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特表2024-533194瘻孔を伴う肛門会陰病変の処置のためのナノ粒子の使用
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  • 特表-瘻孔を伴う肛門会陰病変の処置のためのナノ粒子の使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】瘻孔を伴う肛門会陰病変の処置のためのナノ粒子の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240905BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240905BHJP
   A61K 33/26 20060101ALI20240905BHJP
   A61K 33/24 20190101ALI20240905BHJP
   A61K 33/244 20190101ALI20240905BHJP
   A61K 33/08 20060101ALI20240905BHJP
   A61K 33/30 20060101ALI20240905BHJP
   A61K 33/32 20060101ALI20240905BHJP
   A61K 33/34 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240905BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P17/00
A61P1/04
A61K33/26
A61K33/24
A61K33/244
A61K33/08
A61K33/30
A61K33/32
A61K33/34
A61P43/00 121
A61K45/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514098
(86)(22)【出願日】2022-09-02
(85)【翻訳文提出日】2024-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2022074429
(87)【国際公開番号】W WO2023031387
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】21306204.5
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り International Journal of Molecular Sciences、第23巻、第15号、8324(https://doi.org/10.3390/ijms23158324)
(71)【出願人】
【識別番号】513246469
【氏名又は名称】インサーム(インスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル)
【氏名又は名称原語表記】INSERM(INSTITUT NATIONAL DELA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE)
(71)【出願人】
【識別番号】505429360
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ 13 パリ ノール
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS 13 - PARIS NORD
【住所又は居所原語表記】99,avenue Jean-Baptiste Clement,F-93430 Villetaneuse,FRANCE
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(71)【出願人】
【識別番号】507240336
【氏名又は名称】アシスターンス・ピュブリック-オピトー・ドゥ・パリ
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100179648
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 咲江
(74)【代理人】
【識別番号】100222885
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 康
(74)【代理人】
【識別番号】100140338
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100227695
【弁理士】
【氏名又は名称】有川 智章
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【弁理士】
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100219313
【弁理士】
【氏名又は名称】米口 麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100161610
【弁理士】
【氏名又は名称】藤野 香子
(72)【発明者】
【氏名】レトゥールヌール,ディディエール
(72)【発明者】
【氏名】カゼレス,アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】オジエール-デニス,エリック
(72)【発明者】
【氏名】トレトン,ザヴィエール
(72)【発明者】
【氏名】シモン ヤルザ,テレサ
(72)【発明者】
【氏名】ララトンヌ,ヨアン
(72)【発明者】
【氏名】モッテ,ロレンス
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084AA20
4C084MA41
4C084MA55
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA811
4C084ZC412
