(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ばね用鋼及びばね用鋼線、及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240903BHJP
C22C 38/34 20060101ALI20240903BHJP
C21D 8/06 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/34
C21D8/06 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508098
(86)(22)【出願日】2022-07-13
(85)【翻訳文提出日】2024-02-08
(86)【国際出願番号】 KR2022010194
(87)【国際公開番号】W WO2023018028
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】10-2021-0106248
(32)【優先日】2021-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム, クァンホ
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ソクファン
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ミョンス
(72)【発明者】
【氏名】チョン, ヨンス
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA05
4K032AA06
4K032AA11
4K032AA16
4K032AA22
4K032AA32
4K032AA35
4K032AA36
4K032BA02
4K032CA01
4K032CA02
4K032CC04
4K032CH05
4K032CJ05
4K032CL01
4K032CL02
(57)【要約】
【課題】素材内の転位密度を増加させるか、または平均結晶粒径を減少させて永久変形抵抗性に優れたばね用鋼及び鋼線、及びその製造方法を開示する。
【解決手段】重量%で、C:0.4~0.7%、Si:1.2~2.3%、Mn:0.2~0.8%、Cr:0.2~0.8%を含み、残部がFe(鉄)及びその他の不可避な不純物からなる鋼を伸線して鋼線を製造する段階、前記伸線した鋼線を850~1000℃で加熱した後、1秒以上維持するオーステナイト化段階、及び 前記オーステナイト化段階後、25~80℃で焼き入れを行った後、350~500℃で焼き戻しが行われる段階を含むことを特徴とし、重量%で、V:0.01~0.3%、Nb:0.005~0.05%、Ti:0.001~0.15%及びMo:0.01~0.4%からなる群から選ばれる1種以上をさらに含み、バウシンガー(Bauschinger)ねじり試験で得られるヒステリシスループ(Hysteresis loop)の面積が206mm
2以上であることを特徴とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.4~0.7%、Si:1.2~2.3%、Mn:0.2~0.8%、Cr:0.2~0.8%を含み、残部がFe及びその他の不可避な不純物からなり、
転位密度が1.16×10
15/m
2以上であり、
平均結晶粒径が8.4μm以下であることを特徴とする永久変形抵抗性に優れたばね用鋼線
【請求項2】
重量%で、V:0.01~0.3%、Nb:0.005~0.05%、Ti:0.001~0.15%及びMo:0.01~0.4%からなる群から選ばれる1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼線。
【請求項3】
バウシンガー(Bauschinger)ねじり試験で得られるヒステリシスループ(Hysteresis loop)の面積が206mm
2以上であることを特徴とする請求項1に記載の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼線。
【請求項4】
重量%で、C:0.4~0.7%、Si:1.2~2.3%、Mn:0.2~0.8%、Cr:0.2~0.8%を含み、残部がFe(鉄)及びその他の不可避な不純物をからなる鋼を伸線して鋼線を製造する段階、
前記伸線した鋼線を850~1000℃で加熱した後、1秒以上維持するオーステナイト化段階、及び
前記オーステナイト化段階後、25~80℃で焼き入れを行った後、350~500℃で焼き戻しが行われる段階を含むことを特徴とする永久変形抵抗性に優れたばね用鋼線の製造方法。
【請求項5】
前記鋼は、重量%で、V:0.01~0.3%、Nb:0.005~0.05%、Ti:0.001~0.15%及びMo:0.01~0.4%からなる群から選ばれる1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼線の製造方法。
