(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-10
(54)【発明の名称】穴拡げ性に優れた超高強度冷延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240903BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20240903BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20240903BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/38
C22C38/60
C21D9/46 G
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517485
(86)(22)【出願日】2022-09-23
(85)【翻訳文提出日】2024-03-19
(86)【国際出願番号】 KR2022014244
(87)【国際公開番号】W WO2023048495
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】10-2021-0125545
(32)【優先日】2021-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ク、 ミン-ソ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ウン-ヤン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 サン-ヒョン
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
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4K037EA25
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4K037EA31
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4K037EB08
4K037EB11
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4K037FC07
4K037FE01
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4K037FK01
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4K037FK08
4K037FL01
(57)【要約】
本発明は、穴拡げ性に優れた超高強度冷延鋼板及びその製造方法に関するものであり、より具体的には、主に自動車の衝突及び構造部材に使用可能な穴拡げ性に優れた超高強度冷延鋼板及びその製造方法に関するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.2~0.4%、Si:0.5%以下(0%は除く)、Mn:1.0~2.0%、P:0.03%以下(0%は除く)、S:0.015%以下(0%は除く)、Al:0.1%以下(0%は除く)、Cr:0.5%以下(0%は除く)、Mo:0.2%未満(0%は除く)、Ti:0.1%以下(0%は除く)、Nb:0.1%以下(0%は除く)、B:0.005%以下(0%は除く)、N:0.01%以下(0%は除く)、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、
微細組織は、テンパードマルテンサイト単相組織またはマルテンサイト+テンパードマルテンサイト混合組織からなり、
前記微細組織は、単位面積45μm×45μm当たりF
HAGBが60面積%以上であり、L
HAGBが8mm以上である、穴拡げ性に優れた超高強度冷延鋼板。
(但し、前記F
HAGBは高硬角粒界を有する結晶粒の分率を表し、L
HAGBは高硬角粒界を有する結晶粒界の全長を表し、前記高硬角粒界とは隣接する結晶粒間の不一致角度が15゜以上を有する結晶粒界を意味する。)
【請求項2】
前記冷延鋼板は、Cu:0.5%以下及びNi:0.5%以下のうち1種以上をさらに含む、請求項1に記載の穴拡げ性に優れた超高強度冷延鋼板。
【請求項3】
前記冷延鋼板は、Sb:0.05%以下をさらに含む、請求項1に記載の穴拡げ性に優れた超高強度冷延鋼板。
【請求項4】
前記冷延鋼板は、旧オーステナイト平均粒径が6μm以下である、請求項1に記載の穴拡げ性に優れた超高強度冷延鋼板。
【請求項5】
