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特表2024-533182酸性pHで増強された効力を有するN-メチル-D-アスパラギン酸受容体のGluN2Bサブユニット選択的アンタゴニスト
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  • 特表-酸性pHで増強された効力を有するN-メチル-D-アスパラギン酸受容体のGluN2Bサブユニット選択的アンタゴニスト 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】酸性pHで増強された効力を有するN-メチル-D-アスパラギン酸受容体のGluN2Bサブユニット選択的アンタゴニスト
(51)【国際特許分類】
   C07D 215/227 20060101AFI20240905BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20240905BHJP
   A61K 31/495 20060101ALI20240905BHJP
   C07D 239/80 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 11/14 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 25/36 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C07D215/227 CSP
A61K31/496
A61K31/495
C07D239/80
A61P9/00
A61P9/10
A61P17/02
A61P11/14
A61P25/36
A61P25/18
A61P25/04
A61P29/00
A61P43/00 105
A61P21/00
A61P25/24
A61P25/28
A61P25/08
A61P25/02
A61P25/14
A61P25/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514040
(86)(22)【出願日】2022-09-02
(85)【翻訳文提出日】2024-04-25
(86)【国際出願番号】 US2022042496
(87)【国際公開番号】W WO2023034589
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】63/240,125
(32)【優先日】2021-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504391260
【氏名又は名称】エモリー ユニバーシティー
(71)【出願人】
【識別番号】524078044
【氏名又は名称】ニューロプ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】リオッタ, デニス
(72)【発明者】
【氏名】トレイネリス, スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン, ローレンス
(72)【発明者】
【氏名】タヒロヴィッチ, イェシム アルタス
(72)【発明者】
【氏名】メナルディーノ, デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】マイヤーズ, スコット
(72)【発明者】
【氏名】プアナチャリー, カマレシュ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC50
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA22
4C086MA23
4C086MA28
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA44
4C086MA52
4C086MA65
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA06
4C086ZA08
4C086ZA12
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZA18
4C086ZA36
4C086ZA62
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZA94
4C086ZB11
4C086ZB21
4C086ZC39
4C086ZC51
(57)【要約】
GluN2B含有N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)を選択的に阻害する化合物が開示される。ある場合には、化合物は、GluN2A、GluN2C、および/またはGluN2DよりもGluN2Bを選択的に標的にする。一般的に、化合物は、生理的pHと比較してより酸性のpHにおいて、GluN2Bに対して増強された効力を有する。化合物の1つまたは複数を含有する医薬製剤も開示される。加えて、化合物またはそれらの医薬製剤を使用して状態、障害または疾患を処置する方法が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの構造
【化28】
を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは水和塩
[式中、Rは、
【化29】
から選択され、R、R、R、およびRは、水素、メチル、およびハロメチルから独立に選択され、
およびRは、水素、メチル、およびハロメチルから独立に選択される]。
【請求項2】
が、
【化30】
である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
が、
【化31】
である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
およびRが、共に水素である、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
【化32】
ならびにその薬学的に許容される塩、水和物および水和塩から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
式IIの構造
【化33】
を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは水和塩
[式中、Rは、水素、メチル、ハロメチル、エチル、ハロエチル、イソプロピル、およびハロイソプロピルから選択され、
およびRは、水素、メチル、およびハロメチルから独立に選択される]。
【請求項7】
が、メチルおよびハロメチルから選択される、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
およびRが、共に水素である、請求項6または7に記載の化合物。
【請求項9】
前記化合物が、式IおよびIIに図示される通り*印によって標識された立体中心に関して、R立体配置が80%超、85%超、90%超、または95%超の鏡像体過剰率で存在する、請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物を含む組成物。
【請求項10】
前記化合物が、式IおよびIIに図示される通り*印によって標識された立体中心に関して、R立体配置が95%超の鏡像体過剰率で存在する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物または請求項9もしくは10に記載の組成物を含む医薬製剤であって、前記医薬製剤が薬学的に許容される賦形剤をさらに含む、医薬製剤。
【請求項12】
前記医薬製剤が、錠剤、カプセル剤、カプレット剤、丸剤、ビーズ剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、ゲル剤、クリーム剤、液剤、懸濁液剤、エマルション剤、およびナノ粒子製剤から選択される形態で存在する、請求項11に記載の医薬製剤。
【請求項13】
前記医薬製剤が、経口または静脈内製剤である、請求項11または12に記載の医薬製剤。
【請求項14】
前記医薬製剤が、凍結乾燥散剤の形態で存在する、請求項11または12に記載の医薬製剤。
【請求項15】
前記医薬製剤が、滅菌水溶液の形態で存在する、請求項11または12に記載の医薬製剤。
【請求項16】
状態、障害または疾患を処置することを必要とする対象の状態、障害または疾患を処置する方法であって、有効量の請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物または請求項9もしくは10に記載の組成物を前記対象に投与することを含み、前記状態、障害または疾患が、脳卒中、くも膜下出血、脳虚血、脳血管痙攣、低酸素症、急性CNS傷害、脊髄傷害、外傷性脳傷害、冠動脈バイパスグラフト、持続性または慢性咳嗽、物質乱用障害、オピエート離脱、オピエート耐性、双極性障害、自殺念慮、疼痛、線維筋痛症、うつ病、産後うつ病、静止時振戦、認知症、てんかん、発作障害、運動障害、および神経変性疾患から選択される、方法。
【請求項17】
前記状態、障害または疾患が、疼痛、うつ病、脳卒中、またはくも膜下出血である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記疼痛が、神経障害性疼痛である、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記疼痛が、慢性疼痛である、請求項16または17に記載の方法。
【請求項20】
前記疼痛が、がん疼痛である、請求項16または17に記載の方法。
【請求項21】
前記うつ病が、治療抵抗性うつ病である、請求項16または17に記載の方法。
【請求項22】
前記神経変性疾患が、ハンチントン病、アルツハイマー病、またはパーキンソン病である、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
前記てんかんが、遺伝的変異によって引き起こされる、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
前記発作障害が、乳児性痙縮である、請求項16に記載の方法。
【請求項25】
前記認知症が、AIDS誘発性認知症である、請求項16に記載の方法。
【請求項26】
前記低酸素症が、呼吸不全、人工呼吸器の長時間使用、またはそれらの両方によって誘発される、請求項16に記載の方法。
【請求項27】
前記呼吸不全、人工呼吸器の長時間使用、またはそれらの両方が、COVID-19と関連している、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記化合物または組成物が、経口または静脈内投与される、請求項16~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記対象が、ヒトである、請求項16~28のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2021年9月2日出願の米国仮出願第63/240,125号の優先権を主張するものであり、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本開示は、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)モジュレーターに関し、特に、生理的pHよりも高い酸性のpHにおいて、GluN2Bに対して増強された効力を有するNMDARのGluN2Bサブユニット選択的アロステリックモジュレーターに関する。本開示はまた、そのようなNMDARモジュレーターを含有する医薬製剤、ならびにそのようなNMDARモジュレーターを使用して状態、障害、および疾患を処置するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
脳虚血、脳卒中、くも膜下出血(SAH)、および外傷性脳傷害(TBI)はすべて、実質的な神経細胞死を生じ、それらは致命的というわけではなくとも、社会的に与える著しい影響を伴って長きにわたる能力障害を生じ得る。患者のあるサブセットにおける血餅溶解または大動脈において閉塞が生じる場合の血餅除去は別として、脳卒中に現在利用可能な治療選択肢はほとんどない。SAHは、カルシウムチャネル遮断薬で処置することができるが、かなりの割合の患者がその後の虚血エピソードおよび死亡に進行するので、治療を改善する機会はかなり残っている。TBIにおける神経保護のために承認されている薬理学的戦略はまだない。
【0004】
細胞外グルタミン酸濃度は、急性傷害を有する動物モデルおよびヒト患者の損傷したCNS組織において上昇する(Yuan, et al., Neuron, 2015, 85(6):1305-1318の別添の表S1を参照されたい)。細胞外グルタミン酸の増加の結果の1つが、NMDARの過剰活性化であり、これは神経毒性になり得る(Choi, et al., J Neurosci, 1988, 8:185-196)。論理的には、グルタミン酸を上昇させる侵襲中のNMDARの阻害は、神経保護をもたらすはずであるということになっており、いくつかのNMDARアンタゴニストの有効性が、傷害の動物モデルにおいて確認された。しかし、NMDARアンタゴニストを使用する脳卒中またはTBIの複数の臨床試験は、患者の転帰を改善することができていないか、または許容されない副作用と関連しているかのいずれかであったため、まだ有望な前臨床結果が臨床的成功につながっていない(Yuan, et al., Neuron, 2015, 85(6):1305-1318)。GluN2B選択的アンタゴニストの発見以来、高度に選択的なGluN2B選択的アンタゴニストの様々な足場が報告されており、脳卒中(Yuan, et al., Neuron, 2015, 85(6):1305-1318)、TBI(Yurkewicz, et al., J Neurotrauma, 2005, 22:1428-1443)、パーキンソン病(Michel, et al., PLoS One, 2014, 9(12):e114086、Michel, et al., PLoS One, 2015,10(8):e0135949)、うつ病(Bristow, et al., J Pharmacol Exp Ther, 2017, 363(3):377-93)、および疼痛(Swartjes, et al., Anesthesiology, 2011 115(1):165-74、Labas, et al., Eur J Med Chem, 2011, 46(6):2295-309)における使用について、前臨床および臨床研究で試験された。前臨床有効性の達成が明らかであるにも関わらず、臨床使用のためのGluN2B選択的阻害剤は承認されていない。
【0005】
一部のCNS状態、障害、および疾患では、pHは生理学において重要な役割を演じている。神経細胞の活動電位発火は、イオン勾配の使用によりエネルギーを消費し、このことは、細胞膜にわたる複数の有機および無機イオンの移動と関連している。神経細胞の高発火率は、細胞外pHを変えることが公知であり(Kraig et al., J Neurophysiol, 1983, 49(3):831-50、Sykova et al., Ciba Found Symp, 1988, 139:220-35、Tong and Chesler, Brain Res., 1999, 815(2):373-81)、高頻度発火によって実質的なプロトン負荷が放出される(Theparambil, et al., Nat Commun, 2020, 11(1):5073)。これらのプロトンは、細胞外炭酸水素イオンによって緩衝されるが、発火率が高くなるか、または増加した細胞外カリウムによって達成される場合(Kraig et al., J Neurophysiol, 1983, 49(3):831-50)、発作、虚血、低酸素症、およびTBI中に生じる通り(例えば、Mutch and Hansen, J Cereb Blood Flow Metab, 1984, 4(1):17-27)、緩衝能をブーストする代償的機序が上手く働かず、実質的な酸性化がもたらされる(Theparambil, et al., Nat Commun, 2020, 11(1):5073)。小さい一次求心性疼痛線維の反復刺激は、多くの場合ワインドアップ(windup)と呼ばれる活動電位放電の進行性増加(Woolf and Thompson, Pain, 1991, 44(3):293-299)、および脊髄神経細胞の興奮性の持続的増大をもたらし得る。疼痛経路に沿って高レベルの活動電位発火を生じるこのような状況は、前述の通り細胞外空間へのプロトン転移をもたらすと予測される。一部の病理学的状況、例えば、慢性疼痛では、発火率は実施的なものとなり得、局所的酸性化を生じ得、それによって、低pHで増加した効力を有する阻害剤に対してNMDARが感度を示すようになる。
まとめると、特にCNS状態、障害、および疾患について改善された前臨床および/または臨床転帰を有するGluN2B選択的NMDARアンタゴニストが緊急に必要である。さらに、生理的pHよりも高い酸性のpHにおいて、GluN2Bに対して増強された効力を有するGluN2B選択的NMDARアンタゴニストが緊急に必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yuan, et al., Neuron, 2015, 85(6):1305-1318
【非特許文献2】Choi, et al., J Neurosci, 1988, 8:185-196
【非特許文献3】Yurkewicz, et al., J Neurotrauma, 2005, 22:1428-1443
【非特許文献4】Michel, et al., PLoS One, 2014, 9(12):e114086
【非特許文献5】Michel, et al., PLoS One, 2015,10(8):e0135949
【非特許文献6】Swartjes, et al., Anesthesiology, 2011 115(1):165-74
【非特許文献7】Labas, et al., Eur J Med Chem, 2011, 46(6):2295-309
【非特許文献8】Kraig et al., J Neurophysiol, 1983, 49(3):831-50
【非特許文献9】Sykova et al., Ciba Found Symp, 1988, 139:220-35
【非特許文献10】Tong and Chesler, Brain Res., 1999, 815(2):373-81
【非特許文献11】Theparambil, et al., Nat Commun, 2020, 11(1):5073
【非特許文献12】Mutch and Hansen, J Cereb Blood Flow Metab, 1984, 4(1):17-27
【非特許文献13】Theparambil, et al., Nat Commun, 2020, 11(1):5073
【非特許文献14】Woolf and Thompson, Pain, 1991, 44(3):293-299
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
概要
本開示は、GluN2Bサブユニットを含有するNMDARを選択的に阻害するネガティブアロステリックモジュレーターを記載する。ある場合には、ネガティブアロステリックモジュレーターは、GluN2A、GluN2C、および/またはGluN2DよりもGluN2Bを選択的に標的にする。一般的に、ネガティブアロステリックモジュレーターは、生理的pHと比較してより酸性のpHにおいて、GluN2Bに対して増強された効力を有する。
【0008】
一部の実施形態では、本明細書で開示される化合物は、式Iの構造、または式Iの薬学的に許容される塩、水和物もしくは水和塩を有する
【化1】
[式中、Rは、
【化2】
から選択され、R、R、R、およびRは、水素、メチル、およびハロメチルから独立に選択され、
およびRは、水素、メチル、およびハロメチルから独立に選択される]。
【0009】
一部の実施形態では、Rは、
【化3】
である。
【0010】
一部の実施形態では、Rは、
【化4】
である。
【0011】
一部の実施形態では、RおよびRは、共に水素である。
【0012】
例示的な化合物として、
【化5】
ならびにそれらの対応する薬学的に許容される塩、水和物および水和塩が挙げられる。
【0013】
一部の実施形態では、本明細書で開示される化合物は、式IIの構造、または式IIの薬学的に許容される塩、水和物もしくは水和塩を有する
【化6】
[式中、Rは、水素、メチル、ハロメチル、エチル、ハロエチル、イソプロピル、およびハロイソプロピルから選択され、
およびRは、水素、メチル、およびハロメチルから独立に選択される]。
【0014】
一部の実施形態では、Rは、メチルおよびハロメチルから選択される。
【0015】
一部の実施形態では、RおよびRは、共に水素である。
【0016】
また、化合物が、本明細書で開示される対応する式の「*」印によって標識された立体中心に関して、80%超、85%超、90%超、または95%超の鏡像体過剰率で存在する、本明細書で記載される化合物を含有する組成物が開示される。一部の実施形態では、組成物における化合物は、本明細書で開示される対応する式の「*」印によって標識された立体中心に関して、95%超の鏡像体過剰率で存在する。
【0017】
一部の実施形態では、組成物は、式Iの構造を有する化合物、または式Iの薬学的に許容される塩、水和物もしくは水和塩を含有し、化合物は、式Iに図示される通り*印によって標識された立体中心に関して、R立体配置が80%超、85%超、90%超、または95%超の鏡像体過剰率で存在する。
【0018】
