(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-10
(54)【発明の名称】レーザー前処理を含む、丸い形状の基材の表面にクロム層を堆積させる方法
(51)【国際特許分類】
C23F 4/00 20060101AFI20240903BHJP
C25D 5/26 20060101ALI20240903BHJP
C25D 5/36 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C23F4/00 A
C25D5/26 D
C25D5/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516941
(86)(22)【出願日】2022-09-16
(85)【翻訳文提出日】2024-05-14
(86)【国際出願番号】 EP2022075780
(87)【国際公開番号】W WO2023041711
(87)【国際公開日】2023-03-23
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511188635
【氏名又は名称】アトテック ドイチェランド ゲーエムベーハー ウント コ カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】トーステン・ロス
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・ノーシントン
【テーマコード(参考)】
4K024
4K057
【Fターム(参考)】
4K024AA02
4K024CA01
4K024CA04
4K024CA06
4K024DA05
4K024DB01
4K024GA04
4K057DA01
4K057DA18
4K057DB02
4K057DD06
(57)【要約】
本発明は、表面にクロム層を堆積させる方法に関する。本発明は、特に丸い形状の基材の表面にクロム層を堆積させる方法であって、物質が基材から除去されるようにレーザーを用いて前処理する工程を含む方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸い形状の基材の表面にクロム層を堆積させる方法であって、
(a)前記表面を有する基材を用意する工程であり、基材が75mm未満の直径を有する鉄を含む基材である、工程、
(b)前処理表面を結果として生じるように前記基材を前処理する工程、
(c)(i)クロム種、を含むめっき組成物を用意する工程、
(d)少なくとも1つの陽極を用意する工程、
(e)前記前処理表面を含む前記基材をめっき組成物と接触させ、前記クロム層が前記前処理表面上に電気分解によって堆積されるように前記基材及び前記少なくとも1つの陽極に電流を印加する工程を含み、
工程(b)において、前記前処理は
(b-1)物質が前記基材から除去されるようにレーザーを用いて前記基材の表面をレーザー処理する工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記基材が鋼鉄基材である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基材が、丸いスティック、好ましくはピストンロッド、最も好ましくは緩衝器用のピストンロッドである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(b-1)における前記レーザー処理がレーザー研磨である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記物質のすべて又は少なくとも一部が昇華によって前記基材から除去される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(b-1)における前記レーザー処理が、パルスレーザービームをもたらすレーザーを用いたパルスレーザー処理を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記パルスレーザービームが、1mJ~100mJ、好ましくは5mJ~80mJ、より好ましくは10mJ~60mJ、更により好ましくは15mJ~45mJ、最も好ましくは21mJ~36mJの範囲のパルスエネルギーを有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記パルスレーザービームが、10kHz~150kHz、好ましくは15kHz~100kHz、より好ましくは20kHz~75kHz、最も好ましくは25kHz~50kHzの範囲の反復速度を有する、請求項6又は7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
(b-1)における前記レーザーが、900nm~1200nm、好ましくは925nm~1150nm、より好ましくは950nm~1100nm、更により好ましくは975nm~1075nm、最も好ましくは1000nm~1050nmの範囲の波長を用いて操作される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
(b-1)における前記レーザーが、50cm
2/秒~250cm
2/秒、好ましくは60cm
2/秒~200cm
2/秒、より好ましくは70cm
2/秒~150cm
2/秒、最も好ましくは80cm
2/秒~130cm
2/秒の範囲の面積処理速度を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
(b-1)における前記レーザーが、500W~4000W、好ましくは750W~3500W、より好ましくは900W~3000W、最も好ましくは1000W~2500Wの範囲の平均エネルギー出力を有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
(b-1)における前記レーザーが、2mm以下、好ましくは1.5mm以下、更により好ましくは1mm以下のビーム直径を有するレーザービームを用いて作動する、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程(b-1)の後に前記レーザーを用いて処理された前記基材の表面が、レーザー処理表面に基づいて工程(b-1)の前よりも小さな総表面積を有する、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程(c)において、前記めっき組成物が六価クロムめっき組成物であり、前記クロム種(i)が六価クロム種、好ましくはクロム酸及び/又は三酸化クロムを含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
工程(c)において、前記めっき組成物が三価クロムめっき組成物であり、前記クロム種(i)が三価クロムイオンを含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面にクロム層を堆積させる方法に関する。本発明は、特に丸い形状の基材の表面にクロム層を堆積させる方法であって、物質が基材から除去されるようにレーザーを用いて前処理する工程を含む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロムめっきは、装飾的及び機能的用途の遠大な歴史を有する。六価クロムめっきから始まるものの、環境上問題のある六価クロム種を置き換えるために最近の数十年間の間に三価クロムめっきの開発が開始されてきた。
【0003】
許容できるめっきの結果を達成するために、それぞれの基材の表面は、典型的に、機械式摩砕によって滑らかにされる。
【0004】
クロムめっきの前に、典型的に、脱脂及びエッチング等の幾つかの更なる前処理工程が行われる。
【0005】
脱脂工程は、グリース、オイル、及び更に輸送に加えて製作/摩砕プロセス及び後続の保存により基材に残る疎水性の残渣を主として除去する。
【0006】
エッチング工程は、グリース及びオイルの残存物を除去するが、しかし、主として酸化物を除去し、後続工程のための基材表面の活性化として役立つ。エッチング工程において、鉄含有物質は鉄の基材から除去され、それぞれのエッチング組成物中に経時的に蓄積することは周知である。より劇的には、この蓄積された鉄は、特に六価クロムめっき組成物が利用される場合、クロムめっき組成物に絶えず持ち込まれる。この持ち込みは、最終的に汚染されためっき組成物をもたらし、この組成物は置き換えられるか又は少なくとも再生されるかのどちらかを必要とする。これはすべて、有効なめっき時間の望まれない損失を意味する。
【0007】
更に、前処理工程は時間及びエネルギー浪費的である。
【0008】
