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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】分析物を検出する組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6844 20180101AFI20240829BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240829BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20240829BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6851 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513826
(86)(22)【出願日】2022-07-01
(85)【翻訳文提出日】2024-04-23
(86)【国際出願番号】 IB2022056142
(87)【国際公開番号】W WO2023031691
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】63/239,436
(32)【優先日】2021-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522464159
【氏名又は名称】ネオゲン フード セイフティ ユーエス ホルドコ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シットン,グレゴリー ダブリュ.
(72)【発明者】
【氏名】パーシー,ニール
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ42
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS24
4B063QS25
4B063QX01
(57)【要約】
水性組成物、例えば溶解バッファーとして使用するための組成物であって、酸化ジルコニウム粒子と、0.005%(質量/体積)以上の濃度の界面活性剤と、(pH8.45で20℃の脱イオン水中で測定した場合に)第二鉄に対して104.2以上の第1の親和定数を有し、マグネシウムに対して103.8未満の第2の親和定数を有する有機鉄キレート試薬と、バッファーとを含む、水性組成物。水性組成物は、いずれの場合も20℃で測定した場合、7.7以上8.45未満、より特別には7.8~8.3のpHを有する。組成物の使用方法及び水性組成物の成分を含むキット。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性組成物であって、前記水性組成物は、
酸化ジルコニウム粒子と;
0.005%(質量/体積)以上の濃度の界面活性剤と;
第二鉄に対して104.2以上の第1の親和定数を有し、マグネシウムに対して103.8未満の第2の親和定数を有する有機鉄キレート試薬であって、前記第1の親和定数及び前記第2の親和定数が、pH8.45で20℃の脱イオン水中で測定される、有機鉄キレート試薬と;
バッファーであって、任意に40mM以上の濃度を有し、さらに任意に40mM~約200mMの濃度を有し、なおもさらに任意に40mM~150mMの濃度を有するバッファーと
を含み、
前記組成物は、20℃で測定した場合、7.7より大きく8.45未満、任意に7.8~8.3のpHを有する、前記水性組成物。
【請求項2】
前記バッファーが、少なくとも1つの双性イオン性化合物を含む、請求項1記載の水性バッファー組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1つの双性イオン性化合物が、ビシンを含む、請求項2記載の水性バッファー組成物。
【請求項4】
クエン酸又はその塩をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項記載の水性組成物。
【請求項5】
マグネシウム塩をさらに含み、任意に、前記マグネシウム塩が、硫酸マグネシウム又はその水和物であり、さらに任意に硫酸マグネシウム七水和物である、請求項1~4のいずれか1項記載の水性組成物。
【請求項6】
前記有機鉄キレート試薬が、エチレングリコール-ビス(2-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸、N,N’,N’,N’-テトラキス(2-ピリジニルメチル)エタン-1,2-ジアミン、1,2-ビス(O-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N’-四酢酸、N-(2-ヒドロエトキシエチル)エチレンジアミン-N,N’,N’-三酢酸、前述のもののいずれかの塩又は前述のもののいずれかの水和物を含む、請求項1~5のいずれか1項記載の水性組成物。
