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特表2024-533294超音波刺激構造および治療用化学種の送達のための方法およびシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】超音波刺激構造および治療用化学種の送達のための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/59 20170101AFI20240905BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20240905BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20240905BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240905BHJP
   A61K 47/62 20170101ALI20240905BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A61K47/59
A61K47/60
A61K47/61
A61K31/7105
A61K47/62
A61K9/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515033
(86)(22)【出願日】2022-09-07
(85)【翻訳文提出日】2024-04-24
(86)【国際出願番号】 US2022042708
(87)【国際公開番号】W WO2023038937
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】63/241,183
(32)【優先日】2021-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/338,799
(32)【優先日】2022-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500273296
【氏名又は名称】ザ・ペン・ステート・リサーチ・ファンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン エイチ.アリザバラガ
(72)【発明者】
【氏名】モハマド アブ-ラバン
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアンナ シー.シモン
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ジェイ.ヘイズ
(72)【発明者】
【氏名】フェルドウシ サベラ ラウナクー
(72)【発明者】
【氏名】ティアス イエイングスト
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA95
4C076CC09
4C076CC26
4C076EE22
4C076EE23
4C076EE24
4C076EE30
4C076EE31
4C076EE36
4C076EE37
4C076EE38
4C076EE41
4C076EE42
4C076EE43
4C076EE59
4C076FF68
4C076FF70
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA05
4C086NA13
4C086ZA96
4C086ZB21
(57)【要約】
本開示の例示的な実施形態は、組成物および組成物を使用する方法を提供する。本明細書に記載される組成物は、ヒドロゲル、治療用化学種、およびヒドロゲルを治療用化学種に接合する結合基を含む。ヒドロゲルを治療用化学種に接合する結合基は、ディールス・アルダー環状付加反応生成物を含む。本開示のいくつかの態様は、対象者に治療用化学種を送達する方法に関する。本方法は、組成物を対象者に配置する工程と、レトロ・ディールス・アルダー反応を開始してディールス・アルダー環状付加反応生成物を分解し、それにより結合基を切断し、治療用化学種をヒドロゲルから分離する工程とを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディールス・アルダー環状付加反応生成物を含む結合基を含むヒドロゲルと、
ヒドロゲルに結合した治療用化学種と、
を含み、トリガー事象に暴露される際に、結合基は可逆的な逆行性開裂反応を起こしてヒドロゲルから治療用化学種を放出するように構成されていることを特徴とする組成物。
【請求項2】
治療用化学種がヒドロゲル内に封入されていることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
トリガー事象が音響エネルギーのパルス波を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
音響エネルギーのパルス波は、波形、パルス持続時間、およびパルス繰返し周波数を含むことを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
波形は、約40メガパスカル(MPa)から約100MPaの範囲のピーク陽圧振幅と、約10MPaから約30MPaの範囲のピーク陰圧振幅とを含み、
パルス持続時間は、約1マイクロ秒(μs)から約20ミリ秒(ms)の範囲の時間枠内で、約1サイクルから約20,000サイクルの範囲のサイクル数を含み、
パルス繰返し周波数は、約0.1ヘルツ(Hz)から約100Hzの範囲の周波数を含み、および
処理時間は約30秒から約300秒の範囲である
ことを特徴とする、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
ヒドロゲルが生体適合性ポリマーを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
生体適合性ポリマーが、置換または非置換の、ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)、ポリリジン、ポリグリコール酸、ポリ-L-乳酸コポリマー、ポリヒドロキシブチレート、ヒドロキシバレレートコポリマー、ポリ-L-ラクチド、ポリジオキサノン、ポリカーボネート、ポリ酸無水物、キトサン、キチン、セルロース、デンプン、グリコーゲン、ゼラチン、アミロース、ヒアルロン酸、アルギン酸、およびこれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
治療用化学種は、低分子、核酸、ペプチド、タンパク質、マイクロRNA模倣物、およびそれらの組み合わせの少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
結合基はジエンとジエノフィルとの反応生成物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
ジエンは、置換または非置換の、フラン、チオフェン、またはピロールの少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
ジエノフィルは、置換または非置換の、アルケンまたはアルキンの少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
第1前駆体を含む第1材料と、
第2前駆体を含む第1治療用化学種と、
を含み、第1前駆体および第2前駆体は、ディールス・アルダー環状付加反応生成物を形成し、ディールス・アルダー環状付加反応生成物は、第1トリガー事象に暴露される際にレトロ・ディールス・アルダー反応を起こし、第1治療用化学種を放出するように構成されていることを特徴とする組成物。
【請求項13】
第3前駆体を含む第2材料と、
第4前駆体を含む第2治療用化学種と、
をさらに含み、第3前駆体および第4前駆体は、ディールス・アルダー・環状付加反応生成物を形成し、第3前駆体および第4前駆体は、第1前駆体および第2前駆体とは異なることを特徴とする、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
第3前駆体および第4前駆体が、第2トリガー事象へ暴露される際にレトロ・ディールス・アルダー反応を起こし、第2治療用化学種を放出するように構成されていることを特徴とする、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
第1トリガー事象が第2トリガー事象とは相違し、第1治療用化学種および第2治療用化学種が異なるトリガー事象で放出されることを特徴とする、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
第1トリガー事象または第2トリガー事象の少なくとも一方が、音響エネルギーのパルス波を含むことを特徴とする、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
音響エネルギーのパルス波は、波形、パルス持続時間、およびパルス繰返し周波数を含むことを特徴とする、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
第1トリガー事象および第2トリガー事象が音響エネルギーのパルス波を含む場合、第2トリガー事象は、第1トリガー事象とは異なる波形、パルス持続時間、またはパルス繰返し周波数の少なくとも1種を含む音響エネルギーのパルス波を含むことを特徴とする、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
波形は、約40メガパスカル(MPa)から約100MPaの範囲のピーク陽圧振幅と、約10MPaから約30MPaの範囲のピーク陰圧振幅とを含み、
パルス持続時間は、約1マイクロ秒(μs)から約20ミリ秒(ms)の範囲の時間枠内で、約1サイクルから約20,000サイクルの範囲のサイクル数を含み、
パルス繰返し周波数は、約0.1ヘルツ(Hz)から約100Hzの範囲の周波数を含み、および
処理時間は約30秒から約300秒の範囲である
ことを特徴とする、請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
第1材料が生体適合性ポリマーを含むことを特徴とする、請求項13に記載の組成物。
【請求項21】
第2材料が生体適合性ポリマーを含むことを特徴とする、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
生体適合性ポリマーが、置換または非置換の、ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)、ポリリジン、ポリグリコール酸、ポリ-L-乳酸コポリマー、ポリヒドロキシブチレート、ヒドロキシバレレートコポリマー、ポリ-L-ラクチド、ポリジオキサノン、ポリカーボネート、ポリ酸無水物、キトサン、キチン、セルロース、デンプン、グリコーゲン、ゼラチン、アミロース、ヒアルロン酸、アルギン酸、およびこれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
第1治療用化学種は、低分子、核酸、ペプチド、タンパク質、マイクロRNA模倣物、およびそれらの組み合わせの少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項12に記載の組成物。
【請求項24】
第1前駆体が、置換または非置換の、フラン、チオフェン、またはピロールから選択されるジエンを含むことを特徴とする、請求項12に記載の組成物。
【請求項25】
第2前駆体が、置換または非置換の、アルケンまたはアルキンを含むジエノフィルを含むことを特徴とする、請求項12に記載の組成物。
【請求項26】
第3前駆体が、置換または非置換の、フラン、チオフェン、またはピロールから選択されるジエンを含むことを特徴とする、請求項13に記載の組成物。
【請求項27】
第4前駆体が、置換または非置換の、アルケンまたはアルキンを含むジエノフィルを含むことを特徴とする、請求項13に記載の組成物。
【請求項28】
ヒドロゲルと治療用化学種とを含む組成物を対象者に配置する工程であって、ヒドロゲルは、ヒドロゲルと治療用化学種とを結合する結合基を含む工程と、
組成物を音響エネルギーのパルス波に暴露して可逆的な逆行性開裂反応を開始して結合基を切断し、ヒドロゲルから治療用化学種を分離させる工程と、
を含むことを特徴とする、対象者に治療用化学種を送達する方法。
【請求項29】
治療用化学種をヒドロゲル内に封入する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
ヒドロゲルの第1前駆体と治療用化学種の第2前駆体とを含むディールス・アルダー反応生成物を介して治療用化学種とヒドロゲルとを連結する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
音響エネルギーのパルス波は、波形、パルス持続時間、およびパルス繰返し周波数を含むことを特徴とする、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
波形は、約40メガパスカル(MPa)から約100MPaの範囲のピーク陽圧振幅と、約10MPaから約30MPaの範囲のピーク陰圧振幅とを含み、
パルス持続時間は、約1マイクロ秒(μs)から約20ミリ秒(ms)の範囲の時間枠内で、約1サイクルから約20,000サイクルの範囲のサイクル数を含み、
パルス繰返し周波数は、約0.1ヘルツ(Hz)から約100Hzの範囲の周波数を含み、および
処理時間は約30秒から約300秒の範囲である
ことを特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
ヒドロゲルが生体適合性ポリマーを含むことを特徴とする、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
生体適合性ポリマーが、置換または非置換の、ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)、ポリリジン、ポリグリコール酸、ポリ-L-乳酸コポリマー、ポリヒドロキシブチレート、ヒドロキシバレレートコポリマー、ポリ-L-ラクチド、ポリジオキサノン、ポリカーボネート、ポリ酸無水物、キトサン、キチン、セルロース、デンプン、グリコーゲン、ゼラチン、アミロース、ヒアルロン酸、アルギン酸、およびこれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
治療用化学種は、低分子、核酸、ペプチド、タンパク質、マイクロRNA模倣物、およびそれらの組み合わせの少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
結合基はジエン前駆体とジエノフィル前駆体とのディールス・アルダー反応生成物を含むことを特徴とする、請求項28に記載の方法。
【請求項37】
ジエン前駆体は、置換または非置換の、フラン、チオフェン、またはピロールの少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
ジエノフィル前駆体は、置換または非置換の、アルケンまたはアルキンの少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
対象者の組織に対して、第1前駆体と第2前駆体とを含むディールス・アルダー反応生成物を含む材料を配置する工程と、
材料を第1トリガー事象に暴露して、材料のレトロ・ディールス・アルダー反応を開始させる工程と、