前記冷延鋼板は、引張強度(TS)が1470MPa以上であり、引張強度(TS)(MPa)×穴拡げ率(HER)(%)の値が73500MPa・%以上である、請求項1に記載の穴拡げ性に優れた超高強度冷延鋼板。
【請求項6】
重量%で、C:0.2~0.4%、Si:0.5%以下(0%は除く)、Mn:1.0~2.0%、P:0.03%以下(0%は除く)、S:0.015%以下(0%は除く)、Al:0.1%以下(0%は除く)、Cr:0.5%以下(0%は除く)、Mo:0.2%未満(0%は除く)、Ti:0.1%以下(0%は除く)、Nb:0.1%以下(0%は除く)、B:0.005%以下(0%は除く)、N:0.01%以下(0%は除く)、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む鋼スラブを1100~1300℃の温度で加熱する段階;
前記加熱された鋼スラブをAr3以上の温度で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を得る段階;
前記熱延鋼板を720℃以下の温度で巻き取る段階;
前記巻き取られた熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を得る段階;
前記冷延鋼板を780~900℃の温度範囲で焼鈍熱処理する段階;
前記焼鈍熱処理された冷延鋼板を5℃/s以下の冷却速度で650~750℃まで徐冷する段階;
前記徐冷した冷延鋼板を40℃/s以上の冷却速度で150℃以下まで急冷する段階;及び
前記急冷された冷延鋼板を180~240℃で再加熱及び過時効熱処理する段階;を含む、穴拡げ性に優れた超高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記鋼スラブは、Cu:0.5%以下及びNi:0.5%以下のうち1種以上をさらに含む、請求項6に記載の穴拡げ性に優れた超高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記鋼スラブは、Sb:0.05%以下をさらに含む、請求項6に記載の穴拡げ性に優れた超高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記過時効熱処理は、400秒以上行われる、請求項6に記載の穴拡げ性に優れた超高強度冷延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴拡げ性に優れた超高強度冷延鋼板及びその製造方法に関するものであり、より具体的には、主に自動車の衝突及び構造部材に使用可能な穴拡げ性に優れた超高強度冷延鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用鋼板は地球環境の保全のために軽量化させる必要があるのに対し、乗客の安全のために衝突安全性を確保しなければならないという矛盾した目標を満たす必要がある。このために、DP(Dual Phase)鋼、TRIP(Transformation Induced Plasticity)鋼、CP(Complex Phase)鋼などの様々な自動車用鋼板が開発されている。しかしながら、このようなAHSS(Advanced High Strength Steel)で実現可能な引張強度は、約1200MPa級レベルが限界である。これにより、衝突安全性を確保するために構造部材で製作する際に、高温で成形した後、ダイ(Die)との直接接触を介して急冷(水冷)することにより最終強度を確保するホットプレスフォーミング(Hot Press Forming)工法が脚光を浴びているが、設備投資費が高く、熱処理及び工程費用が高くて、その適用の拡大が大きくない。
【0003】
一方、一般プレス成形及び熱間プレス成形に比べて生産性の高いロールフォーミング工法は、多段ロールフォーミングにより複雑な形状を製作する方法であるが、通常的に伸び率の低い超高強度素材の部品成形に適用されており、その適用も拡大している傾向にある。このようなロールフォーミング工法に適用される鋼板は、主に水冷却設備を備えた連続焼鈍設備で製造される。但し、水冷却時の幅方向及び長さ方向の温度偏差により形状品質が劣化してロールフォーミング適用時の作業性劣化及び位置別材質偏差などが現れるという欠点がある。