(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-10
(54)【発明の名称】末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/36 20060101AFI20240903BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20240903BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20240903BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
A61L27/36 130
A61L27/20
A61L27/24
A61L27/36 420
A61L27/36 400
A61L27/58
A61L27/36 300
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505636
(86)(22)【出願日】2023-07-25
(85)【翻訳文提出日】2024-01-30
(86)【国際出願番号】 CN2023109010
(87)【国際公開番号】W WO2024037293
(87)【国際公開日】2024-02-22
(31)【優先権主張番号】202210982152.0
(32)【優先日】2022-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】511128206
【氏名又は名称】南通大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】李 枚原
(72)【発明者】
【氏名】顧 暁松
(72)【発明者】
【氏名】徐 霊馳
(72)【発明者】
【氏名】▲ゴン▼ 蕾蕾
(72)【発明者】
【氏名】孫 華林
(72)【発明者】
【氏名】王 珊珊
(72)【発明者】
【氏名】王 鴻奎
(72)【発明者】
【氏名】銭 天梅
(72)【発明者】
【氏名】徐 来
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB18
4C081BA12
4C081CD091
4C081CD121
4C081CD34
4C081DA03
4C081DA04
4C081EA01
(57)【要約】
【課題】末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片及びその作製方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片及びその作製方法を開示する。細胞基質神経移植片は、無細胞マトリックスと、足場とを含み、前記無細胞マトリックスは、幹細胞の分泌と形成後の脱細胞化によって得られ、足場の周囲に巻き付かれ、自家神経移植の欠点を克服すると共に同種異系細胞移植の免疫原性を避け、神経細胞の増殖及び遊走に有利な細胞基質神経移植片を提供し、軸索の成長に有利な微小環境を構築することで神経再生、機能回復という目標を達成し、臨床治療に実現可能な手段を提供する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片であって、無細胞マトリックスと、足場とを含み、前記無細胞マトリックスは、幹細胞の分泌と形成後の脱細胞化によって得られ、足場の周囲に巻き付かれることを特徴とする、末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片。
【請求項2】
前記幹細胞は、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片。
【請求項3】
前記足場は、キトサン及び組換えヒトコラーゲンを含む生分解性足場であることを特徴とする、請求項1に記載の末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片の作製方法であって、以下ステップ:
無細胞マトリックスを調製する工程、
無細胞マトリックスを足場の周囲に巻き付け、細胞基質神経移植片の初期形態を構築する工程、
細胞基質神経移植片の初期形態を2~6℃で少なくとも24時間置き、自己組織化により管状構造を形成する工程、及び
前記管状構造を凍結乾燥して細胞基質神経移植片として構築する工程
を含むことを特徴とする、末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片の作製方法。
【請求項5】
