(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】強化ガラス、ガラス強化方法及び電子機器筐体
(51)【国際特許分類】
C03C 21/00 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
C03C21/00 101
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577870
(86)(22)【出願日】2022-09-22
(85)【翻訳文提出日】2024-03-28
(86)【国際出願番号】 CN2022120561
(87)【国際公開番号】W WO2023051378
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】202111157824.6
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510177809
【氏名又は名称】ビーワイディー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BYD Company Limited
【住所又は居所原語表記】No. 3009, BYD Road, Pingshan, Shenzhen, Guangdong 518118, P. R. China
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100132698
【氏名又は名称】川分 康博
(72)【発明者】
【氏名】裴郁蕾
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼双
(72)【発明者】
【氏名】▲蓋▼▲ちぃ▼▲瑩▼
(72)【発明者】
【氏名】崔静娜
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼家▲しん▼
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AB02
4G059AB06
4G059AB07
4G059AB11
4G059AC16
4G059HB03
4G059HB08
4G059HB13
4G059HB14
4G059HB23
(57)【要約】
強化ガラス、ガラス強化方法及び電子機器筐体を開示する。該強化ガラスの反対側に位置する両側の表面は、いずれも表面圧縮応力層を有し、2つの表面圧縮応力層の間に第3の応力層がさらに介在し、該第3の応力層は、圧縮応力領域(32)と、圧縮応力領域(32)内に間隔を置いて設けられた複数の引張応力領域(40)とを含み、複数の引張応力領域(40)は、強化ガラスの厚さ方向に垂直な方向に配列され、各引張応力領域(40)の周囲に圧縮応力領域(32)が周回し、2つの表面圧縮応力層の深さと、隣接する2つの引張応力領域(40)の間に位置する圧縮応力領域(32)の深さとの和は、強化ガラスの厚さに等しい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化ガラスであって、
反対側に配置された第1の表面と第2の表面とを含み、前記第1の表面は、第1の表面圧縮応力層(31’)を有し、前記第2の表面は、第2の表面圧縮応力層(31”)を有し、
前記強化ガラスは、前記第1の表面圧縮応力層(31’)と前記第2の表面圧縮応力層(31”)との間に介在する第3の応力層をさらに含み、
前記第3の応力層は、圧縮応力領域(32)と、前記圧縮応力領域(32)内に間隔を置いて設けられた複数の引張応力領域(40)とを含み、複数の前記引張応力領域(40)は、前記強化ガラスの厚さ方向に垂直な方向に配列され、各前記引張応力領域(40)は、前記圧縮応力領域(32)によって囲まれており、
前記圧縮応力領域(32)の最大深さと、前記第1の表面圧縮応力層(31’)の深さ及び前記第2の表面圧縮応力層(31”)の深さとの和は、前記強化ガラスの厚さに等しい、ことを特徴とする強化ガラス。
【請求項2】
厚さは、0.1mm~5mmである、ことを特徴とする請求項1に記載の強化ガラス。
【請求項3】
前記第1の表面圧縮応力層(31’)の深さは、前記強化ガラスの厚さの1%~10%であり、
前記第2の表面圧縮応力層(31”)の深さは、前記強化ガラスの厚さの1%~10%である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の強化ガラス。
【請求項4】
表面圧縮応力は、500MPa以上である、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項5】
前記強化ガラス内の前記引張応力領域(40)の数は、3以上である、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項6】
前記圧縮応力領域(32)の圧縮応力は、前記強化ガラスの表面圧縮応力よりも小さく、
前記圧縮応力領域(32)の圧縮応力は、8MPa以上である、ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項7】
曲げ強度は、800MPa以上である、ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項8】
耐衝撃エネルギーは、3J以上である、ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項9】
ガラス基材(10)の反対側に配置された第1の表面と第2の表面のそれぞれに間隔を置いて分布する複数の遮蔽層(20)を形成するステップであって、前記第1の表面の遮蔽層(20)と前記第2の表面の遮蔽層(20)とが一対一に対応するステップと、
前記遮蔽層付きのガラス基材(10)に対して、1回目の化学強化を行って、前記ガラス基材(10)の前記遮蔽層(20)によって被覆された表面、前記ガラス基材(10)の前記遮蔽層(20)によって被覆されない表面及び前記ガラス基材(10)の内部に元の圧縮応力層(30)を形成するとともに、前記遮蔽層(20)によって被覆されたガラスの内部に複数の引張応力領域(40)を形成するステップであって、前記引張応力領域(40)が、前記元の圧縮応力層(30)によって囲まれ、前記遮蔽層(20)によって被覆されない前記元の圧縮応力層(30)の深さが、前記ガラス基材(10)の厚さに等しいステップと、
前記遮蔽層(20)を除去するステップと、
前記遮蔽層(20)が除去されたガラス基材(10)に対して、2回目の化学強化を行って、強化ガラスを得るステップと、を含む、ことを特徴とするガラス強化方法。
【請求項10】