更に、クロムめっきは、できるだけ良好な耐食性を達成することが望まれる。耐食性に関する改善は当技術分野において公知である。例えば、中国特許出願公開第102703899A号は、レーザークラッディング及び後続のクロム堆積を含む円柱用の表面処理法に関する。
【0009】
中国特許出願公開第101862940B号は、車両用緩衝器の耐食性ピストンロッドの製作法に関する。その方法は摩砕及び超摩砕を含む。
【0010】
Obeidi等、「Laser polishing of additive manufactured 316L stainless steel synthesized by selective laser melting」、Materials (2019年)は、付加製造法による金属基材のレーザー研磨に関する。
【0011】
Temmler等、「Influence of pulse duration and pulse frequency on micro-roughness for laser micro polishing (LμP) of stainless steel AISI 410」、 Applied Surface Science (2020年)は、とりわけAISI 410ステンレス鋼用のレーザー研磨に関する。
【0012】
中国特許出願公開第109296588B号は、レーザークラッド層を含むピストンロッド及び油圧シリンダーに関する。
【0013】
Pekkarinen等、「Powdercloud behavior in lasercladding using scanning optics」は、レーザークラッディング法に関し、光学系の走査による粉末供給を更に調査している。
【0014】
前述の工程及び目標はすべて、その改善法を見いだすために絶えず見直しがなされているが、それは、特にそのような物品の使用寿命の拡大をもたらし、修理及び置き換えの必要性を低減するめっき基材の耐食性を増加させる絶えざる要求があるからである。その結果、資源及び環境への負担は減少する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】中国特許出願公開第102703899A号
【特許文献2】中国特許出願公開第101862940B号
【特許文献3】中国特許出願公開第109296588B号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Obeidi等、「Laser polishing of additive manufactured 316L stainless steel synthesized by selective laser melting」、 Materials (2019年)
【非特許文献2】Temmler等「Influence of pulse duration and pulse frequency on micro-roughness for laser micro polishing (LμP) of stainless steel AISI 410」、 Applied Surface Science (2020年)
【非特許文献3】Pekkarinen等、「Powder cloud behavior in laser cladding using scanning optics」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
(A)耐食性の増加が達成され、(B)製造時間の短縮と(C)必要なエネルギーの削減とが必要とされるように、丸い形状の基材の表面にクロム層を堆積させる方法を提供することが本発明の目的である。
【0018】
更に、六価クロムめっき組成物が利用される場合、更にそれぞれのめっき組成物の汚染を低減するそれぞれの方法を提供することが所望される。
【課題を解決するための手段】
【0019】
これらの目的は、本発明の方法によって、特に丸い形状の基材の表面にクロム層を堆積させる方法であって、
(a)前記表面を有する基材を用意する工程であり、基材が75mm未満の直径を有する鉄を含む基材である、工程、
(b)前処理表面を結果として生じるように前記基材を前処理する工程、
(c)(i)クロム種、を含むめっき組成物を用意する工程、
(d)少なくとも1つの陽極を用意する工程、
(e)前記前処理表面を含む前記基材をめっき組成物と接触させ、前記クロム層が前記前処理表面上に電気分解によって堆積されるように前記基材及び前記少なくとも1つの陽極に電流を印加する工程を含み、
工程(b)において、前記前処理は
(b-1)物質が前記基材から除去されるようにレーザーを用いて前記基材の表面をレーザー処理する工程、
を含む方法によって解決される。
【0020】
独自の実験によると、上において定義された前処理は、方法が実行される間の著しい改善をもたらすだけでなく、その上、それぞれ処理済み基材の耐食性を抜本的に改善することを示した(以下の実施例参照)。上において定義されたような前処理はクロム堆積前に表面品質を著しく改善することが示された(より詳しくは以下の実施例)。本発明の文脈においては、用語「前処理すること」及び「前処理」は同一の意味を有する。
【0021】
電気分解によってクロム層をその上に堆積させた基材が、ISO 9227に準拠して少なくとも684時間、好ましくは少なくとも840時間、最も好ましくは少なくとも1000時間の中性塩水噴霧試験(NSS)に合格する、本発明の方法が好ましい。
【0022】
更に、本発明の方法は、エネルギー消費の低減と合わせて、めっき前に典型的なエッチング時間を著しく短縮する。これは、好ましくは、高エネルギーレーザーが工程(b-1)でレーザー処理に利用されるが、エネルギー消費全体の削減をもたらす。これは、以下の実施例で詳細に確認される。
【0023】
更に、六価クロムめっき組成物が本発明の方法において利用される場合、特に鉄含有物質/鉄イオンを含む、著しく低減された汚染が観察される(やはり、以下の実施例を参照)。これは、それぞれのめっき組成物の使用寿命を著しく拡大する。
【0024】
全体として、本発明の方法は価値のある資源を大幅に節約し、環境上の負荷を低減する。
【0025】
本発明の文脈において、用語「クロム層」はまた「クロム合金層」を含む。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の方法は、最も好ましくは、高耐摩耗性を有する機能的クロム層としても公知である硬質クロム層を堆積させるためである。したがって、本発明の方法は好ましくは装飾の用途のためではない。しかしながら、本発明の方法を装飾の用途に適用することができることは明示的には排除されない。
【0027】
本発明の方法の工程(a)において、鉄を含む基材である、表面を有する基材が用意される。したがって、基材は金属である。基材が鋼鉄基材である、本発明の方法が好ましい。
【0028】
上において定義されたように、基材は丸い形状であり、すなわち、円形、又は少なくとも円形状の形状を有する。これは、好ましくは円柱形状、最も好ましくは直径及び長さによって定義される円柱形状を意味し、直径は好ましくは全体長さにわたって一定である。そのような形状を有する基材は、それぞれのレーザーユニットで比較的容易に処理され得る。好ましくは、基材を回転させることによって、レーザーは、迅速で信頼できる方式で基材表面をカバーでき、これは、そのような形状を有しない基材においてはより複雑化し、特に時間浪費的である。基材が丸いスティック(stock)、好ましくはピストンロッド、最も好ましくは緩衝器用ピストンロッドである、本発明の方法が好ましい。本発明の文脈において、用語「丸いスティック」は、用語「丸い棒」、「丸いスティック棒」、「ロッド」、及び円柱と同一であると理解される。これはまた、丸い形状の基材は、好ましくは丸い棒、丸いスティック棒、ロッド及び円柱からなる群から選択される本発明の方法が好ましいことを含む。したがって、丸い形状の基材が、前記基材の軸中心に向かって一貫した半径を有する、本発明の方法が好ましい。更に、工程(b-1)中に基材が回転される、本発明の方法が好ましい。
【0029】
一部の事例において、丸い形状の基材が硬化基材、好ましくは誘導硬化基材である、本発明の方法が好ましい。
【0030】
一部の事例において、丸い形状の基材が、鋼鉄基材であり、オーステナイト系ステンレス鋼基材ではなく、好ましくは鋼鉄基材でありステンレス鋼基材ではない、本発明の方法が好ましい。
【0031】
基材(好ましくは、好ましいと上において定義されたような)は2.5m以下、好ましくは2m以下、より好ましくは1.5m以下、更により好ましくは1m以下、最も好ましくは0.8m以下の合計長さを有する、本発明の方法が好ましい。合計長さは、0ではなく、むしろ0より大きく、好ましくは0.1m以上、より好ましくは0.2m以上、最も好ましくは0.3m以上である。
