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特表2024-532912ベルベノン誘導体を含む肥満または肥満関連肝疾患の治療または予防用組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ベルベノン誘導体を含む肥満または肥満関連肝疾患の治療または予防用組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 229/08 20060101AFI20240903BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240903BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240903BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240903BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240903BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20240903BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240903BHJP
【FI】
C07C229/08
A61P3/04
A61P1/16
A61P43/00 105
A61P29/00
A61K31/122
A23L33/105
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514068
(86)(22)【出願日】2022-08-30
(85)【翻訳文提出日】2024-04-11
(86)【国際出願番号】 KR2022012956
(87)【国際公開番号】W WO2023033517
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】10-2021-0114751
(32)【優先日】2021-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Witepsol
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】518073240
【氏名又は名称】シンプン・ファーマシューティカル・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHIN POONG PHARMACEUTICAL CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194973
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 祐朗
(72)【発明者】
【氏名】チュ チョン
(72)【発明者】
【氏名】イ ドンウォン
(72)【発明者】
【氏名】イ スンギュ
(72)【発明者】
【氏名】チョン ソン
【テーマコード(参考)】
4B018
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB08
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD15
4B018ME01
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB25
4C206KA01
4C206KA17
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206NA15
4C206ZA70
4C206ZA75
4C206ZB11
4C206ZB21
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB10
4H006AB27
4H006BJ50
4H006BP30
4H006BR70
4H006BT16
(57)【要約】
本発明は、ベルベノン誘導体およびその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含有する肥満または肥満関連肝疾患の治療または予防用医薬組成物または健康機能食品に関し、詳しくは、本発明のベルベノン誘導体は、高脂肪食餌誘導マウスにおいてTGF-β/Smad3信号伝達を抑制することにより、肥満または肥満関連肝疾患を治療および予防することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式1で表されるベルベノン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む肥満の治療または予防用医薬組成物:
【化1】
化学式1において、
R1、R2、R3、R4、およびR5は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、C1-3 アルキル基、C1-3 アルコキシ基、アミノ基、C1-3 アルキルアミン基、C1-3 アルキルジアミン基、C5-8 アリール基、C5-8 サイクリック基、C5-8 ヘテロアリール基、
【化2】
であり、
X、YおよびZは、それぞれ独立して炭素原子またはN、OまたはS原子であり;
【化3】
は、二重結合または単結合を意味する。
【請求項2】
化学式1で表されるベルベノン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む肥満関連肝疾患の治療または予防用医薬組成物:
【化4】
化学式1において、
R1、R2、R3、R4、およびR5は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、C1-3 アルキル基、C1-3 アルコキシ基、アミノ基、C1-3 アルキルアミン基、C1-3 アルキルジアミン基、C5-8 アリール基、C5-8 サイクリック基、C5-8 ヘテロアリール基、
【化5】
であり、
X、YおよびZは、それぞれ独立して炭素原子またはN、OまたはS原子であり;
【化6】
は、二重結合または単結合を意味する。
【請求項3】
前記R1、R2、R3、R4、およびR5は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、アミノ基、C5-6 アリール基、C5-6 サイクリック基、C5-6 ヘテロアリール基、
【化7】
であることを特徴とする、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記R1、R2、R3、R4、およびR5は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、メチル基、メトキシ基、フェニル基、ピロール基、ピリジン基、
【化8】
であることを特徴とする、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ベルベノン誘導体は、
(1S,5R)-4-(4-ヒドロキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3a);
(1S,5R)-4-(4-ヒドロキシ-2-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3b);
(1S,5R)-4-(3,4-ジヒドロキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3c);
(1S,5R)-4-(3-ブロモ-4-ヒドロキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3d);
(1S,5R)-4-(4-ヒドロキシ-2,6-ジメトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3e);
(1S,5R)-4-(3,4-ジヒドロキシ-5-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3f);
(1S,5R)-4-(3-ヒドロキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3g);
(1S,5R)-4-(2-ヒドロキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3h);
(1S,5R)-4-(2-ヒドロキシ-4-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3i);
(1S,5R)-6,6-ジメチル-4-スチリルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4a);
(1S,5R)-4-(4-フルオロスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4b);
(1S,5R)-4-(4-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4c);
(1S,5R)-4-(2-(ビフェニル-4-イル)ビニル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4d);
(1S,5R)-4-(4-(1H-ピロール-1-イル)スチリル)-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4e);
(1S,5R)-4-(3,4-ジメトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4f);
(1S,5R)-4-(3,5-ジメトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4g);
(1S,5R)-4-(2,5-ジメトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4h);
(1S,5R)-4-(5-ブロモ-2-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4i);
(1S,5R)-6,6-ジメチル-4-((E)-2-(ピリジン-2-イル)ビニル)ビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(5a);
(1S,5R)-6,6-ジメチル-4-((E)-2-(ピリジン-3-イル)ビニル)ビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(5b);
(1S,5R)-6,6-ジメチル-4-((E)-2-(ピリジン-4-イル)ビニル)ビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(5c);及び
(2S,2'S)-5-((E)-2-((1R,5S)-6,6-ジメチル-4-オキソビシクロ[3.1.1]ヘプト-2-エン-2-イル)ビニル)-3-メトキシ-1,2-フェニレンビス(2-アミノ-3-メチルブタノエート)-2-塩酸塩(6)からなる群から少なくとも1つ選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記ベルベノン誘導体は、
(1S,5R)-4-(3,4-ジヒドロキシ-5-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3f)または(2S,2'S)-5-((E)-2-((1R,5S)-6,6-ジメチル-4-オキソビシクロ[3.1.1]ヘプト-2-エン-2-イル)ビニル)-3-メトキシ-1,2-フェニレンビス(2-アミノ-3-メチルブタノエート)-2-塩酸塩(6)であることを特徴とする、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記肥満関連肝疾患は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)であることを特徴とする、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記脂肪性肝疾患は、脂肪肝症(steatosis)、脂肪肝炎(steatohepatitis)、肝線維化(fibrosis)又は肝硬変(cirrhosis)であることを特徴とする、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記組成物は、TGF-β/Smad3信号伝達経路を抑制して肥満誘発内臓脂肪組織炎症を減少させることを特徴とする、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項10】
化学式1で表されるベルベノン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む肥満の予防または改善用健康機能食品:
【化9】
化学式1において、
R1、R2、R3、R4、およびR5は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、C1-3 アルキル基、C1-3 アルコキシ基、アミノ基、C1-3アルキルアミン基、C1-3 アルキルジアミン基、C5-8 アリール基、C5-8 サイクリック基、C5-8 ヘテロアリール基、
【化10】
であり、
X、YおよびZは、それぞれ独立して炭素原子またはN、OまたはS原子であり;
【化11】
は、二重結合または単結合を意味する。
【請求項11】
化学式1で表されるベルベノン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む肥満関連肝疾患の予防または改善用の健康機能食品:
【化12】
化学式1において、
R1、R2、R3、R4、およびR5は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、C1-3 アルキル基、C1-3 アルコキシ基、アミノ基、C1-3 アルキルアミン基、C1-3 アルキルジアミン基、C5-8 アリール基、C5-8 サイクリック基、C5-8 ヘテロアリール基、
【化13】
であり、
X、YおよびZは、それぞれ独立して炭素原子またはN、OまたはS原子であり;
【化14】
は、二重結合または単結合を意味する。
【請求項12】
前記R1、R2、R3、R4、およびR5は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、アミノ基、C5-6 アリール基、C5-6 サイクリック基、C5-6 ヘテロアリール基、
【化15】
であることを特徴とする、請求項10または請求項11に記載の健康機能食品。
【請求項13】
前記R1、R2、R3、R4、およびR5は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、メチル基、メトキシ基、フェニル基、ピロール基、ピリジン基、
【化16】
であることを特徴とする、請求項10または請求項11に記載の健康機能食品。
【請求項14】
前記ベルベノン誘導体は、
(1S,5R)-4-(4-ヒドロキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3a);