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA04
4C086HA05
4C086HA06
4C086HA07
4C086HA08
4C086HA11
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA41
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZC75
(57)【要約】
肛門会陰病変(APL)はクローン病において頻度が高く、組織破壊を誘発するとともに再発することから、特に処置が困難である。そこで、本発明者らは、新しい処置の試験および最適化を可能にする、直腸の病的炎症を伴う肛門周囲瘻孔の最初の前臨床モデルを開発した。また、本発明者らの目的は、肛門周囲瘻孔を伴うクローン病のラットモデルにおいて肛門周囲瘻孔の処置に酸化鉄ナノ粒子の溶液を使用して前臨床研究を行うことであった。本発明者らは、処置したすべての炎症性瘻孔が、酸化鉄ナノ粒子の溶液で持続的に充填または閉鎖される(1日目から7日目まで)ことを示した。したがって、ナノ粒子の使用は、肛門周囲瘻孔を伴うクローン病の新しい有望な処置であると考えられる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処置を必要とする患者における瘻孔を伴う肛門会陰病変を処置する方法であって、所定量のナノ粒子を含む溶液を瘻孔管に注入することを含む方法。
【請求項2】
前記患者は炎症性腸疾患に罹患している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記患者はクローン病に罹患している、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ナノ粒子は、約5、10、15、または20nmのサイズを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ナノ粒子は、金属酸化物、例えば、酸化鉄(FeO、Fe2O3、Fe3O4)、酸化セリウム(CeO)、アルミナ(Al2O3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、チタネート(BaTiO3、Ba0.5Sr0.5TiO3、SrTiO3)、酸化インジウム(In2O3)、酸化スズ(SnO2)、酸化アンチモン(Sb2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マンガン(Mn3O4、MnO2)、酸化モリブデン(MoO3)、シリカ(SiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化イットリウム(Y2O3)、ビスマスオキシクロリド、酸化銅(CuO、Cu2O)などから作製される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ナノ粒子は、酸化鉄Fe3O4の極小超常磁性酸化鉄(USPIO)ナノ粒子である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ナノ粒子の濃度は、10mg/ml~1000mg/mlの間に含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ナノ粒子の溶液を前記瘻孔管に注入した後、前記瘻孔管が生じている表面に圧力を加える、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記圧力は腹膜に加えられる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記圧力は少なくとも60秒の時間において加えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ナノ粒子は水溶液として前記瘻孔管に注入される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ナノ粒子はナノ粒子のアルコール水溶液として前記瘻孔管に注入される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ナノ粒子は、TNFα遮断剤と組み合わせて注入される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学、特に胃腸病学の分野のものである。
【背景技術】
【0002】
クローン病(CD)は、炎症性腸疾患(IBD)のグループに属し、その主な炎症部位は小腸、結腸、肛門、および会陰である。肛門会陰病変(APL)は頻度が高く、組織破壊を誘発するとともに再発することから、特に処置が困難である。APLは、瘻孔を伴わない病変(皮垂、裂傷、潰瘍、肛門直腸狭窄、および肛門がん)ならびに瘻孔を伴う病変(膿瘍あり/なしの、単純または複雑会陰瘻孔、直腸膣瘻孔)として分類される[1]。瘻孔を伴う肛門会陰病変(FAPL)は、肛門括約筋破壊、失禁、永続的なストーマ、および肛門がんの長期リスクを伴う、最も重篤なものである。FAPLの処置は複雑で多様であり、胃腸科医、放射線科医、および外科医の補完的な専門的知識を必要とする。3分の2を超える患者が、FAPLに関連した膿瘍を有するので、処置にはまず、検査、膿瘍ドレナージ、および瘻孔管を通るシートンの挿入という外科的段階を含む。第2段階は、疾患関連炎症を管理するためにTNFα拮抗剤を使用する医学的処置である。膿瘍を併発しておらず、直腸炎が医学的に管理されている症候性患者には、瘻孔管を閉鎖することを目的とする最終的な外科的段階が考慮され得る[2]。瘻孔管を閉鎖するために、フィブリンのり、長期シートン、直腸内前進皮弁、プラグ、LIFT、VAAFTなど、いくつかの外科手技が利用可能である[2、3]。FAPLは、患者の約3分の2に再発し、疾患が管理されていない患者ではダイバーティングストーマまたは直腸切除術を含む、外科手技が繰り返されることになる。近年、間葉系幹細胞の局所注入が、瘻孔閉鎖に関して興味深く有望な結果を示している[4、5]。しかしながら、細胞に基づく治療には、幹細胞の種類、組織由来、細胞の濃度、幹細胞の運命、作製場所と病院と間の物流調整、および処置の利用可能性など、多くの制限がある。そのため、より管理しやすい新しい処置が期待されている。
