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特表2024-532810免疫不寛容を軽減し、自己免疫障害を治療するための組成物及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-10
(54)【発明の名称】免疫不寛容を軽減し、自己免疫障害を治療するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 271/22 20060101AFI20240903BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20240903BHJP
   A61K 31/27 20060101ALI20240903BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20240903BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240903BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240903BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240903BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240903BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240903BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240903BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240903BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240903BHJP
   C07C 233/47 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C07C271/22 CSP
A61K31/198
A61K31/27
A61K9/127
A61K47/24
A61K39/00 A
A61K48/00
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61K45/00
A61P37/06
A61K31/7088
A61K35/76
C07C233/47
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508786
(86)(22)【出願日】2022-08-12
(85)【翻訳文提出日】2024-03-07
(86)【国際出願番号】 US2022074903
(87)【国際公開番号】W WO2023019242
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】63/233,163
(32)【優先日】2021-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524055469
【氏名又は名称】ラピックス セラピューティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ファタラー, アナス エム.
(72)【発明者】
【氏名】ラーセン, スコット ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ラマダン, アブドゥルラウフ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
4C087
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076BB01
4C076CC07
4C076DD63
4C076FF31
4C076FF68
4C084AA13
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA52
4C084NA05
4C084ZB081
4C084ZC751
4C085AA02
4C085CC22
4C085EE03
4C085GG08
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA52
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB08
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087MA02
4C087MA52
4C087NA05
4C087ZB08
4C087ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206GA03
4C206GA30
4C206HA22
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA05
4C206MA72
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZB08
4C206ZC75
4H006BS10
4H006BU32
4H006BV22
4H006RA06
4H006RA48
(57)【要約】
本明細書において、対象における免疫不寛容を軽減し、例えば、自己免疫障害を治療し、または抗原療法、例えば、タンパク質療法もしくは遺伝子治療と組み合わせて、抗原療法の有効性を改善するために使用することができる、化合物及びその薬学的に許容される塩、そのような化合物またはその薬学的に許容される塩を含む脂質粒子、ならびに前述の組成物を提供する。この化合物は、以下の構造式を有し:
式中、変数(例えば、X、R)の値は、本明細書に記載のとおりである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造式の化合物:
【化8】
またはその薬学的に許容される塩であって、式中、
Xが、-N(R)C(O)-または-N(R)C(O)O-であり、式中、が、RへのXの結合点を示し、
Rが、1つ以上のフルオロで任意置換された(C-C30)アルキルまたは(C-C30)アルケニルであり、
が、Hまたは(C-C)アルキルであり、
ただし、前記化合物が、(S)-2-アミノ-3-((2E,4E)-ヘキサ-2,4-ジアミド)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-ヘキサンアミドプロパン酸、(S)-2-アミノ-3-ヘプタンアミドプロパン酸、(S)-2-アミノ-3-オクタンアミドプロパン酸、もしくは(S)-2-アミノ-3-パルミタミドプロパン酸、または前述のいずれかの塩ではない、前記化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
式中、Xが-N(R)C(O)-である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式中、Xが-N(R)C(O)O-である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
式中、Rが、1つ以上のフルオロで任意置換された(C-C30)アルキルである、請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
式中、Rが、1つ以上のフルオロで任意置換された(C15-C20)アルキルまたは(C15-C20)アルケニルである、請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
式中、RがHである、請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
以下の構造式の請求項1に記載の化合物:
【化9】
またはその薬学的に許容される塩。
【請求項8】
以下の構造式の請求項1に記載の化合物:
【化10】
またはその薬学的に許容される塩。
【請求項9】
1つ以上の脂質、またはその薬学的に許容される塩、及び(i)請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物、もしくはその薬学的に許容される塩、または(ii)以下の構造式の化合物:
【化11】
もしくはその薬学的に許容される塩を含む脂質粒子であって、式中、
Xが、-N(R)C(O)-、-N(R)C(O)O-、-N(R)C(O)N(R)-、-N(R)-、-N(R)SO-、-O-、-S-、-S(O)-、-S(O)-、または-OP(O)O-であり、
Rが、1つ以上のフルオロで任意置換された(C-C30)アルキルまたは(C-C30)アルケニルであり、
が、Hまたは(C-C)アルキルであり、
が、Hまたは(C-C)アルキルである、前記脂質粒子。
【請求項10】
リポソームの形態である、請求項9に記載の脂質粒子。
【請求項11】
前記1つ以上の脂質が、リン脂質、またはその薬学的に許容される塩を含む、請求項9または10に記載の脂質粒子。
【請求項12】
前記リン脂質が、飽和リン脂質、またはその薬学的に許容される塩である、請求項11に記載の脂質粒子。
【請求項13】
前記リン脂質が、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)または1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン18:0(DSPC)である、請求項12に記載の脂質粒子。
【請求項14】
前記脂質粒子中の前記構造式Iの化合物、またはその薬学的に許容される塩のモル百分率が約1%~約50%である、請求項9~13のいずれか1項に記載の脂質粒子。
【請求項15】
前記脂質粒子中の前記1種以上の脂質、またはその薬学的に許容される塩のモル百分率が約50%~約99%である、請求項9~14のいずれか1項に記載の脂質粒子。
【請求項16】
抗原をさらに含む、請求項9~15のいずれか1項に記載の脂質粒子。
【請求項17】
前記抗原が、前記脂質粒子内に封入される、請求項16に記載の脂質粒子。
【請求項18】
請求項16または17に記載の複数の脂質粒子を含む組成物。
【請求項19】
請求項9~15のいずれか1項に記載の複数の脂質粒子を含む組成物。
【請求項20】
抗原をさらに含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項18~20のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項22】
抗原に対する免疫寛容化を必要とする対象の免疫寛容化方法であって、前記対象に、
(i)前記抗原、もしくはその免疫原性断片、及び治療有効量の請求項19もしくは21に記載の組成物、または
(ii)治療有効量の請求項18、20、もしくは21に記載の組成物を投与することを含み、
前記組成物中の前記抗原が、それに対して前記対象が免疫寛容化されようとしている前記抗原であるか、もしくはそれに対して前記対象が免疫寛容化されようとしている前記抗原の免疫原性断片である、前記免疫寛容化方法。
【請求項23】
治療有効量の請求項18~21のいずれか1項に記載の組成物を対象に投与することを含む、前記対象における制御性T細胞集団の誘導方法。
【請求項24】
抗原に応答した対象における制御性T細胞集団の誘導方法であって、前記対象に治療有効量の請求項18、20、または21に記載の組成物を投与することを含み、前記組成物中の前記抗原が、それに応答して前記制御性T細胞集団が誘導されようとしている前記抗原、またはそれに応答して前記制御性T細胞集団が誘導されようとしている前記抗原の免疫原性断片である、前記誘導方法。
【請求項25】
対象における抗原特異的抗体力価の阻害方法または低減方法であって、前記対象に、
(i)前記抗原、及び治療有効量の請求項19もしくは21に記載の組成物、または
(ii)治療有効量の請求項18、20、もしくは21に記載の組成物を投与することを含み、
前記組成物中の前記抗原が、それに対する前記抗体力価が阻害もしくは低減されようとしている前記抗原であるか、またはそれに対する前記抗体力価が阻害もしくは低減されようとしている前記抗原の免疫原性断片である、前記阻害方法または低減方法。
【請求項26】
治療有効量の請求項18~21のいずれか1項に記載の組成物を対象に投与することを含む、前記対象における寛容原性T細胞の活性またはレベルの増加方法。
【請求項27】
治療有効量の請求項18~21のいずれか1項に記載の組成物を対象に投与することを含む、前記対象における制御性B細胞集団の誘導方法。
【請求項28】
前記抗原、または前記その免疫原性断片、及び前記組成物を共投与する、請求項22、24、または25に記載の方法。
【請求項29】
前記抗原が外来抗原である、請求項16もしくは17に記載の脂質粒子、請求項18、20、もしくは21に記載の組成物、または請求項22、24、25、及び28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記外来抗原が抗原療法である、請求項29に記載の脂質粒子、組成物、または方法。
【請求項31】
前記外来抗原が治療用タンパク質である、請求項29または30に記載の脂質粒子、組成物、または方法。
【請求項32】
前記外来抗原が酵素補充療法である、請求項29~31のいずれか1項に記載の脂質粒子、組成物、または方法。
【請求項33】
前記外来抗原が遺伝子治療である、請求項29または30に記載の脂質粒子、組成物、または方法。
【請求項34】
治療を必要とする対象における、抗原療法による疾患、障害、または病態の治療方法であって、前記対象に、
(i)治療有効量の前記抗原療法、及び前記抗原療法に対して前記対象を免疫寛容化するのに十分な量の、請求項19もしくは21に記載の組成物、または
(ii)治療有効量の請求項18、20もしくは21に記載の組成物を投与することを含み、
前記組成物中の前記抗原が前記抗原療法である、前記治療方法。
【請求項35】
前記抗原療法と前記組成物を同時投与する、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記組成物の非存在下で、前記対象に治療有効量の前記抗原療法を投与することをさらに含む、請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
前記抗原療法が酵素補充療法である、請求項34~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記抗原療法が遺伝子治療である、請求項34~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記遺伝子治療が、DNA、RNA、またはDNA及びRNA、ならびにウイルスベクターを含む、請求項33に記載の脂質粒子、組成物、もしくは方法、または請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)である、請求項39に記載の脂質粒子、組成物、または方法。
【請求項41】
前記AAVがAAV9である、請求項40に記載の脂質粒子、組成物、または方法。
【請求項42】
治療を必要とする対象における自己免疫障害の治療方法であって、前記対象に、
(i)治療有効量の請求項19もしくは21に記載の組成物、または
(ii)治療有効量の請求項18、20、もしくは21に記載の組成物を投与することを含み、
前記組成物中の前記抗原が、前記自己免疫障害に関連する自己抗原、またはその免疫原性断片である、前記治療方法。
【請求項43】
前記対象に、さらなる治療剤を投与することをさらに含む、請求項22~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記組成物を経口投与する、請求項22~43のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年8月13日に提出された米国仮出願第63/233,163号の利益を主張する。本出願の教示全体は、参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
酵素及びタンパク質の補充療法は、内在性タンパク質が変異しているか、欠損しているか、または異常である先天性障害を治療するための成功した治療戦略である。しかしながら、外来の酵素またはタンパク質の臨床投与は、その酵素またはタンパク質に対する望ましくない免疫応答の発生と関連している。望ましくない免疫応答は、酵素/タンパク質の中和、またはその薬物動態の変化を引き起こし得る。多くの状況において患者には代替治療の選択肢がなく、治療に対する望ましくない免疫応答は、酵素及びタンパク質補充療法を受けるレシピエントが直面する主要な課題となっている。
【0003】
同様に、遺伝子治療は、多くの先天性障害及び他の疾患を治療するための有望なアプローチを提供する。担体及び/またはその中に担持される遺伝物質の免疫原性は、遺伝子治療の臨床応用にとって主要な課題である。抗担体抗体の存在は、いくつかの承認された遺伝子治療による治療に対する禁忌となる。さらに、新生の抗担体抗体が、遺伝子治療の初回投与を受ける対象において、反復投与を妨げ得る。
【0004】
自己免疫障害は、身体が自己抗原に対する寛容性を欠いているか、または失っている一連の障害である。その結果、身体の免疫系が健康な細胞を攻撃し、衰弱させ、壊滅的な影響を及ぼし得る。自己免疫障害を治療する現在のアプローチは、体液性、細胞性及び/または補体レベルでの一般的な免疫抑制に依存しており、免疫抑制によって患者は免疫不全となり、日和見感染症にかかりやすくなる。
【0005】
したがって、例えば、酵素及びタンパク質補充療法及び/または遺伝子治療の免疫原性を緩和すること、または自己抗原に対する自己寛容を増加させることによって、外来性抗原(例えば、酵素補充療法、遺伝子治療)または内在性抗原(例えば、自己免疫障害を引き起こす自己抗原)に対する免疫不寛容を軽減することできる組成物が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に記載される技術は、外来性抗原(例えば、抗原特異的及び/または抗原排他的寛容性導入)または自己抗原に対する寛容性導入に関する。この技術は、受容体のT細胞免疫グロブリンムチンタンパク質(TIM)ファミリーに関与し、調節する(例えば、活性化する)ことに基づく。
【0007】
本明細書において、以下の構造式の化合物:
【化1】
またはその薬学的に許容される塩を提供し、式中、変数(例えば、R、X)の値は、本明細書に記載のとおりである。
【0008】
また、本明細書において、1つ以上の脂質、またはその薬学的に許容される塩、及び本開示の化合物を含む脂質粒子も提供する。
【0009】
また、本明細書において、本開示の化合物を含む組成物(例えば、医薬組成物)も提供する。
【0010】
また、本明細書において、本明細書に記載の複数の脂質粒子を含む組成物(例えば、医薬組成物)も提供する。
【0011】
また、本明細書において、免疫寛容化を必要とする対象を免疫寛容化する方法も提供する。この方法は、治療有効量の本明細書に記載の組成物を対象に投与することを含む。
【0012】
また、本明細書において、免疫寛容化を必要とする対象を抗原に対して免疫寛容化し、対象における抗原特異的抗体の力価を阻害または低下させる方法も提供する。この方法は、抗原及び治療有効量の本明細書に記載の組成物を対象に投与すること、または抗原もしくは抗原の免疫原性断片を含む本明細書に記載の組成物を対象に投与することを含む。
【0013】
また、本明細書において、対象において制御性T細胞の集団を誘導し(例えば、抗原に応答して)、対象において寛容原性T細胞の活性またはレベルを増加させる方法も提供する。この方法は、治療有効量の本明細書に記載の組成物(例えば、抗原もしくは抗原の免疫原性断片を含む本明細書に記載の組成物)を対象に投与することを含む。
【0014】
また、本明細書において、対象において制御性B細胞の集団を誘導する(例えば、抗原に応答して)方法も提供する。この方法は、治療有効量の本明細書に記載の組成物(例えば、抗原もしくは抗原の免疫原性断片を含む本明細書に記載の組成物)を対象に投与することを含む。
【0015】
また、本明細書において、治療有効量の本明細書に記載の組成物(例えば、自己免疫障害に関連する自己抗原を含む本明細書に記載の組成物)を対象に投与することを含む、治療を必要とする対象における自己免疫障害の治療方法を提供する。
【0016】
また、本明細書において、抗原療法(例えば、治療有効量の抗原療法)及び抗原療法に対して対象を免疫寛容化するのに十分な量の本明細書に記載の組成物、または抗原療法を含む治療有効量の本明細書に記載の組成物を対象に投与することを含む、抗原療法による治療を必要とする対象における疾患、障害、または病態の治療方法を提供する。
【0017】
また、本明細書において、本明細書に記載の使用(例えば、自己免疫障害の治療、抗原療法で治療可能な疾患、障害、または病態の治療)のための組成物(例えば、医薬組成物)を提供し、組成物は、本明細書に記載される組成物である。また、本明細書において、本明細書に記載の使用(例えば、自己免疫障害の治療、抗原療法で治療可能な疾患、障害、または病態の治療)のための医薬の製造のための、本明細書に記載の組成物の使用を提供する。
【0018】
本特許または出願書類は、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面を含む本特許または特許出願公開の複写は、要請かつ必要な料金の支払により特許庁より提供される。
【0019】
上記のことは、以下の例示的な実施形態のより具体的な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例2に記載の活性成分の決定木を示す。
【0021】
図2A】リンパ節内のB細胞クラスタリングの代表画像を示す。矢印は、リンパ節の皮質を示す。
【0022】
図2B】経口胃管栄養から60分後のDilC18(5)リンパ管取り込み及びB細胞共局在を示す。
【0023】
図2C】経口胃管栄養から60分後のDMPCリンパ管取り込み及びB細胞共局在を示す。
【0024】
図2D】経口胃管栄養から60分後のDOPCリンパ管取り込み及びB細胞共局在を示す。
【0025】
図2E】経口胃管栄養から60分後のDSPCリンパ管取り込み及びB細胞共局在を示す。
【0026】
図2F】経口胃管栄養から60分後のPOPCリンパ管取り込み及びB細胞共局在を示す。
【0027】
図2G】脂質型によるB細胞/リポソーム共局在の割合を示す。
【0028】
図2H】リンパ節内のT細胞クラスタリングの代表画像を示す。
【0029】
図2I】経口胃管栄養から60分後のDilC18(5)リンパ管取り込み及びT細胞共局在を示す。
【0030】
図2J】経口胃管栄養から60分後のDMPCリンパ管取り込み及びT細胞共局在を示す。
【0031】
図2K】経口胃管栄養から60分後のDOPCリンパ管取り込み及びT細胞共局在を示す。
【0032】
図2L】経口胃管栄養から60分後のDSPCリンパ管取り込み及びT細胞共局在を示す。
【0033】
図2M】経口胃管栄養から60分後のPOPCリンパ管取り込み及びT細胞共局在を示す。
【0034】
図2N】脂質型によるT細胞/リポソーム共局在の割合を示す。
