(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】高い熱安定性及び減弱したエフェクター機能を有するFcバリアント
(51)【国際特許分類】
C07K 16/00 20060101AFI20240829BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240829BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240829BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240829BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240829BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240829BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240829BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240829BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240829BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240829BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240829BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240829BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240829BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240829BHJP
A61K 47/55 20170101ALI20240829BHJP
【FI】
C07K16/00
C12N15/13 ZNA
C07K19/00
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P35/00
A61P37/02
A61P29/00
A61P31/00
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K47/68
A61K45/00
A61K47/55
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513898
(86)(22)【出願日】2022-09-02
(85)【翻訳文提出日】2024-04-04
(86)【国際出願番号】 CA2022051331
(87)【国際公開番号】W WO2023028715
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2021144352
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510214045
【氏名又は名称】ザイムワークス ビーシー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】篠▲崎▼ 直也
(72)【発明者】
【氏名】牧野 智宏
(72)【発明者】
【氏名】長岡 のぶみ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C076CC04
4C076CC07
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4C076FF70
4C084AA19
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4C085AA13
4C085AA14
4C085BB31
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4C085BB42
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045BA72
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
1つ以上のバリアントFc領域を含むポリペプチドであって、バリアントFc領域のそれぞれは、2つのCH2ドメインを含み、バリアントFc領域のうちの少なくとも1つの中のCH2ドメインのうちの少なくとも1つは、バリアントCH2ドメインであり、かつバリアントCH2ドメインの位置234、235、及び265(位置は全てEUナンバリングによって表される)のアミノ酸残基は、それぞれAla、Ala、及びGly、またはAla、Ala、及びAsnである、ポリペプチド。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上のバリアントFc領域を含むポリペプチドであって、前記バリアントFc領域のそれぞれは、2つのCH2ドメインを含み、前記バリアントFc領域のうちの少なくとも1つの中の少なくとも1つのCH2ドメインは、位置234、235及び265(位置は全てEUナンバリングによって表される)においてアミノ酸置換を含むバリアントCH2ドメインであり、前記バリアントCH2ドメインの位置234、235、及び265のアミノ酸残基は、それぞれAla、Ala、及びGly、またはそれぞれAla、Ala、及びAsnであり、かつ前記1つ以上のバリアントFc領域のそれぞれは、バリアントIgG1 Fc領域、バリアントIgG4 Fc領域またはバリアントIgG1/IgG4 Fc領域である、前記ポリペプチド。
【請求項2】
前記バリアントCH2ドメインの位置329においてアミノ酸置換を更に含み、前記バリアントCH2ドメインの位置329のアミノ酸残基は、Alaである、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
位置234、235及び265においてアミノ酸置換を含まない親CH2ドメインを含む親ポリペプチドと比較して、少なくとも1つのFcγ受容体(FcγR)に対する結合親和性が低下している、請求項1または2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
FcγRI、FcγRIIまたはFcγRIIIのうちの1つ以上に対する結合が低下している、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項5】
FcγRI、FcγRII及びFcγRIIIに対する結合が低下している、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項6】
前記FcγRI、FcγRII及びFcγRIIIが、ヒトFcγRI、FcγRII及びFcγRIIIである、請求項4または5に記載のポリペプチド。
【請求項7】
前記FcγRI、FcγRII及びFcγRIIIが、カニクイザルFcγRI、FcγRII及びFcγRIIIである、請求項4または5に記載のポリペプチド。
【請求項8】
位置234、235、及び265においてアミノ酸置換を含まない親CH2ドメインを含む親ポリペプチドと比較して、Fcγ受容体(FcγR)に対する結合親和性が50%以上低下している、請求項1または2に記載のポリペプチド。
【請求項9】
前記FcγRが、ヒトFcγRまたはカニクイザルFcγRである、請求項8に記載のポリペプチド。
【請求項10】
前記FcγRが、ヒトFcγRである、請求項8に記載のポリペプチド。
【請求項11】
前記FcγRが、FcγRIである、請求項8~10のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項12】
1つ以上のバリアントIgG1 Fc領域を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項13】
1つのバリアントFc領域を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項14】
1つのバリアントIgG1 Fc領域を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項15】
前記バリアントCH2ドメインの位置234、235、及び265の前記アミノ酸残基が、それぞれAla、Ala、及びGlyである、請求項1~14のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項16】
前記バリアントCH2ドメインの位置234、235、及び265の前記アミノ酸残基が、それぞれAla、Ala、及びAsnである、請求項1~14のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項17】
前記バリアントCH2ドメインの熱変性中点温度(Tm)が、位置234、235及び265においてアミノ酸置換を含まない親CH2ドメインのTmの1℃以内である、請求項15または16に記載のポリペプチド。
【請求項18】
前記バリアントCH2ドメインの熱変性中点温度(Tm)が、位置234、235及び265においてアミノ酸置換を含まない親CH2ドメインのTmより1℃以上高い、請求項15に記載のポリペプチド。
【請求項19】
前記バリアントCH2ドメインの前記Tmが、前記親CH2ドメインの前記Tmより3℃以上高い、請求項18に記載のポリペプチド。
【請求項20】
抗体またはその機能性断片である、請求項1~19のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項21】
前記抗体またはその機能性断片が、腫瘍抗原に結合する、請求項20に記載のポリペプチド。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか1項に記載のポリペプチドを含む、分子。
【請求項23】
請求項1~21のいずれか1項に記載のポリペプチドと異種ポリペプチドとの融合タンパク質である、請求項22に記載の分子。
【請求項24】
1つ以上の薬物または修飾剤にコンジュゲートされた請求項1~21のいずれか1項に記載のポリペプチドを含む、ポリペプチド-薬物コンジュゲート。
【請求項25】
前記薬物が、化学療法剤または細胞傷害性薬剤である、請求項24に記載のポリペプチド-薬物コンジュゲート。
【請求項26】
前記修飾剤が、非タンパク質性ポリマーである、請求項24に記載のポリペプチド-薬物コンジュゲート。
【請求項27】
請求項1~21のいずれか1項に記載のポリペプチドまたはその一部をコードするヌクレオチド配列を含む、核酸。
【請求項28】
請求項27に記載の核酸を含む、宿主細胞。
【請求項29】
請求項1~21のいずれか1項に記載のポリペプチドを産生するための方法であって、請求項28に記載の宿主細胞を、前記ポリペプチドの発現に好適な条件下で、培地中で培養することと、前記培地または前記宿主細胞から前記ポリペプチドを回収することとを含む、前記方法。
【請求項30】
請求項1~21のいずれか1項に記載のポリペプチド、請求項22もしくは23に記載の分子、または請求項24~26のいずれか1項に記載のポリペプチド-薬物コンジュゲートと、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項31】
治療における使用のための、請求項1~21のいずれか1項に記載のポリペプチド、請求項22もしくは23に記載の分子、または請求項24~26のいずれか1項に記載のポリペプチド-薬物コンジュゲート。
【請求項32】
前記治療が、がん、免疫疾患、炎症性疾患または感染症の治療を含む、請求項31に記載の使用のための、ポリペプチド、分子、またはポリペプチド-薬物コンジュゲート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年9月3日に出願された日本特許出願第2021-144352号の利益及び優先権を主張するものであり、その開示は、その全体が全ての目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
配列表
本出願は、pdf形式で電子的に提出された配列表を含み、その全体が参照により本明細書に援用される。当該pdfのコピーは、2022年8月30日に作成され、ZYME086WO_Sequence Listing.pdfという名称で、サイズは716,800バイトである。
【0003】
分野
本開示は、FCバリアントの分野、特に、バリアントIgG Fc領域を含むポリペプチド、当該ポリペプチドを含む分子、及び当該ポリペプチドが薬物にコンジュゲートされたポリペプチド-薬物コンジュゲートに関し、これらは、医薬として有用である。
【背景技術】
【0004】
背景
抗体のFc領域は、長い血中半減期及び抗体依存性細胞傷害(ADCC)などのエフェクター機能を抗体に付与する。Fc領域が、ほとんどの抗体薬物で使用されているIgGサブクラスに由来する場合、エフェクター機能は、Fcγ受容体(FcγR)と呼ばれる受容体のファミリーに対するFc領域の結合に依存する。しかしながら、FcγRに対する結合活性は、急性輸液反応などの安全リスクに関与することが示唆されており(J Immunotoxicol;5(1):11-5(2008)(非特許文献1)参照)、そのため、状況によっては、医薬として使用される抗体にとって望ましくない性質となり得る。
【0005】
ヒトFcγRへの結合活性を低下させるIgG抗体のFc領域における様々なアミノ酸置換は、これまでに報告されている。例えば、国際公開番号WO1988/07089(特許文献1);WO1999/51642(特許文献2);WO2000/42072(特許文献3);WO2013/092001(特許文献4);WO2015/109131(特許文献5)及びWO2020/086776(特許文献6)、ならびにProtein Eng Des Sel;29(10):457-66(2016)(非特許文献2)、及びJ Biol Chem;292(5):1865-75(2017)(非特許文献3)を参照されたい。
【0006】
Fc領域のFcγRへの結合を低下させるアミノ酸置換は、Fc領域の熱安定性の低下をもたらすことがある(例えば、国際公開番号WO2020/086776(特許文献6)及びJ Biol Chem;292(5):1865-75(2017)(非特許文献3)参照)。
【0007】
国際公開番号WO2013/118858(特許文献7)は、熱安定性を改善し、更に、エフェクター機能を増加または減少させる、Fc領域のアミノ酸置換について記載している。WO2013/118858(特許文献7)は、アミノ酸置換の組み合わせについて、そのそれぞれが独立して熱安定性を改善させるが、必ずしも相加的に熱安定性を改善するとは限らないことを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO1988/07089
【特許文献2】WO1999/51642
【特許文献3】WO2000/42072
【特許文献4】WO2013/092001
【特許文献5】WO2015/109131
【特許文献6】WO2020/086776
【特許文献7】WO2013/118858
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J Immunotoxicol;5(1):11-5(2008)
【非特許文献2】Protein Eng Des Sel;29(10):457-66(2016)
