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特表2024-533116自閉症スペクトラム障害を処置するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】自閉症スペクトラム障害を処置するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/00 20060101AFI20240905BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240905BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A61K33/00
A61K45/00
A61K31/192
A61P25/22
A61P25/00
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513730
(86)(22)【出願日】2022-09-02
(85)【翻訳文提出日】2024-04-03
(86)【国際出願番号】 EP2022074419
(87)【国際公開番号】W WO2023031379
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】21194699.1
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(71)【出願人】
【識別番号】512215048
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・トゥール
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE TOURS
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ベッカー,ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】ル・メレル,ジュリー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZA02
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA24
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZA02
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA13
4C206GA28
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA05
4C206ZA02
4C206ZC75
(57)【要約】
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、神経発達障害であり、その診断は、反復行動を伴った社会的相互作用及びコミュニケーションの障害による。現在までのところ、ASDを有する患者の社会的行動を改善する薬理学的処置は承認されていない。自閉症の興奮/抑制不均衡理論に基づいて、本発明者らは、抗てんかん剤として長年使用されてきた臭化物イオンがASDの中核症状を緩和する可能性があるという仮説を立てた。本発明者らは、自閉症の遺伝子マウスモデル3種:Oprm1-/-、Fmr1-/-及びShank3Δex13-16-/-マウスにおいて、自閉症様症状に対する臭化ナトリウム(NaBr)の慢性投与の影響を評価した。本発明者らは、NaBrの慢性処置により、これら3種のモデルにおける自閉症様行動が緩和されることを示した。Oprm1-/-マウスにおいては、これらの有益な効果が、慢性のブメタニド投与のそれより優れていた。転写レベルでは、Oprm1欠損マウスにおける慢性のNaBrは、塩化物イオン輸送体であるGABAAレセプターサブユニット、オキシトシン及びmGlu4レセプターをコードする遺伝子の発現増加と関連していた。最後に、本発明者らは、Oprm1-/-マウスにおける自閉症様行動に対する、慢性的なNaBrとmGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)との相乗的な緩和効果を明らかにした。本発明者らは、臭化物イオンがmGlu4レセプターのPAMとして働くことを異種細胞で証明した。これは、このような相乗効果のための分子メカニズムを提供する。データから、ASDの処置について、臭化物イオンの単独、又はmGlu4レセプターのPAMとの組み合わせでの、治療的可能性が明らかである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における自閉症スペクトラム障害(ASD)を処置する方法であって、対象はそれを必要とし、
臭化物塩及びmGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)を含む治療上有効な組み合わせを該対象に投与することを含む、方法。
【請求項2】
対象におけるASDの少なくとも1つの症状を緩和するための、請求項1記載の方法であって、対象はそれを必要とし、少なくとも1つの症状が、社会的行動障害、常同行動及び/又は過度の不安である、方法。
【請求項3】
臭化物塩が、臭化ナトリウムである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
臭化物塩が、臭化カリウムである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
mGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーターが、VU0155041である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項6】
自閉症スペクトラム障害(ASD)を患っている対象に投与されるmGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)の効力を増強する方法であって、
薬学的に有効な量のmGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)を、臭化物塩と組み合わせて該対象に投与することを含む、方法。
【請求項7】
自閉症スペクトラム障害(ASD)を患っている対象に投与されるVU0155041の効力を増強するための、請求項6記載の方法であって、薬学的に有効な量のVU0155041を、臭化ナトリウムと組み合わせて投与することを含む、方法。
【請求項8】
臭化物塩を慢性的に投与する、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
臭化物塩を少なくとも10mg/kg投与する、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
自閉症スペクトラム障害(ASD)の処置において、同時に、別々に又は順次使用するための組み合わせ調製物としての、臭化物塩及びmGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)。
【請求項11】
臭化物塩が、臭化ナトリウムであり、mGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)が、VU0155041である、請求項10記載の組み合わせ調製物。
【請求項12】
臭化物塩と、mGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)を含む治療組成物であって、対象における自閉症スペクトラム障害(ASD)の処置に使用するためのものであり、対象はそれを必要とする、治療組成物。
【請求項13】
臭化物塩が、臭化ナトリウムであり、mGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)が、VU0155041である、請求項12記載の治療組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、医学、特に、神経学の分野におけるものである。
【0002】
発明の背景
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、高い不均質性及び遺伝性を伴う神経発達疾患である。社会的コミュニケーション及び相互作用に障害があり、行動、興味及び活動のレパートリーが制限され、反復的である場合に、その診断に至る(1)。ASDはしばしば、中核症状と共に、神経行動学的共存症、例えば、強い不安、認知及び運動の障害又はてんかんを伴う(2~5)。脆弱性遺伝子及び環境的リスク因子が特定されているにもかかわらず(6~8)、ASDの病因は、本質的に未知のままであり、これらの病態に対する薬理学的処置の開発が真の課題となっている。
【0003】
興奮/抑制(E/I)の不均衡が、ASDに共通するメカニズム的特徴であるように見受けられる(9、10)。ASDにおける過大なE/I比という発見的仮説は、当初、Rubenstein and Merzenichにより立てられ(11)、これらの病態におけるGABAシグナル伝達の低下(12、13)及びてんかんの出現率の高さ(10~30%)(3)をよく説明するものとして、大きな関心を集めた。実際、てんかんは、自閉症に最も頻繁に併存する病態の1つであり(5、14)、てんかん様EEGの出現率又は安静時の変化はさらに高い(15、16)。このことから、これらの病態の間に共通のリスク因子及び/又は病態生理学的メカニズムがあることが示唆されている(17、18)。しかしながら、その当初の提唱以来、ASDにおける過度のE/I仮説は、興奮の低下を示す動物モデルの研究により意義が唱えられ、より一般的なE/Iホメオスタシスの変化という概念につながった(10、19)。
【0004】
ASDにおけるE/I均衡の悪化は、幾つかの神経病理学的メカニズムにより生じている可能性がある。興奮側では、グルタミン酸作動性伝達が、患者と動物モデルの両方で変化していることが見出されたが、その方向性は、遺伝子変異/モデルにより異なっていた(9、20、21)。抑制側では、GABA作動性シグナル伝達の障害と一致して、自閉症を有する患者における、GABAレベル(22)並びにGABAA及びGABABレセプター(23、24)の発現の低下と、GABAAレセプターサブユニットの遺伝子多型(25、26)が検出されている。それに伴って、幾つかのASDモデルにおいて、GABA作動性神経伝達の低下が報告されている(27~31)。さらに、低用量の、GABAAレセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)として振る舞うベンゾジアゼピン(31、32)、又はGABABレセプターアゴニストであるアルバクロフェンにより、動物モデルにおける自閉症様行動が改善されることが、前臨床研究で示された(33、34)。しかしながら、残念なことに、臨床試験では、脆弱X症候群におけるこのような化合物の有為な有益効果を証明することはできなかった(35、36)。また別に、ASDではGABAニューロンが未熟なままであり、塩化物イオン(Cl)の細胞内濃度が高い状態から低い状態への移行がうまくいかず、その結果、活性化されたGABAAレセプターを介した、脱分極性のCl流出が維持されるという説も出された(37)。細胞内Cl濃度は、主要なClインポーターであるNKCC1(Na-K-2Cl共輸送体)及び主要な塩化物エクスポーターであるKCC2の制御下にある。したがって、ループ利尿剤であり、抗てんかん剤でもある(38、39)ブメタニドを使用してNKCC1を遮断することが、ASDにおける有望な治療アプローチであると見受けられた。それに伴って、ブメタニドは、ASDのげっ歯類モデルにおいて、自閉症様の表現型を改善し(40)、少数の患者コホートにおいて、自閉症的行動を緩和する(41、42)ことが見出された。しかしながら、臨床的有用性は、反復行動の減少を除き、大規模臨床試験では確認されなかった(43)。
【0005】
