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特表2024-533113ヒトビトロネクチン断片及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】ヒトビトロネクチン断片及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/78 20060101AFI20240905BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20240905BHJP
   C07K 17/08 20060101ALI20240905BHJP
   C07K 17/02 20060101ALI20240905BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20240905BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 15/70 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240905BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20240905BHJP
【FI】
C07K14/78
C12N15/12 ZNA
C12N15/10 200Z
C07K17/08
C07K17/02
C12M3/00 A
C07K19/00
C12N15/63 Z
C12N15/70 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
C12N5/0775
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513724
(86)(22)【出願日】2022-08-31
(85)【翻訳文提出日】2024-03-07
(86)【国際出願番号】 US2022042228
(87)【国際公開番号】W WO2023034430
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】63/239,456
(32)【優先日】2021-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520122600
【氏名又は名称】バイオ-テクネ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フリン,ケビン シー.
(72)【発明者】
【氏名】アンデルセン,マーネル
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジュン
(72)【発明者】
【氏名】アイザックソン,エイミー
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ,ブライアン ジェイ.
【テーマコード(参考)】
4B029
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC13
4B064AG01
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA13
4B065AA26X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC12
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065BA06
4B065BA30
4B065BC41
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA61
4H045BA62
4H045CA40
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、野生型ビトロネクチンまたは以前に特徴付けられたビトロネクチン断片と比較して、E.coliにおける改善された製造可能性、幹細胞培養用途における改善された機能、及び改善された安定性を有するヒトビトロネクチンフラグメントに関する。本発明は、細胞培養用及び再生医療における基質としてのその使用に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビトロネクチンポリペプチド断片であって:
配列番号1を有する全長ビトロネクチンポリペプチドと比較して、少なくとも50個の連続するN末端アミノ酸の欠失を含み;
配列番号1を有する前記全長ビトロネクチンポリペプチドと比較して、少なくともC末端アミノ酸362~478の欠失を含み;
ビトロネクチンのアルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)インテグリン結合ドメインを含み;
ビトロネクチンのN末端ソマトメジンB(SmB)ドメインを含まない;
ビトロネクチンのC末端ヘパリン結合ドメイン及びHp4ドメインを含まない;及び
配列番号1を有する前記全長ビトロネクチンポリペプチドの同じ断片に対する約95%の配列同一性を含む、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項2】
請求項1に記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、ビトロネクチンのHp1、Hp2、及び/またはHp3ドメインを含む、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項3】
請求項1または2に記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、約200~約350アミノ酸の長さを有する、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、以下:
配列番号1を有する全長ビトロネクチンポリペプチドと比較して、61個の連続するN末端アミノ酸の欠失;及び
配列番号1を有する前記全長ビトロネクチンポリペプチドと比較して、C末端アミノ酸293~478の欠失を含む、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、配列番号1を有する前記全長ビトロネクチンポリペプチドの残基62~292に対する約95%の配列同一性を含む、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、以下:
配列番号1を有する全長ヒトビトロネクチンの、
63位に相当する位置でのアミノ酸置換;
67位に相当する位置でのアミノ酸置換;
68位に相当する位置でのアミノ酸置換;
80位に相当する位置でのアミノ酸置換;及び/または
148位に相当する位置でのアミノ酸置換、を含む、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項7】
前記アミノ酸置換が、T63G置換、V67S置換、V67N置換、F68P置換、D80Y置換、及び/またはQ148E置換を含む、請求項6に記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項8】
配列番号2からなる、ビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項9】
配列番号1を有する全長ビトロネクチンと比較して、D80位におけるアミノ酸置換及び/またはQ148位におけるアミノ酸置換を有する、配列番号2からなるビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項10】
D80位における前記アミノ酸置換がD80Y置換を含み、及び/またはQ148位における前記アミノ酸置換がQ148E置換を含む、請求項9に記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項11】
配列番号1を有する全長ビトロネクチンと比較して、63位に相当する位置でのアミノ酸置換、67位に相当する位置でのアミノ酸置換、及び/または68位に相当する位置でのアミノ酸置換を有する、配列番号2からなるビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項12】
T63位における前記アミノ酸置換がT63G置換を含み、V67位における前記アミノ酸置換がV67S置換またはV67N置換を含み、及び/またはF68位における前記アミノ酸置換がF68P置換を含む、請求項11に記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項13】
C末端His-タグをさらに含む、請求項1~12のいずれか1項に記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項14】
1、2、3、4、5、6、7、8、またはそれ以上のC末端His残基を含む、請求項13に記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項15】
配列番号3からなる、ビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、非動物由来である、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項17】
マイクロキャリアにコンジュゲートしている、請求項1~16のいずれか1項に記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項18】
前記マイクロキャリアが、ヒドロゲルまたはポリスチレンミクロスフェアを含む、請求項17に記載のビトロネクチンポリペプチド断片コンジュゲート。
【請求項19】
請求項1~16のいずれか1項に記載のビトロネクチンポリペプチド断片、または請求項17もしくは18に記載のビトロネクチンポリペプチド断片コンジュゲートを含む組成物。
【請求項20】
請求項19に記載の組成物であって、非動物由来である、前記組成物。
【請求項21】
細胞培養基質として使用するための、請求項1~16のいずれか1項に記載のビトロネクチンポリペプチド断片、請求項17もしくは18に記載のビトロネクチンポリペプチド断片コンジュゲート、または請求項19もしくは20に記載の組成物。
【請求項22】
請求項1~16のいずれか1項に記載のビトロネクチンポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列。
【請求項23】
請求項22に記載のヌクレオチド配列を含む発現ベクター。
【請求項24】
請求項23に記載の発現ベクターであって、E.coli発現ベクターを含む、前記発現ベクター。
【請求項25】
請求項22に記載のヌクレオチド配列または請求項23もしくは24のいずれか1項に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
【請求項26】
請求項25に記載の宿主細胞であって、E.coliを含む、前記宿主細胞。
【請求項27】
ビトロネクチンポリペプチド断片を産生する方法であって、請求項22に記載のヌクレオチド配列、請求項23もしくは24に記載の発現ベクター、または請求項25もしくは26に記載の宿主細胞から、前記ビトロネクチンポリペプチド断片を発現させることを含む、前記方法。
【請求項28】
前記産生されたビトロネクチン断片ポリペプチドが非動物由来である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
細胞培養方法であって、請求項1~18のいずれか1項に記載のビトロネクチンポリペプチド断片、請求項17もしくは18に記載のビトロネクチンポリペプチド断片コンジュゲート、または請求項19もしくは20に記載の組成物を含む基質上で細胞を培養することを含む、前記方法。
【請求項30】
前記細胞が幹細胞を含む、請求項29に記載の細胞培養方法。
【請求項31】
前記細胞を非動物由来条件下で培養する、請求項29または30に記載の細胞培養方法。
【請求項32】
細胞培養がエクスビボである、請求項29~31のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項33】
前記細胞が、幹細胞を含む、請求項29~32のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項34】
前記幹細胞が、ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)を含む、請求項33に記載の細胞培養方法。
【請求項35】
前記幹細胞が、ヒト間葉系幹細胞(MSC)を含む、請求項33に記載の細胞培養方法。
【請求項36】
細胞培養方法であって、配列番号2または配列番号3からなるビトロネクチンポリペプチド断片を含む基質上で幹細胞を培養することを含む、前記方法。
【請求項37】
細胞培養方法であって、ビトロネクチンポリペプチド断片であって、配列番号2からなり、配列番号2が、
配列番号1を有する全長ビトロネクチンに対して63位に相当する位置でのT63Gアミノ酸置換;
配列番号1を有する全長ビトロネクチンに対して67位に相当する位置でのV67SまたはV67Nアミノ酸置換;及び
配列番号1を有する全長ビトロネクチンに対して68位に相当する位置でのF68Pアミノ酸置換、によって変更されている、前記ビトロネクチンポリペプチド断片、を含む基質上で間葉系幹細胞(MSC)を培養することを含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年9月1日に出願された米国仮出願第63/239,456号の利益を主張するものであり、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、2022年8月23日に作成された、5キロバイトのサイズを有する「0541-000017WO01」という表題のXMLファイルとして特許センター経由で米国特許商標庁に電子的に提出された配列表を含む。配列表の電子出願により、電子的に提出された配列表は、37 CFR §1.821(c)により要求される紙のコピーと§1.821(e)により要求されるCRFの両方として機能する。配列表に含まれる情報は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
再生医療は、損傷もしくは疾患細胞、組織、及び臓器を修復、再生、または置換することを目的とした成長中の医療分野である。間葉系幹細胞(MSC)と多能性幹細胞(PSC)(胚性幹細胞及び人工多能性幹細胞(iPSC)を含む)はともに、現在、再生医療における種々の適応症に対し臨床試験中である。再生医療の重要な側面は、組織置換戦略の治療薬として使用するための幹細胞及びそれらの誘導体のエクスビボでの培養及び拡大である(Blau and Daley, 2019, N Engl J Med;380(18):1748-1760)。これらの細胞を生成する際の重要なステップは、安全で堅牢なエクスビボ培養である。これは、堅牢な機能性を維持しながら、(供給の観点から)安全で信頼できる細胞培養培地及び基質の最適化を伴う。安全性に関しては、米国薬局方(USP)刊行物USP<1043>(USP43-NF38-7381、USP-NF<1043>“Ancillary Materials for Cell, Gene, and Tissue Engineered Products,” Phamacopeial Forum;43:7381)に基準が概説されており、これは、再生医療を含む細胞及び遺伝子治療で補助材料として使用される原材料のリスク分類のための段階的システムを詳述している(USP43-NF38)。動物成分含有試薬の使用は高リスク(第4段階)であると考えられるが、GMP条件下で生成された非動物由来材料は低リスク(第2段階)であると考えられる。したがって、幹細胞培養用の低リスクで非動物由来基質を実現することは、再生医療におけるより広範な用途を推進するための重要な目標である。
【0004】
MSC及びPSCの従来の細胞培養技術では、フィブロネクチンなどの血漿精製マトリックス(Veevers-Lowe et al., 2011, Journal of Cell Science;124(Pt 8):1288-300;及びSomaiah et al., 2015, PLoS One;10(12):e0145068)、またはMATRIGEL(商標)もしくはCULTREX BME(商標)などの複雑性腫瘍由来マトリックス(Xu et al., 2001, Nat Biotechnol;19(10):971-4)のいずれかを使用する。より最近では、組換え製造プロトコールを用いて作製されたより均質な組成を有するマトリックス(ラミニン、フィブロネクチン、及びビトロネクチンを含む)が幹細胞の培養に使用されている(Miyazaki et al., 2012, Nat Commun;3:1236;Miyazaki et al., 2013, Erratum in: Nat Commun;4:1931;Braam et al., 2008, Stem Cells;26(9):2257-65;及びKalaskar et al., 2013, J R Soc Interface;10(83):20130139)。これらの基質は、ばらつきを低減し、細胞培養環境の精細度を改善することができる。しかし、これらのタンパク質またはタンパク質断片は、製造が困難で高価である場合があり、及び/または動物細胞で作製される。
【0005】
再生医療の分野では、製造が容易で、堅牢で、真に非動物由来のマトリックス分子が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、ビトロネクチンポリペプチド断片を含み、ビトロネクチンポリペプチド断片は、配列番号1を有する全長ビトロネクチンポリペプチドと比較して、少なくとも50個の連続するN末端アミノ酸の欠失を含み;配列番号1を有する全長ビトロネクチンポリペプチドと比較して、少なくともC末端アミノ酸362~478の欠失を含み;ビトロネクチンのアルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)インテグリン結合ドメインを含み;ビトロネクチンのN末端ソマトメジンB(SmB)ドメインを含まない;ビトロネクチンのC末端ヘパリン結合ドメイン及びHp4ドメインを含まない;及び配列番号1を有する全長ビトロネクチンポリペプチドの同じ断片に対する約95%の配列同一性を含む。
【0007】
いくつかの態様では、ビトロネクチンポリペプチド断片は、ビトロネクチンのHp1、Hp2、及び/またはHp3ドメインを含む。
【0008】
いくつかの態様では、ビトロネクチンポリペプチド断片は、約200~約350アミノ酸の長さを有する。
【0009】
いくつかの態様では、ビトロネクチンポリペプチド断片は、以下:配列番号1を有する全長ビトロネクチンポリペプチドと比較して、61個の連続するN末端アミノ酸の欠失;配列番号1を有する全長ビトロネクチンポリペプチドと比較して、C末端アミノ酸293~478の欠失、を含む。
【0010】
いくつかの態様では、ビトロネクチンポリペプチド断片は、配列番号1を有する全長ビトロネクチンポリペプチドの残基62~292に対する約95%の配列同一性を含む。
【0011】
いくつかの態様では、ビトロネクチンポリペプチド断片は、配列番号1を有する全長ヒトビトロネクチンの80位及び/または148位に相当する位置にアミノ酸置換を含む。いくつかの態様では、アミノ酸置換は、D80Y置換及び/またはQ148E置換を含む。
【0012】