(1S,5R)-4-(4-ヒドロキシ-2-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3b);
(1S,5R)-4-(3,4-ジヒドロキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3c);
(1S,5R)-4-(3-ブロモ-4-ヒドロキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3d);
(1S,5R)-4-(4-ヒドロキシ-2,6-ジメトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3e);
(1S,5R)-4-(3,4-ジヒドロキシ-5-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3f);
(1S,5R)-4-(3-ヒドロキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3g);
(1S,5R)-4-(2-ヒドロキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3h);
(1S,5R)-4-(2-ヒドロキシ-4-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3i);
(1S,5R)-6,6-ジメチル-4-スチリルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4a);
(1S,5R)-4-(4-フルオロスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4b);
(1S,5R)-4-(4-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4c);
(1S,5R)-4-(2-(ビフェニル-4-イル)ビニル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4d);
(1S,5R)-4-(4-(1H-ピロール-1-イル)スチリル)-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4e);
(1S,5R)-4-(3,4-ジメトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4f);
(1S,5R)-4-(3,5-ジメトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4g);
(1S,5R)-4-(2,5-ジメトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4h);
(1S,5R)-4-(5-ブロモ-2-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4i);
(1S,5R)-6,6-ジメチル-4-((E)-2-(ピリジン-2-イル)ビニル)ビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(5a);
(1S,5R)-6,6-ジメチル-4-((E)-2-(ピリジン-3-イル)ビニル)ビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(5b);
(1S,5R)-6,6-ジメチル-4-((E)-2-(ピリジン-4-イル)ビニル)ビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(5c);及び
(2S,2'S)-5-((E)-2-((1R,5S)-6,6-ジメチル-4-オキソビシクロ[3.1.1]ヘプト-2-エン-2-イル)ビニル)-3-メトキシ-1,2-フェニレンビス(2-アミノ-3-メチルブタノエート)-2-塩酸塩(6)からなる群から少なくとも1つ選択されることを特徴とする、請求項10または請求項11に記載の健康機能食品。
【請求項15】
前記ベルベノン誘導体は、
(1S,5R)-4-(3,4-ジヒドロキシ-5-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3f)または(2S,2'S)-5-((E)-2-((1R,5S)-6,6-ジメチル-4-オキソビシクロ[3.1.1]ヘプト-2-エン-2-イル)ビニル)-3-メトキシ-1,2-フェニレンビス(2-アミノ-3-メチルブタノエート)-2-塩酸塩(6)であることを特徴とする、請求項10または請求項11に記載の健康機能食品。
【請求項16】
前記肥満関連肝疾患は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)であることを特徴とする、請求項11に記載の健康機能食品。
【請求項17】
前記脂肪性肝疾患は、脂肪肝症(steatosis)、脂肪肝炎(steatohepatitis)、肝線維化(fibrosis)または肝硬変(cirrhosis)であることを特徴とする、請求項16に記載の健康機能食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、ベルベノン誘導体を含む肥満または肥満関連肝疾患の治療または予防用医薬組成物に関し、さらに詳しくは、高脂肪食餌誘導マウスにおけるTGF-β/Smad3信号伝達を抑制することにより、肥満または肥満関連肝疾患を治療および予防することができるベルベノン誘導体を含む肥満または肥満関連肝疾患の治療または予防用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver)から非アルコール性脂肪性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis, NASH)に至る慢性肝疾患の連続体である肥満関連非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease, NAFLD)は、肝臓関連の罹患率と死亡率の主要な原因である[1]。また、NALFDの有病率は世界一般人口の約25%と推定され、その有病率は継続的に増加し、公衆衛生において大きな負担となっている[2, 3]。
【0003】
蓄積された証拠によると、肝臓は内臓脂肪組織(visceral adipose tissue, VAT)と密接に相互作用し、肥満を引き起こす炎症性VATはNAFLDの発症に重要な役割を果たす[1, 4-6]。肥満、特に内臓肥満は、代謝的に健康なVATが調節不能な炎症性VATに切り替えられる作用を促進する[5]。調節不能なVAT(Dysregulated VAT)は内分泌および側分泌器官(endocrine and paracrine organ)としてインターロイキン-6(IL-6)および腫瘍壊死因子-α(TNF-α)のような炎症誘発性サイトカインを分泌してマクロファージのような炎症細胞の浸潤を増加させ、これはVATの炎症反応を悪化させることができる[4-6]。次いで、 炎症性VATは炎症誘発性サイトカインの分泌を増加させ、全身炎症とインスリン抵抗性を促進してNAFLD進行を加速化する[1, 4-6]。したがって、VATで起こる炎症反応はNAFLD進行を促進し、これは肥満関連NAFLDの治療のための適切な治療標的になると判断される[6, 7]。
【0004】
複数の以前の研究で、トランスフォーミング増殖因子(transforming growth factor, TGF)-β/Smad3信号伝達はVAT炎症の病理学的過程で重要な役割を果たすことが報告されており[8-10]、TGF-β1と1、2型TGF-β受容体複合体(TGF-βR1およびTGF-βR2)間の相互作用は、Smad2/3のリン酸化を活性化してVAT炎症を上方調節することが知られている(図1A)[10]。さらに、Smad3の遺伝的切断とTGF-β抗体を用いた治療を通じてVATの炎症が減少する現象が動物試験を通じて確認された[11, 12]。したがって、TGF-β/Smad3信号伝達経路は炎症性VATの治療標的になることができる。
【0005】
そこで、本発明者らは、前記炎症性VATにより発生するNAFLDの治療標的としてTGF-β/Smad3信号伝達経路を活用するために努力した結果、ベルベノン誘導体化合物が高脂肪食餌(HFD)誘導マウスにおいてTGF-β/Smad3信号伝達経路を抑制し、肥満誘導内臓脂肪組織(VAT)炎症および後続する肥満または非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を治療および予防できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Byrne CD, Targher G. NAFLD: a multisystem disease. Journal of hepatology. 2015;62:S47-S64.
【非特許文献2】Younossi ZM, Blissett D, Blissett R, Henry L, Stepanova M, Younossi Y, et al. The economic and clinical burden of nonalcoholic fatty liver disease in the United States and Europe. Hepatology. 2016;64:1577-86.
【非特許文献3】Younossi ZM, Koenig AB, Abdelatif D, Fazel Y, Henry L, Wymer M. Global epidemiology of nonalcoholic fatty liver disease-meta‐analytic assessment of prevalence, incidence, and outcomes. Hepatology. 2016;64:73-84.
【非特許文献4】Khan RS, Bril F, Cusi K, Newsome PN. Modulation of insulin resistance in nonalcoholic fatty liver disease. Hepatology. 2019;70:711-24.
【非特許文献5】Azzu V, Vacca M, Virtue S, Allison M, Vidal-Puig A. Adipose tissue-liver cross talk in the control of whole-body metabolism: implications in non-alcoholic fatty liver disease. Gastroenterology. 2020.
【非特許文献6】Friedman SL, Neuschwander-Tetri BA, Rinella M, Sanyal AJ. Mechanisms of NAFLD development and therapeutic strategies. Nature medicine. 2018;24:908-22.
【非特許文献7】Wang Y, Tang B, Long L, Luo P, Xiang W, Li X, et al. Improvement of obesity-associated disorders by a small-molecule drug targeting mitochondria of adipose tissue macrophages. Nature communications. 2021;12:1-16.
【非特許文献8】Lee M-J. Transforming growth factor beta superfamily regulation of adipose tissue biology in obesity. Biochimica et Biophysica Acta (BBA)-Molecular Basis of Disease. 2018;1864:1160-71.
【非特許文献9】Sousa-Pinto B, Goncalves L, Rodrigues AR, Tomada I, Almeida H, Neves D, et al. Characterization of TGF-β expression and signaling profile in the adipose tissue of rats fed with high-fat and energy-restricted diets. The Journal of nutritional biochemistry. 2016;38:107-15.
【非特許文献10】Tan C, Chong H, Tan E, Tan N. Getting ‘Smad’about obesity and diabetes. Nutrition & diabetes. 2012;2:e29-e.
【非特許文献11】Tan CK, Leuenberger N, Tan MJ, Yan YW, Chen Y, Kambadur R, et al. Smad3 deficiency in mice protects against insulin resistance and obesity induced by a high-fat diet. Diabetes. 2011;60:464-76.
【非特許文献12】Yadav H, Quijano C, Kamaraju AK, Gavrilova O, Malek R, Chen W, et al. Protection from obesity and diabetes by blockade of TGF-β/Smad3 signaling. Cell metabolism. 2011;14:67-79.
【非特許文献13】Ju C, Song S, Hwang S, Kim C, Kim M, Gu J, et al. Discovery of novel (1S)-(-)-verbenone derivatives with anti-oxidant and anti-ischemic effects. Bioorganic & medicinal chemistry letters. 2013;23:5421-5.
【非特許文献14】Nguyen HT, Reyes-Alcaraz A, Yong HJ, Nguyen LP, Park H-K, Inoue A, et al. CXCR7: a β-arrestin-biased receptor that potentiates cell migration and recruits β-arrestin2 exclusively through Gβγ subunits and GRK2. Cell & bioscience. 2020;10:1-19.
【非特許文献15】Bachmanov AA, Reed DR, Beauchamp GK, Tordoff MG. Food intake, water intake, and drinking spout side preference of 28 mouse strains. Behavior genetics. 2002;32:435-43.
