(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】新規VASH阻害剤、その複合体、および薬物または研究ツールとしてのそれらの使用
(51)【国際特許分類】
C07D 303/48 20060101AFI20240829BHJP
C07K 5/06 20060101ALI20240829BHJP
A61K 31/336 20060101ALI20240829BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20240829BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240829BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240829BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20240829BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20240829BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20240829BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240829BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C07D303/48 CSP
C07K5/06
A61K31/336
A61K38/05
A61P25/16
A61P25/28
A61P27/06
A61P21/04
A61P15/00
A61P35/00
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536353
(86)(22)【出願日】2022-08-24
(85)【翻訳文提出日】2024-04-19
(86)【国際出願番号】 EP2022073625
(87)【国際公開番号】W WO2023025861
(87)【国際公開日】2023-03-02
(32)【優先日】2021-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】594016872
【氏名又は名称】サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス)
(71)【出願人】
【識別番号】515011944
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・ドゥ・モンペリエ
(71)【出願人】
【識別番号】520307757
【氏名又は名称】エコール ナシオナル シュペリウール ドゥ シミ ドゥ モンペリエ
【氏名又は名称原語表記】ECOLE NATIONALE SUPERIEURE DE CHIMIE DE MONTPELLIER
(71)【出願人】
【識別番号】524071872
【氏名又は名称】エムティ、アクト
【氏名又は名称原語表記】MT ACT
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100210675
【氏名又は名称】下山 潤
(72)【発明者】
【氏名】クシシトフ、ロゴフスキ
(72)【発明者】
【氏名】ミュリエル、アンブラール-コーシル
(72)【発明者】
【氏名】シーム、ファン、デル、ラーン
(72)【発明者】
【氏名】ルボミール、ベゼンコフ
(72)【発明者】
【氏名】ギョーム、マルスラン
(72)【発明者】
【氏名】ヨアン、ラネ
(72)【発明者】
【氏名】カーレド、アシェド
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA14
4C084BA23
4C084BA32
4C084CA59
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA151
4C084ZA152
4C084ZA161
4C084ZA162
4C084ZA331
4C084ZA332
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZA941
4C084ZA942
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC201
4C084ZC202
4C084ZC411
4C084ZC412
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BA02
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZA33
4C086ZA81
4C086ZA94
4C086ZB26
4C086ZC20
4C086ZC41
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA11
4H045EA20
4H045FA20
(57)【要約】
本発明は、式中X、R1、R2、R3が定義のとおりである、式(I)の化合物
【化1】
またはその薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒和物、その複合体ならびに薬物または研究ツールとしてのそれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物
【化1】
またはその薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒和物であって、
式中
Xが、
【化2】
であり、
R
1が、O-C
1-C
6アルキル、O-C
2-C
6アルケニル、NR
1aR
1bまたは
【化3】
であり、
R
1aが、HまたはC
1-C
6アルキルであり、
R
1bが、OHまたはC
1-C
6アルキルであり、前記アルキルが、C(O)OH、C(O)O-C
1-C
6アルキルまたはアリールで任意選択で置換され、
Rが、O-R
2またはNH-S(O)
2-R
9であり、
R
2が、H、C
1-C
6脂肪族鎖、アリール、ヘテロアリールまたはC
1-C
6アルキル-アリールであり、前記脂肪族鎖の最大で4つのメチレン単位が、O、C(O)、NHまたはN-C
1-C
6アルキルで任意選択で置換され、前記脂肪族鎖、アリール、ヘテロアリールまたはアルキル-アリールが任意選択で置換され、
R
3が、OH、O-C
1-C
6脂肪族鎖、O-アリール、O-C
1-C
6アルキル-アリール、O-ヘテロアリール、O-C
1-C
6アルキル-ヘテロアリールまたはNHOHであり、前記脂肪族鎖の最大で4つのメチレン単位が、O、C(O)、NHまたはN-C
1-C
6アルキルで任意選択で置換され、前記脂肪族鎖、アリール、ヘテロアリール、アルキル-ヘテロアリールまたはアルキル-アリールが任意選択で置換され、
R
4が、HまたはC
1-C
12脂肪族鎖であり、最大で4つのメチレン単位が、O、C(O)、NHまたはN-C
1-C
6アルキルで任意選択で置換され、前記C
1-C
12脂肪族鎖が任意選択で置換され、
Yが、-(CH
2)
m-または
【化4】
であり、
R
5が、OH、O-C
1-C
6アルキル、C
2-C
6アルケニル、C
2-C
6アルキニル、アリール、ヘテロアリール、O-C
1-C
6アルキル-アリール、O-C
1-C
6アルキル-ヘテロアリール、C(O)OH、C(O)O-C
1-C
6アルキル、C(O)NHOH、C(O)NH
2、C(O)NH-C
1-C
6アルキル、C(O)NH-O-C
1-C
6アルキル、NH-C
1-C
6アルキル、N(C
1-C
6アルキル)
2、NH-C(O)-C
1-C
6アルキルまたはNH-S(O)
2-R
9であり、前記アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルキル-アリールまたはアルキル-ヘテロアリールが任意選択で置換され、
R
6が、OH、O-C
1-C
6脂肪族鎖、NH-OHまたはNH-CH(R
7)-(CH
2)
n-R
8であり、前記脂肪族鎖が任意選択で置換され、
R
7が、H、C
1-C
6アルキル、C
2-C
6アルケニル、C
2-C
6アルキニル、アリール、ヘテロアリール、C
1-C
6アルキル-アリールまたはC
1-C
6アルキル-ヘテロアリールであり、
R
8が、C(O)NH
2、C(O)NH-C
1-C
6アルキル、アリール、ヘテロアリール、SH、NH
2またはS-C
1-C
6アルキルであり、mおよびnがそれぞれ独立して0~6の範囲の整数であり、
R
9が、C
1-C
6脂肪族鎖またはアリールであり、前記脂肪族鎖またはアリールが任意選択で置換され、
ただし、Xが、
【化5】
であり、R
3がOHであるとき、R
1がO-C
1-C
6アルキルではなく、式(I)の化合物が、
【化6】
ではないことを条件とする
化合物またはその薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒和物。
【請求項2】
RがOR
2である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
R
2が、H、任意選択で置換されたC
1-C
6アルキルまたは任意選択で置換されたC
1-C
6アルキル-アリールである、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
R
3が、OH、O-C
1-C
6脂肪族鎖またはO-C
1-C
6アルキル-アリール、NHOHであり、前記肪族鎖が任意選択で置換される、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
R
1が、O-C
1-C
6アルキル、O-C
2-C
6アルケニルまたはNR
1aR
1bであり、R
1aおよびR
1bが請求項1に定義のとおりである、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
R
1が、
【化7】
好ましくは
【化8】
であり、
Y、R
5およびR
6が請求項1に定義のとおりである、
請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
Yが、
【化9】
であり
R
5が、OH、O-メチルまたはO-エチルなどのO-C
1-C
6アルキル、O-ベンジルなどのO-C
1-C
6アルキル-アリール、C(O)-NH-O-tert-ブチルなどのC(O)NH-O-C
1-C
6アルキル、またはNH(S(O)
2-R
9であり、R
9が好ましくは、非置換もしくはOHで置換されたフェニルまたはC
1-C
6アルキルであり、
R
6が、OHまたはO-メチル、O-エチルなどのO-C
1-C
6アルキルもしくはO-アリルである、
請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
Yが、-(CH
2)
m-、好ましくは-(CH
2)
2-であり、R
5が、C(O)OH、C(O)OEtまたはC(O)NHOHであり、R
6が、NH-CH(R
7)-(CH
2)
n-R
8であり、R
7が、H、C
1-C
6アルキル、ベンジルなどのC
1-C
6アルキル-アリール、またはCH
2-インドール基などのC
1-C
6アルキル-ヘテロアリールであり、R
8が、C(O)NH
2、フェニルなどのアリール、インドールなどのヘテロアリール、SH、またはS-C(CH
3)
3などのS-C
1-C
6アルキルであり、nが0、1、2または3である、請求項6に記載の化合物。
【請求項9】
Xが、
【化10】
好ましくは
【化11】
である、請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項10】
次式(I-A’):
【化12】
に対応する、請求項1~9のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項11】
以下の化合物:
【化13-1】
【化13-2】
【化13-3】
【化13-4】
【化13-5】
【化13-6】
から選択される請求項1に記載の化合物ならびにその薬学的に許容される塩および/または溶媒和物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に定義の少なくとも1つの式(I)の化合物および少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含んでなる医薬組成物。
【請求項13】
薬物として使用するための、請求項1~11のいずれか一項に記載の化合物または請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
VASHペプチダーゼ活性関連障害の治療に使用するための、請求項1~11のいずれか一項に記載の化合物または請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記VASHペプチダーゼ活性関連障害が、とりわけアルツハイマー病およびパーキンソン病などの神経変性疾患、緑内障、精神障害、神経障害、結腸がんや神経芽細胞腫などのがん、筋ジストロフィー、不妊症、網膜変性症、プルキンエ細胞疾患、乳児発症型変性、男性不妊症および繊毛病、特に、神経変性疾患、がん、および筋ジストロフィーから選択される微小管の脱チロシン化および/またはポリグルタミル化の変化が関与する障害である、請求項14に記載の使用のための化合物または組成物。
【請求項16】
生体分子(例えば、ペプチド、タンパク質、バイオマーカー(例として、ローダミン、クマリン誘導体、シアニン誘導体もしくはフルオレセインなどの光標識剤)、ビオチンなどの親和性プローブ、またはサリドマイド、VH032、VH101、dBET1、dFKBP12、QCA570、PROTAC6、ZNL-02-096もしくはd9A-2などのE3ユビキチンリガーゼリクルーター)に結合した、請求項1~11のいずれか一項に定義の式(I)の化合物の断片を含んでなる複合体。
【請求項17】
薬物として使用するための請求項16に記載の複合体。
【請求項18】
特に、
-新しいVASH阻害剤を特定するため、かつ/またはその阻害剤効率を定量するためのインビトロおよび/またはインセルロのスクリーニングアッセイ、
-チューブリン脱チロシン化の役割、特に、その発生や、悪性度、進行など、VASHペプチダーゼ活性関連障害を研究するためのインビトロの方法、
-微小管の脱チロシン化および/またはポリグルタミル化の変化が関与するVASHペプチダーゼ活性関連障害を特定またはモニタリングするためのインビトロ診断方法、
-ならびに前記スクリーニングアッセイおよび方法を行うための関連キット
からなる群のなかで選択される、研究および開発活動のための研究ツールとして使用するための、請求項1~11のいずれかに記載の化合物または請求項16に記載の複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にVASHペプチダーゼ関連障害の予防および/もしくは治療に、かつ/または研究ツールとして有用な新規VASH阻害剤に関する。本発明はまた、上記VASH阻害剤と生体分子の複合体および薬物または研究ツールとしてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
微小管(MT)は細胞骨格要素の主要なタイプであり、特に神経細胞に多く存在する。それらはα-およびβ-チューブリンのヘテロ二量体の重合によって形成される。細胞内において、MTは伸びたり縮んだりする能力を有し、この現象は動的不安定性と呼ばれている。MTのこの動的挙動により、細胞内輸送、細胞運動、細胞分裂および細胞形態形成を含む多数の細胞プロセスをサポートすることが可能になる。微小管の機能的多様性は、チューブリンに影響を与える多くの様々な翻訳後修飾(PTM)によるものである。既知のPTMには、アセチル化、ポリグルタミル化、ポリグリシル化、リン酸化、およびチロシン化/脱チロシン化サイクルが含まれる。これらの修飾は、微小管の動態、組織化、ならびに他の細胞化合物および細胞コンパートメントとの相互作用に影響を及ぼす。
【0003】
MTの機能不全は、神経発達障害および神経変性に関連する。よく知られている機能不全は、MTの構成要素であるチューブリン、またはMTの機能を調節するMT結合タンパク質(MAP)のいずれかの変異に関連する。多くのMAPの結合は、様々な翻訳後修飾を強く受けることが知られているMTの表面に突出するα-およびβ-チューブリンのC末端尾部によって媒介される。神経細胞に最も多く存在するチューブリン修飾はポリグルタミル化であり、α-およびβ-チューブリンのC末端に、長さの異なる複数のグルタミン酸側鎖が生成される。負に荷電したグルタミン酸はC末端尾部に付加され、様々なMT結合タンパク質(MAP)および分子モーターの結合部位となる。したがって、ポリグルタミル化は、数多くのMT相互作用タンパク質の活性または結合を調節することが示されている。初期の研究では、アルツハイマー病のキープレーヤーであるタウなどのニューロンMAPの結合がMTポリグルタミル化によって調節されることが示唆された。さらに最近の報告では、軸索の成長と可塑性に重要な役割を果たすスパスチンやカタニンなどのMT切断酵素の活性もこの修飾によって制御されることが示されている。さらに、ポリグルタミル化は、シナプス小胞の送達に関与し、よってシナプス伝達を調節するKIF1Aキネシンモータータンパク質の速度および処理能力を調節すると考えられている。まとめると、チューブリンポリグルタミル化は様々な重要な神経細胞プロセスを制御している。ポリグルタミル化は可逆的であり、チューブリンチロシンリガーゼ様(TTLL)ファミリーに属する酵素によって触媒される。対照的に、逆酵素はサイトゾルカルボキシペプチダーゼ(CCP)ファミリーのメンバーである。したがって、特定の細胞におけるチューブリンポリグルタミル化の全体的なレベルは、両活性間の競合の結果として確立される。
【0004】
最初に発見されたチューブリン修飾は脱チロシン化であり、これはα-チューブリンに特異的であり、MTのC末端チロシン残基の除去からなる。チロシン化/脱チロシン化サイクルは、特に神経細胞、筋細胞、分裂細胞における微小管調節に関与している。このように、微小管脱チロシン化の変化は、神経変性疾患、神経再生障害、がん、筋ジストロフィー、心疾患、血管障害、網膜変性症、不妊症または繊毛病などの障害に関わっている。
【0005】
脱チロシン化は約半世紀前に発見されているが、チューブリンカルボキシペプチダーゼ(TCP)活性をもつ、脱チロシン形成に関与する酵素が明らかになったのはごく最近である(Nieuwenhuis J. et al. Science, 2017, 358(6369):1453-1456; Aillaud C. et al. Science, 2017, 358(6369:1448-1453))。バソヒビンファミリーのVASH1およびVASH2はこの修飾を触媒する酵素である。とりわけ最近の研究は、そのタンパク質酵素活性の可逆的および不可逆的阻害剤を明らかにすることにつながり、それら阻害剤は上記の障害だけでなく、タウオパチー(例えば、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、皮質基底核型認知症(corticobasal dementia)など)を含むがこれに限定されない神経変性障害の治療にとって特に興味深いものである(国際公開第2019/016259号参照)。
【0006】
クリックケミストリーと適合できる特注設計の阻害剤を用いた高親和性精製ステップを採用することによって、VASHをチューブリンデチロシナーゼとして特定することができた(Aillaud, C. et al., Science. 2017, 358(6369):1448-1453)。上記阻害剤のうち最も効率的なものは、化合物EPO-Yと呼ばれ(Aillaud et al. 2017)、次のように表されるチロシン残基に結合したtrans-エポキシコハク酸(TES)エチルエステルと呼ばれる活性基から構成される。
【0007】
【0008】
当初、EPO-Y(Epo-Yとも呼ばれる)は微小管脱チロシン化の変化が関与する障害の治療の有望な候補と考えられていた不可逆的VASH阻害剤である。しかし、この化合物はインセルロ(in cellulo)で約15μMの中程度のIC50を示す。考えられうる生物医学的応用に照らして、理想的な阻害剤にはVASHに対する高い特異性と効力が必要である。EPO-Yなどの小さい高求電子性のエポキシド分子は、他のタンパク質やシステインプロテアーゼ活性部位に存在する遊離チオールと、特に高濃度(μM範囲)で相互作用する可能性がある。さらに、チロシンキナーゼ活性部位の求核性リジン残基と反応し、特異性が失われる可能性がある。注目すべきことに、パルテノリドと呼ばれ、過去に細胞ベースのスクリーニングを介して特定された他に報告されている唯一の脱チロシン化阻害剤(Fonrose et al.Cancer Res 2007;67 (7) :3371-8)は、非常に高い濃度でもインビトロでVASHを阻害しない(Hotta T.et al., Curr.Biol., 2021, 31 (4) :900-907)。これから、観察されたパルテノライドのインセルロでの効果は、VASHの直接阻害を介するものではないことが示唆される。