【請求項7】
第二鉄イオンをさらに含む、請求項1~6のいずれか1項記載の水性組成物。
【請求項8】
前記酸化ジルコニウム粒子が、本明細書に記載の光子相関分光法により測定した場合にそれぞれ500nm以下、任意に250nm以下、任意に以下の平均粒径を有する、請求項1~7のいずれか1項記載の水性組成物。
【請求項9】
指示色素、防腐剤、LAMP反応の増強剤、qPCR反応の増強剤又はフッ素系界面活性剤の少なくとも1つをさらに含む、請求項1~8のいずれか1項記載の水性組成物。
【請求項10】
核酸増幅法であって、
a)請求項1~9のいずれか1項記載の組成物を、微生物又はウイルスを含むサンプルと接触させて、混合物を形成する工程;
b)前記混合物中の前記微生物又は前記ウイルスを溶解させて、溶解混合物を形成する工程;及び
c)前記溶解混合物の少なくとも一部を核酸増幅プロセスに供する工程
を含む、方法。
【請求項11】
工程a)の前に、前記微生物又はウイルスを含む組成物を増殖培地中でインキュベートする工程をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記核酸増幅プロセスが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)又はループ介在等温増幅(LAMP)を含む、請求項10又は11記載の方法。
【請求項13】
前記PCRがqPCRである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記溶解工程が、熱溶解を含み、前記熱溶解が、任意に前記混合物を5~30分間にわたって80~115℃に加熱することを含む、請求項10~13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
キットであって、
複数の酸化ジルコニウム粒子;
非イオン性界面活性剤;
第二鉄に対して104.2以上の第1の親和定数を有し、マグネシウムに対して103.8未満の第2の親和定数を有する有機鉄キレート試薬であって、前記第1の親和定数及び前記第2の親和定数が、pH8.45で20℃の脱イオン水中で測定される、有機鉄キレート試薬;
バッファーであって、20℃においてpH7.8以下からpH8.2以上に及ぶ緩衝領域を有するバッファー
を含む、キット。
【請求項16】
ナノ粒子分散安定剤をさらに含む、請求項14記載のキット。
【請求項17】
前記非イオン性界面活性剤が、約11~約16の親水性-親油性バランスを有する、請求項14又は15記載のキット。
【請求項18】
前記複数の酸化ジルコニウム粒子、前記非イオン性界面活性剤及び前記有機鉄キレート試薬の少なくとも1つが、20℃で測定した場合に7.7より大きく8.45未満、任意に7.8~8.3のpHを有する水性液体中に配置されている、請求項15~17のいずれか1項記載のキット。
【請求項19】
指示色素、防腐剤、LAMP反応の増強剤、qPCR反応の増強剤又はフッ素系界面活性剤の少なくとも1つをさらに含む、請求項15~18のいずれか1項記載のキット。
【請求項20】
前記キットが、第二鉄塩をさらに含む、請求項15~19のいずれか1項記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
特許文献1には、等温核酸増幅反応におけるサンプルの阻害を排除するための水性溶解バッファー組成物(すなわち、細胞と接触して細胞を溶解させ、その核酸を放出させる組成物)が記載されている。この組成物は、有機鉄キレート試薬、第二鉄、0.005%(質量体積)以上の濃度の非イオン性界面活性剤及び2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボキシレートを含み、2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボキシレートと有機鉄キレート試薬は、別個の分子である。この水性組成物は、約8.45~8.85のpHを有する。
【0002】
特許文献2には、溶解バッファーの使用を伴う核酸増幅法が開示されている。この溶解バッファーは、第二鉄イオンを含むことができ、ナノ粒子分散安定剤、約11~約16の親水性-親油性バランスを有する非イオン性界面活性剤、ポリビニルピロリドン、硫酸マグネシウム七水和物、フッ素系界面活性剤、指示色素及び前記試薬の2つ以上の組み合わせからなる群から選択される試薬をさらに含むことができる。この溶解バッファーは、25℃で約9.8~10.5のpHを有すると報告されている。
