(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】CO2固定性好熱性細菌の増殖の増加
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20240905BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240905BHJP
C12P 7/02 20060101ALI20240905BHJP
C12P 7/24 20060101ALI20240905BHJP
C12P 7/40 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12N15/09 Z
C12P7/02
C12P7/24
C12P7/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514614
(86)(22)【出願日】2022-09-07
(85)【翻訳文提出日】2024-05-02
(86)【国際出願番号】 EP2022074870
(87)【国際公開番号】W WO2023036823
(87)【国際公開日】2023-03-16
(32)【優先日】2021-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522246588
【氏名又は名称】ダンマールクス・テクニスケ・ウニヴェルシテート
【氏名又は名称原語表記】DANMARKS TEKNISKE UNIVERSITET
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】ニールセン,アレックス トフトゴー
(72)【発明者】
【氏名】イェンセン,トアビョルン エルショイ
(72)【発明者】
【氏名】アクセルセン,アマリー メルトン
(72)【発明者】
【氏名】レードル,ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】ブレンドム,セバスチャン スヴェン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AC02
4B064AC03
4B064AC04
4B064AC31
4B064AD03
4B064AD04
4B064AD05
4B064AD06
4B064CA02
4B064CA19
4B064CB16
4B064CD01
4B064DA16
4B065AA01X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BB02
4B065BD50
4B065CA54
4B065CA60
(57)【要約】
ムーレラ属(Moorella)種細菌の増殖を増加させる方法、かかる方法に由来する遺伝子改変された細菌、および適宜生化学物質の産生において、炭素含有基質を代謝するためのかかる細菌の使用が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムーレラ属(Moorella)種に属する細菌の増殖速度を増加させる方法であって、該細菌においてステージ0胞子形成プロテインAホモログ(Spo0A)の発現および/または活性を低減または消失させるよう1つまたは複数の遺伝子改変を該細菌に導入することを含む、方法。
【請求項2】
前記1つまたは複数の遺伝子改変が、前記細菌においてSpo0Aタンパク質の発現を低減または消失させる遺伝子改変を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記spo0A遺伝子が欠失されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記細菌においてSinRの変異体を発現させるよう1つまたは複数の遺伝子改変を前記細菌に導入することをさらに含み、該SinR変異体が、配列番号2と少なくとも90%配列同一性を有し、配列番号2における198位に相当する位置にV以外のアミノ酸を含み、好ましくは、該アミノ酸が、F、I、Y、またはWであり、より好ましくは、該アミノ酸がFであり、該SinR変異体が、配列番号2と比較した場合に、前記細菌の誘導期の持続時間の減少および/または増殖速度の増加を提供する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ムーレラ属種に属する細菌の誘導期の持続時間を減少し、および/または増殖速度を増加させる方法であって、該細菌においてHTH型転写制御因子SinR(SinR)の変異体を発現させるよう1つまたは複数の遺伝子改変を該細菌に導入することを含み、該SinR変異体が、配列番号2と少なくとも90%配列同一性を有し、配列番号2における198位に相当する位置にバリン(V)以外のアミノ酸を含み、該SinR変異体が、配列番号2と比較した場合に、前記細菌の誘導期の持続時間の減少および/または増殖速度の増加を提供する、方法。
【請求項6】
配列番号2における198位に相当する位置にある前記アミノ酸が、フェニルアラニン(F)、イソロイシン(I)、チロシン(Y)、またはトリプトファン(W)である、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
配列番号2における198位に相当する位置にある前記アミノ酸がFである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ムーレラ属種が、
(a)ムーレラ・サーモアセチカ(Moorella thermoacetica);
(b)ムーレラ・サーモオートトロフィカ(Moorella thermoautotrophica);
(c)M.サーモアセチカ(M.thermoacetica)株DSM 512
Tと比較して、少なくとも約96.5%のMUMmerアライメント(ANIm)スコアに基づく平均ヌクレオチド同一性を有する細菌株;
(d)M.サーモアセチカ株DSM 2955
Tと比較して、少なくとも約96.5%のMUMmerアライメント(ANIm)スコアに基づく平均ヌクレオチド同一性を有する細菌株;ならびに
(e)(a)および(b);(a)および(c);(a)および(d);(a)、(b)および(c)、または(a)から(d)までの全ての組合せ
から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法によって得られたか、または得ることが可能な遺伝子改変された細菌。
【請求項10】
M.サーモアセチカおよび/またはM.サーモオートトロフィカ(M.thermoautotrophica)種に属する細菌であって、該細菌が、該細菌においてSpo0Aの発現および/または活性を低減または消失させるよう遺伝子改変されており、該低減された発現および/または活性が、野生型M.サーモアセチカおよび/またはM.サーモオートトロフィカにおけるその発現および/または活性と相対的なものである、細菌。
【請求項11】
M.サーモアセチカおよび/またはM.サーモオートトロフィカ種に属する細菌であって、該細菌が、SinRの変異体をコードする導入遺伝子を含むよう遺伝子改変され、該SinR変異体が、配列番号2と少なくとも90%配列同一性を有し、配列番号2における198位に相当する位置にV以外のアミノ酸を含み、該SinR変異体が、配列番号2と比較した場合に、前記細菌の誘導期の持続時間の減少および/または増殖速度の増加を提供する、細菌。
【請求項12】
M.サーモアセチカおよび/またはM.サーモオートトロフィカ種に属する細菌であって、前記細菌が、
(a)配列番号2と少なくとも90%配列同一性を有し、配列番号2における198位に相当する位置にV以外のアミノ酸を含む、SinRの変異体を含み、ここで、該SinR変異体が、配列番号2と比較した場合に、該細菌の誘導期の持続時間の減少および/または増殖速度の増加を提供し、
(b)Spo0Aの低減もしくは消失された発現および/または活性を有し、ここで、該低減された発現および/または活性が、野生型M.サーモアセチカおよび/またはM.サーモオートトロフィカにおけるその発現および/または活性と相対的なものである、細菌。
【請求項13】
前記spo0A遺伝子が欠失されている、請求項10または12に記載の細菌。
【請求項14】
配列番号2における198位に相当する位置にある前記アミノ酸がFである、請求項11または12に記載の細菌。
【請求項15】
適宜生化学物質の産生において、炭素含有基質を代謝するための請求項9から14のいずれか一項に記載の細菌の使用。
【請求項16】
i)炭素含有基質が、COおよび/またはCO
2であるか、
ii)前記生化学物質が、C1~C4アルコール、C1~C4ケトン、C1~C4アルデヒド、C1~C4カルボン酸、およびそれらの任意の混合物から選択されるか、または
iii)i)およびii)の両方である、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記細菌が、M.サーモアセチカATCC 39073株またはM.サーモアセチカ39073-HH株などのそれに由来する株である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法、請求項9から14のいずれか一項に記載の細菌、あるいは請求項15または16に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CO2の固定および生化学物質の産生のための好熱性細菌の利用、ならびに遺伝子改変によってかかる細菌の増殖を増加させ、CO2固定の効率の増加につながる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バルクケミカルは、数百万トンの規模で化石燃料の分解によって持続不可能に産生されている。同時に、人類は毎年40ギガトンを超えるCO2を大気に排出しており、気候変動および温度上昇の不穏な影響を招いている。産業上のCO2排出を回収して、炭素を価値に変換するよう提案する技術が出現している。しかしながら、効率および実現可能性が、その実行を制限している。CO2回収のための伝統的な技術として、フィルター、植樹、または藻類の生育が挙げられる。フィルターは、CO2ガス中の不純物に対して感受性の高い高価な触媒を要する一方で、植樹および藻類の生育は、極めて低い土地面積効率を有する。
【0003】
