(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】天然分子に近いポリペプチド融合分子
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20240829BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240829BHJP
C07K 14/735 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240829BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240829BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240829BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240829BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240829BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240829BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240829BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240829BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20240829BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240829BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240829BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240829BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K16/28
C07K14/735
C12N15/62 Z
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N1/21
C12N1/19
C12N1/15
C12P21/02 A
A61K38/16
A61K47/68
A61K47/65
A61K35/76
A61K35/12
A61P35/00
G01N33/53 D
G01N33/53 G
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536349
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(85)【翻訳文提出日】2024-04-26
(86)【国際出願番号】 CN2022115250
(87)【国際公開番号】W WO2023025304
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】202110990796.X
(32)【優先日】2021-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524073980
【氏名又は名称】ティーアイオーシー セラピューティクス,リミテッド
【氏名又は名称原語表記】TIOC THERAPEUTICS, LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 706, Building 21, Hexiang Technology Center, Xiasha Street, Qiantang District, Hangzhou City, Zhejiang 310018, China
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー,イー
(72)【発明者】
【氏名】ティアン,イェ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA19
4B064CE11
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BD01
4B065BD14
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA22
4C084CA53
4C084NA14
4C084ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA41
4H045DA50
4H045DA75
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
4H045GA23
(57)【要約】
天然状態に近いマルチドメイン融合タンパク質分子を提供する。融合タンパク質は、免疫反応のない抗体一本鎖分子および特異的にpMHCエピトープに結合するポリペプチド受容体分子またはその構成部分、その断片からなる。これらの天然状態に近いタンパク質のドメインを混合すると、生物学的機能を有する融合タンパク質複合分子を形成し、人工的な柔軟性ペプチド鎖を導入して各ドメインを単一のポリペプチド分子に連結することで生じうる免疫原性のリスクを避けることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
N末端からC末端の構造が式IaまたはIbで表されるポリペプチドを含むことを特徴とする、融合タンパク質。
A1-L-B (Ia)
B-L-A1 (Ib)
(ただし、
エレメントA1は、免疫反応のないポリペプチド分子である。
エレメントBは、特異的にpMHCエピトープに結合するポリペプチド受容体分子またはその構成部分、その断片である。
エレメントLは、柔軟性リンカーである。前記柔軟性リンカーは選択できるものである。
「-」は共有結合である。)
【請求項2】
N末端からC末端の構造が式IaまたはIbで表されることを特徴とする、融合タンパク質。
A1-L-B (Ia)
B-L-A1 (Ib)
(ただし、
エレメントA1は、免疫反応のないポリペプチド分子である。
エレメントBは、特異的にpMHCエピトープに結合するポリペプチド受容体分子またはその構成部分、その断片である。
エレメントLは、柔軟性リンカーである。
「-」は共有結合である。)
【請求項3】
前記エレメントA1は、抗体の重鎖可変領域または抗体の軽鎖可変領域であることを特徴とする、請求項1または2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記抗体の重鎖可変領域は、配列番号14、配列番号20または配列番号5で示される配列を含むことを特徴とする、請求項3に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
前記抗体の軽鎖可変領域は、配列番号16、配列番号22または配列番号10で示される配列を含むことを特徴とする、請求項3に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
前記エレメントBは、TCR分子、一本鎖αβTCR、TCRα鎖/TCRβ鎖ヘテロ二量体複合分子、抗体分子Fab複合分子、一本鎖抗体分子、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1または2に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
前記TCRα鎖のアミノ酸配列は、配列番号1で示される配列を含み、前記TCRβ鎖のアミノ酸配列は、配列番号3で示される配列を含むことを特徴とする、請求項6に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
前記エレメントA1は、柔軟性リンカーLを介してTCRβ鎖に連結していることを特徴とする、請求項7に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
前記エレメントLは、(GGGGS)nのような構造を含み、ここで、nは1~5の正の整数であり、好ましくは、配列番号9で示される配列を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
前記融合タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号18、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号7、配列番号12または配列番号32で示される配列を含むか、あるいは、配列番号18、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号7、配列番号12または配列番号32と少なくとも95%以上、98%以上、99%以上、99.9%以上の同一性を有する配列を含むことを特徴とする、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項11】
構造が式IcまたはIdで表されることを特徴とする、融合タンパク質複合分子。
A2…A1-L-B (Ic)
B-L-A1…A2 (Id)
(ただし、
エレメントA1、A2は、それぞれ独立に、免疫反応のないポリペプチド分子それぞれ独立である。
エレメントBは、特異的にpMHCエピトープに結合するポリペプチド受容体分子またはその構成部分、その断片である。ならびに
エレメントLは、柔軟性リンカーである。
「-」は共有結合である。
「…」はジスルフィド結合またはタンパク質ドメインの間の非共有結合相互作用である。)
【請求項12】
前記エレメントA1は抗体の重鎖可変領域であり、かつ前記A2エレメントは抗体の軽鎖可変領域であるか、あるいは、前記エレメントA1は抗体の軽鎖可変領域であり、かつ前記A2元件は抗体の重鎖可変領域であることを特徴とする、請求項11に記載の融合タンパク質複合分子。
【請求項13】
前記抗体の重鎖可変領域は、配列番号14、配列番号20または配列番号5で示される配列を含むことを特徴とする、請求項12に記載の融合タンパク質複合分子。
【請求項14】
前記抗体の軽鎖可変領域は、配列番号16、配列番号22または配列番号10で示される配列を含むことを特徴とする、請求項12に記載の融合タンパク質複合分子。
【請求項15】
前記エレメントBは、TCR分子、一本鎖αβTCR、TCRα鎖/TCRβ鎖ヘテロ二量体複合分子、抗体分子Fab複合分子、一本鎖抗体分子、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれることを特徴とする、請求項11に記載の融合タンパク質複合分子。
【請求項16】
前記TCRα鎖のアミノ酸配列は、配列番号1で示される配列を含み、前記TCRβ鎖のアミノ酸配列は、配列番号3で示される配列を含むことを特徴とする、請求項15に記載の融合タンパク質複合分子。
【請求項17】
前記エレメントA1は、柔軟性リンカーLを介してTCRβ鎖に連結していることを特徴とする、請求項16に記載の融合タンパク質複合分子。
【請求項18】
前記エレメントLは、(GGGGS)nのような構造を含み、ここで、nは1~5の正の整数であり、好ましくは、配列番号9で示される配列を含むことを特徴とする、請求項11に記載の融合タンパク質複合分子。
【請求項19】
請求項1~10のいずれか一項に記載の融合タンパク質または請求項11~18のいずれか一項に記載の融合タンパク質複合分子をコードすることを特徴とする、ポリヌクレオチド。
【請求項20】
請求項19に記載のポリヌクレオチドを含有することを特徴とする、発現ベクター。
【請求項21】
請求項20に記載の発現ベクターまたは請求項19に記載のポリヌクレオチドを含有することを特徴とする、宿主細胞。
【請求項22】
請求項1~10のいずれか一項に記載の融合タンパク質または請求項11~18のいずれか一項に記載の融合タンパク質複合分子を生成する方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする、前記方法:
(a)請求項1~10のいずれか一項に記載の融合タンパク質または請求項11~18のいずれか一項に記載の融合タンパク質複合分子の生成に適する条件において、請求項21に記載の宿主細胞を培養することにより、前記融合タンパク質または前記融合タンパク質複合分子を含む培養物を得る;
(b)前記培養物から前記の融合タンパク質または融合タンパク質複合分子を単離または回収する;ならびに
(c)任意に、工程(b)で得られた融合タンパク質または融合タンパク質複合分子を精製および/または修飾する。
【請求項23】
以下:
(a)請求項1~10のいずれか一項に記載の融合タンパク質または請求項11~18のいずれか一項に記載の融合タンパク質複合分子;ならびに
(b)検出可能なマーカー、薬物、毒素、サイトカイン、放射性核種、酵素、金ナノ粒子/ナノロッド、磁性ナノ粒子、ウイルスコートタンパク質またはVLP、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる複合部分
を含有することを特徴とする、免疫複合体。
【請求項24】
請求項1~10のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項11~18のいずれか一項に記載の融合タンパク質複合分子、請求項19に記載のポリヌクレオチド、請求項20に記載の発現ベクター、請求項21に記載の宿主細胞、請求項23に記載の免疫複合体、またはこれらの組み合わせと、薬学的に許容される担体とを含むことを特徴とする、薬物組成物。
【請求項25】
以下:
(i)請求項1~10のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項11~18のいずれか一項に記載の融合タンパク質複合分子;ならびに
(ii)発現および/または精製を補助する任意のタグ配列
を含む、組み換えタンパク質。
【請求項26】
請求項1~10のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項11~18のいずれか一項に記載の融合タンパク質複合分子、請求項19に記載のポリヌクレオチド、請求項20に記載の発現ベクター、請求項21に記載の宿主細胞、請求項23に記載の免疫複合体、請求項24に記載の薬物組成物、または請求項25に記載の組み換えタンパク質の使用であって、被験者において腫瘍を予防または治療する薬物を製造するためであることを特徴とする、前記使用。
【請求項27】
前記腫瘍は、乳癌、肺癌、肝臓癌、またはこれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
前記被験者は、哺乳動物であり、好ましくは、ヒトであることを特徴とする、請求項26に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学または生物製薬の技術分野に関し、より具体的に、天然分子に近いポリペプチド融合分子に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質分子は、細胞および生体において様々な生理機能を発揮する。中では、抗体、T細胞受容体、酵素や様々なサイトカインなどが含まれる。現在、大多数の生物薬の大分子は、抗体分子から様々なタンパク質工学の手段によって誘導されたものである。複数のタンパク質ドメインを組み合わせる場合、最も使用される方法は、一つのタンパク質ドメインのC末端を、柔軟性ペプチドを介してもう一つのドメインのN末端に連結するものである。たとえば、scFvは、柔軟性ペプチドを介して抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域を連結することにより、一本鎖抗体を形成する。柔軟性ペプチドの最大の作用は、重鎖と相応する軽鎖を単一のポリペプチド長鎖分子に発現させることで、発現および下流の調製・処理などを便利にすることである。しかしながら、当該構造の抗体は、薬になると免疫原性のリスクが生じるため、上記リスクが避けられるように、このような生物薬は天然状態に近い分子を生成する方法が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、天然状態に近いマルチドメイン融合タンパク質%。を得ることである。このような天然状態に近いマルチドメイン融合タンパク質%。を構成する各エレメント、たとえば、構造が式IaまたはIbで表される融合タンパク質、エレメントA2、エレメントB2は、混合すると、生物学的機能を有するマルチドメイン融合タンパク質%になりうる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第一の側面では、融合タンパク質であって、N末端からC末端の構造が式IaまたはIbで表されるポリペプチドを含むことを特徴とするものを提供する。
A1-L-B (Ia)
B-L-A1 (Ib)
(ただし、
エレメントA1は、免疫反応のないポリペプチド分子である。
エレメントBは、特異的にpMHCエピトープに結合するポリペプチド受容体分子またはその構成部分、その断片である。
エレメントLは、柔軟性リンカーである。前記柔軟性リンカーは選択できるものである。
「-」は共有結合である。)
【0005】
一部の具体的な実施形態において、融合タンパク質であって、N末端からC末端の構造が式IaまたはIbで表されるものを公開する。
A1-L-B (Ia)
B-L-A1 (Ib)
(ただし、
エレメントA1は、免疫反応のないポリペプチド分子である。
エレメントBは、特異的にpMHCエピトープに結合するポリペプチド受容体分子またはその構成部分、その断片である。
エレメントLは、柔軟性リンカーである。
「-」は共有結合である。)
【0006】
一部の具体的な実施形態において、前記融合タンパク質はN末端からC末端の構造が式Iaで表される。
一部の具体的な実施形態において、前記融合タンパク質では、B(特異的にpMHCエピトープに結合するポリペプチド受容体分子またはその構成部分、その断片)のN末端とA1(たとえば、免疫反応のない抗体一本鎖分子)のC末端が連結している。
【0007】
一部の具体的な実施形態において、前記の柔軟性リンカーはペプチドリンカーである。
一部の具体的な実施形態において、前記のペプチドリンカーは1~50個のアミノ酸、好ましくは1~20個のアミノ酸、より好ましくは1~10個のアミノ酸、さらに好ましくは1~6個のアミノ酸を有する。
【0008】
一部の具体的な実施形態において、前記のペプチドリンカーは(GGGGS)nの構造を有し、ここで、nは1~5の正の整数である。
一部の具体的な実施形態において、前記のペプチドリンカーはGGGGS(配列番号9)である。
【0009】
一部の具体的な実施形態において、前記エレメントA1は抗体の重鎖可変領域または抗体の軽鎖可変領域から選ばれる。
一部の具体的な実施形態において、前記抗体はT細胞の表面分子に結合する特性を持つものである。
【0010】
一部の具体的な実施形態において、前記抗体はUCHT1、OK3、12F6など、またはこれらの抗体の突然変異分子でもよく、前記突然変異分子のアミノ酸配列は野生型の相応する分子のアミノ酸配列と比べて少なくとも95%以上、98%以上、99%以上、99.9%以上の同一性を有する配列である。
【0011】
一部の具体的な実施形態において、Kabat番号付けシステムでは、前記抗体の重鎖可変領域の44番目のアミノ酸がシステイン(Cys)に、前記抗体の軽鎖可変領域の100番目のアミノ酸がシステイン(Cys)に突然変異している。
一部の具体的な実施形態において、Kabat番号付けシステムでは、前記抗体の重鎖可変領域の105番目のアミノ酸がシステイン(Cys)に、前記抗体の軽鎖可変領域の43番目のアミノ酸がシステイン(Cys)に突然変異している。
【0012】
一部の具体的な実施形態において、前記抗体では、前記の抗体の重鎖可変領域の44番目(Kabat番号付けシステム、以下同様)のアミノ酸、たとえば、グリシン(Gly)および抗体の軽鎖可変領域の100番目のアミノ酸、たとえば、グルタミンがシステイン(Cys)で置換されている。
【0013】
一部の具体的な実施形態において、前記抗体では、前記の抗体の重鎖可変領域の1055番目のアミノ酸、たとえば、グルタミン(Gln)および抗体の軽鎖可変領域の43番目のアミノ酸、たとえば、アラニンがシステイン(Cys)で置換されている。
【0014】
一部の具体的な実施形態において、前記エレメントA1はT細胞の表面抗原、たとえば、CD3抗原に結合しないか、結合するがT細胞を活性化させないものである。
一部の具体的な実施形態において、前記の抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号14、配列番号20または配列番号5で示される配列を含む。
【0015】
一部の具体的な実施形態において、前記の抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号16、配列番号22または配列番号10で示される配列を含む。
