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▶ フォトエレクトロン インテーレクチュアル プロパティ ホールディングス エルエルシーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】改良された表面分析方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2273 20180101AFI20240905BHJP
   G01N 23/2202 20180101ALI20240905BHJP
【FI】
G01N23/2273
G01N23/2202
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514500
(86)(22)【出願日】2022-09-05
(85)【翻訳文提出日】2024-04-05
(86)【国際出願番号】 GB2022052256
(87)【国際公開番号】W WO2023031626
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】2021902871
(32)【優先日】2021-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】2022901921
(32)【優先日】2022-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】2022902144
(32)【優先日】2022-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524082258
【氏名又は名称】フォトエレクトロン インテーレクチュアル プロパティ ホールディングス エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】PHOTOELECTRON INTELLECTUAL PROPERTY HOLDINGS LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カンプソン ピーター
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001AA07
2G001BA08
2G001CA07
2G001KA01
2G001RA02
(57)【要約】
【課題】改良された表面分析方法および装置を提供する。
【解決手段】改良された表面分析方法は、試料のX線光電子スペクトルを生成するための方法であって、試料の表面の酸化状態を変化させるように構成された作用物質に試料の表面を曝露することによって、試料の表面に複数の異なる酸化状態を生成するステップと、試料をX線光電子分光装置に配置するステップと、試料の表面の複数の酸化状態のそれぞれについてX線光電子スペクトルを得るステップと、複数のスペクトルを分析することによって、試料内の物質を識別するステップとを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料のX線光電子スペクトルを生成するための方法であって、
前記試料の表面の酸化状態を変化させるように構成された作用物質に前記試料の表面を曝露することによって、前記試料の表面に複数の異なる酸化状態を生成するステップと、
前記試料をX線光電子分光装置に配置するステップと、
前記試料の表面の複数の酸化状態のそれぞれについてX線光電子スペクトルを得るステップと、
前記複数のスペクトルを分析することによって、前記試料内の物質を識別するステップとを含む表面分析方法。
【請求項2】
前記試料は、前記試料の前記表面の酸化状態を変化させるように構成された前記作用物質に複数回連続して曝露され、前記作用物質への前記試料の後続の各曝露において、前記試料の前記表面の酸化状態は、前記試料の前記表面の酸化状態を変化させるように構成された前記作用物質への先行する曝露から生じる前記試料の前記表面の酸化状態に対して変化する、請求項1に記載の表面分析方法。
【請求項3】
前記試料は、それぞれがサブ試料の表面を有する複数のサブ試料に分割され、前記サブ試料の表面の異なる酸化状態が、各サブ試料について生成される、請求項1に記載の表面分析方法。
【請求項4】
前記試料の表面の酸化状態を変化させるように構成された前記作用物質は、ガス状作用物質である、請求項1に記載の表面分析方法。
【請求項5】
前記試料の表面の酸化状態を変化させるように構成された前記作用物質は、紫外線、オゾンおよび水素のいずれか1つまたは複数を含む請求項1に記載の表面分析方法。
【請求項6】
紫外線光が少なくとも1つの紫外線(UV)ランプによって提供され、少なくとも1つの前記UVランプから放射されるUV光が前記試料の表面に向けられる、請求項5に記載の表面分析方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つのUVランプから放射されるUV光は、200nm~300nmの波長範囲にある、請求項6に記載の表面分析方法。
【請求項8】
UVランプは水銀蒸気ランプである、請求項6または7に記載の表面分析方法。
【請求項9】
オゾンは、前記試料の周囲のガス中に0.01~20ppmの範囲の濃度でオゾンガスを生成するオゾン生成装置によって供給される、請求項5に記載の表面分析方法。
【請求項10】
前記試料の表面の前記作用物質への曝露時間、前記作用物質の濃度、ならびに前記作用物質の波長および/または周波数のうちの1つまたは複数を制御することによって、前記試料の表面の酸化状態の変化の程度を、制御するステップを含む、請求項1に記載の表面分析方法。
【請求項11】
前記複数のスペクトルを分析することによって前記試料内の物質を同定する前記ステップは、主成分分析または非負行列因数分解を含む多変量解析を実行する、請求項1に記載の表面分析方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の方法を実施するように構成された、X線光電子スペクトル(XPS)を捕捉するための装置であって、
試料ホルダと、
前記試料ホルダに保持された試料の表面の酸化状態を変化させるように構成された前記作用物質の供給源と、
前記表面の酸化状態を変化させるように構成された前記作用物質への前記試料の表面の曝露を制御する手段と、
前記試料の表面の酸化状態ごとに1つずつ複数のXPSスペクトルを記録することができるX線光電子分光計とを備える表面分析装置。
【請求項13】
主成分分析、または非負行列因数分解を実行するように構成されたデータプロセッサをさらに備える、請求項12に記載の表面分析装置。
【請求項14】
前記試料ホルダは、筐体内に収容される、請求項12に記載の表面分析装置。
【請求項15】
前記試料の表面の酸化状態を変化させるように構成された前記作用物質が、ガス状作用物質である、請求項12に記載の表面分析装置。
【請求項16】
請求項12に記載のデバイスであって、前記試料の表面の酸化状態を変化させるように構成された前記作用物質の供給源が、紫外線、オゾンおよび水素のうちの1つまたは複数である表面分析装置。
【請求項17】
前記紫外線光は、少なくとも1つの紫外線(UV)ランプによって提供され、少なくとも1つの前記UVランプから放射されるUV光は、前記試料の表面に向けられる、請求項16に記載の表面分析装置。
【請求項18】
少なくとも1つの前記UVランプから放射されるUV光は、200nmから300nmの波長範囲にある、請求項17に記載の表面分析装置。
【請求項19】
少なくとも1つの前記UVランプは、水銀蒸気ランプである、請求項17または18に記載の表面分析装置。
【請求項20】
前記試料ホルダ内に位置する試料の周囲にオゾンを放出するように構成されたオゾン発生器をさらに備える、請求項16に記載の表面分析装置。
【請求項21】
前記オゾン発生器が、前記試料の周囲の空気中で100~300nmの領域で発光する少なくとも1つのUVランプである、請求項20に記載の表面分析装置。
【請求項22】
少なくとも1つの前記UVランプは、185nmおよび/または254nmのUVを放射する、請求項21に記載の表面分析装置。
【請求項23】
前記試料ホルダ内の前記試料の周囲に水素を放出するように構成された水素源をさらに備える、請求項16に記載の表面分析装置。
【請求項24】
前記水素源が少なくとも1つの亜鉛空気セルである、請求項23に記載の表面分析装置。
【請求項25】
前記試料ホルダは、複数のサブ試料を保持するように適合され、各サブ試料は、異なる酸化状態を有する表面を有し、前記X線光電子分光計は、前記サブ試料の各々についてXPSスペクトルを記録するように構成される、請求項12に記載の表面分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
X線光電子分光法を使用する材料の化学的および物理的分析に関する。
【背景技術】
【0002】
分析実験室では、少量の試料を化学的に特徴付けることが頻繁に必要とされる。
X線光電子分光法(XPS)(非特許文献1)及び二次イオン質量分析法(SIMS)のような技術は、表面の上部数ナノメートルの優れた化学的特徴付けを提供することができる。図1のXPS機器の例、および図2のビューポートを通したビューを参照されたい。典型的な市販のXPS装置の概略断面図を図15に示す。
本明細書を通して、X線光電子(XPS)スペクトルに言及する場合、XPS機器からの同じスペクトルに現れるX線誘起オージェピークを含む。ここに提示される本発明は、これらのオージェピークの化学成分を厳密に光電子ピークとして解明するためにも同様に価値があるはずである。用語「試料」および「標本」は、全体を通して交換可能に使用される。
【0003】
XPSでは、エネルギー分解能は、典型的には、(例えば、シンクロトロンと比較して)実験室ベースの機器において制限される。過去20年間に、XPSにおいて単色化されたX線源に向かう傾向があり、その結果、単純なアノードX線源が1980年代に普及したのに対して、ほぼ全ての新しいXPS機器は、エネルギー分解能を改善するために、高価であるが、そのようなモノクロメータを有する。
分析者がより高いエネルギー分解能を必要とする理由は、試料中のコアレベルピークにおける異なる化学状態を区別するためである。LinkedIn(登録商標)ソーシャルネットワークに関する最近の調査では、その結果が表1に示されており、XPSユーザは、ピークフィッティング(すなわち、XPSピーク内の異なる化学状態を分解すること)を、XPSにおける彼らの最大の問題としてランク付けした。
【0004】
【表1】
【0005】
エネルギー分解能の向上は、コアレベルピークにおけるそのようなピークの重なりを最小限に抑えるのに役立ち、商業的な機器においてこれをより容易にするために、長年にわたって技術的な改善がなされてきた。しかし、それを避けることができない場合が多い。半球形電子エネルギー分析器におけるエネルギー分解能を改善するためには、大型の分析器(高価である)を選択し、かつ/またはその分析器においてより低い通過エネルギーに移行しなければならず、これは、計数率を低下させ、ノイズの多いスペクトルをもたらす可能性がある。XPSシステムを操作する技術の多くは、ピークを分解するのに必要な分解能を有するが、良好なスペクトル信号対雑音比を示すスペクトルを与えるために、パスエネルギー(eV)、スペクトルチャネル間隔(eV)、およびチャネル滞留時間(秒、s)の正しいパラメータを選択することにある。
【0006】
