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特表2024-532653マイクロ流体デバイスにおける、またはマイクロ流体デバイスに関する改良
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-10
(54)【発明の名称】マイクロ流体デバイスにおける、またはマイクロ流体デバイスに関する改良
(51)【国際特許分類】
   B81B 1/00 20060101AFI20240903BHJP
   C12M 1/42 20060101ALI20240903BHJP
   B01J 19/12 20060101ALI20240903BHJP
   B01J 19/08 20060101ALI20240903BHJP
   B01F 23/41 20220101ALI20240903BHJP
   B01F 33/301 20220101ALI20240903BHJP
【FI】
B81B1/00
C12M1/42
B01J19/12 C
B01J19/08 Z
B01F23/41
B01F33/301
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500423
(86)(22)【出願日】2022-07-08
(85)【翻訳文提出日】2024-02-20
(86)【国際出願番号】 GB2022051767
(87)【国際公開番号】W WO2023281275
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】2109966.8
(32)【優先日】2021-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521217482
【氏名又は名称】ライトキャスト ディスカバリー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】LIGHTCAST DISCOVERY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100173794
【弁理士】
【氏名又は名称】色部 暁義
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ウートン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ヘンリー アイザック
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム ディーコン
(72)【発明者】
【氏名】リチャード ジェレミー インガム
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー ジェイムス パッチラー
【テーマコード(参考)】
3C081
4B029
4G035
4G036
4G075
【Fターム(参考)】
3C081AA01
3C081BA22
3C081BA23
3C081BA25
3C081BA33
3C081BA80
3C081DA06
3C081EA27
3C081EA29
4B029AA27
4B029BB01
4B029BB20
4B029DG10
4B029GA08
4B029GB04
4B029GB05
4G035AB40
4G035AE02
4G035AE13
4G035AE17
4G036AC70
4G075AA13
4G075AA39
4G075AA61
4G075AA65
4G075BB05
4G075BB10
4G075BD15
4G075CA14
4G075CA32
4G075DA02
4G075DA18
4G075EB31
4G075EB50
4G075EC09
4G075FB01
4G075FC11
4G075FC15
4G075FC20
(57)【要約】
光学的に媒介されるエレクトロウェッティングを用いて微小液滴を操作するデバイスを提供する。このデバイスは、第1複合壁及び第2複合壁を境界とするマイクロ流体空間を具え、第1複合壁は、第1基板と、この基板上の導体層と、第1導体層上の光活性層と、光活性層上の第1連続誘電体層とを具え、第1連続誘電体層は20nm未満の厚さを有し、第2複合壁は、第2基板と、第2基板上の第2導体層とを具えている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的に媒介されるエレクトロウェッティングを用いて微小液滴を操作するデバイスであって、
前記デバイスがマイクロ流体空間を具え、該マイクロ流体空間は、
第1複合壁と、
第2複合壁とを境界とし、
前記第1複合壁は、
第1基板と、
前記第1基板上の第1導体層と、
前記第1導体層上の光活性層と、
前記光活性層上の第1連続誘電体層であって、20nm未満の厚さを有する第1連続誘電体層とを具え、
前記第2複合壁は、
第2基板と、
前記第2基板上の第2導体層とを具えている
デバイス。
【請求項2】
前記第2複合壁が、前記第2導体層上の第2連続誘電体層であって20nm未満の厚さを有する第2連続誘電体層を更に具えている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
交流(A/C)電源と、
少なくとも1つの電磁放射源と、
マイクロプロセッサとを更に具え、
前記A/C電源は、前記第1導体層及び前記第2導体層に接続されて、前記第1複合壁と前記第2複合壁との間に電圧を供給し、
前記少なくとも1つの電磁放射源の電磁放射は、第1光励起層のバンドギャップよりも高いエネルギーを有して、前記光活性層に当たって、前記第1誘電体層の表面上の対応する一時的なエレクトロウェッティング位置を誘起するように構成され、
前記マイクロプロセッサは、前記電磁放射源を制御して、前記電磁放射が前記光活性層に当たる点を操作して、前記一時的なエレクトロウェッティング位置の配置を変化させ、これにより少なくとも1つのエレクトロウェッティング経路を作製し、前記微小液滴を前記少なくとも1つのエレクトロウェッティング経路に沿って移動させることができる、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記第1連続誘電体層上及び/または前記第2連続誘電体層上に設けられた酸化シリコンの介在層を更に具えている、請求項1~3のいずれかに記載のデバイス。
【請求項5】
前記介在層の厚さが0.1nm~5nmである、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
前記第1複合壁の露出面と前記第2複合壁の露出面とが200μm未満だけ離れて配置されて、前記微小液滴を含むように構成されたマイクロ流体空間を規定する、請求項1~5のいずれかに記載のデバイス。
【請求項7】
前記マイクロ流体空間の幅が2~50μmである、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
前記第1複合壁の露出面及び前記第2複合壁の露出面が1つ以上のスペーサを含み、該スペーサは、前記第1複合壁と前記第2複合壁とを所定量だけ離して保持して、前記微小液滴を含むように構成されたマイクロ流体空間を規定する、請求項1~7のいずれかに記載のデバイス。
【請求項9】
前記A/C電源が、前記第1導体層及び前記第2導体層に接続されて、前記第1複合壁と前記第2複合壁との間に0V~50Vの電圧を供給する、請求項1~8のいずれかに記載のデバイス。
【請求項10】
前記第1複合壁及び前記第2複合壁が、それぞれ前記第1連続誘電体層及び前記第2誘電体層上に、それぞれ第1アンチファウリング層及び第2アンチファウリング層を更に具えている、請求項1~9のいずれかに記載のデバイス。
【請求項11】
前記第1連続誘電体層上及び前記第2連続誘電体層上の前記アンチファウリング層が疎水性である、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記電磁放射源が、画素化された光のアレイを具え、前記光が前記アレイから反射するか前記アレイを透過する、請求項3~11のいずれかに記載のデバイス。
【請求項13】
前記デバイス内または前記デバイスの下流に位置する微小液滴内の光信号を検出するための光検出器を更に具えている、請求項1~12のいずれかに記載のデバイス。
【請求項14】
微小水滴の乳液から成る媒体を非混和性の分散媒中に生成するための上流入口を更に具えている、請求項1~13のいずれかに記載のデバイス。
【請求項15】
微小水滴の乳液から成る媒体の流れを、前記マイクロ流体空間内への入口ポートを経由し上記マイクロ流体空間を通して非混和性の分散媒中に誘導するための上流入口を更に具えている、請求項1~14のいずれかに記載のデバイス。
【請求項16】
前記第1複合壁及び前記第2複合壁が、当該第1複合壁と当該第2複合壁との間に前記マイクロ流体空間を規定して、カートリッジまたはチップの周囲を形成する、請求項1~15のいずれかに記載のデバイス。
【請求項17】
互いに並行して延びる複数の第1エレクトロウェッティング経路を更に具えている、請求項1~16のいずれかに記載のデバイス。
【請求項18】
複数の第2エレクトロウェッティング経路を更に具え、該第2エレクトロウェッティング経路は、前記第1エレクトロウェッティング経路と相互作用して、少なくとも1つの微小液滴合体位置を生成する、請求項17に記載のデバイス。
【請求項19】
前記微小液滴を前記マイクロ流体空間内に導入するための上流入口を更に具え、前記微小液滴の直径が前記マイクロ流体空間の幅よりも20%超大きい、請求項1~18のいずれかに記載のデバイス。