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【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高脂肪食餌(HFD)誘導マウスにおいてTGF-β/Smad3信号伝達経路を抑制することにより、肥満誘発VAT炎症および後続するNAFLDを治療および予防するベルベノン誘導体の新規用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、化学式1で表されるベルベノン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む肥満の治療または予防用医薬組成物を提供する。
【化1】
化学式1において、
R1、R2、R3、R4、およびR5は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、C1-3 アルキル基、C1-3 アルコキシ基、アミノ基、C1-3 アルキルアミン基、C1-3 アルキルジアミン基、C5-8 アリール基、C5-8 サイクリック基、C5-8 ヘテロアリール基、
【化2】
であり、
X、YおよびZは、それぞれ独立して炭素原子またはN、OまたはS原子であり;
【化3】
は、二重結合または単結合を意味する。
【0009】
本発明はまた、前記化学式1で表されるベルベノン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む肥満関連肝疾患の治療または予防用医薬組成物を提供する。
【0010】
本発明はまた、前記化学式1で表されるベルベノン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む肥満の予防または改善用健康機能食品を提供する。
【0011】
本発明はまた、前記化学式1で表されるベルベノン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、肥満関連肝疾患の予防または改善用健康機能食品を提供する。
【発明の効果】
【0012】
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1(A)】本発明の一実施態様によって(A)TGF-β/Smad3信号伝達経路に対するSP-1154の効果の概略図を示す図である。TGF、トランスフォーミング増殖因子;VAT、内臓脂肪組織。(BおよびC) SP-1154は、HEK293細胞において、TGF-β1によって刺激されたTGF-βR1およびTGF-βR2の複合体形成を抑制する。TGF-βR1、TGF-β 1型受容体;TGF-βR2、TGF-β 2型受容体。データは、3つの独立した実験の平均±標準偏差(SD)で表される。統計的有意性は、一元配置分散分析(ANOVA)後、事後検定でテューキー(Tukey)検定を通じて評価した。**p<0.01 vs. SP-1154処理なしのTGF-β1刺激群。(DおよびE) SP-1154は高脂肪食餌(HFD)誘導マウスのVATにおけるSmad2/3のリン酸化を抑制する。pSmad2、リン酸化されたSmad2;pSmad3、リン酸化されたSmad3。 データは3つの独立した実験の平均±SDで表される。統計的有意性は、一元配置分散分析とテューキーの検定で事後分析して評価した。*p<0.05 vs. 正常。***p<0.001 vs. 正常。#p<0.05 vs. HFD。##p<0.01 vs. HFD。各群におけるVATのTGF-β1(F)、TGF-βR1(G)およびTGF-βR2(H)のmRNAレベルの発現。GAPDH、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ。データは4つの独立した実験の平均±SDで表される。統計的有意性は、一元配置分散分析後、テューキーの検定で事後分析して評価した。*p<0.05 vs. 正常。**p<0.01 vs. 正常。
図2】20週間の研究期間中の体重(A)及び食品摂取量(B及びC)の変化(正常n=5、HFD n=10、HFD+SP-1154 n=8)を示す図である。データは平均±SDで表される。統計的有意性は、一元配置分散分析後、テューキーの検定で事後分析して評価した。*p<0.05 vs. 正常。**p<0.01 vs. 正常。***p<0.001 vs. 正常。##p<0.01 vs. HFD+SP-1154。###p<0.001 vs. HFD+SP-1154。
図3】SP-1154がHFD誘導マウスにおいてVAT SUVmax(AおよびB)およびCRPレベル(C)を減少させたことを示す図である。(A およびB) CT, コンピュータ断層撮影;PET、ポジトロン断層法(positron-emission tomography);ROI、関心領域(region of interest);R、右側; L、左側;SUVmax、最大標準化された摂取値。通常の場合はn=6、HFDの場合はn=6、HFD+SP-1154の場合はn=6である。データは平均±SDで表される。統計的有意性は、一元配置分散分析後、テューキーの検定で事後分析して評価した。***p<0.001 vs. 正常。#p<0.05 vs. HFD。(C) CRP、C反応性タンパク質。通常の場合はn=10、HFDの場合はn=20、HFD+SP-1154の場合はn=15である。データは平均±SDで表される。統計的有意性は、一元配置分散分析後、テューキーの検定で事後分析して評価した。***p<0.001 vs. 正常。###p<0.001 vs. HFD。
図4】SP-1154がHFD誘発マウスのVATへのマクロファージの侵入を防止することを示す図である。(A) 断面VATの代表的なCD68+免疫染色画像。核は4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で対照染色した。スケールバー、100μm(倍率、×100)。正常(B)、HFD(C)およびHFD+SP-1154(D)のVATにおけるF4/80+CD11b+マクロファージの代表的なフローサイトメトリープロットチャート。(E) 各群のVATにおけるフローサイトメトリーによるVATのマクロファージの定量化(n=正常の場合は4、HFDの場合はn=4、HFD+SP-1154の場合はn=4)。データは平均±SDで表される。統計的有意性は、一元配置分散分析後、テューキーの検定で事後分析して評価した。***p<0.001 vs. 正常。##p<0.01 vs. HFD。
図5】SP-1154がインスリン抵抗性とグルコース恒常性を向上することを示す図である。(A) 断面VAT(H&E、ヘマトキシリンおよびエオシン、GLUT、グルコース輸送体)の代表的なGLUT1+およびGLUT4+免疫染色画像。核はDAPIで対照染色した。スケールバー、100μm(倍率、×100)。インスリン耐性試験(ITT)(B)およびグルコース耐性試験(GTT)(C)の結果の変化(正常の場合はn=5、HFDの場合はn=10、HFD+SP-1154の場合はn=8)。データは平均±SDで表される。統計的有意性は、事後コノバー(Conover)検定と一緒にクラスカル・ウォリス(Kruskal-Wallis)検定が使用された。**p<0.01 vs. 正常。##p<0.01 vs. HFD。 (D) 血清グルコースレベルの定量化。通常の場合はn=5、HFDの場合はn=9、HFD+SP-1154の場合はn=8である。データは平均±SDで表される。統計的有意性は一元配置分散分析後、テューキーの検定で事後分析して評価した。(E) 脂肪細胞表面積の定量化。通常の場合はn=4、HFDの場合はn=4、HFD+SP-1154の場合はn=4である。データは平均±SDで表される。統計的有意性は一元配置分散分析後、テューキーの検定で事後分析して評価した。***p<0.001 vs. 正常。#p<0.05 vs. HFD。GLUT1(F) および GLUT4(G)の発現 mRNA レベル。通常の場合はn=4、HFDの場合はn=4、HFD+SP-1154の場合はn=4である。データは平均±SDで表される 統計的有意性は一元配置分散分析後、テューキーの検定で事後分析して評価した。*p<0.05 vs. 正常。**p<0.01 vs. 正常。#p<0.05 vs. HFD。##p<0.01 vs. HFD。
図6】SP-1154がHFD誘発肝脂肪症を抑制することを示す図である。(A) 肝臓CTおよび断面肝臓組織の代表的な画像(スケールバー、100m、倍率、×100)。冠状CT画像の黄色い矢印は、該横断CT画像のレベルを示す。(B) CT画像における肝臓密度の定量化。通常の場合はn=6、HFDの場合はn=6、HFD+SP-1154の場合はn=6である。データは平均±SDで表される。統計的有意性は一元配置分散分析後、テューキーの検定で事後分析して評価した。***p<0.001 vs. 正常。##p<0.01 vs. HFD。収穫された肝臓の肝臓重量(C)および肝脂肪症スコア(D)の定量化。通常の場合はn=5、HFDの場合はn=9、HFD+SP-1154の場合はn=8である。データは平均±SDで表される。統計的有意性は一元配置分散分析後、テューキーの検定で事後分析して評価した。**p<0.01 vs. 正常。##p<0.01 vs. HFD。SP-114処理による血清中のAST(E)、ALT(F)、及び総コレステロール(G)の変化。AST、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ;ALT、アラニンアミノトランスフェラーゼ。 一般の場合はn=5、HFDの場合はn=10、HFD+SP-1154の場合はn=8である。データは平均±SDで表される。統計的有意性は一元配置分散分析後、テューキーの検定で事後分析して評価した。**p<0.01 vs. 正常。***p<0.001 vs. 正常。###p<0.001 vs. HFD。
【発明を実施するための形態】
【0014】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野における熟練した専門家によって通常理解されるものと同じ意味を有する。一般に、本明細書で使用される命名法は、当該技術分野においてよく知られており、通常使用されるものである。
【0015】
本発明は、高脂肪食餌誘導マウスにおいて、SP-1154がTGF-β/Smad3信号伝達経路を抑制し、高脂肪食餌肥満誘発の内臓脂肪組織(VAT)炎症および関連する全身炎症を顕著に抑制し、インスリン感受性をグルコース恒常性で有意に改善し、肝脂肪症を減少させることにより、VAT炎症および肥満関連NAFLDを有意に改善することを確認した。これは、炎症のあるVATを標的とすることで、肥満および関連NAFLDに対する治療薬物としてのSP-1154の潜在的な使用を裏付ける。
【0016】
従って、化学式1で表されるベルベノン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む肥満または肥満関連肝疾患の治療または予防用医薬組成物に関する。
【化4】
化学式1において、
R1、R2、R3、R4、およびR5は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、C1-3 アルキル基、C1-3 アルコキシ基、アミノ基、C1-3 アルキルアミン基、C1-3 アルキルジアミン基、C5-8 アリール基、C5-8 サイクリック基、C5-8 ヘテロアリール基、
【化5】
であり、
X、YおよびZは、それぞれ独立して炭素原子またはN、OまたはS原子であり;
【化6】
は、二重結合または単結合を意味する。
【0017】
肥満誘発炎症性の内臓脂肪組織(VAT)は炎症誘発性サイトカインを分泌し、全身炎症およびインスリン抵抗性を促進して肥満関連非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)をさらに悪化させるが、TGF-β/Smad3信号伝達はVAT内の炎症事象に重要な役割を果たす。SP-1154がTGF-β/Smad3信号伝達を抑制して、高脂肪食餌誘導マウスにおける肥満誘導炎症性VATおよび後続するNAFLDに対する治療効果を示す。
【0018】
本発明では、雄C57BL/6マウスを使用して、20週間高脂肪食(60%脂肪)でNAFLDを誘導した。SP-1154(50mg/kg)は20週間毎日経口投与した。インビボでのVATおよび全身炎症は、18F-フルオロデオキシグルコース(fluorodeoxyglucose)陽電子放出断層撮影およびC反応性タンパク質レベルを用いて測定した。インスリン抵抗性およびグルコース不耐性の状態を評価するために、インスリン耐性および耐糖能検査の両方を実施した。組織学的および分子分析は、収穫された肝臓およびVATに対して行われた。
【0019】
