(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】除染組成物及びその用途
(51)【国際特許分類】
A62D 3/02 20070101AFI20240829BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240829BHJP
C12N 9/08 20060101ALN20240829BHJP
A62D 101/02 20070101ALN20240829BHJP
A62D 101/26 20070101ALN20240829BHJP
A62D 101/22 20070101ALN20240829BHJP
A62D 101/24 20070101ALN20240829BHJP
A62D 101/28 20070101ALN20240829BHJP
【FI】
A62D3/02
C09K3/00 S
C12N9/08
A62D101:02
A62D101:26
A62D101:22
A62D101:24
A62D101:28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513748
(86)(22)【出願日】2022-08-31
(85)【翻訳文提出日】2024-04-30
(86)【国際出願番号】 CN2022116137
(87)【国際公開番号】W WO2023030374
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】202111032492.9
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519255447
【氏名又は名称】アカデミー オブ ミリタリー メディカル サイエンシズ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】チョン ウー
(72)【発明者】
【氏名】ホー チンハオ
(72)【発明者】
【氏名】リー ソン
(57)【要約】
クロロペルオキシダーゼを含む除染組成物。この除染組成物は、化学兵器、すなわち、マスタードガス(HD)、ルイサイト(L)及びVXを迅速に分解させることができ、マスタードガス及びルイサイトの除染生成物は無毒性であり、それによって化学兵器の環境及び有機体に対する害を効果的に防止し、従来の除染剤と比較して、土壌、植生及び有機体に対する生成物の害の程度を低減することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロペルオキシダーゼを含む、除染組成物であって;
好ましくは、前記クロロペルオキシダーゼは、CPO(EC 1.11.1.10)である、除染組成物。
【請求項2】
過酸化水素、ハロゲン化物イオン、緩衝液及び共溶媒からなる群より選択される1種以上をさらに含み;
好ましくは、前記除染組成物は:過酸化水素;ハロゲン化物イオン;緩衝液;共溶媒;過酸化水素及びハロゲン化物イオン;過酸化水素及び緩衝液;過酸化水素及び共溶媒;ハロゲン化物イオン及び緩衝液;ハロゲン化物イオン及び共溶媒;緩衝液及び共溶媒;過酸化水素、ハロゲン化物イオン、及び緩衝液;過酸化水素、ハロゲン化物イオン、及び共溶媒;過酸化水素、緩衝液、及び共溶媒;ハロゲン化物イオン、緩衝液、及び共溶媒;並びに過酸化水素、ハロゲン化物イオン、緩衝液、及び共溶媒、からなる群より選択される成分又は組み合わせをさらに含む、請求項1に記載の除染組成物。
【請求項3】
下記:
(1)前記ハロゲン化物イオンは、フッ化物イオン、塩化物イオン及び臭化物イオンからなる群より選択され;好ましくは塩化物イオンである;
(2)前記緩衝液は、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液及びクエン酸緩衝液からなる群より選択され;好ましくはリン酸緩衝液、例えば、KH
2PO
4緩衝液などである;
(3)前記共溶媒は、アルコール、例えば、tert-ブチルアルコールなどから選択される、
の1つ以上に特徴付けられる、請求項1又は2に記載の除染組成物。
【請求項4】
下記:
(1)前記クロロペルオキシダーゼは、ナノモルレベルからミリモルレベルの濃度;例えば、1nM~100mM、好ましくは20nM~10mMの濃度を有する;
(2)前記過酸化水素は、0~50mMの濃度を有する;
