(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】がんのための温度制御可能なRNA免疫療法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20240905BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240905BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240905BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240905BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240905BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240905BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A61K39/00 Z
A61P35/00
A61P37/04
A61K31/7088
A61K48/00
A61K47/26
C12N15/86 Z ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513756
(86)(22)【出願日】2022-08-31
(85)【翻訳文提出日】2024-04-24
(86)【国際出願番号】 US2022075789
(87)【国際公開番号】W WO2023034881
(87)【国際公開日】2023-03-09
(32)【優先日】2021-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521469128
【氏名又は名称】エリクサージェン セラピューティクス,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】ミノル エス.エイチ.コ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C076CC07
4C076CC27
4C076EE20
4C084AA13
4C084NA05
4C084NA06
4C084ZB091
4C084ZB092
4C084ZB261
4C084ZB262
4C085AA03
4C085BB01
4C085BB23
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA05
4C086NA05
4C086NA06
4C086ZB09
4C086ZB26
(57)【要約】
本開示は、がん抗原をコードする、mRNA、自己複製RNA、及び温度感受性自己複製RNAに関する。このRNA構築物は、ヒト被験体などの哺乳動物被験体におけるがん免疫療法に適している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物被験体においてがん抗原に対する免疫応答を刺激するための組成物であって、賦形剤、及び融合タンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)と、ウイルス構造タンパク質コード領域を欠くアルファウイルスレプリコンと、を含む温度感受性自己複製RNAを含み、前記ORFが、5’から3’に、
(i)哺乳動物シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列と、
(ii)がん抗原をコードするヌクレオチド配列と、
を含み、
前記温度感受性自己複製RNAが、許容温度で前記融合タンパク質を発現することができるが、非許容温度では発現することができない、
組成物。
【請求項2】
前記がん抗原が腫瘍関連抗原(TAA)を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記TAAが、WT1抗原、NY-ESO-1抗原、MAGEA3抗原、BIRC5(サバイビン)抗原、PRAME抗原、又はそれらの組み合わせを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記TAAがWT1抗原を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記WT1抗原のアミノ酸配列が、配列番号2、又は配列番号2と少なくとも95%、96%、97%、98%もしくは99%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記TAAが、WT1抗原、NY-ESO-1抗原、MAGEA3抗原、BIRC5抗原、及びPRAME抗原を含む、TAA融合タンパク質である、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
前記TAA融合タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号7、又は配列番号7と少なくとも95%、96%、97%、98%もしくは99%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記TAAがBIRC5抗原を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項9】
前記BIRC5抗原のアミノ酸配列が、配列番号3、又は配列番号3と少なくとも95%、96%、97%、98%もしくは99%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記TAAがNY-ESO-1抗原を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項11】
前記NY-ESO-1抗原のアミノ酸配列が、配列番号4、又は配列番号4と少なくとも95%、96%、97%、98%もしくは99%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記TAAがMAGEA3抗原を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項13】
前記MAGEA3抗原のアミノ酸配列が、配列番号5、又は配列番号5と少なくとも95%、96%、97%、98%もしくは99%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記TAAがPRAME抗原を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項15】
前記PRAME抗原のアミノ酸配列が、配列番号6、又は配列番号6と少なくとも95%、96%、97%、98%もしくは99%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記がん抗原がネオ抗原を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
前記哺乳動物シグナルペプチドが、哺乳動物抗原提示細胞において発現される表面タンパク質のシグナルペプチドである、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記哺乳動物シグナルペプチドが、CD5シグナルペプチドであり、前記CD5シグナルペプチドのアミノ酸配列が、配列番号1、又は配列番号1と少なくとも90%もしくは95%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、シンドビスウイルス、及びセムリキ森林ウイルスからなる群から選択される、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記アルファウイルスがベネズエラウマ脳炎ウイルスである、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記アルファウイルスレプリコンが、非構造タンパク質2(nsP2)のβシート5とβシート6との間に4~6個の追加のアミノ酸を含む、前記nsP2の発現を生じる12~18ヌクレオチドの挿入を有する非構造タンパク質コード領域を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
前記追加のアミノ酸が、配列番号14(TGAAA)の配列を含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記nsP2のアミノ酸配列が配列番号12を含む、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記nsP2のアミノ酸配列が、配列番号9、配列番号10、及び配列番号11からなる群から選択される1つの配列を含む、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
前記nsP2のアミノ酸配列が配列番号11を含む、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記許容温度が30℃~36℃、又は31℃~35℃、又は32℃~34℃、又は33℃±0.5℃であり、前記非許容温度が37℃±0.5℃であり、任意選択で、前記許容温度が31℃~35℃であり、前記非許容温度が少なくとも37℃±0.5℃である、請求項1~25のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項27】
前記組成物が脂質ナノ粒子を含まない、請求項1~26のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項28】