【請求項20】
前記第2複合壁が第2光励起層を更に具え、前記電磁放射源の電磁放射が、前記第2光励起層にも当たって、一時的なエレクトロウェッティング位置の第2パターンを生成し、該第2パターンも変化させることができる、請求項1~19のいずれかに記載のデバイス。
【請求項21】
前記スペーサの物理的形状を用いて、前記デバイス内での前記微小液滴の分割、併合、及び伸長を支援する、請求項8に記載のデバイス。
【請求項22】
前記電磁波源がLED光源である、請求項1~21のいずれかに記載のデバイス。
【請求項23】
前記電磁放射源が0.005~0,1Wcm-2のレベルである、請求項1~22のいずれかに記載のデバイス。
【請求項24】
前記第1基板上の前記第1導体層が透明であり、70~250nmの範囲内の厚さを有する、請求項1~23のいずれかに記載のデバイス。
【請求項25】
前記光活性層が、400~1000nmの波長範囲内の前記電磁放射によって活性化される、請求項1~24のいずれかに記載のデバイス。
【請求項26】
液体試料を含む貯蔵容器と、
前記貯蔵容器を有する流体回路内の乳化装置と、
前記乳化装置の下流に設けられた入口流路と、
請求項1~25のいずれかに記載のデバイスと、
ポンプシステムとを具えたカートリッジであって、
前記乳化装置は、非混和性の分散媒中の微小水滴の乳液から成る媒体を生成するように構成され、
前記入口流路は、前記非混和性の分散媒中の前記微小水滴の乳液から成る前記媒体を、前記乳化装置から受けるように構成され、
前記デバイスが少なくとも入口ポートを具え、前記デバイスが前記入口流路と流体連通し、
前記ポンプシステムは、前記液体試料の流れを前記乳化装置へ誘導するため、及び/または、前記微小水滴の乳液から成る前記媒体の流れを、前記デバイスを通して前記非混和性の分散媒中へ誘導するために設けられている
カートリッジ。
【請求項27】
前記デバイスの前記入口ポートに設けられた1つ以上のバルブを更に具え、該バルブは、前記デバイスを通る、前記非混和性の分散媒中の前記微小水滴の乳液から成る前記媒体の流れを制御する、請求項26に記載のカートリッジ。
【請求項28】
前記乳化装置がステップ乳化装置である、請求項27に記載のカートリッジ。
【請求項29】
複数の前記乳化装置が設けられ、該乳化装置の各々に、対応する入口流路が設けられている、請求項26、27、または28に記載のカートリッジ。
【請求項30】
請求項1~25のいずれかに記載のデバイス、または請求項26~29のいずれかに記載のカートリッジの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明はマイクロ(微小)流体デバイスに関するものであり、特に、光学的に媒介されるエレクトロウェッティング(oEWOD:optical electrowetting-on-dielectric:電気による濡れ性変化)を用いて微小液滴を操作するデバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
光学的に媒介されるエレクトロウェッティングを用いて微小液滴を操作する装置の設計は、多数の競合効果及び観測された現象によって推し進められている。
【0003】
微小液滴の操作の効率に焦点を当てると、多数の設計において、微小液滴を操作することができる速度を最大にすることが好ましいであろう。液滴操作速度の向上は、生物学的実験のより高い処理能力を可能にする。oEWODデバイスの効率の他の側面は、液滴をデバイス内に静止状態で保持することができる信頼性であり、最小数の液滴が、その保持位置から失われるか動き回る。微小液滴を操作することができる速度は、印加する電圧と超線形の相関がある。印加することができる最大電圧が、デバイスが誘電体層の絶縁破壊電圧未満で動作することを保証するために必要な誘電体の厚さを決定する。従って、文献は、速度を最大にするために必要な高電圧で安全に動作するためには、厚い誘電体層が必要であることを教示している。液滴保持の信頼性は、液滴の保持力と、液滴をその保持位置から除去し得るあらゆる外力の強さとの間の複雑な相互作用、特に誘電泳動効果、及び周囲のキャリア相の動き、及びこのキャリア相の成分によって決まる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした背景に対して、本発明が生まれた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの態様によれば、光学的に媒介されるエレクトロウェッティングを用いて微小液滴を操作するデバイスが提供され、このデバイスはマイクロ流体空間を具え、このマイクロ流体空間は、
・第1複合壁と、
・第2複合壁とを境界とし、
第1複合壁は、
・第1基板と、
・この基板上の第1導体層と、
・第1導体層上の光活性層と、
・光活性層上の第1連続誘電体層であって、20nm未満の厚さを有する第1連続誘電体層とを具え、
第2複合壁は、
・第2基板と、
・この基板上の第2導体層とを具えている。
【0006】
一部の好適例では、第2複合壁が、第2導体層上の第2連続誘電体層であって20nm未満の厚さを有する第2連続誘電体層を更に具えている。
【0007】
一部の好適例では、第1複合壁と第2複合壁とが離間して保持されて、これらの間にマイクロ流体空間を形成する。これらの壁はスペーサ構造によって分離することができ、このスペーサ構造は、第1基板と第2基板との間の挿入構造によって形成することができ、あるいは、第1または第2複合壁の基板で形成することができる。
【0008】
スペーサは、フォトレジストの層で、感圧接着剤の層によって、及び/またはドライフィルム(乾燥膜)レジストの層によって形成することができる。それに加えて、あるいはその代わりに、スペーサは、第1または第2複合壁を形成するガラス、石英ガラス(溶融石英)、または透明プラスチック基板内のエッチング構造及び/またはキャビティによって形成することができる。
【0009】
本発明の他の態様によれば、光学的に媒介されるエレクトロウェッティングを用いて微小液滴を操作するデバイスが提供され、このデバイスは、
・第1複合壁と、
・第2複合壁とを具え、
第1複合壁は、
・第1基板と、
・この基板上の第1導体層と、
・第1導体層上の光活性層と、
・光活性層上の第1連続誘電体層であって、20nm未満の厚さを有する第1連続誘電体層とを具え、
第2複合壁は、
・第2基板と、
・この基板上の第2導体層と、
・第2導体層上の第2連続誘電体層であって、20nm未満の厚さを有する第2連続誘電体層とを具えている。
【0010】
光学的に媒介されるエレクトロウェッティングを用いて微小液滴を操作するデバイスの設計は、多数の競合効果及び観測された現象によって推し進められている。十分に広く認められた超線形の関係が、微小液滴の速度と印加される電圧との間に存在する。従って、印加される最大電圧が、要求される誘電体の厚さを決定する。従って、微小液滴の速度を最適化するためには、印加される電圧が最大であり、従ってこれに対応する誘電体の厚さが増加するであろうことが予期される。しかし、高い電圧は、それ自体に関連する、実際の送達に関する問題を有することを、発明者は見出した。
【0011】
印加する電圧を増加させると、最大限達成可能なoEWODの速度が期待通りに急速に増加することを、発明者は実験的に発見した。しかし、以前は観測されていない推進力により、液滴を静止状態で保持する能力が、電圧が増加すると共に低下することも、発明者は観測した。最初は、このことは、液滴の、目標位置付近の特徴的なランダム運動として現われ、電圧が更に増加するに連れて、このランダム運動の速度は、ランダム運動がoEWODの保持力を圧倒して液滴の制御が失われるまで増加する。このことは事実上最大電圧を課し、従って、最大速度を、初期には文献中で期待され予測されたものよりずっと下に低下させる。
【0012】
oEWODシステムの電圧駆動応答を決定する2つの状態が存在し、これらは「オン」状態及び「オフ」状態であり、デバイスの照明領域及び非照明領域に対応する。理想的なoEWODデバイスでは、デバイスのオン領域内に印加される電圧が正確に0であり、「オン」状態の領域のみが電圧を印加するであろう。oEWODデバイスでは、空間的に変化する、表面上の光学的に制御される電圧が、液滴と表面との間の接触角を変化させ、従って、推進力または保持力を液滴に与える。液滴を保持する際には、液滴には部分的に「オン」状態が存在し、部分的に「オフ」状態が存在し、各状態の空間的範囲は照明領域のサイズによって決まる。「オン」状態の電圧と「オフ」状態の電圧とのコントラストが、保持力を生成する。印加される電圧が増加するに連れて、両状態の電界強度が増加する。「オン」状態の電界強度の増加は、デバイス性能の増加をもたらす、というのはエレクトロウェッティング力を増加させるからである、「オフ」状態の電界強度の増加は、この力の増加に部分的に対抗する。しかし、これら2つの状態間の比率が一定に留まり、この力は電界の二乗に依存するので、oEWOD力の全体的な増加が存在する。従って、文献は、電圧の増加により、当業者は、保持及び液滴の動きの両方の改善を期待するであろう。
【0013】
このことは明らかに発明者による観測とは反対であり、発明者は、移動速度の増加は観測しているが、電圧の増加に伴い、液滴を静止状態に保持する能力の低下を観測している。従って、この現象は、不所望な推進力の、「オフ」状態の電界強度への超線形の(二乗よりも急速な)依存性でしか説明可能でないものと、発明者は理論付けている。従って、この分野内の文献が焦点を当てていたように、「オン」状態の強度を最大にすることによってではなく、「オフ」状態の強度を低下させるようにデバイスの構造を設計することによって、本明細書中に開示するデバイスの性能を向上させることができる。
