(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】区画および音響作動装置を備える細胞培養システム、ならびにその方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20240905BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240905BHJP
C12N 5/07 20100101ALI20240905BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12M1/00 C
C12N5/07
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514608
(86)(22)【出願日】2022-09-01
(85)【翻訳文提出日】2024-04-22
(86)【国際出願番号】 EP2022074275
(87)【国際公開番号】W WO2023031313
(87)【国際公開日】2023-03-09
(32)【優先日】2021-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524084045
【氏名又は名称】コリブリ エスエーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドゥミー,ガブリエル
(72)【発明者】
【氏名】クイリキーニ,アメリ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA27
4B029BB01
4B029DB19
4B029DG06
4B029DG10
4B029GB10
4B065AA90X
4B065BC50
4B065BD50
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、膜によって区切られているフロー区画および培養区画であって、膜は気体を透過し、かつ音響的に透過性である、フロー区画および培養区画と、フロー区画への少なくとも1つの入口および1つの出口と、培養区画への少なくとも1つの入口および1つの出口とを備えた培養室、ならびに超音波振動子である第1の要素と、反射体または第2の超音波振動子である対向する第2の要素とを備えた音響作動装置であって、この音響作動装置は、培養区画で音場を生成するように配置される、音響作動装置を備える、細胞培養システムに関する。本発明はまた、本発明の細胞培養システムを使用して細胞を培養するための方法に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養システム(10)であって、
培養室であって、
膜(13)によって区切られているフロー区画(11)および培養区画(12)であって、前記膜(13)は、気体を透過し、音響的に透過性である、フロー区画(11)および培養区画(12)と、
前記フロー区画(11)への少なくとも1つの入口(14a)および1つの出口(14b)と、
前記培養区画(12)への少なくとも1つの入口(15a)および1つの出口(15b)と
を含む、培養室、ならびに
超音波振動子である第1の要素(16a)および反射体または第2の超音波振動子である対向する第2の要素(16b)を少なくとも備える音響作動装置
を備え、
ここで、前記音響作動装置は、細胞を前記培養区画(12)中に維持するために、前記培養区画(12)で音場を生成するように配置される、
細胞培養システム(10)。
【請求項2】
前記培養区画(12)は、第1の端部(17)、前記第1の端部(17)に対向する第2の端部(18)、および前記第1の端部(17)と前記第2の端部(18)の間の主部(19)を備え、
前記培養区画(12)の前記主部(19)は、前記フロー区画(11)の内容積(11b)内部に少なくとも部分的に位置する、請求項1に記載の細胞培養システム(10)。
【請求項3】
前記培養区画(12)は、前記フロー区画(11b)の前記内容積(11b)内部にその全体が位置する、請求項2に記載の細胞培養システム(20)。
【請求項4】
前記音響作動装置と前記フロー区画(11)の前記内容積(11b)の間の距離は、500μm~5mmの範囲にある、請求項1から3のいずれかに記載の細胞培養システム(10)。
【請求項5】
前記音響作動装置の前記第1の要素(16a)と前記第2の要素(16b)の間の距離は、方程式(1)
【数1】
に従い、
式中、h
totは、前記音響作動装置の前記第1の要素(16a)および前記第2の要素(16b)間の距離であり、fは、使用される音響周波数であり、cは、前記音響作動装置の前記第1の要素(16a)および前記第2の要素(16b)間の液体中の音波の伝播速度であり、λは、前記音波の波長である、請求項1から4のいずれかに記載の細胞培養システム(10)。
【請求項6】
前記膜(13)は、栄養素を透過する、請求項1から5のいずれかに記載の細胞培養システム(10)。
【請求項7】
前記培養室の壁は、前記音響作動装置で少なくとも部分的に構成される、請求項1から6のいずれかに記載の細胞培養システム(10)。
【請求項8】
前記膜(13)は、ポリエチレングリコールおよび/またはポリジメチルシロキサンを含む、請求項1から7のいずれかに記載の細胞培養システム(10)。
【請求項9】
サンプリング入口を備える、請求項1から8のいずれかに記載の細胞培養システム(10)。
【請求項10】
前記音響作動装置は、複数の超音波振動子(16a、16c、16e、16g)を備える第1の要素と、複数の超音波振動子および/または反射体(16b、16d、16f、16h)を備える対向する第2の要素とをさらに備え、