前記組成物がキトサンをさらに含む、実施形態1~27のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項29】
哺乳動物被験体においてがん抗原に対する免疫応答を刺激するための方法であって、請求項1~28のいずれか一項に記載の組成物を哺乳動物被験体に投与して、前記哺乳動物被験体において前記がん抗原に対する免疫応答を刺激するステップを含む、方法。
【請求項30】
前記組成物が皮内投与される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記免疫応答が、前記がん抗原を発現する哺乳動物細胞と反応性の細胞性免疫応答を含む、請求項29又は請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記細胞性免疫応答が、がん抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球応答及びがん抗原特異的ヘルパーTリンパ球応答の一方又は両方を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記免疫応答が、前記がん抗原と反応性の体液性免疫応答をさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記哺乳動物被験体がヒト被験体である、請求項29~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
(i)実施形態1~28のいずれか一項に記載の組成物と、
(ii)哺乳動物被験体への前記組成物の皮内送達のためのデバイスと、
を含む、キット。
【請求項36】
前記デバイスがシリンジ及び針を含む、請求項35に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2022年7月18日に出願された米国仮特許出願第63/390,216号、2022年5月12日に出願された米国仮特許出願第63/341,318号、及び2021年9月2日に出願された米国仮特許出願第63/240,280号の利益を主張するものであり、それら各々の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
電子配列表の提出
電子配列表(699442001540SEQLIST.xml、サイズ:25374バイト、作成日:2022年8月30日)の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
本開示は、がん抗原をコードする、mRNA、自己複製RNA、及び温度感受性自己複製RNAに関する。このRNA構築物は、ヒト被験体などの哺乳動物被験体におけるがん免疫療法に適している。
【背景技術】
【0004】
免疫療法は、がんの治療に有効であり得、より広く使用されるようになっている。1つの療法戦略は、腫瘍細胞において発現される抗原を含む免疫原性組成物を、がん患者に注射することである。腫瘍関連抗原(TAA)は、腫瘍細胞において発現されるが、胚細胞においても発現され、又は正常細胞において低レベルで発現される。腫瘍特異的抗原(TSA)は、ネオ抗原とも呼ばれ、腫瘍細胞においてのみ発現され、多くの場合、腫瘍細胞において変異している遺伝子から発現される。がん免疫療法は、がん細胞に対する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答の誘導に依存する。
【0005】
強力なTAA又はTSA特異的細胞性免疫応答を誘導して、TAA又はTSAを発現する腫瘍細胞を破壊するがん免疫療法が当技術分野において必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、がん細胞に対する細胞性免疫応答を誘導するための、がん抗原(TAA及び/又はTSA)の使用に関する。いくつかの実施形態では、温度制御可能な自己複製RNAワクチンプラットフォームが利用される。例示的な実施形態では、WT1タンパク質は、温度制御可能な自己複製RNA(c-srRNA)から宿主細胞において発現されて、WT1発現腫瘍細胞に対する強力な細胞性免疫応答を誘導する。c-srRNAは、本明細書では温度感受性自己複製RNA(srRNAts)とも呼ばれる。重要なことに、c-srRNA-WT1免疫療法剤(EXG-5101)は、前臨床モデルにおいて、腫瘍増殖を阻害し、更に、確立された腫瘍のサイズを減少させることが見出された。したがって、本明細書に記載されるc-srRNAプラットフォームは、腫瘍関連抗原(TAA)、例えば、WT1、NY-ESO-1、MAGEA3、BIRC5(SURVIVINとしても知られる)、PRAME又は腫瘍特異的抗原(TSA)(ネオ抗原としても知られる)の発現に適したベクターである。いくつかの実施形態では、c-srRNAは、2つ以上のTAA、TSA、又はTAA及びTSAの組み合わせの融合タンパク質を発現するために使用される。
【0007】
他の実施形態の中でも、本開示は、賦形剤及び温度制御可能な自己複製RNA(c-srRNA)を含む、組成物を提供する。いくつかの実施形態では、組成物はキトサンを含む。いくつかの実施形態では、キトサンは、低分子量(約3~5kDa)キトサンオリゴ糖、例えばキトサンオリゴ糖ラクテートである。いくつかの実施形態では、組成物は、リポソームも脂質ナノ粒子も含まない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】温度制御可能な自己複製RNA(本明細書において「c-srRNA」又は「srRNAts」と称される)の皮内注射後の細胞性(CD4
+及びCD8
+T細胞)免疫応答の誘導のための機構の模式図を示す。
【0009】
【
図2】温度制御可能な自己複製RNA(c-srRNA)から発現されるがん抗原の模式図を示す。例示的な実施形態では、ヒトウィルムス腫瘍(WT1)タンパク質のコード領域は、c-srRNA内に挿入された目的遺伝子(GOI)である。EXG-5101抗原は、配列番号1として示されるヒトCD5抗原(CD5-SP)由来のシグナルペプチド配列と、配列番号1として示されるヒトWT1タンパク質のアミノ酸配列(アイソフォームD、GenBank番号NM_024426.6、NCBI番号NP_077744.4)と、を含む融合タンパク質である。WT1アイソフォームDのコード配列は、非AUG(CUG)翻訳開始コドンを有する。
【0010】
【
図3】ヒト被験体においてがん抗原に対する免疫応答を刺激するための例示的な方法の模式図を示す。c-srRNAは、許容温度(例えば、30~35℃)では機能性であるが、非許容温度(例えば、37℃以上)では機能性でない。人体の表面又はその直下の温度(表面体温)は約31~34℃であり、約37℃である人体の深部体温よりも低い。c-srRNAは、許容表面体温である被験体の細胞への皮内及び皮下投与によって直接送達される。
【0011】
【
図4】同系マウス腫瘍モデルにおけるEXG-5101 mRNAワクチンの試験を例示する。
【0012】
【
図5】プラセボ(PBO)、5μg又は25μgのEXG-5101 mRNAワクチンを注射したBALB/cマウスにおける腫瘍の増殖のグラフを示す。5匹のマウス(n=5)の平均及び標準偏差(エラーバー)を各群について示す。腫瘍接種後7日目までに、3群すべてのマウスで腫瘍が発生した。しかし、腫瘍接種後25日目(注射後18日目)までに、腫瘍増殖は、EXG-5101 mRNAワクチンを注射したマウスにおいて用量依存的に遅延した。対照的に、プラセボを注射したマウスでは、腫瘍は増殖し続けた。
【0013】
【
図6A】
図6A及び
図6Bは、EXG-5101 mRNA(ヒトWT1遺伝子をコードする温度制御可能な自己複製RNA)の皮内注射による、腫瘍関連抗原反応性細胞性免疫応答の誘導を示す。
図6Aは、実験手順を例示する。
【
図6B】
図6A及び
図6Bは、EXG-5101 mRNA(ヒトWT1遺伝子をコードする温度制御可能な自己複製RNA)の皮内注射による、腫瘍関連抗原反応性細胞性免疫応答の誘導を示す。
図6Bは、25μgのEXG-5101又はプラセボ(緩衝液のみ)の皮内注射によって各々免疫化されている5匹(n=5)のマウスから得られた脾細胞のELISpotアッセイの結果を示す。左パネルは、ヒトWT1タンパク質をカバーする110のペプチドのプール(11アミノ酸オーバーラップを有する15量体:JPT Peptide Technologies、カタログ番号PM-WT1)によって刺激された1×10
6脾細胞当たりのインターフェロンガンマ(IFN-γ)スポット形成細胞(SFC)の頻度を示す。右パネルは、ヒトWT1タンパク質をカバーする110のペプチドのプール(11アミノ酸オーバーラップを有する15量体:JPT Peptide Technologies、カタログ番号PM-WT1)によって刺激された1×10
6個の脾細胞当たりのインターロイキン-4(IL-4)SFCの頻度を示す。平均及び標準偏差(エラーバー)を各群について示す。
【0014】
【