【0003】
特許文献3には、複数の酸化ジルコニウム粒子、0.005%(質量/体積)以上の濃度の非イオン性界面活性剤、有機鉄キレート試薬及びナノ粒子分散安定剤、ポリビニルピロリドン又は双方を含む、核酸増幅反応におけるサンプルの阻害を排除するための水性組成物が開示されている。この組成物は、約8.45~8.85のpHを有する。
【0004】
特許文献4には、従来のヌクレオシド三リン酸と従来のものではないヌクレオシド三リン酸との混合により得られた、先行する逆転写/増幅反応から生成された核酸で汚染された逆転写反応を滅菌する試薬及び方法が開示されている。滅菌後、増幅すべき核酸を、トリス-HCl(pH8.3)、KCl及びEDTA、トリス-HCl(pH8.3)、KCl、DTT及びMnCl及びビシンKOAc及びMn(OAc)(pH7.97)を含む液体中でインキュベートすることができる。しかし、この液体は溶解バッファーではなく、この開示は、マトリックス化合物によるサンプル阻害の低減に関するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第10604787号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2019/0112637号明細書
【特許文献3】米国特許第10619189号明細書
【特許文献4】米国特許第5693517号明細書
【発明の概要】
【0006】
開示の概要
本開示の上記の概要は、開示された各実施形態又は本開示の全ての実施様式を説明することを意図するものではない。以下の説明は、例示的な実施形態をより詳細に例示するものである。本出願中のいくつかの箇所で、例示の一覧を通じて指針が提供され、これらの例示は、様々な組み合わせで使用することができる。各事例において、引用された一覧は、代表群としてのみ機能するものであり、排他的な一覧として解釈されるべきではない。
【発明を実施するための形態】
【0007】
例示的実施形態の詳細な説明
本出願において、「a」、「an」及び「the」などの用語は、単数の実体のみを指すことを意図しているのではなく、説明のために特定の例を使用することができる全般的なクラスを含む。「a」、「an」及び「the」という用語は、「少なくとも1つ」及び「1つ以上」という表現と互換的に使用される。一覧の後に続く「~の少なくとも1つ」及び「~の少なくとも1つを含む」という表現は、一覧内の項目のいずれか1つ及び一覧内の2つ以上の項目の組み合わせを指す。
【0008】
「一般的な」、「一般的に」、「しばしば」、「頻繁な」及び「頻繁に」などの用語は、本発明において典型的に用いられる特徴を指すために使用されるが、特に断りのない限り、そのように記載された特徴が本開示以前に知られていた又は一般的であったことを意味するものではない。
【0009】
特に明記しない限り、本開示及び添付の特許請求の範囲における全てのpH値は、20℃で測定されたpH値を指す。
【0010】
微生物又はウイルス、特に食品サンプル中に見出される微生物又はウイルスは、分子的方法によって検出することができる。このような方法、例えば3M Molecular Detection System(3M Company, St. Paul, MN, USA)により使用される方法では、サンプルを、任意にインキュベーション後に水性バッファー液と接触させる。バッファー液とは、細胞を溶解させて細胞から核酸を放出させる溶解バッファーである。溶解バッファーとの接触後に、核酸の増幅を行うことができる。
【0011】
特許文献1、特許文献3及び特許文献2には、食品マトリックス、すなわち、サンプル中に存在し、核酸の増幅又は検出を妨害する可能性のある食品サンプル由来の化合物の影響を低減又は排除するために、溶解バッファーに酸化ジルコニウム粒子を添加してもよいことが開示されている。アミンを有するカチオンバッファーであるトリスは、これらの開示において好ましい緩衝剤であり、このことは、バッファーが、トリスバッファーの緩衝領域である8.45~8.85のpHを有していなければならないことを示している。
【0012】
