(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-10
(54)【発明の名称】パエニバシラス・ポリミキサによって産生される多糖または多糖混合物
(51)【国際特許分類】
C12P 19/04 20060101AFI20240903BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240903BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20240903BHJP
A21D 2/18 20060101ALI20240903BHJP
A23L 23/00 20160101ALI20240903BHJP
A23L 27/60 20160101ALI20240903BHJP
A23L 21/10 20160101ALI20240903BHJP
A23L 29/20 20160101ALI20240903BHJP
A23G 9/34 20060101ALI20240903BHJP
A23C 9/154 20060101ALI20240903BHJP
A23L 9/00 20160101ALI20240903BHJP
A23B 7/10 20060101ALI20240903BHJP
A23L 13/40 20230101ALI20240903BHJP
A23B 7/00 20060101ALI20240903BHJP
C08B 37/00 20060101ALI20240903BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240903BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240903BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240903BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20240903BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240903BHJP
【FI】
C12P19/04 C ZNA
C12N1/21
A23L29/00
A21D2/18
A23L23/00
A23L27/60 A
A23L27/60 B
A23L21/10
A23L29/20
A23G9/34
A23C9/154
A23L9/00
A23B7/10 Z
A23L13/40
A23B7/00 101
C08B37/00 P
A61K9/06
A61K47/36
A61Q19/00
A61K8/73
C12N15/09 100
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515362
(86)(22)【出願日】2022-08-10
(85)【翻訳文提出日】2024-04-26
(86)【国際出願番号】 EP2022072461
(87)【国際公開番号】W WO2023036546
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】102021123528.6
(32)【優先日】2021-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504150162
【氏名又は名称】テクニシェ ユニバーシタット ミュンヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジーバー,ヴォルカー
(72)【発明者】
【氏名】シリング,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】リューマン,ブローダー
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,ヨヘン
【テーマコード(参考)】
4B014
4B025
4B032
4B035
4B036
4B042
4B047
4B064
4B065
4B169
4C076
4C083
4C090
【Fターム(参考)】
4B014GB18
4B014GL11
4B025LB17
4B025LG27
4B032DK14
4B035LC03
4B035LG20
4B035LK04
4B035LP42
4B036LF01
4B036LF03
4B036LH11
4B042AC05
4B042AH01
4B042AK09
4B047LG26
4B064AF12
4B064CA02
4B064CC24
4B064CE03
4B064CE06
4B064DA01
4B064DA10
4B065AA01X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA22
4B065CA41
4B065CA44
4B065CA50
4B169AB02
4B169DB05
4B169KC39
4C076AA06
4C076BB31
4C076EE30G
4C076FF17
4C076FF35
4C083AA031
4C083CC02
4C083DD41
4C083EE05
4C083EE11
4C083FF01
4C090AA03
4C090AA04
4C090BA99
4C090BC24
4C090BD08
4C090CA42
4C090DA22
4C090DA26
4C090DA27
(57)【要約】
本発明は、遺伝子改変された産生生物パエニバシラス・ポリミキサによって産生される多糖または多糖混合物に、および多糖または多糖混合物の調製のための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
産生生物パエニバシラス・ポリミキサによって多糖または多糖混合物を産生するための方法であって、互いに別個の次のステップの少なくとも1つを含む、方法:
(f)多糖ペナンIIも多糖ペナンIIIも産生されないようにして、多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサによる多糖ペナンIの産生;および/または
(g)多糖ペナンIも多糖ペナンIIIも産生されないようにして、多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサによる多糖ペナンIIの産生;および/または
(h)多糖ペナンIも多糖ペナンIIも産生されないようにして、多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサによる多糖ペナンIIIの産生;および/または
(i)多糖ペナンIIIが産生されないようにして、多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサによる多糖ペナンIおよびIIの産生;および/または
(j)多糖ペナンIが産生されないようにして、多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサによる多糖ペナンIIおよびIIIの産生。
【請求項2】
産生された前記多糖または多糖混合物が産生後に精製され、および/または前記産生生物がパエニバシラス・ポリミキサDSM365である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
産生された前記多糖または多糖混合物が混合され、それによって、多糖ペナンIおよびペナンIIの混合物、または多糖ペナンIおよびペナンIIIの混合物、または多糖ペナンIIおよびペナンIIIの混合物、または多糖ペナンI、ペナンII、およびペナンIIIの混合物を含む多糖混合物を得る、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ペナンIおよびペナンIIIが1:2m/vの比で混合される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
多糖ペナンIが産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能がスイッチオフされる前記遺伝子改変は、グリコシルトランスフェラーゼPepDおよび/もしくはPepFならびに/またはウンデカプレニル-グルコース-ホスホトランスフェラーゼPepCの機能を抑制する遺伝子改変から選択され、ならびに/あるいは、多糖ペナンIIが産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能がスイッチオフされる前記遺伝子改変は、グリコシルトランスフェラーゼPepT、PepU、および/もしくはPepVならびに/またはウンデカプレニル-グルコースホスホトランスフェラーゼPepQならびに/またはGDP-L-フコースシンターゼの機能を抑制する遺伝子改変から選択され、ならびに/あるいは、多糖ペナンIIIが産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能がスイッチオフされる前記遺伝子改変は、グリコシルトランスフェラーゼPepI、PepJ、PepK、および/またはPepLの機能を抑制する遺伝子改変から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
