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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-10
(54)【発明の名称】固体電極用イオン結合剤
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240903BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240903BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240903BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20240903BHJP
   H01M 10/056 20100101ALI20240903BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240903BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240903BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240903BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240903BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240903BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240903BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20240903BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M50/417
H01M10/056
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/485
H01M10/054
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510479
(86)(22)【出願日】2022-08-19
(85)【翻訳文提出日】2024-04-11
(86)【国際出願番号】 AU2022050931
(87)【国際公開番号】W WO2023019322
(87)【国際公開日】2023-02-23
(31)【優先権主張番号】2021902629
(32)【優先日】2021-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】2021902630
(32)【優先日】2021-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】511095676
【氏名又は名称】ディーキン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】ハウレット,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】フォーサイス,マリア
(72)【発明者】
【氏名】カー,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】メンデス,ティアゴ
(72)【発明者】
【氏名】上田 博幸
(72)【発明者】
【氏名】リャン,ヤン
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H021EE04
5H021EE31
5H021HH01
5H029AJ05
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL01
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL13
5H029AM11
5H029BJ12
5H029DJ04
5H029DJ08
5H029DJ16
5H029DJ17
5H029EJ11
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ12
5H050AA07
5H050AA12
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050BA18
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB01
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA03
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA21
5H050FA02
5H050FA17
5H050FA18
5H050FA19
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA12
(57)【要約】
電気活性材料、および液体電解質を使用するものと同等の電極の性能を支持する、少なくとも1種の有機イオン柔粘性結晶(OIPC)とイオン輸送塩との複合体の形態の内部イオン結合剤を含む電極組成物を含む全固体エネルギー貯蔵デバイス用電極。
【選択図】図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの正極と少なくとも1つの負極の対を含む電気化学エネルギー貯蔵デバイスであって、少なくとも1つの電極が、
- 電気化学的活性材料の粒子;
- 任意選択の電子伝導性添加剤の粒子;
- 任意選択の非イオン伝導性ポリマー結合剤の粒子;および
- 有機イオン柔粘性結晶(OIPC)と輸送イオン塩との予備形成された密接な複合体の形態の内部イオン結合剤
を含む乾燥電極組成物の形態の固体電極であり、粒子間の空隙の大部分が、前記予備形成された密接な複合体の濃縮されたまたは離散した部分で完全にまたは部分的に充填されている、電気化学エネルギー貯蔵デバイス。
【請求項2】
前記電極内のイオン伝導経路を遮断する前記粒子間の空隙が、複合体形態の前記内部イオン結合剤で実質的に充填され、それにより前記電極内のイオン伝導経路の遮断を取り除くおよび/またはイオン伝導経路を増加させる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記乾燥電極組成物が、イオン伝導性ポリマー電解質またはイオン伝導性ポリマー電解質のモノマー、有機溶媒、OIPCではないイオン液体、重合性イオン液体モノマーおよび/または重合ポリ(イオン液体)、イオノゲル、ポリイオン液体イオノゲルおよび/またはAIBNなどの重合開始剤のうちの1種または複数を含まない、請求項1または請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
全固体エネルギー貯蔵デバイスとして構成され、前記電極の各対間に配置されたイオン輸送中間層をさらに含み、中間層の分離した部分が対の各電極と直接接触し、前記イオン輸送中間層と各電極との間の接触が実質的に空隙のない接触を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記イオン輸送中間層が、OIPC、イオン液体、およびイオン輸送塩のうちの1種または複数を組み込んだイオン輸送膜、例えば、OIPCおよびイオン輸送塩を含む固体電解質複合体である、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
前記イオン輸送中間層が、前記固体電極のOIPCおよびイオン輸送塩と同じ前記OPICおよびイオン輸送塩を含む、請求項4または5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記イオン輸送中間層が、Liドープ[Cmpyr][FSI]電解質が充填されたポリプロピレンセパレータ、またはLiドープ[P1222][FSI]電解質が充填されたポリプロピレンセパレータである膜であり、好ましくはOIPC対イオン輸送塩が50:50mol%である、請求項4~6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記複合体中の前記OIPC対輸送イオン塩の比が約9:1~約1:9mol%、または約9:1~約1:9wt%、好ましくは約1:1mol%または約1:1wt%である、先行する請求項のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記内部イオン結合剤が、全電極組成物の少なくとも約15wt%かつ約50wt%以下の量で存在する、先行する請求項のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記内部イオン結合剤が、圧密化された組成物全体に均質に分散されている、先行する請求項のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項11】
前記内部イオン結合剤が前記電気化学的活性剤の粒子のみをコーティングしている、請求項1~9のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項12】
前記内部イオン結合剤が、前記電極組成物中に含まれる導電性向上添加剤の粒子のみをコーティングしている、請求項1~9のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記内部イオン結合剤が、前記電気化学的活性剤の粒子、および前記組成物中に含まれる導電性向上剤の粒子を同時にコーティングしている、請求項1~9のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項14】
前記イオン輸送塩が、アルカリ金属、アルカリ土類金属塩、または遷移金属塩、好ましくはLiFSI、LiBF、LiTFSI、LiOTf、NaFSI、NaBF、NaTSI、NaTFSI、またはNaOTfである、先行する請求項のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項15】
各電極対の一方の電極が、層状金属酸化物;ポリアニオン性化合物;硫黄;および酸化還元中心を含む変換反応材料から選択される正の電気化学的活性材料を含む正極(カソード)である、先行する請求項のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項16】
前記正の電気化学的活性材料が、コバルト酸リチウム(LCO)、リン酸鉄リチウム(LFP)、リン酸マンガンリチウム(LMP)、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム(NMC)、およびアルミナでドープされたニッケルコバルト酸リチウム(NCA)、マンガン酸リチウム(LMO)から選択される遷移金属材料を含むか、または酸化還元中心を含む前記正の電気化学的活性変換反応材料が、Fe2+/Fe3+、Co2+/Co3+、Ni2+/Ni3+、Mn2+/Mn3+またはCu2+/Cu3+から選択される遷移金属イオン系酸化還元カップルであるか、または酸化還元中心を含む前記正の電気化学的活性変換反応材料が、Fe(BF)・6HO、Fe(BF.6HO、Co(II)TFSI、Fe(II)トリフレートまたはNi(POを含む遷移金属イオン系酸化還元カップルである、請求項15に記載のデバイス。
【請求項17】
各電極対の一方の電極が、硬質炭素;グラファイト;ケイ素;リチウム;ナトリウム;鉄;マンガン;リン;アンチモン;ビスマス、セレン、リチウムチタネート、特にチタン酸リチウムなどのリチウム合金から選択される負の電気活性材料を含む負極である、請求項1~15のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項18】
前記イオン内部結合剤の前記有機イオン柔粘性結晶(OPIC)化合物のカチオンが、[N1,1,1,1]、[N1,2,2,2]、[ヘキサメチルグアニジニウム]、[Cmpyr]、[P1,2,2,2]、[P1,2,2,i4]、[P1,4,4,4]、[Him]、[Hmim]、[N2,2,3,3]、[N3,3,3,3]、[Cepyr]、[Cmoxa][FSI]、[Cmmor]、[C101mpyr]、[Cmpyr]、[Cmpyr]、[(NH]、[2-Me-im]、および[TAZm]からなる群から選択される、先行する請求項のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項19】
前記イオン内部結合剤の前記有機イオン柔粘性結晶(OPIC)化合物のアニオンが、[DCA]、[BF]、[TFSI]、[FSI]、[PF]、[Tf]、[BBu]、[TCM]、[DFTFSI]、[FTFSI]、[(FH)F]、[PFBS]からなる群から選択され、好ましくは前記OIPCが、[N1,1,1,1][DCA]、[N1,2,2,2][BF]、[P1,2,2,2][TFSI]、[ヘキサメチルグアニジニウム][TFSI]、[ヘキサメチルグアニジニウム][BF]、[ヘキサメチルグアニジニウム][FSI]、[Cmpyr][BF]、[Cmpyr][FSI]、[Cmpyr][TFSI]、[Cmpyr][BF]、[P1,2,2,2][FSI]、[P1,2,2,i4][PF]、[P1,4,4,4][FSI]、[Him][Tf]、[Hmim][Tf]、[N2,2,3,3][BBu]、[N3,3,3,3][BF]、[Cepyr][TFSI]、[Cepyr][FSI]、[Cepyr][PF]、[Cepyr][BF]、[Cmoxa][FSI]、[Cmoxa][FSI]、[Cmoxa][TFSI](oxa=オキサゾリジニウム)、[Cmmor][FSI]、[Cmmor][TFSI]、[Cmmor][BF](mor=モルホリニウム)、[C101mpyr][FSI]、[Cmpyr][TCM]、[Cmpyr][DFTFSI]、[Cmpyr][FTFSI]、[Cmpyr][(FH)F]および[Cmpyr][(FH)F]、[Cmpyr][TFSI]、[(NH][Tf]、[2-Me-im][Tf]、および[TAZm][PFBS]から選択される、先行する請求項のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項20】
前記内部イオン結合剤の前記OPICが、CmpyrBF;CmpyrFSI;およびCmpyrTFSIからなる群から選択される、先行する請求項のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項21】
リチウムまたはナトリウム全固体電池として構成された、先行する請求項のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項22】
少なくとも1つの正極と少なくとも1つの負極の対を含む全固体エネルギーデバイスであって、
前記負極が、
- 硬質炭素、グラファイト;ケイ素;リン;セレン;アンチモン;ビスマス;リチウムチタネート、特にチタン酸リチウムなどのリチウム合金;またはリチウム金属およびナトリウム金属などの金属アノード材料から選択される電気化学的活性材料の粒子;
- 任意選択の電子伝導性添加剤の粒子;
- 任意選択の非イオン伝導性ポリマー結合剤の粒子;ならびに
- CmpyrBF;CmpyrFSI;およびCmpyrTFSIからなる群から選択される有機イオン柔粘性結晶(OIPC)と、LiFSI、LiBF、LiTFSI、LiOTf、NaFSI、NaBF、NaTSI、NaTFSI、またはNaOTfからなる群から選択される輸送イオン塩との予備形成された密接な複合体の形態の内部イオン結合剤
を含む乾燥電極組成物を含む合金化または挿入型固体負極である、全固体エネルギーデバイス。
【請求項23】
少なくとも1つの正極と少なくとも1つの負極の対、ならびに前記電極の各対間に配置された、CmpyrBF;CmpyrFSI;およびCmpyrTFSIからなる群から選択される少なくとも1種の有機イオン柔粘性結晶(OIPC)、ならびにLiFSI、LiBF、LiTFSI、LiOTf、NaFSI、NaBF、NaTSI、NaTFSI、またはNaOTfからなる群から選択される輸送イオン塩を含むイオン輸送中間層を含む全固体エネルギーデバイスであって、中間層の分離した部分が対の各電極と直接接触し、
前記負極が、
- 硬質炭素、グラファイト;ケイ素;リン;セレン;アンチモン;ビスマス;リチウムチタネート、特にチタン酸リチウムなどのリチウム合金;またはリチウム金属およびナトリウム金属などの金属アノード材料から選択される電気化学的活性材料の粒子;
- 任意選択の電子伝導性添加剤の粒子;
- 任意選択の非イオン伝導性ポリマー結合剤の粒子;ならびに
- 前記イオン輸送中間層のOIPCおよび輸送イオン塩と同じである有機イオン柔粘性結晶(OIPC)と輸送イオン塩との予備形成された密接な複合体の形態の内部イオン結合剤
を含む乾燥電極組成物を含み、イオン伝導性ポリマー電解質またはイオン伝導性ポリマー電解質のモノマーを含まない合金化または挿入型固体負極である、全固体エネルギーデバイス。
【請求項24】
前記負極がシリコンまたはグラファイト電極である、請求項22または請求項23に記載の全固体デバイス。
【請求項25】
前記内部イオン結合剤が、[Cmpyr][FSI]とLiFSIの予備形成された密接な複合体である、請求項22~24に記載の全固体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば固体電池用電極に使用するための、柔粘性結晶特性を有する新規のクラスの導電性機能性イオン結合剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、液体電解質によって分離された炭素系アノードおよびリチウム金属酸化物カソードによって構成されるリチウムイオン電池(LIB)が、長寿命および高エネルギー密度を提供する電池市場を支配している。電気自動車(EV)市場の急拡大に伴い、LIBの大規模利用に対する需要はますます高まっている。しかし、LIBをこのような大規模用途に広く使用するためには、その安全性を確保しなければならない。しかし、セル化学レベルでは、LIBは可燃性の有機液体電解質を使用している。従来の液体電解質は、それらの高い引火性のために安全性の観点から障害であり、これは、リチウム金属アノードが使用される次世代電池では、短絡しやすいためより深刻である。その結果、全固体電池(ASSB)は、漏出がなく、物理的なバリアの存在によってリチウムのデンドライトの成長を制限するという事実から多くの注目を集めている。イオン伝導経路として固体電解質を含むASSBは、LIBにおいて従来の液体電解質よりも高い熱安定性を有する。本発明の一つの目標は、LIBに匹敵する性能を有する費用対効果の高いASSBを提供することであり、これはASSBによるLIBの置き換えが実行可能な可能性となることを意味する。
【0003】
液体系電池では、電極の細孔に液体電解質が充填され、相互接続された炭素を添加すると、電極内に十分なイオンおよび電子経路が得られるが、真の固体系では、電極は液体が乾燥したままであるため、活性材料のドーピングおよび脱ドーピングのための可動イオンがないままである。その結果、有望な性能の多孔質電極から高密度電極へのシフトが提案されており、必要なイオン伝導性を提供するためにイオン液体などのイオン伝導性結合剤が使用される一方で、固体デバイスにおける電子伝導を提供するために従来の炭素添加剤の使用が継続されている。しかし、導電性ポリマーにおけるイオン伝導性はほとんど報告されておらず、イオン液体の使用は、漏出などの液体電解質に関連する問題を克服しない。
【0004】
もう一つの重要な要因は、活性材料および固体電解質(さらに必要であれば導電性添加剤および結合剤)を含む固体電極の、現在のLIB生産ラインへのプロセス適用性である。適合性の高い電極調製法は、エネルギー貯蔵用途におけるASSBの採用を促進する。無機固体電解質は、それらのバルクのイオン伝導性の点で有望な材料であるが、電極の固体電解質と活性材料との間に空隙のない接触を形成するために、さらなる高温/高圧ステップを必要とする。この文脈では、有機固体電解質は、さらなる低スループットプロセスを実施することなく、現在のLIB製作技術を単純に利用することができるという優れたプロセス適用性のために魅力的な候補になる。
【0005】
有機固体電解質に使用される有機イオン柔粘性結晶(OIPC)は、イオン伝導体の新たに現れた部類である。OIPCは、イオン液体の固体類似体であり、低引火性、無視できる蒸気圧、ならびに高い熱的および化学的安定性を含むイオンの性質の利点を受け継いでいる。OIPCはカソードとアノードの間の中間層に使用されてきたが、電極スラリーの固有成分として、電極キャスティング/圧密化のための固体電極組成物または電極組成物スラリーの内部に使用されたことはこれまでにない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に記載されるのは、電極および電極を含む全固体エネルギー貯蔵デバイスであって、電極が、電気活性材料、および少なくとも1つの有機イオン柔粘性結晶(OIPC)の形態の内部イオン結合剤を含む電極組成物を含む、全固体エネルギー貯蔵デバイスである。望ましくは、電極はイオン伝導性ポリマー電解質を含まない。好適には、内部イオン結合剤は、有機イオン柔粘性結晶(OIPC)と輸送イオン塩との予備形成された複合体である。予備形成された複合体結合剤は、ブレンドおよびスラリー形成の際に他の電極成分と本質的に会合し、それ自体が電極中の活性成分と同じ処理、例えば、溶媒蒸発、圧密化または高密度化などに供されることが理解されるべきである。予備形成された複合体結合剤は、例えば、溶液中のドロップキャストなどによる予備形成された電極の製造中には添加されないことを理解すべきである。乾燥ポリマー電解質を含まない電極は、液体電解質を備えた同等のデバイスに匹敵するサイクリングおよび/または容量貯蔵および放出性能を提供するように、ASSデバイスにおいて十分にイオン伝導性かつサイクリングに対して安定であることが見出された。本発明は、1つまたは複数の本発明の電極、対電極、および電解質、好ましくは固体電解質を含むエネルギー貯蔵デバイスを提供する。
【0007】
本発明は、有機イオン柔粘性結晶(OPIC)の、変換材料電極における内部イオン結合剤としての使用、インターカレーション電極における内部イオン結合剤としての使用、合金化電極における内部イオン結合剤としての使用を提供する。
【0008】
一態様では、本発明は、少なくとも1つの正極と少なくとも1つの負極の対を含む電気化学エネルギー貯蔵デバイスであって、少なくとも1つの電極は乾燥電極組成物の形態の固体電極であり、電気化学的活性材料の粒子;任意選択の電子伝導性添加剤の粒子;任意選択の非イオン伝導性ポリマー結合剤の粒子;および有機イオン柔粘性結晶(OIPC)と輸送イオン塩との予備形成された密接な複合体の形態の内部イオン結合剤を含む電気化学エネルギー貯蔵デバイスを提供する。本発明は、正極が作用電極であり、負極が対電極であるセル(例えば、ハーフセル)に及ぶ。
【0009】
好ましくは、粒子間の空隙には、内部イオン結合剤が充填される。空隙は、電極内のイオン伝導経路を遮断または中断する。空隙にOIPC複合体を充填することにより、そのような中断されたイオン伝導経路が完成する。したがって、本発明の電極では、OIPC複合体は、そうでなければ存在しない新しいイオン伝導経路を完成させるか、または生成する。
【0010】
望ましくは、デバイスは、全固体エネルギー貯蔵デバイスとして構成され、電極の各対間に配置されたイオン輸送中間層をさらに含み、ここで中間層の分離された部分は1対の各電極と直接接触し、イオン輸送中間層と各電極との間の接触は実質的に空隙のない接触を含む。
【0011】
