(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-11
(54)【発明の名称】感度が向上した薄膜センサ
(51)【国際特許分類】
C23C 16/27 20060101AFI20240904BHJP
G01B 7/16 20060101ALI20240904BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20240904BHJP
G01K 7/16 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
C23C16/27
G01B7/16 R
C23C14/06 F
G01K7/16 S
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504888
(86)(22)【出願日】2022-07-15
(85)【翻訳文提出日】2024-02-29
(86)【国際出願番号】 EP2022069894
(87)【国際公開番号】W WO2023006451
(87)【国際公開日】2023-02-02
(32)【優先日】2021-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,プフェフィコーン
【氏名又は名称原語表記】OERLIKON SURFACE SOLUTIONS AG, PFAEFFIKON
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コレフマイネン,ユッカ
(72)【発明者】
【氏名】テルバカンナス,サンナ
(72)【発明者】
【氏名】ハイコラ,ユハ
(72)【発明者】
【氏名】ベッカー,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ギース,アストリッド
(72)【発明者】
【氏名】ショルツ,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ハイコラ,エサ
【テーマコード(参考)】
2F056
2F063
4K029
4K030
【Fターム(参考)】
2F056MS01
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4K029AA02
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4K029BA34
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4K030CA05
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4K030FA01
4K030JA06
4K030LA21
(57)【要約】
本発明は、薄膜センサとして使用されるコーティングシステムであって、ピエゾ抵抗センサ素子を備え、ピエゾ抵抗センサ素子は、コーティングシステムに組み込まれた層であり、コーティングシステムは基板の表面に堆積され、好ましくは基板は、構成要素もしくは工具、または構成要素の一部もしくは工具の一部であり、ピエゾ抵抗センサ素子は、Xでドープされた少なくとも1つの水素を含まない四面体非晶質炭素コーティング、すなわちta-C:Xコーティング層を備え、Xは、元素周期表の元素群13および15から選択された1つまたは複数の化学元素であり、好ましくはXは、B、Al、Ga、In、TI、N、およびPからの1つまたは複数であり、ta-C:Xコーティング層は異方性ゲージ率を表す、コーティングシステムに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜センサとして使用されるコーティングシステムであって、ピエゾ抵抗センサ素子を備え、前記ピエゾ抵抗センサ素子が、前記コーティングシステムに組み込まれた層であり、前記コーティングシステムが基板の表面に堆積され、好ましくは前記基板が、構成要素もしくは工具、または構成要素の一部もしくは工具の一部であり、前記ピエゾ抵抗センサ素子が、Xでドープされた少なくとも1つの水素を含まない四面体非晶質炭素コーティング、すなわちta-C:Xコーティング層を備え、Xが、元素周期表の元素群13および15から選択された1つまたは複数の化学元素であり、好ましくはXが、B、Al、Ga、In、TI、N、およびPからの1つまたは複数であることを特徴とし、前記ta-C:Xコーティング層が異方性ゲージ率を表す、コーティングシステム。
【請求項2】
前記ta-C:Xコーティング層が、垂直ゲージ率および長手方向率を含む異方性ゲージ率を有し、前記垂直率が、前記長手方向ゲージ率よりも少なくとも10倍高く、好ましくは前記長手方向ゲージ率が4~20の範囲内であり、前記垂直ゲージ率が100~450の範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載のコーティングシステム。
【請求項3】
前記少なくとも1つのta-C:Xコーティング層が、
- 少なくとも29GPa、好ましくは30GPa~45GPaの範囲内のナノインデンテーション技法によって決定された硬度HIT、
- 少なくとも300GPa、好ましくは330GPa~430GPaの範囲内のナノインデンテーション技法によって決定された弾性率EIT、
- 少なくとも90at.%、好ましくは91at.%~98at.%の範囲内のSIMS分析によって決定された炭素含有量、および
