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特表2024-532676多層マイクロ流体システムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-10
(54)【発明の名称】多層マイクロ流体システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240903BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240903BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240903BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20240903BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/34 B
C12Q1/02
B01J19/00 321
B81B1/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504988
(86)(22)【出願日】2022-07-14
(85)【翻訳文提出日】2024-03-22
(86)【国際出願番号】 US2022037173
(87)【国際公開番号】W WO2023009327
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】17/865,021
(32)【優先日】2022-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/226,733
(32)【優先日】2021-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514159047
【氏名又は名称】カリフォルニア ノースステイト カレッジ オブ ファーマシー, エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】CALIFORNIA NORTHSTATE COLLEGE OF PHARMACY, LLC
【住所又は居所原語表記】9700 West Taron Drive, Elk Grove, CA 95757 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アーサン,ファクルル
【テーマコード(参考)】
3C081
4B029
4B063
4G075
【Fターム(参考)】
3C081AA01
3C081BA21
3C081BA23
3C081CA31
3C081CA38
3C081DA10
3C081DA43
3C081DA46
3C081EA29
3C081EA39
4B029AA07
4B029BB11
4B029CC01
4B029FA03
4B029FA04
4B029FA15
4B029GB04
4B029HA01
4B029HA05
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QR48
4B063QR50
4B063QS39
4B063QX10
4G075AA39
4G075AA70
4G075BB10
4G075BD15
4G075BD22
4G075EA02
4G075EB50
4G075EC06
4G075EC09
4G075FA01
(57)【要約】
組織チャネルを分離する遊離可能な水性界面膜を有するマイクロ流体細胞を使用して精密医療アプローチの開発を支援するためのシステムおよび方法が提供される。このアプローチは、オーダーメイド医療処置計画を包含することができる。本システムおよび方法は、疾患状態における細胞通信をより正確な水性環境においてエミュレートし、必要とする対象のための処置を開発するために使用することができる細胞間の相互作用に関するデータを提供する。本システムおよび方法はまた、例えば、薬物療法、放射線療法、またはそれらの組み合わせなどの特定の処置の効果を評価するために使用することができる。本システムおよび方法は、特定の治療が、限定するものではないが、対象の性別、対象の年齢、遺伝的因子または他の遺伝的素因、ならびに、もしかすると対象の他の生理学的状態、またはそれらの組み合わせを包含するいくつかの既知の因子のいずれかによってどのように影響されるかを示すことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において細胞生理をエミュレートするために設計されたマイクロ流体システムであって、システムが、
マイクロ流体チップ;および、
第2のチャネルに隣接する第1のチャネル
を含み;ここで
第1のチャネルおよび第2のチャネルが、チップへ接続されており、ならびに
第1の水性細胞溶液を第1のチャネル中へ注入するように構成された第1のポート;
第2の水性細胞溶液を第2のチャネル中へ注入するように構成された第2のポート;および、
開口部のある第1の壁
を包含し、第1の壁が、第1のチャネルおよび第2のチャネルによって共有されており、ならびに第1の壁の開口部が、(i)第1の水性細胞溶液の注入の際、第1の壁の開口部を横断する遊離可能な第1の水性界面膜を形成するように、かつ(ii)第1の界面膜の開口部からの遊離の際、第1のチャネルと第2のチャネルとの間に細胞通信が生じることを可能にするように構成されている、前記マイクロ流体システム。
【請求項2】
第2の水性細胞溶液の注入が、開口部からの第1の界面膜の遊離を引き起こす、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
壁が、第1の水性細胞溶液を注入するとき開口部を横断する第1の界面膜を確立するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
開口部が、第1の水性細胞溶液を注入するとき第1の壁の開口部を横断する第1の界面膜を確立するための疎水性材料を包含する、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
開口部が、第1の水性細胞溶液を注入するとき開口部を横断する第1の界面膜を確立するために、平面を共有する対向するくさび形縁部によって輪郭が描かれている、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
開口部が、円形および楕円形からなる群から選択される形状を包含する、請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
開口部が、多角形構造によって輪郭が描かれており、この構造が、開口部の少なくとも2つの対向する側面上に対向する縁部を提供しており、ここで対向する縁部が、第1の水性細胞溶液を注入するとき第1の壁の開口部を横断する第1の界面膜を確立するために平面を共有している、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
第1の壁の開口部が、一連のカラムに沿って隣接するカラムの間の空間であり;ここで、
一連のカラムにおける各カラムが、チップに対して少なくとも実質的に垂直な中心軸を有し、
隣接するカラムの各対が、第1の水性細胞溶液を注入するとき第1の壁の開口部を横断する第1の界面膜を確立するために平面を共有する一対の対向する縁部を提供する、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
第3のチャネル;および、
第3の水性細胞溶液を第3のチャネル中へ注入するために構成された第3のポート;
開口部のある第2の壁
をさらに含み、第2の壁が、第2のチャネルおよび第3のチャネルによって共有されており、ならびに第2の壁の開口部が、(i)第3の水性細胞溶液の注入の際、第2の壁の開口部を横断する遊離可能な第2の水性界面膜を形成するように、かつ(ii)界面膜の開口部からの遊離の際、第2のチャネルと第3のチャネルとの間で細胞通信が生じることを可能にするように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
成長培地ポートを有する成長培地チャネルをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
第1の成長培地ポートを有し、かつ第1のチャネルと連通して配置されている第1の成長培地チャネルと、第2の成長培地ポートを有し、かつ第2のチャネルと連通して配置されている第2の成長培地チャネルとをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
成長培地ポートを有する成長培地チャネルをさらに含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項13】
第1の成長培地ポートを有し、かつ第1のチャネルと連通して配置されている第1の成長培地チャネルと、第2の成長培地ポートを有し、かつ第2のチャネルと連通して配置されている第2の成長培地チャネルとをさらに含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項14】
対象における疾患をエミュレートする方法であって、方法が、
請求項1に記載のシステムを取得すること;
疾患の第1の細胞を導入するために第1の水性細胞溶液を第1のチャネル中へ注入し、注入によって第1の壁の開口部を横断する遊離可能な第1の水性界面膜を形成すること;および、
疾患の第2の細胞を導入するために第2の水性細胞溶液を第2のチャネル中へ注入すること
を含み;ここで、
第1の界面膜が、第2の水溶液の注入後に遊離し;および
第1の界面膜の遊離後に第1の細胞と第2の細胞とが通信して疾患状態をエミュレートする、前記方法。
【請求項15】
対象における疾患をエミュレートする方法であって、方法が、
請求項9に記載のシステムを取得すること;
疾患の第1の細胞を導入するために第1の水性細胞溶液を第1のチャネル中へ注入し、注入によって第1の壁の開口部を横断する遊離可能な第1の水性界面膜を形成すること;
疾患の第3の細胞を導入するために第3の水性細胞溶液を第3のチャネル中へ注入し、注入によって第2の壁の開口部を横断する遊離可能な第2の水性界面膜を形成すること;および、
疾患の第2の細胞を導入するために第2の水性細胞溶液を第2のチャネル中へ注入すること
を含み;ここで、
第1の界面膜が、第2の水溶液の注入後に遊離し;
第2の界面膜が、第2の水溶液の注入後に遊離し;
第1の界面膜の遊離後に第1の細胞と第2の細胞とが通信して疾患状態をエミュレートし;
第2の界面膜の遊離後に第2の細胞と第3の細胞とが通信して疾患状態をエミュレートする、前記方法。
【請求項16】
対象における疾患をエミュレートする方法であって、方法が、
請求項9に記載のシステムを取得すること;
疾患の第1の細胞を導入するために第1の水性細胞溶液を第1のチャネル中へ注入し、注入によって第1の壁の開口部を横断する遊離可能な第1の水性界面膜を形成すること;
疾患の第3の細胞を導入するために第3の水性細胞溶液を第3のチャネル中へ注入し、注入によって第2の壁の開口部を横断する遊離可能な第2の水性界面膜を形成すること;および、
疾患の第2の細胞を導入するために第2の水性細胞溶液を水性ゲルの形態で第2のチャネル中へ注入すること
を含み;ここで、
第1の界面膜が、第2の水溶液の注入後に遊離し;
第2の界面膜が、第2の水溶液の注入後に遊離し;
第1の界面膜の遊離後に第1の細胞と第2の細胞とが通信して疾患状態をエミュレートし;
第2の界面膜の遊離後に第2の細胞と第3の細胞とが通信して疾患状態をエミュレートする、前記方法。
【請求項17】
エミュレートされた疾患を薬物で処置する方法であって、方法が、
請求項14に記載の方法を実行すること;
エミュレートされた疾患を処置するための薬物を選択すること;および、
第1のチャネルまたは第2のチャネルにおいて薬物を投与すること
を含む、前記方法。
【請求項18】
エミュレートされた疾患を薬物で処置する方法であって、方法が、
請求項15に記載の方法を実行すること;
エミュレートされた疾患を処置するための薬物を選択すること;および、
第1のチャネル、第2、または第3のチャネルにおいて薬物を投与すること
を含む、前記方法。
【請求項19】
エミュレートされた疾患を薬物で処置する方法であって、方法が、
請求項16に記載の方法を実行すること;
エミュレートされた疾患を処置するための薬物を選択すること;および、
第1のチャネル、第2、または第3のチャネルにおいて薬物を投与すること
を含む、前記方法。
【請求項20】
エミュレートされた血管疾患を薬物で処置する方法であって、方法が、
請求項13に記載のシステムを取得すること;
疾患の第1の細胞を導入して外膜細胞層を形成するために第1の水性細胞溶液を第1のチャネル中へ注入し、注入によって第1の壁の開口部を横断する遊離可能な第1の水性界面膜を形成すること;
疾患の第3の細胞を導入して内皮細胞層を形成するために第3の水性細胞溶液を第3のチャネル中へ注入し、注入によって第2の壁の開口部を横断する遊離可能な第2の水性界面膜を形成すること;および、
疾患の第2の細胞を導入して平滑筋層を形成するために第2の水性細胞溶液を第2のチャネル中へ注入すること;
薬物を選択すること;および、
第1の成長培地チャネルまたは第2の成長培地チャネルへ薬物を投与することを含み;ここで、
第1の界面膜が、第2の水溶液の注入後に遊離し;
第2の界面膜が、第2の水溶液の注入後に遊離し;
第1の界面膜の遊離後に第1の細胞と第2の細胞とが通信して疾患状態をエミュレートし;および
第2の界面膜の遊離後に第2の細胞と第3の細胞とが通信して疾患状態をエミュレートする、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ファクルル・アーサン関連出願の相互参照
本出願は、2022年7月14日に出願された米国特許出願第17/865,021号の優先権を主張し、2021年7月28日に出願された米国特許仮出願第63/226,733号の利益を主張し、その各々は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
背景
本発明の分野
本明細書の教示は、多層マイクロ流体システムおよび方法、すなわちピラー間に形成された界面膜の遊離による制御された接触を可能にする前に組織型を分離する改良されたマイクロ流体チップ、および疾患の処置を提供する際にデバイスを使用する、オーダーメイド医療アプローチを包含する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の記載
疾患の処置を改善するために、研究者は様々な動物研究を使用して疾患の処置を開発してきた。問題は、動物がヒトの病態生理を効果的に模倣せず、ヒトの重要な病理学的変化を部分的にしかエミュレート(emulate)しないことが多いことである。さらに、様々な動物種が様々な疾患を引き起こす薬剤または環境で使用されており、疾患の重症度、進行、および治療に対する応答において、非常に大きなばらつきを示す。様々な因子のいずれかの影響は、動物実験によって十分に表されておらず、この様々な因子の影響は、我々が疾患をどのように処置するかに影響を及ぼす。そのような因子には、例えば、処置される対象の生物学的性別が包含され得、性ホルモンの影響、特にエストロゲンの役割が包含される。これらの因子が処置にどのように影響するかをよりよく理解することにより、例えば、性別に基づく治療法の開発の改善が可能になる。
【0004】
マイクロ流体デバイスは、生理学的に関連する組織および器官レベルの機能および疾患の表現を構築するために使用されてきた。従来技術のマイクロ流体デバイスは、ある種の細胞を播種し、成長させるための単一チャネルを使用し、これらの単一チャネルデバイスの用途は限られている。例えば、単一チャネルデバイスは、限定するものではないが、層状血管組織などの異なる種類の細胞間の相互作用を表すことができない。
【0005】
