(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】角膜瘢痕化を予防または低減する局所薬物療法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240905BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240905BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240905BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20240905BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240905BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20240905BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240905BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240905BHJP
A61K 31/4178 20060101ALI20240905BHJP
A61K 31/4184 20060101ALI20240905BHJP
A61K 31/41 20060101ALI20240905BHJP
A61K 31/4245 20060101ALI20240905BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20240905BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240905BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240905BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240905BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K47/18
A61K47/02
A61K47/04
A61K47/10
A61K47/20
A61K47/38
A61K47/36
A61K31/4178
A61K31/4184
A61K31/41
A61K31/4245
A61K31/573
A61K9/08
A61K9/06
A61P27/02
A61P43/00 121
A61P43/00 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513761
(86)(22)【出願日】2022-08-30
(85)【翻訳文提出日】2024-04-10
(86)【国際出願番号】 US2022075640
(87)【国際公開番号】W WO2023034779
(87)【国際公開日】2023-03-09
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】595033056
【氏名又は名称】ザ クリーブランド クリニック ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】The Cleveland ClinicFoundation
【住所又は居所原語表記】9500 Euclid Avenue,Cleveland,Ohio,United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン,スティーヴン イー.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA07
4C076AA09
4C076AA12
4C076BB24
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4C076DD41
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4C084ZC082
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4C086AA01
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4C086BC38
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4C086BC71
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4C086GA07
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA58
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA33
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、ACE-2受容体アンタゴニスト(例えばロサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、カンデサルタン、イルベサルタン、エプロサルタン、アジルサルタン、またはロサルタン代謝物質EXP3174)を含む組成物を使用して、角膜損傷及び/または既存の角膜瘢痕の対象を治療するための組成物、系、及び方法に関する。ある特定の実施形態において、ACE-2受容体アンタゴニストは、約0.2mg/ml~0.9mg/mlまたは約0.1mg/ml~2.0mg/mlの濃度で組成物中に存在する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
角膜損傷及び/または既存の角膜瘢痕の対象を治療する方法であって、
組成物を対象の角膜へ投与すること、または前記対象が前記組成物を前記角膜へ投与するように前記組成物を前記対象へ提供することを含み、
前記対象の前記角膜が、角膜損傷及び/または既存の角膜瘢痕を含み、
前記組成物が、
a)ACE-2受容体アンタゴニストを含む、薬剤、
b)水、ならびに
c)以下:
i)前記組成物が水性形態である場合に、ほぼ生理的な濃度の1つまたは複数の塩及びほぼ生理的なpHを有するようなレベルで存在する、前記1つまたは複数の塩;
ii)前記組成物がゲルの形態であるようなレベルで存在する、1つまたは複数のゲル化剤;及び
iii)前記組成物が軟膏の形態であるようなレベルで存在する、1つまたは複数の軟膏形成剤
のうちの少なくとも1つ;
d)任意選択の防腐物質、ならびに
e)任意選択の無痛化剤、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記薬剤が、0.1mg/ml~2.0mg/mlの濃度で前記組成物中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記投与することまたは前記投与が、少なくとも1週間、または少なくとも2週間、または少なくとも1か月の間少なくとも毎日遂行され、前記対象が、前記投与すること前記投与の直前に20/Xであり、次いで前記少なくとも1週間、前記少なくとも2週間、または前記少なくとも1か月の終了時で20/Yである最高矯正視力(BSCVA)を有し、Yが、Xよりも少なくとも5ポイント低い、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記Yが、前記Xよりも少なくとも15ポイント低い、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物が、前記薬剤、前記水、及び前記1つまたは複数の塩以外の任意の追加の試薬を含まないか、または検出可能には含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物が、前記無痛化剤を含み、前記組成物が、前記薬剤、前記水、前記1つまたは複数の塩、及び前記無痛化剤以外の任意の追加の試薬を含まないか、または検出可能には含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
a)前記組成物が、前記防腐物質をさらに含み、前記組成物が、前記薬剤、前記水、前記1つもしくは複数の塩、及び前記防腐物質以外の任意の追加の試薬を含まないか、もしくは検出可能には含まない、または
b)前記組成物が、前記防腐物質及び前記無痛化剤をさらに含み、前記組成物が、前記薬剤、前記水、前記1つもしくは複数の塩、前記防腐物質、及び前記無痛化剤以外の任意の追加の試薬を含まないか、もしくは検出可能には含まない、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記防腐物質が、塩化ベンザルコニウム、亜鉛素酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、ピュライト(purite)、臭化ベンゾドデシニウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クロロブタノール、チオマーサル、エデト酸2ナトリウム、及びオキシクロロ複合体(SOC)からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記無痛化剤が、前記組成物中に存在し、前記無痛化剤が、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒアルロン酸からなる群から任意選択で選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が、点眼容器中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物が、前記1つまたは複数の塩を含み、液体形態であり、さらに前記1つまたは複数のゲル化剤及び前記1つまたは複数の軟膏形成剤を含まないか、または検出可能には含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が、前記1つもしくは複数のゲル化剤及び/または前記1つもしくは複数の軟膏形成剤を含み、ゲルまたは軟膏の形態であり、任意選択で、前記ゲル化剤が、ヒプロメロース、カルボマーホモポリマー、及びカルボキシメチルセルロースからなる群から選択され、任意選択で、前記軟膏形成剤が、鉱物油及び/またはペトロラタムである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記投与することまたは前記投与が、少なくとも1週間の間で1日に少なくとも4または6または8回である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記投与することまたは前記投与が、少なくとも8時間の間約30分毎に遂行される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記対象の前記角膜が、前記角膜損傷を含み、前記投与することまたは前記投与が、前記角膜損傷の出現から1~5日以内に開始して、少なくとも1週間の間少なくとも毎日遂行され、前記角膜損傷の前記出現から1か月後に、前記角膜が、0、0.5、1、または2のFantes細隙灯角膜ヘイズスコアを有し、前記角膜損傷が、もし治療しないで放置されるならば、前記1か月後に、3または4のFantes細隙灯角膜ヘイズスコアを生ずるであろう、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記対象の前記角膜が、前記角膜損傷を含み、前記投与することまたは前記投与が、前記角膜損傷の出現から1~5日以内に開始して、少なくとも1週間の間少なくとも毎日遂行され、前記角膜損傷の前記出現から1か月後に、前記角膜が、0、0.5、または1のFantes細隙灯角膜ヘイズスコアを有し、前記角膜損傷が、もし治療しないで放置されるならば、前記1か月後に、2、3、または4のFantes細隙灯角膜ヘイズスコアを生ずるであろう、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記薬剤が、ロサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、カンデサルタン、イルベサルタン、エプロサルタン、アジルサルタン、及びロサルタン代謝物質EXP3174からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記1つまたは複数の塩が、以下:
i)約0.64%の塩化ナトリウム、
ii)約0.075%の塩化カリウム、
iii)約0.048%の塩化カルシウム二水和物、
iv)約0.03%の塩化マグネシウム六水和物、
v)約0.39%の酢酸ナトリウム三水和物、及び/または
vi)約0.17%のクエン酸ナトリウム二水和物
のうちの1つもしくは複数またはすべてを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
コルチコステロイドを前記対象の前記角膜へ投与すること、または前記対象が前記コルチコステロイドを前記角膜へ投与するように前記コルチコステロイドを前記対象へ提供することをさらに含み、前記コルチコステロイドが、前記組成物中に存在するかまたは別の組成物中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記組成物が、経時的に前記組成物を前記対象の涙液の中へ緩慢に放出する、結膜リザーバー、または他の連続的な送達デバイス中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記組成物が、経時的に前記組成物を放出する多孔質コラーゲン治療用コンタクトレンズ中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記組成物が、前記防腐物質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記投与することまたは前記投与が、少なくとも1週間、または少なくとも2週間、または少なくとも1か月の間少なくとも毎日遂行され、前記対象が、前記投与することまたは前記投与の直前にXジオプトリーの近視スコアを有し、前記少なくとも1週間、前記少なくとも2週間、または前記少なくとも1か月の終了時でYジオプトリーであり、Yが、Xよりも少なくとも1ジオプトリー低い、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記対象が、ヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記対象の前記角膜が、前記角膜損傷を含み、前記角膜損傷が、前記投与することまたは前記投与の1、3、6、12、24、または48時間前に起こっている、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記組成物を対象の角膜へ投与することが、前記対象が前記組成物を自分の角膜へ投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記対象の前記角膜が、前記角膜損傷を含み、前記損傷が、外傷、化学熱傷、微生物感染、または手術によって引き起こされた、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記対象の前記角膜が、前記角膜損傷を含み、前記損傷が、レーザー屈折矯正角膜切除術(PRK)または治療的レーザー角膜切除術(PTK)によって引き起こされた、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記角膜損傷が、前記投与することまたは前記投与の5日以内に起こっている、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記角膜損傷が、前記投与することまたは前記投与の24時間以内に起こっている、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記薬剤が、ロサルタンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
系を対象へ送達することを含む方法であって、
前記対象が、角膜損傷または既存の角膜瘢痕を含む眼を有し、
前記系が、
a)点眼用スポイト容器またはコンタクトレンズ、ならびに
b)
i)ACE-2受容体アンタゴニストを含む、薬剤、
ii)水、及び
iii)以下:
A)前記組成物が水性形態である場合に、ほぼ生理的な濃度の1つまたは複数の塩及びほぼ生理的なpHを有するようなレベルで存在する、前記1つまたは複数の塩;
B)前記組成物がゲルの形態であるようなレベルで存在する、1つまたは複数のゲル化剤;及び
C)前記組成物が軟膏の形態であるようなレベルで存在する、1つまたは複数の軟膏形成剤
のうちの少なくとも1つ;
iv)任意選択の防腐物質、及び
v)任意選択の無痛化剤、
を含む、組成物
を含む、前記方法。
【請求項33】
前記薬剤が、0.1mg/ml~2.0mg/mlの濃度で前記組成物中に存在する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記組成物が、前記薬剤、前記水、及び前記1つまたは複数の塩以外の任意の追加の試薬を含まないか、または検出可能には含まない、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記組成物が、前記点眼用スポイト容器中に存在する、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
0.2~0.9mg/mlの前記濃度が、約0.7~0.8mg/mlである、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
0.2~0.9mg/mlの前記濃度が、約0.4~0.6mg/mlである、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
前記組成物が、前記無痛化剤を含み、前記組成物が、前記薬剤、前記水、前記1つまたは複数の塩、及び前記無痛化剤以外の任意の追加の試薬を含まないか、または検出可能には含まない、請求項32に記載の方法。
【請求項39】
前記組成物が、前記防腐物質及び前記無痛化剤をさらに含み、前記組成物が、前記薬剤、前記水、前記1つまたは複数の塩、前記防腐物質、及び前記無痛化剤以外の任意の追加の試薬を含まないか、または検出可能には含まない、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記組成物が、前記防腐物質をさらに含み、前記組成物が、前記薬剤、前記水、前記1つまたは複数の塩、及び前記防腐物質以外の任意の追加の試薬を含まないか、または検出可能には含まない、請求項32に記載の方法。
【請求項41】
