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特表2024-533175鉄錯体によって触媒されるヒドロシリル化法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】鉄錯体によって触媒されるヒドロシリル化法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/08 20060101AFI20240905BHJP
   C07F 15/02 20060101ALI20240905BHJP
   C07F 19/00 20060101ALI20240905BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20240905BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20240905BHJP
   B01J 37/00 20060101ALI20240905BHJP
   B01J 31/16 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C07F7/08 W
C07F15/02 CSP
C07F19/00
C08L83/05
C08L83/07
B01J37/00 Z
B01J31/16 Z
C07F7/08 Y
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514005
(86)(22)【出願日】2022-08-30
(85)【翻訳文提出日】2024-04-30
(86)【国際出願番号】 FR2022000076
(87)【国際公開番号】W WO2023031524
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】2109052
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507421304
【氏名又は名称】エルケム・シリコーンズ・フランス・エスアエス
【氏名又は名称原語表記】ELKEM SILICONES France SAS
(71)【出願人】
【識別番号】524077209
【氏名又は名称】セペウ・リヨン
【氏名又は名称原語表記】CPE LYON
【住所又は居所原語表記】43 BOULEVARD DU 11 NOVEMBRE 1918,69100 VILLEURBANNE FRANCE
(71)【出願人】
【識別番号】506369944
【氏名又は名称】サントル ナスィオナル ド ラ ルシェルシュ スィアンティフィク
(71)【出願人】
【識別番号】523165352
【氏名又は名称】ユニヴェルスィテ クラウド ベルナール リヨン 1
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ジェームス・ドロルム
(72)【発明者】
【氏名】ラファエル・ミルガレ
(72)【発明者】
【氏名】デルフィーヌ・ブラン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンサン・モンテーユ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン・レイノー
【テーマコード(参考)】
4G169
4H049
4H050
4J002
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169AA08
4G169AA11
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BE07A
4G169BE07B
4G169BE32A
4G169BE32B
4G169BE33A
4G169BE34A
4G169BE36A
4G169BE37A
4G169BE38A
4G169BE38B
4G169CB25
4G169CB62
4G169CB80
4G169DA04
4G169FA01
4G169FB05
4G169FB80
4H049VN01
4H049VP02
4H049VP08
4H049VQ76
4H049VR23
4H049VU33
4H049VW02
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB40
4J002CP04X
4J002CP12W
4J002DB006
4J002EZ006
4J002FD156
4J002GT00
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1個のアルケン官能基又は少なくとも1個のアルキン官能基を含む不飽和化合物を、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物でヒドロシリル化するための方法であって、前記方法は、次式(1)で表される鉄錯体Cによって触媒される方法に関する:式:Fe[Si(SiR332n (1)(式中、それぞれのRは、互いに独立して、水素原子、又は1個以上のハロゲン原子で置換されていてよい、1~30個の炭素原子を有する炭化水素基を表し、それぞれのLは、エーテル配位子を表し、n=1、2又は3である。)。また、本発明は、該鉄錯体の製造方法、並びにそのアルケン又はアルキンのヒドロシリル化用触媒としての使用に関するものでもある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルケン官能基及びアルキン官能基から選択される少なくとも1個の官能基を含む不飽和化合物Aを、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物Bでヒドロシリル化するための方法であって、次式(1)で表される鉄錯体Cによって触媒される方法:
Fe[Si(SiR332n (1)
式中、
・それぞれのRは、互いに独立して、水素原子、又は1個以上のハロゲン原子で置換されていてよい、1~30個の炭素原子を有する炭化水素基を表し、
・それぞれのLは、互いに独立して、エーテル配位子を表し、
・n=1、2又は3である。
【請求項2】
それぞれのRが、互いに独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基及びアリールアルキル基から選択される基を表し、前記基は、1個以上のハロゲン原子によって置換されていてよく、より好ましくは、それぞれのRが、互いに独立して、C1~C12アルキル基、C3~C8シクロアルキル基、C6~C12アリール基又はC7~C24アリールアルキル基を表し、より好ましくは、それぞれのRが、互いに独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、キシリル基、トリル基及びフェニル基から選択される基を表し、より好ましくは、R基がメチルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エーテル配位子Lが、式R1OR2(式中、R1及びR2は、互いに独立して、1個~30個の炭素原子を有する置換又は非置換の炭化水素基を表し、1個以上のヘテロ原子を含んでいてよく、又はR1及びR2は、それらが結合している酸素原子と一緒になって、1個以上のヘテロ原子を含む環状炭化水素基を形成する。)の化合物から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記鉄錯体Cが次の化合物:
【化1】
である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記不飽和化合物Aが、1個以上のアルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物、より好ましくは、
・次式の少なくとも2個のシロキシル単位:
ViabSiO(4-a-b)/2
(式中、
Viは、C2~C6アルケニル基、好ましくはビニル基であり、
Uは、1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり、好ましくは、メチル基、エチル基又はプロピル基などの1~8個の炭素原子を有するアルキル基、3~8個の炭素原子を有するシクロアルキル基、及び6~12個の炭素原子を有するアリール基から選択され、
a=1、2又は3、好ましくはa=1又は2;b=0、1又は2;及び合計a+b=1、2又は3である。)と、
・任意に次式の単位:UcSiO(4-c)/2
(式中、Uは上記と同じ意味を有し、c=0、1、2又は3である。)と
から構成されるオルガノポリシロキサン化合物である、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む前記化合物Bが、ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含むオルガノポリシロキサン化合物、好ましくは、
・次式の少なくとも2個のシロキシル単位:
deSiO(4-d-e)/2
(式中、
Uは、1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり、好ましくは、メチル基、エチル基又はプロピル基などの1~8個の炭素原子を有するアルキル基、3~8個の炭素原子を有するシクロアルキル基、及び6~12個の炭素原子を有するアリール基から選択され、
d=1、2又は3、好ましくはd=1又は2、e=0、1又は2;及びd+e=1、2又は3である。)と、
・任意に次式の単位:UfSiO(4-f)/2
(式中、Uは上記と同じ意味を有し、f=0、1、2又は3である。)と
から構成されるオルガノポリシロキサンである、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
アルケン官能基及びアルキン官能基から選択される少なくとも1個の官能基を含む少なくとも1種の不飽和化合物Aと、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む少なくとも1種の化合物Bと、次式(1)で表される鉄錯体Cとを含む組成物である:
Fe[Si(SiR332n (1)
式中、
・それぞれのRは、互いに独立して、水素原子、又は1個以上のハロゲン原子で置換されていてよい、1~30個の炭素原子を有する炭化水素基を表し、
・それぞれのLは、互いに独立して、エーテル配位子を表し、
・n=1、2又は3である。
【請求項8】
次式(1):
Fe[Si(SiR332n (1)
(式中、
・それぞれのRは、互いに独立して、水素原子、又は1個以上のハロゲン原子で置換されていてよい、1~30個の炭素原子を有する炭化水素基を表し、
・それぞれのLは、互いに独立して、エーテル配位子を表し、
・n=1、2又は3である、)
で表される鉄錯体Cを製造するための方法であって、
前記方法は、粗鉄錯体Cを製造する段階、次いで前記粗鉄錯体Cを再結晶化する段階を含む方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法によって得られる又は得られることのできる鉄錯体C。
【請求項10】
請求項9に記載の鉄錯体Cの、アルケン又はアルキンのヒドロシリル化用触媒としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、アルケン又はアルキン化合物と、ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含む化合物とのヒドロシリル化反応に関する。特に、本発明は、これらの反応のための新規なタイプの触媒の使用に関する。これらの触媒は、特にシリコーン化合物の架橋による硬化を可能にする。
【背景技術】
【0002】
従来技術の水準
ヒドロシリル化反応(重付加としても知られている)中に、不飽和化合物、すなわち少なくとも1つの二重結合又は三重結合型の不飽和を含む化合物が、少なくとも1個のヒドロシリル官能基、すなわちケイ素原子に結合した水素原子を含む化合物と反応する。この反応は、例えば、アルケン型の不飽和の場合には、次式によって説明でき:
【化1】
又は、アルキン型の不飽和の場合には、次式によって説明できる:
【化2】
【0003】
ヒドロシリル化反応は、脱水素的シリル化反応を伴うことがあり、それに置き換わる場合もある。この反応は次式によって説明できる:
【化3】
【0004】
ヒドロシリル化反応は、特に、アルケニル又はアルキニル単位を有するオルガノポリシロキサンと、ヒドロシリル官能基を有するオルガノポリシロキサンとを含むシリコーン組成物を架橋するために使用される。
【0005】
不飽和化合物のヒドロシリル化反応は、典型的には、金属触媒又は有機金属触媒を用いた触媒作用によって実施される。現在、この反応に適した触媒は白金触媒である。したがって、特にアルケンのヒドロシリル化のための工業的なヒドロシリル化プロセスの大部分は、Speierヘキサクロロ白金酸又は一般式Pt2(ジビニルテトラメチルジシロキサン)3(Pt2(DVTMS)3と略記することがある)のカールシュテットPt(0)錯体によって触媒される。
【0006】
2000年代に入り、白金-カルベン錯体の製造により、より安定した触媒の入手が可能になった(例えば、国際公開第01/42258号参照)。
【0007】
しかし、金属又は有機金属白金触媒の使用には依然として問題がある。白金は高価な金属であり、その希少性はますます高まっており、そのコストも莫大に上昇している。そのため、工業的規模での使用は困難である。したがって、反応に必要な触媒の量を、収率や反応速度を低下させることなく、できるだけ減らすことが望まれている。カールシュテット触媒に代わるものを見出すために、数多くの研究が実施されてきた。
【0008】
このような背景から、アルケンのヒドロシリル化を実施するための新規触媒を見出すために研究が長年行われてきた。
【0009】
例えば、鉄系触媒の使用は、国際公開第2019/008279号に記載されている。この文献において、記載されている触媒は、一般式[Fe(N(SiR32xyの鉄化合物であり、式中、記号Rは水素原子又は炭化水素基を表し、xは1、2又は3の値を有し、yは1又は2の値を有する。当該触媒は、ヒドロシリル化反応又は脱水素的シリル化反応を効率的に触媒することができたように思われる。特に、これらの触媒は、シリコーンオイルへの良好な溶解性を示すため、溶媒の使用を必要としないという利点を有する。しかしながら、シリコーン組成物の架橋試験において、攪拌停止時間が約数時間であることが分かっている。