【0009】
したがって、微小管脱チロシン化の異常が関与する障害の治療に有用な好適な候補をもたらすために、既存のVASH阻害剤の特異性、効力およびバイオアベイラビリティを向上させる必要がある。本発明では、神経変性疾患の治療のための可能性のある薬物として、インセルロで高効率の、低ナノモルからピコモルのVASH阻害剤について記載する。
【発明の概要】
【0010】
医薬品化学を用いて、化合物のライブラリーを作り、理想的な予測インビトロ系で効果を測定し、バイオインフォマティクスを用いて、化合物の生物活性の多様性の原因となる構造特性をモデル化し、理解した。そのようにして、本発明者らは、インビトロおよび/またはインセルロでの活性が、EPO-Yと比較して大きく増強された新規VASH阻害剤を開発した。
【0011】
したがって、本発明は、次の式(I)の化合物
【化2】
またはその薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒和物であって、
式中、
Xが、
【化3】
であり、
R
1が、O-C
1-C
6アルキル、O-C
2-C
6アルケニル、NR
1aR
1bまたは
【化4】
であり、
R
1aが、HまたはC
1-C
6アルキルであり、
R
1bが、OHまたはC
1-C
6アルキルであり、上記アルキルが、C(O)OH、C(O)O-C
1-C
6アルキルまたはアリールで任意選択で置換され、
Rが、O-R
2またはNH-S(O)
2-R
9であり、
R
2が、H、C
1-C
6脂肪族鎖、アリール、ヘテロアリールまたはC
1-C
6アルキル-アリールであり、上記脂肪族鎖の最大で4つのメチレン単位が、O、C(O)、NHまたはN-C
1-C
6アルキルで任意選択で置換され、上記脂肪族鎖、アリール、ヘテロアリールまたはアルキル-アリールが任意選択で置換され、
R
3が、OH、O-C
1-C
6脂肪族鎖、O-アリール、O-C
1-C
6アルキル-アリール、O-ヘテロアリール、O-C
1-C
6アルキル-ヘテロアリールまたはNHOHであり、上記脂肪族鎖の最大で4つのメチレン単位が、O、C(O)、NHまたはN-C
1-C
6アルキルで任意選択で置換され、上記脂肪族鎖、アリール、ヘテロアリール、アルキル-ヘテロアリールまたはアルキル-アリールが任意選択で置換され、
R
4が、HまたはC
1-C
12脂肪族鎖であり、最大で4つのメチレン単位が、O、C(O)、NHまたはN-C
1-C
6アルキルで任意選択で置換され、上記C
1-C
12脂肪族鎖が任意選択で置換され、
Yが、-(CH
2)
m-または
【化5】
であり、
R
5が、OH、O-C
1-C
6アルキル、C
2-C
6アルケニル、C
2-C
6アルキニル、アリール、ヘテロアリール、O-C
1-C
6アルキル-アリール、O-C
1-C
6アルキル-ヘテロアリール、C(O)OH、C(O)O-C
1-C
6アルキル、C(O)NHOH、C(O)NH
2、C(O)NH-C
1-C
6アルキル、C(O)NH-O-C
1-C
6アルキル、NH-C
1-C
6アルキル、N(C
1-C
6アルキル)
2、NH-C(O)-C
1-C
6アルキルまたはNH-S(O)
2-R
9であり、上記アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルキル-アリールまたはアルキル-ヘテロアリールが任意選択で置換され、
R
6が、OH、O-C
1-C
6脂肪族鎖、NH-OHまたはNH-CH(R
7)-(CH
2)
n-R
8であり、上記脂肪族鎖が任意選択で置換され、
R
7が、H、C
1-C
6アルキル、C
2-C
6アルケニル、C
2-C
6アルキニル、アリール、ヘテロアリール、C
1-C
6アルキル-アリールまたはC
1-C
6アルキル-ヘテロアリールであり、
R
8が、C(O)NH
2、C(O)NH-C
1-C
6アルキル、アリール、ヘテロアリール、SH、NH
2またはS-C
1-C
6アルキルであり、mおよびnがそれぞれ独立して、0~6の範囲の整数であり、
R
9が、C
1-C
6脂肪族鎖またはアリールであり、上記脂肪族鎖またはアリールが任意選択で置換され、
ただし、Xが
【化6】
以下であり、かつR
3がOHであるとき、R
1がO-C
1-C
6アルキルではないことを条件とする
化合物またはその薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒和物
に関する。
【0012】
別の態様によれば、本発明は、少なくとも1つの上に定義の式(I)の化合物および少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含んでなる医薬組成物に関する。
【0013】
別の態様によれば、本発明はまた、薬物として使用するための、上に定義の式(I)の化合物または医薬組成物に関する。
【0014】
本発明はまた、研究ツールとして使用するための式(I)の化合物に関する。
【0015】
別の態様によれば、本発明はまた、生体分子に結合した式(I)の化合物を含んでなる複合体に関する。
【0016】
別の態様によれば、本発明は、薬物または研究ツールとして使用するための、上に定義の複合体に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】インセルロVASH媒介チューブリン脱チロシン化アッセイ。ヒトCHL-1細胞(メラノーマ由来細胞株)におけるチューブリン脱チロシン化に対するEpo‐Yの濃度の増加の効果。
【
図2】推定阻害剤パルテノリドはVASH媒介チューブリン脱チロシン化を阻害しない。(A)Epo-Yおよび推定デチロシナーゼ阻害剤パルテノリド(PTL)の化学構造。(B)組み換えVASH1タンパク質を用いたインビトロ脱チロシン化アッセイ。DeTyr、脱チロシン化。(C)ヒトCHL-1細胞におけるチューブリン脱チロシン化に対するEpo‐YおよびPTLの濃度の増加の効果。
【
図3】新たに開発された阻害剤は、VASH1およびVASH2およびペプチダーゼ活性を標的とする。VASH1およびVASH2依存性チューブリン脱チロシン化活性はともに、インビトロ脱チロシン化アッセイを用いて新たに設計された阻害剤によって阻害される。
【
図4-1】VASHペプチダーゼ活性の細胞浸透性の強力な阻害剤。(A)LV-43(本発明の範囲外)の化学構造。(B)組み換えVASH1タンパク質を用いたインビトロ脱チロシン化アッセイ。(C)組み換えVASH1タンパク質を用いたインセルロ脱チロシン化アッセイ。(D)CHL-1細胞を用いたインセルロ脱チロシン化アッセイ。(E)Epo-YおよびLV-80を用いてインビトロで得られた用量反応曲線の比較。(F)ヒトCHL-1細胞におけるチューブリン脱チロシン化に対するEpo-YおよびLV-80の濃度の増加の効果の定量。(G)LV-80の化学構造、ならびに(H)推定結合モード(水素結合)を示すVASH1への分子ドッキング。
【
図4-2】VASHペプチダーゼ活性の細胞浸透性の強力な阻害剤。(A)LV-43(本発明の範囲外)の化学構造。(B)組み換えVASH1タンパク質を用いたインビトロ脱チロシン化アッセイ。(C)組み換えVASH1タンパク質を用いたインセルロ脱チロシン化アッセイ。(D)CHL-1細胞を用いたインセルロ脱チロシン化アッセイ。(E)Epo-YおよびLV-80を用いてインビトロで得られた用量反応曲線の比較。(F)ヒトCHL-1細胞におけるチューブリン脱チロシン化に対するEpo-YおよびLV-80の濃度の増加の効果の定量。(G)LV-80の化学構造、ならびに(H)推定結合モード(水素結合)を示すVASH1への分子ドッキング。
【
図5】細胞におけるVASH媒介チューブリン脱チロシン化の完全な阻害。LV-80またはビヒクル(DMSO)と24時間インキュベートしたヒトCHL-1細胞におけるチューブリン脱チロシン化レベルの分析およびVASH1/2ノックアウト細胞(2KOs)(Nieuwenhuis J. et al. Science, 2017, 358(6369):1453-1456に開示)との比較。ビンキュリン、ローディングコントロール。DeTyr、脱チロシン化。
【
図6-1】VASH酵素阻害剤の有利な安全性プロファイル。(A)タキソール(パクリタキセル)およびパルテノリドを参照として用いた細胞生存試験。(B)ビヒクル(DMSO)またはVASH特異的阻害剤LV-80とCHL-1細胞を24時間インキュベートした後の細胞代謝および細胞外酸性化速度(ECAR)の測定。24時間処理後のSeahorse XF Analyzerを用いた生CHL-1細胞の酸素消費速度(OCR)および細胞外酸性化速度(ECAR)の分析。OCR速度はミトコンドリア呼吸の重要な指標であり、培養細胞における細胞代謝機能の系レベルの視点(a systems-level view)を与える。
【
図6-2】VASH酵素阻害剤の有利な安全性プロファイル。(A)タキソール(パクリタキセル)およびパルテノリドを参照として用いた細胞生存試験。(B)ビヒクル(DMSO)またはVASH特異的阻害剤LV-80とCHL-1細胞を24時間インキュベートした後の細胞代謝および細胞外酸性化速度(ECAR)の測定。24時間処理後のSeahorse XF Analyzerを用いた生CHL-1細胞の酸素消費速度(OCR)および細胞外酸性化速度(ECAR)の分析。OCR速度はミトコンドリア呼吸の重要な指標であり、培養細胞における細胞代謝機能の系レベルの視点(a systems-level view)を与える。
【
図7】新たに開発されたVASH阻害剤はVASH酵素活性に特異的である。(A、B)VASH阻害剤LV-80(50μM)の非存在下または存在下におけるサイトゾルカルボキシペプチダーゼ1(CCP1)(A)およびCCP5(B)媒介チューブリン脱グルタミル化の分析。PolyE、長いグルタミン酸鎖を認識する抗体;GT335、分岐点グルタミン酸残基に対する抗体。(C)LV-80の特異性。BzlSA、ペプチド模倣ベンジルコハク酸。
【
図8】研究ツールとして新たに開発されたビオチン化バージョン。(A)ヒトCHL-1細胞におけるチューブリン脱チロシン化に対するビオチン化LV-80の濃度の増加の効果。(B)ビオチン化LV-80を用いた内在性VASHのプルダウンアッセイ。(C)ビオチン化LV-80を用いたヒト脳蛋白質溶解物由来の内在性VASHのプルダウンアッセイ。
【
図9】VASH阻害剤で処理した初代皮質ニューロンにおけるチューブリン脱チロシン化の大幅な減少。(A)ビヒクル(DMSO)またはVASH特異的阻害剤LV-80とインキュベートしたマウス初代皮質ニューロンの溶解物の分析。DeTyr、脱チロシン化されたチューブリン;TyrTub、チロシン化されたチューブリン;PolyE、長いグルタミン酸鎖を認識する抗体;GT335、分岐点グルタミン酸残基に対する抗体。(B)チューブリンチロシン化の定量。多重t検定でp値を算出した(n=3、*<0.05、**<0.01、***<0.001、****<0.0001)。(C)qPCRで解析した脱チロシン化の状態に関連する遺伝子の転写物レベル。(D)ビヒクル(DMSO)または阻害剤とインキュベートした後の神経分化マーカーの転写物レベル。(E)ビヒクル(DMSO)または阻害剤と7日間インキュベートした後のグリアマーカーの転写物レベル。
【
図10】脱チロシン化により、チューブリンはグルタミル化を受けやすくなる。ビヒクル(DMSO)またはVASH特異的阻害剤LV-80とインキュベートしたマウス初代皮質ニューロンにおける(A)チューブリングルタミル化レベル、(B)およびチューブリンアセチル化レベル。多重t検定でp値を算出した(n=3、*<0.05、**<0.01、***<0.001、****<0.0001)。(C)チューブリン脱チロシン化とグルタミル化との間のクロストーク。(D)ドロソフィラ(Drosophila)全タンパク質抽出物の分析。
【
図11】チューブリン脱チロシン化は初代皮質ニューロンのタウタンパク質結合に影響する。(A)分化5日後にビヒクル(DMSO)またはVASH特異的阻害剤LV-80と3日間インキュベートしたマウス初代皮質ニューロンの分析。DeTyr、脱チロシン化されたチューブリン;TyrTub、チロシン化されたチューブリン;PolyE、長いグルタミン酸鎖を認識する抗体;GT335、分岐点グルタミン酸残基に対する抗体。(B、C)(A)と同様に分化5日後にビヒクル(DMSO)またはVASH特異的阻害剤LV-80と3日間インキュベートしたマウス初代皮質ニューロンにおけるチューブリンの脱チロシン化およびチロシン化のレベル(B)、およびチューブリングルタミル化レベル(C)の定量。多重t検定でp値を算出した(n=3、*<0.05、**<0.01、***<0.001)。(D)ビヒクル(DMSO)またはVASH特異的阻害剤LV-80とインキュベートしたマウス初代皮質ニューロンにおけるタウタンパク質とチューブリンの共局在。(E)チューブリン-陽性領域におけるタウ免疫蛍光染色の自動定量(n>150)。多重t検定でp値を算出した(***<0.001)。(F)ビヒクル(DMSO)またはVASH特異的阻害剤LV-80とインキュベートしたマウス初代皮質ニューロンにおけるチューブリンの定量。陽性領域の免疫蛍光シグナルの自動定量(n>150)。多重t検定でp値を算出した(ns;有意ではない)。
【
図12】A.新たに開発されたプロドラッグ(LV-104およびLV-111)は、ヒトCHL-1細胞において、VASH依存性脱チロシン化の非常に効率的な阻害を示す。B.
【
図13】VASH阻害剤のインビトロおよびインセルロのアッセイ。A.この試験は、直接的なVASH阻害におけるR3の修飾の重要性を比較することを目的とする。LV-80、LV-104およびIBMT11を用いた標準化されたインビトロ脱チロシン化ELISAベースアッセイを用いて、表示の化合物の濃度をVASH活性について試験した。B.細胞ベースのアッセイを用いたVASH活性評価の前に、LV-80、LV-104およびIBMT11の濃度を上げてCHL-1細胞を処理した。
【
図14】処理後の細胞溶解液のバイオアナリシスにより、細胞浸透による変換が示される。25uMのLV-104でCHL-1細胞を1時間処理した。化合物添加直後(初期)および1時間後(上清)に培養上清を集めた。細胞を洗浄し、溶解し、LC/MS読み取り(細胞)のために処理して、LV-104およびその生物変換形態であるIBMT11を検出した。
【
図15】VASH阻害剤のインビトロおよびインセルロのアッセイ。A.LV-1、LV-80、IBMT11およびIBMT23を用いた標準化されたインビトロ脱チロシン化ELISAベースアッセイを用いて、表示の化合物の濃度をVASH活性について試験した。B.細胞ベースのアッセイを用いたVASH活性評価の前に、LV-1、LV-80、LV-104およびIBMT23の濃度を上げてCHL-1細胞を処理した。
【
図16】VASH阻害剤のインビトロおよびインセルロのアッセイ。A.LV-1、LV-80、IBMT11およびIBMT34、LV80のナトリウム塩を用いた標準化されたインビトロ脱チロシン化ELISAベースアッセイを用いて、表示の化合物の濃度をVASH活性について試験した。B.細胞ベースのアッセイを用いたVASH活性評価の前に、LV-80、LV-104、IBMT23およびIBMT34の濃度を上げてCHL-1細胞を処理した。
【
図17】VASH阻害剤のインビトロおよびインセルロのアッセイ。A.LV-1、LV-80、IBMT11、IBMT28およびIBMT28hydro(IBMT28sapoと命名)を用いた標準化されたインビトロ脱チロシン化ELISAベースアッセイを用いて、表示の化合物の濃度をVASH活性について試験した。B.細胞ベースのアッセイを用いたVASH活性評価の前に、LV-80、LV-104、IBMT28の濃度を上げてCHL-1細胞を処理した。
【
図18】VASH阻害剤のインビトロアッセイ。LV-1、LV-80、およびIBMT38hydro(IBMT38sapoと命名)を用いた標準化されたインビトロ脱チロシン化ELISAベースアッセイを用いて、表示の化合物の濃度をVASH活性について試験した。
【
図19】VASH阻害剤のインビトロアッセイ。LV-1/EpoY、LV-80、およびSD-139(Aillaud, C. et al. Science, 2017, 358, p.1448-1453に報告)を用いた標準化されたインビトロ脱チロシン化ELISAベースアッセイを用いて、表示の化合物の濃度をVASH活性について試験した。A.表示の化合物を用いたアッセイ;B.SD-139のtertブチル基を鹸化した後、表示の濃度で阻害アッセイを行う前。
【発明を実施するための形態】
【0018】
定義
本発明において使用される「立体異性体」という用語は、配置立体異性体、より具体的には光学異性体を意味する。
【0019】
本発明において、光学異性体は特に、Xに結合した置換基の空間上の位置が異なることから生じる。したがって、置換基が結合しているX基の炭素原子または窒素原子は、キラル中心または不斉中心である。したがって、互いに鏡像ではない光学異性体は「ジアステレオ異性体」と呼ばれ、鏡像を重ねることができない鏡像である光学異性体は「鏡像異性体」と呼ばれる。
【0020】
キラル化合物の2つの鏡像異性体の等モル混合物は、ラセミ混合物またはラセミ体と呼ばれる。
【0021】
本発明の文脈において、X基に結合した置換基の位置に応じて、本発明の化合物は、以下に示すように、立体配置(S,S)、立体配置(R,R)、立体配置(S,R)または立体配置(R,S)のジアステレオ異性体でありうる。
【0022】
【0023】
置換基の位置が化合物中で特定されない場合、上記化合物は、上記ジアステレオ異性体のいずれか1つ、または上記ジアステレオ異性体の混合物に相当する。
【0024】
本発明では、「薬学的に許容される」という用語は、医薬組成物の調製に有用なもの、および薬学的使用のために一般的に安全で毒性のないものを意味するよう意図される。
【0025】
「薬学的に許容される塩および/または溶媒和物」という用語は、本発明の枠組みにおいて、上に定義のように薬学的に許容され、かつ対応する化合物の薬理活性をもつ化合物の塩および/または溶媒和物を意味するよう意図される。
【0026】
薬学的に許容される塩は、
(1)塩酸や、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸と形成される;または酢酸や、ベンゼンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヒドロキシナフトエ酸(hydroxynaphtoic)、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムコン酸、2-ナフタレンスルホン酸、プロピオン酸、コハク酸、ジベンゾイル-L25酒石酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸、トリメチル酢酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸と形成される酸付加塩、および
(2)化合物中に存在する酸プロトンが、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、もしくはアルミニウムイオンなどの金属イオンで置換される、または有機塩基もしくは無機塩基で配位される場合に形成される塩基付加塩
を含んでなる。許容される有機塩基は、ジエタノールアミン、エタノールアミン、N-メチルグルカミン、トリエタノールアミン、トロメタミンなどを含んでなる。許容される無機塩基は、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムを含んでなる。
【0027】
本発明の化合物の治療用途に許容される溶媒和物には、溶媒の存在により、本発明の化合物の調製の最終段階の間に形成されるものなど、従来の溶媒和物が含まれる。一例として、水(これらの溶媒和物は水和物とも呼ばれる)またはエタノールの存在による溶媒和物を挙げることができる。
【0028】
本発明で使用される場合、「ハロゲン」という用語は、フッ素、臭素、塩素またはヨウ素原子を意味する。
【0029】
「Cx-Cy脂肪族鎖」という用語は、x~y個の炭素原子、とりわけ1~12個の炭素原子、好ましくは1~6個の炭素原子を含んでなる、完全飽和または1つもしくは複数の不飽和を含むが芳香族ではない直鎖または分枝状の炭化水素鎖を意味する。本発明によれば、「脂肪族鎖」という用語は、置換または非置換の、直鎖または分枝状の、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を包含する。
【0030】