前記第1の要素の前記複数の超音波振動子ならびに前記第2の要素の前記複数の超音波振動子および/または反射体は、音場を生成し、50μm~500μmの範囲にある距離で離間される少なくとも2つの位置で前記培養区画(12)中に培養細胞(20)を維持するように配置される、請求項1から9のいずれかに記載の細胞培養システム(10)。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかで定義される細胞培養システムのセットであって、前記細胞培養システムは、並列化されている、細胞培養システムのセット。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の細胞培養システム(10)を使用する、細胞を培養するための方法であって、
前記培養室の前記フロー区画(11)の前記入口(14a)から前記フロー区画(11)の前記出口(14b)へと第1の液体を流し、前記培養室の前記培養区画(12)の前記入口(15a)から前記培養区画(12)の前記出口(15b)へと第2の液体を流す工程と、
前記音響作動装置を用いて前記培養区画(12)で音場を生成する工程と、
前記培養室の前記培養区画(12)で少なくとも1つの細胞を導入する工程と、
前記培養区画(12)中に導入された前記少なくとも1つの細胞を維持する工程と
を含む、方法。
【請求項13】
前記音響作動装置の前記超音波振動子の励起周波数は、500kHz~15MHzの範囲にあり、励起振幅は、1W~30Wの範囲にある、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの細胞が維持される位置でキャビテーションを誘発するように前記音響作動装置を一時的に設定する工程をさらに含む、請求項12および13のうちの一項に記載の方法。
【請求項15】
前記キャビテーションを誘発するように前記音響作動装置を一時的に設定する工程は、前記音響作動装置の周波数を2MHz~3MHzの範囲に減少させ、振幅を200kHz~400kHzの範囲に増加させることを含む、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養システムおよびその方法に関する。特に、本発明は、フロー区画および培養区画を備えた培養室を備える細胞培養システムに関するものであり、この細胞培養システムは、音響作動装置をさらに備える。本発明は、培養区画に導入された少なくとも1つの細胞を音響作動装置を用いて維持することによって、そのような細胞培養システムを使用して細胞を培養するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体、幹細胞、ウイルスベクターなどのますます複雑な生物製剤が現代の薬局方において活用されている。これらの生物製剤は、化学合成によって、すなわち、いくつかの化学分子の反応を介してではなく、生細胞によって製造される。したがって、必要とされる量に達するには、これらの生細胞を大量に培養する必要がある。これらの生細胞は、通常は哺乳生物細胞株であり、哺乳生物細胞株用の従来から用いられている培養手段はバイオリアクターである。代替的に、昆虫細胞もバキュロウイルス発現ベクターシステム(baculovirus expression vector system)と併せて使用されている。バイオリアクターは、成長量での生体の培養を自動的に可能にする装置である。これらの装置は通常、撹拌、培養、酸素化、およびpH調整が行われる培養培地タンクを備える。生体は通常、生体の全成長周期が起こる培養培地に含まれる。
【0003】
しかし、これらのバイオリアクターは、酵母菌や細菌などの単細胞生物用に設計されており、多細胞生物の細胞培養への適合が不十分である。問題は、多細胞生物の細胞が脆く、それ自体単独で成長させるのに使用されていない。従来の哺乳動物細胞は通常、その随伴物(peers)に囲まれて、ヒトなどの良好に調整された生物において成長する。
【0004】
それに加えて、これらの多細胞生物に適合した生物生産能(bioproduction capacities)の多くは、悪環境下での浮遊培養に十分に適した細胞である細菌および酵母菌のバイオリアクターから発展してきた。対照的に、多細胞生物からの細胞、特に哺乳動物細胞は接着細胞であり、つまり、これらの細胞は通常、基質に接着して成長する。したがって、本分野では、生物学の需要と現実との間に技術的な溝が存在する。
【0005】
接着培養技術は、通常は単純な検証済みの培養手段を並行して繰り返すことによって発達してきた。例えば、いくつかの技術は、接着支持体、および培養表面の多層/垂直スタッキングを使用する。しかし、これらの技術では、生物製剤の需要を満たすのに十分な生産が可能とならない。
【0006】
抗体は歴史上最初に大規模生産された生物製剤であり、哺乳動物細胞バイオリアクターに係る文献の多くは、抗体に直属する。しかし、従来のバイオリアクターは、関心対象の生物製剤を生産することができるすべての細胞株に適しておらず、これらのバイオリアクターは例えば浮遊培養などに適合しないため、いつくかの適合化を行わなければならない。
【0007】
第1の解決策は、効率を上げるために、懸濁液中での培養に適合した細胞株を設計することである。接着細胞株から開始して、培養条件および供給条件を調節することによって浮遊成長に適合する突然変異体クローンを生成することは一般的に可能である(Berg DTらによる,High-level expression of secreted proteins from cells adapted to serum-free suspension culture.Biotechniques.1993 Jun;Mcallister,R.らによる,Adaptation of Recombinant HEK-293 Cells to Growth in Serum Free Suspension,Animal Cell Technology:Products from Cells,Cells as Products:Proceedings of the 16th ESACT Meeting April 25~29頁,1999,Lugano,Switzerland)。そのうえ、通常の浮遊バイオリアクター(例えば米国特許第10640741号明細書などの、細菌培養に由来するシステム)を使用することができる。こうすることで、表面成長に制限されない非常に多くの細胞の容積成長が可能となる。培養の最後に、所望の生物製剤を培養混合物から除去することが必要となる。