【0010】
米国特許出願公開第2016/0023196号には、カルボニル化合物のヒドロシリル化、水素化及び還元について触媒活性を示す単核鉄錯体が記載されている。この鉄錯体は、一般式[Fe(SiR32]COnmを有し、特にnは1~3の値を有する。したがって、この錯体は、鉄に配位した1個以上のカルボニル配位子を必ず含む。この文献によれば、一酸化炭素COが触媒活性を確保することを可能にする不可欠な配位子である。
【0011】
国際公開第2010/016416号には、一般式Xt-Fe-R1 s(Yu)で表される鉄錯体化合物を含むヒドロシリル化反応用触媒が記載されており、式中、Xは不飽和脂肪族C4-10基を有する環状構造、トリスピラゾリルボレート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ポルフィン及びフタロシアニンから選択される配位子を表し、R1はH、アルキル基、又はSiR3基で形成される配位子を表し、Yはアンモニア分子、カルボニル化分子、酸素原子、酸素分子、アミン分子、ホスフィン分子又はホスフィット分子で形成される配位子を表す。例示される唯一の鉄錯体は、シクロペンタジエニルメチルジカルボニル鉄である。
【0012】
このような背景から、本発明者は、上記触媒に代わる、より効果的な触媒を求めてきた。ヒドロシリル官能基とアルケン又はアルキン官能基とのヒドロシリル化反応を触媒することができる触媒を利用できることが望まれている。有利には、反応が迅速で、適度な温度、好ましくは周囲温度で行われることが望ましい。さらに、触媒は、豊富で、安価で、無毒な化学元素を含むことが望ましい。
【0013】
近年では、S.Arata及びY.Sunadaによる論文(An Isolable Iron(II) Bis(Supersilyl) Complex as an Effective Catalyst for Reduction Reactions,Dalton Trans.,2019,48,2891-2895)において、式Fe[Si(SiMe332(THF)2の鉄ビススーパーシリル錯体と、カルボニル化合物のヒドロシリル化及び分子状窒素の還元的シリル化に対するその活性が記載されている。しかし、この論文には、これらの触媒をアルケン又はアルキンのヒドロシリル化に使用することについては記載されていない。さらに、S.Arata及びY.Sunadaによる論文で得られた紫色の結晶のXRD分析から、得られた化合物(1)は式C3470FeO4Si8及び分子量823.46g.mol-1を有していたことが示される(同論文のSupporting Informationを参照)。この論文で単離された化合物は、錯体Fe[Si(SiMe332(THF)2に相当するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第01/42258号
【特許文献2】国際公開第2019/008279号
【特許文献3】米国特許出願公開第2016/0023196号明細書
【特許文献4】国際公開第2010/016416号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】S.Arata及びY.Sunada,An Isolable Iron(II) Bis(Supersilyl) Complex as an Effective Catalyst for Reduction Reactions,Dalton Trans.,2019,48,2891-2895
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明の概要
本発明の主題は、アルケン官能基及びアルキン官能基から選択される少なくとも1個の官能基を含む不飽和化合物(A)を、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)でヒドロシリル化するための方法であって、前記方法は、次式(1)で表される鉄錯体(C)によって触媒される方法である:
Fe[Si(SiR332n (1)
式中、
・それぞれのRは、互いに独立して、水素原子、又は1個以上のハロゲン原子で置換されていてよい、1~30個の炭素原子を有する炭化水素基を表し、
・それぞれのLは、互いに独立して、エーテル配位子を表し、
・n=1、2又は3である。
【0017】
本発明の別の主題は、アルケン官能基及びアルキン官能基から選択される少なくとも1個の官能基を含む少なくとも1種の不飽和化合物(A)と、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む少なくとも1種の化合物(B)と、次式(1)で表される鉄錯体(C)とを含む組成物である:
Fe[Si(SiR332n (1)
式中、
・それぞれのRは、互いに独立して、水素原子、又は1個以上のハロゲン原子で置換されていてよい、1~30個の炭素原子を有する炭化水素基を表し、
・それぞれのLは、互いに独立して、エーテル配位子を表し、
・n=1、2又は3である。
【0018】
予想外のことに、本発明者は、アルケン又はアルキン化合物のヒドロシリル化反応を効率的に触媒するために、上記のような鉄錯体(C)を有利に再結晶化できることを見出した。したがって、本発明の別の主題は、次式(1)で表される鉄錯体(C)を製造するための方法である:
Fe[Si(SiR332n (1)
式中、
・それぞれのRは、互いに独立して、水素原子、又は1個以上のハロゲン原子で置換されていてよい、1~30個の炭素原子を有する炭化水素基を表し、
・それぞれのLは、互いに独立して、エーテル配位子を表し、
・n=1、2又は3であり、
前記方法は、粗鉄錯体(C)を製造する段階、次いで前記粗鉄錯体(C)を再結晶化する段階を含む。
【0019】
前記方法によって得られる、又は得られることのできる精製鉄錯体(C)は、アルケン又はアルキンのヒドロシリル化触媒としての使用と同様に、本発明の主題である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
本文中の記号→は、配位子Lに自由電子対が存在することによる共有配位結合を表す。
【0021】
別段の指示がない限り、本説明に関係するシリコーンオイルの粘度は全て、25℃における「ニュートン」動粘度量、すなわち、それ自体既知の方法で、ブルックフィールド粘度計を用いて、測定される粘度が速度勾配に依存しない程度に十分低い剪断速度勾配で測定される動粘度に相当する。
【0022】
描写はしないが、本明細書に記載される化合物の可能な互変異性形態は、本発明の範囲内に含まれる。
【0023】
本発明において、アルキル基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。アルキル基は、好ましくは1~30個の炭素原子、より好ましくは1~12個の炭素原子、さらに好ましくは1~6個の炭素原子を含む。アルキル基は、例えば、次の基から選択できる:メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル及びn-ドデシル。
【0024】