複数の前記遮蔽層(20)の前記第1の表面又は前記第2の表面における総被覆率は、10%~70%である、ことを特徴とする請求項9に記載のガラス強化方法。
【請求項11】
前記第1の表面又は第2の表面における前記遮蔽層(20)の数は、3以上である、ことを特徴とする請求項9又は10に記載のガラス強化方法。
【請求項12】
前記ガラス基材(10)の厚さが0.5mm以上である場合、前記1回目の化学強化の強化時間を300min以上とする、ことを特徴とする請求項9~11のいずれか一項に記載のガラス強化方法。
【請求項13】
前記1回目の化学強化においてナトリウム含有溶融塩を用い、強化温度を350℃~440℃とする、ことを特徴とする請求項9又は12に記載のガラス強化方法。
【請求項14】
前記2回目の化学強化においてカリウム含有溶融塩を用い、強化温度を350℃~440℃とする、ことを特徴とする請求項9~13のいずれか一項に記載のガラス強化方法。
【請求項15】
前記2回目の化学強化の強化時間を10min~200minとする、ことを特徴とする請求項9~14のいずれか一項に記載のガラス強化方法。
【請求項16】
請求項1~8のいずれか一項に記載の強化ガラス、又は、
請求項9~15のいずれか一項に記載のガラス強化方法で製造された強化ガラスを含む、ことを特徴とする電子機器筐体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2021年9月29日に中国国家知識産権局に提出された、出願名称が「強化ガラス、ガラス強化方法及び電子機器筐体」である中国特許出願第202111157824.6号の優先権を主張するものであり、その全ての内容は参照により本開示に組み込まれるものとする。
【0002】
本願は、強化ガラスの技術分野に関し、具体的には、強化ガラス、ガラス強化方法及び電子機器筐体に関する。
【背景技術】
【0003】
ガラスは、カバープレートとして電子製品の分野に広く適用されている。電子製品の軽量化、薄型化の方向への発展に伴い、ガラスカバープレートの力学的性能に対する要求もますます厳しくなっている。化学強化(即ち、イオン交換)は、ガラスの力学的性能を向上させることができ、溶融塩における大半径イオンでガラスの表面の小半径イオンを置換し、ガラスの表面に一定の厚さの圧縮応力層を形成し、該圧縮応力層は、ガラスにおけるクラックの拡大を抑制することにより強化後のガラスの強度を向上させることができるが、マイクロクラックの拡大に対する抑制効果が限られているため、ガラスの力学的強度が主に表面及び内部のマイクロクラックの影響を受ける。したがって、強化後のガラスの力学的性能を向上させるために、マイクロクラックの拡大を効果的に抑制し、ガラスの固有強度を向上させることができる、強化方法を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0004】
これに鑑み、本願は、ガラス強化方法及び強化ガラスを提供し、特定の二段階の化学強化プロセスにより、ガラス内部に周期的な周回式圧縮応力分布を形成し、表層に均一で緻密な表面圧縮応力層を形成することにより、ガラスの表面及び内部のマイクロクラックの拡散に対する多層の抑制作用を実現し、単一のクラックによるガラス全体の強度への影響を緩和し、さらに除去し、ガラスの破断閾値、曲げ強度、耐衝撃性能などの力学的性能を向上させる。
【0005】
本願の第1の態様に係る強化ガラスは、反対側に配置された第1の表面と第2の表面とを含み、前記第1の表面は、第1の表面圧縮応力層を有し、前記第2の表面は、第2の表面圧縮応力層を有し、前記強化ガラスは、前記第1の表面圧縮応力層と前記第2の表面圧縮応力層との間に介在する第3の応力層をさらに含み、前記第3の応力層は、圧縮応力領域と、前記圧縮応力領域内に間隔を置いて設けられた複数の引張応力領域とを含み、複数の前記引張応力領域は、前記強化ガラスの厚さ方向に垂直な方向に配列され、各前記引張応力領域の周囲に前記圧縮応力領域が周回し、前記圧縮応力領域の最大深さと、前記第1の表面圧縮応力層の深さ及び前記第2の表面圧縮応力層の深さとの和は、前記強化ガラスの厚さに等しい。
【0006】
好ましくは、前記強化ガラスは、厚さが0.1mm~5mmである。
【0007】
好ましくは、前記第1の表面圧縮応力層の深さは、前記強化ガラスの厚さの1%~10%であり、前記第2の表面圧縮応力層の深さは、前記強化ガラスの厚さの1%~10%である。
【0008】
好ましくは、前記強化ガラスは、表面圧縮応力が500MPa以上である。
【0009】
好ましくは、前記強化ガラス内の前記引張応力領域の数は、3以上である。
【0010】
好ましくは、前記圧縮応力領域の圧縮応力は、前記強化ガラスの表面圧縮応力よりも小さく、前記圧縮応力領域の圧縮応力は、8MPa以上である。
【0011】
好ましくは、前記強化ガラスは、曲げ強度が800MPa以上である。
【0012】
好ましくは、前記強化ガラスの耐衝撃エネルギーは、3J以上である。
【0013】
該強化ガラスの表面に応力値が高い表面圧縮応力層が存在し、かつ引張応力領域の間に位置する強化ガラスの厚さ方向全体に圧縮応力が分布するため、該強化ガラスの応力深さが深くなり、また、強化ガラスの内部には、圧縮応力領域が引張応力領域を周回する周回式圧縮応力分布が存在するため、該強化ガラス内のクラックの拡大が十分に抑制され、さらにその力学的性能に優れている。
【0014】
本願の第2の態様に係るガラス強化方法は、
ガラス基材の反対側に配置された第1の表面と第2の表面のそれぞれに間隔を置いて分布する複数の遮蔽層を形成するステップであって、前記第1の表面の遮蔽層と前記第2の表面の遮蔽層とが一対一に対応するステップと、
前記遮蔽層付きのガラス基材に対して、1回目の化学強化を行って、前記ガラス基材の前記遮蔽層によって被覆された表面、前記ガラス基材の前記遮蔽層によって被覆されない表面及び前記ガラス基材の内部に元の圧縮応力層を形成するとともに、前記遮蔽層によって被覆されたガラスの内部に複数の引張応力領域を形成するステップであって、前記引張応力領域が、前記元の圧縮応力層によって囲まれ、前記遮蔽層によって被覆されない前記元の圧縮応力層の深さが、前記ガラス基材の厚さに等しいステップと、
前記遮蔽層を除去するステップと、
前記遮蔽層が除去されたガラス基材に対して、2回目の化学強化を行って、強化ガラスを得るステップと、を含む。
【0015】
好ましくは、複数の前記遮蔽層の前記第1の表面又は前記第2の表面における総被覆率は、10%~70%である。
【0016】
好ましくは、前記第1の表面又は第2の表面における前記遮蔽層の数は、3以上である。
【0017】
好ましくは、前記ガラス基材の厚さが0.5mm以上である場合、前記1回目の化学強化の強化時間を300min以上とする。
【0018】