一部の具体的な実施形態において、前記の抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号14、配列番号20または配列番号5で示される配列である。
【0016】
一部の具体的な実施形態において、前記の抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号16、配列番号22または配列番号10で示される配列である。
一部の具体的な実施形態において、前記エレメントBは、TCR分子、一本鎖αβTCR、TCRα鎖/TCRβ鎖ヘテロ二量体複合分子、抗体分子Fab複合分子、一本鎖抗体分子、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0017】
一部の具体的な実施形態において、前記エレメントBはB1とB2がジスルフィド結合を介して組み合わせてなるもので、ここで、B1はTCRα鎖、B2はTCRβ鎖であるか、あるいは、B1はTCRβ鎖、B2はTCRα鎖である。
一部の具体的な実施形態において、前記二量体のα鎖またはβ鎖のN末端、あるいは一本鎖αβTCRのN末端、あるいはTCRα鎖のN末端、あるいはTCRβ鎖のN末端、あるいは抗体分子Fabの重鎖または軽鎖のN末端、あるいは一本鎖抗体分子のN末端は、免疫反応のない抗体一本鎖分子のC末端のアミノ酸に連結している。
【0018】
一部の具体的な実施形態において、前記融合タンパク質のエレメントB(すなわち、特異的にpMHCエピトープに結合するポリペプチド受容体分子またはその構成部分、その断片)は特異的にpMHCに結合し、エレメントA1(すなわち、免疫反応のない抗体一本鎖分子)はT細胞の抗原分子に結合しないか、T細胞の抗原分子に結合するが、有効にT細胞の活性化または生理反応の発生を誘導することができない。
【0019】
一部の具体的な実施形態において、前記融合タンパク質と遊離のもう一つの免疫反応のないポリペプチドドメイン分子A2を混合すると、前記融合タンパク質はA2と融合タンパク質-A2複合分子を形成し、前記融合タンパク質-A2複合分子はT細胞をリダイレクトし、そして有効に当該リダイレクトされたT細胞の活性化および免疫生理反応の発生をさせる。
【0020】
一部の具体的な実施形態において、前記のTCR分子はヘテロ二量体のαβTCRポリペプチド対で、ここで、前記αおよびβポリペプチドはそれぞれTCRの可変領域および定常領域を含むが、TCR膜貫通領域および細胞内領域がない。
【0021】
一部の具体的な実施形態において、前記のTCR分子のαおよびβポリペプチドの定常領域は、システイン(Cys)でTRAC*01のエクソン1における47番目のトレオニン(Thr)とTRBC*01またはTRBC*02のエクソン1における56番目のセリン(Ser)を置換してなるジスルフィド結合を介して連結している。
【0022】
一部の具体的な実施形態において、前記のTCR分子のαおよびβポリペプチドの定常領域は、システイン(Cys)でTRAC*01のエクソン1におけるIMTG番号付け法の52番目のアルギニン(Arg)とTRBC*01またはTRBC*02のエクソン1における53番目のセリン(Ser)を置換してなるジスルフィド結合を介して連結している。
【0023】
一部の具体的な実施形態において、前記のTCR分子のαおよびβポリペプチドの定常領域は、システイン(Cys)でTRAC*01のエクソン1におけるIMTG番号付け法の88番目のプロリン(Pro)とTRBC*01またはTRBC*02のエクソン1における18番目のアラニン(Ala)を置換してなるジスルフィド結合を介して連結している。
【0024】
一部の具体的な実施形態において、前記のTCR分子のαおよびβポリペプチドの定常領域は、システイン(Cys)でTRAC*01のエクソン1におけるIMTG番号付け法の9番目のチロシン(Tyr)とTRBC*01またはTRBC*02のエクソン1における19番目のグルタミン酸(Glu)を置換してなるジスルフィド結合を介してしている。
【0025】
一部の具体的な実施形態において、前記TRAC*01のアミノ酸配列は配列番号34で示されるものである。
一部の具体的な実施形態において、前記TRBC*01のアミノ酸配列は配列番号35で示されるものである。
一部の具体的な実施形態において、前記TRBC*02のアミノ酸配列は配列番号36で示されるものである。
【0026】
一部の具体的な実施形態において、前記のTCRα鎖のアミノ酸配列は配列番号1で示されるものである。
一部の具体的な実施形態において、前記のTCRβ鎖のアミノ酸配列は配列番号3で示されるものである。
【0027】
一部の具体的な実施形態において、前記融合タンパク質のアミノ酸配列は配列番号18、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号7、配列番号12または配列番号32で示される配列、あるいは配列番号18、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号7、配列番号12または配列番号32と少なくとも95%以上、98%以上、99%以上、99.9%以上の同一性を有する配列を含む。
【0028】
一部の具体的な実施形態において、前記融合タンパク質のアミノ酸配列は配列番号18、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号7、配列番号12または配列番号32で示される配列、あるいは配列番号18、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号7、配列番号12または配列番号32と少なくとも95%以上、98%以上、99%以上、99.9%以上の同一性を有する配列である。
【0029】
本発明の第二の側面では、融合タンパク質複合分子であって、N末端からC末端の構造が式IcまたはIdで表されるものを提供する。
A2…A1-L-B (Ic)
B-L-A1…A2 (Id)
(ただし、
エレメントA1、A2は、それぞれ独立に、免疫反応のないポリペプチド分子それぞれ独立である。
エレメントBは、特異的にpMHCエピトープに結合するポリペプチド受容体分子またはその構成部分、その断片である。ならびに
エレメントLは、柔軟性リンカーである。
「-」は共有結合である。
「…」はジスルフィド結合またはタンパク質ドメインの間の非共有結合相互作用である。)
一部の具体的な実施形態において、「…」はジスルフィド結合である。
【0030】
一部の具体的な実施形態において、前記エレメントA1、A2は、それぞれ独立に、抗体の重鎖可変領域、抗体の軽鎖可変領域からなる群から選ばれる。たとえば、前記エレメントA1は抗体の重鎖可変領域で、かつ前記A2エレメントは抗体の軽鎖可変領域であるか、あるいは、前記エレメントA1は抗体の軽鎖可変領域で、かつ前記A2元件は抗体の重鎖可変領域である。本発明の前記抗体はUCHT1、OK3、12F6など、またはこれらの抗体の突然変異分子でもよく、前記突然変異分子のアミノ酸配列は野生型の相応する分子のアミノ酸配列と比べて少なくとも95%以上、98%以上、99%以上、99.9%以上の同一性を有する配列である。
【0031】
一部の具体的な実施形態において、前記の抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号14、配列番号20または配列番号5で示される配列を含む。
一部の具体的な実施形態において、前記の抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号16、配列番号22または配列番号10で示される配列を含む。
【0032】
一部の具体的な実施形態において、前記の抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号14、配列番号20または配列番号5で示される配列である。
一部の具体的な実施形態において、前記の抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号16、配列番号22または配列番号10で示される配列である。
【0033】
一部の具体的な実施形態において、前記エレメントBは、TCR分子、一本鎖αβTCR、TCRα鎖、TCRβ鎖、抗体分子Fab、一本鎖抗体分子、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
一部の具体的な実施形態において、前記のTCRα鎖のアミノ酸配列は配列番号1で示されるものである。
【0034】
一部の具体的な実施形態において、前記のTCRβ鎖のアミノ酸配列は配列番号3で示されるものである。
一部の具体的な実施形態において、前記エレメントBはTCR分子で、前記TCR分子のTCRα鎖のアミノ酸配列は配列番号1で示されるもので、TCRβ鎖のアミノ酸配列は配列番号3で示されるものである。
【0035】
一部の具体的な実施形態において、前記エレメントBはTCR分子で、前記TCR分子のTCRα鎖のアミノ酸配列は配列番号1で示されるもので、TCRβ鎖のアミノ酸配列は配列番号3で示されるもので、かつ前記エレメントA1はLを介してTCRβ鎖のN末端にカップリングしている。
一部の具体的な実施形態において、前記エレメントLは(GGGGS)nのような構造を含み、ここで、nは1~5の正の整数で、好ましくは配列番号9で示される配列を含む。
【0036】
本発明の第三の側面では、ポリヌクレオチドであって、本発明の第一の側面に記載の融合タンパク質または本発明の第二の側面に記載の融合タンパク質複合分子をコードするものを提供する。
【0037】
一部の具体的な実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、本発明の第一の側面に記載の融合タンパク質、エレメントA1、エレメントA2、エレメントB(B1、B2を含む)、一本鎖αβTCR、TCRα鎖、TCRβ鎖、抗体分子Fab、または一本鎖抗体分子からなる群から選ばれるタンパク質またはポリペプチドをコードする。
【0038】
一部の具体的な実施形態において、前記ポリヌクレオチドは配列番号2、4、15、17、19、21、23、25、27、29、6、8、11、13、31または33で示されるヌクレオチド配列を有する。
一部の具体的な実施形態において、前記ポリヌクレオチド配列番号19、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号8、配列番号13または配列番号33で示されるヌクレオチド配列を有する。
一部の具体的な実施形態において、前記のポリヌクレオチドはDNAまたはRNAを含む。
【0039】
本発明の第四の側面では、発現ベクターであって、本発明の第三の側面に記載のポリヌクレオチドを含有するものを提供する。
一部の具体的な実施形態において、前記の発現ベクターは、DNA、RNA、ウイルスベクター、プラスミド、トランスポゾン、ほかの遺伝子導入系、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
好適に、前記発現ベクターはウイルスベクター、たとえば、レンチウイルス、アデノウイルス、AAVウイルス、レトロウイルス、またはこれらの組み合わせを含む。
【0040】
本発明の第五の側面では、宿主細胞であって、本発明の第四の側面に記載の発現ベクターを含むか、あるいはゲノムに本発明の第三の側面に記載のポリヌクレオチドが組み込まれたものを提供する。
一部の具体的な実施形態において、前記の宿主細胞は原核細胞または真核細胞を含む。
一部の具体的な実施形態において、前記の宿主細胞は、大腸菌、酵母細胞、哺乳動物細胞、ファージ、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0041】
一部の具体的な実施形態において、前記原核細胞は、大腸菌、枯草菌、乳酸菌、ストレプトマイセス菌、プロテウス・ミラビリス、またはこれらの組み合せからなる群から選ばれる。
一部の具体的な実施形態において、前記真核細胞は、ピキア・パストリス、出芽酵母、分裂酵母、トリコデルマ、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0042】
一部の具体的な実施形態において、前記真核細胞は、ツマジロクサヨトウなどの昆虫細胞、タバコなどの植物細胞、BHK細胞、CHO細胞、COS細胞、骨髄腫細胞、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
一部の具体的な実施形態において、前記宿主細胞は哺乳動物細胞が好ましく、HEK293細胞、CHO細胞、BHK細胞、NSO細胞またはCOS細胞がより好ましい。
一部の具体的な実施形態において、前記の宿主細胞はピキア・パストリスである。
【0043】
本発明の第六の側面では、本発明の第一の側面に記載の融合タンパク質または本発明の第二の側面に記載の融合タンパク質複合分子を生成する方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:
(a)本発明の第一の側面に記載の融合タンパク質または本発明の第二の側面に記載の融合タンパク質複合分子の生成に適する条件において、本発明の第五の側面に記載の宿主細胞を培養することにより、前記融合タンパク質または前記融合タンパク質複合分子を含む培養物を得る;
(b)前記培養物から前記の融合タンパク質または融合タンパク質複合分子を単離または回収する;ならびに
(c)任意に、工程(b)で得られた融合タンパク質または融合タンパク質複合分子を精製および/または修飾する。
一部の具体的な実施形態において、前記融合タンパク質のアミノ酸配列は配列番号18、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号7、配列番号12または配列番号32の通りである。
【0044】
本発明の第七の側面では、以下のものを含有する免疫複合体を提供する:
(a)本発明の第一の側面に記載の融合タンパク質または本発明の第二の側面に記載の融合タンパク質複合分子;ならびに
(b)検出可能なマーカー、薬物、毒素、サイトカイン、放射性核種、酵素、金ナノ粒子/ナノロッド、磁性ナノ粒子、ウイルスコートタンパク質またはVLP、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる複合部分。
【0045】
一部の具体的な実施形態において、前記の放射性核種は以下のものを含む:
(i)Tc-99m、Ga-68、F-18、I-123、I-125、I-131、In-111、Ga-67、Cu-64、Zr-89、C-11、Lu-177、Re-188、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる診断用同位体;ならびに/あるいは
(ii)Lu-177、Y-90、Ac-225、As-211、Bi-212、Bi-213、Cs-137、Cr-51、Co-60、Dy-165、Er-169、Fm-255、Au-198、Ho-166、I-125、I-131、Ir-192、Fe-59、Pb-212、Mo-99、Pd-103、P-32、K-42、Re-186、Re-188、Sm-153、Ra223、Ru-106、Na24、Sr89、Tb-149、Th-227、Xe-133、Yb-169、Yb-177、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる治療用同位体。
【0046】
一部の具体的な実施形態において、前記複合部分は薬物または毒素である。
一部の具体的な実施形態において、前記の薬物は細胞毒性薬物である。
一部の具体的な実施形態において、前記の細胞毒性薬物は、抗チューブリン薬、DNA副溝結合試薬、DNA複製阻害剤、アルキル化試薬、抗生物質、葉酸拮抗薬、抗代謝薬、化学療法増感剤、トポイソメラーゼ阻害剤、ビンカアルカロイド、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0047】
一部の具体的な実施形態において、特に有用な細胞毒性薬物の例は、たとえば、DNA副溝結合試薬、DNAアルキル化試薬、およびチューブリン阻害剤を含み、典型的な細胞毒性薬物は、たとえばオーリスタチン(auristatin)、カンプトテシン(camptothecin)、デュオカルマイシン(duocarmycin)、エトポシド(etoposide)、メイタンシン(maytansine)およびメイタンシノイド(maytansinoid)(たとえばDM1やDM4)、タキサン(taxane)、ベンゾジアゼピン系(benzodiazepine)またはベンゾジアゼピン含有薬物(benzodiazepine containing drug)(たとえばピロロ[1,4]ベンゾジアゼピン系(PBDs)、インドリノベンゾジアゼピン系(indolinobenzodiazepines)およびオキサゾリジノベンゾジアゼピン系(oxazolidinobenzodiazepines))およびビンカアルカロイド(vinca alkaloid)、またはこれらの組み合わせを含む。
【0048】
一部の具体的な実施形態において、前記の毒素は、オーリスタチン類(たとえば、オーリスタチンE、オーリスタチンF、MMAEおよびMMAF)、クロルテトラサイクリン、マイタンシノイド、リシン、リシンA-鎖、コンブレタスタチン、デュオカルマイシン、ドラスタチン、アドリアマイシン、ダウノルビシン、タキソール、シスプラチン、cc1065、臭化エチジウム、マイトマイシン、エトポシド、テニポシド(tenoposide)、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ジヒドロキシアントラセンジオン、アクチノマイシン、ジフテリア毒素、緑膿菌外毒素(PE)A、PE40、アブリン、アブリンA鎖、モデシンA鎖、α-八連球菌、ゲロニン、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン、エノマイシン、クリシン(curicin)、クロチン、カリケアミシン、サボンソウ(Sapaonaria officinalis)阻害剤、糖質コルチコイド、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0049】
一部の具体的な実施形態において、前記複合部分は検出可能なマーカーである。
一部の具体的な実施形態において、前記複合部分は、蛍光または発光マーカー、放射性マーカー、MRI(磁気共鳴画像)またはCT(コンピューターX線断層撮影技術)造影剤、または検出可能な生成物を生成させる酵素、放射性核種、生物毒素、サイトカイン(たとえばIL-2など)、抗体、抗体Fc断片、抗体scFv断片、金ナノ粒子/ナノロッド、ウイルス粒子、リポソーム、磁性ナノ粒子、プロドラッグ活性化酵素(たとえば、DT-ジアホラーゼ(DTD)またはビフェニルヒドロラーゼ様蛋白質(BPHL)、または任意の様態のナノ粒子からなる群から選ばれる。
【0050】
本発明の第八の側面では、以下のものを含有する薬物組成物を提供する:
(i)本発明の第一の側面に記載の融合タンパク質、本発明の第二の側面に記載の融合タンパク質複合分子、本発明の第三の側面に記載のポリヌクレオチド、本発明の第四の側面に記載の発現ベクター、本発明の第五の側面に記載の宿主細胞または本発明の第七の側面に記載の免疫複合体、またはこれらの組み合わせ;
(ii)任意に、エレメントA2;ならびに
(iii) 薬学的に許容される担体。
【0051】
一部の具体的な実施形態において、前記エレメントA2は、抗体の重鎖可変領域、抗体の軽鎖可変領域、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
一部の具体的な実施形態において、前記の免疫複合体の複合部分は、薬物、毒素、および/または治療用同位体である。
一部の具体的な実施形態において、前記の薬物組成物は注射の剤形である。
一部の具体的な実施形態において、前記の薬物組成物は、さらに、腫瘍を治療するほかの薬物を含有する。
一部の具体的な実施形態において、前記の薬物組成物は、腫瘍を予防および/または治療する薬物を製造するためのものである。
【0052】
本発明の第九の側面では、疾患を治療する方法であって、必要な対象に本発明の第一の側面に記載の融合タンパク質、本発明の第二の側面に記載の融合タンパク質複合分子、本発明の第七の側面に記載の免疫複合体、本発明の第八の側面に記載の薬物組成物を施用することを含む方法を提供する。
一部の具体的な実施形態において、前記の対象は哺乳動物、たとえば、ヒト、キヌザルを含む。
【0053】
本発明の第十の側面では、以下のものを有する組み換えタンパク質を提供する:
(i)本発明の第一の側面に記載の融合タンパク質、本発明の第二の側面に記載の融合タンパク質複合分子;ならびに
(ii)任意の発現および/または精製を補助するタグ配列。
一部の具体的な実施形態において、前記のタグ配列はFcタグ、HAタグおよび6Hisタグを含む。
【0054】
本発明の第十一の側面では、本発明の第一の側面に記載の融合タンパク質、本発明の第二の側面に記載の融合タンパク質複合分子、本発明の第三の側面に記載のポリヌクレオチド、本発明の第四の側面に記載の発現ベクター、本発明の第五の側面に記載の宿主細胞、本発明の第七の側面に記載の免疫複合体、本発明の第八の側面に記載の薬物組成物、本発明の第十の側面に記載の組み換えタンパク質の使用であって、被験者において腫瘍を予防および/または治療する薬物を製造するための使用を提供する。