【0035】
図3】化合物1または化合物2に応答したFoxP3/TIM3CD4 T細胞の割合の変化を示す。
【0036】
図4A】マウスにおける、化合物2の薬力学(PD)効果を評価する概略図である。
【0037】
図4B】用量-PDモデルフィッティング及びモデル予測された用量-PDの平均周囲の関連する信頼区間を含む、in vivoでの化合物2の用量とPDとの関係性を示す。ED50及びED90の値を示す。
【0038】
図5A】EAE多発性硬化症(MS)モデルにおけるリポソーム化合物2の治療的使用を決定するための試験の概略図である。
【0039】
図5B】EAE MSモデルにおける疾患発症までの時間を示す。
【0040】
図5C】予防的EAE MSモデルにおける処置群及び対照群の臨床スコアを示す。
【0041】
図5D】治療的EAE MSモデルにおける処置群及び対照群の臨床スコアを示す。
【0042】
図5E】EAE MSモデルにおける処置群及び対照群の全生存期間を示す。
【0043】
図6】DMPC:GL67:化合物2(85:5:10)リポソームに封入されたAAV9-CMVChryの代表的な透過電子顕微鏡画像を示し、図中、赤色の矢印及び円形は、封入されたAAV9-CMVChryを示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
例示的な実施形態について以下に記載する。
【0045】
定義
【0046】
本明細書に記載の化合物は、一般的に記載される化合物を含み、本明細書に開示されるクラス、サブクラス、及び種によってさらに例示される。本明細書中で使用される場合、特に明記しない限り、以下の定義を適用するものとする。本発明の目的のために、化学元素は、元素周期表、CASバージョン、Handbook of Chemistry and Physics,75th Edに従って識別される。さらに、有機化学の一般原理は、“Organic Chemistry”,Thomas Sorrell,University Science Books,Sausalito:1999、及び“March’s Advanced Organic Chemistry”,5th Ed.,Ed.:Smith,M.B.and March,J.,John Wiley & Sons,New York:2001に記載されており、その関連する内容は、参照により本明細書に援用される。
【0047】
本明細書内で別段の指定がない限り、本明細書で使用される命名法は一般に、Nomenclature of Organic Chemistry,Sections A,B,C,D,E,F,and H,Pergamon Press,Oxford,1979に記載されている実施例及び規則に従い、その化学構造名及び化学構造の命名規則は、参照により本明細書に援用される。任意選択で、化合物の名称は、化学命名プログラム(例えば、CHEMDRAW(登録商標)、バージョン17.0.0.206、PerkinElmer Informatics,Inc.)を使用して生成してもよい。
【0048】
本明細書で開示される要素を導入する場合、冠詞「a」、「an」、「the」、及び「前記」は、1つ以上の要素が存在することを意味することを意図している。さらに、1つ以上の要素は、同じであっても異なっていてもよい。
【0049】
「約」とは、当業者によって決定される、特定の値の許容誤差範囲内を意味する。通常、特定の値の許容誤差範囲は、その値がどのように測定または決定されるか、例えば測定系の制限に少なくとも部分的に依存する。例えば、「約」は、当技術分野における慣例に従い、許容可能な標準偏差を意味し得る。あるいは、「約」は、所与の値の±20%、例えば、±10%、±5%、または±1%の範囲を意味し得る。用語「約」は、例示で使用される特定の値を除き、本明細書で特定される任意の特定の値の前に置かれ得ることが理解されるべきである。
【0050】
「アルキル」とは、特定の数の炭素原子を有する分枝鎖または直鎖の一価の炭化水素ラジカルを指す。したがって、「(C-C)アルキル」とは、分岐鎖または直鎖状の配置で1~8個の炭素原子を有するラジカルを指す。いくつかの態様では、アルキルは、(C-C30)アルキル、例えば、(C-C30)アルキル、(C-C25)アルキル、(C-C25)アルキル、(C10-C25)アルキル、(C15-C25)アルキル、(C10-C20)アルキル、(C15-C20)アルキル、(C-C15)アルキル、(C-C10)アルキル、(C-C)アルキル、または(C-C)アルキルである。アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、2-メチルペンチル、n-ヘキシルなどが挙げられる。いくつかの態様では、アルキルは、任意選択で、例えば、本明細書に記載される1つ以上の置換基で置換される。
【0051】
「アルケニル」とは、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合及び特定の数の炭素原子を有する分枝鎖または直鎖の一価の炭化水素ラジカルを指す。したがって、「(C-C)アルケニル」とは、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合及び分岐鎖または直鎖状の配置で2~8個の炭素原子を有するラジカルを指す。いくつかの態様では、アルケニルは、(C-C30)アルケニル、例えば、(C-C30)アルケニル、(C-C25)アルケニル、(C-C25)アルケニル、(C10-C25)アルケニル、(C15-C25)アルケニル、(C10-C20)アルケニル、(C15-C20)アルケニル、(C-C15)アルケニル、(C-C10)アルケニル、(C-C)アルケニル、または(C-C)アルケニルである。アルケニル基の例としては、エテニル、2-プロペニル、1-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、アリル、1,3-ブタジエニル、1,3-ジペンテニル、1,4-ジペンテニル、1-ヘキセニル、1,3-ヘキセニル、1,4-ヘキセニル、1,3,5-トリヘキセニル、2,4-ジヘキセニルなどが挙げられる。いくつかの態様では、アルケニルは、任意選択で、例えば、本明細書に記載される1つ以上の置換基で置換される。
【0052】
「アリール」とは、特定の数の環原子を有し、縮合環の1つが芳香族炭化水素である限り、非芳香族環に縮合した芳香族環を含む、単環または多環(例えば、二環、三環)の芳香族炭化水素環系を指す。したがって、「(C-C15)アリール」とは、6~15個の環原子を有する環系を指す。アリールの例としては、フェニル、ナフチル、及びフルオレニルが挙げられる。いくつかの態様では、アリールは、任意選択で、例えば、本明細書に記載される1つ以上の置換基で置換される。
【0053】
「ヘテロアリール」とは、特定の数の環原子を有する単環式または多環式(例えば、二環式、三環式)の芳香族炭化水素環系を指し、その場合、環系内の少なくとも1個の炭素原子は、窒素、硫黄、及び酸素から選択されるヘテロ原子で置換される。したがって、「(C-C15)ヘテロアリール」とは、炭素、窒素、硫黄、及び酸素からなる5~15個の環原子を有する複素芳香環系を指す。「ヘテロアリール」は、縮合環の一つが複素芳香族炭化水素である限り、非芳香族環に縮合した複素芳香族環を含む。ヘテロアリールは、独立して、窒素、硫黄、及び酸素から選択される1、2、3、または4個(例えば、1、2、または3個)のヘテロ原子を含み得る。通常、ヘテロアリールは、(C-C20)ヘテロアリール、例えば、(C-C15)ヘテロアリール、(C-C12)ヘテロアリール、Cヘテロアリール、またはCヘテロアリールである。単環式ヘテロアリールとしては、フラン、オキサゾール、チオフェン、トリアゾール、トリアゼン、チアジアゾール、オキサジアゾール、イミダゾール、イソチアゾール、イソキサゾール、ピラゾール、ピリダジン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピロール、テトラゾール、及びチアゾールが挙げられるが、これらに限定されない。二環式ヘテロアリールとしては、インドリジン、インドール、イソインドール、インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾフラン、ベンゾチアゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、ナフチリジン、及びプテリジンが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの態様では、ヘテロアリールは、任意選択で、例えば、本明細書に記載される1つ以上の置換基で置換される。
【0054】
「アルコキシ」とは、酸素結合原子を介して結合したアルキルラジカルを指し、アルキルは、本明細書に記載されているとおりである。アルコキシの例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
「ハロゲン」及び「ハロ」は、本明細書では同じ意味で使用され、それぞれ、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素を指す。いくつかの態様では、ハロは、フルオロ、クロロ、またはブロモである。いくつかの態様では、ハロはフルオロである。
【0056】
「ハロアルキル」には、モノ、ポリ、及びパーハロアルキル基が含まれ、各ハロゲンは、独立して、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素(例えば、フッ素、塩素、及び臭素)から選択され、アルキルは、本明細書に記載のとおりである。一態様では、ハロアルキルは、パーハロアルキル(例えば、パーフルオロアルキル)である。ハロアルキルの例としては、トリフルオロメチル及びペンタフルオロエチルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
「ハロアルコキシ」とは、酸素結合原子を介して結合したハロアルキルラジカルを指し、ハロアルキルは、本明細書に記載されているとおりである。ハロアルコキシの例としては、トリフルオロメトキシが挙げられるが、これに限定されない。
【0058】
用語「置換された」とは、水素原子を好適な置換基で置換することを指す。通常、炭素原子に結合した水素原子を好適な置換基に置き換えるが、窒素、酸素、または硫黄原子などのヘテロ原子に結合した水素を置換基に置き換えてもよい。「置換」または「置換された」には、そのような置換が、置換された原子の許容される原子価に従うという暗黙の条件が含まれることが理解されるであろう。置換基及び置換により、例えば転位、環化、脱離などによる自発的変換を受けない安定な化合物が生じることも好ましい。本明細書での使用に好適な置換基には、有機化合物の非環式及び環式、分枝及び非分枝、炭素環式及び複素環式、芳香族及び非芳香族の置換基が含まれる。例えば、好適な置換基としては、ハロゲン、ヒドロキシル、カルボニル(カルボキシル、アルコキシカルボニル、ホルミル、もしくはアシルなど)、チオカルボニル(チオエステル、チオアセテート、もしくはチオホルメートなど)、アルキル、アルコキシ、アルキルチオ、アシルオキシ、ホスホリル、ホスフェート、ホスホネート、アミノ、アミド、アミジン、イミン、シアノ、ニトロ、アジド、スルフヒドリル、アルキルチオ、サルフェート、スルホネート、スルファモイル、スルホンアミド、スルホニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アラルキル、アリール、またはヘテロアリールが挙げられ得る。当業者であれば、適切な場合、置換基自体が置換され得ることを理解するであろう。したがって、置換基には、例えばアセトアミドがさらに含まれ得る。
【0059】
許容される置換基は、適切な有機化合物に対して1つ以上であってもよく、また同じまたは異なってもよい。したがって、「任意置換の」基は、いくつかの態様では、独立して、ハロ、(C-C)アルコキシ、(C-C)ハロアルコキシ、(C-C)アルキルもしくは(C-C)ハロアルキル、または任意置換の(C-C15)アリールもしくは(C-C15)ヘテロアリールから選択される0~5(例えば、0~3、0、1、2、3、4、5)個の置換基で置換される。いくつかの態様では、「任意置換の」アリールまたはヘテロアリールは、独立して、ハロ、(C-C)アルコキシ、(C-C)ハロアルコキシ、(C-C)アルキルまたは(C-C)ハロアルキルから選択される0~5(例えば、0~3、0、1、2、3、4、5)個の置換基で置換される。いくつかの態様では、「任意置換の」アリールまたはヘテロアリールは、独立して、ハロ、(C-C)アルコキシ、(C-C)ハロアルコキシ、(C-C)アルキルまたは(C-C)ハロアルキルから選択される0~5(例えば、0~3、0、1、2、3、4、5)個の置換基で置換される。いくつかの態様では、任意置換のアルキルまたはアルケニルは、独立して、ハロ(例えば、フルオロ)、(C-C)アルコキシ、(C-C)ハロアルコキシ(例えば、(C-C)フルオロアルコキシ)、(C-C15)アリールまたは(C-C15)ヘテロアリールから選択される0~5(例えば、0~3、0、1、2、3、4、5)個の置換基で置換される。
【0060】
本明細書で使用される場合、用語「任意置換の」とは、置換が任意選択であり、したがって、「任意置換の」と指定された原子または部分は、非置換または置換である可能性があることを意味する。いくつかの態様では、任意置換の基は非置換である。いくつかの態様では、任意置換の基は置換される。例えば、用語「置換された」または「任意置換の」によって別途示されない限り、本明細書で指定される基は非置換である。
【0061】
本明細書で使用される場合、用語「本開示の化合物」とは、本明細書に示される構造式のいずれかの化合物(例えば、構造式Iの化合物、例示的化合物)、ならびに立体異性体(ジアステレオ異性体、鏡像異性体、及びラセミ体を含む)及びその互変異性体、その同位体標識されたバリアント(重水素置換を有するものを含む)、ならびにそれらの本質的に形成された部分(例えば、多形体及び/または水和物などの溶媒和物)などの異性体を指す。塩を形成可能な部分が存在する場合、塩、特にその薬学的に許容される塩も同様に含まれる。
【0062】
本開示の化合物は、特に明記されていない限り、不斉中心、キラル軸、及びキラル面を有していてもよく(例えば、E.L.Eliel and S.H.Wilen,Stereo-chemistry of Carbon Compounds,John Wiley & Sons,New York,1994,pages 1119-1190に記載されているように)、すべての可能な異性体及びそれらの混合物と共に、ラセミ混合物、個々の異性体(例えば、ジアステレオマー、エナンチオマー、幾何異性体(シス及びトランス二重結合異性体を含む)、立体配座異性体(回転異性体及びアトロプ異性体を含む)、互変異性体)及び中間体の混合物として存在する。
【0063】
開示される化合物が立体化学を示さずに構造によって示されており、その化合物が1つ以上のキラル中心を有する場合、その構造には、対応する光学異性体(複数可)、化合物のラセミ混合物、及び1つのエナンチオマーまたはジアステレオマーがその対応する光学異性体(複数可)に対して豊富に存在する混合物から分離された、または実質的に分離された、化合物の1つのエナンチオマーまたはジアステレオマーが包含されると理解されるべきである。開示される化合物が立体化学を示す構造によって示され、化合物が1つ以上のキラル中心を有する場合、立体化学は1つ以上のキラル中心の周囲の置換基の絶対配置を示す。「R」及び「S」も同様に、または代替的に、1つ以上のキラル炭素原子の周囲の置換基の絶対配置を示すために使用することができる。D-及びL-も同様に、または代替的に、立体化学を指定するために使用することができる。
【0064】
「エナンチオマー」は、互いに重ね合わせることができない鏡像である立体異性体のペアであり、最も一般的な理由としては、それらが、キラル中心として機能する不斉置換炭素原子を含有するためである。
【0065】
「ジアステレオマー」は、鏡像関係にない立体異性体であり、最も一般的な理由としては、それらが、不斉置換炭素原子を2つ以上含有するためである。
【0066】
本明細書で使用される「ラセミ体」または「ラセミ混合物」とは、化合物の等モル量の2つのエナンチオマーを含む混合物を指す。そのような混合物は光学活性を示さない(すなわち、偏光面を回転させない)。
【0067】
エナンチオマー過剰率(ee)は、各エナンチオマーのモル分率間の絶対差に100%を乗じたものとして定義され、以下の式:
【数1】
で表すことができ、式中、RとSは、混合物中の各エナンチオマーのそれぞれの分率を表し、R+S=1である。エナンチオマーは、少なくとも50%または約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約98%、約99%、または約99.9%のeeで存在し得る。
【0068】
ジアステレオマー過剰率(de)は、各ジアステレオマーのモル分率間の絶対差に100%を乗じたものとして定義され、以下の式:
【数2】
で表すことができ、式中、D1及び(D2+D3+D4…)は、混合物中の各ジアステレオマーのそれぞれの分率を表し、D1+(D2+D3+D4…)=1である。ジアステレオマーは、少なくとも50%または約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約98%、約99%、または約99.9%のdeで存在し得る。
【0069】
特に明記しない限り、本開示の化合物には、1つ以上の同位体濃縮原子の存在においてのみ異なる化合物が含まれる。例えば、水素を重水素または三重水素で置換することによって、または炭素を13Cまたは14C濃縮炭素で置換することによって生成される化合物は、本発明の範囲内である。提供されるすべての構造において、任意の水素原子は、独立して、重水素(H)、三重水素(H)及び/またはフッ素(18F)から選択され得る。そのような化合物は、例えば、分析ツールとして、生物学的アッセイにおけるプローブとして、または本発明による治療薬として有用である。
【0070】
語句「薬学的に許容される」とは、その語句が修飾する物質または組成物が、妥当な医学的判断の正常な範囲内で、過度の毒性、刺激性、アレルギー応答などを起こさずに、ヒト及び下等動物の組織と接触させて使用するのに適すると共に、合理的なベネフィット/リスク比と釣り合うことを指す。
【0071】
本明細書で使用する場合、用語「薬学的に許容される塩」とは、妥当な医学的判断の正常な範囲内で、過度の毒性、刺激性、アレルギー応答などを起こさずに、哺乳類の組織と接触させて使用するのに適すると共に、合理的なベネフィット/リスク比と釣り合う塩を指す。薬学的に許容される塩は、当技術分野で周知である。例えば、S.M.Bergeらは、J.Pharmaceutical Sciences,1977,66,1-19において薬学的に許容される塩を詳細に記載しており、その関連する教示は、その全体が参照により本明細書に援用される。本明細書に記載の化合物の薬学的に許容される塩には、好適な無機酸及び有機酸、ならびに好適な無機塩基及び有機塩基から誘導される塩が含まれる。
【0072】
好適な酸から誘導される塩の例としては、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、及び過塩素酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、もしくはマロン酸などの有機酸と形成されるか、またはイオン交換などの当技術分野で使用される他の方法を使用することによって形成されるアミノ基の塩が挙げられる。好適な酸に由来する他の薬学的に許容される塩としては、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、カンファースルホン酸塩、桂皮酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセロリン酸塩、グルコン酸塩、グルタル酸塩、グリコール酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヨウ化水素酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ヒドロキシマレイン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、2-フェノキシ安息香酸塩、フェニル酢酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピバリン酸塩、プロピオン酸塩、ピルビン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸塩、吉草酸塩などが挙げられる。
【0073】
一酸、二酸、または三酸の塩が形成され得、そのような塩は、水和、溶媒和、または実質的に無水の形態のいずれかで存在し得る。
【0074】
適切な塩基に由来する塩としては、アルカリ金属塩基、アルカリ土類金属塩基、及びアンモニウム塩基などの無機塩基に由来する塩、メチルアミン、トリメチルアミン、ピコリンなどの脂肪族、脂環族、芳香族有機アミンに由来する塩、またはN((C-C)アルキル)塩が挙げられる。代表的なアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどが挙げられる。さらなる薬学的に許容される塩としては、適切な場合、ハロゲン化物、水酸化物、カルボキシル、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、低級アルキルスルホン酸塩、及びアリールスルホン酸塩などの対イオンを使用して形成される、非毒性のアンモニウム、第四級アンモニウム、及びアミンカチオンが挙げられる。
【0075】
本明細書に記載される化合物は、「溶媒和物」または「水和物」として存在し得る。「水和物」は、1つ以上の水分子を含む組成物中に存在する化合物である。水和物は、一水和物または二水和物などの化学量論量の水を含み得るか、またはランダムな量の水を含み得る。「溶媒和物」は、水を、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテルなどの水以外の溶媒で置き換えることを除いて、水和物と同様である。そのような溶媒和物または水和物の混合物を調製することもできる。そのような溶媒和物または水和物の源は、結晶化の溶媒に由来し得るか、調製もしくは結晶化の溶媒に内在し得るか、またはそのような溶媒に偶発的であり得る。
【0076】
「薬学的に許容される担体」とは、それが配合される薬剤の薬理学的活性を破壊せず、治療量の薬剤を送達するのに十分な用量で投与した場合に非毒性である、非毒性の担体または賦形剤を指す。本明細書に記載の組成物に使用してもよい薬学的に許容される担体としては、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミンなどの血清タンパク質、リン酸塩などの緩衝物質、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、硫酸プロタミンなどの飽和植物脂肪酸、水、塩または電解質の部分グリセリド混合物、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー、ポリエチレングリコール、及び羊毛脂が挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
