(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】VEGF受容体融合タンパク質の製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/17 20060101AFI20240905BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240905BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20240905BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20240905BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240905BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240905BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240905BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240905BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240905BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20240905BHJP
C07K 14/71 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
A61K38/17
A61K47/12
A61K47/20
A61K47/22
A61K9/08
A61K47/18
A61K47/26
A61P27/02
A61P35/00
C07K19/00 ZNA
C07K14/71
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514527
(86)(22)【出願日】2022-09-06
(85)【翻訳文提出日】2024-05-02
(86)【国際出願番号】 EP2022074711
(87)【国際公開番号】W WO2023031478
(87)【国際公開日】2023-03-09
(32)【優先日】2021-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504359293
【氏名又は名称】レツク・フアーマシユーテイカルズ・デー・デー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ズーラ,アレス
(72)【発明者】
【氏名】ジダル,ミチャ
(72)【発明者】
【氏名】ベルコ-パルケル,カーヤ
(72)【発明者】
【氏名】シンク,ロマン
(72)【発明者】
【氏名】レバー,ブラジュ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB11
4C076CC10
4C076CC27
4C076DD09E
4C076DD43Z
4C076DD51
4C076DD55Z
4C076DD60Z
4C076EE41
4C076FF15
4C076FF36
4C076FF61
4C076FF63
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA41
4C084DB57
4C084MA17
4C084MA66
4C084NA03
4C084ZA33
4C084ZB26
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA75
4H045EA20
(57)【要約】
本発明は、少なくとも100mg/mlの濃度のVEGF受容体融合タンパク質を含む液体製剤に関し、製剤は、i)緩衝剤を含まない、ii)クエン酸緩衝液を含む、又はiii)好ましくはスクロースを含まず好ましくはメチオニンを含むヒスチジン緩衝液を含む。さらに、本発明は、そのような液体製剤を含む容器を含む製造品、並びに治療方法のための液体製剤の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも100mg/mlの濃度のVEGF受容体融合タンパク質を含む液体医薬製剤であって、前記製剤が、
i)緩衝剤を含まない、
ii)クエン酸緩衝液を含む、又は
iii)メチオニンを含むヒスチジン緩衝液を含む、
液体製剤。
【請求項2】
前記製剤が、緩衝剤を含まない、請求項1に記載の液体製剤。
