(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-10
(54)【発明の名称】被膜拘縮、及び移植体の周囲又は移植体上での線維増殖の阻害に関連する状態の処置のためのフカン及び修飾フカン組成物
(51)【国際特許分類】
A61L 27/34 20060101AFI20240903BHJP
A61L 29/08 20060101ALI20240903BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20240903BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
A61L27/34
A61L29/08 100
A61L31/10
A61L27/50 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510504
(86)(22)【出願日】2022-08-18
(85)【翻訳文提出日】2024-04-22
(86)【国際出願番号】 CA2022051254
(87)【国際公開番号】W WO2023019360
(87)【国際公開日】2023-02-23
(32)【優先日】2021-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521030700
【氏名又は名称】エーアールシー メディカル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ヘソン
(72)【発明者】
【氏名】ミレット、イアン
(72)【発明者】
【氏名】スプリンゲート、クリストファー マイケル ケヴィン
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB04
4C081AB22
4C081AB32
4C081AB34
4C081AB35
4C081AB38
4C081AC08
4C081AC10
4C081BA14
4C081CD012
4C081DA02
4C081DA12
(57)【要約】
被膜拘縮及び他の異物反応(FBR)状態の処置を含む医療用途及び外科的用途に適する医学的に許容可能なフカンを含む組成物及び方法であって、医療用途及び外科的用途は移植体及び移植手術に関し、埋め込み/移植後のインプラント若しくは移植体の周囲又はインプラント若しくは移植体上でのGVHD及び線維増殖や、関連する疾患、感染症、外傷などに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者において前記患者上又は前記患者内のインプラントの部位で線維性被膜(fibrous capsule)形成を処置する方法であって、治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を用いて前記線維性被膜形成を処置することを含む、方法。
【請求項2】
患者において前記患者上又は前記患者内のインプラントの部位で異物反応を処置する方法であって、治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を用いて前記異物反応を処置することを含む、方法。
【請求項3】
患者において前記患者上又は前記患者内のインプラントの部位で被膜拘縮を処置する方法であって、治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を用いて前記被膜拘縮を処置することを含む、方法。
【請求項4】
患者において前記患者上又は前記患者内のインプラントの部位でバイオフィルム感染症(biofilm infection)を処置する方法であって、治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を用いてバイオフィルム形成を処置することを含む、方法。
【請求項5】
前記の処置が、阻害することを含む、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記インプラントが、医療器具、薬物又は組み合わせ製品の少なくとも1つを含む、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記インプラントが、合成によらない(non-synthetic)材料、生体材料、天然由来の材料及び合成材料の少なくとも1つで構成される、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記インプラントが、骨プレート、骨折固定器具、股プロテーゼ、膝プロテーゼ、肩プロテーゼ、足首プロテーゼ、肘プロテーゼ、人工靭帯、人工腱、細胞治療材(cellular therapy)、遺伝子治療材(gene therapy)、ペースメーカーカプセル(pacemaker encapsulation)、カテーテル、ステント、人工心臓弁、人工動脈、徐放用薬物貯蔵デバイス、糖尿病モニタ、インスリンポンプ、皮膚修復デバイス、乳房インプラント、人工内耳、眼内レンズ、人工血管、神経導管、外科用メッシュ、器官、組織及び細胞の少なくとも1つを含む、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記インプラントが、自家移植片、同種移植片、フィブリン、ポリ乳酸、乳酸-グリコール酸共重合体、アルギン酸塩(alginate)、カラギーナン、ヒアルロナン、ヘパリン、合成ポリウレタン、ポリエステル、シリコーン、アルミニウム、スチール、チタン、コバルト、クロム、ニッケル、金、銀、プラチナ、金属合金、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、無機塩誘導体、アルミナ、ジルコニア、生体活性ガラス、ポーセレン、カーボン、環状オレフィン共重合体、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリ塩化ビニル、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリプロピレン、シリコーン、ヒドロゲル、セルロース、デンプン、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、コラーゲン、ゼラチン、シルク、キチン、キトサン、グルコース、心臓弁、血管及び肝臓組織の少なくとも1つで構成される、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することが、前記インプラントを前記患者に配置(deliver)する前に前記インプラントの少なくとも1つの表面を前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物でコーティングすることを含む、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することが、前記インプラントを前記患者に配置(deliver)した後に前記インプラントの少なくとも1つの表面を前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物でコーティングすることを含む、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することが、前記インプラントを前記患者に配置(deliver)する前に前記インプラント内に前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を埋め込むことを含む、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することが、前記インプラントを前記患者に配置(deliver)した後に前記インプラント内に前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を埋め込むことを含む、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することが、前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を前記インプラントと共投与すること(co-administering)を含む、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することが、前記インプラントを前記患者に配置(deliver)する前に前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を投与することを含む、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することが、前記インプラントを前記患者に配置(deliver)した後に前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を投与することを含む、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記の投与が、前記インプラントの前記部位で起こる、請求項14~請求項16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記患者が、動物である、請求項1~請求項17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記医学的に許容可能なフカン組成物が、ペースト、ゲル、パッチ、フィルム、スプレー、液体、ローション、クリーム、溶液、懸濁液、固体、インプラント、粉末及び細粒の少なくとも1つを含む、請求項1~請求項18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記医学的に許容可能なフカン組成物が、ゼラチン、ヒプロメロース、乳糖、注射用水(USP)、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸-クエン酸緩衝液、プルロニック、セルロース、アルギン酸塩(alginate)、アクリル酸塩(acrylate)、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、乳酸-グリコール酸共重合体、アルギン酸塩(alginate)、カラギーナン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、キトサン及び乳酸リンゲル注射剤USPからなる群から選択される少なくとも1つの医学的に許容可能な添加剤をさらに含む、請求項1~請求項19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記医学的に許容可能なフカン組成物が、約200エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項1~請求項20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記医学的に許容可能なフカン組成物が、約100エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項1~請求項20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記医学的に許容可能なフカン組成物が、約50エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項1~請求項20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記医学的に許容可能なフカン組成物が、約20エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項1~請求項20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記医学的に許容可能なフカン組成物が、約10エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項1~請求項20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記医学的に許容可能なフカン組成物が、約5エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項1~請求項20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記医学的に許容可能なフカン組成物が、約2エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項1~請求項20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
線維性被膜形成を処置するための、医学的に許容可能なフカン組成物の使用。
【請求項29】
異物反応を処置するための、医学的に許容可能なフカン組成物の使用。
【請求項30】
被膜拘縮を処置するための、医学的に許容可能なフカン組成物の使用。
【請求項31】
バイオフィルム感染症を処置するための、医学的に許容可能なフカン組成物の使用。
【請求項32】
インプラントと、医学的に許容可能なフカン組成物とを含む、組成物。
【請求項33】
前記インプラントが、医療器具、薬物及び組み合わせ製品の少なくとも1つを含む、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
前記インプラントが、合成によらない材料、生体材料、天然由来の材料及び合成材料の少なくとも1つで構成される、請求項32又は請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
前記インプラントが、骨プレート、骨折固定器具、股プロテーゼ、膝プロテーゼ、肩プロテーゼ、足首プロテーゼ、肘プロテーゼ、人工靭帯、人工腱、細胞治療材、遺伝子治療材、ペースメーカーカプセル、カテーテル、ステント、人工心臓弁、人工動脈、徐放用薬物貯蔵デバイス、糖尿病モニタ、インスリンポンプ、皮膚修復デバイス、乳房インプラント、人工内耳、眼内レンズ、人工血管、神経導管、外科用メッシュ、器官、組織及び細胞を含む、請求項32~請求項34のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項36】
