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  • 特表-組織破壊用の効率的なレーザ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】組織破壊用の効率的なレーザ
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/008 20060101AFI20240905BHJP
   A61B 18/22 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A61F9/008 160
A61F9/008 120Z
A61B18/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513413
(86)(22)【出願日】2022-10-04
(85)【翻訳文提出日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 IB2022059472
(87)【国際公開番号】W WO2023057904
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】63/253,601
(32)【優先日】2021-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319008904
【氏名又は名称】アルコン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100227835
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 剛孝
(72)【発明者】
【氏名】ミハイル オフチニコフ
【テーマコード(参考)】
4C026
【Fターム(参考)】
4C026AA02
4C026DD10
4C026FF17
4C026HH15
(57)【要約】
レーザを動作させるための方法が開示される。そのような方法は、パルス持続時間が1nsより長いパルスで、赤外範囲の電磁エネルギーを放出するようにレーザを動作させることを含み得る。赤外電磁エネルギーの波長は、約2.6μ~約3.3μ、又は約1.8μ~約2.1μの範囲内であり得る。パルスは、2,500J/cm以上のエネルギー密度を実現するように選択されたパルスエネルギーを有し得る。レーザ電磁エネルギーは、光破壊により白内障水晶体を粉砕する白内障手術などの医療用途のために送達され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザを動作させる方法であって、
赤外範囲の電磁エネルギーを放出するように前記レーザを動作させることであって、赤外電磁エネルギーの波長は、約2.6μ~約3.3μ、又は約1.8μ~約2.1μの範囲内であることと、
前記レーザをパルスで動作させることであって、前記パルスは、1nsよりも長いパルス持続時間を有することと、
を含む、レーザを動作させる方法。
【請求項2】
前記パルスは、2ns以上のパルス持続時間を有する、請求項1に記載のレーザを動作させる方法。
【請求項3】
前記パルスは、2,500J/cm以上のエネルギー密度を実現するように選択されたパルスエネルギーを有する、請求項1に記載のレーザを動作させる方法。
【請求項4】
前記パルスは、10,000J/cm以上のエネルギー密度を実現するように選択されたパルスエネルギーを有する、請求項1に記載のレーザを動作させる方法。
【請求項5】
赤外電磁エネルギーの前記波長は、約2.6μ~約3.3μの範囲内である、請求項1に記載のレーザを動作させる方法。
【請求項6】
前記レーザは、150μJ以上のパルスエネルギーを送達するように動作される、請求項5に記載のレーザを動作させる方法。
【請求項7】
赤外電磁エネルギーの前記波長は、約1.8μ~約2.1μの範囲内である、請求項1に記載のレーザを動作させる方法。
【請求項8】
前記レーザは、4mJ以上のパルスエネルギーを送達するように動作される、請求項7に記載のレーザを動作させる方法。
【請求項9】
前記レーザ電磁エネルギーは、約300μ~約0.5mmの先端面積を有する光ファイバから送達される、請求項1に記載のレーザを動作させる方法。
【請求項10】
前記レーザ電磁エネルギーは、医療用途のために送達される、請求項1に記載のレーザを動作させる方法。
【請求項11】
