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特表2024-532876プライマリー免疫細胞を作製するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-10
(54)【発明の名称】プライマリー免疫細胞を作製するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20240903BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240903BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240903BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240903BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240903BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240903BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20240903BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20240903BHJP
   C12N 15/38 20060101ALN20240903BHJP
   C12N 15/867 20060101ALN20240903BHJP
【FI】
C12N5/10
A61K35/17
A61P43/00 105
A61P37/02
A61P35/00
C12N15/09 100
C12N5/0783
C12N15/62 Z
C12N15/38
C12N15/867 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024511996
(86)(22)【出願日】2022-08-24
(85)【翻訳文提出日】2024-04-15
(86)【国際出願番号】 EP2022073626
(87)【国際公開番号】W WO2023025862
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】63/236,443
(32)【優先日】2021-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391008951
【氏名又は名称】アストラゼネカ・アクチエボラーグ
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】マルホトラ,ディーパリ
(72)【発明者】
【氏名】オーバーストリート,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ムーディ,ゴードン
(72)【発明者】
【氏名】コボルド,マーク
(72)【発明者】
【氏名】ボンダンザ,アッティリオ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4B065CA46
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087CA04
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB07
4C087ZB21
4C087ZB26
(57)【要約】
本開示は、養子細胞療法用の細胞集団及び組成物を調製するための方法、細胞及び組成物に関する。特に、T細胞集団を含むプライマリー免疫細胞の増加及び増殖のための方法が本明細書中で提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を作製する方法であって、
(a)プライマリー免疫細胞に対して1つ以上の遺伝子編集を導入し;
(b)培地中で前記プライマリー免疫細胞を培養すること;
を含み、
前記培養が、前記プライマリー免疫細胞の増殖を誘導して、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を生じさせる、
方法。
【請求項2】
前記1つ以上の遺伝子編集を前記プライマリー免疫細胞に導入する前に前記プライマリー免疫細胞を刺激することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1つ以上の遺伝子編集を前記プライマリー免疫細胞に導入した後に前記プライマリー免疫細胞を刺激することをさらに含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記プライマリー免疫細胞における1つ以上の内因性調節因子の発現を阻害することをさらに含む、請求項1~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記内因性調節因子が、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A(CDKN2A)、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2B(CDKN2B)又はS-メチル-5’-チオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記プライマリー免疫細胞における1つ以上の内因性免疫関連遺伝子の発現を阻害することをさらに含む、請求項1~5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記内因性免疫関連遺伝子がベータ-2ミクログロブリン(B2M)及び/又はT細胞受容体αコンスタント(TRAC)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
1つ以上の遺伝子編集の導入が、抗アポトーシス因子又はウイルス由来因子をコードする1つ以上の導入遺伝子を前記プライマリー免疫細胞に導入することを含む、請求項1~7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記抗アポトーシス因子が、巨大B細胞性リンパ腫(Bcl-xL)又はB細胞リンパ腫2(Bcl-2)の何れかである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ウイルス由来因子が、サイミリイン・ガンマヘルペスウイルス(Saimiriine gammaherpesvirus)2 StpA A11、ヘルペスウイルス・サイミリ(Herpesvirus saimiri)StpCヘルペスウイルス・サイミリ(Herpesvirus saimiri)Tip又は修飾されたヘルペスウイルス・アテレス-エプスタイン-バーウイルス(Herpesvirus Ateles-Epstein-Barr virus)Tio-LMP1の何れか1つである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
表面抗原分類38(CD38)の発現を阻害することをさらに含む、請求項1~10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
ホスファターゼ及びテンシンホモログ(PTEN)の発現を阻害することをさらに含む、請求項1~11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記プライマリー免疫細胞が全T細胞を含む、請求項1~12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記プライマリー免疫細胞がCD8T細胞を含む、請求項1~12の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記プライマリー免疫細胞がCD4T細胞を含む、請求項1~12の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記プライマリー免疫細胞が、ガンマ-デルタT細胞、粘膜関連インバリアントT(MAIT)T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞及び/又はナチュラルキラーT(NKT)細胞を含む、請求項1~15の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記プライマリー免疫細胞がヒトである、請求項1~16の何れか1項に記載の方法。
【請求項18】
キメラ抗原受容体(CAR)をコードするポリヌクレオチドを導入することをさらに含む、請求項1~17の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
プライマリー免疫細胞の前記集団が少なくとも100日間にわたりTCR刺激あり又はなしで培養され得る、請求項1~18の何れか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記プライマリー免疫細胞が培養中に少なくとも約10倍に増加する、請求項1~19の何れか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記プライマリー免疫細胞が、プライマリー免疫細胞刺激を含まない培地中で培養される、請求項1~20の何れか1項に記載の方法。
【請求項22】
(c)前記プライマリー免疫細胞を再刺激することをさらに含む、請求項2又は請求項3に記載の方法。
【請求項23】
前記プライマリー免疫細胞が、培養中に少なくとも約10倍に増加する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記導入遺伝子がプラスミドに基づくDNAトランスポゾンを使用して導入される、請求項1~23の何れか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記導入遺伝子がレンチウイルスプラットフォームを使用して導入される、請求項1~23の何れか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記導入遺伝子がCRISPRを介した部位特異的な組み込みを使用して導入される、請求項1~23の何れか1項に記載の方法。
【請求項27】
複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を作製する方法であって、
(a)前記プライマリー免疫細胞における1つ以上の内因性調節因子の発現を阻害し
(ここで、前記内因性調節因子は、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A(CDKN2A)、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2B(CDKN2B)又はS-メチル-5’-チオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)である);
(b)前記プライマリー免疫細胞における1つ以上の内因性免疫関連遺伝子の発現を阻害し
(ここで、前記内因性免疫関連遺伝子は、ベータ-2ミクログロブリン(B2M)及び/又はT細胞受容体αコンスタント(TRAC)である);
(c)前記プライマリー免疫細胞を培地中で培養すること
を含み、
前記培養が、前記プライマリー免疫細胞の増殖を誘導して、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を生じさせる、方法。
【請求項28】
巨大B細胞性リンパ腫(Bcl-xL)又はB細胞リンパ腫2(Bcl-2)の何れかをコードする導入遺伝子を前記プライマリー免疫細胞に導入することをさらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
1つ以上の遺伝子編集が前記プライマリー免疫細胞に導入される前に前記プライマリー免疫細胞を刺激することをさらに含む、請求項27又は請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記1つ以上の遺伝子編集が前記プライマリー免疫細胞に導入された後に前記プライマリー免疫細胞を刺激することをさらに含む、請求項27~29の何れか1項に記載の方法。
【請求項31】
表面抗原分類38(CD38)の発現を阻害することをさらに含む、請求項27~30の何れか1項に記載の方法。
【請求項32】
ホスファターゼ及びテンシンホモログ(PTEN)の発現を阻害することをさらに含む、請求項27~31の何れか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記プライマリー免疫細胞が全T細胞を含む、請求項27~32の何れか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記プライマリー免疫細胞がCD8T細胞を含む、請求項27~32の何れか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記プライマリー免疫細胞がCD4T細胞を含む、請求項27~32の何れか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記プライマリー免疫細胞が、ガンマ-デルタT細胞、粘膜関連インバリアントT(MAIT)T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞及び/又はナチュラルキラーT(NKT)細胞を含む、請求項27~32の何れか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記プライマリー免疫細胞がヒトである、請求項27~36の何れか1項に記載の方法。
【請求項38】
キメラ抗原受容体(CAR)をコードするポリヌクレオチドを導入することをさらに含む、請求項27~37の何れか1項に記載の方法。
【請求項39】
プライマリー免疫細胞の前記集団が、少なくとも100日間培養され得る、請求項27~38の何れか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記プライマリー免疫細胞が培養中に少なくとも約10倍に増加する、請求項27~39の何れか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記プライマリー免疫細胞がプライマリー免疫細胞刺激を含まない培地中で培養される、請求項27~40の何れか1項に記載の方法。
【請求項42】
(d)前記プライマリー免疫細胞を再刺激することをさらに含む、請求項27~41の何れか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記プライマリー免疫細胞が培養中に少なくとも約10倍に増加する、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記導入遺伝子がプラスミドに基づくDNAトランスポゾンを使用して導入される、請求項27~43の何れか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記導入遺伝子がレンチウイルスプラットフォームを使用して導入される、請求項27~43の何れか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記導入遺伝子がCRISPRを介した部位特異的な組み込みを使用して導入される、請求項27~43の何れか1項に記載の方法。
【請求項47】
複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を作製する方法であって、
(a)前記プライマリー免疫細胞中での1つ以上の内因性調節因子の発現を阻害し
(内因性調節因子は、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A(CDKN2A)、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2B(CDKN2B)又はS-メチル-5’-チオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)である);
(b)培地中で前記プライマリー免疫細胞を培養すること
を含み、
