(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】抗ヒトTSLPモノクローナル抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/24 20060101AFI20240829BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240829BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240829BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240829BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240829BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240829BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240829BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240829BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240829BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240829BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20240829BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240829BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20240829BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240829BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240829BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240829BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C07K16/24 ZNA
C12N15/13
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 N
A61P43/00 111
A61P37/08
A61P11/06
A61P17/00
A61P11/02
A61P27/02
A61P1/04
A61P29/00
A61P37/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514001
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(85)【翻訳文提出日】2024-03-01
(86)【国際出願番号】 CN2021136757
(87)【国際公開番号】W WO2023029281
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】202111031653.2
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520451681
【氏名又は名称】江蘇▲筌▼信生物医薬股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】QYUNS THERAPEUTICS CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 1310,Building 1,No.907 Yaocheng Avenue,Taizhou,Jiangsu,225300,China
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100227592
【氏名又は名称】孔 詩麒
(72)【発明者】
【氏名】裘霽宛
(72)【発明者】
【氏名】孔永
(72)【発明者】
【氏名】陳衛
(72)【発明者】
【氏名】喬懷耀
(72)【発明者】
【氏名】呉亦亮
(72)【発明者】
【氏名】陳涛
(72)【発明者】
【氏名】呉美娟
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA88X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC01
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本出願は、抗ヒト胸腺間質リンホポエチン(TSLP)モノクローナル抗体及びその使用を提供し、このモノクローナル抗体はヒトTSLPに対して高い親和性を有し、中和活性を有しており、TSLPが媒介する関連疾患の予防または治療に使用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つの重鎖相補性決定領域(CDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3)と、3つの軽鎖相補性決定領域(CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3)とを含む、抗ヒト胸腺間質リンホポエチン(TSLP)モノクローナル抗体であって、
前記CDR-H1のアミノ酸配列は配列番号1に示され;
前記CDR-H2のアミノ酸配列は配列番号2に示され;
前記CDR-H3のアミノ酸配列は配列番号3に示され;
前記CDR-L1のアミノ酸配列は配列番号4に示され;
前記CDR-L2のアミノ酸配列は配列番号5に示され;及び
前記CDR-L3のアミノ酸配列は配列番号6に示される、前記モノクローナル抗体。
【請求項2】
重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含み、
前記重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号7に示され、
前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号8に示される、ことを特徴とする請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモノクローナル抗体をコードする、ことを特徴とする単離された核酸。
【請求項4】
請求項3に記載の核酸を含む、ことを特徴とする宿主細胞。
【請求項5】