【請求項3】
前記製剤が、緩衝剤を含まないか、又はクエン酸緩衝液を含み、さらに、前記製剤が、ヒスチジンを含まない、請求項1に記載の液体製剤。
【請求項4】
前記製剤が、1つ以上の遊離アミノ酸を含む、請求項1~3のいずれかに記載の液体製剤。
【請求項5】
前記VEGF受容体融合タンパク質が、アフリベルセプトである、請求項1~請求項4のいずれかに記載の液体製剤。
【請求項6】
前記VEGF受容体タンパク質の濃度が、約115mg/mlである、請求項1~4のいずれかに記載の液体製剤。
【請求項7】
前記アフリベルセプトの濃度が、約115mg/mlである、請求項5に記載の液体製剤。
【請求項8】
前記アフリベルセプトの濃度が、114~115mg/mlである、請求項5に記載の液体製剤。
【請求項9】
前記アフリベルセプトの濃度が、114.3mg/mlである、請求項5に記載の液体製剤。
【請求項10】
前記製剤が、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアミン及びトリプトファンからなる群より選択され、好ましくは、プロリン及びメチオニンからなる群より選択される、1つ以上のアミノ酸を含む、請求項1~9のいずれかに記載の液体製剤。
【請求項11】
前記製剤が、メチオニンを含み、特に、前記製剤が、ヒスチジン緩衝液及びメチオニン又はクエン酸緩衝液並びにメチオニンを含む、請求項1~10のいずれかに記載の液体製剤。
【請求項12】
前記製剤が、スクロースを含まず、特に、前記製剤が、緩衝剤もスクロースも含まない、請求項1~11のいずれかに記載の液体製剤。
【請求項13】
前記製剤が、プロリンを含み、特に、前記製剤がプロリンを含むがスクロースを含まず、特に、前記製剤が、プロリンを含み、糖及び糖アルコールからなる群から選択される安定剤を含まない、請求項1~12のいずれかに記載の液体製剤。
【請求項14】
前記製剤が、リジン及びアルギニンからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸、好ましくはアルギニンを含む、請求項1~13のいずれかに記載の液体製剤。
【請求項15】
前記製剤が、ポリソルベート20又はポリソルベート80などの界面活性剤を含む、請求項1~14のいずれかに記載の液体製剤。
【請求項16】
前記製剤が、ポリソルベート80を含む、請求項1~15のいずれかに記載の液体製剤。
【請求項17】
前記製剤が、ポリソルベート20を含む、請求項1~15のいずれかに記載の液体製剤。
【請求項18】
前記製剤が、25℃で8週間貯蔵した後、凝集体の1.30%未満の増加を示す、請求項1~17のいずれかに記載の液体製剤。
【請求項19】
前記製剤のpHが、5.8である、請求項1~18のいずれかに記載の液体製剤。
【請求項20】
前記ヒスチジン緩衝液又はクエン酸緩衝液が、5~20mMの濃度を有し、特に、前記緩衝液が、20mMの濃度を有するヒスチジン緩衝液であるか、又は10mMの濃度を有するクエン酸緩衝液である、請求項1~19のいずれかに記載の液体製剤。
【請求項21】
前記製剤が、アフリベルセプト、クエン酸緩衝液、pH5.8、スクロース又はトレハロース、ポリソルベート20、アルギニンを含み、ヒスチジンを含まない、請求項1~15のいずれかに記載の液体製剤。
【請求項22】
前記製剤が、アフリベルセプト、緩衝剤なし、pH5.8、プロリン、アルギニン及びポリソルベート20を含む、請求項1~15のいずれかに記載の液体製剤。
【請求項23】
前記製剤が、アフリベルセプト、緩衝剤なし、pH5.8、プロリン、メチオニン及びポリソルベート20を含む、請求項1~15のいずれかに記載の液体製剤。
【請求項24】
請求項1~23のいずれか一項に記載の液体医薬製剤を含む容器と、その使用説明書とを含む製品。
【請求項25】
前記物品が、プレフィルドシリンジ又はガラスバイアルである、請求項24に記載の物品。
【請求項26】
前記VEGF受容体融合タンパク質が、ヒト又は動物の身体の疾患を治療する方法に使用するためのものである、請求項1~23のいずれか一項に記載の液体医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも100mg/mlの濃度のVEGF受容体融合タンパク質を含む液体製剤に関し、製剤は、i)緩衝剤を含まない、ii)クエン酸緩衝液を含む、又はiii)好ましくはスクロースを含まず好ましくはメチオニンを含むヒスチジン緩衝液を含む。さらに、本発明は、そのような液体製剤を含む容器を含む製造品、及び治療方法のための液体製剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