本明細書で使用される場合、「抗原」とは、免疫系によって認識され得る任意の物質を指す。「抗原」は、酵素などのタンパク質、ポリペプチドなどのペプチド、多糖類などの炭水化物、ハプテン、核酸、及びグラフトを広く包含する。抗原は、自己抗原、正常な条件下もしくは障害の一部として身体によって産生される抗原、または外来抗原、非自己抗原であり得る。自己抗原の例には、本明細書に記載の自己抗原のいずれかを含む、自己免疫障害に関連する自己抗原が含まれる。外来抗原の例には、抗原療法(例えば、治療用タンパク質、遺伝子治療、細胞療法)、アレルゲン、及び同種異系抗原が含まれる。
【0078】
本明細書で使用される場合、「治療する」とは、治療を必要とする哺乳類などの対象に治療を送達する(例えば、哺乳類に1つ以上の治療薬を投与することによって)ためのステップを踏むことを指す。「治療する」には、疾患または病態を阻害すること(例えば、その進行を遅延させるかもしくは停止すること、または疾患もしくは病態の退行を引き起こすことによって)、及び疾患または病態に起因する症状を軽減することが含まれる。
【0079】
「治療有効量」とは、必要な用量で、及び期間にわたって、所望の治療結果(例えば、免疫寛容の導入、生理学的応答または病態の治療、治癒、抑制、または寛解など)を達成するために有効な量である。完全な治療効果は、1用量の投与によって必ずしも生じるとは限らず、一連の用量の投与後にのみ生じる場合もある。したがって、治療有効量は、1回以上の投与で投与してもよい。治療有効量は、哺乳類の疾患状態、年齢、性別、及び体重、投与様式、ならびに個体において所望の応答を引き出すための治療薬または治療薬の組み合わせの能力などの要因に応じて変動し得る。
【0080】
本明細書で使用される場合、「対象」には、ヒト、飼育動物、例えば、実験動物(例えば、イヌ、サル、ブタ、ラット、マウスなど)、家庭用ペット(例えば、ネコ、イヌ、ウサギなど)、及び家畜(ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマなど)、ならびに飼育動物以外の動物が含まれる。いくつかの態様では、対象はヒトである。
【0081】
化合物
第1の実施形態は、以下の構造式の化合物:
【化2】
またはその薬学的に許容される塩を提供し、式中、
Xは、-N(R)C(O)-、-N(R)C(O)O-、-N(R)C(O)N(R)-、-N(R)-、-N(R)SO-、-O-、-S-、
-S(O)-、-S(O)-、または-OP(O)O-であり、
Rは、1つ以上のフルオロで任意置換された(C-C30)アルキルまたは(C-C30)アルケニルであり、
は、Hまたは(C-C)アルキルであり、
は、Hまたは(C-C)アルキルである。
【0082】
第1の実施形態の第1の態様では、Xは、-N(R)C(O)-または-N(R)C(O)O-である。残りの変数の値は、第1の実施形態で説明したとおりである。
【0083】
第1の実施形態の第2の態様では、Xは、-N(R)C(O)-または-N(R)C(O)O-であり、は、RへのXの結合点を示す。残りの変数は、第1の実施形態またはその第1の態様で説明したとおりである。
【0084】
第1の実施形態の第3の態様では、Xは-N(R)C(O)-である。残りの変数の値は、第1の実施形態、またはその第1もしくは第2の態様で説明したとおりである。
【0085】
第1の実施形態の第4の態様では、Xは-N(R)C(O)O-である。残りの変数の値は、第1の実施形態、またはその第1~第3の態様で説明したとおりである。
【0086】
第1の実施形態の第5の態様では、Rは、1つ以上のフルオロで任意置換された(C-C30)アルキルまたは(C-C30)アルケニルである。残りの変数の値は、第1の実施形態、またはその第1~第4の態様で説明したとおりである。
【0087】
第1の実施形態の第6の態様では、Rは、1つ以上のフルオロで任意置換された(C-C30)アルキルである。残りの変数の値は、第1の実施形態、またはその第1~第5の態様で説明したとおりである。
【0088】
第1の実施形態の第7の態様では、R及びRは、それぞれHである。残りの変数の値は、第1の実施形態、またはその第1~第6の態様で説明したとおりである。
【0089】
第1の実施形態の第8の態様では、Xは、-N(R)C(O)-、-N(R)C(O)O-、-N(R)C(O)N(R)-、-N(R)-、-N(R)SO、-O-、-S-、-S(O)-、-S(O)-、または-OP(O)O-であり、式中、は、XとRの結合点を示す。残りの変数の値は、第1の実施形態、またはその第1~第7の態様で説明したとおりである。
【0090】
第1の実施形態の第9の態様では、Rは、1つ以上のフルオロで任意置換された(C10-C25)アルキルまたは(C10-C25)アルケニルである。残りの変数の値は、第1の実施形態、またはその第1~第8の態様で説明したとおりである。
【0091】
第1の実施形態の第10の態様では、Rは、1つ以上のフルオロで任意置換された(C10-C20)アルキルまたは(C10-C20)アルケニルである。残りの変数の値は、第1の実施形態、またはその第1~第9の態様で説明したとおりである。
【0092】
第1の実施形態の第11の態様では、Rは、1つ以上のフルオロで任意置換された(C15-C25)アルキルまたは(C15-C25)アルケニルである。残りの変数の値は、第1の実施形態、またはその第1~第10の態様で説明したとおりである。
【0093】
第1の実施形態の第12の態様では、Rは、1つ以上のフルオロで任意置換された(C15-C20)アルキルまたは(C15-C20)アルケニルである。残りの変数の値は、第1の実施形態、またはその第1~第11の態様で説明したとおりである。
【0094】
第2の実施形態は、以下の構造式の化合物:
【化3】
またはその薬学的に許容される塩を提供し、式中、
Xは、-N(R)C(O)-または-N(R)C(O)O-であり、式中、は、RへのXの結合点を示し、
Rは、1つ以上のフルオロで任意置換された(C-C30)アルキルまたは(C-C30)アルケニルであり、
は、Hまたは(C-C)アルキルであり、
ただし、化合物は、(S)-2-アミノ-3-((2E,4E)-ヘキサ-2,4-ジアミド)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-ヘキサンアミドプロパン酸、(S)-2-アミノ-3-ヘプタンアミドプロパン酸、(S)-2-アミノ-3-オクタンアミドプロパン酸、もしくは(S)-2-アミノ-3-パルミタミドプロパン酸、または前述のいずれかの塩ではない。
変数の代替値は、第1の実施形態、またはその任意の態様で説明したとおりである。
【0095】
第2の実施形態の第1の態様では、RはHである。残りの変数の値は、第1の実施形態、もしくはその任意の態様、または第2の実施形態で説明したとおりである。
【0096】
構造式Iの化合物の例としては、以下が挙げられる:
【化4】
または前述の薬学的に許容される塩。
【0097】
構造式Iの化合物の製造方法は、本明細書中の例示に記載されている。
【0098】
組成物及びキット
通常、対象への投与のために、本開示の化合物を、1つ以上の薬学的に許容される担体と共に製剤化する。本開示は、医薬組成物を含むそのような組成物を提供する。したがって、一実施形態は、本開示の化合物及び薬学的に許容される担体を含む組成物(例えば、医薬組成物)である。例えば本開示の化合物を供給するために、本明細書に記載の組成物を本明細書に記載の方法において使用することができる。
【0099】
本明細書に記載の化合物及び組成物は、リポソーム製剤などの脂質粒子の製剤の形態であり得る。したがって、一実施形態は、1つ以上の脂質及び本開示の化合物を含む脂質粒子(例えば、リポソーム)である。
【0100】
本明細書ではまた、少なくとも1つのリン脂質(例えば、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)のような飽和C-C30アシル鎖などのC-C30アシル鎖を含有するリン脂質)と、脂質粒子の脂質二重層に埋め込むことができる治療薬(例えば、本開示の化合物)とを含む固形脂質粒子(例えば、リポソーム)も提供する。そのような固形脂質粒子の経口投与を使用して、例えば、免疫細胞及び/またはリンパ節(複数可)に脂質粒子を(及びそれによって治療薬を)標的化し、その結果、脂質粒子と免疫細胞の共局在(例えば、リンパ節における)を増強し、及び/またはリンパ節への脂質粒子の取り込みを増強することができることが見出されている。
【0101】
本明細書で使用される場合、「脂質粒子」は、少なくとも1つの脂質、例えば、リゾリン脂質などのリン脂質を含む粒子を指す。脂質粒子の例には、リポソーム、ミセル、及び脂質ナノ粒子が含まれる。リポソームなどの脂質粒子は、単層または多層であり得る。リポソームなどの脂質粒子は、流体脂質膜、またはゲル状もしくは固形脂質膜、例えば、ヒトの通常の体温、すなわち約37℃を上回る温度で融解する脂質膜を有し得る。いくつかの態様では、脂質粒子はリポソームである。いくつかの態様では、脂質粒子は脂質ナノ粒子である。いくつかの態様では、脂質粒子は固形である。いくつかの態様では、脂質粒子は、約37℃超、例えば、約40℃超、約45℃超、約50℃超、約55℃超、または約55℃の融解温度を有する。
【0102】
リン脂質の例としては、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン 18:1 Δ9-Cis PC(DOPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン 18:0(DSPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-グリセロ-3-ホスホコリン 16:0~18:1(POPC)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ビスホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルアルコール、及びホスファチジルグリセロールが挙げられる。リン脂質は、飽和でも不飽和でもよく、すなわち、1つ以上の不飽和単位を含み、様々な長さのアシル鎖を含み得る。いくつかの態様では、リン脂質は、C-C30アシル鎖、例えば、C-C26、C12-C22、C10-C25、C14-C18、またはC16-C26アシル鎖を含有する。リン脂質は、天然及び合成の様々な供給源から入手することができる。例えば、PSは、ブタ脳PSまたは植物ベースのダイズ(ダイズマメ)PSから取得することができる。卵PC、PS、及び合成PCは市販されている。いくつかの態様では、リン脂質は、PSまたはその塩(例えば、その薬学的に許容される塩)ではない。
【0103】
本明細書に記載の脂質粒子に含めるのに好適な他の脂質としては、N-コレステリル-スペルミン、またはその塩、例えば、N-コレステリル-スペルミンHCl塩が挙げられる。N-コレステリル-スペルミンHCl塩は、Genzyme Lipid 67(GL67)としても知られ、スペルミンで誘導体化されてカチオン性脂質のHCl塩を生成するコレステロールである。
【0104】
通常、治療薬を含む脂質粒子(例えば、リポソーム)中の治療薬(例えば、本開示の化合物)のモル百分率は、約1%~約50%、例えば、約1%~約35%、約1%~約25%、約1%~約15%、約3%~約10%、約5%~約50%、約5%~約45%、約15%~約40%、約25%~約35%、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約15%、約25%、約30%、または約35%である。いくつかの態様では、治療薬を含む脂質粒子(例えば、リポソーム)中の治療薬(例えば、本開示の化合物)のモル百分率は、35%未満、例えば、30%未満、15%未満、または約1%~約10%である。
【0105】
通常、本明細書に記載される脂質粒子(例えば、リポソーム)中の脂質のモル百分率(個別にまたは集合的に取得される)は、約50%~約99%、例えば、約50%~約75%、約85%~約99%、約70%、約75%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、または99%である。本明細書に記載されている脂質粒子(例えば、リポソーム)中の各脂質のモル百分率は、約1%~約99%、例えば、約1%~約50%、約1%~約35%、約1%~約25%、約1%~約15%、約3%~約10%、約5%~約50%、約5%~約45%、約15%~約40%、約25%~約35%、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約15%、約25%、約30%、または約35%であり得る。
【0106】
本開示の化合物を、本明細書に記載されるリポソームなどの脂質粒子内に封入するか、脂質頭部の基に(共有結合または非共有結合で)結合させるか、または好ましくは、全体もしくは一部を共有結合もしくは非共有結合で脂質二重層(例えば、リポソーム)内に埋め込むことができる。いかなる特定の理論にも拘束されることを望まないが、本開示の化合物は、本開示の化合物のアミノ酸残基がリポソームの外側に露出されたままとなるようにリポソームの脂質二重層に埋め込まれ、それによって自然な表面提示、例えば、PSを模倣し得ると考えられる。
【0107】
いくつかの態様では、1つ以上の脂質は、リン脂質またはその薬学的に許容される塩、例えば、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)またはその薬学的に許容される塩を含む。いくつかの態様では、リン脂質は、飽和リン脂質、例えばC-C30アシル鎖を含有する飽和リン脂質である。いくつかの態様では、リン脂質は、不飽和、例えば、C-C30アシル鎖を含有する不飽和リン脂質である。いくつかの態様では、リン脂質は、DMPC、DSPC、DOPC、もしくはPOPC、またはその薬学的に許容される塩から選択される。いくつかの態様では、リン脂質は、DMPCもしくはDSPC、またはその薬学的に許容される塩である。
【0108】
いくつかの態様では、脂質粒子(例えば、リポソーム)は、抗原、例えば、本明細書に記載される抗原のいずれかをさらに含む。したがって、いくつかの態様では、脂質粒子は、遺伝子治療をさらに含む。いくつかのさらなる態様では、遺伝子治療は、DNA及び/またはRNAならびにウイルスベクターを含む。いくつかの態様では、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、例えば組換えAAVに由来する。いくつかの態様では、AAVはAAV9である。本開示に関する使用に好適なウイルスベクターの他の例としては、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス、狂犬病ウイルス、レンチウイルス、VSV、ポックスウイルス(例えば、ワクシニアウイルス、痘瘡ウイルス、カナリア痘)、レオウイルス、セムリキ森林ウイルス、黄熱病ウイルス、シンドビスウイルス、トガウイルス、バキュロウイルス、バクテリオファージ、アルファウイルス、及びフラバウイルスに由来するウイルスベクターが挙げられる。いくつかの態様では、抗原、例えば、DNA及び/またはRNAならびにウイルスベクターを含む遺伝子治療薬を、脂質粒子内に封入する。
【0109】
抗原をさらに含む脂質粒子、及びそのような脂質粒子を含む製剤は、対象への遺伝子治療薬(例えば、DNA及び/またはRNAを含む遺伝子治療薬)の送達を伴う用途に特に有用であると考えられる。脂質粒子は、免疫系に対する遺伝子治療と本開示の化合物の共提示を促進すると期待される。そのような粒子は、経口及び/または非経口(例えば、皮下、筋肉内、静脈内、皮内)投与、例えば、注射用に製剤化することができる。
【0110】
別の実施形態は、複数の脂質粒子(例えば、本開示の化合物を含む複数の脂質粒子)を含む組成物(例えば、医薬組成物)である。いくつかの態様では、組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含む。
【0111】
本明細書に記載の組成物、したがって本開示の化合物は、経口、非経口(皮下、筋肉内、静脈内、及び皮内を含む)、吸入スプレーによって、局所、直腸、鼻腔、頬側、膣内、または埋め込みリザーバーを介して投与してもよい。本明細書で使用される場合、用語「非経口」及び「非経口で」には、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、眼内、硝子体内、関節内、動脈内、滑膜内、胸骨内、髄腔内、病変内、肝臓内、腹腔内、病巣内、及び頭蓋内注射または注入技術が含まれる。いくつかの態様では、本明細書に記載の組成物は、静脈内及び/または腹腔内に投与可能である。いくつかの態様では、本明細書に記載の組成物は、経口で投与可能である。いくつかの態様では、本明細書に記載の組成物は、皮下に投与可能である。好ましくは、本明細書に記載の組成物を、経口、皮下、腹腔内、または静脈内に投与する。
【0112】
本明細書で提供される組成物は、カプセル剤、錠剤、水性懸濁剤、分散剤、及び液剤を含むがこれらに限定されない、経口的に許容される任意の剤形で経口投与することができる。経口使用のための錠剤の場合、一般的に使用される担体としては、ラクトース及びコーンスターチが挙げられる。ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤も、一般的には添加される。カプセル形態での経口投与については、有用な希釈剤は、ラクトース及び乾燥コーンスターチを含む。水性懸濁剤及び/または乳剤が経口使用に必要とされる場合、活性成分を、油相中に懸濁または溶解し、乳化剤及び/または懸濁化剤と混合することができる。所望の場合、特定の甘味剤、香味剤、または着色剤もまた、添加してよい。
【0113】
いくつかの実施形態では、経口製剤を、即時放出または持続/遅延放出用に製剤化する。
【0114】
経口投与のための固体剤形は、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、及び顆粒剤を含む。そのような固形剤形において、活性化合物を、クエン酸ナトリウムまたはリン酸二カルシウムなどの少なくとも1つの不活性な薬学的に許容される賦形剤または担体、及び/または(a)デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、及びケイ酸などの充填剤または増量剤、(b)カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、及びアカシアなどの結合剤、(c)グリセロールなどの湿潤剤、(d)寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモデンプンまたはタピオカデンプンなどの崩壊剤、(e)パラフィンなどの溶解遅延剤、(f)第四級アンモニウム塩などの吸収促進剤、(g)アセチルアルコール及びモノステアリン酸グリセロールなどの湿潤剤、(h)カオリン及びベントナイト粘土などの吸収剤、ならびに(i)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固形ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、及びこれらの混合物などの滑沢剤と混合する。カプセル剤、錠剤、及び丸剤の場合、剤形は、緩衝剤も含んでよい。
【0115】
経口投与用の液体剤形には、薬学的に許容される乳剤、マイクロエマルジョン、液剤、懸濁剤、シロップ剤、及びエリキシル剤が含まれる。本開示の化合物に加えて、液体剤形は、水または他の溶媒、可溶化剤及び乳化剤、例えばエチルアルコール(エタノール)、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、油(具体的には、綿実油、ラッカセイ油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、及びソルビタンの脂肪酸エステル、またはこれらの混合物などの当技術分野で一般に使用される不活性希釈剤を含有し得る。不活性希釈剤に加えて、経口組成物は、湿潤剤、乳化剤及び懸濁剤、甘味剤、着香剤、着色剤、芳香剤、ならびに防腐剤などのアジュバントを含むこともできる。
【0116】
頬側または舌下投与に好適な組成物としては、錠剤、ロゼンジ剤、及びトローチ剤が挙げられ、その場合、活性成分を、担体、例えば、糖及びアカシア、トラガカント、またはゼラチン及びグリセリンなどと共に製剤化する。
【0117】
同様のタイプの固形組成物もまた、ラクトースまたは乳糖、ならびに高分子量のポリエチレングリコールなどの賦形剤を使用して、軟質及び硬質充填ゼラチンカプセル中の充填剤として使用してよい。錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、及び顆粒剤の固形剤形は、腸溶性コーティング及び医薬製剤分野で周知の他のコーティングなどのコーティング及びシェルを用いて調製することができる。それらの剤形は、任意選択で不透明化剤を含有してもよく、活性成分(複数可)のみを、またはそれらを優先的に、腸管の特定の部分で、任意選択で遅延方式にて放出する組成物の剤形であり得る。使用可能な埋封組成物の例には、ポリマー物質及びワックスが含まれる。
【0118】
本開示の化合物はまた、上述の1つ以上の賦形剤を有するマイクロカプセル化形態であり得る。そのような固形剤形において、化合物を、スクロース、ラクトース、またはデンプンなどの少なくとも1つの不活性希釈剤と混合することができる。常法に従って、そのような剤形はまた、不活性希釈剤以外の追加の物質、例えば、錠剤化滑沢剤及び他の錠剤化補助剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム及び微結晶性セルロースを含み得る。
【0119】
経口投与用の組成物を、例えば、錠剤またはカプセル剤上の製剤の外側コーティングによって、活性成分が消化管を通過する際の分解から活性成分を保護するように設計してもよい。
【0120】
別の態様では、本開示の化合物を、長期(または「遅延」もしくは「持続」)放出組成物として提供することができる。この遅延放出組成物は、本開示の化合物及び遅延放出成分を含む。そのような組成物は、例えば、下部消化管、例えば、小腸、大腸、結腸、及び/または直腸への化合物の標的放出を可能にする。特定の態様では、遅延放出組成物は、酢酸フタル酸セルロース及び他のフタレート(例えば、ポリ酢酸ビニルフタレート、メタクリレート(Eudragits))などの腸溶性またはpH依存性コーティングをさらに含む。あるいは、遅延放出組成物は、pH感受性メタクリレートコーティング、pH感受性ポリマーミクロスフェア、または加水分解によって分解を受けるポリマーを提供することによって、小腸及び/または結腸への制御放出を提供することができる。遅延放出組成物は、疎水性またはゲル化性の賦形剤またはコーティングと共に製剤化することができる。結腸送達はさらに、アミロースまたはペクチンなどの細菌酵素によって消化されるコーティングによって、pH依存性ポリマーによって、時間と共に膨張するヒドロゲルプラグ(Pulsincap)によって、時間依存性ヒドロゲルコーティングによって、及び/またはアゾ芳香族結合コーティングに連結したアクリル酸によって提供され得る。
【0121】
