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特表2024-532803分離膜用共重合体およびこれを含む二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-10
(54)【発明の名称】分離膜用共重合体およびこれを含む二次電池
(51)【国際特許分類】
   C08F 216/06 20060101AFI20240903BHJP
   C08F 8/12 20060101ALI20240903BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20240903BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240903BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20240903BHJP
   H01M 50/42 20210101ALI20240903BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240903BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240903BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20240903BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20240903BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20240903BHJP
【FI】
C08F216/06
C08F8/12
C08L29/04 Z
C08K3/013
H01M50/414
H01M50/42
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/446
H01M50/451
H01M50/403 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508746
(86)(22)【出願日】2021-09-30
(85)【翻訳文提出日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 KR2021013434
(87)【国際公開番号】W WO2023054765
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0128913
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519350498
【氏名又は名称】ハンソル ケミカル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HANSOL CHEMICAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】7-8F, 513, Teheran-ro, Gangnam-gu, Seoul 06169, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】イ, ゴ-ウン
(72)【発明者】
【氏名】チャン, ボ-オク
(72)【発明者】
【氏名】キム, ジン-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム, スン-ホン
(72)【発明者】
【氏名】パク, ジュン
(72)【発明者】
【氏名】オ, セ-ウク
(72)【発明者】
【氏名】クォン, セ-マン
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
5H021
【Fターム(参考)】
4J002BE021
4J002DE076
4J002DE086
4J002DE096
4J002DE106
4J002DE136
4J002DE146
4J002DE156
4J002DE186
4J002DH046
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002FD016
4J002GQ00
4J002GQ01
4J100AG04P
4J100AL03Q
4J100CA04
4J100DA32
4J100GC04
4J100HA09
4J100HA15
4J100HA31
4J100HB39
4J100HC45
4J100HC47
4J100JA15
4J100JA43
4J100JA44
5H021BB12
5H021CC03
5H021CC04
5H021EE05
5H021EE06
5H021EE15
5H021EE21
5H021HH01
5H021HH07
(57)【要約】