臭化物イオン(Br)は、てんかんについて最初に特定された有効な処置であり(44)、長い間、抗不安剤及び催眠剤としても使用されてきた(45)。より特異的であり、かつ恐らくは毒性が低い、新規な抗てんかん剤及び抗不安剤の出現により、Brの使用は徐々に減少したが、それは依然として、難治性発作を処置するための貴重な手段である(46、47)。その作用機序に関して、Brは、Clと化学的及び物理的類似性を共有しているため、複数の細胞メカニズムにおいてClの代替物となる。これらは、活性化されたGABAレセプターを介したアニオン流出を含み、Brに対する透過性がClと比較して高いため、神経細胞の過分極をもたらす(48)。Brはまた、NKCC及びKCC共輸送体が関与するメカニズムにおいても、Clに置き換わることができる(49、50)。E/I不均衡理論の観点から、これらの特性は、ASD処置の興味深い候補として、Brを挙げている(WO2018/096184)。
【0006】
発明の概要
本発明は、特許請求の範囲により定義される。特に、本発明は、対象における自閉症スペクトラム障害(ASD)を処置する方法であって、対象はそれを必要とし、臭化物塩及びmGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)を含む治療上有効な組み合わせを該対象に投与することを含む、方法に関する。
【0007】
発明の詳細な説明
本研究において、本発明者らは、自閉症の遺伝子マウスモデル3種:Oprm1-/-、Fmr1-/-及びShank3Δex13-16-/-マウスにおいて、徹底的な行動評価により、中核的な自閉症様症状である社会性障害(social deficit)及び常同症、並びにしばしば併存する症状である不安に対する、臭化ナトリウム慢性投与の影響を評価した。これらの3つのモデルについて、E/I均衡の変化及び/又はこの均衡に関与する遺伝子の発現の変化が報告されている(30、51~55)。Oprm1ノックアウトモデルは、学習能力への影響が限定的であるという利点があり(52)、自閉症的特徴と認知障害とをより良好に区別することが可能となる。本発明者らは、Br処置により、これらのマウスで観察される行動障害のほとんどが緩和され、社会脳回路(social brain circuit)内の種々の遺伝子の発現が増加することを証明した。本発明者らは、Oprm1-/-マウス及び異種細胞において、Brにより、mGlu4レセプター遺伝子の発現が増加するだけでなく、mGlu4 PAMであるVU0155041及びそのアゴニストであるグルタミン酸の効果が増強されることも解明した。これらのデータは、Brの投与の治療的可能性、及びASDの処置のための、これとmGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)の組み合わせを明らかにするものである。
【0008】
自閉症スペクトラムを処置するための方法
第1の態様では、本発明は、対象における自閉症スペクトラム障害(ASD)を処置する方法であって、対象はそれを必要とし、臭化物塩及びmGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)を含む治療上有効な組み合わせを該対象に投与することを含む、方法に関する。
【0009】
本明細書で使用する場合、「対象」又は「患者」という用語は、ほ乳類を示し、好ましくはヒトである。典型的には、本発明により対象は、自閉症スペクトラム障害(ASD)に罹患しているか、又は罹患しやすい任意の対象を指す。
【0010】
本明細書で使用する場合、「自閉症スペクトラム障害」又は「ASD」という用語は、対象のコミュニケーション及び行動に影響を及ぼす発達障害を示す。Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disordersによれば、自閉症は、他者とのコミュニケーション及び相互作用が困難であること、制限された興味及び活動、並びに反復行動を特徴とする(American Psychiatric Association. (2013). Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th ed.). Arlington, VA: Author)。
【0011】
本明細書で使用する場合、「処置」又は「処置する」という用語は、予防的(prophylactic)又は予防的(preventive)処置と、治癒的又は疾患修飾的処置の両方を指し、これには疾患に罹患するリスクのある、又は疾患に罹患した疑いのある患者の処置、及び病気であるか、又は疾患もしくは医学的状態を患っていると診断された患者の処置が含まれる。またこの用語には、臨床的再発の抑制が含まれる。処置は、医学的障害を有する、又は最終的に障害を負うおそれのある対象に対して、障害もしくは再発性障害の1つ以上の症状を予防し、治癒し、その発症を遅延させ、その重症度を軽減し、もしくは改善するために、又は、対象の生存期間を、このような処置が行われない場合に予想される生存期間よりも延長するために、施すことができる。「治療レジメン」は、疾患の処置パターン、例えば、治療中に使用される投与パターンを意味する。治療レジメンは、導入レジメン及び維持レジメンを含みうる。「導入レジメン」又は「導入期間」という語句は、疾患の初期処置に使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。導入レジメンの一般的な目的は、処置レジメンの初期期間に、高レベルの薬剤を患者に提供することである。導入レジメンは「負荷レジメン(loading regimen)」を利用する(部分的又は全体的に)場合がある。これは、維持レジメン中に医師が利用するであろうより多量の薬剤を投与すること、維持レジメン中に医師が薬剤を投与するであろうより頻繁に薬剤を投与すること、又はそれらの両方を含みうる。「維持レジメン」又は「維持期間」という語句は、病気の処置中の患者の維持、例えば、患者を長期間(数か月又は数年)寛解状態に保つために使用される処置レジメン(又は処置レジメンの一部)を指す。維持レジメンは、継続的治療(例えば、毎週、毎月、毎年等の定期的な間隔で、薬剤を投与すること等)又は間欠的治療(例えば、処置の中断、間欠的処置、再発時の処置又は特定の所定の基準[例えば、疼痛、疾患の兆候等]に至った時の処置)を利用する場合がある。
【0012】
特に、本発明の方法は、それを必要とする対象におけるASDの少なくとも1つの症状を緩和するのに特に有用であり、前記少なくとも1つの症状は、社会的行動障害、常同行動及び/又は過度の不安である。
【0013】
本明細書で使用する場合、「社会的行動障害」という用語は、対象が言語的及び非言語的コミュニケーションに困難を抱えている状態を示す。例として、症状は、異常又は不適切な身振り手振り(body language)、ジェスチャー及び表情、他人への関心の欠如、又は興味もしくは成果の共有の欠如、他人に近づこうとしないこと、又は社会的相互作用を追求しようとしないこと、よそよそしく見え、かつ分離していること(comes across as aloof and detaches)、一人でいることを好むこと、他人の感情、反応及び非言語的な合図を理解するのが困難、触れられることに抵抗があること、友人を作るのが困難又は不可能、話し方の習得が遅れる、又はまったく話さないこと、変則的な声のトーン、又は奇妙なリズムもしくはピッチで話すこと、コミュニケーションの意図なしに単語又は語句を何度も繰り返すこと、会話を始めること、又はそれを継続すること(starting a conversation of keeping it going)が苦手、ニーズ又は欲求を伝えるのが困難、簡単な発言又は質問を理解できないこと、及び/又は言われたことを文字通りに受け取ること、ユーモア、皮肉及び嫌味に気が付かないことを含みうる(American Psychiatric Association. (2013). Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th ed.). Arlington, VA: Author)。
【0014】
本明細書で使用する場合、「常同行動」という用語は、対象がその行動、活動及び/又は興味において、制限的、硬直的及び/又は強迫的であることに悩まされている(suffers from restricted, rigid and/or obsessive)状態を示す。例として、症状は、認知障害、反復的な体の動き、絶えず動くこと、珍しいものへの執着、興味を持った狭い主題(場合により数字又は記号を含む)への没頭、同一性、順序及び決まった動作(routines)に対する強い欲求(決まった動作又は環境が変わると取り乱してしまう)、不器用さ、変則的な姿勢、又は奇妙な動き方、回転する物体に魅了されること、おもちゃの部品もしくは部分を動かすこと、並びに/又は感覚入力に対する反応性が過大もしくは過小であることを含みうる(American Psychiatric Association. (2013). Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th ed.). Arlington, VA: Author)。
【0015】
本明細書で使用する場合、「過度の不安」という用語は、対象が生活環境について頻繁な、強い、過度の持続的な心配及び恐怖に悩まされている状態を示す。例として、症状は、集中又は睡眠が困難であること、過敏であること、筋肉が緊張していること、感情又は心配を制御することが困難であること、めまい又は動悸、落ち着かない、又は心配に感じることを含みうる(U.S. Department of Health and Human Services, National Institutes of Health, National Institute of Mental Health. (2015). NIMH Strategic Plan for Research (NIH Publication No. 02-2650). http://www.nimh.nih.gov/about/strategic-planning-reports/index.shtmlから取得)。
【0016】
本明細書で使用する場合、「臭化物塩」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、カチオン形態にある臭素と1つのアニオンとのイオン会合体(ionic assembly)からなる無機化合物を指す。ある実施態様において、臭化物塩は、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩又はリチウム塩から選択され、単独であるか、又は前記塩のうちの2つ、3つ、4つもしくは5つの混合物である。
【0017】
特定の実施態様において、臭化物塩は、臭化ナトリウム(NaBr)である。別の特定の実施態様において、臭化物塩は、臭化カリウム(KBr)である。
【0018】
本明細書で使用する場合、「陽性アロステリックモデュレーター」又は「PAM」という用語は、レセプターに結合して、アゴニスト親和性を高め(すなわち、アゴニストがレセプターに結合する確率を高め)、かつ/又はアゴニスト効力を高める(すなわち、そのレセプターを活性化する能力を高める)物質群を示す(Abdel-Magid AF. Allosteric modulators: an emerging concept in drug discovery. ACS Med Chem Lett. 2015;6(2):104-107. Published 2015 Jan 8. doi:10.1021/ml5005365)。
【0019】
本明細書で使用する場合、「mGlu4レセプター」又は「代謝調節型グルタミン酸レセプター4」という用語は、代謝調節型グルタミン酸レセプターファミリーのグループIIIに属するタンパク質を示す。代謝調節型グルタミン酸レセプターは、Gタンパク質共役型レセプターのファミリーであり、配列の相同性、推定されるシグナル伝達メカニズム及び薬理学的特性に基づいて、3つのグループに分けられている。グループIIIレセプターは、サイクリックAMPカスケードの阻害に関連付けられている。リガンド結合により、グアニンヌクレオチド結合タンパク質(Gタンパク質)を介したシグナル伝達の引き金となるコンホメーション変化が生じ、下流エフェクターの活性がモデュレートされる。シグナル伝達により、アデニル酸シクラーゼ活性が阻害される(Wu S, Wright RA, Rockey PK, et al. Group III human metabotropic glutamate receptors 4, 7 and 8: molecular cloning, functional expression, and comparison of pharmacological properties in RGT cells. Brain Res Mol Brain Res. 1998;53(1-2):88-97. doi:10.1016/s0169-328(97)00277-5)。