前記凍結乾燥温度は、-80℃であることを特徴とする、請求項4に記載の末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片の作製方法。
【請求項6】
前記無細胞マトリックスは、足場を軸として複数層に巻かれ、生分解性足場の周囲に巻き付けられることを特徴とする、請求項4に記載の末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片の作製方法。
【請求項7】
前記無細胞マトリックスは、生分解性足場を軸として6層、9層又は12層に巻き上げられ、生分解性足場の周囲に巻き付けられることを特徴とする、請求項4に記載の末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片の作製方法。
【請求項8】
前記無細胞マトリックスの作製プロセスは、次の通りとし、
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞を希釈して大きな培養皿に播種し、細胞飽和密度が90%以上になったら、アスコルビン酸を含む無血清培地を加えて7~14日間刺激し、
リン酸緩衝液で洗浄し、滅菌超純水を加えて低張処理を行った後、滅菌超純水を除去し、細胞溶解液を加えて抽出し、さらにリン酸塩緩衝液で洗浄して無細胞マトリックスを得る
ことを特徴とする、請求項4に記載の末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片及びその作製方法に関するものであり、特に、人体への埋め込みが可能な医用生体材料の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
末梢神経損傷は、臨床上で多くみられ、患者の生活の質に著しい影響を与えるだけでなく、患者の経済的負担も増加していた。従来技術では、短距離の末梢神経欠損に対し、通常顕微手術による位置合わせ縫合の修復方法が用いられている。長距離の大きな末梢神経欠損の修復は、自家神経移植、足場材料移植の方法で達成し、自家神経移植は、神経移植・修復のゴールドスタンダードで、すなわち、内側又は外側の前腕皮神経、尺骨神経、大腿神経、或いは橈骨神経枝などの自家神経の一部を外科手術で切除してから、移植して損傷した神経を修復し、移植片のシュワン細胞が活性化されて大量の神経栄養因子が分泌され、軸索の迅速な再生が可能になる。しかし、ドナー供給源の制限、免疫拒絶、神経直径の不一致、ドナー部位の永続的な除神経などの問題により、自家神経移植の臨床応用を制限している。生物学的足場材料の応用は、神経を一定方向に成長させて神経腫の発生を防ぐことであるが、修復・再生のプロセスには長い時間がかかり、神経の再生速度が遅く、エフェクターと受容体はすぐに萎縮してしまう。
【0003】
組織工学的神経移植片は、足場材料、支持細胞、細胞外基質、神経成長因子などで構成される有機的な一体物であり、断絶した神経線維を損傷近位端から遠位端まで導くための架け橋として使用できるが、臨床への橋渡しは、細胞又は因子の種類と量、細胞活力又は因子活性、細胞表現型の安定性、治療時間、調節の介入、及び高コストなど、多くの問題に直面している。
【0004】
無細胞マトリックス(ACM)は、実行可能な組織工学移植片として研究者に徐々に好まれ、組織損傷の修復に使用されている。様々な物理的、化学的及び酵素的方法で同種異系或いは異種の神経(若しくは非神経)組織を脱細胞化すると、組織由来の無細胞マトリックスを生成できる。組織由来の無細胞マトリックスは、神経足場の作製に適した非細胞生体材料であり、末梢神経欠損を修復するための自家神経移植片の代替品として使用できる。個々の細胞外マトリックス成分で作製された足場と比較して、組織由来の無細胞マトリックス足場(無細胞神経移植片としても知られる)は、天然組織の基本構造を保存し、末梢神経の再生を促進する優れた能力を持っている。組織又は臓器由来の無細胞マトリックス足場は、組織または細胞の成長をサポートする生化学的及び物理的因子を備えているが、一貫した品質のドナー組織を入手することはやはり重要な制限である。なお、潜在的な免疫原性、病原体の移入、制御不能な分解及び高い製造コストなど、いくつかの欠点もある。したがって、臨床的な末梢神経損傷後の修復と再生は、依然として大きな課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来技術における欠点を克服し、細胞の接着と遊走に有利で、神経の再生と機能回復を促進する、末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片及びその作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明は、次の技術的手段を採用する。