その結果、SP-1154がTGF-β/Smad3信号伝達経路を抑制し、高脂肪食餌誘発VAT炎症および関連全身炎症を顕著に抑制することを確認した。また、SP-1154はグルコース恒常性でインスリン感受性を有意に改善し、肝脂肪症を減少させた。要するに、SP-1154はVAT炎症および肥満関連NAFLDを有意に改善すると言える。これは、炎症のあるVATを標的とすることにより、肥満および関連NAFLDに対する治療薬物としてのSP-1154の潜在的な使用を裏付ける。
【0020】
SP-1154は、水に溶けやすくするために、抗炎症/抗酸化ベルベノン誘導体SP-8356の前駆薬物として合成された[13]。TGF-β/Smad3信号伝達経路は炎症と酸化ストレスの両方に関与するため[10]、TGF-β/Smad3信号伝達がSP-1154によって影響を受ける可能性があると仮定した。
【0021】
本発明において、前記R1、R2、R3、R4、およびR5は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、アミノ基、C5-6 アリール基、C5-6 サイクリック基、C5-6 ヘテロアリール基、
【化7】
であってもよい。
【0022】
本発明において、前記R1、R2、R3、R4、およびR5は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、メチル基、メトキシ基、フェニル基、ピロール基、ピリジン基、
【化8】
であってもよい。
【0023】
本発明において、前記ベロべノン誘導体は、
(1S,5R)-4-(4-ヒドロキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3a);
(1S,5R)-4-(4-ヒドロキシ-2-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3b);
(1S,5R)-4-(3,4-ジヒドロキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3c);
(1S,5R)-4-(3-ブロモ-4-ヒドロキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3d);
(1S,5R)-4-(4-ヒドロキシ-2,6-ジメトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3e);
(1S,5R)-4-(3,4-ジヒドロキシ-5-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3f);
(1S,5R)-4-(3-ヒドロキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3g);
(1S,5R)-4-(2-ヒドロキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3h);
(1S,5R)-4-(2-ヒドロキシ-4-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3i);
(1S,5R)-6,6-ジメチル-4-スチリルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4a);
(1S,5R)-4-(4-フルオロスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4b);
(1S,5R)-4-(4-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4c);
(1S,5R)-4-(2-(ビフェニル-4-イル)ビニル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4d);
(1S,5R)-4-(4-(1H-ピロール-1-イル)スチリル)-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4e);
(1S,5R)-4-(3,4-ジメトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4f);
(1S,5R)-4-(3,5-ジメトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4g);
(1S,5R)-4-(2,5-ジメトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4h);
(1S,5R)-4-(5-ブロモ-2-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(4i);
(1S,5R)-6,6-ジメチル-4-((E)-2-(ピリジン-2-イル)ビニル)ビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(5a);
(1S,5R)-6,6-ジメチル-4-((E)-2-(ピリジン-3-イル)ビニル)ビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(5b);
(1S,5R)-6,6-ジメチル-4-((E)-2-(ピリジン-4-イル)ビニル)ビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(5c);及び
【0024】
(2S,2'S)-5-((E)-2-((1R,5S)-6,6-ジメチル-4-オキソビシクロ[3.1.1]ヘプト-2-エン-2-イル)ビニル)-3-メトキシ-1,2-フェニレンビス(2-アミノ-3-メチルブタノエート)-二塩酸塩(6)からなる群から少なくとも1つ選択されてもよく、好ましくは、(1S,5R)-4-(3,4-ジヒドロキシ-5-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3f)または(2S,2'S)-5-((E)-2-((1R,5S)-6,6-ジメチル-4-オキソビシクロ[3.1.1]ヘプト-2-エン-2-イル)ビニル)-3-メトキシ-1,2-フェニレンビス(2-アミノ-3-メチルブタノエート)-二塩酸塩(6)であってもよい。
【化9】
(化合物3f)
【化10】
(化合物6)
【0025】
本発明において、肥満関連肝疾患は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)であってもよく、ここで、前記脂肪性肝疾患は、脂肪肝症(steatosis)、脂肪肝炎(steatohepatitis、非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis, NASH))、肝線維化(fibrosis)又は肝硬変(cirrhosis)であってもよい。
【0026】
本発明において、前記組成物は、TGF-β/Smad3信号伝達経路を抑制して肥満誘発内臓脂肪組織炎症を減少させることができる。
【0027】
本発明において、SP-8356は、塩(saline)に溶けにくいため、懸濁液として使用する場合、薬効は弱いが有意である。また、SP-8356のプロドラッグ(prodrug)形態であるSP-8356のバリンエステル(valine ester, SP-1154)は、SP-8356に非常に早く変換され、水溶性が高く粘性のあるヒアルロン酸(hyaluronic acid)に溶かして使用する。溶解性(soluble)SP-8356(SP-1154)は、懸濁液として投与したSP-8356より効果が優れている。
【0028】
本発明で使用される用語「治療」とは、本発明による化学式1で表されるベルベノン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む組成物の投与により、肥満または肥満関連肝疾患の症状が改善または有益に変化するあらゆる行為をいう。
【0029】
本発明で使用される用語「予防」とは、本発明による化学式1で表されるベルベノン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む組成物の投与により、肥満または肥満関連肝疾患の症状を抑制または遅延させるあらゆる行為をいう。
【0030】
本発明で使用される用語「プロドラッグ」とは、体内および体外で活性薬物を放出するために、酵素や加水分解により親薬物(parent drug)への転換を必要とする薬物分子の誘導体を指す。プロドラッグは、多くの場合、必ずしもそうではないが、親薬物が変換される間、薬学的に不活性である。
【0031】
本発明で使用される用語「非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease, NAFLD)」は、アルコール以外の原因によって発生する脂肪性肝疾患を意味する。前記非アルコール性脂肪性肝疾患は、アルコール以外の原因で肝細胞に脂肪が蓄積された状態である「非アルコール性脂肪肝症」と「非アルコール性脂肪性肝炎」、「非アルコール性脂肪肝関連線維化」、および「非アルコール性脂肪肝関連肝硬変症」を包括する用語である。
【0032】
本発明で使用される用語「脂肪肝」とは、肝臓内に脂肪沈着を示すが、肝細胞の損傷(バルーン変性、ballooning degeneration)および線維化の損傷はない場合を意味する。「脂肪肝性肝炎」または「脂肪肝炎」は、肝臓内に脂肪沈着を示しながら、肝細胞の損傷(バルーン変性)を伴う炎症所見がある場合を意味する。脂肪肝性肝炎は肝線維化を伴うこともある。「肝硬変」とは、組織学的に脂肪肝や脂肪肝炎の所見を伴う肝硬変または過去に組織学的に証明された脂肪肝患者または脂肪肝炎患者で発生した肝硬変を意味する。本明細書で前記脂肪性肝疾患に関連する用語の定義は、脂肪肝に関連する様々な病態を含むためのものであり、前記用語によって定義された患者の状態が常に明確に区別できるとは言えない。
【0033】
本発明で使用される用語「脂質異常症」とは、高脂血症、高コレステロール血症をいう。前記高脂血症と高コレステロール血症は、それぞれ正常人の血漿と比較して、血漿中の中性脂肪濃度の増加状態、総コレステロール及び/又はLDL-コレステロール濃度の増加状態を意味する。
【0034】
前記化学式1で表される本発明の化合物は、当該技術分野における通常の方法に従って薬学的に許容可能な塩および溶媒和物として製造することができる。薬学的に許容可能な塩は、薬学的に許容可能な遊離酸(free acid)によって形成された酸付加塩が有用である。酸付加塩は、通常の方法、例えば化合物を過量の酸水溶液に溶解し、この塩を水混和性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンまたはアセトニトリルを使用して沈殿させることによって製造する。同モル量の化合物と水中の酸またはアルコール(例えば、グリコールモノメチルエーテル)を加熱し、次いで前記混合物を蒸発させて乾燥させるか、または析出された塩を吸引濾過することができる。
【0035】
この時、遊離酸としては有機酸と無機酸を使用してもよく、無機酸としては塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、錫酸などを使用してもよく、有機酸としてはメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、マレイン酸(maleic acid)、コハク酸、シュウ酸、安息香酸、酒石酸、フマル酸、マンデル酸、プロピオン酸(propionic acid)、クエン酸(citric acid)、乳酸(lactic acid)、グリコール酸(glycollic acid)、グルコン酸(gluconic acid)、ガラクツロン酸、グルタミン酸、グルタル酸(glutaric acid)、グルクロン酸(glucuronic acid)、アスパラギン酸、アスコルビン酸、炭素酸、バニリック酸、ヒドロヨウ素酸などを使用してもよい。
【0036】
また、塩基を使用して薬学的に許容可能な金属塩を作製することができる。アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩は、例えば化合物を過量のアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物の溶液中に溶解し、非溶解化合物塩を濾過した後に濾液を蒸発、乾燥させて得られる。このとき、金属塩としては、特にナトリウム、カリウムまたはカルシウム塩を製造することが製薬上適しており、また、これに対応する銀塩は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩を適当な銀塩(例えば、硝酸銀)と反応させて得られる。
【0037】