効果的な多層システムを開発することは、隣接する細胞層の完全性を作り出し維持するという課題を伴う。多層システムは、制御可能な相互作用である層間の現実的な相互作用を提供しなければならない。いくつかの先行技術のマイクロ流体デバイスは、細胞層の完全性を維持するためにゲルを使用しようとしてきたが、ゲルは生理学的に存在せず、起こり得る相互作用の速度を変化させるので、層間の相互作用は現実的ではなく、したがって、相互作用に対する制御量はゲルの存在によって制限される。当業者は、哺乳動物細胞が体内でゲルを介して輸送されないかまたはシグナルを伝達しないので、ゲルの使用は真の生理学的状態ではないことを理解するであろう。
【0006】
少なくとも上記の理由から、当業者は、疾患、特に通常は組織の層として相互作用する複数の組織型を含む疾患の処置の開発における真の生理学的条件をより現実的に表すことができるマイクロ流体デバイスを有することの価値を認めるであろう。そのようなマイクロ流体システムは、例えば、選択された病理学的プロセスで生じる細胞相互作用の構築を可能にし得る。場合によっては、本明細書に提供されるシステムは、1つのチャネルからの細胞が隣接するチャネル内の細胞にキューを容易に送って、処置の開発におけるより正確な病理学的状態を表すことができるように構築することができる。場合によっては、本明細書に提供されるシステムは、それらのチャネル内の疾患細胞が隣接するチャネル内の健康な細胞と連通することを可能にし得る。場合によっては、本明細書に提供されるシステムは、効果的な処置を開発するために、健康な細胞が病気になり、特定の病理学的プロセスにおける細胞相互作用に関するデータを生成することを可能にし得る。場合によっては、本明細書に提供されるシステムは、薬物の選択、薬物の用量、薬物の耐性、薬物の半減期などの相対的変化を包含する疾患に対する薬物処置の効果を示すことができる。当業者は、疾患の発症を阻害または予防するための予防的処置、発症後の病理学的過程を阻害する処置、および疾患の症状を改善する処置などの処置を開発するために本明細書に提供されるシステムおよび方法を使用して導入することができる他の変数が多数あることを容易に理解するであろう。
【0007】
したがって、少なくとも上記の理由から、当業者は、(i)生じる細胞相互作用を制御する手段として;(ii)細胞相互作用に基づく処置を開発する手段として;(iii)処置の開発において注目する変数であって、病理学的プロセスに影響を及ぼす変数を導入する手段として;(iv)薬物、放射線、またはそれらの組み合わせを包含する治療法を試験する手段として;および(v)対象において処置に影響を及ぼす変数、例えば、疾患の処置に関連する細胞輸送機構およびシグナル伝達機構を同定する手段として、より正確な水性生理学的条件を提供するマイクロ流体システムおよび方法の価値を認めるであろう。
【発明の概要】
【0008】
概要
疾患の処置の開発を支援するためのシステムおよび方法が提供される。本システムおよび方法は、任意の疾患に対する精密医療アプローチを包含することができ、オーダーメイド医療アプローチを包含することができる。本システムおよび方法は、疾患プロセスにおける組織相互作用を再構成するために使用することができるマイクロ流体デバイスの使用を包含する。再構成は、複数の細胞型の相互作用、組織内の細胞層間の相互作用、またはこれらの細胞相互作用の組み合わせを包含し得る。相互作用は、処置を設計するための疾患状態における関連する細胞通信に関する情報、ならびに、例えば、薬物療法、放射線療法、またはそれらの組み合わせなどの特定の種類の処置または処置の組み合わせの効果に関する情報を提供する。水性界面膜は、組織相互作用を制御するために使用され、膜は、細胞層の形成のためにそのまま維持されるが、隣接するチャネル内の細胞「層」間の相互作用を可能にするために所望の場合には遊離する。界面膜は、組織層を安定化するためにヒドロゲルを使用する場合に生じる遅い輸送を回避しながら、遊離を制御する。
【0009】
いくつかの態様において、対象において細胞生理をエミュレートするために設計されたマイクロ流体システムが提供される。本システムは、マイクロ流体チップと、第2のチャネルに隣接する第1のチャネルとを含むことができる。これらの態様において、第1のチャネルおよび第2のチャネルはチップへ接続されており、ならびに第1の水性細胞培養培地を第1のチャネル中へ注入するように構成された第1のポート;第2の水性細胞培養培地を第2のチャネル中へ注入するように構成された第2のポート;および、開口部のある第1の壁を包含し、第1の壁が第1のチャネルおよび第2のチャネルによって共有されており、ならびに第1の壁の開口部が、(i)第1の水性細胞溶液の注入の際、第1の壁の開口部を横断する一時的な/遊離可能な第1の水性界面膜を形成するように、かつ(ii)第1の界面膜の開口部からの遊離の際、第1のチャネルと第2のチャネルとの間に細胞通信が生じることを可能にするように構成されている。
【0010】
界面膜は、隣接するチャネル内の細胞間の通信を可能にするために遊離する必要がある。いくつかの態様において、第2の水性細胞溶液の注入は、開口部からの第1の界面膜の遊離を引き起こす。
【0011】
開口部のある壁は、エミュレートされた組織構造を作製するのに十分な長さでそれぞれのチャネル内の細胞層の完全性を維持するのに十分な安定性のある界面膜を確立するように構成される必要がある。いくつかの態様において、界面膜は、いずれかの水溶液の注入から形成され得る。いくつかの態様において、壁は、第1の水性細胞溶液を注入するとき開口部を横断する第1の界面膜を確立するように構成されている。いくつかの態様において、開口部は、第1の水性細胞溶液を注入するとき第1の壁の開口部を横断する第1の界面膜を確立するための疎水性材料を包含する。いくつかの態様において、開口部は、第1の水性細胞溶液を注入するとき開口部を横断する第1の界面膜を確立するために、平面を共有する対向するくさび形縁部によって輪郭が描かれている。いくつかの態様において、開口部は、円および楕円からなる群から選択される形状を包含する。いくつかの態様において、開口部は多角形構造によって輪郭が描かれており、この構造は、開口部の少なくとも2つの対向する側面上に対向する縁部を提供しており、対向する縁部は、第1の水性細胞溶液を注入するとき第1の壁の開口部を横断する第1の界面膜を確立するために平面を共有している。いくつかの態様において、第1の壁の開口部は、一連のカラムに沿って隣接するカラムの間の空間であり;一連のカラムにおける各カラムは、チップに対して少なくとも実質的に垂直な中心軸を有し、隣接するカラムの各対は、第1の水性細胞溶液を注入するとき第1の壁の開口部を横断する第1の界面膜を確立するために平面を共有している一対の対向する縁部を提供する。
【0012】
いくつかの態様において、本システムは、より複雑な組織構造をエミュレートするために3つ以上の異なる細胞型を包含することができる。これらの態様において、本システムは、第3のチャネルと;第3の水性細胞溶液を第3のチャネル中へ注入するために構成された第3のポートとをさらに含む。本システムは、開口部のある第2の壁を包含し、第2の壁は、第2のチャネルおよび第3のチャネルによって共有されており、ならびに第2の壁の開口部は、(i)第3の水性細胞溶液の注入の際、第2の壁の開口部を横断する一時的な第2の水性界面膜を形成するように、かつ(ii)界面膜の開口部からの遊離の際、第2のチャネルと第3のチャネルとの間で細胞通信が生じることを可能にするように構成されている。
【0013】
本システムは、細胞に成長培地を供給し、薬物に対するエミュレートされた組織構造の応答を試験するために薬物を投与するために使用され得る別個の注入ポートおよびチャネルを考慮して設計することができる。したがって、いくつかの態様において、本システムは、成長培地ポートを有する成長培地チャネルをさらに含むことができる。界面膜は、成長培地を含むことができる。
【0014】
同様に、本システムは、それぞれが細胞に供給するための細胞培地および試験する選択薬物を供給するための複数の成長培地ポート用に設計することができる。したがって、いくつかの態様において、本システムは、第1の成長培地ポートを有し、かつ第1のチャネルと連通して配置されている第1の成長培地チャネルと、第2の成長培地ポートを有し、かつ第2のチャネルと連通して配置されている第2の成長培地チャネルとをさらに含むことができる。
【0015】
本システムは、疾患組織の生理学的環境を表すように設計されている。したがって、いくつかの態様において、対象において疾患をエミュレートする方法が提供される。本方法は、本明細書に教示されるシステムの1つを得ること;疾患の第1の細胞を導入するために第1の水性細胞溶液を第1のチャネル中へ注入し、注入によって第1の壁の開口部を横断する一時的な第1の水性界面膜を形成すること;および疾患の第2の細胞を導入するために第2の水性細胞溶液を第2のチャネル中へ注入すること、を含み得る。これらの態様において、第1の界面膜は、第2の水溶液の注入後に遊離し;および第1界面膜の遊離後に、第1細胞と第2細胞とが通信して、疾患状態をエミュレートする。これらの方法は、適切な薬物を同定し、適切な投与量を同定し、かつ/または薬物の所望の活性を同定するために、本システムに薬物を注入する工程;および処置を必要とする対象へその薬物を投与する工程をさらに含むことができる。
【0016】
いくつかの態様において、選択されたシステムは、エミュレートされた組織構造内に少なくとも3つのチャネルおよび少なくとも3つの異なる細胞型を有する。したがって、いくつかの態様において、疾患をエミュレートする方法は、少なくとも3つのチャネルを有するシステムを得ること;疾患の第1の細胞を導入するために第1の水性細胞溶液を第1のチャネル中へ注入し、注入によって第1の壁の開口部を横断する一時的な第1の水性界面膜を形成すること;疾患の第3の細胞を導入するために第3の水性細胞溶液を第3のチャネル中へ注入し、注入によって第2の壁の開口部を横断する一時的な第2の水性界面膜を形成すること;および疾患の第2の細胞を導入するために第2の水性細胞溶液を第2のチャネル中へ注入すること、を含む。これらの態様において、第1の界面膜は、第2の水溶液の注入後に遊離し;第2の界面膜は、第2の水溶液の注入後に遊離し;第1の界面膜の遊離後に第1の細胞と第2の細胞が通信して疾患状態をエミュレートし;および第2界面膜の遊離後に第2細胞と第3細胞が通信して疾患状態をエミュレートする。これらの方法は、適切な薬物を同定し、適切な投与量を同定し、かつ/または適切な活性を同定するために、本システムに薬物を注入する工程;および処置を必要とする対象へその薬物を投与する工程をさらに含むことができる。
【0017】
いくつかの態様において、ゲルは、層の間に、それらの層の完全性をさらに安定化させるために添加することができ、特に界面膜の制御可能な遊離が必要でないか、またはいくつかの態様において望ましくないシステムの層の間に添加することができる。これは、例えば、安定した層分離が必要とされる用途において有用であり得る。したがって、いくつかの態様において、対象において疾患をエミュレートする方法は、少なくとも3つのチャネルを有するシステムを得ること;疾患の第1の細胞型を導入するために第1の水性細胞溶液を第1のチャネル中へ注入し、注入によって第1の壁の開口部を横断する一時的な第1の水性界面膜を形成すること;疾患の第3の細胞型を導入するために第3の水性細胞溶液を第3のチャネル中へ注入し、注入によって第2の壁の開口部を横断する一時的な第2の水性界面膜を形成すること;および疾患の第2の細胞を導入するために第2の水性細胞溶液を水性ゲルの形態で第2のチャネル中へ注入すること、を含み得る。これらの態様において、第1の界面膜は、第2の水溶液の注入後に遊離し;第2の界面膜は、第2の水溶液の注入後に遊離し;第1の界面膜の遊離後に第1の細胞と第2の細胞が通信して疾患状態をエミュレートし;および第2界面膜の遊離後に第2細胞と第3細胞が通信して疾患状態をエミュレートする。これらの方法は、適切な薬物を同定し、適切な投与量を同定し、かつ/または適切な活性を同定するために、本システムに薬物を注入する工程;および処置を必要とする対象へその薬物を投与する工程をさらに含むことができる。
【0018】
組織構造をエミュレートし、疾患をエミュレートする方法は、当然疾患組織構造を処置する方法をもたらす。したがって、エミュレートされた疾患を薬物で処置する方法が提供される。本方法は、本明細書に教示される疾患の表現を構築すること;疾患を処置する薬物候補を選択すること;チャネルのいずれか1つに薬物を注入/投与すること;および薬物活性を観察することを包含することができる。いくつかの態様において、薬物は、第1のチャネルまたは第2のチャネルにおいて投与することができる。いくつかの態様において、薬物は、第1のチャネル、第2のチャネル、または第3のチャネルにおいて投与することができる。これらの方法は、適切な薬物を同定し、適切な投与量を同定し、かつ/または適切な活性を同定するために、本システムに薬物を注入する工程;および処置を必要とする対象へその薬物を投与する工程をさらに含むことができる。
【0019】
本明細書に提供されるシステムおよび方法を使用して、様々な種類の疾患をエミュレートし、処置することができる。いくつかの態様において、本方法は、エミュレートされた血管疾患を薬物で処置することに関する。これらの態様において、本方法は、本明細書に教示されるシステムを得ることであって、本システムが3つの血管細胞型を導入するための少なくとも3つのチャネルを有する、システムを得ること;疾患の第1の細胞を導入するために第1の水性細胞溶液を第1のチャネル中へ注入して外膜細胞層を形成し、注入によって第1の壁の開口部を横断する一時的な第1の水性界面膜を形成すること;疾患の第3の細胞を導入するために第3の水性細胞溶液を第3のチャネル中へ注入して内皮細胞層を形成し、注入によって第2の壁の開口部を横断する一時的な第2の水性界面膜を形成すること;および疾患の第2の細胞を導入するために第2の水性細胞溶液を第2のチャネル中へ注入して平滑筋層を形成すること、を包含する。これらの方法は、薬物を選択すること;および第1の成長培地チャネルまたは第2の成長培地チャネルへ薬物を投与することをさらに含む。これらの態様において、第1の界面膜は、第2の水溶液の注入後に遊離し;第2の界面膜は、第2の水溶液の注入後に遊離し;第1の界面膜の遊離後に第1の細胞と第2の細胞が通信して疾患状態をエミュレートし;および第2界面膜の遊離後に第2細胞と第3細胞が通信して疾患状態をエミュレートする。これらの方法は、適切な薬物を同定し、適切な投与量を同定し、かつ/または適切な活性を同定するために、本システムに薬物を注入する工程;および処置を必要とする対象へその薬物を投与する工程をさらに含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図面の簡単な記載
図1図1は、いくつかの態様によるマイクロ流体チップの図を示す。
【0021】
図2図2は、いくつかの態様によるチャネル内のチップ上に形成された血管組織構造を示す。
【0022】
図3図3は、いくつかの態様によるデバイスのチャネルの上面図であり、チャネルは、チャネルの一部を構成するピラー型構造間に開口部のある壁である「不連続壁」を有する。
【0023】
図4図4A~4Cは、いくつかの態様による、円形ピラーを六角形ピラーと比較した、界面膜とピラーとの間の接触角の違いを示す。
【0024】
図5図5は、いくつかの態様による、界面膜の漏れを回避する六角形ピラー間の好ましいピラー間距離があることを示すグラフである。
【0025】
図6図6は、いくつかの態様による、PAHにおける細胞外リモデリングを示す。
【0026】
図7図7は、いくつかの態様による、本明細書に教示されるシステムおよび方法を使用して、必要としている対象を処置することができる方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な記載
本明細書の教示は、一般に、遊離可能な層を有する複数のチャネルのあるマイクロ流体デバイスを作製および使用するためのシステムおよび方法に関する。本デバイスは、いくつかの態様において、界面膜の遊離による制御された接触を可能にする前に組織型を分離する改良されたマイクロ流体チップ、および疾患の処置を提供する際にデバイスを使用する方法を包含し、そのような処置はオーダーメイド医療アプローチを包含する。
【0028】
