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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】改善されたフロー合成
(51)【国際特許分類】
   C07D 251/06 20060101AFI20240905BHJP
   C07D 257/02 20060101ALI20240905BHJP
   C06B 25/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C07D251/06
C07D257/02
C06B25/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513836
(86)(22)【出願日】2022-08-30
(85)【翻訳文提出日】2024-04-09
(86)【国際出願番号】 GB2022052217
(87)【国際公開番号】W WO2023031597
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】2112498.7
(32)【優先日】2021-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390038014
【氏名又は名称】ビ-エイイ- システムズ パブリック リミテッド カンパニ-
【氏名又は名称原語表記】BAE SYSTEMS plc
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】バーン、アンディ・オーデン
(72)【発明者】
【氏名】ディズベリー、マシュー・ポール
(72)【発明者】
【氏名】マレー、イアン・エワート・パターソン
(72)【発明者】
【氏名】マクワイア、ナイル・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ジュブ、ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ、クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ケネディ、ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】ケネディ、スチュアート
(57)【要約】
本発明は、有機爆薬を合成する方法に関し、当該方法は、i)第1の溶液Aを供給する工程、ii)第2の溶液Bを供給する工程であって、溶液A及び溶液Bの混和物が、混和物の形成時に一緒に反応して、有機爆薬を提供できるように選択される、工程、iii)溶液A及びBを混合しフロー反応器を通過させて混和物を生成する工程であって、フロー反応器はパイプを備え、パイプの内径が有機爆薬の臨界直径未満となるように選択され、これによって形成された有機爆薬の前記フロー反応器内での爆轟を防止する、工程を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロー反応器内で有機爆薬を合成する方法であって、前記方法は、
i)ニトロ化剤を含む溶液Aを供給する工程、
ii)爆発物前駆体試薬を含む溶液Bを供給する工程であって、
前記溶液A及び溶液Bの混和物が、前記混和物の形成時に一緒に反応して、前記有機爆薬を提供できるように選択される、工程、
iii)前記有機爆薬の臨界直径を測定する工程、
iv)前記フロー反応器はパイプを備え、前記パイプの内径が前記有機爆薬の臨界直径未満となるように前記パイプの内径を選択し、これによって形成された前記有機爆薬の前記フロー反応器内での爆轟を防止する、工程、
v)前記溶液A及びBを混合し前記フロー反応器を通過させて、前記混和物を生成し、前記有機爆薬を提供する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記ニトロ化剤は硝酸、亜硝酸塩を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機爆薬はニトラミンである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ニトラミンはRDX又はHMXである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記爆発物前駆体は、シクロアミン、オクタヒドロ-1,3,5,7-テトラニトロ-1,3,5,7-テトラゾシン(TAT)、1,3,5-トリアセチル-1,3,5-トリアザシクロヘキサン(TRAT)、1,5-ジニトロエンドメチレン-1,3,5,7-テトラアザシクロオクタン(DPT)、及びヘキサメチレンテトラミンである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