【0055】
一部の具体的な実施形態において、前記腫瘍は、乳癌、肺癌、肝臓癌、またはこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
一部の具体的な実施形態において、前記被験者は哺乳動物、好ましくはヒトである。
【0056】
もちろん、本発明の範囲内において、本発明の上記の各技術特徴および下記(たとえば実施例)の具体的に記述された各技術特徴は互いに組合せ、新しい、または好適な技術方案を構成できることが理解される。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1a】
図1aは1G4 TCR α鎖のアミノ酸配列(配列番号1)を示す。
【
図1b】
図1bは1G4 TCR α鎖の核酸配列(配列番号2)を示す。
【
図2a】
図2aは1G4 TCR β鎖のアミノ酸配列(配列番号3)を示す。
【
図2b】
図2bは1G4 TCR β鎖の核酸配列(配列番号4)を示す。
【
図3a】
図3aは抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号5)を示す。
【
図3b】
図3bは抗体の重鎖可変領域の核酸配列(配列番号6)を示す。
【
図4a】
図4aは1G4 TCR β鎖のN末端に抗体の重鎖可変領域が融合したアミノ酸配列(配列番号7)を示す。
【
図4b】
図4bは1G4 TCR β鎖のN末端に抗体の重鎖可変領域が融合した核酸配列(配列番号8)を示す。
【
図5】
図5はポリペプチドリンカーのアミノ酸配列(配列番号9)を示す。
【
図6a】
図6aは抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号10)を示す。
【
図6b】
図6bは抗体の軽鎖可変領域の核酸配列(配列番号11)を示す。
【
図7a】
図7aは1G4 TCR β鎖のN末端に抗体の軽鎖可変領域が融合したアミノ酸配列(配列番号12)を示す。
【
図7b】
図7bは1G4 TCR β鎖のN末端に抗体の軽鎖可変領域が融合した核酸配列(配列番号13)を示す。
【
図8a】
図8aは抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列においてGly44Cys置換した後の配列(配列番号14)を示す。
【
図8b】
図8bは
図8aで示される配列(すなわち、配列番号14)のコード核酸配列(配列番号15)を示す。
【
図9a】
図9aは抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列においてGln100Cys置換した後の配列(配列番号16)を示す。
【
図9b】
図9bは
図9aで示される配列(すなわち、配列番号16)のコード核酸配列(配列番号17)を示す。
【
図10a】
図10aは1G4 TCR β鎖のN末端に抗体の重鎖可変領域が融合したアミノ酸配列においてGly44Cys置換した後の配列(配列番号18)を示す。
【
図10b】
図10bは
図10aで示される配列(すなわち、配列番号18)のコード核酸配列(配列番号19)を示す。
【
図11a】
図11aは抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列においてGln105Cys置換した後の配列(配列番号20)を示す。
【
図11b】
図11bは
図11aで示される配列(すなわち、配列番号20)のコード核酸配列(配列番号21)を示す。
【
図12a】
図12aは抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列においてAla43Cys置換した後の配列(配列番号22)を示す。
【
図12b】
図12bは
図12aで示される配列(すなわち、配列番号22)のコード核酸配列(配列番号23)を示す。
【
図13a】
図13aは1G4 TCR β鎖のN末端に抗体の重鎖可変領域が融合したアミノ酸配列においてGln105Cys置換した後の配列(配列番号24)を示す。
【
図13b】
図13bは
図13aで示される配列(すなわち、配列番号24)のコード核酸配列(配列番号25)を示す。
【
図14a】
図14aは1G4 TCR β鎖のN末端に抗体の軽鎖可変領域が融合したアミノ酸配列においてAla43Cys置換した後の配列(配列番号26)を示す。
【
図14b】
図14bは
図14aで示される配列(すなわち、配列番号26)のコード核酸配列(配列番号27)を示す。
【
図15a】
図15aは1G4 TCR β鎖のN末端に抗体の軽鎖可変領域が融合したアミノ酸配列においてGln100Cys置換した後の配列(配列番号28)を示す。
【
図15b】
図15bは
図15aで示される配列(すなわち、配列番号28)のコード核酸配列(配列番号29)を示す。
【
図16a】
図16aはAFP TCR α鎖のアミノ酸配列(配列番号30)を示す。
【
図16b】
図16bはAFP TCR α鎖の核酸配列(配列番号31)を示す。
【
図17a】
図17aはAFP TCR β鎖のN末端に抗体の重鎖可変領域が融合したアミノ酸配列においてGln105Cys置換した後の配列(配列番号32)を示す。
【
図17b】
図17bは
図17aで示される配列(すなわち、配列番号32)のコード核酸配列(配列番号33)を示す。
【
図18】
図18はTRAC*01のアミノ酸配列(配列番号34)を示す。
【
図19】
図19はTRBC*01のアミノ酸配列(配列番号35)を示す。
【
図20】
図20はTRBC*02のアミノ酸配列(配列番号36)を示す。
【
図21】
図21は1G4 TCRの結合エピトープNY-ESO-1(157-165)(配列番号37)を示す。
【
図22】
図22はAFP TCRの結合エピトープAFP(158-166)(配列番号38)を示す。
【
図23】
図23はVH-TCRβの様態の二ドメイン融合タンパク質の概略図を示す。
【
図24】
図24はVL-TCRβの様態の二ドメイン融合タンパク質の概略図を示す。
【
図25】
図25はVH44-TCRβの様態の三ドメイン融合分子の概略図を示す。
【
図26】
図26はVH105-TCRβの様態の三ドメイン融合分子の概略図を示す。
【
図27】
図27はVL43-TCRβの様態の三ドメイン融合分子の概略図を示す。
【
図28】
図28はVL100-TCRβの様態の三ドメイン融合分子の概略図を示す。
【
図29】
図29はVH-TCRβとVL-TCRβの様態の二ドメイン融合タンパク質のSDS-PAGE像を示す。
【
図30】
図30はVH44-TCRβとVH105-TCRβの様態の三ドメイン融合分子のSDS-PAGE像を示す。
【
図31】
図31はVL43-TCRβとVL100-TCRβの様態の三ドメイン融合分子のSDS-PAGE像を示す。
【
図32】
図32はAFP VH105-TCRβの様態の三ドメイン融合分子のSDS-PAGE像を示す。
【
図33a】
図33aはLDH法によって検出された1G4二ドメイン融合分子(VH-TCRβ、VL-TCRβの様態)が仲介するCD8+細胞のMDA-MB-231(A2陽性、NY-ESO-1陰性、乳癌細胞系)に対する殺傷を示す。
【
図33b】
図33bはLDH法によって検出された1G4二ドメイン融合分子(VH-TCRβ、VL-TCRβの様態)が仲介するCD8+細胞のMDA-MB-231(A2陽性、NY-ESO-1陽性、乳癌細胞系)に対する殺傷を示す。
【
図34a】
図34aはLDH法によって検出された1G4二ドメイン融合分子(VH-TCRβ、VL-TCRβの様態)が仲介するCD8+細胞のNCI-H1299-A2(NY-ESO-1陽性、A2陰性)肺癌細胞系に対する殺傷を示す。
【
図34b】
図34bはLDH法によって検出された1G4二ドメイン融合分子(VH-TCRβ、VL-TCRβの様態)が仲介するCD8+細胞のNCI-H1299-A2(NY-ESO-1陽性、A2陽性)肺癌細胞系に対する殺傷を示す。
【
図35a】
図35aはLDH法によって検出された1G4マルチドメイン融合分子(VH44-TCRβ、VH105-TCRβ、VL43-TCRβ、VL100-TCRβの様態)が仲介するCD8+細胞のNCI-H1299-A2(NY-ESO-1陽性、A2陽性)肺癌細胞系に対する殺傷を示す。
【
図35b】
図35bはLDH法によって検出された1G4マルチドメイン融合分子(VH44-TCRβ、VH105-TCRβ、VL43-TCRβ、VL100-TCRβの様態)が仲介するCD8+細胞のNCI-H1299(NY-ESO-1陽性、A2陰性)肺癌細胞系に対する殺傷を示す。
【
図36a】
図36aはLDH法によって検出された1G4マルチドメイン融合分子(VH44-TCRβ、VH105-TCRβ)が仲介するCD8+細胞のMDA-MB-231(A2陽性、NY-ESO-1陽性、乳癌細胞系)に対する殺傷を示す。
【
図36b】
図36bはLDH法によって検出された1G4マルチドメイン融合分子(VH44-TCRβ、VH105-TCRβ)が仲介するCD8+細胞のMDA-MB-231(A2陽性、NY-ESO-1陰性、乳癌細胞系)に対する殺傷を示す。
【
図37】
図37はLDH法によって検出されたAFPマルチドメイン融合分子(VH105-TCRβの様態)が仲介するCD8+細胞のHepG2(A2陽性、AFP陽性、肝臓癌細胞系)およびNCI-H1299-A2(A2陽性、AFP陰性、肺癌細胞系)に対する殺傷を示す。
【発明を実施するための形態】
【0058】
本発明者は、幅広く深く研究し、大量のスクリーニングを行ったところ、初めて意外に、1種類の免疫反応のない抗体一本鎖分子A1と特異的にpMHCエピトープに結合するポリペプチド受容体分子またはその構成部分、またはその断片BがLを介してカップリングしてなる融合タンパク質(たとえば、N末端からC末端の構造が式IaまたはIbで表される融合タンパク質)を見出したが、前記融合タンパク質はエレメントA2(好ましくは免疫反応のないエレメントA2)と簡単に混合すると二重生物学的機能を有する融合タンパク質複合分子(たとえば、N末端からC末端の構造が式IcまたはIdで表される融合タンパク質複合分子)を形成することができ、当該融合タンパク質複合分子は天然状態に近いマルチドメイン融合分子で、短いペプチド断片(たとえば、5アミノ酸のGGGGS)がなくても、あるいはそれのみでエレメントA1(好ましくは免疫反応のないエレメントA1)と特異的にpMHC抗原に結合するエレメントBを連結すればよいため、従来の融合タンパク質において人工的な柔軟性ペプチド鎖(通常、5アミノ酸超)を導入して各ドメインを単一のポリペプチド分子に連結することで生じうる免疫原性のリスクを避けることができる。本発明の融合タンパク質複合分子は、生成が簡便で、天然状態に近いものである。これにより、本発明が完成された。
【0059】
具体的に、本発明において、発明者は、T細胞の活性化を誘発しないように、突然変異した免疫反応のない抗体の重鎖可変領域VHまたは免疫反応のない抗体の軽鎖可変領域VLをGGGGSを介してTCR β鎖のN末端にカップリングした後、TCR α鎖と混合して適切な条件において融合タンパク質を形成する。しかしながら、上記分子と免疫反応のない抗体の軽鎖可変領域VLまたは免疫反応のない抗体の重鎖可変領域VHを混合すると、復元、再生、透析を経てもう1種類の融合タンパク質複合分子が得られる。実験の結果から、前記融合タンパク質複合分子は多くの腫瘍細胞(たとえば、MDA-MB-231乳癌細胞系、NCI-H1299肺癌細胞系およびHepG2肝臓癌細胞系など)を殺傷するようにCD8+T細胞をリダイレクトさせる能力を有する。
【0060】
用語
本発明を説明する前、方法および条件は変更することができるため、本発明は記載される具体的な方法および実験条件に限定されないと理解される。また、本明細書で用いられる用語は具体的な実施形態の説明だけを目的とし、かつその意図は限定性のものではなく、本発明の範囲は添付の請求の範囲だけに限定されると理解される。
別途に定義しない限り、本明細書で用いられるすべての技術と科学の用語はいずれも本発明が属する分野の当業者が通常理解する意味と同様である。
本発明の実施またはテストにおいて本発明における記載と類似または等価の任意の方法と材料を使用することができるが、本明細書で好適な方法と材料が挙げられた。
【0061】
抗体
本明細書で用いられるように、用語「抗体」または「免疫グロブリン」は同様な構造特徴を持つ、約150000ダルトンのヘテロテトラマーの糖タンパク質で、2つの同じ軽鎖(L)と2つの同じ重鎖(H)からなるものである。各軽鎖は、重鎖に1つの共有ジスルフィド結合によって結合しているが、重鎖間のジスルフィド結合の数は、免疫グロブリンのアイソタイプによるものである。各重鎖および軽鎖も、それぞれ一定の間隔の鎖内ジスルフィド結合を有する。各重鎖は、1つの末端に可変領域(VH)を有し、その先に多数の定常領域を有する。各軽鎖は、一方の末端に可変領域(VL)を有し、他方の末端に定常領域を有する。軽鎖の定常領域は重鎖の一つ目の定常領域と、軽鎖の可変領域は重鎖の可変領域と対向している。特殊なアミノ酸残基が軽鎖と重鎖の可変領域の間に界面を形成している。
【0062】
本明細書で用いられるように、用語の「可変」とは、抗体において可変領域のある部分が配列で異なっており、これによって各特定の抗体のその特定の抗原に対する結合および特異性が構成されることを指す。しかし、可変性は、均一に抗体の可変領域全体に分布しているわけではない。軽鎖と重鎖の可変領域における相補性決定領域(CDR)または超可変領域と呼ばれる3つの断片に集中している。可変領域において、比較的に保存的な部分は、フレームワーク領域(FR)FRと呼ばれる。天然の重鎖および軽鎖の可変領域に、それぞれ、基本的にβシート構造となっており、連結ループを形成する3つのCDRで連結され、場合によって部分βシート構造となる4つのFR領域が含まれる。各鎖におけるCDRは、FR領域で密接し、かつ他方の鎖のCDRと一緒に抗体の抗原結合部位(Kabatら、NIH Publ. No. 91-3242, 卷I,647-669頁(1991)を参照する)を形成している。定常領域は、抗体と抗原との結合には直接関与しないが、たとえば抗体の抗体依存細胞毒性に参与するなどの異なるエフェクター機能を示す。
【0063】
当業者に知られるように、免疫複合体および融合発現産物は、薬物、毒素、サイトカイン(cytokine)、放射性核種、酵素およびほかの診断または治療分子と本発明の抗体またはその断片が結合してなる複合体を含む。
本明細書で用いられるように、用語「重鎖可変領域」と「VH」は入れ替えて使用することができ、用語「軽鎖可変領域」と「VL」は入れ替えて使用することができる。
【0064】
本明細書で用いられるように、用語「可変領域」と「相補性決定領域(complementarity determining region、CDR)」は入れ替えて使用することができる。
本発明の一つの好適な実施形態において、前記抗体の重鎖可変領域CDR1、CDR2、およびCDR3という3つの相補性決定領域を含む。
【0065】
一般的に、抗体の抗原結合特性は、重鎖可変領域に位置する3つの特定の領域によって特徴付けられ、可変領域(CDR)と呼ばれ、4つのフレームワーク領域(FR)に分かれ、4つのFRのアミノ酸配列が比較的に保存され、直接結合反応に関与しない。これらのCDRは環状構造を形成し、その中のFRで形成されるβシートによって空間構造上で近づき、重鎖におけるCDRおよび相応の軽鎖におけるCDRが抗体の抗原結合部位を構成する。同類の抗体のアミノ酸配列の比較によってどのアミノ酸がFRあるいはCDR領域を構成するか確認することができる。
【0066】
本発明の抗体の重鎖の可変領域は、その少なくとも一部が抗原結合に関与するため、特に注目されている。そのため、CDR含有モノクローナル抗体の重鎖可変領域鎖を有する分子は、そのCDRはここで同定されるCDRと90%以上(好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上)の相同性を持つものであれば、本発明に含まれる。
【0067】
本発明は、完全の抗体だけではなく、免疫活性を有する抗体の断片または抗体とほかの配列からなる融合タンパク質も含む。そのため、本発明は、さらに、前記抗体の断片、誘導体および類似体を含む。
【0068】
本明細書で用いられるように、用語「断片」、「誘導体」および「類似体」とは、基本的に本発明の抗体と同じ生物学的機能または活性を維持するポリペプチドをいう。本発明のポリペプチドの断片、誘導体や類似体は、(i)1個または複数個の保存的または非保存的なアミノ酸残基(好ましくは保存的なアミノ酸残基)が置換されたポリペプチドでもよく、このような置換されたアミノ酸残基が遺伝コードでコードされてもされていなくてもよく、あるいは(ii)1個または複数個のアミノ酸残基に置換基があるポリペプチドでもよく、あるいは(iii)成熟のポリペプチドと別の化合物(たとえば、ポリエチレングリコールのような、ポリペプチドの半減期を延ばす化合物)と融合したポリペプチドでもよく、あるいは(iv)付加のアミノ酸配列がこのポリペプチドに融合したポリペプチド(たとえばリーダー配列または分泌配列またはこのポリペプチドを精製するための配列またはタンパク質前駆体配列、あるいは6Hisタグと形成した融合タンパク質)でもよい。本明細書の開示に基づき、これらの断片、誘導体および類似体は当業者に公知の範囲に入っている。
【0069】
当該ポリペプチドの変異の様態は、相同配列、保存的変異体、対立遺伝子変異体、天然突然変異体、誘導突然変異体、高いまたは低い厳格さの条件において本発明の抗体のコードDNAと交雑が可能なDNAがコードするタンパク質、および抗本発明の抗体の抗血清で得られるポリペプチドまたはタンパク質を含む。
【0070】
本発明において、「本発明の抗体の保存的変異体」とは、本発明の抗体のアミノ酸配列と比較すると、10個以下、好ましくは8個以下、より好ましくは5個以下、最も好ましくは3個以下のアミノ酸が類似または近い性質を持つアミノ酸で置換されてなるポリペプチドをいう。これらの保存的変異ポリペプチドは、表1のようにアミノ酸の置換を行って生成することが好ましい。
【表1】
【0071】
典型的に、本発明において、免疫反応のない抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域の間で人工的にシステインを導入するような様態で鎖間ジスルフィド結合が形成しているため、安定した二量体が得られる。
【0072】
具体的に、本発明の一つの好適な例において、システインで重鎖可変領域のGly44および軽鎖可変領域のGln100を置換することによって重鎖と軽鎖の間のジスルフィド結合による連結を構築する。本発明のもう一つの好適な例において、システインで重鎖可変領域のAla43および軽鎖可変領域のGln105を置換することによって重鎖と軽鎖の間のジスルフィド結合による連結を構築する。このように、抗体の重鎖と軽鎖の間に15~30アミノ酸の柔軟性ペプチドを導入する必要がなく、非ヒト分子または非ヒト生体タンパク質表面抗原決定基になって免疫応答を誘発することが避けられ、当該二重機能分子の免疫原性のリスクが軽減される。
【0073】
T細胞受容体(T cell receptor、TCR)
TCRは国際免疫遺伝学情報システム(IMGT)で記述することができる。天然のαβヘテロ二量体のTCRは、α鎖およびβ鎖を有する。広義的に、各鎖は、可変領域、連結領域および定常領域を含み、β鎖は、通常、さらに可変領域と連結領域の間に短い多変領域を含むが、この多変領域は通常連結領域の一部と見なされる。独特なIMGTのTRAJおよびTRBJでTCRの連結領域を、IMGTのTRACおよびTRBCでTCRの定常領域を同定する。
【0074】
各可変領域は、フレームワーク配列に嵌っているCDR1、CDR2、およびCDR3という3つのCDR(相補性決定領域)を含む。IMGT命名法において、TRAVおよびTRBVの異なる番号はそれぞれ異なるVαのタイプおよびVβのタイプを指す。IMGTシステムにおいて、α鎖の定常ドメインは、TRAC*01という記号を有し、ここで、「TR」はT細胞受容体遺伝子を、「A」はα鎖遺伝子を、Cは定常領域を、「*01」は対立遺伝子1を表す。β鎖の定常ドメインは、TRBC1*01またはTRBC2*01という記号を有し、ここで、「TR」はT細胞受容体遺伝子を、「B」はβ鎖遺伝子を、Cは定常領域を、「*01」は対立遺伝子1を表す。α鎖の定常領域は唯一のものになっており、β鎖の様態において、二つの可能な定常領域の遺伝子「C1」および「C2」が存在する。当業者は公開されているIMGTデータベースを通してTCRαおよびβ鎖の定常領域の遺伝子配列を得ることができる。
【0075】
TCRのα鎖およびβ鎖は、一般的に、それぞれ2つの「ドメイン」、すなわち、可変ドメインと定常ドメインを有するとされている。可変ドメインは連結した可変領域と連結領域で構成される。そのため、本願の明細書および請求の範囲において、「TCRのα鎖の可変ドメイン」とは連結したTRAVとTRAJ領域を、同様に、「TCRのβ鎖の可変ドメイン」とは連結したTRBVとTRBD/TRBJ領域を指す。TCRα鎖の可変ドメインの3つのCDRはそれぞれCDR1α、CDR2αおよびCDR3αで、TCRβ鎖の可変ドメインの3つのCDRはそれぞれCDR1β、CDR2βおよびCDR3βである。本発明のTCRの可変ドメインのフレームワーク配列はネズミ由来のものでもヒト由来のものでもよいが、ヒト由来のものが好ましい。