前記インプラントが、自家移植片、同種移植片、フィブリン、ポリ乳酸、乳酸-グリコール酸共重合体、アルギン酸塩(alginate)、カラギーナン、ヒアルロナン、ヘパリン、合成ポリウレタン、ポリエステル、シリコーン、アルミニウム、スチール、チタン、コバルト、クロム、ニッケル、金、銀、プラチナ、金属合金、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、無機塩誘導体、アルミナ、ジルコニア、生体活性ガラス、ポーセレン、カーボン、環状オレフィン共重合体、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリ塩化ビニル、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリプロピレン、シリコーン、ヒドロゲル、セルロース、デンプン、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、コラーゲン、ゼラチン、シルク、キチン、キトサン、グルコース、心臓弁、血管及び肝臓組織の少なくとも1つで構成される、請求項32~請求項35のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項37】
前記組成物が、約200エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項32~請求項36のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項38】
前記組成物が、約100エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項32~請求項36のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項39】
前記組成物が、約50エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項32~請求項36のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項40】
前記組成物が、約20エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項32~請求項36のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項41】
前記組成物が、約10エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項32~請求項36のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項42】
前記組成物は約5エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項32~請求項36のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項43】
前記組成物が、約2エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項32~請求項36のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項44】
患者において前記患者上又は前記患者内の移植体の部位で移植状態を処置する方法であって、治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を用いて前記移植状態を処置することを含む、方法。
【請求項45】
前記の処置が、前記移植状態を阻害することを含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記移植体が、心臓移植体、腎臓移植体、肝臓移植体、肺移植体、膵臓移植体、腸移植体、胸腺移植体、子宮移植体、骨及び腱移植体、角膜移植体、皮膚移植体、心臓弁移植体、神経移植体又は静脈移植体の少なくとも1つを含む、請求項44~請求項45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することが、前記移植体を前記患者に配置(deliver)する前に前記移植体の少なくとも1つの表面を前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物でコーティングすることを含む、請求項44~請求項46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することが、前記移植体を前記患者に配置(deliver)した後に前記移植体の少なくとも1つの表面を前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物でコーティングすることを含む、請求項44~請求項46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することが、前記移植体を前記患者に配置(deliver)する前に前記移植体内に前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を埋め込むことを含む、請求項44~請求項46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することが、前記移植体を前記患者に配置(deliver)した後に前記移植体内に前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を埋め込むことを含む、請求項44~請求項46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することが、前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を前記移植体と共投与することを含む、請求項44~請求項46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することが、前記移植体を前記患者に配置(deliver)する前に前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を投与することを含む、請求項44~請求項46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することが、前記移植体を前記患者に配置(deliver)した後に前記治療有効量の前記医学的に許容可能なフカン組成物を投与することを含む、請求項44~請求項46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記の投与が、前記移植体の前記部位で起こる、請求項44~請求項53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記患者が、動物である、請求項44~請求項54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記医学的に許容可能なフカン組成物が、ペースト、ゲル、パッチ、フィルム、スプレー、液体、ローション、クリーム、溶液、懸濁液、固体、移植体、粉末及び細粒の少なくとも1つを含む、請求項44~請求項55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記医学的に許容可能なフカン組成物が、ゼラチン、ヒプロメロース、乳糖、注射用水(USP)、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸-クエン酸緩衝液、プルロニック、セルロース、アルギン酸塩(alginate)、アクリル酸塩(acrylate)、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、乳酸-グリコール酸共重合体、アルギン酸塩(alginate)、カラギーナン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、キトサン及び乳酸リンゲル注射剤USPからなる群から選択される少なくとも1つの医学的に許容可能な添加剤(excipient)をさらに含む、請求項44~請求項56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記医学的に許容可能なフカン組成物が、約200エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項44~請求項57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記医学的に許容可能なフカン組成物が、約100エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項44~請求項57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記医学的に許容可能なフカン組成物が、約50エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項44~請求項57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記医学的に許容可能なフカン組成物が、約20エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項44~請求項57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記医学的に許容可能なフカン組成物が、約10エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項44~請求項57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記医学的に許容可能なフカン組成物が、約5エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項44~請求項57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
前記医学的に許容可能なフカン組成物が、約2エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項44~請求項57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
移植状態を処置するための、医学的に許容可能なフカン組成物の使用。
【請求項66】
移植体と、移植状態を処置するのに十分な医学的に許容可能なフカン組成物とを含む、組成物。
【請求項67】
前記組成物が、約200エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項44~請求項66のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項68】
前記組成物が、約100エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項44~請求項66のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項69】
前記組成物が、約50エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項44~請求項66のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項70】
前記組成物が、約20エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項44~請求項66のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項71】
前記組成物が、約10エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項44~請求項66のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項72】
前記組成物が、約5エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項44~請求項66のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項73】
前記組成物が、約2エンドトキシン単位(EU)未満を含む、請求項44~請求項66のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
被膜拘縮及び他の異物反応(FBR)状態の処置を含む医療用途及び外科的用途に適する医学的に許容可能なフカンを含む組成物及び方法であって、医療用途及び外科的用途は移植体及び移植手術に関し、埋め込み/移植後のインプラント若しくは移植体の周囲又はインプラント若しくは移植体上でのGVHD及び線維増殖や、関連する疾患、感染症、外傷などに関する。
【背景技術】
【0002】
フカン(フコイダンを含む)は硫酸化多糖類である。一般化して言えば、これは、フカンがいくつかの糖類から形成される分子であり、さらに糖類に硫黄原子が結合していることを意味する。主要成分をなす糖類は「フコース」と呼ばれており、フコースは6つの炭素原子を有し、化学式がC6H12O5である糖である。「フコイダン」(又はフコイジン)は褐藻(海藻)から得られるフカンを指す。フカンは単独で存在することも、他の糖の混合物中、たとえば、キシロース、ガラクトース、グルコース、グルクロン酸及び/又はマンノースなどの糖の混合物中に存在することもありうる。このような他の糖を、フカンを含む海藻や他の資源から抽出することができる。現状ではフカンは本開示に記載されている褐藻(海藻)、ナマコなどの天然資源から得られるが、「フカン」は、フカンの発生源に関係なく、本開示で説明されているようなフカンの化学的モチーフ及び構造的モチーフを持つポリマー分子を含む。
【0003】