前記レーザ電磁エネルギーは、白内障手術のために送達される、請求項10に記載のレーザを動作させる方法。
【請求項12】
前記レーザ電磁エネルギーは、白内障水晶体に向けられる、請求項11に記載のレーザを動作させる方法。
【請求項13】
作用機構は光破壊である、請求項1に記載のレーザを動作させる方法。
【請求項14】
前記レーザエネルギーは、レーザ光ファイバ先端に隣接する少量の水によって吸収される、請求項13に記載のレーザを動作させる方法。
【請求項15】
レーザを動作させる方法であって、
赤外範囲の電磁エネルギーを放出するように前記レーザを動作させることであって、赤外電磁エネルギーの波長は、約2.6μ~約3.3μ、又は約1.8μ~約2.1μの範囲内であることと、
前記レーザをパルスで動作させることであって、前記パルスは、2,500J/cm以上のエネルギー密度を実現するように選択されたパルスエネルギーを有することと、
を含む、レーザを動作させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、発明者がMikhail Ovchinnikovである、2021年10月8日に出願された「EFFICIENT LASERS FOR TISSUE DISRUPTION」と題する米国仮特許出願第63/253,601号の優先権の利益を主張するものであり、該明細書は、あたかも本明細書に十分且つ完全に記載されているかのように、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、組織破壊用のレーザを対象とする。
【背景技術】
【0003】
レーザは、複数の異なる眼科処置を含む多くの異なる医療処置に使用されている。例えば、レーザは、白内障水晶体を断片化させるためなど、白内障手術で使用されることがある。いくつかの処置では、レーザは、最初に水晶体を断片化するために使用され、その後、超音波ハンドピースによる水晶体の超音波乳化吸引が続き、水晶体を除去するための分解が完了する。他の処置では、レーザは、超音波エネルギーを別個に印加する必要なく、水晶体を完全に断片化又は超音波乳化吸引して除去するために使用されることがある。レーザは、白内障手術の他のステップ、例えば角膜の切開の作成及び/又は水晶体カプセルの開放などのためにも使用することもできる。
【0004】
レーザは、硝子体網膜手術でも使用され得る。いくつかの処置では、レーザを硝子体切除に使用して、硝子体繊維を切断又は分解して除去することができる。レーザは、硝子体切除術用プローブに組み込むことができ、レーザからのエネルギーを硝子体繊維に印加して、硝子体繊維を切断又は分解して除去することができる。
【0005】
他の硝子体網膜用途では、レーザは、網膜組織の光凝固に使用することができる。レーザ光凝固を使用して、網膜断裂及び/又は糖尿病性網膜症の影響などの問題を治療することができる。
【0006】
特許文献1は、眼科用レーザシステムの例を開示している。この出願は、手術の切れ目を形成するため、又は眼の組織を光破壊するため、並びにレーザ補助白内障手術(LACS)などの白内障手術などのためのレーザの使用について記載している。特許文献2は、眼科用レーザシステムの他の例を開示している。この出願は、硝子体線維を切断又は破断するための硝子体切除プローブなどにおけるレーザの使用について記載している。特許文献1及び特許文献2は、特に、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0007】
特許文献3は、衝撃性熱堆積によるレーザ切断について開示している。特許文献3は、特に、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/0360657号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2019/0201238号明細書
【特許文献3】米国特許第8,029,501号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示は、レーザを動作させる方法を対象とする。レーザは、光破壊のために動作させ得る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
