(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】軟部組織の増強及び補強のための足場
(51)【国際特許分類】
A61L 27/36 20060101AFI20240829BHJP
A61K 35/16 20150101ALI20240829BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20240829BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20240829BHJP
A61F 2/32 20060101ALI20240829BHJP
A61F 2/28 20060101ALI20240829BHJP
A61F 2/04 20130101ALI20240829BHJP
【FI】
A61L27/36 100
A61L27/36 400
A61K35/16
A61P15/00
A61L27/50
A61F2/32
A61F2/28
A61F2/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536334
(86)(22)【出願日】2022-08-31
(85)【翻訳文提出日】2024-02-27
(86)【国際出願番号】 AU2022051064
(87)【国際公開番号】W WO2023028651
(87)【国際公開日】2023-03-09
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2022-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524074688
【氏名又は名称】スマートフェム・メディカル・テクノロジー・プロプライエタリー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100133765
【氏名又は名称】中田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】ベニア-ウィルソン,フェレバ
【テーマコード(参考)】
4C081
4C087
4C097
【Fターム(参考)】
4C081AB11
4C081CD34
4C081CE03
4C081DA11
4C081EA02
4C087AA01
4C087BB35
4C087DA22
4C087DA28
4C087MA67
4C087NA14
4C087ZA81
4C097AA04
4C097AA05
4C097AA14
4C097BB01
4C097CC01
(57)【要約】
本開示は、組織修復及び/又は支持(例えば、補強)のための足場移植片材料、又は多血小板血漿(PRP)移植片、及びその生成方法に関する。1つの特定の用途において、足場材料は、骨盤臓器脱(POP)を治療するために使用される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における組織修復及び/又は組織支持若しくは補強のための足場移植片材料又は多血小板血漿(PRP)移植片を生成する方法であって、
(i)全血試料を提供する工程と、
(ii)前記全血試料を、抗凝固剤又は凝固を開始する表面と組み合わせる工程と、
(iii)任意選択で、前記全血試料を第1の期間にわたって分離力に供することによって、多血小板血漿を得る工程と、
(iv)前記全血試料を凝固活性剤と組み合わせる工程と、
(v)血液試料が凝固している間に、前記全血試料を第2の期間にわたって分離力に供する工程と、
(vi)ペレット化された材料を上清から分離する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記ペレット化された材料を採取することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(i)抗凝固剤及び凝固活性剤又は凝固を開始する表面と組み合わせて全血試料を提供する工程であって、前記抗凝固剤が約5分以内の前記血液試料の凝固を防止するのに十分である配置である、工程と、
(ii)前記血液試料が凝固している間に前記血液試料を分離力に供して、全血を密に凝固した材料(ペレット化された材料)及び上清に分離する工程と、
(iii)前記密に凝固した材料を前記上清から分離して、前記対象における組織修復及び/又は組織支持若しくは補強のための前記足場移植片材料を提供する工程と、を含む、足場移植片材料を生成するための、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記血液試料が、約2250xg~3750xgの範囲の一工程遠心分離に供される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
遠心分離期間が、50~60分間である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
(iv)前記密に凝固した材料を採取することを更に含む、請求項3~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、
(i)ある体積の全血を容器に収集する工程と、
(ii)全血試料を第1の期間にわたって第1の分離力に供して、赤血球(RBC)を、多血小板血漿(PRP)を含む上清から分離することによって、PRPを得る工程と、
(iii)前記全血試料を凝固活性剤と組み合わせる工程と、
(iv)血液試料が凝固している間に、前記全血試料を第2の期間にわたって第2の分離力に供して、移植片材料を形成する工程と、を含む、自己PRP移植片材料の調製のための、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記凝固活性剤が、グルコン酸塩である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記多血小板血漿(PRP)及びグルコン酸塩が、0.5:2~3:8v/vの比率である、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
組織修復及び/又は支持が、膣壁の組織修復及び/又は組織支持若しくは補強である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
血液が、前記対象に対して自己である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記足場材料が、血漿、血小板、赤血球、及び白血球の実質的に均質な混合物を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記密に凝固した材料が、前記全血中の少なくとも約95%の前記血小板を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記密に凝固した材料が、約30%以下の血漿中水分含有量を含む、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記密に凝固した材料が、10%未満の赤血球及び白血球を含む、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記凝固活性剤が、カルシウム塩、鉄(第一鉄)塩、アルミニウム塩、ナトリウム塩、又は亜鉛塩から選択され、前記抗凝固剤が、ヘパリン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸塩、シュウ酸塩、及びトロンビン阻害剤から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記凝固活性剤が、グルコン酸カルシウムであり、前記抗凝固剤が、クエン酸ナトリウムである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記全血、抗凝固剤、及び凝固活性剤の体積が、約8~12:1:1v/vの比率である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記全血、クエン酸ナトリウム、及びグルコン酸カルシウムの体積が、約9:1:1v/vの比率である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一項に記載の方法によって生成されるか、又はそれによって得ることができる、足場移植片材料。
【請求項21】
全血から生成された対象における組織修復及び/又は組織支持若しくは補強のための足場移植片材料であって、前記足場材料が、約95~100%の血小板、10%未満の赤血球及び白血球、並びに少なくとも約30%の血漿中水分含有量を含む、可撓性固体非ゲル均質材料である、足場移植片材料。
【請求項22】
少なくとも3Mpaの極限引張強度を含む、請求項21に記載の足場移植片材料。
【請求項23】
少なくとも20Nの縫合糸保持強度を含む、請求項21又は22に記載の足場移植片材料。
【請求項24】
前記移植片が、遠心分離後に、比較的均一な断面厚さのディスクを形成し、約3~5cmの範囲の直径及び1.5~3mmの厚さを有する、請求項21~23のいずれか一項に記載の足場移植片材料。
【請求項25】
自己PRP移植片材料であって、前記移植片材料が、多血小板血漿(PRP)及びグルコン酸塩を含み、前記グルコン酸塩の多血小板血漿に対する比率が、0.5:2~3:8v/vである、自己PRP移植片材料。
【請求項26】
前記ディスクの一方又は両方の側面に適用された外科用接着剤を更に含む、請求項24に記載の足場移植片。
【請求項27】
前記移植片の強化を補助するための1つ以上の更なる材料又は成長因子を含む、請求項24に記載の足場移植片又は請求項25に記載の自己PRP移植片。
【請求項28】
少なくとも20Nの縫合糸保持強度を含む、請求項24に記載の足場移植片材料。
【請求項29】
骨盤臓器脱(POP)に罹患している対象を治療する方法であって、前記方法が、
(i)請求項20~24、又は26~28のいずれか一項に記載の足場移植片材料、又は請求項25~27のいずれか一項に記載のPRP移植片材料を提供する工程と、
(ii)前記足場移植片材料又はPRP材料を、前記脱出の外科的修復部位に固定する工程と、を含む、方法。
【請求項30】
前記脱出が、前部コンパートメント脱出、後部コンパートメント脱出、前部及び後部脱出、全体的な脱出、前部及び頂部脱出、後部及び頂部脱出、並びに頂部脱出から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記足場移植片材料又はPRPが、下側の筋膜に適用される接着剤の第1の層、前記足場材料、次いで第2のオーバーレイ接着剤層を含む「サンドイッチ」配置で、前記外科的修復部位に固定される、請求項29又は30に記載の方法。
【請求項32】
対象における損傷又は負傷した骨盤組織を修復又は増強する方法であって、前記方法が、
(i)請求項20~24、又は26~28のいずれか一項に記載の足場移植片材料、又は請求項25~27のいずれか一項に記載のPRP移植片材料を提供する工程と、
(ii)前記足場移植片材料又はPRP材料を前記対象の標的部位に固定して、前記損傷又は負傷した組織を修復又は増強する工程と、を含む、方法。
【請求項33】
前記標的部位が、負傷又は欠損の部位、より具体的には、膣壁上皮又は結合組織筋膜における裂傷の部位である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
1つ以上の足場移植片材料又はPRP移植片材料が、前記部位又は外科的修復又は標的部位に送達される、請求項29~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
部品のキットであって、
(i)静脈穿刺針と、
(ii)カニューレと、
(iii)抗凝固剤及び凝固活性剤を事前に充填した(又は凝固を開始する表面が提供されている)少なくとも1つの蓋付き血液収集容器と、
(iv)プライヤーと、
(v)生理食塩水を事前に充填した少なくとも1つのシリンジと、任意選択で、
(vi)請求項1~19のいずれか一項に記載の移植片を調製するための説明書と、を含む、部品のキット。
【請求項36】
抗凝固剤及び凝固活性剤を事前に充填した少なくとも1つの蓋付き血液収集容器を、請求項1~19のいずれか一項に記載の足場移植片材料の調製のための説明書とともに含む、キット。
【請求項37】
骨盤臓器脱に罹患している対象の治療に使用するための、又は治療に使用される場合の、請求項35に記載のキット。
【請求項38】
足場移植片材料の調製に使用される場合の滅菌容器であって、前記滅菌容器が、約8~12:1:1v/vの比率で全血、抗凝固剤、及び凝固活性剤を含む、滅菌容器。
【請求項39】
自己PRP移植片材料の調製に使用される場合の滅菌容器であって、前記滅菌容器が、PRP、グルコン酸塩を含み、前記グルコン酸塩の多血小板血漿に対する比率が、0.5:2~3:8v/vである、滅菌容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書において引用又は参照される全ての文書、及び本明細書において引用される文書において引用又は参照される全ての文書は、本明細書又は参照により本明細書に組み込まれる任意の文書に言及される任意の製品の任意の製造業者の指示、説明、製品仕様、及び製品シートとともに、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年8月31日に出願されたオーストラリア特許第2021/902826号及び2022年3月3日に出願されたオーストラリア特許第2022/900504号からの優先権を主張するものであり、その全体の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
