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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】カーボン系導電性インク
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/24 20060101AFI20240905BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20240905BHJP
   C01B 32/159 20170101ALI20240905BHJP
   C01B 32/182 20170101ALI20240905BHJP
【FI】
H01B1/24 B
C09D11/52
C01B32/159
C01B32/182
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024513872
(86)(22)【出願日】2022-09-02
(85)【翻訳文提出日】2024-04-26
(86)【国際出願番号】 EP2022074424
(87)【国際公開番号】W WO2023031383
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】21194844.3
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521155966
【氏名又は名称】アドバンスト マテリアル ディベロップメント リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】ダルトン,アラン
(72)【発明者】
【氏名】ジョンストーン,ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】ラージ,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】オギルビー,シーン
(72)【発明者】
【氏名】ウィルダースピン,ティム
【テーマコード(参考)】
4G146
4J039
5G301
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA12
4G146AB01
4G146AC03A
4G146AC03B
4G146AD16
4G146AD17
4G146AD22
4G146CB17
4J039AB02
4J039BA02
4J039BC69
4J039BC73
4J039BC75
4J039BD01
4J039BE22
4J039BE23
4J039BE29
4J039CA05
4J039DA02
4J039EA24
4J039FA02
4J039GA34
5G301DA20
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DD08
5G301DE01
(57)【要約】
本発明は、実質的にアポロニアン方式で充填されたグラフェンナノプレートレットを含む導電性フィルムを提供する。導電性フィルムはまた、導電率を向上するためにカーボンナノチューブを含んでもよい。本発明はまた、本明細書に記載の導電性フィルムを印刷するために使用できる液体組成物を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的にアポロニアン方式で充填されたグラフェンナノプレートレットを含む、導電性フィルム。
【請求項2】
前記グラフェンナノプレートレットが10%を超える充填効率を有する、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記グラフェンナノプレートレットが、第1のサイズを有するナノプレートレットの第1の集団と、該第1のサイズの最大25%までの第2のサイズを有するナノプレートレットの集団とを含む、請求項1または2に記載のフィルム。
【請求項4】
ナノプレートレットの前記第1の集団が1μm以上の長さ/幅を有する、請求項3に記載のフィルム。
【請求項5】
グラフェンナノプレートレットの前記第1の集団が、前記フィルム中のナノプレートレットの総量の40%以上(w/w)を含む、請求項3または4に記載のフィルム。
【請求項6】
前記フィルムが250kg/mを超える密度を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項7】
カーボンナノチューブをさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項8】
前記グラファイトナノプレートレットが、典型的には前記フィルム中に92%(w/w)の量で存在する、請求項1から7のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項9】
(i)グラフェンナノプレートレットの第1の集団、
(ii)グラフェンナノプレートレットの該第1の集団の平均サイズの最大25%までの平均サイズを有するグラフェンナノプレートレットの第2の集団、
(iii)増粘剤、および
(iv)溶媒
を含む、液体組成物。
【請求項10】
カーボンナノチューブをさらに含む、請求項9に記載の液体組成物。
【請求項11】
前記グラファイトナノプレートレットの層数が30以下である、請求項1から8のいずれか一項に記載のフィルム、あるいは請求項9または10に記載の液体組成物。
【請求項12】
ナノプレートレットの前記第1の集団が1μm以上の長さ/幅を有する、請求項9から11のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項13】
グラフェンナノプレートレットの前記第1の集団が、前記フィルム中のナノプレートレットの総量の40%以上(w/w)を含む、請求項9から12のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項14】
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブであり、必要に応じて1nm~5nmの平均直径および/または3μmを超える長さを有する、請求項7に記載のフィルム、または請求項10に記載の液体組成物。
【請求項15】
前記グラファイトナノプレートレットが、典型的には、5%(w/w)から、必要に応じて最大15%(w/w)までの量で前記液体組成物中に存在する、請求項9から14のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項16】
カーボンナノチューブを含み、該カーボンナノチューブが前記液体組成物中に最大0.5%(w/w)までの量で存在し得る、請求項10から15のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項17】
カーボンナノチューブを含み、該カーボンナノチューブが前記液体組成物中に最大0.2%(w/w)までの量で存在し得る、請求項10から15のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項18】
カーボンナノチューブを含み、該ナノチューブがグラファイトナノプレートレットの量に対して1:30未満の重量比で存在する、請求項1から17のいずれか一項に記載のフィルムまたは液体組成物。
【請求項19】
カーボンナノチューブを含み、該ナノチューブがグラファイトナノプレートレットの量に対して1:40未満の重量比で存在する、請求項1から17のいずれか一項に記載のフィルムまたは液体組成物。
【請求項20】
カーボンナノチューブを含み、該ナノチューブがグラファイトナノプレートレットの量に対して1:50~1:70(カーボンナノチューブ:グラファイトナノプレートレット)の重量比で存在する、請求項1から17のいずれか一項に記載のフィルムまたは液体組成物。
【請求項21】
(a)5%~15%(w/w)の重量範囲のグラファイトナノプレートレット、
(b)0.05%~0.5%(w/w)の重量範囲のカーボンナノチューブ、
(c)0.1%~1.0%(w/w)の重量範囲のカルボキシメチルセルロース、
(d)0.01%~0.5%の重量範囲のコール酸ナトリウム、および
(e)水、
を含む、液体組成物。
【請求項22】
請求項9から21のいずれか一項に記載の液体組成物が印刷された布地または熱可塑性基材。
【請求項23】
請求項9から21のいずれか一項に記載の液体組成物を布地または熱可塑性基材に印刷する方法。
【請求項24】
請求項1から21のいずれか一項に記載のフィルムまたは液状組成物から形成されたRFIDアンテナを備えたRFIDタグ。
【請求項25】
前記タグが、前記RFIDアンテナが印刷される平坦部分と、前記タグを対象物に取り付けることを可能にするループまたはループを形成する手段と、を備える、請求項24に記載のRFIDタグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノ材料を含む導電性インク、そのようなインクの製造方法、それらの用途、および導電性インクが印刷された基材に関する。
【背景技術】
【0002】
2次元(2D)材料は、原子または分子のいくつかの層または単層(単分子層)で構成される結晶材料である。幅広い2D材料が知られており、グラフェン、六方晶窒化ホウ素(h-BN)、遷移金属ジカルコゲナイド(TMDs)を含む。TMDsの化学式はMXであり、ここでMは遷移金属であり、Xはカルコゲン原子(S、SeまたはTe)である。このようなTMDsとしては、例えば、二硫化モリブデン(MoS)、二セレン化ニオブ(NbSe)、および二硫化タングステン(WS)が挙げられる。
