(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-10
(54)【発明の名称】高強度プレス硬化鋼部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240903BHJP
C22C 38/34 20060101ALI20240903BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20240903BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20240903BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/34
C21D9/46 G
C21D1/18 C
C21D9/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516424
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(85)【翻訳文提出日】2024-05-09
(86)【国際出願番号】 IB2022058005
(87)【国際公開番号】W WO2023042018
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2021/058358
(32)【優先日】2021-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コボ,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】デュモン,アリス
(72)【発明者】
【氏名】ディエッツチ,パスカル
(72)【発明者】
【氏名】ミショー,ステファニー
【テーマコード(参考)】
4K037
4K042
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA15
4K037EA18
4K037EA19
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4K037EA25
4K037EA27
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4K037EA31
4K037EB05
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4K037FE01
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4K037FE03
4K037FF01
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4K037FG00
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4K037FJ05
4K037FJ06
4K037GA05
4K037JA06
4K042AA25
4K042BA01
4K042BA02
4K042BA06
4K042CA02
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA12
4K042DA01
4K042DA02
4K042DC02
4K042DC03
4K042DD01
(57)【要約】
本発明は、重量パーセントで、C:0.2~0.34%、Mn:0.50~1.24%、Si:0.5~2%、P≦0.020%、S≦0.010%、N≦0.010%を含み、任意選択で以下の元素、Al≦0.2%、Cr≦0.8%、Nb≦0.06%、Ti≦0.06%、B≦0.005%、Mo≦0.35%の1つ以上を含む組成を有し、組成の残余は、鉄及び製錬から生じる不可避的不純物であり、プレス硬化鋼部品を扱う。このプレス硬化部品は、表面分率において、95%以上の焼戻しマルテンサイト、並びに合計が5%以下のベイナイト、オーステナイト及びフェライトを含む微細組織を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス硬化鋼部品であって、重量パーセントで、