前記化学式1の構造を有する化合物の薬学的に許容可能な塩は、特に指示がない限り、化学式1の構造を有する化合物に存在してもよい酸性または塩基性基の塩を含む。例えば、薬学的に許容可能な塩としては、ヒドロキシ基のナトリウム、カルシウムおよびカリウム塩が含まれ、アミノ基のその他の薬学的に許容可能な塩としては、臭化水素酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、アセテート、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩(メシレート)及びp-トルエンスルホン酸塩(トシレート)があり、当業界において知られている塩の製造方法や製造過程を通じて製造することができる。
【0038】
本発明で使用される用語「医薬組成物」とは、疾患の予防または治療を目的として製造されたものを意味し、それぞれの通常の方法によって様々な形態に剤形化して使用してもよい。例えば、酸剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップなどの剤形に剤形化してもよく、外用剤、坐剤及び滅菌注射用液の形で剤形化して使用してもよい。具体的には、点眼投与するのに適した形態、例えば、点眼剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤またはローション剤に剤形化して使用してもよい。
【0039】
本発明による医薬組成物の投与経路は、これらに限定されないが、経口、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、硬膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸管、局所、舌下、点眼または直腸が含まれる。経口または非経口投下が好ましい。本願で使用される用語「非経口」とは、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、滑液包内、胸骨内、硬膜内、点眼、病巣内および頭蓋内注射または注入技術を含む。本発明の医薬組成物はまた、直腸投与のための坐剤の形で投与されてもよい。本発明の医薬組成物は、これらに限定されないが、カプセル、錠剤及び水性懸濁液及び溶液を含み、経口的に許容される任意の剤形で経口投与されてもよい。経口用錠剤の場合、一般的に使用される担体としては、ラクトースおよびコーンスターチが挙げられる。ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤も通常添加される。カプセル剤として経口投与する場合、有用な希釈剤としては、ラクトースや乾燥されたコーンスターチが挙げられる。水性懸濁液を経口投与する場合、活性成分は乳化剤および懸濁化剤と配合される。必要に応じて、甘味剤および/または風味剤および/または着色剤を添加してもよい。
【0040】
本発明の医薬組成物は、使用される特定の化合物の活性、年齢、体重、一般的な健康状態、性別、定式、投与時間、投与経路、排出率、薬物配合、および予防または治療される特定の疾患の重症度を含む様々な要因によって多様に変化する可能性がある。
【0041】
本発明において、前記医薬組成物は、カルシウムチャネル遮断剤、抗酸化剤、グルタミン酸拮抗剤、抗凝固剤、抗高血圧剤、抗血栓剤、抗ヒスタミン剤、消炎鎮痛剤、抗癌剤及び抗生剤からなる群から選択される少なくとも1つの薬剤と一緒に製剤化するか併用して使用してもよい。
【0042】
また、本発明は、別の観点から、化学式1で表されるベルベノン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む肥満または肥満関連肝疾患の予防または改善用健康機能食品に関する。
【0043】
本発明の機能性食品は、炎症予防のための薬剤、食品及び飲料などに多様に用いられてもよい。本発明の機能性食品は、例えば、各種食品類、キャンディー、チョコレート、飲み物、ガム、お茶、ビタミン複合剤、健康補助食品類などがあり、粉末、顆粒、錠剤、カプセルまたは飲料である形で使用してもよい。
【0044】
本発明による化合物を含む組成物は、それぞれ通常の方法により、酸剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾルなどの経口型剤形、外用剤、坐剤及び滅菌注射用液の形で剤形化して使用してもよく、これに含まれてもよい担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギン酸塩、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシ安息香酸塩、プロピルヒドロキシ安息香酸塩、ステアリン酸マグネシウム及び鉱物油が挙げられる。製剤化する場合には、通常使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用して調剤される。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、これらの固形製剤は、前記化合物に少なくとも一つの賦形剤、少なくとも綿、澱粉、炭酸カルシウム(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混ぜて調剤される。また、単純な賦形剤以外に、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの潤滑剤も使用される。経口のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが該当するが、よく使われる単純希釈剤である水、リキッドパラフィン以外に様々な賦形剤、例えば湿潤剤、甘味料、芳香剤、保存剤などが含まれてもよい。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれる。非水性溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物油、エチリオレートのような注射可能なエステルなどが使用されてもよい。坐剤の基剤としては、ウィテプソル(witepsol)、マクロゴール、ツイン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが使用されてもよい。
【0045】
本発明の化合物の好ましい投与量は、患者の状態及び体重、疾患の程度、薬物形態、投与経路及び期間によって異なるが、当業者によって適切に選択されてもよい。しかし、好ましい効果のために、化合物は1日0.01mg/kg~10g/kgに、好ましくは1mg/kg~1g/kgで投与することが好ましい。投与は1日に1回投与してもよく、数回に分けて投与してもよい。したがって、前記投与量はいかなる面でも本発明の範囲を限定するものではない。
【0046】
また、本発明の別の観点から、化学式1で表されるベルベノン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む肥満または肥満関連肝疾患の治療または予防用医薬組成物を個体に投与するステップを含む、肥満または肥満関連肝疾患の治療または予防方法に関する。(米国)
【0047】
また、本発明の別の観点から、化学式1で表されるベルベノン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む肥満または肥満関連肝疾患の治療または予防用の医薬組成物の新規な用途に関する。(欧州/中国)
【実施例
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、あくまでも本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって自明であると言える。
【0049】
[実施例]
製造例1:ベルベノン誘導体の製造
試薬級(1S)-(-)-ベルベノン(verbenone)、3,4-ジヒドロキシ-5-メトキシベンズアルデヒド、メチルクロロメチルエーテル(methylchloromethylether; MOM-Cl)、ジイソプロピルエチルアミン(diisopropylethylamine; DIPEA)、水酸化カリウム(potassiumhydroxide; KOH)、およびナトリウムメトキシド(sodium methoxide;NaOCH3)を市販購入し、すべての試薬及び溶媒は高純度で購入して使用し、水酸化カルシウムで蒸留したジクロメタンを除き、追加の精製過程なしにそのまま使用し、特に言及がない限り、反応は真空処理された乾燥ガラス容器(vacuum-flame dried glassware)で乾燥窒素雰囲気下にて行われた。薄層クロマトグラフィー法(Thin-layer chromatography; TLC)はUVで視覚化するシリカゲル(Merck silica gel 60 F254 )を使用し、カラムクロマトグラフィーはシリカゲル(E.Merck silica gel, 70-230, 230-400mesh)を使用した。
【0050】
1H-NMR及び13C-NMRスペクトルは機器(Varian)で500 MHzで測定し、化学シフト(Chemical shift)は内部標準試薬(s are reported in ppm from (TMS) as an internal standard(CDCl3:d7.26ppm))として使用したTMS(tetramethysilane)からの移動をppmで記録し、結合定数(coupling constant)をヘルツ(hertz)で記録した。多重度(Multiplicity)は以下のような略語を使用した:singlet(s), doublet(d), doublet of doublet(dd), doublet of doublet of doublet(ddd), triplet(t), triplet of doublet(td), doublet of triplet(dt), quartet(q), multiplet(m) and broad(br)。ウシ胎児血清(Fetal bovine serum; FBS)は会社(Hyclone, Logan, UT)で購入して使用し、培養液(neurobasal medium, NBM)及び補充剤(B27 supplement)は会社(Invitrogen, Carlsbad, CA)で購入して使用した。すべての化学物質及び試薬は会社(SigmaAldrich, St. Louis, MO)で購入して使用した。
化学式3fの化合物は下記反応式1に従って製造した。
[反応式1]
【0051】
(1S,5R)-4-(3-メトキシ-4,5-ビス(メトキシメトキシ)スチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(2f)化合物の製造
【0052】
3,4-ジヒドロキシ-5-メトキシベンズアルデヒド400 mgをジクロロメタン4 mLに投入した後、ジイソプロピルエチルアミン920 mgを投入し、冷却した。メチルクロロメチルエーテル570mgを加え、室温で撹拌した。少量の水を加え、層分離した後、有機層を脱水し、減圧濃縮した。
【0053】
アルドール縮合反応(aldol condensation)で(1S)-(-)-ベルベノン(verbenone)からジエン体(diene)を得るために、(1S)-(-)-ベルベノン(verbenone 1, 380mgと3-メトキシ-4,5-ビス(メトキシメトキシ)ベンズアルデヒド620 mgをMeOH 6.2 mLに投入し、KOH 270 mgを投入した後、60℃で攪拌し、室温で冷却した。少量の水を加え、有機層を分離した後、脱水して減圧濃縮すると黄色の生成物が得られ、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、(1S,5R)-4-(3-メトキシ-4,5-ビス(メトキシメトキシ)スチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(2f)[(1S,5R)-4-(3-メトキシ-4,5-ビス(メトキシメトキシ)スチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]へプト-3-エン-2-オン(2f)]を得た(収率 90%)。
【0054】
1H-NMR(CDCl3, 500MHz);
d6.94(d,J=1.96Hz,1H),6.84(s,2H),6.78(d,J=1.71Hz,1H),5.92(s,1H),5.22(s,2H),5.15(s,2H), 3.89(s,3H), 3.60(s,3H), 3.52(s,3H), 3.09(t,J=5.75Hz,1H), 2.90(dt,J=9.48,5.53Hz,1H),2.72(td,J=5.75,1.47Hz,1H),2.10(d,J=9.29Hz,1H),1.57(s,3H),1.00(s,3H);
13C-NMR(CDCl3,75MHz); d203.92, 164.02, 153.63, 151.19, 136.64, 134.76, 132.10, 126.91, 122.43, 108.91,104.88, 98.37, 95.33, 58.19, 57.11, 56.07, 52.70, 43.78, 39.93, 26.70, 22.11.