Fcベースの融合タンパク質、すなわち、別のペプチドに連結された免疫グロブリンFcドメインから構成される融合タンパク質は、最も関連するタンパク質治療薬の1つである。融合したパートナーは有意な治療可能性を有し、それらはFcドメインに結合して、ハイブリッドにいくつかの追加の有益な生物学的及び薬理学的特性を与える。おそらく最も重要なことに、Fcドメインの存在は、それらの血漿半減期を著しく増加させる。さらに、生物物理学的観点から、Fcドメインは独立して折り畳まれ、融合パートナーの溶解性及び安定性を改善することができる。Fcベースの融合タンパク質の例は、アフリベルセプトのような血管内皮増殖因子(VEGF)受容体Fc融合タンパク質である。
【0003】
バイオテクノロジーの進歩により、医薬品用途のための様々なタンパク質を製造することが可能になった。しかしながら、タンパク質は大きく複雑であるため(すなわち、複雑な三次元構造に加えて複数の官能基を有する)、そのようなタンパク質の製剤化には特別な問題がある。望ましくない翻訳後修飾をもたらす非天然の不可逆的凝集及び他の経路などの分解経路は、精製、凍結、輸送及び長期貯蔵を含むこれらの生物治療薬の製造における複数の工程に影響を及ぼす。分解されたタンパク質分子はしばしば生物学的活性を実行することができないだけでなく、特にタンパク質凝集体は、医薬品の免疫原性を増強し、したがってその安全性及び有効性を低下させることによって深刻な有害作用を引き起こす可能性がある。これは、特に高濃度製剤に当てはまる。高濃度製剤(すなわち≧100mg/ml)は、より少ない注入量の生物治療用タンパク質を可能にするが、タンパク質凝集及び粘度が増加する傾向を示すことが多く、その結果、全体的なタンパク質効力が低下し、製造及び貯蔵安定性が低下する。
【0004】
当業者に知られているVEGF受容体Fc融合タンパク質のためのいくつかの製剤が存在するが、特に高濃度のVEGF受容体Fc融合タンパク質を有する製剤のための新たな製剤を開発する緊急の必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明によって解決される課題は、特に低い凝集レベルに関して満足のいく安定性を有する、アフリベルセプトのようなVEGF受容体融合タンパク質のための高濃度製剤を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この問題は、以下及び添付の特許請求の範囲に記載の主題によって解決される。
【0007】
第1の態様では、本発明は、少なくとも100mg/mlの濃度のVEGF受容体融合タンパク質を含む液体医薬製剤に関し、製剤は、i)緩衝剤を含まない、ii)クエン酸緩衝液を含む、又はiii)好ましくはスクロースを含まず好ましくはメチオニンを含むヒスチジン緩衝液を含む。
【0008】
本発明の製剤は、好ましくは、貯蔵時に好ましくは低い凝集傾向を有する安定な製剤である。本発明による「安定な」製剤は、VEGF受容体Fc融合タンパク質が貯蔵時にその物理的安定性及び/又は化学的安定性及び/又は生物学的活性を保持する製剤である。好ましくは、VEGF受容体Fc融合タンパク質は、貯蔵時にその物理的及び化学的安定性並びにその生物学的活性を本質的に保持する。貯蔵期間は、一般に、製剤の意図される貯蔵寿命に基づいて選択される。
【0009】
タンパク質安定性を測定するための様々な分析技術が当技術分野で利用可能である。安定性は、凝集体形成の評価(例えば、サイズ排除クロマトグラフィーを使用して、濁度を測定することによって及び/又は目視検査によって)、陽イオン交換クロマトグラフィー、イメージキャピラリー等電点電気泳動(icIEF)又はキャピラリーゾーン電気泳動を使用して電荷不均一性を評価することによって、アミノ末端又はカルボキシ末端配列分析、質量分析、還元されたVEGF受容体Fc融合タンパク質とインタクトなVEGF受容体Fc融合タンパク質とを比較するSDS-PAGE分析、ペプチドマップ(例えば、トリプシン又はLYS-C)分析、VEGF受容体Fc融合タンパク質の生物学的活性又は抗原結合機能の評価などを含む、様々な異なる方法で定性的及び/又は定量的に評価することができる。不安定性は、凝集、脱アミド化(例えばAsn脱アミド)、酸化(例えば、Met酸化)、異性化(例えば、Asp異性化)、クリッピング/加水分解/断片化(例えば、ヒンジ領域の断片化)、スクシンイミド形成、不対システイン、N末端伸長、C末端プロセシング、グリコシル化の違いなどのいずれか1つ以上を含み得る。本発明によれば、安定な製剤は、特に、25℃で8週間貯蔵した後、25℃で8週間貯蔵する前と比較して、1.30%未満、好ましくは1.20%未満、最も好ましくは1.10%未満の凝集体増加を示す製剤である。