別の態様では、本発明は、少なくとも1つの正極と少なくとも1つの負極の対を含む全固体エネルギーデバイスであって、負極が、硬質炭素、グラファイト;ケイ素;リン;セレン;アンチモン;ビスマス;リチウムチタネート、特にチタン酸リチウムなどのリチウム合金;またはリチウム金属およびナトリウム金属などの金属アノード材料から選択される電気化学的活性材料の粒子;任意選択の電子伝導性添加剤の粒子;任意選択の非イオン伝導性ポリマー結合剤の粒子;ならびにCmpyrBF;CmpyrFSI;およびCmpyrTFSIからなる群から選択される有機イオン柔粘性結晶(OIPC)と、LiFSI、LiBF、LiTFSI、LiOTf、NaFSI、NaBF、NaTSI、NaTFSI、またはNaOTfからなる群から選択される輸送イオン塩との予備形成された密接な複合体の形態の内部イオン結合剤を含む乾燥電極組成物を含む合金化または挿入型固体負極である、全固体エネルギーデバイスを提供する。
【0012】
第5の態様では、本発明は、少なくとも1つの正極と少なくとも1つの負極の対、ならびに電極の各対間に配置された、CmpyrBF;CmpyrFSI;およびCmpyrTFSIからなる群から選択される少なくとも1種の有機イオン柔粘性結晶(OIPC)と、LiFSI、LiBF、LiTFSI、LiOTf、NaFSI、NaBF、NaTSI、NaTFSI、またはNaOTfからなる群から選択される輸送イオン塩と、を含むイオン輸送中間層を含む全固体エネルギーデバイスであって、中間層の分離部分が1対の各電極と直接接触し、負極がイオン伝導性ポリマー電解質またはイオン伝導性ポリマー電解質のモノマーを含まない合金型または挿入型固体負極であり、硬質炭素、グラファイト;ケイ素;リン;セレン;アンチモン;ビスマス;リチウムチタネートなどのリチウム合金、特にチタン酸リチウム;またはリチウム金属およびナトリウム金属などの金属アノード材料から選択される電気化学的活性材料の粒子;任意選択の電子伝導性添加剤の粒子;任意選択の非イオン伝導性ポリマー結合剤の粒子;およびイオン輸送中間層のOIPCおよび輸送イオン塩と同じである有機イオン柔粘性結晶(OIPC)と輸送イオン塩との予備形成された密接な複合体の形態の内部イオン結合剤を含む乾燥電極組成物を含む、全固体エネルギーデバイスを提供する。
【0013】
望ましくは、OIPC複合体は、例えば[Cmpyr][FSI]とLiFSI.ssの予備形成された混合物である。
望ましくは、全固体デバイスは、シリコンまたはグラファイト電極である負極を有する。
【0014】
用語「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、および「含む(comprising)」が本明細書(特許請求の範囲を含む)で使用される場合、それらは、記載された特徴、整数、ステップ、または構成要素を特定すると解釈されるが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップもしくは構成要素、またはそれらのグループの存在を排除しない。
【0015】
本発明のさらなる態様は、以下において、発明の詳細な説明に出現する。
本発明の実施形態を、添付図面を参照してほんの例として本明細書で例示する:
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1a】本発明のグラファイト-OIPC:塩イオン結合剤を含む固体デバイスを形成するための手順の概略、および対電極としてLi金属を含む全固体ハーフセルにおける構成を示し、中間層は、Li金属対電極を有する、電界紡糸PVdF繊維と埋め込まれたOIPC:塩ASSBの複合体の形態の膜である。
図1b】50℃における最初の3サイクルの、液体電解質であるEC-DEC-DMC(1:1:1体積比)中1.0MのLiPFを含む同じグラファイトアノードの充放電曲線と比較した、固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]イオン結合剤複合体アノード(70wt%グラファイトアノード+30wt%[Cmpyr][FSI]複合体)の充放電曲線を示す。比較は、性能の類似性を示す。
図2】(a)0wt%の[Cmpyr][FSI]複合体を含む固体グラファイトアノード(イオン結合剤なし)、(b)15wt%の[Cmpyr][FSI]複合体を含む固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノード、および(c)50wt%の[Cmpyr][FSI]複合体を含む固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードの、50℃における最初の3サイクルの充放電曲線を示す。
図3a】(a)[Cmpyr][FSI]複合体を含まない固体グラファイトアノード、(c)15wt%の[Cmpyr][FSI]複合体を含む固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノード、(c)50wt%の[Cmpyr][FSI]複合体を含む固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノード、および(d)液体電解質であるEC-DEC-DMC(1:1:1体積比)中1.0MのLiPFを含むグラファイトアノードの50℃での(a)充電曲線を示す。(e)各充電Cレートにおける容量比。
図3b】(a)30wt%の[Cmpyr][FSI]複合体を含む固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードの充電曲線;(b)50℃における2C充電時の容量比対φ電解質/φアノードのプロット;遮断されたイオン輸送チャネルおよびイオン結合剤が充填された遮断の模式図を示す。集電と電極、および電極と中間層の間の空隙のない接触が、イオン結合剤によって促進されることが示される。
図4】50℃における2C充電時の容量比対φ電解質/φアノードのプロットを示す。図中の表は、組成、空隙(φ空隙)、アノード(グラファイト、カーボンブラックおよびNa-CMCを含む)(φアノード)、電解質(φ電解質)および溶媒(φ溶媒)、およびφ電解質/φ溶媒の体積分率を示す。(f)~(g)は、0wt%、30wt%および50wt%系のDQ/dV曲線を示す。
図5】固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノード(a)70wt%グラファイトアノード+30wt%[Cmpyr][FSI]複合体、(b)50wt%グラファイトアノード+50wt%[Cmpyr][FSI]複合体、(c)固体グラファイトアノード0wt%[Cmpyr][FSI]の、50℃での2サイクル目、10サイクル目、20サイクル目、50サイクル目および100サイクル目の充放電曲線、(d)容量保持、および(e)各サイクルにおけるクーロン効率を示す。
図6】(a)0wt%固体グラファイトアノードおよび(b~e)固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードのSEM画像を示し、(b、d)70wt%グラファイトアノード+30wt%[Cmpyr][FSI]複合体;(c、e)50wt%グラファイトアノード+50wt%[Cmpyr][FSI]複合体である。
図7】OIPC複合体イオン結合剤の添加によって接触が改善されたことを示すEIS試験の結果を示す。
図8】典型的なOIPCのカチオンおよびアニオンの例を示す。
図9】(a)CmpyrBF(P12BF)、(b)Fe(BF・6HO、(c)Fe(BF・6HO/CmpyrBF-LiFSIおよび(d)Fe(BF・6HO-CmpyrBF-LiFSI-グラフェン;(e)X線回折を示す。
図10】(a)0.1mV/sのスキャン速度での、2.0V~4.0Vの電圧範囲のFe(BF・6HO/CmpyrBF/LiFSI/グラフェンカソードのCV曲線、(b)レート性能、および(c)50℃で試験したFe(BF・6HO/CmpyrBF/LiFSI/グラフェンおよびFe(BF・6HO/CMC/LiFSI/グラフェンの電気化学インピーダンス分光法(EIS)プロット;(d)異なる電流レートでのFe(BF6HO/CmpyrBF/LiFSI/グラフェンの最初のガルバノスタティック充放電サイクリングを示す。電解質はPVDFフィルム担持Pdadma/CmpyrFSI/LiFSIであり、アノードはLi金属である。
図11】(a)カソード負荷0.8mg/cmでの、Fe(BF6HO/CmpyrBF/LiFSI/グラフェンおよびFe(BF6HO/CMC/LiFSI/グラフェンの50℃における最初のガルバノスタティック充放電サイクリングを示す。充電レートは0.05Cである。電解質はPVDF粉末/CmpyrBF/LiFSIであり、アノードはLi金属である。
図12】カソード負荷0.72mg/cmでの、50℃でリチウム電池で試験したFe(BF6HO/CmpyrBF/LiFSI/グラフェンの最初のガルバノスタティック充放電サイクリングを示す。(b)100サイクルにわたる対応するサイクル数-容量曲線。充電レートは、1~50サイクル目で0.05C、51~100サイクル目で0.1Cである。電解質はPVDF粉末/CmpyrFSI/LiFSIであり、アノードはLi金属である。
図13】カソード負荷0.8mg/cmでの、50℃でナトリウム電池で試験したFe(BF6HO/CmpyrBF/NaFSI/グラフェンの最初のガルバノスタティック充放電サイクリングを示す。(b)100サイクルにわたる対応するサイクル数-容量曲線。充電レートは、1~5サイクル目で0.05C、6~100サイクル目で0.1Cである。電解質はPVDF粉末/C2mpyrFSI//NaFSIであり、アノードはNa金属である。
図14】(a)カソード負荷0.6mg/cmでの、Fe(BF6HO/CMC/LiFSI/グラフェンの50℃における最初のガルバノスタティック充放電サイクリングを示す。充電レートは0.05Cである。電解質はCmpyrFSI/LiFSI(液体)であり、アノードはLi金属である。
図15】(a)CuF/CmpyrBF/LiBF/グラフェンカソード(カソード負荷0.6mg/cm)および(b)CuF/PVDF/LiBF/グラフェン(カソード負荷1.1mg/cm)の最初の3回のガルバノスタティック充放電サイクルを示す。セルは50℃で試験し、充電レートは0.05Cである。電解質はPVDFフィルム担持PDADAMA/CmpyrFSI/LiFSIであり、アノードはLi金属である。
図16】1~3.7Vの電圧範囲内での、50℃で100サイクルにわたるNi(PO-PVDF-LiFSI-炭素(カソード負荷1mg/cm)およびNi(PO-CmpyrFSI-炭素(カソード負荷3mg/cm)の安定性能を示す。充電レートは0.05Cである。電解質はPVDF粉末/CmpyrFSI/LiFSIであり、アノードはLi金属である。
図17】70℃でサイクルした、導電性結合剤が異なるLi|PILBLOC|LFPセルのa)C/10、C/5およびC/2におけるサイクリング性能、ならびにb)C/10およびC/2における電圧プロファイルを示す。
図18】(a)[Cmpyr][FSI]PVDF繊維複合体中間層電解質を利用した[Cmpyr][FSI]複合体アノード、組成(wt%)Si:カーボンブラック:Na-CMC:[Cmpyr][FSI]:LiFSI=59.5:12.8:12.8:9.2:5.8、および(b)液体電解質であるEC-DMC(1:1vol%)中1MのLiPFを利用したSiアノード、組成(wt%)Si:カーボンブラック:Na-CMC=70:15:15のSiアノードのサイクリング性能(負荷0.22~0.28mg/cm、C/50、50℃)を示す。
図19】PILBLOC固体電解質膜(LiFSI/PILユニット3molおよびC3mpyrFSI/PILユニット1.5mol)を使用した、50℃でのC/20およびC/10のLiFePO複合体電極(LiFePO 60wt%、[Cmpyr][FSI]25wt%、C65 10wt%、負荷1.1mAh/cm)のサイクリング性能を示す。
図20】PILBLOC固体電解質膜(LiFSI/PILユニット3molおよびC3mpyrFSI/PILユニット1.5mol)を使用した、50℃でのC/20、C/10、C/5およびC/2のLiFePO複合体電極(LiFePO 60wt%、[Cmpyr][FSI]25wt%、C65 10wt%、負荷1.1mAh/cm)のサイクリング性能を示す。
図21】PILBLOC固体電解質膜(LiFSI/PILユニット3molおよびC3mpyrFSI/PILユニット1.5mol)を使用した、50℃でのC/10(最初の2サイクル)、次いで1CのLiMn複合体電極(LiFePO 60wt%、[Cmpyr][FSI]25wt%、C65 10wt%、負荷1.1mAh/cm)のサイクリング性能を示す。
図22】(1)ケイ素粒子へのコーティング、(2)導電性炭素(C65)粒子へのコーティング、(3)Si粒子とC65粒子の両方へのコーティングとしてイオン結合剤を電極に組み込むために使用できる、多くの異なるSi-イオン結合剤電極の調製を概略的に示す。(4)予備形成された電極へのOIPC複合体のドロップキャスティング、または(Ref)剥離強度の低いCMC結合剤なしの電極との比較。
図23図22に従って調製した電極のサイクリング性能を示す。
図24】Si-OIPC複合体アノードのサイクリング性能(Si負荷1.22~1.48mg/cm、Liドープ[P1222][FSI]電解質が充填されたポリプロピレンセパレータを利用し、充電はC/10、放電はC/50、50℃)を示し、ここでOIPCは、(a)[Cmpyr][FSI]、(b)[HMG][FSI]、および(c)[P1222][FSI]である。Si-OIPC複合体アノードの組成は、Si:グラフェン:Na-CMC:クエン酸:KOH:OIPC:LiFSI=w:w:w:w:w:wwt%であり、(w:w:w:w:w:w)=[Cmpyr][FSI]では(61.5、9.6、6.0、7.0、0.8、9.2、5.9)、[HMG][FSI]では(61.6、9.5、6.1、7.0、0.8、9.5、5.5)、および[P1222][FSI]では(61.4、9.4、6.0、7.0、0.8、9.6、5.7)である。(d)は、セルのそれぞれの20回の充放電サイクルの放電容量を示す。
図25】Cmoxaを含むSi-OIPC複合体アノードの15回の充放電サイクル(Liドープ[Cmpyr][FSI]塩50:50mol%電解質が充填されたポリプロピレンセパレータを利用し、充電はC/10、放電はC/50、50℃)の放電容量を示す。
図26】[P1222][FSI]複合体が充填されたPVDF、SoluporまたはCelgard膜セパレータを用いたハーフセル構成における(1)[P1222][FSI]:LiFSI塩50:50mol%複合体;(2)[Cmpyr][FSI]:LiFSI塩50:50mol%複合体、および(3)[HMG][FSI]:LiFSI塩50:50mol%複合体を用いたSi電極のハーフセルのサイクル性能を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
電極組成物としての基本的な個々の成分として、導電性、機能的および/またはイオン結合剤として有機イオン柔粘性結晶化合物(OIPC)を含める(またはイオン輸送塩との密接なOIPC複合体を含める)(本明細書では、総称してOIPC結合剤と記載する)と、特に、電極が固体電極、特に固体電解質を含む全固体エネルギー貯蔵デバイスに使用される場合、電極性能に好ましい影響を与えることが見出されている。複合体とは、所望の比率のOIPCと輸送金属イオンとの密接な乾燥混合物を意味し、これは別々に予備形成された後、電極組成物の他の成分に添加され、電極を形成するために使用されるスラリーを調製する。したがって、形成中に電極組成物に添加されると、複合体形態のOIPC/塩の組合せは、OPICと塩が電極組成物中で単一成分として緊密に会合している、別個の密接なイオン結合成分として機能する。これは、Ogawa2019,Polymer178(2019)121614によって実施されたように、液体モノマー中のOIPCを既に作製された電極にドロップキャストすることと同じではない。望ましくは、本明細書に記載されるOIPC結合剤/複合体結合剤は、顕著なイオン伝導性を固体電極に組み込む一方で、以下の1つまたは複数を含む有利なさらなる性能効果を有利に提供する:(i)OIPCの柔らかく柔粘性の性質に起因する、OIPC/OIPC複合体結合剤を組み込んだ電極の改善された機械的特性;(ii)一部の場合では、特に好ましいイオン伝導経路を有する電極組成物内に新しい高イオン伝導性の新しい相を形成することによる、ターゲットイオン(例えば、Li、Na、Feなど)伝導経路の生成、(iii)例えば、それぞれの界面におけるSEI形成、ならびに/またはOIPCの柔粘性の性質から生じる接着の改善による、(a)電極/固体電解質、および/もしくは(b)電極/集電体基板間の改善された界面接触。また、OIPC結合剤は、電解質/電極界面接触および電極/集電体界面接触および接着の1つまたは複数を、例えばこれらの構成要素間に空隙のない接触を形成することによって向上させる。これは、ASSBおよび他のASSエネルギー貯蔵デバイスの開発における重要な進歩である。さらに、電極組成にOIPCを含めると界面抵抗が低下することから、電極にOIPC/OIPC複合体を組み込むと、リチウムデバイスにおけるリチウム化/脱リチウム化プロセスなどの金属イオン酸化還元プロセスを促進できることが示唆される。
【0018】
本発明の好ましい態様は、少なくとも1つの正極と少なくとも1つの負極の対、および電極の対のいずれかの間に配置されたイオン輸送中間層を含む全固体エネルギー貯蔵デバイスであって、中間層の分離した部分が各電極の面に直接接触しているイオン輸送中間層を含み、各電極がイオン伝導性ポリマー電解質を含まず、電気化学的活性材料の粒子;任意選択の電子伝導性添加剤の粒子;任意選択の非イオン伝導性ポリマー結合剤の粒子;および有機イオン柔粘性結晶(OIPC)と輸送イオン塩の予備形成された複合体の形態の内部イオン結合剤を含む乾燥電極組成物を含む、全固体エネルギー貯蔵デバイスを提供する。好適には、イオン輸送中間層と各電極との間の接触は、実質的に空隙のない接触を含む。望ましくは、粒子間の空隙には内部イオン結合剤が充填される。好ましくは、複合体中のOIPC対輸送イオン塩の比は、約9:1~約1:9mol%、または約9:1~約1:9wt%、好ましくは約1:1mol%または約1:1wt%である。望ましくは、内部イオン結合剤は、全電極組成物の少なくとも約15wt%かつ約50wt%以下の量で存在する。望ましくは、乾燥電極組成物は有機溶媒を含まない。より望ましくは、組成物は、理想的には有機溶媒、OIPCではないイオン液体、重合性イオン液体モノマーおよび/または重合ポリ(イオン液体)、イオノゲル、ポリイオン液体イオノゲルおよび/またはAIBNなどの重合開始剤のうちの1種または複数を含まない。好ましくは、イオン輸送中間層は、イオン輸送塩を組み込んだイオン輸送膜、例えば、イオン輸送塩を含む固体電解質複合体である。本発明のOIPC結合剤またはOIPC複合体結合剤を電極に組み込むと、電極内部の輸送金属イオン伝導経路の生成が促進され、電極内の細孔/空隙にOIPC/複合体が充填されることにより、電極の内側部分/領域内のイオン伝導性が向上するだけではない。さらに、固体電解質と固体電極との間の空隙のない接触を促進することにより、電解質/電極および電極/集電体界面接触の質が向上し、それにより電極/電解質界面全体の導電性がさらに改善される。これらの効果により、セルで使用された場合の電極の充電レート能力およびサイクル寿命が改善される。
【0019】
OIPCまたはOIPC複合体をイオン結合剤として含めると、所望によりエネルギー貯蔵デバイスで乾燥(例えば、液体、有機溶媒、ゲルまたはゾルを含まない)状態の電極を使用することができる。有利には、液体、イオン伝導性ポリマー電解質、例えばゲルまたはゾル電解質は、電極内でデバイス動作のために必要とされず、安全性の大幅な向上につながる。さらに、いくつかの実施形態では、OIPC/OIPC結合剤を含む電極材料は、空隙の減少/空隙のない接触の増加をもたらすために圧密化または高密度化される。さらに、固体電解質とともに記載される改良された電極の使用は、電極中の固体電解質と活性材料との間の空隙の減少(すなわち、空隙のない接触の増加)をもたらす。OIPC/OIPC複合体により提供される改善されたイオン伝導性に起因して、より電気化学的に活性な材料を電極に含めることができることを考慮すると、提供される本発明のOIPC電極を使用するデバイスでは、より高い体積エネルギー密度が可能であるため、このことは本明細書に記載されるOIPC電極をASSBに特に有用にする。しかし、所望により、これらは液体電解質に依存するデバイスにも使用することができる。さらに、本明細書に記載のOIPC電極がデバイスに使用される場合、同等の液体電解質系と比較して、同じ充電レート能力を示すために必要とされる輸送イオン塩の全体量を減らすこともできる。これはまた、OIPC電極を使用するデバイスの体積エネルギー密度を改善する。一部の場合では、OIPCは、OIPC電極内部に新しい相、例えば液相を提供し、これらは充電/放電時にのみ生成されると考えられる。輸送イオンは液相中を容易に移動できるため、電極は、OIPC/OIPC複合体を含まない対応する電極よりも少ない塩を必要とする。いくつかのOIPC電極では、存在する電荷キャリアのイオン輸送を促進し、および/または変化移動を促進する様態で、電極複合体の活性材料を溶媒和または他の方法で取り込むことができる新しい相が形成されることがさらに考えられる。
【0020】
好適には、本発明のOIPC複合体は予備形成され、電極製造中に予備形成された複合体として電極組成物中に添加される。好適には、本発明のOIPC複合体は、任意の有用な量のOIPCおよびイオン輸送塩、またはOIPCおよびOMIECポリマーを含んでもよい。例えば、複合体中のOIPCの比は、最大97wt%の任意の量のOIPCであってもよく、残部の3%以上は、複合体の他の塩成分である。いくつかの実施形態では、最大95wt%のOIPC、最大90wt%のOIPC、最大85wt%のOIPC、最大80wt%のOIPC、最大75wt%のOIPC、最大70wt%のOIPC、最大65wt%のOIPC、最大60wt%のOIPC、最大55wt%のOIPC、最大50wt%のOIPC、最大45wt%のOIPC、最大40wt%のOIPC、最大35wt%のOIPC、最大30wt%のOIPC、最大25wt%のOIPC、最大20wt%のOIPC、最大15wt%のOIPC、最大10wt%のOIPC、最大5wt%のOIPC、最大2.5wt%のOIPCであり、残部は複合体の他の塩成分である。より低量のOIPCが典型的に好ましい。いくつかの実施形態では、90wt%のOPIC複合体が好ましく、ここで塩は10wt%である。他の実施形態では、50wt%のOIPC複合体が好ましい。他の成分は、好ましくはLiFSIまたはNaFSIなどのイオン輸送塩である。他の実施形態では、OMIECポリマーはPEDOT:PSSである。いくつかの実施形態では、90wt%OIPC:10wt%PEDOTT:PSSの複合体が好ましい。他の実施形態では、50wt%以下のOPIC:輸送イオン塩の複合体が好ましい。
【0021】
他の実施形態では、複合体中のOIPCの比は、40wt%以上のOIPCの量であってもよく、残部の60%以下が複合体の他の塩成分である。いくつかの実施形態では、40wt%以上のOIPC、55wt%以上のOIPC、60wt%以上のOIPC、75wt%以上のOIPCの量を使用することができる。特に好ましい実施形態では、複合体は40wt%~60wt%のOIPCを含み、残部はイオン輸送塩である。好ましい実施形態では、OIPCは、40wt%、41wt%、42wt%、43wt%、44wt%、45wt%、46wt%、47wt%、48wt%、49wt%、50wt%、51wt%、52wt%、54wt%、55wt%、56wt%、57wt%、58wt%、59wt%、または60wt%の量で複合体中に存在し、残部はイオン輸送塩である。