【0003】
近年、酸化鉄ナノ粒子を使用した再生医学への有望なアプローチが提案されている[7]。執筆者らは、皮膚や肝臓の深い創傷を迅速かつ強力に閉鎖および治癒するために、ナノ架橋(ナノ粒子水溶液による接着)をin vivoにおいて使用することができることを示している。
【発明の概要】
【0004】
本発明は特許請求の範囲によって規定される。特に、本発明は、瘻孔を伴う肛門会陰病変の処置のためのナノ粒子の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、炎症性瘻孔形成における研究の時間経過および主な段階を示す。
図2図2は、USPIO@シトレートナノ粒子の物理化学的特徴を示す。(a)はTEM画像であり、(b)は室温における磁化曲線であり、(c)はコーティングしたNPおよび対応するコーティング分子のFTIRスペクトルである。
図3図3は、処置後の経過観察を示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明者らは、新しい処置の試験および最適化を可能にする、直腸の病的炎症を伴う肛門周囲瘻孔の最初の前臨床モデルを開発した。そこで、本発明者らの目的は、肛門周囲瘻孔を伴うクローン病のラットモデルにおいて肛門周囲瘻孔の処置に酸化鉄ナノ粒子の溶液を使用して前臨床研究を行うことであった。本発明者らは、処置したすべての炎症性瘻孔が、酸化鉄ナノ粒子の溶液で持続的に充填または閉鎖される(1日目から7日目まで)ことを示した。したがって、ナノ粒子の使用は、肛門周囲瘻孔を伴うクローン病の新しい有望な処置であると考えられる。
【0007】
したがって、本発明の第1の目的は、処置を必要とする患者における瘻孔を伴う肛門会陰病変を処置する方法であって、所定量のナノ粒子を含む溶液を瘻孔管に注入することを含む方法に関する。
【0008】
本明細書において使用するように、「対象」、「個人」、または「患者」という用語は、互換的に使用され、診断、処置、または治療が望まれる任意の対象、特にヒトを指す。他の対象は、ウシ、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマなどを含み得る。一部の好ましい実施形態において、対象はヒトである。
【0009】
本明細書において使用するように、「瘻孔を伴う肛門会陰病変」という用語は、当該技術分野におけるその一般的な意味を有し、肛門管と肛門周囲皮膚との間の異常な接続を指す。
【0010】
本明細書において使用するように、「処置する」という用語は、瘻孔を修復すること、および瘻孔の悪化または再発を予防することを指す。
【0011】
一部の実施形態において、患者は、炎症性腸疾患、より具体的にはクローン病に罹患している。
【0012】
本明細書において使用するように、「炎症性腸疾患」という用語は、当該技術分野におけるその一般的な意味を有し、腸に影響を及ぼす任意の炎症性疾患を指す。この用語は、潰瘍性大腸炎、クローン病、特に、回腸炎を伴うまたは伴わない結腸に特に影響を及ぼす状態のクローン病、顕微鏡的大腸炎(リンパ球性大腸炎およびコラーゲン性大腸炎)、細菌またはウイルスによって引き起こされる感染性大腸炎、放射線性大腸炎、虚血性大腸炎、小児大腸炎、未確定大腸炎、および腸機能障害(明らかな解剖学的異常を伴わない症状の説明)を含むが、これらに限定されない。
【0013】
本明細書において使用するように、「ナノ粒子」という用語は、1nm~1000nm、好ましくは2nm~500nm、さらにより好ましくは5nm~300nmのサイズの粒子を意味する。多くのナノ粒子において、ナノ粒子のサイズは、ナノ粒子の最も離れた2点間の距離である。管状、ウィスカー状、または円筒状などの異方性ナノ粒子において、直径サイズは、ナノ粒子が内接する最小シリンダの直径である。ナノ粒子のサイズは、動的光散乱法(DLS)、X線小角散乱法(SAXS)、走査型移動度粒径測定器(SMPS)、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)などの様々な方法によって測定することができる(Orts-Gil,G.,K.Natte,et al.(2011),Journal of Nanoparticle Research 13(4):1593-1604;Alexandridis,P.and B.Lindman(2000),Amphiphilic Block Copolymers:Self-Assembly and Applications,Elsevier Science;Hunter,R.J.and L.R.White(1987).Foundations of colloid science,Clarendon Press)。
【0014】
一部の実施形態において、本発明のナノ粒子は、約5、10、15、または20nmのサイズを有する。
【0015】
本明細書において使用するように、「約」という用語は、値または範囲の変動の程度、例えば、記載された値または記載された範囲の限度の10%以内、5%以内、または1%以内を示すように使用される。
【0016】
一部の実施形態において、本発明のナノ粒子は、様々な化学特性、様々なサイズ、および/または様々な形状から作製される。一部の実施形態において、ナノ粒子は、球状、針状、フレーク状、小板状、管状、繊維状、立方体状、角柱状、ウィスカー状の形態であってよく、または不規則な形状を有していてもよい。
【0017】
一部の実施形態において、ナノ粒子は固体ナノ粒子のなかから選択される。一部の実施形態において、ナノ粒子は、鉱物、有機物、または混合物であり得、かつコーティングまたはグラフト化され得る。
【0018】