したがって、水冷による急冷方式の代案を考案する必要性が台頭している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一側面は、穴拡げ性に優れた超高強度冷延鋼板及びその製造方法を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態は重量%で、C:0.2~0.4%、Si:0.5%以下(0%は除く)、Mn:1.0~2.0%、P:0.03%以下(0%は除く)、S:0.015%以下(0%は除く)、Al:0.1%以下(0%は除く)、Cr:0.5%以下(0%は除く)、Mo:0.2%未満(0%は除く)、Ti:0.1%以下(0%は除く)、Nb:0.1%以下(0%は除く)、B:0.005%以下(0%は除く)、N:0.01%以下(0%は除く)、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、微細組織はテンパードマルテンサイト単相組織またはマルテンサイト+テンパードマルテンサイト混合組織からなり、上記微細組織は単位面積45μm×45μm当たりFHAGBが60面積%以上であり、LHAGBが8mm以上の穴拡げ性に優れた超高強度冷延鋼板を提供する。
(但し、上記FHAGBは高硬角粒界を有する結晶粒の分率を表し、LHAGBは高硬角粒界を有する結晶粒界の全長を表し、上記高硬角粒界とは隣接する結晶粒間の不一致角度が15゜以上を有する結晶粒界を意味する。)
【0006】
本発明の他の実施形態は重量%で、C:0.2~0.4%、Si:0.5%以下(0%は除く)、Mn:1.0~2.0%、P:0.03%以下(0%は除く)、S:0.015%以下(0%は除く)、Al:0.1%以下(0%は除く)、Cr:0.5%以下(0%は除く)、Mo:0.2%未満(0%は除く)、Ti:0.1%以下(0%は除く)、Nb:0.1%以下(0%は除く)、B:0.005%以下(0%は除く)、N:0.01%以下(0%は除く)、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む鋼スラブを1100~1300℃の温度で加熱する段階;上記加熱された鋼スラブをAr3以上の温度で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を得る段階;上記熱延鋼板を720℃以下の温度で巻き取る段階;上記巻き取られた熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を得る段階;上記冷延鋼板を780~900℃の温度範囲で焼鈍熱処理する段階;上記焼鈍熱処理された冷延鋼板を5℃/s以下の冷却速度で650~750℃まで徐冷する段階;上記徐冷された冷延鋼板を40℃/s以上の冷却速度で150℃以下まで急冷する段階;及び上記急冷された冷延鋼板を180~240℃で再加熱及び過時効熱処理する段階;を含む穴拡げ性に優れた超高強度冷延鋼板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一側面によると、穴拡げ性に優れながらも引張強度が1470MPa以上である超高強度冷延鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施例による発明例5及び比較例5を光学顕微鏡で観察した写真である。
【
図2】本発明の一実施例による発明例5及び比較例5を走査電子顕微鏡に付着した電子後方散乱回折で微細組織を測定した後、高硬角粒界及び低硬角粒界を分析した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態に係る穴拡げ性に優れた超高強度冷延鋼板について説明する。まず、本発明の合金組成について説明する。以下に説明される合金組成の含有量単位は、特に断りのない限り、重量%を意味する。
【0010】
C:0.2~0.4%
Cは、マルテンサイトの強度確保のために添加される元素であり、上記効果のために0.2%以上添加されることが好ましい。但し、上記Cの含有量が0.4%を超過すると溶接性が劣る場合がある。したがって、上記Cの含有量は0.2~0.4%の範囲を有することが好ましい。上記C含有量の下限は0.21%であることがより好ましく、0.22%であることがさらに好ましい。上記C含有量の上限は0.3%であることがより好ましく、0.29%であることがさらに好ましく、0.28%であることが一層好ましい。
【0011】
Si:0.5%以下(0%は除く)
Siは、フェライト安定化元素として徐冷却区間が存在する連続焼鈍炉で焼鈍後、徐冷時にフェライト生成を促進することにより強度を弱化させるという欠点がある。また、焼鈍時Siによる表面濃化及び酸化によるデント欠陥誘発のおそれがある。したがって、上記Siの含有量は0.5%以下の範囲を有することが好ましい。上記Si含有量は0.4%以下であることがより好ましく、0.3%以下であることがさらに好ましい。
【0012】
Mn:1.0~2.0%
Mnは、フェライト形成を抑制し、オーステナイト形成を容易にする元素である。上記Mnが1.0%未満の場合には徐冷却時のフェライト生成が容易になるのに対し、2.0%を超過する場合には曲げ加工性、耐遅れ破壊性及び溶接性が低下することがある。したがって、上記Mnの含有量は1.0~2.0%の範囲を有することが好ましい。上記Mn含有量の下限は1.3%であることがより好ましく、1.5%であることがさらに好ましい。