特定の実施形態では、レーザを動作させる方法は、赤外範囲の電磁エネルギーを放出するようにレーザを動作させることであって、赤外電磁エネルギーの波長は、約2.6ミクロン(2.6μ)~約3.3ミクロン(3.3μ)、又は約1.8ミクロン(1.8μ)~約2.1ミクロン(2.1μ)の範囲内であることと、レーザをパルスで動作させることであって、パルスは、1ナノ秒(1ns)よりも長いパルス持続時間を有することと、を含む。パルスは、2ナノ秒(2ns)以上のパルス持続時間を有し得る。
【0011】
特定の実施形態では、パルスは、2,500ジュール/立方センチメートル(2,500J/cm)以上のエネルギー密度を実現するように選択されたパルスエネルギーを有する。他の実施形態では、パルスは、5,000ジュール/立方センチメートル(5,000J/cm)以上のエネルギー密度を実現するように選択されたパルスエネルギーを有する。他の実施形態では、パルスは、10,000ジュール/立方センチメートル(10,000J/cm)以上のエネルギー密度を実現するように選択されたパルスエネルギーを有する。
【0012】
特定の実施形態では、赤外電磁エネルギーの波長は、約2.6ミクロン(2.6μ)~約3.3ミクロン(3.3μ)の範囲内である。そのような実施形態では、レーザは、150マイクロジュール(150μJ)以上のパルスエネルギーを送達するように動作され得る。
【0013】
特定の実施形態では、赤外電磁エネルギーの波長は、約1.8ミクロン(1.8μ)~約2.1ミクロン(2.1μ)の範囲内である。そのような実施形態では、レーザは、4ミリジュール(4mJ)以上のパルスエネルギーを送達するように動作され得る。
【0014】
特定の実施形態では、レーザ電磁エネルギーは、約300平方ミクロン(300μ)~約0.5平方ミリメートル(0.5mm)の先端面積を有する光ファイバから送達され得る。
【0015】
特定の実施形態では、レーザ電磁エネルギーは、医療用途のために送達される。例えば、レーザ電磁エネルギーは、白内障手術のために送達され得る。レーザ電磁エネルギーは、白内障の水晶体に向けられ得る。白内障の水晶体を粉砕する作用機構は、光破壊であり得る。レーザエネルギーは、レーザ光ファイバの先端に隣接する少量の水によって吸収されることがある。
【0016】
他の実施形態では、レーザを動作させる方法は、赤外範囲の電磁エネルギーを放出するようにレーザを動作させることであって、赤外電磁エネルギーの波長は、約2.6μ~約3.3μ、又は約1.8μ~約2.1μの範囲内であることと、レーザをパルスで動作させることであって、パルスは、2,500J/cm以上のエネルギー密度を実現するように選択されたパルスエネルギーを有することと、を含む。パルスは、5,000J/cm以上のエネルギー密度を実現するように選択されたパルスエネルギーを有し得る。パルスは、10,000J/cm以上のエネルギー密度を実現するように選択されたパルスエネルギーを有し得る。
【0017】
他の実施形態では、レーザを動作させる方法は、白内障の水晶体に隣接してレーザファイバ先端を向けることと、赤外範囲の電磁エネルギーを放出するようにレーザを動作させることであって、赤外電磁エネルギーの波長は、約2.6μ~約3.3μ、又は約1.8μ~約2.1μの範囲内であることと、レーザをパルスで動作させることであって、パルスは、1ns超のパルス持続時間を有することと、を含む。
【0018】
特定の実施形態では、パルスは2ns以上のパルス持続時間を有し得る。他の実施形態では、パルスは5ns以上のパルス持続時間を有し得る。他の実施形態では、パルスは10ns以上のパルス持続時間を有し得る。
【0019】
本発明の実施形態の更なる例及び特徴が、図面及び詳細な説明から明らかになるであろう。
【0020】
添付の図面は、説明文と共に本開示の原理を説明するようにはたらく。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、レーザ効率とパルスエネルギー密度との間の関係を示す。
図2図2は、0.5mJのパルスエネルギーでのレーザ効率とパルス持続時間との間の関係を示す。
図3図3は、1mJのパルスエネルギーでのレーザ効率とパルス持続時間との間の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付の図面は、以下の詳細な説明を参照することにより、よりよく理解することができる。
【0023】
本開示の原理の理解を促進する目的で、特定の例について説明する。けれども、本明細書に記載された例によって特許請求の範囲を限定することは意図されていないことを理解されたい。図示又は記載されているシステム、装置、器具、又は方法に対するあらゆる変更及び更なる修正、並びに、本開示の原理のあらゆる更なる応用も、本開示が関係する当業者であれば通常着想されるものとして、すべて想定されている。特に、本開示のある実施態様に関して説明される特徴、構成要素、及び/又は工程は、本開示の他の実施態様に関して説明される特徴、構成要素、及び/又は工程と組み合わされ得る。