一部の実施形態では、組成物は、式IIの構造を有する化合物、または式IIの薬学的に許容される塩、水和物もしくは水和塩を含有し、化合物は、式IIに図示される通り*印によって標識された立体中心に関して、R立体配置が80%超、85%超、90%超、または95%超の鏡像体過剰率で存在する。
【0019】
また、開示される化合物または組成物の医薬製剤が開示される。一般的に、医薬製剤は、薬学的に許容される賦形剤も含有する。一部の実施形態では、医薬製剤は、錠剤、カプセル剤、カプレット剤、丸剤、ビーズ剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、ゲル剤、クリーム剤、液剤、懸濁液剤、エマルション剤、およびナノ粒子製剤から選択される形態で存在する。一部の実施形態では、医薬製剤は、経口製剤である。一部の実施形態では、医薬製剤は、静脈内製剤である。一部の実施形態では、医薬製剤は、凍結乾燥散剤の形態で存在する。一部の実施形態では、医薬製剤は、滅菌水溶液の形態で存在する。
【0020】
本開示はまた、(1)本明細書で開示される状態、障害もしくは疾患の処置のため、または医薬としての使用のための、本明細書で開示される化合物、組成物、および医薬製剤、(2)本明細書で開示される状態、障害または疾患の処置における使用のための、本明細書で開示される化合物、組成物、および医薬製剤、あるいは(3)本明細書で開示される状態、障害または疾患の処置のための医薬の製造のための、本明細書で開示される化合物、組成物、および医薬製剤に関する。
【0021】
本開示はまた、状態、障害または疾患を処置することを必要とする対象の状態、障害または疾患を処置する方法を提供する。その方法は、有効量の本明細書で開示される化合物、組成物、および医薬製剤を対象に投与することを含む。一部の実施形態では、化合物、組成物、または医薬製剤は、経口または静脈内投与される。
【0022】
本開示に関連する例示的な状態、障害、および疾患として、脳卒中、くも膜下出血、脳虚血、脳血管痙攣、低酸素症、急性CNS傷害、脊髄傷害、外傷性脳傷害、冠動脈バイパスグラフト、持続性または慢性咳嗽、物質乱用障害、オピエート離脱、オピエート耐性、双極性障害、自殺念慮、疼痛、線維筋痛症、うつ病、産後うつ病、静止時振戦、認知症、てんかん、発作障害、運動障害、および神経変性疾患が挙げられるが、それらに限定されない。
【0023】
一部の実施形態では、状態、障害または疾患は、疼痛、うつ病、脳卒中、またはくも膜下出血である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、マウスの一過性虚血のMCAOモデルにおける例示的な化合物(NP10679)のIP用量(mg/kg)に対してプロットした梗塞体積(mm)を示すグラフである。プロットは、3つの独立な実験にわたってプールされたデータである。データは、n=9(0.2mg/kg)、13(0.5mg/kg)、21(1mg/kg)、12(2mg/kg)、12(5mg/kg)、24(10mg/kg)、および34(Veh)のマウスについて平均±SEMで示される。**ビヒクル対照からp<0.01(ANOVA、ダネット)。
【0025】
図2A図2Aは、マウスにおける10mg/kgの経口投与(黒色記号)または3mg/kgのIV投与(白色記号)後の時間(時)に対してプロットした例示的な化合物(NP10679)の総血漿レベル(ng/mL)を示すグラフである。データは、平均±SEMで示される(データ点ごとにn=3)。
【0026】
図2B図2Bは、マウスにおける2mg/kg(白色記号)または5mg/kg(黒色記号)のIP投与後の時間(時)に対してプロットした例示的な化合物(NP10679)の遊離血漿レベル(nM)を示すグラフである。データは、平均±SEMで示される(データ点ごとにn=3)。pH6.9におけるGluN2Bに対するNP10679のIC50、H1ヒスタミン受容体に対する機能的IC50、およびhERGに対する機能的IC50を、グラフに点線として示す。
【0027】
図3図3は、ロータロッドでのマウスの落下までの潜時(秒)を、時間(日)に対してプロットしたものを示すグラフである。マウスを、ロータロッドで2日連続(1日目および2日目)で訓練し、1日4回試行し、試行の間に25分間の間隔を設けた。3日目に、マウスを群に無作為化し、ビヒクル対照(白色丸)、30mg/kgのイフェンプロジル(白色逆三角)、または2mg/kg(白色三角)、5mg/kg(黒色逆三角)もしくは10mg/kg(バツ印)の例示的な化合物(NP10679)を投与した。落下までの潜時を、群ごとに計算し、平均±SEMで示す(n=8)。3日目の個々の試行についてビヒクル対照からp<0.01(ANOVA、ダネット)。
【0028】
図4図4は、3つの処置群、すなわち、ビヒクル対照、MK-801、および例示的な化合物(NP10679)の間のマウスの水平活動(2時間以内)を示す棒グラフである。マウスを、閉鎖された自発運動活動箱内で1時間慣らし、次に取り出し、ビヒクル(Veh、n=6)、MK-801(0.3mg/kg、n=4)、またはNP10679(20mg/kg、n=6)をIP注射によって投与し、次に箱に戻し入れた。水平自発運動活動を2時間測定した。ビヒクル対照からp<0.01(ANOVA、ダネット)。試料時間中の水平移動を表す光線の遮断の総数を、横座標で報告する。
【0029】
図5図5および6は、ヒト対象における単一静脈内投与後の例示的な化合物(NP10679)の血漿曝露を示すグラフである。血漿収集および定量化を、本明細書に記載される通り実施した。ng/mLで表されるデータは、5人の対象の平均であった150mg群を除いて、1用量につき6人の対象の平均を表す。
図6図5および6は、ヒト対象における単一静脈内投与後の例示的な化合物(NP10679)の血漿曝露を示すグラフである。血漿収集および定量化を、本明細書に記載される通り実施した。ng/mLで表されるデータは、5人の対象の平均であった150mg群を除いて、1用量につき6人の対象の平均を表す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
詳細な説明
本開示は、GluN2Bサブユニットを含有するNMDARを選択的に阻害するネガティブアロステリックモジュレーターを記載する。一部の実施形態では、ネガティブアロステリックモジュレーターは、GluN2A、GluN2C、および/またはGluN2DよりもGluN2Bを選択的に標的にする。一般的に、ネガティブアロステリックモジュレーターは、生理的pHと比較してより酸性のpHにおいて、GluN2Bに対して増強された効力を有する。
【0031】
本開示をより詳細に記載する前に、本開示は、本明細書に記載される特定の実施形態に限定されず、したがって当然のことながら、本開示の範囲に従って変わり得ることが理解されるべきである。別段定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0032】
本明細書で引用されるすべての刊行物および特許は、あたかもそれぞれ個々の刊行物または特許が参照により組み込まれることが具体的に個々に示されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。それらは、刊行物および特許と共に引用される方法および/または材料を開示し記載するために、参照により本明細書に組み込まれる。
【0033】
当業者が本開示を読む際に明らかになる通り、本明細書に記載され、説明される特定の実施形態のそれぞれは、本開示の範囲または精神から逸脱することなく、本明細書に記載されるその他の実施形態のいずれかの1つまたは複数の構成成分および/または特色から容易に分離することができるか、またはそれらと組み合わせることができる別個の構成成分および/または特色を有する。引用された任意の方法は、本明細書に引用された事象の順序で、または論理的に可能な任意の他の順序で行うことができる。
【0034】
本開示の実施形態は、別段指定されない限り、当業者の範囲内にある医学、有機化学、医薬品化学、生化学、分子生物学、薬理学、神経学などの技術を用いる。そのような技術は、本明細書に引用されているものなどの文献において完全に説明されている。
【0035】
I.定義
【0036】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、状況によって別段明示されない限り複数の指示対象を含む。
【0037】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、ヒトおよび非ヒト動物を含む動物を指す。非ヒト動物には、家庭用ペット、家畜および農場の動物、ならびに動物園の動物が含まれ得る。ある場合には、非ヒト動物は、非ヒト霊長類であり得る。
【0038】
本明細書で使用される場合、「予防する」および「予防すること」という用語は、発生、開始、伝播、および/または再発の予防を含む。本開示は、完全な予防に限定されることを意図されない。例えば、予防は、発生が遅延する、開始の重症度が低減される、またはそれらの両方の場合に達成されたとみなされる。
【0039】
本明細書で使用される場合、「処置する」および「処置すること」という用語は、当業者によって理解されるはずの対象の状態、障害または疾患の医学的管理を含む(例えば、ステッドマン医学大辞典を参照されたい)。一般的に、処置は、対象が治癒し、状態、障害または疾患が根絶された場合に限定されない。むしろ処置は、本開示の化合物、組成物または医薬製剤の1つを含有する処置レジメンが、改善された臨床転帰をもたらす場合も企図する。改善された臨床転帰には、以下の1つまたは複数が含まれ得る:処置される状態、障害または疾患から生じるか、またはそれと関連する1つまたは複数の症状の弱化、減少、および/または軽減;1つまたは複数の症状の発生の低減;生活の質の改善;状態、障害または疾患の程度の減少;状態、障害または疾患の安定化された状態を達するまたは達成すること(すなわち悪化させないこと);状態、障害または疾患の進行の遅延または緩徐;状態、障害または疾患の状況の寛解または緩和;(検出可能であろうと検出不可能であろうと)部分的または全体的な軽快;ならびに生存期間の改善(全生存期間の延長であろうと、対象が処置を受けなかった場合に予想される生存期間と比較した場合の生存期間の延長であろうと)。例えば、本開示は、本明細書に記載される神経学的状態、障害または疾患の1つもしくは複数の症状および/またはそれらと関連する認知障害を低減する処置を包含する。
【0040】
本明細書で使用される場合、「生理的pH」という用語は、病理学的状態がないヒトの身体において普通に見られるpHを指す。典型的に、生理的pHは、7.35~7.45の間の範囲であり、平均7.40である。
【0041】
本明細書で使用される場合、「ハロゲン」および「ハロ」という用語は、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素を指す。
【0042】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される」という用語は、ある特定の国の規制機関、例えば米国の食品医薬局(FDA)または米国以外の国のその対応する機関(例えば、欧州医薬品庁(EMA))の指針に従って、正しい医学的判断の範囲内で過度の毒性、刺激、アレルギー応答、または他の問題もしくは合併症なしにヒトおよび非ヒト動物の組織と接触させて使用するのに好適な、合理的な損益比に見合う化合物、材料、組成物、および/または製剤を指す。
【0043】
本明細書で使用される場合、「塩」という用語は、元の化合物の酸塩または塩基塩を指す。ある場合には、塩は、元の化合物の調製中にその場で形成され、すなわち、指定された合成化学手順により、元の化合物の代わりに塩が生成される。ある場合には、塩は、元の化合物の修飾により得られる。ある場合には、塩は、元の化合物の既存の塩とのイオン交換により得られる。塩の例として、塩基性残基、例えばアミンの無機または有機酸塩、ならびに酸性残基、例えばカルボン酸およびリン酸のアルカリ塩または有機塩が挙げられるが、それらに限定されない。塩基性残基を含有する本来の化合物について、塩は、化合物を適切な量の非毒性の無機または有機酸で処理することによって調製することができ、代替的に、塩は、元の化合物の調製中にその場で形成することができる。塩基性残基の例示的な塩として、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、および硝酸から選択される無機酸との塩、または酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、2-アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、およびイセチオン酸から選択される有機酸との塩が挙げられる。酸性残基を含有する元の化合物について、塩は、化合物を適切な量の非毒性塩基で処理することによって調製することができ、代替的に、塩は、元の化合物の調製中にその場で形成することができる。酸性残基の例示的な塩として、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化物第一鉄、水酸化亜鉛、水酸化銅、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、リシン、アルギニン、およびヒスチジンから選択される塩基との塩が挙げられる。必要に応じて、塩は、元の化合物の遊離酸または塩基形態を、水(水溶液を含む)、有機溶媒(有機溶液を含む)、またはそれらの混合物中で、化学量論量またはそれよりも多い適切な塩基または酸とそれぞれ反応させることによって調製することができる。例示的な薬学的に許容される塩の一覧は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 20th Ed., Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore, MD, 2000ならびにHandbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use, Stahl and Wermuth, Eds., Wiley-VCH, Weinheim, 2002に見出すことができる。
【0044】
本明細書で使用される場合、「賦形剤」という用語は、活性成分(すなわち、本開示の化合物または組成物)以外の、本明細書で開示される医薬製剤に存在するすべての構成成分を指す。
【0045】
本明細書で使用される場合、材料の「有効量」という用語は、所望の結果をもたらすのに十分な、材料の非毒性の量を指す。必要とされる正確な量は、対象の種、年齢、および全身状態、処置される状態、障害または疾患の重症度、使用される活性成分または治療などに応じて、対象ごとに変わり得る。
【0046】
II.化合物
【0047】
本開示は、GluN2B含有NMDARを選択的に阻害するネガティブアロステリックモジュレーターを記載する。一部の実施形態では、ネガティブアロステリックモジュレーターは、GluN2A、GluN2C、および/またはGluN2DサブユニットよりもNMDARのGluN2Bサブユニットを選択的に標的にする。
【0048】
一部の実施形態では、GluN2Bに対するネガティブアロステリックモジュレーターの効力は、環境pHが5.0~9.0、6.0~8.0、6.5~8.0、または6.9~7.6のpH範囲に低下すると増大する。例えば、ネガティブアロステリックモジュレーターは、生理的pHと比較してより酸性のpHにおいて、GluN2Bに対して増強された効力を有する。GluN2Bに対する効力は、GluN2Bに対するネガティブアロステリックモジュレーターのIC50値によって評定することができ、そのIC50値は、実施例に記載される方法によって容易に決定することができる。IC50値が低いほど、高い効力に対応する。
【0049】
本明細書で記載される化学式が1つまたは複数の不特定のキラル中心を含有する程度まで、その式は、すべての安定な立体異性体、鏡像異性体、およびジアステレオマーを包含することが意図される。そのような化合物は、単一の鏡像異性体、ラセミ混合物、ジアステレオマー混合物、またはそれらの組合せとして存在することができる。また化学式は、互変異性体が生じ得る場合、すべての互変異性形態を包含することが理解される。
【0050】
例示的な化合物を作製する方法は、実施例に開示される。その方法は、多種多様な官能基および化合物と適合性があり、したがって、開示される方法から多種多様な誘導体を得ることができる。
【0051】
A.一般構造
【0052】
式I
一部の実施形態では、化合物は、式Iの構造、または式Iの薬学的に許容される塩、水和物もしくは水和塩を有する
【化7】
[式中、Rは、
【化8】
から選択され、R、R、R、およびRは、水素、メチル、およびハロメチル(例えば、フルオロメチル、例えば、モノ、ジ、およびトリフルオロメチル)から独立に選択され、
およびRは、水素、メチル、およびハロメチル(例えば、フルオロメチル、例えば、モノ、ジ、およびトリフルオロメチル)から独立に選択される]。
【0053】
一部の実施形態では、化合物は、式Iに示される遊離塩基形態で存在する。一部の実施形態では、化合物は、式Iの薬学的に許容される塩である。
【0054】
一部の実施形態では、Rは、
【化9】
である。
【0055】
一部の実施形態では、Rは、
【化10】
である。
【0056】
一部の実施形態では、Rは、
【化11】
である。
【0057】
一部の実施形態では、Rは、
【化12】
である。
【0058】
一部の実施形態では、Rは、
【化13】
である。
一部の実施形態では、Rは、
【0059】
【化14】
である。
【0060】
一部の実施形態では、Rは、
【化15】
である。
【0061】
一部の実施形態では、Rは、
【化16】
である。
【0062】
一部の実施形態では、Rは、
【化17】
である。
【0063】
一部の実施形態では、Rは、
【化18】
である。
【0064】
一部の実施形態では、Rは、
【化19】
である。
【0065】
一部の実施形態では、Rは、
【化20】
である。
【0066】
一部の実施形態では、Rは、
【化21】
である。
【0067】
一部の実施形態では、Rは水素である。一部の実施形態では、Rは水素である。一部の実施形態では、RおよびRは、それぞれ水素である。
【0068】
一部の実施形態では、Rは水素である。一部の実施形態では、Rは水素である。一部の実施形態では、RおよびRは、それぞれ水素である。
【0069】
一部の実施形態では、Rは水素である。一部の実施形態では、Rはメチルである。一部の実施形態では、Rは、ハロメチル、例えば、フルオロメチル、例えば、モノ、ジ、およびトリフルオロメチルである。
【0070】
一部の実施形態では、Rは水素である。一部の実施形態では、Rはメチルである。一部の実施形態では、Rは、ハロメチル、例えば、フルオロメチル、例えば、モノ、ジ、およびトリフルオロメチルである。
【0071】
一部の実施形態では、RおよびRは、それぞれ水素である。一部の実施形態では、Rは水素であり、Rは、メチルまたはハロメチルである。一部の実施形態では、Rは、メチルまたはハロメチルであり、Rは水素である。一部の実施形態では、RおよびRは、独立に、メチルまたはハロメチルである。
【0072】
一部の実施形態では、化合物は、式IAの構造、または式IAの薬学的に許容される塩、水和物もしくは水和塩を有する
【化22】
[式中、Rは、式Iについて前述したものと同じである]。
【0073】
例示的な化合物として、
【化23】
ならびにそれらの対応する薬学的に許容される塩、水和物および水和塩が挙げられる。
【0074】
式II
一部の実施形態では、化合物は、式IIの構造、または式IIの薬学的に許容される塩、水和物もしくは水和塩を有する
【化24】
[式中、Rは、水素、メチル、ハロメチル(例えば、フルオロメチル、例えば、モノ、ジ、およびトリフルオロメチル)、エチル、ハロエチル(例えば、フルオロエチル、例えば、モノ、ジ、およびトリフルオロエチル)、イソプロピル、およびハロイソプロピル(例えば、フルオロイソプロピル、例えば、モノ、ジ、およびトリフルオロイソプロピル)から選択され、
およびRは、水素、メチル、およびハロメチル(例えば、フルオロメチル、例えば、モノ、ジ、およびトリフルオロメチル)から独立に選択される]。
【0075】
一部の実施形態では、化合物は、式IIに示される遊離塩基形態で存在する。一部の実施形態では、化合物は、式IIの薬学的に許容される塩である。
【0076】
一部の実施形態では、Rは水素である。一部の実施形態では、Rはメチルである。一部の実施形態では、Rは、ハロメチル、例えば、フルオロメチル、例えば、モノ、ジ、およびトリフルオロメチルである。一部の実施形態では、Rはエチルである。一部の実施形態では、Rは、ハロエチル、例えば、フルオロエチル、例えば、モノ、ジ、およびトリフルオロエチルである。一部の実施形態では、Rはイソプロピルである。一部の実施形態では、Rは、ハロイソプロピル、例えば、フルオロイソプロピル、例えば、モノ、ジ、およびトリフルオロイソプロピルである。
【0077】
一部の実施形態では、Rは、メチルおよびハロメチル(例えば、フルオロメチル、例えば、モノ、ジ、およびトリフルオロメチル)から選択される。
【0078】
一部の実施形態では、Rは水素である。一部の実施形態では、Rはメチルである。一部の実施形態では、Rは、ハロメチル、例えば、フルオロメチル、例えば、モノ、ジ、およびトリフルオロメチルである。
【0079】
一部の実施形態では、Rは水素である。一部の実施形態では、Rはメチルである。一部の実施形態では、Rは、ハロメチル、例えば、フルオロメチル、例えば、モノ、ジ、およびトリフルオロメチルである。
【0080】
一部の実施形態では、RおよびRは、それぞれ水素である。一部の実施形態では、Rは水素であり、Rは、メチルまたはハロメチルである。一部の実施形態では、Rは、メチルまたはハロメチルであり、Rは水素である。一部の実施形態では、RおよびRは、独立に、メチルまたはハロメチルである。