本発明において、シクロアルキル基は単環式又は多環式とすることができ、好ましくは単環式又は二環式とすることができる。シクロアルキル基は、好ましくは3~30個の炭素原子を含み、より好ましくは3~8個の炭素原子を含む。シクロアルキル基は、例えば、次の基から選択できる:シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、アダマンチル及びノルボルニル。
【0025】
本発明において、アリール基は単環式又は多環式とすることができ、好ましくは単環式とすることができ、好ましくは6~30個の炭素原子、より好ましくは6~18個の炭素原子を含む。アリール基は、非置換であるか、又はアルキル基によって1以上置換されていてよい。アリール基は、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ジイソプロピルフェニル基及びトリイソプロピルフェニル基から選択できる。
【0026】
本発明において、アリールアルキル基は、好ましくは6~30個の炭素原子、より好ましくは7~20個の炭素原子を含む。アリールアルキル基は、例えば、次の基から選択できる:ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル、ナフチルメチル、ナフチルエチル及びナフチルプロピル。
【0027】
本発明において、ハロゲン原子は、例えば、フッ素、臭素、塩素及びヨウ素よりなる群から選択でき、フッ素が好ましい。フッ素で置換されたアルキル基は、例えば、トリフルオロプロピルとすることができる。
【0028】
本発明の主題は、不飽和化合物(A)と少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)とをヒドロシリル化するための新規な方法であって、鉄錯体(C)によって触媒されるものである。鉄錯体(C)は次式で表される:
Fe[Si(SiR332n (1)
式中、
・それぞれのRは、互いに独立して、水素原子、又は1個以上のハロゲン原子で置換されていてよい、1~30個の炭素原子を有する炭化水素基を表し、
・それぞれのLは、互いに独立して、エーテル配位子を表し、
・n=1、2又は3である。
【0029】
好ましくは、それぞれのRは、互いに独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基及びアリールアルキル基から選択される基を表し、前記基は、1個以上のハロゲン原子によって置換されていてよい。より好ましくは、それぞれのRは、互いに独立して、C1~C12アルキル基、C3~C8シクロアルキル基、C6~C12アリール基又はC7~C24アリールアルキル基を表す。より好ましくは、それぞれのRは、互いに独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、キシリル基、トリル基及びフェニル基から選択される基を表す。より好ましくは、R基はメチルである。
【0030】
本発明に係る式(1)において、それぞれのLはエーテル配位子を表し、酸素原子が保持する自由電子対によって鉄を配位する。nは配位子Lの数を表す。nは、1、2、又は3の値を有する。好ましくは、nは2の値を有する。Lが2又は3の値を有する場合には、配位子Lは同一であっても異なっていてもよい。この式(1)において、鉄は+IIの酸化状態にある。
【0031】
エーテル配位子Lは、式R1OR2の化合物から選択でき、式中、R1及びR2は、互いに独立して、1個~30個の炭素原子を有する置換又は非置換の炭化水素基を表し、1個以上のヘテロ原子を含んでいてよく、又はR1及びR2は、それらが結合している酸素原子と一緒になって、1個以上のヘテロ原子を含む環式炭化水素基を形成する。ヘテロ原子は、好ましくは、O、N、S及びPから選択される。
【0032】
第1の実施形態によれば、R1及びR2は、互いに独立して、1個~30個の炭素原子を有する置換又は非置換の炭化水素基を表し、1個以上のヘテロ原子を含んでいてよい。ヘテロ原子は、好ましくは、O、N、S及びPから選択される。好ましくは、R1及びR2は、互いに独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基及びアリールアルキル基から選択される基を表し、前記基は1個以上のハロゲン原子によって置換されていてよく、1個以上の炭素原子が酸素原子で置換されていてもよい。より好ましくは、R1及びR2は、互いに独立して、C1~C12アルキル基、C3~C8シクロアルキル基、C6~C12アリール基、C7~C24アリールアルキル基、(C1~C12アルキル)オキシ(C1~C12アルキル)基、(C3~C8シクロアルキル)オキシ(C1~C12アルキル)基、(C6~C12アリール)オキシ(C1~C12アルキル)基、又は(C7~C24アリールアルキル)オキシ(C1~C12アルキル)基を表す。より好ましくは、R1及びR2は、互いに独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、キシリル基、トリル基、フェニル基、メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、エトキシプロピル基、プロポキシメチル基、プロポキシエチル基、プロポキシプロピル基、フェニルオキシメチル基、フェニルオキシエチル基及びフェニルオキシプロピル基から選択される基を表す。配位子Lは、例えば、次の群から選択するできる:メチルエーテル、エチルエーテル、エチルメチルエーテル及びジメトキシエタン。
【0033】
第2の実施形態によれば、R1及びR2は、それらが結合している酸素原子と一緒になって、1個以上のヘテロ原子を含む環式炭化水素基を形成する。ヘテロ原子は、好ましくはO、N、S及びPから選択される。配位子Lは、1個又は2個の酸素原子と、2個~12個の炭素原子、好ましくは2個~6個の炭素原子とを含み、ハロゲン原子で1以上置換されていてよい環式化合物、好ましくは単環式化合物から選択できる。配位子Lは、例えば、次の群から選択できる:テトラヒドロフラン、エチレンオキシド、1,3-プロピレンオキシド、テトラヒドロピラン、オキセパン、1,2-ジオキサン、1,3-ジオキサン及び1,4-ジオキサン。好ましくは、配位子Lはテトラヒドロフランであってもよい。
【0034】
非常に好ましい実施形態によれば、本発明に係る鉄錯体(C)は、次の化合物とすることができる。
【化4】
【0035】
予想外なことに、本発明者は、アルケン又はアルキン化合物のヒドロシリル化反応を効率的に触媒するために、上記のような鉄錯体(C)を有利に再結晶化できることを見出した。したがって、本発明の別の主題は、上記のような鉄錯体(C)を製造するための方法であり、前記方法は、粗鉄錯体(C)を製造する段階、次いで、前記粗鉄錯体(C)を再結晶化する段階を含む。
【0036】
粗鉄錯体(C)の製造は、当業者に知られている方法又は文献に記載された方法に従って実施できる。例えば、S.Arata及びY.Sunada,An Isolable Iron(II) Bis(Supersilyl) Complex as an Effective Catalyst for Reduction Reactions,Dalton Trans.,2019,48,2891-2895に記載の製造方法を参照することができる。