一部の実施形態において、ナノ粒子は鉱物ナノ粒子である。無機ナノ粒子のなかでも、金属酸化物、アルミナ、シリカ、カオリン、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、シリケート、例えば、雲母、石英、ゼオライト、または、粘土、例えば、ヘクトライト、ラポナイト、モンモリロナイト、ベントナイト、スメクタイトなどを挙げることができる鉱物粒子は、金属粒子を含み得るが、これに限定されない。金属粒子は、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類金属、およびそれらの合金のなかから選択される金属合金または金属のみで形成された粒子を包含する。一部の実施形態において、金属は、アルミニウム、銅、カドミウム、セレン、銀、金、インジウム、鉄、白金、ニッケル、モリブデン、シリコン、チタン、タングステン、アンチモン、パラジウム、亜鉛、スズ、およびそれらの合金であってよい。これらの金属粒子は、表面にグラフト化された化学成分を有するか、または有機硫黄化合物などの化合物の自己組織化単層を表面に有する金属有機修飾ナノ粒子であり得る。
【0019】
一部の実施形態において、ナノ粒子は、金属酸化物、例えば、酸化鉄(FeO、Fe、Fe)、酸化セリウム(CeO)、アルミナ(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、チタネート(BaTiO、Ba0.5Sr0.5TiO、SrTiO)、酸化インジウム(In)、酸化スズ(SnO)、酸化アンチモン(Sb)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マンガン(Mn、MnO)、酸化モリブデン(MoO)、シリカ(SiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化イットリウム(Y)、ビスマスオキシクロリド、酸化銅(CuO、CuO)などから作製される。
【0020】
一部の実施形態において、ナノ粒子は金属酸化物から作製され、該金属酸化物は、酸化鉄(FeO、Fe、Fe)、酸化セリウム(CeO)、アルミナ(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、チタネート(BaTiO、Ba0.5Sr0.5TiO、SrTiO)、酸化インジウム(In)、酸化スズ(SnO)、酸化アンチモン(Sb)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マンガン(Mn、MnO)、酸化モリブデン(MoO)、シリカ(SiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化イットリウム(Y)、ビスマスオキシクロリド、および/または酸化銅(CuO、CuO)からなる群より選択される。
【0021】
一部の実施形態において、ナノ粒子は、直接的に画像化されることができる造影剤として機能し得る。特に、本発明のナノ粒子は、例えば、瘻孔の閉鎖が維持されていることを検証するためにナノ粒子の移植を追跡するための、構造的または機能的な画像化方法の可能性を提示することができる。したがって、ナノ粒子は、画像化技術、例えば、超音波検査、エラストグラフィー、超音波せん断波画像法、磁気共鳴画像法(MRI)、陽電子放射断層撮影法(PET)、単一光子放射コンピュータ断層撮影法(SPECT)、蛍光分光法、コンピュータ断層撮影法、X線撮影法など、またはこれらの技術の任意の組合せによって検出することができる。
【0022】
一部の実施形態において、ナノ粒子は磁気共鳴画像法(MRI)によって検出されるように設計されている。核磁気共鳴(NMR)の応用であるMRIは、診断的臨床医学および生物医学的研究において最も有力な非侵襲的技術の1つに発展してきた。MRIは、有害である可能性がある電離放射線に依存しないという(他の高品質画像法に対する)利点がある。
【0023】
一部の実施形態において、ナノ粒子は極小超常磁性酸化鉄(USPIO)粒子からなる。USPIO粒子は、人の病態画像化用の造影剤として現在のところ研究中である(C.Corot et al.,Adv.Drug Deliv.Rev.,2006,56:1472-1504)。これらは、周囲水分の磁気共鳴信号を大きく妨害する数千の鉄原子を含む結晶酸化鉄コアから構成される。USPIO粒子は、他の種類のナノ粒子、例えば(超高感度蛍光プローブとして現在研究されている)量子ドットなどとは対照的に、極めて良好な生体適合性を示す。USPIO粒子の化学コーティングは、生物学的媒体における分散性を確保するために必要とされる。多糖類、例えばデキストランおよびそのカルボキシメチル化誘導体などが現在のところコーティングとして使用されている。USPIO粒子は当該技術分野において知られており、記述されている(例えば、J.Petersein et al.,Magn.Reson.Imaging Clin.Am.,1996,4:53-60;B.Bonnemain,J.Drug Target,1998,6:167-174;E.X.Wu et al.,NMR Biomed.,2004,17:478-483;C.Corot et al.,Adv.Drug Deliv.Rev.,2006,58:1471-1504;M.Di Marco et al.,Int.J.Nanomedicine,2007,2:609-622参照)。USPIO粒子は、例えば、SineremおよびCombidex(登録商標)という商品名でAMAGファーマシューティカルズから市販されている。
【0024】
一部の実施形態において、本発明のナノ粒子は、実施例に記載するように酸化鉄Fe3O4の極小超常磁性酸化鉄(USPIO)ナノ粒子である。
【0025】
本発明の粒子は、当該技術分野において知られている任意の従来の方法に従って調製される。例えば、酸化鉄Fe3O4の極小超常磁性酸化鉄(USPIO)ナノ粒子は実施例に記載するように調製される。
【0026】
一部の実施形態において、ナノ粒子は、ナノ粒子の水溶液として瘻孔管に注入される。
【0027】
本明細書において使用するように、「水溶液」という用語は当該技術分野におけるその一般的な意味を有し、溶媒が水である溶液を指す。
【0028】