【0007】
第1態様において、本発明は、無細胞マトリックスと、足場とを含む末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片を提供する。前記無細胞マトリックスは、幹細胞の分泌と形成後の脱細胞化によって得られ、細胞外基質の各種重要な成分及び枠組みを保持することで、神経細胞の接着及び軸索再生の誘導に有利で、末梢神経の再生及び機能回復を促し、前記無細胞マトリックスは足場の周囲に巻き付かれる。
【0008】
第1態様と組み合わせると、さらに前記幹細胞は、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞であり、組織工学的神経移植片の臨床への橋渡しが容易となる。
【0009】
また前記足場は、キトサン及び組換えヒトコラーゲンを含む生分解性足場で、生体適合性が良好で、分解が可能で、神経軸索再生の成長方向を導くことができることを特徴とする。
【0010】
第2態様において、本発明は、上記のいずれか一項に記載の末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片の作製方法を提供する。この方法は、以下の工程:
無細胞マトリックスを調製する工程、
無細胞マトリックスを足場の周囲に巻き付け、細胞基質神経移植片の初期形態を構築する工程、
細胞基質神経移植片の初期形態を2~6℃で少なくとも24時間置き、自己組織化により管状構造を形成する工程、及び
前記管状構造を凍結乾燥して細胞基質神経移植片として構築する工程
を含む。
【0011】
前記方法により作製された細胞基質神経移植片は、作製プロセスにより持ち込まれる有毒な外因性物質を含まず、良好な生体適合性、生分解性、及び良好な力学特性を備える。
【0012】
第2態様と組み合わせると、さらに、前記無細胞マトリックスは、足場を軸として複数層に巻かれ、生分解性足場の周囲に巻き付けられ、自己組織化により管状構造を形成することができ、神経細胞の成長に必要な経路を提供するだけでなく、誘導性や配向性のある成長も提供する。
【0013】
また、前記無細胞マトリックスは、生分解性足場を軸として6層、9層又は12層に巻き上げられ、生分解性足場の周囲に巻き付けられる。
【0014】
また、前記凍結乾燥温度は、-80℃である。
【0015】
また、前記無細胞マトリックスの作製プロセスは、次の通りとし、
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞を希釈して大きな培養皿に播種し、細胞飽和密度が90%以上になった場合、アスコルビン酸を含む無血清培地を加えて7~14日間刺激し、細胞から細胞外マトリックスの分泌を促進し、
リン酸緩衝液で洗浄し、滅菌超純水を加えて低張処理を行った後、滅菌超純水を除去し、細胞溶解液を加えて抽出し、さらにリン酸塩緩衝液で洗浄して無細胞マトリックスを得る。
【発明の効果】
【0016】
従来技術と比較して、本発明が奏する有利な効果としては、
本発明は、細胞を培養した後、脱細胞化することにより、天然の細胞外マトリックスを得、細胞外基質の各種重要な成分及び枠組みを保持することで、神経細胞の接着及び軸索再生の誘導に有利で、末梢神経の再生及び機能回復を促し、
細胞基質神経移植片は、作製プロセスにより持ち込まれる有毒な外因性物質を含まず、良好な生体適合性、生分解性、及び良好な力学特性を備え、
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞を選択し、無血清培地を使用して組織工学的神経移植片の臨床への橋渡しが容易し、
無細胞マトリックスは、生分解性足場の周囲に巻き付けられ、自己組織化により管状構造を形成することができ、神経細胞の成長に必要な経路を提供するだけでなく、誘導性や配向性のある成長も提供し、
本発明の方法で作製された細胞基質神経移植片は、同種異系細胞移植の免疫原性を避け、大規模な集団による使用に適している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例により提供される無細胞マトリックスの調製前後の光学顕微鏡画像である(Aは脱細胞化前の幹細胞の光学顕微鏡画像、Bは脱細胞化後のマトリックスの光学顕微鏡画像である)。
【
