(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】抗CD3ヒト化抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240829BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240829BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20240829BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240829BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20240829BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240829BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240829BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240829BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240829BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240829BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240829BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240829BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240829BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240829BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C07K14/705
C07K19/00
C12N5/078
C12N5/10
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/63 P
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
A61K39/395 N
A61K47/68
A61K39/395 L
A61K35/17
A61P35/00
G01N33/53 D
G01N33/531 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514034
(86)(22)【出願日】2021-09-14
(85)【翻訳文提出日】2024-04-23
(86)【国際出願番号】 CN2021118264
(87)【国際公開番号】W WO2023029089
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】202111028884.8
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202111028883.3
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523387747
【氏名又は名称】蘇州近岸蛋白質科技股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NOVOPROTEIN SCIENTIFIC INC.
【住所又は居所原語表記】Floor 3&4,No.228 Yunchuang Road,Wujiang Economic Development Zone,Suzhou,Jiangsu 215200,China
(71)【出願人】
【識別番号】523387758
【氏名又は名称】上海近岸科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】NOVOPROTEIN SCIENTIFIC(SHANGHAI)INC.
【住所又は居所原語表記】Floor 3,Building 1,No.11 Jialilue Road,China(Shanghai)Pilot Free Trade Zone,Pudong New Area,Shanghai 201203,China
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】朱 化星
(72)【発明者】
【氏名】宋 作偉
(72)【発明者】
【氏名】李 徳彬
(72)【発明者】
【氏名】于 福涛
(72)【発明者】
【氏名】秦 照峰
(72)【発明者】
【氏名】房 継旋
(72)【発明者】
【氏名】王 米
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA91Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF68
4C085AA14
4C085AA21
4C085AA25
4C085AA27
4C085BB11
4C085BB31
4C085DD62
4C085EE01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087CA12
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、新規な抗CD3ヒト化抗体を提供する。前記抗CD3ヒト化抗体は特異的にヒトおよびサルCD3タンパク質に結合することができ、良い生物活性を有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本発明の第一の側面では、抗CD3ヒト化抗体であって、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、前記の重鎖可変領域および軽鎖可変領域は以下の群から選ばれる6つの相補性決定領域CDRを有することを特徴とする抗体:
(A5) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH5-CDR3: HGNFGNTYISYWAY, 配列番号29
huVL5-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号30
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL5-CDR3: VLWYSKRW, 配列番号31;
(A1) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH4-CDR3: HGNFGNSYISYWEY, 配列番号3
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL4-CDR3: VLWNSNRW, 配列番号6;
(A2) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH3-CDR3: HGNFGNSYISYWRY, 配列番号10
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL3-CDR3: VLWYSGRW, 配列番号11;
(A3) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH2-CDR3: HGNFGNSYISYWQY, 配列番号15
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL2-CDR3: VLWRSNRW, 配列番号16;あるいは
(A4) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH1-CDR3: HGNFGNTYISYWAY, 配列番号20
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL1-CDR3: VLWYSKRW, 配列番号21;
ここで、上記アミノ酸配列のうちの任意の一つのアミノ酸配列は、さらに、任意に少なくとも1個のアミノ酸の付加、欠失、修飾および/または置換を経ており、CD3結合親和力を保持する誘導配列を含む。
【請求項2】
前記の抗体は重鎖および軽鎖を含み、中では、前記の抗体の重鎖は前記の3つの相補性決定領域VH-CDRおよびVH-CDRを連結するための重鎖フレームワーク領域を、そして前記の抗体の軽鎖は前記の3つの相補性決定領域VL-CDRおよびVL-CDRを連結するための軽鎖フレームワーク領域を含むことを特徴とする請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記の抗体は一本鎖抗体であることを特徴とする請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
二重特異性抗体であって、
第一抗原結合ドメインD1、および
第二抗原結合ドメインD2を含み、
ここで、D1は特異的に標的分子のCD3タンパク質に結合し、D2は特異的に標的分子のCD19タンパク質に結合し、
ここで、前記D1は特異的にCD3タンパク質に結合する抗体またはその抗原結合断片で、
前記D2は特異的にCD19タンパク質に結合する抗体またはその抗原結合断片で、
ここで、前記D1は重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、前記の重鎖可変領域および軽鎖可変領域は以下の群から選ばれる6つの相補性決定領域CDRを有する:
(A5) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH5-CDR3: HGNFGNTYISYWAY, 配列番号29
huVL5-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号30
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL5-CDR3: VLWYSKRW, 配列番号31;
(A1) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH4-CDR3: HGNFGNSYISYWEY, 配列番号3
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL4-CDR3: VLWNSNRW, 配列番号 6;
(A2) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH3-CDR3: HGNFGNSYISYWRY, 配列番号10
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL3-CDR3: VLWYSGRW, 配列番号11;
(A3) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH2-CDR3: HGNFGNSYISYWQY, 配列番号15
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL2-CDR3: VLWRSNRW, 配列番号16;あるいは
(A4) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH1-CDR3: HGNFGNTYISYWAY, 配列番号20
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL1-CDR3: VLWYSKRW, 配列番号21;
ここで、前記抗原結合断片の構造は、(i)Fab断片、(ii)F(ab’)
2断片、(iii)Fd断片、(iv) Fv断片、(v) scFv分子、または(vi) dAb断片からなる群から選ばれる
ことを特徴とする抗体。
【請求項5】
以下のものを有することを特徴とする組み換えタンパク質:
(i)請求項1に記載の抗体、または請求項4に記載の二重特異性抗体;および
(ii)任意の発現および/または精製を補助するタグ配列。
【請求項6】
CAR構築物であって、前記のCAR構築物の抗原結合領域のscFv領域断片は特異的にCD3に結合する結合領域で、かつ前記scFv断片は重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、前記の重鎖可変領域および軽鎖可変領域は以下の群から選ばれる6つの相補性決定領域CDRを有することを特徴とするCAR構築物:
(A5) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH5-CDR3: HGNFGNTYISYWAY, 配列番号29
huVL5-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号30
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL5-CDR3: VLWYSKRW, 配列番号31;
(A1) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH4-CDR3: HGNFGNSYISYWEY, 配列番号3
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL4-CDR3: VLWNSNRW, 配列番号6;
(A2) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH3-CDR3: HGNFGNSYISYWRY, 配列番号10