ナノ粒子の水溶液は市販されている。グレースデイビソンのコロイダルシリカLudox(登録商標)の水溶液を挙げることができる。これらは、当業者に既知のStoeberらの方法(Controlled growth of monodisperse silica spheres in the micron size range,Journal of colloid and interface science(1968))を使用することによって、上記の材料のいずれに対しても調製することができる。
【0029】
一部の実施形態において、ナノ粒子は、ナノ粒子のアルコール水溶液として瘻孔管に注入される。
【0030】
本明細書において使用するように、「アルコール水溶液」という用語は当該技術分野におけるその一般的な意味を有し、水とアルコールの混合溶液、例えば、100重量部の水に1~300重量部の第1級アルコール、例えばエタノールまたはメタノールを溶解することによって得られる溶液を指す。
【0031】
一部の実施形態において、ナノ粒子の水溶液は、実質的に水に懸濁したナノ粒子からなる。これは、他の成分が懸濁液に存在し得るが、懸濁液の特性を顕著に変えることはないということを意味する。特に、他の成分が懸濁液に存在し得るが、懸濁液の接着特性(例えば、ナノ粒子の分散特性)を変えないように選択する必要がある。
【0032】
本発明において、本発明にしたがって使用できるナノ粒子の溶液(水溶液など)は、他のいずれの接着剤も含まない。これは、ナノ粒子の溶液が、接着剤として知られる化合物を、接着剤の機能を果たすことができ得る濃度で含まないということを意味する。既知の接着剤のなかでも、合成接着剤、例えばモノマー、(ポリマーナノ粒子以外の)合成ポリマー、特にシアノアクリレート、ウレタン、デンドリマーなど、または、天然の接着剤、例えばフィブリン、コラーゲン、ゼラチン、および多糖類などを挙げることができる。
【0033】
本発明において、ナノ粒子は、それらが存在する組成物において接着剤の機能を有する。典型的に、上述のような製剤において、ナノ粒子は溶液の乾燥物質重量の10~100重量%に相当する。典型的に、ナノ粒子は、製剤(例えば水溶液)の乾燥物質重量の20~100重量%、さらにより好ましくは30~100重量%、有利には40~100重量%に相当し、より適切には50~100重量%、さらにより適切には60~100重量%、好ましくは70~100重量%、さらにより適切には80~100重量%、さらにより好ましくは90~100重量%に相当する。特定の実施形態において、ナノ粒子は、溶液(水溶液など)の乾燥物質重量の95~100重量%、さらにより適切には98~100重量%、さらにより好ましくは99~100重量%に相当する。
【0034】
一部の実施形態において、ナノ粒子、特に、酸化鉄Fe3O4の極小超常磁性酸化鉄(USPIO)ナノ粒子の濃度は、典型的に、10mg/ml~1000mg/mlの間に含まれる。一部の実施形態において、溶液(水溶液など)中のナノ粒子の濃度は、50mg/ml~250mg/mlの間に含まれる。一部の実施形態において、濃度は、約10、20、30、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、800、900、または1000mg/mlである。
【0035】
典型的に、本発明のナノ粒子の溶液の注入は、例えば注射器などの従来の技術を使用して行われる。
【0036】
瘻孔表面に堆積させるナノ粒子の量は、0.1mg/m~10g/mである。ナノ粒子のサイズに応じて、表面の被覆率を調整する。これらの値は、好ましくは、小さい粒子では1mg/mから、好ましくは、大きい粒子では0.2g/mまでとすることができる。大きい粒子(典型的に、約300nm)では、被覆率は大きく、約4g/mとなる。小さいサイズ(約2nmの直径)の粒子では、被覆割合は好ましくは約10mg/mである。特に、最適な接着はナノ粒子表面上の高密度単層において得られると考えられる。被覆の密度はATR-FTIRまたはSEMによるアセンブリにおいて評価することができる。
【0037】
一部の実施形態において、表面に堆積されるナノ粒子の体積は、1mmあたり0.01~5μlの範囲である。典型的に、1mmあたり0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、または5μlの体積で瘻孔管の表面に堆積される。
【0038】
一部の実施形態において、ナノ粒子の溶液(水溶液など)を瘻孔管に注入した後、瘻孔管が生じている表面に圧力を加える。一部の実施形態において、腹膜に圧力を加える。一部の実施形態において、圧力は、少なくとも、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206、207、208、209、210、211、212、213、214、215、216、217、218、219、220、221、222、223、224、225、226、227、228、229、230、231、232、233、234、235、236、237、238、239、240、241、242、243、244、245、246、247、248、249、250、251、252、253、254、255、256、257、258、259、260、261、262、263、264、265、266、267、268、269、270、271、272、273、274、275、276、277、278、279、280、281、282、283、284、285、286、287、288、289、290、291、292、293、294、295、296、297、298、299、または、300秒の時間において加えられる。一部の実施形態において、圧力は約1分間加えられる。一部の実施形態において、圧力は、手動の圧力(例えば、指による)、機械的圧力、縫合糸による圧力、またはステープルによる圧力である。
【0039】
上述の方法は、処置される患者に、例えば全身的に、または瘻孔を伴う肛門会陰病変の部位に局所的に、治療剤を投与することをさらに含み得る。
【0040】
一部の実施形態において、治療剤は、個別に、例えば本発明の方法と同時に、該方法を行う前に、または該方法を行った後に投与される。