【非特許文献3】J Biol Chem;292(5):1865-75(2017)
【発明の概要】
【0010】
概要
本明細書に記載されるのは、高い熱安定性及び減弱されたエフェクター機能を有するFcバリアントである。本開示の一態様は、1つ以上のバリアントFc領域を含むポリペプチドであって、バリアントFc領域のそれぞれは、2つのCH2ドメインを含み、バリアントFc領域のうちの少なくとも1つの中の少なくとも1つのCH2ドメインは、位置234、235及び265(位置は全てEUナンバリングによって表される)においてアミノ酸置換を含むバリアントCH2ドメインであり、バリアントCH2ドメインの位置234、235、及び265のアミノ酸残基は、それぞれAla、Ala、及びGly、またはそれぞれAla、Ala、及びAsnであり、1つ以上のバリアントFc領域のそれぞれは、バリアントIgG1 Fc領域、バリアントIgG4 Fc領域またはバリアントIgG1/IgG4 Fc領域である、ポリペプチドに関する。
【0011】
本開示の別の態様は、本明細書に記載されるポリペプチドを含む、分子に関する。
【0012】
本開示の別の態様は、1つ以上の薬物または修飾剤にコンジュゲートされた本明細書に記載されるポリペプチドを含む、ポリペプチド-薬物コンジュゲートに関する。
【0013】
本開示の別の態様は、本明細書に記載されるポリペプチドまたはその一部をコードするヌクレオチド配列をコードする、核酸に関する。
【0014】
本開示の別の態様は、本明細書に記載されるポリペプチドまたはその一部をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を含む、宿主細胞に関する。
【0015】
別の態様は、本明細書に記載されるポリペプチドを産生するための方法であって、ポリペプチドまたはその一部をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を含む宿主細胞を、ポリペプチドの発現に好適な条件下で、培地中で培養することと、培地または宿主細胞からポリペプチドを回収することとを含む、方法に関する。
【0016】
本開示の別の態様は、本明細書に記載されるポリペプチド、当該ポリペプチドを含む分子、または薬物もしくは修飾剤にコンジュゲートされた当該ポリペプチドを含むポリペプチド-薬物コンジュゲートと、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物に関する。
【0017】
別の態様は、本明細書に記載されるポリペプチド、当該ポリペプチドを含む分子、または薬物もしくは修飾剤にコンジュゲートされたポリペプチドを含むポリペプチド-薬物コンジュゲートの治療における使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一般的なIgG抗体の構造を示す模式図である。IgG抗体は、VH、CH1、ヒンジ、CH2、及びCH3からそれぞれなる重鎖と、VL及びCLからそれぞれなる軽鎖から構成される。
【
図2A】SPR法によって評価した、抗EGFR抗体パニツムマブのIgG2 Fc領域をヒト野生型IgG1 Fc領域に置き換えることによって得られたIgG1 WT;IgG1 WTのFc領域にL234A/L235A(LALA)変異を導入することによって得られたバリアント;IgG1 WTのFc領域にL234A/L235A/D265A(LALA-DA)変異を導入することによって得られたバリアント;及びIgG1 WTのFc領域にL234A/L235A/P329G(LALA-PG)変異を導入することによって得られたバリアントのヒトFcγRIに対する結合活性を示す。
【
図2B】SPR法によって評価した、
図2Aに示される抗体のヒトFcγRIIaに対する結合活性を示す。
【
図2C】SPR法によって評価した、
図2Aに示される抗体のヒトFcγRIIb/cに対する結合活性を示す。
【
図2D】SPR法によって評価した、
図2Aに示される抗体のヒトFcγRIIIaに対する結合活性を示す。
【
図2E】SPR法によって評価した、
図2Aに示される抗体のヒトFcγRIIIbに対する結合活性を示す。
【
図3】SPR法によって評価した、
図2Aに示される抗体のカニクイザルFcγRIに対する結合活性を示す。
【
図4A】DSCによって測定した、抗EGFR抗体パニツムマブのIgG1 WTの温度依存性熱容量の変化を示す。各ピーク近くの数字は、ピークトップの温度(T
m)を表す。
【
図4B】DSCによって測定した、抗EGFR抗体パニツムマブのLALAバリアントの温度依存性熱容量の変化を示す。各ピーク近くの数字は、T
mを表す。
【
図4C】DSCによって測定した、抗EGFR抗体パニツムマブのLALA-DAバリアントの温度依存性熱容量の変化を示す。各ピーク近くの数字は、T
mを表す。
【
図4D】DSCによって測定した、抗EGFR抗体パニツムマブのLALA-PGバリアントの温度依存性熱容量の変化を示す。各ピーク近くの数字は、T
mを表す。
【
図5】SPR法によって評価した、抗EGFR抗体パニツムマブのIgG2 Fc領域をヒト野生型IgG1 Fc領域に置き換えることによって得られたIgG1 WTのFc領域にL234A/L235A/D265A(LALA-DA)変異を導入することによって得られたバリアント;IgG1 WTのFc領域にL234A/L235A/D265G(LALA-DG)変異を導入することによって得られたバリアント;IgG1 WTのFc領域にL234A/L235A/D265N(LALA-DN)変異を導入することによって得られたバリアント;IgG1 WTのFc領域にL234A/L235A/D265Q(LALA-DQ)変異を導入することによって得られたバリアント;及びIgG1 WTのFc領域にL234A/L235A/D265T(LALA-DT)変異を導入することによって得られたバリアントのヒトFcγRIに対する結合活性を示す。
【
図6】SPR法によって評価した、
図5Aに示される抗体のカニクイザルFcγRIに対する結合活性を示す。
【
図7A】DSCによって測定した、抗EGFR抗体パニツムマブのLALA-DGバリアントの温度依存性熱容量の変化を示す。各ピーク近くの数字は、T
mを表す。
【
図7B】DSCによって測定した、抗EGFR抗体パニツムマブのLALA-DNバリアントの温度依存性熱容量の変化を示す。各ピーク近くの数字は、T
mを表す。
【
図7C】DSCによって測定した、抗EGFR抗体パニツムマブのLALA-DQバリアントの温度依存性熱容量の変化を示す。各ピーク近くの数字は、T
mを表す。
【
図7D】DSCによって測定した、抗EGFR抗体パニツムマブのLALA-DTバリアントの温度依存性熱容量の変化を示す。各ピーク近くの数字は、T
mを表す。
【
図8】抗EGFR抗体パニツムマブのIgG1 WT、LALAバリアント、及びLALA-DGバリアントをマウスに静脈内(i.v.)投与した後の血中濃度の経時的変化を示す。図中のエラーバーは、標準偏差(n=3)を示す。
【
図9A】SPR法によって評価した、抗EGFR抗体パニツムマブのLALA-DGバリアント、及びIgG1 WTのFc領域にL234A/L235A/D265G/P329A(LALA-DGPA)変異を導入することによって得られたバリアントのヒトFcγRIに対する結合活性を示す。
【
図9B】SPR法によって評価した、
図9Aに示される抗体のカニクイザルFcγRIに対する結合活性を示す。
【
図10A】SPR法によって評価した、IgG1抗体である抗CD70抗体ボルセツズマブのLALAバリアント及びLALA-DGバリアントのヒトFcγRIに対する結合活性を示す。
【
図10B】SPR法によって評価した、IgG1抗体である抗LPS抗体O11-1111のLALAバリアント及びLALA-DGバリアントのヒトFcγRIに対する結合活性を示す。
【
図11A】野生型ヒトIgG1(G1m17)定常領域のアミノ酸配列を表す(配列番号1)。下線部、二重下線部及び四角で囲まれた部分は、それぞれヒンジ領域、CH2及びCH3ドメイン、ならびにアミノ酸置換(変異)の位置を示す。
【
図11B】野生型ヒトIgG1(G1m3)定常領域のアミノ酸配列を表す(配列番号2)。表記は
図11Aと同様。
【
図11C】野生型ヒトIgG4定常領域のアミノ酸配列を表す(配列番号3)。表記は
図11Aと同様。
【
図12A】ヒトIgG1(G1m17)定常領域のLALA-DGバリアントのアミノ酸配列を表す(配列番号4)。表記は
図11Aと同様。
【
図12B】ヒトIgG1(G1m3)定常領域のLALA-DGバリアントのアミノ酸配列を表す(配列番号5)。表記は
図11Aと同様。
【
図13A】ヒトIgG1(G1m17)定常領域のLALA-DNバリアントのアミノ酸配列を表す(配列番号6)。表記は
図11Aと同様。
【
図13B】ヒトIgG1(G1m3)定常領域のLALA-DNバリアントのアミノ酸配列を表す(配列番号7)。表記は
図11Aと同様。
【
図14A】ヒトIgG1(G1m17)定常領域のLALA-DGPAバリアントのアミノ酸配列を表す(配列番号8)。表記は
図11Aと同様。
【
図14B】ヒトIgG1(G1m3)定常領域のLALA-DGPAバリアントのアミノ酸配列を表す(配列番号9)。表記は
図11Aと同様。
【
図15A】ヒトIgG4定常領域のFALA-DGバリアントのアミノ酸配列を表す(配列番号10)。表記は
図11Aと同様。
【
図15B】ヒトIgG4定常領域のFALA-DNバリアントのアミノ酸配列を表す(配列番号11)。表記は
図11Aと同様。
【
図15C】ヒトIgG4定常領域のFALA-DGPAバリアントのアミノ酸配列を表す(配列番号12)。表記は
図11Aと同様。
【
図16A】抗EGFR抗体パニツムマブのIgG1 WT軽鎖のアミノ酸配列を表す(配列番号13)。下線部は、可変領域を示す。
【
図16B】抗EGFR抗体パニツムマブのIgG1 WT重鎖のアミノ酸配列を表す(配列番号14)。下線部、二重下線部及び四角で囲まれた部分は、それぞれヒンジ領域、CH2及びCH3ドメイン、ならびにアミノ酸置換(変異)の位置を示す。
【
図17A】抗CD70抗体ボルセツズマブのLALAバリアントの軽鎖のアミノ酸配列を表す(配列番号15)。下線部は、可変領域を示す。
【
図17B】抗CD70抗体ボルセツズマブのLALAバリアントの重鎖のアミノ酸配列を表す(配列番号16)。表記は
図16Bと同様。
【
図18A】抗LPS抗体O11-1111のIgG1 WT軽鎖のアミノ酸配列を表す(配列番号17)。下線部は、可変領域を示す。
【
図18B】抗LPS抗体O11-1111のIgG1 WT重鎖のアミノ酸配列を表す(配列番号18)。表記は
図16Bと同様。
【
図19A】ヒトFcガンマRI(アクセッション番号:P12314)のアミノ酸配列を表す(配列番号19)。下線部は、組み換えヒトFcガンマRI/CD64タンパク質CF(R&D Systems)の配列を示す。
【
図19B】ヒトFcガンマRIIa(R167)(アクセッション番号:AAA35827)のアミノ酸配列を表す(配列番号20)。下線部は、組み換えヒトFcガンマRIIa/CD32a(R167)タンパク質(R&D Systems)の配列を示す。
【
図19C】ヒトFcガンマRIIa(H167)(アクセッション番号:P12318-1(P12318.4))のアミノ酸配列を表す(配列番号21)。下線部は、組み換えヒトFcガンマRIIa/CD32a(H167)タンパク質(R&D Systems)の配列を示す。
【
図19D】ヒトFcガンマRIIb/c(アクセッション番号:P31994)のアミノ酸配列を表す(配列番号22)。下線部は、組み換えヒトFcガンマRIIB/C(CD32b/c)タンパク質CF(R&D Systems)の配列を示す。
【
図19E】ヒトFcガンマRIIIa(アクセッション番号:AAH17865)のアミノ酸配列を表す(配列番号23)。下線部は、組み換えヒトFcガンマRIIIa/CD16aタンパク質CF(R&D Systems)の配列を示す。
【
図19F】ヒトFcガンマRIIIb(アクセッション番号:O75015)のアミノ酸配列を表す(配列番号24)。下線部は、組み換えヒトFcガンマRIIIB/CD16bタンパク質(R&D Systems)の配列を示す。
【
図20A】カニクイザルFcガンマRI(アクセッション番号:NP_001270969)のアミノ酸配列を表す(配列番号25)。下線部は、組み換えカニクイザルFcガンマRI/CD64タンパク質CF(R&D Systems)の配列を示す。
【
図20B】カニクイザルFcガンマRIIa(アクセッション番号:NP_001270598)のアミノ酸配列を表す(配列番号26)。下線部は、組み換えカニクイザルFcガンマRIIa/CD32aタンパク質CF(R&D Systems)の配列を示す。
【
図20C】カニクイザルFcガンマRIIb(アクセッション番号:NP_001271060)のアミノ酸配列を表す(配列番号27)。下線部は、組み換えカニクイザルFcガンマRIIBタンパク質CF(R&D Systems)の配列を示す。
【
図20D】カニクイザルFcガンマRIII(アクセッション番号:NP_001270121)のアミノ酸配列を表す(配列番号28)。下線部は、組み換えカニクイザルFcガンマRIII/CD16タンパク質CF(R&D Systems)の配列を示す。
【
図21】ヒト胎児性Fc受容体大型サブユニットp51(アクセッション番号:P55899)のアミノ酸配列を表す(配列番号29)。
【
図22】ベータ2-ミクログロブリン(アクセッション番号:NP_004039.1)のアミノ酸配列を表す(配列番号30)。
【
図23】ヒトFcガンマRIIIa(V176F)(アクセッション番号:P08637)のアミノ酸配列を表す(配列番号31)。下線部は、組み換えヒトFcガンマRIIA/CD16a(V176F)タンパク質(R&D Systems)の配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。
【0020】
本明細書で使用する場合、「約」という用語は、所与の値からおよそ±10%変動することを指す。その変動が具体的に言及されているか否かにかかわらず、このような変動は常に、本明細書に示されている所与の値のいずれにも含まれることを理解されたい。
【0021】
「a」または「an」という語の使用は、「含む」という用語とあわせて本明細書で使用される場合、「1つ」を意味し得るが、「1つ以上」、「少なくとも1つ」及び「1つまたは1を超える」の意味とも一致する。
【0022】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」及び「含有する(containing)」という用語、ならびにこれらの文法的変形表現は、包括的、すなわちオープンエンドであり、列挙されていない追加の要素及び/または方法の工程を排除するものではない。「~から本質的になる」という用語は、本明細書において、組成物、使用または方法に関連して使用される場合、追加の要素及び/または方法の工程が存在することがあるが、これらの追加が、列挙されている組成物、方法または使用が機能する様式に実質的に影響を及ぼさないことを示す。「~からなる」という用語は、本明細書において、組成物、使用または方法に関連して使用される場合、追加の要素及び/または方法の工程の存在が除外される。本明細書に記載されている組成物、使用または方法が、特定の要素及び/または工程を含むとされている場合、特定の実施形態では、これらの要素及び/または工程から本質的になってもよく、別の実施形態では、これらの要素及び/または工程からなってもよく、これらの実施形態が具体的に言及されているか否かは問わない。
【0023】
本明細書で論述される任意の実施形態は、本明細書に開示される任意の方法、使用または組成物に関して実行され得ることが企図され、逆もまた同様である。