図7】温度制御可能な自己複製RNA(c-srRNA)から発現される複数の腫瘍関連抗原を含む融合タンパク質の模式図を示す。例示的な実施形態では、EXG-5105抗原は、配列番号1として示されるヒトCD5抗原(CD5-SP)由来のシグナルペプチド配列と、配列番号2として示されるヒトWT1タンパク質のアミノ酸配列[アイソフォームD、GenBank番号NM_024426.6、NCBI番号NP_077744.4:WT1アイソフォームDのコード配列は、非AUG(CUG)翻訳開始コドンを有する]と、配列番号3として示されるヒトBIRC5(SURVIVINとしても知られる)タンパク質のアミノ酸配列(GenBank番号NM_001168)と、配列番号4として示されるヒトNY-ESO-1タンパク質のアミノ酸配列(GenBank番号NM_001327)と、配列番号5として示されるヒトMAGEA3タンパク質のアミノ酸配列(GenBank番号NM_005362)と、配列番号6として示されるヒトPRAMEタンパク質のアミノ酸配列(GenBank番号NM_001291715)と、を含む融合タンパク質である。TAA融合タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号7として示され、CD5-SP+TAA融合タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号8として示される。
【0015】
【
図8A】
図8A~
図8Fは、EXG-5105 mRNA(ヒトWT1遺伝子、ヒトBIRC5(SURVIVIN)、ヒトNY-ESO-1、ヒトMAGEA3、及びヒトPRAME、の融合タンパク質をコードする温度制御可能な自己複製RNA)の皮内注射による、腫瘍関連抗原反応性細胞性免疫応答の誘導を示す。
図8Aは、実験手順を例示する。0日目に、合計10匹のBALB/c雌マウスを実験に使用した。5匹のマウスに各々25μgのEXG-5105を皮内注射で投与し、5匹のマウスにプラセボ(緩衝液のみ)を皮内注射で投与した。14日目に、脾細胞を各マウスから収集し、EXG-5105 mRNAワクチン上にコードされる例示的な抗原としてのWT1及びNY-ESO-1に対する免疫応答についてELISpotアッセイによって試験した。
【
図8B】
図8A~
図8Fは、EXG-5105 mRNA(ヒトWT1遺伝子、ヒトBIRC5(SURVIVIN)、ヒトNY-ESO-1、ヒトMAGEA3、及びヒトPRAME、の融合タンパク質をコードする温度制御可能な自己複製RNA)の皮内注射による、腫瘍関連抗原反応性細胞性免疫応答の誘導を示す。
図8Bは、ヒトWT1タンパク質をカバーする110のペプチドのプール(11アミノ酸オーバーラップを有する15量体:JPT Peptide Technologies、カタログ番号PM-WT1)によって刺激された1×10
6脾細胞当たりのサイトカイン(左、インターフェロンガンマ[IFN-γ]、右、インターロイキン-4[IL-4])スポット形成細胞(SFC)の頻度を示す。
【
図8C】
図8A~
図8Fは、EXG-5105 mRNA(ヒトWT1遺伝子、ヒトBIRC5(SURVIVIN)、ヒトNY-ESO-1、ヒトMAGEA3、及びヒトPRAME、の融合タンパク質をコードする温度制御可能な自己複製RNA)の皮内注射による、腫瘍関連抗原反応性細胞性免疫応答の誘導を示す。
図8Cは、ヒトNY-ESO-1タンパク質をカバーするペプチドのプール(11アミノ酸オーバーラップを有する15量体:Miltenyi Biotec、カタログ番号130-095-380)によって刺激された1×10
6脾細胞当たりのサイトカイン(左、インターフェロンガンマ[IFN-γ]、右、インターロイキン-4[IL-4])スポット形成細胞(SFC)の頻度を示す。
【
図8D】
図8A~
図8Fは、EXG-5105 mRNA(ヒトWT1遺伝子、ヒトBIRC5(SURVIVIN)、ヒトNY-ESO-1、ヒトMAGEA3、及びヒトPRAME、の融合タンパク質をコードする温度制御可能な自己複製RNA)の皮内注射による、腫瘍関連抗原反応性細胞性免疫応答の誘導を示す。
図8Dは、ヒトMAGEA3タンパク質をカバーするペプチドのプール(11アミノ酸オーバーラップを有する15量体:JPT PepMix MAGEA3、UniProt ID:P43357、カタログ番号PM-MAGEA3)によって刺激された1×10
6脾細胞当たりのサイトカイン(左、インターフェロンガンマ[IFN-γ]、右、インターロイキン-4[IL-4])スポット形成細胞(SFC)の頻度を示す。
【
図8E】
図8A~
図8Fは、EXG-5105 mRNA(ヒトWT1遺伝子、ヒトBIRC5(SURVIVIN)、ヒトNY-ESO-1、ヒトMAGEA3、及びヒトPRAME、の融合タンパク質をコードする温度制御可能な自己複製RNA)の皮内注射による、腫瘍関連抗原反応性細胞性免疫応答の誘導を示す。
図8Eは、ヒトBIRC5(SURVIVIN)タンパク質をカバーするペプチドのプール(11アミノ酸オーバーラップを有する15量体:JPT PepMix Survivin-1、UniProt ID:O15392、カタログ番号PM-Survivin)によって刺激された1×10
6脾細胞当たりのサイトカイン(左、インターフェロンガンマ[IFN-γ]、右、インターロイキン-4[IL-4])スポット形成細胞(SFC)の頻度を示す。
【
図8F】
図8A~
図8Fは、EXG-5105 mRNA(ヒトWT1遺伝子、ヒトBIRC5(SURVIVIN)、ヒトNY-ESO-1、ヒトMAGEA3、及びヒトPRAME、の融合タンパク質をコードする温度制御可能な自己複製RNA)の皮内注射による、腫瘍関連抗原反応性細胞性免疫応答の誘導を示す。
図8Fは、ヒトPRAMEタンパク質をカバーするペプチドのプール(11アミノ酸オーバーラップを有する15量体:JPT PepMix PRAME(OIP4)、UniProt ID:P43357、カタログ番号PM-OIP4)によって刺激された1×10
6脾細胞当たりのサイトカイン(左、インターフェロンガンマ[IFN-γ]、右、インターロイキン-4[IL-4])スポット形成細胞(SFC)の頻度を示す。
【0016】
【
図9A】
図9A及び
図9Bは、T細胞誘導性についてのsrRNA構築物の比較を示す。
図9Aは、実験手順を例示する。0日目に、マウスにプラセボ(PBO、緩衝液のみ)、srRNA0、c-srRNA1、c-srRNA3、又はc-srRNA4のいずれかを皮内注射した。srRNA0、c-srRNA1、c-srRNA3、及びc-srRNA4は、SARS-CoV-2の同じRBDをコードする。14日目に、マウスを屠殺し、RBDタンパク質に対するELISpotアッセイのために脾細胞を単離した。
【
図9B】
図9A及び
図9Bは、T細胞誘導性についてのsrRNA構築物の比較を示す。
図9Bは、SARS-CoV-2 RBD(元の株)をカバーする53のペプチドのプール(11アミノ酸オーバーラップを有する15量体)の存在下又は非存在下で、脾細胞中で培養することによって再刺激した免疫マウス由来の1×10
6個の脾細胞中のIFN-γスポット形成細胞(SFC)の数を示す。平均及び標準偏差(エラーバー)を各群について示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
がん免疫療法は、主に細胞性免疫の誘導に依存する免疫原性組成物(すなわち、CD8+キラーT細胞及びCD4+ヘルパーT細胞を伴うT細胞誘導ワクチン)によって最良に達成されると考えられる。本開示は、腫瘍関連抗原(TAA)及び腫瘍特異的抗原(TSA、ネオ抗原とも呼ばれる)などの1つ以上のがん抗原をコードする、mRNA、自己複製RNA(srRNA)、及び温度制御可能な自己複製RNA(c-srRNA)を提供する。したがって、本開示は、がん免疫療法のための細胞性免疫に基づくプラットフォームを提供する。ウィルムス腫瘍1(WT1)は、腫瘍関連抗原(TAA)であり、広範囲の腫瘍において発現されるが、胚組織及び成体の非常に限定された細胞種においてのみ発現される。したがって、いくつかの実施形態では、c-srRNAはWT1をコードする。いくつかの実施形態では、c-srRNAはBIRC5(別名SURVIVIN)をコードする。いくつかの実施形態では、c-srRNAはNY-ESO-1をコードする。いくつかの実施形態では、c-srRNAはMAGEA3をコードする。いくつかの実施形態では、c-srRNAはPRAMEをコードする。さらなる実施形態では、c-srRNAは、WT1、BIRC5、NY-ESO-1、MAGEA3、及びPRAMEからなる群の1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つすべてのがん抗原をコードする。
【0018】
細胞性免疫に基づくmRNA免疫療法プラットフォーム
ワクチンプラットフォームは、Elixirgenの先行特許出願[国際出願第PCT/US20/67506号、現在国際公開第2021/138447(A1)号として公開]に部分的に記載されている。このワクチンプラットフォームは、細胞性免疫を誘導するように最適化され、これは、ワクチン生物学の既存の知識を、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)などのアルファウイルスに基づく温度制御可能な自己複製mRNA(c-srRNA)と組み合わせることによって可能になる。用語c-srRNA及びsrRNAtsは、本開示全体を通して互換的に使用され、srRNA1ts2(国際公開第2021/138447(A1)号に記載)が例示的な実施形態である。c-srRNAは、温度感受性を提供するアルファウイルスレプリカーゼに小さなアミノ酸変化を組み込むことによる、自己増幅mRNA(saRNA又はSAM)としても知られるsrRNAに基づく。Elixirgenのc-srRNAは、約30~35℃の許容温度範囲で機能性であるが、約37℃以上の非許容温度では機能性でない。このプラットフォームは、ゲノム組込みがなく、迅速な開発と展開、及び単純なGMP(優良製造プロセス)プロセスが可能であるというmRNAプラットフォームのすべての利益と同時に、mRNAプラットフォームと比較したsrRNAプラットフォーム(すなわち、本発明者らのc-srRNAプラットフォームに先行したもの)のさらなる利点、特に、より長い発現[Johanning et al.,1995]及びより低い投薬量でのより高い免疫原性[Brito et al.,2014]を有する。しかし、この単純な温度制御可能な特徴は、以下に簡潔に記載されるように、T細胞誘導ワクチンの多くの望ましい特徴をともに引き出すことを可能にする。