本開示は、組織修復及び/又は支持(例えば、補強)のための足場移植片材料及びその生成方法に関する。1つの特定の用途において、足場材料は、骨盤臓器脱(POP)を治療するために使用される。
【背景技術】
【0004】
膣脱を含む骨盤臓器脱(POP)は、40~60%の発生率及び12~19%の手術の生涯リスクを有する、女性に一般的な状態である。例えば、オーストラリアでは、経膣出産した女性の50%以上が、ある程度POPのリスクがあると推定されている(www.contienence.org.au)。しかしながら、出産は、女性におけるPOPの唯一の原因ではなく(例えば、婦人科がん治療及び重労働、年齢、並びに肥満も一般的な原因である(Ramaseshan AS et al.,Int Urogynecol J29(4):459-476,2018))、オーストラリア人女性におけるPOPの実際の発生率が有意に高いことが見込まれ得る。
【0005】
POPは、典型的には骨盤底の「崩壊」、特に骨盤底筋及び支持組織の衰弱及び/又は裂傷/伸張に起因する、骨盤内器官(例えば、膣、膀胱、子宮、及び腸)の正常な位置からの下降を特徴とする。女性では、一般に3つの認識されたタイプのPOPがあり、すなわち、前膣壁脱(膣の前壁への膀胱及び/又は尿道の突出を特徴とし得る)、後膣壁脱(膣の後壁への腸又は直腸の一部分の突出を特徴とする)、及び子宮又は膣の上部が膣管に落下し得る頂部膣脱である。いずれの場合も、POPは、膣の膨張、不快感(例えば、圧迫感又は満腹感)、排便困難、及び膀胱制御の喪失(例えば、排尿困難、又は一般的に、尿漏れ若しくは失禁)を含む様々な異なる症状を引き起こし得る。
【0006】
多くの場合、女性のPOPは、定期的な運動(例えば、骨盤底筋を強化するためのケーゲル運動)及びライフスタイルの選択若しくは変化(例えば、POPを発症するリスクは、喫煙及び肥満によって有意に増加する(www.voicesforpfd.org))、並びに/又はペッサリー若しくは膣支持デバイスの使用によって有効に管理することができる。しかしながら、より深刻な場合では、特に生活の質、膀胱、腸、及び性機能に関連するより重篤な症状を有する女性に対して、外科的介入が推奨される場合がある。POPには多数の再建手術及び閉塞手術のアプローチが利用可能であり、比較的最近まで、合成メッシュ(すなわち、ポリプロピレン経膣メッシュ)の使用が、特に膀胱脱(膀胱が膣の前壁に突出する)の手術に一般的に用いられていた。
【0007】
しかしながら、メッシュ侵食、性交疼痛、性交痛(hispareunia)、骨盤痛、及び再手術率の上昇、並びに関連する生活の質の低下などの合併症に起因して、POP手術のための合成メッシュの使用は、オーストラリア及び他の国々で撤退している。その結果、婦人科外科医は、天然組織修復(NTR)に戻りつつあるが、このような技術は、高い失敗率を示す(例えば、ステージ2の前膣壁脱のためのNTRを調査した1つの研究では、患者の33%が0.6~13年後に二次脱出コンパートメント処置を必要としたことが分かった(Lavelle RS et al.,J Urol195(4 Pt1):1014-1020,2016))。
【0008】
このため、POP手術を増強するために、様々な生物学的移植片(例えば、ヒト真皮死体同種移植片及び哺乳動物細胞外基質(ECM)異種移植片)を使用して試験が行われたが、標準的なNTR技術を上回るその使用を裏付ける証拠は不十分であり(Advances in Female Pelvic Medicine and reconstructive Surgery,eds.HW Brown and RG Rogers,Elsevier,Philadelphia,PA,United States of America,2021)、現時点では、少なくともオーストラリアでは、有効性の証拠がないため、また、上述の合成メッシュ合併症の影響として、このような生物学的移植片は、POP手術に利用可能ではない(www.tga.gov.au/alert/tga-actions-after-review-urogynaecological-surgical-mesh-implants#actions)。
【0009】
POPを増強するための生物学的移植片又は吸収性メッシュを使用する他の外科的技術が試験されており、低品質証拠に基づく全身レビューは、脱出又は再手術の認識率に関してNTRと比較して最小限の利点を実証する(Maher C,Feiner B,Baessler K,Christmann-Schmid C,Haya N,Marjoribanks J.Transvaginal mesh or grafts compared with native tissue repair for vaginal prolapse.Cochrane Database Syst Rev.2016;2:CD012079)。低から中程度の品質証拠は、生物学的移植片によるNTR後の前部脱出の再発率が高いことを示唆している。
【0010】
したがって、POPの治療のための新規の非メッシュアプローチ、例えば、骨盤底の天然組織修復を支持及び強化し得るだけでなく、手術後の失敗率を低下させ得る技術の特定及び開発のための緊急の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0011】
本開示は、天然組織修復の増強を促進し、組織増強及び生理学的支持を提供する全血由来の生成物に基づく。本明細書では、骨盤臓器脱における機械的支持を提供するために特に有用な組成物(足場)と、このような組成物(足場)を生成するための方法とが開示される。
【0012】
第1の態様では、本開示は、対象における組織修復及び/又は組織支持若しくは補強のための足場移植片材料又は多血小板血漿(PRP)移植片を生成する方法であって、
(i)全血試料を提供する工程と、
(ii)全血試料を、抗凝固剤又は凝固を開始する表面と組み合わせる工程と、
(iii)任意選択で、全血試料を第1の期間にわたって分離力に供することによって、多血小板血漿を得る工程と、
(iv)全血試料を凝固活性剤と組み合わせる工程と、
(v)血液試料が凝固している間に、全血試料を第2の期間にわたって分離力に供する工程と、
(vi)ペレット化された材料を上清から分離する工程と、を含む、方法を提供する。
【0013】
一例では、方法は、ペレット化された移植片材料を採取することを更に含む。
【0014】
第1の実施形態では、方法は、足場移植片材料を生成することであって、
(i)抗凝固剤及び凝固活性剤又は凝固を開始する表面と組み合わせて全血試料を提供する工程であって、抗凝固剤が約5分以内の血液試料の凝固を防止するのに十分であるような配置である、工程と、
(ii)血液試料が凝固している間に血液試料を分離力に供して、全血を密に凝固した材料(ペレット化された材料)及び上清に分離する工程と、
(iii)密に凝固した材料を上清から分離して、対象における組織修復及び/又は組織支持若しくは補強のための足場材料を提供する工程と、を含む、生成すること、を含む。
【0015】
一例では、方法は、
(i)抗凝固剤及び凝固活性剤又は凝固を開始する表面と組み合わせて全血試料を提供することであって、抗凝固剤が約5分以内の血液試料の凝固を防止するのに十分であるような配置である、提供することと、
(ii)血液試料が凝固している間に、血液試料を、約2250xg~約3750xgの範囲の相対遠心力で一工程遠心分離に供して、密に凝固した材料及び上清を形成することと、
(iii)密に凝固した材料を上清から分離して、対象における組織修復及び/又は組織支持若しくは補強のための足場材料を提供することと、を更に含む。
【0016】
一例では、方法は、(iv)密に凝固した材料を採取することを更に含む。
【0017】
第2の実施形態では、方法は、自己PRP移植片材料の調製を含み、方法は、
(i)ある体積の全血を容器に収集する工程と、
(ii)全血試料を第1の期間にわたって第1の分離力に供して、赤血球(RBC)を、多血小板血漿(PRP)を含む上清から分離することによって、PRPを得る工程と、
(iii)全血試料を凝固活性剤と組み合わせる工程と、
(iv)血液試料が凝固している間に、全血試料を第2の期間にわたって第2の分離力に供して、移植片材料を形成する工程と、を含む。
【0018】
一例では、凝固活性剤は、グルコン酸塩である。一例では、グルコン酸塩は、グルコン酸カルシウムである。
【0019】
一例では、第1の分離力は、7~12分の第1の期間にわたって、3000~4000RPM(900~1,600xg)である。
【0020】
一例では、多血小板血漿(PRP)及びグルコン酸塩は、0.5:2~3:8v/vの比率である。
【0021】
一例では、全血は、PRPを得る前に、クエン酸塩と組み合わされる。別の例では、クエン酸塩は、クエン酸ナトリウムである。
【0022】
一例では、PRP濃度は、全血中の血小板のベースライン濃度の少なくとも4~6倍である。
【0023】
一例では、第2の分離力は、55~75分の第2の期間にわたって、3,500~4,500RPM(2000~3,200xg)である。
【0024】
一例では、組織修復及び/又は支持は、膣壁の組織修復及び/又は組織支持若しくは補強である。一例では、膣壁は、前膣壁である。別の例では、膣壁は、後膣壁である。
【0025】
全血は、単一のドナーからの血液試料又は単一の血液試料を得るために一緒に混合された複数のドナーからの血液試料を含み得る。血液試料は、足場移植片材料を受ける同じ対象から得られ得る。したがって、血液は、レシピエントに対して自己である。血液試料はまた、非自己の対象又はドナー若しくは複数のドナーから得られ得る。したがって、血液試料は、異種の対象又はドナー若しくは複数のドナーから得られ得る。一例では、血液は、好適なレセプタクル又は容器に収集される。一例では、レセプタクル又は容器は、ガラスである。別の例では、レセプタクル又は容器は、ホウケイ酸ガラス容器である。一例では、全血試料は、当該対象からのものであり、したがって、方法は、対象における組織修復及び/又は支持のための自己足場移植片材料を生成する。したがって、血液試料は、対象に対して自己又は同種であり得る。
【0026】
血液試料は、1つ以上の抗凝固剤及び1つ以上の凝固剤と組み合わせられ得る。特定の例では、抗凝固剤及び凝固活性剤は、全血を添加する前に組み合わされる。一例では、抗凝固剤及び凝固活性並びに血液試料は、順番に提供される。一例では、血液試料は、血液の即時凝固を回避するために、凝固剤の添加の前に、抗凝固剤と組み合わされる。
【0027】
一例では、第1の実施形態による密に凝固した材料(すなわち、足場移植片材料)は、血漿、血小板、赤血球、及び白血球の実質的に均質な混合物を含む。一例では、密に凝固した材料は、赤血球及び白血球を実質的に含まない。一例では、密に凝固した材料中の赤血球及び白血球の割合は、約10%未満、好ましくは約5%未満の赤血球、及び約10%未満、好ましくは約5%未満の白血球を含む。一例では、密に凝固した材料は、実質的に全ての血小板を含む。一例では、密に凝固した材料は、全血中の少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、又は100%の血小板を含む。一例では、密に凝固した材料は、約30%以下の血漿中水分含有量並びに血漿タンパク質及び固形物を含む。別の例では、密に凝固した材料は、約95~100%の血小板、10%未満の赤血球及び白血球、並びに約30%の血漿中水分含有量を含む。
【0028】
一例では、第1の実施形態による上清は、約70%の血漿を含む。別の例では、上清は、全血中の少なくとも約90%の赤血球及び少なくとも約90%の白血球を含む。
【0029】
一例では、抗凝固剤は、ヘパリン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸塩、シュウ酸塩、トロンビン阻害剤、又は他の因子阻害剤から選択される。別の例では、抗凝固剤は、クエン酸ナトリウムである。一例では、クエン酸ナトリウムは、全血18~20ml当たり2mlの量で溶液中に提供される。一例では、クエン酸ナトリウムは、約1%~5%(v/v)、好ましくは約3~4%(v/v)、より好ましくは約3.2%(v/v)の溶液として提供される。
【0030】
一例では、凝固活性剤は、全血中に存在するフィブリンの凝集を開始する。別の例では、凝固活性剤は、カルシウム塩、鉄(第一鉄)塩、アルミニウム塩、ナトリウム塩、又は亜鉛塩である。別の例では、凝固因子は、塩化カルシウム又は硫酸カルシウムである。別の例では、凝固因子は、グルコン酸カルシウムである。別の例では、グルコン酸カルシウムは、全血18~20ml当たり2mLの量で提供される。別の例では、グルコン酸カルシウムは、約10%の溶液として提供される。
【0031】
第1の実施形態による一例では、足場移植片材料における全血、抗凝固剤、及び凝固活性剤の体積は、約8~12:1:1v/vの比率である。一例では、全血、抗凝固剤、及び凝固活性剤の体積は、約9:1:1v/vの比率である。一例では、全血、クエン酸ナトリウム、グルコン酸カルシウムは、約8~12:1:1v/v、より好ましくは9:1:1v/vの比率である。
【0032】
第1の実施形態による一例では、抗凝固剤、凝固活性剤、及び全血は、単一の分離力に曝露され、密に凝固した材料(すなわち、足場移植片材料)及び上清の画分をもたらす。更なる例では、方法は、単一の遠心分離工程を含む。