(3)前記ハロゲン化物イオンは、0~0.5Mの濃度を有する;
(4)前記緩衝液は、2.0~5.0のpHを有する;
(5)前記共溶媒は、1~10%(v/v)の濃度を有する、
の1つ以上に特徴付けられる、請求項1~3のいずれか一項に記載の除染組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の除染組成物を含む、除染製剤であって、;
好ましくは、前記除染組成物中の過酸化水素及び他の成分は、同じ調製ユニットに配置される;
好ましくは、前記除染組成物中の過酸化水素及び他の成分は、異なる調製ユニットに配置される;
好ましくは、前記除染製剤は、除染溶液である、除染組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の除染組成物又は請求項5に記載の除染製剤を含む、保護機器。
【請求項7】
化学毒物の除染における、請求項1~4のいずれか一項に記載の除染組成物、請求項5に記載の除染製剤又は請求項6に記載の保護機器の使用であって;
好ましくは、前記化学毒物は、神経剤又はびらん剤である;
好ましくは、前記神経剤は、有機リン剤であり、例えば、サリン、タブン、ソマン及びVXからなる群より選択される;
好ましくは、前記びらん剤は、マスタードガス、ルイサイト、ナイトロジェンマスタード又はその組み合わせ、例えば、ルイサイト及びマスタードガスの組み合わせである、使用。
【請求項8】
化学毒物を除染する方法であって、下記の工程:
(1)請求項1~4のいずれか一項に記載の除染組成物、又は請求項5に記載の除染製剤の成分を迅速に混合して混合系を得ること;
(2)水、土壌又は生体表面などの、化学毒物が漏出する領域に混合系を注ぐか、あるいは噴霧するか、あるいは接触させること;
を含み、
好ましくは、前記化学毒物は、神経剤又はびらん剤である;
好ましくは、前記神経剤は、有機リン剤であり、例えば、サリン、タブン、ソマン、及びVXからなる群より選択される;
好ましくは、前記びらん剤は、マスタードガス、ルイサイト、ナイトロジェンマスタード、又はその組み合わせ、例えば、ルイサイト及びマスタードガスの組み合わせである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、CN出願番号が202111032492.9であり、出願日が2021年9月3日である出願に基づいており、その優先権を主張する。CN出願の開示は、その全体が本出願に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本出願は、環境汚染除去及び生物有機体の汚染除去の分野に関連しており、具体的には、化学毒物(chemical poisons)の汚染除去に特に適した組成物及びその応用に関する。
【背景技術】
【0003】
一般に化学兵器(CWAs)と呼ばれる化学毒物は、戦争目的で使用され、毒性が強く、敵の人間、動物、及び植物を大規模に毒殺する(poison or kill)し得る様々な化学物質を指す。主に神経剤、びらん剤(blister agents)、全身性毒物、無力化剤、刺激剤、窒息剤などがある。
【0004】
化学毒物の害を軽減するためには、除染剤を使用して毒性作用を除去しなければならず、除染剤は化学毒物防護の分野で研究のホットスポットとなっている。
【0005】
一般的に使用されている除染剤には、次亜塩素酸ナトリウム、DS2(除染液2)及び反応性皮膚除染ローション(RSDL)が含まれる。しかしながら、これらの除染剤は、多くの欠点を有する。例えば、次亜塩素酸ナトリウム及びDS2は、腐食性があり、一般的な日常的用途には適さず、RSDLは、皮膚外傷に悪影響を与える。したがって、生物に優しい浄化方法が依然として多くの注目を集めている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の内容
本発明は、化学戦争及び化学テロの脅威に対処するため、新世代の効率的で安全なプロテアーゼ除染システムを開発することを目的とする。本システムの効率性及び安全性は、インビトロデータ及び動物モデルにより検証されており、1分以内の迅速な広域スペクトルの除染を達成し、新世代の人に優しい除染剤の開発の基礎を構築し得る。新しい広域スペクトルの酵素除染剤の研究は、軍事装備防衛システムの能力の向上、対テロシステムの改善、及び国家化学品安全性システムの確立を促進する。