【0019】
簡潔に述べると、srRNA1ts2は、異種タンパク質の一過性発現のために開発された温度感受性自己複製VEEVに基づくRNAレプリコンである。温度感受性は、VEEVの非構造タンパク質2(nsP2)内での5つのアミノ酸残基の挿入によって付与される。nsP2タンパク質はヘリカーゼ/プロテイナーゼであり、これはnsP1、nsP3及びnsP4と共にVEEVレプリカーゼを構成する。srRNA1ts2は、VEEV構造タンパク質(カプシド、E1、E2及びE3)を含有しない。Elixirgen Therapeutics Inc.の国際公開第2021/138447(A1)号の開示は、参照により本明細書に組み込まれる。特に、国際公開第2021/138447(A1)号の実施例3、
図12、及び配列番号29~49は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0020】
全般的な技術及び定義
本開示の実施は、他に示されない限り、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学及び免疫学の従来の技術を使用し、これらは当技術分野の技術の範囲内である。
【0021】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、別段の指示をしない限り、複数の言及を含む。例えば、「1つの(an)」賦形剤は、1つ以上の賦形剤を含む。
【0022】
本明細書で使用される句「含む(comprising)」は、オープンエンドであり、このような実施形態が追加の要素を含み得ることを示す。対照的に、句「からなる(consisting of)」は閉じられており、このような実施形態が追加の要素(微量不純物を除く)を含まないことを示す。句「から本質的になる」は、部分的に閉じられており、このような実施形態が、このような実施形態の基本的特徴を実質的に変化させない要素をさらに含み得ることを示す。
【0023】
値に関して本明細書で使用される用語「約」は、その値の90%~110%を包含する(例えば、キトサンオリゴ糖に関して使用される場合、約5,000ダルトンの分子量は、4,500ダルトン~5,500ダルトンを指す)。
【0024】
用語「抗原」は、抗体又はT細胞抗原受容体によって特異的に認識され結合される物質を指す。抗原には、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、糖タンパク質、多糖、複合炭水化物、糖、ガングリオシド、脂質及びリン脂質、それらの部分及びそれらの組み合わせが含まれ得る。本開示の文脈において、用語「抗原」は、典型的には、1つ以上の翻訳後修飾を含み得る、少なくとも8アミノ酸残基長のポリペプチド又はタンパク質抗原を指す。
【0025】
用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを指すために互換的に使用され、別段の指定がない限り、特定の長さに限定されない。ポリペプチドには、天然アミノ酸残基又は天然及び非天然アミノ酸残基の組み合わせが含まれ得る。この用語にはまた、ポリペプチドの発現後修飾、例えば、グリコシル化、シアリル化、アセチル化、リン酸化なども含まれる。いくつかの態様では、ポリペプチドは、タンパク質が所望の活性(例えば、抗原性)を維持する限り、自然又は天然の配列に対して修飾を含み得る。
【0026】
本明細書で使用される用語「単離された」及び「精製された」は、天然に付随している少なくとも1つの成分から取り出された(例えば、その元の環境から取り出された)材料を指す。用語「単離された」は、組換えタンパク質に関して使用される場合、タンパク質を産生した宿主細胞の培養培地から取り出されたタンパク質を指す。いくつかの実施形態では、単離されたタンパク質(例えば、WT1タンパク質)は、HPLCによって決定されるとき、少なくとも75%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の純度である。
【0027】
物質の「有効量」又は「十分な量」は、臨床結果を含む有益な又は所望の結果をもたらすのに十分な量であり、このようなものとして、「有効量」は、それが適用される文脈に応じて異なる。抗原をコードするmRNAを含む本開示の組成物を投与する文脈において、有効量は、免疫応答(好ましくは抗原に対する細胞性免疫応答)を刺激するのに十分なmRNAを含有する。
【0028】
本開示において、用語「個体」及び「被験体」は、哺乳動物を指す。「哺乳動物」には、限定されるわけではないが、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル)、家畜、競技用動物、げっ歯類(例えば、マウス及びラット)及びペット(例えば、イヌ及びネコ)が含まれる。いくつかの好ましい実施形態では、被験体はヒト被験体である。
【0029】
抗原をコードするmRNAを含む組成物に関して本明細書で使用される用語「用量」は、任意の時点で被験体によって摂取される(被験体に投与されるか、又は被験体に受け入れられる)量の測定された部分を指す。本開示の組成物を、それを必要とする被験体に投与することは、被験体において抗原に対する免疫応答を刺激するために、有効量の、抗原をコードするmRNAを含む組成物を投与することを含む。
【0030】
応答又はパラメータの「刺激」には、目的のパラメータを除いて他の点では同じ条件と比較した場合、あるいは別の条件と比較した場合に、その応答又はパラメータを誘発及び/又は増強することが含まれる(例えば、抗原を含まないか又はコードしない対照組成物の投与と比較した場合の、抗原を含むか又はコードする組成物の投与後の抗原特異的サイトカイン分泌の増加)。例えば、免疫応答(例えば、Th1応答)の「刺激」は、応答の増加を意味する。測定されるパラメータに応じて、増加は、2倍~200倍以上、5倍~500倍以上、10倍~1000倍以上、又は2、5、10、50、もしくは100倍~200、500、1,000、5,000、もしくは10,000倍であり得る。
【0031】
逆に、応答又はパラメータの「阻害」には、目的のパラメータを除いて他の点では同じ条件と比較した場合、あるいは別の条件と比較した場合に、その応答又はパラメータを低減及び/又は抑制することが含まれる。例えば、免疫応答(例えば、Th2応答)の「阻害」は、応答の減少を意味する。測定されるパラメータに応じて、減少は、2倍~200倍、5倍~500倍以上、10倍~1000倍以上、又は2、5、10、50、もしくは100倍~200、500、1,000、2,000、5,000、もしくは10,000倍であり得る。
【0032】
相対的な用語「より高い」及び「より低い」は、目的のパラメータを除いて他の点では同じ条件と比較した場合、あるいは別の条件と比較した場合の、応答又はパラメータにおけるそれぞれ測定可能な増加又は減少を指す。例えば、「より高い抗体力価」は、対照条件(例えば、mRNAを含まないか、又は抗原をコードしない対照mRNAを含む比較組成物の投与)の結果としての抗原反応性抗体力価よりも、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、又は10倍高い、抗原をコードするmRNAを含む本開示の組成物の投与の結果としての抗原反応性抗体力価を指す。同様に、「より低い抗体力価」は、抗原をコードするmRNAを含む本開示の組成物の投与の結果としての抗原反応性抗体力価よりも、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、又は10倍低い、対照条件(例えば、mRNAを含まないか、又は抗原をコードしない対照mRNAを含む比較組成物の投与)の結果としての抗原反応性抗体力価を指す。
【0033】
本明細書で使用される場合、用語「免疫化」は、抗原に対する哺乳動物被験体の反応を増加させ、したがって、感染に抵抗するか、もしくはそれを克服する、及び/又は疾患に抵抗するその能力を改善するプロセスを指す。
【0034】
本明細書で使用される用語「ワクチン接種」は、哺乳動物被験体の体内へのワクチンの導入を指す。
【0035】
本明細書で使用される場合、「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」及び「パーセント同一性」及び「配列同一性」は、アミノ酸配列(参照ポリペプチド配列)に関して用いた場合、配列を整列させ、最大パーセント配列同一性を達成するために必要に応じてギャップを導入した後、配列同一性の一部としていかなる保存的置換も考慮しない、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列(例えば対象抗原)中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的のための整列は、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの一般に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して、当技術分野の技術の範囲内である様々な方法で達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大の整列を達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列を整列するための適切なパラメータを決定することができる。