【0033】
第1の実施形態による一例では、密に凝固した材料(すなわち、足場移植片材料)は、血小板、赤血球、白血球、及び血漿の均質な混合物である。別の例では、密に凝固した材料は、多層構造ではない。別の例では、密に凝固した材料は、柔らかいゼリー状材料ではない。
【0034】
一例では、第1の実施形態の方法は、遠心分離の前に、血液の即時凝固又はフィブリンを凝集させる工程を必要としない。
【0035】
第1の実施形態の方法はまた、採取後に密に凝固した材料を改変することを含み得る。一例では、改変は、吸収性材料上で材料を洗浄又はブロットすることを含む。
【0036】
第2の態様では、本開示は、第1の態様の方法によって生成されるか、又はそれによって得ることができる足場移植片材料を提供する。一例では、足場材料は、第1の実施形態による自己足場移植片材料である。一例では、足場材料は、第2の実施形態による自己移植片材料である。
【0037】
第3の態様では、本開示は、全血から生成された対象における組織修復及び/又は組織支持若しくは補強のための足場移植片材料、好ましくは自己足場材料を提供し、足場材料は、約95~100%の血小板、10%未満の赤血球及び白血球、並びに少なくとも約30%の血漿を含む、可撓性固体非ゲル均質材料である。血小板は、不活性化及び活性化された血小板を更に含み得る。特定の例では、足場移植片は、本明細書に記載されるような密に凝固した材料を含む。
【0038】
第4の態様では、本開示は、女性対象における骨盤内器官に対する組織修復及び/又は組織支持若しくは補強のための足場移植片材料を提供し、足場材料は、血漿、血小板、及びフィブリンを含み、赤血球及び白血球を実質的に含まない可撓性固体非ゲル材料であり、足場は、少なくとも3MPaの極限引張強度を含む。
【0039】
足場移植片材料は、縫合可能であることを可能にするだけでなく、脱出部位、例えば、前膣壁及び後膣壁に生体力学的補強を提供するのに十分な強度も有する物理的特性を含み得る。一例では、足場材料は、3~5Mpaの極限引張強度を含む。別の例では、足場材料は、少なくとも約20N(ニュートン)の縫合糸保持強度を含む。ある特定の例では、足場移植片材料は、遠心分離後に比較的均一な断面厚さのディスクを形成する。更なる例では、足場ディスクの直径は、約3~5cm、より好ましくは約5cmの範囲である。更なる例では、足場ディスクの厚さは、約1.5~3mmである)。いくつかの例では、足場ディスクは、ディスクの一方又は両方の側面に適用された外科用接着剤を更に含む。インサイチュでは、これは、前部及び/又は後部の側面を表し得る。好適な外科用接着剤は、当業者によく知られているであろう。例としては、フィブリン接着剤、アルブミン-グルタルアルデヒド、又はオクチル-シアノアクリレートなどのシアノアクリレート系組織接着剤が挙げられる。
【0040】
第5の態様では、本開示は、自己PRP移植片材料であって、移植片材料が、多血小板血漿(PRP)及びグルコン酸塩を含み、グルコン酸塩の多血小板血漿に対する比率が、0.5:2~3:8v/vである、自己PRP移植片材料を提供する。PRPは、外傷、糖尿病、又はがん、血管負傷、腱負傷、内臓負傷、又は補強若しくは組織補強及び増強の加速を必要とする任意の軟部組織損傷に起因する皮膚欠損に使用され得る。
【0041】
第5の態様による一例では、グルコン酸塩は、グルコン酸カルシウムである。一例では、グルコン酸塩の多血小板血漿に対する比率は、1:6v/vである。別の例では、グルコン酸塩の多血小板血漿に対する比率は、1:4v/vである。更なる例では、グルコン酸塩の多血小板血漿に対する比率は、2:6v/vである。一例では、自己移植片材料は、組織補強自己移植片材料である。更なる例では、自己移植片材料は、自己移植片複合体である。
【0042】
一例では、第5の態様によれば、自己移植片材料(PRP移植片)は、血小板中で富化される。一例では、PRP移植片は、赤血球を実質的に含まない。一例では、PRPは、ゼリー状材料である。
【0043】
第4の態様による本明細書に記載される足場移植片材料又は第5の態様による自己PRP移植片材料は、足場移植片材料の調製中又は調製後のいずれかに添加され得る任意選択の成分を更に含み得る。足場移植片材料は、移植片の強化を補助する1つ以上の材料を含み得る。一例では、任意選択の成分は、筋肉、例えば、骨格筋である。一例では、移植片は、移植片を更に強化するために生分解性足場材料を更に含む。例えば、生分解性材料は、亜鉛、銅、マグネシウム、又は鉄系合金であり得る。別の例では、生分解性材料は、ポリマー(例えば、バイオポリマー)である。ポリマーは、合成ポリマー、例えば、ポリオルトエステル、ポリホスホエステル、ポリ無水物、ポリエステル-アミド、又はポリアミドであり得る。ポリマーは、天然ポリマー、例えば、キトサン、アルギン酸塩、グアーガム、デンプン、カラギーナン、アルブミン、又はゼラチンであり得る。別の例では、任意選択の成分は、成長因子である。成長因子は、血管内皮成長因子(VEGF)、上皮成長因子(EGF)、インスリン様成長因子(IGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、形質転換成長因子ベータ(TGF-β)、及び線維芽細胞成長因子(FGF)のうちの1つ以上を含み得る。
【0044】
第6の態様では、本開示は、骨盤臓器脱(POP)に罹患している対象を治療する方法であって、当該方法が、
(i)第3、第4の態様による足場移植片材料、又は第5の態様によるPRP移植片材料、又は第2の態様による移植片を提供する工程と、
(ii)足場移植片材料又はPRP移植片材料を、脱出の外科的修復部位に固定する工程と、を含む、方法を提供する。
【0045】
一例では、POPは、前膣壁脱である。別の例では、POPは、子宮脱である。別の例では、POPは、前部コンパートメント脱出、後部コンパートメント脱出、前部及び後部脱出、全体的な脱出、前部及び頂部脱出、後部及び頂部脱出、並びに頂部脱出から選択される。
【0046】
いくつかの例では、治療方法は、負傷の程度に応じて1つ以上の足場移植片材料を部位に適用することを含む。足場は、並べて配置されて重ね合わせられ得る。他の例では、治療方法は、過去の治療の失敗の後に更なる治療を含む。
【0047】
一例では、対象は、35歳超の年齢、24超の体格指数、肥満、閉経、過去の鉗子分娩、過去の帝王切開分娩、子宮摘出術のうちの1つ以上を有する。一例では、対象は、同時の不調を有する。別の例では、同時の不調は、排尿機能障害、再発性尿路感染症(UTI)、腸管機能障害、性機能障害、硬化性苔癬、萎縮性膣炎、及び外陰部痛から選択される。一例では、第6の態様の方法は、膣の前壁及び/又は後壁筋膜の外科的修復の工程を更に含む。一例では、外科的修復は、縫合を含む。
【0048】
いくつかの例では、1つ以上の足場移植片は、外科的修復部位に固定される。
【0049】
第7の態様では、本開示は、対象における損傷又は負傷した骨盤組織を修復又は増強する方法であって、当該方法が、
(i)第3若しくは第4の態様による足場移植片材料、又は第5の態様によるPRP移植片材料、又は第2の態様による移植片を提供する工程と、
(ii)足場移植片材料又はPRP移植片材料を対象の標的部位に固定して、損傷又は負傷した組織を修復又は増強する工程と、を含む、方法を提供する。
【0050】
一例では、標的部位は、負傷又は欠損の部位、より具体的には、膣壁上皮又は結合組織筋膜における裂傷の部位である。裂傷、負傷、又は欠損は、恥骨頸筋膜(前壁筋膜)、直腸膣筋膜(後壁筋膜)、又はその両方で発生し得る。
【0051】
第6又は第7の態様による方法は、1つ以上の足場移植片材料又はPRP移植片材料を部位又は外科的修復又は標的部位に送達することを含み得る。複数の足場移植片材料又はPRP移植片材料は、部位に固定される前に一緒に縫合及び/又は接着され得る。いくつかの例では、足場移植片材料又はPRP移植片材料は、必要に応じて、伸長、縫合、圧縮、及び/又はトリミングのうちの1つ以上によってディスクに成形される。
【0052】
第8の態様では、本開示は、部品のキットであって、
(i)静脈穿刺針(例えば、18ゲージ翼状針などの翼状針)と、
(ii)カニューレと、
(iii)抗凝固剤及び凝固活性剤を事前に充填した(又は凝固を開始する表面が提供されている)少なくとも1つの蓋付き血液収集容器(例えば、標本容器)と、
(iv)プライヤーと、
(v)生理食塩水を事前に充填した少なくとも1つのシリンジ(例えば、洗浄のための滅菌0.9%通常生理食塩水を含有する20mLのシリンジ)と、任意選択で、
(vi)第1の態様による移植片を調製するための説明書と、を含む、部品のキットを提供する。
【0053】
第9の態様では、本開示は、抗凝固剤及び凝固活性剤を事前に充填した少なくとも1つの蓋付き血液収集容器を、第1の態様による足場移植片材料の調製のための説明書とともに含む、キットを提供する。
【0054】
第10の態様では、本開示は、骨盤臓器脱に罹患している対象の治療に使用するための、又は治療に使用される場合の第8の態様によるキットを提供する。一例では、キットは、骨盤臓器脱を有する対象を治療するための説明書を更に含む。
【0055】
いくつかの例では、部品のキットは、標準的な滅菌皿(例えば、ペトリ皿)及び/又は移し針を更に含み得る。更に、いくつかの実施形態では、部品のキットは、遠心分離機(例えば、標準的なベンチトップ遠心分離機)を含み得る。
【0056】
第11の態様では、本開示は、足場移植片材料の調製に使用される場合の滅菌容器を提供し、滅菌容器は、約8~12:1:1v/vの比率で全血、抗凝固剤、及び凝固活性剤を含む。
【0057】
第12の態様では、本開示は、自己PRP移植片材料の調製に使用される場合の滅菌容器を提供し、滅菌容器は、PRP、グルコン酸塩を含み、グルコン酸塩の多血小板血漿に対する比率は、0.5:2~3:8v/vである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】
図1は、本開示の足場移植片材料を生成するためのフローチャートである。
【
図2】
図2は、本開示の足場移植片材料を含む容器の写真画像を示す。ペレットは、密に凝固した材料を含み、約95~100%の血小板、少なくとも10%の赤血球及び白血球、並びに少なくとも約70%の血漿を含む。
【
図3】
図3は、全血から生成された足場材料の写真画像を示す。示される足場材料は、約5cmの直径(又は最長寸法)、及び約2~3mmの実質的に均一な厚さを有する、実質的にディスク形状で提供される。ディスクは、質感がゼラチン状ではないが、いくらかの可撓性を示し、それらを所望の部位の範囲に広く適用可能にする堅牢な構造を提供するように十分に高密度である。
【
図4】
図4は、ヒト女性の骨盤の解剖学的図を示す。膣の前壁及び後壁の位置を示す。
【
図5】
図5は、インサイチュでの足場移植片材料の写真画像を示す。(A)膣粘膜と膀胱との間の修復された膣結合組織の基部に縫合された足場移植片(B)膣粘膜に接着された足場移植片材料。
【発明を実施するための形態】
【0059】
定義
「及び/又は」という用語は、例えば、「X及び/又はY」は、「X及びY」又は「X又はY」のいずれかを意味すると理解され、両方の手段又はいずれかの意味に対して明示的な支持を提供すると解釈されるものとする。更に、最後から2番目の特徴と最後の特徴との間の「及び/又は」という語句を含む列記又は特徴は、列記された特徴のいずれか1つ以上が任意の組み合わせで存在し得ることを意味する。
【0060】
単数形の「a」、「an」、及び「the」への言及は、文脈上他の意味を指示する場合を除いて、複数の形態の包含も意味すると理解される。
【0061】
本明細書及び以下の特許請求の範囲全体を通して、文脈上他の意味に解釈する場合を除いて、「含む(comprise)」及び「含む(include)」という単語、並びに「含む(comprising)」及び「含む(including)」などの変化形は、記述された要素又は要素の群の包含を意味するが、任意の他の要素又は要素の群の除外を意味するものではないことが理解されるであろう。
【0062】
本出願で使用される場合、「又は」という用語は、排他的な「又は」ではなく包括的な「又は」を意味することが意図される。すなわち、別途指定されない限り、又は文脈から明らかでない限り、「XはA又はBを用いる」は、自然な包括的順列のいずれかを意味することが意図される。すなわち、XがAを用いる、XがBを用いる、又はXがA及びBの両方を用いる場合、「XがA又はBを用いる」は、前述の事例のいずれかの下で満たされる。更に、A及びB並びに/又は同様のもののうちの少なくとも1つは、一般に、A又はB、あるいはA及びBの両方を意味する。
【0063】
本明細書に言及される「前部」という用語は、膀胱の下に、及び膀胱に隣接して位置する前膣壁を指す。
【0064】
「前部脱出」又は膀胱脱という用語は、膀胱及び膣を分離する結合組織筋膜の衰弱を指し、膀胱の膣内への膨出を引き起こし得る。前部脱出は、膀胱脱と呼ばれることがある。
【0065】
本明細書で言及される「後部」という用語は、直腸に隣接して位置する後膣壁を指す。
【0066】
「後部脱出」又は直腸瘤という用語は、直腸及び膣を分離する結合組織筋膜の衰弱を指し、直腸の膣内への膨出を引き起こし得る。
【0067】
本明細書に言及される「脱出」という用語は、骨盤内器官(例えば、子宮)の膣内への膨出を引き起こすプロセスを指す。それは多くの場合、子宮脱とも称され、骨盤底筋及び靭帯が伸張及び衰弱し、子宮に十分な支持を提供しなくなったときに発生する。その結果、子宮が膣内に滑り落ち、膣から突出する。