- 少なくとも2at.%、好ましくは2at.%~20at.%の範囲内のSIMS分析によって決定された含有量
を表すことを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項4】
Xが、
- 窒素N、または
- リンP、または
- 窒素NおよびリンP
を含むことを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項5】
前記少なくとも1つのta-C:Xコーティング層内の前記窒素含有量が、2at.%~10at.%の範囲内、好ましくは6.5at.%~8.5at.%の範囲内であることを特徴とする、請求項4に記載のコーティングシステム。
【請求項6】
Xが窒素であり、すなわちta-C-Xがta-C:Nであることを特徴とする、請求項4または5に記載のコーティングシステム。
【請求項7】
前記ta-C:Nコーティング層内の前記N含有量が、6.5at.%~7.5at.%の範囲内であることを特徴とする、請求項4~6のいずれか1項に記載のコーティングシステム。
【請求項8】
前記ピエゾ抵抗センサ素子が前記基板表面からの歪みおよび/または温度の関数として電気信号を提供するように、前記ピエゾ抵抗センサ素子が導電性コネクタによって接触されることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項9】
前記コーティングシステムが、前記基板表面と前記ピエゾ抵抗センサ素子との間に設けられた下位電気絶縁層を備えることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項10】
前記コーティングシステムが、前記基板表面上に直接設けられた接着層を備えることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項11】
前記コーティングシステムが、前記ピエゾ抵抗センサ素子に直接設けられた上位電気絶縁層を備えることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項12】
前記コーティングシステムが少なくとも1つの機能層を備え、好ましくは前記少なくとも1つの機能層が、DLCコーティング層、または使用に応じて特定のトライボロジー特性を表す任意の他のコーティング層であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項13】
温度および/または歪みを決定するために使用される、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステムを備える薄膜センサ。
【請求項14】
請求項13に記載の薄膜センサを備える構成要素、好ましくは自動車構成要素、または工具であって、前記薄膜センサが、温度および/または歪みを決定するために前記構成要素または工具に組み込まれる、構成要素または工具。
【請求項15】
先行する請求項1~12のいずれかに記載のコーティングシステムを製造するため、または請求項13もしくは14に記載の薄膜センサを製造するための方法であって、前記少なくとも1つのta-C:Xコーティング層が、PVD技法またはPA-CVD技法を使用して堆積される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学元素Xでドープされた水素を含まない四面体非晶質炭素材料に基づくピエゾ抵抗材料センサ層、すなわちta-C:X層を備えるコーティングシステムとして解釈される薄膜センサに関し、Xは、センサ特性を向上させるために、特にセンサ感度を向上させるために、元素周期表の元素群13および15から選択された、特にホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、窒素(N)、およびリン(P)から選択された1つまたは複数の化学元素である。同様に、本発明は、本発明による薄膜センサを備える構成要素または構成要素の一部に関し、薄膜センサが塗布される構成要素または構成要素の一部の基板表面の材料は、好ましくはポリマー、セラミック、および/または複合材料を含む。
【背景技術】
【0002】
技術分野
センサは、今日では半導体セグメントにおいて非常に強い存在感を有する多くの用途において、数十年にわたって使用されてきた。それらの需要は、モノのインターネット(loT)などの新しい技術の出現、ビッグデータを処理して複雑なシステムの挙動を理解および予測する必要性および可能性、インダストリ4.0規格の導入に起因して、ならびに機械的および電子的な構成要素を含む完全に自動化されたデバイスを監視するために、ますます劇的になっている。
【0003】
センサは、実際のアナログ世界とデジタル世界との間のインターフェースであり、それは、光強度、温度、力、加速度、動き、磁場などのすべての測定可能な量を電気信号に変換することを可能にし、電気信号は、その後デジタル的に処理および分析することができる。
【0004】
本明細書の文脈では、薄膜は、薄膜の堆積のための任意の適切な技法を適用することができる、ナノメートル~数マイクロメートルの厚さのほんのわずかの範囲の材料の層であり、薄膜堆積は、基板の表面または以前に堆積された層の表面に薄膜を塗布する行為である。
【0005】
組込み型センサという用語は、通常、以下の2つのタイプのセンサを指すために使用される。
【0006】