溶液A及び/若しくはB、又は工程v)で混合される溶液Cは、触媒、強酸、脱水剤及び酸無水物を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記フロー反応器は温度制御される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記混和物が前記フロー反応器を通過した後、溶液Dを添加し、前記反応した混和物を後処理して、前記爆発物材料又はその塩の沈殿物を得る、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
溶液Dは冷水を含んでいてもよい、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記パイプの内径は500ミクロン未満である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記爆発物材料は、例えば、事象の危険性を減少させるため、保管されている前記溶液A、B及び/又はCから離れて収集される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記離れて収集されるとは、爆風壁の背後又は爆発物倉庫内である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法を実行するための装置であって、前記装置は、複数のフロー反応器を並列に備え、前記各フロー反応器はパイプを備え、前記パイプの内径は前記有機爆薬の臨界直径未満であるように選択される、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の発明は、火薬前駆体の直接ニトロ化により爆発物をフロー合成で製造する方法に関する。特に、RDX及びHMXを製造する方法に関する。
【0002】
発明を更に詳しく説明する前に、本発明は、説明する特定の態様に限定されず、そのため、当然ながら変化してもよいことを理解されたい。本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定され、この明細書で使用する技術用語は、特定の態様を説明することのみを目的としており、限定することを意図しないことも理解されたい。
【発明の概要】
【0003】
本発明の第1の態様は、有機爆薬を合成する方法を提供し、この方法は、
i)ニトロ化剤を含む溶液Aを供給する工程、
ii)爆発物前駆体試薬を含む溶液Bを供給する工程であって、
溶液A及び溶液Bの混和物が、混和物の形成時に一緒に反応して、有機爆薬を提供できるように選択される、工程、
iii)有機爆薬の臨界直径を測定する工程、
iv)フロー反応器はパイプを備え、パイプの内径が有機爆薬の臨界直径未満となるようにパイプの内径を選択し、これによって形成された有機爆薬の前記フロー反応器内での爆轟を防止する工程、
v)溶液A及びBを混合しフロー反応器を通過させて、混和物を生成する工程
を含む。
【0004】
溶液Aは、硝酸、亜硝酸塩及びこれらの組合せのようなニトロ化剤を含む。
【0005】
溶液Bは、当技術分野で周知の爆発物前駆体試薬を含み、発煙硝酸又は99%濃硝酸などの高濃度の硝酸で容易にニトロ化されることから、多くの場合、入手が制限されている試薬である。
【0006】
爆発物前駆体は、芳香族化合物、フェニルアミン、シクロアミン、トルエン、オクタヒドロ-1,3,5,7-テトラニトロ-1,3,5,7-テトラゾシン(TAT)、1,3,5-トリアセチル-1,3,5-トリアザシクロヘキサン(TRAT)、1,5-ジニトロエンドメチレン-1,3,5,7-テトラアザシクロオクタン(DPT)、トリアゾール及びヘキサメチレンテトラミンであってもよい。TAT、TRAT及びDPTの形成は、いくつかの合成工程を必要とする場合があるが、これらはエネルギー材料ではないことから、従来のバッチ技術で、安全に製造できる。
【0007】
溶液A及び/若しくはB、又は工程ii)で混合してもよい溶液Cは、触媒、強酸、脱水剤及び酸無水物を更に含む。硝酸以外の強酸は硫酸であってもよい。脱水剤はPであってもよい。酸無水物は酢酸無水物又はトリフルオロ酢酸無水物であってもよい。
【0008】
ニトロ化反応は通常発熱反応であり、形成された爆発物材料が爆轟に達しないことを確実にするために、フロー反応器を温度制御してもよい。