好ましくは、前記1回目の化学強化においてナトリウム含有溶融塩を用い、強化温度を350℃~440℃とする。
【0019】
好ましくは、前記2回目の化学強化においてカリウム含有溶融塩を用い、強化温度を350℃~440℃とする。
【0020】
好ましくは、前記2回目の化学強化の強化時間を10min~200minとする。
【0021】
本願の発明者らは、従来の強化後のガラスの圧縮応力層の深さ(depth of stress layer、DOL)が浅いため、マイクロクラックの拡大に対する抑制効果が限られていることを見出した。本願の実施例に係るガラス強化方法は、プロセスが簡単で、操作しやすく、制御性が高く、上記強化方法で得られた強化ガラスは、表面に表面圧縮応力層を有し、内部に引張応力領域の周囲を周回する圧縮応力分布を有し、該強化ガラス全体の応力深さが深く、かつ強化ガラスの厚さに等しく、力学的性能が大幅に改善される。
【0022】
本願の第3の態様に係る電子機器筐体は、本願の第1の態様に記載の強化ガラス、又は本願の第2の態様に記載のガラス方法で製造された強化ガラスを含む。
【0023】
上記強化ガラスを含む電子機器筐体は、電子機器の軽量化、薄型化の要求を満たすことができ、その力学的性能に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A】遮蔽層付きのガラス基材の断面概略構成図である。
【
図2A】1回目の化学強化後のガラス基材のイオン交換の概略図である。
【
図2B】1回目の化学強化後のガラス基材の概略構成図である。
【
図3】2回目の化学強化後のガラス基材のイオン交換の概略図である。
【
図4】本願の実施例に係る強化ガラスの概略構成図である。
【
図5】比較例1で製造された強化ガラスの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下の説明は、本願の実施例の例示的な実施形態であり、なお、当業者であれば、本願の実施例の原理から逸脱することなく、いくつかの改良及び修飾を行うことができ、これらの改良及び修飾も本願の実施例の保護範囲にあると見なされる。
【0026】
本願の実施例に係るガラス強化方法は、
図1A及び
図1Bに示すように、ガラス基材10の反対側に配置された第1の表面10aと第2の表面10bのそれぞれに間隔を置いて分布する複数の遮蔽層20を形成するステップS01であって、第1の表面10aの遮蔽層と第2の表面10bの遮蔽層とが一対一に対応するステップS01と、
遮蔽層20付きのガラス基材10に対して、1回目の化学強化を行って、ガラス基材10の遮蔽層20によって被覆された表面、ガラス基材10の遮蔽層20によって被覆されない表面及びガラス基材10の内部に元の圧縮応力層30を形成するとともに、遮蔽層20によって被覆されたガラスの内部に複数の引張応力領域40を形成するステップS02であって、引張応力領域40が、元の圧縮応力層30によって囲まれ、遮蔽層20によって被覆されない元の圧縮応力層30の深さが、ガラス基材10の厚さに等しいステップS02と(
図2A参照)、
遮蔽層20を除去するステップS03と、
遮蔽層20が除去されたガラス基材10に対して、2回目の化学強化を行って、
図3に示す強化ガラスを得るステップS04と、を含む。
【0027】
ステップS01では、ガラス基材10は、反対側に配置された第1の表面10aと第2の表面10bとを含み、第1の表面10aには、間隔を置いて分布する複数の遮蔽層20が形成され、複数の遮蔽層20は、いずれも第1の表面10aに直接接触し、第2の表面10bには、間隔を置いて分布する複数の遮蔽層20が形成される。第1の表面10aは、ガラス基材10の上面であってもよく、第2の表面10bは、ガラス基材10の下面であってもよい。よりよく区別するために、第1の表面10aの遮蔽層を第1の遮蔽層と称し、第2の表面10bの遮蔽層を第2の遮蔽層と称することができる。第1の遮蔽層と第2の遮蔽層とは、一対一に対応して設けられる。換言すれば、第2の表面10bの各第1の遮蔽層は、それぞれ第1の表面10aの1つの第2の遮蔽層に対応し(両者がガラス基材の厚さ方向に完全に重なる)、或いは、第1の遮蔽層と第2の遮蔽層とは、ガラス基材10に対して対称である。このように、一対一に対応する第1の遮蔽層と第2の遮蔽層は、その後にガラス基材の反対側に位置する両側の表面における対称な応力分布の形成に有利である。
【0028】
本願の実施形態において、遮蔽層20は、スクリーン印刷、塗布(例えばスプレー)、メッキ、又は露光現像などのプロセスによりガラス基材の表面に形成することができる。遮蔽層20は、耐熱材料、例えば、耐熱の有機ケイ素材料、合成ゴム、金属酸化物などで製造される。遮蔽層20のパターンの形状(具体的には、ガラス基材への投影の形状を指す)は、円形、楕円形、三角形、矩形、多角形などの規則的な形状、又は不規則な形状を含む。遮蔽層20は、ガラス基材の表面に間隔を置いて規則的に配列される。例えば、複数の遮蔽層20は、
図1Bに示すようにガラス基材の表面にアレイ状に配置されてもよく、必要に応じて他の方式で配列されてもよい。遮蔽層20の存在により、ガラス基材の表面が遮蔽領域と露出領域に分けられ(遮蔽層20によって被覆されない)、強化溶融塩におけるイオンのガラスへの拡散を阻止する役割を果たし、例えば、遮蔽領域のガラス内部のイオン交換を阻止することができる。
【0029】
本願の実施形態において、複数の遮蔽層20のガラス基材の第1の表面10a又は第2の表面10bにおける総被覆率は、10%~70%であってもよい。該遮蔽層の面積被覆率がこの範囲にあると、以下のステップS02に記載の化学強化効果を達成することに役立つ。例示的に、該総被覆率は、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%又は65%などであってもよい。いくつかの実施形態において、該被覆率は、20%~50%である。
【0030】
本願の実施形態において、第1の表面10a又は第2の表面10bにおける遮蔽層20の数は、3以上である。このように、元の圧縮応力層30の内部に複数の引張応力領域40が間隔を置いて包まれた周期的な周囲周回式圧縮応力分布の形成に有利である。
【0031】
本願において、二段階の化学強化を行うことができるために、使用されるガラス基材10は、Li含有ガラスである。例示的に、該ガラス基材は、リチウムアルミノシリケートガラスであってもよい。好ましくは、ガラス基材11の厚さは、0.1mm~5mmであってもよい。このように、以下の1回目の化学強化を行って、深さがガラス基材の厚さに等しい元の圧縮応力層30を得ることができ、強化後のガラスは、厚さが薄すぎて力学的性能が依然として劣ることがない。
【0032】