を含むことを特徴とする、対象者において制御された組織再生を促進する方法。
【請求項40】
治療用化学種を材料内に封入する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
第1前駆体および第2前駆体とは異なる第3前駆体および第4前駆体を含むディールス・アルダー反応生成物を介して、治療用化学種を材料に連結させる工程をさらに含むことを特徴とする、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
治療用化学種を第2トリガー事象に暴露して、第3前駆体および第4前駆体のレトロ・ディールス・アルダー反応を開始し、治療用化学種を分離する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
第1トリガー事象または第2トリガー事象の少なくとも一方が、音響エネルギーのパルス波を含むことを特徴とする、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
音響エネルギーのパルス波は、波形、パルス持続時間、およびパルス繰返し周波数を含むことを特徴とする、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
第2トリガー事象を、第1トリガー事象とは異なる波形、パルス持続時間、またはパルス繰返し周波数の少なくとも1種を含むように調整して、材料のレトロ・ディールス・アルダー反応とは異なる速度で治療用化学種を分離させる工程をさらに含むことを特徴とする、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
第2トリガー事象を、第1トリガー事象とほぼ同一の波形、パルス持続時間、またはパルス繰返し周波数の少なくとも1種を含むように調整して、材料のレトロ・ディールス・アルダー反応と同様の速度で治療用化学種を分離させる工程をさらに含むことを特徴とする、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
波形は、約40メガパスカル(MPa)から約100MPaの範囲のピーク陽圧振幅と、約10MPaから約30MPaの範囲のピーク陰圧振幅とを含み、
パルス持続時間は、約1マイクロ秒(μs)から約20ミリ秒(ms)の範囲の時間枠内で、約1サイクルから約20,000サイクルの範囲のサイクル数を含み、
パルス繰返し周波数は、約0.1ヘルツ(Hz)から約100Hzの範囲の周波数を含み、および
処理時間は約30秒から約300秒の範囲である
ことを特徴とする、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
材料が生体適合性ポリマーを含むことを特徴とする、請求項39に記載の方法。
【請求項49】
生体適合性ポリマーが、置換または非置換の、ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)、ポリリジン、ポリグリコール酸、ポリ-L-乳酸コポリマー、ポリヒドロキシブチレート、ヒドロキシバレレートコポリマー、ポリ-L-ラクチド、ポリジオキサノン、ポリカーボネート、ポリ酸無水物、キトサン、キチン、セルロース、デンプン、グリコーゲン、ゼラチン、アミロース、ヒアルロン酸、アルギン酸、およびこれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
第1治療用化学種は、低分子、核酸、ペプチド、タンパク質、マイクロRNA模倣物、およびそれらの組み合わせの少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項41に記載の方法。
【請求項51】
第1前駆体が、置換または非置換の、フラン、チオフェン、またはピロールから選択されるジエンを含むことを特徴とする、請求項39に記載の方法。
【請求項52】
第2前駆体が、置換または非置換の、アルケンまたはアルキンを含むジエノフィルを含むことを特徴とする、請求項39に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の様々な実施形態は、一般的に治療用化学種の制御放出のための構造に関し、より詳細には、集束超音波(fUS)刺激下でレトロ・ディールス・アルダー開裂反応を起こすヒドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
(関連出願の相互参照)
本願は、2021年9月7日に出願された米国特許仮出願第63/241,183号および2022年5月5日に出願された米国特許仮出願第63/338,799号の利益を主張し、両出願は、参照によりその全体が本明細書の一部をなすものとする。
【0003】
(連邦政府後援研究の声明)
本発明は、米国陸軍/MRMCから授与された助成金番号W81XWH-21-1-0052の下、政府の支援を受けて行われたものである。政府は本発明について一定の権利を有する。
【0004】
制御された薬物放出を可能にする移植可能な構造体および薬物送達システムは、外科的再建後および再生医療中に、従来はアクセスが困難であった骨および組織を修復する際に、改善された結果をもたらす可能性がある。治療薬を標的部位に直接送達する場合、慣用のポリマーをベースとしたシステムは、多くの場合に受動的な拡散およびポリマー分解に依存し、治療薬放出の時間的制御を欠く。同様に、骨再生のための高分子移植構造体は、制御できない高分子分解および構造の欠如に悩まされている。化学的トリガーなどの内部刺激は、時間的放出を制御するのに役立つが、多くの場合に、ポリマーの分解を開始して治療薬を放出させるために、被験者の特異的な免疫反応または薬物送達システムに組み込まれる追加の化学物質を必要とする。光、熱、磁界のような外部からの物理的刺激もまた、ポリマー分解および治療薬の放出を開始させることができる。しかしながら、これらの方法は領域全体を物理的刺激にさらすため、標的外のイオン化または熱傷(burning)をもたらす恐れがある。さらに、このような刺激は、組織深部のポリマーベースのドラッグデリバリーシステムに到達しないため、薬物放出の強度および頻度の制御に欠ける。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、強力かつ安全な外部刺激下で容易に分解して治療薬を標的に放出できる組成物は、有益な薬物送達システムを提供し、深部組織標的に対する標的外イオン化および熱傷を制限し得る。本明細書の開示では、ディールス・アルダー結合基を有する架橋3Dネットワークからなるポリマーベースの薬物送達システムは、集束超音波で刺激される際に分解を受けて治療薬を放出し、治療薬の放出速度を制御すると同時に標的外への影響を制限する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の主題は、集束超音波刺激下でレトロ・ディールス・アルダー開裂反応を起こし、任意選択に治療用化学種を標的組織に放出する、ヒドロゲルを有する組成物を送達する方法またはその使用を含む。本開示の例示的な実施形態は、ヒドロゲルと、ヒドロゲルに結合した治療用化学種とを含む組成物を提供する。ヒドロゲルは、ディールス・アルダー環状付加反応生成物を有する結合基を含むことができる。トリガー事象に暴露された際に可逆的な逆行性開裂反応を起こしてヒドロゲルから治療用化学種を放出させるように、結合基を構成することができる。
【0007】
いくつかの実施形態において、ヒドロゲル内に治療用化学種を封入することができる。
【0008】
いくつかの実施形態では、トリガー事象は、音響エネルギーのパルス波を含むことができる。
【0009】
いくつかの実施形態では、音響エネルギーのパルス波は、波形、パルス持続時間、およびパルス繰返し周波数を含むことができる。
【0010】
いくつかの実施形態では、波形は、約40メガパスカル(MPa)から約100MPaの範囲のピーク陽圧振幅と、約10MPaから約30MPaの範囲のピーク陰圧振幅とを含むことができる。パルス持続時間は、約1マイクロ秒(μs)から約20ミリ秒(ms)の範囲の時間枠内に、約1サイクルから約20,000サイクルの範囲のサイクル数を含むことができる。パルス繰返し周波数は、約0.1ヘルツ(Hz)から約100Hzの範囲の周波数を含むことができる。治療時間は、約30秒から約300秒の範囲であり得る。
【0011】
いくつかの実施形態において、ヒドロゲルは生体適合性ポリマーを含むことができる。生体適合性ポリマーは、置換または非置換の、ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)、ポリリジン、ポリグリコール酸、ポリ-L-乳酸コポリマー、ポリヒドロキシブチレート、ヒドロキシバレレートコポリマー、ポリ-L-ラクチド、ポリジオキサノン、ポリカーボネート、ポリ酸無水物、キトサン、キチン、セルロース、デンプン、グリコーゲン、ゼラチン、アミロース、ヒアルロン酸、アルギン酸、およびこれらの組み合わせを含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、治療用化学種は、低分子、核酸、ペプチド、タンパク質、マイクロRNA模倣物(mimic)、およびそれらの組み合わせの少なくとも1種を含むことができる。いくつかの実施形態において、結合基は、ジエンとジエノフィルとの反応生成物を含むことができる。ジエンは、置換または非置換の、フラン、チオフェン、またはピロールの少なくとも1種を含むことができる。ジエノフィルは、置換または非置換の、アルケンまたはアルキンの少なくとも1種を含むことができる。
【0013】
本開示の例示的な実施形態は、第1材料および第1治療用化学種を含む組成物を提供する。第1材料は、第1前駆体を含むことができる。第1治療用化学種は、第2前駆体を含むことができる。第1前駆体および第2前駆体は、ディールス・アルダー環状付加反応生成物を形成することができる。ディールス・アルダー環状付加反応生成物は、第1治療用化学種を放出するための第1トリガー事象に暴露されたときに、レトロ・ディールス・アルダー反応を受けるように構成することができる。
【0014】
いくつかの実施形態において、組成物は、第2材料および第2治療用化学種をさらに含むことができる。第2材料は、第3前駆体を含むことができる。第2治療用化学種は、第4前駆体を含むことができる。第3前駆体および第4前駆体は、ディールス・アルダー環状付加反応生成物を形成し得る。いくつかの実施形態において、第3前駆体および第4前駆体は、第1前駆体および第2前駆体とは異なっていてもよい。
【0015】
いくつかの実施形態において、第3前駆体および第4前駆体は、第2トリガー事象に暴露された際にレトロ・ディールス・アルダー反応を起こして、第2治療用化学種を放出するように構成することができる。
【0016】
いくつかの実施形態では、第1トリガー事象は、第2トリガー事象とは異なり、第1治療用化学種および第2治療用化学種を、別個のトリガー事象で放出するようにすることができる。
【0017】
いくつかの実施形態において、第1トリガー事象または第2トリガー事象の少なくとも一方は、音響エネルギーのパルス波を含むことができる。
【0018】
いくつかの実施形態では、音響エネルギーのパルス波は、波形、パルス持続時間、およびパルス繰返し周波数を含むことができる。
【0019】
いくつかの実施形態において、第1トリガー事象および第2トリガー事象が音響エネルギーのパルス波を含む場合、第2トリガー事象は、第1トリガー事象とは異なる波形、パルス持続時間、またはパルス繰返し周波数の少なくとも1種を含む音響エネルギーのパルス波を含むことができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、波形は、約40メガパスカル(MPa)から約100MPaの範囲のピーク陽圧振幅と、約10MPaから約30MPaの範囲のピーク陰圧振幅とを含むことができる。パルス持続時間は、約1マイクロ秒(μs)から約20ミリ秒(ms)の範囲の時間枠内で、約1サイクルから約20,000サイクルの範囲のサイクル数を含むことができる。パルス繰返し周波数は、約0.1ヘルツ(Hz)から約100Hzの範囲の周波数を含むことができる。治療時間は、約30秒から約300秒の範囲であり得る。
【0021】
いくつかの実施形態において、第1材料は、生体適合性ポリマーを含むことができる。第2材料は、生体適合性ポリマーを含むことができる。生体適合性ポリマーは、置換または非置換の、ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)、ポリリジン、ポリグリコール酸、ポリ-L-乳酸コポリマー、ポリヒドロキシブチレート、ヒドロキシバレレートコポリマー、ポリ-L-ラクチド、ポリジオキサノン、ポリカーボネート、ポリ酸無水物、キトサン、キチン、セルロース、デンプン、グリコーゲン、ゼラチン、アミロース、ヒアルロン酸、アルギン酸、およびこれらの組み合わせを含むことができる。
【0022】
いくつかの実施形態において、第1治療用化学種は、低分子、核酸、ペプチド、タンパク質、マイクロRNA模倣物、およびそれらの組み合わせの少なくとも1種を含むことができる。
【0023】
いくつかの実施形態において、第1前駆体は、置換または非置換の、フラン、チオフェン、またはピロールから選択されるジエンを含むことができる。第2前駆体は、置換または非置換の、アルケンまたはアルキンからなるジエノフィルを含むことができる。第3前駆体は、置換または非置換の、フラン、チオフェン、またはピロールから選択されるジエンを含むことができる。第4前駆体は、置換または無置換のアルケンまたはアルキンからなるジエノフィルを含むことができる。
【0024】
本開示の例示的な実施形態は、対象者に治療用化学種を送達する方法を提供する。本方法は、ヒドロゲルと治療用化学種とを含む組成物を対象者に配置する工程と、組成物を音響エネルギーのパルス波に暴露する工程とを含むことができる。ヒドロゲルは、ヒドロゲルと治療用化学種とを結合する結合基を含むことができる。組成物を音響エネルギーのパルス波に暴露することで、可逆的な逆行性開裂反応を開始して結合基を切断し(severe)、ヒドロゲルから治療用化学種を分離することができる。
【0025】
いくつかの実施形態において、本方法は、ヒドロゲル内に治療用化学種を封入する工程をさらに含むことができる。いくつかの実施形態において、本方法は、ヒドロゲル上の第1前駆体と治療用化学種上の第2前駆体とを含むディールス・アルダー反応生成物を介して、治療用化学種をヒドロゲルとカップリングする工程をさらに含むことができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、音響エネルギーのパルス波は、波形、パルス持続時間、およびパルス繰返し周波数を含むことができる。
【0027】
いくつかの実施形態では、波形は、約40メガパスカル(MPa)から約100MPaの範囲のピーク陽圧振幅と、約10MPaから約30MPaの範囲のピーク陰圧振幅とを含むことができる。パルス持続時間は、約1マイクロ秒(μs)から約20ミリ秒(ms)の範囲の時間枠内で、約1サイクルから約20,000サイクルの範囲のサイクル数を含むことができる。パルス繰返し周波数は、約0.1ヘルツ(Hz)から約100Hzの範囲の周波数を含むことができる。治療時間は、約30秒から約300秒の範囲であり得る。
【0028】