前記培養が、前記プライマリー免疫細胞の増殖を誘導して、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を生じさせる、方法。
【請求項48】
1つ以上の遺伝子編集が前記プライマリー免疫細胞に導入される前に前記プライマリー免疫細胞を刺激することをさらに含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記1つ以上の遺伝子編集が前記プライマリー免疫細胞に導入された後に前記プライマリー免疫細胞を刺激することをさらに含む、請求項47又は請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記プライマリー免疫細胞における1つ以上の内因性免疫関連遺伝子の発現を阻害することをさらに含む、請求項47~49の何れか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記内因性免疫関連遺伝子が、ベータ-2ミクログロブリン(B2M)及び/又はT細胞受容体αコンスタント(TRAC)である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
表面抗原分類38(CD38)の発現を阻害することをさらに含む、請求項47~51の何れか1項に記載の方法。
【請求項53】
ホスファターゼ及びテンシンホモログ(PTEN)の発現を阻害することをさらに含む、請求項47~52の何れか1項に記載の方法。
【請求項54】
前記プライマリー免疫細胞が全T細胞を含む、請求項47~53の何れか1項に記載の方法。
【請求項55】
前記プライマリー免疫細胞がCD8T細胞を含む、請求項47~53の何れか1項に記載の方法。
【請求項56】
前記プライマリー免疫細胞がCD4T細胞を含む、請求項47~53の何れか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記プライマリー免疫細胞が、ガンマ-デルタT細胞、粘膜関連インバリアントT(MAIT)T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞及び/又はナチュラルキラーT(NKT)細胞を含む、請求項47~53の何れか1項に記載の方法。
【請求項58】
前記プライマリー免疫細胞がヒトである、請求項47~57の何れか1項に記載の方法。
【請求項59】
キメラ抗原受容体(CAR)をコードするポリヌクレオチドを導入することをさらに含む、請求項47~58の何れか1項に記載の方法。
【請求項60】
プライマリー免疫細胞の前記集団が少なくとも100日間培養され得る、請求項47~59の何れか1項に記載の方法。
【請求項61】
前記プライマリー免疫細胞が培養中に少なくとも約10倍に増加する、請求項47~60の何れか1項に記載の方法。
【請求項62】
前記プライマリー免疫細胞がプライマリー免疫細胞刺激を含まない培地中で培養される、請求項47~61の何れか1項に記載の方法。
【請求項63】
(c)前記プライマリー免疫細胞を刺激することをさらに含む、請求項47又は請求項48に記載の方法。
【請求項64】
前記プライマリー免疫細胞が、培養中に少なくとも約10倍に増加する、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記導入遺伝子がプラスミドに基づくDNAトランスポゾンを使用して導入される、請求項47~64の何れか1項に記載の方法。
【請求項66】
前記導入遺伝子がレンチウイルスプラットフォームを使用して導入される、請求項47~64の何れか1項に記載の方法。
【請求項67】
前記導入遺伝子が、CRISPRを介した部位特異的な組み込みを使用して導入される、請求項47~64の何れか1項に記載の方法。
【請求項68】
請求項1~67の何れか1項に記載の方法に従い作製される、改変された免疫細胞集団。
【請求項69】
請求項68に記載の改変された免疫細胞集団と、薬学的に許容可能な担体と、を含む、医薬組成物。
【請求項70】
癌の処置を必要とする対象において癌を処置する方法であって、請求項69に記載の医薬組成物の治療的有効量を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項71】
サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A(CDKN2A)、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2B(CDKN2B)及び/又はS-メチル-5’-チオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)を発現しない、改変されたT細胞。
【請求項72】
巨大B細胞性リンパ腫(Bcl-xL)又はB細胞リンパ腫2(Bcl-2)の何れかをコードする導入遺伝子をさらに含む、請求項71に記載の改変されたT細胞。
【請求項73】
前記プライマリー免疫細胞における1つ以上の内因性免疫関連遺伝子を発現しない、請求項71又は72に記載の改変されたT細胞。
【請求項74】
前記内因性免疫関連遺伝子が、ベータ-2ミクログロブリン(B2M)及び/又はT細胞受容体αコンスタント(TRAC)である、請求項73に記載の改変されたT細胞。
【請求項75】
表面抗原分類38(CD38)を発現しない、請求項71~74の何れか1項に記載の改変されたT細胞。
【請求項76】
キメラ抗原受容体(CAR)をコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項71~75の何れか1項に記載の改変されたT細胞。
【請求項77】
CD8T細胞、CD4T細胞、ガンマ-デルタT細胞、粘膜関連インバリアントT(MAIT)T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞又はそれらの組み合わせである、請求項71に記載の改変されたT細胞。
【請求項78】
CD8T細胞である、請求項71に記載の改変されたT細胞。
【請求項79】
CD4T細胞である、請求項71に記載の改変されたT細胞。
【請求項80】
ヒトである、請求項71~79の何れか1項に記載の改変されたT細胞。
【請求項81】
サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A(CDKN2A)、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2B(CDKN2B)、S-メチル-5’-チオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)、ベータ-2ミクログロブリン(B2M)及び/又はT細胞受容体αコンスタント(TRAC)を発現しない、改変されたT細胞。
【請求項82】
表面抗原分類38(CD38)を発現しない、請求項81に記載の改変されたT細胞。
【請求項83】
キメラ抗原受容体(CAR)をコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項81又は請求項82に記載の改変されたT細胞。
【請求項84】
ガンマ-デルタT細胞、粘膜関連インバリアントT(MAIT)T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞又はそれらの組み合わせである、請求項81に記載の改変されたT細胞。
【請求項85】
CD8T細胞である、請求項81に記載の改変されたT細胞。
【請求項86】
CD4T細胞である、請求項81に記載の改変されたT細胞。
【請求項87】
ヒトである、請求項81~86の何れか1項に記載の改変されたT細胞。
【請求項88】
巨大B細胞性リンパ腫(Bcl-XL)をコードする導入遺伝子を発現する改変されたT細胞であって、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A(CDKN2A)、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2B(CDKN2B)、S-メチル-5’-チオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)及び/又はホスファターゼ及びテンシンホモログ(PTEN)を発現しない、改変されたT細胞。
【請求項89】
プライマリー免疫細胞における1つ以上の内因性免疫関連遺伝子を発現しない、請求項88に記載の改変されたT細胞。
【請求項90】
前記内因性免疫関連遺伝子が、ベータ-2ミクログロブリン(B2M)又はT細胞受容体αコンスタント(TRAC)である、請求項89に記載の改変されたT細胞。
【請求項91】
表面抗原分類38(CD38)を発現しない、請求項88~90の何れか1項に記載の改変されたT細胞。
【請求項92】
キメラ抗原受容体(CAR)をコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項88~91の何れか1項に記載の改変されたT細胞。
【請求項93】
CD8T細胞、CD4T細胞、デルタガンマT細胞、粘膜関連インバリアントT(MAIT)T細胞、ナチュラルキラー(NK)T細胞又はそれらの組み合わせである、請求項88に記載の改変されたT細胞。
【請求項94】
CD8T細胞である、請求項88に記載の改変されたT細胞。
【請求項95】
CD4T細胞である、請求項88に記載の改変されたT細胞。
【請求項96】
ヒトである、請求項88~95の何れか1項に記載の改変されたT細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年8月24日に出願された米国仮特許出願第63/236,443号の優先権を主張し、その開示は、参照としてその全文を本明細書に組み込むものとする。
【0002】
本開示は、養子細胞療法用の細胞集団及び組成物を調製するための、方法、細胞及び組成物に関する。特に、T細胞集団を含むプライマリー免疫細胞の増加及び増殖のための方法が本明細書中で提供される。
【背景技術】
【0003】
改変養子細胞療法は、近年、血液悪性腫瘍の患者にとって斬新なものであり、2017年にFDAによってキメラ抗原受容体(CAR)に基づく治療が最初に承認された(非特許文献1;非特許文献2)。2017年以来、CAR-T細胞、CAR-ナチュラルキラー(NK)及びCAR-NKT細胞、T細胞受容体(TCR)-T細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、腫瘍特異的な抗原を標的とするT細胞などの養子細胞療法及び他の細胞療法を試験する臨床治験の数が急増している。さらに最近では、最初のCAR-マクロファージ(CAR-M)が、固形腫瘍の処置に対する臨床段階(clinic)に入っている(非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6)。
【0004】
細胞療法が患者にとって根治治療となる大きな可能性がある一方で、多くの要因によって、これらの薬物の広範な開発及び投与が限定される。殆どの細胞療法は現在、自家方式で作製され、細胞製品は品質に変動があること、サイトカイン放出症候群及び他の毒性、製造時間の延長、高コスト及びこれらの治療がそれらの有効性を促進するために遺伝子修飾され得る期間が限定的であることが関連する(非特許文献1)。
【0005】
臨床段階(clinic)で現在試験されている細胞療法の多くは、CAR-T又はCAR-NK細胞を利用するが、それは、免疫細胞のこれらのサブセットが強力な細胞傷害性を示すからである。これらの治療のために使用される成熟プライマリーヒトT細胞は、ヒトの血液及び二次リンパ器官中で見出され、これらは、感染性疾患及び癌から個体を防御する。T細胞は、αβ(「古典的」T細胞)及びγδサブセットから構成される。αβT細胞は、CD4ヘルパーT細胞及びCD8細胞傷害性T細胞からなる。CD4T細胞は、TH1細胞、TH2細胞、TH9細胞、TH17細胞、TFH細胞及び制御性T細胞にさらに細かく分類され得る。多くのαβT細胞サブセットは、細胞療法の開発のために利用されてきた強力な細胞傷害性機能を示す。
【0006】
同様に、細胞療法のために使用され得る成熟プライマリーヒトNK細胞は、血液、二次リンパ器官、肝臓及び粘膜関連リンパ組織、NK細胞が病原体又は形質転換された細胞の存在について巡回する部位で見出される(非特許文献7)。T細胞のように、NK細胞は強力な細胞傷害性機能を示し、細胞療法の開発のための関心対象である。
【0007】
しかし、T細胞及びNK細胞などのプライマリーヒト免疫細胞はまた、インビトロ及びインビボでの増殖能が有限であるため、幅広い画一的な細胞療法の作製のために使用されるそれらの能力が限定される。さらに、成熟プライマリーヒト免疫細胞のこの限られた増殖能によって、サイトカイン放出症候群及び他の潜在的な細胞療法に関連する毒性を緩和するための、腫瘍微小環境関連の負荷を克服するための、及び患者における同種細胞療法製品の拒絶を防ぐためのそれらの遺伝子編集性が損なわれる。
【0008】
患者由来の白血病性細胞の細胞株は、細胞培養において数十年にわたり研究されており、それらの形質転換された状態によって長期増殖能が付与され、それにより様々な細胞アッセイにおけるそれらの使用を可能になっている。これは、次に、多くの治療の開発を促進してきた。しかし、これらの細胞は一般に、未成熟であるか又は機能障害性のT細胞クローン由来であることが多いため、成熟プライマリーヒトT細胞及びNK細胞の強力な細胞傷害性機能を欠く。これらの細胞の形質転換された性質はまた、T細胞急性リンパ性白血病の患者で高頻度で見られる突然変異の一群上にマッピングされ得る。さらに、非ヒト霊長類からの成熟T細胞は、患者におけるプライマリーヒトT細胞の形質転換に関与する同じ機序のいくつかに収束する経路を通じてヘルペスウイルスによって形質転換され得る(非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11)。
【0009】
以前の試験から、プライマリーヒトT細胞がテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)(非特許文献12;非特許文献13;非特許文献14)、ヒトT細胞白血病ウイルス1型又はヒトT細胞白血病ウイルス2型(HTLV-1/HTLV-2)転写トランス活性化因子タンパク質Tax(非特許文献15;非特許文献16;非特許文献17)などの因子の過剰発現を通じて、又はヘルペスウイルス・サイミリ(Herpesvirus saimiri)(非特許文献8;非特許文献9)及びHTLV-1/HTLV-2などのウイルスによって、不死化され得ることが示唆される一方で、これらのアプローチは、あまり再現性がなく、その結果、改変又は感染細胞の再プログラミングが起こり得る。さらに、TERTの過剰発現を通じて増殖寿命が増強されている細胞は、依然として、フィーダー細胞の使用又は増殖を推進するためのそれらのT細胞受容体を通じた広範な外因性の刺激を必要とする(非特許文献13;非特許文献14)。同種フィーダー細胞及び広範な反復刺激の使用は、これらの方法が、調整することが困難であり、機能不全状態へと細胞を最終的に進め得るので、成熟プライマリーヒトT又はNK細胞のバンクを確立する場合には望ましくない。さらに、患者は免疫不全状態であることが多いので、成熟プライマリーヒトT又はNK細胞を形質転換する能力がある感染病原体の使用によって、細胞療法の開発でのこれらの細胞の使用が制限される。
【0010】
これらの課題の観点から、同種細胞傷害性細胞の大規模製造を可能にするためのプライマリーヒト免疫細胞の増殖寿命を延長するための代替的な方法を確立することについて大きなニーズがある。本開示は、この満たされていないニーズに対処する方法及び細胞を記載する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Larson & Maus,Nat Rev Cancer 21,145-161(2021)
【非特許文献2】Yu,et al.,Nature Reviews Drug Discovery 19,583-584(2020)
【非特許文献3】Mukhopadhyay,Nat Methods 17,561(2020)
【非特許文献4】Klichinsky,et al.,Nat Biotechnol.,8,947-953(2020)
【非特許文献5】Villanueva,Nature Reviews Drug Discovery 19,308(2020)