【0003】
2D材料は、対応するバルク3D材料の特性とは異なる、多くの興味深い潜在的に有用な特性を持つことが知られている。例えば、グラフェンは導電性が高く、電極構造体だけでなく導電性複合材料にも応用されている。
【0004】
多くの材料の興味深い機能特性は、多くの場合、材料が単層または数層(つまり、2D)の形態にある場合にのみ観察される。ただし、バルク三次元(3D)材料を剥離して対応する2D材料を形成するには、強い層間分散力を克服する必要がある。
【0005】
カーボンナノチューブは、グラフェンのロールシートで構成されたナノサイズのチューブである。このチューブは、典型的には直径1~50ナノメートルの範囲であるが、マイクロメートル範囲の長さであってもよい。カーボンナノチューブは、単層(すなわち、グラフェンの単一のロールシートから形成される)または多層(すなわち、グラフェンの複数の同心ロールシートから形成される)のいずれかであり得る。カーボンナノチューブは、その物理的特性、つまり高い引張強度と高い導電率により、大きな関心を集めている。
【0006】
カーボンナノ材料(例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノグラファイト、グラフェン、およびそれらの混合物)を含む分散液は、導電性フィルムの堆積に使用できるインクと考えられてきた。このようなフィルムは、特定の商業用途では「メタルフリー」であるにもかかわらず、導電性があるという利点がある。しかし、今日まで、そのようなインクの使用は、低い導電率の印刷されたフィルムに限定されてきた。例えば、銅は6×10S/mの範囲の導電率を有するが、カーボンナノ材料から製造された報告されたフィルムは、通常100S/mよりはるかに低い導電率を有する(米国特許第10,244,628号を参照)。さらに、実際に存在する印刷された炭素含有インクは、アルミニウムやプラスチック(特にポリエチレンテレフタレート、PET)などの限られた範囲の基材にのみ印刷可能である。これらの素材は再利用できない。
【0007】
水中のカーボンナノ材料の分散に基づく印刷可能なインクの形成は、これらの材料の無極性の性質による凝集の問題に悩まされてきた。これにより、ナノカーボン材料の定着と過剰な有機溶媒が必要となることから、産業用途が減少する。
【0008】
Khanら、“The preparation of hybrid films of carbon nanotubes and nano graphite/graphene with excellent mechanical and electrical properties”, Carbon 48 (2010), pp. 2825-2830は、カーボンナノチューブおよびナノグラファイトの両方を含むハイブリッドフィルムが一方の成分のみを含むフィルムよりも高い導電率を持つことを記載している。しかし、Khanらは、N-メチルピロリドン溶媒中のナノグラファイトとカーボンナノチューブの分散について記載しているだけである。真空濾過によって溶媒を除去し、カーボンナノ材料のフィルムを形成している。フィルムの導電率は最大2×10S/mに過ぎず、この液剤は印刷には適していない。
【0009】
Panら、“Sustainable production of highly conductive multilayer graphene ink for wireless connectivity and loT applications”, Nature Comm. (2018), 9:5197は、グラフェン、ジヒドロレボグルコセノン、およびNMPを含むインクについて記載している。これらのインクから印刷されたフィルムの導電率は、わずか7.13×10S/mであった。
【0010】
Ferrariら(WO2017/060497A1)は、7.14×10S/mの導電率を示す液相剥離GNP/カルボキシメチルセルロースフィルムの製造について記載している。これらのフィルムはPET基材に印刷され、2Wの入射放射線で1.4mの読み取り範囲を持つUHF RFIDタグの製造に使用された。
【0011】
本出願人の先の特許出願(国際特許出願番号第PCT/EP2021/055458号)は、とりわけ、良好な導電率を有するフィルムを形成するように印刷できるグラフェンナノプレートレットおよびカーボンナノチューブを含むインクについて記載している。ナノプレートレットとナノチューブとの比率を約2:1にすると、最大500kS/mの導電率を達成できる。
【0012】
混合物を環境に配慮してリサイクルすることは、特にエレクトロニクス業界では永遠の課題である。環境への悪影響が少ない電子系を実装することで、これらのデバイスの製造に使用される材料の組み合わせにおける新しい技術革新が刺激される。大量生産されたUHF RFIDタグは、混合材料(プラスチック、金属、シリコン、および紙)で構成されている。環境保護の信頼性と許容できる性能とを高めた素材に移行することは、多くの利害関係者にとって興味深いものである。場合によっては、消費者の利益を保護するための商品の審査に厳しい要件があるため、金属は好まれない。
【0013】
高固形分インクは、乾燥工程による印刷の環境負荷を低減するために不可欠な要件である。協同バインダーを使用してナノカーボン分散液を安定化すると、スクリーン印刷されたフィルムの潜在的な厚さが増加する。これは、さまざまなプリンテッドエレクトロニクス用途に不可欠な抵抗損失を減らすのに役立つ。効率的な炭素系RFアンテナ用途では、印刷されたフィルムの厚さよりも薄くする必要があり、通常、工程とインクの固形分を考慮して100μm未満に制限される(Jordan, Edward Conrad (1968), Electromagnetic Waves and Radiating Systems, Prentice Hall, ISBN 978-0-13-249995-8)。
【0014】
好ましくは改善された導電率を有する、および/または、リサイクル可能な基材に印刷できる、代替の炭素系導電性インクに基づく代替構造の必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本出願の発明者は、アポロニアン充填の原理を適用することにより、グラフェンナノプレートレットを含むフィルムの導電率を向上できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、第1の局面において、本発明は、実質的にアポロニアン方式で充填されたグラフェンナノプレートレットを含む導電性フィルムを提供する。
【0017】
導電性フィルムはまた、フィルムの導電率をさらに高めるためにフィルム内のグラフェンナノプレートレット間の隙間を埋める充填材として機能するカーボンナノチューブを含んでもよい。しかし、フィルム内のナノプレートレットのアポロニアン充填とその結果生じる導電率の向上の結果として、より少ない量のカーボンナノチューブを使用して高い導電率を得ることができる(本出願人の先の国際特許出願番号第PCT/EP2021/055458号(WO2021/175989)として公開、に記載のものと比較して)。
【0018】
パーコレーション理論により、ネットワーク内の物体(例えば、グラフェンナノプレートレット、カーボンナノチューブ)の接続性と、導電率などのマクロスケールの材料の特性に対するそれらの接続性の影響が説明される。従来の電気的パーコレーション理論によると、誘電体成分と金属成分との混合物の場合、金属成分の割合がパーコレーション閾値に達すると、混合物の導電率と誘電率が臨界的な挙動を示す。
【0019】
本発明の発明者は、グラフェンナノプレートレットとカーボンナノチューブとの混合物の(カーボンナノチューブの量に関する)パーコレーション閾値を、グラフェンナノプレートレットのマトリックス中の空隙率を減少させることによって低減できることを見出した。これは、アポロニアン充填の原理を適用することで実現できる。
【0020】
図1に、所定のカーボンナノチューブおよびグラフェンナノプレートレットの含有量の合計に対するカーボンナノチューブ(CNT)含有量を含むコーティングから調製されたフィルムのシート抵抗および厚さを測定することによって得られた導電率パーコレーションデータセットを示す。最適なCNT含有量は、インクの導電率および固形分含有量を使用して、印刷されたシート抵抗を推定するデータの変換に基づいて計算された。正規化されたシングルパスのシート抵抗Sは次式によって計算される。
【0021】
【数1】
【0022】
ここで、σおよびφは参照導電率およびCNT質量分率の値であり、σおよびφはパーコレーション曲線上の選択された点の導電率およびCNT質量分率である。CNT-ナノプレートレット混合フィルムの最適なCNT含有量は、CNTのパーコレーション閾値と相関するSの極小値のx値として定義される。
【0023】
図2は、異なる相対充填密度ρのグラフェンナノプレートレット充填材を使用した実験で得られたSの計算値の2つのセットをプロットしている。Sの極小値は、データに二次フィットを適用することによって取得される。図から分かるように、相対充填密度が高いGNPは、垂直の破線で示されているように、最適なCNT含有量が低くなる。
【0024】