いくつかの実施形態において、ヒドロゲルは生体適合性ポリマーを含むことができる。生体適合性ポリマーは、置換または非置換の、ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)、ポリリジン、ポリグリコール酸、ポリ-L-乳酸コポリマー、ポリヒドロキシブチレート、ヒドロキシバレレートコポリマー、ポリ-L-ラクチド、ポリジオキサノン、ポリカーボネート、ポリ酸無水物、キトサン、キチン、セルロース、デンプン、グリコーゲン、ゼラチン、アミロース、ヒアルロン酸、アルギン酸、およびこれらの組み合わせを含むことができる。
【0029】
いくつかの実施形態において、治療用化学種は、低分子、核酸、ペプチド、タンパク質、マイクロRNA模倣物、およびそれらの組み合わせの少なくとも1種を含むことができる。
【0030】
いくつかの実施形態において、結合基は、ジエン前駆体とジエノフィル前駆体とを含むディールス・アルダー反応生成物を含むことができる。ジエン前駆体は、置換または非置換の、フラン、チオフェン、またはピロールの少なくとも1種を含むことができる。ジエノフィル前駆体は、置換または非置換の、アルケンまたはアルキンの少なくとも1種を含むことができる。
【0031】
本開示の例示的な実施形態は、対象者内の制御された組織再生を促進する方法を提供する。本方法は、対象者の組織に対して、第1前駆体と第2前駆体とを含むディールス・アルダー反応生成物を含む材料を配置する工程と、材料を第1トリガー事象に暴露して材料のレトロ・ディールス・アルダー反応を開始させる工程とを含むことができる。
【0032】
いくつかの実施形態において、本方法は、材料内に治療用化学種を封入する工程をさらに含むことができる。いくつかの実施形態において、本方法は、第1前駆体および第2前駆体とは異なる、第3前駆体と第4前駆体とを含むディールス・アルダー反応生成物を介して、治療用化学種を材料とカップリングさせる工程をさらに含むことができる。
【0033】
いくつかの実施形態において、本方法は、治療用化学種を第2トリガー事象に暴露し、それにより第3前駆体および第4前駆体のレトロ・ディールス・アルダー反応を開始させて治療用化学種を分離(uncouple)させる工程をさらに含むことができる。
【0034】
いくつかの実施形態において、第1トリガー事象または第2トリガー事象の少なくとも一方は、音響エネルギーのパルス波を含むことができる。
【0035】
いくつかの実施形態では、音響エネルギーのパルス波は、波形、パルス持続時間、およびパルス繰返し周波数を含むことができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、波形は、約40メガパスカル(MPa)から約100MPaの範囲のピーク陽圧振幅と、約10MPaから約30MPaの範囲のピーク陰圧振幅とを含むことができる。パルス持続時間は、約1マイクロ秒(μs)から約20ミリ秒(ms)の範囲の時間枠内で、約1サイクルから約20,000サイクルの範囲のサイクル数を含むことができる。パルス繰返し周波数は、約0.1ヘルツ(Hz)から約100Hzの範囲の周波数を含むことができる。治療時間は、約30秒から約300秒の範囲であり得る。
【0037】
いくつかの実施形態において、本方法は、第2トリガー事象を、第1トリガー事象とは異なる波形、パルス持続時間、またはパルス繰返し周波数の少なくとも1種を含むように調整して、材料のレトロ・ディールス・アルダー反応とは異なる速度で治療用化学種を分離させるようにする工程をさらに含むことができる。
【0038】
いくつかの実施形態において、本方法は、第2トリガー事象を、第1トリガー事象とほぼ同一の波形、パルス持続時間、またはパルス繰返し周波数の少なくとも1種を含むように調整して、材料のレトロ・ディールス・アルダー反応と同様の速度で治療用化学種を分離させるようにする工程をさらに含むことができる。
【0039】
いくつかの実施形態において、材料は生体適合性ポリマーを含むことができる。生体適合性ポリマーは、置換または非置換の、ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)、ポリリジン、ポリグリコール酸、ポリ-L-乳酸コポリマー、ポリヒドロキシブチレート、ヒドロキシバレレートコポリマー、ポリ-L-ラクチド、ポリジオキサノン、ポリカーボネート、ポリ酸無水物、キトサン、キチン、セルロース、デンプン、グリコーゲン、ゼラチン、アミロース、ヒアルロン酸、アルギン酸、およびこれらの組み合わせを含むことができる。
【0040】
いくつかの実施形態において、治療用化学種は、低分子、核酸、ペプチド、タンパク質、マイクロRNA模倣物、およびそれらの組み合わせの少なくとも1種を含むことができる。
【0041】
いくつかの実施形態において、結合基は、ジエン前駆体とジエノフィル前駆体とを含むディールス・アルダー反応生成物を含むことができる。ジエン前駆体は、置換または非置換の、フラン、チオフェン、またはピロールの少なくとも1種を含むことができる。ジエノフィル前駆体は、置換または非置換の、アルケンまたはアルキンの少なくとも1種を含むことができる。
【0042】
本開示のこれらの態様および他の態様を、以下の詳細な説明および添付の図面に記載する。実施形態の他の態様および特徴は、特定の例示的な実施形態に関する以下の説明を図面と合わせて検討することにより、当業者に明らかになるであろう。本開示の特徴を特定の実施形態および図に関連して論じるとしても、本開示のすべての実施形態は、本明細書で論じられる特徴の1つまたは複数を含むことができる。さらに、1つまたは複数の実施形態を特定の有利な特徴を有するものとして論じるとしても、そのような特徴の1つまたは複数を、本明細書で論じられる種々の実施形態とともに使用することもできる。同様に、例示的な実施形態をデバイス、システム、または方法の実施形態として以下で議論するとしても、そのような例示的な実施形態は、本開示の種々のデバイス、システム、および方法で実装され得ることを理解されたい。
【0043】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付の図面は、現在開示されている主題の複数の実施形態を示すものであり、本明細書とともに、現在開示されている主題の原理を説明する役割を果たすものである。さらに、現在開示されている主題の範囲を限定することを何ら意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の例示的な実施形態にしたがう、対象者内に配置される例示的な組成物を示す概略図である。
図2A】本発明の例示的な実施形態にしたがう、外部刺激下で分解を受ける治療用化学種および結合基を有する例示的な組成物の概略図である。
図2B】本発明の例示的な実施形態にしたがい、外部刺激下で分解を受ける、2種の別個の材料に2種の別個の治療用化学種が結合されている例示的な組成物の概略図である。
図3A】本発明の例示的な実施形態にしたがって、外部刺激下でレトロ・ディールス・アルダー反応を起こして結合基を形成する、例示的な組成物および前駆体を示す図である。
図3B】本発明の例示的な実施形態にしたがって、外部刺激下でレトロ・ディールス・アルダー反応を起こして結合基を形成する、例示的な組成物および前駆体を示す図である。
図3C】本発明の例示的な実施形態にしたがって、外部刺激下でレトロ・ディールス・アルダー反応を起こして結合基を形成する、例示的な組成物および前駆体を示す図である。
図4A】本発明の例示的な実施形態にしたがう、例示的なキトサンヒドロゲルおよび結合基を有するキトサンヒドロゲルのFTIRスペクトルを示す図である。
図4B】本発明の例示的な実施形態にしたがう、例示的な結合基を有するキトサンヒドロゲルのDSC曲線を示す図である。
図4C】本発明の例示的な実施形態にしたがう、例示的なポリカプロラクトン材料および結合基を有するポリカプロラクトン材料のFTIRスペクトルを示す図である。
図4D】本発明の例示的な実施形態にしたがう、例示的なポリカプロラクトン材料および結合基を有するポリカプロラクトン材料のFTIRスペクトルを示す図である。
図4E】本発明の例示的な実施形態にしたがう、例示的なポリカプロラクトン材料および結合基を有するポリカプロラクトン材料のFTIRスペクトルを示す図である。
図4F】本発明の例示的な実施形態にしたがう、例示的なポリカプロラクトン材料および結合基を有するポリカプロラクトン材料のFTIRスペクトルを示す図である。
図4G】本発明の例示的な実施形態にしたがう、例示的なポリカプロラクトン材料および結合基を有するポリカプロラクトン材料のFTIRスペクトルを示す図である。
図4H】本発明の例示的な実施形態にしたがう、例示的なポリカプロラクトン材料および結合基を有するポリカプロラクトン材料のDSC曲線を示す図である。
図4I】本発明の例示的な実施形態にしたがう、例示的なポリカプロラクトン材料および結合基を有するポリカプロラクトン材料のDSC曲線を示す図である。
図4J】本発明の例示的な実施形態にしたがう、例示的なポリカプロラクトン材料および結合基を有するポリカプロラクトン材料のDSC曲線を示す図である。
図4K】本発明の例示的な実施形態にしたがう、例示的なポリカプロラクトン材料および結合基を有するポリカプロラクトン材料のDSC曲線を示す図である。
図4L】本発明の例示的な実施形態にしたがう、例示的な結合基を有するキトサンヒドロゲルのレオロジー曲線を示す図である。
図5A】本発明の例示的な実施形態にしたがう、例示的なヒドロゲルおよび材料からの治療用化学種の集束超音波依存性放出を示す図である。
図5B】本発明の例示的な実施形態にしたがう、例示的なヒドロゲルおよび材料からの治療用化学種の集束超音波依存性放出を示す図である。
図5C】本発明の例示的な実施形態にしたがう、例示的なヒドロゲルおよび材料からの治療用化学種の集束超音波依存性放出を示す図である。
図5D】本発明の例示的な実施形態にしたがう、例示的なヒドロゲルおよび材料からの治療用化学種の集束超音波依存性放出を示す図である。
図5E】本発明の例示的な実施形態にしたがう、例示的なヒドロゲルおよび材料からの治療用化学種の集束超音波依存性放出を示す図である。
図5F】本発明の例示的な実施形態にしたがう、例示的なヒドロゲルおよび材料からの治療用化学種の集束超音波依存性放出を示す図である。
図6A】本発明の例示的実施形態にしたがう、集束超音波刺激下での例示的ヒドロゲルの分解のリアルタイム画像を示す図である。
図6B】本発明の例示的実施形態にしたがって種々の条件の集束超音波に暴露する際の、周囲温度変化を示す図である。
図6C】本発明の例示的な実施形態にしたがう例示的な結合基を有するヒドロゲルの集束超音波への暴露前後の光学的形状測定(profilometry)結果を示す図である。
図7A】本発明の例示的な実施形態にしたがい、例示的なヒドロゲルの、HeLa細胞を用いた細胞適合性染色の結果を示す図である。
図7B】本発明の例示的な実施形態にしたがい、例示的なヒドロゲルの、HeLa細胞を用いた細胞適合性染色の結果を示す図である。
図8A】本発明の例示的な実施形態にしたがい、例示的なヒドロゲルの、HeLa細胞による代謝活性を示すグラフである。
図8B】本発明の例示的な実施形態にしたがい、例示的なヒドロゲルの、HeLa細胞をもちいた総細胞数を示すグラフである。
図8C】本発明の例示的な実施形態にしたがい、20℃から60℃の範囲の温度において1時間から4時間にわたって浸漬させた場合の、例示的なヒドロゲルおよび材料からの治療用化学種の集束超音波依存性放出を示すグラフである。
図9】本発明の例示的な実施形態にしたがい、種々の結合基を有する例示的材料および例示的構造の環状付加物により生成される、ギブス自由エネルギー反応障壁およびエンタルピー反応障壁を示す図である。
図10】本発明の例示的な実施形態にしたがい、治療用化学種を対象者に送達する例示的な方法を示す図である。
図11】本発明の例示的な実施形態にしたがい、治療用化学種を対象者に送達する例示的な方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本開示の原理および特徴の理解を容易にするために、種々の例示的実施形態を以下に説明する。本明細書に開示される実施形態の種々の要素を構成するものとして以下に説明される構成要素、工程、および材料は、例示的であって制限的なものではないことを意図する。本明細書に記載される構成要素、工程、および材料と同一または類似の機能を果たす多くの好適な構成要素、工程、および材料は、本開示の範囲内に包含されることを意図する。本明細書に記載されていないそのような他の構成要素、工程、および材料は、本明細書に開示される実施形態の開発後に開発される同様の構成要素または工程を含むが、それらに限定されるものではない。
【0046】
開示される技術の例示的な実施形態を本明細書で詳細に説明するが、他の実施形態が企図されることを理解されたい。したがって、開示される技術が、その範囲において、以下の説明に記載される構成要素の構造および配置の詳細、あるいは図面に図示される構成要素の構造および配置の詳細に限定することを意図しない。開示された技術は、他の実施形態が可能であり、種々の方法で実施または実施することが可能である。
【0047】
また、本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかにそうでないことが指示されない限り、複数の参照語を含むことに留意しなければならない。「含む(comprising)」または「含有する(containing)」または「含む(including)」とは、少なくとも指定された化合物、元素、粒子、または方法工程が、組成物または成形品または方法中に存在することを意味する。しかしながら、たとえ指定された化合物、材料、粒子、方法工程と同じ機能を有するとしても、他の化合物、材料、粒子、方法工程の存在を排除するものではない。
【0048】
例示的な実施形態を説明する際、明瞭化のための専門用語を援用する。各用語は、当業者によって理解される最も広い意味を意図し、同様の目的を達成するために同様の方法で動作するすべての技術的等価物を含むことが意図される。また、方法の1つまたは複数の工程の記載は、明示的に特定された工程の間に追加の方法工程または介在する方法工程の存在を排除するものではないことを理解されたい。方法の工程は、開示された技術の範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された順序とは異なる順序で実行することができる。同様に、装置またはシステムにおける1つまたは複数の構成要素についての言及は、追加的な構成要素または明示的に特定された構成要素の間に介在する構成要素の存在を排除するものではないことも理解されたい。
【0049】
本明細書で論じるように、「対象者」または「患者」の血管系は、ヒトまたは任意の動物の血管系であってもよい。動物は、哺乳類、獣医動物、家畜動物またはペット型動物などを含むがこれらに限定されない、適用可能なあらゆる種類の動物であってよいことが理解されるべきである。一例として、動物は、ヒトに類似した特定の特性を有するように特に選択された実験動物(たとえば、ラット、イヌ、ブタ、サルなど)であってもよい。対象者は、ヒトの患者であってもよい。
【0050】
本明細書で使用する場合、任意の数値または範囲に対する「約(about)」または「約(approximately)」という用語は、適切な許容範囲を示す。より具体的には、「約」または「約」は、言及された値の±20%の値の範囲を指すことができ、たとえば、「約90%」は、71%~99%の値の範囲を指すことができる。
【0051】
図1に示すように、本発明の例示的な実施形態は、図2Aおよび図2Bにより明確に示されるように、対象者の骨に対する移植可能な構造であるか、または薬物送達系であり得る組成物100の概略を提供する。
【0052】