本願のステップS02において、1回目の化学強化は、一般的にNa含有溶融塩においてイオン交換を行い、Na+→Li+変換を主とすることである。2回目の化学強化は、一般的にK含有溶融塩においてイオン交換し、K+→Na+交換を主とすることである。ステップS02では、1回目の化学強化に用いられる溶融塩は、質量パーセント濃度で、60%~100%のナトリウム塩及び0%~40%のカリウム塩の成分を含んでもよい。つまり、1回目の化学強化に用いられる溶融塩は、ナトリウム塩のみであってもよく、ナトリウム塩とカリウム塩の混合物であってもよい。ナトリウム塩を例として、具体的には、Naの硝酸塩、硫酸塩、塩化塩などのうちの少なくとも1種であってもよく、一般的に硝酸塩がよく用いられる。カリウム塩は、ナトリウム塩と類似する。本願の一実施例において、1回目の化学強化に用いられる溶融塩は、ナトリウム塩である。ナトリウム塩のみを用いて1回目の化学強化を行う場合、イオン半径が小さいNa+により、遮蔽層によって被覆されないガラスにおけるNa+の貫通分布をよりよく実現することができる。
【0033】
上記間隔を置いて分布する遮蔽層により、長い1回目の化学強化を行うと、遮蔽層20によって被覆されないガラスにおけるNa
+の貫通分布を実現することができる(即ち、遮蔽層によって被覆されないガラスの厚さ方向(
図2Aに示すZ方向、遮蔽層が設けられたガラスの表面に垂直な方向)全体にNa
+が交換される)とともに、溶融塩におけるNa
+が遮蔽層20によって被覆されたガラス基材の表面に交換されてもよく(即ち、Na
+が遮蔽層が設けられたガラスの表面に平行な方向(
図2Aに示すX方向)に沿って拡散する)、この2つの部分が共に元の圧縮応力層30を構成する。また、遮蔽層20の存在により、溶融塩におけるNa
+が遮蔽層20によって遮蔽されたガラスの内部に交換されにくくなるため、この部分で引張応力領域40となる。
【0034】
本願のいくつかの実施形態において、ガラス基材の厚さが0.5mm以上である場合、一部の元の圧縮応力層30の深さがガラス基材10の厚さに等しくなるように、1回目の化学強化の強化時間を300min以上に制御することができる。いくつかの実施例において、該強化時間を、300min~600minとし、例えば、具体的には360min、420min、480min又は540minなどとする。
【0035】
本願において、元の圧縮応力層30は、1回目のイオン交換が発生したガラス基材の部分であり、ガラス基材の複数の引張応力領域40以外の他の部分の合計と見なすことができる。元の圧縮応力層30は、2つの部分を含むものとして理解されてもよく、
図2Bに示すように、一部は、ガラス基材10の表面に位置する圧縮応力層部分(
図2Bにおいて符号30aで示され、遮蔽層20によって被覆されたガラス基材の表面及び遮蔽層20によって被覆されないガラス基材の表面を含む)であり、他部は、ガラス基材の内部に位置する、引張応力領域40を周回する圧縮応力層部分(
図2Bにおいて符号30bで示される)である。
【0036】
図2Aに示すように、上記1回目の化学強化を行った後、ガラス内部に圧縮応力-引張応力の周期的な分布が形成され、引張応力領域40が元の圧縮応力層30内に間隔を置いて分布し、引張応力領域40の周囲が元の圧縮応力層30によって囲まれ、これは、ガラス内部の引張応力領域におけるマイクロクラックの拡大を十分に抑制することに役立ち、化学強化が行われないガラス基材に比べて、イオン交換により形成された元の圧力層30の存在により、元々該領域にあるクラックの周辺環境を変化させ、クラックを不活性化させることにより、その所在する領域のクラックの外への拡大を抑制する。また、上記圧縮応力/引張応力の周期的な分布によりガラスの強度限界閾値を向上させるため、ガラスの離散性(離散性は、ガラスの強度の不均一分布である)を低下させ、その力学的性能を向上させることができる。
【0037】
元の圧縮応力層30は、ガラス基材10の引張応力領域40以外の部分の合計と見なすことができる。上記元の圧縮応力層30は、不規則な形状であり、その深さ(又は厚さという)が不均一であるが、遮蔽層20によって被覆されない元の圧縮応力層30の深さは、ガラス基材10の厚さに等しいことを理解されたい。これは、1回目の化学強化を行った後、深さの深い元の圧縮応力層が形成され、ガラス基材の力学的性能の向上に役立つことを示す。
【0038】
好ましくは、上記1回目の化学強化の強化温度を350℃~440℃とする。該強化温度は、具体的には、390℃、400℃、420℃又は430℃などであってもよい。
【0039】
本願のいくつかの実施形態において、1回目の化学強化を行う前に、遮蔽層20付きのガラス基材10を予備加熱して、予備加熱後のガラス基材をNa含有溶融塩に置いてイオン交換することができる。予備加熱は、室温でのガラス基材を高温強化液に直接入れて割れが発生することを回避し、ガラス基材の表面密度を低下させ、化学強化後に得られる圧縮応力層の深さ及び表面圧縮応力値の向上に役立つ。ガラス基材は、320℃~400℃、例えば、350℃、360℃、370℃、380℃又は390℃などの温度に予備加熱されてもよい。
【0040】
ステップS03において、遮蔽層20の除去は、機械研磨技術、薬液浸漬のうちの少なくとも1つによって実現することができる。用いられる薬液は、一般的にNaOH溶液、KOH溶液などのアルカリ液であり、また、遮蔽層の除去速度を向上させるために、アルカリ液を(例えば、50℃~70℃に)加熱してもよい。
【0041】
ステップS04において、遮蔽層が除去されたガラス基材に対して、2回目の化学強化を行うことにより、ガラスの表面にイオン半径の大きいイオン(例えば、K
+)(
図3に示すように)が拡散し、ガラスの表面の圧縮応力がさらに向上し(即ち、圧縮応力の高い表面圧縮応力層31’及び31”が形成され)、ガラス内部には、依然として上記引張応力領域40の周囲を周回する圧縮応力分布を有し、得られた強化ガラスの力学的性能に優れている。
【0042】
図3と
図2Aとを比較すると分かるように、符号31’、31”、32で示される領域の合計は、
図2Aの元の圧縮応力層30にほぼ等しい。表面圧縮応力層31’又は31”の深さは、S02においてガラス基材10の遮蔽層20によって被覆された表面に形成された元の圧縮応力層30の深さに等しくなくてもよく、
図2Bに示す領域30aの深さに等しくなくてもよいことを理解されたい。
【0043】
2回目の化学強化に用いられる溶融塩は、質量パーセント濃度で、0~40%のナトリウム塩及び60~100%のカリウム塩の成分を含んでもよい。つまり、2回目の化学強化に用いられる溶融塩は、カリウム塩のみであってもよく、ナトリウム塩とカリウム塩の混合物であってもよい。本願の一実施例において、上記2回目の化学強化に用いられる溶融塩は、カリウム塩である。