【0014】
このことを実現することへの理論的な近道は、光活性層の厚さを増加させることであろう。しかし、このことは、非常に多数の液滴を同時に操作する必要がある用途向けには不適切である、というのは、光パワーの要求を大幅に増加させるからである。更に、光活性層の厚さの増加は、何千個もの液滴の同時の並列的操作を促進することにとって不適切である。従って、光活性層の変更により「オフ」状態を最小にするのではなく、発明者は、誘電体層の静電容量の影響を調査した。このように直観に反して「オフ」状態に焦点を当てるに当たり、誘電体層の厚さを減少させることによって、より高い割合の電圧が光活性層の両端間で降下し、従って、誘電体の表面における電界強度が低下するであろうことを、発明者は見出した。従って、発明者は、デバイスの誘電体層の厚さを、文献中に推奨される厚さ未満の、およそ5分の1に低減した。このことは、「オフ」状態の液滴の保持不全モードの軽減により、デバイスの性能の莫大な増加を生じさせて、必要な照明のレベルを同じにしつつ、より高い動作電圧に達すること、従って、より高いoEWOD力に達することを可能にする。
【0015】
第1誘電体層は、原子層堆積によって光活性層上に堆積させることができる。それに加えて、あるいはその代わりに、第2誘電体素を光活性層上に堆積させることができる。
【0016】
第1及び/または第2誘電体層を、厚さ20nm未満の連続層で設けることによって、液滴がより安定になることが生じ、従って液滴が基板上に静止することが発見されたことは、驚くべきことである。これとは対照的に、第1及び/または第2誘電体層を20nm超の厚さまで増加させることは、基板上の液滴のより制御されない動きを生じさせ得るし、従って、液滴は照明領域から逸脱する制御されない動きをより呈しやすいことを、発明者は発見した。結果として、制御されない液滴は、例えば正確かつ効率的なoEWOD動作にとって、液滴の併合及び分割をより困難にし得る。一部の好適例では、第1及び/または第2誘電体層を、1nm~20nmの厚さにすることができ、あるいは、2nm~20nm、3nm~20nm、4nm~20nm、5nm~20nm、6nm~20nm、7nm~20nm、8nm~20nm、9nm~20nm、10nm~20nm、12nm~20nm、14nm~20nm、15nm~20nm、または18nm~20nmにすることができる。1~15nm、1~10nm、1~5nm、5~10nm、5~15nm、または10~15nmにすることもできる。
【0017】
第1基板及び/または第2基板は透明にすることができる。第1導体層及び/または第2導体層は透明にすることができる。
【0018】
上記デバイスは、交流(A/C:alternating current)電源と;少なくとも1つの電磁放射源と;マイクロプロセッサとを更に具えることができ、A/C電源は、第1導体層及び第2導体層に接続されて、第1複合壁と第2複合壁との間に電圧を供給し、少なくとも1つの電磁放射源の電磁放射は、第1光励起層のバンドギャップよりも高いエネルギーを有して、上記光活性層に当たって、第1誘電体層の表面上の対応する一時的なエレクトロウェッティング位置を誘起するように構成され、マイクロプロセッサは、電磁放射源を制御して、電磁放射が上記光活性層に当たる点を操作して、一時的なエレクトロウェッティング位置の配置を変化させ、これにより、微小液滴を当該経路に沿って移動させることができる少なくとも1つのエレクトロウェッティング経路を作製する。
【0019】
上記デバイスは、酸化シリコンの介在層を更に具えることができる。酸化シリコンの介在層は、第1及び/または第2誘電体層上に設けられる。介在層の利点は、アンチファウリング(汚損防止、防汚)層または非ファウリング(非汚損)層用の結合層として用いることができることにある。介在層は、誘電体層と疎水性層との間に設けられる。介在層の厚さは0.1nm~5nmにすることができる。介在層の厚さは、0.1nm超、0.25nm超、0.5nm超、0.75nm超、1nm超、1.5nm超、2nm超、2.5nm超、3nm超、3.5nm超、4nm超、または4.5nm超にすることができ、あるいは、5nm未満、4.5nm未満、4nm未満、3.5nm未満、3nm未満、2.5nm未満、2nm未満、1.5nm未満、1nm未満、0.75nm未満、0.5nm未満、または0.25nm未満にすることができる。
【0020】
第1複合壁の露出面と第2複合壁の露出面とを、200μm未満だけ離して配置して、微小液滴を含むように構成されたマイクロ流体空間を規定することができる。マイクロ流体空間は、2~50μmの幅にすることができる。一部の好適例では、マイクロ流体空間が、2μm超、4μm超、6μm超、8μm超、10μm超、12μm超、14μm超、16μm超、18μm超、20μm超、22μm超、24μm超、26μm超、28μm超、30μm超、32μm超、34μm超、36μm超、38μm超、40μm超、42μm超、44μm超、46μm超、または48μm超である。一部の好適例では、マイクロ流体空間を、50μm未満、48μm未満、46μm未満、44μm未満、42μm未満、40μm未満、38μm未満、36μm未満、34μm未満、32μm未満、30μm未満、28μm未満、26μm未満、24μm未満、22μm未満、20μm未満、18μm未満、16μm未満、14μm未満、12μm未満、10μm未満、8μm未満、6μm未満、または4μm未満にすることができる。
【0021】
第1及び第2複合壁の露出面は、第1壁と第2壁とを所定量だけ離して保持して、微小液滴を含むように構成されたマイクロ流体空間を規定するための1つ以上のスペーサを含むことができる。これらのスペーサの物理的形状を用いて、上記デバイス内での微小液滴の分割、併合、及び伸長を支援することができる。このスペーサは、ブレード形状の構造、ウェッジ(くさび)構造、ピラー(柱状)、親水性パッチ、狭幅流路にすることができ、但しこれらに限定されず、あるいは、表面上の窪み(ディンプル)にすることができる。
【0022】
一部の好適例では、微小液滴が1つ以上の細胞を含むことができる。微小液滴は、細胞培養培地及び/または緩衝溶液のような媒体を含むことができる。
【0023】
上記A/C電源は、第1導体層及び第2導体層に接続されて、第1複合壁と第2複合壁との間に0V~100Vの電圧を供給するように構成することができる。一部の好適例では、供給される電圧を、0V~50V、0.1V、0.1V~2V、3~4Vにすることができ、あるいは0V~10Vにすることができる。一部の好適例では、上記A/C電源を、0V超、5V超、10V超、15V超、20V超、25V超、30V超、35V超、40V超、50V超、60V超、70V超、80V超、または90V超の電圧を供給するように構成することができ、あるいは、電圧を90V未満、80V未満、70V未満、60V未満、50V未満、45V未満、40V未満、35V未満、30V未満、25V未満、20V未満、15V未満、10、V未満、または5V未満にすることができる。
【0024】
第1及び第2複合壁は、第1及び第2アンチファウリング層を、それぞれ第1及び第2誘電体層上に更に具えることができる。第2誘電体層上のアンチファウリング層は疎水性にすることができる。
【0025】
上記電磁放射源は、画素化された光のアレイを具えることができ、光はこうしたアレイから反射するかこうしたアレイを透過する。
【0026】
上記エレクトロウェッティング位置は、微小液滴の進行方向に三日月形にすることができる。
【0027】
上記デバイスは、当該デバイス内またはその下流に位置する微小液滴内の光信号を検出するための光検出器を更に具えることができる。この光信号は蛍光信号とすることができる。
【0028】
上記デバイスは、微小水滴の乳液(エマルション)から成る媒体を非混和性の分散媒中に生成するための上流入口を更に具えることができる。分散媒は任意で不活性にすることができる。
【0029】
上記デバイスは、微小水滴の乳液から成る媒体の流れを、上記マイクロ流体空間内への入口ポートを経由し上記マイクロ流体空間を通して非混和性の分散媒中に誘導するための上流入口を更に具えることができる。
【0030】
当該複合壁間に上記マイクロ流体空間を規定する第1及び第2複合壁は、カートリッジまたはチップの周囲を形成することができる。
【0031】
上記デバイスは、互いに並行して延びる複数の第1エレクトロウェッティング経路を更に具えることができる。
【0032】
上記デバイスは、複数の第2エレクトロウェッティング経路を更に具えることができ、これらの第2エレクトロウェッティング経路は、第1エレクトロウェッティング経路と相互作用して、少なくとも1つの微小液滴合体位置を生成する。
【0033】
上記デバイスは、微小液滴をマイクロ流体空間内に導入するための上流入口を更に具えることができ、微小液滴の直径はマイクロ流体空間の幅よりも20%超大きい。
【0034】
第2複合壁は第2光励起層を更に具えることができ、上記電磁放射源の電磁放射は、第2光励起層にも当たって、一時的なエレクトロウェッティング位置の第2パターンを生成することができ、この第2パターンも変化させることができる。
【0035】