【0041】
一部の実施形態において、治療剤は、クローン病の処置に特に適している。例のクローン病の治療剤は、抗炎症薬剤、例えばメサラミンを含む薬剤など、免疫抑制剤、例えば6-メルカプトプリンおよびアザチオプリンなど、抗生物質、ならびに止痢剤、例えばジフェノキシラート、ロペラミド、およびコデインなどである。
【0042】
一部の実施形態において、治療剤はTNFα遮断剤である。
【0043】
本明細書において使用するように、「TNFα遮断剤」または「TBA」という用語は、本明細書において、TNFαの作用を中和することができる生物学的薬剤を意味する。上述の薬剤は、好ましくは、可溶性TNFα受容体、例えばペグスネルセプトなどのタンパク質、または抗体である。一部の実施形態において、TBAは、TNFαまたはTNFα受容体に対する特異性を有するモノクローナル抗体である。一部の実施形態において、TBAは、エタネルセプト(Enbrel(登録商標))、インフリキシマブ(Remicade(登録商標))、アダリムマブ(Humira(登録商標))、セルトリズマブペゴル(Cimzia(登録商標))、およびゴリムマブ(Simponi(登録商標))からなる群において選択される。また、組換えTNF受容体に基づくタンパク質も開発されている(例えば、エタネルセプトは、ヒトIgG1分子のFcフラグメントによって結合された可溶性TNFα受容体2(p75)の2つの細胞外部分からなる組換え融合タンパク質である)。また、ペグ化可溶性TNF1型受容体もTNF遮断剤として使用することができる。さらに、サリドマイドはTNF産生の強力な阻害剤として実証されている。したがって、TNFα遮断剤は、ホスホジエステラーゼ4(IV)阻害剤のサリドマイド類似体および他のホスホジエステラーゼIV阻害剤をさらに含む。本明細書において使用するように、「エタネルセプト」または「ETA」という用語は、関節リウマチの処置に使用される腫瘍壊死因子-α(TNFα)拮抗剤を示す。「エタネルセプト」(ETA、ETN、Enbrel(登録商標))という用語は、IgG1のFcドメインと遺伝学的に融合したp75 TNF受容体から構成される組換えTNF受容体IgG-Fc融合タンパク質である。エタネルセプトは、炎症誘発サイトカインである腫瘍壊死因子-α(TNFα)およびリンホトキシン-αを中和する(Batycka-Baran et al.,2012)。
【0044】
本発明を以下の図面および実施例によってさらに例示する。しかしながら、これらの実施例および図面は、本発明の範囲を限定するようにいかようにも解釈されるべきでない。
【実施例
【0045】
材料および方法
研究設計および動物
実験室において開発した、肛門周囲瘻孔を伴うクローン病のモデルラットにおいて、肛門周囲瘻孔の処置のためのUSPIOを試験する前臨床研究を行った[6]。この実験モデルは直腸の病的炎症を伴う肛門周囲瘻孔を発症し、これは、7日を超えた後に瘻孔管が持続することを特徴とする。10匹のラットの群において、ラットごとに2つの瘻孔を作製し、それぞれのラットをそれ自体のコントロールとした。炎症性瘻孔形成の主な段階を図1にまとめる。動物は42~90日齢の雄のスプラーグドーリーラットであった。動物を繁殖し、通常飼育領域で飼育し、照射した飼料を与え、手技の前日および当日を含め、経口で適宜の水分補給を行った。同じケージにおいて最大2匹のラットを飼育した。ラットの体重は、各手技の当日、およびその後7日ごとに測定した。すべての実験は、欧州共同体のガイドラインに準拠して行われ、動物実験委員会によって承認された(no.APAFIS#23031-2019112613522589v5、Paris Nord ethic committee and French Research Ministry)。
【0046】
すべての手技を、同じ麻酔および鎮痛プロトコールに従って行った。動物をイソフルラン吸入で麻酔した(誘導時はイソフルラン3L/min+O2L/min、その後イソフルラン1.5L/min+O2L/min)。鎮痛は20%リドカイン塩酸塩(1mg/kg)の局所注入およびブプレノルフィン(0.05mg/kg/rat)の腹部皮下注入によって行った。手術後、動物が痛みに関連したストレスの徴候を示した場合に使用した鎮痛剤は同じ投与量のブプレノルフィンであった。
【0047】
肛門周囲瘻孔を伴うクローン病の前臨床モデル
- 0日目、直腸炎誘発:TNBS溶液(2.4.6-トリニトロベンゼンスルホン酸溶液、ピクリルスルホン酸、SIGMA laboratory)を含む500μLの直腸浣腸で直腸炎を誘発した。TNBS溶液は、85.3μLのTNBS(すなわち25mg)、250μLの100%エタノール、および164.7μLの生理食塩水を含んでいた。直腸浣腸を少なくとも1分間維持した。直腸炎症のピークは浣腸後の5日目~7日目の間で達した。
- 7日目、瘻孔形成:直腸炎症のピークにおいて、各ラットに2つの瘻孔を作製した。ラットを仰臥位で配置し、この位置が瘻孔を位置特定するための基準となった(陰嚢は12時方向、尾は6時方向)。外科用糸(Vicryl(登録商標)1、ETHICON Laboratory)を直腸に挿入し(内部口)、肛門縁部から約1cmの会陰部において出す(外部口)ことによって、3時および9時方向に瘻孔を作製した。適した内径を得るため、瘻孔管を外科用糸で研磨した。10μLのフィルターチップと同様に、18Gのブラントフィルニードルを瘻孔に通した。直径約2mmの内部口および外部口を得た。外科手技の終了時に、糸を瘻孔管に留置し、100μLのTNBS溶液を各管内に滴下した。TNBS溶液は、100μLの滴下のために、17.06μLのTNBS(すなわち5mg)、50μLの純エタノール、および32.94μLの生理食塩水を含んでいた。この濃度は直腸浣腸と同じ濃度であった。
- 8日目から34日目、糸の位置のモニタリング:糸を28日間維持した。この期間、ラットを1~2日ごとに検査し、瘻孔がよく耐えていること、および糸が抜け落ちていないことを確認した。糸を紛失した場合は、同日中に短時間の麻酔時において再挿入した。週に2回、100μLの同じTNBS溶液を各瘻孔管内に滴下した。