【0068】
本明細書で使用される「対象」という用語は、動物、一例では哺乳動物、更なる例では、本開示の足場材料及び方法から利益を得るヒトを指す。特定の例では、対象は、女性である。
【0069】
本明細書で使用される「移植片足場材料」という用語は、血漿、血小板、並びに赤血球及び白血球の密に凝固した均質な混合物を指す。密に凝固した材料は、約95~100%の血小板、少なくとも10%の赤血球及び白血球、並びに少なくとも約70%の血漿を含む。移植片材料は、伸長することができ、縫合可能であるか、又は膣壁の修復された結合組織に接着され得る。
【0070】
本明細書で使用される「PRP移植片」という用語は、赤血球を実質的に含まない富化された血小板組成物を指す。
【0071】
本明細書で使用される「凝固(clotting)」又は「凝固(coagulation)」という用語は、血液がゲル化するときに形成される柔らかい、非剛性の不溶性の塊、又は柔らかい、非剛性の不溶性の血液塊を形成するプロセスを指す。「血餅」という用語は、血液の凝固相、すなわちフィブリノゲンのフィブリンへの変換に起因し、それによって凝固された血漿内に血液細胞を閉じ込める、柔らかく、粘着性のあるゼリー状の塊に当てはまり得る。
【0072】
本明細書で使用される「凝集したフィブリン」という用語は、凝固(clotting)又は凝固(coagulation)後のその状態にあるフィブリンを指す。
【0073】
本明細書で使用される「血漿中水分含有量」という用語は、血漿中の水分の量を指す。血漿は、約90~92%の水分と、イオン、タンパク質、溶解ガス、栄養分子、及び廃棄物で構成されている8~10%の固形物とを含む。タンパク質には、抗体タンパク質、凝固因子、アルブミン、及びフィブリノゲンが含まれる。
【0074】
血液試料
全血は、液体成分及び固体成分の混合物である。血漿は、血液細胞(固体成分)が懸濁される血液の液体成分である。血漿は、総血液体積の約60%を占め、主に水分(体積で90%)で構成され、溶解したタンパク質、グルコース、凝固因子、ミネラルイオン、ホルモン、及び二酸化炭素を含有する。血小板及び血液細胞は、全血の固形成分中に見られる。血小板及び血液タンパク質は、血液凝固(clotting)又は凝固(coagulation)を開始し、負傷部位の上に凝固を形成することによって、出血を止めるために一緒に作用する。血小板は、形質転換成長因子(TGF-β)、血小板由来成長因(PDGF)、及び血管内皮成長因子(VEGF)などの多くの成長因子の放出を通して、強力な凝結促進効果及び抗繊維素溶解効果を発揮する。
【0075】
一般的な血液タンパク質は、フィブリノゲン(第I因子)である。本明細書で使用される場合、「凝集していないフィブリン」及び「フィブリノゲン」という用語は、フィブリンの前駆体を指すために、又は凝固(clotting)若しくは凝固(coagulation)の前のその状態で交換可能に使用される。健常な個体において、フィブリノゲン又は凝集していないフィブリンは、1)それらの表面タンパク質に結合することによって血小板のための架橋を形成すること、及び2)フィブリンの前駆体という2つの主要な機能を有する。凝固プロセス中に、フィブリノゲンは、いくつかの工程を通してフィブリンに変換される。最初に、トロンビンが、フィブリノゲンアルファ鎖及びベータ鎖のアミノ末端をそれぞれフィブリノペプチドA及びBに切断する。得られたフィブリンモノマーは、末端間で重合してプロトフィブリルを形成し、次いで、これが横方向に会合してフィブリン繊維を形成する。次いで、フィブリン繊維は、会合してフィブリンゲル又は血餅を形成することができる。
【0076】
その接着特性に起因して、フィブリン血餅は、組織間に強力な接合を形成することによって非外傷的に組織を連結し、平坦ではない創傷表面に適応する。
【0077】
好ましくは、全血試料は、対象からのものであり、したがって、方法は、対象における組織修復及び/又は支持のための自己足場材料を生成する。
【0078】
足場移植片材料
本開示は、負傷部位、例えば、脱出部位に機械的支持を提供するのに十分な強度を有する、赤血球及び白血球を実質的に含まない血漿、凝固剤、血小板、及びフィブリンの密に凝固した均質な混合物を含む、寸法的に安定した均質な足場材料を生成することができるという発見に基づく。
【0079】
第1の態様の方法の第1の実施形態に従って生成された足場材料は、上述したように、赤血球及び白血球を実質的に含まない可撓性固体非ゲル材料である。本明細書で使用される「実質的に」という用語は、約30%未満、約25%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、約5%未満、約2%未満を意味する。それは、好ましくは、それが使用される部位で(例えば、筋膜と膣上皮との間の前膣壁脱を有する患者について)生物学的及び機械的支持を提供するように十分に固体であることを更に特徴とし、いくつかの実施形態では、足場材料は、縫合可能であるように十分に固体であり、すなわち、縫合糸は、材料の完全性を実質的に損失することなく(例えば、足場材料は、断裂、断片化、又は他の破損なしで無傷のままである)、標準的な縫合針で材料を容易に通過することができる。しかしながら、以下に更に記載されるように、足場材料は縫合可能であり得るが、足場材料は、それが使用される部位に縫合される必要はない。
【0080】
対象は、前膣壁脱などのPOPに罹患している患者であり得、使用中、足場材料は、その部位での筋膜欠損の標準的な外科的修復が実施された後(例えば、欠損を修復するための縫合糸の適用によって)、筋膜と膣上皮との間に固定され得る。典型的には、方法の工程(i)で提供される全血試料は、手術が開始される直前(例えば、対象の手術準備中又は「術前」)に対象から収集されて、好ましくは、足場材料が手術の過程中に生成されることを可能にし、それによって、筋膜欠損の外科的修復が完了すると、又は完了直後に利用可能になるようにする(それによって、足場材料の任意の保管及び/又は保存の必要性を回避する)。足場材料は、好適な縫合糸によって、又はより好ましくは、好適な生体適合性及び/若しくは生分解性接着剤若しくはシーラントなどの接着剤、又はそれらの組み合わせ(例えば、フィブリン接着剤、アルブミン-グルタルアルデヒドなどのバイオ接着剤、又はオクチル-シアノアクリレートなどのシアノアクリレート系組織接着剤、例えばDERMABOND(商標))の使用によって、外科的修復部位に固定され得る。
【0081】
いくつかの例では、足場材料は、血清腫のリスクを低下させるように、足場材料の上に膣上皮を(例えば、好適な縫合糸で)閉鎖する前に、第1の接着剤層(下側の筋膜に適用される)、足場材料、次いで第2のオーバーレイ接着剤層を含む「サンドイッチ」配置で外科的修復部位に固定され得る。理論に拘束されることを望まないが、外科的処置に続いて、固定された足場材料は、(例えば、幹細胞の移動及び増殖を刺激するための足場として作用し、それによって新生血管形成及びコラーゲン形成を伴い得る天然組織修復を促進することによって)天然組織修復を強化し、骨盤底に支持(例えば、補強)を提供することができると考えられる。したがって、足場材料は、それが体内に長く留まるほど強くなる。
【0082】
上記にかかわらず、第1の態様の方法に従って生成された足場材料は、天然組織修復の支持及び/又は強化が望まれ得る他の状況に広く適用され得ることが予想される。例えば、足場材料は、メッシュ侵食の治療(例えば、合成メッシュの使用を伴う手術を過去に受けたPOP患者)、腸及び膀胱の負傷、血管及び他の治癒しない創傷、火傷及び他の皮膚創傷、糖尿病足、腱修復、脊椎修復、並びに軟部組織増強のために生成され得る。
【0083】
第1の態様の方法によって生成された第1の実施形態の足場は、安定して一貫した寸法を有する。一例では、足場は、3~10cm、好ましくは4~8cm、好ましくは5~7cm、より好ましくは約5cmの直径を有する。一例では、厚さは、約1.5~3cmである。
【0084】
筋膜のサイズに応じて、1つ又は2つの移植片が使用され得る。いくつかの例では、移植片は並べて置かれる。他の例では、筋膜の欠損がより実質的である場合、移植片は、全体的又は部分的に重複する。
【0085】
足場材料はまた、縫合、加熱、ステープル留め、及び生物学的接着剤で接着するなどの標準的な技術、又はこれらの方法の組み合わせを使用して、複数の構築物を一緒に接合、積層、又は結合することによって拡大され得る。
【0086】
いくつかの例では、外科用接着剤は、足場移植片材料の一方又は両方の面に適用される。いくつかの例では、1つ以上の凝結促進因子又は架橋因子が、足場又は接着剤に添加され得る。いくつかの例では、凝結促進剤は、カルシウムイオン又は塩、第I因子、第II因子、第III因子、第IV因子、第V因子、第VII因子、第X因子、第XI因子、第XII因子、第XIII因子、トロンボキナーゼ、プロコンベルチン、抗血友病グロブリン、プロトロンバーゼ、コラージュ、アラキドン酸、及びフィブリナーゼから選択され得る。いくつかの例では、架橋剤は、縮合剤、アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒド)及びカルボジイミドEDC(1-エチル-3(3ジメチルアミノプロピル)から選択される。更なる例では、幹細胞の足場への移動を促進する1つ以上の成長因子又は薬剤は、足場又は接着剤に添加され得る。これらは、前述のように血小板から合成される因子(例えば、VEGF、FGF、EGF、BMP、PDGFなど)のいずれかを含み得る。
【0087】
足場移植片材料の生成
本明細書に記載される全血試料は、好ましくは、抗凝固剤及び凝固活性剤又は凝固を開始する表面と組み合わせて提供される。「~と組み合わせて」とは、抗凝固剤及び凝固活性剤が、別々に全血に、又は連続的に全血に提供されることを意味する。便宜的には、これは、患者からの全血試料を(標準的な血液収集方法を使用して)抗凝固剤及び凝固活性剤を事前に充填した好適な血液収集容器に、又は抗凝固剤を事前に充填し、かつ凝固を開始する表面を提供した好適な血液収集容器に収集することによって達成され得る。全血試料の体積は、有用なサイズの足場材料を提供するために、サイズが約10mL~約50mL、より好ましくは約15ml~25mLの範囲であり得る。POPの治療に好適な足場材料の生成のために、約20mLの全血試料が特に好適である(例えば、18mL、19mL、20mL、21mL、又は22mLの試料)。
【0088】
約20mLの全血試料と、遠心分離工程中に直径5~7cmの円筒形の血液収集容器の使用とにより、本方法は、例えば、直径(又は最長寸法)が約5cmの円形又は卵形の足場材料の生成を可能にし得る。このような足場材料のディスクは、典型的には、厚さが約1.5~3mm、好ましくは約2~3mmになる。しかしながら、当業者は、足場材料が他の形状及び/又は寸法で提供され得ること、並びにこれが遠心分離工程に使用される選択された容器の基部の形状によって容易に方向付けられ得ることを容易に理解するであろう。したがって、足場材料は、いくつかの実施形態では、例えば、3cm×3cm、4cm×4cm、5cm×5cm、5cm×3cm、又は7cm×5cmなどの正方形又は長方形であり得る。足場材料の厚さは、典型的には、可撓性を確保し、好ましくは、縫合可能であるように十分な固体性を確保するように、約1.5mm~約4mm(好ましくは、2mm~3mm)の範囲になる。
【0089】
凝固を開始することができる好適な表面(本明細書において凝固開始表面とも称される)は、当業者に周知であり、例えば、ある特定の負に荷電した表面を含み、ガラス(例えば、ガラスビーズ又は容器の壁の内部ガラス表面を血液収集容器に提供することによって提供され得るようなもの)を含み、これは、第XII因子を活性化して、血液凝固の固有の経路を開始し得る。他の好適な凝固開始表面には、カオリン及び様々な形態のシリカを含む表面(Margolis J,J Physiol137:95-109,1957)、並びにポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタン、及びスチレンから選択されるものなどの様々な有機ポリマーを含む表面が含まれ得る(例えば、米国特許出願公開第2021/0077533号を参照されたい)。
【0090】
血液を得た後、血液は、容器に入れられ得る。典型的には、血液は、当該技術分野で既知の好適な血液収集チューブに収集され得る。例示的な例としては、ホウケイ酸ガラスなどの様々なタイプのガラスが挙げられる。ホウケイ酸ガラスは、シリカ及び酸化ホウ素を主なガラス形成構成成分として有するタイプのガラスである。
【0091】
しかしながら、好ましくは、本明細書に記載される方法は、1つ以上の凝固活性剤の使用を含む(例えば、凝固活性剤を事前に充填した好適な血液収集容器に全血試料を便宜的に収集することによる)。好適な凝固活性剤(止血剤としても既知である)は、当業者に周知であり、例えば、塩化カルシウム及び硫酸カルシウムなどの様々なカルシウム塩(Mellanby FRS and CLG Pratt,Proc R Soc Lond Series B128(851):201-213,1940)が含まれる。本方法で使用するためのこの種類の好ましい凝固活性剤の1つは、グルコン酸カルシウムである。他の好適な凝固因子には、例えば、硫酸第二又は硫酸第一鉄、硫酸アルミニウム、ミョウバン(すなわち、KAl(SO4)2、塩化アルミニウム、グルコン酸ナトリウム及び塩化亜鉛)を含む様々な鉄、アルミニウム、ナトリウム、及び亜鉛塩が含まれる。当業者は、工程(i)の組み合わせで使用するための好適な量の凝固活性剤を容易に特定することができるであろう。当然ながら、その量は、特定の凝固活性剤に応じて変動し得るが、例えば、凝固活性剤がカルシウム塩である場合、約15μモル~約50μモルのカルシウムイオンを全血に提供する量、より好ましくは、約20μモル~約25μモルであり得る。本方法のいくつかの実施形態では、凝固活性剤がグルコン酸カルシウム(10%)である場合、グルコン酸カルシウムは、18mL~20mLの量の全血に対して約2mlの量で提供され得る。