それでも、ピークが分解されない場合が多く、表面分析界では大きな問題とされている。この問題は、例えばBaer et al(非特許文献2)によって、近年、文献において詳細に議論されている。409年に発表された論文の広範なレビューに基づいて、Majorら(非特許文献3)は、「XPSスペクトルを示す論文の65%超がある程度の適合も示し、これがエラーの大部分の原因であった」と述べている。これは、かなりの大きさの国際的な分析コミュニティが直面する最も重大な問題である。XPSは、ピークパラメータおよびリンケージが分析者によって巧みに選択されない限り、誤ったピーク属性および強度測定を可能にする。Majorら(非特許文献4)は、「遷移金属の高分解能スペクトルは、ピーク適合に対して最も困難なスペクトルの1つである。実際、個々の化学に対するピークの割り当てを過度に単純化し、その後、結果の誤った解釈を有する遷移金属のピーク適合を見ることは一般的である。」と述べた。さらに、遷移金属は技術的に極めて重要であり、HfおよびTaのような元素は半導体表面分析において非常に重要であり、これらの元素の広い範囲は電池技術において重要である。図21は、遷移金属の酸化状態を示す(ウィキペディアから引用)。黒丸は、一般的な酸化状態を示し、白丸は、可能性はあるが可能性は低い状態を示す。この図は、遷移金属が多くの可能な化合物において多くの酸化状態で見出され得ることを非常に明らかにし、これらの遷移金属元素からのコアレベルスペクトルは、ほとんどの熟練した分析者を除いて、非常に混乱させるようにXPSスペクトルにオーバーレイされる。
【0007】
多くの分析者は、適度な技術で最善を試しているが、そのような不十分に分解されたピークへのピーク適合は、しばしば、誤っており、誤解を招くものとして文献において批判される。
【0008】
狭いXPSスペクトルにおける複数の未分解ピークの通常の原因は、表面が1つ以上の元素または化合物の複数の酸化状態を含むことである。原則として、元素の全ての化学状態の結合エネルギーを表にすることができる。これは、良好な第1のガイドであり、アナリストは、特定の要素を扱うときに、NISTデータベース(非特許文献5)を見ることが多い。しかし、この方法を排他的に使用することは、真の課題である。
1.いくつかの元素のいくつかの酸化状態はデータベースにない。
2.結合エネルギーは、多くの異なる人々が多くの異なる機器を使用し、それらの結合エネルギー較正手順を使用することによって、長期間にわたって取得されていること、は不確定であり得る。
3.ピーク(例えば、スペクトル中の2つの他のピーク間で分解されないままであるもの)の結合エネルギーの小さな誤差は、これら3つのピークの相対強度の大きな誤差をもたらし得る。結合エネルギーにおける0.1eVの誤差、反復された高価な較正ステップを用いても現在達成可能なものの絶対限界でさえ、スペクトルにおける隣接する未分解のピークの相対強度における大きな不確実性をもたらし得る。
【0009】
したがって、ある種の「内部」参照または方法は非常に有用である。言い換えれば、異なる未分解ピークの相対強度をそれらの公称値から離れるように変更する何らかの方法である。これは、試料を傾斜させることによって達成されることがあり、異なる深さに異なる化学状態が存在する場合には、これを達成することができる。しばしば、試料の表面はかなり均一であるので、それらは異なる深さでは生じない。加えて、傾斜は、大きな試料ホルダ(非特許文献6)を有する現代の機器では容易でないことが多い。また、傾斜は、ピークの下の非弾性バックグラウンドを変化させることがあり、これは、ピークフィッティングにさらなる複雑さを加える。
【0010】
有用であることが証明され得る1つの技術は、エネルギーイオンで表面を軽くまたは短時間スパッタすることである(ほとんどのXPSシステムは、スパッタ深さのプロファイリングを可能にするために設置されたイオン銃を有する)。これは、損傷を導入し、しばしば、表面に近いいくつかの酸化種を除去するか、または他の種の酸化状態を化学的に還元する。この短時間のスパッタリングの前後に、重複する化学状態を含むナロースキャンスペクトルを比較することが有用であり得る。しかしながら、これには限界があり、スパッタ銃を長時間作動させると、表面からの全ての化学状態が除去され、損傷したバルク材料のスペクトルが残る。これらの銃は材料を迅速に除去するように設計されているので、これは容易に行うことができる。さらに悪いことに、表面で化学的に還元されるものがほとんどない場合、スパッタリングによってさらに還元することは、スペクトルをほとんど変化させず、存在するピークについて少ししか伝えない(代わりに酸化することが望まれる)。
【0011】
それにもかかわらず、短時間のスパッタリングはしばしば有用であり、XPS分析チャンバ自体で迅速に行うことができる。ある意味では、それは本発明のプロセスとは反対のプロセスであり、その結果、2つを有用に組み合わせることができ、実際に、両方からのスペクトルを、同じ主成分分析(非特許文献7)(PCA)、特異値分解(非特許文献8)(SVD)、または非負行列因子分解(NMF)法の範囲内で有用に分析することができる。
【0012】
皮肉なことに、市販のXPSシステムの速度が増加するにつれて、毎年より多くのスペクトルが生成されるが、それらを解釈するための熟練した人員は限られた数しか存在しない。XPS分析のコストは、機器時間のコストから解釈のコストに移行している(多くの場合、ピークフィッティングを含む)。本明細書に記載される本発明の特徴の1つは、(1つだけが記録された場合に存在する曖昧さを除去するより多くのスペクトルを生成することによって)余分な機器時間(安価である)を使用して、解釈に費やされる分析者の時間(高価である)を低減し、結果の信頼性を改善し、分析報告および科学出版物の読者に正しい結論に達したことを実証する能力を改善することである。
【0013】
UV光およびオゾンを使用して試料の表面を酸化することにより、「受け取ったままの」状態のスペクトルのみから得ることができるよりも、表面化学(具体的にはXPSピーク形状)に関するより多くの情報を提供することができる。多くのタイプの試料に対して、これは非常に良好に機能する。いくつかのもの、特にXPSサンプリング深さ内の材料が既にその最も高い酸化状態にあるか又はその近くにあるものについては、UV及びオゾンへの曝露は、それらの酸化状態をほとんど変化させることができない。したがって、本発明において、本発明者は、試料の表面の選択肢として酸化および還元の両方を記載し、その結果、このような最初に酸化された試料からのXPSスペクトルでさえ、上記の多変量法によって解明され得る。
【0014】
水素雰囲気中での酸化銅のUVによる還元が、XPSを使用して実証されたが(非特許文献9)、本発明とは異なる目的のためであり、ある範囲の試料タイプの分析方法として適用するのに好適な時間スケール内であり、この場合、254nmのUV曝露単独よりも水素の存在下で約10倍速い。酸化グラフェンのUVによる還元は、本発明とは異なる目的で実証されているが(非特許文献10)、それにもかかわらず、試料表面のUVによる還元は、遷移金属に加えて炭素質材料のXPSにおいて有用であり得ることを示唆している。
【0015】
酸化と還元との間の直線経路を単に進むのではなく、UV露光が、他のものを置換する異常な酸化物(すなわち、空気中で室温または高温で長時間後でさえも通常は予想されないもの)を形成(非特許文献11)(例えば、Niについて、または半導体表面(非特許文献12)について)させ得るという証拠があり、これは、XPSにおけるピーク構造の解明に極めて有用である。
【0016】
特許文献1は、表面分析のためのX線光電子分光分析システム及びその方法を記載している。
特許文献2は、層の厚さを決定するための光電子分光法の使用を記載している。
特許文献3は、走査および高分解能X線光電子分光法および画像化を使用する表面分析のための機器を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第7875857号明細書
【特許文献2】米国特許第7420163号明細書
【特許文献3】米国特許第5315113号明細書
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Fred A Stevie および Carrie L Donley, Introduction to x-ray photoelectron spectroscopy, J. Va. Sci. Technol. A38, 063204(2020) doi:10.1116/6.0000412
【非特許文献2】D R Baerら、Practical guides for x-ray photoelectron spectroscopy:First steps in planning, conducting and reporting XPS measurements、J. Va. Sci. Technol. A37(3),2019年5月/6月,031401-1
【非特許文献3】G H Majorら、科学文献における誤ったX線光電子分光分析の頻度および性質の評価、J. Va. Sci. Technol. A38, 061204(2020) doi:10.1116/6.0000685
【非特許文献4】G H Majorら、Practical Guide for curve fitting in x-ray photoelectron spectroscopy、J. Vac. Sci. Technol. A38, 061203(2020); doi:10.1116/6.0000377.
【非特許文献5】https://srdata.nist.gov/xps/
【非特許文献6】F Stevieら、J. Vac. Sci. Technol. A38、063202(2020);doi:10.1116/6.0000421
【非特許文献7】Kevin M. McEvoy、 Michel J. Genet および Christine Dupont, Principal Component Analysis: A Versatile Method for Processing and Investigation of XPS Spectra, September 2008、 Analytical Chemistry 80(19):7226-38
【非特許文献8】https://en.wikipedia.org/wiki/Singular_value_decomposition
【非特許文献9】T.H. Fleisch、G.J. Mains, XPSによって研究されたUV放射および原子状水素による酸化銅の還元,Applications of Surface Science、Volume 10、Issue 1、1982、51-62頁、ISSN 0378-5963、https://doi.org/10.1016/0378-5963(82)90134-9
【非特許文献10】Graeme Williams、Brian SegerおよびPrashiant V. Kamat、TiO 2-グラフェンナノ複合材料。 酸化グラフェンのUVによる光触媒還元、ACS Nano 2008、2、7、1487-1491https://doi.org/10.1021/nn800251f
【非特許文献11】Deng, Sh.、 Lu, H. およびLi, D.Y. 電着されたNiおよびCuナノ結晶箔の腐食挙動に対するUV光照射の影響。 Sci Rep 10, 3049(2020). https://doi.org/10.1038/s41598-020-59420-6
【非特許文献12】Yit Lung Khung、Siti Hawa Ngalim、Andrea ScaccabarozziおよびDario Narducci、Beilstein J Nanotechnol. 2015; 6:19-26.