【0009】
混和物はフロー反応器を通過し、この反応器に溶液Dを添加し、反応物質を後処理して、前記爆発物材料又はその塩の沈殿物を得てもよい。溶液Dは酸をクエンチできる。溶液Dは、冷水を含んでいてもよく、沈殿を引き起こす。
【0010】
爆発物のバッチ合成は、爆発の危険性のため、非常に厳密に規制されている。しかし、工業的合成のバッチ経路では、反応器内で数百キロもの材料が形成される。そのため、建築物は非常に大きな安全性半径が必要となる。フロー合成は、爆発物材料が保管された溶液A、B及び/又はCから離れて収集できるように、低キログラム単位の製造を可能にし、危険性を減少させる。好ましくは、離れて収集される場所は、爆風壁の背後又は爆発物倉庫である。小量の爆発物材料を連続的に製造することで、数百キロものバッチが1つの場所に蓄積されることを防ぐ。
【0011】
爆発物の臨界直径は、明確に定められた試験により、容易に特徴付けできる。公的に利用できる情報では、試験にもよるが、臨界直径は一般的に1mmを超える程度である。
【0012】
純粋な爆発物の臨界直径は、感度を低下させる結合剤の使用(IM爆発物)により、変化することが多く、PBX(ポリマー結合爆発物)のような組成物の臨界直径は純粋な爆発物材料とは異なっていてもよい。
【0013】
フロー合成を行うことで、合成に使用するパイプの内径の選択が可能となり、フロー反応器パイプの内径は、フロー反応器内での連続する爆轟を緩和するために、合成される爆発物材料の臨界直径未満でなければならない。臨界直径は測定でき、爆轟を回避するパイプの直径の選択はシステムの安全性を改善する。製造される爆発物の臨界直径未満となるように選択された直径の複数のフロー反応器の並列使用は、安全性を損なうことなく、並行して、最終出力フローを増加できる。
【0014】
化学物質の工業的合成に使用される典型的な大口径管状反応器のパイプの内径は少なくとも3~4mmである。この直径は、非常に多くの試薬の使用を可能にするが、爆発物材料がパイプ内で沈殿し、及び/又は閉塞した場合、爆発物材料がその臨界直径よりも大きな直径で蓄積することを可能にする。沈殿した爆発物は爆轟を持続できるため、この直径は大きな危険につながる可能性がある。
【0015】
爆発物材料の工業的合成は、好ましくはパイプの内径が1mm未満、より好ましくは500ミクロン未満、好ましくは100~500ミクロン、好ましくは250~350ミクロンのフロー合成であってもよい。
【0016】
本発明の更なる態様は、本発明の方法を実行するための装置を提供する。この装置は、複数のフロー反応器を並列に備え、各フロー反応器はパイプを備え、パイプの内径が有機爆薬の臨界直径未満となるように選択される装置を提供する。
【0017】
本発明の更なる態様は、有機爆薬を合成する方法を提供し、この方法は、
i)ニトロ化剤及び爆発物前駆体を含む少なくとも1つの溶液を供給する工程、
ii)溶液を混合しフロー反応器を通過させる工程であって、
フロー反応器はパイプを備え、パイプの内径が形成されるエネルギー材料の臨界直径未満となるように選択され、これにより前記フロー反応器内でのエネルギー材料の爆轟を防止する、工程
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0018】
フロー合成は、実験室でのR&Dスケールで約100gのRDX、HMXなどを製造する容易な手段を提供し、かつ、単一の反応容器で100kgを超えるRDX爆発物を形成することに関連する危険を伴うことなく、更にフロー反応器を追加することで、生産を容易にスケールアップできる。さらに、それは、バッチ反応における巨大な反応容器中での数百リットルもの高度に濃縮された酸の使用も回避する。フロー合成は、爆発性の最終生成物である物質の、フロー反応器からの連続的な取り出し及び安全な保管を可能にし、大量の爆発性物質の蓄積を回避する。これは、爆発性物質の合成において、爆発性物質をフロー反応器から離れた安全なエリアに運ぶことができるので、爆発物を製造する建物で大量の爆発物を製造し、及び/又は、安全距離を低減することを可能にする。
【0019】
RDXの合成
ヘキサミンは、完全に及びほぼ飽和溶液となるまでの重量%で、入力フロー試薬Aの硝酸に添加した。入力フロー試薬A中のヘキサミンの濃度が高いほど、反応は効率的になる。反応器に供給する前に可能な限り短時間でヘキサミンを硝酸に溶解させ、ニトロ化反応が開始する可能性を低減することが非常に好ましい。
【0020】