【非特許文献6】ClinicalTrials.gov Identifier:NCT04660929
【非特許文献7】Jianhua,et al.,Trends in Immunology 34,573-582(2013)
【非特許文献8】Biesinger,et al.,Proc Natl Acad Sci USA 89,3116-3119(1992)
【非特許文献9】Weber,et al.,Proc Natl Acad Sci USA 90,11049-11053(1993)
【非特許文献10】Fickenscher H,Fleckenstein B.,Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci.356(1408):545-67(2001)
【非特許文献11】Tsygankov,J Cell Physiol.203(2):305-18(2005)
【非特許文献12】Barsov,Methods Mol Biol.511,143-58(2009)
【非特許文献13】Rufer,et al.,Blood 98,597-603(2001)
【非特許文献14】Hooijberg,et al.,J Immunol.165,4239-45(2000)
【非特許文献15】Akagi,et.al.,Oncogene 14,2071-2080(1997)
【非特許文献16】Grassmann,et al.,Proc Natl Acad Sci USA 86,3351-3355(1989)
【非特許文献17】Ren,et al.,J.Biol.Chem.287,34683-34693(2012)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本明細書中の開示は、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を作製する方法を提供し、この方法は、(a)1つ以上の遺伝子編集をプライマリー免疫細胞に導入し;(b)培地中でこのプライマリー免疫細胞を培養することを含み;この培養は、このプライマリー免疫細胞の増殖を誘導して、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を生じさせる。
【0013】
本明細書中の開示は、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を作製する方法であって、(a)プライマリー免疫細胞における1つ以上の内因性調節因子の発現を阻害し(ここで、内因性調節因子は、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A(CDKN2A)、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2B(CDKN2B)又はS-メチル-5’-チオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)である);(b)プライマリー免疫細胞における1つ以上の内因性免疫関連遺伝子の発現を阻害し(ここで、内因性免疫関連遺伝子は、ベータ-2ミクログロブリン(B2M)及び/又はT細胞受容体αコンスタント(TRAC)である);(c)培地中でこのプライマリー免疫細胞を培養すること、を含み;この培養が、このプライマリー免疫細胞の増殖を誘導して、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を生じさせる、方法も提供する。
【0014】
本明細書中の開示は、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を作製する方法であって、(a)プライマリー免疫細胞における1つ以上の内因性調節因子の発現を阻害し(ここで、内因性調節因子は、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A(CDKN2A)、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2B(CDKN2B)又はS-メチル-5’-チオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)である);(b)プライマリー免疫細胞における1つ以上の内因性免疫関連遺伝子の発現を阻害し(ここで、内因性免疫関連遺伝子は、ベータ-2ミクログロブリン(B2M)及び/又はT細胞受容体αコンスタント(TRAC)である);(c)培地中でこのプライマリー免疫細胞を培養すること、を含み;この培養が、このプライマリー免疫細胞の増殖を誘導して、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を生じさせる、方法も提供する。
【0015】
本明細書中の開示は、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を作製する方法であって、(a)プライマリー免疫細胞中での1つ以上の内因性調節因子の発現を阻害し(ここで、内因性調節因子は、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A(CDKN2A)、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2B(CDKN2B)又はS-メチル-5’-チオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)である);(b)培地中でこのプライマリー免疫細胞を培養すること、を含み;この培養が、このプライマリー免疫細胞の増殖を誘導して、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を生じさせる、方法を提供する。
【0016】
本明細書中の開示は、記載される方法に従い作製される改変された免疫細胞集団も提供する。本明細書中の開示は、上述の改変された免疫細胞集団と、薬学的に許容可能な担体と、を含む医薬組成物をさらに提供する。本明細書中の開示は、癌の処置を必要とする対象において癌を処置する方法であって、治療的有効量の上述の医薬組成物を対象に投与することを含む方法をさらに提供する。
【0017】
本明細書中の開示は、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A(CDKN2A)、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2B(CDKN2B)、S-メチル-5’-チオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)、ベータ-2ミクログロブリン(B2M)及び/又はT細胞受容体αコンスタント(TRAC)を発現しない改変されたT細胞を提供する。
【0018】
本明細書中の開示は、巨大B細胞性リンパ腫(Bcl-XL)をコードする導入遺伝子を発現する改変されたT細胞を提供し、この改変されたT細胞は、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A(CDKN2A)、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2B(CDKN2B)、S-メチル-5’-チオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)及び/又はホスファターゼ及びテンシンホモログ(PTEN)を発現しない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】[図1A-1B]図1A~1Bは、Bcl-xL挿入が長期培養におけるT細胞生存に対する選択優位性を付与したことを示す。全プライマリーヒトT細胞(図1A)又は精製プライマリーヒトCD8T細胞(図1B)を、図2に記載のように、単離し、刺激し、遺伝子移入し、再刺激した。
図2図2は、プライマリーヒトT細胞において生存増強導入遺伝子を同定するための方法を示す。
図3】[図3A-3B]図3A~3Bは、細胞周期制御分子の発現の消失によって、長期培養におけるT細胞の増殖能が増強されたことを示す。
図4】[図4A-4D]図4A~4Dは、TREX+Bcl-xL細胞の再刺激によって、長期培養においてそれらの増殖が促進され得ることを示す。図4Aは、経時的なTREX+Bcl-xL細胞の全体の倍数増加を示す。図4B-4Dは、細胞からビーズを除去(debeaded)した後3日間、αCD3又はαCD3/αCD28 Dynabeadsで再刺激したTREX+Bcl-xL細胞及びPTEN欠失TREX+Bcl-xL細胞の全体の倍数増加を示す。全体の倍数増加を追跡し、経時的に休止及び処置細胞に対してグラフを作成した。矢印は、再刺激の期間を示す。黒矢印は、さらなる再刺激様式の評価の時間点を示す。図4A~4Dは、対数スケールを示す。
図5】[図5A-5B]図5A~5Bは、TREX+Bcl-xL細胞が細胞培養における増加及び生存に対してIL-2に依存することを示す。6日間にわたり組み換えヒトインターロイキン2(IL-2)の漸増量の存在下で増殖させた2種類の異なるドナーから図3のように確立された3種類のTREX+Bcl-xL株について、全体の倍数増加(図5A)及び細胞生存能(図5B)を評価した。
図6】[図6A-6K]図6A~6Kは、正常プライマリーヒトCD8T細胞と表現型が似ているTREX+Bcl-xL細胞を示す。固定できる生存能色素並びにCD3、CD4、CD8、CD28、CD45RO、CCR7、PD1及びTIGITに対する抗体のパネルでTREX+Bcl-xL細胞を染色した。TREX+Bcl-xL株は、CD3(図6A)の発現を示し、高頻度のCD8細胞を含む(図6B)。TREX+Bcl-xL株は、Bcl-xL過剰発現(GFP及びGFP細胞)に関係なく、PD1及びTIGIT(図6C)、CD28(図6D)及びCCR7及びCD45RO(図6E)などのマーカーの発現により例示されるように、ドナー又は細胞株特異的な属性を示した。TREX+Bcl-xL株は、CCR2(図6F)、CCR5(図6G)及びCXCR3(図6J)の発現を示す。CCR6(図6H)の発現は不均一であり、一方でCCR7(図6I)及びCXCR5(図6K)の発現は、低~なしであった。
図7】[図7A-7F]図7A~7Fは、TREX+Bcl-xL細胞が細胞傷害性であることを示す。パーセント細胞溶解をエフェクター細胞及びT細胞エンゲージャー又は対照抗体の添加後12時間(図7A)及び24時間(図7B)で計算した。エフェクター細胞及びT細胞エンゲージャーの添加後72時間の同時培養から上清を回収し、インターフェロンγ(IFN-γ)(図7C)、IL-2(図7D)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)(図7E)及びグランザイムB(図7F)の存在について分析した。
図8】[図8A-8G]図8A~8Gは、TREX+Bcl-xL細胞が機能的CAR-TREX+Bcl-xL細胞を産生し得ることを示す。フローサイトメトリーを使用して、形質導入の22日後に表面CAR発現を評価した(図8A)。エフェクター細胞の添加後、12時間(図8B)及び24時間(図8C)でパーセント細胞溶解を計算した。CAR-T細胞及びCAR-CD8T細胞の活性に対して、CAR-TREX活性を評価した。エフェクター細胞の添加後72時間で同時培養物から上清を回収し、IFN-γ(図8D)、IL-2(図8E)、TNF-α(図8F)及びグランザイムB(図8G)の存在について分析した。
図9】[図9A-9C]図9A~9Cは、TREX細胞がプライマリーCD8+T細胞と同様の位置に行き、インビボでIL-2に応答することを示す。
図10】[図10A-10B]図10A~10Bは、CAR-TREX細胞がインビボでIL-2及びIL-15に応答することを示す。
図11】[図11A-11D]図11A~11Dは、CAR-TREX細胞がインビボで固形腫瘍を標的とすることを示す。
図12図12は、REX編集再現性が、未修飾の同一ドナーのCD8+T細胞と比較して、インビトロ増殖の促進をもたらすことを示す。TREX細胞又は同一ドナーのプライマリー(未編集)CD8+T細胞の倍数増加を4名のさらなる健康なドナーについて経時的に追跡した。
図13】[図13A-13B]図13A及び13Bは、CAR-TREX細胞が未修飾CAR-T細胞と同様にBCMA+腫瘍細胞を標的とすることを示す。
図14図14は、CAR会合後、抗BCMA-TREX及び抗HER2-TREX細胞が産生する炎症性サイトカインのレベルが、抗BCMA-CAR-T細胞及び抗HER2-CAR-T細胞よりも低いことを示す。
図15図15は、CAR-TREX細胞がBCMA+腫瘍細胞を標的とし、連続死滅アッセイ(serial kill assay)で持続し、IL-2に応答することを示す。
図16図16は、TREX細胞表現型が、編集の異なる組み合わせを使用して作製され得ることを示す。
図17図17は、TREX細胞が予想される遺伝子座で編集されることを示す。
図18】[図18A-18C]図18A、18B及び18Cは、TREX 細胞が細胞周期関連遺伝子シグネチャーに富むことを実証することを示す。
図19図19は、TREX細胞が生存及び増殖について、IL-2に依存することを示す。
図20】[図20A-20B]図20A及び20Bは、CAR-TREX細胞が、サイトカイン産生全体がより小さい未修飾CAR-T細胞と同様にHER2hi腫瘍細胞を標的とすることを示す。
図21図21は、REX編集がCD4+TREX細胞の増殖能を増強することを示す。
図22図22は、γδTREX細胞がREX編集を使用して作製され得ることを示す。
図23図23は、インビトロでT細胞エンゲージャー(TCE)アッセイにおいてγδTREX細胞が活性であることを示す。
図24図24は、複数のγδT細胞サブセットからγδTREX細胞が作製され得、CAR形質導入後に多様性が維持されることを示す。
図25】[図25A-25B]図25A及び25Bは、γδ-TREX細胞が未修飾CAR-T細胞と同様にBCMA+腫瘍細胞を標的とすることを示す。
図26図26は、NK細胞におけるREX編集がNKREX細胞表現型を支援することを示す。
図27図27は、NKREX細胞が増殖及び生存に対するサイトカインに依存することを示す。
図28図28は、NKREX細胞が経時的にCAR発現を維持することを示す。
図29】[図29A-29C]図29A~29Cは、NKREX細胞がインビトロで細胞傷害性であり、CAR発現が効力をさらに増強し得ることを示す。
図30図30は、TREX細胞がT細胞枯渇剤及び化学療法に感受性があることを示す。
図31図31は、B2MKO TREX細胞がNK細胞介在性枯渇に感受性があり、これが抗CD38抗体を使用して調整され得ることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示は、養子細胞療法のための細胞集団及び組成物を調製するための、方法、細胞及び組成物に関する。特に、T細胞集団を含むプライマリー免疫細胞の増加及び増殖のための方法が本明細書中で提供される。
【0021】
本開示に従って利用される通り、別段の指示がない限り、全ての科学技術用語は、当業者によって一般に理解されている意味と同じ意味を有するように理解されるものとする。別途文脈により求められない限り、単数形の用語は複数を含むものとし、複数形の用語は単数を含むものとする。
【0022】
本明細書中で使用される場合、「含む(comprise)」及び「含む(include)」並びにこれらの変形(例えば、「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」及び「含む(includes)」及び「含んでいる(including)」)という用語は、記載された構成要素、特徴、要素若しくは段階又は構成要素群、特徴群、要素群若しくは段階群を含むが、何らかの他の構成要素、特徴、要素若しくは段階又は構成要素群、特徴群、要素群若しくは段階群を除外しないことを示すと理解されるであろう。「含む(comprising)」、「実質的に~からなる(consisting essentially of)」及び「からなる(consisting of)」という用語の何れも、それらの通常の意味を保持しながら、他の2つの用語の何れかと置き換えられ得る。
【0023】
本明細書中で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈が明らかに別の意味を示さない限り、複数の指示対象形を含む。