【0081】
一部の実施形態では、化合物は、式IIAの構造、または式IIAの薬学的に許容される塩、水和物もしくは水和塩を有する
【化25】
[式中、Rは、式IIについて前述したものと同じである]。
【0082】
B.立体化学およびpH感度
【0083】
前述の化合物は、式の「*」印によって標識されたキラル中心に関してR立体配置で存在する。
【0084】
ある特定の実施形態では、化合物は、それらの対応するS鏡像異性体よりもGluN2Bに対して高い効力を有する。GluN2Bに対する効力は、GluN2Bに対する化合物のIC50値によって評定することができ、このIC50値は、実施例に記載される方法によって容易に決定することができる。IC50値が低いほど、高い効力に対応する。
【0085】
一部の実施形態では、GluN2Bに対する化合物の効力は、環境pHが5.0~9.0、6.0~8.0、6.5~8.0、または6.9~7.6のpH範囲に低下すると増大する。例えば、化合物は、生理的pHと比較してより酸性のpHにおいて、GluN2Bに対して増強された効力を有する。ここで、特定の化合物についてpH6.9において決定されたIC50値に対するpH7.6において決定されたIC50値の比は、化合物の「pHブースト」として定義される。
【0086】
一部の実施形態では、化合物は、それらの対応するS鏡像異性体と比較して同等のまたはそれよりも高いpHブーストを有する。本明細書で使用される場合、「同等の」は、比較値に対して25%の変動以内の値を指す。一部の実施形態では、化合物は、それらの対応するS鏡像異性体のpHブーストの75%に等しいかそれを上回るpHブーストを有する。一部の実施形態では、化合物は、それらの対応するS鏡像異性体のpHブーストの80%に等しいかそれを上回るpHブーストを有する。一部の実施形態では、化合物は、それらの対応するS鏡像異性体のpHブーストの85%に等しいかそれを上回るpHブーストを有する。一部の実施形態では、化合物は、それらの対応するS鏡像異性体のpHブーストの90%に等しいかそれを上回るpHブーストを有する。一部の実施形態では、化合物は、それらの対応するS鏡像異性体のpHブーストの95%に等しいかそれを上回るpHブーストを有する。
【0087】
III.組成物
【0088】
本明細書で開示される化合物を含有する組成物が開示される。一部の実施形態では、組成物における化合物は、式I、IA、II、およびIIAのいずれか1つの「*」印によって標識された立体中心に関して、80%超、85%超、90%超、または95%超の鏡像体過剰率で存在する。一部の実施形態では、組成物における化合物は、式I、IA、II、およびIIAのいずれか1つの「*」印によって標識された立体中心に関して、95%超の鏡像体過剰率で存在する。
【0089】
一部の実施形態では、組成物は、式Iの構造を有する化合物、または式Iの薬学的に許容される塩、水和物もしくは水和塩を含有し、組成物における化合物は、*印によって標識された立体中心に関して、式Iによって図示されるR立体配置が80%超、85%超、90%超、または95%超の鏡像体過剰率で存在する。一部の実施形態では、組成物における化合物は、*印によって標識された立体中心に関して、式Iによって図示されるR立体配置が95%超の鏡像体過剰率で存在する。
【0090】
一部の実施形態では、組成物は、式IAの構造を有する化合物、または式IAの薬学的に許容される塩、水和物もしくは水和塩を含有し、組成物における化合物は、*印によって標識された立体中心に関して、式IAによって図示されるR立体配置が80%超、85%超、90%超、または95%超の鏡像体過剰率で存在する。一部の実施形態では、組成物における化合物は、*印によって標識された立体中心に関して、式IAによって図示されるR立体配置が95%超の鏡像体過剰率で存在する。
【0091】
一部の実施形態では、組成物は、式IIの構造を有する化合物、または式IIの薬学的に許容される塩、水和物もしくは水和塩を含有し、組成物における化合物は、*印によって標識された立体中心に関して、式IIによって図示されるR立体配置が80%超、85%超、90%超、または95%超の鏡像体過剰率で存在する。一部の実施形態では、組成物における化合物は、*印によって標識された立体中心に関して、式IIによって図示されるR立体配置が95%超の鏡像体過剰率で存在する。
【0092】
一部の実施形態では、組成物は、式IIAの構造を有する化合物、または式IIAの薬学的に許容される塩、水和物もしくは水和塩を含有し、組成物における化合物は、*印によって標識された立体中心に関して、式IIAによって図示されるR立体配置が80%超、85%超、90%超、または95%超の鏡像体過剰率で存在する。一部の実施形態では、組成物における化合物は、*印によって標識された立体中心に関して、式IIAによって図示されるR立体配置が95%超の鏡像体過剰率で存在する。
【0093】
開示される化合物は、塩形態および非塩形態の混合物で存在し得る。一部の実施形態では、塩形態および非塩形態の全重量に対する非塩形態の重量の比として計算して、混合物における50%超、60%超、70%超、80%超、90%超、95%超、または98%超の化合物は、非塩形態で存在し得る。一部の実施形態では、混合物における90%超の化合物は、非塩形態で存在し得る。一部の実施形態では、塩形態および非塩形態の全重量に対する塩形態の重量の比として計算して、混合物における50%超、60%超、70%超、80%超、90%超、95%超、または98%超の化合物は、塩形態で存在し得る。一部の実施形態では、混合物における90%超の化合物は、塩形態で存在し得る。
【0094】
IV.製剤
【0095】
本明細書に記載される化合物または組成物を含有する医薬製剤が開示される。一般的に、医薬製剤は、1種または複数種の薬学的に許容される賦形剤も含有する。
【0096】
医薬製剤は、錠剤、カプセル剤、カプレット剤、丸剤、散剤、ビーズ剤、顆粒剤、細粒剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤(例えば、水溶液、例えば、生理食塩水および緩衝食塩水)、エマルション剤、懸濁液剤(ナノおよびマイクロ懸濁液剤を含む)、ナノ粒子製剤などから選択される形態で存在し得る。一部の実施形態では、医薬製剤は、経口製剤である。一部の実施形態では、医薬製剤は、静脈内製剤である。一部の実施形態では、医薬製剤は、局所製剤である。
【0097】
一部の実施形態では、医薬製剤は、凍結乾燥散剤の形態で存在する。一部の実施形態では、凍結乾燥散剤は、活性成分(すなわち、本明細書で開示される化合物または組成物)を水溶液に溶解させ、続いて凍結乾燥させることによって製造される。例えば、凍結乾燥散剤は、活性成分をリン酸緩衝ヒドロキシβシクロデキストリン溶液に溶解させ、続いて凍結乾燥させることによって調製することができる。
【0098】
一部の実施形態では、医薬製剤は、滅菌水溶液の形態で存在する。一部の実施形態では、滅菌水溶液は、滅菌PBSである。一部の実施形態では、滅菌水溶液は、活性成分(すなわち、本明細書で開示される化合物または組成物)を含有する凍結乾燥散剤を水溶液に溶解させることによって製造される。例えば、滅菌水溶液は、活性成分を含有する凍結乾燥散剤を、用量に適した体積の滅菌PBSに溶解させることによって調製することができる。一部の実施形態では、活性成分を含有する凍結乾燥散剤は、上記段落に記載されるものと同じである。
【0099】
本明細書で使用される場合、「エマルション」は、一緒に均一にブレンドされた非混和性構成成分の混合物を指す。一部の形態では、非混和性構成成分は、親油性構成成分および水性構成成分を含む。例えば、エマルションは、ある液体が第2の液体全体に小球で分布している調製物であり得る。分散液は不連続相であり、分散媒は連続相である。油または油性物質が分散液であり、水または水溶液が連続相である場合、これは水中油エマルションとして公知であり、一方、水または水溶液が分散相であり、油または油性物質が連続相である場合、これは油中水エマルションとして公知である。
【0100】
本明細書で使用される場合、「生体適合性」は、それら自体、ホスト(例えば、非ヒト動物またはヒト)に対する毒性がなく、ホストにおいて毒性濃度のモノマーもしくはオリゴマーサブユニットまたは他の副生成物を生じる速度で分解することもない材料(材料が分解する場合)を指す。
【0101】
本明細書で使用される場合、「生分解性」は、より小さい(例えば、非ポリマー)サブユニットへのポリマー材料の分解もしくは崩壊、またはより小さいサブユニットへの材料の消化を指す。
【0102】
本明細書で使用される場合、「腸溶ポリマー」は、下部胃腸管のより高いpH環境で可溶性になるか、または剤形が胃腸管を通過するときにゆっくり浸食されるポリマーを指す。
【0103】
本明細書で使用される場合、「ナノ粒子製剤」は、一般的に、約1nm~1000nm、約10nm~1000nm、約100nm~1000nm、または約250nm~1000nmの直径を有する粒子である「ナノ粒子」を指す。一部の実施形態では、「ナノ粒子製剤」はまた、約1ミクロン~約100ミクロン、約1~約50ミクロン、約1~約30ミクロン、約1ミクロン~約10ミクロンの直径を有する粒子である「マイクロ粒子」を指すことができる。一部の実施形態では、ナノ粒子製剤は、上記で定義される通りのナノ粒子および上記で定義される通りのマイクロ粒子の混合物であり得る。
【0104】
本明細書で使用される場合、「界面活性剤」は、2つの不混和相の間の界面、例えば水(または水溶液)と有機溶媒(または有機溶液)との間の界面、水/空気の界面、および有機溶媒/空気の界面に優先的に吸収する任意の剤を指す。界面活性剤は、一般的に、親水性部分および親油性部分を有する。
【0105】
本明細書で使用される場合、「ゲル」は、液体ビヒクルに溶解または懸濁させられた増粘剤またはポリマー材料の作用によって半固体にされている液体ビヒクル中の、活性成分、すなわち、本開示に従う化合物または組成物の分散液を含有する半固体システムである。液体ビヒクルは、親油性構成成分、水性構成成分またはそれらの両方を含み得る。
【0106】
本明細書で使用される場合、「ヒドロゲル」は、水不溶性である微細分散したポリマー鎖の、水を含有する膨潤した網目構造を指し、ここでポリマー分子は、外部相または分散相中に存在し、水(または水溶液)は内部相または分散相を形成する。ポリマー鎖は、化学的に架橋され得るか(化学ゲル)、または物理的に架橋され得る(物理ゲル)。化学ゲルは、共有結合を介して結合しているポリマー鎖を有し、一方、物理ゲルは、非共有結合性の相互反応、例えば、ファンデルワールス相互作用、イオン相互作用、水素結合相互作用、および疎水性相互反応によって連結したポリマー鎖を有する。
【0107】
本明細書で使用される場合、「ビーズ」は、活性成分(すなわち、本開示に従う化合物または組成物)および1種または複数種の薬学的に許容される賦形剤を用いて作製されたビーズを指す。ビーズ剤は、活性成分を不活性支持体に施与することによって生成することができ、例えば、ビーズ剤は、活性成分を不活性支持体に施与することによって生成することができ、例えば、活性成分でコーティングされた不活性糖コアによって生成することができる。代替的に、ビーズ剤は、活性成分と、1種または複数種の薬学的に許容される賦形剤の少なくとも1つとの両方を含む「コア」を製作することによって生成することができる。本明細書で使用される場合、「顆粒」は、1種または複数種の薬学的な許容される賦形剤を含んでいても含んでいなくてもよい活性成分(すなわち、本開示に従う化合物または組成物)の粒子を加工することによって作製された生成物を指す。典型的に、顆粒剤は、不活性支持体を含有せず、顆粒剤を生成するために使用される粒子と比較してサイズがより大きい。ビーズ剤、顆粒剤および細粒剤は、即時放出をもたらすように製剤化され得るが、ビーズ剤および顆粒剤は、通常、遅延放出をもたらすために用いられる。
【0108】
本明細書で使用される場合、「酵素的に分解可能なポリマー」は、腸および/または下部胃腸管に存在する細菌酵素によって分解されるポリマーを指す。
【0109】
A.物理的形状および単位投与量
【0110】
本明細書に記載される化合物または組成物は、導入方式に応じて様々なやり方で製剤化することができる。医薬製剤は、様々な形態、例えば、錠剤、カプセル剤、カプレット剤、丸剤、顆粒剤、散剤、ナノ粒子製剤、液剤(例えば、水溶液、例えば、生理食塩水および緩衝食塩水)、懸濁液剤(ナノおよびマイクロ懸濁液剤を含む)、エマルション剤、クリーム剤、ゲル剤などで調製することができる。
【0111】
一部の実施形態では、医薬製剤は、精確な投与量の簡単な、好ましくは経口投与に好適な固体剤形で存在する。経口投与のための固体剤形には、錠剤、軟もしくは硬ゼラチンまたは非ゼラチンカプセル剤、およびカプレット剤が含まれるが、それらに限定されない。しかし、液体剤形、例えば液剤、懸濁液剤(ナノおよびマイクロ懸濁液剤を含む)、およびエマルション剤を利用することもできる。静脈内製剤は、通常、液剤、エマルション剤、および懸濁液剤を含む液体剤形で存在する。好適な局所製剤には、クリーム剤およびゲル剤が含まれるが、それらに限定されない。
【0112】
一部の実施形態では、医薬製剤は単位剤形で存在し、好適には、例えば箱、ブリスター、バイアル、ボトル、小袋、アンプル、または任意の他の好適な単一用量もしくは複数用量ホルダーもしくは容器に、必要に応じて製品情報および/または使用説明書を含有する1つまたは複数のリーフレットと共に包装され得る。
【0113】
ある特定の実施形態では、単位投与量における本明細書で開示される化合物の量は、1日1回の投与に好適な量である。ある特定の実施形態では、所望の総1日投与量に達するために、複数の単位投与量が必要とされる。
【0114】
ある特定の実施形態では、単位投与量は、5~300mgの間の本明細書で開示される化合物を含有し得る。ある特定の実施形態では、単位投与量における本明細書で開示される化合物の量は、約5~約300mg、約15~約300mg、約25~約300mg、約50~約300mg、約75~約300mg、約5~約250mg、約15~約250mg、約25~約250mg、約50~約250mg、約75~約250mg、約5~約200mg、約15~約200mg、約25~約200mg、約50~約200mg、約75~約200mg、約5~約175mg、約15~約175mg、約25~約175mg、約50~約175mg、約75~約175mg、約5~約150mg、約15~約150mg、約25~約150mg、約50~約150mg、約75~約150mg、または約100~約150mgの範囲である。
【0115】
一部の実施形態では、単位投与量は、5~200mgの間の本明細書で開示される化合物を含有する。
【0116】
一部の実施形態では、単位投与量は、25~200mgの間の本明細書で開示される化合物を含有する。
【0117】
一部の実施形態では、単位投与量は、25~175mgの間の本明細書で開示される化合物を含有する。一部の実施形態では、単位投与量は、25~150mgの間の本明細書で開示される化合物を含有する。一部の実施形態では、単位投与量は、50~200mgの間の本明細書で開示される化合物を含有する。一部の実施形態では、単位投与量は、75~200mgの間の本明細書で開示される化合物を含有する。一部の実施形態では、単位投与量は、50~175mgの間の本明細書で開示される化合物を含有する。一部の実施形態では、単位投与量は、75~150mgの間の本明細書で開示される化合物を含有する。
【0118】
ある特定の実施形態では、単位投与量における本明細書で開示される化合物の量は、約25mg、約50mg、約75mg、約100mg、約125mg、約150mg、約175mg、約200mg、約225mg、約250mg、約275mg、または約300mgである。特定の一実施形態では、単位投与量における本明細書で開示される化合物の量は、約100mgである。特定の一実施形態では、単位投与量における本明細書で開示される化合物の量は、約150mgである。
【0119】
一般的に、それを必要とするヒト対象に1つまたは複数の用量で投与されることになる総1日投与量は、5~300mgの間の本明細書で開示される化合物である。ある特定の実施形態では、本明細書で開示される化合物の総1日投与量は、約5~約300mg、約15~約300mg、約25~約300mg、約50~約300mg、約75~約300mg、約5~約250mg、約15~約250mg、約25~約250mg、約50~約250mg、約75~約250mg、約5~約200mg、約15~約200mg、約25~約200mg、約50~約200mg、約75~約200mg、約5~約175mg、約15~約175mg、約25~約175mg、約50~約175mg、約75~約175mg、約5~約150mg、約15~約150mg、約25~約150mg、約50~約150mg、約75~約150mg、または約100~約150mgの範囲である。
【0120】
一般的に、ヒト対象に1つまたは複数の用量で投与されることになる総1日投与量は、約11~約667mmolの間の本明細書で開示される化合物である。ある特定の実施形態では、本明細書で開示される化合物の総1日投与量は、約11~約667mmol、約33~約667mmol、約56~約667mmol、約111~約667mmol、約167~約667mmol、約11~約556mmol、約33~約556mmol、約56~約556mmol、約111~約556mmol、約167~約556mmol、約11~約445mmol、約33~約445mmol、約56~約445mmol、約111~約445mmol、約167~約445mmol、約11~約389mmol、約33~約389mmol、約56~約389mmol、約111~約389mmol、約167~約389mmol、約11~約334mmol、約33~約334mmol、約56~約334mmol、約111~約334mmol、約167~約334mmol、または約222~約334mmolの範囲である。
【0121】
ある特定の実施形態では、処置過程は、1日または数日間にわたって1日当たりの負荷用量を含み、続いて、1日または数日間にわたって1日当たりの低減されたまたは通常の用量を含む。例えば、処置過程は、初日に負荷用量を含み、続いて、その過程の残りにわたって1日当たりの低減されたまたは通常の用量を含むことができる。好適な負荷用量は、前述の例示的な総1日投与量から選択することができる。好適な低減されたまたは通常の用量も、前述の例示的な総1日投与量から選択することができる。ある特定の実施形態では、負荷用量は約150mgであり、低減されたまたは通常の用量は100mgである。例えば、処置過程は、初日に150mgの負荷用量を含み、続いて、その過程の残りにわたって1日当たり100mgの低減されたまたは通常の用量を含むことができる。
【0122】
B.薬学的に許容される賦形剤
【0123】
例示的な薬学的に許容される賦形剤として、希釈剤(充填剤)、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、pH修正剤または緩衝化剤、防腐剤、抗酸化剤、溶解性促進剤、湿潤剤または乳化剤、可塑剤、着色剤(例えば、顔料および染料)、香味剤または甘味剤、増粘剤、皮膚軟化薬(emollient)、保湿剤、安定剤、流動促進剤(glidant)、溶媒または分散媒、界面活性剤、細孔形成剤(pore former)、およびコーティングまたはマトリックス材料が挙げられるが、それらに限定されない。
【0124】
一部の実施形態では、本明細書に記載される錠剤、ビーズ剤、顆粒剤、および細粒剤は、以下の薬学的に許容される賦形剤:希釈剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、顔料、安定剤、および界面活性剤の1種または複数種を含有する。所望に応じて、錠剤、ビーズ剤、顆粒剤、および細粒剤は、少量の非毒性補助物質、例えば、湿潤剤または乳化剤、染料、pH緩衝化剤、および防腐剤を含有することもできる。
【0125】
コーティングまたはマトリックス材料の例として、セルロースポリマー(例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、セルロースアセテートトリメリテート、およびカルボキシメチルセルロースナトリウム)、ビニルポリマーおよびコポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、ポリビニルアセテートフタレート、酢酸ビニル-クロトン酸コポリマー、およびエチレン-酢酸ビニルコポリマー)、アクリル酸ポリマーおよびコポリマー(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、および商標EUDRAGIT(登録商標)で商業的に入手可能な他のメタクリル樹脂から形成されたもの)、酵素的に分解可能なポリマー(例えば、アゾポリマー、ペクチン、キトサン、アミロースおよびグアーガム)、ゼイン、セラック、ならびに多糖が挙げられるが、それらに限定されない。一部の実施形態では、コーティングまたはマトリックス材料は、1種または複数種の賦形剤、例えば、可塑剤、着色剤、流動促進剤、安定剤、細孔形成剤、および界面活性剤を含有し得る。
【0126】
一部の実施形態では、コーティングまたはマトリックス材料は、pH感度またはpH応答性ポリマー、例えば、商標EUDRAGIT(登録商標)で商業的に入手可能な腸溶ポリマーである。例えば、EUDRAGIT(登録商標)L30D-55およびL100-55は、pH5.5およびそれよりも高いpHで可溶性であり、EUDRAGIT(登録商標)L100は、pH6.0およびそれよりも高いpHで可溶性であり、EUDRAGIT(登録商標)Sは、より高いエステル化度の結果として、pH7.0およびそれよりも高いpHで可溶性である。
【0127】