【0007】
本研究は、化学毒物(CWAs)を分解する一般的な方法の欠点を克服し、クロロペルオキシダーゼ(CPO)触媒による化学毒物の酸化分解を探求し、それが温和でより効果的な代替手段であるということを実証する。酵素、H2O2、Cl-、pH、及び共溶媒などの最適化された条件下で、CPOは、硫黄マスタードガス(HD)、ルイサイト(L)、エージェントイエロー(HD+L)、及びVXを含む他のタイプの化学毒物を効果的に分解することができ、有害製品を生成しない。
【0008】
一つの態様において、本発明は、クロロペルオキシダーゼを含む、除染組成物(a decontamination composition)を提供する。
【0009】
いくつかの実施形態において、クロロペルオキシダーゼは、CPO(EC 1.11.1.10)である。
【0010】
いくつかの実施形態において、除染組成物は、過酸化水素、ハロゲン化物イオン、緩衝液及び共溶媒からなる群より選択される1つ以上をさらに含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、除染組成物は、以下からなる群より選択される成分又は組み合わせをさらに含む:過酸化水素;ハロゲン化物イオン;緩衝液;共溶媒;過酸化水素及びハロゲン化物イオン;過酸化水素及び緩衝液;過酸化水素及び共溶媒;ハロゲン化物イオン及び緩衝液;ハロゲン化物イオン及び共溶媒;緩衝液及び共溶媒;過酸化水素、ハロゲン化物イオン及び緩衝液;過酸化水素、ハロゲン化物イオン及び共溶媒;過酸化水素、緩衝液及び共溶媒;ハロゲン化物イオン、緩衝液及び共溶媒;並びに過酸化水素、ハロゲン化物イオン、緩衝液及び共溶媒。
【0012】
いくつかの実施形態において、除染組成物は、クロロペルオキシダーゼ、過酸化水素、ハロゲン化物イオン、緩衝液及び共溶媒を含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、除染組成物は、下記の1つ以上を特徴とする:
(1)ハロゲン化物イオンは、フッ化物イオン、塩化物イオン及び臭化物イオンからなる群より選択され;好ましくは塩化物イオンである;
(2)緩衝液は、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、及びクエン酸緩衝液からなる群より選択され;好ましくはリン酸緩衝液、例えば、KH2PO4緩衝液などである;
(3)共溶媒は、アルコール、例えばmtert-ブチルアルコールなどから選択される。
【0014】
いくつかの実施形態において、除染組成物は、下記の1つ以上を特徴とする:
(1)クロロペルオキシダーゼは、ナノモルレベル~ミリモルレベル;例えば、1nMから100mM、好ましくは20nMから10mMの濃度を有する;
(2)過酸化水素は、0~50mMの濃度を有する;
(3)ハロゲン化物イオンは、0~0.5Mの濃度を有する;
(4)緩衝液は、2.0~5.0のpHを有する;
(5)共溶媒は、1~10%(v/v)の濃度を有する。
【0015】
いくつかの実施形態において、クロロペルオキシダーゼは、1nM~50mM、1nM~20mM、1nM~10mM、1nM~1mM、1nM~500nM、1nM~200nM、1nM~100nM,1nM~50nM,1nM~30nM,1nM~20nM,1nM~10nM,10nM~100mM,10nM~50mM,10nM~20mM,10nM~10mM,10nM~1mM,10nM~500nM、10nM~200nM,10nM~100nM,10nM~50nM,10nM~30nM,10nM~20nM,20nM~100mM,20nM~50mM,20nM~20mM,20nM~10mM,20nM~1mM、20nM~500nM、20nM~200nM、20nM~100nM、20nM~50nM、20nM~30nM、30nM~100mM、30nM~50mM、30nM~20mM、30nM~10mM、30nM~1mM、30nM~500nM、30nM~200nM、30nM~100nM、30nM~50nM、50nM~100mM、50nM~50mM、50nM~20mM、50nM~10mM、50nM~1mM、50nM~500nM、50nM~200nM,50nM~100nM,100nM~100mM,100nM~50mM,100nM~20mM,100nM~10mM,100nM~1mM,100nM~500nM,100nM~200nM,200nM~100mM、200nM~50mM,200nM~20mM,200nM~10mM,200nM~1mM,200nM~500nM,500nM~100mM,500nM~50mM,500nM~20mM,500nM~10mM,500nM~1mM、1mM~100mM、1mM~50mM、1mM~20mM、1mM~10mM、10mM~100mM、10mM~50mM、10mM~20mM、20mM~100mM、20mM~50mM、又は50mM~100mMの濃度を有する。