【0092】
本明細書に記載される方法の抗凝固剤は、当業者に既知の好適な抗凝固剤(又はそれらの組み合わせ)のいずれかから選択され得る。いくつかの好適な例としては、全血試料収集に広く使用されているヘパリン及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)(例えば、EDTAカリウム)が挙げられる。本方法での使用に好ましい、別の広く使用されている抗凝固剤は、クエン酸ナトリウムである。いくつかの実施形態では、クエン酸ナトリウムは、約1%~約5%v/vの範囲、より好ましくは、3%~4%v/v(例えば、3.2%v/vクエン酸ナトリウム又は3.8%v/vクエン酸ナトリウム)の範囲の濃度を有する溶液として提供され得る。
【0093】
抗凝固剤(クエン酸ナトリウム溶液など)は、約5分以内の血液試料の凝固を防止するのに十分な量で提供される。すなわち、提供される抗凝固剤の相対量は、短期間(例えば、最大約5分間)で、体外で凝固させるための凝固活性剤又は凝固開始表面の効果及び全血の自然な傾向を相殺するのに十分であり、この方法が、血液試料が遠心分離中に凝固して密に凝固した材料及び上清を形成することを必要とすることから、実質的な凝固を発生させずに、血液試料が(抗凝固剤及び凝固活性剤/凝固開始表面と組み合わせて)本方法の遠心分離工程のために遠心分離機に移されることを容易に可能にする。全血の好適な体積(例えば、18mL又は20mLなど)のある特定の既知の量の凝固活性剤が提供されるとき(又は凝固開始表面の存在下で)、例えば、必要とされる抗凝固剤の量(すなわち、約5分以内の血液試料の凝固を防止する量)の慣用的な滴定によって、抗凝固剤の好適な相対量を特定することは、当業者の慣用的な技術の十分範囲内である。例えば、本発明者らによって、全血18mL及び10%グルコン酸カルシウム溶液2mLを含む組み合わせについて、2mLの量の3.2%(v/v)のクエン酸ナトリウム(抗凝固剤として)が、約5分以内の血液試料のいずれの実質的な凝固も防止することが見出された。
【0094】
したがって、いくつかの実施形態では、第1の態様の方法は、抗凝固剤及び凝固活性剤と組み合わせて全血試料を提供することを含み、全血、抗凝固剤、及び凝固活性剤の体積は、約8~12:1:1v/vの比率である。更に、いくつかのより具体的な実施形態では、第1の態様の方法は、クエン酸ナトリウム(3.2%溶液)及びグルコン酸カルシウム(10%溶液)と組み合わせて全血試料を提供することを含み、全血、抗凝固剤、及び凝固活性剤の体積は、約8~12:1:1v/v、より好ましくは約9:1:1v/vの比率である。
【0095】
いくつかの例では、全血試料を最初に抗凝固剤と混合して血液の即時凝固を回避し、次いで、血液及び抗凝固剤を凝固活性剤と混合する。いくつかの例では、血液試料は、血液の取り扱いを容易にするために、試料の収集中又は収集後に抗凝固剤に曝露される。
【0096】
一例では、全血、凝固活性剤、及び抗凝固剤は、直径5cmの遠心分離機容器又はボトルにおいて混合される。このようなボトルは、当該技術分野で既知である。一例では、ボトルは、ポリプロピレンボトルである。他の例では、ボトルは、ポリカーボネート又はポリスルホンボトルである。
【0097】
本明細書に記載される方法は、血液試料、抗凝固剤、及び凝固活性剤(好適な容器における)を一工程遠心分離に供することを含む。分離力は、好ましくは、血液を密に凝固した材料(遠心分離容器又はボトルの底部に位置するか、又はそこにペレット化される)と、上清とに分離する。一例では、血液試料、抗凝固剤、及び凝固活性剤は、血液試料が凝固している間、約2250G~約3750Gの範囲、より好ましくは2500G~3500Gの範囲の相対遠心力で遠心分離される。
【0098】
遠心分離は、所定の期間にわたって適用され得る。一例では、決定された所定の期間は、密に凝固した材料及び上清に全血を分離することを可能にするのに十分な時間である。好ましくは、この遠心分離は、好適な血液収集容器内に含有される血液試料により標準的なベンチトップ遠心分離機で便宜的に行われ得、約30~約90分の範囲、より好ましくは、45~60分の範囲、より好ましくは約46分、47分、48分、49分、50分、52分、55分、又は60分の期間にわたって行われる。遠心分離の終了時に、全血試料は、密に凝固した材料(血漿、血小板、及びフィブリンを含む)及び上清(赤血球及び白血球、並びに少量の血漿を含む)として存在する。遠心分離工程の好ましい持続時間(すなわち、約30~約90分の範囲)は、ほとんどの場合、手術の過程中に足場材料が生成されることを可能にするものである。
【0099】
別の例では、試料は、約15cmの半径を有するベンチ遠心分離機上で4,500~4,800RPMで遠心分離される。
【0100】
方法は、一工程遠心分離を含むため、方法は、比較的単純化された生成方法を提供する。したがって、方法は、自動化に好適である。例えば、血液は、バキュテナーに取り付けられた翼状針を使用して収集され得るか、又は遠心分離容器に(滅菌条件下で)直接収集され得、容器は、凝固活性剤及び抗凝固剤で事前に充填されている。一例では、方法に関与する他の別個の遠心分離工程は存在せず、特に、多血小板血漿(PRP)を最初に生成するための遠心分離工程(又は任意の他の工程)は存在せず、これは、第1の態様の方法では、遠心分離が、対象の全血中に存在する正常な生理学的量の血小板を含む試料に対して行われることを意味する。
【0101】
本明細書に記載される方法はまた、密に凝固した材料を上清から分離又は採取して、対象における組織修復及び/又は支持のための足場材料を提供することを含む。これは、例えば、遠心分離工程が行われた容器から(例えば、滅菌鉗子/プライヤーを使用することによって)密に凝固した材料を慎重に取り除き、使用前に任意選択で(例えば、滅菌生理食塩水で)洗浄され得る標準的な滅菌皿(例えば、ペトリ皿)に移すなどの任意の慣用的な手順によって達成され得る。構築物は、任意選択で、例えば、トリミング、ブロット、縫合、伸長、又は圧縮によって、使用するために改変され得る。
【0102】
【0103】
いくつかの例では、方法は、例えば、機械的強度又は補強を提供し得る好適なシート材料に足場材料を取り付ける工程を更に含み得る。したがって、シート材料は、例えば、足場材料に「裏当て層」を形成し得る。好適なシート材料には、当業者に明白なもののいずれかが含まれ、例えば、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、及びポリエチレングリコール(PEG)などの合成ポリマー、又はアルギン酸塩、キトサン、デンプン、デキストラン、及びアルブミンなどの天然に存在するポリマーを含むものを含む、医療グレードの発泡体裏当てシート又は他の生体適合性及び/若しくは生分解性シート材料を含み得る。足場材料は、結合、積層、又は当業者に周知の他の手段若しくは技術のいずれかによって好適なシート材料に取り付けられ得る(例えば、接着剤(例えば、スポット結合)、好ましくは生体適合性接着剤又はフィブリン接着剤などのシーラントによる結合、並びに足場材料及びシート材料の要素間の架橋を達成するための化学処理を含む)。いくつかの例では、足場材料は、対象における使用の前に筋肉に取り付けられ得る。
【0104】
足場強度の測定
縫合糸保持強度は、本明細書に記載される足場移植片材料から縫合糸を引っ張るために必要な力を指す。これは、技術的な引張試験機を使用して測定され得る、移植片から縫合糸を引っ張るために必要な最大力(N)に関する。一例では、足場移植片は、少なくとも20N(ニュートン)、少なくとも30N、少なくとも40N、又はより好ましくは少なくとも50Nの縫合糸保持強度を有し、これは、Adelman DM et al.,Plast Reconstr Surg Glob Open2(5):e155,2014)に記載されている縫合糸保持強度試験を使用して測定される。
【0105】
いくつかの例では、足場移植片材料は、少なくとも3Mpa、少なくとも4Mpa、又は少なくとも5Mpa以上の一軸引張強度を有する。一軸引張強度は、破損(例えば、分割、分離、又は亀裂)まで試料に印加される応力である。力は、張力又は圧縮のいずれかとして適用され得る。引張強度を測定するために利用可能ないくつかのデバイスが存在し、これは、単純な機械的デバイスから自動化されたコンピューター機械に及び得る。このようなデバイスの例は、例えば、Gunter S et al.,(2021)Eng.Res.Express.3:045055に記載されている。
【0106】
基本的な前提は、材料をクランプする「グリップ」と呼ばれる2つの固定具の間に材料の試料を配置することである。次いで、他方の端部が固定されている間に、一方の端部で把持された材料に重量が適用される。一例としては、Instron ElectroPuls E100が挙げられる。
【0107】
任意選択の成分
足場材料は、材料の調製中又は調製後に添加され得る任意選択の成分を含み得る。例えば、足場材料は、例えば、移植後の新しい組織の形成を促進するために、移植前に添加剤又は薬物で処理され得る。したがって、例えば、幹細胞、成長因子、サイトカイン、細胞外基質成分、及び他の生物活性材料を基質に添加して、治癒及び新しい組織の形成を促進し得る。一例では、VEGFは、新しい血管組織の形成を促進するために用いられる。成長因子及び他の添加剤(例えば、上皮成長因子(EGF)、ヘパリン結合性上皮様成長因子(HBGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、間質細胞由来因子、インスリン様成長因子(IGF)、形質転換成長因子(TGF-β1)、血小板由来成長因子(PDGF-αβ)、マクロファージ炎症性タンパク質1アルファ(MIP-1アルファ)、2,3アルファ、3ベータ、4及び5、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、TNF-アルファ、及びTNF-ベータ、レプチン、白血病抑制因子(LIF)、エンドスタチン、ロンボスポンジン、骨形成タンパク質-1、骨形態形成タンパク質2及び7、オステオネクチン、ソマトメジン様ペプチド、オステオカルシン、インターフェロンアルファ、インターフェロンアルファA、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、インターフェロン1アルファ、サイトカイン、遺伝子、タンパク質など)が添加され得る。
【0108】
他の有用な添加剤には、抗生物質などの抗菌剤が含まれる。
【0109】
送達
対象の標的部位に足場材料を送達する方法は、限定されないが、標的部位内又は標的部位上のフィブリン構築物の配置を含み得る。足場材料は、限定されないが、足場を標的部位に移植、縫合、及び/又は接着するなどの方法によって標的部位に保持され得る。
【0110】
足場材料は、当該技術分野で使用される方法によって、標的部位に送達され、標的部位で所定の位置に維持され得る。このような方法には、限定されないが、生体適合性ポリマーなどの吸収性合成縫合材料を使用する縫合技術が含まれ得、Ethicon Co.,Somerville,N.J.によってVicryl(商標)として製造されるポリグラクチン及びポリグリコール酸(例えば、Craig P.H.,Williams J.A.,Davis K.W.,et al.:A Biological Comparison of Polyglactin910 and Polyglycolic Acid Synthetic Absorbable Sutures.Surg.141;1010,(1975)を参照されたい)、ステープル、合成接着剤などの生物学的接着剤及び/若しくは組織接着剤による接合、シアノアクリレート(2-ブチルシアノアクリレート、2-オクチルシアノアクリレート)ベースの接着剤、又は合成ポリマーであり、他のものは、コラーゲン又はフィブリンなどの生物学的材料を含有する(例えば、米国特許第5,844,016号、米国特許第5,874,500号、米国特許第5,744,545号、米国特許第5,550,187号、及び米国特許第6,730,299号を参照されたい)。当業者は、このような技術の様々な組み合わせも同様に使用され得ることを理解するであろう。
【0111】
キット
第5の態様では、本開示は、部品のキットであって、
静脈穿刺針(例えば、18ゲージ翼状針などの翼状針)と、カニューレと、抗凝固剤及び凝固活性剤を事前に充填した(又は凝固を開始する表面が提供されている)少なくとも1つの蓋付き血液収集容器(例えば、標本容器)と、プライヤーと、生理食塩水を事前に充填した少なくとも1つのシリンジ(例えば、滅菌0.9%通常生理食塩水を含有する20mLのシリンジ)と、任意選択で、第1の態様の方法におけるキットの使用説明書と、を含む、部品のキットを提供する。
【0112】
いくつかの実施形態では、部品のキットは、標準的な滅菌皿(例えば、ペトリ皿)及び/又は移し針(別名、血液を収集又は移すために使用され得る皮下注射針として既知である)を更に含み得る。更に、いくつかの実施形態では、部品のキットは、遠心分離機(例えば、標準的なベンチトップ遠心分離機)を含み得る。