本発明で使用される場合、「C1-C6アルキル」」と言う用語は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、iso-ブチル、sec-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシルなどを含むがこれらに限定されない、1~6個の炭素原子を含有する直鎖または分枝状の一価飽和炭化水素鎖を意味する。
【0031】
本発明で使用される場合、「C2-C6アルケニル」」と言う用語は、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニルなどを含むがこれらに限定されない、2~6個の炭素原子を含有し、かつ少なくとも1つの二重結合を含んでなる直鎖または分枝状の一価不飽和炭化水素鎖を意味する。
【0032】
本発明で使用される場合、「C2-C6アルキニル」」と言う用語は、エチニル、プロピニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニルなどを含むがこれらに限定されない、2~6個の炭素原子を含有し、かつ少なくとも1つの三重結合を含んでなる直鎖または分枝状の一価不飽和炭化水素鎖を意味する。
【0033】
本発明で使用される場合、「アリール」」と言う用語は、好ましくは6~12個の炭素原子を含んでなり、これらに限定されないが、例えばフェニルまたはナフチル基などの1つまたは複数の縮合環を含んでなる芳香族炭化水素を意味する。有利には、フェニル基である。
【0034】
本発明で使用される場合、「ヘテロアリール」」と言う用語は、1または数個、とりわけ1~4個、有利には1または2個の炭素原子がそれぞれ、硫黄原子、酸素原子および窒素原子から選択される、好ましくは酸素原子および窒素原子から選択されるヘテロ原子で置換されている、1または数個、とりわけ1または2個の縮合炭化水素サイクル(cycles)を含んでなる芳香族基を意味する。フリル、チエニル、ピロリル、ピリジル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアジニル、キノリル、イソキノリル、キノキサリルまたはインジルでありうる。
【0035】
本発明で使用される場合、「C1-C6-アルキルアリール」または「C1-C6アルキルヘテロアリール」という用語は、上に定義のアリール基または上に定義のヘテロアリール基でそれぞれ置換された、上に定義のアルキル基を意味する。有利には、「C1-C6-アルキルアリール」はベンジル基である。
【0036】
本発明の文脈において、「任意選択で置換される」とは、当該基が、特に、ハロゲン、C1-C6アルキル、C1-C6ハロアルキル、C2-C6アルケン、C2-C6アルキン、アリール、N3、オキソ、NRaRb、CORc、CO2Rd、CONReRf、ORg、N+RhRiRj、CNおよびNO2(ここでRa~Rjは互いに独立して、H、C1-C6アルキルまたはアリール、好ましくはHまたはC1-C6アルキル)から選択されうる1つまたは複数の置換基で任意選択で置換されることを意味する。
【0037】
「C1-C6ハロアルキル」という用語は、1つまたは複数の水素原子が、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素から選択されるハロゲン原子、好ましくはフッ素原子で置換されている、上に定義のC1-C6アルキル鎖を意味する。例えば、それはCF3基である。
【0038】
本発明の文脈において、「不飽和」とは、炭化水素鎖が1つまたは複数の不飽和(複数可)、すなわち二重結合C=Cまたは三重結合C≡Cを有利には1つを含有することを意味する。
【0039】
「医薬組成物」という用語は、本発明の枠組みにおいて、予防的特性および治療的特性を有する組成物を意味する。
【0040】
「ペプチドカップリング」という用語は、アミン官能基とカルボン酸官能基との化学反応を意味する。有利には、ペプチドカップリングは、N-ヒドロキシ-スクシンイミド(NHS)、N-ヒドロキシ-ベンゾトリアゾール(HOBt)、3,4-ジヒドロ-3-ヒドロキシ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアゾール(HOOBt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HAt)、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(sulfo NHS)、ジメチルアミノピリジン(DMAP)、ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)もしくはN-メチルモルホリン(NMM)などの添加剤または塩基を任意選択で伴って、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミドヒドロクロリド(EDC)、カルボニルジイミダゾール(CDI)、ヘキサフルオロホスファート-2-(1H-ベンゾトリアゾール-1イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウム(HBTU)、テトラフルオロボラート-2-(1H-ベンゾトリアゾール-1イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウム(TBTU)、ヘキサフルオロホスファート-O-(7-アゾベンゾトリアゾール-1イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウム(HATU)、(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)-トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(PyBOP)、7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(PyAOP)またはプロピルホスホン酸無水物などのカップリング剤の存在下で実施されることになる。
【0041】
本発明で使用される場合、「VASH(酵素)」という用語は、神経変性障害、精神障害、神経障害、繊毛病、がん、および筋ジストロフィーに関連する微小管脱チロシン化機構に関与するチューブリンカルボキシペプチダーゼ酵素(TCPase)を意味する。
【0042】
「生体分子」という用語は、生物学的特性を有する分子を意味する。本発明の文脈において、タンパク質、ペプチド、光標識剤などのバイオマーカー、またはE3ユビキチンリガーゼリクルーター(例えば、サリドマイド、VH032、VH101、dBET1、dFKBP12、QCA570、PROTAC6、ZNL-02-096またはd9A-2が挙げられるが、それらに限定されない)を意味する。
【0043】
本発明で使用される「PROTAC」という用語はPROteolysis Targeting Chimerasの短縮形である。「PROTAC E3リガーゼリクルーター」は、選択的でかつ完全なタンパク質分解のためのツールとして有用なリンカーでつながった2つリガンドを含んでなる複合体である。リガンドの一方は分解対象となるタンパク質と結合するよう意図され、もう一方はユビキチンリガーゼを標的とすべきである。結果として、PROTAC E3リガーゼリクルーターは、分解対象となるタンパク質とリガーゼを近接させることができ、標的タンパク質の(ポリ)ユビキチン化、すなわち、単一または複数の、小さな(8.6kDa)制御タンパク質であるユビキチンの基質タンパク質への付加をもたらす。(ポリ)ユビキチンタグは、分解対象となるタンパク質に付加され、そのタンパク質をプロテアソームによる分解に送る。「従来の」阻害剤とは違って、PROTAC E3リガーゼリクルーターは、選択的なタンパク質分解を誘導し、それによりすべての生物学的機能を抑制する。本発明の文脈において、分解対象となるタンパク質はVASH酵素である。したがって、VASH酵素と結合するよう意図されたPROTAC E3リガーゼリクルーターのリガンドは、式(I)の化合物の断片であり、ユビキチンリガーゼを標的とするよう意図されたリガンドは、典型的にはサリドマイドである。
【0044】
「プロドラッグ」という用語は、インセルロまたは生体内での生体内変換を経て、化学的または酵素的切断によって活性薬物を放出する、活性薬物の典型的に薬理学的に不活性な、または活性の低い誘導体に関する。「薬理学的に不活性な、または活性の低い誘導体」とは、本発明の文脈において、プロドラッグがインビトロの設定ではVASH活性部位の阻害に関して関連する活性を有しないことと理解される。しかし、インセルロおよび生体内のアッセイでは活性薬物を提供するために必要な変換が可能であるので、そのような試験においては活性がある。プロドラッグは、細胞浸透性の増加、溶解性、安定性の増大、バイオアベイラビリティの向上、副作用の軽減、より良い選択性など、親薬物と比べて多くの利点を提供することができる。プロドラッグの活性化には、CYP450やDT-ジアホラーゼのような酸化還元酵素、カルボキシルエステラーゼやβ-グルクロニダーゼのような加水分解酵素を含め、多くの酵素が関与するが、それらに限定されるものではない。
【0045】
本発明の文脈において、本開示に定義のプロドラッグ化合物は、インビトロで不活性であってもよい。しかし、プロドラッグ化合物は、より高い細胞浸透性をもつ。細胞への浸透後、プロドラッグ化合物は加水分解されて、対応する活性薬物、すなわち強力なVASH阻害剤が得られる。
【0046】
式(I)の化合物
本発明による化合物は、立体異性体または、鏡像異性体またはジアステレオ異性体の混合物などの立体異性体の混合物、とりわけラセミ混合物の形態でありうる。特定の実施形態によれば、式(I)の化合物は、上記で定義されたように、立体配置(S,S)、立体配置(R,R)、立体配置(S,R)または立体配置(R,S)の1つのジアステレオ異性体の形態である。
【0047】
本明細書で定義される式(I)は、活性化合物、すなわち薬物とそのプロドラッグの両方を包含する。
【0048】
特に、本発明による「プロドラッグ」という用語は、R3はOHではない式(I)の化合物を意味する。
【0049】
好ましくは、本発明によるプロドラッグは、R3が、O-C1-C6脂肪族鎖、O-アリール、O-C1-C6アルキル-アリール、O-ヘテロアリール、O-C1-C6アルキル-ヘテロアリールまたはNHOHであり、上記脂肪族鎖の最大で4つのメチレン単位が、O、C(O)、NHまたはN-C1-C6アルキルで任意選択で置換され、上記脂肪族鎖、アリール、ヘテロアリール、アルキル-ヘテロアリールまたはアルキル-アリールが任意選択で置換される式(I)の化合物である。プロドラッグでは、R3はとりわけ、O-C1-C6アルキルなどのO-C1-C6脂肪族鎖、特にO-エチル、またはO-ベンジルなどのO-C1-C6アルキル-アリールである。
【0050】
本発明の文脈において、「薬物」という用語は、R3がOHである式(I)の化合物を意味する。
【0051】
典型的には、R3は隣接するカルボキシル基と一緒にエステル基を形成する。プロドラッグから薬物に変換される際に、隣接するカルボキシル基が一緒にR3によって形成されるこのエステルは、典型的には、対応するカルボン酸中で加水分解される。
【0052】
本発明の文脈において、薬物は、プロドラッグ中に存在するエステル基が薬物中で、対応するカルボン酸に変換されるという点で、対応するプロドラッグとは異なる。好ましくは、プロドラッグは、隣接するカルボキシル基と一緒にR3によって形成されているエステル基を1つだけ含んでなる。したがって、典型的には、所与のプロドラッグに対応する薬物は、R3基を除いて、上記プロドラッグと同じ式を有する。言い換えれば、所与のプロドラッグおよびその薬物において、典型的には置換基R1、XおよびRは、それぞれ同一である。代替的には、プロドラッグは2つ以上のエステル基を含んでなることもある。そのような場合、すべてのエステル基が、対応する薬物のカルボン酸に変換される。
【0053】
好ましくは、式(I)の化合物は、立体配置(S,S)のジアステレオ異性体の形態であり、次の式(I-A)
【化8】
に相当する。
【0054】
より好ましい実施形態では、式(I-A)の化合物は次の鏡像異性体(I-A’)
【化9】
に相当する。
【0055】
好ましい実施形態では、Xは
【化10】
であり、好ましくは
【化11】
であり、かつR
1、R
2およびR
3は本開示に定義のとおりである。
【0056】
別の特定の実施形態では、Xは
【化12】
であり、好ましくは
【化13】
であり、かつR
1、R
2およびR
3は本開示に定義のとおりである。
【0057】
この実施形態によれば、R4は、とりわけHまたはC1-C12脂肪族鎖であり、最大で4つのメチレン単位は、O、C(O)、NHまたはN-C1-C6アルキルで任意選択で置換され、上記C1-C12脂肪族鎖は1つまたは複数のOH基で任意選択で置換される。特に、R4は、H、COOH、C(O)-C1-C6アルキル、(CH2)p-C(O)-C1-C6アルキル、C(O)-(CH2)p-C(O)-C1-C6アルキル、C(O)NHOH、(CH2)p-C(O)-NHOHおよびC(O)-(CH2)p-C(O)-NHOHからなる群のなかで選択され、pは1~4の整数であり、上記C1-C6アルキルは、とりわけメチルまたはエチル、好ましくはエチルである。
【0058】
別の特定の実施形態では、Xは以下であり、
【化14】
好ましくは以下であり、
【化15】
かつR
1、R
2およびR
3は本開示に定義のとおりである。
【0059】
好ましい実施形態によれば、RはOR2である。
【0060】
いくつかの実施形態によれば、R2は、H、C1-C6アルキルなどのC1-C6脂肪族鎖、またはC1-C6アルキル-アリールであり、上記脂肪族鎖またはアルキル-アリールは任意選択で置換される。好ましくは、R2は、H、任意選択で置換されたC1-C6アルキル、または任意選択で置換されたベンジルなどのC1-C6アルキル-アリールである。R2がメチルまたはエチルなどのC1-C6アルキルであるとき、それは非置換であるか、またはとりわけ、1つまたは複数のハロゲン、OH、NH2、N(C1-C6アルキル)2もしくはN+(C1-C6アルキル)3、特にN+(CH3)3で置換される。より好ましくは、R2は、H、C1-C6アルキルまたはベンジルである。さらにより好ましくは、R2は、エチルなどのC1-C6アルキルまたはベンジルである。
【0061】
いくつかの実施形態によれば、R2がHではないことが好ましい。そのような実施形態では、したがってR2は、好ましくは、C1-C6アルキルなどのC1-C6脂肪族鎖、またはC1-C6アルキル-アリールであり、上記脂肪族鎖またはアルキル-アリールは任意選択で置換され、より好ましくは、R2は、エチルなどのC1-C6アルキルまたはベンジルである。
【0062】
別の実施形態によれば、Rは、NH-S(O)2-R9であり、R9はC1-C6脂肪族鎖またはアリールであり、上記脂肪族鎖またはアリールは任意選択で置換される。好ましくは、R9は、メチルもしくはエチルなどのC1-C6アルキル、または任意選択で置換されたアリールである。R9がアリール、とりわけフェニルであるとき、好ましくは、非置換である、またはOH、もしくはメチルもしくはエチルなどのC1-C6アルキルで置換される。
【0063】
いくつかの他の実施形態によれば、R3は、OH、O-C1-C6脂肪族鎖、O-C1-C6アルキル-アリール、またはNHOHであり、上記脂肪族鎖は任意選択で置換される。好ましくは、R3は、OH、任意選択で置換されたO-C1-C6アルキル、O-アリルなどのO-C1-C6アルケニル、O-ベンジルなどのO-C1-C6アルキル-アリール、またはNHOHである。R3がO-メチルまたはO-エチルなどのO-C1-C6アルキルであるとき、上記アルキルはとりわけ、非置換である、または1つもしくは複数のハロゲン、OH、NH2、NH-C1-C6アルキル、N(C1-C6アルキル)2もしくはN+(C1-C6アルキル)3、特にN+(CH3)3で置換される。より好ましくは、R3は、OHまたはO-C1-C6アルキル、特にO-エチルである。
【0064】
いくつかの実施形態によれば、R1は、O-C1-C6アルキルまたはO-C2-C6アルケニルであり、ただし、R3がOHであるとき、R1はO-C1-C6アルキルではないことを条件とする。好ましくは、R1は、O-メチル、O-エチルまたはO-アリルであり、ただし、R3がOHであるとき、R1はO-C1-C6アルキルではないことを条件とする。R1がO-C1-C6アルキルであるとき、R3は、好ましくは、非置換であるか、または1つもしくは複数のハロゲン、OH、NH2、NH-C1-C6アルキル、N(C1-C6アルキル)2もしくはN+(C1-C6アルキル)3、特にN+(CH3)3で置換された、O-メチルまたはO-エチルなどのO-C1-C6アルキルである。より好ましくは、R1がO-C1-C6アルキル、とりわけO-エチルであるとき、R3はO-エチルである。R1がO-C1-C6アルキルのとき、R2はHではないことが好ましい。
【0065】
他の実施形態によれば、R1は、NR1aR1bであり、R1aは、HまたはメチルもしくはエチルなどのC1-C6アルキルであり、R1bは、OHまたはC1-C6アルキルであり、上記アルキルは、C(O)OH、C(O)O-C1-C6アルキルまたはアリールで任意選択で置換される。そのような実施形態では、R1は、NHOH、NH-C1-C6アルキルまたはN(C1-C6アルキル)2であることができ、メチル、エチル、n-プロピルまたはn-ブチルなどの上記アルキルは、非置換であるか、またはC(O)OH、C(O)-C1-C6アルキル、とりわけC(O)-メチルもしくはC(O)-エチル、もしくはフェニルなどのアリールで置換される。
【0066】
好ましい実施形態によれば、R
1は
【化16】
であり、好ましくは
【化17】
である。
【0067】
式(I)の化合物は次の式の化合物
【化18】
であることができ、式中、R、R
3、R
5、R
6、XおよびYは、本開示に定義のとおりである。
【0068】
好ましくは、式(I)の化合物は、次の立体配置を有する式(I-A
a)の化合物
【化19】
であり、式中、R、R
3、R
5、R
6、XおよびYは、本開示に定義のとおりである。
【0069】
より好ましくは、式(I)の化合物は、次の立体配置を有する式(I-A’
a)の化合物
【化20】
であり、式中、R、R
3、R
5、R
6、XおよびYは、本開示に定義のとおりである。
【0070】
【0071】
そのような実施形態では、R5は、好ましくは、OH、O-C1-C6アルキル、O-アリール、O-ヘテロアリール、O-C1-C6アルキル-アリール、O-C1-C6アルキル-ヘテロアリール、C(O)OH、C(O)O-C1-C6アルキル、C(O)NHOH、C(O)NH2、C(O)NH-C1-C6アルキル、C(O)NH-O-C1-C6アルキル、NH-C1-C6アルキル、N(C1-C6アルキル)2、NH-C(O)-C1-C6アルキルまたはNH-S(O)2-R9であり、上記アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルキル-アリールまたはアルキル-ヘテロアリールは任意選択で置換され、R9は上に定義のとおりである。より好ましくは、R5は、OH、O-メチルまたはO-エチルなどのO-C1-C6アルキル、O-ベンジルなどのO-C1-C6アルキル-アリール、C(O)-NH-O-tert-ブチルなどのC(O)NH-O-C1-C6アルキルまたはNH(S(O)2-R9であり、R9は好ましくは、非置換であるか、またはOH、もしくはメチルもしくはエチルなどのC1-C6アルキルで置換される。特に、R5は、O-C1-C6アルキルであり、とりわけO-エチルである。
【0072】
代替的には、Yは-(CH2)m-であることができ、mは、0~6、好ましくは0~4の整数である。より好ましくは、mは1または2であり、さらにより好ましくは、mは2である。Yが-(CH2)mである実施形態では、R5は、好ましくはC(O)OH、C(O)O-C1-C6アルキルまたはC(O)NHOHであり、上記アルキルは任意選択で置換される。より好ましくは、R5は、C(O)OH、C(O)OEtまたはC(O)NHOH、特にCOOHである。
【0073】
いくつかの実施形態によれば、R
6は、OHまたはO-メチル、O-エチルもしくはO-アリルなどのO-C
1-C
6脂肪族鎖であり、特にYが
【化22】
のとき、とりわけO-エチルである。
【0074】
他の特定の実施形態によれば、R6は、NH-CH(R7)-(CH2)n-R8であり、特にYが、-(CH2)m-であるとき、とりわけ-(CH2)2-である。そのような実施形態では、R7は、好ましくはH、C1-C6アルキル、ベンジルなどのC1-C6アルキル-アリール、またはCH2-インドール基などのC1-C6アルキル-ヘテロアリールである。R8は、好ましくはC(O)NH2、フェニルなどのアリール、インドールなどのヘテロアリール、SH、またはS-C(CH3)3などのS-C1-C6アルキルであり、nは、好ましくは0、1、2または3である。いくつかの実施形態では、R7は、C1-C6アルキルであり、R8は、C(O)NH2であり、nは0である。いくつかの他の好ましい実施形態では、R7は、Hであり、R8は、フェニルであり、nは、1、2または3、好ましくは1である。