- 35日目、ベースラインMRI:糸を28日間維持した後、2つの炎症性瘻孔を得て、会陰MRIを行い、処置前の管を評価した。
【0048】
酸化鉄ナノ粒子の水溶液による処置
USPIOを酸化鉄Feの極小超常磁性酸化鉄ナノ粒子(USPIO-NP)で構成した。USPIO-NPを、マイクロ波非水性ゾルゲル法を使用して合成した[12]。生理学的条件内の安定性および生体適合性を得るために、酸化鉄ナノ粒子表面を機能化する必要がある。本明細書において、USPIO-NP表面をシトレートリガンドで機能化し、pH7および高濃度(30重量%)において安定なUSPIO懸濁液をもたらした。TEMによって測定した磁気コアのサイズは9.0±2.2nmと等しく(図2a)、51±2emu/gUSPIOの飽和磁化を伴う超常磁性挙動を示し、強力なT2 MRI造影剤をもたらす[12]。シトレートのコーティングを、フーリエ変換赤外(FTIR)測定(図2b、図2c)および熱重量分析によって定性的かつ定量的に評価し、1ナノ粒子あたり350個のシトレート分子となった。
【0049】
ベースラインMRI(35日目)後、外科用糸を取り除き、処置する瘻孔管を無作為に抽出した。300mg/mlのUSPIO溶液2μLを瘻孔管に直接的に注入した。管を閉鎖するため、会陰部への外部圧力を1分間維持した。コントロールの瘻孔管を生理食塩水2μLで処置した。
【0050】
経過観察および瘻孔評価方法
処置後の経過観察を図3にまとめる。手術後1日目(POD)、POD4、およびPOD7において、ラットを評価した。各評価において、ラットを全身麻酔下で臨床検査し、会陰MRIを行った。
【0051】
臨床検査の主なポイントを、挙動、外観、直腸出血、便の性状、体重および体重減少、ならびに会陰部の腫脹/硬結/浸潤である、CDAIおよびPDAIのスコアに従って定義した。瘻孔の臨床診断を外部口および/または内部口の存在によって定義した。直腸炎の診断を肛門直腸炎症および/または血性下痢の存在によって定義した。
【0052】
小動物用7T MRIシステム(Bio Spec,Bruker BioSpin,Ettlingen,Germany)において会陰MRIを行った。イソフルランで麻酔した動物をMRIクレードルに腹臥位で配置し、脚をまずトンネルに挿入した。アイソセンターを、瘻孔の外部口の推定位置(肛門から約0.5cm)に配置した。形態学的な軸方向のT1およびT2強調画像を、脂肪飽和を用いて、肛門から30mmを網羅して取得した。同じ領域において軸方向の超短エコー時間(UTE)画像を取得した。最後に、拡散強調画像法(DWI)を、直交する3方向に沿って、異なるb値(0、150、400、および800s/mm)および脂肪飽和を用いて行い、瘻孔トラックを中心とした11スライスを取得した。取得パラメーターを表1に詳細に示す。画像解釈およびパラメーター測定は、瘻孔群および病理学的結果について盲検化された腹部放射線科医(IBDにおいて14年の経験)と研究技術者(前臨床MRIにおいて16年の経験)とが行った。各ラットは4回のMRIセッションを受けた。第1のセッションは処置実施前に行った。他のセッションは、処置後1日目、4日目、および7日目に行った。第1のセッションのT2強調画像を全般的直腸炎スコア(global proctitis score(GPS))の計算に使用した。簡潔に言うと、T2強調画像において高強度信号として認められる炎症の位置および範囲を放射線科医が評価した。外科用糸を取り除いた後の残存瘻孔の持続性を、処置後の各MRIセッション時に、その可視性(放射線科医が認めた管のパーセンテージ)、その最大径(mm)、ならびに外部口および内部口の存在に基づいて、第1のMRIセッション時に評価した同じパラメーターと比較して評価した。この評価はT2強調画像を優先的に使用して行われ、必要に応じてUTE画像を使用して完了した(すなわち、T2強調画像のぼやけた領域、つまり実施した処置に存在する鉄ナノ粒子による磁化率アーチファクト)。瘻孔管に関連した組織の変化を、T2強調画像の信号強度(任意単位[a.u.]、筋肉信号強度に対してノーマライズ)と見かけの拡散係数(ADC、10-3mm/s)とを測定することによって評価した。目的の領域を、T2強調画像またはb0のDW画像において、連続する3スライスで、管の周囲について直接的に描出した。DWIでは、各b値においてトレース画像を計算し、その後、ピクセルごとに、信号強度を単一指数的に表して、ADCマップを計算した。
【0053】
全身麻酔下で臨床検査およびMRIを行った後のPOD7において、すべてのラットを胸骨切開時の心臓摘出により安楽死させた。瘻孔管を含む肛門直腸接合部の一体的切除を行うため、会陰部アプローチによる腹会陰式切除術を行った。瘻孔管を含む会陰部の周囲切開によって下部から上部に向かって解剖を行った。肛門から約3cmの骨盤底筋において直腸を切開した。手術片を半分に切断して瘻孔を分離した。組織試料をホルムアルデヒド(ホルマリン溶液、中性緩衝、10%、Sigma laboratory)中で24時間固定し、4℃において保存した。その後、標本を正確に方向づけて、パラフィンに包埋した。瘻孔管に沿ってミクロトームで数μm厚の切片を切り出した。各試料において、1切片をヘマテインエオジンで染色し、5切片を免疫組織化学分析のために調製した。瘻孔管の診断は、直腸粘膜上の内部口から会陰部皮膚上の外部口までの内腔を有する管、直腸炎の病理学的徴候(Bリンパ球およびTリンパ球、好中球、マクロファージ、肉芽腫)の組織学的基準の存在に基づくものであり、瘻孔管の特性は線維症、上皮化、および急性または慢性炎症の有無に基づいて定義された。
【0054】
評価項目
一次評価項目は、臨床検査、MRI検査によって評価され、病理学的検査によって確認された、ASIONによる外部開口または内部開口を含む瘻孔管の充填または閉鎖であった。二次評価項目は、瘻孔管の炎症の進行、管理された瘻孔の分析によるモデルの再評価、およびASIONの安全性であった。
【0055】
統計分析
定量的データを平均値±標準偏差(範囲)として表す。定性的データを頻度およびパーセンテージとして報告する。