【0113】
部品のキットは、ブリスターパックを含む(例えば、キットの構成要素のうちの1つ以上を収容するために複数の空洞又はポケット(「ブリスター」)が提供される)当業者に既知の便宜的な滅菌形態のいずれかで包装され得る。部品のキットが遠心分離機を含む場合、典型的には、遠心分離機は、他のキット構成要素とは別々に(これも滅菌形態で)包装される。このような方式で包装されるような部品のキットは、例えば、手術室内での使用に好適であり(但し、キットが遠心分離機を含むか、又は手術室に好適な遠心分離機が他の方法で提供される)、したがって、本開示による足場材料の生成が、それが使用される手術室で生成されることを可能にし得る。
【0114】
本開示の足場材料、方法、及びキットは、以下の非限定的な実施例によって更に説明される。
【実施例】
【0115】
実施例1 組織修復又は組織増強のための密に凝固した足場材料の調製
材料及び方法
クエン酸ナトリウム溶液の調製
クエン酸ナトリウム溶液を、25.703gのクエン酸ナトリウム脱水物を800mlの蒸留水に添加することによって調製した。混合後、2.421gのクエン酸を添加した。組み合わせた後、塩化水素(HCl)又は水酸化ナトリウム(NaOH)を使用して、pHを生理学的pHに調整した。次いで、蒸留水を1Lの最終体積に添加して、3.2%(v/v)のクエン酸ナトリウム溶液を生成した。
【0116】
グルコン酸カルシウム溶液の調製
グルコン酸カルシウム溶液(10%w/v)を、商業的供給源から入手した。各mlは、一水和物として0.095gのグルコン酸カルシウムを含有し、これは、0.212mmolのカルシウムに相当する。生成物はまた、1mL当たり0.0112mmolのカルシウム(又は10mL当たり0.112mmolカルシウム)に相当する量の賦形剤カルシウムサッカラートを含有する。総カルシウム含有量:1mL当たり0.223mmol(10mL当たり2.23mmol)。
【0117】
密に凝固した足場移植片材料の調製
標準的な血液収集方法(例えば、静脈穿刺)を使用して、患者から18mLの全血を、直径5~7cmの滅菌医療グレードの蓋付き容器(例えば、直径5.5cmの70mLの滅菌標本容器、例えば、Sarstedt滅菌70mL黄色キャップ標本瓶、44mm×55mm(Sarstedt Australia Pty Ltd、Mawson Lakes,SA,Australia))に収集し、容器は、2mLの緩衝クエン酸ナトリウム溶液(3.2%v/v)及び2mLのグルコン酸カルシウム(10%;95.3mg/mLのグルコン酸グルコン酸カルシウム、及び3mg/mLのカルシウムサッカラートを含有する溶液であり、各1mLが、0.22mモル又は0.44mEqのカルシウムイオンに相当する8.9mgのカルシウムを含有する)が事前に充填されていた。次いで、容器を、標準的なベンチトップ遠心分離機(例えば、LuXiangyi TDZ5-WS卓上低速遠心分離機、Shanghai Lu Xiangyi Centrifuge Instrument Co.,Ltd、Shanghai,China)などの好適な遠心分離機に配置し、室温において2500~3500xgで50~60分間(例えば、上述のLuXiangyi卓上遠心分離機で1時間約4000~4,800rpm)単一工程遠心分離に供する。理想的には、遠心分離工程は、全血試料の収集から約5~15分以内に開始する。
【0118】
遠心分離中、全血試料は凝固して厚くなり始めて、足場材料を形成し、その間、液体(主に水分)と赤血球及び白血球(及び少量の血漿)とが上清を形成する(
図2参照)。遠心分離工程の終了時に、容器の蓋を(滅菌方式で)取り外し、容器の基部にある高密度の足場材料のディスクを鉗子/プライヤーで容器から慎重に取り除き(主に赤血球及び白血球、並びに少量の血漿を含む上清を残し)、標準的な滅菌皿(例えば、ペトリ皿)に移す。任意選択で、足場は、50mLの滅菌0.9%通常生理食塩水で洗浄され得る(残留上清及び血液細胞を取り除くため)。次いで、血漿の大部分、実質的に全ての血小板(及び血液タンパク質)、並びに約10%未満の赤血球及び白血球を含む高密度足場材料のディスクは、使用の準備ができており、例えば、生体適合性及び/又は生分解性縫合糸及び/又は接着剤(例えば、フィブリン接着剤)によって天然組織修復及び/又は支持が所望される部位に固着(固定)され得る。
【0119】
結果及び考察
前項に記載された方法に従って生成された高密度足場材料のディスクの画像を
図3に示す。ディスクは、直径約5cmの実質的に円形の形状である。ディスクは、厚さが約2~3mmであり、ディスク全体にわたって実質的に均一な厚さである(すなわち、周囲部が少し薄い)。足場材料のディスクは、質感がゼラチン状ではないが、いくらかの可撓性を示し、所望の部位の範囲に広く適用可能になる。足場材料は、赤血球及び白血球を実質的に含まないが、少数の赤血球が足場材料の表面上に存在する場合があり、これらは通常生理食塩水で洗浄することによって容易に取り除くことができる。標準的な有刺縫合糸(例えば、Vicryl(商標)縫合糸(Ethicon,Raritan、NJ,United States of America)などのグリコリド(90%)及びL-ラクチド(10%)のコポリマーで構成される縫合糸)、並びにV-loc(商標)縫合糸(Covidien、Dublin,Ireland)などのグリコリド、ジオキサノン、及び炭酸トリメチルで構成される有刺縫合糸)は、実質的な完全性の損失なしに、標準的な円形縫合針でディスクを容易に通過し得る。すなわち、ディスク足場材料は無傷のままであり、固着部位で支持を提供し得る。
【0120】
実施例2 前膣壁脱を有する患者の治療
前膣壁の重篤な可視的脱出を有する53歳の女性患者を入院させ、手術の準備をした。この患者は、以前であれば膣メッシュ修復の候補者であったであろう。患者は、手術前にオーストラリア骨盤底アンケート(APFQ)に記入した。
【0121】
手術の準備中に、最初に、2つの9mLの全血試料を患者から静脈穿刺を介して2つの10mLの血液チューブに収集し、次いで直径5.5cmの蓋付き標本容器に移し(容器に合計18mLの全血が含有されるように)、直ちに使用して、滅菌した手術室に取り付けられた指定の部屋で自己足場材料を調製した(実質的に実施例1に記載された方法によって)。全血試料の採取から手術室の外科医への足場材料の提供までの所要時間は約50~70分であった。
【0122】
全身麻酔後、患者の手術は、前膣壁の膣上皮(粘膜)に正中切開(
図4の位置を参照)を行い、続いてV-Loc(商標)2-0縫合糸(Covidien)を使用して下側の筋膜欠損を修復することによって開始された。上皮を閉鎖する前に、足場材料を、最初に好適な量のフィブリン接着剤(例えば、Tisseel;Baxter International、Deerfield,IL,United States of America)を下側の筋膜上の部位に適用し、足場材料をフィブリン接着剤に導入し、次いで第2の好適な量のフィブリン接着剤を足場材料の上部に適用することによって、部位に固着した。次いで、膣上皮を好適な縫合糸(例えば、2-0Vicryl(商標)縫合糸(ポリグラクチン910、Ethicon))で閉鎖した。これを
図5)に示す。手術の完了時に、ベタジンに浸漬された又はPRPに浸漬された膣パック及び留置カテーテルを、正式な排尿試験の前に一晩患者に配置して、患者の膀胱が完全に空になる能力を評価した。次いで、患者は、経口抗生物質剤(例えば、アモキシシリン及びクラブラン酸)の5日間のコースで退院した。6週間後、症状及び身体検査の術後レビューを実施して、手術の成功及び膣の完全性を確認した。
【0123】
次いで、患者は、6週、3~6ヶ月の間、12ヶ月での術後レビューのためにフォローアップされた。
【0124】
実施例3 足場移植片材料に関連する上清のカルシウム分析
実施例1による足場移植片の生成後に得られた上清を、Siemens Advia/Atellic化学系上でカルシウム濃度について分析した。上清は、8.0mmol/L超のカルシウムを含有することが見出された。
【0125】
これは、足場ではなく上清に非常に高い濃度のカルシウムが存在したことを示し、対象に移植されたときの足場の毒性が非常に低いことを示唆した。
【0126】
実施例4 多血小板血漿(PRP)自己移植片の調製
以下の実施例は、損傷した天然組織を再生するための生物学的支持を目的としたPOP手術時のNTRの増強における、血液から調製された自己移植片の調製及び使用について説明する。
【0127】
患者の特徴
患者の詳細を以下の表1に示す。
【表1-1】
【表1-2】
【0128】
材料
PRPチューブ(8ml、クエン酸ナトリウムを含む)をSurecell(https://www.surecell.com.au/surecell-prp-tubes)から入手した。グルコン酸カルシウム(10mL中2.2ミリモルのカルシウムイオン)をWhelping Suppliesから購入し、直径5.5cmの滅菌医療グレードプラスチック収集容器2つを購入した。
【0129】
使用する遠心分離機は、TDZ5-WS卓上低速遠心分離機である。
【0130】
方法
2018年~2021年の間に任意のPOPについての天然組織修復(NTR)を受けた女性の単一施設前向きコホート研究を行った。この研究は、Bellberry Limitedによって承認された。全ての女性が書面によるインフォームドコンセント用紙に署名した。患者は、膣萎縮のための保存的管理として局所エストロゲン又はPRPを推奨された。局所エストロゲンを摂取することができなかったか、又は膣上皮のPRPによる前治療に参加することができなかった患者は、試験から除外された。包括的な評価及び外科的処置を2人の外科医によって実施した。包括的な評価及び外科的処置を、2人の外科医(FBW及びTTN)によって実施した。
【0131】
コホートへの登録の適格性は、当初は、再発性POPを有する患者、又はメッシュ修復(膣メッシュ又は腹腔鏡腹部メッシュのいずれか)の候補であった重篤な原発性脱出を有する患者を含んでいた。患者は、当初、膣メッシュの検討について紹介されたが、待機期間中に、膣メッシュ製品はオーストラリア市場から撤退し、その結果、多くの患者が腹部メッシュを選択した。
【0132】
全ての患者を、3つのコースのPRPの標準レジメン及び3ヶ月間の局所オストリジオールクリーム(Ovestin 1mg/g、Organon Ltd)の週2回の適用で前治療した。
【0133】
図6を参照すると、症例の開始時に、患者の血液を収集容器に吸引し(10)、次いで、血液を第1の期間(3500RPMで9分間)にわたって遠心分離して(20)、RBCをPRP上清から分離した(30)。PRP上清を採取し、滅菌容器において所定の比率でグルコン酸カルシウムに添加した(40)後、第2の期間(4000RPMで45分間)にわたって更に遠心分離し(50)、その間に材料が凝固して厚くなり始めて、可鍛性であり、かつ移植片材料の構造を破壊することなく取り扱うことができる固体縫合可能移植片を形成した。次いで、形成された得られた自己材料を取り除き(60)、適切な手順で使用することができる。
【0134】
全身麻酔後、膣上皮に正中切開を行い、V-Lok2-0縫合糸(Medtronic)を使用して下側の筋膜欠損を修復する。上皮を閉鎖する前に、自己膜材料を下側の筋膜に縫合する。次いで、膣上皮を2-0Vicryl(ポリグラクチン910、Ethicon)で閉鎖する。必要に応じて、同時子宮摘出術の有無にかかわらず、頂部懸垂も実施した。頂部懸垂は、capio slim吸収性モノフィラメント縫合糸(Boston Scientific)で配置する仙棘固定術、腹腔鏡子宮仙骨靭帯固定術(2.0V-Loc遅延吸収性縫合糸による子宮固定術又は膣固定術のいずれか)、又はRestorelleメッシュ(Coloplast Pty Ltd)を使用した腹腔鏡仙骨膣固定術のいずれかによって達成された。子宮摘出術は、患者との話し合いの後、又はいずれの疑わしい病理のために実施した。
【0135】
手術の完了時に、膣パック及び留置カテーテルを、正式な排尿試験の前に一晩配置した。身体活動、排便習慣、及び性交に関するアドバイスを含む、慣用的で厳格な術後指示が患者に提供された。全ての患者は、5日間のアモキシシリン及びクラウラン酸で退院した。
【0136】
患者のフォローアップは、6週、3~6ヶ月、及び12ヶ月に行った。患者には、いずれの有害事象も監視し、即座に報告するようにアドバイスした。手術との関係にかかわらず、全ての有害事象を記録した。
【0137】
最初の登録シートにおける前向きデータを収集し、研究データベースに入力した。全ての患者は、手術前及び各フォローアップ来院時に、オーストラリア骨盤底アンケート(APFQ)を記入した。APFQは、膀胱、腸、及び性機能、骨盤臓器脱の重症度、煩わしさ、及び状態固有の生活の質を統合する検証済みのツールである(Kapoor DS,Thakar R,Sultan AH,Oliver R.Conservative versus surgical management of prolapse:what dictates patient choice? Int Urogynecol J Pelvic Floor Dysfunct.2009;20(10):1157-61)。全ての検査所見は、骨盤臓器脱定量化システム(POP-Q)を使用して記録した(Mowat AE,Maher C.Transvaginal mesh:let’s not repeat the mistakes of the past.Aust N Z J Obstet Gynaecol.2017;57(1):108-10)。年齢、体格指数(BMI)、閉経状態、出産回数、及び過去の手術を含む患者の統計も記録した。
