(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】改善させたプライム編集システム
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20240829BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20240829BHJP
【FI】
C12N15/09 110
A01H1/00 A
C12N15/113 Z ZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024514557
(86)(22)【出願日】2022-09-06
(85)【翻訳文提出日】2024-04-15
(86)【国際出願番号】 CN2022117258
(87)【国際公開番号】W WO2023030534
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】202111039979.X
(32)【優先日】2021-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522350368
【氏名又は名称】スージョウ チー バイオデザイン バイオテクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Suzhou Qi Biodesign biotechnology Company Limited
【住所又は居所原語表記】Unit E598, 5th Floor, Lecheng Plaza, Phase II, Biomedical Industrial Park, No. 218, Sangtian Street, Suzhou Industrial Park, Suzhou Area, China (Jiangsu) Pilot Free Trade Zone, Jiangsu 215127, China
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ツァイシア ガオ
(72)【発明者】
【氏名】ユエン ヅォン
(57)【要約】
本発明は、改良したプライム編集システム及び前記システムでの遺伝子編集を実施するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物ゲノムの標的改変のためのプライム編集システムであって、
i)プライム編集融合タンパク質、及び/又はプライム編集融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物、ここでプライム編集融合タンパク質はCRISPRニッカーゼ及び逆転写酵素を含む;及び/又は
ii)少なくとも1つのpegRNA、及び/又は少なくとも1つのpegRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物、
を含み、
ここで、少なくとも1つのpegRNAが、5’から3’の方向に、ガイド配列、足場配列、逆転写(RT)鋳型配列、及びプライマー結合部位(PBS)配列を含み、
少なくとも1つのpegRNAが、融合タンパク質と複合体を形成し、融合タンパク質をゲノム内の標的配列に標的化することができ、その結果標的配列にニックを形成する、
植物ゲノムの標的改変のためのプライム編集システム。
【請求項2】
CRISPRニッカーゼが、例えば配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む、Cas9ニッカーゼである、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
逆転写酵素が、M-MLV逆転写酵素又はその機能的バリアントである、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
(a)逆転写酵素が、F155Y、F155V、F156Y、D524N、D200Cのいずれか1つから選択される変異を含む、ここでアミノ酸位置は配列番号3に関する、
(b)逆転写酵素の関連配列が消失する、及び/又は
(c)逆転写酵素のRNase Hドメインが変異又は消失する、
請求項1から3までのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
逆転写酵素が、配列番号9~15のいずれか1つで示される配列を含む、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
逆転写酵素、例えばM-MLV逆転写酵素、又はそれらの機能的バリアントが、N末端又はC末端でヌクレオカプシドタンパク質(NC)、プロテアーゼ(PR)、又はインテグラーゼ(IN)と、融合タンパク質中で直接もしくはリンカーを介して融合される、請求項1から5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
ヌクレオカプシドタンパク質(NC)が、配列番号6で示されるアミノ酸配列を含み、又はプロテアーゼ(PR)が、配列番号7で示されるアミノ酸配列を含み、又はインテグラーゼ(IN)が、配列番号8で示されるアミノ酸配列を含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
逆転写酵素が、N末端でヌクレオカプシドタンパク質(NC)と直接又はリンカーを介して融合し、かつ好ましくはRNase Hドメインを消失させたM-MLV逆転写酵素の機能的フラグメントが、N末端でヌクレオカプシドタンパク質(NC)と直接又はリンカーを介して融合する、請求項6又は7に記載のシステム。
【請求項9】
pegRNAのガイド配列を、標的配列と十分な配列同一性を有するように配置し、塩基対形成によって標的配列の相補鎖に結合して、配列特的標的化を得ることができる、請求項1から8までのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
pegRNAの足場配列が、配列番号17で示される配列を含む、請求項1から9までのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
プライマー結合配列が、標的配列の少なくとも一部に相補的であるように構成され、かつ好ましくは、プライマー結合配列が、ニックによって生じた3’遊離一本鎖の少なくとも一部に、特に3’遊離一本鎖の3’末端でヌクレオチド配列に相補的である、請求項1から10までのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項12】
プライマー結合配列が、約18~52℃、好ましくは約24~36℃、より好ましくは約28~32℃、及び最も好ましくは約30℃のTm(融解温度)を有する、請求項1から11までのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項13】
RT鋳型配列が、ニックの下流の配列に対応するように構成され、所望の改変を含み、かつ改変が、1つ以上のヌクレオチドの置換、欠失、及び/又は付加を含む、請求項1から12までのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
プライム編集融合タンパク質が、配列番号19で示されるアミノ酸配列を含む、請求項1から13までのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載のプライム編集システムを少なくとも1つの細胞に導入し、それにより少なくとも1つの細胞のゲノム内の標的配列に改変をもたらすことを含む、遺伝子組換え植物を生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子操作の分野に関する。特に、本発明は、改善させたプライム編集システム及びプライム編集システムでの遺伝子編集方法に関する。
【0002】
背景技術
多くの重要な農業的形質はゲノム内の配列に依存する。ゲノムの特定の配列を方向的に変えることにより、新たな遺伝形質を生物に付与する可能性があり、病気の治療及び品種改良の可能性をも提供する。現在、特定の配列の編集は、ゲノム編集技術(例えば、CRISPR/Cas技術)により達せられてよく、細胞の修復経路が活性化されて傷害部位を修復される。プライム編集(PE)システムは、標的部位の配列を正確に変更できるCRISPR/Cas技術に基づくシステムである。このシステムは次の2つの部分から構成される:1)非標的鎖ニッキング活性を有するCas9ヌクレアーゼ(Cas9-H840A)と逆転写酵素(RT)とを含む融合タンパク質、及び2)修復鋳型(RT鋳型)と3’末端の遊離一本鎖のプライマー結合部位(PBS)とを有するpegRNA(プライム編集gRNA)。このシステムの動作原理は、PBSが、Cas9-H840Aによって生じた遊離一本鎖に結合して融合タンパク質を誘導して指定した部位に結合すること、指定した変異を含む一本鎖DNA配列を、所与のRT鋳型に従って転写すること、かつ標的部位に位置するゲノム内のDNA配列のあらゆる変更を達することができることである。
【0003】
現在の研究は、PEの全体的な編集効率が低く、種々の側面で改善が必要であることを示している。M-MLVタンパク質を改変すること又は他の関連タンパク質と融合することによりPEタンパク質の安定性又は発現を改善することは、PE編集効率を改善するための効果的な方法である。
【0004】
発明の要約
本発明は、i)逆転写酵素の点突然変異、又は冗長ドメイン、例えば逆転写酵素からのRNase Hドメインの欠失、ii)逆転写酵素とヌクレオカプシドタンパク質NCとの融合、又はi)とii)との組み合わせによる、プライム編集効率の改善に関する。
【0005】
本発明は、次の実施形態を少なくとも含む。
【0006】
実施形態1: 植物ゲノムの標的改変のためのプライム編集システムであって、
i)プライム編集融合タンパク質、及び/又はプライム編集融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物、ここで、プライム編集融合タンパク質がCRISPRニッカーゼ及び逆転写酵素を含む;及び/又は
ii)少なくとも1つのpegRNA及び/又は少なくとも1つのpegRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物、
を含み、
ここで、少なくとも1つのpegRNAが、5’から3’の方向に、ガイド配列、足場配列、逆転写(RT)鋳型配列、及びプライマー結合部位(PBS)配列を含み、