図2Aは、ヒドロゲル110と治療用化学種120とを含む例示的な組成物100を提供する。ヒドロゲル110は結合基130を含むことができる。いくつかの実施形態において、結合基130は、図2Aに示されるようにヒドロゲル110同士を結合することができる。代替的または追加的に、結合基130は、図2Bに示され、そして以下により詳細に記載されるように、ヒドロゲル110を治療用化学種120に直接的または間接的に結合することができる。結合基130は、ジエン132およびジエノフィル134を含むディールス・アルダー環状付加反応生成物を含むことができる。左方の概略図に示すように、対象者に送達または移植されたとき、かつ、逆行性開裂反応(すなわちレトロ・ディールス・アルダー反応)を開始するのに十分なトリガー事象140による刺激を受ける前に、ヒドロゲル110は、結合基130を介して治療用化学種120に連結され、治療用化学種120を封入することができる。いくつかの場合、ヒドロゲル110がトリガー事象140に暴露される際に、図2Aの右方の概略図に示されるように、組成物100は、治療用化学種120を放出するか、または治療用化学種120を標的に送達することができる。
【0053】
図2Bに目を向けると、例示的な組成物200は、第1前駆体232を有する第1材料210aと、第2前駆体234を有する第1治療用化学種120aとを含む。第1前駆体232および第2前駆体234は一緒になって、ジエンおよびジエノフィルを含むディールス・アルダー環状付加反応生成物である第1結合基230aを形成することができる。また、組成物200は、第3前駆体236を有する第2材料210bと、第4前駆体238を有する第2治療用化学種120bとを含むことができる。第1前駆体232および第2前駆体234と同様に、第3前駆体236および第4前駆体238は一緒になって、ジエンおよびジエノフィルを含むディールス・アルダー環状付加反応生成物である第2結合基230bを形成することができる。概略図に示すように、第1材料210aおよび第2材料210bは一緒になって、ヒドロゲルまたは他の生体適合性材料のようなポリマー構造を形成することができる。それぞれの材料210a、210bは、周知の架橋技術を用いて官能基架橋を介して連結することができる。それぞれの材料210a、210bを、それぞれの治療用化学種220a、220bと直接的または間接的に連結させることができる。それによって、対象者に送達または移植され、かつ、第1トリガー事象240aおよび/または第2トリガー事象240bによる刺激の前に、組成物200を骨などの標的組織に構造的に固定させることができる。第1トリガー事象240aに暴露される際に、第1結合基230aは逆行性開裂反応すなわちレトロ・ディールス・アルダー反応を起こすことができるが、第2結合基230bは連結されたままであり、標的組織に対して第1治療用化学種220aのみを放出および/または送達することができる。同様に、第2トリガー事象240bに暴露される際に、第2結合基230bは逆行性開裂反応すなわちレトロ・ディールス・アルダー反応を起こし、第2治療用化学種220bを放出および/または送達することができる。いくつかの場合、第1結合基230aは第2結合基230bとは実質的に異なり、第2治療用化学種220bの放出とは有意に異なるエネルギー特性(たとえば、より高いエネルギーまたはより低いエネルギー)のトリガー事象において、組成物200から第1治療用化学種220aを放出させることができる。特定の実施形態において、第1トリガー事象240aおよび第2トリガー事象240bのエネルギー特性(すなわち、波形、パルス持続時間、および/またはパルス繰返し周波数の範囲)を接近させるように、第1結合基230aおよび第2結合基230bを類似させることができる。
【0054】
一般に、ヒドロゲルは、親水性かつ生体適合性ポリマーの3Dネットワークであり、図2Aおよび図2Bに示されるように、個々のポリマー鎖の物理的架橋からスポンジ状材料を形成することができる。スポンジ状材料は、任意の形状に成形可能であり、圧縮可能であり、ペイロードを装填可能である。いくつかの実施形態において、ヒドロゲル110が非圧縮の3Dネットワークにある際に、組成物100のヒドロゲル110は、膨潤して大量の水または他の流体を保持する生体適合性および生分解性材料で形成することができる。代替的または追加的に、組成物200の材料210を、剛性があり、ステントまたはプレートとして機能することができる生体適合性構造材料で作ることができる。
【0055】
いくつかの例において、組成物100、200は、1種または複数種のモノマーから形成されるポリマー材料であることができる。特定の実施形態において、ヒドロゲル110は、反応してゲル化する共有結合架橋を形成する官能基を有する前駆体132、134から形成することができる。一般的に、前駆体は、重合可能かつ架橋剤官能基を含み、架橋剤官能基は互いに反応して反復単位からなるポリマーを形成する。いくつかの場合、ヒドロゲル110は、ディールス・アルダー環状付加反応前駆体を含む前駆体132、134から構成される。特定の例では、材料210は、第1前駆体を有する第1のポリマーまたは材料210aから構成することができ、第1前駆体132は、第2前駆体134を有する第1治療用化学種120aと連結して、ディールス・アルダー環状付加反応生成物を形成する。
【0056】
種々の例において、前駆体132、134、232、234、236、238は、連鎖成長(付加)重合または工程成長(縮合)重合を含む種々の機構によって反応することができる。加えて、ヒドロゲルの連鎖成長重合および段階成長重合のための方法は、乳化重合、溶液重合、懸濁重合、光重合、開環重合、可逆的付加-フラグメント化連鎖移動重合、ディールス・アルダー環状付加重合、プラズマ重合、および沈殿重合を含むことができるが、それらに限定されるものではない。
【0057】
いくつかの実施形態において、ヒドロゲル110および/または材料210a、210bは、ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)、ポリリジン、ポリグリコール酸、ポリ-L-乳酸コポリマー、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ヒドロキシバレレートコポリマー、ポリ-L-ラクチド、ポリジオキサノン、ポリカーボネート、およびポリ酸無水物を含むが、それらに限定されるものではない。追加的または代替的に、ヒドロゲル110および/または材料210a、210bは、たとえば、キトサン、キチン、セルロース、デンプン、グリコーゲン、ゼラチン、アミロース、ヒアルロン酸、およびアルギン酸のような、天然に存在する多糖類を含むことができる。ヒドロゲル110および/または材料210a、210bの例示的な組成物を図3A図3Cに提供する。
【0058】
所望の粘度に基づいて、ヒドロゲル110および/または材料210a、210bのサイズおよび質量を変化させることができる。たとえば、約50,000~約190,000ダルトンの範囲の分子量を有するキトサンベースのヒドロゲルは、低分子量ヒドロゲルを構成することができる。特定の実施形態において、ヒドロゲル110および/または材料210a、210bは、約2キロダルトン(kDa)から約400kDa以上の範囲であり得る。
【0059】
いくつかの実施形態において、組成物100、200の治療用化学種120、220a、220bは、イン・ビボでヒト患者を治療することを含む、患者の疾患または状態を治療する特定の目的または目的に有用な任意の適切な治療薬または診断薬であることができる。たとえば、いくつかの例において、治療用化学種は、低分子、核酸、ペプチド、タンパク質、またはそれらの組み合わせを含むことができる。
【0060】
低分子化合物は、約100ダルトンから約1000ダルトンの分子量を有する、炭化水素系化合物、無機化合物、有機金属化合物を含む。また、低分子治療薬は、単結合を有する飽和化合物、または二重結合もしくは三重結合を有する不飽和化合物を含むことができる。また、いくつかの実施態様では、低分子は鎖状または環状であることができる。核酸は、生細胞に一般的に見出される複合有機物質を含むことができ、DNAまたはRNA、およびそれらに関連する核酸(たとえば、メッセンジャーRNA、(「mRNA」)、小干渉RNA(「siRNA」)、マイクロRNA(「miRNA」)など)を含むが、それらに限定されるものではない。核酸は天然物であっても合成物であってもよい。同様に、ペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質は、天然物であってもよいし、合成もしくは実験室製であってもよい。いくつかの実施形態において、治療用化学種120、220a、220bは、たとえば、TNFR2 ECD、ヒト化IgG、キメラIgG、改変インスリン、ヒトEPO、PEGヒトG-CSF、ヒト化Fab、ヒトインターフェロンβ-1a、第VIII因子、第VIIa因子、A型ボツリヌス毒素、フルオレセインイソチオシアネートで標識されたアルブミン(FITC-アルブミン)、適切なマイクロRNA(たとえば、miR-210、miR-148b、miR-21、miR-103/107、miR-92a、miR-16、miR-34a、miR-218、miR-10b、miR-20a、miR-9、miR-181a、miR-29b、miR-10aなど)、および任意の適切なモノクローナル抗体(たとえば、および任意の適切なモノクローナル抗体(たとえば、抗CD3、マウスIgG2a、抗GPIIb/IIIa、キメラIgG1 Fab、抗CD20、抗IL2R、抗RSV、抗TNF、抗HER2、抗CD33、抗CD52、抗CD11a、抗VEGF、抗a4インテグリン、抗IL12/23、抗IL6R、抗EPCAM/CD3、抗RANK-L、抗BLyS、抗CTLA-4など)または融合タンパク質(たとえば、アフリベルセルト、リロナセプト、アレファセプト、ロミプロスチム、アバタセプト/ベラタセプト、デニロイキン-ジフチトクスなど)を含むことができる。
【0061】
特定の実施例において、治療用化学種120、220a、220bを、組織再生の治療に使用することができる。たとえば、治療用化学種120、220a、220bは、骨形成調節因子、軟骨形成調節因子、内皮形成調節因子、筋原性調節因子、抗癌剤、抗真菌剤、抗菌剤、または幹細胞であることができる。骨形成調節因子は、シンバスタチン、ラネル酸ストロンチウム、miRNA-26a、miRNA-148b、miRNA-27a、およびmiRNA-489を含むが、それらに限定されるものではない。軟骨形成調節因子は、miRNA-9、miRNA-79、miRNA-140、およびmiRNA-30Aを含むが、それらに限定されるものではない。いくつかの例示的な内皮細胞形成調節因子は、miRNA-210、miRNA-195、miRNA-155、miRNA-106b、miRNA-93、およびmiRNA-25を含むが、それらに限定されるものではない。筋原性調節因子のいくつかの実施形態は、miRNA-206、miRNA-1、siGDF-8、miRNA-133、miRNA-24、およびmiRNA-16を含むが、それらに限定されるものではない。適切な抗癌剤または癌化学療法において一般的に使用される組成物は、パクリタキシル、アファチニブ、ジマレイン酸塩、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、ドキソルビシン、フルオロウラシル、miRNA-148b、miRNA-135、miRNA-124、miRNA-101、miRNA-29c、miRNA-15a、およびmiRNA-34を含むことができる。適切な抗真菌剤は、クロトリマゾール、エコナゾール、ミコナゾール、テルビナフィン、フルコナゾール、ケトコナゾール、およびアムホテリシンを含むが、それらに限定されるものではない。一般的な抗菌剤は、ペニシリン、セファロスポリン、テトラサイクリン、アミノグリコシド、マクロライド、フルオロキノロンを含む。
【0062】
また、いくつかの実施形態において、治療用化学種120、220a、220bは、セラグノスティックス、すなわち症状または疾患を診断および治療するために使用することができる化学種を含むことができる。このようなセラグノスティックスは、蛍光剤、燐光剤、放射能、MRI活性、あるいは、他の方法による画像化、追跡、または可視化可能な特性のような、診断特性を含むことができる。
【0063】
いくつかの実施形態において、結合基130は、本開示の目的と矛盾しない任意の適切な結合基であることができる。前述のように、ヒドロゲル110および/または材料210は、一緒になってディールス・アルダー環状付加反応を受けることができる2種以上の前駆体から構成することができる。したがって、前駆体132、134、232、234、236、238のいずれかは、任意の適切なディールス・アルダー環状付加反応の前駆体を含むことができる。当業者に理解されるように、ディールス・アルダー反応は、共役ジエンとジエノフィルとの共役付加反応である。本開示の特定の実施形態は、置換または非置換アルケンなどの適切なジエンを含む。いくつかの実施形態において、適切なジエンは、フラン、チオフェン、またはピロールを含むことができるが、それらに限定されるものではない。限定されることを意図するものではないが、いくつかの例示的なジエンは、1,2-プロパジエン、イソプレン、1,3-ブタジエン、2,4-オクタンジオン、1,5-シクロオクタジエン、ノルボルナジエン、2-ピロン、ジシクロペンタジエン、1H-ピロール-2-カルボン酸、1H-ピロール-3-カルボン酸、3,5-ジメチル-1H-ピロール-2-カルボン酸、1,5-ジメチル-1H-ピロール-2-カルボン酸、2,4,5-トリメチル-1H-ピロール-3-カルボン酸、5-フェニル-1H-ピロール-2-カルボン酸、2,4-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボン酸、2,5-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボン酸、3-メチル-1H-ピロール-2-カルボン酸、5-(3,4-ジメチルフェニル)-2-メチル-1H-ピロール-3-カルボン酸、1-メチル-1H-ピロール-2-カルボン酸、2-メチル-1H-ピロール-3-カルボン酸、フラン-2-カルボン酸、フラン-3-カルボン酸、2-(フラン-2-イル)酢酸、3-(5-メチルフラン-2-イル)プロピオン酸、5-エチルフラン-2-カルボン酸、5-イソブチル-2-メチルフラン-3-カルボン酸、4,5-ジメチルフラン-2-カルボン酸、チオフェン-2-カルボン酸、4,5-ジメチルチオフェン-2-カルボン酸、3-メチルチオフェン-2-カルボン酸、5-メチルチオフェン-2-カルボン酸、5-フェニルチオフェン-2-カルボン酸、2-(チオフェン-2-イル)酢酸、チオフェン-3-カルボン酸、2-(チオフェン-3-イル)酢酸、5-エチルチオフェン-2-カルボン酸、および5-メチル-4-フェニルチオフェン-3-カルボン酸を含むが、それらに限定されるものではない。
【0064】
