturing Company)を参照されたい。定量吸入器で使用するための代表的な医薬組成物は、約0.01重量%~約5重量%のSP-Aペプチド又はその薬学的に許容され得る塩もしくは溶媒和物もしくは立体異性体の化合物;約0重量%~約20重量%のエタノール;及び約0重量%~約5重量%のサーファクタントを含み;残りはHFA推進剤である。
【0100】
そのような組成物は、典型的には、活性剤、エタノール(存在する場合)及びサーファクタント(存在する場合)を含む適切な容器に冷却又は加圧したヒドロフルオロアルカンを添加することによって調製される。懸濁液を調製するために、活性剤は微粒子化され、次いで推進剤と組み合わされる。次いで、製剤は、定量吸入器デバイスの部分を形成するエアロゾルキャニスタに装填される。HFA推進剤と共に使用するために特に開発された定量吸入器デバイスの例は、Mareckiによる米国特許第6,006,745号及びAshurstによる米国特許第6,143,277号に提供されている。あるいは、懸濁液製剤は、活性剤の微粒子化粒子上のサーファクタントのコーティングを噴霧乾燥することによって調製され得る。例えば、国際公開第99/53901号(Glaxo Group Ltd.)及び国際公開第00/61108号(Glaxo Group Ltd.)を参照されたい。これらの開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0101】
吸入可能な粒子を調製するプロセス、ならびに吸入投与に適した製剤及びデバイスの追加の例については、Gaoらによる米国特許第6,268,533号、Trofastによる米国特許第5,983,956号、Briggnerらによる米国特許第5,874,063号、及びJakupovicらによる米国特許第6,221,398号;及び国際公開第99/55319号(Glaxo Group Ltd.)及び国際公開第00/30614号(AstraZeneca AB)に開示されており、これらの開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0102】
いくつかの実施形態では、ペプチド/ポリペプチドは、医薬組成物で提供され、及び/又は1種もしくは複数の追加の治療用薬剤と共投与(同時に又は逐次)される。そのような追加の薬剤は、肺の炎症(例えば、喘息)を処置又は予防するためのものであり得る。追加の薬剤としては、短時間作用型ベータ2-アドレナリン受容体アゴニスト(SABA)、例えば、サルブタモール(アルブテロールUSAN);長時間作用型ベータアゴニスト(LABA)、例えば、サルメテロール及びホルモテロール 抗コリン作用薬、例えば、臭化イプラトロピウム、吸入用エピネフリン、吸入用コルチコステロイド、例えば、ブデソニド、フルチカゾン、モメタゾン又はシクレソニド、全身性コルチコステロイド、例えば、プレドニゾン又はメチルプレドニゾロン;ロイコトリエン受容体アンタゴニスト(例えば、モンテルカスト及びザフィルルカスト);又はそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0103】
本発明を機構の何らかの理論に限定することを望むものではないが、1種又は複数の追加の治療用薬剤(例えば、ステロイド)と共投与(同時に又は逐次)される本明細書に記載の精製ペプチドは、重症の喘息を処置するために、より少ない用量のステロイドを可能にすると考えられている。このように、併用療法は、吸入用コルチコステロイド単独又は併用療法(ICS/LABA)と比較して、異なる作用機構を前提としたステロイド節約効果を有し得る。
【0104】
いくつかの実施形態では、肺疾患(例えば、喘息)に罹患している(又はそのリスクがある)及び/又は処置(又は予防的治療)を必要とする患者を処置する方法が、本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、肥満であるか、又は肥満ではない患者が利益を得うる。いくつかの実施形態では、対象は、喘息又は重症の喘息の増加したリスクに関連するSP-A遺伝子型(例えば、本明細書に記載の遺伝子型)を有すると同定される。
