(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-10
(54)【発明の名称】市販グレードのMRIスキャナを使用したマイクロロボットの運動制御
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20240903BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
A61B5/055 390
A61B5/055 380
B81B1/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504556
(86)(22)【出願日】2022-08-05
(85)【翻訳文提出日】2024-01-24
(86)【国際出願番号】 US2022039554
(87)【国際公開番号】W WO2023018612
(87)【国際公開日】2023-02-16
(32)【優先日】2021-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519392030
【氏名又は名称】バイオナット ラブス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュピゲルマッハー、マイケル
【テーマコード(参考)】
3C081
4C096
【Fターム(参考)】
3C081AA01
3C081BA21
3C081BA22
3C081BA33
3C081EA39
4C096AA18
4C096AD14
4C096DC33
(57)【要約】
本開示は、市販グレードの磁気共鳴イメージング(MRI)スキャナを使用して、被験体(患者)の体内のマイクロボットの運動を制御する方法を提供する。本開示の方法は、マイクロボットの位置をリアルタイムで決定するための撮像方法をさらに含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の体内で1以上の磁気マイクロボットの運動を制御する方法であって、
(a)MRI(核磁気共鳴イメージング)スキャナを提供するステップであって、前記MRIスキャナは、主磁石、1以上のシムコイル、勾配システム、RFシステム、及び、前記MRIスキャナの他の構成要素の動作を指示するように構成されたコントローラを含み、前記MRIスキャナは、その使用中に前記被験体を該スキャナ内に配置するための中空ボアを画定するチューブをさらに含む、該ステップと、
(b)前記被験体の体内の標的解剖学的領域に、MRIセーフルーメンの遠位端を導入するステップと、
(c)前記MRIセーフルーメンの近位端から、該ルーメン内に1以上のマイクロボットを導入するステップと、
(d)前記MRIスキャナを動作させて、前記MRIセーフルーメンに様々な磁場勾配を生じさせ、それによって、該ルーメン内の前記マイクロボットの運動を制御するステップと、を含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記MRIスキャナは、20Hz以下の周波数で動作する、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、
前記MRIスキャナは、約40T/m/s以下のスルーレートで動作する、方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の方法であって、
前記MRIスキャナを5分間以内で動作させて、前記マイクロボットを前記MRIセーフルーメンの前記遠位端及び前記近位端間を横断するように制御する、方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の方法であって、
前記MRIスキャナは、前記MRIスキャナの前記被験体に対向する面から約20cm未満の距離で、前記マイクロボットに約200mN~約1Nの磁力を印加する、方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の方法であって、
前記マイクロボットは、約1mm
3未満の体積を有する、方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の方法であって、
前記MRIスキャナを動作させる前記ステップ(d)は、撮像ステップをさらに含み、
前記撮像ステップは、
(i)前記被験体のベース画像を取得するステップと、
(ii)前記MRIスキャナを使用して、前記マイクロボットのリアルタイムの位置を決定するステップと、
(iii)前記マイクロボットの決定されたリアルタイムの位置に、それに対応する前記マイクロボットの画像を重ね合わせるステップと、を含む、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、