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL3-CDR3: VLWYSGRW, 配列番号11;
(A3) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH2-CDR3: HGNFGNSYISYWQY, 配列番号15
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL2-CDR3: VLWRSNRW, 配列番号16;あるいは
(A4) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH1-CDR3: HGNFGNTYISYWAY, 配列番号20
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL1-CDR3: VLWYSKRW, 配列番号21。
【請求項7】
外来の請求項6に記載のCAR構築物を発現することを特徴とする組み換え免疫細胞。
【請求項8】
以下のものを含有することを特徴とする抗体薬物複合体:
(a)請求項1に記載の抗体、請求項4に記載の二重特異的抗体または請求項5に記載の組み換えタンパク質、あるいはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、抗体部分;ならびに
(b) 検出可能なマーカー、薬物、毒素、サイトカイン、放射性核種、酵素、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、前記抗体部分と複合する複合部分。
【請求項9】
活性成分の使用であって、前記活性成分は請求項1に記載の抗体、請求項4に記載の二重特異性抗体、または請求項5に記載の組み換えタンパク質、請求項6に記載のCAR構築物、請求項7に記載の免疫細胞、請求項8に記載の抗体薬物複合体、あるいはこれらの組み合わせからなる群から選ばれ、前記活性成分は、以下のことに用いられることを特徴とする使用:
(a)検出試薬またはキットの製造、
(b)CD3関連疾患を予防および/または治療する薬物または製剤の製造、ならびに/あるいは
(c)CD3関連癌または腫瘍を予防および/または治療する薬物または製剤の製造。
【請求項10】
以下のものを含有することを特徴とする薬物組成物:
(i)請求項1に記載の抗体、請求項4に記載の抗体、または請求項5に記載の組み換えタンパク質、請求項6に記載のCAR構築物、請求項7に記載の免疫細胞、請求項8に記載の抗体薬物複合体、あるいはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、活性成分;ならびに
(ii) 薬学的に許容される担体。
【請求項11】
以下の群から選ばれるポリペプチドをコードのするポリヌクレオチド:
(1) 請求項1に記載の抗体;あるいは
(2) 請求項4に記載の二重特異性抗体;
(3) 請求項5に記載の組み換えタンパク質;
(4) 請求項6に記載のCAR構築物。
【請求項12】
請求項11に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とする、ベクター。
【請求項13】
遺伝子工学化された宿主細胞であって、前記の宿主細胞は請求項12に記載のベクターを含むか、あるいはゲノムに請求項11に記載のポリヌクレオチドが組み込まれていることを特徴とする宿主細胞。
【請求項14】
体外で非診断的にサンプルにおけるCD3タンパク質を検出する方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする方法:
(1) 体外において、前記サンプルを請求項1に記載の抗体と接触させる;
(2) 抗原-抗体複合体が形成したか検出し、ここで、複合体が形成したというのはサンプルにCD3タンパク質が存在することを意味する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医薬の分野に関し、具体的に、抗CD3ヒト化抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞の活性化は免疫応答の刺激に非常に重要である。T細胞は免疫特異性を示し、大半の細胞免疫応答をガイドする。T細胞は抗体を分泌しないが、B細胞の抗体分泌に必要である。
【0003】
CD3はT細胞受容体複合体(TCR)と結合する、T細胞で発現される、ホモ二量体またはヘテロ二量体の抗原で、そしてT細胞の活性化に必要である。機能的CD3は4種類の異なる鎖(ε、ζ、δおよびγ)のうちの2種類からなる二量体である。CD3二量体の配列はγ/ε、δ/εおよびζ/ζを含む。CD3の抗体がT細胞においてCD3を集めることで、ペプチドによって担持されるMHC分子のようにTCRに関与する様態でT細胞を活性化させる。そのため、抗CD3抗体はT細胞の活性化作用に関する治療目的がある。また、CD3および標的抗原と結合できる二重特異性抗体は、T細胞の免疫反応を標的抗原を発現する細胞の組織および細胞にターゲッティングさせる治療用途において提案されている。
【0004】
現在、癌治療の臨床試験段階にある既存のCD3に結合する二重特異性抗体は短い半減期および/または不確定な効果によって制限されている。特に有利な性質を有する抗CD3抗体を得るために、多くの試みが行われたが、今までのこれらの試みの中では、成功したものは限られている。
【0005】
そのため、本分野では、新規な抗CD3ヒト化抗体の開発が切望されている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、新規な抗CD3ヒト化抗体を提供することにある。
【0007】
本発明の第一の側面では、抗CD3ヒト化抗体であって、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、前記の重鎖可変領域および軽鎖可変領域は以下の群から選ばれる6つの相補性決定領域CDRを有するものを提供する:
(A5) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH5-CDR3: HGNFGNTYISYWAY, 配列番号29
huVL5-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号30
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL5-CDR3: VLWYSKRW, 配列番号31;
(A1) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH4-CDR3: HGNFGNSYISYWEY, 配列番号3
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL4-CDR3: VLWNSNRW, 配列番号6;
(A2) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH3-CDR3: HGNFGNSYISYWRY, 配列番号10
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL3-CDR3: VLWYSGRW, 配列番号11;
(A3) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH2-CDR3: HGNFGNSYISYWQY, 配列番号15
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL2-CDR3: VLWRSNRW, 配列番号16;あるいは
(A4) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH1-CDR3: HGNFGNTYISYWAY, 配列番号20
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL1-CDR3: VLWYSKRW, 配列番号21。
【0008】
もう一つの好適な例において、上記アミノ酸配列のうちの任意の1つのアミノ酸配列は、さらに、任意に少なくとも1個のアミノ酸の付加、欠失、修飾および/または置換を経ており、かつCD3結合親和力を保持する誘導配列を含む。
【0009】
もう一つの好適な例において、前記付加、欠失、修飾および/または置換のアミノ酸の数は1-5個(たとえば1-3個、好ましくは1-2個、より好ましくは1個)である。
【0010】
もう一つの好適な例において、前記の少なくとも1個のアミノ酸の付加、欠失、修飾および/または置換を経ており、かつCD3に結合する親和力を保持する誘導配列は、相同性または配列同一性が少なくとも96%のアミノ酸配列である。もう一つの好適な例において、前記の抗体は重鎖および軽鎖を含み、中では、前記の抗体の重鎖は前記の3つの重鎖CDRおよび重鎖に連結するための重鎖フレームワーク領域を、そして前記の抗体の軽鎖は前記の3つの軽鎖CDRおよび軽鎖に連結するための軽鎖フレームワーク領域を含む。
【0011】
もう一つの好適な例において、前記重鎖可変領域の配列は配列番号7で示される。
【0012】
もう一つの好適な例において、前記の抗体の重鎖は、さらに、重鎖定常領域を含む。
【0013】
もう一つの好適な例において、前記の重鎖定常領域はヒト由来のもの、マウス由来のものまたはウサギ由来のもので、好ましくはヒト由来のものである。
【0014】
もう一つの好適な例において、前記軽鎖可変領域の配列は配列番号8で示される。
【0015】
もう一つの好適な例において、前記抗体の軽鎖は、さらに、軽鎖定常領域を含む。
【0016】
もう一つの好適な例において、前記の軽鎖定常領域はヒト由来のもの、マウス由来のものまたはウサギ由来のもので、好ましくはヒト由来のものである。
【0017】
もう一つの好適な例において、前記の抗体とヒトCD3εポリペプチドの結合のKdは≦250nM、好ましくは≦100nM、好ましくは≦15nM、好ましくは≦10nM、より好ましくは≦5nMである。
【0018】
もう一つの好適な例において、前記の抗体は特異的にCD3に結合する。
【0019】
もう一つの好適な例において、前記のCD3はヒトまたはカニクイザル由来のものである。
【0020】
もう一つの好適な例において、前記のCD3はCD3ε、CD3ζ、CD3δまたはCD3γで、好ましくは、前記のCD3はCD3εまたはCD3γである。
【0021】
もう一つの好適な例において、前記の抗体は特異的にヒトCD3εまたはカニクイザルCD3εに結合するか、前記の抗体は特異的にヒトCD3γまたはカニクイザルCD3γに結合する。
【0022】
もう一つの好適な例において、前記の抗体は二本鎖抗体、または一本鎖抗体(scFv)である。
【0023】
もう一つの好適な例において、前記の抗体は重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む一本鎖抗体であって、前記の重鎖可変領域および軽鎖可変領域は以下の群から選ばれる6つの相補性決定領域CDRを有する:
(A5) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH5-CDR3: HGNFGNTYISYWAY, 配列番号29
huVL5-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号30
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL5-CDR3: VLWYSKRW, 配列番号31;
(A1) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH4-CDR3: HGNFGNSYISYWEY, 配列番号3
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL4-CDR3: VLWNSNRW, 配列番号6;
(A2) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH3-CDR3: HGNFGNSYISYWRY, 配列番号10
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL3-CDR3: VLWYSGRW, 配列番号11;
(A3) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH2-CDR3: HGNFGNSYISYWQY, 配列番号15
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL2-CDR3: VLWRSNRW, 配列番号16;あるいは
(A4) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH1-CDR3: HGNFGNTYISYWAY, 配列番号20
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL1-CDR3: VLWYSKRW, 配列番号21。
【0024】
もう一つの好適な例において、前記の一本鎖抗体は順に軽鎖可変領域、リンカーおよび重鎖可変領域を含むか、あるいは順に重鎖可変領域、リンカーおよび軽鎖可変領域を含む。
【0025】
もう一つの好適な例において、前記のリンカーは(G4S)nで、ここで、nは1-5の整数で、好ましくはリンカーは(G4S)3である。
【0026】
もう一つの好適な例において、前記の抗体の重鎖可変領域は配列番号32で示されるアミノ酸配列を含有し、そして前記の抗体の軽鎖可変領域は配列番号33で示されるアミノ酸配列を含有し;あるいは
前記の抗体の重鎖可変領域は配列番号7で示されるアミノ酸配列を含有し、そして前記の抗体の軽鎖可変領域は配列番号8で示されるアミノ酸配列を含有し;あるいは
前記の抗体の重鎖可変領域は配列番号12で示されるアミノ酸配列を含有し、そして前記の抗体の軽鎖可変領域は配列番号13で示されるアミノ酸配列を含有し;あるいは