本明細書に記載の組成物はまた、例えば滅菌注射用製剤の形態で、例えば滅菌注射用の水性または油性懸濁液として、皮下、腹腔内、または静脈内に投与することができる。この懸濁液は、好適な分散剤または湿潤剤(例えば、Tween(登録商標)80など)及び懸濁化剤を使用して、当技術分野で公知の技術に従って製剤化することができる。無菌注射可能な調製物はまた、非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中、例えば、1,3-ブタンジオール中の溶液として、無菌注射可能な溶液または懸濁液であり得る。使用可能な許容されるビヒクル及び溶媒には、マンニトール、デキストロース、水、リンゲル液、乳酸リンゲル液、及び等張塩化ナトリウム溶液がある。さらに、無菌の固定油が、溶媒または懸濁媒として慣習的に用いられる。この目的のために、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む、任意の無刺激の固定油を使用することができる。オレイン酸及びそのグリセリド誘導体などの脂肪酸は、注射可能物の調製に有用であり、同様に、オリーブ油またはヒマシ油などの天然の薬学的に許容される油は、特にそれらのポリオキシエチル化バージョンにおいて、有用である。これらの油性溶液または懸濁液はまた、長鎖アルコール希釈剤もしくは分散剤、または乳剤及びまたは懸濁剤などの薬学的に許容される剤形の製剤化において一般的に使用されるカルボキシメチルセルロースもしくは類似の分散剤を含有し得る。Tween(登録商標)もしくはSpan(登録商標)などの一般的に使用される他の界面活性剤及び/または薬学的に許容される固体、液体もしくは他の剤形の製造にて一般的に使用される他の類似の乳化剤もしくはバイオアベイラビリティ向上剤もまた、製剤化の目的で使用することができる。
【0122】
本明細書に記載の組成物はまた、直腸投与用の坐剤の形態で投与することもできる。これらは、本開示の化合物を、室温では固体であるが、直腸温度では液体であり、それにより直腸内で溶けて薬物を放出する好適な非刺激性賦形剤と混合することにより調製され得る。そのような物質には、ココアバター、みつろう、及びポリエチレングリコールが含まれる。
【0123】
本明細書に記載の組成物はまた、特に治療の標的が、目、皮膚、または下部腸管の疾病など、局所塗布により容易に到達可能な領域または器官を含む場合、局所的に投与され得る。好適な局所製剤は、これらの領域または器官のそれぞれのために容易に調製される。
【0124】
下部腸管のための局所塗布は、直腸坐薬製剤(上記を参照されたい)または好適な浣腸製剤で達成することができる。局所的経皮パッチも使用することができる。
【0125】
局所塗布の場合、組成物を、1つ以上の担体に懸濁または溶解された活性成分を含有する好適な軟膏に製剤化することができる。本明細書に記載の化合物の局所投与のための担体としては、鉱油、液体ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックス、及び水、ならびに浸透促進剤が挙げられるが、これらに限定されない。あるいは、組成物を、1つ以上の薬学的に許容される担体に懸濁または溶解された活性化合物を含有する好適なローションまたはクリームに製剤化することができる。あるいは、組成物を、好適な乳化剤で担体中に懸濁または溶解させた活性化合物を含有する好適なローションまたはクリームで製剤化することができる。好適な担体としては、鉱油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、ベンジルアルコール、及び水が挙げられるが、これらに限定されない。好適な担体としてはまた、鉱油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、ベンジルアルコール、及び水、ならびに浸透促進剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0126】
眼用の場合、組成物は、等張のpH調節された無菌食塩水中の微粉化懸濁液として、または好ましくは、等張のpH調節された無菌食塩水中の溶液として、塩化ベンジルアルコニウムなどの防腐剤の存在下または非存在下のいずれかで製剤化され得る。あるいは、眼用の場合、組成物を、ワセリンなどの軟膏に製剤化することができる。
【0127】
組成物を、経鼻エアロゾルまたは吸入によって投与することもできる。そのような組成物は、医薬製剤の分野で周知の技術に従って調製され、ベンジルアルコールもしくは他の好適な防腐剤、バイオアベイラビリティを高めるための吸収促進剤、フッ化炭素、及び/または他の従来の可溶化剤もしくは分散剤を用いて、生理食塩水中の溶液として調製され得る。いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、例えば経鼻エアロゾルまたは吸入によって達成できるような、本明細書に記載の組成物の局所送達は、組成物の全身的影響、例えば赤血球に関する影響のリスクを軽減することができると考えられる。
【0128】
本明細書に記載の組成物に使用することができる他の薬学的に許容される担体としては、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、d-α-トコフェロールポリエチレングリコール1000コハク酸塩などの自己乳化薬物送達系(SEDDS)、医薬剤形に使用されるTween(登録商標)などの界面活性剤、または他の類似のポリマー送達マトリックス、ヒト血清アルブミンなどの血清タンパク質、リン酸塩、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウムなどの緩衝物質、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩または電解質、例えば、硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー、ポリエチレングリコール、及び羊毛脂が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、本明細書に記載の薬剤の送達を増強するために、シクロデキストリン、例えば、α-、β-、及びγ-シクロデキストリン、もしくはその化学修飾誘導体、例えば、ヒドロキシルプロピル-β-シクロデキストリンを含むヒドロキシアルキルシクロデキストリン、例えば、2-及び/または3-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、または他の可溶化誘導体も、本明細書に記載の組成物中の薬学的に許容される担体として効果的に使用することができる。
【0129】
一実施形態は、本開示の化合物(例えば、本開示の化合物を含む複数の脂質粒子、例えば、本明細書に記載される脂質粒子のいずれか)及びシクロデキストリンまたはその化学修飾誘導体を含む組成物である。いくつかの態様では、シクロデキストリンまたはその化学修飾誘導体は、ヒドロキシアルキルシクロデキストリン、例えばヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを含む。いくつかの態様では、本開示の化合物及びシクロデキストリン(例えば、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンなどのヒドロキシアルキルシクロデキストリン)は、約1~約50重量/重量(w/w)~約1~約250w/w、例えば、約1~約50w/w~約1~約100w/w、約1~約80w/w、または約1~約166w/wの比で存在する。いくつかの態様では、組成物は、水などの希釈剤をさらに含む。いくつかの態様では、組成物は、甘味剤及び/または着香剤をさらに含む。
【0130】
いくつかの態様では、組成物は液体剤形であり、さらなる態様では、組成物は、経口投与用の液体剤形である。
【0131】
いくつかの態様では、本明細書に記載の組成物は、例えば本開示の化合物と組み合わせて使用するための、1つ以上の追加の治療薬をさらに含む。
【0132】
いくつかの実施形態は、本開示の化合物(例えば、本開示の化合物を含む本明細書に記載の組成物)と1つ以上の追加の治療薬(例えば、1つ以上の追加の治療薬を含む1つ以上の組成物)とを含む組み合わせ(例えば、薬剤併用)を提供する。そのような組み合わせは、例えば、本開示の化合物と1つ以上の追加の治療薬を別々に投与する場合に特に有用である。本明細書で提供される組み合わせでは、本開示の化合物及び1つ以上の追加の治療薬は、同じ投与経路によって、または異なる投与経路によって投与可能であり得る。
【0133】
一実施形態は、本開示の化合物(例えば、本開示の化合物を含む本明細書に記載の組成物)及び抗原(例えば、抗原療法などの本明細書に記載の抗原のいずれか)を含むキットである。一態様では、キットは、治療有効量の本開示の化合物(例えば、投与しようとする抗原にとって対象を免疫寛容化するのに十分な量;本明細書に記載の疾患、障害、または病態を治療するための治療有効量の化合物)を含む。いくつかの態様では、抗原が抗原療法である場合、キットは、疾患、障害、または病態を治療するための治療有効量の抗原療法を含む。いくつかの態様では、キットは、追加の治療薬(複数可)(例えば、追加の治療薬(複数可)を含む組成物)をさらに含む。いくつかの態様では、キットは、本明細書に記載の疾患、障害、または病態を治療するための、本開示の化合物及び/または抗原及び/または追加の薬剤(複数可)を対象に投与するための書面による説明書をさらに含む。
【0134】
好適な追加の治療薬には、併用療法に関して本明細書に記載される薬剤が含まれる。
【0135】
本明細書に記載の組成物は、単位剤形で提供することができる。単位剤形を作製するために担体と組み合わせることができる活性成分の量は、例えば、治療される対象及び特定の投与様式に応じて変化する。通常、単位剤形は、約1~約1,000mgの活性成分(複数可)、例えば、約1~約500mg、約1~約250mg、約1~約150mg、約0.5~約100mg、または約1~約50mgの活性成分(複数可)を含有する。いくつかの態様では、単位剤形は、約0.01mg~約100mgの活性成分(複数可)、例えば、約0.1mg~約50mg、約0.1mg~約10mg、約0.5mg~約50mgの活性成分(複数可)を含有する。いくつかの態様では、単位剤形は、約1mg~約5,000mgの活性成分(複数可)、例えば、約10mg~約2,500mg、約15mg~約1,000mg、または約100mg~約1,000mgの活性成分(複数可)を含有する。いくつかの態様では、単位剤形は、約15mg、約30mg、約50mg、約100mg、約125mg、または約150mgの活性成分(複数可)を含む。
【0136】
いくつかの態様では、医薬組成物中に提供される1つ以上の治療薬の濃度は、100%、90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、19%、18%、17%、16%、15%,14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%、0.09%、0.08%、0.07%、0.06%、0.05%、0.04%、0.03%、0.02%、0.01%、0.009%、0.008%、0.007%、0.006%、0.005%、0.004%、0.003%、0.002%、0.001%、0.0009%、0.0008%、0.0007%、0.0006%、0.0005%、0.0004%、0.0003%、0.0002%、または0.0001%w/w、w/v、またはv/v未満であり、及び/または90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、19.75%、19.50%、19.25% 19%、18.75%、18.50%、18.25% 18%、17.75%、17.50%、17.25% 17%、16.75%、16.50%、16.25% 16%、15.75%、15.50%、15.25% 15%、14.75%、14.50%、14.25% 14%、13.75%、13.50%、13.25% 13%、12.75%、12.50%、12.25% 12%、11.75%、11.50%、11.25% 11%、10.75%、10.50%、10.25% 10%、9.75%、9.50%、9.25% 9%、8.75%、8.50%、8.25% 8%、7.75%、7.50%、7.25% 7%、6.75%、6.50%、6.25% 6%、5.75%、5.50%、5.25% 5%、4.75%、4.50%、4.25%、4%、3.75%、3.50%、3.25%、3%、2.75%、2.50%、2.25%、2%、1.75%、1.50%、125%、1%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%、0.09%、0.08%、0.07%、0.06%、0.05%、0.04%、0.03%、0.02%、0.01%、0.009%、0.008%、0.007%、0.006%、0.005%、0.004%、0.003%、0.002%、0.001%、0.0009%、0.0008%、0.0007%、0.0006%、0.0005%、0.0004%、0.0003%、0.0002%、または0.0001%w/w、w/v、またはv/v超である。
【0137】
いくつかの態様では、医薬組成物中に提供される1つ以上の治療薬の濃度は、約0.0001%~約50%、約0.001%~約40%、約0.01%~約30%、約0.02%~約29%、約0.03%~約28%、約0.04%~約27%、約0.05%~約26%、約0.06%~約25%、約0.07%~約24%、約0.08%~約23%、約0.09%~約22%、約0.1%~約21%、約0.2%~約20%、約0.3%~約19%、約0.4%~約18%、約0.5%~約17%、約0.6%~約16%、約0.7%~約15%、約0.8%~約14%、約0.9%~約12%、約1%~約10%w/w、w/v、またはv/vの範囲である。いくつかの実施形態では、医薬組成物中に提供される1つ以上の治療薬の濃度は、約0.001%~約10%、約0.01%~約5%、約0.02%~約4.5%、約0.03%~約4%、約0.04%~約3.5%、約0.05%~約3%、約0.06%~約2.5%、約0.07%~約2%、約0.08%~約1.5%、約0.09%~約1%、約0.1%~約0.9%w/w、w/v、またはv/vの範囲である。
【0138】
使用方法
本開示の様々な化合物及び本明細書に記載の組成物は、例えば、その天然リガンドであるホスファチジルセリン(PS)よりも高い親和性でTIMに結合し、免疫応答を減少させることができることが現在判明している。
【0139】
一実施形態は、細胞(例えば、免疫細胞などのTIM受容体を発現する細胞)を本開示の化合物(例えば、治療有効量の本開示の化合物)と接触させることを含む、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン(TIM)受容体の発現または活性の調節方法である。TIM受容体は、1型細胞表面糖タンパク質であり、ヒトで発現するTIM受容体であるTIM1、TIM3、及びTIM4が、ホスファチジルセリン受容体として同定されている。TIM1は、ヘルパーT2細胞上で優先的に発現し、T細胞活性化のための強力な共刺激分子として機能する。TIM3は、ヘルパーT1細胞、1型T細胞、及び樹状細胞で優先的に発現し、ヘルパーT1細胞と1型T細胞のアポトーシスを引き起こす抑制シグナルを生成する。TIM4は、抗原提示細胞上で発現し、アポトーシス細胞の食作用を媒介して寛容性を促進する。いくつかの態様では、TIM受容体はTIM3受容体である。いくつかの態様では、TIM受容体はTIM4受容体である。いくつかの態様では、TIM受容体はTIM1受容体である。「TIM」は、文献では、例えば「Tim」とも称される。
【0140】
TIM受容体のアゴニストは、細菌によって提示されるパターンを主に認識するTLR2及び4の活性を実質的に阻害することなく、少なくともtoll様受容体(TLR)3及びTLR7の活性を阻害することも今回判明した。toll様受容体(TLR)は、自然免疫細胞上で発現するパターン認識受容体のファミリーを形成し、微生物に対する免疫系の防御の第一線を構成する。現在までに、10種類のヒトTLR亜型が同定されている。TLR1、2、4、5、6、及び10は、細胞表面に発現し、TLR3、7、8、及び9は、小胞体、エンドソーム、及びリソソームに局在する。TLR1、2、及び6は、細菌のリポタンパク質と糖脂質を認識して結合する。TLR3、7、8、及び9は、ウイルスdsRNA(TLR3)、ssRNA(TLR7、TLR8)、及び非メチル化CpG DNA(TLR9)などの核酸を認識し、結合する。TLR4は、フィブロネクチン及びLPSを認識して結合する。TLR5は、細菌のフラジェリンを認識して結合する。いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、本開示の化合物は、一般的な免疫抑制をもたらさないが、より選択的かつ特異的な様式でその効果を発揮し得ると考えられる。
【0141】
別の実施形態は、細胞(例えば、TLR3、TLR7、TLR8、及び/またはTLR9を発現する細胞;免疫細胞)を、本開示の化合物(例えば、治療有効量の本開示の化合物)と接触させることを含む、TLR3、TLR7、TLR8、及び/またはTLR9の活性の調節(例えば、阻害)方法である。いくつかの態様では、本開示の化合物は、TLR3、TLR7、TLR8、及び/またはTLR9の活性を選択的に調節(例えば、阻害)、例えば、TLR3、TLR7、TLR8、及び/またはTLR9の活性を、TLR1、2、4、5、6、及び/または10の活性を調節する程度よりも大きく調節する(例えば、阻害する)。例えば、本開示の化合物によるTLR3、TLR7、TLR8及び/またはTLR9の活性の調節(例えば、阻害)は、化合物によるTLR1、2、4、5、6、及び/または10の活性の調節(例えば、阻害)に比べて、2倍超、例えば、5倍超、10倍超、25倍超、または100倍超であり得る。いくつかの態様では、化合物は、TLR1、2、4、5、6、及び/または10の活性を測定可能な程度まで調節しない(例えば、阻害しない)。
【0142】
本明細書に記載の方法のいくつかの態様では、細胞は、免疫細胞、例えば制御性T細胞などのT細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、好中球、骨髄由来サプレッサー細胞、または樹状細胞である。いくつかの態様では、免疫細胞は、FoxP3+及び/またはCD4+、例えば、FoxP3+及び/またはCD4+T細胞である。いくつかの態様では、免疫細胞は、制御性B細胞などのB細胞である。いくつかの態様では、免疫細胞(例えば、制御性B細胞)は、CD19+、CD71+、IgM+、CD24+、CD38+、及び/またはCD27+である。
【0143】
本明細書に記載の方法のいくつかの態様では、この方法をin vitroで行う。本明細書に記載の方法の他の態様では、この方法をin vivoで行う。したがって、いくつかの態様では、細胞(例えば、免疫細胞)は、対象(例えば、本明細書に記載の疾患、障害、または病態を有する対象)内にある。
【0144】
別の実施形態は、対象に治療有効量の本開示の化合物を、例えば、本明細書に記載の組成物の形態で投与することを含む、免疫寛容化を必要とする対象(例えば、本明細書に記載の自己免疫障害などの自己免疫障害を有する対象)の免疫寛容化方法である。
【0145】
別の実施形態は、治療有効量の本開示の化合物を、例えば本明細書に記載の組成物の形態で対象に投与することを含む、抗原に対する免疫寛容化を必要とする対象の免疫寛容化方法(例えば、抗原療法)である。いくつかの態様は、抗原またはその免疫原性断片、及び治療有効量の本開示の化合物を、例えば本明細書に記載の組成物の形態で対象に投与することを含む。いくつかの態様は、本開示の化合物及び抗原、またはその免疫原性断片を含む本明細書に記載の組成物、例えば、複数の脂質粒子を含む組成物を対象に投与することを含み、各脂質粒子は、本開示の化合物及び抗原、またはその免疫原性断片を含む。いくつかの態様では、抗原、またはその免疫原性断片、及び本開示の化合物を、別個の製剤で対象に投与する。
【0146】
本明細書で使用される場合、「免疫寛容化」とは、例えば抗原に対する免疫応答を減少させ、及び/または排除することを指す。免疫応答は、例えば、免疫学的活動亢進、炎症性サイトカイン放出、及び/またはマクロファージ、好中球、好酸球、T細胞、及びB細胞などの免疫細胞の活性化によって証明され得る。本明細書で使用される場合、「免疫寛容化」は、例えば、免疫学的活動亢進を減少させ、炎症性サイトカイン放出を阻害し、及び/または活性化を阻害し、及び/またはマクロファージ、好中球、好酸球、T細胞、及びB細胞などの免疫細胞を中和することを意図している。臨床現場では、免疫寛容化は、例えば、自己免疫疾患の重症度の低下、及び/または投与する抗原療法の活性の向上によって証明され得る。
【0147】
したがって、免疫寛容化のプロセスは、免疫学的活動亢進から免疫学的活動低下、そして例えば抗原に対する免疫学的無反応に至る連続性に沿って見ることができる。「免疫寛容化」とは、免疫学的非応答性へのこの連続性に沿った漸進的な向上、ならびに免疫学的活性低下または免疫学的非応答性の誘発を企図している。言い換えれば、免疫寛容化には、免疫不寛容のレベルを低下させることと、免疫寛容を誘導することが含まれる。本明細書に記載の特定の好ましい実施形態では、この方法は、免疫寛容を誘導する。
【0148】
いくつかの態様では、免疫不寛容を示す対象または免疫不耐症の対象は、例えば抗原に対する測定可能な免疫応答、例えば抗原に応答した測定可能な抗体産生を有する。いくつかの態様では、免疫寛容を示す対象または免疫寛容の対象は、例えば抗原に対する測定可能な免疫応答、例えば抗原に応答した測定可能な抗体産生を有さない。本明細書に記載のものを含むELISA及び/または活性アッセイは当技術分野で公知であり、免疫不寛容を示す抗体産生を測定するために使用することができる。
【0149】
いくつかの自己免疫疾患では、抗体は、常に存在するとは限らない。そのような場合の免疫不寛容は、自己免疫疾患の臨床症状、及び/または自己反応性T細胞またはB細胞の存在、及び/または好中球、好酸球などの他の炎症性免疫細胞の増加によって証明され得る。いくつかの態様では、免疫不寛容を示す対象または免疫不耐症の対象(例えば、本明細書に記載の自己免疫疾患などの自己免疫疾患を有する対象)は、測定可能なサイトカイン応答を有する。例えば、関節リウマチに罹患している対象は、測定可能なTNF-α応答を示し得る。いくつかの態様では、免疫寛容を示す対象または免疫寛容の対象(例えば、本明細書に記載の自己免疫疾患などの自己免疫疾患を有する対象)は、測定可能なサイトカイン応答を有さない。
【0150】