本発明は、共重合体の全体重量100重量%を基準として、3重量%以上、38重量%以下のビニルアセテート基材の単量体単位、57重量%以上、81重量%以下のビニルアルコール基材の単量体単位、0.7重量%以上、18重量%以下のアクリレート基材の単量体単位、および14重量%以上、38重量%以下のアクリル酸基材の単量体単位を含み、共重合体の全体重量100重量%を基準として、1重量%未満のアミン系有機化合物を含む共重合体およびこれを用いたスラリー組成物、分離膜および二次電池に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合体の全体重量100重量%を基準として、3重量%以上、38重量%以下のビニルアセテート基材の単量体単位、57重量%以上、81重量%以下のビニルアルコール基材の単量体単位、0.7重量%以上、18重量%以下のアクリレート基材の単量体単位、および14重量%以上、38重量%以下のアクリル酸基材の単量体単位を含み、
共重合体の全体重量100重量%を基準として、1重量%未満のアミン系有機化合物を含む、
共重合体。
【請求項2】
前記共重合体は、下記化学式1で表される、
請求項1に記載の共重合体。
【化1】


前記化学式1中、
1は、水素、炭素数1~4の線状または分枝状炭化水素であり、
2は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~20の線状または分枝状炭化水素であり、
1は、2級アミンおよび3級アミンからなるグループより選択されたいずれか1つ以上であり、
m、n、xおよびyは、m+n+x+y=1である。
【請求項3】
前記化学式1のR1は、水素、メチルおよびエチルからなるグループより選択されたいずれか1つ以上を含み、
前記化学式1のR2は、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、ラウリル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、セチル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、ステアリル、n-オクタデシル、n-ノナデシル、n-イコシル、n-ヘンイコシル、n-ドコシル、iso-ペンチル、iso-ヘプチル、iso-オクチル、iso-ノニル、iso-デシル、iso-ウンデシル、iso-ドデシル、iso-トリデシル、iso-テトラデシル、iso-ペンタデシル、iso-セチル、iso-ヘキサデシル、iso-ヘプタデシル、iso-ステアリル、iso-オクタデシル、iso-ノナデシル、iso-イコシル、iso-ヘンイコシルおよびiso-ドコシルからなるグループより選択されたいずれか1つ以上を含む、
請求項2に記載の共重合体。
【請求項4】
前記化学式1のM1は、下記化学式2~5の化合物からなるグループより選択されたいずれか1つ以上を含む、
請求項2に記載の共重合体。
【化2】


【化3】


前記化学式2および3中、
3~R5は、それぞれ独立して、炭素数1~6の線状または分枝状炭化水素である。
【化4】


【化5】


前記化学式4および5中、
1~L3は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキレン(alkylene)基であり、
a~cは、それぞれ独立して、0~2の整数のいずれか1つである。
【請求項5】
前記共重合体は、ランダムまたはブロック共重合体である、
請求項1に記載の共重合体。
【請求項6】
前記共重合体の数平均分子量が5,000~1,000,000である、
請求項1に記載の共重合体。
【請求項7】
前記化学式1のm、n、xおよびyは、
1.5≦(m+n)/(x+y)≦5.5であり、
0.05≦m/n≦0.45であり、
0.05≦x/y≦0.45である、
請求項2に記載の共重合体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の共重合体と、
無機粒子と、を含む、
スラリー組成物。
【請求項9】
請求項8に記載のスラリー組成物を含む、
分離膜。
【請求項10】
請求項9に記載の分離膜を含む、
二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体およびこれを用いたスラリー組成物、分離膜および二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、エネルギー密度が高くて電気、電子、通信およびコンピュータ産業分野に広範囲に用いられており、携帯電子機器用小型リチウム二次電池に次いで、ハイブリッド自動車、電気自動車などの高容量二次電池などにもその応用分野が広がっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は分離膜によって絶縁化されているが、内部あるいは外部の電池異常現象や衝撃によって正極と負極の短絡が発生して発熱および爆発の可能性があるので、分離膜の熱的/化学的安全性の確保は非常に重要である。