TCRの定常ドメインは、細胞内部分、膜貫通領域および細胞外部分を含む。
【0076】
本発明の一つの好適な例において、TCR部分はヘテロ二量体で、ここで、前記αおよびβポリペプチドはTCR分子の可変領域および定常領域を含むが、細胞内領域および膜貫通領域がない。当該ヘテロ二量体は人工的に導入された鎖間ジスルフィド結合を介して連結している。具体的に、αおよびβポリペプチドの定常領域は、TRAC*01のエクソン1におけるThr47とTRBC*01のエクソン1におけるSer56を置換したシステインの間のジスルフィド結合を介して連結している。
【0077】
好ましくは、本発明に係るTCR分子はヘテロ二量体のαβTCRポリペプチド対で、ここで、前記αおよびβポリペプチドはそれぞれTCRの可変領域および定常領域を含むが、TCR膜貫通領域および細胞内領域がない。
より好ましくは、本発明のTCRのアミノ酸配列とはTCRの細胞外のアミノ酸配列のことである。
【0078】
本発明の一つの好適な例において、前記のTCR分子のαおよびβポリペプチドの定常領域は、システイン(Cys)でTRAC*01のエクソン1における47番目のトレオニン(Thr)とTRBC*01またはTRBC*02のエクソン1における56番目のセリン(Ser)を置換してなるジスルフィド結合を介して連結している。
【0079】
本発明の一つの好適な例において、前記のTCR分子のαおよびβポリペプチドの定常領域は、システイン(Cys)でTRAC*01のエクソン1におけるIMTG番号付け法の52番目のアルギニン(Arg)とTRBC*01またはTRBC*02のエクソン1における53番目のセリン(Ser)を置換してなるジスルフィド結合を介して連結している。
【0080】
本発明の一つの好適な例において、前記のTCR分子のαおよびβポリペプチドの定常領域は、システイン(Cys)でTRAC*01のエクソン1におけるIMTG番号付け法の88番目のプロリン(Pro)とTRBC*01またはTRBC*02のエクソン1における18番目のアラニン(Ala)を置換してなるジスルフィド結合を介して連結している。
【0081】
本発明の一つの好適な例において、前記のTCR分子のαおよびβポリペプチドの定常領域は、システイン(Cys)でTRAC*01のエクソン1におけるIMTG番号付け法の9番目のチロシン(Tyr)とTRBC*01またはTRBC*02のエクソン1における19番目のグルタミン酸(Glu)を置換してなるジスルフィド結合連結を介してしている。
【0082】
本発明の一つの好適な例において、前記のTCRα鎖のアミノ酸配列は配列番号1で示されるものである。
本発明の一つの好適な例において、前記のTCRβ鎖のアミノ酸配列は配列番号3で示されるものである。
【0083】
本発明の一つの好適な例において、前記TRAC*01のアミノ酸配列は配列番号34で示されるものである(
図18を参照する)。
本発明の一つの好適な例において、前記TRBC*01のアミノ酸配列は配列番号35で示されるものである(
図19を参照する)。
本発明の一つの好適な例において、前記TRBC*02のアミノ酸配列は配列番号36で示されるものである(
図20を参照する)。
【0084】
融合タンパク質
本明細書で用いられるように、融合タンパク質とは前記タンパク質分子の遺伝子コードが連続的で、かつ単一のmRNAで翻訳される2つまたは2つ以上のドメインからなる単一の融合したタンパク質のポリペプチド鎖で、そして非自然状態のドメインの間の融合を指す。
【0085】
本発明では、融合タンパク質であって、N末端からC末端の構造が式IaまたはIbで表されるものを提供する。
A1-L-B (Ia)
B-L-A1 (Ib)
(ただし、
エレメントA1は、免疫反応のない抗体一本鎖分子である。
エレメントBは、特異的にpMHCエピトープに結合するポリペプチド受容体分子またはその構成部分、その断片である。
エレメントLは、柔軟性リンカーである。
「-」は共有結合である。)
【0086】
好ましくは、前記融合タンパク質はN末端からC末端の構造が式Iaで表される。
好ましくは、前記融合タンパク質では、B(特異的にpMHCエピトープに結合するポリペプチド受容体分子またはその構成部分、その断片)のN末端とA1(免疫反応のない抗体一本鎖分子)のC末端が連結している。
【0087】
好ましくは、前記の柔軟性リンカーはペプチドリンカーである。
好ましくは、前記のペプチドリンカーはGGGGS(配列番号9)である。
好ましくは、前記エレメントA1は抗体の重鎖可変領域、抗体の軽鎖可変領域からなる群から選ばれる。
【0088】
本発明のもう一つの好適な実施例において、前記抗体では、前記の抗体の重鎖可変領域の44番目(Kabat番号付けシステム、以下同様)のグリシン(Gly)および抗体の軽鎖可変領域の100番目のグルタミン(Gln)がシステイン(Cys)で置換されている。
【0089】
本発明の一つの好適な実施例において、前記抗体では、前記の抗体の重鎖可変領域の1055番目のグルタミン(Gln)および抗体の軽鎖可変領域の43番目のアラニン(Ala)がシステイン(Cys)で置換されている。
本発明の一つの好適な実施例において、前記エレメントA1が結合するのはCD3抗原である。
本発明の一つの好適な実施例において、前記抗体は、UCHT1、OKT3、12F6からなる群から選ばれる。
【0090】
本発明の一つの好適な実施例において、前記の抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号14、配列番号20または配列番号5で示されるものである。
本発明の一つの好適な実施例において、前記の抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号16、配列番号22または配列番号10で示されるものである。
【0091】
典型的に、前記エレメントBは、TCR分子、一本鎖αβTCR、TCRα鎖、TCRβ鎖、抗体分子Fab、一本鎖抗体分子、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
本発明の一つの好適な実施例において、前記エレメントBはB1とB2がジスルフィド結合を介して組み合わせてなるもので、ここで、B1はTCRα鎖、B2はTCRβ鎖であるか、あるいは、B1はTCRβ鎖、B2はTCRα鎖である。
【0092】
典型的に、本発明において、TCR β鎖のN末端に抗体の免疫反応のない重鎖または軽鎖可変領域のドメインが連結していてもよい。
本発明の一つの実施形態において、TCR β鎖のN末端が一つのペンタペプチドのリンカーGGGGS(配列番号9)を介して抗体の重鎖(重鎖可変領域)のC末端に連結している。
本発明の一つの実施形態において、TCR β鎖のN末端が一つのペンタペプチドのリンカーGGGGS(配列番号9)を介して抗体の軽鎖(軽鎖可変領域)のC末端に連結している。
【0093】
本発明の一つの好適な実施例において、前記二量体のα鎖またはβ鎖のN末端、あるいは一本鎖αβTCRのN末端、あるいはTCRα鎖のN末端、あるいはTCRβ鎖のN末端、あるいは抗体分子Fabの重鎖または軽鎖のN末端、あるいは一本鎖抗体分子のN末端は、免疫反応のない抗体一本鎖分子のC末端のアミノ酸に連結している。
【0094】
本発明の一つの好適な実施例において、前記融合タンパク質のエレメントB(すなわち、特異的にpMHCエピトープに結合するポリペプチド受容体分子またはその構成部分、その断片)は特異的にpMHCに結合し、エレメントA1(すなわち、免疫反応のない抗体一本鎖分子)はT細胞の抗原分子に結合しないか、T細胞の抗原分子に結合するが、有効にT細胞の活性化または生理反応の発生を誘導することができない。
【0095】
本発明の一つの好適な実施例において、前記融合タンパク質と遊離のもう一つの免疫反応のないポリペプチドドメイン分子A2を混合すると、前記融合タンパク質はA2と融合タンパク質-A2複合体を形成し、前記融合タンパク質-A2複合体はT細胞をリダイレクトし、そして有効に当該リダイレクトされたT細胞の活性化および免疫生理反応の発生をさせる。
【0096】
本発明の一つの好適な実施例において、前記のTCR分子はヘテロ二量体のαβTCRポリペプチド対で、ここで、前記αおよびβポリペプチドはそれぞれTCRの可変領域および定常領域を含むが、TCR膜貫通領域および細胞内領域がない。
【0097】
本発明の一つの好適な実施例において、前記のTCR分子のαおよびβポリペプチドの定常領域は、システイン(Cys)でTRAC*01のエクソン1における47番目のトレオニン(Thr)とTRBC*01またはTRBC*02のエクソン1における56番目のセリン(Ser)を置換してなるジスルフィド結合を介して連結している。
【0098】
本発明の一つの好適な実施例において、前記のTCR分子のαおよびβポリペプチドの定常領域は、システイン(Cys)でTRAC*01のエクソン1におけるIMTG番号付け法の52番目のアルギニン(Arg)とTRBC*01またはTRBC*02のエクソン1における53番目のセリン(Ser)を置換してなるジスルフィド結合を介して連結している。
【0099】
本発明の一つの好適な実施例において、前記のTCR分子のαおよびβポリペプチドの定常領域は、システイン(Cys)でTRAC*01のエクソン1におけるIMTG番号付け法の88番目のプロリン(Pro)とTRBC*01またはTRBC*02のエクソン1における18番目のアラニン(Ala)を置換してなるジスルフィド結合を介して連結している。
【0100】
本発明の一つの好適な実施例において、前記のTCR分子のαおよびβポリペプチドの定常領域は、システイン(Cys)でTRAC*01のエクソン1におけるIMTG番号付け法の9番目のチロシン(Tyr)とTRBC*01またはTRBC*02のエクソン1における19番目のグルタミン酸(Glu)を置換してなるジスルフィド結合連結を介してしている。
【0101】
本発明の一つの好適な例において、前記TRAC*01のアミノ酸配列は配列番号34で示されるものである。
本発明の一つの好適な例において、前記TRBC*01のアミノ酸配列は配列番号35で示されるものである。
本発明の一つの好適な例において、前記TRBC*02のアミノ酸配列は配列番号36で示されるものである。
【0102】
本発明の一つの好適な実施例において、前記のTCRα鎖のアミノ酸配列は配列番号1で示されるものである。
本発明の一つの好適な実施例において、前記のTCRβ鎖のアミノ酸配列は配列番号3で示されるものである。
【0103】
本発明のもう一つの好適な実施例において、前記融合タンパク質のアミノ酸配列は配列番号18、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号7、配列番号12または配列番号32で示されるものである。
【0104】
融合タンパク質複合分子
本明細書で用いられるように、融合タンパク質複合分子とは二つまたは二つ以上の遺伝子によってそれぞれコードされ、かつ二つまたは二つ以上のmRNAによって翻訳される二つまたは二つ以上のタンパク質のポリペプチド鎖が細胞外において非共有および/または共有結合の様態で一体に組み合わせた、単一または二つまたは二つ以上の生理または生物物理機能を有する複合分子で、そして非自然状態のポリペプチド複合分子を指す。
【0105】
本明細書で用いられるように、用語「融合タンパク質複合分子」、「天然状態に近いマルチドメイン融合分子」、「マルチドメイン融合分子」、「融合タンパク質-A2複合体」は同様の意味を持ち、入れ替えて使用することができ、いずれも二つのエレメントA1、A2と、L、Bからなる、二重生物学的機能を有する融合タンパク質複合分子(たとえば、N末端からC末端の構造が式IcまたはIdで表される融合タンパク質複合分子)を指す。好ましくは、エレメントA1、A2は免疫反応のないものである。
好ましくは、本発明の融合タンパク質複合分子は融合タンパク質A1-L-B (Ia)またはB-L-A1 (Ib)とエレメントA2で組み立てて得られるものである。
【0106】
好ましくは、前記融合タンパク質はN末端からC末端の構造が式IcまたはIdで表される。
A2…A1-L-B (Ic)
B-L-A1…A2 (Id)
(ただし、
エレメントA1、A2は、それぞれ独立に、免疫反応のない抗体一本鎖分子である。
エレメントBは、特異的にpMHCエピトープに結合するポリペプチド受容体分子またはその構成部分、その断片である。ならびに
エレメントLは、柔軟性リンカーである。
「-」は共有結合である。
「…」はジスルフィド結合またはタンパク質ドメインの間の非共有結合相互作用、好ましくはジスルフィド結合である。)
【0107】
好ましくは、前記エレメントA1、A2は、それぞれ独立に、抗体の重鎖可変領域、抗体の軽鎖可変領域からなる群から選ばれる。より好ましくは、前記エレメントA1、A2は、それぞれ独立に、免疫反応のない抗体の重鎖可変領域、免疫反応のない抗体の軽鎖可変領域からなる群から選ばれる。
【0108】
本発明の一つの好適な実施例において、前記の抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号14、配列番号20または配列番号5で示されるものである。
本発明の一つの好適な実施例において、前記の抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号16、配列番号22または配列番号10で示されるものである。
【0109】
典型的に、前記エレメントBは、TCR分子、一本鎖αβTCR、TCRα鎖、TCRβ鎖、抗体分子Fab、一本鎖抗体分子、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
典型的に、前記のTCRα鎖のアミノ酸配列は配列番号1で示されるものである。
典型的に、前記のTCRβ鎖のアミノ酸配列は配列番号3で示されるものである。
【0110】
典型的に、前記エレメントBはTCR分子で、前記TCR分子のTCRα鎖のアミノ酸配列は配列番号1で示されるもので、TCRβ鎖のアミノ酸配列は配列番号3で示されるものである。
典型的に、前記エレメントBはB1とB2がジスルフィド結合を介して組み合わせてなるもので、ここで、B1はTCRα鎖、B2はTCRβ鎖であるか、あるいは、B1はTCRβ鎖、B2はTCRα鎖である。
【0111】
本発明の一つの好適な実施例において、前記融合タンパク質のアミノ酸配列は配列番号18、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号7、配列番号12または配列番号32で示されるものである。
本発明のもう一つの好適な実施例において、前記のTCRα鎖のアミノ酸配列は配列番号1で示されるもので、前記のTCRβ鎖のアミノ酸配列は配列番号3で示されるものである。
【0112】
本発明のもう一つの好適な実施例において、前記エレメントBはTCR分子で、前記TCR分子のTCRα鎖のアミノ酸配列は配列番号1で示されるもので、TCRβ鎖のアミノ酸配列は配列番号3で示されるもので、かつ前記エレメントA1はLを介してTCRβ鎖のN末端にカップリングしている。
【0113】
典型的に、前記エレメントA1、A2は、それぞれ独立に、抗体の重鎖可変領域または抗体の軽鎖可変領域からなる群から選ばれる。好ましくは、エレメントA1、A2は、それぞれ独立に、免疫反応のない抗体の重鎖可変領域、免疫反応のない抗体の軽鎖可変領域からなる群から選ばれる。
【0114】
ポリヌクレオチド、宿主細胞
また、本発明は、上記融合タンパク質、エレメントA1、エレメントA2、エレメントB(B1、B2を含む)、一本鎖αβTCR、TCRα鎖、TCRβ鎖、抗体分子Fab、または一本鎖抗体分子をコードするポリヌクレオチド分子を提供する。本発明のポリヌクレオチドは、DNA形態でもRNA形態でもよい。DNA形態は、cDNA、ゲノムDNAまたは人工合成のDNAを含む。DNAは、一本鎖でも二本鎖でもよい。DNAは、コード鎖でも非コード鎖でもよい。
【0115】
本発明の成熟ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、成熟ポリペプチドだけをコードするコード配列、成熟ポリペプチドのコード配列および様々な付加コード配列、成熟ポリペプチドのコード配列(および任意の付加コード配列)および非コード配列を含む。
用語「ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド」は、このポリペプチドをコードするポリヌクレオチドでもよく、さらに付加のコードおよび/または非コード配列を含むポリヌクレオチドでもよい。
【0116】
本発明は、さらに、上記の配列とハイブリダイズし、かつ2つの配列の間に少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%の相同性を有するポリヌクレオチドに関する。本発明は、特に、厳格な条件で本発明に係るポリヌクレオチドとハイブリダイズできるポリヌクレオチドに関する。本発明において、「厳格な条件」とは、(1)低いイオン強度および高い温度、例えば0.2×SSC、0.1%SDS、60℃でのハイブリダイズおよび溶離、あるいは(2)ハイブリダイズ時変性剤、たとえば42℃で50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ胎児血清/0.1% Ficollなどを入れること、あるいは(3)2つの配列の間の相同性が少なくとも90%以上、好ましくは95%以上の時だけハイブリダイズすることである。そして、ハイブリダイズできるポリヌクレオチドがコードするポリペプチドは、成熟ポリペプチドと同じ生物学的機能および活性を有する。
【0117】
本発明の抗体のヌクレオチド全長配列あるいはの断片は、通常、PCR増幅法、組換え法または人工合成の方法で得られる。適用できる方法として、特に断片の長さが短い場合、人工合成の方法で関連配列を合成する。通常、まず多数の小さい断片を合成し、そして連接させることにより、配列の長い断片を得ることができる。また、重鎖のコード配列を発現タグ(たとえば6His)一体に融合させ、融合タンパク質を形成してもよい。
【0118】
関連の配列を獲得すれば、組み換え法で大量に関連配列を獲得することができる。この場合、通常、その配列をベクターにクローンした後、細胞に導入し、さらに通常の方法で増殖させた宿主細胞から関連配列を単離して得る。本発明に係る生物分子(核酸、タンパク質など)は単離の形態で存在する生物分子を含む。
【0119】
現在、本発明のタンパク質(またはその断片、あるいはその誘導体)をコードするDNA配列は全部化学合成で獲得することがすでに可能である。さらに、このDNA配列を本分野で周知の各種の既知のDNA分子(あるいはベクターなど)や細胞に導入してもよい。また、化学合成で本発明のタンパク質配列に変異を導入することもできる。
【0120】
さらに、本発明は、上記の適当なDNA配列および適当なプロモーターあるいは制御配列を含むベクターに関する。これらのベクターは、タンパク質を発現するように、適当な宿主細胞の形質転換に用いることができる。
【0121】
宿主細胞は、原核細胞、たとえば細菌細胞、あるいは、低等真核細胞、たとえば酵母細胞、あるいは、高等真核細胞、たとえば哺乳動物細胞でもよい。代表例として、大腸菌、ストレプトマイセス属、ネズミチフス菌のような細菌細胞、酵母のような真菌細胞、ミバエS2若しくはSf9のような昆虫細胞、CHO、COS7、293細胞のような動物細胞などがある。
【0122】
DNA組み換えによる宿主細胞の形質転換は当業者に熟知の通常の技術で行ってもよい。宿主が原核細胞、たとえば大腸菌である場合、DNAを吸収できるコンピテントセルは指数成長期後収集でき、CaCl2法で処理し、用いられる工程は本分野では周知のものである。もう一つの方法は、MgCl2を使用する。必要により、形質転換はエレクトロポレーションの方法でもよい。宿主が真核生物の場合、リン酸カルシウム沈殿法、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションのような通常の機械方法、リポフェクションなどのDNAトランスフェクションの方法が用いられる。
【0123】
得られる形質転換体は通常の方法で培養し、本発明の遺伝子がコードするポリペプチドを発現することができる。用いられる宿主細胞によって、培養に用いられる培地は通常の培地を選んでもよい。宿主細胞の成長に適する条件で培養する。宿主細胞が適当の細胞密度に成長したら、適切な方法(たとえば温度転換もしくは化学誘導)で選んだプロモーターを誘導し、さらに細胞を培養する。
【0124】
上記の方法における組み換えポリペプチドは細胞内または細胞膜で発現し、あるいは細胞外に分泌することができる。必要であれば、その物理・化学的特性およびほかの特性を利用して各種の単離方法で組み換えタンパク質を単離・精製することができる。これらの方法は、本分野の技術者に熟知である。これらの方法の例として、通用の再生処理、タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、遠心、浸透圧ショック、超音波処理、超遠心、分子篩クロマトグラフィー(ゲルろ過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)およびほかの各種の液体クロマトグラフィー技術、ならびにこれらの方法の組合せを含むが、これらに限定されない。