【請求項6】
重量%で、C:0.4~0.7%、Si:1.2~2.3%、Mn:0.2~0.8%、Cr:0.2~0.8%を含み、残部がFe及びその他の不可避な不純物からなり、
転位密度が0.11×10
15/m
2以上であり、
平均結晶粒径が9.6μm以下であることを特徴とする永久変形抵抗性に優れたばね用鋼。
【請求項7】
重量%で、V:0.01~0.3%、Nb:0.005~0.05%、Ti:0.001~0.15%及びMo:0.01~0.4%からなる群から選ばれる1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼。
【請求項8】
重量%で、C:0.4~0.7%、Si:1.2~2.3%、Mn:0.2~0.8%、Cr:0.2~0.8%を含み、残部がFe(鉄)及びその他の不可避な不純物からなるビレットを製造する段階、
前記ビレットを960~1100℃で加熱する段階、及び
855~920℃で仕上げ圧延する段階を含むことを特徴とする永久変形抵抗性に優れたばね用鋼の製造方法。
【請求項9】
前記ビレットは、重量%で、V:0.01~0.3%、Nb:0.005~0.05%、Ti:0.001~0.15%及びMo:0.01~0.4%からなる群から選ばれる1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ばね用鋼及びばね用鋼線、及びそれらの製造方法に係り、より詳しくは、素材内の転位密度を増加させるか、または平均結晶粒径を減少させて永久変形抵抗性が向上したばね用鋼及びばね用鋼線、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃費向上を目的として自動車用素材の軽量化が大きく求められている。特にサスペンションスプリングの場合には軽量化要求に対応するために現在焼き入れ、焼き戻し後の強度が1800MPa以上となる高強度素材を用いたばね設計が適用されている。
【0003】
しかし、現在、利用可能なばね用鋼が高応力条件下で使用されると、耐久性の悪化及び永久変形の増加などの問題が発生しやすい。ばねの永久変形(抵抗性)とは、ばね使用中に加えられる動的及び静的荷重によって発生する塑性変形に対する抵抗性であり、一般的に、ばねの初期高さに対して一定時間使用後の高さの変化を意味する。したがって、永久変形の増加は、ばねの高さを減少させて車両の高さが低くなり、結果としてバンパーの高さが低くなり、安全性の観点から深刻な問題を引き起こす。したがって、ばねの高応力設計を可能にするために、高い永久変形抵抗性を有するばね用鋼が要求されている。
【0004】
ばね用鋼材に含まれるSiが永久変形抵抗性を向上させるのに有効であることが明らかとなり、永久変形抵抗性に優れたばね用鋼としてSAE9254に対応する鋼が普及している。しかし、高応力ばねに対する要求が増え続けて、永久変形抵抗性をさらに増大させることができる方案に対する要求も増加している。
【0005】
特許文献1には、パーライト(pearlite)組織中のフェライト(ferrite)内に直径50nm以下の(V、Cr)炭化物、炭窒化物及びVとCrの複合炭化物、複合炭窒化物の合計が10個/μm2以上含有される場合に永久変形抵抗性に優れていると開示されている。しかし、(V、Cr)炭化物、炭窒化物及びVとCrの複合炭化物、複合炭窒化物は、いずれもVが主成分であるため、850℃以上の温度では急速に溶解する。したがって、加熱温度が900℃以上の現在のばね加工工程では、特許文献1に開示された析出物による永久変形抵抗性の向上は期待し難い。また、最近、V合金鉄の価格が幾何級数的に上昇したので、特許文献1に開示した内容は、製造原価の側面でも不利な点として作用しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した問題を解決するための本発明の目的は、素材内の転位密度を増加させるか、または平均結晶粒径を減少させて永久変形抵抗性に優れたばね用鋼及びばね用鋼線、及びそれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼線は、重量%で、C:0.4~0.7%、Si:1.2~2.3%、Mn:0.2~0.8%、Cr:0.2~0.8%を含み、残部がFe(鉄)及びその他の不可避な不純物からなり、転位密度が1.16×1015/m2以上であり、平均結晶粒径が8.4μm以下である。
【0009】
また、本発明の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼線は、重量%で、V:0.01~0.3%、Nb:0.005~0.05%、Ti:0.001~0.15%及びMo:0.01~0.4%からなる群から選ばれる1種以上をさらに含む。
【0010】
また、本発明の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼線は、バウシンガー(Bauschinger)ねじり試験で得られるヒステリシスループ(Hysteresis loop)の面積が206mm2以上である。