ヘキサミンは、70%~92%、より好ましくは88%~92%の濃度の硝酸に溶解させてもよく、ヘキサミンの溶解を助けるための他の溶媒を加えてもよい。
【0021】
好ましくは、入力フロー試薬Aは、ヘキサミン及び濃度92%未満の硝酸のみを有する。
【0022】
入力フロー試薬Bは、フロー反応器内の硝酸の総濃度が少なくとも92%であることを確実にするために、濃度99%の硝酸を含んでいてもよく、より好ましくは、入力フロー試薬Bは、濃度99%の硝酸のみを有する。
【0023】
ニトロ化を生じさせる濃度を下回る濃度の硝酸の使用は、ニトロ化反応が開始することなく、出発物質であるヘキサミンを溶解させることを可能にする。これは、生成物がフロー反応器に流入する前に沈殿することを防止し、フロー反応器及び関連する混合槽の閉塞を防止する。さらに、ヘキサミンの溶解剤としての高濃度の使用は、フロー反応器中において、ニトロ化が生じるのに必要とされる硝酸の総濃度まで迅速に上昇させることを可能にする。これは、フロー反応器中の硝酸が希釈されるという問題を回避し、したがって、入力フロー試薬Bは、フロー反応器中で硫酸の所望の総濃度が92%を超えることを確実にするために、僅かに高い濃度の硝酸を使用するだけで十分である。
【0024】
ヘキサミンのニトロ化を開始するための望ましい硝酸の濃度の達成を促進するために、入力フロー試薬A及びBは、工程iiの後でフロー反応器に供給する前に混合槽で予め混合してもよい。
【0025】
工程iii)では、前記フロー反応器内の硝酸の総濃度は90~99%、より好ましくは93%~95%であってもよいことが見いだされた。
【0026】
入力フロー試薬A及び入力フロー試薬Bが酸及び唯一のニトロ化剤として硝酸のみを有する場合、硝酸の総濃度は、例えば92%を超える濃度など、ニトロ化が生じるのに十分な濃度でなければならない。
【0027】
入力フロー試薬Aの流量は、ヘキサミンをニトロ化することが可能な硝酸の総濃度(例.92%超)を提供するために、入力フロー試薬Bの流量とともに、適切な流量から選択できる。入力フロー試薬Aの実際の流量は、フローセルの容量に応じて、マイクロリットル~ミリリットル~リットルである。
【0028】
入力フロー試薬Bの流量は、ヘキサミンをニトロ化することが可能な硝酸の総濃度(例.92%超)を提供するために、入力フロー試薬Aの流量とともに、適切な流量から選択できる。入力フロー試薬Aの実際の流量は、フローセルの容量に応じて、マイクロリットル~ミリリットル~リットルである。
【0029】
入力フロー試薬A対入力フロー試薬Bの流量比(A:B)は、B>Aであってもよく、好ましくは1:3(A:B)よりも大きく、より好ましくは(1:4)~(1:10)で、フロー反応器内の硝酸の総濃度が92%を超えることを確実にする。入力フロー試薬Bにおける高濃度の酸の使用は、入力フロー試薬Bの体積/流量を低減すること、即ち、比率を低くすることを可能にし、それは、使用される硝酸の量の低減につながる可能性がある。これは、例えば発煙硫酸などの他の強酸を使用することによって生じる可能性がある。
【0030】
フロー反応器中の温度は、高発熱反応が生じるのを防止するように制御する必要があり、好ましくは30℃未満、好ましくは20℃~30℃、より好ましくは22℃~27℃、最も好ましくは24℃である。温度は、水循環器によって監視する。フロー反応器は、例えば水循環器又は電気冷却器などの適切な手段によって冷却してもよい。
【0031】
工程vにおける反応では、出力フロー混合物をクエンチして反応を停止させ、RDX生成物を沈殿させる。出力フローは、大量のクエンチ媒体に移してもよく、又は混合槽で混合してもよい。
【0032】
好ましくは、硝酸に溶解したRDXを含む出力フロー混合物は、フロー反応器の端部でSOR混合器を介してクエンチ媒体と混合される。クエンチ媒体は、pH7以下であってもよく、酸性水溶液又は水から選択してもよい。クエンチング剤は、好ましくは20℃未満、好ましくは10℃以下まで冷却して、結晶化を誘導してもよい。
【0033】
RDX沈殿物をろ過し、回収し、次いで水溶液中で洗浄し、好ましくはクエンチング溶液はpH7以下であってもよく、好ましくは水である。
【0034】
ニトロ化試薬は、濃度が少なくとも70%の硝酸とNaNO、又は、濃度99%の硝酸のみを有するものから選択できる。
【0035】
本発明の更なる態様は、有機爆薬を合成する方法を提供し、この方法は、
i)第1溶液Aを供給する工程、
ii)第2の溶液Bを供給する工程であって、
溶液A及び溶液Bの混和物が、混和物の形成時に一緒に反応して、有機爆薬を提供できるように選択される、工程、