これらの制限を満たすプロセスを開発するために、細菌、特に高温で機能する細菌の適用は、非常に重要であると予測される。高い培養温度は、不要な微生物による混入のリスクを低減させる。発酵は通常、大量の冷却水を要する。好熱性細菌を使用した発酵については、この要件は適用されない。全体として、好熱性発酵プロセスは、他のバイオベースの産生プロセスと比較した場合に大幅に低い資本支出および運用費用をもたらす特徴を有する。
【0004】
酢酸生成(acetogenic)細菌は、CO2(またはCO)を唯一の炭素供給源として増殖する細菌の一群である。酢酸生成細菌の増殖は、CO2の固定に直結している。生物の1つであるムーレラ・サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)は、産業的観点からCO2を固定するのに興味深い特性を有する。CO2固定はこの生物では非常に効率的であるが、増殖速度は制限されている。より高い増殖速度を有する株は、CO2固定をより効率的にさせるのに非常に有益である。工業生産では、気体の供給における変動ならびにバイオリアクターにおける勾配がみられる。M.サーモアセチカ(M.thermoacetica)は、栄養素または基質が制限されている場合に、死滅するか、または胞子形成することが知られている。このことは、不活性な継代をもたらし、全体的な効率を大幅に減少させる。より長い期間、またはよりストレスの多い条件下で生存可能であり、またより速く回復すること(栄養素または基質が利用可能となった場合に)が可能な細胞を開発することは、プロセスの効率に利益をもたらす。国際公開第2011/019717 A1号(Mascoma Corp.)は、選択可能なマーカーをコードするベクター、および例えば、好熱性細菌宿主細胞におけるかかるマーカーによる、例えばspo0Aなどの標的遺伝子の置き換えにおけるそれらの使用に関する。国際公開第2020/157487 A2号(ノッティンガム大学)は、胞子形成細胞における例えばSpo0Aの遺伝子発現を制御するのに使用するための遺伝子コンストラクトに関する。
【0005】
ステージ0胞子形成プロテインAホモログ(Spo0A)は、細菌の胞子形成の調節に関与するタンパク質である。Spo0AはDNAに結合し、多くの遺伝子の発現を制御する(Molle et al., Mol. Microbiol.; 50:1683-1701 2003)。Spo0Aは、桿菌(Bacilli)およびクロストリジウム(Clostridia)を含む種々の属における胞子形成カスケードを活性化する。枯草菌(Bacillus subtilis)におけるspo0A遺伝子の欠失は、胞子形成を防止すると報告されている(Spigelman et al., J. Bacteriol.; 172:5011-5019 1990)。
【0006】
HTH型転写制御因子SinR(SinR)は、栄養枯渇に応答して栄養増殖の終わりに誘導される発達プロセスの負および正の制御因子の両方として機能することが報告されている。例えば、SinRは、Spo0Aの抑制因子として作用する。SinR四量体は、栄養増殖中にマトリックス遺伝子の転写抑制因子として作用する一方で、定常期中に、SinR単量体は、SinIまたはSlrRのいずれかと複合体を形成する。SinIは抗抑制因子であり、SinRを隔離することができるのに対して、SlrR-SinR複合体は、マトリックスオペロンの抑制を解放し、代わりに浮遊性(planktonic)増殖に必要とされる遺伝子を抑制する(Kearns et al., Mol. Microbiol.; 55:739-749 2005、Chai et al., Mol. Microbiol.; 74:876-887 2009、Chai et al., Genes Dev.; 24:754-765 2010)。
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、ムーレラ属(Moorella)種細菌の増殖が、SinRおよびSpo0Aをコードする遺伝子の遺伝子改変によって増加され得ることを見出した。したがって、本発明は概して、ムーレラ属種細菌の増殖を増強し、それによりCO2固定および生化学的産生のそれらの効率を増加させる方法に関する。
【0008】
したがって、第1の態様では、本発明は、ムーレラ属種に属する細菌の増殖速度を増加させる方法であって、該細菌においてステージ0胞子形成プロテインAホモログ(Spo0A)の発現および/または活性を低減または消失させるよう1つまたは複数の遺伝子改変を該細菌に導入することを含む、方法に関する。
【0009】
一部の実施形態では、1つまたは複数の遺伝子改変は、細菌においてSpo0Aタンパク質の発現を低減または消失させる遺伝子改変を含む。
【0010】
一部の実施形態では、spo0A遺伝子は欠失されている。
【0011】
一部の実施形態では、当該方法は、細菌においてSinRの変異体を発現させるよう1つまたは複数の遺伝子改変を細菌に導入することをさらに含み、ここで、SinR変異体は、配列番号2と少なくとも90%配列同一性を有し、配列番号2における198位に相当する位置にV以外のアミノ酸を含み、好ましくはここで、上記アミノ酸は、F、I、Y、またはWであり、より好ましくはここで、上記アミノ酸はFであり、ここで、SinR変異体は、配列番号2と比較した場合に、前記細菌の誘導期の持続時間の減少および/または増殖速度の増加を提供する。
【0012】
第2の態様では、本発明は、ムーレラ属種に属する細菌の誘導期の持続時間を減少し、および/または増殖速度を増加させる方法であって、該細菌においてHTH型転写制御因子(SinR)の変異体を発現させるよう1つまたは複数の遺伝子改変を該細菌に導入することを含み、該SinR変異体が、配列番号2と少なくとも90%配列同一性を有し、配列番号2における198位に相当する位置にバリン(V)以外のアミノ酸を含み、該SinR変異体が、配列番号2と比較した場合に、前記細菌の誘導期の持続時間の減少および/または増殖速度の増加を提供する、方法に関する。
【0013】
一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸は、フェニルアラニン(F)、イソロイシン(I)、チロシン(Y)、またはトリプトファン(W)である。
【0014】
一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はFである。第1および第2の態様の一部の実施形態では、ムーレラ属種は、(a)ムーレラ・サーモアセチカ;(b)ムーレラ・サーモオートトロフィカ(Moorella thermoautotrophica);(c)M.サーモアセチカ株DSM 512Tと比較して、少なくとも約96.5%のMUMmerアライメント(ANIm)スコアに基づく平均ヌクレオチド同一性を有する細菌株;(d)M.サーモアセチカ株DSM 2955と比較して、少なくとも約96.5%のMUMmerアライメント(ANIm)スコアに基づく平均ヌクレオチド同一性を有する細菌株;ならびに(e)(a)および(b);(a)および(c);(a)および(d);(a)、(b)および(c)、または(a)から(d)までの全ての組合せから選択される。
【0015】
第3の態様では、本発明は、第1または第2の態様の実施形態による方法によって得られたか、または得ることが可能な遺伝子改変された細菌に関する。
【0016】
第4の態様では、本発明は、M.サーモアセチカおよび/またはM.サーモオートトロフィカ(M.thermoautotrophica)種に属する細菌であって、該細菌が、該細菌においてSpo0Aの発現および/または活性を低減または消失させるよう遺伝子改変され、低減された該発現および/または活性が、野生型M.サーモアセチカおよび/またはM.サーモオートトロフィカにおけるその発現および/または活性と相対的なものである、細菌に関する。
【0017】
第5の態様では、本発明は、M.サーモアセチカおよび/またはM.サーモオートトロフィカ種に属する細菌であって、該細菌が、SinRの変異体をコードする導入遺伝子を含むよう遺伝子改変され、該SinR変異体が、配列番号2と少なくとも90%配列同一性を有し、配列番号2における198位に相当する位置にV以外のアミノ酸を含み、該SinR変異体が、配列番号2と比較した場合に、前記細菌の誘導期の持続時間の減少および/または増殖速度の増加を提供する、細菌に関する。細菌は、M.サーモアセチカATCC 39073株またはM.サーモアセチカ39073-HH株などのそれに由来する株であってもよい。
【0018】
第6の態様では、本発明は、M.サーモアセチカおよび/またはM.サーモオートトロフィカ種に属する細菌であって、前記細菌が、
(a)配列番号2と少なくとも90%配列同一性を有し、配列番号2における198位に相当する位置にV以外のアミノ酸を含む、SinRの変異体を含み、ここで、該SinR変異体が、配列番号2と比較した場合に、前記細菌の誘導期の持続時間の減少および/または増殖速度の増加を提供し、
(b)Spo0Aの低減もしくは消失された発現および/または活性を有し、ここで、該低減された発現および/または活性が、野生型M.サーモアセチカおよび/またはM.サーモオートトロフィカにおけるその発現および/または活性と相対的なものである、細菌に関する。
【0019】
第4および第6の態様の一部の実施形態では、spo0A遺伝子は欠失されている。
【0020】
第5および第6の態様の一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はFである。
【0021】
第7の態様では、本発明は、適宜生化学物質の産生において、炭素含有基質を代謝するための態様3~6のいずれか1つに記載の細菌の使用に関する。
【0022】
一部の実施形態では、
i)炭素含有基質は、COおよび/またはCO2であるか、
ii)生化学物質は、C1~C4アルコール、C1~C4ケトン、C1~C4アルデヒド、C1~C4カルボン酸、およびそれらの任意の混合物から選択されるか、または
iii)i)およびii)の両方である。
【0023】
第1から第7の態様の一部の実施形態では、細菌は、M.サーモアセチカATCC 39073株またはM.サーモアセチカ39073-HH株などのそれに由来する株である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1:光学密度(OD)測定によって決定される細菌培養の増殖曲線の模式図を示す。細菌培養の増殖は、誘導期、対数期、定常期、および死滅期の4つの期に分けることができる。
【
図2】
図2:spo0Aノックアウトプラスミドのプラスミドマップを示す。
【
図3】