前記の抗体の重鎖可変領域は配列番号17で示されるアミノ酸配列を含有し、そして前記の抗体の軽鎖可変領域は配列番号18で示されるアミノ酸配列を含有し;あるいは
前記の抗体の重鎖可変領域は配列番号22で示されるアミノ酸配列を含有し、そして前記の抗体の軽鎖可変領域は配列番号23で示されるアミノ酸配列を含有する。
【0027】
もう一つの好適な例において、前記の一本鎖抗体の配列は以下の群から選ばれる:
配列番号34、配列番号9、配列番号22、配列番号19または配列番号24。
【0028】
もう一つの好適な例において、前記重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号32、7、12、17、22で示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列相同性または配列同一性を有する。
【0029】
もう一つの好適な例において、前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号33、8、13、18、23で示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列相同性または配列同一性を有する。
【0030】
もう一つの好適な例において、前記の抗体はモノクローナル抗体である。
【0031】
もう一つの好適な例において、前記の抗体は単特異性、二重特異性、または三重特異性抗体である。
【0032】
もう一つの好適な例において、前記の二重特異性抗体は以下のものを含む:
(1)本発明の第一の側面に記載の抗CD3抗体;
(2)ほかの標的に結合する抗体。
【0033】
もう一つの好適な例において、前記ほかの標的は、BCMA、EGFR、CD38、CD123、CD19、CD20、CD22、B7-H3、GPC3、HER2、PMSA、CD28、4-1BB、OX40、CD40、CD27、CD47、CTLA4、PD1、PDL1からなる群から選ばれる。
【0034】
もう一つの好適な例において、前記二重特異性抗体は、
第一抗原結合ドメイン(D1)、および
第二抗原結合ドメイン(D2)を含み、
ここで、D1は特異的に標的分子のCD3タンパク質に結合し、
D2は特異的に標的分子のCD19タンパク質に結合し、
ここで、前記D1は特異的にCD3タンパク質に結合する抗体またはその抗原結合断片で、
前記D2は特異的にCD19タンパク質に結合する抗体またはその抗原結合断片で、
ここで、前記D1は重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、前記の重鎖可変領域および軽鎖可変領域は以下の群から選ばれる6つの相補性決定領域CDRを有する:
(A5) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH5-CDR3: HGNFGNTYISYWAY, 配列番号29
huVL5-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号30
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL5-CDR3: VLWYSKRW, 配列番号31;
(A1) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH4-CDR3: HGNFGNSYISYWEY, 配列番号3
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL4-CDR3: VLWNSNRW, 配列番号6;
(A2) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH3-CDR3: HGNFGNSYISYWRY, 配列番号10
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL3-CDR3: VLWYSGRW, 配列番号11;
(A3) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH2-CDR3: HGNFGNSYISYWQY, 配列番号15
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL2-CDR3: VLWRSNRW, 配列番号16;あるいは
(A4) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH1-CDR3: HGNFGNTYISYWAY, 配列番号20
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL1-CDR3: VLWYSKRW, 配列番号21;
ここで、前記抗原結合断片の構造は、(i)Fab断片、(ii)F(ab’)2断片、(iii)Fd断片、(iv) Fv断片、(v) scFv分子、または(vi) dAb断片からなる群から選ばれる。
【0035】
もう一つの好適な例において、前記D1および/または前記D2は一本鎖抗体(scFv)である。
【0036】
もう一つの好適な例において、前記D1と前記D2はリンカーを介して連結しており、好ましくは、前記リンカーは柔軟性リンカーである。
【0037】
もう一つの好適な例において、前記リンカーは(GGGGS)nで、ここで、nは1-5の整数で、好ましくはリンカーはGGGGSである。
【0038】
もう一つの好適な例において、前記D1は抗CD3一本鎖抗体で、そしてD2は抗CD19一本鎖抗体である。
【0039】
もう一つの好適な例において、前記の抗CD3一本鎖抗体は重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、前記の重鎖可変領域は配列番号32で示されるアミノ酸配列を含有し、そして前記の抗体の軽鎖可変領域は配列番号33で示されるアミノ酸配列を含有し;
前記の重鎖可変領域は配列番号7で示されるアミノ酸配列を含有し、そして前記の軽鎖可変領域は配列番号8で示されるアミノ酸配列を含有し;あるいは
前記の重鎖可変領域は配列番号12で示されるアミノ酸配列を含有し、そして前記の軽鎖可変領域は配列番号13で示されるアミノ酸配列を含有し;あるいは
前記の重鎖可変領域は配列番号17で示されるアミノ酸配列を含有し、そして前記の軽鎖可変領域は配列番号18で示されるアミノ酸配列を含有し;あるいは
前記の重鎖可変領域は配列番号22で示されるアミノ酸配列を含有し、そして前記の軽鎖可変領域は配列番号23で示されるアミノ酸配列を含有する。
【0040】
もう一つの好適な例において、前記の二重特異性抗体の配列は配列番号37で示される。
【0041】
本発明の第二の側面では、以下のものを有する組み換えタンパク質を提供する:
(i)本発明の第一の側面に記載の抗体またはその二重特異性抗体;ならびに
(ii)任意の発現および/または精製を補助するタグ配列。
【0042】
もう一つの好適な例において、前記のタグ配列は6Hisタグを含む。
【0043】
もう一つの好適な例において、前記の組み換えタンパク質(またはポリペプチド)は融合タンパク質を含む。
【0044】
もう一つの好適な例において、前記の組み換えタンパク質は、単量体、二量体、または多量体である。
【0045】
もう一つの好適な例において、前記の組み換えタンパク質は単特異性、二重特異性、または三重特異性組み換えタンパク質である。
【0046】
もう一つの好適な例において、前記の組み換えタンパク質は、さらに、前記エレメント(i)と融合した別の融合エレメント(または融合ポリペプチド断片)を含む。
【0047】
もう一つの好適な例において、前記組み換えタンパク質は、
(i)以下の群から選ばれる抗体:
前記の抗体の重鎖可変領域は配列番号32で示されるアミノ酸配列を含有し、そして前記の抗体の軽鎖可変領域は配列番号33で示されるアミノ酸配列を含有し;あるいは
前記の抗体の重鎖可変領域は配列番号7で示されるアミノ酸配列を含有し、そして前記の抗体の軽鎖可変領域は配列番号8で示されるアミノ酸配列を含有し;あるいは
前記の抗体の重鎖可変領域は配列番号12で示されるアミノ酸配列を含有し、そして前記の抗体の軽鎖可変領域は配列番号13で示されるアミノ酸配列を含有し;あるいは
前記の抗体の重鎖可変領域は配列番号17で示されるアミノ酸配列を含有し、そして前記の抗体の軽鎖可変領域は配列番号18で示されるアミノ酸配列を含有し;あるいは
前記の抗体の重鎖可変領域は配列番号22で示されるアミノ酸配列を含有し、そして前記の抗体の軽鎖可変領域は配列番号23で示されるアミノ酸配列を含有する;
ならびに
(ii) 任意の発現および/または精製を補助するタグ配列。
【0048】
本発明の第三の側面では、CAR構築物であって、前記のCAR構築物の抗原結合領域のscFv領域断片は特異的にCD3に結合する結合領域で、かつ前記scFv断片は重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、前記の重鎖可変領域および軽鎖可変領域は以下の群から選ばれる6つの相補性決定領域CDRを有する:
(A5) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH5-CDR3: HGNFGNTYISYWAY, 配列番号29
huVL5-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号30
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL5-CDR3: VLWYSKRW, 配列番号31;
(A1) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH4-CDR3: HGNFGNSYISYWEY, 配列番号3
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL4-CDR3: VLWNSNRW, 配列番号6;
(A2) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH3-CDR3: HGNFGNSYISYWRY, 配列番号10
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL3-CDR3: VLWYSGRW, 配列番号11;
(A3) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH2-CDR3: HGNFGNSYISYWQY, 配列番号15
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL2-CDR3: VLWRSNRW, 配列番号16;あるいは
(A4) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH1-CDR3: HGNFGNTYISYWAY, 配列番号20
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL1-CDR3: VLWYSKRW, 配列番号21。
【0049】
本発明の第四の側面では、組み換えの免疫細胞であって、外来の本発明の第三の側面に記載のCAR構築物を発現する免疫細胞を提供する。
【0050】
もう一つの好適な例において、前記の免疫細胞は、NK細胞、T細胞からなる群から選ばれる。
【0051】
もう一つの好適な例において、前記の免疫細胞はヒトまたはヒト以外の哺乳動物(たとえばマウス)由来のものである。
【0052】
本発明の第五の側面では、以下のものを含む抗体薬物複合体を提供する:
(a)本発明の第一の側面に記載の抗体またはその二重特異的抗体、あるいは本発明の第二の側面に記載の組み換えタンパク質、あるいはこれらの組み合わせ;ならびに
(b) 検出可能なマーカー、薬物、毒素、サイトカイン、放射性核種、酵素、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、前記抗体部分とカップリングするカップリング部分。
【0053】
もう一つの好適な例において、前記の抗体部分と前記のカップリング部分は化学結合またはリンカーを介してカップリングしている。
【0054】
本発明の第六の側面では、活性成分の使用であって、前記活性成分は本発明の第一の側面に記載の抗体またはその二重特異性抗体、あるいは本発明の第二の側面に記載の組み換えタンパク質、本発明の第三の側面に記載のCAR構築物、本発明の第四の側面に記載の免疫細胞、本発明の第五の側面に記載の抗体薬物複合体、あるいはこれらの組み合わせからなる群から選ばれ、以下のことに用いられる使用を提供する:
(a)検出試薬またはキットの製造;
(b)CD3関連疾患を予防および/または治療する薬物または製剤の製造;ならびに/あるいは
(c)CD3関連癌または腫瘍を予防および/または治療する薬物または製剤の製造。
【0055】
もう一つの好適な例において、前記癌または腫瘍は、肺癌、メラノーマ、結腸癌、膵臓癌、膀胱癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、睾丸腺癌、食道癌、胃腸癌、肝臓癌、リンパ腫、骨髄腫、白血病からなる群から選ばれる。
【0056】
本発明の第七の側面では、以下のものを含有する薬物組成物を提供する:
(i) 本発明の第一の側面に記載の抗体またはその二重特異性抗体、あるいは本発明の第二の側面に記載の組み換えタンパク質、本発明の第三の側面に記載のCAR構築物、本発明の第四の側面に記載の免疫細胞、本発明の第五の側面に記載の抗体薬物複合体、あるいはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる活性成分;ならびに
(ii) 薬学的に許容される担体。
【0057】
もう一つの好適な例において、前記の薬物組成物は液体製剤である。