【0036】
アミノ酸置換には、ポリペプチド中の1つのアミノ酸の別のアミノ酸での置換が含まれ得る。アミノ酸置換を目的の抗原に導入してもよく、産物を、所望の活性、例えば、増大した安定性及び/又は免疫原性についてスクリーニングしてもよい。
【0037】
アミノ酸は概して、以下の共通の側鎖特性にしたがって分類することができる。
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖配向に影響を及ぼす残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
【0038】
保存的アミノ酸置換は、これらのクラスの1つのメンバーを同じクラスの別のメンバーと交換することを含む。非保存的アミノ酸置換は、これらのクラスの1つのメンバーを別のクラスのメンバーと交換することを含む。
【0039】
本明細書で使用される場合、用語「賦形剤」は、活性成分(例えば、抗原をコードするmRNA)を含む組成物中に存在する化合物を指す。医薬的に許容され得る賦形剤は、不活性な医薬化合物であり、例えば、溶媒、増量剤、緩衝剤、等張化剤、及び保存剤を含み得る(Pramanick et al.,Pharma Times,45:65-77,2013)。いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、溶媒、増量剤、緩衝剤、及び等張化剤のうちの1つ以上として機能する賦形剤を含む(例えば、食塩水中の塩化ナトリウムは、水性ビヒクル及び等張化剤の両方として役立ち得る)。
【0040】
細胞性免疫のための皮内送達の最適化
皮内ワクチン接種は、長期持続細胞性免疫及び免疫原の増大をもたらす[Hickling and Jones,2009]。ヒト皮膚(表皮及び真皮)には、ランゲルハンス細胞及び真皮樹状細胞(DC)を含む抗原提示細胞(APC)が豊富である。皮内ワクチン接種は、APCを標的とするので、皮下又は筋内ワクチン接種よりも5~10倍有効であることが知られており[Hickling and Jones,2009]、このような標的化はまた、長期持続性免疫のためにT細胞免疫経路を活性化する。皮内注射によって、c-srRNAは主に皮膚APCによって取り込まれ、そこで複製し、抗原を産生し、抗原をペプチドに消化し、これらのペプチドをT細胞に提示する(
図1)。この経路を介して提示されるペプチドは、MHC-I拘束性CD8
+キラーT細胞を刺激する。別の経路では、APCはまた、近くの皮膚細胞によって産生される抗原を取り込む。この経路を介して提示されるペプチドは、MHC-II拘束性CD4
+ヘルパーT細胞を刺激する。
【0041】
皮内注射の問題及び本発明者らの解決策
ここで、本発明者らが特定した潜在的な問題及び本発明者らのc-srRNAプラットフォームが提供する解決策がある。
【0042】
(1)皮内ワクチンプラットフォームにおけるようなsrRNAの適用について認識されていない重大なハードルは、mRNA及びsrRNAの両方が皮膚温度で抗原を十分に発現しないことである[国際出願第PCT/US20/67506号]。分かりにくいことに、ヒトの皮膚の温度(約30~35℃)は、ヒトの深部体温(約37℃)よりも低い。これは、37℃で開発されたベクター及びプラットフォームが皮内注射に最適ではないことを意味する。本発明者らのc-srRNAプラットフォームの1つの新基軸は、それが皮膚温度で抗原を強く発現することである[国際出願第PCT/US20/67506号]。さらに、この温度制御はまた、c-srRNAの意図されない全身分布によって引き起こされる安全性リスクを最小化する。なぜなら、c-srRNAは、その温度がその許容閾値を超えて上昇すると(c-srRNAが身体深部に近づくと)不活性化されるからである。言い換えれば、c-srRNAプラットフォームは、mRNA及びsrRNAと比較して皮内注射に最良の抗原を発現し、それはさらに、ベクターが被験体の身体の他の領域に広がり、産生されるようになる能力が制限されるか、又は不活性化されるという安全性の特徴を有する。
【0043】
(2)皮内ワクチン接種の別の課題は、適した添加剤の欠如である。アジュバント(例えば、アルミニウム塩及び水中油)は、皮内経路によって送達される場合、局所的に反応原性が高すぎるため、アジュバントは、臨床的に承認された皮内ワクチンに組み込まれておらず、その結果、免疫原性がより低くなる[Hickling and Jones,2009]。筋内投与されるmRNA及びsrRNAワクチンに使用される脂質ナノ粒子(LNP)も水中油型であり、これは皮膚反応原性を引き起こし、PEGなどのLNP成分に対するアレルギー反応のリスクを増加させ得る。本発明者らのc-srRNAプラットフォームは、裸のc-srRNA(LNPなし、アジュバントなし)として注射されるため、この問題に対する解決策となる。第1に、細胞、特にAPC内でのRNAの自己複製は、強力な自然免疫を誘導し、これがアジュバントの主要な機能の代替となる。第2に、文献及び本発明者ら自身のデータは、特に皮内注射について、裸のmRNA/srRNAが、mRNA/srRNAのエレクトロポレーション[Johansson et al.,2012]及びLNPと組み合わせたmRNA/srRNA[Golombek et al.,2018]と比較して、同等に効率的に抗原を産生することを実証する。
【0044】
(3)第3の課題は、皮内ワクチンの先例の数が限られていることである。日常的に皮内投与されてきたのはBCGワクチンのみである。皮内注射を採用するためのハードルを下げる1つの方法は、容易で一貫した皮内注射を可能にするために現在利用可能である、MicronJet600(NanoPass)及びImmucise(Terumo)などの特化デバイスを使用することによるものである。これらのデバイスはまた、大規模生産及び展開のための良好な候補でもある。しかし、これらの特殊なデバイスは比較的高価であるため、標準的な針及びシリンジを使用するMantoux技術による皮内注射も選択肢である。
【0045】
適した抗原の設計
腫瘍関連抗原(TAA)は、腫瘍細胞において発現されるが、胚細胞においても発現され、又は正常細胞において低レベルで発現される。米国がん研究所(National Cancer Institute)は、がん療法の標的に適した75個のがん抗原を選択した(Cheever et al.,2009)。例えば、ウィルムス腫瘍1(WT1)は、米国がん研究所によって特定された75個のがん抗原の中で最も有望なものとしてランク付けされた(Cheever et al.,2009)。WT1は、広範な腫瘍において発現されるが、胚組織において発現され、及び成体における非常に限定された細胞型においてのみ発現される。例えば、WT1は、大部分の白血病(AML、ALL)、膵臓がん、肺がん、及び神経膠芽腫において発現される。WT1ペプチドは、多くの前臨床及び臨床試験においてがんワクチンに対する抗原として使用されている。WT1の使用を実施例1に示す。このリストはまた、NY-ESO-1(実施例2)及びMAGEA3(実施例3)を含む。本発明者らのc-srRNAプラットフォームに基づくがんワクチンに対する抗原として、任意のTAAを使用してもよい。融合タンパク質又は別々に発現されるタンパク質として、これらのTAAの任意の組み合わせを使用することも可能である(実施例4)。
【0046】
近年、患者由来の腫瘍細胞のゲノム配列決定を行うことが一般的になってきている。このような試みは、多くの場合、それらのゲノムにおける変異による、腫瘍に特異的なタンパク質産物又はペプチドを特定する。ネオ抗原とも呼ばれるこれらの腫瘍特異的抗原(TSA)は、がんワクチンの理想的な標的である。本発明者らのc-srRNAプラットフォームに基づくがんワクチンに対する抗原として、単一のTSA又は複数のTSAの融合体を使用してもよい(実施例5)。
【0047】
In vivoでの遺伝子発現のキトサン増強
RNアーゼ阻害剤(ヒト胎盤から精製されたタンパク質)は、c-srRNA上にコードされる抗原に対する免疫原性をわずかに増強し、これはおそらく、マウスに皮内注射された場合に、in vivoでc-srRNAからの抗原の発現を増強することによる(例えば、国際公開第2021/138447(A1)号の
図25Cを参照のこと)。RNアーゼ阻害剤は、c-srRNAをin vivoでのRNアーゼ媒介性分解から保護し得る。しかし、注射可能な製品において賦形剤としてタンパク質に基づくRNアーゼ阻害剤を使用することは困難であるため、療法目的のためにin vivoで目的の遺伝子(GOI)の発現を増強することができる代替的な薬剤を見出すことが望ましい。
【0048】
低分子量キトサン(分子量約6kDa)は、30~220nMの範囲の阻害定数でRNアーゼの活性を阻害することが示された(Yakovlev et al.,Biochem Biophys Res Commun commun,357(3):J.584-8,2007)。2つの異なるキトサンオリゴマー、すなわちキトサンオリゴマー(CAS番号9012-76-4、分子量≦5kDa、≧75%脱アセチル化:Heppe Medical Chitosan GmbH:製品番号44009)、及びキトサンオリゴ糖ラクテート(CAS番号148411-57-8、分子量約5kDa、>90%脱アセチル化:Sigma-Aldrich:製品番号523682)が最近試験された。驚くべきことに、0.001μg/mL(約0.2nM:Yakovlev et al.、上記、2007によって発見された阻害定数の約1/100)という非常に低いレベルのキトサンオリゴマーであっても、c-srRNA上にコードされるルシフェラーゼの発現を約10倍増強可能であることが見出された(データ未提示)。GOI発現の同様の増強は、最大で0.5μg/mLにわたってのキトサンオリゴマーによって、及び0.1μg/mLのキトサンオリゴ糖ラクテートによって達成された。