上記電磁波源はLED(light emitting diode:発光ダイオード)光源とすることができ、電磁放射を0.005~0,1Wcm-2で供給することができる。一部の好適例では、上記電磁放射源が0.005~0,1Wcm-2のレベルであり、あるいは0.005Wcm-2超、0.0075Wcm-2超、0.01Wcm-2超、0.025Wcm-2超、0.05Wcm-2超、または0.075Wcm-2超にすることができる。一部の好適例では、上記電磁放射源を、0.1Wcm-2未満、0.075Wcm-2未満、0.05Wcm-2未満、0.025Wcm-2未満、0.01Wcm-2未満、0.0075Wcm-2未満、0.005Wcm-2未満、または0.0025Wcm-2未満にすることができる。
【0036】
基板上の上記第1透明導体層を、70~250nmの範囲内の厚さにすることができる。上記光活性層は、上記導体層上で400~1000nmの波長範囲内の電磁放射によって活性化することができ、上記導体層は300~1000nmの範囲内の厚さを有することができる。
【0037】
一部の好適例では、上記光活性層をアモルファス(非晶質)シリコン(a-Si)製とすることができる。
【0038】
一部の好適例では、対向する2つの壁によって規定されるマイクロ流体空間に微小液滴を通過させることができ、各壁は誘電体層を含み、誘電体層の誘電体絶縁破壊(電圧)を下回るような十分に低い電圧が、誘電体層の両端間に印加される。2つの誘電体層の両端間の電圧を十分に低くした、2つの誘電体層の使用は、導電性液滴の破壊性のイオン化を防止するだけでなく、液滴に対する誘電体ピンホール欠陥の悪影響を実質的に解消して、2つの誘電体層の使用により生じるエレクトロウェッティング力の減少にもかかわらず、性能を予想外に向上させる。結果として、例えば0.01Wcm-2の低さを発生するLEDのような低パワーの照射光源を用いて何千個もの液滴を同時に操作して、光学的に媒介されるエレクトロウェッティングを実現することができる。1cm×1cmよりも大きい面積を有する大面積のマイクロ流体デバイスを備えた好適例の場合には、このデバイスは、10,000個超の液滴、50,000個超の液滴、100,000個超の液滴、あるいは非常に大面積のデバイスの場合には1,000,000個超の液滴を並列的に操作することに適している。
【0039】
一部の好適例では、大面積のデバイスを利用して、何千個もの液滴を処理することができる。発明者は、単一の誘電体層を用いて液滴を並列的に処理する、より大型のデバイスを構築することを以前に試みている。しかし、発明者は、液滴が動くことができない欠陥領域に遭遇した。実験及び試験を通して、特にデバイスが大型になるほど、ピンホール欠陥がデバイス性能の重大な限界であることを、発明者は見出した。
【0040】
誘電体層は常に疎らなピンホール欠陥を有し、これにより、これらのピンホール欠陥は、小さい隔離された領域内で導電性になる。既知の最適化されたプロセスは、1cm2当たりおよそ38(個の)ピンホールの欠陥を与え得る。ピンホール欠陥は、液滴を捕捉して移動不可能にし得る。緩衝溶液のような導電媒体を用いる際に、この影響はより深刻である。
【0041】
一部の好適例では、誘電体絶縁破壊(電圧)未満で用いることができる二誘電体層構造が提供される。絶縁破壊電圧未満で動作する際には、こうした2面の誘電体層構造が、ピンホール欠陥の影響を大幅に打ち消す新規の効果を与えることができる。液滴の上部上及び下部上の両方に配置された誘電体により、第1誘電体層内のピンホール欠陥が第2誘電体層内のピンホール欠陥とちょうど整列する場合のみに、導電性経路が形成され得る。このことが発生する確率は、非常に、非常に小さい。第2誘電体層の存在によって実現されるこうしたピンホール軽減の特徴は、比較的大面積内での何千個もの液滴の同時の操作を可能にするカギである。
【0042】
100,000個超の液滴、更には1,000,000個超の液滴を並列的に操作するのに適した大面積のデバイス、または非常に大面積のデバイスの場合には、ピンホール欠陥の数がデバイス性能における重大な限界になる、というのは、単一の液滴がピンホール欠陥に接触する確率が格段に高くなるからである。ピンホール欠陥上に捕捉された単一の液滴は、デバイス内の他の液滴の動きを阻止することがあり、従って、システムの動作を阻害するか中断させることがある。このため、ピンホール欠陥の影響を打ち消すに当たっての本発明の利点は、非常に多数の微小液滴を含む非常に大面積のデバイスの動作において格段に重要である。
【0043】
本発明の他の態様によれば、カートリッジが提供され、このカートリッジは:液体試料を含む貯蔵容器と;この貯蔵容器を有する流体回路内の乳化装置と;乳化装置の下流に設けられた入口流路と;本発明のいずいれかの態様によるデバイスと;ポンプシステムとを具え、乳化装置は、非混和性の分散媒中の微小水滴の乳液から成る媒体を生成するように構成され、入口流路は、非混和性の分散媒中の微小水滴の乳液から成る媒体を、乳化装置から受けるように構成され、ここでは、上記デバイスが少なくとも入口ポートを具え、上記デバイスは入口流路と流体連通し、ポンプシステムは、液体試料の流れを乳化装置へ誘導するため、及び/または、微小水滴の乳液から成る媒体の流れを、上記デバイスを通して非混和性の分散媒中へ誘導するために設けられている。
【0044】
カートリッジ内の水性の流体は、細胞培養培地のような生体液とすることができ、これらの流体は、細胞、溶球、粒子、薬剤、生物分子、または他の生物学的実体を含むことができることが適切である。これらの実体は、ウィルス、DNA(deoxyribonucleic acid:デオキシリボ核酸)またはRNA(ribonucleic acid:リボ核酸)分子、興奮剤(刺激剤)、サイトカイン、栄養素、及び溶存ガスとすることができる。このため、カートリッジの流路及び構造の設計は、特に、均一な水力直径及び最小の流体せん断力の、十分に一致した(複数の)流路の選択によって、生体液の分散及び完全性が保たれるように最適化することができる。
【0045】
一部の好適例では、上記カートリッジが、上記デバイスの入口ポートに設けられた1つ以上のバルブを更に具えることができ、このバルブは、上記デバイスを通る、非混和性の分散媒中の微小水滴の乳液から成る媒体の流れを制御する。
【0046】
一部の好適例では、上記乳化装置をステップ乳化装置とすることができる。一部の好適例では、いくつかの乳化装置を設けることができ、その各々に入口流路が設けられている。
【0047】
一部の実施形態では、上記ポンプシステムが、ポンプ、ヘッド(先頭)貯蔵容器、蓄積器、及び/または圧力源を含むことができ、但しこれらに限定されない。液体試料の流れを乳化装置へ誘導するために、及び/または上記デバイスを通る媒体の流れを誘導するために用いることができる他のポンプシステムが、当業者にとって既知であることが、更に理解される。
【0048】
非混和性の分散媒によって包囲される微小液滴の水性乳液の形成用の多数の技術が、現在技術において知られている。これらの技術は、交差流乳液生成装置、T-接合生成装置、及びステップ乳化装置を含む。交差流乳液生成装置、T-接合乳液生成装置、及び他の関係する装置は、代表的には、可変サイズの微小液滴を作製するために用いられる。微小液滴のサイズ分布は、油脂原料と含水物とが交わる接合部において生成される流動状態に依存する。更に、微小液滴のサイズは、流動する流体の界面張力及び粘度のような流体の特性に依存する。このため、均一かつ反復可能なサイズ分布の液滴をoEWODデバイス内へ供給するためには、これらの種類の乳液生成装置に入る流体の流量を精密に制御し調整することが必要である。
【0049】
ステップ乳化装置が、乳化接合部における流速への依存性が最小である微小液滴のサイズ分布を有する乳液を生成することが有利である。微小液滴のサイズは、主に、乳化ノズルの物理的寸法、並びに流動する流体の材料特性によって決まる。ステップ乳化装置及び他の乳化装置は共に、流動する流体の特性に敏感であるが、界面張力及び粘度に依存する度合いは、ステップ乳化装置では大幅に低減される。このため、乳化装置から出る微小液滴のサイズ分布を修正するために、流れのパラメータを精密に制御し調整する必要はない。ステップ乳化装置は、単純な固定流量系または固定圧力系で動作させることができる。ステップ乳化装置は、oEWODデバイスとの動作用に特に適している、というのは、ある位置における乳化装置の検査及び光学的アクセスの必要性を回避するからであり、さもなければ、こうした検査及び光学的アクセスは、oEWODデバイスの動作用に用いられる光学アセンブリとオーバーラップ(重複)する。ステップ乳化装置は、1つのカートリッジ・アセンブリ内で動作する複数の乳化装置を監視して制御するために、複数の検査装置及び微小液滴サイズ監視装置を導入する複雑性及びコストを回避する。従って、多数の独立したステップ乳化装置を、oEWODデバイス上の異なる入口に接続して、流体的に隔離された乳液生成入力経路を、含水物の入力とoEWODデバイスとの間に設けることができる。流体的に隔離された入力経路の使用は、oEWODデバイスが、異なる入力含水物で形成された一組の独立した乳液入力を、これらの間の相互汚染の可能性なしに受けることを可能にする。
【0050】
一部の好適例では、上記カートリッジ・アセンブリが8つまでの乳化装置を含むことができる。一部の好適例では、上記カートリッジ・アセンブリが、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、または7つの乳化装置を含むことができる。一部の好適例では、上記カートリッジ・アセンブリが8~12個の乳化装置を含むことができる。一部の好適例では、上記カートリッジ・アセンブリが、12~20個、20~30個、30~50個、または50~100個の乳化装置を含むことができる。
【0051】