少なくとも1つのpegRNAが、融合タンパク質と複合体を形成し、融合タンパク質をゲノム内の標的配列に標的化することができ、その結果標的配列にニックが形成される、
植物ゲノムの標的改変のためのプライム編集システム。
【0007】
実施形態2: CRISPRニッカーゼが、例えば配列番号2で示されるアミノ酸配列を含む、Cas9ニッカーゼである、実施形態1に記載のシステム。
【0008】
実施形態3: 逆転写酵素が、M-MLV逆転写酵素又はその機能的バリアントである、実施形態1又は2に記載のシステム。
【0009】
実施形態4: (a)逆転写酵素が、F155Y、F155V、F156Y、D524N、D200Cのいずれか1つから選択される変異を含み、ここで、アミノ酸位置は配列番号3に関する、
(b)逆転写酵素の関連配列(connection sequence)が欠失する、及び/又は
(c)逆転写酵素のRNase Hドメインが変異又は欠失する、
実施形態1から3までのいずれかに記載のシステム。
【0010】
実施形態5: 逆転写酵素が、配列番号9~15のいずれか1つで示される配列を含む、実施形態4に記載のシステム。
【0011】
実施形態6: 逆転写酵素、例えばM-MLV逆転写酵素、又はそれらの機能的バリアントが、N末端又はC末端でヌクレオカプシドタンパク質(NC)、プロテアーゼ(PR)、又はインテグラーゼ(IN)と、融合タンパク質中で直接もしくはリンカーを介して融合する、実施形態1から5のいずれかに記載のシステム。
【0012】
実施形態7: ヌクレオカプシドタンパク質(NC)が、配列番号6で示されるアミノ酸配列を含み、又はプロテアーゼ(PR)が、配列番号7で示されるアミノ酸配列を含み、又はインテグラーゼ(IN)が、配列番号8で示されるアミノ酸配列を含む、実施形態6に記載のシステム。
【0013】
実施形態8: 逆転写酵素が、N末端でヌクレオカプシドタンパク質(NC)と直接又はリンカーを介して融合し、かつ好ましくはRNase Hドメインを欠失させたM-MLV逆転写酵素の機能的フラグメントが、N末端でヌクレオカプシドタンパク質(NC)と直接又はリンカーを介して融合する、実施形態6又は7に記載のシステム。
【0014】
実施形態9: pegRNAのガイド配列が、標的配列と十分な配列同一性を有するように構成され、したがって、塩基対形成によって標的配列の相補鎖に結合して、配列特的標的化を得ることができる、実施形態1から8までのいずれかに記載のシステム。
【0015】
実施形態10: pegRNAの足場配列が、配列番号17で示される配列を含む、実施形態1から9までのいずれかに記載のシステム。
【0016】
実施形態11: プライマー結合配列が、標的配列の少なくとも一部に相補的であるように構成され、かつ好ましくは、プライマー結合配列が、ニックによって生じた3’遊離一本鎖の少なくとも一部に、特に3’遊離一本鎖の3’末端でヌクレオチド配列に相補的である、実施形態1から10までのいずれかに記載のシステム。
【0017】
実施形態12: プライマー結合配列が、約18~52℃、好ましくは約24~36℃、より好ましくは約28~32℃、及び最も好ましくは約30℃のTm(融解温度)を有する、実施形態1から11までのいずれかに記載のシステム。
【0018】
実施形態13: RT鋳型配列が、ニックの下流の配列に対応するように構成され、所望の改変を含み、かつ改変が、1つ以上のヌクレオチドの置換、欠失、及び/又は付加を含む、実施形態1から12までのいずれかに記載のシステム。
【0019】
実施形態14: プライム編集融合タンパク質が、配列番号19で示されるアミノ酸配列を含む、実施形態1から13までのいずれかに記載のシステム。
【0020】
実施形態15: 実施形態1から14のいずれかに記載のプライム編集システムを少なくとも1つの細胞に導入し、それにより少なくとも1つの細胞のゲノム内の標的配列に改変をもたらすことを含む、遺伝子組換え植物を生産する方法。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、種々の改変したPPE構築物を示す。
【
図2】
図2は、フローサイトメトリー分析によって得られ、イネのプロトプラストにおけるBFP-GFP報告システムによってスクリーニングされた種々の構築物の編集効率を示す。
【
図3】
図3は、改善させた編集効率を有するスクリーニング済み構築物PPE-NCv1、PPE-NCv2、及びPPE-ΔRNase HをpegRNAでイネのプロトプラスト細胞に同時形質転換した後にアンプリコン配列解析によって得られた種々の内因性試験部位に対するプライム編集システムの編集効率を示す。
【
図4】
図4は、PPE-NCv1、PPE-ΔRNase H、及び融合NCと欠失RNase Hとの双方を組み合わせて構築した構築物ePPEを、pegRNAでイネのプロトプラスト細胞にそれぞれ同時形質転換した後にアンプリコン配列解析によって得られた種々の内因性試験部位に対するプライム編集システムの編集効率を示す。
【
図5】
図5は、改善させた編集効率を有するPPEタンパク質のイネプロトプラストにおける発現を示す。
【
図6】
図6は、ePPEタンパク質が15bp超のフラグメントの欠失又は挿入の編集効率を効果的に改善させうることを示す。
【
図7】
図7は、ePPEタンパク質がプライム編集システムの範囲を効果的に拡大しうることを示す。
【
図8】
図8は、イネカルスにおけるePPEの編集効率を示す。
【
図9】
図9は、ePPEを使用した除草剤耐性イネ植物の作出を示す。
【
図11】
図11は、ePPEが、ほとんどのイネの内因性試験部位におけるオフターゲット編集の効率、並びにアンプリコン配列分析によって得られた種々の内因性試験部位及び予測した内因性オフターゲット部位に対するプライム編集システムの編集効率を大幅に向上させないことを示す。
【
図12】
図12は、ePPE及び編集部位での塩基編集の相補的な機能を示す。
【
図13】
図13は、ePPEとデュアルpegRNAストラテジー及びepegRNAストラテジーとの組み合わせが、プライム編集の効率をさらに改善することを示す。
【0022】
発明の詳細な説明
I. 定義
本発明において、特に明記されない限り、本明細書において使用される科学的及び技術的用語は、当業者に通常理解される意味を示す。また、本明細書において使用される用語及び実験法は、タンパク質及びヌクレオチド化学、分子生物学、細胞及び組織培養、微生物学、免疫学、専門用語に属する全て、及び当該技術分野において一般に使用される慣用的な方法に関する。例えば、本明細書において使用される標準DNA組換え及び分子クローニング技術は、当業者に周知であり、かつ以下の文献において詳細に記載されている:Sambrook,J.、Fritsch,E.F.及びManiatis,T.、Molecular Cloning:A Laboratory Manual;Cold Spring Harbor Laboratory Press:Cold Spring Harbor,1989。その一方で、関連する専門用語について本発明、定義及び実施例をより良く理解するために、以下を提供する。
【0023】
本明細書において使用される場合に、「及び/又は」という用語は、その用語によって接続される項目の全ての組み合わせを包含し、それぞれの組み合わせは、本明細書に個別に列挙されているものとしてみなされるべきである。例えば、「A及び/又はB」は、「A」、「A及びB」、並びに「B」を含む。例えば、「A、B、及び/又はC」は、「A」、「B」、「C」、「A及びB」、「A及びC」、「B及びC」、及び「A及びB及びC」を含む。
【0024】
「含む」という用語がタンパク質又は核酸の配列を説明するために本明細書において使用される場合に、タンパク質又は核酸は、その配列からなってよく、又はタンパク質もしくは核酸の一方もしくは双方の末端に追加のアミノ酸又はヌクレオチドを有してよいが、依然として本発明に記載の活性を有する。さらに、当業者にとって、ポリペプチドのN末端の開始コドンによってコードされるメチオニンが、特定の実際の条件下(例えば、特定の発現系で発現させる場合)で保持されるが、ポリペプチドの機能に実質的に影響を与えないことは公知である。したがって、本願の明細書及び特許請求の範囲において特定のポリペプチドのアミノ酸配列を記載する場合に、N末端の開始コドンによってコードされるメチオニンは含まれない可能性があるが、メチオニンを含む配列も包含され、それに対応して、そのコードヌクレオチド配列も開始コドンを含んでよく、逆もまた同じである。
【0025】
本明細書において使用される「ゲノム」は、核に存在する染色体DNAだけでなく、細胞の細胞内成分(例えば、ミトコンドリア、色素体)に存在する細胞小器官DNAも含む。
【0026】
本明細書において使用される場合に、「生物」は、ゲノム編集に適したあらゆる生物、好ましくは真核生物を含む。生物の例は、哺乳動物、例えばヒト、マウス、ラット、サル、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウシ、及びネコ;家禽類、例えばニワトリ、アヒル、及びガチョウ;単子葉植物及び双子葉植物、例えばイネ、トウモロコシ、小麦、ソルガム、大麦、大豆、落花生、及びシロイヌナズナを含むが、これらに限定されない。
【0027】
「遺伝子組換え生物」は、外因性ポリヌクレオチドを含む生物、又はそのゲノム内で改変した遺伝子もしくは発現調節配列を含む生物を意味する。例えば、外因性ポリヌクレオチドは、生物のゲノムに安定して組み込まれ、連続する世代に受け継がれうる。外因性ポリヌクレオチドは、ゲノムのみに組み込まれてよく、又は組換えDNA構築物の一部として組み込まれてよい。改変した遺伝子又は発現調節配列は、生物ゲノムにおいて1つ以上のヌクレオチドの置換、欠失及び付加を含む遺伝子又は発現調節配列である。
【0028】
「ポリヌクレオチド」、「核酸配列」、「ヌクレオチド配列」又は「核酸フラグメント」は、互換的に使用でき、一本鎖又は二本鎖であり、任意に合成、非天然又は変更したヌクレオチド塩基を含むRNA又はDNAのポリマーをいう。ヌクレオチドは、以下のようにそれらの一文字表記によって示される:(それぞれRNA又はDNAについて)アデニレート又はデオキシアデニレートについて「A」、シチジレート又はデオキシシチジレートについて「C」、グアニレート又はデオキシグアニレートについて「G」、ウリジレートについて「U」、デオキシチミジレートについて「T」、プリン(A又はG)について「R」、ピリミジン(C又はT)について「Y」、G又はTについて「K」、A又はC又はTについて「H」、A、T又はGについて「D」、イノシンについて「I」、及び任意のヌクレオチドについて「N」。「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」は、本明細書において互換的に使用でき、アミノ酸残基のポリマーをいう。前記用語は、1つ以上のアミノ酸残基が対応する天然に生じるアミノ酸の人工的な化学的類似体であるアミノ酸ポリマーに、及び天然に生じるアミノ酸ポリマーに適用される。「ポリペプチド」、「ペプチド」、「アミノ酸配列」及び「タンパク質」という用語は、グリコシル化、脂質付着、硫酸化、グルタミン酸残基のガンマカルボキシル化、ヒドロキシル化、及びADPリボシル化を含むがこれらに制限されない改変も含まれる。