1.半導体チップに統合された、または集積回路(IC)に含まれ、より大きいデバイスまたは機械の異なる状態を測定するために電子デバイスに配置されたセンサ素子、それは、例えば、自動車の位置、またはロボットアームの加速度、または加熱システムの冷却温度などを決定するためを意味する。
【0007】
2.直接実装されたセンサ、それは、構成要素の表面に直接塗布されるか、またはその特性および/もしくは構成要素自体に対する外部効果に関して監視される必要がある構成要素に組み込まれることを意味する。
【0008】
同じタイプまたは異なるタイプのいくつかのセンサは、構成要素の1つまたは複数の測定可能な特性を監視するために、前記構成要素の異なる位置に組み込むことができることが知られている。
【0009】
本明細書の文脈における構成要素という用語は、構成要素または物品もしくは工具の任意の部分も含む。
【0010】
詳細には、本明細書の文脈では、構成要素は、工具、機械要素、加熱部品、自動車部品(例えば、ピストン、軸受、シャフト、車軸、バルブ、バッテリ、航空機の一部、または航空機(例えば、タービンエンジン構成要素、着陸装置、ハウジング、もしくは工業機械の一部)であり得る(が、それらに限定されない)。
【0011】
そのような用途においてセンサによって監視される典型的な特性は、例えば、歪み、力、圧力、振動、および温度(例えば、前記構成要素の表面における温度)である。
【0012】
簡単にするために、本明細書の少なくともいくつかの部分は、歪みゲージセンサおよび温度センサに焦点を当てる。しかしながら、この焦点は、本発明の限定として理解されるべきではない。
【0013】
構成要素に組み込むことができるいくつかの既知のセンサは、金属または半導体箔歪みゲージ、ならびに白金ベースのPT100センサまたは負温度係数サーミスタ(NTC)などの抵抗温度検出器(RTD)を含む。そのような種類のセンサは、それらのより小さい幾何形状に起因して、監視される必要がある(すなわち、そこからいくつかの特性を測定する必要がある)構成要素に容易に取り付けることができる。さらに、磁気抵抗トルクセンサおよび古典的な圧力センサなどのかさばるセンサも知られており、それらは組込み型センサとしての使用を考慮することができる。
【0014】
しかしながら、上述された周知のセンサの使用にはいくつかの制限があり、例えば、金属箔歪みゲージは、特に断面に対する長さの高い比率、ならびにそれらの性質および形状に起因する制限があり、それは複雑な形状を有する構成要素にそれらを組み込むことを困難にする。
【0015】
さらに、そのような既知のセンサの感度は、本質的に非常に低い。その結果、より正確な測定のための高い感度が必要とされる場合、それらの設定はより複雑になる。
【0016】
上述された既知のセンサの1つのさらなる欠点は、長い動作時間の後にそれらも損傷を受けやすいことである。
【0017】
半導体膜歪みゲージは、脆く、製造コストが高く、高温処理のために金属部品への統合がより困難であるため、欠陥も有する。
【0018】
白金ベースのセンサは、特に正確な測定が必要とされるときに設定が複雑である。金属箔歪みゲージに関しては、断面に対する長さの比率が高く、それは複雑な表面に統合することを困難にする。それらはまた、追加の遮蔽を必要とする化学的に厳しい環境および機械的ストレスに対して非常に敏感である。これらのセンサは、測定する構成要素のサイズに対してすでにかさばり、追加の遮蔽はそれらの質量を大幅に増加させ、その結果、それらの応答時間の好ましくない低下をもたらす。
【0019】
サーミスタ、ならびに磁気抵抗トルクセンサはかさばり、応答時間が遅く、基本センサのような機械の一部として使用される構成要素の特別な材料を必要とし、加工に費用がかかる。
【0020】
圧力センサは、測定される圧力範囲および温度範囲において制限され、測定の長期安定性が不十分であり、媒体抵抗によって制限され、さらに、測定はセンサの温度に強く依存する。
【0021】
近年、センサ機能を遂行するための少なくとも1つのコーティング層を備え、構成要素の任意の表面で所望の特性を測定するためのセンサとして使用することができる、いわゆる薄膜センサが開発されている。そのようなコーティング層は、センサ機能を達成するためにワイヤまたは箔の複雑な実装を必要とする代わりに、容易な方法で表面に堆積させることができる。そのような最近開発された薄膜センサは、現在、確立された技術であり、「スマートコーティング」と呼ばれるコーティングソリューションファミリの一部でもあると考えられている。
【0022】
そのような薄膜センサを製造するために、(コーティング技法とも呼ばれる)従来の薄膜堆積方法を使用することができ、その結果、薄膜を基板表面に堆積させてセンサ素子として使用することができる。
【0023】
そのような薄膜堆積方法のいくつかは、例えば、物理気相堆積(PVD)、化学気相堆積(CVD)、プラズマ支援化学気相堆積(PA-CVD)、溶射などである。
【0024】
上述されたコーティング技法は、特に、複雑な幾何形状を有する構成要素または構成要素の一部に薄膜センサを堆積させるのに適している。
【0025】
本明細書の文脈では、薄膜センサは、薄コーティング膜センサまたは単にコーティングセンサとも呼ばれる。
【0026】