【0032】
基材(好ましくは好ましいと上記において定義されたように)は、70mm以下、好ましくは60mm以下、より好ましくは50mm以下、更により好ましくは45mm以下、なお更により好ましくは40mm以下、最も好ましくは35mm以下、なお最も好ましくは30mm以下の直径を有する、本発明の方法が好ましい。直径は、0ではなく、むしろ0より大きく、好ましくは5mm以上、より好ましくは8mm以上、最も好ましくは13mm以上である。
【0033】
本発明の方法の工程(b)において、基材は、前処理表面を結果として生じるように前処理され、ここで前処理は、物質が基材から除去されるようにレーザーを用いて基材の表面をレーザー処理する少なくとも工程(b-1)を含む。レーザーは好ましくはレーザービームを与える。工程(b-1)は、本発明の文脈において必須であり、最も重要な前処理工程である。その結果、レーザー処理表面(すなわち前処理表面)を結果として生じる。しかしながら、工程(b-1)の前又は(b-1)の後(しかし工程(e)の前)に更なる前処理工程は排除されない。本発明の文脈において、「前処理表面」は、最も好ましくは、工程(e)の前に適用されるすべての前処理工程を含む。
【0034】
工程(b-1)は除去工程、すなわち引き去る工程である。このことはまた、工程(b-1)が加成的工程ではない、すなわち、レーザー処理によって物質、特に追加の層が堆積されない(すなわち、レーザー堆積はない)本発明の方法が好ましいことを意味する。非常に好ましくは、工程(b-1)におけるレーザー処理は、レーザークラッディングを含まない。レーザークラッディングと比較して、本発明によるレーザー処理は、それぞれの追加の物質及び新しい物質が、それぞれ堆積され、組み込まれる必要がないので、それほど複雑化せず時間がかからない。対照的に、除去された物質を結果として生じるような物質の除去が所望される。
【0035】
工程(b-1)において、物質は、基材が基材物質自体に加えて構成されている物質の酸化物を含むと仮定される(理論に束縛されることは望まないが)。更に、表面から放出された伝導性及び/又は非伝導性の粒子/不純物(例えば、表面に吸着され、又は包含物/カプセル中に含有された;また時には「ノジュールスポット」とも命名される)は、除去された物質中に含有されていると仮定される。したがって、「ノジュールスポット」は、表面の不規則性、例えば、吸着及び/又はカプセル化された非伝導性若しくは伝導性の粒子/不純物を示す。それらは製作及び/又は機械式摩砕プロセスの結果であると仮定される。更に、そのような不規則性は、それらが表面に露出した場合、引き続いて堆積されるクロム層中の欠陥としての開始点になると考えられる。独自の実験により、共通のエッチング工程において、そのような不規則性は除去されないか、又は、除去された場合も、少なくとも平坦でない表面不規則性を後に残すかのどちらかであることが示された。
【0036】
(b-1)におけるレーザー処理がレーザー研磨である、本発明の方法が好ましい。本発明の文脈において、「研磨」は、前記ノジュールスポットの除去だけでなく、最も好ましくは典型的なブラシ及びブラシ模様の除去を含む。それらは機械式に摩砕され研磨された基材に典型的であり、理論的な幾何学的表面積(RSAIとも呼ばれる)に対して通常、実際の表面積の増加をもたらす。本発明の方法によって、そのようなブラシ及びブラシ模様は大幅に除去され、その結果、非常に均質な表面が得られる。その結果として、実際の表面積は、理論的な幾何学的表面積(以下の実施例参照)にずっと近くなる。
【0037】
本発明の文脈においては、除去、好ましくは工程(b-1)について定義される研磨は、溶融、好ましくは除去された物質の少なくとも一部の融合を含む。しかし、新しい又は追加の物質は好ましくは堆積されず又は組み込まれない。
【0038】
工程(b-1)において利用されるレーザーは、好ましくは高エネルギーレーザーである。物質のすべて又は少なくとも一部が昇華によって基材から除去される、本発明の方法が好ましい。エネルギーが十分に高いなら、物質は即座に気体状態に転換される。基材がごくわずかに加熱されるだけなので、これは有益である。更に、バリは形成されず、非常に望ましい平滑性及び均質表面に貢献する。
【0039】
(b-1)におけるレーザー処理は、パルスレーザービームをもたらすレーザーを用いたパルスレーザー処理を含む、本発明の方法が好ましい。パルスレーザービームは、基材の不必要な加熱を回避する十分に短時間で、除去される物質を昇華させるのに十分なエネルギーを与える。
【0040】
レーザービームは、1mJ~200mJ、好ましくは5mJ~150mJ、より好ましくは10mJ~100mJ、更により好ましくは15mJ~50mJ、最も好ましくは21mJ~36mJの範囲のビームエネルギーを有する、本発明の方法が好ましい。
【0041】
パルスレーザービームが、1mJ~100mJ、好ましくは5mJ~80mJ、より好ましくは10mJ~60mJ、更により好ましくは15mJ~45mJ、最も好ましくは21mJ~36mJの範囲のパルスエネルギーを有する本発明の方法がより好ましい。
【0042】
パルスレーザービームは、10kHz~150kHz、好ましくは15kHz~100kHz、より好ましくは20kHz~75kHz、最も好ましくは25kHz~50kHzの範囲の反復速度を有する、本発明の方法が好ましい。
【0043】
(b-1)におけるレーザーは、900nm~1200nm、好ましくは925nm~1150nm、より好ましくは950nm~1100nm、更により好ましくは975nm~1075nm、最も好ましくは1000nm~1050nmの範囲の波長を用いて操作される、本発明の方法が好ましい。
【0044】
本発明の文脈においては、工程(b-1)は可能な限り迅速に行われることが非常に望ましい。従来のクロムめっきと(特に六価クロムめっき組成物と)比較して、レーザー処理なしの基材の前処理はしばしばかなりの持続時間を必要とする。しかしながら、レーザー処理が非常に短い方法で実行される場合、印象的、全体的な時間節約を達成することができる。工程(b-1)は0.5秒~60秒、好ましくは0.8秒~50秒、より好ましくは1秒~40秒、更により好ましくは1.3秒~30秒、更により好ましくは1.6秒~20秒、最も好ましくは1.9秒~10秒、更に最も好ましくは2.1秒~5秒実行される、本発明の方法が好ましい。非常に好ましい範囲は1秒~5秒である。この持続時間を可能な限り短く維持するために、パルスレーザービームを含む、更に複数のレーザー、レーザービームがそれぞれ、好ましくは利用される。2つのレーザー、好ましくは2つのパルスレーザービームを含むそれぞれ2つのレーザービームが最も好ましい。
【0045】
好ましくは、可能な限り多くの表面が優れた効率を達成するために最小時間内にカバーされる。(b-1)におけるレーザーは、50cm2/秒~250cm2/秒、好ましくは60cm2/秒~200cm2/秒、より好ましくは70cm2/秒~150cm2/秒、最も好ましくは80cm2/秒~130cm2/秒の範囲の面積処理速度を有する、本発明の方法が好ましい。
【0046】
既に上記で言及されたように、好ましくは高エネルギーレーザーが利用される。一部の事例において、(b-1)におけるレーザーは、最大10,000W、好ましくは最大8000Wの最大エネルギー出力を有する、本発明の方法が好ましい。(b-1)におけるレーザーは、500W~4000W、好ましくは750W~3500W、より好ましくは900W~3000W、最も好ましくは1000W~2500Wの範囲の平均エネルギー出力を有する、本発明の方法が好ましい。
【0047】
十分なエネルギー密度を与えるために、レーザービームは好ましくは小さな直径を有する。(b-1)におけるレーザーは、2mm以下、好ましくは1.5mm以下、更により好ましくは1mm以下のビーム直径を有するレーザービーム(パルスレーザービームを含む)を用いて作動する、本発明の方法が好ましい。これは、前述のパルスエネルギー、反復速度、及び/又は波長と組み合わせるのが特に好ましい。
【0048】
上記に言及されたように、本発明の方法において利用されるレーザー処理は、物質の除去を含む。工程(b-1)の後にレーザーを用いて処理された基材の表面は、レーザー処理表面に基づいて工程(b-1)の前よりも小さな総表面積を有する、本発明の方法が好ましい。通常、基材は、好ましくは上において定義されたように、理論的な幾何学的表面積を有する。しかしながら、表面の不規則性、例えば、それぞれブラシ、ブラシ模様及びノジュールスポットにより、実際の表面積は通常増加する(総表面積とも呼ばれる)。理論的な幾何学的表面積と実際の表面積との関係は、パーセントで表現される、いわゆるRSAI値で定義される。本発明の文脈においては、この値は、工程(b-1)において処理された表面を指す。理想的な事例において、値は0%であり、実際の表面積がレーザー処理表面に基づいて理論的な幾何学的表面積と同一であることを意味する。実は、実際には、表面は理想的に平滑ではない。したがって、実際の表面積は通常、理論的な幾何学的表面積より大きい。しかし、RSAIが0により接近すると、表面品質は、平滑性の観点で非常に改善し、より少ない幾何学的不規則性が期待されることを合理的に仮定することができる。