【0029】
本明細書において使用される場合に、「発現構築物」は、生物における目的のヌクレオチド配列の発現に適したベクター、例えば組換えベクターをいう。「発現」は、機能的生成物の生成をいう。例えば、ヌクレオチド配列の発現は、ヌクレオチド配列の転写(例えばmRNA又は機能性RNAを生成するために転写すること)及び/又はタンパク質前駆体又は成熟タンパク質へのRNAの翻訳を示しうる。
【0030】
本発明の「発現構築物」は、直鎖核酸フラグメント、環状プラスミド、ウイルスベクター、又はある実施形態においては翻訳されうるRNA(例えばmRNA)、例えばin vitroでの転写によって生成されるmRNAであってよい。
【0031】
本発明の「発現構築物」は、異なる源に由来する目的の調節配列及びヌクレオチド配列、又は同一の源に由来するが通常天然に見出される異なる方法で配置された目的の調節配列又はヌクレオチド配列を含んでよい。
【0032】
「プロモーター」は、他の核酸フラグメントの転写を制御することが出来る核酸フラグメントを示す。本発明のいくつかの実施形態において、プロモーターは、細胞に由来するか否かに関わらず、細胞内の遺伝子の転写を制御することができるプロモーターである。プロモーターは、構成的プロモーター又は組織特異性プロモーター又は発生調節プロモーター又は誘導性プロモーターであってよい。
【0033】
プロモーターの例は、ポリメラーゼ(pol)I、pol II、又はpol IIIプロモーターを含むが、これらに限定されない。pol Iプロモーターの例は、ニワトリRNA pol Iプロモーターを含む。pol IIプロモーターの例は、サイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス末端反復配列(RSV-LTR)プロモーター、及びシミアンウイルス40(SV40)最初期プロモーターを含むが、これらに限定されない。pol IIIプロモーターの例は、U6及びH1プロモーターを含む。誘導性プロモーター、例えばメタロチオネインプロモーターを使用してよい。プロモーターの他の例は、T7バクテリオファージプロモーター、T3バクテリオファージプロモーター、β-ガラクトシダーゼプロモーター及びSp6バクテリオファージプロモーター等を含む。植物に使用する場合に、使用できるプロモーターは、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、トウモロコシUbi-1プロモーター、小麦U6プロモーター、イネU3プロモーター、トウモロコシU3プロモーター、イネアクチンプロモーター等を含むが、これらに限定されない。
【0034】
生物への核酸分子(例えば、プラスミド、直鎖状核酸フラグメント、RNAなど)又はタンパク質の「導入」は、核酸又はタンパク質を使用して、生物の細胞を形質転換させ、核酸又はタンパク質が細胞内で機能することを意味する。本発明において使用される場合に、「形質転換」は、安定な形質転換及び一過性形質転換の双方を含む。「安定な形質転換」は、外来遺伝子の安定な遺伝をもたらす、ゲノムへの外因性ヌクレオチド配列の導入をいう。一度安定に形質転換されると、外因性核酸配列は、生物のゲノム及び任意のその連続世代に安定に組み込まれる。「一過性形質転換」は、外来遺伝子の安定な遺伝を有さないその機能を実行する、細胞への核酸分子又はタンパク質の導入をいう。一過性形質転換において、外因性核酸配列は、ゲノムに組み込まれない。
【0035】
「形質」は、細胞又は生物の生理学的、形態学的、生化学的、又は物理的特性を示す。
【0036】
II. 改善したプライム編集システム
一態様において、本発明は、生物ゲノムの標的改変のためのプライム編集システムであって、
i)プライム編集融合タンパク質及び/又はプライム編集融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物であって、プライム編集融合タンパク質がCRISPRニッカーゼ及び逆転写酵素を含む、発現構築物;及び/又は
ii)少なくとも1つのpegRNA及び/又は少なくとも1つのpegRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物、
を含み、
ここで、少なくとも1つのpegRNAが、5’から3’の方向に、ガイド配列、足場配列、逆転写(RT)鋳型配列、及びプライマー結合部位(PBS)配列を含む、
植物ゲノムの標的改変のためのプライム編集システムに関する。
【0037】
いくつかの実施形態において、プライム編集融合タンパク質中のCRISPRニッカーゼ及び逆転写酵素は、リンカーを介して連結される。
【0038】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つのpegRNAは、融合タンパク質と複合体を形成し、融合タンパク質をゲノム内の標的配列に標的化して、標的配列にニックをもたらすことができる。
【0039】
一態様において、本発明は、CRISPRニッカーゼ及び逆転写酵素を含むプライム編集融合タンパク質に関する。
【0040】
一態様において、本発明は、生物ゲノムのDNA配列の標的改変における本発明のプライム編集融合タンパク質の使用に関する。
【0041】
いくつかの実施形態において、生物は植物である。
【0042】
本明細書において使用する場合に、「プライム編集システム」は、細胞内のゲノムの逆転写に基づくゲノム編集に必要な構成要素の組み合わせをいう。システムの個々の構成要素、例えばプライム編集融合タンパク質、gRNAなどは、互いに独立して存在してよく、又は組成物として任意の組み合わせで存在してよい。
【0043】
本明細書において使用する場合に、「標的配列」は、ゲノム中の約20ヌクレオチド長である配列をいい、5’又は3’の隣接PAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列によって表される。一般に、PAMは、CRISPRヌクレアーゼ又はその変異体及びガイドRNAによって形成される複合体によって標的配列を認識するために要求される。例えば、Cas9ヌクレアーゼ及びその変異体について、標的配列は、3’末端でPAM、例えば5’-NGG-3’に近接している。PAMの存在に基づいて、当業者は、ゲノム内で標的化に利用できる標的配列を容易に決定してよい。さらに、PAMの位置に応じて、標的配列はゲノムDNA分子の任意の鎖に位置してよい。Cas9又はその誘導体、例えばCas9ニッカーゼについて、標的配列は好ましくは20ヌクレオチド長である。
【0044】
いくつかの実施形態において、融合タンパク質中のCRISPRニッカーゼは、ゲノムDNA中の標的配列内にニックを形成できる。いくつかの実施形態において、CRISPRニッカーゼは、Cas9ニッカーゼである。
【0045】
いくつかの実施形態において、Cas9ニッカーゼは、ストレプトコッカス・ピオゲネス(S. pyogenes)SpCas9に由来し、野生型SpCas9と比較して少なくともアミノ酸置換H840Aを含む。例示的な野生型SpCas9は、配列番号1に示すアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、Cas9ニッカーゼは、配列番号2に示すアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、融合タンパク質中のCas9ニッカーゼは、標的配列のPAMの-3位ヌクレオチド(それぞれのPAM配列の5’末端の最初のヌクレオチドは+1部位のヌクレオチドとみなされる)と-4位ヌクレオチドとの間にニックを形成できる。
【0046】
いくつかの実施形態において、Cas9ニッカーゼは、改変したPAM配列を認識することができるCas9ニッカーゼバリアントである。改変したPAM配列を認識できる種々のCas9ニッカーゼバリアントは当技術分野において公知である。いくつかの好ましい実施形態において、Cas9ニッカーゼは、PAM配列5’-NG-3’を認識するCas9ニッカーゼバリアントである。いくつかの実施形態において、PAM配列5’-NG-3’を認識するCas9ニッカーゼバリアントは、野生型Cas9に対して、次のアミノ酸置換H840A、R1335V、L1111R、D1135V、G1218R、E1219F、A1322R及びT1337Rを含み、ここでアミノ酸のナンバリングは配列番号1に関する。
【0047】
本発明のCas9ニッカーゼによって形成されるニックは、標的配列に3’末端で遊離一本鎖(3’遊離一本鎖)及び5’末端で遊離一本鎖(5’遊離一本鎖)を形成することができる。
【0048】
いくつかの実施形態において、本発明の融合タンパク質中の逆転写酵素は、異なる供給源に由来してよい。いくつかの実施形態において、逆転写酵素はウイルス由来の逆転写酵素である。例えば、いくつかの実施形態において、逆転写酵素は、M-MLV逆転写酵素又はその機能的バリアントである。例示的な野生型M-MLV逆転写酵素配列を配列番号3に示す。
【0049】
いくつかの実施形態において、逆転写酵素、例えばM-MLV逆転写酵素、又はその機能的バリアントは、
(a)155、156、200及び/又は524のいずれか1つから選択される位置に変異を含み、例えば、F155Y、F155V、F156Y、D524N、D200C又はそれらの組み合わせのいずれか1つから選択される変異を含み、ここで、アミノ酸位置は配列番号3に関し、
(b)関連配列が欠失し、及び/又は
(c)RNase Hドメインが変異又は欠失している。
【0050】
いくつかの好ましい実施形態において、逆転写酵素、例えばM-MLV逆転写酵素、又はその機能的バリアントは、D524Nから選択される変異を含み、アミノ酸位置は配列番号3に関する。
【0051】
いくつかの好ましい実施形態において、逆転写酵素、例えばM-MLV逆転写酵素、又はその機能的バリアントのRNase Hドメインが欠失される。
【0052】
いくつかの実施形態において、関連配列は、配列番号4で示されるアミノ酸配列を含む。
【0053】