【0024】
本開示は、1つ以上のバリアントIgG1 Fc領域またはバリアントIgG4 Fc領域を含むポリペプチドであって、バリアントFc領域のそれぞれは、2つのCH2ドメインを含み、バリアントFc領域のうちの少なくとも1つの中のCH2ドメインの一方または両方は、バリアントCH2ドメインであり、バリアントCH2ドメインの位置234、235、及び265(位置は全てEUナンバリングによって表される)のアミノ酸残基は、それぞれAla、Ala、及びGlyである(また任意選択により位置329のアミノ酸残基はAlaである)か、それぞれAla、Ala、及びAsnである(また任意選択により位置329のアミノ酸残基はAlaである)、ポリペプチドに関する。本開示は、更に、当該ポリペプチドを含む分子;当該ポリペプチドが薬物にコンジュゲートされたポリペプチド-薬物コンジュゲート;当該ポリペプチド、分子、またはコンジュゲートを含む、医薬組成物;及びヒト対象を当該ポリペプチド、分子、コンジュゲート、または医薬組成物で治療するための方法に関する。特定の実施形態において、本開示は、バリアントIgG Fc領域を含むポリペプチド、当該ポリペプチドを含む分子、及び当該ポリペプチドが薬物にコンジュゲートされたポリペプチド-薬物コンジュゲートに関し、これらは、Fcγ受容体に対して結合活性が低下しており、熱安定性が良好であり、医薬として有用である。例えば、一実施形態において、バリアントCH2ドメインを含むポリペプチド、ポリペプチドを含む分子、及びポリペプチドが薬物にコンジュゲートされたポリペプチド-薬物コンジュゲートは、親CH2ドメイン(すなわち、バリアントCH2ドメインに含まれる位置234、235及び265(及び任意選択により、位置329)において変異を導入する前のCH2ドメイン)をそれぞれ含む親ポリペプチド、分子、及びコンジュゲートと比較して、Fcγ受容体に対する結合活性が低下している。別の実施形態において、ポリペプチド、分子、及びコンジュゲートは、親CH2ドメインを含む親ポリペプチド、分子、及びコンジュゲートとそれぞれ比較して、改善されたまたは同等の熱安定性を有する。別の実施形態において、ポリペプチド、分子、及びコンジュゲートは、親CH2ドメインを含む親ポリペプチド、分子、及びコンジュゲートとそれぞれ比較して、抗原に対する結合活性を維持しており、血中半減期の低下がない。別の実施形態において、ポリペプチド、分子、またはコンジュゲートのCH2ドメインは、親CH2ドメインを含む親ポリペプチド、分子、及びコンジュゲートのそれぞれに対して、少数のアミノ酸置換(例えば、3つまたは4つのアミノ酸置換)を有し、アミノ酸置換数の増加に伴って生じ得る免疫原性リスクが小さい。
【0025】
本明細書で使用される場合、Fc領域のアミノ酸残基のナンバリングは、特に記載のない限り、EUインデックスに従う(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,Vol.63,No.1(May 15,1969),pp.78-85)。
【0026】
本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」とは、典型的に、約10個以上のアミノ酸残基を含み、それらが互いにペプチド結合によって接続されている分子を意味する。本開示によるポリペプチドは、天然ポリペプチドまたは合成もしくは組み換えポリペプチドに由来し得る。本開示によるポリペプチドは、例えば、本明細書に記載される、抗体またはその機能性断片、融合タンパク質などであり得る。
【0027】
一実施形態において、本開示は、上述のポリペプチドを含む分子に関する。そのような分子には、二重特異性抗体、多重特異性抗体、可溶性受容体、イムノサイトカイン、抗体もしくはその機能性断片以外の抗原または標的に結合する部分(例えば、非免疫グロブリンタンパク質、受容体、リガンド、核酸アプタマー、アンチセンス核酸分子、低分子量化合物など)が含まれるが、これらに限定されない。本開示によるポリペプチドを含む分子がそれ自体ポリペプチドである場合、その分子は、本開示による「ポリペプチド」とみなされ得、そのため、本明細書において「本開示によるポリペプチド」または「本開示によるポリペプチドを含む分子」のどちらとしても称され得る。以下に記載される「融合タンパク質」もまた、いくつかの実施形態において、それ自体がポリペプチドであり得るため、本明細書において「本開示によるポリペプチド」または「本開示によるポリペプチドを含む分子」のどちらとしても称され得る。
【0028】
一実施形態において、本開示は、上記のポリペプチドが薬物にコンジュゲートされたポリペプチド-薬物コンジュゲートに関する。薬物は、例えば、治療薬または診断薬であり得る。ポリペプチド-薬物コンジュゲートに含まれるポリペプチドが腫瘍細胞を標的とする抗体である場合、必須ではないが、抗体自体が抗腫瘍作用を有することが好ましい。ポリペプチド-薬物コンジュゲートは、通常、ポリペプチドと薬物を、リンカーを介してコンジュゲートさせることによって調製され得る。当該技術分野において知られているリンカー、例えば、糖リンカー及び/またはペプチドリンカーが使用され得る。加えて、ポリペプチド-薬物コンジュゲートの使用が意図された治療の目的に応じて、様々な医薬品が薬物として使用され得る。上記のポリペプチドが薬物にコンジュゲートされたポリペプチド-薬物コンジュゲートは、「本開示によるポリペプチドを含む分子」の他の実施形態の1つとみなすことができる。
【0029】
バリアントFc領域
本開示によるポリペプチドは、バリアントIgG1 Fc領域、バリアントIgG4 Fc領域またはバリアントIgG1/IgG4領域(総称して「バリアントFc領域」)を含む。本明細書で使用される「Fc領域」は、抗体重鎖のC末端領域を指し、2つのCH2ドメイン及び2つのCH3ドメインを含む。Fc領域は、通常、2つの重鎖のC末端領域がヒンジ領域によって接続されたホモ二量体またはヘテロ二量体の形態であるが、いくつかの実施形態において、一本鎖Fc(scFc)領域であってもよい。Fc領域がIgG1抗体に由来する場合、Fc領域は、一般に、位置231のアミノ酸残基からC末端までの領域を意味するが、これに限定されない。
【0030】
本明細書で使用される場合、「ヒンジ」または「ヒンジ領域」という用語は、CH1ドメインのC末端からCH2ドメインのN末端までを含むIgG抗体の部分を指す。Fc領域がIgG1抗体またはIgG4抗体に由来する場合、ヒンジは、一般に、限定するものではないが、位置約216のアミノ酸残基から位置約230のアミノ酸残基に及ぶ。上記のとおり、Fc領域がIgG1抗体に由来する場合、Fc領域は、一般に、重鎖の位置231のアミノ酸残基からC末端までを指すが、いくつかの実施形態において、「ヒンジ」は、Fc領域に含まれ得る。
【0031】
本明細書で使用される場合、「CH2ドメイン」は、ヒンジと接続する点からCH3ドメインと接続する点に及ぶ領域を含むが、これに限定されない。Fc領域がIgG1抗体またはIgG4抗体に由来する場合、CH2ドメインは、一般に、位置約231のアミノ酸残基から位置約340のアミノ酸残基に及ぶ。ヒト野生型IgG1またはIgG4のFc領域の位置234、235、265、及び329のアミノ酸残基は、CH2ドメイン中に存在する。CH2ドメインは、通常、Fc領域でループ構造を有するが、そのような構造に限定されない。
【0032】
本明細書で使用される場合、「CH3ドメイン」は、Fc領域のCH2ドメインと接続する点から重鎖のC末端に及ぶ領域を含むが、これに限定されない。Fc領域がIgG1抗体またはIgG4抗体に由来する場合、CH3ドメインは、一般に、IgG1の位置約341のアミノ酸残基から位置約447のアミノ酸残基に及ぶが、これに限定されない。CH3ドメインは、通常、Fc領域でループ構造を有するが、そのような構造に限定されない。
【0033】
本明細書で使用される場合、「バリアントIgG1 Fc領域」または「バリアントIgG4 Fc領域」は、2つのCH2ドメインの一方または両方がバリアントCH2ドメインであるIgG1 Fc領域またはIgG4 Fc領域を指す。バリアントIgG1 Fc領域及びバリアントIgG4 Fc領域は、本明細書において「バリアントFc領域」と総称されることもある。「バリアントFc領域」という用語はまた、2つのCH2ドメインの一方または両方がバリアントCH2ドメインである混合型IgG1/IgG4 Fc領域も包含する。「バリアントCH2ドメイン」は、位置234、235、及び265(位置は全てEUナンバリングによって表される)のアミノ酸残基がそれぞれAla、Ala、及びGly;またはAla、Ala、及びAsn(すなわち、234A、235A、及び265G;または234A、235A、及び265N)であるCH2ドメインを指す。一実施形態において、バリアントCH2ドメインは、Ala、Ala、Gly、及びAlaによってそれぞれ置換された位置234、235、265、及び329のアミノ酸残基(すなわち、234A、235A、265G、及び329A)を含む。
【0034】
本開示によるポリペプチドは、IgGサブクラス:IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のいずれか1つの部分、領域、またはドメインなどの、バリアントFc領域以外の別の(1つ以上の)構成要素(複数可)を含み得る。Fc領域は、好ましくは、哺乳動物に由来する。いくつかの実施形態において、Fc領域は、ヒトまたはカニクイザル(例えば、カニクイマカク、アカゲザル、コモンマーモセット、リスザルなどを含む)に由来する。いくつかの実施形態において、Fc領域は、ヒト由来である。
【0035】
野生型ヒトIgG1のFc領域のアミノ酸配列の例は、配列番号1または2の114番目から330番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列(
図11A及び11B参照)として本明細書に提供され、野生型ヒトIgG4のFc領域のアミノ酸配列の例は、配列番号3の111番目から327番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列(
図11C参照)として本明細書に提供される。上述のアミノ酸置換によって変異を導入する前のヒトIgG1 Fc領域の位置234、235、265、及び329(位置は全てEUナンバリングによって表される)のアミノ酸残基は、それぞれLeu、Leu、Asp、及びPro(すなわち、L234、L235、D265及びP329)である。したがって、上述のアミノ酸置換は、本明細書において、L234A/L235A/D265G(LALA-DG)、L234A/L235A/D265G/P329A(LALA-DGPA)、及びL234A/L235A/D265N(LALA-DN)として表すことができ、これらのアミノ酸置換を含むポリペプチドは、本明細書において「LALA-DGバリアント」、「LALA-DGPAバリアント」及び「LALA-DNバリアント」とそれぞれ称され得る。変異を導入する前のヒトIgG4 Fc領域の位置234、235、265、及び329(位置は全てEUナンバリングによって表される)のアミノ酸残基は、位置234のアミノ酸残基がPheであることを除き、IgG1 Fc領域と同じである(すなわち、F234、L235、D265、及びP329)。したがって、「本開示によるCH2ドメイン」がIgG4抗体に由来する場合、上述のアミノ酸置換は、本明細書において、F234A/L235A/D265G(FALA-DG)、F234A/L235A/D265G/P329A(FALA-DGPA)、及びF234A/L235A/D265N(FALA-DN)として表すことができ、そのため、これらのアミノ酸置換を含むポリペプチドは、本明細書において「FALA-DGバリアント」、「FALA-DGPAバリアント」及び「FALA-DNバリアント」とそれぞれ称され得る。
【0036】
本開示による「バリアントCH2ドメイン」は、位置234、235、及び265(及び任意選択により位置329)において上述の特定のアミノ酸置換を含み、上述の特定のアミノ酸置換以外のアミノ酸修飾(複数可)(例えば、欠失、付加、置換、または挿入)を更に含み得る。同様に、バリアントFc領域は、上述の特定のアミノ酸置換以外のアミノ酸修飾(複数可)(例えば、欠失、付加、置換、または挿入)を含み得る。Fc領域が追加のアミノ酸修飾を含む場合、追加のアミノ酸修飾は、CH2ドメイン、CH3ドメイン、ヒンジ領域(含まれる場合)またはこれらの組み合わせに存在し得る。上述されるように、Fc領域は、2つのCH2ドメイン及び2つのCH3ドメインを含む。Fc領域が追加のアミノ酸修飾を含む場合、修飾は、対称的な修飾(両方のCH2ドメイン及び/または両方のCH3ドメインに同じ修飾が存在する)であってもよいし、非対称な修飾(各CH2ドメイン及び/またはCH3ドメインに異なる修飾があるか、CH2ドメインの一方及び/またはCH3ドメインの一方のみに存在する)であってもよい。
【0037】
ヒトIgG1 Fc領域のLALA-DGバリアントのアミノ酸配列の例は、配列番号4または5の114番目から330番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列(
図12A及び12B参照)として本明細書に提供され、ヒトIgG1 Fc領域のLALA-DNバリアントのアミノ酸配列の例は、配列番号6または7の114番目から330番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列(
図13A及び13B参照)として本明細書に提供され、ヒトIgG1 Fc領域のLALA-DGPAバリアントのアミノ酸配列の例は、配列番号8または9の114番目から330番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列(
図14A及び14B参照)として本明細書に提供される。ヒトIgG4 Fc領域のFALA-DGバリアントのアミノ酸配列の例は、配列番号10の111番目から327番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列(
図15A参照)として本明細書に提供され、ヒトIgG4 Fc領域のFALA-DNバリアントのアミノ酸配列の例は、配列番号11の111番目から327番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列(
図15B参照)として本明細書に提供され、ヒトIgG4 Fc領域のFALA-DGPAバリアントのアミノ酸配列の例は、配列番号12の111番目から327番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列(
図15C参照)として本明細書に提供される。これらの配列は例としてのみ提供され、本開示のバリアントCH2ドメインはこれに限定されないことを理解されたい。加えて、「LALA-DGPAバリアント」または「FALA-DGPAバリアント」の265番目のGlyがそれぞれAsnで置換された「LALA-DNPAバリアント」及び「FALA-DNPAバリアント」も本開示に包含されることを理解されたい。
【0038】
位置234、235、及び265(及び任意選択により位置329)において上述の特定のアミノ酸置換(変異)を導入する前のCH2ドメインは、本明細書において「親CH2ドメイン」と称される。親CH2ドメインは、IgG1抗体またはIgG4抗体の野生型CH2ドメインであり得るが、これらに限定されない。例えば、上述の特定のアミノ酸置換を導入する前に、CH2ドメインにアミノ酸修飾(複数可)が既に含まれている場合、「親CH2ドメイン」は、そのような先の修飾(複数可)を含むCH2ドメインを意味する。
【0039】