【0016】
いくつかの実施形態において、過酸化水素は、50nM~50mM、50nM~20mM、50nM~10mM、50nM~5mM、50nM~1mM、50nM~500nM、50nM~200nM、50nM~100nM、100nM~50mM、100nM~20mM、100nM~10mM、100nM~5mM、100nM~1mM、100nM~500nM、100nM~200nM、200nM~50mM、200nM~20mM、200nM~10mM、200nM~5mM、200nM~1mM、200nM~500nM、500nM~50mM、500nM~20mM、500nM~10mM、500nM~5mM、500nM~1mM、1mM~50mM、1mM~20mM、1mM~10mM、1mM~5mM、5mM~50mM、5mM~20mM、5mM~10mM、10mM~50mM、10mM~20mM、又は20mM~50mMの濃度を有する。
【0017】
いくつかの実施形態において、ハロゲン化物イオンは、50nM~0.5M、100nM~0.5M、200nM~0.5M、500nM~0.5M、1mM~0.5M、10mM~0.5M、20mM~0.5M、30mM~0.5M、50mM~0.5M、0.1M~0.5M、0.2M~0.5M、50nM~0.2M、100nM~0.2M、200nM~0.2M、500nM~0.2M、1mM~0.2M、10mM~0.2M、20mM~0.2M、30mM~0.2M、50mM~0.2M、0.1M~0.2M、50nM~0.1M、100nM~0.1M、200nM~0.1M、500nM~0.1M、1mM~0.1M、10mM~0.1M、20mM~0.1M、30mM~0.1M、50mM~0.1M、50nM~50mM、100nM~50mM、200nM~50mM、500nM~50mM、1mM~50mM、10mM~50mM、20mM~50mM、30mM~50mM、50nM~30mM、100nM~30mM、200nM~30mM、500nM~30mM、1mM~30mM、10mM~30mM、20mM~30mM、50nM~20mM、100nM~20mM、200nM~20mM,500nM~20mM,1mM~20mM,10mM~20mM,50nM~10mM,100nM~10mM,200nM~10mM,500nM~10mM,1mM~10mM、50nM~1mM、100nM~1mM、200nM~1mM、500nM~1mM、50nM~500nM、100nM~500nM、200nM~500nM、又は100nM~200nMの濃度を有する。
【0018】
いくつかの実施形態において、緩衝液は、2.0~2.5、2.0~3.0、2.0~3.5、2.0~4.0、2.0~4.5、2.0~5.0、2.5~3.0、2.5~3.5、2.5~4.0、2.5~4.5、2.5~5.0、3.0~3.5、3.0~4.0、3.0~4.5、3.0~5.0、3.5~4.0、3.5~4.5、3.5~5.0、4.0~4.5、又は4.5~5.0のpHを有する。
【0019】
いくつかの実施形態において、共溶媒は、1~2%(v/v)、1~3%(v/v)、1~4%(v/v)、1~5%(v/v)、1~6%(v/v)、1~7%(v/v)、1~8%(v/v)、1~9%(v/v)、1~10%(v/v)、2~3%(v/v)、2~4%(v/v)、2~5%(v/v)、2~6%(v/v)、2~7%(v/v)、2~8%(v/v)、2~9%(v/v)、2~10%(v/v)、3~4%(v/v)、3~5%(v/v)、3~6%(v/v)、3~7%(v/v)、3~8%(v/v),3~9%(v/v),3~10%(v/v),4~5%(v/v),4~6%(v/v),4~7%(v/v),4~8%(v/v),4~9%(v/v),4~10%(v/v),5~6%(v/v),5~7%(v/v),5~8%(v/v)、5~9%(v/v)、5~10%(v/v)、6~7%(v/v)、6~8%(v/v)、6~9%(v/v)、6~10%(v/v)、7~8%(v/v)、7~9%(v/v)、7~10%(v/v)、8~9%(v/v)、8~10%(v/v)、又は9~10%(v/v)の濃度を有する。