図2】本発明の実施例により提供される無細胞マトリックスのCollagenIV及びFibronectin免疫化学写真である(AはCollagenIV染色、BはFibronectin染色を示す)。
【
図3】本発明の実施例により提供される無細胞マトリックスの走査電子顕微鏡画像である(Aは2500倍の電子顕微鏡画像、Bは5000倍の電子顕微鏡画像である)。
【
図4】本発明の実施例により提供される細胞基質神経移植片の走査電子顕微鏡画像である(Aは800倍の電子顕微鏡画像、Bは2500倍の電子顕微鏡画像である)。
【
図5】本発明の実施例により提供される再生神経の電気生理学的検査結果を示す概略図である(左図は各群の複合筋活動電位波形図であり、Aは細胞基質群、Bは自家群、Cは偽手術群を示す。右図は各群における異なるサンプルの再生神経の複合筋活動電位振幅比較図で、****p<0.0001)。
【
図6】本発明の実施例により提供される再生神経の中間部の横断面の透過型電子顕微鏡像である(上部は、各群の髄鞘部分拡大の20000倍の透過型電子顕微鏡像であり、Aは、細胞基質群で、Bは自家群、Cは偽手術群を示す。下部は、各群の髄鞘板層数比較図で、****p<0.0001)。
【
図7】本発明の実施例により提供される標的筋の筋湿重量比結果を示す概略図である(上部は、各群の腓腹筋外観形態図であり、Aは、細胞基質群、Bは自家群、Cは偽手術群を示す。下部は、各群の腓腹筋湿重量比分析結果であり、***p<0.001、****p<0.0001)。
【
図8】本発明の実施例により提供される運動終板の再構築結果を示す図である(上部は、運動終板の成熟度の概略図であり、中央は、各群の運動終板の観察図であり、Aは細胞基質群、Bは自家群、Cは偽手術群を示す。下部は、異なる時期での運動終板の割合の統計分析のヒストグラムである)。
【
図9】本発明の実施例により提供される標的筋線維横断面積の結果を示す図である(上部は、各群の腓腹筋線維横断観察図であり、Aは、細胞基質群、Bは自家群、Cは偽手術群を示す。下部は、各群の腓腹筋線維横断面積の統計比較図であり、**p<0.01、****p<0.0001)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しつつ本発明をさらに説明する。以下の実施例は、本発明の技術的手段をより明確に説明するためにのみ使用され、これをもって本発明の保護範囲を限定することができない。
【0019】
(実施例1)
無細胞マトリックスの調製:
P3世代のhBMSC細胞(ATCC細胞バンクより購入)を105細胞/mlで大きな培養皿に播種し、細胞飽和密度が90%以上になった場合、アスコルビン酸を含む無血清培地を加えて刺激し、細胞から細胞外マトリックスの分泌を促進するため、本実施例は7~14日の刺激を選択し、
リン酸塩緩衝液で3回洗浄した後、滅菌超純水を加え、37℃±0.5℃で少なくとも10分間低張処理を行い、
滅菌超純水を除去し、3% Triton X-100及び2% SDSからなる細胞溶解溶液を加え、37℃±0.5℃にて5分以内で抽出し、リン酸塩緩衝液で3回洗浄した後、無細胞マトリックスを得た。
【0020】
本実施例におけるヒト骨髄由来間葉系幹細胞をアスコルビン酸で10日間刺激したところ、時間が経つにつれて分泌される細胞外基質が徐々に厚くなり、後期になると細胞は老化し、付着力が低下し、細胞外基質が「丸まって」見えるようになり、サンプルとして不合格となった。
【0021】
本実施例で得られた無細胞マトリックスは、リン酸塩緩衝液に浸漬し、2~6℃の低温範囲内で保存しているが、本実施例では4℃の低温環境を選択しており、約2週間保存できる。得られた無細胞マトリックスの光学顕微鏡像を
図1のBに示し、
図1のAが脱細胞化前の幹細胞の光学顕微鏡像である。
【0022】
CollagenIV及びFibronectin免疫化学による当該無細胞マトリックスの部分成分の同定:得られた無細胞マトリックスを4%パラホルムアルデヒドで室温にて30分間固定し、リン酸塩緩衝液で3回洗浄した後、一次抗体:rabbit anti CollagenIV(1:100),sheep anti fibronectin(1:100)を加えて4℃で一晩インキュベートし、
リン酸塩緩衝液で3回洗浄した後、二次抗体:Cy3-Goat anti-rabbit IgG(H+L)(1:600)及びdonkey anti-sheep(AF647)(1:500)を加えて4℃で一晩インキュベートし、
リン酸塩緩衝液で3回洗浄し、DAPI染色で封入し、蛍光共焦点顕微鏡(DMR、Leica)で検出し、