【0004】
現在、分離膜としてポリオレフィン系のフィルムが広く使用されているが、ポリオレフィンは高温で熱収縮が激しく、機械的特性に脆弱というデメリットがある。
【0005】
このようなポリオレフィン系分離膜の安定性向上のために、ポリオレフィン多孔性基材フィルムに無機物粒子とバインダーとからなる混合物をコーティングした多孔性分離膜が開発されている。
【0006】
すなわち、ポリオレフィン系分離膜の高温による熱収縮およびデンドライトによる電池の不安定性を抑制するために、多孔性分離膜基材の単面あるいは両面に無機物粒子をバインダーとともにコーティングすることにより、無機物粒子が基材の収縮率を抑制する機能を付与すると同時に、コーティング層によってより安全な分離膜を製造することができる。
【0007】
優れた電池特性の確保のために、コーティング層は、均一にコーティングされなければならないと同時に、基材との強力な接着力が要求される。
【0008】
また、最近の高容量および高出力化に対応するためには、従来の分離膜の耐熱性をさらに改善する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】大韓民国登録特許第10-1430975号
【特許文献2】大韓民国公開特許公報第10-2006-0072065号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、スラリー組成物の分散安定性を高めることができる共重合体を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、前記共重合体を用いて接着力に優れたスラリー組成物を提供する。
【0012】
これとともに、本発明は、前記スラリー組成物が適用されて耐熱性に優れた分離膜および前記分離膜が用いられた優れた性能の電池を提供する。
【0013】
しかし、本願が解決しようとする課題は以上に言及した課題に制限されず、言及されていない他の課題は以下の記載から当業者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願の一態様は、共重合体の全体重量100重量%を基準として、3重量%以上、38重量%以下のビニルアセテート基材の単量体単位、57重量%以上、81重量%以下のビニルアルコール基材の単量体単位、0.7重量%以上、18重量%以下のアクリレート基材の単量体単位、および14重量%以上、38重量%以下のアクリル酸基材の単量体単位を含み、
共重合体の全体重量100重量%を基準として、1重量%未満のアミン系有機化合物を含む、
共重合体を提供する。
【0015】
本願の他の態様は、前記共重合体と、
無機粒子と、を含む、
スラリー組成物を提供する。
【0016】
本願のさらに他の態様は、前記スラリー組成物を含む、
分離膜を提供する。
【0017】
本願のさらに他の態様は、前記分離膜を含む、
二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の共重合体は、スラリー組成物の分散安定性を向上させ、分離膜基材であるポリオレフィンフィルムとの接着力を高め、分離膜の耐熱性を改善させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、発明の具体的な実施例を通じて、発明の作用および効果をより詳述する。ただし、このような実施例は発明の例として示されたに過ぎず、これによって発明の権利範囲が定められるのではない。
【0020】
これに先立ち、本明細書および特許請求の範囲に使用された用語や単語は通常または辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自らの発明を最も最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則り、本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解釈されなければならない。
【0021】
したがって、本明細書に記載の実施例の構成は本発明の最も好ましい一つの実施例に過ぎず、本発明の技術的思想をすべて代弁するものではないので、本出願時点においてこれらを代替可能な多様な均等物と変形例が存在できることを理解しなければならない。
【0022】
本明細書において、単数の表現は、文脈上明らかに異なって意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、数字、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、1つまたはそれ以上の他の特徴や、数字、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものの存在または付加の可能性を予め排除しないことが理解されなければならない。