多糖ペナンIIも多糖ペナンIIIも産生されないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能がスイッチオフされる前記遺伝子改変は、GDP-L-フコースシンターゼの機能、またはグリコシルトランスフェラーゼPepI、PepT、PepU、およびPepVの機能、またはグリコシルトランスフェラーゼPepK、PepT、PepU、およびPepVの機能、またはグリコシルトランスフェラーゼPepL、PepT、PepU、およびPepVの機能、またはグリコシルトランスフェラーゼPepTおよびPepLの機能をスイッチオフする遺伝子改変から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
多糖ペナンIも多糖ペナンIIIも産生されないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能がスイッチオフされる前記遺伝子改変は、グリコシルトランスフェラーゼPepFおよびPepJの機能またはグリコシルトランスフェラーゼPepDおよびPepJの機能を抑制する遺伝子改変から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
多糖ペナンIも多糖ペナンIIも産生されないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能がスイッチオフされる前記遺伝子改変は、ウンデカプレニル-グルコースホスホトランスフェラーゼPepQおよびグリコシルトランスフェラーゼPepFの機能を抑制する遺伝子改変から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
多糖ペナンIを含むが、多糖ペナンIIも多糖ペナンIIIも含まない組成物、または
多糖ペナンIIを含むが、多糖ペナンIも多糖ペナンIIIも含まない組成物、または
多糖ペナンIIIを含むが、多糖ペナンIも多糖ペナンIIも含まない組成物、または
多糖ペナンIおよび多糖ペナンIIを含むが、多糖ペナンIIIを含まない組成物、または
多糖ペナンIIおよび多糖ペナンIIIを含むが、多糖ペナンIを含まない組成物。
【請求項10】
多糖ペナンIIも多糖ペナンIIIも産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサ、または
多糖ペナンIも多糖ペナンIIIも産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサ、または
多糖ペナンIも多糖ペナンIIも産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサ、または
多糖ペナンIIIが産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサ、または
多糖ペナンIが産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサ。
【請求項11】
好ましくは食品、製薬、および/または化粧品セクターにおける、レオロジー調整剤(mediator)、結合剤、安定化剤、乳化剤、または凝集剤としての、ペナンI、ペナンII、もしくはペナンIII、またはペナンI、ペナンII、およびペナンIIIのいずれかの組み合わせの混合物を含む、多糖の使用。
【請求項12】
任意にベーカリー製品、スープ、ソース、マヨネーズ、ケチャップ、ジャム、マーマレード、ゼリー、缶詰食品(果物および野菜)、サラダドレッシング、アイスクリーム、牛乳系混合飲料、プリン、ピクルス、肉、およびゼリー、ケチャップ、ジャム、マーマレード、ゼリー、プリザーブ(果物および野菜)、サラダドレッシング、アイスクリーム、混合乳飲料、プリン、酢漬け野菜、缶詰の肉および魚から選択される食品製品の添加剤としての、または任意にシャワージェル、化粧クリームおよびローション、ヘアシャンプー、スキンクリーム、練り歯磨き、保湿剤から選択される化粧製品の添加剤としての、または任意に創傷ドレッシング、放出制御粒子、点眼液、錠剤コーティング、食品サプリメントのカプセルから選択される製薬もしくはメディカル製品の添加剤としての、または手術後の表面接着をサポートするための組織工学における、石油回収のための水攻法における、バイオレメディエーションおよび廃水処理における、重金属結合のための使用のための、硬化の間に粒子を懸濁したままに保つためのセメント添加剤としての、または塗料添加剤としての、請求項11に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子改変された産生生物パエニバシラス・ポリミキサによって産生される多糖または多糖混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
多糖は生命の全てのエリアにおいて見られる普遍的なバイオポリマーである。天然では、それらは多大な存在量で見られ、種々の任務を遂行する。原則的に、多糖はそれらの機能および/または局在に従って細胞内多糖、構造多糖、および細胞外多糖に分類され得る。澱粉およびグリコーゲンは細胞内多糖の例であり、動物、藻類、または植物における効率的なエネルギー貯蔵多糖である。構造多糖の例はセルロース、キチン、キシラン、またはマンナンであり、これらは植物、昆虫、または真菌に機械的強度を与える固い固体構造である。細胞外多糖は、細胞外空間に分泌される全ての多糖を包含する。多糖が完全に細胞外空間に分泌され、莢膜多糖のような細胞の周りの殻を形成しない場合には、それらは菌体外多糖(EPS)ともまた言われる。しかしながら、莢膜多糖および菌体外多糖を明瞭に区別することは常に可能なわけではない。なぜなら、莢膜多糖は場合によっては細胞膜と非常に緩く会合するのみであり、菌体外多糖もまた細胞に対して密接な近位に所在し得るからである。
【0003】
全ての多糖は炭水化物モノマーからなる。これらのモノマー糖およびそれらの修飾は多糖の基本的な成分を形成する。それらの植物カウンターパートとは対照的に、微生物のヘテロ多糖は通常は規則的な構造であり、一貫したモノマー配列を有する繰り返し要素、いわゆる繰り返し単位から作られている。種および株に依存して、これらの繰り返し単位は通常は2から8つの糖モノマーからなる。極端なケースでは、繰り返し単位は最高で14個までの糖モノマーからなり得る。これらの繰り返し単位の合成および多糖に対するそれらの連結は、微生物においては、合成に要求される全ての酵素が通常コードされているいわゆる生合成クラスターで制御される。
【0004】
多数の異なるモノマーおよびそれらが互いと組み合わせられ得る種々のやり方は、無数のポリマーバリアントを可能にする。それらの高い構造的ばらつきを原因として、細胞外多糖は非常に多様な物理的および化学的特性をもまた有する。これは、それらを、新規特徴を有する興味深い材料、または所望の特性を製品に与える添加剤にする。
【0005】
市場において長く確立されている産業利用されるEPSの周知の例はキサンタンガムである。それはキサントモナス・キャンペストリスによって合成され、とりわけ乳化剤または泡安定化剤として食品テクノロジーに使用される。しかしながら、キサンタンガムは食品セクターの外でもまた使用される。それは例えばプリンターインクの粘度を調整するために使用される。米国およびEU市場で既に発売されている別の多糖はゲランガムである。これは生物スフィンゴモナス・パウシモビリスのEPSであり、これは熱可逆性ゲルを形成することができ、よってゲル化剤および安定化剤として食品テクノロジーに使用される。
【0006】
それらは季節および場所にかかわらず様々な量で産生され得るので、バイオテクノロジー的観点からは、かかる微生物の多糖は特に興味深い。
【0007】
グラム陽性土壌細菌パエニバシラス・ポリミキサは好適な発酵条件において多糖を産生するということが公知である。特に、パエニバシラス・ポリミキサは、その高い粘度を特徴とする多糖を産生することが公知である。この高い粘度は、多糖が例えば食品、化粧品、および/または製薬セクターにおいてレオロジー調整剤(mediator)または結合剤として使用されることを許す。他方で、産生される多糖の高い粘度は、多糖の効率的産生にとっての障害である。なぜなら、多糖が発酵培地に高い粘度を付与し、質量輸送をより困難にし、例えば撹拌または加熱による増大したエネルギー入力を要求するからである。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、パエニバシラス・ポリミキサによって産生され得る多糖の産生のための効率的なかつ省エネルギーな方法を提供することである。