一部の実施形態では、コーティングまたはマトリックス材料は、異なる度合いの透過性および拡張性を有する水不溶性ポリマー、例えば、EUDRAGIT(登録商標)NE、RL、およびRSである。
【0128】
コーティングまたはマトリックス材料に応じて、胃腸管の異なる位置において医薬製剤の解体/分解または構造的変化が生じ得る。一部の実施形態では、コーティングまたはマトリックス材料は、医薬製剤が経口投与後に胃酸への曝露を切り抜け、腸内で活性成分を放出し得るように選択される。
【0129】
希釈剤は「充填剤」とも呼ばれ、錠剤の圧縮、またはビーズ剤、顆粒剤もしくは細粒剤の形成のために実用的サイズが提供されるように、固体投与製剤の嵩を増すことができる。好適な希釈剤には、リン酸二カルシウム二水和物、硫酸カルシウム、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、微結晶性セルロース、カオリン、塩化ナトリウム、乾燥デンプン、加水分解デンプン、アルファ化デンプン、二酸化ケイ素、酸化チタン、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、粉末化糖、およびそれらの組合せが含まれるが、それらに限定されない。
【0130】
結合剤は、固体製剤に凝集性質を付与し、したがって、固体製剤の形成後に錠剤、ビーズ剤、顆粒剤、または細粒剤が確実に原形を保つために使用される。好適な結合剤材料には、デンプン、アルファ化デンプン、ゼラチン、糖(例えば、スクロース、グルコース、ブドウ糖、ラクトース、およびソルビトール)、ポリエチレングリコール、ワックス、天然および合成ガム(例えば、アカシア、トラガカント、およびアルギン酸ナトリウム)、セルロース(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、およびエチルセルロース)、veegum、ならびに合成ポリマー(例えば、アクリル酸コポリマー、メタクリル酸コポリマー、メチルメタクリレートコポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、およびポリビニルピロリドン)、ならびにそれらの組合せが含まれるが、それらに限定されない。
【0131】
滑沢剤は、錠剤の製造を容易にするために使用される。好適な滑沢剤には、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリル、ポリエチレングリコール、タルク、および鉱物油が含まれるが、それらに限定されない。
【0132】
崩壊剤は、投与後の固体製剤の崩壊または「破砕(breakup)」を容易にするために使用され、崩壊剤には、一般的に、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、ナトリウムカルボキシメチルデンプン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、アルファ化デンプン、粘土、セルロース、ガム、および架橋ポリマー、例えば架橋ポリビニルピロリドン(例えば、GAF Chemical Corp.製のPOLYPLASDONE(登録商標)XL)が含まれるが、それらに限定されない。
【0133】
可塑剤は、普通は、可塑性および可撓性を生じるかまたは促進し、脆性を低減するために存在する。可塑剤の例として、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリアセチン、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、セバシン酸ジブチル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリエチル、ヒマシ油、およびアセチル化モノグリセリドが挙げられる。
【0134】
安定剤は、医薬製剤における活性成分の解体反応を阻害もしくは遅延するか、または分散液中の粒子を安定化するために使用される。例えば、解体反応が、医薬製剤における活性成分の酸化反応を伴う場合、安定剤は、抗酸化剤または還元剤になり得る。安定剤には、非イオン性乳化剤、例えば、ソルビタンエステル、ポリソルベート、およびポリビニルピロリドンも含まれる。
【0135】
流動促進剤は、フィルム形成および乾燥中の固着効果を低減するために使用される。例示的な流動促進剤として、タルク、ステアリン酸マグネシウム、およびモノステアリン酸グリセリルが挙げられるが、それらに限定されない。
【0136】
防腐剤は、医薬製剤の劣化および/または解体を阻害することができる。劣化または解体は、微生物成長、真菌成長、および望ましくない化学的または物理的変化の1つまたは複数によってもたらされ得る。好適な防腐剤には、安息香酸塩(例えば、安息香酸ナトリウム)、アスコルビン酸、ヒドロキシ安息香酸メチル、p-ヒドロキシ安息香酸エチル、p-ヒドロキシ安息香酸n-プロピル、p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチル、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸、プロピオン酸塩(例えば、プロピオン酸ナトリウム)、クロロブタノール、ベンジルアルコール、およびそれらの組合せが含まれる。
【0137】
界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、両性または非イオン性表面活性剤であり得る。例示的なアニオン性界面活性剤として、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、または硫酸イオンを含有するものが挙げられるが、それらに限定されない。アニオン性界面活性剤の例として、長鎖(例えば、13~21)スルホン酸アルキルのナトリウム、カリウム、アンモニウム(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)、アリールスルホン酸アルキルのナトリウム、カリウム、アンモニウム(例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)、およびジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(例えば、ビス-(2-エチルチオキシル(ethylthioxyl))-スルホコハク酸ナトリウム)が挙げられる。カチオン性界面活性剤には、第四級アンモニウム化合物、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、臭化セトリモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、ポリオキシエチレン、およびココナッツアミンが含まれるが、それらに限定されない。非イオン性界面活性剤の例として、モノステアリン酸エチレングリコール、ミリスチン酸プロピレングリコール、モノステアリン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、ポリグリセリル-4-オレエート、ソルビタンアシレート(sorbitan acylate)、スクロースアシレート(sucrose acylate)、ラウリン酸PEG-150、モノラウリン酸PEG-400、モノラウリン酸ポリオキシエチレン、ポリソルベート、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、PEG-1000セチルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリプロピレングリコールブチルエーテル、ポロキサマー(例えば、ポロキサマー401)、ステアロイルモノイソプロパノールアミド、およびポリオキシエチレン水素化獣脂アミドが挙げられる。両性界面活性剤の例として、N-ドデシル-β-アラニンナトリウム、N-ラウリル-β-イミノジプロピオン酸ナトリウム、ミリストアンホアセテート(myristoamphoacetate)、ラウリルベタイン、およびラウリルスルホベタインが挙げられるが、それらに限定されない。
【0138】
液体形態の医薬製剤は、典型的に、溶媒または分散媒、例えば、水、水溶液(例えば、食塩水、緩衝食塩水など)、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール)、油(例えば、植物油、例えば、ピーナッツ油、トウモロコシ油、ゴマ油など)、およびそれらの組合せを含有する。一部の実施形態では、液体形態の医薬製剤は、水性製剤である。静脈内製剤に好適な溶媒または分散媒には、水、食塩水、緩衝食塩水(例えば、リン酸緩衝食塩水)、およびリンゲル溶液が含まれるが、それらに限定されない。
【0139】
C.薬学的な許容される担体
【0140】
一部の実施形態では、医薬製剤は、本明細書で開示される化合物または組成物を被包、包埋、捕捉、溶解、分散、吸収、および/または結合する薬学的に許容される担体を使用して調製される。薬学的な許容される担体は、安全とみなされ、かつ望ましくない生物学的副作用または望まれない相互作用を引き起こすことなく対象に投与することができる材料から構成される。好ましくは、薬学的に許容される担体は、その機能を発揮する化合物または組成物の有効性を妨害しない。薬学的に許容される担体は、生分解性材料、非生分解性材料、またはそれらの組合せから形成され得る。前述の薬学的な許容される賦形剤は、薬学的な許容される担体に部分的または全体的に存在し得る。
【0141】
一部の実施形態では、薬学的な許容される担体は、制御放出担体、例えば、遅延放出担体、持続放出(延長放出)担体、およびパルス式(pulsatile)放出担体である。
【0142】
一部の実施形態では、薬学的な許容される担体は、pH感度またはpH応答性である。一部の形態では、薬学的な許容される担体は、ある特定のpH範囲で解体または分解することができる。一部の形態では、薬学的な許容される担体は、pH変化を受けると構造的変化を受け得る。
【0143】
例示的な薬学的な許容される担体として、ナノ粒子、マイクロ粒子およびそれらの組合せ、リポソーム、ヒドロゲル、ポリマーマトリックス、ならびに溶媒システムが挙げられるが、それらに限定されない。
【0144】
一部の実施形態では、薬学的な許容される担体は、ナノ粒子、マイクロ粒子、またはそれらの組合せである。一部の実施形態では、化合物または組成物は、ナノ粒子、マイクロ粒子、またはその組合せの材料によって形成されたマトリックスに包埋される。
【0145】
ナノ粒子、マイクロ粒子、またはその組合せは、生分解性であり得、必要に応じて化合物または組成物の送達のために制御された速度で生分解することができる。ナノ粒子、マイクロ粒子、またはその組合せは、様々な材料から作製され得る。無機材料と有機材料の両方が使用され得る。ポリマー材料と非ポリマー材料の両方が使用され得る。
【0146】
例えば、ナノ粒子、マイクロ粒子、またはその組合せは、1種または複数種の生体適合性ポリマーから形成される。一部の形態では、生体適合性ポリマーは生分解性である。一部の形態では、生体適合性ポリマーは非生分解性である。一部の形態では、ナノ粒子、マイクロ粒子、またはその組合せは、生分解性ポリマーおよび非生分解性ポリマーの混合物から形成される。ナノ粒子、マイクロ粒子、またはその組合せを形成するために使用されるポリマーは、(i)化合物の安定化および送達時の活性の保持をもたらすための、化合物とポリマーとの間の相互作用、(ii)ポリマー分解の速度およびそれにより放出速度、(iii)化学修飾による表面特徴および標的化能力、ならびに(iv)粒子の多孔性を含む、ナノ粒子、マイクロ粒子、またはその組合せの様々な特徴を最適化するように調節され得る。
【0147】
例示的なポリマーとして、ラクトンから調製されたポリマー、例えば、ポリ(カプロラクトン)(PCL)、ポリヒドロキシ酸およびそのコポリマー、例えば、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、およびそれらのブレンド、ポリアルキルシアノアクリレート(cyanoacralate)、ポリウレタン、ポリアミノ酸、例えば、ポリ-L-リシン(PLL)、ポリ(吉草酸)、およびポリ-L-グルタミン酸、ヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、ポリ(エステルアミド)、ポリアミド、ポリ(エステルエーテル)、ポリカーボネート、エチレン酢酸ビニルポリマー(EVA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、例えば、ポリ(酢酸ビニル)、ポリビニルハライド、例えば、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリビニルピロリドン、ポリシロキサン、ポリスチレン(PS)、誘導体化セルロースを含むセルロース、例えば、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、およびカルボキシメチルセルロース、アクリル酸のポリマー、例えば、ポリ(メチル(メタ)アクリレート)(PMMA)、ポリ(エチル(メタ)アクリレート)、ポリ(ブチル(メタ)アクリレート)、ポリ(イソブチル(メタ)アクリレート)、ポリ(ヘキシル(メタ)アクリレート)、ポリ(イソデシル(メタ)アクリレート)、ポリ(ラウリル(メタ)アクリレート)、ポリ(フェニル(メタ)アクリレート)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(イソプロピルアクリレート)、ポリ(イソブチルアクリレート)、およびポリ(オクタデシルアクリレート)(本明細書では一緒に「ポリアクリル酸」と呼ばれる)、ポリジオキサノンおよびそのコポリマー、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリプロピレンフマレート、ポリオキシメチレン、ポロキサマー、ポリ(酪酸)、トリメチレンカーボネート、ポリホスファゼン、多糖、ペプチドまたはタンパク質、ならびにそれらのブレンドが挙げられるが、それらに限定されない。
【0148】
一部の実施形態では、ナノ粒子、マイクロ粒子、またはその組合せを形成する1種または複数種の生体適合性ポリマーには、FDAにより承認されている生分解性ポリマー、例えば、ポリヒドロキシ酸(例えば、PLA、PLGA、およびPGA)、ポリ酸無水物、ならびにポリヒドロキシアルカノエート、例えば、ポリ(3-ブチレート)およびポリ(4-ブチレート)が含まれる。
【0149】
ポリマー以外の材料を使用して、ナノ粒子、マイクロ粒子、またはその組合せを形成することができる。好適な材料には、界面活性剤が含まれる。ナノ粒子、マイクロ粒子、またはその組合せにおける界面活性剤の使用は、例えば、粒子と粒子との相互作用を低減することによって表面特性を改善し、粒子表面の接着性を少なくすることができる。天然に存在する界面活性剤と合成界面活性剤の両方を、ナノ粒子、マイクロ粒子、またはその組合せに組み込むことができる。例示的な界面活性剤として、ホスホグリセリド、例えば、ホスファチジルコリン(例えば、L-α-ホスファチジルコリンジパルミトイル)、ジホスファチジルグリセロール、ヘキサデカノール、脂肪アルコール、ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル、脂肪酸、例えば、パルミチン酸およびオレイン酸、ソルビタントリオレエート、グリココレート、サーファクチン、ポロキサマー(poloxomers)、ソルビタン脂肪酸エステル、例えば、ソルビタントリオレエート、チロキサポール、ならびにリン脂質が挙げられるが、それらに限定されない。
【0150】
ナノ粒子、マイクロ粒子、またはその組合せは、複数の層を含有し得る。それらの層は、活性成分のための類似のまたは異なる放出動態プロファイルを有することができる。例えば、ナノ粒子、マイクロ粒子、またはその組合せは、1つまたは複数のさらなる層によって取り囲まれた制御放出コアを有することができる。1つまたは複数のさらなる層は、好ましくはナノ粒子、マイクロ粒子、またはその組合せの表面上に即時放出層を含み得る。即時放出層は、投与直後に活性成分のボーラスをもたらし得る。
【0151】
ナノ粒子、マイクロ粒子、またはその組合せの組成および構造は、ナノ粒子、マイクロ粒子、またはその組合せがpH感度またはpH応答性であるように選択され得る。一部の実施形態では、ナノ粒子、マイクロ粒子、またはその組合せは、前述の通り、pH感度またはpH応答性ポリマー、例えば、商標EUDRAGIT(登録商標)で商業的に入手可能な腸溶ポリマーから形成される。粒子材料に応じて、胃腸管の異なる位置においてナノ粒子、マイクロ粒子、またはその組合せの解体/分解または構造的変化が生じ得る。一部の実施形態では、粒子材料は、ナノ粒子、マイクロ粒子、またはその組合せが経口投与後に胃酸への曝露を切り抜け、腸内で活性成分を放出し得るように選択される。
【0152】
D.制御放出
【0153】
一部の実施形態では、医薬製剤は、制御放出製剤であり得る。制御放出製剤の例として、延長放出製剤、遅延放出製剤、およびパルス式放出製剤が挙げられる。
【0154】
1.延長放出
【0155】
一部の実施形態では、延長放出製剤は、例えば、"Remington-The science and practice of pharmacy" (20th Ed., Lippincott Williams & Wilkins, 2000)に記載されている拡散または浸透圧システムとして調製される。
【0156】
拡散システムは、典型的に、一般的に活性成分を、ゆっくり溶解する担体と共に必要に応じて錠剤形態に合わせることによって調製された、マトリックスの形態で存在する。マトリックスの調製において使用される好適なタイプの材料には、プラスチック、親水性ポリマー、および脂肪化合物が含まれる。好適なプラスチックには、メチルアクリレート-メチルメタクリレートコポリマー、ポリ塩化ビニル、およびポリエチレンが含まれるが、それらに限定されない。好適な親水性ポリマーには、セルロースポリマー、例えば、メチルエチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、CARBOPOL(登録商標)934、ポリエチレンオキシド、およびそれらの組合せが含まれるが、それらに限定されない。好適な脂肪化合物には、様々なワックス、例えば、カルナウバワックスおよびトリステアリン酸グリセリル、ワックスタイプの物質、例えば、水素化ヒマシ油および水素化植物油、ならびにそれらの組合せが含まれるが、それらに限定されない。
【0157】
一部の実施形態では、プラスチックは、薬学的に許容されるアクリルポリマーである。一部の実施形態では、薬学的に許容されるアクリルポリマーは、アクリル酸およびメタクリル酸コポリマー、メチルメタクリレートコポリマー、エトキシエチルメタクリレートコポリマー、シアノエチルメタクリレートコポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、メタクリル酸アルキルアミンコポリマー、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(メタクリル酸)、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリ(メタクリル酸無水物)、およびグリシジルメタクリレートコポリマーから選択される。
【0158】
一部の実施形態では、薬学的に許容されるアクリルポリマーは、アンモニオメタクリレートコポリマーであり得る。アンモニオメタクリレートコポリマーは、当技術分野で周知であり、アクリル酸およびメタクリル酸エステルと低含量の第四級アンモニウム基との完全重合化コポリマーとして説明される。
【0159】
一部の実施形態では、薬学的に許容されるアクリルポリマーは、アクリル樹脂ラッカー、例えば、商標EUDRAGIT(登録商標)で商業的に入手可能なものである。一部の実施形態では、薬学的に許容されるアクリルポリマーは、EUDRAGIT(登録商標)RL(例えば、EUDRAGIT(登録商標)RL30D)およびEUDRAGIT(登録商標)RS(EUDRAGIT(登録商標)RS30D)の、2種のアクリル樹脂ラッカーの混合物を含有する。EUDRAGIT(登録商標)RL30DおよびEUDRAGIT(登録商標)RS30Dは、アクリル酸およびメタクリル酸エステルと低含量の第四級アンモニウム基とのコポリマーであり、アンモニウム基と残りの中性メタクリル酸エステルとのモル比は、EUDRAGIT(登録商標)RL30Dでは1:20であり、EUDRAGIT(登録商標)RS30Dでは1:40である。RL(高透過性)およびRS(低透過性)のコード指定は、これらのポリマーの透過特性を指す。EUDRAGIT(登録商標)RL/RS混合物は、水および消化液に不溶性である。しかし、その混合物を含むように形成されたマルチパーティクル(multi-particulate)システムは、水溶液および消化液に対して膨潤性かつ透過性である。EUDRAGIT(登録商標)RL/RS混合物は、望ましい放出プロファイルを有する持続放出製剤を最終的に得るために、任意の所望の比で調製され得る。好適な持続放出マルチパーティクルシステムは、例えば、90%EUDRAGIT(登録商標)RL+10%EUDRAGIT(登録商標)RSから、50%EUDRAGIT(登録商標)RL+50%EUDRAGIT(登録商標)RS、および10%EUDRAGIT(登録商標)RL+90%EUDRAGIT(登録商標)RSまでで得ることができる。一部の実施形態では、薬学的に許容されるアクリルポリマーはまた、他のアクリル樹脂ラッカー、例えば、EUDRAGIT(登録商標)S-100、EUDRAGIT(登録商標)L-100、およびそれらの混合物であり得るか、またはそれらを含み得る。
【0160】