【0055】
(1S,5R)-4-(3,4-ジヒドロキシ-5-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(((1S,5R)-4-(3,4-ジヒドロキシ-5-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]へプト-3-エン-2-オン), 3f)化合物の製造
【0056】
2f化合物960mgをMeOH 5 mLに投入し、濃塩酸630mgを滴下して攪拌した。飽和NaHCO3を加えて反応液を中性に合わせ、酢酸エチルで抽出し、脱水した後、減圧濃縮した。最終化合物をカラムクロマトグラフィーで精製及び分離し、下記物性値を示す黄色固相の(1S,5R)-4-(3,4-ジヒドロキシ-5-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン(3f)を得て、下記実験例の試料として使用した(収率92%):
mp 168-170 ℃;
[a]20 D-158.8000°(c1.0,MeOH);
1H-NMR(CDCl3,500MHz) d6.78-6.82(m,3H),6.64(d,J=1.47Hz,1H),5.82-6.01(m,3H),3.92(s,3H),3.10(t,J=5.62Hz,1H),2.91(dt,J=9.35,5.59Hz,1H),2.74(td,J=5.69,1.59Hz,1H),2.12(d,J=9.29Hz,1H),2.04(s,2H),1.58(s,3H),1.01(s,3H);
13C-NMR(CDCl3,75MHz);
d204.92,165.07,147.23,144.24,135.54,134.13,128.07,125.
50,121.62,108.63,58.08,56.25,53.12,43.75,40.18,26.78,22.16;
HRMS 計算値C18H20O4(M+H)301.1440, 測定値 301.1453;
HPLC分析結果:(方法1)100%(tR=3.46分)。
【0057】
プロドラッグSP-1154は下記反応式2に従って製造した。
[反応式2]
【0058】
(2S,2'S)-5-((E)-2-((1R,5S)-6,6-ジメチル-4-オキソビシクロ[3.1.1]ヘプト-2-エン-2-イル)ビニル)-3-メトキシ-1,2-フェニレンビス(2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-メチルブタノエート)化合物の製造(LTV)
【0059】
ジクロロメタン(5 mL)中の3f化合物(SP-8356, (1S,5R)-4-(3,4-ジヒドロキシ-5-メトキシスチリル)-6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン、600 mg, 2.0 mmol)を撹拌する溶液に、N-(tert-ブトキシカルボニル)-L-バリン(Boc-Val-OH(1.3g 6.0 mmol))、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸(EDCI(1.15g 6.0 mmol))と4-ジメチルアミノピリジン(DMAP(120 mg 1.0 mmol))を投入し、室温で1時間攪拌する。反応完了後、水6 mLを投入し、有機層を分離した後、20% NaCl水溶液6 mLで洗浄する。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水し、減圧濃縮する。ジエチルエーテル6 mLで再結晶し、(2S,2'S)-5-((E)-2-((1R,5S)-6,6-ジメチル-4-オキソビシクロ[3.1.1]ヘプト-2-エン-2-イル)ビニル)-3-メトキシ-1,2-フェニレンビス(2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-メチルブタノエート)を得た(収率67%)。
【0060】
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): d 6.97 (2H, brs), 6.90 (1H, d, J = 16.0 Hz), 6.84 (1H, d, J = 15.5 Hz), 5.95 (1H, s), 5.34 (1H, d, J = 9.0 Hz, NH), 5.14 (1H, d, J = 9.0 Hz, NH), 4.23 - 4.50 (2H, m), 3.87 (3H, s), 3.09 (1H, t, J = 5.5 Hz), 2.91 - 2.95 (1H, m), 2.73 - 2.75 (1H, m), 2.32 - 2.40 (2H, m), 2.12 (1H, d, J = 9.5 Hz), 2.04 (3H, s), 1.59 (3H, s), 1.47 (18H, brs), 1.01 - 1.09 (12H, m)
13C-NMR (CDCl3, 100 MHz): d 204.0, 169.9, 169.4, 163.6, 155.9, 155.6, 152.4, 143.5, 134.7, 133.5, 132.0, 128.5, 123.3, 114.3, 108.0, 80.0, 79.9, 59.1, 58.4, 58.2, 56.1, 52.9, 43.6, 39.9, 31.1, 30.8, 28.3, 26.7, 22.1, 19.2, 19.1, 17.7, 17.1
【0061】
(2S,2'S)-5-((E)-2-((1R,5S)-6,6-ジメチル-4-オキソビシクロ[3.1.1]ヘプト-2-エン-2-イル)ビニル)-3-メトキシ-1,2-フェニレンビス(2-アミノ-3-メチルブタノエート)二塩酸塩化合物の製造
【0062】
(2S,2'S)-5-((E)-2-((1R,5S)-6,6-ジメチル-4-オキソビシクロ[3.1.1]ヘプト-2-エン-2-イル)ビニル)-3-メトキシ-1,2-フェニレンビス(2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-メチルブタノエート)(920 mg, 1.32 mmol)にアセトニトリル9.2 mLと2N HClジエチルエーテル溶液9.2 mLを加える。室温で3時間攪拌した後、固体を濾過し、酢酸エチル18.4 mLを加えて24時間攪拌する。固体を濾過し、乾燥させて、(2S,2'S)-5-((E)-2-((1R,5S)-6,6-ジメチル-4-オキソビシクロ[3.1.1]ヘプト-2-エン-2-イル)ビニル)-3-メトキシ-1,2-フェニレンビス(2-アミノ-3-メチルブタノエート)二塩酸塩を得た(収率:89%)。
【0063】
1H-NMR (DMSO-d6, 400 MHz): d 9.00 (6H, brs), 7.48 (1H, m), 7.33 (1H, d, J = 16.0 Hz), 7.19 - 7.24 (2H, m), 5.96 (1H, s), 4.52 (2H, m), 3.88 (3H, s), 3.23 (1H, t, J = 5.0 Hz), 2.92 (1H, m), 2.58 (1H, d, J = 4.5 Hz), 2.38 - 2.43 (2H, m), 1.96 (1H, d, J = 9.0 Hz), 1.54 (3H, s), 1.08 - 1.14 (12H, m), 0.91 (3H, s)
13C-NMR (CDCl3, 100 MHz): d 203.1, 167.2, 166.8, 164.6, 152.3, 142.7, 136.2, 134.0, 131.0, 129.6, 123.13, 123.08, 114.6, 109.8, 58.0, 57.4, 57.35, 57.0, 56.9, 52.5, 43.2, 30.0, 26.7, 22.3, 18.9, 18.3, 18.2, 17.7
【0064】
実施例1:NAFLDに対するベルベノン誘導体の効果
1.1. SP-1154の合成:構造的補完分析
TGF-βR1とTGF-βR2間の分子相互作用は、以前の研究[14]で説明したように、Promega(Madison, WI, USA)によって確立されたNanoBiT技術を使用して調査した。簡単に言えば、HEK293細胞を2.0×104 cells/wellの密度で96ウェルマイクロプレートに接種した。翌日、Lipofectamine 2000(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)を用いて、TGF-βR1-LgBiTまたはTGF-βR2-SmBiT構成体を含む各プラスミド50ngを細胞に導入した。24時間後、発光性を測定する前に培地を100μlのOpti-MEMに交替し、細胞を室温で10分間安定化させた。 その後、プロメガの25μl Nano-Glo Live Cell Reagent(furimazine)を各ウェルに添加し、最初の10分間、ベースライン発光を測定した。このステップで、SP-1154は表示された濃度で一部のウェルに追加された。最後に、10 ng/ml 濃度の TGF-β1 10 μlを使用して細胞を刺激し、1時間細胞プレート測定を続けた。これらの手順は光度計(BioTek Instruments, Inc., Winooski, VT, USA)を使用して行われた。
【0065】
1.2. NAFLDの誘導
雄C57BL/6マウス(6週齢、体重20g)はOrient-Bio(韓国・城南)から購入した。すべてのマウスは12時間の明暗周期で維持され、自由に餌を与えた。環境的差異を最小化するために、実験開始前2週間、マウスを適応させた。食餌誘発NAFLD実験のために、マウスに20週間HFD(脂肪60% kcal, D12492, Research Diets, NJ, USA)または一般食(ND)を与えた。すべての実験プロトコルと手順は、高麗大学校医科大学倫理委員会と動物実験機関動物管理委員会の承認を受けた(承認番号KOREA-2019-0026)。
【0066】
1.3. 薬物治療
マウスをビヒクルおよびSP-1154(SP-8356として50mg/kg)群に分けた。SP-1154は水道水を介してマウスに投与し、薬物の容量は毎週測定された1日の水消費量(6mL/day)[15]と体重で決定した。
【0067】
1.4. 18 F-フルオロデオキシグルコース陽電子放出断層撮影/コンピュータ断層撮影( 18 F-FDG PET/CT)の映像
18F-FDG PET/CTは、小型動物用PET/CTスキャナー(eXplore Vista DR PET/CT, GE Healthcare, Milwaukee, WI, USA)を用いて行った。マウスは検査前に絶食せず、検査中は酸素中2%のイソフルラン(1L/min)で麻酔した。尾静脈から18.5MBq/0.1mLの18F-FDGを注入した後、40分後にPET/CT画像の取得を開始した。静的PET画像を20分間取得した後、CTスキャン(40kV、250μA)を行った。画像再構成は、減衰、減衰、ランダム、正規化補正を含むOSEM(ordered subsets expected maximization)アルゴリズムとともにフーリエリビニング(Fourier rebinning)を使用して行われた。ボクセルサイズと軸方向のスライス厚はそれぞれ0.3875 × 0.3875 mmと0.775 mmであった。画像再構成後、冠状図、横断図、矢状図、および最大強度投影画像が生成された。