【0008】
しかし、特に、細胞株が元の接着細胞系統から選択、試験、および安定化されなければならない単一のオリジナルクローンから発せられなければならないため、浮遊適合性の細胞株を得るためのプロセスは冗長かつ高コストである(Adaptation of Recombinant HEK-293 Cells to Growth in Serum Free Suspension.Mcallister R.らによる,1999,Animal Cell Technology:Products from Cells,Cells as Products.Springer,Dordrecht;Evolution from adherent to suspension:systems biology of HEK293 cell line development,Malm,M.らによる,Sci Rep 10,18996,2020)。このプロセスは、完了までに複数年かかり得る。一度安定した細胞株が設計されると、接着細胞の浮遊培養に伴う問題、すなわち、これらの接着細胞が非常に容易に互いに凝集する傾向があること、が依然として存在し、これは避けるべきことである(Scalable Production of AAV Vectors in Orbitally Shaken HEK293 Cells,Blessing Dらによる,Mol Ther Methods Clin Dev.2018 Nov 22)。
【0009】
別の解決策は、非常に大きな量の接着細胞の培養の表面フットプリント(surface footprint)を減少させるために、容積培養を可能にする担体を使用することである。容積アプローチにおいて成長支持体を提供することは、細胞をマイクロ担体に接着させることによって行うことができる。例えば米国特許第20140356949号公報は、ガスプラズマ処理で改質された1つ以上の外面を有する基質と外面上の1つ以上の構造化されたインデント(structured indentations)とを含む人工多機能性幹細胞の拡大のための担体を開示する。そのような担体は次に、通常の浮遊バイオリアクターで使用される。
【0010】
別のアプローチは、3次元空間で多くの表面をもたらすフラクタル・スキャフォールド(fractal scaffold)である、繊維性マトリックスまたはポリマー発泡体などの2.5次元の成長支持体に細胞を接着させることであり得る(Valkama,A.らによる,Optimization of lentiviral vector production for scale-up in fixed-bed bioreactor,Nature,Gene Therapy 25,39~46頁,2018)。
【0011】
しかし、マイクロ担体を使用する場合、または固体基質の場合、この基質の存在によって容積損失が誘発される。このため、担体ベース培養は、等しい容積のために、その浮遊等価物よりも低い力価を産出し、これは改良を低減する。さらに、接着細胞株用の支持体の使用はしばしば、灌流バイオリアクターの場合における気体および栄養素の分配の不均一性、ならびに成長支持体が占める空間による培養密度の低下を誘発する。
【0012】
上述の既存の解決策は、単細胞微生物の培養から受け継がれた既に開発されているバイオリアクターの使用に向けられている。しかし、哺乳動物細胞は根本的に異なるものであり、高度に制御された環境を必要とする。特に、通常の撹拌タンクバイオリアクターの使用において存在するせん断速度は、気体と栄養素の良好な分配および混合において重要であるが、これらの細胞株には非常に致命的である。
【0013】
過去には、分子または細胞をリアクター中に保持することができるため、音響装置を使用するリアクターが開発されてきた。例えば米国特許出願第2016/0369236号公報は特に、細胞培養から細胞を連続して収集するためのプロセスであって、細胞培養を定位置に保持するのに使用される多次元定常波を生成するための装置を含むバイオリアクターで行われる、プロセスを開示する。栄養液流は、細胞培養物を通過してバイオリアクターを通って循環し、細胞培養物から生成された生物学的生成物を収集する。米国特許出願第20180298323号公報および国際出願第2019140019号公報は、音響チャンバまたはリアクターと、多次元音響定常波を音響チャンバ内に作製するための超音波振動子とを備えた、分子または細胞を保持するのを助ける音響装置を開示する。米国特許出願第20170175073号公報は、バイオリアクターと、バイオリアクターの下流にあり、バイオリアクターに流体接続された音響泳動分離器(acoustophoretic separator)を有する一次清澄化ステージ(primary clarification stage)とを含むシステムを開示している。そのようなシステムでは、音響泳動分離器は、フローチャンバと、超音波振動子と、対向する反射体とを備える。これらは、フローチャンバ内に多次元定常波を生成することを可能にする。
【0014】