【0044】
本願の実施形態において、2回目の化学強化の強化温度は、350℃~440℃であってもよく、強化時間は、10min~200minであってもよい。具体的には、2回目の化学強化の強化温度は、具体的には、390℃、400℃、420℃又は430℃などであってもよい。2回目の化学強化の強化時間は、30min、60min、90min、120min、150min、180minなどであってもよい。本願において、2回目の化学強化は、強化時間が短く、短時間で圧縮応力が高く、分布が均一な表面圧縮応力層を形成することができ、また、上記1回目の化学強化と組み合わせると、強化プロセス全体の時間経過を短縮することができる。
【0045】
類似して、上記2回目の化学強化の前に、強化効果を高めるために、ガラス基材を予備加熱してもよい。ガラス基材は、320℃~400℃、例えば、360℃、370℃、380℃又は390℃などの温度に予備加熱されてもよい。
【0046】
本願の実施例に係る上記ガラス強化方法は、プロセスが簡単で、操作しやすく、制御性が高く、上記強化方法で得られた強化ガラスは、表面に表面圧縮応力層を有し、内部に引張応力領域の周囲を周回する圧縮応力分布を有するため、該強化ガラス全体の応力深さが深く、力学的性能が大幅に改善される。
【0047】
本願の実施例は、強化ガラスをさらに提供する。
図4に示すように、該強化ガラスは、反対側に配置された第1の表面10aと10bとを含み、第1の表面10aは、第1の表面圧縮応力層31’を有し、第2の表面10bは、第2の表面圧縮応力層31”を有し、この2つの表面圧縮応力層の間に第3の応力層がさらに介在し、該第3の応力層は、圧縮応力領域32と、圧縮応力領域32内に間隔を置いて設けられた複数の引張応力領域40とを含み、複数の引張応力領域40は、強化ガラスの厚さ方向に垂直な方向に配列され、各引張応力領域40の周囲に圧縮応力領域32が周回し、隣接する2つの引張応力領域40の間に位置する圧縮応力領域32の最大深さと、第1の表面圧縮応力層31’の深さ及び第2の表面圧縮応力層31”の深さとの和は、該強化ガラスの厚さTに等しい。該強化ガラスは、本願の上記強化方法で得ることができる。
【0048】
具体的には、第1の表面圧縮応力層31’は、第1の表面10aから内部に所定の深さh1だけ延び、第2の表面圧縮応力層31”は、第2の表面10bから内部に所定の深さh2だけ延びる。h1とh2は、等しくても等しくなくてもよい。
図4には、強化ガラスの第1の表面10a及び第2の表面10bが表面圧縮応力層を有することのみが示されるが、ガラスの強化処理が一般的に一定の温度の溶融塩に浸漬して行われることに基づいて、該強化ガラスの他の表面も一定の深さの表面圧縮応力層を有することを理解されたい。
【0049】
図4から分かるように、複数の引張応力領域40は、圧縮応力領域32内に間隔を置いて設けられ、周囲周回式圧縮応力分布が形成される。複数の引張応力領域40は、第1の表面10a又は第2の表面10bに平行な方向(即ち、強化ガラスの厚さ方向に垂直な方向)に沿って間隔を置いて配列される。圧縮応力領域32は、不規則な形状を有し、深さが均一ではないことを理解されたい。複数の引張応力領域40が圧縮応力領域32内に間隔を置いて設けられることに基づいて、圧縮応力領域32を一部の領域が中空の層と見なすことができ、中空の部分が引張応力領域40によって充填され、隣接する2つの引張応力領域40の間に位置する圧縮応力領域32の深さは、最大であり、第1の表面10a及び第2の表面10bの2つの表面圧縮応力層の深さとの和が該強化ガラスの厚さTに等しい。第3の応力層の厚さ(即ち、圧縮応力領域32の最大深さ)と2つの表面圧縮応力層31’の厚さとの和は、該強化ガラスの厚さTに等しい。また、表面圧縮応力層31’が強化ガラスの表面に位置し、圧縮応力領域32が強化ガラスの内部に位置するため、表面圧縮応力層31’の圧縮応力が圧縮応力領域32の圧縮応力よりも大きいことを理解されたい。一般的に、ガラス内部の圧縮応力領域32の圧縮応力は、8MPa以上であり、例えば8MPa~100MPaである。
【0050】
したがって、該強化ガラスの内部の上記周回式圧縮応力分布に加えて、強化ガラスの表面に位置する応力値の高い表面圧縮応力層の存在により、該強化ガラス内のクラックが鈍化し、クラックの拡大が十分に抑制される。
【0051】
本願の実施形態において、該強化ガラスの厚さTは、0.1mm~5mmであってもよい。これにより、該強化ガラスは、電子機器の筐体(例えば、ディスプレイのカバープレート、カメラの保護カバープレート、リアカバーなど)として使用される場合、厚さが適切であり、電子機器の軽量化、薄型化の要求を満たすことができ、力学的性能に優れている。具体的には、該厚さTは、0.2mm、0.4mm、0.5mm、0.8mm、1mm、1.2mm、2mm、3mm又は4mmなどであってもよい。いくつかの実施形態において、該厚さTは、0.1mm~1.2mmである。この場合、該強化ガラスを用いた電子機器は、より軽量化、薄型化される。
【0052】
本願の実施形態において、第1の表面圧縮応力層31’又は第2の表面圧縮応力層31”の深さは、該強化ガラスの厚さTの1~10%である。この場合、強化ガラスの表面圧縮応力層は、圧縮応力が高く、圧縮応力が均一である。第1の表面圧縮応力層31’の深さh1又は第2の表面圧縮応力層31”の深さh2は、一般的に1μm~50μmである。いくつかの実施形態において、深さh1又はh2は、3μm~50μm、例えば、5μm、10μm、20μm、30μm、40μmなどである。本願において、該強化ガラスの表面圧縮応力(即ち、表面圧縮応力層31’又は31”の圧縮応力)は、500MPa以上である。
【0053】
本願の実施形態において、該強化ガラス内の引張応力領域40の数は、3以上である。適量の引張応力領域の存在は、該強化ガラスの内部に周期的な周囲周回式圧縮応力分布を形成することに有利である。引張応力領域40の数は、上記第1の表面10a又は第2の表面10bの遮蔽層の数に対応することを理解されたい。
【0054】
本願の実施形態において、該強化ガラスの曲げ強度は、800MPa以上である。曲げ強度とは、物体が曲げ荷重を受けて割れるか、又は所定の曲げモーメントに達する場合に耐えられる最大応力を指す。高い曲げ強度は、該強化ガラスの靭性が高く、割れにくいことを反映する。いくつかの実施形態において、該強化ガラスの曲げ強度は、950MPa~1500MPaである。さらに、該曲げ強度は、950MPa~1200MPaであってもよい。
【0055】
本願の実施形態において、該強化ガラスの耐衝撃エネルギーは、3J以上である。この高い衝撃強度は、該強化ガラスが、耐衝撃性が強く、破断しにくく、靭性に優れていることを反映する。いくつかの実施形態において、該強化ガラスの耐衝撃エネルギーは、3.5J以上である。いくつかの実施例において、該耐衝撃エネルギーは、3.5~6Jである。