【0105】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の少なくとも1種のSP-Aペプチド又はポリペプチドを含む医薬組成物は、症状を処置するのに十分な量及び場所でそのような患者に送達される。いくつかの実施形態では、ペプチド及び/又はポリペプチド(又はそれを含む医薬組成物)を、全身的又は局所的に患者に送達することができ、処置のための最も適切な送達経路、時間経過、及び投与量を確認することは、そのような患者を処置する医療専門家の通常の技能の範囲内であろう。患者を処置する適用方法は、最も好ましくはそのような症候を実質的に緩和するか、又はさらには排除することが理解されよう。しかしながら、多くの医学的処置と同様に、本発明の方法の適用は、本発明の方法の間、その後、又はそうでなければその結果として、患者における疾患又は障害の症候が確認可能な程度まで低下する場合に成功とみなされる。
【0106】
本開示は、喘息の処置に限定されない。当技術分野で公知であるか、又は本明細書で別様に企図されるあらゆる炎症症状は、現在開示され、特許請求されている発明の概念(複数可)に従って処置され得る。それに関連する炎症を有する疾患症状の非限定的な例としては、肺(例えば、喘息、敗血症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、COVID-19、肺感染症、呼吸窮迫症候群、気管支肺異形成症など)における感染関連又は非感染性炎症症状;他の器官における感染関連又は非感染性炎症症状(例えば、大腸炎、炎症性腸疾患、糖尿病性腎症、出血性ショック);炎症誘発性がん(すなわち、大腸炎又は炎症性腸疾患を有する患者におけるがんの進行);などが挙げられる。
【実施例
【0107】
以下は、本発明の非限定的な例である。例が、決して本発明を限定することを意図するものではないことを理解されたい。等価物又は置換物は、本発明の範囲内である。
【0108】
例1:例1は、223位でのSP-Aの遺伝子型が肺機能及び喘息コントロールに影響を及ぼすことを実証する。以前の研究は、喘息対象に由来するSP-Aが、IL-8及びMUCSAC産生などの炎症症状の調節において機能不全であることを示している。SP-Aの遺伝子型が肺機能、肺生理学及び喘息コントロールに影響を及ぼすかどうかを判定するために、コントローラ療法を受けていない53人の軽度から中等度の喘息患者においてSP-Aの遺伝子型を決定し、測定した。図15Aは、スクリーニングされた53人の喘息患者のうち、マイナー対立遺伝子のホモ接合性(SP-A2 K223K)であるものは、Q223Q又はQ223K遺伝子型を有する対象よりも肺機能が低い(FEV1%)ことを示す。その上、喘息対象のこのコホートは、AC又はCC遺伝子型を有する喘息患者よりも悪い喘息コントロール(喘息コントロール質問票;ACQ)を実証している(図15B)。
【0109】
追加的に、SP-Aヒト化マウスは、アレルギーモデルにおいて、異なる表現型を呈する。喘息における223位Q/KのSP-Aの遺伝的バリエーションの影響をより機構的に研究するために、SP-A223Q(メジャー対立遺伝子)又はSP-A223K(マイナー対立遺伝子)のいずれかを発現するSP-Aヒト化マウスを作成した。アレルギー性気道疾患のovaモデルにおいてチャレンジした場合、SP-A223Q対立遺伝子は、SP-A223K対立遺伝子と比較して、より多くの保護を付与することが発見された。図15Aは、SP-A223Qマウスが、チャレンジの24時間後にSP-A欠損マウスと比較して、好酸球増多症が有意に低下しており、また、チャレンジの7日後にムチン産生(PASスコア)が有意に低減したことを示す(図15B)。
【0110】