【0125】
免疫複合体
本発明の融合タンパク質および/または融合タンパク質複合分子は単独に使用してもよく、検出可能なマーカー(診断目的)、治療剤、PK(タンパク質キナーゼ)修飾部分またはこれらの任意の組み合わせと結合またはカップリングしてもよい。
診断の目的に使用される検出可能なマーカーは、蛍光または発光マーカー、放射性マーカー、MRI(磁気共鳴画像)またはCT(コンピューターX線断層撮影技術)造影剤、または検出可能な生成物を生成させる酵素を含むが、これらに限定されない。
【0126】
本発明の抗体と結合または複合することができる治療剤は、1.放射性核種、2.生物毒素、3.サイトカイン、たとえばIL-2など、4.金ナノ粒子/ナノロッド、5.ウイルス粒子、6.リポソーム、7.磁性ナノ粒子、8.プロドラッグ活性化酵素(たとえば、DT-ジアホラーゼ(DTD)またはビフェニルヒドロラーゼ様蛋白質(BPHL))などを含むが、これらに限定されない。
【0127】
薬物組成物
さらに、本発明は組成物を提供する。好ましくは、前記の組成物は薬物組成物で、上記の融合タンパク質および/または融合タンパク質複合分子、ならびに薬学的に許容される担体を含有する。通常、これらの物質を無毒で不活性で薬学的に許容される水系担体で配合し、pH値は配合される物質の性質および治療しようとする疾患にもよるが、pH値は通常5~8程度、好ましくは6~8程度である。配合された薬物組成物は通常の経路で給与することができ、腹膜内、静脈内、あるいは局部給与が含まれるが、これらに限定されない。
【0128】
本発明の薬物組成物は直接CD8+T細胞をリダイレクトして多くの腫瘍細胞を殺傷するのに使用することができるため、腫瘍の治療に有用である。また、ほかの治療剤と併用してもよい。
【0129】
本発明の薬物組成物は、安全有効量(たとえば0.001~99wt%、好ましくは0.01~90wt%、より好ましくは0.1~80wt%)の本発明の上記の融合タンパク質および/または融合タンパク質複合分子(またはその免疫複合体)と、薬学的に許容される担体または賦形剤とを含有する。このような担体は、食塩水、緩衝液、ブドウ糖、水、グリセリン、エタノール、およびこれらの組み合せを含むが、これらに限定されない。薬物の製剤は投与形態に相応する。本発明の薬物組成物は、注射剤としてもよく、たとえば生理食塩水またはブドウ糖およびほかの助剤を含有する水溶液で通常の方法によって製造することができる。薬物組成物は、注射剤、溶液の場合、無菌条件で製造する。活性成分の投与量は治療有効量、たとえば毎日約10μg/kg体重~約50mg/kg体重である。また、本発明のポリペプチドはほかの治療剤と併用することが出来る。
【0130】
薬物組成物の使用時、安全有効量の融合タンパク質および/または融合タンパク質複合分子(またはその免疫複合体)を哺乳動物に施用するが、その安全有効量は、通常、少なくとも約10μg/kg体重で、かつ多くの場合、約50mg/kg体重未満で、好ましくは当該投与量が約10μg/kg体重~約30mg/kg体重である。勿論、具体的な投与量は、さらに投与の様態、患者の健康状況などの要素を考えるべきで、すべて熟練の医者の技能範囲以内である。
【0131】
腫瘍
用語「腫瘍」とは病理学的分類や侵入の段階にかかわらず、すべての種類の癌細胞増殖または発癌過程、転移性組織または悪性転化細胞、組織または器官を含む。腫瘍の実施例は固形腫瘍、軟部組織腫瘍や転移性病巣を含むが、これらに限定されない。固形腫瘍の実施例は様々な器官・系の悪性腫瘍、たとえば肉腫、肺扁平上皮癌や癌を含む。たとえば、感染した前立腺、肺、乳房、リンパ、胃腸(たとえば結腸)、および尿生殖路(たとえば腎臓、上皮細胞)、咽頭が挙げられる。肺扁平上皮癌は悪性腫瘍、たとえば大半の結腸癌、直腸癌、腎細胞癌、肝臓癌、非小細胞肺癌、小腸癌や食道癌を含む。上記癌の転移性病巣は同様に本発明の方法および組成物で治療および予防することができる。
【0132】
本発明の主な利点は以下の通りである。
(1)本発明の融合タンパク質では、scFV分子のように柔軟性ポリペプチドリンカーを導入することを避けられるため、天然抗体分子の天然状態により近い。
(2)本発明の融合タンパク質では、ポリペプチド柔軟性リンカーの導入による免疫原性のリスクが低減される。
【0133】
以下の具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。下記実施例で具体的な条件が示されていない実験方法は、通常、たとえばSambrookおよびRussellら、「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」(Molecular Cloning-A Laboratory Manual)(第三版)(2001) に記載の条件などの通常の条件に、あるいは、メーカーのお薦めの条件に従う。特に断らない限り、%と部は、重量で計算された。
【0134】
実施例1~7における1G4 TCRはHLA-A*0201分子に提示されるSLLMWITQC(配列番号37)短鎖ペプチドに結合する。
実施例1
1G4 TCR β鎖のN末端に抗体の重鎖可変領域が融合した融合タンパク質(VH-TCR βの様態)の調製
配列番号1(
図1a)は1G4 TCR α鎖のアミノ酸配列で、ここで、Cys162でそのTRACの定常領域のThr47が置換されている。
配列番号2(
図1b)は配列番号1に相応する核酸配列である。
配列番号3(
図2a)は1G4 TCR β鎖のアミノ酸配列で、ここで、Cys168でそのTRBCの定常領域のSer56が置換されている。
配列番号4(
図2b)は配列番号3に相応する核酸配列である。
配列番号5(
図3a)は抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列である。
配列番号6(
図3b)は配列番号5に相応する核酸配列である。
【0135】
図23はブロック図の形で配列番号1で示されるα鎖および配列番号3で示されるβ鎖、そして配列番号5で示される抗体の重鎖可変領域を含有する、マルチドメイン融合分子の構造を示す。前記抗体の重鎖はリンカーを介して配列番号3で示されるTCR β鎖のN末端に融合しており、配列が配列番号7(
図4a)で示されるものである。リンカーの配列はGGGGS(配列番号9)である。
配列番号8(
図4b)は配列番号7に相応する核酸配列である。
【0136】
ベクターの構築
1G4 TCR α鎖をコードする配列番号2(
図1b)および抗体重鎖融合1G4 TCR β鎖をコードする配列番号8(
図4b)の遺伝子をそれぞれ発現プラスミドpET-28aにクローニングし、大腸菌BL21-DE3菌株において高レベルで標的遺伝子を発現させるように、当該プラスミドはT7プロモーターを含有する。
【0137】
発現
構築されたプラスミドをそれぞれ大腸菌株BL21-DE3に形質転換させ、カナマイシン耐性の単一のクローンがLB培地(カナマイシン50 μg/ml)において37℃でOD600が1.0程度になるように生長すると、1 mMのIPTGでタンパク質の発現を誘導した。誘導から3時間後、Thermo Scientific HERAEUS X1R遠心機において4000 gで15分間遠心して細胞を収集した。20 mlのBugBuster Master Mix(Merck Millipore)を使用し、ボルテックス振とうして菌体を再懸濁させた後、室温で20 min振とう処理を行った後、冷却しておいた高速遠心機に入れ、6000 g、4℃で15 min遠心した後、上清を除去した。さらに10 mlのBugBuster Master Mixを入れ、ボルテックス振とうして菌体を再懸濁させ、室温で5 min振とう処理を行った。さらにそれに30 mlの10倍のBugBuster(Merck Millipore)を入れ、数回上下して液体を均一に混合し、さらに高速遠心機に入れ、6000 g、4℃で15 min遠心した。上清を捨てた後、30 mlの10倍希釈されたBugBusterを入れ、ボルテックス振とうして沈殿を再懸濁させ、高速遠心機に入れ、6000 g、4℃で15 min遠心した。清液を捨て、前の工程を2回繰り返した。上清を捨て、30 mlのPBSを入れて封入体を再懸濁させ、そして6000 g、4℃で15 min遠心した。上清を捨て、6 Mの塩化グアニジニウムを入れて封入体を溶解させた。精製された封入体を勾配希釈した後、サンプリングしてSDS-PAGEによってその純度を検出してその収量を推定し、そしてすべての封入体に対してタンパク質の定量を行い、そして分けて容器に入れ、-80℃で保存した。
【0138】
再生
TCRの再生緩衝液(5 Mウレア、100 mM Tris pH 8.1、0.4 M L-アルギニン、2 mM EDTA、6.5 mM システアミン、1.87 mM シスタミン)を調製し、そして予め4℃に冷却しておいた。凍結保存液から約12 mgのTCR α鎖および11.2 mgの抗体重鎖-TCR β鎖を解凍した。それぞれ6 mlの6 M塩化グアニジニウム溶液に入れ、そして最終濃度が15 mMになるようにDTTを入れ、均一に混合した後、37℃のインキュベーターに置いて40 minインキュベートした。インキュベートされたTCR α鎖および重鎖-TCR β鎖の封入体をそれぞれTCRの再生緩衝液に入れ、そして冷蔵庫で30 min反応させた。10 kDaの透析バッグを用意し、反応後の再生液を透析バッグに入れた後、予め冷却しておいた脱イオン水に入れ、冷蔵庫で一晩透析した。翌日、透析バッグを予め冷却しておいた10 mM Tris-HClに移して透析を行った。夜、さらに透析バッグを予め冷却しておいた10 mM Tris-HClに移して一晩透析した。
【0139】
精製
下記の3ステップの精製方法によって可溶性でかつ正確にフォルディングしたマルチドメイン融合分子をフォルディングが間違ったもの、分解物および不純物と分離した。
まず、陰イオン交換で精製した。再生・透析ができたサンプルを予め冷却しておいた高速遠心機に入れ、8000×g、4℃で15 min遠心して沈殿を除去し、そしてさらに0.45 μmのろ膜で上清をろ過した。陰イオン交換カラムHiTrap(登録商標) Q HP(GE Healthcare)で再生されたサンプルを精製した。先にA液(10mM Tris-HCl,pH8.0)で4倍カラム体積で洗浄した後、さらに流速5 ml/minでサンプルを仕込んだ。サンプルが全部仕込まれた後、さらにA液で約4倍カラム体積でカラムを洗浄し、伝導度およびUV280の両者が安定した時点で勾配溶離を開始し、0-100%のB液(1M NaCl+10mM Tris-HCl,PH 8.0)をセットし、時間が50 minで、3 ml/minの流速でサンプルを溶離させ、UV280が明らかに向上した時点で収集を開始し、各管で1 ml収集した。12%SDS-PAGEによってピーク成分を分析し、そして合併した。
【0140】
その後、さらに分子篩(Superdex 75、GE Healthcare)によって精製した。前の工程で精製されたサンプルを10 kDaの限外ろ過チューブで濃縮し、3500×g、4℃で500 μlまで濃縮した後、分子篩による精製を行った。分子篩を先に脱イオン水で平衡化した後、さらにPBSで平衡化した。500 μlの仕込みリングを洗浄して試料を仕込み、仕込みが終わった後、さらにPBSで平衡化および溶離を行い、流速が1 ml/minで、各管で0.4 ml収集した。12%SDS-PAGEによってピーク成分を分析し、そして合併した。
【0141】
最後に、もう一度陰イオン交換による精製を行い、陰イオン交換カラムHiTrap(登録商標) Q HP(GE Healthcare)を使用した。前の工程で精製されたサンプルを予め冷却しておいた10 mM Trisで20倍希釈した後、仕込んだ。先にA液で4倍カラム体積で洗浄した後、さらに流速5 ml/minでサンプルを仕込んだ。サンプルが全部仕込まれた後、さらにA液で約4倍カラム体積でカラムを洗浄し、伝導度およびUV280の両者が安定した時点で勾配溶離を開始し、0-100%のB液をセットし、時間が50 minで、3 ml/minの流速でサンプルを溶離させ、UV280が明らかに向上した時点で収集を開始し、各管で1 ml収集した。12%SDS-PAGEによってピーク成分を分析し、そして合併した。10 kDaの限外ろ過チューブで濃縮し、3500×g、4℃で500 μlまで濃縮し、そしてPBS緩衝液で緩衝液置換を行い、そしてその濃度を測定した後、分けて-80℃で保存した。
【0142】
精製されたタンパク質のSDS-PAGEの様子は
図29(A)に示された通りである。レーン1:非復元状態における1G4 TCR β鎖のN末端に抗体の重鎖可変領域が融合した融合タンパク質(VH-TCR βの様態);レーン2:分子量マーカー;レーン3:復元状態における1G4 TCR β鎖のN末端に抗体の重鎖可変領域が融合した融合タンパク質(VH-TCR βの様態)。
【0143】
実施例2
1G4 TCR β鎖のN末端に抗体の軽鎖可変領域が融合した融合分子(VL-TCR βの様態)の調製
配列番号1(
図1a)は1G4 TCR α鎖のアミノ酸配列で、ここで、Cys162でそのTRACの定常領域のThr47が置換されている。
配列番号2(
図1b)は配列番号1に相応する核酸配列である。
配列番号3(
図2a)は1G4 TCR β鎖のアミノ酸配列で、ここで、Cys168でそのTRBCの定常領域のSer56が置換されている。
配列番号4(
図2b)は配列番号3に相応する核酸配列である。
配列番号10(
図6a)は抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。
配列番号11(
図6b)は配列番号10に相応する核酸配列である。
【0144】
図24はブロック図の形で配列番号1で示されるα鎖および配列番号3で示されるβ鎖、そして配列番号10で示される抗体の軽鎖を含有する、マルチドメイン融合分子の構造を示す。前記抗体の軽鎖はリンカーを介して配列番号3で示されるTCR β鎖のN末端に融合しており、配列が配列番号12(
図7a)で示されるものである。リンカーの配列はGGGGS(配列番号9)である。
配列番号13(
図7b)は配列番号12に相応する核酸配列である。
【0145】
ベクターの構築
1G4 TCR α鎖をコードする配列番号2(
図1b)および抗体軽鎖融合1G4 TCR β鎖をコードする配列番号13(
図7b)の遺伝子をそれぞれ発現プラスミドpET-28aにクローニングし、大腸菌BL21-DE3菌株において高レベルで標的遺伝子を発現させるように、当該プラスミドはT7プロモーターを含有する。
【0146】
発現
構築されたプラスミドをそれぞれ大腸菌株BL21-DE3に形質転換させ、カナマイシン耐性の単一のクローンがLB培地(カナマイシン50 μg/ml)において37℃でOD600が1.0程度になるように生長すると、1 mMのIPTGでタンパク質の発現を誘導した。誘導から3時間後、Thermo Scientific HERAEUS X1R遠心機において4000 gで15分間遠心して細胞を収集した。20 mlのBugBuster Master Mix(Merck Millipore)を使用し、ボルテックス振とうして菌体を再懸濁させた後、室温で20 min振とう処理を行った後、冷却しておいた高速遠心機に入れ、6000 g、4℃で15 min遠心した後、上清を除去した。さらに10 mlのBugBuster Master Mixを入れ、ボルテックス振とうして菌体を再懸濁させ、室温で5 min振とう処理を行った。さらにそれに30 mlの10倍のBugBuster(Merck Millipore)を入れ、数回上下して液体を均一に混合し、さらに高速遠心機に入れ、6000 g、4℃で15 min遠心した。上清を捨てた後、30 mlの10倍希釈されたBugBusterを入れ、ボルテックス振とうして沈殿を再懸濁させ、高速遠心機に入れ、6000 g、4℃で15 min遠心した。清液を捨て、前の工程を2回繰り返した。上清を捨て、30 mlのPBSを入れて封入体を再懸濁させ、そして6000 g、4℃で15 min遠心した。上清を捨て、6 Mの塩化グアニジニウムを入れて封入体を溶解させた。精製された封入体を勾配希釈した後、サンプリングしてSDS-PAGEによってその純度を検出してその収量を推定し、そしてすべての封入体に対してタンパク質の定量を行い、そして分けて容器に入れ、-80℃で保存した。
【0147】
再生
TCRの再生緩衝液(5 Mウレア、100 mM Tris pH 8.1、0.4 M L-アルギニン、2 mM EDTA、6.5 mM システアミン、1.87 mM シスタミン)を調製し、そして予め4℃に冷却しておいた。凍結保存液から約12 mgのTCR α鎖および11.2 mgの抗体軽鎖-TCR β鎖を解凍した。それぞれ6 mlの6 M塩化グアニジニウム溶液に入れ、そして最終濃度が15 mMになるようにDTTを入れ、均一に混合した後、37℃のインキュベーターに置いて40 minインキュベートした。インキュベートされたTCR α鎖および軽鎖-TCR β鎖の封入体をそれぞれTCRの再生緩衝液に入れ、そして冷蔵庫で30 min反応させた。10 kDaの透析バッグを用意し、反応後の再生液を透析バッグに入れた後、予め冷却しておいた脱イオン水に入れ、冷蔵庫で一晩透析した。翌日、透析バッグを予め冷却しておいた10 mM Tris-HClに移して透析を行った。夜、さらに透析バッグを予め冷却しておいた10 mM Tris-HClに移して一晩透析した。
【0148】
精製
下記の3ステップの精製方法によって可溶性でかつ正確にフォルディングしたマルチドメイン融合分子をフォルディングが間違ったもの、分解物および不純物と分離した。
まず、陰イオン交換で精製した。再生・透析ができたサンプルを予め冷却しておいた高速遠心機に入れ、8000×g、4℃で15 min遠心して沈殿を除去し、そしてさらに0.45 μmのろ膜で上清をろ過した。陰イオン交換カラムHiTrap(登録商標) Q HP(GE Healthcare)で再生されたサンプルを精製した。先にA液(10mM Tris-HCl,pH8.0)で4倍カラム体積で洗浄した後、さらに流速5 ml/minでサンプルを仕込んだ。サンプルが全部仕込まれた後、さらにA液で約4倍カラム体積でカラムを洗浄し、伝導度およびUV280の両者が安定した時点で勾配溶離を開始し、0-100%のB液(1M NaCl+10mM Tris-HCl,PH 8.0)をセットし、時間が50 minで、3 ml/minの流速でサンプルを溶離させ、UV280が明らかに向上した時点で収集を開始し、各管で1 ml収集した。12%SDS-PAGEによってピーク成分を分析し、そして合併した。
【0149】
その後、さらに分子篩(Superdex 75、GE Healthcare)によって精製した。前の工程で精製されたサンプルを10 kDaの限外ろ過チューブで濃縮し、3500×g、4℃で500 μlまで濃縮した後、分子篩による精製を行った。分子篩を先に脱イオン水で平衡化した後、さらにPBSで平衡化した。500 μlの仕込みリングを洗浄して試料を仕込み、仕込みが終わった後、さらにPBSで平衡化および溶離を行い、流速が1 ml/minで、各管で0.4 ml収集した。12%SDS-PAGEによってピーク成分を分析し、そして合併した。
【0150】
最後に、もう一度陰イオン交換による精製を行い、陰イオン交換カラムHiTrap(登録商標) Q HP(GE Healthcare)を使用した。前の工程で精製されたサンプルを予め冷却しておいた10 mM Trisで20倍希釈した後、仕込んだ。先にA液で4倍カラム体積で洗浄した後、さらに流速5 ml/minでサンプルを仕込んだ。サンプルが全部仕込まれた後、さらにA液で約4倍カラム体積でカラムを洗浄し、伝導度およびUV280の両者が安定した時点で勾配溶離を開始し、0-100%のB液をセットし、時間が50 minで、3 ml/minの流速でサンプルを溶離させ、UV280が明らかに向上した時点で収集を開始し、各管で1 ml収集した。12%SDS-PAGEによってピーク成分を分析し、そして合併した。10 kDaの限外ろ過チューブで濃縮し、3500×g、4℃で500 μlまで濃縮し、そしてPBS緩衝液で緩衝液置換を行い、そしてその濃度を測定した後、分けて-80℃で保存した。
【0151】
精製されたタンパク質のSDS-PAGEの様子は
図29(B)に示された通りである。レーン1:非復元状態における1G4 TCR β鎖のN末端に抗体の軽鎖可変領域が融合した融合タンパク質(VL-TCR βの様態);レーン2:分子量マーカー;レーン3:復元状態における1G4 TCR β鎖のN末端に抗体の軽鎖可変領域が融合した融合タンパク質(VL-TCR βの様態)。
【0152】
実施例3
1G4 TCR β鎖のN末端に抗体の重鎖可変領域が融合した融合分子(VH-TCR βの様態)および1G4 TCR β鎖のN末端に抗体の軽鎖可変領域が融合した融合分子(VL-TCR βの様態)の性質