前記被験体のベース画像を取得する前記ステップ(i)は、前記MRIスキャナを使用して前記被験体を事前に走査するステップを含む、方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の方法であって、
前記ベース画像は、複数の基準位置を含み、
前記撮像ステップは、前記ベース画像内の前記基準位置に対応する位置に、MRIで可視の基準マーカーを提供するステップをさらに含み、
前記マイクロボットのリアルタイムの位置を決定する前記ステップ(ii)は、前記基準マーカーの位置を決定し、決定された前記基準マーカーの位置を前記ベース画像内の前記基準位置と関連付けるステップを含む、方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、
前記マイクロボットのリアルタイムの位置を決定する前記ステップ(ii)は、前記マイクロボットの位置を、前記基準位置を基準としてリアルタイムで三角測量するステップを含む、方法。
【請求項11】
請求項7~10のいずれかに記載の方法であって、
前記マイクロボットのリアルタイムの位置を決定する前記ステップ(ii)は、前記マイクロボットに埋め込まれた磁性体に起因するMRI画像中の歪みを検出するステップを含む、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、
前記マイクロボットの位置は、MRI画像中の前記歪みの幾何学的中心を計算することによって決定される、方法。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかに記載の方法であって、
前記MRIセーフルーメンは、前記MRIスキャナの遷移領域で磁場勾配が発生した場合に該ルーメンの歪みを防止する構造を有する、方法。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載の方法であって、
前記MRIセーフルーメンは、前記被験体の体内に挿入される可撓性部分と、前記MRIスキャナの内部から前記MRIスキャナの外部まで延びる剛性部分とを含む、方法。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかに記載の方法であって、
前記MRIセーフルーメンは、前記マイクロボットを、高磁場勾配遷移領域を通して前記標的解剖学的領域に機械的に導入するためのMRIセーフアダプタを備える、方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、
前記MRIセーフアダプタは、非磁性の可撓性グラバを含む、方法。
【請求項17】
請求項15または16に記載の方法であって、
前記マイクロボットを前記MRIセーフルーメンに誘導して戻すステップと、
前記MRIセーフアダプタを使用して前記マイクロボットを回収するステップと、をさらに含む、方法。
【請求項18】
請求項15~17のいずれかに記載の方法であって、
前記MRIセーフアダプタにより、前記マイクロボットを前記被験体の体内から制御可能な方法で引き出すステップをさらに含む、方法。
【請求項19】
請求項1ないし18のいずれかに記載の方法であって、
前記被験体は、ヒトである、方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、
前記標的解剖学的領域は、脳である、方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法であって、
前記標的解剖学的領域は、くも膜下腔である、方法。
【請求項22】
請求項19に記載の方法であって、
前記標的解剖学的領域は、肝臓、目、耳、首、肺、膵臓、腎臓、鼻腔、口、消化管、膀胱、及び胃からなる群から選択される、方法。
【請求項23】
MRIスキャナを使用して被験体の体内のマイクロボットを撮像する方法であって、
(i)前記被験体のベース画像を取得するステップと、
(ii)前記MRIスキャナを使用して、1以上のマイクロボットのリアルタイムの位置を決定するステップと、
(iii)前記マイクロボットの決定されたリアルタイム位置に、それに対応する前記マイクロボットの画像を重ね合わせるステップと、
(iv)前記MRIスキャナを動作させて、MRIセーフルーメンに様々な磁場勾配を生じさせ、それによって、該ルーメン内の前記マイクロボットの運動を制御するステップと、を含む、方法。
【請求項24】
請求項23に記載の方法であって、
前記被験体のベース画像を取得する前記ステップ(i)は、前記MRIスキャナを使用して前記被験体を事前に走査するステップを含む、方法。
【請求項25】
請求項23または24に記載の方法であって、
前記ベース画像は、複数の基準位置を含み、