同様に、上述の「親CH2ドメイン」を含むFc領域は、本明細書において「親Fc領域」と称され、上述の「親CH2ドメイン」または「親Fc領域」を含むポリペプチドは、本明細書において「親ポリペプチド」と称される。親ポリペプチドは、典型的に、本開示のバリアントCH2ドメインの代わりに親CH2ドメインを含むということを除き、本開示によるポリペプチドと同一または同等であるポリペプチドを指すが、これに限定されない。
【0040】
本開示によるポリペプチドは、親CH2ドメイン(複数可)に上述の特定のアミノ酸置換が導入されたバリアントFc領域を含む。上記のとおり、1つのFc領域には2つのCH2ドメインが存在するので、バリアントFc領域のアミノ酸置換は、2つの親CH2ドメインの一方にのみ導入されてもよいし、両方の親CH2ドメインに導入されてもよい。加えて、アミノ酸置換が両方の親CH2ドメインに導入される場合、同じアミノ酸置換が導入されてもよいし、異なるアミノ酸置換が導入されてもよい。例えば、バリアントFc領域の2つのバリアントCH2ドメインの一方がアミノ酸置換L234A/L235A/D265Gを含み、他方がアミノ酸置換L234A/L235A/D265Nを含んでもよい。あるいは、バリアントFc領域の2つのバリアントCH2ドメインの一方がアミノ酸置換L234A/L235A/D265Gを含み、他方がアミノ酸置換L234A/L235A/D265G/P329Aを含んでもよい。他の組み合わせも可能であり、本開示に包含される。Fc領域の2つのCH2ドメインに同じアミノ酸置換が導入される場合、ドメイン及びFc領域は、「ホモ二量体化」によって形成される「ホモ二量体」と称され得、Fc領域の2つのCH2ドメインに異なるアミノ酸置換が導入される場合、ドメイン及びFc領域は、「ヘテロ二量体化」によって形成される「ヘテロ二量体」と称され得る。「ヘテロ二量体化」は、「ノブ・イントゥー・ホール」技術(国際公開番号WO96/027011)、「静電的ステアリング」(J Biol Chem,285:19637-46(2010))、ストランド交換操作ドメイン(SEED)技術(Prot Eng Des Sel,23(4):195-202(2010))、Fabアーム交換(Proc Natl Acad Sci USA,110(13):5145-50(2013))ならびに国際公開番号WO2012/058768及びWO2013/063702に記載されている正及び負の設計戦略を組み合わせて安定した非対称修飾のFc領域を得るアプローチなどの様々な既知の技術を使用して達成することができる。更に、本開示のポリペプチドが複数の抗体を含む場合、抗体の少なくとも1つは、少なくとも1つのバリアントCH2ドメインを含むものとする。更に、いくつかの実施形態において、バリアントFc領域の2つのCH2ドメインの一方がIgG1抗体に由来するCH2ドメインであり、他方がIgG4抗体に由来するCH2ドメインであってもよい。あるいは、いくつかの実施形態において、バリアントFc領域の両方のCH2ドメインがIgG1抗体由来であってもよいし、両方がIgG4抗体由来であってもよい。
【0041】
一実施形態において、親CH2ドメインにアミノ酸置換LALA-DG、LALA-DNまたはLALA-DGPAが導入されたバリアントCH2ドメインは、親CH2ドメイン、すなわち、位置234、235、及び265(及び任意選択により位置329)において上述の特定のアミノ酸置換を導入する前のCH2ドメインと比較して、改善された熱安定性を有する。更なる実施形態において、バリアントCH2ドメインは、親CH2ドメインと比較して、同等または改善された熱安定性を有する。別の実施形態において、位置234、235及び265(位置は全てEUナンバリングによって表される)のアミノ酸残基がそれぞれAla、Ala及びGlyであるバリアントCH2ドメイン、ならびに位置234、235、265、及び329(位置は全てEUナンバリングによって表される)のアミノ酸残基がそれぞれAla、Ala、Gly、及びAlaであるバリアントCH2ドメインは、それぞれの親CH2ドメインと比較して、同等の熱安定性を有する。別の実施形態において、位置234、235及び265(位置は全てEUナンバリングによって表される)のアミノ酸残基がそれぞれAla、Ala及びAsnであるバリアントCH2ドメインは、位置234、235及び265(位置は全てEUナンバリングによって表される)のアミノ酸残基がそれぞれLeu、Leu及びAspである親CH2ドメインと比較して、同等の熱安定性を有する。
【0042】
本明細書で使用される「熱安定性」という用語は、Fc領域のCH2ドメインの熱変性中点温度(Tm)によって決定される。熱変性中点温度(Tm)は、例えば、DSC(示差走査熱量測定)またはDSF(示差走査蛍光測定)によって測定され得る。
【0043】
一実施形態において、熱変性中点温度(Tm)は、昇温に伴う熱容量の変化を観察するDSC測定によって決定され得る。例えば、本開示によるポリペプチドの熱変性中点温度(Tm)の測定において、CH2ドメインの熱安定性の評価は、IgG抗体、すなわち、Fc領域(すなわち、ヒンジ部分、CH2ドメイン、及びCH3ドメインを含む二量体)及びFab領域を含む抗体を作製し、次いで、DSCによって抗体の熱安定性を評価することによって実施され得る(例えば、本明細書の実施例のセクションを参照)。IgG抗体のDSC分析を実施すると、一般に、CH2ドメイン、Fab領域、及びCH3ドメインの順に、昇温に伴う熱変性のピークが観察される。本開示において、熱変性中点温度(Tm)は、熱変性のピーク温度によって決定し、これを使用して熱安定性を評価した。
【0044】
DSCによってTmを測定するための具体的な手順の例は、次のとおりである。まず、本開示によるポリペプチドの溶液(一般に0.1μg/mL~100μg/mL)をヒスチジン緩衝液、クエン酸緩衝液、TBSなどで調製し、次いで、ポリペプチドの溶液をDSC機器の測定パンに入れる。その後、一定の昇温速度で温度を上げ、CH2ドメインの吸熱ピークを観察し、それに基づいてTm値を決定する。親ポリペプチドのDSC測定を同様の方法で実施して親ポリペプチドのTmを決定し、次いで、本開示のポリペプチドと親ポリペプチドのTm値の差(ΔTm)を決定することができる。当該技術分野において一般的に使用されるDSC測定機器、例えば、MicroCal VP-Capillary DSC System(Malvern Panalytical Ltd.,Malvern,UK)などを使用することができる。一実施形態において、ポリペプチドの熱安定性は、本明細書の実施例5、11または14に記載される方法を利用して決定され得る。
【0045】
本明細書で使用される場合、「改善された熱安定性」とは、バリアントCH2ドメインの熱変性中点温度(Tm)が参照CH2ドメイン(例えば、親CH2ドメイン)の熱変性中点温度(Tm)より1℃以上高いことを意味する。本明細書で使用される場合、「同等の熱安定性」とは、バリアントCH2ドメインの熱変性中点温度(Tm)が参照CH2ドメイン(例えば、親CH2ドメイン)より1℃高くもなく1℃低くもない(すなわち、(±)1℃以内)ことを意味する。一実施形態において、バリアントCH2ドメインがLALA-DGバリアントである場合、Tmは、野生型Fc領域のCH2ドメインより3℃以上または4℃以上高く、LALAバリアント(ヒトIgG1 Fc領域の位置234及び235(位置は全てEUナンバリングによって表される)のアミノ酸残基がそれぞれAla及びAlaであるバリアント)のCH2ドメインより3℃以上高い。したがって、一実施形態において、LALA-DGバリアントの熱安定性は、野生型CH2ドメインとLALA変異体のCH2ドメインのいずれに対しても改善され、LALA変異体とLALA-DGバリアントは、位置265における追加の置換が1つだけ異なっている。一実施形態において、バリアントCH2ドメインは、親CH2ドメインより約0.1℃、0.5℃、1℃またはそれより高いTmを有する。一実施形態において、バリアントCH2ドメインは、親CH2ドメインより約1.5℃、2℃、2.5℃、3℃またはそれより高いTmを有する。一実施形態において、バリアントCH2ドメインは、親CH2ドメインより約3.5℃、4℃、4.5℃、5℃またはそれより高いTmを有する。上記のとおり、位置234、235、及び265(任意選択により位置329)における特定のアミノ酸置換に加えて、他の追加のアミノ酸修飾(複数可)(欠失(複数可)、付加(複数可)、置換(複数可)など)がバリアントCH2ドメイン及び/またはCH3ドメインに導入されてもよい。本明細書で使用される場合、「約」という用語は、指定される値の±10%を指す。
【0046】
一実施形態において、本開示によるポリペプチドは、親ポリペプチドと比較して、Fcγ受容体に対する結合親和性が低下または減弱している。一実施形態において、本開示によるポリペプチドは、親ポリペプチドと比較して、Fcγ受容体に対する結合親和性が低下または減弱しており、それにより、ポリペプチドのエフェクター機能が親ポリペプチドと比較して低下している。特に指定のない限り、本明細書で使用される「結合親和性」及び「結合活性」は、同じ意味を有する。「Fcγ受容体」(Fcガンマ受容体またはFcγRとも称される)という用語は、IgG抗体のFc領域に結合することが可能な受容体を指す。FcγRは、ヒト、サル、またはラットなどの哺乳動物に由来し得る。一実施形態において、FcγRは、ヒトFcγRまたはカニクイザルFcγRである。一実施形態において、FcγRは、ヒトFcγRである。ヒト受容体ファミリーには、FcγRI(CD64)(アイソフォームFcγRIa、FcγRIb、及びFcγRIcを含む)、FcγRII(CD32)(アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131(H型)及びR131(R型)を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1及びFcγRIIb-2を含む)、及びFcγRIIc(FcγRIIcを含む)、及びFcγRIII(CD16)(アイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158及びF158を含む)、FcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1及びFcγRIIIb-NA2を含む)、及びFcγRIIIc)が含まれるが、これらに限定されない。カニクイザルFcγ受容体ファミリーには、FcγRIIc及びFcγRIIIbを除く、上記のFcγRI、FcγRII、及びFcγRIII(それらのアイソフォームを含む)が含まれるが、これらに限定されない。FcγR受容体には、受容体のアレルバリアント及び選択的にスプライシングされた形態も含まれ得る。本明細書で使用される場合、「FcγRに対する結合親和性が低下している」とは、上記のFcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIの9つのアイソフォームのうちの少なくとも1つに対する活性が低下し得ることを意味し、例えば、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、または全てのFcγRアイソフォームに対する結合親和性が低下し得る。一実施形態において、本開示によるポリペプチドは、FcγRI、FcγRIIまたはFcγRIIIのうちの1つ以上に対する結合が低下している。一実施形態において、本開示によるポリペプチドは、FcγRI、FcγRII及びFcγRIIIに対する結合が低下している。FcγRI、FcγRII及び/またはFcγRIIIは、ヒトFcγRI、FcγRII及び/またはFcγRIII、またはカニクイザルFcγRI、FcγRII及び/またはFcγRIIIであり得る。一実施形態において、本開示によるポリペプチドは、ヒトFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIaまたはFcγRIIIbのうちの1つ以上に対する結合が低下している。一実施形態において、本開示によるポリペプチドは、ヒトFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIa及びFcγRIIIbに対する結合が低下している。ヒト及びカニクイザル由来のFcγ受容体としては、本明細書の比較例及び実施例に開示される受容体を例示することができるが、これらに限定されない。
【0047】
本明細書で使用される「エフェクター機能」という用語は抗体のFc領域に起因するまたはそれによって媒介される生物学的活性を指す。エフェクター機能には、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞媒介性貪食(ADCP)、Fc受容体結合、C1q結合、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御、及びサイトカインの産生が含まれるが、これらに限定されない。一実施形態において、本開示によるポリペプチドは、位置234、235、及び265(及び任意選択により位置329)における上述の特定のアミノ酸置換によってエフェクター機能が低下し得、ここで、エフェクター機能は、CDC活性、ADCC活性、ADCP活性、Fc受容体結合、C1q結合、細胞表面受容体の下方制御、または過剰なサイトカイン産生のうちの1つ以上であり、エフェクター機能が不要な医薬用途に有用であり得る。エフェクター機能を低下させるアミノ酸修飾は、本明細書において「エフェクター低減変異(effectorless mutation)」と称され得る。エフェクター機能は、本明細書で開示されるものなどのFcγ受容体に対する結合親和性の測定と同様に、当該技術分野において知られているアッセイを使用して評価することができる。
【0048】
「Fcγ受容体に対する結合親和性」は、既知の方法によって測定することができ、例えば、リガンドとアナライトとの相互作用を測定する表面プラズモン共鳴(SPR)法によって測定することができる。この測定は、例えば、Biacore(商標)SPRシステム(Cytiva,Marlborough,MA)を使用して行うことができる。より具体的には、この方法では、各Hisタグ付きFcγRをリガンドとしてセンサーチップ上に直接固定化するか、センサーチップ上の抗Hisタグ抗体で捕捉することによって固定化し、次いで、本開示のポリペプチドをアナライトとしてセンサーチップに添加する。添加したアナライトが固定化したリガンドに結合すると、固定化したリガンド分子のみかけの質量が増加する。センサーチップ表面の溶媒の屈折率の変化に依存するSPRシグナルの位置シフトの量を測定する。このシフト量に基づいて、リガンド(FcγR)に結合したアナライト(抗体)の量を結合応答の値(レゾナンスユニット、RU)として決定する(Proc.Natl.Acad.Sci USA,103(11):4005-4010(2006)などを参照)。代替的または付加的に、Fcγ受容体に対する結合親和性は、ELISA、FACSなどによって測定することができる。一実施形態において、「Fcγ受容体に対する結合親和性」は、本明細書の実施例1~4、9~10、12または13に記載される方法を使用して決定することができる。
【0049】