フコイダンは、アデノシスティス・ウトリキュラリス(Adenocystis utricularis)、アスコフィラム・ノドサム(Ascophyllum nodosum)、コルダ・フィラム(Chorda filum)、シストセイラビーズ・マリーナ(Cystoseirabies marina)、ダービレアアンタークティカ(Durvillaea antarctica)、クロメ(Ecklonia kurome)、エクロニア・マキシマ(Ecklonia maxima)、アラメ(Eisenia bicyclis)、ヒバマタ(Fucus evanescens)、フーカス・ベシクロシス(Fucus vesiculosis)、ヒジキ(Hizikia fusiforme)、ヒマンタリア・エロンガタ(Himanthalia Elongata)、ガゴメコンブ(Kjellmaniella crassifolia)、ラミナリア・ブラジリエンシス(Laminaria brasiliensis)、チジミコンブ(Laminaria cichorioides)、ラミナリアハイパーボレア(Laminaria hyperborea)、マコンブ(Laminaria japonica)、ラミナリア・サッカリーナ(Laminaria saccharina)、レッソニア・トラベクラタ(Lessonia trabeculata)、オオウキモ(Macrocystis pyrifera)、ペルベティア・ファスティジャータ(Pelvetia fastigiata)、ペルベチア・カナリクラタ(Pelvetia Canaliculata)、ホソメコンブ(Saccharina japonica)、サッカリナ・ラティシマ(Saccharina latissima)、サラガッサム・ステノフィルム(Sargassum stenophylum)、ウミトラノオ(Sargassum thunbergii)、フシスジモク(Sargassum confusum)、ヒジキ(Sargassum fusiforme)及びワカメ(Undaria pinnatifida)を含む(ただしこれらに限定されない)様々な種の褐藻から得ることができる。これらの種の例のすべてが分類学上の綱 褐藻類から得られるものであり、これらの種の大部分がヒバマタ目及びコンブ目の科に含まれる。
【0004】
本開示で用いられる場合、「移植(transplant)」は、器官又は組織を身体内又は身体上に移植する外科手術を意味し、すなわち、典型的には種内での所定の身体から別の身体への器官又は組織の外科的挿入や、体の内の所定の場所から同じ体の内の別の場所への器官又は組織の外科的挿入を意味する。「移植体」は全体が器官である器官又は組織であるので、人口膝関節又は人口眼内レンズなどのインプラントなどとは区別され、インプラントは、血液、ワクチン、アレルギー誘発体、組織、細胞、細胞治療材(cellular therapy)や遺伝子治療材(gene therapy)から得られる生物学的要素などの器官由来の構成要素を含む場合があるが、通常は器官ではないものである。
【0005】
本開示では、被膜拘縮又は移植体対宿主病(GVHD(https://en.wikipedia.org/wiki/Graft-versus-host_disease))など、移植体及び移植手術に関連する状態、及び、インプラント若しくは移植体の上若しくはその周囲の線維増殖の阻害に関連する状態を処置するための、フカンを含む組成物及び方法が提供され、これについては、前記被膜拘縮、移植状態又はインプラント状態を処置(副作用の少ない処置を提供することが含まれる)するための化合物、組成物、方法など(送達手法を含む)に対する未解決の要求はなくなっている。本システムや本方法などにより、上記の効果及び/又は他の効果を奏する。
【0006】
参照による援用
本出願には2019年7月24日に出願された公開公報PCT/CA2019/051025、2019年7月24日に出願された公開公報PCT/CA2019/051026、2019年7月24日に出願された公開公報PCT/CA2019/051027、2019年7月24日に出願された公開公報PCT/CA2019/051030、2019年7月24日に出願された公開公報PCT/CA2019/051028、2020年3月5日に出願された公開公報PCT/CA2020/050294、2020年3月5日に出願された公開公報PCT/CA2020/050295、及び2019年7月24日に出願された公開公報PCT/CA2019/051029の全体が参照によって援用される。
【発明の概要】
【0007】
上記されているように、本出願は、被膜拘縮及び他の異物反応(FBR)状態の処置を含む、医療用途及び外科的用途に適する医学的に許容可能なフカンを含む組成物及び方法を対象とする。本出願は、移植体及び移植手術に関し、埋め込み/移植後のインプラント若しくは移植体の周囲又はインプラント若しくは移植体上でのGVHD及び線維増殖や、関連する疾患、感染症、外傷などに関する医療用途及び外科的用途に適する医学的に許容可能なフカンを含む組成物及び方法も対象とする。このような移植に関連するGVHD、線維増殖の問題などをまとめて本開示では「移植状態」と称することとする。本組成物及び本方法は、FBRや移植状態などの課題を扱うのに有効であり、処置上有効な医学的組成物に含まれる医学的に許容可能なフカンを含む。いくつかの実施形態では、医学的に許容可能なフカンはフコイダンである。本発明の医学的に許容可能なフカンは、これ自体が医学的組成物であり得、医学的組成物上に含まれたり医学的組成物中に含まれたりしてもよく、医学的組成物はたとえば、医学的に許容可能な医療器具、生物製剤(本開示の生物製剤には、ヒトを含む動物や微生物などの生物資源に由来する製品、たとえば、血液、ワクチン、アレルギー誘発体、組織、細胞、細胞治療材や遺伝子治療材が含まれる)、薬物、組み合わせ製品、医薬組成物、バイオ医薬品、並びに他の医学的に許容可能な組成物、治療上有効な組成物及び/又は医学的に有効な組成物を含み、本開示ではこれらのすべてをまとめて「医学的組成物」と称する。
【0008】
いくつかの実施形態では、本開示で説明されている医学的に許容可能なフカンを含む医学的組成物を患者に与えて、本開示で説明されているように被膜拘縮、インプラントの周囲での線維増殖などを処置する。いくつかの実施形態では、本開示で説明されている医学的に許容可能なフカンを含む移植状態用医学的組成物を患者に与えて移植状態を処置する。本開示の処置には、本開示で説明されている被膜拘縮や、インプラントの周囲での線維増殖の阻害、予防、除去、軽減、やその他処置が含まれる。本開示で説明されている医学的組成物は、医学的状況及び/又は外科的状況で用いられるのに適するように低いエンドトキシン濃度を持つ医学的に許容可能なフカンを含みうる。本開示の組成物は望ましい分子量分布及び/又は硫酸塩濃度を持つ医学的に許容可能なフカンをさらに含んでもよい。処置は、疑われる(suspected)部位に医学的組成物を投与することを含み得、ここで「疑われる」とは、その部位が被膜拘縮、又は異物及び/若しくは移植体の周囲の線維増殖の影響を既に受けているか、その部位が、被膜拘縮又はインプラントの周囲での線維増殖又は移植状態に罹患することについて、インプラント前/移植前のリスクレベルと比較して高いリスクにあると施術者が考えることを表わす。
【0009】
本システム、器具や方法などにより、特定の被膜拘縮又は移植体周囲の線維増殖又は移植状態(たとえば、サイトカイン活性やケモカイン活性などのシグナル活性が該状態の要素であるものが挙げられる)を処置する方法が提供される。いくつかの実施形態では、処置することは、患者の特定の部位における被膜拘縮、又はインプラント/移植体の周囲のこのような線維増殖の存在又は形成を阻害することを含む。たとえば、本方法は、被膜拘縮又はインプラント若しくは移植体の周囲の線維増殖が生じていることが疑われる患者の、被膜拘縮、又はインプラント/移植体の周囲の線維増殖の部位に治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を投与することを含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、本方法は、医学的に許容可能なフカン組成物を患者に投与する前に、患者の被膜拘縮、又はインプラントの周囲での線維増殖を阻害する必要があることを確認した後、これに特異的に患者に投与して阻害やその他処置を実現するのに用いられる医学的に許容可能なフカン組成物を選択することをさらに含む。いくつかの実施形態では、投与すること、処置すること及び/又は阻害することは、被膜拘縮、又はインプラントの周囲での線維増殖が生じていることが疑われる特定の処置部位を濯ぐ(rinsing)こと、又はこれとは異なるやり方で、被膜拘縮、又はインプラントの周囲での線維増殖が生じているか、それが生じていることが疑われる部位に医学的に許容可能なフカン組成物を直接投与することを含む。投与及び/又は処置/阻害モダリティとして本開示のフカン組成物を含む組成物で標的領域を濯ぐことが特に有効である場合がある。
【0011】
本システム、器具や方法などのいくつかの態様では、投与することは、被膜拘縮、又はインプラントの周囲での線維増殖が生じているか、それが生じていることが疑われる部位にたとえば、点滴注入液、リンス液、ジェルや粉末を介して医学的に許容可能なフカン組成物を直接送達することを含むが、これには経口薬などによる全身投与は含まれない。ポリマーを用いた徐放投薬形態やその他許容可能な徐放投薬形態のうちの所定の徐放により被膜拘縮、又はインプラントの周囲での線維増殖が生じているか、それが生じていることが疑われる部位に医学的に許容可能なフカン組成物を実質的に連続的に投与することができる。医学的に許容可能なフカン組成物を用いて静脈内投与、関節腔内投与、病変内投与、膣内投与、直腸投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下投与、外用投与、鼻腔内投与、眼内投与や経口投与を行うことができる。
【0012】
さらなる態様では、本システム、器具や方法などにより、インプラントを患者に配置する前にインプラントの少なくとも1つの表面を治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物でコーティングすることを含む、患者における被膜拘縮、又はインプラントの周囲での線維増殖を処置する方法が提供される。このような方法は、インプラントの表面を医学的に許容可能なフカン組成物でコーティングする前に、患者における被膜拘縮、又はインプラントの周囲での線維増殖を処置する必要があることを確認した後、インプラントの表面を医学的に許容可能なフカン組成物でコーティングして処置することを実現するのに用いられる医学的に許容可能なフカン組成物を選択することをさらに含みうる。
【0013】
医学的に許容可能なフカン組成物は、ゼラチン、ヒプロメロース、乳糖、注射用水(USP)、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸-クエン酸緩衝液、プルロニック、セルロース、アルギン酸塩(alginate)、アクリル酸塩(acrylate)、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、乳酸-グリコール酸共重合体、カラギーナン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、キトサン及び乳酸リンゲル注射剤USPからなる群から選択される少なくとも1つの医学的に許容可能な添加剤(excipient)をさらに含みうる。患者はヒトをいくつかの事例で含む動物でありうる。医学的に許容可能なフカン組成物はフコイダンを含み得、本開示の実施形態などは、本開示で説明されている被膜拘縮、又はインプラントの周囲での線維増殖を処置(阻害を含む)するための、医学的に許容可能なフカン組成物の使用を含む。また、本開示の実施形態などは、たとえば、被膜拘縮、異物反応、線維性被膜(fibrous capsule)形成及びバイオフィルム感染症(biofilm infection)を含む本開示の被膜拘縮、又はインプラントの周囲での線維増殖の少なくとも一方を処置(阻害を含む)するための医学的に許容可能な修飾フカンを含む組成物も含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、組成物は約0.2EU/mg未満、0.1EU/mg未満、0.05EU/mg未満、0.02EU/mg未満、0.01EU/mg未満、0.005EU/mg未満、0.002EU/mg未満の医学的に許容可能な修飾フカンを含む。さらなる実施形態では、組成物は約0.40%w/w未満の全窒素、約0.20%w/w未満の全窒素、約0.15%w/w未満の全窒素又は約0.10%w/w未満の全窒素を含みうる。修飾された医学的に許容可能なフカンは約10%w/w~60%w/wの硫酸塩又は約30%w/w~60%w/wの硫酸塩を含みうる。修飾された医学的に許容可能なフカンは0.5~3.0の、全フコースに対する全硫酸塩のモル比を有しうる。
【0015】
修飾された医学的に許容可能なフカンは1.1~3.0の、全フコースに対する全硫酸塩のモル比を有しうる。修飾された医学的に許容可能なフカンは約0.5~3.0又は約1.1~3.0の、全フコース及び全ガラクトースに対する全硫酸塩のモル比を有しうる。修飾された医学的に許容可能なフカンは約27%w/w~80%w/w又は約30%w/w~70%w/wの全炭水化物含有量を有しうる。修飾された医学的に許容可能なフカンの全炭水化物の割合としてのフコース含有量が約30%w/w以上、40%w/w以上、50%w/w以上、70%w/w以上、80%w/w以上又は90%w/w以上でありうる。修飾された医学的に許容可能なフカンの全炭水化物の割合としてのガラクトース含有量が約60%w/w未満、30%w/w未満、20%w/w未満又は10%w/w未満でありうる。修飾された医学的に許容可能なフカンの全炭水化物含量の割合としての全グルクロン酸、全マンノース、全ラムノース及び全キシロース含有量が約30%w/w未満、20%w/w未満、10%w/w未満又は5%w/w未満でありうる。
【0016】
本開示の本システム、器具や方法などにより、以下も提供される。
【0017】
患者において患者上又は患者内のインプラントの部位で線維性被膜形成を処置する方法は、治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を用いて線維性被膜形成を処置することを含みうる。いくつかの実施形態において。
【0018】
患者において患者上又は患者内のインプラントの部位で異物反応を処置する方法は、治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を用いて異物反応を処置することを含みうる。
【0019】
患者において患者上又は患者内のインプラントの部位で被膜拘縮を処置する方法は、治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を用いて被膜拘縮を処置することを含みうる。患者において患者上又は患者内のインプラントの部位でバイオフィルム感染症を処置する方法は、治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を用いてバイオフィルム形成を処置することを含みうる。