【0075】
好ましい実施形態によれば、R
3がOHであるとき、R
1は
【化23】
であり、好ましくは
【化24】
である。
【0076】
好ましい実施形態では、式(I)の化合物は、上に定義の式(I-A’a)の化合物であり、式中、X、RおよびR
3は、上に定義のとおりであり、R
1は
【化25】
であり、好ましくは
【化26】
であり、
-Yは、-(CH
2)
m-であり、mは上に定義のとおりであり、とりわけmは2であり、R
5は、C(O)OH、C(O)OEtもしくはC(O)NHOHであり、R
6は、NH-CH(R
7)-(CH
2)
n-R
8であり、R
7は、H、C
1-C
6アルキル、ベンジルなどのC
1-C
6アルキル-アリール、もしくはCH
2-インドール基などのC
1-C
6アルキル-ヘテロアリールであり、R
8は、C(O)NH
2、フェニルなどのアリール、インドールなどのヘテロアリール、SH、もしくはS-C(CH
3)
3などのS-C
1-C
6アルキルであり、nは、0、1、2もしくは3であるか、または
-Yは
【化27】
であり、R
5は、OH、O-メチルもしくはO-エチルなどのO-C
1-C
6アルキル、O-ベンジルなどのO-C
1-C
6アルキル-アリールであり、R
6は、OHもしくはO-メチル、O-エチルもしくはO-アリルなどのO-C
1-C
6脂肪族鎖である。
【0077】
別の好ましい実施形態によれば、式(I)の化合物は式(I-A’)のものであり、式中、Xは
【化28】
であり、R
1は、O-C
1-C
6アルキル、特にO-エチルであり、Rは、OR
2であり、R
2は、好ましくはHまたはC
1-C
6アルキル、特にエチルであり、R
3は、OHまたはO-C
1-C
6アルキル、特にO-エチルである。
【0078】
より好ましい実施形態では、式(I)の化合物は式(I-A’
a)のものであり、式中Xは
【化29】
であり、Rは、OR
2であり、R
2は、好ましくはH、C
1-C
6アルキル、特にエチル、またはベンジルであり、R
3は、OHまたはO-C
1-C
6アルキル、特にO-エチルであり、R
1は
【化30】
であり、好ましくは
【化31】
であり、
式中、
-Yは、-(CH
2)
m-、特に-(CH
2)
2-であり、R
5はC(O)NHOHであり、R
6は、NH-CH
2-(CH
2)
n-R
8であり、R
8はフェニルなどのアリールであり、nは、1、2もしくは3、とりわけ1であるか、または
-Yは
【化32】
であり、R
5およびR
6は独立して、OHまたはO-メチル、O-エチルもしくはO-アリルなどのO-C
1-C
6脂肪族鎖、特にO-エチルである。
【0079】
別のより好ましい実施形態では、式(I)の化合物は式(I-A’)のものであり、式中、Xは
【化33】
であり、R
1は、NR
1aR
1bであり、R
1aは、好ましくはHであり、R
1bは、好ましくは、メチル、エチル、n-プロピルまたはn-ブチルなどのC
1-C
6アルキルであり、上記アルキルは、C(O)-メチルまたはC(O)-エチルで置換され、Rは、OR
2であり、R
2は、好ましくはC
1-C
6アルキル、特にエチルであり、R
3は、OHまたはO-C
1-C
6アルキル、特にO-エチルである。
【0080】
特定の実施形態によれば、式(I)の化合物は次の式(I-bis)のもの
【化34】
またはその薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒和物であり、
式中
Xは
【化35】
であり、
R
1は、O-C
1-C
6アルキル、O-C
2-C
6アルケニル、NH-OH、または
【化36】
であり、
R
2は、H、C
1-C
6脂肪族鎖、アリール、ヘテロアリールまたはC
1-C
6アルキル-アリールであり、上記脂肪族鎖の最大で4つのメチレン単位は、O、C(O)、NHまたはN-C
1-C
6アルキルで任意選択で置換され、上記脂肪族鎖、アリール、ヘテロアリールまたはアルキル-アリールは、任意選択で置換され、
R
3は、OH、O-C
1-C
6脂肪族鎖、O-アリール、O-C
1-C
6アルキル-アリール、O-ヘテロアリール、O-C
1-C
6アルキル-ヘテロアリールまたはNHOHであり、上記脂肪族鎖の最大で4つのメチレン単位は、O、C(O)、NHまたはN-C
1-C
6アルキルで任意選択で置換され、上記脂肪族鎖、アリール、ヘテロアリール、アルキル-ヘテロアリールまたはアルキル-アリールは、任意選択で置換され、
R
4は、HまたはC
1-C
12脂肪族鎖であり、最大で4つのメチレン単位は、O、C(O)、NHまたはN-C
1-C
6アルキルで任意選択で置換され、上記C
1-C
12脂肪族鎖は任意選択で置換され、
Yは、-(CH
2)
m-または
【化37】
であり、
R
5は、OH、O-C
1-C
6アルキル、C
2-C
6アルケニル、C
2-C
6アルキニル、アリール、ヘテロアリール、O-C
1-C
6アルキル-アリール、O-C
1-C
6アルキル-ヘテロアリール、C(O)OH、C(O)O-C
1-C
6アルキルまたはC(O)NHOHであり、上記アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルキル-アリールまたはアルキル-ヘテロアリールは、任意選択で置換され、
R
6は、OH、O-C
1-C
6アルキル、NH-OHまたはNH-CH(R
7)-(CH
2)
n-R
8であり、上記アルキルは、任意選択で置換され、
R
7は、H、C
1-C
6アルキル、C
2-C
6アルケニル、C
2-C
6アルキニル、アリール、ヘテロアリール、C
1-C
6アルキル-アリールまたはC
1-C
6アルキル-ヘテロアリールであり、
R
8は、C(O)NH
2、C(O)NH-C
1-C
6アルキル、アリール、ヘテロアリール、SH、NH
2またはS-C
1-C
6アルキルであり、mおよびnはそれぞれ独立して、0~6の範囲の整数であり
ただし、Xが
【化38】
であり、かつR
3がOHであるとき、R
1は、O-C
1-C
6アルキルではないことを条件とする。
【0081】
特に、式(I)の化合物は以下
【化39】
ではない。
【0082】
好ましくは、式(I)の化合物は以下
【化40】
ではない。これはWilliam R. Roush et al. Synthesis, 1999, p.1500-1504に記載されている。
【0083】
好ましくは、式(I)の化合物は以下
【化41】
ではない。これはAillaud, C. et al. Science, 2017, 358, p.1448-1453, Supplementary materialに化合物SD-139として記載されている。
【0084】
特定の実施形態によれば、式(I)の化合物は、アミノ酸またはペプチドをベースとするVASH阻害剤である。本発明による「アミノ酸またはペプチドをベースとするVASH阻害剤」とは、1~20個のアミノ酸から構成されるペプチド部分を含有するVASH阻害剤を意味し、アミノ酸または最もC末端のアミノ酸がYおよびFから選択され、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質の活性を少なくとも部分的に標的とし、阻害することができ、それにより微小管脱チロシン化を阻害することができる。
【0085】
「アミノ酸部分」という用語は1個のアミノ酸を意味し、「ペプチド部分」という用語は、少なくとも2個のアミノ酸および最大20個のアミノ酸を含有する部分を意味する。ペプチド部分が2つ以上のアミノ酸を含んでなる場合、上記アミノ酸はペプチド結合により一緒に結合し、化学修飾されているか否かを問わない。
【0086】
好ましい実施形態によれば、式(I)の化合物は、以下
【化42-1】
【化42-2】
【化42-3】
【化42-4】
【化42-5】
【化42-6】
ならびにその薬学的に許容される塩および/または溶媒和物のなかで選択される。
【0087】
特定の実施形態では、本発明による式(I)の化合物は、上に定義され、とりわけ以下からなる群
【化43-1】
【化43-2】
【化43-3】
のなかで選択されるプロドラッグである。
【0088】
特定の実施形態では、本発明による式(I)の化合物は、上に定義され、とりわけ以下からなる群
【化44-1】
【化44-2】
【化44-3】
【化44-4】
のなかで選択される薬物である。
【0089】
特定の好ましい実施形態では、本発明による式(I)の化合物は、化合物LV-80~LV-124およびその複合体からなる群のなかで選択される。
【0090】
特定の実施形態では、本発明による式(I)の化合物は、LV-80またはその複合体である。
【0091】
特定の実施形態では、本発明による式(I)の化合物は、LV-91またはその複合体である。
【0092】
特定の実施形態では、本発明による式(I)の化合物は、LV-104またはその複合体である。LV-104は、対応する活性薬物IBMT11のプロドラッグでありうる。
【0093】
特定の実施形態では、本発明による式(I)の化合物は、LV-111またはその複合体である。LV-111は、対応する活性薬物のプロドラッグでありうる。
【0094】
特定の実施形態では、本発明による式(I)の化合物は、IBMT23またはその複合体である。IBMT23は、対応する活性薬物のプロドラッグでありうる。
【0095】
式(I)の化合物の調製方法
上記の式(I)の化合物、またはその薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒和物は、以下のステップ
(a)式(II)の化合物
【化45】
を式(III)の化合物
【化46】
(式中、R
Zは上に定義のR
1またはOHである)
と反応させること
(b)任意選択で、OHであるR
Zを上に定義のR
1に変換すること
を含んでなる方法によって得ることができる。
【0096】
式(III)の化合物は当業者に周知の方法に従って得ることができる。
【0097】
式(II)と式(III)の化合物間の反応は、とりわけ上に定義のペプチドカップリングである。
【0098】
式(II)の化合物は、とりわけ
【化47】
である。
【0099】
任意選択で、式(II)と式(III)の化合物間の反応の前または後に、当業者に周知の保護/脱保護および/または官能化の追加の工程を行って、上記の好適な置換基をもつ式(I)の化合物を得ることができる。
【0100】
特に、R
ZがOHであるとき、ステップ(a)で得られる化合物は以下
【化48】
とのペプチドカップリングを経て、R
1が
【化49】
である式(I)の化合物が得られる。
【0101】
式(I)の化合物の製造方法において実施される1つまたは複数のペプチドカップリングは、とりわけカップリング剤としてPyAOPの存在下で達成される。好ましくは、ベースDIEAも使用される。
【0102】
ペプチドカップリングは、固体支持体上で、とりわけ試薬の1つであるアミン部分または酸部分が付いた樹脂を用いることによって実施することができる。そのような方法は当業者に周知である。
【0103】
生体分子に結合した式(I)の化合物の断片を含んでなる複合体
本発明はまた、生体分子(例えば、ペプチド、タンパク質、バイオマーカー(例として、ローダミン、シアニン誘導体もしくはフルオレセインなどの光標識剤)、ビオチンなどの親和性プローブ、またはE3ユビキチンリガーゼリクルーター(サリドマイド、VH032、VH101、dBET1、dFKBP12、QCA570、PROTAC6、ZNL-02-096もしくはd9A-2を含むがそれらに限定されない))に結合した上記の式(I)の化合物の断片を含んでなる複合体に関する。
【0104】
「式(I)の化合物の断片」という用語は、例えばリンカーを介した生体分子への結合により一方の端が修飾される式(I)の化合物を意味する。したがって、典型的には、R
1基は上記結合を可能にするように修飾される。例えば、本発明による複合体では、式(I)の化合物の断片は以下の部分
【化50】
を意味し、
式中
【化51】
は、断片と複合体の残りの部分との間の単一結合であり、R、R
3、X、YおよびR
5は、本開示に定義のとおりである。
【0105】
特定の実施形態によれば、本発明による複合体は、次の式(I’)
【化52】
またはその薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒和物を有し、
式中
Bは生体分子(例えば、ペプチド、タンパク質、バイオマーカー(例として、光標識剤)、またはE3リガーゼリクルーター(サリドマイドなど))であり、
Lはリンカーであり、
R、R
3、X、YおよびR
5は上に定義のとおりである。
【0106】
好ましい実施形態によれば、式(I’)の複合体は、次の立体配置を有する式(I’-A)の複合体
【化53】
である。
【0107】
特に、式(I’)の複合体は、次の立体配置を有する式(I’-A
a)の複合体
【化54】
である。
【0108】
式(I’)、特に式(I’-A
a)の複合体では、Xは好ましくは
【化55】
である。
【0109】
Rは、好ましくはOR2であり、R2は、有利にはHまたはC1-C6アルキル、特にエチルまたはベンジルである。R3は、好ましくは、OHまたはO-C1-C6アルキル、特にO-エチルである。
【0110】
Yは、-(CH
2)
m-または
【化56】
であることができる。
【0111】
Yが、-(CH
2)
m-、特に-(CH
2)
2-であるとき、R
5は、好ましくはC(O)NHOHであり、R
6は、好ましくはNH-CH
2-(CH
2)
n-R
8であり、R
8は、有利にはフェニルなどのアリールであり、nは、有利には1、2または3、とりわけ1である。Yが
【化57】
であるとき、R
5は、好ましくは、OHまたはO-メチルもしくはO-エチルなどのO-C
1-C
6アルキル、特にO-エチルである。
【0112】
いくつかの実施形態によれば、リンカーLは、C1-C12脂肪族鎖に由来する二価ラジカルに対応し、1つまたは複数のメチレン単位(複数可)は、アリレンまたは断片-O-、-S-、-C(=O)-、-SO2-および-N(C1-C6アルキル)-から選択される構造リンカーで置換され、上記脂肪族鎖は、非置換であるか、またはハロゲン、OH、C1-C6アルキルおよび/またはベンジル基などのC1-C6アルキルアリール基、例えばベンジル基から選択される1つまたは複数のラジカルで置換される。
【0113】
好ましくは、生体分子はE3リガーゼリクルーター、とりわけサリドマイドであり、したがって複合体はPROTAC E3リガーゼリクルーターである。
【0114】
したがって、好ましい実施形態では、複合体は、次の式(II’)のPROTAC E3リガーゼリクルーター
【化58】
であり、X、Y、L、R
2、R
3およびR
5は上に定義のとおりである。
【0115】
例えば、PROTAC E3リガーゼリクルーターは
【化59】
であり、式中、Xは上に定義のとおりであり、特にXは
【化60】
である。
【0116】
別の実施形態では、生体分子は、親和性プローブであり、式(I’)の複合体は
【化61】
であることができ、ここで、式(I)の化合物はビオチンに結合している。
【0117】
別の実施形態では、生体分子は光標識剤であり、式(I’)の複合体は
【化62】
であることができ、ここで、式(I)の化合物はローダミンに結合している。
【0118】
医薬組成物
本発明はまた、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤ならびに少なくとも1つの上記の式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒和物を含んでなる医薬組成物に関する。
【0119】
本発明はまた、式(I’)の複合体、またはその薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒和物など、少なくとも1つの上記の複合体、ならびに少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含んでなる医薬組成物に関する。
【0120】
本発明の医薬組成物は、経口投与または非経口投与(皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、眼内投与、硝子体内投与、局所投与、舌下投与を含むがこれらに限定されない)を意図することができ、好ましくは経口投与または静脈内投与である。有効成分は、動物、好ましくはヒトを含む哺乳動物に、従来の医薬担体と混合して投与するための単位形態で投与することができる。
【0121】
経口投与の場合、医薬組成物は固体または液体(溶液または懸濁液)の形態でありうる。
【0122】
固体組成物は、錠剤、ゼラチンカプセル、粉末、顆粒などの形態であることができる。錠剤では、有効成分は、ゼラチンや、デンプン、乳糖、ステアリン酸マグネシウム、タルク、アラビアゴムなどの医薬ビヒクル(複数可)と混合した後、圧縮することができる。錠剤は、特に蔗糖または他の好適な材料でさらにコーティングしてもよく、またはそれらが持続もしくは遅延した活性を有するように処理してもよい。粉末または顆粒では、有効成分は、分散剤、湿潤剤または懸濁剤、および矯味矯臭剤または甘味料と混合または造粒することができる。ゼラチンカプセルでは、有効成分は、前述のような粉末もしくは顆粒の形態、または後述のような液体組成物の形態で、ソフトまたはハードゼラチンカプセルに導入することができる。
【0123】
液体組成物は、水などの溶媒中に、有効成分を甘味料、矯味剤、好適な着色料と一緒に含むことができる。さらに、液体組成物は、上記のような粉末または顆粒を、水、ジュース、牛乳などの液体に懸濁または溶解することによっても得ることができる。例えば、シロップまたはエリキシルであることができる。
【0124】
非経口投与の場合、組成物は、懸濁剤および/または湿潤剤を含有しうる水性懸濁液または溶液の形態でありうる。組成物は有利には無菌である。(特に血液と比較して)等張の溶液の形態でありうる。
【0125】
使用
治療での使用
式(I)の化合物、薬学的に許容される塩および/または溶媒和物、または本発明による医薬組成物はVASH阻害剤として作用し、これは、微小管の脱チロシン化を触媒するVASHのプチダーゼ活性を阻害することができることを意味する。このVASHペプチダーゼ活性が調節不能になり、とりわけ異常に増加すると、以下に定義するような重症な障害を引き起こす。
【0126】
Xが、
【化63】
である式(I)の化合物はとりわけ不可逆的なVASH阻害剤であり、VASH酵素に共有結合する。
【0127】
Xが、
【化64】
である式(I)の化合物はとりわけ可逆的なVASH阻害剤であり、VASHペプチダーゼ酵素活性が回復しうることを意味する。
【0128】
本発明は、薬物として、特にVASHペプチダーゼ活性関連障害の予防および/または治療に使用するための、本発明による式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒和物に関する。
【0129】
言いかえれば、本発明は、本発明による式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒和物の使用であって、とりわけVASHペプチダーゼ活性関連障害の予防および/または治療を意図した薬物の製造のための、使用に関する。
【0130】
言いかえれば、本発明は、本発明による式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒和物の使用であって、VASHペプチダーゼ活性関連障害の予防および/または治療のための、使用に関する。
【0131】
言いかえれば、本発明は、VASHペプチダーゼ活性関連障害を予防および/または治療するための方法であって、それを必要とする人に、本発明による式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒和物の有効量を投与することを含んでなる、方法に関する。
【0132】
別の態様によれば、本発明は、薬物として、特にVASHペプチダーゼ活性関連障害の予防および/または治療に使用するための、本発明による医薬組成物に関する。
【0133】
言いかえれば、本発明は、本発明による医薬組成物の使用であって、とりわけVASHペプチダーゼ活性関連障害の予防および/または治療を意図した薬物の製造のための、使用に関する。
【0134】
言いかえれば、本発明は、本発明による医薬組成物の使用であって、VASHペプチダーゼ活性関連障害の予防および/または治療のための、使用に関する。
【0135】
言いかえれば、本発明は、VASHペプチダーゼ活性関連障害を予防および/または治療するための方法であって、それを必要とする人に、本発明による医薬組成物の有効量を投与することを含んでなる、方法に関する。