【0049】
キトサンは、複合体又はナノ粒子を形成することができるため、ヌクレオチド(DNA及びRNA)送達ベクターとして使用されている(Buschmann et al.,Adv Drug Deliv Rev,65(9):1234-70,2013、及びCao et al.,Drugs,17:381,2019に概説されている)。しかし、キトサンオリゴマーによるGOI発現の増強が、ナノ粒子又はc-srRNAとキトサンオリゴマーとの複合体形成によって媒介されそうにないことは注目に値する。第1に、このような低濃度のキトサンオリゴマーは、RNAとの複合体形成を可能にしない。第2に、皮内注射の直前にキトサンオリゴマーをc-srRNAに添加することにより、複合体を形成するために十分な時間がない。
【0050】
キトサンオリゴマーは、in vitroでのRNアーゼ阻害剤としての有効濃度と比較してはるかに低い濃度でin vivoでのGOIの発現を増強するため(Yakovlev et al.、前出、2007)、キトサンオリゴマーによるこの増強されたGOI発現は、そのRNアーゼ阻害機構によって媒介されない可能性があると考えられる。例えば、キトサンオリゴマーは、細胞へのc-srRNAの取り込みを促進可能であり、それによって、c-srRNAからのGOIの発現を増強可能である。それにもかかわらず、この驚くべき発見は、c-srRNA上にコードされるGOIのin vivo療法発現を増強するための有効な手段を提供するものとなる。
列挙された実施形態
1.哺乳動物被験体においてがん抗原に対する免疫応答を刺激するための組成物であって、賦形剤、及び融合タンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)と、ウイルス構造タンパク質コード領域を欠くアルファウイルスレプリコンと、を含む温度感受性自己複製RNAを含み、このORFが、5’から3’に、
(i)哺乳動物シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列と、
(ii)がん抗原をコードするヌクレオチド配列と、
を含み、
温度感受性自己複製RNAが、許容温度で融合タンパク質を発現することができるが、非許容温度では発現することができない、
組成物。
2.がん抗原が腫瘍関連抗原(TAA)を含む、実施形態1に記載の組成物。
3.TAAが、WT1抗原、NY-ESO-1抗原、MAGEA3抗原、BIRC5(SURVIVIN)抗原、PRAME抗原、又はそれらの組み合わせを含む、実施形態2に記載の組成物。
4.TAAがWT1抗原を含む、実施形態2に記載の組成物。
5.WT1抗原のアミノ酸配列が、配列番号2、又は配列番号2と少なくとも95%、96%、97%、98%もしくは99%同一であるアミノ酸配列を含む、実施形態4に記載の組成物。
6.TAAが、WT1抗原、NY-ESO-1抗原、MAGEA3抗原、BIRC5抗原、及びPRAME抗原を含む、TAA融合タンパク質である、実施形態2に記載の組成物。
7.TAA融合タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号7、又は配列番号7と少なくとも95%、96%、97%、98%もしくは99%同一であるアミノ酸配列を含む、実施形態6に記載の組成物。
8.TAAがBIRC5抗原を含む、実施形態2に記載の組成物。
9.BIRC5抗原のアミノ酸配列が、配列番号3、又は配列番号3と少なくとも95%、96%、97%、98%もしくは99%同一であるアミノ酸配列を含む、実施形態8に記載の組成物。
10.TAAがNY-ESO-1抗原を含む、実施形態2に記載の組成物。
11.NY-ESO-1抗原のアミノ酸配列が、配列番号4、又は配列番号4と少なくとも95%、96%、97%、98%もしくは99%同一であるアミノ酸配列を含む、実施形態10に記載の組成物。
12.TAAがMAGEA3抗原を含む、実施形態2に記載の組成物。
13.MAGEA3抗原のアミノ酸配列が、配列番号5、又は配列番号5と少なくとも95%、96%、97%、98%もしくは99%同一であるアミノ酸配列を含む、実施形態12に記載の組成物。
14.TAAがPRAME抗原を含む、実施形態2に記載の組成物。
15.PRAME抗原のアミノ酸配列が、配列番号6、又は配列番号6と少なくとも95%、96%、97%、98%もしくは99%同一であるアミノ酸配列を含む、実施形態14に記載の組成物。
16.がん抗原がネオ抗原を含む、実施形態1に記載の組成物。
17.哺乳動物シグナルペプチドが、哺乳動物抗原提示細胞において発現される表面タンパク質のシグナルペプチドである、実施形態1~16のいずれか1つに記載の組成物。
18.哺乳動物シグナルペプチドがCD5シグナルペプチドであり、CD5シグナルペプチドのアミノ酸配列が、配列番号1、又は配列番号1と少なくとも90%もしくは95%同一であるアミノ酸配列を含む、実施形態17に記載の組成物。
19.アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、シンドビスウイルス、及びセムリキ森林ウイルスからなる群から選択される、実施形態1~18のいずれか1つに記載の組成物。
20.アルファウイルスがベネズエラウマ脳炎ウイルスである、実施形態19に記載の組成物。
21.アルファウイルスレプリコンが、非構造タンパク質2(nsP2)のβシート5とβシート6との間に4~6個の追加のアミノ酸を含む、nsP2の発現を生じる12~18ヌクレオチドの挿入を有する非構造タンパク質コード領域を含む、実施形態1~20のいずれか1つに記載の組成物。
22.追加のアミノ酸が配列番号14(TGAAA)の配列を含む、実施形態21に記載の組成物。
23.nsP2のアミノ酸配列が配列番号12を含む、実施形態22に記載の組成物。
24.nsP2のアミノ酸配列が、配列番号9、配列番号10、及び配列番号11からなる群から選択される1つの配列を含む、実施形態23に記載の組成物。
25.nsP2のアミノ酸配列が配列番号11を含む、実施形態24に記載の組成物。
26.許容温度が30℃~36℃、又は31℃~35℃、又は32℃~34℃、又は33℃±0.5℃であり、非許容温度が37℃±0.5℃であり、任意選択で許容温度が31℃~35℃であり、非許容温度が少なくとも37℃±0.5℃である、実施形態1~25のいずれか1つに記載の組成物。
27.組成物が脂質ナノ粒子を含まない、実施形態1~26のいずれか1つに記載の組成物。
28.組成物がキトサンをさらに含む、実施形態1~27のいずれか1つに記載の組成物。
29.哺乳動物被験体においてがん抗原に対する免疫応答を刺激するための方法であって、実施形態1~28のいずれか1つに記載の組成物を哺乳動物被験体に投与して、この哺乳動物被験体においてこのがん抗原に対する免疫応答を刺激するステップを含む、方法。
30.組成物が皮内投与される、実施形態29に記載の方法。
31.免疫応答が、がん抗原を発現する哺乳動物細胞と反応性の細胞性免疫応答を含む、実施形態29又は実施形態30に記載の方法。
32.細胞性免疫応答が、がん抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球応答及びがん抗原特異的ヘルパーTリンパ球応答の一方又は両方を含む、実施形態31に記載の方法。
33.免疫応答が、がん抗原と反応性の体液性免疫応答をさらに含む、実施形態32に記載の方法。
34.哺乳動物被験体がヒト被験体である、実施形態29~33のいずれか1つに記載の方法。
35.(i)実施形態1~28のいずれか1つに記載の組成物と、
(ii)哺乳動物被験体へのこの組成物の皮内送達のためのデバイスと、
を含む、キット。
36.デバイスがシリンジ及び針を含む、実施形態35に記載のキット。
【実施例】
【0051】
略語:APC(抗原提示細胞);BIRC5(5又はSURVIVINを含むバキュロウイルスIAPリピート);IL-4(インターロイキン-4);IFN-γ(インターフェロンガンマ);MAGEA3(黒色腫関連抗原3);ORF(オープンリーディングフレーム);PBO(プラセボ);NY-ESO-1(ニューヨーク食道扁平上皮がん1又はCTAG1B);PRAME(黒色腫において優先的に発現される抗原);SFC(スポット形成細胞);srRNAts(温度感受性自己複製RNA又はc-srRNA温度制御可能自己複製RNA);TAA(腫瘍関連抗原);TSA(腫瘍特異的抗原);及びWT1(ウィルムス腫瘍1)。
【0052】
実施例1.WT1を発現する腫瘍に対する免疫療法
本実施例は、ヒトウィルムス腫瘍1(WT1)タンパク質が、皮内注射された温度制御可能な自己複製RNAから発現された場合に、BALB/cマウスにおいて強力な細胞性免疫応答を誘導するという知見を記載する。驚くべきことに、EXG-5101 RNA構築物は、同系マウスがんモデルにおいてヒトWT1を発現するマウス乳腺腫瘍細胞の排除を誘導する。
【0053】
材料及び方法
BALB/c近交系雌マウス。
【0054】
EXG-5101 mRNAは、ヒトWT1タンパク質に融合されたヒトCD5シグナルペプチドを含む融合タンパク質をコードする温度制御可能な自己複製RNAベクター(srRNA1ts2[国際出願第PCT/US2020/067506号])のin vitro転写によって産生された(