【0022】
特に好ましい実施形態では、複合体は、1:1.85mol%~1:0.5mol%~1:0.5mol%のOIPC対塩のモル比を含む。いくつかの実施形態では、OIPC対塩の比は1:1.5mol%~1:0.66mol%の範囲である。いくつかの実施形態では、OIPC対塩の比は、1:1.22mol%~1:0.82mol%の範囲である。いくつかの特に好ましい実施形態では、OIPC対塩の比は、1:1.25mol%~1:0.75mol%、より好ましくは1:1.15mol%~1:0.90mol%の範囲である。最も好ましくは、比は、約1:1mol%のOIPC対イオン輸送塩である。ここでの約とは、±5%のイオン輸送塩を意味する。
【0023】
好適には、予備形成されたOIPC/輸送イオン塩複合体は、OIPCとLiFSI;OIPCとLiFSI;またはOIPCとLiFSI;またはカチオンBFとLiFSI;カチオンFSIとLiFSI;またはカチオンTFSIとLiFSIからなる群から選択され、ここで「カチオン」はOIPCカチオンであり、好ましくはCmpyrBFとLiFSI;CmpyrFSIとLiFSI;またはCmpyrTFSIとLiFSIである。
【0024】
望ましくは、電極は、特にグラファイト系電極の場合、全電極組成物重量の一部として50wt%以下のOIPC/イオン輸送塩複合体を含む。いくつかの実施形態では、45wt%以下、40wt%以下、35wt%以下、30wt%以下、25wt%以下、20wt%以下、15wt%以下のOIPC/イオン輸送塩複合体が含まれる。いくつかの実施形態では、最低10wt%の複合体が含まれる。
【0025】
望ましくは、電極は、全電極組成物重量の一部として、15wt%、30wt%または50wt%のOIPC/イオン輸送塩複合体を含む。これは特にグラファイト電極の場合であり、最も好ましくはグラファイト電極で約30wt%である。
【0026】
好適には、複合体は、約1:1mol%のOIPC/輸送イオン塩複合体、例えば、約1:1mol%の[Cmpyr][BF]とLiFSI、または約1:1mol%の[Cmpyr][FSI]とLiFSIの複合体であるが、1:1.85mol%~1:0.5mol%~1:0.5mol%の範囲に入る任意の比を使用することができる。
【0027】
他の実施形態では、複合体は、約1:1wt%のOIPC/輸送イオン塩複合体、例えば、約1:1wt%の[Cmpyr][BF]とLiFSI、または約1:1wt%の[Cmpyr][FSI]とLiFSIの複合体であるが、1:1.85wt%~1:0.5wt%~1:0.5wt%の範囲内に入る任意の比を使用することができる。
【0028】
他の実施形態では、活性材料は、OIPC/塩複合体電極内に分離した相として残ると考えられる。好ましいOIPC電極は、界面が固体デバイスの電極と電解質構造の両方に存在する柔らかい中間相を含む。中間相は、電極組成物と固体電解質との間の接続性を改善するためのイオン伝導性ブリッジまたは他の手段を提供すると考えられる。
【0029】
好ましい実施形態では、新しい相を有する新しい種類の有機塩ハイブリッド材料が得られ、それにより新しい相が対イオンを可逆的に取り込み、酸化還元反応、合金化またはインターカレーションを支援することができ、したがって電荷貯蔵を可能にし、高エネルギー、長寿命、および高い安全性能を達成する。提示されたデータは、様々な電極の種類、特にグラファイトアノードまたは層状金属酸化物カソードなどのインターカレーション電極、活性材料として酸化還元カップルを含む変換反応材料系電極、およびシリコンなどの合金型電極におけるOIPC結合剤/OIPC複合体結合剤の複数の有利な機能を強調する。いくつかの特に好ましい実施形態では、記載された上記のmol%比の複合体は、グラファイト、硬質炭素、シリコン、リン、セレン、アンチモン、ビスマスなどの合金化または挿入電極、特に合金化または挿入負極で特に有益である。特に、上記のmol%比、特に約1:1のmol%比は、シリコン電極などの合金化電極に有利である。
【0030】
実際、OIPCによって付与される有益な効果は、サイクリング変換反応材料系電極が形成されることである。OIPC結合剤/OIPC複合体結合剤の非存在下では、これらの材料のこのようなサイクリングは不可能である。
【0031】
したがって、一態様では、本発明は、好ましくは全固体エネルギー貯蔵デバイスのためのOIPC電極であって、電極が、少なくとも1種の電気活性材料、および少なくとも1種の有機イオン柔粘性結晶(OIPC)化合物の形態の少なくとも1種の内部イオン結合剤を含む電極組成物を含む、OIPC電極に関する。望ましくは、OIPCは非ポリマー性OIPC化合物である。望ましくは、OPICはモノマー性OIPC化合物ではない、すなわち、電極組成物中でポリイオン液体(重合イオン液体)を形成する重合性官能基、特にビニル基またはアリル基を含まない。好ましくは、組成物は、イオン液体イオノゲル、すなわち、あらゆる形態の重合イオン液体を含まない。電極は、製造中にプレスされてもよく、すなわち、電極中の成分を圧密化または高密度化するために圧力をかけられてもよいことが理解される。したがって、組成物中のOIPCは、存在するすべての他の成分と一緒に圧密化される。これは、例えば、電極形成(例えば、キャスティングおよび乾燥)の後に、例えばAIBNなどの開始剤の存在下でのドロップキャストイオン液体モノマーのバルク重合により、予備形成された電極内にイオノゲルが形成されるOwaga電極とは対照的である。
【0032】
好適には、電気化学的活性材料は、組成物中で粒子状形態である。典型的には、電子伝導性添加剤も粒子状形態で存在する。望ましくは、OIPCまたはOPIC複合体は、組成物全体に均質に分散しているか、または少なくとも実質的に分散している。電極組成物の表面は、いくつかの分散していないOIPC粒を有してもよいが、いくつかの実施形態では、電極構造全体は、例えば、電極全体にわたってOIPC結合剤材料/複合体の高い分散性を確認する元素マッピングおよびBSEイメージングによって決定した場合に均質である。
【0033】
好ましくは、OIPC/OIPC複合体を含む電極組成物は、電極の細孔を減らすために、例えば、対向面を有する3D形態にプレスされるか、または圧密化されるか、または他の方法で高密度化される。好ましくは、電極組成物の第1の面は、集電体、特にAlまたはCu集電体と電子的に接触する。好適には、電極と集電体との間の接触は、実質的に空隙がない。好ましくは、電極の別の面は、固体電解質と電子的に接触している。好適には、電極と電解質との間の接触は、実質的に空隙がない。
【0034】
いくつかの実施形態では、OIPCは、組成物中の活性粒子を互いに強固に接続するような様態で活性粒子に接触または被覆するように、電気活性材料粒子を被覆するかまたは実質的に取り囲む。OIPC複合体は、電極組成物粒子成分の全部または一部をコーティングしてもよい。例えば、OIPC複合体は、電気活性材料粒子のみ、導電性添加剤粒子のみ、または電気活性材料粒子と導電性添加剤粒子の両方の組合せを同時にコーティングしてもよい。これらの実施形態では、好ましくはOIPC複合体は、最も好ましくはOIPCとして[C2mpyr][NTf](P12NTf)、および塩としてLiNTfを含む、上記のような1:1.85mol%~1:0.5mol%~1:0.5mol%のOIPC対塩の複合体である。特に、最も好ましくはOIPCとして[C2mpyr][NTf](P12NTf)、および塩としてLiNTFを含む、上記のような約1:1mol%複合体が使用される。
【0035】
有利には、存在するOIPCが多いほど、粒子がより良好にコーティングされる。さらに、OIPCの粘着性または接着性に起因して、より多くのOIPCを含めると、結合および接着/界面接触が増加し、電極組成物と集電体および/または固体電解質との間の空隙が減少し、性能の改善の向上につながる。本発明者らは、配合されキャストされた電極の固有成分としての使用に向けた複合体として、イオン輸送塩とともにOIPCを使用する他の乾燥電極組成物を認識していない。好ましくは、OIPCは、電気活性材料粒子および/または導電性粒子の間および周囲に分散され、それによりOIPC/OIPC複合体と電気活性材料粒子との間の接触抵抗の低減をもたらすことができる。好ましい実施形態では、OIPC成分は、電極内部に輸送イオン伝導経路のネットワークを形成する。OIPC結合剤がない場合、電極はそのような輸送イオン伝導経路を有さず、電気活性材料の粒子間の接触抵抗が高くなる。
【0036】
いくつかの実施形態では、輸送イオン伝導経路は、互いに接触する複数のOIPCまたはOIPC複合体粒または粒子から形成されてもよく、それによりそれらは互いに、ならびに電極組成物の他の成分、特に活性材料粒子に良好に接続される。好適には、OIPCまたはOIPC複合体粒または粒子は、活性材料粒子間の空隙または細孔の大部分または実質的にすべてを充填し、その間にイオン伝導経路を提供する。OIPC/複合体が他の成分とともに圧密化されると、本明細書に記載される効果が増幅される。特に好ましい実施形態では、OIPCは、充電/放電中にのみ生成され得る新しい液相(非溶媒または非電解質)または他の半固体相の領域を固体電極内に形成すると考えられ、これは特に効率的で安定した輸送イオン経路/チャネルとして作用する。好適には、輸送イオン伝導経路は、電極の第1の面上で固体電解質または中間層と接触する。このようにして、OIPCの柔らかく柔粘性の性質は、ASSB中にも存在する場合、電極の第1の面と固体電解質との間のはるかに良好な界面接触を可能にし、それにより電極との間のイオン輸送を促進して、ASSBまたは他のエネルギー貯蔵デバイスにおける充電/放電性能を改善する。OIPC/OIPC複合体結合剤を電極に組み込むことで、界面抵抗が減少し、OIPCを含む電極での酸化還元プロセスが促進されると考えられる。さらに、電極組成物内にOIPC/OIPC複合体結合剤を含めると、電解質と活性材料との間の望ましくない反応を緩和することができると考えられる。いくつかの実施形態では、OIPC/OIPC複合体は、電極表面層と固体電解質中間層との間の界面接着を改善する。有利には、改善された界面接着は、ASSB内の固体電解質から電極への、および電極から固体電解質へのイオン伝導性を向上させる。これは、現在の固体デバイスの重要な課題に対処する。
【0037】
好適には、OIPC/OIPC複合体は、電解質に面する電極の第1の面/第1の表面から、電極組成物のすべての内側部分を通り抜け、集電体との最も内側の境界に対応する第2の面/第2の表面までを通して完全に、電極組成物全体に良好に分散している。好ましい電極組成物、特にグラファイト電極組成物は、その断面のSEM検査において、第1の面(使用時に固体電解質/中間層の方に向けられる)の表面における活性材料粒子が、第2の面(使用時に集電体の方に向けられる)よりも密に装填されている(例えば、粒子間の空隙/細孔が少ないかまたは圧密化された水平配置を採用する)形態または特徴を示す。第1の面/表面の粒子は、その基底平面を中間層に向けている。対照的に、内側領域の活性材料粒子(第1および第2の面/表面から離れて位置する)は、特にグラファイトの場合、装填の性質により、粒子間の空隙がより大きいまたはより拡大され、よりランダムに配向されている。
【0038】
好ましくは、粒子間の空隙の大部分は、密接なOIPC/OIPC:イオン輸送塩複合体の濃縮部分で完全または部分的に充填される。したがって、密接な材料は、そうでなければイオン接続していないか、またはイオン接続が不十分であった粒子をイオン接続させる。さらに、密接な材料が存在することにより、粒子間の界面抵抗が減少した。全体として、OIPC/OIPC複合体が存在すると、乾燥電極を通るイオン流が改善される。性能は向上し、一部の場合では、液体電解質を使用した同等のシステムに近づく。一部の場合では、内部粒子の一部が集電体に対して垂直に整列している。これは、少なくともインターカレーション電極では、特に効率的なターゲットイオンの挿入および抽出をもたらすと考えられる。この形態は、電極がグラファイト電極であり、電気活性材料がグラファイト粒子の形態である場合に特に望ましい。少なくともグラファイトアノードの場合、本発明者らは、水平に配向した活性粒子の分率が高い(すなわち、密度が高い)ほどイオン伝導を減速させる傾向がある一方、内部活性材料粒子のランダム配向はイオン伝導に有利であると考えている。
【0039】
輸送イオン塩 - 好適には、輸送イオン塩は、典型的にエネルギー貯蔵デバイスに使用される無機金属塩である。好適には、輸送イオン塩は、アルカリ金属、アルカリ土類、または遷移金属塩の1種または複数であるイオン塩である。好ましいイオン塩としては、Li、Na、K、Ca、Al、Mg、Zn塩が挙げられる。好適には、これらの塩のためのアニオンとしては、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、TFSI;ビス(フルオロスルホニル)イミド、FSI;フルオロスルホニル(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、FTFSI;トリフルオロメタンスルホネート;テトラフルオロボレート、BF;パーフルオロブタンスルホネート、PFBS;ヘキサフルオロホスフェート、PF;テトラシアノボレート、B(CN);ジシアナミド、DCA;チオシアネート、SCN;環式パーフルオロスルホニルアミド、CPFSAおよびカルボランが挙げられる。
【0040】
望ましくは、イオン塩は、例えば、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li[TFSI])、リチウム(ビス(フルオロスルホニル)イミド(Li[FSI])、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(Li[OTf])、過塩素酸リチウム(LiClO)、リチウムジシアナミド(LiDCA)、シアン酸リチウム(LiOCN)、チオシアン酸リチウム(LiSCN)、リチウムビス[(ペンタフルオロエチル)スルホニル]イミド、リチウム2,2,2-トリフルオロメチルスルホニル-N-シアノアミド(TFSAM)、リチウム2,2,2-トリフルオロ-N-(トリフルオロメチルスルホニル)アセトアミド(TSAC)、リチウムノナフルオロブタンスルホネート(NF)、リチウムカルボラン、リチウムジフルオロ(オキソラト)ボレートおよびそれらの組合せからなる群から選択されるリチウム塩である。好ましくは、塩はLi塩、例えばLiTFSIである。
【0041】
望ましくは、イオン塩は、例えば、テトラフルオロホウ酸ナトリウム(NaBF)、ナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Na[TFSI])、ナトリウム(ビス(フルオロスルホニル)イミド(Na[FSI])、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム(Na[OTf])、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、ナトリウムジシアナミド(NaDCA)、シアン酸ナトリウム(NaOCN)、チオシアン酸ナトリウム(NaSCN)、リチウムビス[(ペンタフルオロエチル)スルホニル]イミド、ナトリウム2,2,2-トリフルオロメチルスルホニル-N-シアノアミド(TFSAM)、ナトリウム2,2,2-トリフルオロ-N-(トリフルオロメチルスルホニル)アセトアミド(NaTSAC)、リチウムノナフルオロブタンスルホネート(NaNF)、ナトリウムカルボラン、ナトリウムジフルオロ(オキソラト)ボレートおよびそれらの組合せからなる群から選択されるナトリウム塩である。特に好ましいNa塩としては、ナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Na[TFSI])、ナトリウム(ビス(フルオロスルホニル)イミド(Na[FSI])、ナトリウムトリフレート(NaOTf)、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、ナトリウムジシアナミド(NaDCA)、シアン酸ナトリウム(NaOCN)、テトラフルオロホウ酸ナトリウム(NaBF)、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF)、およびこれらの組合せが挙げられる。好ましいイオン輸送塩は、無機リチウム塩またはナトリウム塩などのエネルギー貯蔵デバイスのための無機金属塩である。好ましくは、イオン輸送塩は、BF、TFSI、FSIおよびOTfからなる群から選択されるアニオンを有する。好適には、好ましいイオン輸送塩は、LiFSI、LiBF、LiTFSI、LiOTf、NaFSI、NaBF、NaTSI、NaTFSI、またはNaOTfから選択される。
【0042】
導電性向上添加剤 - 好ましい電極は、炭素、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブを含むカーボンナノ材料、炭素繊維、混合イオン-電子伝導体、およびそれらの組合せなどの炭素質材料を含む導電性炭素系材料などの1種または複数の導電性向上添加剤を含む。しかし、混合イオン-電子伝導性ポリマー(MIEC)の形態のOIPC結合剤が使用される場合、結合剤のイオンおよび電子伝導性は、他の伝導性向上添加剤が必要とされないように十分に高くてもよい。このような場合、炭素を含まない電極が形成されてもよい。好適には、OIPC/MIECポリマー結合剤複合体は、OIPC/PEDOT:PSS結合剤複合体である。好ましくは、混合イオン電子伝導性ポリマー(MIEC)は、50:50~95:5のPEDOT:PSS/OIPC、好ましくは60:40~85:15のPEDOT:PSS/OIPC、好ましくは80:20のPEDOT:PSS/OIPC、最も好ましくは80:20のPEDOT:PSS/CmpyrFSIの比のPEDOT:PSSである。
【0043】
ポリマー結合剤 - いくつかの実施形態では、好ましい電極は、カルボキシルメチルセルロース(CMC)、ポリフッ化ビニリデンPVdF、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリウレタン(PU)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ナフィオン、およびそれらの組合せなどの1種または複数のポリマー(非イオン伝導性ポリマー材料)結合剤を含む。
【0044】
電極材料 - 好ましい電極は、カソード(正極)またはアノード(負極)のための電気活性材料を含む。セルにおいて、より高い還元電位を有する電極はより還元されやすく、還元が起こるセルのカソード(正極材料)に相当する。同様に、アノード(負極材料)は、より低い還元電位を有する電極である。材料は、典型的なカソードまたはアノード材料として本明細書に記載されるが、正しい用語は使用される任意の特定のセル配置に依存することが理解される。
【0045】
典型的な負極が含んでもよい(またはそれから作製されてもよい)材料の例としては、グラファイト、特に膨張グラファイト、硬質炭素(非グラファイト化性炭素)、低電位遷移金属酸化物およびリン酸塩、例えばNASICON型NaTi(POバナジン酸塩、例えばバナジウム層状酸化物(例えば、ONaVOおよびPNa0.7VO)、チタン酸塩、例えばNaTi、NaTi(OH).2HO、NaTi13、TiNb、Na0.66Li0.22Ti0.78、Na0.6Ni0.3Ti0.7、およびチタン酸塩/カーボンブラック複合体、合金化材料、例えばアンチモン、スズ、リンおよびそれらの組合せ(例えば、Sn-Sb合金)、スズ系複合体、例えばスズ粉末/樹脂(例えば、ポリアクリレート)、微結晶アンチモン系複合体、例えば微結晶アンチモン-黒色炭素電極、アモルファスリン、ナトリウム(ナトリウムまたはリチウム金属を含む)、およびそれらの組合せが挙げられる。いくつかの実施形態では、負極はナトリウムまたはリチウムまたは鉄を含む。いくつかの実施形態では、電極はアノードであり、電気活性材料は、硬質炭素、グラファイト;ケイ素;チタン酸リチウム、特に酸化チタンリチウムなどのリチウム合金;またはリチウム金属およびナトリウム金属などの金属アノード材料から選択される。他の実施形態では、負極はナトリウムまたはリチウムから本質的になる。さらに他の実施形態では、負極はナトリウム金属またはリチウム金属を含む。負極が含んでもよい(またはそれから作製されてもよい)材料の他の例としては、The Emerging Chemistry of Sodium Ion Batteries for Electrochemical Energy Storage,Angewandte Chemie Int.Ed.2015,volume 54,pages 3431;Na-ion batteries,recent advances and present challenges to become low cost energy storage systems,Energy & Environmental Science 2012,volume 5,page 5884;Energy Storage Materials Synthesized from Ionic Liquids Angewandte Chemie Int.Ed.2014,volume 53,page 13342;Chemical Review 2014,volume 114,page 11636に開示されるものが挙げられ、これらの内容は、その全体が本明細書に含まれる。例えば、典型的なカソードまたは正極のための電気活性材料は、遷移金属酸化物;スピネル材料、遷移金属ポリアニオン性化合物;硫黄;および酸化還元中心を含む変換反応材料からなる群から選択されてもよい。
【0046】
好適には、カソード材料は、コバルト酸リチウム(LCO)、リン酸鉄リチウム(LFP)、リン酸マンガンリチウム(LMP)、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム(NMC)、およびアルミナでドープされたニッケルコバルト酸リチウム(NCA)、マンガン酸リチウム(LMO)からなる群から選択される遷移金属材料を含む。LFPはポリアニオン性化合物の一例であり、LCO、LMOなどは層状酸化物インターカレーション材料である。
【0047】
酸化還元中心を含む好適な変換反応電気活性材料は、好ましくは遷移金属イオン系酸化還元カップルを含む。好ましいそのような遷移金属イオン系酸化還元カップルは、Fe2+/Fe3+、Co2+/Co3+、Ni2+/Ni3+、Mn2+/Mn3+またはCu2+/Cu3+を含む。望ましくは、酸化還元中心を含む好ましい変換反応材料は、Fe(BF)・6HOからのFe2+/Fe3+、またはコバルトTFSIまたはFe(II)トリフラートからのCo2+/Co3+を含む遷移金属イオン系酸化還元カップルである。他の好適な変換材料としては、Ni(POが挙げられる。変換材料の他の例は、その関連する内容が参照により本明細書に組み込まれるEnergy Environ.Sci.,2017,10,435-459およびACS Omega 2018,3,4591-4601に見出される。例えば、有用な変換電極材料としては、遷移金属酸化物、遷移金属カルコゲナイド(硫化物およびセレン化物)、リン化物、水素化物、およびMSSなどの三元カルコゲナイドが挙げられる。しかし、様々な変換電極の中でも、遷移金属酸化物が最もよく公知であり、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびCuなどの3d遷移金属、ならびにNbおよびMoを含む4d遷移金属の二元および三元酸化物が含まれる。式M(式中、X=F、O、S、PおよびHである)を有する異なるアニオン種を有する遷移金属化合物は、可逆的な変換反応によって金属イオン(例えば、Li+/Na+)の挿入を支援することができる。いくつかの例としては、Fe、Co、Mn、FeS、CoS、MoS、FeP、NiP、および三元酸化物が挙げられる。