【0020】
別の態様において、本発明は、第1の態様の項目のいずれか1つに記載の除染組成物を含む、除染製剤(a decontamination preparation)を提供する。
【0021】
いくつかの実施形態において、過酸化水素及び除染組成物の他の成分は、同じ調製ユニット(same formulation unit)に配置される。
【0022】
いくつかの実施形態において、除染組成物の過酸化水素及び他の成分は、異なる調製ユニットに配置される。
【0023】
いくつかの実施形態において、除染製剤は、除染溶液である。
【0024】
別の態様において、本発明は、第1の態様の項目のいずれか1つに記載の除染組成物又は第2の態様の項目のいずれか1つに記載の除染製剤を含む、保護機器(a protective equipment)を提供する。
【0025】
別の態様において、本発明は、化学毒物の除染における、第1の態様の項目のいずれか1つに記載除染組成物、第2の態様の項目のいずれか1つに記載の除染製剤、又は第3の態様の項目のいずれか1つに記載の保護機器の使用を提供する。
【0026】
いくつかの実施形態において、化学毒物は、神経剤又はびらん剤である。
【0027】
いくつかの実施形態において、神経剤は、例えば、サリン、タブン、ソマン、及びVXからなる群より選択される有機リン剤である。
【0028】
いくつかの実施形態において、びらん剤は、マスタードガス、ルイサイト、ナイトロジェンマスタード、又はその組み合わせ、例えば、ルイサイトマ及びスタードガスの組み合わせなどである。
【0029】
別の態様において、本発明は、下記の工程を含む、化学毒物を除染する方法を提供する:
(1)第1の態様の項目のいずれか1つに記載の除染組成物、又は第2の態様の項目のいずれか1つに記載の除染製剤の成分を迅速に混合して混合系を得ること;
(2)水、土壌、又は生体表面などの、化学毒物が漏出する領域に混合系を注ぐか、あるいは噴霧するか、あるいは接触させること。
【0030】
いくつかの実施形態において、化学毒物は、神経剤又はびらん剤である。
【0031】
いくつかの実施形態において、神経剤は、例えば、サリン、タブン、ソマン、及びVXからなる群より選択される有機リン剤である。
【0032】
いくつかの実施形態において、びらん剤は、マスタードガス、ルイサイト、ナイトロジェンマスタード、又はその組み合わせ、例えば、ルイサイト及びマスタードガスの組み合わせなどである。
【発明の効果】
【0033】
本発明の有益な効果
本発明の除染製剤は、マスタードガス、ルイサイト又はエージェントイエローを目的としており、除染生成物は、生体に対して無毒性で刺激性がない。徹底的な除染は、1分以内に達成される。酵素消費量は、ナノモルレベルである。それは、効率的で、安全で環境に優しく、それによって漏洩事故によるその後の影響を最小限に抑える。
【図面の簡単な説明】
【0034】
本明細書において記述されている図面は、本発明のさらなる理解を提供するために使用され、本出願の一部を構成する。本発明の例示的な実施例及びそれらの説明は、本発明を説明するために使用されるものであり、本発明の不当な限定を構成するものではない。添付の図面において:
【0035】
【
図1】(a)過酸化水素のみを使用したグループに対する前記除染製剤を使用したグループ、除染されないマスタードガスの対照グループ、及び従来の除染剤を使用したグループのゼブラフィッシュ胚の生存に対する効果の比較を示す、光学顕微鏡下での写真、(b)胚の生存率。
【0036】
【
図2】(a)前記除染製剤を使用したグループ、過酸化水素のみを使用したグループ、及び化学毒物対照グループのマスタードガス、ルイサイト、及びVXの化学毒物に対する除染効果;(b)ルイサイトの場合、ゼブラフィッシュ幼生の除染製剤に対する反応;(c)エージェントイエローの場合、ゼブラフィッシュ幼生の除染製剤に対する反応(本発明の除染製剤のグループ、及び化学毒物対照グループ)。
【0037】
【