【0049】
工程(b-1)において処理された表面は、3%以下、好ましくは2.8%以下、より好ましくは2.5%以下、更により好ましくは2%以下、なお更により好ましくは1.5%以下、最も好ましくは1%以下、なお更に最も好ましくは0.8%以下のRSAIを有する本発明の方法がより好ましい。
【0050】
また工程(b-1)において処理された表面は、工程(b-1)の前より20%以上、好ましくは35%以上、より好ましくは50%以上、更により好ましくは70%以上、最も好ましくは80%以上低減されたRSAIを有する、本発明の方法が好ましい。
【0051】
本発明の主要な目標は、基材表面を可能な最良の程度に滑らか又は平坦にすることである。この点に関して、表面は、平ら又は平坦と考慮される。言いかえれば、可能な限りRSAIを低減すること、理想的には可能な限り0近くにすることが主要な目標である。したがって、本発明の方法の工程(b-1)におけるレーザー処理は、構造化又はパターニングするレーザー処理ではない;これはレリーフ形成又は彫刻するレーザー処理ではないことを意味する。したがって、いかなる種類の美術品、文字、数字、他の型の記号及び形態も工程(b-1)において作成されない。これは決して所望されない。
【0052】
更に、本発明の方法の工程(b-1)におけるレーザー処理は、レーザー硬化ではない。
【0053】
実際、基材の固有特性をそういうものとして変えないことが最も好ましい。通常、本発明の文脈においては、鉄を含む基材は、特に基材が鋼鉄基材である場合、結晶構造を有する。工程(b-1)の間に結晶構造は変わらないか、又は実質的に変わらない、本発明の方法が好ましい。
【0054】
更なる前処理工程:
上記で言及されるように、更なる前処理工程は排除されない。
【0055】
工程(b-1)が実行された後、レーザー処理表面を含む基材が得られる。
【0056】
レーザー処理表面を含む基材は、
【0057】
(b-2)エッチング組成物中にレーザー処理表面を含む基材をエッチングする工程において更に処理される、本発明の方法が好ましい。
【0058】
その結果、特に、レーザー処理表面がエッチングされる。工程(c)及び(e)においてめっき組成物が六価クロムめっき組成物である場合、この工程は最も好ましく適用される。
【0059】
工程(b-2)は好ましくは電解工程である。これは電流が印加されることを意味する。言いかえれば、それは電気化学エッチングを含む。
【0060】
工程(b-2)の間、電流は、5A/dm2~70A/dm2、好ましくは10A/dm2~60A/dm2、より好ましくは15A/dm2~50A/dm2、最も好ましくは18A/dm2~38A/dm2、なお更に最も好ましくは20A/dm2~30A/dm2の範囲の電流密度で印加される、本発明の方法が好ましい。
【0061】
工程(b-2)は、2秒~45秒、好ましくは3秒~40秒、より好ましくは4秒~35秒、更により好ましくは6秒~30秒、更により好ましくは8秒~25秒、最も好ましくは11秒~20秒実行される、本発明の方法が好ましい。これは、典型的に約90秒を含む従来の六価クロム堆積プロセスと比較して、著しく少ない。
【0062】
エッチング組成物はクロム酸及び/又は三酸化クロムを含む、本発明の方法が好ましい。
【0063】
クロム酸及び三酸化クロムは、エッチング組成物の総体積に対して180g/L~400g/L、好ましくは190g/L~350g/L、より好ましくは200g/L~300g/L、最も好ましくは210g/L~250g/Lの範囲の合計濃度を有する、本発明の方法が好ましい。
【0064】
しかしながら、工程(c)及び(e)におけるめっき組成物が三価クロムのめっき組成物である場合、レーザー処理表面を含む基材が、代替の工程
【0065】
(b-2)酸洗い組成物中でレーザー処理表面を含む基材を酸洗いする工程において更に処理される、本発明の方法が好ましい。
【0066】
これは好ましくはそのような事例において、酸洗い組成物はエッチング組成物の代わりに適用されることを意味する。
【0067】
好ましくは、酸洗い組成物は酸性である。
【0068】
好ましくは、酸洗い組成物は、1種又は1種より多くの鉱酸を含み、好ましくは、塩酸、硫酸、フッ化水素酸、及び/又はリン酸;最も好ましくは塩酸酸及び/又は硫酸を含む。好ましくは、水に加えて、酸洗い組成物は更に前記1種又は1種より多くの鉱酸のみを含む。
【0069】
酸洗いに加えてエッチングの主要目標は、表面の酸化物の除去、及び後続の工程の表面の活性化である。
【0070】
クロムの堆積:
本発明の工程(c)において、(i)クロム種を含むめっき組成物が用意される。本発明の方法は、六価クロムめっき組成物並びに三価クロムめっき組成物からのクロム層を堆積させるのに適合している。
【0071】
工程(d)において、少なくとも1つの陽極が用意される。本発明の文脈においては、工程(c)及び(d)の順序は必ずしも固定されず、逆もまた同様であってもよい。
【0072】
工程(e)において、クロム層の実際の堆積が実行される。
【0073】
より詳細な特定の堆積方法に対して:
六価クロムの堆積:
【0074】
工程(c)において、めっき組成物は六価クロムめっき組成物であり、クロム種(i)は六価クロム種、好ましくはクロム酸及び/又は三酸化クロムを含む、本発明の方法が好ましい。
【0075】
用語、「六価クロム」は、酸化数+6を有するクロム元素を指す。それらの種は、この酸化状態のこの元素を含む各化合物(イオンを含む)を示す。最も好ましくは、クロム酸及び三酸化クロムはそれぞれ、唯一の六価クロム種である。
【0076】
六価クロム種は、六価クロムめっき組成物の総体積に対して、75g/L~480g/L、好ましくは105g/L~460g/L、より好ましくは150g/L~440g/L、更により好ましくは200g/L~420g/L、最も好ましくは225g/L~400g/Lの範囲の濃度を有する、本発明の方法が好ましい。本発明の文脈において、六価クロム種の濃度は、好ましくはCrO3に準拠する。
【0077】
一部の事例において、六価クロム種は、210g/L~290g/L、好ましくは220g/L~280g/L、より好ましくは230g/L~270g/L、最も好ましくは235g/L~265g/Lの範囲の濃度を有する、本発明の方法が特に好ましい。
【0078】
しかしながら、他の一部の事例において、六価クロム種は、281g/L~420g/L、好ましくは291g/L~400g/L、より好ましくは300g/L~390g/L、更により好ましくは320g/L~380g/L、最も好ましくは340g/L~370g/Lの範囲の濃度を有する、本発明の方法が好ましい。
【0079】
好ましくは、六価クロム種は、水性組成物、好ましくは溶液の形成により水に溶解される。したがって、本発明の方法において利用される六価クロムめっき組成物は、好ましくは水性六価クロムめっき組成物であり、最も好ましくは六価クロムめっき組成物の総体積に対して50体積%を超える水を含む。
【0080】
六価クロムめっき組成物は酸性であり、好ましくは強酸性のpHを有する、本発明の方法が好ましい。これは、pHが、好ましくは1以下、最も好ましくは0以下であることを意味する。
【0081】
六価クロムめっき組成物は好ましくは、三価クロムイオンを実質的に含まず、好ましくは含まない。
【0082】
六価クロムめっき組成物は塩化物イオンを実質的に含まず、好ましくは含まない、本発明の方法が好ましい。これは、好ましくは、白金被覆チタン陽極が本発明の方法において利用される場合、非常に有利である。
【0083】
六価クロムめっき組成物は
(ii)硫酸イオンを更に含む、本発明の方法が好ましい。
【0084】
好ましくは、前記硫酸イオンの供給源は硫酸である。硫酸は三酸化クロムの溶解に優れている。
【0085】
六価クロムめっき組成物において、硫酸イオンは、六価クロムめっき組成物の総体積に対して0.1g/L~10g/L、好ましくは1g/L~8.5g/L、より好ましくは1.5g/L~7.5g/L、更により好ましくは2g/L~6.5g/L、最も好ましくは3g/L~5g/Lの範囲の濃度を有する、本発明の方法が好ましい。
【0086】