様々な放出機序またはプロファイルを有するマトリックスを、単一単位または複数単位を含有する最終的な剤形に組み合わせることができる。複数単位の例として、活性成分のビーズ剤、顆粒剤、および/または細粒剤を含有する多層錠剤およびカプセル剤が挙げられるが、それらに限定されない。即時放出性部分は、コーティングプロセスもしくは圧縮プロセスを使用して延長放出性コアの最上部に即時放出性層を施与することによって、または複数単位システム、例えば延長放出性ビーズと即時放出性ビーズの両方を含有するカプセル剤でのいずれかで延長放出システムに加えることができる。
【0161】
親水性ポリマーの1つまたは複数を含有する延長放出錠剤は、当技術分野で一般に公知の技術、例えば直接圧縮、湿式造粒、および乾式造粒プロセスによって調製され得る。
【0162】
脂肪化合物の1つまたは複数を含有する延長放出錠剤は、当技術分野で公知の方法、例えば、直接ブレンド法、凝固法、および水性分散法を使用して調製され得る。凝固法では、活性成分は、脂肪化合物と混合され、スプレー凝固させられるかまたは凝固させられるかのいずれかで、ふるいにかけ、加工される。
【0163】
代替的に、延長放出製剤は、浸透圧システムを使用するか、または固体剤形に半透過性コーティングを施与することによって調製され得る。後者の場合、低透過性および高透過性コーティング材料を好適な割合で合わせることによって、所望の放出プロファイルを達成することができる。
【0164】
2.遅延放出
【0165】
遅延放出製剤は、固体剤形をコーティングでコーティングすることによって調製され得る。一部の実施形態では、コーティングは、胃の酸性環境では不溶性および不透過性であり、腸および/または下部胃腸管のより酸性度が低い環境では可溶性または透過性になる。一部の実施形態では、固体剤形は、カプセル剤に組み込むための錠剤、「コーティングされたコア」剤形の内核として使用するための錠剤、または錠剤もしくはカプセル剤のいずれかに組み込むための活性成分を含有する複数のビーズ剤、顆粒剤および/もしくは細粒剤である。
【0166】
好適なコーティング材料には、生体内分解性ポリマー、徐々に加水分解性になるポリマー、徐々に水溶性になるポリマー、および酵素的に分解可能なポリマー、例えば前述のものが含まれる。一部の実施形態では、コーティング材料は、腸溶ポリマーであるか、または腸溶ポリマーを含有する。異なるコーティング材料の組合せも使用され得る。異なるコーティング材料を使用する多層コーティングも適用され得る。
【0167】
コーティングまたはコーティング材料に好適な重量は、異なる分量のコーティング材料を用いて調製された製剤の個々の放出プロファイルを評価することによって、当業者によって容易に決定され得る。
【0168】
コーティング材料は、1種または複数種の従来の添加物質、例えば、可塑剤(必要に応じて、コーティング材料の乾燥重量に対して約10wt%~50wt%である)、着色剤、安定剤、流動促進剤など、例えば前述のものを含有することもできる。
【0169】
3.パルス式放出
【0170】
パルス式放出製剤は、複数用量の活性成分を相隔たる時間間隔で放出する。一般的に、パルス式放出製剤の投与、例えば、経口投与時には、初期用量が実質的に即座に放出され、例えば、第1の放出「パルス」が、投与の約3時間、2時間、または1時間以内に生じる。この初期パルスに、活性成分が製剤からごくわずかに放出されるか、または全く放出されない第1の時間間隔(遅延時間)が続くことができ、その後、第2の用量が放出され得る。同様に、第2の放出パルスと第3の放出パルスとの間の第2の遅延時間(ほとんど放出されない間隔)が設計され得る。遅延時間の持続期間は、製剤設計に応じて、特に投与間隔の長さ、例えば、1日2回の投与プロファイル、1日3回の投与プロファイルなどに応じて変わる。
【0171】
1日2回の投与プロファイルを提供するパルス式放出製剤については、それらの製剤は、活性成分の2つの放出パルスを送達する。一部の実施形態では、第1の放出パルスと第2の放出パルスとの間のほとんど放出されない間隔は、3時間~14時間の間の持続期間を有することができる。
【0172】
1日3回の投与プロファイルを提供するパルス式放出製剤については、それらの製剤は、活性成分の3つの放出パルスを送達する。一部の実施形態では、近接する2つのパルスの間のほとんど放出されない間隔は、2時間~8時間の間の持続期間を有することができる。
【0173】
一部の実施形態では、パルス式放出製剤は、異なる放出動態を有する複数の薬学的に許容される担体を含有する。
【0174】
一部の実施形態では、パルス式放出製剤は、活性成分が負荷された複数の層を有する薬学的に許容される担体を含有する。一部の実施形態では、それらの層は、異なる放出動態を有することができる。一部の実施形態では、それらの層は、遅延放出コーティングによって分離され得る。例えば、パルス式放出製剤は、表面に活性成分が負荷された第1の放出パルスのための第1の層、および活性成分が負荷された第2の放出パルスのための第2の層、例えばコアを有することができ、第2の層は、遅延放出コーティングによって取り囲まれていてもよく、それによって、2つの放出パルスの間に遅延時間が生じる。
【0175】
一部の実施形態では、パルス式放出プロファイルは、少なくとも2つの「投与単位」が入れられた、閉鎖され、必要に応じて密封されたカプセル剤である製剤を用いて達成され、ここでカプセルの中の各投与単位は、異なる放出プロファイルをもたらす。一部の実施形態では、投与単位の1つの少なくともは、遅延放出性投与単位である。遅延放出性投与単位の制御は、投与単位上の制御放出性ポリマーコーティングによって、または活性成分を制御放出性ポリマーマトリックスに組み込むことによって達成され得る。一部の実施形態では、各投与単位は、圧縮または成型錠剤を含むことができ、ここでカプセルの中の各錠剤は、異なる放出プロファイルをもたらす。
【0176】
E.異なる投与経路のための例示的な製剤
【0177】
本明細書に記載される状態、障害または疾患に罹患している対象は、本明細書に記載される化合物または組成物を含有する医薬製剤の経口、吸入、局所、経粘膜もしくは粘膜下、皮下、非経口、筋肉内、静脈内、または経皮投与により、標的化または全身投与のいずれかによって処置され得る。一部の実施形態では、医薬製剤は、経口投与に好適である。一部の実施形態では、医薬製剤は、吸入または鼻腔内投与に好適である。一部の実施形態では、医薬製剤は、経皮または局所投与に好適である。一部の実施形態では、医薬製剤は、皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内、非経口、または粘膜下投与に好適である。
【0178】
一部の実施形態では、医薬製剤は、経口医薬製剤である。一部の実施形態では、活性成分は、前述の1種または複数種の薬学的に許容される賦形剤と共に組み込まれ、錠剤、丸剤、カプレット剤、またはカプセル剤の形態で使用され得る。例えば、対応する経口医薬製剤は、以下の薬学的に許容される賦形剤の1つもしくは複数、または類似の性質のものを含有し得る:前述の結合剤、前述の崩壊剤、前述の滑沢剤、前述の流動促進剤、甘味剤(例えば、スクロースおよびサッカリン)、および香味剤(例えば、サリチル酸メチルおよびフルーツ香味剤)。一部の実施形態では、経口医薬製剤がカプセル剤の形態である場合、その製剤は、上記で列挙された材料に加えて、液体担体(例えば、脂肪油)を含有し得る。一部の実施形態では、経口医薬製剤がカプセル剤の形態である場合、各カプセル剤は、活性成分の複数のビーズ、顆粒、および/または細粒を含有し得る。一部の実施形態では、経口医薬製剤は、投与単位の物理的形状または1つもしくは複数の薬学的特性を修正する他の1種または複数種の材料、例えば、以前の節に記載される多糖、セラック、または腸溶ポリマーのコーティングを含有し得る。
【0179】
一部の実施形態では、経口医薬製剤は、エリキシル剤、懸濁液剤、シロップ剤、ウエハ剤、チューインガム剤などの形態であり得る。シロップ剤は、活性成分に加えて、1種もしくは複数種の甘味剤(例えば、スクロースおよびサッカリン)、1種もしくは複数種の香味剤、1種もしくは複数種の防腐剤、および/または1種もしくは複数種の染料もしくは着色料を含有し得る。
【0180】
一部の実施形態では、医薬製剤は、非経口医薬製剤である。一部の実施形態では、非経口医薬製剤は、ガラスもしくはプラスチックから作製された、アンプル、シリンジ、または単一もしくは複数用量バイアルに封入され得る。一部の実施形態では、非経口医薬製剤は、静脈内医薬製剤である。一部の実施形態では、静脈内医薬製剤は、活性成分のための薬学的に許容される液体担体を含有する。好適な薬学的に許容される液体担体には、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF、Parsippany、NJ)、リン酸緩衝食塩水(PBS)、およびそれらの組合せが含まれるが、それらに限定されない。
【0181】
一部の実施形態では、医薬製剤は、局所医薬製剤である。局所医薬製剤の好適な形態には、直腸、膣、鼻または口の粘膜への適用のための、ローション剤、懸濁液剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、チンキ剤、スプレー剤、散剤、ペースト剤、緩慢放出性経皮パッチ、および坐剤が含まれる。一部の実施形態では、増粘剤、皮膚軟化薬(例えば、鉱物油、ラノリンおよびその誘導体、ならびにスクアレン)、保湿剤(例えば、ソルビトール)、および/または安定剤を使用して、局所医薬製剤を調製することができる。増粘剤の例として、ワセリン、蜜蝋、キサンタンガム、およびポリエチレンが挙げられる。
【0182】
一部の実施形態では、医薬製剤は、鼻腔内医薬製剤である。一部の実施形態では、鼻腔内医薬製剤は、必要に応じてポンプスプレーボトルに入れることができる水性懸濁液の形態で存在する。水性懸濁液は、水以外に、1種または複数種の薬学的に許容される賦形剤、例えば、懸濁化剤(例えば、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピル-メチルセルロース)、保湿剤(例えば、グリセロールおよびプロピレングリコール)、酸、塩基、および/またはpHを調整するためのpH緩衝化剤(例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リン酸、リン酸ナトリウム、およびそれらの組合せ)、界面活性剤(例えば、Polysorbate 80)、ならびに防腐剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、フェニルエチルアルコール、およびソルビン酸カリウム)を含有し得る。
【0183】
一部の実施形態では、医薬製剤は、吸入医薬製剤である。一部の実施形態では、吸入医薬製剤は、エアロゾル懸濁液剤、乾燥散剤、または液体懸濁液剤の形態であり得る。吸入医薬製剤は、送達のために、鼻腔用スプレーまたは吸入器、例えば、定量噴霧式吸入器(MDI)として調製され得る。一部の実施形態では、MDIは、クロロフルオロカーボン噴射剤、例えば、CFC-11およびCFC-12、または非クロロフルオロカーボンもしくは代替の噴射剤、例えば、フルオロカーボン(例えば、HFC-134A、HFC-227など)に懸濁させたエアロゾル化粒子を、界面活性剤または好適な架橋剤を伴ってまたは伴わずに送達することができる。乾燥散剤吸入器を使用してもよく、呼吸により作動させるかまたは圧力によって送達を行うかのいずれかができる。
【0184】
一部の実施形態では、活性成分は、例えば以前の節に記載される制御放出製剤などの投与後、対象の身体からの急速な分解または排除に対して活性成分を保護する薬学的に許容される担体を用いて調製される。
【0185】
V.使用方法
【0186】
状態、障害または疾患を処置することを必要とする対象の状態、障害または疾患を処置する方法が開示される。その方法は、有効量の本明細書で開示される化合物、組成物または医薬製剤を対象に投与することを含む。
【0187】
化合物、組成物または医薬製剤は、局所投与が所望されるか全身投与が所望されるかに応じて、様々な方式で投与することができる。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、対象の特定の身体位置に、例えば、局所投与および鼻腔内投与により直接的に投与される。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、全身方式で、例えば、経腸投与(例えば、経口投与)および非経口投与(例えば、注射、注入、および移植)で投与される。例示的な投与経路として、経口投与、静脈内投与、例えば、静脈内注射または注入、鼻腔内投与、および局所投与が挙げられる。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、経口投与される。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、静脈内投与される。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、鼻腔内投与される。
【0188】
一部の実施形態では、対象は、ヒトである。一部の実施形態では、対象は、18歳未満のヒトである。一部の実施形態では、対象は、非ヒト動物、例えば、家庭用ペット、家畜および家畜動物、ならびに動物園の動物である。一部の実施形態では、非ヒト動物は、非ヒト霊長類であり得る。
【0189】
A.適応症
【0190】
正常なシナプス伝達は、検出可能な酸性化を生じない。むしろ、興奮性シナプス伝達は、典型的に短時間のアルカリ化を生じる(Tong, et al., J Neurophysiol, 2006, 95:3686-97、Makani and Chesler, J Neurosci, 2007, 27:7438-7446)。したがって、正常な興奮性シナプス伝達下では、本明細書で開示される化合物は、認識できるほどそれらのpH感度を発揮しない。加えて、細胞外pHの低下は、通常、正常な脳内のシナプス外NMDARにおいては生じない。したがって、本明細書で開示される化合物は、正常な状態ではGluN2B含有NMDARを阻害するのに効果が低い。
【0191】
本明細書で開示される化合物のpH感度および高い効力は、GluN2B含有NMDARの細胞外環境の酸性化を伴う状態、障害および疾患に好適である。特に、化合物のpH感度は、脳内に局所的酸性化をもたらし得るある範囲の適応症、例えば、脳卒中およびくも膜下出血において有用であり得る。
【0192】
酸性化された細胞外環境下でのGluN2B含有NMDARに対する化合物の増強された効力は、急性傷害(例えば、虚血)後にそれらの神経保護効果を促進することができる。HCO およびHを生じるCO上昇と、乳酸生成を伴う嫌気性代謝へのシフトとの両方によって駆動される虚血は、典型的に、細胞外空間にわたってpHを低下させる。虚血中の梗塞および境界域の酸性化の強力なドライバーであるこれらの機構は、シナプスおよび非シナプスGluN2B含有NMDARの両方に影響を及ぼし得る。
【0193】
本開示の化合物の実用性は、代謝的pH変化および局所的酸性化を生じる神経細胞の高頻度の発火を伴う状態、障害、および疾患、例えば、炎症性疼痛に適用することもできる。
【0194】
開示される化合物、組成物、および製剤によって処置することができる例示的な状態、障害、および疾患として、脳卒中、くも膜下出血、脳虚血、脳血管痙攣、低酸素症、急性CNS傷害、脊髄傷害、外傷性脳傷害、冠動脈バイパスグラフト、持続性または慢性咳嗽、物質乱用障害、オピエート離脱、オピエート耐性、双極性障害、自殺念慮、疼痛、線維筋痛症、うつ病、産後うつ病、静止時振戦、認知症、てんかん、発作障害、運動障害、および神経変性疾患が挙げられるが、それらに限定されない。
【0195】
一部の実施形態では、状態、障害または疾患は、疼痛、うつ病、脳卒中、およびくも膜下出血から選択される。
【0196】
一部の実施形態では、状態、障害または疾患は、脳卒中である。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、脳卒中関連損傷を処置または予防するために使用される。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、脳卒中、脳卒中の維持処置、および/または脳卒中のリハビリテーションのために救急ケアの下で投与される。
【0197】
一部の実施形態では、状態、障害または疾患は、くも膜下出血(SAH)、例えば、動脈瘤性SAHである。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、SAH関連損傷を処置または予防するために使用される。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、SAH、SAHの維持処置、および/またはSAHのリハビリテーションのために救急ケアの下で投与される。
【0198】
SAHは、脳を覆う膜であるくも膜の下に血液が集まる異常状態を指す。この領域は、くも膜下腔と呼ばれ、普通は脳脊髄液を含有している。くも膜下腔への血液の蓄積、およびそれから生じる血管の血管痙攣は、脳卒中、発作、および他の合併症をもたらし得る。SAHは、自然発生するか、または頭部損傷によって引き起こされ得る。化合物、組成物または医薬製剤を使用して、SAHを経験している対象を処置することができる。例えば、化合物、組成物または医薬製剤を使用して、例えば、SAHから生じ得る脳卒中および虚血を含むSAHの毒性効果の1つまたは複数を予防または制限することができる。代替的に、化合物、組成物または医薬製剤を使用して、頭部損傷によって引き起こされた外傷性くも膜下出血を有する対象を処置することができる。
【0199】
ある特定の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤を使用して、SAH、例えば動脈瘤性SAHから生じる神経学的欠損を寛解させることができる。ある特定の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、状態の処置の初期に、例えば頭蓋出血を停止させるための外科手術とほぼ同時に投与される。遅発性脳虚血(DCI)は、動脈瘤性SAH後の症例の約30%において生じる。ある特定の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、SAHと関連するDCIの予防のために投与される。ある特定の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、DCIのリスクが最も高い期間に、例えば初期出血の3~14日後に投与される。
【0200】
一部の実施形態では、状態、障害または疾患は、疼痛である。一部の実施形態では、疼痛は、慢性疼痛である。一部の実施形態では、疼痛は、がん疼痛である。一部の実施形態では、疼痛は、神経障害性疼痛である。神経障害性疼痛の例として、糖尿病性末梢神経障害、帯状疱疹後神経痛、複合性局所疼痛症候群、末梢神経障害、関節リウマチ、化学療法誘発性神経障害性疼痛、がん神経障害性疼痛、神経障害性下背部痛、HIV神経障害性疼痛、三叉神経痛、および中枢性脳卒中後疼痛が挙げられる。
【0201】
一部の実施形態では、神経障害性疼痛は、外傷、虚血、感染(例えば、HIV感染、帯状疱疹、および帯状疱疹後神経痛)、代謝性疾患および内分泌学的障害(例えば、真性糖尿病、糖尿病性神経障害、アミロイドーシス、およびアミロイドポリニューロパチー(一次および家族性))、血管炎性ニューロパチー、ギラン・バレー症候群と関連するニューロパチー、ファブリー病と関連するニューロパチー、解剖学的異常による絞扼、三叉神経痛および他のCNS神経痛、悪性腫瘍、潜因性原因のもの(例えば、特発性末梢小径線維ニューロパチー)、炎症状態または自己免疫障害(例えば、脱髄性炎症性障害、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、およびシェーグレン症候群)、神経線維の圧縮(例えば、神経根障害および手根管症候群)、毒素または薬物への曝露、食生活または吸収の異常、免疫グロブリン血症、ならびに遺伝的異常および切断(乳房切除を含む)を含むがそれらに限定されない末梢またはCNS病理学的事象から生じる。
【0202】
一部の実施形態では、状態、障害または疾患は、うつ病または産後うつ病である。一部の実施形態では、うつ病は治療抵抗性うつ病である。
【0203】
一部の実施形態では、状態、障害または疾患は、神経変性疾患である。一部の実施形態では、神経変性疾患は、ハンチントン病、アルツハイマー病、またはパーキンソン病である。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、神経変性疾患の1つまたは複数の症状を低減するために使用される。例示的な症状として、認知症(アルツハイマー病に関する)ならびにジストニアおよび関連運動障害(パーキンソン病に関する)が挙げられる。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、神経変性疾患に罹患している対象に認知の増強をもたらすために使用される。
【0204】
一部の実施形態では、状態、障害または疾患は、てんかんまたは発作障害である。一部の実施形態では、処置を必要とする対象のてんかんまたは発作障害は、既存の医薬品によって適切に制御されないてんかん(すなわち、治療抵抗性てんかん)、乳児性痙縮、ならびにてんかん、発作、痙縮、異常過剰同期性(hypersynchronous)脳活動、および/または増強された神経活動の同期性と関連する他の状態を生じる希少疾患または遺伝状態(例えば、遺伝的変異)によって引き起こされたてんかんまたは発作障害が含まれ得る。一部の実施形態では、対象は、てんかんまたは発作障害に罹患している小児患者であり得る。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、対象のてんかんまたは発作障害の重症度および/または強度を低減するために使用される。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、対象のてんかんまたは発作障害の頻度を低減するために使用される。