【0058】
もう一つの好適な例において、前記の薬物組成物は注射剤である。
【0059】
もう一つの好適な例において、前記の薬物組成物は腫瘍を治療する薬物の製造に用いられ、前記の腫瘍は、肺癌、メラノーマ、結腸癌、膵臓癌、膀胱癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、睾丸腺癌、食道癌、胃腸癌、肝臓癌、リンパ腫、骨髄腫、白血病からなる群から選ばれる。
【0060】
本発明の第八の側面では、以下の群から選ばれるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する:
(1) 本発明の第一の側面に記載の抗体またはその二重特異性抗体;あるいは
(2) 本発明の第二の側面に記載の組み換えタンパク質;
(3) 本発明の第三の側面に記載のCAR構築物。
【0061】
本発明の第九の側面では、本発明の第八の側面に記載のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0062】
もう一つの好適な例において、前記のベクターは、細菌プラスミド、ファージ、酵母プラスミド、植物細胞ウイルス、哺乳動物細胞ウイルス、たとえばアデノウイルス、レトロウイルス、またはほかのベクターを含む。
【0063】
本発明の第十の側面では、遺伝子工学化された宿主細胞であって、本発明の第九の側面に記載のベクターを含むか、あるいはゲノムに本発明の第八の側面に記載のポリヌクレオチドが組み込まれた宿主細胞を提供する。
【0064】
もう一つの好適な例において、前記の宿主細胞は哺乳動物細胞、または原核細胞である。
【0065】
もう一つの好適な例において、前記の哺乳動物細胞はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。
【0066】
もう一つの好適な例において、前記の原核細胞は大腸菌である。
【0067】
本発明の第十一の側面では、体外で非診断的にサンプルにおけるCD3タンパク質を検出する方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:
(1) 体外において、前記サンプルを本発明の第一の側面に記載の抗体と接触させる;
(2) 抗原-抗体複合体が形成したか検出し、ここで、複合体が形成したというのはサンプルにCD3タンパク質が存在することを意味する。
【0068】
本発明の第十二の側面では、下地シート(支持プレート)と、本発明の第一の側面に記載の抗体または本発明の第九の側面に記載の抗体薬物複合体を含有する測定バーとを含む検出プレートを提供する。
【0069】
本発明の第十三の側面では、キットであって、
(1) 本発明の第一の側面に記載の抗体を含有する第一の容器、および/または
(2) 本発明の第一の側面に記載の抗体に対する二次抗体を含有する第二の容器を含むか、
あるいは、本発明の第十二の側面に記載の検出プレートを含有するキットを提供する。
【0070】
本発明の第十四の側面では、組み換えポリペプチドの製造方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:
(a) 発現に適切な条件において、本発明の第十の側面に記載の宿主細胞を培養する;
(b) 培養物から、本発明の第一の側面に記載の抗体または本発明の第二の側面に記載の組み換えタンパク質である、組み換えポリペプチドを単離する。
【0071】
本発明の第十五の側面では、CD3分子に関連する疾患を治療する方法であって、抑制または治療が必要な対象に本発明の第一の側面に記載の抗体または本発明の第二の側面に記載の組み換えタンパク質または本発明の第七の側面に記載の薬物組成物を施用する工程を含む方法を提供する。
【0072】
もう一つの好適な例において、前記のCD3分子に関連する疾患は腫瘍または臓器移植に拮抗する免疫拒絶反応を含む。
【0073】
もう一つの好適な例において、前記の対象は哺乳動物(ヒトを含む)である。
【0074】
もちろん、本発明の範囲内において、本発明の上記の各技術特徴および下記(たとえば実施例)の具体的に記述された各技術特徴は互いに組合せ、新しい、または好適な技術方案を構成できることが理解される。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【
図1】ELISAによって測定されたCD3抗体と組み換えヒトCD3の親和の図を示す。
【
図2】ELISAによって測定されたCD3抗体と組み換えサルCD3の親和の図を示す。
【
図3】fortebioによって検出されたCD3全長抗体とヒトCD3Eタンパク質の親和の図を示すが、ここで、A、B、C、D、EはそれぞれCD3全長抗体CQ53、CQ52、CQ51、CQ50、CQ54とヒトCD3Eタンパク質の親和の図である。
【
図4】ELISAによって検出されたCD3全長抗体とサルCD3Eタンパク質の親和の図を示すが、ここで、A、B、C、D、EはそれぞれCD3全長抗体CQ53、CQ52、CQ51、CQ50、CQ54とサルCD3Eタンパク質の親和の図である。
【
図5】CD3全長抗体とJurkat細胞の親和の図を示すが、ここで、A、B、C、D、EはそれぞれCD3全長抗体CQ53、CQ52、CQ51、CQ50、CQ54とJurkat細胞の親和の図である。
【
図6】CD3全長抗体とOKT3の競争ELISA検出の図を示すが、ここで、A、B、C、D、EはそれぞれCD3全長抗体CQ53、CQ52、CQ51、CQ50、CQ54とOKT3の競争ELISA検出の図である。
【
図7】CD3抗体によって誘導されたCD69発現の変化の図を示すが、ここで、NCは陰性対照である。
【
図8】CD3抗体によって誘導されたPBMC活性化によるIFNγ分泌の図を示すが、ここで、NCは陰性対照である。
【
図9】fortebioによって検出された二重特異性抗体とヒトCD3E(A)およびCD19(B)タンパク質の親和の図を示す。
【
図10】ELISAによって測定された二重特異性抗体(SC30AおよびBLMOA)とサルCD3Eタンパク質の親和の図を示す。
【
図11】CD3抗体によって誘導されたCD69発現の変化の図を示すが、ここで、NCは陰性対照である。
【
図12】フローサイトメトリーによって検出された二重特異性抗体(SC30AおよびBLMOA)の腫瘍細胞に対する殺傷効率の図を示す。
【
図13】ウェルの蛍光スキャンによって表されたRaji-GFPの残留の図を示す。
【
図14】二重特異性抗体のPBMC腫瘍細胞に対する直接殺傷効率の図を示す。
【
図16】レポーター遺伝子によって検出されたSC30Aシグナルの標的細胞に対する依存を示すが、RLUは相対光単位である。
【
図17】レポーター遺伝子によって検出されたSC30Aの活性の図を示すが、RLUは相対光単位である。
【発明を実施するための形態】
【0076】
本発明者は幅広く深く研究したところ、意外に、高い生物活性のCD3抗体を得た。実験では、本発明のCD3抗体はヒトおよびサルCD3に特異的に結合することができることが示された。本発明のCD3抗体は、さらに、標的抗原CD19に結合する抗体またはその結合断片と二重特異性抗体を構築し、より高い腫瘍殺傷活性を持たせ、そしてT細胞の免疫反応を標的抗原を発現する細胞の組織および細胞にターゲッティングさせる治療用途を実現させることができる。また、本発明の二重特異性抗体の活性化は標的細胞に依存し、安全性がある。これに基づき、本発明を完成させた。
【0077】
用語
本明細書で用いられるように、用語「投与」および「処理」とは外因性薬物、治療剤、診断剤または組成物を動物、ヒト、被験者、細胞、組織、器官または生物流体に応用することである。「投与」および「処理」とは治療、薬物動態学、診断、研究および実験方法でもよい。細胞の処理は、試薬と細胞の接触、および試薬と流体の接触、流体と細胞の接触を含む。また、「投与」および「処理」とは、試薬、診断、結合組成物または別の細胞を通してインビトロ(in vitro)およびエクスビボ(ex vivo)で処理することも意味する。「処理」は、ヒト、動物または研究の被験者に応用される場合、治療処理、予防または予防性処理、研究および診断を指し、CD3抗体とヒトまたは動物、被験者、細胞、組織、生理的コンパートメントまたは生理流体の接触を含む。
【0078】
本明細書で用いられるように、用語「治療」とは患者に本発明のCD3抗体およびその組成物の任意の一つを含む内用または外用の治療剤を投与することで、前記患者は一つまたは複数の疾患症状を有し、既知の前記治療剤はこれらの症状に治療作用を有する。通常、有効に一つまたは複数の疾患症状を緩和する治療剤の量(治療有効量)で患者に投与する。
【0079】
本明細書で用いられるように、用語「任意」または「任意に」はその後に記載されるイベントや状況はありうるが、必須ではない。たとえば、「任意に1~3個の抗体の重鎖可変領域を含む」とは、特定の配列の抗体の重鎖可変領域が存在してもよいが、必ずしも存在しなくてもよく、1個、2個または3個でもよい。
【0080】
抗体
本明細書で用いられるように、用語「抗体」とは免疫グロブリンのことで、2本の同様の重鎖および2本の同様の軽鎖がジスルフィド結合を介して連結してなる4本ペプチド鎖の構造である。免疫グロブリンの重鎖定常領域のアミノ酸の構成および配列順序により、その抗原性が異なる。よって、免疫グロブリンは5種類に分かれ、あるいは免疫グロブリンの異なるクラス、すなわち、IgM、IgD、IgG、IgAおよびIgEと呼ばれ、異なるクラスの免疫グロブリンの重鎖定常領域に応じて、それぞれα、δ、ε、γおよびμと呼ばれる。IgGは免疫グロブリンのうち最も重要な種類で、化学構造および生物機能によって、またIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4といった4つのサブクラスに分かれる。軽鎖は定常領域によってκ鎖またhλ鎖に分かれる。各クラスの免疫グロブリンのサブユニット構造および三次元構造は本分野の技術者熟知である。
【0081】
抗体の重鎖および軽鎖のN末端に近い約110のアミノ酸の配列は大きく異なり、可変領域(V領域)で、C末端に近い残りのアミノ酸配列は相対的に安定で、定常領域(C領域)である。可変領域は3つの超可変領域(HVR)および4つの配列が相対的に保存的なFR領域(FR)を含む。4つのFRのアミノ酸配列が相対的に保存的で、直接結合反応に関与しない。3つの超可変領域は、抗体の特異性を決定し、相補性決定領域(CDR)とも呼ばれる。各軽鎖可変領域(LCVR)および重鎖可変領域(HCVR)は3つのCDR領域および4つのFR領域からなり、アミノ末端からカルボキシ末端までFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順で並ぶ。軽鎖の3つのCDR領域、すなわち、軽鎖超可変領域(LCDR)はLCDR1、LCDR2およびLCDR3を、重鎖の3つのCDR領域、すなわち、重鎖超可変領域(HCDR)はHCDR1、HCDR2およびHCDR3を指す。発明に記載の抗体または抗原結合断片のLCVRおよびHCVR領域のCDRのアミノ酸残基は数および位置において既知のKabat番号付け(LCDR1-3、HCDR2-3)、またはkabatおよびchothiaの番号付け(HCDR1)に準ずる。天然の重鎖および軽鎖の可変領域における4つのFR領域は基本的にβシート構造となっており、連結ループを形成する3つのCDRで連結され、場合によって部分βシート構造となる4つのFR領域が含まれる。各鎖におけるCDRは、FR領域で密接し、かつ他方の鎖のCDRと一緒に抗体の抗原結合部位を形成している。同類の抗体のアミノ酸配列の比較によってどのアミノ酸がFRあるいはCDR領域を構成するか確認することができる。定常領域は、抗体と抗原との結合には直接関与しないが、たとえば抗体の抗体依存細胞毒性に参与するなどの異なるエフェクター機能を示す。
【0082】
本明細書で用いられるように、用語「抗原結合断片」とは抗原結合活性を有するFab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、または単一のFv断片である。Fv抗体は抗体の重鎖可変領域、軽鎖可変領域を含有するが、定常領域がなく、かつすべての抗原結合部位を有する最小の抗体断片である。一般的に、Fv抗体はさらにVHとVLドメインの間のポリペプチドリンカーを含み、かつ抗原結合に必要な構造を形成することができる。抗原結合断片の非限定的な例は、(i)Fab断片、(ii)F(ab’)2断片、(iii)Fd断片、(iv) Fv断片、(v) scFv分子、(vi) dAb断片、および(vii)抗体の超可変領域をなぞったアミノ酸残基からなる最小認識単位(たとえば、CDR3ペプチドのような独立した相補性決定領域(CDR))または制限されたFR3-CDR3-FR4ペプチドを含む。本明細書で用いられるように、「抗原結合断片」という表現にはほかの工学化分子、たとえば、ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)、テトラボディ(tetrabody)、ミニ抗体、ナノ抗体(たとえば、1価ナノ抗体、2価ナノ抗体など)、小モジュラー免疫薬(SMIP)およびサメIgNAR可変ドメインも含まれている。
【0083】
本明細書で用いられるように、用語「抗原決定基」とは抗原における不連続の、本発明の抗体または抗原結合断片によって認識される立体空間部位である。
【0084】
本発明は、完全の抗体だけではなく、免疫活性を有する抗体の断片または抗体とほかの配列からなる融合タンパク質も含む。そのため、本発明は、さらに、前記抗体の断片、誘導体および類似体を含む。
【0085】
本発明において、抗体は当業者に熟知の技術によって製造されるマウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体または全ヒト抗体を含む。組み換え抗体、たとえばキメラモノクローナル抗体およびヒト化モノクローナル抗体は、ヒトの部分および非ヒトの部分を含み、本分野で熟知されるDNA組み換え技術によって製造することができる。