【0056】
本願の実施例に係る電子機器筐体は、本願の前述した強化ガラス、又は本願の前述したガラス方法で製造された強化ガラスを含む。
【0057】
該電子機器筐体を用いた電子機器は、様々な一般消費者向け電子機器、例えば、携帯電話、タブレットコンピュータ、ノートパソコン、ウェアラブルデバイス(例えば、スマートウォッチ、スマートブレスレット)、仮想現実(Virtual Reality、VR)端末装置、拡張現実(Augmented Reality、AR)端末装置、電子リーダー、テレビ、ビデオカメラ、プロジェクターなどの電子機器であってもよい。
【0058】
電子機器が携帯電話、タブレットコンピュータ、ウェアラブル製品などの携帯電子機器であることを例として、該電子機器筐体は、具体的には、ディスプレイモジュールに覆設され、該電子機器の前側に組み立てられたディスプレイカバープレートであってもよく、該電子機器の後側に組み立てられたリアカバーであってもよい。いくつかの実施形態において、該電子機器が撮影機能を有する電子機器(例えば、携帯電話、デジタルカメラ)である場合、該電子機器筐体は、カメラ保護カバープレートであってもよい。
【0059】
上記強化ガラスを電子機器筐体として用いることにより、電子機器の軽量化、薄型化の要求を満たすことができ、その力学的性能に優れている。
【0060】
以下、具体的な実施例により本願をさらに説明する。
【実施例1】
【0061】
ガラス強化方法は、以下のステップ(1)~(4)を含む。
【0062】
ステップ(1)では、厚さ0.6mmのリチウムアルミノシリケートガラスを選択し、スクリーン印刷プロセスによりガラスの反対側に位置する両側の表面(例えば、上面及び下面)のそれぞれに間隔を置いて分布する複数の耐熱遮蔽層(厚さ3μm)を印刷して、表面が部分的に遮蔽されたガラスを得て、ガラスの上面の遮蔽層と下面の遮蔽層が一対一に対応して位置し、遮蔽層は、直径1mmの円形であり、中心間距離が2mmであり、複数の遮蔽層のガラスの、上面における総被覆率と下面における総被覆率は、いずれも23%であり、ガラス基材の、上面における遮蔽層の数と下面における遮蔽層の数は、いずれも3080である。
【0063】
ステップ(2)では、上記表面が部分的に遮蔽されたガラスを350℃で予備加熱した後、NaNO3溶融塩に置いて400℃で1回目の化学強化を400min行って、遮蔽層によって被覆されたガラスの表面、遮蔽層によって被覆されないガラスの表面及び内部に元の圧縮応力層を形成するとともに、遮蔽層によって被覆されたガラスの内部に複数の引張応力領域を形成し、引張応力領域は、元の圧縮応力層によって囲まれ、遮蔽層によって被覆されない元の圧縮応力層の深さは、0.6mmであり、
その後、強化後のガラスを取り出して洗浄し、乾燥させる。
【0064】
ステップ(3)では、1回目の強化後のガラスを70℃のNaOH溶液に8min浸漬して、ガラスの表面の遮蔽層を除去する。
【0065】
ステップ(4)では、遮蔽層が除去されたガラスを380℃で予備加熱した後、KNO3溶融塩に置いて400℃で2回目の化学強化を130min行って、強化ガラスを得て、それを洗浄し乾燥させる。
【0066】
実施例1で得られた強化ガラスの概略構成図を
図4に示す。該強化ガラスの上面と下面は、いずれも厚さ18μmの表面圧縮応力層を有し、該強化ガラスの表面圧縮応力は、830MPaである。
【実施例2】
【0067】
ガラス強化方法は、以下のステップ(1)~(4)を含む。
【0068】
ステップ(1)では、厚さ0.6mmのリチウムアルミノシリケートガラスを選択し、スクリーン印刷プロセスによりガラスの上面と下面の対応する位置のそれぞれに間隔を置いて分布する複数の耐熱遮蔽層を形成して、表面が部分的に遮蔽されたガラスを得て、遮蔽層は、直径1mmの円形であり、中心間距離が1.5mmであり、複数の遮蔽層のガラスの、上面における総被覆率と下面における総被覆率は、40%であり、ガラスの、上面における遮蔽層の数と下面における遮蔽層の数は、いずれも5350である。
【0069】
ステップ(2)では、上記表面が部分的に遮蔽されたガラスを380℃で予備加熱した後、NaNO3溶融塩に置いて420℃で1回目の化学強化を350min行って、実施例1と類似した元の圧縮応力層及び複数の引張応力領域を形成し、冷却した後、強化後のガラスを取り出して洗浄し、乾燥させる。
【0070】
ステップ(3)では、1回目の強化後のガラスの表面の遮蔽層を研磨により除去する。
【0071】
ステップ(4)では、遮蔽層が除去されたガラスを380℃で予備加熱した後、KNO3溶融塩に置いて420℃で2回目の化学強化を80min行って、強化ガラスを得て、それを洗浄し乾燥させる。
【0072】
実施例2で得られた強化ガラスの概略構成図を
図4に示す。該強化ガラスの上面と下面は、いずれも厚さ15μmの表面圧縮応力層を有し、該強化ガラスの表面圧縮応力は、850MPaである。
【実施例3】
【0073】
ガラス強化方法は、以下のステップ(1)~(4)を含む。
【0074】
ステップ(1)では、厚さ0.6mmのリチウムアルミノシリケートガラスを選択し、スクリーン印刷プロセスによりガラスの上面と下面の対応する位置のそれぞれに間隔を置いて分布する複数の耐熱遮蔽層を形成して、表面が部分的に遮蔽されたガラスを得て、遮蔽層は、直径2mmの円形であり、中心間距離が2.4mmであり、複数の遮蔽層のガラスの、上面における総被覆率と下面における総被覆率は、いずれも63%であり、ガラス基材の、上面における遮蔽層の数と下面における遮蔽層の数は、いずれも2100である。
【0075】
ステップ(2)では、上記表面が部分的に遮蔽されたガラスを350℃で予備加熱した後、NaNO3溶融塩に置いて380℃で1回目の化学強化を550min行って、実施例1と類似した元の圧縮応力層及び複数の引張応力領域を形成し、冷却した後、強化後のガラスを取り出して洗浄し、乾燥させる。
【0076】
ステップ(3)では、1回目の強化後のガラスを70℃のNaOH溶液に8min浸漬して、ガラスの表面の遮蔽層を除去する。
【0077】
ステップ(4)では、遮蔽層が除去されたガラスを380℃で予備加熱した後、KNO3溶融塩に置いて420℃で2回目の化学強化を50min行って、強化ガラスを得て、それを洗浄し乾燥させる。
【0078】
実施例3で得られた強化ガラスの概略構成図を
図4に示す。該強化ガラスの上面と下面は、いずれも厚さ12μmの表面圧縮応力層を有し、該強化ガラスの表面圧縮応力は、900MPaである。
【実施例4】
【0079】
ガラス強化方法は、実施例3のガラス強化方法と対比すると、