C:0.2~0.34%
Mn:0.50~1.24%
Si:0.5~2%
P≦0.020%
S≦0.010%
N≦0.010%
を含み、任意選択で、重量パーセントで、以下の元素
Al≦0.2%
Cr≦0.8%
Nb≦0.06%
Ti≦0.06%
B≦0.005%
Mo≦0.35%
の1つ以上を含む組成を有し、前記組成の残余は、鉄及び製錬から生じる不可避的不純物であり、且つ表面分率において、
- 95%以上の焼戻しマルテンサイト、並びに
- 合計が5%以下のベイナイト、オーステナイト及びフェライト
を含む微細組織を有する鋼で作製されたプレス硬化鋼部品。
【請求項2】
1000MPa以上の引張強さTS、スポット溶接領域における25%以下の一様伸び損失ΔUEl、及び55°以上の曲げ角度を有する、請求項1に記載のプレス硬化鋼部品。
【請求項3】
0.50以上の破壊ひずみを有する、請求項1又は2に記載のプレス硬化鋼部品。
【請求項4】
980MPa以上の降伏強度YSを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のプレス硬化鋼部品。
【請求項5】
プレス硬化鋼部品の製造方法であって、以下の連続ステップ:
- 請求項1に記載の組成を有する鋼板を準備するステップ、
- 前記鋼板を所定の形状に切断して鋼ブランクを得るステップ、
- 前記鋼ブランクを810℃~960℃に含まれる温度T
HFまで加熱し、5秒~1200秒に含まれる保持時間t
HFの間前記T
HF温度で維持し、加熱された鋼ブランクを得るステップ、
- 前記加熱されたブランクを成形プレスに移すステップ、
- 成形プレスにおいて前記加熱されたブランクを熱間成形して鋼部品を得るステップ、
- 200℃以下の温度に達するまで前記鋼部品を型焼き入れするステップ、
- 390℃~510℃に含まれる温度T
tempまで前記鋼部品を再加熱し、1秒~1000秒に含まれる保持時間t
tempの間前記T
temp温度で維持して、焼戻しされた鋼部品を得るステップ、
- 前記焼戻しされた鋼部品を室温まで冷却するステップ
を含む、プレス硬化鋼部品の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のプレス硬化鋼部品の製造方法であって、前記鋼板が、以下の連続ステップ:
- 鋼を鋳造してスラブを得るステップであって、前記鋼が、請求項1に記載の組成を有するステップ、
- 1100℃~1300℃に含まれる温度T
reheatで前記スラブを再加熱するステップ、
- 前記再加熱したスラブを800℃~950℃に含まれる仕上げ熱間圧延温度で熱間圧延して、熱間圧延鋼板を得るステップ、
- 前記熱間圧延鋼板を670℃未満の巻き取り温度T
coilで巻き取り、巻き取られた鋼板を得るステップ、
- 任意選択で、前記巻き取られた鋼板を酸洗するステップ、
- 任意選択で、前記熱間圧延鋼板を500℃~750℃に含まれる温度T
HBAまで加熱し、300秒~50時間に含まれる保持時間t
HBAの間前記T
HBA温度で維持するステップ、
- 前記鋼板を冷間圧延して、冷間圧延鋼板を得るステップ、
- 任意選択で、前記冷間圧延鋼板を650℃~900℃に含まれる焼鈍温度T
Aまで加熱し、10秒~1200秒に含まれる保持時間t
Aの間前記鋼板を前記温度T
Aで維持して焼鈍鋼板を得るステップ、
- 前記鋼板を室温まで冷却するステップ
により製造される、プレス硬化鋼部品の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載のプレス硬化鋼部品の製造方法であって、前記鋼板が以下の連続ステップ:
- 鋼を鋳造してスラブを得るステップであって、前記鋼が、請求項1に記載の組成を有するステップ、
- 1100℃~1300℃に含まれる温度T
reheatで前記スラブを再加熱するステップ、
- 前記再加熱されたスラブを800℃~950℃に含まれる仕上げ熱間圧延温度で熱間圧延して、熱間圧延鋼板を得るステップ、
- 前記熱間圧延鋼板を670℃未満の巻き取り温度T
coilで巻き取り、巻き取られた鋼板を得るステップ、
- 任意選択で、前記巻き取られた鋼板を酸洗するステップ、
- 任意選択で、前記熱間圧延鋼板を500℃~750℃に含まれる温度T