【0011】
また、本発明の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼線の製造方法は、重量%で、C:0.4~0.7%、Si:1.2~2.3%、Mn:0.2~0.8%、Cr:0.2~0.8%を含み、残部がFe(鉄)及びその他の不可避な不純物からなる鋼を伸線して鋼線を製造する段階、前記伸線した鋼線を850~1000℃で加熱した後、1秒以上維持するオーステナイト化段階、及び前記オーステナイト化段階後、25~80℃で焼き入れを行った後、350~500℃で焼き戻しが行われる段階を含む。
【0012】
また、本発明の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼線の製造方法において、前記鋼は、重量%で、V:0.01~0.3%、Nb:0.005~0.05%、Ti:0.001~0.15%及びMo:0.01~0.4%からなる群から選ばれる1種以上をさらに含む。
【0013】
また、本発明の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼は、重量%で、C:0.4~0.7%、Si:1.2~2.3%、Mn:0.2~0.8%、Cr:0.2~0.8%を含み、残部がFe(鉄)及びその他の不可避な不純物からなり、転位密度が0.11×1015/m2以上であり、平均結晶粒径が9.6μm以下である。
【0014】
また、本発明の一実施例による永久変形抵抗性に優れたばね用鋼は、重量%で、V:0.01~0.3%、Nb:0.005~0.05%、Ti:0.001~0.15%及びMo:0.01~0.4%からなる群から選ばれる1種以上をさらに含む。
【0015】
また、本発明の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼の製造方法は、重量%で、C:0.4~0.7%、Si:1.2~2.3%、Mn:0.2~0.8%、Cr:0.2~0.8%を含み、残部がFe(鉄)及びその他の不可避な不純物からなるビレットを製造する段階、前記ビレットを960~1100℃で加熱する段階、及び855~920℃で仕上げ圧延する段階を含む。
【0016】
また、本発明の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼の製造方法において、前記ビレットは、重量%で、V:0.01~0.3%、Nb:0.005~0.05%、Ti:0.001~0.15%及びMo:0.01~0.4%からなる群から選ばれる1種以上をさらに含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、素材内の転位密度を増加させるか、または平均結晶粒径を減少させて永久変形抵抗性が向上したばね用鋼及び鋼線、及びその製造方法を提供しうる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明及び比較例によるばね用鋼の平均結晶粒径と鋼線のヒステリシスループの面積との関係を示すグラフである。
【
図2】本発明及び比較例によるばね用鋼線の平均結晶粒径と鋼線のヒステリシスループの面積との関係を示すグラフである。
【
図3】本発明及び比較例によるばね用鋼の転位密度と鋼線のヒステリシスループの面積との関係を示すグラフである。
【
図4】本発明及び比較例によるばね用鋼線の転位密度と鋼線のヒステリシスループの面積との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼線は、重量%で、C:0.4~0.7%、Si:1.2~2.3%、Mn:0.2~0.8%、Cr:0.2~0.8%を含み、残部がFe(鉄)及びその他の不可避な不純物からなり、転位密度が1.16×1015/m2以上であり、平均結晶粒径が8.4μm以下であってもよい。
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は、様々な異なる形態に変形されてもよく、本発明の技術思想が以下で説明する実施形態に限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当技術分野において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0021】
本出願で使用される用語は、単に特定の例示を説明するために使用されるものである。したがって、例えば、単数の表現は、文脈上明らかに単数でなければならないものでない限り、複数の表現を含む。さらに、本出願で使用される「含む」または「備える」などの用語は、明細書上に記載された特徴、段階、機能、構成要素、またはそれらを組み合わせたものが存在することを明確に指すために使用されるものであり、他の特徴や段階、機能、構成要素またはそれらを組み合わせたものの存在を予備的に排除するために使用されるものではないことに留意しなければならない。