本開示は、先行技術の溶解バッファーに関するいくつかの問題を認識している。第一に、サンプルによっては、前述の参照文献に開示されている8.45~8.85のpH範囲では十分な安定性を示さないが、より低いpH範囲、すなわち中性に近いpH範囲でより高い安定性を示す場合がある。第二に、空気中の二酸化炭素は、(水性液体に接触又は溶解すると炭酸になることにより)酸として作用し得るため、先行技術のバッファーの比較的高いpHが中和される。この効果は、pHが低い場合にはやや小さくなる可能性がある。第三に、トリスバッファーのようなアニオン性又はカチオン性バッファーは、核酸増幅又は検出プロセスを妨害する可能性があるため、水性液体中で使用できる量はある程度制限される。したがって、先行技術のバッファーの緩衝能は低い。食品マトリックスの中には、先行技術のバッファーでは増幅に許容されるpHに変換できないような、非常に酸性度又は塩基性度が高いものもあるため、緩衝能が低いと、試験できる食品マトリックスの種類が制限される。第四に、pHに関係なくとも、結果が出るまでの時間が短い方が有利である。
【0013】
簡潔に述べると、これら及び他の問題に対する解決策は、水性組成物であって、酸化ジルコニウム粒子と、0.005%(質量/体積)以上の濃度の界面活性剤と、第二鉄に対して104.2以上の第1の親和定数を有し、マグネシウムに対して103.8未満の第2の親和定数を有する有機鉄キレート試薬であって、第1の親和定数及び第2の親和定数が、pH8.45で20℃の脱イオン水中で測定される、有機鉄キレート試薬と、バッファーであって、任意に40mM以上の濃度を有し、さらに任意に40mM~約200mMの濃度を有し、なおもさらに任意に40mM~150mMの濃度を有するバッファーとを含む、水性組成物にある。水性組成物は、いずれの場合も20℃で測定した場合、7.7以上8.45未満、より特別には7.8~8.3のpHを有する。水性組成物は、典型的には溶解バッファーであり、例えば溶解バッファー組成物である。
【0014】
また、解決策は、核酸増幅法であって、a)本明細書に記載の水性組成物を微生物又はウイルスを含む組成物と接触させて、混合物を形成する工程;b)混合物中の微生物又はウイルスを溶解させて、溶解混合物を形成する工程;及びc)溶解混合物の少なくとも一部を核酸増幅プロセスに供する工程を含む、方法にもある。
【0015】
また、解決策は、キットであって、複数の酸化ジルコニウム粒子;非イオン性界面活性剤;第二鉄に対して104.2以上の第1の親和定数を有し、マグネシウムに対して103.8未満の第2の親和定数を有する有機鉄キレート試薬であって、第1の親和定数及び第2の親和定数が、pH8.45で20℃の脱イオン水中で測定される、有機鉄キレート試薬;バッファーであって、20℃においてpH7.8以下からpH8.2以上に及ぶ緩衝領域を有するバッファーを含む、キットにもある。キット中の各成分は、例えば本明細書に記載の水性組成物を形成するために、使用者が水に溶解させるための乾燥成分として提供することができる。あるいは、キットの1つ以上の成分をキットの中で水に溶解させ、乾燥成分がある場合には後で加えることもできる。
【0016】
水性組成物
水性組成物は、溶液であっても分散液であってもよい。分散液の場合、酸化ジルコニウム粒子は、典型的には組成物中に分散している。酸化ジルコニウム粒子は、いくつかの実施形態ではナノ粒子である。特定の実施形態では、酸化ジルコニウム粒子は、本明細書において後述する光子相関分光法により測定した場合にそれぞれ500nm以下、より特別には250nm以下、さらにより特別には100nm以下の平均粒径を有する。酸化ジルコニウム粒子は、任意に、少なくとも10、例えば10~600、特に25~600、より特別には50~600、さらにより特別には100~600、なおもより特別には200~600、さらになおもより特別には300~600、最も特別には400~600の表面積(単位:m/L)を有する。
【0017】
いずれの場合も、粒径は、米国特許第864710号明細書の「試験方法」の項に記載された方法にしたがって光子相関分光法(PCS)により測定することができる。具体的には、赤色レーザー(波長633nm)を備えたPCS装置、例えばZeta Sizer-Nano Series,Model ZEN 3600を使用することができる。サンプルを、1cm角のキュベットに10~14mmなどの適切な液深まで入れる。液深は、使用する装置の寸法によって異なる。次に、キュベットを装置に入れ、25℃で平衡化する。装置のパラメータは、以下のように設定できる:分散剤の屈折率:1.3330、分散剤の粘度:0.8872mPa・sec、材料の屈折率:2.10、及び材料の吸収値0.10単位。その後、装置の取扱説明書にしたがって、装置のサイズ測定手順を実行することができる。ほとんどのPCS装置では、粒径の最良の測定値を得るために、レーザービームの位置及び減衰器の設定が自動的に調整されるが、使用する装置によってそれらが自動的に調整されない場合は、粒径の最良の測定値(例えば、最も再現性の高い測定値、最良のS/N比など)を得るために、装置の取扱説明書にしたがって又は標準的な装置の最適化技術にしたがってそれらを最適化することができる。多くの場合、ラベルに表示された粒径を有する市販の酸化ジルコニウム粒子(例えば、製造業者により測定されたもの)が入手可能であり、一般には、製造業者による粒径の(例えば、製品ラベル上の)表示を信頼することができるため、粒径の測定は必要ではない。