図2)。EXG-5101のWT1タンパク質は、非AUG(CUG)翻訳開始コドンから始まるアイソフォームDによってコードされる。
【0055】
4T1乳腺腫瘍細胞(ATCC番号CRL-2539)は、BALB/cマウスに由来し、ヒト乳がん(ステージIV)を再現することが知られている。
【0056】
図4は、実験手順を例示する。CMVプロモーターによって駆動されるヒトウィルムス腫瘍1(WT1)タンパク質アイソフォームD(NM_024426.6)をコードするプラスミドDNAと、選択可能マーカーとしてのネオマイシン耐性遺伝子とで、4T1腫瘍細胞をトランスフェクションした。ヒトWT1を発現する4T1細胞の安定な形質転換体を、G418選択によって単離した。細胞をBALB/cマウスの乳腺脂肪体に注射した(腫瘍接種後0日目)。7日目に、プラセボ(PBO)、5μg又は25μgのEXG-5101 mRNAのいずれかを皮内投与した(ワクチン接種後0日目)。腫瘍サイズを、5日目、8日目(ワクチン接種後0日目)、25日目(ワクチン接種後18日目)、及び32日目(ワクチン接種後25日目)に測定した。
【0057】
結果及び結論
図5は、プラセボ(PBO)、5μg又は25μgのEXG-5101 mRNAワクチンを注射したBALB/cマウスにおける腫瘍の増殖を示す。5匹のマウス(n=5)の平均及び標準偏差(エラーバー)を各群について示す。腫瘍接種後7日目までに、3群すべてのマウスで腫瘍が発生した。しかし、25日目(ワクチン接種後18日目)までに、EXG-5101 mRNAを注射したマウスにおいて腫瘍増殖が用量依存的に抑制された一方、プラセボを注射したマウスにおいて腫瘍は増殖し続けた。
【0058】
図6A、6Bは、EXG-5101 mRNAの皮内注射による腫瘍関連抗原反応性細胞性免疫応答の誘導を示す。
図6Aに示すように、BALB/cマウスに、25μgのEXG-5101又はプラセボ(PBO)のいずれかを0日目に皮内注射した。14日目にこれらのマウスから脾細胞を収集し、ELISpotアッセイに使用した。
図6Bは、ヒトWT1タンパク質をカバーする110のペプチドのプール(11アミノ酸オーバーラップを有する15量体)によって刺激された1×10
6脾細胞当たりのIFN-γ又はIL-4スポット形成細胞(SFC)の頻度としてのELISpotアッセイの結果を示す。IFN-γ分泌細胞は、CD8
+T細胞及びCD4
+Th1細胞に相当し、細胞媒介性(細胞性)免疫応答があるとみられ、一方、IL-4分泌細胞は、CD4
+Th2細胞に相当する。したがって、この結果は、EXG-5101がヒトWT1タンパク質に対する細胞性免疫を誘導したことを示す。
【0059】
結論として、皮内注射されたEXG-5101 mRNA免疫療法剤は、乳がんの同系マウスモデルにおいて用量依存的にWT1発現腫瘍の腫瘍増殖を抑制するか、又は腫瘍サイズを減少させる。さらに、皮内注射されたEXG-5101 mRNA免疫療法剤は、マウスモデルにおいてヒトWT1タンパク質に対する細胞性免疫を誘導する。
【0060】
実施例2.NY-ESO-1を発現する腫瘍に対する免疫療法
本実施例は、皮内注射されたヒトNY-ESO-1をコードするc-srRNAが、同系マウスがんモデルにおいてヒトNY-ESO-1を発現するマウス乳腺腫瘍細胞に対する細胞性免疫応答を誘導することができるかどうかの評価を記載する。
【0061】
材料及び方法
BALB/c近交系雌マウス。
【0062】
c-srRNA-NY-EOS1 mRNAは、ヒトNY-ESO-1タンパク質に融合されたヒトCD5シグナルペプチドを含む融合タンパク質をコードする温度制御可能な自己複製RNAベクター(srRNA1ts2[国際出願第PCT/US20/67506号])のin vitro転写によって産生される。NY-ESO-1は、がん/精巣抗原1B(CTAG1B)(NM_001327)としても知られている。
【0063】
4T1乳腺腫瘍細胞(ATCC番号CRL-2539)は、BALB/cマウスに由来し、ヒト乳がん(ステージIV)を再現することが知られている。
【0064】
CMVプロモーターによって駆動される、がん/精巣抗原1B(CTAG1B)(NM_001327)としても知られるヒトNY-ESO-1をコードするプラスミドDNAと、選択可能マーカーとしてのネオマイシン耐性遺伝子とで、4T1腫瘍細胞をトランスフェクションする。ヒトNY-ESO-1遺伝子を発現する4T1細胞の安定な形質転換体を、G418選択によって単離する。細胞をBALB/cマウスの乳腺脂肪体に注射する(腫瘍接種後0日目)。7日目に、プラセボ(PBO)、5μg又は25μgのc-srRNA-NY-ESO-1 mRNAのいずれかを皮内投与する(ワクチン接種後0日目)。腫瘍サイズを、ワクチン接種後のいくつかの時点で測定する。
【0065】
結果および結論
皮内注射されたc-srRNA-NY-ESO-1 mRNA免疫療法剤は、乳がんの同系マウスモデルにおいて用量依存的にNY-ESO-1発現腫瘍の腫瘍増殖を抑制するか又は腫瘍サイズを減少させると考えられる。
【0066】
実施例3.MAGEA3を発現する腫瘍に対する免疫療法
本実施例は、皮内注射されたヒトMAGEファミリーメンバーA3(MAGEA3)をコードするc-srRNAが、同系マウスがんモデルにおいてヒトMAGEA3を発現するマウス乳腺腫瘍細胞に対する細胞性免疫応答を誘導可能であるかどうかの評価を記載する。
【0067】
材料及び方法
BALB/c近交系雌マウス。
【0068】
c-srRNA mRNA-MAGEA3は、ヒトMAGEファミリーメンバーA3(MAGEA3)タンパク質(NM_005362)に融合されたヒトCD5シグナルペプチドを含む融合タンパク質をコードする温度制御可能な自己複製RNAベクター(srRNA1ts2[国際出願第PCT/US20/67506号])のin vitro転写によって産生される。
【0069】
4T1乳腺腫瘍細胞(ATCC番号CRL-2539)は、BALB/cマウスに由来し、ヒト乳がん(ステージIV)を再現することが知られている。
【0070】
CMVプロモーターによって駆動されるヒトMAGEA3(NM_005362)をコードするプラスミドDNAと、選択可能マーカーとしてのネオマイシン耐性遺伝子とで、4T1腫瘍細胞をトランスフェクションする。ヒトMAGEA3を発現する4T1細胞の安定な形質転換体を、G418選択によって単離する。細胞をBALB/cマウスの乳腺脂肪体に注射する(腫瘍接種後0日目)。7日目に、プラセボ(PBO)、5μg又は25μgのc-srRNA-MAGEA3 mRNAのいずれかを皮内投与する(ワクチン接種後0日目)。腫瘍サイズを、ワクチン接種後のいくつかの時点で測定する。
【0071】
結果及び結論
皮内注射されたc-srRNA-MAGEA3 mRNA免疫療法剤は、乳がんの同系マウスモデルにおいて用量依存的にMAGEA3発現腫瘍の腫瘍増殖を抑制するか、又は腫瘍サイズを減少させると考えられる。
【0072】
実施例4.2つ以上の腫瘍関連抗原(TAA)を発現する腫瘍に対する免疫療法
本実施例は、WT1、NY-ESO-1、BIRC5、MAGEA3、及びPRAMEを含む、融合タンパク質をコードする皮内注射されたc-srRNAが、BALB/cマウスにおいて、融合タンパク質のTAAに対する強力な細胞性免疫応答を誘導するという知見を記載する。
【0073】
材料及び方法
BALB/c近交系雌マウス。
【0074】
図7は、ヒトWT1、NY-ESO-1、BIRC5、MAGEA3及びPRAMEの、ヒトCD5遺伝子由来のシグナルペプチド配列を有する融合タンパク質をコードするc-srRNA mRNA(srRNA1ts2[国際出願第PCT/US20/67506号])である、EXG-5105ワクチンの模式図を示す。
【0075】
4T1乳腺腫瘍細胞は、BALB/c(ATCC:CRL-2539)に由来し、ヒト乳がん(ステージIV)を再現することが知られている。
【0076】
CMVプロモーターによって駆動される、それぞれ、ヒトWT1、BIRC5、NY-ESO-1、MAGEA3及びPRAMEをコードする3つのプラスミドDNAと、G418(ネオマイシン)に対する選択可能マーカーとで、4T1腫瘍細胞株をトランスフェクションした。ヒトWT1、BIRC5、NY-ESO-1、MAGEA3、及びPRAMEを発現する4T1細胞の安定な形質転換体を、G418選択後に単離した。細胞をBALB/cマウスの乳腺脂肪体に注射した。プラセボ(PBO)、5μg又は25μgのEXG-5105 mRNAワクチンのいずれかを皮内投与した。続いて、腫瘍サイズを測定した。
【0077】
結果及び結論
図8Aは、EXG-5105 mRNAワクチンの免疫原性を調べるための実験手順を示す。BALB/cマウスに、0日目に25μgのEXG-5105又はプラセボ(PBO)のいずれかを皮内注射した。14日目にこれらのマウスから脾細胞を収集し、ELISpotアッセイに使用した。EXG-5105は、ヒトWT1、NY-ESO-1、BIRC5、MAGEA3、及びPRAMEを含む、融合タンパク質をコードする。このようなものとして、EXG-5105の皮内注射は、これらのTAAの5つすべてに対する細胞性免疫を同時に誘導すると予想される。実際、
図8B~8Fに示される結果は、これが事実であったことを示す。
図8Bは、ヒトWT1タンパク質をカバーする110のペプチドのプール(11アミノ酸オーバーラップを有する15量体)によって刺激された1×10
6脾細胞当たりのIFN-γ又はIL-4スポット形成細胞(SFC)の頻度としてのELISpotアッセイの結果を示す。IFN-γ分泌細胞は、CD8
+T細胞及びCD4
+Th1細胞に相当し、細胞媒介性(細胞性)免疫応答を示し、一方、IL-4分泌細胞は、CD4