【0009】
この目的を達成するための基礎は、多糖を特徴評価することおよびその生合成を明らかにすることによって提供された。パエニバシラス・ポリミキサによって産生される多糖は3つの個別の多糖の多糖混合物であり、これはこれらの多糖の2つの相互作用のみによってその高い粘度を発揮するということが判明した。これらの3つの個別の多糖のそれぞれの生合成は本発明者によって解明された。
【0010】
本発明の目的は、パエニバシラス・ポリミキサの個別の遺伝子の変異導入、好ましくは部位特異的変異導入によって達成された。これらは、翻って、低粘度の個別の多糖および/またはそれらの低粘度の混合物のコントロールされた産生を可能にした。多糖および/または多糖混合物のレオロジー特性は、好適な割合での混合によって調整され、例えば、野生型によって産生される多糖混合物の特性をもまた達成し得る。従って、本発明は、産生方法に、ならびに産生方法に使用される異なって変異した産生生物パエニバシラス・ポリミキサに、ならびに例えば、好ましくは食品、製薬、および/または化粧品セクターにおける、レオロジー調整剤(mediator)、結合剤、安定化剤、乳化剤、または凝集剤としての、本発明に従って産生される多糖または多糖混合物の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1はペナン(Paenan)Iの繰り返し単位の構造を示す。
【
図2】
図2はペナンIIの繰り返し単位の構造を示す。
【
図3】
図3はペナンIIIの繰り返し単位の構造を示す。
【
図4】
図4は産生された多糖のモノマー組成を示す。P.ポリミキサDSM365および変異体バリアントからのEPSの炭水化物フィンガープリントが、HT-PMP法を使用して分析された。得られたモノマー比およびMS分析における特定のダイマーの検出に基づいて、ポリマー組成が、異なるペナンバリアント(I~III)の存在に割り当てられた。ΔepsOバリアントは野生型ポリマーと同じモノマー組成を示すが、ピルビン酸または対応するケタールは検出されなかった。
【
図5】
図5はペナンバリアントの粘度曲線を示す。0.01から1000/sまでの対数的に増大する剪断速度で、コーンプレート幾何学によって、20℃において、0.5%NaClの添加ありで(四角□)およびなしで(丸〇)測定された。全ての測定は三反復で実施された。エラーバーは標準偏差を示す。
【
図6】
図6は、水性の溶液中のおよび0.5%NaClの存在下のP.ポリミキサDSM365によって産生された指示されているEPSバリアントの1%溶液の振幅掃引を示す。G’:貯蔵モジュラス、G”:損失モジュラス。
【
図7】
図7は、水性の溶液中のおよび0.5%NaClの存在下のP.ポリミキサDSM365によって産生された指示されているEPSバリアントの1%溶液の振幅掃引を示す。G’:貯蔵モジュラス、G”:損失モジュラス。
【
図8】
図8は、水性の溶液中のおよび0.5%NaClの存在下のP.ポリミキサDSM365によって産生された指示されているEPSバリアントの1%溶液の振動数掃引を示す。適用された条件におけるペナンIIIの限定されたLVE範囲を原因として、このバリアントは振動数掃引では測定されなかった。G’(丸):貯蔵モジュラス、G”(四角):損失モジュラス。
【
図9】
図9は、水性の溶液中のおよび0.5%NaClの存在下のP.ポリミキサDSM365によって産生された指示されているEPSバリアントの1%溶液の振動数掃引を示す。適用された条件におけるペナンIIIの限定されたLVE範囲を原因として、このバリアントは振動数掃引では測定されなかった。G’(丸):貯蔵モジュラス、G”(四角):損失モジュラス。
【
図10】
図10は、水性の溶液中のおよび0.5%NaClの存在下のP.ポリミキサDSM365によって産生された指示されているEPSバリアントの1%溶液の20~75℃からの温度掃引を示す。G’(丸):貯蔵モジュラス、G”(四角):損失モジュラス。
【
図11】
図11は、水性の溶液中のおよび0.5%NaClの存在下のP.ポリミキサDSM365によって産生された指示されているEPSバリアントの1%溶液の20~75℃からの温度掃引を示す。G’(丸):貯蔵モジュラス、G”(四角):損失モジュラス。
【
図12】
図12は、別個の個別の産生後に再混合された多糖混合物のモノマー組成と比較したペナン野生型のモノマー組成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述の通り、本発明者は、パエニバシラス・ポリミキサによって産生される多糖が3つの個別の多糖の多糖混合物であるということを発見した。これらの個別の多糖はペナンI、ペナンII、およびペナンIIIと言われる。ペナンI、ペナンII、およびペナンIIIの繰り返し単位の構造はそれぞれ
図1、2、および3に示されている。それぞれの分子量は表4に示されている。
【0013】
個別の多糖の生合成が解明され、次の酵素はペナンIの産生に必要であるということが見出された:グリコシルトランスフェラーゼPepDおよび/またはPepF、ピルビルトランスフェラーゼEpsO、ならびにウンデカプレニル-グルコース-ホスホトランスフェラーゼPepC。グリコシルトランスフェラーゼおよびウンデカプレニル-グルコース-ホスホトランスフェラーゼなしでは、繰り返し単位は形成されない。ピルビルトランスフェラーゼEpsOは、ピルビン酸残基が末端の繰り返し単位に取り付けられるということを保証する。このピルビン酸残基は、産生される多糖混合物のゲルの性格および高い粘度の形成に必須である。
【0014】
次の酵素はペナンIIの産生に要求される:グリコシルトランスフェラーゼPepT、PepU、および/またはPepV、ならびにウンデカプレニル-グルコース-ホスホトランスフェラーゼPepQ。グリコシルトランスフェラーゼおよびウンデカプレニル-グルコース-ホスホトランスフェラーゼなしでは、繰り返し単位は形成されない。ペナンIIはGDP-L-フコースをもまた含有し、これは酵素GDP-L-フコースシンターゼによって産生される。GDP-L-フコースシンターゼはfcl遺伝子にコードされ、これはパエニバシラスゲノム上に1回のみ見られる。よって、fclの欠失はペナンIIの産生を妨げ得る。
【0015】
次の酵素はペナンIIIの産生に要求される:グリコシルトランスフェラーゼPepI、PepJ、PepK、および/またはPepL、ならびにウンデカプレニル-グルコースホスホトランスフェラーゼPepCまたはPepQ。グリコシルトランスフェラーゼおよびウンデカプレニル-グルコースホスホトランスフェラーゼの1つなしでは、繰り返し単位は形成されない。
【0016】
ペナンIおよびペナンIIIの間の相互作用は、産生される多糖混合物のゲルの性格および高い粘度の形成に至るということもまた見出された。ここで、ペナンIの繰り返し単位上のピルビン酸残基はペナンIIIのグルクロン酸と相互作用する。個別の多糖の別個の産生後に、野生型ペナンのゲルの性格および粘度を達成するべきである多糖混合物が産生されるべきである場合には、産生生物におけるEpsOの機能は消去されてはならない。
【0017】
これは、ペナンIおよびペナンIIの多糖混合物ならびにペナンIIおよびペナンIIIの多糖混合物が、低い粘度をもまた有し、同時に高粘性の発酵培地の欠点なしに産生され得るということを意味する。
【0018】
これらの知見は、ここで、これらの酵素のコード配列の変異導入、特に部位特異的変異導入を可能にし、この変異導入が、酵素機能の喪失と、それゆえに低粘度の個別の多糖または低粘度の多糖混合物を特異的に産生し得る産生生物の産生とに至る。低粘度の個別の多糖または低粘度の多糖混合物は、例えば、表面コーティング、塗料の機能的な結合剤として、および食品産業において、例えば果物ジュースまたはサラダドレッシングなどに使用され得る。
【0019】
多糖混合物の所望の役立つ特性、例えば調整可能な粘度およびゲルの性格は、別個の産生後に、混合および必要な場合には加熱によって復元され得る。それゆえに、本発明に従う方法は、それらの汎用的な応用可能性を原因として、低粘度の個別の多糖または低粘度の多糖混合物の効率的産生の利点を、低粘度の個別の多糖または低粘度の多糖混合物を混合した後に得られる高粘度の多糖混合物によって提供される利点と組み合わせる。
【0020】
それゆえに、本発明は、一方では、産生生物パエニバシラス・ポリミキサによって多糖または多糖混合物を産生するための方法に関し、ここで、方法は、互いとは別個に次のステップの少なくとも1つを含む:
(a)多糖ペナンIIも多糖ペナンIIIも産生されないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサによる多糖ペナンIの産生、および/または
(b)多糖ペナンIも多糖ペナンIIIも産生されないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサによる多糖ペナンIIの産生、および/または
(c)多糖ペナンIも多糖ペナンIIも産生されないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサによる多糖ペナンIIIの産生、および/または
(d)多糖ペナンIIIが産生されないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサによる多糖ペナンIおよびIIの産生、および/または
(e)多糖ペナンIが産生されないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサによる多糖ペナンIIおよびIIIの産生。
【0021】
本発明に従う方法は、産生後に、産生された多糖または多糖混合物を精製することをもまた含み得る。
【0022】
部位特異的変異導入によって改変される産生生物はパエニバシラス・ポリミキサである。実施形態の例では、パエニバシラス・ポリミキサDSM365が使用される。しかしながら、当業者に公知の好適な発酵条件および/または培養条件において多糖ペナンI、II、およびIIIを形成する全てのパエニバシラス・ポリミキサ株が使用され得る。
【0023】
本発明に従う方法は、多糖または多糖混合物の調製および任意に精製の後に、産生された多糖または多糖混合物を混合することをもまた含み得る。これによって多糖混合物が得られ、これは多糖ペナンIおよびペナンIIの混合物、または多糖ペナンIおよびペナンIIIの混合物、または多糖ペナンIIおよびペナンIIIの混合物、または多糖ペナンI、ペナンII、およびペナンIIIの混合物を含む。
【0024】
例5に示される通り、当業者は、混合されるべき多糖または多糖混合物の型、混合比、および混合中の濃度を選択し、それゆえに、もたらされる混合物の所望のレオロジー挙動を設定し得る。例えば、ペナンIおよびペナンIIIを1:2m/vの比で混合することによって、ペナン野生型に類似のレオロジー特性を有する多糖混合物が得られ得る。しかしながら、例えばペナン野生型と比較してより高いまたはより低い粘度を有する混合物もまた産生され得る。これらの特性は、それぞれの応用に要求される通り当業者によって調整され得る。
【0025】
遺伝子の機能を特異的にスイッチオフするための方法は当業者に公知である。実施形態においては、記載される酵素の機能が、それぞれの酵素をコードする遺伝子の配列のCRISPR-Cas9によって媒介されるノックアウトによってスイッチオフされた。基本的な手続きはリューテリンク(Rutering)ら,シンセティック・バイオロジー(Synthetic Biology)(オックスフォード・アカデミック);2017年1月に記載されている。しかしながら、遺伝子の機能を特異的にスイッチオフするための当業者に公知のいずれかの方法が使用され得る。例えば、遺伝子配列全体を欠失することは絶対的に必要なわけではない。遺伝子の機能を担う遺伝子配列の領域のみを欠失することが十分である。遺伝子の機能の消去に至る遺伝子改変は、UV線または化学的薬剤によって引き起こされる変異などの天然の変異導入によってもまた得られ得る。それから、このやり方で変異した株は、少しの労力によって所望の表現型から選択され得る。従って、本発明の意味における遺伝子改変は遺伝子工学に限定されない。
【0026】
本発明に従う産生生物を得るためには、遺伝子の1つの機能のみをスイッチオフすることが、この遺伝子のスイッチオフが望まれない個別の多糖がもはや変異体産生生物によって産生されないことをもたらす限り、十分であり得る。例示的な変異による特定の実施形態が例に列記されている。
【0027】
本発明に従う方法は、多糖ペナンIが産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能がスイッチオフされる遺伝子改変が、グリコシルトランスフェラーゼPepDおよび/またはPepFならびに/あるいはウンデカプレニル-グルコース-ホスホトランスフェラーゼPepCの機能を抑制する遺伝子改変から選択されるということを含み得る。
【0028】
代替的にまたは加えて、本発明に従う方法は、多糖ペナンIIが産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能がスイッチオフされる遺伝子改変が、グリコシルトランスフェラーゼPepT、PepU、および/またはPepV、ならびに/あるいはウンデカプレニル-グルコース-ホスホトランスフェラーゼPepQ、ならびに/あるいはGDP-L-フコースシンターゼの機能を抑制する遺伝子改変から選択されるということを含み得る。
【0029】
代替的にまたは加えて、本発明に従う方法は、多糖ペナンIIIが産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能がスイッチオフされる遺伝子改変が、グリコシルトランスフェラーゼPepI、PepJ、PepK、および/またはPepLの機能を抑制する遺伝子改変から選択されるということを含み得る。
【0030】
多糖ペナンIIも多糖ペナンIIIも産生されないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能をスイッチオフする例示的な遺伝子改変は、GDP-L-フコースシンターゼの機能、またはグリコシルトランスフェラーゼPepI、PepT、PepU、およびPepVの機能、またはグリコシルトランスフェラーゼPepK、PepT、PepU、およびPepVの機能、またはグリコシルトランスフェラーゼPepL、PepT、PepU、およびPepVの機能、またはグリコシルトランスフェラーゼPepTおよびPepLの機能をスイッチオフする遺伝子改変から選択される。
【0031】
多糖ペナンIも多糖ペナンIIIも産生されないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能をスイッチオフする例示的な遺伝子改変は、グリコシルトランスフェラーゼPepFおよびPepJの機能またはグリコシルトランスフェラーゼPepDおよびPepJの機能を抑制する遺伝子改変から選択される。
【0032】
多糖ペナンIも多糖ペナンIIも産生されないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能をスイッチオフする例示的な遺伝子改変は、ウンデカプレニル-グルコースホスホトランスフェラーゼPepQおよびグリコシルトランスフェラーゼPepFの機能を抑制する遺伝子改変から選択される。
【0033】
本発明は、
多糖ペナンIを含むが、多糖ペナンIIも多糖ペナンIIIも含まない組成物、または
多糖ペナンIIを含むが、多糖ペナンIも多糖ペナンIIIも含まない組成物、または
多糖ペナンIIIを含むが、多糖ペナンIも多糖ペナンIIも含まない組成物、または
多糖ペナンIおよび多糖ペナンIIを含むが、多糖ペナンIIIを含まない組成物、または
多糖ペナンIIおよび多糖ペナンIIIを含むが、多糖ペナンIを含まない組成物、
にもまた関する。
【0034】
本発明は、
多糖ペナンIIも多糖ペナンIIIも産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサ、または
多糖ペナンIも多糖ペナンIIIも産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサ、または
多糖ペナンIも多糖ペナンIIも産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサ、または
多糖ペナンIIIが産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサ、または
多糖ペナンIが産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサ、
にもまた関する。
【0035】
本発明に従う産生生物によって本発明に従う方法によって産生される多糖または多糖混合物は、それらの有利な特性を原因として種々のやり方で使用され得る。これらは、一方では、本発明に従って産生される多糖もしくは本発明に従って産生される多糖混合物がそのまま使用されるときに既に存在し得る。または、本発明に従って産生される多糖もしくは本発明に従って産生される多糖混合物が、本発明に従って産生されるさらなる多糖もしくは本発明に従って産生されるさらなる多糖混合物と混合されるときに、得られ得る。
【0036】