【0086】
本明細書で用いられるように、用語「モノクローナル抗体」とは単一の細胞由来のクローンから分泌される抗体である。モノクローナル抗体は、高度特異的で、単一のエピトープに対するものである。前記の細胞は、真核、原核またはファージのクローン細胞株でもよい。
【0087】
本明細書で用いられるように、用語「キメラ抗体」はネズミ由来抗体のV領域の遺伝子とヒト抗体のC領域の遺伝子をキメラ遺伝子に連接した後、ベクターに挿入し、宿主細胞に形質移入して発現される抗体分子である。親ネズミ抗体の高い特異性および親和力を残しつつ、ヒト由来断片に有効に生物学的効果・機能を仲介させる。
【0088】
本明細書で用いられるように、用語「ヒト化抗体」は、本発明のネズミ抗体の可変領域の改変形態で、非ヒト抗体(好ましくはマウスモノクローナル抗体)由来(または基本的にそれ由来)のCDR領域、および基本的にヒト由来抗体の配列からのFR領域と定常領域を有し、すなわち、ネズミ抗体のCDR領域の配列を異種のヒト系抗体の骨格配列に接木する。CDR配列は大半の抗体-抗原相互作用を担うため、発現ベクターを構築して特定の天然に存在する抗体の性質を模倣する組み換え抗体を発現することができる。
【0089】
本発明において、抗体は、単特異性、二重特異性、三重特異性、またはそれ以上の多重特異性でもよい。
【0090】
本発明において、本発明の抗体は、さらにその保存的変異体を含み、本発明の抗体のアミノ酸配列と比較すると、10個以下、好ましくは8個以下、より好ましくは5個以下、最も好ましくは3個以下のアミノ酸が類似または近い性質を持つアミノ酸で置換されてなるポリペプチドをいう。これらの保存的突然変異のポリペプチドは、表Aのようにアミノ酸の置換を行って生成することが好ましい。
【表0】
【0091】
抗CD3抗体
本明細書で用いられるように、用語「CD3」とは、一般的に、天然または組み換えのヒトCD3、およびヒトCD3の非ヒトホモログである。CD3はT細胞受容体複合体(TCR)と結合する、T細胞で発現される、ホモ二量体またはヘテロ二量体の抗原で、そしてT細胞の活性化に必要である。機能的CD3は4種類の異なる鎖(ε、ζ、δおよびγ)のうちの2種類からなる二量体である。CD3二量体の配列はγ/ε、δ/εおよびζ/ζを含む。そのため、非ヒト種由来のもの、たとえば、「マウスCD3」、「サルCD3」などと明言しない限り、「CD3」とはヒトCD3を指す。
【0092】
本明細書で用いられるように、「CD3E」とはCD3ε細胞外ドメイン(Extracellular domain)を指す。
【0093】
本発明は、重鎖可変領域(VH)、軽鎖可変領域(VL)および連結するリンカーを含む、CD3に対する高特異性の一本鎖抗体(scFv)を提供する。
【0094】
また、本発明は、CD3に対する高特異性の抗体であって、重鎖および軽鎖を含み、前記重鎖は重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列を、前記軽鎖は軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列を含有する抗体を提供する。
【0095】
好適に、前記の重鎖可変領域および軽鎖可変領域は以下の群から選ばれる6つの相補性決定領域CDRを有する:
(A5) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH5-CDR3: HGNFGNTYISYWAY, 配列番号29
huVL5-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号30
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL5-CDR3: VLWYSKRW, 配列番号31;
(A1) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH4-CDR3: HGNFGNSYISYWEY, 配列番号3
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL4-CDR3: VLWNSNRW, 配列番号6;
(A2) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH3-CDR3: HGNFGNSYISYWRY, 配列番号10
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL3-CDR3: VLWYSGRW, 配列番号11;
(A3) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH2-CDR3: HGNFGNSYISYWQY, 配列番号15
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL2-CDR3: VLWRSNRW, 配列番号16;あるいは
(A4) 重鎖可変領域の3つの相補性決定領域VH-CDRおよび軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域VL-CDR:
huVH-CDR1: GFTFNKYA, 配列番号1
huVH-CDR2: IRSKYNNYAT, 配列番号2
huVH1-CDR3: HGNFGNTYISYWAY, 配列番号20
huVL-CDR1: TGAVTSGNY, 配列番号4
huVL-CDR2: GTK, 配列番号5
huVL1-CDR3: VLWYSKRW, 配列番号21。
【0096】
好適に、前記の抗体の重鎖可変領域は配列番号32で示されるアミノ酸配列を含有し、そして前記の抗体の軽鎖可変領域は配列番号33で示されるアミノ酸配列を含有し;あるいは
前記の重鎖可変領域の配列は配列番号7で示されるアミノ酸配列を含み、そして前記の軽鎖可変領域の配列は配列番号8で示されるアミノ酸配列を含み;あるいは
前記の重鎖可変領域は配列番号12で示されるアミノ酸配列を含有し、そして前記の軽鎖可変領域は配列番号13で示されるアミノ酸配列を含有し;あるいは
前記の重鎖可変領域は配列番号17で示されるアミノ酸配列を含有し、そして前記の軽鎖可変領域は配列番号18で示されるアミノ酸配列を含有し;あるいは
前記の重鎖可変領域は配列番号22で示されるアミノ酸配列を含有し、そして前記の軽鎖可変領域は配列番号23で示されるアミノ酸配列を含有する。
【0097】
ここで、上記アミノ酸配列のうちの任意の一つのアミノ酸配列が、さらに、少なくとも1個(たとえば1~5、1~3個、好ましくは1~2個、より好ましくは1個)のアミノ酸の付加、欠失、修飾および/または置換を経た、CD3結合親和力を有する配列を含む。
【0098】
もう一つの好適な例において、前記少なくとも1個のアミノ酸の付加、欠失、修飾および/または置換を経た配列は、好適に、相同性が少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列である。
【0099】
本発明の抗体は二本鎖または一本鎖抗体でもよく、そして動物由来抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、より好ましくはヒト化抗体、ヒト-動物キメラ抗体、さらに好ましくは全ヒト化抗体から選ばれてもよい。
【0100】
本明細書で用いられるように、用語「scFv」は一本鎖抗体(single chain antibody fragment、scFv)で、抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域が、通常、15~25のアミノ酸からなる連結するリンカー(linker)を介して連結してなる。
【0101】
本明細書で用いられるように、用語「リンカー」とは、グロブリンのドメインに挿入され、二重可変領域交換グロブリンにフォールディングできるように軽鎖と重鎖のドメインに十分な可動性を提供する一つまたは複数のアミノ酸残基である。本発明において、好適なリンカーは一本鎖抗体(scFv)のVHとVLを連結するリンカー、またはscFvを別の抗体の重鎖と連結するためのリンカーである。
【0102】
適切なリンカーの実例は、単一のグリシン(Gly)、またはセリン(Ser)残基を含むが、リンカーにおけるアミノ酸残基の標識および配列はリンカーにおける実現しようとする二次構造要素のタイプによって変わる。たとえば、(G4S)nで、ここで、nは1~5の整数である。
【0103】
本発明に係る抗体の誘導体は、一本鎖抗体、およびまたは抗体断片、たとえばFab、Fab’、(Fab’)2あるいは当該分野におけるほかの既知の抗体の誘導体など、ならびにIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM抗体またはほかのサブタイプの抗体のうちの任意の一つまたは複数でもよい。
【0104】
ここで、前記動物は、哺乳動物、たとえばマウスが好ましい。
【0105】
本発明の抗体は、ヒトCD3を標的とするネズミ由来抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、CDR接木および/または修飾の抗体でもよい。
【0106】
本発明の一つの好適な実施例において、上記
配列番号1、配列番号2および配列番号3;
配列番号1、配列番号2および配列番号10;
配列番号1、配列番号2および配列番号15;
配列番号1、配列番号2および配列番号20;あるいは
配列番号1、配列番号2および配列番号29
のうちの任意の一つまたは複数の配列、あるいはこれらが少なくとも1個のアミノ酸の付加、欠失、修飾および/または置換を経た、CD3結合親和力を有する配列は、重鎖可変領域(VH)のCDR領域に位置する。
【0107】
本発明の一つの好適な実施例において、上記
配列番号4、配列番号5および配列番号6;
配列番号4、配列番号5および配列番号11;
配列番号4、配列番号5および配列番号16;
配列番号4、配列番号5および配列番号21;あるいは
配列番号30、配列番号5および配列番号31
のうちの任意の一つまたは複数の配列、あるいはこれらが少なくとも1個のアミノ酸の付加、欠失、修飾および/または置換を経た、CD3結合親和力を有する配列は、軽鎖可変領域(VL)のCDR領域に位置する。
【0108】
本発明の上記内容において、前記付加、欠失、修飾および/または置換のアミノ酸数は、好ましくは元のアミノ酸配列の合計アミノ酸数の40%以下、より好ましくは35%以下、より好ましくは1~33%、より好ましくは5~30%、より好ましくは10~25%、より好ましくは15~20%である。
【0109】
本発明において、前記付加、欠失、修飾および/または置換のアミノ酸の数は、通常、1、2、3、4または5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、最も好ましくは1個である。
【0110】
本明細書で用いられるように、用語「二重特異性抗体」とは同時に特異的に2種類の抗原(標的)または2種類のエピトープに結合することができる抗体分子である。対称性により、二重特異性抗体は構造が対称と非対称の分子に分かれる。結合部位の数により、二重特異性抗体は2価、3価、4価および多価の分子に分かれる。
【0111】
本発明の抗体は、単特異性、二重特異性、三重特異性または多重特異性でもよい。たとえば、本発明の抗体はほかの標的に結合する抗体または活性断片とともに二重特異性抗体を形成してもよい。前記ほかの標的に結合する抗体はCD19、CD47、CD73、CD47、CTLA4、PD-1、PD-L1、CD28を標的とする抗体またはその活性断片でもよい。
【0112】
本発明の一つの具体的な実施例において、本発明における抗CD3抗体はCD19に結合する抗体と二重特異性抗体を形成するが、ここで、構築されるCD3とCD19を標的とする二重特異性抗体はSC30Aと名付けられ、配列が配列番号37で示される。
【0113】
抗体の製造
モノクローナル抗体の生成に適する方法のいずれも本発明の抗CD3抗体の生成に使用することができる。たとえば、連接または天然に存在するCD3ホモ二量体またはその断片で動物を免疫させることができる。アジュバント、免疫刺激剤、重複免疫強化接種を含む、適切な免疫接種方法を使用してもよく、一つまたは複数の手段を使用してもよい。
【0114】
適切な様態のCD3のいずれも免疫原(抗原)とし、CD3に特異的な非ヒト抗体を生成し、前記抗体の生物学活性を選別するに使用することができる。刺激免疫原は全長の成熟ヒトCD3でもよいが、天然のホモ二量体、または一つ/複数のエピトープを含むペプチドを含む。免疫原は単独で使用してもよく、あるいは本分野で既知の一つまたは複数の免疫原性補強剤と組み合わせて使用してもよい。免疫原は天然由来の精製されたもの、あるいは遺伝的に修飾された細胞において生成したものでもよい。免疫原をコードするDNAは、ゲノム由来のものまたは非ゲノム由来のもの(たとえばcDNA)でもよい。適切な遺伝ベクターで免疫原をコードするDNAを発現することができるが、前記ベクターはアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、プラスミドおよび非ウイルスベクターを含むが、これらに限定されない。
【0115】
本発明の抗ヒトCD3抗体を生成する例示的な方法は実施例1に記載する。
【0116】
ヒト化抗体は、任意の種類の免疫グロブリンから選ばれてもよいが、IgM、IgD、IgG、IgAおよびIgEを含む。本発明において、抗体はIgG抗体で、IgG1サブタイプを使用する。下記実施例に記載の抗体の生物学的な測定・選別では、一定のドメイン配列が必要な配列の最適化を実現させ、必要な生物学活性を持たせることが容易である。
【0117】
同様に、何れの軽鎖も本明細書の化合物および方法において使用することができる。具体的に、κ鎖、λ鎖またはそのバリアントは本発明の化合物および方法において有用である。