【0136】
別の態様によれば、本発明は、薬物として、特にVASHペプチダーゼ活性関連障害の予防および/または治療に使用するための、本発明による複合体に関する。
【0137】
言いかえれば、本発明は、本発明による複合体の使用であって、とりわけVASHペプチダーゼ活性関連障害の予防および/または治療を意図した薬物の製造のための、使用に関する。
【0138】
言いかえれば、本発明は、本発明による複合体の使用であって、VASHペプチダーゼ活性関連障害の予防および/または治療のための、使用に関する。
【0139】
言いかえれば、本発明は、VASHペプチダーゼ活性関連障害を予防および/または治療するための方法であって、それを必要とする人に、本発明による複合体の有効量を投与することを含んでなる、方法に関する。
【0140】
好ましい実施形態は、薬物として、特にVASHペプチダーゼ活性関連障害の予防および/または治療に使用するための、とりわけ上に定義の式(I’’)の本発明によるPROTAC E3リガーゼリクルーターに関する。そのようなPROTAC E3リガーゼリクルーターは、VASH酵素を選択的に標的とし、プロテアソームによるその全分解を誘導することができる。
【0141】
Xが、
【化65】
である式(I’’)の複合体は、とりわけ不可逆的なPROTAC E3リガーゼリクルーターである。
【0142】
Xが、
【化66】
である式(I’’)の複合体は、とりわけ可逆的なPROTAC E3リガーゼリクルーターである。
【0143】
本発明によれば、VASHペプチダーゼ活性関連障害は、好ましくは、線維症、がんおよびチューブリンカルボキシペプチダーゼ関連疾患から選択される。
【0144】
特に、VASHペプチダーゼ活性関連障害は、微小管の脱チロシン化および/またはポリグルタミル化に関与する障害であり、とりわけ、アルツハイマー病またはパーキンソン病などの神経変性疾患、緑内障、精神障害、神経障害、結腸がんや神経芽細胞腫などのがん、筋ジストロフィー、不妊症、網膜変性症、プルキンエ細胞疾患、乳児発症型変性、男性不妊症および繊毛病、特に、神経変性疾患、がん、および筋ジストロフィーから選択される。
【0145】
特に、VASHペプチダーゼ活性-関連障害は、微小管脱チロシン化の変化が関与する障害を含むが、これに限定されないチューブリンカルボキシペプチダーゼ関連疾患である。
【0146】
特定の実施形態によれば、微小管脱チロシン化の変化が関与する障害は、アルツハイマー病またはパーキンソン病などの神経変性疾患、緑内障、精神障害、および神経障害、結腸がんや神経芽細胞腫などのがん、筋ジストロフィー、不妊症、網膜変性症および繊毛病、特に、神経変性疾患、がん、および筋ジストロフィーから選択されうる。
【0147】
別の態様では、VASHペプチダーゼ活性関連障害は、ポリグルタミル化が関与する障害を含む、チューブリンカルボキシペプチダーゼ関連疾患である。
【0148】
特定の実施形態によれば、ポリグルタミル化が関与する障害は、神経変性、神経発達障害、プルキンエ細胞疾患、乳児発症型変性、繊毛病、男性不妊症、がん、呼吸障害、網膜変性症、出血性障害、非メンデル型遺伝障害(non-Mendelian inheretence disorders)から選択されうる。
【0149】
研究ツールとしての使用
別の態様によれば、本発明は特に、
-新規VASH阻害剤を特定する、かつ/またはその阻害剤効率を定量するためのインビトロおよび/またはインセルロのスクリーニングアッセイ、
-特に、その発生や、悪性度(aggressiveness)、進行など、VASHペプチダーゼ活性関連障害におけるチューブリン脱チロシン化の役割を研究するためのインビトロ方法、
-微小管の脱チロシン化および/またはポリグルタミル化の異常が関与するVASHペプチダーゼ活性関連障害を特定またはモニターするためのインビトロ診断法、
-ならびに上記スクリーニングアッセイおよび方法を行うための関連キット
からなる群のなかで選択される研究および開発活動用の研究ツールとして使用するための、本発明による式(I)の化合物またはその複合体に関する。
【0150】
これらの研究開発活動は、上記式(I)の化合物またはその複合体の例示的ではあるが限定的ではない用途の例である。
【0151】
上記式(I)の化合物またはその複合体は、上記インビトロまたはインセルロのスクリーニングアッセイまたは方法での陽性対照として使用される。
【0152】
上記式(I)の化合物は、例えば、蛍光色素、UV感受性色素、HRP、アルカリホスファターゼ、ビオチンと結合させることができるが、それらに限定されない。
【0153】
特定の実施形態では、本発明による式(I)の化合物またはその複合体は、式(I)の化合物が陽性対照として使用されるVASH阻害剤のインビトロスクリーニングアッセイ(一次スクリーニングアッセイ)に使用される。
【0154】
一例として、スクリーニングアッセイは、式(I)の化合物またはその複合体が陽性対照としてプレートにコーティングされる免疫アッセイである。
【0155】
本発明はまた、式(I)の化合物またはその複合体を陽性対照として含んでなるVASH阻害剤の一次スクリーニングアッセイのためのインビトロキットアッセイに関する。
【0156】
別の特定の実施形態では、本発明による式(I)の化合物またはその複合体は、式(I)の化合物またはその複合体が陽性対照として使用されるVASH阻害剤(二次スクリーニングアッセイ)のインセルロスクリーニングアッセイに使用される。
【0157】
本発明はまた、式(I)の化合物またはその複合体を陽性対照として含んでなるVASH阻害剤の二次スクリーニングアッセイのためのインセルロキットアッセイに関する。
【0158】
好ましい実施形態では、インセルロキットアッセイは、CHL細胞株および陽性対照として式(I)の化合物を含んでなる。
【0159】
別の特定の実施形態では、本発明による式(I)の化合物またはその複合体は、特に、チューブリン脱チロシン化関連障害、その発生や、悪性度、進行など(例えば、がん)におけるチューブリン脱チロシン化の役割をより良く理解するためのツールとして使用される。
【0160】
よって、本発明はまた、以下のステップ
(i)C末端遊離チロシンの切断および遊離(脱チロシン化)の条件下において、被験化合物の存在もしくは非存在下(陰性対照)で、または本発明による式(I)の化合物またはその複合体の存在下(陽性対照)で、(a)α-チューブリンのC末端配列の少なくとも最後の4つのアミノ酸残基を有するアミノ酸配列および/または微小管結合タンパク質(MAP)と、最もC末端のアミノ酸残基としてチロシン(Y)とを含んでなる、VASH1またはVASH2酵素の基質、および(b)単離または組み換えVAHS1またはVASH2を接触させること、
(ii)C末端遊離チロシンの切断および遊離の関連するシグナルを検出および測定するための試薬を使用すること、
(iii)被験化合物の存在および非存在(陰性対照)および本発明による式(I)の化合物またはその複合体の存在下(陽性対照)で、C末端遊離チロシンのレベルを測定および比較すること、ならびに
(iv)C末端遊離チロシンのレベルが、被験化合物(VASH阻害剤)の存在下で減少する化合物を選択すること、
(v)任意選択で、本発明による式(I)の化合物またはその複合体(陽性対照)の存在下でC末端遊離チロシンのレベルと比較して、上記VASH阻害剤化合物の阻害剤効率を分類すること
を含んでなる、VASH阻害剤を特定するためのインビトロスクリーニングアッセイに関する。
【0161】
特定の実施形態では、VASH1またはVASH2酵素の基質は、精製された組み換えα-チューブリンおよび国際公開第2020/012002号に開示の組み換え人工テロキンからなる群のなかで選択される。
【0162】
特定の実施形態では、C末端遊離チロシンを検出するステップ(ii)では、チロシナーゼを使用する比色アッセイが用いられる。
【0163】
別の特定の実施形態では、インビトロスクリーニングアッセイは免疫アッセイであり、そのステップ(ii)は、
-抗体-切断基質の複合体形成に有利な条件下で、脱チロシン化α-チューブリンに対して産生された特異的標識抗体(dTyr-Ab)の有効量を加えること、および
-標識シグナルを明らかにするための手段、
または代替的には、
-抗体-切断基質の複合体形成に有利な条件下で、脱チロシン化α-チューブリンに対して産生された一次特異的抗体(dTyr-Ab)の有効量を加えること、
-一次抗体-切断された基質-標識二次抗体の複合体形成に有利な条件下で、一次抗体に特異的な二次標識抗体の有効量を加えること、および
-標識シグナルを明らかにするための手段
を含んでなり、反応は可溶性(流体)相または固相で起こる。
【0164】
特に、抗体は、酵素、蛍光化合物およびフルオロフォア、(化学)発光化合物および放射性元素からなる群のなかで選択されるマーカー、好ましくは酵素、より好ましくはペルオキシダーゼで標識される。
【0165】
特に、免疫アッセイは、酵素免疫アッセイ、フルオロ免疫アッセイ、発光免疫アッセイまたはラジオ免疫アッセイ、好ましくはドットブロットまたは酵素免疫アッセイ(ELISA)である。
【0166】
特定の実施形態では、VASH阻害剤を特定するためのインビトロスクリーニング免疫アッセイは固相で行われ、
-VASH1もしくはVASH2の基質が、固体支持体、特に膜もしくはマイクロプレート上にコーティングされ、VASH1もしくはVASH2酵素、被験化合物(複数可)および切断された基質、特に脱チロシン化α-チューブリンに対して産生された抗体(dTyr-Ab)(任意選択で、標識される、もしくは一次抗体に対して産生された標識二次抗体と組み合わされる)が反応溶液に加えられるか、または
-代替的には、切断された基質、特に脱チロシン化α-チューブリンに対して産生された抗体(dTyr-Ab)が、固体支持体、特に膜もしくはマイクロプレートにコーティングされ、VASH1もしくはVASH2酵素、上記VASH1もしくはVASH2の基質、被験化合物(複数可)、および切断された基質に対して産生された二次標識抗体が反応溶液に加えられるか、または
-代替的には、VASH1もしくはVASH2酵素が、固体支持体、特に膜もしくはマイクロプレートにコーティングされ、上記VASH1もしくはVASH2の基質、被験化合物(複数可)、および切断された基質、特に脱チロシン化α-チューブリンに対して産生された抗体(dTyr-Ab)(任意選択で、標識される、もしくは一次抗体に対して産生された標識二次抗体と組み合わされる)が反応溶液に加えられる。
【0167】
本発明はまた、上に開示のVASH阻害剤を特定するためのインビトロスクリーニング免疫アッセイを行うためのキットであって、
(i)VASH1またはVASH2酵素基質、好ましくは、組み換えα-チューブリンまたは国際公開第2020/012002号に開示の人工テロキン、
(ii)VASH1またはVASH2酵素、好ましくは、単離または組み換えVASH1またはVAHS2、
(iii)切断された基質、好ましくは脱チロシン化α-チューブリンに対して産生され(dTyr-Ab)、特に脱チロシン化α-チューブリンSF9に対して産生され(dTyr-Ab SF9)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)に結合された抗体、および任意選択で、切断基質抗体、好ましくは脱チロシン化α-チューブリン抗体に対して産生された二次抗体、
(iv)チロシン化されていない、単離または組み換えα-チューブリンまたはテロキンを含んでなる陰性対照、
(v)陽性対照としての本発明による式(I)の化合物またはその複合体、
(vi)VASH1の基質もしくはVASH2の基質のいずれか、VASH1酵素もしくはVASH2酵素のいずれかをコーティングまたはプレコーティングするための流体容器または代替的には固体支持体、好ましくはマイクロプレート、
(vii)基質切断、好ましくは脱チロシン化の反応条件における上記基質とVASH1またはVASH2酵素の接触を可能にする試薬、
(viii)基質切断、好ましくは脱チロシン化のレベルを検出および測定するための試薬;ならびに
(ix)任意選択で使用通知書(notice of use)
を含んでなる、キットに関する。
【0168】
別の特定の実施形態では、本発明による式(I)の化合物またはその複合体は、VASHペプチダーゼ活性を定量するためのインセルロ方法で使用される。
【0169】
本発明はまた、VASH阻害剤を特定するためのインセルロスクリーニングアッセイであって、
(i)CHL-1細胞を培養し、それらをマルチウェル培養皿に播くこと、
(ii)CHL-1細胞を、被験推定VASH阻害剤の非存在(陰性対照)もしくは存在下、または本発明による式(I)の化合物もしくはその複合体(陽性対照)の存在下においてタキソールで処理すること、
(iii)抗体-切断基質の複合体形成に有利な条件下で、脱チロシン化α-チューブリンに対して産生された特異的標識抗体(dTyr-Ab)および標識シグナルを明らかにするための手段を用いてタンパク質試料に含まれる脱チロシン化活性を検出すること、
(iv)被験化合物の存在および非存在下(陰性対照)ならびに本発明による式(I)の化合物またはその複合体(陽性対照)の存在下で、タキソール誘導脱チロシン化のレベルを測定および比較すること、
(v)タキソール誘導脱チロシン化のレベルが、被験化合物の存在下で減少している化合物(VASH阻害剤)を選択すること、
(vi)任意選択で、本発明による式(I)の化合物またはその複合体(陽性対照)の存在下におけるタキソール誘導脱チロシン化レベルの減少と比較して、上記VASH阻害剤化合物の阻害剤効率を分類すること
を含んでなる、アッセイに関する。
【0170】
本発明はまた、VASH阻害剤を特定するためのインセルロスクリーニングアッセイを行うためのキットであって、
(i)CHL-1細胞、
(ii)タキソール、
(iii)脱チロシン化α-チューブリンに対して産生された抗体(dTyr-Ab)、
(iv)陽性対照としての本発明による式(I)の化合物またはその複合体、
(v)CHL-1細胞をコーティングまたはプレコーティングするための流体容器または代替的には固体支持体、好ましくはマイクロプレート、
(vi)脱チロシン化の反応条件におけるタキソールで前処理した上記CHL-1細胞と、被験化合物または陽性対照との接触を可能にする試薬、
(vii)タキソール誘導脱チロシン化レベルの減少を検出および測定するための試薬、ならびに
(viii)任意選択で使用通知書
を含んでなる、キットに関する。
【0171】
別の特定の実施形態では、本発明による式(I)の化合物またはその複合体は、VASHペプチダーゼ活性関連障害を検出するためのインビトロ診断法に使用される。
【0172】
よって、本発明はまた、式(I)の化合物またはその複合体が陽性対照として使用されるインビトロ診断法のためのキットアッセイに関する。
【実施例】
【0173】
1)合成
略語:
Aad:α-アミノアジピン酸
All:アリル基
BOP:ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスファート
DCM:ジクロロメタン
DIEA:N,N-ジイソプロピルエチルアミン
DMF:ジメチルホルムアミド
DMSO:ジメチルスルホキシド
HATU:1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスファート
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
PyAOP:7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート
RM:反応混合物
RT:室温(18℃~25℃)
SPPS:固相ペプチド合成
TES:Trans-エポキシコハク酸
TFA:トリフルオロ酢酸
THF:テトラヒドロフラン
TiS:トリイソプロピルシラン
Tyr:チロシン
【0174】
1.1)材料
フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)保護アミノ酸および1-[Bis(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスファート(HATU)はすべて、Iris Biotech GmbHから得た。ピペリジン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)、TFA、トリイソプロピルシラン(TIS)、ジクロロメタン(DCM)、1,2-ジクロロエタン(DCE)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリジノン(NMP)およびエチルエーテル(Et2O)はシグマアルドリッチから得た。AmphiSpheres40 RAM 0.38mmol/g 75~150μm樹脂はアジレント・テクノロジーから購入した。HPLCおよびLC/MSに使用した溶媒はHPLCグレードであった。
【0175】
SPPSの手順
標準的なSPPSプロトコールを用いてペプチド合成を行った。各合成は、Fmoc-RinkアミドAmphiSpheres40樹脂(0.37mmol/g)を用いて行った。Fmoc保護アミノ酸(4当量)、HATU(4当量)およびDIEA(6当量)をシリンジ反応器に加え、混合物を室温で1時間撹拌した。各カップリング反応後、ペプチド-樹脂をDMF/ピペリジン80/20(体積/体積)溶液での2回の5分間脱保護サイクルに供した。
【0176】
化合物の精製
粗化合物はすべて、C18逆相カラム(C18 Deltapakカラム、100mm×40mm、15μm、100Å)で、勾配モードのH2O+0.1%TFAおよびCH3CN+0.1%TFAの混合物を50mL/分の流速で、UV検出214nmによる分取HPLC(Waters4000装置)で精製した。純粋な生成物を含む画分を集め、凍結乾燥した。
【0177】
LC/MS分析
0.1%TFAを含むアセトニトリル/水(50/50体積/体積)混合物中で試料を調製した。LC/MSシステムはWaters Alliance2690 HPLCとMicromass(マンチェスター、英国)のZQスペクトロメーター(エレクトロスプレーイオン化モード、ESI+)で構成された。分析はすべて、C18 Chromolith Flash25×4.6mmカラムを用いて行った。流量3ml/分、0~100%のアセトニトリルを、H2O+0.1%HCOOHとCH3CN+0.1%HCOOHの混合物を214nmのUV検出による勾配モードで5分間かけて勾配。100~200μl/分の溶媒流速で陽イオンエレクトロスプレーマススペクトルを得た。噴霧ガスと乾燥ガスの両方に窒素を用いた。0.1秒間隔で200~1700m/zの範囲のスキャンモードでデータを得た。10回のスキャンを合計して最終スペクトルを得た。分単位で保持時間を示す。HPLCおよびLC/MSに用いた溶媒はHPLCグレードであった。
【0178】
1.2)合成および特徴付け
1.2.1)本発明による式(I)の化合物の合成
化合物1の合成
【0179】
【0180】
Boc-Tyr(Bn)-OH(2g、5.4mmol、FLUKA AG)を3mlの無水DMFに溶かし、続いてCs2CO3(1.8g、5.4mmol)に溶かした。RMをRTで5分間攪拌した後、臭化アリル(696.6μl、8.1mmol)を加えた。RTで2時間反応させた後、RMをブラインおよびEtOAcで希釈し、次いで2回抽出した。次いで、再び集めた有機相を、1M KHSO4溶液で2回、NaHCO3飽和溶液で2回、ブラインで2回洗浄し、次いで有機相をMgSO4で乾燥させ、濾過し、濃縮して、Boc-Tyr(Bn)-OAll(2.45g、収率:110%、tR=2.19、MS(ESI+):m/z=412.3[M+H]+)を得た。生成物をさらに精製することなく、そのまま次のステップに使用した。
【0181】
Boc-Tyr(Bn)-OAll(2,22g、5,4mmol)を15mlのDCMに溶かし、それ続いて15mlのTFA/TIS/H2O 95/2.5/2.5(体積/体積/体積)に溶かした。次いで、RMをRTで1時間10分撹拌した。RMを濃縮乾燥し、残留油を冷エーテルで沈殿させた。沈殿物を濾過し、減圧乾燥して、化合物1を白色固体として得た。生成物をさらに精製することなくそのまま使用した。
予想質量:2.37g
得られた質量:2.83g
収率:定量的、若干の不純物が存在
tR=1.38、MS(ESI+):m/z=312.2[M+H]+
【0182】
【0183】
(2S,3S)-オキシラン-2,3-ジカルボン酸(66mg、0.5mmol)を3mlのNMPに溶かし、それに続いて化合物1(212mg、0.5mmol)およびDIEA(374μl、2mmol)に溶かした。RMを攪拌し、260mg(0.5mmol)のPyAOPを加えた。RMを室温で20分間攪拌し、次いで50mlの冷水に注ぎ、沈殿が現れるまで氷中に保った。沈殿物を濾過によって除去し、濾液のpHを1M HCl溶液で3に調整した。次いで、濾液をEtOAcで3回抽出し、有機相を1M HCl溶液で3回、ブラインで1回洗浄し、MgSO4で乾燥させ、エバポレーション乾燥させ、100mgの化合物2を透明な油として得た。生成物をさらに精製することなくそのまま使用した。