iii)溶液A及びBを混合しフロー反応器を通過させて、混和物を生成する工程であって、
フロー反応器はパイプを備え、パイプの内径が有機爆薬の臨界直径未満となるように選択され、これによって前記フロー反応器内での形成された有機爆薬の爆轟を防止する、工程
を含む。
【実施例
【0036】
RDX/HMXに対する実験用試薬
99%HNOは、Honeywellから500mLを購入した。カタログ番号84392-500ML、ロット番号I345S。
70%HNOは、Fisher scientificから2.5Lを購入した。コード番号:N/2300/PB17、ロット番号:1716505。
ヘキサミンは、Sigma-Aldrichから250gを購入した。カタログ番号797979-250G、ロット番号MKCJ7669。
発煙硫酸は、Fisherから500mLを購入した。カタログ番号S/9440/PB08、ロット番号1689177。
【0037】
実験
【化1】
【0038】
一般的な反応を上に示す。ここで、入力フロー試薬Aは硝酸に溶解したヘキサミンを含み、入力フロー試薬Bは、(入力フロー試薬Aよりも)高い濃度の硝酸であってもよいニトロ化剤、及び/又はNaNOのような金属亜硝酸塩などの別のニトロ化剤を含む。入力フロー試薬A及び入力フロー試薬Bは、フロー反応器中で反応して、生成物RDXが得られる。
【0039】
フロー反応器を使用するRDX合成は、周知で定量化されたバッチ反応で溶液を単にポンピングするよりも、設計上、困難な問題を提起する。これは主に、出発物質であるヘキサミンが固体であること、及びRDXが反応中に沈殿する可能性があることによる。酸の濃度が低下して水分量が増加するにしたがって、フロー反応器を通過する間にRDXの沈殿が生じる可能性があり、それによって、フロー反応器が閉塞し、これは破局的事象につながる可能性がある。
【0040】
実験を開始する前に、系をメタノール、続いて水で洗い流して反応器を準備した。次いで、系を完全にプライミングするために、2つの入力系を、反応器を通過させた70%HNOで満たした。
【0041】
実験1
シリンジA: 90%HNO中の飽和ヘキサミン(5mL中に約1g)
シリンジB: 99%HNO
使用したフロー反応器:3222 Labtrix
【0042】
【化2】
【0043】
シリンジA中の硝酸の濃度は90%であった。流量を1:3(A:B)に設定したが、得られた生成物は限られていた。シリンジBの流量、即ち99%HNOの供給量を、A:Bの流量比が1:9になるように増加させた。試料を水中で回収すると、溶液は不透明になり、RDXが得られたことが示された。
【0044】
実験2 発煙硫酸の添加
シリンジA: 2.5mLの90%HNOに溶解した0.5gのヘキサミン。ヘキサミンの添加中、溶液を冷却した。
シリンジB: 0.95mLの99%HNO+0.05mLの発煙硫酸
【0045】
RDX形成に対する発煙硫酸の影響を監視することを目的として一連の実験を行った。実験では、水中で回収した際に、RDXが得られたことを示す不透明な溶液が得られた。H NMRスペクトルは、クエンチング剤として水を使用して沈殿させるより前に、RDXが溶液中に存在することを示した。
【0046】
実験3 添加する発煙硫酸の増量
シリンジA: 2.5mLの90%HNOに溶解した0.5gのヘキサミン。ヘキサミンの添加中、溶液を冷却した。
シリンジB: 0.9mLの99%HNO+0.1mLの発煙硫酸
【0047】
発煙硫酸を100%増量すると、氷上に回収した際に、RDX沈殿物の形成に至った。氷と混合する前の溶液の一部をd-DMSO中に回収したところ、そのH NMRスペクトルはRDXの形成を示した。
【0048】
発煙硫酸などの別の酸の使用は、反応器中の酸の濃度を高く保つのに役立ち、反応の脱水を促進する可能性がある。NaNOなどのニトロ化種の使用は、硝酸の総濃度を低くすることを可能にする。
【0049】
反応器中の酸性度が低いと、溶液からRDXが沈殿することが判明した。固化した生成物のためのフロー反応器経路を監視することが不可欠である。さらに、ヘキサミンを溶解させる硝酸の酸性度を増加させることが望ましいが、濃度が高すぎる場合、混合を開始する前に生成物が形成し始め、やはりRDX生成物がフロー反応器を閉塞させる可能性がある。好ましくは、ヘキサミンは使用前に硝酸に溶解させ、原液として長期間保管しない。
【0050】
HMXの実施例
TATは、ヘキサミンから、中間体としてDAPTを介して容易に合成できる。この経路を通過する主な利点は、8員環が形成され、したがって副生成物としてRDXが形成される可能性が排除されることである。フロー合成装置によるニトロ化で爆発物材料の製造速度を制御することで、TATをHMXに直接変換できる。