いくつかの実施形態において、ジエンは、置換または非置換の、アルケンまたはアルキンのいずれかを含むことができる適切なジエノフィルとのディールス・アルダー環状付加反応を受ける。いくつかの実施形態において、適切なジエノフィルは、アクロレイン、メチルビニルケトン、アクリル酸、メチルアクリレート、アクリルアミド、アクリロニトリル、メチルアクリレート、マレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、無水マレイン酸、マレロニトリル、ブテノライド、α-メチレン-γ-ブトラクトン、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、ジメチルアセチレンジカルボキシレート、6-マレイミドヘキサン酸、2-ブテナール、2-マレイミド酢酸、3-マレイミドプロピオン酸、3-マレイミド安息香酸、3-(2,5-ジオキソピロール-1-イル)ヘキサン酸、4-マレイミド酪酸、4-マレイミド安息香酸、4-(2,5-ジオキソピロール-1-イル)ヘキサン酸、4-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-ピロール-1-イル)-安息香酸、5-マレイミドペンタン酸、6-マレイミドヘキサン酸、6-(3-メチル-2,5-ジオキソピロール-1-イル)ヘキサン酸、6-(2,5-ジオキソピロール-1-イル)-2-メチルヘキサン酸、6-(2,5-ジオキソピロール-1-イル)-4-メチルヘキサン酸、7-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル)ヘプタン酸、9-(2,5-ジオキソピロール-1-イル)ノナン酸、10-(2,5-ジオキソピロール-1-イル)デカン酸、11-マレイミドウンデカン酸、13-(2,5-ジオキソ-2、5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル)トリデカン酸、N-(カルボキシヘプチル)マレイミド、N-(4-カルボキシ-3-ヒドロキシフェニル)マレイミド、α-マレイミジル-ω-カルボキシルポリ(エチレングリコール)を含むが、それらに限定されるものではない。
【0065】
追加的または代替的に、ディールス・アルダー環状付加反応生成物は、ジエノフィルと、置換または非置換の、フラン、チオフェン、またはピロールとの反応生成物であることができる。当業者が理解するように、ヒドロゲル110の機械的強度および反応時間は、前駆体132、134の制御、ならびにそれぞれの前駆体132、134の官能基の制御によって調節することができる。組成物100を薬物送達系として有効にするための種々の特徴を有するヒドロゲル110を作製するために、前駆体132、134の混合および整合をすることができる。いくつかの実施形態において、前駆体132、134は、触媒の必要なしに、迅速に反応することができる。いくつかの実施形態において、前駆体132、134は、クリックケミストリー反応にしたがってもよい。
【0066】
当業者が理解するように、第1前駆体132および第2前駆体134は、ジエンまたはジエノフィルのいずれかであることができる。ここで、第1前駆体132および第2前駆体134は、ヒドロゲル110同士を連結するように機能するためにヒドロゲル内に存在するか、または2つの一方がヒドロゲル内に存在し、他方が治療用化学種を官能基化して、ディールス・アルダー環状付加反応を介して治療用化学種をヒドロゲルに連結し、最終的にレトロ・ディールス・アルダー反応により前記治療用化学種を放出することを条件とする。いくつかの実施形態において、多くの適切なジエノフィルは細胞適合性であるため、治療用化学種はジエノフィルに結合させることができる。しかしながら、治療用化学種をジエンに結合させてもよい。非限定的な例として、1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(EDC)または(ジシクロヘキシルカルボジイミド)(DCC)などのカルボジイミド架橋剤を使用し、アミド結合形成を介して、ジエノフィル上のカルボン酸(-COOH)を治療用化学種上のアミン(-NH)に結合させることができる。
【0067】
同様に、2種以上の材料210a、210bおよび/または2種以上の治療用化学種220a、220bを用い、2種以上のジエンおよびジエノフィルの組み合わせを使用して、別個のトリガー事象下でレトロ・ディールス・アルダー反応を受ける2種以上の独特なディールス・アルダー環状付加反応を起こすことができる。このように、第1前駆体232、第2前駆体234、第3前駆体236、および第4前駆体238は、独立的に前述の適切なジエンおよび/またはジエノフィルであり、結果として、2種の異なるシクロヘキセンまたは複素環式ディールス・アルダー反応生成物を形成させることができる。
【0068】
結合基130で架橋したヒドロゲル110のFTIRスペクトルを図4Aに示す。いくつかの実施例によれば、結合基130をもたらす前駆体132、134との架橋の程度が結合基130をもたらす場合、結合基130によるヒドロゲル110の架橋の程度は、ヒドロゲル110のFTIRピークの強度の減少をもたらす。1つの例として、1153cm-1、1072cm-1、1033cm-1、および897cm-1付近のブロードピークは、ヒドロゲル110に帰すことができる。図4Aに示すように、結合基130によるヒドロゲル110の架橋は、1692cm-1付近のピークをもたらす。
【0069】
さらに、結合基130で架橋されたヒドロゲル110の示差走査熱量測定(DSC)曲線を図4Bに提供する。いくつかの実施例によれば、結合基130で架橋されたヒドロゲル110は、熱流を伴う架橋の転移を経験し得る。図4Bに例示的に提供されるように、いくつかの実施形態において、ヒドロゲル110および結合基130の架橋は、約101.9℃の温度で変化を経験し得る。代替的または追加的に、異種のディールス・アルダー環状付加反応生成物または架橋の程度の変化を有するヒドロゲル110および結合基130において、材料が約119.7℃の温度で変化を経験する可能性がある。当業者が理解するように、ディールス・アルダー環状付加反応生成物または架橋の程度を調整することにより、治療用化学種120を放出させる材料の転移に関連する温度および熱流を調整することができる。
【0070】
図4C図4Gに、結合基130を有する架橋材料210のFTIRスペクトルを提供する。いくつかの実施例によれば、材料210を調整して、前駆体232、234、236、および238との架橋の程度を変化させることができる。図4Cから図4GのFTIRスペクトルは、ジオールとしての例示的な材料210(それぞれにおける最上部のスペクトル)、シアネートとしての例示的な材料210、および第1結合基130aおよび/または第2結合基130bとの材料210の架橋サンプルを示す。ジオールと2つの架橋材料の間では、芳香環の伸縮は、1650cm-1~1580cm-1に存在する。種々の結合基130a、130bにおいて、3350cm-1の小さな隆起はアミドN-H伸縮によるものである。アルデヒド対脂肪族ケトンのC=O伸縮は1700cm-1に見出される。いくつかの例において、C=C結合およびC=O結合の増加が1515cm-1に存在し、一方で1395cm-1~1375cm-1は環状付加によるC-H変角である。1250cm-1~1020cm-1の小さな相違はC-N結合による。1150cm-1の強いディールス・アルダーピークはC-O伸縮に起因する。
【0071】
いくつかの実施形態において、ディールス・アルダー環状付加生成物は、レトロ・ディールス・アルダー反応(すなわち逆ディールス・アルダー反応)をさらに受けることができ、ここで結合基130はフラグメンテーションを起こし、治療用化学種120の放出を開始することができる。図2Aに示されるように、結合基130がレトロ・ディールス・アルダー反応を受ける際に、ヒドロゲル110は、制御された様式で治療用化学種120を放出することができる。いくつかの実施例において、レトロ・ディールス・アルダー・フラグメンテーションは、結合基130を再構築および再形成することが可能な結合形成と同じパターンの結合切断をもたらすことができる。図3Aに示すように、生体適合性の6-マレイミドヘキサン酸(ジエノフィル)は、刺激後に前駆体官能基を維持しながら、フラン(X=Oの場合)、チオフェン(X=Sの場合)、またはピロール(X=NHの場合)と一般的な環状付加反応を起こすことができ、式中、nは約10~約2200の任意の整数であり得る。特定の例において、レトロ・ディールス・アルダー・フラグメンテーションは、刺激の結果として、ヒドロゲル110内に第1前駆体132および第2前駆体134とは異なる官能基をもたらすことができる。追加的または代替的に、フラグメンテーションは、ヘテロ・ディールス・アルダー・フラグメンテーションを起こして、結合の切断が、酸素、窒素、または硫黄を含む複素環を形成することを伴ってもよい。いくつかの例では、レトロ・ディールス・アルダーは不可逆であることができ、たとえばCOまたはCOのような副生成物を生成および放出することができる。
【0072】
図2Aに戻ると、いくつかの実施形態によれば、ヒドロゲル110、より具体的には結合基130は、集束超音波外部刺激の下でレトロ・ディールス・アルダー反応を起こし、治療用化学種120を放出することができる。一般的に、集束超音波は、非電離性の超音波を使用して、制御された調節可能な深さにおいて組織を加熱、切除、および/または空洞化する、非侵襲的技術である。一般的に、集束超音波はヒドロゲル110と相互作用し、ヒドロゲル110内に空洞または気泡を形成することができる。超音波イメージングとは異なり、集束超音波はパルス波を使用してターゲットに必要な熱的または機械的な線量をもたらす。さらに、図1に示されるように、集束超音波は、ターゲットにのみ集束すると同時に、超音波が組織の多くの層(たとえば、皮膚、軟部組織、筋肉など)を貫いて伝播することを可能にする。
【0073】
いくつかの実施形態において、集束超音波からの音響エネルギーのパルス波は、パルス繰返し周波数、パルス持続時間、ピーク圧力振幅、および衝撃係数(duty cycle)のような調節可能なパラメータを含むことができる。さらに、ヒドロゲル110から治療用化学種120を放出するため、および/または第1材料210aおよび第2材料210bから治療用化学種220a、220bをそれぞれ順次的に放出するための所望の結果のために、それぞれのパラメータを調整することができる。
【0074】
いくつかの実施形態において、集束超音波刺激は、結合基130、230の逆行性開裂反応を開始させるために、パルス繰返し周波数の範囲を有し得る。たとえば、パルス繰返し周波数は、約0.1ヘルツ(Hz)から約100Hzまで変化してもよい。パルス繰返し周波数は、たとえば、約0.1Hzから約0.5Hzまで、約0.5Hzから約1Hzまで、約1Hzから約5Hzまで、約5Hzから約10Hzまで、約10Hzから約15Hzまで、約15Hzから約20Hzまで、約20Hzから約30Hzまで、約30Hzから約40Hzまで、約40Hzから約50Hzまで、約50Hzから約60Hzまで、約60Hzから約70Hz、約70Hzから約80Hzまで、約80Hzから約90Hzまで、約90Hzから約100Hzおよびその間の任意の範囲(たとえば約23Hzから約89.6Hzまで)であってもよい。
【0075】
標的組織の深さ、大きさ、および傷害レベルに応じて、集束超音波周波数を増減させて、結合基130、230の逆行性開裂反応の程度を制御することができる。たとえば、皮膚の下10mmに位置する組成物100、200に本明細書に記載の方法を適用する場合、皮膚の下50mm以上に位置する組成物100、200と比較して、fUSトランスデューサのパラメータが必要となる場合がある。加えて、集束超音波刺激は、約1マイクロ秒から約1000ミリ秒の範囲のパルス持続時間を有してもよい。持続時間は、たとえば、約1マイクロ秒から約100マイクロ秒まで、約100マイクロ秒から約200マイクロ秒まで、約200マイクロ秒から約300マイクロ秒から約400マイクロ秒まで、約400マイクロ秒から約500マイクロ秒まで、約500マイクロ秒から約600マイクロ秒まで、約600マイクロ秒から約700マイクロ秒まで、約700マイクロ秒から約800マイクロ秒まで、約800マイクロ秒から約900マイクロ秒まで、約900マイクロ秒から約1ミリ秒まで、約1ミリ秒から約100ミリ秒まで、約100ミリ秒から約200ミリ秒まで、約200ミリ秒から約300ミリ秒まで、約300ミリ秒から約400ミリ秒まで、約400ミリ秒から約500ミリ秒まで、約500ミリ秒から約600ミリ秒まで、約600ミリ秒から約700ミリ秒、約700ミリ秒から約800ミリ秒まで、約800ミリ秒から約900ミリ秒まで、約900ミリ秒から約1秒までであってもよい。
【0076】
いくつかの実施形態では、集束超音波刺激は、特定の持続時間および特定の周波数に対して、1サイクルから約1,000,000サイクルまでの範囲で変動するパルス持続時間を有することができる。パルス持続時間は、約1サイクルから約10サイクルまで、約10サイクルから約100サイクルまで、約100サイクルから約500サイクルまで、約500サイクルから約1,000サイクルまで、約1,000サイクルから約2,000サイクルまで、約2,000サイクルから約4,000サイクルまで、約4,000サイクルから約8,000サイクルまで、約8,000サイクルから約16,000サイクルまで、約16,000サイクルから約20,000サイクルまで、約20,000サイクルから約30,000サイクルまで、約30,000サイクルから約40,000サイクルまで、約40,000サイクルから約50,000サイクルまで、約50,000サイクルから約60,000サイクルまで、約60,000サイクルから約70,000サイクルまで、約70,000サイクルから約80,000サイクルまで、約80,000サイクルから約90,000サイクルまで、約90,000サイクルから約100,000サイクルまで、約100,000サイクルから約200,000サイクルまで、約200,000サイクルから約300,000サイクルまで、約300,000サイクルから約400,000サイクルまで、約400,000サイクルから約500,000サイクルまで、約500,000サイクルから約600,000サイクルまで、約600,000サイクルから約700,000サイクルまで、約700,000サイクルから約800,000サイクルまで、約800,000サイクルから約900,000サイクルまで、約900,000サイクルから約1,000,000サイクル、およびその間の任意の範囲(たとえば1,568サイクルから約160,504サイクルまでであってもよい。たとえば、いくつかの実施形態において、5分間にわたって1Hzで繰り返される20msのパルスは、結合基130の逆行性開裂反応を十分に誘導して、治療用化学種120を効果的に放出させることができる。
【0077】
さらに、集束超音波刺激は、約100mPaから約1Paの範囲の、ピーク音響圧力に対応する振幅を有することができる。約100mVのピーク圧力は、約8MPaのピーク陽圧および約6MPaのピーク陰圧に相関することができる。同様に、約300mVのピーク圧力は、約37MPaのピーク陽圧および約16MPaのピーク陰圧に相関することができる。約500mVのピーク圧力は、約69MPaのピーク陽圧および約21MPaのピーク陰圧に相関することができる。約700mVのピーク圧力は、約106MPaのピーク陽圧および約28MPaのピーク陰圧に相関することができる。いくつかの実施形態において、集束超音波は、ピーク陽圧において約40MPa~約100MPaの最大値を有し、およびピーク陰圧において約10MPa~約30MPaの大きさを有する、圧力振幅または強度を有することができる。
【0078】
いくつかの実施形態では、集束超音波刺激は、約30秒から約300秒までの範囲の治療時間を有することができる。治療時間は、たとえば、約30秒から約40秒まで、約40秒から約50秒まで、約50秒から約60秒まで、約60秒から約70秒まで、約70秒から約80秒まで、約80秒から約90秒まで、約90秒から約100秒まで、約100秒から約110秒まで、約110秒から約120秒まで、約120秒から約130秒まで、約130秒から約140秒まで、約140秒から約150秒まで、約150秒から約160秒まで、約160秒から約170秒まで、約170秒から約180秒まで、約180秒から約190秒まで、約190秒から約200秒まで、約200秒から約210秒まで、約210秒から約220秒まで、約220秒から約230秒まで、約230秒から約240秒まで、約240秒から約250秒まで、約250秒から約260秒まで、約260秒から約270秒まで、約270秒から約280秒まで、約280秒から約290秒まで、約290秒から約300秒、およびその間の任意の範囲(たとえば約34秒から約206秒まで)であってもよい。