【0018】
前述の酸化ジルコニウム粒子のいずれかを安定化させるために、任意に安定剤を添加することができる。最も一般的には、安定剤は、クエン酸又はその塩、例えばクエン酸カリウム、クエン酸第二鉄アンモニウムなどである。核酸の増幅又は検出を妨害しない限り、他の安定剤を使用することもできる。場合によっては、酸化ジルコニウム粒子の中には、安定剤なしでも必要なpH値で安定な分散液を形成できるものがあるため、安定剤は必要ない。
【0019】
前述のいずれの場合でも、pH(20℃で測定した場合)は、7.7より大きく8.45未満とすることができる。特に、pH(20℃で測定した場合)は、7.7より大きく、7.8より大きく、7.9より大きく又は8.0より大きくすることができる。特に、pH(20℃で測定した場合)は、8.45未満、8.4未満、8.3未満又は8.2未満とすることができる。最も一般的には、最も特別には、pHは7.8~8.3である。
【0020】
バッファーは、特に少なくとも1つの双性イオン性化合物を含み、これは、この化合物が、組成物のpHで双性イオン形態にて存在することを意味する。理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、カチオン性、アニオン性又は非イオン性のバッファーが核酸鎖と配位結合することで、サンプル中の微生物の増幅又は検出を妨害する可能性があるという仮説を立てている。特に有用な双性イオン性化合物は、ビシンである。したがって、バッファーは、特にビシンである。
【0021】
バッファー、特に双性イオン性バッファー、最も特別にはビシンは、任意の適切な濃度を有することができるが、通常は40mM以上、より特別には40mM~200mM、なおもより特別には40mM~150mM、さらにより特別には50mM~150mMの濃度を有する。これらの濃度のバッファーは、高濃度で核酸増幅又は検出プロセスを妨害するトリスのようなカチオン性又はアニオン性バッファーで得られるものより高い緩衝能を提供する。
【0022】
鉄キレート試薬は、第二鉄に対して104.2以上の第1の親和定数を有し、マグネシウムに対して103.8未満の第2の親和定数を有する。第1の親和定数及び第2の親和定数は、pH8.45で20℃の脱イオン水中で測定される。したがって、鉄キレート試薬は、マグネシウムよりも第二鉄に対して大きな親和性を有する。鉄キレート試薬は、典型的には有機鉄キレート試薬であり、これは、鉄キレート剤が有機化合物であることを意味するが、これは、有機鉄キレート化合物が有機鉄化合物のみをキレート化することを意味するものではない。
【0023】
任意の適切な有機鉄キレート試薬を使用することができる。最も典型的には、有機鉄キレート試薬は、エチレングリコール-ビス(2-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(EGTA)、N,N’,N’,N’-テトラキス(2-ピリジニルメチル)エタン-1,2-ジアミン、1,2-ビス(O-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N’-四酢酸、N-(2-ヒドロエトキシエチル)エチレンジアミン-N,N’,N’-三酢酸、前述のもののいずれかの塩又は前述のもののいずれかの水和物を含む。最も一般的には、有機鉄キレート試薬のナトリウム塩又はカリウム塩又はナトリウム/カリウム混合塩、特にカリウム塩などの塩が使用される。EGTAが最も一般的に使用され、最も特別にはEGTAのカリウム塩が使用される。
【0024】
任意に、本明細書で言及されるいずれの実施形態でも、組成物は第二鉄を必要とし得る。含まれる場合、第二鉄は、典型的には、50~385マイクロモル濃度、例えば、少なくとも110マイクロモル濃度、少なくとも165マイクロモル濃度、少なくとも220マイクロモル濃度、少なくとも275マイクロモル濃度又は少なくとも330マイクロモル濃度の濃度を有し;いずれの場合も、最大濃度は385マイクロモル濃度とすることができる。第二鉄が含まれる場合、有機鉄キレート試薬に対する第二鉄の第二鉄イオンのモル比は、典型的には0.04~0.28、より特別には0.14~0.18である。
【0025】