【0013】
P:0.03%以下(0%は除く)
Pは、不純物元素としてその含有量が0.03%を超過すると溶接性が低下し、鋼の脆性が発生するおそれが大きくなり、デント欠陥誘発の可能性が高くなるため、その上限を0.03%に限定することが好ましい。上記P含有量は0.025%以下であることがより好ましく、0.02%以下であることがさらに好ましい。
【0014】
S:0.015%以下(0%は除く)
Sは、Pと同様に不純物元素であり、鋼板の延性及び溶接性を阻害する元素である。上記Sの含有量が0.015%を超過すると鋼板の延性及び溶接性を阻害する可能性が高いため、その上限を0.015%に限定することが好ましい。上記S含有量は0.01%以下であることがより好ましく、0.005%以下であることがさらに好ましい。
【0015】
Al:0.1%以下(0%は除く)
Alは、フェライト変態区間を拡大する合金元素であり、本発明のように徐冷却区間が存在する連続焼鈍工程を活用する場合にはフェライト形成を促進する欠点があり、AlN形成による高温熱間圧延性が低下することがあるため、その上限を0.1%に限定する。上記Al含有量は0.07%以下であることがより好ましく、0.05%以下であることがさらに好ましい。
【0016】
Cr:0.5%以下(0%は除く)
Crは、フェライト変態を抑制することによって低温変態組織確保を容易にする合金元素であり、本発明のように徐冷却が存在する連続焼鈍工程を活用する場合にはフェライト形成を抑制する利点がある。但し、上記Crの含有量が0.5%を超過する場合には、耐遅れ破壊性が劣化することがあり、CrC等の炭化物を形成して穴拡げ性及び曲げ加工性を阻害し、合金投入量過多によって原価が増加することがある。したがって、上記Crの含有量は0.5%以下の範囲を有することが好ましい。上記Cr含有量は0.4%以下であることがより好ましく、0.3%以下であることがさらに好ましい。
【0017】
Mo:0.2%未満(0%は除く)
Moは、鋼のクエンチング性を向上させる効果、水素トラップサイトとなるMoを含む微細な炭化物を生成させる効果、及びマルテンサイトを微細化することによる耐遅れ破壊特性の改善効果がある。但し、上記Moの含有量が0.2%以上である場合には、化成処理性が劣化することがあり、原価上昇の問題があってその範囲を制限することが好ましい。したがって、上記Moの含有量は0.2%未満の範囲を有することが好ましい。上記Mo含有量の下限は0.03%であることがより好ましく、0.05%であることがさらに好ましく、0.1%であることが一層好ましい。
【0018】
Ti:0.1%以下(0%は除く)
Tiは、窒化物形成元素として鋼中のNをTiNで析出させてscavengingをする元素である。上記Ti未添加の場合、AlN形成により連続鋳造時にクラックが発生する可能性がある。但し、上記Tiの含有量が0.1%を超過すると、固溶Nの除去の他に追加的な炭化物析出によってマルテンサイトの強度が減少されることがあり、TiC、TiN等の炭・窒化物形成により穴拡げ性及び曲げ加工性を阻害することがある。したがって、上記Tiの含有量は0.1%以下の範囲を有することが好ましい。上記Ti含有量は0.07%以下であることがより好ましく、0.05%以下であることがさらに好ましい。一方、上記scavenging効果及びAlN形成抑制のために、上記Tiは化学当量的に48/14*[N]以上添加されることができる。
【0019】
Nb:0.1%以下(0%は除く)
Nbは、オーステナイト粒界に偏析して焼鈍熱処理時にオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する元素である。但し、上記Nbの含有量が0.1%を超過する場合には、炭・窒化物等の析出が増大して母材の加工性が低下し、合金投入量が過度になるにつれて原価が増加する。したがって、上記Nbの含有量は0.1%以下の範囲を有することが好ましい。上記Nb含有量は0.08%以下であることがより好ましく、0.06%以下であることがさらに好ましい。
【0020】
B:0.005%以下(0%は除く)
上記Bは、フェライト形成を抑制する元素であり、これによって本発明では焼鈍後の冷却時にフェライトの形成を抑制する利点がある。但し、上記Bの含有量が0.005%を超過すると延性が低下することがある。したがって、上記Bの含有量は0.005%以下の範囲を有することが好ましい。上記B含有量は、0.004%以下であることがより好ましく、0.003%以下であることが一層好ましい。
【0021】