【0205】
一部の実施形態では、状態、障害または疾患は、認知症である。一部の実施形態では、認知症は、AIDS誘発性認知症である。
【0206】
一部の実施形態では、状態、障害または疾患は、低酸素症である。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、低酸素症関連損傷を処置または予防するために使用される。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、低酸素事象、低酸素症の維持処置、および/または低酸素症のリハビリテーションのために救急ケアの下で投与される。一部の実施形態では、低酸素症は、呼吸不全、人工呼吸器の長時間使用、またはそれらの両方によって誘発される。一部の実施形態では、呼吸不全、人工呼吸器の長時間使用、またはそれらの両方は、COVID-19によって引き起こされた入院を含めて、COVID-19と関連している。
【0207】
一部の実施形態では、状態、障害または疾患は、脳虚血である。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、脳虚血関連損傷を処置または予防するために使用される。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、脳虚血事象、脳虚血の維持処置、および/または脳虚血のリハビリテーションのために救急ケアの下で投与される。一部の実施形態では、脳虚血は、外傷性脳傷害、冠動脈バイパスグラフト、頸動脈血管形成術、または低体温循環停止後の新生児虚血によって引き起こされる。
【0208】
一部の実施形態では、状態、障害または疾患は、脳血管痙攣である。一部の実施形態では、脳血管痙攣は、SAHによって引き起こされるかまたは誘発される。
【0209】
B.投与量および投与
【0210】
一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、処置される状態、障害または疾患と関連する1つもしくは複数の望ましくない症状および/または1つもしくは複数の臨床徴候を軽減するのに十分な期間にわたって投与される。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、1日3回未満投与される。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、1日1回または2回投与される。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、1日1回投与される。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、単一経口投与量で1日1回投与される。一部の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、単一静脈内投与量で1日1回投与される。
【0211】
投与ごとの化合物の用量は、5~300mgの間または前述の通りであり得る。一部の実施形態では、投与ごとの化合物の用量は、25~200mgの間である。一部の実施形態では、投与ごとの化合物の用量は、25~175mgの間である。一部の実施形態では、投与ごとの化合物の用量は、25~150mgの間である。一部の実施形態では、投与ごとの化合物の用量は、50~200mgの間である。一部の実施形態では、投与ごとの化合物の用量は、75~200mgの間である。一部の実施形態では、投与ごとの化合物の用量は、50~175mgの間である。一部の実施形態では、投与ごとの化合物の用量は、75~150mgの間である。
【0212】
ある特定の実施形態では、化合物、組成物または医薬製剤は、1日または数日間にわたって1日当たりの化合物の負荷用量で投与され、次に処置過程を完了するために1日または数日間にわたって1日当たりの化合物の低減されたまたは通常の用量で投与される。例えば、化合物、組成物または医薬製剤は、初日に化合物の負荷用量で投与され、次にその過程の残りにわたって1日当たりの低減されたまたは通常の用量で投与される。化合物の好適な負荷用量は、前述の例示的な総1日投与量から選択することができる。化合物の好適な低減されたまたは通常の用量も、前述の例示的な総1日投与量から選択することができる。ある特定の実施形態では、化合物の負荷用量は約150mgであり、化合物の低減されたまたは通常の用量は100mgである。例えば、化合物、組成物または医薬製剤は、初日に150mgの化合物の負荷用量で投与され、次にその過程の残りにわたって1日当たり100mgの化合物の低減されたまたは通常の用量で投与される。
【実施例
【0213】
以下の実施例は、pH7.6と比較してpH6.9においてGluN2Bに対して増強された効力を有するGluN2B選択的ネガティブアロステリックNMDARモジュレーターを製作し、評価するための研究を記載する。
【0214】
(実施例1)
例示的な化合物の合成および特徴付け
【化26】
【0215】
A.合成手順
エタノール(1L)中(R)-6-(オキシラン-2-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロキノリン-2(1H)-オン(100g、0.456mol)および1-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)ピペラジン(105g、0.456mol)の懸濁液を、HPLCによってモニタリングしながら75℃で21時間撹拌した。反応物は75℃で15分以内に透明な溶液になった。反応混合物を50℃に冷却し、沈殿した固体を濾過し、エタノール(200mL)で洗浄した。収集した固体を真空下で乾燥させて、粗製生成物(175g、85.3%)を得た。
【0216】
粗製NP10679(複数のバッチから260g)を5Lの丸底フラスコに入れ、それに、予め混合したメタノール:アセトン(1:1)の溶液を一定の撹拌を伴って添加した。懸濁液を、それが透明になるまで(およそ30分)撹拌しながら50℃に加熱し、次に2μMフィルタを介して濾過した。透明な溶液を15分間にわたって30℃に冷却し、10分間にわたって激しく撹拌しながら水(13L)に添加した。沈殿した固体を30℃で30分間撹拌し、濾過し、水(7.8L)で洗浄し、真空トレイ式乾燥機中で、70℃で48時間乾燥させた。この再結晶化により白色の固体255g(収率98%)が生じる。再結晶化生成物の純度およびキラル純度は、それぞれ>99%(HPLCにより)および>98%(キラルHPLCにより)であると決定された。
【0217】
NP10309を、出発材料として(S)-6-(オキシラン-2-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロキノリン-2(1H)-オンおよび1-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)ピペラジンを用いて、類似の方法を使用して合成した。
【0218】
表1および2の他の化合物を、前述のものと類似の方法、ならびに米国特許第8,420,680号およびWang et al., Neurocrit Care, 2014, 20:119-131に記載されている方法を使用して合成した。一般的に、化合物のキラル中心を、対応するエポキシドの開環反応により生じさせた。
【0219】
例えば、ベンジル尿素含有化合物である10075の合成は、Wang et al., Neurocrit Care, 2014, 20:119-131に記載されていた。10131、10165、10166、10189、10214、10215、10222、10224、10225、10272、および10294を含む他のベンジル尿素含有化合物を、同じやり方で合成した。
【0220】
フェノール含有化合物である10045の合成は、米国特許第8,420,680号に記載されていた。NP10030、10039、10040、10052、10082、10171、10235、10243、10244、10245、10247、および10249を含む他のフェノール含有化合物を、同じやり方で合成した。
【0221】
ベンゾイミダゾリノン含有化合物である10146の合成は、米国特許第8,420,680号に記載されていた。他の縮合環(二環式)化合物、例えば10228を、同じやり方で合成した。
【0222】
B.化学的特徴付け
NP10679:1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 9.90 (brs, 1H), δ 7.50 (d, J=16Hz,1H), 7.05 (d, J = 16 Hz, 1H), 6.85 - 6.70 (m, 3H), 4.90 (brd, 1H), 4.00 - 3.80 (m, 3H), 3.30 - 3.20 (m, 4H), 2.90 - 2.75 (m, 2H), 2.70 - 2.30 (m, 8H). 13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 171.82, 154.63, 153.09, 131.21, 130.04, 126.36, 124.94, 122.87, 121.22, 120.79, 120.36, 119.92, 116.30, 114.52, 113.95, 113.24, 70.70, 65.80, 60.48, 53.02, 47.98, 30.51, 25.58. C2326のm/z計算値500.47;実測値500.30[M+H]。
【0223】
(実施例2)
GluN2B効力およびpH依存性の測定
【0224】
A.材料および方法
NP10679、NP10309、ならびに表1および2の他の化合物のGluN2B効力およびpH依存性を、アフリカツメガエル卵母細胞に発現されたヒトGluN1-1a/GluN2B受容体(以下GluN1/GluN2B)に対して、それぞれpH6.9および7.6におけるIC50値を測定することによって評価した。
【0225】
アフリカツメガエル卵母細胞からの二電極電圧クランプ記録
ステージV~VIのアフリカツメガエル未受精卵母細胞を、Ecocyte(Austin、Texas)から購入し、5ngのGluN1および10ngのGluN2B cRNAを注入した。それぞれNCBI参照配列NM_007327.3およびNM_000834.3をコードするヒトGluN1およびGluN2BのcDNAを直線化し、既に説明されている通りにcRNAを作製した(Traynelis et al., J Neurosci, 1998, 18(16):6163-75)。注入後に、卵母細胞をBarthの培養溶液(88mM NaCl、1mM KCl、2.4mM NaHCO、10mM HEPES、0.82mM MgSO、0.33mM Ca(NO、0.41mM CaCl、10U/mL PenStrep、および0.1mg/mLゲンタマイシン、pH7.4)中、18℃でインキュベートした。Warner OC725C増幅器(VHOLD=-40mV)を使用して、注入の2~7日後に二電極電圧クランプ(TEVC)記録を22~23℃で取った。簡潔には、卵母細胞を、それぞれNaOHまたはHClの添加によってpH7.6または6.9のいずれかに調整した記録溶液(90mM NaCl、1mM KCl、10mM HEPES、0.01mM EDTA、および0.5mM BaCl)中でかん流させた(pH7.6溶液にHClを添加することによってpH6.9溶液を調製して、両方の溶液において等濃度のNaイオンを維持した)。化合物の濃度応答曲線を、飽和アゴニスト濃度(すなわち、100μMグルタミン酸および30μMグリシン)の存在下で定常状態条件が得られるまで、上昇濃度の個々の各化合物を適用することによって得た。一般的に、卵母細胞記録は、2回以上の実験から、実験(すなわち、卵母細胞の注入サイクル)ごとに4~10個の卵母細胞から取った。卵母細胞ごとの濃度応答関係を、方程式(1)によってフィットさせた。
応答パーセント=(100-最小)/(1+([濃度]/IC50nH)+最小 (1)
ここで最小は、個々の各化合物の飽和濃度における残差応答であり(≧0になるように制約される)、IC50は、最大半量阻害を引き起こす化合物の濃度であり、nHは、ヒル勾配である。
【0226】
NP10679について、NP10679を3μMの単一濃度で試験したことを除いてGluN2Bと類似の方式で、GluN2A(NM_000833)、GluN2C(NM_000835)およびGluN2D(NM_000836)NMDARにおいても活性を試験した。
【0227】
B.結果
pH6.9および7.6で測定したGluN2Bに対する化合物のIC50値を、表1および2に示す。
【0228】
表1は、9対の鏡像異性体についてのGluN2Bに対するIC50値を示す。これらの化合物の中でも、R鏡像異性体は、それらの対応するS鏡像異性体と比較してはるかに低いpHブーストを示した。ここで、特定の化合物のpHブーストは、pH6.9において決定されたそのIC50値に対するpH7.6において決定されたそのIC50値の比として定義される。
【0229】
表1において、一部のR鏡像異性体、例えば10233、10249、および10228は、GluN2Bに対して、それらの対応するS鏡像異性体と比較してより低い効力(すなわち、より高いIC50)を示し、一方、他のR鏡像異性体は、GluN2Bに対して、それらの対応するS鏡像異性体と比較して同等のまたはそれよりも高い効力を示した。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0230】
表2は、6対の鏡像異性体についてのGluN2Bに対するIC50値を示す。これらの化合物の中でも、構造と活性の関係は、表1から得られたものとは非常に異なっている。特に、R鏡像異性体は、それらの対応するS鏡像異性体と比較して同等のまたはさらにはそれよりも高いpHブーストを示した。さらに、すべてのR鏡像異性体が、GluN2Bに対して、その対応するS鏡像異性体と同等のまたはそれよりも高い効力を示した。
【0231】
例えば、NP10679は、pH6.9において23nMのIC50値およびpH7.6において142nMのIC50値を示し、6.2のpHブーストに対応していた。比較として、そのS鏡像異性体であるNP10309は、pH6.9において111nMのIC50値およびpH7.6において717nMのIC50値を示し、6.5のpHブーストに対応していた。
【表2-1】
【表2-2】
【0232】
さらに、GluN2A、GluN2C、およびGluN2Dに対するNP10679の活性を、pH6.9において測定した。NP10679は、GluN2A、GluN2C、およびGluN2DよりもGluN2Bサブユニットについての選択性が高い。3μMにおいてGluN2A、GluN2C、およびGluN2Dに対する注目すべきオフターゲット阻害はなかった(表3)。
【表3】
【0233】
(実施例3)
in vitro薬物プロファイリング
【0234】
A.材料および方法
肝ミクロソーム安定性、チトクロムP450阻害、および血漿タンパク質結合
【0235】
代謝安定性を、ヒトおよびマウス肝ミクロソーム(Xenotech、USA)を使用して評定した。アッセイの最終組成物は、DMSOおよびアセトニトリルの最終濃度がそれぞれ0.2%および0.8%になるようにDMSOまたはアセトニトリルストックから調製された、1μMの試験化合物または参照標準物質(イミプラミンおよびジクロフェナクナトリウム)を含んでいた。試験化合物を、0.5mg/mLミクロソームタンパク質と共に、補因子を伴わずに(100mMリン酸カリウム緩衝剤単独で、pH7.4)または補因子を伴って(5.0mMグルコース-6-ホスフェート、0.06Uグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、2.0mM MgCl、1.0mM NADP/NADPH)インキュベートした。試験化合物および標準物質を、ヒトおよびマウス肝ミクロソームと共に37℃でインキュベートし、一定分量の反応混合物(100μL)を0分、5分、15分、30分、60分および120分において取り出した。一定分量における反応を、tert-ブチルメチルエーテル2.5mLを添加することによって停止させ、試料を15分間振とうさせた。その後、試料を4000rpmにおいて10℃で15分間回転させ、有機相を蒸発乾固させ、次にLC-MS/MS分析のために溶媒で再構成した。特定されたインキュベーション期間後に残っている試験化合物のパーセントを、時間0分における試験化合物のピーク面積に関して計算した。
【0236】
CYP2D6およびCYP3A4の阻害を、組換え型ヒトアイソフォームおよびVivid CYP青色スクリーニングキット(Invitrogen、USA)を使用し、96ウェルプレート中、製造社の方法に従って試験化合物の2倍系列希釈物(9つの試料)をキット試薬および反応緩衝剤と共にインキュベートすることによって達成した。次に、プレートを室温で30分間インキュベートした後、蛍光をプレートリーダーで測定した。これらの研究については、参照標準物質であるケトコナゾール(CYP3A4)およびキニジン(CYP2D6)を対照として使用した。
【0237】
血漿タンパク質結合を、8,000ダルトンの分子量カットオフを有する透析膜を含有する急速平衡透析法(RED)デバイスを用いて、製造社の使用説明書(ThermoFisher、USA)に従って実施した。血漿試料(pH7.4)および試験化合物溶液(1μMまたは5μM)または参照標準物質(ワルファリンおよびプロプラノロール、10μM)を合わせた(DMSOの最終濃度0.1%)。このスパイクした血漿試料300μLを試料チャンバに添加し、ブランクPBS緩衝剤(pH7.4)500μLを緩衝剤チャンバに添加した。REDデバイスを接着性フィルムで密封し、次に300rpmにおいて振とうしながら37℃で4時間インキュベートした。インキュベーション後に、一定分量(50μL)を各ウェルから取り出し(スパイクした血漿および緩衝剤側)、同体積の対応する反対側のマトリックス(ブランク緩衝剤またはブランク血漿)で希釈して、マトリックス効果を無効にし、次にLC-MS/MSによる分析のために抽出した。遊離材料の量を、
遊離%=(緩衝剤側の試験化合物のLC-MS/MSピーク面積/血漿側の試験化合物のLC-MS/MSピーク面積)×100%
によって決定した。
【0238】
オフターゲットスクリーニング
hERG(ヒト遅延整流性カリウムイオンチャネル遺伝子)カリウムチャネル電流(IKr、急速活性化遅延整流心臓カリウム電流の代替)に対するNP10679のin vitro効果を、hERGを安定に発現するHEK哺乳動物細胞中でQPatch HT(登録商標)(Sophion Bioscience A/S、Denmark)および自動並列パッチクランプシステム(ChanTest、Cleveland、OH)を使用して室温で評価した。NP10679を、(mMで)NaCl、137;KCl、4.0;CaCl、1.8;MgCl、1;HEPES、10;グルコース、10(pHを7.4に調整した)から構成されたHB-PS溶液で0.1μM、0.3μM、1μMおよび3μMに希釈して評価した。各試験濃度を、2つまたはそれよりも多い細胞(n≧2)で試験した。各試験物品濃度への曝露持続期間は3分であった。陽性対照(0.5μM E-4301)を使用して、hERG阻害剤に対する細胞の感度を確認した。
【0239】
NP10679のオフターゲット放射性リガンド結合置換研究を、チャペルヒルのノースカロライナ大学のNational Institutes of Mental Health Psychoactive Drug Screening Program(NIMH PDSP)で実施した。簡潔には、化合物をNIMH PDSPに提出し、哺乳動物の細胞膜中に発現した標的への特異的放射性リガンドの結合をin vitroで置き換える能力について、平衡条件下で単一濃度(10μM)の試験物品でスクリーニングした。各受容体の標的を四連でアッセイし、各標的における放射性リガンドの結合の阻害%をpH7.4で決定した。阻害%が>50%であった場合、完全競合置換結合研究を実施してIC50値を決定し、このIC50値からCheng-Prusoff方程式(K=IC50/[1+(L/K)])(Lは、競合結合アッセイにおいて使用した放射性リガンド濃度であり、Kは、上記の飽和結合アッセイにおいて決定された放射性リガンド平衡結合親和性である)を使用してK値を決定した。
【0240】
以下の標的(括弧内は放射性リガンド)を試験した。5-HT1A([H]8-OH-DPAT)、5-HT1B([H]5-カルボキシアミドトリプタミン)、5-HT1D([H]5-カルボキシアミドトリプタミン)、5-HT1E([H]5HT)、5-HT2A([H]ケタンセリン)、5-HT2B([H]LSD)、5-HT2C([H]メスレルギン)、5-HT3([H]LY278584)、5-HT5A([H]LSD)、5-HT6([H]LSD)、5-HT7([H]LSD)、アルファ1A([H]プラゾシン)、アルファ1B([H]プラゾシン)、アルファ1D([H]プラゾシン)、アルファ2A([H]-ラウオルシン)、アルファ2B([H]-ラウオルシン)、アルファ2C([H]-ラウオルシン)、ベータ1([125I]ピンドロール)、ベータ2([H]CGP12177)、ベータ3([H]CGP12177)、BZPラット脳部位([H]フルニトラゼパム)、D1([H]SCH23390)、D2([H]N-メチルスピペロン)、D3([H]N-メチルスピペロン)、D4([H]N-メチルスピペロン)、D5([H]SCH23390)、DAT([H]WIN35428)、DOR([H]DADLE)、GABAA([H]ムシモール)、H1([H]ピリラミン)、H2([H]チオチジン),H3([H]アルファ-メチルヒスタミン)、H4([H]ヒスタミン)、KOR([H]U69593)、M1([H]QNB)、M2([H]QNB)、M3([H]QNB)、M4([H]QNB)、M5([H]QNB)、MOR([H]DAMGO)、NET([H]ニソキセチン)、PBR([H]PK11195)、SERT([H]シタロプラム)、シグマ1([H]ペンタゾシン(+))、およびシグマ2([H]DTG)。