「アポロニアンアプローチ」により、電気的パーコレーションに必要な充填材の体積割合が大幅に減少する。アポロニアン充填の原理は、2000年以上前にペルガのアポロニウスによって行われた数学的研究に由来しており、アポロニウスは連続する小さな円が大きな円の隙間を埋めることを示した。20世紀初頭、ファーナスは米国の鉱山の粒体システムを説明しようとしているとき、アポロニアンの円形幾何学を再検討した。ファーナスは、硬い球について考えるとき、アポロニウスが説明したのと同様の構成に従うことが可能であり、二峰性粒子系を使用することで、アポロニウスが説明したのと同様の方法で球状粒子を充填することが可能であり、したがって、高密度で空隙率の低い材料を作成できることに気付いた。
【0025】
ファーナスは、小さな粒子が大きな粒子の間の空隙を埋めるのに十分小さい場合に、球状粒子の二峰性分布がどのように詰められるかを説明するいくつかの比較的単純な方程式を設定した。これらの方程式を使用すると、システム全体の密度を最大化することができ、したがって、空隙率を最小限に抑えることができる。ファーナスの理論をグラフェンナノプレートレットとカーボンナノチューブを含む組成物に適用すると、減少した空隙を充填材で強制的に埋めることができ、はるかに少ない量のナノチューブで接続されたネットワークを形成することができるので、パーコレーション閾値が非常に低いフィルムを製造することができる。
【0026】
従来のカーボンナノチューブ含有複合材料の主な問題は、マトリックス内でのカーボンナノチューブのランダムな分布により、電気的パーコレーションを達成するには比較的高い含有量を添加する必要があることである。
【0027】
本発明は、分離されたネットワークの原理に基づいている。これらの分離されたシステムでは、マトリックスの設計が電気的特性に影響を与える主要な要素になるが、以前はほとんど重要ではなかった。導電性粒子の分離されたネットワークを作成するには、充填材粒子が必要な方法で重なり合う適切な構造を確保するためにマトリックスを慎重に選択する必要がある。
【0028】
2つ以上のGNPの混合集団を利用すると、工業的な液相グラファイト剥離工程によって生成される典型的なグラファイトナノプレートレットの分布を利用することで、導電性が高く、大量印刷やコーティング用途にとって経済的に好ましいインクが得られる。
【0029】
分離パーコレーション理論は、使用されるマトリックス内に導電性充填材が形成する中規模の結晶構造に依存することが示されている。粒子の充填とパーコレーション閾値に関する理論を組み合わせることで、最終システムを最適化して、高密度で低パーコレーションのシステムを作成することが可能である。システムの空隙率を、導電性充填材が占めることができる空間とみなすと、空隙の「形状」が、充填材粒子がシステムの内部に閉じ込められたときに形成されるネットワークの「形状」を定義する。したがって、複合材料の電気的パーコレーション閾値は、マトリックスの空隙率に直結する。
【0030】
本明細書に記載のアポロニアン充填フィルムは、異なるサイズを有するグラフェンナノプレートレットの2つ以上の集団を含む液体組成物から製造することができる。これらの集団は、同じ材料源内で発生することもあり、通常は二峰性分布として知られている。例えば、グラフェンナノプレートレットの塊は、異なるサイズを有するナノプレートレットの2つ以上の集団を含み得る。この概念を拡張すると、単一材料内の複数の粒度の集団を重ね合わせて、小さな粒子と大きな粒子のフィッティングが容易に起こる幅広いサイズ分布を作成し得る。本発明において、2Dナノプレートレットは、数ナノメートルから数ミクロンまでの範囲の広い粒子分布で存在し得る。これにより、繊維状カーボンナノチューブのパーコレーション閾値を下げるのに役立つ最適化された粒子充填形態が可能になる。逆に、材料のサイズ分布が狭いと、相対的に最適でない充填になり、パーコレーション閾値が高くなる。
【0031】
最適化された充填形態のさらなる利点は、印刷および乾燥時のフィルムの緻密化である。工業的には、これによりフィルム全体の導電率を高めるための追加の圧縮工程が不要になる。
【0032】
したがって、本発明はまた、以下を含むフィルムを提供する。
(i)グラフェンナノプレートレットの第1の集団、および
(ii)グラフェンナノプレートレットの第1の集団の平均サイズの最大25%までの平均サイズを有するグラフェンナノプレートレットの第2の集団。
【0033】
このフィルムは、本明細書に記載されるように、カーボンナノチューブおよび/または増粘剤をさらに含んでもよい。
【0034】
このフィルムは、グラフェンナノプレートレットの第2の集団の平均サイズの最大25%までの平均サイズを有するグラフェンナノプレートレットの第3の集団をさらに含んでもよい。
【0035】
高導電性フィルムは、例えば、そのような液体組成物を印刷することによって製造することができる。
【0036】
したがって、本発明はまた、以下を含む液体組成物を提供する。
(i)グラフェンナノプレートレットの第1の集団、
(ii)グラフェンナノプレートレットの第1の集団の平均サイズの最大25%までの平均サイズを有するグラフェンナノプレートレットの第2の集団、
(iii)増粘剤、および
(iv)溶媒。
【0037】
液体組成物は、グラフェンナノプレートレットの第2の集団の平均サイズの最大25%までの平均サイズを有するグラフェンナノプレートレットの第3の集団をさらに含んでもよい。
【0038】
液体組成物は、フィルムに関連して上述したように、カーボンナノチューブをさらに含んでもよい。
【0039】
増粘剤は、カーボンナノ材料を適切に結合し、基材、例えばセルロース系または他の適切な親水性基材に接着することができる。増粘剤はセルロース誘導体であってもよく、またはセルロース誘導体を含んでもよい。本発明者らはまた、カーボンナノ材料含有インクを調製し、リサイクル可能な基材、特に紙に印刷し、付着させることができることを見出した。
【0040】
増粘剤は、カーボンナノチューブを適切に分離してカプセル化し、ナノチューブと導電性炭素粒子との間の最大数の個々の導電経路の分散手段を提供する。
【0041】
液体組成物(印刷後)は乾燥して、セルロース含有基材に接着できる導電性フィルムを形成する。溶媒が水性溶媒である場合、セルロース誘導体増粘剤と溶媒との間の相互作用の性質により、この組成物は正確にはヒドロゲルインクと呼ばれることもある。本明細書において、本発明の液体組成物という表現は、文脈上別段の要求がない限り、ヒドロゲルインクを包含する。
【0042】
上記の液体組成物はまた、溶媒が存在しない乾燥粉末またはエアロゲル組成物で提供されてもよい。
【0043】
本発明のさらなる局面では、本明細書に記載の液体組成物である導電性インクが印刷された基材(例えば、セルロース系基材)が提供される。
【0044】
本発明はまた、本明細書に記載の液体組成物である導電性インクを基材(例えば、セルロース系基材)に印刷する方法を提供する。
【0045】
本出願人の以前の特許出願(国際特許出願番号第PCT/EP2021/055458号、WO2021/175989として公開)に記載された液体組成物と同様の方法で、本明細書に記載された液体組成物は伸縮性基材に印刷できると考えられる。伸縮性基材に印刷できる、本明細書にさらに詳細に記載される組成物も提供される。
【0046】
本発明によれば、PCT/EP2021/055458(WO2021/175989)に記載されているものと同等の導電性を有するフィルムを作製することができるが、使用するカーボンナノチューブの割合が低い。
【0047】
インク固形分の濃度とスクリーン印刷の使用により、良好な導電性(0.1Ω/Sq/mil)を達成するために必要な厚膜形成も促進され、フィルムに適切なアンテナ特性と、UHF帯域内の放射アンテナに必要な電磁「表皮深さ」特性が与えられる。
【0048】
基材上に導電性構造を印刷すると、表面実装電子部品の統合により様々な用途を実現できる。RFIDタグ、マイクロヒーター、センサなどの潜在的な商業用途の例について説明する。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本明細書で使用される「カーボンナノ材料」という用語は、炭素を含むかまたは炭素からなるナノ材料(すなわち、1nm~100nmの平均サイズの1つの臨界寸法を有する材料)を指す。典型的には、カーボンナノ材料は、少なくとも90重量%以上、好ましくは少なくとも95重量%以上、例えば99重量%以上の炭素を含む。この用語には、グラフェン、グラファイトナノプレートレット、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、結晶質ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン(ISO規格ISO/TS80004-3:2020を参照)などの材料が含まれる。ナノ材料の寸法は透過型電子顕微鏡によって測定できる。本明細書に記載されるカーボンナノ材料含有フィルムおよび液体組成物は、グラフェンナノプレートレット自体を含んでもよいし、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、もしくはその両方を有するグラフェンナノプレートレットを含んでもよい。特に、本明細書に記載されるフィルムおよび液体組成物は、(i)グラフェンナノプレートレットと(ii)単層カーボンナノチューブとの混合物を含む。
【0050】