薄膜センサを備える歪みゲージは、トルクおよび力の測定に関して非常に正確であり、長期安定性を有することが実証されており、動作中に力およびトルクの連続測定を提供することができる。この既知の歪みゲージでは、薄膜センサは、通常、金属コーティング、特にCrまたはNi系金属で形成されたコーティングであり、薄膜センサが堆積されるべき構成要素の基板が金属材料から作られている場合、それは絶縁層上に堆積される。そのような場合、絶縁層の形成に使用される材料は、例えば、Al2O3、CrO、AICrO、または非晶質炭素ベースのコーティングである。さらに、金属コーティングは、任意選択的に、さらなる絶縁層によって覆うことができる。
【0027】
しかしながら、薄膜センサがより従来型の組込み型センサと比較して測定の大幅な改善および精度に寄与する場合でも、それらは、より正確な測定を達成するために必要な感度を欠いているという欠点を依然として有し、過渡測定に対するそれらの応答時間が十分に速くないというさらなる欠点も有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明の目的
本発明の主な目的は、従来技術の欠点を克服する薄膜センサを提供することである。詳細には、本発明による薄膜センサは、より正確な測定を可能にするためのより高い感度を達成することを可能にするべきであり、好ましくは、過渡測定のためのより速い応答時間も可能にするべきである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明の説明
本発明の目的は、請求項1に記載のコーティングシステムを提供することによって達成される。本発明の好ましい実施形態または本発明の好ましい態様は、従属請求項2~15に記載されている。
【0030】
本発明によるコーティングシステムは、薄膜センサとして使用されるコーティングシステムであって、ピエゾ抵抗センサ素子を備え、ピエゾ抵抗センサ素子は、コーティングシステムに組み込まれた層であり、コーティングシステムは基板の表面に堆積され、好ましくは基板は、構成要素もしくは工具、または構成要素の一部もしくは工具の一部であり、ピエゾ抵抗センサ素子は、Xでドープされた少なくとも1つの水素を含まない四面体非晶質炭素コーティング層、すなわちta-C:Xコーティング層を備え、Xは、元素周期表の元素群13および15から選択された1つまたは複数の化学元素であり、好ましくはXは、B、Al、Ga、In、TI、N、およびPからの1つまたは複数であり、ta-C:Xコーティング層は異方性ゲージ率を表す、コーティングシステムである。
【0031】
ta-C:Xコーティング層の異方性ゲージ率は、歪みに対する抵抗応答における異方性を表すta-C:Xコーティング層として理解されるべきであり、その結果、歪みに対する抵抗変化の応答の大きさは、ピエゾ抵抗センサ素子の異なる直交軸、例えば長手方向および垂直方向に歪みが加えられた場合の測定値を比較すると異なる。
【0032】
言い換えれば、歪みが長手方向に、センサ素子の長さに沿って、またはセンサ素子の表面に垂直に加えられると、異なるゲージ率が取得され、差は少なくとも10倍である。好ましくは、垂直方向のゲージ率は、長手方向のゲージ率よりも少なくとも10倍高い。
【0033】
例えば、
図1に記載されたように構成された構造を有する薄膜センサでは。薄膜センサは、例えば、a)表面に沿って、すなわちセンサ素子の長さもしくは幅に沿って、またはb)表面に垂直に、すなわちセンサ素子の厚さにわたって、基板を伸長または圧搾することによって歪みを受ける可能性がある。構成要素1が長方形の断面を有する梁であった場合、これは、梁を曲げることによって長さ方向に容易に歪み、2つの平坦面の間で圧搾することによって法線方向に歪む可能性がある。
【0034】
ta-C:X層としてta-C:Nコーティング層が使用され、ナノインデンテーション技法を使用して測定された弾性率および硬度が約380GPaおよび36GPaである一例では、上記で説明された方法を適用することにより、a)の場合、長さ方向の歪みの応答は100マイクロストレイン(10-4の相対寸法変化)であり、それは試料上で抵抗の0.045~0.055%の変化として測定され、一方、b)の場合、2マイクロストレインの垂直歪みの応答は、0.03~0.09%の範囲内であった。感度として、これは、長手方向(ケースa))の4.5~5.5の範囲内のゲージ率に対応し、(本文脈では垂直方向とも呼ばれ、ケースb)の測定に対応する)法線方向の150~450の範囲内のゲージ率に対応する。
【0035】
好ましくは、本発明による本発明のta-C:Xコーティング層は、4~20の範囲内の長手方向ゲージ率に対応する異方性ゲージ率、および100~450の範囲内の垂直ゲージ率(上記で説明されたように法線方向のゲージ率として理解されるべき垂直ゲージ率)、例えば4~6の範囲内の長手方向ゲージ率、および295~305の範囲内の垂直ゲージ率を有するように設計される。
【0036】
少なくとも1つのta-C:Xコーティング層は、好ましくは、
- 少なくとも29GPa、好ましくは30GPa~45GPaの範囲内のナノインデンテーション技法によって決定された硬度HIT、
- 少なくとも300GPa、好ましくは330GPa~430GPaの範囲内のナノインデンテーション技法によって決定された弾性率EIT、
- 少なくとも90at.%、好ましくは91at.%~98at.%の範囲内のSIMS分析によって決定された炭素含有量、および
- 少なくとも2at.%、好ましくは2at.%~20at.%の範囲内のSIMS分析によって決定された含有量
を表す。
【0037】
Xが
- 窒素(N)、または
- リン(P)、または
- 窒素(N)およびリン(P)
を含むとき、特に良好な結果が達成された。