いくつかの実施形態において、RNase Hドメインは、配列番号5で示されるアミノ酸配列を含む。
【0054】
いくつかの実施形態において、逆転写酵素、例えばM-MLV逆転写酵素、又はその機能的バリアントは、配列番号9~15のいずれか1つで示される配列を含む。
【0055】
いくつかの実施形態において、逆転写酵素、例えばM-MLV逆転写酵素、又はそれらの機能的バリアントは、N末端又はC末端でヌクレオカプシドタンパク質(NC)、プロテアーゼ(PR)、又はインテグラーゼ(IN)と、融合タンパク質中で直接もしくはリンカーを介して融合される。ヌクレオカプシドタンパク質(NC)、プロテアーゼ(PR)、又はインテグラーゼ(IN)は、例えばM-MLVに由来する。
【0056】
いくつかの実施形態において、ヌクレオカプシドタンパク質(NC)は、配列番号6で示されるアミノ酸配列を含む。
【0057】
いくつかの実施形態において、プロテアーゼ(PR)は、配列番号7で示されるアミノ酸配列を含む。
【0058】
いくつかの実施形態において、インテグラーゼ(IN)は、配列番号8で示されるアミノ酸配列を含む。
【0059】
いくつかの好ましい実施形態において、逆転写酵素、例えばM-MLV逆転写酵素、又はその機能的バリアントは、N末端でヌクレオカプシドタンパク質(NC)と直接又はリンカーを介して融合する。
【0060】
いくつかの好ましい実施形態において、逆転写酵素、例えばM-MLV逆転写酵素、又はその機能的バリアントは、C末端でヌクレオカプシドタンパク質(NC)と直接又はリンカーを介して融合する。
【0061】
本明細書において使用される場合に、「リンカー」は、長さが1~50(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20又は20~25又は25~50)又はそれ以上のアミノ酸であり、二次構造以上の構造を含まない非機能性アミノ酸配列であってよい。例えば、リンカーは、可動性リンカー、例えばGGGGS、GS、GAP、(GGGGS)x3、GGS、(GGS)x7等であってよい。例えば、リンカーは配列番号6で示されるリンカーであってよい。
【0062】
いくつかの実施形態において、融合タンパク質中のCRISPRニッカーゼは、逆転写酵素のN末端に位置する。いくつかの実施形態において、融合タンパク質中のCRISPRニッカーゼは、逆転写酵素のC末端に位置する。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態において、本発明の融合タンパク質は、核局在化配列(NLS)をさらに含んでよい。一般に、融合タンパク質中の1つ以上のNLSは、その編集機能を実現できる量の細胞の核への融合タンパク質の蓄積を促進するために十分な強度を有していなければならない。一般に、核局在化活性の強度は、融合タンパク質中のNLSの数、融合タンパク質中のNLSの位置、融合タンパク質に使用される1つ以上の特定のNLS、又はこれらの因子の組み合わせによって決定される。
【0064】
いくつかの実施形態において、融合タンパク質は、配列番号19で示されるアミノ酸配列を含む。
【0065】
本発明の少なくとも1つのpegRNAにおけるガイド配列(シード配列又はスペーサー配列とも言われる)は、塩基対形成を介して標的配列の相補鎖に結合することによって配列特異的標的化を達成できるように、標的配列に対して十分な配列同一性(好ましくは100%の同一性)を有するように構成される。
【0066】
CRISPRヌクレアーゼ(例えば、Cas9)に基づくゲノム編集に適しているgRNAの様々な足場配列は、当技術分野において公知であり、本発明のpegRNAにおいて使用してよい。いくつかの実施形態において、gRNAの足場配列は配列番号17で示される。
【0067】
いくつかの実施形態において、プライマー結合配列は、標的配列の少なくとも一部に相補的である(好ましくは、標的配列の少なくとも一部と完全に対合する)ように構成されており、好ましくは、プライマー結合配列は、標的配列が位置するDNA鎖におけるニックによって生じる3’遊離一本鎖の少なくとも一部に相補的であり(好ましくは3’遊離一本鎖の少なくとも一部と完全に対合し)、特に、3’遊離一本鎖の3’末端のヌクレオチド配列に相補的である(好ましくは完全に対合している)。鎖の3’遊離一本鎖が塩基対形成によってプライマー結合配列に結合すると、3’遊離一本鎖はプライマーとして機能し、かつプライマー結合配列に隣接する逆転写(RT)鋳型配列は、融合タンパク質における逆転写酵素による逆転写のための鋳型として機能し、かつ逆転写(RT)鋳型配列に対応するDNA配列は伸長によって得られる。
【0068】
プライマー結合配列は、CRISPRニッカーゼによって標的配列内に形成された遊離一本鎖の長さに依存するが、特異的結合を確実にできる最小限の長さを有さなければならない。いくつかの実施形態において、プライマー結合配列は、4~20ヌクレオチド長、例えば、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19及び20ヌクレオチド長であってよい。
【0069】
いくつかの実施形態において、プライマー結合配列は、約52℃以下のTm(融解温度)を有するように構成される。いくつかの実施形態において、プライマー結合配列のTm(融解温度)は、約18℃~52℃、好ましくは約24℃~36℃、より好ましくは約28℃~32℃、最も好ましくは約30℃である。
【0070】
核酸配列のTmを計算するための方法は当該技術分野において周知であり、例えば、Oligo Analysis Toolオンライン分析ツールを計算のために使用してよい。計算式の例は、Tm=NG:C *<4+NA:T *<2であり、ここで、NG:Cは配列中のG塩基及びC塩基の数であり、NA:Tは配列中のA塩基及びT塩基の数である。適したTmは、適したPBS長を選択することにより得られてよい。代わりに、適切なTmは、適切な標的配列を選択することにより得られてよい。
【0071】
いくつかの実施形態において、RT鋳型配列は、任意の配列であってよい。上記逆転写により、その配列情報は、標的配列が存在するDNA鎖(すなわち、標的配列のPAMを含む鎖)に組み込まれてよく、そして、RT鋳型の配列情報を含むDNA二本鎖が、細胞のDNA修復によって形成される。いくつかの実施形態において、RT鋳型配列は、所望の改変を含む。例えば、所望の改変は、1つ以上のヌクレオチドの置換、欠失及び/又は付加を含む。例えば、改変は、CからTへの置換、CからGへの置換、CからAへの置換、GからTへの置換、GからCへの置換、GからAへの置換、AからTへの置換、AからGへの置換、AからCへの置換、TからCへの置換、TからGへの置換及びTからAへの置換から選択される1つ以上の置換を含み;及び/又は1ヌクレオチド以上の欠失、例えば、1~約100ヌクレオチド以上の欠失、例えば、1ヌクレオチド、2ヌクレオチド、3ヌクレオチド、4ヌクレオチド、5ヌクレオチド、約10ヌクレオチド、約20ヌクレオチド、約30ヌクレオチド、約40ヌクレオチド、約50ヌクレオチド、約75ヌクレオチド、約100ヌクレオチドの欠失を含み;及び/又は1ヌクレオチド以上の挿入、例えば、1から約100以上のヌクレオチドの挿入、例えば1ヌクレオチド~約100ヌクレオチド以上の挿入、例えば、1ヌクレオチド、2ヌクレオチド、3ヌクレオチド、4ヌクレオチド、5ヌクレオチド、約10ヌクレオチド、約20ヌクレオチド、約30ヌクレオチド、約40ヌクレオチド、約50ヌクレオチド、約75ヌクレオチド、約100ヌクレオチドの挿入を含む。
【0072】
いくつかの実施形態において、RT鋳型配列は、標的配列のニックの下流の配列に対応する(例えば、標的配列のニックの下流の配列の少なくとも一部に相補的である)ように構成され、かつ所望の改変を含む。例えば、所望の改変は、1つ以上のヌクレオチドの置換、欠失及び/又は付加を含む。例えば、改変は、CからTへの置換、CからGへの置換、CからAへの置換、GからTへの置換、GからCへの置換、GからAへの置換、AからTへの置換、AからGへの置換、AからCへの置換、TからCへの置換、TからGへの置換及びTからAへの置換から選択される1つ以上の置換を含み;及び/又は1ヌクレオチド以上の欠失、例えば、1~約100ヌクレオチド以上の欠失、例えば、1ヌクレオチド、2ヌクレオチド、3ヌクレオチド、4ヌクレオチド、5ヌクレオチド、約10ヌクレオチド、約20ヌクレオチド、約30ヌクレオチド、約40ヌクレオチド、約50ヌクレオチド、約75ヌクレオチド、約100ヌクレオチドの欠失を含み;及び/又は1ヌクレオチド以上の挿入、例えば、1から約100以上のヌクレオチドの挿入、例えば1ヌクレオチド~約100ヌクレオチド以上の挿入、例えば、1ヌクレオチド、2ヌクレオチド、3ヌクレオチド、4ヌクレオチド、5ヌクレオチド、約10ヌクレオチド、約20ヌクレオチド、約30ヌクレオチド、約40ヌクレオチド、約50ヌクレオチド、約75ヌクレオチド、約100ヌクレオチドの挿入を含む。
【0073】
いくつかの実施形態において、RT鋳型配列は、約1~300ヌクレオチド長以上、例えば1ヌクレオチド長、2ヌクレオチド長、3ヌクレオチド長、4ヌクレオチド長、5ヌクレオチド長、約10ヌクレオチド長、約20ヌクレオチド長、約30ヌクレオチド長、約40ヌクレオチド長、約50ヌクレオチド長、約75ヌクレオチド長、約100ヌクレオチド長、約125ヌクレオチド長、約150ヌクレオチド長、約175ヌクレオチド長、約200ヌクレオチド長、約225ヌクレオチド長、約250ヌクレオチド長、約275ヌクレオチド長、約300ヌクレオチド長又はそれ以上のヌクレオチド長であってよい。好ましくは、RT鋳型配列は、7ヌクレオチド長、8ヌクレオチド長、9ヌクレオチド長、10ヌクレオチド長、11ヌクレオチド長、12ヌクレオチド長、13ヌクレオチド長、14ヌクレオチド長、15ヌクレオチド長、16ヌクレオチド長、17ヌクレオチド長、18ヌクレオチド長、19ヌクレオチド長、20ヌクレオチド長、21ヌクレオチド長、22ヌクレオチド長及び23ヌクレオチド長である。
【0074】
いくつかの実施形態でにおいて、プライム編集システムは、ニッキングgRNA(ニッキングgRNAは追加のニックを生成するために使用される)及び/又はニッキングgRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物をさらに含み、ここでニッキングgRNAは、ガイド配列及び足場配列を含む。いくつかの好ましい実施形態において、ニッキングgRNAは、逆転写(RT)鋳型配列及びプライマー結合部位(PBS)配列を含まない。
【0075】