予想質量:212.5mg
得られた質量:100mg
収率:47%
HPLC 純度=95%、tR=3.33、MS(ESI+):m/z=426.2[M+H]+、(予想m/z=426.16)
【0184】
【0185】
Fmoc-Aad(OtBu)-OH(1g、2.28mmol)を5mlのNMPに溶かし、それに続いて2-フェニルエタン-1-アミン(316μl、2.5mmol)およびDIEA(1.175ml、6.83mmol)に溶かした。RMを攪拌し、PyAOP(1.18g、2.28mmol)を加えた。RMをRTで15分間攪拌した。次いで、50mlのEtOAcを注ぎ、水/ブライン50/50(体積/体積)混合物で1回、NaHCO3飽和溶液で3回、1M HCl溶液で3回、ブラインで1回洗浄し、MgSO4で乾燥させ、濃縮乾燥して、1.24gの化合物3を透明な油として得た。化合物をさらに精製することなく使用した。
予想質量:1.235g
得られた質量:1.24g
収率:定量的
HPLC 純度=95%、tR=4.28、MS(ESI+):m/z=543.3[M+H]+
【0186】
【0187】
化合物3(542mg、1mmol)を5mlのNMPに溶かし、続いてジエチルアミン(208μl、2mmol)を加えた。次いで、RMをRTで1時間撹拌した。次に、RMを50mlの水に注ぎ、pHを1M NaOH溶液で11に調整した。次いで、水相をEtOAcで3回抽出し、再び集めた有機相をブラインで洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濃縮乾燥させて、294mgの化合物4を透明な油として得た。生成物をさらに精製することなく使用した。
予想質量:320mg
得られた質量:294mg
収率:92%
tR=2.28、MS(ESI+):m/z=321.2[M+H]+
【0188】
【0189】
化合物4のtert-ブチル(S)-5-アミノ-6-オキソ-6-(フェネチルアミノ)ヘキサノエート(131mg、0.41mmol)および化合物2のHO-TES-Tyr(OBn)-OAll(174mg、0.41mmol)をDMFに溶かし、続いてDIEA(139μl、0.82mmol)およびBOP(173mg、0.41mmol)を加えた。2時間後、抽出によって生成物を単離した。次いで、得られた白色粉末を0.2mbarで一晩乾燥させて、260mgの中間体Aを白色固体として得た。
予想質量:260mg/得られた質量:300mg/粗収率:86%
tR=2.18、MS(ESI+):m/z=728.4[M+H]+
【0190】
【0191】
(+,-)-trans-オキシラン-2,3-ジカルボン酸(200mg、1.52mmol、TCI chemicals)を5mlのNMPに溶かし、続いてHCl.H-Tyr(OtBu)-OtBu(500mg、1.52mmol、Iris Biotech GmbH)およびDIEA(1.340ml、8mmol)に溶かした。次いで、PyAOP(792mg、1.52mmol)を加え、反応混合物(RM)を室温(RT)で80分間攪拌した。次いで、RMを180mlの冷水に注いだ。得られた沈殿物を濾過によって除去した。次いで、濾液のpHを1M KHSO4溶液で3に調整し、EtOAcで3回抽出した。有機相を再び集め、ブラインで洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濃縮乾燥させて、433mgの化合物5を透明な油として得た。
予想質量:618mg
得られた質量:433mg
収率:70%
tR=3.4、MS(ESI+):m/z=408.4[M+H]+
【0192】
【0193】
中間体A(100mg、0.137mmol)を15mlのDCMに溶かし、それに続いて15mlのTFA/TiS/H2Oに溶かした。次いで、RMをRTで30分間撹拌した。RMを濃縮乾燥し、残留油を冷EtOEtで沈殿させた。沈殿物を濾過し、減圧乾燥した。次に、沈殿物を1mlの乾燥DMFに溶かし、Pd0テトラキス(5.15mg、0.0045mmol)およびPhSiH3(37μl、0.3mmol)で処理してアリルエステルを除去した。20分後、RMを20mlのEtOAcに溶かし、1M HCl溶液で1回、ブラインで1回洗浄し、濃縮乾燥させた。次いで、得られた沈殿物を分取HPLCで精製して、41mgのLV-80を白色固体として得た。
予想質量:91mg/得られた質量:41mg/粗収率:45%
tR=3.10、MS(ESI+):m/z=632.4[M+H]+
【0194】
【0195】
中間体A(100mg、0.137mmol)を15mlのDCMに溶かした、続いて15mlのTFA/TiS/H2Oに溶かした。次いで、RMをRTで30分撹拌した。RMを濃縮乾燥し、残留油を冷Et2Oで沈殿させた。沈殿物を濾過し、減圧乾燥して、中間体Bを得た。
【0196】
中間体B(15mg、0.022mmol)をNMPに溶かし、続いて炭酸セシウム(7.15mg、0.022mmol)およびヨードエタン(2.34μl、0.029mmol)を加えた。次いで、RMをRTで1時間撹拌した。次に、RMを30mlの水に注いだ。水相をEtOAcで3回抽出した。再び集めた有機相を飽和NaHCO3で3回、KHSO4 1Mで3回洗浄し、次いでブラインで洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、蒸発乾燥させ、17mgの白色固体を得た。次に、白色固体を1mlの乾燥DMFに溶かし、Pd0テトラキス(1mg、0.00087mmol)、PhSiH3(3μl、0.024mmol)で処理してアリルエステルを除去した。20分後、RMを20mlのEtOAcに溶かし、1M KHSO4溶液で1回、ブラインで1回洗浄し、濃縮乾燥させた。次いで、得られた沈殿物を分取HPLCで精製して、8.1mgのLV-86を白色固体として得た。
予想質量:15,8mg/得られた質量:8,1mg/粗収率:51%
tR=3.49、MS(ESI+):m/z=660[M+H]+
1H NMR(500 MHz, DMSO)δ 8.70(s, 1H), 8.60(s, 1H), 8.18(t, J = 5.5, 1H), 7.44(d, J = 7.5, 2H), 7.38(t, J = 7.4, 2H), 7.32(t, J = 7.3, 1H), 7.27(t, J = 7.5, 2H), 7.21 - 7.16(m, 2H), 7.14(d, J = 8.3, 2H), 6.93(d, J = 8.2, 2H), 5.05(s, 2H), 4.38(d, J = 4.6, 1H), 4.23(dd, J = 13.6, 7.6, 1H), 4.04(q, J = 7.1, 2H), 3.57(d, J = 5.1, 2H), 3.22(td, J = 13.0, 6.9, 2H), 3.02(dd, J = 13.8, 4.4, 1H), 2.84(dd, J = 13.8, 9.4, 1H), 2.69(t, J = 7.2, 2H), 2.24(t, J = 7.2, 2H), 1.57(m, J = 6.7, 1H), 1.50(m, 1H), 1.45(m, J = 16.4, 8.0, 3H), 1.17(t, J = 7.1, 3H)
13CNMR(126 MHz, DMSO)δ 172.63, 172.50, 170.67, 165.65, 165.49, 157.11, 139.33, 137.20, 130.23, 129.57, 128.73, 128.46, 128.32, 127.85, 127.79, 126.15, 114.52, 69.15, 59.80, 53.95, 52.58, 52.46, 52.35, 50.63, 35.77, 35.04, 33.09, 31.52, 20.80, 14.17
【0197】
【0198】
中間体B(10mg、0.015mmol)を無水THFに溶かした。N-メチルモルホリン(3,82μL、0.030mmol)を溶液に加えた。次いで、反応混合物を-15℃に冷やし、5分間攪拌した。クロロギ酸イソブチル(1,94μL、0.015mmol)を加え、混合物を-15℃で10分間攪拌した。O-トリチルヒドロキシルアミン(8.25mg、0.030mmol)を加え、-15℃で15分間、室温で30分間攪拌を続けた。その後、混合物をEtOAc(20mL)に注ぎ、1M KSHO4、NaHCO3の飽和溶液で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、濃縮乾燥させて、14mgの中間体Cを白色粉末として得た。
予想質量:14mg/得られた質量:18mg/粗収率:定量的
【0199】
中間体C(13.92mg、0.015mmol)を10mlのDCMに溶かし、続いて10mlのTFA/TiS/H2Oに溶かした。次いで、RMをRTで30分撹拌した。RMを濃縮乾燥し、残留油を冷EtOEtで沈殿させた。沈殿物を濾過し、減圧乾燥した。次に、沈殿物を0.5mlの乾燥DMFに溶かし、Pd0テトラキス(1mg、0.00087mmol)、PhSiH3(2.2μl、0.0175mmol)で処理してアリルエステルを除去した。20分後、RMを20mlのEtOAcに溶かし、1M HCl溶液で1回、ブラインで1回洗浄し、濃縮乾燥させた。次いで、得られた沈殿物を分取HPLCで精製して、2mgのLV-87を白色固体として得た。
予想質量:11mg/得られた質量:2mg/粗収率:17%
tR=2.93、MS(ESI+):m/z=647.3[M+H]+
1H NMR(500 MHz, DMSO)δ 8.80(d, J = 8.0, 1H), 8.70(s, 1H), 8.61(d, J = 8.1, 1H), 8.17(t, J = 5.6, 1H), 7.44(d, J = 7.2, 2), 7.38(d, J = 14.8, 2H), 7.32(t, J = 7.3, 1H), 7.29 - 7.26(m, 2H), 7.20 - 7.17(m, 3H), 7.15(d, J = 8.6, 2H), 6.94(d, J = 8.7, 2H), 5.06(s, 2H), 4.44 - 4.38(m, 1H), 4.26 - 4.19(m, 1H), 3.58(s, 2H), 3.26 - 3.20(m, 2H), 3.02(dd, J = 13.8, 4.6, 1H), 2.84(dd, J = 13.9, 9.4, 1H), 2.72 - 2.67(m, 2H), 1.90(dd, J = 13.0, 6.6, 2H), 1.60 - 1.53(m, 1H), 1.49 - 1.43(m, 2H), 1.42 - 1.37(m, 1H)
13CNMR(500 MHz, DMSO)δ 172.50, 168.75, 165.75, 165.45, 157.14, 139.32, 137.18, 130.20, 128.71, 128.45, 128.35, 127.84, 127.78, 126.15, 114.43, 69.14, 53.82, 52.53, 52.37, 48.50, 35.07, 31.98, 31.79, 30.14, 21.63
【0200】
【0201】
H-Aad(tBu)Phe-配列を0.5mmol/gのシスタミン-Trt樹脂(CA)上でSPPSを介して合成した。次に、RTで一晩、PyAOP(95mg、0.225mmol)およびDIEA(77μl、0.450mmol)の活性化を介して、アミド結合によって化合物HO-TES-Tyr(OBn)-OAll(95mg,0.225mmol)に固体支持配列を結合させた。2時間後、Pdテトラキス(8.66mg、0.008mmol)およびPhSiH3を加え、OAllエステルの脱保護を導いた。TFA/DCM/H2O/TiS(50/50/2.5/2.5)による2時間の長時間処理によって、LV-80チオール化バージョンを樹脂から切断した。次いで、濾液を濃縮乾燥させて褐色油を得、これを冷Et2Oで沈殿させて白色固体を得、濾過して単離した。次いで、化合物を分取HPLCで精製して、32mgのLV-81を白色固体として得た。
予想質量:55mg/得られた質量:32mg/粗収率:58%
【0202】
【0203】
HCl.H-Tyr-OEt(100mg、0.407mmol)および(2S,3S)-trans-オキシラン-2,3-ジカルボン酸(80.8mg、0.611mmol)を1.5mLのNMPに溶かし、それに続いてDIEA(1.628mmol、374μL)を加えた。混合物を攪拌し、HATU(309.5mg、0.814mmol)を加えた。混合物を室温で20分間攪拌した。反応混合物をNa2CO3 1M溶液に注ぎ、30mLのジエチルエーテルで3回抽出した。水相KHSO4 1Mで酸性化し、結果として得られた溶液を30mLの酢酸エチルで3回抽出した。有機層をあわせ、ブラインで洗浄し、次いでMgSO4で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮して、中間体Dを黄色油として得た。生成物をさらに精製することなくそのまま使用した。
予想質量:131mg/得られた質量:104mg/収率:79,3%
HPLC 純度=98%、tR=1.2分、MS(ESI+):m/z=324.3[M+H]+、(予想m/z=324.31)
【0204】
【0205】
Cs2CO3(314mg、0.966mmol)を、無水DMFに溶かした中間体D(104mg、0.321mmol)に加え、反応物を15分間攪拌した。ヨードエタン(77.6μL、0,966mmol)を溶液に加え、反応物を室温で一晩攪拌し、HPLCでモニターした。溶液を30mLの水に注ぎ、30mLの酢酸エチルで3回抽出し、次いでNaHCO3 1Mの溶液で3回、KHSO4 1Mの溶液で3回洗浄した。有機層をMgSO4で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮して、所望の生成物を白色結晶として得た。次いで、生成物を分取クロマトグラフィーで精製して、51.5mgのLV-111を白色固体として得た。
予想質量:121.66mg/得られた質量:51.5mg/収率:42%
HPLC 純度=98%、tR=2.1分、MS(ESI+):m/z=380.2[M+H]+、(予想m/z=380.16)
1H NMR(500 MHz, DMSO)δ 8.78(d, J = 7.9, 1H), 7.07(d, J = 8.3, 2H), 6.78(d, J = 8.2, 2H), 4.42(dd, J = 14.2, 8.4, 1H), 4.17 - 3.89(m, 6H), 3.61(s, 1H), 3.40(s, 1H), 2.93(dd, J = 13.8, 5.7, 1H), 2.83(dd, J = 13.7, 9.2, 1H), 1.29 - 1.05(m, 9H)
13CNMR(126 MHz, DMSO)δ 171.40,167.43, 165.49, 157.81, 130.66, 128.90, 114.60, 63.32, 62.06, 61.24, 54.20, 53.06, 51.69, 36.17, 15.14, 14.34
HRMS(micrOTOF-Q):C19H25NO7[M+H]+の理論値:380.1631、実測値:380.1704
【0206】
【0207】
HCl.H-Tyr-OEt(100mg、0.407mmol)および(2S,3S)-trans-オキシラン-2,3-ジカルボン酸(27mg、0.204mmol)を1.5mLのNMPに溶かし、それに続いてDIEA(1.628mmol、374μL)に溶かした。混合物を5分間攪拌し、HATU(154.7mg、0.407mmol)を加えた。混合物を室温で20分間攪拌した。溶液を酢酸エチルで3回抽出した。有機層をKHSO4 1MおよびNaHCO3 1Mで3回、次いでブラインで1回洗浄し、MgSO4で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮して、所望の生成物を白色粉末として得た。
HPLC 純度=98%、tR=1.42分、MS(ESI+):m/z=515.20[M+H]+、(予想m/z=515.20)
【0208】
【0209】
Cs2CO3(126.8mg、0.389mmol)を、無水DMFに溶かしたLV-101(100mg、0.195mmol)に加え、反応物を15分間攪拌した。ヨードエタン(47.0μL、0.585mmol)を溶液に加え、反応物を室温で一晩攪拌し、HPLCでモニターした。溶液を30mLの水に注ぎ、30mLの酢酸エチルで3回抽出し、次いでNaHCO3 1Mの溶液で3回、KHSO4 1Mの溶液で3回洗浄した。有機層をMgSO4で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮して、所望の生成物を白色粉末として得た。次いで、生成物を分取クロマトグラフィーで精製して、75.6mgのLV-104を白色粉末として得た。
予想質量:111.15mg/得られた質量:75.6mg/収率:68%
HPLC 純度=99%、tR=3.81分、MS(ESI+):m/z=571.3[M+H]+、(予想m/z=571.26)
1H NMR(500 MHz, DMSO)δ 8.87(d, J = 7.7, 2H), 7.07(d, J = 8.2, 4H), 6.78(d, J = 8.1, 4H), 4.38(dd, J = 14.2, 8.3, 2H), 4.02(q, J = 7.1, 4H), 3.93(q, J = 6.9, 4H), 3.45(s, 2H), 2.92(dd, J = 13.8, 5.7, 2H), 2.82(dd, J = 13.8, 9.2, 2H), 1.25(t, J = 6.9, 6H), 1.08(t, J = 7.1, 6H)
13CNMR(126 MHz, DMSO)δ 170.97, 165.50, 157.29, 130.25, 128.36, 114.14, 62.70, 60.62, 53.79, 52.17, 35.51, 14.62, 13.91
HRMS(micrOTOF-Q):C30H38N2O9[M+H]+の理論値:571.6390、実測値:571.2650
【0210】
中間体Eの合成
カルボニルジイミダゾールCDI(113.6mg;1.2当量)を最小限のDMFに溶かし、RMを-10℃に置いた。Boc-NH-NH2(92.5mg;1.2当量)も最小限のDMFに溶かし、RMに加え、次いで-10℃で30分間攪拌した。この後、TFA.HTyr(OEt)OEt(203.6mg;1当量)も最小限のDMFに溶かし、RMに加え、それに続いてEt3N(168μL)を加えた。次いで、RMを室温で2時間50分撹拌した。ワークアップのステップでは、蒸留水およびAcOEtをRMに加え、分液漏斗に入れた。次いで、有機相を、HCl 1M(×2)、飽和NaHCO3(×2)およびブライン(×2)で洗浄した。次いで、得られた溶液をMgSO4で乾燥させ、濾過し、濃縮して、油(154.3mg;収量:56%)を得た。この得られた油をTFA/TIS/H2O(95/2.5/2.5)溶液に溶かし、室温で30分間撹拌し、次いで濃縮乾燥させて、中間体Eを粗油として得た。化合物をさらに精製することなく使用した。
【0211】
【0212】
CDI(63.3mg;1.2当量)を最小限のDMFに溶かし、RMを-10℃に置いた。中間体E(159.7mg;1.2当量)も最小限のDMFに溶かし、RMに加え、次いで-10℃で30分間攪拌した。数滴のEt3NでpHを8に調整した。この後、TFA.HTyr(OEt)OEt(115.9mg;1当量)も最小限のDMFに溶かし、RMに加え、それに続いてEt3N(102.2μL;2.2当量)を加えた。次いで、RMを室温で3時間撹拌した。ワークアップのステップでは、蒸留水およびAcOEtをRMに加え、分液漏斗に入れた。次いで、有機相を、HCl 1M(×2)、飽和NaHCO3(×2)およびブライン(×2)で洗浄した。次いで、得られた溶液をMgSO4で乾燥させ、濾過し、濃縮して、油を得た。
【0213】
次いで、その未精製の生成物をHPLCで精製し、凍結乾燥して、非常に明るい白色結晶(43.9mg;収量:24%;純度:>96%)を得た。
1H NMR(500MHz, CDCl3)δ 6.99(d,J = 8.5, 4H), 6.75(d,J = 8.6, 4H), 6.50(s, 2H), 6.05(d,J = 8.1, 2H), 4.60(dd,J = 14.3, 6.6, 2H), 4.16 - 4.04(m, 4H), 3.92(q,J = 7.0, 4H), 3.03 - 2.89(m, 4H), 1.38 - 1.28(m, 6H), 1.18(t,J = 7.1, 6H)
【0214】
【0215】