請求項4に記載の宿主細胞を培養して請求項1または2に記載のモノクローナル抗体を産生することを含む、ことを特徴とするモノクローナル抗体を産生する方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載のモノクローナル抗体及び薬学的に許容される担体を含む、ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項7】
TSLP媒介シグナル伝達に関連する疾患の治療に使用される、ことを特徴とする請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記TSLP媒介シグナル伝達に関連する疾患は、アレルギー性喘息、アレルギー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎線維症、及び炎症性腸疾患などである、ことを特徴とする請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
TSLP媒介シグナル伝達に関連する疾患を治療するための薬剤の調製における請求項1または2に記載のモノクローナル抗体の使用。
【請求項10】
前記TSLP媒介シグナル伝達に関連する疾患は、アレルギー性喘息、アレルギー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎線維症、及び炎症性腸疾患などである、ことを特徴とする請求項9に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、抗体医薬の分野に関する。具体的には、本出願は、ヒト胸腺間質リンホポエチン(TSLP)に対するモノクローナル抗体及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
サイトカインと免疫細胞は、特異的生理学的メカニズムや経路、例えばさまざまな炎症性疾患を引き起こす経路を媒介する。ヒト胸腺間質リンホポエチン(TSLP)は、ヒト上皮細胞によって産生されるIL-7様のサイトカインであり、B細胞の分化を促進し、胸腺細胞や成熟T細胞を共刺激することもできる。TSLPは、ヒトCD11c+樹状細胞(DC)上の特異的ヘテロ二量体受容体に結合する。この受容体ヘテロ二量体は、一般的なγ様受容体鎖(TSLP受容体;TSLPR)とIL-7R-α鎖のヘテロ二量体から構成される。例えば、Tonozuka et al.,Cytogenet.CellGenet.93:23-25,2001;Pandey et al.,Nat.Immunol.1:59-64,2000;L.S.Park et al.,J.Exp.Med.192:659-670,2000;Reche et al.,J.Immunol.167:336-343,2001を参照されたい。受容体に結合したリガンドは、DCがTH2誘引化学因子、TARC(胸腺及び活性化調節化学因子)及びMDC(マクロファージ由来化学因子)を分泌するように誘導する。TSLPはまた、強力なDC活性化、天然CD4+T細胞の増殖、及びその後のTH2表現型への極性化も誘導し、アレルギー誘発性(pro-allergic)サイトカインであるインターロイキン4(IL-4)、IL-5、IL-13、及び腫瘍壊死因子-αを生成する。
【0003】
TSLPシグナルがSTAT5転写因子の活性化を引き起こすことも判明した。さらに、急性及び慢性のアトピー性皮膚炎患者の皮膚創傷においてTSLPが過剰発現していることが報告されており、TSLPの発現が体内のアレルギー性炎症に関連していることが示されている。皮膚ケラチノサイトに加えて、気管支上皮細胞、平滑筋、肺線維芽細胞でも高レベルのTSLP発現が発見されており、呼吸器アレルギーの適応症におけるTSLPの役割の可能性を裏付けている。さらに、IgEを介して活性化されたマスト細胞は非常に高レベルのTSLPを発現し、これは、TH2表現型の維持に関与している可能性のあるメカニズムである。
【0004】
西洋諸国では人口の約20%が、喘息、鼻炎、アトピー性皮膚炎、及び食物アレルギーを含むアレルギー疾患などの炎症性疾患を患っている。アトピー性皮膚炎患者の50%~80%が喘息やアレルギー性鼻炎を患っているか、発症している。現在のところ、アレルギー誘発性喘息、アトピー性皮膚炎、及びアレルギー性鼻炎を治療する治療法はない。喘息に対するβ-2アドレナリン受容体拮抗薬、アトピー性皮膚炎に対するエリデル(Elidel)、アレルギー性鼻炎に対するH1抗ヒスタミン薬などの現在の治療法は、これらの兆候を標的にしている。したがって、当技術分野では、これらの炎症性疾患、特にアレルギー性炎症に対するより良い治療法に対するニーズが高まっている。本出願は、この問題及びその他の問題に対処する。
【発明の概要】
【0005】
本出願は、新しい抗ヒトTSLPモノクローナル抗体、当該モノクローナル抗体を含む医薬組成物、及び当該モノクローナル抗体の製薬用途を提供することを目的とする。
【0006】
本出願の技術案は下記通りである。
【0007】
1.3つの重鎖相補性決定領域(CDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3)と、3つの軽鎖相補性決定領域(CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3)とを含む、抗ヒトTSLPモノクローナル抗体であって、
前記CDR-H1(本明細書では、CDR-H1は重鎖CDR1を表す)のアミノ酸配列は配列番号1(SYYMS)に示され;
前記CDR-H2(本明細書では、CDR-H2は重鎖CDR2を表す)のアミノ酸配列は配列番号2(FISYGGSAYHATWAQG)に示され;
前記CDR-H3(本明細書では、CDR-H3は重鎖CDR3を表す)のアミノ酸配列は配列番号3(EFRSMTYGAEWGI)に示され;
前記CDR-L1(本明細書では、CDR-L1は軽鎖CDR1を表す)のアミノ酸配列は配列番号4(QASESIYDTLA)に示され;
前記CDR-L2(本明細書では、CDR-L2は軽鎖CDR2を表す)のアミノ酸配列は配列番号5(SASSLAS)に示され;及び
前記CDR-L3(本明細書では、CDR-L3は軽鎖CDR3を表す)のアミノ酸配列は配列番号6(QQGYTMPDVDKNP)に示される、前記モノクローナル抗体。
【0008】
2.重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含み、
前記重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号7に示され、そのアミノ酸配列はEVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFSLSSYYMSWVRQAPGKGLEWVGFISYGGSAYHATWAQGRFTISKDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAREFRSMTYGAEWGIWGQGTLVTVSSであり、