上記技術水準では、音響作動は概して、関心対象の生体製剤が培養される容積に直接接続される。細胞を高密度で長時間培養することを可能にするために、次に培養培地および気体を取替えなければならない。しかし、すべての液体循環がその利点を留めるために音場によって妨げられなければならないため、これは音場の強度に条件を課す。さらに、液体層の音響作動は、この液体で一般的に音響ストリーミング(acoustic streaming)と称される大規模な再循環を生成する(Jacob S.Bach and Henrik Bruus,Bulk-driven acoustic streaming at resonance in closed microcavities,Phys.Rev.E 100,023104,7 August 2019)。この流体運動は、脆弱な細胞にさらなるせん断を引き起こす可能性があり、より悪いことに、音場が充分に強くない場合に細胞をそれらの音響位置から落とす可能性がある。
【0015】
したがって、培養細胞に影響を及ぼすであろうさらなるせん断または任意の他の機構を作成することなく、培養培地および気体の取替えを促進するシステムおよびその方法が必要とされている。本発明は、細胞の培養および生体製剤の生成のための拡張可能な技術を提供しながら、細胞が培養される環境におけるいかなる破壊も防止することを目的とするため、先行技術の前述の欠点を克服しようとするものである。
【発明の概要】
【0016】
この趣旨で、本発明は、細胞培養システムであって、培養室であって、膜によって区切られているフロー区画および培養区画であって、膜は、気体透過性であり、音響透過性である、フロー区画および培養区画と、フロー区画への少なくとも1つの入口および1つの出口と、培養区画への少なくとも1つの入口および1つの出口とを含む、培養室、ならびに超音波振動子である第1の要素および反射体または第2の超音波振動子である対向する第2の要素を少なくとも備える音響作動装置を備え、ここで、音響作動装置は、細胞を培養区画中に維持するために、培養区画で音場を生成するように配置される、細胞培養システムを開示する。
【0017】
好都合には、細胞培養システムの培養区画は、第1の端部、第1の端部に対向する第2の端部、および第1の端部と第2の端部との間の主部を備え、培養区画の主部は、フロー区画の内容積内部に少なくとも部分的に位置する。
【0018】
好都合には、細胞培養システムの培養区画は、フロー区画の内容積内部にその全体が位置する。
【0019】
好都合には、音響作動装置とフロー区画の内容積との間の距離は、500μm~5mmの範囲にある。
【0020】
好都合には、音響作動装置の第1の要素と第2の要素との間の距離は、方程式(1)
【0021】
【数1】
に従い、
式中、h
totは、音響作動装置の第1および第2の要素間の距離であり、fは、使用される音響周波数であり、cは、音響作動装置の第1および第2の要素間の液体中の音波の伝播速度であり、λは、音波の波長である。
【0022】
好都合には、細胞培養システムの膜は、栄養素を透過する。
【0023】
好都合には、細胞培養システムの培養室の壁は、音響作動装置で少なくとも部分的に構成される。
【0024】
好都合には、細胞培養システムの膜は、ポリエチレングリコールおよび/またはポリジメチルシロキサンを含む。
【0025】
好都合には、細胞培養システムは、サンプリング入口を備える。
【0026】
好都合には、細胞培養システムの音響作動装置は、複数の超音波振動子を備える第1の要素と、複数の超音波振動子および/または反射体を備える対向する第2の要素とをさらに備え、第1の要素の複数の超音波振動子ならびに第2の要素の複数の超音波振動子および/または反射体は、音場を生成し、50μm~500μmの範囲にある距離で離間される少なくとも2つの位置で培養区画中に培養細胞を維持するように配置される。培養区画中の分離された培養細胞は、培養細胞の分離された凝集体に対応し得る。
【0027】
本発明はまた、上記のいずれかで定義される細胞培養システムのセットであって、細胞培養システムが、並列化されている、細胞培養システムのセットを開示する。
【0028】
本発明はまた、先に記載した、細胞培養システムを使用して細胞を培養するための方法であって、培養室のフロー区画の入口からフロー区画の出口へと第1の液体を流し、培養室の培養区画の入口から培養区画の出口へと第2の液体を流す工程と、音響作動装置を用いて培養区画で音場を生成する工程と、培養室の培養区画で少なくとも1つの細胞を導入する工程と、培養区画中に導入された少なくとも1つの細胞を維持する工程とを含む、方法を開示する。
【0029】
好都合には、細胞を培養するための方法における音響作動装置の超音波振動子の励起周波数は、500kHz~15MHzの範囲にあり、励起振幅は、1W~30Wの範囲にある。
【0030】
好都合には、細胞を培養するための方法は、少なくとも1つの細胞が維持される位置でキャビテーションを誘発するように音響作動装置を一時的に設定する工程をさらに含む。
【0031】
好都合には、キャビテーションを誘発するように音響作動装置を一時的に設定する工程は、音響作動装置の周波数を2MHz~3MHzの範囲に減少させ、振幅を200kHz~400kHzの範囲に増加させることを含む。
【図面の簡単な説明】
【0032】
本発明は、いくつかの例示的な実施形態の以下の説明およびその添付の図面からより良く理解され、その様々な特性および利点が明らかになる。
【
図1】
図1は、音響作動装置、フロー区画および培養区画を備える細胞室を備える細胞培養システムの断面を示す。
【
図2】
図2は、音響作動装置と、フロー区画および培養区画を備える細胞室とを備える細胞培養システムの断面を示し、培養区画の主部は、フロー区画の内容積内部に位置する。
【
図3】
図3は、音響作動装置と、フロー区画および培養区画を備える細胞室とを備える細胞培養システムを示し、培養区画は、フロー区画の内容積内部にその全体が位置する。
【
図4】
図4は、音響作動装置と、フロー区画および複数の培養区画を備える細胞室とを備える細胞培養システムを示す。
【
図5】
図5は、音響作動装置と、フロー区画および培養区画を備える細胞室とを備える細胞培養システムの断面を示す。