【0037】
一実施形態によれば、鉄錯体(C)の製造は、配位子Lの存在下で、ハロゲン化鉄(II)、例えばFeCl2又はFeBr2と、過シリル化陰イオンのアルカリ塩、例えばKSi(SiR33とを反応させることによって実施できる。過シリル化陰イオンのアルカリ塩の量は、ハロゲン化鉄に対して少なくとも2モル当量である。配位子Lは過剰量とすることができる。典型的には、配位子Lは反応の溶媒として使用できる。反応終了後に、鉄錯体(C)を反応媒体から分離し、当業者に公知の技術に従って任意に結晶化させることができる。このようにして粗鉄錯体(C)が得られる。
【0038】
本発明によれば、粗鉄錯体(C)には再結晶化段階が施される。再結晶化溶媒は、ペンタン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン及びメチルシクロヘキサンから選択できる。好ましくは、再結晶化溶媒はペンタンである。再結晶化溶媒の量は、好ましくは粗錯体100mgあたり0.5ml~5.0ml、より好ましくは粗錯体100mgあたり1.0ml~2.0mlとすることができる。
【0039】
このようにして精製された鉄錯体(C)も、アルケン又はアルキンのヒドロシリル化触媒としての使用と同様に本発明の主題である。
【0040】
上記鉄錯体(C)は、アルケン官能基及びアルキン官能基から選択される少なくとも1個の官能基を有する不飽和化合物(A)と、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を有する化合物(B)とのヒドロシリル化反応用触媒として使用できることが見出された。
【0041】
ヒドロシリル化反応は、脱水素的シリル化反応を伴うことができる。上記鉄錯体(C)は、有利には、アルケン官能基及びアルキン官能基から選択される少なくとも1個の官能基を含む不飽和化合物(A)と、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)との脱水素的シリル化反応の触媒としても使用できる。本明細書において、特に断りのない限り、ヒドロシリル化反応に関する解説や説明は、脱水素的シリル化反応にも当てはまる。
【0042】
本発明の別の主題は、アルケン官能基及びアルキン官能基から選択される少なくとも1個の官能基を含む少なくとも1種の不飽和化合物(A)と、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む少なくとも1種の化合物(B)と、次式(1)で表される鉄錯体(C)とを含む組成物である:
Fe[Si(SiR332n (1)
式中、
・それぞれのRは、互いに独立して、水素原子、又は1個以上のハロゲン原子で置換されていてよい、1~30個の炭素原子を有する炭化水素基を表し、
・それぞれのLは、互いに独立して、エーテル配位子を表し、
・n=1、2又は3である。
【0043】
本発明に係るヒドロシリル化方法において使用される不飽和化合物(A)は、芳香環の一部を形成していない少なくとも1個のアルケン又はアルキン不飽和を含む化合物である。不飽和化合物(A)は、アルケン官能基及びアルキン官能基から選択される少なくとも1個の官能基、好ましくはアルケン官能基から選択される少なくとも1個の官能基を含む。このものは当業者に知られているもの、及びヒドロシリル化反応を妨害し、実際に阻害する可能性のある反応性化学官能基を含まないものから選択できる。
【0044】
一実施形態によれば、不飽和化合物(A)は、1個以上のアルケン官能基及び2~40個の炭素原子を含む。別の実施形態によれば、不飽和化合物(A)は、1個以上のアルキン官能基及び2~40個の炭素原子を含む。
【0045】
不飽和化合物(A)は、好ましくは、アセチレン、C1~C4アルキルアクリレート及びメタクリレート、アクリル酸又はメタクリル酸、アルケン、好ましくはオクテン、より好ましくは1-オクテン、アリルアルコール、アリルアミン、アリルグリシジルエーテル、アリルピペリジニルエーテル、好ましくはアリル立体障害ピペリジニルエーテル、スチレン、好ましくはα-メチルスチレン、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、塩素化アルケン、好ましくは塩化アリル、フッ素化アルケン、好ましくは4,4,5,5,6,6,7,7,7-ノナフルオロ-1-ヘプテンよりなる群から選択できる。
【0046】
不飽和化合物(A)は、ビニルペンタメチルジシロキサン、ジビニルテトラメチルジシロキサンなどのジシロキサンとすることができる。
【0047】
不飽和化合物(A)は、数個のアルケン官能基、好ましくは2個又は3個のアルケン官能基を含む化合物から選択でき、特に好ましくは、化合物(A)は次の化合物から選択される。
【化5】
【0048】
特に好ましい実施形態によれば、不飽和化合物(A)は、1個以上のアルケン官能基、好ましくは少なくとも2個のアルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物とすることができる。アルケンのヒドロシリル化反応は、シリコーン化学の重要な反応の一つである。これは、SiH官能基を有するオルガノポリシロキサンとアルケニル官能基を有するオルガノポリシロキサンとを架橋してネットワークを形成し、材料に機械的性質を付与するだけでなく、SiH官能基を有するオルガノポリシロキサンを官能化して、その物性及び化学的性質を改変することを可能にする。前記オルガノポリシロキサン化合物は、特に、
・次式の少なくとも2個のシロキシル単位:
ViabSiO(4-a-b)/2
(式中、
Viは、C2~C6アルケニル基、好ましくはビニル基であり、
Uは、1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり、好ましくは、メチル基、エチル基又はプロピル基などの1~8個の炭素原子を有するアルキル基、3~8個の炭素原子を有するシクロアルキル基、及び6~12個の炭素原子を有するアリール基から選択され、
a=1、2又は3、好ましくはa=1又は2;b=0、1又は2;及び合計a+b=1、2又は3である。)と、
・任意に次式の単位:UcSiO(4-c)/2
(式中、Uは上記と同じ意味を有し、c=0、1、2又は3である。)と
から構成される。
【0049】
上記の式において、複数のU基が存在する場合、それらは互いに同一でも異なっていてもよいものとする。
【0050】
1個以上のアルケン官能基を含むこれらのオルガノポリシロキサン化合物は、シロキシル単位Vi2SiO2/2、ViUSiO2/2及びU2SiO2/2よりなる群から選択されるシロキシル単位「D」及び「DVi」と、シロキシル単位ViU2SiO1/2、Vi2USiO1/2及びU3SiO1/2よりなる群から選択される末端シロキシル単位「M」及び「MVi」とから本質的になる直鎖構造を有することができる。記号Vi及びUは上記の通りである。
【0051】
末端「M」及び「MVi」単位の例としては、トリメチルシロキシ基、ジメチルフェニルシロキシ基、ジメチルビニルシロキシ基又はジメチルヘキセニルシロキシ基を挙げることができる。
【0052】