【非特許文献13】Waymouth, John (1971). 放電ランプ Cambridge, MA:M.I.T. Press. ISBN 978-0-262-23048-3
【非特許文献14】H Amandusson、L.-G Ekedahl、H Dannetun、表面改質Pd及びPdAg膜を通る水素透過、Journal of Membrane Science、193巻、1号、2001年、35-47頁、ISSN 0376-7388、https://doi.org/10.1016/S0376-7388(01)00414-8
【非特許文献15】A. G. Knapton、 Palladium Alloys for Hydrogen Diffusion Membranes、Platinum Metals Rev.、1977、21、(2)p44-50
【非特許文献16】Xueni(Denton Sun)ら、ワンタイムex-situ UV処理後のTiO_2の持続的吸着脱硫増強、燃料193(2017)95-100頁
【非特許文献17】John R. Vig、“UV/ozone cleaning of surfaces"、Journal of Vacuum Science & Technology A 3、1027-1034(1985) https://doi.org/10.1116/1.573115
【非特許文献18】ハートレー帯におけるオゾンの光解離。 理論解析、J. Chem. Phys. 123, 074305(2005); https://doi.org/10.1063/1.2001650, Z.-W. Qu、 H. Zhu、 S. Yu. GrebenshchikovおよびR. Schinke
【非特許文献19】Shangwei Huangら、2020 J. Electrochem. Soc. 167 090538
【非特許文献20】Jeong, B.J.および Jo, Y.N. 、A Study on the Self-Discharge Behavior of Zinc-Air Batteries with CuO Additives. Appl. Sci. 2021, 11, 11675. https://doi.org/10.3390/app112411675
【非特許文献21】例えば、VartaタイプV 150 H2 MF。https://www.varta-ag.com/en/industry/product-solutions/hydrogen
【非特許文献22】Peter J. Cumpson、 M. P. Seah および S. J. Spencer, Simple Procedure for Precise Peak Maximum Estimation for Energy Calibration in AES and XPS, September 1996, Surface and Interface Analysis 24(10):687-694 DOI:10.1002/(SICI)1096-9918(19960930)24:103.0.CO;2-Q
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上述に鑑みてなされたものであり、その目的は、改良された表面分析方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の第1の態様によれば、試料のX線光電子スペクトルを生成する方法が提供される。
前記試料の表面の酸化状態を変化させるように構成された作用物質に前記試料の表面を曝露することによって、前記試料の表面に複数の異なる酸化状態を生成するステップと
前記試料をX線光電子分光装置に配置するステップと
前記試料の表面の複数の酸化状態のそれぞれについてX線光電子スペクトルを得るステップと
前記複数のスペクトルを分析することによって、前記試料内の物質を識別するステップとを含む。
【0021】
好ましくは、試料は、試料の前記表面の酸化状態を変化させるように構成された作用物質に複数回連続して曝露され、作用物質への試料の各後続曝露において、試料の表面の酸化状態は、前記試料の表面の酸化状態を変化させるように構成された作用物質への先行曝露から生じる試料の表面の酸化状態に対して変化する。
試料は、それぞれがサブ試料の表面を有する複数のサブ試料に分割されてもよく、サブ試料の表面の異なる酸化状態が、各サブ試料について生成される。
試料の表面の酸化状態を変化させるように構成された作用物質は、ガス状作用物質であってもよい。
試料の表面の酸化状態を変化させるように構成された作用物質は、紫外線光、オゾンおよび水素の1つまたは複数であってもよい。
有利には、紫外線光は、少なくとも1つの紫外線(UV)ランプによって提供され、少なくとも1つのUVランプから放出されるUV光は、前記試料表面に向けられる。
少なくとも1つのUVランプから放射されるUV光は、200nm~300nmの波長範囲内であってもよい。
【0022】
試料の表面の酸化のためにはオゾンが必要である。酸化は、200~300nmの波長範囲の任意のUVでより速い。多くの試料の材料について、試料の表面の還元は、真空中で行われる場合には、200~300nmの波長範囲のUVのみでゆっくりと達成され得るか、または水素の存在で約10倍速く達成され得る。
好ましくは、UVランプは、水銀ランプである。
オゾンは、前記試料の周囲のガス中に0.01~20ppmの範囲の濃度でオゾンガスを生成するオゾン生成装置によって供給されてもよい。
この方法は、前記試料の表面の前記試薬への曝露時間、前記試薬の濃度、及び前記試薬の波長及び/又は周波数のうちの1つ以上を制御することによって、前記試料の表面の酸化状態の変化の程度を制御する工程を含んでもよい。
複数のスペクトルを分析することによって試料内の物質を識別するステップは、多変量解析、例えば主成分分析または非負行列因子分解を実行することを含むことができる。
【0023】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様のプロセスを実行するように構成されたX線光電子スペクトル(XPS)を捕捉するための装置が提供される。
X線光電子スペクトル(XPS)を捕捉するための装置は、
試料ホルダと
前記試料ホルダに保持された試料の表面の酸化状態を変化させるように構成された前記作用物質の供給源と
前記表面の酸化状態を変化させるように構成された前記作用物質への前記試料の表面の曝露を制御する手段と
前記試料の表面の酸化状態ごとに1つずつ複数のXPSスペクトルを記録することができるX線光電子分光計とを含む。
【0024】
装置は、主成分分析を実行するように構成されたデータプロセッサをさらに備えてもよい。
好ましくは、装置の試料ホルダは、筐体内に収容される。
試料の表面の酸化状態を変化させるように構成された作用物質は、ガス状作用物質であってもよい。
試料の表面の酸化状態を変化させるように構成された作用物質は、紫外線、オゾン及び水素の1つまたは複数であってもよい。
紫外線光は、少なくとも1つの紫外線(UV)ランプによって提供されてもよく、少なくとも1つのUVランプから放射されるUV光は、前記試料表面に向けられる。
好ましくは、少なくとも1つのUVランプから放射されるUV光は、200nm~300nmの波長範囲にある。
【0025】
少なくとも1つのUVランプは、水銀蒸気ランプであってもよい。
装置は、試料ホルダ内に位置する試料の周囲にオゾンを放出するように構成されたオゾン発生器をさらに備えてもよい。
オゾン発生器は、100nm~300nmの波長範囲で発光するUVランプであってもよい。有利には、オゾン発生器のUVランプは、185nm及び/又は254nmの紫外線光を放射することができる。有利には、オゾン発生器のUVランプは、水銀蒸気ランプである。
【0026】
装置は、試料ホルダ内の試料の周囲に水素を放出するように構成された水素源をさらに備えてもよい。
有利には、水素源は少なくとも1つの亜鉛空気電池である。
好ましくは、亜鉛空気電池は、酸素の不在下で、例えば部分真空で作動する。
試料ホルダは、複数のサブ試料を保持するように適合されてもよく、各サブ試料は、異なる酸化状態を有する表面を有し、X線光電子分光計は、サブ試料の各々についてXPSスペクトルを記録するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】典型的な市販のXPS装置の図である。ステンレス鋼超高真空(UHV)チャンバおよびポートに留意されたい。システムを実行するコンピュータはここには示されていない。
図2図1に示されたものと同様のシステムへのビューポートを通した典型的な図である。
図3】市販の試料ホルダの1つのタイプおよびそれに適合するディスク形状の試料「スタブ」のコンピュータ支援設計図である。
図4】今回はThermo K Alpha XPS装置からの別の市販の試料ホルダの図である。通常の操作では、この試料ブロックは、超高真空(UHV)の機器を通って分析位置に輸送される。
図5】本発明のUV/オゾンまたはUV/水素露光装置の一実施形態の概略図である。
図6】UV/オゾン洗浄中に、どのように酸化種が生成され、試料(基板)の表面と反応するかを示す概略図である。
図7】本発明のUV/オゾンオプションのスペクトル取得方法を使用するための一般的な手順を示す。
図8】表面上の炭素質汚染物質のUV/オゾン曝露-曝露期間の増加に伴うXPSスペクトルである。
図9】1.5、2.5および3.5eVの結合エネルギーでの3つの同一の成分ピークを有する合成スペクトルを示す。
図10】(a)から(f)までUV/オゾン曝露ステップの数を増加させた場合の合成スペクトルを示す。
図11図10に示されるスペクトルの特異値分解(SVD)の結果を示す。
図12図9と同様であるが、エネルギー分離が低減された3つの合成成分ピークを示す。これらは2eV、2.5eV、および3eVであるが、これを知らなかった場合、この包絡線の下に実際にいくつのピークがあったか、およびそれらがどのようなエネルギーまたは幅を有し得るかを判断することは困難である。
図13図12に示される3つの密接に分離されたピークのモデルに基づく合成スペクトルを示す。
図14図13に示されるスペクトルに適用された特異値分解(SVD)の結果を示す。数字のラベルは、最大値の周りの5つの値に放物線を当てはめることによって測定されるような、それぞれのピークの中心を示す。
図15】本発明と共に使用するための典型的な市販のXPS機器の構成を示す図である。
図16】試料が、空気中で、XPSシステムから、UV/オゾンまたはUV生成ランプおよび水素(1620)を含む筐体(1610)に移動される、本実験の一構成を図示する。
図17】UV/オゾンを含む筐体がXPSシステムのエントリロックと一体化された、本発明の別の構成を示す図である。これは、前記エントリロックおよびバックフィルガスシリンダ(1700)上に、酸素または酸素含有ガス混合物(例えば、空気)を含有するためのUV透過窓を必要とする。
図18】典型的なUVランプタイプGTL3を示す図である。
図19】約270nmの発光波長を有する典型的な高出力LED UVエミッタを示す図である。これらは、プールおよび浴槽での水殺菌用に販売されている。
図20】オゾンのハートレー吸収帯を示す。低圧水銀蒸気ランプからの254nmの放射は、オゾンスペクトルにおけるこの吸収特性の頂点に近いことに留意されたい。
図21】原子番号が次第に大きくなる元素に利用可能な酸化状態を示す。黒丸は一般的な酸化状態を表し、一方、白丸は一般的でない酸化状態を表す。
図22a】2つの異なる絶縁ポリマー(a)および(b)上に堆積された電位マーカー粒子(EPMPs)についてのTi2p領域におけるXPSスペクトルを示す。これらのスペクトルは、同じ(Thermo k-Alphaモデル)機器で数分だけ離して得られたが、より大きなTi 2p3/2ピークは、2つの場合においてわずかに異なる電荷平衡電位の確立に起因して、機器エネルギースケールに対してわずかに異なる見かけのエネルギーを有することに留意されたい。
図22b】2つの異なる絶縁ポリマー(a)および(b)上に堆積された電位マーカー粒子(EPMPs)についてのTi2p領域におけるXPSスペクトルを示す。これらのスペクトルは、同じ(Thermo k-Alphaモデル)機器で数分だけ離して得られたが、より大きなTi 2p3/2ピークは、2つの場合においてわずかに異なる電荷平衡電位の確立に起因して、機器エネルギースケールに対してわずかに異なる見かけのエネルギーを有することに留意されたい。