前記防腐物質が、塩化ベンザルコニウム、亜鉛素酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、ピュライト、または臭化ベンゾドデシニウムからなる群から選択される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記無痛化剤が、前記組成物中に存在し、前記無痛化剤が、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒアルロン酸からなる群から任意選択で選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項43】
前記点眼容器が、使い捨ての容器である、請求項32に記載の方法。
【請求項44】
前記組成物が、前記少なくとも1つの軟膏形成剤を含み、軟膏の形態である、請求項32に記載の方法。
【請求項45】
前記組成物が、前記コンタクトレンズ中に存在する、請求項32に記載の方法。
【請求項46】
前記組成物が、前記防腐物質を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項47】
前記組成物が、前記無痛化剤をさらに含み、前記無痛化剤が、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、デキストラン、グリセリン、カルボマー、ヒアルロン酸、リン脂質、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、トリグリセリド、塩化ベンザルコニウム、及びエチレンジアミン四酢酸ナトリウムからなる群から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項48】
前記対象が、ヒト対象である、請求項32に記載の方法。
【請求項49】
前記対象の前記角膜が、前記角膜損傷を含み、前記角膜損傷が、前記送達の1、3、6、12、24、48時間、または5日前に起こっている、請求項32に記載の方法。
【請求項50】
前記対象の前記角膜が、前記角膜損傷を含み、前記損傷が、外傷、化学熱傷、微生物感染、または手術によって引き起こされた、請求項32に記載の方法。
【請求項51】
前記対象の前記角膜が、前記角膜損傷を含み、前記損傷が、レーザー屈折矯正角膜切除術または治療的レーザー角膜切除術によって引き起こされた、請求項32に記載の方法。
【請求項52】
前記組成物が、前記1つまたは複数の塩を含み、液体形態であり、さらに前記1つまたは複数のゲル化剤及び前記1つまたは複数の軟膏形成剤を含まないか、または検出可能には含まない、請求項32に記載の方法。
【請求項53】
前記角膜損傷が、前記送達の24時間以内に起こっている、請求項32に記載の方法。
【請求項54】
前記薬剤が、ロサルタンを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項55】
a)ACE-2受容体アンタゴニストを含む、薬剤、
b)水、ならびに
c)以下:
i)前記組成物が水性形態である場合に、ほぼ生理的な濃度の1つまたは複数の塩及びほぼ生理的なpHを有するようなレベルで存在する、前記1つまたは複数の塩;
ii)前記組成物がゲルの形態であるようなレベルで存在する、1つまたは複数のゲル化剤;及び
iii)前記組成物が軟膏の形態であるようなレベルで存在する、1つまたは複数の軟膏形成剤
のうちの少なくとも1つ;
d)任意選択の防腐物質、ならびに
e)任意選択の無痛化剤、
を含む、組成物。
【請求項56】
前記薬剤が、0.2~0.9mg/mlの濃度で前記組成物中に存在する、請求項55に記載の組成物。
【請求項57】
前記組成物が、前記1つもしくは複数のゲル化剤及び/または前記1つもしくは複数の軟膏形成剤を含み、ゲルまたは軟膏の形態であり、任意選択で、前記ゲル化剤が、ヒプロメロース、カルボマーホモポリマー、及びカルボキシメチルセルロースからなる群から選択され、任意選択で、前記軟膏形成剤が、鉱物油及び/またはペトロラタムである、請求項55に記載の組成物。
【請求項58】
前記組成物が、液体形態であり、前記薬剤、前記水、及び前記1つまたは複数の塩以外の任意の追加の試薬を含まないか、または検出可能には含まない、請求項56に記載の組成物。
【請求項59】
前記組成物が、液体形態であり、前記無痛化剤を含み、前記組成物が、前記薬剤、前記水、前記1つまたは複数の塩、及び前記無痛化剤以外の任意の追加の試薬を含まないか、または検出可能には含まない、請求項55に記載の組成物。
【請求項60】
前記組成物が、前記防腐物質及び前記無痛化剤をさらに含み、前記組成物が、前記薬剤、前記水、前記1つまたは複数の塩、前記防腐物質、及び前記無痛化剤以外の任意の追加の試薬を含まないか、または検出可能には含まない、請求項55に記載の組成物。
【請求項61】
前記組成物が、前記防腐物質をさらに含み、前記組成物が、前記薬剤、前記水、前記1つまたは複数の塩、及び前記防腐物質以外の任意の追加の試薬を含まないか、または検出可能には含まない、請求項55に記載の組成物。
【請求項62】
前記防腐物質が、塩化ベンザルコニウム、亜鉛素酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、ピュライト、または臭化ベンゾドデシニウムからなる群から選択される、請求項61に記載の組成物。
【請求項63】
前記薬剤が、0.7~0.9mg/mlの濃度で前記組成物中に存在する、請求項55に記載の組成物。
【請求項64】
前記組成物が、前記1つまたは複数のゲル化剤を含み、ゲルの形態である、請求項55に記載の組成物。
【請求項65】
前記組成物が前記防腐物質を含み、前記防腐物質が抗生物質を含む、請求項55に記載の組成物。
【請求項66】
前記組成物が、前記無痛化剤を含み、前記無痛化剤が、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、デキストラン、グリセリン、カルボマー、ヒアルロン酸、リン脂質、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、トリグリセリド、塩化ベンザルコニウム、及びエチレンジアミン四酢酸ナトリウムからなる群から選択される、請求項55に記載の組成物。
【請求項67】
a)
i)ACE-2受容体アンタゴニストを含む、薬剤、
ii)水、及び
iii)以下:
A)前記組成物が水性形態である場合に、ほぼ生理的な濃度の1つまたは複数の塩及びほぼ生理的なpHを有するようなレベルで存在する、前記1つまたは複数の塩;
B)前記組成物がゲルの形態であるようなレベルで存在する、1つまたは複数のゲル化剤;及び
C)前記組成物が軟膏の形態であるようなレベルで存在する、1つまたは複数の軟膏形成剤
のうちの少なくとも1つ;
iv)任意選択の防腐物質、及び
v)任意選択の無痛化剤、
を含む組成物;ならびに
b)点眼用スポイト容器またはコンタクトレンズ、
を含む系。
【請求項68】
前記系が前記点眼用スポイトを含み、前記組成物が前記点眼用スポイト内部に存在する、請求項67に記載の系。
【請求項69】
前記系が前記コンタクトレンズを含み、前記組成物が、前記コンタクトレンズの内部にまたは前記コンタクトレンズの内側表面上に存在する、請求項67に記載の系。
【請求項70】
前記薬剤が、0.1mg/ml~2.0mg/mlの濃度で前記組成物中に存在する、請求項67に記載の系。
【請求項71】
前記薬剤が、0.7mg/ml~0.9mg/mlの濃度で前記組成物中に存在する、請求項67に記載の系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府による資金提供に関する記載
本発明は、国防省(CDMRP)によって授与されたW81XWH-19-1-0846の政府助成により行われた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
配列表
2022年8月30日に生成され、1,929バイトのファイルサイズを有する、タイトル「39765-601_SEQUENCE_LISTING」のコンピューター可読配列表のテキストは、本明細書と共に提出され、参照することによってその全体が本明細書に援用される。
【0003】
本発明は、ACE-2受容体アンタゴニスト(例えばロサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、カンデサルタン、イルベサルタン、エプロサルタン、アジルサルタン、またはロサルタン代謝物質EXP3174)を含む組成物を使用して、角膜損傷及び/または既存の角膜瘢痕の対象を治療するための組成物、系、及び方法に関する。ある特定の実施形態において、ACE-2受容体アンタゴニストは、約0.2mg/ml~0.9mg/mlまたは約0.1mg/ml~2.0mg/mlの濃度で組成物中に存在する。
【背景技術】
【0004】
外傷、微生物感染、瘢痕化疾患、及び何らかの角膜手術後に、筋線維芽細胞の発達によって媒介される角膜の瘢痕性線維化は、米国において及び世界中で、視力喪失の最も重要な原因のうちの1つである(Witcher et al.,2001)。WHOの統計によれば、両側失明の5.1%は角膜失明であり、実質の瘢痕化は最大のサブカテゴリーである(Witcher et al.,2001)。細菌性角膜炎または外傷に起因する角膜混濁も、米国における角膜移植のよくみられる理由である(Ghosheh et al.,2008)。外傷、感染、疾患、または手術に起因する持続的な角膜瘢痕化が、ヒトにおいて、ウサギ、マウス、ラット、ニワトリ、及び他の種でのもの(Mohan et al.,2003;Netto et al.,2006;Martinez-Garcia,et al.,2006;Mohan et al.,2008;Hindman et al.,2019;Joung et al.,2020;de Oliveira et al.,2021)と同じ筋線維芽細胞関連メカニズムによって起こる(Cockerham and Hidayat,1999;Lee et al.,2001)。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、ACE-2受容体アンタゴニスト(例えばロサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、カンデサルタン、イルベサルタン、エプロサルタン、アジルサルタン、またはロサルタン代謝物質EXP3174)、または他のACE-2受容体アンタゴニストを含む組成物を使用して、角膜損傷及び/または既存の角膜瘢痕の対象を治療するための組成物、系、及び方法に関する。ある特定の実施形態において、ACE-2受容体アンタゴニストは、約0.2mg/ml~0.9mg/mlまたは約0.1mg/ml~3.0mg/ml(例えば0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0...、2.5...、または3.0mg/ml)の濃度で組成物中に存在する。
【0006】
いくつかの実施形態において、a)ACE-2受容体アンタゴニストを含む、薬剤、b)水、ならびにc)i)組成物が水性形態である場合に、ほぼ生理的な濃度の1つまたは複数の塩及びほぼ生理的なpHを有するようなレベルで存在する、1つまたは複数の塩;ii)組成物がゲルの形態であるようなレベルで存在する、1つまたは複数のゲル化剤;及びiii)組成物が軟膏の形態であるようなレベルで存在する、1つまたは複数の軟膏形成剤、のうちの少なくとも1つ;d)任意選択の防腐物質、ならびにe)任意選択の無痛化剤、を含む組成物が、本明細書において提供される。
【0007】
ある特定の実施形態において、系を対象へ送達することを含む方法であって、対象が、角膜損傷または既存の角膜瘢痕を含む眼を有し、系が、a)点眼用スポイト容器またはコンタクトレンズ、ならびにb)i)ACE-2受容体アンタゴニストを含む、薬剤、ii)水、及びiii)A)組成物が水性形態である場合に、ほぼ生理的な濃度の1つまたは複数の塩及びほぼ生理的なpHを有するようなレベルで存在する、1つまたは複数の塩、B)組成物がゲルの形態であるようなレベルで存在する、1つまたは複数のゲル化剤;及びC)組成物が軟膏の形態であるようなレベルで存在する、1つまたは複数の軟膏形成剤、のうちの少なくとも1つ;iv)任意選択の防腐物質、及びv)任意選択の無痛化剤、を含む組成物を含む、前記方法が、本明細書において提供される。
【0008】
さらなる実施形態において、a)i)ACE-2受容体アンタゴニストを含む、薬剤、ii)水、及びiii)A)組成物が水性形態である場合に、ほぼ生理的な濃度の1つまたは複数の塩及びほぼ生理的なpHを有するようなレベルで存在する、1つまたは複数の塩;B)組成物がゲルの形態であるようなレベルで存在する、1つまたは複数のゲル化剤;及びC)組成物が軟膏の形態であるようなレベルで存在する、1つまたは複数の軟膏形成剤、のうちの少なくとも1つ;iv)任意選択の防腐物質、及びv)任意選択の無痛化剤、を含む組成物;ならびにb)点眼用スポイト容器またはコンタクトレンズ、を含む系が、本明細書において提供される。特定の実施形態において、系は、点眼用スポイトを含み、組成物は、点眼用スポイトの内部に存在する。さらなる実施形態において、系は、コンタクトレンズを含み、組成物は、コンタクトレンズの内部にまたはその内側表面上に存在する。
【0009】
いくつかの実施形態において、組成物を対象の角膜へ投与すること、または対象が組成物を角膜へ投与するように組成物を対象へ提供することを含む、角膜損傷及び/または既存の角膜瘢痕の対象を治療する方法であって、対象の角膜が、角膜損傷及び/または既存の角膜瘢痕を含み、組成物が、a)ACE-2受容体アンタゴニストを含む、薬剤、b)水、ならびにc)i)組成物が水性形態である場合に、ほぼ生理的な濃度の1つまたは複数の塩及びほぼ生理的なpHを有するようなレベルで存在する、1つまたは複数の塩;ii)組成物がゲルの形態であるようなレベルで存在する、1つまたは複数のゲル化剤;及びiii)組成物が軟膏の形態であるようなレベルで存在する、1つまたは複数の軟膏形成剤、のうちの少なくとも1つ;d)任意選択の防腐物質、ならびにe)任意選択の無痛化剤を含む、前記方法が、本明細書において提供される。
【0010】
特定の実施形態において、薬剤は、0.1mg/ml~2.0mg/mlの濃度で組成物中に存在する。他の実施形態において、投与することまたは投与は、少なくとも1週間、または少なくとも2週間、または少なくとも1か月の間少なくとも毎日遂行され、対象は、投与することまたは投与の直前に20/Xであり、次いで少なくとも1週間、少なくとも2週間、または少なくとも1か月の終了時で20/Yである最高矯正視力(BSCVA)を有し、Yは、Xよりも少なくとも5ポイント(または10、15、もしくは20、もしくは25、もしくは30ポイント)低い。
【0011】
ある特定の実施形態において、組成物は、薬剤、水、及び1つまたは複数の塩以外の任意の追加の試薬を含まないか、または検出可能には含まない。他の実施形態において、組成物は、無痛化剤を含み、組成物は、薬剤、水、1つまたは複数の塩、及び無痛化剤以外の任意の追加の試薬を含まないか、または検出可能には含まない。いくつかの実施形態において、組成物は、防腐物質をさらに含み、組成物は、薬剤、水、1つまたは複数の塩、及び防腐物質以外の任意の追加の試薬を含まないか、または検出可能には含まない。ある特定の実施形態において、組成物は、防腐物質及び無痛化剤をさらに含み、組成物は、薬剤、水、1つまたは複数の塩、防腐物質、及び無痛化剤以外の任意の追加の試薬を含まないか、または検出可能には含まない。
【0012】
特定の実施形態において、防腐物質は、塩化ベンザルコニウム、亜鉛素酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、ピュライト(purite)、臭化ベンゾドデシニウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クロロブタノール、チオマーサル、エデト酸2ナトリウム、及びオキシクロロ複合体(SOC)からなる群から選択される。ある特定の実施形態において、無痛化剤は、組成物中に存在し、無痛化剤は、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒアルロン酸からなる群から任意選択で選択される。
【0013】
いくつかの実施形態において、組成物は、点眼容器中に存在し、任意選択で、点眼容器は、使い捨ての容器である。さらなる実施形態において、組成物は、1つまたは複数の塩を含み、液体形態であり、さらに1つまたは複数のゲル化剤及び1つまたは複数の軟膏形成剤を含まないか、または検出可能には含まない。追加の実施形態において、組成物は、1つもしくは複数のゲル化剤及び/または1つもしくは複数の軟膏形成剤を含み、ゲルまたは軟膏の形態であり、任意選択で、ゲル化剤は、ヒプロメロース(例えば約0.3%)、カルボマーホモポリマー(例えば約0.5%)、及びカルボキシメチルセルロース(例えば約1%)からなる群から選択され、任意選択で、軟膏形成剤は、鉱物油(例えば約40~50%)及び/またはペトロラタム(例えば40~60%)である。
【0014】
いくつかの実施形態において、投与することまたは投与は、少なくとも1週間の間で1日に少なくとも4または6または8回である。さらなる実施形態において、投与することまたは投与は、約30分毎に少なくとも8時間遂行される。追加の実施形態において、対象の角膜は、角膜損傷を含み、投与することまたは投与は、角膜損傷の出現から1~5日以内に開始して、少なくとも1週間の間少なくとも毎日遂行され、角膜損傷の出現から1か月後に、角膜は、0、0.5、1、または2のFantes細隙灯角膜ヘイズスコアを有し、角膜損傷は、もし治療しないで放置されるならば、1か月後に、3または4のFantes細隙灯角膜ヘイズスコアを生ずるだろう。他の実施形態において、対象の角膜は、角膜損傷を含み、投与することまたは投与は、角膜損傷の出現から1~5日以内に開始して、少なくとも1週間の間少なくとも毎日遂行され、角膜損傷の出現から1か月後に、角膜は、0、0.5、または1のFantes細隙灯角膜ヘイズスコアを有し、角膜損傷は、もし治療しないで放置されるならば、1か月後に、2、3、または4のFantes細隙灯角膜ヘイズスコアを生ずるだろう。
【0015】
特定の実施形態において、薬剤は、ロサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、カンデサルタン、イルベサルタン、エプロサルタン、アジルサルタン、及びロサルタン代謝物質EXP3174からなる群から選択される。他の実施形態において、1つまたは複数の塩は、以下:i)約0.64%もしくは0.60%~0.070%の塩化ナトリウム、ii)約0.075%もしくは0.070~0.080%の塩化カリウム、iii)約0.048%もしくは0.040~0.055%の塩化カルシウム二水和物、iv)約0.03%もしくは0.01~0.05%の塩化マグネシウム六水和物、v)約0.39%もしくは0.30~0.50の酢酸ナトリウム三水和物、及び/またはvi)約0.17%もしくは約0.10~0.30%のクエン酸ナトリウム二水和物のうちの1つもしくは複数またはすべてを含む。
【0016】