図3】(a)マスタードガスの酵素酸化のミカエリス・メンテン解析、(b)マスタードガスの分解及びマスタードスルホキシドの形成の反応速度論、(c)マスタードガスの酵素分解生成物の質量スペクトル及びNMRスペクトル、(d)マスタードガスの分解メカニズムの提案。
【0038】
【
図4】本発明の除染製剤の各処方(each formula)の最適条件探索図(exploration diagram)。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明を実行するための具体的モデル
本発明の実施例における技術的解決策は、以下で本発明の実施例における添付図面を参照して明確かつ完全に説明されるであろう。明らかに、記述されている実施例は、本発明の実施例の一部に過ぎず、全ての実施例ではない。少なくとも1つの例示的な実施例の下記の説明は、本質的に単なる例示であり、本発明、その応用又は使用を限定することを決して意図するものではない。本発明の実施例に基づき、当業者が創意工夫することなく得られる全ての他の実施例は、本発明の保護範囲に属する。
【0040】
クロロペルオキシダーゼ(CPO,EC 1.11.1.10)は、海生真菌であるカルダリオマイセス・フマゴ(Caldariomyces fumago)により分泌される多機能糖タンパク質であり、ヘム酵素の中で最も汎用性の高い触媒の一つである。しかしながら、CPOは基質選択性が広いため、HDの分解効率が低い。
【0041】
ゼブラフィッシュ(Danio rerio)胚は、化学透過性、疾患の潜伏期間の短さ、化学処理に対する感受性、並びに観察及び操作の容易さの観点で利点を有するため、環境モニタリング及び動物生理学的モニタリングの脊椎動物モデルとしてしばしば使用されている。さらに、CPOの操作条件は、ゼブラフィッシュの発育条件に抵触せず、酵素及びゼブラフィッシュ胚を組み合わせた新たな環境モデルを構築して除染効率を検出することを可能にした。
【実施例】
【0042】
実施例1:
全ての手順は、25±5℃での換気のよいヒュームフード内で実施され、各実験では新たに調製したH2O2原液を使用した。ゼブラフィッシュ胚を産卵装置から回収し、胚培地E3で洗い流し、24ウェルプレートに1ウェル当たり10個の胚を分割した。ピペットは、培養プレートのウェルから培養培地を注意深く除去するために使用され、次に、受精後4時間以内に培養ウェルに1mlの試験液を添加し、培養プレートを平らに設置して27±1℃で培養し、胚死亡率を3日間、毎日記録した。データは、その後に3回の独立した並行実験の結果の平均±標準偏差として表された。CPO反応条件は、ブランクの胚培養培地E3をネガティブコントロールとして用いることによって最適化され、0.1~5%(vol%)のTBA、1~100mMのKH2PO4、0.1~50mMのKCl、及び0.05~100μMのHD(3.0~7.0のpH)の特定の溶液が胚培養液に添加された。0.1mMのHDをpH4.5で20nMのCPO及び0.2mMのH2O2を用いて5分間分解する系を確立することにより、HD及びその分解産物の毒性を評価した。
【0043】
図1に示すように、0.1mMのHDで処理した胚は全て、24時間以内に死亡したが、CPOで処理した胚陰性対照胚の生存率は、それぞれは87±8%及び93±6%であった。結果は、平均±標準偏差、n=3として表された。最後の2つの場合では、胚及び幼生は、奇形又は形態変化を示さなかった。しかしながら、0.5%の次亜塩素酸ナトリウムに曝露した胚は、直ちに損傷を受けた。
【0044】
実施例2:
純粋なHDをTBAに溶解することにより得られた、HD原液(0.1mM)は、pHが2.75である0.1MのKH
2PO
4、0.5MのKCl、0.022μMのCPO及び5mMのH
2O
2を含む緩衝液に添加されて1mMの最終濃度を有するHD原液を得た。別の実験において、このプロセスにおける酵素の重要な役割を確認するため、CPOの非存在下でH
2O
2をHDと反応させた。対照試料は、CPO又はH
2O
2を含まない緩衝液中でHDを分解することにより個別に調製された。1分間反応させた後、有機層を等容積のCH
2Cl
2で急冷して分離し、次に無水Na
2SO
4上で乾燥させ、続いてガスクロマトグラフィーのバイアルに移して20℃で保管し、最後にガスクロマトグラフィー質量分析法で分析した。同様の方法が、0.220μMのCPO濃度、及びそれぞれ1分及び5分の反応時間の条件下で、1mMのL及びVXの分解を研究するために使用された。