グラフェンナノプレートレットおよび単層カーボンナノチューブの両方を含む組成物には、導電率に関する協同効果が存在することを見出した。理論に束縛されることを望むものではないが、カーボンナノチューブは個々のグラフェンナノプレートレット間に導電性ブリッジを提供し、したがって個々のナノプレートレットの「パッチ抵抗」を低減すると考えられる。パッチ抵抗は、隣接するシート間の電子の有限トンネリングによって引き起こされ、シート(グラフェンナノプレートレット)またはロッド(カーボンナノチューブ)の内部構造内の動きよりもはるかに高い。さらに、理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、グラフェンナノプレートレットとカーボンナノチューブとの間の接合抵抗は、2つのナノプレートレットまたは2つのナノチューブの間の接合抵抗よりも低いと考える。したがって、ナノプレートレットとナノチューブとを密着させて混合することにより、グラフェンナノプレートレットおよびカーボンナノチューブ(具体的には単層カーボンナノチューブ)の両方を含む本明細書に記載の液体組成物から形成されるフィルムの導電率が向上する。
【0051】
この効果を最大化するために、カーボンナノチューブは好ましくは個別化される。典型的には、組成物中のナノチューブの75重量%超、例えば80重量%超、好ましくは85重量%超のカーボンナノチューブが個別化される。個別化されたナノチューブは、図3で見ることができる。ナノチューブの個別化の程度は、個別化された単層カーボンナノチューブが特定の波長でファン・ホーベ特異点(ピーク)を示すので、紫外可視分光法で決定できる(Alafogianniら、Colloids and Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects, Vol 495, (2006), pp. 118-124)。これらの紫外可視吸収は、束ねられたカーボンナノチューブでは見えないので、これらのピークの突出度は剥離/個別化の尺度となる。
【0052】
さまざまな不溶性の幾何学的形状と大きさの粒子を充填することにより、それらの粒子の性質に応じて、さまざまな範囲の物理的特性を向上させることができる。この効果はナノスケールにも広がっている。さまざまな粒度と形状とを慎重に組み合わせることで、配合される系の全体的な物理化学的特性を調整して、所望の特性を実現することができる。商業用途では、最も活性な要素のコスト要因により、系には、より低コストの充填材であって、許容できないレベルまで性能に影響を与えない、または、熱伝導率、機械的強度、および/または化学反応性などの別の特性を付与するために追加される充填材をかなりの割合で(>50%)充填する必要がある。本発明では、(1つの寸法がナノスケールを示し得る)より大きな導電性炭素粒子のマトリックス内の充填空隙内に、最も導電性の高い要素を集中させることにより、費用対効果の高い配合物を得ることができる。チキソトロピック単層カーボンナノチューブヒドロゲルと導電性炭素粒子とを混合することにより、印刷および乾燥工程全体で高い導電性が維持され、優れたフィルム導電性が得られることが確保される。
【0053】
上述のように、フィルムは、より大きなナノプレートレットの第1の集団と、より小さなナノプレートレットの第2の集団とを含んでもよい。より大きなナノプレートレットの第1の集団は最密充填マトリックスを形成し、より小さなナノプレートレットの第2の集団はより大きなナノプレートレットのマトリックス内の格子間位置(または空隙)を満たすことができる。より大きなナノプレートレットの充填によって形成された格子間位置内に収まるために、より小さなナノプレートレットの第2の集団は、ナノプレートレットの第1の集団のサイズの最大25%までの平均サイズを有する。典型的には、ナノプレートレットの第2の集団は、ナノプレートレットの第1の集団のサイズの20%以下、典型的には17%以下、例えば15%以下のサイズを有する。
【0054】
フィルムはさらに、(ナノプレートレットの第1の集団とともに)ナノプレートレットの第2の集団の充填によって形成された格子間位置を満たすナノプレートレットの第3の集団を含んでもよい。ナノプレートレットの第3の集団は、ナノプレートレットの第2の集団のサイズの最大25%まで、典型的には最大20%まで、好ましくは最大17%まで、例えば最大15%までのサイズを有する。
【0055】
グラフェンナノプレートレットの第1の集団は、典型的には、フィルム中のナノプレートレットの総量の40%以上(w/w)、例えば50%以上(w/w)、例えば60%以上(w/w)を構成する。
【0056】
グラフェンナノプレートレットの第2の集団は、典型的には、フィルム中のナノプレートレットの総量の50%以下(w/w)、例えば35%以下(w/w)、例えば25%以下(w/w)を構成する。
【0057】
全体を通して、ナノプレートレットの第1、第2、または第3の集団のサイズという表現は、典型的には、ナノプレートレットの最大横寸法(例えば、図4に示すナノプレートレットの長さおよび幅のうち長い方)を指す。
【0058】
グラフェンナノプレートレットのアポロニアン充填により、ナノプレートレットの充填効率が向上する。本明細書に記載のフィルムでは、ナノプレートレットは、典型的には5%を超え、好ましくは10%を超え、例えば15%を超え、場合によっては40%までの充填効率で充填される。あるいは、充填効率は、ナノプレートレットの充填されたマトリックス内の空隙を測定することによって決定することもできる。本明細書に記載のフィルムにおいて、アポロニアン充填ナノプレートレットは、典型的には95%以下、好ましくは90%以下、例えば85%以下の空隙を有する。一般に、空隙は60%より大きい。充填効率は、測定されたフィルム密度と理想的に充填された単結晶グラファイトの密度との比率を計算することによって決定される。空隙は、材料により占有されていない体積として計算できる。
【0059】
より緊密な充填の結果として、得られるフィルムの密度が増加する。したがって、本明細書に記載されるフィルムは、200kg/m以上、好ましくは250kg/m以上、より好ましくは300kg/m以上、例えば350kg/m以上または375kg/m以上の密度を有する。密度は、フィルムが占める重量および体積を測定することによって計算される。フィルムの体積は、フィルムの厚さを測定するための形状測定によって測定できる。あるいは、密度は浮力測定から計算することができる。なお、比較の目的で、PCT/EP2021/055458(WO2021/175989)に記載されているフィルムの密度は約160kg/mである。
【0060】
本明細書で使用される用語「グラフェンナノプレートレット」(本明細書では「グラファイトナノプレートレット」ともいう)は、グラフェンの小さな積層からなるグラファイトのナノ粒子を指す。「数層」のナノプレートレットという用語は、平均で30層以下、適切には20層以下、典型的には15層以下、好ましくは10層以下を有するナノプレートレットを指す。層数は、紫外可視分光法で決定できる(C. Backesら、'Spectroscopic metrics allow in-situ measurement of mean size and thickness of liquid-exfoliated graphene nanosheets', Nanoscale, 2016, doi: 10.1039/C5NR08047Aを参照)。
【0061】
グラファイトナノプレートレットは、典型的には、80重量%を超える炭素、好ましくは90重量%を超える炭素、例えば95重量%を超える炭素を含む。本明細書に記載されるいくつかの組成物では、導電性炭素粒子は炭素からなる(すなわち、かなりの程度まで、炭素を含み、他の元素を含まない)。
【0062】
グラファイトナノプレートレットは導電性である。したがって、sp混成状態にある導電性炭素粒子中の炭素原子の割合は、典型的には50%以上、例えば75%以上、好ましくは90%以上である。
【0063】
グラファイトナノプレートレットは、典型的には50nm未満、典型的には30nm未満、例えば20nm未満の平均厚さを有する。本明細書で使用される「厚さ」という用語は、ナノプレートレット内の層の積層軸に沿ったナノプレートレットの寸法を指す。「長さ」および「幅」という用語はそれぞれ、層状材料のシートの平面内の直交する軸に沿ったナノプレートレットの長い寸法および短い寸法を指す(図4を参照)。
【0064】
ナノプレートレット(例えば、ナノプレートレットの第1の集団)は、典型的には30nm以上、好ましくは100nm以上または500nm以上の平均(中央値)長さおよび/または幅を有する。好ましくは、第1の集団中のナノプレートレットは、1μm以上、例えば2μm以上、例えば3μm以上の平均長さを有する。ナノプレートレットは、典型的には、50μm以下、または30μm以下、例えば10μm以下、典型的には9.0μm以下、例えば8.0μm以下の平均(中央値)長さおよび/または幅を有する。ナノプレートレットの寸法は、走査型または透過型電子顕微鏡を使用して測定できる。ナノプレートレットは、典型的には、2次元でのみミクロンサイズである(すなわち、その長さと幅がミクロンサイズであり、その厚さが1μm未満、例えば100nm未満である)。上記したように、これらの寸法は透過型電子顕微鏡によって測定できる。
【0065】