ある特定の実施形態において、方法は、コルチコステロイドを対象の角膜へ投与すること、または対象がコルチコステロイドを角膜へ投与するようにコルチコステロイドを対象へ提供することをさらに含み、コルチコステロイドは、組成物中に存在するかまたは別の組成物中に存在する。他の実施形態において、組成物は、経時的に組成物を対象の涙液の中へ緩慢に放出する、結膜リザーバー、または他の連続的な送達デバイス中に存在する。ある特定の実施形態において、組成物は、経時的に組成物を放出する多孔質コラーゲン治療用コンタクトレンズ中に存在する。
【0017】
いくつかの実施形態において、組成物は、防腐物質(例えば抗生物質)を含む。さらなる実施形態において、投与することまたは投与は、少なくとも1週間、または少なくとも2週間、または少なくとも1か月の間少なくとも毎日遂行され、対象は、投与することまたは投与の直前にXジオプトリーの近視スコアを有し、少なくとも1週間、少なくとも2週間、または少なくとも1か月の終了時でYジオプトリーであり、Yは、Xよりも少なくとも1ジオプトリー低い。特定の実施形態において、対象は、ヒト、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、またはブタである。
【0018】
特定の実施形態において、対象の角膜は角膜損傷を含み、角膜損傷は、投与することまたは投与の1、3、6、12、24、または48時間前に起こっている。他の実施形態において、組成物を対象の角膜へ投与することは、対象が組成物を自分の角膜へ投与することを含む。他の実施形態において、対象の角膜は、角膜損傷を含み、損傷は、外傷、化学熱傷、微生物感染、または手術によって引き起こされた。特定の実施形態において、対象の角膜は、角膜損傷を含み、損傷は、レーザー屈折矯正角膜切除術(PRK)または治療的レーザー角膜切除術(PTK)によって引き起こされた。
【0019】
ある特定の実施形態において、角膜損傷は、投与することまたは投与の5日以内に起こっている。さらなる実施形態において、角膜損傷は、投与することまたは投与の24時間以内に起こっている。追加の実施形態において、薬剤は、ロサルタンを含む。ある特定の実施形態において、組成物は、点眼用スポイト容器中に存在する。他の実施形態において、組成物は、コンタクトレンズ中に存在する。
【0020】
いくつかの実施形態において、第1の組成物を対象の角膜へ(例えば局所的に)投与すること、または前記対象が前記組成物を前記角膜へ投与するように前記組成物を前記対象へ提供することを含む、角膜損傷(例えば最近起こっている)及び/または既存の角膜瘢痕(例えば3、4、5、6か月以上の間存在したもの)の対象を治療する方法であって、前記対象の前記角膜が、角膜損傷及び/または既存の角膜瘢痕を含み、前記組成物が、薬剤を含み、前記薬剤が、ACE-2受容体アンタゴニストを含み;任意選択で、前記薬剤が、ロサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、カンデサルタン、イルベサルタン、エプロサルタン、アジルサルタン、ロサルタン代謝物質EXP3174からなる群から選択され、前記方法が、任意選択で、コルチコステロイドを対象の角膜へ投与すること、または対象がコルチコステロイドを角膜へ投与するようにコルチコステロイドを対象へ提供することをさらに含み、コルチコステロイドが、第1の組成物または第2の組成物中に存在する、前記方法が、本明細書において提供される。いくつかの実施形態において、第1の組成物及び/または第2の組成物は、水中油型エマルションまたはミセルの形態である。ある特定の実施形態において、ACE-2受容体アンタゴニストは、1~30mg/ml(1.0...、5.0...、10.0...、15.0...、20.0...、25.0..、または30.0mg/ml等)で第1の組成物及び/または第2の組成物中に存在する(例えば水中油型エマルションまたはミセルで存在するならば)。
【0021】
特定の実施形態において、系を対象へ送達することを含む方法であって、前記対象が、角膜損傷または既存の角膜瘢痕を含む眼を有し、前記系が、a)点眼用スポイト容器またはコンタクトレンズ、及びb)薬剤が、ACE-2受容体アンタゴニストを含み、前記薬剤が、ロサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、カンデサルタン、イルベサルタン、エプロサルタン、アジルサルタン、ロサルタン代謝物質EXP3174からなる群から任意選択で選択される、前記薬剤を含む第1の組成物、及びc)コルチコステロイドが、前記第1の組成物または第2の組成物中に存在する、任意選択の前記コルチコステロイド、を含む、前記方法が、本明細書において提供される。ある特定の実施形態において、薬剤は、約0.2mg/ml~0.9mg/mlまたは約0.1mg/ml~3.0mg/mlの濃度で組成物中に存在する。ある特定の実施形態において、コルチコステロイドは方法において用いられ、第1の組成物中に存在する。他の実施形態において、コルチコステロイドは方法において用いられ、第2の組成物中に存在する。いくつかの実施形態において、第1の組成物及び/または第2の組成物は、水中油型エマルションまたはミセルの形態である。ある特定の実施形態において、ACE-2受容体アンタゴニストは、1~30mg/ml(1.0...、5.0...、10.0...、15.0...、20.0...、25.0..、または30.0mg/ml等)で第1の組成物及び/または第2の組成物中に存在する(例えば水中油型エマルションまたはミセルで存在するならば)。
【0022】
いくつかの実施形態において、(例えば第1の組成物及び/または第2の組成物を)送達または投与することは、薬局職員、医師、看護師、または他の医療従事者によって遂行される。ある特定の実施形態において、角膜損傷は、第1の組成物及び/または第2の組成物を送達または投与の5日以内(例えば5、4、3、2、または1日)に起こっている。他の実施形態において、角膜損傷は、第1の組成物及び/または第2の組成物を送達または投与の24時間以内(例えば24...、12...、6...、3...、2...、または1時間)に起こっている。
【0023】
いくつかの実施形態において、薬剤及び食塩水、ならびに任意選択のコルチコステロイドを含むかまたはそれらから本質的になる組成物であって、前記薬剤が、ACE-2受容体アンタゴニストを含み、前記薬剤が、ロサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、カンデサルタン、イルベサルタン、エプロサルタン、アジルサルタン、ロサルタン代謝物質EXP3174からなる群から任意選択で選択される、前記組成物が、本明細書において提供される。
【0024】
特定の実施形態において、a)薬剤が、ACE-2受容体アンタゴニストを含み、前記薬剤が、ロサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、カンデサルタン、イルベサルタン、エプロサルタン、アジルサルタン、ロサルタン代謝物質EXP3174からなる群から任意選択で選択される、前記薬剤を含む第1の組成物、及びb)点眼用スポイト容器またはコンタクトレンズ、及びc)コルチコステロイドが、前記第1の組成物または第2の組成物中に存在する、前記任意選択のコルチコステロイド、を含む系が、本明細書において提供される。特定の実施形態において、系は、点眼用スポイトを含み、第1の組成物及び/または第2の組成物は、点眼用スポイトの内部に存在する。さらなる実施形態において、系は、コンタクトレンズを含み、第1の組成物及び/または第2の組成物は、コンタクトレンズの内部にまたはその内側表面上に存在する。
【0025】
特定の実施形態において、本明細書における組成物は、滅菌される。いくつかの実施形態において、薬剤は、約0.2~0.9mg/mlまたは約0.1mg/ml~2.0mg/mlの濃度で第1の組成物中に存在する。さらなる実施形態において、第1の組成物中の0.2~0.9mg/mlの薬剤の濃度は、約0.8mg/ml、または約0.7mg/ml、または約0.6mg/ml、または約0.5mg/ml、または約0.4mg/ml、または約0.3mg/ml、または約0.2mg/mlである。特定の実施形態において、第1の組成物及び/または第2の組成物は、液体またはゲルの形態であり、食塩水をさらに含む。追加の実施形態において、第1の組成物は、薬剤及び食塩水からなるかもしくは本質的になる;及び/または、組成物は、7.0~7.2のpHを有する。いくつかの実施形態において、第1の組成物及び/または第2の組成物は、水中油型エマルションまたはミセルの形態である。ある特定の実施形態において、ACE-2受容体アンタゴニストは、1~30mg/ml(1.0...、5.0...、10.0...、15.0...、20.0...、25.0..、または30.0mg/ml等)で第1の組成物及び/または第2の組成物中に存在する(例えば水中油型エマルションまたはミセルで存在するならば)。
【0026】
ある特定の実施形態において、第1の組成物及び/または第2の組成物は、防腐物質をさらに含む。いくつかの実施形態において、防腐物質は、塩化ベンザルコニウム、亜鉛素酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、ピュライト、または臭化ベンゾドデシニウムからなる群から選択される。追加の実施形態において、第1の組成物及び/または第2の組成物は、防腐物質を含まない。
【0027】
いくつかの実施形態において、第1の組成物及び/または第2の組成物は、点眼容器中に存在する。他の実施形態において、点眼容器は、使い捨ての容器である。
【0028】
ある特定の実施形態において、投与することまたは投与(例えばACE-2受容体アンタゴニスト及び/またはコルチコステロイドについての)は、少なくとも1週間(例えば少なくとも1、2、3、4、5、6、7、または8週間)の間で1日に少なくとも4回(例えば1日に4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16回)である。他の実施形態において、投与することまたは投与(例えばACE-2受容体アンタゴニスト及び/またはコルチコステロイドについての)は、少なくとも1週間の間で1日に少なくとも8回である。ある特定の実施形態において、投与することまたは投与(例えばACE-2受容体アンタゴニスト及び/またはコルチコステロイドについての)は、少なくとも8時間(例えば少なくとも8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20時間...、または72時間、または3日間まで)の間で約30分毎に遂行される。
【0029】
いくつかの実施形態において、対象の角膜は、角膜損傷を含み、投与することまたは投与(例えばACE-2受容体アンタゴニスト及び/またはコルチコステロイドについての)は、角膜損傷の出現から1~5日以内に開始して、少なくとも1週間の間少なくとも毎日遂行され、角膜損傷の出現から1か月後に、角膜は、0、0.5、1、または2のFantes細隙灯角膜ヘイズスコアを有し、角膜損傷は、もし治療しないで放置されるならば、1か月後に、3または4のFantes細隙灯角膜ヘイズスコアを生ずるだろう。他の実施形態において、対象の角膜は、角膜損傷を含み、投与することまたは投与(例えばACE-2受容体アンタゴニスト及び/またはコルチコステロイドについての)は、角膜損傷の出現から1~5日以内に開始して、少なくとも1週間の間少なくとも毎日遂行され、角膜損傷の出現から1か月後に、角膜は、0、0.5、または1のFantes細隙灯角膜ヘイズスコアを有し、角膜損傷は、もし治療しないで放置されるならば、1か月後に、2、3、または4のFantes細隙灯角膜ヘイズスコアを生ずるだろう。追加の実施形態において、対象の角膜は、角膜損傷を含み、投与することまたは投与(例えばACE-2受容体アンタゴニスト及び/またはコルチコステロイドについての)は、角膜損傷の出現から1~5日以内に開始して、少なくとも1週間の間少なくとも毎日遂行され、角膜損傷の出現から1か月後に、角膜は、0または0.5、1のFantes細隙灯角膜ヘイズスコアを有し、角膜損傷は、もし治療しないで放置されるならば、1か月後に、1、2、3、または4のFantes細隙灯角膜ヘイズスコアを生ずるだろう。いくつかの実施形態において、対象の角膜は、角膜損傷を含み、投与することまたは投与(例えばACE-2受容体アンタゴニスト及び/またはコルチコステロイドについての)は、角膜損傷の出現から1~5日以内に開始して、少なくとも1週間の間少なくとも毎日遂行され、角膜損傷の出現から1か月後に、角膜は、0、0.5、2、または3のFantes細隙灯角膜ヘイズスコアを有し、角膜損傷は、もし治療しないで放置されるならば、1か月後に、4のFantes細隙灯角膜ヘイズスコアを生ずるだろう。
【0030】
特定の実施形態において、第1の組成物及び/または第2の組成物は、軟膏、液体、またはゲルの形態である。他の実施形態において、第1の組成物及び/または第2の組成物は、経時的にACE-2受容体アンタゴニスト(例えばロサルタン)及び/またはコルチコステロイドを対象の涙液の中へ緩慢に放出する、結膜リザーバー、または他の連続的な送達デバイス中に存在する。他の実施形態において、第1の組成物及び/または第2の組成物は、経時的にACE-2受容体アンタゴニスト(例えばロサルタン)またはコルチコステロイドを放出する多孔質コラーゲン治療用コンタクトレンズ中に存在する。追加の実施形態において、第1の組成物及び/または第2の組成物は、抗生物質をさらに含む。特定の実施形態において、抗生物質は、シプロフロキサシン、オフロキサシン、ガチフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン、ベシフロキサシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシン、ネオマイシン、アンホテリシンB、ナタマイシン、ジグルコン酸クロルヘキシジン、ポリヘキサメチリン(polyhexamethyline)ビグアナイド、またはブロレンからなる群から選択される。ある特定の実施形態において、Ace-2受容体アンタゴニストを含有する組成物は、少なくとも1つの抗ウイルス剤(例えば単純ヘルペスウイルスのためのもの、アシクロビル、バルシクロビル(valcyclovir)、ファムシクロビル、ガンシクロビル、及びトリフルリジン等)を含む、及び/または、抗アカントアメーバ薬(イセチオン酸プロパミジン、ヘキサミジン、及びペンタミジン等)を含む。
【0031】
ある特定の実施形態において、対象は、ヒト対象である。追加の実施形態において、対象の角膜は角膜損傷を含み、角膜損傷は、第1の組成物及び/または第2の組成物を投与することまたは投与の1、3、6、12、24、または48時間前に起こっている。いくつかの実施形態において、対象の角膜は、角膜瘢痕を含み、投与することまたは投与(第1の組成物及び/または第2の組成物の)は、角膜のFantes細隙灯角膜ヘイズスコアが、角膜の最初のFantes細隙灯角膜ヘイズスコアから少なくとも0.5または少なくとも1だけ低減されるように、少なくとも1週間の間少なくとも毎日遂行される。いくつかの実施形態において、対象の角膜は、角膜損傷を含み、損傷は、外傷、化学熱傷、微生物感染、または手術によって引き起こされた。他の実施形態において、対象の角膜は、角膜損傷を含み、損傷は、レーザー屈折矯正角膜切除術または治療的レーザー角膜切除術によって引き起こされた。さらなる実施形態において、角膜損傷は、第1の組成物及び/または第2の組成物を投与することまたは投与の5日以内に起こっている。他の実施形態において、角膜損傷は、第1の組成物及び/または第2の組成物を投与することまたは投与の24時間以内に起こっている。いくつかの実施形態において、薬剤は、ロサルタンを含む。特定の実施形態において、薬剤は、ロサルタン代謝物質EXP3174を含む。
【0032】
ある特定の実施形態において、本明細書における組成物は、以下の試薬:メチルセルロース(例えば0.5%、1%、1.5%、もしくは2%、または0.5%~2%の任意の濃度);ヒドロキシプロピルメチルセルロース(例えば0.5%、1%、1.5%、もしくは2%、または0.5%~2%の任意の濃度);デキストラン(例えば0.1%または0.2%);グリセリン(例えば0.1%~2%);カルボマー(例えば0.1%~0.5%);ヒアルロン酸(例えば角膜浸透性を増加させ、患者の快適さを改善する;約360~約1200kDaで変動する分子量を備えた;0.03%、0.05%、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、1%、または0.03%~1%の任意の濃度で存在する);ならびに角膜浸透性を増加させ、患者の快適さを改善し得る、リン脂質、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸、またはトリグリセリド等のより高い粘度の脂質(例えば0.5%~5%)のうちの1つまたは複数をさらに含む。
【0033】
いくつかの実施形態において、本明細書における組成物は、以下の試薬:角膜上皮透過性を増加させて、より大きなTGFβ遮断のために、実質の中へのロサルタンまたは他の本明細書における薬剤浸透を増加させる成分のうちの1つまたは複数をさらに含む。かかる試薬は使用され得、例えば、典型的には、瘢痕化応答の初期相におけるTGFβのより大きな遮断のために、感染または損傷後の約1~5日の間使用されるだろう。これを達成するために添加される成分としては、例えば塩化ベンザルコニウム(例えば0.02%)、及びエチレンジアミン四酢酸ナトリウム(例えば0.01%)が挙げられる。
【0034】
他の実施形態において、本明細書における組成物は、コルチコステロイド等の抗炎症剤(例えば損傷1日~2週間後に使用される)をさらに含む。ある特定の実施形態において、抗炎症剤は、酢酸プレドニゾロン(例えば0.1%、0.2%、0.5%、1%、または0.1%~1%の任意の濃度);フルロメタロン(fluromethalone)(例えば0.1%、0.25%、0.5%、または0.1%~0.5%の任意の濃度);リン酸デキサメタゾンナトリウム(例えば0.1%~0.2%);ロテプレドノール(例えば0.1%~1%);及びジフルプレドナート(例えば0.01%~0.1%)から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】局所ロサルタン溶液及び/または経口ロサルタン溶液あるいは対応するビヒクル溶液により処理された、代表的な無傷の偽手術角膜及び8mmの中央部のデスメ膜剥離手術後1か月の角膜の標準化された細隙灯写真。経口ロサルタン(A)または局所ロサルタン(B)により処理された偽手術の無傷の対照(Con)角膜である。C.デスメ膜剥離手術ならびに1か月の間の経口ビヒクル及び局所ビヒクルによる処理を行った角膜である。矢頭は、血管新生を示す。D.デスメ膜剥離手術及び1日3回の5mg/kgの経口ロサルタンによる処理を行った角膜である。矢頭は、血管新生を示す。E.デスメ膜剥離手術及び1か月の間の1日6回の0.4mg/kgの局所ロサルタンによる処理を行った角膜である。C及びDに比較した周辺角膜の透明度、加えて中央部の混濁の減少及び透明化領域(矢印)、そして、CまたはDに比較した角膜血管新生の減少に注目されたい。F.デスメ膜剥離手術ならびに1日6回の0.4mg/mlの局所ロサルタン及び1日3回の5mg/kgの経口ロサルタンの両方による処理を行った角膜も、C及びDに比較して、周辺角膜のより高い透明度及び中央部の混濁の減少を有していた。周辺の混濁の透明化の領域は、この角膜においても存在した(矢印)。G.各々の角膜について2.5mmの直径の円でImageJにより測定された混濁の強度を示すグラフである。各々の群についての平均及び標準誤差を示す。*及び**は、DMR+局所ロサルタンとDMR+局所ロサルタン及び経口ロサルタンそれぞれについての混濁の強度は、他の群とは有意に異なっていたが、互いとは有意に異なっていなかったことを示す。DMRは、デスメ膜剥離手術である。Unは、無傷の偽手術である。ORは、経口である。TまたはTOPは、局所である。LまたはLosは、ロサルタンである。