これらの乳化装置は、ユーザが交換可能にすることができ、これにより、ユーザは自分が意図する目的に適した種類の乳化装置を選定することができる。例えば、ユーザは、特定の微小液滴サイズ範囲を提供する乳化装置でカートリッジを構成することができる。ユーザは、各々が異なるサイズ範囲、またはサイズ範囲の副次的選択を有する微小液滴を提供する一組の乳化装置を選定することができる。一部の好適例では、14pL~180pLの範囲内の体積の微小液滴、あるいは180pL~500pLの範囲または500pL~1.2nLの範囲内の微小液滴を生成するように、乳化装置を構成することができる。これらの乳化装置は、14pL未満の体積の、特に10fL~50fLまたは50fL~14pLのサイズ範囲内の微小液滴を提供するように構成することもできる。一部の好適例では、少なくとも1.2nL~4nLの範囲を含む1.2nl超の微小液滴を生成するように乳化装置を構成することができる。乳化装置がステップ乳化装置である場合には、乳化ノズルの幾何学的形状を変更することによって、特に長方形ノズルの短軸の高さを変更することによって、微小液滴の体積を変化させることができる。
【0052】
更に、単一の乳化装置内の一組のステップ乳化装置ノズルの動作を並列化して、複数の乳化ノズルを単一の含水入力に接続することができる。接続されたノズルは、相互接続された接合部間の複雑な相互作用によって決まる速度の変化により、独立して動作することができる。乳化装置は、全部が、ノズルの物理的サイズによって決まるほぼ均一なサイズの微小液滴を生成することができる。このことは、低い流速で並列的に動作する非常に多数の生成装置を可能にして、細胞及び他の生体物質を損傷させ得るせん断の悪影響を軽減する。このことは、乳化装置が、微粒子を含む生体物質が狭いノズル開口部を通ることの時折の結果である一部のノズルの部分的閉塞または遮断にかかわらず、乳化装置が乳液を生成し続けることも可能にする。
【0053】
本発明の1つの態様によれば、本明細書中に開示するデバイス、装置、カートリッジ、または方法によって選別された種(しゅ)が提供される。
【0054】
本発明の1つの態様によれば、本明細書中に開示するデバイス、装置、カートリッジ、または方法によって選択された種が提供される。
【0055】
本発明の1つの態様によれば、本明細書中に開示するデバイス、装置、カートリッジ、または方法によって隔離された種が提供される。
【0056】
本発明の1つの態様によれば、本明細書中に開示するデバイス、装置、カートリッジ、または方法によって作製された種が提供される。
【0057】
上記の種は、事実上、化学種、生化学種、または生物種とすることができる。
【0058】
例えば、本発明は、本明細書中に開示する選別(スクリーニング)、選択、及び/または隔離方法によって識別される実体に対する作用薬/拮抗薬を提供することができる。本発明は、本明細書中に開示する選別、選択、及び/または隔離方法によって識別されるる実体に対する作用薬/拮抗薬を、治療における使用向けに提供することができる。この実体は、事実上、化学的、生化学的、または生物学的実体とすることができる。
【0059】
本発明の1つの態様によれば、本明細書中に開示するデバイス、装置、カートリッジ、方法、または種の使用方法が提供される。
【0060】
本発明の1つの態様によれば、本明細書中に開示するデバイス、装置、カートリッジ、方法、または種の、治療における使用方法が提供される。
【0061】
本発明は、本明細書中に開示するデバイス、装置、カートリッジ、方法、または種の、製品の作製における使用方法が提供される。
【0062】
こうした使用方法は、ペプチド合成とすることができる。こうした使用方法は、合成生物学とすることができる。こうした使用方法は、細胞株の生産技術(エンジニアリング)または開発とすることができる。こうした使用方法は、細胞療法とすることができる。こうした使用方法は、創薬とすることができる。こうした使用方法は、抗体探索とすることができる。
【0063】
本発明の1つの態様によれば、本明細書中に開示するデバイス、装置、カートリッジ、方法、または種の、分析における使用方法が提供される。
【0064】
この分析は、物理分析、化学分析、または生物学的分析とすることができる。
【0065】
上記使用方法は、細胞内撮像(イメージング)とすることができる。上記使用方法は、高含量撮像とすることができる。
【0066】
上記使用方法は、診断とすることができる。
【0067】
上記使用方法は、生物検定(バイオアッセイ)とすることができる。この生物検定は、ハイスループット(高速大量処理)スクリーニングとすることができる。この生物検定は、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay:酸素免疫測定法)とすることができる。
【0068】
上記使用方法は、細胞分泌とすることができる。
【0069】
上記使用方法は、QC(quality control:品質管理)安全プロファイリングとすることができる。
【0070】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明を更に、ほんの数例として、より具体的に説明する
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1図1A及び図1Bは、本発明による2つのoEWODデバイス構成を示す図である。
図2図1A及び1Bに概略的に示すOEWOD構成の等価回路図である。
図3】誘電体層が異なる厚さを有するOEWODデバイス内の臨界電圧の電圧プロット図である。
図4】OEWODデバイス内の種々の状態間の界面活性剤の平衡の流れ図である。
図5図5A及び5Bは、oEWODデバイス内の液滴が静止に近い状態に保持された際の、oEWOD装置内の液滴の不所望な動きを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
図1Aを参照すれば、マイクロ流体デバイス、特にoEWODデバイス100が提供される。図1Aに示すoEWODデバイス100は:第1基板104から成る第1複合壁102と;基板104上の第1導体層106と;導体層106上で波長範囲400~850nmの電磁放射によって活性化される光活性層108と;光活性層108上の第1誘電体層とを具え、第1基板104はガラス製とすることができ、第1導体層106は70~250nmの範囲内の厚さを有し、光活性層108は300~1500nmの範囲内の厚さを有する。第1誘電体層110は、20nm未満の厚さを有する連続層として形成されている。この層の厚さの下限は、少なくとも部分的に、連続でなければならないこうした薄い層を用意する方法によって決まる。しかし、理論的には0.1nm~20nmの厚さを有することができる。第1導体層は透明にすることができる。
【0073】
デバイス100は第2複合壁112も具え、第2複合壁112は:第2基板114と、第2基板114上の第2導体層116とを具え、第2基板114はガラス製とすることができる。第2導体層は透明にすることができる。第2導体層116は、70~250nmの範囲内の厚さを有することができる。第2誘電体層118が第2導体層116上に存在することができ、第2誘電体層118は20nm未満の厚さを有する。第1誘電体層と同様に、第2誘電体層は連続していなければならず、その厚さの下限は製造上の制約によって決まるが、1nm~20nmにすることができる。第1連続誘電体層110の露出面と第2連続誘電体層118の露出面とは、20~180μm離れて配置されて、微小液滴122を含むように構成されたマイクロ流体空間121を規定する。
【0074】
光活性層108はアモルファスシリコン製である。第1及び第2導体層はITO(indium tin oxide:酸化インジウムスズ)製である。
【0075】
介在結合層124が、第1誘電体層110上に設けられ、第2誘電体層118上にも設けることができる。この介在層の厚さは、0.1nm~5nmにすることができる。この介在層の厚さは、0.1nm超、0.25nm超、0.5nm超、0.75nm超、1nm超、1.5nm超、2nm超、2.5nm超、3nm超、3.5nm超、4、または4.5nm超にすることができ、あるいは、5nm未満、4.5nm未満、4nm未満、3.5nm未満、3nm未満、2.5nm未満、2nm未満、1.5nm未満、1nm未満、0.75nm未満、0.5nm未満、または0.25nm未満にすることができる。介在層の利点は、アンチファウリング層または非ファウリング層用の結合層として用いることができることにある。一部の実施形態では、添付した図面には図示していないが、介在結合層を省略することができる。こうした実施形態では、疎水性層を直接、第1誘電体層に付加することができる。
【0076】
疎水性層126は介在結合層124上に設けられている。疎水性層の一例は、フルオロシランまたはフルオロシロキサンとすることができる。介在結合層124は任意であり、流路壁120はSU-8(登録商標)製とすることができ、あるいはガラス構造の一部とすることができる。介在層124は、誘電体層110、118と疎水性層126との間に設けられる。
【0077】
図1Aに示すように、入射光130を用いて光スプライト・パターン131を与えることができ、ここでは入射光130が光活性層108上に光を与えて、微小液滴122をマイクロ流体空間121内の静止位置に保持する。オイルキャリア相134を、デバイス内の孔136を通して微小液滴122に与えて、主要栄養素及び成分を補給して、1つ以上の細胞のような微小液滴122内の内容物を、生きた健康な状態に保つことができる。一部の場合には、オイル相134が、主要栄養素、1つ以上の媒体、及び内容物を、細胞の成長、生存、及び/または増殖用に供給することができる。