リチウムアルミノシリケートガラスの厚さが0.5mmであり、遮蔽層が辺長2mmの正六角形であり、間隔が1.4mmであり、複数の遮蔽層のガラスの表面における総被覆率が50%であるという点で相違する。
【0080】
実施例4で得られた強化ガラスの概略構成図を
図4に示す。該強化ガラスの上面と下面は、いずれも厚さ11μmの表面圧縮応力層を有し、該強化ガラスの表面圧縮応力は、880MPaである。
【実施例5】
【0081】
ガラス強化方法は、実施例3のガラス強化方法と対比すると、1回目の化学強化において60wt%の硝酸カリウム及び40wt%の硝酸ナトリウムを含む混合溶融塩を用いて、1回目の化学強化において95wt%の硝酸カリウム及び5wt%の硝酸ナトリウムを含む混合溶融塩を用いるという点で相違する。
【0082】
実施例5で得られた強化ガラスの概略構成図を
図4に示す。該強化ガラスの上面と下面は、いずれも厚さ30μmの表面圧縮応力層を有し、該強化ガラスの表面圧縮応力は、650MPaである。
【0083】
本願の実施例の有益な効果を強調するために、以下の比較例を提供する。
(比較例1)
【0084】
ガラス強化方法は、実施例3のガラス強化方法と対比すると、ガラスの表面に間隔を置いて分布する遮蔽層を形成せず、ガラス全体を60wt%の硝酸カリウム及び40wt%の硝酸ナトリウムを含む混合溶融塩に置いて1回目の化学強化を行い、強化温度を380℃とし、時間を120minとし、その後、ガラスを95wt%の硝酸カリウム及び5wt%の硝酸ナトリウムを含む混合溶融塩に置いて2回目の化学強化を行い、強化温度を380℃とし、時間を45minとするという点で相違する。
(比較例2)
【0085】
ガラス強化方法は、実施例3のガラス強化方法と対比すると、ガラスの表面に間隔を置いて分布する遮蔽層を形成しないという点で相違する。実施例3に記載の方法に基づいて、ガラスに対して、1回目の化学強化、2回目の化学強化を順次行う。
【0086】
比較例1は、現在、本分野の一般的なガラス強化プロセスである。比較例1と比較例2では、いずれも強化前のガラスの表面に間隔を置いて分布する遮蔽層を形成せず、二段階の化学強化を行った後、得られた強化ガラスの概略構成図を
図5に示し、該強化ガラスの表面のみに深さが浅い表面圧縮応力層が形成され、該強化ガラスの内部に圧縮応力分布がなく、本願が強調した周囲周回式応力分布もないことは言うまでもない。したがって、本願の実施例3の強化ガラスの力学的性能は、比較例1及び2よりも優れている。
【0087】
本願の実施例の有益な効果を強く支持するために、以上の実施例及び比較例における強化ガラスに対して、曲げ強度試験及び耐衝撃性能試験を行い、結果を以下の表1に示す。
【0088】
【0089】
上記表1から分かるように、本願の実施例に係る強化ガラスは、曲げ強度及び耐衝撃強度などがいずれも比較例の強化ガラスよりも明らかに優れ、これは、本願に係る強化ガラス又は本願の強化方法で得られた強化ガラスの力学的性能が顕著に向上することを示す。
【0090】
上述した実施例は、本願のいくつかの実施形態を示すものに過ぎず、それらの説明が具体的で詳細であるが、本願の特許請求の範囲を限定するものと理解してはならない。なお、当業者であれば、本願の構想から逸脱することなく、さらにいくつかの変形及び改良を行うことができ、これらは、いずれも本願の保護範囲に属する。
【符号の説明】
【0091】
10 ガラス基材
20 遮蔽層
30 元の圧縮応力層
31’ 第1の表面圧縮応力層
31” 第2の表面圧縮応力層
32 第3の応力層における圧縮応力領域
40 第3の応力層における引張応力領域
【手続補正書】
【提出日】2024-03-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化ガラスであって、
反対側に配置された第1の表面と第2の表面とを含み、前記第1の表面は、第1の表面圧縮応力層(31’)を有し、前記第2の表面は、第2の表面圧縮応力層(31”)を有し、
前記強化ガラスは、前記第1の表面圧縮応力層(31’)と前記第2の表面圧縮応力層(31”)との間に介在する第3の応力層をさらに含み、
前記第3の応力層は、圧縮応力領域(32)と、前記圧縮応力領域(32)内に間隔を置いて設けられた複数の引張応力領域(40)とを含み、複数の前記引張応力領域(40)は、前記強化ガラスの厚さ方向に垂直な方向に配列され、各前記引張応力領域(40)は、前記圧縮応力領域(32)によって囲まれており、
前記圧縮応力領域(32)の最大深さと、前記第1の表面圧縮応力層(31’)の深さ及び前記第2の表面圧縮応力層(31”)の深さとの和は、前記強化ガラスの厚さに等しい、ことを特徴とする強化ガラス。
【請求項2】
厚さは、0.1mm~5mmである、ことを特徴とする請求項1に記載の強化ガラス。
【請求項3】
前記第1の表面圧縮応力層(31’)の深さは、前記強化ガラスの厚さの1%~10%であり、
前記第2の表面圧縮応力層(31”)の深さは、前記強化ガラスの厚さの1%~10%である、ことを特徴とする請求項
1に記載の強化ガラス。
【請求項4】
表面圧縮応力は、500MPa以上である、ことを特徴とする請求項
1に記載の強化ガラス。
【請求項5】
前記強化ガラス内の前記引張応力領域(40)の数は、3以上である、ことを特徴とする請求項
1に記載の強化ガラス。
【請求項6】
前記圧縮応力領域(32)の圧縮応力は、前記強化ガラスの表面圧縮応力よりも小さく、
前記圧縮応力領域(32)の圧縮応力は、8MPa以上である、ことを特徴とする請求項
1に記載の強化ガラス。
【請求項7】
曲げ強度は、800MPa以上である、ことを特徴とする請求項
1に記載の強化ガラス。
【請求項8】
耐衝撃エネルギーは、3J以上である、ことを特徴とする請求項
1に記載の強化ガラス。
【請求項9】
ガラス基材(10)の反対側に配置された第1の表面と第2の表面のそれぞれに間隔を置いて分布する複数の遮蔽層(20)を形成するステップであって、前記第1の表面の遮蔽層(20)と前記第2の表面の遮蔽層(20)とが一対一に対応するステップと、
前記遮蔽層付きのガラス基材(10)に対して、1回目の化学強化を行って、前記ガラス基材(10)の前記遮蔽層(20)によって被覆された表面、前記ガラス基材(10)の前記遮蔽層(20)によって被覆されない表面及び前記ガラス基材(10)の内部に元の圧縮応力層(30)を形成するとともに、前記遮蔽層(20)によって被覆されたガラスの内部に複数の引張応力領域(40)を形成するステップであって、前記引張応力領域(40)が、前記元の圧縮応力層(30)によって囲まれ、前記遮蔽層(20)によって被覆されない前記元の圧縮応力層(30)の深さが、前記ガラス基材(10)の厚さに等しいステップと、