【
図2A】ロサルタンまたはビヒクルによる処理の1か月後の筋線維芽細胞についてのα-平滑筋アクチン(SMA)マーカー及び角膜中の角膜実質細胞についてのケラトカンマーカーの二重IHC。各々の群中の2つの角膜からの代表的な中央部の切片を示す。線維化SMA陽性(赤色)層の厚さが、DMR局所ロサルタン群(パネルC、D)ならびにDMR局所ロサルタン及び経口ロサルタン群(G、H)中の角膜に比較して、DMR経口ビヒクル及び局所ビヒクル群(DMRビヒクル、パネルA、B)ならびにDMR経口ロサルタン群(パネルE、F)中の角膜でのものより厚かったことに注目されたい。いくつかの角膜の輪部で指摘されるSMA陽性細胞は、輪部血管と関連する周皮細胞である。パネルD中で示されるDMR局所ロサルタン角膜は、その群中の角膜の後部のSMA陽性線維化が最も少なかった。角膜後部の線維化が、経口(パネルI、J)または局所(パネルK、L)のロサルタンにより処理された無傷の偽手術角膜において無かったことに注目されたい。青色は、細胞核のDAPI染色である。
【
図2B】各々の群の各々の角膜における個別のSMA陽性線維化領域のグラフの結果を提供する。個別の測定及び各々の群についての平均±標準誤差を示す。Kruskal-Wallis検定に続く群間の事後Dunn’s-Bonferroni検定の統計的比較は、表4を参照されたい。
【
図3A】IV型コラーゲン及びTGFβ-1についての二重IHC。カラムA。1か月の間局所ロサルタンにより処理された無傷の偽手術角膜において、IV型コラーゲンは、デスメ膜(矢印)において検出されたが、たとえあるにしても、実質または実質細胞(主として角膜実質細胞であった)においてほとんど検出されなかった。TGFβ-1は、角膜内皮細胞(矢頭)において産生されたが、少数の散在した実質細胞においてのみであった。角膜内皮細胞または房水からの実質の中へのTGFβ-1浸透は、インタクトなデスメ膜、及びIV型コラーゲン及びパールカンを包含するその構成要素によって阻害される。この結果は、処理されなかった無傷の偽手術群(図示せず)または経口ビヒクル単独により処理された無傷の偽手術群(図示せず)で同一であった。カラムB。デスメ膜剥離手術1か月後ならびに局所ビヒクル及び経口ビヒクルによる処理1か月で、IV型コラーゲンは、主として筋線維芽細胞及び角膜線維芽細胞が占める実質後部(角括弧によって描かれる)において高レベルで存在したが、主として角膜実質細胞が占める実質のより前部においては存在しなかった。TGFβ-1は、実質細胞及び実質組織の両方において線維化した実質後部の全体で高レベルで検出された。カラムC。デスメ膜剥離手術1か月後及び局所ロサルタン単独による処理1か月で、デスメ膜及び内皮を欠く角膜後部の表面に隣接するところ(矢印)を除いて、IV型コラーゲンは、実質後部において著しく減少した。TGFβ-1は、実質後部表面で及び実質後部の全体で多量に存在した。カラムD。デスメ膜剥離手術1か月後及び経口ロサルタン単独による処理1か月で、IV型コラーゲンは、主として筋線維芽細胞及び角膜線維芽細胞が占める実質後部において高レベルで存在したが、主として角膜実質細胞が占める実質のより前部においては存在しなかった。TGFβ-1は、実質後部表面で及びいくつかの実質細胞において多量に検出された。カラムE。デスメ膜剥離手術1か月後ならびに局所ロサルタン及び経口ロサルタンの両方による処理1か月で、IV型コラーゲンは、実質後部において著しく減少した。TGFβ-1は、実質後部表面で及びいくつかの実質細胞において高レベルで検出された。青色は、すべての合成画像中でDAPIである。黄色の破線の四角形は、ImageJによるIV型コラーゲンについて定量された領域の例を示し、3つの重複しない四角形の平均が、その角膜についての値として見なされる。
【
図3B】各々の群の各々の角膜の角膜後部の表面に接する幅0.75×高さ0.5の四角形中の、ImageJにより分析された実質後部における個別のIV型コラーゲン染色強度のグラフの結果。個別の測定及び各々の群についての平均±標準誤差を示す。局所そして経口のビヒクルカラムの上部の二重対角線は、この群における最高値が、実際にはY軸の単位を超えていたことを示す(この角膜についての値は平均6.586×10
3強度であった)。Kruskal-Wallis検定に続く群間の事後Dunn’s-Bonferroni検定の統計的比較は、表5を参照されたい。
【
図4B】ロサルタン代謝物質EXP3174の化学構造を示す。
【
図5A】直径5mmの濾紙上の1NのNaOHへの1分間の曝露の1か月後、及び局所ビヒクル(VEH)、0.8mg/mlのロサルタン、1%の酢酸プレドニゾロン、または0.8mg/mlのロサルタン+1%の酢酸プレドニゾロンによる1か月の間の1日あたり6回の連続的な処理でのウサギ角膜の標準化された細隙灯写真。各々の角膜における混濁は、中央部のより濃いゾーン(*)及び周辺のより薄いゾーン(**)で構成されることに注目されたい。矢印は、中央部の角膜の血管新生を示す。点線の円は、中央部のより濃いゾーン及び周辺のより薄いゾーンの組み合わせを含む、個別の角膜についての合計の混濁のImageJ分析の例を示す。倍率15倍。
【
図5B】個別の角膜においてImageJにより測定された合計の混濁領域のグラフ。平均±平均の標準誤差を、各々の群について示す。*は、混濁がビヒクルBSS対照群とは有意に異なっていたことを示す。表8は、Kruskal-Wallaceに続く群間の比較のための事後Dunn’s-Bonferroni検定p値を示す。
【
図5C】個別の角膜においてImageJにより測定されたピクセル強度での合計の混濁のグラフ。平均±平均の標準誤差を、各々の群について示す。*は、混濁がビヒクルBSS対照群とは有意に異なっていたことを示す。表9は、Kruskal-Wallaceに続く群間の比較のための事後Dunn’s-Bonferroni検定p値を示す。
【
図6A】無傷の対照角膜、ならびにアルカリ熱傷の損傷及び局所処理の1か月後のものにおける、角膜実質細胞特異的マーカーケラトカン(緑色)及び筋線維芽細胞特異的マーカーα-SMA(赤色)についての二重免疫組織化学。すべてのアルカリ熱傷した角膜において、脆弱な周辺上皮及び持続的な上皮の欠陥が指摘された。ロサルタン単独またはロサルタン+酢酸プレドニゾロン併用により処理された角膜において、α-SMA陽性筋線維芽細胞は、角膜後部に局在する傾向があり、角膜前部は、ケラトカン陽性角膜実質細胞が再増殖していた。酢酸プレドニゾロン単独により処理された角膜の2つの例が示され、この群において認められる変動を実証する。#1において、α-SMA陽性筋線維芽細胞は、この角膜の全体の厚さを占め、持続的な上皮の欠陥があった。#2において、持続的な上皮の欠陥の存在にもかかわらず、α-SMA陽性筋線維芽細胞は、実質後部のみにおいて存在していた。すべてのアルカリ熱傷した角膜は、角膜後部の8~10mmの直径の領域にわたって角膜内皮を欠いていた。矢印は、後部のα-SMA陽性筋線維芽細胞の有る領域を示す。LOSは、局所ロサルタンである。酢酸Predは、1%の酢酸プレドニゾロンである。BSS Vehは、平衡塩類溶液ビヒクルである。eは、上皮である。Sは、実質である。
【
図6B】各々の群における各々の角膜の中央部の切片においてImageJを使用して決定された合計のα-SMA陽性実質領域のグラフ。*は、平均がBSSビヒクル対照群とは有意に異なっていたことを示す。#は、平均が酢酸プレドニゾロン単独群とは有意に異なっていたことを示す。表10は、Kruskal-Wallaceに続く群間の統計的比較のための事後Dunn’s-Bonferroni検定p値を示す。
【
図6C】各々の群における各々の角膜の中央部の切片においてImageJを使用して決定された、ピクセルでの角膜切片あたりの合計のα-SMA陽性強度のグラフ。*は、平均がBSSビヒクル対照群とは有意に異なっていたことを示す。#は、平均が酢酸プレドニゾロン単独群とは有意に異なっていたことを示す。ロサルタン+酢酸プレドニゾロン併用群において平均及び平均の標準誤差がより低く、酢酸プレドニゾロンのみの群において平均及び平均の標準誤差がより高いことに注目されたい。表11は、Kruskal-Wallaceに続く群間の統計的比較のための事後Dunn’s-Bonferroni検定p値を示す。
【
図7A】実質前部及び実質後部の両方におけるTGFβ-1及びIV型コラーゲンについての二重免疫組織化学。各々の群についての代表的なIHCを示す。矢印は、各々の角膜におけるデスメ膜またはデスメ膜の残余物を示す。実質前部(実質前部表面で四角形の長辺)及び実質後部(実質後部表面で四角形の長辺、デスメ膜またはその残余物の直前)の両方についての代表的なImageJ定量化四角形(100×50単位)。TGFβ-1における差異は、群間で指摘されなかった。
【
図7B】群における実質前部のIV型コラーゲンのIHC強度単位のImageJ定量化。*及び**は、平均がビヒクル群とは有意に異なっていたことを示す。表12は、Kruskal-Wallaceに続く群間の統計的比較のための事後Dunn’s-Bonferroni検定p値を示す。
【
図7C】群における実質後部におけるIV型コラーゲンのIHC強度単位のImageJ定量化。*は、平均がビヒクル群とは有意に異なっていたことを示す。表12は、Kruskal-Wallaceに続く群間の統計的比較のための事後Dunn’s-Bonferroni検定p値を示す。
【
図8】角膜血管新生(CNV)における最初の静脈内フルオレセイン充填の角膜血管造影画像。黄色の線は、角膜血管新生の無い各々の角膜のおよその領域の輪郭を描く。いくつかの眼において、瞬膜または眼瞼は、周辺角膜の部分をカバーしており、CNVの無い周辺領域は、細隙灯の直接的な検査から指摘されるように概算された。拡大20倍。
【
図9】ImageJにより分析して、合計のα-SMA陽性実質領域及びピクセルでの合計のα-SMA強を決定した、各々の角膜からの代表的な中央部の切片におけるα-SMAについての免疫組織化学。矢印は、ロサルタン+酢酸プレドニゾロン併用で処理した角膜の実質の最も後部のみにおいて存在した局在領域のα-SMA染色を示す。
【
図10A】-9D PRK、及びビヒクルまたはロサルタンによる1か月の間の局所処理後の細隙灯混濁。各々の角膜の標準化された細隙灯写真。光反射がすべて類似の位置に所在することに注目されたい。黄色の点線の円は、混濁の平均の合計のピクセルを決定するためにImageJにより分析された各々の角膜画像のエキシマレーザーアブレーションゾーン内の3.5mmの直径の中央部の領域を示す。
【
図10B】ImageJにより分析された角膜内の平均の中央部混濁ピクセルのグラフ。ロサルタン処理角膜に比較して、ビヒクル処理角膜において、より高い平均及びより大きいばらつき(より大きい標準誤差)であることに注目されたい。
【
図11A】各々の角膜の中央の0.5mmにおける、筋線維芽細胞マーカーα-SMA及び角膜実質細胞マーカーケラトカンについての二重免疫組織化学(
図10A~Bと同じ標識)。各々の角膜について、α-SMA及びケラトカンについてのIHC、そしてすべての細胞核のDAPI染色との合成物を、ImageJによるα-SMA染色の合計のピクセルについて分析されたα-SMA単独を示す対応するパネルと一緒に示す。黄色の破線のボックスは、各々の角膜の中央の0.5mmにおける、すべてのα-SMA染色を取り込んだImageJによる分析の領域を示す。*は、切片作成の間に大部分の角膜において起こった実質からの上皮の人為的なずれの例を示す。これは、手術の1か月後で-9D PRKを有するほぼすべてのウサギ角膜において存在するEBMの不完全な再生におそらく関連していた。6、7青色は、すべてパネル中で細胞核のDAPI染色である。両方の群の多くのパネルにおいて、DAPI陽性核を有するが、SMA陰性及びケラトカン陰性である実質中の細胞は、おそらく主として角膜線維芽細胞であるが、ある程度の免疫細胞はPRK後の1か月でも存続し得る。
【
図11B】A中で示した四角形のImageJ分析により決定された合計のα-SMAピクセルのグラフ。ロサルタン処理群に比較して、ビヒクル処理群におけるより高い平均及びまたビヒクル処理群におけるより大きいばらつき(より大きい標準誤差)に注目されたい。
【
図12A】中央部の角膜におけるIV型コラーゲン(緑色)及びTGFβ-1(マゼンタ)についての代表的な二重鎖免疫組織化学。無傷の角膜において、IV型コラーゲン(COL IV)は、上皮基底膜(矢印)及びデスメ膜(矢頭)に主として局在し、実質においてほとんど検出されなかった。-9D PRKの1か月後のビヒクル処理群において、COL IVは、上皮基底膜(矢印によって示される)の後部の幅広いバンドにおいてそして無傷のデスメ膜において存在していた。-9D PRKの1か月後のロサルタン処理群において、COL IVは、上皮基底膜(矢印)に局在し、比較的少量のみが下にある実質において検出された。デスメ膜(このロサルタン処理角膜については示されない)も、多量のCOL IVを有していた。各々の-9D PRK角膜についてのCOL IVのみのパネルにおいて、点線の四角形は、両方の処理群における各々の角膜のすべての実質のIV型コラーゲンを囲む、ImageJにおける900ピクセル×235ピクセル分析の四角形である。eは、上皮である。青色は、すべてのパネル中でDAPIである。
【
図12B】四角形(A中で示されるような)のImageJ分析により決定された合計のCOL IVピクセルのグラフ。ビヒクル処理群に比較して、ロサルタン処理群における合計のCOL IV染色ピクセルの著しいダウンレギュレーションに注目されたい(p=0.004)。
【0036】
定義
本明細書において使用される時、「宿主」、「対象」、及び「患者」という用語は、治療、研究、分析、試験、または診断される、ヒト及び非ヒト動物(例えばイヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、家禽など)を包含するがこれらに限定されない任意の動物を指す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、ACE-2受容体アンタゴニスト(例えばロサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、カンデサルタン、イルベサルタン、エプロサルタン、アジルサルタン、またはロサルタン代謝物質EXP3174)を含む組成物を使用して、角膜損傷及び/または既存の角膜瘢痕の対象を治療するための組成物、系、及び方法に関する。ある特定の実施形態において、ACE-2受容体アンタゴニストは、約0.2mg/ml~0.9mg/mlまたは約0.1mg/ml~2.0mg/mlの濃度で組成物中に存在する。
【0038】
本開示の実施形態の開発の間に遂行された研究において、局所ロサルタンは、角膜のより前部から中間部の損傷(外傷、化学熱傷、微生物感染、及びレーザー屈折矯正角膜切除術または治療的レーザー角膜切除術等の手術等)または角膜のより後部の損傷(白内障もしくは他の手術、デスメ膜剥離手術、または内皮炎の間の内皮外傷等)によって誘発される限定的な筋線維芽細胞の発達及び線維化に有効であり得ることが示された。外傷、化学熱傷、微生物感染、手術、または疾患は、角膜の任意の層に関与し得る。本開示の実施形態の開発の間に遂行された他の研究において、ACE-2受容体アンタゴニスト及びコルチコステロイド併用が、眼外傷の治療において有効であることが示された。
【0039】
ある特定の実施形態において、ACE-2受容体アンタゴニスト及び/またはコルチコステロイドは、水(例えば約90%の水)及び油性賦形剤(例えば涙液膜の脂質層を復元し、乾燥から水層を保護することによって、眼表面の利益になる)を含む、1つまたは複数の組成物中に存在する。いくつかの実施形態において、組成物は、水中油型エマルション(例えばRestasis(登録商標)、Lacrinmune(登録商標)、及びIkervis(登録商標)などだが、CsAの代わりにACE-2受容体阻害物質及び/またはコルチコステロイドを含有する)またはミセルベースの溶液(例えばPapilock Mini(登録商標)、Modusik-A Ofteno(登録商標)、及びTaejoon[TJ]Cyporin(登録商標)などだが、CsAの代わりにACE-2受容体阻害物質及び/またはコルチコステロイドを含有する)の形態である。特定の実施形態において、組成物は、以下の:i)可溶化剤/促進物質(例えばヒマシ油、中鎖トリグリセリド、ポリオキシリイ(polyoxly)-40ステアリン酸塩エタノール、ポリソルベート80エタノール、またはトウモロコシ油)、ii)界面活性物質(例えばポリソルベート80、チロキサポール、ポロキサマー188、または塩化セタルコニウム)、iii)防腐物質(例えばホウ酸またはソルビン酸)、iv)安定化物質(例えばカルボマーコポリマーA型、またはナトリウムEDTA)、v)粘度調節物質(例えばヒプロメロースまたはヒアルロン酸ナトリウム)、vi)pH調節物質(例えばNaOH、NaH2PO4、または重亜硫酸ナトリウム)、vii)浸透圧剤(例えばグリセロールまたはNaCl)、及び/またはviii)希釈物質(例えば水、ペトロラタム、ラノリン、またはアルコール)うちの1つまたは複数を含有する。
【0040】
ある特定の実施形態において、角膜損傷(無治療での放置に比較して)または治療された既存の角膜瘢痕の改善は、Fantes et al.,Arch.Opthalmol.,1990,108(5):665-675(参照することによって本明細書に援用される)中で記載されるようにFantes細隙灯角膜ヘイズスコアによって測定され、以下の表6中で示される。
【表1】
【0041】
本開示は任意の特定のメカニズムへ限定されるものではないが、以下の実施例中で記載される経口ロサルタンは、局所送達により達成される濃度に比較して、角膜実質において十分な濃度に達しなかったので、DMR後の角膜の瘢痕性線維化の減少において有効ではなかったと考えられる。経口ロサルタンが1995年にFDAによって承認されて以来、高血圧または他の疾患のために何百万人もの患者によって使用されており、角膜の瘢痕性線維化に対する有益な効果は報告されていないので、このことは意外ではない。
【0042】