【0020】
処置することは阻害することを含み得、インプラントは医療器具、薬物又は組み合わせ製品の少なくとも1つを含みうる。インプラントは合成によらない(non-synthetic)材料、生体材料、天然由来の材料及び合成材料の少なくとも1つで構成されうる。インプラントは骨プレート、骨折固定器具、股プロテーゼ、膝プロテーゼ、肩プロテーゼ、足首プロテーゼ、肘プロテーゼ、人工靭帯、人工腱、細胞治療材、遺伝子治療材、ペースメーカーカプセル(pacemaker encapsulation)、カテーテル、ステント、人工心臓弁、人工動脈、徐放用薬物貯蔵デバイス、糖尿病モニタ、インスリンポンプ、皮膚修復デバイス、乳房インプラント、人工内耳、眼内レンズ、人工血管、神経導管、外科用メッシュ、器官、組織及び細胞の少なくとも1つを含みうる。インプラントは自家移植片、同種移植片、フィブリン、ポリ乳酸、乳酸-グリコール酸共重合体、アルギン酸塩(alginate)、カラギーナン、ヒアルロナン、ヘパリン、合成ポリウレタン、ポリエステル、シリコーン、アルミニウム、スチール、チタン、コバルト、クロム、ニッケル、金、銀、プラチナ、金属合金、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、無機塩誘導体、アルミナ、ジルコニア、生体活性ガラス、ポーセレン、カーボン、環状オレフィン共重合体、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリ塩化ビニル、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリプロピレン、シリコーン、ヒドロゲル、セルロース、デンプン、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、コラーゲン、ゼラチン、シルク、キチン、キトサン、グルコース、心臓弁、血管及び肝臓組織の少なくとも1つで構成されうる。
【0021】
治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することは、インプラントを患者に配置(deliver)する前にインプラントの少なくとも1つの表面を治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物でコーティングすることを含みうる。治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することは、インプラントを患者に配置(deliver)した後にインプラントの少なくとも1つの表面を治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物でコーティングすることを含みうる。治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することは、インプラントを患者に配置(deliver)する前にインプラント内に治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を埋め込むことを含みうる。
【0022】
治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することは、インプラントを患者に配置(deliver)した後にインプラント内に治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を埋め込むことを含みうる。治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することは、治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物をインプラントと共投与すること(co-administering)を含みうる。治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することは、インプラントを患者に配置(deliver)する前に治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を投与することを含みうる。治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することは、インプラントを患者に配置(deliver)した後に治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を投与することを含みうる。
【0023】
投与することはインプラントの部位で行なわれてもよく、患者は動物でありうる。
【0024】
医学的に許容可能なフカン組成物はペースト、ゲル、パッチ、フィルム、スプレー、液体、ローション、クリーム、溶液、懸濁液、固体、インプラント、粉末及び細粒の少なくとも1つを含みうる。医学的に許容可能なフカン組成物は、ゼラチン、ヒプロメロース、乳糖、注射用水(USP)、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸-クエン酸緩衝液、プルロニック、セルロース、アルギン酸塩(alginate)、アクリル酸塩(acrylate)、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、乳酸-グリコール酸共重合体、アルギン酸塩(alginate)、カラギーナン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、キトサン及び乳酸リンゲル注射剤USPからなる群から選択される少なくとも1つの医学的に許容可能な添加剤をさらに含みうる。医学的に許容可能なフカン組成物は約200エンドトキシン単位(EU)未満、100エンドトキシン単位(EU)未満、50エンドトキシン単位(EU)未満、20エンドトキシン単位(EU)未満、10エンドトキシン単位(EU)未満、5エンドトキシン単位(EU)未満又は2エンドトキシン単位(EU)未満を含みうる。
【0025】
本開示の方法などは、線維性被膜形成、異物反応を処置し、被膜拘縮、バイオフィルム感染症、インプラント状態又は移植状態を処置するための、医学的に許容可能なフカン組成物の使用を含む。
【0026】
組成物は、インプラント又は移植体と、医学的に許容可能なフカン組成物とを含みうる。インプラントは医療器具、薬物及び組み合わせ製品の少なくとも1つを含み得、合成によらない材料、生体材料、天然由来の材料及び合成材料の少なくとも1つで構成されうる。インプラントは骨プレート、骨折固定器具、股プロテーゼ、膝プロテーゼ、肩プロテーゼ、足首プロテーゼ、肘プロテーゼ、人工靭帯、人工腱、細胞治療材、遺伝子治療材、ペースメーカーカプセル、カテーテル、ステント、人工心臓弁、人工動脈、徐放用薬物貯蔵デバイス、糖尿病モニタ、インスリンポンプ、皮膚修復デバイス、乳房インプラント、人工内耳、眼内レンズ、人工血管、神経導管、外科用メッシュ、器官、組織及び細胞を含みうる。インプラントは自家移植片、同種移植片、フィブリン、ポリ乳酸、乳酸-グリコール酸共重合体、アルギン酸塩(alginate)、カラギーナン、ヒアルロナン、ヘパリン、合成ポリウレタン、ポリエステル、シリコーン、アルミニウム、スチール、チタン、コバルト、クロム、ニッケル、金、銀、プラチナ、金属合金、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、無機塩誘導体、アルミナ、ジルコニア、生体活性ガラス、ポーセレン、カーボン、環状オレフィン共重合体、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリ塩化ビニル、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリプロピレン、シリコーン、ヒドロゲル、セルロース、デンプン、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、コラーゲン、ゼラチン、シルク、キチン、キトサン、グルコース、心臓弁、血管及び肝臓組織の少なくとも1つで構成されうる。
【0027】
いくつかの態様では、本方法は、患者において患者上又は患者内の移植体の部位で移植状態を処置することを備え、本方法は、治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を用いて移植状態を処置することを含みうる。処置することは移植状態を阻害することを含みうる。移植体は心臓移植体、腎臓移植体、肝臓移植体、肺移植体、膵臓移植体、腸移植体、胸腺移植体、子宮移植体、骨及び腱移植体、角膜移植体、皮膚移植体、心臓弁移植体、神経移植体又は静脈移植体の少なくとも1つを含みうる。
【0028】
治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することは、移植体を患者に配置(deliver)する前、配置(deliver)中又は配置(deliver)した後に移植体の少なくとも1つの表面を治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物でコーティングすることを含みうる。治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することは、移植体を患者に配置(deliver)する前、配置(deliver)中又は配置(deliver)した後に移植体内に治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を埋め込むことを含みうる。治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を用いて処置することは、治療有効量の医学的に許容可能なフカン組成物を移植体にともなって共投与する、又は患者に移植体を配置(deliver)する前若しくは後に投与することを含みうる。
【0029】
投与することは移植体の部位で行なわれてもよく、患者は動物でありうる。医学的に許容可能なフカン組成物はペースト、ゲル、パッチ、フィルム、スプレー、液体、ローション、クリーム、溶液、懸濁液、固体、移植体、粉末及び細粒の少なくとも1つを含みうる。医学的に許容可能なフカン組成物は、ゼラチン、ヒプロメロース、乳糖、注射用水(USP)、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸-クエン酸緩衝液、プルロニック、セルロース、アルギン酸塩(alginate)、アクリル酸塩(acrylate)、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、乳酸-グリコール酸共重合体、アルギン酸塩(alginate)、カラギーナン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、キトサン及び乳酸リンゲル注射剤USPからなる群から選択される少なくとも1つの医学的に許容可能な添加剤をさらに含みうる。
【0030】
本開示の本方法などは、移植状態を処置するための、医学的に許容可能なフカン組成物の使用を含む。本開示の組成物は移植体と、移植状態を処置するのに十分な医学的に許容可能なフカン組成物とを含みうる。
【0031】
以下の詳細な説明を含む本出願では上記の態様、特徴及び実施形態と他の態様、特徴及び実施形態とが示される。別段明示的に記載されていない限り、あらゆる所望の仕方ですべての実施形態、態様、特徴などの混合、適合、組合せ及び置換を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本開示で説明されている本組成物、本システム、本方法などは医療に効果的であるように構成される医学的に許容可能なフカンを含み、たとえば、手術中又は手術後に効果的でありうる。いくつかの実施形態では、シグナル伝達タンパク質の活性が上記のような被膜拘縮又はインプラント若しくは移植体の周囲の線維増殖の初期、進行、重症化、予後などに寄与する。いくつかの実施形態では、上記のような処置はこのようなシグナル伝達タンパク質を阻害又は隔離する医学的に許容可能なフカンを含む。シグナル伝達タンパク質にはサイトカインやケモカインなどのタンパク質が含まれる。
【0033】
いくつかの実施形態では、医学的に許容可能なフカンはフコイダンである。前記医学的に許容可能なフカンは、これ自体が医療器具、組み合わせ製品(combination products)、生物製剤でありうるし、医療器具、組み合わせ製品、生物製剤の上又は中に含まれてもよく、医薬的若しくは医学的に許容可能な組成物、治療上有効な組成物及び/又は医学的に有効な組成物の上又は中に含まれてもよい。本開示で説明されている組成物は、医学的状況及び/又は外科的状況で用いられるのに望ましい所定の低いエンドトキシン濃度を持つ医学的に許容可能な修飾フカンを含みうる。本開示の組成物は望ましい所定の分子量分布及び/又は硫酸塩濃度を持つ医学的に許容可能な修飾フカンをさらに含んでもよい。
【0034】
以下の記載は、本開示で説明されている医学的に許容可能なフカンを用いて処置することができる被膜拘縮又はインプラント若しくは移植体の周囲の線維増殖の一部に関する簡潔な説明に向けられる。
【0035】
異物反応及び線維性被膜形成
生体材料、医療器具、プロテーゼ組織技術で設計された構造物及び/又は組み合わせ製品を含む材料やインプラントを標的部位、たとえば外科的腔所に埋め込んだり導入したりすると、異物反応(foreign body reaction:FBR)として知られている炎症/線維化治癒プロセス反応が生じる可能性がある。この治癒プロセスの最終段階では線維性被包が生じる場合があり、この場合、線維芽細胞が線維性被膜を生成し、この線維性被膜では血管新生が生じかつ/又は膠原線維が形成されるおそれがあり、埋め込まれた材料と周囲の組織との相互作用が阻害されたり、周囲の組織に作用する埋め込まれた材料の能力が低下したりする。炎症に関与する線維芽細胞は体内の異物材料の部位にあるTGFb1、IL-1b、IL-6、IL-13、IL-33、プロスタグランジン及びロイコトリエンを含むシグナル伝達タンパク質に反応する。
【0036】