【0051】
【化3】
【0052】
実験1
ラインA - 100mgのTAT、1000mgのP及び2mLの99%HNOの溶液を、単一の溶液中に前もって混合し、Labtrix反応器に入れた。フロー合成反応器での好ましい反応時間120秒は、ニトロ化が生じるのに十分な時間であった。室温より高い温度でフロー合成を行い、75℃という温度は、反応の進行を可能にする温度ではあったが、望ましくない爆発事象を引き起こすほど高くないことが判明した。いかなるRDX汚染もなく、HMXを単離した。
【0053】
実験2 スケールアップしたProtrix反応器
ラインA : 2.0061gのTAT及び20.0357gのPを40mLの99%HNOに溶解した。
ラインBは、緊急用フラッシュとして使用し、70%HNOでプライミングした。
【0054】
ラインA及びProtrixは、最初に70%HNOでプライミングし、続いて99%HNOでプライミングした。反応混合物を段階的に製造した。最初にPを99%HNOの撹拌溶液にゆっくりと溶解する。この溶液を氷浴内に保持した。この結果、不透明な黄色の溶液が得られた。TATをこの溶液に添加すると溶液の不透明さは減少したが、しかし、反応混合物は依然として不透明であった。
【0055】
次いで、ラインAを反応混合物でプライミングした。
【0056】
【表1】
【0057】
Protrixから得た溶液を終夜静置したところ、結晶が形成した。これを単離し、水洗し、続いてアセトンで洗浄して、核磁気共鳴分光法で分析した。実験0168のH NMRスペクトルは、多数の種が試料中に存在することを示している。これらのピークの一部は未反応のTAT及び部分的にニトロ化したTATに対応する。これらの不純物はまたTATからのHMXの工業的バッチ合成で観察され、アセトン中の材料を沸騰させ、続いて再結晶化させることで除去できる。H NMRスペクトルにおいて、6.02ppmでのピークはHMXの特徴である。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロー反応器内で有機爆薬を合成する方法であって、前記方法は、
i)ニトロ化剤を含む溶液Aを供給する工程、
ii)爆発物前駆体試薬を含む溶液Bを供給する工程であって、
前記溶液A及び溶液Bの混和物が、前記混和物の形成時に一緒に反応して、前記有機爆薬を提供できるように選択される、工程、
iii)前記有機爆薬の臨界直径を測定する工程、
iv)前記フロー反応器はパイプを備え、前記パイプの内径が前記有機爆薬の臨界直径未満となるように前記パイプの内径を選択し、これによって形成された前記有機爆薬の前記フロー反応器内での爆轟を防止する、工程、
v)前記溶液A及びBを混合し前記フロー反応器を通過させて、前記混和物を生成し、前記有機爆薬を提供する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記ニトロ化剤は硝酸、亜硝酸塩を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機爆薬はニトラミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ニトラミンはRDX又はHMXである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記爆発物前駆体は、シクロアミン、オクタヒドロ-1,3,5,7-テトラニトロ-1,3,5,7-テトラゾシン(TAT)、1,3,5-トリアセチル-1,3,5-トリアザシクロヘキサン(TRAT)、1,5-ジニトロエンドメチレン-1,3,5,7-テトラアザシクロオクタン(DPT)、及びヘキサメチレンテトラミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
溶液A及び/若しくはB、又は工程v)で混合される溶液Cは、触媒、強酸、脱水剤及び酸無水物を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記フロー反応器は温度制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記混和物が前記フロー反応器を通過した後、溶液Dを添加し、前記反応した混和物を後処理して、前記爆発物材料又はその塩の沈殿物を得る、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