二重機能融合分子は特異的に腫瘍細胞を殺傷するようにT細胞をリダイレクトすることができることはすでにいくつかの研究で報告されている。その基本原理は、応答機能を発揮するようにT細胞を活性化させる重要なシグナルを模擬し、その高親和の特異的TCRによって腫瘍細胞の表面のpMHC複合体を認識すると同時に、そのCD3抗体末端によってT細胞で活性化する下流のシグナル経路を活性化させることで、特異的に腫瘍細胞を殺傷するようにT細胞をリダイレクトすることができる。
【0153】
以下の実施例では、本発明の抗体の重鎖可変領域または抗体の軽鎖可変領域のみが融合した融合分子は標的細胞系を殺傷するようにCD8+T細胞をリダイレクトすることができないことが証明されている。当該試験は51Cr放出細胞毒性試験の比色代替試験で、定量的に細胞分解後放出される乳酸脱水素酵素(LDH)を測定するものである。30分間カップリングの酵素反応によって培地に放出されたLDHを検出するが、酵素反応においてLDHは一種のテトラゾリド(INT)を赤色のホルマザン(formazan)に変換させることができる。生成した赤色産物の量は分解した細胞数に正比例する。標準の96ウェルプレートリーダーによって490 nmの可視光の吸光値のデータを収集することができる。
【0154】
当業者には、LDHの放出実験で細胞の機能を検出する方法は熟知されているものである。本実施例のLDH実験に使用された標的細胞系は、MDA-MB-231(NY-ESO-1陽性、A2陽性、乳癌細胞系)、MDA-MB-231(NY-ESO-1陰性、A2陽性、乳癌細胞系)およびNCI-H1299-A2(NY-ESO-1陽性、A2陽性、肺癌細胞系)、NCI-H1299(NY-ESO-1陽性、A2陰性、肺癌細胞系)である。
【0155】
CD8+T細胞をエフェクター細胞とし、MDA-MB-231(NY-ESO-1陽性、A2陽性)乳癌細胞系とNCI-H1299(NY-ESO-1陽性、A2陽性)肺癌細胞系を標的細胞とし、選ばれたエフェクター標的比は5:1である。必要なエフェクター細胞および標的細胞はいずれも必要な細胞数に応じて培地で希釈され、必要なエフェクター細胞の細胞密度は1×106/mlで、一方、必要な標的細胞の細胞密度は2×105/mlである。同時にMDA-MB-231(NY-ESO-1陰性、A2陽性)乳癌細胞系およびNCI-H1299(NY-ESO-1陽性、A2陰性)肺癌細胞系を陰性対照標的細胞として使用した。
【0156】
NCI-H1299肺癌細胞系またはMDA-MB-231乳癌細胞系を標的細胞とした場合、1G4 TCR β鎖のN末端に抗体の重鎖可変領域が融合したタンパク質(VH-TCR βの様態)および1G4 TCR β鎖のN末端に抗体の軽鎖可変領域が融合したタンパク質(VL-TCR βの様態)はいずれも培地で4×10-7 M、4×10-8 M、4×10-9 M、4×10-10 M、4×10-11 M、4×10-12 Mに希釈した。
【0157】
96ウェル丸底プレートを用意した後、ウェルに50 μlのエフェクター細胞、50 μlのマルチドメイン二重機能融合分子タンパク質および100 μlの標的細胞を入れ、同時に標的細胞最大分解ウェル、標的細胞自発ウェル、エフェクター細胞自発ウェル、培地自発ウェルおよび培地+分解液の自発ウェルを設け、各ウェルの最終体積がいずれも200 μlで、かつそれぞれ3つの重複ウェルがあった。細胞が添加された96ウェル丸底プレートを37℃、5%CO2のインキュベーターに入れて24h培養した。その後、96ウェル丸底細胞培養プレートを遠心機に入れ、250×gで4 min遠心した。50 μlの上清を96ウェル平底プレートに取り、そして50 μlの基質液を入れ、光を避けて常温で30 min反応させた。反応終了後、50 μlの停止液を入れ、すぐにマイクロプレートリーダーで490 nmにおける吸光値を測定した。製品の説明書に従い、特異的殺傷効率= (実験ウェル-エフェクター細胞自発ウェル-標的細胞自発ウェル)/(標的細胞最大分解ウェル-標的細胞自発ウェル)を計算した。
【0158】
結果は
図33a、
図33bおよび
図34a、
図34bに示されるように、抗体の重鎖可変領域または抗体の軽鎖可変領域のみが融合した様態の融合分子は、CD8
+T細胞のMDA-MB-231(NY-ESO-1陽性、A2陽性)乳癌細胞系およびNCI-H1299(NY-ESO-1陽性、A2陽性)肺癌細胞系に対する殺傷を仲介せず、MDA-MB-231(NY-ESO-1陰性、A2陽性)乳癌細胞系およびNCI-H1299(NY-ESO-1陽性、A2陰性)肺癌細胞系も殺傷できない。
【0159】
実施例4
1G4 TCR β鎖のN末端に抗体の重鎖可変領域が融合したマルチドメイン融合タンパク質複合分子(VH44-TCR βの様態)の調製
配列番号1(
図1a)は1G4 TCR α鎖のアミノ酸配列で、ここで、Cys162でそのTRACの定常領域のThr47が置換されている。
配列番号2(
図1b)は配列番号1に相応する核酸配列である。
配列番号3(
図2a)は1G4 TCR β鎖のアミノ酸配列で、ここで、Cys168でそのTRBCの定常領域のSer56が置換されている。
配列番号4(
図2b)は配列番号3に相応する核酸配列である。
配列番号14(
図8a)は抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列においてCys44でその元の配列のGly44を置換した配列である。
配列番号15(
図8b)は配列番号14に相応する核酸配列である。
配列番号16(
図9a)は抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列においてCys100でその元の配列のGln100を置換した配列である。
配列番号17(
図9b)は配列番号16に相応する核酸配列である。
【0160】
図25はブロック図の形で配列番号1で示されるα鎖および配列番号3で示されるβ鎖、そして配列番号14で示される抗体の重鎖可変領域および配列番号16で示される抗体の軽鎖可変領域を含有する、マルチドメイン融合分子の構造を示す。前記抗体の重鎖はリンカーを介して配列番号3で示されるTCR β鎖のN末端に融合しており、配列が配列番号18(
図10a)で示されるものである。リンカーの配列はGGGGS(配列番号9)である。
配列番号19(
図10b)は配列番号18に相応する核酸配列である。
【0161】
ベクターの構築
1G4 TCR α鎖をコードする配列番号2(
図1b)および抗体重鎖融合1G4 TCR β鎖をコードする配列番号19(
図10b)、ならびに抗体の軽鎖をコードする配列番号17(
図9b)の遺伝子をそれぞれ発現プラスミドpET-28aにクローニングし、大腸菌BL21-DE3菌株において高レベルで標的遺伝子を発現させるように、当該プラスミドはT7プロモーターを含有する。
【0162】
発現
構築されたプラスミドをそれぞれ大腸菌株BL21-DE3に形質転換させ、カナマイシン耐性の単一のクローンがLB培地(カナマイシン50 μg/ml)において37℃でOD600が1.0程度になるように生長すると、1 mMのIPTGでタンパク質の発現を誘導した。誘導から3時間後、Thermo Scientific HERAEUS X1R遠心機において4000 gで15分間遠心して細胞を収集した。20 mlのBugBuster Master Mix(Merck Millipore)を使用し、ボルテックス振とうして菌体を再懸濁させた後、室温で20 min振とう処理を行った後、冷却しておいた高速遠心機に入れ、6000 g、4℃で15 min遠心した後、上清を除去した。さらに10 mlのBugBuster Master Mixを入れ、ボルテックス振とうして菌体を再懸濁させ、室温で5 min振とう処理を行った。さらにそれに30 mlの10倍のBugBuster(Merck Millipore)を入れ、数回上下して液体を均一に混合し、さらに高速遠心機に入れ、6000 g、4℃で15 min遠心した。上清を捨てた後、30 mlの10倍希釈されたBugBusterを入れ、ボルテックス振とうして沈殿を再懸濁させ、高速遠心機に入れ、6000 g、4℃で15 min遠心した。清液を捨て、前の工程を2回繰り返した。上清を捨て、30 mlのPBSを入れて封入体を再懸濁させ、そして6000 g、4℃で15 min遠心した。上清を捨て、6 Mの塩化グアニジニウムを入れて封入体を溶解させた。精製された封入体を勾配希釈した後、サンプリングしてSDS-PAGEによってその純度を検出してその収量を推定し、そしてすべての封入体に対してタンパク質の定量を行い、そして分けて容器に入れ、-80℃で保存した。
【0163】
再生
TCRの再生緩衝液(5 Mウレア、100 mM Tris pH 8.1、0.4 M L-アルギニン、2 mM EDTA、6.5 mM システアミン、1.87 mM シスタミン)を調製し、そして予め4℃に冷却しておいた。凍結保存液から約12 mgのTCR α鎖および11.2 mgの抗体重鎖-TCR β鎖、6 mgの抗体軽鎖の封入体を解凍した。それぞれ6 mlの6 M塩化グアニジニウム溶液に入れ、そして最終濃度が15 mMになるようにDTTを入れ、均一に混合した後、37℃のインキュベーターに置いて40 minインキュベートした。インキュベートされたTCR α鎖および重鎖-TCR β鎖、ならびに抗体軽鎖の封入体をそれぞれTCRの再生緩衝液に入れ、そして冷蔵庫で30 min反応させた。10 kDaの透析バッグを用意し、反応後の再生液を透析バッグに入れた後、予め冷却しておいた脱イオン水に入れ、冷蔵庫で一晩透析した。翌日、透析バッグを予め冷却しておいた10 mM Tris-HClに移して透析を行った。夜、さらに透析バッグを予め冷却しておいた10 mM Tris-HClに移して一晩透析した。
【0164】
精製
下記の3ステップの精製方法によって可溶性でかつ正確にフォルディングしたマルチドメイン融合分子をフォルディングが間違ったもの、分解物および不純物と分離した。
まず、陰イオン交換で精製した。再生・透析ができたサンプルを予め冷却しておいた高速遠心機に入れ、8000×g、4℃で15 min遠心して沈殿を除去し、そしてさらに0.45 μmのろ膜で上清をろ過した。陰イオン交換カラムHiTrap(登録商標) Q HP(GE Healthcare)で再生されたサンプルを精製した。先にA液(10mM Tris-HCl、pH8.0)で4倍カラム体積で洗浄した後、さらに流速5 ml/minでサンプルを仕込んだ。サンプルが全部仕込まれた後、さらにA液で約4倍カラム体積でカラムを洗浄し、伝導度およびUV280の両者が安定した時点で勾配溶離を開始し、0-100%のB液(1M NaCl+10mM Tris-HCl、PH 8.0)をセットし、時間が50 minで、3 ml/minの流速でサンプルを溶離させ、UV280が明らかに向上した時点で収集を開始し、各管で1 ml収集した。12%SDS-PAGEによってピーク成分を分析し、そして合併した。
【0165】
その後、さらに分子篩(Superdex 75、GE Healthcare)によって精製した。前の工程で精製されたサンプルを10 kDaの限外ろ過チューブで濃縮し、3500×g、4℃で500 μlまで濃縮した後、分子篩による精製を行った。分子篩を先に脱イオン水で平衡化した後、さらにPBSで平衡化した。500 μlの仕込みリングを洗浄して試料を仕込み、仕込みが終わった後、さらにPBSで平衡化および溶離を行い、流速が1 ml/minで、各管で0.4 ml収集した。12%SDS-PAGEによってピーク成分を分析し、そして合併した。
【0166】
最後に、もう一度陰イオン交換による精製を行い、陰イオン交換カラムHiTrap(登録商標) Q HP(GE Healthcare)を使用した。前の工程で精製されたサンプルを予め冷却しておいた10 mM Trisで20倍希釈した後、仕込んだ。先にA液で4倍カラム体積で洗浄した後、さらに流速5 ml/minでサンプルを仕込んだ。サンプルが全部仕込まれた後、さらにA液で約4倍カラム体積でカラムを洗浄し、伝導度およびUV280の両者が安定した時点で勾配溶離を開始し、0-100%のB液をセットし、時間が50 minで、3 ml/minの流速でサンプルを溶離させ、UV280が明らかに向上した時点で収集を開始し、各管で1 ml収集した。12%SDS-PAGEによってピーク成分を分析し、そして合併した。10 kDaの限外ろ過チューブで濃縮し、3500×g、4℃で500 μlまで濃縮し、そしてPBS緩衝液で緩衝液置換を行い、そしてその濃度を測定した後、分けて-80℃で保存した。
【0167】
精製されたタンパク質のSDS-PAGEの様子は
図30に示された通りである。レーン1:非復元状態のマルチドメイン二重機能融合分子Vh44-TCR βの様態;レーン3:分子量マーカー;レーン4:復元状態のマルチドメイン二重機能融合分子Vh44-TCR βの様態。
【0168】
実施例5
1G4 TCR β鎖のN末端に抗体の重鎖可変領域が融合したマルチドメイン融合タンパク質複合分子(VH105-TCR βの様態)の調製
配列番号1(
図1a)は1G4 TCR α鎖のアミノ酸配列で、ここで、Cys162でそのTRACの定常領域のThr47が置換されている。
配列番号2(
図1b)は配列番号1に相応する核酸配列である。
配列番号3(
図2a)は1G4 TCR β鎖のアミノ酸配列で、ここで、Cys168でそのTRBCの定常領域のSer56が置換されている。
配列番号4(
図2b)は配列番号3に相応する核酸配列である。
配列番号20(
図11a)は抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列においてCys105でその元の配列のGln105を置換した配列である。
配列番号21(
図11b)は配列番号20に相応する核酸配列である。
配列番号22(
図12a)は抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列においてCys43でその元の配列のAla43を置換した配列である。
配列番号23(
図12b)は配列番号22に相応する核酸配列である。
【0169】
図26はブロック図の形で配列番号1で示されるα鎖および配列番号3で示されるβ鎖、そして配列番号20で示される抗体の重鎖および配列番号22で示される抗体の軽鎖を含有する、マルチドメイン融合分子の構造を示す。前記抗体の重鎖はリンカーを介して配列番号3で示されるTCR β鎖のN末端に融合しており、配列が配列番号24(
図13a)で示されるものである。リンカーの配列はGGGGS(配列番号9)である。
配列番号25(
図13b)は配列番号24に相応する核酸配列である。
【0170】
ベクターの構築
1G4 TCR α鎖をコードする配列番号2(
図1b)および抗体重鎖融合1G4 TCR β鎖をコードする配列番号25(
図13b)、ならびに抗体の軽鎖をコードする配列番号23(
図12b)の遺伝子をそれぞれ発現プラスミドpET-28aにクローニングし、大腸菌BL21-DE3菌株において高レベルで標的遺伝子を発現させるように、当該プラスミドはT7プロモーターを含有する。
【0171】
発現
構築されたプラスミドをそれぞれ大腸菌株BL21-DE3に形質転換させ、カナマイシン耐性の単一のクローンがLB培地(カナマイシン50 μg/ml)において37℃でOD600が1.0程度になるように生長すると、1 mMのIPTGでタンパク質の発現を誘導した。誘導から3時間後、Thermo Scientific HERAEUS X1R遠心機において4000 gで15分間遠心して細胞を収集した。20 mlのBugBuster Master Mix(Merck Millipore)を使用し、ボルテックス振とうして菌体を再懸濁させた後、室温で20 min振とう処理を行った後、冷却しておいた高速遠心機に入れ、6000 g、4℃で15 min遠心した後、上清を除去した。さらに10 mlのBugBuster Master Mixを入れ、ボルテックス振とうして菌体を再懸濁させ、室温で5 min振とう処理を行った。さらにそれに30 mlの10倍のBugBuster(Merck Millipore)を入れ、数回上下して液体を均一に混合し、さらに高速遠心機に入れ、6000 g、4℃で15 min遠心した。上清を捨てた後、30 mlの10倍希釈されたBugBusterを入れ、ボルテックス振とうして沈殿を再懸濁させ、高速遠心機に入れ、6000 g、4℃で15 min遠心した。清液を捨て、前の工程を2回繰り返した。上清を捨て、30 mlのPBSを入れて封入体を再懸濁させ、そして6000 g、4℃で15 min遠心した。上清を捨て、6 Mの塩化グアニジニウムを入れて封入体を溶解させた。精製された封入体を勾配希釈した後、サンプリングしてSDS-PAGEによってその純度を検出してその収量を推定し、そしてすべての封入体に対してタンパク質の定量を行い、そして分けて容器に入れ、-80℃で保存した。
【0172】
再生
TCRの再生緩衝液(5 Mウレア、100 mM Tris pH 8.1、0.4 M L-アルギニン、2 mM EDTA、6.5 mM システアミン、1.87 mM シスタミン)を調製し、そして予め4℃に冷却しておいた。凍結保存液から約12 mgのTCR α鎖および11.2 mgの抗体重鎖-TCR β鎖、6 mgの抗体軽鎖の封入体を解凍した。それぞれ6 mlの6 M塩化グアニジニウム溶液に入れ、そして最終濃度が15 mMになるようにDTTを入れ、均一に混合した後、37℃のインキュベーターに置いて40 minインキュベートした。インキュベートされたTCR α鎖および重鎖-TCR β鎖、ならびに抗体軽鎖の封入体をそれぞれTCRの再生緩衝液に入れ、そして冷蔵庫で30 min反応させた。10 kDaの透析バッグを用意し、反応後の再生液を透析バッグに入れた後、予め冷却しておいた脱イオン水に入れ、冷蔵庫で一晩透析した。翌日、透析バッグを予め冷却しておいた10 mM Tris-HClに移して透析を行った。夜、さらに透析バッグを予め冷却しておいた10 mM Tris-HClに移して一晩透析した。
【0173】
精製
下記の3ステップの精製方法によって可溶性でかつ正確にフォルディングしたマルチドメイン融合分子をフォルディングが間違ったもの、分解物および不純物と分離した。
まず、陰イオン交換で精製した。再生・透析ができたサンプルを予め冷却しておいた高速遠心機に入れ、8000×g、4℃で15 min遠心して沈殿を除去し、そしてさらに0.45 μmのろ膜で上清をろ過した。陰イオン交換カラムHiTrap(登録商標) Q HP(GE Healthcare)で再生されたサンプルを精製した。先にA液(10mM Tris-HCl、pH8.0)で4倍カラム体積で洗浄した後、さらに流速5 ml/minでサンプルを仕込んだ。サンプルが全部仕込まれた後、さらにA液で約4倍カラム体積でカラムを洗浄し、伝導度およびUV280の両者が安定した時点で勾配溶離を開始し、0-100%のB液(1M NaCl+10mM Tris-HCl、PH 8.0)をセットし、時間が50 minで、3 ml/minの流速でサンプルを溶離させ、UV280が明らかに向上した時点で収集を開始し、各管で1 ml収集した。12%SDS-PAGEによってピーク成分を分析し、そして合併した。
【0174】
その後、さらに分子篩(Superdex 75、GE Healthcare)によって精製した。前の工程で精製されたサンプルを10 kDaの限外ろ過チューブで濃縮し、3500×g、4℃で500 μlまで濃縮した後、分子篩による精製を行った。分子篩を先に脱イオン水で平衡化した後、さらにPBSで平衡化した。500 μlの仕込みリングを洗浄して試料を仕込み、仕込みが終わった後、さらにPBSで平衡化および溶離を行い、流速が1 ml/minで、各管で0.4 ml収集した。12%SDS-PAGEによってピーク成分を分析し、そして合併した。
【0175】
最後に、もう一度陰イオン交換による精製を行い、陰イオン交換カラムHiTrap(登録商標) Q HP(GE Healthcare)を使用した。前の工程で精製されたサンプルを予め冷却しておいた10 mM Trisで20倍希釈した後、仕込んだ。先にA液で4倍カラム体積で洗浄した後、さらに流速5 ml/minでサンプルを仕込んだ。サンプルが全部仕込まれた後、さらにA液で約4倍カラム体積でカラムを洗浄し、伝導度およびUV280の両者が安定した時点で勾配溶離を開始し、0-100%のB液をセットし、時間が50 minで、3 ml/minの流速でサンプルを溶離させ、UV280が明らかに向上した時点で収集を開始し、各管で1 ml収集した。12%SDS-PAGEによってピーク成分を分析し、そして合併した。10 kDaの限外ろ過チューブで濃縮し、3500×g、4℃で500 μlまで濃縮し、そしてPBS緩衝液で緩衝液置換を行い、そしてその濃度を測定した後、分けて-80℃で保存した。
【0176】
精製されたタンパク質のSDS-PAGEの様子は
図30に示された通りである。レーン2:非復元状態のマルチドメイン二重機能融合分子VH105-TCR βの様態;レーン3:分子量マーカー;レーン5:復元状態のマルチドメイン二重機能融合分子VH105-TCR βの様態。
【0177】
実施例6
1G4 TCR β鎖ののN末端に抗体の軽鎖可変領域が融合したマルチドメイン融合タンパク質複合分子(VL43-TCR βの様態)の調製
配列番号1(
図1a)は1G4 TCR α鎖のアミノ酸配列で、ここで、Cys162でそのTRACの定常領域のThr47が置換されている。
配列番号2(
図1b)は配列番号1に相応する核酸配列である。