223Q活性部位を包含するSP-Aペプチドは、アレルギーモデルにおいて気道の好酸球及びムチン産生を減弱させる。223K(マイナー)対立遺伝子を保有する喘息対象は、223Q(メジャー)対立遺伝子を有する個体と比較して、喘息コントロール及び肺機能が悪化しており、かつ類似の所見がアレルギーモデルのSP-Aヒト化マウスにおいて観察されたため、SP-Aの活性領域を見つけるための実験を行った。活性ペプチドは、223Q部位を含み、内因性SP-Aの炭水化物認識ドメインに位置する10AAペプチドであると決定された。図16A及び図16Bに示すように、SP-A欠損マウスをHDMモデルにおいてチャレンジし、最後のチャレンジの24時間後に、20AAのSP-A(PAGRGKEQCVEMYTDGQWND(配列番号8))又は10AAのSP-A(KEQCVEMYTD(配列番号4))のいずれかを与え、ビヒクル処理を受けたマウスと比較した。SP-Aペプチドを受けたマウスは、ビヒクル処理されたマウスと比較して、洗浄区画における好酸球増多症が有意に低く(図16A)、ムチン産生がより少なかった(図16B)。
【0111】
223Q活性部位を包含するSP-Aペプチド(10AA)は、喘息患者由来の初代ヒト気道上皮細胞における表現型を減弱させる。コントローラ療法を受けていない喘息を有する2人の対象からの気道上皮細胞を、気液界面で2週間培養する実験を実施した。別個の条件で、細胞を20μg/mlの各ペプチドに30分間曝露し、続いて50ng/mlのIL-13に曝露し、48時間インキュベートした。細胞をTrizolに入れて、MUCSACを、RT-PCRによって測定した。図17は、各々のペプチドを用いたMUCSACの発現の陰性対照レベルまでの劇的な低減を示す。10AA長は、そのサイズが気道への送達のためのデバイスの吸入器型にパッケージ化できるようにするので、治療用薬剤として特に有用である。この実験は、223Qペプチドが、IL-13曝露の状況においてヒト気道上皮細胞におけるムチン遺伝子の発現の抑制において有効性を有することを実証している。
【0112】
要約すると、これらの実験は、SP-Aの223位の遺伝子型が肺機能及び喘息コントロールに影響を及ぼすことを実証した;SP-Aヒト化マウスは、アレルギーモデルにおいて、223位Q/Kに依存する異なる表現型を呈し、223Q活性部位を包含するSP-Aペプチドは、アレルギーモデルにおいて表現型を減弱させ、223Q活性部位を包含するSP-Aペプチド(10AA)は、喘息患者由来の初代ヒト気道上皮細胞においてMuc5ACを減弱させる。
【0113】
図5A図5Dに関して、WT C57BL/6マウスを、0、7、14日目に標準的な方法に従ってチリダニ(HDM)モデルにおいて感作及びチャレンジした(黒矢印)。最後のチャレンジの24時間後、マウスは、スクランブルされたビヒクル、又は223Qを含む活性部位を包含する20mer SP-Aペプチド(破線の矢印)(40μlの滅菌生理食塩水で送達される25μg/マウスの生理学的用量)のいずれかを中咽頭滴下によって受けた。肺組織学的切片をPAS染色/スコアリングによって評価されるムチン産生について分析して、SP-AペプチドがHDM誘導性気道ムチン産生から保護することができるかどうかを判定した。SP-Aペプチド処理後5日目及び7日目に、類似の保護効果が観察された。ペプチド配列:PAGRGKEQCVEMYTDGQWND(配列番号8)。
【0114】
図6A及び図6Bに関して、WT C57BL/6マウスを、前述のパラグラフに記載の標準的な方法に従ってチリダニ(HDM)モデルにおいて感作及びチャレンジした(図5Aを参照)。最後のチャレンジの24時間後、マウスは、スクランブルされたビヒクル、223Qを含む活性部位を包含する20mer、又は10merのSP-Aペプチド(破線の矢印)(40μlの滅菌生理食塩水で送達される25μg/マウスの生理学的用量)のいずれかを中咽頭滴下によって受けた。図6Aでは、肺組織切片をPAS染色/スコアリングによって評価されるムチン産生について分析して、SP-AペプチドがHDM誘導性気道ムチン産生から保護することができるかどうかを判定した。SP-Aペプチド処理後5日目及び7日目に、類似の保護効果が観察された。図6Bでは、気管支肺胞洗浄液試料を好酸球増多症について分析して、SP-Aペプチドが好酸球の生存率を低下させることによってHDM誘導性気道好酸球増多症から保護することができるかどうかを判定した。生存率を、細胞カウントに対するトリパンブルー排除によって評価した。ペプチド配列:20mer PAGRGKEQCVEMYTDGQWND(配列番号8)、ペプチド1 PAGRGKEQCV(配列番号2)、ペプチド2 EMYTDGQWND(配列番号3)、ペプチド3 KEQCVEMYTD(配列番号4)。