【0078】
第1及び第2基板104、114は、機械的強度の高い材料製である。例えば、第1及び第2基板は、ガラス、金属、または工業用プラスチックで形成することができる。一部の実施形態では、これらの基板がある程度のフレキシビリティ(柔軟性)を有することができる。一部の実施形態では、第1及び第2基板が少なくとも100μmの厚さを有する。一部の実施形態では、第1及び第2基板の厚さを、2500μm超、例えば3000μm、3500μm、または4000μmにすることができる。一部の実施形態では、第1及び第2基板が100~2500μmの範囲内の厚さを有することができる。一部の実施形態では、第1及び第2基板が、100μm超、200μm超、300μm超、400μm超、500μm超、600μm超、700μm超、800μm超、900μm超、1000μm超、1100μm超、1200μm超、1300μm超、1400μm超、1500μm超、1600μm超、1700μm超、1800μm超、1900μm超、2000μm超、2100μm超、2200μm超、2300μm超、または2400μm超の厚さを有することができる。一部の実施形態では、第1及び第2基板が、2500μm未満、2400μm未満、2300μm未満、2200μm未満、2100μm未満、2000μm未満、1900μm未満、1800μm未満、1700μm未満、1600μm未満、1500μm未満、1400μm未満、1300μm未満、1200μm未満、1100μm未満、1000μm未満、900μm未満、800μm未満、700μm未満、600μm未満、500μm未満、400μm未満、300μm未満、または200μm未満の厚さを有することができる。一部の実施形態では、第1基板がおよそ1100μmの厚さを有し、第2基板がおよそ700μmの厚さを有する。他の実施形態では、第1及び第2基板が800ミクロンの厚さを有することができる。一部の実施形態では、第1基板がシリコン、石英ガラス、またはガラスである。一部の実施形態では、第2基板が石英ガラス及び/またはガラスである。このガラスは、ソーダ石灰ガラスまたはフロートガラスとすることができ、但しこれらに限定されない。
【0079】
第1及び第2導体層106、116は、第1及び第2基板104、114の一方の表面上に配置され、代表的には70~250nmの範囲内の厚さを有し、70~150nmが好ましい。これらの層のうちの少なくとも1つは、酸化インジウムスズ(ITO)のような透明導電材料製、銀のような導電性金属またはPEDOT(poly(3,4-ethylenedioxythiophene):ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))のような導電性ポリマー等の非常に薄い薄膜(フィルム)製である。これらの層は、連続シートとして、あるいは複数本のワイヤのような一連の離散構造として形成することができる。その代わりに、上記導体層は導電性材料のメッシュとすることができ、電磁放射がこのメッシュの網目間に指向される。
【0080】
光活性層108は半導体材料で形成され、この半導体材料は、電磁放射源による刺激に応答して電荷の局在領域を生成することができる。その例は、300~1500nmの範囲内の厚さを有する水素化アモルファスシリコン層を含む。一部の実施形態では、光活性層が可視光の使用によって活性化される。この層の誘電特性は、>107V/mの高い絶縁耐力(誘電強度)及び>3の誘電率(誘電定数)を含むことが好ましい。一部の実施形態では、上記誘電体層が、アルミナ、シリカ、ハフニア、または非導電性のポリマー薄膜から選択される。
【0081】
その代わりに、少なくとも第1誘電体層、好適には両誘電体層にアンチファウリング層をコーティングして、種々の仮想的なエレクトロウェッティング電極位置に、所望の微小液滴/分散媒の流体/表面の接触角を確立することを支援することができる。このアンチファウリング層は、微小液滴の内容物が表面に付着して、微小液滴がチップを通って移動するに連れて減少することを追加的に防止することを意図している。
【0082】
最適な性能のために、アンチファウリング層は、微小液滴/分散媒の流体/表面の接触角を確立することを支援するべきであり、この接触角は、25℃で空気-液体-表面の三点境界面で測定した際に50°~180°の範囲内であるべきである。一部の実施形態では、これらの層が10nm未満の厚さを有し、代表的には単分子層として形成される。その代わりに、これらの層は、メチルメタクリレート(メタクリル酸メチル)、または疎水基、例えばアルコキシシリル基で置換したその誘導体のようなアクリレートエステルのポリマーから成ることができる。上記アンチファウリング層のいずれか、あるいは両方が疎水性であり、最適な性能を保証する。一部の実施形態では、厚さ20nm未満のシリカの介在層を、アンチファウリング・コーティングと誘電体層との間に挿入して、化学的適合性のあるブリッジ(架橋)を提供することができる。
【0083】
第1及び第2誘電体層、従って第1及び第2壁はマイクロ流体空間を規定し、このマイクロ流体空間は、少なくとも10μmの幅であり、20~180μmの範囲内の幅であることが好ましく、このマイクロ流体空間内に微小液滴が含まれる。微小液滴が含まれる前に、微小液滴自体が固有の直径を有することが好ましく、この直径はマイクロ流体空間の幅よりも10%大きい、あるいは20%大きい。従って、微小液滴は、チップに入る際に、圧縮を施されて、球形の微小液滴の変形に至り、例えば、より良好な微小液滴分割能力により、強化されたエレクトロウェッティング性能をもたらす。一部の例では、第1及び第2誘電体層を、フルオロシランのような疎水性コーティングでコーティングすることができる。
【0084】
一部の実施形態では、マイクロ流体空間が、第1壁と第2壁とを所定量だけ離して保持するための1つ以上のスペーサを含む。スペーサの選択肢は、ビーズまたはピラー、中間レジスト層から生成されるリッジ(頂部)を含み、これらのリッジは光パターン化によって生成されている。その代わりに、酸化シリコンまたは窒化シリコンのような堆積材料を用いてスペーサを作製することができる。その代わりに、接着剤コーティング付きまたは接着剤コーティングなしのフレキシブル・プラスチックフィルムを含むフィルムの層を用いて、スペーサ層を形成することができる。種々のスペーサの幾何学的形状を用いて、ピラーの直線によって規定される狭幅の流路、テーパー付き流路、または部分的に閉じた流路を形成することができる。慎重な設計によって、これらのスペーサを用いて、微小液滴の変形を支援することができ、その後に、微小液滴の分割を実行し、変形した微小液滴に対する操作を実行することができる。同様に、これらのスペーサを用いて、チップのゾーンどうしを物理的に分離して、液滴の構成物間の交差汚染を防止して、液圧下でチップをロード(装荷)する際に液滴の流れを正しい方向に進めることができる。
【0085】
導体層に取り付けたA/C電源を用いて、第1及び第2壁にバイアスをかけて、これらの壁間に電位差を与えることができ;この電位差は0~50ボルトの範囲内が適している。これらのoEWOD構造は、代表的には、400~850nmの範囲内の、例えば550、620、及び660nmの波長、及び光活性層のバンドギャップを超えるエネルギーを有する電磁放射源と共に用いられる。光活性層は仮想的なエレクトロウェッティング電極位置で活性化することが適切であり、この位置では、使用する放射の入射強度が0.005~0.1Wcm-2の範囲内である。電磁放射源は0.005~1Wcm-2のレベルであり、あるいは0.005Wcm-2超、0.0075Wcm-2超、0.01Wcm-2超、0.025Wcm-2超、0.05Wcm-2超、または0.075Wcm-2超にすることができる。一部の実施形態では、電磁放射源を、0.1Wcm-2未満、0.075Wcm-2未満、0.05Wcm-2未満、0.025Wcm-2未満、0.01Wcm-2未満、0.0075Wcm-2未満、0.005Wcm-2未満、または0.0025Wcm-2未満のレベルにすることができる。
【0086】
電磁放射源が画素化されている場合、これらの電磁放射源は、直接、あるいはLEDまたは他のランプによって照明されるデジタル・マイクロミラーデバイス(DMD:digital micromirror device)のような反射スクリーンを用いて間接的に、のいずれかで給電される。このことは、仮想的なエレクトロウェッティング電極位置の高度に複雑なパターンを、第1誘電体層上に急速に生成し破壊することを可能にし、これにより、厳密に制御されるエレクトロウェッティング力を用いて、微小流体を 基本的に任意の仮想的通路に沿って精密に進めることを可能にする。こうしたエレクトロウェッティング経路は、第1誘電体層上の仮想的なエレクトロウェッティング電極位置の連続体で構成されるものとして見ることができる。
【0087】
第1及び第2誘電体層は、単一の誘電体材料で構成することができ、あるいは2つ以上の誘電体材料の複合体とすることができる。これらの誘電体層はAl2O3及びSiO2製とすることができ、但しこれらに限定されない。
【0088】
ある構造を、第1誘電体層と第2誘電体層との間に設けることができる。第1誘電体層と第2誘電体層との間の構造は、エポキシ製、ポリマー製、シリコンまたはガラス製、あるいはこれらの混合物製とすることができ、但しこれらに限定されず、平面状の、角度のある、曲面状の、または微小構造化された壁面/面を有する。第1誘電体層と第2誘電体層との間の構造を、上部及び下部の複合壁に接続して、封止されたマイクロ流体デバイスを作製し、このデバイス内に流路及び領域を規定することができる。この構造は、2つの複合壁間のギャップ(間隙)を占めることができる。その代わりに、あるいはそれに加えて、既に壁面を有する成形された基板上に、上記導体及び誘電体を堆積させることができる。