前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号8に示され、そのアミノ酸配列はAYQMTQSPSSVSASVGDRVTITCQASESIYDTLAWYQQKPGKAPKLLIYSASSLASGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQGYTMPDVDKNPFGGGTKVEIKである、項1に記載のモノクローナル抗体。
【0009】
3.前記いずれか一項に記載のモノクローナル抗体をコードする、単離された核酸。
【0010】
4.項3に記載の核酸を含む、宿主細胞。
【0011】
前記核酸はベクター上に存在することができる。ベクターは、任意のタイプ、例えば、発現ベクターなどの組換えベクターであってもよい。複数の宿主細胞のいずれかを使用できる。一実施形態では、宿主細胞は、原核細胞、例えば、大腸菌(E.coli)である。別の実施形態では、宿主細胞は真核細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの哺乳動物細胞である。
【0012】
5.項4に記載の宿主細胞を培養して前記いずれか一項に記載のモノクローナル抗体を産生することを含む、モノクローナル抗体を産生する方法。
【0013】
前記方法は、適切な宿主細胞内において前記抗ヒトTSLPモノクローナル抗体をコードする組換えベクターを発現させ、それによって前記モノクローナル抗体を産生することを含む。特定の実施形態では、前記方法は、前記抗ヒトTSLPモノクローナル抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を培養し、それによって前記核酸を発現させることを含む。前記方法は、宿主細胞培養物または宿主細胞培養培地から前記抗ヒトTSLPモノクローナル抗体を回収することをさらに含み得る。
【0014】
6.前記いずれか一項に記載のモノクローナル抗体及び薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【0015】
前記医薬組成物は、追加の治療剤(例えば、異なる抗ヒトTSLP抗体をさらに含んでもよい。
【0016】
7.TSLP媒介シグナル伝達に関連する疾患の治療に使用される、項6に記載の医薬組成物。
【0017】
8.前記TSLP媒介シグナル伝達に関連する疾患は、アレルギー性喘息、アレルギー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎線維症、及び炎症性腸疾患などである、項7に記載の医薬組成物。
【0018】
9.TSLP媒介シグナル伝達に関連する疾患を治療するための薬剤の調製における前記いずれか一項に記載のモノクローナル抗体の使用。
【0019】
10.前記TSLP媒介シグナル伝達に関連する疾患は、アレルギー性喘息、アレルギー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎線維症、及び炎症性腸疾患などである、項9に記載の使用。
【0020】
11.前記いずれか一項に記載のモノクローナル抗体または前記いずれか一項に記載の医薬組成物を、それを必要とする被験者に投与することを含む、
TSLP媒介シグナル伝達に関連する疾患を治療する方法。
【0021】
12.前記TSLP媒介シグナル伝達に関連する疾患は、アレルギー性喘息、アレルギー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎線維症、及び炎症性腸疾患などである、項11に記載の方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、新しい抗ヒトTSLPモノクローナル抗体を提供する。これは、従来技術の抗ヒトTSLPモノクローナル抗体(テゼペルマブは、アムジェン/アストラゼネカが開発したTSLPを標的とするモノクローナル抗体薬であり、重症喘息治療のためのテゼペルマブの第III相臨床試験ナビゲーターは成功している)と比較して、TSLPに対する結合親和性が同等であり、細胞レベルでの中和活性はテゼペルマブよりも優れている。
【0023】
本出願のモノクローナル抗体は、細胞レベルでテゼペルマブ(特許公開の配列発現に従って調製)よりも優れた中和活性を示し、関連疾患の予防及び治療において良好な臨床効果を示すことが期待されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
添付の図面は、本出願をより良く理解するために使用されるものであり、本出願を不当に限定するものではない。
【
図1】
図1は、HZD8G2-57一過性発現プラスミドを構築する核酸電気泳動の結果を示す図である。その中で、M:マーカー(Marker);バンド1:PCR生成物8G2VH-Hu27;バンド2:pHZDCH、HindIII/NheI;バンド3:PCR生成物8G2VK-Hu14;バンド4:pHZDCK、HindIII/BsiWI。
【
図2】
図2は、一過性発現のフローチャートである。
【
図3】
図3は、QX008N(HZD8G2-57)の電気泳動検出図である。
【
図4】
図4は、ヒトTSLPによって誘導されるSW756-STAT5-ルシフェラーゼ細胞におけるSTAT5リン酸化を中和するQX008N及びテゼペルマブの活性を示す図である。
【
図5】
図5は、天然TSLPによって誘導されるSW756-STAT5-ルシフェラーゼレポーター遺伝子細胞におけるSTAT5リン酸化を中和するQX008N及びテゼペルマブの活性を示す図である。
【
図6】
図6は、カニクイザルTSLPによって誘導されるSW756-STAT5-ルシフェラーゼレポーター遺伝子細胞におけるSTAT5リン酸化を中和するQX008N及びテゼペルマブの活性を示す図である。
【
図7】
図7は、ヒトTSLPによって誘導されるヒト全血からのTARC(CCL17)放出を中和するQX008N及びテゼペルマブの活性を示す図である。
【
図8】
図8は、ヒトTSLPによって誘導されるヒトPBMC細胞からのTARC(CCL17)放出を中和するQX008N及びテゼペルマブの活性を示す図である。
【発明の詳細】
【0025】
以下に本出願の例示的な実施形態を説明する。理解を容易にするために本出願の実施形態の様々な詳細を含めて説明するが、それらは単なる例示であると考えられるべきである。したがって、当業者であれば、本出願の範囲及び精神から逸脱することなく、本明細書に記載の実施形態にさまざまな変更及び修正を加えることができることを認識するであろう。また、明確さと簡潔さのために、以下の説明では周知の機能及び構成の説明を省略する。
【0026】
本明細書に記載されている科学技術用語は、当業者が一般に理解している用語と同じ意味を有するが、矛盾する場合には、本明細書の定義に準ずる。
【0027】
一般的にいえば、本明細書で使用されている用語は、以下の意味を有する。
【0028】
本明細書において、「単離された」抗体とは、その自然環境の成分から分離された抗体をいう。ある一部の実施形態では、抗体を95%または99%を超える純度に精製し、前記純度は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE等電集束(IEF)、毛細管電気泳動)またはクロマトグラフィー(例えば、イオン交換または逆相HPLC)によって確定される。抗体の純度を評価する方法のレビューについて、例えば、Flatman et al.,J.Chromatogr.B848:79-87(2007)を参照されたい。
