(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】ポリトリメチレンエーテルグリコールの製造方法およびそれにより製造されたポリトリメチレンエーテルグリコール
(51)【国際特許分類】
C08G 65/34 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
C08G65/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514644
(86)(22)【出願日】2022-08-30
(85)【翻訳文提出日】2024-03-06
(86)【国際出願番号】 KR2022012946
(87)【国際公開番号】W WO2023038356
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】10-2021-0120424
(32)【優先日】2021-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513193923
【氏名又は名称】エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョ ハンギョル
(72)【発明者】
【氏名】チョン チェイル
(72)【発明者】
【氏名】チョ ヒョンジュン
【テーマコード(参考)】
4J005
【Fターム(参考)】
4J005AA21
4J005BA00
4J005BB01
4J005BB02
4J005BC00
(57)【要約】
本発明は、加水分解段階で有機溶媒を使用して精製効率を向上させることによって、優れた物性を有するポリトリメチレンエーテルグリコールを製造する方法およびそれにより製造されたポリトリメチレンエーテルグリコールに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオール単量体を酸触媒の存在下で縮重合して重合生成物を製造する段階(段階1);
重合生成物を有機溶媒、および水を利用して加水分解混合物として製造する段階(段階2);
加水分解混合物を塩基性塩を利用して中和する段階(段階3);
中和後に水性相および有機相を分離する段階(段階4);および
有機相内に存在する塩を濾過させる段階(段階5)を含む、
ポリトリメチレンエーテルグリコールの製造方法。
【請求項2】
ジオール単量体は、1,3-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール二量体、および1,3-プロパンジオール三量体から構成される群より選択されるいずれか一つ以上である、
請求項1に記載のポリトリメチレンエーテルグリコールの製造方法。
【請求項3】
酸触媒は、硫酸、フルオロスルホン酸、リン酸、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ホスホタングステン酸、ホスホモリブデン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、1,1,2,2-テトラフルオロエタンスルホン酸、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンスルホン酸、ビスマストリフレート、イットリウムトリフレート、イッテルビウムトリフレート、ネオジムトリフレート、ランタントリフレート、スカンジウムトリフレートおよびジルコニウムトリフレートから構成される群より選択されるいずれか一つ以上である、
請求項1に記載のポリトリメチレンエーテルグリコールの製造方法。
【請求項4】
有機溶媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アセトニトリル、およびジメチルホルムアミドから構成される群より選択されるいずれか一つ以上である、
請求項1に記載のポリトリメチレンエーテルグリコールの製造方法。
【請求項5】
有機溶媒は、加水分解段階で使用する水の量の0.1~0.9重量部で使用する、
請求項1に記載のポリトリメチレンエーテルグリコールの製造方法。
【請求項6】
塩基性塩は、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸バリウム、水酸化バリウム、および酸化バリウムから構成される群より選択されるいずれか一つ以上である、
請求項1に記載のポリトリメチレンエーテルグリコールの製造方法。
【請求項7】
段階4の後、有機相内に存在する水と溶媒を蒸留を通じて除去する段階をさらに含む、