いくつかの態様において、本デバイスを使用して処置計画を開発できることを当業者は理解するであろう。本デバイスは、本システム内に複数の細胞型を播種および成長させて、生理系の改善された表現を提供することができる。いくつかの態様において、本システムおよび方法は、処置の開発に使用するための複雑な病理学的プロセスを表す。「界面」という用語は、一方の面が空気に曝され、他方の面が流体、例えば、水性流体細胞成長培地などの細胞成長培地に曝されていることを指す。「対象」および「ペイシェント(patient)」という用語は互換的に使用することができ、限定するものではないが、例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギ、ラット、およびマウスなどの非霊長類;および例えば、サルまたはヒトなどの霊長類などの哺乳類などの動物を指す。
【0029】
いくつかの態様において、処置の開発は、処置の対象において、所望の活性、投与量、半減期、および/または耐性、またはそれらの組み合わせを有する薬物を同定することを包含し得る。本システムおよび方法は、例えば、処置用の薬物の最適投与量、処置用の選択された薬物の単独または組み合わせでの有効性、処置用の薬物の安定性、処置用の薬物についてのペイシェントの感受性/耐性、および処置用の製剤の同定に使用することができる。薬物製剤は、例えば、ナノ粒子、コーティング、標的化部分、薬物送達複合体、およびそれらの組み合わせの使用を包含し得る。当業者であれば、本明細書に提供されるシステムおよび方法は、精密医療およびオーダーメイド医療に使用することができ、対象の年齢、性別、人種、既知のアレルギーなどに合わせたオーダーメイド処置などの改善された処置の開発につながることを理解するであろう。
【0030】
処置の開発は、身体の任意の系で起こる細胞間の通信を表すために本システムおよび方法を使用することを包含し得る。いくつかの態様において、身体の系は、循環系、心血管系、消化系、排泄系、内分泌系、外分泌系、外皮系、免疫系、リンパ系、筋肉系、神経系、腎系、泌尿器系、生殖系、呼吸系、骨格系、またはそれらの組み合わせから選択され得る。これらの生理系の各々は、それ自体の病理学的疾患および問題を抱えており、その多くが当業者に周知であり、本明細書において教示されるシステムおよび方法は、これらの系の各々において生じ得る疾患のためのより現実的な生理学的環境を作り出すために、年齢、性別、遺伝的因子、および対象において存在するさらなる疾患または障害などの他の生理学的状態の存在などの処置に影響を及ぼし得る因子を同定するために使用され得る。いくつかの態様において、本システムおよび方法は、処置に影響を及ぼし得る一次療法、補助療法などを包含する他の療法の存在を表すように設計することもできる。例えば、対象は、放射線療法を受けている間にも化学療法を受けている可能性があり、対象はまた、処置の開発に影響を及ぼし得る追加の遺伝因子または疾患状態を有している可能性がある。
【0031】
本明細書に教示されるシステムおよび方法の有益な貢献には、組織層間の相互作用を制御しながら、分離した個別の組織層のある組織系を構築する能力が包含される。本明細書に教示される界面膜は、組織層の制御された接触を引き起こす前に、組織層を互いに隔離するために使用することができる。任意の器官系を表すことができ、特に疾患が血管組織、免疫組織、癌組織などのような複数の細胞層に関与する場合、任意の疾患の処置を追求し、確立して、対象に使用することができる。例えば、血管新生、炎症応答、創傷治癒、薬物応答、器官間の癌細胞の転移などを伴う疾患の処置を同定し、必要とする対象へ投与することができる。
【0032】
いくつかの態様において、本システムおよび方法は、血管疾患を表し、血管疾患の処置を開発するのに特に適し得る。血管疾患を表すシステムを構築すること、本システムを使用して血管疾患を処置するための薬物を同定すること、および血管疾患を処置するために薬物を投与することを包含する、処置方法が提供される。薬物の同定は、対象において薬物の量、薬物の半減期、薬物の有効性、および薬物の耐性を同定することを包含し得る。血管系は、平滑細胞、外膜細胞および内皮細胞で構築され得、これらの細胞のそれぞれが血管疾患に関与し得る。本方法は、平滑細胞、外膜細胞および内皮細胞の成長に適した細胞成長培地を選択することを包含し得る。当業者は、細胞成長培地が、平滑細胞、外膜細胞および内皮細胞を支持するように選択され得ることを理解するであろう。
【0033】
いくつかの態様において、アテローム性動脈硬化症の処置を開発することができる。いくつかの態様において、内皮機能不全を包含する任意の疾患、例えば、糖尿病またはメタボリックシンドローム、高血圧、喫煙、および運動不足に起因し得る疾患の処置を開発することができる。そのような処置は、健康な内皮を促進することができ、内皮依存性血管拡張を調停するだけでなく、血栓症、血管炎症、および肥大も積極的に抑制する。したがって、いくつかの態様において、開発された処置は、血栓症、血管炎症、および肥大を処置するために使用することができる。
【0034】
いくつかの態様において、癌の処置は、本明細書のシステム方法を使用して開発される。そのような処置は、血管新生のような血管疾患の処置、または癌および癌処置に関連する機構である血管新生の阻害であり得る。血管形成阻害薬は、例えば、癌組織の成長をもたらす血管の成長を阻害または停止するために使用することができる。また、同様に、組織治癒処置への血流を改善するために血管新生を増加させる薬物の使用に関して、創傷治癒のための処置を開発することができる。サルコイドーシス、硬化症、および凝固障害の処置はすべて、本明細書に教示されるシステムおよび方法を使用して開発され得る。
【0035】
いくつかの態様において、癌処置は、固形腫瘍、またはリンパ腫および白血病などの液体腫瘍に対するものであり得る。いくつかの態様において、白血病処置は急性骨髄性白血病(AML)に対するものである。いくつかの態様において、本明細書に教示されるシステムおよび方法は、癌処置を開発するために、任意の癌の生理学的環境、癌のステージ、組織間の癌の転移などを表すために使用することができる。
【0036】
遊離可能な界面層
組織層の分離および組織層の混合を制御する本システムの構成要素は、本明細書に「遊離可能な界面層」または「界面層」または「界面膜」と呼ばれるものである。それは、「一時的な」界面層または界面膜とも呼ばれ得る。そのような用語は、互換的に使用することができる。界面層は、独立した組織チャネルを分離する1つ以上の壁の構成要素として作製することができる。いくつかの態様において、本システムおよび方法は、単一の界面層を使用して組織層またはチャネルを分離する。いくつかの態様において、本システムおよび方法は、複数の界面層を使用して組織層またはチャネルを分離する。いくつかの態様において、本システムは、2つの界面層を、組織層またはチャネルを分離するチャネルの両側に1つずつ有することができる。独立した組織チャネルを分離する壁はピラーからなり、各隣接するピラー間に、ピラー間にまたがって界面層が形成される。
【0037】
細胞培地は、各組織層の担体として使用される。細胞培地は、「細胞成長培地」、「細胞培養培地」、または「細胞成長培養培地」と呼ばれる場合がある。当然のことながら、細胞成長培地は、栄養培地、培養培地、最小培地、選択培地、分画培地、輸送培地、または富化培地であり得る。いくつかの態様において、液体培地を「ブロス」と呼ぶ場合がある。したがって、いくつかの態様において、界面層は、例えば、いくつかの態様において「水性液体細胞成長培地」と呼ぶ場合がある水性液体細胞培養成長培地を包含し得る成長培地から構成することができる。そのような培地は、遊離可能な界面層を作製するために使用することができる。細胞成長培地の例は、ラット尾部I型コラーゲン溶液である。いくつかの態様において、10%から35%の範囲のコラーゲン濃度を有する任意の細胞成長培地を使用することができる。いくつかの態様において、コラーゲン濃度は、10%、15%、20%、25%、30%、35%、またはこれらの中の1%刻みの任意の量であり得る。いくつかの態様において、細胞培地のコラーゲン濃度は、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、またこれらの中の0.1%刻みの任意の量である。
【0038】
しかしながら、いくつかの態様において、本システムおよび方法は、半固体細胞成長培地を包含することもできる。いくつかの態様において、半固体細胞成長培地はヒドロゲルであり得る。当業者は、コラーゲン系ヒドロゲル細胞成長培地などの任意の適切なヒドロゲル細胞成長培地を使用できることを理解するであろう。
【0039】
当業者は、特定の組織用途に適した適切な細胞成長培地を特定することができる。いくつかの態様において、細胞成長培地は、「生理学的培地」、例えば、生理学的状態を表すのに必要な血液の組成または他の生理学的環境をエミュレートするために、制御された細胞培養状態を提供することを意図した化学的に定義された培養培地と呼ばれる場合がある。いくつかの態様において、細胞成長培地は、基礎培地イーグル(BME)、最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ロズウェルパーク記念研究所(RPMI)1640、マッコイ5A改変培地、特定の細胞型用の細胞培養培地、例えば、SmGM(商標)-2平滑筋細胞成長培地-2 BulletKit(商標)、EGM(商標)-2 MV微小血管内皮細胞成長培地-2 BulletKit(商標)およびCOMPLETE FIBROBLAST MEDIUM/W KIT-500 MLなどであり得る。
【0040】
界面層は、制御可能に遊離可能であるため、いくつかの態様において制御を可能にすることができる。「制御可能に遊離可能」とは、水性流体が界面膜の「空気側」と接触するまで界面膜が所定の位置に留まるように十分に安定していること、ひいては、チャネル内の細胞組織を含む膜を遊離し、チャネルとそれらのそれぞれの細胞組織の通信を可能にすることを、我々は意味する。いくつかの態様において、界面層は、隣接するチャネルなど、膜が形成されたチャネルに隣接するチャネルに水溶液を導入すると遊離され得る。対照的に、いくつかの態様において、必要に応じて、第1のチャネルに第1の水性細胞溶液を導入し、第2のチャネルに第2の水性細胞溶液をゲルの形態で導入することによって、チャネルの完全性を延長することができ、この場合、ゲルは、第1のチャネルに形成された第1の細胞層および第2のチャネルに形成された第2の細胞層の完全性を維持する。しかしながら、当然のことながら、細胞のこの層状の組み合わせにおけるゲルは、哺乳動物における実際の水性細胞環境を忠実に表すものではない。細胞の代表的な層状系のその部分を単純に安定化することが望ましい場合があるが、代表的な系の他の部分は、遊離可能な界面膜を含む。いくつかの態様において、例えば、第1の層は水溶液であり得、隣接する第2の層は水性ゲルであり得、第3の層は水溶液であり得る。いくつかの態様において、層は、例えば、交互の水性細胞培地-水性ゲル-水性細胞培地の構造を有することができる。
【0041】
界面膜は、細胞層またはチャネル間のバリアとして機能する制御可能に遊離可能な機構を提供する技術的特徴である。当然のことながら、いくつかの態様において、本システムおよび方法によって表される組織構造は、細胞層の間に層状の配向を有することができ、播種段階で生成される細胞層構造の完全性を維持することが望ましい。しかしながら、層間の界面膜は、層間の代表的な生理学的通信を可能にするために、必要に応じて後に遊離され得る。
【0042】
図1は、いくつかの態様によるマイクロ流体チップの図を示す。マイクロ流体チップ100は、5つのチャネル1、2、3、4、5を有する。チャネル2、3および4は、組織をエミュレートするために3つの異なるタイプの細胞を導入するためのものである。チャネル1および5は、成長培地を添加して細胞に栄養を与えて細胞の寿命を延ばすために追加され、これらのチャネルは、必要に応じて定期的に交換することができる成長培地リザーバとしても機能することができる。
【0043】
本明細書に教示されるシステムおよび方法は、任意の層状組織構造を表し、任意の疾患プロセスのための処置を開発するために複数のチャネルを使用することができる。図2は、いくつかの態様によるチャネル内のチップ上に形成された血管組織構造を示す。エミュレートされた組織200は、チャネル1~5を示す。チャネル2は内皮細胞層をエミュレートするための内皮細胞を含み、チャネル3は平滑筋細胞層をエミュレートするための平滑筋細胞を含み、チャネル4は外膜細胞層をエミュレートするための外膜細胞を含み、これらの組み合わせは血管構造をエミュレートする。そして、説明したように、チャネル1および5は、細胞に栄養を与えて細胞の寿命を延ばすために成長培地を添加するために構成される。
【0044】
いくつかの態様において、チャネル1および5は、本システムおよび方法が長期間にわたって動作することができるように、必要に応じて定期的に交換することができる成長培地リザーバとしても機能することができる。いくつかの態様において、期間は、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、18時間、24時間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、またはこれらの中の1分刻みの任意の期間もしくは範囲の時間であり得る。
【0045】
いくつかの態様において、チャネル1および5は、液体水性成長培地中の組織に薬物を投与するためのポートとして機能することができる。そのようなシステムは、いくつかの態様において、薬物のタイプ、薬物の投与量、薬物の安定性、および薬物の耐性を同定するために使用することができる。
【0046】
いくつかの態様において、チャネル1および/または5を使用して静水圧を付与することができる。そのような圧力の付与は、例えば、血圧変化および血管に対するストレスの影響をエミュレートするために使用することができる。これは、例えば、ある範囲の血圧を有する対象の処置を開発するのに役立ち得る。適切であることが当業者に知られている任意の圧力機構、例えば、蠕動ポンプを圧力の付加に使用することができる。
【0047】
図3は、いくつかの態様によるデバイスのチャネルの上面図であり、チャネルは、チャネルの一部を構成するピラー型構造間に開口部のある壁である「不連続壁」を有する。チャネル300は、開口部310のある壁305を包含し、壁は隣接するチャネル(図示せず)と共有されているので、第1の水性細胞溶液315中の第1の細胞314は、第2の水性細胞溶液(図示せず)中の第2の細胞(図示せず)と連通して、エミュレートされた組織構造中の第1の細胞と第2の細胞との間の通信をエミュレートすることができる。しかしながら、通信の前に、エミュレートされた組織構造が作製される必要があり、したがって、各細胞層の完全性が維持される必要がある。組織構造の形成中の各細胞層の完全性の維持は、第1の水性細胞溶液315とカラム320との間の接触によって生じる水性表面張力を介して開口部310を横断する一時的な水性界面膜325が作製されることによって促進される。細胞層を作製するプロセスは、「播種」330と呼ぶ場合があり、これは、手動で、またはシステム内のポンプを介して自動的に行うことができる。
【0048】
本明細書に教示されるマイクロ流体デバイスは、チャネル間に一時的な自立型水性界面膜を提供するように独自に設計されている。実際、界面膜はチャネルの構成要素であり、エミュレートされた組織構造の形成中にチャネルの完全性を最初に維持するように機能する。一時的な界面膜は、界面膜に含まれる第1の細胞型を受け入れることができるチャネルの一時的な形成を可能にし、一方、界面膜を構成要素としても有する別のチャネルは、第2の細胞型を受け入れる。時間の経過後、界面膜が遊離し、細胞は、界面膜によってかつて分離されていた隣接するチャネル間で通信することができる。いくつかの態様において、これらの一時的な界面膜を「犠牲壁」と呼ぶ場合があり、これは、最初に細胞層を所定の位置に保持し、次いで界面膜の遊離の際、細胞間の通信が可能になり、犠牲壁は、身体内に存在する細胞の配置を表す分離を形成し、細胞が通信することを可能にするために所望される場合に最終的に遊離する。
【0049】