図23】電位マーカー粒子(EPMPs)がイオンビームスパッタリングによってどのように堆積されるかを示す概略図である。
図24】試料の表面を減少させるために本発明のスペクトル取得方法を使用するための一般的な手順を示す。ここで、「水素含有チャンバ」は、水素で満たされたときに、本文で議論される試料筺体と同じである。
図25】1.5、2.5および3.5eVの結合エネルギーでの3つの同一の成分ピークを有する合成スペクトルを示す。
図26】(a)から(f)までのUV/水素曝露ステップの数を増加させた場合の合成スペクトルを示す。
図27図26のスペクトルの特異値分解(SVD)の結果を示す。
図28図25と同様であるが、エネルギー分離が低減された3つの合成成分ピークを示す。これらは2eV、2.5eV、および3eVであるが、これを知らなかった場合、この包絡線の下に実際にいくつのピークがあったか、およびそれらがどのようなエネルギーまたは幅を有し得るかを判断することは困難である。
図29図28に示される3つの密接に分離されたピークのモデルに基づく合成スペクトルを示す。
図30図29に示されるスペクトルに適用された特異値分解(SVD)の結果を示す。数字のラベルは、最大値の周りの5つの値に放物線を当てはめることによって測定されるような、それぞれのピークの中心を示す。
図31】Varta社からの2つの水素生成「ボタン」セル電池の製品概要を示す。
図32a】水素製造装置の一実施形態を示す。(a)では、スイッチは開いており、ボタン電池720によって水素は生成されておらず、密封されたパラジウム/パラジウム合金管730を通過していない。プログラマブルロジックコントローラ750の制御下で、スイッチが閉じられると((b)に示すように)、抵抗Rの値によって予め決定された電流がセルを通って流れ、水素の生成を引き起こす。
図32b】水素製造装置の一実施形態を示す。プログラマブルロジックコントローラ750の制御下で、スイッチが閉じられると((b)に示すように)、抵抗Rの値によって予め決定された電流がセルを通って流れ、水素の生成を引き起こす。水素は、前記密封されたPd/Pd合金管を透過する。
図33】セル筺体の1つの可能な単純な実施形態Bを示す。
図34a】セル筐体タイプB(圧力逃がし弁を組み込んでいる)の1つの可能な実施形態の概略図を示す。「内部筐体」空間とラベル付けされたものは試料筐体であり、930はセル筐体である。この図では、休止状態が示されている。
図34b】セル筐体タイプB(圧力逃がし弁を組み込んでいる)の1つの可能な実施形態の概略図を示す。「内部筐体」空間とラベル付けされたものは試料筐体であり、930はセル筐体である。この図では、水素生成状態が示されている。
図35】試料がサブ試料に分割される実施形態を示す図である。
図36】本発明の別の構成を示し、UV生成ランプおよび水素を含む筐体がXPSシステムのエントリロックと一体化されている。特に、任意の水素生成セルがここに示されている(1780)。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態による改良された表面分析方法および装置を図面に基づいて説明する。なお、複数の実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。図面は、本発明の好ましい実施形態を示し、例として示される。
【0029】
(第1実施形態)
本発明の第一実施形態について図1から図36に基づいて説明する。
【0030】
本発明は、酸化または還元のいずれかによって分析される表面を化学的に修飾することによって、XPSピークフィッティングの信頼性および精度を増加させる。酸化は、酸素含有ガス(例えば、実験室の空気)の存在下で紫外線および/またはオゾンを使用し、それによって、例えば、高度に酸化された状態の割合を増加させることによって、表面における異なる化学状態の割合を変化させる。還元は、任意の水素ガスと共に紫外線への曝露を用いる。このステップ(および任意選択で2つ以上のそのような還元/酸化ステップ)の前後に記録されたXPSスペクトルを比較することによって、例えば多変量統計法(いくつかの実施形態では、主成分分析(PCA)、非負行列因子分解(NMF)、または特異値分解(SVD))を使用して、コンピュータ内でスペクトル内の成分ピークを数値的に抽出する。このUV/オゾン曝露/水素曝露/XPSスペクトル取得サイクルは、XPSエネルギースケールのドリフトが無視できるように、短い期間にわたって、同じXPS設定を使用して行われる。
【0031】
本発明の装置は、以下の特徴を有する。
1.UVおよびオゾンが容易に攻撃しない材料(例えば、金属、ガラス)から構成される筐体。それは、開閉が容易であるドアまたは蓋を有し、ドアまたは蓋が閉じられたときに、(必ずしも完全ではないが)大部分が気密である。ドアまたは蓋は、開いているとき、試料ホルダの挿入を可能にする。
2.いくつかの実施形態では、電子顕微鏡法および表面分析で使用される一般的な試料スタブタイプを保持するように設計されたタイプの試料ホルダ。
3.前記筐体内に、またはUV透過窓を通して外側から内側に向けられて、1つ以上のUV光源があり、好ましくは、その少なくとも1つは、室温および大気圧で空気中にオゾンを生成するのに十分に短い波長でかなりの放射線を放出することができる。いくつかの実施形態では、これらは、水銀蒸気ランプ(非特許文献13)であり、他の実施形態では、短波発光ダイオード(LED)、または2つの組み合わせである。
4.所定の時間の間、または所定のオゾン濃度になるまで、またはUVおよび/またはオゾンへの試料ホルダの所定の曝露に達するまで、光源(複数可)をオンに切り替える電子回路。
5.筐体内で生成されるオゾン及び/又はUVは、試料の表面を化学的に改質するのに十分なレベルであり、その結果、XPSスペクトルに見られる化学状態の包絡線は、この曝露によって変化するが、元素(炭素でさえ)が完全に除去されないほど十分に低い。
6.任意選択的に、前記筐体内のUVおよび/またはオゾン濃度の測定のためのセンサ。これらは、UVおよびオゾンレベルがユーザに報告されることを可能にし、その結果、いくつかの実施形態では、閉ループ(例えば、比例積分微分またはPID)制御下でさえ、UVおよびオゾンへの標本の反復可能かつ再現可能な曝露が可能である。
7.任意選択で、試料が良好な導電体でない場合に正確な電荷参照のために電位マーカー粒子(EPMPs)を使用すること。
8.XPSピークフィッティングに通常使用されるタイプのXPSナロースキャンスペクトルを記録することができるX線光電子分光法(XPS)機器。
9.得られたXPSスペクトルを、例えば、一緒に変化するスペクトルの成分を識別するための特異値分解、非負行列因数分解、または主成分分析のような多変量法によってコンピュータ処理する。
【0032】
前記筐体は、真空システムから完全に分離されていてもよく、またはその一部(例えば、試料ブロックがXPS機器の自動試料取扱いシステムを決して離れないように、XPSシステムのエントリロック)を形成してもよい。紫外線(UV)およびオゾンの生成は、小型水銀ランプを使用して達成される。任意選択で、オゾンは、外部の電気オゾン発生器から増強される。オゾンは、非常に短い波長のUV光、一実施形態では水銀ランプからの185nmの放射線で照射することによって、空気中の二原子酸素からその場で生成される。オゾンを破壊して容器を開けることは、収容された空気をより長い波長のUV、一実施形態では水銀ランプからの254nmの放射線で照射することによって達成される(より短い185nmの放射はガラスエンベロープまたはフィルタによって遮断されている)。図5は、本発明のこの部分の一実施形態を概略的に示す。
【0033】
図5において、バッテリ又は主電源部(630)は、A及びBとラベル付けされた2つのUVランプ(640)のうちの1つにエネルギーを供給する。この実施形態では、両方のランプは、水銀蒸気ランプである。両方とも、185nmおよび254nmの両方でUVのエネルギーを放出する。ランプBは、これら2つの波長のうちの長い方のみが試料の周囲の空気に到達するように、それを覆う光学フィルタ(610)を有する。プログラマブルタイマは、(いずれかの場合)どのランプが電力を受け取るかを制御する。いずれの場合も、ランプが動作し始めるときに許容範囲を通してランプの電圧および電流を管理するために、「バラスト」構成要素(620)が必要とされる(ほとんどの放電ランプおよび蛍光ランプの場合)。しばしば、最初に高電圧が印加されて放電を確立し、次いで、より低い電圧および電流が印加されて放電を維持する。この実施形態では、プログラマブルタイマは、ランプAに電力を供給し(試料をUV光で照射し、その周囲にオゾンを形成する)、次いでランプAをオフにし、ランプBをオンにし(そこから254nmの放射線のみが試料の周囲の空間に到達することができ、残っているオゾンを分解する)、次いで最終的に両方のランプをオフにする。これにより、全てのオゾンが筐体から迅速に除去され、試料を迅速かつ安全にXPS分析チャンバ内に配置することができる。いくつかの実施形態では、UVおよびオゾンへの曝露を均質化するために、試料はゆっくりと回転するステージ上にある。
【0034】
<表面層の還元>
本発明の別の態様は、紫外線および/または水素ガスを用いて分析される表面を化学的に修飾し、それによって、例えば、高度に酸化された状態の割合を減少させることによって、表面における異なる化学状態の割合を変化させることによって、XPSピークフィッティングの信頼性および精度を増加させる。このUV及び/又は水素曝露工程(及び任意に1つより多いそのような酸化還元工程)の前後に記録されたXPSスペクトルを比較することによって、例えば多変量統計法(いくつかの実施形態では、主成分分析(PCA)、非負行列因子分解(NMF)又は特異値分解(SVD))を使用して、コンピュータにおいてスペクトル中の成分ピークを数値的に抽出する。このUV/水素曝露/XPSスペクトル取得サイクルは、XPSエネルギースケールのドリフトが無視できるように、短い期間(典型的には1日未満)にわたって、同じXPS設定を使用して行われる。
【0035】
本発明の装置は、以下の特徴を有する。
1.UVおよび水素が容易に攻撃しない材料(例えば、適切な金属、ガラス)から構成される試料筺体。それは、開閉が容易であるドアまたは蓋を有し、ドアまたは蓋が閉じられたときに、(必ずしも完全ではないが)大部分が気密である。ドアまたは蓋は、開いているとき、試料ホルダの挿入を可能にする。
2.いくつかの実施形態では、電子顕微鏡法および表面分析で使用される一般的な試料スタブタイプを保持するように設計されたタイプの試料ホルダ。
3.前記筺体内、または試料筺体の外側であるが光学窓を通してその中に向けられるのは、1つまたは複数のUV光源であり、好ましくは、その少なくとも1つは、水素ガスの存在下で試料の表面の還元を光触媒的に助けるのを助けるのに十分に短い波長でかなりの放射線を放出することができる。いくつかの実施形態では、これらは、水銀ランプ(非特許文献13)、またはキセノンランプなどの他の種類の放電ランプ、および他のものでは、短波発光ダイオード(LED)、またはこれらの組み合わせである。
4.任意選択的に、10-3ミリバール未満、好ましくは10-6ミリバール未満の範囲の圧力に達するように、試料筺体から空気をポンプで排出することによって、試料筺体から酸素を除去する。あるいは、試料筺体は、窒素またはアルゴンなどの不活性ガスでパージされてもよい。
5.水素ガスは、任意選択で、後述するような1つまたは複数の水素ガス生成セルから、または任意選択で外部水素シリンダから、試料筺体内に導入される。
6.任意選択的に、亜鉛-空気(又は同様の)セル(バッテリを形成する)は、水素がバッテリを出て水素透過性セル筐体の壁を通過することを可能にするが、他の種(水蒸気など)がそうすることを防止する水素透過性セル筐体(非特許文献14)(例えば、パラジウム又はパラジウム合金管)内に固定されてもよい。任意選択的に、前記透過性セル筐体は、例えば、ジュール加熱を引き起こすように電流を通すことによって加熱(非特許文献15)されてもよく、その壁を通って、試料を含む試料筐体内の主空間への水素拡散の速度を増加させる。水素透過性のセル筐体の代わりに、不透過性のセル筐体と圧力逃がし弁の構成を以下に説明するように使用することができる。