少なくとも1つの非イオン性界面活性剤は、例えば、組成物の製造後に、商業的に許容される時間にわたって、溶解が意図される成分を沈殿させず、懸濁が意図される成分を懸濁させるなどの、安定な配合物を提供する任意の適切な非イオン性界面活性剤であり得る。特に有用な非イオン性界面活性剤としては、11~16の親水性-親油性バランス(HLB)を有するものが挙げられる。このHLB範囲は、PCRやLAMPなどの核酸増幅に使用されるDNAポリメラーゼの活性を促進する。使用可能な特定の非イオン性界面活性剤の非限定的な例としては、TRITONの商品名で入手可能なもの、例えば、TRITON X-100、TRITON X-114、TRITON X-405、TRITON X-101など、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(TWEENの商品名で入手可能なものなど)、ポリオキシエチレンアルキルエステル(BRIJの商品名で入手可能なものなど)、ノニルフェノール、ラウリルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸ビスフェニルエーテル及びフッ素系界面活性剤(3M Company St. Paul MN USAからNOVECの商品名で販売されているものなど)が挙げられる。
【0026】
非イオン性界面活性剤は、任意の適切な濃度、例えば、上記の基準の1つ以上を満たす濃度、又は特定の最終用途によって要求される他の基準を満たす濃度で存在することができる。典型的には、0.005%(w/v)~0.3%(w/v)、例えば0.01%~0.3%(w/v)の濃度が使用される。
【0027】
マグネシウムイオン、カリウムイオン又はその双方も、組成物において使用することができる。これらは、例えばPCR、例えばqPCR、LAMPなどによるサンプルの下流の核酸増幅を促進することができる。マグネシウムイオンの量は、使用される場合、典型的には1mM~15mMである。カリウムイオンの量は、使用される場合、典型的には5mM~500mM、例えば20mM~60mMである。特にマグネシウムイオンは、マグネシウム塩の成分として含まれ、例えば、硫酸マグネシウム又はその水和物、より特別には硫酸マグネシウム七水和物が挙げられる。
【0028】
任意に、組成物は、1つ以上の追加成分をさらに含むことができる。使用される場合、これらは、最も一般的には、指示色素、防腐剤、LAMP反応の増強剤、qPCR反応の増強剤又はフッ素系界面活性剤の1つ以上である。
【0029】
指示色素が使用される場合、それは、用途に適した色素であれば何でもよく、例えば、目的の1つ以上の微生物の検出に適した色素である。多くの指示色素が当該技術分野で知られており、原理的にはいずれも使用できる。特に一般的な色素は、クレゾールレッドである。指示色素は常に必要というわけではなく、指示色素に依存しない検出系もあり、場合によっては下流の処理工程で所望の色素を添加することもある。
【0030】
生物学的系での使用に適した様々な防腐剤が知られており、1つを使用する場合、当業者は所望の最終用途に応じてそれを選択することができる。特に有用な防腐剤の1つは、メチルイソチアゾリノンである。
【0031】
LAMP又はqPCR反応を促進するための増強剤も当該技術分野で知られており、使用する核酸増幅のタイプなど、所望の最終用途に応じて選択することができる。例えば、硫酸マグネシウムや硫酸アンモニウムなどの硫酸塩又はそれらの水和物、塩化カリウムなどが挙げられる。
【0032】
キット
上記の組成物を、最終使用者のために予め調製することが可能であり、また、キットを最終使用者に提供して、最終使用者がキットの各成分と任意に使用者によって提供される水とから組成物を調製することも可能である。したがって、キットは、複数の酸化ジルコニウム粒子を含むことができ、この酸化ジルコニウム粒子は、組成物を参照して説明された前述の粒子のいずれかとすることができる。酸化ジルコニウム粒子は、脱イオン水などの水に分散させる固体として提供することが可能であり、また水分散液として提供することも可能である。
【0033】
キットは、第二鉄に対して104.2以上の第1の親和定数を有し、マグネシウムに対して103.8未満の第2の親和定数を有する有機鉄キレート試薬であって、第1の親和定数及び第2の親和定数が、pH8.45で20℃の脱イオン水中で測定される、有機鉄キレート試薬をさらに含むことができる。本組成物を参照して上述した有機鉄キレート試薬のいずれかを使用することができる。EGTAが最も一般的である。有機鉄キレート試薬は、脱イオン水などの水に分散させることも、水中に供給することも可能である。
【0034】