本発明のニッキングgRNAにおけるガイド配列(シード配列又はスペーサー配列とも言われる)は、ゲノム中のニッキング標的配列に対して十分な配列同一性(好ましくは100%の同一性)を有するように構成されており、その結果、本発明の融合タンパク質が、ニッキング標的配列を標的としてニッキング標的配列にニックをもたらし、その際、ニッキング標的配列及びpegRNAによって標的化される標的配列(pegRNA標的配列)は、ゲノムDNAの逆鎖に位置する。いくつかの実施形態において、ニッキングRNAによって形成されるニックとpegRNAによって形成されるニックは、約1~約300ヌクレオチド以上離れており、例えば、1ヌクレオチド、2ヌクレオチド、3ヌクレオチド、4ヌクレオチド、5ヌクレオチド、約10ヌクレオチド、約20ヌクレオチド、約30ヌクレオチド、約40ヌクレオチド、約50ヌクレオチド、約75ヌクレオチド、約100ヌクレオチド、約125ヌクレオチド、約150ヌクレオチド、約175ヌクレオチド、約200ヌクレオチド、約225ヌクレオチド、約250ヌクレオチド、約275ヌクレオチド、約300ヌクレオチド又はそれ以上離れている。いくつかの実施形態において、ニッキングRNAによって形成されるニックは、pegRNAによって形成されるニックの上流又は下流に位置する(上流又は下流とは、pegRNA標的配列が位置するDNA鎖をいう)。いくつかの実施形態において、ニッキングgRNA中のガイド配列は、編集事象が発生した後の反対鎖上のpegRNA標的配列(改変したpegRNA標的配列)に対して十分な配列同一性(好ましくは100%の同一性)を有し、その結果、ニッキングgRNAは、pegRNA誘発配列ターゲティング及び改変の後に生じるニッキング標的配列のみを標的とする。いくつかの実施形態において、ニッキング標的配列のPAMは、pegRNA標的配列の相補配列内に位置する。
【0076】
いくつかの実施形態において、pegRNA及び/又はニッキングgRNAの配列は、自己プロセシングシステムを使用することによって正確にプロセシングされてよい。いくつかの特定の実施形態において、pegRNA及び/又はニッキングgRNAの5’末端は、第1のリボザイムの3’末端に連結され、ここで第1のリボザイムは、pegRNA及び/又はニッキングgRNAの5’末端で融合体を切断するように設計されており、かつ/又はpegRNA及び/又はニッキングgRNAの3’末端が第2のリボザイムの5’末端に連結されており、ここで第2のリボザイムは、pegRNA及び/又はニッキングgRNAの3’末端で融合体を切断するように設計されている。第1又は第2のリボザイムの設計は、当業者の能力の範囲内である。例えば、Gaoら、JIPB,apr,2014;Vol 56,Issue 4,343-349を参照されたい。gRNAを正確にプロセシングする方法については、例えば、国際公開第2018/149418号を参照されたい。
【0077】
いくつかの実施形態において、プライム編集システムは、少なくとも1対のpegRNA、及び/又は少なくとも1対のpegRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物を含む。いくつかの実施形態において、pegRNA対のうちの2つのpegRNAは、ゲノムDNAの同一の鎖上の異なる標的配列を標的とするように構成される。いくつかの実施形態において、pegRNA対のうちの2つのpegRNAは、ゲノムDNAの異なる鎖上の標的配列を標的とするように構成される。いくつかの実施形態において、pegRNA対の一方のpegRNAの標的配列のPAMはセンス鎖上に位置し、他方のpegRNAのPAMはアンチセンス鎖上に位置する。いくつかの実施形態において、2つのpegRNAの誘導されたニックは、それぞれ改変される部位の両側に位置する。いくつかの実施形態において、センス鎖のpegRNA誘導ニックは、改変される部位の上流(5’方向)に位置し、かつアンチセンス鎖のpegRNA誘導ニックは、改変される部位の下流(3’方向)に位置する。「上流」又は「下流」とは、センス鎖をいう。いくつかの実施形態において、2つのpegRNAによって誘導されるニックは、約1~約300ヌクレオチド以上離れており、例えば、1~15ヌクレオチド離れている。
【0078】
いくつかの実施形態においては、pegRNA対における2つのpegRNAは、同一の所望の改変を導入するように構成される。例えば、一方のpegRNAはセンス鎖にAからGへの置換を導入するように構成され、もう一方のpegRNAはアンチセンス鎖の対応する位置にTからCへの置換を導入するように構成されている。他の例として、一方のpegRNAはセンス鎖に2つのヌクレオチド欠失を導入するように構成され、もう一方のpegRNAは同様にアンチセンス鎖の対応する位置に2つのヌクレオチド欠失を導入するように構成されている。他のタイプの改変を同様の方法で行ってよい。適切なRT鋳型配列の設計は、2つの異なる鎖を標的とするpegRNAを、同一の所望の改変を達成できるようにする。
【0079】
いくつかの実施形態において、本発明のpegRNAは、epegRNAである。epegRNAの構築物は、James W.Nelsonら、Engineered pegRNAs improve prime editing efficiency.Nature Biotechnology volume 40,402-410(2022)(参照を持って本明細書に組み込まれたものとする)を参照してよい。いくつかの実施形態において、epegRNAは、3’-tevopreQ1-8ntリンカー改変を有するepegRNAである。
【0080】
異なる生物において効率的な発現を得るために、本発明のいくつかの実施形態において、融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、ゲノムが改変されるべき生物種に対してコドン最適化をうける。
【0081】
コドン最適化は、天然アミノ酸配列を維持しながらその宿主細胞の遺伝子においてより頻繁に又は最も頻繁に使用されるコドンを有する天然配列の少なくとも1つのコドン(例えば、約1、2、3、4、5、10、15、20、25、50、又はそれ以上のコドン)を置換することにより、目的の宿主細胞における発現を高めるために核酸配列を改変するプロセスを示す。種々の種が、特定のアミノ酸のあるコドンに対して特定のバイアスを示す。種々の種が、特定のアミノ酸のあるコドンに対して特定のバイアスを示す。コドンバイアス(生物間のコドン利用における差異)は、しばしば、メッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳の効率に相関し、これはとりわけ翻訳されるコドンの性質及び特定のトランスファーRNA(tRNA)分子の利用可能性に依存すると考えられている。細胞において選択されたtRNAの優位性は、一般に、ペプチド合成において最も頻繁に使用されるコドンの反映である。したがって、遺伝子は、コドン最適化に基づいて所与の生物における最適な遺伝子発現のために調整されてよい。コドン使用表は、例えばwww. kazusa. orjp/codon/で入手可能な「Codon Usage Database(コドン使用データベース)」で容易に入手でき、前記表は、多くの方法で適合されてよい。Nakamura,Yら、“Codon usage tabulated from the international DNA sequence databases:status for the year 2000”Nucl.Acids Res.28:292(2000)を参照されたい。
【0082】
III. 細胞ゲノムにおいて標的配列を改変するための方法
他の態様において、本発明は、本発明のプライム編集システムを少なくとも1つの細胞に導入し、少なくとも1つの細胞のゲノム内の標的配列に改変をもたらすことを含む、遺伝子組換え細胞を生産する方法を提供する。改変は、1つ以上のヌクレオチドの置換、欠失及び/又は付加を含む。例えば、改変は、CからTへの置換、CからGへの置換、CからAへの置換、GからTへの置換、GからCへの置換、GからAへの置換、AからTへの置換、AからGへの置換、AからCへの置換、TからCへの置換、TからGへの置換及びTからAへの置換から選択される1つ以上の置換を含み;及び/又は1ヌクレオチド以上の欠失、例えば、1~約100ヌクレオチド以上の欠失、例えば、1ヌクレオチド、2ヌクレオチド、3ヌクレオチド、4ヌクレオチド、5ヌクレオチド、約10ヌクレオチド、約20ヌクレオチド、約30ヌクレオチド、約40ヌクレオチド、約50ヌクレオチド、約75ヌクレオチド、約100ヌクレオチドの欠失を含み;及び/又は1ヌクレオチド以上の挿入、例えば、1から約100以上のヌクレオチドの挿入、例えば1ヌクレオチド~約100ヌクレオチド以上の挿入、例えば、1ヌクレオチド、2ヌクレオチド、3ヌクレオチド、4ヌクレオチド、5ヌクレオチド、約10ヌクレオチド、約20ヌクレオチド、約30ヌクレオチド、約40ヌクレオチド、約50ヌクレオチド、約75ヌクレオチド、約100ヌクレオチドの挿入を含む。
【0083】
他の態様において、本発明は、本発明のプライム編集システムを少なくとも1つの細胞に導入することを含む、遺伝子組換え細胞を生産する方法も提供する。
【0084】
他の態様において、本発明は、本発明の方法によって生産した遺伝子組換え細胞、及び細胞の子孫を含む遺伝子組み換え生物も提供する。
【0085】
本発明において、改変されるべき標的配列は、ゲノム内、例えば機能的遺伝子内、例えばタンパク質をコードする遺伝子内の任意の位置に位置してよく、又は、例えば遺伝子発現調節領域、例えばプロモーター領域又はエンハンサー領域に配置してよく、それにより、遺伝子の機能改変又は遺伝子発現改変が達せられる。細胞の標的配列における改変は、T7EI、PCR/RE又はシーケンシング法によって検出されうる。
【0086】
本発明の方法において、プライム編集システムは、当業者に周知の種々の方法により細胞に導入されてよい。
【0087】
本発明のプライム編集システムを細胞に導入するために使用できる方法は、リン酸カルシウムトランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、ウイルス感染(例えば、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス及び他のウイルス)、遺伝子銃法、PEG媒介プロトプラスト形質転換、アグロバクテリウム媒介形質転換を含むが、これらに限定されない。
【0088】