【
図6】
図6は、
図1に記載される細胞培養システムのA軸に沿った断面を示す。
【
図7】
図7は、
図5に記載される細胞培養システムのA軸に沿った断面を示す。
【0033】
発明の詳細な説明
本明細書において、本発明は実施例を通して説明される。しかし、本発明はこれらの実施例に制限されない。
【0034】
図1は、フロー区画(11)および培養区画(12)を備える培養室を備える細胞培養システム(10)を示し、培養区画(12)は、第1の端部(17)、対向する第2の端部(18)、および第1の端部(17)と第2の端部(18)との間の主部(19)を有する。気体を透過する膜(13)は、フロー区画(11)を培養区画(12)から分離する。
図1に記載の培養室はまた、フロー区画(11)への入口(14a)および出口(14b)と、培養区画(12)への入口(15a)および出口(15b)とを備える。細胞培養システム(10)はまた、超音波振動子である第1の要素(16a)および反射体である対向する第2の要素(16b)を備える音響作動装置を備える。音響作動装置の第1および第2の要素は、培養区画で音場を生成するように配置されることができる。そのような音場は、細胞(20)を培養区画(12)中に維持することを可能にし、細胞は前進的に互いに接着し、これにより必要な成長支持体を互いに供給し合う。
図1において、音響作動装置の第1および第2の要素はフロー区画上に固定されるが、例えば培養区画の第1の端部および第2の端部上など、他の場所に位置する場合がある。好ましくは、音響作動装置の要素は、細胞(20)が膜(13)に接着することなく、したがって懸濁液中に維持されるように、例えば重心などの、培養区画の中心で音場を生成するように配置される。
【0035】
培養区画中の細胞は機械的な点に結合されておらず、音響作動装置によって作成される音波の相を調節することによって培養区画の容積中で操作され得る。例えば、音波の相を調節することは、細胞をサンプル出口に移動させることを可能にし、サンプル出口は、培養区画の容積に接続される培養区画の入口(15a)もしくは出口(15b)または別の出口(示されない)に対応し得る。
【0036】
本発明のフロー区画および培養区画によって、容積は、フロー区画と培養区画との間の区切りで、壁によって物理的に範囲が定められるか、膜によって範囲が定められる。フロー区画と培養区画との間の区切りは膜(13)によって構成されるのが好ましいが、そのような区切りは、壁を部分的に含み得る。好ましくは、これは、
図1に記載の細胞培養システムに限定されず、これらの壁は、生体適合性であり、分子をそれらが接触している液体中に放出せず、音響的に透過性であり、かつ注射または成形によって製造可能である。例えば、そのような壁は、ポリプロピレンまたはポリスチレンを含む素材で作られるか、光造形用に適合化されたポリマー樹脂から得られてもよい。
【0037】
入口(14a)は、液体をフロー区画(11)内に導入することを可能にし、次いで、液体は、出口(14b)を通って放出される。フロー区画に導入される液体は、気体または栄養素およびこれらの組合せを含んでもよい。入口(15a)は、液体を培養区画(12)内に導入することを可能にし、次いで、液体は、出口(15b)を通って放出される。培養区画に導入される液体は、機体または栄養素およびこれらの組合せを含んでもよい。特に、培養区画(12)の入口(15a)は、培養区画内に1つ以上の細胞を導入することを可能にする。培養区画(12)の出口(15b)は、以前に導入され、培養区画内で維持および培養された可能性がある1つ以上の細胞を収集することを可能にする。「培養細胞」とは、培養区画(12)内に維持されており、例えば、増殖、分化、または成熟を受け得る細胞を意味する。
【0038】
図1において、培養区画(12)は、第1の端部(17)と、第1の端部に対向する第2の端部(18)と、第1の端部と第2の端部との間の主部(19)とを有する。主部(19)は、
図1の両矢印によって示されるように、第1の端部から第2の端部まで延在し、第1の端部(17)および第2の端部(18)ならびに入口および出口(15a)および(15b)を除いて、培養区画に対応する。培養区画(12)の主部(19)は、フロー区画(11)の内容積(11b)内に部分的に位置し、一方、培養区画の第1の端部(17)および第2の端部(18)は、フロー区画の内容積内に位置しない。好ましくは、培養区画とフロー区画との間の交換表面は、これらの区画を分離する膜に対応し、フロー区画および培養区画内の液体間の交換を最大にするために、可能な範囲で最大である。必須ではないが、培養区画の少なくとも主部がフロー区画(11)の内容積(11b)内部に部分的に位置するとき、培養区画とフロー区画との間の交換表面は増加する。
【0039】
図1において、第1のセンサ群(21)はフロー区画(11)内に位置し、第2のセンサ群(22)は培養区画(12)内に位置する。これらのセンサ群は、対応する区画内の異なる位置に配置することができる。代替的に、第1および/または第2のセンサ群は、フロー区画または培養区画の入口および/または出口に位置してもよい。さらに、センサの群は、区画外部に位置する1つ以上のコントローラに接続され得る。センサの群とコントローラとの間の接続は、ワイヤを含んでもよく、またはワイヤレスであってもよい。センサ(21)および(22)の群は、pH、温度、溶存酸素、二酸化炭素、圧力、流束速度、せん断速度などをモニタリングすることができる。
【0040】