「D」及び「DVi」単位の例としては、ジメチルシロキシ基、メチルフェニルシロキシ基、メチルビニルシロキシ基、メチルブテニルシロキシ基、メチルヘキセニルシロキシ基、メチルデセニルシロキシ基又はメチルデカジエニルシロキシ基を挙げることができる。
【0053】
本発明に係る1個以上のアルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物であることができる直鎖オルガノポリシロキサンの例は、以下の通りである:
・ジメチルビニルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン);
・ジメチルビニルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン-コ-メチルフェニルシロキサン);
・ジメチルビニルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン-コ-メチルビニルシロキサン);
・トリメチルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン-コ-メチルビニルシロキサン);及び
・環状ポリ(メチルビニルシロキサン)。
【0054】
最も推奨される態様において、1個以上のアルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物は、末端ジメチルビニルシリル単位を含む。さらに好ましくは、1個以上のアルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物は、ジメチルビニルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン)である。
【0055】
シリコーンオイルの粘度は、一般に、1mPa.s~2,000,000mPa.sである。好ましくは、1個以上のアルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物は、25℃で20mPa.s~100000mPa.s、好ましくは25℃で20mPa.s~80000mPa.s、より好ましくは100mPa.s~50000mPa.sの動的粘度を有するシリコーンオイルである。
【0056】
任意に、1個以上のアルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物は、さらに、シロキシル単位「T」(USiO3/2)及び/又はシロキシル単位「Q」(SiO4/2)を含むことができる。U記号は上記の通りである。そして、1個以上のアルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物は、分岐構造を有する。
【0057】
本発明に係る1個以上のアルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物である、樹脂とも呼ばれる分岐オルガノポリシロキサンの例は以下の通りである:
・MDViQ、ここで、ビニル基はD単位に含まれる、
・MDViTQ、ここで、ビニル基はD単位に含まれる、
・MMViQ、ここで、ビニル基はM単位の一部に含まれる、
・MMViTQ、ここでビニル基はM単位の一部に含まれる、
・MMViDDViQ、ここで、ビニル基はM単位及びD単位の一部に含まれる、
・及びそれらの混合物;
ここで、MVi=式(U)2(ビニル)SiO1/2のシロキシル単位、DVi=式(U)(ビニル)SiO2/2のシロキシル単位、T=式(U)SiO3/2のシロキシル単位、Q=式SiO4/2のシロキシル単位、M=式(U)3SiO1/2のシロキシル単位、及びD=式(U)2SiO2/2のシロキシル単位であり、Uは上記の通りである。
【0058】
好ましくは、1個以上のアルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物は、0.001重量%~30重量%、好ましくは0.01重量%~10重量%、より好ましくは0.02重量%~5重量%のアルケニル単位の含有量を有する。
【0059】
不飽和化合物(A)は、本発明に従って、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)と反応する。
【0060】
一実施形態によれば、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)は、ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含むシラン又はポリシラン化合物である。「シラン」化合物とは、本発明において、4個の水素原子又は有機置換基に結合したケイ素原子を含む化合物を意味するものとする。「ポリシラン」化合物は、本発明において、少なくとも1個の≡Si-Si≡単位を有する化合物を意味するものとする。
【0061】
シラン化合物のうち、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)は、フェニルシラン、又はモノ-、ジ-若しくはトリアルキルシラン、例えばトリエチルシランとすることができる。
【0062】
別の実施形態によれば、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)は、ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含むオルガノポリシロキサン化合物であり、オルガノヒドロポリシロキサンとも呼ばれる。当該オルガノヒドロポリシロキサンは、有利には、
・次式の少なくとも2個のシロキシル単位:
deSiO(4-d-e)/2
(式中、
Uは、1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり、好ましくは、メチル基、エチル基又はプロピル基などの1~8個の炭素原子を有するアルキル基、3~8個の炭素原子を有するシクロアルキル基、及び6~12個の炭素原子を有するアリール基から選択され、
d=1、2又は3、好ましくはd=1又は2;e=0、1又は2;及びd+e=1、2又は3である。)と、
・任意に次式の単位:UfSiO(4-f)/2
(式中、Uは上記と同じ意味を有し、f=0、1、2又は3である。)と
から構成されるオルガノポリシロキサンであることができる。
【0063】
上記の式において、いくつかのU基が存在する場合、それらは互いに同一でも異なっていてもよいものとする。優先的には、Uは、塩素又はフッ素などの少なくとも1個のハロゲン原子で置換されていてよい、1~8個の炭素原子を有するアルキル基、3~8個の炭素原子を有するシクロアルキル基、及び6~12個の炭素原子を有するアリール基よりなる群から選択される1価の基を表すことができる。Uは、有利には、メチル、エチル、プロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル、キシリル、トリル及びフェニルよりなる群から選択できる。
【0064】
上記の式中、記号dは、好ましくは1に等しい。
【0065】
オルガノヒドロポリシロキサンは、直鎖状、分岐状又は環状の構造を有することができる。重合度は好ましくは2以上であり、一般的には5000以下である。