グラファイトナノプレートレット全体は、通常、85%(w/w)、典型的には90%(w/w)から、好ましくは92%(w/w)から、例えば94%(w/w)から、および/または99%(w/w)まで、好ましくは98%(w/w)まで、例えば97%(w/w)までの量でフィルム中に存在する。
【0066】
カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)または多層カーボンナノチューブ(MWCNT)であってもよいが、単層カーボンナノチューブを含むか、または単層カーボンナノチューブからなることが好ましい。カーボンナノチューブは、典型的には、1nm~5nm、好ましくは1nm~2nmの外平均直径(透過型電子顕微鏡法により決定)を有し、200nmを超える、または3μmを超える、典型的には5μmを超える、例えば10μmを超える、または15μmを超える長さを有し得る。カーボンナノチューブは、50以上、典型的には100以上のアスペクト比を有し得る。ここで、アスペクト比とは、ナノチューブの直径と比較したナノチューブの長さの比を指す。グラフェンナノプレートレットは2次元でミクロンサイズであるが、カーボンナノチューブは1次元で(つまり、その長さに沿って)のみミクロンサイズである。
【0067】
存在するカーボンナノチューブの量は、存在するカーボンナノプレートレットの量と比較して定義することができる。カーボンナノチューブは、本明細書に記載されるフィルム中に、グラファイトナノプレートレットの量に対して、1:15未満または1:20未満、典型的には1:30未満または1:40未満の重量比(カーボンナノチューブ:グラフェンナノプレートレット)、例えば1:50未満または1:60未満、好ましくは1:100を超え、適切には1:90を超える重量比で存在し得る。
【0068】
カーボンナノチューブは、典型的には、グラファイトナノプレートレットの量に対して、1:15~1:100、例えば1:30~1:80または1:50~1:70の重量比(カーボンナノチューブ:グラフェンナノプレートレット)、好ましくは1:55~1:65の重量比でフィルム中に存在する。
【0069】
上で論じたように、ナノプレートレットのアポロニアン充填により、フィルムの導電性が向上するので、同等レベルの導電性を達成するために、より少量のカーボンナノチューブしか添加する必要がない。
【0070】
本明細書に記載のアポロニアン充填フィルムは、異なるサイズを有するグラフェンナノプレートレットの2つ以上の集団を含む液体組成物から製造することができる。アポロニアン充填フィルムは、例えば、そのような液体組成物を印刷することによって製造することができる。
【0071】
したがって、本発明はまた、以下を含む液体組成物を提供する。
(i)グラフェンナノプレートレットの第1の集団、
(ii)グラフェンナノプレートレットの第1の集団の平均サイズの最大25%までの平均サイズを有するグラフェンナノプレートレットの第2の集団、
(iii)増粘剤、および
(iv)溶媒。
【0072】
液体組成物は、グラフェンナノプレートレットの第2の集団の平均サイズの最大25%までの平均サイズを有するグラフェンナノプレートレットの第3の集団をさらに含んでもよい。
【0073】
アポロニアン充填フィルムを形成するために、ナノプレートレットの第2の集団は、フィルムに関して上述したより大きなナノプレートレットとしての第1の集団のサイズと比較した相対的なサイズを有し得る。液体組成物はまた、場合によっては、フィルムに関して上述したナノプレートレットの第2の集団と相対的なサイズを有するナノプレートレットの第3の集団を含んでもよい。
【0074】
グラファイトナノプレートレットは、典型的には、液体組成物中に5%(w/w)から、好ましくは7%から、例えば8%から、最大20%(w/w)まで、好ましくは最大15%まで、例えば最大10%(w/w)までの量で存在する。
【0075】
フィルムに関連して上で論じたように、グラフェンナノプレートレットの第1の集団は、典型的には、液体組成物中にナノプレートレットの総量の40%以上(w/w)、例えば50%以上(w/w)、例えば60%以上(w/w)含まれる。
【0076】
グラフェンナノプレートレットの第2の集団は、典型的には、液体組成物中にナノプレートレットの総量の50%以下(w/w)、例えば35%以下(w/w)、例えば25%以下(w/w)含まれる。
【0077】
組成物中のカーボンナノチューブの量は、組成物全体の重量に対して定義することができる。例えば、カーボンナノチューブは、液体組成物中に0.01%(w/w)から、好ましくは0.025%または0.05%から、例えば0.1%から、最大1%(w/w)まで、好ましくは0.5%(w/w)まで、例えば0.2%(w/w)までの量で存在してもよい。液体組成物が乾燥して乾燥フィルムを形成したとき、カーボンナノチューブは、典型的には0.5%(w/w)から、好ましくは1%(w/w)から、最大10%(w/w)まで、例えば最大5%(w/w)または最大3%(w/w)まで、好ましくは最大2.5%(w/w)まで、例えば最大2%(w/w)までの量で存在する。
【0078】
本発明のフィルムに関連して上で論じたように、存在するカーボンナノチューブの量は、存在するカーボンナノプレートレットの量と比較して定義することができる。カーボンナノチューブは、本明細書に記載される液体組成物中に、グラファイトナノプレートレットの量に対して、1:15未満または1:20未満、典型的には1:30未満または1:40未満の重量比(カーボンナノチューブ:グラフェンナノプレートレット)、例えば1:50未満または1:60未満、好ましくは1:100を超え、適切には1:90を超える重量比で存在し得る。
【0079】
カーボンナノチューブは、典型的には、液体組成物中にグラファイトナノプレートレットの量に対して、1:15~1:100、例えば1:30~1:80または1:50~1:70の重量比(カーボンナノチューブ:グラフェンナノプレートレット)、好ましくは1:55~1:65の重量比で存在する。
【0080】
溶媒は、水性または非水性溶媒であり得る。しかし、溶媒は、好ましくは(ヒドロゲル形成に必要な)水であるか、または水を含む。あるいは、溶媒は双極性非プロトン性溶媒であってもよい。このような双極性非プロトン性溶媒の例としては、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、スルホラン、ジヒドロレボグルコセノン(Cyrene)、およびγ-バレロラクトンなどのラクトンが挙げられる。水とγ-バレロラクトンとの組み合わせを含む溶媒系により、伸縮性基材への印刷に適したインクが得られることを見出した(下記の実施例4を参照)。γ-バレロラクトンは、存在する場合、1%~10%(w/w)、例えば1%~5%(w/w)の量で存在し得る。
【0081】
組成物はまた、組成物の粘度を増加させるために(ゲル化剤としても作用し得る)増粘剤を含む。粘度の増加により、組成物が印刷に適していることが保証され、またカーボンナノ材料が凝集する傾向が低減される。
【0082】
増粘剤は、好ましくはヒドロゲル形成増粘剤である。上で論じたように、カーボンナノチューブおよび導電性炭素粒子を含むヒドロゲルマトリックスの形成により、高導電性インクが得られる。ヒドロゲル形成増粘剤は一般に、水中で広範な水素結合ネットワークを介してコロイドゲルを形成する親水性ポリマー鎖である。
【0083】
増粘剤はまた、例えば、本発明のインク/液体組成物がセルロース含有基材(紙など)に印刷され乾燥する場合、セルロースに結合することが好ましい。
【0084】
適切な増粘剤の例には以下が含まれる。
・カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、およびそれらの塩(ナトリウム塩等)、
・ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリアナリン(PANI)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、およびポリN-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)などのポリマー、
・シクロデキストリン、
・キサンタンガム、ゼラチン、グリセロール、アルギン酸塩、キトサンなどの天然ゲル化剤、
・無機シリカ、および、ベントナイト、モンモリロナイト、ラポナイト、ナノシリカ、チタニアなどの粘土、および
・繊維状または棒状の材料、例えばアスペクト比が100を超えるもの(例えばカーボンナノチューブ)。
【0085】
好ましい実施形態では、増粘剤はカルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体である。本明細書で使用されるセルロース誘導体という用語は、セルロース中に存在するヒドロキシル基の一部または全部の官能基化(例えば、エーテル化またはエステル化反応による)によって形成されるセルロースの化学的誘導体を指す。誘導体は、カルボキシ基、ヒドロキシ基、メチル基、エチル基および/またはプロピル基の1つまたは複数または全てを組み込むことによって形成することができる。セルロース誘導体の例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルエチルセルロース、メチルセルロース、およびカルボキシメチルセルロース、またはそれらの組み合わせ、ならびにセルロース自体が挙げられる。このタイプの結合剤を含む液体インク組成物は、紙基材に都合良く接着することを見出した。CMCは、(例えば、置換度や機能によって異なる)いくつかの形態で利用可能であり、共有結合的にいくつかの化学薬品と架橋するか、または、他の薬品との水素結合ネットワークを介して架橋して、要件に応じて調整できる新しい特性を与えることができる(Gels 2018, 4, 54; doi: 10.3390/gels4020054)。