免疫寛容化は、一般的または抗原特異的様式で達成することができ、例えば、それぞれ一般的または抗原特異的免疫寛容(例えば、一般的または特異的、獲得的または適応的免疫寛容)をもたらす。一般的な免疫寛容化の指標としては、例えば:(a)免疫学的活動亢進及び/または抗炎症性サイトカイン放出の欠如及び/または減少、(b)マクロファージ、好中球、好酸球、T細胞、及びB細胞などの免疫細胞の中和、(c)制御性T細胞の数の増加及び/または免疫寛容原性T細胞の活性もしくはレベルの増加(例えば、FoxP3+/CD4+T細胞、CD4+/CD25hi/Foxp3+/CTLA4+/Tim3+/NRP1+/ICOS-T細胞;CD4+/CD25hi/Foxp3+/CTLA4+/Tim3+T細胞;及び/またはCD4+/CD25hi/Foxp3+/CTLA4+/NRP1+/ICOS-T細胞);及び/または(d)制御性B細胞(例えば、CD19+/CD71+/IgM+/CD24+/CD38+/CD27+B細胞;及び/またはCD19+/CD71+/IgM+B細胞)の数の増加が挙げられる。抗原特異的免疫寛容化の指標としては、例えば:(a)抗原特異的制御性T細胞(例えば、CD$+/FoxP3+T細胞;CD4+/CD25hi/Foxp3+/CTLA4+/Tim3+/NRP1+/ICOS-T細胞;CD4+/CD25hi/Foxp3+/CTLA4+/Tim3+T細胞;及び/またはCD4+/CD25hi/Foxp3+/CTLA4+/NRP1+/ICOS-T細胞)、(b)抗原特異的抗体力価及び/または抗原特異的メモリーB細胞を含むB細胞数の減少、(c)IL-6及び/またはIL-17の減少、(d)TGF-β、IL-10、IL-35、CD40、CD80、及び/またはCD86の増加、(e)抗原による再チャレンジ後の応答性の低下、及び/または(f)抗原特異的制御性B細胞(例えば、CD19+/CD71+/IgM+/CD24+/CD38+/CD27+B細胞、及び/またはCD19+/CD71+/IgM+B細胞)の数の増加が挙げられる。これらの指標を評価するための技術は当技術分野で公知であり、本明細書に記載されている。例えば、前述の指標の一部を、培養条件を使用して評価することができる。
【0151】
自己免疫疾患では、本開示の化合物による処置により、天然の制御性T細胞の増殖が生じる。そのような処置は、病原体からの危険なシグナルに応答する自然免疫細胞によって引き起こされるような自然免疫応答を妨げず、全身的な適応免疫寛容を生じさせる。したがって、免疫寛容化は、本明細書では全身的な自然免疫抑制を伴わずに達成することができ、その結果、例えば、対象は、抗原(例えば、病原体)に対する自然免疫応答を依然として開始することができる。いくつかの態様では、免疫寛容化は、全身的な適応免疫寛容化である。いくつかの態様では、免疫寛容化は、抗原特異的であり、例えば、特定の抗原(複数可)に対する免疫不寛容の低下、または特定の抗原(複数可)に対する免疫寛容をもたらす。
【0152】
いくつかの態様では、免疫寛容化は、全身的であり、例えば、全身の免疫不寛容を低下させるか、または全身の免疫寛容をもたらす。
【0153】
抗原特異的免疫寛容化は、本明細書に記載の方法に従って、特定の抗原及び治療有効量の本開示の化合物もしくは本明細書に記載の組成物を対象に投与することによって、ならびにそれに加えて、またはその代わりに、特定の抗原の免疫原性断片及び治療有効量の本開示の化合物もしくは本明細書に記載の組成物を対象に投与することによって達成することができることが理解される。
【0154】
本明細書で使用される場合、抗原の「免疫原性断片」とは、抗原に対する免疫応答を誘導する抗原の断片を指す。抗原の免疫原性断片は、対象において、抗原自体によって誘導される免疫応答と同程度の免疫応答を誘導してもよいが、本明細書に記載の方法に従って投与する場合、この断片が免疫寛容化効果を有する限り、抗原自体と同程度の免疫応答を誘導する必要はない。
【0155】
別の実施形態は、抗原、またはその免疫原性断片、及び治療有効量の本開示の化合物を、例えば本明細書に記載の組成物の形態で対象に投与することを含む、対象における抗原特異的抗体力価の阻害方法または低下方法である。いくつかの態様は、本開示の化合物及び抗原、またはその免疫原性断片を含む本明細書に記載の組成物、例えば、複数の脂質粒子を含む組成物を対象に投与することを含み、各脂質粒子は、本開示の化合物及び抗原、またはその免疫原性断片を含む。いくつかの態様では、抗原、またはその免疫原性断片、及び本開示の化合物を、別個の製剤で対象に投与する。
【0156】
本明細書に記載の方法のいくつかの態様では、抗原は、食物アレルゲンまたはラテックスアレルゲンなどのアレルゲンである。食物アレルゲンの例としては、Ara hIまたはAra hIIなどのピーナッツアレルゲン、Jug rIなどのクルミアレルゲン、アルブミンなどのブラジルナッツアレルゲン、Pen aIなどのエビアレルゲン、オボムコイドなどの卵アレルゲン、ウシβ-ラクトグロビンなどの乳アレルゲン、グリアジンなどのコムギグルテン抗原、及びパルブアルブミンなどの魚アレルゲンが挙げられる。ラテックスアレルゲンの例は、Hey b7である。他のアレルゲンとしては、抗原E、またはAmb aI(ブタクサ花粉)、Lol p1(草)などの草由来のタンパク質抗原、Der pI及びDer PII(イエダニ)などのイエダニアレルゲン、Fel dI(イエネコ)、Bet v1(シラカバ)、ならびにCry j1及びCry j2(スギ)などの樹木花粉由来のタンパク質抗原が挙げられる。各アレルゲンに続く括弧内に記載されたアレルゲンの供給源は、示されたアレルゲンが通常関連する供給源を示す。
【0157】
別の実施形態は、治療有効量の本開示の化合物を、例えば本明細書に記載の組成物の形態で対象に投与することを含む、対象における制御性T細胞の集団の誘導方法である。いくつかの態様は、抗原、またはその免疫原性断片を対象に投与し、それに応答して制御性T細胞の集団が誘導されることをさらに含む。いくつかの態様は、本開示の化合物及び抗原、またはその免疫原性断片を含む本明細書に記載の組成物、例えば、複数の脂質粒子を含む組成物を対象に投与することを含み、各脂質粒子は、本開示の化合物及び抗原、またはその免疫原性断片を含む。いくつかの態様では、抗原、またはその免疫原性断片、及び本開示の化合物を、別個の製剤で対象に投与する。
【0158】
いかなる特定の理論にも拘束されることを望まないが、本開示の化合物は、主に天然の制御性T細胞(nTregs、例えばFoxP3+/NRP1+である制御性T細胞)の集団を増殖させることによって制御性T細胞の集団を誘導すると考えられる。本開示の化合物はまた、誘導性の制御性T細胞(iTregs、例えば、FoxP3+T細胞、FoxP3+/TIM3+T細胞)を誘導または上方制御する。したがって、いくつかの態様では、制御性T細胞集団の誘導方法は、例えば、誘導性の制御性T細胞を実質的に誘導することなく、天然の制御性T細胞(例えば、FoxP3+/NRP1+である制御性T細胞)の集団を増殖させる方法である。本明細書に記載されるように、例えば、ニューロピリン-1(Nrp1)発現を使用して、天然の制御性T細胞と誘導性の制御性T細胞とを区別することができる。したがって、いくつかの態様では、制御性T細胞集団の誘導方法は、例えば、天然の制御性T細胞の集団を増殖させることによって、Nrp1を発現する制御性T細胞(例えば、FoxP3+/NRP1+T細胞)の集団を誘導する方法である。いかなる特定の理論にも拘束されることを望まないが、例えば、誘導性の制御性T細胞を実質的に誘導することなく、天然の制御性T細胞(例えば、FoxP3+/NRP1+である制御性T細胞)の集団を増殖させる能力は、一般的な免疫抑制に影響を与えることなく、自己免疫疾患を治療する上で有用であると考えられる。
【0159】
いくつかの態様では、制御性T細胞は、FoxP3+、例えば、FoxP3+/TIM3+、FoxP3+/NRP1+である。制御性T細胞が前述のマーカーのいずれかに対して陽性(+)であるか陰性(-)であるかを、例えばフローサイトメトリー分析によって判定することができる。
【0160】
別の実施形態は、治療有効量の本開示の化合物を、例えば本明細書に記載の組成物の形態で対象に投与することを含む、対象における寛容原性T細胞の活性またはレベルの増加方法である。
【0161】
別の実施形態は、治療有効量の本開示の化合物を、例えば本明細書に記載の組成物の形態で対象に投与することを含む、対象における制御性B細胞の集団の誘導方法である。いくつかの態様は、抗原、またはその免疫原性断片を対象に投与し、それに応答して制御性B細胞の集団が誘導されることをさらに含む。いくつかの態様は、本開示の化合物及び抗原、またはその免疫原性断片を含む本明細書に記載の組成物、例えば、複数の脂質粒子を含む組成物を対象に投与することを含み、各脂質粒子は、本開示の化合物及び抗原、またはその免疫原性断片を含む。いくつかの態様では、抗原、またはその免疫原性断片、及び本開示の化合物を、別個の製剤で対象に投与する。
【0162】
本開示の化合物は、CD19、CD71、及びIgMなどのB細胞上の特定の調節マーカーの発現を増加させ、それによってCD19+/CD71+/IgM+B細胞の集団を誘導することがわかっている。いくつかの態様では、制御性B細胞は、CD19+、CD71+、IgM+、CD24+、CD38+、及び/またはCD27+、例えば、CD19+/CD71+/IgM+である。制御性B細胞が前述のマーカーのいずれかに対して陽性(+)であるか陰性(-)であるかを、例えばフローサイトメトリー分析によって判定することができる。
【0163】
別の実施形態は、治療有効量の本開示の化合物を、例えば本明細書に記載の組成物の形態で対象に投与することを含む、対象における自己免疫障害の治療方法である。自己免疫障害においては、例えば制御性T細胞の集団を誘導することによって一般的な適応免疫寛容化(例えば、免疫寛容)を、または、例えば自己免疫障害に関連する自己抗原もしくはその免疫原性断片に対して対象を免疫寛容化することによって特異的な免疫寛容化(例えば、免疫寛容)を誘導することが望ましい場合があることが理解される。したがって、自己免疫障害を治療する方法のいくつかの態様では、方法は、自己免疫障害に関連する自己抗原またはその免疫原性断片を対象に投与する(例えば、共投与する)ことをさらに含む。いくつかの態様は、本開示の化合物及び自己抗原、またはその免疫原性断片を含む本明細書に記載の組成物、例えば、複数の脂質粒子を含む組成物を対象に投与することを含み、各脂質粒子は、本開示の化合物及び自己抗原、またはその免疫原性断片を含む。いくつかの態様では、自己抗原、またはその免疫原性断片、及び本開示の化合物を、別個の製剤で対象に投与する。
【0164】
本明細書に記載の方法に従って治療可能な自己免疫障害の具体例としては、アカラシア、アジソン病、成人スチル病、無ガンマグロブリン血症、円形脱毛症、アミロイドーシス、強直性脊椎炎、抗GBM/抗TBM腎炎、抗リン脂質症候群、自己免疫性血管浮腫、自己免疫性自律神経失調症、自己免疫性脳脊髄炎、自己免疫性肝炎、自己免疫性内耳疾患(AIED)、自己免疫性心筋炎、自己免疫性卵巣炎、自己免疫性精巣炎、自己免疫性膵炎、自己免疫性網膜症、自己免疫性蕁麻疹、軸索神経障害(AMAN)、バロー病、ベーチェット病、良性粘膜類天疱瘡、水疱性類天疱瘡、キャッスルマン病(CD)、セリアック病、シャーガス病、慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP)、慢性再発性多巣性骨髄炎(CRMO)、チャーグ・ストラウス症候群(CSS)または好酸球性肉芽腫症(EGPA)、瘢痕性類天疱瘡、コーガン症候群、寒冷凝集素症、先天性心ブロック、コクサッキー心筋炎、CREST症候群、クローン病、疱疹状皮膚炎、皮膚筋炎、デビック病(視神経脊髄炎)、円板状ループス、ドレスラー症候群、子宮内膜症、好酸球性食道炎(EoE)、好酸球性筋膜炎、結節性紅斑、本態性混合型クリオグロブリン血症、エバンス症候群、線維筋痛症、線維化性肺胞炎、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、巨細胞性心筋炎、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、多発性血管炎を伴う肉芽腫症、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、橋本甲状腺炎、溶血性貧血、ヘノッホ症候群紫斑病(HSP)、妊娠性疱疹または妊娠類天疱瘡(PG)、化膿性汗腺炎(HS)(反対型座瘡)、低ガンマグロブリン血症、IgA腎症、IgG4関連硬化性疾患、免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)、封入体筋炎(IBM)、間質性膀胱炎(IC)、若年性関節炎、若年性糖尿病(1型糖尿病)、若年性筋炎(JM)、川崎病、ランバート・イートン症候群、白血球破砕性血管炎、扁平苔癬、硬化性苔癬、木質性結膜炎、線状IgA病(LAD)、狼瘡、慢性ライム病、メニエール病、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、混合性結合組織病(MCTD)、モーレン潰瘍、ムッハ・ハーベルマン病、多巣性運動神経障害(MMN)またはMMNCB、多発性硬化症、重症筋無力症、筋炎、ナルコレプシー、新生児狼瘡、視神経脊髄炎、好中球減少症、眼部瘢痕性類天疱瘡、視神経炎、回帰性リウマチ(PR)、PANDAS、腫瘍随伴性小脳変性症(PCD)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、パリー・ロンバーグ症候群、毛様体扁平部炎(周辺部ブドウ膜炎)、パーソネージ・ターナー症候群、天疱瘡、末梢神経障害、静脈周囲脳脊髄炎、悪性貧血(PA)、POEMS症候群、結節性多発動脈炎、多腺症候群I型、II型、及びIII型、リウマチ性多発筋痛、多発性筋炎、心筋梗塞後症候群、心膜切開後症候群、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、プロゲステロン皮膚炎、乾癬、乾癬性関節炎、赤芽球癆(PRCA)、壊疽性膿皮症、レイノー現象、反応性関節炎、反射性交感神経性ジストロフィー、再発性多発性軟骨炎、下肢静止不能症候群(RLS)、後腹膜線維症、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、シュミット症候群、強膜炎、強皮症、シェーグレン症候群、精子及び精巣の自己免疫、全身硬直症候群(SPS)、亜急性細菌性心内膜炎(SBE)、スザック症候群、交感性眼炎(SO)、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、血小板減少性紫斑病(TTP)、甲状腺眼疾患(TED)、トロサ・ハント症候群(THS)、横断性脊髄炎、1型糖尿病、潰瘍性大腸炎(UC)、未分化結合組織病(UCTD)、ブドウ膜炎、血管炎、白斑、ならびにフォークト・小柳・原田症候群が挙げられる。
【0165】
いくつかの態様では、自己免疫障害は、神経学的自己免疫障害である。神経学的自己免疫障害の例としては、多発性硬化症、視神経脊髄炎、重症筋無力症、抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質抗体疾患(MOG)、MOG抗体関連障害(MOGAD、例えば、MOG関連小児脱髄疾患)、自己免疫性脳炎、急性播種性脳脊髄炎(ADEM)、慢性髄膜炎、中枢神経系血管炎、ギラン・バレー症候群、橋本甲状腺炎、自己免疫性甲状腺炎を伴うステロイド応答性脳症(SREAT)、神経サルコイドーシス、視神経炎、及び横断性脊髄炎が挙げられる。
【0166】
いくつかの態様では、自己免疫障害は、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患(IBD)、多発性硬化症、1型糖尿病、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、乾癬、グレーブス病、橋本甲状腺炎、重症筋無力症、または血管炎である。いくつかの態様では、自己免疫障害は全身性エリテマトーデスである。いくつかの態様では、自己免疫障害はIBDである。
【0167】
いくつかの態様では、自己免疫障害は、多発性硬化症、視神経脊髄炎、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質抗体関連疾患(MOGAD)、関節リウマチ、または重症筋無力症である。いくつかの態様では、自己免疫障害は多発性硬化症である。いくつかの態様では、自己免疫障害は視神経脊髄炎である。いくつかの態様では、自己免疫障害はMOGADである。いくつかの態様では、自己免疫障害は関節リウマチである。いくつかの態様では、自己免疫障害は重症筋無力症である。
【0168】
多発性硬化症の臨床管理は通常、エスカレーションパラダイムまたは導入/維持パラダイムの2つのパラダイムのいずれかに従う。エスカレーションパラダイムでは、より効能及び有効性が低い疾患修飾治療(DMT)による治療が失敗した後に、より有効性及び効能が高い(そして重篤な有害事象のリスクがより高い)DMTを投与する。通常、エスカレーションパラダイムにおける標準治療には、酢酸グラチラマー、インターフェロンβ、及び/またはテリフルニムドによる治療が含まれ、治療が失敗した際に、フィンゴリモド及び/またはフマル酸ジメチルにエスカレートし、治療が失敗した際に、さらにナタリズマブ及び/または抗B細胞にさらにエスカレートし、治療が失敗した際に、なおさらにアレムツズマブ及び/またはミトキサントロンにエスカレートする。
【0169】
多発性硬化症の臨床管理のための導入/維持治療パラダイムは、導入期とそれに続く維持期を含む。導入期では、疾患制御を誘導するために高い効能のDMTで患者を治療し、続いて維持期では、維持療法としてより安全で低い効能のDMTに切り替える。
【0170】
多発性硬化症の治療に使用される疾患修飾治療(DMT)としては、インターフェロンβ-1a(例えば、AVONEX(登録商標)、REBIF(登録商標))、インターフェロンβ-1b(例えば、BETASERON(登録商標)、EXTAVIA(登録商標))、酢酸グラチラマー(例えば、COPAXONE(登録商標)、GLATOPA(登録商標))、オファツムマブ(例えば、KESIMPTA(登録商標))、ペグインターフェロンβ-1a(例えば、PLEGRIDY(登録商標))、テリフルノミド(例えば、AUBAGIO(登録商標))、フマル酸モノメチル(例えば、BAFIERTAM(商標))、フマル酸ジメチル(例えば、TECFIDERA(登録商標))、フィンゴリモド(例えば、GILENYA(登録商標))、クラドリビン(例えば、MAVENCLAD(登録商標))、シポニモド(例えば、MAYZENT(登録商標))、ポネシモブ(例えば、PONVORY(登録商標))、フマル酸ジロキシメル(例えば、VUMERITY(登録商標))、オザニモブ(例えば、ZEPOSIA(登録商標))、アレムツズマブ(例えば、LEMTRADA(登録商標))、ミトキサントロン(例えば、NOVANTRONE(登録商標))、オクレリズマブ(例えば、OCREVUS(登録商標))及びナタリズマブ(例えば、TYSABRI(登録商標))が挙げられる。高い効能のDMTの例としては、ナタリズマブ、アレムツズマブ、抗B細胞、及びミトキサントロンが挙げられるが、これらに限定されない。より低い効能のDMTの例としては、酢酸グラチラマー、インターフェロンβ、テリフルニミド、DMF、及びフィンゴリモブが挙げられるが、これらに限定されない。
【0171】
ナタリズマブは、マウス骨髄腫細胞で産生される組換えヒト化IgG4κモノクローナル抗体である。ナタリズマブは、好中球を除くすべての白血球の表面に発現するα4β1及びα4β7インテグリンのα4サブユニットに結合し、白血球がそのカウンターレセプター(複数可)へα4媒介接着することを阻害する。ナタリズマブ注射は、成人において、clinically isolated syndrome、再発寛解型疾患、及び活動性二次性進行型疾患を含む、再発型多発性硬化症を治療するための単剤療法として、必要が示される。酢酸グラチラマー注射は、成人において、clinically isolated syndrome、再発寛解型疾患、及び活動性二次性進行型疾患を含む、再発型多発性硬化症の治療のために、必要が示される。経口で使用するためのフマル酸ジメチルは、再発性多発性硬化症の治療のために、必要が示される。
【0172】
いくつかの態様では、多発性硬化症は、以前に治療されていない。代替の態様では、多発性硬化症は、例えば、ナタリズマブ(TYSABRI(登録商標))、酢酸グラチラマー及び/またはフマル酸ジメチル、またはDMTなどの標準治療法で以前に治療されている。
【0173】
いくつかの態様では、多発性硬化症は、原発性進行性多発性硬化症(PPMS)である。いくつかの態様では、多発性硬化症は、再発寛解型多発性硬化症(RRMS)である。いくつかの態様では、多発性硬化症は、clinically isolated syndrome(CIS)である。いくつかの態様では、多発性硬化症は、二次進行性多発性硬化症(SPMS)である。
【0174】
いくつかの態様(例えば、自己免疫疾患が多発性硬化症である場合)では、本方法は、例えば医薬組成物の形態で、本開示の化合物を含む治療有効量の導入療法を対象に投与することを含む。いくつかの態様(例えば、自己免疫疾患が多発性硬化症である場合)では、本方法は、例えば医薬組成物の形態で、本開示の化合物を含む治療有効量の維持療法を対象に投与することを含む。いくつかの態様(例えば、自己免疫疾患が多発性硬化症である場合)では、本方法は、本開示の化合物を含む治療有効量の導入療法を、例えば医薬組成物の形態で、及び(例えば、続いて)本開示の化合物を含む治療有効量の維持療法を、例えば医薬組成物の形態で、対象に投与することを含む。
【0175】
いくつかの態様(例えば、自己免疫疾患が多発性硬化症である場合)では、本開示の化合物は、ナタリズマブ及び/または酢酸グラチラマー及び/またはフマル酸ジメチルなどのDMTと組み合わせて投与し、いくつかのさらなる態様では、本方法は、ナタリズマブ及び/または酢酸グラチラマー及び/またはフマル酸ジメチルなどのDMTを対象に投与するステップをさらに含む。
【0176】
いくつかの態様では、自己免疫障害は、以前に治療されていない。代替の態様では、自己免疫障害は、例えばナタリズマブ(TYSABRI(登録商標))または多発性硬化症に対する酢酸グラチラマーなどの標準治療法で以前に治療されている。
【0177】
自己免疫障害に関連する自己抗原の例としては、甲状腺の甲状腺刺激ホルモン受容体(グレーブス病)、甲状腺ペルオキシダーゼなどの甲状腺抗原(橋本甲状腺炎)、グルタミン酸デカルボキシラーゼ及びインスリンなどのβ細胞抗原(I型糖尿病)、シトクロムP450抗原(アジソン病)、ミエリン塩基性タンパク質などのミエリンタンパク質(多発性硬化症)、ブドウ膜抗原(ブドウ膜炎)、H/ATPase及び内在性因子(悪性貧血)などの胃壁細胞抗原、トランスグルタミナーゼ(グルテン腸症)、ミオシンなどの心筋細胞タンパク質(心筋炎、リウマチ性心疾患)、GP IIb/IIIa(特発性血小板減少性紫斑病)などの血小板抗原、赤血球膜タンパク質(自己免疫性溶血性貧血)、好中球膜タンパク質(自己免疫性好中球減少症)、IV型コラーゲンα3鎖などの基底膜抗原(グッドパスチャー病)、2-オキソ酸デヒドロゲナーゼ複合体などの肝内胆管/ミトコンドリア抗原(原発性胆汁性肝硬変)、シトクロムP450及び206(自己免疫性肝炎)などの肝細胞抗原、アセチルコリン受容体(重症筋無力症)、デスモグレイン(天疱瘡及び他の水疱性疾患)が挙げられる。各自己抗原の隣の括弧内に列挙された障害は、示された自己抗原が通常関連する自己免疫障害を示す。
【0178】