【0024】
本明細書中で開示されるパーセンテージは、開示された値から±10、20又は30%の量で変動し得、企図される開示の範囲内に留まる。
【0025】
別段の指示がない限り又は文脈及び当業者の理解から別段明らかとならない限り、範囲として表される本明細書中の値は、内容から別段明らかに示されない限り、範囲の下限の単位の10分の1まで、本開示の様々な実施形態において記載される範囲内のあらゆる具体的な値又は部分範囲と見なし得る。
【0026】
本明細書中で使用される場合、範囲及び量は、「約」特定の値又は範囲として表し得る。「約」という用語は、正確な量も含む。例えば、「約5%」は、「約5%」を意味し、また「5%」も意味する。「約」という用語は、所与の値又は値の範囲の±10%も指し得る。従って、約5%は、例えば、4.5%~5.5%をも意味する。文脈から別段明確でない限り、本明細書中で提供される全ての数値は、「約」という用語によって修飾される。
【0027】
本明細書で使用する場合、「又は」及び「及び/又は」という用語は、複数の構成要素を組み合わせて又は互いに排他的に記述し得る。例えば、「x、y及び/又はz」は、「x」単独、「y」単独、「z」単独、「x、y及びz」、「(x及びy)又はz」、「x又は(y及びz)」又は「x又はy又はz」を指し得る。複製老化抵抗性(RRS)は、集団倍増の有限数につながる複製老化(RS)に抵抗性があるプライマリー免疫細胞を指す。結果として、本明細書中に記載のプライマリー免疫細胞の集団は有利に、増殖能が増加している。
【0028】
一態様では、本明細書中の開示は、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を作製する方法を提供し、この方法は、i)プライマリー免疫細胞への1つ以上の遺伝子編集の導入;及びii)培地中でこのプライマリー免疫細胞を培養することを含み;この培養は、このプライマリー免疫細胞の増殖を誘導して、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を生じさせる。
【0029】
一態様では、本明細書中の開示は、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を作製する方法を提供し、この方法は、i)プライマリー免疫細胞への巨大B細胞性リンパ腫(Bcl-xL)をコードする導入遺伝子を導入し;ii)プライマリー免疫細胞におけるサイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A(CDKN2A)、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2B(CDKN2B)及びS-メチル-5’-チオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)から選択される1つ以上の内因性調節因子の発現を阻害し;iii)培地中でこのプライマリー免疫細胞を培養すること、を含み;この培養は、このプライマリー免疫細胞の増殖を誘導して、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を生じさせる。いくつかの態様では、本方法は、プライマリー免疫細胞における1つ以上の内因性免疫関連遺伝子の発現を阻害することを含む。ある特定の態様では、内因性免疫関連遺伝子は、ベータ-2ミクログロブリン(B2M)又はT細胞受容体αコンスタント(TRAC)である。いくつかの態様では、本方法は、CD38の発現を阻害することを含む。
【0030】
一態様では、本明細書中の開示は、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を作製する方法を提供し、この方法は、i)プライマリー免疫細胞におけるサイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A(CDKN2A)、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2B(CDKN2B)及びS-メチル-5’-チオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)から選択される1つ以上の内因性調節因子の発現を阻害し;ii)培地中でこのプライマリー免疫細胞を培養すること、を含み;この培養は、このプライマリー免疫細胞の増殖を誘導して、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を生じさせる。いくつかの態様では、本方法は、プライマリー免疫細胞における1つ以上の内因性免疫関連遺伝子の発現を阻害することを含む。ある特定の態様では、内因性免疫関連遺伝子は、ベータ-2ミクログロブリン(B2M)又はT細胞受容体αコンスタント(TRAC)である。いくつかの態様では、本方法は、CD38の発現を阻害することを含む。
【0031】
遺伝子編集は、プライマリー免疫細胞の遺伝物質に対する変化を指す。遺伝子編集は、遺伝物質が添加されるか、除去されるか又は変化させられることを含む。特定の態様では、遺伝子編集は、プライマリー免疫細胞に導入遺伝子を導入すること及び/又はプライマリー免疫細胞における遺伝子の発現を阻害することを含む。特定の態様では、1つ以上の遺伝子編集を導入することは、プライマリー免疫細胞に抗アポトーシス因子又はウイルス由来因子をコードする1つ以上の導入遺伝子を導入することを含む。
【0032】
「プライマリー免疫細胞」という用語は、T細胞、B-細胞及びNK細胞、好中球及び単球/マクロファージ/樹状細胞などの一次免疫応答に関与する何れかの細胞を指し得る。いくつかの態様では、プライマリー免疫細胞は、総T細胞、CD4-陽性T細胞、CD8-陽性T細胞、制御性T細胞、ガンマ-デルタT細胞、粘膜関連インバリアントT(MAIT)T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞又はナチュラルキラーT(NKT)細胞を含み得る。
【0033】
「導入遺伝子」という用語は、実験操作により細胞に導入される何らかの核酸配列を指す。導入遺伝子は、「内因性DNA配列」又は「異種DNA配列」であり得る。導入遺伝子は、単離され得、当技術分野で周知である1つ以上の方法を使用して適切な量で得られ得る。これらの方法及び導入遺伝子を単離するために有用な他のものが、例えばSambrook et al. (前出)及びBerger and Kimmel(Methods in Enzymology:Guide to Molecular Cloning Techniques,vol.152,Academic Press,Inc.,San Diego,CA(1987))に記載されている。
【0034】
導入遺伝子は、時間的又は細胞特異的な又は関心対象の導入遺伝子の発現増強の何れかに対して必要とされる他の制御DNA配列とともに関心対象の遺伝子を含む「導入遺伝子コンストラクト」に組み込まれ得る。
【0035】
導入遺伝子は、当技術分野で公知の何れかの適切な方法又は技術によって細胞に導入され得る。特定の態様では、導入遺伝子は、プラスミドに基づくDNAトランスポゾン、レンチウイルスプラットフォーム又はCRISPRを介した部位特異的な組み込みを使用して導入される。細胞における導入遺伝子発現は、構成的又は誘導性であり得る。
【0036】
特定の態様では、導入遺伝子は、抗アポトーシス因子をコードする。「抗アポトーシス因子」は、細胞、特にストレスを受けたことがある細胞、アポトーシスを受けるためのシグナルを受けた細胞又は異常な細胞増殖が起こっている細胞のアポトーシスを防ぐために作用するタンパク質又はオリゴヌクレオチド(タンパク質又はサイレンシングヌクレオチドをコードするオリゴヌクレオチドであり得る)を指す。特定の態様では、抗アポトーシス因子は、巨大B細胞性リンパ腫(Bcl-xL)又はB細胞リンパ腫2(Bcl-2)である。
【0037】
特定の態様では、導入遺伝子は、ウイルス由来因子をコードする。「ウイルス由来因子」は、天然のウイルスペプチド、ポリペプチド又はタンパク質の両方並びにウイルスタンパク質に対する配列同一性及び/又は類似性の度合いを示す及び/又はウイルスタンパク質の1つ以上の構造、機構又は抗原的な品質を維持する、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質を指す。特定の態様では、ウイルス由来因子は、サイミリイン・ガンマヘルペスウイルス(Saimiriine gammaherpesvirus)2 StpA A11、ヘルペスウイルス・サイミリ(Herpesvirus saimiri)StpC、ヘルペスウイルス・サイミリ(Herpesvirus saimiri)Tip又は修飾されたヘルペスウイルス・アテレス-エプスタイン-バーウイルス(Herpesvirus Ateles-Epstein-Barr virus)Tio-LMP1由来である。
【0038】
他の態様では、導入遺伝子は、細胞における活性化シグナルに関連するタンパク質をコードする。
【0039】
いくつかの態様では、本開示の方法は、内因性調節因子の活性が排除されるか又は低減されるようにプライマリー免疫細胞における1つ以上の内因性調節因子の発現を阻害することをさらに含む。本明細書中で使用される場合、「調節因子」は、細胞周期停止、細胞死又はシグナル抑制を調節することに関与するタンパク質をコードする遺伝子を指す。内因性調節因子は、当技術分野で公知の何れかの適切な方法又は技術によって、下方制御され得るか又は遮断され得る。遺伝子発現の下方制御又は因子の活性の低下のための公知の方法は、CRISPR/Cas(シトシン及びアデニン塩基エディターを含む)、マイクロRNA、shRNA、RNAi、TALENs、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、中和抗体、低分子阻害剤、下流シグナル伝達経路を阻止する化学阻害剤などを含むが限定されない。内因性調節因子の阻害は、完全阻害、部分的阻害、遺伝子発現の下方制御又は因子の活性の低下であり得る。いくつかの態様では、内因性調節因子活性又は遺伝子発現は、1%~100%(即ち、1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、100%)低下する。調節因子は、細胞周期停止、細胞死又はシグナル抑制の調節に関与するタンパク質をコードする遺伝子を含む。特定の態様では、1つ以上の内因性調節因子は、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A(CDKN2A)、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2B(CDKN2B)及び/又はS-メチル-5’-チオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)である。特定の態様では、1つ以上の内因性調節因子は、RB転写コアプレッサー1(RB1)、TP53、オートファジー及びベクリン1調節因子1(AMBRA1)、神経線維腫症1型(NF1)、チロシン-タンパク質ホスファターゼ非受容体2型(PTPN2)又はサイトカインシグナル伝達1のサプレッサー(SOCS1)である。
【0040】
「内因性」という用語は、細胞、組織若しくは生物又は、細胞、組織若しくは生物の一部内で発生するか又はそこに起源を持つことを指す。
【0041】
いくつかの態様では、本開示の方法は、免疫関連遺伝子の活性が排除されるか又は低下させられるようにプライマリー免疫細胞における1つ以上の内因性免疫関連遺伝子の発現を阻害することをさらに含む。本明細書中で使用される場合、「免疫関連遺伝子」という用語は、免疫反応を引き起こすことに関与するタンパク質をコードする遺伝子を指す。ある特定の態様では、免疫関連遺伝子は、宿主対移植片(HvG)及び移植片対宿主(GvH)同種免疫反応に関与するタンパク質をコードする。免疫関連遺伝子は、当技術分野で公知の何れかの適切な方法又は技術により、下方制御され得るか又は阻止され得る。遺伝子発現の下方制御又は免疫関連遺伝子の活性の低下のための既知の方法は、CRISPR/Cas(シトシン及びアデニン塩基エディターを含む)、マイクロRNA、shRNA、RNAi、TALEN、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、中和抗体、低分子阻害剤、下流シグナル伝達経路を阻止する化学阻害剤などを含むが限定されない。内因性免疫関連遺伝子の阻害は、遺伝子発現の、完全阻害、部分阻害、下方制御又は因子の活性の低下であり得る。いくつかの態様では、内因性免疫関連遺伝子活性又は遺伝子発現は、1%~100%(即ち1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、100%)低下する。免疫関連遺伝子は、免疫反応を引き起こすことに関与するタンパク質をコードする遺伝子を含む。免疫関連遺伝子は、宿主対移植片(HvG)及び移植片対宿主(GvH)同種免疫反応に関与するタンパク質をコードし得る。特定の態様では、1つ以上の内因性免疫関連遺伝子は、ベータ-2ミクログロブリン(B2M)又はT細胞受容体αコンスタント(TRAC)である。特定の態様では、1つ以上の内因性免疫関連遺伝子は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)、ヒト白血球抗原クラスI遺伝子(例えばHLA-A、HLA-B、HLA-C)、ヒト白血球抗原クラスII遺伝子(HLA-DR、HLA-DQ及びHLA-DP)、T細胞受容体(例えばαβT細胞受容体)、インターロイキン1(IL-1)、インターロイキン2(IL-2)、インターロイキン4(IL-4)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン10(IL-10)、インターロイキン23(IL-23)、インターフェロン-γ(IFNγ)、CCL2、CCL3、CCL4、CCL5、CXCL2、CXCL9-11、CCL17、CCL27、プログラム死-1(PD-1)、TIM3又はTIGITの遺伝子である。
【0042】
さらなる態様では、本明細書中で開示される方法は、CD38の活性が排除されるか又は低下させられるようにプライマリー免疫細胞における表面抗原分類38(CD38)発現を阻害することを含む。CD38は、当技術分野で公知の何れかの適切な方法又は技術によって、下方制御又は遮断され得る。遺伝子発現の下方制御又はCD38の活性の低下のための既知の方法は、CRISPR/Cas(シトシン及びアデニン塩基エディターを含む)、マイクロRNA、shRNA、RNAi、TALEN、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、中和抗体、低分子阻害剤、下流シグナル伝達経路を阻止する化学阻害剤などを含むが限定されない。いくつかの態様では、CD38活性又は遺伝子発現は、1%~100%(即ち、1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、100%)低下する。
【0043】
さらなる態様では、本明細書中で開示される方法は、PTENの活性が排除されるか又は低下させられるようにプライマリー免疫細胞におけるホスファターゼ及びテンシンホモログ(PTEN)の発現を阻害することを含む。PTENは、当技術分野で公知の何れかの適切な方法又は技術によって、下方制御され得るか又は遮断され得る。遺伝子発現の下方制御又はPTENの活性の低下のための既知の方法は、CRISPR/Cas(シトシン及びアデニン塩基エディターを含む)、マイクロRNA、shRNA、RNAi、TALEN、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、中和抗体、低分子阻害剤、下流シグナル伝達経路を遮断する化学阻害剤などを含むが限定されない。いくつかの態様では、PTEN 活性又は遺伝子発現は、1%~100%(即ち、1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、100%)低下する。
【0044】
「TREX」という用語は、例えば本明細書中で提供される技術及び遺伝子修飾を使用して、「再生可能に増加可能なT細胞」を指す。より具体的に、TREX細胞は、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A(CDKN2A)、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2B CDKN2B及びS-メチル-5’-チオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)のうち一部又は全ての発現が低下しているか又は切断された細胞を指す。