【0010】
本発明の製剤に含まれるVEGF受容体Fc融合タンパク質は、目的の任意のVEGF受容体Fc融合タンパク質であり得る。例えば、VEGF受容体Fc融合タンパク質は、以下であり得る。
【0011】
・配列番号1の核酸配列又は配列番号1のヌクレオチド79~1374若しくは79~1371によってコードされる、
・配列番号2のアミノ酸又は配列番号2のアミノ酸27~457若しくは27~458を含む、
・(1)配列番号2のアミノ酸27~129を含むVEGFR1成分、
(2)配列番号2のアミノ酸130~231を含むVEGFR2成分、
(3)配列番号2のアミノ酸232~457又は458を含む多量体化成分(「FcΔC1(a)」(配列番号2のC末端アミノ酸、すなわちK458は、VEGF受容体融合タンパク質に含まれていても含まれていなくてもよい)
を含み、なお、配列番号2のアミノ酸1~26はシグナル配列である、
・第1のVEGF受容体(例えば、VEGFR1)の免疫グロブリン様(Ig)ドメイン2及び第2のVEGF受容体(例えば、VEGFR2)のIgドメイン3を含み、任意選択的に、第2のVEGF受容体(例えば、VEGFR2)のIgドメイン4及び多量体化成分(例えば、IgGのFcドメイン)をさらに含む、
・コンベルセプトである、又は
・アフリベルセプトである。
【0012】
本発明の好ましい実施形態では、VEGF受容体Fc融合タンパク質は、アフリベルセプト及びコンベルセプトから選択される。アフリベルセプトは、ヒトVEGFR-1の第2の細胞外ドメイン及びヒトVEGFR-2の第3の細胞外ドメインをヒト免疫グロブリンIgG1のFc部分と融合する、115kDaの組換えタンパク質である。コンベルセプトは、チャイニーズハムスター卵巣細胞において完全なヒトcDNA配列から操作された143kDaの組換え抗VEGF融合タンパク質である。コンベルセプトのFabは、VEGFR-1の第2の細胞外ドメイン並びにVEGFR-2の第3及び第4の細胞外ドメインを含み、これらはその後、ヒトIgG1のFcに融合する。最も好ましくは、本発明の製剤中のVEGF受容体Fc融合タンパク質は、アフリベルセプトである。
【0013】
VEGF受容体Fc融合タンパク質、特にアフリベルセプトは、本発明の製剤中に少なくとも100mg/mlの濃度で存在する(高濃度製剤)。VEGF受容体Fc融合タンパク質、特にアフリベルセプトは、少なくとも約105mg/ml、少なくとも約110mg/ml、少なくとも約115mg/ml、少なくとも約120mg/ml、少なくとも約130mg/ml、少なくとも約140mg/ml、少なくとも約150mg/ml、少なくとも約160mg/ml、少なくとも約170mg/ml、少なくとも約180mg/ml、少なくとも約190mg/ml、少なくとも約200mg/ml、少なくとも約250mg/ml、又は少なくとも約300mg/mlの濃度で存在し得る。VEGF受容体Fc融合タンパク質、特にアフリベルセプトは、例えば、約100mg/ml~約200mg/ml、約105mg/ml~約150mg/ml、約100mg/ml~約120mg/ml、又は約110mg/ml~約120mg/mlの濃度範囲内で存在し得る。最も好ましくは、特にVEGF受容体Fc融合タンパク質がアフリベルセプトである場合、融合タンパク質は約115mg/mlの濃度で存在する。融合タンパク質は、特にアフリベルセプトの場合、例えば114~116mg/ml、特に114~115mg/mlの濃度を有し得る。融合タンパク質がアフリベルセプトであるいくつかの実施形態では、その濃度は約114.3mg/mlであり得る。
【0014】
本発明の製剤は、i)緩衝剤を含まない、ii)クエン酸緩衝液を含む、又はiii)任意選択的にメチオニンを含み好ましくはスクロースを含まないヒスチジン緩衝液を含む。製剤が緩衝剤を含まない実施形態では、実質的に全ての緩衝能がVEGF受容体Fc融合タンパク質自体によって提供され、ヒスチジン、酢酸、クエン酸、TRIS若しくはリン酸緩衝液などの他の典型的な緩衝液は存在しないか、又は製剤を十分に緩衝するのに十分ではない濃度で少なくとも予め設定されているだけである。さらなる緩衝剤を含まないこのような製剤は、典型的には、当技術分野では「自己緩衝」製剤と呼ばれる(Gokarn,Yatin R.,et al.“Self-buffering antibody formulations.”Journal of pharmaceutical sciences 97.8(2008):3051-3066)。