図1の細胞培養システム(10)は、少なくとも1つの細胞(20)を含む液体を、入口(15a)を通して培養区画(12)内に導入し、少なくとも1つの細胞を、音響作動装置の第1および第2の要素(16a)および(16b)によって培養区画内に維持することを可能にする。少なくとも1つの細胞(20)は、フロー区画の入口(14a)を通して供給される液体による培養、分化、または成熟のための気体を提供され、気体は膜(13)を通過する。膜(13)は、入口(14a)からの液体の供給によってフロー区画(11)内で生成された乱流(11a)が培養区画(12)内に送られるのを防止する。実際に、乱流(11a)は、培養細胞の環境においてせん断を生成し、細胞に機械的または生物学的ストレスを引き起こし、細胞の増殖、分化、または成熟に影響を及ぼす。最悪の場合、培養される細胞に応じて、せん断はいくつかの細胞を死滅させる。特に、本発明の細胞培養システムは、培養区画の内容物を混合するためのインペラまたはブレードを必要としない。
【0041】
したがって、入口(14a)を通して乱流を生成する供給速度で導入される液体は、フロー区画に続けて導入され得、膜は乱流が培養区画に送られるのを防ぐ。さらに、供給速度が生成され得る乱流に制限されないため、フロー区画における液体の取替えをより早く行うことができ、培養区画に供給される気体は、より多くなり、かつより精密かつ/または早く調整されることができる。さらに、フロー区画に導入される液体は、細胞に害を与えることなく泡を含み得る。泡は、フロー区画中に、例えばフロー区画の入口を通して導入された液体内に、導入され得る。泡は、フロー区画中に導入される液体とフロー区画中に既に存在する液体との間の気体交換を増加させ得る。したがって、フロー区画内の気体交換の増加はまた、フロー区画と培養区画との間の気体交換を増加させ得る。音響作動下で振動するときに高いせん断力を生成するため、音響操作時の泡は、通常は避けるべきものである。しかし、本発明の細胞培養システムによると、膜は、あらゆるせん断力が培養区画および細胞に送られるのを防ぐ。
【0042】
さらに、フロー区画中の液体の取替えをより早く行うことができるため、温度、pH、分解される酸素および炭素、ならびにフロー区画および培養区画中の化学物質の濃度を、より精密かつ/または早く調整することができる。本発明の培養システムは、培養区画中の流束速度を変えることを回避すると同時に培養区画における液体中の気体内容物を取替えることを可能にする。
【0043】
図1に示されないが、
図1に記載の三次元の細胞培養システムにおいて、特に培養室は、直円柱、正方形柱、または任意の他の形状の球体形状を有してもよい。培養室はまた、直方体などの直方体形状を有してもよく、それにより、音響作動装置がその上に固定され得る平らで平行な表面を含む。
【0044】
図2は、フロー区画(11)および培養区画(12)を備える培養室を備える細胞培養システム(20)を示し、培養区画は、第1の端部(17)および対向する第2の端部(18)ならびに培養区画の第1の端部と第2の端部との間の主部(19)を有する。気体を透過する膜(13)は、フロー区画(11)を培養区画(12)から分離する。
図2に記載の培養室はまた、フロー区画への入口(14a)および出口(14b)ならびに培養区画への入口(15a)および出口(15b)を備える。細胞培養システムはまた、超音波振動子である第1の要素(16a)および反射体である対向する第2の要素(16b)を備える。第1および第2の要素は、培養区画で音場を生成することができるように配置される。
図2において、培養区画の第1の端部、第2の端部、および主部は、フロー区画(11)の内容積(11b)内部に置かれる。細胞培養システムはまた、
図1のように、センサ(21)および(22)の類似の群を含み、群は、フロー区画(11)および培養区画(12)に置かれる。
【0045】
図3は、第1の要素(16a)および対向する第2の要素(見えない)を備える音響作動装置ならびにフロー区画(11)および培養区画(12)を備える培養室を備え、培養区画は、フロー区画(11)の内容積(11b)内部にその全体が位置する。
図3は、フロー区画内部の培養区画を例示するために、細胞培養システムの一部のみを示す。膜(13)は、フロー区画の容積と培養区画の容積とを分離する。
図3において、フロー区画は直円柱の形状を有し、これは同様に直円柱の形状を有する培養区画を取り囲み、フロー区画および培養区画は同じ軸を共有する。したがって、フロー区画(11)は気体を含む液体と共に提供され得、これにより、気体が細胞を供給するために培養区画中の液体に膜(13)を介して送られる。
【0046】
図4は、第1の要素(16a)および対向する第2の要素(見えない)を備える音響作動装置ならびにフロー区画(11)および培養区画(12)を備える細胞室を備える細胞培養システム(40)を示し、培養区画は、フロー区画の軸に平行な軸を有する複数の直円柱を備える。培養区画の直円柱はすべて、フロー区画(11)の内容積(11b)内部にその全体が位置する。膜(13)は、フロー区画の容積と培養区画の複数の直円柱の容積とを分離する。
図4では、フロー区画は、培養区画の複数の直円柱を取り囲む。そのような実施形態は、フロー区画に提供される液体のみを用いて細胞培養に必要な気体を供給しながら、異なる種類の細胞を同時に成長させることを可能にする。培養区画の各直円柱は、入口および入口に接続されるか、同じ入口および出口を共有してもよい。
【0047】
図5は、フロー区画(11)および培養区画(12)を備える培養室を備える細胞培養システム(50)を示し、培養区画は、第1の端部(17)および対向する第2の端部(18)ならびに培養区画の第1の端部と第2の端部との間の主部(19)を有し、両矢印によって示される。気体を透過する膜(13)は、フロー区画(11)を培養区画(12)から分離する。言い換えれば、フロー区画と培養区画との間の界面は、少なくとも部分的に膜(13)で作製される。
図5に記載の培養室はまた、フロー区画への入口(14a)および出口(14b)と、培養区画への入口(15a)および出口(15b)とを含む。細胞培養システムはまた、超音波振動子である第1の要素(16a)と、反射体である対向する第2の要素(16b)とを備える音響作動装置を備える。第1および第2の要素は、培養区画内に音場を生成することができるように配置される。