【0138】
血液調製プロトコル
1.血漿及び血小板を赤血球及び白血球から分離するのを補助するために、クエン酸ナトリウムを含有する専用の収集チューブ(例えば、BDバキュテナーチューブ)に患者から20mlの全血を採取し、血小板のベースライン濃度の少なくとも4~6倍のPRPを生成した。
2.全血を含有する2つのチューブを、バランスをとるように互いに対向するように遠心分離機に配置する。
3.チューブを4,000RPMで9分間(予め設定されたボタン)遠心分離して、血漿を白血球及び赤血球から分離する。
4.血小板とRBCとの混合を回避するために、チューブを振らずにゆっくりと取り外す。滅菌10mlシリンジ及び27ゲージの針を使用して、赤血球及び白血球を汚染することなく血漿を吸引する。これを両方のチューブで行う。
5.直径5.5cmの滅菌医療グレードのプラスチック容器を使用して、およそ約8mlのPRP及び2mlのグルコン酸カルシウム%である2つのチューブから得られた血漿を混合する。プラスチック容器の蓋を、異なる遠心分離機に挿入するために閉じる。
6.チューブを4,000RPMで45分間、45度の角度で第2の期間にわたって遠心分離する。
7.45分後、容器を取り外す。蓋を滅菌方式/環境で開く。次いで、生成物を、滅菌方式で使用される滅菌皿に移す。
【0139】
統計分析
統計分析は、Stataバージョン16.1(StataCorp、Texas,USA)を使用して実施した。平均及び標準偏差(SD)を、連続データ及びカテゴリデータの割合について計算した。正規性仮定は、連続測定について頻度ヒストグラム及び正常Q-Qプロットによって視覚的に確認した。アンダーソン-ダーリング試験も実施して、正規性仮定を試験した。非正規分布データについては、中央値、四分位範囲、及びウィルコクソンの符号付き順位モデルも報告される。
【0140】
多変量混合効果モデルを適用して、一次及び二次アウトカムを検査した。繰り返された時点により各個体についてアウトカムが生じるため、混合効果モデルは、データの階層構造内の固定効果及びランダム効果の両方を捕捉する。したがって、モデルは、混合(間隔尺度データ-ドメインスコアについて)及びメロギット(melogit)(バイナリアウトカム-QOLについて)を使用して患者のクラスタリングを考慮した。患者はランダム効果として処理され、主な効果は群、時間、及び群×時間の相互作用であった。モデルは、臨床的に重要であるため、年齢及びBMIによって調整された。全ての分析について両側試験を実施し、有意水準をp<0.05に設定した。
【0141】
結果
2018年~2021年の間に、105人の患者が骨盤臓器脱の手術を受けたが、最低6週間のフォローアップ(T2)による分析には97人のみが含まれた。母集団及び実施した手術の特徴を表1に特徴付ける。平均年齢は62.6(34~84)であり、平均体格指数は29.9kg/m2(18~40kg/m2)であり、コホートの半数は肥満(55.4%)に分類されていた。患者の66.3%は過去に骨盤臓器脱修復手術を受けており、ほとんどの患者は、関連する子宮摘出術を受けていた(52.0%)。ほとんどの患者は、全体的な脱出(32.4%)を有していた。
【0142】
このコホートで実施した手術の特徴を以下の表2に概説する。89人(91.8%)の患者が同時に頂部脱出修復を行った。これらのうち、31人は腹腔鏡子宮仙骨固定術を受け、6人は仙棘固定術を受け、6人は腹腔鏡メッシュ仙骨膣固定術を受けた。
【表2】
【0143】
全てのドメインのスコアは、手術後に有意に改善した。また、表3で実証されるように、膀胱、腸、及び骨盤臓器脱のドメインにわたってスコア化された煩わしさの程度(QOL)に有意な改善があった。
【表3】
【0144】
フォローアップ期間にわたるドメインのスコアの低下は、6週(T2)での術後の有意な低下が6~12ヶ月(T4)まで静的なままであるという包括的な傾向を実証し、有効な改善が6~12ヶ月まで持続することを示唆した。6週(T2)では、平均の低下は次の通りであった。膀胱(-6.62、P<0.001、95%CI)、腸(-3.10、P=0.001、95%CI)、脱出(-6.38、P<0.001、95%CI)、及び性的(-2.23、P<0.001、95%CI)。全てのドメインアウトカムについて、最大51~63人(52.6%~65.6%)のみが6週、48~85人(49.5~87.6%)が3~6ヶ月、33~51人(34.0%~52.6%)が12ヶ月のフォローアップ分析に適格であった。患者の66.0%が前部及び後部を組み合わせた修復を受けているため、個々のコンパートメント修復がドメインスコアの改善に及ぼす影響を検査することができなかった。
【0145】
膀胱の煩わしさに関し、バイナリロジット回帰は、術後にT2で0をスコアする完全解消の可能性が85%であったことを実証した(OR0.15、P<0.001、95%CI[0.07、0.32])。ある程度の煩わしさを報告する平均予測確率は、ベースラインでは0.83であり、T2では約半分(0.43)に減少し、フォローアップを通して有意に静的なままであった。これは、T2での膀胱の煩わしさスコアの平均変化が-0.95ポイントであり、全く煩わしさを経験していない患者の割合がT1での16.7%からT2での57.4%まで大幅に増加したことが反映されている。この割合は、T4まで比較的安定したままであった。煩わしさのスコア2及び3の患者の割合は全般的に減少している。しかしながら、この割合は、スコア1を有する患者では比較的変化せず(T1で34.4%、T2で31.5%)、これは、特にベースラインで重度の煩わしさのある患者では膀胱の煩わしさに顕著な改善があることを示唆しているが、手術後に煩わしさのない場合(スコア0)、軽度の煩わしさ(スコア1)を有する可能性が高くなる。T2後の改善は、T3でのスコア2及び3の割合のわずかな増加を除いて、T4まで比較的安定したままであり、これは膀胱ドメインスコアと相関しており、3~6ヶ月前後の一部の患者にブースターが必要であり得ることを示唆している。
【0146】
腸の煩わしさについては、バイナリロジット回帰は、術後にT2で0をスコアする完全解消の可能性が68%(OR0.32、P<0.001、95%CI[0.16、0.64])であり、フォローアップにわたって有意な改善が持続したことを示した。ある程度の煩わしさを報告する平均予測確率は、ベースラインでは0.67であり、T2では0.39に減少し、全体を通して静的なままであったが、後のフォローアップでわずかに増加した。T2までに、腸の煩わしさスコアの平均変化は、-0.71ポイントであり、T1で煩わしさのない患者(スコア1)の割合は術後33.3%から61.1%に改善し(T2)、T4まで安定したままであった(57.1%)。しかしながら、術後の初期改善後、T4までに腸の煩わしさの割合は徐々に3.75から10.7%に上昇し、これは、治療効果が薄れていることを示している。
【0147】
脱出のためのバイナリロジット回帰は、術後にT2で0をスコアする完全解消の可能性が97%であり(OR0.03、P<0.001、95%CI[0.01、0.08])、フォローアップを通して効果が有意に持続したことを実証した。ある程度の煩わしさを報告する平均予測確率は、ベースラインでは0.87であり、T2では0.18に減少し、フォローアップにわたって有意に静的なままであった。術後(T2)、脱出の煩わしさスコアの平均変化は、ベースラインから-1.86ポイント改善した。煩わしさのない患者の割合は、ベースラインでの12.8%から、T2での82.4%に改善し、フォローアップを通して安定したままであった。約半数(51.2%)がベースラインで重度の煩わしさを報告したが、その割合はT2で2.0%に低下したが、T3で9.1%に上昇し、その後T4で0.0%に低下した。これは、術後の大幅な主観的改善を示唆しているが、一部はT3でブースター治療を必要とし得る。
【0148】
性的の煩わしさは、患者のうちの58人(59.8%)にのみ適用可能であった。バイナリロジット回帰は、術後にT2で0をスコアする完全解消の可能性が61%であり(OR0.39、P=0.05、95%CI[0.15,1.00])、フォローアップを通して有意に静的に改善したことを実証した。ある程度の煩わしさを報告する平均予測確率は、ベースラインでは0.63であり、T2では0.41に減少し、全体にわたって静的なままであった。T2では、性的の煩わしさスコアの平均変化は、-0.68であった。煩わしさのない患者の割合は、ベースラインでの36.2%からT2での59.3%に改善し、T4では88.2%に引き続き改善した。T3及びT4でフォローアップした患者では、中等度又は大きく煩わしさのあった(スコア3又は4)性的QOLを有する患者はいなかった。
【0149】
煩わしさスコアの頻度の概要を表4に示す。
【表4】
【0150】
T1での膀胱の煩わしさスコアのフォローアップは90人(92.8%)であったが、数ヶ月にわたって制限されたため、T2は54人(55.75)、T3は46人(47.4%)、T4は28人(28.9%)であった。これらの値は、他の煩わしさドメインにわたって類似しており、患者のプライバシーのために性的の煩わしさドメインでは悪くなっている可能性が高い。したがって、QOLデータの解釈は、より早いフォローアップ時期について、より信頼性が高い。
【0151】
ノンパラメトリック試験は、術前及び術後の母集団の歪みに起因して、POPQ段階の記述統計とともに利用した。提示時の平均POPQ段階は2.76±0.575(中央値3、範囲1~4)であり、術後の平均は0.19±0.583(中央値0、範囲0~3)であり、統計的に有意に平均2.57減少し(r=0.89、P<0.001)、強い効果を有した。モデルは、コホートの97.9%がスコアの改善(減少)を有したことを実証した。この高い値は、スコアの任意の減少がどのように改善と見なされるかに起因する。残りの2.1%は、POPQ段階において変化は見られなかった。直近のフォローアップまでに、記述統計に従って、89.7%がPOPQ0、3.1%がPOPQ1、6.2%がPOPQ2、1.0%がPOPQ4であった。
【0152】
ベースラインでの平均萎縮性膣炎(AV)重症度スコアは2.54±0.724(中央値3、範囲0~3)であり、術後の平均は0.68±0.680(中央値1、範囲0~3)であり、統計的に有意に平均1.86減少し(r=0.86、p<0.001)を有し、強力な効果を示した。コホートの93.9%が改善を実証した。フォローアップ率は、82.7%であった。バイナリロジット回帰は、AV重症度の完全解消の可能性が術後94%であることを示した(OR0.06、P<0.001、95%CI[0.02、0.17])。患者の大多数(65.6%)は3ポイントをスコアしたが、術後、患者の大多数は1をスコアし(48.3%)、僅差で萎縮性膣炎なし(スコア0、42.5%)が続いた。
【0153】
有意な相互関係はなかったが、閉経後の女性は、フォローアップにわたって閉経前の女性よりも膀胱、腸、及び脱出ドメインのスコアが高かった。しかしながら、膀胱ドメインについては、6~12ヶ月(T4)での閉経前及び閉経後の女性間で平均変化に有意差があった(閉経後群では3.89ポイント高い、P=0.009、95%CI)。脱出ドメインについて、閉経後の女性は、ベースラインでのスコアが高く(2.19の平均差、P=0.020、95%CI)、3~6ヶ月(T2)で境界有意差を有し(0.72の平均差、P=0.006、95%CI)、ベースラインでの脱出症状の重症度が有意に高く、3~6ヶ月の記録を除いて閉経前の女性と同様の改善を示した。これはまた、治療が長期的に閉経後の女性に同様に有効であることを示唆している。性的ドメインについて、閉経後群は、ベースラインでのスコアが有意に低く(-2.54、P=0.035、95%CI)、閉経前の女性がより多くの性的ドメイン症状を報告したことを示唆した。閉経状態、全ての煩わしさスコア、及びAV重症度の間に有意な相互関係はなかった。全体的に、これは、介入の効果が6~12ヶ月(膀胱)及び3~6ヶ月(脱出)での閉経後の女性よりも有意に有効性が低いことを示し、これは、閉経前の女性よりも早くブースター治療を必要とし得ることを示唆している。
【0154】
過去の手術は、子宮摘出術を含む群及び子宮摘出術を含まない群に分けた。子宮摘出術群は、T3を除く各時点で膀胱ドメインスコアが有意に高かったが、T4までに、そのスコアは、過去に手術を受けていない患者、又は過去に子宮摘出術ではない手術を受けた患者と比較して、平均で4.79ポイント低く(P=0.025、95%CI)、6~12ヶ月の時間枠で大幅な改善を示した。非子宮摘出術群は、子宮摘出術群と比較して膀胱ドメインスコアが全体的に高かったが、非子宮摘出術群のスコアが-4.78ポイント低かったT4(P=0.003、95%CI)を除いて有意ではなく、子宮摘出術群の傾向を反映した。
【0155】
腸ドメインについて、非子宮摘出術群は、全体的にスコアが低かったが、ベースライン(-2.98、P=0.050、95%CI[-6.00、0.5])及びT4(-4.67、P=0.007、95%CI[-8.05、-1.28])でのみ有意であった。子宮摘出術群のスコアは概して高かったが、有意ではなかった。
【0156】
脱出ドメインについて、非子宮摘出術群は、平均差が非手術群及び子宮摘出術群よりも有意に低いT3を除き、スコアが全体的に非有意に高く、治療が3~6ヶ月でのこの群に最大限に有益であることが示唆した(平均差-1.16、P<0.001、95%CI[-1.82、-0.51])。有意ではなかったが、子宮摘出術群は、T4で非手術群及び子宮摘出術群を下回る平均差になるまで全体的にスコアがわずかに高かった(-0.29、P=0.617、95%CI[-1.42、0.84])。