【0024】
レーザと組織との相互作用は、一般に、以下の2つのタイプのうちのいずれかとして分類することができる:(1)光凝固。即ち、組織に対する熱の効果(又は、単に燃焼)を指す。(2)光破壊。レーザによって生じた圧力に起因する組織膨張の効果を指す。上記で参照した米国特許第8,029,501号明細書に記載されるような特定のレーザの作用は、光破壊として特徴付けることができる。この開示は、作用が光破壊である又は主として光破壊であるレーザを対象としている。
【0025】
光破壊の目標は、蓄積される熱の量を最小に保ちながら、破壊効果を最大化することである。破壊は、以下のメカニズムによって行われる。高速レーザパルスが、レーザファイバの先端に隣接する少量の水によって吸収される。パルスは、水が膨張するのにかかる速度よりも速いので、この少量の水は高圧になる。この量が蒸気へと膨張すると、隣接する組織を押し離し、機械的にその組織を破壊する。
【0026】
米国特許第8,029,501号明細書は、赤外範囲で動作するレーザについて開示しており、レーザパルス持続時間は、加熱された層を音(又は圧力波)が通過するのにかかる時間よりも短くなっている。その特許には、その特許が1ps~1nsのパルス持続時間として規定する「短IR(赤外)パルス」の使用を、その発明が対象としていることが記載されている。(米国特許第8,029,50号明細書、8列目、52~59行目。)この特許には、「この特許で具現化される概念は、1ns未満のパルスを使用することである」ことが記載されている。(米国特許第8,029,50号明細書、14列目、60~65行目。)その特許には更に、「この場合のパルス持続時間は1ns未満であるべきであり、理想的には1~100psの間であるべきである」ことが記載されている。(米国特許第8,029,50号明細書、16列目、53~55行目。)
【0027】
本発明者は、モデリング及び実験を通じて、既存のレーザよりもレーザの効率を大幅に向上させる、レーザを動作させる方法を発明した。更に、本発明者は、従来当業者が必須と考えていた限界を超えてレーザを効率的に動作させる方法を発明した。そのような方法には、広範囲のパルス持続時間及びパルスエネルギーを伴う動作条件が含まれる。
【0028】
破壊の効率は、レーザパルスの総エネルギーに対する機械的破壊のエネルギーの比率として定義することができる。機械的破壊のエネルギーは、水中で動作する場合に結果として生じる蒸気の泡を観測することにより、測定することができる。泡のエネルギーは、E=P*Vmaxとして表すことができ、ここで、Pは大気圧であり、Vmaxはレーザパルスによって生成される泡の最大体積である。
【0029】
実験的には、本明細書で説明する本発明の方法を使用して、本開示に従った様々な条件下で、破壊効率は、レーザパルスの条件に応じて約0.1~約0.35の範囲内で測定された。(ファイバ先端での)接触切断に使用される従来の赤外レーザの効率は、大幅により低かった。参考文献1(Peter Gregorcic,Matija Jezersek,及びJanez Mozina著、「Optodynamic energy-conversion efficiency during an Er:YAG-laser-pulse delivery into a liquid through different fiber-tip geometries」、Journal of Biomedical Optics 17(7)、075006(2012年7月))は、0.03という最高効率を報告している。非接触型(ビームの焦点で非線形に吸収される超高速の、典型的にはフェムト秒のレーザ)については、効率は、0.1に近いことが知られている。
【0030】
所与のレーザ波長について、効率は、2つの主な変数の関数になる。(1)パルスエネルギー密度(加熱された水の体積当たりのパルスエネルギー)、及び(2)パルス持続時間。モデリングを通じて、本発明者は、以下の依存性を明らかにした。
【0031】