HBAまで加熱し、300秒~50時間に含まれる保持時間t
HBAの間前記T
HBA温度で維持するステップ、
- 前記鋼板を冷間圧延して、冷間圧延鋼板を得るステップ、
- 任意選択で、前記冷間圧延鋼板を500℃~750℃に含まれる焼鈍温度T
Aまで加熱し、300秒~50時間に含まれる保持時間t
Aの間前記鋼板を前記温度T
Aで維持して焼鈍鋼板を得るステップ、
- 前記鋼板を室温まで冷却するステップ
により製造される、プレス硬化鋼部品の製造方法。
【請求項8】
前記焼鈍鋼板が、アルミニウムコーティング若しくはアルミニウム合金コーティング又は亜鉛コーティング若しくは亜鉛合金コーティングでコーティングされる、請求項6に記載のプレス硬化鋼部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲げ性及び溶接性に優れた高強度プレス硬化鋼部品に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度プレス硬化部品は、侵入防止又はエネルギー吸収機能のための自動車の構造要素として使用することができる。
【0003】
このようなタイプの用途では、高い機械的強度、高い耐衝撃性及び良好な耐食性を組み合わせた鋼部品を製造することが望ましい。
【0004】
また、自動車産業における主要な課題の1つは、安全性要件を無視することなく、地球環境保全の観点から燃費を向上させるために車両の重量を減少させることである。
【0005】
この軽量化は、特に、焼戻しマルテンサイト又はベイナイト/マルテンサイト微細組織を有する鋼部品の使用により達成することができる。
【0006】
このようなタイプの部品は溶接することができ、自動車製造業者は、溶接継手が溶接された鋼部品の最も弱い部分を構成するべきではないと規定している。
【0007】
実際、車体の構造部品上にスポット溶接部が存在すると、軟化した熱影響部(HAZ)に歪みが集中するため、衝突中の故障をもたらすおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、上記の課題を解決し、1000MPa以上の引張強さTSを有する高い機械的特性と、スポット溶接領域における25%以下の一様伸び損失ΔUEl及び、55°以上の曲げ角度との組み合わせを有するプレス硬化鋼部品を提供することである。
【0009】
好ましくは、本発明によるプレス硬化鋼部品は、0.50以上の破壊ひずみを有する。
【0010】
好ましくは、本発明によるプレス硬化鋼部品は、980MPa以上の降伏強度YSを有する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、請求項1による鋼部品を提供することによって達成される。鋼部品はまた、請求項2~4のいずれかの特徴を含むことができる。他の目的は、請求項5による方法を提供することによって達成される。他の目的は、請求項6~8のいずれかによる方法を提供することによって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで本発明を、限定を導入することなく、例によって詳細に説明し例示する。
【0013】
これから本発明の鋼の組成を説明し、含有率を重量パーセントで表す。
【0014】
本発明によれば、炭素含有率は、満足できる強度を確保するために0.2%~0.34%である。炭素が0.34%を超えると、鋼板の破壊ひずみ及び曲げ角度が目標値に達しない。また、鋼板の溶接性が低下するおそれがある。炭素含有率が0.2%未満である場合、引張強さ及び降伏強度が目標値に達しない。
【0015】
マンガン含有率は0.50%~1.24%である。1.24%を超える添加では、中心偏析のリスクが増大して、曲げ性を損ない、破壊ひずみが低減する可能性がある。0.50%未満では、鋼板の焼入れ性が低下し、引張強さ及び降伏強度が目標値に達しない。
【0016】
ケイ素含有率は0.5%~2%である。ケイ素は固溶体中での硬化に関与する元素である。ケイ素は、炭化物の形成を制限し、高レベルの引張強さを確保するために添加される。2%を超えると、酸化ケイ素が表面に形成され、鋼の被覆性を損なう。また、鋼板の溶接性が低下するおそれがある。好ましくは、ケイ素含有率は0.5%~1.8%である。より好ましくは、ケイ素含有率は0.6%~1.8%、より好ましくは0.6%~1.6%である。