【0089】
図1Bに示すoEWODデバイス100は、代案のoEWOD構成を提供する。図1Bに示すように、このoEWODデバイスは:第1基板104から成る第1複合壁102と、基板104上の導体層106と、光活性層108と、光活性層108上の第1誘電体層110とを具え、第1基板104はガラス製にすることができ、第1導体層106は70~250nmの範囲内の厚さを有し、光活性層108は、導体層106上で400~850nmの波長範囲内の電磁放射によって活性化され、光活性層108は300~1500nmの範囲内の厚さを有する。第1誘電体層110は、20nm未満の厚さを有する連続層として形成される。
【0090】
図1Bに示すデバイス100は第2複合壁112も具え、第2複合壁112は:第2基板114と、基板114上の第2導体層116とを具え、基板114はガラス製とすることができる。第2導体層は透明にすることができる。第2導体層116は、70~250nmの範囲内の厚さを有することができる。第2誘電体層118が第2導体層116上に存在することができ、第2誘電体層118は20nm未満の厚さを有する。第1誘電体層と同様に、第2誘電体層は連続していなければならず、その厚さの実際の下限は製造上の制約によって決まるが、1nm~20nmにすることができる。第1連続誘電体層110の露出面と第2連続誘電体層118の露出面とは、20~180μm離れて配置されて、微小液滴122を含むように構成されたマイクロ流体空間121を規定する。
【0091】
図1Bは、oEWODデバイス100の代案の実施形態を示し、ここではスペーサ層が別個の材料で形成されず、第1(アクティブ(能動的))基板104内の構造の一部として形成される。第1導体層106、光活性層108、第1誘電体層110、介在結合層124、及び疎水性層126で形成される、oEWODデバイスの副次的な層は、スペーサ構造の壁面を部分的に、あるいは完全に覆うことができる。追加的な実施形態は、デバイス100の代案の構成であり、ここではスペーサ層が第2(パッシブ(受動的))基板114の構造化によって形成される。
【0092】
一部の場合には、第1及び/または第2基板110、114を共に構造化することによって、あるいは図1Aに示すように、第1及び/または第2基板104、114内の構造と、流路壁120のような挿入材料との組合せを用いることによって、スペーサを形成することができる。
【0093】
図1Bに示すように、入射光130を用いて光スプライト・パターン131を与えることができ、光スプライト・パターン131では、入射光130が光活性層108の一部分を照明して、微小液滴122をマイクロ流体空間121内の静止位置に保持する。オイルキャリア相134を、デバイス内の孔136を通して微小液滴122に与えて、主要栄養素及び主要成分を補給して、1つ以上の細胞のような微小液滴122内の内容物を、生きた健康な状態に保つことができる。一部の場合には、オイル相134が、主要栄養素、媒体、及び内容物を、細胞の成長、生存、及び/または増殖用に供給することができる。
【0094】
図2を参照すれば、図1A及び1Bのデバイスの等価回路図が示されている。図2は、光活性層が光依存性の抵抗器128及びコンデンサ129を用いることを表す。照明が抵抗器128の抵抗を低下させ、これにより抵抗器が導電経路を形成する。光活性層が照明されない「オフ」状態領域では、抵抗器が実質的に非導電性の経路を形成する。「オフ」状態中には、あるいは印加される電圧ができる限り0に近い期間中には、0の電圧が誘電体層118に印加されることが理想的である。その結果、図2の等価回路図では、光活性層108が相当量の抵抗及び静電容量を回路に与える。理想的な光活性層の場合には、「オフ」状態では、抵抗が無限に高くなり、純粋に容量性の素子が光活性層の表現として残る。現実には、図2に示すように、照明がない場合には、全部の光活性材料がいくらかの抵抗を有する。逆に、図2に示す「オン」状態では、光活性層の照明が、理想的に、光活性層108の両端間に導電経路をもたらす。このことは、抵抗素子及び容量性素子としての光活性層を効果的に解消するはずであり、従って、印加された全電圧を、これらの下方の誘電体層110に与えるはずである。現実的で非理想的な光活性層の場合には、光活性層の照明部分内に残留抵抗が存在する、というのは光活性層108の抵抗が0まで低下しないからである。
【0095】
「オン」状態中に0でない電圧が印加されると、この電圧を用いて、微小液滴122を照明が当たる点に保持し、あるいは、所定のエレクトロウェッティング経路に沿った微小液滴の動きを推進する。「オン」状態電圧と「オフ」状態電圧との差が、微小液滴を操作することができる最大速度に影響を与える。
【0096】
「オン」状態中には、光活性層108が、印加された電圧を誘電体層110に与えることができ、この電圧は、照明されている光活性層108の残留抵抗のみによって減衰するのに対し、「オフ」状態は、照明されていない光活性層の抵抗によって大幅に減衰する電圧を与える。各液滴に加わるエレクトロウェッティング力は、微小液滴の照明部分の接触角と非照明部分の接触角との差によって支配される。これらの領域の各々の接触角は、誘電体層110に達する印加電圧によって決まる。このため、「オフ」状態における光活性層108内の残留抵抗が、微小液滴122の当該部分における接触角を変化させ、従ってエレクトロウェッティング力を修正する。等価回路モデルでは、誘電体層の両端間の結果的な電圧降下が、光活性層108の複素インピーダンスと誘電体層110のインピーダンスとの相互作用の結果である。「オン」状態では、微小液滴を操作する目的で光を微小液滴に与える。この操作は、微小液滴の保持、移動、分割、及び併合を含み、但しこれらに限定されない。電圧源140が、微小液滴122に電圧を供給して、微小液滴122の移動を生じさせることができる。
【0097】
図2は、「オフ」状態の制御、及び図1A及び1Bに示すデバイスの設計最適化におけるその役割を示す。「オフ」状態電圧の最適化は、光学的に媒介されるエレクトロウェッティングシステムのみに関係する考察である。微小液滴122の速度は、少なくとも部分的に、「オン」状態電圧と「オフ」状態電圧との差によって決まる。理想的には、光学的に媒介されるシステムについては、「オフ」状態が0Vに向かう傾向があるべきである。上記移動の効率も、「オン」状態及び「オフ」状態の各々の期間中の絶対電圧に依存する。「オン」状態と「オフ」状態との電圧差が、ウェッティングの度合いの大幅な変化に及ぶ場合には、移動がより効率的になる。例えば、11Vで「オン」状態である場合には、上記アレイが全体的にウェッティングされない1Vの「オフ」状態とは対照的に、大部分がウェッティングされる。このことは、「オフ」状態が100Vであり、上記アレイが完全にウェッティングされ、従って、110Vの「オン」状態ではウェッティングの度合いに変化がないシナリオとは対照的であり得る。これらのシナリオの両方が、「オン」状態電圧と「オフ」状態電圧との間に10Vの電圧差を有するが、ウェッティングの度合いは1~11Vの範囲にわたって、より大きく変化する。従って、光学的に媒介されるシステムでは、「オフ」電圧を最小にする望みが存在し、「オフ」段階中に撮像を行うことができる。この電圧レジメン内では、最適な誘電体の厚さがずっと薄い。
【0098】
デバイスの設計を最適化する際に観測された追加的な実験的現象は、照明が当たる点の付近の微小液滴のランダム運動である。理論に束縛されることを望まずに、「オン」状態電圧と「オフ」状態電圧との間のコントラスト(差異)が低減されると、微小液滴がランダムに動くように思われる。このランダム運動は、「オフ」状態電圧がゼロ(0V)に至る傾向があるシステムにおいて最小化されるように思われる。このことは、システムの静電容量を減少させること、従って、現在技術において教示されているずっと厚い誘電体層ではなく、薄い誘電体層を設けることと共に実現することができる。
【0099】
図3を参照すれば、電界勾配(電界傾度)のプロットが示され、電界のサイズ、及び図3に示すように光活性層108を具えたoEWODデバイス100内の種々の場所にわたる電界勾配を示している。特に、デバイスが120nmの厚さを有する酸化アルミニウムの誘電体層111を有する場合について、及び20nm未満の厚さを有する酸化アルミニウムの誘電体層を有するデバイスについて、電圧の大きさを、照明領域132、134と非照明領域136、138との間で示す。この電圧プロットは1D(one-dimensional:一次元)モデルの出力であり、システム内の各材料境界における印加電圧を計算し、電位、従って各材料ブロックの両端間の電界降下を計算することによって構築される。このモデルは、図1Aに示す透明導体層116と、図1Aに示す微小液滴122の基部との間である、デバイスの小領域にわたって計算しており、デバイスは、20nmの厚さを有する誘電体層110を具え(薄い誘電体のデバイス)、及びデバイスは、120nmの厚さを有する誘電体層を具えている(厚い誘電体のデバイス)。
【0100】
oEWODデバイスを全性能で、即ち最大限可能な運動速度及び液滴に加えられる最高レベルの力で使用することが望まれる際には、次式によって支配される駆動電圧を増加させる必要がある:
【数1】
【0101】