本発明者らは、そのような自己緩衝製剤が、凝集形成に関してVEGF受容体Fc融合タンパク質の良好な貯蔵安定性を提供することを実証した。好ましくは、そのような自己緩衝製剤は、約pH5.0~6.5、約pH5.5~6.2又は約pH5.8のpHを有する。又は、本発明の製剤は、クエン酸緩衝液を含んでもよく、これも低凝集を提供する。「クエン酸緩衝液」は、クエン酸イオンを含む緩衝液である。クエン酸緩衝液の例としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸アンモニウム、クエン酸カルシウム、クエン酸マグネシウム及びクエン酸カリウム溶液が挙げられる。クエン酸緩衝液は、好ましくは、約pH5.0~6.5、約pH5.5~6.2又は約pH5.8のpHを有する。好ましくは、クエン酸緩衝液の濃度は、約5~約20mM、より好ましくは約10~約20mMの範囲内である。最後に、製剤は、第3の選択肢においてヒスチジン緩衝液を含み得るが、特にこの場合、好ましくはスクロースを含まない。「ヒスチジン緩衝液」は、ヒスチジンイオンを含む緩衝液である。ヒスチジン緩衝液の例としては、塩化ヒスチジン、酢酸ヒスチジン、リン酸ヒスチジン及び硫酸ヒスチジン溶液が挙げられ、塩化ヒスチジン(His/HCl)が特に好ましい。ヒスチジン緩衝液又はヒスチジンHCl緩衝液は、好ましくは、約pH5.0~6.5、約pH5.5~6.2又は約pH5.8のpHを有する。好ましくは、ヒスチジン緩衝液の濃度は、約5~約20mMの範囲内、より好ましくは約10~約20mMの範囲内である。本発明の文脈において、緩衝剤を含まない製剤は、特に、緩衝剤としてヒスチジン、酢酸、クエン酸、TRIS及び/又はリン酸を含まない製剤であり、特に、緩衝剤としてクエン酸及びヒスチジンを含まないか、又は製剤の緩衝能に有意に寄与する濃度のこれらの緩衝剤のいずれも含まないことが理解される。
【0015】
pHは、標準ガラス球pH計を使用して測定される。別段示されない限り、本発明の製剤について本明細書で定義されるpH値及び範囲は、25℃でのpHを反映する。特にVEGF受容体Fc融合タンパク質がアフリベルセプトである場合、製剤のpHは好ましくはpH5.8である。
【0016】
緩衝剤(又は自己緩衝製剤中のその非存在)の他に、本発明の製剤はさらなる成分を含み得る。例えば、製剤は、1つ以上の遊離アミノ酸(すなわち、ペプチド又はタンパク質の成分としてではなく、個々の化合物として)を含み得る。ただし、ヒスチジンは、ヒスチジン緩衝液を使用しない限り、好ましくはこれらのアミノ酸の中の1つではない。製剤は、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン及びトリプトファンからなるアミノ酸の第1の群から選択される1つ以上のアミノ酸を含み得る。好ましくは、1つ以上のアミノ酸はプロリン及びメチオニンから選択される。1つ以上のアミノ酸の濃度は、互いに独立して、約5~約450mMの範囲内であり得る。例えば、1つ以上のアミノ酸の濃度は、約10mM、約20mM、約25mM、約35mM、約40mM、約50mM、約75mM、約100mM、約125mM、約150mM、約200mM、約250mM、約300mM、約350mM、約400mM又は約450mMであり得る。メチオニンは、酸化防止剤として特に有用である。メチオニンの好ましい濃度は5~25mMの範囲内である。最も好ましくは、メチオニンは10mMの濃度で使用される。プロリンが使用され、糖(又は糖アルコール)が使用されない場合、プロリンの濃度は、100~450mMの範囲内、特に250~300mMの範囲内であり得る。代替において、又はアミノ酸の第1の群から選択される1つ以上のアミノ酸に加えて、本発明の製剤は、アルギニン及びリジンからなるアミノ酸の第2の群から選択される1つ以上のアミノ酸を含み得る。好ましくは、第2の群のアミノ酸はアルギニンである。アルギニンは、粘度低下剤として特に有用である。アルギニンの好ましい濃度は、25~75mMの範囲内である。最も好ましくは、アルギニンは約50mMの濃度で使用される。リジンも粘度低下剤として適しており、好ましい濃度は約50~約150mMであり、100mMが最も好ましい。遊離アミノ酸の好ましい組み合わせは、i)メチオニン+アルギニン、ii)プロリン+メチオニン、iii)プロリン+アルギニン、iv)メチオニン+アルギニン+プロリン、v)メチオニン+リジン及びvi)メチオニン+リジン+プロリンである。
【0017】
緩衝液とアミノ酸の好ましい組み合わせは、ヒスチジン緩衝液とメチオニン又はクエン酸緩衝液とメチオニンである。
【0018】