【0038】
Xが窒素(N)を含む本発明の特に好ましい実施形態によれば、少なくとも1つのta-C:Xコーティング層内のN含有量は、2at.%~10at.%の範囲内、好ましくは6.5at.%~8.5at.%の範囲内である。
【0039】
本発明のコーティングシステムの上述された特に好ましい実施形態の好ましい変形形態によれば、Xは窒素であり、その結果、ta-C-Xはta-C:Nである。
【0040】
X=Nであるとき、例えば、ta-C:Nコーティング層内のN含有量が6.5at.%~7.5at.%の範囲内であったとき、特に有利に定義された異方性ゲージ率が観察された。
【0041】
本発明の好ましい実施形態によれば、ピエゾ抵抗センサ素子は、ピエゾ抵抗センサ素子が基板表面からの歪みおよび/または温度の関数として電気信号を提供するように、導電性コネクタによって接触される。
【0042】
基板が導電性であるとき、コーティングシステムは、基板表面とピエゾ抵抗センサ素子との間に設けられた下位電気絶縁層を備えるように設計される。下位電気絶縁層は、例えば、溶射技法を使用して堆積されたAl2O3層であり得る。
【0043】
基板および使用の種類に応じて、コーティングシステムは、好ましくは基板表面へのコーティングシステムの接着を保証するために、基板表面上に直接設けられた接着層も備えるように設計することができる。
【0044】
使用の種類に応じて、本発明のコーティングシステムは、ピエゾ抵抗センサ素子上に直接設けられた上位電気絶縁層を備えるように設計することができる。
【0045】
使用の種類に応じて、少なくとも1つの機能層を備えるコーティングシステムを設計することも有益なはずである。
【0046】
機能層は、好ましくはta-C層もしくは任意のDLCコーティング(水素を含まない、もしくは水素を含むDLC層)、または使用に応じて特定のトライボロジー特性を表す任意の他のコーティング層であり得る。
【0047】
DLC層は、いわゆるダイヤモンド状コーティング層であり、
- 水素を含まず、ドープされていない、例えばa-Cおよびta-C、または
- 水素を含まず、ドープされている、例えば、ドーピング元素が金属であり、金属がMeと略される場合、a-C:Meもしくはta-C:Me、または
- 水素化され、ドープされていない、例えばa-C:H、または
- 水素化され、ドープされている、例えば、ドーピング元素が金属であり、金属がMeと略される場合、a-C:H:Me
であり得る非晶質炭素層とも呼ばれる。
【0048】
本発明によるコーティングシステムを備える薄膜センサは、温度および/または歪みを決定するのに特に有用である。
【0049】
本発明による薄膜センサは、温度および/または歪みを決定するために自動車構成要素に組み込まれるのに特に有用である。
【0050】
したがって、本発明は、構成要素、好ましくは自動車構成要素にも関するが、温度および/または歪みを決定するための構成要素または工具に組み込まれた、本発明による薄膜センサを備える工具にも関する。本発明による薄膜センサは、好ましくは、少なくとも1つのta-C:Xコーティング層がPVDまたはPA-CVD技法を使用して堆積される工程を含む方法を使用することによって製造される。
【0051】
本発明によるコーティングシステムを製造するための、またはそれぞれ薄膜センサを(すなわち、上述された構成要素もしくは工具に組み込まれた薄膜も)製造するための好ましい方法は、少なくとも1つのta-C:Xコーティング層がPVDまたはPA-CVD技法を使用して堆積される工程を含む。
【0052】
本発明による薄膜センサは任意の種類の基板に塗布することができるが、そのような薄膜センサは、組込み型センサとして構成要素または構成要素の一部に塗布されるのに特に適しており、好ましくは、薄膜センサが塗布される構成要素または構成要素の一部の基板表面の材料は、好ましくはポリマー、セラミック、および/または複合材料を含む。
【0053】
驚くべきことに、通常使用される光起電力実験において窒素をドープした水素を含まない四面体非晶質炭素コーティングの電気的効果を研究することにより、本発明者らは、光起電力サンプルが位置した同じ部屋で生じるわずかな動き(例えば、部屋の中を歩いている人によって引き起こされる振動)が、光起電力サンプルの抵抗率の非常に顕著で測定可能な変化を誘発することを検出した(膜の抵抗率の変化は、可視光とUV光との間で引き起こされる抵抗の差として測定された)。
【0054】
本発明者らは、組込み型センサとして使用される薄膜センサにおいて研究されたta-C:Nコーティングで観察された特徴を実装する着想を得ており、実装は、一般的に使用される金属層の代わりに、ピエゾ抵抗材料層としてドープされた四面体非晶質炭素(ドープされたta-C)層、好ましくは窒素をドープした四面体非晶質炭素(ta-C:N)コーティング層、またはリンをドープした四面体非晶質炭素(ta-C:P)コーティング層、または窒素およびリンをドープした四面体非晶質炭素(ta-C:N:P)コーティング層の使用を伴った。
【0055】
このように作成された本発明の薄膜センサは、高速歪み変化(高速歪み変化は、数十kHz、例えば40kHzより高い振動として理解されるべきである)に応答することができ、非常に高感度の正確な温度センサである(この文脈におけるセンサの高感度は、NTCサーミスタとしての使用における900を超えるベータ係数の値として理解されるべきである)。
【0056】