【0017】
いくつかの元素を任意選択で添加することができる。
【0018】
アルミニウム含有率は、精錬中に液相中の鋼を脱酸するのに非常に有効な元素であるため、任意選択で0.2%まで添加することができる。好ましくは、アルミニウム含有率は0.1%以下である。より好ましくは、アルミニウム含有率は0.06%以下である。
【0019】
任意選択で、クロム含有率は、固溶体中での硬化を改善するために0.8%まで添加することができる。クロム含有率は、加工性の問題及びコストを制限するために0.8%以下である。好ましくは、クロム含有率は0.6%以下である。
【0020】
ニオブ含有率は、旧オーステナイト粒径の微細化のため及び鋼の延性を改善するために、0.06%まで任意選択で添加することができる。0.06%を超える添加では、NbC又はNb(C,N)の炭化物の形成のリスクが高まり、曲げ性を損なう。
【0021】
チタン含有率は、ホウ素をBNの形成から保護するために0.06%まで任意選択で添加することができる。好ましくは、チタン含有率は0.01%より高い。
【0022】
ホウ素含有率は、任意選択で0.005%まで添加することができる。ホウ素は鋼の焼入れ性を向上させる。ホウ素含有率は、連続鋳造中にスラブを破壊するおそれを回避するために0.005%以下である。
【0023】
モリブデンは、0.35%まで任意選択で添加することができる。ホウ素と同様に、モリブデンは鋼の焼入れ性を向上させる。コストを制限するために、モリブデンは0.35%以下である。
【0024】
鋼の組成の残りは、鉄及び製錬から生じる不純物である。この点において、P、S及びNは、少なくとも不可避的不純物である残留元素と考えられる。これらの含有率は、Pについては0.020%以下、Sについては0.010%以下、Nについては0.010%以下である。
【0025】
次に、本発明によるプレス硬化鋼部品の微細組織を説明する。
【0026】
プレス硬化鋼部品は、表面分率で95%以上の焼戻しマルテンサイトを含む微細組織を有する。この焼戻しマルテンサイトは、鋼部品を390℃~510℃に含まれる温度Ttempまで1秒~1000秒に含まれる保持時間ttempで加熱する間に形成される。
【0027】
いくらかのベイナイト、フェライト、及びオーステナイトが、任意選択で存在し得、それらの合計は、表面分率において、5%以下である。
【0028】
好ましくは、プレス硬化鋼部品の微細組織は、焼戻しマルテンサイトから100%作製される。
【0029】
本発明によるプレス硬化鋼部品は、任意の適切な製造方法によって製造することができ、当業者はその方法を規定することができる。しかし、以下のステップを含む本発明による方法を使用することが好ましい。
【0030】
本発明による組成を有する鋼板を準備し、所定の形状に切断して、鋼ブランクを得る。
【0031】
鋼ブランクは、810℃~960℃、好ましくは850℃~950℃、より好ましくは880℃~950℃に含まれる温度THFまで加熱され、完全オーステナイト微細組織を有する加熱された鋼ブランクを得るために、5秒~1200秒に含まれる保持時間tHFの間、前記THF温度に維持される。加熱された鋼ブランクは、鋼部品を得るために、成形プレス及び熱間成形に移される。
【0032】
次いで、鋼部品は、200℃以下の温度に達するまで型焼き入れされる。
【0033】
鋼部品は、390℃~510℃に含まれる温度Ttempに再加熱され、1秒~1000秒に含まれる保持時間ttempの間、前記温度Ttempで維持して、焼戻しされた鋼部品を得、全ての鋼部品上の温度均質性を確保する。
【0034】
510℃を超えると、鋼部品の引張強さが低下する。390℃未満では、スポット溶接領域における一様伸び損失ΔUElは25%を超える。次いで、焼戻しされた鋼部品を室温まで冷却する。
【0035】
各焼戻し製品について、HAZ感受性は、溶接なしの基準と比較して、溶接ありのJIS引張試験片の一様伸び損失によって評価される。一様伸び損失ΔUElは、以下のように計算される。
【0036】