【0022】
一方、特に定義のない限り、本明細書で使用されるすべての用語は、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者によって一般に理解されるのと同じ意味を持つものとみなすべきである。したがって、本明細書で明確に定義しない限り、特定の用語が過度に理想的または形式的な意味で解釈されるべきではない。例えば、本明細書において単数の表現は、文脈上、明らかに例外のない限り、複数の表現を含む。
【0023】
また、本明細書において「約」、「実質的に」などは、言及した意味に固有の製造及び物質の許容誤差が提示されるとき、その数値またはその数値に近い意味で使用され、本発明の理解を助けるために正確かつ絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に用いることを防止するために使用される。
【0024】
本発明の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼は、重量%で、C:0.4~0.7%、Si:1.2~2.3%、Mn:0.2~0.8%、Cr:0.2~0.8%を含み、残部がFe(鉄)及びその他の不可避な不純物からなる。
【0025】
以下、前記合金組成を限定した理由について具体的に説明する。
【0026】
C(炭素)の含量は、0.4~0.7%であってもよい。
【0027】
Cは、ばねの強度を確保するために添加される必須元素である。これを考慮してCは、0.4%以上添加されてもよい。しかし、Cの含量が過剰な場合には、焼き入れ、焼き戻しの熱処理時に双晶(twin)型マルテンサイト組織が形成されて素材の割れが発生するため、疲労寿命が著しく低下する。また、Cの含量の過剰な場合には欠陥感受性が高くなり、表面に腐食ピットが発生する場合、疲労寿命や破壊応力が著しく低下する。これを考慮してC含量の上限は、0.7%に制限されてもよい。
【0028】
Si(シリコン)の含量は1.2~2.3%であってもよい。
【0029】
Siは、フェライト内に固溶して強度を強化させ、変形抵抗性を向上させるのに優れた効果を有する元素である。これを考慮してSiは、1.2%以上添加されてもよく、より好ましくは、1.4%以上添加されてもよい。しかし、Siの含量が過剰な場合には、変形抵抗性の向上効果が飽和し、熱処理時に表面脱炭を起こすことができる。これを考慮してSi含量の上限は、2.3%に制限されてもよい。
【0030】
Mn(マンガン)の含量は、0.2~0.8%であってもよい。
【0031】
Mnは、鋼材の焼入性を向上させて強度を確保する役割を果たす元素である。これを考慮してMnは、0.2%以上添加されてもよい。しかし、Mnの含量が過剰な場合には、焼入性が過度に増加し、熱間圧延後の冷却時に硬組織が発生しやすく、MnS介在物の生成が増加し、耐腐食疲労特性が低下することがある。これを考慮してMn含量の上限は、0.8%に制限されてもよい。
【0032】
Cr(クロム)の含量は、0.2~0.8%であってもよい。
【0033】
Crは、耐酸化性、テンパー軟化性、表面脱炭防止及び焼入性を確保するのに有用な元素である。これを考慮してCrは、0.2%以上添加されてもよい。しかし、Crの含量が過剰である場合には、変形抵抗性の低下により、むしろ、強度が劣ることがある。これを考慮してCr含量の上限は、0.8%に制限されてもよい。
【0034】
また、本発明の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼は、重量%で、V:0.01~0.3%、Nb:0.005~0.05%、Ti:0.001~0.15%及びMo:0.01~0.4%からなる群から選ばれる1種以上をさらに含んでもよい。
【0035】
V(バナジウム)の含量は、0.01~0.3%であってもよい。
【0036】
Vは、強度の向上及び結晶粒の微細化に寄与する元素である。また、Vは、CやNと結合して炭/窒化物を形成できるが、形成された炭/窒化物は、水素のトラップサイトとして作用して鋼材内での水素侵入を抑制し、腐食発生を減少させる役割を果たすことができる。これを考慮してVは、0.01%以上添加されてもよい。しかし、Vの含量が過剰である場合には、製造原価が上昇することがある。これを考慮してV含量の上限は、0.3%に制限されてもよい。
【0037】
Nb(ニオブ)の含量は、0.005~0.05%であってもよい。
【0038】
Nbは、CやNと結合して炭/窒化物を形成して組織微細化に寄与し、水素のトラップサイトとして作用する元素である。これを考慮してNbは、0.005%以上添加されてもよい。しかし、Nbの含量が過剰な場合には、粗大炭/窒化物が形成されて鋼材の延性が低下することがある。これを考慮してNb含量の上限は、0.05%に制限されてもよい。
【0039】
Ti(チタン)の含量は、0.001~0.15%であってもよい。
【0040】