従って、本発明は、好ましくは食品、製薬、および/または化粧品セクターにおける、レオロジー調整剤(mediator)、結合剤、安定化剤、乳化剤、または凝集剤としての、ペナンI、ペナンII、もしくはペナンIII、またはペナンI、ペナンII、およびペナンIIIのいずれかの組み合わせの混合物を含む多糖の使用をもまた含む。
【0037】
特に、ペナンI、ペナンII、もしくはペナンIII、またはペナンI、ペナンII、およびペナンIIIのいずれかの組み合わせの混合物を含む多糖は、例えば、これらに限定されることなしに、ベーカリー製品、スープ、ソース、マヨネーズ、ケチャップ、ジャム、マーマレード、ゼリー、缶詰食品(果物および野菜)、サラダドレッシング、アイスクリーム、牛乳系混合飲料、プリン、ピクルス、缶詰の肉および魚からの食品製品の添加剤として、または例えば、これらに限定されることなしに、シャワージェル、化粧クリームおよびローション、ヘアシャンプー、スキンクリーム、練り歯磨き、保湿剤から選択される化粧製品の添加剤として、または例えば、これらに限定されることなしに、創傷ドレッシング、放出制御粒子、点眼液、錠剤コーティング、食品サプリメントのカプセルから選択される製薬もしくはメディカル製品の添加剤として、または手術後の表面接着をサポートするための組織工学における、石油回収のための水攻法における、バイオレメディエーションおよび廃水処理における、重金属結合のための使用のために、硬化の間に粒子を懸濁したままに保つためのセメント添加剤として、または塗料添加剤として、使用され得る。
【0038】
本発明に従う方法、本発明に従う産生生物、および本発明に従う使用がここで下の例によって説明される。
【実施例】
【0039】
例1-変異体産生生物の産生
P.ポリミキサDSM365をドイツ微生物細胞培養コレクション(DSMZ、ドイツ)から得た。大腸菌NEBターボ細胞(ニュー・イングランド・バイオラボ、米国)をプラスミド構築に使用した。大腸菌S17-1(DSMZ株DSM9079)を使用して、接合によってP.ポリミキサDSM365を形質転換した。産生された株は表1に列記されている。
【0040】
【0041】
全てのノックアウトは以前に記載された通り行なった(リューテリンク(Rutering)ら,2017年)。簡潔には、各標的のgRNAをプラスミドpCasPPにGoldenGateアセンブによってBbsIを使用してクローニングした。その後に、対象の遺伝子の1kb上流および下流の相同性フランクを唯一のSpeI部位にライゲーションし、次に、ケミカルコンピテント大腸菌S17-1の形質転換をした。P.ポリミキサを、異なるプラスミドを内包する大腸菌S17-1を使用して接合によって形質転換した。供与および受容株の一晩培養物を選択または非選択LB培地によって1:100希釈し、37℃において280rpmで3時間培養した。900μlの受容培養物を42℃における15分間の熱ショックに付し、300μlの供与株と混合した。細胞を6,000×gで2分間遠心し、800μlのLB培地に再懸濁し、非選択LB寒天プレートに滴下した。30℃における24時間培養後に、細胞を掻き取り、500μlのLBブロスに再懸濁し、これの100μlを、カウンターセレクションのための50μg/mlネオマイシンおよび20μg/mlポリミキシンを含有する選択LB寒天にプレーティングした。30℃における48時間の培養後に、P.ポリミキサ接合体をコロニーPCRによって首尾良い形質転換について分析した。確認されたノックアウト株を、抗生物質選択圧なしのLBブロスによる培養と、ネオマイシンありおよびなし両方のLB寒天プレート上のその後のレプリカプレーティングとによってプラスミドキュアリングした。選択マーカーありのプレート上で成長しなかった株を、標的領域をシーケンシングすることによって検証し、さらなる実験に使用した。ノックアウト株を得るために使用された全てのプラスミドおよびオリゴヌクレオチドが下の表2および3に列記されている。
【0042】
【0043】
【0044】
例2-多糖の発酵的産生
別様に申し立てない限り、全ての培地成分はカール・ロート社(Carl Roth GmbH)(ドイツ)から得た。クローニング手続きのために、株を、LB培地(5g/l酵母エキス、10g/lトリプトン、10g/lのNaCl)によってかつ加えて50μg/mlネオマイシンおよび20μg/mlポリミキシンありで成長させた。必要な場合に補充した。全ての株は30%グリセロール中で-80℃に保存した。培養前に、株をLB寒天プレートに広げ、30℃で24時間成長することを許した。
【0045】
発酵培地は、30g/lグルコース、0.05g/lのCaCl2×2H2O、5g/lトリプトン、1.33g/lのMgSO4×7H2O、1.67g/lのKH2PO4、2ml/lのRPMI1640ビタミン溶液(メルク、ドイツ)、および1ml/l微量元素溶液(2.5g/lのFeSO4、2.1g/lのC4H4O6Na2×2H2O、1.8g/lのMnCl2×4H2O、0.258g/lのH3BO3、0.031g/lのCuSO4×5H2O、0.023g/lのNaMoO4×2H2O、0.075g/lのCoCl2×7H2O、0.021g/lのZnCl2)を含有した。前培養培地は、10g/lという縮減されたグルコース濃度およびpH7に緩衝された追加の20g/lのMOPSを例外として、発酵培地と同じやり方で調製された。
【0046】
EPSの発酵的産生を、6ブレードラシュトンインペラを備えた500mlの有効容積を有する1LベンチトップDASGIPパラレルバイオリアクターシステム(エッペンドルフ、ドイツ)によって、6.8のコントロールされたpHおよび30%のpO2飽和で28時間実施した。回分培養を好適な体積の前培養の接種によって0.1の初期OD600で始めた。発酵後に、バイオマスを遠心(15,000×g、20℃、20分)によって分離し、次に、100kDa濾過カセット(Hydrosart、ザルトリウス社、ドイツ)を使用する上清のクロスフロー濾過をした。野生型から産生されるものなどの高粘性のEPSバリアントを、遠心前にddH2Oによって1:10希釈した。それから、濃縮された上清を2体積のイソプロパノールにゆっくり注加した。沈殿したEPSを収集し、VDL53バキュームオーブンによって40℃で一晩乾燥した(ビンダー(Binder)、ドイツ)。EPSをボールミルによって30Hzで微粉末に1分間粉砕する前に(ミキサーミルMM400、レッチェ社、ドイツ)、得られたEPSの乾燥重量を重量分析的に決定した。
【0047】
例3-産生された多糖の特徴評価
製造されたEPSバリアントのモノマー組成を、1-フェニル-3-メチル-5-ピラゾロン高スループット法(HT-PMP)(リューマン(Ruhmann),シュミット(Schmid),およびジーバー(Sieber),2014年)を使用して分析した。簡潔には、0.1%EPS溶液を、シリコーンマットによって密閉され、さらに2MのTFAによってカバーされた96ウェルプレート上で加水分解した(90分、121℃)。カスタムメイドの金属デバイスを使用した。サンプルを3.2%NH4OHによって中和した。75μlのPMPマスターミックス(0.1Mメタノール性PMP:0.4%水酸化アンモニウム2:1)を25μlの中和された加水分解物に添加し、サーモサイクラーによって70℃で100分間培養した。20μlの誘導体化されたサンプルを25μlの0.5M酢酸および125μlのddH2Oと混合し、0.2μmフィルタープレートによって濾過し(1,000×g、2分)、次に、Ultimate3000RS-HPLCシステム(ダイオネクス、米国)を使用してHPLC-UV-MSをした。分離を逆相カラム(Gravity-C18、100×2mm、1.8μm粒径、マッハライ・ナーゲル、米国)で実施し、これは50℃に設定した。勾配溶出を、移動相A(15%アセトニトリルを有する5mM酢酸アンモニウム(pH5.6))および移動相B(100%アセトニトリル)を使用して、0.6ml/分の一定ポンプ流量で行なった。
【0048】
個別のペナンポリマーの存在を検出するために、炭水化物フィンガープリントを各バリアントについて決定した(
図4)。3:1:1:1(Glc:Man:Gal:Pyr)のモノマー比がペナンIで予想され、等モル比のGlc:Gal:GlcA:FucがペナンIIで、2:2:1(Glc:Man:GlcA)のモノマー比がペナンIIIで予想された。化学的加水分解の間の分解に対するウロン酸の高い感受性を原因として、GlcAはウロン酸を含有する全ての多糖組成物で強く過小見積もりされた。モノマー組成に加えて、MS/MS分析によって検出された以前に同定された主要なダイマーを使用して、組み合わせノックアウトバリアントを各ペナンバリアントに割り当てた。ピルビン酸ケタールの存在をペナンIに、GlcA-FucダイマーをペナンIIに、GlcA-ManダイマーをペナンIIIに割り当てることによって、これらのバリアントにおける天然の多糖の分布を維持しながら、各ノックアウトバリアントのポリマー組成を決定した。ここからは、各EPSバリアントは、それぞれの表現型に至る遺伝子欠失によってではなく、存在するペナンバリアントによって呼称される。