鋼の一様伸びUElは、引張試験片に対してJIS規格 Z2241に従って測定される。試験片の変形領域を中心として、引張試験片に溶接スポットを行う。この溶接された引張試験片の一様伸びUElwを、JIS規格 Z2241に従って測定される。
【0037】
一様伸び損失ΔUElは次式で求められる。
ΔUEl=[(UEl-UElw)/UEl]*100
【0038】
本発明の第1の好ましい実施形態では、鋼部品を製造するために準備される鋼板は、以下の連続工程によって製造される。
【0039】
上記の組成を有する鋼スラブを鋳造し、1100℃~1300℃に含まれる温度Treheatに再加熱した後、800℃~950℃に含まれる仕上げ熱間圧延温度で熱間圧延して熱間圧延鋼板を得る。
【0040】
次いで、熱間圧延鋼板を、670℃よりも低い温度Tcoilで巻き取る。
【0041】
熱間圧延鋼板は酸化を除去するために任意選択で酸洗することができる。
【0042】
熱間圧延鋼板は、任意選択で500℃~750℃に含まれる温度THBAまで加熱され、300秒~50時間に含まれる保持時間tHBAの間、前記THBA温度に維持され得る。
【0043】
次いで、鋼板を冷間圧延して冷間圧延鋼板を得る。冷間圧延圧下率は、20%~80%に含まれることが好ましい。20%未満では、その後の熱処理の際の再結晶が好ましくないため、鋼板の延性が損なわれるおそれがある。80%を超えると、冷間圧延中にエッジ割れのおそれがある。
【0044】
冷間圧延鋼板を、任意選択で、650℃~900℃に含まれる焼鈍温度TAまで焼鈍し、10秒~1200秒に含まれる保持時間tAの間前記温度TAに維持して、焼鈍鋼板を得、これにより引張強さが低減されて鋼の切断が容易になる。最後に鋼板を室温まで冷却する。
【0045】
好ましくは、前記焼鈍鋼板は、室温まで冷却される前に、アルミニウムコーティング若しくはアルミニウム合金コーティング又は亜鉛コーティング若しくは亜鉛合金コーティングでコーティングされる。
【0046】
本発明の第2の実施形態では、鋼部品を製造するために準備される鋼板は、以下の連続工程によって製造される。
【0047】
本発明による組成を有する鋼スラブを鋳造し、1100℃~1300℃に含まれる温度Treheatまで再加熱した後、800℃~950℃に含まれる仕上げ熱間圧延温度で熱間圧延して熱間圧延鋼板を得る。
【0048】
次いで、熱間圧延鋼板を、670℃よりも低い温度Tcoilで巻き取る。
【0049】
熱間圧延鋼板を任意選択で酸洗して、酸化を除去することができる。熱間圧延鋼板を、任意選択で500℃~750℃の温度THBAまで加熱し、300秒~50時間の保持時間tHBAの間前記THBA温度に維持し得る。
【0050】
その後、冷間圧延して冷間圧延鋼板を得る。冷間圧延圧下率は、20%~80%であることが好ましい。20%未満では、その後の熱処理の際の再結晶が好ましくないため、鋼板の延性が損なわれるおそれがある。80%を超えると、冷間圧延中にエッジ割れのおそれがある。
【0051】
冷間圧延鋼板を、任意選択で500℃~750℃に含まれる焼鈍温度TAまで焼鈍し、300秒~50時間に含まれる保持時間tAの間前記温度TAに維持して、焼鈍鋼板を得、これにより引張強さが低減されて鋼の切断が容易になる。最後に鋼板を室温まで冷却する。
【0052】
本発明によるプレス硬化鋼部品は、1000MPa以上の引張強さTS、スポット溶接領域における25%以下の一様伸び損失ΔUEl、及び55°以上の曲げ角度を有する。
【0053】
本発明の好ましい実施形態では、プレス硬化鋼部品は、980MPa以上の降伏強度YSを有する。
【0054】
別の好ましい実施形態では、本発明によるプレス硬化鋼部品は、0.50以上の破壊ひずみを有する。
【0055】
本発明を以下の実施例によって説明するが、これらは決して限定的なものではない。
【実施例】
【0056】
表1に組成をまとめた8グレードを半製品に鋳造し、表2にまとめたプロセスパラメータに従って鋼板、次いで鋼部品に加工した。
【0057】
<表1 組成>
試験した組成を以下の表にまとめ、元素含有率を重量パーセントで表す。
【0058】
【0059】
<表2 プロセスパラメータ>
鋳造された鋼半製品を1250℃で再加熱し、800~950℃に含まれる仕上げ熱間圧延温度で熱間圧延し、580℃で巻き取り、58%の圧下率で冷間圧延した。次いで、鋼板を790℃の温度TAまで加熱し、180秒の保持時間tAの間前記温度TAに維持する。