【0066】
直鎖重合体に関する場合、これらは、次式D:U2SiO2/2又はD’:UHSiO2/2の単位から選択されるシロキシル単位と、次式M:U3SiO1/2又はM’:U2HSiO1/2の単位から選択される末端シロキシル単位とから本質的になり、ここで、Uは上記と同じ意味を有する。
【0067】
本発明に係る少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)であることができるオルガノヒドロポリシロキサンの例は、以下の通りである:
・ヒドロジメチルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン);
・トリメチルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン-コ-メチルヒドロシロキサン);
・ヒドロジメチルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン-コ-メチルヒドロシロキサン);
・トリメチルシリル末端を有するポリ(メチルヒドロシロキサン);及び
・環状ポリ(メチルヒドロシロキサン)。
【0068】
オルガノヒドロポリシロキサンが分岐構造を有する場合、好ましくは、次式のシリコーン樹脂よりなる群から選択される:
・M’Q、ここで、ケイ素原子に結合した水素原子はM基によって保持される、
・MM’Q、ここで、ケイ素原子に結合した水素原子はM単位の一部によって保持される、
・MD’Q、ここで、ケイ素原子に結合した水素原子はD基によって保持される、
・MDD’Q、ここで、ケイ素原子に結合した水素原子はD基の一部によって保持される、
・MM’TQ、ここで、ケイ素原子に結合した水素原子はM単位の一部によって保持される、
・MM’DD’Q、ここで、ケイ素原子に結合した水素原子はM単位及びD単位の一部によって保持される、
・及びそれらの混合物
ここで、M、M’、D及びD’は上で定義した通りであり、T:式USiO3/2のシロキシル単位及びQ:式SiO4/2のシロキシル単位であり、ここで、Uは上記と同じ意味を有する。
【0069】
好ましくは、オルガノヒドロポリシロキサン化合物は、ヒドロシリルSi-H官能基の含有量が0.2重量%~91重量%、より好ましくは3重量%~80重量%、さらに好ましくは15重量%~70重量%である。
【0070】
本発明の特定の実施態様によれば、不飽和化合物(A)及び少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む成分(B)が、一方では、少なくとも1個のケトン官能基、1個のアルデヒド官能基、1個のアルケン官能基及び/又は1個のアルキン官能基と、他方では、少なくとも1個のケイ素原子及びケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子とを含む1種の同じ化合物であることが可能である。この化合物は「二官能性」であると説明することができ、ヒドロシリル化反応によってそれ自体が反応することができる。したがって、本発明は、二官能性化合物自体をヒドロシリル化するための方法に関することもでき、前記二官能性化合物は、一方では、ケトン官能基、アルデヒド官能基、アルケン官能基及びアルキン官能基よりなる群から選択される少なくとも1個の官能基(好ましくは、少なくとも1個のアルケン官能基及び/又は少なくとも1個のアルキン官能基)と、他方では、少なくとも1個のケイ素原子及びケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子とを含み、前記方法は、上記のような鉄錯体(C)によって触媒される。
【0071】
二官能性化合物であることができるオルガノポリシロキサンの例は以下の通りである:
・ジメチルビニルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン-コ-ヒドロメチルシロキサン-コ-ビニルメチルシロキサン)、
・ジメチルヒドロシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン-コ-ヒドロメチルシロキサン-コ-ビニルメチルシロキサン);及び
・トリメチルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン-コ-ヒドロメチルシロキサン-コ-(プロピルグリシジルエーテル)メチルシロキサン)。
【0072】
不飽和化合物(A)及び少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)の使用に関する場合、当業者であれば、これは二官能性化合物の使用も意味することが分かる。
【0073】
化合物(A)及び化合物(B)の量は、化合物(A)のアルケン官能基及びアルキン官能基に対する化合物(B)のヒドロシリル官能基のモル比が、好ましくは1:10~10:1、より好ましくは1:5~5:1、さらに好ましくは1:3~3:1となるように制御できる。
【0074】
ヒドロシリル化反応は、溶媒中又は溶媒の非存在下で実施できる。別の態様では、反応物の一つ、例えば不飽和化合物(A)は溶媒として作用することができる。適切な溶媒は、化合物(B)と混和性の溶媒である。ヒドロシリル化反応は、15℃~300℃、好ましくは20℃~240℃、より好ましくは50℃~200℃、より好ましくは50℃~140℃、さらに好ましくは50℃~100℃の温度で実施できる。
【0075】
鉄錯体(C)のモル濃度は、不飽和化合物(A)が保持する不飽和の総モル数に対して、0.01モル%~15モル%、より好ましくは0.05モル%~10モル%、さらに好ましくは0.1モル%~8モル%であることができる。別の形態によれば、本発明に係る方法において使用される鉄の量は、化合物(A)、(B)及び(C)の総重量に対して、溶媒の存在の可能性を考慮せずに、10ppm~3000ppm、より好ましくは20ppm~2000ppm、さらに好ましくは20ppm~1000ppmである。好ましい別の形態によれば、本発明に係る方法において、白金、パラジウム、ルテニウム又はロジウムをベースとする化合物は使用しない。反応媒体中の白金、パラジウム、ルテニウム又はロジウムをベースとする化合物の量は、触媒Cの重量に対して、例えば0.1重量%未満、好ましくは0.01重量%未満、より好ましくは0.001重量%未満である。
【0076】
本発明の好ましい実施態様によれば、採用される化合物(A)及び(B)は、上で定義したオルガノポリシロキサンから選択される。この場合、三次元ネットワークが形成され、その結果、組成物が硬化する。架橋は、組成物を構成する媒体の緩やかな物理的変化を伴う。その結果、本発明に係る方法を使用して、エラストマー、ゲル、発泡体などを得ることができる。この場合、架橋シリコーン材料が得られる。用語「架橋シリコーン材料」とは、少なくとも2個の不飽和結合を有するオルガノポリシロキサンと少なくとも3個のヒドロシリル単位を有するオルガノポリシロキサンとを含む組成物を架橋及び/又は硬化させることによって得られる任意のシリコーン系生成物を意味するものとする。架橋されたシリコーン材料は、例えば、エラストマー、ゲル又は発泡体であることができる。