エネルギー密度に対する効率の依存性:図1は、本発明者がレーザ効率とパルスエネルギー密度との関係であると決定したものを示しており、パルスエネルギー密度は、パルスエネルギーを加熱された水の体積で割ったものである。ファイバ表面が平らな場合、この体積は、ファイバ先端の断面積と侵入深さとの積によって与えられる。一例では、レーザは、2.9μ(ミクロン)の波長で電磁エネルギーを放出し、これは、約0.8μの侵入深さをもたらす。別の例では、レーザは、2.775μ(ミクロン)の波長で電磁エネルギーを放出し、これは、約2μの侵入深さをもたらす。図1は、パルス持続時間が1ns、波長が2.9μの電磁エネルギーを放出するレーザの一例を示す。図1から分かるように、エネルギー密度が低いと効率が低くなり、ほとんどの既知のレーザはこの範囲で動作する。約2,500J/cm以上のエネルギー密度では、レーザ効率は特定の用途に適している。約5,000J/cm以上のエネルギー密度では、レーザ効率は、既知の従来のレーザで達成される効率よりも大幅に高くなる。約10,000J/cm以上のエネルギー密度では、レーザ効率は最大効率に近づき始める。
【0032】
パルス持続時間に対する効率の依存性:図2及び図3は、本発明者がレーザ効率とパルス持続時間との関係であると決定したものを示しており、図2及び図3におけるパルス持続時間(x軸)は、ナノ秒単位である(パルス持続時間は、半値全幅(FWHM)である)。図2の例は、1μの侵入深さをもたらし、0.5mJのパルスエネルギーを有するレーザについてのものである。図3の例は、1μの侵入深さをもたらし、1mJのパルスエネルギーを有するレーザについてのものである。図2及び図3から分かるように、効率は、1ns未満のパルス持続時間では高いが、より高いパルス持続時間でも著しい効率の損失はない。1ns以上のパルス持続時間は、依然として高い効率をもたらす。
【0033】
本発明者は、モデリング及び実験を通じて、高い効率でレーザを動作させる方法を発明した。モデリングシナリオでは、ピコ秒/ナノ秒のスケールのパルス持続時間で赤外範囲で動作するレーザについて、本発明者は、レーザの効率を、パルス持続時間、侵入深さ、及びパルスエネルギーの関数として決定した。
【0034】
特定の用途、例えば、レーザ電磁エネルギーが白内障水晶体に向けられる白内障手術などの医療用途の場合、作用機構は光破壊である。白内障手術では、ユーザ(例えば、医師)は、レーザエネルギーを白内障水晶体に向けて、水晶体を粉砕する。レーザエネルギーは、レーザファイバの先端に隣接する少量の水によって吸収される。この少量の水は、高圧になり膨張し、隣接する組織を押し離し、機械的にその組織を破壊する。
【0035】
レーザエネルギーが、レーザファイバの先端に隣接する少量の水によって吸収される用途では、侵入深さは、レーザによって放出される電磁エネルギーの波長の関数になる。一例では、約2.6μ~約3.3μの波長範囲で動作するレーザが使用され得る。例えば2.775μの波長で動作するレーザは、約2μの侵入深さをもたらす。例えば2.9μの波長で動作するレーザは、約0.8μの侵入深さをもたらす。別の例として、約1.8μ~約2.1μの波長範囲で動作するレーザが使用され得る。例えば1.93μの波長で動作するレーザは、約76μの侵入深さをもたらす。
【0036】
約2.7μ~2.8μ、又は約2.775μの波長、ピコ秒/ナノ秒のスケールのパルス持続時間で動作する電磁エネルギーを放出するレーザを用いた実験構成では、効率は、約0.1~約0.35の範囲内で測定された。使用したレーザの例は、クロムがドープされたセレン化亜鉛レーザ(IPG Photonics社から販売されている)であった。
【0037】
再び図1を参照すると、エネルギー密度に対するレーザ効率の依存性をみてとることができる。ほとんどのレーザは、図1のグラフの最も左側の狭い範囲内で、非常に低いエネルギー密度と非常に低い効率で動作している。本発明者は、従来のパラメータを上回りレーザを動作させる方法を発明し、従来よりも非常に高い効率を得た。本開示によれば、2,500J/cm以上のエネルギー密度でレーザを動作させると、特定の用途に適した効率が得られる。本開示によれば、5,000J/cm以上のエネルギー密度でレーザを動作させると、高い効率が得られる。本開示によれば、10,000J/cm以上のエネルギー密度でレーザを動作させると、最大の効率に近づく。
【0038】
エネルギー密度は、レーザからのパルスエネルギーと加熱された水の体積の関数になる。加熱された水の体積は、侵入深さ(これは、上述したように波長の関数である)とレーザ光ファイバ先端のジオメトリ(例えば、レーザ電磁エネルギーが放出される面積)の関数になる。
【0039】