+Th2細胞に相当する。したがって、この結果は、EXG-5105がヒトWT1タンパク質に対する細胞性免疫を誘導したことを示す。同様に、
図8Cは、ヒトNY-ESO-1タンパク質をカバーするペプチドのプール(11アミノ酸オーバーラップを有する15量体)によって刺激された1×10
6個の脾細胞当たりのIFN-γ又はIL-4スポット形成細胞(SFC)の頻度としてのELISpotアッセイの結果を示す。結果は、EXG-5105が、ヒトNY-ESO-1タンパク質ならびにヒトWT1タンパク質に対する細胞性免疫を誘導したことを示す。同様に、
図8D、
図8E、及び
図8Fは、それぞれ、ヒトMAGEA3タンパク質、ヒトBIRC5(SURVIVIN)タンパク質、及びヒトPRAMEタンパク質をカバーするペプチドのプールによって刺激された1×10
6脾細胞当たりのサイトカイン(左、インターフェロンガンマ[IFN-γ]、右、インターロイキン-4[IL-4])スポット形成細胞(SFC)の頻度を示す。興味深いことに、WT1、NY-ESO-1、及びBIRC5(これらはすべて、腫瘍ならびにいくつかの他の組織において発現される)に対してよりも、いずれもむしろもっぱら腫瘍及び精巣において発現されるMAGEA3及びPRAMEに対して、より強力な細胞性免疫応答が誘発された。
【0078】
結論として、皮内注射されたEXG-5105 mRNA免疫療法剤は、同系マウスがんモデルにおいて融合タンパク質の個別の成分に対する細胞性免疫を誘導する。さらに、皮内注射されたEXG-5105 mRNAワクチンは、in vivoでヒトWT1、NY-ESO-1、BIRC5、MAGEA3、及びPRAMEを発現する腫瘍細胞の増殖を抑制することが予想される。
【0079】
実施例5.腫瘍特異的抗原(TSA)を発現する腫瘍に対する免疫療法
本実施例は、ネオ抗原をコードする皮内注射されたsrRNAtsが、同系マウスがんモデルにおいて、BALB/cマウス中、ネオ抗原に対する細胞性免疫応答を誘導するという知見を記載する。
【0080】
材料及び方法
BALB/c近交系雌マウス。
【0081】
srRNAts mRNA(srRNA1ts2[国際出願第PCT/US20/67506号])は、ヒトCD5遺伝子に由来するシグナルペプチド配列を有するネオ抗原をコードする。
【0082】
4T1乳腺腫瘍細胞は、BALB/c(ATCC:CRL-2539)に由来し、ヒト乳がん(ステージIV)を再現することが知られている。
【0083】
CMVプロモーターによって駆動されるヒトネオ抗原をコードする3つのプラスミドDNAと、G418(ネオマイシン)に対する選択可能マーカーとで、4T1腫瘍細胞株をトランスフェクションした。ヒトネオ抗原を発現する4T1細胞の安定な形質転換体を、G418選択後に単離した。細胞をBALB/cマウスの乳腺脂肪体に注射した。プラセボ(PBO)、5μg又は25μgのsrRNAtsネオ抗原mRNAワクチンのいずれかを皮内投与した。続いて、腫瘍サイズを測定した。
【0084】
結果及び結論
皮内注射されたsrRNAtsネオ抗原mRNAワクチンは、ヒトネオ抗原を発現する腫瘍細胞の増殖を抑制し、同系マウスがんモデルにおいて用量依存的に腫瘍を排除する。
【0085】
実施例6.T細胞誘導性に関しての自己複製RNAの比較
本実施例は、抗原をコードする皮内注射されたsrRNAts構築物が、マウスにおいてその抗原に対する細胞性免疫応答を誘導するという知見を記載する。
【0086】
材料及び方法
C57BL/6マウス。
【0087】
3つの異なる温度制御可能な自己複製RNAベクター(c-srRNA)及び対照自己複製RNAベクター(c-srRNA)を試験した。srRNAの特徴を表6-1に要約する。親VEEV株のIFN-α/β感受性は以前に報告された(Spotts et al.,J Viol,72:10286-10291,1998)。c-srRNA1は、VEEVのTRD株に基づくが、A16D置換(TC83変異)及びP778S置換を有するように修飾された。c-srRNA3もまた、VEEVのTRD株に基づくが、A16D及びP778S置換を含まなかった。srRNA4は、ヒトから単離されたVEEVのV198株に基づいた。3つすべてのc-srRNAベクターには、以前に記載されたように(Koによる米国特許第11,421,248号、実施例3、21及び22(参照により本明細書に組み込まれる)を参照のこと)、温度制御性のためにVEEVのnsP2タンパク質内に同じ5アミノ酸挿入が含まれる。4つすべてのsrRNAは、シグナルペプチド配列を欠く抗原(SARS-CoV-2スパイクタンパク質受容体結合ドメイン)をコードする。
【表1】
【0088】
VEEVゲノムのヌクレオチド配列は、TRD株がGenBank番号L01442.2として、TC-83株がGenBank番号L01443.1として、GenBankに開示されている。srRNAのnsP2タンパク質のアミノ酸配列は、本明細書に開示される:srRNA0(配列番号13);c-srRNA1(配列番号9);c-srRNA3(配列番号10);c-srRNA4(配列番号11);c-srRNAコンセンサス(配列番号12)。
【0089】
srRNAの調製。すべてのsrRNAをin vitro転写によって産生した。NEB 10-beta Competent E.coli(C3019H/C3019I)をプラスミドDNAで形質転換し、100μg/mLアンピシリンを含むLuriaブロスで培養した。精製したプラスミドDNAをMluIによって線状化した。Cap1及びポリAを用いたc-srRNAのin vitro転写(IVT)は、Cleancap AU(Trilink)と共にT7 RNAポリメラーゼを製造業者のプロトコルにしたがって用いた、プラスミドDNAのin vitro転写を用いて行った。
【0090】
マウス皮膚へのsrRNAの注射。マウスを無作為に群に分け、注射の1日前に後肢を剃毛し、皮膚を露出させた。乳酸リンゲル(LR)溶液中で再構成した5μg又は25μgのsrRNAを、剃毛した皮膚に皮内注射した。
【0091】
結果及び結論
C57BL/6マウスに、裸のRNA(脂質ナノ粒子もトランスフェクション試薬もなし)としてのsrRNA又はプラセボのうちの1つを皮内注射によって投与した(
図9A)。予想された通り、抗原特異的IFN-γ分泌T細胞の存在によって評価された細胞性免疫は、ワクチン接種後14日目までに既に誘導されていた(
図9B)。c-srRNA1によって誘導されたT細胞応答は、標準的な非温度制御性srRNA0によって誘導された応答よりも強かった。さらに、c-srRNA3及びc-srRNA4によって誘導されるT細胞応答はいずれも、srRNA0及びc-srRNA1によって誘導される応答よりも強かった。驚くべきことに、c-srRNA3及びc-srRNA4によって誘導されるT細胞応答はいずれも、c-srRNA1によって誘導される応答よりも約3倍高かった。この差異は、c-srRNA3及びc-srRNA4の親VEEV配列が、c-srRNA1の親VEEV配列よりもI型インターフェロンによる抑制に対してより耐性であることによると考えられる。
【0092】
参考文献
本開示に関する参照文献には、Elixirgen Therapeuticsの国際出願第PCT/US2020/067506号;Brito et al.,Mol Ther.22(12):2118-2129,2014;Cheever et al.,Clin Cancer Res.15:5323-5337,2009;Golombek et al.,Mol Ther Nucleic Acids.11:382-392,2018;Hickling et al.,「Intradermal Delivery of Vaccines:A review of the literature and the potential for development for use in low-and middle-income countries.」PATH/WHO August 27,2009;Johanning et al.,Nucleic Acids Res.23(9):1495-501,1995;及びJohansson et al.,PLoS One.7(1):e29732,2012が含まれる。
〔配列表〕
【0093】
配列番号1
>ヒトCD5シグナルペプチド
【化1】
【0094】
配列番号2
>ヒトウィルムス腫瘍タンパク質(NM_024426.6)
【化2】
【0095】
配列番号3
>ヒトBIRC5(別名サバイビン)タンパク質(NM_001168)
【化3】
【0096】
配列番号4
>ヒトNY-ESO-1タンパク質(NM_001327)
【化4】
【0097】
配列番号5
>ヒトMAGEA3タンパク質(NM_005362)
【化5】
【0098】
配列番号6
>ヒトPRAMEタンパク質(NM_001291715)
【化6】
【0099】
配列番号7
>人工タンパク質:WT1、BIRC5、NY-ESO-1、MAGEA3、PRAMEタンパク質の融合
【化7】
【0100】
配列番号8
>人工タンパク質:ヒトCD5(シグナルペプチドのみ)、WT1、BIRC5、NY-ESO-1、MAGEA3、PRAMEタンパク質の融合
【化8】
【0101】
配列番号9
>タンパク質:c-srRNA1 nsP2
【化9】
【0102】
配列番号10
>タンパク質:c-srRNA3 nsP2
【化10】
【0103】
配列番号11
>タンパク質:c-srRNA4 nsP2
【化11】
【0104】
配列番号12
>人工タンパク質:c-srRNA nsP2コンセンサス
【化12】
【0105】
配列番号13
>VEEV:srRNA0
【化13】
【0106】
配列番号14
>人工タンパク質:ts挿入
TGAAA
【配列表】
【国際調査報告】