【0020】
MGlu4レセプターは、GRM4遺伝子(遺伝子ID:2914;Ensembl:ENSG00000124493;OMIM:604100;UniProt:Q14833)によりコードされる。
【0021】
例として、mGlu4レセプターのPAMは、VU0155041(CAS番号:1093757-42-6)、PXT-002331(CAS番号:2133294-96-7)、DT-1687(CAS番号:1883329-53-0)、VU0361737(CAS番号:1161205-04-4)、VU0364770(CAS番号:61350-00-3)、VU0418506、VU001171、VU0652957(CAS番号:1976050-09-5)、PHCCC(CAS番号:179068-02-1)又はAB120043(CAS番号:68-19-9)であってよい。
【0022】
特定の実施態様において、mGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーターは、式(I):
【化1】

を有するVU0155041である。
【0023】
本明細書で使用する場合、「組み合わせ」という用語は、第1の薬剤を更なる(第2、第3...)の薬剤と共に提供する全ての投与形態を指すことを意図している。薬剤を同時に、別々に又は順次、かつ任意の順序で投与することができる。組み合わせで投与される薬剤は、薬剤が送達される対象において、生物学的活性を有する。それ故に、本発明の文脈において、組み合わせは少なくとも2種の異なる薬剤を含み、一方の薬剤は臭化物塩であり、他方の薬剤は、mGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーターである。本発明によれば、本発明の組み合わせにより、相乗効果がもたらされる。本明細書で使用する場合、「相乗効果」という用語又はその文法的変形形態は、2種以上の活性化合物の組み合わせにおいて生じる協働作用を意味し、それを含む。この協働作用では、2種以上の活性化合物の組み合わせ活性は、各活性化合物単独での活性の合計を超える。
【0024】
ある実施態様において、臭化物塩は、慢性的に投与される。本明細書で使用する場合、「慢性的に」という用語は、持続的かつ反復的な方法でという意味であるが、必ずしも一定の間隔でという意味ではない。
【0025】
ある実施態様において、臭化物塩は、少なくとも1日に1回投与される。ある実施態様において、臭化物塩は、少なくとも1週間に1回投与される。ある実施態様において、臭化物塩は、少なくとも2週間に1回投与される。
【0026】
ある実施態様において、mGlu4の陽性アロステリックモデュレーター(PAM)は、1日に少なくとも1回投与される。ある実施態様において、mGlu4の陽性アロステリックモデュレーター(PAM)は、1週間に少なくとも1回投与される。ある実施態様において、mGlu4の陽性アロステリックモデュレーター(PAM)は、2週間に少なくとも1回投与される。
【0027】
本明細書で使用する場合、上記の「治療上有効量」という用語は、臭化物塩及びmGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)化合物の、治療効果を達成する(ASDの少なくとも1つの症状を緩和する)のに十分な量を意味する。ただし、本発明の化合物及び組成物の1日の総使用量は、健全な医学的判断の範囲内で、主治医により決定されるであろうことが理解されるであろう。任意の特定の対象に対する治療上有効な用量の具体的なレベルは、処置される障害及び障害の重症度、利用される具体的な化合物の活性、利用される具体的な組成物、対象の年齢、体重、一般的な健康状態、性別及び食事、利用される具体的な化合物の投与時間、投与経路及び排泄速度、処置期間、利用される具体的なポリペプチドと組み合わせて又は同時に使用される薬剤、並びに医学技術分野において周知の同様の要因を含む、種々の要因によって決まる。例えば、化合物の用量を、所望の治療効果を達成するのに必要な用量より低いレベルから開始し、所望の効果が達成されるまで徐々に投与量を増加させることは、充分に当該分野の技能の範囲内である。
【0028】
ある実施態様において、臭化物塩は、少なくとも10mg/kg投与される。
【0029】
ある実施態様において、臭化物塩は、少なくとも30mg/kg投与される。
【0030】
ある実施態様において、臭化物塩は、少なくとも70mg/kg投与される。
【0031】
ある実施態様において、臭化物塩は、少なくとも125mg/kg投与される。
【0032】
ある実施態様において、臭化物塩は、少なくとも145mg/kg投与される。
【0033】
ある実施態様において、臭化物塩は、少なくとも250mg/kg投与される。
【0034】
ある実施態様において、臭化物塩は、少なくとも500mg/kg投与される。
【0035】
ある実施態様において、mGlu4レセプターのアロステリックモデュレーターは、少なくとも1mg/kg投与される。
【0036】
本発明の更なる目的は、自閉症スペクトラム障害(ASD)を患っている対象に投与されるmGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)の効力を増強する方法であって、薬学的に有効な量のmGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)を、臭化物塩と組み合わせて該対象に投与することを含む、方法に関する。
【0037】
ある実施態様において、本発明は、自閉症スペクトラム障害(ASD)を患っている対象に投与されるVU0155041の効力を増強する方法であって、薬学的に有効な量のVU0155041を、臭化ナトリウムと組み合わせて該対象に投与することを含む、方法に関する。
【0038】
部品キット
第2の態様では、本発明は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の処置において、同時に、別々に又は順次使用するための組み合わせ調製物としての、i)臭化物塩及びii)mGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)に関する。
【0039】
本明細書で使用する場合、「同時使用」という用語は、同時に起こる、臭化物塩とmGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)の使用を示す。
【0040】
本明細書で使用する場合、「別々の使用」という用語は、同時に起こることのない、臭化物塩とmGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)の使用を示す。
【0041】
本明細書で使用する場合、「順次使用」という用語は、ある順序に従って起こる、臭化物塩とmGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)の使用を示す。
【0042】
ある実施態様において、本発明は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の処置において、同時に、別々に又は順次使用するための組み合わせ調製物としての、i)臭化ナトリウム及びii)VU0155041に関する。
【0043】
治療組成物
第3の態様では、本発明は、臭化物塩とmGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)を含む治療組成物であって、それを必要とする対象における自閉症スペクトラム障害(ASD)の処置に使用するための、治療組成物に関する。
【0044】
ある実施態様において、本発明は、臭化ナトリウムとVU0155041を含む治療組成物であって、それを必要とする対象における自閉症スペクトラム障害(ASD)の処置に使用するための、治療組成物に関する。
【0045】
典型的には、臭化物塩及びmGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)を、薬学的に許容し得る賦形剤、及び場合により徐放性マトリックス、例えば生分解性ポリマーと組み合わせて、治療組成物を形成することができる。
【0046】
「薬学的に」又は「薬学的に許容し得る」は、必要に応じてほ乳類、特にヒトに投与されたとき、有害反応、アレルギー反応又は他の不都合な反応を生じない分子実体及び組成物を指す。薬学的に許容し得る担体又は賦形剤は、任意のタイプの、無毒性の固体、半固体又は液体である充填剤、希釈剤、カプセル化材料又は製剤補助剤を指す。経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、局所又は直腸投与のための本発明の医薬組成物においては、活性成分を単独で、又は別の活性成分と組み合わせて、単位投与形態で、従来の医薬支持体との混合物として、動物及びヒトに投与することができる。適切な単位投与形態は、経口経路形態、例えば、錠剤、ゲルカプセル剤、散剤、顆粒剤及び経口懸濁剤又は液剤、舌下及びバッカル投与形態、エアロゾル、インプラント、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、皮下、経皮、髄腔内及び鼻内投与形態並びに直腸投与形態を含む。小腸又は結腸における特定の送達のために、ガレヌス製剤化(Galenic adaptations)を行ってもよい。好ましくは、医薬組成物は、注射可能な製剤用の、薬学的に許容し得る媒体を含有する。これらは特に、等張性かつ無菌の塩類溶液(リン酸一ナトリウムもしくは二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムもしくは塩化マグネシウム等、又はこれらの塩の混合物)、又は乾燥組成物、特に凍結乾燥組成物(場合により滅菌水又は生理食塩水を加えることにより、注射用溶液の構成が可能である)であってよい。注射用途に適した医薬形態は、無菌水溶液又は分散液;ゴマ油、ピーナッツ油又は水性プロピレングリコールを含む製剤;及び無菌注射用溶液又は分散液を即時調製するための無菌粉末を含む。全ての場合において、製剤は、無菌であり、かつ容易に注射できる程度の流動性がなければならない。製剤は、製造及び保存の条件下で安定であり、かつ微生物、例えば細菌及び真菌の汚染作用に対して保護されていなければならない。本発明の臭化物塩及びmGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)(遊離塩基又は薬理学的に許容し得る塩としての)を含む溶液を、界面活性剤、例えばヒドロキシプロピルセルロースと適切に混合させた水中で調製することができる。また、グリセロール、液状ポリエチレングリコール及びそれらの混合物中、並びに油中で分散液を調製することもできる。通常の保存及び使用条件下では、これらの調製物は、微生物の増殖を防ぐために保存剤を含有する。本発明の臭化物塩及びmGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)を、中性又は塩の形態で配合し、組成物とすることができる。薬学的に許容し得る塩は、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基と形成されるもの)を含み、酸付加塩は、塩酸もしくはリン酸等の無機酸、又は酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸等の有機酸と形成される。また、遊離カルボキシル基と形成される塩は、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム又は水酸化第二鉄等の無機塩基、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカイン等の有機塩基に由来するものであってよい。また担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール及び液状ポリエチレングリコール等)、それらの適切な混合物及び植物油を含有する溶媒又は分散媒であってよい。適切な流動性を、例えば被覆(例えばレシチン)の使用により、必要な粒径の維持により(分散液の場合)、及び界面活性剤の使用により、維持することができる。