請求項1に記載のポリトリメチレンエーテルグリコールの製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のポリトリメチレンエーテルグリコールの製造方法により製造される、
ポリトリメチレンエーテルグリコール。
【請求項9】
前記ポリトリメチレンエーテルグリコールの数平均分子量は、1000~5000g/molである、
請求項8に記載のポリトリメチレンエーテルグリコール。
【請求項10】
数平均分子量が1000~5000g/molであり、
ポリトリメチレンエーテルグリコール30kg当たりの塩基のミリ当量が3以下である、
ポリトリメチレンエーテルグリコール。
【請求項11】
ポリトリメチレンエーテルグリコール重量を基準として金属イオン含有量が10ppm以下である、
請求項10に記載のポリトリメチレンエーテルグリコール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年9月9日付韓国特許出願第10-2021-0120424号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、ポリトリメチレンエーテルグリコールの製造方法およびそれにより製造されたポリトリメチレンエーテルグリコールに関する。
【背景技術】
【0003】
オキセテン(Oxetene)または1,3-プロパンジオール(1,3-PDO)ベースのエーテル系ポリオールであるポリトリメチレンエーテルグリコール(Polytrimethylene ether glycol;PO3G)は、特有の結晶構造により差別化されたポリウレタンの物性を付与することができる。高い弾性復原力に比べて優れた機械的物性を示すPO3Gを適用したポリウレタンは、PEG(Poly ethylene glycol)、PPG(Poly propylene glycol)、PTMG(Poly tetramethylene glycol)などのような既存のポリエーテル系ポリオールとは異なる応用分野に適用することができるため、これまで多くの研究が行われてきている。
【0004】
ポリトリメチレンエーテルグリコールの製造方法は、大きく二つに区分される。まず、オキセテン(Oxetene)を開環重合して製造する方法があるが、前記方法は、簡単な方法で製造されるものの、原料の不安定性により商用化が進まれずに研究の領域にのみとどまっている。
【0005】
他の方法では、1,3-プロパンジオールから縮合重合反応で製造する方法がある。前記方法は、オキセテン(Oxetene)を開環重合して製造する方法に比べて多少複雑であるが、比較的に温和な重合条件で製造が可能である。前記方法を開示した文献には米国特許登録番号第6977291号および米国特許登録番号第7745668号が挙げられる。
【0006】
一方、前記特許に記載されたとおり、1,3-プロパンジオールから縮合重合反応でポリトリメチレンエーテルグリコールを製造する場合、いくつかの問題点がある。まず、前記縮合重合反応は、1,3-プロパンジオールを酸触媒下で長時間反応させるが、この過程で一部の高分子鎖は酸触媒と単量体が反応して酸エステル(acid ester)形態で存在し、この物質は目的とするポリトリメチレンエーテルグリコールを得る過程で除去しなければならない物質である。
【0007】
重合過程で前記酸エステル(acid ester)の発生の他に、酸触媒を使用する特性上、ポリトリメチレンエーテルグリコールの精製工程は多段階の精製工程を経るようになり、一般に加水分解、中和、濾過工程を含む。加水分解は、重合後に酸エステル(acid ester)をヒドロキシル基(hydroxyl group)に転換する過程である。高分子量のポリトリメチレンエーテルグリコールは、粘度が高く、鎖が長くなって疎水性(hydrophobic)性質が増加し、重合体は水との極性差により相溶性が阻害される。これにより、加水分解後にも一部の鎖末端は酸エステル(acid ester)で残留するという問題点がある。
【0008】
加水分解後には、残留酸を中和するために塩基を利用した中和段階が必要である。この時、加水分解が完全に行われない場合、残存する酸エステル(acid ester)が塩基と反応を通じて塩基性物質が生成される。生成された塩基性物質は、以降の工程で除去が難しく、アルカリ度に影響を与えることがあるため、ポリトリメチレンエーテルグリコールとこれを原料とするポリウレタンおよびポリウレタンウレアの品質を低下させる原因になる。