本開示の化合物及び本明細書に記載の組成物は、例えば、抗原療法に対する望ましくない免疫応答を阻害することによって、及び/または抗原療法の投与及び/または反復投与を可能にすることによって、抗原療法、例えば遺伝子治療に関して有用な補助的療法となることが期待される。別の実施形態は、本開示の化合物を、例えば本明細書に記載の組成物の形態で対象に投与することを含む、治療を必要とする対象における疾患、障害、または病態の、抗原療法による治療方法である。いくつかの態様では、抗原療法に対して対象を免疫寛容化するのに十分な量で本開示の化合物を投与する。いくつかの態様では、この方法は、抗原療法(例えば、治療有効量の抗原療法)を、例えば、本開示の化合物と同時にまたは逐次的に対象に投与する(例えば、共投与する)ことをさらに含む。いくつかの態様は、本開示の化合物及び抗原療法を含む本明細書に記載の組成物、例えば、複数の脂質粒子を含む組成物を対象に投与することを含み、各脂質粒子は、本開示の化合物及び抗原療法を含む。いくつかの態様では、抗原療法及び本開示の化合物を、別個の製剤で対象に投与する。
【0179】
いくつかの態様では、抗原療法は、キメラ抗体療法、ヒト化抗体療法、及び完全ヒト抗体療法を含む抗体療法(例えば、モノクローナル抗体療法)である。抗体療法の具体例としては、抗腫瘍壊死因子(抗TNF)療法、例えば、アダリムマブ(Humira(登録商標);関節リウマチ、若年性特発性関節炎、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、尋常性乾癬、化膿性汗腺炎、ブドウ膜炎用)及びインフリキシマブ(Remicade(登録商標)、クローン病、小児クローン病、潰瘍性大腸炎、小児潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、尋常性乾癬用)、ゴリムマブ(Simponi(登録商標)、関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、多関節型若年性特発性関節炎用)、エタネルセプト(Enbrel(登録商標)、関節リウマチ、多関節型若年性特発性関節炎、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、尋常性乾癬用)、ならびにセルトリズマブペゴル(Cimzia(登録商標)、クローン病、関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎、尋常性乾癬用)が挙げられる。
【0180】
いくつかの態様では、抗原療法は、タンパク質補充療法、例えば酵素補充療法である。タンパク質補充療法の例としては、血友病A及びBに対する第VIII因子及び第IX因子などの凝固障害に対する補充療法、ポンペ病に対するアルグルコシダーゼα(Myozyme(登録商標)及びLumizyme(登録商標))などのリソソーム蓄積症に対する酵素補充療法、ハーラー症候群に対するα-L-イズロニダーゼ、ならびに成人型アデノシンデアミナーゼ欠損症に対するアデノシンデアミナーゼが挙げられる。
【0181】
いくつかの態様では、抗原療法は遺伝子治療である。遺伝子治療は通常、以下の3つのメカニズムのうちの1つによって作用する:(1)対象に病因遺伝子の健康なコピーを供給することにより(例えば、voretigene neparvovec-rzyl(Luxturna(登録商標))が行うように)、(2)病因遺伝子を不活性化することにより(例えば、ASO及びsiRNA)、または(3)疾患の治療を助けるために遺伝子を体内に導入することにより。遺伝子治療には、DNA(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO))及び/またはRNA(例えば、siRNA)が含まれ、これらは様々な製品を介してin vivoまたはex vivoで対象に送達することができる。in vivo遺伝子送達産物には、プラスミドDNA、ウイルスベクター(AAV9などのAAV)、及び細菌ベクターまたは脂質ナノ粒子などの非ウイルスベクターが含まれる。in vivo遺伝子送達に好適な非ウイルスベクターの他の例としては、エキソソーム、ポリマー粒子、無機粒子、及び脂質ポリマーハイブリッド粒子が挙げられる。ex vivo遺伝子送達製品には、対象由来の細胞遺伝子治療製品が含まれる。遺伝子治療には、CRISPRなどの遺伝子編集技術も含まれる。本明細書に記載のin vivo遺伝子送達用の製品のいずれかを介して、CRISPRなどの遺伝子編集技術を簡便に対象に送達することができる。遺伝子治療の具体例としては、voretigene neparvovec-rzyl(Luxturna(登録商標)、網膜ジストロフィー用)、及びonasemnogene abeparvovec-xioi(Zolgensma(登録商標)、小児脊髄性筋萎縮症用)が挙げられる。
【0182】
いくつかの態様では、遺伝子治療は、DNA及び/またはRNAならびにウイルスベクターを含む。いくつかの態様では、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、例えば組換えAAVに由来する。いくつかの態様では、AAVはAAV9である。本開示に関する使用に好適なウイルスベクターの他の例としては、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス、狂犬病ウイルス、レンチウイルス、VSV、ポックスウイルス(例えば、ワクシニアウイルス、痘瘡ウイルス、カナリア痘)、レオウイルス、セムリキ森林ウイルス、黄熱病ウイルス、シンドビスウイルス、トガウイルス、バキュロウイルス、バクテリオファージ、アルファウイルス、及びフラバウイルスに由来するウイルスベクターが挙げられる。
【0183】
いくつかの態様では、抗原療法は細胞療法である。細胞療法の一例は、axicabtagene ciloleucel(Yescarta(登録商標)、再発または難治性大細胞型B細胞リンパ腫用)である。細胞療法の別の例は、CAR-T細胞である。
【0184】
同種抗原は、1つの種のすべての個体ではなく一部の個体に存在し、それを有さない個体によって異物として認識される抗原であり、多くの場合、移植片拒絶反応の基礎となる。したがって、別の実施形態は、治療有効量の本開示の化合物または本明細書に記載の組成物を対象に投与することを含む、治療を必要とする対象における移植片対宿主病の治療方法である。
【0185】
同種抗原の例としては、主要組織適合性複合体(MHC)クラスI及びクラスII抗原、マイナー組織適合性抗原、血液型抗原などの内皮糖タンパク質、及び炭水化物決定基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0186】
別の実施形態は、治療有効量の本開示の化合物を、例えば本明細書に記載の組成物の形態で対象に投与することを含む、治療を必要とする対象における創傷治癒の促進方法である。
【0187】
本明細書に記載されるいずれかの方法のいくつかの態様では、この方法は、抗原またはその免疫原性断片を対象に投与することをさらに含む。いくつかのさらなる態様では、抗原またはその免疫原性断片と本開示の化合物を共投与する。例えば、抗原特異的免疫寛容を誘導することが時として望ましい場合がある(例えば、抗原療法に対して対象を免疫寛容化するために本開示の化合物を投与している場合)。抗原特異的免疫寛容が望ましい場合、抗原またはその免疫原性断片と、例えば本明細書に記載の組成物の形態の本開示の化合物とを、好ましくは共投与する。
【0188】
本明細書で使用される場合、「共投与する」、「共投与」などは、対象の身体上の同じまたはほぼ同じ部位での同じ投与経路を介した2つ以上の薬剤(例えば、本開示の化合物及び抗原)の同時またはほぼ同時であるが逐次的な投与を指す。
【0189】
共投与が同時(例えば、同時進行で)である場合、第1の薬剤(例えば、本開示の化合物)及び第2の薬剤(例えば、追加の治療薬、抗原、またはその免疫原性断片)は、別個の製剤または同じ製剤中に存在させることができる。あるいは、第1及び第2の薬剤を、別個の組成物として連続的に投与することができる。共投与が連続的である場合、後続の組成物(複数可)の投与を、第1の組成物の投与から24時間以内、好ましくは12時間以内、例えば、第1の組成物の投与から10時間、5時間、4時間、3時間、2時間、60分、30分、15分、10分または5分以内に行う。通常、共投与が逐次的である場合、組成物を投与する臨床医または対象が、次の組成物(複数可)を投与するために準備するために行う必要があり得る操作を考慮して、第1の組成物の投与の完了直後に次の組成物(複数可)の投与が続く。
【0190】
共投与が経口である場合、投与部位は口であり、共投与する2つ以上の薬剤を単一の製剤で投与するか別個の製剤で投与するかに関わらず、それらを同じ部位に経口投与する。しかしながら、同時投与が2つ以上の組成物の注射による場合、より一般的には、投与部位はほぼ同じである。そのような状況では、投与の解剖学的部位は、一般的には、互いに2インチ未満離れており、例えば、互いに約0.5インチ未満、約1インチ未満、または約1.5インチ未満である。
【0191】
いくつかの態様では、本開示の抗原またはその免疫原性断片、及び化合物を、経口で共投与する。さらなる態様では、抗原またはその免疫原性断片の投与を、本開示の化合物の投与に先行して行う。代替のさらなる態様では、本開示の化合物の投与を、抗原またはその免疫原性断片の投与に先行して行う。さらに別のさらなる態様では、本開示の化合物と抗原またはその免疫原性断片の投与は、同時である。
【0192】
共投与は、本明細書に記載の任意の投与経路によって行うことができる。いくつかの態様では、本開示の化合物と抗原またはその免疫原性断片を、経口で共投与する。いくつかの態様では、本開示の化合物と抗原またはその免疫原性断片を、皮下に共投与する。
【0193】
いかなる特定の理論にも拘束されることを望まないが、対象の免疫系が抗原及び本開示の化合物に一緒に遭遇すること、または抗原及び本開示の化合物が対象の免疫系に「共に提示される」ことが望ましい場合があると考えられる。本開示の化合物を抗原と共投与し、かつ、例えばタンパク質補充療法など、その抗原がタンパク質である場合、例えば、抗原と本開示の化合物を別個の製剤で注射することによる共投与は、対象の免疫系に対する本開示の化合物と抗原の効果的な共提示を提供すると期待される。そのような用途では、本開示の化合物を、脂質粒子に組み込んでもよいが、必ずしも組み込む必要はない。そのような用途の好ましい態様では、共投与は、例えば注射による皮下投与である。遺伝子治療(例えば、DNA及び/またはRNAを含む遺伝子治療)の送達を伴う用途においては、対象の免疫系に対する遺伝子治療と本開示の化合物の効果的な共提示を促進するために、遺伝子治療及び本開示の化合物を、遺伝子治療及び本開示の化合物を含む脂質粒子に製剤化することが望ましい場合がある。好ましい態様では、そのような粒子を、経口及び/または非経口(例えば、皮下、筋肉内、静脈内、皮内)投与、例えば、注射用に製剤化する。
【0194】
また、いかなる特定の理論にも拘束されることを望まないが、本明細書で同定される本開示の特定の化合物は、リポソームに埋め込まれると考えられる。例えば、本明細書に開示される方法によるそのような化合物の使用は、対象の免疫系に対する本開示の化合物及び抗原の効果的な共提示が、本開示の化合物及び抗原を、本開示の化合物及び抗原を含む脂質粒子へ組み込むことによって促進される態様において有利であり得る。
【0195】
本開示の化合物を、1つ以上の非抗原療法と組み合わせて投与して、疾患、障害、または病態を治療することもできる。そのような非抗原性療法と「組み合わせて」投与する場合、本開示の化合物を、他の療法(複数可)(例えば、追加の治療薬(複数可))の前、後、または同時に投与することができる。同時に(例えば、同時進行で)投与する場合、本開示の化合物と別の療法は、別個の製剤であっても、同じ製剤であってもよい。あるいは、本開示の化合物と別の療法は、別個の組成物として、ほぼ同時にまたは異なる時間に連続的に投与することができる。本開示の化合物及び他の療法(例えば、治療薬)を別個の製剤または組成物として投与する場合、本開示の化合物及び他の療法を、同じ投与経路によって、または異なる投与経路によって投与することができる。熟練した臨床医は、組み合わせて使用する各療法を投与するための適切なタイミング(例えば、療法の薬学的効果の重複を可能にするのに十分なタイミング)を決定することができる。通常、併用療法は、本明細書に記載の疾患、病態、または障害の治療において薬物併用の有益な効果を提供する。
【0196】
いくつかの態様では、本明細書に記載の方法は、例えば、本開示の化合物または本明細書に記載の組成物と併用して、追加の非抗原性療法(複数可)(例えば、治療有効量の)を対象に投与することをさらに含む。いくつかの態様では、本明細書に記載の開示の化合物または組成物を、追加の療法(複数可)の前に投与する。いくつかの態様では、本明細書に記載の開示の化合物または組成物を、追加の療法(複数可)の後に投与する。いくつかの態様では、本明細書に記載の開示の化合物または組成物を、追加の療法(複数可)と同時に投与する。
【0197】
投与する薬剤の治療有効量は、本明細書で提供するガイダンス及び当技術分野で公知の他の方法を使用して、当業者の臨床医によって決定され得る。例えば、好適な用量は、1回の治療あたり約0.001mg/kg~約100mg/kg、約0.01mg/kg~約100mg/kg、約0.01mg/kg~約10mg/kg、約0.01mg/kg~約1mg/kg体重であり得る。特定の薬剤、対象、及び疾患に対する用量の決定は、十分に当業者の能力の範囲内である。好ましくは、用量は有害な副作用を引き起こさないか、または最小限の副作用を生じさせる。
【0198】
本開示の化合物、本明細書に記載の組成物、抗原、または他の治療薬は、それぞれ、化合物、抗原及び/または治療薬、ならびに治療しようとする特定の疾患に応じて、例えば、経口、摂食、局所、経皮、直腸、非経口(例えば、動脈内、静脈内、筋肉内、皮下注射、皮内注射)、静脈内注入、及び吸入(例えば、気管支内、鼻腔内または経口吸入、鼻腔内点滴)の投与経路を含む様々な投与経路を介して投与することができる。投与は、局所性または全身性であり得る。好ましい投与様式は、特定の化合物または薬剤に応じて様々に異なり得る。
【0199】
いくつかの態様では、投与(例えば、本開示の化合物または本明細書に記載の組成物及び/または抗原の)は経口である。いくつかの態様では、投与(例えば、本開示の化合物または本明細書に記載の組成物及び/または抗原の)は静脈内である。いくつかの態様では、投与(例えば、本開示の化合物または本明細書に記載の組成物及び/または抗原の)は皮下である。
【0200】
本明細書に記載の開示の化合物または組成物は、抗原療法に対する免疫不寛容が知られていない対象に本明細書に記載の開示の化合物または組成物を抗原療法と共投与する場合と同様に、本明細書に開示の方法に従って予防的に投与することができる。本明細書に記載の本開示の化合物または組成物は、同様にまたは代替的に、対象が抗原に対する免疫不寛容(例えば、アレルギー反応、移植片拒絶)を示した場合のように、本明細書に開示の方法に従って治療的に投与することができる。したがって、いくつかの態様では、例えば対象は抗原に対してナイーブであるため、対象は抗原に対する既知の免疫不寛容を有していない。いくつかの態様では、対象は、抗原が投与した後、及び/または抗原に曝露した後、抗原に対する既知の免疫不寛容を有していない。いくつかの態様では、対象は、抗原に対して免疫不寛容である、例えば、抗原の投与及び/または曝露後に免疫不寛容を生じるか、または抗原に対して本質的に免疫不寛容である。
【0201】
本開示の化合物または本明細書に記載の組成物を抗原療法の第1の用量と共に投与する場合と同様に、抗原への第1の曝露時に、本開示の化合物または本明細書に記載の組成物を本明細書に開示の方法に従って投与(例えば、同時投与)することができる。さらに、または代替として、本開示の化合物または本明細書に記載の組成物を抗原療法の第2の、またはさらなる追加の用量(例えば、反復用量)と共に投与する場合と同様に、抗原への第2の、またはさらなる曝露時に、本開示の化合物または本明細書に記載の組成物を本明細書に開示の方法に従って投与(例えば、同時投与)することができる。
【0202】
本明細書に記載の方法は、対象の生涯にわたって、長期間、例えば、本明細書に記載の抗原療法で疾患、障害、または病態を治療するのに必要な期間、抗原に対する免疫不寛容を軽減することを目的とする。したがって、本明細書に記載の方法のいくつかの態様では、方法は、抗原またはその免疫原性断片(例えば、治療有効量の抗原療法などの抗原療法)を、本開示の化合物または本明細書に記載の組成物の非存在下で対象に投与することをさらに含む。
【0203】
しかしながら、対象の免疫不寛容は、本明細書に記載の方法の後、例えばその後の抗原への曝露(複数可)の後、時間の経過と共に増加する可能性がある。そのような場合、本明細書に記載の方法を、例えば、「ブースター」ワクチンが繰り返されるのと同じように繰り返して、対象を抗原に対して再免疫寛容化することができる。
【0204】
本開示の化合物、または本明細書に記載の他の治療薬は、化合物、及び治療しようとする特定の疾患に応じて、例えば、経口、摂食、局所、経皮、直腸、非経口(例えば、動脈内、静脈内、筋肉内、皮下注射、皮内注射)、静脈内注入、及び吸入(例えば、気管支内、鼻腔内または経口吸入、鼻腔内点滴)の投与経路を含む様々な投与経路を介して投与することができる。投与は、局所性または全身性であり得る。いくつかの実施形態では、投与(例えば、本開示の化合物の)は経口である。いくつかの実施形態では、投与(例えば、本開示の化合物の)は静脈内である。好ましい投与様式は、特定の化合物または薬剤に応じて様々に異なり得る。通常、本開示の化合物または他の治療薬を、注入(例えば、持続注入)として、同様にまたは代替的に、1日あたり約1~約6回(例えば、1、2、3、4、5、または6回)投与する。いくつかの態様では、投与(例えば、本開示の化合物の)は、QDまたはBID(例えば、QD)である。いくつかの態様では、投与(例えば、本開示の化合物の)は毎日である。
【0205】
本明細書に記載されるような経口投与されたリポソームは、リンパ節に到達し、リンパ節においてB細胞及びT細胞を含む免疫細胞と共局在することができることが本明細書で示される。したがって、本明細書ではまた、複数の脂質粒子(例えば、固形脂質粒子)を含有する治療有効量の組成物を対象に経口投与することを含む、治療薬(例えば、本開示の化合物)を、対象のリンパ節へ送達する方法を提供し、その場合、各脂質粒子は、少なくとも1つのリン脂質(例えば、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)中にC-C30アシル鎖、例えば、飽和C-C30アシル鎖を含有するリン脂質)、及び脂質粒子の脂質二重層に埋め込むことができる治療薬(例えば、本開示の化合物)を含む。
【0206】
本開示の化合物または他の治療薬は、約0.001mg/kg体重~約100mg/kg体重の範囲の用量で、あるいは、約1mg/用量~約5,000mg/用量の範囲の用量で4~120時間ごとに、または特定の薬剤の要件に従って投与することができる。例えば、好適な用量は、1回の治療あたり約0.001mg/kg~約100mg/kg、約0.01mg/kg~約100mg/kg、約0.01mg/kg~約10mg/kg、約0.01mg/kg~約1mg/kg体重であり得る。いくつかの態様では、好適な用量(例えば、1日の用量)は、治療あたり約0.1mg/kg~約10mg/kg、例えば、約0.1mg/kg~約5mg/kg、約0.1mg/kg~2.5mg/kg、または約0.2mg/kg~約2.4mg/kg体重である。好適な用量は、約0.001mg/回~約100mg/用量、約0.01mg/用量~約100mg/用量、約0.1mg/用量~約50mg/用量、約0.1mg/用量~約10mg/用量、約0.5mg/用量~約50mg/用量、約1mg/用量~約10,000mg/用量、約1mg/用量~約7,500mg/用量、約1mg/用量~約5,000mg/用量、約10mg/用量~約2,500mg/用量、または約100mg/用量~約1,000mg/用量であり得る。いくつかの態様では、好適な用量(例えば、1日の用量)は、約10mg/用量~約1,000mg/用量、例えば、約15mg/用量~約1,000mg/用量、約10mg/用量~約500mg/用量、約10mg/用量~約250mg/用量、または約15mg/用量~約150mg/用量である。
【0207】
上記の用量よりも低いまたは高い用量が必要な場合がある。任意の特定の患者に対する具体的な投与量及び治療レジメンは、例えば、使用する具体的な薬剤の活性、年齢、体重、全体的な健康状態、性別、食事、投与時間、排泄速度、薬物の組み合わせ、疾患、病態または症状の重症度及び経過、疾患、病態または症状に対する対象の素因、ならびに治療を行う医師の判断を含む、様々な因子に依存する。特定の薬剤、対象、及び疾患、障害、または病態に対する用量の決定は、当業者の能力の範囲内である。
【実施例
【0208】
実施例1.化合物1及び化合物2の合成
化合物1及び化合物2の合成は、共通の出発物質として以下のBoc-Dap-OH(Boc-Dap-OH)を用いた:
【化5】
【0209】
化合物1:(S)-2-アミノ-3-(((ヘキサデシルオキシ)カルボニル)アミノ)プロパン酸
【化6】
【0210】
Boc-Dap-OH(0.500g)を0℃で10%炭酸ナトリウム溶液(7mL)に溶解し、ジオキサン(7mL)中のクロロギ酸セチル(0.866g)の溶液を0℃で滴下した。反応混合物を0℃で1時間撹拌し、次いで室温(RT)で1.5時間撹拌した。次いで、反応物を60mLの水でクエンチした。不均一な混合物をエーテルで抽出した。固体を水層とエーテル層の間に懸濁した。水層を分離し、固体を濾過し、過剰のエーテルで洗浄した。固体を水に懸濁し、pH1に酸性化し、EtOAc(2×35mL)で直ちに抽出した。分離した有機層を水(3×20mL)及びブライン(15mL)で洗浄し、NaSOで乾燥させた。溶媒を減圧下で除去して、(S)-2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-(((ヘキサデシルオキシ)カルボニル)アミノ)プロパン酸を得た。
【0211】
(S)-2-アミノ-3-(((ヘキサデシルオキシ)カルボニル)アミノ)プロパン酸HCl塩を生成するために、4N HCl/ジオキサン(7mL)中の(S)-2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-(((ヘキサデシルオキシ)カルボニル)アミノ)プロパン酸(0.423g)の溶液を0℃で2.5時間撹拌した。続いて、溶媒を減圧下で除去して、(S)-2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-(((ヘキサデシルオキシ)カルボニル)アミノ)プロパン酸を得た。70℃、真空下にて5時間、微量の溶媒をさらに除去した。
【0212】
化合物2:(S)-2-アミノ-3-ステアラミドプロパン酸
【化7】
【0213】
Boc-Dap-OH(0.500g)を0℃で10%炭酸ナトリウム溶液(7mL)に溶解し、ジオキサン(7mL)中の塩化ステアロイル(0.86g)の溶液を0℃で滴下した。白色の沈殿物で濃くなった反応混合物を、0℃で10分間撹拌し、次いで室温で2時間撹拌した。反応物を60mLの水でクエンチした。エーテルを添加し、溶液を乳化した。さらにエーテルを添加した。エマルジョンをエーテル(3×25mL)で洗浄した。エマルジョンをpH1に酸性化すると、エーテル層が分離し、水層が濁質となった。エーテル層を分離し、NaSOで乾燥させた。溶媒を減圧下で除去して、(S)-2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-(ステアラミド)プロパン酸を得た。