図2に、本発明の実施例により提供される無細胞マトリックスのCollagenIV及びFibronectinの免疫化学図を示す。AはCollagenIV染色、BはFibronectin染色を示す。
【0023】
本発明は、培養する細胞由来の無細胞マトリックスを使用し、組織由来の無細胞マトリックスと比較して、培養及び増殖中の病原体の転移を排除し、組織又は器官由来の細胞外基質の本来の構造的限界を突破し、組織工学生体材料と組み合わせると、制御可能な生分解速度と効果的な機械的特性が得られると共に足場の必要な幾何学的形状及び柔軟性を維持する。
【0024】
本発明で使用される組織工学的神経移植片における細胞基質は、培養する細胞の分泌と形成後の脱細胞化によって得られhBMSC由来の無細胞マトリックスと生分解性足場とを組み合わせることで、新型の細胞基質神経移植片を構築した。免疫原性は移植後に低下または消失するため、大規模集団による使用に適しており、本発明のBMSCはヒト由来であり、その間で無血清培養を行い、組織工学的神経移植片の臨床への橋渡しのための強固な基盤を築いた。
【0025】
(実施例2)
無細胞マトリックスの電子顕微鏡検出:
図3は、本発明の実施例により提供される無細胞マトリックスの走査電子顕微鏡画像であり、Aは2500倍の電子顕微鏡画像、Bは5000倍の電子顕微鏡画像である。走査型電子顕微鏡観察の結果、無細胞マトリックスは緻密な繊維網目状構造を呈し、網目状繊維間に大きさの異なる球状物質が分布しており、繊維配列に一定の方向性を有することが分かった。
【0026】
本実施例における無細胞マトリックスの電子顕微鏡検出を行うための具体的な方法:
無細胞マトリックスを14mmの円形スライドガラス上に置き、4%グルタルアルデヒドで4℃の冷蔵庫で2~4時間固定し、リン酸塩緩衝液で10分間毎に3回すすぎ、
1%オスミウム酸で暗所、室温で2時間固定し、再蒸留水で10分間毎に3回すすぎ、
その後、毎回10分以上のグラジエントエタノールによる脱水処理(エタノール濃度は30%、50%、70%、80%、95%)を行い、最後に無水エタノールに一晩浸漬し、翌日新しい無水エタノールに交換し、無水エタノールから酢酸イソアミルへ置換した後(比率は1:1、1:2、純粋な酢酸イソアミル)、臨界点乾燥器で乾燥させ、金メッキ後、日立S-3400II走査電子顕微鏡で観察した。
【0027】
(実施例3)
細胞基質神経移植片の構築:
ノギスで測定し、厚さ約0.12mmのゼリー状の膜状無細胞マトリックスを生分解性足場の周囲に6層、9層又は12層の3仕様に巻き付けて細胞基質神経移植片の初期形態を構築する。細胞基質神経移植片の初期形態を2~6℃に少なくとも24時間置き、自己組織化により管状構造を形成する。本実施例では、4℃、24時間の自己組織化を選択し、その後-80℃で凍結乾燥して細胞基質神経移植片を構築した。
【0028】
図4は、本発明の実施例により提供される細胞基質神経移植片の走査電子顕微鏡画像であり、Aは800倍の電子顕微鏡画像、Bは2500倍の電子顕微鏡画像である。走査電子顕微鏡の結果、移植片は一定の方向性を呈し、繊維間に大きさの異なる球状物質が分布していることが分かった。
【0029】
走査電子顕微鏡の具体的な方法:
細胞基質神経移植片を中央から縦に切断し、4%グルタルアルデヒドで4℃の冷蔵庫で2~4時間固定し、リン酸塩緩衝液で10分間毎に3回すすぎ、
1%オスミウム酸で暗所、室温で2時間固定し、再蒸留水で10分間毎に3回すすぎ、
その後、毎回10分以上のグラジエントエタノールによる脱水処理(エタノール濃度は30%、50%、70%、80%、95%)を行い、次に無水エタノールに一晩浸漬し、翌日新しい無水エタノールに交換し、無水エタノールから酢酸イソアミルへ置換した後(比率は1:1、1:2、純粋な酢酸イソアミル)、臨界点乾燥器で乾燥させ、金メッキ後、日立S-3400II走査電子顕微鏡で観察した。
【0030】
(実施例4)
細胞基質神経移植片を用いたラットの坐骨神経欠損の修復:
細胞基質神経移植片を使用してラットの坐骨神経欠損を修復し、電気生理学的手法、透過型電子顕微鏡、免疫組織化学的手法で神経再生速度及び坐骨神経機能回復状況を検出し、具体的なステップは次の通りであり、
まず、10mmラット坐骨神経欠損モデルを確立し、A、B、Cの3群にランダムに分け、ラット坐骨神経欠損を修復するため、細胞基質神経移植片を使用したA群を細胞基質群と呼び、ラットの坐骨神経欠損を修復するため、自家神経を使用したB群を自家群と呼び、欠損を修復せずに坐骨神経を露出させたC群を偽手術群と呼ぶ。手術から12週間後、適度の麻酔下で術側の坐骨神経を露出させ、神経電気生理検査を実施した。
【0031】