いくつかの態様では、ビトロネクチンポリペプチド断片は、配列番号1を有する全長ヒトビトロネクチンの63位、67位、及び/または68位に相当する位置に1つ以上のアミノ酸置換を含む。いくつかの態様では、1つ以上のアミノ酸置換は、T63G置換及び/またはV67S置換及び/またはV67N置換及び/またはF68P置換を含む。いくつかの態様では、アミノ酸置換は、T63G置換、V67S置換またはV67N置換、及びF68P置換を含む。
【0013】
本開示は、配列番号2からなるビトロネクチンポリペプチド断片を含む。
【0014】
本開示は、配列番号1を有する全長ビトロネクチンと比較して、D80位におけるアミノ酸置換及び/またはQ148位におけるアミノ酸置換を有する、配列番号2からなるビトロネクチンポリペプチド断片を含む。いくつかの態様では、D80位におけるアミノ酸置換はD80Y置換を含み、及び/またはQ148位におけるアミノ酸置換はQ148E置換を含む。
【0015】
本開示は、配列番号1を有する全長ビトロネクチンと比較して、T63位におけるアミノ酸置換及び/またはV67及び/またはF68位におけるアミノ酸置換を有する、配列番号2からなるビトロネクチンポリペプチド断片を含む。いくつかの態様では、T63位におけるアミノ酸置換はT63G置換を含み、及び/またはV67位におけるアミノ酸置換はV67SまたはV67N置換を含む。いくつかの態様では、F68位におけるアミノ酸置換は、F68P置換を含む。
【0016】
いくつかの態様では、本明細書に開示されるビトロネクチンポリペプチド断片は、C末端Hisタグをさらに含む。いくつかの態様では、1、2、3、4、5、6、7、8またはそれ以上のC末端His残基を含む。
【0017】
本開示は、配列番号3からなるビトロネクチンポリペプチド断片を含む。
【0018】
いくつかの態様では、本明細書に開示されるビトロネクチンポリペプチド断片は、非動物由来である。
【0019】
いくつかの態様では、本明細書に開示されるビトロネクチンポリペプチド断片は、マイクロキャリアにコンジュゲートされる。いくつかの態様では、マイクロキャリアはヒドロゲルまたはポリスチレンミクロスフェアを含む。
【0020】
本開示は、本明細書に開示されるビトロネクチンポリペプチド断片、または本明細書に開示されるビトロネクチンポリペプチド断片コンジュゲートの組成物を含む。いくつかの態様では、組成物は、非動物由来である。
【0021】
いくつかの態様では、本明細書に開示されるビトロネクチンポリペプチド断片、本明細書に開示されるビトロネクチンポリペプチド断片コンジュゲート、または本明細書に開示される組成物は、細胞培養基質として使用するためのものである。
【0022】
本開示は、本明細書に開示されるビトロネクチンポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0023】
本開示は、本明細書に開示されるヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含む。いくつかの態様では、発現ベクターは、E.coli発現ベクターを含む。
【0024】
本開示は、本明細書に開示されるヌクレオチド配列または本明細書に開示される発現ベクターを含む宿主細胞を含む。いくつかの態様では、宿主細胞は、E.coliを含む。
【0025】
本開示は、ビトロネクチンポリペプチド断片を産生する方法であって、本明細書に開示されるヌクレオチド配列、本明細書に開示される発現ベクター、または本明細書に開示される宿主細胞からビトロネクチンポリペプチド断片を発現させることを含む、方法を含む。いくつかの態様では、産生されるビトロネクチン断片ポリペプチドは、非動物由来である。
【0026】
本開示は、細胞培養方法であって、本明細書に開示されるビトロネクチンポリペプチド断片、本明細書に開示されるビトロネクチンポリペプチド断片コンジュゲート、または本明細書に開示される組成物を含む基質上で細胞を培養することを含む、方法を含む。いくつかの態様では、細胞は、幹細胞を含む。いくつかの態様では、細胞を、非無動物由来条件下で培養する。いくつかの態様では、細胞培養はエクスビボである。
【0027】
本明細書で使用される場合、「単離された」とは、元の環境(例えば、天然に存在する場合は天然環境)から取り出された材料を指し、したがって、その天然状態から「ヒトの手によって」変更されたものである。
【0028】
「及び/または」という用語は、列挙された要素の1つもしくはすべて、または列挙された要素の任意の2つ以上の組み合わせを意味する。
【0029】
「好ましい」及び「好ましくは」という言葉は、ある特定の状況下である特定の利益をもたらすことができる本発明の実施形態を指す。しかし、同じかまたは他の状況下では、他の実施形態も好ましい場合がある。さらに、1つ以上の好ましい実施形態の記載は、他の実施形態が有用ではないことを意味するものではなく、また、他の実施形態を本発明の範囲から除外することを意図するものではない。
【0030】
「含む(comprises)」という用語及びその変形形態は、これらの用語が明細書及び特許請求の範囲に現れる場合、限定的な意味を有さない。
【0031】
「~からなる(consisting of)」は、「~からなる(consisting of)」という語句の後に来るものすべてを含み、それに限定されることを意味する。したがって、「~からなる(consisting of)」という語句は、列挙された要素が必要または必須であり、かつ他の要素は存在し得ないことを示す。「本質的に~からなる(consisting essentially of)」は、この語句の後に列挙された任意の要素を含み、他の要素については、列挙された要素の開示において指定された活性または作用を妨げず、寄与もしない要素に限定することを意味する。したがって、「本質的に~からなる(consisting essentially of)」という語句は、列挙された要素は必要または必須であるが、他の要素については任意選択であり、列挙された要素の活性または作用に実質的に影響を及ぼすかどうかに応じて、他の要素が存在する場合もあれば存在しない場合もあることを示す。
【0032】
別段の指定がない限り、「a」、「an」、「the」、及び「at least one」は互換的に使用され、1つまたは複数を意味する。
【0033】
本明細書で使用される場合、「または」という用語は、その内容に別段の明確な指示がない限り、「及び/または」を含むその通常の意味で一般的に使用される。
【0034】
「及び/または」という用語は、列挙された要素の1つもしくはすべて、または列挙された要素の任意の2つ以上の組み合わせを意味する。
【0035】
本明細書における端点による数値範囲の記載には、その範囲内に包含されるすべての数が含まれる(例えば、1~5には、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などが含まれる)。
【0036】
ここで、「最大」ある数字(例えば、最大50)には、その数(例えば、50)も含まれる。
【0037】
「範囲に(in the range)」または「範囲内(within a range)」という用語(及び同様の記述)には、記述された範囲の端点が含まれる。
【0038】
別段の指定がない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される成分の量、分子量などを表すすべての数字は、すべての場合において「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるべきである。したがって、別段の指定がない限り、本明細書及び特許請求の範囲に記載の数値パラメータは、本発明によって得ようとする所望の特性に応じて変化し得る近似値である。最低限、均等論を特許請求の範囲に限定する試みとしてではなく、各数値パラメータは、少なくとも報告された有効桁数を考慮して、通常の丸め手法を適用することによって解釈されるべきである。
【0039】
本発明の広い範囲を示す数値範囲及びパラメータが近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に示された数値は、可能な限り正確に報告される。しかし、すべての数値には、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる範囲が本質的に含まれている。
【0040】
個別のステップを含む本明細書に開示される任意の方法では、ステップは実行可能な任意の順序で実行することができる。また、必要に応じて、2つ以上のステップの任意の組み合わせを同時に実行することができる。
【0041】
本明細書全体で、「一実施形態(one embodiment)」、「一実施形態(an embodiment)」、「ある特定の実施形態(certain embodiments)」、または「いくつかの実施形態(some embodiments)」などへの言及は、実施形態に関連して説明される特定の特性、構造、組成または特徴が、本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体の種々の箇所に出現するそのような語句は、必ずしも本開示の同じ実施形態を指しているわけではない。さらに、特定の特性、構造、組成、または特徴は、1つ以上の実施形態において、任意の好適な様式で組み合わせることができる。
【0042】
本出願全体のいくつかの箇所において、ガイダンスは、例のリストを通じて提供され、例は、種々の組み合わせで使用することができる。それぞれの場合において、列挙されたリストは代表群としてのみ機能し、排他的リストとして解釈されるべきではない。特定の例、材料、量、及び手順は、本明細書に記載の本発明の範囲及び精神に従って広く解釈されるべきであることが理解されるべきである。
【0043】
全体にわたるすべての見出しは読者の便宜のためのものであり、特に指定がない限り、見出しに続くテキストの意味を限定するために使用されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】機能ドメインを有するビトロネクチンの線形構造を示す。完全なビトロネクチンポリペプチド鎖(上)及びこの研究で生成されたバリアントを示す。インテグリン結合RGDドメインは、残基64~66で標識されている。機能ドメインは以下の通りである:ソマトメジンB(SmB)、ヘモペキシン(hemoepoxin)(Hp)、及びヘパリン結合(Hb)。293位と430位のシステイン間にジスルフィド結合がある。
図2A】1μg/ml、5μg/ml、及び10μg/mlの異なるVTN断片上で培養されたヒトiPSC細胞の比較を示す。ここでは、NSO細胞で作製された全長組換えVTNが対照として含まれる。VTN62-120及びVTN62-155上で増殖させたiPSC細胞によって小さな丸いコロニーが生じるが、VTN62-292は大きなコロニーの増殖を支持する。iPSCの代表的な明視野画像を示す。
図2B】1μg/ml、5μg/ml、及び10μg/mlの異なるVTN断片上で培養されたヒトiPSC細胞の比較を示す。ここでは、NSO細胞で作製された全長組換えVTNが対照として含まれる。培養から4日後のiPSCの拡大倍率の定量を棒グラフで示す。バリアントのうち、hVTN62-292断片のみが低濃度でiPSC細胞の拡大を支持することができ、及び比較してVTN-Nバリアントは拡大が低下していることを示すことに留意されたい。
図3A】10μg/ml、及び5μg/ml、及び1μg/mlの異なるVTN断片上で培養されたヒトMSC細胞の比較を示す。MSCの形態はすべてのVTNバリアントで類似しているが、VTN62-120及びVTN62-155では数が減少している。MSCの代表的な明視野画像を示す。
図3B】10μg/ml、及び5μg/ml、及び1μg/mlの異なるVTN断片上で培養されたヒトMSC細胞の比較を示す。2継代培養後のMSCの拡大倍率の定量を示す。細菌発現バリアントの中で、hVTN62-292断片は低濃度(1μg/ml)で優れたMSC細胞拡大を示すことに留意されたい。
図4A】hVTN62-292上で培養した場合の多能性状態におけるiPSCの長期維持を示す。iPSCを、非動物由来iPSC培地を使用したVTN62-292バリアント上で維持し、5継代にわたって正常な形態及び健全な拡大が維持される。棒グラフは、100,000の細胞出発集団から4日間増殖させた後のウェルあたりの総生細胞の平均数を示す。
図4B】hVTN62-292上で培養した場合の多能性状態におけるiPSCの長期維持を示す。フローサイトメトリーで示されているように、長期培養の後、iPSCは多能性のマーカーを維持している。濃灰色のヒストグラムは、抗体シグナルを示し、薄灰色のヒストグラムはアイソタイプ対照染色を示す。iPSCは、幹細胞性マーカーであるOct3、Sox2、及びSSEA-4を高レベルに維持している。逆に、iPSCは、ヒトiPSCの分化マーカーであるSSEA-1のレベルが低い。陽性細胞のパーセントを、フローグラフの右上に示す。フローグラフ上のゲートは、アイソタイプ対照によって設定した。
図4C】hVTN62-292上で培養した場合の多能性状態におけるiPSCの長期維持を示す。VTN62-292上で培養されたiPSCは、外胚葉細胞に分化する能力を維持している。画像は、外胚葉に分化した細胞を視覚化するための転写因子Otx2、及び総細胞数を視覚化するためのDAPIを示す。グラフは、未分化iPSCと比較して、外胚葉分化後のOtx2を発現する細胞のパーセントの増加を示す。
図4D】hVTN62-292上で培養した場合の多能性状態におけるiPSCの長期維持を示す。VTN62-292上で培養されたiPSCは、胚体内胚葉に分化する能力を維持している。画像は、内胚葉分化細胞を可視化するための転写因子Sox17の染色、及び総細胞数を可視化するためのDAPIの染色を示す。グラフは、未分化iPSCと比較して、内胚葉分化後のSox17を発現する細胞のパーセントの増加を示す。
図5A】hVTN62-292上でのiPSCの長期維持後、完全に非動物由来のワークフローにおいて、iPSCが神経前駆細胞(NPC)及び前脳ニューロンに分化する能力を保持していることを示す。実験ワークフローを示す図である。iPSCは、非動物由来iPSC培地を使用したVTN62-292バリアント上で維持される。神経誘導は、阻害剤SB43219及びN2-GMPサプリメントを用いて行われる。神経前駆細胞は、神経誘導の7~10日後に出現する。28日にわたり、2継代を経て、非動物由来N21サプリメントを用いて神経培地に変換された後、前脳ニューロンが出現する。
図5B】hVTN62-292上でのiPSCの長期維持後、完全に非動物由来のワークフローにおいて、iPSCが神経前駆細胞(NPC)及び前脳ニューロンに分化する能力を保持していることを示す。IBJ6 iPSCニューロンは、幹細胞性を維持する条件下で培養され(0日目、d0)、10日後(d10)に中間神経前駆細胞に分化し、または32日後(d32)に終末前脳ニューロンに分化した。画像は、ナイーブiPSCが高レベルのOct3/4を発現し、これはNPC分化の10日後に大きく減少することを示す(左パネル)。NPC分化の後、Pax6発現の増加があり、これはナイーブiPSCでは観察されない(中央パネル)。神経分化の32日後、長いベータ-3-チューブリン陽性神経突起を有するニューロンが多数存在し、これはナイーブiPSCには存在しない(右パネル)。より小さい画像は、核を介して細胞を可視化するためのDAPI染色を示す。
図5C】hVTN62-292上でのiPSCの長期維持後、完全に非動物由来のワークフローにおいて、iPSCが神経前駆細胞(NPC)及び前脳ニューロンに分化する能力を保持していることを示す。棒グラフは、iPSCの大部分(>80%)がOct3/4に対して陽性であるが、この幹細胞性マーカーは分化ニューロンにおいて失われることを示す。逆に、iPSCはベータIIIチューブリンを発現しないが、分化細胞の60%超がこの神経マーカーを高レベルで発現する。
図6A】インテグリン結合を改善すると考えられた変異は、iPSC細胞培養の機能の改善をもたらさないが、種間のコンセンサス配列に基づいて設計された変異は、同様の(Q148E及びD80Y)iPSC細胞拡大を示すことを示す。1μg/ml VTNバリアント上で培養したiPSCの明視野画像であり、iPSCコロニーは、VTN,D80Y及びVTN,Q148E上では良好に増殖するが、VTN,T63G、VTN,T63G、V67N,F68P、及びVTN,TG63,V67S上では小さいことを示している。三重変異体VTN,T63G,V67N,F68Pは接着またはiPSC細胞の拡大を支持せず、二重変異体VTN,T63G,V67S,F68PはVTN62-292バリアントと比較して増殖が減弱した。
図6B】インテグリン結合を改善すると考えられた変異は、iPSC細胞培養の機能の改善をもたらさないが、種間のコンセンサス配列に基づいて設計された変異は、同様の(Q148E及びD80Y)iPSC細胞拡大を示すことを示す。棒グラフは、2つの異なる濃度でコーティングされたVTNバリアント上の2つの別々のiPSC細胞(BYS110及びIBJ6)の総細胞数を示す。BYS110細胞株とIBJ6細胞株の両方について、D80Yは、特に1μg/ml(薄灰色のボックス)で、他の変異体と比較して同様の生細胞計数を示すことに留意されたい。三重変異体VTN,T63G,V67N,F68Pは接着またはiPSC細胞の拡大を支持せず、二重変異体VTN,T63G,V67S,F68PはVTN62-292バリアントと比較して増殖が減弱した。
図7A】アッセイにおけるアルファVベータ5(αVβ5)インテグリンヘテロ二量体に対するVTNバリアントの結合親和性を示す。ELISA滴定曲線の代表的なグラフを示す。Y軸は、HRP二次シグナルからの光学密度(O.D.)測定値を示す。X軸は、タンパク質の滴定を示す。
図7B】アッセイにおけるアルファVベータ5(αVβ5)インテグリンヘテロ二量体に対するVTNバリアントの結合親和性を示す。表は、1つの実験における異なるVTNバリアントについてのED50(50%有効量)値をまとめたものである。
図7C】アッセイにおけるアルファVベータ5(αVβ5)インテグリンヘテロ二量体に対するVTNバリアントの結合親和性を示す。棒グラフは、VTN-FLに対して正規化された5回のELISA実験のED50平均を示す。これらのアッセイでは、hVTN62-292は、αVβ5に対する結合親和性は全長VTN(VTN-FL)と同様であるが、若干の増加を示す。これらは両方とも、VTN-FLの7%以内にあるVTN-Nバリアント(VTN-CTS)と同様のαVβ5に対する親和性を示す。驚くべきことに、インテグリン結合を改善すると想定されたVTN変異体、すなわちVTN62-292 T63G,V67N,F68Pは、αVβ5結合親和性を大幅に減少させ、ED50値が7倍を超えて増加した。しかし、D80Y変異は、αVβ5親和性の強化を示し、平均ED50値が44%を超えて低下した。エラーバー=標準誤差。
図8】細胞接着アッセイで決定した、種々のビトロネクチンバリアントへの細胞の結合を示す。このアッセイでは、iPSCを低濃度のVTNバリアント(0.56ng/ml)に1時間接着させ、洗浄して接着について評価した。VTN62-292T63G,V67N,F68P変異体では細胞接着がほぼ完全に喪失している。VTN-Nバリアントと比較すると、VTN62-292バリアント単独で増加があり、Q148E変異体またはD80Y変異体との接着はそれ以上増加しない。
図9】VTN62-292の熱安定性を示す。データは、全長ビトロネクチン(VTN-FL)と比較した細胞拡大に基づいている。細胞をプレーティングする前に摂氏37度で4日間インキュベートすると、VTN-NがiPSC拡大を支持する能力が顕著に低下する。しかし、VTN62-292は、VTN-FLと比較して細胞増殖の明らかな低下を示さない。D80Y及びQ148E変異は、予測されるような安定性に関して何の利点ももたらさないように思われる。エラーバー=標準偏差。