【0049】
ポリマーバリアントの分子量をサイズ排除クロマトグラフィーによって決定した。屈折率検出器(SECcurity-GPC1260)およびSECcurity-SLD7000静的7角度光散乱検出器(PSSポリマースタンダーズサービス、ドイツ)を備えたアジレント1260インフィニティシステム(アジレント・テクノロジー、ドイツ)を使用した。この目的のためには、0.5g/lの各バリアントを0.1MのLiNO3によって再構成し、100μlのサンプルをシステムに30分インターバルで注入し、TSKgelスーパーMP(PW)-Hプレカラムおよび2つの連続したTSKGelスーパーマルチポアPW-Hカラム(6.0mmID×15cm、トーソー・バイオサイエンス、ドイツ)によって、50℃に維持した。使用された溶出剤は0.3ml/分の一定流量の0.1MのLiNO3であった。絶対分子量を光散乱およびポリマー濃度によって決定し、さらに、12点プルラン標準(384Da~2.35MDa)および4.5MDaキサンタンガム参照によって交差検証した(表4)。
【0050】
【0051】
野生型EPSにおける3つの異なるポリマーの存在にもかかわらず、個別のペナンバリアントの明瞭な分離は可能ではなかった。個別のペナンバリアントの分析は、ペナンIおよびペナンIIIについて類似の分子量分布を明らかにした。ペナンIIのみが有意により小さいように見え、5.5・105Daのサイズを有する。野生型ポリマーにおけるペナンIIの低い割合から考えて、これは、P.ポリミキサDSM365のヘテロ菌体外多糖を分析しようとする以前の試みが、いくつかのペナンバリアントを区別することになぜ失敗したかを説明し得る。興味深いことに、脱ピルビル化されたポリマーは約3.0・106Daにもまた小さいピークを示したが、主なモル質量は、全ての他のペナンバリアントと比較して有意により大きく8.8・106Daにあることが検出された。側鎖が不規則的にアセチルまたはピルビル残基を提供されるキサンタンガムの産生と比較して、ペナンIの全ての繰り返し単位はピルビン酸ケタールによって修飾されているように見える。結果的に、ΔepsOノックアウトバリアントにおけるこの特徴の喪失はP.ポリミキサにおける鎖長コントロールに影響し、増大した分子量および異なるレオロジー挙動をもたらし得る。代替的には、ピルビル化は、ポリマーの流体力学的半径と、それゆえにSEC-MALS分析とにもまた影響を及ぼし得る。
【0052】
例4-レオロジー特性
レオロジー分析のために、各ポリマーの1%(w/w)溶液をddH2Oまたは0.5%NaCl(85mM)によって調製した。各溶液の伝導率をLF413T-ID電極(ショット・インストゥルメンツ(Schott Instruments)、ドイツ)を使用して測定して、発酵培地の残存塩濃度を決定した。レオロジー測定を、CP50-1コーンプレート測定システム(50mm直径、1°コーン角度、50μm測定ギャップ)を備えたMCR300応力制御型回転式レオメータ(アントンパール、オーストリア)を使用して実施した。全ての測定は、温度掃引を例外として、TEK150P温度ユニットによってコントロールされた20℃で行なった。溶液をレオメータに適用した後に、全てのサンプルを測定を始める前に20℃で5分間培養した。全ての実験は技術的三反復で実施した。
【0053】
データ点あたり100~5秒の減少する測定時間によって10年あたり3つのデータ点を測定することによって、粘度曲線を10-3から103/sの対数的に増大した剪断速度で測定した。
【0054】
振幅掃引を1Hzの振動数において10-1から103Paの対数的に増大する剪断応力振幅で測定した。
【0055】
振動数掃引を10-2から10Hzの対数的に増大する振動数によって線形粘弾性範囲(LVE)において行なった。
【0056】
温度掃引をLVE内において1Hzの振動数で行なった。4℃/分の加熱速度で20から75℃までの温度上昇を適用した。コーンプレート測定システムのエッジを低粘度のパラフィンオイル(カール・ロート(Carl Roth)、ドイツ)によってカバーして蒸発を妨げた。
【0057】
チキソトロピー性の挙動を3段階の振動剪断シーケンスによって評価した。第1の段階では、サンプルを、LVE範囲内の剪断応力、次に30秒間の103Paの高振動剪断に付した。それから、構造的回復をLVE内で10分間測定した。
【0058】
流動挙動の分析は全てのペナンバリアントの一般的な剪断減粘性挙動を示した(
図5)。最も高い粘度および剪断減粘性挙動はNaClの添加ありのペナン野生型(IおよびIIおよびIII)で観察され、次に、一価カチオンなしのペナン野生型であった。ペナンI~IIIの全ての個別のバリアントは有意に高い粘度を示さず、中間の剪断速度範囲においてほとんどニュートン流動挙動を示した。ペナン野生型ならびにペナンIおよびIIIのみが冪乗則に従う厳密に剪断減粘性挙動および高い粘度を示し、これらは0.5%NaClの存在下において増大した。ペナン野生型の脱ピルビル化の間に、粘度は抜本的に減少し、ここで、NaClの添加はキサンタンガムの脱ピルビル化に匹敵する有害な効果を有した。キサンタンガムのケースでは、効果は、低級カチオンによって媒介される個別のポリマー分子間の分子間相互作用を原因とする。異なるペナンポリマーのデータはペナンIおよびペナンIII分子の間の類似の効果を示唆している。ペナンIおよびIIIの組み合わせは、ペナンIおよびIIおよびIIIの組み合わせとほとんど同じ特性を示した。これは、ポリマーの高い粘度の主な理由としてのペナンIおよびIIIの間の相互作用を強調している。この相互作用は、ペナンIIIのバックボーン上のグルクロン酸の負電荷とのペナンIの末端ピルビン酸残基のカチオンによって媒介される相互作用によって説明され得る。興味深いことに、ペナンIおよびIIならびにペナンIIおよびIIIの両方の組み合わせは野生型の挙動に至らなかった。結果的に、ペナンIIのバックボーン上のグルクロン酸は、この組み合わせの低い粘度によって示される通り、ペナンIのピルビル残基と相互作用するようには見えなかった。これは特に興味深い。なぜなら、ペナンIIの個別の側鎖は、グルクロン酸および隣接するマンノースに結合したペナンIIIの2つの側鎖と比較して、ペナンIIの電荷のより良好なアクセス性を示唆するであろうからである(
図1~3)。個別の分子間の相互作用には2つの説明がある。第1に、ペナンIまたはIIまたはIII分子の個別のホモらせんの形成、およびこれらのらせんのその後の相互作用である。第2に、ペナンIおよびIIおよびIIIのヘテロらせんの形成である。個別のポリマーの分析は、後者に有利な証拠を提供する。疑われる通り、ピルビル化された側鎖がキサンタンガムのように外側に突出する場合には、ホモらせんの形成は、ペナンI単独のものの間の強い相互作用をもまた指示するであろう。他方では、ペナンIがホモらせんを形成するべきである場合には、内側に突き出る側鎖が、ジウタン(diutane)ガムについて記載されたものに類似の構造に至り、縮減された粘度の理由でもまたあり得る。ジウタン(diutane)ガムとは対照的に、ペナンIのバックボーン上のウロン酸の不在を原因として、主鎖は負電荷を持たない。全てのケースにおいて、ペナンIIおよびペナンIIIのらせん配置の違いは、ペナンIおよびIIの間ならびにペナンIIおよびIIIの間ではなく、ペナンIおよびIIIの強い相互作用を説明し得る。これは二次および三次ポリマー構造のさらなる調査を促した。
【0059】
個別のポリマーバリアントならびにペナンIIおよびIIIの組み合わせの詳細な検討は、いくつかの構造的に粘性の領域を明らかにした。これらは、個別の部分の冪乗則の最高で3つまでの異なるKおよびn値によって指示される(表5)。この現象は、個別にペナンIおよびペナンIIで、ならびにペナンIおよびIIならびにペナンIおよびIIIの組み合わせで観察された。しかしながら、ペナンIII、ペナンIおよびIII、または野生型組成物では、単一の構造的に粘性の領域のみが観察された。ペナンIおよびIIでは、ニュートン領域はNaClの存在下でより目立ち、これはNaClの存在下のペナン野生型ならびにペナンIおよびIIIにおけるニュートン領域の軽微な生起の理由であり得る。結果的に、この効果はペナンIまたはペナンIIに帰せられ得る。
【0060】
【0061】
振幅掃引によって決定された基本的な粘弾性特性(