アブレージョンまたは他の外傷によって等の角膜上皮へのダメージは、急速に分裂する上皮細胞の増殖によって迅速に修復される(通常24~48時間以内に)。しかしながら、角膜上皮細胞のこの急速な分裂増殖には、瘢痕組織の発達がしばしば付随する。角膜における瘢痕組織の存在は、「角膜ヘイズ」(光が角膜を介して通過できないことに起因して視力が劇的に低減される角膜の混濁化)をもたらす。角膜混濁の治療は、瘢痕組織形成の程度に応じて変動する。瘢痕化が軽度でのままで、角膜の表面のみに影響する症例において、手術またはレーザー除去が、治療として使用される。瘢痕組織が角膜の中へより深く広がる状況において、組織全体の除去及び新しい角膜の移植が、多くの場合使用される。したがって、損傷後のこの組織における瘢痕化の予防は、視力の温存における重要なステップである。
【0043】
多くの角膜損傷は、典型的には、角膜の瘢痕化を生ずることが公知である。これらは、3つの大きなカテゴリー:外傷、感染、及び疾患病態へと分類され、そのすべては、本明細書の薬剤によって治療されることが企図される。自然な外傷(アブレージョンまたは化学熱傷等)、そして視力の医学的矯正と関連する外傷(フォトアブレーション、またはコンタクトレンズに誘導された損傷等)は、正常な角膜上皮の破壊を引き起こし、これらの細胞の迅速な増殖及び多くの場合瘢痕組織の形成をもたらす。手術(移植等)からもたらされる角膜へのダメージも、通常はこの組織の瘢痕化を導く。
【0044】
細菌、ウイルス、真菌、アカントアメーバ、及び他の生物体による眼の感染も、瘢痕化を導き得る。例えば、I型単純ヘルペスウイルス、肺炎双球菌、Staphylococcus属、Escherichia coli、Proteus属、Klebsiella属、及びPseudomonas属の株による眼の感染は、角膜の表面上に潰瘍形成を引き起こすことが公知である。かかる潰瘍は、周囲の上皮層を破壊するだけでなく、さらに角膜実質に浸透し、ダメージを与え、急性炎症細胞、及び損傷された上皮細胞自体によって放出されたコラゲナーゼによってさらに支援される。角膜及び周囲の組織へのかかる深く広範囲なダメージは、大規模な瘢痕化をもたらす。他の非潰瘍性病原体も角膜の瘢痕化を導くことが公知である。かかる生物体の1つは、帯状疱疹ウイルス(帯状疱疹)であり、この生物体による感染は、しばしば瘢痕化をもたらす。
【0045】
病原体または外傷によって直ちに引き起こされない多くの疾患病態も、瘢痕化に起因する角膜混濁に関与する。かかる病態の2つは、瘢痕性類天疱瘡及びスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)である。瘢痕性類天疱瘡は、口腔粘膜及び眼の結膜に影響する自己免疫性水疱性疾患であり、その場合角膜上皮の炎症は、瘢痕化を導く。SJSは、多形性紅斑の重度の形態(免疫複合体媒介性超過敏反応)である。この疾患の眼の所見は、上皮の潰瘍形成そしてそれに続く重度の瘢痕化である。
【0046】
大多数の患者は、エキシマレーザー屈折矯正角膜切除術(PRK)に続いて、様々な程度の角膜ヘイズを発症する。角膜ヘイズは、典型的には2~4か月でピークに達し、近視の矯正度にともなって増加することが指摘されている。かかるヘイズは、1ライン以上のPRK後の最高矯正視力の喪失を導き得る。角膜実質リモデリングは、PRK後の角膜ヘイズの程度に影響し、角膜ヘイズは、可能な最高矯正視力における低減、屈折矯正についての退行、及び試みられた矯正についての予測可能性の低さの原因であると考えられる。PRK後の角膜ヘイズの形成は、レーザー角膜アブレーション及び実質の創傷治癒の結果である。PRK技術(例えばレーザー-組織相互作用、レーザービームの光学プロファイリング、マルチゾーンマルチパスアプローチ、及びエッジスムージング技法)の理解で見られた著しい進歩にもかかわらず、PRKと関連する生物学的な側面(創傷治癒等)の特徴付けには、依然としてPRK技術と関連する重要な限定が存在する。
【0047】
ある特定の実施形態において、ACE-2受容体アンタゴニスト(例えばロサルタン)を含有する本明細書の組成物は、内皮置換外科療法(例えばDSAEK及びDMEK等)後に31、32、特に、移植組織が、意図された土台から部分的にずれ、実質後部の領域がデスメ膜及び内皮によりカバーされないようになる場合に19、22、発達し得る角膜後部の線維化を調節するために使用される。重度の炎症(アルカリ熱傷等)と関連する角膜疾患において、ACE-2受容体アンタゴニストを含有する本明細書における組成物は、コルチコステロイドが、線維細胞筋線維芽細胞前駆細胞のアポトーシスも誘発し20、重度の炎症が、角膜混濁の原因でもある角膜実質の線維及びあるマトリックスにダメージを与える22ので、非常に有効な治療であり得る。本明細書の組成物(ACE-2受容体アンタゴニストを含有する)が、予防的に実質の線維化の発達を阻害するのに及び一旦それが発達したならば、治療的に線維化を処置するのに有効であり得る他のいくつかの例示的な角膜疾患としては、ウイルス性角膜炎、細菌性角膜炎、真菌性角膜炎、及びアカントアメーバ性角膜炎、角膜外傷、化学熱傷、ならびに他の角膜手術誘導線維化が挙げられる。筋線維芽細胞が病態生理学(トラコーマのような結膜瘢痕化障害33及び緑内障濾過手術後の結膜濾過胞の線維化34等)における役割を有する眼の前眼部の他の領域における線維化を阻害するためにも、本明細書の組成物が使用され得る。
【実施例】
【0048】
実施例1
局所ロサルタンは、損傷後の角膜の瘢痕性線維化を阻害する
本実施例は、デスメ膜剥離手術(中央部のデスメ膜及び角膜内皮の除去)後のウサギ角膜において発達した角膜実質の線維化に対する局所及び/または経口のTGF-β遮断物質ロサルタンの効果を検討及び記載する。28匹のニュージーランドホワイトウサギが含まれ、1つの眼において8mmの中央のデスメ膜剥離手術またはデスメ膜剥離手術無しの偽の対照手術のいずれかを行った。デスメ膜剥離手術無しの4つの眼の群を、医薬物無し、局所ロサルタン、または経口ロサルタンにより1か月の間処理した。デスメ膜剥離手術を行った4つの眼の群を、局所及び経口のビヒクル、局所ロサルタン、経口ロサルタン、または局所ロサルタン及び経口ロサルタンの両方により1か月の間処理した。標準化された細隙灯写真を、ImageJにより測定した中央部の混濁強度と共に得た。角膜の後部の線維化したゾーンを、QuPath分析を使用して、α-平滑筋アクチン(SMA)及びケラトカンの免疫組織化学について測定した。角膜後部におけるIV型コラーゲン発現を、ImageJならびにIV型コラーゲン及びTGFβ-1についての二重免疫組織化学により定量した。デスメ膜剥離手術後に、経口でないが局所のロサルタンは、デスメ膜剥離手術及びビヒクル単独による処理を行った角膜に比較して、中央部の実質の混濁の強度を減少させ、周辺の角膜瘢痕化を低減させた。局所ロサルタンは、デスメ膜剥離手術後に発達した角膜血管新生も低減させた。局所ロサルタンは、デスメ膜剥離手術1か月後のビヒクル処理に比較して、実質後部の細胞のIV型コラーゲン産生を減少させた。
【0049】
筋線維芽細胞の発達及び瘢痕性の実質の線維化は、角膜の前部及び後部への損傷後に、形質転換増殖因子(TGF)β及びおそらく他の増殖因子(血小板由来増殖因子(PDGF)等)によって媒介される(de Oliveira et al.,2021;Wilson,2019)。角膜後部の線維化についての最近特徴付けられたモデルは、ウサギにおけるデスメ膜-内皮複合体の一部分のデスメ膜剥離手術による除去である(Sampaio et al.,2021)。房水は、おそらく、デスメ基底膜の増殖因子調節機能の非存在下において、角膜線維芽細胞及び線維細胞からの筋線維芽細胞の発達を、後続して駆動するTGFβ-1及びTGFβ-2の重要な供給源である(Medeiros et al.,2020;Sampaio et al.,2021)。
【0050】
ロサルタンは、高血圧、糖尿病性腎臓病、心不全、及び左心室拡張を治療するために使用される経口薬である(Simpson and McClellan,2000)。ロサルタンは、アンジオテンシンII受容体アンタゴニストである(Michel et al.,2013)、が、またTGFβの阻害物質であることが示された(Lim et al.,2001;Lavoie et al.,2005;Cohn et al.,2007;Wylie-Sears et al.,2014;Geirsson et al.,2012;Park et al.,2012)。本研究の目的は、以前に示されたウサギのデスメ膜剥離手術モデルを使用する角膜損傷が、角膜後部の筋線維芽細胞の発達及び線維化を誘発した後に、ロサルタンが瘢痕性線維化を阻害したかどうかを決定することであった。本研究は、ウサギにおけるデスメ膜剥離手術損傷後に、経口でないが局所のロサルタンが、実質の混濁、実質の線維化、及び実質のIV型コラーゲン産生を有意に減少させることを示す。
【0051】
方法
動物
動物に関するすべての手順は、Cleveland Clinic Foundation(Cleveland、OH、USA)及びAnimal Care and Use Review Office of the Department of the Army(Fort Detrick、MD)のInstitutional Animal Care and Use Committee(IACUC)によって承認された。すべての動物は、ARVO Statement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Researchの原則に従って処理された。本研究には、各々が2.5~3.0kgの体重である10~15週齢のメスのニュージーランドホワイトウサギ28匹(各々の群中で4匹)が含まれていた。
【0052】
中央部のデスメ膜(DM)-内皮複合体の切除(デスメ膜剥離手術)
30mg/kgの塩酸ケタミン及び5mg/kgのキシラジンの筋肉内注射によって、ウサギに全身麻酔した。加えて、局所塩酸プロパラカイン1%(Alcon、Ft Worth、TX、USA)を、手術の前に各々の眼に適用した。各々の群中のランダムに選択された1つの角膜に、デスメ膜剥離手術無しの偽手術または8mmの直径の中央部のデスメ膜-内皮切除を行った。手術1か月後の時間点を研究のために選択したが、それは、以前の時間経過のデスメ膜剥離手術研究において、角膜後部における筋線維芽細胞及び線維化がこの時間点で最大だったからである(Sampaio et al.,2021)。先行研究において記載されるように、デスメ膜剥離手術を遂行した(Sampaio et al.,2021)。簡潔には、ワイヤーリッドスペキュラを各々のウサギの1つの眼の中へ配置し、参照のために8mmの直径ゲンチアナバイオレットの円を上皮表面上にマークした。輪部刺入の切開を、1.6mmのブレード(Bausch and Lomb、Rochester、NY、USA)により生成し、0.3mlのHealon OVD(Abbott Medical Optics Inc.Santa Ana、CA、USA)を、前眼房の中へ注射した。逆シンスキーフック(Katena、Denville、New Jersey、USA)を、前眼房の中へ配置し、以前に角膜前部表面上でマークされた8mmの領域の下にあるデスメ膜及び内皮の8mmの直径ディスクを切除し、後続する内皮角膜移植は、無しであった。デスメ膜または内皮の除去は、無傷の偽手術眼においては遂行しなかった。残存するHealon OVDを、Simcoe潅注及び吸引カニューレ(Bausch & Lomb、Storz、Rochester、NY、USA)により除去し、前眼房を平衡塩類溶液(BSS)により充填した。前眼房からの漏出を予防するために、シングル10-0ナイロン縫合糸を切開部位に置いた。1滴のシプロフロキサシン(Alcon、Ft.Worth、TX、USA)を、手術直後に、及びおよそ2日の上皮刺入創の治癒までに1日4回角膜に適用した。
【0053】
手術直後に開始し、群に応じて(表1)、デスメ膜剥離手術及び無傷の対照の眼を、30μl のpH7.0の生理食塩水中の0.4mg/mlのロサルタン(Merck and Co、Kenilworth、NJ)、または30μlのpH7.0のビヒクル生理食塩水により1日あたり6回(午前8~午後6時の2時間毎)処理した。
【表2】
【0054】
経口ロサルタンを投与された動物に、シリンジを備えた経口アプリケーターを使用して、経口溶液中の5mg/kg、または経口ビヒクル溶液単独を、午前8時、午後1時、及び午後6時に1日あたり3回投与した。経口溶液を、5mlの蒸留水+50mlのora-plus(懸濁ビヒクル-Perrigo、Dublin、Ireland)+45mlのOra-sweet(香味の付いたシロップビヒクル-Perrigo)により調製した。
【0055】
標準化された細隙灯写真及び瘢痕強度のImageJ分析
処理の1か月後に、研究の眼を、2滴の1%のトロピカミド(Akorn Co.、Lake Forest、IL)により30分間拡大させた。全身麻酔後に、各々のウサギにおける研究の眼で、同一の照明位置及び強度を使用して、Haag Streit(Mason、OH、USA)BX900細隙灯撮影システムによる20倍拡大で標準化された細隙灯写真を撮った。各々の研究の眼について、2.5mmの直径の中央部の円の強度(光反射を含まず、
図1中で示される例)を、ImageJ 1.53a分析ソフトウェアを使用して決定した。混濁の強度の統計的比較を、Kruskal-Wallis検定に続いて事後Dunn’s-Bonferroni検定を使用して遂行し、p<0.05を統計的に有意であると判断した。
【0056】
角膜固定、免疫組織化学、及び線維化領域分析
手術及び処理の1か月後に、100mg/kgのBeuthanasia(Shering-Plough、Kenilworth、NJ)の静脈注射を、全身麻酔下の動物の安楽死のために与えた。鋭利なWestcottハサミ(Fairfield、CT、USA)及び0.12の鉗子(Storz、St.Louis、MO)を使用して、角膜に触れずに、偽手術の無傷眼及びDMR眼の角膜-強膜縁を除去した。各々の角膜を、24×24×5mmの型(Fisher Scientific、Pittsburgh、PA、USA)の中央にセットし、型を液体OCT化合物(Sakura Finetek、Torrance、CA、USA)で充填した。型及び角膜-強膜縁をドライアイス上で急速凍結し、切片を切るまで-80℃で保存した。
【0057】
各々のOCTブロックを角膜の正確な中央で二等分し、8μmの厚みの横断切片を、クリオスタット(HM 505M;Micron GmbH、Walldorf、Germany)により以前のDMR損傷または無傷の偽手術の角膜内の中央部の角膜から切り、1スライドあたり3つの切片を、25mm×75mm×1mmのSuperfrost Plus顕微鏡用スライド(Fisher Scientific、Pittsburgh、PA、USA)上に置いた。スライドを免疫組織化学まで-20℃で維持した。
【0058】
二重免疫組織化学(IHC)を、以前に記載された方法(de Oliveira et al.,2021)を使用して、分析に関与しない研究者によるスライドのマスキング後に遂行し、ウサギ抗原を認識することがウエスタンブロット及びIHCによって確認された一次抗体(表2)またはアイソタイプ対照抗体(ThermoFisher Scientific、Waltham、MA)、ならびに二次蛍光タグ抗体(表3)を使用した。
【表3】
【表4】
【0059】
本研究において使用されるAB769(Millipore、Temecula CA)IV型コラーゲン抗体は、精製されたヒト及びウシのIV型コラーゲンに対して生成され、アガロースへ架橋されたヒト及びウシのIV型コラーゲンにより親和性精製され、製造者によってヒト及びウシのI、II、III、V、及びVI型のコラーゲンで交差吸収して、交差反応性が除去された。この抗体は、IHCにおいてウサギのIV型コラーゲンを結合することが以前に示された(Sampaio et al.、印刷中)。ケラトカン抗体を、ペプチドH2N-LRLDGNEIKPPIPIDLVAC-OH(配列番号1)に対して作製した。TGFβ-1(GeneTex、Irvine、CA)への抗体は、IHCにおいてウサギTGFβ-1に結合し、TGFβ-2またはTGFβ-3への反応性を示さない(de Oliveria et al.,2021)。
【0060】
SMA陽性線維化実質後部の領域を、LAS Xソフトウェア(Leica Microsystems、GmbH、Wetzlar、Germany)を使用して、自動ステージ及びLeica 7000Tのカメラを装備したLeica DM6B正立顕微鏡上で10倍対物レンズによる標準化された写真撮影によって、分析者へマスクされた元の群で定量した。SMA陽性実質後部の線維化の領域を、以前に記載された方法を使用して、較正されたQuPath v0.2.3ソフトウェアにより角膜切片上の領域を手動でアウトラインを描くことによって測定した(Bankhead et al.,2017)。SMA陽性領域についての統計的分析を、Kruskal-Wallis検定に続いて事後Dunn’s-Bonferroni検定を使用して遂行し、p<0.05を統計的に有意であると判断した。
【0061】
免疫組織化学画像におけるIV型コラーゲン強度を、すべての切片に適用した標準化された顕微鏡照明設定を使用して生成された7.62cmの幅×5.69cmの高さ及び300DPI画像上でImageJを使用して、角膜後部の表面に接する実質後部の幅0.75×高さ0.5の四角形において定量した。分析された試料においてデスメ膜存在するならば、四角形の後部側が、デスメ膜の直前の角膜後部の表面へ接するように、定量化四角形を位置させた。デスメ膜剥離手術または偽手術の無傷の角膜の対応する領域内の3つの非重複四角形のIV型平均コラーゲン強度を、その角膜についての値として使用した。すべての群間の統計的比較についてのp値を、Kruskal-Wallis検定に続く事後Dunn’s-Bonferroni検定により遂行した。
【0062】
結果
細隙灯写真及び中央部の角膜における混濁
処理1か月後の異なる群からの代表的な標準化された細隙灯写真を、
図1中で示す。1日あたり3回の5mg/kgの経口ロサルタン(A)、または1日あたり6回の0.4mg/mlの局所ロサルタン(B)のいずれも、偽手術の無傷の角膜の透明度に対する効果がなかった。デスメ膜剥離手術ならびに1日あたり3回の経口ビヒクル溶液及び1日あたり6回の局所ビヒクル溶液による処理(C)の1か月後に、すべての角膜は、顕著な血管新生を備えて輪部へ広がる重度の瘢痕性線維化を有していた。デスメ膜剥離手術1か月後及び1か月の間の1日3回の5mg/kgの経口ロサルタンによる処理(D)時に、デスメ膜剥離手術及びビヒクル処理を行った対照角膜に比較して、瘢痕性線維化及び血管新生の差はなかった。デスメ膜剥離手術1か月後及び1か月の間の1日あたり6回の0.4mg/kgの局所ロサルタンによる処理(E)時に、瘢痕性線維化の全体的な減少があり、中央部の混濁の強度の減少し、周辺角膜における透明度により虹彩細部が明瞭に観察されることが可能なり、実質の中間の混濁が透明化する領域があった。デスメ膜剥離手術1か月後ならびに1か月の間の1日あたり6回の0.4mg/kgの局所ロサルタン及び1日3回の5mg/kgの経口ロサルタンによる処理(F)時に、角膜混濁及び血管新生の変化は、局所ロサルタン単独による処理により示されるものとは異なっていなかった。
【0063】
中央部の角膜の2.5mmの円における混濁の強度が、ImageJにより定量された場合に(