【0009】
また、中和を経た重合体混合物は、水性相と有機相がエマルジョン形態で混在する。そのうち、塩が含まれている水性相がポリトリメチレンエーテルグリコールが含まれている有機相内部に閉じ込められる現象が発生するため、単純な相分離を通じては塩の除去が難しく、水を蒸発させた後に濾過を通じて除去する。
【0010】
一方、前記塩の濾過過程で塩の粒子サイズが大きいほど、フィルターの気孔が詰まる現象が少なく、濾過速度が速くなり、濾過効率が増加してポリトリメチレンエーテルグリコール内部に混入される可能性が低い。反対に、塩の粒子サイズが微細な場合、濾過後にもポリトリメチレンエーテルグリコール内部に塩粒子が混入される場合が発生することがあり、これにより、最終のポリトリメチレンエーテルグリコールのアルカリ度が上昇する原因になる。ポリトリメチレンエーテルグリコールのようなポリオール原料のアルカリ度は、CPR(Controlled polymerization rate)という項目で管理されている。CPR分析規格であるISO 14899によれば、ポリオール原料のアルカリ度が高い場合、ポリウレタンなどのプレポリマーの生成時、ゲル化(gelation)を誘発し、反応速度に影響を与えると知られている。したがって、ポリオール原料のCPRを低く管理する必要性がある。
【0011】
したがって、優れた品質のポリトリメチレンエーテルグリコールを製造するためには、加水分解段階で効率的に酸エステル(acid ester)を除去し、中和および分離過程で生成された塩を効率的に除去するための精製方法に対する研究が必要である。
【0012】
そこで、本発明者らは、高分子量のポリトリメチレンエーテルグリコールの効率的な精製方法を研究した結果、後述するように一連の段階を経る場合、前記の問題を解決することができることを確認して本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、反応副生成物および精製過程で生成される塩を効果的に除去することができるポリトリメチレンエーテルグリコールの製造方法、およびそれにより製造されたポリトリメチレンエーテルグリコールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために、本発明は、ジオール単量体を酸触媒の存在下で縮重合して重合生成物を製造する段階(段階1);重合生成物を有機溶媒、および水を利用して加水分解混合物として製造する段階(段階2);加水分解混合物を塩基性塩を利用して中和する段階(段階3);中和後に水性相および有機相を分離する段階(段階4);および有機相内に存在する塩を濾過させる段階(段階5)を含むポリトリメチレンエーテルグリコールの製造方法を提供する。
【0015】
また、本発明は、前記製造方法を通じて製造されたポリトリメチレンエーテルグリコールを提供する。
【0016】
また、本発明は、数平均分子量が1000~5000g/molであり、ポリトリメチレンエーテルグリコール30kg当たりの塩基のミリ当量が3以下である、ポリトリメチレンエーテルグリコールを提供する。
【0017】
ジオール単量体を重合反応を通じてポリトリメチレンエーテルグリコールを製造する場合、酸触媒を使用するようになるが、副反応が行われて鎖末端がエステル(ester)基である副生成物が発生するようになる。このようなエステル(ester)基を含む副生成物は、ポリトリメチレンエーテルグリコールを使用した物品の物性偏差を招き、ポリトリメチレンエーテルグリコールの応用分野を制限する。
【0018】
一般に、前記エステル(ester)基を加水分解工程を通じてヒドロキシル基(hydroxyl group)に転換させ、残留酸を中和させる過程を通じてポリトリメチレンエーテルグリコールを精製する。また、加水分解と中和過程で生成される塩は、最終的に濾過を通じて除去するようになる。
【0019】
しかし、加水分解過程でポリトリメチレンエーテルグリコールと水の極性差により相溶性が阻害されてエステル(ester)が完全にヒドロキシル基(hydroxyl group)に転換されずに一部残留するという問題が発生するようになる。また、中和過程では加水分解後に残存するエステル(ester)基が鹸化反応を通じて塩基性物質を生成するようになり、強酸溶液を中和する過程で塩が生成される。また、中和過程で形成された有機相と水性相がエマルジョン化されて塩の除去が容易でないという問題点がある。
【0020】