図10A】フローサイトメトリーによって分析された三胚葉分化によって示されるように、VTN62-292がiPSCの多能性を支持することを示す。マーカーの平均蛍光強度の有意な増加によって示されるように、内胚葉におけるHNF4αの発現増加を示すフローサイトメトリー実験の結果を示す。
図10B】フローサイトメトリーによって分析された三胚葉分化によって示されるように、VTN62-292がiPSCの多能性を支持することを示す。マーカーの平均蛍光強度の有意な増加によって示されるように、外胚葉におけるPax6の発現増加を示すフローサイトメトリー実験の結果を示す。
図10C】フローサイトメトリーによって分析された三胚葉分化によって示されるように、VTN62-292がiPSCの多能性を支持することを示す。マーカーの平均蛍光強度の有意な増加によって示されるように、中胚葉におけるブラキュリーの発現増加を示すフローサイトメトリー実験の結果を示す。
図10D】フローサイトメトリーによって分析された三胚葉分化によって示されるように、VTN62-292がiPSCの多能性を支持することを示す。幹細胞性マーカーであるNanogは、中胚葉分化を誘導するプロトコールに従って有意に減少する。
図11】Aは、VTN62-292が、核型分析によって示されるゲノム安定性を備えたiPSCの長期培養を支持することを示す。VTN62-292上で2か月にわたり、13継代を経てiPSCを長期培養した後、細胞は正常な核型を維持し、再生医療用の幹細胞の増殖にとって重要な特性であるゲノムの安定性を示している。Bは、VTN62-292が、核型分析によって示されるゲノム安定性を備えたiPSCの長期培養を支持することを示す。VTN62-292上で2か月にわたり、13継代を経てiPSCを長期培養した後、細胞は正常な核型を維持し、再生医療用の幹細胞の増殖にとって重要な特性であるゲノムの安定性を示している。
図12A】基質としてhVTN62-292を使用した末梢血単球(PBMC)の人工多能性幹細胞へのリプログラミングを示す。これは、以前の研究では、他のVTNバリアントではこれを示すことができなかったという点で重要である(Ye and Wang, 2018,Cell Physiol Biochem;50(4):1318-1331)。Sendai Cytotune 2.0リプログラミングキット(Thermo-Fischer)による形質導入後の異なる時点でのiPSCコロニーの形成を示す。個々のコロニーをクローニングした後、hVTN62-292上で誘導された新生iPSCは、境界が滑らかなコロニーに細胞が密に詰まったiPSCの形態学的特性を示す。
図12B】基質としてhVTN62-292を使用した末梢血単球(PBMC)の人工多能性幹細胞へのリプログラミングを示す。これは、以前の研究では、他のVTNバリアントではこれを示すことができなかったという点で重要である(Ye and Wang, 2018,Cell Physiol Biochem;50(4):1318-1331)。個々のコロニーをクローニングした後、hVTN62-292上で誘導された新生iPSCは、境界が滑らかなコロニーに細胞が密に詰まったiPSCの形態学的特性を示す。これらのiPSCは、Nanog、Oct3/4及びE-カドヘリン発現を含むiPSCの特徴的マーカーを示す。
図12C】基質としてhVTN62-292を使用した末梢血単球(PBMC)の人工多能性幹細胞へのリプログラミングを示す。これは、以前の研究では、他のVTNバリアントではこれを示すことができなかったという点で重要である(Ye and Wang, 2018,Cell Physiol Biochem;50(4):1318-1331)。フローサイトメトリーによるOct3及びSox2の分析でも、幹細胞性マーカーの発現が示されたが、SSEA1発現の非存在は、iPSCの未分化状態を示していた。
図12D】基質としてhVTN62-292を使用した末梢血単球(PBMC)の人工多能性幹細胞へのリプログラミングを示す。これは、以前の研究では、他のVTNバリアントではこれを示すことができなかったという点で重要である(Ye and Wang, 2018,Cell Physiol Biochem;50(4):1318-1331)。単一クローンに由来するiPSCは、ブラキュリーの発現増加によって示されるように、中胚葉細胞を形成する分化能力を有する。
図13A】VTN62-292及び種々の変異体がインテグリン受容体に対して親和性の変化を示していることを示す。アルファVベータ5(αVβ5)、アルファVベータ1(αVβ1)、アルファVベータ3(αVβ3)及びアルファ5ベータ5(α5β1)(alpha5Beta5(α5β1))を含む主要なRGD結合インテグリンヘテロ二量体に対する、RGDモチーフに隣接するVTN62-292バリアント及び変異の結合親和性を、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を介してアッセイした。ELISA滴定曲線の代表的なグラフを示す。Y軸は、HRP二次シグナルからの光学密度(O.D.)測定値を示す。X軸は、タンパク質の滴定を示す。
図13B】VTN62-292及び種々の変異体がインテグリン受容体に対して親和性の変化を示していることを示す。アルファVベータ5(αVβ5)、アルファVベータ1(αVβ1)、アルファVベータ3(αVβ3)及びアルファ5ベータ5(α5β1)(alpha5Beta5(α5β1))を含む主要なRGD結合インテグリンヘテロ二量体に対する、RGDモチーフに隣接するVTN62-292バリアント及び変異の結合親和性を、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を介してアッセイした。表は、代表的な実験からの異なるVTNバリアントについてのED50(50%有効量)値をまとめたものである。
図14】VTN62-292及びその種々の変異体が、相対的ELISA結合親和性によって示されるように、インテグリン受容体に対する親和性の変化を示していることを示す。これらの棒グラフは、フィブロネクチン(FN)(α5β1、αVβ1、及びαVβ3)またはVTN-FL(αVβ5)に対して正規化された≧2回のELISA実験のED50平均を示す。これらのアッセイでは、hVTN62-292は、αVβ5に対する結合親和性は全長VTN(VTN-FL)と同様であるが、若干の増加を示す。しかし、hVTN62-292は、αVβ3、αVβ1、及びα5β1に対する改善された結合親和性を示す。VTN-Nバリアント(VTN-CTS)も同様の傾向を示すが、典型的には、4つのインテグリンヘテロ二量体すべてに対する親和性が低くなる。これらの実験により、インテグリン結合を改善すると想定されたVTN変異体、すなわちVTN62-292 T63G,V67N,F68Pは、αVβ5結合親和性を大幅に減少させ、ED50値が増加することが確認された。VTN62-292 T63G,V67S,F68P変異体も、αVβ5結合親和性の低下を示した。三重変異体は、2つの主要なフィブロネクチン受容体、すなわちαVβ3及びα5β1、ならびにαVβ1に対する親和性の増加を示した。これは、インテグリン結合能力においてフィブロネクチンと類似した変異体が存在するという点で重要である。αVβ3、αVβ1、及びα5β1のグラフは、フィブロネクチン結合に対するものであり、αVβ5のグラフは、全長ビトロネクチンに対するものである。エラーバー=標準偏差。
図15A】培養中のMSC増殖に対するVTN変異体の効果を示す。提示されたデータは、3つの濃度のVTNの3回の実験からのものである。細胞増殖は、72時間後のMCS細胞培養物のコンフルエンスを分析することによって監視した。FN及び異なるVTN62-292バリアント上のMSCの明視野画像を示す。
図15B-1】培養中のMSC増殖に対するVTN変異体の効果を示す。提示されたデータは、3つの濃度のVTNの3回の実験からのものである。細胞増殖は、72時間後のMCS細胞培養物のコンフルエンスを分析することによって監視した。3つの濃度はすべて、VTN62-292,T63G,V67N,F68P及びVTN62-292,T63G,V67S,F68P変異体がMSC増殖の強化を支持することを示している。これは、(図6A及び図6Bに示すように)減弱された(VTN62-292,T63G,V67S,F68P)または完全に抑制された(VTN62-292,T63G,V67N,F68P)三重変異体でのiPSCの増殖とは顕著な対照を成している。
図15B-2】培養中のMSC増殖に対するVTN変異体の効果を示す。提示されたデータは、3つの濃度のVTNの3回の実験からのものである。細胞増殖は、72時間後のMCS細胞培養物のコンフルエンスを分析することによって監視した。3つの濃度はすべて、VTN62-292,T63G,V67N,F68P及びVTN62-292,T63G,V67S,F68P変異体がMSC増殖の強化を支持することを示している。これは、(図6A及び図6Bに示すように)減弱された(VTN62-292,T63G,V67S,F68P)または完全に抑制された(VTN62-292,T63G,V67N,F68P)三重変異体でのiPSCの増殖とは顕著な対照を成している。
図16A】FN、VTN62-292、及びVTN62-292,T63G,V67N,F68P上での未分化状態のIBJ6 iPSC細胞株の細胞拡大を示す。この実験は、幹細胞性の異なる状態にある同じ細胞株が基質選択性を切り替えることができることを示す。未分化状態では、明視野画像で見られ、コンフルエンスパーセントによって定量されるように、iBJ6 iPSCはVTN62-292上でのみ大幅に拡大する。VTN62-292,T63G,V67N,F68P上では本質的に増殖がないことに留意されたい。
図16B】FN、VTN62-292、及びVTN62-292,T63G,V67N,F68P上でのMSCへの分化後の、IBJ6 iPSC細胞株の細胞拡大を示す。この実験は、幹細胞性の異なる状態にある同じ細胞株が基質選択性を切り替えることができることを示す。誘導MSC(iMSC)への分化後、同じ細胞株は、FN上で増殖の増加を示すが、VTN62-292,T63G,V67N,F68P上で最良の増殖を示す。これは、MSC分化後のαVβ3の発現の増加及び/またはα5β1インテグリンを介する結合の増加に起因すると思われる。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本開示は、非動物由来条件における幹細胞のエクスビボ培養を含む、細胞培養の基質としての産生及び使用のための改善された特性を有するビトロネクチンポリペプチド断片を提供する。
【0046】
ビトロネクチン(VTNまたはVN)は、血清及び細胞接着、遊走、細胞拡散、及び細胞外固定に関与する細胞外マトリックスに豊富に見出されるヘモペキシンファミリーの糖タンパク質である。全長ビトロネクチンポリペプチドは、478アミノ酸残基である。シグナル配列を除去すると、成熟ビトロネクチンタンパク質は、459アミノ酸残基からなる54kDaの糖タンパク質である。
【0047】
全長ヒトビトロネクチンのアミノ酸配列(NCBIアクセッション番号NM_000638.4)を以下に示す:
【0048】
【0049】
以下のドメインを示す、全長ビトロネクチンの二次構造を図1に図示する:
- アミノ酸残基1~19からのシグナルペプチド。
- アミノ酸残基20~63のN末端ソマトメジンB(SMB)ドメイン。SMBドメインは緻密なジスルフィドノットであり、約35残基内に4つのジスルフィド結合がある。
- アミノ酸残基64~66のアルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)インテグリン結合モチーフ。
- ヘモペキシン相同性を有する3つの中央ドメイン。これらのヘモペキシン様ドメインは、アミノ酸残基158~202からのHp1、アミノ酸残基203~250からのHp2、及びアミノ酸残基251~305からのHp3である。
- アミノ酸残基365~395を含むヘパリン結合ドメイン(Hb)。
- アミノ酸残基419~472にヘモペキシン相同性(Hp4)を有するC末端ドメイン。
【0050】
本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、シグナルペプチド、N末端ソマトメジンB(SMB)ドメイン、ヘパリン結合ドメイン(Hb)、及び/またはC末端Hp4ドメインのうちの1つ以上が欠失しているビトロネクチンポリペプチド断片を含む。いくつかの態様では、本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、シグナルペプチド、N末端ソマトメジンB(SMB)ドメイン、ヘパリン結合ドメイン(Hb)、及びC末端Hp4ドメインが欠失しているビトロネクチンポリペプチド断片を含む。
【0051】
いくつかの態様では、本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、アミノ酸残基64~66にビトロネクチンのアルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)インテグリン結合ドメインを含む。
【0052】
いくつかの態様では、本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、ビトロネクチンのHp1、Hp2、及びHp3ドメインのいずれか1つ、いずれか2つ、または3つすべてを含み得る。
【0053】
いくつかの態様では、本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、アミノ酸残基64~66にビトロネクチンのアルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)インテグリン結合ドメインを含み、ビトロネクチンのHp1、Hp2、及びHp3ドメインのいずれか1つ、いずれか2つ、または3つすべてを含み、アミノ酸からのシグナルペプチド、N末端ソマトメジンB(SMB)ドメイン、ヘパリン結合ドメイン(Hb)、及びC末端Hp4ドメインが欠失している、ビトロネクチンポリペプチド断片を含む。
【0054】
本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、全長ビトロネクチン(478アミノ酸)または成熟ビトロネクチン(459アミノ酸)よりも短い長さを有する。例えば、本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、約200アミノ酸~約350アミノ酸、約200アミノ酸~約300アミノ酸、約200アミノ酸~約250アミノ酸、約250アミノ酸~約350アミノ酸、または約300アミノ酸~約350アミノ酸の長さを有し得る。本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、約200、約210、約220、約230、約240、約250、約260、約270、約280、約290、約300、約310、約320、約330、約340、もしくは約350アミノ酸、またはそれらの任意の範囲の長さを有し得る。本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、約230、約231、約232、約232、約234、約235、約236、約237、約239、約240アミノ酸、またはそれらの任意の範囲の長さを有し得る。
【0055】
本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、配列番号1を有する全長ビトロネクチンポリペプチドと比較して、61個の連続するN末端アミノ酸の欠失及びC末端アミノ酸293~478の欠失を含み得る。いくつかの態様では、そのようなビトロネクチンポリペプチド断片は、ヒトビトロネクチンのアミノ酸62~292の断片(配列番号1)であり、本明細書ではhVTN(62-292)、VTN62-292、またはhビトロネクチン:62-292とも呼ばれ、以下のアミノ酸配列:
MVTRGDVFTM PEDEYTVYDD GEEKNNATVH EQVGGPSLTS DLQAQSKGNP
EQTPVLKPEE EAPAPEVGAS KPEGIDSRPE TLHPGRPQPP AEEELCSGKP
FDAFTDLKNG SLFAFRGQYC YELDEKAVRP GYPKLIRDVW GIEGPIDAAF
TRINCQGKTY LFKGSQYWRF EDGVLDPDYP RNISDGFDGI PDNVDAALAL
PAHSYSGRER VYFFKGKQYW EYQFQHQPSQ EE (配列番号2)
を有する。
【0056】
本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、配列番号2のビトロネクチンポリペプチド断片と、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%同一であるビトロネクチンポリペプチド断片を含む。本明細書で使用される場合、2つのポリペプチド間の「配列同一性」は、1つのポリペプチドのアミノ酸配列を第2のポリペプチドの配列と比較することによって決定される。本明細書で考察する場合、任意の特定のポリペプチドが、別のポリペプチドと少なくとも40パーセント(%)、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるかどうかは、当技術分野で公知の方法及びコンピュータプログラム/ソフトウェア、例として、限定するものではないが、BESTFITプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package, Version 8 for Unix, Genetics Computer Group, University Research Park, 575 Science Drive, Madison, Wis. 53711)を使用して決定することができる。BESTFITは、Smith及びWaterman(1981)Advances in Applied Mathematics 2:482-489の局所相同性アルゴリズムを使用して、2つの配列間の最良の相同性のセグメントを見出す。BESTFITまたは他の配列アライメントプログラムを使用して、特定の配列が、例えば、本開示による参照配列と95%同一であるかどうかを決定する場合、パラメータは、同一性のパーセンテージが参照ポリペプチド配列の全長にわたって計算され、参照配列内のアミノ酸の総数の最大5%の相同性のギャップが許容されるように設定する。
【0057】
本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、配列番号2に対して1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上のアミノ酸置換を有するビトロネクチンポリペプチド断片を含む。そのようなアミノ酸置換は、表1に示されているもののいずれかを含むが、これらに限定されない。
【0058】
そのようなアミノ酸置換は、配列番号1のアミノ酸62~70に対応する領域内の、RGDインテグリン結合部位に隣接する位置にあってもよい。例えば、そのような置換は以下の位置にあってもよい:
T63Gアミノ酸置換を含むがこれに限定されない、配列番号1を有する全長ヒトビトロネクチンの63位(配列番号2の3位);
V67Sアミノ酸置換を含むがこれに限定されない、配列番号1を有する全長ヒトビトロネクチンの67位(配列番号2の7位);
F68Pアミノ酸置換を含むがこれに限定されない、配列番号1を有する全長ヒトビトロネクチンの68位(配列番号2の8位);
T63GまたはV67Sアミノ酸置換を含むがこれらに限定されない、配列番号1を有する全長ヒトビトロネクチンの63位及び67位で;及び/または
T63G、V67N、及びF68Pアミノ酸置換を含むがこれらに限定されない、配列番号1を有する全長ヒトビトロネクチンの63、67、及び68位。