キットは、バッファーをさらに含むことができる。バッファーは、最も一般的には、20℃においてpH7.7以下からpH8.2以上に及ぶ緩衝領域を有する。したがって、バッファーは、典型的には、組成物のpH範囲において緩衝能を提供することができ、この範囲については、上記で詳細に論じられている。バッファーは、上記で詳細に論じられているように、典型的には双性イオン性であり、最も特別にはビシンである。バッファーは、脱イオン水などの水で再構成させる固体として提供することも、水に溶解させることも可能である。
【0035】
同様に、キットは、ナノ粒子分散安定剤及び指示色素、防腐剤、LAMP反応の増強剤、qPCR反応の増強剤又はフッ素系界面活性剤の少なくとも1つ及び/又は第二鉄塩を提供することができる。これらのいずれかを水に分散させることが可能であり、また後で水に分散させる固体として提供することも可能である。
【0036】
最も一般的には、複数の酸化ジルコニウム粒子、非イオン性界面活性剤及び有機鉄キレート試薬の少なくとも1つは、pH(20℃で測定した場合)が7.7より大きく8.45未満の水性液体中に配置されている。特別な事例では、pH(20℃で測定した場合)は、7.7より大きく、7.8より大きく、7.9より大きく又は8.0より大きくすることができる。特に、pH(20℃で測定した場合)は、8.45未満、8.4未満、8.3未満又は8.2未満とすることができる。最も一般的には、最も特別には、pHは7.8~8.3である。残りの成分は、最も一般的には、後で水性液体に添加される固体として提供される。
【0037】
使用方法
本明細書に開示される組成物及びキットは、最も一般的には核酸増幅法において使用される。キットは、まず、キットの各成分を互いに及び/又は水、特に脱イオン水又は逆浸透精製水と組み合わせることによって使用することができ、それにより、本明細書に開示される組成物が形成される。次に、この組成物は、特許文献3に記載されているような、当該技術分野で知られている一般的な方法にしたがって使用することができる。
【0038】
簡潔に述べると、本明細書に記載の組成物を、微生物又はウイルスを含むか又は含むと疑われるサンプルと接触させて、混合物を形成することができる。サンプルを、任意に、この接触工程の前にインキュベートすることができるが、これは特に、微生物又はウイルスの数を増加させるためにそうすることが必要である場合に該当する。次に、微生物又はウイルスを溶解させて、溶解混合物を形成することができる。次に、溶解混合物を核酸増幅プロセスに供して、微生物又はウイルス中に存在していた1つ以上の核酸を増幅することができる。
【0039】
溶解工程は、典型的には熱溶解であり、熱溶解は、混合物を5~30分間にわたって80~115℃に加熱することによって達成されることが非常に多い。
【0040】
核酸増幅法は、公知のいずれの方法であってもよいが、PCR、例えばqPCR又はLAMPが最も一般的である。qPCR増幅は公知であり、例えば、European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases 2004(190)のMackay, I.による論文「Real-time PCR in the microbiology laboratory」に記載されている。LAMP増幅は、例えば米国特許第9090168号明細書に記載されている。LAMP増幅のような増幅の結果は、Gandelman, O.らによる論文「Novel bioluminescent quantitative detection of nucleic acid amplification in real-time」PLoS One, Nov 30;5(11)に記載されているような公知の方法で検出することができる。
【0041】
実施例
酸化ジルコニウムナノ粒子分散液(水中5重量%、平均粒径100nm以下(BET)、製品番号643122)を、Sigma Aldrich Company, St. Louis, MOより入手した。
【0042】
クエン酸(製品番号C1909)、ポリビニルピロリドン(製品番号P5288)、TRITON X-100界面活性剤(製品番号T8787)、ビシン(製品番号B8660)、酢酸カリウム(P1190)、水酸化カリウム(製品番号60370)、EGTA(製品番号03777)、マグネシウム七水和物(製品番号63138)及びPROCLIN 950(製品番号46878-U)を全てSigma Aldrich Companyより入手した。
【0043】
組成物のpHを、ACCUMETゲル充填ポリマーボディpH/ATCダブルジャンクション組み合わせ電極(水銀フリー)を備えたACCUMET AE150ベンチトップpHメーター(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MAより入手)を用いて20℃で測定した。測定を、サンプル調製後24時間以内に行った。
【0044】
実施例1.