そこで、本発明では、後述するように加水分解段階で水と混和性が高い有機溶媒を添加することによって、酸エステル(acid ester)の加水分解度を増加させ、中和工程後にエマルジョン化される現象を防止して水性相と有機相の分離を容易にし、有機相の水分除去時に塩の成長を安定的に起こして濾過効率を向上させることによって、一連の精製工程で精製効率を上げることができるという特徴がある。
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
重合段階(段階1)
本発明の段階1は、反応物であるジオール単量体を酸触媒の存在下で縮重合してポリトリメチレンエーテルグリコールを製造する段階である。
【0023】
好ましくは、ジオール単量体は、1,3-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール二量体、および1,3-プロパンジオール三量体から構成される群より選択されるいずれか一つ以上である。
【0024】
具体的には、前記重縮合触媒としては、 ルイス(Lewis)酸、ブレンステッド(Bronsted)酸、超酸(super acid)およびこれらの混合物からなる群より選択される。より好ましくは、触媒は、無機酸、有機スルホン酸、ヘテロ多価酸および金属塩からなる群より選択される。最も好ましくは、触媒は、硫酸、フルオロスルホン酸、リン酸、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ホスホタングステン酸、ホスホモリブデン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、1,1,2,2-テトラフルオロエタンスルホン酸、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンスルホン酸、ビスマストリフレート、イットリウムトリフレート、イッテルビウムトリフレート、ネオジムトリフレート、ランタントリフレート、スカンジウムトリフレートおよびジルコニウムトリフレートからなる群より選択される。
【0025】
前記触媒は、反応混合物重量の0.1~20wt%の濃度で使用することが好ましく、より好ましくは1~5wt%で使用する。
【0026】
また、好ましくは、前記重縮合は、150℃~250℃で行い、より好ましくは160℃~220℃で行う。また、前記反応は、非活性気体の存在下で行うことが好ましく、窒素下で行うことが好ましい。
【0027】
加水分解段階(段階2)
本発明の段階2は、前記重合段階後、ポリトリメチレンエーテルグリコールの副生成物である酸エステル(acid ester)を除去するために加水分解を行う段階である。
【0028】
前述のように、ポリトリメチレンエーテルグリコールを含む重合生成物に水を添加する場合、極性差により相溶性が低下するため、加水分解が完全に行われずに一部の鎖末端は酸エステル(acid ester)形態で残留するようになる。
【0029】
本発明では、加水分解段階で水を添加する前に、重合生成物および水と混和性が高い有機溶媒を添加することによって、ポリトリメチレンエーテルグリコールを含む高分子物質を溶解して均一な性状を形成させる。その後、水を添加しても相溶性が阻害されず、均一な性状で加水分解の進行が可能であり、重合後に生成された酸エステル(acid ester)を効率的にヒドロキシル基(hydroxyl group)に転換させることができる。
【0030】
本発明で使用することができる溶媒は、ポリトリメチレンエーテルグリコール、および水と混和性を有する溶媒であればその制限はない。好ましくは、有機溶媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アセトニトリル、およびジメチルホルムアミドから構成される群より選択されるいずれか一つ以上である。
【0031】
好ましくは、有機溶媒は、加水分解段階で使用する水の量の0.1~0.9重量部で使用する。より好ましくは、前記有機溶媒は、加水分解段階で使用する水の量の0.15重量部以上、0.20重量部以上、0.25重量部以上、0.30重量部以上、または0.35重量部以上であり、0.85重量部以下、0.80重量部以下、0.75重量部以下、または0.70重量部以下である。前記有機溶媒が水の量の0.1重量部未満である場合、ポリトリメチレンエーテルグリコールの溶解が良好に行われず、加水分解段階で均一な性状を形成させ難いという問題が発生することがあり、0.9重量部超過である場合、別途の溶媒除去過程で工程費用が追加的に発生することがあるという問題がある。
【0032】