【0079】
ヒドロゲル110に使用される結合基130およびそれぞれの前駆体132、134、または材料210a、210bに使用される第1結合基130aおよび第2結合基130bに応じて、刺激の周波数を増加または減少させて、フラグメンテーションの程度を制御することができる。さらに、集束超音波刺激は、約1マイクロ秒から約1秒までの範囲のパルス持続時間を有してもよい。パルス持続時間は、たとえば、約1マイクロ秒から約100マイクロ秒まで、約100マイクロ秒から約200マイクロ秒まで、約200マイクロ秒から約300マイクロ秒まで、約300マイクロ秒から約400マイクロ秒まで、約400マイクロ秒から約500マイクロ秒まで、約500マイクロ秒から約600マイクロ秒まで、約600マイクロ秒から約700マイクロ秒まで、約700マイクロ秒から約800マイクロ秒まで、約800マイクロ秒から約900マイクロ秒まで、約900マイクロ秒から約1ミリ秒まで、約1ミリ秒から約100ミリ秒まで、約100ミリ秒から約200ミリ秒まで、約200ミリ秒から約300ミリ秒まで、約300ミリ秒から約400ミリ秒まで、約400ミリ秒から約500ミリ秒まで、約500ミリ秒から約600ミリ秒まで、約600ミリ秒から約700ミリ秒まで、約700ミリ秒から約800ミリ秒まで、約800ミリ秒から約900ミリ秒まで、約900ミリ秒から約1秒までであってもよい。
【0080】
いくつかの実施形態では、集束超音波刺激は、特定の持続時間および特定の周波数に対して、約0.1Hzから約1000Hzまでの範囲で変動するパルス繰返し周波数を有することができる。パルス繰返し周波数は、たとえば、約0.1Hzから約1Hz、約1Hzから約100Hz、約100Hzから約200Hz、約200Hzから約300Hz、約300Hzから約400Hz、約400Hzから約500Hz、約500Hzから約600Hz、約600Hzから約700Hz、約700Hzから約800Hz、約800Hzから約900Hz、約900Hzから約1000Hzであってもよい。たとえば、いくつかの実施形態において、5分間にわたって1Hzで繰り返される20msのパルスは、ヒドロゲル110を十分にフラグメント化して、治療用化学種120を効果的に放出させることができる。
【0081】
加えて、集束超音波は、約100mVから約1Vまでの範囲のピーク電圧に対応する振幅を有することができる。約100mVのピーク圧力は、約8MPaのピーク陽圧および約6MPaのピーク陰圧に相関することができる。同様に、約300mVのピーク圧力は、約37MPaのピーク陽圧および約16MPaのピーク陰圧に相関することができる。約500mVのピーク圧力は、約69MPaのピーク陽圧および約21MPaのピーク陰圧に相関することができる。約700mVのピーク圧力は、約106MPaのピーク陽圧および約28MPaのピーク陰圧に相関することができる。いくつかの実施形態において、集束超音波は、陽圧における約10MPa~約30MPaの最大値および陰圧における約15MPa~約25MPaの大きさを有する、圧力振幅または強度を有することができる。
【0082】
当業者が理解するように、結合基130、230a、230b内の結合を切断するためのエネルギー障壁が架橋された前駆体に依存するため、種々の結合基130、230a、230bのフラグメンテーションは変化することができる。図9は、種々の結合基を有する例示的な材料について生成された例示的なギブス自由エネルギー反応障壁およびエンタルピー反応障壁を提供する。いくつかの実施形態において、フランに基づく結合基を有するレトロ・ディールス・アルダー環状付加物は、チオフェンに基づく結合基よりも高い放出速度またはより大きい分裂速度(fractionality rate)を有することができる。したがって、いくつかの実施形態において、チオフェンと比較して、フランを有する前駆体を有する結合基130、230a、230bの方が、治療用化学種120、220a、220bの放出速度が大きくなってもよい。図5Aおよび図5Fに示すように、蛍光強度によって測定されるように、治療用化学種の集束超音波放出は、フランを含む前駆体を有する種々の結合基についてより高いことが示された。
【0083】
いくつかの実施形態では、集束超音波は、対象内の刺激組成物100、200に集束する際に、組織を通過することができる。一般的に、軟部組織における超音波の減衰(振幅の減少)は、超音波の初期周波数および超音波の移動距離に依存する。たとえば、軟部組織では、超音波の周波数が高いほど減衰が大きくなる。いくつかの実施形態では、集束超音波は、より低い周波数のトランスデューサでより深くイメージングすることができる。一部の実施形態では、超音波が組織内をさらに進む際に、超音波の減衰が大きくなる。
【0084】
図6Aに示すように、組成物からの治療用化学種の超音波媒介放出は、集束超音波と組み合わせた超音波イメージングを用いてリアルタイムで可視化することができる。さらに、治療用化学種の放出は、組成物100、200内の成分、または治療用化学種120、220a、220b自体が、発光性(たとえば、蛍光性または燐光性)、放射性、MRI活性、または別の方法で画像化または追跡が可能である場合、さらなる可視化が可能となる。重要なことは、集束超音波を使用することにより、周囲組織への標的外影響を制限することができることである。図6Bに示すように、種々のパラメータの集束超音波を5分間照射する際に、周囲組織の温度上昇が2℃以上抑制された。+78MPaおよび-21MPaのピーク振幅を有する700mVの高強度集束超音波を照射した場合、周囲組織の初期温度は20.2℃であり、5分後(300秒後)の終端温度は22.1℃(1.9℃上昇)であった。同様に、+68MPaと-11MPaのピーク振幅を有する300mVの高強度集束超音波を照射した場合、周囲組織の初期温度は20.8℃であり、5分(300秒)後の終端温度は22.3℃(1.5℃上昇)であった。
【0085】
図6Cは、+78MPaおよび-21MPaのピーク振幅を有する700mV集束超音波への暴露前後の組成物100、200の光学的形状測定を提供する。図示されるように、暴露前の組成物100、200は、滑らかで連続的な表面を有する。10分間にわたるfUSへの暴露後に、組成物100、200は、治療用化学種120、220a、220bを標的に放出することができる間隙を表面に呈し始める。
【0086】
図7Aは、細胞を組成物100、200に暴露した1日後、3日後、および7日後の細胞生存率および増殖分析の画像を提供する。同様に、図7Bは、組成物100、200を介して送達された少なくとも1種の治療用化学種120、220a、220bのトランスフェクションの画像を示す。
【0087】
組成物100、200の細胞適合性を図8Aおよび図8Bに示す。図示されるように、7日後、ヒドロゲルまたは材料110、210単独(結合基なし)、および結合基(FDAまたはTDA)を有するヒドロゲルまたは材料は、ほぼ100%の代謝活性相対値および100%の細胞数相対値または生存率を示す。組成物100、200はいかなる細胞毒性も誘導しないように見える。
【0088】
図8Cは、20℃~60℃の範囲で変動する温度で1~4時間にわたって浸漬したヒドロゲルおよび材料の例からの集束超音波に依存した治療用化学種の放出を示すグラフである。図9は、種々の結合基と、環状付加物の例示的構造とを有する例示的な材料に関して生成されたギブス自由エネルギー反応障壁およびエンタルピー反応障壁を示す。図示されるように、4,5-ジメチル-N-(2-スルファニルエチル)-2-チオフェンカルボキサミド(TDA-1)、ピロール-2-カルボン酸(PDA)、2-フランメタンチオール(FDA)、2-チオフェンメタンチオール(TDA-2)ジエンのような例示的なディールス・アルダー結合基は、順反応(ディールス・アルダー反応生成物)およびDA環状付加物結合基に基づく逆反応(レトロ・ディールス・アルダー反応)に関して、幅広い反応障壁を有することができる。
【0089】
いくつかの実施形態において、組成物100、200は、結合基130、230a、230bを切断するエネルギー障壁に特異的な刺激下で、治療用化学種120、220a、220bを放出することができる。加えて、組成物100、200は、電気刺激、熱、光、磁界、または化学的刺激を含むがそれらに限定されるものではない種々の他の形態の刺激と組み合わせられる集束超音波刺激下で、レトロ・ディールス・アルダー・フラグメンテーションを受けて、治療用化学種120、220a、220bを放出することができる。たとえば、熱と集束超音波の組み合わせは、対象者に対する、特定の活性化温度を有する結合基を有する治療用化学種の送達を補助することができる。同様に、印加磁界と集束超音波の組み合わせは、対象者に対する、特定の磁気特性を有する結合基、またはナノ粒子、微粒子などの磁性材料に共有結合した結合基を有する治療用化学種の送達を補助することができる。
【0090】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、治療用化学種を対象者に送達する方法1000は、ヒドロゲルおよび治療用化学種を対象者に配置する工程1010を含むことができ、ヒドロゲルは、ヒドロゲルと治療用化学種とを結合する結合基を含む。方法1000は、組成物を音響エネルギーのパルス波に暴露し、可逆的な逆行性開裂反応を開始させて結合基を酷使し、治療用化学種をヒドロゲルから分離する工程1020をさらに含むことができる。方法1000は、工程1020の後に終了することができる。あるいは、方法1000は、治療用化学種をヒドロゲル内に封入する工程、ヒドロゲルの第1前駆体と治療用化学種の第2前駆体とを含むディールス・アルダー反応生成物を介して治療用化学種をヒドロゲルとカップリングさせる工程のような種々の工程をさらに含むことができる。
【0091】
特定の実施形態によれば、対象者において制御された組織再生を促進するための方法1100が記載される。方法1100は、対象者の組織に対して、第1前駆体と第2前駆体とを含むディールス・アルダー反応生成物を含む材料を配置する工程1110を含むことができる。また、方法1100は、材料を第1トリガー事象に暴露して、材料のレトロ・ディールス・アルダー反応を開始させる工程1120を含むことができる。方法1100は、工程1120の後に終了してもよい。あるいは、方法1100は、任意選択的に、第1前駆体および第2前駆体とは異なる第3前駆体および第4前駆体とを含むディールス・アルダー反応生成物を介して、治療用化学種を材料とカップリングさせる工程1130をさらに含むことができる。方法1100は、治療用化学種を第2トリガー事象に暴露して、第3前駆体と第4前駆体のレトロ・ディールス・アルダー反応を開始させて治療用化学種を分離する工程1140をさらに含むことができる。さらに、方法1100は、第1トリガー事象とは異なる波形、パルス持続時間、またはパルス繰返し周波数の少なくとも1種を含むように第2トリガー事象を調整して、材料のレトロ・ディールス・アルダー反応とは異なる速度で治療用化学種を分離する工程1150をさらに含むことができる。
【0092】
以下の実施例は、本開示の態様をさらに説明する。しかしながら、これらは、本明細書に記載される本開示の教示または開示を決して限定するものではない。
【実施例1】
【0093】
(例1) 素材
6-マレイミドヘキサン酸(90%)、2-フロ酸(98%)、2-チオフェンカルボン酸(99%)、メタノール(無水、99.8%)、キトサン(75-85%脱アセチル化、50~190kDa)、グルタルアルデヒド(25%水溶液)、塩酸(HCl、ACS試薬、37%)、FITC-アルブミン(フルオレセインイソチオシアネート結合体)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS、98%)、プロテイナーゼK(トリチラチウム・アルブム由来、30ユニット/mgタンパク質以上)、メタノール-d(D:99.8原子%以上)、および塩化重水素溶液(35質量%DO溶液、D:99原子%以上)は、Millipore Sigma (St Louis, MO)から購入した。Tegadermは3M Health Care (St Paul, MN)から入手した。HeLa細胞はベンシルバニア州立大学(University Park, PA)のSartorius Cell Culture Facilityから入手した。ウシ胎児血清(FBS)はCorning (Corning, NY)から入手した。ダルベッコ・リン酸緩衝食塩水(PBS)は、Cytiva (Pittsburgh, PA)から入手した。使い捨て生検パンチ(Miltex、直径4.0mm)はIntegra Life Sciences (Princeton, NJ)から入手した。組織培養プレートインサート(ポリカーボネート膜、半透明、孔径0.4μm)はVWR (Radnor, PA)から購入した。LIVE/DEAD 生存率/細胞毒性キット、アラマーブルーHS細胞生存率試薬、Quant-iT PicoGreen dsDNA分析キット、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、抗生物質-抗真菌剤は、Thermo Fisher Scientific (Waltham, MA)から購入した。全ての試薬は受領したままで使用した。
【0094】
(例2) ディールス・アルダー型結合基の合成例
本明細書に開示された研究において、種々の環状付加物を使用した。フランDA(FDA)は、2-フロ酸と6-マレイミドヘキサン酸との間のディールス・アルダー反応生成物であった。チオフェンDA(TDA)は、2-チオフェンカルボン酸と6-マレイミドヘキサン酸との間の生成物であった。フラン、チオフェンまたはピロールのジエン(式I)と6-マレイミドヘキサン酸との一般的な環状付加反応を以下に示す。FDAの調製のために、1.75gの6-マレイミドヘキサン酸と0.93gの2-フロ酸をガラスバイアル中で15mLのメタノールに溶解させた。その後、容器を密閉し、アルミホイルで遮光し、攪拌下、室温で7日間反応を進行させた。1.75gの6-マレイミドヘキサン酸と1.06gの2-チオフェンカルボン酸を15mLのメタノールと組み合わせて、TDAを合成した。反応に使用したガラスバイアルを密封および遮光し、3日間にわたって油浴中で60℃に加熱した。両環状付加物をカラムクロマトグラフィーで精製し、H NMR分光法および13C NMR分光法で特性評価を行った。
【0095】
【化1】
【0096】
式中、XはS、OまたはNHである。6-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル)ヘキサン酸と式Iを反応させると、式IIのディールス・アルダー結合基が生成する。
【0097】
【化2】
【0098】
(例3) キトサンヒドロゲルの調製
キトサン(0.25g)を5mLの脱イオン水に溶解させ、17μLの1M HCl、EDC/NHSを添加した。100μLの100μM溶液を加え、室温で15分間にわたってキトサンと反応させた。直径35mmのペトリ皿にキャストする前に、たとえばFDAまたはTDAのようなディールス・アルダー結合基500μLを混合物に加えた。ヒドロゲルを終夜放置して架橋させ、特性評価前に凍結乾燥した。熱に不安定なディールス結合基を含まない対照標準のヒドロゲルは、100μLのグルタルアルデヒド溶液(0.1%水溶液100μL)でキトサンを架橋することにより得られた。タンパク質放出試験のために、架橋前にFITC-アルブミン(0.5mg/mLのストック溶液100μL)をキトサンに添加した。いくつかの例では、キトサンを式IIと混合して式IIIを形成した。