FBR及び線維性被膜形成を引き起こしかねないインプラントには、骨プレートなどの整形外科用インプラント器具、骨折固定器具、股関節、膝、肩、足首及び肘関節プロテーゼ、人工靭帯及び人工腱、ペースメーカーカプセルなどの心臓血管インプラント、除細動器、カテーテル、ステント、人工心臓弁及び人工動脈、徐放用薬物貯蔵デバイスなどの薬物送達システム、糖尿病モニタなどの監視器具、インスリンポンプ、皮膚修復デバイスなどの人工組織、乳房インプラント、人工内耳、眼内レンズ、人工血管、脳脊髄液(CSF)シャントシステム、永久避妊器具、組織技術で設計された構造物、神経導管、外科用メッシュ及び器官、組織並びに細胞が含まれるが、これらに限定されない。このようなインプラントは、合成によらない材料、生体材料(ヒトなどの動物由来の材料)、天然由来の材料や合成材料や、合成によらない材料、合成材料、天然由来の材料及び生体材料の組合せでありうる。インプラントの作製に用いることができる材料の例には、自家移植片、同種移植片、天然コラーゲン、フィブリン、キトサン、ポリ乳酸、乳酸-グリコール酸共重合体、アルギン酸塩(alginate)、カラギーナン、ヒアルロナン、ヘパリン、セルロースや合成ポリウレタン(PU)などの有機ポリマー、ポリエステル、シリコーン、アルミニウム、スチール、チタン、コバルト、クロム、ニッケル、金、銀、プラチナやこれらの合金などの金属、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイトやこれらの化合物又は誘導体などの無機塩、アルミナなどのセラミックス、ジルコニア、生体活性ガラス、ポーセレン、カーボン、環状オレフィン共重合体、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、医療グレードのポリ塩化ビニル、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレンやポリプロピレンなどの生体適合性プラスチック及びポリマー、シリコーン、ヒドロゲル、セルロースなどのバイオポリマー、デンプン、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、コラーゲン、ゼラチン、シルクなどのタンパク質ベースの生体材料、キチン、キトサン、グルコースなどの多糖類ベースの生体材料、心臓弁、血管、肝臓組織などの脱細胞化組織由来の生体材料、並びにこれらの材料のその他複合物及び/又は組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0037】
インプラント部位や外科的腔所において治療的効果を生むことができる組成物は不足している。本開示の組成物を用いることで、FBRと線維性被膜形成とを処置しかつ/又はこのような状態に罹患している患者に顕著な治療的効果を提供することができる。本開示の組成物は、インプラントの表面をコーティングしたり、インプラントと共投与したり、インプラントの後に共投与したり、インプラント内への埋め込みに用いることができる。本開示の組成物は、所定時間にわたって放出(遅延放出)して所望の治療的効果を実現するように構成することができる。
【0038】
被膜拘縮
被膜拘縮は乳房インプラント手術後の線維性被膜形成及び望ましくない反応の例であり、乳房インプラント手術後の再手術の理由の1つになる。線維性被膜又は体内の瘢痕組織がインプラントの周囲でこわばった被膜、すなわち収縮した被膜を形成して、異物と身体の載置部位との間に物理的な障壁を生成するときに被膜拘縮が発現する。この結果、乳房に痛みとしこりとを感じる場合があり、被膜が乳房の外観すなわち形状に影響を及ぼすおそれがある。このような合併症の場合、最も一般的には侵襲的インターベンションが必要であり、この場合、線維性被膜と乳房インプラントとを外科的に除去しなければならない。
【0039】
被膜組織中のマスト細胞がシグナル伝達タンパク質腫瘍増殖因子(TGF)b1を含むことが分かっている。TGFb1に加えて、被膜の拘縮に関連する他のシグナル伝達タンパク質には、腫瘍壊死因子TNFa、マトリックスメタロプロテアーゼMMP-2、メタロプロテアーゼの組織阻害体(TIMP)1及びTIMP-2が含まれる。TNFa、特にMMP-2が存在すると、ベーカースケールで被膜拘縮のグレードを決める場合の被膜拘縮のグレードが高くなることが付随的に生じる。
【0040】
被膜拘縮を防止する試みには抗生剤の灌注が含まれるが、このように試みても被膜拘縮の発生を抑えることに大して成功しなかった。従来、被膜拘縮は外科的に処置されるが、これによって拘縮の再発のリスクが高くなる。このように、乳房インプラント手術の際の被膜拘縮の安全かつ有効な処置に対する未解決の要求が存在する。
【0041】
本開示の組成物を、被膜拘縮を処置するのに用いることができる。本開示の組成物は、たとえば、インプラントの表面をコーティングすること、インプラントの埋め込みの前に共投与すること、インプラントの埋め込みにともなって共投与すること、インプラントの埋め込みの後に共投与すること、又はインプラント内への埋め込みに用いることができ、所定時間にわたって放出(徐放すなわち遅延放出を実現)して、所望の治療的効果、たとえば、このようなフカン組成物を用いない場合と比較して平均被膜厚さが約20%~100%減少すること、すなわち、このような組成物を用いない場合と比較して平均被膜厚さが約60ミクロン~230ミクロン減少することを実現するように本開示の組成物を構成することができる。本開示のフカン組成物を用いることで、このような組成物を用いない場合と比較して最大被膜厚さが約20%~100%減少すること、すなわち、このような組成物を用いない場合と比較して最大被膜厚さが100ミクロン~1000ミクロン減少することを実現することもできる。本開示のフカン組成物を用いることで、埋め込み後の平均被膜厚さを約228ミクロン以下、約200ミクロン以下又は約190ミクロン以下としたり、埋め込み後の最大被膜厚さを約442ミクロン以下、約450ミクロン以下又は約540ミクロン以下としたりすることもできる。
【0042】
埋め込み式患者接触医療器具
埋め込み式患者接触医療器具の表面はタンパク質、バクテリア、細胞や組織を引き寄せることが多く、医療器具表面でバイオフィルム層の形成が起こる。このようなバイオフィルム層が生じるのに続いて、感染症が生じる可能性がある。バイオフィルム感染症は免疫防御メカニズムと抗菌剤とに対する耐性に起因する臨床的問題を引き起こす。ほとんどの埋め込み式患者接触医療器具では細菌のコロニー形成と感染症とが生じ易く、これにより、器具の機能障害が生じたり、重病化したり、死亡したりする可能性がある。
【0043】
細菌感染体の増殖を阻害したり細菌感染体を死滅させたりする従来の化合物、たとえば抗生剤を用いてバイオフィルム感染症を処置する試みは、バイオフィルム感染症における耐性発現率が増加したために限定的にしか成功していない。感染した埋め込まれた医療器具の除去が可能であるが、これは多くの場合に侵襲的であるので、患者に有害であり、場合によっては危険である。さらに、埋め込まれた医療器具を除去するには長期間の抗菌抑制療法も必要であることが多い。
【0044】
バイオフィルムの形成を抑え、この結果としてバイオフィルム感染の蔓延を抑えるための戦略の1つは、医療器具やインプラントの表面を抗癒着性にすることであるが、このような手法では限定的な成功しか見られなかった。本開示の組成物は、たとえば、インプラントの表面をコーティングすること、インプラントの前に共投与すること、インプラントと共投与すること、インプラントの後に共投与すること、又はインプラント内への埋め込みに用いることができる。所定時間にわたって放出(徐放すなわち遅延放出を実現)して、所望の治療的効果を実現するように本開示の組成物、システムなどを構成することができる。
【0045】
移植状態
移植可能な器官、組織など(たとえば、心臓、腎臓、肝臓、肺、膵臓、腸、胸腺、子宮、骨や腱などの筋骨格移植片、角膜、皮膚、心臓弁、神経や、静脈)の表面はタンパク質、バクテリア、細胞、組織、抗体やその他免疫反応体などを引き寄せる可能性がある。このような反応が生じるのに続いて、感染症、線維症、線維性癒着やGVHDが生じる可能性がある。
【0046】
移植状態を抗生剤などの従来の化合物で処置する試みは、移植状態における耐性発現率が増加したり、GVHDや線維性癒着などの一部の移植状態に前記化合物を使用することができなかったりしたために限定的にしか成功していない。問題となっている移植体の除去はいくつかの事例で可能であるかもしれないが、可能であったとしても、これは多くの場合に侵襲的であるので、患者に有害であり、場合によっては危険である。さらに、移植された医療器具を除去するには長期間の抗菌療法や免疫抑制療法も必要であることが多い。
【0047】
バイオフィルムの形成を抑え、この結果として移植状態の蔓延を抑えるための戦略の1つは、移植体の表面を抗癒着性にすることであるが、過去にこのような手法では限定的な成功しか見られなかった。本開示のフカン組成物は、たとえば、移植体の表面をコーティングすること、移植の前に共投与すること、移植にともなって共投与すること、移植の後に共投与すること、又は移植体内への埋め込みに用いることができる。所定時間にわたって放出(徐放すなわち遅延放出を実現)して、所望の処置的効果を実現するように本開示の組成物、システムなどを構成することができる。
【0048】
医療器具、組み合わせ製品、生体製品及び製薬製品
本開示の説明では、医療器具、組み合わせ製品、生物学的に許容可能な容器又は医薬的に許容可能な容器中の本記載で説明されている組成物を含む医療器具、組み合わせ製品、生体製品及び製薬製品も示す。前記製品には容器に関連する通達が一要素として含まれる可能性もあり、典型的には、医療器具、組み合わせ製品、医薬品又はバイオ医薬品の製造、使用や販売を規制する行政機関によって規定される形態の容器に関連する通達が一要素として含まれる可能性もあり、このような通達は組成物の当局による承認を反映しており、たとえば、本開示で説明されている被膜拘縮又はインプラント若しくは移植体の周囲の線維増殖を処置するための医学的に許容可能なフカンのヒト又は動物への投与が承認されたという通達などである。本開示のフカンの使用に対する指示も含まれる場合がある。このような指示は患者への投薬と投与の仕方とに関する情報を含む場合がある。
【0049】
本出願は、本開示で説明されている医学的に許容可能なフカン、システムなどの様々な要素(医学的に許容可能な医学的組成物そのものを含む)の製造方法と、その使用方法(たとえば、本開示の、被膜拘縮又はインプラント若しくは移植体の周囲の線維増殖、疾患などの処置を含む)とをさらに対象とする。
【0050】
フカン
本開示で説明されている医学的に許容可能なフカン組成物を修飾して、エンドトキシン濃度の低い医学的に許容可能な修飾フカン組成物を得ることができる。本開示で説明されている医学的に許容可能な修飾フカン組成物のエンドトキシン濃度は、フカン1ミリグラム(mg)当たり約0.2,0.18,0.12,0.1,0.09,0.02,0.01,0.007,0.005,0.002又は0.001エンドトキシン単位(endotoxin unit:EU)(EU/mg)未満でありうる。
【0051】
本開示で説明されている医学的に許容可能なフカンを修飾し、医学的に許容可能なフカンに結合し得る窒素含有化合物を除去することによって、全窒素濃度が低い医学的に許容可能な修飾フカンを得てもよい。本開示で説明されている医学的に許容可能な修飾フカン、及び医学的に許容可能な修飾フカンを含む組成物の全窒素濃度は、0.2,0.1,0.08,0.05,0.03又は0.02%w/w未満でありうる。
【0052】
本開示で説明されている医学的に許容可能なフカン及び医学的に許容可能な修飾フカンを、任意の数の医薬的に許容可能な添加剤、たとえば、ゼラチン、ヒプロメロース、乳糖、注射用水(USP)、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸-クエン酸緩衝液、プルロニック、セルロース、アルギン酸塩(alginate)、アクリル酸塩(acrylate)、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、乳酸-グリコール酸共重合体、カラギーナン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、キトサン、注射用添加剤及び乳酸リンゲル注射剤USPをさらに含む組成物に組み込むことができる。
【0053】
本開示で説明されている医学的に許容可能なフカン及び医学的に許容可能な修飾フカンを、ペースト、ゲル、パッチ、フィルム、スプレー、液体、ローション、クリーム、溶液、懸濁液、固体、インプラント、細粒、粉末やその他所望の形態の少なくとも1つを含む組成物で投与してもよい。医学的に許容可能なフカン及び医学的に許容可能な修飾フカンを静脈内投与、関節腔内投与、病変内投与、膣内投与、直腸投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下投与、外用投与、鼻腔内投与、眼内投与や経口投与の経路を介して投与してもよい。医学的に許容可能なフカン及び医学的に許容可能な修飾フカンを、被膜拘縮又はインプラントの周囲での線維増殖の部位、又は移植状態に、直接送達してもよい。ポリマーを用いた徐放投薬形態やその他許容可能な徐放投薬形態のうちの所定の徐放により被膜拘縮又はインプラント若しくは移植体の周囲の線維増殖の部位に医学的に許容可能なフカン及び医学的に許容可能な修飾フカンを連続的に放出してもよい。本開示の医学的に許容可能なフカン及び/又は医学的に許容可能な修飾フカンを含む溶液やスプレーを用いて、被膜拘縮又はインプラントの周囲での線維増殖の部位、又は移植状態の、灌注、すすぎ、フラッシュ(flush)や洗浄(wash)を行なってもよい。外科的腔所などの標的部位に配置されるインプラント又は移植体上のコーティングとして医学的に許容可能なフカン及び医学的に許容可能な修飾フカンを塗布してもよい。
【0054】
本開示で説明されている医学的に許容可能なフカン及び医学的に許容可能な修飾フカンを、医学的に許容可能なフカン/医学的に許容可能な修飾フカンと少なくとも1つの他の薬物とを含む製薬製品や生体製品や組み合わせ製品や医学的組成物の成分として投与してもよい。前記薬物はパクリタキセル、ドキソルビシン、カンプトセシン、エトポシド、ミトキサントロン、メトトレキサート、メナジオン、プルンバギン、ジュグロン、ベータ・ラペルコーン・シクロスポリン(beta-laperchone cyclosporin)、スルファサラジン、ステロイド、ラパマイシン、レチノイド、ドセタキセル、コルヒチン、アンチセンス・オリゴヌクレオチド、リボザイム及びワクチンの少なくとも1つであってもよい。
【0055】
本開示で説明されている医学的に許容可能なフカン及び医学的に許容可能な修飾フカンを、医学的に許容可能なフカン/医学的に許容可能な修飾フカンと少なくとも1つのバインダ、アジュバント、添加剤などとを含む製薬製品や生体製品や組み合わせ製品や医学的組成物の成分として投与してもよい。