また、前記加水分解段階は、使用される各溶媒により適切な温度で行うことができ、好ましくは30℃~90℃で行うことができる。
【0033】
中和段階(段階3)
本発明の段階3は、前記加水分解段階後に行われる塩基性塩を利用して残留酸を含む加水分解混合物を中和する段階である。
【0034】
本発明の製造方法によれば、加水分解段階で酸エステル(acid ester)をヒドロキシ基(hydroxy group)に効率的に転換可能であるため、中和段階で塩基と酸エステル(acid ester)の鹸化反応を通じて塩基性物質が生成される可能性が低く、製造されるポリトリメチレンエーテルグリコールの品質に優れている。
【0035】
好ましくは、塩基性塩は、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸バリウム、水酸化バリウム、および酸化バリウムから構成される群より選択されるいずれか一つ以上である。
【0036】
好ましくは、前記塩基性塩は、加水分解および中和段階で投入する水の量の1~7重量%で使用される。より好ましくは、前記塩基性塩は、加水分解および中和段階で投入する水の量の1.25重量%以上、1.5重量%以上、1.75重量%以上、または2重量%以上であり、6重量%以下、5重量%以下、4.5重量%以下、または4重量%以下である。前記塩基性塩が前記範囲で使用される場合、酸エステル(acid ester)の中和およびポリトリメチレンエーテルグリコールのアルカリ度の制御に容易であり、過度な中和反応を防止して後述する相分離および濾過段階で適切に生成される塩の除去に適している。
【0037】
また、本発明の製造方法によれば、加水分解段階後に中和段階を行うことによって、溶媒の存在下で前記段階の進行が可能であり、この場合、より安定的にポリトリメチレンエーテルグリコールのアルカリ度の制御が可能であり、後述する相分離段階、および濾過段階をより効率的に行うことができる。
【0038】
相分離および濾過段階(段階4および段階5)
本発明の段階4および段階5は、相分離を通じて有機相を得て、有機相内の塩を濾過を通じて除去する段階である。
【0039】
前記中和段階後の混合物は、水性相と有機相が混在する。中和後の水性相と有機相がエマルジョン化される場合、水性相内に存在する塩が有機相内部に閉じ込められる現象が発生するようになって相分離だけでは塩を除去することが難しく、水を蒸発させた後に濾過を通じて塩を除去しなければならない。
【0040】
また、一般に水溶液相で結晶化が行われる場合、結晶核が生成された後、表面で物質伝達を通じて溶質分子が積層されて結晶が成長すると知られている。しかし、製造されたポリトリメチレンエーテルグリコールが分子量が高い場合、高粘度特性により物質伝達が難しくて塩の成長が安定的に行われず、塩のサイズが小さくなって濾過効率が低下するという問題が発生することがある。
【0041】
本発明のポリトリメチレンエーテルグリコールの製造方法によれば、前記中和段階後に相分離段階を行ってポリトリメチレンエーテルグリコールと中和段階で形成される塩との密度差がポリトリメチレンエーテルグリコールと硫酸との密度差よりも大きいという点を利用して相分離時に水性相の分離が容易であり、これにより、水性相に存在する水、溶媒、および塩の混合物を容易に分離可能である。
【0042】
また、加水分解段階で投入した有機溶媒の相溶性に基づいて中和段階後にも前記水性相と有機相のエマルジョン化を防止することができ、究極的に中和段階で生成される塩の成長を安定的に図り、以降の濾過段階の効率を向上させることができる。
【0043】
また、中和後に相分離工程を行う場合、相分離に必要な溶媒の量を減らすことができ、中和前に相分離を行う工程に比べて中和後に生成される塩を効果的に除去することができるため、工程費用の低減および生産量の拡大が可能であり、工程効率が向上することができる。
【0044】
また、本発明の一実施形態によれば、前記段階4の後に、有機相内に存在する水と溶媒を蒸留を通じて除去する段階をさらに含むことができる。一般に、蒸留条件は、加熱状態で、低圧、または常圧で行われ得るが、有機相で副反応が行われない条件で水と溶媒を除去するための条件であれば特に制限されない。また、蒸留方法および使用可能な装置には特別な制限はないが、ストリッパー、薄膜蒸留器、流下膜式蒸留器、または短経路蒸留器などを使用することができる。
【0045】