【0214】
(S)-2-アミノ-3-ステアアミドプロパン酸HCl塩を生成するために、4N HCl/ジオキサン(9mL)中の(S)-2-((t-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-(ステアラミド)プロパン酸(0.502g)の溶液を0℃で2.5時間撹拌した。エーテルを添加した。沈殿した化合物を濾過し、過剰のエーテルで洗浄した。高真空下で微量の溶媒を一晩除去した。
【0215】
実施例2.リポソーム合成
リポソーム調製の前日に、図1に示す決定木に基づいて合成経路を決定した。オプションA及びBでは、活性成分を適切な溶媒(例えば、クロロホルム(Sigma-Aldrich,#650498-1L,St.Louis,MO))に溶解し、琥珀色のガラスバイアルに入れて-80℃で保存した。オプションCでは、原液をリポソーム調製の日まで作製しなかった。
【0216】
リポソーム調製の日に、ベース脂質及び活性成分の量を計算した。オプションAでは、被験物質をクロロホルムに溶解した場合、被験物質の所望のモル濃度を得るために必要な被験物質の体積を計算した。また、残りのモル比を構成するのに必要なベース脂質の量も計算した。例えば、被験物質:ベース脂質のモル比が30:70の場合、ベース脂質の量は、被験物質の量に70を乗じ、30で割ったものである。適切な量の被験物質及びベース脂質を、5mlまたは15mlの丸底フラスコに等分し、1~2mlのクロロホルムを添加した。
【0217】
オプションBでは、被験物質及びベース脂質を非混和性溶媒に溶解した場合、または2つの溶媒が異なる温度及び真空設定(例えば、DMSO及びクロロホルム)を必要とする場合、所望のモル濃度を得るために必要な被験物質の量とベース担体脂質の量を、オプションAと同様に計算した。より低い温度及び真空を必要とする溶媒に物質を添加する前に、より高温及び高真空を必要とする溶媒でエバポレーションを開始した。温度及び真空は、それに応じて調整した。
【0218】
オプションCでは、被験物質が水溶性であった場合、リポソームは100%ベース脂質で構成された。ベース脂質の量は、完全に合成されたリポソームに充填する被験物質の量に基づいて決定した。例えば、被験物質:ベース脂質のモル比が30:70の場合、被験物質の量に100を乗じ、30で割って、ベース脂質の量を求めた。適切な量のベース脂質を、5mlまたは15mlの丸底フラスコに等分し、1~2mlのクロロホルムを添加した。
【0219】
丸底フラスコを回転蒸発装置(V100及びI100真空ポンプ及びインターフェースを備えたR100回転蒸発装置,BUCHI Labortechnik AG,Flawil,Switzerland)に取り付け、調節可能なアームを下降させることによってフラスコの一部を水浴に浸漬した。真空ポンプをオンにした。丸底フラスコを回転させるために、回転シャフトをオンにし、速度を「3」に設定した。フラスコ中の溶媒の泡立ち/沸騰を回避するために、真空を必要に応じて減少させた。均一な乾燥膜が形成されたら、回転シャフトをオフにした。オプションBでは、第2の物質を含有する第2の溶媒を添加し、上記のステップを繰り返した。
【0220】
再水和のために、適切な水性緩衝液(例えば、PBS(Thermo Fisher Scientific(Gibco),#10010049,Waltham,MA))を添加した(オプションAまたはBでは1ml、オプションCでは0.5ml、必要に応じてpHを調整した)。丸底フラスコを、溶液が乳濁状/濁質になるまでボルテックスした。フラスコを回転蒸発装置に取り付け直し、フラスコの底が水浴に浸漬されるようにアームを下降させた。回転シャフトをオンにし、「3」に設定したが、ポンプはオンにしなかった。15分後、脂質膜を完全に水和し、リポソームを形成し、サイジングの準備を整えた。
【0221】
押出し及びサイジングのために、手動押出機(Avanti Corporation,Alexandria,VA、AVANTI手動押出機;610023-1EA,PC膜0.8μm:610009-1EA)を組み立てた。手動押出機により供給された2つのシリンジの一方に、全容量(1ml以下)を吸引させた。リポソーム調製物を20回押し出した。最終的な押出リポソーム製剤を移し、被験物質の最終的な所望のモル濃度を得るために、必要に応じて体積を組成した。
【0222】
実施例3.リポソームを含有する経口投与された化合物2のリンパ取り込み及び免疫細胞共局在に対するアシル鎖長及び飽和の効果
経口経路は、患者に優しい投与経路である。また、腸間膜リンパ節を介して免疫系を標的化するユニークな機会を提供し、これにより、免疫調節療法を投与する際に有用であることが証明され得る。リポソーム膜の脂質二重層に広がるように設計された新規両親媒性分子である化合物2は、TIMアゴニストであると考えられる。化合物2を用いた予備スクリーニングは、薬理学的に活性であり、実際にin vitro及びin vivoで寛容原性免疫応答を誘発し得ることを示した。化合物2は、in vivoでFoxP3/CD4T細胞を増加させることができ(実施例5)、in vitroではFoxP3/TIM3CD4 T細胞を増加させることができる(実施例4)。
【0223】
B細胞結合のための皮質の濾胞及びT細胞結合のための傍皮質の濾胞の両方を標的とし得るリポソーム製剤を最適化することが目標であった。ホスファチジルコリン(PC)頭部基を有する天然リン脂質をベース脂質として選択した。これは、部分的に、PCの中性電荷によるものであった。リポソームの経口投与後のリンパ取り込み及び免疫細胞共局在に対する異なるアシル鎖長及び飽和レベルの効果をin vivoで評価した。
【0224】
表1に、本実験で使用した材料及び試薬を示す。
【表1】
【0225】
脂質:DilC18(5)-DS蛍光色素比をin vitro最適化するために、DMPCリポソーム(AVANTI Polar Lipids Inc.,Birmingham,AL)を実施例2に記載のように調製した。脂質膜を、様々な濃度のDilC18(5)-DS蛍光色素(100nM~2μM)を含有するPBSで水和した。96ウェルプレートにおいてEx/Em 650nm/670nmで蛍光強度を測定して、信頼性の高い蛍光測定値を得るために必要とされるDilC18(5)の最低濃度を同定した。
【0226】
被験物質を以下のように調製した。化合物2をDMSOに溶解した。実施例2に記載の化合物2:脂質のモル比30:70で、4つの異なる製剤(表1の各脂質に対して1つ)を調製した。100nMのDilC18(5)色素を含有するPBSを使用して、脂質膜を水和した。各調製物について、96ウェルプレート中でEx/Em 650nm/670nmで蛍光強度を測定した。
【0227】
動物(1群あたりn=3)に、160μΜの各蛍光リポソーム200μlを経口胃管栄養法により投与した。全ての動物に、蛍光強度に関係なく、同じ用量の脂質を投与した。対照群には、100nMのDilC18(5)を含有するPBS200μlを経口胃管栄養法により投与した。各リポソーム製剤のリンパ管取り込み及び免疫細胞共局在を定量するために、経口胃管栄養後60分で動物を殺処分した。腸間膜リンパ節を抽出し、切片化、標識、及び画像化のためのoptimal cutting temperature(OCT)コンパウンド中に保存した。
【0228】
T細胞及びB細胞を染色するために、腸間膜リンパ節を経口胃管栄養の60分後に切除し、OCTコンパウンド中でスナップ凍結した。10マイクロメートルの切片を-20℃で切断し、2%パラホルムアルデヒド(PFA)中で室温にて15分間、凍結切片を固定した。切片を1×PBS中で洗浄し、続いて、1×PBS中のCD45RまたはTCR-βのいずれかの希釈率1:100での蛍光色素結合(FITC)一次抗体と共に4℃で一晩インキュベーションした。翌日、スライドを1×PBS中で3回洗浄し、DAPI含有封入培地で封入した。
【0229】
蛍光イメージングのために、腸間膜リンパ節の染色された切片を落射蛍光顕微鏡(Nikon E-800;Nikon Inc.,Melville,NY)の下で可視化した。DilC-18(5)-DS蛍光色素(赤)についてはチャネルCy5(Ex/Em 650nm/670nm)を、CD45RまたはTCR-β(緑)についてはチャネルFITC(Ex/Em 494nm/518nm)を、及び核(青)についてはチャネルDAPI(Ex/Em 358nm/461nm)を用いて、画像化を行った。
【0230】
免疫蛍光の目視検査により、リンパ節切片内のリポソームの配置、ならびにB細胞及びT細胞との共局在レベルの非常に良好な定性的検出が得られた。しかしながら、目視検査では、表2に認められるような、各リポソームの蛍光強度の差は説明されなかった。さらに、目視検査では、リポソーム製剤間の客観的差別化は不可能であった。客観的評価のために、共局在分析を行い、共局在の割合を求めた。
【0231】
リポソームとB細胞及びT細胞との共局在をImageJで測定した。各チャネルの画像(FITC、Cy5、及びDAPI)をマージした。マージされた画像を、黄色スペクトル(緑色(免疫細胞)と赤色(リポソーム)が共局在していた領域を表す)を閾値処理することによって、共局在の面積百分率を計算した。画像解析から定量化した結果を、対照群から得られたバックグラウンドを差し引くことによって正規化した(遊離DilC-18(5)-DS色素のみで処理した)。各リポソームの異なる蛍光強度に対する補正を、以前に記載したように各リポソームの蛍光強度(FI)に対する画像の閾値処理の結果を正規化することによって実施して、各切片について補正された平均FIを得た。
【0232】
組織の切片が均質でなかったため、免疫蛍光染色では1つの切片から別の切片への高いばらつきが生じると予想された。リポソーム/免疫細胞相互作用の有効性を判定するために、共局在領域の平均FIを、以下の式を用いて免疫細胞の平均FIに対して正規化した:
【数3】
【0233】
遊離色素/免疫細胞共局在がそれらの切片では観察されなかったため、遊離色素対照群を除く全ての群の全ての切片について共局在の分析を行った。
【0234】
100nM~2μΜの範囲の濃度でのPBS中のDilC18(5)の蛍光強度測定により、水性媒体中での色素の蛍光が、リポソームに一旦取り込まれた場合の蛍光と比較して不十分であることが確認された(表2)。遊離色素の相対蛍光強度(RFI)は、100nM~1μΜの濃度範囲で低いままであった。2μΜでは、DilC18(5)の蛍光はPBS中で増加したが、リポソームDilC18(5)よりも低いままであった。リポソーム製剤中のDilC18(5)のRFIは、PBS中の色素のRFIと比較して、100~500nMの範囲で>2000%増加した。これは、1μΜ色素を含むリポソーム製剤ではさらに大きかった。RFIは、2μΜリポソーム製剤中で減少していたが、これは、色素の自己消光またはそのような高濃度でのリポソームへの取り込みが不十分であることの結果であり得る(表2)。このスクリーニングの結果は、100nMのDilC18(5)がリポソームの蛍光を検出するのに十分であること、さらに、その濃度でのPBS中の色素の不十分なRFIは、遊離色素を除去するための精製ステップが必要でないことを示唆している。
【表2】
【0235】
各リポソーム製剤の蛍光強度測定により、それらの間の差異が明らかとなった。不飽和DOPC及びPOPCで作製したリポソーム(それぞれ、73.2及び61.8)は、飽和DMPC及びDSPCで作製したリポソーム(それぞれ、35.8及び20.4)よりも高いRFIを有していた(表3)。
【表3】
【0236】
切片化及び免疫蛍光染色は、遊離色素対照群由来の1つの試料を除く全ての試料について成功した。染色すると、この試料は、腸間膜リンパ節ではなく、腸間膜脂肪に関する試料であったことが明らかとなった。他の全ての切片は、画像分析に対して染色することに成功した。
【0237】
免疫蛍光染色を行って、B細胞とリポソームの共局在を評価した。FITC結合抗CD45Rは全ての試料で観察されたが、これはB細胞が存在することを示していた。成熟(明)及び未成熟(暗)B細胞の両方が、すべての処理群由来のすべての切片で認められた。一部の切片では、B細胞は、おそらくリンパ節の皮質(図2Aの矢印)において、B細胞のリンパ節空隙の領域(例えば、傍皮質または髄質)を表す暗中心の周りにクラスター化された。
【0238】
100nMのDilC18(5)を含有する200μlのPBSの経口投与60分後のリンパ節取り込み及びB細胞共局在を評価した。DAPI染色は、リンパ節切片の一般的な構造を示す。CD45R-FITCは、B細胞の局在を示す。DilC18(5)蛍光を検出するCy5チャネルは、1つの試料においてシグナルを示し、主に切片の外周に集中していた(図2B、M2、DilC18(5)パネルを参照のこと)。しかしながら、共局在は観察されなかった(図2B、M2、CD45R-FITC/DilC18(5)パネル)。DilC18(5)は、他の試料由来のリンパ節では検出されなかった(図2B、M3)。
【0239】
160μΜの化合物2/DMPC DilC18(5)-DS標識リポソーム200μlの経口投与60分後のリンパ節取り込み及びB細胞共局在を評価した。DAPI染色は、リンパ節切片の一般的な構造を示す。CD45R-FITCは、B細胞の局在を示す。DilC18(5)蛍光を検出するCy5チャネルは、リンパ節へのDMPCリポソーム浸透を示した。FITCチャネルとCy5チャネルのマージは、B細胞とDMPCリポソームの共局在を示した(図2Cの矢印、CD45R-FITC/DilC18(5)パネルを参照のこと)。DMPC共局在は、主に明るい蛍光領域で生じていたが、これは成熟B細胞との共局在を示唆するものであった。
【0240】
160μΜの化合物2/DOPC DilC18(5)-DS標識リポソーム200μlの経口投与60分後のリンパ節取り込み及びB細胞共局在を評価した。リンパ節切片の一般的な構造を示すために、DAPI染色を使用した。B細胞の局在を示すために、CD45R-FITCを使用した。リンパ節へのDMPCリポソーム浸透を示すために、DilC18(5)蛍光を検出するCy5チャネルを使用した。FITCチャネルとCy5チャネルのマージは、B細胞とDOPCリポソームの共局在を示した。DMPCとは異なり、DOPCは、リンパ節の中へより深く浸透したようであった。共局在は、明るい蛍光領域及び暗い蛍光領域の両方で認められ、これは、成熟B細胞及び未成熟B細胞の両方での共局在を示唆するものであった(図2Dの矢印、CD45R-FITC/DilC18(5)パネルを参照のこと)。
【0241】
160μΜの化合物2/DSPC DilC18(5)-DS標識リポソーム200μlの経口投与60分後のリンパ節取り込み及びB細胞共局在を評価した。DAPI染色は、リンパ節切片の一般的な構造を示す。CD45R-FITCは、B細胞の局在を示す。DilC18(5)蛍光を検出するCy5チャネルは、リンパ節へのDSPCリポソーム浸透を示した。FITCとCy5のマージは、B細胞とDSPCリポソームの共局在を示した。DOPCと同様に、DSPCはリンパ節の深くまで浸透したようであった。共局在は、明るい蛍光領域及び暗い蛍光領域の両方で認めることができたが、これは、成熟B細胞及び未成熟B細胞の両方での共局在を示唆するものであった(図2Eの矢印、CD45R-FITC/DilC18(5)パネルを参照のこと)。
【0242】
160μΜの化合物2/POPC DilC18(5)-DS標識リポソーム200μlの経口投与60分後のリンパ節取り込み及びB細胞共局在を評価した。リンパ節切片の一般的な構造を示すために、DAPI染色を使用した。B細胞の局在を示すために、CD45R-FITCを使用した。DilC18(5)蛍光を検出するCy5チャネルは、リンパ節へのPOPCリポソーム浸透を示した。FITCチャネルとCy5チャネルのマージは、B細胞とPOPCリポソームの共局在を示した。DOPC及びDSPCと同様に、POPCはリンパ節の深くまで浸透したようであった。共局在は、明るい蛍光領域及び暗い蛍光領域の両方で認められ、これは、成熟B細胞及び未成熟B細胞の両方での共局在を示唆するものであった(図2F、CD45R-FITC/DilC18(5)パネルの矢印を参照のこと)。
【0243】
B細胞の共局在を分析した。分析した切片におけるB細胞の平均化された平均蛍光強度(FI)は、全ての群で同様であった:DMPCについては17.8(5.9)(平均(SD))、DOPCについては16.3(8.7)、DSPCについては18.3(7.8)、POPCについては25.4(8.8)。全ての製剤について、未補正及び補正された平均FI面積の両方が高いばらつきを示した。しかしながら、局在の割合は、各切片におけるB細胞の数に関して補正したことから、より少ないばらつきを示した(表4)。飽和脂質(DSPCまたはDMPC)で製剤化したリポソームは、不飽和脂質(DOPCまたはPOPC)で製剤化したリポソームよりも良好なB細胞共局在を有していた。共局在の割合(平均(SD))は、DSPCでは20.2%(3.9%)であり、DMPCでは10.3%(0.8%)であった一方で、共局在の割合は、DOPCでは6.8%(2.5%)であり、POPCでは5.0%(1.6%)であった。統計解析により、DSPCリポソームが他の3つの製剤よりも統計的に良好であることが示された(図2G)。
【表4】
【0244】
FITC結合抗TCRβは全ての試料で観察されたが、これはT細胞が存在することを示していた。大部分の切片において、T細胞は、全体に均一に分布していることが分かった。T細胞は、リンパ節の傍皮質に局在すると予想された。しかしながら、局在構造は、一部の切片で観察されたが、全ての切片で観察されたわけではなかった(図2H)。
【0245】
100nMのDilC18(5)を含有する200μlのPBSの経口投与60分後のリンパ節取り込み及びT細胞共局在を評価した。DAPI染色は、リンパ節切片の一般的な構造を示す。TCRβ-FITCはT細胞の局在を示す。DilC18(5)蛍光を検出するCy5チャネルは、シグナルを示さず、これは、リンパ節への色素取り込みを示さないことを示した(図2I)。
【0246】
160μΜの化合物2/DMPC DilC18(5)-DS標識リポソーム200μlの経口投与60分後のリンパ節取り込み及びT細胞共局在を評価した。リンパ節切片の一般的な構造を示すために、DAPI染色を使用した。T細胞の局在を示すために、TCRβ-FITCを使用した。DilC18(5)蛍光を検出するCy5チャネルは、リンパ節へのDMPCリポソーム浸透を示した。赤色の蛍光は、暗点を取り囲むクラスター内に見ることができる。FITCチャネルとCy5チャネルのマージは、T細胞とDMPCリポソームの共局在を示した(図2J、TCRβ-FITC/DilC18(5)パネルの矢印を参照のこと)。
【0247】
160μΜの化合物2/DOPC DilC18(5)-DS標識リポソーム200μlの経口投与60分後のリンパ節取り込み及びT細胞共局在を評価した。リンパ節切片の一般的な構造を示すために、DAPI染色を使用した。T細胞の局在を示すために、TCRβ-FITCを使用した。DilC18(5)蛍光を検出するCy5チャネルは、リンパ節へのDOPCリポソーム浸透を示した。DMPC処置群と同様に、赤色の蛍光は、暗点を取り囲むクラスター内で観察された。FITCチャネルとCy5チャネルのマージは、T細胞とDOPCリポソームの共局在を示した(図2K、TCRβ-FITC/DilC18(5)パネルの矢印を参照のこと)。
【0248】
160μΜの化合物2/DSPC DilC18(5)-DS標識リポソーム200μlの経口投与60分後のリンパ節取り込み及びT細胞共局在を評価した。リンパ節切片の一般的な構造を示すために、DAPI染色を使用した。T細胞の局在を示すために、TCRβ-FITCを使用した。DilC18(5)蛍光を検出するCy5チャネルは、リンパ節へのDSPCリポソーム浸透を示した。DOPC及びDMPC処置群と同様に、赤色の蛍光が円形クラスター内に検出された。しかしながら、赤色の蛍光は、リンパ節切片全体にわたってより全般的に分布していた。FITCチャネルとCy5チャネルのマージは、T細胞とDSPCリポソームの共局在を示した(図2L、TCRβ-FITC/DilC18(5)パネルの矢印を参照のこと)。
【0249】
160μΜの化合物2/POPC DilC18(5)-DS標識リポソーム200μlの経口投与60分後のリンパ節取り込み及びT細胞共局在を評価した。リンパ節切片の一般的な構造を示すために、DAPI染色を使用した。T細胞の局在を示すために、TCRβ-FITCを使用した。DilC18(5)蛍光を検出するCy5チャネルは、リンパ節へのPOPCリポソーム浸透を示した。DSPC処置群と同様に、赤色の蛍光が円形クラスター内に認められ、さらにリンパ節切片全体にわたってより全般的に分布していた。FITCチャネルとCy5チャネルのマージは、T細胞とDSPCリポソームの共局在を示した(図2M、TCRβ-FITC/DilC18(5)パネルの矢印を参照のこと)。
【0250】
T細胞の共局在を分析した。分析した切片におけるT細胞の平均化された平均蛍光強度(FI)は、全ての群の間で同様であり、DMPCについては13.7(7.7)、DOPCについては11.8(3.8)、DSPCについては8.1(3.0)、POPCについては11.9(3.3)(平均(SD))であった。未補正及び補正された平均FI面積の両方が、製剤に関係なくB細胞共局在を評価するために使用した切片において観察されたばらつきよりも大きいばらつきを示した。しかしながら、局在の割合は、DMPCを除く全ての製剤について実質的により小さいばらつきを示した(表5)。異なる群の統計解析により、群間に差異がないことが示された。これは、主にDMPC群のばらつきによって駆動される(図2Nで報告されるglobal ANOVA)しかしながら、対比較により、DSPCがDOPC及びPOPCよりも統計的に良好であることが示された(図2N)。
【表5】
【0251】
アシル鎖長及び飽和レベルは、リポソームの物理特性に影響を及ぼす。高い不飽和またはより短い鎖を有する脂質は、より低い融解温度を有する傾向があり、流体脂質膜を生成し得る。対照的に、飽和脂質及びより長いアシル鎖を有する脂質は、より高い融解温度を有する傾向があり、ゲル様脂質膜を有する固体リポソームを生成し得る。
【0252】
経口投与後、リポソームは腸内の吸収部位に完全に到達し、吸収され、輸入リンパ節に排出され、そこで免疫サンプリングを受けると予想される。データは、経口投与されたリポソームが腸間膜リンパ節に到達可能であるという考えを裏付けている。さらに、リンパ節内の免疫細胞への曝露は、アシル鎖長及び飽和レベルを変化させることによって向上した。
【0253】
DMPC及びDSPCは、いずれも飽和アシル鎖を有しており、いずれもDOPC及びPOPCよりも性能が優れていた。さらに、その18-炭素アシル鎖を有するDSPCは、14-炭素アシル鎖を有するDMPCよりも性能が優れていた。DSPCは、試験した全ての脂質の中で最も高い融解温度(T=55.6℃)を有する。DSPCを用いて合成されたリポソームは、体温で固体であると予想される。化合物2を組み込んだ場合でも、DSPCリポソームは、本試験で試験した他の全てのリポソームの中で最高の融解温度を有することが予想される。
【0254】