【0023】
本明細書において、数値範囲を示す「a乃至b」および「a~b」における「乃至」および「~」は、≧aかつ≦bで定義する。
【0024】
本願の一態様による共重合体は、共重合体の全体重量100重量%を基準として、3重量%以上、38重量%以下のビニルアセテート(vinyl acetate)基材の単量体単位、57重量%以上、81重量%以下のビニルアルコール(vinyl alcohol)基材の単量体単位、0.7重量%以上、18重量%以下のアクリレート(acrylate)基材の単量体単位、および14重量%以上、38重量%以下のアクリル酸(acrylic acid)基材の単量体単位を含み、共重合体の全体重量100重量%を基準として、1重量%未満のアミン系有機化合物を含むことができる。
【0025】
前記共重合体は、ビニルアセテート単量体とアクリレート単量体とを共重合した後、アルカリ加水分解(alkaline hydrolysis)し、アミン系有機化合物と反応させて製造される。
【0026】
前記加水分解によってビニルアセテート基材の単量体単位の一部は、ビニルアルコール基材の単量体単位に変化し、アクリレート基材の単量体単位の一部は、アクリル酸基材の単量体単位に変化する。
【0027】
前記加水分解の程度は、例えば、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上に調節可能である。
【0028】
前記単量体単位の範囲が含有量範囲を外れると、前記共重合体を適用したスラリー組成物の分散安定性、コーティング膜の接着力、分離膜の耐熱性のいずれか1つ以上が低下しうる。
【0029】
前記アミン系有機化合物は、前記共重合体のガラス転移温度(Tg)を低下させることができ、軟化作用を起こすことができる。
【0030】
これは、前記共重合体のアクリル酸基材の単量体単位の金属イオン化された末端が前記アミン系有機化合物と置換されてイオン結合を形成し、結合したアミン系有機化合物の大きな体積や静電的斥力の作用によって前記共重合体の鎖の凝集特性が改善されるからである。
【0031】
鎖が凝集されずに広がるにつれ、前記共重合体のガラス転移温度が低くなりうる。
【0032】
前記アミン系有機化合物による鎖の軟化およびガラス転移温度の下向き効果は、前記共重合体が含まれているスラリー組成物の無機物の分離膜基材に対する物理的接着効果を向上させることができる。
【0033】
また、前記アミン系有機化合物による強いイオン結合および物理的架橋は、分離膜の熱収縮現象を緩和させることができ、水に対する溶解度にも影響が生じうる。
【0034】
すなわち、前記アミン系有機化合物の含有量が増加するにつれ、前記共重合体の含湿率は高くなるが、水に対する溶解度は低くなる。
【0035】
前記アミン系有機化合物の含有量が共重合体の全体重量100重量%を基準として1重量%以上になれば、前記共重合体を用いて製造した分離膜の耐熱性が低下しうる。
【0036】
また、前記アミン系有機化合物の含有量は、共重合体の全体重量100重量%を基準として、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.2重量%以上であってもよい。
【0037】
一実施形態において、前記共重合体は、下記化学式1で表されてもよい。
【0038】
【化1】


前記化学式1中、
1は、水素、炭素数1~4の線状または分枝状炭化水素であり、
2は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~20の線状または分枝状炭化水素であり、
1は、2級アミンおよび3級アミンからなるグループより選択されたいずれか1つ以上であり、
m、n、xおよびyは、m+n+x+y=1であってもよい。
前記化学式1のm、n、xおよびyは、各単量体単位のモル分率に相当し、各単量体単位のモル分率の合計は1になる。
前記共重合体のアクリル酸基材の単量体単位は、その末端基が2級アミンおよび3級アミンからなるグループより選択されたいずれか1つ以上とイオン結合できる。
【0039】
一実施形態において、前記化学式1のR1は、水素、メチルおよびエチルからなるグループより選択されたいずれか1つ以上を含むことができる。
【0040】
また、前記化学式1のR2は、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、ラウリル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、セチル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、ステアリル、n-オクタデシル、n-ノナデシル、n-イコシル、n-ヘンイコシル、n-ドコシル、iso-ペンチル、iso-ヘプチル、iso-オクチル、iso-ノニル、iso-デシル、iso-ウンデシル、iso-ドデシル、iso-トリデシル、iso-テトラデシル、iso-ペンタデシル、iso-セチル、iso-ヘキサデシル、iso-ヘプタデシル、iso-ステアリル、iso-オクタデシル、iso-ノナデシル、iso-イコシル、iso-ヘンイコシルおよびiso-ドコシルからなるグループより選択されたいずれか1つ以上を含むことができる。