【0059】
そのようなアミノ酸置換は、配列番号1を有する全長ヒトビトロネクチンの80位(配列番号2の20位)における置換を含むことができ、D80Yアミノ酸置換を含むが、これに限定されない。
【0060】
そのようなアミノ酸置換は、配列番号1を有する全長ヒトビトロネクチンの143位(配列番号2の83位)における置換を含むことができ、H143Dアミノ酸置換を含むが、これに限定されない。
【0061】
そのようなアミノ酸置換は、配列番号1を有する全長ヒトビトロネクチンの148位(配列番号2の88位)における置換を含むことができ、Q148Eアミノ酸置換を含むが、これに限定されない。
【0062】
そのようなアミノ酸置換は、配列番号1を有する全長ヒトビトロネクチンの149位(配列番号2の89位)における置換を含むことができ、P149Sアミノ酸置換を含むが、これに限定されない。
【0063】
そのようなアミノ酸置換は、配列番号1を有する全長ヒトビトロネクチンのC293のシステインを置換する置換を含むことができる。
【0064】
いくつかの実施形態では、本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、80位のアスパラギン酸(Asp、D)がチロシン(Tyr、Y)に置換されている(配列番号2の20位のDがYに置換されている)、ヒトビトロネクチン(配列番号1)のアミノ酸62~292に対応する断片を含み、本明細書ではVTN62-292,D80Yと呼ばれる(本明細書ではVTN62-292(D80Y)、VTN62-292 D80Y、及びVTN62-292D80Yとも呼ばれる)。
【0065】
いくつかの実施形態では、本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、148位のグルタミン(Gln、Q)がグルタミン酸(Glu、E)に置換されている(配列番号2の20位のQがEに置換されている)、ヒトビトロネクチン(配列番号1)のアミノ酸62~292に対応する断片を含み、本明細書ではVTN62-292(Q148E)とも呼ばれる。
【0066】
いくつかの実施形態では、本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、変異VTN62-292,T63G,V67N,F68P及びVTN62-292,T63G,V67S,F68Pを含み得る。これらの変異を有するVTN断片は、これらのインテグリンに対するフィブロネクチン結合と同様の様式で、RGD結合インテグリン、すなわちアルファVベータ5(αVβ5)、アルファVベータ1(αVβ1)、アルファVベータ3(αVβ3)及びアルファ5ベータ5(α5β1)(alpha5Beta5(α5β1))に対する結合における改変を与え得る。したがって、E.coliなどの非動物由来系でフィブロネクチン(FN)を発現することが困難であることを考慮すると、本明細書に開示されるビトロネクチンポリペプチド断片及びそのバリアントは、非動物由来系で大規模に産生することができるFN様分子を提供する。これは、FN受容体αVβ3及びα5β1を介したシグナル伝達を介して改善される細胞療法及び再生医療における追加の用途に有益である。このような利点の例には、心筋細胞分化及び骨芽細胞分化が含まれる。
【0067】
また、ビトロネクチンポリペプチド断片のN末端及び/またはC末端にビトロネクチン起源ではない追加の異種アミノ酸残基を有するビトロネクチンポリペプチド断片も本開示に含まれる。そのような異種アミノ酸残基は、例えば、酵素活性、または他の追加の成分、例として、リンカー、検出可能なマーカー、もしくは融合タンパク質をコードし得る。
【0068】
いくつかの実施形態では、本開示のビトロネクチンポリペプチド断片のC末端は、例えばポリヒスチジンタグまたはストレプトアビジンタグなどの検出可能なマーカーにコンジュゲートすることができる。ポリヒスチジンタグまたは標識ビオチンに対する蛍光コンジュゲート抗体を使用して、ビトロネクチンを間接的に検出することができる。これらのタグは、タンパク質の量及び対応するインテグリン受容体との相互作用に関連する定量を提供することができる。加えて、これらのタグは、抗体コンジュゲートを介したヒドロゲルポリマー(アルギネート、ポリエチレングリコールなど)へのコンジュゲートに利用することができる。あるいは、ビトロネクチン官能化ヒドロゲルの形成のために、ビトロネクチンペプチドを、遊離アミン基、カルボン酸基またはスルホンなどの反応性基を介してヒドロゲルに直接コンジュゲートさせることもできる。いくつかの実施形態では、C末端は、コンジュゲーション反応のために、側鎖反応性アミノ基を増加させるためにリジン、または反応性チオールを増加させるためにシステインを付加することによって改変することができる。
【0069】
いくつかの実施形態では、本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、C末端ポリヒスチジンタグを有するヒトビトロネクチン(配列番号1)のアミノ酸62~292に対応する断片を含む。ポリヒスチジンタグは、2、3、4、5、6、7、8、またはそれ以上のHis残基であり得、例えば、6つのヒスチジン残基のC末端ポリヒスチジンタグを有する、ヒトビトロネクチン(配列番号1)のアミノ酸62~292に対応する断片を含み、この断片は、本明細書ではヒトビトロネクチン断片62-292 C-HisまたはVTN62-292his、hビトロネクチン:62-292/His6とも呼ばれ、以下の配列:
MVTRGDVFTM PEDEYTVYDD GEEKNNATVH EQVGGPSLTS DLQAQSKGNP
EQTPVLKPEE EAPAPEVGAS KPEGIDSRPE TLHPGRPQPP AEEELCSGKP
FDAFTDLKNG SLFAFRGQYC YELDEKAVRP GYPKLIRDVW GIEGPIDAAF
TRINCQGKTY LFKGSQYWRF EDGVLDPDYP RNISDGFDGI PDNVDAALAL
PAHSYSGRER VYFFKGKQYW EYQFQHQPSQ EEHHHHHH (配列番号3)
を有する。
【0070】
ヒスチジンタグは、多くの目的に役立つ。これはニッケルカラムによるアフィニティー精製を提供し、それによって細胞溶解物中の他の細胞材料からビトロネクチンポリペプチド断片を単離する。これは、抗His抗体の抗原として機能することができ、イムノアッセイにおけるビトロネクチンポリペプチド断片の定量に使用される。また、Hisタグは、ビトロネクチンポリペプチド断片を細胞培養基質に結合するために使用することができる。
【0071】
本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、本明細書に記載される特性の1つ以上を有し得る。本開示のビトロネクチンポリペプチド断片の特徴付けは、本明細書に含まれる実施例セクションに記載される方法のいずれかを含むがこれらに限定されない、利用可能な様々な方法のいずれかによるものであり得る。
【0072】
例えば、本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、例えば、E.coliなどの宿主細胞で発現させた場合、全長ビトロネクチンまたは他の断片と比較して収量の改善を示し得る。
【0073】
本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、例えば、E.coliなどの宿主細胞で発現させた場合、全長ビトロネクチンまたは他の断片と比較して溶解度の改善を示し得る。
【0074】
本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、全長ビトロネクチンまたは他の断片と比較して熱安定性の増大を示し得る。
【0075】
変異VTN62-292,T63G,V67N,F68P及びVTN62-292,T63G,V67S,F68Pを含むがこれらに限定されない、本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、RGD結合インテグリン、例えば、アルファVベータ5(αVβ5)、アルファVベータ1(αVβ1)、アルファVベータ3(αVβ3)またはアルファ5ベータ5(α5β1)(alpha5Beta5(α5β1))に対する結合親和性の低下を示し得る。結合の低下は、全長ビトロネクチン(配列番号1)または全長フィブロネクチンと比較して決定することができる。
【0076】
変異VTN62-292,T63G,V67N,F68P及びVTN62-292,T63G,V67S,F68Pを含むがこれらに限定されない、本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、RGD結合インテグリン、例えば、アルファVベータ5(αVβ5)、アルファVベータ1(αVβ1)、アルファVベータ3(αVβ3)またはアルファ5ベータ5(α5β1)(alpha5Beta5(α5β1))に対する結合親和性の増加を示し得る。結合の増加は、全長ビトロネクチン(配列番号1)または全長フィブロネクチンと比較して決定することができる。
【0077】
本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、細胞培養表面への、ヒト多能性幹細胞(例えば、胚性幹細胞及び人工多能性幹細胞)及び間葉系幹細胞を含むがこれらに限定されない、種々の細胞型の接着/付着のための好適な細胞結合基質として機能することができる。
【0078】
本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、二次元細胞培養(例えば、組織培養プラスチックのコーティング)用の、マイクロキャリア(例えば、ヒドロゲルベースまたはポリスチレンミクロスフェア)へのコンジュゲート用の、または三次元マトリックス中での培養(例えば、合成ヒドロゲルの成分として)用の細胞培養マトリックスとして機能することができる。
【0079】
本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、ヒト多能性幹細胞(例えば、胚性幹細胞及び人工多能性幹細胞(iPSC))及び間葉系幹細胞(MSC)を含むがこれらに限定されない、培養中の種々の細胞型の未分化拡散及び拡大を支持することができ、この場合、細胞は未分化の表現型を維持する。
【0080】
本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、全長ビトロネクチンまたは全長フィブロネクチンと比較して、多能性幹細胞の生存能力、拡散、多能性、クローニング細胞の維持、分化、及び/または人工多能性細胞の誘導を支持する強化された能力を有することができる。
【0081】
本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、分化プロトコールにおいて幹細胞の分化を支持することができる。例えば、ヒト多能性幹細胞(hPSC)の中内胚葉細胞系譜細胞及び肝細胞系譜細胞への分化を支持すること、またはヒト間葉系幹細胞(hMSC)の骨形成分化を支持することである。
【0082】
本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、非動物由来条件で産生することができる。
【0083】
本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、非動物由来条件での幹細胞のエクスビボ培養を含む細胞培養の基質として機能することができる。
【0084】
核酸
別の態様では、本開示は、本明細書に記載のビトロネクチンポリペプチド断片をコードする単離されたポリヌクレオチド分子を記載する。いくつかの実施形態では、単離されたポリヌクレオチド分子は、本明細書に記載のビトロネクチンポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列に対する少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、単離されたポリヌクレオチド分子は、配列番号1を有するヒトビトロネクチンのビトロネクチンポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列に対する少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0085】
別の態様では、本開示は、本開示の単離されたポリヌクレオチドを含む組換えベクターを記載する。ベクターは、例えば、プラスミド、ウイルス粒子、またはファージの形態であってもよい。適切なDNA配列は、様々な手順によってベクターに挿入することができる。一般に、DNA配列は、当技術分野で公知の手順によってベクター内の適切な制限エンドヌクレアーゼ部位(複数可)に挿入される。そのような手順は、当業者の範囲内であるとみなされる。多数の好適なベクター及びプロモーターが当業者に公知であり、市販されている。以下のベクターは例として提供される。細菌ベクターとしては、例えば、pQE70、pQE60、pQE-9、pBS、pD10、ファージスクリプト(phagescript)、psiX174、pbluescript SK、pbsks、pNH8A、pNH16a、pNH18A、pNH46A、ptrc99a、pKK223-3、pKK233-3、pDR540、及びpRIT5、が挙げられる。真核生物ベクターとしては、例えば、pWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1、pSG、pSVK3、pBPV、pMSG、及びpSVLが挙げられる。
【0086】
いくつかの態様では、好適なベクターは、原核宿主細胞、非真核宿主細胞、または非動物宿主細胞(動物界に属さない宿主細胞)におけるビトロネクチンポリペプチド断片の発現のための発現ベクターである。非限定的な例としては、例えば、E.coliなどの原核宿主細胞、Pichia pastorisなどの真菌宿主細胞、または植物宿主細胞における発現のための発現ベクターが挙げられる。しかし、任意の他のプラスミドまたはベクターを使用してもよい。
【0087】
さらなる態様では、本開示はまた、上記のヌクレオチド配列またはベクターのうちの少なくとも1つを含有する宿主細胞を含む。宿主細胞は、哺乳動物細胞もしくは昆虫細胞などの高等真核細胞、または酵母細胞などの下等真核細胞であり得る。あるいは、宿主細胞は、原核細胞、例として、細菌細胞、真菌細胞、または植物細胞であってもよい。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、E.coliである。いくつかの実施形態では、宿主細胞、はPichia pastorisである。宿主細胞へのベクターコンストラクトの導入は、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介ランスフェクション、エレクトロポレーション、またはヌクレオフェクションなどの任意の好適な技術によるものであり得る。本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、適切なプロモーターの制御下で、哺乳動物細胞、植物細胞、酵母、細菌、または他の細胞において発現することができる。このような組換え発現のための真核細胞の例としては、HEK293、CHO、NSO、Vero、COS、HeLa、SF21細胞、Pichia pastoris、Saccharomyces cerevisiae、及びOryza sativa細胞が挙げられる。原核生物発現系は、DH5アルファ、DE3、及びROSETTA(登録商標)(Novagen)細胞菌株などのE.coliバリアントを含む。
【0088】
本開示のDNAコンストラクトに由来するRNAを使用して、本開示のビトロネクチンポリペプチド断片を産生するために、無細胞翻訳系を用いることができる。あるいは、本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、当技術分野で公知の手順によって化学的に合成することができる。
【0089】
本明細書に含まれる実施例に示されるように、E.coliなどの宿主細胞における本開示のビトロネクチンポリペプチド断片の発現によって、全長ビトロネクチン、またはVTN62-398及びVTN62-478などの以前に知られている断片の収量及び溶解度と比較して、収量が改善し、溶解度が改善したことが実証された。ヒトビトロネクチンの全長天然バージョンは、おそらくタンパク質の翻訳後プロセシングのため、E.coliで大量に発現させることが不可能ではないにしても困難である。ジスルフィド結合を形成するアミノ酸C293及びC430を含む大きな断片と比較しても、同じことが当てはまる。E.coliで発現させた場合、断片VTN62-398は低い発現及び酸化を示し、市販のVTN断片であるVTN62-478(Cell Therapy Systems)は封入体に蓄積し、追加の可溶化ステップが必要となり、大規模製造が複雑になる。対照的に、例えば、配列番号2及び配列番号3のビトロネクチンポリペプチド断片ならびにそれらのバリアントを含む、本開示のビトロネクチンポリペプチド断片によって、E.coliなどの宿主細胞で発現させた場合、可溶性タンパク質産物が生じる。
【0090】
本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、本明細書に記載されるように発現させまたは合成して、非動物由来であり、動物汚染のないビトロネクチンポリペプチド断片の調製物を得ることができる。非動物由来産物は、例えば、E.coliなどの、非動物宿主細胞から発現及び単離させることができる。非動物由来産物は、一次、二次、または三次プロセスにおいて任意の動物成分含有原材料を使用せずに作製することができる。免疫細胞及び幹細胞を含むがこれらに限定されない、治療用途のための細胞のエクスビボ培養には、安全で堅牢な培養条件が必要である。このような培養に使用される細胞培養培地及び基質の安全基準は、米国薬局方(USP)刊行物USP<1043>に概説されており、ここでは、再生医療を含む細胞及び遺伝子治療において補助材料として使用される原材料のリスク分類のための段階的システムが詳述されている(USP43-NF38)。動物成分含有試薬の使用は高リスク(第4段階)であると考えられるが、GMP条件下で生成された非動物由来材料は低リスク(第2段階)であると考えられる。本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、治療用途のための細胞のエクスビボ培養のための、そのような低リスクで非動物由来の産物を提供する。
【0091】
また、本開示には、本明細書に記載のビトロネクチンポリペプチド断片のうちの1つ以上を含む組成物も含まれる。そのような組成物は、細胞接着用の基質としてそのような組成物を含む細胞培養に使用することができる。そのような組成物は、非無動物由来であってもよい。そのような組成物は、定義された培養培地、すなわち培地のすべての成分が完全に開示され、特徴付けられている培養培地として機能し得る。
【0092】
本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、二次元または三次元細胞培養基質を含む様々な基質に会合またはコンジュゲートすることができる。本開示のビトロネクチンポリペプチド断片は、例えばヒドロゲルまたはポリスチレンミクロスフェアを含むマイクロキャリアにコンジュゲートすることができる。ヒドロゲルは、溶解性ヒドロゲルであってもよい。ヒドロゲルは、これらのそれぞれの全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第9,927,334号、米国特許第9,790,467号、及び米国特許第10,739,338号にさらに詳細に記載されているように、複数のアルギン酸分子が分岐ポリマー分子にコンジュゲートまたはブレンドされてヒドロゲルを形成している、複数のアルギン酸分子と複数の分岐ポリマー分子との組成物を含んでもよい。