Boc-5-Ava-OH(1g、4.6mmol)を無水DMF(30ml)に溶かし、EtOH(1.3ml、23mmol)を加えた。次いで、DMAP(56.4mg、0.46mmol)、NMM(605μl、5.5mmol)、OxymaPure(653.7mg、4.6mmol)およびEDCi(1.1g、5.98mmol)をこの順で加えた。RMをRTで2時間05分攪拌した。AcOEt抽出を3回行った。次いで、有機層を、NAHCO3(飽和)、KHSO4(1M)、およびブラインで各3回洗浄した。次いで、有機層をMgSO4で乾燥させ、濾過し、濃縮乾燥させた。
予想質量:1.13g;得られた質量:966.3mg;収率:86%
【0216】
【0217】
中間体F(100mg、0.41mmol)をDCM(700μl)に溶かし、続いてTFA/TIS/H2O 95/2.5/2.5(体積/体積/体積)(663μl)に溶かした。次いで、RMをRTで1時間撹拌し、濃縮乾燥させた。予想質量:106.2mg;得られた質量:286.02mg;粗収率:269%
【0218】
【0219】
中間体G(106.2mg、0.41mmol)およびIBMT7(49.2mg、0.14mmol)を無水DMF(911μl)に溶かした。次いで、DMAP(1.2mg、0.01mmol)、NMM(127.6μl、1.16mmol)、OxymaPure(19.9mg、0.14mmol)およびEDCi(34.5mg、0.18mmol)をこの順で加えた。RMをRTで一晩攪拌した。AcOEt抽出を3回行った。次いで、有機層を、NAHCO3(飽和)、KHSO4(1M)、およびブラインで各3回洗浄した。次いで、有機層をMgSO4で乾燥させ、濾過し、濃縮乾燥させて、47.03mgの所望の生成物を得た。粗生成物を逆相分取HPLCで精製した。
予想質量:66.9mg;得られた質量:33.4mg;収率:50%;純度:100%(MS(ESI+):m/z=479.0[M+H]+;時間=3.12分)(予想m/z=479.55)
【0220】
【0221】
Boc-Phe(4-NH2)-OH(100mg、0.36mmol)をNMP(691μl)に溶かし、DBU(54μl、0.36mmol)を加えた。ヨードエタン(29μl、0.36mmol)を予め0℃にしておき、次いで反応混合物を滴下した。RTで30分間撹拌した後、H2OおよびAcOEtを加え、次いで分液漏斗に注いだ。AcOEt抽出を3回行い、次いで、有機層をKHSO4(1M)およびブラインで各3回洗浄した。次いで、有機層をMgSO4で乾燥させ、濾過し、濃縮乾燥させた。
予想質量:110.9mg;得られた質量:67.5mg;粗収率:61%
【0222】
【0223】
中間体H(47.9mg、0.16mmol)を無水DMF(139μl)に溶かし、ピリジン(78μl、0.96mmol)を加えた。次いで、Ms-Cl(37μl、0.48mmol)を加え、RMをRTで1時間攪拌した。H2OおよびAcOEtを加え、次いで分液漏斗に注いだ。AcOEt抽出を3回行った。次いで、有機層をNAHCO3(飽和)、KHSO4(1M)、およびブラインで各3回洗浄した。次いで、有機層をMgSO4で乾燥させ、濾過し、濃縮乾燥させた。
予想質量:61.8mg;得られた質量:19.8mg;粗収率:32%
【0224】
【0225】
中間体I(19.8mg、0.05mmol)をDCM(200μl)に溶かし、続いてTFA/TIS/H2O 95/2.5/2.5(体積/体積/体積)(122μl)。次いで、RMをRTで1時間撹拌し、濃縮乾燥させた。
予想質量:20mg;得られた質量:24.4mg;粗収率:122%
【0226】
【0227】
中間体J(20mg、0.05mmol)をNMP(240μl)に溶かし、それに続いて(2S,3S)-trans-オキシラン-2,3-ジカルボン酸(6.6mg、0.05mmol)およびDIEA(61.2μl、0.35mmol)に溶かした。RMを攪拌し、HATU(19.1mg、0.05mmol)を加えた。RMを室温で3時間攪拌した。次いで、RMをEtOAcで3回抽出し、有機相を、HCl(1M)で3回、ブラインで1回洗浄し、MgSO4で乾燥させ、濾過し、蒸発乾燥させて、1と2の18mg混合物を得た。粗生成物を逆相分取HPLCで精製した。
(IBMT35)予想質量:16.7mg;得られた質量:3.2mg;収率:19%;純度:98%(MS(ESI+):m/z=669.0[M+H]+;時間=2.64分)(予想m/z=668.7)
【0228】
【0229】
Boc-Phe(4-NH2)-OH(50mg、0.18mmol)をNaOH(1M)の溶液に懸濁し、RMを0℃に置いた。次いでTs-Clを加え、RMを0℃で2時間攪拌した。HCl(1M)でpH2~3になるまで酸性化を行い、RMをAcOEtで3回抽出した。次いで、有機層を、KHSO4(1M)で3回、ブラインで2回洗浄し、MgSO4で乾燥させ、濾過し、濃縮乾燥させた。
予想質量:78.1mg;得られた質量:76.9mg;収率:98%
【0230】
【0231】
中間体K(78.1mg、0.18mmol)を無水DMF(1.2ml)に溶かし、EtOH(62.6μl、1.08mmol)を加えた。次いで、DMAP(2.5mg、0.02mmol)、NMM(24.2μl、0.22mmol)、OxymaPure(25.6mg、0.18mmol)およびEDCi(44mg、0.23mmol)をこの順で加えた。RMをRTで40分間攪拌した。AcOEt抽出を3回行った。次いで、有機層を、NAHCO3(飽和)、KHSO4(1M)、およびブラインで各3回洗浄した。次いで、有機層をMgSO4で乾燥させ、濾過し、濃縮乾燥させた。
予想質量:83.3mg;得られた質量:69.4mg;収率:83%
【0232】
【0233】
中間体L(69.4mg、0.15mmol)をDCM(400μl)に溶かし、続いてTFA/TIS/H2O 95/2.5/2.5(体積/体積/体積)(365μl)に溶かした。次いで、RMをRTで1時間撹拌し、濃縮乾燥させ、ジエチルエーテル中で沈殿させた。
予想質量:71.5mg;得られた質量:69.8mg;粗収率:98%
【0234】
【0235】
中間体M(69.8mg、0.15mmol)を無水DMF(385μl)に溶かし、続いて(2S,3S)-trans-オキシラン-2,3-ジカルボン酸(13.2mg、0.1mmol)およびDIEA(63.8μl、0.38mmol)に溶かした。RMを攪拌し、HATU(57mg、0.15mmol)を加えた。RMを室温で2時間20分攪拌した。次いで、RMをそのまま、逆相分取HPLCで精製した。
(IBMT38)予想質量:61.5mg;得られた質量:8.3mg;収率:13%;純度:91%(MS(ESI+):m/z=821.0[M+H]+;時間=3.64分)(予想m/z=820.9)
【0236】
1.2.2)本発明による式(I’)の複合体の合成
LV-82の合成
【化93】
【0237】
化合物81(7.35mg、0.01mmol)を800μlのDMFに溶かし、続いてビオチン-マレイミド(4.5mg、0.01mmol)および400μlのPBS溶液を加えた。両方の試薬を溶かすために、混合物を軽く熱し、次いでRTで1時間撹拌した。次いで、RMを分取HPLCで直接精製して、7mgのLV-82を白色固体として得た。
予想質量:11.85mg/得られた質量:7mg/収率:59%
tR=2.89、MS(ESI+):m/z=1186.2[M+H]+、593.7[M+2H]2+
【0238】
【0239】
Fmoc-Aad(OtBu)-OH(88mg、0.216mmol)を、標準的なSPPS HATU(82mg、0.216mmol)DIEA(50μl、0.288mmol)活性化を介して結合させた。RMを、固相合成反応器に0.37mmol/gで入れた200mgのrinkアミド(RA)樹脂と2時間攪拌した。標準的な洗浄後、10分間のDMF/Pip 80/20(体積/体積)処理を2回行い、Fmoc保護を除去した。次のステップとして、化合物5(88mg、0.216mmol)を、PyAOP(113mg、0.216mmol)、DIEA(545μl、0.63mmol)の活性化を介して遊離アミンに結合させた。一晩反応させた後、樹脂をDMFで3回、DCMで3回洗浄し、阻害剤を20mlのTFA処理で50分間切断した。次いで、TFA濾液を含有する生成物を蒸発乾燥させ、ペプチドをEtOEtで沈殿させ、濾過し、分取HPLCで精製し、凍結乾燥して、10.7mgのLV-43を白色固体として得た。
予想質量:31.4mg
得られた質量:10.7mg
収率:34%
HPLC 純度=100%、tR=0.84、MS(ESI+):m/z=438,20[M+H]+(予想m/z=438.15)
【0240】
2)生物学的結果
2.1)実験モデル
細胞培養
ヒトCHL-1細胞(メラノーマ由来細胞株、Nieuwenhuis J. et al. Science, 2017, 358(6369):1453-1456)を10%(体積/体積)ウシ胎児血清(FBS)、50U/mlペニシリンおよび50μg/mlストレプトマイシン(pen/strep)を含有するDMEM中でよく使われる方法で培養し、37℃でインキュベートした。試験の前に、CHL-1細胞を適切なプレート(96、48、24、12または6ウェル)に30%のコンフルエンシーで播種した。翌日、細胞を処理し、更なる分析のために採取した(免疫ブロッティング、qPCR、免疫蛍光)のために集めた。
【0241】
皮質細胞培養は、ガラスカバースリップまたは0.1mg/mlのポリ-L-リジン(シグマ)をコートしたプラスチックプレート上に、~105細胞/cm2、または低密度培養の場合は2×104細胞/cm2で播種した。ニューロンを、10%(体積/体積)のウシ胎児血清(FBS)、50U/mlのペニシリンおよび50μg/mlのストレプトマイシン(pen/strep)を含有するDMEM中に播き、1~2時間後に、培地を、2%B27、pen/strep、0.6%グルコースおよび1%Glutamax(すべてライフテクノロジーズ製の試薬)を補充したNeurobasal培地に交換した。
【0242】
ドロソフィラ・メラノガステル(Drosophila Melanogaster)
ドロソフィラを25℃で飼育した。ywハエを対照として用いた(ywはαTub84BΔ3変異体である)。全雄をlaemliローディングバッファーで破壊し、煮沸し、超音波処理し、免疫ブロッティングに載せた。
【0243】
2.2)方法の詳細
タンパク質の発現と精製
国際公開第2020/012002号に開示の方法を用いた。
ポリヒスチジンタグをもつ発現ベクターにヒトVASH1(hVASH1)をクローニングした。細菌を形質転換し、イソプロピルβ-d-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)で一晩または4時間誘導した。細菌を集め、HTU-DIGI-Fプレス(Heinemann)を用いて破砕した。組み換えタンパク質は、ニッケルベースのアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)を用いて、製造元のプロトコール(GEヘルスケア)に従って精製した。
【0244】
インビトロ脱チロシン化アッセイ
スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)Sf9細胞を培養し、溶解し、アフィニティークロマトグラフィーによるチューブリン精製に使用した。タキソールを用いて微小管を得て、使用するまで保存した。組み換えhVASH1を用いて脱チロシン化活性のインビトロ解析を行った。0.5μMの微小管の存在下で脱チロシン分析を行った。反応を、変性ローディングバッファーの添加およびそれに続く95℃での5分間のインキュベーションによって止め、試料を免疫ブロット分析のためにSDS PAGEに載せた。
【0245】
標準化されたインビトロ脱チロシン化ELISAベースアッセイ
国際公開第2020/012002号に開示の方法に従って、96ウェルフォーマットの標準化された一次ELISAベースインビトロ脱チロシン化アッセイが開発されている。簡単に説明すると、VASH酵素の基質を作製し、各ウェルに100μLの酵素混合物(酵素と阻害剤)を加え、プレートを37℃で5分間インキュベートする。一次(ウサギ抗脱チロシン化チューブリン)を1時間インキュベートし、洗浄後、二次(抗ウサギ)抗体を各ウェルに加える。プレートを室温で1時間インキュベートする。顕色は、各ウェルにTMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)を加え、室温で30分間インキュベートすることからなる。0.5M硫酸の添加によって発色を止める。450nmでODを測定する。
【0246】
脱グルタミル化アッセイおよびチューブリン精製
脱グルタミル化アッセイを既報(Rogowski et al. , Cell, 2010, 143(4):564-78)のとおりに行った。
【0247】
ヒト細胞のトランスフェクション
プラスミドトランスフェクションを行い、トランスフェクションの24時間後に細胞を集め、免疫ブロッティングおよび免疫蛍光分析を行った。
【0248】
定量的PCR
トータルRNAをTRIzol(インビトロジェン)で単離した。逆転写はランダムなヘキサヌクレオチドを用いて実施した。Lightcycler装置(ロシュ)でLightcycler SYBR Green Master混合物を用いて定量的PCRアッセイを実施した。使用したプライマーはすべてイントロン貫通型であった。複数の内部対照遺伝子の幾何平均することによる正規化によって標的cDNAの相対量を得た。
【0249】
免疫蛍光標識
メタノールで固定したCHL-1細胞およびマウス皮質ニューロンを、標準的な免疫蛍光実験の後に、Zeiss Axioimager Apotome顕微鏡を用いて分析した。簡単に説明すると、試料を一次抗体と一晩インキュベートし、PBSで3回洗浄した後、次の二次抗体と1時間インキュベートした:Alexa Fluor488結合ヤギ抗ラット、ヤギ抗マウスおよびAlexa Fluor555結合ヤギ抗ウサギ(インビトロジェン)。インキュベートした後、試料をPBSで3回洗浄し、DAPIで染色し、マウントした。
【0250】
顕微鏡法
Montpellier RIO Imaging施設で顕微鏡画像の取得を行い、OMEROを用いて画像を処理した。
【0251】
LC-MSによるヒト細胞における化合物の浸透および変換のバイオアナリシス
血清中のペプチドの安定性 ヒト血清反応試料は、250μlの熱不活性化ヒト血清(シグマアルドリッチ)および750μLのRPMI培地1640(シグマアルドリッチ)を含有した。50μLの化合物(DMSO中のmMストック溶液中)を加えることよって反応を開始した。測定は37℃の振盪ウォーターバスで行った。100μlの試料を既知の時間間隔で採取し、200μlのアセトニトリル1‰TFAに加え、血清タンパク質を沈殿させた。濁った試料を4℃に15分間冷却し、次いで12,000rpmで10分間遠心分離し、沈殿した血清タンパク質をペレットにした。150μlの透明な上清を採取し、最後にペプチドをRPHPLCおよびLC-MSで分析した。
【0252】
2.3)結果
2.3.1 インセルロVASH媒介チューブリン脱チロシン化アッセイ
チューブリン脱チロシン化がVASHのみによって触媒されるヒトCHL-1細胞を使用した。これらの細胞では、脱チロシン化は主にVASH依存性である(Nieuwenhuis J. et al. Science, 2017, 358(6369):1453-1456)。細胞をタキソールで前処理した後、Epo-Yとインキュベートした。表示の抗体を用いて試料を免疫ブロットした。
【0253】
CHL-1細胞を用いて、タキソール誘導脱チロシン化を減少させるためのEpo-Yの使用を分析した。細胞を、5%CO2の存在下、37℃で標準的な加湿組織培養インキュベーター内でよく使われる方法で培養し、6ウェル培養皿に播いた。細胞をEpo-Yの非存在下または存在下においてタキソールで2時間処理した。
【0254】
RIPAバッファー(50mM Tris HCl、150mM NaCl、1.0%(体積/体積)NP-40、0.5%(重量/体積)デオキシコール酸ナトリウム、1.0mM EDTA、pH7.4)で細胞を集め、BCAキット(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いて総タンパク質の定量を行った。全細胞抽出物の20μgタンパク質試料を10%SDS-PAGEにかけ、ニトロセルロースに移し、各抗体でプローブした。ウェスタンブロット分析から、CHL-1細胞におけるタキソール処理(2時間)の顕著な減少とそれに伴うチューブリン脱チロシン化が示された。
図1に示されるように、CHL-1細胞をタキソールとインキュベートすると、チューブリン脱チロシン化およびアセチル化レベルが顕著に増加したが、それはおそらくMT安定化によるものである可能性が高い。さらに、チューブリン脱チロシン活性は、既報のVASH阻害剤であるEpo-Yによって用量依存的に阻害された。
【0255】
よって、CHL-1細胞およびタキソールを用いたこのインセルロスクリーニングアッセイは、VASH媒介チューブリン脱チロシン化の推定阻害剤を特定するための適切なスクリーニングアッセイである。
【0256】
2.3.2 推定阻害剤パルテノリドはVASH媒介チューブリン脱チロシン化を阻害しない
VASH媒介チューブリン脱チロシン化に対するパルテノリド(PTL)の阻害効果を検討するために、国際公開第2020/012002号に開示の、以前に開発されたインビトロ脱チロシン化アッセイを用いた。反応物を阻害剤とインキュベートし、停止し、表示の抗体を用いた免疫ブロッティングで分析した。
図2に示されるように、MTが入った反応混合物に10μMのEpo-Yを加えると、VASH1媒介チューブリン脱チロシン化が完全に阻害された(
図2B)。逆に、同じアッセイにおいて、はるかに高いPTL濃度(50および100μM)を加えても、VASH1-依存性チューブリン脱チロシン化の検出可能な阻害はまったく生じなかった(
図2B)。解析をさらに拡張するために、チューブリン脱チロシン化がVASHによってのみ触媒されるヒトCHL-1細胞(Nieuwenhuis J. et al. Science, 2017, 358(6369):1453-1456)を使用した。これらの細胞では、脱チロシン化は主にVASH依存性である(Nieuwenhuis J. et al. Science, 2017, 358(6369):1453-1456)。細胞をタキソールで前処理した後、Epo-YまたはPTLとインキュベートした。表示の抗体を用いて試料を免疫ブロットした。CHL-1細胞をタキソールとインキュベートすると、チューブリン脱チロシン化およびアセチル化レベルが顕著に増加したが、それはおそらくMT安定化によるものである可能性が高い(
図2C)。これにより、タキソールとインキュベートした細胞でのEpo-YおよびPTL阻害効力を直接比較することが可能であった。予想どおり、Epo-Yはチューブリンアセチル化に影響することなく、用量依存的にチューブリン脱チロシン化を減少させた。インビトロデータ(
図2B)と一致して、チューブリン脱チロシン化は、使用した最高濃度でもPTLによって阻害されなかった(
図2C)。PTLはVASH媒介チューブリン脱チロシン化の阻害剤ではないと結論付けた。
【0257】
2.3.3 新たに開発された阻害剤は、VASH1およびVASH2およびプチダーゼ活性を標的とする
図3は、0.25~05μMの範囲の濃度でのVASH1とVASH2を介したチューブリン脱チロシン化の両方に対する、新たに設計された様々なVASH阻害剤の阻害効率の例を示す。
【0258】
2.3.4 細胞浸透性の強力なVASHペプチダーゼ活性阻害剤
Epo-Yなどの小さくて反応性の高いエポキシドベースの分子は、VASH以外のタンパク質に存在する遊離チオールまたはチロシンキナーゼの活性部位にある求核性リシン残基と相互作用する可能性がある。したがって、反復的化学的変化(iterative chemical variations)および標準化されたインビトロアッセイによる分析を通して、化合物を特定し、LV-43と名付けた(
図4A)。表示の抗体を用いて試料を免疫ブロットした。図示されているように、LV-43はEpo-Yよりも強力なVASH1酵素活性のインビトロ阻害を有する(
図4B)。しかし、タキソール処理CHL-1細胞を含む細胞ベースのアッセイで試験したところ、LV-43はEpo-Yよりもはるかに効率が悪かった(
図4C)。インビトロとインセルロのデータ間の不一致は、Epo-Yと比較してLV-43の細胞浸透が少ないことを示唆する。したがって、新しい一連の化合物を生成し、細胞透過性および酵素親和性が向上するように疎水性芳香族官能基を付加した。インビトロアッセイにおいて、表示の阻害剤を反応混合物に加え、次いで表示の抗体を用いた免疫ブロッティングにより脱チロシン化を分析した。そのインビトロIC50(LV80の28nM対Epo-Yの320nM)によって示されるように、LV-80は、VASH1媒介チューブリン脱チロシン化を、LV-43やEpo-Yよりも強力に阻害することがわかった(