【0115】
図6Cに関して、気管支鏡検査によって十分に表現型が同定された喘息参加者から得られたヒト気管支上皮細胞を、実験前に2週間ALIで成長させた。チャレンジのために、各々のSP-A試験ペプチド(50μg/ml)を、IL-13チャレンジの少なくとも30分前に、頂端コンパートメントに添加した。Muc5ACを細胞溶解物からRT-PCRによって分析し、対照試料の倍数として分析した。ペプチド配列:20mer PAGRGKEQCVEMYTDGQWND(配列番号8)、ペプチド1 PAGRGKEQCV(配列番号2)、ペプチド2 EMYTDGQWND(配列番号3)、ペプチド3 KEQCVEMYTD(配列番号4)FL=肺胞タンパク症の個体の洗浄液から抽出された全長オリゴマーSP-A。
【0116】
図18に関して、SP-Aの発現を、喘息の有無にかかわらず、痩せ型、過体重及び肥満の個体の気管支肺胞洗浄物からウエスタンブロットによって分析した。
【0117】
図5A図5D図6A図6C図15A図15B、及び図18は、SP-A223Qヒト化マウスがアレルギーモデルにおいて223Kマウスよりも粘液が少ないこと(Ovaモデル;図15A図15B)、SP-A223Qヒト化マウスがアレルギーモデルにおいて223Kマウスよりも粘液が少ないこと(HDM(チリダニ)モデル;図5A~5D)、短縮10AAペプチドがマウスHDMモデルにおいてムチン産生を低減させること(図6A)、短縮10AAペプチドがマウスHDMモデルにおいて好酸球増多症を低減させること(図6B)、短縮10AAペプチドがヒト初代細胞においてムチン(Muc5AC RNA)を低減させること(図6C)、及びSP-Aが肥満において有意に減少すること(図18)を示す。
【0118】
例2:例2は、クロスオーバー研究の設計においてSP-A治療用ペプチドを試験するための、メタコリンチャレンジに対するベースライン感受性についての事前スクリーニングによって選択された10~12匹の成体霊長類におけるHDM感作及びチャレンジモデルの使用を記載する。
【0119】
最初に、HDMアレルゲンを、10週間にわたって隔週で皮下注射によって10匹すべての霊長類に投与し、その時点で動物をHDM皮膚反応性について試験する。次に、HDMマスク曝露を隔週で合計8週間行う。このHDMチャレンジ期間の後、気道過敏性を12匹すべての霊長類において評価し、洗浄液及び生検標本を分析のために収集する。
【0120】
HDMモデルに対して各霊長類が有する応答のレベルを評価する第1ラウンドの分析後、10匹の霊長類を無作為化二重盲検クロスオーバー設計で2つの試験群に分ける:群1(n=6)は、SP-Aペプチドを受け、続いてウォッシュアウトし、次いでプラセボを受ける;群2(n=6)は、最初にプラセボを受け、続いてウォッシュアウトし、次いでSP-Aペプチドを受ける。SP-Aペプチド及びプラセボを4週間にわたって鼻腔内投与によって隔週投与する一方で、霊長類は依然として隔週でHDMマスク処理を受けている。SP-A及びプラセボの投与は、HDMマスク曝露のおよそ24時間後である。
【0121】
4週間の第1の研究期間の終了時に、霊長類を気道過敏性について分析する。洗浄液及び気管支内生検のために気管支鏡検査を行う。4週間のウォッシュアウト後、霊長類に、研究期間2の間、隔週でHDMマスク処理を再度チャレンジする。上記のように、4週間のHDMマスク処理後、隔週で、群1(n=6)はプラセボを受け、群2(n=6)はSP-Aペプチドを受ける。研究期間2の完了後、すべての霊長類を気道過敏性について分析し、洗浄液及び気管支内生検のために気管支鏡検査を行う。
【0122】
統計分析:一次アウトカム変数には、気道過敏性、洗浄液及び組織好酸球増多症症ならびに組織のムチン産生が含まれる。これらの変数を、分散モデルの2期間クロスオーバー分析を使用して分析する。キャリーオーバー効果は10%アルファレベルで試験されるが、期間及び処理の効果は5%アルファレベルで試験される。データを平均±SEMとして表す。
【0123】