種々の抗菌剤及び抗真菌剤(antifusoluble agent)、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等により、微生物作用の防止をもたらすことができる。多くの場合、等張剤、例えば糖類又は塩化ナトリウムを含むことが好ましいであろう。注射用組成物の吸収の延長を、吸収を遅延させる薬物、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物中で使用することによりもたらすことができる。無菌の注射用溶液は、必要量の活性ポリペプチドを、適切な溶媒に、必要に応じて上記列挙された種々の他の成分と共に組み入れ、次いでろ過滅菌することにより調製される。一般に、分散液は、種々の滅菌された有効成分を無菌媒体(基本的な分散媒体と、上記列挙された成分からの必要な他の成分を含有する)に組み入れることにより調製される。滅菌注射用溶液を調製するための無菌粉末の場合、好ましい調製方法は真空乾燥及び凍結乾燥技術であり、これらは、有効成分+任意の所望の追加成分の粉末を、それらの予め滅菌濾過された溶液から生成する。製剤されると、液剤は、投与剤型に適合した方法で、治療上有効であるような量投与される。製剤は、各種の剤形、例えば上記の形式の注射用溶液で容易に投与されるが、薬剤放出カプセル等を利用することもできる。例えば、水溶液で非経口投与する場合、液剤を必要に応じて緩衝化すべきであり、また液体希釈剤をまず十分な食塩又はグルコースで等張すべきである。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内投与に特に適している。これに関連して、利用することができる無菌水性媒体は、本開示に照らして、当業者に公知であろう。例えば、1投与量を等張なNaCl溶液 1mlに溶解させて、皮下注入液 1000mlに加えるか、又は注入予定部位に注射するかのいずれかを行うことができる。処置される対象の状態に応じて、投与量には必然的に幾らかの変動が生じるであろう。複数回の投与も可能である。非経口投与(例えば静脈内又は筋肉内注射)用に製剤された、本発明の臭化物塩及びmGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーター(PAM)に加えての、他の薬学的に許容し得る形態は、例えば、経口投与用の錠剤その他の固体;リポソーム製剤;徐放性カプセル剤;及び他の任意の現在使用されている形態を含む。
【0047】
ある実施態様において、本発明は、臭化ナトリウム及びVU0155041を含む治療組成物であって、対象における自閉症スペクトラム障害(ASD)の処置に使用するためのものであり、対象はそれを必要とする、治療組成物に関する。
【0048】
ある実施態様において、本発明の治療組成物は、少なくとも1種の更なる治療活性剤を含んでいてよい。例として、少なくとも1種の更なる治療活性剤は、利尿剤、例えば、ブメタニド(CAS番号:28395-03-1)、抗不安剤、例えば、クロバザム(CAS番号:22316-47-8)、クロラゼパート(CAS番号:57109-90-7)、ノルダゼパム(CAS番号:1088-11-5)、ジアゼパム(CAS番号:439-14-5)、プラゼパム(CAS番号:2955-38-6)、アルプラゾラム(CAS番号:28981-97-7)、ブロマゼパム(CAS番号:1812-30-2)、ロラゼパム(CAS番号:846-49-1)、オキサゼパム(CAS番号:604-75-1)、ヒドロキシジン(CAS番号:68-88-2)、抗精神病剤、例えば、リスペリドン(CAS番号:106266-06-2)、アリピプラゾール(CAS番号:129722-12-9)、オランザピン(CAS番号:132539-06-1)、神経遮断剤、例えば、ラモトリジン(CAS番号:84057-84-1)、カルバマゼピン(CAS番号:298-46-4)、バルプロミド(CAS番号:2430-27-5)、筋弛緩剤、例えば、バクロフェン(CAS番号:1134-47-0)、抗うつ剤、例えば、フルオキセチン(CAS番号:54910-89-3)、セルトラリン(CAS番号:79617-96-2)、パロキセチン(CAS番号:61869-08-7)及び/又は興奮剤、例えば、リタリン(CAS番号:113-45-1)もしくはカフェイン(CAS番号:58-08-2)であってよい。
【0049】
ある実施態様において、本発明の治療組成物は、少なくとも1種の更なる化合物、例えば、グルタミン酸、ビタミンB6及び/又はビタミンB12を含んでいてよい。
【0050】
本発明を下記図面及び実施例によりさらに例証するものとする。ただし、これらの実施例及び図面は、いかなる形であれ、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】慢性の臭化ナトリウムは、Oprm1-/-マウスにおける社会的行動障害を用量依存的に緩和し、慢性のブメタニドより優れた効果を示した。(A)Oprm1+/+及びOprm1-/-マウスを、NaBr(0、125~500mg/kg:遺伝子型及び用量毎にn=14~20匹のマウス;10~70mg/kg:遺伝子型及び用量毎にn=8匹のマウス)又はブメタニド(0、0.5及び2mg/kg:遺伝子型及び用量毎にn=8~10匹のマウス)のいずれかで、1日1回18日間処置した。行動試験を8日目に開始した。慢性投与中止後1週間及び2週間で、社会的相互作用を再試験した。(B)直接社会的相互作用試験(9日目)において、NaBrの慢性投与(B1)は、用量125mg/kg超で、Oprm1欠損マウスの社会的障害を用量依存的に緩和した。Oprm1+/+マウスでは、検出可能な効果はなかった。ブメタニド(B2)では、部分的な効果しかなく、鼻接触の回数が増加し(低用量)、社会的接触後のグルーミングが抑制された。最高用量では、野生型対照における社会的相互作用を障害した。(C)処置中止の1週間後、125mg/kg超の用量で、臭化物投与の有益な効果が維持されていた。鼻接触の継続時間及び社会的接触後のグルーミングに対する(one)ブメタニドの効果は、まだ検出可能であった。(D)3室試験において、NaBr処置は、用量10mg/kg以降で、Oprm1突然変異体における社会的嗜好性を救済したが、ブメタニドは、マウスに対する興味を増加させたが、物体に対する異常な興味を減少させなかった。結果を散布図及び平均値±semで示した。ダガー:遺伝子型の影響、アスタリスク:処置の効果、黒星:遺伝子型×処置の相互作用(野生型媒体条件との比較)、白星:遺伝子型×処置×刺激の相互作用(マウス対物体の比較)、(a)遺伝子型×処置の相互作用(ノックアウト媒体条件との比較、p<0.001)(二元配置分散分析又は三元配置分散分析(反復測定時に刺激(with stimulus as repeated measure))、次いでNewman-Keulsポストホック検定)。記号1つ:p<0.05、記号2つ:p<0.01、記号3つ:p<0.001。3-Ch:3室試験、M:マウス、MB:ガラス玉覆い隠し、MS:運動常同性、NSF:新奇環境摂食抑制、SI:社会的相互作用、T:おもちゃ、Y-M:Y字迷路。
図2】臭化ナトリウムの慢性処置は、Oprm1-/-マウスにおける常同行動及び不安を減少させた。実験のタイムライン及び動物番号は、図1Aを参照のこと。(A)NaBr(A1)の慢性投与は、Oprm1-/-マウスにおいて、用量10mg/kg以降で常同旋回エピソードを抑制し、一貫性は低いが(less consistently)首振りの回数を減少させた(125mg/kg超の用量)。野生型対照において、500mg/kg NaBrは、グルーミングエピソード及び首振りの頻度を増加させた。ブメタニド(A2)は、常同旋回及び首振りを抑制した。(B)ガラス玉覆い隠し試験において、慢性の臭化物は、両マウス系統において、埋められたガラス玉の個数を全体的に増加させたが、ブメタニドは、有意な効果を示さなかった。(C)Y字迷路において、NaBrは、用量70mg/kgから、執拗に同一のアームに戻ること(perseverative same arm returns)を抑制した。ブメタニドは、用量0.5mg/kgでは忍耐を緩和する傾向が明らかであったものの、有意な効果は有さなかった。(D)新奇環境摂食抑制試験において、臭化ナトリウムは、試験された最低用量以降で、Oprm1欠損マウスにおける摂食潜時(latency to feed)を野生型レベルに正常化し、全てのマウスにおいて摂食量を増加させた。ブメタニドは、この試験において有意な効果を示さなかった。結果を散布図及び平均値±semで示した。ダガー:遺伝子型の影響、アスタリスク:処置の効果、黒星:遺伝子型×処置の相互作用(野生型媒体条件との比較)(二元配置分散分析、次いでNewman-Keulsポストホック検定)。記号1つ:p<0.05、記号2つ:p<0.01、記号3つ:p<0.001。
図3】臭化ナトリウムの慢性投与は、Fmr1-/-及びShank3Δex13-16-/-マウスにおける社会的行動障害を緩和した。(A)Fmr1-/-又はShank3Δex13-16-/-(「Shank3-/-」)、及びそれぞれの対応する野生型(their respective wild-type counterparts)を、NaBr(0又は250mg/kg;遺伝子型及び処置毎にn=8匹のマウス)で、1日1回18日間処置した。行動試験を8日目に開始した。社会的相互作用を、慢性投与中止後1週間(25日目)で再試験した。(B)直接社会的相互作用試験において、NaBrの慢性処置は、Fmr1及びShank3突然変異系統の両方において、相互作用パラメーターを野生型レベルに正常化した。(C)処置中止の1週間後、これらの有益な効果は、Fmr1-/-マウスでは完全に維持されていたが、Shank3Δex13-16-/-マウスでは、幾つかのパラメーターについてのみ検出された。(D)3室試験において、NaBrの慢性投与は、Shank3Δex13-16-/-マウスにおいて、マウスと鼻を長く接触させる嗜好性を救済し、その結果、嗜好比が上昇した。(E)臭化ナトリウムの慢性処置は、Fmr1-/-及びShank3Δex13-16-/-マウスにおいて、常同旋回及び首振りを抑制し、後者においてグルーミングを正常化した。(F)NaBrは、Fmr1-/-及びFmr1+/+におけるガラス玉覆い隠しを減少させたが、Shank3Δex13-16-/-マウスにおける覆い隠しの減少には影響を及ぼさなかった。(G)Y字迷路探索において、慢性のNaBrは、Fmr1及びShank3突然変異系統の両方において、執拗に同一のアームに戻ることを抑制した。(H)最後に、新奇環境摂食抑制試験において、臭化ナトリウムで処置されたFmr1-/-又はShank3Δex13-16-/-マウスはそれぞれ、摂食潜時の短縮又は正常化を示したが、摂食量に変化はなかった。結果を散布図及び平均値±semで示す。ダガー:遺伝子型の影響、黒星:遺伝子型×処置の相互作用(野生型媒体条件との比較)、白星:遺伝子型×処置×刺激の相互作用(マウス対物体の比較)、(a)遺伝子型×処置の相互作用(ノックアウト媒体条件との比較、p<0.001)、(c)遺伝子型×処置の相互作用(ノックアウト媒体条件との比較、p<0.05)(二元配置分散分析又は三元配置分散分析(反復測定時に刺激)、次いでNewman-Keulsポストホック検定)。記号1つ:p<0.05、記号2つ:p<0.01、記号3つ:p<0.001。3-Ch:3室試験、AAR:交替アーム戻り(alternate arm returns)、M:マウス、MB:ガラス玉覆い隠し、MS:運動常同性、NSF:新奇環境摂食抑制、SAR:同一アーム戻り、SPA:自発的交替、SI:社会的相互作用、T:おもちゃ、Y-M:Y字迷路。