前記MRIスキャナを動作させる前記ステップ(iv)は、前記ベース画像内の前記基準位置に対応する位置に、MRIで可視の基準マーカーを提供するステップをさらに含み、
前記マイクロボットのリアルタイムの位置を決定する前記ステップ(ii)は、前記基準マーカーの位置を決定し、決定された前記基準マーカーの位置を前記ベース画像内の前記基準位置と関連付けるステップを含む、方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法であって、
前記マイクロボットのリアルタイムの位置を決定する前記ステップ(ii)は、前記マイクロボットの位置を、前記基準位置を基準としてリアルタイムで三角測量するステップを含む、方法。
【請求項27】
請求項23~26のいずれかに記載の方法であって、
前記マイクロボットのリアルタイムの位置を決定する前記ステップ(ii)は、前記マイクロボットに埋め込まれた磁性体に起因するMRI画像中の歪みを検出するステップを含む、方法。
【請求項28】
請求項23~27のいずれかに記載の方法であって、
前記マイクロボットのリアルタイムの位置を決定する前記ステップ(ii)は、前記マイクロボットに埋め込まれた磁性体に起因するMRI画像中の歪みを検出するステップを含む、方法。
【請求項29】
請求項23~28のいずれかに記載の方法であって、
前記MRIスキャナは、20Hz以下の周波数で動作する、方法。
【請求項30】
請求項23~29のいずれかに記載の方法であって、
前記MRIスキャナは、約40T/m/s以下のスルーレートで動作する、方法。
【請求項31】
請求項23~30のいずれかに記載の方法であって、
前記MRIスキャナを5分間以内で動作させて、前記マイクロボットを前記MRIセーフルーメンの遠位端及び近位端間を横断するように制御する、方法。
【請求項32】
請求項23~31のいずれかに記載の方法であって、
前記MRIスキャナは、前記MRIスキャナの前記被験体に対向する面から約20cm未満の距離で、前記マイクロボットに約200mN~約1Nの磁力を印加する、方法。
【請求項33】
請求項23~27のいずれかに記載の方法であって、
前記マイクロボットは、約1mm
3未満の体積を有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、マイクロロボットの磁気誘導及び撮像の分野に関する。一実施形態では、本開示は、マイクロロボットの磁気誘導及び撮像のために市販グレードの磁気共鳴イメージング(MRI)スキャナを使用する方法を提供する。
【0002】
細胞医薬品や治療薬の開発には大きな進歩が見られるが、それらの標的送達には依然として課題がある。局所投与が可能な治療薬もあるが、患者の身体深部の標的や全身に分布する複数の標的に対しては、全身投与が依然として最良の選択肢である。しかしながら、全身投与には、治療薬を所望の場所に送達することが難しいという問題、肺、脾臓、肝臓、腎臓による血液の濾過に起因して循環時間が限られているという問題、及び、治療薬が標的ではない組織に集中した場合に副作用が生じる可能性があるという問題がある。
【0003】
これらの問題を解決するため、高度に局所的な薬物送達や、低侵襲手術を実施するために、患者の体内の通路を通してミリメートルスケールのロボットをナビゲーションする方法が研究されている。ロボットの内部に強磁性体を配置し、患者の体外の周囲で制御磁場を発生させることにより、遠隔的なナビゲーションを実現できる。ロボットの推進及び操作は、永久磁石アセンブリを患者の体外の周囲で移動させるか、または、電磁石の電流を制御することにより実現できる。最新の解決策は、多くの場合、複数の電磁石を備えた磁気共鳴画像法(MRI)スキャナにより実現される。MRIスキャナでは、背景磁場によりロボットの鉄製部品を磁化させ、磁場勾配コイルにより、磁力の発生に必要な磁場勾配を発生させる。MRIスキャナを同時に使用することで、ロボットの位置決めだけでなく、手術エリアのリアルタイム画像も提供できる。
【0004】
生体組織(例えば、肝臓、脳、眼球、髄液、血液)で使用される磁性マイクロボットのサイズは、数100マイクロメートル(μm)から1cmの範囲である。ミリメートル(mm)スケールのマイクロボットは、外部から数mNの磁力を印加することにより、生体組織(例えば、脳組織)内で効率的に移動させることができることが知られている。数100マイクロメートル~1cmのサイズのマイクロボットに印加される数mNの磁力を生成するためには、数100mT/mの外部磁場勾配が必要である。また、マイクロボットの運動を安全な方法で制御するためには、最大20Hzの周波数で磁力を3次元的に制御して、追跡モダリティによって画像化されるマイクロボットの位置の経時的変化に対応できるようにする必要がある。生体内でのマイクロボットの運動を制御するために利用可能な追跡モダリティとしては、X線(透視)や超音波などが挙げられる。