【0041】
一実施形態において、前記化学式1のM1は、下記化学式2~5の化合物からなるグループより選択されたいずれか1つ以上を含むことができる。
【0042】
【化2】
【0043】
【化3】
【0044】
前記化学式2および3中、R3~R5は、それぞれ独立して、炭素数1~6の線状または分枝状炭化水素であってもよい。
【0045】
【化4】
【0046】
【化5】
【0047】
前記化学式4および5中、L1~L3は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキレン(alkylene)基であり、a~cは、それぞれ独立して、0~2の整数のいずれか1つであってもよい。
【0048】
一実施形態において、前記共重合体は、合成工程によってランダムまたはブロック共重合体であってもよい。
【0049】
一実施形態において、前記共重合体の数平均分子量が5,000~1,000,000であってもよい。
【0050】
前記共重合体の数平均分子量が5,000未満の場合、共重合体の流動性が大きくなって分散性が低下し、分離膜の耐熱特性が低下しうる。数平均分子量が1,000,000以上の場合には、使用するのに粘度が過度に高く、分離膜の気孔を塞いで通気度と抵抗が低下しうる。
【0051】
一実施形態において、前記化学式1のm、n、xおよびyは、1.5≦(m+n)/(x+y)≦5.5であり、0.05≦m/n≦0.45であり、0.05≦x/y≦0.45であってもよい。
【0052】
このような前記共重合体における単量体の比は、反応出発物質であるビニルアセテート単量体とアクリル単量体の含有量、加水分解の程度などを異にして調節可能である。
【0053】
前記共重合体の(m+n)/(x+y)が5.5超過であれば、共重合体の分散力が低下し、(m+n)/(x+y)が1.5未満であれば、共重合体の分散力が低下すると同時に、共重合体を適用した分離膜の耐熱性が低下しうる。
【0054】
加水分解の程度を調節して前記共重合体のm/nおよび/またはx/yを0.05未満とすれば、前記共重合体の疎水性が高くなって基材に対する接着力は高くなるが、前記共重合体と無機粒子とを含むスラリー組成物の分散性が大きく低下して好ましくない。
【0055】
また、加水分解の程度を調節して前記共重合体のm/nおよび/またはx/yを0.45超過とすれば、前記共重合体の疎水性が低下して基材に対する接着力が大きく低下した。
【0056】
本願の他の態様によるスラリー組成物は、前記共重合体と、無機粒子とを含むことができる。
【0057】
前記スラリー組成物の接着力は、80gf/mm以上であってもよい。
【0058】
前記無機粒子は、絶縁体粒子であれば制限なく使用可能であり、好ましくは、高誘電率絶縁体粒子であってもよい。
【0059】
前記無機粒子の具体例としては、Al23、SiO2、TiO2、ZrO2、ZnO、NiO、CaO、SnO2、Y23、MgO、BaTiO3、CaTiO3、SrTiO3、SiC、Li3PO4、Pb(Zr、Ti)O3(PZT)、(Pb、La)(Zr、Ti)O3(PLZT)、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0060】
前記無機粒子は大きさに特別な制限はないが、例えば、平均粒径が0.001μm~30μmであってもよく、より好ましくは0.01μm~10μmであってもよい。無機粒子の平均粒径が前記好ましい範囲未満の場合には、分散性が低くなり、前記好ましい範囲超過の場合には、コーティングされた後、コーティング層の厚さが厚くなって機械的物性が低下しうる。
【0061】
また、前記無機粒子は形状に特別な制限がなく、例えば、球状または楕円形であるか、不定形であってもよい。
【0062】
本願のさらに他の態様による分離膜は、前記スラリー組成物を含むことができる。
【0063】
前記分離膜の熱収縮率は、MD(Machine Direction、長手方向)およびTD(Transverse Direction、幅方向)方向ともに5%以下であってもよい。
前記スラリー組成物を多孔性基材フィルムの少なくとも一面にコーティングするか、前記スラリー組成物をフィルム状に製造して多孔性基材フィルムに貼り合わせて分離膜を製造することができる。
【0064】
一方、前記分離膜は、二次電池用分離膜として使用可能であり、例えば、リチウム二次電池用分離膜として使用可能である。
【0065】