【0048】
正極が含んでもよい(またはそれから作製されてもよい)材料の例としては、層状遷移金属酸化物(NaCoO、NaFeO、NaMnO、NaNiOの固溶体を含むAMO2型)が挙げられる。これらは通常、O3(ABCABC積層)、P2(ABBA積層)およびP3(ABBCCA積層)と命名され、Na’はプリズム(すなわちP)または八面体(すなわちO)のいずれかの配位環境をとる。これらは、P2-Na0.66Co0.66Mn0.33を含む。ナトリウムポリアニオン材料も正極材料として使用でき、これらはオリビン型NaFePO、フルオロリン酸塩およびピロリン酸塩、一般式Na(XO(M=遷移金属であり、X=P、Sである)のNasicon型相、NaV(PO)F、フルオロ硫酸塩および硫酸塩(例えばNaFSOF、およびNaM(SO)・4HO(M=Mg、Fe、Co、Ni))、フェロリン酸塩(例えばNaFePO)およびケイ酸塩を含む。プルシアンブルー類似体も正極として使用されている(すなわち、Na、M[Mp(CN)]、・zH0-M、およびMgは遷移金属であり、ヘキサシアノメタラート空孔が存在する)。負極または正極が含んでもよい(またはそれから作製されてもよい)材料の他の例としては、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.2018,57,102;およびAdv.Energy Mater.2018,8,1703137に開示されるものが挙げられる。
【0049】
OIPC - 有機イオン柔粘性結晶(OIPC)は、カチオンおよび/またはアニオン上の解離性プロトンの利用可能性に応じて、プロトン性クラスと非プロトン性クラスに分類することができる。プロトン性OIPCは、典型的に無視できない蒸気圧を示し、一部は、それらの分解温度より低い沸点を有する蒸留可能な媒体である。最近では、テトラシアノボレート、テトラハロゲノフェレート(III)、カンファースルホネート、およびノナフルオロブタンスルホネートなどの様々なアニオンと結合したピロリジニウム、イミダゾリウム、ホスホニウム、およびメタロセニウムカチオンを含む新規のOIPCを含む、より多くのOIPCファミリーが発見されている。
【0050】
OIPCの1つの特性は、溶融前の1または複数の固-固相転移(溶融前または部分溶融固-固相転移)を含む少なくとも熱相挙動を含んでもよい。OIPCの固-固相転移を測定し、特徴付けるための技術は、示差走査熱量測定(DSC)を含み、これにより固-固相転移は、OIPCの固-液(溶融)転移から生じる不連続性に加えて、かつそれとは異なる部分溶融温度範囲における熱流の不連続性(例えば、スパイク)が観察されるDSCプロットによって特徴付けられる。固体状態における分子無秩序の別の特徴は、静的固体NMRから決定され、これにより柔粘性OIPCは、20KHz以下の1つまたは複数のNMR線幅を示す。望ましくは、線幅は温度の上昇とともにさらに狭くなる。望ましくは、NMR線幅は10KHz以下、好ましくは5KHz以下であり、いくつかの実施形態では1KHz以下である。固体状態における分子無秩序の別の特徴は、SEM分析による微細構造/形態の観察によって決定される。特徴としては、異なる配向を有する複数の粒の観察、SEM分析でのすべり面および滑走面の観察、異なる粒内のすべり面の集合、材料の破断面からの粒界の観察が挙げられる。柔粘性のさらなる証拠は、温度の上昇とともに増加する。別の特徴としては、約60JK-1mol-1未満、より好ましくは約50JK-1mol-1未満、より好ましくは約40JK-1mol-1未満、より好ましくは約30JK-1mol-1未満、より好ましくは約20JK-1mol-1未満の融解のエントロピーΔSを示すことを挙げることができる。他の有用な研究は、X線回折、ラマン分光法、シンクロトロンX線回折、および分子動力学(MD)などの分子モデリング、またはそれらの組合せを含む。
【0051】
好ましいOIPC化合物は、適用動作温度、例えば約-100℃~約200℃、約-50℃~約100℃、最も好ましくは約-10℃~約80℃で柔粘性固体である。特に好ましい化合物は、少なくとも室温で柔粘性固体である。「室温」とは、約20℃~約25℃、好ましくは25℃の温度を意味する。好ましいOIPC化合物は、融点≧60℃、≧70℃、≧80℃、≧80℃、≧100℃、≧150℃、≧200℃または≧250℃を有する。好ましい化合物は、約-100℃~約100℃の温度で柔粘性挙動を示す。「融点」とは、示差走査熱量測定(DSC)によって決定される、固体から液体への溶融における相転移に関連する外挿開始温度を意味する。化合物が非常に低い温度、例えば<0℃で柔粘性を示す場合、典型的に、化合物が有利には室温で非常に無秩序であることを示す。
【0052】
OIPCの形成/同定 - OIPCは、少なくとも1つのカチオンと少なくとも1つのアニオンから出発して提供することができる。カチオンとアニオンの組合せは、化合物が、例えば熱試験、固体NMR試験およびSEM試験のうちの2つ以上における特徴的な特徴から観察することができる分子無秩序(したがって柔粘性)を示す柔粘性結晶であり、利用することができるカチオンおよび関連する対アニオンの種類に特に制限はない。
【0053】
好ましいOIPC化合物において、OIPCの正の官能基の少なくとも1つは、任意選択で置換された飽和または不飽和複素環式環、例えばピロリジン、モルホリニウム、オキサゾリジニウム、ピペリジニウム、チオラン、ベンゾトリアゾールまたはテトラヒドロフランなどの小さなカチオン成分に由来する。望ましくは、好ましいOIPCの負の官能基の少なくとも1つは、フルオロボレート、オキサレートボレート、スルホニルイミド、フルオロスルホニルイミド(FSI)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI)などの電荷非局在化アニオン性基に由来する。置換基としては、メチル、エチルまたはプロピル置換基が挙げられる。
【0054】
一部の好適なカチオンは、ジカチオンまたはトリカチオンであってもよい。好ましいカチオンは対称的である。いくつかの実施形態では、カチオンはキラルカチオンである。好適なカチオンの例としては、ピロリジニウム、イミダゾリウム、オキサゾリジニウム、ホスホニウム、メタロセニウムカチオンが挙げられ、これらは非置換であるか、またはC1~6アルキル、好ましくはメチル、エチルもしくはプロピル、CN、OMe、OEtおよびCNから選択される1つまたは複数の官能基で置換されていてもよい。
【0055】
好適には、正電荷を有する官能基の1つまたは複数は、C(N2,2,m(ここでn=2、3、4、6およびm=1、2、3、4、6);N2,1,1,1;N2,2,1,1;N2,2,2,1;N2,3,3,3;N2,2,3,3;N2,2,2,3;N4,4,4,4;P1,2,2,2;N1,2,3,i3;N2,2,2,2;N3,3,3,3およびCepyrからなるカチオン、特に非プロトン性カチオンの群から選択することができる。回転運動が可能なカチオン(例えば、テトラメチルアンモニウム)が特に望ましい。好ましいカチオンとしては、Cmpyrカチオン、ならびにCepyr、Cmoxa、ホスホニウムカチオン、[N2(20202)3、[P122i4、[P(DEA)が挙げられる。
【0056】
望ましくは、少なくとも1つの正電荷を有する正に荷電した官能基の少なくとも1つは、それぞれ正電荷を有する窒素、正電荷を有するリンおよび正電荷を有する硫黄を含むアンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオンまたはスルホニウムカチオンに由来する。
【0057】
望ましくは、少なくとも1つの正電荷を有する少なくとも1つの正に荷電した官能基は、窒素を含み正電荷を有するアンモニウムカチオンに由来する。好ましいアンモニウムカチオンは、一般式[NRを有してもよい。望ましくは、少なくとも1つの正電荷を有する少なくとも1つの正に荷電した官能基は、硫黄を含み正電荷を有するスルホニウムカチオンに由来する。好ましいスルホニウムカチオンは、一般式[SRを有してもよい。好ましくは、少なくとも1つの正電荷を有する少なくとも1つの正に荷電した官能基は、リンを含み正電荷を有するホスホニウムカチオンに由来する。好ましいホスホニウムカチオンは、一般式[PRを有してもよい。上記の各場合において、R~Rのそれぞれは、同一であっても異なっていてもよく、任意選択で置換されたアルキルおよび任意選択で置換されたアリールから独立して選択されてもよいか、または1つのR基が任意選択で置換されたアルキルおよび任意選択で置換されたアリールから選択され、残り2つのR基がPと一緒になって任意選択で置換された複素環式環を形成し、RがH、任意選択で置換されたアルキルおよび任意選択で置換されたアリールから選択される。好適なホスホニウムカチオンの例としては、テトラ(C1~20アルキル)ホスホニウム、トリ(C1~9アルキル)モノ(C10~20アルキル)ホスホニウム、テトラ(C6~24アリール)ホスホニウム、ホスホラニウム、ホスフィナニウムおよびホスホリナニウムが挙げられる。
【0058】
望ましくは、少なくとも1つの正電荷を有する正に荷電した官能基の少なくとも1つは、モルホリニウムカチオン、ピロリジニウムカチオンまたはイミダゾリウムに由来し、これらのそれぞれは、正電荷を有する窒素を含む。ピロリジニウムカチオンまたはイミダゾリウムの環は、非置換であってもよいし、RおよびRのうちの1つまたは複数で置換されていてもよい。それぞれの場合において、RおよびRのそれぞれは、同一であっても異なっていてもよく、任意選択で置換されたアルキルおよび任意選択で置換されたアリールから独立して選択されてもよいか、または1つのR基が任意選択で置換されたアルキルおよび任意選択で置換されたアリールから選択され、残り2つのR基がPと一緒になって任意選択で置換された複素環式環を形成し、RがH、任意選択で置換されたアルキルおよび任意選択で置換されたアリールから選択される。
【0059】
他の好ましいカチオンとしては、ジアルキルピロリジニウム、ピロリジニウム、モノアルキルピロリジニウム、ジアルキルイミダゾリウム、モノアルキルアンモニウム、イミダゾリウム、テトラアルキルアンモニウム、第4級アンモニウム、トリアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、ジアルカノールアルキルアンモニウム、アルカノールジアルキルアンモニウム、ビス(アルキルイミダゾリウム)、ビス(ジアルキル)アンモニウム、ビス(トリアルキル)アンモニウム、ジアリルアンモニウム、ジアルカノールアンモニウム、アルキルアルカノールアンモニウム、アルキルアリルアンモニウム、グアニジニウム、ジアザビシクロオクタン、テトラアルキルホスホニウム、トリアルキルホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、第3級スルホリニウム、イミダゾリニウム、コリニウム、ホルムアミジニウム、ホルムアジニウム、二環式(スピロ)アンモニウム、ピラゾリウム、ベンズイミダゾリウム、ジベンジルアンモニウム、カフィネイウム(caffineium)、ピペラジニウム、ジアルキル(アミノ)アンモニウム、アルキル(ジアミノ)アンモニウム、トリアミノアンモニウム、アミノピロリジウム、およびアミノイミダゾリウムが挙げられる。
【0060】
本発明のOIPC化合物の設計の出発点として使用され得るOIPCのカチオンおよびアニオンの例は、Trends in Chemistry,April 2019,Vol.1,No.1;J.Mater.Chem.,2010,20,2056-2062、およびPhys.Chem.Chem.Phys.,2013,15,1339(特に、図1図2図3および表1)に見出され、カチオンおよびアニオンおよびOIPCについて記載するその全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。公知のOIPCの好ましい例としては、[N1,1,1,1][DCA]、[Cmpyr][FSI]、[Cmpyr][BF]、[P1,2,2,2][FSI]、[P1,2,2,i4][PF]、[P1,4,4,4][FSI]、[Him][Tf]、[Hmim][Tf]、[N2,2,3,3][BBu]、[N3,3,3,3][BF]、[Cepyr][TFSI]、[Cepyr][FSI]、[Cepyr][PF]、[Cepyr][BF]、[Cmpyr][(FH)F]および[Cmpyr][(FH)F]、[Cmpyr][TFSI]、[(NH][Tf]、[2-Me-im][Tf]および[TAZm][PFBS]が挙げられる。
【0061】
アニオン成分 - 好適には、少なくとも1つの負電荷を有する負に荷電した官能基の少なくとも1つは、公知のOIPCからのアニオンに由来してもよい。いくつかの好ましいアニオンは、不安定なプロトンの利用可能性に応じて、プロトンまたは非プロトン性アニオンであってもよい。いくつかの好ましいアニオンは、ジアニオンまたはトリアニオンであってもよい。いくつかの好ましいアニオンは対称的であってもよい。いくつかの好ましいアニオンはキラルであってもよい。
【0062】
好ましいアニオンは、「球状」構造を有してもよく、これによりアニオンは、軸の周りの回転により、その中心の周りに球対称性を示す構成形状を有する。さらなるアニオンは、OIPC化合物中に係留された場合、アニオン構造を横切って存在または平均化することができる拡散性または移動性の負電荷を有するものであってもよい。
【0063】
好適には、負の電荷を有する官能基の1つまたは複数は、Tf、(FH)F(ここで1≦n≦3)、およびTFSIからなるアニオン、特に非プロトン性アニオンの群から選択することができる。負の電荷を有する官能基の1つまたは複数を形成するための他の好適なアニオンは、I、Br、PF、TFSI、BBu、CrOCl、CrOBr、BF、FTFSI、DCA、FSI、およびTfからなるアニオンの群から選択することができる。中心対称アニオン(例えば、ヘキサフルオロホスフェートおよびテトラフルオロボレート)が特に好ましい。
【0064】
少なくとも1つの負電荷(F)を有する望ましい少なくとも1種の負に荷電した官能基は、BF 、PF 、N(CN)、(CFSO、(FSO、OCN、SCN、ジシアノメタニド、カルバモイルシアノ(ニトロソ)メタニド、(CSO、(CFSOC、C(CN) 、B(CN) 、(CPF 、アルキル-SO 、パーフルオロアルキル-SO 、アリール-SO 、I、HΡO 、HPO 2-、スルフェート、スルファイト、ニトレート、トリフルオロメタンスルホネート、p-トルエンスルホネート、ビス(オキサレート)ボレート、アセテート、ホルメート、ガレート、グリコレート、BF(CN)、BF(CN) 、BF(CN) 、BF(R)、BF(R) 、BF(R) (ここでRはアルキル基(例えばメチル、エチル、プロピル)である)、環式スルホニルアミド、ビス(サリチレート)ボレート、パーフルオロアルキルトリフルオロボレート、塩化物、臭化物、および遷移金属錯体アニオン(例えば、[Tb(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)])などのアニオンに由来する。好ましくは、アニオンは、例えばBF 、PF 、(CFSO、(FSO、BF(CN)、BF(CN) 、BF(CN) 、BF(R)、BF(R) 、BF(R) (ここで、Rはアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル)である)、(CSO、(C)PF 、(CPON、(CFSO)NCN、(CFSO)N(SOF)、(CFCO)N(SOF)およびパーフルオロアルキル-SO からなる群から選択されるフッ素化アニオンである。他のアニオンは、[B(tfe)] および[B(hfip)である。
【0065】
OIPC - 公知のOIPCの例としては、N,N-メチルエチルピロリジニウムテトラフルオロボレート、N,N-メチルプロピルピロリジニウムテトラフルオロボレート、ジメチルピロリジニウムテトラフルオロボレート、ジメチルピロリジニウムチオシアネート、N,N-エチルメチルピロリジニウムチオシアネート、テトラメチルアンモニウムジシアナミド、テトラエチルアンモニウムジシアナミド、N,N-メチルエチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、ジエチル(メチル)イソブチル)ホスホニウムビス(フルオロスルホニル)アミド、ジエチル(メチル)(イソブチル)ホスホニウムテトラフルオロボレート、ジエチル(メチル)(イソブチル)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、メチル(トリエチル)ホスホニウムビス(フルオロスルホニル)アミド、メチル(トリエチル)ホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、トリイソブチル(メチル)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリイソブチル(メチル)ホスホニウムビス(フルオロスルホニル)アミド、トリイソブチル(メチル)ホスホニウムテトラフルオロボレート、トリイソブチル(メチル)ホスホニウムチオシアネート、トリエチル(メチル)ホスホニウムビス(フルオロスルホニル)イミド、メチルエチルピロリジウムビス(フルオロスルホニル)アミド、ジメチルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)アミド、リン酸二水素コリン、トリフルオロメタンスルホン酸コリン、N-N-ジメチルプロピレンジアンモニウムトリフレート、トリ(イソブチル)ホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、トリ(イソブチル)ホスホニウムメタンスルホネート、トリ(イソブチル)ホスホニウムトリフルオロメタンスルホネート、トリ(イソブチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、トリ(イソブチル)ホスホニウムニトレート、トリ(イソブチル)アンモニウムメタンスルホネート、トリ(イソブチル)アンモニウムトリフルオロメタンスルホネート、トリ(イソブチル)アンモニウムニトレート、1,2-ビス[N-(N’-ヘキシルイミダゾリウム)エタンビス(ヘキサフルオロホスフェート)、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0066】
本明細書で使用される有機イオン柔粘性結晶(OIPC)化合物は、少なくとも1つのカチオンおよび少なくとも1つのアニオンを含み、固体状態で分子無秩序を示すものである。OIPC化合物は、以下のステップを含む方法によって形成および/または同定することができる:(i)OIPC挙動についてスクリーニングされる化合物を用意するステップであって、化合物が、少なくとも1つの正電荷を有する少なくとも1つの正に荷電した官能基、および少なくとも1つの負電荷を有する少なくとも1つの負の官能基を含む、ステップ;(ii)化合物を有機イオン柔粘性結晶(OIPC)化合物として同定する、固体状態における分子無秩序の証拠について化合物をスクリーニングすることにより、化合物が有機イオン柔粘性結晶(OIPC)化合物であることを確定するステップであって、分子無秩序が、化合物が以下のうちの2つ以上、好ましくは3つ以上、より好ましくはすべてを示すことによって証明される、ステップ:
- 溶融前の1または複数の固-固相転移を含む熱相挙動;
- 静的固体NMRスペクトルにおいて、20KHz以下の1つまたは複数のNMR線幅;および
- SEM分析におけるすべり面および滑走面を含む微細構造または形態。望ましくは、NMRの線幅は10KHz以下、好ましくは5KHz以下、いくつかの実施形態では1KHz以下である;
- 電気化学インピーダンス分光法(EIS)により決定される、適用動作温度(例えば、50℃)で部分溶融相にあるときに少なくとも10-4S/cm、より好ましくは少なくとも10-3S/cmのイオン伝導性。有機イオン柔粘性結晶であるという文脈で、部分溶融相にあるときに少なくとも10-4S/cm、より好ましくは少なくとも10-3S/cmのイオン伝導性という表現は、以下の手順に従って電気化学インピーダンス分光法(EIS)によって決定されるイオン伝導性の値を指す。まず、OIPCを乾燥条件下で30ペレット(公称厚さ1mm、直径13mm)に成形し、その後互いに固定された2つのステンレス鋼ブロッキング電極の間に挟み、密閉する。イオン伝導性は、インピーダンス測定ソフトウェア(当業者に入手可能である)により駆動される周波数応答分析器を使用してEISにより測定される。データは、10MHz~0.1Hzの周波数範囲で、OIPCが固体であり、部分溶融相にある温度で収集される。セルの温度は、高精度の温度コントローラー(精度は±1℃より良好である)を使用して制御され、温度はブロッキング電極に近接した熱電対を使用して測定される。試料を加熱し(通常0.5℃/分)、熱平衡化した後(通常5~20分間)、各温度点でインピーダンスを測定する。疑義を避けるため、当業者であれば、試料材料の物理的一貫性に基づき、加熱速度および熱平衡化の<10の持続時間の適切な条件を実用的に考案することができる。例えば、試料の量がはるかにより多いワイヤベースのEIS測定を受ける柔らかい稠度のOIPCは、より長い熱平衡化段階(例えば、20分まで)を必要とする一方、材料の量がより少ないプレートベースのEIS測定を受けるより硬い稠度のOIPCは、より短い熱平衡化ステップ(5分に至るまで)で十分である。
【0067】
OIPCの固-固相転移は、示差走査熱量測定(DSC)を使用して決定することができ、DSCは通常、一定範囲の値を通して試料温度を直線的に走査することによって実行され、参照試料に対するOIPCに流入または流出する熱流のプロットを得ることを可能にする。ここから、熱容量、転移温度、転移エンタルピーおよびエントロピー、ならびに融点も決定することができる。一般に、DSCプロットでは、例えば熱流信号のスパイクの形態の、特定の温度における参照に対する熱流の不連続性という形態で材料の相転移を視覚化することができる。多くの場合、OIPCの固-固相転移は、部分溶融温度範囲における熱流の不連続性(例えばスパイク)が観察されるDSCプロットによって特徴付けられる。疑義を避けるため、このような不連続性は、OIPCの固液転移(すなわち、溶融)から生じる不連続性に加えて、かつそれとは異なるものである。所与のカチオンと対アニオンの組合せにより、(i)少なくとも1つのカチオンおよび少なくとも1つの対アニオンを含み、(ii)柔粘性結晶であり、(iii)その部分溶融相にあるときに少なくとも10-4S/cmのイオン伝導性を有するOIPCが得られることを条件として、利用できるカチオンおよび関連する対アニオンの種類に特に制限はない。
【0068】
好ましいOIPCは、ピロリジニウム、イミダゾリウム、ホスホニウム、グアニジニウム、オキサゾリジニウムおよびメタロセニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも1種のカチオンを含む。望ましくは、好ましいOIPCは、テトラフルオロボレート、FSI、TFSI、テトラシアノボレート、テトラハロゲノフェレート(III)、カンファースルホネート、ヘキサフルオロホスフェート、トリフレートおよびノナフルオロブタンスルホネート(ノナフレート)からなる群から選択される少なくとも1種のアニオンを含む。好適には、OIPCは、[Cmpyr][BF]、[Cmpyr][FSI]、[Cmpyr][TFSI]から選択され得る。OIPC[Cmpyr][FSI]または[Cmpyr][BF]が特に好ましい。好適には、OIPCは、上記のようなOIPC/輸送イオン塩複合体として提供される。このような場合、イオン輸送塩は、好ましくは本明細書に記載されるものである。
【0069】