Tiは、析出強化を通じて強度と靭性を向上させ、粒子微細化に寄与する元素である。また、Tiは、CやNと結合して炭/窒化物を形成できるが、形成された炭/窒化物は、水素のトラップサイトとして作用することができ、析出硬化を起こすことにより、ばね特性を改善させることができる。これを考慮してTiは、0.001%以上添加されてもよい。しかし、Tiの含量が過剰な場合には、製造原価が上昇し、析出物によるばね特性改善効果が飽和する。また、Tiの含量が過剰な場合には、オーステナイト熱処理時に母材に粗大な合金炭化物量が増加して非金属介在物と同様の作用をするため、疲労特性及び析出強化効果が低下することがある。これを考慮してTi含量の上限は、0.15%に制限されてもよい。
【0041】
Mo(モリブデン)の含量は、0.01~0.4%であってもよい。
【0042】
Moは、CやNと結合して炭/窒化物を形成して組織微細化に寄与し、水素のトラップサイトとして作用する元素である。これを考慮してMoは、0.01%以上添加されてもよい。しかし、Moの含量が過剰な場合には、熱間圧延後の冷却時に硬組織が発生しやすく、粗大な炭/窒化物が形成されて鋼の延性が低下することがある。これを考慮してMo含量の上限は、0.4%に制限されてもよい。
【0043】
本発明の残りの成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の鉄鋼製造過程では、原料や周囲の環境から意図しない不純物が不可避的に混入することがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば、誰でも知ることができるので、そのすべての内容を特に本明細書で言及するものではない。
【0044】
本発明の他の態様は、前記永久変形抵抗性に優れたばね用鋼の成分と同じ組成からなる鋼線を提供する。前記各成分の数値限定理由は、上述した通りである。
【0045】
本発明の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼は、前記合金成分組成比を制御することにより、微細組織としてフェライトとパーライトの混合組織を含んでもよく、ベイナイトやマルテンサイトは存在しなくてもよい。
【0046】
一方、本発明の発明者らは、ばね用鋼の永久変形抵抗性に及ぼす様々な影響因子を検討し、以下の事実を見出した。
【0047】
ばねの永久変形は、素材の降伏強度よりも低い応力レベルで多数のローディングサイクル(loading cycles)にかけて発生する周期的塑性変形(plastic deformation)またはマイクロクリープ(microcreep)によって発生する。材料が変形されると、材料内では新しい転位(dislocation)が生成されるか、またはすでに存在していた転位は、移動しながら互いに結合したり消滅したりして、最終的に転位密度(dislocation density)が変化することになる。
【0048】
一般的に圧延や成形、加工などは一度に降伏点(yield point)を超える変形量を与えるために転位密度が増加し、加工硬化現象が現れる。しかし、ばねのように降伏点を超えない低い応力レベルで周期的な塑性変形やマイクロクリープ現象を受けると、むしろ、長時間にわたって転位密度が減少し、最終的にばねが永久変形する。しかし、ばねは、製品の特性上、安定性を考慮して降伏点よりも低い応力レベルで作動しなければならないため、一定期間使用後の転位密度が減少するのはやむを得ない現象である。
【0049】
したがって、ばねの永久変形抵抗性を向上させるためには、ばねの製造時、素材内の転位密度を高めるか、または、ばね使用中の転位が結晶粒界に頻繁に積み重なる(pile-up)ことで、消滅する速度を減少させることが最も好ましい。
【0050】
ばね製造時の素材内の転位密度を高めるためには、熱間圧延による線材の製造時から転位密度を高めなければならず、そのためには、より低い温度で圧延するか、または冷却する方法が効果的である。また、転位が結晶粒界に頻繁に積み重なるようにするためには、結晶粒を微細化して結晶粒界まで転位が動く距離を短くし、より頻繁に結晶粒界と出会うようにしなければならない。
【0051】
したがって、本発明の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼は、転位密度が0.11×1015/m2以上であってもよい。
【0052】
また、本発明の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼は、平均結晶粒径が9.6μm以下であってもよい。
【0053】
また、本発明の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼線は、転位密度が1.16×1015/m2以上であってもよい。
【0054】
また、本発明の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼線は、平均結晶粒径が8.4μm以下であってもよい。
【0055】