図4】臭化ナトリウム及びmGlu4レセプターの陽性アロステリックモデュレーターであるVU0155041の有益な効果は、Oprm1-/-マウスにおいて相乗的であった。(A)Oprm1+/+及びOprm1-/-マウスを、媒体、NaBr(70mg/kg)、VU0155041(1mg/kg)、又はNaBr及びVU0155041(それぞれ70及び1mg/k;遺伝子型及び用量毎に8匹のマウス)のいずれかで、1日1回18日間処置した。行動試験を8日目に開始した。社会的相互作用を、慢性投与中止後1週間及び2週間で再試験した。(B)直接社会的相互作用試験において、NaBr及びVU0155041の処置は、Oprm1-/-マウスにおける鼻及び足接触の継続時間回復において相乗効果を示した。一方、1mg/kgのVU0155041は、社会的接触後のグルーミングを抑制するのに十分であった。NaBr/VU0155041併用の有益な効果は、処置中止後1週間及び2週間でも完全に維持されていた。(C)3室試験において、1mg/kgのVU0155041は、Oprm1-/-マウスにおけるマウスとの鼻接触の継続時間を、おもちゃとのそれにまで増加させた。70mg/kgのNaBr及びNaBr/VU0155041の併用処置は、マウスとのより長い鼻接触を完全に回復させた。(D)NaBr/VU0155041の併用投与は、Oprm1-/-及びOprm1+/+マウスにおいて首振りを減少させ、(E)Oprm1欠損マウスにおいてのみ、ガラス玉覆い隠しを正常化させた。(F)VU0155041処置は、Y字迷路を探索するOprm1-/-マウスにおいて、執拗に同一のアームに戻ることを抑制するのに十分であり、(G)NaBr投与は、新奇環境摂食抑制試験において、摂食潜時を正常化するのに十分であった。(H)50℃での尾浸漬試験において、NaBr/VU0155041の併用処置のみが、Oprm1-/-マウスのフリッキング(flicking)潜時を野生型レベルに回復させた。結果を散布図及び平均値±semで示す。黒星:遺伝子型×NaBr×VU0155041の相互作用(野生型媒体条件との比較)、白星:遺伝子型×刺激×NaBr×VU0155041の相互作用(マウス対物体の比較)、(a)遺伝子型×NaBr×VU0155041の相互作用(ノックアウト媒体条件との比較、p<0.001)、ダブルダガー:NaBr×VU0155041の相互作用、アンパサンド:遺伝子型×VU0155041の相互作用、セクション:遺伝子型×NaBrの相互作用(三元配置又は四元配置分散分析、次いでNewman-Keulsポストホック検定)。記号1つ:p<0.05、記号2つ:p<0.01、記号3つ:p<0.001。3-Ch:3室試験、M:マウス、MB:ガラス玉覆い隠し、MS:運動常同性、NSF:新奇環境摂食抑制、SI:社会的相互作用、T:おもちゃ、TI:尾浸漬、Y-M:Y字迷路。
図5】臭化物イオンは、mGlu4レセプターのPAMとして振る舞い、かつmGlu4 PAMであるVU0155041との相乗効果を示す。(A)キメラGタンパク質Gαqi9と共役(ホスホイノシチド経路の動員を可能にするため)した場合の、mGlu4レセプターのシグナル伝達カスケード、並びにカルシウム動員(パネルB)及びIP1蓄積アッセイ(パネルC)の実験原理。(B)カルシウム動員アッセイにおいて、臭化物イオンはmGlu4のPAMとして振る舞い、pEC50及びEmaxの両方に対して、塩化物イオンより広範な効果を示した。(C)IP1蓄積アッセイにおいて、臭化物についてそのPAM効果が確認された。VU0155041が補充されると、ΔpEC50の更なる上昇に見られるように、まさしくmGlu4シグナル伝達の促進が向上した。3回同様に(in triplicates)実施された3つの独立した実験の結果を、平均値±SEMで示す。黒星:Emaxに対するイオン濃度の影響、アスタリスク:ΔpEC50に対するイオン濃度の影響、生理的条件(100mM Cl+50mM グルコン酸)との比較、(a):高塩化物条件(150mM Cl、p<0.0001)との比較、ハッシュタグ:ΔpEC50に対するイオン濃度及びVU0155041の影響、生理学条件(100mM Cl+50mM グルコン酸)との比較、(b)及び(c):VU0155041有り又は無しの臭化物条件(100mM Cl+50mM Br)との比較(p<0.0001)(一元配置分散分析、次いでTukeyのポストホック検定)。記号2つ:p<0.001、記号3つ:p<0.0001。DAG:ジアシルグリセロール、ER:小胞体、F4:Fluo4カルシウムプローブ、FRET:蛍光共鳴エネルギー移動、PLC:ホスホリパーゼC、IP1/2/3:イノシトール一/二/三リン酸。
【0052】
実施例
材料及び方法
動物、繁殖手法及び飼育条件
Oprm1-/-(B6.129S2-Oprm1tm1Kff/J)(58)、及びShank3Δex13-16-/-(B6.129-Shank3tm2Gfng/J、いわゆるShank3B-/-、PDZドメイン欠損)(55)マウス系統は、Jackson Laboratories(Farmington, USA)から入手し、ハイブリッドバックグラウンド(50% 129SVPas-50% C57BL/6J)で繁殖させた。Fmr1-KO2マウス(59)は、有難くも(generously)R. Willemsen氏(Erasmus University Medical Center, Rotterdam, The Netherlands)から提供され、C57BL/6Jバックグラウンドで繁殖させた。遺伝的派生を防ぐために、ヘテロ接合体動物から繁殖させたホモ接合体の両親から、同等数の雄マウスと雌マウスを社内で誕生させた。この繁殖スキームは、出生後の発達初期に一緒にしておくことによる、突然変異マウスにおける社会的障害に好都合であった。特に断らない限り、動物は集団飼育し、12時間の明暗サイクル(午前7:00点灯)で、管理された温度(21±1℃)に維持した。餌及び水は自由に摂取させた。実験の分析を、遺伝子型及び実験条件がわからないようにして行った。全ての実験手法は、欧州共同体理事会指令2010/63/EUに従って行われ、Comite d'Ethique en Experimentation animale Val de Loire(C2EA-19)により承認されたものである。
【0053】
薬剤
媒体(0.9% NaCl;ip、10又は20ml/kg)、NaBr(Sigma-Aldrich, Saint-Quentin Fallavier, France)(慢性的(1日1回、10、30、70、125、250及び500mg/kg;i.p.又はos、容量20ml/kg(VU0155041:10mg/kgとの併用を除く))もしくは急性的(250mg/kg、20ml/kg)のいずれかで投与)、KBr(Sigma-Aldrich, Saint-Quentin Fallavier, France;145mg/kg;i.p.、20ml/kg)、ブメタニド(R&D systems, Minneapolis, USA、0.5及び2mg/kg;i.p.、20ml/kg)又はVU0155041(Cayman Chemicals, Ann Arbor, USA、1日1回、i.p.、1mg/kg、10ml/kg)で、マウスを処置した。ブメタニドの用量は、ASDのげっ歯類モデルにおける先行研究(40、73)に基づいて選択した。VU0155041の境界用量(liminal dose)は、本発明者らの先行研究(51、60)及びパイロット実験(社会的相互作用試験において検出可能な効果を示さなかった)に基づいて設定した。処置を慢性的に与えた場合、毎日投与の開始から8日後に、行動試験を開始した。処置を8~18日間連続して維持した(図1及び図4におけるタイムラインを参照のこと)。これにより、徹底的な行動表現型検査が可能となった。試験当日、又は処置を急性的に与える場合には、薬剤(又は媒体)を行動アッセイの30分前に投与した。
【0054】
行動実験
慢性投与の影響を評価する場合、実験を連続して行った(図1及び図4におけるタイムライン)(51、60)。テストの順序を、後のアッセイでの不安の発生が最小限となるように選択した。直接社会的相互作用及び新奇環境摂食抑制を、白色プレキシグラス製プラットフォーム(View Point, Lyon, France)上の、高さ35cmの不透明な灰色プレキシグラス製の壁で仕切られた4つの正方形領域(オープンフィールド、50×50cm)で行った。3室試験に使用された刺激マウスは、8~14週齢の集団飼育されたオス又はメスの野生型マウスであり、実験動物に対して社会的にナイーブであった。
【0055】
社会的能力
直接社会的相互作用試験。試験当日、互いを見知っていない(unfamiliar)マウスのペア(ケージメイトではなく、年齢、性別及び処置が一致したもの)を各領域に10分間導入した(15lx)。各領域に、黒色のプラスチック床(赤外線透過性)を設置した。鼻の接触(鼻と鼻、鼻と体又は鼻と肛門性器部)に費やされた時間の合計、これらの接触回数、足の接触に費やされた時間及びこれらの接触回数、グルーミングエピソード(アログルーミング)(特に、社会的接触直後(5秒未満)に発生したもの)、並びに追尾エピソードの回数を、訓練を受けた実験者が、個々の動物に関し、ビデオ録画(赤外線感光ビデオカメラ)について、エソロジカルキーボード(Labwatcher(登録商標), View Point, Lyon, France)を使用して帰納的にスコア化した(51、60)。鼻及び足接触の平均継続時間を、以前のデータから算出した(61~63)。
【0056】
3室社会的嗜好性試験。試験装置は、透明なアクリル製の箱(外壁は黒色のプラスチックフィルムで遮光されている)からなり、間仕切りがその箱を3つの等しい部屋(40×20×22.5cm)に分割していた。2枚のスライドドア(8×5cm)により、部屋間の移動が可能であった。円筒形のワイヤーケージ(18×9cm、直径0.5cmの棒、間隔1cm)を、マウスインタラクター(interactor)及び物体(ソフトトイマウス)を入れるのに使用した。不安を軽減するために(to minor)、試験を低照度条件(15lx)で行った。試験前に2日間、刺激野生型マウスをワイヤーケージへの閉じ込めに馴化させた(20分/日)。試験当日、実験動物を中央の部屋に導入し、スライドドアを上げた後10分間の馴化期(ワイヤーケージは空にした)に、装置全体を探索させた。次いで、実験マウスを中央室に戻して閉じ込める一方、実験者は、端の部屋の一方におけるワイヤーケージに、週齢及び性別が一致した、互いを見知っていない野生型動物を、第2のワイヤーケージには、新奇性のための対照として、ソフトトイマウス(8×10cm)を導入した。次いで、10分間の相互作用期の間、実験マウスに装置を探索させた。各部屋で費やした時間、鼻を各ワイヤーケージ(空:馴化;マウス又はおもちゃが入っている:相互作用)と接触させるのに費やされた時間、及びこれらの鼻の接触の回数を、訓練を受けた実験者が、ビデオ録画について、エソロジカルキーボード(Labwatcher(登録商標), View Point, Lyon, France)を使用して帰納的にスコア化した。鼻接触の平均継続時間を、これらのデータから算出した(61~63)。刺激マウス(対おもちゃ)の相対位置を、グループ間で釣り合わせた(counterbalanced)。
【0057】
常同行動
運動常同性。突然変異型動物対野生型動物の運動常同性を検出するため、マウスを個々に、深さ3cmの新鮮なおがくずを入れた透明な標準ホームケージ(21×11×17cm)に10分間入れた(64)。光度を30luxに設定した。首振り及び立ち上がり、覆い隠し、グルーミング、旋回エピソードの回数、並びに覆い隠しに費やされた時間の合計を、訓練された実験者が、直接観察によりスコア化した。
【0058】
Y字迷路探索。自発的交替行動を使用して、固執行動を評価した(65~67)。各Y字迷路は、3つのプレキシグラス製アーム(区別できる壁パターンで覆われている)が連結されたもの(15×15×17cm)からなるものであった(15lx)。不安を抑えるために、軽くスプレーをかけた(lightly sprayed)新鮮なおがくずで床を覆った。各マウスを迷路の中心に置き、5分間この環境を自由に探索させた。各アームへの進入パターンを、ビデオ録画について見積もった。自発的交替(SPA)、すなわち、各アームに続けて進入し、3つの組み合わせを重複して形成すること(forming overlapping triplet sets)、交替アーム戻り(AAR)及び同一アーム戻り(SAR)をスコア化し、SPA、AAR及びSARの割合を下記のように計算した。
合計/(全アーム進入数-2)100
【0059】
ガラス玉覆い隠し。ガラス玉覆い隠しを固執行動の尺度として使用した(68)。マウスを個々に、深さ4cmの新鮮なおがくずの上に等間隔に置いた20個のガラス玉(直径1.5cm)が入った、透明ケージ(21×11×17cm)に導入した。脱走を防ぐために、各ケージをフィルターとなる(filtering)蓋で覆った。室内の照度を40luxに設定した。15分後に動物をケージから取り出し、おがくずに半分以上埋められたガラス玉の個数を見積もった。
【0060】
不安様行動
新奇環境摂食抑制。新奇環境摂食抑制(NSF)を、個々の試験の30分前に標準的な飼育ケージに隔離した、24時間食餌を与えていないマウスで測定した。普通の実験用固形飼料の粒3つを、60lxで照明された各領域中央の白色ティッシュ上に置いた。各マウスを領域の隅に置き、最大15分間探索させた。摂食潜時を、食餌ペレットに噛み付くまでに要した時間として測定した。摂食イベント直後、マウスをホームケージ(ケージメイトは居ない)に戻し、5分間実験用固形飼料を摂食させた。ホームケージでの食物消費量を測定した。