【0029】
本明細書において、「モノクローナル抗体」とは、実質的に相同な抗体の群から得られた抗体のことであり、すなわち、該群を構成する各抗体は同一であり、及び/または同じエピトープに結合する。可能な変異体抗体(例えば、自然に存在する変異を含むものまたはモノクローナル抗体の製品の製造過程において発生するもの)を除き、このような変異体は一般に微量で存在する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含む典型的なポリクローナル抗体製品と違って、モノクローナル抗体製品における各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対する。よって、修飾語「モノクローナル」とは、前記抗体が実質的に相同な抗体群から得られる特徴を示し、いずれか特定の方法で調製する必要のある抗体と解釈すべきではない。例えば、本出願のモノクローナル抗体は複数の技術によって製造することができ、前記技術は、ハイブリドーマ法、組み換えDNA法、ファージディスプレイ法、及びヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含むトランスジェニック動物を利用する方法を含むが、これらに限られていない。本明細書は、このような方法、及びモノクローナル抗体を調製するその他の例示的な方法を記載している。
【0030】
本明細書において、「親和性」とは、分子(例えば、抗体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原)との間の非共有相互作用の合計の強度を指す。別途説明する場合を除き、本明細書で使用されている「結合親和性」とは、結合パートナーメンバー(例えば、抗体と抗原)間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。パートナーYに対する分子Xの親和性は、一般的に平衡解離定数(KD)で表すことができる。親和性は、本分野で既知の常用方法によって測定することができる。
【0031】
本明細書において、ヒト胸腺間質リンホポエチン(Human Thymic Stromal Lymphopoietin、TSLP)とはヒト由来のサイトカインを表し、そのアミノ酸配列を配列番号9に示し、ここで、下線部分は、シグナルペプチドを表す。
配列番号9:
MFPFALLYVLSVSFRKIFILQLVGLVLTYDFTNCDFEKIKAAYLSTISKDLITYMSGTKSTEFNNTVSCSNRPHCLTEIQSLTFNPTAGCASLAKEMFAMKTKAALAIWCPGYSETQINATQAMKKRRKRKVTTNKCLEQVSQLQGLWRRFNRPLLKQQ
【0032】
本明細書において、「抗ヒトTSLPモノクローナル抗体」とは、ヒトTSLPを標的とする診断薬及び/または治療薬として使用できるように、十分な親和性でヒトTSLPに結合することができるモノクローナル抗体を意味する。
【0033】
本出願の抗ヒトTSLPモノクローナル抗体は、標的の無関係なタンパク質に結合しない。ここで、「無関係なタンパク質」とは、標的としてのヒトTSLP以外のタンパク質をいい、ここで、「結合しない」とは、本出願の抗ヒトTSLPモノクローナル抗体と、その標的となるヒトTSLPとの結合能を100%とした場合、本出願の抗ヒトTSLPモノクローナル抗体のその無関係なタンパク質への結合能は10%未満であり、例えば9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%または0であることを指す。
【0034】
本出願の抗ヒトTSLPモノクローナル抗体は、他の動物種のTSLPに結合しない場合がある。ここで、「他の動物種」とは、マーモセット、カニクイザル、ブタ、イヌ、ウサギ、ラット、マウス、モルモットなどのヒト以外の動物種を指す。ここで、「結合しない」とは、本出願の抗ヒトTSLPモノクローナル抗体と、その標的となるヒトTSLPとの結合能を100%とした場合、本出願の抗ヒトTSLPモノクローナル抗体のその他の動物種のTSLPへの結合能は10%未満であり、例えば9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%または0であることを指す。
【0035】
本出願のヒトTSLPモノクローナル抗体は、1μM以下、100nM以下、50nM以下、40nM以下の平衡解離定数(KD)を有する。
【0036】
実験結果は、本出願の抗ヒトTSLPモノクローナル抗体が、ヒトTSLPに特異的に結合できることを示している。
【0037】
本出願の抗ヒトTSLPモノクローナル抗体は、多くの生物学的活性において、市販されている同類のモノクローナル抗体製品と同等であるか、または市販されている同類のモノクローナル抗体製品よりも優れている。そのような生物学的活性として、例えば、ヒト、天然及びカニクイザルのTSLP誘導細胞におけるSTAT5リン酸化を中和する活性、ヒトTSLPによって誘導されるヒト全血及びヒトPBMC細胞からのTARC(CCL17)放出を中和する活性などが挙げられる。
【0038】
特定の実施形態では、本出願の抗ヒトTSLPモノクローナル抗体の重鎖のアミノ酸配列は、配列番号10に示され、軽鎖のアミノ酸配列は、配列番号11に示される。
配列番号10
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFSLSSYYMSWVRQAPGKGLEWVGFISYGGSAYHATWAQGRFTISKDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAREFRSMTYGAEWGIWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
配列番号11
AYQMTQSPSSVSASVGDRVTITCQASESIYDTLAWYQQKPGKAPKLLIYSASSLASGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQGYTMPDVDKNPFGGGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
ここで、配列番号10と11はいずれもヒト化された配列である。
【0039】
本明細書において、「単離された」核酸とは、その自然環境の成分から分離された核酸分子を意味する。単離された核酸は、通常は核酸分子を含む細胞に含まれる核酸分子を含むが、前記核酸分子は、染色体外、またはその天然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する。
【0040】