図6および7)が表6に列記されている。ペナン野生型(IおよびIIおよびIII)は柔らかいかつ弾性のゲル様の挙動を示し、LVE内において0.3の減衰比で、9.1Paの降伏強度(32%伸長)および51.1Paの降伏点(550%伸長)を有した。0.5%NaClの添加は、それぞれ82%および590%の伸長に対応する32.3Paおよび90.8Paという増大した降伏および増大した降伏点に至った。0.1の減衰比およびLVEの後の明瞭なG”ピークは、より強いがより脆性のゲルの性格を指示している。振動数掃引(
図8)は、ペナンIおよびIIおよびIIIについて、分析された振動数範囲全体において顕著に弾性の挙動を有するG’およびG”の液体様の粘弾性挙動をもまた示した。これは、NaClが添加されるときには、よりゲル様の挙動に近づき、G’およびG”両方のより少ない振動数依存性を有する。NaClの添加ありおよびなし両方で、クロスオーバーポイントは低い振動数では認識可能ではなかった。これはネットワークの長期安定性を指示している。
【0062】
このゲルの性格は、最も蓋然的には、ペナンIのピルビル残基およびペナンIIIのグルクロン酸の-COO-基の間のカチオンによって媒介される相互作用によって引き起こされる。これのさらなる証明はペナンIおよびIIおよびIIIの脱ピルビル化によって提供され、これは粘弾性特性の完全な喪失に至った。加えて、全ての個別のペナンポリマー、ならびにペナンIおよびIIならびにペナンIIおよびIIIのブレンドは、顕著な流体的な特性を示し、マクスウェル様の挙動を有した(
図8および9)。興味深いことに、ペナンIIを例外として、マクスウェル流体の典型的な転移点はより高い振動数ではNaClの存在下において観察され得ず、データは、より高い振動数におけるG’の当初の減少を指示し、低いおよび高い振動数両方において流体的な挙動に至った。これはペナンIおよびIIIで特に明らかであった。
【0063】
高い粘度とゲル様の性格に至る目立った分子間ネットワークとは、このポリマーバリアントをレオロジー増粘剤として興味深い化合物にする。他の微生物の多糖に類似に、食品および飲料品におけるレオロジー調整剤としての潜在的な応用が有望に見えるが、油田掘削などの技術応用もまた有望に見える。これらの多糖と比較して、粘性化効果は多大に増大し、より低いEPS濃度が類似の結果を達成するために要求されるということを示唆する。加えて、P.ポリミキサ2H2からの構造的に近縁の多糖は、化粧品およびパーソナルケア製品に典型的に使用されるラウリル硫酸またはコカミドプロピルベタインなどの普通に使用される界面活性剤との優良な適合性を最近示した。結果的に、ペナンIおよびIIおよびIIIを含有するP.ポリミキサDSM365の野生型EPS組成物の使用は、市販の石油系のアクリル系化合物を置換し得る様々な応用のための持続可能な増粘剤として好適である。
【0064】
【0065】
ペナンIおよびIIIの混合物はペナンIおよびIIおよびIIIのものに非常に類似のゲル様の特性を示し、相互作用が主にペナンIおよびペナンIIIの間であるということを指示した。しかしながら、ペナンIおよびIIおよびIIIと比較して、ペナンIおよびIIIはより低いゲル強度を示し、0.5%NaClの存在ありおよびなしで13.9Paおよび35.8Paにおける降伏強度と、NaClの存在下においてLVE領域の終点におけるより目立たないG”ピークとを有した。これはこれらのポリマーのより弱い相互作用を指示している。個別のポリマーの振幅掃引の分析は、ペナンIおよびII両方が液体様の粘弾性挙動を発揮し、ペナンIIIは純粋に液体の挙動のみを発揮するということを示した。ゲル様のネットワークの形成なしでは、NaClの添加はG’およびG”の減少に至ったが、ペナンIはペナンIIと比較してより高い塩安定性を示した。これはペナンIおよびIIの混合物においてもまた明らかであり、ここでは、NaClの効果はペナンIIよりもペナンIに匹敵する。これらの効果は、ペナンIおよびIIIと比較してペナンIおよびIIおよびIIIの増大したゲル強度を担い得るペナンIおよびIIの間の相互作用を指示している。ペナンIIおよびペナンIII両方はバックボーン上にグルクロン酸を有するので、ペナンIおよびIIIの強い相互作用はペナンIIのものと比較してペナンIIIのグルクロン酸のより良好なアクセス性を指示している。対照的に、ペナンIIおよびペナンIIIの間の相互作用は、これらのポリマーの異なる構造的配置に至り、ペナンIIのグルクロン酸のより良好なアクセス性と、それゆえに、野生型ポリマー混合物中のペナンIおよびIIの間の増大した相互作用とをもたらし得る。
【0066】
ペナンIおよびIIおよびIIIを含有する自然状態の多糖組成物とは対照的に、個別のポリマーの欠失は有意に変調した粘弾性特性に至った。ペナンIおよびIIIの組み合わせはゲル様の性格に至る独特な分子間ネットワークを依然として示したが、個別のバイオポリマーは液体様の挙動を示し、依然として、乾燥によってフィルムを形成した。結果的に、野生型EPS組成物では有意に異なる応用がある。それゆえに、本発明の多糖の1つの応用は、プルランに類似の可食フィルムおよび包装材料の形成である。他方では、本発明の多糖は、薬物の制御されたリリースのための製薬システムにおけるコーティング材料として、高グレードのバイオメディカル応用に使用され得る。ヒアルロン酸およびアルギン酸などの他の荷電多糖では、官能基の化学修飾は特定の細胞型の標的化を改善し、有効な薬物送達システムを可能にした。加えて、他のP.ポリミキサ株によって産生される多糖は、薬理学的応用をさらに改善し得る抗酸化活性を示している。
【0067】
温度掃引は、NaClの添加ありおよびなし両方で、ペナンIおよびIIおよびIIIの粘弾性特性の高い温度依存性を示した(
図10および11)。ペナンIおよびIIIの粘弾性特性はさらに高い温度依存性を示し、これはNaClを添加することによって縮減され得た。全ての3つのペナンバリアントを含有する自然状態の多糖組成物は弱いゲルの性格をNaClの存在下において最高で75℃まで保持したが、ペナンIIの欠失は温度安定性の喪失に至った。これは、ポリマーネットワークの温度安定性に関するペナンIIの安定化効果を示唆する。これはペナンIおよびIIIと比較してペナンIIの高い温度安定性からもまた明らかである。ペナンIIでは、G’およびG”の増大が温度増大の間に観察され、これはNaClの添加によってさらに強まった。この効果は、以前に記載された修飾なしのキサンタンバリアントで観察されたものに類似であり、個別のポリマーの構造的再配置によってもまた説明され得る。しかしながら、これらの効果は他のペナンポリマーとのペナンIIのいずれかの他の組み合わせでは見られず、混合物中の個別のポリマーの異なる配置を示唆した。これは、それらの粘弾性特性の点で、ペナンIおよびIIおよびIIIとペナンIおよびIIIとの間の以前に記載された違いをさらに強調している。
【0068】
【0069】
加えて、チキソトロピー性の特性を3段階の振動剪断応力試験によって決定した(表8)。構造的回復がペナンの全ての組み合わせバリアントで観察されたが、野生型EPS混合物では、初期ゲル強度の86.8%のみが3分の非破壊的な剪断負荷後に測定された。これは、個別のポリマーの間の非共有結合的相互作用を回復および同調するためにより多くの時間を要求する独特な分子間ネットワークを強調している。遅れた構造的回復の類似の効果がペナンIおよびIIIによる多糖組成物で観察され、ゲル様の性格が、ペナンIのピルビン酸およびペナンIIIのグルクロン酸残基の間のカチオンによって媒介される相互作用を主に原因とするという仮説を確認した。対照的に、即座の構造的回復が全ての他のノックアウトバリアントで観察され、これは初期ゲル強度に至った。結果的に、異なるバリアントが、異なるレオロジープロファイルを有する塗料およびコーティングに典型的に使用されるチキソトロピー性の挙動を付与する結合剤として応用可能であり得る。
【0070】
【0071】
グリコシルトランスフェラーゼのCRISPR-Cas9によって媒介されるノックアウトを使用してP.ポリミキサDSM365によって産生されるヘテロ菌体外多糖のレオロジー挙動を特徴評価した。個別のペナンバリアントおよびそれらの組み合わせの粘弾性特性を詳細に分析した。野生型EPS組成物は高い粘度およびゲル様の挙動を示したが、ノックアウトバリアントは存在する個別の多糖に依存して有意に変調した物理化学的特定を示した。結果的に、種々の多糖組成物が増粘剤またはコーティング材料などの広範囲の応用に使用され得る。
【0072】
例5-別個に調製された多糖および/または多糖混合物を混合する
図12に示される通り、ペナン野生型のモノマー組成およびそのレオロジー特性両方が、別個に産生された多糖を混合することによって復元され得た。野生型ポリマー組成物の強いゲル特性はペナンI(PI)のピルビン酸基およびペナンIII(PIII)のGlcAの相互作用に基づく。低粘度の個別のポリマーPIおよびPIIIを1:2の比で混合することによって、欠失バリアントΔpepQTUVの天然に産生されるモノマー組成物が再現され、ゲルを形成するかつ高粘度のポリマー特性が復元され得る(表8をもまた参照)。