【0045】
いくつかの態様では、1つ以上の内因性調節因子の発現の阻害は、1つ以上の導入遺伝子を細胞に導入した後に起こる。いくつかの態様では、1つ以上の導入遺伝子が導入されているプライマリー免疫細胞は、1つ以上の内因性調節因子の阻害が行われる前に、少なくとも2日、少なくとも5日、少なくとも10日、少なくとも11日、少なくとも12日、少なくとも13日、少なくとも14日、少なくとも15日、少なくとも16日、少なくとも17日、少なくとも18日、少なくとも19日、少なくとも20日間培養される。さらなる態様では、PTENの発現の阻害は、1つ以上の導入遺伝子を細胞に導入した後に起こる。いくつかの態様では、本方法は、次の連続段階、i)1つ以上の導入遺伝子を免疫細胞に導入し、次いでこの細胞を少なくとも2日、5日、少なくとも10日、少なくとも11日、少なくとも12日、少なくとも13日、少なくとも14日、少なくとも15日、少なくとも16日、少なくとも17日、少なくとも18日、少なくとも19日、少なくとも20日間培養し;ii)1つ以上の内因性調節因子を阻害し、少なくとも2日、5日、少なくとも10日、少なくとも11日、少なくとも12日、少なくとも13日、少なくとも14日、少なくとも15日、少なくとも16日、少なくとも17日、少なくとも18日、少なくとも19日、少なくとも20日間この細胞を培養し;iii)PTEN発現を阻害する、段階を含む。
【0046】
プライマリー免疫細胞は、増殖及び増加を促進するために適切な条件下で培養される。培養段階を使用したインビトロ増加は、プライマリー免疫細胞の増殖を活性化及び誘導して、治療での使用のための数に十分なプライマリー免疫細胞を含む拡大された集団を得る。
【0047】
本明細書中で開示される方法は、この方法が生物の外で行われることを意味するエクスビボで行われる。エクスビボでの免疫細胞の処置は、インビトロで、好ましくは無菌状態下で、ある特定の生物学的分子に細胞を曝露することを意味する。一部の場合では、エクスビボの方法は、同じ又は異なるヒト対象に投与し戻す前に、ヒトから単離されている免疫細胞を培養することをさらに含む。
【0048】
この開示の拡大された集団及び/又は改変されたT細胞を含むプライマリー免疫細胞は、総T細胞、CD4-陽性T細胞、CD8-陽性T細胞、制御性T細胞、ガンマ-デルタT細胞、粘膜関連インバリアントT(MAIT)T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞又はナチュラルキラー T(NKT)細胞を含み得る。T細胞は、それらの表面上でCD4を発現する細胞(CD4陽性細胞とも呼ばれる)及びそれらの表面上でCD8を発現する細胞(CD8陽性細胞とも呼ばれる)に広く分けられる。本明細書中で提供される方法による使用に適切なT細胞は、ヒトドナーの骨髄(BM)、末梢血(PB)又は臍帯血(CB)由来の単核リンパ球である。これらの細胞は、BM、PB若しくはCBから直接、又は同種若しくは自己ドナーへの成長因子及び/又は顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)などのサイトカインの投与を介した動員又は刺激後に、回収され得る。当業者は、末梢血から末梢血単核細胞(PBMC)を単離するための多くの確立されたプロトコールがあることを認めるであろう。PBMCの単離は、通常は、血液中の他の要素からのリンパ球の分離のためにFicoll(登録商標)-Hypaque又はHistopaque(登録商標)密度勾配遠心分離技術を使用する密度勾配分離プロトコールにより促進され得る。好ましくは、PBMC単離は、無菌状態下で行われる。PBMCの単離はまた陰性選択キットも使用し得る。或いは、単核細胞集団を分離するために、細胞水簸(cell elutriation)法を使用し得る。いくつかの態様では、プライマリー免疫細胞はヒトである。
【0049】
いくつかの場合において、この開示の方法は、活性化されたT細胞に遺伝子改変された抗原受容体又はキメラ抗原受容体を導入することをさらに含み、この方法はそれにより、遺伝子改変された抗原受容体又はキメラ抗原受容体を発現するT細胞を含む拡大された集団を生成させる。キメラT細胞受容体、人工T細胞受容体及びキメラ免疫受容体としても知られるキメラ抗原受容体(CAR)は、免疫エフェクター細胞上に特異性を移植する改変された受容体である。一般に、キメラ抗原受容体は、シグナル伝達エンドドメインにスペーサー及び膜貫通ドメインを介して融合される標的-抗原結合ドメインを有する膜貫通タンパク質である。CARがその標的抗原に結合するとき、活性化シグナルがT細胞に伝達される。一実施形態では、キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドがプライマリー細胞に導入される。一実施形態では、キメラ抗原受容体又は遺伝子改変された受容体をコードする核酸ベクターがT細胞に導入され、それにより、T細胞がキメラ抗原受容体を発現する。いくつかの態様では、CARは、グリピカン3(GPC3)、ヒト上皮増殖因子受容体2((HER2);Erb-B2受容体チロシンキナーゼ2(ERBB2)としても知られる)、B細胞成熟抗原(BCMA)に結合する。ある特定の態様では、CARは、免疫療法での使用のための何れかの標的に結合し得る。
【0050】
CARコンストラクトの設計:本開示のCARコンストラクトは、いくつかの構成要素を有し得、それらの多くは、結果として生じるCARコンストラクトの所望されるか、又は洗練された機能に基づいて選択され得る。抗原結合ドメインに加えて、CARコンストラクトは、スペーサードメイン、ヒンジドメイン、シグナルペプチドドメイン、膜貫通ドメイン、及び1つ以上の共刺激ドメインを有し得る。1つの構成要素をその他の構成要素から選択すること(即ち1つの受容体由来の特定の共刺激ドメインを異なる受容体由来の共刺激ドメインに対して選択すること)は、臨床的有効性及び安全性のプロファイルに影響を及ぼし得る。
【0051】
抗原結合ドメイン:本明細書中で企図される抗原結合ドメインは、抗体又はその1つ以上の抗原結合断片を含み得る。一実施形態では、CARコンストラクトは、GPC3を標的とする。一実施形態では、CARコンストラクトは、BCMAを標的とする。一実施形態では、CARコンストラクトは、HER2を標的とする。一実施形態では、CARコンストラクトは、免疫療法において有用な何れかの分子を標的とする。ある特定の態様では、抗原結合ドメインは、直接一緒に連結されるか又はフレキシブルリンカー(例えば、1、2、3又はそれを超える反復を有するG4Sのリピート)を介して一緒に連結されるかの何れかのGPC3、BCMA又はHER2に特異的な1つ以上の抗体からの軽鎖及び重鎖可変領域を含有する単鎖可変断片(scFv)を含む。
【0052】
スペーサードメイン:CARコンストラクトは、標的細胞上の標的抗原への結合を促進するための立体配座の自由を提供するためのスペーサードメインを有し得る。スペーサードメインの最適の長さは、標的細胞表面に対する結合エピトープの近接性に依存し得る。例えば、近位エピトープは、より長いスペーサーを必要とし得、遠位エピトープはより短いエピトープを必要とし得る。CARの標的抗原への結合を促進することに加えて、CAR細胞と癌細胞との間の最適距離を達成することもまた、CAR細胞と標的癌細胞との間に形成される免疫学的シナプスからの大きな阻害分子を立体的に閉塞させるのに役立ち得る。CARは、長いスペーサー、中間スペーサー又はより短いスペーサーを有し得る。長いスペーサーは、免疫グロブリンG1(IgG1)又はIgG4(天然であるか又はS228P変異などの治療用抗体に共通の修飾を有するかの何れか)のCH2CH3ドメイン(約220個のアミノ酸)を含み得る一方、CH3領域は、それ自体で中間スペーサー(約120個のアミノ酸)を構築するために使用され得る。より短いスペーサーは、CD28、CD8α、CD3又はCD4のセグメント(<60個のアミノ酸)に由来し得る。短いスペーサーは、IgG分子のヒンジ領域にも由来し得る。これらのヒンジ領域は、何れかのIgGアイソタイプに由来し得、上記のS228P変異などの治療用抗体に一般的な変異を含んでもよいし又は含まなくてもよい。
【0053】
ヒンジドメイン:CARは、ヒンジドメインも有し得る。フレキシブルなヒンジドメインは、腫瘍細胞上の標的抗原への結合を容易にするために立体配座の自由を提供する短いペプチド断片である。それは、単独で又はスペーサー配列と一緒に使用され得る。「ヒンジ」及び「スペーサー」という用語は、多くの場合、交換可能に使用され、例えば、IgG4配列は、「ヒンジ」及び「スペーサー」の両方の配列(即ちヒンジ/スペーサー配列)と考えられ得る。
【0054】
シグナルペプチド:CARコンストラクトは、シグナルペプチドを含む配列をさらに含み得る。シグナルペプチドは、細胞を促してCARを細胞膜に移行させる役割を果たす。例としては、IgG1重鎖シグナルポリペプチド、Igカッパ又はラムダ軽鎖シグナルペプチド、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子受容体2(GM-CSFR2又はCSFR2)シグナルペプチド、CD8aシグナルポリペプチド又はCD33シグナルペプチドが挙げられる。
【0055】
膜貫通ドメイン:CARコンストラクトは、膜貫通ドメインを含む配列をさらに含み得る。膜貫通ドメインは、細胞膜にまたがる疎水性αヘリックスを含み得る。膜貫通ドメインの特性は、CARコンストラクトの他の態様ほど細かくは研究されていないが、潜在的に、CAR発現、及び内因性膜タンパク質との結合に影響を及ぼし得る。膜貫通ドメインは、例えば、CD4、CD8α又はCD28に由来し得る。
【0056】
共刺激ドメイン:CARコンストラクトは、共刺激ドメインを形成する1つ以上の配列をさらに含み得る。共刺激ドメインは、免疫エフェクター細胞の応答を増強又は調整可能なドメインである。共刺激ドメインは、例えば、CD3ゼータ(又はCD3z)、CD28、4-1BB、OX-40、ICOS、CD27、GITR、CD2、IL-2Rβ、及びMyD88/CD40の1つ以上由来の配列を含み得る。共刺激ドメインの選択は、CAR細胞の表現型及び代謝シグネチャーに影響する。例えば、CD28の共刺激は、細胞溶解能、インターロイキン-2(IL-2)分泌、及び解糖のレベルが高い、強力ではあるが短命なエフェクター様の表現型をもたらす。対照的に、4-1BB共刺激ドメインを有するCARにより修飾されたT細胞は、インビボで増殖し、且つより長く存続する傾向があり、酸化代謝が増し、消耗しにくく、且つセントラルメモリーT細胞を生成する能力が増す。
【0057】
特定の態様では、本明細書中で開示される方法は、1つ以上の遺伝子編集の細胞への導入前にその細胞が周期内にあることを確実にするために、プライマリー免疫細胞の初期刺激を損なう。他の態様では、本明細書中で開示される方法は、プライマリー免疫細胞の後期刺激(「再刺激」とも呼ばれる)を損なう。プライマリー免疫細胞が細胞周期から脱したら、細胞が再刺激されて、細胞が細胞周期に再び入る(即ち増殖)。
【0058】
特定の態様では、本明細書中で開示される方法は、プライマリー免疫細胞への1つ以上の遺伝子編集の導入前にプライマリー免疫細胞を刺激することをさらに含む。特定の態様では、プライマリー免疫細胞は、プライマリー免疫細胞への1つ以上の遺伝子編集の導入前、少なくとも1日前、少なくとも2日前、少なくとも5日前、少なくとも10日前、少なくとも15日前、少なくとも20日前又は少なくとも30日前に刺激される。従って、特定の態様では、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を作製する方法が本明細書中で提供され、この方法は、i)プライマリー免疫細胞を刺激し;ii)1つ以上の遺伝子編集をプライマリー免疫細胞に導入し;iii)培地中でこのプライマリー免疫細胞を培養すること、を含み;この培養は、このプライマリー免疫細胞の増殖を誘導して、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を生じさせる。
【0059】
特定の態様では、本明細書中で開示される方法は、プライマリー免疫細胞への1つ以上の遺伝子編集の導入後に、プライマリー免疫細胞を刺激することをさらに含む。特定の態様では、プライマリー免疫細胞は、プライマリー免疫細胞への1つ以上の遺伝子編集の導入後、少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも5日、少なくとも10日、少なくとも15日、少なくとも20日又は少なくとも30日後に刺激される。従って、特定の態様では、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を作製する方法が本明細書中で提供され、この方法は、i)プライマリー免疫細胞に1つ以上の遺伝子編集を導入し;ii)培地中でプライマリー免疫細胞を培養し;iii)プライマリー免疫細胞を刺激し;iv)培地中でこのプライマリー免疫細胞を培養すること、を含み;この培養は、このプライマリー免疫細胞の増殖を誘導して、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を生じさせる。さらなる態様では、プライマリー免疫細胞は、少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回又は少なくとも5回再刺激される。従って、特定の態様では、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を作製する方法が本明細書中で提供され、この方法は、i)プライマリー免疫細胞に1つ以上の遺伝子編集を導入し;ii)培地中でこのプライマリー免疫細胞を培養し;iii)このプライマリー免疫細胞を刺激し;iv)培地中でこのプライマリー免疫細胞を培養し;v)このプライマリー免疫細胞を再刺激し;vi)培地中でこのプライマリー免疫細胞を培養することを含み、この培養は、このプライマリー免疫細胞の増殖を誘導して、複製老化抵抗性(RRS)があるプライマリー免疫細胞の集団を生じさせる。当技術分野で公知の何れかの適切な刺激は、免疫細胞を刺激するために使用され得る。
【0060】
特定の態様では、プライマリー免疫細胞において、培養中に、少なくとも約50倍の増加、少なくとも約500倍の増加、少なくとも約5000倍の増加、少なくとも約250,000倍の増加、少なくとも約500,000倍の増加、少なくとも約10倍の増加、少なくとも約10倍の増加、少なくとも約10倍の増加、少なくとも約10倍の増加又は少なくとも約1010倍の増加が起こる。特定の態様では、増加させられたプライマリー免疫細胞の集団は、複製老化抵抗性がある。さらに、これらの細胞は、長期増加後に機能的に疲弊せず、T細胞エンゲージャー抗体によるそれらのTCRの会合を通じて又はキメラ抗原受容体(CAR)の会合を通じて(又は天然若しくは遺伝子導入されたTCRを通じて)細胞傷害性機能を遂行するように向けられ得る。
【0061】
特定の態様では、プライマリー免疫細胞は、支援的なサイトカインを含むがプライマリー免疫細胞刺激を含まない培地中で培養される。特定の態様では、プライマリー免疫細胞は、フィーダー細胞又はCD3及び/又はそれらの抗原受容体を通じた刺激の非存在下での培養中に増加が起こる。開示される方法の、大規模なT細胞再刺激又はフィーダー細胞の非存在下で免疫細胞を生成させる能力によって有利に、本方法のスケールアップ及び、免疫細胞の機能障害集団の生成の課題が取り除かれる。
【0062】
本明細書中で開示される方法は有利に、長期培養において数百万倍に増加する、それらのT細胞受容体(TCR)を通じた再刺激の非存在下で実質的な期間にわたり増殖するための能力を有するヒトCD8T細胞、ヒトCD4T細胞、ヒト制御性T細胞ヒトガンマ-デルタT細胞又はヒトナチュラルキラーT細胞を含む、拡大されたプライマリー免疫細胞の集団を提供する。特定の態様では、プライマリー免疫細胞の集団は、少なくとも20日、少なくとも30日、少なくとも40日、少なくとも50日、少なくとも60日、少なくとも70日、少なくとも80日、少なくとも90日、少なくとも100日、少なくとも150日、少なくとも200日、少なくとも300日又は少なくとも400日間培養される。