本明細書で使用される場合、「Fcγ受容体に対する結合親和性が低下または減弱している」とは、Fcγ受容体に対する本開示によるポリペプチドの結合親和性が、同じアッセイで決定したとき、同じFcγ受容体に対する参照ポリペプチド(例えば、親ポリペプチド)の結合親和性よりも低いことを意味する。結合親和性の低下または減弱は、例えば、上記の表面プラズモン共鳴アッセイによって決定される少なくとも1つのFcγ受容体に対する本開示によるポリペプチドのRU値が、同じアッセイによって決定される同じFcγ受容体に対する参照ポリペプチド(例えば、親ポリペプチド)のRU値と比較して低下しているかどうかを測定することによって、決定され得る。一実施形態において、エフェクター機能を効果的に低下させるために、親CH2ドメインを含む親ポリペプチドのFcγ受容体に対する結合親和性を100%とみなした場合、同じFcγ受容体に対する本開示によるポリペプチドの結合親和性は、80%未満、70%未満または60%未満に低下する。一実施形態において、親CH2ドメインを含む親ポリペプチドのFcγ受容体に対する結合親和性を100%とみなした場合、同じFcγ受容体に対する本開示によるポリペプチドの結合親和性は、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満または10%未満に低下する。一実施形態において、親CH2ドメインを含む親ポリペプチドのFcγ受容体に対する結合親和性を100%とみなした場合、同じFcγ受容体に対する本開示によるポリペプチドの結合親和性は、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満または0.1%未満に低下する。
【0050】
当該技術分野で知られているように、抗体の様々な領域(Fc領域を含む)のアミノ酸置換により、抗体の抗原結合活性が低下し得る。一実施形態において、本開示によるポリペプチドは、親ポリペプチドと比較して「抗原結合活性」の有意な低下を示さない。ポリペプチドの抗原結合活性は、既知の方法、例えば、SPR法によって測定することができる(例えば、本明細書の実施例6に記載の方法を参照)。
【0051】
また、当該技術分野で知られているように、抗体の様々な領域(Fc領域を含む)のアミノ酸置換により、抗体の血中半減期が低下し得る。一実施形態において、本開示によるポリペプチドは、親ポリペプチドと比較して「血中半減期」の有意な低下を示さない。ポリペプチドの血中半減期は、既知の方法によって、例えば、本明細書の実施例8に記載される方法を使用して決定することができる。抗体またはその機能性断片の血中半減期は、化学修飾によって、例えば、ポリマーへの共有結合によって、延ばすことができる。
【0052】
また、当該技術分野で知られているように、胎児性Fc受容体FcRnに対する抗体の結合活性は、抗体の様々な領域(Fc領域を含む)のアミノ酸置換によって低下し得る。一実施形態において、上述の血中半減期に関して、本開示のポリペプチドは、親ポリペプチドと比較して「胎児性Fc受容体(FcRn)に対する結合活性」の有意な低下を示さない。当該技術分野で知られているように、抗体は、投与されると、飲作用により、一定の速度で血管内皮細胞などに非特異的に取り込まれる。抗体は、低pH(約pH6.0)のエンドソーム内でFcRnに結合し、FcRnを介して細胞外に輸送されるため、リソソーム移行及び抗体の分解を回避することができる。したがって、FcRnへの抗体の結合は、抗体の血中半減期を長くすることに寄与する。FcRnに対するポリペプチドの結合活性は、既知の方法、例えば、バイオレイヤー干渉法によって測定することができる(例えば、本明細書の実施例7に記載の方法を参照)。
【0053】
抗体及びその機能性断片
一実施形態において、本開示によるポリペプチドは、抗体またはその断片(例えば、機能性断片)であり得る。「抗体」は、抗原に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含み、一般に、重鎖可変領域、重鎖定常領域、軽鎖可変領域、及び軽鎖定常領域を含む、分子(免疫グロブリン)である。「抗体」は、ポリクローナル抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、その機能性断片、またはその修飾体のいずれか1つであり得る。抗体は、ヒト、カニクイザル、ラット、マウス、ラクダ、ラマ、サメ、ウサギなどを含む、様々な種に由来し得る。一実施形態において、抗体は、ヒトまたはカニクイザルに由来する。一実施形態において、抗体は、ヒト由来である。一実施形態において、抗体が非ヒト種に由来する場合、抗体は、よく知られている技術を使用してキメラ化またはヒト化される。一実施形態において、抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であり得る。一実施形態において、抗体は、モノクローナル抗体である。
【0054】
一実施形態において、本開示によるポリペプチドは、「抗体の機能性断片」であり得、この断片は、上述の特定のアミノ酸置換を含むバリアントFc領域を含む。「抗体の抗原結合断片」とも称される「抗体の機能性断片」は、抗原結合活性を有する抗体の部分断片を意味し、線状抗体断片(例えば、米国特許第5,641,870号参照)及び多重特異性抗体断片を含むが、これらに限定されない。抗原結合断片は、全長抗体分子を適切な酵素で処理することによって生成される断片、及び遺伝子操作された抗体遺伝子を使用して適切な宿主細胞で産生されるタンパク質(すなわち、組み換えタンパク質)を含む。機能性断片はまた、例えば、IgG重鎖のFc領域によく保存されているN結合型糖鎖による修飾を受けるアスパラギン(Asn297)及び隣接するアミノ酸を含む、抗原結合断片も含む。
【0055】
一実施形態において、ポリペプチドは、「二重特異性抗体」または「多重特異性抗体」であり得る。多重特異性抗体は、複数の抗原結合ドメインを含む抗体であり得、各抗原結合ドメインは、異なる抗原に結合する。二重特異性抗体は、2つの抗原結合ドメインを含む抗体であり、各抗原結合ドメインは、異なる抗原に結合する。これらのいずれの場合も、アミノ酸置換は、抗体Fc領域の2つのCH2ドメインの一方または両方に含まれ得、両方に含まれる場合は、同じアミノ酸置換が含まれてもよいし、異なるアミノ酸置換が含まれてもよい。あるいは、多重特異性抗体は、それぞれ異なる抗原結合ドメインを有する複数の抗体が互いに結合している人工タンパク質であり得、二重特異性抗体は、異なる抗原結合ドメインを有する2つの抗体が互いに結合している人工タンパク質であり得る。これらの場合において、アミノ酸置換は、複数の抗体のうちの少なくとも1つの抗体のFc領域の2つのCH2ドメインの一方または両方に含まれ得、両方に含まれる場合は、同じアミノ酸置換が含まれてもよいし、異なるアミノ酸置換が含まれてもよい。2つのCH2ドメインに異なるアミノ酸置換を導入することは、2つの異なる重鎖(ヘテロ二量体)から抗体分子を作製することができる技術、例えば、「ノブ・イントゥー・ホール」技術(国際公開番号WO1998/050431)、「静電的ステアリング」(J Biol Chem,285:19637-46(2010))、ストランド交換操作ドメイン(SEED)技術(Prot Eng Des Sel,23(4):195-202(2010))、または国際公開番号WO2012/058768及びWO2013/063702に記載されている技術を使用することによって、実施することができる。二重特異性抗体または多重特異性抗体は、全長抗体またはその断片として作製することもできる(例えば、国際公開番号WO96/16673、及び米国特許第5,837,234号参照)。二重特異性抗体または多重特異性抗体を作製する方法は、当該技術分野においてよく知られており、例えば、2つの鎖が異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖軽鎖ペアを共発現させる方法(例えば、Millstein et al.,Nature,305:537-539(1983)参照);抗体断片から二重特異性抗体を作製する技術(Brennan et al.,Science,229:81(1985)参照)、及び当該技術分野において知られている他の方法がある。
【0056】
一実施形態において、抗体は、「キメラ抗体」であり得る。「キメラ抗体」とは、ある抗体に由来する1つ以上の領域と、1つ以上の他の抗体に由来する1つ以上の領域とを含む抗体を意味する。例えば、Fc配列は、ヒト抗体に由来し得、可変領域配列は、カニクイザルなどの非ヒト種抗体に由来し得る。
【0057】
一実施形態において、抗体は、「ヒト抗体」であり得る。「ヒト抗体」は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する1つ以上の可変領域及び定常領域を有する全ての抗体を含む。一実施形態において、抗体の全ての可変ドメイン及び定常ドメインは、ヒト免疫グロブリン配列に由来する(「完全ヒト抗体」と称される)。これらの抗体は、ヒト重鎖及び/または軽鎖をコードする遺伝子から生じる抗体を発現するように遺伝子改変された非ヒト動物の免疫付与などの様々な方法で調製することができる。
【0058】
一実施形態において、抗体は、「ヒト化抗体」であり得る。「ヒト化抗体」は、非ヒト種で産生される抗体の抗原結合部位(1つ以上のCDRなど)をヒト抗体の配列に挿入することによって作製される抗体である。ヒト化抗体には、超可変領域の残基が、所望の特異性、親和性などを有する非ヒト動物の超可変領域に由来する残基によって置き換えられているヒト免疫グロブリン、またはヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基が、対応する非ヒト残基によって置き換えられているヒト免疫グロブリンが含まれる。ヒト化抗体は、ヒト対象に投与されたとき、非ヒト種由来の抗体と比較して免疫応答を惹起する可能性が低く、及び/または重度の免疫応答を誘導する可能性が低い。
【0059】
一実施形態において、抗体は、「一本鎖抗体」であり得る。「一本鎖抗体」は、本来二本鎖である重鎖を、一本鎖を形成するようにリンカーによって接続した抗体を指す(例えば、Biomaterials,117:24-31(2017)参照)。したがって、一本鎖抗体もまた、2つのCHドメインを含み、上記の特定のアミノ酸置換は、CH2ドメインの一方または両方に導入され得る。
【0060】
一般に、抗体は、当該技術分野で一般に実施されている方法を使用して、抗原として機能するポリペプチドで動物を免疫し、in vivoで産生される抗体を回収及び精製することによって、得ることができる。抗原の起源はヒトに限定されず、カニクイザル、マウス、ラットなどの非ヒト動物に由来する抗原を使用して動物を免疫し、抗体を産生することもできる。抗原は、様々な抗原、例えば、サイトカイン、可溶性もしくは不溶性因子、病原体上に発現する分子、細胞上に発現する分子、またはがん細胞上に発現する分子のうちの1つであり得る。いくつかの実施形態において、抗原は、がん抗原である。モノクローナル抗体は、例えば、既知の方法を使用して、ミエローマ細胞を抗体産生細胞と融合させてハイブリドーマを樹立することによって得ることができる(例えば、Kohler and Milstein,Nature,256:495-497(1975)、Kennett,R.ed.,Monoclonal Antibodies,p.365-367,Plenum Press,N.Y.(1980)参照)。他の方法も当該技術分野において知られている。ヒト疾患に適用可能な抗体は、得られた異種抗原に結合する抗体とヒト抗原との交差反応を試験することによって選択することもできる。
【0061】
培養した哺乳動物細胞で産生される抗体では、重鎖のカルボキシル末端のリジン残基が欠失し(Journal of Chromatography A,705:129-134(1995))、また重鎖カルボキシル末端のグリシン及びリジンの2つのアミノ酸残基も欠失し、カルボキシル末端に位置するプロリン残基が新たにアミド化されることが知られている(Analytical Biochemistry,360:75-83(2007))。しかしながら、これらの重鎖配列の欠失または修飾は、抗体の抗原への結合または抗体のエフェクター機能(補体活性化及び抗体依存性細胞傷害など)の能力に影響しない。したがって、本開示による抗体には、そのような欠失または修飾を受けた抗体及びそのような抗体の機能性断片も含まれ、重鎖カルボキシル末端の1つまたは2つのアミノ酸が欠失した欠失を有する抗体、及び欠失を有するアミド化抗体(例えば、カルボキシル末端部位のプロリン残基がアミド化された重鎖及びカルボキシル末端のリジン残基が欠けている重鎖)なども含まれる。しかしながら、抗原結合能力及びエフェクター機能の低下が維持される限り、抗体の重鎖のカルボキシル末端の欠失は、上の例に限定されない。抗体を構成する2つの重鎖は、全長抗体、上記の欠失を有する抗体、または両方の組み合わせの重鎖のいずれか1つに由来するものであり得る。それぞれの欠失の比率は、抗体を産生する培養された哺乳動物細胞の種類及び培養条件によって影響を受け得るが、一実施形態において、抗体は、2つの重鎖の両方でカルボキシル末端の1つのアミノ酸残基が欠失したものである。
【0062】
一実施形態において、本開示によるポリペプチドが抗体である場合、抗体は、腫瘍細胞または免疫細胞を標的とする抗体である。一実施形態において、抗体は、腫瘍細胞を標的とする抗体である。一実施形態において、ポリペプチドは、腫瘍抗原に結合する抗体またはその機能性断片である。一実施形態において、ポリペプチドが腫瘍細胞を標的とする抗体である場合、抗体は、次の特徴のうちの1つ以上を有する:腫瘍細胞を認識可能であること、腫瘍細胞に結合可能であること、腫瘍細胞に取り込まれて内在化することが可能であること、及び/または腫瘍細胞に損傷を与えること。
【0063】
一実施形態において、本開示によるポリペプチドが腫瘍細胞を標的とする抗体である場合、抗体は、例えば、抗HER2抗体、抗HER3抗体、抗DLL3抗体、抗FAP抗体、抗CDH11抗体、抗CDH6抗体、抗A33抗体、抗CanAg抗体、抗CD19抗体、抗CD20抗体、抗CD22抗体、抗CD30抗体、抗CD33抗体、抗CD56抗体、抗CD70抗体、抗CD98抗体、抗LPS抗体、抗TROP2抗体、抗CEA抗体、抗Cripto抗体、抗EphA2抗体、抗G250抗体、抗MUC1抗体、抗GPNMB抗体、抗インテグリン抗体、抗PSMA抗体、抗テネイシン-C抗体、抗SLC44A4抗体、抗メソテリン抗体、抗ENPP3抗体、抗CD47抗体、抗EGFR抗体または抗DR5抗体であり得る。一実施形態において、本開示によるポリペプチドが腫瘍細胞を標的とする抗体である場合、抗体は、抗CD70抗体、抗LPS抗体または抗EGFR抗体であり得る。そのような抗体は、既知の方法によって調製されている(例えば、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851-6855(1984);Nature 3211:522-525(1986)、及び国際公開番号WO90/07861参照)。抗CD70抗体(国際公開番号WO2004/073656及びWO2007/038637)、抗LPS抗体(国際公開番号WO2015/046505及びWO2019/065964)、及び抗EGFR抗体(国際公開番号WO1998/050433及びWO2002/092771)についても参照されたい。
【0064】
一実施形態において、本開示によるポリペプチドが腫瘍細胞を標的とする抗体である場合、抗体は、パニツムマブ、アレムツズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、ベリムマブ、ブリナツモマブ、グレンバツムマブ、イブリツモマブ、イピリムマブ、ニボルマブ、ブレンツキシマブ、カナキヌマブ、セツキシマブ、ダラツムマブ、デノスマブ、ピジリズマブ、モガムリズマブ、ラムシルマブ、リツキシマブ、シルツキシマブ、ジヌツキシマブ、デュルバルマブ、エロツズマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブ、オララツマブ、ペンブロリズマブ、ペルツズマブ、タボリキシズマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ、トレメリムマブ、バルリルマブ、ボルセツズマブ、またはO11-1111であり得る。一実施形態において、本開示によるポリペプチドが腫瘍細胞を標的とする抗体である場合、抗体は、パニツムマブ、ボルセツズマブ、またはO11-1111であり得る。