SP-Aペプチドが、霊長類のHDMアレルギーモデルにおいて、喘息に関連する表現型を緩和することができると予想される。これまでのところ、最後のHDMチャレンジの24時間後(これは炎症のピークである)のマウスにおけるペプチドの単回投与は、洗浄区画及び肺組織におけるムチン産生及び好酸球増多症を有意に低減させることができることが示された。ペプチドを4週間の経過にわたって隔週投与することにより、プラセボと比較して、好酸球増多症及びムチン産生が有意に低減することが予想される。
【0124】
例3:例3は、SP-AペプチドがHDM(チリダニ)モデルにおいて、AHRに対して保護することを実証する。図10に示すように、WT C57BL/6マウスを、標準的な方法に従ってHDMモデルにおいて感作及びチャレンジした(矢印)。各チャレンジの24時間後、マウスは、スクランブルされたビヒクル、又は223Qを含む活性部位を包含する10merのSP-Aペプチド(KEQCVEMYTD(配列番号4))(矢印)(40mlの滅菌生理食塩水で送達される25mg/マウスの生理学的用量)のいずれかを中咽頭滴下によって受けた。HDMチャレンジの3~5日後に肺機能試験を実施して、SP-Aペプチドがメタコリン誘導性気道過敏性(AHR)から保護することができるかどうかを判定した。HDMチャレンジ後にSP-Aペプチドを受けたマウスは、ビヒクル処理を受けたHDMでチャレンジしたマウスと比較して、全抵抗(Rrs)及び中枢気道抵抗(Rn)が減弱していた。SP-Aペプチド処理後3日目及び5日目に、類似の保護効果が観察された。
【0125】
例4:例4は、SP-AペプチドがIL-13モデルにおいて、気道過敏性(AHR)に対して保護することを実証する。WT C57BL/6マウスを、3.9ugのIL-13(矢印)を1日1回、3日間連続して中咽頭滴下によってチャレンジした。図7A図7Eに示すように、各チャレンジの2時間後、マウスは、スクランブルされたビヒクル、又は223Qを含む活性部位を包含する10merのSP-Aペプチド(KEQCVEMYTD(配列番号4))(矢印)(40mlの滅菌生理食塩水中で送達される25mg/マウスの生理学的用量)のいずれかを中咽頭滴下によって受けた。IL-13チャレンジの24時間後に肺機能試験を実施して、SP-Aペプチドがメタコリン誘導性気道過敏性(AHR)から保護することができるかどうかを判定した。HDMチャレンジ後にSP-Aペプチドを受けたマウスは、ビヒクル処理を受けたHDMでチャレンジしたマウスと比較して、全抵抗(Rrs)及び中枢気道抵抗(Rn)が減弱していた。
【0126】
例5:例5は、SP-AペプチドがSARS-CoV-2感染に対して保護することを実証する。図25に示すように、全長SP-Aは、用量依存的及びCaCl2依存的様式でACE2に結合する。96ウェルプレートアッセイを考案し、このアッセイでは、ウェルを、肺胞タンパク症患者から得られたBALから抽出した全長ヒトSP-A(500ng/ウェル)でコーティングした。次に、ACE2発現プラスミドでトランスフェクトしたHEK293T細胞からの溶解物を、様々な濃度で添加した。激しい洗浄の後、抗ヒトACE2抗体及び現像基質を添加して、ACE2を検出した。450nmの波長での吸光度を、プレートリーダーによって読み取った。ACE2を過剰発現する溶解物は、用量依存的様式で、SP-Aに結合した(図25、実線)。SP-Aは、一般に炭水化物認識ドメイン(CRD)を介してカルシウム依存的様式で病原体に結合するので、次に、ACE2へのSP-A結合がカルシウム依存的であるかどうかを判定した。キレート剤EDTAが存在する場合、ACE2への検出可能なSP-A結合はなく(図25、破線)、結合がSPAのレクチンドメインを介して起こることを示唆した。ACE2を過剰発現しない溶解物を陰性対照として使用した場合、SP-A結合は検出されなかった(図25、破線)。
【0127】