ピラーは、いくつかの態様において界面膜に影響を及ぼす所望の任意の構成を有することができる。ピラー間に所望の界面膜を形成し、チャネル内に形成されている細胞層を含むために、ピラーは、互いに(好ましくは同一平面上で)対向する縁部を有して構成することができる。ピラーは、例えば、図3に示すように、六角形の底面を有することができる。上述したように、六角柱は、2点間に配向された縁部を、好ましくは同一平面上に有する必要がある。水性界面膜は、チャネルの播種中に細胞層の完全性を維持する一時的な壁を形成し、次いで界面層が遊離して細胞が通信することを可能にする。
【0050】
いくつかの態様において、親水性材料は細胞培養培地と安定な界面膜を形成し得ないので、親水性材料はピラーを形成するために使用されない。
【0051】
いくつかの態様において、ピラーは、円形、楕円形、多角形、またはそれらの組み合わせである断面を有することができることが当業者には理解されよう。いくつかの態様において、多角形形状は、3辺、4辺、5辺、6辺、7辺、8辺、9辺、10辺、11辺、または12辺からなる。いくつかの態様において、ピラーは円柱である。いくつかの態様において、ピラーは正円柱である。いくつかの態様において、ピラーは楕円柱である。いくつかの態様において、ピラーは、図3の六角柱のような多角柱である。
【0052】
開口部310は、ピラー間の距離、本明細書に教示されるシステムおよび方法の界面膜の「架橋距離」によって画定される。ピラー間の距離は、「ピラー間距離」と呼ぶ場合もある、デバイス設計の特徴であり、30uMから250uMの範囲に慎重に構成する必要がある。範囲の下端の30uMは、細胞組織のサイズによって制限される一方で、上端250uMは、界面膜の安定性によって制限される。
【0053】
いくつかの態様において、ピラー間距離は、30uMから200uM、30uMから100uM、またはこれらの中の1uM刻みの任意の範囲であり得る。いくつかの態様において、ピラー間距離は、約25uM、30uM、35uM、40uM、45uM、50uM、55uM、60uM、65uM、70uM、75uM、80uM、85uM、90uM、100uM、105uM、110uM、115uM、120uM、125uM、130uM、135uM、140uM、145uM、150uM、155uM、160uM、165uM、170uM、175uM、180uM、185uM、190uM、195uM、200uM、205uM、210uM、200uM、215uM、220uM、225uM、230uM、235uM、240uM、245uM、250uM、255uM、260uM、またはこれらの中の1uM刻みの任意の距離または距離の範囲であり得る。
【0054】
ピラー間距離は、本明細書に教示されるシステムおよび方法で使用される細胞培養培地に対してピラー間に界面膜を形成する能力によって決定される。また、ピラー高さも同様の表面張力の制約によって制限され、ピラー高さもまた界面膜の架橋距離を形成するので、ピラー高さはまた、約25uM、30uM、35uM、40uM、45uM、50uM、55uM、60uM、65uM、70uM、75uM、80uM、85uM、90uM、100uM、105uM、110uM、115uM、120uM、125uM、130uM、135uM、140uM、145uM、150uM、155uM、160uM、165uM、170uM、175uM、180uM、185uM、190uM、195uM、200uM、205uM、210uM、200uM、215uM、220uM、225uM、230uM、235uM、240uM、245uM、250uM、255uM、260uM、またはこれらの中の1uM刻みの任意の距離または距離範囲であり得る。ピラー間距離と同様に、ピラー高さもまたデバイス設計の特徴であり、30uMから250uMの範囲になるように慎重に構成する必要がある。いくつかの態様において、ピラーの高さは、30uMから200uM、30uMから100uM、またはこれらの中の1uM刻みの任意の範囲とすることができる。
【0055】
いくつかの態様において、マルチチャネルマイクロ流体デバイスは3つのチャネルを有することができる。いくつかの態様において、マルチチャネルマイクロ流体デバイスは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上のチャネルを有することができる。いくつかの態様において、ユーザは、2、3、4、5、6またはそれ以上のチャネルを有するように設計されたデバイスを予め選択する。多くの態様では、マルチチャネルデバイスは、各細胞が複数のチャネルのうち、それ自身の各自のチャネル内で成長することを可能にし、各チャネルは複数のチャネルのうち、少なくとも1つの隣接するチャネルと連通し、各細胞型は播種段階ではその各自のチャネル内に留まるが、細胞シグナル伝達機構によって通信し、細胞シグナル伝達機構としては、例えば、細胞接触を伴わないパラ分泌シグナル伝達、および細胞接触を伴うリガンド-受容体結合である接触分泌ンシグナル伝達を包含することができる。この配置は、病理学的プロセスにおける細胞通信をエミュレートする際に使用するために多種多様な構成を選択および設計することを可能にし得る。
【0056】
したがって、いくつかの態様において、対象において細胞生理をエミュレートするために設計されたマイクロ流体システムが提供される。本システムは、マイクロ流体チップと;第2のチャネルに隣接する第1のチャネルとを含むことができる。これらの態様において、第1のチャネルおよび第2のチャネルはチップへ接続されており、ならびに第1の水性細胞溶液を第1のチャネル中へ注入するように構成された第1のポート;第2の水性細胞溶液を第2のチャネル中へ注入するように構成された第2のポート;および、開口部のある第1の壁を包含し、第1の壁が第1のチャネルおよび第2のチャネルによって共有されており、ならびに第1の壁の開口部が、(i)第1の水性細胞溶液の注入の際、第1の壁の開口部を横断する一時的な第1の水性界面膜を形成するように、かつ(ii)第1の界面膜の開口部からの遊離の際、第1のチャネルと第2のチャネルとの間に細胞通信が生じることを可能にするように構成されている。
【0057】
界面膜は、隣接するチャネル内の細胞間の通信を可能にするために遊離する必要がある。いくつかの態様において、第2の水性細胞溶液の注入は、開口部からの第1の界面膜の遊離を引き起こす。
【0058】
開口部のある壁は、エミュレートされた組織構造を作製するのに十分な長さでそれぞれのチャネル内の細胞層の完全性を維持するのに十分な安定性のある界面膜を確立するように構成される必要がある。いくつかの態様において、界面膜は、いずれかの水溶液の注入から形成され得る。いくつかの態様において、壁は、第1の水性細胞溶液を注入するとき開口部を横断する第1の界面膜を確立するように構成されている。いくつかの態様において、開口部は、第1の水性細胞溶液を注入するとき第1の壁の開口部を横断する第1の界面膜を確立するための疎水性材料を包含する。いくつかの態様において、開口部は、第1の水性細胞溶液を注入するとき開口部を横断する第1の界面膜を確立するために、平面を共有する対向するくさび形縁部によって輪郭が描かれている。いくつかの態様において、開口部は、円および楕円からなる群から選択される形状を包含する。いくつかの態様において、開口部は多角形構造によって輪郭が描かれており、この構造は、開口部の少なくとも2つの対向する側面上に対向する縁部を提供しており、対向する縁部は、第1の水性細胞溶液を注入するとき第1の壁の開口部を横断する第1の界面膜を確立するために平面を共有している。いくつかの態様において、第1の壁の開口部は、一連のカラムに沿って隣接するカラムの間の空間であり;一連のカラムにおける各カラムは、チップに対して少なくとも実質的に垂直な中心軸を有し、隣接するカラムの各対は、第1の水性細胞溶液を注入するとき第1の壁の開口部を横断する第1の界面膜を確立するために平面を共有している一対の対向する縁部を提供する。
【0059】
いくつかの態様において、本システムは、より複雑な組織構造をエミュレートするために3つ以上の異なる細胞型を包含することができる。これらの態様において、本システムは、第3のチャネルと;第3の水性細胞溶液を第3のチャネル中へ注入するために構成された第3のポートとをさらに含む。本システムは、開口部のある第2の壁を包含し、第2の壁は、第2のチャネルおよび第3のチャネルによって共有されており、ならびに第2の壁の開口部は、(i)第3の水性細胞溶液の注入の際、第2の壁の開口部を横断する一時的な第2の水性界面膜を形成するように、かつ(ii)界面膜の開口部からの遊離の際、第2のチャネルと第3のチャネルとの間で細胞通信が生じることを可能にするように構成されている。いくつかの態様において、マルチチャネルマイクロ流体デバイスを血管内の細胞相互作用の研究に使用することができる。例えば、本デバイスを使用して、3つの主要な動脈細胞、すなわち、内皮細胞、平滑筋細胞および外膜細胞の間の相互作用を研究することができる。
【0060】
本明細書の教示は、例えば、肺動脈高血圧症(PAH)の処置の開発において、我々がPAHをエミュレートできることを示す。いくつかの態様において、本明細書に教示されるシステムおよび方法は、改善された処置の開発のためにPAH誘発性右室肥大をエミュレートすることができる。当業者には当然のことながら、これらの結果は、我々が肺塞栓症をもたらす細胞間の通信、および塞栓症それ自体の環境をエミュレートすることもできることを立証するものである。そして、人間の系のいずれかのモデル化と同様に、我々は治療の有効性に影響を及ぼし得るいくつかの因子のいずれかの影響を調べることができる。例えば、本明細書に教示されるシステムおよび方法は、対象が男性であるか女性であるか、若年者であるか成人であるか、別の疾患または生理学的障害に罹患しているか、遺伝的障害に罹患しているか、または遺伝的に状態にかかりやすいかなどの相対的影響に注目する。当業者に知られている任意の因子は、本明細書に教示されるシステムおよび方法を使用してエミュレートすることができる。
【0061】
提供される本システムおよび方法を使用すれば、当業者は様々な細胞組織のあらゆる相互作用をエミュレートすることができるが、本明細書においては血管組織をモデルとして使用した。いくつかの態様において、細胞相互作用は血管組織層間で起こる。いくつかの態様において、細胞相互作用は血管細胞型間で起こる。いくつかの態様において、細胞相互作用は血管組織層間で起こる。いくつかの態様において、細胞相互作用は、血管細胞と血管細胞外マトリックスとの間で起こる。
【0062】
処置の開発には、薬物の選択、投与する薬物の量、薬物の耐性、薬物の安定性などが包含され得る。したがって、本システムは、細胞に成長培地を供給し、薬物に対するエミュレートされた組織構造の応答を試験するために薬物を投与するために使用され得る別個の注入ポートおよびチャネルを考慮して設計することができる。また、細胞培養培地を補充する必要があり得るので、いくつかの態様において、本システムは、成長培地ポートを有する成長培地チャネルをさらに含むことができる。
【0063】
「薬物」という用語は、「活性剤」、「生物活性剤」などと互換的に使用することができる。生物活性剤としては、小分子、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、アミノ酸、オリゴペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質が包含されるが、これらに限定されない。生物活性剤としては、抗増殖剤、抗新生物剤、抗有糸分裂阻害剤、抗炎症剤、抗血小板剤、抗凝固剤、抗フィブリン、抗トロンビン、抗生物質、抗アレルギー剤、抗酸化剤、および任意のプロドラッグ、コドラッグ、代謝産物、類似体、相同体、同族体、誘導体、塩およびそれらの組み合わせを包含することができるが、これらに限定されない。当然のことながら、当業者は、本発明のいくつかの態様において、いくつかの基、サブグループ、および個々の生物活性剤が使用されなくてもよいことを理解するはずである。
【0064】
抗増殖剤としては、例えば、アクチノマイシンD、アクチノマイシンIV、アクチノマイシンI1、アクチノマイシンX1、アクチノマイシンC1およびダクチノマイシン(Cosmegen.RTM.,Merck&Co.,Inc.)が包含される。抗新生物薬または抗有糸分裂薬としては、例えば、パクリタキセル(TAXOL、Bristol-Myers Squibb Co.)、ドセタキセル(TAXOTERE、Aventis S.A.)、メトトレキサート、イリノテカン、SN-38、アザチオプリン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、フルオロウラシル、塩酸ドキソルビシン(ADRIAMYCIN、ファイザー株式会社)およびマイトマイシン(MUTAMYCIN、Bristol-Myers Squibb Co.)、ならびに任意のプロドラッグ、コドラッグ、代謝産物、類似体、ホモログ、同族体、誘導体、塩およびそれらの組み合わせが包含される。抗血小板薬、抗凝固薬、抗フィブリンおよび抗トロンビンとしては、例えば、ヘパリンナトリウム、低分子量ヘパリン、ヘパリン類、ヒルジン、アルガトロバン、フォルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリンおよびプロスタサイクリン類似体、デキストラン、D-phe-pro-arg-クロロメチルケトン(合成アンチトロンビン)、ジピリダモール、糖タンパク質IIb/IIIa血小板膜受容体アンタゴニスト抗体、組換えヒルジンおよびトロンビン阻害剤(ANGIOMAX、Biogen,Inc.)、ならびに任意のプロドラッグ、コドラッグ、代謝産物、類似体、ホモログ、同族体、誘導体、塩およびそれらの組み合わせが包含される。細胞増殖抑制剤または抗増殖剤としては、例えば、アンジオペプチン、カプトプリル(CAPOTENおよびCAPOZIDE、Bristol-Myers Squibb Co.)、シラザプリルまたはリシノプリル(PRINVILおよびPRINZIDE、メルク株式会社)などのアンジオテンシン変換酵素阻害剤;ニフェジピンなどのカルシウムチャネル遮断薬;コルヒチン;線維芽細胞成長因子(FGF)アンタゴニスト、魚油(オメガ3脂肪酸);ヒスタミン拮抗薬;ロバスタチン(メバコール、メルク株式会社);限定するものではないが血小板由来成長因子(PDGF)受容体に特異的な抗体などのモノクローナル抗体;ニトロプルシド;ホスホジエステラーゼ阻害剤;プロスタグランジン阻害剤;スラミン;セロトニン遮断薬;ステロイド;チオプロテアーゼ阻害剤;限定するものではないがトリアゾロピリミジンなどのPDGFアンタゴニスト;および一酸化窒素、ならびにそれらの任意のプロドラッグ、コドラッグ、代謝産物、類似体、ホモログ、同族体、誘導体、塩および組み合わせが包含される。抗アレルギー剤としては、限定するものではないが、ペミロラストカリウム(ALAMAST、Santen,Inc.)、ならびに任意のプロドラッグ、コドラッグ、代謝産物、類似体、ホモログ、同族体、誘導体、塩およびそれらの組み合わせが包含される。
【0065】
本明細書の教示から当然のことながら、本明細書に教示されるシステムおよび方法を使用して、PAHの処置が提供される。いくつかの態様において、PAHの処置に使用される薬物としては、エポプロステノール、リオシグアト、ボセンタン、マシテンタン、アンブリセンタン、トレプロスチニル、シルデナフィル、タダラフィル、セレキシパグ、およびイロプロスト、ならびにそれらの組み合わせを包含することができるが、これらに限定されない。これらの薬物は各々、いくつかの態様において、単独で、または組み合わせて投与することができる。いくつかの態様において、薬物は、以下の表1のように投与することができる。
【表1】
【0066】
上記の薬物のうち、我々は、女性のPAHペイシェントがエポプロステノール、トレプロスチニル、セレキシパグ、アンブリセンタン、ボセンタンおよびマシテンタンに対してより応答性が高いことを見出した。したがって、いくつかの態様において、女性のPAHペイシェントを処置する方法が提供される。本方法は、例えば、以下を包含することができる。
・PAHを有する対象由来の血管内皮細胞組織を本明細書に教示されるマイクロ流体デバイスの第1のチャネルに導入することであって、導入することが、血管内皮細胞組織を水性細胞成長培地に播種してエミュレートされた血管内皮細胞層を作製すること、およびエミュレートされた血管内皮細胞層を第1のチャネル中へ注入することを包含する、導入すること;