配列番号3(
図2a)は1G4 TCR β鎖のアミノ酸配列で、ここで、Cys168でそのTRBCの定常領域のSer56が置換されている。
配列番号4(
図2b)は配列番号3に相応する核酸配列である。
配列番号22(
図12a)は抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列においてCys43でその元の配列のAla43を置換した配列である。
配列番号23(
図12b)は配列番号22に相応する核酸配列である。
配列番号20(
図11a)は抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列においてCys105でその元の配列のGln105を置換した配列である。
配列番号21(
図11b)は配列番号20に相応する核酸配列である。
【0178】
図27はブロック図の形で配列番号1で示されるα鎖および配列番号3で示されるβ鎖、そして配列番号22で示される抗体の軽鎖および配列番号20で示される抗体の重鎖を含有する、マルチドメイン融合分子の構造を示す。前記抗体の軽鎖はリンカーを介して配列番号3で示されるTCR β鎖のN末端に融合しており、配列が配列番号26(
図14a)で示されるものである。リンカーの配列はGGGGS(配列番号9)である。
配列番号27(
図14b)は配列番号26に相応する核酸配列である。
【0179】
ベクターの構築
1G4 TCR α鎖をコードする配列番号2(
図1b)および抗体軽鎖融合1G4 TCR β鎖をコードする配列番号27(
図14b)、ならびに抗体の重鎖をコードする配列番号21(
図11b)の遺伝子をそれぞれ発現プラスミドpET-28aにクローニングし、大腸菌BL21-DE3菌株において高レベルで標的遺伝子を発現させるように、当該プラスミドはT7プロモーターを含有する。
【0180】
発現
構築されたプラスミドをそれぞれ大腸菌株BL21-DE3に形質転換させ、カナマイシン耐性の単一のクローンがLB培地(カナマイシン50 μg/ml)において37℃でOD600が1.0程度になるように生長すると、1 mMのIPTGでタンパク質の発現を誘導した。誘導から3時間後、Thermo Scientific HERAEUS X1R遠心機において4000 gで15分間遠心して細胞を収集した。20 mlのBugBuster Master Mix(Merck Millipore)を使用し、ボルテックス振とうして菌体を再懸濁させた後、室温で20 min振とう処理を行った後、冷却しておいた高速遠心機に入れ、6000 g、4℃で15 min遠心した後、上清を除去した。さらに10 mlのBugBuster Master Mixを入れ、ボルテックス振とうして菌体を再懸濁させ、室温で5 min振とう処理を行った。さらにそれに30 mlの10倍のBugBuster(Merck Millipore)を入れ、数回上下して液体を均一に混合し、さらに高速遠心機に入れ、6000 g、4℃で15 min遠心した。上清を捨てた後、30 mlの10倍希釈されたBugBusterを入れ、ボルテックス振とうして沈殿を再懸濁させ、高速遠心機に入れ、6000 g、4℃で15 min遠心した。清液を捨て、前の工程を2回繰り返した。上清を捨て、30 mlのPBSを入れて封入体を再懸濁させ、そして6000 g、4℃で15 min遠心した。上清を捨て、6 Mの塩化グアニジニウムを入れて封入体を溶解させた。精製された封入体を勾配希釈した後、サンプリングしてSDS-PAGEによってその純度を検出してその収量を推定し、そしてすべての封入体に対してタンパク質の定量を行い、そして分けて容器に入れ、-80℃で保存した。
【0181】
再生
TCRの再生緩衝液(5 Mウレア、100 mM Tris pH 8.1、0.4 M L-アルギニン、2 mM EDTA、6.5 mM システアミン、1.87 mM シスタミン)を調製し、そして予め4℃に冷却しておいた。凍結保存液から約12 mgのTCR α鎖および11.2 mgの抗体軽鎖-TCR β鎖、6 mgの抗体重鎖の封入体を解凍した。それぞれ6 mlの6 M塩化グアニジニウム溶液に入れ、そして最終濃度が15 mMになるようにDTTを入れ、均一に混合した後、37℃のインキュベーターに置いて40 minインキュベートした。インキュベートされたTCR α鎖および軽鎖-TCR β鎖、ならびに抗体重鎖の封入体をそれぞれTCRの再生緩衝液に入れ、そして冷蔵庫で30 min反応させた。10 kDaの透析バッグを用意し、反応後の再生液を透析バッグに入れた後、予め冷却しておいた脱イオン水に入れ、冷蔵庫で一晩透析した。翌日、透析バッグを予め冷却しておいた10 mM Tris-HClに移して透析を行った。夜、さらに透析バッグを予め冷却しておいた10 mM Tris-HClに移して一晩透析した。
【0182】
精製
下記の3ステップの精製方法によって可溶性でかつ正確にフォルディングしたマルチドメイン融合分子をフォルディングが間違ったもの、分解物および不純物と分離した。
まず、陰イオン交換で精製した。再生・透析ができたサンプルを予め冷却しておいた高速遠心機に入れ、8000×g、4℃で15 min遠心して沈殿を除去し、そしてさらに0.45 μmのろ膜で上清をろ過した。陰イオン交換カラムHiTrap(登録商標) Q HP(GE Healthcare)で再生されたサンプルを精製した。先にA液(10mM Tris-HCl、pH8.0)で4倍カラム体積で洗浄した後、さらに流速5 ml/minでサンプルを仕込んだ。サンプルが全部仕込まれた後、さらにA液で約4倍カラム体積でカラムを洗浄し、伝導度およびUV280の両者が安定した時点で勾配溶離を開始し、0-100%のB液(1M NaCl+10mM Tris-HCl、PH 8.0)をセットし、時間が50 minで、3 ml/minの流速でサンプルを溶離させ、UV280が明らかに向上した時点で収集を開始し、各管で1 ml収集した。12%SDS-PAGEによってピーク成分を分析し、そして合併した。
【0183】
その後、さらに分子篩(Superdex 75、GE Healthcare)によって精製した。前の工程で精製されたサンプルを10 kDaの限外ろ過チューブで濃縮し、3500×g、4℃で500 μlまで濃縮した後、分子篩による精製を行った。分子篩を先に脱イオン水で平衡化した後、さらにPBSで平衡化した。500 μlの仕込みリングを洗浄して試料を仕込み、仕込みが終わった後、さらにPBSで平衡化および溶離を行い、流速が1 ml/minで、各管で0.4 ml収集した。12%SDS-PAGEによってピーク成分を分析し、そして合併した。
【0184】
最後に、もう一度陰イオン交換による精製を行い、陰イオン交換カラムHiTrap(登録商標) Q HP(GE Healthcare)を使用した。前の工程で精製されたサンプルを予め冷却しておいた10 mM Trisで20倍希釈した後、仕込んだ。先にA液で4倍カラム体積で洗浄した後、さらに流速5 ml/minでサンプルを仕込んだ。サンプルが全部仕込まれた後、さらにA液で約4倍カラム体積でカラムを洗浄し、伝導度およびUV280の両者が安定した時点で勾配溶離を開始し、0-100%のB液をセットし、時間が50 minで、3 ml/minの流速でサンプルを溶離させ、UV280が明らかに向上した時点で収集を開始し、各管で1 ml収集した。12%SDS-PAGEによってピーク成分を分析し、そして合併した。10 kDaの限外ろ過チューブで濃縮し、3500×g、4℃で500 μlまで濃縮し、そしてPBS緩衝液で緩衝液置換を行い、そしてその濃度を測定した後、分けて-80℃で保存した。
【0185】
精製されたタンパク質のSDS-PAGEの様子は
図31(A)に示された通りである。レーン1:非復元状態のマルチドメイン二重機能融合分子VL43-TCR βの様態;レーン2:分子量マーカー;レーン3:復元状態のマルチドメイン二重機能融合分子VL43-TCR βの様態。
【0186】
実施例7
1G4 TCR β鎖ののN末端に抗体の軽鎖可変領域が融合したマルチドメイン二重機能融合分子(VL100-TCR βの様態)の調製
配列番号1(
図1a)は1G4 TCR α鎖のアミノ酸配列で、ここで、Cys162でそのTRACの定常領域のThr47が置換されている。
配列番号2(
図1b)は配列番号1に相応する核酸配列である。
配列番号3(
図2a)は1G4 TCR β鎖のアミノ酸配列で、ここで、Cys168でそのTRBCの定常領域のSer56が置換されている。
配列番号4(
図2b)は配列番号3に相応する核酸配列である。
配列番号16(
図9a)は抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列においてCys100でその元の配列のGln100を置換した配列である。
配列番号17(
図9b)は配列番号16に相応する核酸配列である。
配列番号14(
図8a)は抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列においてCys44でその元の配列のGly44を置換した配列である。
配列番号15(
図8b)は配列番号14に相応する核酸配列である。
【0187】
図28はブロック図の形で配列番号1で示されるα鎖および配列番号3で示されるβ鎖、そして配列番号16で示される抗体の軽鎖および配列番号14で示される抗体の重鎖可変領域を含有する、マルチドメイン融合分子の構造を示す。前記抗体の軽鎖可変領域はリンカーを介して配列番号3で示されるTCR β鎖のN末端に融合しており、配列が配列番号28(
図15a)で示されるものである。リンカーの配列はGGGGS(配列番号9)である。
配列番号29(
図15b)は配列番号28に相応する核酸配列である。
【0188】
ベクターの構築
1G4 TCR α鎖をコードする配列番号2(
図1b)および抗体軽鎖融合1G4 TCR β鎖をコードする配列番号29(
図15b)、ならびに抗体の重鎖をコードする配列番号6(
図3b)の遺伝子をそれぞれ発現プラスミドpET-28aにクローニングし、大腸菌BL21-DE3菌株において高レベルで標的遺伝子を発現させるように、当該プラスミドはT7プロモーターを含有する。
【0189】
発現
構築されたプラスミドをそれぞれ大腸菌株BL21-DE3に形質転換させ、カナマイシン耐性の単一のクローンがLB培地(カナマイシン50 μg/ml)において37℃でOD600が1.0程度になるように生長すると、1 mMのIPTGでタンパク質の発現を誘導した。誘導から3時間後、Thermo Scientific HERAEUS X1R遠心機において4000 gで15分間遠心して細胞を収集した。20 mlのBugBuster Master Mix(Merck Millipore)を使用し、ボルテックス振とうして菌体を再懸濁させた後、室温で20 min振とう処理を行った後、冷却しておいた高速遠心機に入れ、6000 g、4℃で15 min遠心した後、上清を除去した。さらに10 mlのBugBuster Master Mixを入れ、ボルテックス振とうして菌体を再懸濁させ、室温で5 min振とう処理を行った。さらにそれに30 mlの10倍のBugBuster(Merck Millipore)を入れ、数回上下して液体を均一に混合し、さらに高速遠心機に入れ、6000 g、4℃で15 min遠心した。上清を捨てた後、30 mlの10倍希釈されたBugBusterを入れ、ボルテックス振とうして沈殿を再懸濁させ、高速遠心機に入れ、6000 g、4℃で15 min遠心した。清液を捨て、前の工程を2回繰り返した。上清を捨て、30 mlのPBSを入れて封入体を再懸濁させ、そして6000 g、4℃で15 min遠心した。上清を捨て、6 Mの塩化グアニジニウムを入れて封入体を溶解させた。精製された封入体を勾配希釈した後、サンプリングしてSDS-PAGEによってその純度を検出してその収量を推定し、そしてすべての封入体に対してタンパク質の定量を行い、そして分けて容器に入れ、-80℃で保存した。
【0190】
再生
TCRの再生緩衝液(5 Mウレア、100 mM Tris pH 8.1、0.4 M L-アルギニン、2 mM EDTA、6.5 mM システアミン、1.87 mM シスタミン)を調製し、そして予め4℃に冷却しておいた。凍結保存液から約12 mgのTCR α鎖および11.2 mgの抗体軽鎖-TCR β鎖、6 mgの抗体重鎖の封入体を解凍した。それぞれ6 mlの6 M塩化グアニジニウム溶液に入れ、そして最終濃度が15 mMになるようにDTTを入れ、均一に混合した後、37℃のインキュベーターに置いて40 minインキュベートした。インキュベートされたTCR α鎖および軽鎖-TCR β鎖、ならびに抗体重鎖の封入体をそれぞれTCRの再生緩衝液に入れ、そして冷蔵庫で30 min反応させた。10 kDaの透析バッグを用意し、反応後の再生液を透析バッグに入れた後、予め冷却しておいた脱イオン水に入れ、冷蔵庫で一晩透析した。翌日、透析バッグを予め冷却しておいた10 mM Tris-HClに移して透析を行った。夜、さらに透析バッグを予め冷却しておいた10 mM Tris-HClに移して一晩透析した。
【0191】
精製
下記の3ステップの精製方法によって可溶性でかつ正確にフォルディングしたマルチドメイン融合分子をフォルディングが間違ったもの、分解物および不純物と分離した。
まず、陰イオン交換で精製した。再生・透析ができたサンプルを予め冷却しておいた高速遠心機に入れ、8000×g、4℃で15 min遠心して沈殿を除去し、そしてさらに0.45 μmのろ膜で上清をろ過した。陰イオン交換カラムHiTrap(登録商標) Q HP(GE Healthcare)で再生されたサンプルを精製した。先にA液(10mM Tris-HCl、pH8.0)で4倍カラム体積で洗浄した後、さらに流速5 ml/minでサンプルを仕込んだ。サンプルが全部仕込まれた後、さらにA液で約4倍カラム体積でカラムを洗浄し、伝導度およびUV280の両者が安定した時点で勾配溶離を開始し、0-100%のB液(1M NaCl+10mM Tris-HCl、PH 8.0)をセットし、時間が50 minで、3 ml/minの流速でサンプルを溶離させ、UV280が明らかに向上した時点で収集を開始し、各管で1 ml収集した。12%SDS-PAGEによってピーク成分を分析し、そして合併した。
【0192】
その後、さらに分子篩(Superdex 75、GE Healthcare)によって精製した。前の工程で精製されたサンプルを10 kDaの限外ろ過チューブで濃縮し、3500×g、4℃で500 μlまで濃縮した後、分子篩による精製を行った。分子篩を先に脱イオン水で平衡化した後、さらにPBSで平衡化した。500 μlの仕込みリングを洗浄して試料を仕込み、仕込みが終わった後、さらにPBSで平衡化および溶離を行い、流速が1 ml/minで、各管で0.4 ml収集した。12%SDS-PAGEによってピーク成分を分析し、そして合併した。
【0193】
最後に、もう一度陰イオン交換による精製を行い、陰イオン交換カラムHiTrap(登録商標) Q HP(GE Healthcare)を使用した。前の工程で精製されたサンプルを予め冷却しておいた10 mM Trisで20倍希釈した後、仕込んだ。先にA液で4倍カラム体積で洗浄した後、さらに流速5 ml/minでサンプルを仕込んだ。サンプルが全部仕込まれた後、さらにA液で約4倍カラム体積でカラムを洗浄し、伝導度およびUV280の両者が安定した時点で勾配溶離を開始し、0-100%のB液をセットし、時間が50 minで、3 ml/minの流速でサンプルを溶離させ、UV280が明らかに向上した時点で収集を開始し、各管で1 ml収集した。12%SDS-PAGEによってピーク成分を分析し、そして合併した。10 kDaの限外ろ過チューブで濃縮し、3500×g、4℃で500 μlまで濃縮し、そしてPBS緩衝液で緩衝液置換を行い、そしてその濃度を測定した後、分けて-80℃で保存した。
【0194】
精製されたタンパク質のSDS-PAGEの様子は
図31(B)に示された通りである。レーン1:非復元状態のマルチドメイン二重機能融合分子VL100-TCR βの様態;レーン2:分子量マーカー;レーン3:復元状態のマルチドメイン二重機能融合分子VL100-TCR βの様態。
【0195】
実施例8
AFP TCR β鎖のN末端に抗体の重鎖が融合したマルチドメイン二重機能融合分子(VH105-TCR βの様態)の調製
配列番号30(
図16a)はAFP TCR α鎖のアミノ酸配列で、ここで、Cys200でそのTRACの定常領域のPro88が置換されている。
配列番号31(
図16b)は配列番号30に相応する核酸配列である。
配列番号32(
図17a)はAFP TCR β鎖のN末端に抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列(Gln105Cys)が融合しており、そしてCys257でそのTRBCの定常領域のAla18を置換したものである。
配列番号33(
図17b)は配列番号32に相応する核酸配列である。
本実施例におけるAFP TCRはHLA-A*0201分子に提示されるFMNKFIYEI(配列番号38)短鎖ペプチドに結合することができる。
【0196】
ベクターの構築
AFP TCR α鎖をコードする配列番号31(
図16b)および抗体重鎖融合AFP TCR β鎖をコードする配列番号33(
図17b)、ならびに抗体の軽鎖をコードする配列番号23(
図12b)の遺伝子をそれぞれ発現プラスミドpET-28aにクローニングし、大腸菌BL21-DE3菌株において高レベルで標的遺伝子を発現させるように、当該プラスミドはT7プロモーターを含有する。
【0197】
発現
構築されたプラスミドをそれぞれ大腸菌株BL21-DE3に形質転換させ、カナマイシン耐性の単一のクローンがLB培地(カナマイシン50 μg/ml)において37℃でOD600が1.0程度になるように生長すると、1 mMのIPTGでタンパク質の発現を誘導した。誘導から3時間後、Thermo Scientific HERAEUS X1R遠心機において4000 gで15分間遠心して細胞を収集した。20 mlのBugBuster Master Mix(Merck Millipore)を使用し、ボルテックス振とうして菌体を再懸濁させた後、室温で20 min振とう処理を行った後、冷却しておいた高速遠心機に入れ、6000 g、4℃で15 min遠心した後、上清を除去した。さらに10 mlのBugBuster Master Mixを入れ、ボルテックス振とうして菌体を再懸濁させ、室温で5 min振とう処理を行った。さらにそれに30 mlの10倍のBugBuster(Merck Millipore)を入れ、数回上下して液体を均一に混合し、さらに高速遠心機に入れ、6000 g、4℃で15 min遠心した。上清を捨てた後、30 mlの10倍希釈されたBugBusterを入れ、ボルテックス振とうして沈殿を再懸濁させ、高速遠心機に入れ、6000 g、4℃で15 min遠心した。清液を捨て、前の工程を2回繰り返した。上清を捨て、30 mlのPBSを入れて封入体を再懸濁させ、そして6000 g、4℃で15 min遠心した。上清を捨て、6 Mの塩化グアニジニウムを入れて封入体を溶解させた。精製された封入体を勾配希釈した後、サンプリングしてSDS-PAGEによってその純度を検出してその収量を推定し、そしてすべての封入体に対してタンパク質の定量を行い、そして分けて容器に入れ、-80℃で保存した。
【0198】
再生
TCRの再生緩衝液(5 Mウレア、100 mM Tris pH 8.1、0.4 M L-アルギニン、2 mM EDTA、6.5 mM システアミン、1.87 mM シスタミン)を調製し、そして予め4℃に冷却しておいた。凍結保存液から約12 mgのTCR α鎖および11.2 mgの抗体重鎖-TCR β鎖、6 mgの抗体軽鎖の封入体を解凍した。それぞれ6 mlの6 M塩化グアニジニウム溶液に入れ、そして最終濃度が15 mMになるようにDTTを入れ、均一に混合した後、37℃のインキュベーターに置いて40 minインキュベートした。インキュベートされたTCR α鎖および重鎖-TCR β鎖、ならびに抗体軽鎖の封入体をそれぞれTCRの再生緩衝液に入れ、そして冷蔵庫で30 min反応させた。10 kDaの透析バッグを用意し、反応後の再生液を透析バッグに入れた後、予め冷却しておいた脱イオン水に入れ、冷蔵庫で一晩透析した。翌日、透析バッグを予め冷却しておいた20 mM Tris-HClに移して透析を行った。夜、さらに透析バッグを予め冷却しておいた20 mM Tris-HClに移して一晩透析した。
【0199】
精製
下記の2ステップの精製方法によって可溶性でかつ正確にフォルディングしたマルチドメイン融合分子をフォルディングが間違ったもの、分解物および不純物と分離した。
まず、陰イオン交換で精製した。再生・透析ができたサンプルを予め冷却しておいた高速遠心機に入れ、8000×g、4℃で15 min遠心して沈殿を除去し、そしてさらに0.45 μmのろ膜で上清をろ過した。陰イオン交換カラムHiTrap(登録商標) Q HP(GE Healthcare)で再生されたサンプルを精製した。先にA液(10mM Tris-HCl、pH8.0)で4倍カラム体積で洗浄した後、さらに流速5 ml/minでサンプルを仕込んだ。サンプルが全部仕込まれた後、さらにA液で約4倍カラム体積でカラムを洗浄し、伝導度およびUV280の両者が安定した時点で勾配溶離を開始し、0-100%のB液(1M NaCl+10mM Tris-HCl、PH 8.0)をセットし、時間が50 minで、3 ml/minの流速でサンプルを溶離させ、UV280が明らかに向上した時点で収集を開始し、各管で1 ml収集した。12%SDS-PAGEによってピーク成分を分析し、そして合併した。