表1に示した各成分を指定された順序で脱イオン水に添加し、混合して懸濁組成物を調製した。この組成物のpHは、8.1であった。
【0045】
【表1】
【0046】
比較例A.
クエン酸、酸化ジルコニウム分散液、EGTA、硫酸マグネシウム七水和物の各成分が組成物に含まれていないことを除いては、実施例1に記載のとおりに組成物を調製した。この組成物のpHは、8.3であった。
【0047】
実施例2.
各成分を表2に指定された順序で脱イオン水に添加して、組成物を調製した。この組成物のpHは、8.3であった。実施例1の組成物(表1)と比較して、この組成物(表2)では、緩衝能を高めるために、ビシン及び水素化カリウムの濃度が高く、酢酸カリウムの濃度が低かった。
【0048】
【表2】
【0049】
比較例B.
クエン酸、酸化ジルコニウム分散液、EGTA、硫酸マグネシウム七水和物の各成分が組成物に含まれていないことを除いては、実施例2に記載のとおりに組成物を調製した。この組成物のpHは、8.3であった。
【0050】
比較例C.
特許文献3の実施例2に記載のとおりに組成物を調製した。この組成物のpHは、8.7であった。
【0051】
実施例3.ループ介在等温増幅(Loop-Mediated Isothermal Amplification)(LAMP) - 実施例1及び実施例2、並びに比較例A~比較例Cの組成物を用いた生物発光検出アッセイ
生の鶏ひき肉(32g)及び緩衝ペプトン水富化培地(BPW-ISO、162mL、41.5℃に予熱、3M Company, St. Paul, MNより入手)を、Nasco WHIRL-PAKホモジナイザーフィルターバッグ(製品番号01318、Thermo Fisher Scientificより入手)内で合わせ、230rpm(毎分回転数)で2分間混合した。このサンプルを、41.5℃で6時間インキュベートした。実施例1及び実施例2、並びに比較例A~比較例Cの組成物から選択したアリコート(580マイクロリットル)を、別個の1.1mLのAXYGENミニチューブ(製品番号MTS-11-12-C-R、Corning Inc., Corning, NYより入手)に個々に添加した(すなわち、各チューブに単一の組成物を添加した)。次に、ホモジナイザーバッグから濃縮サンプル20マイクロリットルを各チューブに加えた。
【0052】
核増幅及び生物発光検出のために、各チューブを100℃のヒートブロックにて15分間加熱し、約40℃に冷却した後、混合物の20マイクロリットルのアリコートを、汎用マトリックスコントロールペレット(製品番号MDMC96NA、3M Companyより入手)を含む反応チューブに加えた。各組成物について3本の反応チューブ(n=3)を準備した。ペレットを溶解させた後、各反応チューブを3M分子検出装置(製品番号MDS 100;3M Companyより入手)を用いて分析し、製造者の指示にしたがって生物発光シグナルを記録した。最大生物発光シグナル(相対的発光量(RLU))及び最大生物発光シグナルが生じた反応時間を記録した。結果を、3回の試験の平均値として表3~表5に報告する。
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
実施例4.各pH値の組成物を用いたLAMP - 生物発光検出アッセイ
実施例1の手順(表1)にしたがって調製した組成物のpHを、様々な量の氷酢酸で調整し、7.4、7.6、7.8、8.0又は8.2のいずれかのpHを有する5つの別々の組成物を提供した。最大生物発光シグナルが生じた反応時間を、実施例3の手順にしたがって決定した。結果を、3回の試験の平均値として表6に報告する。
【0057】
【表6】
【国際調査報告】