可能であるが任意選択のさらなる成分として、製剤は界面活性剤を含み得る。界面活性剤は、原則として、タンパク質製剤に適した任意の(非イオン性)界面活性剤であり得るが、好ましくは、ポリソルベート20、ポリソルベート80、ポロキサマー(ポロキサマー188など)及びそれらの組み合わせの群から選択される。最も好ましくは、界面活性剤はポリソルベート20又はポリソルベート80である。典型的には、必ずしもそうとは限らないが、界面活性剤、特にポリソルベート20又はポリソルベート80は、約0.01%~約0.1% w/vの濃度で存在する。本発明の製剤は、例えば、約0.1mg/ml、約0.2mg/ml、約0.3mg/ml、約0.4mg/ml、約0.5mg/ml、約0.6mg/ml、約0.7mg/ml、約0.8mg/ml、約0.9mg/ml又は約1mg/mlを含み得る。本発明の好ましい実施形態では、界面活性剤は、ポリソルベート20及びポリソルベート80から選択され、約0.1mg/ml~約0.3mg/mlの濃度で存在する。より好ましくは、ポリソルベート20及びポリソルベート80の濃度は約0.2mg/mlである。
【0019】
本発明の製剤のさらなる、ただし任意の成分は、糖及び糖アルコールの群から選択される安定剤である。糖の例は、ラクトース、フルクトース、マルトース、トレハロース及びスクロースである。糖はスクロースであってもよい(ただし製剤がヒスチジン緩衝液である場合を除く。その場合安定剤はスクロースではないことが好ましい)。糖アルコールの好ましい例は、アラビトール、マンニトール及びソルビトールである。ソルビトールは凝集を抑制するのに役立ち得る。いくつかの実施形態において、ソルビトールは、約300mM以下の濃度で存在する。ソルビトールの濃度は、例えば、100~350mMの範囲内、より好ましくは100~300mMの範囲内であり得る。本発明の製剤がスクロースを含有する場合、それは好ましくは100~300mMのスクロースの範囲、好ましくは140~210mMのスクロースの範囲、好ましくは146mMのスクロースで使用される。しかしながら、本発明はまた、スクロースを含まない本発明による製剤を使用することも特に意図する。そのようなシナリオの典型的な実施形態は、緩衝剤もスクロースも含まない製剤である。
【0020】
本発明の製剤のさらなる任意の成分は、キレート剤及び/又は酸素捕捉剤又は両方の組み合わせである。典型的なキレート剤は、クエン酸、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)である。酸素捕捉剤の例は、メチオニン、チオ硫酸ナトリウム、カタラーゼ又は白金であり、メチオニンが本発明の好ましい酸素捕捉剤である。本発明の製剤がDTPA又はEDTAなどのキレート剤を含む場合、そのようなキレート剤は、5~150μMの範囲内、好ましくは20~100μMの範囲内の濃度で存在し得る。特に好ましい濃度は、20μM、50μM及び100μMである。20μMのキレート剤濃度が最も好ましい。本発明の製剤がメチオニンなどの酸素捕捉剤を含む場合、そのような捕捉剤は、好ましくは約100μM~15mMの濃度で存在する。メチオニンの特に好ましい濃度は10mMである。キレート剤及び/又は酸素捕捉剤を使用する代わりに、酸素を置換し、酸化を最小限に抑えるために、本発明の製剤を含む容器のヘッドスペースを不活性ガス、例えば窒素でフラッシュすることも考えられ得る。
【0021】
最後に、本発明の製剤は、任意選択的に、硫酸ナトリウム若しくは塩化ナトリウム又はそれらの組み合わせなどの無機塩も含み得る。塩化ナトリウムは、製剤の粘度を低下させることができる。本発明の製剤は、それに限定されないが、10~100mMの塩、例えば10~20mMの硫酸ナトリウム、特に16mMの硫酸ナトリウムを含み得るか、又は25~75mMの塩化ナトリウム、特に40~60mMの塩化ナトリウム、特に50mMの塩化ナトリウムを含み得る。しかしながら、塩の使用は任意であり、本発明は塩を含まない、例えば塩化ナトリウムを含まない製剤を意図する。
【0022】
本発明の製剤は、例えば、以下を含む製剤から選択され得る。
【0023】
i)100~120mgのアフリベルセプト、特に114~115mgのアフリベルセプト、緩衝剤なし、pH5.8、プロリン、並びに任意選択的にメチオニン及び/若しくは界面活性剤、又は
ii)100~120mgのアフリベルセプト、特に114~115mgのアフリベルセプト、クエン酸緩衝液、pH5.8、スクロース、アルギニン、並びに任意選択的にメチオニン及び/若しくは界面活性剤。
【0024】
本発明の製剤のさらなる具体例は、例えば、以下の群から選択され得る。
【0025】