【0093】
本明細書に記載のビトロネクチンポリペプチド断片、そのコンジュゲート、及びその組成物は、基礎的細胞生物学研究から細胞治療及び再生医療ワークフローまでの用途で使用するための、様々な細胞型の培養に使用することができる。そのようなビトロネクチンポリペプチド断片は、種々の細胞型の細胞付着及び/または増殖基質として機能することができる。
【0094】
そのような培養には、インビトロ培養に加えて、細胞のエクスビボを含めてもよい。本明細書で使用される場合、エクスビボとは、「生体の外」を意味する。エクスビボ培養では、細胞または組織を生存生物から直接採取し、定義された培養条件下で培養することができる。次に、そのような細胞は、エクスビボ培養後に生物に戻すことができる。
【0095】
本明細書に記載のビトロネクチンポリペプチド断片、そのコンジュゲート、及びその組成物は、幹細胞及び幹細胞由来の細胞、例えば、成体幹細胞、胎児幹細胞、前駆細胞、末梢造血幹細胞、内皮前駆細胞、羊膜幹細胞、間葉系幹細胞、脂肪由来幹細胞、腸幹細胞、皮膚幹細胞、神経幹細胞、またはがん幹細胞など、の培養に使用することができる。幹細胞には、多能性幹細胞及び多分化能幹細胞を含めることができる(Salzig et al., 2016, Stem Cells Int;2016:5246584;Braam et al., 2008, Stem Cells;26(9):2257-65)。幹細胞由来細胞としては、中胚葉及びそれに由来する細胞、例として心筋細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、胚体内胚葉及びそれらに由来する細胞、外胚葉及びそれに由来する細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0096】
本明細書で使用される場合、「多能性幹細胞」という用語は、3つの胚葉すべての細胞に分化することができる細胞を指す。多能性細胞の例としては、胚性幹(ES)細胞及び人工多能性幹(iPS)細胞が挙げられる。本明細書で使用される場合、「iPS細胞」は、ES細胞などのより高い潜在能を有する細胞と同様の特徴を示す、体細胞に由来する多能性細胞を指す。多分化能幹細胞の例としては、間葉系幹細胞が挙げられる。
【0097】
本明細書に記載のビトロネクチンポリペプチド断片、その組成物、及びそのコンジュゲートは、例えばキメラ抗原受容体(CAR)T細胞免疫療法などの適応T細胞療法システムで使用するための細胞の操作及び/または拡大のための細胞の培養に使用することができる(例えば、Feins et al., 2019, Am J Hematol;94(S1):S3-S9;Mohanty et al., 2019, Oncol Rep;42(6):2183-2195;及びHuang et al., 2020, J Hematol Oncol, 13(1):86で概説されている)。
【0098】
本発明は、特許請求の範囲で定義される。しかし、以下に、非限定的な例示的な態様の非網羅的リストを提供する。これらの態様の特性のうちの任意の1つ以上は、本明細書に記載される別の実施例、実施形態、または態様の任意の1つ以上の特性と組み合わせることができる。本発明の例示的な実施形態は、以下を含むが、これらに限定されない。
【0099】
実施形態1.ビトロネクチンポリペプチド断片であって:
配列番号1を有する全長ビトロネクチンポリペプチドと比較して、少なくとも50個の連続するN末端アミノ酸の欠失を含み;
配列番号1を有する全長ビトロネクチンポリペプチドと比較して、少なくともC末端アミノ酸362~478の欠失を含み;
ビトロネクチンのアルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)インテグリン結合ドメインを含み;
ビトロネクチンのN末端ソマトメジンB(SmB)ドメインを含まない;
ビトロネクチンのC末端ヘパリン結合ドメイン及びHp4ドメインを含まない;及び
配列番号1を有する全長ビトロネクチンポリペプチドの同じ断片に対する約95%の配列同一性を含む、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
【0100】
実施形態2.実施形態1に記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、ビトロネクチンのHp1、Hp2、及び/またはHp3ドメインを含む、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
【0101】
実施形態3.実施形態1または2に記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、約200~約350アミノ酸の長さを有する、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
【0102】
実施形態4.実施形態1~3のいずれか1つに記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、以下:
配列番号1を有する全長ビトロネクチンポリペプチドと比較して、61個の連続するN末端アミノ酸の欠失;及び
配列番号1を有する全長ビトロネクチンポリペプチドと比較して、C末端アミノ酸293~478の欠失を含む、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
【0103】
実施形態5.実施形態1~4のいずれか1つに記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、配列番号1を有する全長ビトロネクチンポリペプチドの残基62~292に対する約95%の配列同一性を含む、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
【0104】
実施形態6.配列番号1を有する全長ヒトビトロネクチンの80位及び/または148位に相当する位置にアミノ酸置換を含む、実施形態1~5のいずれか1つに記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
【0105】
実施形態7.アミノ酸置換がD80Y置換及び/またはQ148E置換を含む、実施形態6に記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
【0106】
実施形態8.配列番号2からなる、ビトロネクチンポリペプチド断片。
【0107】
実施形態9.配列番号1を有する全長ビトロネクチンと比較して、D80位におけるアミノ酸置換及び/またはQ148位におけるアミノ酸置換を有する、配列番号2からなるビトロネクチンポリペプチド断片。
【0108】
実施形態10.D80位におけるアミノ酸置換がD80Y置換を含み、及び/またはQ148位におけるアミノ酸置換がQ148E置換を含む、実施形態9に記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
【0109】
実施形態11.配列番号1を有する全長ヒトビトロネクチンの63位、67位、及び/または68位に相当する位置にアミノ酸置換を含む、実施形態1~10のいずれか1つに記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
【0110】
実施形態12. 63位におけるアミノ酸置換がT63G置換を含み、67位におけるアミノ酸置換がV67S置換またはV67N置換を含み、及び/または68位におけるアミノ酸置換がF68P置換を含む、実施形態11に記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
【0111】
実施形態13.C末端His-タグをさらに含む、実施形態1~12のいずれか1つに記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
【0112】
実施形態14. 1、2、3、4、5、6、7、8、またはそれ以上のC末端His残基を含む、実施形態13に記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
【0113】
実施形態15.配列番号3からなる、ビトロネクチンポリペプチド断片。
【0114】
実施形態16.実施形態1~15のいずれか1つに記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、非動物由来である、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
【0115】
実施形態17.マイクロキャリアにコンジュゲートしている、実施形態1~16のいずれか1つに記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
【0116】
実施形態18.マイクロキャリアが、ヒドロゲルまたはポリスチレンミクロスフェアを含む、実施形態17に記載のビトロネクチンポリペプチド断片コンジュゲート。
【0117】
実施形態19.実施形態1~16のいずれか1つに記載のビトロネクチンポリペプチド断片、または実施形態17もしくは18に記載のビトロネクチンポリペプチド断片コンジュゲートを含む組成物。
【0118】
実施形態20.実施形態19に記載の組成物であって、非動物由来である、前記組成物。
【0119】
実施形態21.細胞培養基質として使用するための、実施形態1~16のいずれか1つに記載のビトロネクチンポリペプチド断片、実施形態17もしくは18に記載のビトロネクチンポリペプチド断片コンジュゲート、または実施形態19もしくは20に記載の組成物。
【0120】
実施形態22.実施形態1~16のいずれか1つに記載のビトロネクチンポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列。
【0121】
実施形態23.実施形態22に記載のヌクレオチド配列を含む発現ベクター。
【0122】
実施形態24.実施形態23に記載の発現ベクターであって、E.coli発現ベクターを含む、前記発現ベクター。
【0123】
実施形態25.実施形態22に記載のヌクレオチド配列または実施形態23もしくは24のいずれか1つに記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
【0124】
実施形態26.実施形態25に記載の宿主細胞であって、E.coliを含む、宿主細胞。
【0125】
実施形態27.ビトロネクチンポリペプチド断片を産生する方法であって、実施形態22に記載のヌクレオチド配列、実施形態23もしくは24に記載の発現ベクター、または実施形態25もしくは26に記載の宿主細胞から、ビトロネクチンポリペプチド断片を発現させることを含む、前記方法。
【0126】
実施形態28.産生されたビトロネクチン断片ポリペプチドが非動物由来である、実施形態27に記載の方法。
【0127】
実施形態29.細胞培養方法であって、実施形態1~16のいずれか1つに記載のビトロネクチンポリペプチド断片、実施形態17もしくは18に記載のビトロネクチンポリペプチド断片コンジュゲート、または実施形態19もしくは20に記載の組成物を含む基質上で細胞を培養することを含む、前記方法。
【0128】
実施形態30.細胞が幹細胞を含む、実施形態29に記載の細胞培養方法。
【0129】
実施形態31.幹細胞がヒト人工多能性幹細胞(iPSC)を含む、実施形態30に記載の細胞培養方法。
【0130】
実施形態32.幹細胞がヒト間葉系幹細胞(MSC)を含む、実施形態30に記載の細胞培養方法。
【0131】
実施形態33.細胞を非動物由来条件下で培養する、実施形態29~32のいずれか1つに記載の細胞培養方法。
【0132】
実施形態34.細胞培養がエクスビボである、実施形態29~33のいずれか1つに記載の細胞培養方法。
【0133】
本発明を、以下の実施例で説明する。特定の例、材料、量、及び手順は、本明細書に記載の本発明の範囲及び精神に従って広く解釈されるべきであることが理解されるべきである。
【実施例
【0134】
実施例1
ビトロネクチン62-292及びVTN62-292,D80Y
非動物由来条件下での全長組換えビトロネクチン(VTN)の産生には問題があり、E.coliタンパク質発現系で発現させると不溶性タンパク質が生じ、収量が低くなる(表1)。この実施例では、溶解度及び発現が改善された種々のビトロネクチンバリアントが産生された。ビトロネクチンポリペプチドの二次構造及びこの実施例で産生及び試験されたバリアントを図1に示す
【表1】
【0135】
以前の研究では、N末端SMBドメイン単独の除去(VTN-N、またはVTN62-478)またはC末端V10ドメインの欠失と組み合わせたその除去(VTN-NC、またはVTN62-398)によって、培養中に多能性幹細胞を支持する、E.coliにおいて作製された組換えVTNバリアントが生じることが示唆されている。これらのバリアントは、培養中の接着及び生存生物活性を保持またはさらに改善するが、E.coliにおいて作製されると不溶性タンパク質が生じるため、追加の可溶化ステップが必要となり、大規模製造が複雑になる。これら2つのVTNバリアント(VTN62-478及びVTN62-398)の溶解度の低さ、及びその結果生じる低収量を表1に示す。
【0136】
この実施例で産生及び試験されたビトロネクチンバリアントは、アミノ酸64~66においてインテグリン結合RGD部位を保持しているが、緻密なN末端ソマトメジンB(SmB)ドメイン(アミノ酸20~63)は欠失している。ヘパリン結合(Hb)領域(アミノ酸362~395)は、この実施例で産生及び試験されたバリアントの一部に存在していた。図1を参照のこと。
【0137】
システイン残基293と430の間のジスルフィド結合を除去するようにVTN62-292バリアントを構築した(図1及び表1を参照)。
【0138】
この実施例において産生及び試験された2つのVTN切断バリアント(VTN62-155及びVTN62-120)では、アミノ酸169及び242におけるグリコシル化部位が除去された(図1及び表1を参照)。
【0139】
組換えタンパク質の異種発現のための標準的E.coli培養物において、これらの種々のコンストラクトのタンパク質収量を試験した。アミノ酸398までのより長い断片の発現によって、E.coliにおいて低い溶解度及び低い収量がもたらされたが、VTN62-120、VTN62-155、及びVTN62-292バリアントは可溶性であり、高い発現がもたらされた(図1及び表1を参照のこと)。収量が低い及び/または溶解度が低いため、表1のバリアント1~3は、E.coliにおける非動物由来産生と適合せず、さらなる分析から除外された。
【0140】
次に、この実施例では、細胞培養に好適な基質である、高収量の可溶性バリアントを同定した。この目的のために、潜在的な細胞療法用途にとって重要な2つの細胞型、すなわちヒト人工多能性幹細胞(iPSC)及び間葉系幹細胞(MSC)を試験した。幹細胞ワークフローの1つの重要な目標は、動物成分含有原材料を排除することである。したがって、VTNバリアントは、すべての増殖因子を含む、成分が非動物由来である固有の培地配合で試験した。
【0141】
iPSC株12-10aを単一細胞として20,000細胞/cmでプレーティングし、毎日培地を交換しながら5日間コロニーを増殖させた。より微妙な性能差を識別するために、より典型的な濃度の10μg/ml及び5μg/mlと低濃度の1μg/mlを含む、所与のVTNバリアントの3つの異なる濃度を試験した。実際、VTN62-292バリアントで培養されたiPSCは、動物由来の全長VTN及び市販のVTN62-498バリアント(VTN-N、ThermoFisherから市販されている)と比較して、低濃度でも典型的な形態及び高い拡大を示した(図2A及び2B)。しかし、VTN62-120及びVTN62-155バリアントは、特により低濃度ではiPSCコロニー増殖を支持しなかった。
【0142】
ヒトMSC培養物は、それほど劇的な結果ではないものの、同様の結果となるはずである(図3A及び3B)。VTN62-120及びVTN62-155ではMSCは接着し、正常な形態を有していたが、生細胞の収量はVTN62-292バリアントよりもかなり低かった。これらの結果は、VTN62-292バリアントが幹細胞培養を支持する能力において全長野生型VTNと同様の生物学的特性を与えることを示している。
【0143】
多能性幹細胞の重要な特性は、長期間にわたり、複数の継代後に効力を維持しながら拡散する能力である。したがって、VTN62-292バリアントがiPSCの拡大及び幹細胞性を長期にわたって支持する能力を試験した。5継代後(培養3週間)、iPSCは高い拡大率で典型的な形態を維持した(図4A)。フローサイトメトリーを使用すると、多能性マーカーであるOct3、Sox2、及びSSEA-4は高度に発現したままである一方、分化マーカーSSEA-1は、細胞培養において長期間、VTN62-292上で増殖させた細胞において低レベルで発現していることが示された(図4B)。
【0144】
次に、VTN62-292上で維持されたiPSCが、異なる胚葉及び多様な系譜に分化することができることが実証された。外胚葉は、ノギンを介したTGFβシグナルの阻害によってパターン化される。これらの条件下では、iPSCは、Oct3/4の発現を失うが、外胚葉転写因子Otx-1は有意に増加する(図4C)。胚体内胚葉は、アクチビンAとWntシグナル伝達の組み合わせによってインビボで発達する。これらのシグナルをエクスビボでエミュレートすると、VTN62-292上で維持されたiPSCにおけるSox17の発現増加及びOct3/4の減少が生じ、したがって、これらの細胞が内胚葉細胞系譜に分化する可能性が示される(図4D)。他の実験では、VTN62-292上で維持されたiPSCは、中胚葉誘導体である心筋細胞に分化することができた。したがって、VTN62-292上で長期間細胞培養を維持したiPSCは、多能性を維持している。
【0145】
図4A~4Dに示される結果は、フローサイトメトリーを用いた別々の実験で確認され、これらのマーカーの平均蛍光強度の有意な増加によって示されるように、それぞれ中胚葉、内胚葉、及び外胚葉についてブラキュリー、HNF4α、及びPax6の発現増加が示された。(図10A~C)。加えて、幹細胞性マーカーであるNanogは、中胚葉分化を誘導するプロトコールに従って有意に減少する(図10D)。
【0146】
異なる細胞株では、BXS0114株(ATCCから入手可能)も3回の実験でVTN62-292上で複数の継代後に多能性を示した。胚体内胚葉分化は、Wnt3a及びアクチビンシグナルによって達成され、フローサイトメトリーによってマーカーHNF4αを用いて評価した(図10A)。HNF4αの有意な増加があり、内胚葉への分化が成功したことを示した。胚体外胚葉への分化は、ノギン及び小分子SB413452による二重SMAD阻害により実行した。分化の成功は、分化プロトコール後に劇的に増加した神経外胚葉マーカーPax6で染色することによって観察された(図10B)。中胚葉系譜への分化は、GSK 3阻害剤である小分子CHIR 99021によって達成された。ブラキュリーのフローサイトメトリーは、中胚葉分化の有意な増加(図10C)、及び同時に幹細胞性マーカーであるNanogの減少(図10D)を示した。これらのデータをまとめると、VTN62-292バリアントは、ナイーブ条件下での多能性幹細胞の培養を支持し、主要な3つの胚葉すべてへの分化能力を維持することを示す。
【0147】