溶液Dは冷水を含んでいてもよい、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記パイプの内径は500ミクロン未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記爆発物材料は、例えば、事象の危険性を減少させるため、保管されている前記溶液A、B及び/又はCから離れて収集される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記離れて収集されるとは、爆風壁の背後又は爆発物倉庫内である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法を実行するための装置であって、前記装置は、複数のフロー反応器を並列に備え、前記各フロー反応器はパイプを備え、前記パイプの内径は前記有機爆薬の臨界直径未満であるように選択される、装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0057
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0057】
Protrixから得た溶液を終夜静置したところ、結晶が形成した。これを単離し、水洗し、続いてアセトンで洗浄して、核磁気共鳴分光法で分析した。実験0168のH NMRスペクトルは、多数の種が試料中に存在することを示している。これらのピークの一部は未反応のTAT及び部分的にニトロ化したTATに対応する。これらの不純物はまたTATからのHMXの工業的バッチ合成で観察され、アセトン中の材料を沸騰させ、続いて再結晶化させることで除去できる。H NMRスペクトルにおいて、6.02ppmでのピークはHMXの特徴である。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] フロー反応器内で有機爆薬を合成する方法であって、前記方法は、
i)ニトロ化剤を含む溶液Aを供給する工程、
ii)爆発物前駆体試薬を含む溶液Bを供給する工程であって、
前記溶液A及び溶液Bの混和物が、前記混和物の形成時に一緒に反応して、前記有機爆薬を提供できるように選択される、工程、
iii)前記有機爆薬の臨界直径を測定する工程、
iv)前記フロー反応器はパイプを備え、前記パイプの内径が前記有機爆薬の臨界直径未満となるように前記パイプの内径を選択し、これによって形成された前記有機爆薬の前記フロー反応器内での爆轟を防止する、工程、
v)前記溶液A及びBを混合し前記フロー反応器を通過させて、前記混和物を生成し、前記有機爆薬を提供する工程
を含む、方法。
[2] 前記ニトロ化剤は硝酸、亜硝酸塩を含む、[1]に記載の方法。
[3] 前記有機爆薬はニトラミンである、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記ニトラミンはRDX又はHMXである、[3]に記載の方法。
[5] 前記爆発物前駆体は、シクロアミン、オクタヒドロ-1,3,5,7-テトラニトロ-1,3,5,7-テトラゾシン(TAT)、1,3,5-トリアセチル-1,3,5-トリアザシクロヘキサン(TRAT)、1,5-ジニトロエンドメチレン-1,3,5,7-テトラアザシクロオクタン(DPT)、及びヘキサメチレンテトラミンである、[1]~[4]のいずれか一つに記載の方法。
[6] 溶液A及び/若しくはB、又は工程v)で混合される溶液Cは、触媒、強酸、脱水剤及び酸無水物を更に含む、[1]~[5]のいずれか一つに記載の方法。
[7] 前記フロー反応器は温度制御される、[1]~[6]のいずれか一つに記載の方法。
[8] 前記混和物が前記フロー反応器を通過した後、溶液Dを添加し、前記反応した混和物を後処理して、前記爆発物材料又はその塩の沈殿物を得る、[1]~[7]のいずれか一つに記載の方法。
[9] 溶液Dは冷水を含んでいてもよい、[8]に記載の方法。
[10] 前記パイプの内径は500ミクロン未満である、[1]~[9]のいずれか一つに記載の方法。
[11] 前記爆発物材料は、例えば、事象の危険性を減少させるため、保管されている前記溶液A、B及び/又はCから離れて収集される、[1]~[10]のいずれか一つに記載の方法。
[12] 前記離れて収集されるとは、爆風壁の背後又は爆発物倉庫内である、[10]に記載の方法。
[13] [1]~[12]のいずれか一つに記載の方法を実行するための装置であって、前記装置は、複数のフロー反応器を並列に備え、前記各フロー反応器はパイプを備え、前記パイプの内径は前記有機爆薬の臨界直径未満であるように選択される、装置。
【国際調査報告】