【0063】
さらなる態様では、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A(CDKN2A)、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2B(CDKN2B)及び/又はS-メチル-5’-チオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)を発現しない巨大B細胞性リンパ腫(Bcl-XL)をコードする導入遺伝子を発現する改変されたT細胞が本明細書中で提供される。
【0064】
さらなる態様では、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A(CDKN2A)、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2B(CDKN2B)及び/又はS-メチル-5’-チオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)を発現しない改変されたT細胞が本明細書中で提供される。
【0065】
さらなる態様では、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A(CDKN2A)、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2B(CDKN2B)、S-メチル-5’-チオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)及び/又はホスファターゼ及びテンシンホモログ(PTEN)を発現しない巨大B細胞性リンパ腫(Bcl-XL)をコードする導入遺伝子を発現する改変されたT細胞が本明細書中で提供される。
【0066】
ある特定の態様では、本明細書中で開示されるような改変されたT細胞は、プライマリー免疫細胞における1つ以上の内因性免疫関連遺伝子を発現しない。いくつかの態様では、内因性免疫関連遺伝子は、ベータ-2ミクログロブリン(B2M)又はT細胞受容体αコンスタント(TRAC)である。
【0067】
ある特定の態様では、本明細書中で開示されるような改変されたT細胞は、表面抗原分類38(CD38)を発現しない。
【0068】
さらなる態様では、本明細書中の開示は、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A(CDKN2A)、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2B(CDKN2B)、S-メチル-5’-チオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)、ベータ-2ミクログロブリン(B2M)、T細胞受容体αコンスタント(TRAC)、表面抗原分類38(CD38)及び/又はホスファターゼ及びテンシンホモログ(PTEN)を発現しない改変されたT細胞を提供する。
【0069】
ある特定の態様では、開示されるような改変されたT細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードするポリヌクレオチドを含む。いくつかの態様では、CARは、グリピカン3(GPC3)、B細胞成熟抗原(BCMA)又はヒト上皮増殖因子受容体2((HER2);Erb-B2受容体チロシンキナーゼ2(ERBB2)としても知られる)に結合する。
【0070】
ある特定の態様では、本明細書中で開示されるような改変されたT細胞は、CD8+T細胞、CD4+T細胞、ガンマデルタT細胞、粘膜関連インバリアントT(MAIT)T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞又はそれらの組み合わせである。
【0071】
いくつかの態様では、改変されたT細胞は、複製老化抵抗性(RRS)である。いくつかの態様では、改変されたT細胞は、CD8T細胞である。いくつかの態様では、改変されたT細胞は、CD4T細胞である。いくつかの態様では、改変されたT細胞はヒトである。
【0072】
本明細書中で開示される拡大されたT細胞集団は、T細胞療法、養子細胞療法(ACT)及びCAR T細胞療法を含むが限定されない細胞免疫療法に有用である。
【0073】
本明細書中で開示されるT細胞集団の拡大された集団は、癌(例えば、血液悪性腫瘍、例えばリンパ腫又は白血病など、又は固形腫瘍、例えばメラノーマ又は腎臓癌など)、自己免疫疾患又は感染性疾患、例えばHIV、などの様々な障害を処置又は予防するために有用である。
【0074】
本明細書で使用される場合、「処置(treatment)」又は「処置する(treat)」という用語は、治療的処置及び予防的又は防止的措置の両方を指す。処置が必要な者としては、癌を有する対象並びに癌を有する傾向がある対象又は癌を予防すべき対象が挙げられる。いくつかの態様では、本明細書中で開示される方法、組成物及び組み合わせは、癌の処置のために使用され得る。他の態様では、処置を必要とする者としては、腫瘍を有する対象並びに腫瘍を有する傾向がある対象又は腫瘍を予防すべき対象が挙げられる。ある特定の態様では、本明細書中で開示される方法、組成物及び組み合わせは、腫瘍の処置のために使用され得る。他の態様では、腫瘍の処置には、腫瘍成長の阻害、腫瘍減少の促進又は腫瘍成長の阻害及び腫瘍減少の促進の両方が含まれる。
【0075】
いくつかの場合において、本明細書中で提供される方法により得られるT細胞は、治療剤(即ち治療適用用)としてT細胞の治療的有効量を含む医薬組成物として投与され得る。
【0076】
「医薬組成物」又は「治療組成物」という用語は、本明細書中で使用される場合、対象に適切に投与されるとき、所望の治療効果を誘導することが可能な化合物又は組成物を指す。いくつかの態様では、本開示は、薬学的に許容可能な担体と、治療的有効量の少なくとも1つの本開示の免疫細胞と、を含む医薬組成物を提供する。
【0077】
「薬学的に許容可能な担体」又は「生理学的に許容可能な担体」という用語は、本明細書中で使用される場合、本開示の1つ以上の免疫細胞の送達を達成又は増強するのに好適な1つ以上の処方材料を指す。
【0078】
「対象」という用語は、ヒト及び非ヒト動物、特に哺乳類、を含むことが意図される。ある特定の態様では、対象は、ヒト患者である。
【0079】
本明細書中で使用される場合、「投与」又は「投与すること」という用語は、所望の効果を達成するために、何れかの適切な経路により、1種又は複数種の化合物を提供すること、接触させること、及び/又は送達することを指す。投与には、経口、舌下、非経口(例えば、静脈内、皮下、皮内、筋肉内、関節内、動脈内、滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、病巣内又は頭蓋内の注射)、経皮、局所、頬側、経直腸、経膣、経鼻、経眼、吸入によるもの及び埋め込みが含まれ得るが限定されない。
【0080】
本開示を限定することなく、本開示のいくつかの態様が例示目的で本明細書に記載される。
【実施例
【0081】
以下の実施例は、本開示の具体的な態様、及びそれらの様々な使用を例示する。それらは、あくまで説明を目的として記載され、決して本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0082】
実施例1:抗アポトーシス又はウイルス由来因子の過剰発現は、長期培養における遺伝子移入されたT細胞に対する選択的な生存の長所を提供し得る。
フローサイトメトリーを使用して66~137日間にわたりT細胞サブセットにおいてトランスポゾン頻度を評価した。全プライマリーヒトT細胞を健康なドナーの血液から単離し、Dynabeads(ヒトT-活性化因子CD3/CD28)で72時間活性化し、次いで、蛍光レポーターに加えて抗アポトーシス因子、ウイルス由来因子、突然変異サイトカイン受容体、突然変異シグナル伝達分子及び/又は突然変異細胞周期調節分子をコードするトランスポゾンを含有するプラスミドで遺伝子移入した。トランスポザーゼをコードするmRNAを細胞に同時に遺伝子移入して、転位因子の染色体組み込みを可能にした。合計で、様々なスクリーニングにわたり、52種類のトランスポゾンコンストラクトを処理した。遺伝子移入から4~8日後に、フローサイトメトリーを使用してベースライントランスポゾン組み込みに対して細胞を評価した。Dynabeadsで細胞を周期的に再刺激して、増殖を通じてそれらを推進し、フローサイトメトリーを使用してトランスポゾン濃縮を評価した。増加T細胞の生存を促進する分子は、CD8及びCD4T細胞で実証されるように全T細胞プール内でそれらの開始頻度にわたり濃縮すると予想される。(図1図2)。これらのスクリーニングから、抗アポトーシス因子、巨大B細胞性リンパ腫(Bcl-xL)が、拡大されたインビトロ培養の期間にわたり複数回の増殖を通じて推進されたCD4及びCD8T細胞の両方で一貫して濃縮されたことが明らかになり、これによって、それを過剰発現する成熟T細胞の生存を促進するためにこの因子が作用し得ることが示唆される(図1)。Bcl-2及びウイルス由来タンパク質StpA A11(サイミリイン・ガンマヘルペスウイルス2)(Saimiriine gammaherpesvirus 2)、StpC及びTip(ヘルペスウイルス・サイミリ)(Herpesvirus saimiri)及び修飾されたTio-LMP1(ヘルペスウイルス・アテレス、エプスタイン-バーウイルス(Herpesvirus Ateles,Epstein-Barr virus))などの他の因子も、T細胞サブセットにおいて濃縮を示した(図1)。
【0083】
内因性抗アポトーシス因子(Bcl-2及びBcl-xL)又はウイルス由来因子(StpA A11、StpC及びTip及び修飾されたTio-LMP1)をコードする導入遺伝子を発現する細胞が、同じウェルでの遺伝子移入していない対照細胞と比較して、それらのTCRを通じた反復刺激を伴う長期培養における生存能の促進を明らかにした一方で、これらの細胞は、その増殖能において大きく持続的なブーストを示さなかった。これらのデータから、TREX細胞の所望の表現型を与えるためにさらなる編集が求められ得ることが示唆される。
【0084】
実施例2:CDKN2A、CDKN2B及びMTAPの発現の消失は、長期培養においてプライマリーヒトT細胞の増殖能を実質的に上昇させる。
様々な細胞アッセイを行うために、研究室において患者由来の白血病細胞株が何年にもわたって使用されてきた。これらの細胞の形質転換された性質は、T細胞急性リンパ性白血病(T-ALL)患者でも頻繁に見られる一群の突然変異においてマッピングされ得る(表1)。T-ALL患者における突然変異は、それぞれが表現型及びT-ALL細胞の生成におそらく寄与するいくつかの大きいクラスに分けられ得る:活性化シグナルの獲得、シグナル抑制因子の喪失、細胞周期停止調節因子の喪失並びに、転写因子、エピジェネティックな調節因子及び他の細胞機構などの多面的因子の修飾。
【0085】
【表1】
【0086】
上述のように、Bcl-XLなどの生存因子の提供に加えて、所望の表現型を生成させるために上述の遺伝子の一群のT細胞発現を修飾することが必要であり得る(表1)。従って、全CD8T細胞を健康なドナーの血液から単離し、αCD3/αCD28 Dynabeadsを使用して活性化し、72時間後に、Bcl-XLをコードする導入遺伝子を精製CD8T細胞の集団的プールに挿入した。次に、αCD3/αCD28 Dynabeadsを用いた再活性化及び続く白血病T細胞株及びT-ALL患者から同定された因子の発現の消失の前に、これらの細胞を17日間にわたり増加させた。増殖能の上昇は、TREX細胞に対して操作しようとした主要な特徴の1つ、従って「細胞周期停止」ビンからの分子の発現切断の効果、であり:サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A(CDKN2A)及びCDKN2Bをこれらの細胞において試験した(図3A)。S-メチル-5’-チオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)は、CDKN2A及びCDKN2Bに染色体上で隣接しており、CDKN2A及びCDKN2Bを欠く患者においても欠損していることが多い。従って、CDKN2A及びCDKN2Bと連動したMTAPの発現除去の効果(図3A)を試験した。これらのBcl-XL及びCDKN2A/CDKN2B/MTAP編集細胞は、以後、「TREX+Bcl-xL」細胞(表2)と呼び、CDKN2A/CDKN2B/MTAP編集(Bcl-XLなし)は、「TREX」細胞と呼ぶ。
【0087】
【表2】
【0088】
Bcl-xL-編集、Bcl-xL及びCDKN2A/CDKN2B-編集及びTREX+Bcl-xL細胞を、それらのTCRを通じたさらなる刺激なく、ほぼ100日間にわたり培養において維持し、各集団の全体の倍数増加を評価した(図3A)。これらの編集の導入からおよそ31日後、TREX+Bcl-xL細胞の増殖は、他の群から離れ、さらなるTCR刺激の非存在下でTREX+Bcl-xL細胞増加を持続し、この期間中に400,000倍超の増加を達成した。その一方、Bcl-xL-編集及びBcl-xL/CDKN2A/CDKN2B-編集CD8T細胞は、この時点で73~286倍というより低い増加レベルを達成した(図3A、表3)。さらに、未編集又はBcl-xL-編集細胞が、増殖を推進するためにαCD3/αCD28 Dynabeadsを用いてそれらのTCRを通じて繰り返し再刺激された場合でも、これらは、TREX+Bcl-xL細胞をはるかに下回る低レベルの全体の倍数増加しか達成しなかった(図1A、表3)。
【0089】
【表3】
【0090】
REX+Bcl-xL細胞が、同じドナーからの対照CD8T細胞と比較して、実質的に増強された増殖能を示した一方で、T-ALL患者において高頻度に突然変異しているシグナルサプレッサーの発現除去により、これらの編集が他のドナーにおける同様の表現型を付与し得るか否か、及びTREX+Bcl-xL表現型をさらに促進することが可能か否かを試験するために、さらなる実験を行った(表1)。ホスファターゼ及びテンシンホモログ(PTEN)遺伝子座は、患者由来の白血病細胞株及びT-ALL患者において高頻度の機能喪失突然変異を示し、細胞周期進行を負に調節することが知られている(表1)。2つの異なるドナー(40A30及び40B30)から上記のようにTREX+Bcl-xL細胞を作製し、「トリプレックス」編集のおよそ2週間後、これらのTREX+Bcl-xL細胞株のうち1つ(40B32)においてPTENの発現を除去した(図3B)。健康なドナー由来のTREX細胞(CDKN2A/CDKN2B/MTAPを欠失)の両セットがさらなるTCR刺激の非存在下で実質的な増殖能を示し、培養の第118日までに>3.7e8及び>1.8e7の全体の倍数増加を達成した。さらに、AKTシグナル伝達の制御を通じた細胞周期進行の負の調節におけるその確立された役割と一致して、TREX+Bcl-xL細胞におけるPTEN発現の消失は、ドナーB-2TREX+Bcl-xL細胞の増殖能をさらに増強して、培養の第118日までに>2.0e8全体の倍数増加をこれらの細胞が達成することを可能にした(図3B)。PTEN発現の消失の追加の効果が出現するために49日かかり、これは、低い初期編集効率又は細胞が>3e6倍に増加した後のこの編集の後期の競合的な優位性を反映する。
【0091】
インタクトなPTEN発現があるTREX+Bcl-xL細胞がさらなるTCR刺激の非存在下で劇的に増加した一方で、それらの増殖は最終的に、PTEN発現を欠くTREX+Bcl-xL細胞と比較して遅かった(図3B)。さらに、PTENを欠くTREX+Bcl-xL細胞さえも、最終的に増殖速度の低下を示した(図3B)。同時刺激の存在又は非存在下でのTREX+Bcl-xL細胞の再刺激がPTEN発現の消失に対する実行可能な代替又は補完的なアプローチとなり得るか否かを判断するために、αCD3又はαCD3/αCD28 Dynabeadsが細胞周期へと細胞を復活させ得るか否かについてこれを試験した(図4)。TREX+Bcl-xL又はPTEN欠失TREX+Bcl-xL細胞を未処理のままにするか又は上記のようにDynabeadsで再刺激し、ビーズを除去し(debeaded)、各集団の全体の倍数増加を追跡した(図4)。再刺激は実質的に、TREX+Bcl-xL及びPTEN欠失TREX+Bcl-xL株の増加能を増強させた。
【0092】