前記蒸留段階を通じて有機相に存在する水と溶媒を除去後、残存する塩は濾過を通じて除去する。前述のように、本発明では、加水分解段階で有機溶媒を添加することによって加水分解の効率を上げ、中和段階で生成される塩の成長を安定的に図って最終濾過段階で有機相に存在する塩を効果的に除去してポリトリメチレンエーテルグリコール内に混入される不純物である塩の量を最小化することができる。
【0046】
前記濾過段階で使用する濾過方法は、塩を除去するための一般に知られた技術を使用することができ、特別な制限はないが、重力濾過、遠心濾過、または加圧濾過を使用することができる。また、フィルタープレス、キャンドルフィルター、加圧リーフフィルター、またはヌッチェフィルター(nutche filter)を利用することができる。
【0047】
前述した本発明のポリトリメチレンエーテルグリコールの製造方法は、有機溶媒を加水分解段階で含むことによって、副生成物、および塩の除去が効率的である。
【0048】
一方、本発明の他の一実施形態によれば、前記ポリトリメチレンエーテルグリコールの製造方法により製造されるポリトリメチレンエーテルグリコールが提供される。
【0049】
好ましくは、前記ポリトリメチレンエーテルグリコールの数平均分子量は、1000~5000g/molである。
【0050】
また、本発明は、数平均分子量が1000~5000g/molであり、ポリトリメチレンエーテルグリコール30kg当たりの塩基のミリ当量が3以下である、ポリトリメチレンエーテルグリコールを提供する。前記ポリトリメチレンエーテルグリコールの単位重量当たりの塩基の当量は、前述したCPRを示すものであり、CPRは通常ポリオール内の塩基性物質の濃度を示す指標であり、本発明ではポリトリメチレンエーテルグリコールのアルカリ度を示す。本発明によるポリトリメチレンエーテルグリコールは、CPRが顕著に低くてポリウレタンの原料として活用価値が高い。ポリトリメチレンエーテルグリコール内の塩基のミリ当量の測定方法は、ASTM D6437に準拠し、後述する実施例で具体化する。
【0051】
好ましくは、本発明によるポリトリメチレンエーテルグリコールの数平均分子量は、1500g/mol以上、1700g/mol以上、または2000g/mol以上であり、4000g/mol以下、3500g/mol以下、または3000g/mol以下である。また、好ましくは、本発明によるポリトリメチレンエーテルグリコール30kg当たりの塩基のミリ当量は、2.5以下、2以下、1.5以下、または1以下であり得る。一方、前記塩基のミリ当量は低いほど品質に優れたものであり、下限に制限はなく、理論的に0であり得るが、一例として0.1以上、0.2以上、0.3以上、または0.5以上であり得る。
【0052】
好ましくは、ポリトリメチレンエーテルグリコール重量を基準として金属イオン含有量が10ppm以下である。より好ましくは、ポリトリメチレンエーテルグリコール重量を基準として金属イオン含有量は、8ppm以下、5ppm以下、または3ppm以下である。前記金属イオンは、ポリトリメチレンエーテルグリコールの製造時に投入される塩基性塩に由来するものであり、前述のように、加水分解が良好に行われていない状態で中和段階を行う場合、鹸化反応を通じて鎖末端に存在したり、触媒として使用された酸により塩の形態で存在する。したがって、加水分解および濾過が良好に行われていない場合、前記金属イオンが最終のポリトリメチレンエーテルグリコールに残留するようになる。本発明によるポリトリメチレンエーテルグリコールは、前述した製造段階を経ることによって、前記金属イオンを効果的に除去することができるため、金属イオン含有量が低い。一方、前記金属イオン含有量は低いほど品質に優れたものであり、下限に制限はなく、理論的に0であり得るが、一例として0.1ppm以上、0.3ppm以上、または0.5ppm以上であり得る。
【0053】
前述のように、本発明のポリトリメチレンエーテルグリコールの製造方法およびこれにより製造されるポリトリメチレンエーテルグリコールは、高分子量であると共に、品質に優れてポリウレタン樹脂などの原料として活用可能性が高い。
【発明の効果】
【0054】
前述のように、本発明によるポリトリメチレンエーテルグリコールの製造方法は、反応副生成物および精製過程で生成される塩を効果的に除去することによって、高分子量のポリトリメチレンエーテルグリコールの製造に効果的である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、本発明の理解のために好ましい実施例を提示するが、下記の実施例は、本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範囲が下記の実施例に限定されるのではない。