本明細書において、「抗ヒトTSLPモノクローナル抗体をコードする単離された核酸」とは、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする1つまたは複数の核酸分子を意味し、単一のベクターまたは別個のベクター中のそのような核酸分子、及び宿主細胞に存在する1つまたは複数の位置に存在するそのような核酸分子を含む。
【0041】
本明細書において、「ベクター」とは、それに連結した別の核酸を増幅することができる核酸分子を意味する。この用語には、自己複製核酸構造であるベクター、及びそれが導入された宿主細胞のゲノムに組み込まれたベクターが含まれる。ある一部のベクターは、それらに操作可能に連結されている核酸の発現をガイドすることができる。このようなベクターは、本明細書において「発現ベクター」と呼ばれる。
【0042】
本明細書において、「宿主細胞」、「宿主細胞株」、及び「宿主細胞培養物」は互いに置き換えて使用することができ、外因性核酸が導入された細胞を表し、そのような細胞の後代を含む。宿主細胞は、「形質転換体」と「形質転換細胞」とを含み、初代形質転換細胞とそれに由来する後代(継代数を問わず)とを含む。後代は、核酸内容物では親細胞と完全に同じでなくてもよく、変異を含んでもよい。最初に形質転換された細胞についてスクリーニングまたは選択された、同じ機能または生物学的活性を有する変異体後代は、本明細書に含まれている。
【0043】
本明細書において、「医薬組成物」とは、その中に含まれている活性成分の生物学的活性を有効にする形を取っており、製剤が投与される被験者に対して許容できない毒性を持つ追加の成分を含まない組成物のような製品を指す。
【0044】
本明細書において、「薬学的に許容される担体」とは、医薬組成物における活性成分以外の、被験者に対して無毒である成分を意味する。薬学的に許容される担体は、緩衝剤、賦形剤、安定剤、または防腐剤を含むが、これらに限られない。
【0045】
本明細書において、「モノクローナル抗体」は一般にヒト抗体であり、当業者に周知の技術を使用して調製することができる。例えば、ヒト抗体は一般に、van Dijk,M.A.and van de Winkel,J.G.,Curr.Opin.Pharmacol.5:368-374(2001)及びLonberg,N.,Curr.Opin.Immunol.20:450-459(2008)に記載されている。
【0046】
抗体は、抗原攻撃に応答して完全ヒト抗体またはヒト可変領域を有する無傷の抗体の産生を刺激するように修飾されたトランスジェニック動物に免疫原を投与することによって調製できる。これらの動物は通常、内因性免疫グロブリン遺伝子座が置き換えられ、染色体外に存在するか、動物にランダムに組み込まれているヒト免疫グロブリン遺伝子座の一部またはすべてを含む。このようなトランスジェニック動物では、内因性免疫グロブリン遺伝子座は一般に不活性化されており、トランスジェニック動物からヒト抗体を取得する方法の概説については、Lonberg,N.,Nat.Biotech.23:1117-1125(2005)を参照されたい。また、例えば、米国特許第6,075,181号及び第6,150,584号に記載されているXENOMOUSE(商標)技術、米国特許第5,770,429号に記載されているHUMAB(登録商標)技術、米国特許第7,041,870号に記載されているK-MMOUSE(登録商標)技術、及び米国特許出願公開番号US2007/0061900号に記載されているVELOCIMOUSE(登録商標)技術をも参照されたい。このような動物から生成された無傷の抗体由来のヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域との組み合わせによってさらに修飾することができる。
【0047】
ヒト抗体は、ハイブリドーマに基づく方法によっても産生することができる。ヒトモノクローナル抗体の産生に使用されるヒト骨髄腫細胞及びマウス-ヒトハイブリッド骨髄腫細胞が記載されている(例えば、Kozbor,D.,J.Immunol.133:3001-3005(1984);Brodeur,B.R.et al.,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,Marcel Dekker,Inc.,New York(1987),pp.51-63;Boerner,P.et al.,Immunol.147:86-95(1991)を参照)。ヒトB細胞ハイブリドーマ技術によって産生されるヒト抗体は、Li,J.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 103:3557-3562(2006)にも記載されている。他の方法としては、例えば、米国特許第7,189,826号(ハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒトIgM抗体の生成について記載)、及びNi,Xiandai Mianyixue,26(4);265-268(ヒト-ヒトハイブリドーマについて記載)に記載されているものを含む。また、ヒトハイブリドーマ技術(Trioma技術)は、Vollmers,H.P.and Brandlein,S.,Histology and Histopathology 20:927-937(2005);Vollmers,H.P.and Brandlein,S.,Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology 27:185-191(2005)にも記載されている。
【0048】
ヒト抗体は、ヒト由来ファージディスプレイライブラリーから選択されるFvクローン可変ドメイン配列を単離することによって生成することもでき、その後、そのような可変ドメイン配列を所望のヒト定常ドメインと組み合わせることができる。
【0049】
ヒト抗体は、自己抗体ライブラリーに基づいて選択することもできる。すなわち、ヒト抗体は、組み合わせライブラリーから所望の1つまたは複数の活性を有する抗体をスクリーニングすることによって単離することができる。例えば、ファージディスプレイライブラリーを作製し、そのようなライブラリーから所望の結合特性を有する抗体をスクリーニングするための様々な方法が当技術分野で知られている。この方法は、例えば、Hoogenboom,H.R.et al.,Methods in Molecular Biology 178:1-37(2001)に概説されており、さらに、例えば、McCafferty,J.et al.,Nature 348:552-554(1990);Clackson、T.et al.,Nature 352:624-628(1991);Marks,J.D.et al.,J.Mol.Biol.222:581-597(1992);Marks,J.D.and Bradbury,A.,Methods in Molecular Biology 248:161-175(2003);Sidhu,S.S.et al.,J.Mol.Biol.338:299-310(2004);Lee,C.V.et al.,J.Mol.Biol.340:1073-1093(2004);Fellouse,F.A.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101:12467-12472(2004);及びLee,C.V.et al.,J.Immunol.Methods 284:119-132(2004)に記載されている。