一部の事例において、六価クロムめっき組成物中、硫酸イオンは、六価クロムめっき組成物の総体積に対して、0.1g/L~8g/L、好ましくは0.3g/L~7g/L、より好ましくは0.5g/L~6g/L、更により好ましくは0.7g/L~5g/L、最も好ましくは1g/L~4g/Lの範囲の濃度を有する、本発明の方法が好ましい。
六価クロムめっき組成物が
(iii)2、3又は3より多くのスルホン酸基を有する1種又は1種より多くのスルホン酸及び/又はそれらの塩、好ましくは2、3又は3より多くのスルホン酸基を有する1種又は1種より多くのアルキルスルホン酸及び/又はそれらの塩を更に含む、本発明の方法が好ましい。
【0087】
前記1種又は1種より多くのスルホン酸及び/又はそれらの塩は、1種又は1種より多くのアルカンジスルホン酸及び/又はそれらの塩、好ましくはメタンジスルホン酸及び/又はそれらの塩を含む、本発明の方法が好ましい。これらは、2個のスルホン酸基を有する非常に好ましいスルホン酸及び/又はそれらの塩である。
【0088】
前記1種又は1種より多くのアルカンジスルホン酸及びそれらの塩は、六価クロムめっき組成物の総体積に対して、0.5g/L~15g/L、好ましくは1g/L~12g/L、より好ましくは1.5g/L~10g/Lの範囲の合計濃度を有する、本発明の方法が好ましい。
【0089】
前記1種又は1種より多くのスルホン酸及び/又はそれらの塩は、1種又は1種より多くのアルカントリスルホン酸及び/又はそれらの塩、好ましくはメタントリスルホン酸及び/又はそれらの塩を含む、本発明の方法が好ましい。これらは、3個のスルホン酸基を有する非常に好ましいスルホン酸及び/又はそれらの塩である。
【0090】
前記1種又は1種より多くのアルカントリスルホン酸及びそれらの塩は、六価クロムめっき組成物の総体積に対して0.1g/L~13g/L、好ましくは0.5g/L~10g/L、より好ましくは1g/L~7g/Lの範囲の合計濃度を有する、本発明の方法が好ましい。
【0091】
六価クロムめっき組成物は更に
(iv)任意選択的に銀イオン含み、好ましくは銀イオンを含む、本発明の方法が好ましい。
【0092】
銀イオンは、好ましくは有害な量の三価クロムイオンを形成するリスクを低減する。
【0093】
前記銀イオンは、六価クロムめっき組成物の総体積に対して0.0001g/L~3g/L、好ましくは0.001g/L~1g/L、より好ましくは0.005g/L~0.5g/L、最も好ましくは0.01g/L~0.2g/Lの範囲の合計濃度を有する、本発明の方法が好ましい。0.0001g/L~0.2g/Lの範囲の合計濃度が非常に好ましい。
【0094】
一部の事例において、六価クロムめっき組成物は、メタンスルホン酸及びそれらの塩を実質的に含まず、好ましくは含まず、好ましくはアルキル-モノスルホン酸及びそれらの塩を実質的に含まず、好ましくは含まず、より好ましくはモノスルホン酸及びそれらの塩を実質的に含まず、好ましくは含まない、本発明の方法が好ましい。
【0095】
工程(d)において、少なくとも1つの陽極が用意され、好ましくは鉛を含む陽極、貴金属を含む陽極、及び混合金属酸化物陽極からなる群から選択され、最も好ましくは鉛を含む陽極からなる群から選択される。
【0096】
鉛を含む陽極は、鉛を含む陽極の総質量に対して50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更により好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上の鉛を含む、本発明の方法が好ましい。
【0097】
鉛を含む陽極は、鉛スズ陽極及び鉛アンチモン陽極からなる群から選択される、本発明の方法が好ましい。
【0098】
貴金属を含む陽極は、白金被覆チタン陽極及び/又は白金被覆ニオブ陽極を含む、本発明の方法が好ましい。本発明の方法において、好ましくは上において定義された貴金属を含む陽極は最も好ましい。
【0099】
本発明の方法の工程(e)において、六価クロムめっき組成物は、好ましくは工程(b-2)により上において定義された前処理を含む、前処理表面を含む基材と接触される。
【0100】
工程(e)において、クロム層は、0.05μm~1000μm、好ましくは1μm~800μm、より好ましくは2.1μm~600μm、更により好ましくは3μm~400μm、なお更により好ましくは4μm~300μm、最も好ましくは5μm~250μmの範囲の厚さを有する、本発明の方法が好ましい。これは、好ましくは同様にクロム種として三価クロムイオンを含む三価クロムめっき組成物から、好ましくは、以下の本文に記載されるように堆積したクロム層に当てはまる。
【0101】
工程(e)において、電流が、少なくとも18A/dm2、好ましくは少なくとも25A/dm2、より好ましくは少なくとも30A/dm2、更により好ましくは少なくとも40A/dm2、最も好ましくは少なくとも50A/dm2の陰極電流密度を有する、本発明の方法が好ましい。好ましくは、陰極電流密度は、18A/dm2~260A/dm2、より好ましくは25A/dm2~200A/dm2、最も好ましくは35A/dm2~100A/dm2の範囲である。
【0102】
一部の事例において、工程(e)において、電流は、100A/dm2~450A/dm2、好ましくは115A/dm2~330A/dm2、より好ましくは130A/dm2~210A/dm2、最も好ましくは145A/dm2~170A/dm2の範囲の陰極電流密度を有する、本発明の方法が好ましい。
【0103】
しかしながら、一部の特別の事例において、工程(e)で、電流は、最大1400A/dm2、好ましくは最大1200A/dm2、より好ましくは最大1100A/dm2、最も好ましくは最大1000A/dm2の陰極電流密度を有する、本発明の方法が好ましい。基材が著しく小さい場合(例えばバルブシャフト)、これは特に当てはまる。したがって、一般に、工程(e)において、電流は、好ましくは18A/dm2~1400A/dm2、好ましくは25A/dm2~1200A/dm2、より好ましくは30A/dm2~1100A/dm2、最も好ましくは35A/dm2~1000A/dm2の範囲である。
【0104】
好ましくは、工程(e)において、電流は直流である。
【0105】
工程(e)において、六価クロムめっき組成物は、20℃~95℃、好ましくは30℃~90℃、より好ましくは40℃~85℃、更により好ましくは50℃~80℃、最も好ましくは65℃~77℃の範囲の温度を有する、本発明の方法が好ましい。
【0106】
工程(e)は5分~180分、好ましくは10分~100分、より好ましくは11分~60分の期間遂行される、本発明の方法が好ましい。
【0107】
工程(e)の後、クロム堆積基材が得られる。
【0108】
一部の事例において、工程(e)の後に
工程(e)から得られたクロム堆積基材を熱処理する工程
(f)を更に含む、本発明の方法が好ましい。
【0109】
工程(f)において、熱処理は、100℃~270℃、好ましくは120℃~250℃、より好ましくは150℃~225℃、最も好ましくは170℃~200℃の範囲の温度で実行される、本発明の方法が好ましい。
【0110】
工程(f)において、熱処理は1時間~10時間、好ましくは2時間~4時間の期間実行される、本発明の方法が好ましい。
【0111】
好ましくは工程(f)による熱処理を、より好ましくは好ましい温度及び/又は好ましい期間遂行することによって、クロム層の性質は更に改善され得る(例えば水素脆化の低減)。この有益な効果は、好ましくは同様に、好ましくは本文において以下に記載されるようにクロム種として三価クロムイオンを含む三価クロムめっき組成物によって得られるクロム層に当てはまる。
【0112】
三価クロムの堆積:
代替として、工程(c)において、めっき組成物は三価クロムめっき組成物であり、クロム種(i)は三価クロムイオンを含む、本発明の方法が好ましい。用語「三価クロムイオン」は、遊離及び/又は錯体化形態のCr3+イオンを指す-。
【0113】
三価クロムめっき組成物は水を更に含み(すなわち、水性であり)、三価クロムめっき組成物の総質量に対して、好ましくは50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更により好ましくは80質量%以上、なお更により好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上の水を含む、本発明の方法が好ましい。
【0114】
三価クロムめっき組成物は、酸性のpH、好ましくは4.1~7.0、好ましくは4.5~6.5、より好ましくは5.0~6.0、最も好ましくは5.3~5.9の範囲のpHを有する、本発明の方法が好ましい。
【0115】
三価クロムめっき組成物において、三価クロムイオンは、三価クロムめっき組成物の総体積に対して5g/L~40g/L、好ましくは10g/L~30g/L、より好ましくは14g/L~27g/L、最も好ましくは17g/L~24g/Lの範囲の合計濃度を有する、本発明の方法が好ましい。