図26を参照すると、CRD由来のSP-Aペプチド模倣物は、ACE2結合について全長SP-Aと競合する。全長SPA及びSP-A 20merペプチドの両方は、プレートに結合したSP-AへのACE結合について競合(すなわち、阻害)したが、スクランブルされた20merペプチドは効果がなかった(図26)。一般集団において、SP-A2の223位における特定のバリアントは、肺表現型と関連している。特に、223位にリジンを含むSP-A(223K)は、グルタミンがこの位置に存在する場合(223Q)と比較して、呼吸器病原体であるマイコプラズマニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)に選好的に結合する。追加的に、この領域に由来するペプチドは、本明細書で以前に記載されたような感染及び炎症の様々なモデルにおいて活性を有する。これらの研究に関して、全長SP-A又はSPA 20merペプチドを評価して、ペプチドがプレートに結合したSP-AへのACE2結合について競合(すなわち、阻害)したかどうかを判定した。全長SP-A及び20merを含む223Kの両方が結合について効果的に競合したが、20merスクランブル(SCR)ペプチドはほとんど又は全く効果がなく、20merを含む223Qは中程度の効果を有した(n=3回の実験)。
【0128】
SARS-CoV2 Sタンパク質の付着に対するSP-Aの効果を評価するために、S1タンパク質結合アッセイを使用した。細胞を、SARS-CoV-2受容体結合ドメインを含む組換えHisタグ付きS1サブユニット、続いてAlexa Fluorコンジュゲート抗His抗体と共にインキュベートした。細胞へのS1タンパク質結合を、フローサイトメトリーによって評価した。ACE2媒介性S1タンパク質の細胞結合を特異的に検出するこのアッセイの能力を、ヒトACE2でトランスフェクトされていない又は安定的にトランスフェクトされたHEK293T細胞(ACE2/HEK293T)を使用して検証した。S1結合は、トランスフェクトされていないHEK293T細胞、及び抗His-AFと共にインキュベートしたS1タンパク質を含まないACE2/HEK293T細胞の1%未満で検出されたが(図27A)、およそ約30%のACE2/HEK293T細胞は、SP-Aの非存在下でS1タンパク質に結合した(図27A、ボックス)。全長SP-Aの添加はS1結合の用量依存的低減をもたらし、最高濃度のSP-Aは結合を約70%低減させた(図27B)。
【0129】
HEK293T ACE過剰発現細胞のSP-A阻害及びHEK293T ACE過剰発現細胞へのSARS-CoV-2 S1タンパク質付着がまた、これらの細胞へのSタンパク質媒介性SARS-CoV-2侵入も低減させるかどうかを調査するために、SP-A又はPBSと共にプレインキュベートした細胞への複製欠損SARSCoV-2 S1タンパク質-シュードタイプ化レンチウイルス粒子の侵入を直接測定した。レンチウイルス粒子は、形質導入された細胞によって転写及び翻訳されたルシフェラーゼレポーター遺伝子を担持し、SARS-CoV-2 Sタンパク質又は汎指向性VSVのG糖タンパク質(陽性形質導入対照)でシュードタイプ化された。VSV-G-シュードタイプ化粒子及びSARS-CoV-2-シュードタイプ化粒子は、HEK293T ACE細胞を効率的に形質導入した。SP-Aは、VSV G-LUCトランスフェクションにほとんど又は全く影響を及ぼさなかったが、SP-Aは、SARSCoV-2 Sタンパク質-シュードタイプ化レンチウイルス粒子の形質導入効率を用量依存的に低減させた(図28)。
【0130】
ここで図29を参照すると、SP-Aは、生存感染モデルにおいて、SARS-CoV-2 N1遺伝子の発現を減弱させる。三次元(3D)肺胞オルガノイド培養物を、一般的な方法により、24ウェルフォーマットのトランスウェルインサート中の50:50(v/v)の比率のマトリゲル及びPneumacult ALI培地で、分画化されたHTII-280+遠位上皮細胞をMRC5ヒト肺線維芽細胞と共に再懸濁することによって確立した。培養物を、15~20日後にSARS-Co-V2感染のために使用した。感染前に、500μLのディスパーゼ(500μg/ml)をインサートの頂端及び基底チャンバに添加し、37℃で1時間インキュベートすることによってマトリゲルを溶解した。培養物をハーベストし、氷冷PBSで洗浄し、オルガノイドが「破裂」して細胞の頂端面が露出するように上下に3回ピペッティングすることによってP1000チップで穏やかに分散させた。オルガノイドを、ウェル当たりSP-A(50μg/ml)を含む100μLの媒体に再懸濁することによって処理した。