【0086】
セルロース誘導体は、多くの産業用途で利用されるヒドロゲルを容易に形成する。これらの材料は、水性溶媒中でナノカーボン材料を安定化させる界面活性剤としても機能し得る。ヒドロゲルは、拡張された水素結合または超分子ネットワーク形成挙動により、理想的なチキソトロピー挙動を示す。これらのネットワークは、レオロジー挙動を改善するために長距離秩序を提供するのに役立つ。
【0087】
増粘剤の総濃度は、全組成物(溶媒を含む)の0.05重量%~2重量%、典型的には0.07重量%~1重量%、例えば全組成物の0.1重量%~0.5重量%の範囲であり得る。
【0088】
増粘剤は、組成物の粘度を増加させ、カーボンナノチューブ(存在する場合)が事前に秩序化された超分子ネットワークを形成することも可能にし、これによって、組成物から印刷されたフィルムの導電率を増加させると考えられる。
【0089】
組成物の粘度は、印刷してフィルムを形成できるようにするために重要である。さらに、組成物は、組成物内中のカーボンナノ材料の凝集を防止するのに十分な粘性がなければならない。もちろん、正確な粘度は、組成物(および得られるフィルム)の用途に依存する。増粘剤はまた、インクが印刷、例えばスクリーン印刷に適した粘度を持っていることを保証する。スクリーン印刷に適したインクは、典型的にはチキソトロピックであるため、その粘度はせん断速度に依存する。図7に示すように、インクは、0.1/sのせん断速度で100~1000Pa・sの粘度を有し、および/または100/sのせん断速度で1~10Pa・sの粘度を有し得る。
【0090】
組成物はまた、1つ以上の界面活性剤を含んでもよい。組成物は、典型的には非イオン性界面活性剤である。適切な非イオン性界面活性剤の例としては、ポリエチレンオキシド系(PEO)界面活性剤(例えば、Triton X-100)、ポリプロピレンオキシド系(PPO)界面活性剤、シクロデキストリンおよびポリビニルピロリドン(PVP)界面活性剤が挙げられる。しかし、(ドデシル硫酸ナトリウムなどの)硫酸塩系界面活性剤、またはコール酸塩(例えば、コール酸ナトリウム)などのイオン性界面活性剤も使用することができる。
【0091】
界面活性剤の総濃度は、全組成物(溶媒を含む)の0.01重量%~1重量%または0.01重量%~0.5重量%、例えば、全組成物の0.05重量%~0.2重量%の範囲であり得る。
【0092】
組成物はまた、(インクを印刷することによって形成された)乾燥フィルムの基材への接着を改善するために、1つ以上の溶媒および/または接着剤を含んでもよい。接着剤の性質および組み合わせは、もちろん基材によって異なる。
【0093】
組成物はまた、インクのレオロジーパラメータおよび/または得られるフィルムの特性を改善するために、1つ以上の架橋剤を含んでもよい。これには、アスコルビン酸などの広範囲の機能性有機酸または塩基が含まれ得る。さらなる架橋剤の例としては、グルタル酸およびトリメシン酸などの、ジカルボン酸およびトリカルボン酸が挙げられる。この架橋は、フィルムを急速な再溶解から安定させ、周囲の湿度が導電率に及ぼす影響を安定させるように働く。
【0094】
加えて、組成物は硬化剤をさらに含むことができ、硬化剤は、熱または放射線にさらされると硬化して、液体インク組成物を固体フィルムに硬化させる材料である。これらには、光硬化性モノマーまたは赤外線活性剤が含まれ、例えば、エポキシド(開環反応を受ける可能性がある)、アルデヒド、またはクエン酸などの酸(エステル化反応を受ける可能性がある)が含まれる。あるいは、ナトリウムカルボキシメチルセルロースなどの一価結合剤で形成されたフィルムを、塩化カルシウム(II)または硫酸カルシウム(II)などの2価、3価または4価のイオン塩の水溶液で処理して、イオン交換により不溶性フィルムを形成してもよい。
【0095】
本発明の印刷適性および堅牢性を助けるために、他の添加剤を最終的なインクの調合に含めてもよい。これには、湿潤および乾燥特性がスクリーン印刷に適していることを確実にする保湿剤と、ある程度の追加の機能的性能(印刷またはコーティングされたフィルムがさらされる湿気やその他の溶剤に対する耐性)を付与するように、得られたコーティングを固定化する架橋剤と、が含まれてもよい。水性系組成物では、保湿剤として尿素、グリセリン、またはポリプロピレングリコールなどのグリコールを添加すると、インクの乾燥工程が遅くなり、安定した再現性のある印刷が得られる。
【0096】
例示的な実施形態において、本発明は、以下を含む液体組成物を提供する:
(a)5%~15%(w/w)の重量範囲のグラファイトナノプレートレット;
(b)0.05%~0.5%(w/w)の重量範囲のカーボンナノチューブ;
(c)0.1%~1.0%(w/w)の重量範囲のカルボキシメチルセルロース;
(d)0.01%~0.5%の重量範囲のコール酸ナトリウム;および
(e)水。
【0097】
さらなる例示的な実施形態において、本発明は、以下を含む液体組成物を提供する:
(a)5%~15%(w/w)の重量範囲のグラファイトナノプレートレット;
(b)0.05%~0.5%(w/w)の重量範囲のカーボンナノチューブ;
(c)0.1%~1.0%(w/w)の重量範囲のカルボキシメチルセルロース;
(d)0.01%~0.2%の重量範囲のコール酸ナトリウム;および
(e)水。
【0098】
液体組成物の好ましい一つの成分は、他の部分で説明したように、セルロース誘導体である。エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、およびヒドロキシエチルセルロースが適している。カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその誘導体が特に適している。カルボキシメチルセルロースの塩、例えばナトリウム塩も使用することができる。
【0099】
本発明の試験において、CMCは、組成物に対して紙およびカードなどのセルロース材料に対する強い結合親和性を与えることが見出され、綿にも同様に結合することが期待され、これらの基材にとって理想的である。使用中、CMCは水と安定したヒドロゲルを形成し、紙に付着する印刷可能な高導電性インクが得られた。
【0100】
さらなる局面において、本発明は、本明細書で定義されたインクを製造する方法を提供し、この方法は以下を含む。
(i)本明細書で定義された剥離したグラファイトナノプレートレットを得ること、
(ii)本明細書で定義された剥離した単層カーボンナノチューブを得ること、および
(iii)剥離したグラファイトナノプレートレット、剥離した単層カーボンナノチューブ、増粘剤、および任意により界面活性剤を溶媒中に分散させること。
【0101】
ナノプレートレットとカーボンナノチューブとの均一な混合を確保するために、ステップ(iii)の混合物を高せん断混合段階にかけることができる。さらに、インクを脱気するために、インクを圧縮する(例えば、ロール粉砕する)さらなるステップが行われてもよい。これにより、基材へのインクの印刷が容易になる。
【0102】
上述の組成物は、軟質ポリマー(ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、およびポリイミドなど)、エラストマー(シリコーンおよびポリウレタンなど)、金属箔およびフィルム(アルミニウム、銅、金およびプラチナ箔/フィルムなど)、および硬質基材(シリコンウエハー、ガラス、石英、ポリカーボネートなど)を含む様々な基材に印刷するためのインクとして使うことができる。
【0103】
本明細書に記載のインクは、紙などのセルロース基材材料に印刷することができる。
【0104】
したがって、本発明のさらなる局面では、本明細書で定義された液体組成物である導電性インクが印刷された基材(例えば、セルロース系基材)が提供される。
【0105】
本発明はまた、本明細書で定義される液体組成物である導電性インクを基材(例えば、セルロース系基材)に印刷する方法を提供する。
【0106】
セルロース系基材は、典型的には、紙またはカードである。
【0107】
インクは、様々な印刷技術、例えばスクリーン印刷またはインクジェット印刷を使用して印刷することができる。
【0108】
スクリーン印刷可能なインクの理想的な挙動には、印刷工程内でせん断減粘が発生し、その後、弾性回復し、乾燥または硬化に必要な解像度で印刷構造を安定させるようなチキソトロピーレオロジープロファイルが必要である。このような挙動は、プリンテッドエレクトロニクス用途の配線や接続線の高解像度印刷に有益である。「ベアダイ」またはカプセル化されていないシリコン部品に適した電子回路を構築する場合、自動化されたダイ取り付け方法には、通常125ミクロンよりも優れた印刷忠実度が好ましい。
【0109】
上述のように、カーボンナノ材料はグラファイトナノプレートレット、単層カーボンナノチューブ、またはそれらの混合物であってもよく、セルロース系結合剤はカルボキシメチルセルロースであってもよい。フィルムはまた、導電性炭素粒子としてグラファイト粒子を含んでもよい。
【0110】
導電性インクはまた、本明細書に記載されているように追加の成分または特性を有してもよい。
【0111】