図5は、本発明の実施例により提供される再生神経の電気生理学的検査結果を示す概略図で、左図は各群の複合筋活動電位波形図であり、Aは細胞基質群、Bは自家群、Cは偽手術群を示す。右図は、各群の再生神経の複合筋活動電位振幅比較図である(****p<0.0001)。図中の異なる形状の記号は異なる群を表し、個数はサンプルの数を表す。図から細胞基質群、自家群、及び偽手術群の平均CMAP振幅は、それぞれ15.49±1.82mV、15.33±2.98mV、21.56±1.67mVであることが分かった。細胞基質群と自家群との間に統計的に差がなかった(P>0.05)。
【0032】
再生神経の中間部の切片を採取して透過型電子顕微鏡検査を行い、
図6は、本発明の実施例により提供される再生神経の中間部の横断面の透過型電子顕微鏡像で、上部は各群の髄鞘部分拡大の20000倍の透過型電子顕微鏡像であり、Aは細胞基質群、Bは自家群、Cは偽手術群を示し、下部は各群の髄鞘板層数比較図である(****p<0.0001)。図から、細胞基質群、自家群及び偽手術群の髄鞘板層数は、それぞれ41±5、46±6、90±17であることが分かった。細胞基質群と自家群との間に統計的に差がなかった(P>0.05)。
【0033】
術後の標的筋の筋湿重量比及び運動終板の測定は、再生神経による標的筋重量支配機能の再構築を評価するための重要な指標となる。早期に筋肉の除神経支配が起こり、時間が経つと、再生神経が標的筋を再支配する。
図7は、本発明の実施例により提供される標的筋の筋湿重量比結果を示す概略図で、上部は各群の腓腹筋外観形態図であり、Aは細胞基質群、Bは自家群、Cは偽手術群を示す。下部は、各群の腓腹筋湿重量比分析である(***p<0.001、****p<0.0001)。図からわかるように、術後12週、細胞基質群、自家群及び偽手術群の腓腹筋肌肉湿重比は、それぞれ0.48±0.22、0.58±0.16、0.88±0.06であった。細胞基質群と自家群との間に統計的に差がなかった(P>0.05)。
【0034】
運動終板は、神経終末部と運動終板が支配する標的筋の神経-筋の接合部であり、シナプス構造を有する。ヘビ毒αブンガロトキシンは、シナプス後膜上のアセチルコリン受容体を特異的に標識する。架橋手術後12週の細胞基質群、自家群、偽手術群のラットから術側の腓腹筋を採取し、固定・脱水後凍結し、縦に切断し、運動終板を染色して成熟度を分析した。
【0035】
運動終板の成熟度は、異なる時期で次の通り分けられ、(1)早期:形態が小さく、非多孔性構造の「plaque」、(2)成熟期:形態が大きく、網目状、多孔性構造を呈する「pretzel」、(3)中期:「intermediate」(成熟期と早期の間にある)。
図8は、本発明の実施例により提供される運動終板の再構築結果を示す図で、上部は運動終板の成熟度の概略図であり、Pretzelは成熟期、Intermediateは移行期、Plaqueは未成熟期である。中央は各群の運動終板の観察図であり、Aは細胞基質群、Bは自家群、Cは偽手術群を示す。下部は、異なる時期での運動終板の割合の統計分析のヒストグラムである。
【0036】
偽手術群の運動終板の大部分は成熟期にあり、プラークは大きく、蝶の羽の形を呈し、網目状多孔性構造を有し、細胞基質群及び自家群では再生神経により支配された運動終板の面積は小さくて長細い。術後12週間の運動終板の定量的統計では、他の2群と比較して、偽手術群の運動終板の大部分が成熟期(52%)にあり、細胞基質群の成熟期における運動終板の割合(44%)は自家群(46%)と比較して統計的に有意な差はなかった(P>0.05)。
【0037】
図9は、本発明の実施例により提供される標的筋線維横断面積の結果を示す図である。架橋手術後12週の細胞基質群、自家群、偽手術群のラットから術側の腓腹筋を採取し、固定・脱水後凍結し、横に切断し、Lamininで筋線維の細胞外マトリックスを染色し、
図9の上部は各群の腓腹筋線維横断観察図であり、Aは細胞基質群、Bは自家群、Cは偽手術群を示す。下部は各群の腓腹筋線維横断面積の統計比較図である(**p<0.01、****p<0.0001)。図からの統計は、細胞基質群、自家群及び偽手術群の筋線維横断面積がそれぞれ923.4±98.85μm
2、1131±92.23μm
2、1606±229.9μm
2であり、細胞基質群と自家群との間に統計的に差がなかった(P>0.05)。
【0038】
本発明で使用される細胞基質神経移植片は、作製プロセスにより持ち込まれる有毒な外因性物質を含まず、良好な生体適合性、生分解性、及び良好な力学特性を備える。生分解性足場を使用し、管状構造を形成することで、神経細胞の成長に必要な経路を提供するだけでなく、誘導性や配向性のある成長も提供し、使用される無細胞マトリックスは神経の再生及び機能回復を効果的に促進できる。