図2aからわかるように、HD及びLVXの完全分解は、ナノモルレベルでの酵素の消費量及び5mMのH
2O
2濃度で、CPO触媒による酸化によって速やかに達成され、CPOが様々なCWAsの分解を同時に促進できるということが明らかになった。H
2O
2濃度が1mMである場合、HD及びLは1分以内に、1mMのHDは40秒以内に、1mMのVXは5分以内に完全に消費された。H
2O
2濃度が5mMでCPOが存在しない条件では、反応の1時間後、1分後、及び5分後にそれぞれ得られたHD、L、及びVXの残存量は83.85±5.01%、78.36±11.56%、及び35.72±0.77%であった。したがって、VXの分解率が5分以内に60%に達したことを除けば、化学毒物とH
2O
2の間の無触媒反応は比較的緩慢であった。
【0045】
実施例3:
受精後3日目のゼブラフィッシュ幼生は、CPOによるL及びエージェントイエロー(HD+L)の分解効率を評価するために使用された。ゼブラフィッシュ幼生を分割し、24ウェルプレートに1ウェル当たり6幼生ずつ添加した。0.1mMのL溶液、CPO及びH
2O
2を修飾胚性E3培地に添加し、最終濃度はLが20nM、CPO及びH
2O
2がそれぞれ0.2mMであり、反応は5分間継続した。胚性E3培地に0.1mMのL及び0.1mMのL+0.2mMのH
2O
2のみを含むサンプルで追加の実験を実施した。さらに、0.5%の次亜塩素酸ナトリウムを酸化剤として試験した。0.1mMのHD及び0.1mMのLの混合物の分解は、それぞれ20nMのCPO及び0.5mMのH
2O
2で研究された。TBA(0.1%)及びKH
2PO
4(1-10mM)を含む修飾胚性E3培地では、HClでpHを4.5に調整することにより、HDの最適反応条件を決定した。CPO系では、
図2b~2cに示すように、Lを効果的に分解することができたが、CPOを用いない場合の酸化速度は十分ではなく、有毒な光吸収生成物を生成し得た。0.5%の次亜塩素酸ナトリウムの存在下では、ゼブラフィッシュ幼生は、直ちに損傷を受け、数分以内に死亡し、5分後に分解された。1mMのLでは、20分以内に心拍停止が観察され、死んだ幼生の体はねじれ、腐食したような外観を呈していた。0.1mMのL及び0.2mMのH
2O
2で処理した幼生は、20分以内に死亡し、皮膚は黒ずんでいた。0.1mMのHD+0.1mMのLでエージェントイエローを分解した場合も同様の結果が得られた。つまり、CPOは、HD及びLを効果的に分解することができ、エージェントイエローを分解するための実際の化学兵器除染剤として使用され得る。
【0046】
実施例4:
最適条件を以下のように設定した:0.1MのKH
2PO
4、0.5MのKCl、pH 2.75、5%のTBA、5mMのH
2O
2、20nMのCPO、温度25±2℃、全量7ml。最適な反応条件下で、CPOによって触媒されたHDの分解速度をモニターした。5秒又は10秒ごとに、1mlの反応混合物を取り出し、マグネチックスターラーで1分間撹拌しながら直ちに1mlのCH
2Cl
2と混合して後で検出するためのサンプルを得た。CPOのHDに対する親和性を測定するためにミカエリス・メンテン解析を使用し、グラフ解析にはGraphPad Prism 5を使用した。
図3に示すように、Km、Vmax、及びkcat値は、それぞれ0.17mM、0.06mM s
-1(R
2=0.935)、2717M
-1s
-1であった。極めて効率の高い(extremely-efficient)酵素では、反応速度は、10
7M
-1s
-1を超えるが、反応効率の極めて高い(ultra-efficient)酵素では、kcat/Km比は10
8~10
10M
-1s
-1であった。CPOの対応値は1.58×10
7M
-1s
-1であり、CPOがHD酸化を効果的に促進する能力を有するということが示された。
【0047】
本明細書において記述されているものに加えて、本発明の様々な改変は、前述の説明から当業者に明らかになるであろう。かかる改変もまた、添付の特許請求の範囲に含まれることが意図される。全ての特許、特許出願、雑誌記事、書籍、及び任意の他の刊行物を含む、本出願において引用された各文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】