7.任意選択的に、所定の時間、または所定の総電荷が通過するか、または所定の水素濃度まで、またはUVおよび/または水素への試料ホルダの所定の曝露に達するまで、前記亜鉛-空気または同様の金属-空気電池を通る電流をオンに切り替える電子回路。
8.試料筺体内で生成される水素及び/又はUVは、試料の表面を化学的に改質するのに十分なレベルであり、その結果、より還元された化学状態が表面でより一般的になるので、XPSスペクトルに見られる化学状態のエンベロープがこの曝露によって変化する。
9.任意選択で、前記試料筺体内のUVおよび/または水素濃度の測定のためのセンサ。これらは、UVおよび水素レベルがユーザに報告されることを可能にし、その結果、いくつかの実施形態では、閉ループ(例えば、比例積分微分PID)制御下でさえ、UVおよび水素への標本の反復可能かつ再現可能な曝露が可能である。
10.任意選択で、試料が良好な導電体でない場合に正確な電荷参照のために電位マーカー粒子(EPMPs)を使用すること。
11.XPSピークフィッティングに通常使用されるタイプのXPSナロースキャンスペクトルを記録することができるX線光電子分光法(XPS)機器。
12.一緒に変化するスペクトルの成分を同定するための、特異値分解(SVD)、非負値行列因子分解(NMF)、または主成分分析(PCA)などの多変量法による、得られたXPSスペクトルのコンピュータ処理。
【0036】
前記試料筺体は、真空システムから完全に分離されていてもよく、またはその一部(例えば、試料ブロックがXPS機器の自動試料取扱いシステムを決して離れないように、XPSシステムのエントリロック)を形成してもよい。一実施形態では、紫外線(UV)光は、小型水銀ランプ(複数可)及び(一実施形態では)亜鉛-空気(又は同様の金属-空気)セル(複数可)からの水素を使用して生成される。任意選択的に、水素は外部水素供給源またはシリンダから増加される。
水素のシリンダの代わりに亜鉛空気電池を使用する1つの利点は、必要とされる非常に少量の水素のみが(電気的に)制御可能な方法で送達され、より大量の水素を取り扱う際に起こり得る安全性の懸念を低減することである。ほとんどのXPS設備は、水素シリンダを近くに保持しない(いくつかは保持するが)。したがって、亜鉛-空気セルまたは他の金属-空気セルを使用することによって、水素を試料表面に安全に送達するコストが大幅に低減される。
【0037】
図36は、本発明の一部の一実施形態を概略的に示す。
図32aおよび図32bは、水素が亜鉛-空気セルによって供給される実施形態を示す。図32において、水素生成セル720は、スイッチまたはリレーを使用して前記タイマまたはPLCによって制御され、その結果、スイッチが「オン」であり、電流が電流制限抵抗器Rを介してセルを通過するとき、前記セルは、図32bに示されるように、前記抵抗器Rの値によって決定される既知の予め計画された速度で水素ガスを生成する。この抵抗の典型的な値は100~300オームであるが、この値はそれほど重要ではなく、重要な量は、通過させることができる全電荷であり、これは放出される水素の全量を決定する。
【0038】
<従来技術との比較>
XPS装置は、時には、長年にわたってUV源を備えてきたが、これは、(a)紫外線光電子分光法(UPS)を真空中で実施することを可能にするためであって、本発明のように空気中で表面を改質するためではなく、又は(b)これを行うために特定のタイプのUV(水素を含まない)、例えば、約365nmの長波長UVを使用して、特定の化学的方法(例えば、Sunら)(非特許文献16)で特定の表面を改質するためであった。この初期の研究の目的は、本発明に記載されているような化学状態を同定する目的で表面の化学状態を改変することではなく、特定のUV曝露が特定の試料材料に誘導する特定の化学反応を研究することである。
【0039】
<UV/オゾン洗浄装置:本発明がこれらと異なる理由、および異なる目的からどのように違いが生じるか。>
UV/オゾン洗浄装置は、例えば、水銀ランプの使用に集中して、J R Vig(非特許文献17)の研究によって普及したように、数十年にわたって使用されてきた。低圧水銀ランプは、UVにおいて185nmおよび254nmの2つの主な発光を有する。185nmのUV線は、酸素分子を分解し、オゾンO3をその場で合成する。254nmのUV線はオゾンを分解し、高エネルギーO*(活性化酸素)を生成する。これらの高度に酸化性の種は、表面上の炭素質汚染物質(実際には、酸化され得る表面上の任意のもの)と相互作用する。最終的に、直接UV露光(ノリッシュ型化学プロセスを介してC=O部分と強く相互作用する)と組み合わせて、有機種は、酸化され、および/または揮発性化合物、主にCO2に分解され、これは表面から拡散する。このプロセスは、図6に概略的に示されている。
【0040】
市販のUV/オゾンクリーナーは、全ての炭素質汚染物質をできるだけ迅速に除去するように設計された高出力装置である。それらは、通常、UVまたはオゾンレベルを測定し報告する必要がなく、代わりに、汚染を迅速に除去するために、非常に高いレベルの両方を供給するように単に設計される。炭素質汚染物質の完全な除去ではなく、表面の化学修飾が試みられる場合(例えば、XPSにおける化学シフトを明らかにするために)、UV/オゾンクリーナーの設計目的のために、「行き過ぎて」、それを全て除去することは容易すぎる。異なる目的によって動機付けられた、市販のUV/オゾンクリーナーと本発明との間の設計には、さらなる違いがある。通常、市販のUV/オゾンクリーナーは、直径200mm以上のシリコンウエハなどの大きな物体と共に使用されるように設計されている。本目的のために必要なのは、より少ない電力であり、その結果、コアレベルのピークは、おそらくは、いくつかのますます積極的な酸化ステップにわたって、XPSスペクトルから完全には除去されないが、修正される。また、装置をXPS試料エントリロックの近くに配置して、迅速に曝露し、次いで、試料をXPSシステム真空に戻して、大気汚染への曝露時間を最小限にすることができるように、試料空間がより小さくなる。UV/オゾン洗浄は、炭素質汚染に対してのみ機能する(なぜなら、それはガス状酸化物として表面を残すからである)が、本発明は、UVおよび/またはオゾンを使用して、任意の試料材料を酸化し、その後のXPS分析のために残すことを目的とする。また、UV強度およびオゾン濃度の測定は、異なる位置での測定の再現性を確実にするのに役立ち、したがって、内蔵UVおよびオゾンモニタは、XPSピークフィッティング用途において有用である、すなわち、それらは、随意であるが、本発明の一部として非常に有用である。
【0041】
これを全て述べたので、本発明者は、過去において、UV/オゾンに曝露された試料のスペクトルを生成するために、UV/オゾン洗浄装置を首尾よく改良した。典型的には、これは、装置を修正し、何らかの方法でそれを無効にする(例えば、過度のUV/オゾン曝露を回避するために数秒後に「緊急停止」ボタンを押す)か、または分解して構成要素(例えば、ランプ)を取り出し、次いでそれらの構成要素を異なる筐体に入れることによって行われてきた。実際、本発明に至る研究の多くは、市販のUV/オゾンユニットを、それらが意図していなかった目的を達成するように改変することによってなされた。
【0042】
<本発明の使用手順(酸化)>
図7は、本発明を用いてスペクトル取得を行う方法のフローチャートを示す。場合によっては、ユーザは、このフローチャートの質問を適用することなく、UV/オゾン曝露レベル/時間を事前に設定するのに十分な情報を有し、所定の長さの一連の曝露ステップを与える。そうでない場合、コンピュータは、例えば、その時点までに取得されたスペクトルのPCA分析を実行し、スペクトルの観察された差をより可能性の高いものにするために、次のステップでの露光の増加を推奨することができる。
【0043】
図8は、金属上の炭素質層のXPSスペクトルにおいて、どの化学状態がどの(時にはエネルギーにおいて分解されていない)ピークに対応するかを特定する際に、UV/オゾン曝露及びXPSを使用した結果を示す。これらのナロースキャンスペクトルは、C 1sピークの周りの領域を示す。この解析の結果として、平滑線が遡及的に入れられた。これらのスペクトルは数時間以内に同じ機器で取得されたので、エネルギースケールおよびエネルギー分解能は安定していると見なすことができることに留意されたい。
【0044】
したがって、UV/オゾン曝露は、ピーク成分の高さを変化させるが、それらはエネルギースケール上で移動しない。UV/オゾン曝露が引き起こす新しいピーク高さが何であれ、それらが変化するという事実は、それらがそのようなスペクトルのセットから抽出されることを可能にする。例えば、図8(a)では、炭素の異なる酸化状態は、最初はほとんど分解されていない。しかし、(b)、(c)、(d)は、これらの状態の強度が変化していることを示しており、(d)は、新たな炭化物状態を示している。これは、C*-Hピークとほぼ同じ結合エネルギーを有し、ピーク強度が変化しているスペクトル(a)、(b)、(c)および(d)のセットの1つでない場合、C*-H(より一般的である)と誤解される可能性がある。このプロセスの終わりまでに、(a)に見られる4つの元の状態の結合エネルギーおよび強度が明確に決定される。
【0045】
図9図14は、本発明の有効性を実証する数値シミュレーション結果を示す。図9では、図8に示される実際のデータから抽出され、1eV離れた3つのピークからなる合成スペクトルが示される。これらは、現代の分光計でかなり容易に分解することができるので、包絡線スペクトル(図9の連続線)を見ると、ここでは少なくとも3つのピークがあることが明らかである。XPSにおけるC 1sピークは、典型的には、かなり平坦なバックグラウンド上にあるので、ピークの高さの20%のバックグラウンドを含み、それはエネルギーに対して一定であることに留意されたい。
【0046】
図10は、図7に示される手順のゼロ反復(a)、1反復(b)、2反復(c)等の後のシミュレートされたスペクトルを示す。したがって、10(b)~10(f)のそれぞれは、前のものよりも多くのUV/オゾン曝露の効果を示す。このシリーズを進行するにつれて、いくつかの状態(すなわちピーク)は、他の状態よりも急速に強度が低下する。より急速に除去される状態が高結合エネルギーであるか低結合エネルギーであるかは問題ではなく、単に、スペクトル中のピークを生じる原子が次のスペクトル中の異なる化学状態で再び現れる(または、例えばCO2のような高度に酸化されたガスとして完全に離れる)ことができる。
【0047】
図11は、図10に示されたシミュレートされたスペクトルの数値処理の結果を示す。図11(a)は、図9に示されるピークおよびそれらの包絡線のリマインダである。図11(b)は、このモデルから生成された初期スペクトルを示し、カウントを縦軸とし、ポアソンノイズを加えた。図11(c)および図11(d)は、特異値分解(SVD)を使用することによって、図10に示されるセットから抽出された第2および第3の成分を示す。第1の成分は、図10に示されるスペクトルの平均に単に似ているので、あまり有用ではない。第2および第3の成分(および他の実際の場合には、より高い成分も)は、重要なピーク構造を示す。ここで、これらの成分の負の部分を反転し、それらを実線でプロットした。正の部分は点線でプロットされている。SVDは、図11(c)において、約3.56eVのピークから強度を除去し、1.51eVのピークにそれを加えるUV/オゾン誘起プロセスが示されていることを我々に告げている。ピークエネルギーのこれらの数値ラベルは、ピークの最高点の周りの5点に放物線を当てはめることによって計算される。このプロセスは、もちろん、UV/オゾン曝露のある態様であるが、要点は、この成分が、初期スペクトル(b)を構成するピークのうちの2つを明らかにし、これらのピークのエネルギーを真の値のかなり正確に(0.06eV以内)与えることである。図11(d)に示される第3の成分は、約2.53eV(実際のピークがある場所の0.03eV内)で別のピークを示し、再び、同じ化学状態であることを確実にするために以前に識別された1.51eVに十分に近い1.53eVで以前に識別されたピークのうちの1つを示す。したがって、図9~11は、本発明のUV/オゾン効果が、状態の数およびそれらのエネルギー(およびそれらの幅のかなり良好な推定値)の一意の識別を可能にすることを示す。
【0048】