図1G)、1か月の間の局所ビヒクル及び経口ビヒクルの溶液と共にデスメ膜剥離手術を行った群、または1か月の間の経口ロサルタン単独と共にデスメ膜剥離手術を行った群に比較して、1か月の間の局所ロサルタンと共にデスメ膜剥離手術、または1か月の間の局所ロサルタン及び経口ロサルタンと共にデスメ膜剥離手術を行った群において、有意な減少(P<0.05、Kruskal-Wallis検定に続いて事後Dunn’s-Bonferroni検定)があった。1か月の間の局所ロサルタンと共にデスメ膜剥離手術を行った群と1か月の間の局所ロサルタン及び経口ロサルタンと共にデスメ膜剥離手術を行った群との間に、中央部の角膜における混濁の強度の有意差はなかった。
【0064】
α-平滑筋アクチン(SMA)筋線維芽細胞マーカー及びケラトカン角膜実質細胞マーカーについての免疫組織化学
SMA及びケラトカンについての免疫組織化学についての代表的な結果を
図2中で示す。デスメ膜剥離手術ならびに1か月の間の局所ビヒクル及び経口ビヒクルによる処理を行った角膜(A、B)は、SMA筋線維芽細胞マーカーのIHCによって輪郭が描かれる顕著な角膜後部の線維化を有していた。デスメ膜剥離手術及び1か月の間の1日あたり6回の0.4mg/mlの局所ロサルタンによる処理を行った角膜(C、D)すべては、角膜後部においてSMA陽性線維化ゾーンの著しい減少を有していた。
図2D中で示される角膜は、任意の群中のデスメ膜剥離手術を行った任意の角膜における後部線維化の領域が最も小さかった。デスメ膜剥離手術及び1か月の間の1日あたり3回の経口5mg/kgのロサルタンによる処理を行った角膜(E、F)は、1か月の間の局所及び経口のビヒクル溶液により処理したデスメ膜剥離手術の角膜に類似した後部線維化を有していた。デスメ膜剥離手術ならび両方の1か月の間の1日あたり6回の局所ロサルタン及び1日あたり3回の経口ロサルタンによりにより処理した角膜(G、H)も、角膜後部におけるSMA陽性線維化の減少を有していたが、デスメ膜剥離手術及び局所ロサルタン単独による処理を行った角膜とは有意に異なっていなかった。1日3回の経口ロサルタン(I、J)または1日6回の局所ロサルタンのいずれかにより処理した無傷の角膜(K、L)は、SMA陽性後部角膜線維化を生じなかった。
【0065】
図2M中のグラフは、各々の群における各々の角膜の後部線維化ゾーンの領域の定量化の結果を示す。無傷の角膜のうちの任意のものにおいて、それらに、非処理、1日あたり6回の局所ロサルタン、または1日あたり3回の経口ロサルタンを行っても、SMA陽性線維化はなかった。デスメ膜剥離手術を行った群において、1日につき6回の0.4mg/mlの局所ロサルタンにより処理されたものは、デスメ膜剥離手術を行った他の群(それらが、1か月の間の単独経口ロサルタン、1か月の間の経口及び局所のロサルタン、または1か月の間の経口及び局所のビヒクル溶液により処理されたかどうかにかかわらず)に比較して、有意により低い(表4)平均SMA陽性後部線維化領域を有していた。SMA陽性後部線維化領域の平均領域は、1か月の間の経口ロサルタン単独により処理された群において最も高く、SMA陽性後部線維化の領域のばらつきもその群においてより大きかった。しかしながら、経口ロサルタン単独により処理されたデスメ膜剥離手術角膜の平均SMA陽性後部線維化領域は、1か月の間の局所及び経口のビヒクルにより処理されたかまたは1か月の間の局所及び経口のロサルタンにより処理されたデスメ膜剥離手術を行った群とは統計的に有意に異なっていなかった。表4は、Kruskal-Wallis検定に続く事後Dunn’s-Bonferroni検定により遂行されたすべての群間の統計的比較についてのp値を提供する。
【表5】
【0066】
IV型コラーゲン及びTGFβ-1の免疫組織化学、ならびに実質後部のIV型コラーゲン染色強度の定量化
TGFβ-1との二重のIV型コラーゲンについての免疫組織化学の代表的な結果を、
図3中で示す。局所ロサルタン(A)もしくは経口ロサルタン(図示せず)により処理されたか、または処理されなかった(図示せず)偽手術の無傷の角膜において、IV型コラーゲンは、主としてデスメ基底膜及び上皮基底膜(図示せず)に局在し、稀な実質細胞のみがIV型コラーゲンを含有していた。TGFβ-1は、内皮、及び稀に実質細胞、そして角膜上皮(図示せず)に局在していた。
【0067】
手術の1か月後のすべてのデスメ膜剥離手術角膜は、中央部のデスメ膜及び角膜内皮を欠いていた。デスメ膜剥離手術ならびに1か月の間の局所ビヒクル及び経口ビヒクルの両方による処理を行った角膜において(
図3B)、実質後部は、SMA陽性筋線維芽細胞により充填された厚い後部線維化ゾーン及び主として角膜線維芽細胞であるSMA陰性ケラトカン陰性の細胞の上に重なる層を含有していた(これは
図2中で観察することができる)。これらの細胞は、
図3B中の角括弧により示される後部線維化ゾーンを占め、この全体のゾーンは、高レベルのIV型コラーゲンを有していた。これらの角膜の線維化ゾーンにおける細胞の多くは、それらに付随するTGFβ-1を有していた。デスメ膜剥離手術及び1か月の間の局所ロサルタン単独による処理を行った角膜において(
図3C)、IV型コラーゲンは、主として後部表面に隣接して検出された。これらの角膜の実質後部における多くの細胞は、TGFβ-1が付随した。
図3C中で示される角膜において示されるように、これらの角膜のすべてではないがいくつかは、角膜後部表面でTGFβ-1を蓄積する緻密層も有していた。デスメ膜剥離手術を行い、経口ロサルタン単独により処理された角膜(
図3D)は、デスメ膜剥離手術ならびに1か月の間の局所ビヒクル及び経口ビヒクルによる処理を行った角膜(
図3B)とは有意に異なっていなかった。デスメ膜剥離手術を行い、1か月の間の局所ロサルタン及び経口ロサルタンの両方により処理された角膜(
図3E)は、デスメ膜剥離手術を行い、局所ロサルタン単独により処理された角膜からのIV型コラーゲンに関して、群としては異なっていなかった。したがって、経口ロサルタン単独は、実質後部におけるIV型コラーゲン産生に対する有意な効果はなく、経口ロサルタン処理は、局所ロサルタン単独処理への相加的な効果はなかった。
【0068】
図3Fは、
図3A~3E中で示されるように、角膜後部表面に接する実質後部の幅0.75×高さ0.5のImageJ四角形において定量され、無傷の角膜のデスメ膜を含まない、IV型コラーゲン強度を示すグラフである。局所ロサルタン、または局所ロサルタン及び経口ロサルタンの処理は、局所ビヒクル及び経口ビヒクルにより処理された角膜に比較して、デスメ膜剥離手術1か月後の実質後部のIV型コラーゲン産生を有意に減少させた。
【0069】
表5は、Kruskal-Wallis検定に続く事後Dunn’s-Bonferroni検定により遂行された、実質後部におけるIV型コラーゲンレベルのすべての群間の統計的比較についてのp値を提供する。
【表6】
【0070】
デスメ膜剥離手術ならびに局所ビヒクル及び経口ビヒクルによる処理を行った群へ比較して、デスメ膜剥離手術及び経口ロサルタン単独による処理を行った群において、平均IV型コラーゲン強度がより低いのは、おそらく後者の群における1つの角膜が、IV型コラーゲンの実質レベルが高かったことに起因するが、
図3Fのグラフ中で示されるように、これらの群間の差は、統計的に有意ではなかった。ビヒクルに処理された角膜に比較して、実質後部または実質後部表面のTGFβ-1のレベルに対する局所及び/または経口のロサルタン処理の効果は示されず、デスメ膜剥離手術群のすべての実質後部において検出されたTGFβ-1タンパク質レベルのかなりの変動があった。
【0071】
本開示は、任意の特定のメカニズムに限定されておらず、メカニズムの理解が本発明を実践には必要ではないが、
図3中で示される結果の主要な重要性は、ロサルタンが角膜の中へ浸透し、TGFβ(筋線維芽細胞の発達を駆動することによって線維化を刺激する主要な増殖因子)をブロックすることを示すと考えられる。TGFβは、筋線維芽細胞が下にある場合に、角膜中で無秩序な多くのコラーゲンの産生も刺激する。IV型コラーゲンは、正常な無傷の角膜において、実質ではなく、上皮基底膜及びデスメ基底膜のみにおいて見出されるので、よく追跡することができるコラーゲンの1つのである。
図3中でそれを観察することができる。1型コラーゲンのような他のものも筋線維芽細胞によって産生される。筋線維芽細胞それ自体及びそれらが産生する無秩序なコラーゲンは、瘢痕性線維化における混濁である。したがって、局所ロサルタンは、実質における筋線維芽細胞の発達を阻害し、いくらかの筋線維芽細胞が発達するならば、瘢痕コラーゲンの産生を減少させると考えられる。
【0072】
デスメ膜剥離手術(DMR)モデルは、角膜上皮の解剖学的構造または機能に明白に影響せずに、ウサギにおいて重度の実質後部の筋線維芽細胞発達及び線維化を引き起こす(
図1;
図2;Medeiros et al.,2019;Sampaio et al.、印刷中)。局所ロサルタンがDMRを行った角膜の実質後部における筋線維芽細胞及び線維化発達に影響したという観察は、本研究において、局所ロサルタンが角膜後部実質の中に浸透した可能性を証明する。
【0073】
IV型コラーゲンは、ヘテロ三量体へと集合する6つの別個のα鎖(α1~α6)から構成される(Pozzi et a.,2017)。事実上、すべての基底膜は、IV型コラーゲンを含有し、最も普遍的な三量体は、2つのα1及び1つのα2鎖から構成される。無傷の角膜において、IV型コラーゲンは、上皮基底膜(de Oliveria et al.、印刷中)及びデスメ膜(
図3及びSampaio et al.、印刷中)において顕著であるが、IV型コラーゲンは、無傷の角膜の実質細胞ではほとんど検出されない(
図3)。最近の研究により、中央部のデスメ膜剥離手術後の角膜後部における角膜線維芽細胞及び筋線維芽細胞によってIV型コラーゲンタンパク質が産生され、TGFβ-1は、角膜線維芽細胞及び筋線維芽細胞においてIV型コラーゲンmRNAの産生をアップレギュレートすることが示された(Sampaio et al.、印刷中)。IV型コラーゲンの重要な特性は、それがTGFβ-1及びTGFβ-2(Paralkar et al.,1991;Shibuya et al.,2006)そしてPDGF(Paralkar et al.,1991)に直接結合し、それによって、同族の受容体へのそれらの結合は減少するということである。本発明は任意の特定のメカニズムに限定されるものではないが、デスメ膜剥離手術後の角膜後部における角膜線維芽細胞及び筋線維芽細胞によって産生されたIV型コラーゲンは、産生の領域における実質細胞に対するTGFβ-1及びTGFβ-2の効果をダウンレギュレートし、TGFβ-1及びTGFβ-2のより前部の実質の浸透を減少させるように機能すると考えられる。したがって、角膜における角膜線維芽細胞及び筋線維芽細胞によって産生されたIV型コラーゲンは、実質細胞に対するTGFβ効果を調節するように負のフィードバック調節機構を供し得る。
【0074】
この実施例において、デスメ膜剥離手術後の1か月の間の局所ロサルタン治療は、角膜後部表面でのものを除くビヒクルに比較して、実質後部におけるIV型コラーゲンレベルを著しくダウンレギュレートした(
図3)。このことは、局所ロサルタンが角膜後部実質の中へ浸透し、デスメ膜剥離手術の1か月後のこの時点でのデスメ基底膜及び角膜内皮を欠く角膜後部表面を除いて、TGFβ-1に応答して実質細胞によるIV型コラーゲン産生を阻害することを示し、局在する実質のTGFβ-1濃度は、房水内のTGFβ-1リザーバーへの接近に起因して最も高い可能性があった。この観察により、TGFβが、房水に由来する、及び/または損傷後の実質細胞によって局所的に産生されるかどうかにかかわらず、損傷された角膜におけるTGFβ調節効果が、局所ロサルタンによりダウンレギュレーションされることの直接的な証拠が提供された(
図3)。
図3F中の結果により、経口ロサルタン単独が、局所ビヒクル及び経口ビヒクル処理角膜に比較して、デスメ膜剥離手術の1か月後の後部実質のIV型コラーゲンレベルに対しておそらくいくらかの効果を有する傾向が示されたが、2つの群は統計的な有意差はなく、もし小さな差が実際に存在するならば、臨床的な意味はありそうもないだろう。この実施例の帰結は、IV型コラーゲン発現を検出するIHC及び他のアッセイが、ロサルタン及び他のモジュレーターの抗TGFβ効果のモニタリングを可能にするであろうということである。
【0075】
結論として、本研究は、局所ロサルタンが、外傷、感染、疾患、及び手術によって引き起こされた角膜の瘢痕性線維化の予防的な防止及び治療において有効であり得ることを示唆する。筋線維芽細胞は生存についてはTGFβに依存するので(Wilson,2020)、ロサルタンのTGFβ阻害効果は、確立している角膜瘢痕でさえも有用でもあり得る。
【0076】
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【0077】
実施例2
局所ロサルタン及びコルチコステロイドは、アルカリ熱傷損傷後の角膜実質の筋線維芽細胞生成及び瘢痕性線維化を相加的に阻害する
本実施例は、ウサギにおけるアルカリ熱傷損傷後の角膜の瘢痕性線維化の阻害におけるロサルタン及び酢酸プレドニゾロンの有効性を評価及び記載する。簡潔には、研究には、16匹のニュージーランドホワイトウサギが含まれていた。アルカリ熱傷損傷を、5mmの直径のWhatman #1濾紙上の1NのNaOHを使用して産生した。各々の群における4つの角膜を、50μlの1)BSS中の0.8mg/mlのロサルタン、2)1%の酢酸プレドニゾロン、3)0.8mg/mlのロサルタン及び1%の酢酸プレドニゾロン併用、または4)BSSにより、1か月の間1日あたり6回処理した。混濁の領域及び合計の混濁を、標準化された細隙灯写真においてImageJにより分析した。両方の群における角膜を、手術の1か月後にOCT中で凍結固定し、α-SMA及びケラトカンまたはTGFβ-1及びIV型コラーゲンについて免疫組織化学(IHC)を遂行した。局所ロサルタン及び酢酸プレドニゾロン併用による処理は、細隙灯混濁の領域及び強度を有意に減少させた。この併用は、1切片あたりの実質の筋線維芽細胞のα-SMAの染色の領域及び強度も著しく減少させ、筋線維芽細胞を実質後部のみに制限し、処理1か月後にケラトカン陽性角膜実質細胞の有る実質の前部及び中間を再増殖させた。角膜線維芽細胞は、基底膜(特に角膜前部及び後部実質において)に付随しないIV型コラーゲンを産生し、この産生は局所ロサルタンによって減少した。結論として、局所ロサルタン及び酢酸プレドニゾロン併用は、全層の損傷(角膜内皮のダメージを包含する)を産生する角膜アルカリ熱傷後の筋線維芽細胞関連線維化の減少に有効であった。
【0078】
材料及び方法
動物
動物の処理及びケアは、Cleveland Clinic Foundation(Cleveland、OH、USA)及びAnimal Care and Use Review Office of the Department of the Army(Fort Detrick、MD)のInstitutional Animal Care and Use Committee(IACUC)によって承認された。すべてのウサギは、ARVO Statement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Researchの原則に従って処理された。本実施例には、各々が2.5~3.0kgの体重である10~15週齢のメスのニュージーランドホワイトウサギ16匹が含まれていた。
【0079】
角膜アルカリ熱傷方法
アルカリ曝露の24時間の前に開始し、処理後5~7日間継続して、1リットルの飲料水あたり60mlの小児用の液体アセトアミノフェン(Johnson and Johnson、Ft.Washington、PA)を、ウサギに投与した。すべてのアルカリ曝露及び試験の前に、30mg/kgの塩酸ケタミン及び5mg/kgのキシラジンの筋肉内注射によって、ウサギに麻酔をかけた。加えて、局所塩酸プロパラカイン1%(Alcon、Ft Worth、TX、USA)を、各々の眼に適用した。必要に応じて、疼痛の徴候により、皮下注射によって0.05mg/kgのブプレノルフィンも1日2回ウサギに投与した。
【0080】
アルカリ損傷を、平衡塩類溶液(BSS、0.64%の塩化ナトリウム、0.075%の塩化カリウム、0.048%の塩化カルシウム二水和物、0.03%の塩化マグネシウム六水和物、0.39%の酢酸ナトリウム三水和物、0.17%のクエン酸ナトリウム二水和物、pH7.5、Alcon、Ft.Worth、TX)中の1Nの水酸化ナトリウム(Sigma、St.Louis、MO)及び100μlの1NのNaOH溶液により湿潤させた5mmの直径の円形のWhatmanナンバー1濾紙(カタログ番号1001-6508、Fisher Scientific)を使用して、以前に出版された方法10により、ウサギの1つの眼において生じさせた。アルカリ熱傷損傷に続いて、角膜にBSSをたっぷり潅注した。各々の損傷された角膜に、1滴のシプロフロキサシン(Alcon、Ft.Worth、TX、USA)も、手術の10分後、及び1週間の間で1日4回で研究医薬物から少なくとも15分あけて投与した。
【0081】
局所ロサルタン及び/または酢酸プレドニゾロンによる処理
アルカリ熱傷損傷直後に開始して、各々の群中の4つの角膜を、1)50μlのBSS中の0.8mg/mlのロサルタン(Merck & Co.、Inc.、Kenilworth、NJ)、2)50μlの1%の酢酸プレドニゾロン(Alcon、Ft.Worth、TX)、3)少なくとも5分間隔で、50μlのBSS中の0.8mg/mlのロサルタン及び50μlの1%の酢酸プレドニゾロン(Alcon、Ft.Worth、TX)、または4)50μlのBSSにより、1か月の間で1日あたり6回(およそ午前8時、午前10時、正午12時、午後2時、午後4時、及び午後6時)処理した。
【0082】
損傷2週間後の上皮欠損についてのフルオレセイン染色
アルカリ熱傷損傷2週間後に、BSS中の局所0.5%のフルオレセインを各々の眼に適用し、上皮欠損(複数可)の存在または非存在を記録した。
【0083】
標準化された細隙灯写真、角膜血管造影法、及び角膜混濁のImageJ分析
水酸化ナトリウム曝露及び処理の1か月後に、ケタミン-キシラジンの全身麻酔下のウサギで、眼を、2滴の1%のトロピカミド(Akorn Co.、Lake Forest、IL)により30分間拡大させた。各々のウサギにおける研究の眼で、標準化された照明レベル及び照明角度により、Topcon(Oakland、NJ、USA)SL-D7細隙灯撮影システムによる20倍拡大で細隙灯写真を撮った。各々の研究眼について、混濁の合計の領域を、mm2へ較正されたImageJ 1.53a分析ソフトウェアを使用して、手書きの選択ツールにより混濁をアウトラインを描くことによって決定した。各々の角膜における混濁領域についてのピクセルでの「生の内部の密度」も、ImageJを使用して決定した。
【0084】
すべての角膜に、以前に記載されたように11、中心耳静脈中への1.5mlの10%のフルオレセインナトリウム(McKesson、Irvine、TX)の注射直後の角膜における色素通過のピークで、細隙灯システム、及び角膜を広範に照射して「バリヤーフイルター」(フルオレセイン放射のピークである520~530nmのみを透過)を使用するデジタルカメラシステムにより、蛍光血管造影法を行った。