図3:時間(h)での時間の関数としてのWT株およびΔspo0A株の増殖曲線を示す。A;三重反復培養の個々の測定を示す。B;平均増殖曲線、明色のパターンは標準偏差を示す。C;Bと同じであるが、対数スケールでの光学密度を示す。
【
図4】
図4:桿菌(Bacillus)由来のSinR-SinI複合体の構造解析を示す。A;桿菌由来のSinR-SinI複合体(PDB ID:1b0n)。SinR由来のHTHドメインは、いかなるパターンも用いずに示され、オリゴマー形成ドメインは円を用いたパターンで、SinIは五量体を用いたパターンで示されている。B;パターンスキームはAと同様であり、T60およびL61の側鎖は、小さな黒三角形のパターンを有する棒状の表示で示されている。C;L61の拡大、およびLからFへの突然変異の可視化。フェニルアラニンの提唱されている構造は、灰色の棒状の表示で示されている。目に見える円盤およびパターンは、原子ファンデルワールス半径の対での重複を示している。短い線または小さな円盤は、原子がほぼ接触しているかまたはわずかに重複している場合に示されている。十字を有する大きな円盤は、かなりのファンデルワールス重複を示している。他の全てが、それらの両端間に存在する。D;T60の拡大、およびTからFへの突然変異の可視化。左:SinRにおけるT60と、SinIにおけるE14との間の水素結合。中央:最も一般的な回転異性体におけるフェニルアラニンを伴う、TからFへの突然変異。右:最も好適な回転異性体におけるフェニルアラニンを伴う、TからFへの突然変異。円盤およびパターンはCで示されている通りである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
定義
本明細書で用いる場合、「ムーレラ属種」という用語は、細菌ムーレラ属に属し、ファーミキューテス門(Firmicutes)に属するものとして分類される種の群の任意の成員を指す。ムーレラ属種は通常、好熱性であり、嫌気性であり、内生胞子形成性であり、例えば、温泉から単離され得る。ムーレラ属種の非限定的なリストは、アメリカ国立生物工学情報センター(ワールドワイドウェブ(www)アドレスncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?id=44260;2021年7月1日にアクセス、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)および本明細書中の他の箇所に見出され得る。
【0026】
これまではクロストリジウム・サーモアセチカ(Clostridium thermoaceticum)として知られていた種である酢酸生成(気体発酵)種ムーレラ・サーモアセチカ(M.サーモアセチカ)、およびムーレラ・サーモオートトロフィカ(M.サーモオートトロフィカ)ならびに研究室環境において単離された株または天然供給源から単離された株を含む、それらに由来する全ての株が特に好ましい。M.サーモアセチカおよびM.サーモオートトロフィカは多くの場合、2つの異なる種とみなされるが、ゲノム比較により、M.サーモオートトロフィカ株は、M.サーモアセチカの株として再分類され得ることが示されている(Redl et al., Front. Microbiol.; 10:3070 2020)。したがって、本明細書において使用される場合、M.サーモアセチカは、一般にM.サーモアセチカとして分類される細菌の株およびM.サーモオートトロフィカの株などの遺伝子解析によってM.サーモアセチカ株として分類され得る細菌の株の両方を指し得る。細菌株がM.サーモアセチカ種に属するかどうかを決定する方法は、以下に記載される。M.サーモアセチカ株の非限定的な例として、M.サーモアセチカATCC 39073、M.サーモアセチカATCC 39073-HH(Genbankアクセッション番号CP031054、好ましくはバージョンCP031054.1)、およびM.サーモアセチカY72が挙げられる。本明細書において使用される場合、「野生型M.サーモアセチカおよび/またはM.サーモオートトロフィカ」は、M.サーモアセチカおよび/またはM.サーモオートトロフィカの任意の天然に発生する株を指す。例えば、通常、野生型M.サーモアセチカのゲノムは、spo0A遺伝子、SinRタンパク質をコードする遺伝子(好ましくは、配列番号2における198に相当するアミノ酸位置にバリンを有する)、またはその両方を含む。
【0027】
本明細書において使用される場合、「SinR」または「HTH型転写制御因子SinR」という用語は、ムーレラ属種細菌によってコードされる変異体に限定されずに、SinRの全ての変異体を含む。ムーレラ・サーモアセチカによってコードされるSinRの変異体の例は、UniProt ID:A0A5B7YPR1(配列番号2)のタンパク質である。表1を参照のこと。本明細書において使用される場合、「SinR」という用語は、配列番号2に対して少なくとも80%、例えば85%、例えば90%、例えば91%、例えば92%、例えば93%、例えば94%、例えば95%、例えば96%、例えば97%、例えば98%、および例えば99%配列同一性を有するタンパク質を指す。好ましくは、本明細書において記載される方法による任意の遺伝子改変に先立って、改変されるべきムーレラ属種の細胞は自然SinRタンパク質を含み、そのタンパク質は好ましくは、配列番号2における198位に相当するアミノ酸位置においてバリンを含む。好ましくは、M.サーモアセチカのSinRは、European Nucleotide Archive(ENA)遺伝子座タグMothHH_01753(配列番号1)を有する遺伝子によってコードされる。表1を参照のこと。
【0028】
本明細書において使用される場合、「Spo0A」または「ステージ0胞子形成プロテインAホモログ」という用語は、関連するムーレラ属種の内因性タンパク質を指す。Spo0Aの例は、UniProt ID:A0A5B7YPG0(配列番号4)を有するM.サーモアセチカSpo0Aである。表1を参照されたい。Spo0Aの別の例は、UniProt ID:A0A1D7XBE2を有するM.サーモアセチカSpo0Aである。本明細書において使用される場合、「Spo0A」という用語は、配列番号4に対して少なくとも80%、例えば85%、例えば90%、例えば91%、例えば92%、例えば93%、例えば94%、例えば95%、例えば96%、例えば97%、例えば98%、および99%配列同一性を有するタンパク質を指す。好ましくは、M.サーモアセチカのSpo0Aは、ENA遺伝子座タグMothHH_01617(配列番号3)を有する遺伝子によってコードされる。表1を参照のこと。
【0029】
「遺伝子」という用語は、タンパク質などの細胞機能をコードする核酸配列を指し、コード配列に先行する(5’非コード配列)およびコード配列に続く(3’非コード配列)制御配列を含んでもよい。「導入遺伝子」は、遺伝子操作技法によって、例えば形質転換によって細胞に導入された、自然または異種の遺伝子である。遺伝子名称は、本明細書において小文字の最初の文字を用いたイタリック体のテキストで記載される(例えば、spo0A)のに対して、タンパク質名称は、大文字の最初の文字を用いた通常のテキストで記載される(例えば、Spo0A)。
【0030】
【0031】
本明細書において使用される場合、「遺伝子改変」は、宿主細胞ゲノムへの遺伝的に受け継がれた変化の導入を指す。変化の例として、遺伝子および制御配列における突然変異、コードおよび非コードDNA配列における突然変異が挙げられる。「突然変異」は、ゲノム中の核酸または核酸断片の欠失、置換および挿入を含む。
【0032】
親または参照タンパク質の「変異体」は、親または参照タンパク質と比較した場合に、アミノ酸置換、挿入および欠失などの1つまたは複数の突然変異を含む。通常、変異体は、例えば、少なくとも機能的にまたは触媒的に活性な部分にわたって、適宜全長にわたって少なくとも約70%、例えば少なくとも約80%、例えば少なくとも84%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも87%、例えば少なくとも約90%、例えば少なくとも約93%、例えば少なくとも約95%、例えば少なくとも約96%、例えば少なくとも約97%、例えば少なくとも約98%、例えば少なくとも約99%の、親または参照タンパク質のアミノ酸配列に対して高い配列同一性を有する。
【0033】
別記されない限り、「配列同一性」は、本明細書においてアミノ酸配列に関して使用される場合、下記式:(Nref-Ndif)・100/Nref(式中、Nrefは、2つの配列のうちの一方における残基の数であり、Ndifは、それらがそれらの全長にわたって、かつ同じ方向にアラインされている場合の2つの配列において同一でない残基の数である)に従って、等しい長さの2つの最適にアラインされた配列を比較することによって決定される。したがって、アミノ酸配列GSTDYTQNWA(配列番号19)は、配列GSTGYTQAWA(配列番号20;ndif=2およびnref=10)と80%の配列同一性を有する。
【0034】
配列同一性は、従来の方法、例えば、Smith and Waterman(Adv. Appl. Math.; 2:482 1981)によって、Pearson and Lipman(Proc. Natl. Acad. Sci. USA; 85:2444 1988)の「類似性に関する検索」法によって、Thompson et al.(Nucleic Acids Res.; 22:467380 1994)のCLUSTAL Wアルゴリズムを使用して、これらのアルゴリズム(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer GroupのGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)、またはEMBOSSパッケージ(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite、Rice et al., Trends Genet.; 16:276-277 2000)のNeedleプログラムにおいて実装されるようなNeedleman-Wunschアルゴリズム(Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol.; 48:443-453 1970)のコンピュータ化された実装によって、例えばEuropean Bioinformatics Instituteウェブサイト(www.ebi.ac.uk)で提供されるように決定することができる。そのソフトウェアがアメリカ国立生物工学情報センター(www.ncbi.nlm.nih.gov/)を通じて得られ得るBLASTアルゴリズム(Altschul et al., Mol. Biol.; 215:403-410 1990)もまた使用され得る。上述のアルゴリズムのいずれかを使用する場合、「ウィンドウ」の長さ、ギャップペナルティなどに関するデフォルトパラメーターが使用され得る。