一方、ばねの永久変形とは、ばねの初期高さに対して一定時間使用後の高さの変化を意味するため、ばね状態で測定することが一般的であるが、鋼線状態でも測定可能にした方法がバウシンガー(Bauschinger)ねじり試験である。バウシンガー(Bauschinger)ねじり試験は、鋼線を降伏強度以上の荷重を与えて15°/minの速度でねじった後、荷重除去後に降伏強度以上の荷重を与えて15°/minの速度でねじって行った。このとき、トルク-ツイストアングル曲線上に重なる部分をヒステリシスループ(Hysteresis loop)という。ヒステリシスループ(Hysteresis loop)の面積が大きいほどばねの永久変形抵抗性が大きくなる。
【0056】
したがって、本発明の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼線で前記バウシンガー(Bauschinger)ねじり試験を行うと、ヒステリシスループ(Hysteresis loop)の面積が206mm2以上であってもよい。
【0057】
次に、本発明の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼及び鋼線の製造方法についてそれぞれ説明する。
【0058】
本発明の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼の製造方法は、重量%で、C:0.4~0.7%、Si:1.2~2.3%、Mn:0.2~0.8%、Cr:0.2~0.8%を含み、残部がFe(鉄)及びその他の不可避な不純物からなり、微細組織としてフェライトとパーライトの混合組織を含み、転位密度が0.11×1015/m2以上のビレットを製造する段階、前記ビレットを960~1100℃で加熱する段階、及び855~920℃で仕上げ圧延及び巻き取る段階を含んでもよい。
【0059】
各合金元素の成分比を限定した理由は、上述した通りであり、以下、各製造段階についてより詳細に説明する。
【0060】
上述したように、ばねの永久変形抵抗性を向上させるためには、ばね用鋼及び鋼線の転位密度を高めるか、または結晶粒を微細化しなければならない。また、転位密度を高めるか、または結晶粒を微細化するためには、ビレット加熱温度と仕上げ圧延温度を適切に制御する必要がある。
【0061】
本発明のビレットの加熱温度は、960~1100℃の範囲とすることが好ましい。ビレットの加熱温度が低すぎると、圧延ロールの負荷が大きくなる。また、ビレットの加熱温度が低すぎると、鋳造時に生成され得る粗大炭化物がすべて溶解しないため、オーステナイト内に合金元素が均一に分布しないことがある。これを考慮してビレットの加熱温度は、960℃以上であってもよい。一方、加熱温度が高すぎると、ビレットの結晶粒径が大きくなり、同じ圧延条件で熱間圧延しても最終線材での結晶粒径が大きくなる。これを考慮してビレットの加熱温度の上限は、1100℃に制限されてもよい。
【0062】
本発明の仕上げ圧延温度は、855~920℃の範囲とすることが好ましい。仕上げ圧延温度が低すぎると、圧延ロールの負荷が大きくなる。これを考慮して仕上げ圧延温度は、855℃以上であってもよい。一方、仕上げ圧延温度が高すぎると、冷却開始前のオーステナイト結晶粒径が大きくなり、最終冷却後の結晶粒径が大きくなってしまう。これを考慮して仕上げ圧延温度の上限は、920℃に制限されてもよい。
【0063】
本発明の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼線の製造方法は、前記鋼を伸線して鋼線を製造する段階、前記伸線した鋼線を850~1000℃で加熱した後、1秒以上維持するオーステナイト化段階、及び前記オーステナイト化段階後、25~80℃で焼き入れを行った後、350~500℃で焼き戻しが行われる段階を含んでもよい。
【0064】
まず、本発明の永久変形抵抗性に優れたばね用鋼を伸線して鋼線を製造する。
【0065】
その後、オーステナイト化段階を経る。前記オーステナイト化段階では、前記鋼線を850~1000℃の温度範囲で熱処理する。
【0066】
一方、ばね用鋼線を製造するために、最近、誘導加熱熱処理(Induction heat treatment)設備を活用する場合が多くなっている。誘導加熱熱処理設備を使用するとき、熱処理保持時間が1秒未満の場合には、フェライト及びパーライト組織が十分に加熱されず、オーステナイトに変態しないことがある。したがって、前記オーステナイト化段階において熱処理保持時間は、1秒以上であってもよい。
【0067】
次に、前記オーステナイト化段階を経た鋼線を25~80℃の範囲で焼き入れを行い、350~500℃の範囲で焼き戻し(テンパリング)を行う。前記焼き戻しは、本発明が所望の機械的物性を確保するための段階で、靭性及び強度を確保するために必要である。
【0068】
前記焼き戻し温度が低すぎると、靭性が確保されず、成形及び製品状態で破損するおそれがある。これを考慮して焼き戻し温度は、350℃以上であってもよい。一方、焼き戻し温度が高すぎると、強度が急激に減少して高強度の確保が難しくなることがある。これを考慮して焼き戻し温度の上限は、500℃に制限されてもよい。