一例では、ファイバ先端は円形であり、約20μ~約0.8mmの範囲内の直径を有する。これは、約300μ~約0.5mmのファイバ面積に相当する。例えば、ファイバ先端は円形であってもよく、約100μ又は約200μの直径を有し得る。ファイバは、任意の適切な材料、例えばサファイアから作製され得る。
【0040】
パルスエネルギーは、水の状態方程式によって規定される加熱される体積の閾値エネルギーよりも大幅に大きくなくてはならない。上述のように、この体積は、侵入深さ(波長の関数)とファイバ先端のジオメトリの関数である。レーザ動作波長及び結果として生じる侵入深さに応じて、且つファイバ先端のジオメトリに応じて、ある範囲のレーザエネルギーを用いることができる。例えば、パルスエネルギーは、約100μJ~約100mJの範囲内であり得る。所与のファイバ先端のジオメトリについて、侵入深さがより小さい場合、所望のエネルギー密度及び結果として得られる所望の効率を達成するために必要なパルスエネルギーはより小さくなる。侵入深さがより大きい場合、所望のエネルギー密度及び結果として得られる所望の効率を達成するために必要なパルスエネルギーはより高くなる。侵入深さが約1μ、直径が約200μの円形のファイバ先端の場合、このエネルギーは約150μJ以上になる。侵入深さが約100μ、直径が約200μの円形のファイバ先端の場合、このエネルギーは約15mJ以上になる。侵入深さが約100μ、直径が約100μの円形のファイバ先端の場合、このエネルギーは約4mJ以上になる。
【0041】
図2及び図3を参照すると、0.5mJパルスエネルギーの場合の効率曲線(図2)及び1mJパルスエネルギーの場合の効率曲線(図3)は非常に似ており、エネルギーがより高いとより短いパルス持続時間でわずかにより効率的であることが分かる。より高い効率が、より短いパルス持続時間にみられるが、非常に長いパルス(例えば、20nsを超える)も依然として相当に効率的であり、効率は約30%(0.3)~40%(0.4)である。効率は、パルス幅が相当に大きな値に増加するにつれて、非常にゆっくりと低下する。
【0042】
従来の知識に反して、1ns以上のパルス持続時間は、高い効率をもたらす。パルス持続時間は、1ns超、1ns超~100ns、2ns以上、2ns~100ns、5ns以上、5ns~100ns、10ns以上、又は10ns~100nsの範囲内で使用され得る。本明細書に記載する本発明に従って使用され得るパルス持続時間の例としては、2ns又は約2ns、5ns又は約5ns、10ns又は約10ns、20ns又は約20ns、並びに1nsを上回る他のパルス持続時間、が挙げられる。
【0043】
許容可能なパルス持続時間は、同じエネルギー密度でのレーザの侵入深さに概ね比例する。例えば、1μの侵入深さ、2nsのパルス持続時間、及び0.5mJのパルスエネルギーの場合、0.45という効率が予測される。100μの侵入深さの場合、同様の効率が、200nsのパルス持続時間及び50mJのパルスエネルギーで観測されるであろう。
【0044】
本開示を読んだ当業者であれば、本発明者が、従来技術に勝る利点を有する、レーザを動作させる新規の有用な方法を発明したことを理解するであろう。本開示は、組織を破壊的に切断するための、効率的な(例えば、0.1を上回る効率の)赤外レーザについて説明している。本発明の実施形態は、以下の利点のうちの1つ以上を有する:切断の効率、切断の精度、隣接する組織を著しく加熱しないこと、及び/又は隣接する組織を焼かないこと。
【0045】
当業者であれば、本開示により包含される実施形態は前述の特定の例示的な実施形態に限定されないことが分かるであろう。例示的な実施形態を図示及び説明してきたが、前述した開示においては、広範囲の修正形態、変更形態、及び置換形態が考えられる。そのような変形が、本開示の適用範囲から逸脱することなく、前述したものに対して行われ得ることを理解されたい。従って、添付の特許請求の範囲は、広範に且つ本開示と整合するように解釈されることが適切である。
【0046】
参考文献1:Peter Gregorcic,Matija Jezersek,及びJanez Mozina著、「Optodynamic energy-conversion efficiency during an Er:YAG-laser-pulse delivery into a liquid through different fiber-tip geometries」、Journal of Biomedical Optics 17(7)、075006(2012年7月)。
図1
図2
図3