【0056】
医学的に許容可能なフカン組成物をいくつかの方法によって疎水性インプラント又は親水性インプラントを含むインプラント又は移植体上にコーティングすることができ、たとえば、インプラント又は移植体を医学的に許容可能なフカン組成物に浸漬させたりインプラント又は移植体に医学的に許容可能なフカン組成物を噴霧したりすることや、インプラント又は移植体に医学的に許容可能なフカン組成物をイオン結合、共有結合やその他結合によって結合させることや、インプラント又は移植体の製造前に、インプラント又は移植体の製造に用いられる材料と、医学的に許容可能なフカン組成物とを混合することや、インプラント又は移植体内に医学的に許容可能なフカン組成物をイオン結合、共有結合やその他結合によって結合させることによってコーティングすることができる。
【0057】
本開示で説明されている医学的に許容可能なフカン及び医学的に許容可能な修飾フカンの硫酸化物濃度(sulfation level)は、約10%w/w~60%w/w、約20%w/w~55%w/w、約30%w/w~50%w/w又は約40%w/w~45%w/wでありうる。
【0058】
本開示で説明されている医学的に許容可能なフカン及び医学的に許容可能な修飾フカンの全フコース:全硫酸塩のモル比は、1:0.5~1:4、約1:0.8~1:3.5、約1:1~1:2.5、約1:1.2~1:2.0又は約1:1.5~1:3でありうる。
【0059】
本開示で説明されている医学的に許容可能なフカン及び医学的に許容可能な修飾フカンの総フコース及びガラクトース:全硫酸塩のモル比は、約1:0.5~1:4、約1:0.8~1:3.5、約1:1~1:2.5、約1:1.2~1:2.0又は約1:1.5~1:3でありうる。
【0060】
本開示で説明されている医学的に許容可能なフカンを修飾して重量平均分子量、数平均分子量及び/又はピーク分子量を増減させた医学的に許容可能な修飾フカンを得てもよい。本開示で説明されている、分子量分布が広い医学的に許容可能なフカンを修飾して、広い分子量分布の小さい分子量側又は大きい分子量側のフカンの一部を減少させたり除去したりした分子量分布を持つ医学的に許容可能な修飾フカンを得てもよい。
【0061】
医学的に許容可能な修飾フカンの分子量分布は、任意の所望の適切な測定システムを用いて測定することができる。異なるシステムを用いると、実質的に同じ構成を持つ異なる組成物から異なる読み取り値や結果が得られる場合があり、同じバッチからであっても、異なる測定を行う場合に異なる読み取り値や結果が得られる場合がある。好適な測定システムの1つは水性ゲル浸透クロマトグラフィー構成であり、当該構成は、有効分子量範囲が約50kDa~約5,000kDaでありヒドロキシル化ポリメタクリレート系ゲルが充填されている内径が7.8mmの300mm分析ゲル浸透クロマトグラフィーカラム1つ、有効分子量範囲が約1kDa~約6,000kDaでありヒドロキシル化ポリメタクリレート系ゲルが充填されている内径が7.8mmの300mm分析ゲル浸透クロマトグラフィーカラム1つ、及びヒドロキシル化ポリメタクリレート系ゲルが充填されている内径が6mmの40mmガードカラム1つ、ここで前記2つの分析ゲル浸透クロマトグラフィーカラム及び前記1つのガードカラムは約30℃のカラムコンパートメントに収容されている;
約30℃の示差屈折率検出器;
0.6mL/分の0.1M硝酸ナトリウム移動相流;及び
ピーク分子量が約2,200kDaの第1デキストラン標準品、ピーク分子量が約720kDa~約760kDaの第2デキストラン標準品、ピーク分子量が約470kDa~約510kDaの第3デキストラン標準品、ピーク分子量が約370kDa~約410kDaの第4デキストラン標準品、ピーク分子量が約180kDa~約220kDaの第5デキストラン標準品、及びピーク分子量が約40kDa~55kDaの第6デキストラン標準品から実質的になるピーク分子量標準曲線と照らし合わせての定量(quantification)
から実質的になる。ピーク分子量標準曲線はピーク分子量が3kDa~5kDaであるデキストラン標準品をさらに含んでもよい。
【0062】
本開示で説明されている医学的に許容可能な修飾フカンの重量平均分子量が300kDaを超えてもよく、たとえば、約300kDa~2000kDa、約350kDa~1500kDa又は約375kDa~1300kDaであってもよい。
【0063】
本開示で説明されている医学的に許容可能な修飾フカンの数平均分子量が100kDaを超えてもよく、たとえば、約100kDa~800kDa、約150kDa~約800kDa又は約170kDa~700kDaであってもよい。
【0064】
本開示で説明されている医学的に許容可能な修飾フカンのピーク分子量が200kDaを超えてもよく、たとえば、約200kDa~800kDa、約250kDa~750kDa又は約300kDa~700kDaであってもよい。
【0065】
本開示で説明されている医学的に許容可能な修飾フカンは、分布の少なくとも約80%w/w又は90%w/wが100kDa超となっている分子量分布を有しうる。本開示で説明されている医学的に許容可能な修飾フカンは、分布の少なくとも約60%w/w、70%w/w、80%w/w又は90%w/wが200kDa超となっている分子量分布を有しうる。本開示で説明されている医学的に許容可能な修飾フカンは、分布の少なくとも20%、40%、50%又は70%が500kDa超となっている分子量分布を有しうる。
【0066】
本開示で説明されている医学的に許容可能なフカン及び医学的に許容可能な修飾フカンの全炭水化物含有量は、27%w/w~80%w/w、約30%w/w~70%w/w、約40%w/w~90%w/w又は約50%w/w~100%w/wであってもよい。
【0067】
本開示で説明されている医学的に許容可能なフカン及び医学的に許容可能な修飾フカンのフコース含有量は、全炭水化物に対する割合として約30%w/w~100%w/w、約40%w/w~95%w/w又は約50%w/w~90%w/wであってもよい。
【0068】
本開示で説明されている医学的に許容可能なフカン及び医学的に許容可能な修飾フカンのガラクトース含有量は、全炭水化物に対する割合として約0%w/w~60%w/w、約3%w/w~30%w/w又は約0%w/w~10%w/wであってもよい。
【0069】
本開示で説明されている医学的に許容可能なフカン及び医学的に許容可能な修飾フカンの全グルクロン酸含有量、全マンノース含有量、全ラムノース含有量及び全キシロース含有量は、全炭水化物に対する割合として約30%w/w未満であってもよい。
【実施例】
【0070】
フカン及びフカン組成物を修飾して医学的に許容可能な修飾フカン及び医学的に許容可能な修飾フカン組成物を得るのに用いることができる方法の例は、たとえば、2019年7月24日に出願された公開公報PCT/CA2019/051025、2019年7月24日に出願された公開公報PCT/CA2019/051026、2019年7月24日に出願された公開公報PCT/CA2019/051027、2019年7月24日に出願された公開公報PCT/CA2019/051030、2019年7月24日に出願された公開公報PCT/CA2019/051028、2020年3月5日に出願された公開公報PCT/CA2020/050294、2020年3月5日に出願された公開公報PCT/CA2020/050295、及び2019年7月24日に出願された公開公報PCT/CA2019/051029で説明されている。これらの公開公報のすべてが本出願の所有者/出願人によって所有されている。前記方法を適用して低エンドトキシン濃度及び/又はその他所望の特徴を持つ医学的に許容可能な修飾フカン組成物を得ることができる。たとえば、医学的に許容可能な修飾フカン組成物では、本例の記載箇所で説明されているイムノアッセイ並びに本開示で説明されている患者の処置及びその他方法を阻害する可能性がある窒素含有化合物が低濃度でありうる。
【0071】
例1:3種類の医学的に許容可能な修飾フカンの硫酸塩、フコース、ガラクトース、全窒素の含有量及び分子量分布の分析
以下の例で用いられている医学的に許容可能な修飾フカン組成物中の3種類の医学的に許容可能な修飾フカンを以下の方法によって分析してその生理化学的特性を定量した。
【0072】
3種類の医学的に許容可能な修飾フカン(以下、修飾フカン1、修飾フカン2、修飾フカン3と称する)を72%w/w硫酸に溶かして40mg/mLとし、ウォーターバスにて45℃で30分間定温放置した。その後、得られた酸加水分解物を高圧チューブ内で4%w/w硫酸まで希釈し、120℃で60分間定温放置した。得られた第2の酸加水分解物を蒸留水で1/333の濃度まで希釈し、パルスアンペロメトリ検出(HPAE-PAD)を用いた高性能陰イオン交換カラムクロマトグラフィー構成において移動させた。イソクラティックポンプを用いて10mM NaOHの溶離剤を1.0mL/分で移動さることによって分析物の分離を行なった。
【0073】
3種類の医学的に許容可能な修飾フカンのフコース含有量をフコースの標準曲線に補間を行なって定量した。3種類の医学的に許容可能な修飾フカンのガラクトース含有量を、標準品を追加することによって定量した。
【0074】
医学的に許容可能な修飾フカンを脱イオン水に溶かし、酸性条件下で加水分解し、ICP-MSによって全硫黄含有量を%w/wで分析した。硫黄含有量に、硫黄に対する硫酸塩のモル比を掛け合せることによって硫黄含有量を硫酸塩含有量に変換し、修飾フカン中の硫酸塩含有量を%w/wで得た。
【0075】
燃焼分析器でサンプルを燃焼し、熱伝導度検出器を用いて生成された亜酸化窒素ガス中の窒素を分析することによって3種類の医学的に許容可能な修飾フカンの全窒素を分析した。
【0076】
3種類の医学的に許容可能な修飾フカンの得られた分子量分布を評価するのにゲル浸透クロマトグラフィーを用いた。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で用いるのに利用可能な異なるパラメータ、カラム及び標準品が多数あり、これにより、様々な計測構成が分子量の分析に利用可能になる。本開示の分子量の定量では、以下のパラメータを用いてGPCを操作した。移動相を、0.6mL/minで移動する0.1M硝酸ナトリウムとした。カラムコンパートメント及び検出器の温度を30℃にした。検出にはウォーターズ2414屈折率検出器(Waters 2414 refractive index detector)を用いた。
【0077】
好適なGPCカラムとしては、水性溶媒と適合性のあるGPCカラム、たとえば、スルホン化スチレンジビニルベンゼン(sulfonated styrene-divinylbenzene)、NH官能基を有するアクリレートコポリマーネットワーク(NH-functionalized acrylate copolymer network)、変性シリカ及びヒドロキシル化ポリメタクリレート系ゲルの少なくとも1つが充填されたカラムが挙げられる。本開示の分析では6μmの粒径のヒドロキシル化ポリメタクリレート系ゲルが充填された内径(ID)が6mmの長さ40mmの1つのガードカラム、続いて、排除限界が約7,000kDaで、有効分子量範囲が約50kDa~約5,000kDaの12μmの粒径のヒドロキシル化ポリメタクリレート系ゲルが充填されたIDが7.8mmの第1の300mm分析GPCカラム、続いて、排除限界が約7,000kDaで、有効分子量範囲が約1kDa~約6,000kDaの10μmの粒径のヒドロキシル化ポリメタクリレート系ゲルが充填されたIDが7.8mmの第2の300mm分析GPCカラムを含む3つのカラムを直列で用いた。カラム構成の総有効分子量範囲は約1kDa~約6,000kDaであった。このカラム構成の例としては、Ultrahydrogel(登録商標)guard-Ultrahydrogel(登録商標)2000-Ultrahydrogel(登録商標)リニアカラムを直列に接続したものを挙げることができる。
【0078】
アメリカン・ポリマー・スタンダード・コーポレーション(American Polymer Standards Corporation)から得られるトレース可能な標準品:DXT3755K(ピーク分子量=2164kDa)、DXT820K(ピーク分子量=745kDa)、DXT760K(ピーク分子量=621kDa)、DXT670K(ピーク分子量=401kDa)、DXT530K(ピーク分子量=490kDa)、DXT500K(ピーク分子量=390kDa)、DXT270K(ピーク分子量=196kDa)、DXT225K(ピーク分子量=213kDa)、DXT150K(ピーク分子量=124kDa)、DXT55K(ピーク分子量=50kDa)、DXT50K(ピーク分子量=44kDa)及びDXT5K(ピーク分子量=4kDa)を含む標準曲線と照らし合わせて、3種類の医学的に許容可能な修飾フカンの試料流を定量した。これらの標準品のピーク分子量は約4kDa~約2,200kDaである。用いられる標準曲線はたとえば、デキストラン3755kDaと、デキストラン50kDaとデキストラン55kDaとの少なくとも一方並びに本開示で説明されている3つ~6つの別のトレース可能な標準品とを含んでもよく、較正箇所は用いられるキャリブラントのピーク分子量である。較正曲線の一例はDXT3755K、DXT820K、DXT530K、DXT500K、DXT225K及びDXT55Kからなりうる。本明細書において用いられたカラムは、3種類の医学的に許容可能な修飾フカンの定量のために用いられた標準品のピーク分子量範囲を包含し且つそれを超えて拡張された総有効分子量範囲を有するものであった。
【0079】
フカン/フコイダンを含むポリマーの分子量の同定では、一般的に、様々な分子量を持つ個々の分子の分布が存在することが知られていている。分布中で規定の分子量が同定された場合、大小の分子量の個々の分子の分布が存在する。規定分子量からの分子量の増減に応じて、特定の分子量の個々のポリマーの量や割合が増減する。分布の形状は一般的にはガウス形状や歪んだガウス形状であってもよいが、これが必要というわけではない。
【0080】
修飾フカン1、修飾フカン2及び修飾フカン3の全フコース、全ガラクトース、全硫酸塩及び分子量分布の結果を以下の表1に示す。
【0081】
以下の表中の結果には分子量分布の特定の特性に用いられる略称が含まれている。ピーク分子量(Peak molecular weight)を「PMW」と表記し、重量平均分子量(weight average molecular weight)を「WAMW」と表記し、数平均分子量(number average molecular weight)を「NAMW」と表記し、百分率分布(percentage distribution)を「%分布」と表記している。