【0035】
参照アミノ酸配列における特定参照残基「に相当する」1つのアミノ酸配列における残基は、例えば、前項に記載される配列アライメントソフトウェアの使用によって決定される場合、参照残基とアラインする残基である。
【0036】
「発現」という用語は、本明細書において使用される場合、遺伝子がmRNAに転写されるプロセスを指し、mRNAの、アミノ酸配列、即ちタンパク質またはポリペプチドへの続く翻訳を含んでもよい。
【0037】
本明細書において使用される場合、宿主細胞における遺伝子の「発現の低減」は、遺伝子によってコードされるmRNAまたはタンパク質のレベルが、対照と比較した場合に、宿主細胞において大幅に、通常少なくとも25%、例えば少なくとも50%、例えば少なくとも75%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%低減されることを意味する。通常、発現の低減が宿主細胞における遺伝子改変によって得られる場合、対照は、改変されていない宿主細胞である。
【0038】
宿主細胞における遺伝子の「発現の消失」とは、その遺伝子によってコードされるmRNAまたはタンパク質が宿主細胞において本質的に存在しないか、存在しないか、または検出不可能であることを意味する。
【0039】
「ノックダウン」という用語は、本明細書において使用される場合、プロモーターにおける突然変異の導入などの、宿主細胞における遺伝子の発現の低減をもたらす様々な技法のいずれかを指す。
【0040】
「ノックアウト」という用語は、本明細書において使用される場合、遺伝子における突然変異の導入、または遺伝子の欠失などの、宿主細胞における遺伝子の発現の消失をもたらす様々な技法のいずれかを指す。「欠失」という用語は、本明細書において使用される場合、遺伝子のコード配列の部分的または完全な除去を指し、それは、その遺伝子の発現の消失、または非機能的な遺伝子産物の発現のいずれかをもたらす。
【0041】
「活性」または「機能」という用語は、本明細書において使用される場合、またタンパク質の活性または機能に言及する場合、それ以上何も指定されていない場合には、そのタンパク質の任意の活性または機能、例えば、触媒活性、結合活性、抑制因子活性などを意味し得る。
【0042】
本明細書において使用される場合、宿主細胞におけるタンパク質の「活性の低減」は、そのタンパク質の1つまたは複数の比活性が、対照と比較した場合に、宿主細胞において大幅に、通常少なくとも25%、例えば少なくとも50%、例えば少なくとも75%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%低減されることを意味する。通常、活性の低減が宿主細胞における遺伝子改変によって得られる場合、対照は、改変されていない宿主細胞である。宿主細胞におけるタンパク質の「活性の消失」とは、そのタンパク質の1つまたは複数の比活性が宿主細胞において本質的に存在しないか、存在しないか、または検出不可能であることを意味する。
【0043】
標的タンパク質の活性の低減または消失をもたらす遺伝子改変は、非機能的もしくは機能性の低いタンパク質の発現をもたらす、そのタンパク質のコード配列における突然変異または欠失を含み得る。さらに、標的遺伝子の発現および/または活性の低減または消失をもたらす遺伝子改変は、本明細書において使用される場合、間接的であってもよく、それらが遺伝子自体における遺伝子改変ではないことを意味する。かかる遺伝子改変は、例えば、標的遺伝子の発現を低減させる核酸配列、例えば、標的遺伝子の発現を阻害する抑制因子の導入を含み得る。
【0044】
本発明の実施形態を実施するのに有用な標準的な組換えDNAおよび分子クローニング技法は、当該技術分野において周知であり、例えば、Sambrook, J., Fritsch, E. F., and Maniatis, T.(2012). Molecular cloning: A laboratory manual, 4th ed. Cold Spring Harbor Laboratory: Cold Spring Harbor, New Yorkによって、およびSilhavy, T. J., Bennan, M.L., and Enquist, L.W.(1984). Experiments with gene fusions. Cold Spring Harbor Laboratory: Cold Spring Harbor, New Yorkによって記載されている。細菌ゲノムにおける標的遺伝子のノックアウトなどの標的ゲノム編集に関する技法として、CRISPR-Cas9などのクラスター化された規則的に間隔を空けた短い回文反復(CRISPR)ベースの系が挙げられる。
【0045】
細菌の「増殖速度」は、本明細書において使用される場合、単位時間あたりの細胞分裂数を反映する尺度である。増殖速度は、600nmでの細菌培養物の光学密度(OD)測定に基づいて算出することができ、ここで増殖速度は、単位時間あたり、例えば1時間あたりのODにおける変化として表すことができる。
【0046】
本明細書において使用される場合、「誘導期」という用語は、細菌の誘導期に言及する場合、細菌増殖の4つの期:誘導期、対数期、定常期、および死滅期のうちの最初の期を意味する。誘導期は、細菌が複製を開始する(対数期に入る)前に、通常、新しい外部条件に適応する期である。新しい外部条件の非限定的な例として、新たな培地への接種、および既存の培養物への栄養素、例えば炭素供給源の添加が挙げられる。誘導期の間、細胞分裂は通常、低いか、または存在しない。
【0047】
本明細書において使用される場合、「代謝」は、適宜1つまたは複数の酵素によって触媒される、1つまたは複数の代謝プロセスにおける基質の消費を意味する。
【0048】
「基質」という用語は、本明細書において使用される場合、酵素が産物を形成するよう作用して、そのプロセスにおいて基質を変換する分子を指す。生合成経路に関連して使用される場合、「基質」という用語は、参照される経路の最初の酵素が作用する分子(複数可)を指す。「炭素含有基質」は、COまたはCO2などの少なくとも1つの炭素原子を含有する基質である。
【0049】
本明細書において使用される場合、「生化学物質」は、生物学的プロセスによって産生することができる分子を意味する。本発明の状況において、ムーレラ属種細菌は、目的の生化学物質を産生するのに適した特定酵素をコードする1つまたは複数の導入遺伝子の挿入などの、それらの天然の内因性酵素の作用によって、または遺伝子改変後に、生化学物質を産生するのに使用することができる。
【0050】
本発明の特定実施形態
実施例1に記載されるように、M.サーモアセチカの増殖速度は、Spo0Aをコードする遺伝子の欠失によって増加された(実施例1;
図3および表3)。
【0051】
細胞の増殖速度を制御するための遺伝子発現の調節は、複雑であり、かつ繊細に調整されており、通常多くの遺伝子/タンパク質が関与している。しかしながら、ここでは、単一遺伝子、Spo0Aをコードする遺伝子の欠失により、M.サーモアセチカの増殖速度が増加された。さらに、当該遺伝子は、それをありふれたプロモーターの制御下で抗生物質耐性タンパク質をコードする遺伝子で置き換えることによって欠失させた。かかる変更は通常、改変された生物の増殖を遅らせるが、この場合、逆の効果が見られた。さらに、これまでの報告(背景技術を参照)において示されていることに反して、M.サーモアセチカにおいて、spo0Aの欠失は、胞子形成の減少をもたらさなかった。この見解により、M.サーモアセチカにおけるspo0Aの欠失時に観察された成長速度の増加は、カスケードがまだ機能的であったため、胞子形成カスケードに関連した代謝負荷の低減に起因するものではなかったことが示唆される。
【0052】
実施例2において記載されるように、SinRにおけるV198F突然変異は、より長いインキュベーション期間後、新鮮な培地への接種時にM.サーモアセチカの誘導期の持続時間を減少させた(それが静止状態からより迅速な回復を導いた)(実施例2)。さらに、M.サーモアセチカSinRにおけるV198FなどのV198突然変異は、タンパク質の安定性、抗抑制因子SinIに対するその親和性および/またはオリゴマー形成するその能力に影響を及ぼし得ることが見出された(実施例2、
図4ならびに表4および表5を参照)。
【0053】
したがって、本発明者らは、M.サーモアセチカ細菌の成長を増強する(増殖速度を増加させること、および/または誘導期の持続時間を減少させることによる)方法を特定した。M.サーモアセチカにおいて、増殖と、CO2の固定との間に直接的な関連がみられる。本発明は、増殖が増強された株を提供し、それにより、CO2の固定が増強された株を提供する。さらに、これらの株は、目的の生化学物質の産生のための1つまたは複数の酵素を含有するよう改変されてもよく、それにより、かかる生化学物質の産生の増加をもたらす。
【0054】
CO2固定および生化学物質産生の増加に加えて、これらの目的で本発明による方法を使用する利点は、下記を含む:
【0055】
- M.サーモアセチカの高い培養温度は、背景技術の項目でも記載したように、混入リスクの低減、より高い変換速度、冷却水の不要、および他のバイオベースの産生プロセスと比較した場合に大幅に低い資本支出および運用費用を含むいくつかの利点を有する。
【0056】
- ストレスの多い状況に陥った後により早く回復することが可能な細胞は、これがバイオリアクターにおけるより大きな度合いの変動および勾配(栄養素、pH、および基質)を可能にするため、バイオリアクターにおける使用に非常に好適である。
【0057】
- 一部の実施形態では、遺伝子またはオペロンは過剰発現される必要がなく、それは代謝負荷の増加を表している。これらの操作された株は、発酵全体にわたって高い代謝活性を維持する。
【0058】
方法
一部の態様では、本発明は、遺伝子改変を細菌に導入して、Spo0Aの発現および/または活性に影響を及ぼすか、あるいはSinRの突然変異体を発現させることによって、ムーレラ属種細菌の増殖を増強する方法に関する。
【0059】