その上、薄膜センサの堆積は、用途の要件に応じて調整された最適化された抵抗率を得るための表面上の電気経路を生成するために、表面のレーザ構造化またはパターニングと組み合わせることができる。
【0057】
今日、所望の特性をそれらの表面に生成するための機能コーティング層(例えば、遮熱特性、耐腐食性、耐摩耗性、摩擦低減などを達成するための機能コーティング層)を備えるコーティングシステムでコーティングされた表面を含む多くの構成要素が製造されることを考慮すると、本発明者らは、薄膜センサおよびそのような機能コーティング層を同じコーティングシステムに統合することが明らかに有利であると考える。
【0058】
本発明による薄膜センサの好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの(以下、組込み型ピエゾ抵抗センサ素子とも呼ばれる)組込み型ピエゾ抵抗材料センサ層は、構成要素または工具の表面に塗布されたコーティングシステム内に設けられ、少なくとも1つの組込み型ピエゾ抵抗センサ素子は、ta-C:Xコーティング層を備える。好ましくは、少なくとも1つの組込み型ピエゾ抵抗センサ素子は、窒素ドープ四面体非晶質炭素コーティング層(ta-C:N)を備える。
【0059】
上述されたように、組込み型ピエゾ抵抗センサ素子は、Xドープ四面体非晶質炭素(ta-C:X)の層を備えるか、またはそれから構成することができ、Xは、センサ特性を高めるために、特にセンサ感度を高めるために、元素周期表の元素群13および15から選択された、特にB、Al、Ga、In、TI、N、およびPから選択された1つまたは複数の化学元素である。
【0060】
本発明による薄膜センサの使用のために、本発明者らは、薄膜センサが塗布される構成要素表面に作用する少なくとも温度、歪み、圧力、および/または振動を測定することを可能にする方法を開発した。
【0061】
本発明の好ましい実施形態によれば、コーティングシステムに含まれる層である少なくとも1つの組込み型ピエゾ抵抗センサ素子が提供され、機能層、特に(トライボロジー層とも呼ばれる)所望のトライボロジー特性を示す層もコーティングシステムに含まれるが、好ましくは(コーティングシステムの上部に製造される)コーティングシステムの最外層として含まれる。
【0062】
本発明の詳細な説明
本発明の理解を容易にするために、本発明のいくつかの例が以下でより詳細に記載される。しかしながら、以下で使用される例および図は、本発明の限定として理解されるべきではなく、本発明のショーケースまたは好ましい実施形態としてのみ理解されるべきである。
【0063】
使用される図:
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】コーティングシステムに含まれるピエゾ抵抗センサ素子5を備える、本発明による好ましいコーティングシステムの構造であり、コーティングシステムは構成要素の表面に塗布される。
【
図2】コーティングシステムに組み込まれたピエゾ抵抗センサ素子5を備える、本発明によるさらなる好ましいコーティングシステムの構造であり、コーティングシステムは構成要素の表面に塗布される。
【
図3】
図2に示されたコーティングシステム構造に含まれる異なる層の配置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
ピエゾ抵抗センサ素子が本発明に従って組み込まれた(コーティングシステムアーキテクチャとも呼ばれる)コーティングシステム構造の好ましい実施形態が
図1に示されている。
【0066】
ピエゾ抵抗センサ素子が本発明に従って組み込まれ、機能層として機能層7が堆積された(コーティングシステムアーキテクチャとも呼ばれる)コーティングシステム構造のさらなる好ましい実施形態が
図2に示されている。
【0067】
図3は、
図2に示されたコーティングシステム構造に含まれる異なる層の配置の概略図を示す。この構造は、構成要素1に作用するトルク、歪み、力、圧力、もしくは振動の測定、および/またはその温度の測定を可能にする。このコーティングシステム構造では、ピエゾ抵抗センサ素子5は、(薄膜コーティング層または薄膜層または単にコーティング層とも呼ばれる)薄膜として構成要素1の表面に設けられる。コーティングシステムは、構成要素1を部分的または完全に覆うように堆積することができる。ピエゾ抵抗センサ素子5は、少なくとも1つの化学元素でドープされた四面体非晶質炭素層、特に窒素ドープ四面体非晶質炭素(ta-C:N)を含み、その窒素ドーピング濃度は、好ましくは0.1at.%~10at.%の範囲である。この材料の選択により、ゲージ率、すなわち歪み測定の感度は従来のセンサよりもはるかに高く(薄膜センサとして使用される従来技術の金属薄膜は2~4のゲージ率を有する)、異方性であるため、構成要素の小さい変形に起因するセンサの抵抗率のわずかな修正に対してより正確に反応する。ピエゾ抵抗センサ素子の層厚は、好ましくは0.1μm~5μmの範囲内、より好ましくは0.2μm~2μmの範囲内の値である。
【0068】
本発明によるこの種類の薄膜センサは、構成要素が複雑な幾何形状を有する場合でも、より大型のセンサ(例えば、温度測定におけるPt100および圧力測定におけるMEMSセンサ)と比較して構成要素のより良好な被覆範囲を可能にする。
【0069】