【0061】
侵害受容閾値
尾浸漬試験。マウスの尾(先端から5cm)を48℃、50℃及び52℃の水浴に順次浸すことにより、侵害受容閾値を評価した。各温度において尾を引き上げるまでの潜時を測定し、10秒をカットオフ値とした。
【0062】
リアルタイム定量PCR分析
脳を取り出し、ブレインマトリックス(ASI Instruments, Warren, MI, USA)に入れた。側坐核(NAc)、尾状核被殻(CPu)、腹側淡蒼球/嗅結節(VP/Tu)、扁桃体内側核(MeA)及び腹側被蓋野/黒質緻密部(VTA/SNc)を、1mm厚のスライスから打ち抜いた/摘出した(dissected)(データを示さず)。組織を直ちにドライアイス上で凍結させ、使用するまで-80℃で保存した。目的の構造、遺伝子型及び条件毎に、サンプルを個々に処理した(n=8)。RNAを、Direct-Zol RNA MiniPrepキット(Zymo research, Irvine, USA)を使用して、抽出し、精製した。cDNAを、ProtoScript II Reverse Transcriptaseキット(New England BioLabs, Evry-Courcouronnes, France)を使用して合成した。qRT-PCRを、CFX384 Touch Real-Time PCR検出システム(Biorad, Marnes-la-Coquette, France)において、iQ-SYBR Green supermix(Bio-Rad)キットを使用して、Hard-Shell Thin-Wall 384-Well Skirted PCRプレート(Bio-rad)で、最終容量12μl中cDNA 0.25μlとして、4回同様に(in quadruplets)行った。Primer3ソフトウェアを使用して、100~150bpの産物が得られるように遺伝子特異的プライマーを設計した。相対発現比をアクチンのレベルに対して正規化し、2-ΔΔCt法を適用して、発現レベルの差を評価した。平均値との違いが標準偏差の2倍以上である遺伝子発現値を外れ値とみなし、以降の計算から除外した。
【0063】
細胞培養及びトランスフェクション
ヒト胚性腎臓(HEK)293細胞を、エレクトロポレーションにより、ホスホリパーゼ活性化を可能にするキメラGi/Gqタンパク質、及び細胞外グルタミン酸の影響を避けるためのグルタミン酸トランスポーターであるEAAC1と共に、ラットmGlu4レセプターで一過性にトランスフェクションした。カルシウム動員には、PLO被覆黒色壁透明底96ウェルプレート(Greiner Bio-One)に、100,000個/ウェルの密度で、IPOneアッセイには、PLO被覆黒色96ウェルプレート(Greiner Bio-One)に、50,000個/ウェルの密度で、細胞を播種した。10% ウシ胎児血清が補充されたDMEM(Gibco(商標), Life Technologies)中で、細胞を培養した。細胞外グルタミン酸濃度を低下させるため、実験の3時間前に細胞をGlutaMAX(Gibco(商標), Life Technologies)に交換した。
【0064】
in vitroアッセイのための塩化物及び臭化物バッファー
in vitro実験に使用されたバッファー中の塩化物イオン及び臭化物イオンの濃度を、生理学条件に最も適合するように選択した。脳脊髄液及び血清中のハロゲン(塩化物イオン及び臭化物イオン)の総量は、120~130mMに達する場合があること(69、70)と、臭化物は、塩化物濃度の30%まで置換可能であること(71)とが以前に示されており、これらから、塩化物及び臭化物の理論上の濃度は、91mM及び36mMとなる。このため本発明者らは、生理的対照として100mM 塩化物用量を選択し(グルコナートNaC11で補完して、バッファー間の浸透圧を同等に保った(56))、50mM 塩化物もしくは臭化物を添加し、又は添加せずに、in vitroでその効果を評価した。化学物質は、Sigma-Aldrich(Merck, L'lsle D'Abeau Chesnes, France)から購入した。全てのバッファーのpHを、実験前に7.4に調整した。
【0065】
カルシウム動員アッセイには、100mM NaCl、2.6mM KCl、1.18mM MgSO、10mM D-グルコース、10mM 4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、1mM CaCl及び0.5%(w/v) ウシ血清アルブミンを含むバッファーを使用し、50mMのNaCl、NaBr又はNaC11のいずれかを補充して、全アニオン濃度が154.6mMとなるようにした。
【0066】
IP蓄積アッセイには、46mM NaCl、4.2mM KCl、0.5mM MgCl、10mM HEPES、1mM CaCl、50mM NaC11及び50mM LiCl(IPの分解を避けるため)を含むバッファーを使用し、50mMのNaCl、NaBr又はNaC11のいずれかを補充して、全アニオン濃度が203.2mMとなるようにした。
【0067】
カルシウム動員及びIP蓄積アッセイ
カルシウム動員アッセイ:トランスフェクションの24時間後、細胞に、新鮮なClバッファー(154.6mM)で希釈した1μM カルシウム感受性蛍光色素(Fluo-4 AM;Invitrogen, Life Technologies)を、37℃及び5% COで1時間ローディングした。次いで細胞を洗浄し、4mM プロベネシドが補充された適切なバッファー中に維持した。アゴニストも適切なバッファーで希釈した。Ca2+放出を、μCell FDSS(Hamamatsu Photonics)を使用して測定した。ベースラインを20秒間記録した後、励起480nm及び発光540nmで、蛍光を60秒間記録した。
【0068】
IP蓄積アッセイ:イノシトール一リン酸蓄積を、IP-One HTRF(Homogenous Time Resolved Fluorescence)キット(Cisbio Bioassays, Perkin Elmer, Codolet, France)を使用し、製造者の推奨に従って測定した(72)。簡潔に述べると、d2ラベルIP及びTbラベル抗IP抗体を加える前に、適切なバッファー中、37℃及び5% COで30分間、試験化合物で処理しつつ、IPの蓄積を誘導するように細胞を刺激した。RTで1時間インキュベーションした後、Pherastar FS(BMG Labtech)を使用して、337nmでの励起後の、620nm及び665nmの発光を記録した。
【0069】
データ分析及び統計
in vivo実験
統計分析を、Statistica 9.0ソフトウェア(StatSoft, Maisons-Alfort, France)を使用して行った。全ての比較において、p<0.05の値を有意とみなした。行動実験における統計学的有意性を、一元又は二元配置分散分析(薬剤、刺激及び処置の効果)、次いでNewman-Keulsポストホック検定を使用して評価した。定量リアルタイムPCR(qRT-PCR)結果の有意性を、以前に記載されているように(60)、両側t検定を使用して変換した後に評価した。教師なしクラスタリング分析を、遺伝子型及び処置についての相関距離(ピアソン相関)での完全連鎖を使用して、変換後のqRT-PCRデータに対して行った(Cluster 3.0及びTreeviewソフトウェア)(51、60)。クラスタリング分析に使用する場合(データを示さず)、行動データを媒体-媒体条件(vehicle-vehicle condition)に対して正規化し、qRT-PCRデータと同じ式を使用して変換した。
【0070】
in vitro実験
Prism 6ソフトウェア(GraphPad Software, San Diego, CA, USA)を使用して、データを分析した。IP蓄積アッセイでは、各HTRF比を、各バッファーについての検量線を使用してIP濃度に変換し、次いで、HTRFシグナルに対するバッファー組成の影響を避けるため、模擬トランスフェクションされた(Mock-transfected)細胞に対して正規化した。全ての実験において、4パラメーター濃度反応曲線式を使用して、データをフィッティングし、効力(EC50)を対数(logEC50)として推定した。明確さのため、絶対(正)対数(pEC50)を使用した。Emaxは、飽和アゴニスト濃度で得られた最大応答を表わす。図面に示されたデータは、3回同様に実現された少なくとも3回の実験の平均値±SEMを表わす。pEC50、ΔpEC50及びEmax間の統計学的差異を、一元配置分散分析、次いでTukeyの事後検定を使用して決定した。
【0071】
結果
慢性の臭化ナトリウムは、Oprm1-/-マウスにおける社会的行動障害を緩和するのに、ブメタニドより有効であった
まず、本発明者らは、Oprm1-/-マウス及びその対応WTマウスにおいて、広範囲の用量(10~500mg/kg)にわたってNaBr投与の効果を評価し、ブメタニド投与(0.5及び2mg/kg)と比較した(図1A)。臨床状態を模倣するために、処置を慢性的に与えた。
【0072】
NaBr慢性処置の9日後に、社会的相互作用を評価した(図1B1図1B2)。Oprm1-/-マウスは、深刻な社会的相互作用の低下を示した。NaBr慢性投与は、鼻接触の回数(遺伝子型×処置:F6,163=13.2、p<0.0001)及び平均継続時間(遺伝子型×処置:F6,163=31.6、p<0.0001)の回復、並びに足接触の回数(遺伝子型×処置:F6,163=14.7、p<0.0001)及び平均継続時間(遺伝子型×処置:F6,163=14.5、p<0.0001)の正常化が証明するように、用量125mg/kgから用量依存的に、突然変異マウスにおけるこの障害を緩和した。また慢性のNaBrは、用量70mg/kg以降で、両マウス系統において、追尾エピソードの回数を増加させ(処置:F6,163=5.6、p<0.0001)、突然変異体において、社会的接触後のグルーミング頻度を正常化させた(遺伝子型×処置:F6,163=32.2、p<0.0001)。対照的に、NaBrの単回急性注射(250mg/kg)は、社会的相互作用パラメーターにほとんど影響を及ぼさなかった(データを示さず)。慢性的に与えられた場合、NaBr(70mg/kg以上)は、最高用量について、鼻接触の継続時間の回復が保持されたこと(遺伝子型×処置:F6,134=53.3、p<0.0001)、及び社会的接触後のグルーミングの抑制が維持されたこと(遺伝子型×処置:F6,134=30.4、p<0.0001)(図1C)が証明するように、処置中止後1週間でも検出可能な緩和効果をもたらした。これらの効果は、2週間後にはほとんど消失した(データを示さず)。
【0073】
慢性NaBrと比較して、慢性のブメタニドは、低用量において、鼻接触の回数(遺伝子型×処置:F2,42=22.6、p<0.0001)及び追尾エピソード(遺伝子型×処置:F2,42=12.9、p<0.0001)を増加させたが、鼻接触の継続時間(遺伝子型×処置:F2,42=22.6、p<0.0001)、又は足接触の回数(遺伝子型×処置:F2,42=14.9、p<0.0001)及び継続時間(遺伝子型×処置:F2,42=7.3、p<0.0001)を有意に増加させなかった。最後に、ブメタニドは、試験された最低用量以降で、グルーミングエピソード、特に社会的接触後に行われたものを抑制した(遺伝子型×処置:F2,42=80.7、p<0.0001)。注目すべきことに、ブメタニドの慢性処置は、WT対照において、社会的相互作用パラメーターへの悪影響を示した。用量にもよるが、ブメタニドの有益な効果は、特に鼻接触の継続時間(遺伝子型×処置:F2,42=9.3、p<0.0001)及び社会的接触後のグルーミングエピソード(遺伝子型×処置:F2,42=16.4、p<0.0001)において、処置中止後1週間でも検出可能であった(図1C)。
【0074】