分離膜製造の一例として、(a)前記共重合体を溶媒に溶解させて高分子溶液を製造するステップと、(b)無機物粒子を前記ステップa)の高分子溶液に添加および混合するステップと、(c)ポリオレフィン系分離膜基材の表面および基材中の気孔部の一部からなる群より選択された1種以上の領域を前記ステップb)の混合物でコーティングおよび乾燥するステップとを含むことができる。
【0066】
まず、1)前記共重合体を適切な有機溶媒に溶解させて高分子溶液を製造する。
【0067】
溶媒としては、バインダーとして使用された前記共重合体と溶解度指数が類似しており、沸点(boiling point)が低いことが好ましい。これは均一な混合と後の溶媒除去を容易にするためである。使用可能な溶媒の非制限的な例としては、アセトン(acetone)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)、メチレンクロライド(methylene chloride)、クロロホルム(chloroform)、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide)、N-メチル-2-ピロリドン(N-methyl-2-pyrrolidone、NMP)、シクロヘキサン(cyclohexane)、水、またはこれらの混合体などがある。
【0068】
2)製造された高分子溶液に無機物粒子を添加および分散させて無機物粒子および高分子混合物を製造する。
【0069】
高分子溶液に無機物粒子を添加した後、無機物粒子の分散工程を実施することが好ましい。この時、分散時間は1~20時間が適切である。分散方法としては、通常の方法を使用することができ、特にボールミル(ball mill)法が好ましい。
【0070】
無機物粒子および高分子で構成される混合物の組成は大きく制約がないが、これによって最終製造される本発明の有機・無機複合多孔性分離膜の厚さ、気孔サイズおよび気孔度を調節することができる。
【0071】
すなわち、高分子(P)に対する無機物粒子(I)の比(ratio=I/P)が増加するほど分離膜の気孔度が増加し、これは同一の固形分含有量(無機物粒子の重量+高分子の重量)で分離膜の厚さが増加する結果をもたらす。また、無機物粒子間の気孔形成の可能性が増加して気孔サイズが増加するが、この時、無機物粒子の大きさ(粒径)が大きくなるほど無機物間の間隔(interstitial distance)が大きくなるので、気孔サイズが増加する。
【0072】
3)製造された無機物粒子および高分子の混合物を準備されたポリオレフィン系分離膜基材上にコーティングし、その後に乾燥することにより、本発明の分離膜を得ることができる。
【0073】
この時、無機物粒子および高分子の混合物をポリオレフィン系分離膜基材上にコーティングする方法は、当業界で知られた通常のコーティング方法を使用することができ、例えば、ディップ(Dip)コーティング、ダイ(Die)コーティング、ロール(roll)コーティング、コンマ(comma)コーティング、またはこれらの混合方式など多様な方式を利用することができる。また、無機物粒子および高分子の混合物をポリオレフィン系分離膜基材上にコーティングする時、前記分離膜基材の両面ともに実施することができ、または片面にのみ選択的に実施することができる。
【0074】
前記分離膜が二次電池に使用される場合、分離膜基材のみならず、多孔性形態の活性層を介してリチウムイオンが伝達できるだけでなく、外部衝撃によって内部短絡が発生する場合には、前述した安全性向上効果を示すことができる。
【0075】
また、前記二次電池は、正極と、負極と、前記正極と負極との間に介在した前記分離膜および電解液とを含むことができる。
【0076】
前記二次電池は、当業界で知られた通常の方法によって製造することができ、その一実施例を挙げると、前記電極と分離膜を介在して組み立て、その後、組立体に電解液を注入して製造する。
【0077】
前記分離膜とともに適用される電極としては大きく制限がないが、正極活物質は、二次電池の正極に用いられる通常の正極活物質が使用可能であり、その非制限的な例としては、リチウムマンガン酸化物(lithiated magnesium oxide)、リチウムコバルト酸化物(lithiated cobalt oxide)、リチウムニッケル酸化物(lithiated nickel oxide)、またはこれらの組み合わせによって形成される複合酸化物などのようなリチウム吸着物質(lithium intercalation material)などがある。また、負極活物質は、従来の電気化学素子の負極に用いられる通常の負極活物質が使用可能であり、これらの非制限的な例としては、リチウム金属、またはリチウム合金とカーボン(carbon)、石油コークス(petroleum coke)、活性化カーボン(activated carbon)、グラファイト(graphite)またはその他のカーボン類などのようなリチウム吸着物質などがある。前述した両電極活物質をそれぞれ正極電流集電体、すなわちアルミニウム、ニッケル、またはこれらの組み合わせによって製造される箔(foil)、および負極電流集電体、すなわち銅、金、ニッケルあるいは銅合金、あるいはこれらの組み合わせによって製造される箔に結着させた形態で両電極を構成する。