【0065】
一実施形態において、本開示によるポリペプチドは、腫瘍細胞を標的とする抗体であり得、更に、例えば、炎症性疾患、免疫疾患、感染症などの治療、または再生医療などに使用され得る。
【0066】
加えて、いくつかの実施形態において、本開示によるポリペプチドは、例えば、一価抗体、鎖交換操作ドメイン(SEED)、トリオマブ、二重可変ドメイン免疫グロブリン(DVD-Ig)、ミニ抗体、二重親和性再標的化分子(Fc-DARTまたはIg-DART)、LUZ-Y抗体、Biclonic抗体、二重標的化(DT)Ig抗体、ツーインワン抗体、架橋型Mab、mAb2、CovX-body、Ts2Ab、BsAb、HERCULES抗体、TvAb、またはSCORPIONであり得る。
【0067】
融合タンパク質
本開示の特定の実施形態は、別のタンパク質またはポリペプチド(「異種」タンパク質またはポリペプチド)に融合された、バリアントFc領域またはバリアントFc領域を含むポリペプチドもしくは抗体部分を含む、「融合タンパク質」に関する。様々な異種タンパク質またはポリペプチドを、組み換え技術を使用してバリアントFc領域、ポリペプチドまたは抗体部分に融合させて、融合タンパク質を作製することができる。例としては、受容体またはその標的結合領域、接着分子、リガンド、酵素、サイトカイン、免疫サイトカイン、非免疫グロブリンタンパク質、ケモカイン、様々なタンパク質ドメインなどが挙げられるが、これらに限定されない。また、他の目的のタンパク質には、融合タンパク質を治療標的に誘導する治療剤が含まれ、そのような標的は、標的に結合する受容体タンパク質などの疾患に関連する分子であり得る。標的に結合する受容体タンパク質を含む融合タンパク質の例としては、VEGFR-Fc融合体、TNFR-Fc融合体、CTLA4-Fc融合体などが挙げられるが、これらに限定されない。融合タンパク質はまた、scFvを含み得、scFvのアミノ末端またはカルボキシ末端のいずれかにFc領域を融合させることによって構築することができる(例えば、Antibody Engineering,ed.Borrebaeck,1995,Oxford University Press参照)。「融合タンパク質」は、上述の「本開示によるポリペプチドを含む分子」の一実施形態であることが理解される。
【0068】
ポリペプチド-薬物コンジュゲート
本開示の特定の実施形態は、本開示によるポリペプチドが1つ以上の薬物または修飾剤にコンジュゲートされたポリペプチド-薬物コンジュゲートに関する。一実施形態において、本開示によるポリペプチド-薬物コンジュゲートは、修飾された抗体を包含する。例えば、抗体は、化学療法剤、細胞傷害性薬剤、または様々な非タンパク質性ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、またはポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのコポリマーにコンジュゲートされ得る。ポリペプチドが薬物とポリマー(修飾剤)の両方にコンジュゲートされたポリペプチド-薬物コンジュゲートもまた、特定の実施形態に包含される。
【0069】
ポリペプチド-薬物コンジュゲートは、ポリペプチドを薬物または修飾剤にリンカーを介してコンジュゲートさせることによって調製され得る。リンカーは、典型的に、抗体上の1つまたは複数の標的基と反応することが可能な官能基と、薬物または修飾剤上の標的基と反応することが可能な1つ以上の官能基とを含む。好適な官能基及びリンカーは、当該技術分野において知られており、例えば、Bioconjugate Techniques(G.T.Hermanson,2013,Academic Press)及びAntibody-Drug Conjugates:Methods in Molecular Biology(Ducry(Ed.),2013,Springer)に記載のものが含まれる。
【0070】
医薬組成物
特定の実施形態において、ポリペプチド、当該ポリペプチドを含む分子、またはポリペプチド-薬物コンジュゲートは、薬学的に許容される担体を含む医薬組成物で提供され得る。薬学的に許容される担体には、賦形剤、不活性希釈剤、造粒剤、崩壊剤、結合剤、湿潤剤、着色剤、保存剤、水性ビヒクル及び溶媒、油性ビヒクル及び溶媒、界面活性剤、分散剤、甘味料、香料、乳化剤、滑沢剤、緩衝剤、増粘剤、充填剤、抗酸化剤、安定剤などが含まれる。好適な薬学的に許容される担体は、当該技術分野において知られており、例えば、“Remington:The Science and Practice of Pharmacy”(旧“Remington’s Pharmaceutical Sciences” by E.W.Martin),Lippincott,Williams & Wilkins,Philadelphia,PA(2000)に記載されている。
【0071】
一実施形態において、上記の医薬組成物はまた、1つ以上の他の「治療剤」を含んでもよいし、1つ以上の他の「治療剤」と組み合わせて使用または投与されてもよい。例えば、がん治療の目的に使用される場合、がん治療のための他の治療剤の例としては、アブラキサン、カルボプラチン、シスプラチン、ゲムシタビン、イリノテカン(CPT-11)、パクリタキセル、ペメトレキセド、ソラフェニブ、ビンブラスチンまたは国際公開番号WO2003/038043に記載の薬物、及びLH-RH類似体(リュープロレリン、ゴセレリンなど)、エストラムスチンリン酸エステル、エストロゲンアンタゴニスト(タモキシフェン、ラロキシフェンなど)、アロマターゼ阻害剤(アナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタンなど)、免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブ、イピリムマブなど)などが挙げられるが、これらに限定されない。医薬組成物の投与経路には、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、または皮下経路を介した投与が含まれるが、これらに限定されない。他の治療剤と組み合わせる場合、医薬組成物及び1つ以上の他の治療剤は、単一の組成物としてまたは別々のいずれかで、同時にまたは異なる時点で使用または投与することができる。
【0072】
使用方法
特定の実施形態において、ポリペプチド、それを含む分子、またはポリペプチド-薬物コンジュゲートは、ヒトの治療のための方法に使用することができる。例えば、一実施形態において、ポリペプチド、それを含む分子、またはポリペプチド-薬物コンジュゲートは、がんもしくは腫瘍、免疫疾患、炎症性疾患または感染症の治療に使用することができる。一実施形態において、ポリペプチド、それを含む分子、またはポリペプチド-薬物コンジュゲートは、ヒトにおける診断方法に使用することができる。一実施形態において、ポリペプチド、それを含む分子、またはポリペプチド-薬物コンジュゲートは、ヒトにおける腫瘍またはがんの治療のために使用することができる。腫瘍疾患及びがんには、肺癌、腎癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、多形膠芽腫、卵巣癌、膵癌、乳癌、黒色腫、肝臓癌、膀胱癌、胃癌、食道癌、子宮体癌、精巣癌、子宮頸癌、胎盤絨毛癌、多形膠芽腫、脳腫瘍、頭頸部癌、甲状腺癌、中皮腫、消化管間質腫瘍(GIST)、胆嚢癌、胆管癌、副腎癌、扁平上皮癌、白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫または肉腫などが含まれるが、これらに限定されない。
【0073】
追加のアミノ酸修飾
上記の特定のアミノ酸置換(複数可)(例えば、LALA-DG、LALA-DGPA、及びLALA-DN変異)に加えて、ポリペプチドは、Fc領域に追加のアミノ酸修飾(複数可)を含み得る。したがって、本開示によるポリペプチドの「バリアントFc領域」もまた同様に、上記の特定のアミノ酸置換(例えば、LALA-DG、LALA-DGPA、及びLALA-DN)に加えて、Fc領域に追加のアミノ酸修飾(複数可)を含み得る。追加のアミノ酸修飾は、ポリペプチドのFc領域だけでなく、ポリペプチドの1つ以上の他の領域に対して行われてもよい。
【0074】
「アミノ酸修飾」は、アミノ酸の置換、欠失、付加、挿入、修飾などを指し、当該技術分野において知られている様々な方法によって行うことができる。例えば、限定するものではないが、アミノ酸置換、付加、欠失、及び挿入は、よく知られている任意のPCRベースの技術を使用して行うことができ、アミノ酸置換は、部位特異的変異導入によって行うことができる(例えば、Zoller and Smith,Nucl.Acids Res 10:6487-6500(1982);Kunkel,Proc.Natl.Acad.Sci USA,82:488(1985)参照)。アミノ酸の「修飾」の例としては、糖鎖の付加または欠失が挙げられる。
【0075】
一実施形態において、アミノ酸置換(複数可)は、「保存的アミノ酸置換(複数可)」であり得る。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が、類似の化学的性質(例えば、電荷または疎水性)を有する側鎖基を有する別のアミノ酸残基によって置換されていることを意味し、一般に、タンパク質の機能的性質を実質的に変化させないものである。保存的アミノ酸置換の例は、当該技術分野においてよく知られており、例えば、次のうちの1つ以上:酸性残基:Asp、Glu;塩基性残基:Lys、Arg、His;親水性無電荷残基:Ser、Thr、Asn、Gln;脂肪族無電荷残基:Gly、Ala、Val、Leu、Ile;非極性無電荷残基:Cys、Met、Pro、及び芳香族残基:Phe、Tyr、Trpで表されるアミノ酸のクラス内で置換を行うことによってなされ得る。
【0076】
追加のアミノ酸修飾(複数可)は、少なくとも1つのアミノ酸修飾、例えば、約20個以下、約10個以下、または約1~約5個のアミノ酸修飾であり得る。追加のアミノ酸修飾(複数可)が野生型配列(例えば、野生型Fc領域の配列)に対して行われる場合、バリアント配列の配列(例えば、バリアントFc領域)は、対応する野生型配列に対して、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%の相同性を有することが好ましい。一実施形態において、バリアント配列の配列(例えば、バリアントFc領域)は、対応する野生型配列に対して、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%の同一性を有する。ポリペプチドの配列類似性または同一性は、既知の配列解析ソフトウエア(例えば、Wisconsin Genetics Software Package(Genetics Computer Group,Madison,WI)のGAP、BESTFIT、FASTAまたはTFASTA)を使用して測定することができる。
【0077】
追加のアミノ酸修飾の例としては、G236A、G236P、G236L、G236K、G236R、G236T、G236H、G236N、G237R、P238I、S239M、S239K、S239R、S239T、S239H、S239H、S239Q、V266I、V266L、S267P、S267K、H268A、H268V、H268F、H268P、H268M、H268I、H268L、H268K、H268R、H268T、H268Y、H268Q、H268W、E269A、E269V、E269D、E269K、E269R、E269S、E269T及びE269H(位置は全てEUナンバリングによって表される)などのアミノ酸置換が挙げられ、これらは、国際公開番号WO2013/118858に記載されているように、抗体FcのTmを親ポリペプチドよりも増加させることが示されている。
【0078】
一実施形態において、Fcγ受容体結合活性を更に低下させるアミノ酸置換が使用され得る。Fcγ受容体に対する結合活性を低下させる追加のアミノ酸置換の例としては、国際公開番号WO2011/120134に示されるように、例えば、G237F/S239E/A327H、G237/A327/A330I、S239E/S267E/H268D(位置は全てEUナンバリングによって表される)などのアミノ酸置換が挙げられる。
【0079】
一実施形態において、追加のアミノ酸修飾には、タンパク質分解に対する感受性を低下させる置換、酸化に対する感受性を低下させる置換、結合親和性を変化させてタンパク質複合体を形成するための置換、そのような類似体の他の物理化学的または機能的特性を付与または変更する置換、脱アミド反応を抑制する修飾などが含まれる。
【0080】
調製方法
本開示のポリペプチドは、当該技術分野において知られている組み換えタンパク質法によって調製され得る。以下の方法に限定されるものではないが、本開示によるポリペプチドは、次のステップを含む方法によって得ることができる:まず、上記のバリアントFc領域を含むポリペプチドをコードするDNAを設計すること、次いで、DNAを化学合成し、DNAをベクターなどに挿入すること、続いて、DNA/ベクターを宿主細胞に導入すること、ポリペプチドの発現に好適な条件下で宿主細胞を培地中で培養すること、及び培地または細胞からポリペプチドを回収すること。バリアントFc領域を含むポリペプチドをコードするDNAを含むベクターは、例えば、野生型Fc領域を含むポリペプチドに適切な変異を、例えば、KOD-Plus-Mutagenesisキット(Toyobo Co.,Ltd.,Osaka,Japan)を製造者の説明書に従って使用して導入することによって、調製することができる。ポリペプチドが上記以外の他の目的のアミノ酸修飾(例えば、付加、欠失、置換など)を含む場合、上記のバリアントFc領域の特定のアミノ酸置換及び他の目的のアミノ酸修飾(複数可)を含むポリペプチドをコードするDNA配列を設計し、上記と同じ方法でポリペプチドを得ることができる。加えて、本開示のポリペプチドは、組み換え法に加えて、ペプチド合成、化学合成、in vitro翻訳などによって調製することもできる。
【0081】
したがって、一実施形態において、本開示は、上記のバリアントFc領域またはその一部、例えば、重鎖または軽鎖を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸に関する。一実施形態において、本開示は、当該核酸を含むベクターに関する。一実施形態において、本開示は、上に記載されるバリアントFc領域を含むポリペプチドをコードする核酸を含む宿主細胞に関する。一実施形態において、本開示は、本明細書に記載されるポリペプチドを産生するための方法であって、例えば、当該バリアントFc領域またはそれを含むポリペプチドをコードする核酸を含む宿主細胞を、バリアントFc領域またはバリアントFc領域を含むポリペプチドの発現に好適な条件下で培地中で培養するステップと、培地または細胞からバリアントFc領域またはポリペプチドを回収するステップとを含む、方法に関する。
【0082】
実施形態
本開示の例示的な非限定的実施形態には、以下が含まれる。
【0083】
[1]1つ以上のバリアントIgG1 Fc領域またはバリアントIgG4 Fc領域を含むポリペプチドであって、前記バリアントFc領域のそれぞれは、2つのCH2ドメインを含み、前記バリアントFc領域のうちの少なくとも1つの中の前記CH2ドメインの一方または両方は、バリアントCH2ドメイン(複数可)であり、前記バリアントCH2ドメインの位置234、235、及び265(位置は全てEUナンバリングによって表される)のアミノ酸残基は、それぞれAla、Ala、及びGlyである、前記ポリペプチド。