【0241】
機能的研究において一部の受容体標的を試験して、NP10679がアゴニストまたはアンタゴニストとして作用するかについても確立した。これらの受容体標的には5-HT2A受容体が含まれており、その機能的研究をpH7.4で実施した(Porter, et al., Br J Pharmacol, 1999, 128:13-20; CEREP, France)。アゴニズムを評価するために、ヒト5-HT2AをトランスフェクトしたHEK293細胞を、上昇濃度のNP10679(二連のウェル/濃度)と共に37℃で30分間インキュベートした。受容体の活性化を、HTRF(登録商標)方法によって検出されたIP1レベルの変化によって決定した。10μMセロトニンで刺激した別個のウェルが、陽性対照としての役割を果たした。NP10679によるアンタゴニズムを決定するために、細胞を、上昇濃度の化合物(1つの濃度につき二連のウェル)と共に37℃で30分間インキュベートした。細胞を100nMセロトニンで刺激した。受容体の活性化を、HTRF(登録商標)方法によって検出されたIP1レベルの変化によって決定した。対照阻害剤であるケタンセリンを別個に実施して、アッセイデータの正確性および信頼性を確認した。
【0242】
上昇濃度のNP10679(1つの濃度につき二連のウェル)と共にpH7.4において室温でインキュベートしたヒトα1A-アドレナリン受容体をトランスフェクトしたCHO細胞で類似の研究を実施して、アゴニズムおよびアンタゴニズムを評価した(Vicentic, et al., J Pharmacol Exp Ther, 2002, 302:58-65)。受容体の活性化を、fura-2蛍光定量検出法(CEREP、フランス)によって細胞内変化[Ca2+]により決定した。陽性対照として30nMエピネフリンを用いて別個のウェルを刺激した。アンタゴニズムを評価するために、細胞を、上昇濃度のNP10679(二連のウェル/濃度)と共に室温でインキュベートし、次に細胞を3nMエピネフリンで刺激した。受容体の活性化をfura-2蛍光定量検出法(CEREP、フランス)によって細胞内変化[Ca2+]により決定した。
【0243】
ヒトH-ヒスタミン受容体におけるアゴニズムおよびアンタゴニズムを評価するために、H受容体をトランスフェクトしたHEK293細胞を、上昇濃度のNP10679(1つの濃度につき二連のウェル)と共にpH7.4において室温でインキュベートした(Miller, et al., J Biomol Screen, 1999, 4(5):249-258)。受容体の活性化を、fura-2蛍光定量検出法によって細胞内変化[Ca2+]により決定した。陽性対照として10μMヒスタミンを用いて別個のウェルを刺激した。NP10679によるアンタゴニズムを評価するために、細胞を、上昇濃度の化合物(1つの濃度につき二連のウェル)と共に室温でインキュベートし、次に細胞を300nMヒスタミンで刺激した。受容体の活性化をfura-2蛍光定量検出法によって細胞内変化[Ca2+]により決定した。対照阻害剤であるピリラミンを別個に実施して、アッセイデータの正確性および信頼性を確認した(CEREP、フランス)。
【0244】
B.結果
代謝安定性を、DMSOストック(DMSO最終0.2%)から調製した1μM NP10679を用いて、ヒトおよびマウス肝ミクロソームを使用して行った。化合物および標準物質を、補因子を伴ってまたは伴わずにヒトおよびマウス肝ミクロソームと共にインキュベートし、試料を抽出し、前述の通りLC-MS/MSを使用して分析した。NP10679は、ヒトおよびマウス肝ミクロソームの両方において優れた安定性を示し、したがって補因子の存在下、37℃で1時間インキュベートした後、NP10679の72%がヒトミクロソームとのインキュベーションにおいて残存し、54%がマウス肝ミクロソームとのインキュベーションにおいて残存した。
【0245】
さらに、1μMのNP10679は、ヒト組換え型チトクロム450アイソフォームであるCYP3A4またはCYP2D6を阻害しなかった。
【0246】
さらに、NP10679は、ヒト、マウス、およびイヌ血漿タンパク質にそれぞれ97.7%(n=2)、98.2%(n=2)、および98.2%(n=1)で結合した。
【0247】
またNP10679を、競合的受容体結合アッセイにおける放射性リガンドの置換えにより、41種の神経伝達物質受容体、酵素、およびチャネルへの結合について10μMで試験した。10μM NP10679が放射性リガンドの50%超を置き換えた標的を、完全用量効果の置換研究で追跡し、それによって、これらの標的のうちの5種、すなわち、5-HT2Aセロトニン受容体(0.638μM)、α1A(0.603μM)およびα1D(0.495μM)アドレナリン受容体、Hヒスタミン受容体(0.040μM)、ならびにセロトニン輸送体SERT(0.135μM)についてマイクロモル以下のK値が特定された。表4を参照されたい。また、3種の受容体(5-HT2A、α1Aアドレナリン、およびHヒスタミン)を機能的アゴニズムおよびアンタゴニズムについて試験し、すべての場合において、化合物はアンタゴニストとして挙動した(表4)。ヒト遅延整流心臓カリウム電流チャネル(hERGチャネル)の阻害を、hERGカリウムチャネルcDNAをトランスフェクトした哺乳動物HEK細胞において、4つの濃度のNP10679にわたってパッチクランプ電気生理学により測定し、それによって阻害について0.617μMのIC50が明らかになった(表4)。
【表4】
【0248】
(実施例4)
in vivo有効性および薬物動態研究
【0249】
A.材料および方法
製剤および薬物投与
【0250】
MCAO、自発運動、およびロータロッド研究のために、NP10679、MK-801、およびイフェンプロジルを、水中2%または10%N’,N’-ジメチルアセトアミド、10%プロピレングリコール、および30%2-ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン中、用量体積10mL/kgで製剤化し、腹腔内(IP)経路により投与した。薬物動態研究のための製剤では、水中2%または10%N’,N’-ジメチルアセトアミド、10%プロピレングリコール、および30%2-ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン、ならびに用量体積10mL/kg(すべての投与経路)を使用した。
【0251】
一過性局所虚血のin vivoモデル
動物を伴うすべてのプロトコールが、ジョージア州立大学のIACUC、AAALAC公認プログラムによって承認され、有資格獣医の監視の下で行われた。マウスを群で飼育し、巣材(nestlet)およびシェルターを提供し、12時間の明/暗サイクルの下で食餌ペレットおよび水を自由に摂取させた。マウスを個別の部屋に入れ、外科手術の開始前に少なくとも30分間飼育した。
【0252】
マウス(C57Bl6、>90日齢、Jackson Labs)を、一過性(60分)中大脳動脈閉塞(MCAO)に晒し、梗塞体積を、既に記載されているものと同様に再かん流の24時間後に測定した(Yuan, et al., Neuron, 2015, 85(6):1305-1318)。この実験のために雄性マウスを使用して、神経保護作用を有し得る、発情周期によるプロゲステロン変動による潜在的交絡を低減した。簡潔には、一過性虚血を、MCAに腔内縫合を60分間挿入することによって、麻酔下(2%イソフルラン/98%O)のマウスにおいて誘発した(Junge, et al., Proc Natl Acad Sci USA, 2003, 100: 13019-13024)。各マウスの体温を直腸温度計でモニタリングし、恒温ブランケットを使用することにより37℃で維持した。局所的な大脳血流の変化を、頭蓋のブレグマの4~6mm外側および2mm後側に接着剤で固定したレーザードップラー流量計プローブ(Perimed)でモニタリングした。先端を火で炙って丸くした非吸収性の11mmの5-0 DermalonまたはLook(SP185)黒色ナイロン縫合糸を、縫合糸が10.5~11mm挿入されるまで外頸動脈断端を介して左内頸動脈に導入した。60分間で血流が20%未満に低下し、縫合糸の除去後に血流が90%超に回復したマウスだけを研究に進めて完了させた。閉塞期間後、マウスを加温ブランケット(37℃)上のケージに数時間戻し入れ、立ち上がる正向反射およびそっと触れた際に歩き回る能力についてモニタリングした。閉塞後24時間目に、マウスを過量イソフルランによって安楽死させ、脳を速やかに取り出し、2mmの薄片にカットし、リン酸緩衝食塩水(pH7.4)中2%2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC)において37℃で20分間インキュベートし、次にイメージングのために4℃で置いておいた。次に、NIH IMAGEソフトウェア(Scion Corporation、Beta 4.0.2リリース)を使用して梗塞領域を測定した。各薄片の病変領域を、対側皮質で観察されたものよりも20%以下の低強度へのTTC染色のデジタル閾値低下によって決定した。次に、梗塞領域を、カーソル(curser)で手動により輪郭を描き、切片ごとに梗塞の立方体積を決定し、次に各動物からのすべての4つのスライスを合計して、総梗塞体積を得た。同側半球体積に対する対側半球体積の比に、対応する梗塞薄片体積を掛けて、浮腫について補正した。外科手術の開始5分前(血管閉塞のおよそ15分前)にIP注射によって薬物を投与した。すべての薬物用量を無作為化し、外科手技から染色された薄片の分析を経て梗塞体積の測定まで、研究を通して研究者を盲検にした。
【0253】
統計
本発明者らは、歴史的変動性および45~50%の予測効果サイズに基づいて、1群当たりn=12(研究につき4群)が十分な検出力(β=0.90)で有意な効果(α=0.05)を検出するのに適していると推定した(G*Power 3.1)。薬物用量の投与後の梗塞体積を、一元ANOVAおよびダネット試験によってビヒクル対照と比較した(p<0.05)。
【0254】
薬物動態研究
NP10679での薬物動態研究は、Anthem Biosciences(Bangalore、インド)に外部委託し、Institutional Animal Ethics Committee(IAEC)の認可を得た後にCPCSEA指針に従って実施した。
【0255】
NP10679特性の評価を、雄性BALB/cマウス(8~10週齢、20~30g)で実施した。簡潔には、マウスに、2mg/kgまたは5mg/kg用量(それぞれn=3)をIP注射によって投与し(用量体積10mL/kg)、血液試料を、投与後0.08時間、0.25時間、0.5時間、1時間、2時間、4時間、8時間および24時間目にヘパリンナトリウムを含有する管に氷上で収集した。血漿100μLを内部標準(ハロペリドール、10μg/mL)50μLと合わせ、次に、管を4000gで10分間(4℃)回転させ、血漿を清潔な管に移し、分析まで-80℃で保存した。分析物であるNP10679をAPI 3200 Q-trap LC-MS/MSで定量化し、標準物質と比較し、データをWinNonlin 6.3(Pharsight)によって分析した。
【0256】
別個の研究において、BALB/cマウスに、経口用量(10mg/kg)または静脈内用量(3mg/kg)のいずれかのNP10679(注射体積10mL/kg)を投与した。血液試料を、投与後0.08時間、0.25時間、0.5時間、1時間、2時間、4時間、8時間および24時間目にヘパリンナトリウム管に氷上で収集した。試料を調製し、ここで、内部標準がフルコナゾール(10μg/mL)であったことを除いて前述の通りに分析した。
【0257】
またNP10679を、前述の通り収集し調製した血液試料を用いる2つの別個の研究で、3mg/kgのIV投与後0.25時間および1時間目に血液と比較して脳コンパートメントにおいて測定した。ここで、脳試料を、まず脱イオン水で洗浄して血液を除去し、重量を記録し、次に真水1mLに移し、ホモジナイズし、分析まで-80℃で保存した。次に、血液(mL)と比較した脳(g)中の化合物の比を計算した。
【0258】
B.結果
サブユニットの組成に関わらずすべてのNMDARを遮断した非選択的NMDAR阻害剤の過去の製作では、オフターゲット有害効果とオンターゲット有害効果の両方が生じ、それによって臨床開発が複雑化し、または中断させられた。報告された最も顕著な副作用には、運動機能不全、認知機能障害、ならびに精神異常発現効果、例えば、幻覚および支離滅裂な思考(disorganized thought)が含まれていた(Lees, et al., Lancet, 2000, 355:1949-1954、Sacco, et al., JAMA, 2001, 285:1719-1728、Diener, et al., J Neurol, 2002, 249:561-568、Rowland, Aviat Space Environ Med, 2005, 76:C52-C58、Blagrove, et al., Psychopharmacol, 2009, 203:109-120)。GluN2B選択的NMDARネガティブアロステリックモジュレーターは、競合的アンタゴニストまたはチャネル遮断薬よりも良好に忍容性が示されたように見えるが、まだ副作用を示し得る(Chaperon, et al., Behav Pharmacol, 2003, 14:477-487、DeVry and Jentzsch, Behav Pharmacol, 2003, 14:229-235、Yurkewicz, et al., J Neurotrauma, 2005, 22:1428-1443、Nicholson, et al., Behav Pharmacol, 2007, 18:731-743、Preskorn, et al., J Clin Psychopharmacol, 2008, 28:631-637、Nutt, et al., Mov Disord, 2008, 23: 1860-1866)。
【0259】
MCAO実験では、NP10679を投与した後、中大脳動脈の閉塞によって一過性虚血を誘発した。ビヒクルで処置したマウスは、実質的な神経細胞死を示し、60分間の一過性虚血の後、梗塞体積は101±8.7mmであった。比較として、NP10679によって梗塞体積が用量依存方式で低減され、ED50は1mg/kgのIP用量であり、最大梗塞体積低減は52%であった(図1)。5mg/kg(56±6.6mm)および10mg/kg(49±3.0mm)用量は、共にビヒクル対照と比較して梗塞体積を有意に低減した(図1)。
【0260】
薬物動態研究では、マウスに溶液を経口投与するか(10mg/kg)またはIV注射により投与して(3mg/kg)、NP10679についての経口バイオアベイラビリティと血漿薬物動態との両方を決定した(図2A、表5)。経口経路の血漿終末相半減期は7.06時間であり、IV投与については8.56時間であり、分布体積は1.59L/kgと高く、クリアランスは2.44mL/分/kgであり、経口バイオアベイラビリティが高かった(75.7%)。表5を参照されたい。
【0261】
別個の研究において、MCAO神経保護研究で使用したものと同じ用量および投与経路に従ってマウスに2mg/kgおよび5mg/kgのNP10679をIP投与して、マウスの薬物体内動態情報を提供した。ここで、NP10679は用量依存を示し、投与の30分後の血漿中ピークレベルは、それぞれ581ng/mLおよび1431ng/mLであり、血漿半減期は7.5~9.9時間であった(表5)。したがって、NP10679の単一IP投与は、虚血期間後24時間という長時間にわたって神経保護を推進するのに十分な曝露をもたらした。図2Bは、2mg/kgおよび5mg/kgの両方のIP用量で計算された遊離血漿レベル(非結合薬物)を示しており、5mg/kg用量後の遊離薬物レベルが、pH6.9においてGluN2Bに対するIC50を上回ることを実証した。NP10679の遊離血漿レベルを、前述の血漿結合研究によって決定された遊離薬物分率に基づいて計算した。
【0262】
さらに、脳コンパートメントにおける薬物動態研究は、NP10679が脳への高い浸透を示し、IV投与の1時間後のマウスの血漿レベルと比較して1.3~2.6倍高い範囲のレベルが脳コンパートメントに見出されたことを示している(表5)。これらの脳:血漿比に基づいて、MCAO研究で使用された5mg/kgのIP用量後の脳内の遊離薬物濃度は、投与後1時間、2時間、4時間、および8時間目にそれぞれ60~134nM、51~103nM、33~66nM、および28~56nMに達し得ると推定される。pH6.9におけるGluN2BについてのNP10679の効力が23nMであることを考慮すると、脳コンパートメントにおけるpH6.9でのGluN2B受容体の占有率は、有意なGluN2B阻害を推進するのに十分に高い。
【表5】
【0263】
(実施例5)
自発運動活動およびロータロッドパフォーマンス
【0264】
A.材料および方法
自発運動活動およびロータロッドパフォーマンスの測定
【0265】
自発運動およびロータロッド研究は、AAALAC公認施設であるジョージア州立大学のIACUCによって、有資格獣医の監視の下で承認された。マウスを群で飼育し、巣材およびシェルターを提供し、12時間の明/暗サイクルの下で食餌ペレットおよび水を自由に摂取させた。
【0266】
自発運動活動測定のために、マウス(C57Bl6、>90日齢、Jackson Labs)を、薬物試験の前に、閉鎖された(点灯)活動モニタリング箱に1時間入れて慣れさせた。1時間後、動物を取り出し、薬物を注射し(IP)、次に活動モニタリング箱に戻し、全自発運動活動を2時間モニタリングした。ケージ内の光線の遮断(水平)の総数をコンピューターによって決定し、結果を薬物ごとに平均化した。結果をANOVAおよびダネット事後試験によって分析して、ビヒクル対照に対する薬物処置群の水平活動を比較した。MCAO一過性虚血研究では雄性マウスだけを使用したことを考慮して、これらの行動学的試験では雄性動物を使用した。
【0267】
ロータロッド実験では、雄性C57BL/6マウス(>90日齢)を、Rotamax 4/8ロータロッド(Columbus Instruments、Columbus、Ohio)を使用して試験した。訓練および試験の前に、マウスを試験室に入れ、さらなる任意の取扱いの前に2時間順化させた。マウスを直径3.8cmおよび幅8cmmの回転ロッド(5rpm)上に置き、チャンバの床から30cm上昇させた。固定速度で10秒間回転させた後、回転を5分間にわたって5rpmから35rpmにゆっくり加速させた。マウスが、360度の回転の間にぶら下がることも落下することもなくロータロッド上に居続けることができた持続時間を記録した。マウスを、2日間にわたって毎日4回訓練し、試験の間に25分間の間隔を設けた。3日目に、マウスを処置群に無作為に割り当て、試験薬物またはビヒクルを投与してから(IP投与により)25分後に試験を行った(4回の試行で、試験の間に25分間の間隔を設けた)。実験を実施する個人は、各処置群の同一性に対して盲検にした。結果をANOVAおよびダネット事後試験によって分析して、薬物処置群の回転ロッド上での持続期間をビヒクル対照と比較した。
【0268】
B.結果
NP10679が運動協調性または機能を撹乱するかどうかを評価するための研究を実施した。マウスを、NP10679を投与した後にロータロッドチャレンジ研究で試験した。ここで、マウスを、回転し加速するバーの上に居続ける能力について、毎日4回の試行で(試験の間に25分間の間隔を設けた)2日連続で訓練した。マウスは、図3に示される通り、1日に行われた試行の間で1日目から2日目へと改善されたパフォーマンスを示した。3日目に、マウスを処置群に無作為に割り当て、ビヒクルまたは薬物を投与し、次に投与の25分後に開始して4回試験し、落下までの平均潜時を試行ごとに確立した(図3)。4回のすべての試行の間で、2mg/kgまたは5mg/kgで投与した場合のNP10679による有意な機能障害はなかった。10mg/kgのNP10679用量群は、4回目の試験で、落下までの潜時がビヒクル対照(168±14秒)と比較して短縮した(87±13秒)。しかしこの処置群について、1回目、2回目、または3回目の試行ではビヒクル対照からの統計的に有意な変化は観察されなかった。それに対して、30mg/kg用量のイフェンプロジルでは、試験した4回のすべての試行において落下までの潜時スコアが有意に低下した(図3)。イフェンプロジルについては、GluN2Bに対してNP10679よりも強力でなく(Kew, et al., J Physiol, 1996, 497:761-772、Mott, et al., Nat Neurosci, 1998, 1(8):659-67)、in vitroで神経保護を生じさせるためにはより高濃度が必要である(Chenard, et al., J Med Chem, 1991, 34(10):3085-90)ことを考慮して、より高用量が選択された。
【0269】
マウスの自発運動活動を変えるNP10679の単一用量の能力を、閉鎖された点灯チャンバ内で評定した(図4)。1時間の馴化期間の後、マウスに、20mg/kg用量のNP10679または0.3mg/kgのMK-801を投与し、閉鎖された点灯チャンバに戻し、水平活動を2時間測定した。この用量のNP10679は、ビヒクル対照と比較してマウスの水平活動の任意の統計的に有意な減少をもたらさなかった(それぞれn=6)。それとは対照的に、0.3mg/kgのMK-801の投与は、水平活動の有意な増加(p<0.01)をもたらした(n=4)。
【0270】