本発明は、ナノカーボン材料の組み合わせの高い導電率を、良好な印刷特性に必要なチキソトロピーレオロジーと組み合わせる。
【0112】
導電性インクは、マイクロ波アンテナ、RFIDタグ、生体検知電極、印刷ヒータ、ワイヤレス誘導コイル、調整可能な低放射率および反射率コーティング用のメタサーフェス、歪みセンサ、表面音波デバイス、温度センサ、スーパーキャパシタ用のエネルギー貯蔵電極および電解質、バッテリー、静電容量センサ、柔軟で伸縮性のあるまたは構造的電子伝導体、触媒作用用の低密度エアロゲル、蓄電および化学的修復、自己修復コーティングおよび薬物送達プラットフォーム、を含むがこれらに限定されない幅広い用途の印刷に使用できる。
【0113】
さらなる局面では、本発明は、本明細書に記載の液体組成物から基材上に堆積(例えば、印刷)されたアンテナを含むRFIDタグを提供する。基材は、プラスチックポリマー基材(PETなど)またはセルロース基材(紙など)であってもよい。
【0114】
また、本明細書では、導電性インクが印刷された布地基材が提供され、その導電性インクは以下を含む。
(i)導電性炭素粒子(例えば、カーボンナノ材料)、および
(ii)セルロースに結合する結合剤、適切にはセルロース誘導体。
【0115】
本発明はまた、布地に導電性インクを印刷する方法を提供し、その導電性インクは以下を含む:
i)導電性炭素粒子(例えば、カーボンナノ材料)、
ii)セルロース誘導体、および
iii)溶媒。
【0116】
インクは、本発明の他の局面に関連して上述した特性を有してもよい。
【0117】
布地は織布でも不織布でもよい。例えば、織布は、より大きな破断歪み特性を達成し、斜めに加えられた歪みを緩和できるように繊維から織ることができる。これにより、延伸時に印刷されたフィルムにさらなる機械的完全性が与えられる。表面粗さによってプリントの解像度が制限されないように、織布の横糸と縦糸のピッチは通常、1cmあたり少なくとも100本の糸である。印刷解像度を向上させるために、表面粗さを下げるための表面コーティングの塗布による基材の平坦化を追加してもよい。基材の湿潤性と印刷適性を向上させるために、コロナ放電工程による布地の表面化学処理を適用してもよい。
【0118】
繊維は、綿、絹などの天然繊維、または、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィン、ビスコースなどの改質および再構成セルロースを含むポリマーなどの合成繊維であり得る。これらの繊維を互いに組み合わせて紡いだり織ったりして、さらなる性能を提供してもよい。
【0119】
織布材料の選択により、織布基材の本体へのインクのある程度の滲みが発生し、印刷フィルムの厚さが増加する可能性がある。印刷フィルムの所望の厚さは、好ましくは5ミクロンより大きく、例えば10ミクロンより大きい。これにより、シート抵抗が10Ω/Sq未満に低下し、RFID用途に十分な導電性を提供する。
【0120】
また、本明細書では、導電性インクが印刷された熱可塑性基材が提供され、その導電性インクは以下を含む:
(i)導電性炭素粒子(例えば、カーボンナノ材料)、および
(ii)セルロースに結合する結合剤、適切にはセルロース誘導体。
【0121】
本発明はまた、熱可塑性基材に導電性インクを印刷する方法を提供し、その導電性インクは以下を含む:
i)導電性炭素粒子(例えば、カーボンナノ材料)、
ii)セルロース誘導体、および
iii)溶剤。
【0122】
インクは、本発明の他の局面に関連して上述した特性を有し得る。
【0123】
本明細書に記載されているように、インクはRFIDアンテナを印刷するために使用することができる。したがって、本明細書ではまた、RFIDアンテナが印刷された布地または熱可塑性基材を含むRFIDタグが提供され、RFIDアンテナは導電性炭素粒子(例えば、カーボンナノプレートレットおよび/またはカーボンナノチューブなどのカーボンナノ材料)および結合剤(セルロース誘導体など、例えば、カルボキシメチルセルロース)を含む。
【0124】
RFIDアンテナは、本明細書に記載のインクから印刷されたフィルムの特性を有し得る。同様に、布地および熱可塑性基材は、上記の特性を有し得る。
【0125】
タグは通常、RFIDアンテナが印刷される平らな部分と、タグを対象物に取り付けることを可能にするループまたはループを形成するための手段(例えば、タグキャブの端が通される開口部)とを備える。
【0126】
タグは、その厚さがその長さまたは幅より実質的に小さくてよいという点で、実質的に平面の形状であってもよい。典型的には、タグは3mm以下、例えば2mm以下、例えば1mm以下の厚さを有する。
【0127】
タグは、その長さがその幅より大きい細長い材料片(例えば、布地または熱可塑性プラスチック)から形成され得る。タグの長さの一端に開口部を設けることができ、開口部を通してタグの長さ方向の送り端を挿入して「ループロックタグ」を提供することができる(図8Aおよび8Bを参照)。開口部の形状の大きさにより、ループタグを穏やかに可逆的に保持することができる。
【0128】
上述の「ループロックタグ」の代替として、タグは、タグの一部を一緒に固定してループを形成できるように、相補的なベルクロ(Velcro(登録商標))部が取り付けられた上述のような平面タグであってもよい。
【0129】
タグは、タグの耐摩耗性および例えば水による損傷に対する耐性を向上させるために、ポリウレタンまたはシリコーンなどのオーバーコートでカプセル化されてもよい。
【0130】
あるいは、タグは、一定の間隔で組み立てられたタグを備えたテープ形式として、連続的に伸長した形態で提供されてもよい。
【0131】
したがって、本発明は、RFIDタグの製造において、RFIDの良好なアンテナとして使用するために必要なシート抵抗を達成する、水性の高導電性インクを利用する。従来のRFIDタグは金属材料を使用しているため、リサイクルが困難であるが、本発明の炭素系RFIDタグは、より環境に優しい代替品を提供する。さらに、セルロース系結合剤とカーボンナノ材料との組み合わせにより、金属系アンテナに存在する可能性がある応力疲労を克服するためのある程度の柔軟性と伸縮性が得られる。さらに、炭素系RFIDは非磁性特性を示すため、食品生産環境での使用が可能になる。
【0132】
さらなる局面では、本発明は、本明細書に記載の液体組成物から基材に印刷された発熱体を含む印刷ヒータを提供する。
【0133】
表面の歪みの測定は、多くの産業用途に利用できる。ナノカーボン系印刷構造は、パーコレーション閾値以上で基材に塗布すると、歪みに依存する導電率を示す。ポリマーバインダー系フィルムは、基材の弾性限界に達する前に壊れる可能性のある導電性金属の使用を超えて、再現可能な弾性特性を示す。そこで本発明を利用することにより、弾性基板上の高歪み(>2%)状態の測定が良好な再現性で可能になる。さらに、この弾性挙動は、アンテナの共振特性(周波数およびQ値)の変更に拡張することができる。弾性基材に印刷されたUHF帯RFアンテナの共振動作を、内部電源または処理回路を必要とせずに監視できる新しい例が提示される。
【0134】
さらなる局面では、本発明は、伸縮性基材上に堆積(例えば、印刷)された、本明細書に記載の堆積された液体組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0135】
図1】乾燥カーボンナノチューブ(CNT)-グラフェンナノプレートレットハイブリッドフィルムの導電率とカーボンナノチューブ(CNT)重量分率(重量%)との間のパーコレーション関係を示すプロットである。
図2】異なる相対密度ρのGNPを使用して調製されたフィルムのCNT重量分率に応じた、正規化されたシングルパスのシート抵抗のプロットである。
図3】本発明のフィルム中の個別化されたカーボンナノチューブを示す原子間力顕微鏡(AFM)画像である。
図4】数層のカーボンナノプレートレットの長さ、幅、および厚さのそれぞれのパラメータを示す概略図である。
図5】以下の実施例1で使用したグラフェンナノプレートレットのサイズ分布を示す。
図6】グラフェンナノプレートレットの充填マトリックス内のカーボンナノチューブの位置を示す走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図7】以下の実施例2に記載されたインクの粘度を示すレオロジートレースである。
図8A】本明細書に記載のインクを使用してRFIDタグが印刷されたタグを示す。
図8B】本明細書に記載のインクを使用してRFIDタグが印刷されたタグを示す。
【実施例
【0136】
(実施例1-グラフェンナノプレートレットの特性評価)
最大8μm(または最大50μm)の横サイズ、約5μmの平均横サイズ、および最大30nmの厚さを有する液相剥離グラフェンナノプレートレットのサンプルが得られた。
【0137】
GNP分散液の動的光散乱(DLS)により、ナノプレートレットの流体力学半径を測定する。長さへの変換は、文献指標(Lotyaら、DOI: 10.1088/0957-4484/24/26/265703)を使用して行われる。以下の実施例2で使用したグラフェンナノプレートレットのサイズ分布を図5に示す。
【0138】
粒度の分布が広いため、得られたナノプレートレットはアポロニアン充填フィルムの製造に有用であると考えられた。
【0139】
(実施例2-インクの配合)
調製したインクのバッチの組成を以下の表に示す。調製されたインク(バインダー等を含む)の全固形分は、約9重量%であった。