【0084】
[2]前記バリアントCH2ドメインの位置329のアミノ酸残基がAlaである、[1]に記載のポリペプチド。
【0085】
[3]1つ以上のバリアントIgG1 Fc領域またはバリアントIgG4 Fc領域を含むポリペプチドであって、前記バリアントFc領域のそれぞれは、2つのCH2ドメインを含み、前記バリアントFc領域のうちの少なくとも1つの中の前記CH2ドメインの一方または両方は、バリアントCH2ドメイン(複数可)であり、前記バリアントCH2ドメインの位置234、235、及び265(位置は全てEUナンバリングによって表される)のアミノ酸残基は、それぞれAla、Ala、及びAsnである、前記ポリペプチド。
【0086】
[4]前記バリアントCH2ドメインの熱変性中点温度(Tm)が、変異を導入する前の親CH2のTmより1℃以上高い、[1]または[2]に記載のポリペプチド。
【0087】
[5]前記バリアントCH2ドメインの熱変性中点温度(Tm)が、前記親CH2のTmより3℃以上高い、[4]に記載のポリペプチド。
【0088】
[6]前記バリアントCH2ドメインの熱変性中点温度(Tm)が、変異を導入する前の親CH2のTmより1℃高くなく、変異を導入する前の前記親CH2のTmより1℃低くない、[3]に記載のポリペプチド。
【0089】
[7]変異を導入する前の親CH2ドメインを含む親ポリペプチドと比較して、少なくとも1つのFcγ受容体に対する結合親和性が低下している、[1]~[6]のいずれか1つに記載のポリペプチド。
【0090】
[8]前記親ポリペプチドと比較して、少なくとも1つのFcγ受容体に対する結合親和性が50%以上低下している、[7]に記載のポリペプチド。
【0091】
[9]前記少なくとも1つのFcγ受容体が、ヒトFcγ受容体及びカニクイザルFcγ受容体から選択される少なくとも1つである、[7]または[8]に記載のポリペプチド。
【0092】
[10]前記Fcγ受容体が、ヒトFcγ受容体である、[9]に記載のポリペプチド。
【0093】
[11]前記Fcγ受容体が、FcγRIである、[7]~[10]のいずれか1つに記載のポリペプチド。
【0094】
[12]1つ以上のバリアントIgG1 Fc領域を含む、[1]~[11]のいずれか1つに記載のポリペプチド。
【0095】
[13]抗体またはその機能性断片である、[1]~[12]のいずれか1つに記載のポリペプチド。
【0096】
[14]前記抗体またはその機能性断片が、腫瘍抗原に結合する、[13]に記載のポリペプチド。
【0097】
[15][1]~[14]のいずれか1つに記載のポリペプチドを含む、分子。
【0098】
[16]前記分子が、[1]~[14]のいずれか1つに記載のポリペプチドと、前記ポリペプチドではないポリペプチドとの融合タンパク質である、[15]に記載のポリペプチド。
【0099】
[17][1]~[14]のいずれか1つに記載のポリペプチドが、薬物にコンジュゲートされている、ポリペプチド-薬物コンジュゲート。
【0100】
[18][1]~[14]のいずれか1つに記載のポリペプチドまたはその一部をコードするヌクレオチド配列を含む、核酸。
【0101】
[19][18]に記載の核酸を含む、宿主細胞。
【0102】
[20][1]~[14]のいずれか1つに記載のポリペプチド、[15]もしくは[16]に記載の分子、または[17]に記載のポリペプチド-薬物コンジュゲートと、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【0103】
[21]治療における使用のための、[1]~[14]のいずれか1つに記載のポリペプチド、[15]もしくは[16]に記載の分子、または[17]に記載のポリペプチド-薬物コンジュゲート。
【0104】
[22]前記治療が、がん、免疫疾患、炎症性疾患または感染症の治療を含む、[21]に記載の使用のための、ポリペプチド、分子、またはポリペプチド-薬物コンジュゲート。
【実施例】
【0105】
以下の実施例は、例示のために提供され、本発明の範囲をいかなる形でも限定する意図はない。
【0106】
比較例1:既知のエフェクター低減変異(effectorless mutation)を含む抗EGFR抗体のヒトFcγRIに対する結合活性の評価。
既知のエフェクター低減変異(effectorless mutation)を導入した抗EGFR抗体のヒトFcγRI(hFcγRI)に対する結合活性を、Biacore(商標)T200(Cytiva,Marlborough,MA)を使用して評価した。本来ヒトIgG2抗体である抗EGFR抗体パニツムマブのFc領域をヒトIgG1のFc領域に置き換え、得られた抗体をIgG1 WTと呼ぶ。IgG1 WTの重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号13及び14によって表される(
図16A及び16B参照)。IgG1 WT及び次のバリアント:IgG1 WTのFc領域にL234A/L235A(LALA)変異を導入することによって得られたバリアント;IgG1 WTのFc領域にL234A/L235A/D265A(LALA-DA)変異を導入することによって得られたバリアント;及びIgG1 WTのFc領域にL234A/L235A/P329G(国際公開番号WO2012/130831に記載のLALA-PG)変異を導入することによって得られたバリアントを評価した。記載の変異をFc領域の両方のCH2ドメインに導入した。これらの抗EGFR抗体(「抗EGFR抗体のバリアント」とも称される)は、抗体のアミノ酸配列をコードするDNAを含むベクターを宿主細胞に導入し、宿主細胞を培地中で培養することにより、宿主細胞に当該細胞中でDNAを発現させることによって得た。配列番号19の位置16のGln残基から位置288のPro残基まで(
図19A参照)を含み、カルボキシル末端に6×Hisタグを加えた、組み換えヒトFcガンマRI/CD64タンパク質CF(R&D Systems,Minneapolis,MN、アクセッション番号:P12314)からなるHisタグ付きヒトFcγRIをリガンドとして使用した。抗His抗体を固定化したセンサーチップ上にFcγRIリガンドを捕捉させた。次いで、様々な抗EGFR抗体をアナライトとしてセンサーチップに加え、リガンドとアナライトとの間の相互作用を表面プラズモン共鳴(SPR)法によって測定した。
【0107】
簡潔に述べると、抗6X Hisタグ抗体[AD1.1.10](Abcam plc,Cambridge,UK)を製造者の説明書に従ってセンサーチップCM5(Cytiva,Marlborough,MA)上に固定化し、次いで、HBS-EP+(GE Healthcare,Chicago,IL)で10μg/mLに調製した組み換えヒトFcガンマRI/CD64タンパク質(R&D Systems)をセンサーチップと10μL/分で60秒間接触させることによって捕捉した。次いで、HBS-EP+で所与の各濃度に調製した抗EGFR抗体を、センサーチップに30μL/分の流量で120秒間加えた。
図2Aは、各試験抗体濃度(0.3、0.4、0.6、0.9、1.3、2.0、3.1、及び4.7μM)に対してプロットした結合応答(レゾナンスユニット、RU)のグラフを示す。以下の表1は、抗体濃度4.7μMで得られたRU値を示す。
【0108】
【0109】
上の表1に示されるように、エフェクター低減変異(effectorless mutation)を含むバリアントは全て、ヒトFcγRIへの結合の指標であるRU値がIgG1 WTよりも低かった。バリアントのRU値は、LALA>LALA-PG>LALA-DAの順であった。
【0110】
比較例2:既知のエフェクター低減変異(effectorless mutation)を含む抗EGFR抗体の様々なヒトFcγRに対する結合活性の評価
Biacore(商標)T200を使用して、比較例1に記載の抗EGFR抗体のヒトFcγRIIa、FcγRIIa(H167)、FcγRIIb/c、FcγRIIIa、FcγRIIIa(V176F)、及びFcγRIIIbに対する結合活性を評価した。ヒトFcγRをリガンドとしてセンサーチップ上に直接固定化した後、様々な抗EGFR抗体をアナライトとしてセンサーチップに加え、リガンドとアナライトとの間の相互作用をSPR法によって測定した。カルボキシル末端に10×Hisタグまたは6×Hisタグのいずれかをそれぞれ含み、全てR&D Systems(Minneapolis,MN)から入手した、次のFcγR:組み換えヒトFcガンマRIIA/CD32a(R167)タンパク質(アクセッション番号:AAA35827、配列番号20の位置36のAla残基から位置218のIle残基まで(
図19B参照)を含み、10×Hisタグを含む)、組み換えヒトFcガンマRIIA/CD32a(H167)タンパク質(アクセッション番号:P12318-1(P12318.4)、配列番号21の位置34のAla残基から位置218のIle残基まで(
図19C参照)を含み、10×Hisタグを含む)、組み換えヒトFcガンマRIIB/C(CD32b/c)タンパク質(アクセッション番号:P31994、配列番号22の位置46のAla残基から位置217のPro残基まで(
図19D参照)を含み、10×Hisタグを含む)、組み換えヒトFcガンマRIIIA/CD16aタンパク質(アクセッション番号:AAH17865、配列番号23の位置17のGly残基から位置208のGln残基まで(
図19E参照)を含み、6×Hisタグを含む)、組み換えヒトFcガンマRIIIA/CD16a(V176F)タンパク質(アクセッション番号:P08637、配列番号31の位置17のGly残基から位置208のGln残基まで(
図23参照)を含み、6×Hisタグを含む)、及び組み換えヒトFcガンマRIIIB/CD16bタンパク質(アクセッション番号:O75015、配列番号24の位置20のThr残基から位置208のGln残基まで(
図19F参照)を含み、10×Hisタグを含む)を使用した。
【0111】
簡潔に述べると、ヒトFcγRのそれぞれを製造者の説明書に従ってセンサーチップCM5上に固定化した。その後、HBS-EP+で所与の各濃度に調製した抗EGFR抗体を、センサーチップに30μL/分の流量で120秒間加えた。
図2B~2Eは、ヒトFcγRIIa、FcγRIIb/c、FcγRIIIa、及びFcγRIIIbをリガンドとして使用した場合の各抗体濃度(0.9、1.3、2.0、3.1、及び4.7μM)に対するRU値をプロットしたグラフを示す。表1は、抗体濃度4.7μMで得られた、様々なヒトFcγRに対するRU値を示す。
【0112】
表1からわかるように、エフェクター低減変異(effectorless mutation)を含むバリアントは全て、各ヒトFcγRへの結合の指標であるRU値がIgG1 WTよりも低かった。バリアントのRU値は、LALA>LALA-PGの順であり、LALA-DAは、LALA-PGと実質的に同じであった。
【0113】
比較例3:既知のエフェクター低減変異(effectorless mutation)を含む抗EGFR抗体のカニクイザルFcγRIに対する結合活性の評価
比較例1に記載の抗EGFR抗体のカニクイザルFcγRI(cFcγRI)に対する結合活性を比較例1と同じように評価した。カニクイザルFcガンマRI/CD64タンパク質(アクセッション番号:NP_001270969、配列番号25の位置11のVal残基から位置288のPro残基まで(
図20A参照)を含み、カルボキシル末端に6×Hisタグが付加されている:R&D Systems,Minneapolis,MN)をカニクイザルFcγRとして使用した。
図3Aは、抗体の各濃度(0.3、0.4、0.6、0.9、1.3、2.0、3.1、及び4.7μM)に対するRU値をプロットしたグラフを示す。以下の表2は、抗体濃度4.7μMで得られたRU値を示す。
【0114】
【0115】
上の表2に示されるように、エフェクター低減変異(effectorless mutation)を含むバリアントは全て、カニクイザルFcγRIへの結合を示すRU値がIgG1 WTよりも低かった。バリアントのRU値は、LALA>LALA-PG>LALA-DAの順であった。
【0116】
比較例4:既知のエフェクター低減変異(effectorless mutation)を含む抗EGFR抗体の様々なカニクイザルFcγRに対する結合活性の評価
比較例1に記載の抗EGFR抗体のカニクイザルFcγRIIa、FcγRIIb及びFcγRIIIに対する結合活性を、比較例2と同じように評価した。カルボキシル末端に6×Hisタグをそれぞれ含み、全てR&D Systems(Minneapolis,MN)から入手した、次のカニクイザルFcγR:組み換えカニクイザルFcガンマRIIA/CD32aタンパク質(アクセッション番号:NP_001270598、配列番号26の位置29のThr残基から位置211のIle残基まで(
図20B参照)を含む)、組み換えカニクイザルFcガンマRIIBタンパク質(アクセッション番号:NP_001271060、配列番号27の位置46のAla残基から位置217のPro残基まで(
図20C参照)を含む)、及び組み換えカニクイザルFcガンマRIII/CD16タンパク質(アクセッション番号:NP_001270121、配列番号28の位置17のGly残基から位置208のGln残基まで(
図20D参照)を含む)を使用した。上の表2は、抗体濃度4.7μMで得られたRU値を示す。
【0117】
上の表2に示されるように、エフェクター低減変異(effectorless mutation)を含むバリアントは全て、各カニクイザルFcγRへの結合を示すRU値がIgG1 WTよりも低かった。バリアントのRU値は、LALA>LALA-PG>LALA-DAの順であった。
【0118】
比較例5:既知のエフェクター低減変異(effectorless mutation)を含む抗EGFR抗体の熱安定性の評価
比較例1に記載の抗EGFR抗体の熱安定性を、MicroCal VP-Capillary DSC System(Malvern Panalytical Ltd.,Malvern,UK)を使用して評価した。各抗EGFR抗体を、25mM ヒスチジン及び5%w/v ソルビトール(pH6.0)で抗体濃度0.5mg/mLに調製し、60℃/時間の加熱速度で20℃から120℃まで昇温したときの熱容量C
p(kcal/mol/℃)の変化を調べた。熱容量の変化を示す曲線のピークは、抗体の各ドメインの熱変性を示し、熱変性のピークは、一般に、CH2ドメイン、Fab、及びCH3ドメインの順に観察される(Biochem. Biophys. Res.Commun.355:751-757(2007))。
図4A~4Dは、IgG1 WTならびにそのLALA、LALA-DA、及びLALA-PGバリアントの熱容量の変化及びピークトップ温度(T
m)を示す。観察された2つのピークのうち、低いほうの温度のピークは、CH2ドメインの熱変性を示す。高いほうの温度のピークは、Fab領域及びCH3ドメインのピークが重なっていることを示すと考えられる。以下の表3は、各試験抗体のCH2ドメインのT
m値及び各バリアントとIgG1 WTとの間のT
m値の差(ΔT
m)を示す。
【0119】
【0120】
表3からわかるように、LALAバリアントのTm値は、IgG1 WTより0.6℃高かったが、LALA-DAバリアント及びLALA-PGバリアントのTm値は、IgG1 WTよりそれぞれ1.9℃及び1.0℃低かった。
【0121】
実施例1:L234A/L235A及びD265変異を含む抗EGFR抗体のヒトFcγRIに対する結合活性の評価