【0060】
この鋼板を所定の形状に切断して鋼ブランクを得た。次いで、鋼ブランクを温度THFまで120秒の保持時間tHFで加熱した後、成形プレスに移した。加熱したブランクを成形プレスで熱間成形して鋼部品を得てから、80℃の温度に達するまで型焼き入れした。
【0061】
次いで、鋼部品を390℃~510℃の温度Ttempまで再加熱し、1秒~1000秒の保持時間ttempの間前記Ttemp温度に維持し、室温まで冷却した。
【0062】
【0063】
鋼部品を分析し、対応する微細組織及び特性を、それぞれ表3及び表4にまとめる。
【0064】
【0065】
表面分率を、以下の方法によって決定する。試験片をプレス硬化鋼部品から切断し、研磨し、それ自体既知の試薬、例えばNital試薬でエッチングして、微細組織を明らかにする。その後、光学又は走査型電子顕微鏡によって、例えば、電子後方散乱回折(EBSD)装置に結合された、5000倍を超える倍率の電界放出銃(「FEG-SEM」)を有する走査型電子顕微鏡を用いて、切片を検査する。焼戻しマルテンサイトは、マルテンサイトと比較して転位密度が低いため、マルテンサイトから区別することができる。
【0066】
<表4 鋼部品の特性>
TS及びYSを、ISO規格ISO6892-1に従って測定する。
【0067】
曲げ角度は、方法VDA238-100曲げ規格(1.5mmの厚さに正規化する)に従って、プレス硬化部品について決定した。
【0068】
破壊ひずみという用語は、Metallurgical Research Technology 114巻、6号、2017中の「Methodology to assess fracture during crash simulation: fracture strain criteria and their calibration」のPascal Dietschらによって定義された破壊ひずみ基準を指す。破壊ひずみは、臨界曲げ角に達したときの変形点における材料内の等価ひずみである。破壊ひずみ値は、車両衝突の観点から最も厳しい条件である平面ひずみ条件で決定されており、有限要素解析により得られる。
【0069】
【0070】
<表5 プレス硬化鋼部品のスポット溶接特性>
試験片の変形領域を中心として、引張試験片に溶接スポットを行う。抵抗スポット溶接部の対応する一様伸び損失ΔUElを表5にまとめる。
【0071】
【0072】
使用されるそれらの特定の組成及びプロセスパラメータの結果、本発明による実施例、すなわち実施例1~7は、1000MPaより高いTS、55°以上の曲げ角度、及び25%未満の一様伸び損失を有する高い機械的特性の組み合わせを示す唯一のものである。また、実施例1~7は、0.50より高い破壊ひずみを有する。
【0073】
試行8及び9の鋼部品に適用される焼戻し温度は、25%より高い一様伸び損失によって示されるように、一様伸びに対するHAZ軟化の有害な影響を制限するには低すぎる。
【0074】
また、同じ鋼組成を有する試行2と比較して、試行8の低い焼戻し温度は、試行2よりも高い一様伸び損失及び低い破壊ひずみ値をもたらす。
【0075】
試行10の鋼部品では焼戻しが行われず、これは25%より高い一様伸び損失を意味する。
【0076】
試行11では、鋼部品の炭素含有率は、目標破壊ひずみ及び曲げ性値を達成するには高すぎる。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス硬化鋼部品であって、重量パーセントで、
C:0.2~0.34%
Mn:0.50~1.24%
Si:0.5~2%
P≦0.020%
S≦0.010%
N≦0.010%
を含み、任意選択で、重量パーセントで、以下の元素
Al≦0.2%
Cr≦0.8%
Nb≦0.06%
Ti≦0.06%
B≦0.005%
Mo≦0.35%
の1つ以上を含む組成を有し、前記組成の残余は、鉄及び製錬から生じる不可避的不純物であり、且つ表面分率において、
- 95%以上の焼戻しマルテンサイト、並びに
- 合計が5%以下のベイナイト、オーステナイト及びフェライト
を含む微細組織を有する鋼で作製されたプレス硬化鋼部品。
【請求項2】