【0116】
前記三価クロムイオンは、可溶性の三価クロムイオンを含有する供給源、典型的に、前記三価クロムイオンを含む水溶性塩から得られる、本発明の方法が好ましい。一般に好ましい、都合よく入手可能で、費用効果的な水溶性塩は、アルカリ性の三価クロム硫酸塩である。
【0117】
三価クロムめっき組成物は、好ましくは有機錯化剤及びそれらの塩、好ましくはカルボン酸及びそれらの塩、より好ましくは脂肪族カルボン酸及びそれらの塩、最も好ましくは脂肪族モノカルボン酸及びそれらの塩からなる群から選択される、三価クロムイオン用の少なくとも1種の錯化剤を更に含む、本発明の方法が好ましい。好ましい脂肪族モノカルボン酸及びそれらの塩は、C1~C10脂肪族モノカルボン酸及びそれらの塩、C1~C8脂肪族モノカルボン酸及びそれらの塩、より好ましくはC1~C6脂肪族モノカルボン酸及びそれらの塩、最も好ましくはC1~C3脂肪族モノカルボン酸及びそれらの塩である。最も好ましくは、少なくとも1種の錯化剤は少なくともギ酸塩及び/又は酢酸塩を含む。その結果、三価クロムイオンは、三価クロムめっき組成物中で錯化剤によって、好ましくは上において定義されたpHで効率的に安定させることができる。典型的に、そのような錯化剤は、好ましくは炭素としてクロム層に組み込まれる。
【0118】
三価クロムめっき組成物において、三価クロムイオンのための少なくとも1種の錯化剤は、めっき組成物の総体積に対して50g/L~350g/L、好ましくは70g/L~320g/L、より好ましくは90g/L~300g/L、更により好ましくは100g/L~250g/L、最も好ましくは120g/L~210g/Lの範囲の合計濃度を有する、本発明の方法が好ましい。
【0119】
三価クロムめっき組成物に対して、好ましくは、六価クロム種は意図的に添加されない。これは、例えばクロム酸及び三酸化クロムを含む。したがって、三価クロムめっき組成物は、六価クロム種を実質的に含まず、好ましくは(余儀なく陽極に形成され得る極少量以外は)含まない。
【0120】
一部の事例において、三価クロムめっき組成物は、クロムでない遷移金属、より好ましくは、鉄イオン、ニッケルイオン、銅イオン及び/又は亜鉛イオンを更に含む、本発明の方法が好ましい。
【0121】
しかしながら、他の事例において、三価クロムめっき組成物は、鉄イオンを実質的に含まず、好ましくは含まない、本発明の方法が好ましい。
【0122】
一部の事例において、三価クロムめっき組成物はニッケルイオンを実質的に含まず、好ましくは含まない、本発明の方法が好ましい。
【0123】
一部の事例において、三価クロムめっき組成物は、銅イオンを実質的に含まず、好ましくは含まない、本発明の方法が好ましい。
【0124】
一部の事例において、三価クロムめっき組成物は、亜鉛イオンを実質的に含まず、好ましくは含まない、本発明の方法が好ましい。
【0125】
三価クロムめっき組成物において、三価クロムイオンは、全遷移金属イオンの総質量に対して全遷移金属イオンの90質量%以上、好ましくは93質量%以上、より好ましくは95質量%以上、最も好ましくは97質量%以上を形成する本発明の方法がより好ましい。ほとんどの場合、クロム種は、唯一の遷移金属種であり、最も好ましくは、前記三価クロムイオンは唯一の遷移金属種である三価クロムめっき組成物が好ましい。
【0126】
クロムでない前記金属イオン(いわゆる金属合金元素)の存在によって、典型的にそれぞれのクロム合金層をもたらす。しかしながら、好ましくは炭素、窒素及び酸素からなる群から選択される、それぞれのクロム合金層中の非金属合金元素はより典型的で好ましい。
【0127】
三価クロムめっき組成物は、
- 1種又は1種より多くのタイプのハロゲンイオン、好ましくは塩化物イオン及び/又は臭化物イオン、
- 1種又は1種より多くのタイプのアルカリ金属陽イオン、好ましくはナトリウム及び/又はカリウム、
- 硫酸イオン、及び
- アンモニウムイオン
からなる群から選択される1種又は1種より多くの化合物を更に含む、本発明の方法が好ましい。
【0128】
1種又は複数の前述の化合物の添加によって、それぞれのクロム層の堆積は著しく改善され得る。
【0129】
好ましくは、三価クロムめっき組成物は1種又は1種より多くのタイプのハロゲンイオン、好ましくは臭化物イオン及び/又は塩化物イオンを含む。好ましくは、臭化物イオンは、三価クロムめっき組成物の総体積に対して少なくとも0.06モル/L、より好ましくは少なくとも0.1モル/L、更により好ましくは少なくとも0.15モル/Lの濃度を有する。臭化物陰イオンは、特に、望ましくない六価クロム種の陽極形成を効果的に抑制する。
【0130】
一部の事例において、好ましくは臭化物イオンに加えて、塩化物イオンを含む三価クロムめっき組成物が好ましい。しかしながら、他の事例において、三価クロムめっき組成物は基本的に塩化物イオンを含まず、好ましくは含まないことが好ましい。しかし、これは、好ましくは他のハロゲンイオン、好ましくは臭化物イオンの存在を排除しない。好ましくは(塩化物イオンが存在する場合)、塩化物イオンは、三価クロムめっき組成物の総体積に対して0.01モル/L~1.8モル/Lの範囲、好ましくは0.2モル/L~1.6モル/Lの範囲、より好ましくは0.6モル/L~1.4モル/Lの範囲、最も好ましくは0.8モル/L~1.2モル/Lの範囲の合計濃度を有する。
【0131】
好ましくは、三価クロムめっき組成物は、三価クロムめっき組成物の総体積に対して、好ましくは0モル/L~0.5モル/L、より好ましくは0モル/L~0.3モル/L、更により好ましくは0モル/L~0.1モル/L、最も好ましくは0モル/L~0.08モル/Lの範囲の合計濃度の1種又は1種より多くのタイプのアルカリ金属陽イオン、好ましくはナトリウム及び/又はカリウムを含む。
【0132】
典型的に、ルビジウム、フランシウム及びセシウムイオンは、それぞれの三価クロムめっき組成物において利用されないが、それらは必ずしも排除されない。しかしながら、好ましくは、1種又は1種より多くのタイプのアルカリ金属陽イオンは、リチウム、ナトリウム及びカリウム、最も好ましくはナトリウム及びカリウムの金属陽イオンを含む。しかしながら、一部の事例において、前記1種又は1種より多くのタイプのアルカリ金属陽イオンを含まない三価クロムめっき組成物が好ましい。そのような事例において、好ましくは、アンモニウムイオンが代替として好ましい。
【0133】
好ましくは、三価クロムめっき組成物は、好ましくは、三価クロムめっき組成物の総体積に対して1モル/L~10モル/L、より好ましくは2モル/L~8モル/L、更により好ましくは3モル/L~7モル/L、最も好ましくは4モル/L~6モル/Lの範囲の合計濃度のアンモニウムイオンを含む。
【0134】
好ましくは、三価クロムめっき組成物は、好ましくは、三価クロムめっき組成物の総体積に対して50g/L~250g/Lの範囲の総量の硫酸イオンを含む。
【0135】
ホウ酸を基本的に含まず、好ましくは含まない三価クロムめっき組成物が好ましく、好ましくは、ホウ素含有化合物を基本的に含まず、好ましくは含まない。
【0136】
ホウ素含有化合物は、それらが環境上問題であるので望ましくない。ホウ素含有化合物を使用する場合、廃水処理は費用がかかり、時間が浪費される。更に、ホウ酸は典型的に不十分な溶解性を示し、したがって、沈殿を形成する傾向がある。そのような沈殿は加熱で可溶化することができるが、それぞれの三価クロムめっき組成物はこの間にクロムめっきに利用することができない。そのような沈殿がクロム層の品質を容易に低下させるというかなりのリスクがある。したがって、三価クロムめっき組成物は好ましくは、いかなるホウ素含有化合物を基本的に含まず、好ましくは含まない。驚いたことに、三価クロムめっき組成物は、特に上述の(好ましい)pH範囲において、ホウ素含有化合物なしで非常によく機能する。
【0137】
本発明の文脈においては、用語「含まない」、「含まないこと」等はそれぞれ、通常それぞれの化合物及び/又は成分が、例えば三価クロムめっき組成物に意図的に添加されないことを示す。これは、そのような化合物が他の関連する化学物質と一緒に不純物として持ち込まれることを排除しない。しかし、そのような化合物及び成分の総量は、典型的に検出範囲を下回り、及び/又は本発明の様々な態様において重要ではない。このことは好ましくは、同様に六価クロムめっき組成物からのクロム層の堆積に当てはまる。
【0138】
典型的に、三価クロムめっき組成物は、二価硫黄を含有する有機化合物を基本的に含まず、好ましくは含まず、好ましくは、+6未満の酸化数を有する硫黄原子を含む硫黄含有化合物を基本的に含まず、好ましくは含まない、本発明の方法が好ましい。