【0073】
【0074】
ΔpepIは、その結果としてこの変異を持つ産生生物がもはやペナンIIIを産生し得ず、ペナンIおよびペナンIIのみを産生し得る変異を言う。ペナンIIIとの混合によって、野生型(WT)に類似である混合物が産生され得る。これらの結果は、個別の多糖または多糖混合物、混合比、およびトータルのEPS濃度を選択することによって、所望の粘度範囲が設定され得るということを示している。これはペナン野生型の粘度に対応し得るが、それを下回るかまたは上回りもまたし得る。これは、応用の柔軟性と、よって汎用性とを実証している。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-04-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
産生生物パエニバシラス・ポリミキサによって多糖または多糖混合物を産生するための方法であって、互いに別個の次のステップの少なくとも1つを含む、方法:
(f)多糖ペナンIIも多糖ペナンIIIも産生されないようにして、多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサによる多糖ペナンIの産生;および/または
(g)多糖ペナンIも多糖ペナンIIIも産生されないようにして、多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサによる多糖ペナンIIの産生;および/または
(h)多糖ペナンIも多糖ペナンIIも産生されないようにして、多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサによる多糖ペナンIIIの産生;および/または
(i)多糖ペナンIIIが産生されないようにして、多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサによる多糖ペナンIおよびIIの産生;および/または
(j)多糖ペナンIが産生されないようにして、多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサによる多糖ペナンIIおよびIIIの産生。
【請求項2】
産生された前記多糖または多糖混合物が産生後に精製され、および/または前記産生生物がパエニバシラス・ポリミキサDSM365である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
産生された前記多糖または多糖混合物が混合され、それによって、多糖ペナンIおよびペナンIIの混合物、または多糖ペナンIおよびペナンIIIの混合物、または多糖ペナンIIおよびペナンIIIの混合物、または多糖ペナンI、ペナンII、およびペナンIIIの混合物を含む多糖混合物を得る、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ペナンIおよびペナンIIIが1:2m/vの比で混合される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
多糖ペナンIが産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能がスイッチオフされる前記遺伝子改変は、グリコシルトランスフェラーゼPepDおよび/もしくはPepFならびに/またはウンデカプレニル-グルコース-ホスホトランスフェラーゼPepCの機能を抑制する遺伝子改変から選択され、ならびに/あるいは、多糖ペナンIIが産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能がスイッチオフされる前記遺伝子改変は、グリコシルトランスフェラーゼPepT、PepU、および/もしくはPepVならびに/またはウンデカプレニル-グルコースホスホトランスフェラーゼPepQならびに/またはGDP-L-フコースシンターゼの機能を抑制する遺伝子改変から選択され、ならびに/あるいは、多糖ペナンIIIが産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能がスイッチオフされる前記遺伝子改変は、グリコシルトランスフェラーゼPepI、PepJ、PepK、および/またはPepLの機能を抑制する遺伝子改変から選択される、請求項
1または2に記載の方法。
【請求項6】
多糖ペナンIIも多糖ペナンIIIも産生されないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能がスイッチオフされる前記遺伝子改変は、GDP-L-フコースシンターゼの機能、またはグリコシルトランスフェラーゼPepI、PepT、PepU、およびPepVの機能、またはグリコシルトランスフェラーゼPepK、PepT、PepU、およびPepVの機能、またはグリコシルトランスフェラーゼPepL、PepT、PepU、およびPepVの機能、またはグリコシルトランスフェラーゼPepTおよびPepLの機能をスイッチオフする遺伝子改変から選択される、請求項
1または2に記載の方法。
【請求項7】
多糖ペナンIも多糖ペナンIIIも産生されないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能がスイッチオフされる前記遺伝子改変は、グリコシルトランスフェラーゼPepFおよびPepJの機能またはグリコシルトランスフェラーゼPepDおよびPepJの機能を抑制する遺伝子改変から選択される、請求項
1または2に記載の方法。
【請求項8】
多糖ペナンIも多糖ペナンIIも産生されないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能がスイッチオフされる前記遺伝子改変は、ウンデカプレニル-グルコースホスホトランスフェラーゼPepQおよびグリコシルトランスフェラーゼPepFの機能を抑制する遺伝子改変から選択される、請求項
1または2に記載の方法。
【請求項9】
多糖ペナンIを含むが、多糖ペナンIIも多糖ペナンIIIも含まない組成物、または
多糖ペナンIIを含むが、多糖ペナンIも多糖ペナンIIIも含まない組成物、または
多糖ペナンIIIを含むが、多糖ペナンIも多糖ペナンIIも含まない組成物、または
多糖ペナンIおよび多糖ペナンIIを含むが、多糖ペナンIIIを含まない組成物、または
多糖ペナンIIおよび多糖ペナンIIIを含むが、多糖ペナンIを含まない組成物。
【請求項10】
多糖ペナンIIも多糖ペナンIIIも産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサ、または
多糖ペナンIも多糖ペナンIIIも産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサ、または
多糖ペナンIも多糖ペナンIIも産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサ、または
多糖ペナンIIIが産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサ、または
多糖ペナンIが産生され得ないようにして多糖生合成クラスターの少なくとも1つの酵素機能が遺伝子改変によってスイッチオフされる、産生生物パエニバシラス・ポリミキサ。
【請求項11】
好ましくは食品、製薬、および/または化粧品セクターにおける、レオロジー調整剤(mediator)、結合剤、安定化剤、乳化剤、または凝集剤としての、ペナンI、ペナンII、もしくはペナンIII、またはペナンI、ペナンII、およびペナンIIIのいずれかの組み合わせの混合物を含む、多糖の使用。
【請求項12】
任意にベーカリー製品、スープ、ソース、マヨネーズ、ケチャップ、ジャム、マーマレード、ゼリー、缶詰食品(果物および野菜)、サラダドレッシング、アイスクリーム、牛乳系混合飲料、プリン、ピクルス、肉、およびゼリー、ケチャップ、ジャム、マーマレード、ゼリー、プリザーブ(果物および野菜)、サラダドレッシング、アイスクリーム、混合乳飲料、プリン、酢漬け野菜、缶詰の肉および魚から選択される食品製品の添加剤としての、または任意にシャワージェル、化粧クリームおよびローション、ヘアシャンプー、スキンクリーム、練り歯磨き、保湿剤から選択される化粧製品の添加剤としての、または任意に創傷ドレッシング、放出制御粒子、点眼液、錠剤コーティング、食品サプリメントのカプセルから選択される製薬もしくはメディカル製品の添加剤としての、または手術後の表面接着をサポートするための組織工学における、石油回収のための水攻法における、バイオレメディエーションおよび廃水処理における、重金属結合のための使用のための、硬化の間に粒子を懸濁したままに保つためのセメント添加剤としての、または塗料添加剤としての、請求項11に記載の使用。
【国際調査報告】