L234A/L235A及びD265変異を含む抗EGFR抗体のヒトFcγRIに対する結合活性を、比較例1と同じように評価した。本来ヒトIgG2抗体である抗EGFR抗体パニツムマブのFc領域をヒトIgG1のFc領域に置き換えた(IgG1 WT)。評価に使用したバリアントは、IgG1 WTのLALA-DAバリアント;IgG1 WTのFc領域にL234A/L235A/D265G(LALA-DG)変異を導入することによって得られたバリアント;IgG1 WTのFc領域にL234A/L235A/D265N(LALA-DN)変異を導入することによって得られたバリアント;IgG1 WTのFc領域にL234A/L235A/D265Q(LALA-DQ)変異を導入することによって得られたバリアント;及びIgG1 WTのFc領域にL234A/L235A/D265T(LALA-DT)変異を導入することによって得られたバリアントであった。記載の変異をFc領域の両方のCH2ドメインに導入した。
図5は、各試験抗体濃度(0.3、0.4、0.6、0.9、1.3、2.0、3.1、及び4.7μM)に対するRU値をプロットしたグラフを示す。以下の表4は、抗体濃度4.7μMで得られたRU値を示す。
【0122】
【0123】
表4に示されるように、ヒトFcγRIに対する結合活性に関して、抗体濃度4.7μMで得られたLALA-DGバリアント及びLALA-DNバリアントのRU値は、それぞれLALA-DAバリアントの約1/10及び約1/4であった。LALA-DQバリアントのRU値は、LALA-DAバリアントの約2倍であった。
【0124】
実施例2:L234A/L235A及びD265変異を含む抗EGFR抗体の様々なヒトFcγRに対する結合活性の評価
実施例1に記載の抗EGFR抗体のヒトFcγRIIa、FcγRIIa(H167)、FcγRIIb/c、FcγRIIIa、FcγRIIIa(V176F)、及びFcγRIIIbに対する結合活性を、比較例2と同じように評価した。上の表4は、抗体濃度4.7μMで得られたRU値を示す。
【0125】
表4からわかるように、抗体濃度4.7μMで得られたヒトFcγRに対するRU値は、ヒトFcγRIIa(H167)を除き、各バリアントでほぼ同じであった。ヒトFcγRIIa(H167)に対するLALA-DGバリアントのRU値は、他のバリアントの半分以下であった。
【0126】
実施例3:L234A/L235A及びD265変異を含む抗EGFR抗体のカニクイザルFcγRIに対する結合活性の評価
実施例1に記載の抗EGFR抗体のカニクイザルFcγRIに対する結合活性を、比較例3と同じように評価した。
図6は、各試験抗体濃度(0.3、0.4、0.6、0.9、1.3、2.0、3.1、及び4.7μM)に対するRU値をプロットしたグラフを示す。以下の表5は、抗体濃度4.7μMのRU値を示す。
【0127】
【0128】
表5からわかるように、抗体濃度4.7μMで得られたLALA-DGバリアントのRU値は、LALA-DAバリアントの約1/10であり、LALA-DNバリアントのRU値は、LALA-DAバリアントの約1/4であった。一方、LALA-DQ及びLALA-DTバリアントのRU値は、LALA-DAバリアントの1.4倍以上であった。
【0129】
実施例4:L234A/L235A及びD265変異を含む抗EGFR抗体の様々なカニクイザルFcγRに対する結合活性の評価
実施例1に記載の抗EGFR抗体のカニクイザルFcγRIIa、FcγRIIb及びFcγRIIIに対する結合活性を、比較例4と同じように評価した。上の表5は、抗体濃度4.7μMで得られたRU値を示す。
【0130】
表5からわかるように、抗体濃度4.7μMで得られたカニクイザルFcγRIIa、FcγRIIb、及びFcγRIIIに対するRU値は、各バリアントでほぼ同じであった。
【0131】
実施例5:L234A/L235A及びD265変異を含む抗EGFR抗体の熱安定性の評価
実施例1に記載の抗EGFR抗体パニツムマブのIgG1 WT及びバリアントの各CH2ドメインの熱安定性を、比較例5と同じように評価した。
図7A~7Dは、抗EGFR抗体のLALA-DGバリアント、LALA-DNバリアント、LALA-DQバリアント、及びLALA-DTバリアントのCH2ドメインの熱容量の変化及びT
m値を示す。以下の表6は、各試験抗体のCH2ドメインのT
m値及び各バリアントとIgG1 WTとの間のT
m値の差(ΔT
m)を示す。
【0132】
【0133】
表6に示されるように、LALA-DQバリアント及びLALA-DTバリアントのTm値は、LALA-DAバリアントと同様に、IgG1 WTより約2℃低かった。LALA-DGバリアントのTm値は、IgG1 WTより4.5℃高く、LALA-DNバリアントのTm値は、IgG1 WTより0.3℃高かった。
【0134】
実施例6:抗EGFR抗体のLALA-DGバリアントの抗原結合活性の評価
Biacore(商標)T200を使用して、抗EGFR抗体パニツムマブのIgG1 WTならびにLALA及びLALA-DGバリアントのEGFR結合活性を評価した。抗ヒトIgG Fc抗体を固定化したセンサーチップ上に抗EGFR抗体をリガンドとして捕捉し、EGFRをアナライトとして流した。次いで、リガンドとアナライトとの間の相互作用をSPR法によって測定した。
【0135】
簡潔に述べると、Human Antibody Capture Kit(Cytiva,Marlborough,MA)に含まれる抗ヒトIgG Fc抗体を製造者の説明書に従ってセンサーチップCM5上に固定し、次いで、HBS-EP+で2μg/mLに調製した各抗EGFR抗体をセンサーチップと10μL/分の流量で30秒間接触させることによって捕捉した。その後、HBS-EP+で濃度12、37、110、330、1000pMに調製したヒトEGFRタンパク質(ACROBiosystems,Newark,DE)を、センサーチップに30μL/分の流量で120秒間加え、次いで、1500秒間解離させた。EGFRに対する各抗体の解離定数KDを、得られたセンサーグラムからシングルサイクルカイネティクス解析法によって算出した。結果を以下の表7に示す。
【0136】
【0137】
表7からわかるように、EGFRに対する抗体のKD値は、IgG1 WT、LALAバリアント、及びLALA-DGバリアントのそれぞれについて27、24、及び26nMであり、変異の有無及びその種類にかかわらず、ほぼ同じであった。
【0138】
実施例7:抗EGFR抗体のLALA-DGバリアント及びLALA-DGPAバリアントの胎児性Fc受容体(FcRn)に対する結合活性の評価
Octet(登録商標)RED384システム(Molecular Devices,LLC,San Jose,CA)を使用して、実施例6に記載の抗EGFR抗体のヒトFcRn(ヒト胎児性受容体大型サブユニットp51/アクセッション番号:P55899/配列番号29/
図21)及びベータ2-ミクログロブリン(アクセッション番号:NP_004039.1/配列番号30/
図22)に対する結合活性を評価した。バイオレイヤー干渉法を使用して、ビオチン化FcRnを捕捉させたStreptavidin Biosensor(Molecular Devices,LLC)を抗EGFR抗体の溶液と接触させたときの抗体とFcRnとの間の結合反応を測定し、バイオセンサーを、抗体を含まない別の溶液に移したときの抗体とFcRnとの間の解離反応を測定した。結合反応と解離反応の両方をpH6.0の緩衝液で実施し、得られた結合反応及び解離反応のセンサーグラムからpH6.0での解離定数K
Dを算出した。加えて、pH6.0の緩衝液で結合反応を実施し、pH7.4の緩衝液で解離反応を実施した。得られた解離反応のセンサーグラムからpH7.4での解離速度定数k
dを算出した。以下の表8は、抗EGFR抗体について算出されたK
D値及びk
d値を示す。抗EGFR抗体溶液の濃度は、3点、すなわち、1.7、6.9及び28nMに設定した。20mM Bis-Tris、150mM NaCl、及び0.05% Surfactant P20の溶液(pH6.0または7.4)を緩衝液として使用した。
【0139】
【0140】
表8からわかるように、IgG1 WT、LALAバリアント、LALA-DGバリアント、及びLALA-DGPAバリアント全てのpH6.0でのKD値は、5~6nMであった。加えて、pH7.4でのkd値は、ほぼ同じであり、すなわち、IgG1 WTについては、2.1(1/s)であり、バリアントについては、それぞれ2.8、2.2、2.3(1/s)であった。
【0141】
実施例8:マウスにおける抗EGFR抗体のLALA-DGバリアントの薬物動態試験
実施例6に記載の抗EGFR抗体の薬物動態試験をマウスで実施した。各抗EGFR抗体を3mg/kgでマウスに静脈内投与し、次いで、1、6、24、72、168、336及び360時間後に、イソフルラン麻酔下でヘパリン処理済みヘマトクリットチューブを使用して尾静脈から採血し、続いて、4℃及び15000rpmで5分間遠心分離して、血漿を得た。得られた血漿中の抗EGFR抗体の量を、全自動イムノアッセイプラットフォームGyrolab(商標)xP Workstation(Gyros Protein Technologies AB,Uppsala,Sweden)を使用して測定した。抗EGFR抗体の捕捉にはビオチン標識抗ヒトIgGヤギ抗体(SouthernBiotech,Birmingham,AL)を使用し、検出にはAlexa Fluor 647標識抗ヒトIgGヤギ抗体(SouthernBiotech)を使用した。
図8は、抗EGFR抗体の血中濃度を投与後の時間に対してプロットしたグラフを示す。
【0142】
図8からわかるように、マウスにおける抗EGFR抗体のIgG1 WT、LALA及びLALA-DGバリアントの血中濃度の経時変化に有意な差は観察されなかった。
【0143】
実施例9:L234A/L235A/D265G/P329A変異を含む抗EGFR抗体のヒトFcγRIに対する結合活性の評価
抗EGFR抗体パニツムマブのLALA-DGバリアント及びIgG1 WTのFc領域にL234A/L235A/D265G/P329A(LALA-DGPA)変異を導入することによって得たバリアントのヒトFcγRIに対する結合活性を、比較例1と同じように評価した。
図9Aは、抗EGFR抗体のLALA-DGバリアント(実施例1参照)及びLALA-DGPAバリアントについて、各試験抗体濃度(0.3、0.4、0.6、0.9、1.3、2.0、3.1、及び4.7μM)に対するRU値をプロットしたグラフを示す。
【0144】
図9Aからわかるように、LALA-DGPAバリアントは、LALA-DGバリアントよりもヒトFcγRIに対して低いRU値を示した。
【0145】
実施例10:L234A/L235A/D265G/P329A変異を含む抗EGFR抗体のカニクイザルFcγRIに対する結合活性の評価
実施例9に記載の抗EGFR抗体のカニクイザルFcγRIに対する結合活性を、比較例3と同じように評価した。
図9Bは、抗EGFR抗体のLALA-DGバリアント(実施例1参照)及びLALA-DGPAバリアントについて、各試験抗体濃度(0.3、0.4、0.6、0.9、1.3、2.0、3.1、及び4.7μM)に対するRU値をプロットしたグラフを示す。
【0146】
図9Bからわかるように、カニクイザルFcγRIに対するLALA-DGPAバリアントのRU値は、LALA-DGバリアントよりも低かった。
【0147】
実施例11:L234A/L235A/D265G/P329A変異を含む抗EGFR抗体の熱安定性の評価
実施例9に記載の抗EGFR抗体の熱安定性を、比較例5と同じように評価した。以下の表9は、抗EGFR抗体のLALA-DGバリアント及びLALA-DGPAバリアントのそれぞれのCH2ドメインのTm値を示す。LALA-DGバリアントのCH2ドメインのTm値は、表6と同じである。
【0148】
【0149】
表9に示されるように、LALA-DGPAバリアントのCH2ドメインのTm値は、LALA-DGバリアントより1℃低かった。
【0150】
実施例12:抗CD70抗体のLALA-DGバリアントの様々なヒトFcγ受容体に対する結合活性の評価
IgG1抗体である抗CD70抗体ボルセツズマブのLALAバリアント及びLALA-DGバリアントのヒトFcγRIに対する結合活性を得、比較例1と同じように評価した。ボルセツズマブのLALAバリアントの軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号15及び16によって表される(
図17A及び17B参照)。
図10Aは、各試験抗体濃度(0.3、0.4、0.6、0.9、1.3、2.0、3.1、及び4.7μM)に対するRU値をプロットしたグラフを示す。加えて、比較例2に記載の方法を使用して、これらの抗体のヒトFcγRIIa、FcγRIIb/c、FcγRIIIa、及びFcγRIIIbに対する結合活性を評価した。表10は、抗体濃度4.7μMで得られたRU値を示す。
【0151】
【0152】
抗体濃度4.7μMで得られたヒトFcγRIに対するLALA-DGバリアントのRU値は、LALAバリアントの約1/200であった。加えて、抗体濃度4.7μMで得られた他のヒトFcγRに対するLALA-DGバリアントのRU値は、LALAバリアントよりも低かった。
【0153】
実施例13:抗LPS抗体のLALA-DGバリアントのヒトFcγ受容体に対する結合活性の評価
IgG1抗体である抗LPS抗体O11-1111のLALAバリアント及びLALA-DGバリアントのヒトFcγRIに対する結合活性を得、比較例1と同じように評価した。011-1111抗体の軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号17及び18によって表される(
図18A及び18B参照)。
図10Bは、各試験抗体濃度(0.3、0.4、0.6、0.9、1.3、2.0、3.1、及び4.7μM)に対するRU値をプロットしたグラフを示す。加えて、比較例2に記載の方法を使用して、これらの抗体のヒトFcγRIIa、FcγRIIb/c、FcγRIIIa、及びFcγRIIIbに対する結合活性を評価した。上の表10は、抗体濃度4.7μMのRU値を示す。
【0154】
表10からわかるように、抗体濃度4.7μMで得られたヒトFcγRIに対するLALA-DGバリアントのRU値は、LALAバリアントの約1/300であった。加えて、抗体濃度4.7μMで得られた他のヒトFcγRに対するLALA-DGバリアントのRU値は、LALAバリアントよりも低かった。
【0155】
実施例14:LALA-DG変異を含む様々な抗体の熱安定性の評価
次の抗体の熱安定性を比較例5と同じように評価した。評価した抗体は、抗LPS抗体O11-1111の親抗体(IgG1 WT)、ならびに抗CD70抗体の親抗体(IgG1 WT)、これらの各抗体のLALA及びLALA-DGバリアント、更に、あらゆるFab領域を欠いている当該バリアントから誘導される抗体であった。Fabを欠くLALAバリアント及びFabを欠くLALA-DGバリアントは、それぞれ配列番号16の222番目から448番目のアミノ酸及び配列番号5の104番目から330番目のアミノ酸(
図17B及び12B参照)からなる。表11は、各試験抗体のCH2ドメインのT
m値を示す。
【0156】
【0157】
表11に示されるように、抗CD70抗体に関して、LALA-DGバリアントのCH2ドメインのTm値は、LALAバリアントより3.9℃高かった。抗LPS抗体に関して、LALA-DGバリアントのCH2ドメインのTm値は、IgG1 WTより3.7℃高く、LALAバリアントより3.3℃高かった。Fabを欠くFc領域に関して、LALA-DGバリアントのCH2ドメインのTm値は、LALAバリアントより3.6℃高かった。
【配列表】
【国際調査報告】