【0085】
角膜の固定及び切片作成
曝露及び局所処理の1か月後に、ウサギを、ケタミン-キシラジンの全身麻酔後に、静脈注射による100mg/kgのBeuthanasia(Shering-Plough、Kenilworth、NJ)及び両側性気胸により安楽死させた。鋭利なWestcottハサミ(Fairfield、CT、USA)及び0.12鉗子(Storz、St.Louis、MO)により、眼の角膜-強膜縁を除去した。角膜を、24×24×5mmの型(Fisher Scientific、Pittsburgh、PA、USA)の中央に置き、それをOCT化合物(Sakura Finetek、Torrance、CA、USA)により充填し、ドライアイス上で急速冷凍した。ブロックを、切片を作成まで-80℃で保存した。
【0086】
OCTブロックを角膜の中央で二等分し、8μmの厚みの横断切片を、クリオスタット(HM 505M;Micron GmbH、Walldorf、Germany)により中央部の角膜から切った。各々の角膜からの切片を、25mm×75mm×1mmのSuperfrost Plus顕微鏡用スライド(Fisher Scientific、Pittsburgh、PA、USA)上に置いた。切片の有るスライドを免疫組織化学の前に-20℃で維持した。
【0087】
免疫組織化学及び線維化領域混濁強度解析
多重免疫組織化学(IHC)を、以前に記載された方法
8、ならびにウサギ抗原を認識することがウエスタンブロット及びIHCによって確認された一次抗体(表7)またはアイソタイプ対照抗体(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA)、ならびに二次蛍光タグ抗体を使用して遂行した(表7)。
【表7】
【0088】
IV型コラーゲン抗体(カタログ番号AB769、Millipore、Temecula、CA)は、精製されたヒト及びウシのIV型コラーゲンに対して作製され、それは、アガロースへ架橋されたヒト及びウシのIV型コラーゲンにより親和性精製され、製造者によってヒト及びウシのI、II、III、V、及びVI型のコラーゲンで交差吸収して、交差反応性が除去された。このIV型コラーゲン抗体は、IHCにおいてウサギIV型コラーゲンに結合し8、9、α-1/α-2鎖を認識するが、α-3~α-6鎖を認識しないことが以前に示された。ケラトカン抗体を、ペプチドH2N-LRLDGNEIKPPIPIDLVAC-OH(配列番号1)に対して作製する。このマーカーを使用して、インサイチューで角膜実質細胞を同定した。TGFβ-1抗体(GeneTex、Irvine、CA)は、IHCにおいてウサギTGFβ-1に結合し、TGFβ-2またはTGFβ-3への反応性を示さない。5
【0089】
mm2でのα-SMA陽性実質領域及びピクセルでの合計のα-SMA混濁を、LAS Xソフトウェア(Leica Microsystems、GmbH、Wetzlar、Germany)を使用して、自動化ステージ及びLeica 7000Tのカメラを装備したLeica DM6B正立顕微鏡上で10倍対物レンズにより得られた、標準化された画像を使用して定量した。3つの中央部の角膜の平均を各々の角膜から分析して、α-SMA陽性実質領域及び合計のα-SMA混濁を提供した。各々の角膜についてのmm2でのα-SMA陽性実質領域を、α-SMA陽性染色領域(複数可)の輪郭を描くために手書きの選択ツールを使用するImageJ 1.53a分析ソフトウェアにより、中央部の角膜の画像の完全な直径及び厚さ(すべての画像について、300DPI、幅885×高さ500、Photoshopで同一の+50%の明るさの増加をともなうファイルにすべて変換)から決定した。いくつかの角膜において、2つ以上の別の領域が存在し、これらの領域の和をその角膜についての値として使用した。各々の角膜についてのこれらの同じ切片において、ピクセルでの合計のα-SMA陽性強度も、同様に別のα-SMA陽性領域が存在するならば、和を使用することによってImageJにより決定した。
【0090】
各々の群におけるすべての角膜に、IV型コラーゲンについてのIHCを行った。各々の角膜からの画像を、均一な300DPI、875×568ピクセルのファイルに変換した。各々の角膜は、角膜前部(存在するならばEBMより後方の、実質前部表面で四角形の前部側)及び角膜後部(存在するならばデスメ膜より前方の、後部実質の表面で四角形の後部側)の両方における、3つの無作為に位置させた100×50のImageJ分析四角形中のシグナル強度の3つの測定値を有していた。各々のボックス内の染色強度を、分析ヒストグラム機能により決定し、3つのボックスの平均は、その角膜についての実質前部または実質後部における強度値であった。
【0091】
統計
統計的分析を、Kruskal-Wallis検定に続いて事後Dunn’s-Bonferroni検定を使用して遂行し、p<0.05を統計的に有意であると判断した。
【0092】
結果
アルカリ熱傷後の持続的な上皮欠損
アルカリ熱傷の2及び4週間後に、すべての群におけるすべての角膜は、少なくとも1mmの直径の上皮欠損を有し、処理群間に差が無いことが見出された。
【0093】
アルカリ熱傷後の細隙灯実質混濁及び中央部の角膜の血管新生(CNV)
5mmの濾紙円上での100μlの1NのNaOHの1分間の方法、続いて、局所0.8mg/mlのロサルタン、1%の酢酸プレドニゾロン、0.8mg/mlのロサルタン、及び1%の酢酸プレドニゾロン、またはBSSビヒクルによる1か月の間の1日あたり6回の処理を使用した場合の、角膜の各々の中央部の実質の混濁は、
図5A中で示される通りであった。合計の実質混濁領域を測定するために使用されたImageJの描出の例は、各々の処理について1つの角膜において示される。各々の画像化角膜についてのこれらの定量化領域が、非常に高密度の中央部(例えばLOS-2の*)及びより低い密度の周辺部(例えばLOS-2の**)を含有することに注目されたい。各々の群における各々の角膜についてのmm
2での混濁の合計の領域を、
図5B中で示す。群間の統計的比較を表8中で示す。
【表8】
【0094】
ロサルタン単独群、プレドニゾロン単独群、ならびにロサルタン及びプレドニゾロン併用群は、BSSビヒクル群とは有意に異なっていたが、互いに有意に異ならなかった。ImageJも使用して、各々の角膜における高密度中央部領域及びより低い密度の周辺領域の組み合わせ(各々の群からの1つの角膜中の破線によって示されるように)についてのピクセルでの合計の混濁強度を決定し、そのデータを
図5C中で示す。群間の統計的比較を表9中で示す。
【表9】
【0095】
ロサルタン単独群及びロサルタン及び酢酸プレドニゾロン併用群は、BSSビヒクル群とは有意に異なっていたが、互いに有意に異ならなかった。1%の酢酸プレドニゾロン群とBSSビヒクル群との間の差は、統計的有意差に達しなかった。しかしながら、ロサルタン及び酢酸プレドニゾロン併用群は、実質の混濁領域及び合計の混濁強度の両方について最も低い平均の標準誤差を有していた。
【0096】
中央部の角膜の血管新生(
図8)が、すべての4つのBSSビヒクル処理角膜において、局所0.8mg/mlのロサルタン単独により処理された2つの角膜において、1%の酢酸プレドニゾロン単独により処理された角膜のうちの1つで発達し、0.8mg/mlのロサルタン及び1%の酢酸プレドニゾロンの両方により処理された角膜においてはどれも発達しなかった。
【0097】
ケラトカン陽性角膜実質細胞及びα-SMA陽性筋線維芽細胞についてのIHC
図6Aは、各々の群中の角膜からの代表的な中央部の切片を示す。本研究におけるアルカリ損傷を行ったすべての角膜は、損傷の1か月後で、中央部の6~10mm以内で角膜内皮を有していなかった。α-SMA陽性筋線維芽細胞は、無傷の角膜において見出されなかった。BSSビヒクルにより処理されたすべての角膜は、
図6A中で示されるように、完全な厚さまたはほぼ完全な厚さのα-SMA陽性筋線維芽細胞を有したが、ケラトカン陽性角膜実質細胞のいくつかのパッチは存在した。ロサルタン単独により処理された角膜において、α-SMA陽性筋線維芽細胞は、
図6A中の例で示されるように、すべての角膜において主として実質の後部半分に制限された。α-SMA陽性筋線維芽細胞の局在化は、酢酸プレドニゾロン群においてより変動する傾向があった。その群中の2つの角膜において、α-SMA陽性筋線維芽細胞は、実質を通して見出され(
図6A中の例#1において示されるように)、2つの角膜において、α-SMA陽性筋線維芽細胞は、実質の後部半分においてのみ存在した(
図6A中の例#2において示されるように)。ロサルタン+酢酸プレドニゾロン併用群中のすべての4つの角膜において、α-SMA陽性筋線維芽細胞は、実質の非常に後部に制限され、ケラトカン陽性角膜実質細胞の有る実質のより前部が再増殖した(
図6A中で示されるように)。
【0098】
図9は、実質のα-SMA陽性染色の合計の領域(及び合計のα-SMA陽性混濁のImageJ分析のために使用された、各々の角膜からの代表的な切片におけるα-SMA陽性染色を示す。酢酸プレドニゾロン群中の実質α-SMA陽性染色のばらつきは、この図中で指摘され得る。各々の角膜中の合計のα-SMA領域についてのImageJ解析結果を、
図6B中で示す。表10は、群間の統計的比較を示す。
【表10】
【0099】
ロサルタン-酢酸プレドニゾロン併用群は、ビヒクル対照群よりも有意に少ないα-SMA領域を有していた。ロサルタン-酢酸プレドニゾロン併用群は、酢酸プレドニゾロン群よりも有意に少ないα-SMA領域を有していた。他の差は統計的有意差に達しなかったが、ロサルタン群が、ビヒクル対照群とは有意に異なる傾向があったことが指摘され得る。各々の角膜についてのピクセルでの合計のα-SMA混濁強度のImageJ解析結果を、
図6C中で示す。表11は、群間の統計的比較を示す。
【表11】
【0100】
この場合もやはり、ロサルタン-酢酸プレドニゾロン併用群は、ビヒクル対照群よりも極めて有意に少ないピクセルでのα-SMA混濁強度を有していた。さらに、ロサルタン-酢酸プレドニゾロン併用群は、合計のα-SMA混濁強度が、酢酸プレドニゾロン単独群よりも有意により少なかった。他の差は統計的有意差に達しなかった。重要なことには、ロサルタン+酢酸プレドニゾロン併用群における合計のα-SMA領域(
図6B)及び合計のα-SMA混濁強度(
図6C)の両方についての低いばらつきに注目されたい。
【0101】
図7Aは、各々の群中の代表的な角膜についての実質前部及び実質後部におけるIV型コラーゲン及びTGFβ-1についての代表的な二重IHCを示し、例示的なImageJ定量化四角形も示す。
図7Bは、各々の群中の角膜の実質前部におけるIV型コラーゲン染色強度についての定量化を示す。ロサルタン処理及びロサルタン+1%の酢酸プレドニゾロンの両方は、ビヒクル処理に比較して、実質前部におけるIV型コラーゲンの平均強度単位を有意に減少させた。酢酸プレドニゾロン単独は、ビヒクル処理に比較して、実質前部におけるIV型コラーゲン染色強度が減少する傾向を生じたが、差は統計的有意差に達しなかった。表12は、群間の実質前部におけるIV型コラーゲン強度についての統計的比較を示す。
【表12】
【0102】
図7Cは、各々の群中の角膜の実質後部におけるIV型コラーゲン染色強度についての定量化を示す。局所ロサルタン処理のみが、ビヒクル処理とは有意に異なっていたが、ロサルタン+1%の酢酸プレドニゾロン併用群は、有意性に向かう傾向にあった。表13は、群間の前部と後部におけるIV型コラーゲン強度についての統計的比較を示す。
【表13】
【0103】
水酸化ナトリウム(NaOH)によって引き起こされる角膜へ化学的損傷は、軽度の自然治癒性の眼表面の障害から、角膜上皮、角膜縁、実質、及び角膜内皮に影響する破壊的な熱傷まで変動する。10、12~17重度のアルカリ熱傷損傷は、角膜血管新生(CNV)及び持続的な上皮欠損にしばしば付随する。12~17重度のNaOH角膜熱傷は、また小柱網、虹彩、毛様体、レンズ、網膜、及び視神経も損傷し得る。12
【0104】
本実施例において使用される1NのNaOHの角膜熱傷損傷方法は、多くの以前のウサギ研究において使用された。10、13、14アルカリ熱傷損傷の効果及び局所用薬剤の可能性のある効果の分析のために1か月の時間点を選択したが、それは、1か月が、先行研究2~6において角膜への損傷に対する創傷治癒応答がピークに達する時だったからである。本実施例は、100マイクロリットルの1NのNaOHによる重度の化学的損傷が、5mmの濾紙送達系を1分間使用して加えられ、実質を介して浸透し、角膜内皮の下にある大きな領域及び多くの場合デスメ膜(直径およそ8~10mm)を均一に損傷したことを示した。この方法を使用して、輪部損傷の証拠は示されなかった。同様に、この損傷後のウサギ眼において、虹彩またはレンズのダメージの証拠は、示されなかった。ある特定の実験において、この方法を使用する1NのNaOHへの15秒の曝露でさえ、角膜内皮がダメージを受けた(Sampaio LP and Wilson SE、未出版データ、2021)ため、NaOHの希釈物はおそらく角膜の上皮及び実質前部に制限される損傷のモデルを作製することが必要であろう。
【0105】
1NのNaOHによって生じた影響を受けた上皮、角膜実質細胞、及び角膜内皮の細胞死のモードは、壊死であることが以前に報告された。15、16細胞壊死は、おそらく、下にある膠原細繊維の変性と一緒に17、重度の角膜炎症応答を誘発し、これは、損傷後の最初の数日から2週間の間に本研究におけるすべての角膜で細隙灯により指摘された。
【0106】
すべての群中の損傷及び処理の1か月後に残存する混濁は、より低い密度のリングによって囲まれた高密度中央部のゾーンによって特徴付けられた(
図5A)。高密度中央部の領域は、発達した筋線維芽細胞、及びこれらの線維化細胞が産生した多量の無秩序な細胞外マトリックスと一緒に、元のNaOH損傷によって生じた変性し無秩序なコラーゲン線維を表わすと考えられていた。
5、6、18より低い密度リングは、角膜線維芽細胞によって生成される無秩序な細胞外マトリックスがより少ない量であることと一緒に、激しくダメージを受けなかった実質のコラーゲン及び角膜線維芽細胞と関連し得る。
【0107】
ロサルタンはアンジオテンシン変換酵素(ACE)II受容体アンタゴニストであり、TGFβシグナリングも阻害する。
9、19~24本実施例において、BSS中の0.8mg/mlのロサルタン、1%の酢酸プレドニゾロン、またはロサルタン及び酢酸プレドニゾロン併用による1日あたり6回の局所処理は、標準化された細隙灯画像上でImageJにより測定された合計の角膜混濁領域を減少させた(
図5B)。混濁の合計の領域における差は、ロサルタン、酢酸プレドニゾロン、またはロサルタン/酢酸プレドニゾロン併用群の間で有意に異ならなかった(表8)。ImageJにより測定された角膜の混濁領域におけるピクセルでの合計の混濁は、ビヒクルBSS群に比較して、0.8mg/mlのロサルタン群または0.8mg/mlのロサルタン+1%の酢酸プレドニゾロン併用群において有意により低かった。1%の酢酸プレドニゾロン単独群は、ビヒクルBSS群に比較して、合計の混濁が減少する傾向があったが、差は統計的有意差に達しなかった(表9)。
【0108】
本実施例において最も興味深い知見のうちの1つは、異なる処理群中の筋線維芽細胞の発達及び実質の線維化に関連する(
図6A)。アルカリ熱傷に続いてビヒクルBSSによる処理を行ったすべての角膜は、角膜の完全な厚さを通してα-SMA陽性筋線維芽細胞及び線維化を有していたが、この線維化は、実質前部及び実質後部の表面に隣接して最も大きいように思われ(
図9)、これは、おそらく、涙液、上皮、残存する周辺の角膜内皮、及び角膜表面の房水から実質に浸透するより高い濃度のTGFβ-1及びTGFβ-2に起因する。
5、60.8mg/mlの局所ロサルタンにより処理されたNaOH損傷角膜において、α-SMA陽性筋線維芽細胞の最大密度は、実質後部の半分において示される傾向があったが、より低い量の実質前部のα-SMA陽性筋線維芽細胞は、処理の1か月後に2つのロサルタン処理角膜において示された(
図9)。持続的な角膜上皮欠損それ自体は、実質前部の筋線維芽細胞及び線維化の発達と関連し
25、2つのロサルタン処理角膜において示される前部の筋線維芽細胞が何らかの役割を有し得る。1%の酢酸プレドニゾロン単独により処理されたアルカリ損傷角膜は、実質筋線維芽細胞の発達においてよりばらつきがあった(
図9)。しかしながら、損傷ならびにロサルタン及び酢酸プレドニゾロン併用による処理後に、すべての4つの角膜におけるα-SMA陽性筋線維芽細胞は、実質の非常に後部に制限された(
図9)。
図6A中の代表的な角膜において示され得るように、1か月の時点までに、処理群のうちのどの角膜においても、角膜内皮及びデスメ膜が再生していなかったことに留意することが重要である。
【0109】
ImageJを使用して、中央部の角膜の各々におけるα-SMA陽性筋線維芽細胞の領域が決定された場合に(
図6B)、ロサルタン+酢酸プレドニゾロン併用群は、ビヒクルBSS処理群とは有意に異なっていた(p=0.0005、表10)。このロサルタン+酢酸プレドニゾロン併用群は、α-SMA染色領域について低い平均の標準誤差も有していた(
図6B)。ロサルタン及び酢酸プレドニゾロン併用群は、酢酸プレドニゾロン単独群よりもα-SMA染色の有意に少ない領域を有していた。同様に、ImageJを使用して、角膜の各々における角膜切片あたりの合計のα-SMA強度が決定された場合に(
図6C)、ロサルタン+酢酸プレドニゾロン処理併用群は、ビヒクルBSS処理群よりも有意に低く(p=0.002、表11)、ロサルタン+酢酸プレドニゾロン処理併用群は、酢酸プレドニゾロン単独群よりも有意に低かった(p=0.01)。本発明は、任意の特定のメカニズムに限定されておらず、メカニズムの理解が本発明を実践には必要ではないが、本発明者らは、重度のアルカリ熱傷後のロサルタン+酢酸プレドニゾロン併用処理の有効性が、重度の組織壊死による炎症のコルチコステロイド調節、ならびに実質の筋線維芽細胞発達及びしたがってこれらの細胞による無秩序なコラーゲン産生に対する線維化促進性TGFβ効果のロサルタン調節に起因したという仮説を立てる。骨髄由来線維細胞も、角膜線維芽細胞に加えて、損傷後に輪部から実質に侵入し、TGFβ駆動性の筋線維芽細胞への前駆細胞である。
26、27コルチコステロイドは、多数の筋線維芽細胞の生成のために必要な線維細胞の分裂増殖を阻害し
28、線維細胞アポトーシスも誘発する。
29したがって、局所コルチコステロイドは、これらのメカニズムを介して、角膜線維芽細胞及び線維細胞の両方からの筋線維芽細胞の発達のロサルタン阻害に寄与し得る。
【0110】
本実施例は、重度の水酸化ナトリウム損傷が、通常は、角膜線維化応答を増加させる角膜内皮及びデスメ膜へダメージと関連することを実証した。このことは、角膜内皮のダメージが、損傷の長期転帰の主要な決定要素である、生物兵器薬剤(サルファマスタード等)によって引き起こされた化学熱傷の効果に関する知見に類似する。30、31局所ロサルタン及びコルチコステロイド併用は、これらの化学的生物武器薬剤に応答して起こる筋線維芽細胞生成及び角膜の瘢痕性線維化も減少させることができた。
【0111】
実施例2についての参照文献