図4D~E)。CHL-1細胞におけるタキソール誘導脱チロシン化アッセイを用いたインセルロIC50の測定により、細胞内においてもEpo-YよりもLV-80の効力が大きいことが確認された(LV-80の676nM対Epo-Yの3μM)(
図4F)。最後に、VASH1の利用可能な構造データを用いて、分子ドッキングを行って、水素結合の形成を考慮してLV-80阻害剤の最も可能性の高い結合様式を可視化した(
図4H)。まとめると、チューブリン脱チロシン化の機能解析に適した、低ナノモル範囲のインビトロIC50をもつ特異的細胞浸透性VASH阻害剤を設計し、生成した。
【0259】
2.3.5 細胞におけるVASH媒介チューブリン脱チロシン化の完全な阻害
内因性脱チロシン化活性に対するLV-80の効力を試験するために、LV-80とインキュベートした野生型CHL-1細胞を、VASH1とVASH2の両方を欠くダブルノックアウトCHL-1細胞(2KOs)と比較した。細胞を集め、表示の抗体を用いた免疫ブロッティングによって分析した。LV-80と24時間インキュベーションした後、ウェスタンブロット分析で示されるように、脱チロシン化のレベルは処理したCHL-1およびCHL-1 2KOs細胞で同等であった(
図5)。これにより、インセルロVASH媒介脱チロシン化を完全に阻害するために新たに設計された化合物の有効性が示された。さらに、ビヒクルLV-80とインキュベートした細胞における免疫蛍光によってチューブリン脱チロシン化を分析した。阻害剤で処理した細胞では、脱チロシン化チューブリンのシグナルがないことが確認された(データは示されていない)。
【0260】
2.3.6 VASH酵素阻害剤の有利な安全性プロファイル
次に、LV-80存在下での潜在的な代謝毒性および細胞生存率の変化を評価するために、広く使用されているMTTベースの比色アッセイを選択した。MTTベースアッセイ(3-[4,5-ジメチルチアゾール-2-イル]-2,5ジフェニルテトラゾリウムブロミド)を、表示の化合物とのインキュベーションの48時間後に行って、細胞生存率をモニターした。
【0261】
0.1μMタキソールおよび10μM PTLと24時間培養すると、結果として細胞生存率は有意に低下した。逆に、はるかに高い濃度のLV-80(100μM)で培養しても、細胞生存率に有意な影響はなく、ビヒクルと培養した細胞の細胞生存率と同様であった(
図6A)。広く認められ、よく受け入れられているアッセイを用いてミトコンドリア機能を分析したところ、LV-80とインキュベートした細胞において酸素消費速度(OCR)および細胞外酸性化速度(ECAR)の有意な変化はまったくみられず、この化合物の優れた安全性プロファイルが強調された(
図6B)。
【0262】
2.3.7 新たに開発されたVASH阻害剤はVASH酵素活性に特異的である
次に、チューブリンC末端尾部を標的とし、チューブリン脱グルタミラーゼとして作用するプロテアーゼの別のファミリーであるサイトゾルカルボキシペプチダーゼ(CCP)に対するLV-80阻害活性を試験した。この阻害剤はCCP1およびCCP5活性に影響しなかった。表示の抗体を用いて試料を免疫ブロットした。GFP-CCP1をトランスフェクションしたHEK293細胞に由来するタンパク質溶解物の存在下で、ポリグルタミル化脳チューブリンをインキュベートすると、長いグルタミン酸鎖に対するCCP1依存性脱グルタミル化活性は、LV-80の添加によって影響されないことが観察された(
図7A)。同様の結果は、このアッセイを用いてグルタミン酸残基のCCP5媒介脱グルタミル化を評価したときにも認められた(
図7B)。全体として、これらの観察結果は、脱チロシン化VASH活性に対するLV-80特異性を示した。次いで、MTおよびチューブリンのインビトロ脱チロシン化に広く使用される酵素であるカルボキシペプチダーゼA(CPA)の活性に対するその効果を試験することによってLV-80の特異性を分析した。VASH特異的阻害剤はカルボキシペプチダーゼA(CPA)依存性チューブリン脱チロシン化に影響しなかった。一方、特異的CPA阻害剤はVASH活性に影響しなかった。実際、10μMのLV-80を加えると、結果として、インビトロでVASH1とVASH2を介した脱チロシン化の両方が完全に消失したが、CPA活性には検出可能な影響はなかった(
図7C)。逆に、ペプチドミメティックベンジルコハク酸(BzlSA)は、CPA依存性脱チロシン化を完全に消失させたが、VASH1またはVASH2を介した脱チロシン化ではそうではなかった。
【0263】
2.3.8 研究ツールとしての、新たに開発された阻害剤のビオチン化バージョン
脱チロシン化レベルは特に脳で高いので、ビオチンに融合したLV-80を使用してヒト脳抽出物からVASH1をプルダウンできるかどうかを試験した。細胞をタキソールで前処理した後、ビオチン化LV-80とインキュベートした。表示の抗体を用いて試料を免疫ブロットした。まず、ビオチン化LV-80がインビトロでVASH1およびVASH2媒介脱チロシン化に対する阻害特性を保持していることを確認し(
図8A)、野生型および2KOs CHL-1を対照として用いるプルダウン方法論を検証した(
図8B)。野生型および二重VASHノックアウト細胞から得たタンパク質溶解物を用いてプルダウン実験を行った。HEK293細胞タンパク質溶解物を対照として載せた。表示の抗体を用いて試料を免疫ブロットした。次に、ヒト脳タンパク質抽出物を用いて、VASH1を効率的にプルダウンし(
図8C)、関連するヒト組織における標的の関与を示した。インプット、フロースルー(FT)およびプルダウン(Pd)画分を、表示のタンパク質に対する抗体を用いて免疫ブロットした。
【0264】
2.3.9 VASH阻害剤で処理した初代皮質ニューロンにおけるチューブリン脱チロシン化の大幅な減少
マウス胚の大脳皮質組織から精製した初代皮質ニューロンの分化におけるチューブリン脱チロシン化の機能的役割を評価することにした。解離させ、濾過した後、LV-80の存在下または非存在下で細胞を7日間分化させた。細胞を集め、表示の抗体を用いてイムノブロット分析した。試料を免疫ブロッティングで分析し、3つの独立したアッセイで相対光学密度を測定した(n=3、エラーバーはSEMを表す)。多重t検定でp値を算出した(n=3、*<0.05、**<0.01、***<0.001、****<0.0001)。特異的抗体を用いたチューブリン翻訳後修飾レベルの解析(
図9A~B)から、LV-80と初代ニューロンをインキュベートすると、チューブリン脱チロシン化レベルが著しく減少し、それに伴ってチロシン化が増加することが示された(
図9B)。LV-80の存在下では、対照(DMSO)と比較して、チューブリン脱チロシン化は70%減少し、チロシン化チューブリンは50%増加し、わずかな差は抗体の個々の親和性を反映している。チューブリン脱チロシン化のレベルの減少は、qRT-PCR(
図9C)で評価したVASH1/2またはSVBP発現の変化によるものではなく、VASHの酵素活性が直接阻害された結果である。次いで、LV-80またはビヒクルとインキュベートしたニューロンの分化状態を、神経分化マーカーおよびグリアマーカーのパネルのqPCR定量によって分析した。初期神経分化のマーカーであるDcxおよびNeurod1、ならびに後期分化段階のマーカーであるSyp、Map2およびDlg4のmRNAレベルは、条件間で同等であった(
図9D)。同様に、Sox2およびGfapの発現レベル(グリアマーカー)は両条件で同等であった(
図9E)。
【0265】
2.3.10 脱チロシン化により、チューブリンはグルタミル化を受けやすくなる
試料を免疫ブロッティングで分析し、3つの独立したアッセイで相対光学密度を測定した(n=3、エラーバーはSEMを表す)。多重t検定でp値を算出した(n=3、*<0.05、**<0.01、***<0.001、****<0.0001)。
【0266】
注目すべきことに、処理したニューロンではアセチル化レベルは影響を受けないままであった(
図10B)。一方で、ポリグルタミル化は、2つの異なるポリグルタミル化特異的抗体:長いグルタミン酸鎖を認識するPolyEおよび分岐点グルタミン酸残基に特異的なGT335で示されるように、大幅に減少した(
図10A)。この観察から、チューブリン脱チロシン化とポリグルタミル化の間にクロストークが存在することが示唆された。この仮説を検証するために、HEK293細胞において野生型または酵素的に不活性なVASH2(VASH2D)をTTLL4またはTTLL6グルタミラーゼと共過剰発現させた。HEK293細胞を、野生型VASH2または死(dead)バリアント(VASH2D)およびTTLL4またはTTLL6グルタミラーゼと共トランスフェクションした。細胞を集め、表示の修飾に対する抗体を用いた免疫ブロッティングで分析した。チューブリン脱チロシン化レベルの増加はTTLL6を刺激したが、TTLL4のポリグルタミル化活性は刺激しなかった(
図10C)。このことから、TTLL6活性はa-チューブリンのC末端チロシン残基の存在に感受性があることが示された。この結果は、脱チロシン化により、チューブリンがいくつかのポリグルタミラーゼに許容的になることを示し、それらの経路間のクロストークが明らかになった。次に、ドロソフィラにおいてチューブリン脱チロシン化およびポリグルタミル化の間のクロストークが存在するかどうかを調べた。両修飾は、精子形成中に精子軸索上に蓄積する雄で特に顕著である。ドロソフィラにはVASHホモログがなく、脱チロシン化は未知の酵素によって触媒される。脱チロシン化を模倣するために、チロシンを含む最後の3つのアミノ酸残基を欠く主要α-チューブリンアイソタイプaTub84Bの短縮形態(aTub84BΔ3変異体13)を発現するように遺伝子操作したハエを用いた。試料を集め、表示の修飾に対する抗体を用いた免疫ブロッティングで分析した。aTub84BΔ3雄は、野生型雄と比較してポリグルタミル化レベルの著しい増加を示す(
図10D)。したがって、C末端アミノ酸残基は生体内でポリグルタミル化レベルに影響する。これらの結果は、脱チロシン化とポリグルタミル化の間の保存されたクロストークが存在することと一致した。
【0267】
2.3.11 チューブリン脱チロシン化は、初代皮質ニューロンにおけるタウタンパク質結合に影響する
MTとMT結合タンパク質(MAP)の相互作用の調節におけるチューブリン脱チロシン化の役割を調べるために、最初に5日間のVASH阻害剤の非存在下での皮質ニューロンの分化を完了させ、それに続いて3日間の処理を行った。このアプローチは、細胞分化とは無関係にタウタンパク質の細胞分布をモニターすることを可能にする。細胞を集め、表示の抗体を用いた免疫ブロッティングで分析した。LV-80と皮質ニューロンの3日間のインキュベーションは、チューブリン脱チロシン化レベルを効率的に減少させ、チロシン化チューブリンレベルを有意に増加させた(
図11A~B)。試料を免疫ブロッティングで分析し、3つの独立したアッセイで相対光学密度を測定した(n=3、エラーバーはSEMを表す)。多重t検定でp値を算出した(n=3、*<0.05、**<0.01、***<0.001)。阻害剤とインキュベートした細胞では、PolyEおよびGT355シグナルが有意に減少することによって示されるように、脱チロシン化-ポリグルタミン酸化クロストークが確認された(
図11C)。全体として、タウのレベルは、免疫ブロット(
図11A)およびタウmRNA(Mapt遺伝子によってコードされる)のqRT-PCR定量(示されていない)によって確認されたように、条件間で有意な差はなかった。次に、ビヒクルで処理したニューロンおよびLV80で処理したニューロンのタウおよびチューブリンを染色して、定量分析を行った。特異的にチューブリン染色されている領域を選び、ビヒクル処理および阻害剤処理した初代皮質ニューロンの同じ領域で、正確にタウタンパク質の免疫蛍光シグナルを測定した。チューブリンの染色と定量は条件間で有意差はなかった一方で、タウの細胞分布は投射(projections)において有意に変化し(
図11D~F)、本発明者らのVASH阻害剤とインキュベートした細胞では特に減少した(データは示されていない)。これは、MTとタウ蛋白質間の相互作用を調節する上で、チューブリンの脱チロシン化が役割を果たしていることを示唆する。まとめると、初代皮質ニューロンにおけるチューブリン脱チロシン化の阻害がタウの局在化に直接影響することが示された。
【0268】
2.3.12. 新たに設計された低nMのインセルロVASH阻害剤
図12に示されるように、インセルロにおけるIC50が低nMである効率的な、細胞浸透性がある非常に有効なプロドラッグ(LV-104やLV-111のような例を含む)のセットを設計した。
【0269】
化合物をタキソール処理前に加えた。CHL-1細胞において低nM範囲でVASH媒介脱チロシン化が消失した。定量すると、LV-104およびLV-111(IC50はそれぞれ8nMおよび20nM)がLV-80(IC50は500nM)よりも細胞に対してはるかに効率的であることが示された。
【0270】
プロドラッグ化合物(LV-104およびLV-111)および直接VASH阻害剤の2つの例。プロドラッグはどちらも、インビトロアッセイの状況ではVASH1およびVASH2に影響を全く及ぼさなかった。
【0271】
これらの結果を考慮して、本発明者らは、VASHペプチダーゼ活性を標的とすることは、アルツハイマー病のような神経変性疾患だけでなく、がん、筋ジストロフィーおよび繊毛病の治療にも、安全で忍容性の高い仕組みであることを提案する。興味深いことに、これらの化合物は、チューブリンのグルタミル化に強い効果を有し、例えば、乳児発症型神経変性または緑内障におけるチューブリンのTTL依存性修飾を減少させるためにも使用できる可能性がある。
【0272】
脱チロシン化の阻害剤として広く使用されているパルテノリドは、インビトロでもインセルロでもVASH活性を阻害しないことを示した。このことは、脱チロシン化に対するパルテノリドの効果が間接的で、チューブリンへの共有結合によって引き起こされる微小管ダイナミクスの変化に起因する可能性が高いことを示した最近発表された研究(Hotta et al. Curr Biol. 2021, Volume 31, Issue 4, Pages 900-907)と一致している。さらに重要なことに、本発明者らはEpo-Y化合物の医薬品化学に基づく最適化について報告し、特異性が高くかつ細胞透過性の新規VASH阻害剤の開発につながった。本発明者らは、新たに開発した化合物(有効成分)が、VASH活性を完全に阻害する能力を有し、パルテノリドとは対照的に、検出可能な毒性を示さないことを示した。さらに、初代神経細胞培養にVASH阻害剤を適用することによって、チューブリンの脱チロシン化と、ポリグルタミル化と呼ばれる別の重要なチューブリン修飾との間に、これまで知られていなかったクロストークがあることを発見した。これら2つの修飾の間の新たに明らかになったつながりは、神経細胞の極性の確立およびタウと呼ばれる主な神経微小管結合タンパク質の局在に、広範囲にわたって影響をもたらす。全体として、これらの化合物は、医薬品開発および研究目的での使用に大きな可能性をもっている。
【0273】
2.3.13 IBMT11インビトロおよびインセルロの脱チロシン化アッセイ
化合物を上記の反応培地(パート2.2を参照)に加えることによって、IBMT11のインビトロ阻害活性を試験し、次いで表示の抗体を用いた免疫ブロッティングで脱チロシン化を分析した。
【0274】
LV-104はインビトロでVASHを阻害しなかった一方で、インビトロでのIC50(IBMT-11の0.6uM対Epo-Yの10uM)によって示されるように、IBMT-11は、Epo-Yよりも強力にVASH1媒介チューブリンの脱チロシン化を阻害することがわかった(
図13.A)。これらの結果は、LV-104がインビトロ活性を有しないことも示している。
【0275】
タキソールで処理したCHL-1細胞を含む細胞ベースのアッセイで試験したところ、IBMT11は弱い阻害活性を有することがわかった(
図13.B)。これは、IBMT11が細胞浸透を低下させ、一方でLV‐104はVASHの非常に効率的な阻害を生じたことを示唆する。
【0276】
2.3.14. ヒト細胞内部でのLV104からIBMT11への変換
化合物LV-104の浸透および変換のバイオアナリシスは、ヒト細胞で上記のプロトコールを用いて達成された(パート2.2参照)。結果を
図14に示す。
【0277】
ヒト細胞内部でプロドラッグLV-104がIBMT11に完全に変換されることが確認されている。若干の変換が細胞の培養培地(上清)中で起こるが、LV104は細胞(細胞)内では検出されなかった。これらのデータは、特にR3に対応する位置に、エステルなどの極性の低い基が存在することにより、それらの細胞浸透を有意に増加するという仮説を裏付ける。いったん細胞内に入ると、化合物は加水分解され、例えばエステルがカルボン酸に変換され、強力なVASH阻害剤がもたらされる。
【0278】
したがって、IBMT11はプロドラッグLV-104の対応薬物である。実際、R3およびR6に対応する基はLV-104ではエチルエステルであるのに対し、IBMT11ではカルボン酸である。そのため、LV-104はインビトロ活性を出すことができず、IBMT-11はインセルロ活性が低い。また、その逆で、IBMT-11はインビトロで非常に効率的であり、LV-104はインセルロで強力なVASH阻害剤である。
【0279】
2.3.15. 本発明による化合物のインビトロおよびインセルロのアッセイ
a)IBMT23
IBMT23は、インビトロ脱チロシン化アッセイ(上記のプロトコールを使用)で試験した場合不活性であるが(
図15.A)、ヒトCHL1細胞では優れたインセルロVASH阻害活性を有することがわかった(
図15.B)。インビトロアッセイではLV80、IBMT11、EPO-Y(LV1と命名)の活性、インセルロアッセイではLV80、LV104、およびEPO-Yの活性との比較で、活性を表した。IBMT23は培養細胞ではLV80より強力で、生体内ではLV-104と同様の活性を有することがわかった。これらの結果は上記の仮説と一致している。IBMT23はR
3の位置にエチルエステルを有するプロドラッグである。したがって、そのようなプロドラッグは細胞内部で加水分解されて、VASH阻害活性をもたらす、対応するカルボン酸を生じる。このため、IBMT23はインビトロ活性を有しないが、優れたインセルロ活性を示す。
【0280】
b)IBMT34
IBMT34はLV80のナトリウム塩である。インビトロおよびインセルロでは、対応するベースのLV-80と同じ活性を有するが、水またはPBS溶液への溶解性が劇的に増加していることがわかった(
図16.Aおよび
図16.B参照)。
【0281】
c)IBMT28およびIBMT28hydro
IBMT28は、インビトロ脱チロシン化アッセイ(上記のプロトコールを使用)で試験した場合不活性であるが(
図17.A)、ヒトCHL1細胞では優れたインセルロVASH阻害活性を有することがわかった(
図17.B)。インビトロアッセイではLV80、IBMT11、EPO-Y(LV1と命名)の活性、インセルロアッセイではLV80およびLV104の活性との比較で、活性を表した。IBMT23は生体内ではLV80と同じくらい強力であることがわかる。これらの結果は、上記の仮説と一致している。IBMT28はR
3の位置にエチルエステルを有するプロドラッグである。したがって、そのようなプロドラッグは細胞内部で加水分解されて、VASH阻害活性をもたらす、対応するカルボン酸IBMT28hydroを生じる。このため、IBMT28はインビトロ活性を有しないが、優れた生体内活性を示す。IBMT28hydroのインビトロ活性を
図17.Aで評価した。
【0282】
d)IBMT38hydro
IBMT38hydroを、上記のようにインビトロ脱チロシン化アッセイで試験した。LV80と同程度良好なインビトロ活性を有することがわかった(
図18参照)。
【0283】
2.3.16. インビトロIC
50
の計算
以下の化合物を、上記のようにインビトロ脱チロシン化アッセイで試験し、それらのIC50を計算し、化合物LV-80のIC50と比較した。「倍率変化」の列は、各化合物IC50(化合物)/IC50(LV80)の比に相当する。
【0284】
【0285】
【0286】
Aillaud, C. et al. Science, 2017, 358, p.1448-1453で以前に記載のとおりにSD139を合成した。
【0287】
150mM NaOHと5分間インキュベートし、次いで150mM HClで中和して、SD139hydroを得た。
【0288】
SD-139およびSD-139hydro(SD-139sapoとも呼ぶ)をインビトロ脱チロシン化アッセイで試験し、LV-80およびEPO-Yの活性と比較した(
図19.Aおよび19.Bを参照)。SD-139とSD-139sapoはともに、LV-80より非常に効力が弱く、EPO-Yよりさらに効力が弱いことがわかった。したがって、SD-139は、VASH依存性脱チロシン化の阻害という観点で、最小要件を示さない。
【国際調査報告】