【0056】
結果
前臨床研究は42日間の長さであった。20匹のラットを研究し、各ラットに2つの瘻孔を作製した。TNBS浣腸後の7日目において、すべてのラットに軟便および会陰部の腫れがあった。糸を28日間維持した間、糸の存在を確認するため、および週に2回、各瘻孔管に100μLのTNBS溶液を滴下するために、すべてのラットを平均で8回麻酔した(最小6回~最大11回)。この期間において、新しい糸を平均で6回再挿入した(最小0回~最大11回)。1匹のラットのみが同じ糸を28日間保持した。この段階において12匹のラットが膿瘍を発症し、これは約1週間で治癒した。それでもこの段階において、3匹のラットが2つの糸のうちの1つをちぎって瘻孔切開を引き起こした。1つの瘻孔管のみを有するこれらの3匹のラットは網羅的分析から除外した。そのうちの2匹をUSPIOで、1匹を生理食塩水で処置した。USPIO懸濁液の長期的な結果を評価するため、それらをPOD14まで生存させた。主な分析を構成する17匹のラットの処置前の瘻孔の特徴を表2にまとめた。すべてのラットは、臨床的および放射線学的評価において、処置前に2つの炎症性瘻孔を示した。15匹のラットがグレード1の慢性直腸炎を有し、2匹のラットが処置前に直腸炎を有していなかった。MRIで計算した平均径は、処置した瘻孔で2.2mm(±0.6[1.6~3.3])であり、コントロールの瘻孔で1.9mm(±0.3[1.5~2.3])であった。表5に詳細に示すように、除外した3匹のラットにおいて同様の結果を観察した。
【0057】
コントロールの瘻孔
表3および表4に示すように、コントロールの瘻孔は経時において自然治癒プロセスがあまりなく、不良であった。POD7において、4つの管のみが内部口を閉鎖させていた。12個の瘻孔が50%を超える管でなお目視された。7つのコントロールの瘻孔のうち全部で6つが、POD7においてなお目視されるか、または開口した内部口を有していた。1つのみのコントロールの瘻孔管がPOD7において概して閉鎖されていた。しかしながら、すべてのコントロールの瘻孔がPOD7までに末梢管炎症を有していた。これらの結果は、全体的に、肛門周囲瘻孔を伴うクローン病モデルの開発について以前に掲載されたものと類似している[6]。
【0058】
酸化鉄ナノ粒子の水溶液によって処置した瘻孔
表3に示すように、処置した瘻孔の臨床検査は、すべての外部口および内部口がPOD7においてUSPIOによって閉鎖されたことを示した。MRI所見を表4に示す。MRIにおける評価は、すべての処置した瘻孔管がPOD7までにUSPIOによって持続的に充填または閉鎖されたことを示した。すべての外部口および内部口がPOD7までに閉鎖された。酸化鉄ナノ粒子の存在によって引き起こされたブルーミング効果のため、処置した管の直径がMRIによって過大評価された。観察された直径は経時で減少しているようであり、ナノ粒子の代謝を示唆した。末梢管炎症はナノ粒子のアーチファクトのため測定できなかった。表5に示すように、USPIOによる同じ結果がPOD14まで観察された。
【0059】
安全性
前臨床研究にわたって、死亡したラットはなく、すべてのラットは体重減少することなく良好な全身状態を維持した。USPIOの投与は極めて単純であり、いずれの侵襲的な手技も必要としなかった。ASIONで処置した1匹のラットはPOD1において膿瘍を発症し、これは1週間で自然治癒した。その他の有害作用は報告されなかった。肝臓は通常、酸化鉄ナノ粒子のクリアランスの中心的臓器であるので[13、14]、POD7において肝機能(トランスアミナーゼ、アルカリホスファターゼ、およびビリルビン)を評価し、鉄検査を行った。すべての生物学的結果が正常範囲であった。同じ結果が、POD14において、ASIONによって単一の管を処置した2匹のラットに観察された。
【0060】
結論
この研究は、処置を試験して最適化するために、末梢炎症を伴う肛門周囲瘻孔の前臨床モデルを再現できることを示した。処置したすべての炎症性瘻孔が、USPIOによって持続的に充填または閉鎖される(1日目から7日目まで)が、コントロールの群では1日目に14%のみが閉じていた。酸化鉄ナノ粒子溶液は、肛門周囲瘻孔を伴うクローン病の新しい有望な処置であると考えられる。
【0061】
表1は、MRI取得パラメーターを示す。
【表1】
【0062】
表2は、2つの瘻孔管を維持した7匹のラットの処置前における瘻孔の臨床的および放射線学的特徴を示す。
【表2】
a症例の数(症例のパーセンテージ)
b平均値±標準偏差[範囲]
c瘻孔管:50%を超える瘻孔管の可視性があるラットの数
【0063】
表3は、瘻孔管の臨床上の進行を示す。
【表3】
a症例の数(症例のパーセンテージ)
b平均値±標準偏差[範囲]
【0064】
表4は、2つの瘻孔管を維持した7匹のラットの処置後における瘻孔のMRI所見を示す。
【表4】
a症例の数(症例のパーセンテージ)
b瘻孔管の充填/閉鎖:ASIONまたは自然治癒のいずれかによって50%以上で充填または閉鎖された瘻孔管の数
c平均値±標準偏差[範囲]
NM:測定不能、POD:手術後日数
【0065】
表5は、1つのみの瘻孔管を有する3匹のラットの処置前における放射線学的特徴、ならびにPOD7およびPOD14におけるMRI所見を示す。
【表5】
a瘻孔管:50%を超える瘻孔管の可視性があるラットの数
b症例の数(症例のパーセンテージ)
c平均値[観測値]
d瘻孔管の充填/閉鎖:ASIONまたは自然治癒のいずれかによって50%以上で充填または閉鎖された瘻孔管の数
NM:測定不能、POD:手術後日数、ASIONのラット:ASIONによって処置した、1つの瘻孔管のみを有する2匹のラット、コントロールのラット:生理食塩水によって処置した、1つの瘻孔管のみを有する1匹のラット
【0066】
参考文献
本願において、様々な参考文献によって、本発明が属する技術の現状が記載されている。これらの参考文献の開示は、本明細書において言及することによって本開示に援用される。
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図1
図2
図3
【国際調査報告】