実施例3:TREX+Bcl-xL細胞は、サイトカイン依存性及び細胞表現型に関してプライマリーヒトT細胞と類似している。
プライマリーT細胞は、インビトロ及びインビボで生存及び増殖についてIL-2などのサイトカインに依存するが、いくつかの白血病細胞の細胞株はIL-2と独立に増殖する。IL-2を含有する培地中で、TREX+Bcl-xL細胞及びPTEN欠失TREX+Bcl-xL細胞を作製した。培養中6日間、一連のIL-2濃度にわたり細胞増殖及び生存を追跡することによって、これらの細胞がサイトカイン依存性に関して正常なプライマリーヒトT細胞と依然として類似しているか否かを調べた(図5)。正常T細胞と一致して、TREX+Bcl-xL細胞及びPTEN欠失TREX+Bcl-xL細胞は、増殖及び生存の両方についてIL-2によく依存した。
【0093】
REX+Bcl-xL細胞及びPTEN欠失TREX+Bcl-xL細胞が修飾及びインビトロ培養での増加後に正常T細胞と同様の表現型を維持するか否か又はこれらの状態がTREX+Bcl-xL細胞を疲弊した表現型に追いやるか否かも試験した(図6)。全部で3つのTREX+Bcl-xL株が、細胞表面CD3及びCD8の発現を維持した(図6A及び6B)。さらに、これらは、PD1及びTIGITなどの活性化マーカーを様々なレベルで発現し(図6C)、ドナー依存性にCD28の発現を維持した(図6D)。最終的に、これらのTREX+Bcl-xL株は、ドナー依存的に辿ったCD45RO及びCCR7の表面発現により定義される分化表現型を示した(図6E)。これらのデータは、実質的な増殖及びインビトロ培養の持続時間の増加にもかかわらず、TREX+Bcl-xL細胞が正常T細胞に類似しており、機能障害性状態と関連する表面表現型を示さないことを示唆する。
【0094】
ケモカイン受容体は、炎症部位への免疫細胞の輸送にとって重要である。従って、フローサイトメトリーを用いて、TREX+Bcl-xL細胞、PTEN欠失TREX+Bcl-xL細胞、再刺激を受けたTREX+Bcl-xL細胞及び再刺激を受けたPTEN欠失TREX+Bcl-xL細胞を、ケモカイン受容体、CCR2、CCR5、CCR6、CCR7、CXCR3及びCXCR5の発現について分析した(図6F~K)。TREX+Bcl-xL株及びPTEN欠失TREX+Bcl-xL株は、CCR2(図6F)、CCR5(図6G)及びCXCR3(図6J)の発現を示した。CCR6の発現(図6H)は、不均一であり、一方でCCR7(図6I)及びCXCR5(図6K)の発現は、低いか又はなかった。従って、TREX+Bcl-xL細胞及びPTEN欠失TREX+Bcl-xL細胞は、それらが炎症部位へ輸送されることを可能にする重要なケモカイン受容体の発現を維持する。
【0095】
実施例4:TREX+Bcl-xL細胞は細胞傷害性がある。
REX+Bcl-xL株が正常プライマリーヒトT細胞と類似していることが裏付けられたので、TREX+Bcl-xL細胞が長期培養及び増加後に強力な細胞傷害性機能を維持するか否かを判定した。TREX+Bcl-xL細胞の細胞傷害性機能を定量するために、標的腫瘍細胞及びインピーダンスに基づくxCELLigenceプラットフォームの存在下でT細胞エンゲージャーを使用した(図7)。第80日にTREX+Bcl-xL株は、T細胞エンゲージャーの存在下で、未修飾プライマリー全T細胞及び未修飾プライマリーCD8T細胞と同等である、標的腫瘍細胞溶解能を明らかにした(図7A及び7B)。エフェクター細胞及び活性T細胞エンゲージャー又は対照T細胞エンゲージャー分子の添加後72時間でこれらの同時培養からの上清を回収し、インターフェロンγ(IFN-γ)、IL-2、腫瘍壊死因子α(TNF-α)及びグランザイムBの存在について分析した(図7C~7F)。TREX+Bcl-xL株は、未修飾プライマリーT細胞と比較して、抗原依存性に標的細胞を溶解する能力が同様であるにもかかわらず、これらのサイトカインの産生レベルがより低かった。これらのデータから、80日後でさえも、培養及び実質的な増加において、TREX+Bcl-xL細胞が機能的に消耗せず、それらの細胞傷害能を維持することが示される。
【0096】
実施例5:TREX+Bcl-xL細胞は、機能的なCAR-TREX細胞を生成させ得る。
REX+Bcl-xL細胞を有望な細胞療法へと発展させるために、これらの細胞は、それらの細胞傷害性機能を指示するために、キメラ抗原受容体(CAR)などの標的指向性の分子を発現可能でなければならない。上記のように作製された3つのTREX+Bcl-xL細胞の細胞株に対して、グリピカン3(GPC3)を認識するCARをコードするレンチウイルスを用いて形質導入を行った。フローサイトメトリーを使用して、GPC3 CARの表面発現をその後に測定した(図8A)。各TREX+Bcl-xL株は、正常なプライマリー全T細胞及び正常なプライマリーCD8T細胞と同様のレベルでGPC3 CARを良好に発現することが分かった(図8A)。
【0097】
様々な抗原発現度の標的腫瘍細胞を用いてインピーダンスに基づくxCELLigenceアッセイを行うことによって、TREX+Bcl-xL細胞のCARに対する細胞傷害性機能を評価した:OE21(抗原陰性)、HuH-7(抗原-中)及びHep3B(抗原-高)(図8B及び8C)。TREX+Bcl-xL細胞は、正常なCAR-T細胞及び正常なCAR-CD8T細胞と同様のレベルでCAR特異的及び抗原特異的に標的腫瘍細胞を急速に溶解させた(図8B及び8C)。T細胞添加の72時間後、これらの同時培養から上清を回収し、続いてIFN-γ、IL-2、TNF-α及びグランザイムBの分泌について分析した(図8D~8G)。それらの強力な細胞傷害性機能と一致して、CAR-TREX+Bcl-xL細胞は、正常なCAR-T細胞及び正常なCAR-CD8T細胞と同等のエフェクターサイトカイン分泌能を示した(図8D~8G)。しかし、概して、IFN-γ及びTNF-αレベルは、CAR-TREX+Bcl-xL細胞においてより低いことが分かった。
【0098】
これらのデータから、顕著なインビトロ増加後でさえも、TREX+Bcl-xL及びPTEN欠失TREX+Bcl-xL細胞が、CARを発現し、抗原依存性にCARに対する細胞傷害性機能を遂行することが可能であることが確認される。
【0099】
実施例6:TREX細胞は、プライマリーCD8T細胞と同様の位置へ行き、インビボでIL-2に応答性である。
ヒト及びマウスT細胞の活性及び増加を調整するために、サイトカインの合図が使用され得るので(Zhang et al.,Science Translational Medicine,22 Dec 2021,Vol 13,Issue 625;Aspuria et al.,Science Translational Medicine,22 Dec 2021,Vol 13,Issue 625)、TREX細胞をインビボでの異なるヒトサイトカインに対するその応答能について評価した。簡潔に述べると、プライマリーヒトCD8T細胞又は278日齢のTREX細胞をルシフェラーゼレポーターで標識し、組み換えヒトIL-2 融合タンパク質の補充あり又はなしで、3E6ルシフェラーゼ発現細胞をNSGマウスに注入した。ルシフェラーゼを発現するT細胞を検出するために、IVIS Optical Imagingシステムを使用して、マウスの撮像を行った(図9A及び9B)。図9Aで示されるように、216時間での画像は、マウスにおけるプライマリーヒトCD8+T細胞及びTREX細胞の同様の局在を示した。さらに、組み換えヒトIL-2 融合タンパク質を補充されたマウスでは、TREX細胞の増殖が促進されたことが明らかになった(図9A、右)。腹側の放射輝度を経時的にグラフ化し(図9B)、同様にTREX細胞がインビボで外から補充されるIL-2に応答する能力を示した。養子細胞移入の10日後にマウスを屠殺し、プライマリーCD8+T細胞又はTREX細胞の存在について、それらの血液、脾臓及び骨髄を評価した(図9C)。TREX細胞がプライマリーCD8+T細胞と同様の器官で見出された一方で(図9C)、それらはより遅い崩壊動態を示し、組み換えヒトIL-2融合タンパク質の投与によって、処置したマウスの血液及び骨髄においてTREX細胞数がさらに増強され得る。これらのデータから、TREX細胞がプライマリーCD8+T細胞と同様の部位に誘導され、外因性のサイトカインの合図に対する応答性を維持することが示唆される。
【0100】
実施例7:CAR-TREX細胞は、インビボでIL-2及びIL-15に応答する。
GPC3を標的とするCAR-TREX+Bcl-xL細胞を、インビボでの様々なヒトサイトカインに対するそれらの応答能について評価した。NSG、hIL-2 NOG又はhIL-15 NOGマウスに対してGPC3を発現するHep3B腫瘍細胞を接種した。腫瘍を確立したら、マウスを未処置のままにするか又は10E6個のGPC3を標的とするCAR-TREX+Bcl-xL細胞で処置した。CAR-TREX+Bcl-xL細胞は、注入時に121日であった。CAR-TREX+Bcl-xL細胞注入の8日後にマウスを屠殺し、体重を測定したところ(図10A)、識別可能な相違は観察されず、毒性がないことが示された。腫瘍、血液及び脾臓を回収し、CAR-TREX+Bcl-xL細胞の存在について分析した(図10B)。腫瘍を保有するhIL-2 NOG及びhIL-15 NOGマウスにおいてCAR-TREX+Bcl-xL細胞数が増強され、CAR-TREX+Bcl-xL細胞がインビボで外因性サイトカインの合図に応答可能であることが示される。増加プロファイルは、提供された特定のサイトカイン支援に特異的であった(図10B)。
【0101】
実施例8:CAR-TREX細胞はインビボで固形腫瘍を標的とする。
GPC3を標的とするCAR-TREX細胞が固形腫瘍を制御する能力を判定した。NSGマウスにおいてHep3B腫瘍を確立し、次いで92日齢の精製CAR-TREX細胞(図11A)をマウスに注入した。10E6CAR-TREX細胞又は2E6 CAR-T細胞を注入し、次に腫瘍体積を測定し、経時的にグラフ化した(図11B、左)。CAR-TREX細胞は、腫瘍成長阻害及びHep3B腫瘍の制御を示した。CAR-TREX細胞移入の18日後、マウスを屠殺し、さらなる分析のために、腫瘍、血液及び脾臓を回収した(図11B、11C及び11D)。腫瘍内CAR-TREX 細胞表現型を調べ(図11B)、これらの様々な組織においてCAR-TREX細胞数を決定した(図11C)。CAR-TREX細胞は、マウスの腫瘍において最大数で見出され、これらの細胞は活性化された表現型を示し、エフェクターサイトカインを能動的に分泌し、脱顆粒していた(図11D)。TREX細胞はさらに、インビトロでの増殖能の増強を示し、数百万倍に増加され得、それらのTCRを通じたさらなる刺激なく、100日間超にわたり培養において維持され得る(図12)。さらに、CRISPR/Cas9を用いて健康なドナーCD8T細胞において上述の標的遺伝子を同時に編集した場合、これらの編集によって、様々なドナーにわたり再現性よくREX表現型が付与された(図12)。
【0102】
実施例9:臨床プロファイルのためのさらなる遺伝子編集
REX編集がTREX細胞製品の増殖の促進をもたらす一方で、患者の免疫系によるTREX細胞製品の拒絶を遅延させるためにB2M及びCD38遺伝子座でのさらなる編集を行った。B2Mは、ヒトにおける15番染色体上の遺伝子によりコードされる119個のアミノ酸のタンパク質である。これは、主要組織適合性クラス(MHC)I分子の構成成分でもあり、CD1などの非古典的なMHC I様分子、MR1、新生児Fc受容体及びQa-1とも関連する。MHC遺伝子座の外に位置するにもかかわらず、有核細胞の表面上での古典的及び非古典的MHC I分子の良好な発現のためにはB2Mが必要とされる。CRISPR/Cas9を使用してTREX細胞においてB2M発現を排除することによって、この細胞が患者CD8+T細胞から遮蔽される。さらに、B2M発現の消失及び結果的にTREX細胞製品によるMHC-I発現によって、患者NK細胞による拒絶に対してそれが感受性になる。TREX細胞製品におけるCAR(例えばGPC3、HER2、BCMA)の標的化のノックインと同時にB2Mのノックアウトを行った。
【0103】
NK細胞は、CD38を高レベルで発現し、ダラツムマブ及びイサツキシマブなどの抗CD38モノクローナル抗体が投与されるある種の癌の患者、例えば多発性骨髄腫の患者ではNK細胞が枯渇している。患者においてこの同種細胞集団の持続性を延長させるために、CRISPR/Cas9を用いてTREX細胞のCD38をノックアウトし、ダラツムマブ又はイサツキシマブをTREX細胞とともに同時投与し得る(図30及び31を参照)。
【0104】
同種CD8T細胞集団のように、TREX細胞は、それらのTCRを通じてHLA不一致患者の健康な細胞を標的とすることが可能であると予想され、その結果、GvHDとなる。この病態の進展を防ぐために、TCRα鎖をコードするT細胞受容体アルファコンスタント(TRAC)遺伝子座でTREX細胞集団を編集した。TRACのCRISPR/Cas9編集は、TCRα鎖の発現喪失につながり、続いてTREX細胞によるTCRの表面発現を妨げる。
【0105】
【表4】
【0106】
実施例10:抗BCMA-TREX同種細胞療法
REX細胞(即ち、CDKN2A/CDKN2B/MTAPを欠く細胞)においてBCMAを標的とするCARを発現させた(図13A)。抗BCMA-TREX細胞のゲノムをさらに編集して、それぞれB2M及びTRAC遺伝子の不活性化によりヒト白血球抗原(HLA)クラスI及びαβT細胞受容体(TCR)の発現を除去し、それぞれ宿主対移植片(HvG)及び移植片対宿主(GvH)同種応答を最小化した。さらに、抗CD38枯渇モノクローナル抗体に対する抵抗性を細胞に付与するためにCRISPR/Cas9を使用して抗BCMA-TREX細胞においてCD38遺伝子を不活性化させた。これらの3つの遺伝子の不活性化によって、末梢血CD8T細胞の全インビトロ増加能が促進され、下流細胞集団数が未編集末梢血CD8T細胞により達成可能なものをはるかに超えるようになる。この細胞は、プライマリーT細胞の特徴的な増殖特性を保持するが(増加/生存に対するTRAC不活性化前の抗CD3刺激及びIL-2の両方への依存)、増加の可能性がより高くなる。抗BCMA-TREX細胞は、細胞傷害性機能を維持するが、混合されたCD4及びCD8T細胞集団から構成される従来のCAR-T細胞調製物と比較して、サイトカイン放出の低下を示す。
【0107】
抗BCMA-TREX細胞の評価は、サイトカイン放出の低減及び潜在的に軽減されるCRSのリスクの形式で潜在的に改善された安全性プロファイルを示すと同時に、これらの細胞が、プライマリー抗BCMA-CAR-T細胞と同様にBCMA発現腫瘍を制御すると思われることを示す(図13B)。簡潔に述べると、BCMAを発現する腫瘍細胞とともに抗BCMA-TREX細胞及び抗BCMA-CAR-T細胞を培養した。腫瘍細胞溶解物は、様々なエフェクター:標的細胞比で、同時培養開始後の異なる時点で測定した(図13B、一番上の列)。同時培養開始の72時間後に上清を回収し、MSDによってIFN-γ、TNF-α及びIL-2のレベルを決定した(図13B、下の列)。
【0108】
BCMAを発現する腫瘍細胞とともに抗BCMA-TREX細胞(培養において82日)又は抗BCMA-CAR-T細胞を培養した。同時培養開始の72時間後に上清を回収し、MSDキットを使用してIFN-γのレベルについて評価した(図14、左)。データから、腫瘍細胞の同様の制御にもかかわらず、抗BCMA-CAR-T細胞との同時培養よりも抗BCMA-TREX細胞との同時培養(培養において83日)においてIFN-γレベルが90%低いことが示される。これらのデータから、CAR-TREX細胞が、CAR-T細胞よりもCRSのリスクがより低くなり得るサイトカイン分泌プロファイルを示すことが明らかになる。
【0109】