i)100~120mgのアフリベルセプト、好ましくは114mgのアフリベルセプト、クエン酸緩衝液、pH5.8、スクロース又はトレハロース、ポリソルベート20(例えば0.3mg/ml)及びアルギニン、好ましくはヒスチジンを含まない、
ii)100~120mgのアフリベルセプト、好ましくは114mgのアフリベルセプト、緩衝剤なし、pH5.8、プロリン、アルギニン、ポリソルベート20(例えば0.3mg/ml)、この製剤は好ましくは糖又は糖アルコールを含まない、及び
iii)100~120mgのアフリベルセプト、好ましくは114mgのアフリベルセプト、緩衝剤なし、pH5.8、プロリン、メチオニン、ポリソルベート20(例えば0.3mg/ml)、この製剤は好ましくは糖又は糖アルコールを含まない。
【0026】
さらなる態様では、本発明は、本発明による液体製剤を含有する容器及び注射装置(滅菌されていてもよい)と、任意選択的にその使用説明書とを含む製造品に関する。製造品は、特に、ガラスバイアル若しくは試験管のような容器、プレフィルドシリンジ(例えば、充填ガラスシリンジ若しくは充填プラスチックシリンジ)などの注射装置、又は硝子体内インプラント、例えば再充填可能なインプラントであり得る。
【0027】
「プレフィルド」シリンジは、医師又は患者による販売又は使用の前に本発明の製剤で充填されているシリンジである。これは、1つ以上の用量線目盛りを含み得る及び/又は用量測定システムである。
【0028】
本明細書における「滅菌」は、無菌性であるか、又は実質的に全て若しくは全ての生きている微生物及びそれらの胞子を含まないことを指す。
【0029】
容器及び注射装置は、シリコーン(例えば、シリコーンオイル若しくは焼成シリコーン(例えば<40pg又は<100pg))でコーティングされてもよく、実質的に金属を含まないか、実質的にタングステンを含まないか、又は低タングステンである。
【0030】
最後に、本発明は、ヒト又は動物の身体の疾患を治療する方法において使用するための本発明による製剤に関し、特に、疾患は、血管形成性眼障害又はがんなどのVEGF関連疾患である。
【0031】
本明細書における血管形成性眼障害は、血管の成長若しくは増殖及び/又は血管漏出によって引き起こされるか又はそれに関連する眼の任意の疾患を指す。本明細書の製剤及び方法を使用して治療可能又は予防可能な血管形成性眼障害の非限定的な例には、血管新生(滲出型)加齢黄斑変性(AMD)、黄斑浮腫、網膜静脈閉塞後の黄斑浮腫、網膜静脈閉塞(RVO)、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、脈絡膜血管新生(CNV)、虹彩血管新生、血管新生緑内障、緑内障における術後線維症、増殖性硝子体網膜症(PVR)、視神経円板血管新生、角膜血管新生、網膜血管新生、硝子体血管新生、血管網膜症、糖尿病性網膜症(例えば、DMEに罹患していない対象における非増殖性糖尿病性網膜症又は増殖性糖尿病性網膜症)、及び/又は糖尿病性黄斑浮腫(DME)を有する患者の糖尿病性網膜症が含まれる。
【0032】
がんは、VEGF受容体Fc融合タンパク質が治療上有効である任意の種類のがんであり得る。がんには、成長、増殖、生存及び/又は転移が血管形成にある程度依存するがんが含まれる。本発明の一実施形態では、がんは、結腸直腸がん、肺がん、皮膚がん、乳がん、脳がん、胃がん、腎がん、前立腺がん、肝臓がん又は膵臓がんである。
【0033】
液体組成物は、経口又は非経口経路を介して投与され得る。非経口投与(例えば、注入)の場合、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、内皮投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与、直腸内投与、腫瘍内投与、硝子体内投与などによって投与され得る。
【0034】
特定の実施形態では、液体組成物は、上記のVEGFアンタゴニストを含む眼科用溶液であってもよく、この場合、眼の硝子体液中に投与される非経口製剤であってもよい。
【0035】
本明細書で使用される「を含み、」という用語は、「からなり、」(すなわち、追加の他の物質の存在を除外する)という意味に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、「を含み、」は、任意選択的に追加の物質、特徴又はステップが存在し得ることを意味する。「を含み、」という用語は、その範囲内にある特に想定される実施形態として、「からなり、」(すなわち、追加の他の物質の存在を除外する)及び「含むが、からなるものではない」(すなわち、追加の他の物質、特徴又はステップの存在を必要とする)を包含し、前者がより好ましい。
【0036】