3室試験(図1D)において、Oprm1-/-マウスは、マウス及びおもちゃとなされた鼻接触の回数が同等であり、おもちゃとの鼻接触がマウスとのものよりもさらに長いことが証明するように、社会的嗜好性に深刻な障害を示した。慢性のNaBrは、突然変異マウスにおける社会的嗜好性を完全に回復させ、この突然変異マウスは、投与された臭化物の最低用量以降で、より高頻度で(遺伝子型×処置×刺激:F6,160=3.5、p<0.001)、かつより長い(遺伝子型×処置×刺激:F6,160=8.9、p<0.0001)、マウスとの鼻接触を示した。これは、10mg/kg NaBr以上でその嗜好比の正常化をもたらした(遺伝子型×処置:F6,160=11.9、p<0.0001)。この試験において、最低用量での慢性ブメタニドは、おもちゃより高頻度にマウスと鼻接触(遺伝子型×処置×刺激:F2,42=17.7、p<0.0001)を行う嗜好性を回復させた。突然変異マウスにおけるブメタニド処置は、用量依存的にマウスとの鼻接触の継続時間を増加したが、おもちゃとの鼻接触の継続時間を減少することはできなかった(遺伝子型×処置×刺激:F2,42=32.5、p<0.0001)。これは、Oprm1-/-マウスにおける有意ではあるが部分的な社会的嗜好比の回復(遺伝子型×処置:F2,42=38.4、p<0.0001)をもたらした。
【0075】
結論として、急性ではなく慢性のNaBr処置が、Oprm1-/-マウスにおける社会的行動を用量依存的に回復させ、これらの有益な効果は、慢性のブメタニド処置のそれよりも優れていた。
【0076】
臭化ナトリウムはOprm1-/-マウスにおける常同行動及び不安を減少させた
次に本発明者らは、同じコホートのOprm1-/-マウスにおける、非社会的行動に対する慢性の臭化物の影響を評価した(図1Aのタイムライン)。
【0077】
常同行動に関して、Oprm1-/-マウスは、自発的に常同旋回及び首振りを示したが(図2A1図A2)、これらは最低用量以降のNaBr処置下で減少し、前者(遺伝子型×処置:F6,161=4.6、p<0.001)は後者(遺伝子型×処置:F6,161=7.0、p<0.0001)に比して、より一貫して減少した。Oprm1+/+対照マウスでは、NaBrがグルーミングエピソードの回数(遺伝子型×処置:F6,161=4.5、p<0.001)及び首振りの回数(遺伝子型×処置:F6,161=7.0、p<0.0001)を用量依存的に増加させた。両マウス系統において、NaBrは、立ち上がりエピソードの回数を用量依存的に増加させた(処置:F6,161=13.2、p<0.0001)。同じ条件下で、ブメタニドは、突然変異マウスにおいて旋回及び首振りを抑制し、両マウス系統において立ち上がりエピソードの回数を減少させた。ガラス玉覆い隠し試験(図2B)では、NaBr処置は、突然変異マウスにおける過剰な覆い隠しを抑制せず(遺伝子型:F6,163=13.6、p<0.001)、全体的に覆い隠しを増加させた(処置:F6,163=2.4、p<0.05)。同様に、慢性のブメタニドは、Oprm1-/-マウスにおける過剰な覆い隠しを抑制することができなかった(遺伝子型:F2,46=14.7、p<0.001)。Y字迷路探索試験(図2C)では、臭化物は、用量30mg/kg以降で、Oprm1欠損マウスにおける執拗に同一のアームに戻ることの回数を野生型レベルにまで減少させた(遺伝子型×処置:F6,161=6.7、p<0.0001)が、ブメタニドは、用量0.5mg/kgで減少傾向が観察されたものの、全体的にはそれらを抑制することができなかった(遺伝子型:F2,46=19.7、p<0.001)。
【0078】
本発明者らは、Oprm1-/-マウス及びその対応WTマウスにおける不安レベルを、新奇環境摂食抑制試験を使用して評価した(図2D)。この試験において、突然変異マウスは過度な不安を示し、一旦戻されたホームケージでも、摂食潜時が長くなり、摂餌量が減少した。慢性臭化物は、試験された最低用量以降で、Oprm1ノックアウトマウスにおいて、摂食潜時を野生型レベルまで正常化させ(遺伝子型×処置:F6,160=6.7、p<0.0001)、両マウス系統において、摂餌量を増加させた(処置:F6,160=7.0、p<0.0001)。慢性のブメタニドは、この試験において、摂食潜時(遺伝子型:F2,42=27.1、p<0.0001)及び摂食量(遺伝子型:F2,42=5.6、p<0.05)のいずれにも、検出可能な影響を及ぼさなかった。
【0079】
まとめると、これらの結果は、臭化物及びブメタニドの慢性処置はいずれも、Oprm1-/-マウスにおける常同行動を減少させたが、抗不安作用を示したのは臭化物処置のみであったことを示している。
【0080】
次の一連の実験で、本発明者らは、経口経路を介して投与されたNaBr(4~5日間、250mg/kgを1日1回経口強制投与)が、Oprm1-/-マウスにおいて、腹腔内注射後と同様に、自閉症様障害及び運動常同性を緩和することを確認した(データを示さず)。また本発明者らは、別の臭化物塩であるKBrの慢性投与の行動学的効果も評価した。パイロット実験において、250mg/kg NaBrと等価なKBrの用量が有毒であったため、本発明者らは、用量を125mg/kg NaBrと等価な145mg/kg KBrに減らした。Oprm1-/-マウスにおけるNaBr処置の有益な効果は、社会的行動、反復行動及び不安行動を評価する試験において、KBrにより、上回らないまでも完全に再現された(データを示さず)。このため、Oprm1-/-マウスにおけるNaBr又はKBrの治療効果は、臭化物イオンに起因するものであった。
【0081】
慢性の臭化ナトリウムは、Fmr1-/-及びShank3Δex13-16-/-マウスにおける社会的行動障害、常同行動及び過度の不安を緩和した
次いで本発明者らは、自閉症様症状に対するNaBrの有益な効果を、ASDの他のマウスモデル(ここでは、Fmr1欠損マウス系統及びShank3Δex13-16ノックアウトマウス系統)にまで一般化することができるか否かを問題として取り上げた。この目的で、本発明者らは、これらの系統における、自閉症に影響される(autism-sensitive)行動に対する用量250mg/kgでのNaBrの慢性投与の効果を評価した(図3A)。
【0082】
社会行動に関して、直接社会的相互作用試験(図3B)中に、Fmr1-/-及びShank3Δex13-16-/-マウスにおいて、慢性の臭化物は、鼻接触の継続時間(遺伝子型×処置-Fmr1:F1,30=49.5、p<0.0001;Shank3Δex13-16:F1,28=73.0、p<0.0001)及び足接触の継続時間(遺伝子型×処置-Fmr1:F1,30=17.7、p<0.0001;Shank3Δex13-16:F1,28=23.2、p<0.0001)を回復させ、追尾エピソードの回数(遺伝子型×処置-Fmr1:F1,30=13.7、p<0.0001;Shank3Δex13-16:F1,28=11.8、p<0.0001)を正常化させ、社会的接触後のグルーミング(遺伝子型×処置-Fmr1:F1,30=30.1、p<0.0001;Shank3Δex13-16:F1,28=25.0、p<0.0001)を抑制した。NaBr処置の中断後1週間(図3C)でもなお、Fmr1欠損マウスにおいて、足接触の継続時間(遺伝子型×処置:F1,30=132.7、p<0.0001)及び社会的接触後のグルーミング回数(遺伝子型×処置:F1,30=87.0、p<0.0001)に、有意かつ有益な効果が検出された。Shank3Δex13-16マウスでは、先の臭化物処置の足接触の継続時間に対する効果はもはや検出されなかったが(遺伝子型:F1,28=388.2、p<0.0001)、社会的接触後のグルーミングは、効率的に抑制されたままであった(遺伝子型×処置:F1,28=55.3、p<0.0001)。
【0083】
本発明者らはさらに、慢性的な臭化物暴露下での社会的行動を、3室試験を使用して評価した(図3D)。この試験において、Fmr1ノックアウトマウスは、物体に対してよりも高頻度にマウスとの鼻接触を行ったものの、生きているマウスとの接触に、物体とのそれと同程度に時間を費やし、かつ物体との鼻接触をより長時間行った。このことは、崩壊した社会的嗜好性を示している。NaBrの慢性処置は、Fmr1突然変異体において、マウスを探索するのにより長い時間を費やし(遺伝子型×処理×刺激:F1,29=4.5、p<0.05)、物体に対してよりも長くマウスとの鼻接触を行う(遺伝子型×処理×刺激:F1,29=18.4、p<0.001)嗜好性を回復させたこれらはその嗜好比を正常化させた(遺伝子型×処置:F1,29=5.2、p<0.05)が、どちらの刺激でも、彼らが行った鼻接触の回数に変化はなかった(刺激:F1,29=21.4、p<0.0001)。同様に、媒体で処置されたShank3Δex13-16-/-マウスは、この試験において、おもちゃより長くマウスと時間を費やすことができず、マウスとより高頻度に鼻接触を行ったものの、どちらの刺激でも継続時間は同等であった。対照的に、NaBrで処置された突然変異体は、マウスとの接触により長く時間を費やし(遺伝子型×処置×刺激:F1,28=4.5、p<0.05)、またおもちゃに対してより長く同類と鼻接触を行い(遺伝子型×処置×刺激:F1,28=26.9、p<0.0001)、このことが、鼻接触の回数の変化無しに(刺激:F1,28=37.4、p<0.0001)、嗜好比の向上(遺伝子型×処置:F1,28=5.9、p<0.05)をもたらした。よって、NaBrの慢性投与は、Fmr1欠損マウス及びShank3Δex13-16ノックアウトマウスにおける社会的行動障害を救済した。
【0084】
常同行動に関して、Fmr1-/-及びShank3Δex13-16-/-マウスは、WT対照よりも高頻度に自発的グルーミング(後者でのみ有意)、旋回エピソード及び首振りを示した(図3E)。NaBrの慢性処置は、これら全てのパラメーターをWTレベルに正常化させた(Fmr1-旋回、遺伝子型×処置:F1,30=11.9、p<0.01;首振り、遺伝子型×処置:F1,30=68.0、p<0.001;Shank3Δex13-16-グルーミング、遺伝子型×処置:F1,28=10.2、p<0.01、旋回、遺伝子型×処置:F1,28=48.4、p<0.0001;首振り、遺伝子型×処置:F1,28=5.3、p<0.05)。ガラス玉覆い隠し試験(図3F)において、慢性のNaBrは、Fmr1+/+及びFmr1-/-マウスの両方において、埋められたガラス玉の個数を減少させた(処置効果:F1,30=7.3、p<0.05)。Shank3Δex13-16-/-マウスは、ガラス玉覆い隠しで重度の障害を示し(遺伝子型の影響:F1,28=198.7、p<0.0001)、臭化物処置は、突然変異マウス及びWTマウスの両方で覆い隠しを減少させた(処置効果:F1,28=4.8、p<0.05)。Y字迷路(図3G)において、Fmr1欠損マウス及びShank3Δex13-16ノックアウトマウスは、執拗に同一のアームに戻ることをより頻繁に示した。これは、慢性の臭化物下で抑制された(Fmr1-遺伝子型×処置:F1,30=61.9、p<0.0001;Shank3Δex13-16-遺伝子型×処置:F1,28=47.5、p<0.0001)。よって、NaBrの慢性処置は、Fmr1-/-及びShank3Δex13-16-/-マウスにおいて、常同行動及び忍耐的行動を減少させた。
【0085】
不安に関して、Fmr1欠損マウスについての、新奇環境摂食抑制試験において摂食潜時が長くなる傾向(図3H)は、有意性にまでは至らなかった。ただし、慢性の臭化物は、この潜時を減少させた(遺伝子型×処置:F1,30=6.7、p<0.05)。Shank3Δex13-16-/-マウスは、領域中央での摂食に有意に時間がかかったが、NaBr投与は、この潜時をWTレベルに正常化させた(遺伝子型×処置:F1,28=35.0、p<0.0001)。臭化物処置は、摂食量に影響を及ぼさなかったが、Shank3Δex13-16ノックアウトマウスでは減少させた(遺伝子型:F1,28=15.6、p<0.001)。したがって、NaBrの慢性投与は、Fmr1-/-及びShank3Δex13-16-/-マウスにおいて抗不安特性を示した。
【0086】
慢性の臭化ナトリウムは、Oprm1-/-マウスの報酬回路における転写をレギュレーションする
臭化ナトリウムの慢性投与の有益な効果に関与する分子メカニズムを解明するため、本発明者らは、Oprm1欠損マウスにおける、脳の報酬/社会回路の5つの領域:NAc、CPu、VP/Tu、MeA及びVTA/SNcにわたる遺伝子発現に対する2週間のNaBr処置の影響を評価した。1週間処置下に置いた後、マウスに第1セッションの社会的相互作用を受けさせ、第2セッションを45分間受けさせ、その後、qRT-PCR実験のために殺処分する(データを示さず)。本発明者らは主に、塩化物トランスポーター(Slc12a2[NKCC1]、Slc12a4、5、6、7[それぞれKCC1、2、3、4]、ClCa1)、GABAレセプターサブユニット(Gabra1、2、3、4、5、Gabrb1、2)、並びにグルタミン酸レセプター(Grm2、4、5)及びサブユニット(Grin2a、2b)をコードする遺伝子に注目した。加えて本発明者らは、神経細胞の発現及び可塑性(Fos、Bdnf)、社会的行動(Oxt)、並びに線条体投射ニューロン(SPN;Crh、Drd1a、Drd2、Htr6、Pdyn、Penk)のマーカー遺伝子の発現を評価した。