図5では、培養区画の第1の端部および第2の端部は、それらとフロー区画(11)との間の界面を構成しないが、両矢印に沿って延在する培養区画の主部は、フロー区画に面する、すなわち、言い換えると、フロー区画と主部との間の界面を構成する。細胞培養システムはまた、
図1と同様のセンサ(21)および(22)の群を含み、センサの群は、それぞれフロー区画(11)および培養区画(12)に配置される。
図1および
図2に記載の細胞培養システムとは異なり、培養区画の主部(19)は、フロー区画(11)の内容積(11b)内部に位置せず、横並びでフロー区画に面する。言い換えれば、フロー区画と培養区画とは、培養区画の主部の少なくとも一部の間で隣接しているか、または隣り合っている。
【0048】
図5に記載の細胞培養システムの要素は、作動装置が培養区画の中心で音場を生成するように配置され、これにより、細胞(20)は、膜(13)に接着することなく培養区画(12)中に維持され、したがって、懸濁液中に維持される。
【0049】
図5に記載の細胞培養システム(50)において、矢印(21)に沿って表される培養区画の主部は、フロー区画(11)の内容積(11b)内部に置かれないが、フロー区画に面する。培養区画の主部とフロー区画との間の界面は、少なくとも部分的に、膜(13)
からなるか、または膜(13)を含む。
【0050】
図6は、
図1に記載される細胞培養システムのA軸に沿った断面を示す。直円柱の球体形状を有することが
図6に表されているが、本発明の細胞培養システムは、そのような直円柱形状に限定されず、正方形柱または任意の他の形状などの他の形状が可能である。
図6に記載の細胞培養システムは、超音波振動子である第1の要素(16a)および反射体または別の超音波振動子である対向する第2の要素(16b)を備える音響作動装置を備える。第1および第2の要素は、培養区画(12)中で音場を生成するように配置される。
図6において、培養区画(12)は、フロー区画(11)の内容積(11b)内部に置かれる。膜(13)は、細胞(20)が音響作動装置によって維持される、培養区画(12)中に送られている液体の供給によってフロー区画(11)中で生成される、乱流(11a)を防止する。
【0051】
図7は、
図5に記載される細胞培養システムのB軸に沿った断面を示す。直円柱の球体形状を有することが
図7に表されているが、本発明の細胞培養システムは、そのような直円柱形状に限定されず、正方形柱または任意の他の形状などの他の形状が可能である。
図7に記載の細胞培養システムは、超音波振動子である第1の要素(16a)および反射体または別の超音波振動子である対向する第2の要素(16b)を備える音響作動装置を備える。第1および第2の要素は、培養区画(12)中で音場を生成するように配置される。
図7において、培養区画はフロー区画に隣接し、それらの間の界面は、少なくとも部分的に、膜(13)をからなるか、または膜(13)を含む。膜(13)は、細胞(20)が音響作動装置によって維持される、培養区画(12)中に送られている液体の供給によってフロー区画(11)中で生成される、乱流(11a)を防止する。
【0052】
図1から
図7の膜(13)は音響的に透過性であり、すなわち、その音響インピーダンスは、培養区画中の液体と同じである。特定の実施形態では、膜はまた、栄養素を透過し、これは、膜を介して培養区画中に拡散するようにフロー区画中の栄養素を導入することを可能にする。膜は可撓性であり得、したがって、培養区画はフロー区画の内容積中に浮遊するバッグであり得る。好ましくは、膜(13)は、生体適合性の材料で作製される。膜(13)は、ポリエチレングリコールおよび/もしくはポリジメチルシロキサン(PDMS)またはポリエチレングリコールおよび/もしくはポリジメチルシロキサン(PDMS)を含んでもよい。
【0053】
図1、
図2、および
図5において、主部(19)は、第1の端部(17)から対向する第2の端部(18)に延在し、矢印によって表される。言い換えると、第1の端部(17)および対向する第2の端部(18)は、培養区画を、細胞培養システムの外壁またはフロー区画から、またはいくつかの実施形態では作動装置からさえも分離する、少なくとも膜(13)の壁または膜(13)の一部からなるか、またはそれを含む。主部(19)は、第1の端部から対向する第2の端部に延在し、少なくとも部分的に膜からなる壁と培養区画の内容積の両方を表す。培養区画の入口部分(15a)および出口部分(15b)は、主部の一部ではない。言い換えれば、主部は、この培養区画ならびに培養区画の入口および出口の側面に位置する端部を除いて、培養区画に対応する。
【0054】
好ましくは、音響作動装置の第1の要素と第2の要素との間の距離は、使用される音響周波数に依存し、方程式(1)
【0055】
【数2】
に従い、
式中、h
totは、音響作動装置の第1の要素と第2の要素との間の距離であり、fは、使用される音響周波数であり、cは、音響作動装置の第1の要素と第2の要素との間の液体中の音波の伝播速度であり、λは、音波の波長である。音響作動装置の第1の要素と第2の要素との間の距離が方程式(1)に従うとき、超音波振動子によって生成される音波および反射体によって反射される波は、音場のより精密な制御を用いて培養区画中に細胞を維持するために音場を生成するように、改良された精度で共鳴することができる。また、音響作動装置の第1の要素と第2の要素との間の距離が方程式(1)に従うとき、超音波振動子によって生成される音波および反射体によって反射される波は、増加した振幅を有し得、圧電振動子を作動させる必要性を減らす。
【0056】
好ましくは、音響作動装置の超音波振動子に隣接するフロー区画の壁の厚みは、使用される音響周波数に依存し、方程式(2)
【0057】
【数3】
に従い、
式中、h