急速に分裂する幹細胞の培養及び拡大に関する潜在的な懸念があるため、ゲノムの安定性に注意を払う必要がある。したがって、2か月にわたる細胞培養及び13継代の後、核型分析を実行した(WiCell、Madison、Wi)。1210a細胞の分析は、染色体の正常な核型/バンドパターンを示し、これはゲノム安定性の証拠を提供する(図11A及び11B)。VTN62-292上で2か月にわたり、13継代を経てiPSCを長期培養した後、細胞は正常な核型を維持し、再生医療用の幹細胞の増殖にとって重要な特性であるゲノムの安定性を示している。
【0148】
VTNは、体細胞の人工多能性幹細胞へのリプログラミングを支持しないが、基底膜抽出物(BME、別名マトリゲル)及びラミニンなどのその他の未定義のマトリックスはリプログラミングを支持することができることが報告されている。これらのマトリックスは、非動物由来ではないため、Yamanaka因子(Oct3/4、Klf4、Sox2、c-Myc)によるリプログラミング後の非動物由来ワークフローを支持する基質としてVTN62-292を使用し、末梢血単球(PBMC)を、Sendaiリプログラミングキット(CytoTune2.0)を用い、製造業者の指針の改変に従って基質としてhVTN62-292を使用して、人工多能性幹細胞にリプログラミングした。形質導入の7日目の後、培養物を、完全な非動物由来条件に完全に移行させた。
【0149】
図12A~12Dは、基質としてhVTN62-292を使用した末梢血単球(PBMC)の人工多能性幹細胞へのリプログラミングを示す。これは、以前の研究では、他のVTNバリアントではこれを示すことができなかったという点で重要である。図12Aは、Sendai Cytotune2.0リプログラミングキット(Thermo-Fischer)による形質導入後の異なる時点でのiPSCコロニーの形成を示す。個々のコロニーをクローニングした後、hVTN62-292上で誘導された新生iPSCは、境界が滑らかなコロニーに細胞が密に詰まったiPSCの形態学的特性を示す。これらのiPSCは、Nanog、Oct3/4及びE-カドヘリン発現を含むiPSCの特徴的マーカーを示す(図12B)。フローサイトメトリーによるOct3及びSox2の分析でも、幹細胞性マーカーの発現が示されたが、SSEA1発現の非存在は、iPSCの未分化状態を示していた(図12C)。加えて、単一クローンに由来するiPSCは、ブラキュリーの発現増加によって示されるように、中胚葉細胞を形成する分化能力を有する(図12D)。
【0150】
図12Aは、Sendaiウイルスによる形質導入後の異なる時点でのiPSCコロニーの形成を示す。コロニー形成効率は、BMEマトリックス上でのコロニー形成効率と同様であった。個々のコロニーをクローニングした後、hVTN62-292上で誘導された新生iPSCは、境界が滑らかなコロニーに細胞が密に詰まったiPSCの形態学的特性を示す。これらのiPSCは、Nanog、Oct3/4及びE-カドヘリン発現を含むiPSCの特徴的マーカーを示す(図12B)。フローサイトメトリーによるOct3及びSox2の分析でも、幹細胞性マーカーの発現が示されたが、SSEA1発現の非存在は、iPSCの未分化状態を示していた(図12C)。加えて、単一クローンに由来するiPSCは、ブラキュリーの発現増加によって示されるように、中胚葉細胞を形成する分化能力を有する(図12D)。リプログラミング実験は、2つの異なるドナーを用いた2つの独立した実験で首尾よく繰り返された。
【0151】
この実施例の主な目標は、多能性幹細胞から分化した細胞を生成するための完全に非動物由来のワークフローで使用するためのVTNバリアントを開発することであった。そのようなバリアントは、再生医療に関連するワークフローの安全性及び有効性を改善するための広い用途を有する。したがって、VTN62-292を、 を使用してエクスビボでiPSCから前脳ニューロンを生成するプロトコールにおける細胞マトリックスとして試験した(図5A)。培養培地、サプリメント、増殖因子、及び小分子などの他のすべての成分は、動物成分含有材料を完全に欠いていた。VTN62-292上でiPSCを4継代拡大させた後、以前の研究(Chambers et al., 2009, Nat Biotechnol;27(3):275-80;and Chambers et al., 2009, Erratum in: Nat Biotechnol;27(5):485)に基づいて、TGFβ阻害剤SB43152-GMP(Tocris biosciences)を含む非動物由来N2培地に細胞を高密度でプレーティングした。7~12日後、これにより、神経幹細胞転写因子Pax6及びSox1の高発現を有する神経前駆細胞(NPC)が得られる(図5B)。次に、これらのNPCを、非動物由来N21神経サプリメントを含むニューロン培地に細胞を移行させた後、前脳ニューロンにさらに分化させることができる。分化の開始から32日後、60%を超える細胞が、長い神経突起伸長を有し、神経マーカーであるベータIIIチューブリンについて陽性であった(図5C)。加えて、iPSCにおいて顕著であった幹細胞性マーカーOct3の発現は、分化プロトコール後には不存在であった(図5C)。まとめると、これらのデータは、VTN62-292がナイーブ多能性状態のiPSCを支持できること、またiPSCの下流系譜への分化も支持することができることを示しており、VTN62-292が幹細胞培養の有望な薬剤であることを示している。
【0152】
接着タンパク質としてのVTNの機能を改善するために、VTN62-292バリアントに標的変異を導入した。
【0153】
まず、RGDインテグリン結合部位に隣接するアミノ酸を改変した。VTN62-292バリアントの6つの変異体を産生し、これらのアミノ酸の変化が細胞培養中のより大きなVTNポリペプチドに関連して生物学的機能の改善を促進できるかどうかを決定するために試験した。これらは、表1に列挙されているバリアント9~15である。ビトロネクチンは、RGDモチーフを介してインテグリンヘテロ二量体に結合する。αVβ5及びαVβ3は、高い親和性で結合する主要なVTN受容体であるが、α5β1インテグリンは、VTNに対して弱く相互作用することもできる。RGDモチーフは、フィブロネクチン、ラミニン及びオステオポンチンなどの他のインテグリン結合タンパク質の間で保存されるが、これらのタンパク質は、インテグリンヘテロ二量体に対して異なる親和性を示す。RGDモチーフ自体は、これらのタンパク質のいずれにおいてもインテグリンとの最適な相互作用にとって重要である;ここでの点変異は、インテグリン結合を減少または排除する(Cherny et al., 1993, J Biol Chem;268(13):9725-9)。RGDモチーフに隣接するアミノ酸配列が、このトリペプチドを介してインテグリンに結合する種々のタンパク質の差次的結合を少なくとも部分的に説明することができるという証拠が増加している。例えば、小さなペプチドを使用した生化学的研究では、様々なインテグリンヘテロ二量体に対する結合親和性が研究されている(Kapp et al., 2017, Sci Rep;7:39805)。この情報を利用して、我々は、RGD部位の周囲の領域のアミノ酸を改変することにより、幹細胞培養用の接着タンパク質としてのVTN62-292の機能を調節することを試みた。例えば、配列GRGDSPは、αVβ5、αVβ3、及びα5β1に対する結合親和性を増加させることが示された。これは、単離でのRGDペプチドに対する大幅な改善である(Kapp et al., 2017, Sci Rep;7:39805)。
【0154】
2番目に、種間配列アラインメントを使用して、ヒト配列では異なるVTNポリペプチドのコンセンサス配列を同定した(Jones et al., 2020, Methods Enzymol;643:129-148)。コンセンサス配列アラインメントは、タンパク質の分子進化を研究するために使用されており、さらに最近では、機能を変化させる可能性のある変異を同定するために使用されている。特に、コンセンサス配列は、分子構造の安定性の差異を示している場合があり、これは組換えタンパク質の発現に有益であろう。公的に利用可能なオンライン配列アライメントツールを使用して、他のビトロネクチン配列の大部分と比較して、ヒト配列における種々の単一アミノ酸のバリエーションを同定した(Jones et al., 2020, Methods Enzymol;643:129-148)。2つの最も優勢なアミノ酸変化、すなわち、20位のアスパラギン酸からチロシンへの変化(D80Y)及び148位のグルタミンからグルタミン酸への変化(Q148E)をさらに試験した。これらの点変異を作製し、62-292バリアントにおける組換えビトロネクチンタンパク質の機能及び安定性に何らかの利点を与えるかどうかを調べるために試験した。これらは、表1に列挙したバリアント7~8である。
【0155】
VTN62-292に対するこれらの変異のスクリーニングでは、多能性幹細胞培養を支持する能力に焦点を当てた。2つの異なるiPSC細胞株(BYS110及びiBJ6)ならびに2つの濃度を試験した。驚くべきことに、インテグリン結合を改善すると予測されたアミノ酸置換は、実際にiPSC細胞増殖を減少させた(図6A及び6B)。例えば、三重変異VTN62-292,T63G,V67N,F68Pは、ペプチド研究で、αVβ5、αVβ3、及びα5β1を含む種々のインテグリンヘテロ二量体の結合についての大幅な改善が示されていたため、細胞接着を改善すると予想されていた(Kapp et al., 2017, Sci Rep;7:39805)。しかし、これらの研究では、この変異は、特に低濃度において、iPSCの基質としてのビトロネクチンの機能に有害であった(図6A及び6B)。興味深いことに、コンセンサス配列アラインメントを使用して試験された2つの変異は、iPSCのマトリックスとして有望であることが示された(VTN62-292,Q148E及びVTN62-292,D80Y)。特に、D80Y変異は、両方の濃度で両方のiPSC株の細胞拡大の改善を支持したが、1μg/mlの濃度でより顕著であった。iBJ6細胞株の場合、これは全生細胞の50%を超える増加であった(図6B)。
【0156】
VTN62-292バリアント及びD80Y変異で観察された細胞拡大の改善を考慮して、VTNバリアントがαVβ5ヘテロ二量体に結合する能力をELISAアッセイで試験した。
【0157】
VTN62-292バリアンント及びその中の変異を、NSO細胞(マウス細胞株)で作製した全長ビトロネクチン及び市販のバージョンのVTN62-498(いわゆるVTN-N、またはThermo-Fisher製のVTN-CTS)と比較した。これらのアッセイは、VTN62-292が全長VTN及びVTN-CTSと同様のαVβ5に対する結合親和性を有すること(図7A)、及びVTN62-292三重変異体が、VTN-FLまたはVTN62-292と比較して、ほぼ顕著な増加である、523ng/mlのED50で(これは、結合が不十分であることを示す)、αVβ5への結合を大幅に減少させたことを実証した。これは、VTN62-292,T63G,V67N,F68Pが、細胞培養においてiPSCを支持できなかった以前の実験とよく相関していた(図7A、7B、及び7C)。
【0158】
対照的に、VTN62-292,D80Y変異体は、αVβ5結合親和性においてほぼ2倍の増加を示し、これは、iPSC細胞の拡大におけるこのバリアントの改善された機能と相関していた。これは、αVβ5結合に関するED50値のほぼ50%の減少によって示される(図7B)。Q148E変異体は、αVβ5結合の有意な増加を示さなかった。このデータは、培養における幹細胞の拡大を支持することについてのD80Y変異体の機能の改善が、インテグリンに対する親和性及びインテグリン媒介接着または細胞シグナル伝達の増加に関連している場合があることを示している。
【0159】
RGDドメインに隣接する変異体は、αVβ5結合の改善を示さなかったが、これらの変化が他のインテグリンヘテロ二量体への結合に影響を与え得る可能性がある。追加のELISA実験を実行して、VTN62-292バリアント及びそれから作製した変異体の、主要RGD受容体:アルファVベータ5(αVβ5)、アルファVベータ1(αVβ1)、アルファVベータ3(αVβ3)及びアルファ5ベータ5(α5β1)(alpha5Beta5(α5β1))に対する結合親和性を調べた。αVβ3及びα5β1は、主要なフィブロネクチン(FN)受容体である。αVβ3及びαVβ5は、VTN受容体である。FN及び全長VTNを、比較のために使用した。図13A及び13B及び図14は、アルファVベータ5(αVβ5)、アルファVベータ1(αVβ1)、アルファVベータ3(αVβ3)及びアルファ5ベータ5(α5β1)(alpha5Beta5(α5β1))を含む主要なRGD結合インテグリンヘテロ二量体に対する、RGDモチーフに隣接するVTN62-292バリアント及び変異の結合親和性を示す。これらのアッセイでは、hVTN62-292は、αVβ5に対する結合親和性は全長VTN(VTN-FL)と同様であるが、若干の増加を示す。しかし、hVTN62-292は、αVβ3、αVβ1、及びα5β1に対する改善された結合親和性を示す。このことによって、一部の細胞増殖アッセイにおいてhVTN62-292がFL-VTNよりも優れている理由を説明することができる。VTN-Nバリアント(VTN-CTS)も同様の傾向を示すが、典型的には、4つのインテグリンヘテロ二量体すべてに対する親和性が低くなる。
【0160】
これらの実験により、インテグリン結合を改善すると想定されたVTN変異体、すなわちVTN62-292 T63G,V67N,F68Pは、αVβ5結合親和性を大幅に減少させ、ED50値が増加することが確認された。VTN62-292 T63G,V67S,F68P変異体も、程度は低いものの、αVβ5結合親和性の低下を示した。興味深いことに、三重変異体は、2つの主要なフィブロネクチン受容体、すなわちαVβ3及びα5β1、ならびにαVβ1に対する親和性の増加を示した。これは、インテグリン結合能力においてフィブロネクチンと類似した変異体が存在するという点で重要である。VTN62-292 T63G,V67S,F68P及びVTN62-292 T63G,V67N,F68P変異体は、非動物由来条件で効率的に作製することができるが、全長フィブロネクチンはそれができないため、これらの変異体は、最適な増殖のためにFN及び/またはこれらのインテグリンを利用する細胞型を用いて非動物由来細胞培養条件を達成する利点を与えることができる。
【0161】
iPSCの支持におけるVTNバリアントの役割をさらに調査するために、改変接着アッセイを実行して、これにより、細胞をVTNコーティング組織培養プレートに1時間接着させた後、洗浄して基質への細胞の接着を試験した(Kueng et al., 1989, Anal Biochem;182(1):16-9;and Taooka et al., 1999, J Cell Biol;145(2):413-20)。このアッセイは、細胞が下部のマトリックスにどの程度しっかりと結合しているかを測定するものと考えられている。このアプローチを使用すると、全長VTNと比較してVTN62-292へのiPSC細胞結合の増加(図7B)は検出されなかった。VTN62-292バリアントは、VTN-N(CTS)バリアントよりも高い接着力を示した。VTN-Nは利用可能な唯一の他の機能的非動物由来VTNであるため、これは重要である。しかし、D80Y変異は、インテグリン結合の改善を考えると、驚くべきことに接着の改善をもたらさなかった(図8を参照のこと)。このアッセイは、初期の細胞付着中に形成された新生接着体(nascent adhesions)をプローブするが、より成熟した接着斑はプローブしないため、これらの結果はVTNの細胞接着特性を完全に反映していない場合がある。
【0162】
VTN62-292及びVTN62-292,D80Yバリアントは細胞培養におけるiPSCの拡大を支持したが、三重変異体VTN62-292 T63G,V67S,F68P及びVTN62-292 T63G,V67N,F68Pは、この拡大を支持しなかった。このことは、これらの変異体がiPSCで発現する主要なVTN受容体であるαVβ5に結合する能力が低下していることの反映である可能性が高い。データは示されていないが、この実施例では、iPSCは典型的なVTN受容体β3の発現を欠いているが、間葉幹細胞(MSC)はβ3を含むRGD受容体の主要なサブユニットをすべて発現していることが確認された。MSCは一般にFN上で増殖し、MSC分化はα5β1インテグリンによって促進される。したがって、αVβ3及びα5β1に対する親和性の増加を示すELISAデータを考慮すると、VTN62-292 T63G,V67S,F68P変異体及び/またはVTN62-292 T63G,V67N,F68P変異体は、MSCの増殖を促進する可能性がある。
【0163】
これを試験するために、ヒト骨由来MSCを、FN、VTN62-292、VTN62-292 T63G,V67S,F68P及びVTN62-292 T63G,V67N,F68P上で培養した(図15A及び15B)。種々の濃度で、VTN62-292 T63G,V67S,F68P及びVTN62-292 T63G,V67N,F68Pは、FN及びVTN62-292と比較して細胞増殖の改善を示した(図15B)。これらのマトリックスはすべて、BMEと比較してMSC増殖が改善された。
【0164】
図15A及び15Bは、培養中のMSC増殖に対するVTN変異体の効果を示す。提示されたデータは、3つの濃度のVTNの3回の実験からのものである。細胞増殖は、72時間後のMCS細胞培養物のコンフルエンスを分析することによって監視した。図15Aは、FN及び異なるVTN62-292バリアント上のMSCの明視野画像を示す。3つの濃度はすべて、VTN62-292,T63G,V67N,F68P及びVTN62-292,T63G,V67S,F68P変異体がMSC増殖の強化を支持することを示している(図15B)。これは、減弱された(VTN62-292,T63G,V67S,F68P)または完全に抑制された(VTN62-292,T63G,V67N,F68P)三重変異体でのiPSCの増殖とは顕著な対照を成している(図6A及び図6B)。図16A及び16Bは、FN、VTN62-292、及びVTN62-292,T63G,V67N,F68P上での未分化状態、及びMSCへの分化後の、IBJ6 iPSC細胞株の細胞拡大を示す。この実験は、幹細胞性の異なる状態にある同じ細胞株が基質選択性を切り替えることができることを示す。未分化状態では、明視野画像で見られ、コンフルエンスパーセントによって定量されるように、iBJ6 iPSCはVTN62-292上でのみ大幅に拡大する(図16A)。VTN62-292,T63G,V67N,F68P上では本質的に増殖がないことに留意されたい。誘導MSC(iMSC)への分化後、同じ細胞株は、FN上で増殖の増加を示すが、VTN62-292,T63G,V67N,F68P上で最良の増殖を示す(図16B)。これは、MSC分化後のαVβ3の発現の増加及び/またはα5β1インテグリンを介する結合の増加に起因すると思われる。
【0165】
iPSC(iMSC)由来のMSCは、均質性及び拡張性を含む臨床用途のための多くの利点を提供する。したがって、VTN62-292及びVTN62-292 T63G,V67N,F68PのiMSCへの適合性について試験した。最初に、iBJ6 iPSCを、FN、VTN62-292及びVTN62-292 T63G,V67S,F68P上で増殖させた。明視野画像及び細胞コンフルエンス測定により、VTN62-292は、iPSCの堅牢な拡大を支持したが、FN及びVTN62-292 T63G,V67S,F68Pは、iPSC増殖を支持できなかったことが確認された(図16A)。しかし、iPSCからiMSCへの分化後、FN、VTN62-292及びVTN62-292 T63G,V67S,F68Pは、細胞拡大を支持した(図16B)。VTN62-292 T63G,V67S,F68P変異体は、細胞コンフルエンス測定によって示されるように、最も高い細胞拡大を示した。これは、MSC分化後のβ3発現の増加及び/またはα5β1を介したシグナル伝達の増加を反映している可能性が高い。