・対象由来の血管外膜細胞組織を本明細書に教示されるマイクロ流体デバイスの第3のチャネルに導入することであって、第3のチャネルが第2のチャネルによって第1のチャネルから分離されており、導入することが、血管外膜細胞組織を水性細胞成長培地に播種してエミュレートされた血管外膜細胞層を作製すること、およびエミュレートされた血管外膜細胞層を第3のチャネル中へ注入することを包含する、導入すること;
・(i)第1のチャネルを第2のチャネルから分離する界面膜、および(ii)第3のチャネルが第2のチャネルから遊離するように水性細胞成長培地を第2のチャネルに導入することであって、界面膜の遊離がエミュレートされた血管内皮組織とエミュレートされた血管外膜組織との間の通信を可能にする、導入すること;
・エポプロステノール、リオシグアト、ボセンタン、マシテンタン、アンブリセンタン、トレプロスチニル、シルデナフィル、タダラフィル、セレキシパグ、およびイロプロスト、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される複数の薬物のそれぞれを投与することによって対象に対する最良の薬物候補を同定し、活性、有効性、用量応答、安定性、毒性、および/またはそれらの組み合わせなどの治療効果を測定し、対象に対する最良の薬物候補または製剤を同定すること;ならびに、
・治療効果が望まれる場合に、最良の薬物または製剤を対象へ投与すること。
【0067】
いくつかの態様において、本方法は、少なくとも5つのチャネルを有する本明細書に教示されるマイクロ流体デバイスを使用することを包含し、この場合、エミュレートされた血管内皮組織が第2のチャネル中へ注入され、エミュレートされた血管外膜組織が第4のチャネル中へ注入され、細胞成長培地が第1のチャネルおよび第5のチャネル中へ注入され、細胞成長培地は、最良の薬物候補または製剤を同定するための1つ以上の薬物候補を包含することができる。これらの方法は、エミュレートされた内皮血管組織を第2のチャネルに導入するときに、第1のチャネルと第2のチャネルとの間に遊離可能な界面膜を形成すること、エミュレートされた内皮血管組織を第4のチャネルに導入するときに、第4のチャネルと第5のチャネルとの間に遊離可能な界面膜を形成すること;および第1および第5のチャネル中へ細胞成長培地を注入するとき界面膜を遊離し、第1のチャネルと第2のチャネルとの間、および第4のチャネルと第5のチャネルとの間の通信を可能にすること、を包含することができる。いくつかの態様において、第3のチャネルは、水性ゲル細胞成長培地中に存在し得るエミュレートされた血管平滑筋組織層で満たされる。
【0068】
我々はまた、男性のPAHペイシェントがシルデナフィルおよびタダラフィルに対してより応答性が高いことを見出した。いくつかの態様において、男性のPAHペイシェントを処置する方法が提供される。本方法は、例えば、以下を包含することができる。
・PAHを有する対象由来の血管内皮細胞組織を本明細書に教示されるマイクロ流体デバイスの第1のチャネルに導入することであって、導入することが、血管内皮細胞組織を水性細胞成長培地に播種してエミュレートされた血管内皮細胞層を作製すること、およびエミュレートされた血管内皮細胞層を第1のチャネル中へ注入することを包含する、導入すること;
・対象由来の血管外膜細胞組織を本明細書に教示されるマイクロ流体デバイスの第3のチャネルに導入することであって、第3のチャネルが第2のチャネルによって第1のチャネルから分離されており、導入することが、血管外膜細胞組織を水性細胞成長培地に播種してエミュレートされた血管外膜細胞層を作製すること、およびエミュレートされた血管外膜細胞層を第3のチャネル中へ注入することを包含する、導入すること;
・(i)第1のチャネルを第2のチャネルから分離する界面膜、および(ii)第3のチャネルが第2のチャネルから遊離するように水性細胞成長培地を第2のチャネルに導入することであって、界面膜の遊離がエミュレートされた血管内皮組織とエミュレートされた血管外膜組織との間の通信を可能にする、導入すること;
・エポプロステノール、リオシグアト、ボセンタン、マシテンタン、アンブリセンタン、トレプロスチニル、シルデナフィル、タダラフィル、セレキシパグ、およびイロプロスト、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される複数の薬物のそれぞれを投与することによって対象に対する最良の薬物候補を同定し、活性、有効性、用量応答、安定性、毒性、および/またはそれらの組み合わせなどの治療効果を測定し、対象に対する最良の薬物候補または製剤を同定すること;ならびに、
・治療効果が望まれる場合に、最良の薬物または製剤を対象へ投与すること。
【0069】
いくつかの態様において、本方法は、少なくとも5つのチャネルを有する本明細書に教示されるマイクロ流体デバイスを使用することを包含し、この場合、エミュレートされた血管内皮組織が第2のチャネル中へ注入され、エミュレートされた血管外膜組織が第4のチャネル中へ注入され、細胞成長培地が第1のチャネルおよび第5のチャネル中へ注入され、細胞成長培地は、最良の薬物候補または製剤を同定するための1つ以上の薬物候補を包含することができる。これらの方法は、エミュレートされた内皮血管組織を第2のチャネルに導入するときに、第1のチャネルと第2のチャネルとの間に遊離可能な界面膜を形成すること、エミュレートされた内皮血管組織を第4のチャネルに導入するときに、第4のチャネルと第5のチャネルとの間に遊離可能な界面膜を形成すること;および第1および第5のチャネル中へ細胞成長培地を注入するとき界面膜を遊離し、第1のチャネルと第2のチャネルとの間、および第4のチャネルと第5のチャネルとの間の通信を可能にすること、を包含することができる。いくつかの態様において、第3のチャネルは、水性ゲル細胞成長培地中に存在し得るエミュレートされた血管平滑筋組織層で満たされる。
【0070】
本明細書に提供されるシステムおよび方法は、必要とする対象のための抗体処置を開発するために十分に機能する。抗体療法は、本明細書に教示される方法と組み合わせて投与されるときに有用であり得るさらなる生物活性剤を提供する。例えば、AVASTATINは、VEGFに対するヒトモノクローナル抗体であり、イリノテカン、5-フルオロウラシルおよびロイコボリンの標準的なSaltzのレジームと組み合わせて使用した場合、結腸直腸癌において有益な結果をもたらし、生存時間を30%超増加させた。当業者であれば、いくつかのモノクローナル抗体が有用であることを理解するであろう。以下は、本明細書に教示されるシステムおよび方法、ならびに本明細書に教示される生物活性剤のいずれかを使用して対処することができる癌のさらなる例を、本明細書に教示される生物活性剤のいずれかと単独で、または本明細書に教示される生物活性剤のいずれかと組み合わせて試験することもできるいくつかのモノクローナル抗体療法と共に示す。
【表2】
【0071】
一般的に言えば、本明細書に教示されるシステムおよび方法を使用して対処することができる癌は、任意の既知の癌を包含する。上記のリストの癌に加えて、またはそれを包含して、以下の癌、すなわち、肺癌、非小細胞肺癌、腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌、小細胞肺癌、気管支癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、乳癌、膵臓癌、前立腺癌、白血病、急性骨髄性白血病、リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、肝臓癌、肝内胆管癌、卵巣癌、および食道癌が関心対象である。
【0072】
当然のことながら、生物活性剤は、単独で、または他の生物活性剤と組み合わせて、本明細書に教示される組成物および方法と共に与えることができる。例えば、化学療法薬は、併用化学療法レジメンとして、併用して投与される場合に最も効果的である場合がある。併用化学療法の理論的根拠は、異なる作用機序によって作用する薬物を使用し、それによって耐性癌細胞が発生する可能性を低下させることである。異なる効果を有する薬物を組み合わせる場合、各薬物は、その最適な用量で使用することができ、耐えられない副作用を伴わない場合があり、軽減する場合がある。
【0073】
活性薬剤は、例えば、薬学的に許容される担体中に包含することができ、活性薬剤は、処置されるペイシェントに望ましくない副作用がない状態で治療上有用な効果を発揮するのに十分な量で送達系とコンジュゲートされる。治療有効濃度は、記載されたインビトロおよびインビボ系で化合物を試験することによって経験的に決定され得、次いで、ヒトの投与量についてそこから外挿され得る。
【0074】
いくつかの態様において、治療有効投与量は、約0.1ng/mlから約50~100μg/mlの活性成分の血清濃度を生じさせる必要がある。医薬組成物は、別の態様では、1日当たりの体重1キログラム当たり約0.001mgから約2000mgの化合物の投与量を提供する必要がある。同様に、医薬剤形は、単位剤形あたり約0.01mg、0.1mgまたは1mgから約500mg、1000mgまたは2000mg、一態様では約10mgから約500mgの活性成分または必須成分の組み合わせを提供するように調製される。
【0075】
いくつかの態様において、組成物の治療的または予防的有効量は、約0.001nMから約0.10M;約0.001nMから約0.5M;約0.01nMから約150nM;約0.01nMから約500μM;約0.01nMから約1000nM,0.001μMから約0.10M;約0.001μMから約0.5M;約0.01μMから約150μM;約0.01μMから約500μM;約0.01μMから約1000nMの濃度範囲であり得、またはこれらの中の0.1μM刻みの任意の範囲であり得る。いくつかの態様において、組成物は、約0.001mg/kgから約500mg/kg;約0.005mg/kgから約400mg/kg;約0.01mg/kgから約300mg/kg;約0.01mg/kgから約250mg/kg;約0.1mg/kgから約200mg/kg;約0.2mg/kgから約150mg/kg;約0.4mg/kgから約120mg/kg;約0.15mg/kgから約100mg/kg,約0.15mg/kgから約50mg/kg,約0.5mg/kgから約10mg/kgの範囲の量、またはこれら中の0.1mg/kg刻みの任意の範囲の量で投与され得る。
【0076】
典型的には、本明細書に教示される組成物は、皮下注射、筋肉注射、腹腔内注射または静脈注射によって投与することができる。局所投与は、いくつかの態様において、処置される組織、例えば、固形腫瘍の領域への薬剤の直接注射を包含することができる。いくつかの態様において、静脈内投与が使用され、それは数分から1時間またはそれ以上の期間、例えば、約15分にわたる連続静脈内注入であり得る。投与される量は、製剤の種類、単位投与量のサイズ、賦形剤の種類、および当業者に周知の他の因子に応じて大きく異なり得る。製剤は、例えば、約0.0001%から約10%(w/w)、約0.01%から約1%、約0.1%から約0.8%、またはこれら中の任意の範囲を含み得、残りは賦形剤または賦形剤を含み得る。
【0077】
いくつかの態様において、本組成物は、処置される疾患状態のための少なくとも1つの他の治療剤、特に癌を処置することができる別の薬剤、例えば、化学療法剤と組み合わせて投与することができる。必要とされる薬剤の量は、さらに実質的に低減することができ、その結果、必要とされる1つまたは複数の薬剤の量が、対象から有意な応答が観察される程度にまで低減される。有意な応答としては、限定するものではないが、悪心の軽減または排除、明らかな耐性の増加、処置に対するより速い応答、処置に対するより選択的な応答、またはそれらの組み合わせを包含することができる。
【0078】
本方法は、有効量の抗増殖剤、有効量の放射線療法、外科的療法、またはそれらの組み合わせの投与をさらに含むことができる。本教示はまた、癌を処置する方法に関する。いくつかの態様において、本方法は、癌処置を必要とする対象へ薬剤を投与することであって、薬剤の用量が、対象において実質的により高い用量の薬剤を投与するときに生じるであろう免疫抑制を低減または排除するように選択される、薬剤を投与すること;および、薬剤と組み合わせて放射線療法を投与することであって、免疫抑制の低減または排除によって、対象において実質的により高い用量の薬剤と組み合わせて投与された場合に観察される放射線療法の有効性と比較して、放射線療法の有効性が高められる、放射線療法を投与すること、を含む。いくつかの態様において、薬剤は、本明細書に提供される薬剤と組み合わせて1つ以上の化学療法剤を含む。これらの態様において、薬剤は、ダカルバジン、パクリタキ細胞、ドキソルビシン、またはそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0079】
いくつかの態様において、有効量は、平均体重のヒトに対して、例えば、約1mg/日から約1000mg/日、約10mg/日から約500mg/日、約50mg/日から約250mg/日、またはこれらの中の1mg/日刻みの任意の範囲もしくは量の範囲であり得る。
【0080】
いくつかの態様において、ヒトの平均体重は、60kg、65kg、70kg、75kg、80kg、またはそれらの中の1kg刻みの任意の体重で推定することができる。固形腫瘍を処置するために、同様の量が治療上有効であろう。当業者は、そのスキルおよび本開示を考慮して、過度の実験をすることなく、所与の疾患に対する本発明の組成物の治療有効量を決定することができるであろう。
【0081】
いくつかの態様において、G-CSFは、当業者によって有効であることが公知の任意の量、時間、および投与方法を使用して、本明細書に教示される組成物と組み合わせて投与される。G-CSFは、NEUPOGENであり得、例えば、約0.1μg/kgから約1mg/kg、約0.5μg/kgから約500μg/kg、約1μg/kgから約250μg/kg、約1μg/kgから約100μg/kg、約1μg/kgから約50μg/kgの範囲の量、またはこれらの中の1μg/kg刻みの任意の範囲もしくは量で投与することができる。
【0082】
いくつかの態様において、放射線療法は、例えば、約20Gy~約100Gyの範囲の単一の局所高線量で投与することができる。いくつかの態様において、放射線療法は、1週間の時間枠の間に約2用量から約5用量を含む投与の修正小分割照射レジメンを使用して、約20Gyから約100Gyの範囲の総線量で投与することができる。いくつかの態様において、放射線療法は、約2日間から約3日間の範囲の時間枠の間に2用量から3用量を含む投与の修正小分割照射レジメンを使用して、約20Gyから約100Gyの範囲の総線量で投与することができる。放射線療法はまた、3日間の時間枠の間に1日ごとに約15Gyから約20Gyの範囲の単回線量を含む投与の修正小分割照射レジメンを使用して、約45Gyから約60Gyの範囲の総線量で投与することができる。
【0083】
本明細書に教示される組成物および治療は、組み合わせて投与することができる。例えば、その組み合わせは、例えば、30分間、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、18時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日間、2週間、3週間、4週間、6週間、3ヶ月間、6ヶ月間、1年間、それらの任意の組み合わせ、または当業者が必要と考える任意の時間にわたって投与することができる。薬剤は、対象へ同時に、連続的に、または周期的に投与することができる。サイクリング療法は、第1の薬剤を所定の期間投与し、第2の薬剤または治療を第2の所定の期間投与し、この周期を、例えば、処置の有効性を高めるなどの任意の所望の目的のために繰り返すことを含む。薬剤は、同時に投与することもできる。「同時に」という用語は、薬剤を全く同時に投与することに限定されず、むしろ、薬剤が協働してさらなる利益をもたらし得るような順序および時間間隔で薬剤を投与し得ることを意味する。各薬剤は、1つまたは複数の薬剤を投与する任意の適切な手段を使用して、任意の適切な形態で別々にまたは一緒に投与することができる。
【0084】