固体リポソームを有することの負の側面は、そのペイロードを充填する際の困難である。これは、同量のDilC18(5)を含有する同じ緩衝液で再水和されているにもかかわらず、DMPC及びDSPCリポソームがいずれも、DOPC及びPOPCと比較して、蛍光が低いことから見ることができた。これは化合物2の充填に影響を与えるとは考えられない。化合物2はリゾリン脂質を模倣した16個の炭素の尾部を有し、脂質として機能するように設計されており、水和ステップの前にリポソームの膜に組み込まれる。
【0255】
これらのデータは、経口投与されたリポソームによってリンパ系を標的化することが可能であることを示している。データはさらに、脂質担体に対して適切なアシル鎖を選択することが、リンパ節内の免疫細胞などの特定の構造を標的化するのに役立ち得ることを示唆している。
【0256】
DSPCリポソームは、DMPC、DOPC、及びPOPCよりも良好なB細胞共局在を有していた。T細胞共局在に関して、DSPCは、DOPC及びPOPCよりも良好に機能したが、DMPCとは統計的に差異がなかった。
【0257】
実施例4.マウスT細胞における化合物1及び化合物2のin vitro用量反応分析
化合物1及び化合物2を、それぞれ、薬物対脂質のモル比30:70でジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)と共に製剤化した。リポソームを実施例2に従ってPBS中で合成した。
【0258】
ナイーブC57BL/6マウス由来の脾細胞をCFSEで染色し、調製し、培養し、投与した。細胞を2×10細胞/ウェルで播種した。log2希釈スキームで48μM~1.5μMの各化合物を細胞に投与した。FoxP3/TIM3CD4 T細胞の表現型分析を行う前に、細胞を72時間インキュベートした。フローサイトメーター分析を実施して、化合物及び用量の関数としてのFoxP3/TIM3CD4 T細胞の割合の変化を評価した。濃度に対する応答を、(「R」の「drc」パッケージを使用して)4または5パラメータ対数ロジスティックモデルにフィッティングさせた。モデルフィッティングにより、EC50とEC90値を取得した。
【0259】
インキュベーション期間の終わりに、細胞を顕微鏡で観察した。48μMの化合物1を投与した細胞は、健常には見えず、さらなる分析から除外した。他のすべての細胞は健常で、フローサイトメトリー分析に適しているように見えた。
【0260】
FoxP3/TIM3二重陽性CD4 T細胞では、平均値が、低用量の化合物1及び化合物2の場合のそれぞれ3.65%(SD=0.2)及び3.21%(SD=1.47)から、高用量の化合物1及び化合物2の場合のそれぞれ8.26%(SD=1.2)及び7.36%(SD=1.9)まで増加した。モデルのフィッティングを視覚的に検査すると、4パラメータの用量反応モデルが化合物2からのデータを取得するのに十分であることが示唆される。しかしながら、化合物1のプラトーの欠如に起因して、モデルは、Emax及びEC50の信頼性のある推定値を与えることができなかった。モデルフィッティングを向上させるために、Emaxを、化合物1及び化合物2の平均応答である7.9%に、それぞれ10μM、ならびに10及び30μMで、固定した。図3Aは、データを4パラメータ用量反応モデルにフィッティングした結果のモデルを示す。表6は、モデルフィッティングにより得られたEC50とEC90の値をまとめたものである。
【表6】
【0261】
化合物1及び化合物2はいずれも、FoxP3/TIM3CD4 T細胞の用量依存的増加をもたらした。10μMの化合物1での処置では、低用量の化合物1よりもFoxP3/TIM3CD4 T細胞が126%増加した。同様に、30μMの化合物2での処置では、低用量の化合物2よりもFoxP3/TIM3CD4 T細胞が129%増加した。
【0262】
化合物1に存在するエステル結合が化合物2では置換されているため、化合物2は化合物1よりも安定性が高いと予想される。さらに、化合物2では、30μMの用量で化合物1と比較してin vitroでの毒性が低いことが示された。化合物1及び化合物2はいずれも、さらなる開発のための魅力的な候補であるが、化合物2は、安定性及び製剤化の観点からいくつかの利点を有し得る。
【0263】
実施例5.マウスにおける化合物2によるFoxP3CD4T細胞の増加
理論に束縛されるものではないが、化合物2と受容体のTIMファミリーとの結合は、寛容原性免疫応答を誘導し、例えば、寛容原性FoxP3/CD4T細胞(T-reg)を増加させると仮定されている。本実施例では、マウスにおける化合物2の単回経口投与の薬力学(PD)効果を、5日間の投与後に評価した。
【0264】
すべての動物試験は、IACUC番号B2020-91に基づいて、Tufts University/Tufts Medical Center & Human Nutrition Research Center on Agingに準拠して実施した。動物(The Jackson Laboratory,Bar Harbor,ME,B57BL6)を、ケージ当たり4匹収容し、食物及び水を自由に摂取させた。
【0265】
実施例2に記載されるように、化合物2をDMSOに溶解し、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)と共に化合物2:DMPCのモル比10:90で製剤化した。表7に従って動物に投与した。用量は、in vitroでの最大有効用量として42μMを示唆する予備データに基づいて選択した。
【表7】
【0266】
マウスにおける化合物2の単回用量のPD効果を評価するために、動物に、群の割り当てに従って単回経口胃管栄養法により投与した(表7)。経口投与の5日後に動物を殺処分し、T細胞表現型検査のために脾臓を摘出した。試験は、ex vivo分析と、それに続く用量反応分析を含んでいた(図4A)。脾細胞分析のために回収した脾臓を、フローサイトメトリーによる細胞表現型解析(eBioscience,Inc.,San Diego,CA)のために単一細胞懸濁液に調製した。細胞を染色し、CD4用にゲートを設定した。FoxP3/CD4T細胞の割合を、フローサイトメトリーを使用して評価した。用量反応曲線を、(「R」の「drc」パッケージを使用して)4または5パラメータ対数ロジスティックモデルにフィッティングさせた。モデルフィッティングにより、EC50とEC90値を取得した。
【0267】
FoxP3/CD4T細胞の割合は、低用量群の平均値3.87%(SD=0.37)から高用量群の11.53%(SD=1.47)まで、用量依存的に増加した。データを、4パラメータの用量反応モデルにフィッティングさせた。表8は、モデル推定薬力学パラメータ及び関連する標準誤差を示す。この分析に基づいて、化合物2の単回経口投与後、ED50は43.1μΜで推定され、ED90は218μΜで推定される(図4B)。
【表8】
【0268】
本試験データは、化合物2の経口投与が用量依存的に寛容原性免疫応答を誘導することができるという仮説を裏付けている。低用量群と比較して、高用量群においてFoxP3/CD4T細胞(T-reg)の219%の増加が観察された。100%を超える増加(例えば、FoxP3/CD4T細胞の倍加)は、通常、標的抗原に対する寛容性をもたらす。したがって、ED50での反復投与は寛容性導入には十分であると考えられる。
【0269】
実施例6.MOG35-55誘発マウスEAEモデルにおける化合物2の予防効果及び治療効果
多発性硬化症は、ヒトの中枢神経系(CNS)の慢性の、多くの場合、身体障害を引き起こす疾患である。髄鞘に対する寛容性が失われると、免疫系が髄鞘を攻撃し、その結果、疾患の臨床症状が現れる。これは、主要組織適合性複合体(MHC)分子と複合体を形成した自己抗原ペプチドを認識する病原性自己反応性T細胞によって媒介される。MSの既知の治療法は存在しないが、自己反応性T細胞がCNSに侵入する能力を遮断することが、MSの症状を改善する効果的な治療選択肢であることが証明されている。Tysabriなどの抗α4mAbは、MSの管理のために承認されている。他の治療選択肢は、ステロイドなどの全身性免疫抑制剤に依存する。
【0270】
自己反応性T細胞の存在に対処し、より高度な寛容原性T細胞への移行を誘導することにより、MSに対する治癒療法が得られる可能性がある。化合物2は、寛容原性T細胞を誘導することができるT細胞免疫グロブリンムチンタンパク質ファミリー受容体(TIM)アゴニストとして提案されている。TIMは、適応免疫応答及び自然免疫応答において重要な役割を果たしており、自己免疫及びがんの制御と関連している。リン脂質ホスファチジルセリン(PS)を含むいくつかのリガンドがTIMに結合することが知られている。
【0271】
TIMファミリーの異なるメンバーに対するPSの親和性は実質的に異なり、TIM3はTIM4よりもPSに対する親和性が低い。しかしながら、in vivo及びin vitroで何らかの機能的有効性を示したすべての抗TIM3抗体は、PSへのTIM3結合を妨害することから、たとえ親和性が低くてもPS-TIM3相互作用がTIM3機能の鍵であることが示唆される。
【0272】
PSの寛容原性の能力は、腫瘍によって利用されてきた。例えば、ヒト卵巣腫瘍微小環境におけるPSは、T細胞シグナル伝達停止を誘導し得る。さらに、PSを介したT細胞停止は、抗PS抗体によって遮断された。まとめると、TIMと免疫寛容におけるその役割に関する公開データは、TIMが自己免疫障害の治療の潜在的な標的であることを示唆している。
【0273】
本試験では、実験的自己免疫性(アレルギー性)脳脊髄炎(EAE)におけるマウスの疾患発症、疾患進行、及び全生存期間に対する化合物2(TIMアゴニスト)の効果を評価する。EAEは、多発性硬化症(MS)の最良のモデルであると考えられる。
【0274】
すべての動物試験は、IACUC番号B2020-91に基づいて、Tufts University/Tufts Medical Center & Human Nutrition Research Center on Agingに準拠して実施する。Tufts University-Tufts Medical Center & Human Nutrition Research Center on Aging内の指定施設に動物を収容する。動物をケージ内に4匹ずつ収容し、食物と水を自由に摂取させる。
【0275】
材料及び試薬を表9に示す。
【表9】
【0276】
化合物2を、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)と共に、化合物2:DSPCのモル比3.75:96.25で製剤化した。2つの被験物質を製剤化し、試験した。化合物2/MOG35-55と称されるMOG35-55を含む化合物2:DSPCを用いて、第1の製剤を作製した。MOG33-55を含まない別の製剤を作製し、これを化合物2と称する。DSPCは、経口投与後の上腸間膜リンパ節標的化及び優れた免疫細胞の共局在に基づいて選択した。DSPCに対する化合物2の比は、in vitro用量反応試験に基づいて選択した。リポソームを実施例2に記載のようにPBS中で調製し、100ミクロンフィルターを通して押し出した。動物に、マウスあたり100μlの42μΜ化合物2または100μlの42μΜ/1μgの化合物2/MOG35-55を1日1回経口投与した。この用量は、in vitro用量反応分析に基づいて選択した。
【0277】
実験的自己免疫(アレルギー性)脳脊髄炎(EAE)は、多発性硬化症(MS)の最良の非臨床モデルと考えられている。EAEは、CNS組織に対する免疫応答を特徴とし、動物をCNSのタンパク質に対して免疫することによって誘発することができる。
【0278】
活動性EAEモデルでは、完全フロイントアジュバント(CFA)で乳化したMOG35-55ペプチドを、麻酔下で尻尾の付け根に皮下注射(乳濁液0.1mL/マウス)することによってマウスを免疫する。注射当日(0日目)及び2日後、マウスに、PBS中の百日咳毒素(PT)を600ng/マウス/用量(0.1mL)で腹腔内注射する。
【0279】
通常、免疫化(0日目)の9~14日後にマウスで症状が発症する。マウスの毎日の観察とスコアリングを9日目に開始し、試験終了まで継続する。表10は、予想される臨床症状と本試験で使用する採点基準の詳細である。
【表10-1】
【表10-2】
【0280】
本試験は、EAEマウスモデルにおける化合物2の予防効果及び治療効果を評価すること、及び化合物2と抗原との共製剤化の効果を評価することを目的として設計された。自己免疫疾患の状況では、抗原は内在的に発現しており、疾患により自己反応性T細胞が豊富に存在しているため、抗原の共製剤化/共提示は必要ないと仮定される。図5Aは試験の概要を示す。
【0281】
図5Aに示すように、マウスをMOG35-55で免疫した4日後に、予防群における処置を開始した。マウスに、42μΜの化合物2 100μlまたは1μgのMOG35-55と共製剤化した42μΜの化合物2(化合物2/MOG35-55)100μlを、試験期間中、1日1回経口投与した。
【0282】
化合物2の治療効果を評価するために、最初の臨床症状が観察された後に処置を開始した。表11に従って1の臨床スコアをマウスが有していた場合、そのマウスを処置群または対照群に割り当てた。処置群には、試験の残りの期間、100μLの42μΜ化合物2を1日1回経口投与した。すべての群のマウスをモニタリングし、臨床症状について毎日スコアを付けた。表11に従って5のスコアにマウスが達するか、またはケージ内での死亡が明らかとなった場合、生存率分析におけるイベントとしてマークした。
【0283】
試験の最後に、脾細胞分析のために各群のマウスの代表的な試料から脾臓を摘出した。フローサイトメトリーによる細胞表現型解析のために、単一細胞懸濁液を調製した。細胞を染色し、CD4T細胞用にゲートを設定した。FoxP3/CD4T細胞の割合をフローサイトメトリーによって評価した。
【0284】
EAEモデルにおける化合物2及び化合物2/MOG35-55の予防効果を評価するために、疾患の発症を評価した。疾患の発症は、対照群と比較して、化合物2及び化合物2/MOG35-55処置群の両方で遅延した。対照群における疾患の発症は、免疫化後9日目に開始され、一方、両処置群では12日目に開始された。処置群の全ての動物は、13日目までに症状を示したが、一方、対照群では11日目であった。生存時間解析により、これが統計的に有意な遅延であったことが示されている。化合物2と化合物2/MOG35-55との間に差はなかった(図5B)。
【0285】
疾患発症後、臨床スコアは、全ての群で予想されるように進行した。しかしながら、化合物2及び化合物2/MOG35-55で処置した動物は、対照群と比較して重篤な症状が少なかった。対照群におけるピーク症状は17日目に観察され、平均スコアは4.77(SD=0.67)であったが、それに対して化合物2及び化合物2/MOG35-55処置群では、それぞれ2.6(SD=0.23)及び2.9(SD=0.41)であった。対照群の大部分の動物が疾患で死亡したため、対照群では回復期は観察されなかった(図5C)。しかしながら、化合物2及び化合物2/MOG35-55処置群の両方において、症状は低下し始め、試験の終わりまでに、平均スコアは、化合物2及び化合物2/MOG35-55について、それぞれ2.1(SD=0.23)及び2.4(SD=0.23)であった(図5C)。
【0286】
疾患の発症後、化合物2で処置した動物は、未処置動物と比較して、試験の残り期間全体を通して、疾患進行が1日遅延し、その後の症状はより軽度であった(図5D)。対照群のピーク症状は、疾患発症後7日目に観察され、平均スコアは4.77(SD=0.67)であったのに対し、処置群では症状の発症後6日目に2.8(SD=0.43)であった。処置群の症状は、症状の発症後10日目までに平均2.33(SD=0.29)のピーク到達後に低下した。未処置群における高い死亡率のために、対照群では寛解は観察されなかった。
【0287】
任意のマウスのスコア5または自発的死亡を、生存率分析のイベントとして定義した。未処置群における死亡率は、本試験において高く、最初のマウスは疾患発症の3日後に死亡した。全体として、9匹の動物のうち8匹は、表11に従って自発的に死亡するか、または安楽死させることになったが、これに対して、化合物2処置群では9匹のうち0匹であった(図5E)。EAEマウスモデルにおける通常の死亡率が30%未満と報告されていることから、これは異常に悪性度の高いモデルであった。
【0288】
対照群の最後まで生存していたマウス及び各処置群から無作為に選択したマウスから単離した脾細胞のフローサイトメトリー分析により、対照と比較して、すべての処置マウスにおいてFoxp3/CD4T細胞が増加していたことが示された。予防群において、Foxp3/CD4T細胞の割合は、化合物2及び化合物2/MOG35-55処置マウスについてそれぞれ10.4%及び7.02%であったのに対し、対照マウスでは3.20%であったが、これは、対照と比較してそれぞれ225%及び119%増加したことを表している。同様に、症状の発症後に化合物2で処置したマウスにおけるFoxp3/CD4T細胞の割合は26.1%であったが、これは、未処置群における生存マウスに対して715%の増加であった。
【0289】
本試験では、マウスにおいてEAEモデルの高悪性度形態が誘導された。これは、9匹の動物のうち8匹が5のスコアに到達するという未処置群における高い臨床スコア及び死亡率から明らかである。対照的に、EAEの文献の試料から得た対照/未処置動物における平均臨床スコアは、3~4の範囲である。EAEの高悪性度形態にもかかわらず、経口による化合物2及び化合物2/MOG35-55による予防的処置は、疾患発症を少なくとも3日間遅延させたが、これは、Kentらによって報告されたEAEモデルにおける抗α4抗体処置を用いて行われた観察と同等である。化合物2と化合物2/MOG35-55との間に差異はなかったが、これは、抗原の共投与/共提示が自己免疫モデルにおいて必要とされないことを示唆している。
【0290】
症状の発症後に化合物2で処置した動物は、未処置群よりも良好な生存率及び低い臨床スコアを有していた。試験の終わりまでに、化合物2で処置した動物は、未処置群における平均臨床スコアよりも54%低い平均臨床スコアを有していた。これと比較して、Kentらは、未処置マウスにおける平均臨床スコアと比較して、抗α4処置マウスにおいて応答のピーク(試験の15日目)での平均臨床スコアが66%減少することを報告した。
【0291】
各群由来の代表的な動物から単離された脾細胞のex vivo分析の結果は、化合物2の提案された作用機序を支持するものであり、未処置動物と比較して、全ての処置群において寛容原性T細胞の増加が観察された。
【0292】
実施例7.化合物2とDMPC、GL67とのリポソーム製剤
DMPC及びGL67(N4-コレステリル-スペルミンHCl塩)中の化合物2の溶解を試験するために、化合物2:DMPC:GL67のモル比10:85:5で、化合物2(3mg)をDMPC(42.47mg)及びGL67(2.669mg)中で室温(RT)にて3mlのクロロホルム溶液中でインキュベートした。具体的には、3.0mgの化合物2を秤量し、メスフラスコ中で3mlのクロロホルムと混合した。フラスコを5分間超音波処理し、次いで短くボルテックスし、室温で一晩培養した。一晩のインキュベーション後、フラスコを5分間超音波処理し、次いで短くボルテックスにかけた。42.47mgのDMPCをフラスコに加えた。白濁のない透明な溶液が観察された。2.669mgのGL67をフラスコに加え、フラスコを1~3分間超音波処理した。超音波処理後に透明な溶液が観察された。
【0293】
透明な溶液を5ml丸底フラスコに移し、それを回転蒸発装置に装填した。回転蒸発装置を最初に800mbarの真空圧及び5の速度で室温にて運転し、次いで水浴の温度を37℃まで上昇させた。次いで、真空圧を600mbarまで15分間低下させ、次いでさらに400mbarまで30分間低下させた。回転蒸発装置上でおよそ1時間後、有機溶媒を完全に蒸発させ、丸底フラスコ上に薄膜を形成させた。
【0294】
次に、薄膜の再水和のために水和緩衝液を調製した。具体的には、880mgのヒドロキシプロピルβシクロデキストリン(HPBCD)を秤量し、50mlのコニカルチューブ中の生理食塩水(適量~11ml)に溶解した。次いで、AAV9-CMVChry(3×10,Vigene Biosciences,Charles River company)を水和緩衝液に添加した。
【0295】
次いで、水和緩衝液を用いて膜を再水和した。これは、丸底フラスコに緩衝液を添加し、真空下で丸底フラスコを回転蒸発装置に取り付けることにより行った。回転蒸発装置の穏やかな回転により、薄膜の再水和が生じ、リポソームが形成された。薄膜がリポソームに再水和されるにつれて、AAV9粒子は、新たに形成されたリポソームの水性中心に捕捉された。
【0296】
得られたリポソームを、再水和後、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて画像化した。図6は、DMPC:GL67:化合物2(85:5:10)リポソームに封入されたAAV9-CMVChryの代表的なTEM画像を示し、図中、赤色の矢印及び円形は、封入されたAAV9-CMVChryを示す。
【0297】
実施例8.マウスにおける化合物2によるFoxP3CD4T細胞の増加
AAV9-GFPを封入する単一経口用量のDMPC:GL67:化合物2(85:5:10)リポソームのPD効果を、5日間の投与後にマウスにおいて評価した。AAV9-CMVChryをAAV9-GFP(Vigene Biosciences製,a Charles River company)に置き換えること以外は、実施例7に記載の手順に従って、リポソームを合成した。表11に記載の投与群を用いて、実施例5に記載のように実験を行った。
【表11】
【0298】
ナイーブ群では、フローサイトメトリーにより測定したFoxP3/CD4T細胞の割合は、4.65、3.91、及び5.01であった。10個のAAV9-GFPを封入したDMPC:GL67:化合物2(85:5:10)リポソームの製剤で処置した群では、フローサイトメトリーで測定したFoxP3/CD4T細胞の割合は、7.94、9.37、及び8.15であった。したがって、DMPC:GL76:化合物2(85:5:10)リポソームに封入された10個のAAV9-GFPの100μg/マウスの単回用量の経口投与により、投与の5日後にTreg発現が増強された。
参考文献
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【0299】
本明細書で引用されるすべての特許、公開出願、及び参考文献の教示は、その全体が参照により援用される。
【0300】
例示的な実施形態を特に図示し説明してきたが、添付の特許請求の範囲に包含される実施形態の範囲から逸脱することなく、形態及び詳細に様々な変更を加えてもよいことが当業者には理解されよう。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図2I
図2J
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図2M
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図3
図4A
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図6
【国際調査報告】