【0068】
画像は、商業的に利用可能なソフトウェア(Syngo.via, Siemens Healthcare, Erlangen, Germany)を使用して、2人の経験豊富な核医学医師(KPおよびHWK)が分析した。18F-FDG PET/CTにより評価されたVATの代謝活性は、ヒトの研究でVATの炎症状態を反映していることが確認された[16, 17]。VATの代謝活性を評価するために、各スライスの腹部脂肪に沿って関心領域(ROI)を配置し、前述したように最大標準化摂取値(SUVmax)を測定した[16, 17]。該ROIの平均VAT SUVmaxを分析に使用した。SUVは次のように計算した。
SUV=追跡者活性(ROI) (MBq/mL)/(MBq/mL)
注射容量(MBq)/総体重(g)
SUV=追跡者活性(ROI) (MBq/mL)(MBq/mL)/。
注射容量(MBq)/総体重(g)
【0069】
次に、肝臓のハンスフィールド(Hounsfield)単位(HU)測定のために、各スライスの肝臓にROIを描き、該HU値を取得した。該ROIの平均HU値を代表的なHU値として使用した。目標ROIに対するVAT SUVmaxと肝臓HUの観察者内および観察者間の相関係数値は>0.9であった。
【0070】
1.5. 酵素結合免疫吸着分析(ELISA)
C反応性タンパク質(CRP)の血清濃度は、製造社の指針により市販のELISAキット(ab157712, Abcam, Cambridge, MA, USA)を用いて決定した。
【0071】
1.6. インスリン耐性検査(ITT)及びグルコース耐性検査(GTT)
GTTの場合、マウスに一晩絶食後、グルコース(2g/kg体重)を経口投与し、その後、指定された時間にグルコース濃度を測定するために血液を採取した。ITTの場合、4時間空腹時にマウスにインスリン(1.5 インスリン unit/kg 体重)を腹腔注射し、血液を採取して指定された時間に血糖を測定した。インスリン濃度はGTTを受けたマウスから収集された血清で示された各時間で測定したた。
【0072】
1.7. 血液分析
血液サンプルは犠牲の直前に採取した。血清中のAST(aspartate aminotransferase)、ALT(alanine aminotransferase)、総コレステロールおよび中性脂肪の数値は、FUJI DRI-Chemical Chemistry Analyzer(FUJI DRI-CHEM 4000i, Fuji Film, Tokyo, Japan)を用いて測定した。
【0073】
1.8. フローサイトメトリー
細胞を総0.1 mlの蛍光活性化細胞選別(FACS)緩衝液(リン酸塩緩衝食塩水、5%ウシ胎児血清を含むPBS、FBS)に懸濁し、Fc遮断剤(BD Bioscience, San Jose, CA, USA)を用いて室温で10分間、次いで、抗CD45 APC-Cy7、抗F4/80 PEおよび抗CD11b-PerCP-Cy5.5(Biolegend, San Diego, CA, USA)抗体でさらに30分間、製造会社の推奨事項に従って染色後、FACS Canto II(BD Bioscience, San Jose, CA, USA)を用いてフローサイトメトリーを行った。FACSDivaソフトウェア(BD Bioscience, San Jose, CA, USA)を使用してデータを収集し、FlowJoソフトウェア(FlowJo LLC, Ashland, OR, USA)を使用して解析した。
【0074】
1.9. 組織病理学
CO2 チャンバーを使用して薬物投与20週間後にマウスを犠牲にした。犠牲になったマウスから摘出した新鮮な肝臓とVATを4℃で12時間4%のパラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、4℃で一晩PBSにより洗浄した。パラフィン包埋組織を5μmの厚さに切断し、形態分析のためにヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した。群当たり少なくとも300個の細胞の脂肪細胞表面積は、前述したようにImageJソフトウェア(バージョン1.45s, Bethesda, MD, USA)を使用して測定した。肝脂肪症は、H&E染色肝臓に基づく3段階のスコアリングシステムを用いて評価した。スコア1(軽度、5%~33%);スコア2(中等度、34%~66%);スコア3(重度、>66%)[19]。Oil Red O染色を行うために、マウス肝臓を4%PFAで固定し、30%ショ糖溶液で凍結保護した。次に、肝臓組織を最適の切断温度化合物(Scigen Scientific, Gardena, CA, USA)に包埋し、低温維持装置ミクロトーム(Leica CM 3050 S, Leica Microsystems, Wetzlar, Germany)を使用して8μmの厚さに切断した。
【0075】
1.10. 免疫組織化学
組織は、抗CD68(ab125212, Abcam, Cambridge, MA, USA)、抗グルコース輸送体1(GLUT1)(ab652, Abcam, Cambridge, MA, USA)および抗GLUT4(ab654, Abcam, MA, USA)。Alexa Fluor 594(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)を二次抗体として使用した。すべての蛍光画像はZeiss Axio Scan.Z1(Carl Zeiss, Jena, Germany)で取得した。
【0076】
1.11. 定量的リアルタイムRT-PCR(qRT-PCR)
Trizol試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)を使用してVATサンプルから総RNAを抽出し、逆転写反応キット(iScript cDNA合成キット、Bio-Rad, Hercules, CA, USA)を使用してcDNA生成を行った。遺伝子発現は、SYBR Green混合物(iQTM SYBR Green Supermix, Bio-Rad, Hercules, CA, USA)およびiCycler PCR熱循環機(Bio-Rad, Hercules, CA, USA)を使用して評価した。標的遺伝子mRNAテンプレート特異的プライマーセットはGenScript(Piscataway, NJ, USA)で設計され、mRNAレベルはグリセルアルデヒド -3- リン酸脱水素酵素(GAPDH)のmRNAレベルに正規化された[20]。qRT-PCRに使用したプライマー配列は以下の通りである:GAPDH(5'-ATGTGTCCGTCGTCGTGGATCTG-3'および5'-AAGTCGCAGGACAACCTG-3')、GLUT1(5'-AGTATTGGAGCAACTGTGC-3'および5'-GCCTTTGGTCTCAGGGACTT-3')、GLUT4(5'-GCCATCGTCGTCATTGGCATTCT-3'および5'-GGGAGAGCAGGGAGTACTGTG-3')、TGF-β1(5'-CACTCCCGTGGCTTCTAGTG-3' および 5'-GGACTGGCGAGCCTTAGTTT-3'), TGF-βR1(5'-TTGCACTTG)' および 5'-AGCTGCCAGCTCCACAGGAC-3'), 並びにTGF-βR2(5'-CACAGTGTGTGTGGCAGAGC-3' および 5'-GTTCAGCGAGCCATCTTCTG-3').
【0077】
1.12. ウエスタンブロット分析
VATはプロテアーゼ抑制剤(GeneDepot, Barker, TX, USA)と共にRIPA緩衝液(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA)で溶解した。BCAタンパク質分析キット(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA)を用いてタンパク質濃度を定量化した。次に、タンパク質をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動ゲルで分離し、ポリフッ化ビニリデン膜(PVDF、Merck Millipore、Billerica、MA、USA)に移した。膜をSmad2/3(sc-133098, Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA, USA )、phospho-Smad2(3108S, Cell Signaling Technology, Danvers, MA, USA)およびphospho-Smad3(9520S, Cell Signaling Technology, Danvers, MA, USA)。タンパク質バンドはECL分析キット(GE Healthcare, Chicago, IL, USA)を用いて検出した。
【0078】
1.13. 統計分析
すべてのデータは平均±標準偏差で表した。シャピロ・ウィルク(Shapiro-Wilk)検定は正規分布に対して行われた。パラメトリック分析には一元配置分散分析(ANOVA)後、事後テューキー検定を使用し、非変数分析には事後コノバー検定と共にクラスカル・ウォリス(Kruskal-Wallis)検定を使用した。データはMedCalcバージョン18.5(MedCalc, Mariakerke, Belgium)およびSPSSバージョン17.0(SPSS Inc., Chicago, IL, USA)を使用して分析した。p-値<0.05は統計的に有意であるとみなされた。
【0079】
SP-1154のTGF-β/Smad3信号伝達経路抑制の効果
TGF-βR1とTGF-βR2の相互作用に対するSP-1154の影響を決定するために、NanoBiT技術を使用して、ナノルシフェラーゼ断片と接合した2つの受容体の遺伝子を含むベクターで構造的補完分析を行った。ナノルシフェラーゼの大きな断片(LgBiT)と小さな断片(SmBit)の複合体は明るい発光信号を生成し、タンパク質-タンパク質相互作用を研究することができる[14]。図1Bおよび図1Cに示すように、TGF-β1はTGF-βR1およびTGF-βR2複合体からのルシフェラーゼ活性を増加させ、SP-1154処理はTGF-β1刺激活性を用量依存的に有意に減少させた。次に、HFDで誘導されたマウスのVATにおけるTGF-βの下流エフェクターであるSmad2/3のリン酸化に対するSP-1154の効果を調べた。特に、Smad2/3のリン酸化はHFD群で上向調節され、これはSP-1154処理によって抑制された(図1Dおよび1E)。VATにおけるTGF-β1、TGF-βR1およびTGF-βR2のmRNA発現レベルに関連して、SP-1154群でHFDとHFDの間に有意な差はなかった(図1F~1H)。したがって、SP-1154はTGF-βR1とTGF-βR2の相互作用を抑制することにより、Smad2/3のリン酸化を抑制する。