ここに、エレクトロウェッティング力Fは、デバイスの静電容量Cd、及びオン状態電圧Von,dに比例する。
【0102】
実際の最大動作電圧Vmaxは、あらゆる所定のデバイスについて、絶縁層の誘電体絶縁破壊(電圧)によって制限され;絶縁破壊の閾値を上回れば、液滴を含む含水物の不所望な電気分解が存在する。
【数2】
【0103】
上記の式2は、最大電圧Vmaxが誘電体の厚さdと誘電体絶縁破壊強度EBDとの積であることを示している。
【0104】
このため、oEWODデバイスは、任意で、絶縁破壊閾値のすぐ下の電圧において最大の力Fmaxで動作することができる:
【数3】
【0105】
従って、常に液滴に加えることができるエレクトロウェッティング力の最大レベルは、式3の比例関係に従う。
【0106】
しかし、液滴の運動をoEWODで推進する特定の場合については、他の予期しない要因が存在し、この要因は、液滴の運動速度が、合計のエレクトロウェッティング力によってではなく、液滴の下方の誘電体全体にわたって、特に、液滴、キャリア相、及びアクティブなoEWOD表面間の三方向接触線の付近内に局在する電界勾配によって決まることにある。oEWODデバイス内の液滴の運動は、液滴の照明領域と非照明領域との間の表面エネルギーの非対称によって推進され;運動は、液滴がその表面エネルギーを最低限可能なエネルギー状態まで緩和することの結果である。このため、照明領域と非照明領域との間の最大限可能な表面エネルギー差は、液滴の下方の誘電体層内の電界勾配を最大にすることによって増加し、液滴の運動速度を決定する。
【0107】
この局所的な接触線領域内の電界勾配は、現在技術において既知の厚い誘電体111のデバイス及び本明細書中に開示する薄い誘電体110のデバイスの両方について、前に図2に示したように計算することができる。両デバイスが同じ電圧で、例えば両デバイスの絶縁破壊閾値を十分に下回る電圧で動作している際には、微小液滴の両端間の電界勾配は、同じ絶対電界が厚い誘電体111のデバイス内に存在するにもかかわらず、薄い誘電体層110を有するデバイスにおいて、より高い。こうした液滴の両端間の増加した電界勾配は、固定の動作電圧で、より高速でより制御された液滴の動きをもたらし、このことは、本明細書中に開示する薄い誘電体層110を具えたデバイスは、より低い動作電圧で効果的に動作することができることを意味する。
【0108】
更に、デバイス内の電界勾配によって推進される他の交絡効果が存在すると思われる。従って、これらの交絡効果を低減するためには、より低い電圧で動作するデバイスを有することが有利であり、こうしたデバイスは、以下により詳細に開示する。
【0109】
微小液滴の両端間の電界勾配と並んで、周囲のキャリア相内に発生する電界勾配が存在し得る。キャリア相は、HFE7500のようなフッ化炭素油(フルオロカーボン・オイル)と、PEG-PFPE(polyethylene glycol-perfluoropolyether:ポリエチレングリコール-パーフルオロポリエーテル)系のトリブロック界面活性剤との混合物である。この級の界面活性剤が、チップの表面上及びキャリア相内に錯体(複合)分子構造を形成することは周知である。これらの構造は、ラングミュア-ブロジェット(Langmuir-Blodgett)膜をチップの境界面上に含み、二量体、ミセル、ベシクル(小胞)、及びキャリア層内の界面活性剤の他の超分子構造(SUMO:supermolecular)を含む。キャリア相内に、自由界面活性剤として、オリゴマーとして、微小液滴の表面層に、及びチップ表面の空乏層に、界面活性剤分子間に形成される多方向平衡状態が存在する。これらの状態のいずれと、他の状態のいずれとの間の転移も可能である、というのは、これらの状態の全部が直接、流体連通しているからである。状態間の平衡及び関連する相互作用を、図4のブロック図によって図示する。
【0110】
図4に示すように、表面層142を具えたチップ表面140、界面活性剤ミセル144、自由界面活性剤140、及び微小液滴の表面層148の相互間の結び付きを示す線図が示されている。界面活性剤分子141は、図4中の矢印で示すように、チップ境界面142上の状態、液滴境界面148上の状態、及び溶液中の2つの状態、即ち:孤立分子146としての自由界面活性剤の形態、及びミセル及び二量体144のような超分子構造としての自由界面活性剤の形態の相互間で転移することができる。
【0111】
キャリア相内の電界勾配の存在は、第2の予期しない効果を生じさせ、この効果は、特に、キャリア相内のミセル144、小胞及びオリゴマーのような界面活性剤で形成された超分子構造の、液滴化されていない材料の誘電泳動である。液滴148と液滴表面150との間の接触線の付近では、水性の液滴148が局所的電界を歪ませて勾配を与え、これにより、この勾配内の超分子構造が液滴表面150に急速に加わる。チップ表面140に向かうSUMOのより低速のドリフトも存在し得る。液滴が既に界面活性剤の表面に変形を強いて場合によってはシワを生じさせるエレクトロウェッティング力によって既に変形しているならば、過剰な界面活性剤の層がミセル内に融合することを誘発し、この層は、スラスト(推進)力を与えるキャピラリー・スナッピング(毛細管の弾き出し)によって追い出される。一旦、液滴が移動し始めると、液滴は移流によってミセルに遭遇することができ、同じDEP力が急速にこれらの液滴を先行する表面上に層状化する。微小液滴の背面には、液滴表面の流れにより界面活性剤が蓄積して、表面スラスト力をもたらす。このことは、フィードバック・サイクルであり、数cm・s-1の速度を与えることができる。微小液滴の背面は、強制的電界が除去された後に、相当量の時間にわたって、界面活性剤中で異方性層状のままである。
【0112】
こうした電界勾配駆動の加速の結果は、光学的エレクトロウェッティング制御によって決定されない力により微小液滴が移動することであり;このことは非照明領域内及び部分的に照明される微小液滴内で生じ得る。このことは、制御されない様式で移動する微小液滴として現れ得る。こうした制御されない動きは、極端な場合には、微小液滴を保持するスプライトから微小液滴を引き離して、チップ内の相当の距離を移動させ得る。その結果、こうした不所望な効果により移動している微小液滴は、デバイス内の他の微小液滴の保持を中断させ得る。
【0113】
こうした効果、及びこのことを軽減するための本発明の最適な挙動を、図5A及び5Bとして更に図示し、これらの図は、2つの異なるデバイス上の液滴の動きを示す一連の経時的顕微鏡写真である。薄い誘電体のデバイス(図5A)及び厚い誘電体のデバイス(図5B)は、共に、直径およそ70μmの水性液滴152を充填されており、水性液滴152は次にoEWODの照明スポットまたはスプライト154上に捕捉され、光と、デバイスの導体層に印加される外部電圧(添付した図面中には図示せず)との組合せによってデバイス内に保持される。
【0114】
図5A中の液滴152は、およそ20nmの厚さの誘電体層を有する薄い誘電体のデバイスでは、5Vの電圧の下で、静止状態で保持されている。これらの条件下で、デバイスに、液滴152を、oEWODの制御下で表面全体にわたって4mm/sを超えて移動させることができる。時系列中の3枚の画像は、1s(1秒)の間隔で撮影され、この時間間隔内に、液滴はその直径の10分の1未満の距離を、スプライト154から離れるように移動している。液滴152が保持されると、中央の光保持スポットまたはスプライト154の、液滴152の非常に小さい動きが存在する。
【0115】
図5Bは、現在技術において既知である、120nmの厚さの誘電体層を有する厚い誘電体のデバイスに対して同様な試験を実行した結果を示す。このデバイスは10VのACバイアスで動作させ、液滴の運動速度は3mm/sに及ぶことができる。しかし、これらの条件下では、oEWODの力を用いて液滴152を静止位置に保持する際に、保持スプライト154の付近に、大幅な度合いの液滴の動きが存在する。図5Bの経時的画像は、ここでも1s間隔で撮影され、但しこのタイムフレーム(時間枠)中に、液滴152は、周囲のキャリア相内に含まれる超分子界面活性剤構造の誘電泳動の効果によって、その保持スポット154から大幅に変位している。動きの最遠端では、液滴152はその直径の半分も、スプライト154から離れて変位している。図5Bに示す、厚い誘電体層を有するデバイスに対するこうした悪影響は、図5Aに示す、薄い、即ち厚さ20nm未満の誘電体層を有するデバイスでは観測されてない。
【0116】
本発明の種々の追加的態様及び実施形態は、本開示を考慮すれば当業者にとって明らかである。
【0117】
本明細書中に用いる「及び/または」は、規定した2つの特徴または構成要素の各々の、他方を伴う具体的開示または他方を伴わない具体的開示として解釈するべきである。例えば、「A及び/またはB」は、(i)A、(ii)B、及び(iii)A及びB、の各々の具体的開示として、まさに各々が本明細書中に個別に明記されているように解釈するべきである。
【0118】
文脈上で特に断りのない限り、以上に明記されている特徴の説明及び定義は、本発明のいずれの特定の態様または実施形態にも限定されず、記載されている全ての態様及び実施形態に同等に当てはまる。
【0119】
更に、本発明は例としていくつかの実施形態を参照しながら説明してきたが、本発明は開示した実施形態に限定されず、添付した特許請求の範囲に規定する本発明の範囲から逸脱することなしに、代案の実施形態を構成することができることは、当業者の理解する所である。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A
図5B
【国際調査報告】