【0039】
本発明は、従来技術における不足に着目し、細胞の接着と遊走に有利で、神経の再生を促進できる細胞基質神経移植片及びその作製方法を提供し、インビトロ脱細胞化技術を使用して幹細胞を除去して無細胞マトリックスを得、次に生分解性足場の周囲に巻き付けて細胞基質神経移植片を形成して、末梢神経欠損を修復する。本発明は、自家神経移植の欠点を克服すると共に同種異系細胞移植の免疫原性を避け、神経細胞の増殖および遊走に有利で、一定の配向性を有する無細胞マトリックスを提供し、再生軸索の成長に役立つ局所的な微小環境を構築することで、迅速な神経成長と機能回復という理想的な目標を達成し、臨床治療に実現可能な手段を提供する。
【0040】
以上に述べるものは、本発明の好ましい実施形態のみであって、對当業者であれば、本発明の技術的原理から逸脱することなく、いくつかの改良及び変形を行うこともでき、かかる改良及び変形も本発明の保護範囲に収まるとみなされるべきであることに留意されたい。
【0041】
(付記)
(付記1)
末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片であって、無細胞マトリックスと、足場とを含み、前記無細胞マトリックスは、幹細胞の分泌と形成後の脱細胞化によって得られ、足場の周囲に巻き付かれることを特徴とする、末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片。
【0042】
(付記2)
前記幹細胞は、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞であることを特徴とする、付記1に記載の末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片。
【0043】
(付記3)
前記足場は、キトサン及び組換えヒトコラーゲンを含む生分解性足場であることを特徴とする、付記1に記載の末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片。
【0044】
(付記4)
付記1~3のいずれか一つに記載の末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片の作製方法であって、以下ステップ:
無細胞マトリックスを調製する工程、
無細胞マトリックスを足場の周囲に巻き付け、細胞基質神経移植片の初期形態を構築する工程、
細胞基質神経移植片の初期形態を2~6℃で少なくとも24時間置き、自己組織化により管状構造を形成する工程、及び
前記管状構造を凍結乾燥して細胞基質神経移植片として構築する工程
を含むことを特徴とする、末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片の作製方法。
【0045】
(付記5)
前記凍結乾燥温度は、-80℃であることを特徴とする、付記4に記載の末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片の作製方法。
【0046】
(付記6)
前記無細胞マトリックスは、足場を軸として複数層に巻かれ、生分解性足場の周囲に巻き付けられることを特徴とする、付記4に記載の末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片の作製方法。
【0047】
(付記7)
前記無細胞マトリックスは、生分解性足場を軸として6層、9層又は12層に巻き上げられ、生分解性足場の周囲に巻き付けられることを特徴とする、付記4に記載の末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片の作製方法。
【0048】
(付記8)
前記無細胞マトリックスの作製プロセスは、次の通りとし、
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞を希釈して大きな培養皿に播種し、細胞飽和密度が90%以上になったら、アスコルビン酸を含む無血清培地を加えて7~14日間刺激し、
リン酸緩衝液で洗浄し、滅菌超純水を加えて低張処理を行った後、滅菌超純水を除去し、細胞溶解液を加えて抽出し、さらにリン酸塩緩衝液で洗浄して無細胞マトリックスを得る
ことを特徴とする、付記4に記載の末梢神経損傷を修復するための細胞基質神経移植片の作製方法。
【国際調査報告】