同様に、本システムは、それぞれが細胞に供給するための細胞培地および試験する選択薬物を供給するための複数の成長培地ポート用に設計することができる。したがって、いくつかの態様において、本システムは、第1の成長培地ポートを有し、かつ第1のチャネルと連通して配置されている第1の成長培地チャネルと、第2の成長培地ポートを有し、かつ第2のチャネルと連通して配置されている第2の成長培地チャネルとをさらに含むことができる。
【0085】
処置の開発において、本システムは、疾患組織または疾患過程をエミュレートするように設計することができる。したがって、いくつかの態様において、対象において疾患をエミュレートする方法が提供される。本方法は、本明細書に教示されるシステムの1つを得ること;疾患の第1の細胞を導入するために第1の水性細胞溶液を第1のチャネル中へ注入し、注入によって第1の壁の開口部を横断する一時的な第1の水性界面膜を形成すること;および疾患の第2の細胞を導入するために第2の水性細胞溶液を第2のチャネル中へ注入すること、を含み得る。これらの態様において、第1の界面膜は、第2の水溶液の注入後に遊離し;および第1界面膜の遊離後に、第1細胞と第2細胞とが通信して、疾患状態をエミュレートする。
【0086】
いくつかの態様において、選択されたシステムは、エミュレートされた組織構造内に少なくとも3つのチャネルおよび少なくとも3つの異なる細胞型を有する。したがって、いくつかの態様において、疾患をエミュレートする方法は、本明細書に教示されるマイクロ流体システムを得ることであって、システムが少なくとも3つのチャネルを有する、システムを得ること;疾患の第1の細胞を導入するために第1の水性細胞溶液を第1のチャネル中へ注入し、注入によって第1の壁の開口部を横断する一時的な第1の水性界面膜を形成すること;疾患の第3の細胞を導入するために第3の水性細胞溶液を第3のチャネル中へ注入し、注入によって第2の壁の開口部を横断する一時的な第2の水性界面膜を形成すること;および疾患の第2の細胞を導入するために第2の水性細胞溶液を第2のチャネル中へ注入すること、を含む。これらの態様において、第1の界面膜は、第2の水溶液の注入後に遊離し;第2の界面膜は、第2の水溶液の注入後に遊離し;第1の界面膜の遊離後に第1の細胞と第2の細胞が通信して疾患状態をエミュレートし;および第2界面膜の遊離後に第2細胞と第3細胞が通信して疾患状態をエミュレートする。
【0087】
いくつかの態様において、水性ゲル細胞成長培地を使用することができる。ゲルは、少なくとも3つのチャネルの完全性をさらに安定化させ、組織が相互作用する速度を遅くするために、交互のチャネルで使用することができる。したがって、いくつかの態様において、対象において疾患をエミュレートする方法は、少なくとも3つのチャネルを有するシステムを得ること;疾患の第1の細胞を導入するために第1の水性細胞溶液を第1のチャネル中へ注入し、注入によって第1の壁の開口部を横断する一時的な第1の水性界面膜を形成すること;疾患の第3の細胞を導入するために第3の水性細胞溶液を第3のチャネル中へ注入し、注入によって第2の壁の開口部を横断する一時的な第2の水性界面膜を形成すること;および疾患の第2の細胞を導入するために第2の水性細胞溶液を水性ゲルの形態で第2のチャネル中へ注入すること、を含み得る。第1の界面膜は第2の水溶液の注入後に遊離することができ;第2の界面膜は第2の水溶液の注入後に遊離することができ;第1の界面膜の遊離後に第1の細胞と第2の細胞が通信して疾患状態をエミュレートし;および第2界面膜の遊離後に第2細胞と第3細胞が通信して疾患状態をエミュレートする。
【0088】
組織構造をエミュレートし、疾患をエミュレートする方法は、当然疾患組織構造を処置する方法をもたらす。したがって、エミュレートされた疾患を薬物で処置する方法が提供される。いくつかの態様において、本方法は、本明細書に教示される疾患をエミュレートする方法を実施すること;エミュレートされた疾患を処置するための薬物を選択すること;およびチャネルのいずれか1つにおいて薬物を投与することを包含する。いくつかの態様において、薬物を任意のチャネルで投与することができる。いくつかの態様において、薬物は、第1のチャネルまたは第2のチャネルにおいて投与することができる。いくつかの態様において、薬物は、第1のチャネル、第2のチャネル、または第3のチャネルにおいて投与することができる。いくつかの態様において、薬物は、第1のチャネル、第2のチャネル、第3のチャネル、第4のチャネル、または第5のチャネルで投与することができる。いくつかの態様において、薬物は、第1のチャネルまたは第3のチャネルで投与することができる。いくつかの態様において、薬物は、第1のチャネルまたは第5のチャネルで投与することができる。
【0089】
本明細書に提供されるシステムおよび方法を使用して、様々な種類の疾患をエミュレートし、処置することができる。いくつかの態様において、本方法は、エミュレートされた血管疾患を薬物で処置することに関する。これらの態様において、本方法は、本明細書に教示されるシステムを得ることであって、本システムが3つの血管細胞型を導入するための少なくとも3つのチャネルを有する、システムを得ること;疾患の第1の細胞を導入するために第1の水性細胞溶液を第1のチャネル中へ注入して外膜細胞層を形成し、注入によって第1の壁の開口部を横断する一時的な第1の水性界面膜を形成すること;疾患の第3の細胞を導入するために第3の水性細胞溶液を第3のチャネル中へ注入して内皮細胞層を形成し、注入によって第2の壁の開口部を横断する一時的な第2の水性界面膜を形成すること;および疾患の第2の細胞を導入するために第2の水性細胞溶液を第2のチャネル中へ注入して平滑筋層を形成すること、を包含することができる。これらの方法は、薬物を選択すること;および第1の成長培地チャネルまたは第2の成長培地チャネルへ薬物を投与することをさらに含む。これらの態様において、第1の界面膜は、第2の水溶液の注入後に遊離し;第2の界面膜は、第2の水溶液の注入後に遊離し;第1の界面膜の遊離後に第1の細胞と第2の細胞が通信して疾患状態をエミュレートし;および第2界面膜の遊離後に第2細胞と第3細胞が通信して疾患状態をエミュレートする。
【0090】
例1.ピラー形状
界面膜の完全性および安定性は、表面張力および接触角の要件を包含する。表面張力は、ピラーの組成および膜を形成するために使用される水性材料、例えば、細胞成長培地の組成によってもたらされる。
【0091】
図4A図4Cは、いくつかの態様による、円形ピラーを六角形ピラーと比較した、界面膜とピラーとの間の接触角の違いを示す。ピラーは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)の一体成型によって作製され、中程度のRF電力での2分間の周囲プラズマ処理(PDC-001-HPシリーズ、Harrick plasma、NY)を使用してデバイスにカバーガラスを加えた。次いで、本デバイスを80℃のオーブン中に2時間入れておき、結合を強化した。次いで、チップをUV(UV Light Box Benchtop Decontamination Chambers、Air science Inc.)で45分間処理して滅菌した後、細胞播種工程に進んだ。次いで、ピラーへの接着を増強するために、ピラーをポリ-D-リジン(PDL)溶液(2mg/ml)でコーティングした。チップは、多種多様な熱可塑性ポリマー、例えば、オリー(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリイミド(PI)、環状オレフィンコポリマー(COC)、環状オレフィンポリマー(COP)、および環状ブロックコポリマー(CBC)を用いて作製することもできる。これらのポリマーで作製したチップには、同じポリマーからなるカバースリップを取り付けることができる。
【0092】
次いで、細胞培地をチャネルに導入し、接触角を測定した。図4Aは、界面膜と六角柱の間の接触角を示す。図4Bは、界面膜と円柱の間の接触角を示す。図4Cは、接触角の差を示すために六角柱と円形柱のオーバーレイを示す。図4A図4Cは、チャネル全体の圧力ΔPwおよびピラー間の圧力ΔPに差があることを示している。丸形、六角形、台形を有するピラーを比較した。
【0093】
例2.ピラー間距離
表面張力および接触角は、界面膜の完全性および安定性を強化するために最適化することができ、膜が延伸される距離も考慮すべき因子である。
【0094】
図5は、いくつかの態様による、界面膜の漏れを回避する六角形ピラー間の好ましいピラー間距離があることを示すグラフである。六角形のピラーでは、漏れ閾値が150uMを超えており、これは、ピラーが少なくとも150uMの距離をあけて、漏れのない安定した界面膜を維持することができることを意味することが分かる。
【0095】
図5の漏れ閾値を横切る線によって示されるように、ピラー間距離が200uMに近づくにつれて漏れが発生し始めた。すべてのピラーは、円形、六角形、および台形を有するかどうかにかかわらず、100uMのピラー間距離未満で漏れなかった。
【0096】
例3.5チャネルのマルチチャネルマイクロ流体デバイスの作製
マイクロ流体チップは、例えば、以下のように、5つのメインチャネルと、三次元(3D)環境用のマイクロピラーとを有するように作製することができる。
【0097】
このデバイスの作製のために、5つのチャネルのネットワークが作られ、各チャネルは幅1mmおよび長さ3cmである。このプロセスでは、オートCADを使用した。チャネルは、チャネルの長さ全体にわたって200μm離れて配置された150μmの高さの台形ピラーによって分離されていた。
【0098】
我々はCADファイルからフォトマスクを作製し、高解像度プリンタ(CAD Art Services Inc.、OR)でマスクを印刷し、次いでマスクをシリコンウェハ上に置き、SU-8-フォトレジストポリマー(MicroChem Inc.、MA)を使用してスピンコーティング(Spin Coater WS-650シリーズ、Laurell Technologies Corporation、PA)し、65℃で5分間および95℃で25分間焼成した。次いで、我々はSU-8コーティングされたシリコンウェハをUV光(UV-KUB 2、KLOE Inc.、フランス)に曝露し、再び65℃で5分間および95℃で12分間焼成し、室温に冷却し、SU-8溶媒で洗浄してシリコンマスターモールドを得た。マスター型を使用してデバイスを作製するために、我々は、硬化溶液(Dow Inc.、MI)と10:1の比で混合したポリジメチルシロキサン(PDMS、Dow Inc.、MI)のアリコートを型に注いだ。我々は次いで、個々のデバイスを脱気し、焼成し、切り出して(直径35mm、高さ3~4mm)、最後に生検パンチ(登録商標)(Miltex、PA)を使用して入口および出口を作製した。
【0099】
マイクロ流体チップの作製:実験室規模の実験には、マイクロピラーのあるポリジメチルシロキサン(PDMS)ベースのチップを使用することができる。ただし、環状オレフィン共重合体(COC)および射出成形を使用すれば、大規模用途の多数のチップを製造することができる。ピラーを使用して、開口部のある壁を作製した。この態様では、界面膜を保持する表面張力を得るために対向する縁部を有することが望まれるため、ピラーに丸みを帯びた形状を採用しなかった。これは、円形または球形の「ピラー」を使用しない態様の例である。
【0100】
チップの操作:手動ピペットを使用するのではなく、圧送を自動化するために実装できる圧送システムを得る。例えば、https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2468067220300249?via%3Dihub(2021年7月27日ダウンロード;本出願に適した蠕動ポンプを教示する)を参照されたい;また、例えば、https://link.springer.com/article/10.1140/epje/s10189-020-00002-9(2021年7月27日ダウンロード;この用途に適した定圧ポンプを教示する)も参照されたい。
【0101】
手動播種、成長、および評価
【0102】
病理学的状態は、細胞の手動播種、手動で配置した細胞の手動プロセスを使用した成長、細胞相互作用を可能にするための界面層の確立および遊離を使用して確立することができる。
【0103】
デバイスの自動化
【0104】
我々は、無菌環境での細胞播種および成長のためのプロセスを自動化することができる。自動化されたデバイスは、使用がより容易であり、ペイシェントのベッドサイドで使用して、例えば、治療応答を評価し、治療応答に対する性別および年齢の影響、ならびに当業者に知られている多数の他の因子のいずれかを調査し、対象の治療に対するオーダーメイドアプローチを開発することができる。
【0105】
例4.肺動脈高血圧症の適用を検討する。
肺動脈高血圧症(PAH)は、肺動脈/細動脈が硬くなって閉塞するまれな疾患である。心臓は、閉塞した動脈を通って肺に血液を送り込むためには、より激しく動かなければならない。そうすることで、心臓が拡大し、ペイシェントは右心不全で死亡する。この疾患の主な臨床症状は、平均肺動脈圧(mPAP)の上昇であり、これは、動脈リモデリングおよび筋性化と呼ばれる肺動脈における一連の能動的な構造変化から生じる。肺動脈PAHペイシェントの主な死因は、例えば、右室肥大(PAH-RVH)である。PAH-RVHの発生に関与する様々な細胞および生体分子プロセスはあまり理解されておらず、本明細書に教示されるシステムおよび方法を使用してより良好に処置することができる。
【0106】
この病態は、肺動脈細胞(PAC)の異常な増殖、遊走および誤った位置での成長、アポトーシス耐性内皮細胞(EC)の発達、細胞外マトリックス(ECM)の沈着の増加、平滑筋層の肥厚、およびECによる表現型のような平滑筋細胞(SMC)の獲得のために発症する。無秩序な細胞成長のために、この疾患は重篤になり、一部の肺動脈は、叢状病変と呼ばれる糸球体様管腔閉塞を発症する。これらの病変は、不確実な表現型の高色素性で楕円形のコア細胞によって分離された内皮細胞で裏打ちされたスリット様チャネルの神経叢として説明されている。
【0107】
PAHに対する性別の影響
【0108】
PAHの不可解な側面の1つは、男性よりも女性に多く影響するが、PAHのある女性は男性よりも長く生存する傾向があることである。PAHペイシェントの有病率対生存率のこの相違は、2つの性別の間の固有の違い、および性ホルモン、特にエストロゲンの相反する役割から生じたと考えられ、これらは、女性のPAHの発生および進行に有益な効果と有害な効果の両方を有するようである。さらに、我々は、ヒトおよび動物の実験が、対象の性別がPAHの治療応答にある役割を果たすことを示唆しており、したがって性別に基づくオーダーメイド治療がPAHペイシェントにおそらく利益をもたらすことを見出した。
【0109】
ECMリモデリングの調査
【0110】
我々の最近の刊行物に報告されているように、我々は、最初に様々なマーカーについて細胞を特性評価し、対照細胞およびPAH細胞を、外膜細胞(ADC)またはSMCは2×106細胞/mLの密度で、ECは5~10×106細胞/mLの密度で、チップのそれぞれのチャネルに播種した。SMCをラット尾部I型コラーゲン溶液(Corning Inc.、NY)に播種した。我々は、2つの最も外側のチャネルを介して細胞に培地を供給した。チップに3つの異なる細胞型を播種した実験では、我々は最初にコラーゲン(2mg/mL)単独またはコラーゲンと混合したSMCを内側チャネルに注入し、コラーゲンがゲルを形成するのに20分間与え、次いでECおよびADCを20分間あけて播種した。このようにして作製した細胞含有チップを加湿チャンバーに入れ、CO2インキュベーター内で5~8日間成長させた。毎日、培地を除去し、150μLの新鮮な培地と交換した。
【0111】
1、3、5、7および10日目に、我々はEC、SMC、およびADCを、CD31、FSP-1、VEGFR2、α-SMA、SM-22α、CD90用のマーカーで、および様々なECMタンパク質のマーカーについて、染色した。細胞を染色するために、我々は最初にチップを基礎培地で洗浄し、4%パラホルムアルデヒド、ブロッキング緩衝液、一次抗体で処理し、一晩インキュベートした。翌日、我々は再びチップを洗浄緩衝液で洗浄し、二次抗体を注入し、1時間インキュベートし、再び洗浄し、最後に核を染色するためにDAPIを含む封入剤で処理した。同様に、我々はチップを染色して、ヒトI型コラーゲン(ColT1)およびIV型コラーゲン(ColT4)、ラミニン、テネイシン-C、フィブロネクチン、エラスチンの存在を確認した。我々は落射蛍光(DMi8落射蛍光、ライカ、IL)または多光子共焦点顕微鏡(Ti-E、Nikon、NY)を使用して細胞およびECMの画像を撮影した。