【0082】
【0083】
例2:修飾フカン1のエンドトキシン測定
アソシエーツ・オブ・ケープ・コッド(Associates of Cape Cod)社のPyrotell(登録商標)-Tライセートを用い、製造者の指示にしたがって修飾フカン1のエンドトキシンに対する試験を行なった。Biotek Synergy(登録商標)HTXインキュベーションプレートリーダを用いて濁度測定を行なった。結果を製造者のCSE(コントロール・スタンダード・エンドトキシン)較正曲線と照らし合わせて定量した。修飾フカン1を定量し、約0.001EU/mgを得た。
【0084】
例3:シグナル伝達タンパク質と結合しているフカンの生体外イムノアッセイ
本記載では、修飾フカン1、修飾フカン2及び修飾フカン3という3種類の医学的に許容可能な修飾フカンのサイトカインとケモカインとを含む様々なシグナル伝達タンパク質に対する結合を、生体外イムノアッセイを用いて検討し、前記シグナル伝達タンパク質を阻害又は隔離した結果、それぞれのシグナル伝達タンパク質に関連する被膜拘縮、又はインプラントの周囲での線維増殖を処置されるフカンの可能性が示された。
【0085】
以下のヒト抗体アレイイムノアッセイ処理手順を実行した。
【0086】
表1で説明されている異なる3種類の医学的に許容可能な修飾フカンを脱イオン水に溶かして100mg/mL、10mg/mL、1mg/mL及び0.1mg/mLとし、フカンストック溶液を得た。個々のフカンストック溶液をQuantibody(登録商標)Sample Diluent(RayBiotech QA-SDB(レイバイオテック社(RayBiotech)(米国ジョージア州)))で1:1に希釈した。フカン溶液と希釈剤との混合物を室温で約1時間定温放置した。その後、個々のフカン溶液と希釈剤との混合物を0.22μmPVDFフィルタに通してろ過して個々のフカンの50mg/mL、5mg/mL、0.5mg/mL及び0.05mg/mLのフカン溶液と希釈剤との混合物を得た。
【0087】
多数のシグナル伝達タンパク質標準物質を含むシグナル伝達タンパク質標準物質混合物に対して一連の希釈を行なって、一連の濃度のシグナル伝達タンパク質標準物質を得た。
【0088】
フカン溶液と希釈剤との各混合物を、最も濃度の高いシグナル伝達タンパク質標準物質で1:1でさらに希釈した。脱イオン水と最も濃度の高いシグナル伝達タンパク質標準物質の1:1混合物をブランクとして用いた。得られたフカン溶液と希釈剤とシグナル伝達タンパク質標準物質との各混合物を室温で1時間定温放置した。
【0089】
複数のスライド(Human Kiloplex Quantitative Proteomics Array(RayBiotech(登録商標)社):QAH-CAA-X00-1)を用意した。各スライドはマイクロアレイ中で配列されているウェルに入れられた異なる40個の抗体を含み、各抗体はシグナル伝達タンパク質標準物質の1つのシグナル伝達タンパク質に特異的であった。Quantibody(登録商標)Sample Diluent(RayBiotech(登録商標)社:QA-SDB)を用い、抗体を30分間定温放置した後、傾瀉を行うことによって抗体をブロックした。その後、フカン溶液と希釈剤とシグナル伝達タンパク質標準物質との各混合物の95μLをウェルの各々に添加した。混合物をウェルで2.5時間定温放置した。これに続いて、一連の濃度のシグナル伝達タンパク質標準物質に対して同じブロッキング処理手順及び定温放置処理手順を行なった。定温放置後、すべてのサンプル及びシグナル伝達タンパク質標準物質を傾瀉によって各ウェルから移動させた。ウェルを、20X Wash Buffer 1(RayBiotech(登録商標)社:AA-WB1-30ML)を希釈して得た150μLの1X Wash Buffer 1を用いて室温で5回洗浄し、洗浄後毎にウェルから洗浄溶液を除去した。その後、ウェルを、20X Wash Buffer 2(RayBiotech(登録商標)社:AA-WB2-30ML)を希釈して得た150μLの1X Wash Buffer 2を用いて室温で2回洗浄し、洗浄後毎にウェルから洗浄溶液を除去した。
【0090】
シグナル伝達タンパク質標準物質中のシグナル伝達タンパク質にそれぞれ特異的である複数のビオチン化抗体を含むQuantibody(登録商標)Sample Diluent(RayBiotech(登録商標)社:QA-SDB)80μLを各ウェルに添加し、1~2時間定温放置した。溶液を傾瀉によってウェルから移動させ、ウェルを同様に1X Wash Buffer 1と1X Wash Buffer 2とを用いて再度洗浄した。
【0091】
Cy3相当の色素を結合させたストレプトアビジンを含む80μLのQuantibody(登録商標)Sample Diluent(RayBiotech(登録商標)社:QA-SDB)を各ウェルに添加し、暗室で約1時間定温放置した。希釈溶液を傾瀉によってウェルから移動させ、ウェルを150μLの1X Wash Buffer 1を用いて合計5回再度洗浄し、洗浄後毎にウェルから洗浄溶液を除去した。
【0092】
さらに、スライドをスライド洗浄器/乾燥器において30mLの1X Wash Buffer 1を用いて洗浄した後、30mLの1X Wash Buffer 2を用いて洗浄し、洗浄後毎に洗浄溶液を傾瀉によって移動させた。N2を通風することで残った液滴を乾燥させることによって除去した。
【0093】
その後、Cy3の波長でレーザスキャナを用いることによってスライドを画像化した。結果が得られたら、ブランクサンプルに対するシグナル減少に変換した。
【0094】
以下の表2はイムノアッセイの結果を示し、医学的に許容可能な修飾フカンが存在する場合のブランクと比較したそれぞれのシグナル伝達タンパク質のシグナル減少率として報告している。
【0095】
【0096】
表2の結果は、本開示で説明されている医学的に許容可能な修飾フカンによって広範囲のシグナル伝達タンパク質が全体的な傾向として大幅に阻害されていることを示しており、きわめて大幅に阻害されることさえも示している。
【0097】
いくつかのシグナル伝達タンパク質については、本開示で説明されている医学的に許容可能な修飾フカンによってシグナル伝達タンパク質の活性の少なくとも約50%を阻害又は隔離することができた。他のシグナル伝達タンパク質については、医学的に許容可能な修飾フカンによってシグナル伝達タンパク質の活性の少なくとも約60%を阻害又は隔離することができた。さらに他のシグナル伝達タンパク質については、医学的に許容可能な修飾フカンによってシグナル伝達タンパク質の活性の少なくとも約70%を阻害することができた。さらに他のシグナル伝達タンパク質については、医学的に許容可能な修飾フカンによってシグナル伝達タンパク質の活性の少なくとも約80%を阻害することができた。さらに他のシグナル伝達タンパク質については、医学的に許容可能な修飾フカンによってシグナル伝達タンパク質の活性の少なくとも約90%を阻害することができた。さらに他のシグナル伝達タンパク質については、医学的に許容可能な修飾フカンによってシグナル伝達タンパク質の活性の少なくとも約95%を阻害することができた。さらに他のシグナル伝達タンパク質については、医学的に許容可能な修飾フカンによってシグナル伝達タンパク質の活性の少なくとも約98%を阻害することができた。
【0098】
表2の結果は、表2で示されている医学的に許容可能な修飾フカンを含む本開示で説明されている医学的に許容可能な修飾フカンによって生体内の標的部位で広範囲のシグナル伝達タンパク質を阻害又は隔離することができるため、本開示で説明されている被膜拘縮、又はインプラントの周囲での線維増殖の阻害や処置に有効でありうることも示している。
【0099】
修飾フカン1、修飾フカン2及び修飾フカン3のすべてが、TGFb1の活性の64~87%、TNFaの活性の1~53%、MMP-2の活性の17~73%、TIMP-1の活性の7~86%及びTIMP-2の活性の14~99%を阻害又は隔離することができた。このことは、本開示で説明されている医学的に許容可能な修飾フカンによって、被膜拘縮の発生に関与するケモカインが阻害されたり隔離されたりすることを示している。
【0100】
修飾フカン1、修飾フカン2及び修飾フカン3のすべてでTGFb1の活性の64~87%、TNFaの活性の1~53%、IL-1bの活性の8~74%、IL-13の活性の27~61%及びIL-33の活性の60~86%を阻害又は隔離することができた。このことは、本開示で説明されている医学的に許容可能な修飾フカンによって、FBR及び線維性被膜形成の発生に関与するケモカインが阻害されたり隔離されたりすることを示している。
【0101】
例4:フコイダンを用いた生体内線維性被膜及び被膜拘縮処置
約3kgのメスのニュージーランドホワイト種のウサギにケタミン22.5mg/kgとキシラジン2.5mg/kgとを前投薬した。麻酔導入に5%イソフルラン及び酸素を用い、ウサギを約2%のイソフルランを用いて維持し、その後の処理手順のために、LRSの静脈注入(3mL/kg/h)用にカテーテルを挿入した。ウサギの背中及び一方の後肢の周囲の領域を剃毛した。ドップラーカフを後脚の剃毛領域に配置し、動物を手術台に移した。
【0102】
中央腰仙部の第12肋骨(13番目の肋骨)レベルで3cmの横皮膚切開を行なった。皮幹筋(panniculus carnosum)に3cm長の横切開を行なった(筋膜にわたって切断することを避ける)。皮幹筋の下において右胸郭の上に右肩甲骨レベルに至るトンネルを鈍的切開によって形成した。トンネルの端に直径2.5cmのポケットを形成した。以下の表3で説明されている被膜形成の方法をポケット部位に適用した。1つのポケットに体重1kg当たり10mL未満の用量のフコイダン溶液(3mg/mLのフコイダン溶液約4.5mL)を塗布し、ポケット全体に確実にコーティングした。対照群に対してはフコイダン溶液を塗布しなかった。シリコーンインプラント(直径2cm×高さ1cm)をポケットに挿入した。切開部を閉鎖する前にすべての出血部を止血した。皮幹筋切開部をバイクリル4-0を用いて連続パターンで閉鎖した。表皮下の層をモノクリル4-0を用いて縫合した。皮膚切開層をモノクリル4-0を用いて連続表皮下パターンで縫合した。同じ手順を合計4つのインプラントが用いられる肩甲骨レベルの左側まで至る左胸郭の上の領域と、右腰仙部の右腸骨稜レベルまで至る領域と、左腰仙部の左腸骨稜レベルまで至る領域とに繰り返した。縫合後に外科用接着剤を必要に応じて用いた。
【0103】
二分した被膜組織片から異なる4つの領域を選択した後、これらの領域の各々内で被膜表面に垂直に直線距離測定(linear measurement)を3回行うことによって線維性被膜の厚さを定量的に測定した。これらの3つの測定値の平均を部位毎に各領域について記録した。その後、4つの領域の平均をさらに平均してインプラント部位毎の平均被膜厚さを定量し、これに続いて、4つの部位の平均被膜厚さを平均してウサギ毎の平均被膜厚さを得た。その結果を以下の表3に示す。
【0104】
【0105】
検討の結果は、手術部位で様々な方法によって誘発される線維性被膜及び被膜拘縮の処置にフコイダン溶液が効果的であったことを示している。インプラントの部位にフコイダン溶液を使用した結果、未処理の標本と比較して平均被膜厚さが21~65%減少し、最大被膜厚さが23~70%減少した。
【0106】
例14:フコイダンを用いた生体内FBR及び線維性被膜の処置
厚さ5mm×直径12mmのポリエーテル・ポリウレタンスポンジディスクインプラント(ビタフォーム社(Vitafoam Ltd)(英国マンチェスター))を用いて腹膜腔内で異物反応を誘発する。表4で概略的に説明されている試験に異なる4つの処置群を用いる。インプラントを滅菌した後、a)インプラントを50%w/vフコイダン溶液に浸漬させること、b)50%w/vのフコイダン溶液をインプラントに注入することによりフコイダンを埋め込むこと、又はc)埋め込み手術の前に未処理のままにしておき、前記未処理インプラントについては、一群で、フコイダンを用いずにインプラントを埋め込んで対照インプラントを用意し、別の群で、腹膜腔内にインプラントを留置することを通じて共投与されるフコイダン溶液(0.05%w/v、5mL)と共投与でインプラントを埋め込むことのいずれかを行う。体重300~350gのオスのウィスタ系ラットに対してケタミンとキシラジンとの混合物(それぞれ60mg/kg及び10mg/kg)を用いて麻酔を行う。腹部の体毛を剃毛し、皮膚をクロルヘキシジンと70%のエタノールとを用いて拭く。インプラントを腹部の白線の1cm長の腹側正中切開により腹腔内に無菌的に埋め込む。
【0107】
切開部をブレードシルク非吸収性縫合糸を用いて閉鎖する。埋め込みの10日後、動物に対してケタミンとキシラジンとを用いて麻酔を行ない、その後、頸椎脱臼によって安楽死させる。インプラントを癒着組織から慎重に切り離し、摘出して重量を測定する。その後、組織染色、免疫組織化学的分析及び形態計測分析のために処理する。
【0108】
両方の群(対照及び処理済み)のインプラントを10%の緩衝ホルマリン(pH7.4)で固定し、パラフィン包埋のために処理する。5mm厚の切片をヘマトキシリン/エオシン(H&E)で染色し、光学顕微鏡による検討のために処理する。偏光顕微鏡検査に先行して行なわれるピクロシリウスレッド染色を用いてコラーゲン線維を視覚化して定量する。内皮細胞/血管の検出に用いられる免疫組織化学的(IHC)反応を、モノクローナル抗体のクローンCD31(フィッツジェラルド(Fitzgerald)社(米国マサチューセッツ州))を用いて実行する。組織切片(5μm)を脱脂し、抗原賦活化をクエン酸緩衝液(pH6)中で実行する。スライドをクエン酸緩衝液中で95℃で25分間煮沸した後、同じ緩衝液中で1時間冷却する。切片を3%の過酸化水素中で5分間定温放置して内因性組織ペルオキシダーゼを失活させる。非特異的結合を、1%のウシ血清アルブミン(リン酸緩衝生理食塩水中)とともに正常ヤギ血清(リン酸緩衝生理食塩水中で1:10)を10分間用いることによってブロックする。その後、切片をCD31に対するモノクローナル抗体(1:40に希釈 ダコ社(Dako Corporation)(米国カリフォルニア州カーピンテリア))で室温で60分間免疫染色した後、Tris-HCl緩衝液で洗浄する。切片をビオチン標識されたリンクユニバーサルストレプトアビジン(HRP標識)(biotinylated Link Universal Streptavidin-HRP)(ダコ社(米国カリフォルニア州カーピンテリア))とともに室温で30分間定温放置する。この反応は色原体溶液中の3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)(ダコ社(米国カリフォルニア州カーピンテリア))を使用することによって判明する。切片をヘマトキシリンで対比染色し、Permount(フィッシャーサイエンティフィック(Fisher Scientific)社(米国ニュージャージー州))にマウントする。免疫染色を手動で行ない、染色強度に関係なく6つの高倍率視野(×400)で内腔を形成する内皮細胞の細胞質免疫標識の程度に基づいてタンパク質の発現を評価した。全コラーゲンの面積、被膜厚さ及び血管を形態計測的に測定して線維性被膜形成を評価する。