【0099】
【化3】
【0100】
【化4】
【0101】
式中、XはS、OまたはNHであり、nは10から2200の整数である。
【0102】
(例4) ヒドロゲルの特性評価
Bruker Avance-III-HD-500 (Bruker, Billerica, MA)を用い、298Kにおいて、架橋ヒドロゲルのH NMRスペクトルおよび13C NMRスペクトルを収集した。Bruker Vertex 70を用い、4000cm-1から550cm-1の範囲でFTIRスペクトルを記録した。DSC Q2000熱量計(TA Instruments, New Castle, DE)を用いて、示差走査熱量測定(DSC)分析を行った。熱特性を、10℃/分の加熱速度で25℃から200℃の間で記録し、反応エンタルピーを決定した。パージガスとして窒素を使用した。
【0103】
(例5) PCL-フランの合成
磁気撹拌バーを取り付けた100mL丸底フラスコ中で、DMF(25mL)を溶媒として用い、PCLジオール(3.0g、1.5ミリモル)をMDI(メチレンジフェニルジイソシアネート、0.75g、3ミリモル)と反応させた。反応は窒素雰囲気下、60℃において、3時間にわたって行った。その後、溶液を室温まで冷却した。第2段階として、イソシアネート末端キャッププレポリマー溶液に対して、フルフリルアミン(0.133mL。1.5ミリモル)を滴下した。フルフリルアミンの添加から30分後、温度を70℃に上昇させ、10時間にわたって保持した。室温まで冷却した後、1滴のフルフリルアミンを溶液に加えて、イソシアネートがすべて消費されたことを確認した。30分後、溶液全体を過剰のジエチルエーテルに注加し、PCLフランを精製した。ろ過し、室温で真空乾燥した後、半乾燥物を蒸発皿に入れ、終夜にわたって37℃で放置した。中間生成物PCLフランとして、白色粉末ポリマーが得られた。熱に不安定なディールス結合基を含まない対照標準ポリマーは、PCLシアネート(3g)をイソソルビド(0.147g、1ミリモル)で架橋して得た。分解またはタンパク質放出の研究のために、架橋前に、PCLに対して、FITC-アルブミン(0.5mg/mLのストック溶液500μL)を添加した。いくつかの例では、ディールス・アルダー結合基で連結されたPCLの形成を、式IVを生成する以下の模式図に示す。
【0104】
【化5】
【0105】
(例6) 結合基を用いたPCL-フラン架橋
ビスマレイミド(BMI)(0.39g、1ミリモル)をDMF(2mL)に溶解し、DMF(12.5mL)に溶解したPCLフラン(3g)の溶液に添加した。磁気撹拌バーを25mLフラスコに入れ、水浴の温度を50℃に設定した。BMI添加後約5時間で溶液全体がゲルになる。BMI添加から4時間後、FITC-アルブミン(0.5mL、0.5mg/mL)を添加し、10分間撹拌した。フラスコ内でのゲル化を避けるため、15mLの溶液を直径100mmのPTFE製蒸発皿に注ぎ、PTFE製皿を50℃の真空オーブンに終夜にわたって配置した。DA反応による架橋がさらに進行し、架橋密度の高いポリマーフィルムが得られる。一方、溶媒DMFを蒸発させ、平坦な架橋PCL-FDAポリマーを最終生成物として得た。窒素下、60℃で、式IVをビスマレイミドと組み合わせて架橋を開始すると、以下に示す式VのPCL-結合基構造が形成される。
【0106】
【化6】
【0107】
PCLジオール、PCLシアネート、PCLフラン(式IV)およびPCL-FDA(式V)のFTIR吸収スペクトルを図4Cに示す。PCLフランは高濃度のC=Oを有し、1665cm-1にブロードなピークを示す。ジオールと2つの架橋サンプルの間には、1650cm-1~1580cm-1および1550cm-1~1400cm-1の範囲に芳香環がある。3350cm-1の小さな隆起はアミドのN-H伸縮である。1250cm-1と1020cm-1の間のよりブロードなピークの多くは、C-N結合によるものである。1342cm-1~1266cm-1間の伸縮は芳香族アミンに関連し、1310cm-1~1250cm-1は芳香族エステルに関連する(わずかに、よりブロード)。PCLジオール、PCLシアネート、チオフェンメチルおよびPCL-TDAMのFTIR吸光度スペクトルを図4Dに示す。PCLジオール、PCLシアネート、チオフェンエチルおよびPCL-TDAEのFTIR吸光度スペクトルを図4Eに示す。PCLジオール、PCL CYA、PCL-ISOのFTIR吸光度スペクトルを図4Fに示す。PCL-FDA、PCL TDAM、TCL TDAE、およびPCL ISOのFTIR吸光度スペクトルを図4Gに示す。
【0108】
(例7) 生体適合性
10%ウシ胎児血清と1%抗生物質-抗真菌剤を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)において、HeLa細胞を培養した。5% CO、温度37℃の加湿インキュベーター内に、細胞培養フラスコを保存した。
【0109】
24ウェルプレートに対して、HeLa細胞を0.05×10細胞/ウェルの密度で播種した。ヒドロゲルを使い捨て生検パンチで切り出し、均一な形状と体積のサンプルを得た。ヒドロゲル試料を、組織培養プレート用インサートを用いて別個のウェルに加えた。細胞をヒドロゲルに暴露した後、第1日、第3日、第7日に細胞生存率および増殖の分析を行った(図7A参照)。製造者の推奨にしたがうアラマーブルー分析を用いて、細胞の代謝活性を測定した。37℃で3時間にわたって、10%アラマーブルー溶液とともに細胞を培養した。その後、Molecular Devices Spectramax M5 Microplate/Cuvette Readerを用いて、560nm/590nm(励起/発光)において、各ウェルの蛍光強度を測定した。製造元のプロトコルにしたがうLIVE/DEAD生存率/細胞毒性を用いて、細胞生存率を評価した。細胞をPBSで洗浄し、2μMのカルセインAMおよび4μMのEthD-1使用液とともに37℃で30分間にわたって培養した。その後、細胞をOlympus IX73蛍光顕微鏡(Olympus, Center Valley, PA)で撮影した。ImageJ (NIH, Bethesda, MD)を用いて画像処理を行った。全DNA含量を用いて細胞数を測定した。0.5mg/mLのプロテイナーゼKをウェルに添加し、プレートを56℃で一晩培養して細胞を溶解し、DNA内容物を放出させた。PicoGreen dsDNA分析キットを製造者の推奨にしたがって使用し、サンプルあたりのdsDNA量を定量した。ウェル内容物と等体積のPicoGreen dsDNA試薬をウェル内容物と合わせ、Molecular Devices Spectramax M5 Microplate/Cuvette Readerを用いて、480nm/520nm(励起/発光)において、各ウェルの蛍光強度を測定した。
【0110】
ディールス・アルダー結合基で架橋したキトサンヒドロゲルの細胞適合性を評価するために、HeLa細胞をヒドロゲルおよびその分解生成物に直接暴露した。代謝活性、生存率、総細胞数を1日後、3日後、7日後に測定した(図8Aおよび図8B参照)。ヒドロゲルは、これらの直接暴露イン・ビトロ研究において、いかなる細胞毒性も誘発しなかったように見える。LIVE/DEAD蛍光画像においては、別個の群の間に視認できる差異は見られなかった。同様に、Ch、Ch-FDA、Ch-TDAの各群の間に、経時的な代謝活性および細胞数に関する有意差は認められなかった。これらの結果は、キトサンを強固な細胞増殖をサポートする優れた生体適合性を持つ生体材料として記載している文献と一致している。同様に、ディールス・アルダー結合基で架橋した他のヒドロゲルも細胞培養に適していると報告されている。
【0111】
(例8) 浸漬加熱
FITC-アルブミンを含むヒドロゲルを、直径4mmの使い捨て生検パンチを用いて切り出し、均一な形状と体積のサンプルを得た。それぞれのヒドロゲルサンプルを1mLのPBSとともに密封した微量遠心チューブに配置した。その後、微量遠心チューブを40℃、60℃、または80℃のいずれかの温度において1時間、2時間、または6時間にわたって加熱した。40℃および60℃の温度には水浴を使用したが、水分の蒸発を緩和するために80℃の温度には油浴を使用した。浸漬加熱後、サンプルを遠心分離し(10分、1200×g)、上清の150μLの3つのアリコートを、96ウェルプレートにピペット移送した。Molecular Devices Spectramax M5 Microplate/Cuvette Readerを用いて、495nm/520nm(励起/発光)において各ウェルの蛍光強度を測定して、レトロ・ディールス・アルダー反応によって放出されたFITC-アルブミンの量を評価した(図5A参照)。
【0112】
モデルタンパク質としてFITC-アルブミンを含むFDAまたはTDA結合基で架橋したキトサンヒドロゲルを用いて、熱放出浸漬試験を行った。レトロ・ディールス・アルダー反応によって放出されたFITC-アルブミンの量は、蛍光強度測定によって決定された。同一の熱処理において、TDA結合基に比較して、FDA結合基においてより高いタンパク質放出速度が測定された。ジエンのスルフヒドリル基をカルボキシル基に置換した同等のディールス・アルダー結合基は、熱処理下で金属ナノ粒子からペイロードを放出する際、同程度のタンパク質放出速度を示した。実験結果は、密度汎関数理論により予測されたエネルギー障壁と相関し、フランに基づくディールス・アルダー環状付加物は、チオフェンに基づく環状付加物よりも高い放出速度を示した。
【0113】
(例9) 超音波を介したタンパク質放出
種々のディールス・アルダー・ヒドロゲルの合成と特性はこれまでに報告されているが、集束超音波刺激との相互作用、ヒドロゲルの再編成、およびその結果としての制御された薬物放出はこれまで検討されていなかった。本明細書に記載された結果は、集束超音波刺激により、ディールス・アルダー架橋ヒドロゲル中に封入されたタンパク質ペイロードの制御された放出をもたらすレトロ・ディールス・アルダー反応を駆動する能力を示すと同時に、進行中のプロセスをリアルタイムで可視化できることを示す(図6A参照)。集束超音波刺激の増加は、刺激応答性制御を示すタンパク質放出速度の増加と相関した。Ch-FDAのタンパク質放出速度は、Ch-TDAで観察された速度よりも高く、熱浸漬研究の結果と一致した。これらのデータは、レトロ・ディールス・アルダー反応のエネルギー障壁がタンパク質放出速度と相関することを示しており、ジエンおよびジエノフィルの組成を操作することにより、集束超音波刺激に暴露された際のヒドロゲルの安定性を調整する手段を提供する。
【0114】
(例10) 統計分析
GraphPad Prism 8ソフトウェアを用いてデータを解析した。結果を平均値±標準偏差(SD)で表した。サンプルサイズ(n)は図の凡例に示した。統計解析は、Tukeyの事後試験を伴う2ウェイ分散分析(2-way ANOVA)により行った。統計的有意性をp<0.05とした。
【0115】
(例11) ディールス・アルダー型ヒドロゲルの合成と特性評価
図3Cに示すように、架橋のためのアクリロイル基とジエンとの共役のためのアミノ基を含む鎖状ヘテロ二官能性PEG誘導体(TDA1、PDA、FDA、TDA2)を用いて、PEGヒドロゲルを調製した。N-ヒドロキシスクシンイミドとアミンの反応により、アミド結合を用いて、miR-210およびmiR-148bをジエノフィル(6-マレイミドヘキサン酸)に結合させた。ディールス・アルダー反応により、miR-210-マレイミドおよびmiR-148b-マレイミドを、PEG上のジエンに結合させた。迅速なゲル化のために、分子量10kDaのPEGを15%(w/v)で使用した。図4A図4Kに示すように、NMRおよびESI-MSによって、反応生成物の特性決定をすることができ、DSC-TGA、FTIRおよびレオロジーによって、ヒドロゲルの特性決定をすることができる。必要に応じて、マクロモノマーの濃度、分岐因子、または分子量を変更することによって、PEG-DAゲルの機械的特性を調整することができる。
【0116】
密度汎関数理論(DFT)モデルを用いて、これら4種の別個のDA環状付加結合基の順反応障壁および逆反応障壁ならびに反応エネルギーに関して、本質的な量子力学的計算を行った。図9に示すように、モデル化されたギブス自由エネルギー反応障壁およびエンタルピー反応障壁に基づいて、4,5-ジメチル-N-(2-スルファニルエチル)-2-チオフェンカルボキサミド(TDA-1)、ピロール-2-カルボン酸(PDA)、2-フランメタンチオール(FDA)、2-チオフェンメタンチオール(TDA-2)であるジエンに基づくDA環状付加結合基は、有意に異なるペイロード放出速度論プロファイルを提供すると予想される。Abu-Laban M, Kumal RR, Casey J, Becca J, LaMaster D, Pacheco CN, Sykes DG, Jensen L, Haber LH, Hayes DJ, 「Comparison of thermally actuated retro-diels-alder release groups for nanoparticle based nucleic acid delivery」, J Colloid Interface Sci. 2018; 526: 312-21. Epub 2018/05/12. doi: 10.1016/j.jcis.2018.04.085. PubMed PMID: 29751265; PMCID: PMC5994202、およびArrizabalaga JH, Casey JS, Becca JC, Jensen L, Hayes DJ. 「Comparison of thermoresponsive Diels-Alder linkers for the release of payloads from magnetic nanoparticles via hysteretic heating.」 JCIS Open. 2021; 4: 100034. doi: https://doi.org/10.1016/j.jciso.2021.100034を参照されたい。
【0117】
図3Cに示すように、本明細書に記載の可逆的DA部位を、miRNAをヒドロゲルに連結するために使用した。ディールス・アルダー結合基を用いてキトサンまたはPEGのようなヒドロゲルを架橋して、治療剤放出組成物を形成することができる。図4Aは、ヒドロゲル-FDA(2-フランメタンチオール)およびヒドロゲル-TDA-1(2-チオフェンメタンチオール)を提供するが、さらなる結合基が企図される。図4Bおよび図4Lは、ヒドロゲル-FDAおよびヒドロゲル-TDA-1のDSC-TGAおよびレオロジーをそれぞれ提供し、図9に提供される計算された反応障壁と相関する熱的および機械的挙動における予測可能な差異を示す。
【0118】
(例12) 集束超音波によるペイロード放出
図6Aは、ディールス・アルダー架橋ヒドロゲル中に封入されたBSAタンパク質ペイロードの放出を制御するfUS刺激の能力を示すと同時に、進行中のプロセスのリアルタイムの可視化を可能にすることを示す画像である。図5Aに示すように、fUS刺激の増加は、刺激に応答する制御を示すタンパク質放出速度の増加と相関する。密度汎関数理論(DFT)によりモデル化された反応障壁に基づき、TDA-1、PDA、FDA、およびTDA-2ディールス・アルダー環状付加体結合基は、有意に異なるペイロード放出動態を提供することができる。図7Bは、FDA-キトサンおよびTDA-キトサンとともに培養したHeLa細胞が、3日後、イン・ビトロにおいて、ヒドロゲルの使用による細胞毒性を何ら経験しなかったことを示す。