【0157】
性的ドメインについて、非子宮摘出術群は、概してスコアが低かったが、3~6ヶ月で有意であり、その時点で最良の結果を示唆した(平均差-5.80、P=0.003、95%CI)。子宮摘出術群に非有意な効果はあったが、子宮摘出術群は、より低いベースラインで開始して、フォローアップを通してスコアがより高く又はあいまいであり、その性的ドメインの有効な変化が少ないことを示唆した。
【0158】
二次分析は、年齢及びBMIがドメインスコア、煩わしさスコア、及びAV重症度に影響を及ぼさないことを実証した。バイナリロジットモデルは、子宮摘出術を含むか又は含まない過去の手術が、全ての煩わしさスコア及びAV重症度に有意な影響を及ぼさなかったことを示した。POPQ段階は、ロジット回帰モデリングには適用可能ではなかったため、二次分析は除外されなかった。
【0159】
重大な合併症は、患者の8.2%で報告され、コホートの半数は、手術後に一般的な軽微な合併症を経験した(49.0%)。最も頻度の高い合併症は、患者の9%で尿路感染症であった。
【0160】
この研究では、移植片の失敗を、自己移植片が適用された同じコンパートメントにおける脱出の再発と定義した。失敗のない再発を、移植片とは無関係の別のコンパートメントにおける新規脱出として定義した。重大な合併症は8人の患者で発生し、いずれも再手術が必要であったが、6例は再発に関連し、そのうちの3例は移植片の失敗に関連していた。3例の再発があり、全て前方にあり、保存的に管理した。合計9例の再発(9.3%)を記録した。移植片の失敗に関して、5例(4.1%)あり、その全てが前方にあり、1例は同時に頂部を伴っていた。失敗のない再発の症例は4例で、前方の1例を除いて全て頂部であった。失敗の有無にかかわらず再発に対して合計6回の再手術を必要とした。
【0161】
ここで明らかなように、本発明の自己移植片材料は、患者自身の血液に基づく移植片材料を提供するため非常に有益であり、これは、トロンビン若しくはヒアルロン酸などの追加の成分、又は複雑な時間のかかるプロセスを必要とせずに容易に生成することができ、幹細胞の移動、増殖を誘引するための足場として作用する軟部組織の補強及び増強の速度を大幅に増加させ、したがって、新生血管形成及びコラーゲン形成を促進し、患者に有意に利益をもたらす。更に、移植片材料は安全かつ有効であることが見出された。
【0162】
本発明の自己移植片材料の自己特性及び生分解性特性は、限定されないが、皮膚欠損、火傷、血管、筋骨格、内臓、脊髄手術、及び婦人科を含むいくつかの医療分野で、合成メッシュと比較して異物反応の誘発を防止し、治療を加速し、罹患率を低下させ、かつ機能回復を強化する。本発明の方法はまた、複雑なプロセス及び材料がないため、自動化され得る。このようにして、患者の血液は、直接的にシリンジ介して又は好適な容器を介してのいずれかで、自動化された機械に挿入することができ、次いで、自動化された機械は、事前に定義されたパラメータに従って遠心分離を含む必要な工程を実行して、自己移植片材料を生成する。これは、患者の治療/手術の開始前に、必要な体積の患者の血液を採取し、自己移植片材料を、実質的な手動介入を必要とせずに、事前に、又は使用に必要な時間に近づけて生成することができることを意味する。
【0163】
当業者には、本開示の足場材料、方法、及びキットが、それらの使用が記載される特定の用途に制限されないことが理解されるであろう。また、本明細書に記載又は描写される特定の要素及び/又は特徴に関して、本開示の足場材料、方法、及びキットは、いずれの好ましい実施形態においても制限されない。足場材料、方法、及びキットが、開示される1つ又は複数の実施形態に限定されず、以下の特許請求の範囲によって記載及び定義される本開示の範囲から逸脱することなく、多数の再配置、修正、及び置換が可能であることが更に理解されるであろう。
【0164】
実施例5 足場移植片の部位における膣上皮の組織学的分析
膣上皮の試料を、実施例1に従って調製した足場移植片を受けた71歳の女性対象から得た。6×3mmと測定した中央の灰色のプラークを有する15×7×3mmと測定した切片を、組織学のために提出した。切片は、粒状細胞層を欠く細胞学的に整然とした層状扁平上皮で覆われた線維筋性組織片を示した。有意な炎症、分極性異質材料、又は真菌要素の実証はなく、したがって膣上皮の有意な異常はなかった。
【0165】
膣粘膜の試料を、実施例1に従って調製した足場移植片を受けた80歳の女性対象から得た。30×20mm及び最大2mmの厚さを測定した切片を、組織学のために提出した。切片は、表皮と真皮を示した。表皮は、軽度の表皮肥厚、過角化、及び限局性不全角化を示した。扁平上皮異形成は見られず、ウイルス性細胞変性変化は特定されなかった。基底細胞変性又は空胞化はなく、下側の支質に目立ったことはなかった。硬化及び炎症は見られなかった。硬化性苔癬、膣上皮内新生物、又は浸潤性がん腫の証拠はなかった。
【0166】
膣粘膜の試料は、実施例4に従って調製されたPRP移植片を受けた84歳の女性対象から得た。最大長62mm、最大幅32mm、厚さ3mmと測定した切片を組織学のために提出した。切片は、粘膜下支質を有する扁平上皮に覆われた粘膜及び深部側の一部の平滑筋を示した。扁平上皮細胞は、異形成、有糸分裂活性、又は空胞細胞変化を含まない整然とした成熟配列を示した。萎縮性の特徴は見られなかった。上皮下支質は正常であり、硬化性苔癬の特徴はなかった。支質/筋肉界面付近の血管の一部は、一部の血管腔がほぼ完全に閉鎖した状態でヒアリン化(ガラス状の外観)を示す。これらのヒアリン化された領域の一部は、小さなカルシウム沈着物、時折の泡沫細胞、及び希な巨細胞を含む。血管壁は無傷で、血管炎はなかった。
【0167】
要約すると、手術後に異常な組織構造は見られなかった。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
足場移植片材料を生成するための方法であって、
(i)抗凝固剤及び凝固活性剤又は凝固を開始する表面と組み合わせて全血試料を提供する工程であって、前記抗凝固剤が約5分以内の前記血液試料の凝固を防止するのに十分である配置である、工程と、
(ii)前記血液試料が凝固している間に前記血液試料を分離力に供して、全血を密に凝固した材料(ペレット化された材料)及び上清に分離する工程と、
(iii)前記密に凝固した材料を前記上清から分離して、前記対象における組織修復及び/又は組織支持若しくは補強のための前記足場移植片材料を提供する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記血液試料が、約2250xg~3750xgの範囲の一工程遠心分離に供される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
遠心分離期間が、50~60分間である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
(iv)前記密に凝固した材料を採取することを更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
組織修復及び/又は支持が、膣壁の組織修復及び/又は組織支持若しくは補強である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
血液が、前記対象に対して自己である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記足場材料が、血漿、血小板、赤血球、及び白血球の実質的に均質な混合物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記密に凝固した材料が、前記全血中の少なくとも約95%の前記血小板を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記密に凝固した材料が、約30%以下の血漿中水分含有量を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記密に凝固した材料が、10%未満の赤血球及び白血球を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記凝固活性剤が、カルシウム塩、鉄(第一鉄)塩、アルミニウム塩、ナトリウム塩、又は亜鉛塩から選択され、前記抗凝固剤が、ヘパリン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸塩、シュウ酸塩、及びトロンビン阻害剤から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記凝固活性剤が、グルコン酸カルシウムであり、前記抗凝固剤が、クエン酸ナトリウムである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記全血、抗凝固剤、及び凝固活性剤の体積が、約8~12:1:1v/vの比率である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記全血、クエン酸ナトリウム、及びグルコン酸カルシウムの体積が、約9:1:1v/vの比率である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法によって生成されるか、又はそれによって得ることができる、足場移植片材料。
【請求項16】
全血から生成された対象における組織修復及び/又は組織支持若しくは補強のための足場移植片材料であって、前記足場材料が、約95~100%の血小板、10%未満の赤血球及び白血球、並びに少なくとも約30%の血漿中水分含有量を含む、可撓性固体非ゲル均質材料である、足場移植片材料。
【請求項17】
少なくとも3Mpaの極限引張強度を含む、請求項16に記載の足場移植片材料。
【請求項18】
少なくとも20Nの縫合糸保持強度を含む、請求項16に記載の足場移植片材料。
【請求項19】
前記移植片が、遠心分離後に、比較的均一な断面厚さのディスクを形成し、約3~5cmの範囲の直径及び1.5~3mmの厚さを有する、請求項16に記載の足場移植片材料。
【請求項20】
前記ディスクの一方又は両方の側面に適用された外科用接着剤を更に含む、請求項19に記載の足場移植片。
【請求項21】
前記移植片の強化を補助するための1つ以上の更なる材料又は成長因子を含む、請求項19に記載の足場移植片。
【請求項22】
少なくとも20Nの縫合糸保持強度を含む、請求項19に記載の足場移植片材料。
【請求項23】
骨盤臓器脱(POP)に罹患している対象を治療する方法であって、前記方法が、
(i)請求項15~19のいずれか一項に記載の足場移植片材料を提供する工程と、
(ii)前記足場移植片材料を、前記脱出の外科的修復部位に固定する工程と、を含む、方法。
【請求項24】
前記脱出が、前部コンパートメント脱出、後部コンパートメント脱出、前部及び後部脱出、全体的な脱出、前部及び頂部脱出、後部及び頂部脱出、並びに頂部脱出から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記足場移植片材料又はPRPが、下側の筋膜に適用される接着剤の第1の層、前記足場材料、次いで第2のオーバーレイ接着剤層を含む「サンドイッチ」配置で、前記外科的修復部位に固定される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
対象における損傷又は負傷した骨盤組織を修復又は増強する方法であって、前記方法が、
(i)請求項15~19のいずれか一項に記載の足場移植片材料を提供する工程と、
(ii)前記足場移植片材料を前記対象の標的部位に固定して、前記損傷又は負傷した組織を修復又は増強する工程と、を含む、方法。
【請求項27】
前記標的部位が、負傷又は欠損の部位、より具体的には、膣壁上皮又は結合組織筋膜における裂傷の部位である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
1つ以上の足場移植片材料が、前記部位又は外科的修復又は標的部位に送達される、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
1つ以上の足場移植片材料が、前記部位又は外科的修復又は標的部位に送達される、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
部品のキットであって、
(i)静脈穿刺針と、
(ii)カニューレと、
(iii)抗凝固剤及び凝固活性剤を事前に充填した(又は凝固を開始する表面が提供されている)少なくとも1つの蓋付き血液収集容器と、
(iv)プライヤーと、
(v)生理食塩水を事前に充填した少なくとも1つのシリンジと、任意選択で、
(vi)請求項1~3のいずれか一項に記載の移植片を調製するための説明書と、を含む、部品のキット。
【請求項31】
抗凝固剤及び凝固活性剤を事前に充填した少なくとも1つの蓋付き血液収集容器を、請求項1~3のいずれか一項に記載の足場移植片材料の調製のための説明書とともに含む、キット。
【請求項32】
骨盤臓器脱に罹患している対象の治療に使用するための、又は治療に使用される場合の、請求項30に記載のキット。
【請求項33】
足場移植片材料の調製に使用される場合の滅菌容器であって、前記滅菌容器が、約8~12:1:1v/vの比率で全血、抗凝固剤、及び凝固活性剤を含む、滅菌容器。
【国際調査報告】