本発明の方法によって遺伝子編集されてよい細胞は、例えば、哺乳動物、例えばヒト、マウス、ラット、サル、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウシ、及びネコ;家禽類、例えばニワトリ、アヒル、及びガチョウ;及び単子葉植物及び双子葉植物を含む植物、例えばイネ、トウモロコシ、小麦、ソルガム、大麦、大豆、落花生、及びシロイヌナズナに由来してよい。
【0089】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、in vitroで実施される。例えば、細胞は、単離した細胞、又は単離した組織もしくは器官における細胞である。
【0090】
いくつかの他の実施形態において、本発明の方法は、in vivoで実施してもよい。例えば、細胞は、生物内の細胞であり、本発明のシステムが、in vivoで、例えばウイルス又はアグロバクテリウム媒介法によって導入されうる。
【0091】
IV. 遺伝子改変した植物を製造する方法
他の態様において、本発明は、本発明のプライム編集システムを少なくとも1つの植物に導入し、少なくとも1つの植物のゲノムに改変をもたらすことを含む、遺伝子組換え植物を生産する方法を提供する。改変は、1つ以上のヌクレオチドの置換、欠失及び/又は付加を含む。例えば、改変は、CからTへの置換、CからGへの置換、CからAへの置換、GからTへの置換、GからCへの置換、GからAへの置換、AからTへの置換、AからGへの置換、AからCへの置換、TからCへの置換、TからGへの置換及びTからAへの置換から選択される1つ以上の置換を含み;及び/又は1ヌクレオチド以上の欠失、例えば、1~約100ヌクレオチド以上の欠失、例えば、1ヌクレオチド、2ヌクレオチド、3ヌクレオチド、4ヌクレオチド、5ヌクレオチド、約10ヌクレオチド、約20ヌクレオチド、約30ヌクレオチド、約40ヌクレオチド、約50ヌクレオチド、約75ヌクレオチド、約100ヌクレオチドの欠失を含み;及び/又は1ヌクレオチド以上の挿入、例えば、1から約100以上のヌクレオチドの挿入、例えば1ヌクレオチド~約100ヌクレオチド以上の挿入、例えば、1ヌクレオチド、2ヌクレオチド、3ヌクレオチド、4ヌクレオチド、5ヌクレオチド、約10ヌクレオチド、約20ヌクレオチド、約30ヌクレオチド、約40ヌクレオチド、約50ヌクレオチド、約75ヌクレオチド、約100ヌクレオチドの挿入を含む。
【0092】
いくつかの実施形態において、前記方法は、少なくとも1つの植物から所望の改変を有する植物をスクリーニングするステップを含む。
【0093】
本発明の方法において、プライム編集システムは、当業者に周知の種々の方法で植物に導入されてよい。本発明のゲノム編集システムを植物に導入するために使用される方法は、遺伝子銃法、PEG媒介プロトプラスト形質転換、アグロバクテリウム媒介形質転換、植物ウイルス媒介形質転換、花粉管経路、及び子房注入法を含むが、これらに制限されない。好ましくは、プライム編集システムは、一過性形質転換によって植物に導入される。本発明の方法において、ゲノムの改変は、植物細胞においてプライム編集融合タンパク質及びgRNAを導入及び製造することによってのみ達成されてよく、かつ前記改変は、植物に編集システムの構成成分をコードする外因性ポリヌクレオチドを安定して形質転換することなく安定して遺伝させてよい。これにより、安定して存在する(継続的に生産される)ゲノム編集システムによる潜在的なオフターゲット効果が回避され、かつ植物ゲノムへの外来ヌクレオチド配列の組み込みも回避され、それによってより優れたバイオセーフティを提供する。
【0094】
いくつかの好ましい実施形態において、導入を選択圧の非存在下で実施して、植物ゲノムへの外因性ヌクレオチド配列の組み込みを妨げる。
【0095】
いくつかの実施形態において、導入は、本発明のゲノム編集システムを単離した植物細胞又は組織に形質転換すること、そして形質添加した植物細胞又は組織をインタクトな植物に再生することを含む。好ましくは、再生は、選択圧の非存在下で実施され、すなわち、発現ベクター上の選択遺伝子のための選択剤は、組織培養中に使用されない。選択剤の使用を避けることは、植物の再生効率を高めることができ、外因性ヌクレオチド配列を有さない改変植物を得ることができる。
【0096】
他の実施形態において、本発明のプライム編集システムは、インタクトな植物上の特定の部位、例えば葉、茎端、花粉管、幼穂、又は胚軸に形質転換されてよい。これは、組織培養での再生が困難である植物の形質転換に特に適している。
【0097】
本発明のいくつかの実施形態において、in vitroで発現したタンパク質及び/又はin vitroで転写したRNA分子(例えば発現構築物がin vitroで転写したRNA分子である)は、植物に直接形質転換される。タンパク質及び/又はRNAは、植物細胞においてゲノム編集を実施することができ、続いて、細胞によって分解されて、植物ゲノムでの外因性ヌクレオチド配列の組み込みを妨げる。
【0098】
したがって、いくつかの実施形態において、植物の遺伝子改変及び育種のための本発明の方法を使用することは、外因性ポリヌクレオチドの組み込みを有さないゲノムを有する植物、すなわち導入遺伝子フリーの改変植物を得ることができる。
【0099】
いくつかの実施形態において、前記方法は、プライム編集システムを導入した植物細胞、組織又は全植物を高温、例えば、37℃で培養することをさらに含む。
【0100】
本発明のいくつかの実施形態において、改変したゲノム領域は、植物の形質、例えば農業形質と関連しており、その結果、改変は、野生型植物と比較して、変化した(好ましくは改善された)形質、例えば農業形質を有する植物をもたらす。
【0101】
いくつかの実施形態において、前記方法は、所望の改変、及び/又は所望の形質、例えば農業形質をスクリーニングするステップを含む。
【0102】
本発明のある実施形態において、前記方法は、さらに、遺伝子改変植物の子孫を得ることを含む。好ましくは、遺伝子改変植物又はそれらの子孫は、所望の改変及び/又は所望の形質、例えば農業形質を有する。
【0103】
他の態様において、本発明は、遺伝子改変植物又はそれらの子孫もしくは部位も提供し、ここで、植物は前記した本発明による方法により得られる。いくつかの実施形態において、遺伝子改変した植物又はそれらの子孫もしくは部位は、導入遺伝子を有さない。好ましくは、遺伝子改変植物又はそれらの子孫は、所望の遺伝子改変及び/又は所望の形質、例えば農業形質を有する。
【0104】
他の態様において、本発明は、本発明の前記方法により得られた第一の遺伝子改変植物を、改変を含まない第二の植物と交雑させて、それにより前記遺伝子改変を該第二の植物に導入することを含む、植物の育種方法を提供する。好ましくは、第一の遺伝子改変植物は、所望の形質、例えば農業形質を有する。
【0105】
「農学形質」は、葉の緑色、収量、成長速度、バイオマス、成熟時の生体重、成熟時の乾燥量、果実収量、種子収量、全植物窒素含有量、果実窒素含有量、種子窒素含有量、栄養組織における窒素含有量、全植物遊離アミノ酸含有量、果実遊離アミノ酸含有量、種子遊離アミノ酸含有量、栄養組織における遊離アミノ酸含有量、全植物タンパク質含有量、果実タンパク質含有量、種子タンパク質含有量、栄養組織におけるタンパク質含有量、耐干性、窒素吸収、根の倒伏、収穫指数、葉柄の倒伏、草高、穂高、穂長、耐病性、耐寒性、耐塩性、及び分げつ数等を含むがこれらに限定されない測定可能なパラメータである。
【0106】
V. キット
本発明は、本発明の方法において使用するためのキットも含み、キットは、本発明のプライム編集システム又はプライム編集融合タンパク質の発現構築物を少なくとも含む。前記キットは、pegRNAを生成するための発現構築物及び関連試薬も含む。前記キットは、プライム編集システムを生物又は生物細胞に導入するための試薬も含んでよい。前記キットは、キット内の内容物の使用の目的及び/又は方法を示すラベルも含む。ラベルという用語は、キット上又はキットと共に提供されるか、そうでなければキットと共に提供されるあらゆる書面又は記録された資料を含む。
【0107】
実施例
材料及び方法
1. ベクター構築
PPE-F155Y、PPE-F155V、PPE-F156Y、PPE-D524N、PPE-N200C、PPE-ΔRNase H、及びPPE-ΔRNase H-ΔConnectionをコードする遺伝子フラグメントを、それぞれポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、PPE(配列番号18)をコードする遺伝子フラグメントにおけるM-MLV逆転写酵素の対応する部位の対応するフラグメントを点変異又は欠失することによって得て、そして得られたフラグメントを、ギブソン法により連結して、対応する最終プラスミドを得た。F155Y、F155V、F156Y、D524N、及びN200Cを含むM-MLV逆転写酵素の配列を、それぞれ配列番号9~13に示した。M-MLV逆転写酵素ΔRNase Hの配列を、配列番号14に示した。M-MLV逆転写酵素ΔRNase H-ΔConnectionの配列を、配列番号15に示した。
【0108】
さらに、ヌクレオカプシドタンパク質NC(配列番号6)、プロテアーゼPR(配列番号7)、又はインテグラーゼIN(配列番号8)をコードする遺伝子フラグメントを、植物のためにコドン最適化し、それぞれPPEのM-MLVをコードする遺伝子フラグメントの5’末端又は3’末端に融合し、そして得られたフラグメントを、ギブソン法により構築して、対応する最終プラスミドを得た。同様に、ヌクレオカプシドタンパク質NCをコードする遺伝子フラグメントを植物のためにコドン最適化し、PPE-ΔRNase HのM-MLV逆転写酵素ΔRNase Hをコードする遺伝子フラグメントの5’末端に融合させて、PPE-ΔRNase H-NC(強化型PPE、ePPE、及び配列番号19に示したアミノ酸配列)を得た。続いて、それをギブソン法によって構築し、対応する最終ベクターを得た。特定のベクターを
図1に示した。
【0109】
pegRNAフラグメント(RT及びPBS配列を含む)を、ギブソン法を使用することによってOsU3プロモーターにより駆動したベクターに構築し、イネにおける使用に適したOsU3-pegRNA構築物を得た。
【0110】
2. プロトプラストの単離及び形質転換
本発明において使用したプロトプラストは、イネ種Zhonghua 11に由来した。
【0111】
2.1 イネ苗の栽培
イネ種はZhonghua 11であった。種子を最初に75%エタノールで1分間洗浄し、そして4%次亜塩素酸ナトリウムで30分間処理し、滅菌水で5回以上洗浄した。処理した種子をM6培地で26℃で3~4週間栽培し、光から保護した。
【0112】
2.2 イネプロトプラストの単離