【0056】
実施例1
1,3-プロパンジオール(3000g)および硫酸(27g)を5Lのダブルジャケット反応器に充填した後、窒素ガスでスパージング(sparging)しながら167℃で35時間重合し、副生成物は上部コンデンサを通じて除去した。
【0057】
重合生成物を80℃に冷却し、イソプロピルアルコール(IPA、750g)を投入して10分間攪拌した。その後、脱イオン水(1500g)を添加して4時間加水分解を行った。加水分解後、150gの脱イオン水にNa2CO3 51.56gを溶かして投入し、1時間攪拌して中和を行った。窒素スパージング(sparging)と攪拌を停止し、1時間定置させて相分離を誘導し、分離された水性相(aqueous phase)を排出した。その後、有機相(organic phase)を減圧下で120℃で3時間加熱して残っている水/溶媒を蒸発させ、ヌッチェフィルター(Nutche filter)を使用して濾過してポリトリメチレンエーテルグリコール生成物を得た。
【0058】
実施例2
重合生成物を80℃の代わりに75℃に冷却し、イソプロピルアルコールの代わりにエタノールを使用したことを除き、実施例1と同様の方法でポリトリメチレンエーテルグリコールを製造した。
【0059】
実施例3
重合生成物を80℃の代わりに55℃に冷却し、イソプロピルアルコールの代わりにアセトンを使用したことを除き、実施例1と同様の方法でポリトリメチレンエーテルグリコールを製造した。
【0060】
実施例4
重合生成物を80℃の代わりに65℃に冷却し、イソプロピルアルコールの代わりにテトラヒドロフランを使用したことを除き、実施例1と同様の方法でポリトリメチレンエーテルグリコールを製造した。
【0061】
実施例5
重合を35時間の代わりに40時間行ったことを除き、実施例1と同様の方法でポリトリメチレンエーテルグリコールを製造した。
【0062】
実施例6
重合を35時間の代わりに40時間行ったことを除き、実施例2と同様の方法でポリトリメチレンエーテルグリコールを製造した。
【0063】
実施例7
重合を35時間の代わりに40時間行ったことを除き、実施例3と同様の方法でポリトリメチレンエーテルグリコールを製造した。
【0064】
実施例8
重合を35時間の代わりに40時間行ったことを除き、実施例4と同様の方法でポリトリメチレンエーテルグリコールを製造した。
【0065】
比較例1
IPAを投入しないことを除き、実施例1と同様の方法でポリトリメチレンエーテルグリコールを製造した。
【0066】
比較例2
1,3-プロパンジオール(3000g)および硫酸(27g)を5Lのダブルジャケット反応器に充電した後、窒素ガスでスパージング(sparging)しながら167℃で35時間重合し、副生成物は上部コンデンサを通じて除去した。
【0067】
重合生成物を95℃に冷却し、脱イオン水(1500g)を添加して4時間加水分解を行った。加水分解後、80℃に冷却し、イソプロピルアルコール(IPA、750g)を投入して10分間攪拌した。その後、150gの脱イオン水にNa2CO3 51.56gを溶かして投入し、1時間攪拌して中和を行った。窒素スパージング(sparging)と攪拌を停止し、1時間定置させて相分離を誘導し、分離された水性相(aqueous phase)を排出した。その後、有機相(organic phase)を減圧下で120℃で3時間加熱して残っている水/溶媒を蒸発させ、ヌッチェフィルター(Nutche filter)を使用して濾過してポリトリメチレンエーテルグリコール生成物を得た。
【0068】
比較例3
加水分解混合物を80℃の代わりに75℃に冷却し、イソプロピルアルコールの代わりにエタノールを使用したことを除き、実施例1と同様の方法でポリトリメチレンエーテルグリコールを製造した。
【0069】
比較例4
加水分解混合物を80℃の代わりに55℃に冷却し、イソプロピルアルコールの代わりにアセトンを使用したことを除き、実施例1と同様の方法でポリトリメチレンエーテルグリコールを製造した。
【0070】
比較例5
加水分解混合物を80℃の代わりに65℃に冷却し、イソプロピルアルコールの代わりにテトラヒドロフランを使用したことを除き、実施例1と同様の方法でポリトリメチレンエーテルグリコールを製造した。
【0071】
比較例6
重合を35時間の代わりに40時間行ったことを除き、比較例1と同様の方法でポリトリメチレンエーテルグリコールを製造した。
【0072】
比較例7