【0069】
以下、本発明について実施例を通じてより詳細に説明する。しかし、このような実施例の記載は、本発明の実施を例示するためのものであり、このような実施例の記載によって本発明が制限されるものではない。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、これから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0070】
{実施例}
下記表1に示す合金組成を有するビレットを製造した後、前記ビレットを下記表1に示す条件で加熱及び仕上げ圧延した後、巻き取ってばね用鋼を製造した。
【0071】
その後、前記ばね用鋼をASTM E8規格に合わせて伸線加工した後、975℃で15分間加熱するオーステナイト化段階を行った。次に、70℃の油に浸して急冷(焼き入れ)させた後、390℃で30分間保持する焼き戻しを行い、ばね用鋼線を製造した。
【0072】
【0073】
鋼の結晶粒径及び転位密度と鋼線の結晶粒径、転位密度、バウシンガーねじり試験のヒステリシスループの面積及び焼き入れ、焼き戻し熱処理後の引張強度は、下記表2に示した。
【0074】
結晶粒径は、モデル名がJSM 7200Fの後方散乱電子回折パターン分析器(Electron Backscatter Diffraction,EBSD)を用いて任意の5箇所の方位を分析して測定した。平均結晶粒径は、任意の5箇所で行った結晶粒径の平均を意味する。
【0075】
転位密度は、モデル名がFEI Technai Osirisの透過電子顕微鏡(Transmission electron microscope,TEM)で写真を撮影した後、単位面積当たりに含まれる転位数を観察して測定した。
【0076】
バウシンガー(Bauschinger)ねじり試験は、鋼線を降伏強度以上の荷重を与えて15°/minの速度でねじった後、荷重除去後に降伏強度以上の荷重を与えて15°/minの速度でねじって行った。このとき、トルク-ツイストアングル曲線上に重なる部分をヒステリシスループ(Hysteresis loop)という。
【0077】
焼き入れ、焼き戻し熱処理後の引張強度は、万能材料試験機(Universal test machine,UTM)を通じて測定した。
【0078】
【0079】
実施例1~3は、合金組成及び製造条件が本発明で提案するところを満たした。したがって、鋼の平均結晶粒径が9.6μm以下、鋼の転位密度が0.11×1015/m2以上、鋼線の平均結晶粒径が8.4μm以下、鋼線の転位密度が1.16×1015/m2以上及びバウシンガーねじり試験のヒステリシスループの面積が206mm2以上を満たした。
【0080】
比較例1は、合金組成が本発明で提案するところを満たしたが、仕上げ圧延温度が855~920℃の範囲を満足しなかった。したがって、比較例1は、鋼の平均結晶粒径が15.6μm、鋼線の平均結晶粒径が12.3μmと粗大な結晶粒が現れた。これにより、バウシンガーねじり試験で得られたヒステリシスループの面積が163mm2と非常に低く、永久変形抵抗性に劣っていた。
【0081】
比較例2は、合金組成が本発明で提案するところを満たしたが、ビレット加熱温度が960~1100℃の範囲を満足しなかった。したがって、比較例2は、鋼の平均結晶粒径が13.8μm、鋼線の平均結晶粒径が11.4μmと粗大な結晶粒が現れた。これにより、バウシンガーねじり試験で得られたヒステリシスループの面積が184mm2と非常に低く、永久変形抵抗性に劣っていた。
【0082】
比較例3は、合金組成が本発明で提案するところを満たしたが、仕上げ圧延温度が855~920℃の範囲を満足しなかった。したがって、比較例3は、鋼の平均結晶粒径が11.4μm、鋼線の平均結晶粒径が10.7μmと粗大な結晶粒が現れた。これにより、バウシンガーねじり試験で得られたヒステリシスループの面積が205mm2と低く、永久変形抵抗性に劣っていた。
【0083】
図1及び
図2は、鋼及び鋼線の平均結晶粒径による鋼線のヒステリシスループの面積を示すグラフである。
図1及び
図2を参照すると、平均結晶粒径が小さいほどヒステリシスループの面積が大きくなることが分かる。すなわち、平均結晶粒径が小さいほど永久変形抵抗性に優れていることが確認できる。
【0084】
図3及び
図4は、鋼及び鋼線の転位密度による鋼線のヒステリシスループの面積を示すグラフである。
図3及び
図4を参照すると、転位密度が大きいほどヒステリシスループの面積が大きくなることが分かる。すなわち、転位密度が大きいほど永久変形抵抗性に優れていることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、素材内の転位密度を増加させるか、または平均結晶粒径を減少させて永久変形抵抗性が向上したばね用鋼及び鋼線、及びその製造方法を提供しうる。
【国際調査報告】