(1) イネ茎を切り落とし、その中間部分を刃物で0.5~1mmのフィラメント状に切断した。そのフィラメントを、暗所で10分間0.6Mマンニトール溶液で処理し、フィルターで濾過し、50mLの酵素分解溶液(0.45μm膜で濾過した)に入れ、30分間真空にし(圧力強度約15Kpa)、取り出してシェーカー(10rpm)上に置き、室温で5時間酵素分解した。
(2) 酵素分解生成物を、30~50mLのW5を添加することにより希釈し、75μmナイロンフィルター膜で濾過して丸底遠心管(50mL)に入れた。
(3) 上清を廃棄する前に、遠心分離を23℃で3分間250g(rcf)で実施した。
(4) 細胞を20mLのW5で軽く懸濁し、ステップ(3)を繰り返した。
(5) 適量のMMGを添加し、形質転換のための細胞を懸濁した。
【0113】
2.3 プロトプラストの形質転換
(1) 形質転換するベクター10μgを2mLの遠心管に添加し、そしてよく混合した。プロトプラスト200μLをチップを付けたピペットで採取し、はじいてよく混合した。PEG4000溶液220μLを添加し、はじいてよく混合し、続いて光の非存在下で室温で20~30分間形質転換を誘導した。
(2) 880μLのW5を添加し、軽く反転することによって混合し、250g(rcf)で3分間遠心分離し、上清を捨てた。
(3) WI溶液1mLを添加し、穏やかに反転させることによってよく混合した後、フローチューブに穏やかに移し、暗所で室温で約40時間培養した。
【0114】
3. フローサイトメトリー分析
フローサイトメトリー分析のためのFACSAria III(BD Biosciences)装置は、次の特定の操作手順を有する:
(1) シースタンク及びエタノールタンク中の液量が十分であるかどうか確認し、廃液タンクを空にした。安定化電圧供給をオンにし、機器の電源をオンにし、蛍光スイッチをオンにして、BD FACSDiva ソフトウェアを起動して、スタートアップ手順に入った。
(2) 空気及び流体のラインを切り離し、そしてシースタンクに接続し、閉じたループノズルがフローセルの対応する位置にあることを確認し、起動プロセスを実行する。
(3) 適したサイズのノズルを交換し、実際のノズルに一致するようにソフトウェアモードを設定し、レーザーをオンにして流れを開始した。
(4) 「新しいプロトコル」をクリックして、適した実験プロトコルを作成した。
(5) 「密度プロット」を選択して、FSC/SSC散布図及びGFP/PE-Texas Red散布図を描画した。
(6) 散布図の中央にドットが現れるようにFSC/SSC電圧を調整した。FL1電圧を、野生型対照のプロトプラスト集団が散布図の中央に表示されるように調整し、そして、実験グループのプロトプラスト集団(例えばGFP蛍光タンパク質で形質転換したプロトプラスト)が、GFP蛍光チャネルシグナルがより高い場所に出現する。必要に応じて、2つの集団がより明確になるように、補正した規制を行った。
(7) ゲートの閾値を対照群に基づいて決定し、実験群のプロトプラスト集団が閾値内に位置し、対照群のプロトプラスト集団が閾値外に位置することを確実にした。
(8) ソートする細胞集団をクリックし、「左ソート」を選択し、実験のニーズ及び対象細胞の割合に従って分析条件及び分析モードを設定した。
(9) データを読み取るために試料を適切な順序でロードし、関連データを記録した。
(10) 流れを止め、閉ループノズルを交換し、フローセルをFACS清浄液及び滅菌水で洗浄し、ソフトウェアと機器の電源をオフにし、安定化電圧供給をオフにし、そして機器の圧力を排出した。
【0115】
4. プロトプラストDNAの抽出及びアンプリコン配列分析
4.1 プロトプラストDNAの抽出
プロトプラストを2mL遠心分離管に収集し、そしてNanoDrop超微分光光度計によって測定した濃度(30~60ng/μL)のプロトプラストDNA(約30μL)をCTAB法により抽出し、-20℃で保存した。
【0116】
4.2 アンプリコン配列分析
(1) PCR増幅を、ゲノムプライマーを使用して、プロトプラストDNA鋳型に対して実施した。20μL増幅システムは、5xFastpfuバッファー4μL、dNTP(2.5mM)1.6μL、フォワードプライマー(10μM)0.4μL、リバースプライマー(10μM)0.4μL、FastPfuポリメラーゼ(2.5U/μL)0.4μL、及びDNA鋳型(約60ng)2μLを含んだ。増幅条件は以下であった:95℃で5分間の前変性;95℃で30秒間の変性、50~64℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の伸長を35サイクル;72℃で5分間完全伸長、12℃でインキュベート。
(2) 上記増幅産物を10倍に希釈し、増幅産物1μLを第2のPCR増幅鋳型とし、増幅プライマーはバーコードを含む配列決定プライマーであった。増幅システム50μLは、5×Fastpfuバッファー10μL、dNTP(2.5mM)4μL、フォワードプライマー(10μM)1μL、リバースプライマー(10μM)1μL、FastPfuポリメラーゼ(2.5U/μL)1μL及びDNA鋳型1μLを含んだ。増幅条件は上記と同様であり、増幅サイクル数は35サイクルであった。
(3) PCR産物を2%アガロースゲル電気泳動により分離し、AxyPrep DNA Gel Extractionキットを使用して目的のフラグメントのゲル抽出を実施し、そして得られた生成物をNanoDrop超微分光光度計を使用して定量分析した。回収した生成物100ngを、採取し、混合し、そしてアンプリコン配列決定ライブラリーの構築及びアンプリコン配列分析のためにSangon Bioengineering Co.,Ltd.に送った。
(4) 配列決定が完了した後に、元のデータを配列決定用プライマーに従って分割し、そしてWTを対照として使用し、3回の反復試験で異なる遺伝子標的遺伝子座における産物の編集タイプ及び編集効率を比較及び分析した。
【0117】
5. プロトプラストタンパク質の抽出及びウェスタンブロット
5.1. プロトプラストタンパク質の抽出
(1) 48時間培養後のプロトプラスト試料を調製し、反転することにより均一に混合し、そして12000rpmで8分間遠心分離した。上清をデカントし、新たに調製したタンパク質抽出溶液50μLを添加し、そしてボルテックスにより均一に混合した。
(2) 前のステップで得た1.5mL遠沈管を氷上に30分間置き、ボルテックスして均一に混合した。
(3) 1.5mL遠心分離管を低温遠心分離機で12000rpm、4℃で15分間遠心分離した。
(4) 上清をピペットで取り、新しい1.5mL遠沈管に移した。
(5) 遠心管から2μLをピペットで取り、新しい1.5mL遠心管に移し、再蒸留水18μLを添加することにより希釈した。
(6) Bradford 1×Dye Reagent1mLを前記系に添加し、ボルテックスで均一に混合した後5分間放置し、Eppendorf Biophotometer及び核酸タンパク質光度計でタンパク質濃度を予め測定した。
(7) 異なる試料の濃度をタンパク質抽出バッファーで調整し、ローディングバッファー10μLを添加してボルテックスで均一に混合し、100℃の金属浴で5分間変性させた。
(8) 得られたものを12000rpmで1分間遠心分離し、上清をピペットで取り、SDS-PAGEゲル電気泳動を行った。
【0118】
5.2. ウェスタンブロット
(1) 8%の下層分離ゲル及び5%の上層スタッキングゲルを準備した。試料をロードし、120Vで1.5時間電気泳動を実施した。
(2) NCメンブレン及び濾紙を予めカットし、メンブレントランスファーバッファーに十分に浸した。
(3) 膜への転写操作をセミドライ法で実施した。浸漬濾紙、浸漬NCメンブレン、電気泳動後に得られたSDS-PAGEゲル、浸漬濾紙を下から上に配置した。50mL丸底遠心分離管を使用して前後に回転させ、全ての気泡を追い出した。
(4) 200mAの定電流を1時間印加してタンパク質を転写した。
(5) NCメンブレンをTBSTバッファーに入れ、室温で5分間シェーカーで振盪しながらメンブレントランスファーバッファーを洗い流した。
(6) バッファーをデカントし、適量の5%無脂肪乳(TBST配合)を添加し、メンブレンをゆっくりと振盪し、シェーカー上で室温で2時間インキュベートしてブロッキングした。
(7) ブロッキング溶液をデカントし、適切な比率で希釈した一次抗体を新鮮な5%無脂肪乳に添加し、そしてメンブレンをシェーカー上で4℃、低速で一晩インキュベートした。
(8) 一次抗体をデカントし、NCメンブレンをTBSTバッファーで5分間ずつ3回洗浄した。
(9) 希釈した対応する二次抗体を含む乳を添加し、メンブレンを室温で数時間インキュベートした。
(10) 二次抗体をデカントし、NCメンブレンをTBSTバッファーで5分間ずつ3回洗浄し、そしてNCメンブレンを専用のビニール袋でシールした。
(11) 同量の展開液A及び現像液B(Tiangen)を均一に混合し、上記ビニール袋に添加し、メンブレンを3分間インキュベートした。
(12) 現像液をビニール袋からデカントし、暗フォルダーに置き、暗室で現像し、タンパク質の存在量に従って現像時間を調整した。
【0119】
実施例1: レポーターシステムでの種々の構築物のスクリーニング
前記複数の改変により改善した効率を有する構築物を迅速かつ視覚的にスクリーニングするために、イネのプロトプラストにおけるBFP-GFPレポーターシステムで予備スクリーニングを実施した。フローサイトメトリー分析による結果を
図2に示し、PPE-ΔRNase H、PPE-NCv1、及びPPE-NCv2の編集効率が元のPPEと比較して改善したことを示した。したがって、これら3つの構築物を内因性標的の追跡試験のために選択した。
【0120】
実施例2:種々のPPEタンパク質修飾によるプライム編集システムの編集効率の改善
プライム編集システムに対して前記で選択した構築物の効果を試験するために、イネの16個の内因性標的を試験した。これらの構築物をpegRNAでイネのプロトプラスト細胞に同時形質転換し、アンプリコン配列解析によりプライム編集システムの編集効率を解析した。結果を
図3に示し、これはほとんどの試験部位で、PPE-NCv1、PPE-NCv2、及びPPE-ΔRNase Hが、PPEと比較して効率の改善の度合いが異なったことを示す。PPE-NCv1が最も高い改善度を達成し、PPE-NCv2及びPPE-ΔRNase Hが2番目となった。
【0121】
実施例3:種々のPPEタンパク質修飾の組み合わせによるプライム編集システムの編集効率のさらなる改善