構成要素が金属材料から作られるか、または監視(測定)される構成要素の少なくとも基板が金属材料から作られるとき、高い電気抵抗率(この文脈における高い電気抵抗率は109オーム*m以上の電気抵抗率の値として理解されるべきである)を有する追加の絶縁層3をピエゾ抵抗センサ素子5と構成要素1との間に設ける必要があり、絶縁層は、好ましくは金属酸化物層、特にAl2O3層、CrO層、AICrO層、または非晶質炭素ベースのコーティングであり、非晶質炭素ベースのコーティング層は、ピエゾ抵抗センサ素子5として堆積された窒素ドープ四面体非晶質炭素層(ta-C:N)とは異なる化学元素組成を有する。
【0070】
絶縁層3の層厚は、好ましくは0.1μm~5μmの範囲内、より好ましくは0.2μm~2μmの範囲内である。
【0071】
絶縁層3は、最終的に、1つまたは複数のドーパント元素を含む非晶質カーボン層であり得る。しかしながら、ドーパント元素が窒素である場合、絶縁層3の窒素濃度はピエゾ抵抗センサ素子5のそれよりも低い。ドープされた非晶質炭素層内の1つまたは複数のドーパント元素の濃度は、例えば勾配を記述して変化することができ、それは、1つまたは複数のドーパント元素、例えば窒素が、構成要素からピエゾ抵抗センサ素子5への方向に窒素濃度が増加するように、例えば、ゼロからピエゾ抵抗センサ素子5の窒素濃度まで変化するように、ドーパント元素として絶縁層3内に存在できることを意味する。
【0072】
構成要素1と絶縁層3との間の接着を改善するために、任意選択の接着層2を構成要素1上に直接堆積させることができ、または必要な絶縁層3がない場合(例えば、基板が金属製でないとき)、構成要素1とピエゾ抵抗センサ素子との間に任意選択の接着層2を堆積させることができる。接着層3は、好ましくは金属および/または窒化物を含み、特にクロム(Cr)もしくは窒化クロム、またはチタン(Ti)もしくはそれらの組合せを含むことができ、層厚は、好ましくは0.1μm~1μmの範囲内、より好ましくは0.1μm~0.5μmの範囲内である。
【0073】
さらに、センサ素子からの電気信号を電子デバイスに伝えるためにピエゾ抵抗センサ素子5に接触する1つまたは複数の導電性コネクタ4が設けられ、電子デバイスは、電気信号を収集し、リアルタイムで処理され、後の分析のためにメモリに保存されるか、またはワイヤレス手段によって送信されるデジタル信号に変換する。
【0074】
任意選択で、上位絶縁層6は、ピエゾ抵抗センサ素子5の少なくとも一部の上、および/または電気コネクタ4の一部の上に堆積させることができ、上位絶縁層6の組成は、金属酸化物、特に(例えば、109オーム*m以上の大きさの)高い電気抵抗率を有するAl2O3、CrO、AICrO、または非晶質炭素ベースのコーティングである。上位任意選択絶縁層6の厚さは、好ましくは1μm~30μmの範囲内、より好ましくは2μm~10μmの範囲内である。
【0075】
本発明による薄膜センサを形成するためのコーティングシステムは、構成要素の表面特性を改善するために、例えば構成要素の耐腐食性、耐摩耗性、摩擦特性、および/もしくは任意の他のトライボロジー特性を改善するために、または例えば遮熱コーティング層として作用することによって熱伝導率を低下させるためにも、最上層(コーティングシステムの最外層)として堆積された機能層7をさらに(しかし、任意選択的にのみ)備えることができる。
【0076】
構成要素のコーティングされる表面を含む基板材料は、例えば、金属、金属酸化物、炭化物、可撓性材料、特に鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、Ni基超合金、Al2O3、ZrO2、SiC、セラミックマトリックス複合材(CMC)、ポリマーなどを含むことができる。構成要素は、平坦な円筒形であるか、または複雑な幾何形状を有することができ、本発明によるピエゾ抵抗センサ素子を備える薄膜センサは、構成要素の表面を部分的または完全に覆う。
【0077】
図1によって示された、本発明の別の好ましい実施形態によれば、ピエゾ抵抗センサ素子5は、構成要素1上に設けられ、構成要素1を少なくとも部分的または完全に覆う。ピエゾ抵抗センサは、ドープされたta-C材料、特に高硬度(この文脈における高硬度は、ナノインデンテーション技法を使用することにより、例えばフィッシャースコープデバイスを使用することによって測定された、30GPa以上、好ましくは35GPa以上のHIT硬度として理解されるべきである)を有する窒素をドープした四面体非晶質炭素(ta-C)を含む。ピエゾ抵抗センサ素子の層厚は、好ましくは0.1μm~5μm、より好ましくは0.2μm~2μmの範囲内である。
【0078】
構成要素が、薄膜センサが塗布されるべき表面として金属材料を含む場合、ピエゾ抵抗センサ素子5と構成要素1との間に(例えば、109オーム*m以上の大きさの)高い電気抵抗率を有する追加の絶縁層3が設けられ、絶縁層3は、好ましくは金属酸化物層、特にドープされていないか、またはドーパント、すなわち窒素の濃度に対して勾配を含むAl2O3、CrO、AICrO、もしくは非晶質炭素ベースのコーティングを備えるか、またはそれらから構成される層であり、基板からピエゾ抵抗センサ素子への窒素濃度をゼロからピエゾ抵抗センサ素子5の窒素濃度の値まで増加させる。絶縁層の層厚は、好ましくは0.1μm~5μm、より好ましくは0.2μm~2μmの範囲内である。センサからの電気信号を電子デバイスに伝えるためにピエゾ抵抗センサ素子5に1つまたは複数の導電性コネクタ4が設けられ、電子デバイスは、電気信号を収集し、リアルタイムで処理され、後の分析のためにメモリに保存されるか、またはワイヤレス手段によって送信されるデジタル信号に変換する。ピエゾ抵抗センサ素子は、導電性コネクタ4を部分的または完全に覆うように堆積される。