N:0.01%以下(0%は除く)
Nは、不純物元素であり、その含有量が0.01%を超過するとAlN形成等による連鋳時にクラックが発生するおそれが大きく増加するため、その上限を0.01%に限定することが好ましい。上記N含有量は0.008%以下であることがより好ましく、0.006%以下であることが一層好ましい。
【0022】
上述した鋼組成以外に、残りはFe及び不可避不純物を含むことができる。不可避不純物は通常の鉄鋼製造工程で意図せずに混入することができるものとして、これを全面排除することはできず、通常の鉄鋼製造分野の技術者であればその意味を容易に理解することができる。なお、本発明は、上述した鋼組成以外の他の組成の添加を全面的に排除するものではない。
【0023】
一方、本発明の冷延鋼板は、Cu:0.5%以下及びNi:0.5%以下のうち1種以上をさらに含むことができる。
【0024】
Cu:0.5%以下
Cuは、耐食性を向上させ、鋼板表面に被覆して水素侵入を抑制する効果がある。但し、上記Cuの含有量が0.5%を超過する場合には表面欠陥の原因となることがある。したがって、上記Cuの含有量は0.5%以下の範囲を有することが好ましい。上記Cu含有量は0.4%以下であることがより好ましく、0.3%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
Ni:0.5%以下
NiもCuと同様に耐食性を向上させ、Cu添加によって発生し易い表面欠陥を低減させる役割をする。但し、上記Niの含有量が0.5%を超過する場合には、加熱炉内でのスケール生成が不均一となり、表面欠陥の原因となることがある。したがって、上記Niの含有量は0.5%以下の範囲を有することが好ましい。上記Ni含有量は0.4%以下であることがより好ましく、0.3%以下であることがさらに好ましい。
【0026】
さらに、本発明の冷延鋼板は、Sb:0.05%以下をさらに含むことができる。
【0027】
Sb:0.05%以下
Sbは、表層の酸化や窒化を抑制して、高強度化と耐遅れ破壊特性の改善に寄与する元素である。但し、上記Sbの含有量が0.05%を超過すると鋳造性が劣化し、耐遅れ破壊特性が低下することがある。したがって、上記Sbの含有量は0.05%以下の範囲を有することが好ましい。上記Sb含有量は0.04%以下であることがより好ましく、0.03%以下であることがさらに好ましい。
【0028】
以下、本発明の一実施形態に係る穴拡げ性に優れた超高強度冷延鋼板の微細組織について説明する。
【0029】
本発明の冷延鋼板の微細組織は、テンパードマルテンサイト単相組織またはマルテンサイト+テンパードマルテンサイト混合組織からなることが好ましい。このように、微細組織をテンパードマルテンサイト単相組織またはマルテンサイト+テンパードマルテンサイト混合組織からなるようにすることで、高い降伏強度と穴拡げ性に優れた効果が得られる。本発明の微細組織は、テンパードマルテンサイト単相組織であることがより好ましいが、製造工程上、テンパリングが完全に起こらず、マルテンサイト+テンパードマルテンサイト混合組織からなることもできる。本発明では、上記マルテンサイト+テンパードマルテンサイト混合組織の分率について特に限定しないが、例えば、上記混合組織は、テンパードマルテンサイトの分率が80面積%以上であることができ、より好ましくは90面積%以上であることができる。
【0030】
また、本発明の微細組織は、単位面積45μm×45μm当たりのFHAGBが60面積%以上であり、LHAGBが8mm以上であることが好ましい。このとき、上記FHAGBは高硬角粒界を有する結晶粒の分率を表し、LHAGBは高硬角粒界を有する結晶粒界の全長を表し、上記高硬角粒界とは隣接する結晶粒間の不一致角度が15°以上を有する結晶粒界を意味する。上記FHAGBが60面積%未満であるか、上記LHAGBが8mm未満である場合には、穴拡げ性が劣るという欠点がある。
【0031】
一方、本発明の冷延鋼板は、旧オーステナイト平均粒径が6μm以下であることができる。上記旧オーステナイト平均粒径が6μmを超過する場合には、穴拡げ性及び曲げ加工性が劣るという欠点がある。
【0032】
上述したように提供される本発明の冷延鋼板は、引張強度(TS)が1470MPa以上であり、引張強度(TS)(MPa)×穴拡げ率(HER)(%)の値が73500MPa・%以上であり、超高強度と優れた穴拡げ性を同時に確保することができる。
【0033】
以下、本発明の一実施形態に係る穴拡げ性に優れた超高強度冷延鋼板の製造方法について説明する。
【0034】