【0077】
化合物(A)及び(B)が上で定義したようなオルガノポリシロキサンから選択される、本発明に係る方法のこの好ましい実施形態によれば、シリコーン組成物において通常の機能性添加剤を使用することが可能である。通常の機能性添加剤類としては、次のものを挙げることができる:
・充填剤、
・接着促進剤、
・ヒドロシリル化反応の抑制剤又は遅延剤、
・接着調節剤、
・シリコーン樹脂、
・稠度向上添加剤、
・顔料
・耐熱性添加剤、耐油性添加剤、耐火性添加剤、例えば金属酸化物など。
【0078】
本発明の他の詳細又は利点は、単に例示目的で以下に示す実施例に照らせば、より明確に明らかになるであろう。
【実施例
【0079】
例1:トリス(トリメチルシリル)シリルカリウムの合成
1当量の((CH33Si)4Si(5.00g、1.56×10-2mol)及び1当量のt-BuOK(1.75g、1.56×10-2mol)を25mlのシュレンク管に導入した。5mlのTHFを添加した。周囲温度で1時間30分反応させた後、溶媒を動的真空下で蒸発させた。結晶化、洗浄及び乾燥後、生成物K[Si(SiMe33]・1.4THFを白色結晶の状態で、82.8%の収率で得た。
【0080】
例2:従来技術に係る鉄錯体(THF) 2 Fe[Si(SiMe 3 3 2 の合成
S.Arata及びY.Sunada(Dalton Trans.,2019,48,2891-2895)に記載の合成プロトコルを再現した。
【化6】
【0081】
FeBr2(1.029g、4.77×10-3mol)の懸濁液を、100mlのシュレンク管内の20mlのTHFで調製した。例1に従って得られた2当量のK[Si(SiMe33]・1.4THF(3.700g、9.54×10-3mol)を、25mlのシュレンク管中の15mlのTHFに溶解させた。K[Si(SiMe33]・1.4THF溶液をFeBr2懸濁液に周囲温度で急速に滴下添加した。1時間反応させた後、アルゴン下で包装された密閉PTFEチューブ内で、暗紫色の溶液を3℃で10分間遠心分離して不溶性物質を除去した。溶液を回収した後、溶媒を動的真空下で蒸発させた。その後、得られた紫色の固体を80mlのペンタンに溶解した。その後、緑色の溶液を、アルゴン下で包装された密閉PTFEチューブ内で、3℃で10分間遠心分離して不溶性物質を除去した。5mlのTHFを加えた後、溶液をその初期体積の約15%まで濃縮し、-30℃まで冷却させた。このようにして、錯体(THF)2Fe[Si(SiMe332を、結晶化後に、真空下で乾燥させた紫色の結晶の状態で得た(収率:83.0%)。
【0082】
例3:本発明に係る鉄錯体(THF) 2 Fe[Si(SiMe 3 3 2 の合成
従来技術に従って例2で得られた紫色の結晶を再結晶化した(100mgの結晶の部分あたり1.5mlのペンタン)。
【0083】
このようにして、本発明に従って再結晶化した後に、錯体(THF)2Fe[Si(SiMe332を再結晶収率84%で得た。
【0084】
本発明に係る例3で得られた結晶の分析により、式C2670FeO2Si8及び分子量695.39g.mol-1の錯体が得られたことが実証された。比較のために、S.Arata及びY.Sunadaの論文で得られた紫色の結晶は、XRD分析によれば、式C3470FeO4Si8及び分子量823.46g.mol-1の化合物に相当する(Supporting Information,Dalton Trans.,2019,48,2891-2895参照)。
【0085】
例4~16:架橋試験
不活性アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で所要重量の触媒を秤量し、乾燥密閉フラスコに導入した。続いて、オルガノポリシロキサンを、やはり不活性雰囲気下でフラスコに導入し、その後フラスコを所望の温度(t=0)に予熱した小型金属バレルに入れた。架橋試験のゲル時間は、攪拌停止時間(SST)によって定性的に測定した。このSSTは、媒体がもはや攪拌できないほど大きな粘度の上昇と関連している(約1000mPa.sの粘度に相当)。
【0086】
例4~9では、不飽和化合物は、1.1重量%~1.25重量%のビニル官能基を含むジメチルビニルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン)である。ヒドロシリル官能基を有する化合物は、56重量%のSiH官能基を含有するトリメチルシリル末端を有するポリ(メチルヒドロシロキサン)である。SiH/SiViモル比=4であり、触媒量=7モル%(不飽和化合物が寄与するケイ素に結合したビニル基のモル数に対する触媒が寄与する鉄元素のモル百分率)であり、T=30℃である。
【0087】
【表1】
【0088】
これらの実験条件下で、再結晶化段階を経た本発明に係る触媒で触媒された反応(例7、8、9)ついては、攪拌停止時間は1時間~2時間であった。再結晶化されていない従来技術の触媒(例4、5、6)を用いて実施された反応の場合には、試験の再現性に乏しく、攪拌停止時間は2時間40分~45時間であることが分かる。
【0089】
これらの例から明らかなように、従来技術に記載されている触媒では、本発明の触媒と同じ技術的結果が得られない。このように、両者は物理的に異なる。
【0090】
例10~16において、不飽和化合物は、1.1重量%~1.25重量%のビニル官能基を含有するジメチルビニルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン)であり、ヒドロシリル官能基を有する化合物は、56重量%のSiH官能基を含有するトリメチルシリル末端を有するポリ(メチルヒドロシロキサン)であり、SiH/SiViモル比=4であり、触媒:例3の再結晶化(THF)2Fe[Si(SiMe332錯体であり、触媒量=7モル%(不飽和化合物が寄与するケイ素に結合したビニル基のモル数に対する触媒が寄与する鉄元素のモル百分率)。
【0091】
【表2】
【0092】
例17~22:官能化試験
不活性アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で所要重量の触媒を秤量し、乾燥密閉フラスコに導入した。最初にドデカン(0.3g)を導入した。触媒を溶解させるために、媒体を撹拌した。まず、所要重量のヒドロシリル官能基を有する化合物を、次に所要重量のアルケンをフラスコに導入した。その後、フラスコを所望の温度(t=0)に余熱した小型金属バレルに入れた。
【0093】
反応媒体をガスクロマトグラフィーで定量分析し、転化率及び選択率を求めた。
【0094】
例17~22において、ヒドロシリル官能基を有する化合物は、1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-ヒドロトリシロキサン(=MD’M)であり、SiH/SiViモル比=1であり、触媒:例3の再結晶化(THF)2Fe[Si(SiMe332錯体であり、触媒量=0.5モル%(不飽和化合物が寄与するケイ素に結合したビニル基のモル数に対する触媒が寄与する鉄元素のモル百分率)である。(Vpdms=ビニルペンタメチルジシロキサン;Dvtms=ジビニルテトラメチルジシロキサン)。
【0095】
【表3】
【国際調査報告】