【0119】
(例13) ADSCsスフェロイドにおけるmiR-210模倣物およびmiR-148b模倣物の組み合わせ送達
幹細胞の同時的な骨形成分化および内皮細胞分化を調べるために、トランスフェクションしたADSCを3Dスフェロイド培養に組み込んだ。miR-210模倣物のトランスフェクションでは、未処理の対照標準と比較して、VE-カドヘリンの発現のアップレギュレーションおよび最小限のRunX2発現が得られた(図7B)。スフェロイドをmiR-148b単独でトランスフェクションした場合、最小限のVE-カドヘリン発現を伴い、RUNX2はアップレギュレートされた。miR-148bおよびmiR-210を組み合わせると、対照標準と比較して、RUNX2発現およびVE-カドヘリン発現が増加した。トランスフェクションされたASCスフェロイドを用いたこの共分化条件は、前駆細胞が骨再生の際に生体内で遭遇する協調的分化環境を忠実に表現する。
【0120】
ディールス・アルダー架橋ポリエチレングリコール(PEG)ヒドロゲルによる時空間制御されたmiR-210模倣物およびmiR-148b模倣物の送達は、イン・ビトロおよびイン・ビボの両方で骨形成を調節する。レトロ・ディールス・アルダー反応速度は、fUSで刺激されたときのmiRNA模倣物の放出速度と相関する。加えて、miR-210模倣物およびmiR-148b模倣物の放出は、fUSのエネルギーをDAレトロ反応障壁に同調させることにより、順次的に制御することができる。
【0121】
図6Aに示すように、fUS刺激は、ディールス・アルダー架橋ヒドロゲル中に封入されたBSAタンパク質ペイロードの放出を制御すると同時に、進行中のプロセスのリアルタイムの可視化を可能にする。fUS刺激の増加は、刺激応答制御を示すタンパク質放出速度の増加と相関する(図5A)。fUS応答と、付随するヒドロゲルからのmiR-210模倣物およびmiR-148b模倣物の放出を研究した。特に、fUS刺激のための重要なパラメータ、ならびにイン・ビトロにおけるmiR-210模倣物濃度およびmiR-148b模倣物濃度およびDA部分組成の影響である。
【0122】
【表1】
PEGヒドロゲルのfUS反応、ならびにmiR-210模倣物およびmiR-148b模倣物の関連する放出に対するDA結合基組成の影響を、第1表に概説したように評価した。FDA、PDA、TDA-1、TDA-2結合基を用いてPEGヒドロゲルを調製した。蛍光に基づく保持分析を用いて、fUS条件の関数としてmiR-210模倣物およびmiR-148b模倣物の放出動態を決定した。細胞増殖および生存率はDNA定量および代謝分析で評価した。
【0123】
(例14) 集束超音波刺激
fUS刺激のために、Sonic Concepts製高強度集束超音波トランスデューサ(64mm、1.2MHz、f#=1、3.6MHz第3高調波)を使用した。ピーク圧力振幅は、陽圧78MPaおよび陰圧21MPaまでの範囲で変動し、0.1~100Hzで反復する0.1~100msのパルス長で印加し、総印加時間は1~5分であった。
【0124】
(例15) miRNA模倣物の放出
miR-210模倣物およびmiR-148b模倣物を、それぞれCy3およびFAMで標識した。図3Cに示すように、200nMのmiR-210またはmiR-148bを、それぞれのディールス・アルダーPEGヒドロゲルに結合させた。Cy3標識miR-210-マレイミドまたはFAM標識miR-148b-マレイミドをPEG-ジエンに結合させた。ディールス・アルダー結合したmiR-210模倣物およびmiR-148b模倣物について、蛍光に基づく保持アッセイを用いて、fUS条件の関数としてのヒドロゲルからの放出動態を決定した。fUS刺激後のゲルの質量損失を測定した。fUS中のゲルの温度はデータロガー熱電対および近赤外線カメラで監視した。
【0125】
miRNA模倣物放出はfUSエネルギー送達に比例し、最適なfUS条件は、最大5分間にわたって、1Hzで送達される10msパルスを用いる、振幅300mV(陽圧68MPa、陰圧5MPaのピーク圧力)の範囲であると予測される。miR-210模倣物放出およびmiR-148b模倣物放出は、fUS刺激の4時間後まで、断続的かつ有意な放出が認められた。miRNA模倣物放出の動態は次のような傾向を示した:DAヒドロゲルではTDA1>PDA>FDA>TDA2という傾向を示した。約20kPaの剪断弾性率が予想される。ヒドロゲルはイン・ビトロでMSCに有意な細胞毒性を誘導しなかった。動物は、ヒドロゲルおよびfUS刺激による有意な宿主反応および副作用を経験しなかった。
【0126】
(例16) 細胞適合性評価
トランスウェルMSC培養モデルを用いて、超音波破断ヒドロゲルの細胞適合性を評価した。標準的なプロトコルにしたがって、CD34+ EPCおよびMSCを特性決定および培養した。トランスウェルインサート上に、4人のドナーの細胞を20万細胞毎cmで播種し、ディールス・アルダーPEGヒドロゲルを有するウェルに配置し、fUS活性化し、最長4週間にわたって培養した。標準的な方法にしたがうDNA含有量、アラマーブルー分析、RT-PCRにより、増殖、生存率、幹細胞性のマーカー(NanogおよびSox2)を毎週評価した。
【0127】
第2表(下記)にしたがって、限定された範囲のイン・ビボ大腿骨欠損移植を実施して、基本的な薬物動態、イン・ビボ分解率、および生体適合性を決定した。IACUCプロトコルPROTO2800516に基づきPSUで確立されたこの外科手術を、標準的な方法を修正して実施した。簡単に説明すると、8~10週齢のSDラット(250g~300g)を、100~120mg/kgのケタミン、10~16mg/kgのキシラジンを用いて麻酔した。成体ラットの右大腿骨骨幹部に6mmの臨界寸法の骨欠損を形成した。次に、あらかじめ穴を開けた高密度ポリエチレン固定プレート(4×4×23mm)を設置して、骨安定性を維持した。コラーゲンスポンジと、200nMのCy3標識miR-210模倣物および200nMのFAM標識miR-148b模倣物を含むディールス・アルダー結合基を伴うPEGヒドロゲル(6mm×2mmの円筒形)を手術部位に挿入して欠損を充填し、近位および遠位の骨膜に縫合した。miR-210模倣物およびmiR-148b模倣物の濃度を合致させたコラーゲンスポンジを対照標準とした。手術部位を層状に閉鎖し、確立された術後動物看護プロトコルにしたがって動物を監視した。術後第3日、第7日、および第14日に、半数の動物の欠損部位にfUSを適用し、半数にはfUSを適用しなかった(対照標準)。前述のように、fUS刺激にはSonic Concepts製高強度集束超音波トランスデューサ(64mm、1.2MHz、f#=1、3.6MHz第3高調波)を使用した。それぞれの時点において、動物を安楽死させ、血清および組織を採取した。蛍光顕微鏡法を用いて、手術部位のCy3標識miRNA模倣物分布およびFAM標識miRNA模倣物分布を試験した。miR-210模倣物およびmiR-148b模倣物の放出は、fUS群および対照標準におけるゲル中の残存miRNA模倣物の蛍光を比較することにより決定した。分解は各時点で組織学的に分析した。PEG ELISA分析(Abcam)を実施して、血清中のPEG分解産物を検出した。手術部位の炎症および体重を1日おきに観察して、生体適合性を判定した。第14日に、組織学のために手術部位組織、肝臓、脾臓、腎臓、脳および心臓組織を摘出し、酵素マーカー、血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アルカリホスファターゼ(ALP)濃度を測定した。前述の実験に基づき、各群に4匹のラット(n=4)が必要であった。この研究には合計96匹の動物が必要であった;3つの時点において、2群(fUSの有無)、4種のヒドロゲル組成物(TDA-1、PDA、FDA、TDA-2)、(4匹のラット×2群×4組成物×3時点)。
【0128】
【表2】
【0129】
(例17) 分節欠損修復での骨再生における、fUSを介したヒドロゲルからのmiR-210模倣物およびmiR-148b模倣物放出の検討
miR-148b模倣物単独の場合と比較して、MSCにおけるmiR-210模倣物およびmiR-148b模倣物の共導入は、骨形成マーカーおよび内皮形成マーカーの発現を有意にアップレギュレートさせたが、誘導のタイミングが発現に影響した。したがって、fUSを介したシステムを用いたmiR-210およびmiR-148bの順次的に制御された導入により、内皮形成分化および骨形成分化が促進され、fUS依存的に分節欠損の閉鎖の改善をもたらす。ギブス自由エネルギー反応障壁およびエンタルピー反応障壁に基づけば、4つのディールス・アルダー結合基は有意に異なる放出動態をもたらすであろう(図9)。
【0130】
大腿骨欠損モデルを実施して、miR-210模倣物およびmiR-148b模倣物の制御放出と骨再生を実証した。前述の分化タイムラインを模倣するために、術後第3日、第7日、および第14日に欠損部位にfUSを適用した。血管新生および骨再生を第3週、第6週、第12週に観察して、骨産生およびリモデリングに対する逐次投与の影響を捕捉した。
【0131】
(例18)MSCsの骨形成に関する、fUSを介したmiR-148b放出のイン・ビトロ評価
第3表に概説する、第3日、第7日および第14日に活性化されるトランスウェル培養モデルを用いるPEG-DAゲルへの逐次的なfUS刺激によって、CD34+ EPCおよびMSCの内皮形成誘導および骨形成誘導におけるfUS放出miR-210模倣物およびmiR-148b模倣物の活性を評価した。対照標準の未処理miRNA模倣物の活性に対してfUS放出miRNA模倣物の活性を比較することにより、これらの実験において、miR-210模倣物およびmiR-148b模倣物活性に対する熱化の影響を評価した。ヒドロゲルを調製し、トランスウェルMSC細胞培養を同様に実施した。ラマン分光法、qPCR、免疫組織化学および比色染色により、28日間にわたって、前駆細胞の分化を毎週評価した。qRT-PCR、ELISA、免疫蛍光および比色染色によって、内皮形成マーカー:CD31、CD34、およびvWF;骨形成制御因子:NOGおよびRUNX1;ならびに骨形成マーカー:ALP、RunX2、OP、OCNの発現を毎週評価した。イン・ビトロ骨形成の終点指標として役立つアリザリンレッド染色およびOsteoImageを用いて、石灰化を評価した。
【0132】
【表3】
【0133】
(例19) イン・ビボでの骨再生
miR-210模倣物およびmiR-148b模倣物の時空間的に調節された送達が、臨界サイズの大腿骨欠損の閉鎖に及ぼす影響を評価した。2種のディールス・アルダー組成物を用いてイン・ビボ研究を行ったが、他のディールス・アルダー結合基も、試験された2種の組成物と比較して機能することが期待される。イン・ビボでの機能性および生体適合性が実証され、かつ逆反応のエネルギー障壁が最も低いディールス・アルダー結合基を、ヒドロゲルに対するmiR-210の結合に使用した。miR-148bには、許容される最も高い逆反応障壁を有するディールス・アルダー結合基を用いた。これによって、miR-210模倣物およびmiR-148b模倣物の間のfUS放出速度の差が最も大きくなった。前述の方法にしたがって欠損を作製した。コラーゲンスポンジを欠損に圧入し、miR-210模倣物およびmiR-148b模倣物を含むディールス・アルダーPEGヒドロゲルを、臨界サイズの大腿骨欠損に隣接して配置した。コラーゲン単独では、臨界サイズの大腿骨欠損の閉鎖は得られなかった。miR-210およびmiR-148b有するコラーゲンスポンジおよびfUSを対照標準とした。術後第3日、第7日、第14日に逐次的fUS治療を行い、miR-210模倣物(第3日)およびmiR-148b模倣物(第7日と第14日)を欠損部位に局所的に放出させた。この研究には、fUS群および無fUS群、ならびに、コラーゲンmiR-210模倣物およびmiR-148b模倣物群(対照標準)が含まれた。術後第3週、第6週、および第12週に動物を安楽死させた。ラマン分光法、組織学およびμCTを用いて骨形成を評価した。組織学的(アナリンブルー、ペンタクローム染色、CD31、CD34、Runx2およびOCNに関する免疫染色)に組織を評価した。組織に対してオステオイメージ(Osteoimage)、およびμCTを行い、欠損部位近傍の組織における石灰化、骨形成、血管新生を評価した。動物全体にわたって、異所性骨化(HO)を評価した。同様に、μCTは、コントラストを高めるためにミコフィル(micofil)を用いて血管系のイメージングのために行われた。スキャン画像は、ランドマークベースアプローチおよび強度ベースアプローチを用いて、Avizoソフトウェアを用いて3D空間で記録した。Avizoソフトウェアを用いて、血管密度、血管の分離および相互結合性を決定した。欠損の組織サンプルを消化し、41ターゲットのヒト骨代謝抗体アレイ(Human Bone Metabolism Antibody Array)B(Abcam)に対するライセート試験を実施した。8匹/群の群サイズにより、検出力80%、α=0.0115と仮定して、実験群/対照標準群間のμCTで測定された骨量の約~20%のペアワイズ差(Δ=20%)を検出することができた。合計96匹の動物を使用した(ラット8匹×2群×2組成物(実験および対照標準)×3時点)。
【0134】
イン・ビトロにおいて、miR-210模倣物およびmiR-148b模倣物の逐次的送達は、前駆細胞の内皮形成マーカーおよび骨形成マーカーの発現を増加させた。イン・ビボにおけるmiR-210模倣物およびmiR-148b模倣物の逐次的送達は、無fUSおよびコラーゲンゲルの対照標準コホートと比較して、欠損における脈管形成および欠損の閉鎖を改善した。無fUS群およびコラーゲンヒドロゲル群と比較して、fUS刺激ヒドロゲルを逐次的送達された動物では骨量が改善した。
【0135】
本明細書に開示された実施形態および特許請求の範囲は、その適用において、本明細書に記載され図面に図示された構成要素の構造および配置の詳細に限定されないことを理解されたい。むしろ、本明細書および図面は、想定される実施形態の例を提供するものである。本明細書に開示された実施形態および特許請求の範囲は、さらに、他の実施形態が可能であり、種々の方法で実施することが可能である。また、本明細書で採用される表現および用語は、説明のためのものであり、特許請求の範囲を限定するものとみなされるべきではないことを理解されたい。
【0136】
したがって、当業者であれば、本出願および特許請求の範囲の基礎となる概念は、本出願に提示された実施形態および特許請求の範囲のいくつかの目的を実施するための他の構造、方法、およびシステムの設計の基礎として容易に利用できることを理解するであろう。したがって、特許請求の範囲は、このような等価な構成を含むものとみなされることが重要である。
【0137】
さらに、要約書の目的は、米国特許商標庁および一般公衆、特に特許用語および法律用語に精通していない当業者が、ざっと見ただけで、本出願の技術開示の性質および本質を迅速に判断できるようにすることである。要約書は、本出願の特許請求の範囲を定義するものではなく、また、特許請求の範囲を限定するものでもない。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図4H
図4I
図4J
図4K
図4L
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
【国際調査報告】