【0050】
Winter,G.et al.,Ann.Rev.Immunol.12:433-455(1994)に記載されているように、一部のファージディスプレイ法では、VH及びVL遺伝子の完全なセットをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってそれぞれクローニングし、ファージライブラリー内でランダムに組み換え、その後、前記ファージライブラリー内で抗原結合ファージをスクリーニングする。ファージは通常、抗体フラグメントを単鎖Fv(scFv)フラグメントまたはFabフラグメントとして表示する。免疫化されたソースからのライブラリーは、ハイブリドーマを構築する必要なしに、免疫原に対する高親和性の抗体を提供する。あるいは、Griffiths,A.D.et al.,EMBO J,12:725-734(1993)に記載されているように、免疫化されていないレパートリーを(例えば、ヒトから)クローニングして、免疫化の非存在下で多数の非自己抗原及び自己抗原に対する抗体の単一の供給源を提供することもできる。最後に、Hoogenboom,H.R.and Winter,G.,J.Mol.Biol.227:381-388(1992)によって記載されているように、幹細胞から再構成されていないV遺伝子セグメントをクローニングし、ランダム配列を含むPCRプライマーを使用して可変性の高いCDR3領域をコードし、それらをインビトロで再構成することによって、免疫化されていないライブラリーを合成的に生成することもできる。ヒト抗体ファージライブラリーを記載する特許公開文書としては、例えば、米国特許第5,750,373号及び米国特許公開第2005/0079574号、2005/0119455号、2005/0266000号、2007/0117126号、2007/0160598号、2007/0237764、2007/0292936及び2009/0002360が挙げられる。
【0051】
前記抗体はまた、二重特異性抗体などの多重特異性抗体であってもよい。二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる部位に対する結合特異性を持つモノクローナル抗体である。多重特異性抗体を生成するための技術には、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組換え共発現(Milstein,C.and Cuello,A.C.,Nature 305:537-540(1983);WO93/08829;及びTraunecker,A.et al.,EMBO J.10:3655-3659(1991)を参照)、及び「protuberance-into-cavity」エンジニアリング(例えば、米国特許第5,731,168号を参照)が含まれるが、これらに限定されない。また、多重特異的抗体は、抗体Fcヘテロ二量体分子の生成のための操作された静電的操縦効果(国際公開第2009/089004号)、2つ以上の抗体またはフラグメントの架橋(例えば、米国特許第4,676,980号及びBrennan,M.et al.,Science 229:81-83(1985)を参照)、ロイシンジッパーを使用した二重特異性抗体の生成(例えば、Kostelny,S.A.et al.,J.Immunol.148:1547-1553(1992)を参照)、二重特異性抗体フラグメントを生成するための「二重抗体」技術の使用(例えば、Holliger,P.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-6448(1993)を参照)、単鎖Fv(scFv)二量体の使用(例えば、Gruber,M.et al.,J.Immunol.152:5368-5374(1994)を参照)、及び三重特異性抗体の調製(例えば、Tutt,A.et al.,J.Immunol.147:60-69(1991)に記載されたもの)によって生成することができる。
【0052】
本明細書に記載のモノクローナル抗体は、「タコ抗体」を含む、3つ以上の機能的抗原結合部位を有する操作された改変抗体も含む(例えば、米国特許第2006/0025576号を参照)。
【0053】
本明細書の抗体はまた、WO2009/080251、WO2009/080252、WO2009/080253、WO2009/080254、WO2010/112193、WO2010/115589、WO2010/136172、WO2010/145792、及びWO2010/145793、WO2011/117330、WO2012/025525、WO2012/025530、WO2013/026835、WO2013/026831、WO2013/164325、またはWO2013/174873に記載の多重特異性抗体も含むことができる。
【0054】
本明細書に記載のモノクローナル抗体は、例えば、抗体の結合親和性及び/または他の生物学的特性を改善することが望ましい場合には、抗体変異体であってもよい。抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体をコードするヌクレオチド配列に適切な修飾を導入することによって、またはペプチド合成によって調製することができる。このような修飾は、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基の欠失、及び/または挿入、及び/または置換を含む。最終構築物が抗原結合などの所望の特性を有する限り、欠失、挿入、及び置換の任意の組み合わせを行って最終構築物を得ることができる。したがって、特定の実施形態では、1つまたは複数のアミノ酸置換を有する抗体変異体が提供され、置換変異の対象部位には、HVR及びFRが含まれ、例えば、アミノ酸置換を対象抗体に導入し、保持/改善された抗原結合性、低下した免疫原性、または改善されたADCCもしくはCDCなど、必要な活性を有する生成物をスクリーニングすることができる。
【実施例】
【0055】
以下の実施例で使用した実験方法は、特別な要件がない限り、すべて一般的な方法である。
【0056】
以下の実施例で使用した材料、試薬などは、特に断りのない限り、すべて市販されているものを入手することができる。
【0057】
実施例1 抗ヒトTSLPモノクローナル抗体QX008Nの調製
ニュージーランドウサギの免疫のために、ヒト胸腺間質リンホポエチン(hTSLP)を上海近岸科技有限公司から購入し、B細胞クローニング技術を使用して抗原結合特異的抗体クローンを得、さらにヒトTSLP阻害活性を有する、ヒトTSLPに結合するモノクローナル抗体をスクリーニングした。Binding ELISA及びBlocking ELISAを利用して細胞上清を検出し、ターゲットクローンを選択した。上記の免疫及びスクリーニングプロセスは、商業会社に依頼されて完成された。