【0005】
しかしながら、市販グレードのMRIスキャナによって生成される磁場勾配の公称範囲は、最大で50mT/mである(最新の治験用MRIスキャナでは最大で200mT/m)。すなわち、従来のMRIスキャナでは、マイクロボットを生体組織内で効率的に移動させるのに必要な磁場勾配(数100mT/m)を生成することができない。さらに、ほとんどの市販のMRIスキャナは、リアルタイムのX線撮像や超音波撮像と互換性がないため、マイクロボットのリアルタイム追跡には問題がある。他の高感度磁気測定法は、非常に強力な、かつ経時的に変化する磁場を生成するため、MRIスキャナと互換性がない。最後に、数100マイクロメートル~1cmのサイズの磁性マイクロボットをMRIスキャナに導入することには、安全上の問題があると考えられる。特に、MRIスキャナの磁場勾配(MRIスキャナの周囲のB0勾配、または、勾配コイルによって生成された磁場勾配)は、マイクロボットを危険な方法で引っ張って生体組織を傷つける可能性があるため、リスクとなる。
【0006】
現在、患者の体内でのマイクロロボットの制御は、(外部からマイクロロボットに印加する)磁場を発生させるための外部ハードウェアのカスタム設計に依存している。そのため、臨床的に承認された既存のハードウェアを利用して、カスタムハードウェアの研究開発、試験、規制当局の承認、マーケティング、流通、メンテナンスの必要性を低減することが望ましい。したがって、上記の課題を鑑みて、マイクロボットの運動を効率的かつ安全な態様で制御するために、市販グレードのMRIスキャナを使用した改善された方法が求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、被験体の体内で1以上の磁気マイクロボットの運動を制御する方法であって、(a)MRI(核磁気共鳴イメージング)スキャナを提供するステップであって、MRIスキャナは、主磁石、1以上のシムコイル、勾配システム、RFシステム、及び、MRIスキャナの他の構成要素の動作を指示するように構成されたコントローラを含み、MRIスキャナは、その使用中に被験体を該スキャナ内に配置するための中空ボアを画定するチューブをさらに含む、該ステップと、(b)被験体の体内の標的解剖学的領域に、MRIセーフルーメンの遠位端を導入するステップと、(c)MRIセーフルーメンの近位端から、該ルーメン内に1以上のマイクロボットを導入するステップと、(d)MRIスキャナを動作させて、MRIセーフルーメンに様々な磁場勾配を生じさせ、それによって、該ルーメン内のマイクロボットの運動を制御するステップと、を含む、方法を提供する。
【0008】
また、本開示は、MRIスキャナを使用して被験体の体内のマイクロボットを撮像する方法であって、(i)被験体のベース画像を取得するステップと、(ii)MRIスキャナを使用して、1以上のマイクロボットのリアルタイムの位置を決定するステップと、(iii)マイクロボットの決定されたリアルタイム位置に、それに対応するマイクロボットの画像を重ね合わせるステップと、(iv)MRIスキャナを動作させて、MRIセーフルーメンに様々な磁場勾配を生じさせ、それによって、該ルーメン内のマイクロボットの運動を制御するステップと、を含む、方法を提供する。
【0009】
本発明の上述の態様または他の態様は、以下の詳細な説明及び添付の図面を参照することによって理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0010】
核磁気共鳴画像法(MRI)スキャナを使用した、人体内でのマイクロロボットの非テザー磁気ナビゲーションは、低侵襲手術や薬物送達における有望な技術である。既存の臨床用MRIスキャナは、磁場強度に応じて、従来型(1~1.5T)、高磁場型(3~4T)、及び超高磁場型(7~8T)に分類される。より高い磁場強度は、より高い信号対雑音比(S/N比)を提供し、撮像品質を向上させる。しかしながら、上述したように、従来のMRIスキャナを使用してマイクロボットの制御や撮像を行うには、解決するべき問題がある。
【0011】
本開示は、被験体(患者)の体内でのマイクロボットの運動を制御するために市販グレードのMRIスキャナを使用する方法を提供する。
【0012】
本明細書で使用するとき、「MRIセーフルーメン(MRI-safe lumen)」または「MRIセーフアダプタ(MRI-safe adapter)」などの「MRIセーフ(MRI-safe)」という用語は、MRIスキャナを使用して医療処置を受ける患者にとって身体的に安全な方法で、動作中のMRIの近傍または内部で安全に使用できる機器を指す。例えば、MRIセーフルーメンは、(MRIの影響を受けないように)非磁性材料で作られている、及び/または、該ルーメンの近くでMRIを動作させても全く変位しないように身体に固定される。
【0013】