ムーレラ属種細菌の増殖は、細菌の増殖速度(単位時間あたりの細胞分裂数)を増加させることによって、または誘導期の持続時間(細菌が新しい外部条件に適応した後、細菌が複製を開始するまでにかかる時間)を減少させることによって、またはその両方の組合せによって増強され得る。増殖を増強する方法はともに、CO2の固定、および適宜目的の生化学物質の産生を増加させる。
【0060】
細菌増殖測定
細菌増殖は、実施例において使用されるように、600nmでの光学密度(OD)の測定を含む標準的な技法によって容易に測定される。連続測定を使用して、グラフを作成することができ、そこから誘導期の持続時間および増殖速度を決定することができる。誘導期の持続時間を決定するために、細菌培養物のOD(細胞数の尺度として)は、細胞が指数関数的増殖期(対数期)に入るまで、例えば新たな培地に接種されることによって、細胞が新たな外部条件に曝露された時点から追跡されるべきである。増殖速度の算出については、グラフを対数スケールで示している(
図1を参照)。増殖速度(μ)は、グラフの直線部分(指数関数期または対数期)から導かれた2つのデータ点:時点1におけるOD値(t
1、OD
1)および時点2におけるOD値(t
2、OD
2)(ここで、t
2>t
1)から算出することができる。続いて、増殖速度は、式Iに従って算出され得る:
【0061】
【0062】
遺伝子改変
Spo0A:
1つの態様では、本発明は、ムーレラ属種に属する細菌の増殖速度を増加させる方法であって、細菌においてステージ0胞子形成プロテインAホモログ(Spo0A)の発現および/または活性を低減または消失させるよう1つまたは複数の遺伝子改変を細菌に導入することを含む、方法に関する。
【0063】
かかる細菌におけるSpo0Aの発現および活性は、標準的な技法を使用して当業者によって決定され得る。Spo0A mRNAまたはタンパク質の発現レベルの決定について、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)およびウェスタンブロットなどの技法が使用され得る。細菌におけるSpo0Aの活性を定量化するために、まずどの活性が定量化されるべきかを決定する必要がある。胞子形成の制御因子として、Spo0AはDNAに結合し、多くの遺伝子の発現を制御する(Molle et al., Mol. Microbiol.; 50:1683-1701 2003)。したがって、Spo0Aの活性は、例えば遺伝子マイクロアレイによって、または既知のSpo0A結合モチーフを含有するレポーター遺伝子系を使用して、abrB、spoIIA、spoIIG、およびspoIIEなどの遺伝子を含む遺伝子の選択の発現を評価することによって検査することができる。
【0064】
一部の実施形態では、かかる細菌におけるSpo0Aの発現は、例えば、遺伝子改変の導入に先立つ細菌におけるspo0Aの発現レベル、参照細菌細胞における発現レベル、または例えば、教科書もしくは文献からの対照値などの対照と比較して低減される。さらなる実施形態において、Spo0Aの発現は、細菌において少なくとも25%、例えば少なくとも50%、例えば少なくとも75%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%低減される。Spo0Aの発現は例えば、spo0A遺伝子のノックダウンによって、例えば、そのプロモーターにおいて、またはリボソーム結合部位などの翻訳開始領域において突然変異を導入することによって、触媒的に不活性なCas酵素を使用したCRISPR技法であるCRISPR干渉(CRISPRi)を使用することによって、細菌細胞を遺伝子の転写または翻訳を妨害するアンチセンス配列と接触させることによって、あるいはspo0Aの転写を活性化する転写因子をコードする遺伝子を欠失すること、またはspo0Aの転写を阻害する抑制因子をコードする核酸配列を導入することによって低減され得る。
【0065】
一部の実施形態では、Spo0Aの発現は消失される。それは、Spo0A mRNA、Spo0Aタンパク質、またはその両方が、細菌において本質的に存在しないか、存在しないか、または検出不可能であることを意味する。Spo0Aの発現は例えば、spo0A遺伝子のノックアウトによって、例えば、遺伝子を突然変異させることによって、例えば未成熟終止コドンをコード配列に導入することによって、または遺伝子を欠失させること(これは、本明細書において使用される場合、遺伝子のコード配列の部分的または完全な除去のいずれかを意味し得る)によって消失され得る。一部の実施形態では、spo0Aは、ラムダレッド媒介組換え、P1ファージ形質導入、一本鎖オリゴヌクレオチドリコンビニアリング(recombineering)/MAGE技術(例えば、Datsenko and Wanner, 2000; Thomason et al., 2007; Wang et al., 2009を参照)およびCRISPRベースの技術などの技術を用いてノックアウトされ得る。一部の実施形態では、spo0Aは、実施例1において記載されるように、細菌をノックアウトベクターで形質転換することと、相同組換えを使用して、染色体において遺伝子を置き換えることとによってノックアウトされ得る。一部の実施形態では、Spo0Aの発現は、遺伝子のプロモーターを突然変異させることまたは欠失させることによって消失されてもよい。一部の実施形態では、Spo0Aの発現は、CRISPRの触媒的に不活性な変異体を使用して、または例えばSpo0Aの発現もしくは翻訳を阻害するアンチセンスRNAを発現させることによって消失され得る。Spo0Aタンパク質およびそれらをコードする遺伝子、特にムーレラ属種の例が、本明細書において提供される。本明細書において具体的に開示される各ムーレラ属種を含む他のムーレラ属種におけるSpo0Aタンパク質をコードする内因性遺伝子は、例えば遺伝子相同性に基づいて、当該技術分野において既知の方法を使用して同定され得る。
【0066】
細菌宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、プロトプラスト形質転換によって(例えば、Chang and Cohen, Mol. Gen. Genet.; 168:111-115 1979を参照)、コンピテント細胞(例えば、Young and Spizizen, J. Bacteriol.; 81:823-829 1961またはDubnau and Davidoff-Abelson, J. Mol. Biol.; 56:209-221 1971を参照)、エレクトロポレーション(例えば、Shigekawa and Dower, Biotechniques; 6:742-751 1988を参照)、またはコンジュゲーション(例えば、Koehler and Thome, J. Bacteriol.; 169:5771-5278 1987を参照)を使用して達成され得る。
【0067】
一部の実施形態では、Spo0Aの活性は低減される。さらなる実施形態では、Spo0Aの活性は、細菌において少なくとも25%、例えば少なくとも50%、例えば少なくとも75%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%低減される。一部の実施形態では、Spo0Aの活性は消失される。それは、Spo0Aの1つまたは複数の比活性が、細菌において本質的に存在しないか、存在しないか、または検出不可能であることを意味する。Spo0Aの活性は例えば、非機能的または機能性の低いタンパク質の発現をもたらす、spo0Aのコード配列における突然変異または欠失を導入することによって低減または消失され得る。
【0068】
SinR:
1つの態様では、本発明はムーレラ属種に属する細菌の誘導期の持続時間を減少し、および/または増殖速度を増加させる方法であって、細菌においてHTH型転写制御因子SinR(SinR)の変異体を発現させるよう1つまたは複数の遺伝子改変を細菌に導入することを含み、SinR変異体が、配列番号2と少なくとも90%の配列同一性を有し、配列番号2における198位に相当する位置にバリン(V)以外のアミノ酸を含み、SinR変異体が、配列番号2と比較した場合、細菌の誘導期の持続時間の減少および/または増殖速度の増加を提供する、方法に関する。
【0069】
一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はIである。一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はMである。一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はVである。一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はYである。一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はCである。一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はWである。一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はTである。一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はAである。一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はPである。一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はRである。一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はEである。一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はHである。一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はKである。一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はNである。一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はQである。一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はDである。一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はGである。一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はSである。