【0080】
SP-1154のHFDによる体重増加抑制の効果
図2Aに示すように、SP-1154はHFDによる体重増加を相当弱めた。また、食品消費の観点で、SP-1154群があるHFDとHFDの間には有意な差はなかった(図2Bおよび2C)。したがって、SP-1154は食欲に影響を与えることなく、HFDによる体重増加を抑制する。
【0081】
SP-1154のVAT炎症および関連全身性炎症減少の効果
主にマクロファージによって生成されるVAT炎症を評価するためによく知られた非侵襲的な画像技術である18F-FDG PET/CTを使用して、VAT炎症がSP-1154によって弱められたかどうかを最初に調べた[16, 17]。VAT SUVmaxがHFD 20週後に相当増加し、SP-1154が増加したVAT SUVmaxを有意に減少させることを確認した(図3Aおよび3B)。正常マウスとSP-1154処理マウスの間でVAT SUVmaxに有意な差はなかった。一貫して、全身性炎症の代理マーカーであるCRPのレベル[17]はHFD群で増加し、SP-1154によって有意に抑制された(図3C)。また、正常マウスとSP-1154処理マウスの間でCRPレベルの有意な差はなかった。
【0082】
次に、インビボのPET/CTの結果を確認するために、取得したVATに対するIHCおよびフローサイトメトリーを行った。図4Aに示すように、マクロファージマーカーであるCD68の発現はHFDマウスで上向調節され、SP-1154処理によって抑制された。また、フローサイトメトリー分析は、HFDマウスのVATが正常マウスに比べて増加したマクロファージ浸潤を示し、SP-1154処理はVATへのマクロファージ浸潤を有意に防止することを示した(図4B~4E)。これらの結果は、SP-1154が肥満によるVAT炎症およびそれに関連する全身炎症を抑制することを示す。
【0083】
SP-1154のインスリン抵抗性およびグルコース恒常性向上の効果
VAT炎症は、インスリン抵抗性の発達に寄与するため[1, 4, 6]、インスリン抵抗性に対するSP-1154の治療効果をさらに評価した。まず、VATにおけるインスリン抵抗性の特徴であるインスリン依存性GLUT4およびインスリン非依存性GLUT1の発現を評価した。VATのインスリン抵抗性が表れる間、拡大した脂肪細胞はインスリン依存性GLUT4の発現の減少を示すことに対し、マクロファージなどの炎症細胞はインスリン非依存性GLUT1の増加した発現を示す[21, 22]。以前の研究と一貫して、20週間のHFDがGLUT1発現の増加およびGLUT4発現の減少とともに脂肪細胞のサイズを増加させることを見い出した。 特に、SP-1154は、減少されたGLUT1発現および増加されたGLUT4発現で脂肪細胞のサイズの相当な減少を誘導した(図5A、5E、5F、および5G)。また、一貫して、SP-1154は、HFD誘導マウスでグルコース恒常性とともにインスリン抵抗性を有意に改善した(図5Bおよび5C)。これらの結果は、SP-1154が肥満によるインスリン抵抗性とグルコース恒常性を改善することを示している。
【0084】
SP-1154のHFD誘発性肝脂肪症弱化の効果
HFD誘発性肝脂肪症に対するSP-1154の影響を調べるために、まず肝臓密度を測定するためにCTスキャンを実施した。HUで測定した肝臓密度は、HUが低いほど脂肪浸潤が多いことを反映する脂肪浸潤の代理マーカーである[23]。本発明において、生体密度がHFD群で低下し、SP-1154群で有意に向上されたことを見い出した(図6Aおよび6B)。同様に、肝臓重量と肝脂肪症スコアの両方がHFD群で増加し、SP-1154処理によって有意に減少した(図6A、6Cおよび6D)。さらに、SP-1154は、HFDで誘導されたマウスですべて上昇したASTとALTの両方のレベルを改善した(図6Eおよび6F)。HFDとSP-1154群があるHFDの間には、血清総コレステロールの観点で有意な差は観察されなかった(図6G)。まとめると、これらの結果は、SP-1154がHFD誘発マウスにおける肥満関連NAFLDを抑制することを示している。
【0085】
内臓肥満は、NAFLDの発症に寄与する低悪性度の慢性全身性炎症として認識されてきた[1, 4-6]。肥満に関連するVAT炎症を減少させることでNAFLDの進行を予防する接近法を発見することは、主な臨床影響をもたらす可能性がある。その意味で、新しい合成薬物であるSP-1154がVAT炎症を効果的に抑制し、肥満関連NAFLDを弱めることを明確に確認した。
【0086】
SP-1153の治療効能を評価するために、HFD誘導マウスモデルを使用した。HFDをマウスに食べさせることは、肥満、インスリン抵抗性、および肝脂肪症を引き起こすことがよく知られており、本発明の実施例の結果とも一致する代謝的に不健康なヒトの肥満表現型を類似に模倣する[24, 25]。したがって、臨床分野に対するデータ外挿のためのSP-1153の潜在的な適用可能性を強調する。
【0087】
マクロファージは、肥満関連VATの炎症発生に重要な役割を果たす[7]。正常なVATにおいて、マクロファージは全細胞集団の約15%未満を占める[26]。しかし、肥満ではマクロファージはVATに浸潤し、増加した感染性サイトカインの分泌とともにVATにある細胞集団の最大50%を占める[26]。SP-1154がVATへのHFD誘導マクロファージの浸潤および関連全身炎症を有意に抑制することを見い出した。また、これは、VAT炎症を評価するために確立された非侵襲的画像技術である18F-FDG PET/CTを使用して、肥満関連VAT炎症に対する薬剤介入のヒトの抗炎症効果を調べた最初の動物研究である[16, 17]。
【0088】
興味深いことに、VATの浸潤したマクロファージは、脂肪細胞膜におけるGLUT4の下向調節を通じて脂肪細胞のインスリン作用を遮断し、インスリン抵抗性の発達に寄与するが、これは本実施例の結果と一致する[27,28]。炎症性VATのインスリン抵抗性を効果的に改善し、GLUT4発現を回復させる新規薬物SP-1154を特性化した。したがって、集合的発見は、SP-1154の有益な代謝効果が主にマクロファージに対するVAT炎症への治療効果に起因する可能性があることを裏付ける。
【0089】
現在、NAFLDに対する新薬開発の努力のほとんどは、非アルコール性脂肪性肝炎やステージ2~3基の肝線維化や肝硬変などの進行したNAFLD病期に集中している[29]。しかし、初期NAFLDに対する治療戦略は、NAFLD患者にも臨床的に有益である[30]。初期NAFLD患者は、潜在的に可逆的な肝損傷を起こしやすい一方で、過剰な心血管代謝のリスクを伴う末期肝疾患を発症する可能性がより高い[30, 31]。したがって、SP-1154は肝脂肪症を弱め、NAFLDの進行を防ぐことにより、初期NAFLDの有望な治療剤となる可能性がある。
【0090】
本実施例の結果は、SP-1154がTGF-βR1とTGF-βR2の複合体形成を抑制してSmad3リン酸化を抑制することを示す。TGF-β1とTGF-βR1およびTGF-βR2複合体の間の相互作用がTGF-β/Smad3信号伝達経路の核心開始因子であるため[10]、TGF-βを標的とするモノクローナル中和抗体はTGF-βに対する抑制効果を示してきた。前臨床研究でβ/Smad3信号伝達[12, 32]。また、モノクローナル抗体と同様にTGF-β受容体を標的とするFc融合タンパク質は、細胞および動物モデルの両方でTGF-β/Smad3信号伝達を抑制害する[33]。しかし、これらのタンパク質工学に基づくアプローチには、不利な薬動力学、不明瞭な作用機序、高い製造コスト、誤ったタンパク質形態、および低タンパク質収率など、臨床応用を妨げるいくつかの制限がある[34, 35]。一方、SP-1154は、他の低分子薬物と同様に、製造が容易で、価格が安く、かつ経口バイオアベイラビリティが高いという利点がある。
【0091】
SP-1154と同様に、ヒトベータグリカン由来の合成ペプチドであるP144は、TGF-βR1とTGF-βR2の複合体形成を抑制することにより、前臨床研究で抗線維化および抗腫瘍効果を示すことが知られている[36, 37]。しかし、毒性のため、皮膚線維症を伴う全身性硬化症患者の臨床試験で局所使用が承認された(NCT00574613およびNCT 00781053)[38]。知る限りにおいて、SP-1154は、TGF-βR1とTGF-βR2複合体の形成を防止して肥満関連代謝疾患を治療するために開発された最初の新規合成薬物である。しかし、実際の結合部位を含め、TGF-βR1とTGF-βR2の相互作用に関するSP-1154の詳細な基本的な作用機序を完全に明らかにするためには、さらなる研究が必要である。
【0092】
要約すると、SP-1154が肥満誘発VAT炎症を顕著に減少させ、HFDを食べさせたマウスにおいて後続する肝脂肪症を弱めるという証拠を提供した。SP-1154は、VATに対するマクロファージの募集を減少させることにより、VAT炎症を改善した。VATにおけるSP-1154の抗炎症効果は、TGF-β/Smad3信号伝達経路の抑制を通じて媒介されると見られる。まとめると、これらの発見は、SP-1154が肥満および関連NAFLDの治療に有望な薬物になり得ることを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明による化学式1の化合物は、肥満誘発VAT炎症を顕著に減少させ、HFDを食べさせたマウスにおいて後続する肝脂肪症を弱めることができ、VATに対するマクロファージの募集を減らすことによって、VAT炎症を改善することができる。
【0094】
本発明において、VATにおける抗炎効果は、TGF-β/Smad3信号伝達経路の抑制を通じて媒介されると見られ、このような効果は、本発明による化学式1の化合物が、肥満またはNAFLDなどの肥満関連肝疾患の治療に有望な薬物になり得ることを示唆している。
【0095】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳細に説明したが、当業界における通常の知識を有する者にとって、これらの具体的な技術は単なる好ましい実施態様に過ぎず、これによって本発明の範囲が限定されるものではないことは明らかであろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、請求項とそれらの等価物によって定義されるといえる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
【国際調査報告】