【0118】
本発明の抗ヒトCD3抗体をヒト化する例示的な方法は実施例2に記載する。
【0119】
本発明の抗体またはその断片のDNA分子の配列は、通常の技術で、たとえば、PCR増幅あるいはゲノムライブラリースクリーニングなどの方法によって得ることができる。また、軽鎖および重鎖のコード配列を一体に融合し、一本鎖抗体を形成してもよい。
【0120】
関連の配列を獲得すれば、組み換え法で大量に関連配列を獲得することができる。この場合、通常、その配列をベクターにクローンした後、細胞に導入し、さらに通常の方法で増殖させた宿主細胞から関連配列を単離して得る。
【0121】
また、特に断片の長さが短い場合、人工合成の方法で関連配列を合成してもよい。通常、まず多数の小さい断片を合成し、そして連接させることにより、配列の長い断片を得ることができる。さらに、このDNA配列を本分野で周知の各種の既知のDNA分子(あるいはベクターなど)や細胞に導入してもよい。
【0122】
さらに、本発明は、上記の適当なDNA配列および適当なプロモーターあるいは制御配列を含むベクターに関する。これらのベクターは、タンパク質を発現するように、適当な宿主細胞の形質転換に用いることができる。
【0123】
宿主細胞は、原核細胞、たとえば細菌細胞、あるいは、低等真核細胞、たとえば酵母細胞、あるいは、高等真核細胞、たとえば哺乳動物細胞でもよい。好適な動物細胞は、CHO-S、CHO-K1、HEK-293細胞を含むが、これらに限定されない。
【0124】
本発明に記載のDNA組み換えによる宿主細胞の形質転換の工程は本分野で熟知の技術で行ってもよい。得られる形質転換体は通常の方法で培養し、本発明の遺伝子がコードするポリペプチドを発現することができる。用いられる宿主細胞によって、通常の培地で適切な条件において培養する。
【0125】
通常、本発明の抗体の発現に適切な条件で、形質転換で得られた宿主細胞を培養する。そして、通常のグロブリンの精製工程、例えばプロテインA-Sepharose、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、分子篩クロマトグラフィーやアフィニティークロマトグラフィーなどの本分野の技術者に熟知の通常の分離精製手段で精製し、本発明の抗体を得る。
【0126】
得られたモノクローナル抗体は、通常の手段で同定することができる。たとえば、モノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降、あるいは体外結合試験(たとえば放射免疫測定(RIA)または酵素結合免疫吸着測定(ELISA))で測定することができる。
【0127】
抗体-薬物複合体(ADC)
また、本発明は本発明の抗体に基づいた抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate、ADC)を提供する。
【0128】
典型的に、前記抗体薬物複合体は前記抗体、およびエフェクター分子を含み、前記抗体と前記エフェクター分子がカップリング、好ましくは化学的にカップリングしている。ここで、前記エフェクター分子は治療活性を有する薬物が好ましい。また、前記エフェクター分子は毒素タンパク質、化学治療薬、小分子薬物または放射性核種のうちの一つまたは複数でもよい。
【0129】
本発明の抗体と前記エフェクター分子の間はカップリング剤によってカップリングしてもよい。前記のカップリング剤の例は、非選択性カップリング剤、カルボキシ基を利用するカップリング剤、ペプチド鎖、ジスルフィド結合を利用するカップリング剤のうちの任意の一つまたは複数でもよい。前記非選択性カップリング剤とは、エフェクター分子と抗体を共役結合させて連結する化合物、たとえばグルタルアルデヒドなどである。前記カルボキシ基を利用するカップリング剤は、シスアコニット酸無水物系カップリング剤(たとえばシスアコニット酸無水物)、アシルヒドラゾン系カップリング剤(カップリング部位はアシルヒドラゾンである)のうちの任意の一つまたは複数でもよい。
【0130】
抗体における一部の残基(たとえばCysやLysなど)は多くの機能基との連結に使用され、イメージング試薬(たとえば発色基や蛍光基)、診断試薬(たとえばMRI造影剤や放射性同位元素)、安定剤(たとえばエチレングリコール重合体)および治療剤を含む。抗体は機能剤にカップリングして抗体-機能剤の複合体を形成してもよい。機能剤(たとえば薬物、検出試薬、安定剤)は抗体にカップリング(共役結合)されている。機能剤は直接、またはリンカーを介して間接に抗体に連結してもよい。
【0131】
抗体は薬物がカップリングすることによって抗体薬物複合体(ADC)になってもよい。典型的に、ADCは薬物と抗体の間に位置するリンカーを含む。リンカーは分解できるリンカーでもよく、分解できないリンカーでもよい。分解できるリンカーは、典型的に、細胞内の環境において分解しやすく、たとえば目的の部位で分解することにより、薬物が抗体から放出される。適切な分解できるリンカーは、たとえば、細胞内におけるプロテアーゼ(たとえばリソソームプロテアーゼやエンドソームプロテアーゼ)によって分解できるペプチジル含有リンカーを含む酵素によって分解されるリンカー、あるいはグルクロニダーゼによって分解できるグルクロン酸含有リンカーのような糖リンカーを含む。ペプチジルリンカーは、たとえばジペプチド、たとえばバリン-シトルリン、フェニルアラニン-リシンやバリン-アラニンを含んでもよい。ほかの適切な分解できるリンカーは、たとえば、pH感受性リンカー(たとえばpHが5.5未満になると加水分解するリンカー、たとえばヒドラゾンリンカー)および還元条件において分解できるリンカー(ジスルフィド結合リンカー)を含む。分解できないリンカーは典型的に抗体がプロテアーゼによって加水分解される条件において薬物を放出する。
【0132】
抗体に連結する前、リンカーはあるアミノ酸残基と反応できる活性反応基を有し、連結は活性反応基を介して実現する。チオール基に特異的な活性反応基が好ましく、たとえばマレイミド系化合物、ハロゲン化アミド(たとえばヨウ化、臭化または塩化のもの)、ハロゲン化エステル(たとえばヨウ化、臭化または塩化のもの)、ハロゲン化メチルケトン(たとえばヨウ化、臭化または塩化のもの)、ハロゲン化ベンジル(たとえばヨウ化、臭化または塩化のもの)、ビニルスルホン、ピリジルジスルフィド、水銀誘導体、たとえば3,6-ジ(水銀メチル)ジオキサン(対イオンは酢酸イオン、塩素イオンまたは硝酸イオンである)、およびポリメチレンジメチルスルフィドチオスルホネートを含む。リンカーは、たとえば、チオスクシンイミドを介して抗体に連結したマレイミドを含んでもよい。
【0133】
薬物は任意の細胞毒性薬物、細胞生長を抑制する薬物または免疫抑制薬物でもよい。実施形態において、リンカーは抗体と薬物を連結し、薬物はリンカーと結合できる機能性基を有する。たとえば、薬物はリンカーと結合できるアミノ基、カルボキシ基、チオール基、ヒドロキシ基、またはケトン基を有してもよい。薬物が直接リンカーに連結する場合、薬物は抗体に連結する前、反応する活性基を有する。
【0134】
有用な薬物の種類は、たとえば、抗チューブリン薬、DNA副溝結合試薬、DNA複製阻害剤、アルキル化試薬、抗生物質、葉酸拮抗薬、抗代謝薬、化学療法増感剤、トポイソメラーゼ阻害剤、ビンカアルカロイドなどを含む。本発明において、薬物-リンカーは一つの簡単な工程でADCの形成に使用することができる。別の実施形態において、二機能性リンカー化合物は二工程または多工程の方法でADCの形成に使用することができる。たとえば、システイン残基が第一の工程でリンカーの反応活性部分と反応し、そして後の工程で、リンカーにおける機能性基が薬物と反応することで、ADCになる。
【0135】
通常、特異的に薬物部分における適切な反応活性基と反応しやすいように、リンカーにおける機能性基を選択する。非限定的な例として、アジ化合物に基づいた部分は特異的な薬物部分における反応性アルキニル基との反応に使用することができる。薬物はアジ基とアルキニル基の間の1,3-双極子を介して付加することで、リンカーに共役結合する。ほかの有用な機能性基は、たとえばケトン類およびアルデヒド類(ヒドラジド類およびアルコキシアミンとの反応に適する)、ホスフィン(アジ基との反応に適する)、イソシアネートおよびイソチオシアネート(アミン類およびアルコール類との反応に適する)、および活性化したエステル類、たとえばN-ヒドロキシスクシンイミドエステル(アミン類およびアルコール類との反応に適する)を含む。これらおよびほかの連結手段は、たとえば「生物カップリング技術」、第二版(Elsevier)に記載されるように、当業者に熟知されている。当業者には、薬物部分およびリンカーの選択性反応について、相補対の反応活性機能基を選択する場合、当該相補対のいずれでも、リンカーにも薬物にも使用することができる。
【0136】
応用
本発明は、本発明の用途、たとえば診断製剤の製造、あるいはCD3関連疾患を予防および/または治療する薬物の製造に使用される用途を提供する。前記CD3関連疾患は炎症疾患、自己免疫疾患などを含み、乾癬、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、多発性硬化症、炎症性腸疾患(たとえばクローン病、潰瘍性大腸炎など)、骨関節炎、関節リウマチ(RA)、リウマチ性関節炎または骨粗鬆症、炎症性線維化(たとえば強皮症、肺線維化および硬変)、喘息(アレルギー性喘息を)、アレルギー反応および癌を含むが、これらに限定されない。
【0137】
薬物組成物
さらに、本発明は組成物を提供する。好適な例において、前記の組成物は薬物組成物で、上記の抗体またはその活性断片あるいはその融合タンパク質またはそのADCまたは相応するCAR-T細胞と、薬学的に許容される担体とを含有する。通常、これらの物質を無毒で不活性で薬学的に許容される水系担体で配合し、pH値は配合される物質の性質および治療しようとする疾患にもよるが、pH値は通常5~8程度、好ましくは6~8程度である。配合された薬物組成物は通常の経路で給与することができ、腫瘍内、腹膜内、静脈内、あるいは局部給与が含まれるが、これらに限定されない。
【0138】
本発明に係る抗体は、ヌクレオチド配列によって細胞内で発現されて細胞治療に使用してもよく、たとえば、前記抗体はキメラ抗原受容体T細胞免疫療法(CAR-T)などに使用することができる。
【0139】
本発明の薬物組成物はそのままCD3タンパク質分子との結合に使用することができるため、CD3関連疾患の予防および治療に有用である。また、ほかの治療剤と併用してもよい。
【0140】
本発明の薬物組成物は、安全有効量(たとえば0.001~99wt%、好ましくは0.01~90wt%、より好ましくは0.1~80wt%)の本発明の上記のモノクローナル抗体(またはその複合体)と薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む。このような担体は、食塩水、緩衝液、ブドウ糖、水、グリセリン、エタノール、およびこれらの組み合せを含むが、これらに限定されない。薬物の製剤は投与形態に相応する。本発明の薬物組成物は、注射剤としてもよく、たとえば生理食塩水またはブドウ糖およびほかの助剤を含有する水溶液で通常の方法によって製造することができる。薬物組成物は、注射剤、溶液の場合、無菌条件で製造する。活性成分の投与量は治療有効量、たとえば毎日約1μg/kg体重~約5mg/kg体重である。また、本発明のポリペプチドはほかの治療剤と併用することが出来る。
【0141】
薬物組成物の使用時、安全有効量の薬物組成物を哺乳動物に施用するが、その安全有効量は、通常、少なくとも約10μg/kg体重で、かつ多くの場合、約50mg/kg体重未満で、好ましくは当該投与量が約10μg/kg体重~約20mg/kg体重である。勿論、具体的な投与量は、さらに投与の様態、患者の健康状況などの要素を考えるべきで、すべて熟練の医者の技能範囲以内である。
【0142】
検出用途およびキット
本発明の抗体は検出に有用で、たとえば検体を検出することによって診断情報を提供することができる。
【0143】
本発明において、使用される検体(サンプル)は細胞、組織検体および生検標本を含む。本発明で用いられる用語「生検」は当業者に既知のすべての種類の生検を含む。そのため、本発明で使用される生検は、たとえば内視鏡方法あるいは器官の穿刺または針刺しによって調製された組織検体を含む。
【0144】
本発明で使用される検体は固定または保存された細胞または組織検体を含む。
【0145】
また、本発明は、本発明の抗体(またはその断片)を含有するキットを提供するが、本発明の一つの好適な例において、前記のキットはさらに容器、使用説明書、緩衝液などを含む。好適な例において、本発明の抗体は検出プレートに固定されてもよい。
【0146】
本発明の主な利点は以下のものを含む。
(1)本発明のCD3抗体は特異的にCD3に結合し、高い生物活性を有する。
(2)本発明のCD3抗体はほかの抗体と二重特異性抗体を構築することができる。
【0147】
以下、具体的な実施例を合わせ、さらに本発明を陳述する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。以下の実施例で詳細な条件が示されていない実験方法は、通常、たとえばSambrookら、「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」(ニューヨーク、コールド・スプリング・ハーバー研究所出版社、1989) に記載の条件などの通常の条件に、あるいは、メーカーのお薦めの条件に従う。特に断らない限り、%と部は、重量で計算された。
【実施例1】
【0148】
ヒト化CD3モノクローナル抗体の生成