【0078】
前記電解液は、A+B-のような構造の塩であって、A+は、Li+、Na+、K+のようなアルカリ金属陽イオンやこれらの組み合わせからなるイオンを含み、B-は、PF6 -、BF4 -、Cl-、Br-、I-、ClO4 -、AsF6 -、CH3CO2 -、CF3SO3 -、N(CF3SO22 -、C(CF2SO23 -のような陰イオンやこれらの組み合わせからなるイオンを含む塩が、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate、DEC)、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate、DMC)、ジプロピルカーボネート(dipropyl carbonate、DPC)、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)、アセトニトリル(acetonitrile)、ジメトキシエタン(dimethoxyethane)、ジエトキシエタン(diethoxyethane)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)、N-メチル-2-ピロリドン(N-methyl-2-pyrrolidone、NMP)、エチルメチルカーボネート(ethyl methyl carbonate、EMC)、ガンマブチロラクトン(GBL)、またはこれらの混合物からなる有機溶媒に溶解および解離したものが好ましい。
【0079】
前記分離膜を電池に適用する工程としては、一般的な工程である巻取(winding)以外にも、分離膜と電極との積層(lamination)および折り畳み(folding)工程が可能である。
【実施例
【0080】
以下、実施例を用いて本願をより具体的に説明するが、本願がこれに制限されるものではない。
【0081】
[製造例1]共重合体の製造
反応容器に、蒸留水200重量部と、単量体混合物(ビニルアセテート単量体および(メタ)アクリレート系単量体)100重量部に対して乳化剤0.1~3重量部とを入れて撹拌し、高純度窒素気体を注入させながら60℃に昇温させる。60℃で準備された反応容器に、分解型開始剤の過硫酸カリウムを単量体混合物100重量部に対して0.1重量部と単量体混合物をそれぞれ添加して、連続的な乳化重合反応を進行させてビニルアセテートと(メタ)アクリレート系共重合体を製造した。
【0082】
乳化重合で製造された共重合体は、2~5倍数の重量のアルコール溶媒で60℃に加熱して膨張または溶解させる。金属水酸化物(NaOH、LiOH、KOH)水溶液を添加して加水分解させることにより共重合体を合成した。
【0083】
共重合体にアミン系有機化合物を添加して反応させて、バインダー用共重合体を製造した。
【0084】
[製造例2]多孔膜コーティング用スラリーの製造
無機粒子(アルミナ、平均粒径0.5μm)と、製造例1によって製造されたバインダー用共重合体とを96:4(固形分重量比)の比となるように混合した後、蒸留水を固形分濃度が35%となるように追加して混合する。この混合物をボールミル法またはメカニカル撹拌機により十分に分散して多孔膜コーティング用スラリーを製造する。
【0085】
[製造例3]分離膜の製造
ポリオレフィン多孔性基材(ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)など)に、製造例2によって製造された多孔膜コーティング用スラリーを塗布して無機物コーティング層を形成する。コーティング方法としては、ディップ(dip)コーティング、ダイ(die)コーティング、グラビア(gravure)コーティング、コンマ(comma)コーティングなど多様な方式を利用することができる。
【0086】
また、コーティング後、温風、熱風、真空乾燥、赤外線乾燥などの方法で乾燥させ、乾燥温度範囲は60~85℃であった。
【0087】
前記無機物コーティング層の厚さは単面あるいは両面に1~6μmであり、厚さが1μm未満の場合には、分離膜の耐熱性が著しく減少する問題があり、厚さが6μm超過の場合には、分離膜の厚さが過度に厚くて電池のエネルギー密度を減少させ、抵抗を増加させることができた。
【0088】
[実施例1~5および比較例1~7]
実施例1~5のバインダー共重合体は、下記表1に示すように、単量体の組成比、加水分解の程度およびアミン系有機化合物の含有量を調節して、製造例1によって製造された。
【0089】
使用された単量体はビニルアセテート(vinyl acetate、VC)とメチルメタクリレート(methylmethacrylate、MMA)であり、使用されたアミン系有機化合物はトリエタノールアミン(triethanol amine、TA)であった。