【0109】
血管数の形態計測分析を実行するために、35個の視野から断面の画像を取得し、これを倍率400倍で光学顕微鏡検査を行う際に撮像する。コラーゲンの分析と壁の厚さとについては、代表的な3つの視野から200倍の倍率で画像を取得する。形態計測分析の結果を線維性被膜の厚さと線維血管性組織浸潤(fibrovascular tissue infiltration)とを評価するのに用いる。
【0110】
フコイダンでコーティングされたインプラント、フコイダンが埋め込まれたインプラント、及びフコイダンが共投与されたインプラントを装着したラットの線維性被膜の厚さ及び線維血管性組織浸潤は、一切フコイダンを用いずに埋め込まれた器具のみを装着したラットの場合よりも低くなっている。
【0111】
例15:フコイダンを用いた生体内FBR及び線維性被膜の処置
細胞移植システム(たとえば、セルノバ社(Sernova Corp.)(カナダオンタリオ州ロンドン)のCell Pouch System)を用いて腹膜腔内で異物反応を誘発する。試験には異なる4つの処置群を用いる。インプラントを滅菌した後、a)インプラントを50%w/vフコイダン溶液に浸漬させること、b)50%w/vのフコイダン溶液をインプラントに注入することによりフコイダンを埋め込むこと、又はc)埋め込み手術の前に未処理のままにしておき、前記未処理インプラントについては、一群で、フコイダンを用いずにインプラントを埋め込んで対照インプラントを用意し、別の群で、腹膜腔内にインプラントを留置することを通じて共投与されるフコイダン溶液(0.05%w/v、5mL)と共投与でインプラントを埋め込むことのいずれかを行う。体重300~350gのオスのウィスタ系ラットに対してケタミンとキシラジンとの混合物(それぞれ60mg/kg及び10mg/kg)を用いて麻酔を行う。腹部の体毛を剃毛し、皮膚をクロルヘキシジンと70%のエタノールとを用いて拭く。インプラントを腹部の白線の1cm長の腹側正中切開により腹腔内に無菌的に埋め込む。切開部をブレードシルク非吸収性縫合糸を用いて閉鎖する。埋め込みの10日後、動物に対してケタミンとキシラジンとを用いてで麻酔を行ない、その後、頸椎脱臼によって安楽死させる。インプラントを癒着組織から慎重に切り離し、摘出して重量を測定する。その後、組織染色、免疫組織化学的分析及び形態計測分析のために処理する。
【0112】
両方の群(対照及び処理済み)のインプラントを10%の緩衝ホルマリン(pH7.4)で固定し、パラフィン包埋のために処理する。5mm厚の切片をヘマトキシリン/エオシン(H&E)で染色し、光学顕微鏡による検討のために処理する。偏光顕微鏡検査に先行して行なわれるピクロシリウスレッド染色を用いてコラーゲン線維を視覚化して定量する。内皮細胞/血管の検出に用いられる免疫組織化学的(IHC)反応を、モノクローナル抗体のクローンCD 31(フィッツジェラルド(Fitzgerald)社(米国マサチューセッツ州))を用いて実行する。組織切片(5μm)を脱脂し、抗原賦活化をクエン酸緩衝液(pH6)中で実行する。スライドをクエン酸緩衝液中で95℃で25分間煮沸した後、同じ緩衝液中で1時間冷却する。切片を3%の過酸化水素中で5分間定温放置して内因性組織ペルオキシダーゼを失活させる。非特異的結合を、1%のウシ血清アルブミン(リン酸緩衝生理食塩水中)とともに正常ヤギ血清(リン酸緩衝生理食塩水中で1:10)を10分間用いることによってブロックする。その後、切片をCD31に対するモノクローナル抗体(1:40に希釈 ダコ社(Dako Corporation)(米国カリフォルニア州カーピンテリア))で室温で60分間免疫染色した後、Tris-HCl緩衝液で洗浄する。切片をビオチン標識されたリンクユニバーサルストレプトアビジン(HRP標識)(biotinylated Link Universal Streptavidin-HRP)(ダコ社(米国カリフォルニア州カーピンテリア))とともに室温で30分間定温放置する。この反応は色原体溶液中の3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)(ダコ社(米国カリフォルニア州カーピンテリア))を使用することによって判明する。切片をヘマトキシリンで対比染色し、Permount(フィッシャーサイエンティフィック(Fisher Scientific)社(米国ニュージャージー州))にマウントする。免疫染色を手動で行ない、染色強度に関係なく6つの高倍率視野(×400)で内腔を形成する内皮細胞の細胞質免疫標識の程度に基づいてタンパク質の発現を評価した。全コラーゲンの面積、被膜厚さ及び血管を形態計測的に測定して線維性被膜形成を評価する。
【0113】
血管数の形態計測分析を実行するために、35個の視野から断面の画像を取得し、これを倍率400倍で光学顕微鏡検査を行う際に撮像する。コラーゲンの分析と壁の厚さとについては、代表的な3つの視野から200倍の倍率で画像を取得する。形態計測分析の結果を線維性被膜の厚さと線維血管性組織浸潤(fibrovascular tissue infiltration)とを評価するのに用いる。
【0114】
フコイダンでコーティングされたインプラント、フコイダンが埋め込まれたインプラント、及びフコイダンが共投与されたインプラントを装着したラットの線維性被膜の厚さ及び線維血管性組織浸潤は、一切フコイダンを用いずに埋め込まれた器具のみを装着したラットと比較して低くなっている。
【0115】
例16:フコイダンを用いた生体内FBR処置
30匹のマウスの各々の腹腔内に5つのシリコーンカテーテルを外科的に埋め込む。すなわち、腹部に8mmの正中切開を行ない、5つのカテーテルを腹部内に留置する。手術前にカテーテルをフコイダン溶液(5mg/mL)に4時間浸漬することによってフコイダン溶液でコーティングされたカテーテルを15匹のマウスに装着する。コーティングしてないカテーテルを15匹のマウスに装着する。閉鎖の直前に腹腔内に抗生剤(セファゾリン0.5mg及びゲンタマイシン1mg)を注入する。筋肉を吸収性縫合糸で閉鎖し、その上の皮膚を創傷用クリップで閉鎖する。カテーテルを5匹のマウスから1週目、3週目及び5週目に回収し、動物に麻酔を行ない、カテーテルと癒着細胞層とを腹部から慎重に摘出する。
【0116】
腹壁から得られた組織の組織サンプルをトリクローム染色で画像化して、カテーテルが埋め込まれた部位の腹膜中皮下層の厚さを測定する。フコイダンでコーティングされたカテーテルが装着されたマウスの中皮下層の厚さが、未処理のカテーテルが用いられたマウスと比較して50~90%薄いことが示され、異物反応が弱いことが示されている。
【0117】
例17:フコイダンを用いた生体内GVHD処置
ドナーとして適合した生後6~8週目のマウス10組に2Gyの亜致死量の放射線を照射し、麻酔を行ない、ヒト胎児の胸腺及び肝臓の1mm断片を腎被膜の下に両側から埋め込む。その後、ドナーとして適合した各組の一方のマウスには閉鎖前に0.5mLのフコイダン溶液(2.5mg/mL)を投与し、その組の他方のマウスには閉鎖前に追加の処置を一切行なわない。さらに、胎児の肝臓からCD34+細胞を抗CD34マイクロビーズを用いて単離し、1×105個の細胞を手術後6時間以内に静脈内注射する。
【0118】
組織学的には、GVHDにおける皮膚の関与は、表皮、毛包、及び真皮/皮下接合部へのリンパ球浸潤、及びそれに対応する毛包の脱落、皮下脂肪の減少、表皮過形成及び真皮コラーゲンのヒアリン化、ヒトのGVHDや強皮症で観察される特徴と同様の特徴によって特徴づけられる。ドナーとして適合したマウスの組におけるGVHDは、40週間にわたって実施される皮膚の組織学的検査の4つの要素(炎症、表皮過形成、線維症及び皮下脂肪萎縮症)の盲検スコアリング(0~4)によって特徴づけられる。閉鎖前にフコイダン溶液が与えられたマウスの炎症、表皮過形成、線維症及び皮下脂肪萎縮症のスコアは、フコイダン溶液が与えられなかったマウスよりも50~90%低いことが示された。
【0119】
例18:フコイダンを用いた生体内線維症及び移植線維性癒着の処置。
本試験では25~30gのマウス10組が用いられ、そのうちの半分がドナーであり、残りの半分がレシピエントである。
【0120】
ドナー移植手術:長く正中切開することによって腹部に侵入する。腸を右側に横移動させ、モスキート鉗子を用いて胃を引っ込めることによって左腎臓を露出させる。副腎と精巣血管とを8-0シルク縫合糸で結紮して分割することによって左腎臓を分離する。腰椎神経の枝を結紮して分割した後、大動脈及び下大静脈(inferior vena cava:IVC)をこれらと左腎動脈及び左腎静脈との接合部で寄せ集める。腎動脈及び腎静脈の上下にある大動脈及びIVCの周囲に4つの縫合糸を結ぶ。左尿管を腎門から膀胱まで切開し、ドナーの尿管の末端3~5mmから周囲の脂肪組織を除去する。大動脈を腎動脈の上で結紮し、腎下大動脈に30ゲージの針を導入し、その状態で移植片に、ヘパリンを添加した低温の乳酸リンゲル液(ヘパリン濃度=100U/ml)0.5~1mlをゆっくりと灌流する。腎静脈とIVCとの接合部で腎静脈を切除する。大動脈を腎動脈の約2mm下で斜めに分割する。腎臓と、腎臓まで血管を延ばす部分とを、付随する尿管とともにまとめて摘出し、乳酸リンゲル液(2.5mg/mLフコイダン溶液を添加した状態でn=5、及びフコイダン溶液を添加していない状態でn=5)中で4℃で保存する。
【0121】
レシピエント移植手術:正中切開を行ない、腸を湿らせたガーゼで覆い、左側に引っ込める。まず、レシピエントに元々備わっている右腎臓を摘出する。腰椎神経の枝を結紮した後、腎下大動脈とIVCとを慎重に分離し、2つの4mm微細血管用クランプでクロスクランプを行う。11-0ナイロン縫合糸で大動脈の全層にわたって収縮させて、虹彩剪刀を用いて1回切断することで楕円形の大動脈切開(血管の直径の約1/5)を行う。まず30ゲージの針でIVCを穿刺し、その後、大動脈切開(0.08mm)よりも僅かに低いレベルで虹彩剪刀で切断することによってIVCに長手方向の静脈切開(0.18mm)を行う。大動脈とIVCとの両方の全体に対してヘパリンを添加した生理食塩水でフラッシングを行う。静脈切開部の両端に2つの留置用縫合糸を配置する。その後、ドナーの腎臓を氷から取り出し、マウスの右脇腹に配置する。ドナーの腎静脈とレシピエントのIVCとの端側吻合を連続10-0縫合糸を用いて実行する。移植片を配置し直すことなく血管内腔内で後壁を縫合する。その後、前壁を同じ縫合糸を用いて外側から閉鎖する。静脈の吻合が完了した後、縫合糸を結ぶ。動脈吻合も本記載で説明されている静脈吻合と同じように実行する。血管再建後、吻合部に乾いた綿棒で1~2分間穏やかな圧力を加える。25ゲージの針又は顕微手術用鉗子一組を用いて膀胱の側壁を貫通することによって2つの小孔を形成する。尿管の端を把持して両孔を通じて引き込む。periuretal結合組織を10-0ナイロンを用いて3針縫合することによってドナーの尿管を膀胱の外壁の近傍に固定する。尿管の末端を切り落とし、尿管の切り落とされず残った部分1mmを膀胱の内腔に引き込む。もう一方の膀胱の孔を閉鎖し、10-0縫合糸を用いて縫合して確実に閉鎖する。腎臓の内腔を閉鎖する前に、フコイダンに浸漬させたドナーの腎臓の移植を受け入れたマウスにさらに1mLの5mg/mLフコイダン含有LRSを投与し、他方の群の手術部位に1mLのLRSを与える。
【0122】
4週間後にマウスを安楽死させ、腎臓の内腔の癒着の強さと量とのスコア(0~4)を付ける。手術前にフコイダン-LRS溶液中で保存された腎臓が移植されかつ閉鎖前に手術部位に5mg/mLのフコイダン溶液が与えられたマウスでは、閉鎖前に手術部位に未処理の移植腎臓とLRSとを受け入れたマウスと比較して、移植体の癒着が70~90%減少し、癒着の強さが50~90%弱かったことが示された。
【0123】
本開示で用いられているすべての用語は、文脈や定義上、別段明確に示されていない限り、通常の意味で用いられている。また、別段明示的に示されていない限り、本開示では「又は」の使用には「及び」が含まれ、その逆も同様である。限定を課さない用語は、限定を課すことが明示的に記載されていたり文脈上、明確に示されていたりする場合を除き、限定を課すものとして解釈されるものではない(たとえば、「含む」、「有する」及び「備える」は通常、「限定されずに含む」を示す)。請求項に含まれる“a”、“an”及び“the”などの単数形は、単数形でないことが明示的に記載されていたり文脈上、明確に示されていたりする場合を除き、複数形を含む。
【0124】
別段記載されていない限り、一実施形態の1又は複数の特徴に特有の状態又は関係を修飾する「実質的に」や「約」などの本開示の形容詞的な記載は、状態又は特性が、対象となる用途に対する実施形態の動作に許容可能な許容範囲内で定められていることを示すものである。
【0125】
本方法、組成物、システムなどの範囲には、ミーンズプラスファンクションの概念とステッププラスファンクションの概念との両方が含まれる。ただし、請求項は、「手段」という記載が請求項に明確に記載されていない限り、「ミーンズプラスファンクション」の関係を示すものとして解釈されるものではなく、「手段」という記載が請求項に明確に記載されている場合に「ミーンズプラスファンクション」の関係を示すものとして解釈されるものである。同様に、請求項は、「工程」という記載が請求項に明確に記載されていない限り、「ステッププラスファンクション」の関係を示すものとして解釈されるものではなく、「工程」という記載が請求項に明確に記載されている場合に「ステッププラスファンクション」の関係を示すものとして解釈されるものである。
【0126】
以上のことから、本開示では説明の目的で特定の実施形態について説明してきたが、本開示の説明の精神及び範囲から逸脱しない限りにおいて様々な修正を行うことができることが分かる。したがって、システムや方法などはこのような修正と、本開示で示されている保護対象のすべての置換及び組合せとを含み、添付の請求項、又は本開示の説明及び図面で十分にサポートされている他の請求項による場合を除き、限定されない。
【国際調査報告】