【0139】
工程(d)において、好ましくは黒鉛陽極、ステンレス鋼陽極、及びチタン陽極の混合金属酸化物からなる群から選択される少なくとも1つの陽極が用意される。好ましくは、少なくとも1種の陽極は鉛又はクロムを含まない。
【0140】
工程(e)の前に、一部の事例において、工程(b-1)の後、前処理された基材が、少なくとも1つのニッケル層が堆積されるように1種又は1種より多くのニッケルめっき組成物と更に接触される、本発明の方法が好ましい。その結果、ニッケル堆積した基材が得られる。このことは、最も好ましくは、三価クロムめっき組成物が工程(c)及び(e)において利用される場合、当てはまる。
【0141】
工程(e)において、三価クロムめっき組成物は前処理表面を含み、好ましくはまたニッケル層を含む基材と接触され、電流が印加される。
【0142】
工程(e)において電流は直流(DC)である、本発明の方法が好ましい。好ましくは、直流は工程(e)中に中断のない直流であり、より好ましくは直流はパルス駆動されない(非パルスDC)。更に、直流は、好ましくは逆向きパルスを含まない。
【0143】
好ましくは、電流は、六価クロムめっき組成物に対して上において定義されたのと同一の電流密度を有する。しかしながら、一部の事例において、三価クロムめっき組成物用の電流密度は、少なくとも18A/dm2、好ましくは少なくとも20A/dm2、より好ましくは少なくとも25A/dm2、更により好ましくは少なくとも30A/dm2、最も好ましくは少なくとも39A/dm2の陰極電流密度を有する、本発明の方法が好ましい。好ましくは、陰極電流密度は、18A/dm2~200A/dm2、より好ましくは20A/dm2~180A/dm2、より好ましくは23A/dm2~150A/dm2、更により好ましくは25A/dm2~120A/dm2、更により好ましくは27A/dm2~90A/dm2、最も好ましくは30A/dm2~60A/dm2の範囲である。
【0144】
一部のまれな事例において、電流は、100A/dm2~200A/dm2、好ましくは110A/dm2~190A/dm2、より好ましくは120A/dm2~180A/dm2、最も好ましくは130A/dm2~170A/dm2、更に最も好ましくは140A/dm2~160A/dm2の範囲の陰極電流密度を有する、本発明の方法が好ましい。このことは最も好ましくは、工程(e)が比較的短い期間遂行される場合、当てはまる。
【0145】
その結果、それぞれのクロム層又はクロム合金層、好ましくはクロム合金層は、電気分解によって堆積される。好ましい合金元素は炭素、窒素及び/又は酸素を含む。より好ましくは、クロム合金層は少なくとも炭素及び酸素を(すなわちクロムに加えて)含む。三価クロムめっき組成物中に通常存在する有機化合物のために、炭素は典型的に存在する。これらの合金元素は典型的に非金属合金元素と呼ばれる。
【0146】
より好ましくは、唯一の合金元素は、炭素、窒素及び酸素からなる群から選択され、より好ましくは炭素及び酸素からなる群から選択され、最も好ましくは、唯一の合金元素は炭素及び酸素である。好ましくは、クロム合金層は、クロム合金層の総質量に対して80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更により好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上のクロムを含有する。
【0147】
三価クロムめっき組成物に関して既に上記に論じた前述の関連する金属合金元素(例えば亜鉛、鉄等)は、好ましくは同様に、三価クロムめっき組成物から得られるクロム層に当てはまる。
【0148】
工程(e)において、三価クロムイオンを含むめっき組成物は、20℃~90℃、好ましくは30℃~70℃、より好ましくは40℃~60℃、最も好ましくは45℃~58℃の範囲の温度を有する、本発明の方法が好ましい。
【0149】
工程(e)は5分~500分、好ましくは10分~300分、より好ましくは15分~200分、更により好ましくは20分~140分、最も好ましくは30分~80分の期間遂行される、本発明の方法が好ましい。
【0150】
一部のまれな事例において、工程(e)は2分~10分、好ましくは3分~9分、より好ましくは4分~8分、更により好ましくは5分~7分の期間遂行される、本発明の方法が好ましい。電流が、好ましくは少なくとも100A/dm2、より好ましくは少なくとも120A/dm2、更により好ましくは少なくとも140A/dm2の比較的高い陰極電流密度を有する場合、これは最も好ましい。
【0151】
同様に、六価クロムめっき組成物に関連して上記に述べたものに対して、工程(e)の後に
工程(e)から得られたクロム堆積基材を熱処理する工程(f)を更に含む本発明の方法(すなわち三価クロムめっき組成物の利用のための)が好ましい。
【0152】
工程(f)において、熱処理は80℃~600℃、好ましくは100℃~400℃、より好ましくは120℃~350℃、更により好ましくは135℃~300℃、最も好ましくは150℃~250℃の範囲の温度で実行される、本発明の方法が好ましい。
【0153】
工程(f)において、熱処理は、1時間~10時間、好ましくは2時間~4時間の期間実行される、本発明の方法が好ましい。
【0154】
工程(e)において、クロム層は1.1μm~500μm、好ましくは2μm~450μm、より好ましくは4μm~400μm、更により好ましくは6μm~350μm、更により好ましくは8μm~300μm、最も好ましくは10μm~250μmの範囲の厚さを有する、本発明の方法が好ましい。これらは典型的に十分な耐摩耗性を与える層厚さである
【0155】
既に上記に言及されていたように、用語「クロム層」はまた一般に「クロム合金層」も含む。
【0156】
一部の事例において、工程(e)で、クロム層は15μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上の厚さを有する、本発明の方法が好ましい。
【0157】
両方の事例において、三価クロムめっき組成物、並びに、六価クロムめっき組成物として、好ましくは、好ましくはCIELAB表色系によって定義される70以上、より好ましくは75以上、更により好ましくは80以上のL*値を有する明るい色を有するクロム層は電気分解によって堆積される。
【0158】
本発明の趣旨は、以下の実施例において更に説明されるが、本明細書において特許請求の範囲において定義される本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0159】
(a)基材を用意する工程
【0160】
試験のために、複数の395mmの鋼鉄ピストンロッド(22mmの直径、すなわち、丸い形状)を、鉄を含む基材として用意し、それをおよそ0.1μm以下の典型的な平均粗さRaに摩砕することにより前もって滑らかにした。次の工程の前に、ピストンロッドを脱脂した。
【0161】
(b)本発明による前処理
【0162】
一部の前記鋼鉄ピストンロッドを、基材から物質を除去して均質で平滑な表面を得るためにレーザーユニット(TruMicro, TRUMPF GmbH & Co KG社)を用いて前処理した(すなわち、レーザー研磨した)。そのために、4つの実験装置(実験番号1~4)においてパルスレーザービームを使用した。前処理の間、レーザーは、1000Wの平均エネルギー出力、1mm未満のレーザービーム直径、1020nmの波長、およそ3秒の各ピストンロッド用のレーザー処理合計時間を有していた。更に、以下のTable 1(表1)にパラメーターを要約する。比較のために、少数のピストンロッドを分け、レーザー研磨による前処理をしなかった(比較実験として以下「C」と名付ける)。
【0163】
【0164】
引き続いて、電解エッチング工程においてピストンロッドをすべてエッチング組成物にさらした。水性エッチング組成物は、200g/L~250g/Lのクロム酸及び任意選択的に硫酸を含んでいた。
【0165】
レーザー処理ピストンロッドをエッチング組成物と接触させ、30A/dm2の電流密度を印加して、15秒間電気分解によって処理した。
【0166】
比較実験Cのピストンロッドをエッチング組成物と接触させ、45A/dm2の電流密度を印加して、95秒間電気分解によって処理した。そのようなエッチングは、六価クロム堆積前の共通する先行技術の前処理を表わす。
【0167】
エッチング工程の前に各ピストンロッドを干渉顕微鏡にかけて表面の品質を評価した。以下のTable 2(表2)に結果を要約する。
【0168】
【0169】
Table 2(表2)において、以下のように「ブラシ模様」を評価する:
「0」では、ブラシ模様は見られない(すなわち、ブラシレリーフ構造はない)
「1」はブラシ模様残りのみを示す。
「2」は著しいブラシ模様残りを示す。