一態様では、本開示は、被験体の体内で1以上の磁気マイクロボットの運動を制御する方法であって、(a)MRI(核磁気共鳴イメージング)スキャナを提供するステップであって、MRIスキャナは、主磁石、1以上のシムコイル、勾配システム、RFシステム、及び、MRIスキャナの他の構成要素の動作を指示するように構成されたコントローラを含み、MRIスキャナは、その使用中に被験体を該スキャナ内に配置するための中空ボアを画定するチューブをさらに含む、該ステップと、(b)被験体の体内の標的解剖学的領域に、MRIセーフルーメンの遠位端を導入するステップと、(c)MRIセーフルーメンの近位端から、該ルーメン内に1以上のマイクロボットを導入するステップと、(d)MRIスキャナを動作させて、MRIセーフルーメンに様々な磁場勾配を生じさせ、それによって、該ルーメン内のマイクロボットの運動を制御するステップと、を含む、方法を提供する。一実施形態では、対象は、ヒトである。別の実施形態では、対象は、動物である。一実施形態では、標的解剖学的領域は、肝臓、脳、または、くも膜下腔である。
【0014】
一実施形態では、MRIセーフルーメンは、MRIスキャナの高勾配遷移領域に曝されたときにルーメンの歪みを防止する構造を有する。例えば、MRIセーフルーメンは、被験体の体内に挿入される可撓性部分と、MRIスキャナの内部からMRIスキャナの外部まで延びる剛性部分とを含む。
【0015】
一実施形態では、MRIセーフルーメンは、マイクロボットを、高磁場勾配遷移領域を通して標的解剖学的領域に機械的に導入するためのMRIセーフアダプタを備える。一実施形態では、MRIセーフアダプタは、非磁性の可撓性グラバを含む。一実施形態では、本開示の方法は、マイクロボットをMRIセーフルーメンに誘導して戻すステップと、MRIセーフアダプタを使用してマイクロボットを回収するステップと、をさらに含む。一実施形態では、本開示の方法は、MRIセーフアダプタにより、マイクロボットを被験体の体内から制御可能な方法で引き出すステップをさらに含む。
【0016】
一実施形態では、MRI勾配コイルは、500mT/m~1000mT/mの勾配、10Hz以下の最大周波数、5分間以下の最大持続時間で動作し、MRIの内部チューブの表面から15cmの距離で、1mm3の体積のマイクロボットに、1mNの磁力を印加する。
【0017】
一実施形態では、本開示は、マイクロボットを撮像する方法であって、(i)MRIスキャナで被検者を事前にスキャンし、プレスキャン画像を作製するステップと、(ii)マイクロボットの位置をリアルタイムに決定するステップと、(iii)事前にスキャンした画像をマイクロボットのリアルタイムの位置に重ね合わせるステップと、(iv)被験者の体内の1以上のMRIで可視の基準マーカーを基準にしてマイクロボットの位置を推定し、それによってマイクロボットの位置をリアルタイムで決定するステップと、を含む、方法を提供する。
【0018】
別の態様では、本開示は、MRIスキャナを使用して被検者の体内のマイクロボットを撮像する方法であって、(i)MRIスキャナで被検者を事前にスキャンし、プレスキャン画像を作製するステップと、(ii)マイクロボットの位置をリアルタイムに決定するステップと、(iii)事前にスキャンした画像をマイクロボットのリアルタイムの位置に重ね合わせるステップと、(iv)被験者の体内の1以上のMRIで可視の基準マーカーを基準にしてマイクロボットの位置を推定し、それによってマイクロボットの位置をリアルタイムで決定するステップと、を含む、方法を提供する。一実施形態では、上記のステップ(iv)は、基準値を基準としてマイクロボットの位置をリアルタイムで三角測量するステップを含む。一実施形態では、上記のステップ(ii)は、マイクロボットに埋め込まれた磁性体に起因するMRI画像中の歪みを検出するステップを含む。例えば、マイクロボットの位置は、MRI画像中の歪みの幾何学的中心を計算することによって決定される。
【0019】
本明細書で使用するとき、「含む(comprises、comprising、includes、including)」または「有する(having)」という用語及びそれらの活用語は、「~を含むがこれに限定されない」ことを意味する。
【0020】
本明細書で使用するとき、単数形の「1つの(a、an)」、「その(the)」は、文脈が他の意味を明確に示さない限り、その指示対象の複数形も含むことを意図している。例えば、「マイクロボット」という用語には、複数の分子も含まれる。
【0021】