電極組成物 - 好ましい電極組成物は、以下の成分:電気活性材料;任意選択で少なくとも1種の導電性向上添加剤;任意選択で少なくとも1種の非イオン伝導性ポリマー結合剤;少なくとも1種のOIPC;および少なくとも1種の輸送イオン塩を含む。
【0070】
より好適には、電極組成物は、記載される量の以下の成分:約40wt%~約96wt%の電気活性材料;任意選択で最大約25wt%の少なくとも1種の導電性向上添加剤;任意選択で最大約15wt%の少なくとも1種のポリマー結合剤;約0.5wt%~約60wt%のOIPC/輸送イオン塩複合体を含む。
【0071】
望ましくは、乾燥電極は、15wt%、30wt%または50wt%のOIPC/イオン輸送塩複合体を含む。好適には、複合体中の成分のmol%比またはwt%は、約1:1のOIPC/イオン輸送塩複合体、例えば約1:1の[Cmpyr][BF]とLiFSI、または約1:1の[Cmpyr][FSI]とLiFSIの複合体である。望ましくは、電気活性材料は、グラファイト、硬質炭素、遷移金属塩、ケイ素、リン、セレン、ビスマス、アンチモン、または遷移金属酸化物、またはポリアニオン性層状材料である。
【0072】
好適には、好ましい電極は、約40wt%~約96wt%のグラファイト;任意選択で最大約25wt%のカーボンブラック;任意選択で最大約15wt%のNa-CMC;約0.5wt%~約60wt%の[Cmpyr][FSI]とLiFSIの複合体を含む。
【0073】
好適には、好ましい電極は、約20wt%~約96wt%の可逆的酸化還元カップル材料;約2wt%~約20wt%のグラフェン;約0.5wt%~約60wt%のOIPC/輸送イオン塩複合体を含む。
【0074】
望ましくは、可逆的酸化還元カップル材料は、Fe(BF)塩;フッ化銅、好ましくはCuF;フッ化コバルト、好ましくはCoF;塩化コバルト、好ましくはCoCl・6HO;塩化鉄、好ましくはFeClからなる群から選択される遷移金属塩に由来する。
【0075】
好適には、いくつかの実施形態では、1つまたは複数の新しい材料相が電気活性材料中に形成される。
好ましい遷移金属塩は、Fe(BF・6HO、Co(II)TFSI、Fe(II)トリフレートまたはNi(POである。1つの好ましい電極は、76wt%のFe(BF・6HO;10wt%のグラフェン;および14wt%の約1:1mol%のCmpyrBFとLiFSIを含む。他の好ましい電極は、LiFePOまたはLiMnを含む。
【0076】
例えば、一実施形態では、望ましい電極は、約60wt%のLiFePO、約28wt%のPEDOT:PSS、約7wt%のCmpyrFSI、および約5wt%のLiFSIを含む。好適には、別の好ましい電極は、約60wt%のLiFePO、約30wt%の[Cmpyr][FSI]、約5wt%のPVDF、および約5wt%の炭素を含む。
【0077】
一実施形態では、好ましい電極は、約50wt%~約75wt%のケイ素;任意選択で最大約15wt%の少なくとも1種の導電性向上添加剤;任意選択で最大約15wt%の少なくとも1種のポリマー結合剤;約0.5wt%~約60wt%の少なくとも1種のOIPC/輸送イオン塩複合体を含むシリコンアノードの形態である。
【0078】
望ましくは、OPIC/輸送イオン塩複合体は、CmpyrBFとLiFSI;CmpyrFSIとLiFSI;またはCmpyrTFSIとLiFSIからなる群から選択されてもよい。
【0079】
好ましい電極は、約50wt%~90wt%のケイ素、好ましくは約70wt%~88wt%のケイ素、最も好ましくは残部のOIPC:塩、好ましくは50:50mol%比を含む。
【0080】
好ましい電極は、約59.5wt%のケイ素;約12.8wt%のカーボンブラック;約12.8wt%のNa-CMC;約9.1wt%の少なくとも1種のOIPC;および約5.8wt%の少なくとも1種の輸送イオン塩を含む。
【0081】
好ましい電極は、好ましくは、最も好ましくはLiFSIまたはNaFSIであるイオン輸送塩との50:50mol%の組合せで[Cmpyr][FSI]、[Cmpyr][BF]、[P1222][FSI]、[HMG][FSI]OIPCを含む。これらは、中間層、例えば、OIPC複合体または例えば[P1222][FSI]複合体が充填されたPVDF、SoluporまたはCelgard膜セパレータの複合体を含む膜を使用する全固体デバイスでの使用に特に好適である。
【0082】
特に好ましい輸送塩は、LiFSIまたはNaFSIを含む。
いくつかの実施形態では、電極がグラファイトアノードである場合、電極組成物は、グラファイト;任意選択で少なくとも1種の導電性向上添加剤;任意選択で少なくとも1種の非イオン伝導性ポリマー結合剤;少なくとも1種のOIPC;および少なくとも1種の輸送イオン塩を含む。
【0083】
より好適には、グラファイトアノード組成物は、記載される量の以下の成分:約40wt%~約96wt%のグラファイト;任意選択で最大約10wt%の少なくとも1種の導電性向上添加剤;任意選択で最大約10wt%の少なくとも1種のポリマー結合剤;約3wt%~約50wt%の少なくとも1種のOIPC;および約0.5wt%~約5wt%の少なくとも1種のイオン輸送塩を含んでいた。
【0084】
一実施形態では、好ましいグラファイトアノード組成物は、約40wt%~約96wt%のグラファイト;任意選択で最大0wt%~約5wt%のカーボンブラック;任意選択で最大0wt%~約5wt%のNa-CMC;約3wt%~約50wt%の[Cmpyr][FSI];および約0.75wt%~約3.75wt%のLiFSIを含む。
【0085】
好ましい複合体は、高い充放電容量を確保するために、可能な限り多くの電気活性材料を含むことが理解される。
一実施形態では、好ましいグラファイトアノード組成物は、約35wt%のグラファイト;約5wt%のカーボンブラック;約5wt%のNa-CMC;約50wt%の[C2mpyr][FSI];および約3.75wt%のLiFSIを含む。
【0086】
いくつかの実施形態では、電極が変換反応活性材料カソードである場合、電極組成物は、遷移金属塩に由来する可逆的酸化還元カップル材料、少なくとも1種の導電性向上添加剤、少なくとも1種のOIPC、および少なくとも1種のイオン輸送塩を含む。
【0087】
いくつかの実施形態では、電極が変換反応活性材料電極カソードである場合、電極組成物は、約40wt%~約95wt%の遷移金属塩に由来する可逆的酸化還元カップル材料、約2wt%~約20wt%のグラフェン、約1wt%~約50wt%のOIPC、および約0.75wt%~約3.75wt%の輸送イオン塩を含む。
【0088】
特に好ましいデバイスは、約90~約95wt%のグラファイトを有する。
いくつかの実施形態では、輸送イオンの量ははるかにより高くてもよい。例えば、最大50mol%のイオン輸送塩(例えば、LiまたはNa塩)対OIPCを複合体中で使用することができ、すなわち、最大約1:1のmol比のイオン輸送塩(例えば、LiまたはNa塩)対OIPCが好ましく使用される。このようなレベルは、導電性および安定性を改善するために好ましい。
【0089】
好ましい遷移金属塩は、ホウ酸鉄、例えばFe(BF塩、好ましくはFe(BF・6HO;フッ化銅、好ましくはCuF;フッ化コバルト、好ましくはCoF;塩化コバルト、好ましくはCoCl・6HO;塩化鉄、好ましくはFeClからなる群から選択されてもよい。好ましくは、遷移金属塩は、Fe(BF・6HO、Co(II)TFSI、Fe(II)トリフレートまたはNi(POである。好ましい実施形態では、遷移金属塩はFe(BF・6HOである。有利には、例えば、特に本明細書に記載のOIPCまたはOIPC複合体と組み合わせたFe(BF・6HO、Co(II)TFSI、Fe(II)トリフレートまたはNi(POの場合のように、組成物中に1つまたは複数の新しい材料相が形成される。好ましい組成物は、OIPCと金属塩の複合体を形成するために、OIPCと無機金属塩の約1:1mol%の組合せを含む。好適には、CmpyrBFとLiFSI;CmpyrFSIとLiFSI;またはCmpyrTFSIとLiFSIからなる群から選択されるOIPC/輸送イオン塩複合体である。好ましい実施形態では、電極組成物は、76wt%のFe(BF・6HO;10wt%のグラフェン;および14wt%の1:1のCmpyrBF:14wt%のLiFSIを含む。
【0090】
イオン輸送中間層、例えば固体電解質 - 好適なイオン輸送中間層は、好適なイオン伝導性を有する任意の固体ポリマー、ガラスまたはセラミック、例えば、OIPC、IL、イオン輸送塩、または両方を含むそのような材料の複合体を含んでもよい。好ましいASSデバイスに使用するための固体電解質を含む好適な中間層は、任意の無溶媒の無機固体電解質(ISE)、固体ポリマー電解質(SPE)、および複合体ポリマー電解質(CPE)を含む。無機固体電解質(ISE)は、様々なセラミック、例えば、酸化物(例えば、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO(LATP)、SiO、Al、TiO、LiAlO)、硫化物(例えば、LiS・P、(LPS))およびリン酸塩系無機材料、LISICON、ガーネット(例えば、LiLa12)、NASICON、リチウム窒化物、リチウム水素化物、ペロブスカイト材料、および規則的な結晶構造の代わりにアモルファス状態を想定したガラスセラミックを含む。有機固体電解質は、既存の電池製造ラインとの互換性のために好ましい。
【0091】
好適な固体ポリマー電解質は、ポリマー鎖を通してイオンを伝導するポリマーホスト材料中に任意の無溶媒塩溶液を含む。典型的な固体ポリマー電解質は、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリニトリル、ポリアルコール、ポリアミン、ポリシロキサン、およびフルオロポリマーを含む。いくつかの実施形態では、固体電解質としてイオノゲルが好適に使用される。イオノゲルは、上記の材料を含む無機またはポリマーマトリックスによって固定化されたイオン液体またはOIPCを含む複合材料である。好適には、固体ポリマーは、イオン液体および/またはOIPCでドープされる。特に、重合イオン液体、すなわちポリ(イオン液体)(ポリIL)は、高い誘電率および高い化学的/電気化学的安定性を示す有望なクラスのポリマーホストの代表である。望ましくは、電解質は、ポリILまたはイオン性および非イオン性ブロックコポリマー、例えばポリ(スチレン-b-1-((2-アクリロイルオキシ)エチル)-3-ブチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、CmpyrFSIおよびLiFSIなどのイオン液体および輸送イオン塩を組み込んだ、いわゆるPILBLOCポリマー)である。例示的なポリマーは、US2020/0280095に記載されている。他の研究では、ポリIL、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PDADMANTf)が、Li塩の解離を促進し、Li輸送を改善することができることが示されている。好ましくは、電解質は、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PDADMANTf)などの混合されたイオン液体と輸送イオン塩を含む。
【0092】
望ましくは、イオン輸送中間層、例えば、ゲル化ポリマー、セラミックまたはガラスを含む任意の固体電解質は、好ましくは本明細書の他の箇所に記載される電極で使用されるものと同じであるOIPCまたはOIPC複合体を含む複合体として提供されてもよい。いくつかの実施形態では、中間層は膜として提供される。いくつかの実施形態では、中間層は、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などのフルオロポリマーまたはポリプロピレンなどのポリマーを含む。望ましくは、インターレイは、イオン伝導性であるが電子絶縁性の材料を含み、少なくとも1種の輸送イオン塩、例えばNaまたはLi塩のうちの1種または複数;および理想的には電極で使用されるものと同じである有機イオン液体ポリマー(OIPC)を含む。
【0093】
一例では、インターレイは、PVdFなどのフルオロポリマーを含む固体電解質である。好ましくは、PVdFは、繊維形態、好適なナノ繊維形態、特にOIPC、例えば[Cmpyr][FSI]、またはOIPCと輸送イオン塩、例えばエネルギー貯蔵用途で使用されるNaまたはLiイオン塩の複合体でコーティングされたPVdF膜の形態である。複合体が膜のコーティングとして使用される場合、好ましくは、複合体は[Cmpyr][FSI]とLiFSI、好ましくは約40wt%の[Cmpyr][FSI]:LiFSIを含む。約は、±5%を意味する。使用され得る1つの好ましいイオン輸送中間層/電解質は、高いイオン伝導性を実現するために高い比のイオン液体および/またはOIPCと輸送イオン塩(例えば、LiFSI)で処理された電界紡糸ナノポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)繊維を含む、機械的に強化された複合体ポリマー電解質である。
【0094】
一実施形態では、[Cmpyr][FSI]と3.2mLiFSIの複合体を、アセトニトリルなどの好適な溶媒を添加することによってPDADMANTf(60wt%:40wt%)と混合し、均質な溶液が得られるまで室温で撹拌した。次に、溶液をPVDF繊維状マトリックス上にキャストし、本明細書で例示される複合体ポリマー電解質を形成した。
【0095】
エネルギー貯蔵デバイス - 本発明の一態様は、本明細書に記載のエネルギー貯蔵デバイスを提供する。好ましいデバイスは、OIPCまたはOIPC複合体イオン結合剤を含む本明細書に記載の1つまたは複数の電極、対電極、およびイオン輸送中間層(例えば、固体電解質)、好ましくはOIPC複合体をそれに会合させた固体ポリマー複合体(例えば、微多孔性ポリプロピレンまたはPVdFナノ繊維)などの固体電解質を含む。望ましくは、エネルギー貯蔵デバイスは全固体電池として構成される。好ましい全固体電池は、リチウムまたはナトリウム全固体電池として構成される。いくつかの好ましい実施形態では、デバイスは、本明細書に記載のOIPCアノードまたは本明細書に記載のOIPCカソードを含んでもよい。このような場合、非OIPC電極は、任意の他の従来使用されている電極であってもよい。一部の場合では、デバイスは、本明細書に記載のOIPCアノードおよび本明細書に記載のOIPCカソードを含んでもよい。
【0096】
望ましくは、エネルギー貯蔵デバイスの電解質は、固体電解質、特にOIPCを含む固体ポリマー電解質である。一実施形態では、ポリマー電解質は、OIPC/輸送イオン塩複合体でコーティングされたPVdFを含む。PVdFは、好ましくは膜の形態の電界紡糸PVdFである。好適には、ポリマー電解質はポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)を含む。望ましくは、ポリマー電解質は、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PDADMA.NTf)を含む。
【0097】
一実施形態では、エネルギー貯蔵デバイスは、好ましくはPDADMA.NTfと混合されたCmpyrFSIおよびLiFSIを含む固体ポリマー電解質を有する。望ましくは、ポリマー電解質は、60wt%:40wt%の比でPDADMA.NTfと混合された3.2mLiFSIを含むCmpyrFSIである。望ましくは、ポリマー電解質は、60wt%:40wt%の比でPDADMA.NTfと混合された3.2mLiFSIを含むCmpyrFSIである。
【0098】
一実施形態では、エネルギー貯蔵デバイスは、ポリ(スチレン-b-1-((2-アクリロイルオキシ)エチル)-3-ブチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)(EMIM TFSI)と混合されたイオン液体、好ましくはCmpyrFSIおよびLiFSIを含むポリマー電解質型中間層を有する。
【0099】
使用に好適なトリブロックイオノゲルポリマーは、米国特許出願16/649,753,2020、およびJournal of The Electrochemical Society 167(7),070525に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0100】
本発明は、変換材料電極の内部イオン結合剤としての有機イオン柔粘性結晶(OIPC)の使用に及ぶ。好適には、変換材料はカソード用である。あるいは、変換材料はアノード用である。
【0101】
定義 - 本明細書で使用される「エネルギー貯蔵デバイス」または「電気化学セル」という表現は、輸送金属イオンと負極との間の特定の相互作用に基づいて化学エネルギーを電気エネルギーに変換する、または電気エネルギーを化学エネルギーに変換するセルを意味することを意図する。このような相互作用の例としては、化学的酸化/還元、インターカレーション/挿入、および合金化/脱合金化が挙げられる。当技術分野で理解されるように、このような特定の相互作用は、負極内での電子の集団マイグレーションも含むため、負極に接続された外部電気回路に電流を発生させることができる。
【0102】
本発明の文脈において、本明細書で使用される「合金化/脱合金化」という表現は、電極の原子構造内における輸送金属イオンの可逆的かつ密接な合体を提供する機構を示す。合金化またはいわゆる再構成反応電極の原理および要件は十分に確立されており[Huggins][Guo]、これらは様々なLi-Al、Li-Si、Li-Sb、Li-Bi、Li-Sn、Li-Pb、Li-In、Li-GaおよびLi-Cdの2元系、ならびに3元系以上を含む。同様に、ナトリウムおよび他のターゲットイオン(Mg、Ca、K...)も実証されており、その相反応および材料工学は広く報告されている[Dahbi][Farbod][Orzech][Zhang][Cheng][Baltruschat]。一般に、合金化/脱合金化反応の利用、効率および安定性を向上させるように設計された各ターゲットイオンおよび合金化系に適用できる様々な材料工学および設計手法は、複数の系にわたって適用可能であることが示されている[Guo][Liang]。Huggins,Robert A.“Materials science principles related to alloys of potential use in rechargeable lithium cells.” Journal of Power Sources 26.1-2(1989):109-120.Dahbi,Mouadら、“Negative electrodes for Na-ion batteries.” Physical chemistry chemical physics 16.29(2014):15007-15028.Farbod,Behdokhtら、“Anodes for sodium ion batteries based on tin-germanium-antimony alloys.” ACS nano 8.5(2014):4415-4429.Orzech,Marcin W.ら、“Synergic effect of Bi,Sb and Te for the increased stability of bulk alloying anodes for sodium-ion batteries.” Journal of Materials Chemistry A 5.44(2017):23198-23208.Wang,Anniら、“Bi-based electrode materials for alkali metal-ion batteries.” Small 16.48(2020):2004022.Zhang,Huang,Ivana Hasa, and Stefano Passerini.“Beyond Insertion for Na-Ion Batteries:Nanostructured Alloying and Conversion Anode Materials.” Advanced Energy Materials 8.17(2018):1702582.Cheng,Yingwenら、“Interface promoted reversible Mg insertion in nanostructured Tin-Antimony Alloys.” Advanced Materials 27.42(2015):6598-6605.Baltruschat,Helmut, and Da Xing.“Investigation of Calcium Alloying with Sb,Sn and Bi As Negative Electrode Materials for Rechargeable Calcium Battery in Non-Aqueous Electrolytes.” ECS Meeting Abstracts.No.6.IOP Publishing,2021.Guo,Songtaoら、“Architectural Engineering Achieves High-Performance Alloying Anodes for Lithium and Sodium Ion Batteries.” Small 17.19(2021):2005248.Liang,Suzheら、“A chronicle review of nonsilicon (Sn,Sb,Ge)-based lithium/sodium-ion battery alloying anodes.” Small Methods 4.8(2020):2000218を参照されたい。その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0103】
本明細書で使用される「負極」は、電極と本明細書に記載される種類の輸送イオンとの間の相互作用の結果として、放電中に電子がセルから離れる電極を指す。放電中のその機能を参照して、負極は、当技術分野で一般的に「アノード」とも称される。負極は、その原子構造内で輸送イオンを可逆的にインターカレートすることができ、可逆的な酸化/還元反応を促進することによって輸送イオンと相互作用(例えば、吸収/脱着)することができるか、または輸送イオンとの合金化/脱合金化反応を促進することができる材料を含んでもよい(またはそれから作製されてもよい)。
【0104】
本明細書で使用され、当業者が認識するように、「正極」という表現は、放電中に電子がセルに入る電極を指す。放電中のその機能を参照して、正極は一般に「カソード」とも称される。正極は、その格子構造内で輸送イオンを可逆的にインターカレートすることができ、可逆的な酸化/還元反応によって輸送イオンを吸収/脱着することができるか、または本明細書に記載される輸送イオンとの合金化/脱合金化反応を促進することができる材料を含んでもよい(またはそれから作製されてもよい)。
【0105】