前記遮蔽層(20)を除去するステップと、
前記遮蔽層(20)が除去されたガラス基材(10)に対して、2回目の化学強化を行って、強化ガラスを得るステップと、を含む、ことを特徴とするガラス強化方法。
【請求項10】
複数の前記遮蔽層(20)の前記第1の表面又は前記第2の表面における総被覆率は、10%~70%である、ことを特徴とする請求項9に記載のガラス強化方法。
【請求項11】
前記第1の表面又は第2の表面における前記遮蔽層(20)の数は、3以上である、ことを特徴とする請求項
9に記載のガラス強化方法。
【請求項12】
前記ガラス基材(10)の厚さが0.5mm以上である場合、前記1回目の化学強化の強化時間を300min以上とする、ことを特徴とする請求項
9に記載のガラス強化方法。
【請求項13】
前記1回目の化学強化においてナトリウム含有溶融塩を用い、強化温度を350℃~440℃とする、ことを特徴とする請求項
9に記載のガラス強化方法。
【請求項14】
前記2回目の化学強化においてカリウム含有溶融塩を用い、強化温度を350℃~440℃とする、ことを特徴とする請求項
9に記載のガラス強化方法。
【請求項15】
前記2回目の化学強化の強化時間を10min~200minとする、ことを特徴とする請求項9~14のいずれか一項に記載のガラス強化方法。
【請求項16】
請求項1~8のいずれか一項に記載の強化ガラス、又は、
請求項9~
14のいずれか一項に記載のガラス強化方法で製造された強化ガラスを含む、ことを特徴とする電子機器筐体。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0027
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0027】
ステップS01では、ガラス基材10は、反対側に配置された第1の表面10aと第2の表面10bとを含み、第1の表面10aには、間隔を置いて分布する複数の遮蔽層20が形成され、複数の遮蔽層20は、いずれも第1の表面10aに直接接触し、第2の表面10bには、間隔を置いて分布する複数の遮蔽層20が形成される。第1の表面10aは、ガラス基材10の上面であってもよく、第2の表面10bは、ガラス基材10の下面であってもよい。よりよく区別するために、第1の表面10aの遮蔽層を第1の遮蔽層と称し、第2の表面10bの遮蔽層を第2の遮蔽層と称することができる。第1の遮蔽層と第2の遮蔽層とは、一対一に対応して設けられる。換言すれば、第2の表面10bの各第2の遮蔽層は、それぞれ第1の表面10aの1つの第1の遮蔽層に対応し(両者がガラス基材の厚さ方向に完全に重なる)、或いは、第1の遮蔽層と第2の遮蔽層とは、ガラス基材10に対して対称である。このように、一対一に対応する第1の遮蔽層と第2の遮蔽層は、その後にガラス基材の反対側に位置する両側の表面における対称な応力分布の形成に有利である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0031
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0031】
本願において、二段階の化学強化を行うことができるために、使用されるガラス基材10は、Li含有ガラスである。例示的に、該ガラス基材は、リチウムアルミノシリケートガラスであってもよい。好ましくは、ガラス基材10の厚さは、0.1mm~5mmであってもよい。このように、以下の1回目の化学強化を行って、深さがガラス基材の厚さに等しい元の圧縮応力層30を得ることができ、強化後のガラスは、厚さが薄すぎて力学的性能が依然として劣ることがない。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0036
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0036】
図2Aに示すように、上記1回目の化学強化を行った後、ガラス内部に圧縮応力-引張応力の周期的な分布が形成され、引張応力領域40が元の圧縮応力層30内に間隔を置いて分布し、引張応力領域40の周囲が元の圧縮応力層30によって囲まれ、これは、ガラス内部の引張応力領域におけるマイクロクラックの拡大を十分に抑制することに役立ち、化学強化が行われないガラス基材に比べて、イオン交換により形成された元の
圧縮応力層30の存在により、元々該領域にあるクラックの周辺環境を変化させ、クラックを不活性化させることにより、その所在する領域のクラックの外への拡大を抑制する。また、上記圧縮応力/引張応力の周期的な分布によりガラスの強度限界閾値を向上させるため、ガラスの離散性(離散性は、ガラスの強度の不均一分布である)を低下させ、その力学的性能を向上させることができる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0049
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0049】
図4から分かるように、複数の引張応力領域40は、圧縮応力領域32内に間隔を置いて設けられ、周囲周回式圧縮応力分布が形成される。複数の引張応力領域40は、第1の表面10a又は第2の表面10bに平行な方向(即ち、強化ガラスの厚さ方向に垂直な方向)に沿って間隔を置いて配列される。圧縮応力領域32は、不規則な形状を有し、深さが均一ではないことを理解されたい。複数の引張応力領域40が圧縮応力領域32内に間隔を置いて設けられることに基づいて、圧縮応力領域32を一部の領域が中空の層と見なすことができ、中空の部分が引張応力領域40によって充填され、隣接する2つの引張応力領域40の間に位置する圧縮応力領域32の深さは、最大であり、第1の表面10a及び第2の表面10bの2つの表面圧縮応力層の深さとの和が該強化ガラスの厚さTに等しい。第3の応力層の厚さ(即ち、圧縮応力領域32の最大深さ)と2つの表面圧縮応力層31’
及び31”の厚さとの和は、該強化ガラスの厚さTに等しい。また、表面圧縮応力層31’が強化ガラスの表面に位置し、圧縮応力領域32が強化ガラスの内部に位置するため、表面圧縮応力層31’の圧縮応力が圧縮応力領域32の圧縮応力よりも大きいことを理解されたい。一般的に、ガラス内部の圧縮応力領域32の圧縮応力は、8MPa以上であり、例えば8MPa~100MPaである。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0056
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0056】
本願の実施例に係る電子機器筐体は、本願の前述した強化ガラス、又は本願の前述したガラス強化方法で製造された強化ガラスを含む。
【国際調査報告】