まず、上述した合金組成を有する鋼スラブを1100~1300℃の温度で加熱する。上記加熱温度が1100℃未満であると熱間圧延荷重が急激に増加する問題が発生し、1300℃を超過する場合には表面スケール量が増加して材料のlossにつながる可能性がある。したがって、上記鋼スラブの加熱温度は1100~1300℃の範囲を有することが好ましい。
【0035】
この後、上記加熱された鋼スラブをAr3以上の温度で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を得る。上記Ar3温度とは、オーステナイトを冷却時にフェライトが出始まる温度である。上記仕上げ圧延温度がAr3未満の場合には、フェライト+オーステナイトの2相域あるいはフェライト域圧延が行われて混粒組織が作られ、熱間圧延荷重の変動により熱延設備が誤作動するおそれがある。上記仕上げ熱間圧延温度は800℃以上であることがより好ましく、850℃以上であることがさらに好ましく、900℃以上であることが一層好ましい。
【0036】
この後、上記熱延鋼板を720℃以下の温度で巻き取る。上記巻き取り温度が720℃を超過する場合には、鋼板表面の酸化膜が過度に生成されて欠陥を引き起こす可能性がある。上記巻き取り温度が低くなるほど熱延鋼板の強度が高くなり、後工程である冷間圧延の圧延荷重が高くなる欠点があるが、実際の生産を不可能にする要因ではないため、本発明では上記巻き取り温度の下限を特に限定するものではない。上記巻き取り温度は700℃以下であることがより好ましく、680℃以下であることがさらに好ましく、650℃以下であることが一層好ましい。
【0037】
この後、上記巻き取られた熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を得る。本発明では、上記冷間圧延工程について特に限定されず、当該技術分野で通常的に用いられる全ての工程を用いることができる。一方、上記冷間圧延工程の前には酸洗工程をさらに行うこともできる。
【0038】
この後、上記冷延鋼板を780~900℃の温度範囲で焼鈍熱処理する。上記焼鈍熱処理温度が780℃未満の場合には、フェライトの多量形成により強度が低下することがある。また、800℃以上で焼鈍する他鋼材との連結作業時に、本発明鋼材のトップ(Top)、エンド(End)部の温度傾斜発生により材質偏差が発生することがある。一方、上記焼鈍熱処理温度が900℃を超過する場合には、連続焼鈍炉の耐久性が劣化して、製品生産に困難がある可能性がある。したがって、上記焼鈍熱処理温度は780~900℃の範囲を有することが好ましい。上記焼鈍熱処理温度の下限は800℃であることがより好ましく、820℃であることがさらに好ましく、840℃であることが一層好ましい。上記焼鈍熱処理温度の上限は880℃であることがより好ましく、860℃であることがさらに好ましい。
【0039】
この後、上記焼鈍熱処理された冷延鋼板を5℃/s以下の冷却速度で650~750℃まで徐冷する。一般的に連続焼鈍炉は焼鈍熱処理後に徐冷却区間が存在することになる。すなわち、上述した焼鈍熱処理工程後、一定区間の間徐冷が行われるようになる。通常的に、徐冷却区間が含まれた連続焼鈍炉の場合、焼鈍後の100~200mの徐冷却区間があり、高温での焼鈍後の徐冷却によってフェライトなどの軟質相(Phase)が形成されることにより、超高強度鋼の製造を困難にするという欠点がある。例えば、160mの徐冷却区間が存在する際に鋼板の通板速度が分当たり160mの場合、徐冷却区間で維持される時間は60秒であり、また、焼鈍温度が830℃であり、徐冷却区間の最後温度が650℃の場合、徐冷却区間での冷却速度は3℃/sと非常に低い。これにより、フェライトなどの軟質相が生成される可能性が非常に高くなる。一方、上記焼鈍後、徐冷却時の冷却速度を5℃/秒より高くするためには、追加的な冷却装置を導入しなければならないため、製造費用や設備交替などの問題が発生する可能性がある。
【0040】
これにより、本発明は、上記徐冷された冷延鋼板を40℃/s以上の冷却速度で150℃以下まで急冷する。上記急冷工程により、微細組織をマルテンサイトに変態させることができる。もし、上記急冷速度が40℃/s未満であるか、急冷終了温度が150℃超過である場合、マルテンサイト変態が十分に行われず、本発明が得ようとする微細組織を確保することが困難であることがある。上記急冷速度は50℃/s以上であることがより好ましく、60℃/s以上であることがさらに好ましく、70℃/s以上であることが一層好ましい。上記急冷終了温度は140℃以下であることがより好ましく、130℃以下であることがさらに好ましい。
【0041】