組み換えヒトCD3Eタンパク質(C00E、Novoprotein)でBalb/Cマウスを免疫させ、免疫完了後、B細胞を取ってファージディスプレイライブラリーを構築し、スクリーニングによって候補抗体を得、構造シミュレーションおよびロジカルな設計により、一連のヒト化抗体を得た。得られたヒト化抗体の重鎖可変領域はhuVH1、huVH2、huVH3およびhuVH4で、得られたヒト化抗体の軽鎖可変領域はhuVL1、huVL2、huVL3およびhuVL4である。ヒト化配列のVHとVLは(G4S)3リンカーを介して連結し、C末端に6HISタグが付加され、一本鎖抗体(scFv)の様態に構築し、大腸菌によって発現させ、ニッケルカラムによって精製して一本鎖抗体のタンパク質を得た。得られたヒト化抗体の重鎖可変領域(VH)、軽鎖可変領域(VL)の配列およびCDRは以下の通りである。
【0149】
ここで、VH-CDR1およびVH-CDR2はいずれも同様で、配列が以下の通りである。
【0150】
VH-CDR1:GFTFNKYA (配列番号1)
VH-CDR2:IRSKYNNYAT (配列番号2)
VH-CDR3の配列はいずれも異なり、配列が以下の通りである。
huVH5-CDR3:HGNLQNSYISYWAY (配列番号29)
huVH4-CDR3:HGNFGNTYISYWAY (配列番号3)
huVH3-CDR3:HGNFGNSYISYWQY (配列番号10)
huVH2-CDR3:HGNFGNSYISYWRY (配列番号15)
huVH1-CDR3:HGNFGNSYISYWEY (配列番号20)
ここで、huVL1-VL4のVL-CDR1はいずれも同様で、配列が以下の通りである。
【0151】
VL-CDR1:TGAVTSGNY (配列番号4)
huVL5のVL5-CDR1は変わり、配列が以下の通りである。
【0152】
huVL5-CDR1:TGPVTGGNY (配列番号30)
ここで、huVL1-VL5のVL-CDR2はいずれも同様で、配列が以下の通りである。
【0153】
VL-CDR2:GTK (配列番号5)
VL-CDR3の配列はいずれも異なり、配列が以下の通りである。
【0154】
huVL5-CDR3:VLWESNRW (配列番号31)
huVL4-CDR3:VLWYSKRW (配列番号6)
huVL3-CDR3:VLWRSNRW (配列番号11)
huVL2-CDR3:VLWYSGRW (配列番号16)
huVL1-CDR3:VLWNSNRW (配列番号21)
ヒト化CD3抗体の重鎖可変領域huVH5 (配列番号32)
EVQLVESGGGLVQPGGSLKLSCAASGFTFNKYAMNWVRQAPGKGLEWVARIRSKYNNYATYYADSVKDRFTISRDDSKNTAYLQMNNLKTEDTAVYYCVRHGNLQNSYISYWAYWGQGTLVTVSS
ヒト化CD3抗体の重鎖可変領域huVH4 (配列番号7)
EVQLVESGGGLVQPGGSLKLSCAASGFTFNKYAMNWVRQAPGKGLEWVARIRSKYNNYATYYADSVKDRFTISRDDSKNTAYLQMNNLKTEDTAVYYCVRHGNFGNSYISYWEYWGQGTLVTVSS
ヒト化CD3抗体の重鎖可変領域huVH3 (配列番号12)
EVQLVESGGGLVQPGGSLKLSCAASGFTFNKYAMNWVRQAPGKGLEWVARIRSKYNNYATYYADSVKDRFTISRDDSKNTAYLQMNNLKTEDTAVYYCVRHGNFGNSYISYWRYWGQGTLVTVSS
ヒト化CD3抗体の重鎖可変領域huVH2 (配列番号17)
EVQLVESGGGLVQPGGSLKLSCAASGFTFNKYAMNWVRQAPGKGLEWVARIRSKYNNYATYYADSVKDRFTISRDDSKNTAYLQMNNLKTEDTAVYYCVRHGNFGNSYISYWQYWGQGTLVTVSS
ヒト化CD3抗体の重鎖可変領域huVH1 (配列番号22)
EVQLVESGGGLVQPGGSLKLSCAASGFTFNKYAMNWVRQAPGKGLEWVARIRSKYNNYATYYADSVKDRFTISRDDSKNTAYLQMNNLKTEDTAVYYCVRHGNFGNTYISYWAYWGQGTLVTVSS
ヒト化CD3抗体の軽鎖可変領域huVL5 (配列番号33)
QTVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCGSSTGPVTGGNYPNWVQQKPGQAPRGLIGGTKFLAPGTPARFSGSLLGGKAALTLSGVQPEDEAEYYCVLWESNRWVFGGGTKLTVL
ヒト化CD3抗体の軽鎖可変領域huVL4 (配列番号8)
QTVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCGSSTGAVTSGNYPNWVQQKPGQAPRGLIGGTKFLAPGTPARFSGSLLGDKAALTLSGVQPEDEAEYYCVLWNSNRWVFGGGTKLTVL
ヒト化CD3抗体の軽鎖可変領域huVL3 (配列番号13)
QTVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCGSSTGAVTSGNYPNWVQQKPGQAPRGLIGGTKFLAPGTPARFSGSLLGGKAALTLSGVQPEDEAEYYCVLWYSGRWVFGGGTKLTVL
ヒト化CD3抗体の軽鎖可変領域huVL2 (配列番号18)
QTVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCGSSTGAVTSGNYPNWVQQKPGQAPRGLIGGTKFLAPGTPARFSGSLLGGKAALTLSGVQPEDEAEYYCVLWRSNRWVFGGGTKLTVL
ヒト化CD3抗体の軽鎖可変領域huVL1 (配列番号23)
QTVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCGSSTGAVTSGNYPNWVQQKPGQAPRGLIGGTKFLAPGTPARFSGSLLGGKAALTLSGVQPEDEAEYYCVLWYSKRWVFGGGTKLTVL
ヒト化CD3一本鎖抗体huVH5VL5(配列番号34)
QTVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCGSSTGPVTGGNYPNWVQQKPGQAPRGLIGGTKFLAPGTPARFSGSLLGGKAALTLSGVQPEDEAEYYCVLWESNRWVFGGGTKLTVLTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
ヒト化CD3一本鎖抗体huVH4VL4(配列番号9)
EVQLVESGGGLVQPGGSLKLSCAASGFTFNKYAMNWVRQAPGKGLEWVARIRSKYNNYATYYADSVKDRFTISRDDSKNTAYLQMNNLKTEDTAVYYCVRHGNFGNSYISYWEYWGQGTLVTVSSGGGGSGGGGSGGGGSQTVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCGSSTGAVTSGNYPNWVQQKPGQAPRGLIGGTKFLAPGTPARFSGSLLGDKAALTLSGVQPEDEAEYYCVLWNSNRWVFGGGTKLTVL
ヒト化CD3一本鎖抗体huVH3VL3(配列番号14)
EVQLVESGGGLVQPGGSLKLSCAASGFTFNKYAMNWVRQAPGKGLEWVARIRSKYNNYATYYADSVKDRFTISRDDSKNTAYLQMNNLKTEDTAVYYCVRHGNFGNSYISYWRYWGQGTLVTVSSGGGGSGGGGSGGGGSQTVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCGSSTGAVTSGNYPNWVQQKPGQAPRGLIGGTKFLAPGTPARFSGSLLGGKAALTLSGVQPEDEAEYYCVLWYSGRWVFGGGTKLTVL
ヒト化CD3一本鎖抗体huVH2VL2(配列番号19)
EVQLVESGGGLVQPGGSLKLSCAASGFTFNKYAMNWVRQAPGKGLEWVARIRSKYNNYATYYADSVKDRFTISRDDSKNTAYLQMNNLKTEDTAVYYCVRHGNFGNSYISYWQYWGQGTLVTVSSGGGGSGGGGSGGGGSQTVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCGSSTGAVTSGNYPNWVQQKPGQAPRGLIGGTKFLAPGTPARFSGSLLGGKAALTLSGVQPEDEAEYYCVLWRSNRWVFGGGTKLTVL
ヒト化CD3一本鎖抗体huVH1VL1(配列番号24)
EVQLVESGGGLVQPGGSLKLSCAASGFTFNKYAMNWVRQAPGKGLEWVARIRSKYNNYATYYADSVKDRFTISRDDSKNTAYLQMNNLKTEDTAVYYCVRHGNFGNTYISYWAYWGQGTLVTVSSGGGGSGGGGSGGGGSQTVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCGSSTGAVTSGNYPNWVQQKPGQAPRGLIGGTKFLAPGTPARFSGSLLGGKAALTLSGVQPEDEAEYYCVLWYSKRWVFGGGTKLTVL
【実施例2】
【0155】
CD3抗体の親和性検出
本実施例は主に一本鎖抗体の様態のCD3抗体とヒトおよびサル組み換えCD3Eタンパク質の親和の検出の状況を記述する。
【0156】
2.1 ヒトCD3タンパク質との親和
ELISAによってCD3抗体と組み換えhCD3タンパク質(CP19、Novoprotein)の親和を測定し、組み換えhCD3をプレートにコーティングし、CD3抗体を10倍勾配(20μg/mlから)で希釈したが、
図1を参照する。
【0157】
【0158】
2.2 サルCD3タンパク質との親和
ELISAによってCD3抗体と組み換えサルCD3タンパク質(CW07、Novoprotein)の親和を測定し、組み換えサルCD3をプレートにコーティングし、CD3抗体を10倍勾配(20μg/mlから)で希釈したが、
図2を参照する。
【0159】
【実施例3】
【0160】
全長抗体およびhuVH5VL5の二重特異性抗体の構築
CD3の全長抗体を構築し、重鎖可変領域と重鎖定常領域hIgG1を融合させ、軽鎖可変領域と軽鎖定常領域κ鎖を融合させた。得られたCD3の全長抗体はそれぞれCQ50(huVH1およびhuVL1を含む)、CQ51(huVH2およびhuVL2を含む)、CQ52(huVH3およびhuVL3を含む)、CQ53(huVH4およびhuVL4を含む)およびCQ54(huVH5およびhuVL5)である。市販薬品のOKT3の可変領域を選んでhIgG1と融合させ、対照抗体とした。関連配列は以下の通りである。
【0161】
CD3全長抗体CQ54の重鎖(配列番号35)
EVQLVESGGGLVQPGGSLKLSCAASGFTFNKYAMNWVRQAPGKGLEWVARIRSKYNNYATYYADSVKDRFTISRDDSKNTAYLQMNNLKTEDTAVYYCVRHGNLQNSYISYWAYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
CD3全長抗体CQ54の軽鎖(配列番号36)
QTVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCGSSTGPVTGGNYPNWVQQKPGQAPRGLIGGTKFLAPGTPARFSGSLLGGKAALTLSGVQPEDEAEYYCVLWESNRWVFGGGTKLTVLTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
hIgG1定常領域(配列番号25)
ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
κ鎖定常領域(配列番号26)
LTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
OKT3抗体の重鎖(配列番号27)
QVQLQQSGAELARPGASVKMSCKASGYTFTRYTMHWVKQRPGQGLEWIGYINPSRGYTNYNQKFKDKATLTTDKSSSTAYMQLSSLTSEDSAVYYCARYYDDHYCLDYWGQGTTLTVSSAKTTAPSVYPLAPVCGGTTGSSVTLGCLVKGYFPEPVTLTWNSGSLSSGVHTFPAVLQSDLYTLSSSVTVTSSTWPSQSITCNVAHPASSTKVDKKIEPRPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
OKT3抗体の軽鎖(配列番号28)
QIVLTQSPAIMSASPGEKVTMTCSASSSVSYMNWYQQKSGTSPKRWIYDTSKLASGVPAHFRGSGSGTSYSLTISGMEAEDAATYYCQQWSSNPFTFGSGTKLEINRADTAPTVSIFPPSSEQLTSGGASVVCFLNNFYPKDINVKWKIDGSERQNGVLNSWTDQDSKDSTYSMSSTLTLTKDEYERHNSYTCEATHKTSTSPIVKSFNRNEC
【0162】
CD3抗体の現在の主な応用は二重特異性抗体およびアゴニスト性抗体にあるため、ヒト化CD3抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域の配列(huVH5およびhuVL5)を利用し、柔軟性リンカー(GGGGS)を介してCD19抗体のscFvと連結し、CD3とCD19を標的とする二重特異性抗体を構築したが、SC30Aと名付けた。ここで、CD19はAmgenの市販の二重特異性抗体系薬物ブリナツモマブ(blinatumomab)由来のもので、同時にブリナツモマブ(BLMOAと名付けた)を構築して対照抗体とした。