「3」は摩砕の後に典型的に得られるようなブラシ模様を示す。
【0170】
Table 2(表2)に示すように、各レーザー処理ピストンロッドは、比較実験Cと比較して低いRSAIを示した。差異は、特に実験番号1、2及び4について印象的であり、3についてもなおかなりの差異がある。「RSAI」は、理論的な幾何学的表面積に関連して、レーザー処理表面に基づく実際の表面積を記載する(上記本文に更なる情報)。
【0171】
Table 2(表2)は、ノジュールスポットの数がレーザー処理の後に著しく減少することを示す。更に、また、そのようなノジュールスポットのサイズが、それらを完全に除去しない場合でも減少することが観察された。
【0172】
Table 2(表2)はまた、機械式摩砕の後に観察された典型的なブラシ模様が、実験番号1、2及び4において完全に除去され、番号3においては著しく減少したことを示す。
【0173】
(c)めっき組成物の用意
【0174】
後続のクロム層の堆積のために、めっき組成物をそれぞれ用意した。めっき組成物は、クロム種として250g/L~300g/Lのクロム酸を含む六価クロムめっき組成物であった。
【0175】
(d)少なくとも1つの陽極の用意
【0176】
後続のクロム堆積のために、白金被覆チタン陽極を用意し利用した。
【0177】
(e)クロムの電着
【0178】
エッチング工程の後、70℃で約5分の堆積時間、165A/dm2の電流密度でピストンロッドをすべて後続のクロム堆積用の前記六価クロムめっき組成物にさらして、約15μmの層厚さを有するクロム層を得、続いて240℃で2時間熱処理した。その後、干渉顕微鏡によってピストンロッドを再び評価した。実験番号1~4において、ノジュールスポットは観察されなかった。しかしながら、比較実験Cにおいて、クロム堆積前より、クロム堆積の後でさえほぼ同一の寸法を有するノジュールスポットが、観察可能であった。
【0179】
更に、ピストンロッドを、ISO 9227に従って実行したNSS試験にかけた。以下のTable 3(表3)に結果を要約する。
【0180】
【0181】
Table 3(表3)において、NSS試験を以下のように評価する:
「0」欠陥はなく、表面腐食は0%であり、したがって赤錆は観察されなかった。
「1」些細な腐食、最大0.1%の面積を有するスポットの欠陥
「2」取るに足りない腐食、最大0.25%の面積を有するスポットの欠陥
「3」顕著な腐食、最大0.5%の面積を有するスポットの欠陥
「4」許容できない腐食、最大1%の面積を有するスポットの欠陥
「5」重大な腐食、最大2.5%の面積を有するスポットの欠陥
【0182】
Table 3(表3)からわかるように、本発明による前処理は、最大1000時間のNSS試験の大いに許容できる結果を有する耐食性を著しく増加させ、これは、従来の六価クロムめっきを超える著しい改善である。相当な量の表面欠陥、特にノジュールスポットが除去されるような方法で表面を滑らかにすることによりこれが達成されると考えられる。
【0183】
更に、本実験は、電流密度の減少に加えて、エッチング持続時間を、普通の95秒から15秒に抜本的に短縮することができることを示した。これはそれ自体で既に抜本的な改善である。更に、これは、少なくとも2つの更なる恩恵をもたらす:
(a)エッチングが短いほど、基材から除去される物質が少なく、エッチング組成物、特に鉄含有物質/鉄イオンに豊むこと、及び
(b)減少した電流密度でより短いエッチング工程と組み合わせたレーザー処理のエネルギー消費の合計が、比較実験Cにおいて実行されるようなレーザー処理なしの普通のエッチング工程と比較してより少ないエネルギーを消費したこと。
【0184】
恩恵(a)に関して、独自の実験は、エッチング組成物中に存在する鉄含有物質/鉄イオンの減少によって、また、六価クロムめっき組成物中へのそのような物質/イオンの持ち込みが減少することを示した。独自の分析(連続的なめっき条件の下で)は、比較実験Cについて六価クロムめっき組成物中への鉄の持ち込み量は、1日当たり約4000gであるが、実験番号1~4の本発明による方法における持ち込みは、1日当たり約400gに減少することを示した。したがって、六価クロムめっき組成物への鉄の持ち込み量が著しく、少なくとも10の係数、減少すると結論することができる。その結果として、六価クロムめっき組成物の、例えばイオン交換処理による再生は著しく低い頻度で行われる必要がある。
【0185】
恩恵(b)に関して、独自の計算では実験番号1~4について比較実験Cと比較して、5%~10%の省エネルギーが達成されることを示した。高エネルギーレーザーを用いてレーザー処理を実行するにもかかわらず、本発明の方法においてはエネルギー効率が著しく向上すると考えられる。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸い形状の基材の表面にクロム層を堆積させる方法であって、
(a)前記表面を有する基材を用意する工程であり、基材が75mm未満の直径を有する鉄を含む基材である、工程、
(b)前処理表面を結果として生じるように前記基材を前処理する工程、
(c)(i)クロム種、を含むめっき組成物を用意する工程、
(d)少なくとも1つの陽極を用意する工程、
(e)前記前処理表面を含む前記基材をめっき組成物と接触させ、前記クロム層が前記前処理表面上に電気分解によって堆積されるように前記基材及び前記少なくとも1つの陽極に電流を印加する工程を含み、
工程(b)において、前記前処理は
(b-1)物質が前記基材から除去されるようにレーザーを用いて前記基材の表面をレーザー処理する工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記基材が鋼鉄基材である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基材が、丸いスティッ
クである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(b-1)における前記レーザー処理がレーザー研磨である、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記物質のすべて又は少なくとも一部が昇華によって前記基材から除去される、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項6】
(b-1)における前記レーザー処理が、パルスレーザービームをもたらすレーザーを用いたパルスレーザー処理を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項7】
前記パルスレーザービームが、1mJ~100m
Jの範囲のパルスエネルギーを有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記パルスレーザービームが、10kHz~150kH
zの範囲の反復速度を有する、請求項6又は7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
(b-1)における前記レーザーが、900nm~1200n
mの範囲の波長を用いて操作される、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項10】
(b-1)における前記レーザーが、50cm
2/秒~250cm
2/
秒の範囲の面積処理速度を有する、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項11】
(b-1)における前記レーザーが、500W~4000
Wの範囲の平均エネルギー出力を有する、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項12】
(b-1)における前記レーザーが、2mm以
下のビーム直径を有するレーザービームを用いて作動する、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項13】
工程(b-1)の後に前記レーザーを用いて処理された前記基材の表面が、レーザー処理表面に基づいて工程(b-1)の前よりも小さな総表面積を有する、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項14】
工程(c)において、前記めっき組成物が六価クロムめっき組成物であり、前記クロム種(i)が六価クロム
種を含む、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項15】
工程(c)において、前記めっき組成物が三価クロムめっき組成物であり、前記クロム種(i)が三価クロムイオンを含む、請求項
1又は2に記載の方法。
【国際調査報告】