本明細書で使用される場合、「1つ(a)」又は「1つ(an)」という単語の使用は、「1つ(one)」を意味し得るが、「1つ以上(one or more)」、「少なくとも1つ(at least one)」及び「1つ又は1つ以上(one or more than one)」の意味とも一致する。
【0037】
以下では、添付の図面の簡単な説明を行う。図面は、本発明をより詳細に説明するためのものである。しかしながら、本発明の範囲をこれらの具体的に例示された実施形態のみに限定することは意図されていない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】アフリベルセプトの様々な製剤(それぞれ115mg/ml)及び25℃で8週間貯蔵した後の凝集体形成に対するそれらの影響を示す表である。
【
図2】アフリベルセプトについての異なる緩衝液/賦形剤のスコア寄与を示す図である。各緩衝液/賦形剤のスコアは、凝集の減少に対するその効果(凝集体の%)を表す。スコアの寄与が低いほど、タンパク質の安定性に対する効果が良好である。
【実施例】
【0039】
以下では、本発明の様々な実施形態及び態様を示す具体例を提示する。しかしながら、本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態によって範囲が限定されるものではない。実際、本明細書に記載されたものに加えて、本発明の様々な変更は、前述の説明、添付の図面及び以下の実施例から当業者には容易に明らかになるであろう。全てのそのような変更は、添付の特許請求の範囲内に入る。
【0040】
[実施例1]
様々なアフリベルセプト製剤における凝集体形成
この研究の目的は、アフリベルセプト安定性に対する異なる緩衝剤及び賦形剤(糖、酸化防止剤、粘度低下剤(VRA))の効果を評価することであった。簡単に説明すると、試料の調製には、pH調整、タンパク質材料の目標濃度を超える濃縮(50K Amicon(登録商標)Ultra遠心濾過チューブ(Merck Millipore)を使用し、150mg/mLの濃度に達するまで遠心分離する)、及び賦形剤ストックによる目標濃度(115mg/ml)までの希釈が含まれていた(
図1参照)。さらに、試料を25℃で8週間温度ストレス条件に曝露した。25℃で8週間後及び前(t
0)に採取した試料をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析並びに凝集生成物及び分解生成物の評価に使用した。
【0041】
SEC分析のために、SECカラム(200Åの孔径、1.7mmのビーズ径及び4.6mm×150mmのカラム寸法)を備えたWaters(登録商標)ACQUITY UPLCシステムで試料を40℃で分析した。試料搭載は0.75μlであった。移動相(50mMリン酸二水素ナトリウム及び400mM過塩素酸ナトリウム、pH6.0)の流速は0.4mL/分で、総ランタイムは5分であった。試料を150mMリン酸ナトリウム、pH7で1mg/mlに希釈し、注入前にオートサンプラー内で2~8℃に保持した。Empower 3ソフトウェアを用いてデータを分析した。記載されたカラム搭載での相対凝集体含有量測定(凝集体/モノマー)の変動は、0.1%(絶対値)であると推定された。
【0042】
結果は、t
0(温度ストレス曝露前)に存在する凝集体と比較した、25℃で8週間後(プルポイント;PP)の温度ストレス負荷された試料の凝集体生成物(%)の増加として提供され、
図1の表に示す。
【0043】
さらに、凝集の減少に対する個々の製剤成分(緩衝剤/賦形剤、
図1の表を参照)のスコア寄与を評価した。簡潔には、結果を線形回帰で評価し、賦形剤の寄与を解明した。この手法は、寄与が線形加法的であると仮定することに留意されたい。製剤成分を適合のための特徴として使用した(「ワンホット符号化」)。平均凝集体増加からの偏差(
図1の表のSEC AP列)を、一次関数を当てはめた応答として使用した。個々の製剤成分の適合係数は、それらのスコアとして定義され、値が低いほど、賦形剤は良好である。無緩衝液製剤は、緩衝液成分を有しないものとして処理した(「0寄与」)。陽性スコアは、無緩衝液製剤と比較して凝集体形成の増加を示し、陰性スコアは、無緩衝液製剤よりも凝集体形成が少ないことを示す。
【0044】
凝集に対する様々な製剤成分の個々の寄与を
図2に示す。図から分かるように、ヒスチジン緩衝液、無緩衝液、及び程度は低いがクエン酸緩衝液は、高濃度アフリベルセプト製剤のための好ましい緩衝液選択である。さらに、リジン、アルギニン、メチオニン又はプロリンなどの遊離アミノ酸の添加も一般に有利である。
【配列表】
【国際調査報告】