【0163】
CD3とCD19の二重特異性抗体SC30A(配列番号37)
DIQLTQSPASLAVSLGQRATISCKASQSVDYDGDSYLNWYQQIPGQPPKLLIYDASNLVSGIPPRFSGSGSGTDFTLNIHPVEKVDAATYHCQQSTEDPWTFGGGTKLEIKGGGGSGGGGSGGGGSQVQLQQSGAELVRPGSSVKISCKASGYAFSSYWMNWVKQRPGQGLEWIGQIWPGDGDTNYNGKFKGKATLTADESSSTAYMQLSSLASEDSAVYFCARRETTTVGRYYYAMDYWGQGTTVTVSSGGGGSEVQLVESGGGLVQPGGSLKLSCAASGFTFNKYAMNWVRQAPGKGLEWVARIRSKYNNYATYYADSVKDRFTISRDDSKNTAYLQMNNLKTEDTAVYYCVRHGNLQNSYISYWAYWGQGTLVTVSSGGGGSGGGGSGGGGSQTVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCGSSTGPVTGGNYPNWVQQKPGQAPRGLIGGTKFLAPGTPARFSGSLLGGKAALTLSGVQPEDEAEYYCVLWESNRWVFGGGTKLTVL
BLMOA(配列番号38)
DIQLTQSPASLAVSLGQRATISCKASQSVDYDGDSYLNWYQQIPGQPPKLLIYDASNLVSGIPPRFSGSGSGTDFTLNIHPVEKVDAATYHCQQSTEDPWTFGGGTKLEIKGGGGSGGGGSGGGGSQVQLQQSGAELVRPGSSVKISCKASGYAFSSYWMNWVKQRPGQGLEWIGQIWPGDGDTNYNGKFKGKATLTADESSSTAYMQLSSLASEDSAVYFCARRETTTVGRYYYAMDYWGQGTTVTVSSGGGGSDIKLQQSGAELARPGASVKMSCKTSGYTFTRYTMHWVKQRPGQGLEWIGYINPSRGYTNYNQKFKDKATLTTDKSSSTAYMQLSSLTSEDSAVYYCARYYDDHYCLDYWGQGTTLTVSSVEGGSGGSGGSGGSGGVDDIQLTQSPAIMSASPGEKVTMTCRASSSVSYMNWYQQKSGTSPKRWIYDTSKVASGVPYRFSGSGSGTSYSLTISSMEAEDAATYYCQQWSSNPLTFGAGTKLELK
【実施例4】
【0164】
全長抗体の親和力の検出
本実施例は全長抗体とヒト・サルタンパク質の結合、およびヒトCD3+細胞系Jurkatとの親和の状況に関する。
【0165】
4.1 Fortebioによる全長CD3抗体とヒトCD3Eタンパク質の親和の検出
fortebioの方法を使用し、プロテインAセンサーを選択し、CD3抗体を固定化させ、CD3Eを勾配希釈し、100nMから7段の勾配で2倍希釈し、親和力を検出したが、
図3に示す。
【0166】
算出された親和力は表3に示す。
【表3】
算出されたCQ50の親和力は5.16×10
-8Mで、CQ51の親和力は6.24×10
-8Mで、
CQ52の親和力は3.11×10
-9Mで、CQ53の親和力は2.02×10
-9Mで、
CQ53の親和力は0.97×10
-9Mである。
【0167】
4.2 ELISAによる全長CD3抗体とサルCD3Eの結合の検出
結果を
図4に示す。
【0168】
CQ50で検出されたEC50=0.2004μg/mlで、
CQ51で検出されたEC50=0.3385μg/mlで、
CQ52で検出されたEC50=0.195μg/mlで、
CQ53で検出されたEC50=0.0823μg/mlで、
CQ54で検出されたEC50=0.375μg/mlである。
【0169】
検出結果から、CQ50、CQ51、CQ52、CQ53およびCQ54はサルCD3Eに結合できたが、OKT3に結合できなかったことが示された。
【0170】
4.3 ヒトCD3陽性細胞との結合
4×10
5個のJurkat細胞を取り、勾配希釈されたCD3抗体を入れ、1hインキュベートした後、PBSで3回洗浄し、Anti-hFC-APC(Jackson immunologyから購入)を入れ、フローサイトメーターにセットして検出した。結果から作成されたS曲線は
図5を参照する。
【0171】
EC50を計算したところ、
CQ50は0.01947μg/mlで、OKT3は0.01μg/mlで、両者は細胞との親和が大きく変わらない。
【0172】
CQ51は0.0158μg/mlで、OKT3は0.01μg/mlで、両者は細胞との親和が大きく変わらない。
【0173】
CQ52は0.02167μg/mlで、OKT3は0.01μg/mlで、両者は細胞との親和が大きく変わらない。
【0174】
CQ53は0.013μg/mlで、OKT3は0.01μg/mlで、両者は細胞との親和が大きく変わらない。
【0175】
CQ54は0.023μg/mlで、OKT3は0.01μg/mlで、両者は細胞との親和が大きく変わらない。
【実施例5】
【0176】
全長CD3抗体のエピトープの初歩的な測定
全長CD3抗体とOKT3が機能的に大きく変わらないことから、本実施例は主に全長CD3抗体とOKT3抗体はCD3Eに結合するエピトープが一致するか調べた。具体的に、全長CD3抗体でプレートをコーティングし、所定の量のHISタグのCD3E(C578 Novoprotein)タンパク質を入れ、ELISAによって検出されたEC90値を参考に、勾配希釈されたOKT3抗体を入れ、抗HIS二次抗体(Biolegendから購入)を入れて検出したが、結果を
図6に示す。
【0177】
結果から、CQ50とOKT3の間に競争関係がなく、二つの抗体のエピトープが一致せず、
CQ51とOKT3の間に競争関係がなく、二つの抗体のエピトープが一致せず、
CQ52とOKT3の間に競争関係がなく、二つの抗体のエピトープが一致せず、
CQ53とOKT3の間に競争関係がなく、二つの抗体のエピトープが一致せず、
CQ54とOKT3の間に競争関係がなく、二つの抗体のエピトープが一致しない。
【実施例6】
【0178】
全長抗体によって誘導されるPBMCの活性化
本実施例は、CD3抗体でPBMCを活性化させて培養する際の、早期T細胞活性化マーカーであるCD69の発現およびIFNγ分泌における変化に関する。具体的に、リンパ球分離液で志願者のPBMCを分離し、1×10
6/mlの密度で96ウェルプレートに接種し、10ng/mlのCD3抗体を入れ、一晩培養し、フローサイトメトリーによってCD69+T細胞の比率を検出した。結果を下記
図7に示す。
【0179】
結果から、OKT3およびCQ54はいずれもT細胞を活性化させることができ、かつCD69陽性率において、CQ54は活性化後の陽性率が65.8%、OKT3は62.5%に達し、二つの抗体はT細胞の早期活性化において大きく変わらないことが示された。
【0180】
PBMCを分離した後、10ng/mlのCD3抗体を入れ、培養して24hおよび48hでサンプリングし、IFNγ ELISAキットによってIFNγの発現を検出したが、結果を
図8に示す。
【0181】
結果から、CQ54とOKT3はIFNγ分泌の誘導において、効果が大きく変わらないことがわかった。
【実施例7】
【0182】
二重特異性抗体の親和力の検出
本実施例は二重特異性抗体のヒトの二つの標的タンパク質との結合、サルCD3タンパク質との結合に関する。
【0183】
fortebioの方法を使用し、プロテインAセンサーを選択し、それぞれFCタグの組み換えヒトCD3E(CP19 Novoprotein)およびヒトCD19(C572 Novoprotein)を固定化させ、二重特異性抗体SC30Aを勾配希釈し、検出された親和力の図は
図9(AおよびB)に示す。
【0184】
【0185】
結果から、二重特異性抗体SC30Aは二つの標的のいずれにも親和性があることが示された。
【0186】
ELISAによって二重特異性抗体(SC30AおよびBLMOA)とサルCD3Eの結合を検出したが、結果を
図10に示す。
【0187】
検出結果から、SC30AはサルCD3Eに結合することができ、検出されたEC50=1.243μg/mlで、参照分子BLMOAは結合できなかったことが示された。
【実施例8】
【0188】
二重特異性抗体によるPBMCの早期活性化の誘導
本実施例は、CD3の二重特異性抗体でPBMCを活性化させて培養する際の、早期T細胞活性化マーカーであるCD69の発現の変化に関する。具体的に、リンパ球分離液で志願者のPBMCを分離し、1×10
6/mlの密度で96ウェルプレートに接種し、10ng/mlのCD3抗体を入れ、一晩培養し、フローサイトメトリーによってCD69+T細胞の比率を検出した。結果を
図11に示す。
【0189】
結果から、SC30AおよびBLMOAはいずれもT細胞を活性化させることができ、かつCD69陽性率において、SC30Aは活性化後の陽性率が20.7%、BLMOAは21.9%に達し、二つの抗体はT細胞の早期活性化において大きく変わらないことが示された。
【実施例9】
【0190】
二重特異性抗体が仲介する腫瘍細胞に対する殺傷
本実施例は、T細胞の活性化と非活性化の場合の、二重特異性抗体が仲介するT細胞によるCD19+腫瘍細胞Rajiに対する殺傷の状況に関する。具体的に、志願者の全血を取り、リンパ球分離液でPBMCを分離し、10ng/mlのOKT3および100ng/mlのIL-2培養細胞を入れ、3日ごとに細胞を計数し、培養して10日目で、細胞の表現型を検出し、CD3+細胞の比率が90超になったことを確認し、エフェクター標的比2:1で活性化されたPBMCおよびRaji-GFP細胞を入れ、同時に勾配希釈された二重特異性抗体を入れ、濃度がそれぞれ50ng/ml、5ng/mlおよび500pg/mlであった。一晩殺傷させ、フローサイトメトリーおよび蛍光スキャンの手段により、殺傷効果を検出した。
【0191】
9.1 フローサイトメトリーによる検出
結果は
図12および表5に示すように、50ng/mlの実験では、三名の志願者の実験結果で、BLMOAとSC30Aは大きく変わらなかったが、500pg/mlの実験では、BLMOAが仲介する殺傷の最終的に残ったRaji-GFPの比率がそれぞれ6.9%、19.9%、2.8%で、一方、SC30A群では、Raji-GFPの残留はそれぞれ0.3%、2.0%および0.0%で、5ng/mlの実験では、BLMOAが仲介する殺傷の最終的に残ったRaji-GFPの比率がそれぞれ1.6%、6.8%、0.6%で、SC30A群では、Raji-GFPの残留はそれぞれ0.3%、1.4%および0.0%であった。
【表5】
【0192】
上記のように、SC30Aは活性化PBMCによる腫瘍細胞の殺傷の仲介において、BLMOAよりも優れたことが示された。
【0193】
9.2 蛍光スキャンによる検出
全ウェルを蛍光スキャンし、Raji-GFPの残留を観察した。
【0194】
結果は
図13に示すように、図における明るい白斑は緑色の蛍光で、明らかに、500pg/mlのBLMOA処理では、Raji-GFPの明るい白斑が多く残ったが、500pg/mlのSC30A処理では、Raji-GFPの明るい白斑がほとんど観察されなかったことがわかる。そのため、SC30Aが仲介する殺傷能力がBLMOAよりも良い。
【0195】
分離されたPBMCは、活性化されていない場合、そのままエフェクター標的比5:1でRaji-GFPと混合し、同時に勾配希釈された二重特異性抗体を入れ、濃度がそれぞれ50ng/ml、5ng/mlおよび500pg/mlであった。48h殺傷させ、殺傷効率の図は
図14に示す。
【実施例10】
【0196】
B細胞の二重特異性抗体が仲介するPBMC活性化への影響
本実施例は二重特異性抗体の安全性の研究に関し、標的細胞の存在と不在の二つの状態において、二重特異性抗体のT細胞に対する活性化の様子を観察した。具体的に、PBMCを分離し、CD19抗体でコーティングされた磁気ビーズを使用し、PBMCにおけるCD19+B細胞を分離・除去し、B細胞-PBMC群を作り、同時にそれに基づき、5%のRaji細胞を補充し、B細胞-PBMC Raji群を作り、何らの処理もない正常なPBMC群とともにいずれもSC30Aを入れて培養し、5日培養した後、細胞を計数し、細胞増殖の状況を検出した。結果は
図15に記載の通りである。
【0197】
上記結果から、SC30AのPBMCに対する活性化は標的細胞に依存することが示された。
【実施例11】
【0198】
二重特異性抗体が仲介する細胞内シグナルの標的細胞への依存
本実施例は二重特異性抗体によって誘導されるT細胞におけるNFAT転写因子の下流シグナルの変化の様子、および当該シグナルもCD19+細胞に依存するかということに関する。具体的に、1株のJurkat-NFAT-Lucレポーター遺伝子細胞(XCC20 Novoprotein)を構築し、当該細胞に40ng/mlのSC30Aを入れ、一つの群では標的細胞Rajiを入れ、一つの群では標的細胞を入れず、4h反応させた後、細胞を分解させてルシフェラーゼの活性を検出した。検出結果は
図16に示す。
【0199】
実験結果から、Raji細胞を入れた場合、シグナルが明らかにRajiを入れなかった場合よりも強く、SC30Aの活性化シグナルが標的細胞に依存することがわかる。
【0200】
標的細胞を含有する場合、SC30Aの活性を検出したが、結果を
図17に示す。
【0201】
レポーター遺伝子法により、SC30Aの活性を検出し、算出されたEC50が1.359ng/mlであった。
【0202】
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、当業者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の形態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。
【配列表】
【国際調査報告】