本明細書で使用される「アルキル」という用語は、少なくとも1つの炭素および水素原子から構成される基を説明し、直鎖、分岐または環式アルキル、例えばC1~20アルキル、例えばC1~10またはC1~6を示す。直鎖および分岐アルキルの例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、1,2-ジメチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、ヘキシル、4-メチルペンチル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、1,2,2-トリメチルプロピル、1,1,2-トリメチルプロピル、ヘプチル、5-メチルヘキシル、1-メチルヘキシル、2,2-ジメチルペンチル、3,3-ジメチルペンチル、4,4-ジメチルペンチル、1,2-ジメチルペンチル、1,3-ジメチルペンチル、1,4-ジメチルペンチル、1,2,3-トリメチルブチル、1,1,2-トリメチルブチル、1,1,3-トリメチルブチル、オクチル、6-メチルヘプチル、1-メチルヘプチル、1,1,3,3-テトラメチルブチル、ノニル、1-、2-、3-、4-、5-、6-または7-メチルオクチル、1-、2-、3-、4-または5-エチルヘプチル、1-、2-または3-プロピルヘキシル、デシル、1-、2-、3-、4-、5-、6-、7-および8-メチルノニル、1-、2-、3-、4-、5-または6-エチルオクチル、1-、2-、3-または4-プロピルヘプチル、ウンデシル、1-、2-、3-、4-、5-、6-、7-、8-または9-メチルデシル、1-、2-、3-、4-、5-、6-または7-エチルノニル、1-、2-、3-、4-または5-プロピルオクチル、1-、2-または3-ブチルヘプチル、1-ペンチルヘキシル、ドデシル、1-、2-、3-、4-、5-、6-、7-、8-、9-または10-メチルウンデシル、1-、2-、3-、4-、5-、6-、7-または8-エチルデシル、1-、2-、3-、4-、5-または6-プロピルノニル、1-、2-、3-または4-ブチルオクチル、1-2-ペンチルヘプチルなどが挙げられる。環式アルキルの例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシルなどの単環または多環式アルキル基が挙げられる。アルキル基が一般に「プロピル」、「ブチル」などと称される場合、これは、適切な場合、直鎖、分岐および環式異性体のいずれかを指し得ることが理解される。アルキル基は、本明細書で定義されるように、炭素がヘテロ原子(O、N、Sなど)で置換された置換基を含む1つまたは複数の置換基によって任意選択で置換されていてもよい。
【0106】
任意選択の置換基の例としては、アルキル(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルまたはシクロヘキシルなどのC1~6アルキル)、ヒドロキシアルキル(例えば、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル)、アルコキシアルキル(例えば、メトキシメチル、メトキシエチル、メトキシプロピル、エトキシメチル、エトキシエチル、エトキシプロピルなど)アルコキシ(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、シクロプロポキシ、シクロブトキシなどのC1~6アルコキシ)、ハロ、トリフルオロメチル、トリクロロメチル、トリブロモメチル、ヒドロキシ、フェニル(これ自体は、例えばC1~6アルキル、ハロ、ヒドロキシ、ヒドロキシC1~6アルキル、C1~6アルコキシ、ハロC1~6アルキル、シアノ、ニトロOC(O)C1~6アルキル、およびアミノによってさらに置換されていてもよい)、ベンジル(ベンジルそれ自体は、例えばC1~6アルキル、ハロ、ヒドロキシ、ヒドロキシC1~6アルキル、C1~6アルコキシ、ハロC1~6アルキル、シアノ、ニトロOC(O)C1~6アルキル、およびアミノによってさらに置換されていてもよい)、フェノキシ(フェニルそれ自体は、例えばC1~6アルキル、ハロ、ヒドロキシ、ヒドロキシC1~6アルキル、C1~6アルコキシ、ハロC1~6アルキル、シアノ、ニトロOC(O)C1~6アルキル、およびアミノによってさらに置換されていてもよい)、ベンジルオキシ(ベンジル自体は、例えばC1~6アルキル、ハロ、ヒドロキシ、ヒドロキシC1~6アルキル、C1~6アルコキシ、ハロC1~6アルキル、シアノ、ニトロOC(O)C1~6アルキル、およびアミノによってさらに置換されていてもよい)、アミノ、アルキルアミノ(例えば、C1~6アルキル、例えば、メチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノなど)、ジアルキルアミノ(例えば、C1~6アルキル、例えばジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノ)、アシルアミノ(例えば、NHC(O)CH3)、フェニルアミノ(フェニル自体は、例えばC1~6アルキル、ハロ、ヒドロキシ、ヒドロキシC1~6アルキル、C1~6アルコキシ、ハロC1~6アルキル、シアノ、ニトロOC(O)C1~6アルキル、およびアミノによってさらに置換されていてもよい)、ニトロ、ホルミル、-C(O)-アルキル(例えばC1~6アルキル、例えばアセチル)、O-C(O)-アルキル(例えばC1~6アルキル、例えばアセチルオキシ)、ベンゾイル(フェニル基それ自体は、例えばC1~6アルキル、ハロ、ヒドロキシヒドロキシC1~6アルキル、C1~6アルコキシ、ハロC1~6アルキル、シアノ、ニトロOC(O)C1~6アルキル、およびアミノによってさらに置換されていてもよい)、C=O、COH、COアルキルによるCHの置換(例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステルなどのC1~6アルキル)、CO2フェニル(フェニル自体は、例えばC1~6アルキル、ハロ、ヒドロキシ、ヒドロキシルC1~6アルキル、C1~6アルコキシ、ハロC1~6アルキル、シアノ、ニトロOC(O)C1~6アルキル、およびアミノによってさらに置換されていてもよい)、CONH、CONHフェニル(フェニルそれ自体は、例えばC1~6アルキル、ハロ、ヒドロキシ、ヒドロキシルC1~6アルキル、C1~6アルコキシ、ハロC1~6アルキル、シアノ、ニトロOC(O)C1~6アルキル、およびアミノによってさらに置換されていてもよい)、CONHベンジル(ベンジルそれ自体は、例えばC1~6アルキル、ハロ、ヒドロキシヒドロキシルC1~6アルキル、C1~6アルコキシ、ハロC1~6アルキル、シアノ、ニトロOC(O)C1~6アルキル、およびアミノによってさらに置換されていてもよい)、CONHアルキル(例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルアミドなどのC1~6アルキル)CONHジアルキル(例えば、C1~6アルキル)アミノアルキル(例えば、HNC1~6アルキル-、C1~6アルキルHN-C1~6アルキル-および(C1~6アルキル)N-C1~6アルキル-)、チオアルキル(例えば、HSC1~6アルキル-)、カルボキシアルキル(例えば、HOCC1~6アルキル-)、カルボキシエステルアルキル(例えば、C1~6アルキルOCC1~6アルキル-)、アミドアルキル(例えば、HN(O)CC1~6アルキル-、H(C1~6アルキル)N(O)CC1~6アルキル-)、ホルミルアルキル(例えば、OHCC1~6アルキル-)、アシルアルキル(例えば、C1~6アルキル(O)CC1~6アルキル-)、ニトロアルキル(例えば、ONC1~6アルキル-)、スルホキシドアルキル(例えば、R(O)SC1~6アルキル、ここでRは、本明細書で定義されるものであり、例えばアルキル、例えばC1~6アルキル(O)SC1~6アルキル-である)、スルホニルアルキル(例えば、Rf(O)SC1~6アルキル、ここでRは、本明細書で定義されるものであり、例えばアルキル、例えばC1~6アルキル(O)SC1~6アルキル-である)、スルホンアミドアルキル(例えば、HRN(O)SC1~6アルキル、ここでRは、本明細書で定義されるものであり、例えばアルキル、例えばH(C1~6アルキル)N(O)SC1~6アルキル-である)が挙げられる。
【0107】
「ハロゲン」(「ハロ」)という用語は、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素(フルオロ、クロロ、ブロモまたはヨード)を示す。好ましいハロゲンは、塩素、臭素またはヨウ素である。
【0108】
ヘテロシクリル基は、飽和または部分的に不飽和であってもよく、すなわち1つまたは複数の二重結合を有してもよい。特に好ましいヘテロシクリルは、5~6および9~10員ヘテロシクリルである。ヘテロシクリル基の好適な例としては、アズリジニル、オキシラニル、チイラニル、アゼチジニル、オキセタニル、チエタニル、2H-ピロリル、ピロリジニル、ピロリニル、ピペリジル、ピペラジニル、モルホリニル、インドリニル、イミダゾリジニル、イミダゾリニル、ピラゾリジニル、チオモルホリニル、ジオキサニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロピロリル、テトラヒドロチオフェニル、ピラゾリニル、ジオキサラニル、チアゾリジニル、イソオキサゾリジニル、ジヒドロピラニル、オキサジニル、チアジニル、チオモルホリニル、オキサチアニル、ジチアニル、トリオキサニル、チアジアジニル、ジチアジニル、トリチアニル、アゼピニル、オキセピニル、チエピニル、インデニル、インダニル、3H-インドリル、イソインドリニル、4H-キノラジニル、クロメニル、クロマニル、イソクロマニル、ピラニルおよびジヒドロピラニルを挙げることができる。ヘテロシクリル基は、本明細書で定義されるように、1つまたは複数の任意選択の置換基で任意選択で置換されていてもよい。用語「ヘテロシクリレン」は、ヘテロシクリルの二価形態を示すことを意図する。
【0109】
用語「ヘテロアリール」は、単環式、多環式、縮合または共役炭化水素残基のいずれかを含み、ここで1つまたは複数の炭素原子は、芳香族残基を提供するようにヘテロ原子で置き換えられている。好ましいヘテロアリールは、3~20個、例えば3~10個の環原子を有する。特に好ましいヘテロアリールは、5~6および9~10員の二環式環系である。好適なヘテロ原子としては、O、N、S、PおよびSe、特にO、NおよびSが挙げられる。2個以上の炭素原子が置き換えられている場合、これは2個以上の同じヘテロ原子または異なるヘテロ原子によるものであってもよい。ヘテロアリール基の好適な例としては、ピリジル、ピロリル、チエニル、イミダゾリル、フラニル、ベンゾチエニル、イソベンゾチエニル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、インドリル、イソインドリル、ピラゾリル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、インドリジニル、キノリル、イソキノリル、フタラジニル、1,5-ナフチリジニル、キノザリニル、キナゾリニル、キノリニル、オキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、トリアゾリル、オキサジアルゾリル、オキサトリアゾリル、トリアジニル、およびフラザニルを挙げることができる。ヘテロアリール基は、本明細書で定義されるように、1つまたは複数の任意選択の置換基によって任意選択で置換されていてもよい。用語「ヘテロアリーレン」は、ヘテロアリールの二価形態を示すことを意図する。
【0110】
「スルホキシド」という用語は、単独または複合語のいずれかで、基R-S(O)Rを指し、Rfは、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、カルボシクリル、およびアラルキルから選択される。好ましいRの例としては、C1~20アルキル、好ましくはC1~6アルキル、最も好ましくはC1~3アルキル、フェニルおよびベンジルが挙げられる。
【0111】
「スルホニル」という用語は、単独または複合語のいずれかで、基S(O)-Rを指し、Rは、水素、ハロゲン化物、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、カルボシクリルおよびアラルキルから選択される。好ましいRfの例としては、C1~20アルキル、フェニルおよびベンジルが挙げられる。
【0112】
「スルホンアミド」という用語は、単独または複合語のいずれかで、基S(O)NRを指し、各Rfは、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、カルボシクリル、およびアラルキルから独立して選択される。好ましいRの例としては、C1~20アルキル、フェニルおよびベンジルが挙げられる。好ましい実施形態では、少なくとも1つのRは水素である。別の態様では、両方のRが水素である。
【0113】
その最も広い意味で本明細書で使用される「ヘテロ原子」または「ヘテロ」という用語は、環式有機基のメンバーであり得る炭素原子以外の任意の原子を指す。ヘテロ原子の特定の例としては、窒素、酸素、硫黄、リン、ホウ素、ケイ素、セレンおよびテルル、より詳細には窒素、酸素および硫黄が挙げられる。
【0114】
本明細書で使用される「約」は、記載値の±5%を意味する。
以下の実施例を参照して本発明を説明する。実施例は、本明細書に記載される発明の例示であり、限定ではないことを理解されたい。
【0115】
実施例1
グラファイトアノードにおけるOIPC結合剤
この最初の実施例では、OIPC/Li塩複合体結合剤の形態でOIPC結合剤を含めることにより、全固体電池におけるグラファイトアノードの充電レート能力およびサイクル性が改善された。例示的なOIPC、N-エチル-N-メチルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド([Cmpyr][FSI])を、OIPC/Li塩複合体として、一連の試験したOIPC/Li塩結合剤濃度で、グラファイトアノード内にイオン結合剤として組み込んだ。使用したLi塩はLiFSIであったが、他の塩も所望により使用可能であった。
【0116】
充電/放電レート能力およびサイクル寿命に対する好ましいOIPC結合剤のプラスの効果は、そのOIPC/グラファイト複合体アノードを含む固体セルで実証されている。特に、本発明のOIPC/グラファイト複合体アノードを含む固体セルのセル性能を、液体電解質を有するグラファイトアノード(OIPCなし)を含むセルと比較した。最も高い充電容量比は、OIPC複合体比が50wt%のグラファイト/OIPC複合体アノードで測定され(89.5%、2C充電で295.7mAh/g)、これは液体電解質を使用した、すなわち固体セル形式ではないグラファイトアノードのもの(85.7%、2C充電で295.9mAh/g)とほぼ同じ充電容量比であった。本明細書で試験したシステムでは、OIPCの量がより高いか、またはOIPC/Li塩複合体の量が全電極材料の50wt%までである好ましいアノードについて、より有利なリチウムイオン伝導経路が解決されることが見出された。一部の実施形態では、輸送イオン塩は電極に直接含まれないが、サイクリング時にリチウムが所望の量で電極内に組み込まれるように、例えば電解質または対向電極に過剰なアルカリ(リチウム)イオンを用いてセルを設計することができる。しかし、本明細書で研究した特定のグラファイト電極組成では、過剰量のOIPC複合体結合剤(50wt%+)が長期サイクル性に変動を生じた。実際、最も安定した放電容量保持は、30wt%のOIPC複合体を用いたグラファイト複合体アノードを使用して得られた(102.7%、100サイクル目で257.4mAh/g)。さらに、本発明の好ましい固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードのリチウム化/脱リチウム化プロセスは、安定かつ可逆的であると評価された。
【0117】
水性グラファイトアノードスラリーにOIPC複合体溶液を添加する点で従来の方法とは異なる単純な電極製作プロセスを利用し、この方法のロールツーロールプロセスへの高い適用可能性を保証した。他の調製方法を図Xに示す。様々な量のOIPCを含む固体グラファイト複合体アノードの表面および断面構造を走査型電子顕微鏡(SEM)によって検査した。その後、コインセルのサイクリング試験におけるアノードの充電レート能力およびサイクル性に対するOIPCの影響を検討した。
【0118】
固体グラファイト電極の調製 - 例示的なOIPCであるN-エチル-N-プロピルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド([Cmpyr][FSI]、Boron Molecular、>99%)を、60℃で>12時間真空乾燥した後に使用した。リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI、日本触媒、LF-101)を入手したまま使用した。[Cmpyr][FSI]とLiFSIの両方を、Ar雰囲気のグローブボックス(O<10.0ppm、HO<0.1ppm)に秤量し、その後グローブボックスの外でアセトン(Chem-Supply、>99.5%)を添加し、40wt%[Cmpyr][FSI]複合体アセトン溶液(90mol%[Cmpyr][FSI]と10mol%LiFSI)を作製した。1.2gのカルボキシメチルセルロースナトリウム(Na-CMC、Sigma-Aldrich、平均分子量:70,000g/mol)を、マグネチックスターラーを使用して室温で78.6gの蒸留水に溶解した。Na-CMCが水に完全に溶解したことを確認した後、1.2gのカーボンブラック(C65、Imerys Graphite&Carbon)を溶液に添加し、その後室温で>12時間撹拌して、水中1.5wt%Na-CMC+1.5wt%C65の分散液を得た。電極スラリー調製のために、グラファイト(Merck、超高純度微粉末)を別のバイアルに秤量した。所望の量の40wt%[Cmpyr][FSI]複合体アセトン溶液をこのバイアルに滴下し、その後、適量のNa-CMC+C65分散液を添加した。このグラファイトスラリーを室温で>12時間撹拌し、均質な混合物を得た。次に、スラリーをウェットギャップ80μmのドクターブレードを使用してCuシート(厚さ:20μm)にコーティングした。コーティングされたスラリー内の溶媒を80℃のオーブンで>1時間蒸発させた。乾燥したシートを打ち抜き、直径8mmの固体グラファイト電極ディスクを得た。各ディスクを2枚のテフロンディスク(φ16mm)で挟み、その後室温で3,000psi下でペレットダイ(φ16mm)を使用してプレスした。プレス後、電極ディスクの重量および厚さを測定した。電極ディスクを60℃で>12時間さらに真空乾燥し、コインセルの組立てに使用した。
【0119】
OIPC複合体([Cmpyr][FSI]+LiFSI)を含まないグラファイトアノードの組成は、グラファイト90wt%、C65 5wt%、およびNa-CMC5wt%であった。グラファイトアノードの[Cmpyr][FSI]複合体に対する比は、(100-x):xwt%(x=0、15、30または50)になるよう設定した。試験した固体グラファイトアノードディスクの実際の組成、電極負荷、および密度を以下の表1に要約する。
【0120】
【表1】
【0121】
グラファイト電極コインセル試験のための中間層の調製 - 電界紡糸ポリ(フッ化ビニリデン)(PVdF)繊維を、以前に記載された手順によって作製した(ChemSusChem 10,No.15(2017):3135-3145)。PVdF繊維をAlシート上に設け、φ12.7mmディスクに打ち抜いた。上述の40wt%[Cmpyr][FSI]複合体アセトン溶液をPVdF繊維ディスク上に滴下した後、Ar雰囲気下で室温で>3時間乾燥させた。次に、コーティングされたPVdF繊維ディスク(乾燥[Cmpyr][FSI]複合体でコーティング)を60℃で>12時間さらに真空乾燥した。各ディスクを2枚のテフロンディスク(φ16mm)で挟み、室温で2,000psiの圧力下で、ペレットダイ(φ16mm)を使用してAr雰囲気下でプレスした。Alシートを除去した後、得られたPVdF-[Cmpyr][FSI]複合体繊維ディスクをコインセル組立体の固体電解質およびセパレータとして使用した。ディスクの組成は、[Cmpyr][FSI]複合体90wt%およびPVdF10wt%であった。
【0122】
コインセルの組立て - CR2032型コインセルをAr充填グローブボックス内で組み立てた。リチウムストリップ(Sigma-Aldrich、厚さ:0.3mm)の両面をブラッシングし、丸いディスク(φ10mm)に打ち抜いた。このブラッシングしたリチウムディスクをコインセル構成要素に取り付け、PVdF-[Cmpyr][FSI]複合体繊維ディスクで覆った。次に、検討中の固体グラファイト電極をその上に配置した。圧着後、コインセルを50℃のオーブンに移し、電池試験環境の温度平衡を確保するために>12時間保管した。コインセルを、リチウム金属プレーティングおよびグラファイトアノードからのストリッピングの研究に使用した。
【0123】
電池試験 - すべての電池試験は、Neware電池サイクラーまたはBioLogic VMP-300ポテンショスタットのいずれかを使用し、50℃で実施した。1C電流レート(mA)は以下のように計算した:各セルの活性材料重量(g)に、本研究で使用したグラファイトの実際の放電容量(340mAh/g)を乗じ、この数を1時間で除した。
【0124】
まず、充電(リチウム化)には電流レート0.1Cの定電流-定電圧(CCCV)モードを使用し、放電(脱リチウム化)には0.1Cの定電流(CC)モードを使用して、コインセルを3回サイクルさせた。下限および上限カットオフ電圧は、それぞれ0.005Vおよび1.5Vであった。CV充電のカットオフ電流レートは0.05Cであり、充電と放電の間の休止時間は10分であった。3サイクル後、充電レート試験を50℃で行った。具体的には、試験条件は、試験モードおよび各充電時の電流レートを除いて最初の3サイクルのものと同じであった。CCモードを使用し、充電電流レートを以下の順序でサイクルごとに変化させた:0.1C→0.2C→0.5C→1C→2C→0.1C(計6サイクル)。充電レート能力は、最初の0.1C-CC充電で測定された容量に対する、より高いCレート(>0.1C)での充電容量の比として評価した。
【0125】
充電レート試験の後、選択したセルを50℃でさらにサイクルさせた。容量を確認するため、セルをまず0.1C-CCでサイクルさせた。次に、セルを0.2C-CC充電および0.1C-CC放電で99サイクル試験した。最後に、サイクル試験後の容量を0.1C-CCで測定した。カットオフ電圧および休止時間は、最初の3サイクルのものと同じであった。
【0126】
構造分析 - JSM IT300シリーズの顕微鏡を使用して、選択した固体グラファイトアノードのSEMを実施した。カミソリの刃を使用して電極の断面を得た。具体的には、電極を2枚のプラスチックフィルムで挟み、ホルダーに固定した。その後、電極とカミソリの刃の新しい刃先との間の点接触を保ちながら、電極表面から銅集電体まで切断した。試料はすべてグローブボックス内で調製し、空気感受性ホルダーを使用してSEM観察室に移した。電極の元素分析は、Oxford X-Max50mmEDX検出器を用いたEDXによって行った。
【0127】
結果および考察 - 実施例1 - グラファイトアノード中のOIPC結合剤 - 固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードの初期充放電挙動を、液体電解質(EC-DEC-DMC中1.0M LiPF)を使用した同等のグラファイトアノードのものと比較した。図1aは、OIPC含有量30wt%の固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードの充放電を示す。参考として、液体電解質を使用したグラファイトアノードの充放電プロファイルも図1bに示す。最初の充電では、固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードで約0.4Vにピークが現れ、これは他の電極組成(すなわち、OIPC含有量0wt%、15wt%および50wt%、それらの充放電プロファイルは図2を参照されたい)でも見出された。このことは、(i)[Cmpyr][FSI]の分解によって影響された固体電解質中間相(SEI)の形成、(ii)[Cmpyr]のグラファイトへの挿入の2つの原因のうちの1つに起因する可能性がある。液体電解質中の[FSI]アニオンを含むグラファイト/Liハーフセルは、最初の充電時に大きな不可逆容量を示し、0.2~1.5Vで充電プロファイルにショルダーを示す。対照的に、[Cmpyr]およびLiカチオンを含むビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド([TFSI])系イオン液体中のグラファイトアノードは、0.4~0.7Vで[Cmpyr]カチオンの可逆的インターカレーションを示すことが報告されている。