図9に示されるピークは既にかなり良好に分離されているので、これは容易な問題であると主張することができる。それらは重なり合うが、3つの明確なピークが見られ、1つは、目で見ても、それらのエネルギーを1.5、2.5および3.5eVと推定するかもしれない。そこで、図12に示す場合を考えると、ピークに2eV、2.5eV、および3eVのエネルギーを与えることによってピークの分離を低減した。これらは、包絡線(図12の連続線)が単一の極大値のみを有するほどに重なり合う。経験の浅い分析者は、この曲線を単一のピーク、または様々なエネルギーおよび強度を有する少数のピークに適合させることを十分に試みることができる。多くの代替モデルは、統計的な意味では合理的に良好に適合するが、化学的な意味は全くない。これは、背景技術の項で上述した公表されたピーク適合における誤差の多くの原因である。
【0049】
図13は、図10が十分に分離されたピークに対して行ったように、UV/オゾン洗浄がどのようにスペクトルに影響を及ぼし得るかを示す。図13のスペクトルは、XPSの新しい人にとっては非常に混乱を招くものであり、経験の浅い分析者は、この種の一連のスペクトルを、単一ピークの結合エネルギーのシフト、帯電効果(導電性表面の場合でさえ)、または機器における電圧不安定性のような機器の問題として解釈していることが分かっている。しかし、図14のデータセットに適用されたSVDは、有用でロバストな答えを与える。初期スペクトルは、約2.07eV、3.07eV、および2.54eVにピークを有し、全て、2、3、および2.5eVの実数値に非常に近い。これらのエネルギー値を考慮すると、従来のXPSピーク適合は容易になり、そのような適合のためのこの開始データは非常に有益であり、XPSに対して新しい人々を混乱させ得る曖昧さを除去する。
【0050】
<本発明の使用手順(還元)>
図24は、本発明のスペクトル取得の使用法を使用するための一般的な手順を示す。ここで、「水素含有チャンバ」は、水素で充填されたとき、本文で議論される試料筺体と同一である。
図24は、本発明を用いてスペクトル取得を行う方法のフローチャートを示す。場合によっては、ユーザは、このフローチャートの質問を適用することなく、UV/水素曝露レベル/時間を事前に設定するのに十分な情報を有し、所定の長さの一連の曝露ステップを与える。そうでない場合、コンピュータは、例えば、その時点までに取得されたスペクトルのPCA分析を実行し、スペクトルの観察された差をより可能性の高いものにするために、次のステップでの露光の増加を推奨することができる。
【0051】
図25図30は、本発明の有効性を実証する数値シミュレーション結果を示す。図25には、1eV離れた3つのピークからなる合成スペクトルが示されている。これらは、現代の分光計でかなり容易に分解することができるので、包絡線スペクトル(図25の連続線)を見ると、ここに少なくとも3つのピークがあることが明らかである。XPSにおけるC 1sピークは、典型的には、かなり平坦なバックグラウンド上にあるので、ピークの高さの20%のバックグラウンドを含み、それはエネルギーに対して一定であることに留意されたい。
【0052】
図26は、図24に示される手順のゼロ反復(a)、1反復(b)、2反復(c)等の後のシミュレートされたスペクトルを示す。したがって、図26(b)~26(f)のそれぞれは、前のものよりも多くのUV/水素曝露の効果を示す。このシリーズを進行するにつれて、いくつかの状態(すなわちピーク)は、他の状態よりも急速に強度が低下する。より迅速に除去される状態が高結合エネルギーであるか低結合エネルギーであるかは問題ではなく、単に、スペクトル中のピークを生じる原子が次のスペクトル中の異なる化学状態で再び現れ得る(または、例えば、水素との反応後に完全に離れてH2Oを生成する)。
【0053】
図27は、図26に示されるシミュレートされたスペクトルの数値処理の結果を示す。図27(a)は、図25に示されるピークおよびそれらの包絡線のリマインダである。図27(b)は、このモデルから生成された初期スペクトルを示し、カウントを縦軸とし、ポアソンノイズを加えた。図27(c)および図27(d)は、特異値分解(SVD)を使用することによって、図26に示されるセットから抽出された第2および第3の成分を示す。第1の成分は、図26に示されるスペクトルの平均に単に似ているので、あまり有用ではない。第2および第3の成分(および他の実際の場合には、より高い成分も)は、重要なピーク構造を示す。ここで、これらの成分の負の部分を反転し、それらを実線でプロットした。正の部分は点線でプロットされている。SVDは、図27(c)において、約3.56eVのピークから強度を除去し、1.51eVのピークに強度を加えるUV/水素誘起プロセスが示されていることを我々に告げている。これらの数値ラベルは、ピークの最高点の周りの5点に放物線を当てはめることによって計算される。このプロセスは、もちろん、UV/水素曝露のある態様であるが、要点は、この成分が、初期スペクトル(b)を構成するピークのうちの2つを明らかにし、これらのピークのエネルギーを真の値のかなり正確に(0.06eV以内)与えることである。図27(d)に示される第3の成分は、約2.53eV(実際のピークがある場所の0.03eV以内)で別のピークを示し、再び、同じ化学状態であることを確実にするために以前に同定された1.51eVに十分に近い1.53eVで以前に同定されたピークの1つを示す。したがって、図25図27は、本発明のUV/水素効果が、状態の数およびそれらのエネルギーの一意の識別(およびそれらの幅のかなり良好な推定)を可能にすることを示す。
【0054】
図25に示されるピークは既にかなり良好に分離されているので、これは容易な問題であると主張することができる。それらは重なり合うが、3つの明確なピークが見られ、1つは、目で見ても、それらのエネルギーを1.5、2.5および3.5eVと推定するかもしれない。そこで、図28に示す場合を考えると、ここでは、ピークに2eV、2.5eV、および3eVのエネルギーを与えることによってピークの分離を低減した。これらは、包絡線(図28の連続線)が単一の極大値のみを有するほどに重なり合う。経験の浅い分析者は、この曲線を単一のピーク、または様々なエネルギーおよび強度を有する少数のピークに適合させることを十分に試みることができる。多くの代替モデルは、統計的な意味では合理的に良好に適合するが、化学的な意味は全くない。これは、背景技術の項で上述した公表されたピーク適合における誤差の多くの原因である。
【0055】
図29は、図26が十分に分離されたピークについて行ったように、UV/水素曝露がどのようにスペクトルに影響を及ぼし得るかを示す。図29のスペクトルは、XPSの新しい人にとっては非常に混乱を招くものであり、経験の浅い分析者は、この種の一連のスペクトルを、単一ピークの結合エネルギーのシフト、帯電効果(導電性表面の場合でさえ)、または機器における電圧不安定性のような機器の問題として解釈していることが分かっている。しかし、図29のデータセットに適用されたSVDは、図30に示されるように、有用でロバストな答えを与える。初期スペクトルは、約2.07eV、3.07eV、および2.54eVにピークを有し、全て、2、3、および2.5eVの実数値に非常に近い。これらのエネルギー値を考慮すると、従来のXPSピーク適合は容易になり、そのような適合のためのこの開始データは非常に有益であり、XPSに対して新しい人々を混乱させ得る曖昧さを除去する。
【0056】
<試料の追加イオンビームスパッタリング>
UV/オゾン/水素曝露の前および/または後の、試料表面の任意のイオンビームスパッタリングは、PCAまたは機械学習データセットに含めるのに有用な追加のスペクトルを提供することができる。これは、おそらくは低い運動エネルギー(100~1,000eV)での単原子アルゴンイオンによる非常に短いスパッタリング処理が、酸素を除去するという意味では大きく還元するが、受け取ったままの材料では稀な化学状態を生成するという意味では損傷もするからである。いくつかの試料は、それらが受け入れられた状態で既に高度に酸化されている可能性があり、そのために分析情報が必要であることが分かる。(UV/オゾンによる)さらなる酸化は、ナロースキャンXPSスペクトルをほとんど変化させない。しかしながら、そのような酸化の前および/または後の光スパッタは、例えばPCAを使用することによって、存在する化学状態のスペクトルのより良好な定義を可能にする、より広範囲のスペクトルを提供することができる。
【0057】
<可能な実施形態および構成(表面層の酸化)>
図15は、典型的な市販のXPS装置の概略的な垂直断面を示す。半球形の電子エネルギー分析器(1510)を有する、名目上超高真空(UHV)の分析チャンバ(1500)がある。ポンプ(1505)は、システムの様々な部分の真空を維持する。バルブ(1520)は、エントリロック(1525)から分析チャンバ内への試料の流入を可能にするために開閉される。移送アーム(1535)は、前記分析チャンバと前記エントリロックとの間で試料を移動させるために使用される。システムから試料を引き出すとき、シリンダ(1515)からガス(典型的には窒素)を入れることによって、エントリロックを大気圧まで戻す。前記入口ロックは、典型的には、透明なガラス窓(1530)を有する。
【0058】
図16は、XPSシステムと筐体(上述のような)が分離しているが近接している本発明の一構成を示す。試料は、空気中で、XPSシステムからUV/オゾン生成ランプ(1620)を含む前記筐体(1610)に移動され、UV/オゾン曝露後に再び戻され、図7に示される反復ループを完了する。これらの移送は、小型の空気側ロボットアーム又は類似物を使用して自動化することができるが、オペレータによって手動で行われる可能性が最も高い。
【0059】
図17は、UV/オゾン生成ランプを含む筐体がXPSシステムのエントリロックと一体化された、本発明の別の構成を示す。これは、通常のガラス窓(1530)の代わりに前記エントリロック上にUV透過窓を必要とし、バックフィルガスシリンダ(1700)は、純粋な窒素ではなく酸素または酸素含有ガス混合物(例えば、乾燥空気)を含む必要がある。UVは、前記UV透過窓を通過し、エントリロック自体の内部にオゾンを生成する。
【0060】
試料がエントリロックに存在するとき、それは、したがって、UVおよびオゾンに曝露され、図7のフローチャートに説明されるように、次のスペクトル取得のために分析チャンバの中に戻されることができる。この構成は、自動化された試料の取り扱い、ランプおよびバルブの制御を最もよく利用する。例えば、図7に記載されるシーケンスの全体が、コンピュータ制御下で、そして人間のオペレータが存在する必要なしに、自動化されたシーケンスとして実行されることが可能である。例えば、そうでなければ有効に利用することが困難である機器時間を有効に利用して、一晩実行することができる。朝、オペレータは戻って、図10および図13に示されるタイプのスペクトルのセット全体を見つけ、図11および図14に示されるタイプの計算結果がすでに行われている(計算はオペレータの知識または介入を必要としないため)。
【0061】
この用途に使用できる可能なUVランプに関して、図18に示すタイプの小型「GTL3」UVランプで良好な結果が得られたが、多くの他のモデルもおそらく同様に良好に機能するであろう。この種のランプを、単一の33オームの安定抵抗と24Vの供給電圧(交流はより長いランプ寿命をもたらすが、交流と直流は共に動作する)で動作させた。動作中、これらのランプは10Vで約3Wを消費する(残りはバラスト抵抗で降下する)。このランプのオゾン放出バージョン及び非オゾン放出バージョンの両方が利用可能であり(これらは、それぞれ、185nmの放射線を透過又は遮断するための異なるガラス配合を有する)、その結果、これらは、図5のランプA及びBの一方又は両方として使用することができる。これらは、E17規格のねじ込み口金を有し、したがって、限られた空間に容易に適合する。三共電気GTL3は、0.16WのUV出力を有する3Wランプである。典型的な寿命は、製造業者によって2000時間と指定されている。このランプは、直径20mm×長さ63mmの透明なT7管上にE17ねじ込み口金を有する。この品目は日本で製造されており、また、とりわけ、ウシオ、フィッシャーサイエンティフィック、エイコ、ヒカリ、アメリカン・ウルトラバイオレットから、部品番号GTL3W、PO300-0350、29-258-23、GRM0036、3000022として一般に入手可能である。
【0062】