重合を35時間の代わりに40時間行ったことを除き、比較例2と同様の方法でポリトリメチレンエーテルグリコールを製造した。
【0073】
比較例8
加水分解混合物を80℃の代わりに75℃に冷却し、イソプロピルアルコールの代わりにエタノールを使用したことを除き、比較例3と同様の方法でポリトリメチレンエーテルグリコールを製造した。
【0074】
比較例9
加水分解混合物を80℃の代わりに55℃に冷却し、イソプロピルアルコールの代わりにアセトンを使用したことを除き、比較例4と同様の方法でポリトリメチレンエーテルグリコールを製造した。
【0075】
比較例10
加水分解混合物を80℃の代わりに65℃に冷却し、イソプロピルアルコールの代わりにテトラヒドロフランを使用したことを除き、比較例5と同様の方法でポリトリメチレンエーテルグリコールを製造した。
【0076】
実験例
実施例および比較例で製造されたポリトリメチレンエーテルグリコールを利用して下記の物性を測定した。
【0077】
(1)数平均分子量(g/mol)および硫酸基(Sulfate group)の含有量(mol%)
実施例および比較例で製造したポリトリメチレンエーテルグリコールをクロロホルム-d (chloroform-d)溶媒に溶かした後、核磁気共鳴分析装置(製造元:JEOL、モデル名:JNM ECA600)を利用して数平均分子量(Mn)および残留硫酸基(sulfate group)の含有量を測定した。
【0078】
数平均分子量(Mn)は、下記の式1により計算された。
【0079】
[式1]
Mn(g/mol)=(Mid group peak面積/End group peak面積+1)×58.08+18.02
Sulfate groupの含有量は、下記の式2により計算された。
【0080】
[式2]
Sulfate group(mol%)=Sulfate group peak面積/End group peak面積×100
【0081】
(2)相分離効率(%)
相分離効率は、下記の式3により測定した。
[式3]
相分離効率(%)=相分離時に分離された水溶液層の重量/総(organic+aqueous phase重量)×100
【0082】
(3)CPR(meqOH/30kg)
ASTM D6437によりCPR値を測定した。具体的には、メタノール100mlを0.005N HCl in methanolic溶液で自動滴定器(Metrohm、Titrino 905)を利用してブランクテスト(blank test)を行った。その後、前記実施例および比較例で製造したポリトリメチレンエーテルグリコール15gをメタノール100mlに溶かした後、0.005N HCl in methanolic solutionを利用して滴定後、下記の式4によりアルカリ度(alkalinity number)を計算した。
【0083】
[式4]
CPR(meqOH/30kg)=(S-B)×0.005×3000/W
前記式4で、
Sは、サンプルテスト(sample test)に使用されたHCl溶液分注量であり、
Bは、ブランクテスト(blank test)に使用されたHCl溶液分注量であり、
Wは、サンプルの重量である。
【0084】
(4)濾過効率(L/m2hr)
ヌッチェフィルター(Nutche filter)を使用して濾過時、1Lの処理にかかった時間を測定し、下記の式5により計算した。
【0085】
[式5]
濾過効率(L/m2hr)=V/(A×T)
前記式5で、
Vは、濾過溶液の体積(L)であり、
Aは、使用したヌッチェフィルター(Nutche filter)の濾過面積であり
Tは、濾過にかかった時間である。
【0086】
(5)金属イオン含有量(ppm)
実施例および比較例で製造したポリトリメチレンエーテルグリコールを誘導結合プラズマ原子放出分光器装置(製造元:Agilent、モデル名:Agilent 5100)を利用してポリトリメチレンエーテルグリコール重量を基準として金属イオン(Na+)含有量を測定した。この時、定量限界は2ppmであった。
【0087】
前記結果を下記表1に示した。
【0088】
【0089】
前記表1に示すように、本発明によるポリトリメチレンエーテルグリコール製造方法は、加水分解段階で有機溶媒を添加することによって、相分離効率および濾過効率に優れ、硫酸基(sulfate group)が完全に除去されたことを確認することができる。また、本発明によるポリトリメチレンエーテルグリコールは、高い数平均分子量を維持しながらもCPRが顕著に減少し、金属イオン含有量が非常に低いことを確認することができる。
【国際調査報告】