wallは、音響作動装置の超音波振動子に隣接するフロー区画の壁の厚みであり、fは、使用される音響周波数であり、cは、フロー区画の壁における音波の伝播速度であり、λは、音波の波長である。フロー区画の壁の厚みが方程式(2)に従うとき、生成される音波は、影響されることなく壁を介して送られ、これにより、細胞を培養区画中に維持するために生成される音場のより精密な制御が可能になる。
【0058】
好ましくは、本発明の細胞培養システムは、1ミリリットル~1000リットル、より好ましくは200リットル~1000リットルの、フロー区画および培養区画の総容積を含む。1mL~250mLの総容積の細胞培養システムは特に、パラメトリック探索(parametric exploration)または並行実験(paralleling experiment)のために、プロセスを最適化するために適合化される。1L~80Lの総容積の培養システムは特に、前臨床生成(preclinical production)、動物試験、または小規模な治療のために適合化される。150L以上の総容積の培養システムは特に、産業的な生成および臨床試験遺伝子治療(clinical trials gene therapy)のために適合化される。
【0059】
好ましくは、本発明の超音波振動子は、PZTセラミックスなどの圧電セラミックスを含むが、本発明は、PZTセラミックスに限定されない。本発明のシステムによれば、100kHz~20MHzおよび好ましくは500kHz~15MHzの範囲にある励起周波数が、超音波振動子によって適用される。さらに、励起周波数は、1W~1000Wの範囲にある。より具体的には、励起周波数は、最低1リットルあたり1.5Wである。したがって、1リットルの細胞培養システムの場合、励起周波数は1.5W~30Wであり、10リットルの細胞培養システムの場合、励起周波数は15W~200Wであり、および100リットルの細胞培養システムの場合、励起周波数は150W~1000Wである。音響作動装置の超音波振動子はまた、細胞培養システムのフロー区画の形状に適合できるように、可撓性であり得る。
【0060】
例えば、音響作動装置の第1の要素または第2の要素の超音波振動子の典型的な大きさは、70×70ミリメートルであり、厚みは周波数に依存し、4MHzの周波数で0.5mmであり、2MHzの周波数で1mmであり、および1MHzの周波数で2mmである。
【0061】
音響作動装置の第2の要素の反射体は、培養区画中の培地と有意なインピーダンスブレイク(impedance break)を有する。したがって、例えば生物医学産業で使用されるステンレス鉄316もしくは鉄などの、8g/cm3の密度、5521m/秒の音速、および44.2MPa・s/m3の音響インピーダンスを有する鉄、または2.7g/cm3の密度、6108m/sの音速、および16.5MPa・s/m3の音響インピーダンスを有するアルミニウム、などの高い音響インピーダンスを有する素材が好ましい。
【0062】
好ましくは、膜の厚みは、50μm~2μmである。好ましくは、膜の気孔の大きさは、0.2μm~4μmの範囲にあり、これにより、培養細胞が培養区画から出るのを防ぐ。
【0063】
好ましくは、センサは、複数のパラメータをモニタリングし、パラメータの閾値を超えると警告するように構成される。例えば、pHは6~8、温度は30℃~40℃、分解される酸素は0mg/L~20mg/L、二酸化炭素は0mg/L~100mg/L、圧力は0バール~1バール、および流束速度は0L/分~20L/分、の範囲にあるべきである。
【0064】
本明細書に開示される他の実施形態と組み合わされ得る、特定の実施形態では、音響作動装置の第1の要素および/または第2の要素は、培養区画の壁の中に、例えばフロー区画または培養区画の壁の中に統合されてもよい。代替的に、音響作動装置は、培養区画のフロー区画の壁の一部を構成し得る。
【0065】
本発明の細胞培養システムで培養される細胞は、例えばシアノバクテリアなどの細菌、例えば藻類などの植物細胞、例えば、間葉系幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、造血幹細胞、Tリンパ球(cart-T)、ヒト胚性腎細胞(HEK)などの昆虫細胞もしくは哺乳動物細胞などの動物細胞(ヒトまたは非ヒト)、またはその他のものであり得る。ヒト胚性腎細胞の場合、これらは必ず、それらが由来する胚を破壊することなく得られ、ヒトの発生過程を誘発するのに適さない。
【0066】
本発明のシステムは、システムのセットとして本発明の他の類似のシステムと関連付けられ、システムは、システムの全体的なセット全体の収容力を増加させるために、平行化される。好ましい実施形態では、これらのシステムは、それらが積み重ねられ、特にそれらが占める空間を最小限にすることを可能にするように、直方体形状を有する。システムのセットにおいて、センサの群は、1つ以上のコントローラに接続されることで、システムの全体的なセットまたはシステムのセットのシステムのうちの特定のシステムを管理することができる。
【実施例】
【0067】
特定の実施例では、細胞培養システムは、3つの超音波振動子を備える第1の要素と、3つの反射体を備える対向する第2の要素とを備える音響作動装置を備え、各反射体は、培養区画で音場を生成することができるように、超音波振動子に対向している。超音波振動子および反射体の大きさは、70×70mmであり、交互に配置されて210mmの長さにわたる。フロー区画の壁の厚みは、方程式(3)
【0068】
【数4】
に従い、
式中、hはフロー区画の壁の厚みであり、fは使用される音響周波数であり、cはフロー区画の壁における音波の伝播速度であり、λは壁を含む素材における音波の波長である。
【0069】
本実施例では、膜は、液体乱流のフロー区画から培養区画への伝搬を防ぎ、ポリジメチルシロキサン(PDMS)製であるが、他の素材を膜に使用してもよい。
【国際調査報告】