これらのGTL3ランプは、殺菌用途、例えば洗濯機または歯ブラシの殺菌剤に使用されることが多い。それらは非常に安価であり、典型的には10米ドル未満のコストである。これらは、特に33オームの安定抵抗器と共に使用される場合には、電気的にはあまり効率的ではないが、この用途では実際には問題ではない。これらは、表面のUV/オゾン洗浄に使用するのに十分な放射パワーを有していない。その代わりに、より大きな水銀グリッドランプが、典型的には、このために使用される。しかし、上述したように、表面を穏やかに且つ漸進的に酸化又は還元することを望む本出願人の用途に対しては、これらのGTL3ランプは、試料の約10cm以内まで配置されれば十分である。この明細書によれば、これらのランプは、バルブから3cmの距離で測定された254nmで、450×10-6W/cm2以上の紫外線強度を放射する。本発明者は、より短い波長の発光についての仕様を見出すことはできないが、それは疑いなく185nmであり、オゾンはこれらのランプによって生成される。
【0063】
より長い波長のランプBの代替的なランプは、図19に示されるような短波発光ダイオード(LED)である。現在、これらは、約270nmまでの波長で利用可能であり、したがって、オゾン生成ランプとして使用することはできないが、オゾン破壊ランプとして、または水素の存在下で試料を照射するために使用することができる。オゾンのハートレー吸収帯を示す図20を参照すると、254nmでのHg蒸気放出はオゾンの最大吸収に近い(したがって、オゾンを急速に二原子酸素に戻す)が、270nmでは、LEDエミッタはそれほど急速ではなく、したがって、光子強度が同様である場合には、約2倍ほど時間の点で効率が低いが、使用される電力およびおそらくランプ寿命の点でもより効率的であることが分かる。
【0064】
本出願における動作の距離または範囲(ランプから試料まで)は、理論的に決定するのが非常に困難な問題である。なぜなら、UVランプによって放出される2つの競合する波長、185nmおよび254nmは、それぞれオゾンを生成および破壊し(非特許文献18)、その結果、ランプからの距離に伴うオゾンの濃度は非線形に減少するからである。複雑な筐体形状に対して、これは、オゾン及びUV測定装置を用いて実験的に最も良く決定され、これらの測定は、UVランプの特定の筐体及びモデルに特に適用されることが期待される。
【0065】
<可能な実施形態および構成(表面層の還元)
水素放出素子>
XPS機器を操作する多くの実験室は、高純度の水素ガスを利用可能にしている。他のものはそうではない。いずれの場合も、大量の水素ガスを取り扱う場合、実際に使用される量(本出願のように)が非常に少ない場合であっても、安全手順を実施するコストは、しばしば高い。
【0066】
したがって、任意選択で、またいくつかの実施形態では、亜鉛-空気または同様のセル(複数可)によって試料筺体内でin-situで生成された水素ガスを利用する。これらは、20年前に一般的な水銀電池に取って代わった、補聴器などの装置用に販売されている市販の「ボタン」電池であってもよい。実際に、水素製造の目的のために、そのようなセルの変形が市販されている。
【0067】
したがって、高純度水素ガスの単純な供給源を提供するために、任意選択で、前記亜鉛-空気、または他の金属-空気タイプの電池(1つのセルまたは複数のセルを意味すると理解されるものとする)が、試料筺体内に配置され、その電池を通過する電流に対する外部制御を伴う。酸素にアクセスすることなく亜鉛-空気電池に抵抗負荷が加えられると、亜鉛-空気電池は、かなり制御可能な速度(非特許文献20)で水素ガスを発生する(非特許文献19)。一実施形態では、これは、外部スイッチおよび抵抗器をバッテリにわたって直列に有することによって達成されてもよく、その結果、スイッチオンは、抵抗器制限電流がバッテリを通過することを引き起こす。
【0068】
このタイプの亜鉛空気電池は、それを通過した全電荷にほぼ比例して少量の水素ガスを発生することが知られている。これにより、水素ガスを、試料筺体内の他の反応種(例えば、酸素、水などの潜在的に酸化性の種)の圧力よりも高い約10-3mb以上の分圧まで、分析される表面の周囲の領域に送達することが可能になる。
【0069】
水素生成のために特別に設計された亜鉛含有セル(Varta社によって製造されたものなど)(非特許文献21)を使用することができ、これらは、精密水素発生器として市販されている亜鉛空気電池の実際に修正された形態である。重要な考慮事項は、この用途では、大気圧よりもはるかに低い圧力で試料筺体の小容積を充填する少量の水素しか必要とされず、その結果、その寿命にわたっておそらく150cm3を生成する亜鉛空気セルで十分であることである。電池内の4つのそのようなセルは、それらの寿命にわたって600cm3を供給することができ、おそらく、交換する必要がある前にUV光下で低圧H2試料を曝露する500回を超える還元サイクルに十分である。
【0070】
図31は、水素を生成するように特に設計されたVarta社からの2つのバッテリセル製品の製品概要を示す。
セルは、水性電解質を含むため、XPS機器のエントリロックなどの真空チャンバ(試料筺体)内に封入されずに使用することはできない。これは乾燥条件下で蒸発し、真空は非常に乾燥した環境である。したがって、セルは、必要なときに水素ガスを放出させるが、XPS機器の動作温度で少なくとも水の分圧、例えば20℃で約18mmHgを保持する試料筺体内の容器(セル筺体)によって囲まれなければならない。
このセル筺体を達成する少なくとも2つの可能な実施形態がある。
【0071】
可能なセル筐体の実施形態A。セルの周りの密閉管は、パラジウムまたはパラジウム合金などの水素透過性(しかし水不透過性)材料から作られる。図3は、この配置の概略図を示し、任意の実施形態では、4つのそのようなセルが、水素がそこから透過することを可能にする密封されたパラジウム(またはパラジウム合金)管内でバッテリに形成される。
【0072】
あるいは、可能なセル筐体の実施形態B。セルの周りの密封された管は、内部の圧力(セルによって生成された水素によって引き起こされる)がその温度での水の蒸気圧を超える所定の値を超えるときに開く通常は閉じている圧力逃がし弁を介して、エントリロックまたは他の試料筺体の主空間に接続される。例えば、セル筐体内の圧力が試料筐体内の外部の圧力よりも0.2atmを超えて上昇したときに開くように設定されたバネ荷重式の安全弁である。弁が開くたびにいくらかの水蒸気が逃げるが、その通常の閉鎖状態では、使用の間の何時間もの間に、セルは乾燥しない。
【0073】
図32は、本発明の透過水素放出要素の1つの可能な実施形態Aを概略的に示し、図32(a)は選択解除されたときのものであり、図32(b)は水素を作動させ放出するように選択されたときのものである。
【0074】
図33は、セル筐体の単純な実施形態タイプBの概略図を示す。図33において、漏斗1030内のボール1020の先に選択された重みは、たとえ試料筺体圧(セル筺体と混同されるべきではない)が真空であっても、セル筺体1010内の圧がデバイスの動作温度での水の飽和水蒸気量の圧(典型的には室温またはそれよりわずかに高い)を超えることを可能にする。これは、セル720が乾燥しないことを確実にする。押しボタンを瞬間的に押すことにより、コンデンサが放電され、その結果、ボタンが解放されると、コンデンサが完全に充電されるまで、電流がセルを通って流れ、水素を発生させ、静電容量値Cの選択によって予め決定された一定量の水素を放出する。次いで、セル筺体1010内の水素の圧力が、その周りの試料筺体内の圧力よりも高いことにより、ボール1020が瞬間的に変位し、少量の固定された所定の量の純粋な水素が、試料の表面の還元またはUVによる還元のために、試料筺体内の試料の周りの領域に放出される。
【0075】
図34は、(a)休止状態および(b)水素生成状態の両方における、セル筐体タイプBのわずかにより高度な可能な実施形態を概略的に示す。ここで、水素生成を制御するスイッチは、(a)に示されるように、通常は開いており、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)750の制御下にあるリレーまたは同様のスイッチであってもよい。セル筺体930内のセル720の周囲の圧力は、ばね960、調整ねじ970、および「ポペット」950によって形成される圧力逃がし弁の結果として、試料筺体(セル筺体930と混同されるべきではない)の内側よりも高い。(b)に示すように、PLCがスイッチを閉じると、直流電流(水素生成速度を制限するために抵抗器Rによって制限される)がセル720を通過する。セルは、ポペットに対するこの圧力がばね960の力に打ち勝つのに十分になるまで水素を放出し、水素は試料筺体内に逃げる。この実施形態では、PLCによって実行されるコンピュータコードは、スイッチ閉鎖のための異なる持続時間を選択し、それによって、試料の表面の後続還元またはUVによる還元のために、試料の周囲の領域の中へ異なる量の水素を放出してもよい。
【0076】
図15は、典型的な市販のXPS装置の概略的な垂直断面を示す。半球形の電子エネルギー分析器(1510)を備えた、名目上超高真空(UHV)の分析チャンバ(1500)がある。ポンプ(1505)は、システムの様々な部分の真空を維持する。バルブ(1520)は、エントリロック(1525)から分析チャンバ内への試料の流入を可能にするために開閉される。移送アーム(1535)は、前記分析チャンバと前記エントリロックとの間で試料を移動させるために使用される。システムから試料を引き出すとき、シリンダ(1515)からガス(典型的には窒素または乾燥空気)を入れることによって、エントリロックを大気圧まで戻す。前記エントリロックは、典型的には、透明なガラス窓(1530)を有する。
【0077】
図16は、XPSシステムと試料筺体(上記段落に記載)が分離しているが、近接している本発明の一構成を示す。試料は、空気中で、XPSシステムから、UV生成ランプ(1620)を含む前記試料筺体(1610)へ移動され、UV/水素曝露後に再び戻される。水素は、シリンダまたは他の「パイプ」供給部から、または、上述した実施形態および図10図11または図12の実施形態のうちの1つによる水素放出セルから、試料筺体1610に供給される。これらの移送は、小型の空気側ロボットアーム又は類似物を使用して自動化することができるが、オペレータによって手動で行われる可能性が最も高い。
【0078】
図36は、本発明の別の実施形態を示し、UV生成ランプを含む試料筺体がXPSシステムのエントリロックと一体化されている。これは、前記エントリロック上にUV透過窓を必要とする(この窓の位置は図13の1530である)。バックフィルガスシリンダ(1700)は、試料の近傍に水素を供給するために使用されてもよく、またはそれら自体のセル筺体1780内の水素放出セルが、それを供給してもよい(電気接続および安全弁は、図示せず)。UV光は、前記UV透過窓を通過して、エントリロック自体に入る。
【0079】
試料がエントリロック内に存在するとき、試料は、したがって、UVおよび水素に曝露され、上記のフローチャートに説明されるように、次のスペクトル取得のために分析チャンバの中に戻されることができる。この構成は、自動化された試料の取り扱い、ランプおよびバルブ制御を最もよく利用する。例えば、コンピュータ(および/またはPLC)制御下で、そして人間のオペレータが存在する必要なしに、シーケンス全体を実行することが可能である。例えば、そうでなければ有効に利用することが困難である機器時間を有効に利用して、一晩実行することができる。朝、オペレータは、スペクトルのセット全体を見つけるために戻る。
【0080】
この用途に使用できる可能なUVランプに関して、図16に示すタイプの小型「GTL3」UVランプで良好な結果が得られたが、多くの他のモデルもおそらく同様に良好に機能するであろう。この種のランプを、単一の33オームの安定抵抗と24Vの供給電圧(交流はより長いランプ寿命をもたらすが、交流と直流は共に動作する)で動作させた。動作中、これらのランプは10Vで約3Wを消費する(残りはバラスト抵抗で降下する)。これらは、E17規格のねじ込み口金を有し、したがって、限られた空間に容易に適合する。三共電気GTL3は、0.16WのUV出力を有する3Wランプである。典型的な寿命は、製造業者によって2000時間と指定されている。このランプは、直径20mm×長さ63mmの透明なT7管上にE17ねじ込み口金を有する。この品目は日本で製造されており、また、多くの他のものの中でも、ウシオ、フィッシャーサイエンティフィック、エイコ、ヒカリ、アメリカン・ウルトラバイオレットから、部品番号GTL3W、PO300-0350、29-258-23、GRM0036、3000022として一般に入手可能である。