【0087】
本発明者らは、各脳領域について、qRT-PCRデータの階層的クラスタリング分析を行い、遺伝子発現に対するNaBr処置の影響を可視化した(データを示さず)。全体として、Oprm1-/-マウスにおける転写プロファイルは、媒体処置下とNaBr処置下で最も異なっていたが、mRNAレベルは、社会的相互作用パラメーターとの相関が弱かった(データを示さず)。これらの結果は、臭化物が、Oprm1ノックアウトにおける遺伝子発現を正常化させた(行動パラメーターで観察されたように)というより、むしろそれ自体で転写の変化を誘引したことを示している。これは特に、CPuに当てはまっていた(臭化物処置下のOprm1-/-マウスが、遺伝子発現の優先的なアップレギュレーションを示した(クラスターa及びc))。
【0088】
この全体的なプロファイルは、候補遺伝子に注目した場合に確認された(データを示さず)。本発明者らはここで、遺伝子型及び薬理学的処置の複雑な影響に対処するには、各実験条件に割り当てられたマウスのサンプル数が少なかった(このことが統計的検出力を制限していた可能性がある)ことを認めるべきである。このため、本発明者らは、同じ遺伝子についてのいくつかの脳領域、又は同じファミリーのいくつかの遺伝子のいずれかに影響を及ぼす遺伝子発現レギュレーションに注目した。際立ったことには、NaBrの慢性投与は、Oprm1-/-マウスにおいて、試験された全ての塩化物トランスポーターの発現を増加させた。実際、Slc12a2の発現は、突然変異マウスのVP/Tuを除く全ての脳領域で低下し、臭化物処置下で正常化された。慢性のNaBrは、Slc12a5及びSlc12a7の発現を、前者についてはOprm1欠損マウスのNAc、CPu及びMeAにおいて、後者についてはVP/Tuでもアップレギュレーションした。突然変異マウスにおいて、ClCa1 mRNAレベルは、NAc、MeA及びVTA/SNcでは上昇したが、VP/Tuでは低下した。それらは、NaBr処置により、NAcにおいては正常化され、VP/Tuにおいては上昇され、MeA及びVTA/SNcにおいては高値に維持された。CPuでは、臭化物が、両遺伝子型のマウスにおいて、ClCa1の転写を増加させた。GABA作動系に関しては、Oprm1-/-マウスにおいて、慢性のNaBrが、NAc及びCPuにおいて、GABAレセプターのα2サブユニットをコードするGabra2の発現を刺激し、VP/TU及びMeAでは、この発現を高いままにした。注目すべきことに、臭化物は、突然変異マウスのCPuにおいて、Gabra3、Gabra4、Gabra5、Gabrg1及びGabrb2の発現を、一貫してアップレギュレーションした(データを示さず)。臭化物処置は、NAc及びVP/Tuにおいて、初期遺伝子であるFosの発現をダウンレギュレーションし、Oprm1ノックアウトのCPuでは、それを低く維持した。Oxt(オキシトシンをコードする)のmRNAレベルは、Oprm1-/-マウスのNAc及びVP/Tuにおいて低下していたが、NaBrにより、前者では正常化され、後者では部分的に正常化された。臭化物は、MeA及びVTA/SNcにおいて、Oxtの発現を誘引した。最後に、慢性のNaBrは、代謝調節型グルタミン酸レセプターであるmGlu4をコードするGrm4の発現を、突然変異マウスのVTA/SNcを除く全ての脳領域及び野生型対照のNAcにおいてアップレギュレーションした。よって転写の結果は、臭化物投与が、Clトランスポーターの発現に大きな影響を及ぼしたことを示している。一方これはまた、GABA系の幾つかの重要なプレイヤー、神経細胞の活性及び可塑性のマーカー遺伝子、並びに社会的行動の制御により具体的に関与する遺伝子の発現をもレギュレーションした。
【0089】
Oprm1欠損マウスにおける、慢性の臭化物とmGlu4レセプター促進の相乗効果
臭化物処置下のOprm1-/-マウス(その自閉症様症状が、mGlu4活性を刺激すると緩和される(51))におけるGrm4の転写の増加に関心を抱いたため、本発明者らは、これらの処置間に共通の作用機序が存在する可能性という問題を検討した。この目的で、本発明者らは、Oprm1-/-及びOprm1+/+マウスにおいて、慢性かつ境界用量のNaBr(70mg/kg)及びVU0155041(1mg/kg)の併用投与の効果を調べた(図4A)。
【0090】
直接社会的相互作用試験(図4B)において、70mg/kg NaBrは、Oprm1-/-マウスにおける行動パラメーターに検出可能な影響を及ぼさなかった(図1Bを参照のこと)。VU0155041は、鼻接触の継続時間を部分的に救済し、社会的接触後のグルーミングエピソードを抑制した。2つの処置を併用した場合、救済された鼻接触の継続時間(遺伝子型×臭化物×VU0155041:F1,56=31.1、p<0.0001)又は足接触の継続時間(遺伝子型×臭化物×VU0155041:F1,56=140.3、p<0.0001)、及び正常化された社会的接触後のグルーミングエピソードの回数(遺伝子型×臭化物×VU0155041:F1,56=5.8、p<0.05)により証明されるように、突然変異マウスにおける社会的相互作用パラメーターは、野生型レベルに正常化された。鼻接触の平均継続時間の回復は、処置中止後1週間(遺伝子型×臭化物×VU0155041:F1,56=40.9、p<0.0001)及び2週間(遺伝子型×臭化物×VU0155041:F1,56=57.3、p<0.0001)でも完全に保持された。3室試験において、70mg/kg NaBr又は1mg/kg VU0155041は、Oprm1-/-マウスにおいて、おもちゃに対してのものよりも頻繁なマウスとの鼻接触(遺伝子型×NaBr×VU0155041×刺激:F1,55=6.7、p<0.05)を回復させるのに十分であった(図4C)。
【0091】
常同行動に関して、NaBrとVU0155041の併用処置は、Oprm1-/-及びOprm1+/+マウスにおける首振りの回数を減少させ(臭化物×VU0155041:F1,56=4.1、p<0.05)(図4D)、突然変異体におけるガラス玉覆い隠しを正常化させた(遺伝子型×NaBr×VU0155041:F1,56=9.5、p<0.001)(図4E)。慢性のVU0155041は、Oprm1欠損マウスにおいて、Y字迷路探索中、執拗に同一のアームに戻ることを抑制するのに十分であった(遺伝子型×VU0155041:F1,56=11.3、p<0.01)(図4F)。新奇環境摂食抑制試験において、慢性のNaBrは同様に、摂食潜時を正常化するのに十分であった(遺伝子型×VU0155041:F1,56=11.3、p<0.01)(図4G)。最後に、本発明者らは、Oprm1欠損マウスでは侵害受容閾値が低下していることを念頭に置いて、このパラメーターに対する臭化物及びVU0155041の効果を試験した。50℃において、NaBrとVU0155041の併用処置はフリッキング潜時を正常化させたが、各化合物を単独で与えても効果がなかった(遺伝子型×NaBr×VU0155041:F1,56=20.5、p<0.0001)(図4H)。
【0092】
まとめると、これらの結果は、臭化物投与とmGlu4活性の促進が、Oprm1-/-マウスにおける自閉症様行動に対して相乗的で有益な効果を発揮することを示している。
【0093】
臭化物イオンは、mGlu4グルタミン酸レセプターの陽性アロステリックモデュレーターとして振る舞う
塩化物イオンは、mGlu4シグナル伝達を促進することが示されている(56)。ここで本発明者らは、臭化物イオンによるmGlu4活性のモデュレーション(Grm4発現のアップレギュレーションを誘発するその能力(データを示さず)に加えての)に起因して、臭化物処置とVU0155041投与のin vivoでの相乗効果がもたらされうるか否かを評価した。
【0094】
本発明者らは、mGlu4レセプター及びG/GキメラGタンパク質であるGαqi9を一過性に発現する(mGlu4がホスホイノシチド経路を活性化することを可能にする)HEK293T細胞における、グルタミン酸刺激下でのmGlu4シグナル伝達を測定した。次いで、細胞内Ca2+放出又はイノシトール一リン酸(IP図5A)を測定することにより、レセプターの活性化を評価した。生理的濃度の塩化物イオン(100mM、媒体間の浸透圧を同等に保つために、50mM グルコン酸を補充)、150mM 塩化物イオン(細胞培養研究のための古典的なバッファー)、又は100mM 塩化物イオン及び50mM 臭化物イオンのいずれかを含有するバッファー中で実験を行って、塩化物濃度及び臭化物濃度の生理的範囲内でのモデュレーションの、mGlu4活性に対する効果を比較した。
【0095】
生理的濃度の塩化物(100mM Cl+50mM グルコン酸)と比較して、50nM 臭化物の添加は、グルタミン酸の効力を有意に改善し、Ca2+アッセイにおいて、0.73±0.05logのpEC50の上昇(左パネル;イオン濃度:F2,6=104.2、p<0.0001)を示した(図5B)。当量濃度の塩化物(+50mM Cl)と比較して、臭化物はより高い有効性を示した(ΔpEC50:0.27±0.04)(右パネル;イオン濃度:F2,6=66.7、p<0.0001)。さらに、臭化物はグルタミン酸の効力を向上させ、mGlu4誘発カルシウム放出の最大値が65±9%上昇した(Emax、左パネル;イオン濃度:F2,21=56.2、p<0.0001)。
【0096】
IP産生を測定すると(図5C)、臭化物は、Ca2+放出を測定した時に観察されたのと同様の範囲内(60±10%)で、グルタミン酸の効力(Emax、最大IP1産生)を向上させた(左パネル;イオン濃度:F2,24=22.1、p<0.0001)。技術的な制約(シグナル伝達カスケードのこの段階では、増幅が少ない)にもかかわらず、pEC50は、Ca2+アッセイにおいて測定されたよりも低い程度までではあったものの、臭化物イオン存在下で一貫して上昇した(左パネル;イオン濃度:F2,6=104.2、p<0.0001;生理的Cl濃度と50nM Br添加後との間のΔpEC50:0.42±0.03)。5μM VU0155041を加えると、臭化物はグルタミン酸の効力を、生理的濃度の塩化物と比較して有意に向上させた(ΔpEC50:0.72±0.03)。また、臭化物とVU0155041との併用は、グルタミン酸効力の向上においても、VU0155041(ΔpEC50:0.39±0.03)又は臭化物(ΔpEC50:0.30±0.03)単独より有効であった(イオン濃度及びVU0155041:F5,12=49.4、p<0.0001)。
【0097】
結論として、臭化物イオンは、異種細胞において、mGlu4レセプターのPAMとして振る舞った。これらのPAM効果は、塩化物イオンのそれより優れており、VU0155041のそれとの相乗作用を示した(synergized with)。まとめると、これらの結果は、Oprm1欠損マウスにおける臭化物とVU0155041の相乗効果についての分子機序を提供し、かつ、ASDのマウスモデルにおける臭化物処置の利点は、少なくとも部分的に、mGlu4活性の促進と関連していたことを示唆している。
【0098】
結論
結論として、本研究は、単独での、又はmGlu4レセプターのPAMとの併用での臭化物の慢性処置の、ASDの中核症状を緩和するための治療上の可能性を報告するものである。臭化物の有益な効果が、遺伝的原因の異なる3種類のASDのマウスモデルにおいて観察された。このことは、高いトランスレーショナルな(translational)価値を裏付けている。さらに、臭化物は医薬としての長い使用歴があり、このことは、その薬力学及び毒性が知られていることを意味する。これは、長い効果の持続性、並びに優れた経口バイオアベイラビリティ及び脳内浸透性と合わせて、別の用途に用いる(repurposing)ための強力な利点である。
【0099】
参考文献
本出願全体を通して、種々の参考文献が、本発明が関連する技術水準を記載している。これらの参考文献の開示は、参照により本開示に組み入れられる。
【表1】
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5-1】
図5-2】
【国際調査報告】