【0058】
組換え発現のために7のクローンを選択してシーケンシングした。測定した結果、8G2が最も優れた細胞中和活性を有することが判明した。したがって、8G2クローンをヒト化した。NCBI IgBlastを使用してヒトIgG生殖系列配列(Germline)の同一性アラインメントを行い、IgGHV3-66*01を重鎖CDR移植テンプレートとして選択して、8G2クローン重鎖のCDR領域(すなわち、CDR-H1(配列番号1)、CDR-H2(配列番号2)、及びCDR-H3(配列番号3))をIgGHV3-66*01のフレームワーク領域に移植し、IGKV1-12*01を選択して軽鎖CDR移植テンプレートとし、8G2クローン軽鎖のCDR領域(すなわち、CDR-L1(配列番号4)、CDR-L2(配列番号5)、及びCDR-L3(配列番号6))をIGKV1-12*01のフレームワーク領域に移植した。フレームワーク領域の特定の部位に対して復帰変異を行って本出願のモノクローナル抗体QX008N可変領域を得た。最後に、ヒト化された重鎖可変領域の配列は配列番号7に示され、ヒト化された軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号8に示される。
【0059】
上記の重鎖可変領域(配列番号7)の遺伝子及び軽鎖可変領域(配列番号8)の遺伝子は、PCR増幅により得られた。HindIIIとNheIを使用して重鎖発現プラスミドpHZDCHを二重消化させ、HindIIIとBsiWIを使用して軽鎖発現プラスミドpHZDCKを二重消化させ、インフュージョンリコンビナーゼを使用して、PCR増幅遺伝子を、対応する発現プラスミドに挿入し、重鎖発現プラスミドpHZDCH-8G2VH-Hu27及び軽鎖発現プラスミドpHZDCK-8G2VK-Hu14を構築した。
【0060】
PCR増幅した可変領域遺伝子フラグメント及び二重消化されたプラスミドを核酸電気泳動で検出した結果を
図1に示す。
図1の結果から分かるように、抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域のPCR増幅の結果、及び重鎖と軽鎖の発現プラスミドを二重消化させた結果、重鎖と軽鎖のプラスミドのサイズは約10000bpであり、重鎖可変領域は約477bpであり、軽鎖可変領域は約447bpである。
【0061】
配列が正しい重鎖発現プラスミドpHZDCH-8G2VH-Hu27(それによって発現される重鎖のアミノ酸配列は配列番号10に示される)と軽鎖発現プラスミドpHZDCK-8G2VK-Hu14(それによって発現される軽鎖のアミノ酸配列は配列番号11に示される)をExpiCHO-S細胞を同時トランスフェクションした。トランスフェクションの前日、ExpiCHO-S細胞を3×10
6細胞/mlに希釈して、トランスフェクション前の継代を行った。トランスフェクション当日、細胞密度を6×10
6細胞/mlに希釈し、トランスフェクションのために25mlの細胞を125mlの振とうフラスコに入れた。トランスフェクションと発現のプロセスを
図2に示す。
【0062】
トランスフェクション後6日目に、培養上清を採取し、Protein Aを使用してワンステップで精製した。精製された抗体をSDS-PAGE電気泳動で検出し、QX008N(HZD8G2-57)と名付けた。当該抗体をタンパク質電気泳動で検出した結果を
図3に示す。タンパク質電気泳動は変性還元ゲルで検出され、
図3に示される結果から分かるように、2つのバンドがあり、2つのバンドのサイズはそれぞれ約50kDaと25kDaであり、重鎖(49.3kDa)と軽鎖(23.6kDa)の理論上の分子量と一致している。
【0063】
実施例2 平衡解離定数(KD)の測定
Biacore T200を使用してQX008N(HZD8G2-57)とヒトTSLPの親和性を検出し、すべてのプロセスを25℃で行った。市販のProtein Aタンパク質チップを使用し、Rmaxが約50RU、捕捉流量が10μl/分になるように、捕捉法によって適切な量の抗体を固定した。抗原を段階的に希釈し、機器の流量を30μl/分に切り替え、濃度が低いものから高いものへの順番で参照チャネルと抗体固定チャネルを流し、ネガティブ対照として緩衝液を流した。各結合と解離が完了した後、pH1.5グリシンでチップを再生した。機器に付属されているソフトウェアを使用して、Kinetics項目における1:1結合モデルに従ってフィッティングさせ、抗体の結合速度定数ka、解離速度定数kd、及び平衡解離定数KDの値を計算した。
【0064】
また、QX008N(HZD8G2-57)と、すでに臨床第III相に入ったヒトTSLPモノクローナル抗体、すなわちテゼペルマブとの親和性を比較した。既知の抗体に対する検出方法は、QX008Nに対する検出方法と同じであった。結果を表1に示す。ここで、テゼペルマブは、特許US20110274687A1によって提供されるA5配列に基づき、発現プラスミドを構築して、ExpiCHO-S細胞を一時的にトランスフェクトすることによって発明者に作成された。
【0065】
【0066】
実施例3 ヒトTSLPによって誘導されるSW756-STAT5-ルシフェラーゼレポーター遺伝子細胞におけるSTAT5リン酸化を中和するQX008N及びテゼペルマブの活性
SW756-STAT5-ルシフェラーゼレポーター遺伝子細胞株を使用して、TSLPR-IL-7Rを介してヒトTSLPが媒介する細胞内シグナル分子STAT5リン酸化に拮抗するQX008Nの活性を測定した。培地中の細胞をウェルあたり4×10
4細胞で96ウェルに播種し、37℃及び5%CO
2の条件下で一晩培養した。プレインキュベートした抗体とヒトTSLPの混合液を細胞に添加し、ここで、QX008Nの最終濃度範囲は0~50ng/ml、テゼペルマブの最終濃度範囲は0~400ng/ml、TSLPの最終濃度は0.5ng/mlであった。次いで、37℃及び5%CO
2の条件下で24時間培養した。細胞培養上清を回収し、ONE-Glo-Luciferase Reagent検出試薬120μlを各ウェルに添加し、30分間反応させた後、各ウェルから100μlを白色96ウェルプレートに採取し、発光蛍光シグナル値を検出して用量反応曲線を描き、抗体の拮抗活性を解析した。その用量反応曲線を
図4に示す。
【0067】
図4に示す結果から分かるように、QX008Nは、ヒトTSLPによって誘導されるSW756-STAT5-ルシフェラーゼレポーター遺伝子細胞におけるSTAT5リン酸化を阻害でき、ヒトTSLPによって誘導されるSW756-STAT5-ルシフェラーゼレポーター遺伝子細胞におけるSTAT5リン酸化を阻害するQX008Nの活性のIC
50は0.837ng/mlであるに対して、ヒトTSLPによって誘導されるSW756-STAT5-ルシフェラーゼレポーター遺伝子細胞におけるSTAT5リン酸化を阻害するテゼペルマブの活性のIC
50は3.8ng/mlであった。
【0068】