【0128】
特徴的なピークは最初の充電ステップでのみ観察され、その後のサイクルの充放電プロファイルは、液体電解質を用いたグラファイトアノードのものとほぼ同一であった(図1a対図1b、2および3サイクル目)。したがって、ピークの起源は、OIPCの分解に由来するSEI形成によるものと考えられる。表2は、固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードおよび液体電解質を用いたグラファイトアノードの容量およびクーロン効率の概要である。
【0129】
【表2】
【0130】
液体電解質を含むグラファイト/Liハーフセルは、84.5%の1サイクル目のクーロン効率を示すが、固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードを含むハーフセルは、はるかに低い1サイクル目のクーロン効率を示す(34.9~56.5%)。これは、上述のSEI形成によって引き起こされる不可逆容量によるものである。すべてのハーフセルで、クーロン効率はサイクル数とともに漸増する。クーロン効率および放電容量のOIPC複合体比に対する依存性の詳細を以下で考察する。手短に述べると、OIPC複合体比が高い(>30wt%)ほど、より高い3サイクル目のクーロン効率および放電容量を示し、これらは液体電解質を用いたグラファイトアノードで測定されたものに近かった。このことは、OIPC複合体をより多く含む(>30wt%)ことで、より低い量のOIPCに比べ、アノード内でより良好なイオン伝導が得られることを示唆する。驚くべきことに、OIPC複合体を含まない固体グラファイトアノードも、リチウムイオンの粒子間拡散により、サイクリングが可能であった。容量および効率の増加は、3サイクル後では完全には明白でなく、OIPCの組込みによる安定性およびレート性能の向上は、後に示すように、より長いサイクリング時間でより明白になる(図5)。
【0131】
充電レート性能 - 図3は、30wt%OIPCを用いた固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードの様々なCレートでの充電曲線を示す。充電Cレートの増加に伴い、曲線のプラトーは短く不鮮明になり、より高いCレートで充電容量が小さくなった。他のアノード組成でも同じ傾向が見出され、Cレートの増加に伴う充電容量の減少の程度はアノード組成に依存した。
【0132】
図4aは、液体電解質を用いたグラファイトアノードに対する、OIPC複合体比0、30および50wt%の固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードの各Cレートにおける充電容量比を示す(15wt%試料の充電レート能力について、以下の考察を参照されたい)。充電レート能力の違いは、アノード内部の構造の違いに由来する。Cレートの増加に伴う充電容量の最速の減少は、OIPC複合体を含まない固体グラファイトアノード(0wt%)、次いで15wt%、30wt%、50wt%の電極で測定された。これは、(i)バルクのOIPC複合体とグラファイト粒子との間の接触面積が最も小さい(ゼロ)こと、(ii)OIPCが存在しない場合、グラファイト粒子と銅集電体との間の接触が比較的不安定であること、および(iii)OIPCが存在しない場合、充電中に良好な端-端接触が失われること、の3つの理由に起因する可能性がある。電解質/電極の接触面積が小さくなると、より大きな界面抵抗が形成される。固体グラファイトアノードは内部に電解質を有さず(液体が存在しないため)、したがって集電体上でのSEI形成は不可能である。対照的に、液体電解質系の銅上のSEIは有機物に富み、集電体へのグラファイト粒子の接着を向上させる。しかし、本発明の固体グラファイトアノードにおける電極/集電体接触は、ポリマー結合剤(Na-CMC)およびグラフェン層と裸の集電体基板との間のファンデルワールス力に主に依存しており、それにより充電中にグラファイト粒子と集電体との間の部分的な接触損失が発生しやすい。電極/集電体接触の違いを以下で考察する。グラファイト粒子の配向依存性に関しては、グラファイトへのリチウムのインターカレーションは端面を横切って生じることが公知である。グラファイト粒子の欠陥のない基底面はリチウムのインターカレーションに対して不活性であるため、OIPC複合体を含まない固体グラファイトアノードでのグラファイト粒子間のリチウムイオン伝導は、端面間の接触点で起こると予想される。しかし、充電レートが増加すると、各接触点を介したリチウムのインターカレーションも増加する。このため、グラファイト粒子の急激な体積膨張が起こり、接触点がわずかに滑り、端-端接触から好ましくない基底-端または基底-基底接触へと配向が変わる可能性がある。脱リチウム化状態からリチウム化状態に充電する間に、グラファイト粒子はそのc軸に沿って10%膨張するため、このような接触修正は無視できない可能性がある。
【0133】
Cレートの増加に伴う充電容量の減少は、電極のアノード内部のOIPC複合体比が増加するにつれてより弱くなる。これは、前述の3つの悪影響の一部または全部が無効になるためである。OIPC複合体比の増加により、グラファイト粒子に電解質/電極のより大きな接触面積が付与され、電解質と電極との間の界面抵抗が減少する。さらに、OIPC複合体は、アノードで結合剤/接着剤の役割を果たし、電解質/電極と電極/集電体の両方の接触を改善および/または維持するとともに、接触点におけるグラファイト粒子の配向を固定する。一部のOIPC([FSI]系OIPCなど)は粘着性があり、これは結合剤機能の点で有利である。この特性は、典型的に取り扱い温度(すなわち、室温)で固相I状態にあるOIPCによって示される。実際、本実施例で使用した90mol%[Cmpyr][FSI]と10mol%LiFSIのOIPC複合体は、グラファイト粒子を結合させるのに十分粘着性である。OIPC複合体の比が増加するにつれ、充電レート能力は増加する。重要なことに、OIPC複合体比50wt%の固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードの容量比(2C充電で89.5%)は、液体電解質を用いたグラファイトアノードの容量比(2C充電で85.7%)とほぼ同じである。このことは、50wt%で、OIPC複合体がアノード内部の空隙を十分に充填し、グラファイト粒子を覆い、それらにバルクOIPC複合体との間の有利なリチウムイオン伝導経路を提供することを示唆する。さらに、固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードは、電解質の低体積分率(すなわち、LiFSIの体積分率、φ電解質≦1.8%)下で動作可能であり、これは液体電解質を用いた固体グラファイトアノードのもの(φ電解質=5.0%、詳細は表3を参照されたい)よりも>60%小さいと評価された。これは、OIPC複合体を使用する利点の一つであり、この理由は、充電レート能力を向上させるためにOIPC複合体中に必要とされるリチウム塩の量が、液体電解質のものよりも少ないためである(図4b)。この違いの可能性のある理由を以下で考察する。
【0134】
【表3】
【0135】
サイクル寿命 - 図5aは、サイクル試験中のOIPC複合体比30wt%の固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードの充放電プロファイルを示す。充電容量はすべてのサイクルで安定していた。一方、放電容量はサイクル数の増加とともに徐々に改善され、約20サイクル目で安定した。これは前調整プロセスとして説明できる。これは、OIPC複合体中間層を有するリチウム/リチウム対称セルだけでなく、LiFePO(LFP)カソード、OIPC複合体中間層、およびリチウム金属から構成されるハーフセルでも報告されている。前調整プロセスは、ジュール加熱、OIPCの再結晶化、それに続く小さなOIPC粒の形成、および電解質/電極界面におけるリチウムイオンの不均一な濃度プロファイルに由来すると考えられる。これらは、より溶融した共晶相およびOIPC複合体の無秩序相との接触点を提供し、したがってリチウムイオン伝導を促進する。これらの効果はセルのサイクリングによって誘発され、界面抵抗を減少させることができる。図5dは、サイクル試験(図5a~c)中の0wt%、30wt%および50wt%のOIPC複合体比を有する固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードの放電容量保持の概要である。選択したサイクルにおける容量、CE、放電容量保持を表4に示す。
【0136】
【表4】
【0137】
1サイクル目から20サイクル目まで、すべてのセルが放電容量の増加を示した。その後、各セルは異なる放電容量保持のプロットを示した。OIPC複合体を含まない固体グラファイトアノードは、放電容量保持の安定した減少を示した。その平均劣化速度は1サイクルあたり0.081%と評価され、100サイクル後の放電容量保持は95.7%(275.3mAh/g)に達した。OIPC複合体比30wt%の固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードの放電容量保持は、サイクル試験中安定していた(102.7%、100サイクル目で257.4mAh/g)。本発明者らの知る限り、OIPC複合体中間層を有する固体ハーフセルのこのような超安定な放電容量保持は、LFPカソード、90mol%のN-エチル-N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド([Cmpyr][TFSI])と10mol%のLiTFSIのOIPC複合体電解質、およびリチウム金属を含むセルで80℃で報告されているのみである。一方、OIPC複合体比を50wt%までさらに増加させると、不要な副反応のために放電容量保持の増加の変動が誘発された。クーロン効率(図5e)に関して、同様の傾向が見出された。クーロン効率はまた、1サイクル目から20サイクル目までで増加した。しかし、クーロン効率は20サイクル目後も依然として漸進的な上昇を示した。例えば、OIPC複合体比30wt%の固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードのクーロン効率は、2サイクル目の95.0%から20サイクル目の97.4%まで急速に上昇し、100サイクル目の98.3%までさらに改善された。一方、OIPC複合体比50wt%の固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードのクーロン効率は、31サイクル目から変動し始めた。結果は、30wt%が充電レート能力およびサイクル寿命の点で最も平衡のとれた条件であり、固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノード内のOIPC複合体比をさらに増加させると(すなわち50wt%)、副反応によって引き起こされる放電容量の変動の危険性が生じることを示唆する。
【0138】
構造解析 - 固体グラファイトアノードおよび固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードの表面をSEMによって6,000倍で観察した。すべての表面が、カーボンブラックの泡状構造によって部分的に覆われたグラファイト粒子を示す(図6a~6c)。OIPC複合体を含まない固体グラファイトアノードでは、各粒子の明確な輪郭が解像された。より多くのOIPC複合体をアノードに組み込むと、粒子の輪郭がさらに不鮮明になった。これは、OIPC複合体がグラファイト粒子を覆い、粒子を互いに強固に接続していることを示唆する。したがって、アノード内部のOIPC複合体の量が多いほど、OIPC複合体とグラファイト粒子との間の接触抵抗を小さくすることができる。
【0139】
結果は、OIPC複合体が、アノード内部にリチウムイオン伝導経路のネットワークを形成することを示す。固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードの表面には、いくつかの分散していないOIPC複合体粒があるが、全体的なアノード構造は、ハーフセル性能に対する組み込まれたOIPC複合体の比の影響を評価するのに十分均質であるように思われる。SEM画像間の比較(図6a~6c)から、OIPC複合体比が高いほど、より優れたリチウムイオン伝導経路を有する固体グラファイトアノードが得られることが示唆される。しかし、OIPC複合体の量が多すぎると(すなわち、50wt%)、サイクル試験中に容量の予測不可能な変動が生じるため、OIPC複合体比は、所望のCレートおよびサイクル安定性での重量または体積エネルギー密度に基づいて微調整することができる(例えば、それらの平衡をとるために30wt%)。
【0140】
固体グラファイトアノードおよび固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードの断面も解像し、その構造の違いについてさらなる知見を得た。図6d、6eおよび図6bからわかるように、OIPC複合体比の増加に伴い、グラファイト粒子の輪郭が滑らかになる。また、より高いOIPC複合体比では、カーボンブラックのより多くの部分がOIPC複合体とブレンドされる。これらの傾向は、表面画像で見出されたものと同じである(図6a~6c)。一方、断面画像からグラファイト粒子の配列に関する情報が得られる。興味深い点は、表面のグラファイト粒子は密集し、基底面で中間層に面しているのに対し、内側のグラファイト粒子は空隙を伴ってランダムに配向しており、その一部は銅集電体に対して垂直に整列していることである。これにより、固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードの効率的なリチウムイオン挿入/抽出が保証される。水平方向に配向したグラファイト粒子の分率が高いほど(すなわち、アノード密度が高いほど)、リチウムイオン伝導が減速する傾向があるため、内側のグラファイト粒子のランダムな配向は有益である。
【0141】
全体として、グラファイトアノードへのOIPC複合体の組込みは、アノード内部のリチウムイオン伝導経路を促進するだけでなく、電解質/電極および電極/集電体の接触を向上させ、充電レート能力およびサイクル寿命を改善する。このことは、OIPC複合体を電極に組み込まれた固体電解質として使用するASSBの開発に新たな道を開く。表5の15wt%試料の最初の3サイクルにおけるクーロン効率および放電容量は、OIPC複合体比15wt%の固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードの容量およびクーロン効率を示す。
【0142】
【表5】
【0143】
注目すべきことに、最初のクーロン効率はグラファイトアノード内部のOIPC複合体比に依存する。内部のOIPC複合体比が0から30wt%まで増加すると、最初のクーロン効率は低下するが、OIPC複合体比をさらに増加させると(50wt%まで)、最初のクーロン効率は改善する。放電容量については、液体電解質を用いたグラファイトアノードが3サイクル目で338.1mAh/gを示すのに対し、固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードでは、より低い3サイクル目の放電容量が測定され、これはOIPC複合体比にも依存する。OIPC複合体が15wt%の固体グラファイト[Cmpyr][FSI]複合体アノードは、最も低い3サイクル目の放電容量(161.8mAh/g)を示す。一方、最も高い3サイクル目の放電容量は、50wt%のOIPC複合体を用いたアノードで見出された(320.5mAh/g)。グラファイトアノード内部のOIPC複合体比への依存は、次のように説明できる:第一に、グラファイトアノードにOIPC複合体を少量添加すると、グラファイト粒子間に妨害層が発生する。層は、バルクOIPC複合体(アノードおよびPVdF繊維内)から分離したOIPC複合体粒であり、分離したOIPC複合体粒を介して1つのグラファイト粒子から別のグラファイト粒子へのLi拡散を妨げる。OIPC複合体を含まない固体グラファイトアノードは、少量のOIPC複合体(15wt%)を含むアノードよりも高い容量を示すため、グラファイト粒子間のLi拡散は、グラファイト|[Cmpyr][FSI]+LiFSI(90:10mol%)|グラファイトの2つの界面を介した拡散よりも有利であると言える。したがって、少量のOIPC複合体の添加は、一部のグラファイト粒子に好ましくないLi伝導経路を付与し、粒子をサイクリング中に不活性化させ、固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードの達成可能な容量を減少させる可能性がある。第二に、OIPC複合体をさらに添加すると、分離したOIPC複合体粒がバルク粒に接続され、したがって不活性化したグラファイト粒子の量が減少する。この効果は、OIPC複合体添加後の容量の15wt%から30wt%への改善として現れる。第三に、OIPC複合体比を30wt%から50wt%にさらに増加させることにより、放電容量の改善を向上させることができる。すべてのグラファイト粒子のほとんどは、追加の量のアノード内のOIPC複合体によって接近可能になる可能性があり、OIPC複合体粒は互いに良好に接続し、グラファイト粒子にバルクOIPC複合体との間の十分なLi伝導経路を提供する。実際、50wt%のOIPC複合体を含むアノードは、3サイクル目で320.5mAh/gに達し、これは液体電解質を使用した適切な電解質/活性材料接続を有するアノードで観察された容量(338.1mAh/g)に近い。したがって、グラファイトアノードへのOIPC複合体の大量の添加(>30wt%)は、最初の3サイクルの充放電性能の点で有利である。
【0144】
充電レート能力 - 表6は、OIPC複合体比15wt%の固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードの各充電Cレートにおける充電容量および容量比を示す。すべての充電容量は、同じ充電Cレートでの他の固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードおよび[Cmpyr][FSI]複合体を含まない固体グラファイトアノードのものよりも低かった。前述のように、これはグラファイト粒子間の妨害層(すなわち、バルクOIPC複合体から分離したOIPC複合体粒)に起因すると考えられる。しかし、15wt%試料の容量比は、同じ充電Cレートで、0wt%試料のものと30wt%試料のものの間にあると評価された。グラファイトアノードにOIPC複合体を添加すると、ハーフセルの充電レート能力が改善された。
【0145】
【表6】
【0146】
グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードの電解質の比較的低い体積分率についての考察 - 同じ充電レート能力を示すために、OIPC複合体アノードで必要とされる輸送イオン塩の量は、液体電解質中のものよりも少ないと評価された(図4)。OIPC複合体中の電解質の量が比較的少ない理由として、充電/放電時に発生しやすいOIPC複合体内部の液相の存在が考えられる。
【0147】
このことを理解するために、まず、グラファイトを完全にリチウム化するのに必要なリチウムイオンの量、およびOIPC複合体を含むPVdF繊維中のリチウムイオンの量を計算した。容量が0.246mAhである場合(表S1の活性材料比、およびOIPC複合体を含まない固体グラファイトアノードの負荷、ならびにグラファイトの容量340mAh/gに基づいて推定)、この値をファラデー定数(96,485A s mol-1)で除すと、グラファイトを完全にリチウム化するためのLiイオンの量(9.2×10-6mol)が得られる。しかし、PVdF繊維中のリチウムイオンの量は2.0×10-6molである(PVdF繊維の厚さ:100μm、PVdF繊維の面積:0.503cm、および表7の集計情報を使用する)。これは、充電中にリチウム金属から多くのリチウムイオンが発生することを意味する。
【0148】
【表7】
【0149】
実施例1の結論 - グラファイトアノードのためのOIPC結合剤 - [Cmpyr][FSI]複合体をグラファイトアノードに組み込むことにより、ASSBの充電レート能力およびサイクル寿命を向上させる有望な手法が実証された。電極内部のOIPC複合体比が充放電プロファイルおよびアノード構造に及ぼす影響を、電池試験、SEM、EDX、およびEISによって系統的に調べた。固体グラファイトアノードまたはグラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードのいずれか、[Cmpyr][FSI]複合体が充填された電界紡糸PVdF繊維、およびリチウム金属を含むハーフセルは、最初の充電時に比較的大きな不可逆容量を示したが、クーロン効率はサイクル数の増加とともに徐々に改善した。充電レート能力は、内部のOIPC複合体比の増加とともに改善され、50wt%では液体電解質を用いたグラファイトアノードのもの(85.7%、2C充電で295.9mAh/g)に匹敵するようになった(充電容量比:89.5%、2C充電で295.7mAh/g)。この改善は、固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードの構造的な違いとして説明された。OIPC複合体の量が増加するにつれて、グラファイト粒子およびカーボンブラックがOIPC複合体で十分に覆われたアノードにおいて、良好なリチウムイオン伝導経路が確立された。最良のサイクル安定性は、OIPC複合体比30wt%の固体グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードで測定された。前調整は安定するまでに約20サイクルを要し、その後放電容量保持は明らかな減少傾向を示さず、100サイクル目で102.7%、257.4mAh/gに達した。結果は、グラファイト-[Cmpyr][FSI]複合体アノードの構造と特性の関係について有益な知見を与えるものであり、それによりOIPC複合体を使用したASSB開発のための強固な基礎を築く。
【0150】
実施例2
変換材料電極における結合剤としてのOIPC
示される実施例は、本明細書に記載されるOIPCまたはOIPC複合体の形態のイオン結合剤を電極に含む、酸化還元カップル/中心に基づく新しい種類の変換反応電極について記載する。記載された変換反応材料電極は、固体電池に特に好適である。本明細書に記載の変換反応材料電極は、電解質と変換材料活性物質との間の望ましくない反応を緩和し得ると考えられる。さらに、OIPCは、電極/電解質および/または電極/集電体間の界面接触を改善すると考えられる。OIPCは、変換反応電極のための新規の種類のイオン結合剤として動作する。OIPCは、電極層と固体電解質との間の界面接着を改善するために固体システムに導入されたが、得られる電極のイオン伝導性も向上する。
【0151】
必ずしもすべての場合ではないが、いくつかの好ましい場合において、OIPCまたはOIPC複合体と変換反応材料(例えば、遷移金属材料)を混合すると、固体電極組成物中に新しい相が形成され得る。OIPCを含めることから生じる好ましい電極組成物に関連する相変態は、電気化学的電位が印加されたときに、複合体電極の相組成および分布の可逆的な変化を可能にすると考えられる。さらに、新しい相は、電極複合体中に存在する酸化還元カップル材料を、存在する電荷キャリアのイオン輸送を促進するおよび/または酸化還元中心との間の変化移動を促進するように溶媒和するか、または他の方法で組み込むことができると考えられる。
【0152】
好適には、変換反応材料電極はカソードである。本発明の好適な固体電極組成物は、容易にコーティングに形成することができ、したがって薄膜加工技術に適用可能である。現在の材料は、少なくともLiおよびNa電池の変換材料製造においてOIPCが初めて使用されたことを示すと考えられる。