【0112】
我々は定量的PCR(qPCR)法を用いて様々なECMを定量した。このために、我々は播種の1、3、5、7、および10日後に対照細胞およびPAH細胞の両方を取り出して回収した。我々はQuick Prep Micro mRNA精製キット(Amersham、ピスカタウェイ)を使用してmRNAを単離し、ラミニン、テネイシン-C、ColT1α、ColT4、フィブロネクチン、およびエラスチンについて分析した。製造業者のプロトコルに基づいて、我々はSuperscript III第1鎖合成システム(Invitrogen)を使用して一本鎖cDNAを作製し、Brilliant SYBR Green QPCR Master Mixを使用してMX4000ソフトウェアv.4.20(Stratagene、La Jolla、CA)によって作製された閾値サイクル数でMX4000においてqPCRを行った。我々は式ΔCt=Ct参照遺伝子-Ct目的の遺伝子を使用して、Ct値を内部対照GAPDHに対して正規化した。
【0113】
チップ上の内皮細胞機能不全の評価
【0114】
内皮細胞がPAHで観察されるようなアポトーシスを受けるかどうかを調べるために、我々は対照内皮細胞、平滑筋細胞、およびADCを播種し、正常酸素状態の通常の血清または低酸素状態の減少した血清などの様々な条件で3から5日間細胞を成長させた。また我々は、コラーゲンの存在下または非存在下でN-ECを成長させた。実験の最後に、我々は先に列挙したのと同じ細胞マーカーおよびECMマーカーについて細胞を染色した。アポトーシスを評価するために、我々は、λ-H2AX、PCNA、および切断カスパーゼ-3の存在について細胞を染色し、細胞の総数に対するカスパーゼ-3陽性細胞の数の比からアポトーシス指数を最終的に計算した。
【0115】
性別特異的療法応答の評価:
【0116】
これらの性別特異的療法効果の細胞学的根拠を評価するために、我々は女性PAHペイシェントが男性ペイシェントよりも応答性が高いボセンタン、エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)を使用した。男性および女性ペイシェントのPAH-EC/SMC/ADCを播種することによって調製したチップに、細胞播種の4日目から開始して50μMボセンタンを注入し、注入をさらに3日間続けた。薬物が予防効果を有するかどうかを調べるために、播種の1日目に細胞含有チップを50μMボセンタンで処理し、無処理でさらに6日間細胞を成長させた。細胞機能およびリモデリングに対する成長ホルモンおよび抗PAH薬の影響を調べるために、男性および女性のPAH-EC、QD705標識または非標識PAH-SMCおよびPAH-ADCを播種した。ヒトColT1の沈着、アロマターゼ(エストロゲンを合成する酵素)およびCYP1B1(エストロゲン代謝酵素)の発現を評価し、次いで動脈リモデリングおよび筋性化を評価した。
【0117】
薬物肺動脈肥厚の効果を評価するために、ECおよびSMCが、それらの割り当てられた層の外側ではなく、チップのそれぞれのチャネル、内膜および中間層で成長すると仮定した。ECまたはSMCがそれらの元の播種チャネルの外側で成長する場合、我々は、指定外のチャネル成長をそれぞれ内膜または中間層の肥厚とみなした。我々はまた、内側から内膜へのSMCの遊走を筋性化とみなし、内膜層で成長するSMCの数が筋性化の程度とみなした。これらの仮定は、筋性化していない遠位動脈/細動脈が筋性化し、既存のSMC由来のSM様細胞を示すPAH病態に基づいていた。我々は、位相差顕微鏡法、免疫染色、および量子ドット標識を使用して、異なる細胞の成長領域間に線を引き、細胞を計数および同定した。
【0118】
異なる細胞成長領域の境界を画定するために、我々はまず位相差顕微鏡を使用してチップを画像化し、次いで共焦点顕微鏡を使用した画像化のために細胞を染色した。内膜および内側の肥厚の程度を計算するために、我々は同じ層の直径方向に不均一な5から7点の長さの平均を計算した。筋性化の程度を調べるために、我々はQD標識N-SMC/PAH-SMCをチップ上で成長させ、FSP-1およびCD31抗体についてチップを染色し、チップの3つのすべての層におけるFSP-1+CD31-またはQD標識SMCの数を計数した。
【0119】
オンチップ叢様の複雑な細胞病変の作製
【0120】
チップ上の叢状病変を再現するために、我々はまず、「水滴法」を使用して、細胞の様々な組み合わせのスフェロイドまたは3Dコロニーを調製した。例えば、R.Foty.J Vis Exp.51:2720(2011)を参照されたい。次いで、スフェロイドをチップに播種した。手短に言えば、20%メチルセルロースを含有する25mLの無血清培地に、約5×105個のEC、EC/SMC(1:1)、EC/ADC(1:1)、またはEC/SMC/ADC(1:1:1)を分散させることによって、我々はメチルセルロースに細胞を混合した混合物を調製した。次いで、ピペットを使用して、我々は細胞-メチルセルロース混合物を25μLの液滴に分注し、一連の25μLの液滴を非接着性細胞培養皿に播種した。次いで、細胞液滴を含む皿を反転させ、その結果、液滴は、空気中で皿の表面からぶらさがった状態を維持し、かくして、ぶらさがった細胞液滴を生成した。空気中にぶらさがった細胞液滴を37℃および5%CO2で24時間インキュベートすることによって、我々は単一および複数の細胞のスフェロイドまたは3Dコロニーを作製した。QD標識PAH-EC、PAH-EC/SMCまたはPAH-EC/SMCのスフェロイドおよび対照細胞(N-EC/SMC/ADC)のスフェロイドを調製した。翌日、スフェロイドを回収した後、我々は培地で洗浄してメチルセルロースを除去し、次いで、スフェロイドマトリックスとして90μLのコラーゲンに分散させた。最後に、我々はチップの内膜チャネルに10~15個のスフェロイドを播種した。スフェロイドをチップに播種して3日が経過した後、我々は対照N-EC/SMC/ADCスフェロイドを含むチップを50ng/mLのVEGFおよび1ng/mLのTGF-βでさらに3日間処理した。次いで我々は、EC、SMC、およびADCを様々なマーカーで染色し、共焦点顕微鏡(Ti-E、Nikon、NY)下で細胞を観察した。
【0121】
結果
【0122】
3つの肺動脈細胞(PAC)、すなわち内皮細胞(EC)、平滑筋細胞(SMC)および外膜細胞(ADC)を成長させることによって、本デバイス上でPAH病態生理が再構築される。PAH細胞は、例えば、生検から、またはPAHペイシェント由来の人工多能性幹細胞から分化させたPACを用いて得ることができる。
【0123】
疾患(PAH)PACは、チップ上で成長すると、それらの指定された層から移動し、隣接する層の細胞と相互作用し、ヒトPAHの主な病態と同様の現象、すなわち、筋性化、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質の沈着、および動脈リモデリングを引き起こした。結果は以下を包含していた。
・流れ誘導ストレスは、チップ上で成長した対照細胞に形態学的変化を引き起こし、動脈リモデリングを誘発した。
・エストロゲンおよび血小板由来成長因子(PDGF)処置は、男性ペイシェントのPACのあるチップよりも女性ペイシェントのPACで調製されたチップにおいてより広範な動脈リモデリングを引き起こした。
・女性チップ(女性ペイシェントの細胞から調製したチップ)は、男性チップ(男性ペイシェントの細胞で調製したチップ)よりも、抗PAH薬であるボセンタンに対する反応性が高かった。
・対照細胞ではなくPAH-EC/SMCのスフェロイドは、神経叢形成様病変のある動脈を形成したチップに播種され、PAH-ECはクローン増殖性を示した。
【0124】
図6は、いくつかの態様による、PAHにおける細胞外リモデリングを示す。本明細書に提供されるシステムおよび方法は、臨床ペイシェントの肺動脈のようなECMリモデリングを示すPAH表現を生み出した。
【0125】
ECMの沈着はPAHの主要な病理学的特徴であるため、本システムおよび方法を使用して、チップ上で成長させたPAH細胞がECMタンパク質を産生し、独自のECM足場を作り出し、ひいては肺動脈リモデリングを引き起こすことを示した。正常なヒト肺動脈605の基底膜は、ラミニン、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、テネイシンC、およびプロテオグリカンなどのECM成分間の特異的相互作用によって形成された、内皮細胞層の下にある繊維の薄いシートからなる。次いで我々は、3種類の対照細胞およびPAH細胞を用いて調製したチップ中のECMタンパク質のレベルを測定した。対照チップと比較して、PAH細胞を用いて調製したチップは、様々なECMタンパク質、すなわち、ラミニン、テネイシン-Cおよび不溶性コラーゲン(ColT1α)の広範な沈着を示したが、ColT4、フィブロネクチンまたはエラスチンは沈着を示さなかった。PAH細胞を用いて調製されたチップでは、ラミニンの薄層が発達し、内膜区画および管腔区画の両方に向かって増殖し;内膜肥厚は、ラミニン沈着が増加するにしたがって増加した。PAHチップの内膜層には、線維様コラーゲン線維があり、線維様コラーゲン線維は、内膜層のPAH-SMCの数が増加するにつれて611を増加させた。コラーゲン線維の沈着は、PAHチップの内膜層で最も多かった。IPAHペイシェントの肺動脈の区画特異的分析により、ECMリモデリング、特にコラーゲン発現の変化が、内膜で、続いて内側で、次いで外膜層でより顕著であることが明らかになった。
【0126】
我々はまた、男性および女性ペイシェント由来のPAH細胞の様々な組み合わせ(PAH-EC/SMC、PAH-EC/ADC、およびPAH-EC/SMC/ADC)のスフェロイドを播種することによる叢状病変の発生に対する性別の影響も試験した。同定を容易にするために、我々はQD705標識PAH-ADCおよびN-ADCを使用した。男性および女性のPAH-ECスフェロイドは血管新生様発芽を引き起こし、管腔動脈チャネルはECの単層によって裏打ちされていたが、病変はなかった。男性および女性のPAH-EC/SMCスフェロイドは、同様に発達して病変のない動脈になった。対照的に、PAH-EC/ADCスフェロイドは、動脈管腔のある無秩序な塊を形成したが、女性の網状模倣チップでのみ少数の立方様血管が観察された。両性において、PAH-EC/SMC/ADCのスフェロイドは、叢様の複雑な細胞病変を生じた。女性チップは男性チップよりもα-SMAのアップレギュレーションを示し、女性PAH-SMCは中間フィラメントを含有し、SMCが分化段階にあることを示唆した。
【0127】
例5.疾患の処置の開発
本明細書に提示されるシステムおよびデバイスは、疾患プロセスの顕著な病態生理学的特徴、ならびに細胞相互作用および薬物投与に対する応答をエミュレートすることができるので、疾患の処置を開発するのに有用である。PAHの場合、細胞型は肺動脈の3つの主要な細胞型である。相互作用には、例えば、肺動脈壁の1つの層から別の層への細胞の遊走、内皮から間葉への移行、および叢様病変の形成が包含される。PAHの場合、我々は、男性および女性ペイシェントにおけるPAHの病因の差および類似性を示し、これらの差および類似性を使用して性別および年齢に特異的なPAH用の治療を開発した。このプロセスは、疾患プロセスのためのオーダーメイド療法を開発するのに役立ち得る。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Taslim A.Al-Hilalら、Royal Society of Chemistry,Lab Chip 20:3334-3345(2020)、https://doi.org/10.1039/D0LC00605J(2021年7月27日ダウンロード)を参照されたい。
【0128】
我々は、男性および女性ペイシェント由来のPAH細胞の様々な組み合わせ(PAH-EC/SMC、PAH-EC/ADC、およびPAH-EC/SMC/ADC)のスフェロイドを播種することによる叢状病変の発生に対する性別の影響を試験した。同定を容易にするために、我々はQD705標識PAH-ADCおよびN-ADCを使用した。男性および女性のPAH-ECスフェロイドは血管新生様発芽を引き起こし、管腔動脈チャネルはECの単層によって裏打ちされていたが、病変はなかった。男性および女性のPAH-EC/SMCスフェロイドは、同様に発達して病変のない動脈になった。対照的に、PAH-EC/ADCスフェロイドは、動脈管腔のある無秩序な塊を形成したが、女性の網状模倣チップでのみ少数の立方様血管が観察された。両性において、PAH-EC/SMC/ADCのスフェロイドは、叢様の複雑な細胞病変を生じた。女性チップは男性チップよりもα-SMAのアップレギュレーションを示し、女性PAH-SMCは中間フィラメントを含有し、SMCが分化段階にあることを示唆した。
【0129】
PAHにおける性差およびPAH治療に対する性別優先応答は、PAH病態生理の2つの理解しがたい特徴である。PAHは男性よりも女性に多く影響するが、男性の生存率は女性よりも悪い。PAHにおける性差に寄与する主な因子には、性ホルモンおよび成長因子が包含される。いくつかの報告は、PACの細胞周期調節の違いが女性をPAHに罹りやすくすることを示唆している。さらに、ヒトおよび動物の両方の研究は、対象の性別がPAHの治療応答にある役割を果たし、ひいては性別に基づくオーダーメイド治療がPAHペイシェントにおそらく利益をもたらすことを示唆している。
【0130】
例6.処置の開発
本明細書に教示されるように、本システムおよび方法は、疾患の処置の開発において、身体の任意のシステムにおける細胞相互作用をエミュレートするために使用することができる。いくつかの態様において、本明細書に提供されるシステムおよび方法は、任意の血管疾患をエミュレートすることができる。
【0131】
肺血管疾患にはPAHよりもはるかに多くのものが包含され、そのような疾患には、心臓と肺との間の導管として機能する血管を変化させるいくつかの病理学的状態が包含される。本明細書のシステムおよび方法を使用して調べることができる肺血管疾患の範囲に関して、例えば、肺血管床の硬化などの肺血管系に変化を有する任意の疾患は、改善された処置の開発において対処することができる様々な合併症を引き起こす可能性がある。
【0132】
図7は、いくつかの態様による、本明細書に教示されるシステムおよび方法を使用して、必要としている対象を処置することができる方法のフローチャートを示す。本明細書に教示されるシステムの多くでは、マイクロ流体デバイスは少なくとも3つのチャネルを有する。工程605、610および615は、第1の細胞型である細胞型1を細胞培地中のチャネル1に導入して、チャネル2に隣接する界面層を生じさせ;第2の細胞型である細胞型2を細胞培地中のチャネル3に導入して、チャネル3に隣接する界面層を生じさせ;チャネル2に水性培地を導入して、チャネル2に隣接する界面層を制御可能に遊離させて、細胞型1と細胞型3との間の通信を可能にする。これらは核となる工程である。工程620、625、630、635、640および645は、薬物療法を必要とする対象を同定し(620)、対象から細胞型1を取得し(625)、対象から細胞型2を取得し(630)、対象に対する薬物候補を同定し(635)、治療効果を同定するために薬物をチャネル1、2および/または3に導入し(640)、治療効果が所望される場合、対象へ薬物を投与する(645)、ためのシステムおよび方法をとる。
【0133】
血管モデルの場合、3つの細胞型、すなわち、平滑細胞、外膜細胞、および内皮細胞を有することができる。3チャネルデバイスのいくつかの態様において、平滑細胞を中間チャネル、チャネル2に入れることができ、外膜細胞および内皮細胞を隣接するチャネル1および3に入れることができる。5チャネルデバイスのいくつかの態様において、チャネル1および5は、細胞培地リザーバとして機能することができ、細胞培地リザーバは、必要に応じて定期的に交換することができ、薬物を投与するために使用することもでき;チャネル2および4は外膜細胞および内皮細胞であり得;チャネル3は平滑筋細胞であり得る。平滑筋細胞は、水性ゲル、細胞培地または水性流体、細胞培地に導入することができる。いくつかの態様において、チャネル1および/またはチャネル5を使用して静水圧を加えて血圧変化をエミュレートし、血管に対するストレスをシミュレートし、内皮細胞層をチャネル1および5の一方または両方に隣接させることができる。毛細血管が内皮細胞のみを有し、主要動脈が3つすべての層を有することを考えると、当業者は、処置の開発において生理学を表すために本システムおよび方法をどのように使用できるかを理解するであろう。