【0166】
VTN62-292及びD80Y変異体のこの改善された機能は、タンパク質の熱安定性に関連している場合があり、これは他のタンパク質におけるコンセンサスアラインメントに関する以前の研究に基づいて予測されている(Porebski and Buckle, 2016, Protein Eng Des Sel;29(7):245-51)。したがって、細胞培養基質としてのVTNを改善するという目標に関連した簡単な試験を実行した。この試験では、VTNバリアントを37℃で4日間インキュベートした後、iPSCをプレーティングした。4日間の細胞拡大の後、D80Y変異がVTN62-292変異体を超える追加の安定性を与えないことが予想外に観察された(図9)。中程度であるが、VTN62-292バリアントは、VTN-Nバリアントと比較して安定性の利点を与えた。しかし、E.coli由来断片はいずれも、VTN-FLタンパク質を上回る安定性の利点を有していなかった。それにもかかわらず、これらの結果は、VTN62-292が他のE.coli由来断片よりも安定性が増大している場合があり、これが細胞培養にとってさらなる利点であり得ることを示唆している。
【0167】
まとめると、この実施例の結果は、VTN62-292及びVTN62-292,D80Yバリアントが、全長VTN及び以前に公開されたVTNバリアントよりも有意な利点を与えることを示している。第1に、原核生物発現系におけるVTN62-292の製造可能性の強化は、幹細胞の培養及び分化のための非動物由来ワークフローのための生物学的に活性な接着分子の大量産生を提供する、主要な利点である。より小さなバリアントも高い発現を示したが、iPSCまたはMSC培養を支持する機能が不十分であるため、これらのバリアントは、幹細胞用途には不十分である。第2の利点は、全長VTNまたはVTN-Nバリアントと比較して、iPSC及びMSCの拡大を支持するためのこれらのバリアントの機能が改善されていることである。iPSCに関しては、このことは、VTN62-292及びVTN62-292,D80Yが複数のiPSC細胞株において細胞拡大の大幅な改善を示す低濃度で、特に顕著である。さらに、これらのバリアントの有用性は、これらのバリアントがiPSCの、胚体内胚葉、神経前駆細胞、及び完全に分化したニューロンへの分化も支持するため、より堅牢な幹細胞ワークフローにも当てはまる。第3の利点は、再生医療に関連する完全な非動物由来エクスビボワークフローへの適用である。
【0168】
加えて、ここでの結果は、RGDインテグリン結合特異性をVTNバリアントに関連して調節して、細胞型特異的細胞培養を調整し、これらの細胞の挙動を改変することもできることを示唆している。再生医療との関係では、これらのVTN変異体は、MSCの拡大を強化させるための非動物由来基質を提供する。VTN62-292 T63G,V67S,F68P及びVTN62-292 T63G,V67N,F68Pを含むこれらの変異体は、中胚葉系譜分化、心臓分化、または骨形成などの、α5β1及び/またはαVβ3によって強化される細胞プロセスにも有益であることも証明され得る。
【0169】
実施例2
インテグリン特異性を差次的に調整した組換えビトロネクチンバリアントは間葉系幹細胞及び多能性幹細胞の増殖を最適化する
【0170】
ビトロネクチン(VTN)は、ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)のエクスビボ拡大のための重要な定義された基質であるが、間葉系幹細胞(MSC)にはあまり頻繁には使用されない。後者の細胞型は、フィブロネクチン(FN)を使用してより頻繁に拡大させるが、組換え技術を使用して産生するのは困難かつ費用がかかる。
【0171】
実施例1でより詳細に記載された標的変異によって、異なるインテグリンヘテロ二量体の結合の改変を通じて、VTNがMSCを支持する能力が改善される。これらの新規組換えヒトビトロネクチン(hVTN)バリアントは、カノニカルなFN受容体であるアルファ5-ベータ1を含む主要なRGDインテグリンヘテロ二量体に対して異なる結合活性を示す。この異なるインテグリン結合活性を通じて、これらのhVTNバリアントは、MSC及びiPSCの接着、生存、拡散、及び分化を差次的に支持する。これらの改変されたVTNバリアントのうちの1つ(VTN62-292 T63G,V67N,F68P;本明細書ではVN-3とも呼ばれる)は、細胞培養において未分化iPSCを支持できなかったが、MSC接着、生存、及び拡大の改善を示した。さらに、MSC骨形成分化は、このVTNバリアントでも強化された。VTN62-292 T63G,V67N,F68Pバリアントは、アルファV-ベータ3に対して同様の結合親和性を示したが、アルファV-ベータ5に対して親和性の大幅な減少、及びアルファ5-ベータ1に対して親和性の増加を示した。インテグリン発現プロファイリングを使用して、MSCはすべての主要なRGD結合インテグリンヘテロ二量体サブユニットを発現する一方、iPSCはベータ3インテグリンの発現を欠いており、iPSCがRGD含有ECMタンパク質と結合するために使用することができるヘテロ二量体のレパートリーが制限されていることが示された。インテグリンアルファVベータ5ヘテロ二量体の結合をブロックすると、iPSCが全長VTNまたはVTNバリアントのいずれかに結合する能力が損なわれるが、MSCのVTNへの結合には影響を及ぼさない。アルファVベータ3、アルファVベータ5、及びアルファ5ベータ1をブロックすることのみによって、MSCのVTNへの結合が大幅に減少する。このことは、未分化iPSCは主にアルファV-ベータ5を使用してVTNに結合するのに対し、MSCはより多用途であり、種々のインテグリンヘテロ二量体を使用してVTNに結合できることを強く示唆している。興味深いことに、iPSCがMSCに分化すると、ベータ3インテグリンの発現を開始し、その後VTN62-292 T63G,V67N,F68Pバリアントに効果的に結合できるようになり、インテグリンの発現パターンの変化がどのようにして様々なビトロネクチンバリアントに対する感受性を与えるのかが確認される。
【0172】
インテグリン受容体の結合は、多様で必須の細胞の挙動を駆動する種々の短期及び長期の細胞応答に影響を与える。アクチン細胞骨格への直接結合及びRho GTPasesを介したシグナル伝達を通じて、インテグリンはアクチンの動態及び接着斑の代謝回転を調節し、結果として細胞-基質結合、細胞の極性、遊走に影響を与える。加えて、インテグリンは、細胞の生存、拡散、及び分化に影響を与える、相互接続された多様な形質導入経路を通じてシグナル伝達する。インテグリンは、αサブユニット及びβサブユニットで構成される膜貫通ヘテロ二量体であり、これらは異なる組み合わせで配列されて24個の固有のインテグリン受容体を形成する。これらの異なるヘテロ二量体は、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン(FN)、及びビトロネクチン(VTN)などの異なる細胞外マトリックス(ECM)タンパク質の結合に従ってサブグループに分類することができる。
【0173】
フィブロネクチン及びビトロネクチンは、5つのαVインテグリン、2つのβ1インテグリン、及びαIIbβ3インテグリンによって認識される共通のアルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)モチーフを共有している(Humphries et al., 2006, J Cell Sci;119(Pt 19):3901-3)。ラミニン、オステオポンチン、骨シアロタンパク質、及び血小板内皮細胞接着分子を含む、追加のECM及び接着分子はまた、これらのインテグリンによって認識されるRGD部位を有する。RGD結合モチーフの機構は、一般に種々のα/β二量体間で保存されているが、おそらく結合部位の特異的立体構造の差異により、異なるリガンド親和性が存在する(Wang et al., 2013, Int J Mol Sci;14(7):13447-62)。
【0174】
異なる立体構造のRGDモチーフの提示により、合成ペプチドの結合が変化する可能性があることはよく知られており、環状RGDペプチドは、直鎖ペプチド及び環状ペプチドの異なるバリエーションよりも高い親和性を示し、様々なインテグリンに対して異なる結合親和性を示す(Kapp et al., 2017, Sci Rep;7:39805)。実際、二量体の界面におけるRGDペプチドの隣接するアミノ酸配列及び結合様式を変更することによって、合成ペプチドに対しインテグリン特異性を達成することができる(Kapp et al., 2017, Sci Rep;7:39805)。これらの研究は、所与のRGD含有ECM分子が様々なインテグリン二量体に対して有する相対親和性が、RGDモチーフの提示に依存しており、これは、隣接するアミノ酸配列の影響を受ける可能性があることを示唆している。
【0175】
種々のRGD含有分子に対するインテグリンの結合親和性の差異により、細胞培養におけるECMマトリックス上の多様な細胞挙動が調節される可能性が高い。血清中の通常は高レベルのフィブロネクチン、ビトロネクチン、及びその他の接着タンパク質が細胞接着に必要であり、他の多数の増殖因子、タンパク質、及びその他の分子が細胞挙動に影響を与えるため、無血清細胞培養条件下では、ECM基質の選択が特に重要になる。多能性幹細胞(PSC)及び間葉系幹細胞(MSC)は、再生医療における用途のためにECMマトリックス上でのエクスビボ拡大を必要とする2つの重要な細胞型である。これらの細胞型及びそれらの誘導体を採用するには、動物由来、及びさらにはヒト由来の材料を排除して、定義された細胞培養条件を最適化する必要がある。異種成分不含条件下において、MSC培養のプロトコールでは、一般に拡大期と分化期の両方にフィブロネクチンを使用する(Cimino et al., 2017, Stem Cells Int;2017:6597815;及びBasoli et al., 2021, Sci Rep;11(1):13089)。あまり使用されないが、MSCは、ビトロネクチン、基底膜抽出物、及びラミニン上でも増殖及び分化する(Lam and Longaker, 2012, J Tissue Eng Regen Med;6 Suppl 3(0 3):s80-6)。多様な基質を使用するMSCの能力は、多様なインテグリンサブユニットの発現によるも可能性が高い(Frith et al., 2012, Stem Cells Dev;21(13):2442-56)。MSCは種々のインテグリンに結合し、それを通じてシグナル伝達することができ、拡大速度及び分化能力は基質/結合モチーフに応じて変動する。多くの研究では、αV及びβ1インテグリンの両方を介して媒介されるとみられている、MSCの拡大、骨形成及び軟骨形成分化を促進するために異種条件下でFNが使用されており(Singh and Schwarzbauer, 2012, J Cell Sci;125(Pt 16):3703-12;Di Benedetto et al., 2015, Stem Cell Res;15(3):618-628;及びBasoli et al., 2021, Sci Rep;11(1):13089)、骨形成分化において役割を果たすα5β1の結合が強化されるという証拠を伴う(Martino et al., 2008, Biomaterials;30(6):1089-97;Hamidouche et al., 2009, Proc Natl Acad Sci U S A;106(44):18587-91;Frith et al., 2012, Stem Cells Dev;21(13):2442-56)。MSCの基質としては一般的には使用されているわけではないが、ビトロネクチンは、カノニカルなαVβ3及び代替のαVβ5 VTN受容体を発現するMSCの接着、拡大、及び分化も支持する(Ode et al., 2010, J Biomed Mater Res A;95(4):1114-24)。異種成分不含培養下での多能性幹細胞の培養への移行は、マウス線維芽細胞フィーダーシステムの代わりに、重要な増殖因子を含有する基質及び培地として基底膜抽出物(BME)を採用することから始めた(Ludwig et al., 2006, Nat Biotechnol;24(2):185-7)。BMEは、高レベルのラミニン、IV型コラーゲン、パーレカン、及びエンタクチン、ならびに低レベルの、フィブロネクチンなどの他の多くの接着関連タンパク質を含む、タンパク質の未定義の混合物である。ナイーブ状態では、PSCは、ラミニン、ビトロネクチン、及びフィブロネクチンなどの精製または組換えECMタンパク質上で、拡大及び長期培養することができる。しかし、PSCを多能性状態に維持するためにフィブロネクチンを使用する報告には一貫性がなく、増殖速度が低下し、自発的分化が増加すると報告している報告もある(Hayashi et al., 2016, Stem Cells Int;2016:5380560)。
【0176】
異なるRGDインテグリン受容体二量体の特異的結合は、細胞内シグナル伝達及び細胞挙動に対して異なる結果を有する。例えば、主要なFN受容体であるαVβ3及びα5β1は、微小環境及び運動性の適切な機械受容のために相乗作用するが(Schiller et al., 2013, Nat Cell Biol;15(6):625-36)、それらは異なる結合パートナー及び経路を介して細胞内にシグナル伝達する。これは、短期的には細胞挙動に微妙な差異をもたらし、長期的には細胞生理学のより顕著な変化をもたらす可能性がある。短期的には、α5β1のFN結合により、接着斑が小さく、より大きなより動的な細胞がもたらされるが、αVβ3を介したFNシグナル伝達により、接着斑及びストレスファイバーが大きく、より小さな運動性の低い細胞がもたらされる(Schiller et al., 2013, Nat Cell Biol;15(6):625-36)。長期的には、α5β1媒介シグナル伝達が、MSCの骨形成分化(Martino et al., 2008, Biomaterials;30(6):1089-97;Frith et al., 2012, Stem Cells Dev;21(13):2442-56)及びiPSCの心臓特異化(Neiman et al., 2019, Sci Rep;9(1):18077)にとって重要であるという証拠がある。α5β1インテグリンはフィブロネクチンの主要な受容体であり、主に中央結合領域の10番目のFNIIIリピートドメインのRGD部位を介して結合し、FNIIIリピートドメイン9のPHSRNモチーフのある程度の相加効果を伴う(Pankov and Yamada, 2002, J Cell Sci;115(Pt 20):3861-3)。フィブロネクチンは、胚発育に不可欠である;その欠失によって、血管奇形及び心臓奇形を含む重度の中胚葉欠損が生じる(George et al., 1993, Development;119(4):1079-91;and George et al., 1997, Blood;90(8):3073-81)。α5インテグリンの遺伝的除去には、血管及び心臓の異常と重複する中胚葉欠損があり、α5β1を介したFNシグナル伝達がこれらの発育過程に少なくとも部分的に関与していることを示唆している(Bouvard et al., 2001, Circ Res;89(3):211-23;及びLiang et al., 2014, Dev Biol;395(2):232-44)。
【0177】
フィブロネクチン分子は、同じ遺伝子から選択的にスプライシングされた複数のアイソフォームにおいて存在する。一般に、FNは、ジスルフィド結合を介して連結された2つの大きな約250kDaの糖タンパク質サブユニットの二量体である(Pankov and Yamada, 2002, J Cell Sci;115(Pt 20):3861-3)。そのため、組換えフィブロネクチンの産生は労が多いプロセスであり、哺乳動物系では収量が少なくなり、E.coliベースの発現系では本質的に不可能である(Staunton et al., 2009, Methods Mol Biol;522:73-99)。FNは、多くのインテグリン結合パートナーを有するが、FNの重要な効果の多くは、α5β1を介して媒介される。VTNなどの他のRGDタンパク質は、RGD結合ポケットの基本的な類似性にもかかわらず、α5β1に結合してα5β1を介してシグナル伝達することができない(Kapp et al., 2017, Sci Rep;7:39805)。
【0178】
実施例1でより詳細に考察されるように、アミノ酸62~292からなるVTNバリアントは、全長VTNまたは他の公開された断片と同等であるかまたはそれらを改善する機能活性を有する非動物由来系において効果的に産生することができる。種々のRGD含有ECM分子からの隣接アミノ酸配列の分析及びRGD含有ペプチドに対する改変に基づき(Kapp et al.,2017,Sci Rep;7:39805)、この実施例では、このVTN62-292バリアントのインテグリン結合部位の改変により、異なるインテグリンアイソフォームに特異的に結合するプラットフォームが提供された。
【0179】
この実施例では、特異的インテグリンヘテロ二量体への結合を改変するビトロネクチンバリアントを作製した。VTN62-292バリアントバックグラウンドのRGDドメイン周辺に設計された単一、二重、及び三重変異は、ELISAアッセイにおいてαVβ3、αVβ5、αVβ1、及びα5β1ヘテロ二量体に対して異なる親和性を示す。驚くべきことに、単一及び二重変異はαVβ3、αVβ1、及びα5β1インテグリンの結合を抑制するが、これらの単一及び複数の/二重(tiple)変異体に基づいて構築された三重変異体は、これらの同じインテグリンへの結合を改善することが観察された。細胞アッセイでは、これらの同じ三重変異体に対する骨由来MSCとiPSC由来MSCの両方で増殖の改善が観察されたが、iPSC増殖は減弱、または完全に消失した。後者の結果は、これらの三重変異体はiPSCにおいて主要なVTN受容体であるαVβ5に結合する能力が低下していることに起因する可能性が高い。このことは、VTN上で培養したiPSCを用いた抗体ブロッキング実験で確認され、αVβ5を単独でブロックするとiPSC細胞増殖が大幅に減少し、αVβ5とともにβ1をブロックするとiPSC増殖が完全に阻害されることを示した。αVβ3をブロックしても、VTN上のiPSC増殖には影響を及ぼさない。VN上でのiPSC由来MSC(iMSC)の増殖は、αVβ5、αVβ3、及びβ1がすべて同時にブロックされた場合には劇的には減弱されず、このことは、これらの細胞のインテグリン発現プロファイルと一致する。さらに、VTNの三重変異体では骨形成分化が強化されることが観察され、インテグリン結合の変化が細胞生理機能にさらなる影響を与えることを示唆している。全体として、この実施例は、RGDインテグリン結合特異性をVTNバリアントに関連して調節して、細胞型特異的細胞培養を調整し、これらの細胞の挙動を改変することもできることを示している。再生医療との関係では、これらのVTN変異体は、MSCの拡大を強化させるための非動物由来基質を提供する。これらの変異体によって、中胚葉系譜分化または骨形成など、α5β1及び/またはαVβ3によって強化される細胞プロセスに有益であることも証明することができる。
【0180】