実施例4 天然TSLPによって誘導されるSW756-STAT5-ルシフェラーゼレポーター遺伝子細胞におけるSTAT5リン酸化を中和するQX008N及びテゼペルマブの活性
SW756-STAT5-ルシフェラーゼレポーター遺伝子細胞株を使用して、TSLPR-IL-7Rを介して天然TSLPが媒介する細胞内シグナル伝達分子STAT5リン酸化に拮抗するQX008Nの活性を測定した。培地中の細胞をウェルあたり4×10
4細胞で96ウェルに播種し、37℃及び5%CO
2の条件下で一晩培養した。プレインキュベートした抗体と天然TSLPの混合液を細胞に添加し、ここで、QX008Nの最終濃度範囲は0~50ng/ml、テゼペルマブの最終濃度範囲は0~400ng/ml、天然TSLPの最終濃度は原液から62.5倍希釈したものであった。次いで、37℃及び5%CO
2の条件下で24時間培養した。細胞培養上清を回収し、ONE-Glo-Luciferase Reagent検出試薬120μlを各ウェルに添加し、30分間反応させた後、各ウェルから100μlを白色96ウェルプレートに採取し、発光蛍光シグナル値を検出して用量反応曲線を描き、抗体の拮抗活性を解析した。その用量反応曲線を
図5に示す。
【0069】
図5に示す結果から分かるように、QX008Nは、天然TSLPによって誘導されるSW756-STAT5-ルシフェラーゼレポーター遺伝子細胞におけるSTAT5リン酸化を阻害でき、天然TSLPによって誘導されるSW756-STAT5-ルシフェラーゼレポーター遺伝子細胞におけるSTAT5リン酸化を阻害するQX008Nの活性のIC
50は0.462ng/mlであるに対して、天然TSLPによって誘導されるSW756-STAT5-ルシフェラーゼレポーター遺伝子細胞におけるSTAT5リン酸化を阻害するテゼペルマブの活性のIC
50は1.45ng/mlであった。
【0070】
実施例5 カニクイザルTSLPによって誘導されるSW756-STAT5-ルシフェラーゼレポーター遺伝子細胞におけるSTAT5リン酸化を中和するQX008N及びテゼペルマブの活性
SW756-STAT5-ルシフェラーゼレポーター遺伝子細胞株を使用して、TSLPR-IL-7Rを介してカニクイザルTSLPが媒介する細胞内シグナル伝達分子STAT5リン酸化に拮抗するQX008Nの活性を測定した。培地中の細胞をウェルあたり4×10
4細胞で96ウェルに播種し、37℃及び5%CO
2の条件下で一晩培養した。プレインキュベートした抗体とカニクイザルTSLPの混合液を細胞に添加し、ここで、QX008Nの最終濃度範囲は0~50ng/ml、テゼペルマブの最終濃度範囲は0~400ng/ml、カニクイザルTSLPの最終濃度は0.5ng/mlであった。次いで、37℃及び5%CO
2の条件下で24時間培養した。細胞培養上清を回収し、ONE-Glo-Luciferase Reagent検出試薬120μlを各ウェルに添加し、30分間反応させた後、各ウェルから100μlを白色96ウェルプレートに採取し、発光蛍光シグナル値を検出して用量反応曲線を描き、抗体の拮抗活性を解析した。その用量反応曲線を
図6に示す。
【0071】
図6に示す結果から分かるように、QX008Nは、カニクイザルTSLPによって誘導されるSW756-STAT5-ルシフェラーゼレポーター遺伝子細胞におけるSTAT5リン酸化を阻害でき、カニクイザルTSLPによって誘導されるSW756-STAT5-ルシフェラーゼレポーター遺伝子細胞におけるSTAT5リン酸化を阻害するQX008Nの活性のIC
50は0.889ng/mlであるに対して、カニクイザルTSLPによって誘導されるSW756-STAT5-ルシフェラーゼレポーター遺伝子細胞におけるSTAT5リン酸化を阻害するテゼペルマブの活性のIC
50は1.88ng/mlであった。
【0072】
実施例6 ヒトTSLPによって誘導されるヒト全血からのTARC(CCL17)放出を中和するQX008N及びテゼペルマブの活性
ヒト全血を使用して、TSLPR-IL-7Rを介してヒトTSLPが誘導するTARC(CCL17)放出に拮抗するQX008Nの活性を測定した。全血を100μl/ウェルで96ウェルプレートに加え、37℃及び5%CO
2の条件下で一時的に保存し、プレインキュベートした抗体とヒトTSLPの混合液を全血に添加し、ここで、抗体の最終濃度範囲は0~10μg/ml、ヒトTSLPの最終濃度は0.5ng/mlであり、IL-33は最終濃度0.5ng/mlで添加した。次いで、37℃及び5%CO
2の条件下で48時間培養した。細胞培養上清を回収し、サンドイッチELISA法を用いて上清中のTARC(CCL17)の発現を検出して用量反応曲線を描き、抗体の拮抗活性を解析した。その用量反応曲線を
図7に示す。
【0073】
図7に示す結果から分かるように、QX008Nは、ヒトTSLPによって誘導されるヒト全血からのTARC(CCL17)放出を阻害でき、ヒトTSLPによって誘導されるヒト全血からのTARC(CCL17)放出を阻害するQX008Nの活性のIC
50は0.839ng/mlであるに対して、ヒトTSLPによって誘導されるヒト全血からのTARC(CCL17)放出を阻害するテゼペルマブの活性のIC
50は23.9ng/mlであった。
【0074】
実施例7 ヒトTSLPによって誘導されるヒトPBMC細胞からのTARC(CCL17)放出を中和するQX008N及びテゼペルマブの活性
ヒトPBMC細胞を使用して、TSLPR-IL-7Rを介してヒトTSLPが誘導するTARC(CCL17)放出に拮抗するQX008Nの活性を測定した。密度勾配遠心分離によりPBMCを分離し、PBMCを300000個/ウェルで96ウェルプレートに加え、37℃及び5%CO
2の条件下で一時的に保存し、プレインキュベートした抗体とヒトTSLPの混合液をPBMCに添加し、ここで、抗体の最終濃度範囲は0~10μg/ml、ヒトTSLPの最終濃度は0.5ng/mlであり、IL-33は最終濃度0.5ng/mlで添加した。次いで、37℃及び5%CO
2の条件下で48時間培養した。細胞培養上清を回収し、サンドイッチELISA法を用いて上清中のTARC(CCL17)の発現を検出して用量反応曲線を描き、抗体の拮抗活性を解析した。その用量反応曲線を
図8に示す。
【0075】
図8に示す結果から分かるように、QX008Nは、ヒトTSLPによって誘導されるPBMC細胞からのTARC(CCL17)放出を阻害でき、ヒトTSLPによって誘導されるPBMC細胞からのTARC(CCL17)放出を阻害するQX008Nの活性のIC
50は77.1ng/mlであるに対して、ヒトTSLPによって誘導されるPBMC細胞からのTARC(CCL17)放出を阻害するテゼペルマブの活性のIC
50は216ng/mlであった。
【0076】
以上、本出願の実施形態について説明したが、本出願は上記の特定の実施形態及び応用分野に限定されるものではなく、上記の特定の実施形態は、限定的なものではなく、単なる例示及び教示に過ぎない。本明細書の教示の下で、本出願の特許請求の範囲の保護範囲から逸脱することなく、当業者は多くの形態を作成することもでき、それらはすべて本出願の保護に含まれる。
【配列表】
【国際調査報告】