【0070】
好ましい実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はFである。
【0071】
一部の実施形態では、SinR変異体は、配列番号2と少なくとも91%配列同一性、例えば92%、例えば93%、例えば94%、例えば95%、例えば96%、例えば97%、例えば98%、および例えば99%配列同一性を有する。
【0072】
一部の実施形態では、SinR変異体をコードするベクターは、適宜本明細書中の他の箇所に記載される技術を使用して、形質転換によって細菌細胞に導入される。導入されると、SinR変異体をコードする遺伝子は、染色体組込み体として、または自己複製性染色体外ベクター上に維持され得る。
【0073】
適宜、内因性sinR遺伝子は、例えば、当該技術分野において既知の方法に従って、または本明細書中の他の箇所に記載される方法によってノックアウトされ得る。
【0074】
適宜、内因性sinR遺伝子は、改変されていないままでもよい。好ましくは、内在性sinR遺伝子は、配列番号2における198位に相当するアミノ酸位置にバリンを有する。
【0075】
好ましくは、細菌宿主細胞の形質転換のために、SinR変異体の発現を制御するのに適切なプロモーターが選択される。プロモーターは、細菌宿主細胞にとって自然または異種であってもよく、即ち、それぞれ、プロモーターは、宿主細胞と同じ種に由来してもよく、またはプロモーターは、宿主細胞とは異なる種に由来してもよい。プロモーターは、構成的または誘導性プロモーターであり得る。構成的プロモーターは連続的なタンパク質発現を可能にするのに対して、誘導性プロモーターは、条件付きタンパク質発現を可能にする。誘導性プロモーターを使用して、タンパク質発現は、特定分子の存在、光の存在もしくは非存在、または特定温度を条件とし得る。ムーレラ属種におけるタンパク質発現を制御するのに使用することができるプロモーターとして、M.サーモアセチカに由来し、通常グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼの発現を制御する構成的プロモーターPG3PDが挙げられる。他の適切なプロモーターは、既知であるか、または周知の技法を使用して当業者によって同定され得る。
【0076】
一部の実施形態では、配列番号2における198位に相当する位置にバリン(V)以外のアミノ酸を含むSinR変異体は、部位特異的突然変異誘発により1つまたは複数の突然変異を細菌染色体上のSinRをコードする遺伝子に導入することによって生成され得る。これは、例えば相同組換えベースの技法を使用することによって達成され得る。
【0077】
形質転換は、当該技術分野において周知の方法を使用して確認することができる。かかる方法として、例えば、全ゲノム配列決定、DNAもしくはmRNAのノーザンブロットまたはPCR増幅、遺伝子産物の発現のためのイムノブロッティング、あるいは導入された核酸配列の存在または発現を検査するための他の適切な解析方法が挙げられる。発現レベルは、当該技術分野において周知の方法を使用して十分な発現を得るようさらに最適化することができる。
【0078】
Spo0A+SinR:
本発明の一部の態様では、Spo0Aに関する遺伝子改変、およびその改変が上述されているSinRに関する遺伝子改変は、同じ細胞内で組み合わされる。したがって、本発明によるムーレラ属種細菌は、例えば、本明細書において記載されるようなSinR変異体を含んでもよく、また欠失に起因したspo0A遺伝子を欠如してもよい。本明細書において記載されるような様々な遺伝子改変に関するありとあらゆる態様および実施形態は、ありとあらゆる考え得る組合せで組み合わされてもよい。
【0079】
1つの態様では、本発明は、M.サーモアセチカおよび/またはM.サーモオートトロフィカ種に属する細菌であって、細菌が、
(a)配列番号2と少なくとも90%配列同一性を有し、配列番号2における198位に相当する位置にV以外のアミノ酸を含む、SinRの変異体を含み、ここで、SinR変異体が、配列番号2と比較した場合に、細菌の誘導期の持続時間の減少および/または増殖速度の増加を提供し、
(b)Spo0Aの低減もしくは消失された発現および/または活性を有し、ここで、発現および/または活性の低減が、野生型M.サーモアセチカおよび/またはM.サーモオートトロフィカにおけるその発現および/または活性と相対的なものである、細菌に関する。
【0080】
好ましい実施形態では、spo0A遺伝子は欠失され、配列番号2における198位に相当する位置にあるアミノ酸はFである。
【0081】
遺伝子改変された細菌
一部の実施形態では、本発明は、Spo0Aの発現および/または活性に影響を及ぼすよう、および/または細菌におけるSinRの突然変異体を発現させるよう遺伝子改変されたムーレラ属種細菌に関する。
【0082】
細菌における遺伝子改変は、当該技術分野において周知の技法によって、および本明細書中の他の箇所に記載されるように生成され得る。
【0083】
1つの態様では、遺伝子改変された細菌は、ムーレラ属に属する任意の細菌であり得る。種は、種ムーレラ・サーモアセチカ、ムーレラ・グリセリニ(Moorella glycerini)、ムーレラ・フミフェレア(Moorella humiferrea)、ムーレラ・ムルデリ(Moorella mulderi)、ムーレラ・パークロラティレデュセンス(Moorella perchloratireducens)、ムーレラ・スタムシイ(Moorella stamsii)、ムーレラ・サーモオートトロフィカ、ムーレラ属sp.215559/E30-SF1&2、ムーレラ属sp.60_41、ムーレラ属sp.AIP 246.00、ムーレラ属sp.AIP 247.00、ムーレラ属sp.AIP 248.00、ムーレラ属sp.AIP 383.98、ムーレラ属sp.AIP 384.98、ムーレラ属sp.AIP 515.00、ムーレラ属sp.auto11、ムーレラ属sp.auto39、ムーレラ属sp.auto54、ムーレラ属sp.auto59、ムーレラ属sp.CF4、ムーレラ属sp.CF5、ムーレラ属sp.E306M、ムーレラ属sp.E308F、ムーレラ属sp.F21、ムーレラ属sp.Hama-1、ムーレラ属sp.HUC22-1、ムーレラ属sp.UBA4076、ムーレラ属sp.集積クローンR19、ムーレラ属sp.集積クローンR2、ムーレラ属sp.集積クローンR65、ムーレラ属sp.集積培養クローンB1-B-65、ムーレラ属sp.集積培養クローンB11-B-11、ムーレラ属sp.集積培養クローンB13-B-103、ムーレラ属sp.集積培養クローンB13-B-72、ムーレラ属sp.集積培養クローンDGGE-band1、ムーレラ属sp.集積培養クローンTERIBC1、ムーレラ属sp.集積培養クローンTERIBC2、ムーレラ属sp.集積培養クローンTERIBC3、ムーレラ属sp.集積培養クローンTERIBC4、ムーレラ属sp.集積培養クローンTERIBC5、および無培養ムーレラ属sp.のいずれか1つから選択され得るが、これらに限定されない[例えば、アメリカ国立生物工学情報センター(ワールドワイドウェブ(www)アドレスncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?id=44260)を参照;2021年7月1日にアクセス]。
【0084】
他の態様では、遺伝子改変された細菌は、種ムーレラ・サーモアセチカおよび/またはムーレラ・サーモオートトロフィカに属すると分類される任意の細菌であり得る。M.サーモアセチカの株は、M.サーモアセチカATCC 39073およびM.サーモアセチカY72ならびに例えばM.サーモアセチカ株39073-HHなどのそれらのいずれかに由来する株から選択され得るが、それらに限定されない。M.サーモアセチカおよび/またはM.サーモオートトロフィカの分類は、NCBIの分類学ブラウザ(上記の参考文献を参照)などのリソースに基づいてもよく、および/またはそれは遺伝子解析に基づいてもよい。
【0085】
2つの細菌株が同じかまたは異なる種に属するかどうかを評価する方法は、当該技術分野において既知であり、平均ヌクレオチド同一性(ANI)解析を含む。特定タイプのANI解析は、MUMmerアライメント(ANIm)に基づくANI解析である。簡潔に述べると、標的株のゲノムは、参照株のゲノムにアラインされ、適合領域が同定される。適合領域のヌクレオチド同一性のパーセントは、全ての適合領域の平均値として算出される。2つの細菌株の比較が、少なくとも96.5%のANImスコアをもたらす場合、それらは同じ種に属するものとして分類され得る(Richter et al., PNAS; 106:19126-19131 2009、参照によりその全体が組み込まれる)。
【0086】
遺伝子改変された細菌の使用
1つの態様では、本発明は、適宜生化学物質の産生における炭素含有基質を代謝するための本発明の態様による遺伝子改変された細菌の使用に関する。
【0087】
好ましい実施形態では、炭素含有基質は、COおよび/またはCO2である。したがって、本明細書において記載されるような遺伝子改変された細菌は、環境に利益をもたらし得るCO2などの温室効果ガスを固定する方法において好適に使用することができる。
【0088】
炭素含有基質
ムーレラ属種細菌は、H2/CO2またはCOを唯一の炭素供給源として天然で増殖することが可能である。したがって、COおよびCO2を代謝するために本発明による遺伝子改変された細菌を使用するのにさらなる遺伝子改変は必要とされない。
【0089】
ムーレラ属種細菌はまた、キシロース、フルクトース、メタノール、グルコース、アラビノース、マンノース、ラムノース、およびピルベートを含む他の炭素含有基質上でも天然で増殖する。
【0090】
生化学物質
本発明の実施形態では、本発明による遺伝子改変された細菌は、生化学物質の産生において使用される。
【0091】
生化学物質は、例えば、C1~C4アルコール、C1~C4ケトン、C1~C4アルデヒド、C1~C4カルボン酸、およびそれらの任意の混合物から選択され得る。一部の実施形態では、生化学物質は、アセテート、アセトン、ブタノン、およびエタノールから選択される。
【0092】