1000MPa以上の引張強さTS、スポット溶接領域における25%以下の一様伸び損失ΔUEl、及び55°以上の曲げ角度を有する、請求項1に記載のプレス硬化鋼部品。
【請求項3】
0.50以上の破壊ひずみを有する、請求項1又は2に記載のプレス硬化鋼部品。
【請求項4】
980MPa以上の降伏強度YSを有する、請求項1
又は2に記載のプレス硬化鋼部品。
【請求項5】
プレス硬化鋼部品の製造方法であって、以下の連続ステップ:
- 請求項1に記載の組成を有する鋼板を準備するステップ、
- 前記鋼板を所定の形状に切断して鋼ブランクを得るステップ、
- 前記鋼ブランクを810℃~960℃に含まれる温度T
HFまで加熱し、5秒~1200秒に含まれる保持時間t
HFの間前記T
HF温度で維持し、加熱された鋼ブランクを得るステップ、
- 前記加熱されたブランクを成形プレスに移すステップ、
- 成形プレスにおいて前記加熱されたブランクを熱間成形して鋼部品を得るステップ、
- 200℃以下の温度に達するまで前記鋼部品を型焼き入れするステップ、
- 390℃~510℃に含まれる温度T
tempまで前記鋼部品を再加熱し、1秒~1000秒に含まれる保持時間t
tempの間前記T
temp温度で維持して、焼戻しされた鋼部品を得るステップ、
- 前記焼戻しされた鋼部品を室温まで冷却するステップ
を含む、プレス硬化鋼部品の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のプレス硬化鋼部品の製造方法であって、前記鋼板が、以下の連続ステップ:
- 鋼を鋳造してスラブを得るステップであって、前記鋼が、請求項1に記載の組成を有するステップ、
- 1100℃~1300℃に含まれる温度T
reheatで前記スラブを再加熱するステップ、
- 前記再加熱したスラブを800℃~950℃に含まれる仕上げ熱間圧延温度で熱間圧延して、熱間圧延鋼板を得るステップ、
- 前記熱間圧延鋼板を670℃未満の巻き取り温度T
coilで巻き取り、巻き取られた鋼板を得るステップ、
- 任意選択で、前記巻き取られた鋼板を酸洗するステップ、
- 任意選択で、前記熱間圧延鋼板を500℃~750℃に含まれる温度T
HBAまで加熱し、300秒~50時間に含まれる保持時間t
HBAの間前記T
HBA温度で維持するステップ、
- 前記鋼板を冷間圧延して、冷間圧延鋼板を得るステップ、
- 任意選択で、前記冷間圧延鋼板を650℃~900℃に含まれる焼鈍温度T
Aまで加熱し、10秒~1200秒に含まれる保持時間t
Aの間前記鋼板を前記温度T
Aで維持して焼鈍鋼板を得るステップ、
- 前記鋼板を室温まで冷却するステップ
により製造される、プレス硬化鋼部品の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載のプレス硬化鋼部品の製造方法であって、前記鋼板が以下の連続ステップ:
- 鋼を鋳造してスラブを得るステップであって、前記鋼が、請求項1に記載の組成を有するステップ、
- 1100℃~1300℃に含まれる温度T
reheatで前記スラブを再加熱するステップ、
- 前記再加熱されたスラブを800℃~950℃に含まれる仕上げ熱間圧延温度で熱間圧延して、熱間圧延鋼板を得るステップ、
- 前記熱間圧延鋼板を670℃未満の巻き取り温度T
coilで巻き取り、巻き取られた鋼板を得るステップ、
- 任意選択で、前記巻き取られた鋼板を酸洗するステップ、
- 任意選択で、前記熱間圧延鋼板を500℃~750℃に含まれる温度T
HBAまで加熱し、300秒~50時間に含まれる保持時間t
HBAの間前記T
HBA温度で維持するステップ、
- 前記鋼板を冷間圧延して、冷間圧延鋼板を得るステップ、
- 任意選択で、前記冷間圧延鋼板を500℃~750℃に含まれる焼鈍温度T
Aまで加熱し、300秒~50時間に含まれる保持時間t
Aの間前記鋼板を前記温度T
Aで維持して焼鈍鋼板を得るステップ、
- 前記鋼板を室温まで冷却するステップ
により製造される、プレス硬化鋼部品の製造方法。
【請求項8】
前記焼鈍鋼板が、アルミニウムコーティング若しくはアルミニウム合金コーティング又は亜鉛コーティング若しくは亜鉛合金コーティングでコーティングされる、請求項6に記載のプレス硬化鋼部品の製造方法。
【国際調査報告】