【0079】
(例えば、
図1に示された)別の実施形態によれば、ピエゾ抵抗センサ素子5は、トライボロジー機能層としても機能し、したがって構成要素1上に堆積されたコーティングシステムの上部に配置されるように製造され、ピエゾ抵抗センサ素子の組成は、ドープされたta-C材料、特に窒素でドープされた四面体非晶質炭素(ta-C:N)を含み、高硬度(この文脈における高硬度は、ナノインデンテーション技法を使用することにより、例えば、フィッシャースコープデバイスを使用することによって測定された、30GPa以上、好ましくは35GPa以上のHIT硬度として理解されるべきである)を有する。
【0080】
追加の実施形態によれば、ピエゾ抵抗センサ素子5を備えるコーティングシステムは、少なくとも2回繰り返され、動作中のバッテリ要素上の圧力差および/またはケーシング上の温度変化を測定するために、積層されたバッテリ要素などの積層構造を形成する構成要素ごとに、ならびに積層された構成要素のハウジングまたはバッテリのハウジングのナノインデンテーションで測定された硬度が36GPaを超えるように設けられる。個々のバッテリ要素の圧力測定またはバッテリおよび/もしくはハウジングの温度の監視は、バッテリ要素ならびにデバイスの損傷を防止するために、またはバッテリが電気自動車に実装されているときに、早期の安全動作を可能にする。
【0081】
さらなる実施形態によれば、ピエゾ抵抗センサ素子5を備えるコーティングシステム、特にピエゾ抵抗センサ素子は、レーザパターニング法を使用することによってセンサ材料の抵抗率を調整するために、例えば特定のパターンに構成することができる。
【0082】
全体として、本発明に従って提供されるコーティングは、HIPIMSプロセスとも呼ばれる高出力インパルスマグネトロンスパッタリングプロセス、高周波スパッタプロセス、DCマグネトロンスパッタリング、陰極アーク放電、プラズマ支援化学気相堆積(PA-CVD)、または反応性物理気相堆積(PVD)によって製造することができる。
【0083】
本発明の2つの主な検知機能(歪みおよび温度)の簡単な説明が次の段落に提示される。
【0084】
歪み測定に関して、歪みは、センサ素子のオーム抵抗の変化として検知される。ゲージ率は、以下の式に従って歪みゲージセンサ素子の感度を決定する。
【0085】
GF=ΔR/Ro/ε
ここで、
GF:ゲージ率
DR:歪みゲージの抵抗の差
Ro:歪みゲージの歪みがない抵抗
ε=ΔL/Lは、ΔLが長さの絶対差であり、Lが歪みがない元の長さである、歪みである。
【0086】
温度の測定は、以下の式に従ってセンサ素子のオーミム抵抗の変化を通して行われる。
R=Ro・exp[(β(1/(T-1))/To)]
ここで、
Ro:歪みゲージの歪みがない抵抗
ε=ΔL/Lは、ΔLが長さの絶対差であり、Lが歪みがない元の長さである、歪みである。
【0087】
本発明では、ピエゾ抵抗四面体非晶質炭素材料は、特にそれが窒素でドープされているとき、(例えば、最大10倍まで)従来のセンサよりもはるかに高いゲージ率を提供する。センサの比較的高い抵抗率(例えば、10kオームから500kオームまで変化するセンサ抵抗)は、低消費電力(例えば、消費電力が60μWのレベル)で簡単な測定セットアップを可能にする。センサ層として異なる材料を使用する他の組込み型薄膜センサとは異なり、応答時間は極端に速く(例えば、温度測定における6ms未満の応答時間)、(例えば、カメラのフラッシュ光を検出する)過渡効果の正確な測定を可能にする。ta-C材料、特にドープされた四面体非晶質炭素コーティング(ドープされたta-C)は、負温度係数(NTC)サーミスタによって取得されるものに匹敵する(例えば、900を超えるサーミスタベータ値に対応する)温度測定に対して高い感度を提供するが、コーティングシステムへの組込みが容易であり、このように構成要素または構成要素の一部への塗布が容易であるという利点を有する(通常、NTCサーミスタのベータ値は3000~5000の間である)。従来技術から知られている金属系センサ(例えば、ピエゾ抵抗材料センサ層として金属層を有する薄膜センサ)とは異なり、本発明によって提供されるセンサは、より堅牢で化学的に不活性であり、寿命が長い用途に適用することができる。本発明によるコーティングシステムで使用される材料はまた、生体適合性であり、医療器具、インプラント用の組込み型センサなどの医療用途にそのようなセンサの使用を広げることを可能にする。さらに、本発明で使用される材料は、高い弾性率および高い耐摩耗性を有する。その上、ポリアミドなどの可撓性材料だけでなく、剛性が高い材料から作られた構成要素に、本発明による薄膜センサを設けることができる。
【0088】
本発明の文脈における水素を含まないとは、水素含有量がタイプSIMS分析の技法を使用して決定されるとき、0at.%~1.5at.%の範囲内の水素含有量に対応する。好ましくは、このように決定された水素含有量は、0at.%~1.4at.%の範囲内である。したがって、本発明に従ってX(ta-C:X)でドープされた水素を含まない四面体非晶質炭素コーティング内でSIMS分析を使用して決定された水素含有量は、最大1.5at.%、好ましくは最大1.4at.%であると測定することができる。
【0089】
本明細書の文脈では、水素を含まない四面体非晶質炭素コーティング層は、単に四面体非晶質炭素コーティング層とも呼ばれる。
【国際調査報告】