抗BCMA-TREX細胞(培養において112日)をIL-2支援あり又はなしで連続死滅アッセイ(serial kill assay)においてそれらの持続能について評価した。簡潔に述べると、1:1のエフェクター:標的細胞比でBCMAを発現するJJN3細胞とともに、抗BCMA-TREX細胞又は抗BCMA-CAR-T細胞を連続的に培養した。腫瘍細胞制御(%細胞溶解)、エフェクター細胞数及びエフェクターサイトカイン分泌を同時培養の各ラウンド後に測定し、グラフ化した(図15)。抗BCMA-TREX細胞は、この連続死滅アッセイ(serial kill assay)において抗BCMA-CAR-T細胞と同等のラウンド数を持続し、細胞培養培地中にIL-2を含むことによって、抗BCMA-TREX細胞及び抗BCMA-CAR-T細胞が腫瘍細胞増殖を制御し得るラウンド数をさらに増加させた。抗BCMA-TREX細胞及び抗BCMA-CAR-T細胞は、IL-2に応答して増殖の増強を示し、培地中にIL-2が含まれた同時培養においてより長い持続時間にわたりエフェクターサイトカイン分泌が維持された(図15上の列対下の列)。これらのデータから、抗BCMA-TREX細胞がインビトロで抗BCMA-CAR-T細胞に対して同様の細胞傷害性を明らかにし、外因性IL-2に対する同様の応答能も示すことが指摘される。さらに、抗BCMA-TREX細胞は、同等な腫瘍制御にもかかわらず、CAR-エンゲージメント後に抗BCMA-CAR-T細胞よりも低いレベルのエフェクターサイトカインを分泌した。
【0110】
実施例11:抗HER2-TREX同種細胞療法
CAR-TREX細胞及びCAR-T細胞を作製するために、TREX細胞又はプライマリーT細胞(図20A)においてHER2を標的とするCARを発現させた。抗HER2-TREX細胞及び抗HER2-CAR-T細胞に対して、様々なエフェクター:標的細胞比でHER2を過剰発現するOE21細胞を標的とするそれらの能力について評価した(図20B、左)。抗HER-TREX細胞は、3つの異なるプライマリーT細胞ドナーから作製される抗HER2-CAR-T細胞と比較して、HER2を発現する腫瘍細胞の同等な又は改善された制御を明らかにした。同時培養開始の72時間後に上清を回収し、続いてエフェクターサイトカインの存在について調べた(図20B、右)。以前に観察されたように、腫瘍細胞制御が同等であるか又は改善されているにもかかわらず、抗HER2-TREX細胞は、分泌するサイトカイン(IFN-γ、TNF-α及びIL-2)のレベルが抗HER2-CAR-T細胞よりも低く、このことから、CAR-TREX細胞が患者においてCRSを引き起こす傾向がより小さくなり得ることが示唆される。さらに、抗BCMA-TREX細胞に対して上で示されるように、抗HER2-CAR-T細胞との同時培養からの上清と比較した場合、HER2を発現する腫瘍細胞及び抗HER2-TREX細胞の同時培養から得られた上清におけるIFN-γの分泌低下も観察された(図14、右)。これらのデータから、再び、CAR-TREX細胞が、CAR-T細胞よりもCRSリスクが低くなり得るサイトカイン分泌プロファイルを示すことが明らかになる。
【0111】
実施例12:TREX細胞表現型は、編集の異なる組み合わせを使用して作製され得る。
2名のドナー(G及びHとして示す)からの単離CD8T細胞においてREX表現型を付与するためのBcl-xL及び様々なREX標的遺伝子の過剰発現の要件を評価した。簡潔に述べると、CD8+T細胞を陰性選択し、次いで3日間、αCD3/αCD28 Dynabeadsで活性化した。いくつかの細胞にBcl-xLを導入し、一方で他の細胞を培養し、CRISPR/Cas9を使用してREX標的遺伝子の様々な組み合わせをノックアウトした(図16)。細胞増加を監視し、経時的にグラフ化した。(CDKN2A及びCDKN2A’は単一対複数アイソフォームの標的化を反映する)。3つのREX標的遺伝子がドナーにわたって一貫した表現型を得た一方で、Bcl-xLは、REX表現型に不必要であることが分かった(図16、右)。
【0112】
実施例13:TREX細胞は、標的とされる遺伝子座で編集される。
ウエスタンブロット分析によって、REX標的遺伝子の発現の消失について、TREX 細胞及びγδTREX細胞を調べた(図17、左及び中央のパネル)。予想されるように、これらの細胞は、MTAP、CDKN2A(p14)、CDKN2A(p16)及びCDKN2B(p15)の発現の喪失を示した。対照的に、ドナーが一致する未編集対照細胞においてこれらの遺伝子の発現が維持された。さらに、サンガーシーケンシングデータから、編集されたTREX細胞におけるこれらの3つの遺伝子座で挿入欠失を有する率が高いことが示される(図17、右)。
【0113】
実施例14:TREX細胞は、細胞周期関連遺伝子シグネチャーの濃縮を示す。
Bcl-xLを過剰発現するTREX細胞及び同一ドナーの未編集対照CD8T細胞を長時間培養した。様々な点で作製された細胞ペレットにおいてRNAseq分析を行い、遺伝子シグネチャーをBcl-xL TREX細胞及び対照細胞において評価し;予想されるように、TREX細胞は、E2F標的遺伝子及びG2Mチェックポイント標的遺伝子などの細胞周期と関連する遺伝子シグネチャーの濃縮を示した(図18A)。Bcl-xL TREX 細胞は、これらの細胞の観察された増殖速度と一致して、MYC標的遺伝子のより高レベルの発現も示した(図18B)。さらに、Bcl-xL TREX細胞は、複数の細胞周期関連遺伝子の発現の調整を示した(図22C)。これらのデータから、REX表現型が細胞周期進行及び増殖向上と関連することが確認される。
【0114】
実施例15:TREX細胞は、生存及び増殖についてIL-2に依存する。
12~14日間にわたり様々な量のIL-2とともにTREX細胞を培養した。細胞増加を追跡し、この時間にわたりグラフ化した(図19)。Bcl-xL TREX細胞に対して上記で示されるように(例えば図5を参照)、TREX細胞は、インビトロで増殖及び生存についてIL-2に大きく依存する。TREX細胞は、IL-2に反応して用量依存的な増殖を示し;IL-2の非存在下では、TREX細胞は、生存の急激な低下を示し、60%超のTREX細胞が最初の4日以内に排除された。
【0115】
実施例17:REX編集は、CD4+TREX細胞の増殖能を支える。
REX編集は、再現性よく、CD8T細胞において複製老化抵抗性の増強を付与する。CD4+T細胞の複製老化抵抗性を促進するためのREX標的遺伝子(CDKN2A、CDKN2B及びMTAP)の発現消失能を判定した。3名の健康なドナーからCD4T細胞を単離し、αCD3/αCD28 Dynabeadsを使用して刺激し、次いでこれらの遺伝子座で編集した。CD4REX細胞及び同一ドナーの未編集CD4T細胞対照の増殖を経時的に追跡し、グラフ化した。(図21)。CD8T細胞を用いて以前明らかにされたように、CD4T細胞においてREX遺伝子を標的とすることによって、これらの細胞の増殖能を再現性よく支え、それらに複製老化抵抗性を与えた。
【0116】
実施例18:REX編集を使用して、γδTREX細胞を作製し得る。
γδT細胞は、T細胞の別の細胞傷害性サブセットである。8つの異なるドナーからのγδT細胞を使用して、γδT細胞においてREX編集がTREX細胞表現型を付与する能力を調べた(図22)。γδT細胞を単離し、αCD3/αCD28 Dynabeads又はαCD3抗体で刺激し、その後、CRISPR/Cas9を使用してREX遺伝子座を編集した。γδT細胞及びγδTREX細胞増殖を監視し、経時的にグラフ化した。REX編集は、γδT細胞の複製老化抵抗性を再現性よく促進し、γδTREX細胞表現型の生成に至った。
【0117】
γδTREX細胞株が複製老化抵抗性の促進を示すことが確立されたので、γδTREX細胞が長期培養及び増加後に強力な細胞傷害性機能を維持するか否かを判定した。γδTREX細胞の細胞傷害性機能を定量するために(図23)、T細胞エンゲージャーを標的腫瘍細胞及びインピーダンスに基づくxCELLigenceプラットフォームの存在下で使用した。第79日及び第88日に、未修飾プライマリーCD8T細胞としてのT細胞エンゲージャーの存在下で、γδTREX細胞株は、同等の標的腫瘍細胞溶解能を明らかにした(図23、上)。エフェクター細胞及び活性T細胞エンゲージャー又は対照T細胞エンゲージャー分子の添加の72時間後にこれらの同時培養からの上清を回収し、IFN-γ、IL-2及びTNF-αの存在について分析した(図23、下)。γδTREX細胞株は、抗原依存性に標的細胞を溶解する能力が同様であるにもかかわらず、これらのサイトカインの産生レベルは、未修飾プライマリーCD8T細胞よりも低かった。これらのデータから、培養及び続く増加において79日後でさえも、γδTREX細胞は、機能が消耗せず、それらの細胞傷害性能を維持することが示される。
【0118】
γδT細胞は一般的に、特にVδ1、Vδ2、Vδ3及びVδ5を含む複数のサブセットから構成された(Lawand et al.,Front.Immunol.,30 June 2017)。ヒトにおいて、Vδ1及びVδ2は、γδT細胞の大部分を構成し、Vδ2細胞は主に血液中で見られ、Vδ1細胞は組織において見られる。
【0119】
γδTREX細胞、γδCAR-TREX細胞及びドナーが同一の未編集γδT細胞を染色し、Vδ1及びVδ2の発現について分析した(図24)。FACS分析により、γδTREX細胞は、複数のγδT細胞サブタイプ(Vδ1、Vδ2及びVδ1Vδ2)から構成されたことが明らかになり、このことから、REX編集によって複数のγδT細胞サブタイプに対して複製老化抵抗性が促進され得ることが示された。さらに、γδCAR-TREX細胞においてγδT細胞サブタイプの多様性が維持された(図28、下)。
【0120】
次にγδTREX細胞に対して、BCMAを標的とするCARなどの腫瘍を標的とする部分から指令を受けるそれらの能力について調べた(図25)。γδTREX細胞に対して形質導入を行い、BCMAを標的とするCARを発現させ(図25A)、様々なエフェクター:標的細胞比でBCMAを発現する腫瘍細胞とこれらの細胞を同時培養した。xCELLigenceプラットフォームを使用して腫瘍細胞溶解を経時的に監視し(図25B)、同時培養開始の72時間後に上清を回収した。γδTREX細胞は、プライマリーCAR-T細胞対照と同様のBCMA発現腫瘍細胞制御能を示したが、しかしこれらは一般に、IFN-γ、TNF-α及びIL-2を含むエフェクターサイトカインの分泌レベルがより低かった(図25B、下)。これらのデータから、γδCAR-TREX細胞が腫瘍を標的とするCARから指示を受けることが可能であり、プライマリーCAR-T細胞よりもCRSを引き起こす可能性もより低いものであり得ることが示される。
【0121】
実施例19:NK細胞におけるREX編集は、NKREX細胞表現型を支援する。
REX編集は、T細胞の複製老化抵抗性を増強させるが、しかし、それらがNKREX細胞表現型を支援するか否かは不明であった。従って、NK細胞を3名の異なるドナーから単離し、IL-2又はIL-2及びIL-15の組み合わせを含有する培地中で培養した。次に、CRISPR/Cas9を使用してREX遺伝子座でNK細胞を編集し、NKREX細胞及び同一ドナーの未編集NK細胞の増殖を経時的に監視した(図26)。全てのドナー及びサイトカイン条件において、REX編集は再現性よくNKREX細胞の複製老化抵抗性を促進可能であった(図26)。未編集NK細胞が増加できず、80日以内に死滅した一方で、NKREX細胞は、90日にわたり培養され得、>10~>1010倍に増加する。
【0122】
複製老化抵抗性の増強を考慮すると、NKREX細胞がサイトカイン支援へのそれらの依存性を維持したか否かを判定することは重要であった。NKREX細胞は、IL-2又はIL-2及びIL-15の組み合わせを含有する培地中で作製された。サイトカインが増殖培地から除去された実験において、これらのサイトカインにおけるNKREX細胞依存性を判定し、37日間にわたりNKREX細胞数を監視した。NKREX細胞は、サイトカイン除去後に増殖できず、これらの細胞は、細胞生存能及び生存可能な細胞直径の急速な下落を示し、REX遺伝子の編集にもかかわらずサイトカイン支援へのそれらの依存性を強めた(図27)。
【0123】
これらの細胞が腫瘍を標的とするCARを安定して発現可能であったか否かを判定するために、NKREX細胞に対して形質導入を行って、BCMAを標的とするCARを発現させた(図28)。経時的にCAR-NKREX細胞においてCAR発現が維持され、発現レベル(平均蛍光強度、MFI)は精製CAR-T細胞におけるレベルと同様であった。これらのデータは、CAR-NKREX細胞がCARを安定して発現し得、その発現レベルが標準的なCAR-T細胞と同等であることを示す。
【0124】
NKREX細胞が長期にわたり培養中で増加し得る一方で、1)それらの細胞傷害能が持続性の増殖後に維持されたか否か;及び2)それらが腫瘍を標的とするCARの指示を受け得るか否かは、不明であった。従って、CAR-NKREX細胞を2つの異なるNKREX株から作製した(図29A)。これらのCAR-NKREX株のうち1つは、>95%CARCAR-NKREX株を生成させるためにCAR発現に基づいて精製した(図29A、右下)。xCELLigenceアッセイにおいてBCMAを発現する腫瘍細胞を溶解させるそれらの能力についてドナー50-1及び47-1からのNKREX及びCAR-NKREX株を試験した(図29B)。培養において78及び86日後でも、NKREX及びCAR-NKREX細胞は強力に細胞傷害性であった。これらの株は、BCMAを発現する標的細胞を急速に溶解させ、CAR-TREX細胞よりも急速により高い制御レベルを達成した(図29B)。より低いエフェクター:標的細胞比で、おそらくNKREX及びCAR-NKREX細胞における活性化受容体の会合ゆえに、NKREX細胞がCAR発現とは独立に腫瘍細胞を溶解可能であった一方で、ドナー50-1及び47-1の両方について、CARに対する細胞傷害性の寄与が観察され得た。同時培養の48時間後に上清を回収し、MSDを使用してIFN-γ、IL-2及びTNF-αのレベルを決定した(図29C)。NKREX細胞は、CAR-NKREX細胞よりもこれらのサイトカイン分泌レベルが低く、CAR-TREX細胞のこれらの因子の分泌は最大レベルであった(図29C)。これらのデータから、CAR-NKREX細胞が腫瘍を標的とするCARを安定して発現し、腫瘍を標的とするCARから指示を受けることが可能であることが示される。さらに、これらの細胞は急速に腫瘍細胞を溶解させ、同時培養上清中でより低レベルのIFN-γ、IL-2及びTNF-αを蓄積する。
【0125】
実施例20:TREX細胞は、T細胞枯渇剤及び化学療法剤に感受性がある。
REX細胞は、それらの複製老化抵抗性を向上させるために修飾されている。しかし、これらの細胞は、正常なT細胞の特徴を示した。TREX細胞を制御する能力をより詳細に理解するために、活性化されて細胞周期に入った未編集の全T細胞と比較した、標準的T細胞枯渇剤及び化学療法剤に対するそれらの感受性を決定した(図30)。未編集の活性化されたばかりの全T細胞又はTREX細胞を10μg/mLの抗CD52及び10%ヒト補体(図30、左上)又は10%ウサギ補体(図30、左下)とともにインキュベートした。3時間後、細胞タイターGloアッセイを使用して細胞生存を評価した。未編集の活性化されたばかりの全T細胞又はTREX細胞をまた、指定量のメルファラン(図30、右上)又はクロラムブシル(図30、右下)と共にインキュベートし、Cell Titer Gloアッセイを使用して2日後に細胞生存を測定した。全ての場合において、TREX細胞は、これらの薬剤に対して、未編集の活性化されたばかりの総T細胞と同等の感受性を示した。
【0126】
実施例21:B2MKOREX細胞は、NK細胞が介在する枯渇に対して感受性があり、これは、抗CD38抗体を使用して調整され得る。
同種間の細胞製品として、B2M遺伝子座でTREX細胞を修飾し、NK細胞が介在する枯渇に対するそれらの影響され易さを向上させる。これらの細胞は、抗CD38抗体によるそれらの枯渇を制限するためにCD38遺伝子座でさらに修飾され得る。TREX 細胞株及びCD38KOB2MKOREX細胞株は、CRISPR/Cas9を使用して作製した。健康なドナーから単離されたPBMCとともにTREX細胞及びCD38KOB2MKOREX細胞を同時培養した。TREX細胞は、CD38KOB2MKOREX細胞が予想されるようにNK細胞が介在する溶解に対して影響を受け易かった一方で、PBMCとの同時培養の際には数の減少を示さなかった(図31、上)。NK細胞は高レベルのCD38を発現し、CD38KOB2MKO総T細胞又はCD38KOB2MKOREX細胞との同時培養前にCD38を標的とする抗体ダラツママブ(Dara)とともにNK細胞を予めインキュベートした場合、これにより、細胞溶解が>50%減少した。これらのデータから、CD38KOB2MKOREX細胞はNK細胞が介在する溶解から影響を受け易いこと、及びこの枯渇に対する感受性が抗CD38抗体の投与を通じて調節され得ることが示される。
図1-1】
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【国際調査報告】