本出願の全体を通じて、本発明の様々な実施形態を範囲形式で示すことがある。範囲形式での記載は単に便宜上及び簡潔化のためであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定と解釈されるべきではないことを理解されたい。したがって、範囲形式での記載は、その範囲内に含まれる個々の数値だけでなく、その範囲内に含まれるすべての可能性のある下位範囲を具体的に開示したものと見なされるべきである。例えば、1から6までという範囲の記載は、例えば、1から3まで、1から4まで、1から5まで、2から4まで、2から6まで、3から6まで、・・・、という下位範囲、並びに、その範囲内に含まれる個々の数値(例えば、1、2、3、4、5、及び6)を具体的に開示したものと見なされるべきである。このことは、範囲の幅に関係なく適用される。
【0022】
本明細書において数値範囲を指定している場合は常に、指定された数値範囲内に含まれるすべての数値(分数または整数)を含むことを意味する。第1の指定数と第2の指定数と「の間の範囲」という表現、及び、第1の指定数「から」第2の指定数「までの範囲」という表現は、本明細書では互換的に使用され、第1の指定数及び第2の指定数、並びにこれらの間のすべての分数及び整数を含むことを意味する。
【0023】
本明細書で使用するとき、「約(about、approximately)」という用語は、当業者によって決定される特定の値に対する許容可能な誤差範囲を意味し、この誤差範囲は、値の測定方法または決定方法、すなわち測定システムの制限に部分的に依存する。例えば、「約」は、当該技術分野の慣例に従い、1以上の標準偏差以内を意味する。あるいは、量などの測定可能な値について言及する場合、開示された値に対して適切であるように、指定された値から±20%または±10%、より好ましくは±5%、さらに好ましくは±1%、さらに好ましくは±0.1%の変動を包含することができる。
【0024】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての専門用語及び/または科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同一の意味を有する。本発明の実施形態の実施または試験に使用することができる方法及び材料について以下に記載するが、本明細書に記載されたものと同様または同等の方法及び材料も使用することができる。本明細書に引用されたすべての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。矛盾が存在する場合、定義を含む、本明細書が優先するものとする。加えて、材料、方法、及び実施例は、単なる例示にすぎず、限定を意図するものではない。本明細書で言及される文献または他の刊行物の各々は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0025】
本明細書に提示される説明では、本発明の各ステップ及びその変形例について説明する。この説明は、限定を意図するものではなく、構成要素、ステップの順序、及び他の変更も本発明の範囲に含まれると理解されたい。
【0026】
明瞭にするために別個の実施形態で説明した本発明のいくつかの特徴は、互いに組み合わせて単一の実施形態として提供してもよいことを理解されたい。その逆に、簡潔にするために単一の実施形態に関連して説明した本発明の様々な特徴は、別々に、任意の適切な部分的な組み合わせで、または、本発明の任意の別の実施形態において適切に提供してもよい。様々な実施形態の文脈で説明した特定の特徴は、それらの特徴がないとその実施形態が機能しない場合を除き、それらの実施形態に必須の特徴とは見なされない。
【0027】
本明細書に記載された、また、添付の特許請求の範囲で請求された本発明の様々な実施形態及び態様は、以下の実施例において、実験的なサポートを見つけることができる。
【0028】
実施例
【0029】
市販グレードのMRIスキャナを使用したマイクロボットの運動制御
【0030】
正確なMRI軟部組織イメージングに必要な信号を生成するためには、非常に高いスルーレート(50~200T/m/s)で磁場勾配を高速に切り替える必要があるため、市販グレードのMRIスキャナで生成される磁場勾配の公称範囲は制約される。この非常に高いスルーレートと高周波数を達成するために、勾配増幅器から勾配コイルに高電圧と高電流が供給される(最大2500Vと最大1000A)。通常、MRIスキャンには15~45分かかる。このような高電流を高周波数で長時間流すと、勾配コイルは著しく加熱される(渦電流効果を含む)。勾配コイルは一般的に水冷式であるため、最大勾配は過熱を避けるために制限されるが、それでもMRI画像を生成するのに十分である。
【0031】