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【0112】
実施例3
ウサギにおけるレーザー屈折矯正角膜切除術(PRK)後の筋線維芽細胞生成及び遅発性ヘイズ(late haze)(瘢痕化線維化)のロサルタン阻害
本実施例は、ウサギにおけるPRK後の筋線維芽細胞の生成及び遅発性ヘイズ瘢痕性線維化の発達に対する、ビヒクルに比較した、局所ロサルタンの効果を評価及び記載する。
【0113】
要約
簡潔には、ウサギ(12)に、1つの眼において-9D PRK、続いて1か月の間の1日あたり6回の50μlの0.8mg/mlの局所ロサルタンまたは50μlのビヒクルを行った。標準化された細隙灯写真を、安楽死の前に得た。二重IHCを、筋線維芽細胞マーカーα-平滑筋アクチン(α-SMA)及び角膜実質細胞マーカーケラトカンまたはIV型コラーゲン及び形質転換増殖因子(TGF)β-1について凍結固定した角膜上で遂行した。ImageJを定量化のために利用した。局所ロサルタンは、PRKの1か月後にビヒクルに比較して、角膜混濁を有意に減少させ(P=0.04)、実質前部の筋線維芽細胞生成を有意に減少させた(P=0.01)。局所ロサルタンは、PRKの1か月後にビヒクルに比較して、実質前部の非基底膜IV型コラーゲンも減少させた(P=0.004)。局所ACEII受容体阻害物質ロサルタン(TGFβシグナリングの公知の阻害物質)は、ビヒクルに比較して、ウサギにおける-9D PRK後の遅発性ヘイズ瘢痕化線維化及び筋線維芽細胞生成を減少させた。それは、TGFβ調節性で角膜線維芽細胞産生の非基底膜実質のIV型コラーゲンも減少させる。
【0114】
背景
臨床的に重要な遅発性角膜ヘイズ(角膜実質の瘢痕性線維化とも称される)は、レーザー屈折矯正角膜切除術(PRK)後の合併症として報告され続けている。(1)PRK後の遅発性ヘイズの発生率は、術中マイトマイシンCの単回用量が広範囲で採用された後に著しく減少した(2、3)が、マイトマイシンC適用にもかかわらず、いくつかの眼において示され続け、それは「ブレークスルーヘイズ」と称される。(4).遅発性ヘイズは、PRKによる中等度から高度の近視または遠視矯正後に最も一般的に認められるが、特に術中マイトマイシンC処理が省かれる場合に、または手術に続いて持続的な上皮欠損がある場合に、遅発性ヘイズは、低度近視についてのPRK矯正後に時々認められる。(2、3)。
【0115】
ウサギにおける複数の調査により、PRK後の上皮基底膜(EBM)の再生欠損及び上皮下筋線維芽細胞の発達が、遅発性ヘイズ角膜実質線維化の発達の根底にあることが実証されている。(5~7)。筋線維芽細胞は、主として形質転換増殖因子(TGF)β-1及びTGFβ-2によって駆動される細胞発達プログラムを介して、角膜実質細胞由来角膜線維芽細胞及び骨髄由来線維細胞の両方から角膜において発達する。(8、9)。TGFβ-1及びTGFβ-2は、頂端上皮バリア機能と共に、実質の中へのTGFβ通過を調節するEBMの再生の遅延がある場合に、PRK後の角膜上皮及び涙液から継続的に実質に侵入する。(6、10~12)。パールカン及びIV型コラーゲンは、TGFβ-1及びTGFβ-2の実質の中への通過を調節するゲートキーパーとして役立つEBM構成要素である。(10~12)。筋線維芽細胞は、完全な発達及び生存のために、適切且つ継続的なTGFβ-1及び/またはTGFβ-2の供給源に決定的に依存し、これらの増殖因子によるシグナリングを枯渇させた場合に、これらの線維化細胞及びその前駆細胞はアポトーシスを起こす。(8、9)。
【0116】
材料及び方法
動物及び手術
動物手順は、Institutional Animal Care and Use Committee at the Cleveland Clinic Foundationによって承認され、動物は、Association for Research in Vision and Ophthalmology Statement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Researchの原則に従って処理された。各々が2.5~3kgの体重である12~15週齢のメスのニュージーランドホワイトウサギ12匹が含まれていた。手術の24時間の前に開始し、PRK後5日間継続して、1Lの飲料水あたり60mlの小児用の液体アセトアミノフェン(Johnson & Johnson、Ft.Washington、PA)を、ウサギに投与した。各々のウサギの1つの眼を、-9.0 D(近視スケールで)PRKを有するように無作為に選択し、手術の前に、2滴の1%の局所塩酸プロパラカイン(Alcon、Fort Worth(TX)、USA)を投与した。#6400 Beaverブレード(MedexSupply、Passaic、NJ)を使用する手動の上皮デブリードマンによるPRKを、ウサギに、筋肉内(IM)注射によって30mg/kgの塩酸ケタミン及び5mg/kgのキシラジンによる全身麻酔ならびに1%のプロパラカイン(Alcon、Ft.Worth、TX)による局所麻酔を行いながら、VISX(Santa Clara(CA))S4 IRエキシマレーザーにより、以前に出版された方法6、7、10を使用して遂行した。6PRKの対側性の効果は、以前の研究5、6、7、10において示されていないので、反対の角膜を無傷の対照として含めた。
【0117】
医薬物
手術直後に開始して、PRKを行った6つの眼を、50μlの平衡塩類溶液(BSS、0.64%の塩化ナトリウム、0.075%の塩化カリウム、0.048%の塩化カルシウム二水和物、0.03%の塩化マグネシウム六水和物、0.39%の酢酸ナトリウム三水和物、0.17%のクエン酸ナトリウム二水和物、pH7.5)により、1日6回(およそ午前8時、午前10時、正午12時、午後2時、午後4時、及び午後6時)処理し、PRKを行った6つの眼を、50μlのBSS中の0.8mg/mlのロサルタン(Merck & Co.,Inc.、Kenilworth、NJ、USA)により、1日6回処理した。ビヒクルまたはロサルタンによる処理を、PRK手術後の1か月の間継続した。上皮が閉鎖するまで(すべての眼における上皮は、手術の5日後までに閉鎖した)、PRKを行った眼を、他の局所医薬物から少なくとも5分間で、さらに1滴の局所シプロフロキサシンにより1日3回処理した。いずれかの群においても、コルチコステロイドを投与しなかった。
【0118】
標準化された細隙灯写真及び角膜混濁のImageJ測定
PRK及び処理の1か月後に、各々のウサギをケタミン-キシラジンで全身麻酔し、眼を、2滴の1%のトロピカミド(Akorn Co.、Lake Forest、IL、USA)により30分間拡大させた。各々のウサギにおける研究の眼で、標準化された照明レベル及び照明角度により、Topcon(Oakland、NJ、USA)SL-D7細隙灯撮影システムによる20倍拡大で細隙灯写真を撮った。各々の研究角膜について、中央部の3.5mmのPRKアブレーションしたゾーンにおけるピクセルでの平均混濁を、ImageJ 1.53a分析ソフトウェア(National Institutes of Health、Bethesda、MD、USA)の使用によって決定した。
【0119】
角膜の冷凍固定及び切片作成
ウサギを、ケタミン-キシラジンの全身麻酔下で、静脈注射による100mg/kgのBeuthanasia(Shering-Plough、Kenilworth、NJ、USA)、続いて両側性気胸により安楽死させた。鋭利なWestcottハサミ(Fairfield、CT、USA)及び0.12鉗子(Storz、St.Louis、MO、USA)により、角膜-強膜縁を除去した。角膜-強膜縁を、24mm×24mm×5mmの型(Fisher Scientific、Pittsburgh、PA、USA)の中央に置き、それをoptimal cutting temperature(OCT)化合物(Sakura Finetek、Torrance、CA、USA)により充填し、ドライアイス上で急速冷凍した。ブロックを、切片を作成まで-80℃で保存した。ブロックを角膜の中央で二等分し、10μmの厚みの横断切片を、クリオスタット(HM 505M;Micron GmbH、Walldorf、Germany)により中央部の角膜から切った。各々の角膜からの切片を、25mm×75mm×1mmのSuperfrost Plus顕微鏡用スライド(Fisher Scientific)上に置いた。切片の有るスライドを免疫組織化学(IHC)の前に-20℃で維持した。
【0120】
実質のα-平滑筋アクチン及びIV型コラーゲンの免疫組織化学(IHC)及び定量化
1)α-平滑筋アクチン及びケラトカン、または2)IV型コラーゲン及びTGFβ-1についての二重IHCを、以前に記載された方法、ならびにウサギ抗原を認識することがウエスタンブロット及びIHCによって確認された一次抗体またはアイソタイプの非特異的対照抗体(ThermoFisher Scientific、Waltham、MA、USA)、ならびに以前に記載された二次蛍光タグ抗体を使用して遂行した(表14)。
20
【表14】
【0121】
IV型コラーゲン抗体(カタログAB769、Millipore、Temecula、CA、USA)は、精製されたヒト及びウシのIV型コラーゲンに対して生成された(アガロースへ架橋されたヒト及びウシのIV型コラーゲンにより親和性精製され、次いで製造者によってヒト及びウシのI、II、III、V、及びVI型のコラーゲンで交差吸収して、交差反応性が除去された)。このIV型コラーゲン抗体は、IHCにおいてウサギIV型コラーゲンに結合し6、20、α-1/α-2鎖に結合するが、α-3~α-6鎖に結合しないことが以前に示された。
【0122】
角膜実質細胞特異的ケラトカン抗体を、ペプチドH2N-LRLDGNEIKPPIPIDLVAC-OH(配列番号1)に対して作製した。使用されたTGFβ-1抗体(GeneTex、Irvine、CA、USA)は、IHCにおいてウサギTGFβ-1に結合し、TGFβ-2またはTGFβ-3への反応性を示さない。6、20画像を、LASXソフトウェア(Leica Microsystems、GmbH、Wetzlar、Germany)を使用して、自動ステージ及びLeica 7000Tのカメラを装備したLeica DM6B正立顕微鏡上で100倍の合計の拡大で得た。
【0123】
すべての画像を、Photoshop 22.1.1(Adobe、San Jose、CA)により300DPI、幅900ピクセル×高さ672ピクセルの画像に変換した。実質のα-SMAまたは実質のコラーゲンIV型の平均ピクセルを、関心のある色のみを示す画像パネルを使用する各々の角膜の3つの切片のImageJにより、幅900ピクセル×高さ235ピクセルの四角形(α-SMAまたはIV型コラーゲンのいずれかの定量化のために)において決定した。3つの角膜切片からの平均を、実質のα-SMAまたは実質のIV型コラーゲンについての値として個別の角膜のために使用した。
【0124】
統計
群間の比較を、Kruskal Wallis検定に続く事後Dunn’s-Bonferroni検定を使用して遂行した。P<0.05を統計的に有意であると判断した。
【0125】
結果
図10Aは、-9D(近視スケールで)PRK及び1か月の局所薬物処理の後のビヒクル群及びロサルタン群における、各々の角膜からの標準化された細隙灯写真を提供する。この図は、ImageJを使用して、混濁について分析された各々の角膜におけるPRKアブレーション内の均一な中央部の円形の3.5mmの直径領域も示す。
図10Bは、ビヒクル処理群及びロサルタン処理群における各々の角膜について分析された3.5mmの直径領域内の混濁の平均ピクセルを示す。ビヒクル群(平均±標準誤差、93±6ピクセル)とロサルタン群(平均±標準誤差、77±3)との間の差は、統計的に有意であった(p=0.04)。
【0126】
図11Aは、-9D PRK及び1か月の局所薬物処理の後のビヒクル群及びロサルタン群における、中央部の角膜のα-SMA及びケラトカンについての代表的な二重免疫組織化学を示す。α-SMAのみの染色を示すパネル上のImageJによるα-SMA染色強度の合計のピクセルについて分析された、幅900ピクセル幅×高さ235ピクセルの領域も、各々の角膜について示す。
図11Bは、各々の角膜について分析された四角形内のα-SMA染色の合計のピクセルのグラフを示す。ビヒクル処理群(平均±標準誤差、1630±840ピクセル)とロサルタン処理群(平均±標準誤差、120±60ピクセル)との間の差は、統計的に有意であった(p=0.01)。ロサルタン群に比較して、ビヒクル群において、はるかに大きい変動(より高い標準誤差)であることに注目されたい。
【0127】
図12Aは、代表的な無傷の対照の中央部の角膜、そして-9D PRK及び1か月の局所薬物処理の後のビヒクル群及びロサルタン処理群の角膜における、IV型コラーゲン及びTGFβ-1についての代表的な例示の二重免疫組織化学を示す。無傷の角膜において、TGFβ-1は上皮及び角膜内皮に多く局在し、実質においてはより少ない量が検出された。無傷の角膜において、IV型コラーゲンは、上皮基底膜及びデスメ膜に主として局在し、実質においてほとんど検出されなかった。PRK及び1か月のビヒクルまたはロサルタン処理を行った角膜において、TGFβ-1は依然として上皮及び角膜内皮に局在したが、両方の処理群において上皮基底膜にも顕著に局在した。ビヒクル処理群の角膜において、TGFβ-1の顕著な線は、その群における各々の角膜のI型コラーゲンバンドのちょうど下の実質において存在した。
【0128】
図12Aは、-9D PRKの1か月後のビヒクル処理群においても、高いレベルのIV型コラーゲンが上皮基底膜の下の上皮下実質においてバンドで存在したことを示す。-9D PRKの1か月後のロサルタン処理群において、IV型コラーゲンは、主として上皮基底膜に局在し、下にある実質前部においてはるかに少量のIV型コラーゲンが検出された。
【0129】
図12Bは、各々の角膜について分析された幅900ピクセル×高さ235ピクセルの実質の四角形内のIV型コラーゲンシグナルの合計のピクセルのグラフである。ビヒクル処理群(628700±37100)とロサルタン処理群(191000±9000)との間の差は、統計的に有意であった(p=0.004)。
【0130】
PRK後の角膜の遅発性ヘイズは、手術後の上皮下筋線維芽細胞の発達及び持続性からもたらされる実質の線維化の臨床徴候である。これらの線維芽細胞は、角膜実質細胞に比較して、角膜クリスタリンのダウンレギュレーションに起因して、線維芽細胞自体は不透過性である。21筋線維芽細胞は、局所の角膜線維芽細胞(角膜実質細胞に由来する)及び骨髄由来線維細胞を含む前駆細胞から発達し、それは角膜損傷に応答して輪部血管から角膜に侵入する。22、23一旦成熟筋線維芽細胞が、上皮下実質において発達すれば、それらは大量の無秩序な細胞外マトリックス構成要素(I型コラーゲン及びコラーゲンIII型等)を産生し、それは角膜透明度をさらに損なう。22筋線維芽細胞前駆体の成熟筋線維芽細胞への発達、及び組織中の筋線維芽細胞の存続は、TGFβ-1及び/またはTGFβ-2そして、血小板由来増殖因子を含む他の増殖因子の継続的且つ適切な供給に依存する。6、10
【0131】
複数の研究により、上皮基底膜(EBM)(それは上皮及び角膜実質細胞/角膜線維芽細胞の調和的な労力を介して産生される)の再生の遅延または欠損が、遅発性ヘイズ線維化の発達の根底にあることが実証された。6、10パールカン及びIV型コラーゲンは、TGFβ-1及びTGFβ-2の上皮及び涙液膜からの実質の中への侵入を調節する重要なEBM構成要素である。遅発性ヘイズ線維化の発達は、おそらく、実質の混濁、角膜表面へ伝達された不規則性、及びPRKの屈折の効果の退行の組み合わせを介してPRK後の視力を減少させる。22一旦遅発性ヘイズがウサギまたはヒト角膜において発達すれば、正常なEBMが再生されるまで存続し、このプロセスは、典型的には、遅発性ヘイズ瘢痕性線維化の発達後に、ウサギでは数か月及びヒトでは数か月から数年かかる。この例において、1か月を分析のために選択したが、それは、1か月が、ウサギにおけるPRK後に角膜の遅発性ヘイズ線維化のピークであることを多くの研究が示したからである。5~7、10正常な成熟EBMの再生は、上皮及び涙液のTGFβ-1及びTGFβ-2についてのバリア機能を再確立し、これらの上皮下の実質の線維化促進増殖因子のレベルを低下させ、筋線維芽細胞のアポトーシスを導くか24、またはおそらく筋線維芽細胞を角膜線維芽細胞表現型へ復帰させることであるが、後者の消失メカニズムはまだインサイチューで実証されていない。一旦実質における筋線維芽細胞が衰えれば、角膜線維芽細胞及び角膜実質細胞は影響を受けた実質組織に再び進入し、筋線維芽細胞によって産生された無秩序な細胞外マトリックスを再吸収/再編成して、角膜透明度を増加させる。22
【0132】
図10A中の-9D PRK及び局所ロサルタンによる処理の1か月後での角膜の各々は、筋線維芽細胞の減少にもかかわらず、中央部の混濁の残存を有していた。この混濁は、主として、角膜線維芽細胞によって産生された無秩序な細胞外マトリックス(ECM)構成要素(I型コラーゲン及びコラーゲンIII型等)及び手術後のこの早い時点でのロサルタン処理にもかかわらず発達した少数の筋線維芽細胞に起因する。
21、22筋線維芽細胞の発達の無いPRKを有する多くの角膜は、角膜線維芽細胞によるクリスタリン産生の減少及びこれらの細胞による比較的低レベルの無秩序なECMの産生に起因して、臨床的に重要でないヘイズを発達させる。
21、22この一過性の混濁は、典型的には数か月にわたって減少するが、これは、手術へ応答して発達した角膜線維芽細胞が、アポトーシス及び角膜実質細胞表現型への復帰の組み合わせによって消失するからである。
22したがって、この研究の両方の群における角膜は、おそらくより長いフォローアップではより透明になっていただろう。
【0133】
本実施例により、局所ロサルタンが、TGFβシグナリングを介して角膜線維芽細胞においてもアップレギュレートされる非基底膜実質のIV型コラーゲン産生を減少させることが実証された(
図12A~B)。
19、20、27実質のIV型コラーゲンが、TGFβ-1及びTGFβ-2に直接結合して、TGFβとその受容体との相互作用を調節するように機能すると思われるので
27、このIV型コラーゲン産生の阻害が、全体的なTGFのβ媒介性の線維化応答に対する有害効果を有し得るという懸念があるかもしれない。しかしながら、このことは本実施例において示されていない。
【0134】
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【0135】
上記の明細書中で言及されたすべての出版物及び特許は、参照として本明細書に援用される。記載された本発明の組成物及び方法の様々な修飾及び変動は、本発明の範囲及び趣旨から逸脱せずに、当業者に明らかであろう。本発明は具体的な好ましい実施形態に関して記載されてきたが、請求の範囲に記載される本発明は、かかる特定の実施形態に過度に限定されるべきでないことを理解すべきである。実際、関連する分野における当業者に明らかな本発明の実行のために記載されたモードの様々な修飾は、本発明の範囲内であることが意図される。
【配列表】
【国際調査報告】