本発明による遺伝子改変された細菌による選択された生化学物質の産生のために、細菌は、それらに、選択された生化学物質の産生に有用な1つまたは複数の酵素を導入することによってさらに遺伝子改変されてもよい。通常、生化学物質の産生は、1つよりも多い酵素の作用を要し、生化学物質の産生は多くの場合、特定生合成経路を構成する多数の酵素の連続作用を要する。酵素は、それが所望の活性を提供する限り、文献において報告されている任意の種由来の任意の特性化および配列決定された酵素であり得る。一部の実施形態では、酵素は、細菌にとって自然である過剰発現遺伝子である。一部の実施形態では、酵素は、細菌にとって異種もしくは自然である酵素の機能的活性断片または変異体である。また、一部の実施形態では、組換え生合成経路は、通常所望の生化学物質の収率を低減させる競合反応を回避する目的で、1つまたは複数の遺伝子のノックダウンまたはノックアウトを含む。好熱性宿主細胞において機能的であるためには、酵素は、極めて熱安定性であるべきである。しかしながら、酵素は必ずしも好熱性生物に由来する必要はない。
【0093】
細菌への酵素の導入は、細菌を、それぞれがプロモーターの制御下で1つまたは複数の酵素をコードする1つまたは複数のベクターで形質転換することによって行われる可能性があり、これは、上記のSinR変異体の発現について記載されたように、遺伝子の導入が宿主細胞において基質またはエネルギーを引き出しすぎないように適切なレベルでの遺伝子の発現を保証する。形質変換は、本明細書中の他の箇所に記載されるように実施され得る。選択された生化学物質の産生用の酵素を細胞に導入する形質転換事象は、適用可能であれば、Spo0A用のノックアウトベクターおよび/またはSinR変異体をコードするベクターなどの、本発明に関連する任意の他のベクターの導入と組み合わせてもよい。遺伝子のいくつかは、同じベクター上で組み合わされてもよい。
【0094】
本発明によって産生され得る生化学物質の4つの(好ましい)例ならびにそれらの産生に適した酵素を以下に挙げる。生化学物質または生合成経路は、限定的なものとみなされるべきではなく、単に例とみなされるべきである。
【0095】
酢酸エステル:
酢酸生成性であるM.サーモアセチカを含むムーレラ属種細菌は、天然でアセテートを産生する。
【0096】
アセトン:
ムーレラ属種細菌における、より具体的にはM.サーモアセチカにおけるアセトンの産生は、細菌への下記酵素:チオラーゼ(Thl)、酢酸アセトアセチルCoAトランスフェラーゼ(CtfAB)、およびアセト酢酸デカルボキシラーゼ(Adc)の導入によって可能となり得る。M.サーモアセチカにおけるアセトン産生に有用な合成オペロンの例については、Genbank acc番号MW436696を参照のこと(Zeldes et al., Biotechnol. Bioeng.; 115:2951-2961 2018、Kato et al., AMB Expr.; 11:59 2021)。特定オペロンは、カルダナエロバクター・サブテルラネウス(Caldanaerobacter subterraneus)由来のThl、サーモシホ・メラネシエンシス(Thermosipho melanesiensis)由来のCtfAB、およびクロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)由来のAdcをコードする遺伝子を含む。
【0097】
ブタノン:
ムーレラ属種細菌における、より具体的にはM.サーモアセチカにおけるブタノンの産生は、2,3-ブタンジオールの産生を触媒する酵素および得られた2,3-ブタンジオールをブタノンに変換する酵素を細菌に導入することによって可能となり得る。2,3-ブタンジオールは、ピルベートを、アセトインを介して2,3-ブタンジオールに変換されるアセト乳酸に変換することによって産生され、その反応は、酵素アセト乳酸シンターゼ(Als)、アセト乳酸デカルボキシラーゼ(Aldc)、および2,3-ブタンジオールデヒドロゲナーゼ(Bdh)によって触媒される。続いて、2,3-ブタンジオールのブタノンへの変換は、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)のような株において自然に見出されるジオールヒドラターゼ(pduC、pduD、およびpduE)の作用によって起こり得る(Ghiaci et al., Plos One; 9(7):e102774 2014)。ブタノンを産生する第2の方法は、プロピオニル-CoAをアセチル-CoAと融合させて、無差別な(promiscuous)β-ケトチオラーゼによって3-ケトバレリル-CoAを形成し、次にABE産生クロストリジウムにおいて一般的に発現されるアセトアセチル-CoA:アセテート/ブチレート:CoAトランスフェラーゼ(CftAB)およびアセト酢酸デカルボキシラーゼ(Adc)の作用によって3-ケトバレリル-CoAをブタノンに変換することである(Srirangan et al., Biotechnology; 82:2574-2584 2016)。
【0098】
エタノール:
ムーレラ属種細菌における、より具体的にはM.サーモアセチカにおけるエタノールの産生は、アセチル-CoAをエタノールに変換する二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼ(AdhE)酵素を使用することによって、またはアルデヒド:フェレドキシン酸化還元酵素(AOR)酵素およびアルコールデヒドロゲナーゼを介してアセトアルデヒドへの、さらにはエタノールへのアセテート還元によって可能となり得る(Liew et al., Metab. Eng.; 40:104-114 2017)。
【0099】
本発明は、下記実施例によって説明され、それらは限定的なものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0100】
[実施例1]
【0101】
Spo0Aの欠失は、M.サーモアセチカの増殖速度を増加させる
環状ノックアウトプラスミドを構築し、相同組換えによってM.サーモアセチカにおいて遺伝子spo0Aを欠失させた。
【0102】
プラスミド骨格は、M.サーモアセチカにおいて機能的でない大腸菌(E.coli)pMB1レプリコンおよび中温性カナマイシン耐性マーカーを含むpK18であった。M.サーモアセチカのspo0Aの上流および下流それぞれ1kbの2つの相同領域は、自然構成的M.サーモアセチカPG3PDプロモーターの制御下で好熱性kanR耐性マーカーに隣接していた(プラスミドマップを
図2に示す)。プラスミドは、表2において列挙されているプライマーを用いたPCR(ハイフィデリティポリメラーゼを用いて)を使用して断片を増幅することによって構築された。断片は、ギブソン法(New England Biolabs)を使用して集合させた。プラスミドが構築され、配列決定によって検証されたら、プラスミドは繁殖株に移入され、適切なDNAメチル化も保証した。
【0103】
【0104】
M.サーモアセチカATCC 39073を、これまでに公開された方法に従って、ブチルゴム栓で閉じた100mlの血清ボトル(50%充填)において培養した(ボトルおよび栓:Ochs、ドイツ)(Daniel et al., J. Bacteriol.; 172:4464-4471 1990、Redl et al., Front. Microbiol.; 10 [3070] 2020)。しかしながら、培地は、緩衝液系を2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)に置き換えることと、フルクトースを炭素供給源(最終濃度60mM)として利用することによって改変された。培地は下記組成を有した(g/lで):KH2PO4(0.5);NH4Cl(0.4);NaCl(0.4);MES(20);酵母抽出物(0.5);1%微量元素溶液を培地に添加した。微量元素溶液を、2g/lのニトリロ三酢酸を用いて調製し、pHをKOHで6.0に調節し、下記化合物を添加した(mg/lで):MnSO4・H2O(1000);Fe(SO4)2(NH4)2・6H2O(800);CoCl2・6H2O(200);ZnSO4・7H2O(200);CuCl2・2H2O(20);NiCl2・6H2O(20);Na2MoO4・2H2O(20);Na2SeO4(20);Na2WO4(20)。培養培地のpHを6.5に調節し、N2:CO2(80:20)で流し、140℃で40分間オートクレーブにかけた。下記ストック溶液をオートクレーブ後に添加した:CaCl2(最終50mg/l)、MgCl2(最終330mg/l)、ビタミン溶液(1%)、システイン-HCl(最終1mM)。ビタミン溶液には、ビオチン(2);葉酸(2);ピリドキシン-HCl(10);チアミン-HCl(5);リボフラビン(5);ニコチン酸(5);カルシウムD-(+)-パントテン酸塩(5);ビタミンB12(0.5);p-アミノ安息香酸(5);チオクト酸(5)が含有されていた(mg/lで)。培地は接種前に予熱した。株を60℃で培養し、撹拌した。固形培地には、1%Gelzan(商標)、CaCl2(100mg/l)、MgCl2(660mg/l)が含有され、培地を120℃で20分間滅菌した。
【0105】
エレクトロポレーションに先立って、細胞を指数関数期まで増殖させ、遠心分離によって回収し、緩衝液(5mM NaH2PO4/270mMスクロース)で2回洗浄した。プラスミドDNAおよそ1μgを、エレクトロポレーションによって細胞に形質転換した。エレクトロポレーション条件は、Bio-Rad Gene Pulser(商標)および0.2cmのギャップを有するキュベット(Bio-Rad Laboratories,Inc.の製品)を使用することによって1.5kV、500Ωであった。より詳細については、Kita et al.(J. Biosci. Bioeng.; 115:347-352 2013)を参照のこと。エレクトロポレーションからの回収は、上述するような培地中で行ったが、但し酵母抽出物の濃度を増加させた(10g/L)。回収は一晩中行い、その後、培養物(種々の希釈で)100μlを、400μg/mlのカナマイシンを有する固形培地に蒔いた。インキュベーションは、コロニーがプレート上に出現するまで60℃で4~7日間嫌気的に行った。コロニーは、4つのプライマーセット(spo0A_up_ext_250bp-spo0A_dn_ext_250bp、spo0A_up_ext_250bp-Kan_Seq re、Kan_Seq fo-spo0A_dn_ext_250bp、およびKan_Seq re-Spo0A_UP_fo(それぞれ、ext-ext、ext-int、int-ext、およびint-int))を使用したPCRによって組込みについて検査した。陽性コロニーは、100μg/mlのカナマイシンを有する液体培地中で培養した。
【0106】