【0081】
この明細書によれば、これらのランプは、バルブから3cmの距離で測定された254nmで、450×10-6W/cm2以上の紫外線強度を放射する。
これらのGTL3ランプは、殺菌用途、例えば洗濯機または歯ブラシの殺菌剤に使用されることが多い。それらは非常に安価であり、典型的には10米ドル未満のコストである。これらは、特に33オームの安定抵抗器と共に使用される場合には、電気的にはあまり効率的ではないが、この用途では実際には問題ではない。実際、これらのランプからの廃熱は、水素透過シリンダまたは膜を加熱して、水素に対するその透過性を増加させるために使用され得ると考えられる。
UVランプの代替ランプは、短波発光ダイオード(LED)である。現在、これらは、約270nmまでの波長で利用可能である。
【0082】
<閉ループ制御>
試料に近接した水素または圧力センサからの信号を使用して、亜鉛-空気(または同様の)バッテリを通る電流をオンに切り替えることによって、水素レベルを必要な値に維持するように自動的に制御することができる。
【0083】
<PCA、NMFまたはSVDの結果の解釈>
(試料をますます多くのUV/オゾンまたはUV/水素に漸進的に曝露した後の)スペクトルのセットがPCAまたはSVDアルゴリズムを介して処理されるとき、これは、そのデータから純粋な成分のスペクトルを抽出する途中の1つのステップと見なすことができる。例えば、そのようなコンポーネントの組み合わせが有する制約を適用することによって次のことがある。
1. 負方向の特徴がないか、または非常に小さい。
2. スペクトルの全体的な曲率が最小化される。
【0084】
UV/オゾン処理中に生成され除去された純粋な化学成分(典型的には、例えば金属のいくつかの酸化物)のスペクトルを自動的に得ることができる。負方向の特徴を全く強制しないか、または非常に小さく強制することは、非負行列因数分解またはNMFをもたらす。
【0085】
さらに、より有用なデータが存在する。これらの主成分の各々は、UV/オゾンまたはUV/水素曝露で起こる化学プロセスを表すと考えることができる。例えば、ポリマーは、炭化水素の結合エネルギーC-C*-Cで負のピークを有し、C*-OHの結合エネルギーで正のピークを有する成分を示すことができる。これは、化学的酸化反応を表すものとして解釈することができる。しかし、このような反応の速度は、まず第一に、炭素の化学的環境に依存する。異なる分子(例えば、ポリマー骨格の一部としてのOまたはN)を有する試料において、この反応の速度が異なること、従って、UV/オゾン処理された試料スペクトルの配列が異なること、従って、主成分のタイプ(または順序)が異なることが予測され得る。したがって、これは、単一のXPSスペクトルだけでは不可能なより多くの情報へのアクセスを我々に与える。例えば、我々は、SMILESコードを用いて分子を区別することが可能であり得る。
CCCCNCCCC
SMILESコードを有するものから
CCCC(N)CCCC
【0086】
これは、UV/オゾン曝露前のスペクトルの化学シフトを見ることからは困難または不可能である。ニューラルネットワークモデルまたは「ディープラーニング」などの機械学習アルゴリズムは、本明細書に記載されるように、段階的にUV/オゾンおよび/またはUV/水素に曝露された試料スペクトルに適用される場合、たとえ同じアルゴリズムが(UV/オゾンではなく)処理された試料のみからのスペクトルに適用された場合にほとんど明らかにしないとしても、特に有用である。
【0087】
<閉ループ制御>
試料に近接したオゾンセンサからの信号を使用して、図5に示すようにランプA(オゾン生成)及びB(オゾン破壊)をオンに切り替えることによって、オゾンレベルを必要な値に維持するように自動的に制御することができる。これは、光吸収又は化学オゾンセンサと、ランプをオン又はオフに切り替える(又はLEDデバイスを使用することができる場合には、それらの電力出力又はデューティサイクルを変調する)比例積分微分(PID)コントローラとを使用して、便利に行うことができる。オゾンレベルの制御は、オゾンレベルを上げることによって、後のより長いオゾン曝露工程のいくつかの時間を短縮することを可能にする。
【0088】
<非導電性試料>
非導電性試料は、特別な問題を提起し、その問題を克服するために、本発明者は特別な方法を開発した。
従来のXPS機器の動作では、非導電性試料から良好なスペクトルを得るために、「フラッド銃」が典型的に使用される。この銃は、試料に低エネルギー電子を、時にはイオンも「照射」し、その結果、試料の表面に蓄積する電荷は、これらの荷電種によって中和される。電荷平衡が達成され、それによって表面を離れる光電子は、後に正電荷を残し、その後、フラッド銃によって放出される荷電粒子によって中和される。この電荷平衡は、必ずしも表面を正確にアース電位に戻すものではないが、アース電位に近い電位を安定化させる。スペクトルの取得に最も重要なのは、表面電位の安定性である。XPSスペクトルのピークがエネルギーの範囲にわたって不鮮明であり、時にはピークのように見えないために電荷平衡安定性が達成されなかった場合に、XPSオペレータはスペクトルを認識することを迅速に学習する。
【0089】
ここに記載されたUV/オゾンまたはUV/水素曝露方法を適用する場合の非導電性試料の問題は、連続的な曝露が表面化学を変化させ、その結果、電荷平衡電位をごくわずかに変化させることである。これは、試料の成分からのピークがシフトするように見えることを意味する。
【0090】
電荷平衡シフトの問題を除去するために、本発明者は、電位マーカー粒子(Electrical Potential Marker Particles:EPMPs)と呼ばれることがある、試料表面上に堆積されたイオンビームスパッタ粒子を使用することに成功した。これらは、(ほとんどすべてのXPSシステムに組み込まれたイオン銃を使用するイオンビームスパッタリングによって)スパッタリングされて、小さな粒子クラスタで試料表面の小さな部分(おそらく1~5%)を覆うことができる材料からなる。これは、UV/オゾンまたはUV/水素への連続的な曝露工程の前に、一度行われる。これらの粒子は、試料表面の全てのXPSスペクトルに現れる。EPMPsの化学組成は、表面電位の変化をマークするために使用される鋭いピークを提供するように選択される。
【0091】
イオンビームスパッタリングは、広範囲の材料に対して可能であり、したがって、原理的には、EPMPsを提供するために、多くの異なる材料を使用することができる。さらに、この用途では、スパッタされる材料の量はわずかであり、したがって、コストの実際の制約はなく、最も高価な貴金属でさえ、それらが良好に機能する場合には許容可能である。したがって、我々は、どれがEPMPsとして最もよく機能するかを見るために、元素の化学的性質を注意深く見なければならない。
【0092】
明らかに、より多くのオゾンにさらされると酸化する材料が選択されることは好ましくなく、特に、その酸化物のピークがほとんど分解されず、その結果、酸化が進行すると、監視されたEPMP XPSピークの位置がシフトするように見える場合には、好ましくない。このため、例えばCuは選択しにくい。
【0093】
理想的には、EPMPsを提供するためのスパッタターゲットとして使用される元素Xは、UV/オゾンまたはUV/水素の連続的な照射の間中、単一の一定の酸化段階を有するべきである。これは、以下を保証することによって達成され得る。
【0094】
1.Xは、その最も高い酸化状態XOyに容易に酸化する。
2.Xは、非常に貴であるため、全く酸化せず、オゾンに曝されてもEPMPsとして金属状態のままである。
3.C 1sおよびO 1sピークに近いXPSピークを有するX、これは、典型的には、ほとんどの絶縁体の分析において最も重要である。エネルギーの近接は、少数のXPSスキャンでのより容易な捕捉、および有意な誤差を引き起こすエネルギースケールドリフトの可能性の低減を意味する。
【0095】
図21は有益である。可能な限り最良のEPMPsを形成するためには、貴金属は、例えば金でさえ、十分に「貴」ではない。オゾンに曝露されると、表面の酸化金(および時には窒化物)によるAu 4fピークの測定可能な明らかなシフトがある。その代わりに、酸化状態がほとんどなく、容易に酸化する元素に注目すべきである。Sc、Ti、Ni、Zn、Y、Cd、Lu、Hfは、妥当な候補であり得る。安全の理由で取扱いを正当化することが困難なものもある(例えば、Cd)。取り扱いの容易さも有用であり、そのため、広く入手可能で、容易に操作され、展性のある箔が有利である。
【0096】
本出願において、EPMPsの堆積のためのスパッタターゲットとしてチタンを用いて良好な成功を収めた。チタンは、その最も高い酸化状態に容易に酸化されるという点で、上記の基準1を満たす。そのため、Ti金属のXPSスペクトルを得ようとする場合、典型的には、非常に低濃度の酸素含有種(典型的には水)が存在する「超高真空」条件においてさえ、表面酸化物の出現によって妨げられる。実際、Tiは、まさにこの理由、すなわち、酸素含有種の捕捉のためのその親和性および高い付着係数のために、XPSにおけるサブリメーションポンプにおいて使用される。Ti箔は、様々な厚さで広く入手可能であり、曲げることによって正しい形状に容易に形成される。Tiの最も強いXPSピークであるTi 2pピークは、C 1sとO 1sとの間のエネルギーのほぼ中間にあり、これは理想的である。
【0097】
Ti 2p3/2 XPSピークのピーク位置は、多くの方法によって正確に決定することができる。本発明者は、非常に良好に機能する1990年代に開発された多項式フィッティング方法(非特許文献22)を使用した。固定されたUV/オゾンまたはUV/水素曝露後に試料から記録されたすべてのスペクトルは、次いで、シフトされた整数のチャネルについての補間を含めて、EPMPピークが正確に一致することを確実にするためにシフトされる。
【0098】
<試料表面上へのEPMPsの堆積>
箔(一実施形態では、上述したようなチタン)の小さなクーポンを、図23に示すように、約110°の内角を有するように折り曲げる。イオン(典型的にはアルゴンであり、必要に応じてクラスタまたは単原子であってもよい)のビームを用いて、まず箔スパッタターゲットを洗浄する。このイオン銃または別のイオン銃を使用して、単原子アルゴンイオンをターゲット箔表面に集束させ、箔から試料上に原子をスパッタする。このスパッタ堆積ステップは、図23に(断面で)概略的に示されており、EPMPsを形成し続ける粒子が、ターゲット2310(典型的にはTiメタルホイル)から分析される絶縁試料2320上にスパッタされる。
【0099】
典型的には、スパッタ堆積は、1~2分のイオン銃動作時間を要する。Ti 2p3/2ピークは、スペクトル中の他の最も強いピークの少なくとも5%であるべきである。これが達成されていない場合(試料のワイドスキャンスペクトルで測定されるように)、当然ながら、それまでより多くのターゲット2310からスパッタするように戻ることができる。
【0100】
図35は、試料が複数のサブ試料s1~s9に分割される本発明の実施形態を示す。これは、半導体材料のウェハなど、試料材料が特に均一である場合に有用であり得る。各サブ試料の酸化状態は、異なる量だけ変化する。各試料は個々に分析され得るが、図35に示されるように、複数のサブ試料を同時に分析することが可能である。
【0101】
以上、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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図11
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図22a
図22b
図23
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図25
図26
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図29
図30
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図32a
図32b
図33
図34a
図34b
図35
図36
【国際調査報告】