まとめると、NP10679は、pH7.6に対して細胞外酸性pH値(pH6.9)において、GluN2Bに対して増強された阻害を示す。特にNP10679は、pHブーストを維持しながら、GluN2Bに対して、そのS鏡像異性体(NP10309)と比較してはるかにより高い効力を示す。
【0271】
グルタミン酸含有小胞はそれらの内腔内では酸性なので、これらの特性により、NP10679は、そのS鏡像異性体と比較して、高周波数の活動電位に応答するシナプスにおいてNMDARのより有効な阻害剤になる。加えて、虚血組織周辺の境界領域の酸性化も、改善された神経保護についてのNP10679の作用を増強することができる。
【0272】
非ヒト霊長類において急性投与後の認知的作業および学習パラダイムで試験した場合、2種のGluN2B阻害剤、すなわちトラキソプロジルおよびBMT-108908により、用量依存方式で認知機能障害が生じた(Weed, et al., Neuropsychopharm, 2016, 46:568-577)。トラキソプロジルは、受容体の阻害について、pH6.8とpH7.5との間で有意なpH感度を有していない(Mott, et al., Nat Neurosci, 1998, 1(8):659-67)。GluN2Bに対するNP10679の高い効力および有意なpHブースト効果は、副作用を所望のオンターゲット活性と区別するのに、既存のGluN2B標的化薬物および薬物候補を上回る利点を提供する。
【0273】
さらに、NP10679は、脳への優れた浸透と共に高い経口バイオアベイラビリティを有しており、したがって、ヒトにおける治療上の使用について静脈内投与でも経口投与でも好適である。
【0274】
(実施例6)
ヒト臨床研究
【0275】
A.材料および方法
薬物物質および生成物
薬物生成物において使用するためのNP10679のGMP品質の薬理学的活性成分(API)の合成を、DavosPharma(Saddle River、NJ)に外注した。薬物生成物の製造は、University of Iowa、Pharmaceuticals(UI-P)によって、凍結乾燥生成物の製作について確立されている手順に従って実施された。薬物生成物を製剤化するために、APIを、50mM一塩基性リン酸カリウム緩衝剤(pH6.0)中25%ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン(HPBCD)のビヒクルで、5mg/mLの濃度まで可溶化させた。次に、この溶液を濾過し、滅菌し、凍結乾燥させて、それぞれ50mgのAPIを含有する滅菌バイアルに入れた。凍結乾燥させたAPIを、適切な量の0.9%生理食塩水中2.5%HPBCDを添加することによって、IV注入のための薬物生成物に臨床現場で製剤化した。
【0276】
方法
単一漸増用量(SAD)と複数漸増用量(MAD)研究の両方についてのプロトコールが、新薬治験開始申請(investigational new drug application)の下で米国食品医薬局によって審査され、承認された。これらのプロトコールおよび対象のインフォームドコンセントパッケージも、研究のための施設内審査委員会(IRB)、IntegReview IRB、Austin TXによって審査され、承認された。両方の研究のための臨床研究組織(CRO)が、Pharmaron CPC、Baltimore、Marylandであった。すべての対象に、研究の性質および目的が知らされ、任意の研究関連手順を実施する前に、対象の書面によるインフォームドコンセントを得た。研究は、ヘルシンキ宣言に記載の原理および優良臨床試験基準(Good Clinical Practice)に基づくInternational Conference on Harmonization Tripartite指針に従って実施した。
【0277】
組入れおよび除外基準
同意を提供することができ、訪問スケジュールおよび他のプロトコール要件を順守することができる18~55歳の健康な男性および女性対象が、研究に適格とされた。性的活動があり、潜在的に妊娠可能である場合(男性と女性の両方)、ボランティアは、研究持続期間にわたって2つの形態の避妊方法(一方はバリア式)を使用することに同意する必要があった。
【0278】
除外基準には、前腕静脈周辺への不適切なアクセス、妊娠または授乳、研究中のニコチン含有製品の使用、現在または最近(12カ月以内)のアルコールまたは薬物乱用歴、最近(90日以内)の献血、および過去90日以内の臨床試験への関与が含まれていた。過度の傾眠を有する対象および7日間以内に眠気状態を引き起こすおそれがある医薬品または薬剤を使用した対象も除外された。病歴、検査、または臨床研究室試験により、研究結果に影響を及ぼすか、またはインフォームドコンセントおよび研究服薬遵守を妨げ得る著しい医学的または精神医学的疾病を有しているボランティアも除外された。
【0279】
臨床研究設計
SAD研究(NP10679-101)は、6つの漸増用量コホートの健康な成人ボランティアにおいてNP10679の安全性、忍容性、および薬物動態(PK)を調査するための、単一施設による無作為化二重盲検のプラセボ対照を含む単一用量の用量漸増治験であった。研究の一次目的は、単一用量のNP10679をIV注入によって送達した場合の安全性、忍容性、およびPKをプラセボと比較して評定することであった。二次目的は、健康な成人ボランティアにおけるNP10679の最大耐性用量を得ること、およびMAD研究(NP10679-102)のための安全な開始用量を確立することであった。
【0280】
研究は、30日のスクリーニング期間、1日目(無作為化されたNP10679またはプラセボの単一IV注入)、2日目のクリニック内での/一晩の評定、および3日目の評定からなっていた。対象は1日目にクリニックに入院し、投与後48時間を経て3日目の採血までクリニックに滞在し、その後退院した。対象は、退院後8日目に追跡調査訪問のためにクリニックに戻った。
【0281】
NP10679-101では、6つの用量コホートが研究された。各コホートは、8人の対象からなっていた。各コホートの6人の対象にはNP10679を投与し、2人の対象はプラセボを受けた。用量を、次の用量レベルに漸増する前に順次上昇させた。研究に含まれていた用量は、5mg、15mg、50mg、100mgおよび200mgであった。薬物およびプラセボを、投与ビヒクル75mlでIV注入によって30分間にわたって投与した。すべてのコホートについてセンチネル投与のアダプティブデザイン手法を使用し、最初の2人の対象(1人は活性、1人はプラセボ)に、1日目に投与し、48時間または安全性を審査するのに十分な時間が経過するまで観察した。安全委員会(最小限で、治験責任医師(PI)および医療モニター(研究の実施とは独立な対象分野のMD)が進行しても安全であることに同意した場合、そのコホートの残りの6人の対象(5人は活性、1人はプラセボ)に、同じ用量レベルで投与した。次のコホートの対象への投与の前に、安全性/忍容性データおよび利用可能なPKデータを審査した。暫定的な安全性/忍容性審査の許容される結果により、次の用量コホートへの登録が促された。
【0282】
MAD研究の目的は、定常状態に達するまで投与を反復した場合のNP10679の安全性および薬物動態を評価することであった。SAD研究からの結果に基づいて、5日間の1日1回の投与により定常状態に至ることができたと決定された。MAD研究(NP10679-102)の対象は、NP10679-101の対象と同じやり方で処置された。研究は、30日のスクリーニング期間、1~5日目の投与(無作為化されたNP10679またはプラセボの75mlの30分間にわたる単一IV注入)、および6日目のクリニック内での/一晩の評定、および7日目の退院前の評定からなっていた。対象は1日目にクリニックに入院し、投与後48時間を経て7日目の採血までクリニックに滞在し、その後退院した。対象は、9日目に追跡調査訪問のためにクリニックに戻った。それぞれ8人の対象(6人は薬物および2人はプラセボ)の3つの用量コホートが動員され、用量決定はNP10679-101と同様に行われた。用量レベルには、25mg、50mgおよび100mgが含まれていた。
【0283】
安全性評価
安全性/忍容性パラメーターを、評定のプロトコールスケジュールに従って評定し、そのパラメーターには、身体検査、注入部位の検査、研究室の知見、精神神経系の評定、バイタルサインおよび対象により報告された忍容性に基づく、処置により発生した有害事象の評定が含まれていた。エンドポイントには、血液検査、化学検査、尿検査および12誘導ECGも含まれる。ハミルトンうつ病評価尺度(HDRS)、ミニメンタルステート検査(MMSE)、自殺行為に関する質問票-改訂版(SBQ-R)、7項目の一般化不安障害尺度(GAD-7)および臨床医により管理される解離状態尺度(Clinician-Administered Dissociative States Scale)(CADSS)が、標準評定として含まれていた。観察者による覚醒/鎮静評定の改変版(Modified Observer's Assessment of Alertness/Sedation)(MOAA/S)およびBond-Lader VAS眠気尺度も加えられた。
【0284】
少なくとも1用量の試験医薬品および安全性追跡調査を受けたすべての対象は、早計に中止されるかどうかに関わりなく安全性分析に含まれていた。カテゴリー別および順序別測定についての各カテゴリーの対象の数およびパーセンテージ、ならびに連続測定についての平均、SD、中央値および範囲を報告することによって、データをまとめた。安全性エンドポイントには、処置により発生したクリニックおよび研究室ベースの有害事象、ならびにそれらの重症度の概要が含まれていた。すべての有害事象を、医薬品規制用語集(MedDRA)に従って、器官別大分類(System Organ Class)および基本語(Preferred Term)によってコード化した。処置により発生した有害事象を、用量レベル、器官別大分類、および基本語によって作表した。
【0285】
薬物動態測定
SAD研究について、全身NP10679レベルを決定するために、投与前および注入終了時(20分±5分)、ならびに投与後0.5時間、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、10時間、12時間、18時間、24時間、36時間、48時間目に、注入した腕とは反対の静脈を介して(可能な場合)採血した。KEDTAを含有する収集管を使用して、各時点において全血試料5mLを収集した。収集直後に管を逆さにして、抗凝血剤を血液試料と混合した。次に、管を遠心力およそ3000gの速度において4℃で10分間遠心分離した。遠心分離の5分以内に、血漿画分を、2つの等しい一定分量(それぞれ1.25mL)で2mLのクライオバイアルに移し、次に凍結させ、発送まで-70℃(±10℃)で保存した。MAD研究については、やはり全身NP10679レベルを決定するために、投与前および注入終了時(30分±5分)、ならびに1~5日目の0.5時間、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、10時間、12時間、18時間目、ならびに5日目の最終投与後24時間、36時間、48時間および96時間目に、注入した腕とは反対の静脈を介して(可能な場合)採血した。
【0286】
感度が高く特異的で再現性のある生体分析方法を開発し、MPI Research(Mattawan、MI)で検証してNP10679を定量化した。標準物質、対照、およびNP10679を含有する試験血漿試料を、タンパク質沈殿に続いて検証済みのLC-MS/MSアッセイによって定量化した。NP10679の構造的アナログ(NP10767、以下に示される構造)を内部標準(IS)として使用した。その方法を、TMD Pharmaceutical Research(Newark、DE)によって血漿試料を測定するために適応させ、使用した。NP10679およびISのクロマトグラフィーの保持を、Agilent Poroshell 120 EC-C18、2.1×30mm、2.7μmカラム(Santa Clara、California)で、流速0.3mL/分の勾配条件下で得た。分析物を、MDS Sciex API 4000質量分析計(AB Sciex、Framingham、MA)を正モードで使用して多重反応モニタリングによって検出した。得られたLC-MS/MSデータからの血漿濃度を、公知の濃度のNP10679から構築した6~10点較正曲線を使用して計算した。NP10679についての定量化下限(LLOQ)は、希釈した血漿中2ng/mLであった。
【化27】
【0287】
記述的薬物動態パラメーターを、NP10679の血漿濃度に基づいて計算した。薬物動態分析を、ノンコンパートメント分析手法に基づいて(M. Garibaldi and D Perrier, Pharmacokinetics 2nd Edition, Chapter 11, Marcel Dekker Inc., New York, 1982)、MS Excel(登録商標)を使用して実施した。
【0288】
B.結果
48人の対象がNP10679-101研究の6つのコホートに登録され(表6)、47人の対象が完了した。1人の対象は、研究とは無関係の個人的な理由により研究から自発的に去った。この研究の年齢中央値は33.5歳であった(最年少/最高齢 - 22/52歳)。研究には30人の男性および18人の女性が登録された。ほとんどの対象は黒人であり(35人)、続いて、白人(10人の非ヒスパニック系および3人のヒスパニック系を含む13人)であり、1人がアジア人であった。
【表6】
【0289】
NP10679-102のMAD研究には、4つのコホートに24人の対象が登録された(表7)。この研究の年齢中央値は44.5歳であった(最年少/最高齢 - 20/54歳)。研究には、15人の男性および9人の女性が登録された。SAD研究と同様に、ほとんどの対象が黒人であり(15人)、続いて白人(8人)およびアジア人(1人)であった。
【表7】
【0290】
表8は、処置により発生した有害事象(TEAE)を器官別分類およびNP10679-101の用量によってまとめる。試験した最高用量の200mgで、処置により発生した最も一般的な有害事象(TEAE)は傾眠であった。
【表8-1】
【表8-2】
【0291】
最も高頻度に見られるTEAEである傾眠については、用量応答があった(表9を参照されたい)。観察者による覚醒/鎮静評定の改変版(MOAA/S)尺度を、0~5でスコア化し、レベル5は最低レベルの鎮静を表す。レベル5では、対象は普通の話し口調に容易に応答し、レベル4は声に対して嗜眠状態での(lethargic)応答を示し、レベル3は応答を引き出すためにより大きい声が必要である。3未満のスコアは、対象を覚醒させるのに身体的刺激レベルの上昇が必要である。NP10679は、MOAA/S尺度で、より高い用量レベルで中等度の効果を引き出した。5mgおよび15mgの用量の6人の対象のうち1人、ならびに50~200mgの用量の6人の対象のうち5人が、傾眠を示した。100mgおよび150mgコホートのそれぞれの2人の対象は、MOAA/S尺度で一時的なレベル3のスコアに達した。しかし、最高用量群(200mg)の対象は、このスコアに達しなかった。Bond-Lader VAS尺度にも、50mg用量で開始して200mg用量まで絶えず中等度の上昇があった。研究で観察された傾眠は、典型的な鎮静睡眠薬で観察されるものとは現象学的に異なるように見えた。これにより、傾眠をスコア化するために使用したツールの全体的な信頼度が低下した。試験した最高用量でも、対象に刺激を与えると、対象は数秒以内にすぐさま対象の環境に慣れ、相対的に複雑なタスク、例えば、数字符号置換検査(Digit Symbol Substitution Test)(DSST)を実施することができた。
【表9】
【0292】
100mgまたはそれよりも多くのより高い用量では、浮動性めまいのTEAEも頻度がより高くなる可能性があった。これは、100mgの対象で1人、150mgおよび200mgの対象でそれぞれ2人において報告された。頭痛および失神寸前状態は、あまり一般的ではなく、用量応答を示すようには見えなかった。振顫のTEAEは、100mgを投与された対象で1回生じた。これらのTEAEのいずれも、対象の安全性に影響を及ぼすとは考えられなかった。神経系障害以外では、結膜および強膜充血が、200mg用量の6人の対象のうち3人に観察された。これは、2つの最高用量で観察された臨床的に有意でない低血圧(収縮期および拡張期の両方)に関すると考えられた。しかし、低血圧は、200mg用量(-7.2mg Hg)よりも投与後4時間目の150mg用量のNP10679において、より顕著であった(-23mg Hg)。研究のバイタルサインまたはECGには臨床的に有意な変化はなかった。したがって、以前のGluN2B阻害剤で観察されたQTc間隔の増大または高血圧は、NP10679-101研究では観察されなかった。
【0293】
研究では重篤な有害事象(SAE)は観察されなかった。臨床医により管理される解離状態尺度(CADSS)または数字符号置換検査(DSST)から示された通り、この研究ではNP10679に関する解離症状または認知機能障害を示唆するパターンは存在しなかった。150mgの用量で、1人の対象が侵入思考を示したが、臨床医により管理される解離状態尺度(CADSS)から示された通り、この研究ではNP10679に関する解離症状を示唆したパターンは存在しなかった。
【0294】
表10は、NP10679-102について処置により発生した有害事象(TEAE)を器官別分類および用量によってまとめる。SAD研究の場合と同様に、MAD研究においてSAEはなかった。最も頻繁に遭遇した有害効果は、やはりSAD研究と同様、傾眠であった。この副作用は、50mg群と100mg群の両方の3人の対象で観察された。しかし、プラセボ群でも3人の対象に見られた。反復投与時には傾眠増加の徴候はなかった。この効果の観察はほとんどの部分が投与の初日および2日目だけに生じたので、傾眠効果にはいくらかの順応があった可能性があるが、確固たる結論を裏付けるのに十分なパターンがなかった。臨床医により管理される解離状態尺度(CADSS)から示された通り、この研究ではNP10679に関する解離症状を示唆するパターンはなかった。
【表10-1】
【表10-2】
【0295】
NP10679-101研究では、NP10679血漿濃度(図5および表11を参照されたい)は用量に伴って線形上昇し、平均Cmaxは、5mg用量における30.0±14.8ng/mL~200mg用量における2066±798ng/mLであった。その後、血漿濃度は、多指数関数的に低下し、終末相半減期は、それぞれ27.6±12.0時間~17.4±2.8時間であった。全身クリアランスは、研究した用量にわたって9.82L/時±2.89~10.4±2.51L/時の範囲であった。NP10679は、ヒトにおける87L/時の肝血流量と比較して、肝血流量の12%未満で体内からゆっくり排除された。NP10679は、体中に広範に分布するように見え、分布体積は、全身の水空間の4.5倍に等しい221L超であった。
【0296】
パワーモデル手法に基づくと、AUC(0~inf)と共に用量比例的な線形増加が存在しており、このことは、NP10679が5~200mgで線形動力学に従うことを示唆している。
【表11】
【0297】
NP10679-102のMAD研究では、50mgコホートの1人の対象を除いて、すべての対象が、最初の4回の投与の24時間後(翌日の投与前の時点)までおよび5回目の投与(5日目)の96時間後(最終PK時点)まで、血漿中に定量化できる濃度のNP10679を有していた。平均Cmaxは、用量の増大に伴って上昇した(図6)。研究した用量25~100mgにわたって、1日目および5日目のCmaxがそれぞれ5.9倍および2.7倍上昇した(薬物動態パラメーターについての表12を参照されたい)。平均AUCも、用量の増大に伴って上昇した。25~100mgで、1日目のAUC0-24hが3.8倍増大し、5日目のAUC0-24hおよびAUC0-96hについてはそれぞれ4.0倍および3.6倍増大した。したがって、CmaxおよびAUCは共に、用量増大に伴ってほぼ線形であった。終末相半減期は、研究したすべての用量および日の間で類似しており、平均範囲は、25mg、50mg、および100mgコホートについてそれぞれ15.4時間~36.2時間、15.5時間~25.6時間、および12.5時間~34.0時間であった。定常状態におけるクリアランスは、研究した用量の間で類似しており、平均は、25mg、50mg、および100mgコホートについてそれぞれ11.5L/時、11.8L/時および11.2L/時であった。定常状態における分布体積は、用量が増大するとわずかに低下し、平均は、25mg、50mg、および100mgコホートについてそれぞれ360L、302Lおよび252Lであった。
【表12】
【0298】
臨床試験に見られた有害事象は、軽度であり、軽度傾眠に限られていた。これは、SAD研究の50mgの中用量から始まって用量関連的であるように見えた。傾眠の観察は、MAD研究の5日間の投与過程にわたって悪化したようには見えなかった。観察された傾眠は、古典的鎮静剤で観察される傾眠とは類似していなかった。SAD研究における最高用量(200mg)でも、対象は容易に覚醒し、複雑なタスク、例えば、数字符号置換検査(DSST)を完了することができた。
【0299】
注目すべきことに、SADまたはMAD研究のいずれにおいても解離症状または認知能力の低下は観察されなかった。加えて、心血管系に関する臨床的に有意な事象は見られなかった。
【0300】
SADおよびMAD研究からの薬物動態データは、用量に伴う線形曝露および1日1回の投与に好適な半減期(約20時間)を示している。
【0301】
結論として、初期ヒト研究NP10679-101およびNP10679-102では、NP10679が試験用量で安全であることが実証される。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】