本明細書で引用されるすべての特許、特許出願、及び刊行物、ならびに電子的に入手可能な資料(例えば、GenBank及びRefSeqにおけるヌクレオチド配列登録、例えば、SwissProt、PIR、PRF、PDBにおけるアミノ酸配列登録、ならびにGenBank及びRefSeqにおける注釈付きコード領域からの翻訳を含む)の完全な開示は、参照により組み込まれる。本出願の開示と参照により本明細書に組み込まれる任意の文書の開示(複数可)との間に矛盾が存在する場合には、本出願の開示が優先されるものとする。前述の詳細な説明及び実施例は、理解を明確にするためにのみ示されている。そこから不必要な限定が理解されるべきではない。本発明は、示され記載されている正確な詳細に限定されるものではなく、当業者にとって明らかな変形形態は、特許請求の範囲によって定義される本発明に含まれる。
【0181】
配列表フリーテキスト
配列番号1 全長ヒトビトロネクチン
配列番号2 ビトロネクチンポリペプチド断片アミノ酸62~292(hVTN(62~292))
配列番号3 Hisタグ付きビトロネクチンポリペプチド断片アミノ酸62~292
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図13A
図13B
図14
図15A
図15B-1】
図15B-2】
図16A
図16B
【配列表】
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【手続補正書】
【提出日】2024-05-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビトロネクチンポリペプチド断片であって:
配列番号1を有する全長ビトロネクチンポリペプチドと比較して、少なくとも50個の連続するN末端アミノ酸の欠失を含み;
配列番号1を有する前記全長ビトロネクチンポリペプチドと比較して、少なくともC末端アミノ酸362~478の欠失を含み;
ビトロネクチンのアルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)インテグリン結合ドメインを含み;
ビトロネクチンのN末端ソマトメジンB(SmB)ドメインを含ま
ビトロネクチンのC末端ヘパリン結合ドメイン及びHp4ドメインを含まかつ
配列番号1を有する前記全長ビトロネクチンポリペプチドの同じ断片に対する約95%の配列同一性を含む、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項2】
請求項1に記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、ビトロネクチンのHp1、Hp2、及び/またはHp3ドメインを含む、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項3】
請求項に記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、約200~約350アミノ酸の長さを有する、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項4】
請求項に記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、以下:
配列番号1を有する全長ビトロネクチンポリペプチドと比較して、61個の連続するN末端アミノ酸の欠失;及び
配列番号1を有する前記全長ビトロネクチンポリペプチドと比較して、C末端アミノ酸293~478の欠失を含む、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項5】
請求項に記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、配列番号1を有する前記全長ビトロネクチンポリペプチドの残基62~292に対する約95%の配列同一性を含む、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項6】
請求項に記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、以下:
配列番号1を有する全長ヒトビトロネクチンの、
63位に相当する位置でのアミノ酸置換;
67位に相当する位置でのアミノ酸置換;
68位に相当する位置でのアミノ酸置換;
80位に相当する位置でのアミノ酸置換;及び/または
148位に相当する位置でのアミノ酸置換、を含む、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項7】
前記アミノ酸置換が、T63G置換、V67S置換、V67N置換、F68P置換、D80Y置換、及び/またはQ148E置換を含む、請求項6に記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項8】
配列番号2からなる、ビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項9】
配列番号1を有する全長ビトロネクチンと比較して、D80位におけるアミノ酸置換及び/またはQ148位におけるアミノ酸置換を有する、配列番号2からなるビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項10】
D80位における前記アミノ酸置換がD80Y置換を含み、及び/またはQ148位における前記アミノ酸置換がQ148E置換を含む、請求項9に記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項11】
配列番号1を有する全長ビトロネクチンと比較して、63位に相当する位置でのアミノ酸置換、67位に相当する位置でのアミノ酸置換、及び/または68位に相当する位置でのアミノ酸置換を有する、配列番号2からなるビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項12】
T63位における前記アミノ酸置換がT63G置換を含み、V67位における前記アミノ酸置換がV67S置換またはV67N置換を含み、及び/またはF68位における前記アミノ酸置換がF68P置換を含む、請求項11に記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項13】
C末端His-タグをさらに含む、請求項に記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項14】
1、2、3、4、5、6、7、8、またはそれ以上のC末端His残基を含む、請求項13に記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項15】
配列番号3からなる、ビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項16】
請求項に記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、非動物由来である、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項17】
マイクロキャリアにコンジュゲートしている、請求項に記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
【請求項18】
前記マイクロキャリアが、ヒドロゲルまたはポリスチレンミクロスフェアを含む、請求項17に記載のビトロネクチンポリペプチド断片コンジュゲート。
【請求項19】
請求項に記載のビトロネクチンポリペプチド断片を含む組成物。
【請求項20】
請求項19に記載の組成物であって、非動物由来である、前記組成物。
【請求項21】
細胞培養基質として使用するための請求項19に記載の組成物。
【請求項22】
請求項に記載のビトロネクチンポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列。
【請求項23】
請求項22に記載のヌクレオチド配列を含む発現ベクター。
【請求項24】
請求項23に記載の発現ベクターであって、E.coli発現ベクターを含む、前記発現ベクター。
【請求項25】
請求項22に記載のヌクレオチド配列を含む、宿主細胞。
【請求項26】
請求項25に記載の宿主細胞であって、E.coliを含む、前記宿主細胞。
【請求項27】
ビトロネクチンポリペプチド断片を産生する方法であって、請求項22に記載のヌクレオチド配列から、前記ビトロネクチンポリペプチド断片を発現させることを含む、前記方法。
【請求項28】
前記産生されたビトロネクチン断片ポリペプチドが非動物由来である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
細胞培養方法であって、請求項に記載のビトロネクチンポリペプチド断片を含む基質上で細胞を培養することを含む、前記方法。
【請求項30】
前記細胞が幹細胞を含む、請求項29に記載の細胞培養方法。
【請求項31】
前記細胞を非動物由来条件下で培養する、請求項29に記載の細胞培養方法。
【請求項32】
細胞培養がエクスビボである、請求項29に記載の細胞培養方法。
【請求項33】
前記細胞が、幹細胞を含む、請求項29に記載の細胞培養方法。
【請求項34】
前記幹細胞が、ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)を含む、請求項33に記載の細胞培養方法。
【請求項35】
前記幹細胞が、ヒト間葉系幹細胞(MSC)を含む、請求項33に記載の細胞培養方法。
【請求項36】
細胞培養方法であって、配列番号2または配列番号3からなるビトロネクチンポリペプチド断片を含む基質上で幹細胞を培養することを含む、前記方法。
【請求項37】
細胞培養方法であって、ビトロネクチンポリペプチド断片であって、配列番号2からなり、配列番号2が、
配列番号1を有する全長ビトロネクチンに対して63位に相当する位置でのT63Gアミノ酸置換;
配列番号1を有する全長ビトロネクチンに対して67位に相当する位置でのV67SまたはV67Nアミノ酸置換;及び
配列番号1を有する全長ビトロネクチンに対して68位に相当する位置でのF68Pアミノ酸置換、によって変更されている、前記ビトロネクチンポリペプチド断片、を含む基質上で間葉系幹細胞(MSC)を培養することを含む、前記方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0181
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0181】
配列表フリーテキスト
配列番号1 全長ヒトビトロネクチン
配列番号2 ビトロネクチンポリペプチド断片アミノ酸62~292(hVTN(62~292))
配列番号3 Hisタグ付きビトロネクチンポリペプチド断片アミノ酸62~292
本開示は以下の実施形態を包含する。
[1] ビトロネクチンポリペプチド断片であって:
配列番号1を有する全長ビトロネクチンポリペプチドと比較して、少なくとも50個の連続するN末端アミノ酸の欠失を含み;
配列番号1を有する前記全長ビトロネクチンポリペプチドと比較して、少なくともC末端アミノ酸362~478の欠失を含み;
ビトロネクチンのアルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)インテグリン結合ドメインを含み;
ビトロネクチンのN末端ソマトメジンB(SmB)ドメインを含まない;
ビトロネクチンのC末端ヘパリン結合ドメイン及びHp4ドメインを含まない;及び
配列番号1を有する前記全長ビトロネクチンポリペプチドの同じ断片に対する約95%の配列同一性を含む、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
[2] 実施形態1に記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、ビトロネクチンのHp1、Hp2、及び/またはHp3ドメインを含む、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
[3] 実施形態1または2に記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、約200~約350アミノ酸の長さを有する、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
[4] 実施形態1~3のいずれかに記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、以下:
配列番号1を有する全長ビトロネクチンポリペプチドと比較して、61個の連続するN末端アミノ酸の欠失;及び
配列番号1を有する前記全長ビトロネクチンポリペプチドと比較して、C末端アミノ酸293~478の欠失を含む、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
[5] 実施形態1~4のいずれかに記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、配列番号1を有する前記全長ビトロネクチンポリペプチドの残基62~292に対する約95%の配列同一性を含む、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
[6] 実施形態1~5のいずれかに記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、以下:
配列番号1を有する全長ヒトビトロネクチンの、
63位に相当する位置でのアミノ酸置換;
67位に相当する位置でのアミノ酸置換;
68位に相当する位置でのアミノ酸置換;
80位に相当する位置でのアミノ酸置換;及び/または
148位に相当する位置でのアミノ酸置換、を含む、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
[7] 前記アミノ酸置換が、T63G置換、V67S置換、V67N置換、F68P置換、D80Y置換、及び/またはQ148E置換を含む、実施形態6に記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
[8] 配列番号2からなる、ビトロネクチンポリペプチド断片。
[9] 配列番号1を有する全長ビトロネクチンと比較して、D80位におけるアミノ酸置換及び/またはQ148位におけるアミノ酸置換を有する、配列番号2からなるビトロネクチンポリペプチド断片。
[10] D80位における前記アミノ酸置換がD80Y置換を含み、及び/またはQ148位における前記アミノ酸置換がQ148E置換を含む、実施形態9に記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
[11] 配列番号1を有する全長ビトロネクチンと比較して、63位に相当する位置でのアミノ酸置換、67位に相当する位置でのアミノ酸置換、及び/または68位に相当する位置でのアミノ酸置換を有する、配列番号2からなるビトロネクチンポリペプチド断片。
[12] T63位における前記アミノ酸置換がT63G置換を含み、V67位における前記アミノ酸置換がV67S置換またはV67N置換を含み、及び/またはF68位における前記アミノ酸置換がF68P置換を含む、実施形態11に記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
[13] C末端His-タグをさらに含む、実施形態1~12のいずれかに記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
[14] 1、2、3、4、5、6、7、8、またはそれ以上のC末端His残基を含む、実施形態13に記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
[15] 配列番号3からなる、ビトロネクチンポリペプチド断片。
[16] 実施形態1~15のいずれかに記載のビトロネクチンポリペプチド断片であって、非動物由来(動物不含)である、前記ビトロネクチンポリペプチド断片。
[17] マイクロキャリアにコンジュゲートしている、実施形態1~16のいずれかに記載のビトロネクチンポリペプチド断片。
[18] 前記マイクロキャリアが、ヒドロゲルまたはポリスチレンミクロスフェアを含む、実施形態17に記載のビトロネクチンポリペプチド断片コンジュゲート。
[19] 実施形態1~16のいずれかに記載のビトロネクチンポリペプチド断片、または実施形態17もしくは18に記載のビトロネクチンポリペプチド断片コンジュゲートを含む組成物。
[20] 実施形態19に記載の組成物であって、非動物由来(動物不含)である、前記組成物。
[21] 細胞培養基質として使用するための、実施形態1~16のいずれかに記載のビトロネクチンポリペプチド断片、実施形態17もしくは18に記載のビトロネクチンポリペプチド断片コンジュゲート、または実施形態19もしくは20に記載の組成物。
[22] 実施形態1~16のいずれかに記載のビトロネクチンポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列。
[23] 実施形態22に記載のヌクレオチド配列を含む発現ベクター。
[24] 実施形態23に記載の発現ベクターであって、E.coli発現ベクターを含む、前記発現ベクター。
[25] 実施形態22に記載のヌクレオチド配列または実施形態23もしくは24のいずれかに記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
[26] 実施形態25に記載の宿主細胞であって、E.coliを含む、前記宿主細胞。
[27] ビトロネクチンポリペプチド断片を産生する方法であって、実施形態22に記載のヌクレオチド配列、実施形態23もしくは24に記載の発現ベクター、または実施形態25もしくは26に記載の宿主細胞から、前記ビトロネクチンポリペプチド断片を発現させることを含む、前記方法。
[28] 前記産生されたビトロネクチン断片ポリペプチドが非動物由来(動物不含)である、実施形態27に記載の方法。
[29] 細胞培養方法であって、実施形態1~18のいずれかに記載のビトロネクチンポリペプチド断片、実施形態17もしくは18に記載のビトロネクチンポリペプチド断片コンジュゲート、または実施形態19もしくは20に記載の組成物を含む基質上で細胞を培養することを含む、前記方法。
[30] 前記細胞が幹細胞を含む、実施形態29に記載の細胞培養方法。
[31] 前記細胞を非動物由来条件下で培養する、実施形態29または30に記載の細胞培養方法。
[32] 細胞培養がエクスビボである、実施形態29~31のいずれかに記載の細胞培養方法。
[33] 前記細胞が、幹細胞を含む、実施形態29~32のいずれかに記載の細胞培養方法。
[34] 前記幹細胞が、ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)を含む、実施形態33に記載の細胞培養方法。
[35] 前記幹細胞が、ヒト間葉系幹細胞(MSC)を含む、実施形態33に記載の細胞培養方法。
[36] 細胞培養方法であって、配列番号2または配列番号3からなるビトロネクチンポリペプチド断片を含む基質上で幹細胞を培養することを含む、前記方法。
[37] 細胞培養方法であって、ビトロネクチンポリペプチド断片であって、配列番号2からなり、配列番号2が、
配列番号1を有する全長ビトロネクチンに対して63位に相当する位置でのT63Gアミノ酸置換;
配列番号1を有する全長ビトロネクチンに対して67位に相当する位置でのV67SまたはV67Nアミノ酸置換;及び
配列番号1を有する全長ビトロネクチンに対して68位に相当する位置でのF68Pアミノ酸置換、によって変更されている、前記ビトロネクチンポリペプチド断片、を含む基質上で間葉系幹細胞(MSC)を培養することを含む、前記方法。
【国際調査報告】