この後、上記急冷された冷延鋼板を180~240℃で再加熱及び過時効熱処理する。上記再加熱及び過時効熱処理により、上述した急冷工程により得られたマルテンサイトをテンパードマルテンサイトに変態させることができる。上記再加熱及び過時効熱処理温度が180℃未満の場合にはテンパリングが十分に行われず、降伏強度が低くて十分な靭性を確保することができないという欠点があり、240℃を超過する場合には炭化物の多量析出及び粗大化により曲げ加工性が劣るという欠点がある。上記再加熱及び過時効熱処理温度の下限は、190℃であることがより好ましく、200℃であることがさらに好ましい。上記再加熱及び過時効熱処理温度の上限は、230℃であることがより好ましく、220℃であることがさらに好ましい。一方、上記過時効熱処理は400秒以上行われることができる。上記過時効熱処理時間が400秒未満の場合には、焼戻しが十分に行われず、降伏強度が低いという欠点がある。一方、本発明では上記過時効熱処理時間について特に限定しないが、連続焼鈍設備の特性上、1000秒を超過することは困難である。上記過時効熱処理時間の下限は、500秒であることがより好ましく、600秒であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例によってより詳細に説明する。しかし、このような実施例の記載は、本発明の実施を例示するためのもので、このような実施例の記載によって本発明が制限されるものではない。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれから合理的に類推される事項によって決定されるためである。
【0043】
(実施例)
下記表1に記載の合金組成を有する溶鋼をインゴットに鋳造した後、サイジング圧延して鋼スラブを製造した。この鋼スラブを1200℃の温度に加熱し、1時間維持した後、900℃で仕上げ熱間圧延し、550℃に予め加熱した炉に装入して1時間維持した後、炉冷することにより熱延巻き取りを模写した。この熱延鋼板を酸洗した後、50%の冷間圧下率で冷間圧延後に下記表2に記載の条件で焼鈍熱処理、徐冷、急冷、再加熱及び過時効熱処理を行い、冷延鋼板を製造した。
【0044】
このように製造された冷延鋼板について微細組織及び機械的物性を測定した後、下記表3に示した。
【0045】
このとき、微細組織は光学顕微鏡を用いて測定し、旧オーステナイト平均粒径は[関係式1]Fm=(Fk×106)/((0.67n+z)×V2)により測定した。但し、上記関係式1において、Fmは旧オーステナイト平均粒径、Fkは微細組織写真の全体面積、Zは円内部に入る結晶粒数、nは円に及ぶ結晶粒数、Vは微細組織測定時の倍率を意味する。上記旧オーステナイト平均粒径測定時、1000倍率の光学顕微鏡で測定した微細組織写真に直径が140μmの円を描いて測定した。
【0046】
また、FHAGBとLHAGBは電子後方散乱回折法(EBSD)を用いて45μm×45μmの測定面積と0.75μmの測定間隔内で微細組織を測定した後、TSL-OIMソフトウェアを用いて臨界値15°を基準として分析した。
【0047】
引張強度(TS)及び降伏強度(YS)は、圧延方向の垂直方向にJIS5号サイズの引張試験片を採取した後、strain rate 0.01/sで引張試験を行って測定した。
【0048】
穴拡げ率(HER)は、ISO 16630基準によって測定した。試験片寸法は120mm×120mmであり、clearance12%基準に基づいて初期孔径は10mmであった。パンチングホールディング荷重は20ton、試験速度は12mm/minであった。
【0049】
R/t(曲げ特性)は、冷延鋼板を幅100mm×長さ30mmで試験片加工をした後、試験速度100mm/minの条件で90°曲げ試験をし、顕微鏡を用いて曲げ部のクラックを確認することによりクラックが発生しない最小曲げ半径(R)を試験片の厚さ(t)で割ってR/t値を求めた。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
上記表1~3から分かるように、本発明の条件に符合する発明例1~8の場合には、優れた引強強度と引張強度×穴拡げ率の値を有していることが分かる。一方、比較例1~12の場合には、本発明の条件に符合しないことによって、本発明が得ようとする引強強度または引張強度×穴拡げ率の値を確保していないことが分かる。
【0054】
図1は、発明例5及び比較例5を光学顕微鏡で観察した写真である。
図1から分かるように、発明例5の場合には旧オーステナイトの平均粒径が微細であるのに対し、比較例5の場合には旧オーステナイトの平均粒径が相対的に大きいことが分かる。
【0055】
図2は、発明例5及び比較例5を走査電子顕微鏡に付着した電子後方散乱回折で微細組織を測定した後、高硬角粒界及び低硬角粒界を分析した写真である。
図2から分かるように、発明例5の場合にはF
HAGBとL
HAGBが高い値を有するのに対し、比較例5の場合には低いレベルであることが分かる。
【国際調査報告】