プライム編集システムの効率が、NCとの融合及びRNase H(ePPE)の欠失の組み合わせによってさらに改善されるかどうかを試験するために、12個の部位を選択して試験した。これらの構築物をpegRNAでイネのプロトプラスト細胞に同時形質転換し、アンプリコン配列解析によりプライム編集システムの編集効率を解析した。結果を
図4に示し、これはほとんどの部位でePPE(PPE-NCv1+ΔRNase H)の編集効率が最も高く、編集効率は高から低の順でePPE>PPE-NCv1>PPE-ΔRNase H>PPEであったことを示す。
【0122】
実施例4:種々の修飾PPEタンパク質のタンパク質発現の試験
前記修飾PPEタンパク質が元のPPEタンパク質と比較してタンパク質発現が増加し、その結果プライム編集効率が改善したかどうかを試験するために、対応するタンパク質をイネのプロトプラストに形質転換し、ウェスタンブロットのためにプロトプラストタンパク質を抽出した。結果を
図5に示し、これは、PPE-NCv1、PPE-NCv2、PPE-ΔRNase H、及びePPEタンパク質の発現が元のPPEタンパク質の発現よりも有意に高く、かつePPEタンパク質の発現は最も高く、その主要な編集効率に対応していたことを示す。
【0123】
実施例5:ePPEタンパク質が15bp超のフラグメントの欠失又は挿入の編集効率を効果的に改善させうる
プライム編集システムが数塩基の置換又は欠失又は挿入に効率的であることを考慮して、さらに元のPPEタンパク質と比較して、より大きなフラグメントの挿入又は欠失に対するePPEの効率を試験した。18部位を試験のために選択し、これらの構築物をpegRNAでイネのプロトプラスト細胞に同時形質転換し、アンプリコン配列解析によりプライム編集システムの編集効率を解析した。結果を
図6に示し、これは、試験した部位において、ePPEの編集効率が最も高く、18~34bpのフラグメントの挿入及び15~90bpのフラグメントの欠失を効果的に達成できたことを示している。
【0124】
実施例6:ePPEタンパク質がプライム編集システムの範囲を効果的に拡大しうる
SpGヌクレアーゼと融合したePPEの他のPAMに対する標的効果を元のPPEタンパク質と比較して試験するために、4部位のNGC、NGA、NGG PAMを試験のために選択し、これらの構築物をpegRNAでイネのプロトプラスト細胞に同時形質転換し、アンプリコン配列解析によりプライム編集システムの編集効率を解析した。結果を
図7に示し、ePPEの編集効率により、試験した部位でのプライム編集効果が効果的に拡大される可能性を示す。
【0125】
実施例7:イネカルスにおけるePPEの編集効率
安定した形質転換イネカルスにおけるePPEの変異効率をさらに試験するために、イネにおける4つの標的を試験のために選択した。耐性カルスの同定後の結果を
図8に示し、カルスにおけるePPEの編集効率が、プロトプラストで試験したその編集効率と一致しており、どちらもコントロールPPE編集効率よりも高く、編集効率は最大31.5%であった。
【0126】
実施例8:ePPEによる除草剤耐性イネ植物の作出
イネOsALS遺伝子のW548部位を標的としてW548Mの変異を生じさせることにより、ePPEによる変異効率が11.3%であるのに対し、PPEによる変異効率がわずか0.6%であることが判明した。ヘテロ接合変異体を除草剤耐性について試験し、ニコスルフロン及びイマザピック、並びにそれらの組み合わせに対して良好な耐性を有することが判明した。結果を
図9において示した。
【0127】
実施例9:ePEでのブタ細胞における編集
他の種におけるePPEの編集効率を試験するために、ブタ細胞の3つの標的を試験のために選択した(ePEと命名する)。結果を
図10において示した。実際にePEは、元のPEでの処理と比較して、異なる程度の効率改善を示した。
【0128】
実施例10:プライム編集におけるePPEタンパク質のオフターゲット現象
ePPEがオフターゲット編集の効率を大幅に改善させたかどうかを判断するために、pegRNAのミスマッチに対するePPEの耐性及び試験した内因性部位と1~3個のミスマッチを有する潜在的なゲノムオフターゲット部位の編集効率をそれぞれ試験した。内因性標的及び潜在的なオフターゲット部位におけるプライム編集システムの編集効率を、アンプリコン配列分析によって分析した。結果を
図11において示した。ePPEは、PPEと比較して、ほとんどの部位でオフターゲット編集現象を大幅に増加させなかった。
【0129】
実施例11:ePPEと塩基編集の比較
塩基変異導入の観点から、ePPEの編集効率を慣用的に使用される塩基エディターと比較するために、7つのイネ内在性標的を選択し、ePPEをそれぞれA3A-PBE及びPABE8eと比較した。アンプリコン配列解析の結果を
図12に示した。PAMの制限により、他の編集部位のC又はAを含まない場合に、プライム編集は標的部位を正確に編集する上で大きな利点を示し、ePPEと塩基編集は機能的に相補的であり、植物ゲノム編集においてより柔軟な応用をもたらした。
【0130】
実施例12:ePPEとpegRNA最適化ストラテジーとを組み合わせることによるプライム編集効率のさらなる改善
植物のプライム編集効率をさらに改善するために、ePPEタンパク質をデュアルpegRNAストラテジー及びepegRNAストラテジーと組み合わせた。結果を
図13において示した。異なるepegRNAに対する評価により、PPE及びePPEによる3’-tevopreQ1-8ntリンカー修飾を有するデュアルpegRNAでプロトプラストを同時形質転換することを決定した。ePPEとデュアルpegRNAストラテジー及びepegRNAsストラテジーとを組み合わせたプライム編集効率がさらに改善し、かつePPE-dual-epegRNAの組み合わせが、PPE-dual-pegRNAの組み合わせより7.9倍高かった。
【0131】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【表1-9】
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-04-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノムの標的改変のためのプライム編集システムであって、
i)プライム編集融合タンパク質、及び/又はプライム編集融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物、ここでプライム編集融合タンパク質はCRISPRニッカーゼ及び逆転写酵素を含む;及び/又は
ii)少なくとも1つのpegRNA、及び/又は少なくとも1つのpegRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物、
を含み、
ここで、少なくとも1つのpegRNAが、5’から3’の方向に、ガイド配列、足場配列、逆転写(RT)鋳型配列、及びプライマー結合部位(PBS)配列を含み、
少なくとも1つのpegRNAが、融合タンパク質と複合体を形成し、融合タンパク質をゲノム内の標的配列に標的化することができ、その結果標的配列にニックを形成する、
植物ゲノムの標的改変のためのプライム編集システム。
【請求項2】
CRISPRニッカーゼが、例えば配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む、Cas9ニッカーゼである、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
逆転写酵素が、M-MLV逆転写酵素又はその機能的バリアントである、請求項
1に記載のシステム。
【請求項4】
(a)逆転写酵素が、F155Y、F155V、F156Y、D524N、D200Cのいずれか1つから選択される変異を含む、ここでアミノ酸位置は配列番号3に関する、
(b)逆転写酵素の関連配列が消失する、及び/又は
(c)逆転写酵素のRNase Hドメインが変異又は消失する、
請求項
1に記載のシステム。
【請求項5】
逆転写酵素が、配列番号9~15のいずれか1つで示される配列を含む、請求項
1に記載のシステム。
【請求項6】
逆転写酵素、例えばM-MLV逆転写酵素、又はそれらの機能的バリアントが、N末端又はC末端でヌクレオカプシドタンパク質(NC)、プロテアーゼ(PR)、又はインテグラーゼ(IN)と、融合タンパク質中で直接もしくはリンカーを介して融合される、請求項
1に記載のシステム。
【請求項7】
ヌクレオカプシドタンパク質(NC)が、配列番号6で示されるアミノ酸配列を含み、又はプロテアーゼ(PR)が、配列番号7で示されるアミノ酸配列を含み、又はインテグラーゼ(IN)が、配列番号8で示されるアミノ酸配列を含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
逆転写酵素が、N末端でヌクレオカプシドタンパク質(NC)と直接又はリンカーを介して融合し、かつ好ましくはRNase Hドメインを消失させたM-MLV逆転写酵素の機能的フラグメントが、N末端でヌクレオカプシドタンパク質(NC)と直接又はリンカーを介して融合する、請求項
1に記載のシステム。
【請求項9】
pegRNAのガイド配列を、標的配列と十分な配列同一性を有するように配置し、塩基対形成によって標的配列の相補鎖に結合して、配列特的標的化を得ることができる、請求項
1に記載のシステム。
【請求項10】
pegRNAの足場配列が、配列番号18で示される配列を含む、請求項
1に記載のシステム。
【請求項11】
プライマー結合配列が、標的配列の少なくとも一部に相補的であるように構成され、かつ好ましくは、プライマー結合配列が、ニックによって生じた3’遊離一本鎖の少なくとも一部に、特に3’遊離一本鎖の3’末端でヌクレオチド配列に相補的である、請求項
1に記載のシステム。
【請求項12】
プライマー結合配列が、約18~52℃、好ましくは約24~36℃、より好ましくは約28~32℃、及び最も好ましくは約30℃のTm(融解温度)を有する、請求項
1に記載のシステム。
【請求項13】
RT鋳型配列が、ニックの下流の配列に対応するように構成され、所望の改変を含み、かつ改変が、1つ以上のヌクレオチドの置換、欠失、及び/又は付加を含む、請求項
1に記載のシステム。
【請求項14】
プライム編集融合タンパク質が、配列番号19で示されるアミノ酸配列を含む、請求項
1に記載のシステム。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載のプライム編集システムを少なくとも1つの細胞に導入し、それにより少なくとも1つの細胞のゲノム内の標的配列に改変をもたらすことを含む、遺伝子組換え植物を生産する方法。
【国際調査報告】