形質転換をさらに検証するために、gDNAを培養物から抽出し、全ゲノムを配列決定した。このようにして、spo0A遺伝子がkanRカセットによって置き換えられていることが確認された。
【0107】
WTおよびΔspo0A株の培養は、先述のような培地中で行った。定常増殖期に入った後、試料を採取し、顕微鏡(Leica DM5000)で目視検査した。培養物はともに、驚くほど胞子を形成していることが明らかであった。このことは、マラカイトグリーン胞子染色によってさらに確認された。水溶液中の0.5%(wt/vol)マラカイトグリーンを、細菌細胞が固定された顕微鏡スライドガラスに添加した。スライドを沸騰水上に置き、マラカイトグリーンを胞子に押し込んだ。冷却後(室温まで)、過剰な着色剤を水で洗い流した。染色された胞子は、顕微鏡(Leica DM5000)で同定された。両方の培養において、明らかに緑色に染色された胞子が観察された。
【0108】
欠失の影響をさらに検討するために、両方の株を培養し(3重反復で)、600nmでの培養物の光学密度をオンラインでモニタリングした。増殖曲線を
図3に示す。驚くべきことに、M.サーモアセチカΔspo0Aの表現型は、図において、および表3に提示した増殖速度において明らかであるように、有意により高い増殖速度(より短い倍加時間)を特徴としている。
【0109】
【0110】
t検定(信頼区間0.05で)によって有意性を評価することにより、Δspo0Aは野生型よりも有意に速く増殖することが示された。
[実施例2]
【0111】
M.サーモアセチカのSinRのアミノ酸配列における変化
胞子形成を起こしにくい株を開発するために、M.サーモアセチカ39073-HHを用いて進化研究を設定した。培養物を、2.5g/lの酵母抽出物を有する培地(実施例1において記載したものと同じ)中で培養し、60℃でインキュベートした。選抜圧をかけるために、培養物が定常期に達したら(通常、4日後)、2%接種物を使用して新鮮な培地に再接種した。このアプローチは、培養物がおよそ2500世代(14回の移入)にわたって進化するまで続けられた。
【0112】
培地中でかつ進化中に使用された条件下で増殖させた培養物の特性化は、顕微鏡検査、胞子のマラカイトグリーン染色(実施例1における記載を参照)、およびバイオマス生成(光学密度測定による)によって行われた。進化された培養物は、崩壊された胞子形成を有さず、バイオマスの生成は、非進化株と類似していた。培養物をインキュベーター中で長期間保管することと、株を再培養することとによって、驚くべきことに、通常静止状態になった1~3日後のかなりの誘導期を有する野生型とは対照的に、25日よりも長い間静止状態になった直後に代謝的に活性になることが可能であることが観察された。
【0113】
進化中に起きた遺伝子変化を評価するために、培養物を固形培地に様々な希釈で(単一コロニーの増殖を可能にするため)蒔いて、60℃で7日間嫌気的にインキュベートした。6つの単一コロニーを採取し、液体培地中で培養した。2日間のインキュベーション後、細胞を遠心沈降させ、ゲノムDNAを、Wizard(登録商標)Genomic DNA Purificationキット(Promega、マディソン、WI、米国)を使用して個々の培養物から抽出し、抽出されたDNAを10mM Tris-Cl、pH 8.5中に溶解した。DNAの定量化は、Qubit dsDNA HS Assay Kitを使用してQubit 2.0蛍光光度計を用いて行った(Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、MA、米国)。当該DNAを使用して、Illuminaショットガン配列決定ライブラリーを生成した。配列決定は、製造業者(Illumina、サンディエゴ、CA、米国)によって推奨されるように、MiSeq Reagent Kit v3を使用したMiSeqシステムを用いることによって実施され(600サイクル)、2×300bpペアエンドリードをもたらした。顕性突然変異は、参照ゲノム配列にアラインすることによって同定された。細胞の状態に関連した唯一の突然変異は、SinRをコードする遺伝子におけるV198F突然変異であった。
【0114】
進化株は、非崩壊胞子形成を有したが、野生型(SinR_198Vを保有している)は、胞子を産生する傾向が最も高く、細胞形態は特徴的な桿体ではなく、より円形であった。198Fによる進化株は、より特徴的な桿体形状の形態を有し、凝集しやすい傾向があった。新鮮な培地への接種物として使用された場合、SinR_198Fを有する培養物は、大幅に短い誘導期を有した。
【0115】
M.サーモアセチカのSinRのタンパク質構造の解析により、M.サーモアセチカのSinRが桿菌のSinRに似ているが、2つのタンパク質は同一ではないことが示されている。M.サーモアセチカにおけるSinR由来の第3のHTHドメインおよび枯草菌由来のSinRの配列アライメントは、2つの異なるアライメントアルゴリズムを使用する。理論に制限されずに、これにより、M.サーモアセチカにおけるV198が枯草菌(B.subtilis)におけるT60またはL61のいずれかと同等であり得ることが示唆される。枯草菌におけるSinRは、他のタンパク質への結合またはオリゴマー形成における変化のさらなる解析を可能にした明白な結晶構造を有する。枯草菌由来のSinR-SinI複合体の構造の検査、SinRオリゴマー形成およびSinI結合の両方[SinIの結合はオリゴマー形成相互作用を模倣している(Bai et al., Genes Dev.; 7:139-148 1993、Lewis et al., J. Mol. Biol.; 283:907-912 1998)]により、T60とL61がHTHドメインとオリゴマー形成ドメインとの中間相に存在していることが示されている(
図4)。L61の側鎖は、ヘリックス-ターン-ヘリックスモチーフの内側に面しており、このPhe(F)への突然変異は、立体衝突およびおそらくタンパク質の不安定化をもたらす(
図4C)。T60の側鎖は、オリゴマー形成ドメインに面しており、SinI由来のE14と2つの水素結合を作製している(
図4D、左)。T60のFへの突然変異により水素結合能が除去され、SinRとSinIとの間に立体衝突をもたらし、親和性を低減させる可能性が最も高い(
図4D中央および左)。
【0116】
構造解析により、L61はSinRのタンパク質コアに面していることが見出され、したがって、L61での突然変異は、SinRを不安定化させると予想される。T60は、SinI相互作用の中間相に面しており、したがって、この残基での突然変異は、SinR-SinI相互作用の親和性に影響を及ぼすと予想される。これらの仮説を確認し、SinRタンパク質安定性および/またはSinI相互作用親和性のいずれかに対して類似した影響を有すると予測される他の突然変異を同定するために、2つの異なるバイオインフォマティクスツールが適用された:(i)PremPSサーバー(Chen et al., PLOS Comp. Biol.; 16:e1008543 2020)は、SinRタンパク質安定性に対する予測される影響を算出するのに使用され、(ii)mCSM-PPI2サーバー(Rodrigues et al., Nucleic Acids Res.; 47:W338-W344 2019)は、SinI相互作用親和性に対する予測される影響を算出するのに使用された。両方の場合において、T60およびL61の両方での全ての考え得る突然変異の影響が予測された。
【0117】
L61での突然変異に関するバイオインフォマティクス予測(表4)により、この位置での突然変異がタンパク質安定性に対して大きな影響を有するのに対し、SinI相互作用親和性に対する影響はそれほど顕著ではないことが示唆される。これは、L61がタンパク質コアに面しており、SinI相互作用部位の一部を形成していないことを示す構造解析と一致している。これらの観察に基づいて、L61の突然変異時に観察される任意の表現型の影響に対する主な寄与因子は、タンパク質安定性であると予想される。L61での個々の突然変異の解析は、全ての突然変異が不安定化していると予測され、L61Fが最小限に不安定化しており(予測ΔΔG安定性(kcal/mol)=0.15)、L61Sが最も不安定化している(予測ΔΔG安定性(kcal/mol)=2.77)ことを示している。先の配列アライメントによって示唆されたように、M.サーモアセチカにおけるSinR V198が、桿菌におけるL61に相同的である場合、V198の任意のアミノ酸への突然変異は、M.サーモアセチカSinRを不安定化し、したがって、V198Fに関して観察されたものと類似した表現型の影響を有すると予想される。
【0118】
L61について予測されたものに反して、T60での突然変異は、SinRとSinIとの間の相互作用親和性に対して大きな影響があると予測されたのに対して、タンパク質安定性に対する影響は、あまり顕著ではないと予測された(表5)。これは、T60がSinR-SinI相互作用の中間相に存在し、SinR表面に面しているため、構造解析から予想される。これらの結果を考慮すると、T60での突然変異の主な表現型の影響は、SinIに対する親和性における変化に起因すると予想される。個々の突然変異の評価は、2つの突然変異T60DおよびT60Eが、SinIに対する親和性を増加させると予測されることを示している。これは、アスパラギン酸塩およびグルタミン酸塩がともにSinIに対していくつかの新たな極性および水素結合接触を行う場合のモデル化された突然変異体構造の検査時に容易に説明される。突然変異の残りの部分(アスパラギン酸塩およびグルタミン酸塩以外の全てのアミノ酸)は、SinIに対する親和性を減少させると予測される。これは、T60の側鎖がSinI由来のE14と2つの水素結合を作製することが見出された場合の構造解析と良好に一致している。T60の突然変異により水素結合能が除去され、SinRとSinIと間の親和性を低減させる。先の配列アライメントによって示唆されたように、M.サーモアセチカにおけるSinR V198が、桿菌におけるT60に相同的である場合、V198の、アスパラギン酸塩およびグルタミン酸塩を除く任意のアミノ酸への突然変異は、SinR-SinI相互作用親和性を減少させ、したがって、V198Fに関して観察されたものと類似した表現型の影響を有すると予想される。
【0119】
【0120】
【0121】
参考文献のリスト
以下に列挙されるか、または本明細書中の他の箇所に記載される各参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【配列表】
【国際調査報告】