【0090】
実施例1~5および比較例1~7によって製造されたバインダー共重合体を用いて、製造例2および製造例3によってそれぞれ多孔膜コーティング用スラリーおよび分離膜を製造した。
【0091】
ただし、比較例3および4の場合、それぞれ共重合体ではないポリ(ビニルアセテート)およびポリ(メチルメタクリレート)を使用した。
【0092】
【表1】
【0093】
[評価例1]多孔膜コーティング用スラリーの無機物の粒径
前記実施例1~5および比較例1~7のバインダー用共重合体を用いて、製造例2によって製造された多孔膜コーティング用スラリー0.05gの蒸留水30gに追加して希釈した。希釈した前処理サンプルは粒度測定器に約3ml注入して、動的光散乱法を用いて粒度を分析した。
【0094】
[評価例2]多孔膜コーティング用スラリーの接着力
前記実施例1~5および比較例1~7のバインダー用共重合体を用いて、製造例3によって製造された分離膜を幅18mm、長さ100mmの大きさに裁断した。
【0095】
幅40mm、長さ100mmの面積のアクリルプレート(acryl plate)に幅20mm、長さ40mmの面積の両面テープを貼り付けた。準備された分離膜を両面テープ上に貼り付けた後、ハンドローラ(hand roller)で軽く5回押した。前記作った試験片をUTM(20kgf Load cell)に装着して分離膜の一方の部分を引張強度試験機の上側クリップに、分離膜の一面に貼り付いたテープを下側クリップに固定させ、100mm/minの速度で180゜剥離強度を測定した。サンプルあたり試験片を5個以上作製して測定し、その平均値を計算した。
【0096】
[評価例3]分離膜の熱収縮率
前記実施例1~5および比較例1~7のバインダー用共重合体を用いて、製造例3によって製造された分離膜を横、縦の大きさが5×5cmの試料として準備し、前記試料を150℃のオーブンに1時間放置した後、収縮率を測定した。
【0097】
前記評価例1~3によって測定されたバインダー用共重合体、多孔膜コーティング用スラリーおよび分離膜の測定結果を、下記表2に示した。
【0098】
【表2】
【0099】
まず、スラリー組成物中の無機粒子の平均粒度の測定結果から、実施例1および2のVAとMMAの重量比の範囲(VA:MMA=1.5:1~3:1)を外れ、残りの条件は同一である比較例1~比較例4は、実施例1および2に比べてスラリー組成物中の無機粒子の平均粒度が大きくなって分散安定性が低下することを確認することができた。
【0100】
特に、比較例2~4は、MD方向およびTD方向のいずれか1つ以上の熱収縮率が5%超過で、耐熱性が低下することを確認することができた。
【0101】
また、実施例1、3および4に比べて加水分解率が低い比較例5の場合、スラリー組成物中の無機粒子の平均粒度が大きくなって分散安定性が低下することを確認することができた。
【0102】
特に、比較例5は、MD方向およびTD方向の熱収縮率がすべて5%超過で、分離膜の耐熱性が低下することを確認することができた。
【0103】
すなわち、VAとMMAの重量比および加水分解率がスラリー組成物の分散安定性および分離膜の耐熱性に影響を及ぼすことを確認することができた。
【0104】
一方、TAの含有量のみ異なる実施例1、5および比較例6、7を対比すれば、TAを含まない比較例6は、実施例1、5に比べてスラリー組成物中の無機粒子の平均粒度が大きくなって分散安定性が低下することを確認することができた。
【0105】
実施例1、5に比べてTAの含有量が高い比較例7は、スラリー組成物中の無機粒子の平均粒度が小さくなって分散安定性が向上することを確認することができたが、熱収縮率の面において分離膜のTD方向の熱収縮率が5.5%と大きくなって分離膜の耐熱性が低下することを確認することができた。
【0106】
すなわち、TAの含有量がスラリー組成物の分散安定性および分離膜の耐熱性に影響を及ぼすことを確認することができた。
【0107】
結果として、実施例に相当する共重合体は、スラリー組成物の分散安定性を向上させ、実施例の共重合体が用いられたスラリー組成物および分離膜は、比較例の共重合体が用いられたスラリー組成物および分離膜に比べて均衡の取れた接着力および耐熱性を有していることを確認することができた。
【0108】
本発明の範囲は上記の詳細な説明よりは後述の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味および範囲、そしてその均等概念から導出されるすべての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれると解釈されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の共重合体は、スラリー組成物の分散安定性を向上させ、分離膜基材であるポリオレフィンフィルムとの接着力を高め、分離膜の耐熱性を改善させることができる。
【国際調査報告】