対照的に、本明細書に開示するマイクロボット制御は、同一のパラメータのセットを必要としない。実際、利用可能なデータには、渦電流の影響が最小となる10Hz以下の周波数範囲(利用可能なin vivoイメージングモダリティのフレームレートに対応する)でのマイクロボットの制御と、1回に最大電流で最大2分間の動作が記載されている。最大で20T/m/s(MRIスキャナのスルーレートより低い)の低いスルーレートが必要となると想定される。周波数を500~1000分の1に下げ、動作時間を7~20分の1に短縮することにより、所与の電流で、MRI処置中の有効コイル抵抗を2~5分の1に減少させ、熱エネルギーを25~100分の1に減少させることができる。これにより、デューティサイクルごとに最大電圧を長時間維持することが可能になり、同じハードウェアを使用するか、または、(例えば、5~10倍高い電流をサポートするために)ハードウェアを若干変更することにより、現在のMRIスキャナの最大動作電流よりも5~10倍高い実効電流を実現することができる。電流が線形勾配であることを考えると、これは、所与のMRIスキャナの最大勾配の5倍超の勾配、すなわち、数100mT/mの勾配に換算される。抵抗が2~5倍減少すると、勾配増幅器からの同じ供給電圧で2~5倍高い電流が得られ、それにより、システム効率を最大化できる。既存のMRIスキャナのスルーレートで、最大電圧の時間を10倍にすれば、1T/mの最大代表勾配に20ミリ秒未満で到達することができ、これは周波数10Hzに関連する短い時間枠であり(100ミリ秒のサイクルに一致する)、マイクロボットの勾配ベースの制御に実用的な設計となる。
【0032】
また、生体組織内に埋め込まれた金属成分が、MRI画像において画像の歪み(例えば、大きな黒点)として見えることが報告されている。画像の歪みは、通常、MRIスキャナでマイクロボットを使用する際の障害と見なされている。しかしながら、マイクロボットを制御する目的では、リアルタイムでの軟組織イメージングは必要ではない。MRIイメージング(または他の画像処理技術)における歪みの幾何学的中心をリアルタイムで計算することにより、マイクロロボットの位置をリアルタイムで推定することができる。一実施形態では、MRIで患者を事前にスキャンしておき、その後、患者の身体上のMRI可視基準マーカーを利用して、マイクロボットのリアルタイムの位置に事前にスキャンした画像を重ね合わせることにより、基準マーカーを基準にしてマイクロボットの位置をリアルタイムで三角測量することができる。数100マイクロメートルのサイズの磁性体が埋め込まれたマイクロロボットは、画像上にはっきりと見える歪みを発生させるため、この方法は実用的である。
【0033】
MRIの動作領域におけるB0勾配の範囲は1μT/mの範囲であり、磁場を非常に安定させ、制御不能なマイクロボットの運動のリスクを低減する。しかしながら、MRIの外部からMRI内部の動作領域への遷移のリスクが依然としてある。この遷移領域では、B0は、5T/mもの高い勾配を有する。一態様では、この問題は、下記の(a)~(f)のステップを含む方法によって解決することができる。
(a)MRIスキャナに患者を配置する前に、前処置として、標準的なインターベンション技術により、患者の標的解剖学的領域(例えば、くも膜下腔、肝臓、脳)にMRIセーフルーメン(例えば、シースやカテーテル)に導入する。
(b)MRIセーフルーメンは、MRI外部から安全にアクセス可能であり、かつ、高勾配遷移領域で最大1Nの内力を受けたときにルーメンの変形を防止できる構造を有する。例えば、MRIセーフルーメンは、患者に挿入される可撓性部分と、MRI内部からMRI外部のMRIから離れた安全な距離まで延び、かつ、MRI内部及びMRI外部の固定具に固定される剛性部分とを有する。
(c)MRIセーフルーメンは、マイクロボットを、高勾配遷移領域を通して患者の体内の標的解剖学的領域に制御可能な方法で機械的に導入するように構成されたMRIセーフアダプタを備える。
(d)マイクロボットは、患者の体内の適切な位置または領域に到達すると、リリースされる。その領域ではB0勾配が低いため、制御不能な動きの危険はないことに留意されたい。
(e)MRI処置が完了すると、マイクロボットを挿入部位まで誘導して戻し、機械的アダプタ(MRIセーフアダプタ)で把持する。
(f)MRIセーフアダプタは、挿入方法を反映して、患者及びMRIから制御可能な方法で引き出される。
【0034】
一実施形態では、MRIセーフアダプタは、非磁性の可撓性グラバであり得る。一実施形態では、マイクロボットが予め装填されたグラバをMRIセーフルーメンに導入し、高勾配遷移領域を通ってMRI内を前進させる。MRIセーフルーメンはマイクロボットを横方向に移動することを防ぎ、グラバはマイクロボットがMRIに向かって移動することを防ぐ。
【0035】
本明細書では、本発明の特定の特徴を図示し、説明してきたが、様々な改変、置換、変更、及び均等物が、当業者であれば想到し得るであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の要旨の範囲内に含まれるそのような全ての改変及び変更を包含することを意図していることを理解されたい。
【国際調査報告】