3時間の前処理後、SARS-CoV-2接種材料(ウェル当たり1×10^4 TCID50)を2mlコニカルチューブ内の培養物に添加し、37℃(5%CO2)で2時間インキュベートした。15分毎に、チューブを穏やかに混合して細胞へのウイルス吸着を促した。続いて、接種材料を新鮮なPneumacult ALI培地で置き換え、培養物を、500μLの培地を基底チャンバに含む、100μL体積のインサートの頂端チャンバに移した。培養物を37℃(5%CO2)でインキュベートし、2dpiでハーベストした。感染後の培養期間中、SP-Aを培地中で維持した。ウイルス感染の存在下(CoV-2)又は非存在下(モック)での薬物処理なしのオルガノイドを、対照として含めた。ウイルス感染/複製を、Center for Disease Control resources for research labsから入手した2019-nCoV_N1プライマーを使用して、核タンパク質(N)遺伝子の相対的な発現についてRT-qPCRを行うことによって評価した。
【0131】
図30は、SP-A 223Q及び223K 20merペプチドが、インビトロでACE2を過剰発現する細胞へのS1タンパク質シュードタイプ化レンチウイルス粒子の形質導入を低減させたことを示す。上記の図28に詳述したのと同じシステムを使用して、SP-A由来の20merペプチドが、これらの細胞へのSタンパク質媒介性SARS-CoV-2侵入を阻害する能力において全長SP-Aと類似の挙動をするかどうかを次に調査した。ここでも、SP-A、SP-A 223Q及び223Kペプチド又はPBSと共にプレインキュベートした細胞への複製欠損SARSCoV-2 S1タンパク質-シュードタイプ化レンチウイルス粒子の侵入を直接測定した。レンチウイルス粒子は、形質導入された細胞によって転写及び翻訳されるルシフェラーゼレポーター遺伝子を担持し、SARS-CoV-2 Sタンパク質又は汎指向性VSVのG糖タンパク質(陽性形質導入対照)でシュードタイプ化された。VSV-G-シュードタイプ化粒子及びSARS-CoV-2-シュードタイプ化粒子は、HEK293T ACE細胞を効率的に形質導入した。SP-A 223Q及び223Kペプチドは、SARSCoV-2 Sタンパク質-シュードタイプ化レンチウイルスの形質導入効率を、各所与濃度で全長SP-Aよりも大きな程度まで用量依存的に低減させた(図30)。
【0132】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、参照された数の±10%を指す。
【0133】
本発明の好ましい実施形態を示し、かつ説明したが、添付の特許請求の範囲を超えない改変がなされ得ることは当業者には容易に明らかであろう。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。いくつかの実施形態では、本特許出願に提示された図は、角度、寸法の比率などを含めて、縮尺通りに描かれている。いくつかの実施形態では、図は代表的なものにすぎず、特許請求の範囲は図の寸法によって限定されない。いくつかの実施形態では、「含む(comprising)」という語句を使用した本明細書に記載の発明の説明は、「それから本質的になる(consisting essentially of)」又は「からなる(consisting of)」と記載され得る実施形態を含み、したがって、「それから本質的になる(consisting essentially of)」又は「からなる(consisting of)」という語句を使用した本発明の1つ又は複数の実施形態を特許請求するための書面での説明要件が満たされる。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図13A
図13B
図13C
図13D
図14A
図14B
図14C
図15A
図15B
図16A
図16B
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27A
図27B
図28
図29
図30
【配列表】
2024532412000001.xml
【国際調査報告】