【0140】
【表1】
【0141】
インクを作るために、成分を秤量して適切な容器に入れた。NutriBullet NB-WL076G-23ブレンダーを使用して、WO2020/074698に記載されているタイプの装置を使用して高圧均質化する前に、周囲実験室条件下で密封容器内の成分を1分間混合した。
【0142】
実施例1に記載されているように、グラファイトナノプレートレットは、700nm~8000nmの横サイズの分布を有し、最大約20nmの厚さを有する。
【0143】
SEMによって構造特性評価を行うと、充填されたグラファイトナノプレートレット間の隙間にカーボンナノチューブの密なネットワークが存在することが分かった(図6を参照)。
【0144】
インクの粘度を、0.1/s~100/sのせん断速度にわたって測定した。インクはチキソトロピックであることが分かり、そのレオロジートレースを図7に示す。図7に示すように、インクは、0.1/sのせん断速度で100~1000Pa・sの粘度を示し、および/または100/sのせん断速度で1~10Pa・sの粘度を有し得る。
【0145】
インクは、いくつかのグレードのポリエチレンテレフタレート(PET)基材(DuPont Tejin ST504 & Felix Scholler F40100)および紙基材を含む、さまざまな基材に正常に印刷された。
【0146】
印刷されたフィルムの導電率を、国際電気標準会議規格IEC TS62607-2-1:2012に従って、4点プローブを使用して測定した。フィルムの厚さを、SEM断面分析または走査プローブプロフィロメトリーによって測定し、導電率および厚さを使用して比導電率を計算した。印刷されたフィルムでは、最大3.8(±0.1)×10Sm-1の導電率が観察された。
【0147】
したがって、本発明は、カーボンナノ材料から形成された高導電性インク、具体的には、基材に印刷できるカーボンナノ材料から形成された高導電性インクを提供する。
【0148】
(実施例3-RFIDタグ)
RFIDタグを、上記の実施例2に記載されたインクを使用して製造した。
【0149】
タグは、図8Bに示される一般的な形状を有する再生密織りポリエステルから切り取った。図8Bに示すように、タグは一般に長方形であり、タグの一端近くに円形の穴がある。タグの長辺のそれぞれに半円形の切り欠きが設けられている。
【0150】
円形の穴とは反対側のタグの端に、実施例2で説明したインクを使用してRFIDアンテナを印刷した。このインクはポリエステル織布基材に対して良好な接着性を有することが示された。
【0151】
使用時には、RFIDアンテナが印刷されたタグの端をタグの他端の円形の穴に通して、図8Aに示すようなループを形成できる。半円形の切り欠きは、ループを所定の位置に固定するために円形の穴内の位置に配置されている。
【0152】
したがって、タグは、RFIDタグを備えることが有益な動物または他の物体に取り付けることができる。タグは水性液体に対して耐性がある。このタグには、金属材料が含まれておらず、柔軟性があり、取り外し可能であるという利点もある。
【0153】
同様のタグを、PETシルクまたはPETフィルムを使用して作製した。これらの材料を使用して得られたRFIDタグの読み取り範囲は、希望する人に取り付けた場合、約1.6mであると測定された。したがって、これらの結果により、食肉加工用途におけるタグの使用が検証された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
【手続補正書】
【提出日】2023-06-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的にアポロニアン方式で充填されたグラフェンナノプレートレットを含む、導電性フィルム。
【請求項2】
前記グラフェンナノプレートレットが10%を超える充填効率を有する、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記グラフェンナノプレートレットが、第1のサイズを有するナノプレートレットの第1の集団と、該第1のサイズの最大25%までの第2のサイズを有するナノプレートレットの集団とを含む、請求項1または2に記載のフィルム。
【請求項4】
ナノプレートレットの前記第1の集団が1μm以上の長さ/幅を有する、請求項3に記載のフィルム。
【請求項5】
グラフェンナノプレートレットの前記第1の集団が、前記フィルム中のナノプレートレットの総量の40%以上(w/w)を含む、請求項3または4に記載のフィルム。
【請求項6】
前記フィルムが250kg/mを超える密度を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項7】
カーボンナノチューブをさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブが前記フィルム中に最大10%までの量で存在する、請求項7に記載のフィルム。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブが前記フィルム中に最大5%までの量で存在する、請求項7に記載のフィルム。
【請求項10】
前記グラファイトナノプレートレットが、典型的には前記フィルム中に92%(w/w)の量で存在する、請求項1から7のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項11】
(i)グラフェンナノプレートレットの第1の集団、
(ii)グラフェンナノプレートレットの該第1の集団の平均サイズの最大25%までの平均サイズを有するグラフェンナノプレートレットの第2の集団、
(iii)増粘剤、および
(iv)溶媒
を含む、液体組成物。
【請求項12】
カーボンナノチューブをさらに含む、請求項9に記載の液体組成物。
【請求項13】
前記グラファイトナノプレートレットの層数が30以下である、請求項1から8のいずれか一項に記載のフィルム、あるいは請求項9または10に記載の液体組成物。
【請求項14】
ナノプレートレットの前記第1の集団が1μm以上の長さ/幅を有する、請求項9から11のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項15】
グラフェンナノプレートレットの前記第1の集団が、前記フィルム中のナノプレートレットの総量の40%以上(w/w)を含む、請求項9から12のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項16】
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブであり、必要に応じて1nm~5nmの平均直径および/または3μmを超える長さを有する、請求項7に記載のフィルム、または請求項10に記載の液体組成物。
【請求項17】
前記グラファイトナノプレートレットが、典型的には、5%(w/w)から、必要に応じて最大15%(w/w)までの量で前記液体組成物中に存在する、請求項9から14のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項18】
カーボンナノチューブを含み、該カーボンナノチューブが前記液体組成物中に最大0.5%(w/w)までの量で存在し得る、請求項10から15のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項19】
カーボンナノチューブを含み、該カーボンナノチューブが前記液体組成物中に最大0.2%(w/w)までの量で存在し得る、請求項10から15のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項20】
カーボンナノチューブを含み、該ナノチューブがグラファイトナノプレートレットの量に対して1:30未満の重量比で存在する、請求項1から17のいずれか一項に記載のフィルムまたは液体組成物。
【請求項21】
カーボンナノチューブを含み、該ナノチューブがグラファイトナノプレートレットの量に対して1:40未満の重量比で存在する、請求項1から17のいずれか一項に記載のフィルムまたは液体組成物。
【請求項22】
カーボンナノチューブを含み、該ナノチューブがグラファイトナノプレートレットの量に対して1:50~1:70(カーボンナノチューブ:グラファイトナノプレートレット)の重量比で存在する、請求項1から17のいずれか一項に記載のフィルムまたは液体組成物。
【請求項23】
(a)5%~15%(w/w)の重量範囲のグラファイトナノプレートレット、
(b)0.05%~0.5%(w/w)の重量範囲のカーボンナノチューブ、
(c)0.1%~1.0%(w/w)の重量範囲のカルボキシメチルセルロース、
(d)0.01%~0.5%の重量範囲のコール酸ナトリウム、および
(e)水、
を含む、液体組成物。
【請求項24】
請求項9から21のいずれか一項に記載の液体組成物が印刷された布地または熱可塑性基材。
【請求項25】
請求項9から21のいずれか一項に記載の液体組成物を布地または熱可塑性基材に印刷する方法。
【請求項26】
請求項1から21のいずれか一項に記載のフィルムまたは液状組成物から形成されたRFIDアンテナを備えたRFIDタグ。
【請求項27】
前記タグが、前記RFIDアンテナが印刷される平坦部分と、前記タグを対象物に取り付けることを可能にするループまたはループを形成する手段と、を備える、請求項24に記載のRFIDタグ。
【国際調査報告】