【0153】
OIPC変換材料カソードの例
例示的な遷移金属塩酸化還元活性材料として、いくつかの変換反応材料を含む多くの例を以下に示す。
【0154】
変換カソード例A
Fe(BF・6HOは、記載されるように、一連の異なるOIPCおよび無機リチウム塩と組み合わせて使用され、多くの新規OIPCカソード材料を形成する。グラフェンは、典型的な導電性向上添加剤としてOIPCカソード材料に含まれているが、当技術分野で公知の任意の好適な導電性向上添加剤を使用することができる。本明細書における実験報告では、導電性添加剤(グラフェン)の分率を変化させる。次に、新規OIPCカソードを、Li金属アノード、固体ポリ(IL)電解質膜(後述)を含むセルで試験した。結果を表9で以下に示す。
【0155】
形成される相および組成の正確な性質は調査中であるが、Fe(BF・6HO、CmpyrBFおよびLiBFを含む複合体の場合、一般化された反応は以下のように考えられる:
Li+e=Li
[Cmpyr][Fe2+][BF[Li]=[Cmpyr][Fe3+][BF+[Li]+e
【0156】
【表8】
【0157】
電気化学的特徴付け - Fe(BF6HOと様々なOIPC/Li塩複合体の電気化学的挙動を調査した。試料F6(Fe(BF6HO-CmpyrBF/LiBF-グラフェン)を主な例として示す。図9a~dは、Fe(BF6HO、CmpyrBFおよび最終カソード材料のSEM像を示す。元のFe(BF6HOとCmpyrBF/LiFSIのXRDパターン(図9e)を比較すると、Fe(BF6HO-CmpyrBF-LiFSI(Fe-PBL)のXRDスペクトルには新しい特徴的なピークは現れていない。これは、Fe(BF6HOとCmpyrBF-LiFSIの両方の構造が、混合後にそれらの構造を維持することを示す。グラフェンを電子伝導体としてFe(BF6HO-CmpyrBF-LiFSI混合物に添加して、Fe(BF6HO-CmpyrBF-LiFSI-グラフェンと名付けた電極複合体を作製すると、Fe(BF6HO-CmpyrBF-LiFSIのピークはブロード化した。Fe(BF6HOに属する5.9、7.9、8.9、9.4および13.9のいくつかのピークは消失さえしている。Fe(BF6HO-グラフェン混合物では、12.1に新たなピークが現れる。これらの結果は、グラフェンの添加によってFe(BF6HOの結晶構造がある程度まで変化し得ることを示唆する。
【0158】
Fe(BF×6HO-CmpyrBF-LiFSI-グラフェン電極のサイクリックボルタモグラム(CV)を図10aに示す。2.0~4.0Vに2組の酸化および還元ピークがある。走査速度が0.1mV/sの場合、二段階の酸化および還元ピーク電位は、それぞれ2.59/2.28Vおよび3.28/3.08Vである。Fe(BF6HOの理論比容量は、提案された2電子電気化学反応に基づき158.8mAhg-1である。
【0159】
結合剤としてOIPCを含むカソードFe(BF6HO-CmpyrBF-LiFSI-グラフェンと、市販の結合剤CMCを使用するカソード(Fe(BF×6HO-CMC-LiFSI-グラフェン)のレート能力の比較を図10bに示す。セルは、50℃で電圧範囲2.0~4.2V内で、C/20~2Cの異なる電流密度でサイクルした。Fe(BF6HO-CMC-LiFSI-グラフェンをカソードとして使用したSSIBは、C/20の電流レートで7.8mAhg-1の放電容量しか達成できないことがわかる。明らかに、Fe(BF6HO-CmpyrBF-LiFSI-グラフェンの容量は、試験したすべてのCレートで、Fe(BF6HO-CMC-LiFSI-gグラフェンよりもはるかに大きい。負荷が約0.4mg/cmであるFe(BF6HO-CmpyrBF-LiFSI-グラフェン複合体の最初のサイクルでは、C/20で120mAhg-1、C/10で80mAhg-1、C/5で64mAhg-1、1Cで55mAhg-1、2Cで42mAhg-1という高容量が得られた。
【0160】
充電/放電レートがC/20に戻ると、容量は78mAhg-1に戻る。放電容量は電流レートが増加するにつれて減少するが、これは分極に関連している可能性がある。図10dは、異なるCレートにおけるFe(BF・6HO-CmpyrBF-LiFSI-グラフェン複合体電極の最初のサイクルの対応するガルバノスタティック放電/リチウム化および充電/脱リチウム化曲線を示し、すべてのCレートにおいて平均電圧プラトーが約3.2Vであることを示す。C/20での初期放電容量は理論比容量の82%を達成し、理論比容量の半分で一定のままであった。この結果により、第二段階のリチウムイオン反応(3.28/3.08V)のみが可逆的であると結論づけることができる。
【0161】
Fe(BF6HO-CMC-LiFSI-グラフェンと比較すると、Fe(BF6HO-CmpyrBF-LiFSI-グラフェンは、電極と固体電解質の間の柔らかい界面接触のために、より低い界面抵抗を経験する(図10c)。OIPCはカソードの結合剤として機能して柔らかい界面を生じるだけでなく、カソードにおけるリチウムイオンの高速拡散性を促進する。これらの結果は、カソードと電解質の間の柔らかい界面を使用して構築された最適な電池構造を利用することにより、電池性能が大幅に改善され得ることを示す。
【0162】
電解質効果 - 電解質をPVDF-CmpyrBF/LiFSIに変更すると、電圧範囲は4.6Vまで拡大することができ、電池容量は0.05Cで50サイクル超にわたって約110mAhg-1に維持することができる(図12)。OIPC電解質PVDF-CmpyrBF/LiFSIを使用した場合、160mAhg-1を超える高い比容量を有するFe(BF6HO-CmpyrBF-LiFSI-グラフェン電極とは異なり、Fe(BF×6HO-CMC-LiFSI-グラフェンセルは、4.6Vまで充電すると故障する(図11)。同様に、Fe(BF6HO-CMC-LiFSI-グラフェン電極を、PVDF粉末/CmpyrFSI/LiFSI(固体)電解質と同様の電気化学的安定性および導電性を有する関連イオン液体電解質、CmpyrFSI/LiFSI(液体)とともに使用した場合(図14)、セルは即座に故障し、この場合、イオン液体溶媒中での電極成分の溶解が原因である可能性が高い。
【0163】
この結果は、電解質に使用されるOIPCが電池の性能に影響を与え得ることを示す。いくつかの実施形態では、好ましいセルにおいて、電解質に使用されるリチウム塩と電極に使用されるリチウム塩は、異なる対アニオンを有する。他の実施形態では、アニオンは同じである。
【0164】
要約 - 実験は、変換反応材料Fe(BF6HOに基づく新しいOIPC電極材料が調製され得ることを示す。OIPC電極材料の性能は、OIPC/塩の選択、導電性充填剤、ならびに使用されるOIPCおよび塩の比を含む、複合マトリックスの配合によって調整され得る。さらに、セルでは、性能を調整するために固体電解質の選択も使用することができる。特に、記載されたOIPC固体電極は容易にコーティングに形成されるため、薄膜加工技術に適用可能である。
【0165】
変換カソード例B
上記の変換電極組成の汎用性を示すために、ナトリウム金属アノードを使用し、組み込まれるNaFSI塩(LiFSIを代替する)を用いて類似のセルを調製した(図13)。類似のOIPC電解質(PVDF粉末/CmpyrFSI/NaFSI)を使用すると、Fe(BF6HO-CmpyrBF-NaFSI-グラフェンセルは、120mAhg-1付近および3.2Vの平均放電電圧で安定した性能を示すことがわかる。この例は、代替輸送金属イオンおよび対応するアノード化学とのOIPC変換電極材料の使用を強調し、新しいOIPC電極材料の幅広い応用を示す。
【0166】
変換カソード例C
金属ハロゲン化物、金属酸化物、金属硫化物などの他の変換電極材料もOIPCマトリックス内に分散させることができる。本明細書では、活性材料はOIPC/塩複合体内で分離した相として残ると考えられる。したがって、機序は上記の鉄の例とは明らかに異なる可能性がある。しかし、OIPC結合剤がなければ、これらの電極はサイクリング挙動を示さないと考えられる。
【0167】
CuF/CmpyrBF/LiBF/グラフェンカソードおよびCuF/PVDF/LiBF/グラフェンカソードを調製し、セル性能の比較を図15に示す。OIPCを電極内に組み込んだ場合、優れた容量および安定性が示される。これらの例では、サイクリング性能を安定化させるために、OIPC、Li塩、および変換電極材料(CuF)の最適な組合せおよび組成が得られていないと考えられる。表10は、異なるOIPC、結合剤、Li塩および固体電解質組成を有するCuF変換電極材料の代替的な組合せと、各組成で得られた電気化学的性能を示す。成分のそれぞれに対するセル性能の依存性が明確に示される。
【0168】
【表9】
【0169】
変換カソード例DおよびE
異なる変換電極材料を使用して、新しいOIPC電極材料の幅広さをさらに実証するために、同じ方法および一般的な組成を使用して代替的な変換カソード材料を調製した。OIPC電解質およびOIPC電極材料を使用して、固体状態で変換電極活性材料容量の利用性を実証する。表11に示すセル性能データは、一般的な組成の活性材料(FeCl、Feトリフレート、CoCl、CoTFSI、CoF)80wt%、グラフェン5wt%、OIPC9wt%、およびLi塩6wt%の結果を示す。いずれの場合も、活性材料は機能することが示されているが、その後の充電/放電サイクリング後の容量の減衰の程度は様々である。この場合、試用した組成の制限された範囲では、利用性およびサイクリング安定性を向上させるためにさらなる最適化が必要であるが、変換電極型材料を使用したASSBを可能にするOIPCの有用性および機能は実証された。図16は、新規のメタリン酸塩カソード材料、Ni(PO(例えば、ChemElectroChem2020、7、2831参照)を用いた新しいOIPC電極材料の使用を強調しており、OIPC結合剤なしの電極との比較を示し、CmpyrFSI OIPC結合剤によってもたらされた容量および安定性の改善を強調している。結合剤としてOIPCを含むカソードで205mAh/gの高容量が2サイクル目で得られ、これは市販の結合剤CMCを使用したカソードの容量(43mAh/g)よりもはるかに高い。100サイクル後、OIPCを用いたカソードの容量は32mAh/gで依然として残っているのに対し、OIPCを用いないカソードの容量は0.5mAh/gしか残っていない。表12は、Ni(POのサイクル性能の電極負荷量に対する依存性を示し、OIPCがない場合(試料N3)、OIPCによって寄与される性能の向上を再び示す。
【0170】
【表10】
【0171】
【表11】
【0172】
変換電極材料のOIPC結合剤に関する考察: - 本明細書で報告された実験は、少なくとも50サイクルのサイクリングで充放電を支援するOIPCカソードとして変換電極材料(例えば、Fe(BF6HO、CuF、CoF、FeCl、Feトリフレート、CoCl、CoTFSI、CoFなど)を調製し、調合できることを示す。電池性能は複合マトリックスの性質に関連しており、性質はOIPC/塩、導電性充填剤、ならびに使用する成分の比および量の選択によって調整することができる。
【0173】
いくつかの組成では、高い初期比容量が得られた(例えば、CoCl6HO-CmpyrFSI/LiFSI)。しかし、OIPCマトリックス内の塩溶解がDSCによって示されたFe(BF6HOから形成された好ましい相組成物とは異なり、変換電極組成物は容量の減衰を示す傾向があった。
【0174】
それにもかかわらず、これらの例は、OIPCマトリックス内の変換活性材料の分散が、良好な容量および安定性を有する固体電極を可能にする将来性を示すことを実証する。本明細書に記載の3~4Vデバイスは、理論比エネルギー(例えば、Fe(BF6HOの例では477Wh/kg)、高い熱およびサイクリング安定性、ならびに安全な全固体電池を達成するために最適化することができる。
【0175】
変換型電極を改良するために、OIPC電極設計がASSBに有望な性能をもたらす効果的な手法であることをここで実証する。酸素、ハロゲン、カルコゲナイド、またはプニクタイドの群からのアニオンとの遷移金属塩を含む変換型電極は、その高い理論比容量により注目を集めてきた。同時に、公知のOIPCの範囲は着実に広がっており、イオン伝導性の増加、安定性の改善および輸率の増加など、優れた電気化学的性能に向けて大きな進歩がなされてきた。
【0176】
テトラシアノボレート、テトラハロゲノフェレート(III)、カンファースルホネート、およびノナフレートなどの様々なアニオンが結合したピロリジニウム、イミダゾリウム、ホスホニウム、グアニジニウム、オキサゾリジニウムおよびメタロセニウムカチオンを含む新しいOIPCが発見され、集中的に研究されている。OIPC電極戦略は、広範なOIPCファミリーおよび変換電極材料に基づく高度な電極を開発するための新しい分野を開く。カソード材料分野で本明細書で明らかにされた戦略は、アノードにも適用される可能性があり、電池電極ライブラリーを改良するだけでなく、ナトリウム電池の範囲をさらに広げる潜在性を有する。有機金属イオンハイブリッド電極およびそれ以外の分野におけるこの先駆的な研究、および実用的な実装に向けて前進するための将来のエネルギー測定基準の指針、さらに、新規材料の開発という点で、この研究は、実用的な高エネルギー電池の探索において、貯蔵容量とともに酸化還元電位をさらに増加させ、サイクリング安定性を改善するための化学的および構造的修正の多くの可能性を提供する。
【0177】
実施例F
インターカレーション型層状酸化物およびポリアニオン性カソードにおけるOIPC結合剤
OIPCを、OIPC混合イオン電子伝導体(MIEC)ポリマー複合体結合剤の形態で、LiFePOカソード材料の結合剤として使用した。本明細書におけるOIPC結合剤複合材料に使用される例示的なMIECポリマーは、優れたイオンおよび電子伝導性を有することが見出されたPEDOT:PSSである。80/20の比のPEDOT:PSS/CmpyrFSI複合体を有するOIPC複合体結合剤を、電子およびイオン伝導性結合剤として電池セルで試験するために選択した。複合体の高い電子およびイオン伝導性、ならびに良好な機械的特性のために、これらを固体リチウムイオン電池の導電性結合剤として適用した。固体電池のサイクリングには、カソードの放電を助けるために、電極内に一定量のリチウムイオンの供給源が必要である。LiFSI塩とCmpyrFSI OIPCとの間の良好な相互作用が既に報告されており、これがさらに高いイオン伝導性をもたらすことから、80/20PEDOT:PSS/CmpyrFSI複合体を、イオン適合性を維持するために電池用途に選択した。このOIPC-MIEC複合材料の優れたイオンおよび電子伝導性は、電極が炭素を含まない電極である可能性があることを意味していた。OIPC複合体をカソード結合剤として含む固体Li|LiFePOセルを調製した。固体電池電極は通常60wt%の活性材料を含むことを考慮して、以下の配合を提案し、特徴付けた:LFP60%、80/20PEDOT:PSS/CmpyrFSI複合体35%、およびLiFSI5%。ポリ(イオン液体)ブロックコポリマー、N-メチル-N-プロピルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(CmpyrFSI)イオン液体、およびLiFSIに基づく以前に研究された三元系ポリマー電解質系(PILBLOC)は、リチウム金属との良好な適合性、および0.20mAcm-2までの安定したサイクリング性能を有するため、固体電解質として使用した(米国特許出願16/649,753、2020、Journal of The ElectroChemical Society 167(7),070525を参照されたい)。セルを、ポリ(イオン液体)固体電解質を使用したガルバノスタティック充放電によって試験した。OIPC-MIEC結合剤を用いた固体Li|LiFePOセルは、イオン伝導性結合剤を用いたセルに比べて向上した放電容量(C/10で156mAh g-1)およびレート能力を示した(図17)。C/2レートで145mAh g-1の比容量が達成され、70℃で70サイクル後にほぼ100%の容量が保持された。セルの性能は、一般的なイオン伝導性結合剤を使用した場合(C/2および70℃で130mAh g-1)よりも優れていた。OIPC-MIEC複合体の形態のOIPC結合剤は、全固体電池用の非多孔質電極内で優れた電子-イオン相互接続を提供すると考えられる。測定された複合体の電子伝導性は、C65ペレット(2.01±0.17Scm-1、583μm)よりも高かった(469Scm-1)。CレートをC/2まで上げると、拡散制限の結果として過電圧が大きくなった。この効果は、その強く分極したプロファイルが結合剤の容量的性質に起因し、高い容量密度に達する原因となり得る80/20PEDOT:PSS/CmpyrFSIセルの場合と比べ、PILBLOC電極ではるかにより顕著である。いずれのシステムでもC/10で低い過電圧を観察することができ、OIPC-MIEC結合剤のより高い容量は、電子伝導性ポリマーを電極配合物に使用した場合に一般に見られる電極内のより良好な電子的相互接続に起因する可能性がある。得られた値の要約を表11に列挙し、類似セルの報告された性能と比較する。P:PSS/CmpyrFSI結合剤で得られた性能は非常に有望であり、非多孔質構成における活性材料のための高Li供給物質と、卓越した電子伝導剤の両方として挙動するPEDOT:PSS/OIPC複合体の能力を確証する。
【0178】
【表12】
【0179】
さらなる例では、1.1mAhcm-2のより濃い電極負荷量で、OIPC結合剤をLiFePOインターカレーション電極(図19図20)、およびLiMnOインターカレーション電極(図21)と組み合わせた。これらの例では、以前から使用されているPILBLOC電解質を利用し、OIPC結合剤は従来のPVdFポリマーおよびC65炭素添加剤とともに使用した。LiFePOセルは、50℃でC/20~C/10で50サイクル後に、ほぼ100%の容量を保持する優れた安定性を実証した(図19)。同じ電極はまた、C/2までのより高いレートで、50℃で70サイクルまで優れた安定性を示し、高いサイクリング効率を伴った(図20)。より高電圧のLiMnOカソードを用いて調製した同等のセル(図21)も、信頼性の高いサイクリングを維持し、180サイクル後に98mAhg-1、および初期放電容量の84.5%を保持した。これらの結果は、従来の電極配合におけるOIPC結合剤の使用、ならびに従来の電極薄膜加工技術および結合剤および導電性添加剤を使用したASSBにおける効果的な使用を強調する。
【0180】
実験セクション
材料:水中1.3wt.%の固形分のポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホネート)(Clevios PH 1000)、は、Heraeus Inc.から供給された。N-エチル-N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニルイミド)(CmpyrTFSI)(99%)はIoLiTecから購入し、N-エチル-N-メチルピロリジニウムビス(フルオロスルホニルイミド)(CmpyrFSI)は以前に報告されたように合成した。[25] N-プロピル-N-メチルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(CmpyrFSI、99.5%)は、Solvionicから供給された。リン酸鉄リチウム(LiFePO)(ALEEES)およびSuperC65(Timcal)。1-メチル-2-ピリリジノン(NMP)(99.5%)はSigma Aldrichから購入した。PILBLOCポリマーは、以前に報告された研究と同様に得た。その内容が参照により組み込まれる、米国特許出願16/649,753、2020およびJournal of The Electrochemical Society 167(7),070525を参照されたい。
【0181】
固体電解質:
カソードの調製:混合導電性結合剤-LiFePO系スラリーは、まず凍結乾燥したPEDOT:PSS、CmpyrFSI、およびLiFSIをDMSOに分散させ、最後に60/28/7/5(LiFePO/PEDOT:PSS/CmpyrFSI/LiFSI)の加重比の活性材料粉末を分散させることによって調製した。PILBLOC-LiFePO電極は、NMP中で対応する加重比の量:60 LiFePO/10 C65/30 PILBLOC)を用いて以前の研究から最適化したPILBLOC(LiFSI:2mol;CmpyrFSI:1mol)を混合することによって得た。調製したスラリーを、ドクターブレードを使用することによって炭素コーティングされたアルミニウム集電体にキャストし、室温で乾燥させ、最後に真空下で60℃で一晩乾燥させた。混合した導電体結合剤とリチウム塩の使用によってリチウムのイオン伝導が確保されるため、カソードを濡らすために液体電解質は使用しなかった。得られた電極の質量負荷は、両方の系で1.2mg cm-2であった。
【0182】
セルの特徴付け:Li|LiFePOセル(CR2032)は、50μmのリチウム箔を使用してアルゴングローブボックス内で組み立てた。電解質の最適温度である70℃で、電池試験機(Neware)を使用してガルバノスタティックサイクリングを行った。
【0183】
実施例G
シリコンアノードにおけるOIPC結合剤
ここに記載される[Cmpyr][FSI]複合体結合剤を含むシリコンアノードを調製し、液体電解質結合剤(LP30 - EC-DMC(1:1vol%)中1M LiPF)を含むSiアノードのものとセル性能を比較した。
【0184】
Si/[Cmpyr][FSI]電極は、PVdF/[Cmpyr][FSI]OIPC中間層、および本明細書の他の箇所に記載されるリチウム金属アノードとともに使用した。Si/[Cmpyr][FSI]複合体アノード電極は、以下:59.5wt%:12.8wt%:9.2wt%:5.8wt%のSi:カーボンブラック:Na-CMC:[Cmpyr][FSI]:LFSIの含有量を有する。Si/[Cmpyr][FSI]複合体アノードは、0.22~0.28mg/cmの負荷および0.20~0.43g/cm3の密度で使用した。Si電極は、LP30電解質およびCelgard3501セパレータ、および本明細書の他の箇所に記載されるリチウム金属アノードとともに使用した。Siアノードは、以下:70:15:15wt%のSi:カーボンブラック:Na-CMC含有量として使用した。試験条件は以下の通りであった:充電 - 0.07V、0.02C-CC;放電 - 1.0V、0.02C-CC;休止 - 充電と放電の間に10分間;温度 - 50℃。
【0185】
充電-放電プロファイルを図18に示す。薄いコーティングにより、決定された比容量値に誤差が生じたため、理論比容量値よりも大きな比容量値が得られた。しかし、コーティングは同じプロセスによって得られたため、セル間の比較は有効である。OIPC結合剤電極の性能は、概して液体電解質の性能と一致することが示され、いずれの電極も、Siアノードの高利用サイクリングで周知の問題である、サイクリングに伴う比較的急速な容量減衰を示す。OIPC/Si電極は、79.4%の1サイクル目の効率を示し、5サイクル目までに5879mAhg-1の脱リチウム容量(1サイクル目の脱リチウムの56.9%を保持)を示した。それと比較して、OIPCを用いないSiアノードは、78.6%の1サイクル目の効率を示し、5サイクル目までに4975mAhg-1(59.7%保持)を示した。結果は、ASSB Si/OIPC電極の性能が、市販の電解質を使用した液体セルの性能に一致し得ることを示す。
図1a
図1b
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
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図25
図26
【国際調査報告】