【0200】
その後、さらに分子篩(Superdex 75、GE Healthcare)によって精製した。前の工程で精製されたサンプルを10 kDaの限外ろ過チューブで濃縮し、3500×g、4℃で500 μlまで濃縮した後、分子篩による精製を行った。分子篩を先に脱イオン水で平衡化した後、さらにPBSで平衡化した。500 μlの仕込みリングを洗浄して試料を仕込み、仕込みが終わった後、さらにPBSで平衡化および溶離を行い、流速が1 ml/minで、各管で0.4 ml収集した。12%SDS-PAGEによってピーク成分を分析し、そして合併した。そしてPBS緩衝液で緩衝液置換を行い、そしてその濃度を測定した後、分けて-80℃で保存した。
【0201】
精製されたタンパク質のSDS-PAGEの様子は
図32に示された通りである。レーン1:分子量マーカー;レーン2:非復元状態のマルチドメイン二重機能融合分子VH105-TCR βの様態;レーン3:復元状態のマルチドメイン二重機能融合分子VH105-TCR βの様態。
【0202】
実施例9
VH-TCR βまたはVL-TCR βの様態のマルチドメイン二重機能融合分子の性質
二重機能融合分子は特異的に腫瘍細胞を殺傷するようにT細胞をリダイレクトすることができることはすでにいくつかの研究で報告されている。その基本原理は、応答機能を発揮するようにT細胞を活性化させる重要なシグナルを模擬し、その高親和の特異的TCRによって腫瘍細胞の表面のpMHC複合体を認識すると同時に、そのCD3抗体末端によってT細胞で活性化する下流のシグナル経路を活性化させることで、特異的に腫瘍細胞を殺傷するようにT細胞をリダイレクトすることができる。
【0203】
以下の実施例では、本発明の抗体のマルチドメイン二重機能融合分子は標的細胞系を殺傷するようにCD8+T細胞をリダイレクトすることができることが証明されている。当該試験は51Cr放出細胞毒性試験の比色代替試験で、定量的に細胞分解後放出される乳酸脱水素酵素(LDH)を測定するものである。30分間カップリングの酵素反応によって培地に放出されたLDHを検出するが、酵素反応においてLDHは一種のテトラゾリド(INT)を赤色のホルマザン(formazan)に変換させることができる。生成した赤色産物の量は分解した細胞数に正比例した。標準の96ウェルプレートリーダーによって490 nmの可視光の吸光値のデータを収集することができる。
【0204】
当業者には、LDHの放出実験で細胞の機能を検出する方法は熟知されているものである。本実施例のLDH実験に使用された標的細胞系は、MDA-MB-231(NY-ESO-1陽性、A2陽性、乳癌細胞系)、MDA-MB-231(NY-ESO-1陰性、A2陽性、乳癌細胞系)およびNCI-H1299-A2(NY-ESO-1陽性、A2陰性、肺癌細胞系)、HepG2(A2陽性、AFP陽性、肝臓癌細胞系)、NCI-H1299-A2(A2陽性、AFP陰性、肺癌細胞系)、HepG2(A2陽性、gp100陽性、肝臓癌細胞系)、NCI-H1299(A2陰性、gp100陽性、肺癌細胞系)である。
【0205】
9.1 VH44-TCR β-1G4、VH105-TCR β-1G4のマルチドメイン二重機能融合分子によるMDA-MB-231(NY-ESO-1陽性、A2陽性)乳癌細胞系およびNCI-H1299(NY-ESO-1陽性、A2陽性)肺癌細胞系を殺傷するCD8+T細胞のリダイレクト
CD8+T細胞をエフェクター細胞とし、MDA-MB-231(NY-ESO-1陽性、A2陽性)乳癌細胞系とNCI-H1299(NY-ESO-1陽性、A2陽性)肺癌細胞系を標的細胞とし、選ばれたエフェクター標的比は5:1である。必要なエフェクター細胞および標的細胞はいずれも必要な細胞数に応じて培地で希釈され、必要なエフェクター細胞の細胞密度は1×106/mlで、一方、必要な標的細胞の細胞密度は2×105/mlである。同時にMDA-MB-231(NY-ESO-1陰性、A2陽性)乳癌細胞系およびNCI-H1299(NY-ESO-1陽性、A2陰性)肺癌細胞系を陰性対照標的細胞として使用した。
【0206】
NCI-H1299(NY-ESO-1陽性、A2陽性)肺癌細胞系を標的細胞とした場合、VH44-TCR β-1G4、VH105-TCR β-1G4マルチドメイン二重機能融合分子と対照分子(VH-TCR β-1G4の免疫活性のない二量体融合分子)のタンパク質はいずれも培地で4×10-7 M、4×10-8 M、4×10-9 M、4×10-10 M、4×10-11 M、4×10-12 Mに希釈した。
MDA-MB-231(NY-ESO-1陽性、A2陽性)乳癌細胞系を標的細胞とした場合、VH44-TCR β-1G4、VH105-TCR β-1G4マルチドメイン二重機能融合分子と対照分子(VH-TCR β-1G4の免疫活性のない二量体融合分子)のタンパク質はいずれも培地で4×10-9 M、4×10-10 M、4×10-11 M、4×10-12 M、4×10-13 Mに希釈した。
【0207】
96ウェル丸底プレートを用意した後、ウェルに50 μlのエフェクター細胞、50 μlのマルチドメイン二重機能融合分子タンパク質および100 μlの標的細胞を入れ、同時に標的細胞最大分解ウェル、標的細胞自発ウェル、エフェクター細胞自発ウェル、培地自発ウェルおよび培地+分解液の自発ウェルを設け、各ウェルの最終体積がいずれも200 μlで、かつそれぞれ3つの重複ウェルがあった。細胞が添加された96ウェル丸底プレートを37℃、5%CO2のインキュベーターに入れて24h培養した。その後、96ウェル丸底細胞培養プレートを遠心機に入れ、250×gで4 min遠心した。50 μlの上清を96ウェル平底プレートに取り、そして50 μlの基質液を入れ、光を避けて常温で30 min反応させた。反応終了後、50 μlの停止液を入れ、すぐにマイクロプレートリーダーで490 nmにおける吸光値を測定した。製品の説明書に従い、特異的殺傷効率= (実験ウェル-エフェクター細胞自発ウェル-標的細胞自発ウェル)/(標的細胞最大分解ウェル-標的細胞自発ウェル)を計算した。
【0208】
結果は
図35および
図36に示されるように、VH44-TCR β-1G4、VH105-TCR β-1G4の様態のマルチドメイン二重機能融合分子は、CD8
+T細胞のMDA-MB-231(NY-ESO-1陽性、A2陽性)乳癌細胞系およびNCI-H1299(NY-ESO-1陽性、A2陽性)肺癌細胞系に対する殺傷を仲介することができるが、MDA-MB-231(NY-ESO-1陰性、A2陽性)乳癌細胞系およびNCI-H1299(NY-ESO-1陽性、A2陰性)肺癌細胞系を殺傷することができない。Graphpad Prismソフトで各ウェルにおいて観察された殺傷百分率をタンパク質濃度に対してブロッティングし、EC50値を決定した。中では、VH44-TCR β-1G4の様態はMDA-MB-231(NY-ESO-1陽性、A2陽性)乳癌細胞系に対するEC50値が2.9e
-12、NCI-H1299(NY-ESO-1陽性、A2陽性)肺癌細胞系に対するEC50値が5.7e
-11で、VH105-TCR β-1G4の様態はMDA-MB-231(NY-ESO-1陽性、A2陽性)乳癌細胞系に対するEC50値が2.7e
-12、NCI-H1299(NY-ESO-1陽性、A2陽性)肺癌細胞系に対するEC50値が2.4e
-11であった。
【0209】
9.2 VL43-TCR β-1G4、VL100-TCR β-1G4の様態のマルチドメイン二重機能融合分子によるNCI-H1299(NY-ESO-1陽性、A2陽性)肺癌細胞系を殺傷するCD8+細胞のリダイレクト
CD8+T細胞をエフェクター細胞とし、NCI-H1299(NY-ESO-1陽性、A2陽性)肺癌細胞系を標的細胞とし、選ばれたエフェクター標的比は5:1である。必要なエフェクター細胞および標的細胞はいずれも必要な細胞数に応じて培地で希釈され、必要なエフェクター細胞の細胞密度は1×106/mlで、一方、必要な標的細胞の細胞密度は2×105/mlである。同時にNCI-H1299(NY-ESO-1陽性、A2陰性)肺癌細胞系を陰性対照標的細胞として使用した。
VL43-TCR β-1G4、VL100-TCR β-1G4の様態のマルチドメイン二重機能融合分子と対照分子(VL-TCR β-1G4の免疫活性のない二量体融合分子)のタンパク質濃度はいずれも培地で4×10-7 M、4×10-8 M、4×10-9 M、4×10-10 M、4×10-11 M、4×10-12 Mに希釈した。
【0210】
96ウェル丸底プレートを用意した後、ウェルに50 μlのエフェクター細胞、50 μlのマルチドメイン二重機能融合分子タンパク質および100 μlの標的細胞を入れ、同時に標的細胞最大分解ウェル、標的細胞自発ウェル、エフェクター細胞自発ウェル、培地自発ウェルおよび培地+分解液の自発ウェルを設け、各ウェルの最終体積がいずれも200 μlで、かつそれぞれ3つの重複ウェルがあった。細胞が添加された96ウェル丸底プレートを37℃、5%CO2のインキュベーターに入れて24 h培養した。その後、96ウェル丸底細胞培養プレートを遠心機に入れ、250×gで4 min遠心した。50 μlの上清を96ウェル平底プレートに取り、そして50 μlの基質液を入れ、光を避けて常温で30 min反応させた。反応終了後、50 μlの停止液を入れ、すぐにマイクロプレートリーダーで490 nmにおける吸光値を測定した。製品の説明書に従い、特異的殺傷効率= (実験ウェル-エフェクター細胞自発ウェル-標的細胞自発ウェル)/(標的細胞最大分解ウェル-標的細胞自発ウェル)を計算した。
【0211】
結果は
図35に示されるように、VL43-TCR β-1G4、VL100-TCR β-1G4の様態のマルチドメイン二重機能融合分子は、CD8
+T細胞のNCI-H1299(NY-ESO-1陽性、A2陽性)肺癌細胞系に対する殺傷を仲介することができるが、NCI-H1299(NY-ESO-1陽性、A2陰性)肺癌細胞系を殺傷することができない。Graphpad Prismソフトで各ウェルにおいて観察された殺傷百分率をタンパク質濃度に対してブロッティングし、EC50値を決定した。中では、VL44-TCR β-1G4の様態はNCI-H1299(NY-ESO-1陽性、A2陽性)肺癌細胞系に対するEC50値が1.7e
-10で、VL100-TCR β-1G4の様態はNCI-H1299(NY-ESO-1陽性、A2陽性)肺癌細胞系に対するEC50値が3.4e
-10であった。
【0212】
9.3 VL100-TCR β-AFPの様態のマルチドメイン二重機能融合分子によるHepG2(A2陽性、AFP陽性、肝臓細胞系)を殺傷するCD8+細胞のリダイレクト
CD8+T細胞をエフェクター細胞とし、HepG2(A2陽性、AFP陽性)肝臓癌細胞系を標的細胞とし、選ばれたエフェクター標的比は1:1である。必要なエフェクター細胞および標的細胞はいずれも必要な細胞数に応じて培地で希釈され、必要なエフェクター細胞の細胞密度は2×105/mlで、一方、必要な標的細胞の細胞密度は2×105/mlである。同時にNCI-H1299-A2(A2陽性、AFP陰性)肺癌細胞系を陰性対照標的細胞として使用した。
VH105-TCR β-AFPの様態のマルチドメイン二重機能融合分子のタンパク質濃度はいずれも培地で4×10-7 M、4×10-8 M、4×10-9 M、4×10-10 M、4×10-11 M、4×10-12 M、4×10-13 Mに希釈した。
【0213】
96ウェル丸底プレートを用意した後、ウェルに50 μlのエフェクター細胞、50 μlのマルチドメイン二重機能融合分子タンパク質および100 μlの標的細胞を入れ、同時に標的細胞最大分解ウェル、標的細胞自発ウェル、エフェクター細胞自発ウェル、培地自発ウェルおよび培地+分解液の自発ウェルを設け、各ウェルの最終体積がいずれも200 μlで、かつそれぞれ3つの重複ウェルがあった。細胞が添加された96ウェル丸底プレートを37℃、5%CO2のインキュベーターに入れて24 h培養した。その後、96ウェル丸底細胞培養プレートを遠心機に入れ、250×gで4 min遠心した。50 μlの上清を96ウェル平底プレートに取り、そして50 μlの基質液を入れ、光を避けて常温で30 min反応させた。反応終了後、50 μlの停止液を入れ、すぐにマイクロプレートリーダーで490 nmにおける吸光値を測定した。製品の説明書に従い、特異的殺傷効率= (実験ウェル-エフェクター細胞自発ウェル-標的細胞自発ウェル)/(標的細胞最大分解ウェル-標的細胞自発ウェル)を計算した。
【0214】
結果は
図37に示されるように、VL100-TCR β-AFPマルチドメイン二重機能融合分子は、CD8
+T細胞のHepG2(A2陽性、AFP陽性)肝臓癌細胞系に対する効率的な殺傷を仲介することができるが、NCI-H1299(A2陽性、AFP陰性)肺癌細胞系に対する殺傷効率が低い。タンパク質が安全な投与量(<1×10
-9 M)において、陰性標的細胞を殺傷しない。Graphpad Prismソフトで各ウェルにおいて観察された殺傷百分率をタンパク質濃度に対してブロッティングし、EC50値を決定した。VH105-TCR β-AFPはHepG2(A2陽性、AFP陽性)肝臓癌細胞系に対するEC50値が1.05e
-8で、NCI-H1299-A2(A2陽性、AFP陰性)肺癌細胞系に対するEC50値が2.7e
-6であった。
【0215】
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、当業者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の形態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-06-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
N末端からC末端の構造が式IaまたはIbで表されるポリペプチドを含むことを特徴とする、融合タンパク質。
A1-L-B (Ia)
B-L-A1 (Ib)
(ただし、
エレメントA1は、免疫反応のないポリペプチド分子である。
エレメントBは、特異的にpMHCエピトープに結合するポリペプチド受容体分子またはその構成部分、その断片である。
エレメントLは、柔軟性リンカーである。前記柔軟性リンカーは選択できるものである。
「-」は共有結合である。)
【請求項2】
前記エレメントA1は、抗体の重鎖可変領域または抗体の軽鎖可変領域であることを特徴とする、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
前記抗体の重鎖可変領域は、配列番号14、配列番号20または配列番号5で示される配列を含むことを特徴とする、請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記抗体の軽鎖可変領域は、配列番号16、配列番号22または配列番号10で示される配列を含むことを特徴とする、請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
前記エレメントBは、TCR分子、一本鎖αβTCR、TCRα鎖/TCRβ鎖ヘテロ二量体複合分子、抗体分子Fab複合分子、一本鎖抗体分子、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
前記TCRα鎖のアミノ酸配列は、配列番号1で示される配列を含み、前記TCRβ鎖のアミノ酸配列は、配列番号3で示される配列を含むことを特徴とする、請求項5に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
前記融合タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号18、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号7、配列番号12または配列番号32で示される配列を含むか、あるいは、配列番号18、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号7、配列番号12または配列番号32と少なくとも95%以上、98%以上、99%以上、99.9%以上の同一性を有する配列を含むことを特徴とする、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
構造が式IcまたはIdで表されることを特徴とする、融合タンパク質複合分子。
A2…A1-L-B (Ic)
B-L-A1…A2 (Id)
(ただし、
エレメントA1、A2は、それぞれ独立に、免疫反応のないポリペプチド分子それぞれ独立である。
エレメントBは、特異的にpMHCエピトープに結合するポリペプチド受容体分子またはその構成部分、その断片である。ならびに
エレメントLは、柔軟性リンカーである。
「-」は共有結合である。
「…」はジスルフィド結合またはタンパク質ドメインの間の非共有結合相互作用である。)
【請求項9】
前記エレメントA1は抗体の重鎖可変領域であり、かつ前記A2エレメントは抗体の軽鎖可変領域であるか、あるいは、前記エレメントA1は抗体の軽鎖可変領域であり、かつ前記A2元件は抗体の重鎖可変領域であることを特徴とする、請求項8に記載の融合タンパク質複合分子。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の融合タンパク質または請求項8または9に記載の融合タンパク質複合分子をコードすることを特徴とする、ポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項10に記載のポリヌクレオチドを含有することを特徴とする、発現ベクター。
【請求項12】
請求項11に記載の発現ベクターを含有することを特徴とする、宿主細胞。
【請求項13】
請求項1~7のいずれか一項に記載の融合タンパク質または請求項8または9に記載の融合タンパク質複合分子を生成する方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする、前記方法:
(a)請求項1~7のいずれか一項に記載の融合タンパク質または請求項8または9に記載の融合タンパク質複合分子の生成に適する条件において、請求項12に記載の宿主細胞を培養することにより、前記融合タンパク質または前記融合タンパク質複合分子を含む培養物を得る;
(b)前記培養物から前記の融合タンパク質または融合タンパク質複合分子を単離または回収する;ならびに
(c)任意に、工程(b)で得られた融合タンパク質または融合タンパク質複合分子を精製および/または修飾する。
【請求項14】
以下:
(a)請求項1~7のいずれか一項に記載の融合タンパク質または請求項8または9に記載の融合タンパク質複合分子;ならびに
(b)検出可能なマーカー、薬物、毒素、サイトカイン、放射性核種、酵素、金ナノ粒子/ナノロッド、磁性ナノ粒子、ウイルスコートタンパク質またはVLP、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる複合部分
を含有することを特徴とする、免疫複合体。
【請求項15】
請求項1~7のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項8または9に記載の融合タンパク質複合分子、またはこれらの組み合わせと、薬学的に許容される担体とを含むことを特徴とする、薬物組成物。
【請求項16】
請求項11に記載の発現ベクターと、薬学的に許容される担体とを含むことを特徴とする、薬物組成物。
【請求項17】
請求項12に記載の宿主細胞と、薬学的に許容される担体とを含むことを特徴とする、薬物組成物。
【請求項18】
以下:
(i)請求項1~7のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項8または9に記載の融合タンパク質複合分子;ならびに
(ii)発現および/または精製を補助する任意のタグ配列
を含む、組み換えタンパク質。
【請求項19】
請求項1~7のいずれか一項に記載の融合タンパク質、または請求項8または9に記載の融合タンパク質複合分子の使用であって、被験者において腫瘍を予防または治療する薬物を製造するためであることを特徴とする、前記使用。
【請求項20】
前記腫瘍は、乳癌、肺癌、肝臓癌、またはこれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項17に記載の使用。
【請求項21】
前記被験者は、哺乳動物であり、好ましくは、ヒトであることを特徴とする、請求項17に記載の使用。
【請求項22】
請求項11に記載の発現ベクターの使用であって、被験者において腫瘍を予防または治療する薬物を製造するためであることを特徴とする、前記使用。
【請求項23】
請求項12に記載の宿主細胞の使用であって、被験者において腫瘍を予防または治療する薬物を製造するためであることを特徴とする、前記使用。
【国際調査報告】