【0134】
性別特異的療法:我々の実験は、女性PAHペイシェント由来のPACを用いて調製されたチップが、男性PAHペイシェント由来のPACを用いて調製されたチップよりもエストロゲン処置に対して応答性が高いことを示唆した。ここで、我々は、チップをエンドセリン受容体アンタゴニストであるボセンタンで処理することによって性別特異的療法反応を調べるためにチップを使用した。女性PAHペイシェントが男性ペイシェントよりもボセンタン療法に反応性であることを示した臨床データ(p=0.3)の通り、女性ペイシェント由来のPACで調製したチップは、男性の対応物よりもボセンタンに反応性であった。女性チップでは、薬物は、中間層の肥厚を減少させ、管腔層および内膜層へのPAH-SMCの遊走を遅延させ、中間層におけるCYP1B1発現を低下させた。区画特異的分析は、ラミニンおよびColT1αの沈着が、ボセンタン処理した女性スチップにおいて男性チップよりも低いことを示した。予防効果を調べるために、我々は播種後1日目に男性チップおよび女性チップを処置し、次いで細胞を処置せずにさらに6日間成長させた。内膜および中間層の肥厚の程度は男性と女性のチップで類似していたが、内皮層におけるPAH-SMCの存在は、男性チップよりも女性チップの方が低かった。CYP1B1の発現は、男性チップよりも女性チップの中間層でより低下した。男性チップと比較して、ボセンタン処理した女性チップは、内膜層のQD705+PAH-SMCをカウントすることによって測定されるところの、より低いレベルの筋性化を示した。興味深いことに、ボセンタンの早期処置は、女性チップにおけるラミニンおよびColT1αの内膜沈着を男性の対応物よりも減少させる。この例から分かるように、本明細書のシステムおよび方法は、疾患に対する性別特異的療法を開発するために使用することができる。
【0135】
肺動脈高血圧症右室肥大(PAH-RVH)の改善における抗PAH薬の有効性:本システムを使用して、PAHに罹患したECとCMとの間の相互作用を特定し、薬物有効性を評価することができる。
【0136】
改変されたチップデバイスは、例えば、心血管疾患の研究における心筋細胞(CM)および肺血管疾患の研究における肺動脈内皮細胞(EC)の両方を成長させるために使用することができる。肺動脈ECは、例えば、健常ドナーの肺動脈(N-EC)およびPAHペイシェントの肺動脈(PAH-EC)から採取することができる。我々は、PAHが、本明細書に教示されるシステムおよび方法で開発された改善された処置から利益を得ることができる疾患の一例であることを見出した。例えば、それぞれの区画またはチャネルにおけるCMおよびN-ECまたはPAH-ECのいずれかの成長を通して、我々は、様々な可溶性細胞マーカーを測定し、CMの収縮性を評価し、CMによる遺伝子の発現を評価し、肥大誘発剤および肥大マーカーの放出およびCM収縮性に対する抗PAH PAH薬物の影響を調べることによって、CMに対するPAH-ECの影響を評価することができる。我々は、例えば、(i)CMおよびN-ECを用いて調製されたチップが、CMの異方性成長および生理学的CMと同様の束の存在を示したこと;および(ii)CMおよびPAH-ECを用いて調製したチップでは、CMは肥大し、その収縮性を失い、肥大関連マーカーのレベルの上昇を示したこと、を見出した。
【0137】
我々は、本システムおよび方法を使用して薬物療法を開発した。我々は、CMおよびPAH-ECで調製したチップに2つの抗PAH薬、シルデナフィルおよびボセンタンを使用し、薬物はCM肥大の程度を減少させ、収縮性を改善し、肥大誘発剤および肥大マーカーの両方を減少させた。我々の実験から、当業者は、本システムおよび方法によってPAH罹患ECとCMとの間の相互作用を同定し、肺動脈高血圧症右室肥大(PAH-RVH)の改善における抗PAH薬の有効性を評価できることを理解するであろう。
【0138】
電気刺激
【0139】
電気生理学的微小環境をシミュレートするために、電気を細胞に印加することができる。このデバイスを改変することにより、例えば、我々は以下の3つの疾患を再現することができる。(1)静脈性肺高血圧症、(2)肺塞栓症、および(3)慢性血栓塞栓性疾患。これらの態様において、我々は、器官特異的細胞を播種し、疾患の病理学的状態をエミュレートするための微小環境を作り出すことができる。例えば、肺塞栓症および慢性血栓塞栓性疾患は、それぞれが肺血管系において血栓が発生する致命的な疾患であるため、本明細書に提供されるシステムおよび方法の使用に特に重要な方向性を提供する。本明細書に教示されるシステムおよび方法は、肺血管系を再構築し、次いで、細胞間の相互作用、および、例えば、薬物療法、放射線療法、またはそれらの組み合わせなどの特定の処置の効果を調べることによって、血液凝固が肺血管床の病態をどのように変化させ得るか、ならびにその治療が、対象の性別、対象の年齢、対象の何らかの他の生理学的状態、またはそれらの組み合わせによってどのように影響されるか、を評価するために使用することができる。
【0140】
当然のことながら、血管疾患にはいくつかの病理学的状態が包含され、それぞれが動脈、静脈、またはリンパ管の病理を包含する。本明細書に教示されるシステムおよび方法は、すべての一般的な血管疾患を包含することができる。例えば、本明細書に教示されるシステムおよび方法は、例えば、神経血管疾患、末梢動脈疾患、腎動脈疾患、頸動脈疾患、大動脈瘤、ならびに、例えば、静脈瘤、くも状静脈、慢性静脈不全症、深部静脈血栓症、神経血管疾患、およびリンパ浮腫を包含し得る様々な静脈疾患の処置をエミュレートし、データを取得し、改善するために使用することができる。
【0141】
いくつかの態様において、本明細書に教示されるシステムおよび方法を使用するために、我々は関連する組織または器官のヒト細胞を採取し、本明細書に教示されるシステムで細胞を成長させ、各疾患の細胞相互作用をエミュレートする。本明細書に記載されるように、本システムは汎用性があり、疾患の処置の開発において多くの機能を果たすことができる。例えば、我々は、我々が疾患の病態における性別依存的差異を調べること、ならびにエミュレートされた疾患の処置におけるそれらの有効性について関連薬物をスクリーニングすることができることを示した。当然のことながら、本明細書に教示されるシステムおよび方法は、細胞間の相互作用、および、例えば、薬物療法、放射線療法、またはそれらの組み合わせなどの特定の処置の効果、ならびに、その治療が、対象の性別、対象の年齢、対象の何らかの他の生理学的状態、またはそれらの組み合わせによってどのように影響されるかを調べることによって、精密医療アプローチの開発を支援することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2024-03-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において細胞生理をエミュレートするために設計されたマイクロ流体システムであって、システムが、
マイクロ流体チップ;および、
第2のチャネルに隣接する第1のチャネル
を含み;ここで
第1のチャネルおよび第2のチャネルが、チップへ接続されており、ならびに
第1の水性細胞溶液を第1のチャネル中へ注入するように構成された第1のポート;
第2の水性細胞溶液を第2のチャネル中へ注入するように構成された第2のポート;および、
開口部のある第1の壁
を包含し、第1の壁が、第1のチャネルおよび第2のチャネルによって共有されており、ならびに第1の壁の開口部が、(i)第1の水性細胞溶液の注入の際、第1の壁の開口部を横断する遊離可能な第1の水性界面膜を形成するように、かつ(ii)第1の界面膜の開口部からの遊離の際、第1のチャネルと第2のチャネルとの間に細胞通信が生じることを可能にするように構成されており;
ここで第2の水性細胞溶液の注入が、開口部からの第1の界面膜の遊離を引き起こす
前記マイクロ流体システム。
【請求項2】
壁が、第1の水性細胞溶液を注入するとき開口部を横断する第1の界面膜を確立するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
開口部が、第1の水性細胞溶液を注入するとき第1の壁の開口部を横断する第1の界面膜を確立するための疎水性材料を包含する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
開口部が、第1の水性細胞溶液を注入するとき開口部を横断する第1の界面膜を確立するために、平面を共有する対向するくさび形縁部によって輪郭が描かれている、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
開口部が、円形および楕円形からなる群から選択される形状を包含する、請求項3に記載のシステム。
【請求項6】
開口部が、多角形構造によって輪郭が描かれており、この構造が、開口部の少なくとも2つの対向する側面上に対向する縁部を提供しており、ここで対向する縁部が、第1の水性細胞溶液を注入するとき第1の壁の開口部を横断する第1の界面膜を確立するために平面を共有している、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
第1の壁の開口部が、一連のカラムに沿って隣接するカラムの間の空間であり;ここで、
一連のカラムにおける各カラムが、チップに対して少なくとも実質的に垂直な中心軸を有し、
隣接するカラムの各対が、第1の水性細胞溶液を注入するとき第1の壁の開口部を横断する第1の界面膜を確立するために平面を共有する一対の対向する縁部を提供する、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
第3のチャネル;および、
第3の水性細胞溶液を第3のチャネル中へ注入するために構成された第3のポート;
開口部のある第2の壁
をさらに含み、第2の壁が、第2のチャネルおよび第3のチャネルによって共有されており、ならびに第2の壁の開口部が、(i)第3の水性細胞溶液の注入の際、第2の壁の開口部を横断する遊離可能な第2の水性界面膜を形成するように、かつ(ii)界面膜の開口部からの遊離の際、第2のチャネルと第3のチャネルとの間で細胞通信が生じることを可能にするように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
成長培地ポートを有する成長培地チャネルをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
第1の成長培地ポートを有し、かつ第1のチャネルと連通して配置されている第1の成長培地チャネルと、第2の成長培地ポートを有し、かつ第2のチャネルと連通して配置されている第2の成長培地チャネルとをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
成長培地ポートを有する成長培地チャネルをさらに含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項12】
第1の成長培地ポートを有し、かつ第1のチャネルと連通して配置されている第1の成長培地チャネルと、第2の成長培地ポートを有し、かつ第2のチャネルと連通して配置されている第2の成長培地チャネルとをさらに含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項13】
対象における疾患をエミュレートする方法であって、方法が、
請求項1に記載のシステムを取得すること;
疾患の第1の細胞を導入するために第1の水性細胞溶液を第1のチャネル中へ注入し、注入によって第1の壁の開口部を横断する遊離可能な第1の水性界面膜を形成すること;および、
疾患の第2の細胞を導入するために第2の水性細胞溶液を第2のチャネル中へ注入すること
を含み;ここで、
第1の界面膜が、第2の水溶液の注入後に遊離し;および
第1の界面膜の遊離後に第1の細胞と第2の細胞とが通信して疾患状態をエミュレートする、前記方法。
【請求項14】
対象における疾患をエミュレートする方法であって、方法が、
請求項8に記載のシステムを取得すること;
疾患の第1の細胞を導入するために第1の水性細胞溶液を第1のチャネル中へ注入し、注入によって第1の壁の開口部を横断する遊離可能な第1の水性界面膜を形成すること;
疾患の第3の細胞を導入するために第3の水性細胞溶液を第3のチャネル中へ注入し、注入によって第2の壁の開口部を横断する遊離可能な第2の水性界面膜を形成すること;および、
疾患の第2の細胞を導入するために第2の水性細胞溶液を第2のチャネル中へ注入すること
を含み;ここで、
第1の界面膜が、第2の水溶液の注入後に遊離し;
第2の界面膜が、第2の水溶液の注入後に遊離し;
第1の界面膜の遊離後に第1の細胞と第2の細胞とが通信して疾患状態をエミュレートし;
第2の界面膜の遊離後に第2の細胞と第3の細胞とが通信して疾患状態をエミュレートする、前記方法。
【請求項15】
対象における疾患をエミュレートする方法であって、方法が、
請求項8に記載のシステムを取得すること;
疾患の第1の細胞を導入するために第1の水性細胞溶液を第1のチャネル中へ注入し、注入によって第1の壁の開口部を横断する遊離可能な第1の水性界面膜を形成すること;
疾患の第3の細胞を導入するために第3の水性細胞溶液を第3のチャネル中へ注入し、注入によって第2の壁の開口部を横断する遊離可能な第2の水性界面膜を形成すること;および、
疾患の第2の細胞を導入するために第2の水性細胞溶液を水性ゲルの形態で第2のチャネル中へ注入すること
を含み;ここで、
第1の界面膜が、第2の水溶液の注入後に遊離し;
第2の界面膜が、第2の水溶液の注入後に遊離し;
第1の界面膜の遊離後に第1の細胞と第2の細胞とが通信して疾患状態をエミュレートし;
第2の界面膜の遊離後に第2の細胞と第3の細胞とが通信して疾患状態をエミュレートする、前記方法。
【請求項16】
エミュレートされた疾患を薬物で処置する方法であって、方法が、
請求項13に記載の方法を実行すること;
エミュレートされた疾患を処置するための薬物を選択すること;および、
第1のチャネルまたは第2のチャネルにおいて薬物を投与すること
を含む、前記方法。
【請求項17】
エミュレートされた疾患を薬物で処置する方法であって、方法が、
請求項14に記載の方法を実行すること;
エミュレートされた疾患を処置するための薬物を選択すること;および、
第1のチャネル、第2、または第3のチャネルにおいて薬物を投与すること
を含む、前記方法。
【請求項18】
エミュレートされた疾患を薬物で処置する方法であって、方法が、
請求項15に記載の方法を実行すること;
エミュレートされた疾患を処置するための薬物を選択すること;および、
第1のチャネル、第2、または第3のチャネルにおいて薬物を投与すること
を含む、前記方法。
【請求項19】
エミュレートされた血管疾患を薬物で処置する方法であって、方法が、
請求項12に記載のシステムを取得すること;
疾患の第1の細胞を導入して外膜細胞層を形成するために第1の水性細胞溶液を第1のチャネル中へ注入し、注入によって第1の壁の開口部を横断する遊離可能な第1の水性界面膜を形成すること;
疾患の第3の細胞を導入して内皮細胞層を形成するために第3の水性細胞溶液を第3のチャネル中へ注入し、注入によって第2の壁の開口部を横断する遊離可能な第2の水性界面膜を形成すること;および、
疾患の第2の細胞を導入して平滑筋層を形成するために第2の水性細胞溶液を第2のチャネル中へ注入すること;
薬物を選択すること;および、
第1の成長培地チャネルまたは第2の成長培地チャネルへ薬物を投与することを含み;ここで、
第1の界面膜が、第2の水溶液の注入後に遊離し;
第2の界面膜が、第2の水溶液の注入後に遊離し;
第1の界面膜の遊離後に第1の細胞と第2の細胞とが通信して疾患状態をエミュレートし;および
第2の界面膜の遊離後に第2の細胞と第3の細胞とが通信して疾患状態をエミュレートする、前記方法。
【国際調査報告】